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怪物赤頭巾〈前編〉 - タテ書き小説ネット

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怪物赤頭巾〈前編〉 - タテ書き小説ネット
怪物赤頭巾〈前編〉
サンソン 琢磨
タテ書き小説ネット Byヒナプロジェクト
http://pdfnovels.net/
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このPDFファイルは﹁小説家になろう﹂で掲載中の小説を﹁タ
テ書き小説ネット﹂のシステムが自動的にPDF化させたものです。
この小説の著作権は小説の作者にあります。そのため、作者また
は﹁小説家になろう﹂および﹁タテ書き小説ネット﹂を運営するヒ
ナプロジェクトに無断でこのPDFファイル及び小説を、引用の範
囲を超える形で転載、改変、再配布、販売することを一切禁止致し
ます。小説の紹介や個人用途での印刷および保存はご自由にどうぞ。
︻小説タイトル︼
怪物赤頭巾︿前編﹀
︻Nコード︼
N4209BK
︻作者名︼
サンソン 琢磨
︻あらすじ︼
東京都内を中心に起き続けている、暴力団事務所連続襲撃事件。
その容疑者は複数おり、それも頭巾を被っていた。この特徴的な容
姿から、鬼堂刑事を含めた捜査当局メンバーらから﹃赤頭巾﹄と呼
ばれていた。だが、手当たり次第に各組織を潰しているように見せ
かけた計画的な犯行だったのだ。﹃赤頭巾﹄たちの目的とは何か?
︱︱︱やがて、それが判明したときには、警察組織と暴力団組織と
﹃赤頭巾﹄たちとの三つ巴の決戦が待っていた。
1
引用︵前書き︶
この書き物を、怪奇SF映画を始め東映時代劇や東宝怪獣映画を愛
する者たちに捧ぐ。
2
引用
引用
教会は主張していた。悪魔は人と混じり、肉の交わりによって怪
物を作ると。
悪魔は巧妙に、女の体内に人間のものとは異なる精液を入れるこ
とができる。その混合物が悪魔とよく似た奇形を作り出すことがあ
る。
外科医パルファン
原因のわからないものを神や悪魔のせいにするのは愚かなことで
ある。
哲学者ピエトロ・ポンポナッツィ
奇形は、怪異なもの以外には存在しない。にもかかわらず、そこ
には一種の美さえ存在する。異常な部分はきわめて巧妙に作り上げ
られたがゆえに、主たる御業よりもはるかに目立ってしまうことが
ある。
一六四二年出版﹃医師の宗教﹄
かつて自然が多様性のあるものとして観察され、その理由も明ら
かにされてきたからには、偶然によって自然が変えられたように、
3
人為的に自然を導いていくのは容易なことだろう。
フランシス・ベーコン
生命現象は再現できるような性質のものか? 卵子の成長はある
力によるのか、そしてその力はとらえることができるのか? 将来、
その力を作り出し、思い通りに動かすことができるのか?
アンセル教授とエティエンヌ・ウォルフ教授
正常な生物の体の構造が法則に支配されているなら、その法則は
奇形にも適応されるはずである。
エティエンヌ・ジョフロワ・サン=ティレール
奇形とはただ、自然の中で最も一般的に起きることに反している
にすぎない。自然に反して作られているものはひとつもない。
アリストテレス
奇形は偶然の法則によって作り出されたのであり、無神論者によ
ると、その法則こそが宇宙を生み出したとのことである。奇形が生
まれるのを、神がお許しになっているなら、それは怪物が神なしに
創造されたことを我々に思い出させようとしておられるのである。
シャトーブリアン
赤頭巾は猟師といっしょに、切り裂いた狼のお腹の中へと、いろ
んな大きさの石を入れていったあとに縫い付けてしまいました。
﹃赤頭巾﹄
4
5
組曲﹃白い喘ぎ﹄
1
まだら
とある建物の内部にある木製扉の前に、ヌウッと幽鬼のごとく立
つ、赤と茶の斑の頭巾をかぶった長身の女がいた。扉の表札には、
﹃菱翼建築興業﹄と。長身の女の耳に掛けたアルミ鍍金のヘッドホ
ンからは、また別の女と思われる声が話しかけてゆく。
﹃ハク︵白︶、抜かりなくやりなさい﹄
その指示に、ハクと呼ばれた長身の女は頷く。そして、次に与え
た声の女の指示は耳を疑うものだった。
﹃今回は貴女の仕事だから、貴女の曲を使うわよ。︱︱︱じゃ、い
つものようにスイッチを入れて﹄
ハクがベルトに掛けてあるMDプレイヤーの再生ボタンを、人差
し指でONに。すると、ヘッドホンの奥からピアノの静かな旋律が
鳴り響いてきたではないか。静かでいて、その内に秘めたる危険さ
を思わせるこの伴奏は、組曲﹃白い喘ぎ﹄。ハク自身の曲でもあっ
たのだ。そうして、前奏の終わりかけた時に、声の女が最後にこう
告げた。
﹃狩りを始めなさい﹄
このひと言と同時に、ハクは扉から距離をとると、長い脚を突き
出した。
大きな音を立てて、事務所の出入り口が破壊され、書類を整理し
ていた眼鏡の組員にぶち当たって壁へと叩きつけた。声をあげて目
を剥く他の組員たち。
6
﹁な⋮⋮! どこの鉄砲玉だ、てめぇ!!﹂
投げられた質問に、ハクは薔薇色の瞳孔を流して腰に差していた
刀に手を乗せる。そして走り出していき、机の引き出しから武器を
取ろうとしていた丸刈りの組員をめがけて、光りを横に走らせた。
すると、たちまちその男の躰は二つに割けて、床にずり落ちる。肉
の断面から赤い飛沫があがり、ハクの頭巾に噴きかかって、新たな
染みを広げてゆく。女の後ろから斬りかかって来た口髭の組員の長
ドスを、素速く踵を返して防いだ。刃と刃の高い金属音が鳴る。小
手を返して口髭の組員から武器を振り払うと同時に、膝の皿を踵で
叩き壊して、その首をはねた。
この時、ハクは血色の良い魅惑的な唇の端を釣り上げたのだ。
直後、数発の銃声を響かせて、アロハシャツの組員が真正面から
女の躰へと弾丸を浴びせたが、当のハクはその衝撃により少しよろ
けたのみで、堪える素振りすら見せずに男の腹に踵を突き刺した。
次に、尻餅を突いたアロハシャツの組員の両脚を、膝から下を斬り
離したのである。床に落ちていた長ドスを拾い上げるなりに、男の
肩から胸にかけて振り下ろした。
耳へと流れ込んでくる鍵盤を弾くリズムが、激しさを増していっ
た時、ハクの動きも心身の高ぶりと共に勢いを付加していく。己の
手持ちの武器で、斬れる人数は今までの経験によって把握できてい
る。よって、ハクは事務所の組員たちが振りかざしてくる長ドスや
短ドスなどを、弾き飛ばして奪い取ったのちに、我が武器として使
って斬りつけたり、遠方の敵には投げつけて刺したりして使い分け
ていた。ただし、ピストルやハンドガンなどの銃弾は、こちらに幾
らでも喰らわせてやる。それは、前もって、極薄に加工成形された
特殊合金とゴムによって構成された、特注品の防弾チョッキを着用
していたからだ。
組曲も終盤にさしかかった頃には、大半の組員たちを斬り割いて
7
いた。刃にまとわり付いた血糊を、振り払って落としたときのこと、
荒い息遣いを聞いてその方へとハクが首を向けてみると、若い長髪
の組員が机越にハンドガンを構えていたのだ。先ほど見てきたの拳
銃よりも、若干だが口径が大きい。腕を突き出して、照準もハクへ
と問題なく固定しているものの、いかんせん、手元が小刻みに震え
て脂汗を噴き出させている。この青年の様子を見るなりに、ハクは
薔薇色の虹彩を歪ませた。が、しかし、相手側の口径が大きいため
に油断はならず。鍔の無い本身を静かに鞘の中へとしまい込み、身
を屈めてその組員と向き合った。
事務所に訪れた静寂。
長髪の組員が意を決して引き金をひいたと同時に、爆音が響く。
すると、倒れたのはハクではなく青年の組員であった。その成り行
きは、撃ち出された銃弾を反射的に身を退いてかわしたハクが、間
髪入れずに踏み込んだ。それと一緒に鞘から逆手で引き抜いた本身
を、真っ直ぐと投げつけて、青年組員の前頭葉を貫いたのである。
そのあとは更に用心のために、床から長ドスを拾い上げて詰め寄る
と、腕を真横に振り払って青年組員の首をはね飛ばした。そして、
組曲の演奏の終わる頃には、男の頭に刺した己の武器を抜き取って
鞘に収めると、静かに立ち去っていった。
2
事務所から出てきたハクは、建物の死角へと回り込み、前もって
壁に立てかけてあったモンザレッドのファッションカートを開けた。
血に染まった頭巾を脱いで現れたその顔は、色素の抜け落ちた象牙
色のきめ細やかな皮膚と、毛細血管によって薔薇色に輝いている切
れ長な瞳。同じように色素を失った、セミロングの頭髪。紅を引い
8
たかと思えるほどに、血色の露わな唇。それらの特徴は、紛れもな
くアルビノの奇形体であった。だが、それらを構成している顔の造
形や、しなやかな躰つきなどは、驚くほどに均整のとれたもので、
街中を歩いているだけでも誰もが振り向きそうである。
そして、頭巾をバッグにしまい込んで、銃弾で穴だらけになった
上着を脱いだのちに、その中から替えの上着とスカーフを取り出す
なりに、着替えて頭に巻き付けた。あとは、サングラスを顔にかけ
て完了となる。頭巾を脱いだハクの身なりは、白いブラウスにベー
ジュの膝上五センチのスカートといったもの。近く駐車場までファ
ッションカートを引いてゆき、そこに停めていた白い乗用車へと乗
り込んだ。やがてキーを回して、我が家に向けて転がしていった。
9
都内暴力団事務所連続襲撃事件
同日の、昼下がり。
東京都内警察署内部。
視聴覚室には、男二人と女ひとりの刑事たちが、六つのブラウン
管と睨めっこしていた。それは、今朝方とある暴力団事務所で起こ
った、組員全員を殺害したという事件の検証のためである。このよ
うな連続殺害事件は、ここ一年間も続いており、被害の対象は全て
暴力団に傾いていた。これには、都内の住民たちに限らず、ほぼ日
本列島全体にまで、及んでマスコミや新聞などの報道機関をも巻き
みけん
込んでわかせていたのだ。しかし、警察機関から云わせてもらえれ
ば、連続殺人事件には変わりない。
きどうじゅうぞう
鬼堂獣蔵刑事がモニターから顔を離して目を瞑り、一旦
を指でつまんだのちに、ポケットに手を突っ込むなりに切り出し
やっこ
た。
﹁奴さん、よほど顔を見せたがりたいらしいな﹂
みしまさだじろう
﹁隠そうとも思っていないよな﹂
こちらの箕島貞次朗刑事も、こう溜め息混じりに呟きつつ椅子ご
いぬがみな
と身を引いて、指で弾いた煙草を一本くわえる。そして、ジッポー
つえ
で点火。男二人に挟まれながら、中央で画像を操作していた犬神夏
江刑事も、椅子ごと画面から離れるなりに両腕を天井にとどくほど
に伸びをして、灰皿を箕島刑事に﹁はい﹂と渡して口を開く。
﹁全く。この赤頭巾ちゃんたちは、揃いも揃ってやりたい放題やっ
てくれるものね﹂
次に机に頬杖を突いてキーボードを打ちながら、この事件に関す
る映像をブラウン管に並べてゆく。
﹁ここまで堂々とした犯罪も、感心するわね。︱︱︱ねえ、この女
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の子たち三人の何か物証は、ひとつくらい採れないの?﹂
いっ
不満げにギロリと箕島刑事を睨みつけて、尋ねた。これを喰らっ
た男は、思わず顔を真っ赤にして咳き込んだ。
えらいこっちゃ
して喜ぶだろーよ﹂
残さないプロフェッショナルだぜ。なにかひとつでも残って
﹁んな無理なこと訊くなよ、夏江。この赤頭巾たちは物証を
さい
いたら、検死課の神楽さんが
﹁し、署内では、名前で呼ばないでって云ってあるでしょうが。︱
︱︱バカ⋮⋮っ!﹂
﹁お⋮⋮。すまん﹂
なつえ
赤頭巾たちの襲撃
灰皿で吸い殻をこねくり回す箕島刑事へと、そう言葉を投げつけ
三体の
た夏江刑事は、頬を赤くして顔を背けた。
これらモニターに映し出されている
方法から武器の使用に至るまで、見事なまでにバラバラであった。
まず長身の赤頭巾は、画面からでも確認できるほどに露出した肌
の色が異常なくらいに白く、または色素を欠いているものと思われ
る。次に華奢でやや小柄な赤頭巾に移ると、この中で一番か細い印
象のあるにもかかわらず、体格差のある組員をねじ伏せたり蹴飛ば
したり、しまいには地肌で銃弾を跳ね返していた。最後に三体のな
かでも中背で画面上からも解るほどにグラマラスな赤頭巾に至って
