Comments
Description
Transcript
Zymobacter palmaeの増殖及びアルコール発酵特性
修士論文 Zymobacter palmae の増殖及び アルコール醗酵特性に関する研究 Study on growth and alcoholic fermentation characteristics of Zymobacter palmae 高知工科大学大学院 工学研究科 基盤工学専攻 物質・環境システム工学コース 1115700 江口 美奈子 2009 年 3 月 19 日 1 目次 緒論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P4 第 1 章 ザイモバクター・パルマの増殖特性に及ぼす諸因子の影響 第 1 節 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P5 第 2 節 実験材料と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P5~6 第 3 節 実験結果及び考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P7~9 1-3-1.通気条件の影響 1-3-2.糖濃度の影響 第 4 節 小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P9 第2章 単行単式醗酵系におけるザイモバクター・パルマのアルコール醗酵特 性に及ぼす諸因子の影響 第 1 節 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P10 第 2 節 実験材料と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P10~11 第 3 節 実験結果及び考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P11~20 2-3-1.微粒子添加の影響 2-3-2.メタカリ(SO2)添加の影響 2-3-3.初発菌数の影響 第4節 小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P20 第3章 並行複式醗酵系におけるザイモバクター・パルマのアルコール醗酵特 性に及ぼす諸因子の影響 第 1 節 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P21 第 2 節 実験材料と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P21~22 第 3 節 実験結果及び考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P22~28 3-3-1.仕込濃度の影響 3-3-2.発酵温度の影響 3-3-3.海洋深層水(DSW)添加の影響 3-3-4.メタカリ(SO2)添加の影響 第4節 小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P28 2 第 4 章 ザイモバクター・パルマの微量成分生成特性 第 1 節 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P29 第 2 節 実験材料と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P29 第 3 節 実験結果及び考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P29~30 第 4 節 小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P30 第5章 総括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P31 終論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P32 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P33 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P34 3 緒 論 周知のように、地球温暖化対策の切り札的対策の一つとして、炭酸ガス収支 がニュートラルなバイオマスを原料とするバイオエタノールが注目されている。 そのバイオエタノールが普及するためには省エネルギー的、高効率的に製造で きる技術の開発が必須である。 そのため、世界各国においてナショナルプロジェクト規模で多くの研究開発 がなされている。我国では NEDO などの各機関が主導して、産官学で技術開 発中である。その一環として、近年、沖縄県のヤシ樹液から分離された新しい エタノール醗酵細菌であるザイモバクター・パルマ(Zymobacter palmae)1) を利用したバイオエタノールの技術開発もなされている。例えば、簗瀬ら 2)は、 NEDO の主管するプロジェクトにおいて、以下のような研究を行なっている。 すなわち、木質原料の酸糖化液醗酵に用いるためのキシロース醗酵性菌株の育 種、木質原料の連続糖化並行醗酵のための菌株の育種などに関する研究である。 ザイモバクター・パルマ 1)は、非胞子形成で周毛性の鞭毛をもつグラム陰性 の通性嫌気性の桿菌である。資化性糖は、アルコール醗酵性細菌として有名な ザイモモナス(Zymomonas)菌がグルコース、フラクトース、サッカロース しか資化出来ないのに対して、ザイモバクター菌は、菌株によって異なるもの の、前記に加えてマルトース、マンノース、ガラクトースなどと比較的幅広く、 これが本菌の一つの特徴である。単醗酵系での増殖最適 pH は 6、増殖最適温 度は 30℃と報告されている。単醗酵系での生産性に影響する耐糖性は、グル コースの場合は、25%で増殖せず、マルト-スの場合は、50%でも増殖可能で、 この差は浸透圧耐性に由来すると報告されている。アルコール醗酵収率は、酵 母及びザイモモナス菌と同等の 98%以上とされているが、最高アルコール生成 濃度は、7.3%(v/v)程度と低いのが欠点である。