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アメリカ会社訴訟における 中間的差止命令手続の機能と展開 (2)

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アメリカ会社訴訟における 中間的差止命令手続の機能と展開 (2)
大阪経大論集・第62巻第5号・2012年1月
49
アメリカ会社訴訟における
中間的差止命令手続の機能と展開 (2)
予備的差止命令と仮制止命令の紛争解決機能
吉
垣
目次
Ⅰ. 問題の所在
Ⅱ. 差止命令 (Injunction) の史的素描と類型的考察
1. 略史
イングランドにおけるエクイティ
合衆国におけるエクイティ
2. 差止命令の種類
永久的差止命令と中間的差止命令
予備的差止命令と仮制止命令
禁止的差止命令と命令的差止命令
Ⅲ. 連邦裁判所における予備的差止命令 (Preliminary Injunction) の機能と展開
1. 概説
2. 連邦裁判所におけるエクイティ管轄権と予備的差止命令
連邦の裁判管轄の基礎
連邦最高裁判所におけるエクイティ管轄権と予備的差止命令の判断
5つの最高裁事例
[1] University of Texas v. Camenisch 事件
[2] Weinberger v. Romero-Barcelo 事件
[3] Amoco Production Co. v. Gambell 事件 (以上, 第62巻4号)
[4] Grupo Mexicano de Desarrollo v. Alliance Bond Fund 事件
[5] eBay Inc. v. MercExchange, L. L. C 事件
評価
連邦控訴裁判所における予備的差止命令の審査基準
予備的差止命令の審理の性質
審理の性質及び特徴
命令取得のメリットとデメリット (以上本号)
3. 検討
Ⅳ. デラウエア州衡平法裁判所における予備的差止命令の機能と展開
Ⅴ. 仮制止命令 (Temporary Restraining Order) の構造と展開
Ⅵ. 中間的差止命令手続の紛争解決機能
Ⅶ. 結論
実
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大阪経大論集
第62巻第5号
[4] Grupo Mexicano de Desarrollo v. Alliance Bond Fund 事件75)
[事実]
本事案は, 金銭賠償請求訴訟において, 裁判所が, 連邦のエクイティに基づいて, 判決
前に, 債務者による資産の移転を禁止するための予備的差止命令を発する管轄を有するか,
ということが論点となったものである。 事案は次のとおりである。
上訴人 Grupo Mexicano de Desarrollo, S. A. (以下, 「GMD」) は, メキシコの株保有会
社であり, 他上訴人4社は GMD の子会社である。 被上訴人 Alliance は, この社債を購入
したアメリカの投資ファンドである。
GMD は, メキシコ政府より, 政府が支援する有料道路建設計画の許可を得て, これを
建設し, 運営管理している。 GMD は, 特別の営業権 (concessions) を与えられており,
同社は営業権者への投資者であると同時に, 道路建設のために営業権者に雇われた建設会
社の1つでもあった。 GMD は, 1994年2月, 道路建設の資金を集めるために無担保・保
証付社債 (unsecured, guaranteed notes) (以下, 「社債」) を発行した。 社債は, 総額2億
5,000万ドル, 利率8.25%で発行され, その弁済順位は GMD の他の無担保の債権者と同等
であり, 毎年2月と8月に利息が支払われるという内容のものであった。 GMD の4つの
子会社 (GMD 以外の上訴人) がこの債務を保証した。 Alliance は投資のため, これを約
7,500万ドル分購入した。
GMD の経営は, その後メキシコの経済危機の影響により大きな損失を被った。 そこで,
メキシコ政府は, GMD の救済策を発表した。 それは, 政府が GMD から有料道路の所有
権の譲渡を受けるのと引き換えに, GMD に対して政府保証債を発行するというものであっ
た。 この政府保証債は, GMD の銀行債務の支払いのほか, GMD その他営業権者にサー
ヴィスを提供した契約者が保有する債権の支払いの原資とされることとなった。
しかし, メキシコ経済の悪化と政府保証債関連の問題により, 1997年中頃までに GMD
の財務状況に重大な問題が生じた。 上記の社債に加えて, GMD はその他に約4億5,000万
ドルの負債を抱えていた。 GMD が1997年6月30日に証券取引委員会に提出した報告書
(1997 Form 20-F) には, GMD は債務超過に陥っており, 継続企業 (going concern) とし
て継続可能かどうかは 「重大な疑問 (substantial doubt)」 がある, との記載がなされてい
た。 この財務状況の結果, GMD 及びその子会社 (GMD の保証人) は1997年8月の利息
の支払いが滞るに至った。
1997年8月から12月の間, GMD はその債務整理のため債権者との交渉を行った。 同年
8月26日, ロイター通信社は, GMD が2億5,600万ドルの銀行債務を減らすためメキシコ
銀行と債務減額交渉を行ったこと, 及び GMD が上記の社債を保有する投資者と交渉する
前に当該負債処理計画を立てたことを報じた。
10月28日, GMD は, メキシコにおける労働債権の支払いのため, 政府保証債を受ける
75) 527 U. S. 308 (1999). 本件評釈として, 小杉丈夫 「連邦管轄と債務者財産凍結のための予備的差止
命令」 ひろば2001年9月号62頁以下 藤倉皓一郎=小杉丈夫編・衆議のかたち (2007) 304頁所収
がある。
アメリカ会社訴訟における中間的差止命令手続の機能と展開 (2)
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権利の一部1,700万ドルを信託する予定であり, また1億ドルを税金の払戻しとして, メ
キシコ政府に譲渡する旨発表した。 このような状況下において, GMD は, 一般債権者で
ある Alliance ら社債保有社と債務整理の交渉をしたが, 12月までに合意に至らなかった。
1997年12月11日, 被上訴人は社債の元本部分の期限を喪失させ, 翌12日に社債の契約不
履行による損害金の支払いを求める訴えをニューヨーク南部地区連邦地方裁判所 (上訴人
が対人管轄に同意していた) に提起した。 Alliance は訴状において, GMD が, 仮にまだ
支払不能になっていないとしても, その危険があること, GMD はその重要な資産である
道路建設債のほとんどを処分してしまったが, その際に債務充当目的での道路建設債の分
配や道路建設受取勘定の譲渡の中でメキシコの債権者を優先していること, および, これ
らの行為は被告の取得する 「いかなる判決の実効性をも失わせる」 ものであること, を主
張した。 被上訴人は契約不履行による損害賠償として8,090万ドルを要求し, 同時に GMD
が政府保証債及び通行料徴収権を第三者に譲渡することを禁止する予備的差止命令を求め
た。 同日, 地方裁判所は上訴人による上記権利の移転を禁止する仮制止命令を発令した。
12月23日, 地方裁判所は, GMD は仮にまだそうでないとしても支払不能に陥る危険が
あること, GMD の唯一の実質的財産が政府保証債であること, GMD は被上訴人や他の
社債保有者をさしおいてメキシコの債権者を満足させるためにこの政府保証債を利用して
いること, 上訴人の財務状況や資産が散逸していることに照らせば, 被上訴人が裁判で取