は、その犯行方法が不明であった。それは、署内の鬼堂刑事を含め
た捜査員たちからは﹃瘤﹄と呼ばれており、この中背の赤頭巾は暴
力団事務所に入り込んだ途端に四方へと何かを飛ばして各所に設置
されている監視カメラを破壊していたからだ。
以降の現場捜査から、放たれたそれらの武器は、鉈と包丁といっ
たことが判明した。これらの刃物は使い捨てらしく、採取できた指
紋も都内住民ましてやこの日本じゅうの女の物とも一致しなかった。
こういった結果から、三体の赤頭巾は身元不明者と解っただけでな
く、現存する人間とはまた別の異形の者たちであることが浮き彫り
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になったのだ。
それは、陰から姿を現した、常人たちとは全く異なる者たち。表
面上は女の皮をかぶっているが、その実体は何者にも当てはまらな
い﹃怪物﹄であった。
そして最後にもうひとつ。
赤頭巾たちが犯行を終えたあとの現場の壁には。
﹁穢れた狼共を、狩り致して候﹂
というふうに、組員らの血液をもちいて、堂々と血文字が必ず書
かれていたのだ。
12
組曲﹃鱗の艶体﹄
1
同日の夜。
まだら模様になった
頭巾を被っ
雑居ビルの三階にある﹃龍燈会黒島興業所﹄と名札の下げられて
ある扉の前に、赤と茶褐色とが
た、やや小柄で華奢な女がひとり立っていた。名は、リン︵鱗︶。
この女も午前中のハク︵白︶と同じように両耳にヘッドホンをかけ
向こう側
へと話しかけ
ており、ただしこちらはステンレス鍍金製。息を二度三度と整えた
あとに、右側のスイッチを入れて小声で
てゆく。
﹁ハク、ムツ。今から私の仕事を始めるわ﹂
そう云ったのちに、腰元にあるMDのスイッチをONにした途端、
チェロの静かな低い前奏が鳴ってきたのを追いかけるかのように、
えんたい
ヴァイオリンが小刻みに徐々に力強く響かせてきた。
組曲﹃鱗の艶体﹄
リンのために作られた曲である。
そうして伴奏へとさしかかっていくところで、リンは瞼を閉じる
あどけなさ
の残る額から右目と左頬から顎にかけて、細い
なりに静かに仰いでゆく。すると、眉間を寄せたかと思った直後に、
まだ
首筋にへと﹁ウロコ﹂が浮かび上がった。それらは魚とも魚鱗症と
も明らかに違う、爬虫類の﹁それ﹂であった。最後は、大きな瞳を
見開いた時に、黒い瞳孔は縦長と形成していたのだ。
扉から距離をとったリンは、胸元で十字架を切ってゆく。
13
突然と事務所の入口が蹴り破られたのと一緒に、受付にいたシャ
ツの組員は扉から体当たりをされて吹き飛び、それとともに濁った
まだら模様の頭巾姿のやや小柄な女が踏み込んできた。
すかさず奥にいたグラサンの組員は拳銃を構えるなりに、ためら
わず発砲。その弾劾の起動は、無機質なまで標的まで真っ直ぐと飛
んでゆき、女の顔に火花を散らせて弾き返された。しかし、四方八
方から銃弾を浴びせられていくにもかかわらず、リンは平然と床に
根を下ろしている。たとえ、当たったとしてもその衝撃で吹き飛ば
されてゆく筈が、この女に限っては関係のないことのようであった。
ただ、その間に周りに目をやっていき、状況をうかがっていたのだ。
そして銃声の鳴りやんだときに、腰の後ろに手をやりながら口元
を歪ませたリンが、真横に︱︱つまり掛け軸のある机へと︱︱ひと
つの太い鉈を放った。
回転してきた鉈が、黒島光生組長の頭を真正面からかち割った。
たちまち赤い飛沫を噴き上げていきながら、椅子に腰を落として絶
命。それと伴ってヘッドホンから流れてくるのがヴァイオリン主体
の、いっけん抑えているように聞こえるがその実は大変攻撃的であ
る伴奏へと変わっていったとともに、リンの感情も高ぶりを増して
怒りへとなってゆく。瞬間、激しい音を立てて床を蹴った女が、息
絶えている組長をめがけて発砲された弾丸のごとく飛んでいき、机
に片膝を突いた。いっとき組員たちはこの光景に呆気に取られてし
まったものの、すぐさまに奮い起こして各々が銃弾を放ってゆく。
光生組長の頭から鉈を引き抜くなりに、リンはその遺体を盾にし
て銃弾の雨から防いでいきつつ手前の机へと飛び移った。組長の骸
を色黒い組員に投げつけて、その隣りにいたリーゼント頭の拳銃を
手首といっしょに踏み潰した直後に、鉈を延髄に叩きつける。噴き
こめかみ
から斬りつけた。刹那、
上がる血を浴びながら、色黒い組員の顔を蹴飛ばして体勢を崩した
ところで、鉈を横にないで男の
高い金属音を鳴らして、銃弾がリンの頭を揺らした︱︱︱が、しか
14
し、その衝撃に耐えた女は、溜め息混じりに腹立たしさを表したそ
拝借
して引き抜き
の顔を、眼下でハンドガンを構えているグラサンの組員に向けるな
りに、手許にあったリーゼント頭の長ドスを
ざまに脳天から叩き割った。
伴奏も中盤に差しかかったときに、リンは腕で顔を庇いながら目
の前で発砲する組員たちの机に飛び移ると、片手を突いた途端に女
は両脚を振るって男二人を蹴り伏せたのちに、その後ろ頭へと鉈を
叩きつけてゆく。事務所内が片付いたところで机から降りると、返
り血の付いた鱗の顔で周りをうかがっていき、そして出入り口の扉
に目をとめた。
廊下を挟んだところは、控え室。
中の照明は落とされていて、野外の夜と溶け合っていた。だが、
残りがいる。さしずめ、あと二人ばかりか。そう息をひそめながら
様子を見ていくリンの真横から、銀の軌道を描いてくる。斬りつけ
てきた長ドスから腕を立てて防ぎ、土手っ腹めがけて鉈を突き刺し
た。幅広くて重い刃物から背骨ごと貫かれた丸刈りの組員は、長ド
スを構えたまま口元から赤い滝を落としていき、床に倒れ込んだ。
さらに真後ろからきた短ドスを交わして身を捻り、眼鏡の組員の首
を撥ね飛ばした。
2
そうして組曲も終盤を迎えた頃には、リンも雑居ビルの裏口へと
足を運んだいた。扉から静かに身を現して出てきたその場を、複数
のパトカーと多数の警官および刑事たちに囲まれてしまう。これに
は少々驚きを見せたリン。いったい、どうやって私を探れたのだろ
うか。そんな女の湧き上がってきた疑問とタイミングが合うかのよ
うに、鬼堂獣蔵刑事が拡声器で話していく。
15
﹁君たちの行動は、一見手当たり次第に事務所を襲っているように
思わせているが、実はある規則のもとに各自が決めて活動している
にしかすぎない。しかし、その法則も大した理由などなく、ただ単
に広範囲な犯行と見せかけているだけだ。︱︱︱そう俺は推測して、
その法則に従ってここにたどり着いたわけだが﹂
﹁⋮⋮お見事﹂感心と微笑み。
﹁どう致しまして﹂
やり取りののちに、今度はリンの方から言葉を放っていく。
﹁私たちには未だ、やらなければならない事があります。だから、
貴方がたを傷付けたくはない。貴方たちは穢れた狼共じゃないわ﹂
﹁そういう訳にもいかないんだよ、我々は。なにせ、君は現行犯だ﹂
﹁そうですわね﹂
﹁そういう事だ。︱︱︱よって、おとなしく武器を置いて、我々の
もとに来るんだ﹂
この言葉に従うかのように、両手を挙げて見せたリンが、投降す
ると思わせた足を引いて踵を返すなりに裏口の扉を開けた途端に、
待機していた犬神夏江刑事と目があうなり手刀をあげて軽く﹁よぉ﹂
と挨拶をされた。その瞬間、夏江刑事から振り下ろされた合金製の
警戒棒で叩きつけられて、リンは床に昏倒していく。
この間に、女は夏江刑事の放った声をしっかりと聞いていた。
﹁いいえ。私たちも充分に狼よ﹂
16
狼共を狩る
1
あれからリンは身柄を確保されたのちに、頭巾と武器を全て外さ
れた格好で取調室にいた。頭巾姿の中身は、脹ら脛までかかる濃い
色のワンピースの上に、手首までかぶさる長袖の裾の長い白いポロ
おでこ
を完全に出している。
シャツであった。肩よりも上で切り揃えた黒髪を、サイドは両耳に
かけて、前髪を上げて
取調室へと連行されてゆくリンを遠目に見ながら、箕島貞次朗刑
事が彼女の夏江刑事に話しかけていく。
﹁あの子が︵暴力団事務所を︶襲ってまわっていたのかよ。信じら
れんな。︱︱︱まるでアイドル歌手みたいだ﹂
﹁いやねぇ、そんな安いもんじゃないわ。どちらかと云ったら、良
いとこのお嬢様じゃない﹂
と、彼氏の言葉を突き返した。
そして、取り調べが始まっていく。
リンと向かい合って座る鬼堂刑事から切り出した。
﹁一応、君のと他の現場に残されていた凶器から指紋を採取して鑑
定してみたんだ。︱︱︱そしたらな、身元不明ときた。何者なんだ
? 君たちは﹂
﹁まずひとつ、私たち姉妹には戸籍がありません﹂
人差し指を立てて女が答えた。
鬼堂刑事は﹁なるほどね﹂と呟いたのちに、続けてゆく。
﹁で。姉妹のなかで口がきけるのは君だけか﹂
﹁ええ﹂
17
﹁なら、君に全てを答えて貰おう﹂
﹁お断り致しますわ﹂
﹁なんだって﹂眉間に皺。
﹁︵貴方がた︶刑事なんでしょう。御自分らの
って真相を探ったらいかが﹂
足
をお使いにな
こう、わざとらしく語尾を上げて返したリンの脇で、部屋の角に
いた箕島刑事が﹁それもそうだな﹂と納得したところを、隣りの夏
江刑事から静かに強く肘でゴツかれた。鬼堂刑事を一瞬だけ煽った
出来るだけ
お答え致します﹂
すぐに、リンは身を乗り出すような姿勢をとりながら語りを続けて
いく。
﹁ただし。出された質問には
﹁いい度胸だ。暴力団相手に殴り込むだけはある。︱︱︱じゃあ、
質問を変えよう。君たちは襲撃するにあたって、多くの暴力団事務
他とうまく紛れるように
数多くの支部を潰していたん
所を潰してきたんだが、今回、さっき君が襲ったこの﹃龍燈会黒島
組﹄とが
そのように見えたのではなくて?﹂
だ。︱︱︱ひょっとしたら、君たちの目的はこの組織の壊滅と違う
たまたま
のか﹂
﹁
とぼ
﹁いいか。木は森に隠せみたいな犯行は、これまで沢山見てきた。
今回のもこれに当てはまるんだよ。︱︱︱惚けない方が身のためだ﹂
鬼堂刑事の述べたことを黙って受け入れていたのちに、リンは机
で腕を組む姿勢をとりながら切り出していく。
﹁刑事さんの仰る通りだわ﹂
﹁ん?︱︱︱まあ、そうだ﹂
相槌を打った鬼堂刑事は、上着の内ポケットからおもむろにやや
小さめに折り畳まれた紙を取り出して、これをリンの前に広げて見
せた。枚数は二枚ほど。一番上に書かれてある箇条書きに指をさし
なが語ってゆく。
紛れていた
この黒島組というところ
﹁リンと云ったな。まず俺の質問に答える前に、ひとつ聞いてくれ。
︱︱︱君たちが襲った中に
18
くろしまたけお
はな、龍燈会の中でも大きな一派のひとつだ。そしてその黒島組だ
が、実はこの代表者、つまり黒島嶽夫を含めてその血縁者たちは熱
心なクリスチャンということが解った﹂
くろしまみつお
言葉を続けながら、指先は二段目の名前を羅列したところを示し
た。
﹁孫の黒島光生から黒島嶽夫の実弟の嶽丞まで入れて、十五名を殺
害。じつに丁寧かつ満遍なく狙っているじゃないか。そんな彼らは
あるじ
しゅぜんぜんのすけ
長崎市にある来栖島の﹃聖クルス教会﹄に属している。そしてその
︵教会の︶主である、朱禪善之介神父と繋がりがあるんだってな。
︱︱︱さらに、今回の君たちが事務所の壁に書いていた声明文の端
に、十字架もあったんだよ。その上、黒島嶽夫と朱禪神父とはかな
り旧い付き合いがあったことも判明した。︱︱︱すると何か? 宗
教戦争なのか?⋮⋮⋮⋮いいや、違うな﹂
目の前の男の話しを耳に入れながら、リンが胸元に手を添えた。
鬼堂刑事はその仕草に目をやりつつ言葉を続ける。
たんなるイザコザ
では片付けられんわけだ。
﹁君たちとこの黒島組と神父との間には、あまりにも年齢差が開き
すぎている。だから
なにか、もっと違うところで動機が働いているみたいだな。︱︱︱
いったい、君たちは何が目的なんだ。俺は、俺なりの推測、ひとつ
しか思い浮かばなかったよ﹂
次の言葉に迷っている鬼堂刑事へと、リンは優しく促した。
﹁仰ってください。刑事さんの御推測は、間違ってないと思います
わ﹂
﹁︱︱︱︱わかった。︱︱︱復讐だ。そのひとつ以外は思い浮かば
なかった﹂
﹁その通りです﹂
この﹁復讐﹂とはっきり答えた様子に、室内の空気は静かにざわ
めきたつ。それを察したのかどうか、リンが語りを繋げていく。細
い二本指を立てながら。
﹁ふたつ目。それは、私たちのお父様とお母様の御無念を晴らす為
19
です﹂
﹁それが復讐の動機か﹂
﹁ええ﹂
はた
いったいいくつ
なんだ!