ただ、以上の知見は、いわゆる 単醗酵系で得られたものであり、フリーの糖がほとんど存在しない環境条件下 で糖化発酵が進行する、いわゆる並行複式醗酵系でのものではない。加えて、 実用化を指向した本菌の増殖・醗酵特性に関する研究は、前述のザイモモナス 菌の場合に比べて格段に少なく、簗瀬らの育種研究を除いてほとんどなされて いないと言っても過言ではない。 以上のような状況の中で、著者は、燃料用アルコール醗酵への応用展開を指 向したザイモバクター・パルマの増殖、醗酵特性に関する基礎的検討を行なう こととした。すなわち、第 1 章では、増殖特性に及ぼす諸因子の影響について、 第 2 章および第 3 章では、単醗酵系および並行複式醗酵系でのアルコール醗酵 特性に及ぼす諸因子の影響を、第 4 章では微量成分の生成特性について検討し た。以下、得られた知見情報を論述する。 4 第1章 ザイモバクター・パルマの増殖特性に及ぼす諸因子の影響 第1節 緒言 ザイモバクター・パルマ(以下、単にパルマ菌と略す)は、菌株によらず、 振トウ培養より静置培養の方が良く増殖したと報じられている 1) 。一方、著者 らの予備実験の結果では、本菌の増殖速度はザイモモナス菌より遅かった。増 殖速度が遅いということは、スターターの調製に難点があることを意味してい る。活性な大量のスターターを効率的に調製することは、実用的には極めて重 要なことである。そこで、本章では、実用的視点から、パルマ菌の増殖特性に 及ぼす諸因子の影響について検討した。なお、ここで検討した因子は実用規模 での制御が比較的容易である通気条件と糖濃度に限った。 第2節 実験材料および方法 1.増殖試験用培地 増殖実験には YPD 合成培地を用いた。その調製方法は下記のごとくであっ た。なお、以下は糖濃度 15%の場合であるが、糖濃度は 2%、5%に適宜変更し た(ただし、グルコース以外の組成は変更せず)。すなはち、純水(ADVANTEC GSP-500 にて逆浸透、脱イオンしたもの)1L にグルコース(和光純薬製 試 薬特級 水分含量:0.18%)150g、酵母エキス(Becton Dickinson and company 製)10g、ペプトン(Becton Dickinson and company 製)20gを混合、溶解処 理後、121℃、20 分間滅菌した。調製された YPD 合成培地の pH は約 5.2 であ った。こうして調製された培地を1L マイヤーフラスコに 500ml 分注し、実験 に供した。なお、糖濃度は HPLC 法で測定した。 2.通気 通気ポンプはユニポアニューハイミニを用いた。通気ポンプから培地へのチ ューブ管内に 0.01μm の中空糸膜フィルターを付設し、濾過除菌された空気を 供給した。 3.スターター YPD 寒天斜面培地(Glucose:20g, Yeast extract:10g, Peptone:20g, Agar:15g, Distilled water:1L)にて培養のパルマ菌を YPD 液体培地(糖濃度2%)10ml に1白金耳植菌し、28℃にて 24 時間培養、次いで 300mlの YPD 液体培地(糖 濃度2%)に全量移し、さらに 28℃にて 24 時間静置培養したものをスタータ 5 ーとして使用した。使用菌株は、NBRC 102412(IAM 14233, T109)菌株で あった。 4.増殖試験法 増殖試験は Fig.1 に示した装置概要図にて実施した。すなわち、1L 容のフラ スコに、所定の培地: 500ml、スターター25ml を加えて、攪拌後、28℃で、2L/min (約 4vvm)で通気培養した。なお、対照実験として、全く通気しない、いわ ゆる静置培養も並行して行なった。また、発泡を抑制するために適宜泡消剤を 加えた(静置培養にも同量加えた)。培養試験中は経時的に培養液を採取し、菌 数をカウントし、必要に応じて湿菌体重量を分析した。 通気装置図 通気:Air 通気量:2L/ min(4v/ v/ min) アルミ箔 合成培地 500ml (YPD) + 菌培養液:25ml 1L Erlenmeyer flask Fig.1 通気実験装置顔要図 5.分析法 ⅰ)細菌数 基本的には、トーマ氏血球盤(サンリード硝子有限会社製 A105JHS)にて 計測した。 ⅱ)湿菌体重量 採取した培養液を遠心分離(6000rpm、10 分)処理し、上清部を除いた重量を 湿菌体重量とした。 6 第3節 実験結果および考察 1-3-1.ザイモバクタ・パルマ菌の増殖特性に及ぼす通気の影響 Fig.2 は、通気培養と静置培養の時の糖濃度2%の場合の菌数の変化をまと めて示したものである。この図から判るように、増殖の立ち上がりは通気培養 の方が速く、平均世代時間は、静置の場合、78 分であったのに対して、通気の 場合は、66 分と計算され、通気の方が約 10 分短かった。 糖濃度:2% 10 通気培養 平均世代時間 66分 菌数(常用対数値) 9.5 9 8.5 静置培養 平均世代時間 78分 8 7.5 7 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 培養時間(hr) Fig.2 ザイモバクター・パルマの増殖特性に及ぼす通気の影響(糖濃度:2%) Fig.3 は、糖濃度:5%の場合について同様な実験を行なったデータである。糖 濃度が高くなったこの場合は、増殖の立ち上がりや定常状態に達するまでの時 間のみならず、定常状態と考えられる菌数も通気条件によって異なることが示 された。すなわち、通気した場合、増殖の立ち上がりが早くなり、平均世代時 間も静置の場合の約半分に短縮され、最大菌数もやや多くなった。 7 糖濃度:5% 10 通気培養 平均世代時間 92分 菌数(常用対数値) 9.5 9 8.5 静置培養 平均世代時間 201分 8 7.5 7 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 培養時間(hr) Fig.3 ザイモバクター・パルマの増殖特性に及ぼす通気の影響(糖濃度:5%) 1-3-2.ザイモバクター・パルマ菌の増殖特性に及ぼす糖濃度の影響 Table 1 は、増殖特性の一つの指標として培養 24 時間後の培養液 100ml 当 たりの湿菌体収量を用いた場合の、培養法と糖濃度の関係をまとめて示したも のである。