得する支払判決には実効性がなく, 回復不能の被害を被ること, そして, 被上訴人が本案
請求に関して勝訴することはほぼ確実であること (almost certain) を認定し, 上訴人が
「上訴人の有するすべての債権, 利益, 権原, 又は取得・保有権を費消し, 支払いに充て,
移転 (譲渡) し, 輸送し, 又はその他の方法で分配若しくは (不利な) 影響を与えること」
を予備的に禁止した。 地方裁判所は被上訴人に5万ドルの担保提供を命じた。
GMD は, この命令について, 第2巡回区控訴裁判所に中間上訴をしたが, 同裁判所は
連邦地裁の判断を是認した。 これについて, 最高裁は, 裁量上訴を認めた。
本件では, まず, 地方裁判所で予備的差止命令が発せられ, その後, 同命令について中
間上訴が係争中に, 原審において終局判決がなされ, 予備的差止命令が永久的差止命令に
変更されたことが, 予備的差止命令についての上訴を争訟性のないものにするかどうか,
ということが争点となった。 予備的差止命令発令後の争訟性につき, 予備的差止命令が違
法であることが後日確定すれば, GMD が寄託された担保に対して請求権を有すること等
を理由に, 全員一致で争訴性を有するとの判断がなされた。
[判旨]
Scalia 裁判官の法廷意見は次のとおりである。 「地方裁判所は本件において規則65条に
基づいて予備的差止命令を発令する権限を有するかどうか, という重要な問題について検
討しよう。 1789年裁判所法 ( Judiciary Act of 1789) は, 連邦裁判所にエクイティ上の……
すべての訴訟について管轄を与えた。 われわれはこのように付与された管轄権 ( jurisdiction) とは, ……分離独立時にイギリスのエクイティ裁判所で定立・執行された司法救済
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第62巻第5号
制度上の原理を, エクイティ訴訟において執行する権限であると考えてきた。 つまり実質
的に連邦裁判所のエクイティ管轄権とは, 憲法が制定され1789年の旧裁判所法が制定され
た当時に High Court of Chancery が行使していたエクイティ管轄権である。 エクイティ上
の救済を取得する実体要件は, 差止命令による救済の一般的利用条件と同じく, 規則65条
により変更されておらず, エクイティ管轄権上の伝統的な原理に服している。
下線筆者
従って我々は, 被上訴人がここで要求する救済はエクイティ裁判所が伝統的に認めていた
ものか否かを問わなければならない。
被上訴人はこの点についての議論さえしていない。 しかしアミカス・キュリィ (amicus
curiae) たる国は, 本件における予備的差止命令は, 債権者のための補充執行訴状 (creditor’s
bill) として知られるエクイティ訴訟で得られる救済に類似していると論じる。 この救済
は, 判決債権者 ( judgment creditor) が, 債務者の資産の発見, コモン・ロー上は執行で
きないエクイティ上の利益の実現, 及び詐欺的譲渡の覆滅のために利用された。 しかし債
権者のための補充執行訴状は, 債務の存在を確認した判決をすでに取得している債権者の
みが提起できる手続であることは, 一般原則として確立していた。 判決を要求するこのルー
ルは, 単にエクイティ上の救済を追求する前にコモン・ロー上の救済を利用し尽くしてい
なければならないという手続要件の帰結ではなく,
判決を得ていない
一般債権者は債
務者の財産はコモン・ロー上もエクイティ上も債務者の財産権に法的利益 (cognizable interest) を有しておらず, 債務者の財産権行使に介入することはできない, という実体法
上のルールの所産でもある。
下線筆者
……
国は, この判決を要求する一般原則にはいくつかの例外があると主張する。 ただ, この
例外の存在や範囲は明確とはいい難い。 国は, その例外が, 本件のような事案に関連する
可能性があると述べたものの, 何が例外に当たるのかについては結論を避けた。 ただし,
上述したように, 被上訴人側は, 債権者の補充執行訴状について全く議論していない。 と
くに下級審はこの点を議論しなかったので, 我々は何らかの例外があってそれが本件に適
用されると想定することには否定的であり, エクイティ裁判所が債務者の財産権行使に介
入するためには債務を確認した判決が必要であるという確立した一般原則に従うものであ
る。
反対意見も, 連邦のエクイティ裁判所が伝統的に, 本件で認められたような, この種の
予備的救済を拒否してきたことは認めている。 しかし同意見は, エクイティの遠大な目的
(the grand aims of equity) を持ち出し, コモン・ロー上の救済が実質的かつ効果的でない
場合には, 常に, 制定法がそれを禁じない限りにおいて, 救済を認める一般的権限がある
と主張する。 しかしこのようなエクイティの拡大解釈 (expansive and efficient) は排斥さ
れなければならない。 ……
我々は, エクイティが柔軟であるという前提には疑問をはさまないが, 少なくとも連邦
制度においては, その柔軟性は伝統的なエクイティ上の救済という範囲内に限定されるこ
とも疑っていない。 従来利用できなかった救済類型―とくに (本件のような) 司法の先例
が長年にわたり明確に否定してきた種類の救済を認めることは, 柔軟というより全能のデ
アメリカ会社訴訟における中間的差止命令手続の機能と展開 (2)
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フォルト・ルール (default rule) を行使するのに等しい。 実際に新しい状況が生じて過去
の実務から離れざるを得なくなった場合に, それを把握して適切な設計をするのにもっと
も適切な地位にあるのは, 我々ではなく議会である。
下線筆者
反対意見は, 現在, ビ
ジネス関係はますます複雑化しており, 資本の移動が緩慢で財産がどちらかといえば流動
的でなかった時代はもはや過去であるというが, 債務者が債権回収を避ける努力をしたり,
一部の債権者を他の者より優遇しようとすることは, ……目新しいことでは全くない。
……詐欺的譲渡 (fraudulent conversion) や破産法はかかる行為を防止するために開発さ
れたが, 債務者による負担のない財産の利用を判決前に制限するエクイティ上の権限はそ
のようなものではない。
被上訴人は, 一般債権者は債務者の財産利用に干渉できないというルールはコモン・ロー
とエクイティの統合により変更されたと主張する。 しかし統合によって実体法上の権利に
変更があるわけではない。 民事訴訟規則によりコモン・ローとエクイティが統合されたか
らといって, 衡平法裁判所における実体法上の原理はそれに影響されない。 仮に歴史的根
拠を考慮外に置くとしても, 判決が主張の正当性を確認する前に一般債権者たる権利主張
者が負担のない個人財産を凍結できるか否かの問題は, 単なる手続上の問題であると信じ
る気にはなれない。 我々には, この問題がすべての権利保有者の実体権に波及するものと
思われる。 我々が概観してきたように, どのような事案においてであれ, 判決を要求する
ルールは, コモン・ロー上の救済を尽くさせる手続的要請のみならず, 債務者の財産権の
上にエクイティ行使の前提となるような利益を債権者に与えるという実体的要請をも助長
するものと, 歴史的にみなされてきたように思われる。
下線筆者
……
本件で求められた救済が伝統的なエクイティ実務に知られていなかったことを示すさら
なる根拠として, イギリスの大法官裁判所が, 1975年まではかかる差止命令の救済を与え
て こ な か っ た こ と が 参 考 に な る 。 そ の 年 , 控 訴 院 は , Mareva Compania S. A. v.