と気づいた鬼堂刑事が、押さえ気味に声をあげた。
しばしの沈黙。
﹁ちょっと待った。じゃあ、君たちは
?﹂
﹁女の子に年齢を聞くのは失礼ですわよ﹂
﹁いや、その、なんだ⋮⋮﹂
﹁では、因みにこの私はいくつに見えます?﹂
後ろ頭を掻く鬼堂刑事に質問。
はたち
男は少し考えて、リンを見直した。
﹁二十歳。それか、二十二か二十三くらいか﹂
﹁まあ、うれしい﹂
女が本当に嬉しそうに云うと、顔の前で手のひらをピシャリと合
わせた。このようなリンの如何にも女の子な仕草に、周りは一瞬の
み見とれる。さらにこの連続殺人鬼は、両腕を机に置いて小首を傾
の残る顔立ちは、恐るべきことかな。
げて微笑んできた。成人を迎えていながらも、未だ十代のごとき
あどけなさ
﹁またまた刑事さんの仰る通り、私は二十三に成りますわ﹂
﹁え、ああ、どう致しまして﹂
気を取り直して。
﹁それはそれとしてだな。君たち姉妹の年齢を考えても、その、ご
両親とはあまりにも離れすぎる﹂
﹁いいえ、ちゃんとしたお父様とお母様です。︱︱︱だいいち私た
ちは産まれてきたのではなくて、造られたんですもの﹂
またもや衝撃的な発言に室内は驚きを隠しきれないが、今はこの
女の出生話を聞き出すにあらず。あくまでも、犯行の動機と、その
20
経緯である。しかし、ある程度の供述は得られたので、いったんこ
こは切り上げるなりにリンを牢屋へと収容。
2
翌朝。
鬼堂刑事たちはリンの各種装備品と所持していた凶器とを、鑑識
の部屋にて見ていた。
まずは、頭巾。この事件で捜査本部を立ち上げている刑事たちで、
リンたちを呼ぶ際に使っている﹃赤頭巾﹄の名のごとく、全体的に
まだら模様
となっており、見た目はフード付きの
赤みがかってはいるものの、ところどころで茶褐色や焦げ茶などま
たは赤茶けた
ローブを肘の上あたりで切り詰めた物に、胸元を紐で絞める編み込
みの入った形である。だが、それから放たれているのは、鉄の腐敗
しかめっ面
はないたかひで
になったほどの強さ。
したかのような臭い。それも、鬼堂刑事、箕島刑事、夏江刑事ら揃
って思わず
﹁こりゃあ、血か﹂
﹁はい。多数の、それも全て人のものです﹂
鬼堂刑事の呟きにこう答えたのは、鑑識の花井高秀。リンからの
押収品に目を通した捜査本部のメンバーのなかで、一番に目を輝か
せた男。
あいつ
﹁しかも、付着したのをいっさい洗うなどせずに、そのまま。まる
で、これまでの犯行を記録しているかのようです﹂
﹁なるほどね。あと、これ。これが気になってたんだ。︱︱︱彼奴
ら、MDウォークマンも着けてたのかよ﹂
そう半分呆れ気味に、鬼堂刑事がステンレス鍍金のMDプレイヤ
ーと同ヘッドホンとを手に取りなが突っ込んだ。これに対して、花
井鑑識官は丁寧に返していく。
﹁これ、なかなか上品でお洒落でしょう。私、ひとつ試聴してみた
21
んですよ。そしたら、チェロの出だしからヴァイオリンが重なって
いって、エキサイティングかつ優雅な一曲でしたねー﹂
﹁ちゃっかり聴いてたのか。︱︱︱で、あの子、その事でなんか云
っていたか﹂
﹁ええ、私の尋ねることに実に丁寧に答えてくれまして。このなか
には、あの子たち姉妹の為に音楽を作ってもらったのがそれぞれの
プレイヤーに収録されています。︱︱︱それも本格的に、地元の島
にある教会で、姉妹のお父様の知り合いの演奏家たちがそのために
集まってくれたと云っていました。全部で三曲あります﹂
﹁三曲だって?︱︱︱てことは、三姉妹だったのか﹂
続いては、リンの躰の一部にも等しい鉈。夏江刑事はこれを手に
しながら、まじまじと観察。それとともに、漏れる感嘆と驚愕。
﹁うわ⋮⋮! 重い、デカい、太い。︱︱︱あのお嬢様、こんなの
を片手で振り回していたりしてたのね﹂
﹁腕一本で、ぶん投げてたろ﹂
そう彼女に相槌をうつなりに﹁すげーよ﹂と、溜め息混じりに箕
島刑事が吐いた。これに続いてきた花井鑑識官。
﹁多少、刃こぼれしていますが、ひじょうによく手入れされてます。
ちなみに、あの子たち自ら︵刃を︶研いでいるそうです﹂
先ほどの夏江刑事の云う通り、鉈というには長大で幅広く、なお
かつ厚みと重量のある物であった。そして、これを操る、やや小柄
だと思われていたリンは、意外なほど百六〇に達する身の丈の持ち
主であったことが判明。その他は、鉈を収納と保持するための袋が
付いた革ベルト、極薄に加工された特殊合金製の防弾着であった。
おとな
そうして昼をまわり、リンの取り調べを続行。女はとくに嫌がる
様子など見せることなく、素直に応じている。この異様な
22
しさ
きなり
に、鬼堂刑事たち捜査メンバーは同時に薄気味悪さも覚えて
いた。
鬼堂刑事から切り出す。
うろこ
こぶ
﹁あれから、君たちが三姉妹といったことが判った。我々が﹃生成﹄
﹃鱗﹄﹃瘤﹄と呼んでいるわけだが、この二人について詳しく教え
てもらおう﹂
﹁﹃瘤﹄⋮⋮!? 貴方たち、あの子がそう見えますの﹂
思わず驚き混じりにかつ含み笑いを浮かべたリンが、身を乗り出
した。座り直して言葉を続けていく。
﹁まず、それを背負っていたら、背虫になっている筈ですわ。その
わりに︵背筋が︶伸びていませんこと?﹂
﹁まぁ、そりゃそうだ。︱︱︱その二人は、君の姉か。それとも妹
なのか﹂
﹁私の大切な妹たちです﹂
そう答えた顔は、穏やかだった。
鬼堂刑事の質問は続く。
﹁その大切な妹たちを使って、君は黒島嶽夫へと復讐しているわけ
だな﹂
﹁刑事さん。そのひと言を訂正していただけませんか﹂
たちまち、リンの顔つきが険しさをあらわしてきた。目の前の男
おこな
使っている
のではありません。そして、
は、知らずとしてこの女の触れてはならぬ所に障ってしまったよう
だ。
﹁私は決して妹たちを
あだ
貴方がたから見たらこの行いは復讐かもしれませんが、私ら姉妹は、
お父様とお母様の仇を討っているのです﹂
﹁なるほど。復讐ならぬ仇討ち﹂
かたき
そう呟き少し沈黙したあと、鬼堂刑事は再び口を開く。
﹁﹃江戸の仇を長崎で討つ﹄か﹂
﹁私たちだと﹃長崎の仇を江戸で討つ﹄に、なりますわ﹂
23
﹁そうなるな﹂
﹁ええ﹂微笑みかけた。
﹁と、なると、黒島嶽夫の組の本拠地が長崎の来栖島にあることに
なるな。︱︱︱すると、君たち三姉妹も長崎の出身か﹂
﹁ええ﹂
こののちに、リンは、ゆっくりと三本指を立てた手を顔のところ
まで上げたあとに、穏やかながらも揺るぎない意志を秘めた声で語
ってゆく。
﹁みっつ目。私たちの仇は、もうひとり。︱︱︱朱禪善之介神父で
す﹂
﹁なんだって⋮⋮!?﹂目を剥く。
﹁この神父は、とても哀れで愚かな原理主義者です。己の判断に困
るようなこと、訳の解らぬこと、超常的なことや超自然的なこと、
そして、何よりも彼自身の意に反するようなこと。︱︱︱これらを
全て神か悪魔かで振り分けおよび判断してしまう、それが朱禪神父
です﹂
手を下ろしたのちに、再び語る。
﹁このような男の為に、島の皆は姿を消してゆきました。それも逃
亡などではなく、殺されていったのです。当然、神父の原理主義的
やら
天罰
と称しては、殺害などをしていきました。
な魅力に取り込まれた黒島嶽夫も、彼に協力して反する島民たちに
神の掲示
大変不自然な傷痕
の
︱︱︱気になられたのなら、一度、来栖島へおいでになったらいか
が? ちょっとでも土を掘り起こすだけで
白骨遺体がゴロゴロと出てきましてよ﹂
﹁いや、考えとく﹂
﹁そう。それは残念でなりませんわ﹂
口で云うほどそう残念とも思っていないリンを見るなりに、鬼堂
刑事は質問を続けていく。
﹁その朱禪神父と黒島嶽夫の繋がりは、別件で調査する必要があり
そうだな。︱︱︱だが、今は君たちを逮捕することが優先だ。だか
24
ら確実な君の供述が欲しい。︱︱︱そういう訳で、だ。単刀直入に
聞く。君たち三姉妹の潜伏先を教えてほしい。あと、もし、今回の
犯行で君たちを匿っていたり手を貸していたりしている人物が居た
ら答えてくれないか﹂
突然、リンが肩を小さく震わせた。
﹁うふふふ。そのような事を聞いて何になると。貴方がたの目的は
私たちでしょう?︱︱︱この私が、そんなにペラペラと洗いざらい
喋るとでもお思い?﹂
そして、鬼堂刑事を見つめた。
﹁私たち姉妹を甘く見すぎですわ﹂
これに対し、鬼堂刑事の返しも早かった。
﹁それは解っている。だが、残念ながら君たちはご両親の仇を討て
ずに終わる。︱︱︱黒島嶽夫を含めた残りの身柄は、我々が保護さ
せてもらったからだ﹂
﹁それは御苦労様﹂
リンの穏やかな流し。
そして、一拍置いて切り返してきた。
﹁逆に私たちにとっては好都合だわ。だって、貴方がたがわざわざ
纏めてくれたのですもの﹂
﹁なんだって⋮⋮﹂強張る。
﹁あと、大事なことをひとつ云い忘れていました。︱︱︱黒島組の
殲滅を狙っているのは、私たち姉妹だけだとは限らなくってよ。刑
事さん﹂
頃かしら﹂
しているわけがない
迎えに来る
おとなしく
リンがこれまでにない愛らしい笑みを見せたと思ったら、背もた
れに預けて言葉を繋げていく。
﹁それから⋮⋮。私がこのまま
でしょう?︱︱︱そろそろ、妹が
そう云いながら、女は椅子から腰をゆっくりと上げていった。リ
ンの言葉を受けた鬼堂刑事が跳ねるように立ち上がり、﹁しまった
!﹂と声をあげた。
25
26
姉妹の協力者
同日。
時間は朝を少しまわったところまで遡る。
ワインレッドよりも深い赤色に塗られたフェアレディZ︵ボンネ
ットの長い型︶の中、運転席に上下黒のスーツに赤いネクタイを絞
めた男。後部座席には白いファーで襟から裾までと袖口に縁取りし
た赤い王様コートを両肩に掛けた、胸元を大胆に深くV字に開けた
ブライトレッドのシャツと赤黒いGパンに白のエナメル靴に身を包
あかぎさえ
んだ、艶やかな黒髪セミロングの精悍な女が座っていた。この女は、
赤城冴鋭。龍燈会赤城組の組長。その顔の造形は至って美しく、身
長は百七〇にも達し、道行く誰もが見とれてしまうが、いかんせん、
口元から両耳にかけて大きな疵を持つほかに、左頬を斜め下に走る
のと額から右目を縦に通過する切り傷を刻まれていたために、美し
さより恐ろしさが際立っていた。
このような女組長の隣には、恐れる様子などなく、どちらかとい
まだら模様
に
えば馴れた感じで中肉中背の少女らしき者が腰を下ろしている。足
首までかかる白いワンピースに、赤と茶褐色とが
なった頭巾の付いたマントを纏っていた。口元からでもうかがえほ
どに、その整った顔を隠すかのごとく深く頭巾を被って、虚空の一
点を見つめていたのだ。腰元にはMDプレイヤーと、両耳にアイア
ン鍍金のヘッドホン。そして何よりも、マントを肩のあたりまで盛
り上げている、大きな﹃瘤﹄のような物が目立っていた。だが、し
かし、背筋は曲がっておらず、むしろ上品さの伺えるくらい伸ばし
ていたのである。
後部座席の女と少女との間には、決して険悪な空気など無くて、
親しさが見てとれた。
27
さえ
沈黙していた車内で、冴鋭が話しかけてゆく。隣りの少女を、ま
るで妹か姪っ子と思うかのように。
まだら模様
の赤頭
﹁ムツ︵六︶。あと少しでご両親の無念をはらせるからな﹂
名を呼ばれた少女は、頷く。
幾人もの血を浴びて、滲ませて染み付いた
巾へと手を伸ばして、白く細い指で撫で下ろしていき、幼さの残る
膨らみの頬を伝い顎に添えた。この一連の動作に、ムツは嫌がる素
さえ
振りすら見せず、逆に、瞼を閉じるなりに冴鋭のほうへと頭を傾け
てきた。この少女は、冴鋭と居ると心地良さそうである。
やがて白い手を戻した冴鋭が、ムツに語りかけていく。
﹁なぁ、これが終わったら。お前たち、ウチのもとに来る気はない
か? 決して食うには困らせない﹂
そのひと言に顔を向けて微笑んだのちに、ゆっくりと首を横に振
った。この反応に、冴鋭は物悲しそうな表情を一瞬のみ浮かばせる。
そして、運転席に向き直った。
﹁そうか、そうだよな。︱︱︱解った。その代わりと云っちゃなん
だがな、既に︵お前たち姉妹を︶遠くへ飛ばせる手配はしてある。
⋮⋮どうだ﹂
すると今度は、ムツから冴鋭の優しく手をとるなりに、掌へと指
先で﹁ありがとう﹂となぞった。この答えに、女が疵の走る口の端
を歪めてひと言。
﹁いい子だ﹂
そうして、フェアレディZはとある門の前に停車した。
28
組曲﹃腕絡み﹄
1
さえ
中から出てきた冴鋭は、運転席のガラス窓を軽く叩いて﹁裏口に
行け﹂と合図。そして、ムツを後ろに従えながら番を張っていた黒
あかぎ
島組の組員へと寄っていく。当然のごとく驚く組員。
﹁あ、赤城、さん。お疲れ様です!︱︱︱その後ろの奴は⋮⋮?﹂
﹁よぉ、ご苦労さん﹂
景気良さげに手刀をあげて、同時に踵で組員の腹を貫いた。脇に
立っていた丸刈りの組員は、目を剥いて叫ぶ。
﹁なにをしなさっですか﹂
﹁なにって、そりゃあ君ぃ﹂
さおだけ
受け答えをしつつ王様コートの陰から一メートルあまりもある長
ドスの﹃竿竹﹄を引き抜いて、鞘ごと男の頭を叩きつけた。門番の
二人ともに気絶。
﹁カチコミ︵殴り込み︶に決まっとるやかね﹂
やがて、その隣りに並んだムツを見ながら、冴鋭は言葉をかけて
ゆく。
﹁よし、︵お前の︶仕事ば始むっか。︱︱︱曲を鳴らせ﹂
これに意を決して頷いたのちに、ムツは腰元のMDプレイヤーを
ONにする。ヘッドホンを通って流れてきたのは、ギターによる物
静かな旋律。そこに重なってきたもうひとつのギターで、前奏のみ
でも燃え盛るような闘志がうかがってとれた。このギターで演奏さ
れてゆくのは、ムツの為に作られた曲。
組曲﹃腕絡み﹄という。
そうして門から距離をとったムツは、足を真っ直ぐと突き出した。
29
2
飛んできた門の破片にぶち当たって、組員数名および護衛でつい
ていた警察官が倒れ込んだ。同時に、正門から跳躍してきたムツが
警察官たちを避けて着地すると、背中から引き抜いた鉈で、起き上
がろうかとしていた組員の頭を叩き割った。庭先で拳銃とマシンガ
ンを構えていた五分刈りと眼鏡の組員の胸元めがけて、ムツは鉈を
両手で振り投げていく。縦に回転してきた二つの武器が、撃とうと
していた二人の男の胸に突き刺さり、吹き飛ばして縁側の戸をぶち
破った。二つの鉈を投擲したすぐに、倒れている組員の頭から鉈を
まだら模様
の赤頭巾
引っこ抜いてムツは地を蹴って跳躍をするなりに、五分刈りの組員
を狙ってドロップキック。
縁側から障子を突き破って豪快に現れた
の少女に、黒島組の組員を含め護衛の刑事たちが声をあげた。まさ
かの容疑者の、真正面から突入とは。同じように、黒島嶽夫の息子
の一嶽と、その長男の嶽満も何事かと別室から腰を跳ね上げるなり
に、扉の両脇に立っていた二人の長身の尼僧へと﹁おおお前たち!