表から判るように、静置、通気の培養法の違いによって、糖濃度と 菌体収量の関係は異なる挙動を示している。すなわち、静置培養の場合は、糖 濃度 2%より 5%の方が収量は多くなったが、糖濃度が 15%と極端に高くなると、 5%の場合の 0.94g よりも収量は低下し、0.81g にとどまった。これに対して、 通気の場合は、糖濃度が高くなるに従って収量は多くなり、15%の場合は、静 置の場合の最高値の約 1.7 倍に相当する 1.58g という最高値が得られた。この ことは、パルマ菌も酵母の場合と同様に通気培養すれば効率的に高密度のスタ ーターを調製できることを示している。従って、これらの知見情報は、パルマ 菌を実用化する際に必須であるスターター調製条件の最適化のための基本情報 として役立つものと考える。 ところで、これらの結果は、前述した岡本らの振トウ培養よりも静置培養の 方が良く増殖したとの記述と異なっている。岡本らの報告には実験条件やデー タの記載がないために、その理由は、今のところ正確にはわからないが、一つ の要因として、酸素が増殖に関与したというよりは、微生物の増殖醗酵の阻害 因子の一つである炭酸ガス濃度が通気によって低下したことが考えられる。す なわち、パルマ菌は炭酸ガスに対するストレス耐性が酵母に比べて弱いのでは 8 ないかと推察されるが、この点については今後精査される予定である。また、 静置の場合、糖濃度 5%より 15%の場合の菌体収量が低下した理由としては、 15%の場合、高い糖濃度による糖ストレスに加えて、前述した炭酸ガス・スト レスの両ストレスによってパルマ菌の活性が低下したためであると考えられる。 この点についても、今後、精査される予定である。 Table 1 ザイモバクター・パルマ菌の培養 24 時間後の菌体収量に及ぼす 培養法と糖濃度の影響 糖濃度 静置培養 通気培養 通気/ 静置 2% 0.57g 0.59 g 1.0 5% 0.94g 1.23g 1.3 15% 0.81g 1.58g 2.0 通気条件:4VVM 培養温度:28℃ 菌体収量:培養液100g当たりの湿菌体重量(g) 菌体分離条件:6000ppm、10分 第4節 小括 ①培地の糖濃度によって程度の差はあるが、通気によって増殖の立ち上がりが 早くなり、平均世代時間も通気すると静置の場合より短縮され、最大菌数も 多くなる傾向にあることが判った。 ②通気や糖濃度条件などを最適化すれば、パルマ菌も酵母と同様に、より効率 的にスターターを調製できることが知られた。 ③パルマ菌は、酵母に比べて炭酸ガスに対するストレス耐性が弱い可能性のあ ることが示唆された。 9 第2章 単行単式醗酵系におけるザイモバクター・パルマのアルコ ール醗酵特性に及ぼす諸因子の影響 第1節 緒言 アルコール醗酵の型式は、単行単式、単行複式、及び並行複式の 3 つに分類 される。単行単式はグルコースなどの醗酵性糖を含む YPD 合成培地や果汁を そのまま醗酵させる場合である。単行複式は澱粉質や繊維質のどの多糖類を予 めグルコースなどの醗酵性等に糖化分解した液を醗酵させる場合である。並行 複式は、澱粉質などの多糖類を酵素で醗酵性糖に分解しつつ、微生物が生成さ れた糖をアルコールに変換する場合である。燃料用のアルコール醗酵において も、これら 3 種類のいずれの醗酵型式も採用される可能性がある。本章では、 それらのうち、単行単式と単行複式のモデルとして培地調製の簡単な単行単式 醗酵系でのパルマ菌の醗酵特性を調べることとした。因子としては、藤本 3)、 宮地 4)によって微生物に対する増殖醗酵促進作用のあることが明らかにされた 微粒子添加、醗酵特性に多大な影響を及ぼす初発菌数、並びに雑菌汚染対策と して重要な殺菌剤である SO2 源としてのメタ重亜硫酸カリウム添加について検 討した。 第2節 実験材料および方法 1. 醗酵試験用培地 醗酵実験にはグルコース 10%の YPD 合成培地を用いた。すなわち、純水 1 Lにグルコース 100g、酵母エキス 10gとペプトン 20gを混合、溶解処理後、 オートクレーブで 121℃、20 分間滅菌処理した。このようにして調製したYP D合成培地のpHは約 5.2 であった。また、マルトース 10%のYPM合成培地 も用いた。その調製方法は、マルトース 100gを使用する以外は、YPD合成 培地と同様にであった。調製されたYPM合成培地のpHは約 5.8 であった。 2. 微粒子物質 微粒子物質は、藤本 3)、宮地 4)らのものと同じ、無機系 4 種類(竹炭、珪藻 土、カオリン、活性白土ハスク)、有機系 4 種類(ハスク(:麦芽穀皮)、キトサ ン、キチン、セルロース)の合計 8 種類を用いた。 3.メタカリ 10 ALDRICH 製メタ重亜硫酸カリウム(Potassium metabisulfite;K2S2O5, 純 度 98%)(以下、メタカリと略称する。)を用いた。 4. スターター 第 1 章記載の方法に準じた。 5. 仕込醗酵試験方法 仕込醗酵条件は、基本的には以下のごとくであった。すなわち、500mL の三 角フラスコに、グルコース 10%の YPD 合成培地 250mlに所定の添加物とス ターター10mlを加え、攪拌後、28℃で所定時間静置醗酵させた。醗酵中は、 経時的に重量を測定し、炭酸ガス発生量を算出し、必要に応じて pH、総酸、 アルコールなどを分析した。なお、必要に応じて、対照のために酵母(007A 株)とザイモモナス菌(NBRC13756 株)についても実施した。 6.分析法 ⅰ)菌数は、第 1 章第 2 節に記載の方法に準じた。 ⅱ)pH、総酸、アルコールなどの分析は藤本 3)の方法に準じた。 第3節 実験結果および考察 2-3-1.微粒子添加の影響 ⅰ)YPD 培地での無機系微粒子物質添加の影響 Fig.4 は、YPD 培地に無機系微粒子物質である珪藻土、竹炭、カオリン、活 性白土を各種 1000ppm 添加した場合のパルマ菌の炭酸ガス発生経過を示した ものである。Fig.4 から分かるように、いずれの無機系微粒子物質を添加して も、醗酵は促進される傾向にあった。ただ、その促進効果は微粒子物質の種類 によって異なり、特に、珪藻土と竹炭が高い促進効果を示し、醗酵 48 時間後 の炭酸ガス発生量は、コントロールの約 2 倍であった。次いで、カオリン、活 性白土の順であった。 