International [328] Bulkcarriers S. A. (2 Lloyd’s rep. 509) 事件を決定した。 この Mareva injunction は, 現在では制定法により認められている
イギリスは, 1981年の Supreme
Court Act により, 制定法をもって, Mareva injunction を追認した。 。 ……
当事者らは, Mareva 決定が依拠したのは制定法上の権限かあるいは固有のエクイティ
権限かを議論している。 その議論の結論がどうであれ, イギリスのエクエティ裁判所が
1975年までにこの権限を実際には行使していなかったこと, 及びわが国の連邦裁判所が,
一般問題としては, 判決を得ていない債権者の要請に応えて債務者の財産処分に干渉する
ことはないという原理を伝統的に採用してきたことは, 疑いがない。 我々は, ここで債務
者にとっての重要な保護を消滅させる決定をすることは, 慎重な伝統的アプローチと相容
れないものと考える。 ……
予備的差止命令は, 州法による, 判決前の救済の使用を許している連邦民事訴訟規則64
条を実質上無意味にする。 ……
予備的差止命令を認めることは, 債務超過または債務超過寸前の債務者が関与する事件
において, 債権者が競って, 連邦裁判所に駆け込む競争を誘発しかねない。 ……
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この債務者に対する恐るべき権力 (formidable power over debtors) に関する議論は,
我々の民主社会で論じられるべき場所, すなわち議会で論じられ, 解決すべきである。
……
そのような救済は歴史的にエクイティ裁判所では利用できなかったのであるから, 地方
裁判所は被上訴人の契約違反に基づく損害賠償請求の裁判がなされるまで上訴人の資産の
処分を禁止する予備的差止命令を発する権限をもたない, と我々は考える。 従って, 第2
巡回区の決定を破棄し, この意見に沿った更なる手続をさせるため, 事件を差し戻す。」
Ginsburg 裁判官の反対意見 (これに, Stevens 裁判官, Souter 裁判官, Breyer 裁判官の3
名が賛成している。)
「本件において, 地方裁判所は, Alliance は十分な救済をコモン・ロー上に有しないこと,
中間的差止の救済がなければ支払判決による権利回復ができなくなるであろうこと, 及び
本案で勝訴することがほとんど確実であることを, 十分な証拠で認定した場合に限り発令
するとしたことで, これらの原理の要請に注意深く従っている。
本件最高裁は, この種の差止命令は憲法制定時にエクイティ裁判所が伝統的に認めてい
なかったものであることを主たる理由として, 本件地方裁判所の予備的な凍結命令を許さ
れないものとする。 本件最高裁は, エクイティ管轄権に関して不当に静的な概念構成をし
ているように思われる。 ……
我々はまた, 各事案の要請を満たすため, そして新しい重要な権利義務が継続的に生成
し, また新しい違法行為が継続的になされるような社会状況の必要性に応えるため, エク
イティが時を超えて進化しなければならないことを認識している。 動的なエクイティ制度
は, 商事法の文脈においてとくに重要である。 我々が1世紀以上も前に観察したように,
近代のビジネス関係がますます複雑になる中でエクイティ上の救済は必然的かつ着実に拡
張されるのであり, それを制限する柔軟性を欠いたルールなど許されないということを銘
記すべきである。 エクイティの性質をこのように理解して, 我々は18世紀の大法官の想定
を超えるような多様な差止命令を認めてきたのである。
下線筆者
本件において, Alliance が求めた予備的差止命令は, 昨今認められた多くのエクイティ
上の救済と比べて穏当といえる程度 (modest measure) であった。
無担保の債権に基づいて訴えられた当事者に裁判がなされている間, 資産を処分しない
よう命ずる予備的差止命令を, エクイティ裁判所が伝統的に発してこなかったことは間違
いない。 しかし, エクイティ裁判所が通常はこの救済を提供しなかった事実を認めたから
といって, そのことから, この救済がエクイティの能力を超えるものだという結論になる
ものでは全くない。 ……
資産をほぼ瞬間的に海外に移転させる技術と相まって, 海外の安全地帯を利用する判決
回避戦略はますます巧妙化しており, そのことは, コモン・ローとエクイティが統合する
前には想像もできなかったような方法で被告が本案請求を回避できる可能性を示唆してい
るのである。 責任のある大法官 (responsible Chancellor) が今日事件を審理したなら, 以
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前の判例法が支持していなかったとの理由で Alliance への救済を拒絶するとは思えない。
……
本件最高裁は, もし資産を凍結する差止命令を許せば, 債権者は, 債務者が自分の資金
