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都市ガスと LNG 第 9 回 米国 LNG 事情② −コスト削減が供給構造変えた−

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都市ガスと LNG 第 9 回 米国 LNG 事情② −コスト削減が供給構造変えた−
IEEJ: 2005 年 6 月掲載
新聞コラム紹介
第9回
都市ガスと LNG
米国 LNG 事情② −コスト削減が供給構造変えた−♣
プロジェクト部長
研究理事
森田
浩仁
米国で LNG 輸入が急拡大していることは前回お知らせした。背景に国産天然ガス価格
の高騰があることも同様である。
一方、LNG チェーンにおいてコスト削減が進みつつあることも本欄で繰り返し述べて
きた通りであり、価格高騰とあいまって LNG の競争力が高まったということであろう。
であるならば、LNG 輸入の将来は、国産ガス価格と LNG 供給コスト次第ということに
なる。
事実、天然ガス価格が 100 万 btu(英国熱量単位、約 1,000 立方フィート)当たり 3 ド
ルレベルを突破した 00 年初頭以降、LNG 輸入は急増し、一時的に 3 ドルを下回った 02 年
初めは低調であった(図参照)。現在のところ、どうやら 3 ドルが攻防、いや興亡?ライン
であるらしい。
■■■
天然ガス価格はニューヨーク商業取引所(NYMEX)など市場で決定される。一方、LNG
輸入価格はというと、当然ではあるが市場価格を指標にして上下する。03 年、井戸元価格
は 4.5 ドルから 6.7 ドルという高レベルで推移したが、LNG 価格もこれを若干下回るレベ
ルで推移し、輸入も好調であった。若干下回るのは、受入基地での積み下ろし、貯蔵、再
ガス化のコストを負担したうえで、パイプラインガスと競合しなければならないためであ
ろう。
ただし、井戸元価格が 3 ドルを下回り 2 ドルに接近してくると、LNG 価格はこれに追
随することができず、両者に値差が発生する。例えば、02 年初頭には井戸元価格は月平均
2.19 ドルにまで低下したが、LNG 価格は 2.65 ドルが精一杯であった。当然、輸入は減少
した。
さらには、現在の天然ガス価格の高騰が一過性のものであるのか、それとも恒久的な変
化ととらえるのかがポイントとなる。
米国らしいネーミングだと感心しているのだが、エイブラハム・米エネルギー省長官は、
自ら主催した「LNG 大臣級サミット」(03 年 12 月 17、18 日)で、「歴史的に低位で推移
してきた天然ガス価格はここ数年高騰し、LNG に価格競合性を持たせるに至った。エネル
ギー情報局(EIA)の予測では、この天然ガス価格を取り巻く環境は今後数十年にわたり変
化することはなく、もって LNG の収益性に影響を及ぼすことはない」と挨拶した。「北米
♣
本文はガスエネルギー新聞 2004 年 9 月 22 日に掲載されたものを転載許可を得て掲載い
たしました。
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IEEJ: 2005 年 6 月掲載
は拡大する需要に見合う供給を自給することができない時代を迎えつつある。米国とカナ
ダの生産はピークに達した」とも述べている。
この説を裏付けるように、天然ガスのR/P(埋蔵量/生産量)レシオは 90 年代に入り、
10 を下回り推移している。
BP幹部のアン・C・クイン氏も今年 7 月 8 日、ホテルオークラで開催された恒例の統
計発表会の席上、「需給のファンダメンタルズ(経済活動の基礎的要因)は価格を高止まり
させ、値動きを活発化させた。この状態は追加的な供給が米国に届くまで、継続されるで
あろう。5 ドルを越える価格は 2000 年代の終わりまで継続する」との見方を示している。
どうやら「価格高騰は一過性のものではない」とする意見が多いようだ。
連邦準備委員会グリーンスパン議長の下院エネルギー・商工委員会における証言もその
1 つであろう。03 年 6 月のことである。
「米国経済は、2 ドルで供給されるという前提の下、天然ガスを利用してきた。しかし、
現在の価格を受け入れることのできない産業・企業は退場を余儀なくされる」と述べた。