11 10 コントロール 炭酸ガス発生量(g) 8 珪藻土 竹炭 6 カオリン 活性白土 4 2 0 0 10 20 30 40 醗酵時間(hour) Fig.4 YPD 培地に無機系微粒子物質を添加した場合の ザイモバクター・パルマ菌の炭酸ガス発生経過 Fig.5 は、竹炭を 1000ppm 添加した場合について、対照菌である酵母及びザ イモモナス菌の炭酸ガス発生経過と比較したものである。Fig.5 から分かるよ うに、酵母とザイモモナス菌の場合は、竹炭添加によって醗酵は顕著に促進さ れ、醗酵開始 24 時間時点で醗酵はほぼ終了、炭酸ガス発生量は約 9g とコント ロールの約 9 倍であった。これに対して、パルマ菌の場合、竹炭添加によって 醗酵は促進されてはいるものの、両菌の場合の促進度合いに比べて著しく低く、 醗酵 48 時間時点の炭酸ガス発生量も約 5g とコントロールの約 1.8 倍、酵母と ザイモモナス菌のコントロールの中間程度、両菌の竹炭添加の場合の約 60%に とどまった。 12 10 酵母 酵母・竹炭 炭酸ガス発生量 (g) 8 ザイモモナス 6 ザイモモナス・竹炭 ザイモバクター 4 ザイモバクター・竹炭 2 0 0 10 Fig.5 20 醗酵時間(hour) 30 40 YPD 培地に竹炭を添加した場合の3菌株の炭酸ガス発生経過の比較 Fig.6 は、竹炭を 1000ppm 添加した場合について、醗酵温度を変化させた場 合の炭酸ガス発生経過で示したものである。すなわち、醗酵温度 28℃と 32℃ の場合を比較したものであるが、Fig.6 から分かるように、竹炭添加の有無に 関わらず、28℃より 32℃の方が良好な成績を示し、しかも、いずれの醗酵温度 の場合も、竹炭添加によって醗酵は促進されたが、その程度は、32℃醗酵の方 がやや大きい傾向にあった。このことは、パルマ菌の最適醗酵温度 32℃に近い ことを示している。 10 コントロール 32℃ 炭酸ガス発生量(g) 8 竹炭 32℃ コントロール 28℃ 6 竹炭 28℃ 4 2 0 0 10 20 30 40 醗酵時間(hour) Fig.6 竹炭添加―醗酵温度―炭酸ガス発生経過の関係 13 ⅱ)YPD 培地での有機系微粒子物質添加の影響 Fig.7 は、ザイモバクター・パルマ菌の醗酵系にハスク(穀皮)、キトサン、 キチン、セルロースを各種 1000ppm 添加した場合の炭酸ガス発生経過を示し たものである。Fig.7 から分かるように、いずれの有機系微粒子物質を添加し ても、無機系と同様に物質の種類に関係なく、不溶性物質を添加する事で醗酵 は促進される傾向にあった。中でも、ハスク、すなわち穀皮が最も強い促進効 果を示した。しかも、その強度は、無機系の珪藻土・竹炭を上回るもので、醗 酵 48 時間後の炭酸ガス発生量は、コントロールの約 2.3 倍のという高い値を 示した。ハスクの醗酵促進効果が試験した微粒子物質の中で最も強いことは、 酵母などの実験でもすでに知られており、パルマ菌でも同様な傾向を示すこと が確認された。何故、ハスクがそのように強い作用を示すのかについては、現 時点では分っておらず、今後の重要な課題の一つである。 10 コントロール 炭酸ガス発生量(g) 8 ハスク キトサン 6 キチン セルロース 4 2 0 0 10 20 30 40 醗酵時間(hour) Fig.7 YPD 培地に有機系微粒子物質を添加した場合のザイモバクター・パル マ菌の炭酸ガス発生経過 Fig.8 は、有機系微粒子物質で添加効果が最も高かったハスクを 1000ppm 添 加した場合について、対照微生物である酵母及びザイモモナス菌と炭酸ガス発 生経過を比較したものである。Fig.8 から分かるように、この場合も、酵母と ザイモモナス菌は、ハスク添加によって醗酵は顕著に促進され、醗酵開始 24 時間時点で醗酵はほぼ終了、炭酸ガス発生量は約 9g であった。これに対して、 パルマ菌の場合も、ハスク添加によって醗酵は促進され、醗酵 24 時間時点では 14 両菌のコントロールを上回ってはいるが、酵母とザイモモナス菌の促進度合い に比べると低いものであった。ただ、ハスク添加のこの場合は、竹炭の場合よ り添加効果が著しく、醗酵 48 時間時点の炭酸ガス発生量は酵母のコトロール を大きく上回り、ザイモモナス菌のコントロールと同等で、両菌の添加系の約 80%の約 7g に達した。 10 酵母 酵母・ハスク 炭酸ガス発生量(g) 8 ザイモモナス ザイモモナス・ハスク 6 ザイモバクター 4 ザイモバクター・ハスク 2 0 0 Fig.8 10 20 醗酵時間(hour) 30 40 YPD 培地にハスクを添加した場合の3菌株の炭酸ガス発生経過の比較 Fig.9 は、ハスク 1000ppm 添加した場合の醗酵温度の影響を見たものである。 Fig.9 から分かるように、Fig.5 の竹炭添加の場合と同様にハスク添加の場合も、 微粒子物質添加の有無に関わらず、28℃より 32℃の方が良好な成績を示し、か つハスク添加による炭酸ガス発生量の増加比率は醗酵温度 32℃の方がやや大 きい傾向にあった。 15 10 コントロール 32℃ 炭 酸 ガ ス 発 生 量 (g) 8 ハスク 32℃ コントロール 28℃ 6 ハスク 28℃ 4 2 0 0 10 20 30 40 醗酵時間(hour) Fig.9 ハスク添加効果―醗酵温度―炭酸ガス発生経過の関係 ⅲ)YPM 培地での微粒子物質添加の影響 Fig.10 は YPM 培地にハスク、もしくは竹炭を 1000ppm 添加した場合の炭 酸ガス発生経過を示したものである。Fig.10 から分かるように、この場合も、 YPD 培地の場合と同様に、微粒子物質を添加することで醗酵は促進され、醗酵 48 時間後の炭酸ガス発生量は、コントロールの約 2 倍の値を示し、かつハスク 添加の方が、竹炭添加よりも添加効果がやや大きい傾向を示した。 16 10 コントロール 炭酸ガス発生量(g) 8 ハスク 6 竹炭 4 2 0 0 Fig.10 10 20 30 醗酵時間(hour) 40 YPM 培地にハスク/竹炭を添加した場合の炭酸ガス発生経過 2-3-2.メタ重亜硫酸カリウム(SO2)添加の影響 微生物利用工業においては、雑菌汚染対策は生産効率や製品品質を確保する 上で、極めて重要である。特に、燃料用バイオエタノール醗酵の場合、その特 性から、微生物汚染度の異なる諸々の原料を使用することが予測されるので、 雑菌汚染対策は必須である。