または財貨を容易に移転できると主張すれば, 将来取得し得る判決の担保や遵守に必要だ
と裁判所が認める範囲の, 債務者の多くの資金・財貨を使用不能とする期限の定めのない
差止命令を債務者に課すことができるのではないか, と懸念する。 債権者がこの救済を取
得するためには強力な立証を要求されること, 及び債務者側が主張できる防止策を考慮す
れば, 恐怖のオンパレードは起きないであろうとした第2巡回区の見解に同意する。 ……
さらに, 連邦民事訴訟規則65条 (c) 項は, 差止命令の発令が不当であったと認められ
る当事者が支出した費用の支払いや, 被った損害の賠償のために裁判所が適正と認める額
を担保として提供するよう予備的差止命令の申立人に要求している。 さらに, 予測される
判決の最もありそうな支払額の範囲に差止命令の範囲を一致させることで, 債務者が不要
な困難に苦しまぬようにすることは, 地方裁判所の責務であろう。 ……
そして, 予備的差止命令とサマリ判決の間の期間 (4ヶ月弱) が短かったことは,
GMD による処分の仮の制限が, 多忙ではあるが効率的に運営されている裁判所が公平か
つ終局的な裁判をするのに必要な期間を超えて長引いてはいないことを意味する。」
[5] eBay Inc. v. MercExchange, L. L. C 事件76)
[事実]
本事案は, 特許侵害訴訟における永久的差止命令についての事案である。 通常, 勝訴原
告に永久的差止命令を認めるかどうかを判断する連邦裁判所は, エクイティ裁判所が歴史
的に採用してきた4要件基準を適用するところ, 上訴人らは, 特許紛争においてもこの伝
統的基準が適用されると主張した。 連邦最高裁はこれを認め, 連邦巡回区控訴裁判所の判
決を取り消した。
事実関係は次のとおりである。 上訴人 eBay はオークション形式または固定価格形式に
より商品を販売しようとする者が商品を提示できる, 人気のあるインターネット・ウェブ・
サイトを運営している。 上訴人 Half.com は, 現在 eBay の完全子会社であるが, eBay と
同様のウェブ・サイトを運営している。 被上訴人である MercExchange 社は, 多数の特許
を保有する会社であり, 参加者間の信用を高めるための中央機構を設置して私個人間の商
品売買を支援できるように設計された, 電子市場 (electronic market) に関するビジネス
モデル特許を保有している。 MercExchange は, 他の企業に対して従来してきたように,
当該特許を eBay 社と Half.com にもライセンスしようと試みたが, 当事者間で合意に至ら
なかった。 その後, MercExchange は, eBay と Half.com を被告とする特許権侵害訴訟を
ヴァージニア東部地区連邦地方裁判所に提起した。 陪審はこの特許を有効と認め, eBay
と Half.com の特許侵害を認定し, 損害賠償額についても妥当であるとした。
76) eBay Inc. v. MercExchange, L. L. C. 126 S. Ct. 1837 (2006).
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地方裁判所は, 評決の後, MercExchange の永久的差止命令の申立てを棄却した。 連邦
巡回区控訴裁判所は, 例外的な状況がない限り, 裁判所は特許侵害に対して永久的差止命
令を発するという一般原則を適用して, 地方裁判所の判決を破棄した。 この一般原則の妥
当性を判断するため, 裁量上訴が認められた。
最高裁は, 勝訴原告に永久的差止命令を認めるかどうかの判断にあたり, 4要件基準が
適用されるところ, 特許紛争においても同基準が適用されると判示し, 連邦巡回区控訴裁
判所の判断を取り消した。
[判旨]
Thomas 裁判官の法廷意見はつぎのとおりである。 「確立したエクイティ原理によれば,
永久的差止命令を求める当事者は, 裁判所から救済をうけるために, 4要件基準を充足し
なければならない。 すなわち, 原告は, (1) 回復不能の被害を受けていること, (2) 金銭
賠償のようなコモン・ロー上の救済が当該侵害の補填として不適切であること, (3) 原告・
被告間の不利益を比較衡量した結果, エクイティ上の救済が正当化されること, (4) 永久
的差止命令により公益が害されないこと, を立証しなければならない。
下線筆者
永久
的差止命令の認否の決定は, 地方裁判所のエクイティ上の裁量事項であり, その決定は上
訴審で裁量権の濫用がなかったかどうかの審理に付される。
これらのよく知られた原理は, 特許法の下で生じた紛争に対しても, 同じ効力をもって
適用される。 当裁判所が長年認めてきたように, 長く行われてきたエクイティの慣行から
の重大な逸脱は, 軽々しく提案されるべきではない。 特許法において, 議会がそのような
離脱を意図していたことを示すものは見あたらない。 反対に, 特許法は, エクイティ原理
に従って差止命令を発することができるとされている。 35 U. S. C. §283.