さっそく仕事だ、仕事! オイ︵俺︶たちば護れ!﹂と声を投げ
つて
で呼び寄せた﹃護衛人﹄であっ
つけた。一嶽が隠せぬ動揺も露わに指示を飛ばしたこの二人の尼僧
は、朱禪善之介神父からの
た。
あ
四人の護衛人のうち、この二人を一嶽親子につけていた。まずひ
べみかづき
とりは、白磁のような肌に日本人らしかぬブロンドが映える女、阿
あべみつき
部三日月。そしてふたり目、こちらも透き通らんばかりの白肌に腰
まで達する鮮やかな赤い頭髪の女、阿部満月。女たちは姉妹であっ
た。その上、奮い付きたくなるほどの美をそなえていたのだ。しか
も、それは魔女のごとき危険な美しさ。そして阿部姉妹は互いに見
30
合わせたのちに、部屋から出ていく。あとは護衛の刑事たちに任せ
た。
耳に入り込んでくるギターも伴奏を迎えて、猛々しいリズムを刻
んでゆく。五分刈りの遺体を盾にしながら、組員たちの銃弾の雨を
防ぎつつ、またしても真正面から突っ込んでその骸を短髪の組員に
ぶつけたムツが、真横に鉈を振るって鶏頭の組員の首を撥ねた。銃
弾を腹に受けながらも、ムツは五分刈りの胸元から鉈を引き抜いて、
その下敷きになっている短髪の組員へと叩きつけたのちに、床を蹴
って割れ顎の組員にタックルを喰らわせたのだ。
割れ顎を押し倒して馬乗りを勝ち取り、その四角い顔へと情け容
赦なく踵の嵐を浴びせたのちに両腕を広げていきながら、ムツは薄
もう一対の腕
を伸ばして天井高ら
気味悪く微笑んだ。背中に銃弾を喰らいながらゆっくりと立ち上が
っていき、後ろの﹃瘤﹄から
かに構えていった。なんと、四本腕の持ち主。瘤に見えていたのは、
包丁や鉈を収納している箱のほかに、両肩の後ろから生えていた腕
を折り畳んでいたのだ。何はともあれ、己を見下げている少女が異
形な生き物だと知った瞬間、割れ顎の組員のほか、まわりで銃を構
えていた組員たちや刑事たちは、云い表せぬ恐怖によって全身に鳥
肌を立てていく。
﹁な、なんだぁ! ありゃ!?﹂
﹁化けもんじゃ、化けもんじゃ!!﹂
次々と発せられる罵声を耳に、ムツは、なんと得意気に微笑んだ
四つ同時に
振り下ろした。直後、高く噴き上がる赤
ではないか。そうして、割れ顎の組員めがけて二つの鉈と二つの出
刃包丁とを
い液体。
この異形の少女を取り押さえてやらんと踏み出した刑事たちの胸
元を、冴鋭の﹃竿竹﹄がまとめて足止めをして、一斉に顎を叩き上
げた。そして、ゆっくりと振り返ってゆくムツに目を奪われていた
組員二人とも﹁なんで弾ぁ浴びても倒れんの!?﹂﹁くそ! 死ね
31
や化けもん!!﹂声を投げつけた瞬間に、飛んできた鉈で頭をかち
割られてしまう。景気良く血飛沫をあげながら倒れ込んでゆく二人
の男を見ていた冴鋭は、﹁そりゃ、防弾装備しとるに決まっとっけ
ん﹂と突っ込む。
部屋を出ようとした矢先に、ムツは腹を蹴られて海老のように吹
き飛んだ。その扉の陰から現れてきたのは、二人の尼僧。咳き込み
あ
ながら身を起こしてゆく赤頭巾から目を離さずに、ブロンドをアッ
プにした女から名乗っていく。
べみかづき
あべみつき
﹁貴女が噂の﹃赤頭巾﹄ね。︱︱︱私は、浦上天主堂教会所属、阿
部三日月﹂
﹁同じく。阿部満月﹂
この阿部姉妹を見ていた冴鋭が、溜め息混じりに感嘆。
﹁エッラい美人さんがたね﹂
﹁おおきに。そこの貴女も﹃疵﹄が素敵やで﹂
﹁そりゃどうも﹂
阿部三日月の返しに、冴鋭は少しばかり胸を高鳴らせてしまった。
みつき
と
後ろ一対の
愛らしく微笑まれた上に、なんと物腰の柔らかな京都弁か。見たと
ころ、妹の満月も同じであろうと判断した。
前一対の鉈
とを構えていく。この後ろ二つのは、刃渡り三〇センチ
そんな中で、ムツが態勢を整えて
出刃包丁
にも達するほどの鋼で鍛えられた物。硬度、重量とともに尋常では
なかった。
そして曲も終盤に入り込んだときには、阿部姉妹とムツを残して、
冴鋭が部屋を出ようとしていたところであった。疵の女に気づいた
満月が声をかけてゆく。全くもって、姉に似て物腰柔らかな京都弁
である。
﹁おや、貴女どこ行くん﹂
﹁お前さんたちと同じ事しに行くのさ﹂
32
﹁なんや。そんなンことやったら仕方あらへんわ﹂
﹁ほう⋮⋮。止めてくるかと思おたばってんがな﹂
﹁なあに、女の勘いうやつや。あの依頼人が死んで金にならんでも、
その子と闘えば、じゅーぶんにお釣りが来るさかい﹂
﹁なるほどなるほど。︱︱︱じゃあ、ムツ。そういうこった。お前
の取り分残しといてやるけん、心配すんな﹂
冴鋭のこのひと言に、ムツは頷いた。
そして、赤い王様コートの後ろ姿を見送ったのちに、胸元で十字
を切っていく。これに続いて阿部姉妹も十字を切り、スカートを捲
り上げた太ももから二つの短剣とナイフをそれぞれ引き抜いて構え
た。
33
組曲﹃月の姉妹 ト短調﹄
1
各自二本ずつの片腕で
捌いて
息を短く吐いて、阿部姉妹が同時に床を蹴った。左右から降りか
かってくる銀色の輝きを、ムツは
ゆく。赤い飛沫で染められた部屋で、銀の軌道が煌めいてお互いに
打ち合い、甲高い金属音を鳴らして、オレンジ色の火花を散らせて
みかづき
いった。膝を狙ってきた満月のナイフから飛び上がり、宙で身を捻
って着地。すかさず三日月の蹴りが、ムツの頭をめがけてきた。こ
れから身を沈めて床を転がり、片膝を突いた瞬間に、満月からの後
ろ廻し蹴りが迫る。容赦なく顔面ド真ん中へときた踵を腕を上げて
防ぎ、立ち上がるなりに足首を脇に挟んで赤毛の女を振り回してい
った。襖を突き破って、満月が廊下に放り投げられる。その直後に
後方からきた三日月の短剣から潜り抜けて全身を捻ると、ブロンド
女の背中に思いっきり脚を鞭のように叩きつけた。妹と同じように
襖を破って吐き出された女は、受け身をとるも壁に背を強打したた
めに咳き込んだ。
風穴からムツが廊下へと出てきたのを見るなりに、阿部姉妹は起
き上がって再び構えていく。
中央で腰を落としながら四本の両腕を広げてゆく赤頭巾をめがけ
て、阿部姉妹が両側から攻めてきた。年子だが、まるで双子のよう
な息の合いかたで、三日月と満月は短剣とナイフを繰り出してゆく。
同時に上を狙い、次は胸元と腹とに走らせて、ときには互い違いに
振り、切っ先で突いたりなど。三人それぞれの刃が擦れ合い、打ち
合う音を鳴らしていくなかで、遂にムツの両腕を封じた阿部姉妹。
34
鉈と出刃包丁と短剣とナイフとが鎬を削る状態へとなり、つまり、
三日月は相手の右腕二本を押さえて、満月も同じく左腕二本を押さ
え込んでいた。暫くはこの膠着状態へと入ろうかと思われた矢先に、
阿部姉妹は背中合わせにムツの土手っ腹に踵を突き刺して壁に叩き
つけたのだ。
背骨を貫いていく太い稲妻を体感しながら、ムツは軽い呼吸困難
を起こして咳き込んだ。しかし、落ちそうになった膝を立てて四つ
の刃物を構えた。これを見た三日月と満月が目を合わせるなりに、
踏み入れて左右から刃を振るう。数度ほど火花を散らせたところで
満月のナイフから頭を下げて退き下がったときに、ムツはさらに飛
び退けた。それは、三日月が宙から弧を描いて足を突き出してきた
からである。ムツの目の前に片膝を突くなりに、ブロンド女は起き
上がって踵を天井高く突き上げた。一歩引いてそれをかわした直後、
頭上から第二撃が迫る。さらに足を引いて飛び退けたムツを追うか
のごとく三日月がダッシュしてきて、逆手にした短剣を繰り出して
きた。打ち合わせていったすぐに、三日月は身を捻って脚を鞭のよ
うに振り上げる。
爪先から顎を引いて避けたのちに、ムツも軸足を使って独楽のご
とく回転して踵を突き出した。これを三日月は胸元で腕をクロスさ
せて防ぐも、床を滑っていき、なんとか踏ん張る。そんな姉と入れ
替わるかのように、跳躍してきた満月が飛び蹴りを放つ。離脱して
避けたムツを逃さず、赤毛の女は着地もコンマ数秒にして、それは、
バネのごとく跳ねて側転宙返りをして四本腕の赤頭巾に追いつく。
そして、そのまま横から踵を槍のように放った。この蹴りにはさす
がに腕を交差させて防御したあとに、ムツはさらに後退してゆくも、
それを満月が許すことなく踏み込んで脚を振り上げてきた。膝を落
として頭の蹴りをかわしたすぐに、ムツの足下を狙って満月の足が
円弧を描いて迫り来る。
上段から時間差も僅かにして繰り出してきた、満月の水面を滑る
ような蹴りから垂直に跳んで避けたムツは、着地もまもなく鉈の両
35
腕を突き放った。これらを刃先で打ち返して離脱するなりに、満月
はムツの胸元と顔面とをめがけて二連続も踵で蹴りやってゆく。そ
れぞれ前後一対の腕を巧みに使い分けて、赤毛の尼僧の蹴りを防ぎ、
後転宙返りをして間合いを確保。そして再び満月と入れ替わるよう
に宙で身を捻って着地してきた三日月が、ムツのエリア内に入るや
いなや、急所を狙った短剣の切っ先を連打してきた。擦れ打ち合い、
ときには引っ掻く音を響かせていく攻防のなかで、顎に風が当たる
のを感じたムツはとっさに首のあたりで腕を交差。瞬間、三日月が
躰を丸めて蜻蛉返りをした矢先に、クロスさせた交点に打撃と熱と
が天井へと駆け抜けた。しかも、続けざまに二度目の襲撃。なんと、
三日月はムツの目の前で蜻蛉返りと同時に踵で蹴り上げたのだ。そ
れも連続して。
今ので痺れを覚えたのか、たまらずに飛び退けたムツ。これを逃
すかと云わんばかりに、姉を飛び越えてくるかたちで、満月が宙で
躰を旋回させて踏み込んだ。好機を与えてなるものかとムツはさら
に離脱。の、ところが、それをさらに満月が両膝を抱えるかっこう
で側転宙返りをして六本腕の赤頭巾に追いついた。ムツは今まで二
十年近く生きてきたなかで、このように両脚がバネで出来ているん
じゃないかと思った相手は初めてである。しかも、二人ときた。感
心のなかに半ば呆れの入った舌打ち。
そうしている間にも、満月が足を高くあげてムツの顔を狙ってき
た。とっさに腕で防いだそのすぐあとに、胸元を蹴ってくる。これ
にも反射的に防御するも、なんと、次々と機関銃の放つ弾丸のごと
く蹴りを繰り出されてきたではないか。この足技の当の本人である
赤毛の尼僧は、見事なまでに軸足をぶらすことなく蹴りを連射しな
ひっきりな
に来る足の襲撃から、なんとか四本腕を駆使して捌いてゆくム
がら、少しずつムツを追い詰めていった。このように
し
ツのその先で、つまりは満月の後ろから潜り込んできた影を発見し
たその刹那。
下から現れてきた二つの銀色の軌道が、鋭利な切っ先となって、
36
ムツの肋骨へと両側から突き刺したのだ。
廊下いったいに、割れる金属音が響き渡ってゆく。
﹁あかん、しもうた⋮⋮﹂
三日月の呟きとともに、短剣の切っ先が床に落ちた。ムツの装備
している極薄の特殊合金製防弾着により、肋骨を狙ってきた刃から
守っただけでなくその短剣そのものをへし折ったのである。これに、
阿部姉妹の動きが一斉に止まった。瞬間、目の前でバック転宙返り
をしたムツから、二人は仲良く顎と鼻とを蹴り上げられてしまい、
よろけてゆく。鼻孔から垂れてくる赤い筋を手の甲で押さえながら、
三日月は﹁こなくそ﹂と心で叫びをあげて床を強く蹴って、ムツの
間合いに入るやいなや身を捻って踵を振り上げたり、垂直に跳ねる
なりに瞬時に軸足から蹴りへと脚を入れ替えてなどの足技を連続的
に放ち、四本腕の赤頭巾を叩きのめさんと迫る。そして、顔を潰さ
んとばかりの高角度に突き上げた足を流されたそのとき。
腰を落としたムツから踵で軸足の膝の横を砕かれた次は、上げて
いた脚の膝の皿をめがけて肘を落とされて破壊された。三日月は、
突然と力を奪われたようにまるで下から糸で引っ張られる感じでマ
ホガニーのフローリングへとへたり込んで、そのまま横倒れとなっ
た。その直後に駆け上ってくる激痛という名の稲妻に、思わず歯を
食いしばり眉間に力いっぱい皺を寄せて、苦痛の呻きを漏らしてい
く。
﹁姉さん!!﹂
思わず悲鳴混じりに叫んだ満月が、ムツを強く睨みつけるなりに
駆け出した。間合いの数歩手前で跳躍すると、ムツの上体を狙って
二段蹴りを放つ。惜しくも四本腕で防御されようとも、諦めずに踏
み込んで、両腕のナイフの切っ先を機関銃のごとく撃ち出してゆく。
後ろ一対の腕
によって満月の手元から
先の戦闘とは倍以上の刃の光りとオレンジ色の火花とを散らしてい
くなかで、ムツが広げた
37
前
が巻きつけられたその次、突き下ろしてきた踵で膝を
ナイフを弾かれた。呆気にとられていたその刹那に、片腕へと
の一対の腕
破壊されて体勢を崩す。そして、ムツの仕上げはここからであった。
グイと身を捻られて背中合わせにされたと思った矢先に、肩に肘を
叩き落とされた上に潜り込んできたあとは、なんと、一本背負いを
の背中を見ながら、満月は姉に
みつき
されて、床に腹を強打してしまった。このとき、体重を乗せられた
まだら模様
瞬間に、満月の肩を外されてしまったのである。
2
去りゆく赤茶けた
声をかけていく。
﹁︵姉さん︶あの子、エラい優しいな﹂
﹁ほんまにの。こうまで徹底してやられてまうと、気持ちええわ。
⋮⋮ツッ⋮⋮!﹂
わろ
﹁あはは! こら暫く車椅子やな。⋮⋮アタタ⋮⋮ッ﹂
﹁笑うたらあかん。そう云う満月も松葉杖で暮らさなならんで﹂
﹁さ、さいですか﹂
38
組曲﹃組織崩壊 序曲﹄
1
時間を少し戻して。
ムツと阿部姉妹の戦闘が中盤あたりにさしかかっていたときの事、
黒島一嶽は長男の嶽満とともに三名の組員を護衛につかせなが脱出
をはかっていた。そして、裏口の戸を引いて出た途端に、上下が黒
によ
と赤いネクタイ姿の男からハンドガンにて手前の組員二人を射殺さ
異様に長いドス
かずたけ
れたすぐに、後ろから振り下ろされてきた
り残りの組員の頭をかち割られしまい、一嶽ら親子は剥き出しとな
った。これには、いくらアウトローに生きる男にとっても顔を強ば
らせざるえまい。そうして、後ろの暗闇から幽鬼のように姿を見せ
てきた﹃赤い王様コートの、顔に疵を持つ女﹄へ目をやるなりに、
じぶんらの強面など棚に上げて息を呑んだ。
﹁ああ赤城冴鋭か! 貴様、なんでオイたちば裏切ったっや!?﹂
ここでとっさに吐きつけた一嶽は、大した者と云える。しかし、
そのひと言を受けた当の女の表情は、とっくの昔に見切りをつけて
さえ
いたと語っていた。場合によっては直に叩きつけた方が良いから、
一嶽ら親子へと感情のままに投げつけていく冴鋭。
たくさん
やったとさな。
﹁裏切ったもなにも⋮⋮。一嶽さん、いや、黒島組のやってきた尻
拭いをやらされるのはもう、正直云うて
こうなっちまった
んだろうが﹂
︱︱︱今の今まで、じぶんらで撒き散らした糞はテメェらで掃除し
きたね
て、その汚ぇケツ拭かねぇから
剥き出す犬歯と相まって、歪められた口許から耳元まで走る切り
傷が、冴鋭に残忍な笑みを浮かべさせているようであった。
﹁赤城⋮⋮貴様、こがん事してタダで済むと思おとっとか。︱︱︱
だいいち、オイたちば潰してしもうたらお前ら含めた龍燈会は身が
39
持たんぞ﹂
﹁んふふふ、龍燈会じたい持ちつ持たれつが出来なくなるってか⋮
⋮?︱︱︱なぁに、心配する事なか。組織のことは、ウチら︵赤城
組︶が支えられるように根回しと準備はしとったけん、アンタら一
族が消えても支障は無かぞ﹂
﹁こん糞餓鬼ゃあ!!﹂ 一嶽の怒号とともに、銃声が鳴り響いた。
しかし、冴鋭を狙って撃ったはずの銃弾は天井へと逸れてめり込ん
だ。と同時に、一嶽が躰を大きく仰け反らせて、顔から赤い飛沫を
高らかと噴き上げながら倒れ込んだのである。何事かと嶽満はその
先へと目を向けたところには、四本腕を誇らしげに広げたムツの姿
が。こみ上げてきた震えを体感しながらも、やられてたまるかと上
着の影からハンドガンを引き抜こうとした嶽満の手を、飛んできた
出刃包丁により胸板に縫い付けられてしまった。ついでに、その切
っ先が心臓を貫いたらしく、男はたちまち青ざめて、顔じゅうに小
粒の汗を噴き出していき、吐く息も小刻みに切れ切れとなってゆく。
そして、ついには膝を床に落としたそのとき。
床に頭突きをした
あげく、ムツと思しき裸
嶽満の霞む視界で、横一線に走る煌めきを見た刹那、景色はまた
たくまに反転をして
たけみつ
足の指先が逆さまに映ったその後、意識が完全に途絶えてしまった。
撥ねられた頭を床へと落とした嶽満の躰は、肉の断面から豪快に血
の噴火をおこしていきつつ、うつ伏せに倒れ込んだ。
2
それから、移動中の車内。
冴鋭は労いもほどほどに、隣りで頭巾を脱いでいた少女へと話し
かけていく。
﹁よくやったぞ、ムツ。次はお前の姉さん達と合流して、このまま
一気に︵黒島組東京都支部︶本拠地になだれ込むが、次までやれる
40
か?﹂ リン姉さんたちに会える。これを聞いた途端に、ムツはた
ちまちそのつり上がった瞳を見開いて、輝きを出していった。当然
の反応だったと云えよう。なにせ昨晩のムツは、リンが警察に捕ま
って尋問を受けているとの知らせが届いたときに、ハク以上にソワ
ソワハラハラと落ち着きがなかったのだ。そして、口元にはわずか
ながらの笑みを浮かべた。
このような愛らしさに溢れた表情を見せられた冴鋭は、思わず抱
きしめてやりたくなった衝動を抑え込んだのちに、かわりにそのザ
ンバラのショート頭を撫でていく。
﹁ああ、そうだ。︵ムツの︶大好きなリン姉さんと会えるんだぞ﹂
41
警察署襲撃
1
同日。
ムツが、黒島一嶽とその長男とのところへと乗り込みはじめてい
た時間帯まで遡る。
都内警察署取調室にて、ゆっくりと腰を上げていったリンに対し
て、鬼堂刑事が椅子から跳ね上がったところだった。そうして、室
内に訪れた沈黙。窓ガラスの割れた音に、刑事たちは我に返ってゆ
く。
﹁な、なんだ﹂
箕島刑事が思わず漏らしたひと言の直後、廊下の方からほかの刑
事たちの発する呻きや悲鳴などが聞こえてきた次は、打撃音やら発
砲するのまて響いてきた。ここは飛び出して対処するのが最善であ
るが、いかんせん、取調室内には最重要容疑者であるリンを囲って
いたのだ。なんというジレンマか。
﹁私が吹っ切れさせてあげましょうか﹂
﹁な、なにを云って︱︱︱︱﹂
こう云いかけた鬼堂刑事の胸倉を掴んだリンが、引き寄せるなり
に突き放した。狭い取調室といえど、壁へと投げつけられた鬼堂刑
事は軽い脳震盪をおこしてゆく。この次の瞬間に、夏江刑事が躊躇
うことなく懐から拳銃を引き抜くなり発砲。乾いた爆音とともに、
リンの肩をかすめて壁に穴をあける。
舌打ちする夏江刑事。
﹁やだ外した、カッコ悪⋮⋮﹂
﹁全く、貴女ってひとは﹂
呆れたなかに笑みを浮かべたリンは床を蹴って、あっという間に
42
夏江刑事と箕島刑事との間合いに入り込んで、それぞれ肘と膝とを
思いっきり刺したのちに、部屋の扉をめがけて踵を突き出した。
2
向かいのビルから警察署の窓から飛び込んだハクは、警戒棒や警
戒杖などを振りかざして向かってきた刑事や警察官たちに蹴りを喰
らわせたり、長ドスで突いたり叩いたり、または投げ飛ばしたりな
ど、決して斬りつけることはせずに体術を駆使して退けていった。
このままでは話しにならないと悟ったのか、皆は懐と腰の後ろとか
ら拳銃を抜いて発砲していく。だが、しかし、周囲からの集中砲火
を躰に受けているのにもかかわらず、当のハクは床に根を張って抜
刀の構えに取りかかっていたのだ。
くそ、なんて厄介な防弾着なんだ!