雑菌汚染対策の 1 つとして、安価で、かつ効果的 であるとして、ワイン醸造などでは昔から、SO2 が用いられている。SO2 源と しては、一般にメタ重亜硫酸カリウム(以下メタカリと略す)が用いられる。 そこで、パルマ菌が SO2 に対してどのような醗酵特性を示すか、メタカリを用 いて検討した。 Fig.11 は、合成培地(YPD)におけるメタカリ(SO2)濃度と炭酸ガス発生 経過の関係を示したものである。Fig.11 から判るように、この場合は、SO2 濃 度として 75ppm 相当のメタカリを添加した場合は、コントロールと同等の成 績を示したが、150ppm の場合は、コントロールより成績は低下した。しかし、 明確な醗酵現象は認められた。これに対して、SO2 濃度 300ppm、450ppm で は、全く醗酵現象は認められなかった。以上の実験事実から、パルマ菌は少な くともの 150ppm の SO2 に相当するメタカリの添加には耐えうることが判った。 この事は、パルマ株の実用化に際して意義のあることであると考える。 17 6 SO2 無添加 SO2 無添加 5 SO2 75ppm 総炭酸ガス発生量(g) 4 SO2 75ppm 3 SO2 150ppm SO2 150ppm 2 1 SO2 300ppm S SO O22 450ppm 300ppm SO2 450ppm 0 0 24 48 72 96 醗酵時間(hr) Fig.11 合成培地(YPD)における SO2 濃度と炭酸ガス発生経過の関係 2-3-3.初発菌数の影響 前述したように、初発菌数の多少は、醗酵特性に大きな影響を及ぼすことは 良く知られている。そこで、実用化のための基本的なデータを得るために、初 発菌数と醗酵特性の関係について検討を加えた。なお、比較のために酵母とザ イモモナス菌についても行なった。 Fig.12 は、合成培地醗酵系(YPD)系で初発菌数と炭酸ガス発生経過の関係 を調べた結果である。これから判るように、パルマ菌の場合も、当然のことな がら初発菌数が増すにつれて、醗酵を促進されたが、酵母やザイモモナス菌に 比べて劣り、しかも 96 時間後の総炭酸ガス発生量は最高でも、両菌の半分程 度と少なかった。 18 点線:竹炭無添加 実線:竹炭添加 ●:1×106 16 16 “パルマ”菌 14 14 12 12 12 10 10 10 6 総炭酸ガス派生量(g) 14 8 8 6 6 4 4 2 2 2 0 0 24 48 醗酵時間(hr) Fig.12 72 96 ザイモモナス菌 8 4 0 ●:1×108 16 酵母 総炭酸ガス発生量(g) 総炭酸ガス発生量(g) ●:1×107 0 0 24 48 醗酵時間(hr) 72 96 0 24 48 72 96 醗酵時間(hr) 合成培地醗酵系(YPD)系での醗酵特性と初発菌数の関係 Fig.13 は、前述したように、醗酵促進作用のある竹炭を添加した合成培地 (YPD)系での初発菌数と醗酵特性の関係を示したものである。点線は竹炭無 添加、実線は添加した場合で、黒丸は初発菌数、106、赤丸は 107、青丸は 108 である。この図で、初発菌数を 108 と多くした場合に注目して見ると、パルマ 菌の醗酵速度は、未だ、酵母などに比べて遅いが、96 時間後の成績は両菌に近 似している。このことは、微粒子物質と初発菌数の添加条件を最適化すれば、 パルマ菌も酵母などに匹敵する醗酵成績の得られる可能性があることを示唆し ている。 19 点線:竹炭無添加 実線:竹炭添加 ●:1×106 16 16 “パルマ”菌 14 12 12 12 10 10 10 6 総炭酸ガス派生量(g) 14 14 8 8 6 6 4 4 2 2 2 0 0 24 48 醗酵時間(hr) Fig.13 第4節 72 96 ザイモモナス菌 8 4 0 ●:1×108 16 酵母 総炭酸ガス発生量(g) 総炭酸ガス発生量(g) ●:1×107 0 0 24 48 醗酵時間(hr) 72 96 0 24 48 72 96 醗酵時間(hr) 竹炭添加合成培地(YPD)系での醗酵特性と初発菌数の関係 小括 ①微粒子物質を添加して醗酵させると酵母およびザイモモナス細菌と同様にパ ルマ菌の醗酵は促進されたが、その程度は両菌より低い傾向にあった。 ②SO2 として 150ppm に相当するメタカリを添加しても、パルマ菌は増殖醗酵 した。 ③醗酵速度及び生成アルコール濃度は酵母などに劣っていたが、微粒子物質と 初発菌数の添加条件を最適化すれば、酵母などに匹敵する成績の得られる可 能性が示された。 20 第3章 並行複式醗酵系におけるザイモバクター・パルマのアルコ ール醗酵特性に及ぼす諸因子の影響 第1節 緒言 前述したように、澱粉質を原料とするアルコール醗酵は、一般に、清酒醸造 に見られる並行複式醗酵でなされる。そこで、本章では、並行複式醗酵系での パルマ菌のアルコール醗酵特性について検討した。なお、澱粉質を原料とする アルコール醗酵の場合、糖化に先立って蒸煮処理を行なうのが一般的であるが、 ここでは、省エネルギーを指向していることもあり、松元ら 5)の開発した、澱 粉を生のまま糖化醗酵する無蒸煮法を採用して、醗酵試験を行なった。なお、 検討した因子は、生産性に影響する仕込濃度、省エネルギーに関与する醗酵温 度、及び酵母で醗酵速度促進作用のあることが判っている海洋深層水添加 6)と した。 第2節 実験材料および方法 1.穀類 株式会社サニーメイズ製のコーングリッツをそのまま用いた。粒度分布は Table.2 にあるように 850μm より大きいものが 32.8%、850μm 以上のものが 65.2%、355 未満~250μm 以上のもの 0.6%、250 未満~150μm 以上のもの 0.4%、 そして 150μm より小さいものが 1%を占める比較的粗いものであった。なお、 粒度分布は試料をステンレス製の篩で 30 分間振る乾式法で測定した。 Table.2 粒径 (μm) % (w/w) コーングリッツの粒度分布 850 以上 85 0~355 3 55 ~ 2 50 25 0~ 15 0 1 50 以下 32.8 65 .2 0 .6 0.4 1 .0 2.糖化酵素剤 HBI 社製のリゾプス起源のグルコアミラーゼ剤(商品名:グルターゼ 6000) をそのまま用いた。 21 3.