確かに特許法はまた, 特許権につき, その性質上, 個人の財産権であると規定し (第
261条), その法的性質には, 他人による当該発明の実施, 利用, 販売の申込み, 又は販売
行為を排除する権利が含まれる (第154条a項1号)。 控訴裁判所は, この制定法上の排他
権のみを根拠に, 永久的差止命令を支持する一般原則を正当化できるとする。 しかし, あ
る権利を創設することと, その権利の侵害について救済を定めることは, 異なる。 実際に,
特許法自身も, 特許権は本章の規定の下で個人の財産権としての性質を有すると規定する
のであって (合衆国法典35巻261条), その本章の規定には, おそらく, エクイティ原理に
従ってのみ差止命令を発することができる旨の規定も含まれるのである (第283条)。
この解釈論は, 著作権法に基づく差止命令に関する我々の扱いと一致する。 特許権保有
者と同様に, 著作権保有者も他人による財産権行使を排除する権利を有する。 特許法と同
様に, 著作権法も, 裁判所は著作権侵害を禁止又は制限するために合理的と思料される条
件により, 差止命令の救済を認容することができると規定する。 17 U. S. C. §502(a). そ
して当裁判所の今日の判決のように, 当裁判所は, 伝統的なエクイティ上の考慮に代えて
著作権侵害が認定された場合には自動的に差止命令を発するという原則を採用する誘いを
一貫して拒否してきた。
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地方裁判所も控訴裁判所もともに下級審において, 被上訴人による永久的差止命令の申
立てを決定する際に, これらの伝統的なエクイティ原理を正しく適用しなかった。 地方裁
判所は伝統的な4要件基準を引用したのであるが, 275 F. Supp. 2d, at 711, 差止命令によ
る救済が多くの事例で認められなくなりそうな, 一種の拡張的な原理を採用したようにみ
える。 中でも注目すべきは, 地方裁判所が, 原告が意欲的にその特許をライセンスしよう
としたこと, 及び, 原告がその特許を自ら実施する商業活動をしていなかったことの事実
は, 回復不能の被害を立証するのに十分である, と結論づけたことである。 しかし, 伝統
的なエクイティ原理は, そのような大雑把な範疇づけ (broad classifications) を許さない。
例えば, 特許権保有者の中には, 大学研究者や個人発明家のように, 自分自身で作品を市
場に投入する資金を確保する努力をするよりも, その特許をライセンスする方がよいと合
理的に考える者もいるかもしれない。 そのような特許保有者が4要件基準を満たすことが
できた場合に, 差止命令を求める機会を一律に (categorically) 彼らから奪う根拠を我々
は見いだせない。 地方裁判所がその範疇化ルールを採用する限りにおいて, その分析は議
会が採用したエクイティ原理と一致しない。 この範疇化ルールはまた, Continental Paper
Bag Co. v. Eastern Paper Bag Co. 事件の判示にもそぐわない。 同事件において連邦最高裁
は, 特許権保有者が合理的理由なく特許の利用を拒絶した場合には, エクイティ裁判所は
当該特許権保有者に差止命令の救済を認容する裁量権を有しない, という主張を退けた。
控訴裁判所は, 地方裁判所の判決を取り消す際に, 4要件基準の趣旨とは正反対の方向
へと逸脱した。 同裁判所は, 特許権の有効性と侵害の事実さえ裁判で認められれば, 永久
的差止命令は発せられるという, 特許紛争に独特な一般原則を定立した。 同裁判所はさら
に, 差止命令は例外的状況にある通常でないケースおよび公益を守る必要のある……まれ
な事例においてのみ, 否定されるべきであると示唆した。 地方裁判所が範疇化により誤っ
て差止命令の救済を拒否したのとちょうど同じように, 控訴裁判所もまた範疇化により誤っ
て差止命令の救済を認めたのである。
我々は, 両下級審が差止命令の救済の認容を規律する伝統的な4要件基準の枠組みを正
しく適用しなかったと結論づけ, 第1審の地方裁判所が当該枠組みを正しく適用できるよ
うにするため, 控訴裁判所の判決を取り消す。 なお我々は, 事件を差し戻すに際して, 本
件のような個別事案や特許法の下で生ずるその他多数の紛争において永久的差止命令の救
済が発令されるべきかどうかについて, 特定の立場をとるものではない。 我々はただ, 差
止命令の救済を認めるべきか否かの決定は地方裁判所によるエクイティ上の裁量の範囲内
にあって, そのような裁量権は伝統的なエクイティ原理に従って行使されるべきであり,
その点では, 特許紛争もそのような基準に規律されるその他の事件と何等変わりはない,
と考えるだけである。
下線筆者
従って, 我々は, 控訴裁判所の判決を取消し, 本意見
に沿って手続を進めさせるために事件を差し戻す。」 Roberts 裁判官および Kennedy 裁判
官の同意意見がある。
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大阪経大論集
第62巻第5号
評価
最高裁は, [1] ケースにおいて, 予備的差止命令の目的は現状維持 (status quo) であ
る, との判断を示している。 [1] ケースは, 地方裁判所が予備的差止命令を認める際に行
う事実認定と法的結論は, 本案のトライアルを拘束しないとしている。
[2] ケースは, 回復不能の被害から財産権を効果的に保護するために必要不可欠な場
合に限り, 予備的差止命令が発令されるべきであり, その救済の基礎となるのは, 回復不
能の被害とコモン・ロー上の救済の不十分性であるとしている。
[3] ケースは, 要件の推定を認めないことを明らかにしたものである。 理由として,
回復不能の被害が生ずるという要件について推定を認めることは従来のエクイティ原理に
反するものであり, かつ法律上の根拠もないからであるとする。
[5] ケースは永久的差止命令の事例であるが, 差止命令の要件・基準については, 伝
統的な4要件基準が適用されるとした。 もっとも, 同ケースは, 4要件をどのように審査
すべきかについての指針を示していない。 予備的差止命令の審査にあたっては, 判例法は
確立されておらず, 各地の連邦控訴裁判所の間で異なった基準が採用されているところ,
今後, 最高裁が各要件についてどの程度の主張立証を要求するのかということが問題とな
る。 この点につき, [3] ケースや [5] ケースをみる限り, 要件の推定や省略を認めるこ
とはなさそうである。 最高裁は, 本案勝訴の合理的可能性, 回復不能の被害, 比較衡量,
および, 公益 (関連を有する場合) のそれぞれの要件について詳細な主張立証を要求する
ものと思われる。 とくに本案勝訴の合理的可能性および回復不能の被害の主張立証が重視
されることになろう。
[4] ケースは, 連邦裁判所に付与されたエクイティ管轄権について言及したものであ
るが, その管轄権は厳しく制限される旨の判断を示しているように思われる。 同ケースに
おいて, 法廷意見は次の通り述べている。 ①実質的に, 連邦裁判所のエクイティ管轄権と
は, 連邦裁判所に全てのエクイティ訴訟の管轄権を付与した合衆国憲法や1789年裁判所法
の制定当時にイギリスで High Court of Chancery が行使していたエクイティにおけるそれ
である。 ②差止命令の救済の一般的利用可能要件と同様に, エクイティ上の救済を取得す
るための実質的要件は規則65条により改められておらず, エクイティ管轄権に関する伝統
的な原則に基づいている。 ③エクイティ裁判所が債務者の財産権行使に干渉するためには
債務を確認する判決が必要であるとの一般原則は, 連邦規則におけるコモン・ローとエク
イティの統合によって変更されない。 ④大法官裁判所は, 1975年以前に, 判決前に差止命