この月、井戸元価格は月平均 5.35 ドルを記録した。化学工業をはじめ、多くの職が失
われた。
■■■
供給コスト低減効果も現れつつある。99 年に出荷を開始したトリニダードトバゴのア
トランティック LNG が輸入急拡大の原動力となった。
00 年に運開したオマーンプロジェクトの単位生産(液化)能力当たりの建設コストは、
72 年運開のブルネイの 2 分の 1 にまで低下した。ブリティシュガス経営最高責任者F・チ
ャップマン氏は「オマーンよりもトリニダードトバゴ、拡張プロジェクトはもっと安い」
と講演で述べている。(03 年 11 月 13 日、ロンドンにて)。
LNG 生産(液化)コストとともに、海上輸送コストも 0.3∼0.4 ドル/100 万 btu と見込
まれ、他プロジェクトと比べコスト優位は明らかである(1 万 5,000km を運ばれてくる中
東 LNG の海上輸送コストは 1.5 ドル程度)。価格高騰下で多大な利益を生みだすことは言
うに及ばず、価格が 3 ドルを下回った場合においても収益を生み出す体力は十分に備わっ
ているものと推測される。
アトランティック LNG の出荷開始により、米国の LNG 供給構造は大きな変化を遂げ
た。03 年の輸入量 1,060 万 t のうちトリニダードトバゴ分は約 790 万 t で、4 年連続最大
の供給国となった。そのほか、ナイジェリア(99 年操業開始)
、カタール・ラスラファン(同
99 年)、オマーン(同 00 年)、アルジェリア、マレーシア(1 船のみ)が供給を行った。
アルジェリアとマレーシア以外は新興ソースであり、供給量の 90%近くがこれら新興
国をソースとする。コスト低下による価格競争力向上と無縁ではないであろう。一方、か
つての主供給国アルジェリアは 530 億 cf(同 110 万 t)供給したにとどまった。
■■■
さて、トリニダードトバゴである。共和国で、トリニダード島とトバゴ島からなる。人
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IEEJ: 2005 年 6 月掲載
口約 130 万人。首都はポート・オブ・スペイン、名前の通りコロンブスに発見されたこと
に始まる。そこに住む人はアフリカ系 41%、インド系 41%、ヨーロッパ系は1%にとどま
る。
フロリダ半島南端を小船にて漕ぎ出で、バハマ諸島に沿い走る。一昼夜を過ぎぬ間に、
右舷前方にドミニカ共和国が姿を現す。キューバは船尾の彼方に消え去ろうとしている。
プエルトリコを経て、舵を南に切る。飛び石のように小島が連なる。また一昼夜。南米大
陸ベネズエラに突き当たる直前、トバゴ島が、そして首都のあるトリニダード島が現れる。
トリニダード島は南米大陸の一部でもあるかのようで、最も近いところでは大陸まで 24 ㎞
しか離れていない。
カリブ海で最も豊かで生活水準が高い。かつてはサトウキビやコーヒー栽培で栄えた。
20 世紀になり石油で賑い、今世紀は LNG が安定収入を約束する。
そしてカリプソのリズム発祥の地である。ハリー・ベラフォンテが歌うバナナボートが
カリプソである。ドラム缶を切って作るスチールドラムがカリプソのリズムを打つ。
都市ガスが育んだ LNG は、カリブ海カリプソの国にまでその根を広げた。
米国における LNG 価格(月平均)と輸入量の推移(月合計)
100万立方フィート
70,000
ドル/1000立方フィート
8
LNG輸入量
LNG輸入価格
60,000
7
6
50,000
5
40,000
4
30,000
3
20,000
2
03年10月
03年7月
03年4月
03年1月
02年10月
02年7月
02年4月
02年1月
01年10月
01年7月
01年4月
01年1月
00年10月
00年7月
00年4月
00年1月
99年10月
0
99年7月
0
99年4月
1
99年1月
10,000
(出所)米国エネルギー省エネルギー情報局
(解説) 価格を示す線グラフと輸入量を示す棒グラフが呼応するかのように上下している。99 年 4 月に出
荷を開始したトリニダードは米国輸入量の 00 年 43%、01 年 41%、02 年 66%、03 年 75%とシ
ェアを拡大中である。
お問い合わせ: [email protected]
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