水 ADVANTEC 製 GSP-500、活性炭カートリッジ TCC-WL-S、RO 膜 GRO-500 で逆浸透、脱イオン水にしたものを用いた。 4.海洋深層水(以下 DSW と略す) 室戸海洋深層水研究所で採取した原液をそのまま用いた。 5.スターター 基本的には、前章に準じた。 6.仕込醗酵試験法 仕込醗酵方法は、前述したごとく、無蒸煮醗酵法(以下、NCS と略す)によ ったが、その概要は以下のごとくであった。すなわち、1L の三角フラスコに、 所定量のコーングリッツ、グルコアミラーゼ剤、仕込水、海洋深層水、メタカ リおよびスターターを加えて、攪拌後、加熱処理せずに、そのまま所定の温度 で所定時間静置醗酵させた。醗酵中は、経時的に重量を測定し、炭酸ガス発生 量を算出し、必要に応じて pH、総酸、アルコールなどを分析した。なお、必 要に応じて、対照のために酵母(NBRC0224 株)とザイモモナス菌(NBRC13756 株)についても実施した。 7.分析法 菌数、pH、総酸、アルコールなどの分析は、第2章第 2 節に記載の方法に準 じた。 第3節 実験結果および考察 3-3-1.仕込濃度の影響 Fig.14 は、無蒸煮醗酵系における仕込濃度と炭酸ガス発生経過の関係を示し たものである。なお、図中に示されている Maize(トウモロコシ)量は、初発モ ロミ容量 525ml 当たりの重量である。Fig.14 から判るように、仕込み濃度が 高くなるに従って、当然のことながら炭酸ガス発生量は増加しているが、全般 的に、酵母などのときに見られるような旺盛な醗酵現象は観察されなかった。 それは、例えば、トウモロコシ量 170g の時に期待される 96 時間後の総炭酸ガ ス発生量約 55gに比べて 30g 程度しか得られていないこと、生成アルコール 濃度も期待値の約 15%の約半分の 7.3%にとどまったことからも明らかである。 22 7 0 .0 0 Ma ize 100g Ma ize 110g Ma ize 120g Ma ize 130g Ma ize 140g Ma ize 150g Ma ize 160g Ma ize 170g 6 0 .0 0 炭酸ガス発生量(g) 5 0 .0 0 4 0 .0 0 ザイモバクター・パルマ 6.3% 7.3% 3 0 .0 0 2 0 .0 0 1 0 .0 0 0 .0 0 0 24 48 72 96 2.9% 時 間 ( h r) Fig.14 無蒸煮醗酵系における仕込濃度と炭酸ガス発生経過の関係 Fig.15 は、3 水準の仕込濃度の炭酸ガス発生経過を対照微生物である酵母及 びザイモモナス菌と比較して示したものである。これから判るように、酵母と ザイモモナス菌の場合、醗酵の立ち上りが速く、しかも、醗酵の全期間にわた って、それぞれ多量の炭酸ガスを発生している。これに対して、パルマ菌の場 合は、醗酵の立ち上りが遅く、しかもその後の伸びも悪く、総炭酸ガス発生量 も両菌に対して著しく低くなった。結果的に、生成アルコール濃度も、酵母の 12.7%、ザイモモナスの 13.4%に対して 6.3%にとどまった。ところで、並行複 式発酵系の場合は、酵母などの微生物による糖消費速度は澱粉の糖化速度に密 接に関連している。従って、これらの事実は、パルマ菌は、酵母などに比べて、 グルコースを取り込む能力や糖を代謝する能力のいずれか、もしくは両方とも 劣る可能性のあることを示唆している。また、これらのデータから判断する限 り、本パルマ菌のアルコール耐性はこれら両菌よりはるかに低い可能性のある ことが判った。 23 12.7% Maize140g 60 15 ザイモモナス菌 70 Maize140g 70 15 60 ザイモバクター・パルマ Maize140g Maize150g 60 Maize150g 13.4% Maize160g Maize160g 30 6 20 40 9 30 6 20 3 10 3 10 0 0 0 24 Fig.15 48 72 時間(hr) 96 0 0 0 24 48 72 時間(hr) 炭酸ガス発生量(g) 9 50 12 アルコール濃度 (v/v)% 40 50 炭酸ガス発生量(g) 炭酸ガス発生量(g) 12 アルコール濃度 (v/v)% Maize160g 50 15 Maize150g 12 6.3% 40 9 30 6 アルコール濃度(v/v)% 酵母 70 20 3 10 0 0 0 96 24 48 72 96 時間(hr) 無蒸煮醗酵系における仕込濃度と 96 時間醗酵後の醗酵成績の関係 3-3-2.醗酵温度の影響 Fig.16 は原料使用量 160g の無蒸煮醗酵系で醗酵温度の影響を検討した結果 を酵母と比較して示したものである。すなわち、Fig.16 は、96 時間後の炭酸 ガス発生量を比較したものである。これらから判るように、パルマ菌の場合、 総炭酸ガス発生量は酵母に比べて劣っているが、温度耐性という点では、ここ で用いた酵母菌株と同様な傾向を示し、30℃から 34℃の範囲ではほぼ同等の成 績が得られた。 パル マ菌 70 70 60 60 40 炭酸 ガス発生量(g) 50 生 成 ア ル コー ル 濃 度 7 .3 % 30 1 4 .4 % 1 2 .8 % 40 炭酸ガス発生量(g) 50 酵母 仕 込 濃 度 : コ ーン 1 60 g 6 .5 % 20 10 30 20 10 0 0 28℃ 30℃ 32℃ 34℃ 36℃ 28℃ 30℃ 32℃ 34℃ 36℃ 温度(℃) Fig.16 温度(℃) 醗酵温度と 96 時間後の炭酸ガス発生量の関係 24 3-3-3.海洋深層水(以下 DSW と略す)添加の影響 Fig.17 は、醗酵温度 28℃における DSW 添加量と炭酸ガス発生経過の関係を、 酵母の場合を含めて、示したものである。酵母の場合は、和田ら 6)のデータ通 り、醗酵の立ち上がりは DSW の添加量が多いものほど早くなり、96 時間後の 生成アルコール濃度も DSW の添加量が増すにしたがって増加した。これに対 して、パルマ菌の場合は、醗酵の立ち上がりは、海洋深層水を添加しても無添 加と変わりはなく、しかも、96 時間後の生成アルコール濃度は、無添加が最も 高く、DSW 添加によって、生成アルコール濃度はむしろ低下する傾向にあっ た。 