令による救済をしたことはない。 ⑤裁判所が過去において債務者に与えられていた重要な
保護の除去を命ずることは, エクイティ管轄権に対する伝統的アプローチと異なるもので
あり, かかる保護の除去は議会が行なってこれを解決すべきである。 ⑥予備的差止命令は,
連邦民事訴訟規則64条を実質上無意味にする。 ⑦本件のような事案において予備的差止命
令を認めれば, 債権者が競って裁判所に駆け込む競争を誘発しかねない。
法廷意見につき, アメリカにおけるエクイティの発展を認めないものと解すると, 連邦
におけるエクイティ管轄権は著しく制限されることになる。 [4] ケースの法廷意見に対し
アメリカ会社訴訟における中間的差止命令手続の機能と展開 (2)
59
て, Gingsburg 裁判官による反対意見がある。 反対意見はすでに紹介したように, 商事法
分野においては動的なエクイティ制度が重要であることを強調している。 これに3名の裁
判官が賛成しており, エクイティ管轄権をめぐる議論は今後もなされるように思われる。
反対意見はビジネス社会の現実を念頭に置いて議論を展開させており, 債権者側にたち,
権利の実効という点を重視している。 これに対して, 法廷意見は, エクイティ管轄権を柔
軟に解釈することに慎重であり, 判決前の債務者の財産移転の自由を保護するという伝統
的な立場を堅持している。 会社訴訟の局面で考えれば, 反対意見は現実的な対処方法を論
じているように思われる。
エクイティ管轄権の生成・発展の歴史をふまえると, [1] ケースないし [5] ケースに
おける法廷意見を評価できないわけではない。 しかしながら, 予備的差止命令は, 迅速な
判断により申立人の権利を保護する側面を有しているところ, 最高裁の判断はこの要請に
応えるものとはいえない。 法廷意見のもとでは, 申立人は, 要求する救済がエクイティ上
伝統的に保護されてきたものであり, エクイティ上の救済を受ける資格を有することを立
証しなければならなくなる。
以上, 最高裁はエクイティ管轄権を過度に制限する立場にたち, 予備的差止命令の一般
基準につき, 申立人に高度の説得責任を負わせているということができる。 かかる取扱い
により, 予備的差止命令による救済のハードルを高くしているとみることもできよう。
注目すべき点として, 最高裁はエクイティ管轄権を制限していることの他, 予備的差止
命令の要件の審査基準および審査方法について具体的な判断を示していないことが挙げら
れる。 予備的差止命令の救済に関して, 固定的・安定的な指針がないことは, コモン・ロー
の欠を高度に柔軟かつ順応的な救済法により埋め合わせるためにエクイティが創造され
たこと, および, 連邦民事訴訟規則が発令の要件・基準についての規定を置いていないこ
とに起因するものと思われる。 そこで, 発令の審査基準・方法につき, 下級審裁判所がど
のような取扱いをしているのかをみておく必要がある。
連邦控訴裁判所における予備的差止命令の審査基準
各控訴裁判所が採用する予備的差止命令の基準は統一されていない77)。 この理由として,
第7巡回区控訴裁判所の Posner 判事は, それに関する判例法が各裁判所間において統一
されていないことを挙げている78)。 同判事は 「当裁判所の先例の多くは, 予備的差止命令
を得るために原告は4つの要件をそれぞれ立証しなければならないと述べている。 すなわ
ち, 原告がコモン・ローにおいて適切な救済を受けられないこと若しくは差止命令が否定
されれば回復不能の被害をうけること, その被害が差止命令発令の場合に被告側に生ずる
被害より大きいこと, 原告の本案勝訴の合理的可能性があること, 及び差止命令が公益を
害しないことである」 とし79), 伝統的な4要件基準は, 「コモン・ロー上の適切な救済が
77) Berman, supra note 64, at. 389 ; Muscato, supra note 13, at 664 ; 126 S. Ct. 1837, 1839 (2006).
78) Roland Mach. Co. v. Dresser Indus., Inc., 749 F. 2d 380, 38283 (7th Cir. 1984).
79) Id. at 383.
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大阪経大論集
第62巻第5号
ないことと回復不能の被害の意味が同じでなければ, 実際には5つの要件を含むことにな
るが, 通常のエクイティ上の議論においては, それらは同じ意味ではない。」 との指摘を
した80)。 第7巡回区は, これら5要件を衡量するスライド基準を採用している81)。
各控訴裁判所は, 4要件基準を様々な形態で採用しているが, 第2巡回区と第9巡回区
においては独自のアプローチがみられる。 ここで, 各控訴裁判所において適用される予備
的差止命令の判断基準をみておくことにする82)。
第1巡回区においては, 本案勝訴可能性の要件が重視される83)。 第3巡回区においては,
差止命令を発令するための各要件は平衡を保っている84)。 第4巡回区は, 申立人に各要件
の立証を要求するが, 被害の比較衡量を重視する85)。 裁判所は, 原告が被害のバランスが
原告優位にあることを示すまで本案勝訴可能性の要件を審査しない86)。 比較衡量要件の立
証後に, 原告は勝訴可能性について立証しなければならないが, 要求される勝訴可能性の
大きさは, 原告が被るであろう損害の大きさに応じて高くも低くもなる。 つまり, 回復不
能の被害を強力に主張することにより, 本案勝訴可能性の弱さを補うことができる。
第5巡回区においては, 申立人は各要件について立証をしなければならない87)。 第6巡
回区は, どの要件も決定的なものではないとの理由から, 各要件は互いに調整されるもの
であり, 必須要件はないとみている88)。 第8巡回区においては, 差止命令を発令する際,
4要件を相互調整するが, 本案勝訴可能性がない場合, または回復不能の被害のおそれが
ない場合, 差止命令を発令しない89)。 第10巡回区は, 回復不能の被害を最も重要な要件と
みている90)。 第11巡回区においては, 4要件をそれぞれ立証しなければならない91)。 連邦
巡回区においては, 申立人がまず本案勝訴可能性と回復不能の被害を立証しない限り差止
命令は拒否される, という4要件基準を適用する92)。 コロンビア特別区巡回控訴裁判所は,
80) Id. at 383.
81) 原告は, すべての事件において, コモン・ロー上の救済の不存在及び差止命令の発令によって公益
が害されないことと並んで, 本案勝訴の合理的可能性を立証しなければならず, それがなされた後
ではじめて, 裁判所は被害の比較衡量をする。 Brunawick Corp. v. Jones, 784 F. 2d 271, 273 (7th Cir.
1986).
82) Muscato, supra note 13, at 664
67 ; Berman, supra note 64, at. 38
9.
83) Borinquen Biscuit Corp. v. M. V. Trading Corp., 443 F. 3d 112, 115 (1st Cir. 2006).
84) BP Chems, Ltd. v. Formosa Chem. & Fibre Corp., 229 F. 3d 254, 263 (3d Cir. 2000); Continental Group,
Inc. v. Amoco Chems. Corp., 614 F. 2d 351, 35657 (3d Cir. 1980).
85) In re Microsoft Corp. Antitrust Litig., 333 F. 3d 517, 526 (4th Cir. 2003).