と、そのような感情を刑事たちが湧かせてきた刹那。上体をかな
り低く沈めて構えていたハクが、床から、まるで放たれた銃弾のご
とく飛び出して、腰元から銀色の閃光を走らせたかと思ったときに、
刑事の手元から拳銃を弾いていた。指先から伝わってきた電撃に、
その刑事はたまらずに苦痛を漏らしていく。
呻く刑事を蹴りやったのちに、抜刀では反射的に彼等を斬りつけ
峰
みね
のがわを向けた。そして、
かねないと判断したハクが、柄を両手で握り締めて顔の位置まであ
げてゆくと、カチャリと鳴らして
薔薇色の瞳で見据えていく。
本当は、この人たちを斬りつけたい。
だって、姉さんを捕まえた。
許せるものか。
悔しい。
狼ならば、躊躇い無く斬るのに。
このように放たれていくハクの気迫により、周りの刑事や警察官
43
たちはたちまち膠着状態に陥っていった。が、その空気を破壊する
かのように、突然と取調室の扉が爆発したみたいに吹き飛んで壁ぶ
つかり、豪快なまでに変形した。なにが起こったのかと、あまりの
まだら模様
の赤頭巾
唐突さに周囲は唖然。そんな反応などほっといて、取調室の陰から
姿を現してきた者が、峰打ちを構えている
の女を確認した途端に、眩いばかりの笑顔を見せた。
﹁ハク、来てくれたのね﹂
そんな姉の無事な姿を振り返って見るなりに、ハクは薔薇色の瞳
をみるみる輝かせていく。嬉しさを露わにしている妹を見つめて、
リンが決意した表情に変わり、頷いた。私たち姉妹は、いよいよ最
終段階を迎える。
だが、その前に。
﹁その前に私、ちょっと鑑識の花井さんに用事があるから。大丈夫、
すぐ戻って来るわ。︱︱︱だからそれまで気張っていて﹂
この姉のひと言に頷いたハクは、今度は本格的に峰を構えていく。
直後、妹の後ろで三角跳びをしたリンが、天井付近の排気口へと飛
び込んだ。
﹁おいおい。姉ちゃんお前を見捨てて逃げ出したぞ!!﹂
ある刑事の突っ込みなど気にせずにハクは思いっきり、目の前に
いた刑事めがけて刀身を袈裟へと叩きつけた。これぞ、先制攻撃。
いくら﹁峰打ちだ。安心せい﹂と云えど、鋼を鍛えた代物であるが
ゆえに、その攻撃を受けた箇所は完全なまでに破壊されていく。当
然、その刑事は鎖骨を叩き割られた。そして、これが火蓋を切った
のか、周りの刑事や警察官たちが各々の銃または警戒棒などを構え
て飛びかかっていく。
四方または八方から迫り来る攻撃をかわしたり流したり、弾いた
り捌いたりしながら、足元を払い倒したあとに、横からきた警戒棒
を避けて、短髪の刑事の肋骨へと峰を打ち込んだ。次は、銃弾から
身を下げて転がり、片膝を突くと同時に眼鏡の刑事の脹ら脛へ刀身
を叩きつけた。
44
足元を払って倒したのちに、片膝を突いて
溜め
をつくり様子
をうかがってゆくハク。それから、ゆるりと立ち上がっていくと、
横に伸ばしていた腕を回していき高らかと切っ先を突いて、両手で
柄を握りながら胸元まで下げて構えた。横がわから警棒を振り上げ
てきた眼鏡の女刑事をかわして流したあと、両腕に振り下ろした刹
那に踏み出して腹に叩き込んだ。倒れ込んでゆく眼鏡の女刑事を後
目に、ハクは刀身を横に構えたまま摺り足で間合いを確保してゆく。
発砲されたとともにハクが身を仰け反り弾丸の軌道を避けて、大股
で踏み込んだ。撃ったワイシャツの刑事の手元から拳銃を弾き飛ば
したすぐに、袈裟へと峰を叩きつける。そして、足を閉じていきつ
つ刀身を振り払って、再び胸元へと構えていく。
このようなハクの一連の動作を見ていた刑事たち及び警察官たち
は、それぞれ拳銃やら警棒に警戒杖などを持っていながらにして、
かかってゆく事に戸惑いを覚えてきた。こちらから攻撃を仕掛けた
ら、確実に斬り伏せられてしまう。峰打ちだが、安心できない。あ
た
の赤頭巾の女は二十歳を過ぎたばかりではあるが、その躰に叩き込
て
まれた武術は半端ではなさそうだ。時代劇のテレビ番組や映画の殺
陣を観ていて、中村吉右衛門すげー、松平健すげー、などなど思っ
ていたが、事実こうして目の前で肉眼で拝めるとは。
再びまたこうして膠着状態へと陥ってきた周囲の空気を押しのけ
てゆくかのように、取調室から雑談混じりに三つの影を生み出して
きた。
鬼堂獣蔵刑事。
箕島貞次朗刑事。
犬神夏江刑事。
延髄に手をやりながら首を捻って文句を垂らしていく鬼堂刑事。
﹁あー、ちくしょー。あのお嬢様には困ったもんだ。︱︱︱おや?﹂
﹁イテテテ⋮⋮。鬼堂君、素直に云いなさいな。可愛さに油断しま
した⋮⋮って。︱︱︱あらら?﹂
﹁おいおい。騒ぎの原因って、あの子じゃないのか﹂
45
箕島刑事の指差したその先には、刀を胸元で構えているハクの姿
があった。新たに出てきた三人に気づいたのか、アルビノの赤頭巾
は手元を下げて振り返っていく。
3
﹁び、美人ね﹂
﹁なに対抗意識だしてんだ。確かに、半端ない美形だなぁ﹂
彼氏に指摘されたように、夏江刑事はハクの顔立ちを間近に見る
なり意識してしまった。膠着状態に陥ったままの皆を見渡した鬼堂
刑事が、懐に手を入れながら口を開いていく。
﹁ここから先は、自分が代わります﹂
とは違っていてな、
そして、上着の影から黒く鈍い光を放つ物を取り出して構えた。
おもちゃ
玩具
次に、足を踏ん張って腰を落としていく。
﹁おい、赤頭巾。これはさっきまでの
ちょっと普通より痛いんだ﹂
﹁まぁ⋮⋮!︱︱︱鬼堂君、それ、どうしたの。ステキ﹂
思わず夏江刑事が瞳を輝かせた鬼堂刑事の銃とは、まず口径が太
いこと、次に四角い銃身が長く伸びて、グリップと交差していた。
その極力曲線を省いた直線と直面で構成されたハンドガンであり、
よくもまあこれほどまでにデカいのが収まっていたものだ、といっ
た明らかに規則違反なカートリッジ式の銃だったのだ。
﹁どうしたのって、そりゃあ私物さ﹂
あっさりと告白した鬼堂刑事。
次の瞬間。
鬼堂刑事が引き金を引いたと同時に、署内に爆音を響き渡らせた
と思ったら、なんと、ハクを吹き飛ばしたのである。蝦のごとく躰
ひ
を折って飛ばされた女は、スチール製の机の並びを越えて目隠しを
破壊して壁へと叩きつけられた。一方の鬼堂刑事の足元は床に
46
び
を走らせてめり込ませて、太い銃口からは硝煙を立ち上らせて
いた。その両脇では、両耳を塞いでいた箕島刑事と夏江刑事の姿が。
﹁うひーっ、なんてぇ銃だよ﹂
﹁なにそれ。大砲!?﹂
こんな中で、鬼堂刑事の照準から見える景色には、起き上がって
ゆくハクの姿を確認。それは、白いブラウスに大きな風穴を空けて
はいるものの、なにやら艶消しの黒い物が顔を見せていた。しかも、
見覚えがあるもので。これは先日リンを逮捕した際に押収した装備
品のなかの特殊合金製で作られた、極薄の防弾着であった。しかし
まさか、これほどまでの丈夫さを誇る物だったとは。破損の痕が見
当たらない。
﹁マジかよ、そりゃねえぜ﹂
溜め息混じりに吐き出す鬼堂刑事。
そうこうしている内に、ハクが机の群れを飛び越えてきた。
床に降り立って刀身を構えていくハクと向き合うように、鬼堂刑
事も腰を落としていきながら自前のハンドガンを突き出してゆく。
一歩踏み出して床を蹴り、壁伝いに三角跳びをしていくハクを逃し
てたまるかと鬼堂刑事はトリガーを引いて、銃弾を二連続発射。砲
撃音を立ててアルビノの赤頭巾を狙うも、その標的がひと足早かっ
たせいか虚しくも衣服を掠めたのみで、壁に穴を空けただけだった。
そして、鬼堂刑事のエリア内に飛び込んできたときに、ハクが袈裟
をめがけて振り下ろした。空を打つ音を鳴らして顔をその先へと向
けたところに、相手は尻餅を突くかっこうで倒れていたのだ。上か
床を背にして
ハ
らきた刀身から間一髪で足を引いて身を反らせてかわした鬼堂刑事
は、滑らせてしまうもとっさに受け身をとって
を伝って落ちていく。
ンドガンを突き出したその瞬間、さらに踏み込んできたハクから切
こめかみ
っ先を鼻柱の手前まで突きつけられた。
噴き出してきた汗が、男の
﹁大したお嬢様だ。しかし、この至近距離からは、お前さんの心臓
47
もさすがに無事では済まねえだろう﹂
このひと言は、決して負け惜しみなどではない。鬼堂刑事の構え
た照準と銃口は、ハクの胸元を確実に定めていたからだ。二人の放
っていく緊張感が、たちまち箕島刑事と夏江刑事とを含めた皆へと
広がっていく。
その僅か直後。
訪れた緊張感もほどほどに、排気口からもうひとりの赤頭巾が飛
うろこ
び出してきて、廊下のほぼド真ん中に降り立った。それは、全身を
鱗で覆った、完全装備姿のリン。艶めかしさを覚えるくらいにテラ
テラと程良い虹色の光沢に包まれており、黒みを帯びた黄緑色の鱗
をよりいっそう怪しくさせていた。腰の後ろに手をやって、己の躰
の一部にも等しい鉈を取り出して構えていく。
﹁待たせたわね、ハク。︱︱︱物も取り返したし、ちゃっちゃと引
き払いましょ﹂
姉のそのひと言に、ハクは嬉しそうに頷いて鬼堂刑事から切っ先
と身を引いていき、窓ガラスを背にしていく。﹁そいつらを捕まえ
ろ﹂とあがった叫び声で、残りの刑事たちが二手に別れて突っかか
っていった。迫り来る群れの頭上を、リンは飛び越して鬼堂刑事の
斬り伏せられてゆ
刑事たち。照準を合わせて銃口を突きつけている鬼堂刑事を前
前に着地。その後ろで次々とハクの峰打ちから
く
に、リンが鉈を景気よく手首で回していき、口元を隠すかのような
かたちで刃を横にして柄を握ると、次は目許を歪ませた。
まと
﹁今回の件、貴方がた警察組織に感謝いたしますわ。黒島組をひと
つに纏めていただいたこと﹂
﹁復讐しても何も変わらんぞ。あとは、その連鎖だけだ﹂
この言葉を聞いたリンは、小さく笑ったのちに床を蹴って、鬼堂
刑事を脇からすり抜けて妹の隣りへと並んだ。そして刀身を鞘に収
めたハクが腰の後ろに手をやって取り出した物とは、折り畳み式の
48
ライフル。次にそれを手際よく伸ばしたのちに、銃身で窓ガラスを
叩き割ってトリガーを引いた。だが、発射されたそれは銃弾ではな
く、先にフックの付いた硬質ワイヤーであった。向かい側の建物の
窓枠へと鈎爪を引っかけて、張り具合を確かめたのちに、お先にと
ばかりにハクから身を乗り出していく。そして、それに続けとばか
りにリンが割れたガラスの窓枠に飛び乗った。
となると、﹃成し遂げ
の連鎖は﹃止めなけれ
鉈を後ろにしまい込んだのちに、追いついた鬼堂刑事たちへと振
り向いて語りかけてゆく。
復讐
仇討ち
﹁刑事さん。確かに貴男の仰る通り
ば﹄ならないわ。︱︱︱ただし。
なければ﹄ならないのよ﹂
﹁君は、それが通じるとでも思っているのか﹂
鬼堂刑事の問いかけに、リンは口を強く結んだ数秒後、再び言葉
を続けていく。
﹁当然、通じるとは思っていません。いませんが⋮⋮。私たち姉妹
を他において、いったい誰がお父様とお母様の御無念を晴らすと云
うのでしょう。︱︱︱来栖島の皆さんを集めても、黒島一族には太
刀打ち出来ないのは目に見えています。だから、この為に造られた
私たち姉妹が、成し遂げなければならないのです﹂
夏江刑事の名札を見て微笑んだ。
﹁犬神夏江さんと仰るのね。貴女から受けた借りは、必ずお返し致
しますわ。︱︱︱では、ごきげんよう﹂
4
夏江刑事は、向かい側の建物へと去りゆくリンの背中を見ながら、
中央で私物のハンドガンを下ろしていく鬼堂刑事に話していく。
﹁えぇー? やめちゃうの?﹂
﹁この状況じゃ、いろいろと安定しないんだよ﹂
49
この答えに﹁ふーん﹂と納得したようなしていないような返事を
したあとに、再び、窓枠を跨いで内部へと入っていくリンの姿を眺
めながら、夏江刑事が呟いた。
﹁あーあ。アタシもあんな女の子、娘に欲しいなぁー﹂
﹁は? それ云うなら妹に、だろう。てか、お前いったい幾つなん
だよ﹂
﹁女の子に年齢を聞くのは失礼ですわよ﹂
彼氏こと箕島刑事の突っ込みに、女は先日のリンの口調と台詞と
を真似して返した。そんな夏江刑事は、今年の夏で二七を迎える。
そして、この事件の捜査本部は鬼堂刑事たち三人を含めて、残り
の動ける者を総動員して赤頭巾たちの後を追う準備に取りかかった
ゆく。
50
組曲﹃組織崩壊 中盤曲﹄
1
同日のほぼ同時刻。
龍燈会黒島組の東京都本拠地こと黒島邸には、邸宅内部はもちろ
んの事、外壁の各所をはじめ、町内の要所要所などに護衛の刑事た
ちと組員たちとを配置して、襲撃してくるであろう﹃赤頭巾三姉妹﹄
くろしまたけお
に備えていた。と、ここまで厳重に護りを固めているのにもかかわ
かずたけ
たけみつ
らず、当の黒島組組長こと黒島嶽夫は、自室の八畳間にて隠しきれ
ない不安を見せている。それは、先ほど息子の一嶽とその孫の嶽満
しゅぜん
とが﹃赤頭巾三姉妹﹄の内ひとりに殺害されたとの連絡を受けたか
らであった。オマケに、つけていた朱禪神父から御用達の護衛人が
たけお
二人とも倒されたことも拍車をかけていたのだ。
嶽夫は、前髪をあげた額からひと粒の雫を垂らしていき、口元に
たくわえた髭を僅かばかり震わせていた。
まさか、これ程に成ろうとは。
あの生物学者が怪物を生み出した。
否。怪物がまだ生易しい。
あれはそうだ。
湧き上がってきた確信的な物を男が形にして吐き出そうかとした
そのときに、障子が静かに引かれて、ひとりの老人を招き入れた。