コ ント ロール D SW 1% D SW 3 % 酵母 パルマ DSW 5% 13.9% 70 醗酵温度:28℃ 15 50 12 12.8% 40 9 6.3% 30 6 20 4.4 10 アルコ ール濃度(v/v)% 炭酸ガ ス発生量[g] 60 3 4.8% 0 0 0 24 48 72 96 時間[hr ] Fig.17 無蒸煮醗酵系における DSW 添加量と炭酸ガス発生経過の関係 (28℃) Fig.18 は、同様に、醗酵温度 32℃の場合について示したものである。この 場合も、28℃の場合と同様、パルマ菌は、DSW を添加しても醗酵速度の向上 は認められなかった。ただ、この場合は、28℃醗酵の場合と違って、DSW 添 加の最も多い 5%の場合のみ、成績が低下した。 25 D SW1 % D SW3 % 酵母 パルマ D SW5 % 14.3% 60 醗酵温度:32℃ 15 炭酸ガス発生量[g] 50 12 7.1% 40 30 9 20 6 10 3 6.3% 0 0 0 Fig.18 14.0% アルコール濃度(v/v)% コ ント ロー ル 24 48 時間[hr ] 72 96 無蒸煮醗酵系における DSW 添加量と炭酸ガス発生経過の関係(32℃) Fig.19 は、これまでに示したデータに加えて実験した全ての醗酵温度につい て、醗酵開始 24 時間時点での DSW 添加量と炭酸ガス発生量の関係を酵母の 場合を含めて、まとめて示している。これから判るように、酵母の場合は、こ れまでに和田ら 6)が報告しているように、いずれの DSW 添加量の場合も、28℃ から 36℃の温度領域では、コントロールに比べて炭酸ガス発生量が多く、DSW の添加によって醗酵は促進される事が確認された。これに対して、パルマ菌の 場合は、いずれの温度においても DSW`添加による醗酵促進効果は見られなか った。 コントロール DSW3% DSW5% コントロール 酵母 40 35 35 30 30 25 20 15 DSW3% DSW5% 25 20 15 10 10 5 5 0 DSW1% ザイモバクター・パルマ 40 炭酸ガス発生量(g) 炭酸ガス発生量(g) DSW1% 0 28℃ 30℃ 32 ℃ 34℃ 36℃ 28℃ 温度( ℃) Fig.19 30℃ 32℃ 34℃ 温度(℃) DSW 添加量と醗酵 24 時間後の炭酸ガス発生量の関係 26 36℃ Fig.20 は、同様に DSW 添加量と醗酵 96 時間後の炭酸ガス発生量の関係を 示したものである。これからわかるように、酵母の場合は、これまでに報告さ れている知見が再現され、32℃までは、DSW 濃度依存的に醗酵成績は向上し たが、34℃以上では、DSW 添加量が増すにつれて醗酵成績は低下することが 確認された。これに対して、パルマ菌の場合は、試験した全温度領域で DSW 添加による醗酵成績の向上効果は認められず、むしろ添加によって成績は僅か ではあるが、低下する傾向にあることが判った。このことは、本ザイモバクタ ー・パルマ株は耐塩性に劣ることを意味していると考えられる。この耐塩性の 低さはこの無蒸煮醗酵系に独特のものであるかどうかは今のところ断言できな いが、最初に述べた耐浸透圧性がそれほど高くないことを考慮すると、この性 質は本菌株の持つ基本的な性質である可能性が高いと考えられる。いずれにし ても、このことは、本菌株をバイオエタノール醗酵に用いるとすれば、留意す べきことの一つである。 コントロール DSW3% コントロール DSW5% 酵母 70.00 60.00 60.00 50.00 50.00 40.00 30.00 DSW3% DSW5% 40.00 30.00 20.00 20.00 10.00 10.00 0.00 DSW1% ザイモバクター・パルマ 70.00 炭酸ガス発生量(g) 炭酸ガス発生量(g) DSW1% 0.00 28℃ Fig.20 30℃ 32℃ 温度(℃) 34℃ 36℃ 28℃ 30℃ 32℃ 34℃ 36℃ 温度(℃) DSW 添加量と醗酵 96 時間後の炭酸ガス発生量の関係 3-3-4.メタカリ(SO2)濃度と醗添加の影響 既に述べたように、微生物利用工業においては、雑菌汚染対策は生産効率や 製品品質を確保する上で、極めて重要である。特に、原料を加熱殺菌すること なく糖化醗酵させる無蒸煮法の場合、雑菌汚染対策は、特に重要である。そこ で、無蒸煮醗酵系でのメタカリ(SO2)添加と醗酵特性の関係について検討し た。 Fig.21 は、その結果を示したものである。すなわち、メタカリ(メタ重亜硫 27 酸カリウム)を SO2 として 75,150,300,450ppm となるように添加して醗酵さ せた場合の炭酸ガス発生経過を示したものである。この場合、第 2 章の単醗酵 系(合成培地)の場合と若干異なる醗酵特性を示してはいるが、SO2 濃度 150ppm までは、醗酵現象が認められ、300ppm では醗酵現象が認められなか ったという点では、同じであった。本データ並びに単醗酵系でのデータを総合 的に判断すると、パルマ菌は、少なくとも 150ppm の SO2 に相当するメタカリ 添加には耐えて増殖醗酵しうる性質を有していると考えられた。 25 総炭酸ガス発生量(g) SO2 無添加 20 15 SO2 75ppm SO2 150ppm 10 5 SO2 300ppm SO2 450ppm 0 0 24 48 72 96 醗酵時間(hr) Fig.21 第4節 無蒸煮醗酵系における SO2 濃度と炭酸ガス発生経過の関係 小括 ①無蒸煮法で仕込濃度を高めても、生成アルコール濃度は最高 7.3%(v/v)しか得 られなかった。 ②従って、パルマ菌は、酵母などに比べて、グルコースを取り込む能力や糖を 代謝する能力のいずれか、もしくは両方とも劣る可能性のあることが示唆さ れた。 ③本パルマ菌のアルコール耐性は、酵母やザイモモナス菌よりはるかに低い可 能性のあることが示唆された。 ④最適醗酵温度は酵母と同等の 30℃から 34℃の範囲にあることが知られた。 ⑤SO2 として 150ppm のメタカリを添加しても、増殖・発酵することが判った。 28 第4章 ザイモバクター・パルマの微量成分生成特性 第1節 緒言 主成分であるエタノール以外の微量成分の生成量が多いということは、アル コールの生成量が低下するばかりではなく、蒸留工程でのアルコールの回収率 の低下ももたらす可能性がある。そこで、パルマ菌の微量成分特性を酵母及び ザイモモナス菌と比較することとした。 