86) Smyth v. Rivero, 282 F. 3d 268 (4th Cir. 2002).
87) Canal Authority of Florida v. Callaway, 489 F. 2d 567 (5th Cir. 1974); Lake Charles Diesel, Inc. v. Gen.
Motors Corp., 328 F. 3d 192, 195
96 (5th Cir. 2003).
88) Six Clinics Holding Corp., II v. Cafcomp Systems Inc., 119 F. 3d 393, 400 (6th Cir. 1997).
89) Mid-America Real Estate Co. v. Iowa Realty Co., Inc., 406 F. 3d 969, 972 (8th Cir. 2006).
90) Wyandotte Nation v. Sebelius, 443 F. 3d 1247, 1254
55 (10th Cir. 2006).
91) Four Seasons Hotels & Resorts, B. V. v. Consorcio Barr, S. A., 320 F. 3d 1205, 1210 (11th Cir. 2003).
92) PHG Techs., LLC v. St. John Cos., 469 F. 3d 1361, 1365 (Fed. Cir. 2006).
アメリカ会社訴訟における中間的差止命令手続の機能と展開 (2)
61
各要件の間に優劣をつけず, もしある要件の主張がとくに強度であれば, 他の要件の主張
が比較的弱いものであっても差止命令を発することができるとして, 4要件を単純に調整
する93)。
これらに対して, 第2巡回区と第9巡回区は独自のアプローチをとる。
第2巡回区は, 改良されたソネスタ基準 (Sonesta test)94) の下で, 差止命令の発令を求
める申立人に対して, 差止命令が発令されなければ生ずる回復不能の被害, 及び (1) 本
案勝訴可能性か, 又は (2) 本案においてトライアルで審理することを正当化する深刻な
問題があり, かつ不利益の比較衡量があきらかに申立人優位であることのどちらかの立証
を要求する95)。 本案勝訴可能性の選択肢をとる場合, 原告は自己の勝訴可能性が50%を超
えていることを証明すれば足りる96)。
第9巡回区は, 4要件基準97), 第2巡回区の基準98), 及び (1) 本案勝訴可能性及び回復
不能の可能性の組合せ, 又は (2) 深刻な問題が提起されたこと及び被害の比較衡量にお
いて優位なことのどちらかの立証を当事者に要求するスライド基準を含めた様々な基準を
用いている99)。 この基準の下では, 本案勝訴の可能性が低ければ, より強度の回復不能の
被害についての立証が求められる。
以上にみた基準は, 正確に検証されたものではないが, 各控訴裁判所の傾向をみる上で
有益であり, 当事者の攻撃防御の指針となる点において, 実務上重要な意味をもつであろ
う。 多くの控訴裁判所が, 本案勝訴可能性および回復不能の被害の立証をより重視してお
り, また, 各要件をどのように審査するかについて裁量権を有している。 裁判所が各要件
のスライドや調整を認める場合, 各要件を個別に立証させる場合よりも, 申立人の立証負
担は軽減されることになる。 事案に応じて要件の調整を図ることもあり得ようが, 会社訴
訟との関係でみれば, 回復不能の被害の比較衡量における申立人の優位性を強く立証する
ことで, 本案訴訟の勝訴可能性の立証の薄弱性を克服させるとの基準を用いることは問題
であろう。 かかる基準によると, トライアルでの勝訴見込みのない当事者に命令を認める
危険が生じることになろう。
予備的差止命令の審理の性質
審理の性質及び特徴
予備的差止命令は, 反対当事者に通知・審尋を通知した上でなければ発令することはで
きない (Fed. R. Civ. P 65 (a))。 これが仮制止命令との違いである (Fed. R. Civ. P 65 (b))。
93) CityFed Fin. Corp. v. Office of Thrift Supervision, 58 F. 3d 738, 747 (D. C. Cir. 1995).
Sonesta Int’l Hotels Corp. v. Wellington Assocs., 483 F. 2d 247, 250 (2d Cir. 1973).
Louis Vuitton Malletier v. Dooney & Bourke, Inc., 544 F. 3d 109, 113
14 (2d Cir. 2006).
SEC v. Unifund SAL, 910 F. 2d 1028, 1039 (2d Cir. 1990).
United States v. Odessa Union Warehouse Co-op, 833 F. 2d 172, 174 (9th Cir. 1987); Johnson v.
94)
95)
96)
97)
California State Bd. of Accountancy, 72 F. 3d 1427, 1430 (9th Cir. 1995).
98) E. & J. Gallo Winery v. Andina Licores S. A., 446 F. 3d 984, 990 (9th Cir. 2006).
99) LGS Architects, Inc. v. Concordia Homes of Nev., 434 F. 3d 1150, 1155 (9th Cir. 2006).
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大阪経大論集
第62巻第5号
予備的差止命令の審理において, 双方に証拠提出の機会が与えられるが, 主として証拠
は宣誓供述書 (affidavit), 真実宣言付訴状 (verified complaint) 等による書面主義が原則
である100)。 これは, 予備的差止命令の審尋における証拠については, その証拠方法及び証
明の程度において本案審理の場合と著しく異なるためである。 予備的差止命令の審尋は永
久的差止命令の場合と異なり, 厳格な証拠法則の適用を受けず, 証拠方法として証人
(witness) も認められるものの, 書証が主であり, 証明の程度も, 十分に裁判官に確信を
もたせるまでに至らなくとも, 申立人に一応有利な証明 (a prima facie showing) であれ
ばよい。
裁判所は, 原則として提出された証拠に基づく事実によってのみ判断を下す101)。 しかし,
当事者間に争いがある場合, 提出された証拠のみによる判断が許されるかという問題が生
じる。 これは, 予備的差止命令における立証基準の緩和をどのように考えるのかという問
題でもある。 予備的差止命令の審理において, 連邦民事訴訟規則65条は書証によらず証言
を聴取することを裁判所に要求しているとみるべきか。 この点につき, 迅速性・確実性・
公平性の観点から, ①事実に争いがない場合, ②事実に重要な争いはないが, 事実から推
測されるものに争いがある場合, ③事実に重要な争いがある場合の3つの局面に分けて考
える必要があろう。 裁判所は, 提出された書証をまず検討する。 ①のように, 申立人の証
拠が申立事実を立証しており, 相手方がこれに反対する証拠を提出しなければ, 予備的差
止命令は認められる。 ②および③のように両当事者の証拠が相反する場合につき, ②につ
いては迅速性の問題はあるが, 可能な限り証拠調べをおこなうべきであろう102)。 ③につい
ては, 書証だけで判断することはできないから, 証人尋問がなされない限り, 申立ては拒
否されることになる103)。 裁判所は書証だけで重要な事実を判断することに消極的である。
このような場合には, 供述者を反対尋問にさらし, その信頼性を検討することになる104)。
当事者の証拠の信用性は, 口頭で証言させることによって評価される105), というのが裁判
所の態度である。 ③の局面において, 事実に争いがあるにもかかわらず書証のみに依拠し
て予備的差止命令を発令することは, 裁量権の濫用となろう。
このようにみると, 被申立人の防御手段として, まず, 申立人が立証していない要件を
100) 石川・前掲注(7)184頁。
101) 柳川①・前掲注(7)94頁。
102) SEC v. Frank, 388 F. 2d 486, 490 (2d Cir. 1968).