その者の相貌は細面の中に、まるで猛々しい野心を露わにした猛禽
類のごとく尖った造形で、それが顕著な鷲鼻を持ち、剥き出した眼、
しゅぜんぜんのすけ
顔をはじめに深く刻み込まれた皺、そして斑尾の白髪頭。
そう、この猛禽類の男こそ、朱禪善之介神父であった。神父は口
の端を釣り上げると、嗄れ声で嶽夫に話していく。
51
﹁あれはまさに、悪魔の子らだ﹂
そして次は、への字に結んだ。
﹁おのれ明将⋮⋮。怨念は消えていなかったのか﹂
しゅ
なんだか実に無念そうに呟いたのちに、善之介神父はさらに言葉
を繋げていく。
み
﹁嶽夫よ。不覚にも、主と共に我々が奴らに下した裁きが不足して
いたのかもしれん﹂
﹁そんな筈はない。俺たちとお前があの島を出る晩に、主の御言葉
に従い、明将と奴の女に徹底して神罰を与えたあとのその翌週くら
よそ
いに、奴の女は死に、奴は姿を眩ませたと聞いたが。⋮⋮まさか、
まさか六十年も悪魔の所業を続けていたとは﹂
は混沌しか招かぬ﹂
﹁所詮、悪魔の所業は悪魔しか生まぬのだよ。そして、所詮
者
胸元の十字架をそっと掴んで、指の腹で撫でていく善之介神父。
﹁万物には、我々の父である全能の神がその偉大なる意志の下に全
てを善か悪か判断されるのだ。︱︱︱だから今回のも、一連の知ら
せを受けた私は主へと尋ねてその御言葉をいただいた﹂
﹁どのように?﹂
﹁あの穢れた娘たちの躰と魂とを、清めてあげよ。と﹂
2
同じ黒島邸にある浴室。
稲穂色のウェーブのかかった長い髪の女が、一糸纏わぬ白い躰を
シャワーの湯に当てていた。細く長い首筋から二手に別れた数々の
滴は、それぞれ胸元と背中とを通過して、引き締まった腰で交差し
てから太腿に移り、あとはその長い脚の緩やかな曲線をなぞるよう
にタイルを流れて排水口へと落ちてゆく。躰じゅうの石鹸の泡を綺
麗に洗い流して、シャワーを止めて浴室から出てきたそのとき。脱
52
衣場で、全自動洗濯機の乾燥ドラムから洗濯物を取り出していた黒
島厳子と目が合った。
すると、手を止めて何やら恥ずかしそうに俯くと、稲穂色の髪の
女に向けて声をかけていく。
﹁こがねさん、その、困ります⋮⋮﹂
﹁あらあら。赤くしちゃって可愛い∼﹂
よしこ
こがねさん、と呼ばれた女が歯を見せて楽しそうに返した。そし
て、白い躰をバスタオルで拭きながら厳子へと話してゆく。
﹁ねえ、厳子ちゃん﹂
﹁はい﹂
﹁貴女、本当に此処を出なくても良かったの﹂
﹁はい。︱︱︱私は、これは私の勘にすぎませんが。この黒島とい
う家系の最期を見届けた方が良いと思えましたから﹂
この厳子のひと言に、稲荷こがねが稲穂色の髪にまとわり付いた
水滴を拭いながらも、根底にある意志の強さを感じた。ある程度バ
スタオルで拭き終わったそのときに、こがねは台所から物音と女の
悲鳴とを聞きつけたので、僧衣を纏うのも後回しにして、立てかけ
さく
ていた自前の日本刀を掴むなりに浴室から飛び出していく。厳子も
作業の手を止めて、あとを追った。
少し前後して。
らづき
あいくち
稲荷こがねがシャワーを浴び終わった頃と重なる。台所にて、桜
月あづさは、流し台を借りて自前の砥石で匕首を研ぎ終えて鞘へと
しまい込んだところを、いきなり背後から腕を巻かれたうえに小振
りな胸を乱暴に掴まれた。そして、上体を机に叩きつけられて片腕
を後ろにまわされた更には、僧衣のスカートを捲りあげられてゆく。
湧き上がってきた恐怖に、あづさは躰の硬直と同時に震えを生み出
してきた。しかし、目の前にあった匕首にへと手を伸ばそうかとし
たときに、頭の横に銃身で押さえつけられてしまう。このようなど
うしようもない恐怖のなかで、この強姦魔を退けるかを考えていく。
53
無論、心中する気などは全くない。
﹁おっと、シスターさん。どう考えても俺が引き金ひくのが早いぜ。
このまま台所で脳味噌ぶちまけられたくなかったら、おとなしくし
てくれよ﹂
耳元で囁かれてゆく脅しに、あづさが下唇を噛みしめていく。悔
しい、私の油断が招いた事態だ。のしかかっているこの男の云う通
りに、匕首を引き抜くよりもトリガーを引かれるのが早いのは明ら
かであろう。次にこの男は、あづさの顔に短髪を立てた浅黒い顔を
近づけてきたではないか。そして、赤々と充血した両眼で女を凝視
していく。なんだか、吐く息も荒々しい。
﹁全く、尼さんにはもったいない上玉だな。今までその天使みてえ
な顔で、いったい何人のクリスチャンを誘惑してきたんだ?﹂
じぶんのズボンを早々と下ろしたあとに、あづさのインナーに手
をかけて下げはじめてきた次の瞬間。すでに興奮しきっていた男の
モノに、冷たい物が当てられので横に顔を向けてみたら、そこには
刀身を抜いた稲荷こがねがバスタオル姿で立っていた。歯を見せて、
そ
その男に言葉を投げつけてゆく。
を引いてとっととここから出て行けよ﹂
﹁坊や。その粗チンを袋ごと斬り飛ばされたくなかったら、手元の
おもちゃ
よしたけ
その坊やとは、黒島厳嶽。
厳子の兄である。
美しい狐顔から睨まれた厳嶽は、そのひと言と気迫とが本気だと
察した途端に渋々となおかつ不満だらけな表情を浮かべながら、あ
づさから銃と躰を離していき、こがねと厳子へとチラッと目を向け
てから台所から出てゆく。このとき、兄の背中を見ながら、厳子は
新たな決意を確固たるものとしていった。それは、この少女の端麗
な容姿からは想像が出来ないくらいの、とてつもなく残虐性を秘め
た光りを放っていた。
それから、こがねと厳子は気遣いながら女の身を起こして立たせ
てあげたときに、あづさがみるみると顔を蒼白にさせていき肩を震
54
わせていく。両肩を抱きしめて、冷たい息を小刻みに吐き出してき
た。しかし、何故か涙は流れない。だが、云い知れぬ深い恐怖と、
シャワーを
熔岩が噴き出さんばかりの怒りを沸騰させて、その細い躰じゅうに
感じていた。
﹁あづさ。ここは私たちに任せて、もう一度浴びてきなさい﹂
こがねから、そう優しく告げられて頷いたのちに、浴室へと足を
よしこ
進めていく。
よしたけ
厳嶽と厳子は、嶽満の異母兄妹になる。二十歳の厳嶽は、黒島組
そっくり
で、通わせている長
組長こと曾祖父である黒島嶽夫の若い頃に容姿も行動も呆れるくら
いに、まるで複製したかのごとく
崎大学でも問題を起こしていた。それは、中学生の時期から目立つ
ようになり、高校に入ってからは悪化の一途を辿るといった事態へ
と陥ってしまう。成人を迎えて、どこぞから手に入れてきた銃を持
ちはじめてからは、最悪に達したのだ。先ほど護衛人として雇って
いる桜月あづさを襲ったように、狙った女たちにへと一方的な欲求
を実行に移していた。
そして最近は、未遂に終わったものの、母違いの妹である厳子を
襲ったこと。この時、畳の上で服を剥かれていた少女を助けたのは、
挨拶に訪れていた赤城冴鋭が厳嶽を蹴飛ばして救出した。
対して、異母妹の厳子は、いったい誰に似たのかと解らなくなる
ほどに、大変に勤勉で人当たりも良く、そのうえ道行く人々が思わ
しなやか
な細身。
ず目をやってしまうくらいの美しさを備えていた。身長も百六五と
あり、決して痩身ではない薔薇の茎のごとく
これ程の整った容姿に恵まれながらも、少女は将来は理工学の研究
に捧げたいと一族の皆に告げていたのだ。そんな厳子は、東京都の
国立高校に通う今年で十七歳を迎える。
各々の武器を片手に、僧衣をまとった稲荷こがねと桜月あづさは
55
八畳間へと向かうその間に、組員たちの目線を浴びてきた。事実、
阿部三日月と妹の満月を入れた四人の女は、浦上天主堂に籍をおく
尼僧である。
稲穂色の頭髪が特徴的な稲荷こがねは、百七〇に達する身の丈に
スレンダーな体格をして、その名前の通りに狐顔をしていた。あと
は、色香を秘めた美貌が印象的か。
桜月あづさとなると、シャープなこがねとは対照的に、くりくり
とした大きな瞳ながらも意志の強さを感じとれ、顔は整った卵の輪
郭を持ち、肩にかかる茶色の髪の毛を耳にかけていた。見るものに
よっては天使のような印象がある。身長は、厳子と並ぶくらい。
そして二人は八畳間で主に祈りを捧げたのちに、迫り来る﹃赤頭
巾﹄という名の怪物たちを迎え撃つために備えていく。
3
ところ変わって。
あかぎさえ
こちらも同日のほぼ同じ時間帯。
赤城冴鋭が借りているマンションの駐車場にて、赤頭巾三姉妹は
一日ぶりの再会。組員の運転する黒い普通乗用車から出てきたリン
とハクとを目にした途端に、ムツは瞳を潤ませ輝かせてゆき、たま
らず駆け出してウロコ姿の姉の方へと飛びつくように抱きついた。
その四本の腕で、姉の背中にしっかりとしがみついていく。リンは
さえ
末妹の頭と腰を抱きしめながら、髪を撫でた。この光景へと目配せ
していた冴鋭が、口を開く。
﹁よし、躰を清めたら、あとは最後の仕上げにとりかかるぞ﹂
﹁ありがとうございます、冴鋭さん﹂
リンは力強く頷いて、疵の女組長へと礼を述べた。
56
そうして昼も過ぎた頃。
再び黒島邸に戻る。
門の前に、黒い乗用車が列を成して次々と停車していくではない
か。何事かと驚いた組員の二人が尋ねようとして近づいたその次の
瞬間、空気を撃ち出した音を鳴らして助手席側のガラス窓に二つの
小さな穴を空けたと思ったら、番を張っていた組員二人は額を撃ち
抜かれて倒れ込んでいた。ただ事ではないと気づいた刑事たちが懐
から引き抜こうかとしたときに、それぞれ肩を撃たれて仰け反る。
門番をあらかた片付けたのちに、ドアを開けて赤い王様コートを肩
にかけた冴鋭が現れてきて声を放った。
﹁良かぞ﹂
車内から出てきた赤頭巾三姉妹が前に立ち並び、そして足をいっ
せいに突き出した。
破壊された門が、庭の組員たちにぶつかったり突き刺さったり、
またはその破片などが衝突したりしていく。そして中へと飛び込ん
できた赤い三つの影が転がって片膝を突いたのちに、ゆっくりと膝
じゅうもんじあきまさ
さとこ
を伸ばして、それぞれの武器を引き抜いた。
﹁十文字明将とその妻の里子の長女リンと、次女ハク、そして末娘
のムツ。お父様とお母様の仇を討ちにただ今参上仕った﹂
ムツが四本同時に投げた刃物によって組員たちに血飛沫をあげさ
せていったのを合図に、リンとハクとが斬り込み隊長となって一気
に邸宅内部へと飛び込んでいく。末妹の武器を姉二人は組員の頭か
らそれぞれ引き抜いて、縁側のガラス戸を蹴破って、鉈と包丁とで
内部を守っていた組員数名を斬りつけていった。噴水のごとく噴き
出してきた赤い物が障子や襖などに、まるで、大きな筆に染み込ま
せた墨汁を振り払ったときに出来る染みのように大胆に色付けてゆ
く。それはときに、切り裂かれたり撥ね飛ばされたりした瞬間にも、
その赤黒い肉の断面から勢いよく赤褐色の体液を跳ね上げて、豪快
なる筆使いをもって木目の浮いた天井や畳にも惨状の痕を描いてい
57
った。
襖ごと倒れ込んだ組員の頭から鉈を引き抜いて、ムツは四本の腕
を構えてゆく。そして、次々とかかってくる長ドスや短ドスにアサ
ルトマシンガンなどを己の武器で退けて、男たちの腹へと鉈を叩き
込んだり、脳天をかち割ったり、ときには振り払われてゆく刀身や
撃ち交う銃弾の群れから身を沈めて畳を転がっていき、連中の膝や
腿などを切り離して、白っぽい部屋を赤黒く染めていった。
縁側の部屋から乗り込んで廊下をまたいでリビングにきたリンは、
ここまでにも組員たちの放つ銃弾の雨をそのウロコで弾き返してい
きながら、鉈を叩き込んでいき、割れたガラステーブルの破片を丸
くろしまたけさだ
刈りの組員をめがけて投げつけて、その喉を切り裂き倒したときに、
黒島嶽偵と向かい合った。嶽夫の末弟であるこの男は、怯えを通り
越して鶏冠に血を昇らせてしまい、鼻息荒く白眼を赤く変えてショ
ットガン片手にリンを睨みつけていたのだ。
﹁やはり、主の御言葉通りだ。神に反する行いは悪魔以外なにもの
でもなかったんだ。所詮、穢れた女からは穢れた娘しか生まれん﹂
たけさだ
﹁呆れた⋮⋮﹂
嶽偵の言葉に、リンがただそのひと言を返しただけ。直後、火花
をあげたと思ったら、女を躰ごと吹き飛ばした。壁に当たって跳ね
返り、ソファーへと転がり落ちる。銃口から立ち上がっていく硝煙
と部屋に漂っていく火薬の臭いのなかで、嶽偵は、ショットガンの
照準こしに起き上がってくるリンを見ていく。そうして、頭を狙っ
て撃った次の瞬間に、身を仰け反らせてかわしたリンの放った鉈に
より、嶽偵は顔から血を噴き上げながら仰向けに倒れ込んだ。
58
組曲﹃桜色の閃光 ホ長調﹄
赤い飛沫で模様をつけて組員たちと嶽偵との斬殺体の転がるリビ
ングから廊下にへと出てきたリンの前に、ひとりの尼僧が立ちふさ
がった。それは、大きな瞳を持ちながらも意志の強さを秘めて、肩
にかかる髪の毛を耳にかけている女。リンから目を離すことなく、
口を開いていく。
﹁私は、浦上天主堂教会所属、桜月あづさ。この度、黒島組率いる
黒島嶽夫の護衛人として勤めさせていただいています﹂
﹁なるほど、用心棒ね。︱︱︱私は、十文字リン﹂
﹁貴女がた姉妹の噂は、事件当初から聞いていました。︱︱︱そし
いどころ
が悪くってね﹂
て先刻、満月と三日月さんが倒されたとの報告を受けたわ。だから
そんなわけで、私ちょっと虫の
﹁これはまた、どのように﹂
返り血を顎から頬にかけて浴びていたリンのウロコの顔から目線