第2節 実験材料及び方法 ⅰ)分析試料は、第 2 章 3 節の実験で得た醗酵終了モロミをサンプリングし、 ろ過したものを用いた。 ⅱ)微量成分の分析及び解析方法は、藤本 3)の方法に準じた。 第3節 実験結果 4-3-1.YPD 培地に不溶性物質を添加した場合のザイモバクター菌、ザイモモ ナス菌および酵母の微量成分生成量の比較 Fig.22 は、竹炭を 1000ppm 添加した単行醗酵系の醗酵終了モロミの微量成 分を測定した結果を、まとめて示したものである。なお、各成分濃度は、生成 アルコール濃度が異なることを考慮して、生成アルコール当りの値として表示 した。図から判るように、赤のパルマは青の酵母に比べて、微量成分生成量が 少なく、緑のザイモモナス菌とは、ノルマル・プロパノールの生成量が少ない のを除いて、同じような生成特性を示した。すなわち、これらのデータから判 断する限り、パルマ菌の微量成分生成量は、比較的少ない傾向にあることが判 った。このことは、パルマ菌を使用すると、蒸留精製プロセスで省エネルギー 化の可能性があることを意味しており、この点、実用的意義がある。 29 竹炭添加合成培地発酵系 初発菌数:1×108cells/ ml 400 350 Z.palmae 微量成分濃度(ppm) 酵母K-7 300 Zymomonas 250 200 150 100 50 0 酢酸エチル n-プロパノール iso-プロパノール 酢酸イソアミル イソアミルアルコール 微量成分の種類 微量成分濃度は生成アルコール当りの値で表示 Fig.22 微量成分生成特性=“パルマ”菌、酵母及びザイモモナス菌の比較 第4節 小括 ①パルマ菌の微量成分生成量は酵母より顕著に少なかったことから、酵母を用 いて醗酵させた場合より、蒸留工程での製造歩合という点では、有利になる 可能性のあることが示唆された。 30 第5章 総括 近年、沖縄県のヤシ樹液から分離された新しいエタノール醗酵細菌であるザ イモバクター・パルマ(Zymobacter palmae)菌の燃料用アルコール醗酵への 応用展開を指向した増殖およびアルコール醗酵特性に関する基礎的検討を行な い、下記の知見を得た。 第 1 章では、増殖特性に及ぼす諸因子の影響について検討し、①培地の糖濃 度によって程度の差はあるが、通気によって増殖の立ち上がりが早くなり、平 均世代時間も通気すると静置の場合より短縮され、最大菌数も多くなる傾向に あること、②通気や糖濃度条件などを最適化すれば、パルマ菌も酵母と同様に、 より効率的にスターターを調製できること、③パルマ菌は、酵母に比べて炭酸 ガスに対するストレス耐性が弱い可能性のあることなどの知見を得た。 第 2 章では、単行単式醗酵系でのアルコール醗酵特性に及ぼす諸因子の影響 について検討し、①微粒子物質を添加して醗酵させると酵母およびザイモモナ ス菌と同様にパルマ菌の醗酵は促進されたが、その程度は両菌より低い傾向に あったこと、②SO2 として 150ppm に相当するメタカリを添加しても、パルマ 菌は増殖醗酵したこと、③醗酵速度及び生成アルコール濃度は酵母などに劣っ ていたが、微粒子物質と初発菌数の添加条件を最適化すれば、酵母などに匹敵 する成績の得られる可能性のあることなどが明らかになった。 第 3 章では、並行複式醗酵系でのアルコール醗酵特性に及ぼす諸因子の影響 について検討し、①無蒸煮法で仕込濃度を高めても、生成アルコール濃度は最 高 7.3%(v/v)しか得られなかったこと、②従って、パルマ菌は、酵母などに比べ て、グルコースを取り込む能力や糖を代謝する能力のいずれか、もしくは両方 とも劣る可能性のあることが示唆されたこと、③本パルマ菌のアルコール耐性 は、酵母やザイモモナス菌よりはるかに低い可能性のあることが示唆されたこ と、④最適醗酵温度は酵母と同等の 30℃から 34℃の範囲にあること、⑤SO2 として 150ppm のメタカリを添加しても、増殖・発酵することなどの知見を得 た。 第 4 章では微量成分の生成特性について検討し、パルマ菌の微量成分生成量 は酵母より顕著に少なかったことから、酵母を用いて醗酵させた場合より、蒸 留工程での製造歩合という点では、有利になる可能性のあることが示唆された ことを示した。 31 終 論 そもそも、自然界においては、土壌にしても様々な菌の相互作用によって調 和が保たれている。そこから考えてみると、アルコール醗酵においても、酵母 単独でアルコールを生産する方法も一つの方法ではあるが、特性の異なる菌を 混合あるいは併用することで欠点を補いあう混合醗酵法あるいは併用醗酵法も 有用な手法の一つであると考える。松元研究室では、現在、酵母、Zymomonas、 Zymobacter palmae、の 3 菌種のアルコール醗酵特性に関する研究がなされて いる。これら 3 菌種のどの菌にも利点もあれば欠点もある。従って、上述の考 え方から、これら 3 菌種を併用もしくは混合してより良いアルコール醗酵生産 システムを構築できたらと思っている。そして、本研究が、その一助となれば 幸甚である。 32 謝 辞 本研究をおこなうにあたり、終始ご指導ご鞭撻いただきました松元教授に深 く感謝いたします。 また、適切なご指導ご鞭撻をいただきました榎本教授並びに大濱教授に深く 感謝いたします。 また、本研究において、一部共同研究をさせていただきました、松元研究室 の白石 昇氏、中 一歩実氏に感謝いたします。 また、丁寧なご指導をいただきました松元研究室の 2007 年度修士課程修了 生川村和幸氏、合田智晶氏、宮地 諒氏、和田拓也氏に深く感謝いたします。 また、お世話になりました、2008 年度の松元研究室在籍の諸氏に深く感謝い たします。 33 参考文献 1) Tomoyuki Okamoto et al.;Arch.Microbiol.160,333-337(1993) 2) NEDO ホームページ:“バイオマスエネルギー先導技術研究開発”木質バイオ マスからの高効率バイオエタノール生産システム研究開発 3) 藤本敏幸:06 年度高知工科大学修士論文(2007 年 3 月 20 日) 4) 宮地諒 07 年度高知工科大学修士論文(2008 年 3 月 21 日) 5) Nobuya Matsumoto et al.;Agric. Biol.Chem., 46(6), 1549-1558(1982) 6)和田拓也 07 年度高知工科大学修士論文(2008 年 3 月 21 日) 34