103) Id, at 491.
104) 相手方が宣誓したうえで申立人の主張のすべてについて十分かつ具体的に否認した場合, もしくは
重要な事実上の争点が明確に争われている場合は, 事実の争いを解決するために証拠調べが必要と
なる。 Sims v. Greene, 161 F. 2d 87 (3d Cir. 1947).
105) デラウエア州衡平法裁判所は書面による審理を原則としていたが, 近時, 証人による証言を許して
いる。 株主に合併への協力を要求する契約交渉に関与した証人による証言を認めたり (True North
Commons Inc. v. Publicis S. A., 1997 Del. Ch. LEXIS 178.), 取締役および顧問に証言させるための
3日間の証人尋問期日を認める (Hollinger Int’l, Inc. v. Black., 2004 Del. Ch. LEXIS 179.) 判断を示
している。 もっとも, これらのケースの射程につき, 現時点においては明らかでない。
アメリカ会社訴訟における中間的差止命令手続の機能と展開 (2)
63
指摘し, さらに, 差止命令の根拠として主張された重要事実を争うということになろう。
つぎに, 差止命令の認否にあたり証拠調べが必要である旨裁判所に知らせるべきであろう。
逆に, 申立人側は, 各要件について過不足なく必要かつ十分な立証をするべきであろう。
ここで, 予備的差止命令の審理と本案審理との関係について触れておく必要がある。 連
邦民事訴訟規則65条 (a)(2) は, 予備的差止命令の審尋とトライアルを併合することを認
めている。 ただし, 裁判所はそのような命令を発する前に, トライアルと当該申立てを併
合する裁判所の意思を明白かつ明確な通知により, 審理開始前か又は各自の主張を提出す
る十分な機会が当事者に与えられている間に, 当事者に通知しなければならない106)。 迅速
化と費用節約の見地から併合を認めるよう裁判所を説得するべきとの見解もみられる107)
が, 当事者は, 迅速化されたディスカバリーとトライアル後に出される自己に不利益な判
断をおそれ, 申立てをなさないようである。
その理由は, 迅速化申立てはその後の裁判所の評価を予測させる点で非常に重要であ
る108) ところ, 申立人は, 当該事件における裁判所の迅速化の判断をふまえ, 手続を進め
たいと考えるからであろう。
命令取得のメリットとデメリット
予備的差止命令を発令する要件・基準は各裁判所により異なるが, いずれの基準によっ
ても, 申立人は証拠提出及び説得の責任を負わなければならず, その負担は非常に重い。
予備的差止命令は, 最終審理において裁判所が当該紛争につき効果的な判断を可能ならし
めるため, 係争中の実体関係を保全し得るというメリットがある。 しかし, 勝敗がきわど
い事件や, 敗訴の可能性が高い事件における予備的差止命令の申立ては, 相手方に自己の
弱点を知らしめ, 自己のトライアル証拠に対する相手方の攻撃力を強化させてしまうとい
うデメリットもある109)。
予備的差止命令は暫定的救済であるが, それが認容されるか否かにかかわらず, 事件は
トライアルに進まない。 イギリスにおいては, 予備的差止命令事例100件のうち99件はト
ライアルに進まないといわれている110)。 アメリカにおける予備的差止命令に関する統一的
なデーターは見あたらなかったが, デラウエア州衡平法裁判所における予備的差止命令の
実務もイギリスと同じような傾向にあるといえる111)。 トライアルに進むことなく事件が予
備的差止命令の審理において事実上解決されることに対する批判はみあたらない。 その理
106) Pughsley v. 3750 Lake Shore Drive Cooperative Bldg., 463 F. 2d 1055, 1057 (7th Cir. 1972); Nationwide
Amusements, Inc. v. Nattin, 452 F. 2d 651 (4th Cir. 1971).
107) Morton Denlow, The Motion for a Preliminary Injunction : Time for a Uniform Federal Standard, 22 Rev.
Litig. 495, 535
36 (2003).
108) McGeever, supra note 49, V. B.
109) Muscato, supra note 13, at 672.
110) David Bean, Injunctions, 24 (3.01) (8th ed. 2004) (Fellowes & Son v Fisher [1976] Q. B. 122 at 129
G).
111) Palm, supra note 60, at 1357.
64
大阪経大論集
第62巻第5号
由として, プリトライアルでディスカバリーまでカバーしているため, 通常の一般事
例112) と同様との認識がなされていること, 予備的差止命令手続における審理が充実した
ものであるため, そこでなされた判断を覆すために本案に進むことが意味をもたないこと
等があげられるが, 主たる理由は後者であろう。 とくに, 裁判所が本案勝訴の合理的可能
性を認めた場合, 両当事者は, 申立人の地位は強化されたと受け止めるようである。 そう
なると, 申立人は, 勝訴的な和解に持ち込もうとするであろうし, 相手方は, さらなる訴
訟費用の支出や努力を避け, 和解を検討することになる。 予備的差止命令に関する裁判所
の判断は, 訴訟の帰趨を暗示するものといえる。
※本稿は, 全国銀行学術研究振興財団助成金による研究成果の一部である。
112) アメリカの連邦司法制度につき, ほとんどの事件が地方裁判所レヴェルで終結し, そのうち実際に
全面的なトライアルを経たものはわずかであるとの指摘がある。 ハリー・T・エドワーズ 浅香吉
幹 (訳) 「アメリカ連邦裁判所の諸特徴―下級裁判所のシステム―」 アメリカ法 (2002
1) 59, 72頁。
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