を外すことなく、あづさは寧ろ、己の深い中で灯った熱いものが広
がってゆくのを解りながらも、あえて其れを抑えずに放出していく。
下げた両拳は、より強く握りしめられていった。そして、僧衣の後
ろのスカートを捲りあげて匕首を取り出していく。それは、鞘から
らでん
柄にかけて濡れたような光沢の黒漆で塗られたうえに、桜の花とそ
の花びらが風に乗って散ってゆく様をあらわした螺鈿の入った物。
赤毛の女をフラッシュバックさせていきつつ、胸元で横に構えたか
っこうで鞘から刀身を引き抜いてゆく。
﹁どのように、ですって?︱︱︱決まっているじゃない。私の大切
な満月が倒されたからよ﹂
そして、あづさは鞘を後ろへとしまったのちに、膝を落とした中
腰ながらも左手を前に、右手は引いてはいるが切っ先を相手に向け
59
味付け
をしているわ﹂
ているといった構えをとった。これにはリンも、物珍しかったらし
い。
ぶすじま
﹁それ、どこの流派かしら﹂
まきがみ
﹁眞輝神家格闘術に毒島家実戦格闘術の
﹁それはちょっと厄介ね﹂
こう云いながら、リンは柄を指で回していったあとに順手に掴む
と、腰を落としたやや前傾姿勢をとり鉈の刃先を天井に向けて構え
た。これはこれで珍しい。
そして、女二人が同時に床を蹴って間合いを詰めていく。
鉈が振り下ろされて、匕首の切っ先が突き出されたとき、黄橙色
の火花を散らして赤と黒の影が交差した。あづさは踏み込んだ勢い
そのままに床に手をついて転がり、片膝を突く。リンも同じように
そのまま前に出てきたときに、さらに踏み出した片足でブレーキを
あづさ
も躰を回して、刃先を
かけて素早く身を捻った。遠心力を利用して、鉈を横に振るったそ
の瞬間。匕首を逆手に持ちかえた
添えた肘打ちを繰り出してきたときに、激しい金属音を打ち鳴らし
た。お互いに押し合いへし合いを続けたのちに、離脱して、銀色の
閃光をいくつも走らせてゆく。
おみまい
して、あづさを放り投げた。受
そうして刃を交えていくうちに、リンは、突き刺してきた匕首を
流すと同時に膝を腹に
け身を取り損なって床にダイブするも、身を翻して立ち上がりなが
ら匕首の切っ先を向けていく。次に、様子見ていどに二人は刃物を
三度四度と打ち合わせたのちに、リンが左手を伸ばしてきたのだ。
胸倉を捕まれようとした手を払いのけて、あづさも踏み込んでいく。
それから、二人のエリア内で銀色の攻防が繰り広げられてゆくなか
あづさ
が、グイと引き寄せるの
で、素手も混ざっていき、それは襟の掴み合いへと変わってきた。
やがてリンの後ろ頭を捕った
と一緒に、逆手に持ったその切っ先を、ウロコの覆う白く細い喉へ
と突き立てたその時。上げてきた腕によって防がれてしまうも、諦
60
めずに今度はその黒い瞳へと狙いを変えていく。そして次の刹那、
リンの瞳孔を白銀の線が横切ったと思われたときに、女は間一髪で
瞼を閉じたおかげでこれを掠るていどにとどめて、この後にはなん
と、あづさの持つ匕首の刀身に刃を立てて噛みついたのだ。同時に、
あづさの動きを封印。これに目を剥いて驚き示す尼僧を後目に、リ
ンは構うことなく頭突きを一発。
強烈なのを喰らって、途端に視界で弾け飛んでいくプラズマに目
をしばたかせてゆく。この隙を逃してなるものかと踏み切ったリン
が、匕首を口にしたまま、あづさの額にへと更に頭突きをしたのち
に手首を軽く捻って膝を抜けさせると、お次は廊下の壁に背中を叩
きつけていく。このときに後頭部も打ちつけたせいか、あづさの頭
蓋骨内部では脳味噌がのた打って、頸椎も軋んでいった。
そして、リンによる怒涛の、膝を腹に肘を顎にへと連続打撃をし
たのちに、床から垂直に跳ね上がって身を捻ると踵で突き上げた。
をしたままうなだれた尼僧を
顎から脳天にかけて貫いてゆく稲妻に、あづさは己の視界がたちま
お膝
ち真っ白に染まっていくのを体感。
壁に背を預けてずり落ちて
数秒間ほど見下ろしたあとに、胸元で十字を切ったリンは妹たちを
加勢する為に走り出した。
61
組曲﹃黄金色の狐 無短調﹄
1
ふすま
同じ頃。
襖ごと倒れ込んだ組員を跨いで、ハクが隣りの八畳間へと流れ込
んだ。他の組員たちも、ライフルや拳銃にショットガンまたは長ド
スや短ドスなど各々が武器を構えて、この色素欠乏した赤頭巾を取
り囲んでいく。緊張の息遣いや食いしばった歯の隙間から漏れてい
く音などを耳に入れていきながら、ハクはゆっくりと腰を落として、
柄に手をかけていった。そして、数発の銃声が一斉に鳴ったととも
に、ハクが畳に身を預けて転がるなりに力強く踏み込んで、抜刀。
天井をめざして走った銀色の線。それに反応するかのように、組員
のサングラスは左右に割けていき、次は躰の正中線を赤いものが引
かれていったときはその裂け目から飛沫をあげて倒れていった。
天井に切っ先を掲げたまま静かに片膝を伸ばしていき、胸元へと
ばらいろ
持ってきて両手で握りしめて構えたハクは、摺り足で下がりながら、
薔薇色の瞳を周りに向けていく。後ろから刺してきたリーゼント頭
の組員から身をかわすと同時に、横に踏み出して、そこにいた五分
刈りの組員の腹をかっ捌いた。お次は斜め後ろで構えていた眼鏡の
組員を蹴り飛ばしたのちに、身を捻るなりにその隣りでライフルを
撃たんとしていた眉無しの組員の腕を斬り落として、土手っ腹めが
けて刀身を突き立てる。切っ先を引き抜きざまに起き上がってきた
リーゼント頭の顎を蹴り上げて、そのまま横へと流れると、拳銃を
構えていた組員の脇腹から袈裟にかけて刀身を走らせたすぐに、さ
らに踏み込んで今度は脳天から股間へと垂直に斬り伏せた。
踵を返すと、禿頭の組員の手元からショットガンを蹴り飛ばして、
62
その首を撥ね飛ばし。刃先を下に向けて峰に手を添えると、リーゼ
ント頭の組員の背中を狙ってその心臓を貫いた。
リーゼント頭の組員から切っ先を引き抜きざまに、ハクは身を回
して、今まさに逃げんとしていく眼鏡の組員を狙って一歩大きく踏
み出して、その背中を袈裟から斬りつけた。呻きながら襖に飛び込
むかのように、眼鏡の組員が前のめりに倒れたその先には、八畳間
の中央にて正座をしていた稲穂色に輝く頭髪を持った尼僧が。ハク
の見つめてゆくその薔薇色の瞳の先で、この尼僧は脇に置いていた
黒漆の刀を手にとりながら、静かに膝を伸ばしていったのだ。特徴
的な尚かつ美しい狐顔を崩すことなく、武器を腰の革ベルトへと差
し込んだこのとき、初めて口を開いていく。
﹁貴女が例の﹃抜刀する赤頭巾﹄か。︱︱︱なるほどね。お若い身
で賢い﹂
そう、リップの薄く引かれた唇を歪めて切れ長な眼でハクを見据
えつつ、両手は脱力していた。どうやらこの狐顔の尼僧は、無闇に
や
踏み込んでこないハクを褒めているようだ。そして、言葉を続けて
ゆく。
﹁ただ、狼以外を斬らないってのが、甘ちゃんかしらね﹂
優しい微笑みを向けながら、柄に手をかけていった。
の用心棒を務めているわ。よろしく、赤頭巾さん﹂
﹁私は浦上天主堂教会所属、稲荷こがね。今回は﹃例外的﹄に
くざ者
名乗りを終えて、鞘から刀身を引き抜いて正面で構えたのちに、
今度は悪戯っぽく小さく笑いかけた。これに対して、ハクは鞘へと
収めていく。
そして、訪れる沈黙。
摺り足で互いに少しずつ詰めてゆく。
二人の空間が濃く重なり。
熱を帯びて歪みを持ち出したとき。
三度、弾けるように甲高く金属音が打ち鳴った。
63
2
その間に、なにが起こったのかというと。先手を打って逆手で抜
刀したハクが、一刀目は袈裟へとあげて、二刀目に首を狙って横に
流し、三刀目で右の袈裟から斜めに斬り落とした。ようするに、こ
がねの躰を逆三角形に切り刻んだのである。の、筈だったが、それ
ら一連の流れが全て弾かれたのだ。この稲荷こがねという女は今ま
で斬ってきた連中とは異質だと直感したハクが、両手で柄を握りし
めたのちに、腰を深く落としていきながら右肩に峰を当てて、刀を
担いだような構えをとった。
﹁なるほど。不知火一派か﹂
これを見てそう判断した狐顔の尼僧は、同じように腰を深く落と
かち合う
なんて。
していくも、こちらは切っ先を相手に向けている構えを見せた。
﹁まさか、こんな所で私たち稲荷一門の派生と
︱︱︱燃えるじゃないの﹂
嬉しくてたまらないようだ。
こがね自身も云い表せぬ興奮は、当然だったといえよう。四国か
ら日本全国へと名を馳せる幾つかの強大な剣術の家系のうちひとつ
である、稲荷一門から更にたくさん派生しては消えていった中で、
それっきり
で、こうしてあいまみえる
唯一残ったのが不知火一派。しかし、風の便り程度に﹁残った﹂と
は聞いたものの、実際は
までは近況さえも届いていなかった。だから余計に、こがねには、
初対面も同然の相手。今まで鍛錬してきた腕を試すには、充分すぎ
る対象だった。そしてそれは、このハクとて同じこと。
数秒ほど睨み合っていたのちに、女二人は構えたまま横歩きで廊
下へと出て、こがねは後ろへと下がってゆき、ハクが詰めてくると
いった、間合いを保ちながら斬撃の好機をうかがっていく。角を曲
がって、開いたガラス戸と障子との並ぶ通路にきたとき、二人の背
後を狙って、それぞれ黒島組組員と赤城組組員とが長ドスを振り上
64
げて現れてきた。ハクが弾いた刀身で黒島組組員を斬り上げて、こ
がねも同様に刃で弾いて赤城組組員を斬り落とした、その次の瞬間。
ほぼ同時に向き合ったときに、僅かに先手を踏んでハクは勢いを利
用して振り下ろすも、こがねが横から薙いできたために、打ち止め
された。
そして、双方の刀身を噛み合わせたまま接近して、鍔迫り合いし
ながら顔の位置まで回していく。それからハクは詰め寄り、こがね
は下がってゆくといった、間合いを保ちつつ廊下を進んだところで
立ち止まった瞬間に、弾けあうように二人は離脱。そして、顔の前
で腕を立てて峰で対角線という直角三角形を成した構えから、尼僧
を標的に定めたハク。に、対して、左肩で刀身を担ぐみたいな姿勢
で腰を落としていき、半身に構えてゆく稲荷こがね。数秒の睨み合
いを終えて、先手を切ったのはハクだった。銀色の軌道が逆三角形
こ
から、白銀の鋭角を引かれたときに、二度火花を散らして再
を描き、さらに真横を走った、その刹那。軽やかに飛び退けた
がね
び間合いを確保した。
すると、針の先端で突っつかれたと思われた苦痛に、片方の頬を
あげて歪めたハクが薔薇色の眼を下にやってみたら、その白い膝よ
じんわり
と湧き出してくるなりに、端から垂れてきた。
り上に赤い線を引かれているのを発見。次に、そこから鉄の臭いを
持つ物が
これを見た瞬間に、ハクは驚愕を覚えてゆく。私を初めて斬りつけ
た相手。だが、仇の対象ではない。しかも、このまま斬り合うには
大変勿体無い存在ときた。強い、美しくて強い。
そして再び、ハクは刀身を右肩に担ぎ、こがねは切っ先を向ける、
といった各々の構えをとりながら斬り込む機会をうかがっていく。
睨み合ったまま、開いた障子から六畳間へと入り、破壊されて風通
しのよくなっていた襖を突き抜けて八畳間へと跨いだ。水墨画によ
る十字架に張り付けられたイエス・キリスト像の掛け軸を挟むよう
に、女二人は互いに刃を向けていた。六畳間から八畳間にかけて、
数体の黒島組組員の斬殺遺体が転がり、壁や天井または破れた障子
65
に襖にまで血飛沫で荒々しく画かれた部屋の中で、凍結せんとばか
りの緊張感が張り詰めていく。やがてそれは、こがねの踏み込みに
よって打ち砕いた。
相手の事情など知らぬかと云うがごとく、冷徹に輝く切っ先で雷
撃のように突いてくる。瞬時に身を引いて、畳を蹴るやいなや、こ
がねの袈裟をめがけて振り下ろした時に打ち合いざまに、狐顔の尼
こがね
から、大
僧は一歩退いてすぐさま、真横斜め下と鋭角に斬りつけた。これを
弾いて退けたハクを追うように詰め寄ってきた
振りに袈裟を狙われたその瞬間に、白い赤頭巾は反射的に振り上げ
て刃どうしを打ち合わせた。
そして、足元を狙って円弧を描いてきた切っ先から、風に吹かれ
とっさに
防御さ
た羽毛のように飛び退けたハクの間合いに入り込んで、こがねはそ
の首を撥ねとばす勢いで刀身を振るったこれを
れたものの、鍔迫り合いのまま力任せに押してゆき、壁へと叩きつ
けた。少しばかり押したあとに離れるなりに、再び踏み入れて、横
一線から袈裟へと繋げて斬り下ろしたが、赤頭巾はこれを間一髪で
かわして身を畳に預けて転がって片膝を突いて構える。切っ先を狐
顔の尼僧の背中に向けた姿勢のまま、慎重に膝を伸ばしていったと
きに、ハクは己の息があがっていた事に気づいたのだ。
背後から突こうにも隙が無い。
同時に冷たい脂汗を噴き出していく。
今頃、二の腕に走る赤い線に気づく。
不用意に踏み出そうものならば、たちまち私の方が真っ二つにさ
れてしまうだろう。
ゆっくりと
振り向いたのちに、刀身
そのようなハクの心情を知ってか知らずか、または敢えて知りつ
つも流したのか、こがねは
を躰の真正面に構えた。これを目にした途端、ハクが瑞々しい唇を
キュッと結んで、相手と向かい合うなりに同じ型をとっていく。す
るとどうした事か、ハクはじぶんの脳味噌が瞬く間に熱くたぎって
いた物を冷ましてゆく感覚と、呼吸が落ち着いてくるのを感じとっ
66
ていき、肉体の全神経を稲荷こがねへと尖らせてゆくことが出来た。
と、ハクの変化に気づいて、口の端を軽く釣り上げる。
次の踏み込みで勝負が決まる。
そう察したとき、こがねから先手を打って一歩踏み出しての袈裟
を斬りつける一撃を放った瞬間に、手元から激しい金属音をあげて
打たれて
しまい、こがねは息を詰まらせな
刀を弾かれた。その刀が天井に刺さった刹那、横一線に振るわれて
きた刀身から肋骨を
こがね
が、ハクに語りかけて
がら畳へと倒れ込んだ。必死に呼吸を取り戻したのちに、漸くの思
いで歯を食いしばった顔を向けた
いく。
それでも峰打
だ、なんて⋮⋮。︱︱︱全く⋮⋮、恐れ入ったわ。︱︱︱桁違
﹁⋮⋮絶好の機会、だった、のに⋮⋮、︵貴女は︶
ち
い、の、気違いね⋮⋮﹂
これを耳に入れながら、振り払った刀身を鞘に収めたハクが、こ
がねに振り返って片膝を突くと、胸元で十字架を切ったのちに愛ら
しく微笑んだ。そして、仇を目指して立ち去っていく。
67
組曲﹃組織崩壊 終曲﹄
1
一方その頃。
赤城冴鋭は己の組員を引き連れて、二手に別れて黒島嶽夫と朱禪
善之介神父とを探していた。次々と襲いかかったくる黒島組組員た
ちを斬りつけていくうちに、護衛についていた刑事らを蹴散らして
いくという流れに変わっていき、組の総頭である嶽夫の所在が近づ
いてきた事を示していた。行く先々で押し入れの戸を引くたびに、
中から襲撃してくる黒島組組員たちを倒していき、これを怠らずに
ひとつひとつ開けては確認しての繰り返しのなかで、中庭に出たと
ころに、倉庫の扉で耳を当てているムツを発見。
四本腕の赤頭巾が、疵顔の女に目を合わせるなりに、頷いた。こ
散らかっている
斬殺体を踏まぬように、音を立てない
れに冴鋭は、でかしたぞムツと口の端を歪めて歯を見せていく。あ
ちこちに
よう気をつけながら、中庭へと足を踏み入れていく冴鋭の一団。ひ
とりの組員に指示を送って、残りが扉から距離を置いた。銃弾で錠
を破壊したのちに、ゆっくりと押し開けていったそのとき。奥から
火花を放って銃撃がきた。扉に面々が背を預けて、いったん止んだ
ときに拳銃やショットガンなどで反撃。冴鋭のハンドガンで刑事た
ちの肩を撃って退けたすぐに、後ろから脇から部下たちによる第二
陣により、黒島組組員らは全滅。
そして、警戒しながらも中へと足を進めていった瞬間。銃弾を喰
らった、ひとりの部下が床に伏せた。これを機に、冴鋭からの集中
放火が始まっていき、遂にはその目的をあぶり出した。が、相手は
それでも怯むことなく撃ってきたところを、冴鋭が放った銃弾が肩
68
を貫いて倒したのだ。次に、隠れていたもうひとつの影へと足を突
き出して、蹴り倒すと胸元を踏みつける。小型の懐中電灯を後ろか
ら取り出して、床で悶える二人を照らすと、ムツを呼んで顔を確認
させた。そして頷いた少女の様子を見るなりに、ひと言。
﹁この二人で間違いないようだな﹂
それは、黒島嶽夫と朱禪善之介神父だった。
2
後ろ手を捕って、男二人を八畳間へと連れてきた冴鋭たちは、畳
に放り投げた。そしてムツが足を運んだ先と、髪を掴みあげられて
強引に嶽夫と善之介神父とが向かされたその先には、リンとハクが
並んでいた。仇は何処かと探していた二人は、連絡を受けて来たよ
うだ。姉たちの隣りに立ったムツは、目の前で跪かせられている男
二人を見つめてゆく。
﹁これで、ようやく、五十余年に渡り虐げられてきた、お父様とお
母様の無念を晴らすことが出来ます﹂
リンの零したひと言に、妹二人は頷いた。その仇二人の後ろにい
る冴鋭に目を合わせて、鱗顔の赤頭巾が言葉をかけていく。
﹁今回、このように貴女の惜しみないご協力に私たち姉妹は本当に
感謝しています。いくら言葉で表しても、容易にかたちに出来ない
程です。︱︱︱ここまでされても、見返りを求めて来られないのは、
胸が張り裂けそうなくらい痛みます﹂
これを受けながら、女が疵の走る口元を緩やかに曲げた。どうや
ら、本当に感謝してもし足りないようで、一度思いの火蓋を切った
ら消えるまで止まないらしく、リンの語りは続く。
﹁私たち︱︱︱︱︱﹂
﹁お前たちが可愛いからさ﹂
と、云いだしたところを冴鋭の言葉で遮られた。しかし、リンは
69
不快な顔にならずに、むしろ、微笑みを浮かばせていた。
﹁︱︱︱というのもあるが。アタシは、この神父に因縁があってな。
コイツはとっくに忘れちまっているかもしれないがな。︱︱︱こん
なアタシでも、十七︵歳︶のときに初恋で悩んでいてね。ある男子
と云い争って、泣いて、通っていた教会に駆け込んで懺悔室で相談
したその時の相手が、この善之介神父だったのさ。しかし、コイツ
中には
は相談を受けてくれるどころか、まだろくに男なんぞ知らなかった
アタシを犯したんだよ﹂
拳に力が入っていく。
クリスチャンに
﹁それ以降、︵アタシは︶クリスチャンを辞めた。︱︱︱
いい神父もいるだろうが、もう一度成る気になんてならん。まし
てや、教会に足運びたくなかね﹂
すると、当の善之介神父が、小さいながらも肩を震わせてきたで
はないか。そして、鷲鼻の下の口を釣り上げた。
﹁そうか、思い出したぞ。高校生ながらにして、妙に大人びた色を
持っていたあの娘が、お前だったとはな。︱︱︱しかし可笑しい。
︱︱︱そこまで根に持っていながら、どうして警察署にでも駆け込
しゃが
まなかったのだ﹂
特徴的な嗄れ声に加えて、罪の意識など一滴も感じられないほど
に、実にカラッと乾いた口調が続いた最後は、語尾を上げるといっ
たもの。この瞬間に、八畳間の空気は凍りついた。切れ長な目を流
して、善之介神父を見下ろした冴鋭が、僅かばかりながらも嘲りに
目元を歪ませたのだ。
﹁ワザと云いよっとか。それとも本当に知らんとか。まあ、いい。
︱︱︱セカンド・レイプが嫌だったんだよ。アタシは﹂
﹁ほほう﹂
よいしょっと
といった感じで
﹁そういうこった。︱︱︱じゃあ、あとは煮るなり焼くなり好きに
させてもらうぜ﹂
そのあと冴鋭は、﹁ほらよ﹂を
云いながら、善之介神父と嶽夫との背中を蹴飛ばした。男二人して
70
畳に鼻と口とを、強く打ちつけてしまう。ここまで一連の光景を見
ていたリンが、真一文字に結んでいた唇を開いてゆく。
﹁なるほど。そのような事が⋮⋮。︱︱︱朱禪神父に、黒島嶽夫さ
ん。私ら姉妹がある事情を持ち込んで通報すれば、貴男たちを訴え
ることが出来るのですよ。︱︱︱どんな事か知りたいですか?﹂
這いつくばっている二人に、この上なく冷徹な笑みをリンは見せ
つけると、言葉を繋げていった。
﹁国家反逆罪です。︱︱︱私たちのお父様こと、十文字明将は、国
の命を受けて来栖島の屋敷へと身を置いたのです。それは、遺伝子
レベルから手術して﹃奇病﹄を減らす。と、いった研究でした。︱
︱︱これについてはお父様は命を受ける以前から専攻していました
し、御国の為に与えられた任務と重なったことで、張り切っていた
のですが。それを、それを貴男たちは全てを奪った。お母様を汚し、
お父様に絶望を与え、その結果、この私たち姉妹が造られた﹂
冷静沈着に声を発しつつも、その奥深くから感じる溶岩の沸騰し
ていくような姉の怒りを受けて、両側に立っていたハクとムツが、
それぞれの武器の柄を力強く握りしめていく。
﹁貴男たちは実に愚かで、哀れです。ただ、じぶんらの信じる原理
主義と欲を満たすことに目が眩んでしまい、最悪の過ちを冒した。
奪い、汚して、侵し、そして、未来の光りを消してしまった﹂
﹁ふん。︱︱︱何が光りだ。所詮は悪魔的な行いを続けていたでは
ないか。だから儂が清めてやったのだ。そのような事をし続けてい
ても、奇病は無くならん﹂
﹁いいえ。︱︱︱可能性は、決してゼロではありません。将来性が
高く、確実なものです。それを踏みにじった貴男たちは万死に値す
る﹂
﹁生意気な﹂
﹁生意気でよろしくてよ。仰りたいことは、まだおあり?︱︱︱ハ
ク、ムツ。準備はいいかしら。待たせたわね﹂
妹たちに呼びかけたのちに、それぞれの刃物を振りかざしてゆく。
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善之介神父は、冴鋭から再び髪を掴まれて、躰を起こされた。そし
て。
ハクの刀が袈裟へと振り下ろされ。
ムツの四本の刃が胴に突き刺さり。
リンの鉈が喉へと真横に走った。
瞬間、善之介神父は口を開けたそれらの切れ目から、赤い飛沫を
噴き上げながら倒れ込んで、しばらく喉を掻きむしり悶えたのちに、
息を長く吐いて絶命した。三姉妹が、これを静かに見終えたあとに、
長女が呟いていく。
﹁⋮⋮貴男に償ってもらおうなど、私たちには毛頭ありません﹂
続いて、畳に這いつくばる嶽夫に顔を向けた。返り血を浴びた三
姉妹の相貌に、男は頬を痙攣させていく。身をよじって、なんとか
その場から離れようとしたところで、肩を踏まれて押しつけられた。
苦痛に呻きつつも目をやってみたら、アルビノの赤頭巾から薔薇色
の虹彩で見下ろされていたのだ。ハクは足元の嶽夫へと、血色の良
いその唇を歪めてみせていく。次に、もう片方の肩をムツから踏み
つけられる。このうつ伏せにされた嶽夫の腰を跨ぐように場所をと
ったリンが、鉈を構えながら話す。
﹁その代わり、黒島嶽夫さんには罪を感じていただきます。ただし、
その程度の軽傷では心許ないでしょうね。私たち姉妹から増やして
あげるわ。︱︱︱さあ、歯を食いしばって﹂
この合図を機に、リンの鉈は両方のアキレス腱を断ち、ハクの刀
は背中と脇腹とを貫いて、ムツの四本の鉈と包丁とが肩甲骨と背中
を突き刺した。その途端に、嶽夫に映る景色は真っ白となり、意識
を飛ばしていった。しかし、全ての急所は外しており、男が目を覚
ましたときにはひと月ほど経っているであろう。白眼を剥いた男か
ら離れた三姉妹は各々の刃に付いた血を振り払って、収納した。そ
の時だった。
一発の銃声とともに身を仰け反らせて倒れ込んだ姉を見た妹たち
が、歯を剥いて、再び刃を引き抜いて構えてゆく。
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﹁おっと、妹さんがた。余計な手出しはせんでくれよ。大切な姉さ
んが無様になるのを見たくなかったら、静かにしてろ﹂
こう拳銃を突きつけて吐きつけた男は、黒島厳嶽だった。
3
そして、その後ろの冴鋭たちにも銃口を向けていく。天井を仰い
でいるリンに跨がって、空いた手で結び目を解き頭巾を剥ぎ取った。
なける
のはアンタだけらしいな﹂
﹁へぇ、こりゃ想像しとった以上やな。︱︱︱さっきから聞いてみ
れば、どうやら
﹁ハク、ムツ。動かないで﹂
姉から念を押された二人は、渋々と身を引いて、刃をしまい込ん
だ。これに気を良くしたのか、腰元からナイフを取り出した厳嶽が
ないて
くれよ﹂
リンの上着を縦に引き裂いてゆき、露わになった白いインナーに刃
先を滑らせてその中央を断ち切った。
﹁口が利けるのは、アンタだけだ。いい声で
勝ち取ったも同然な笑みを浮かばせながら、切っ先でインナーを
左右に開いてリン胸元を晒したとき。厳嶽が表情を一変させるなり
に大きく上体を反らせて、下の女から跳ぶように離れた。それは、
障子の影から忍び寄ってきた者から、短刀で脊髄を刺されたため。
柄を握った手を腰に置いて、体当たりをして、狙った箇所を確実に
貫く。たちま厳嶽は息を詰まらせていき、吐き出す言葉も途切れ途
切れになっていく。そして、後ろの者を確認するなりに目を剥いた。
にい
﹁よ、よ、厳子、⋮⋮お前⋮⋮っ!﹂
﹁やあ、お義兄ちゃん﹂
微笑みかけて、義兄の背中から引き抜く。傷口を押さえて、腹違
いの妹へと銃口を振りかざして引き金に指をかけた刹那、手首ごと
斬り落とされた。顔中に青筋を浮かべて、怒り任せにナイフを厳子
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の心臓へと突き立てた、筈だった。走らせた切っ先は翳された左腕
により不発となり、その代わりに男の心臓に太い稲妻に貫かれたの
である。しまいには、投げられた己のナイフで喉を突かれてトドメ
を刺された。
よしこ
口から吐血しながら息を引き取ってゆく義兄を無言で見つめてい
た厳子は、それを最後まで見届けたのちに、呆気にとられていたリ
ンへと手を差し伸べて起こしてあげると、先ほどとは明らかに違っ
た芯からの笑みを見せた。はだけた胸元を隠して、リンは戸惑い気
味に礼を述べる。
﹁ありがとうございます﹂
﹁どう致しまして﹂
それから礼儀正しく頭を下げていく。
﹁初めまして皆さま、私は黒島厳子といいます﹂
﹁初めまして。私はリン。︱︱︱こっちはハク。そして、そっちが
ムツ﹂
厳子の丁寧な挨拶に、リンはそれなりに返した。だが、ついさっ
き繰り広げられた身内殺しの光景を流していたわけではない。よっ
て、畳に転がる三体の男たちに目を配っていき、厳嶽の骸へと視線
を定めて少し間を置いたあとに、再び厳子に向き直ったリンが尋ね
ていく。
﹁この方は、貴女の肉親ではなくて﹂
﹁⋮⋮終わらせたかったんです﹂
﹁どういう事でしょう。この事ならば、私らが片付けていた筈。そ
れを、貴女は自ら﹂
﹁私自身の手で終わらせたかったから﹂
そう語ってゆく厳子の白い腕を、傷口の端から赤い線を三本ほど
引いていき、細い指先から滴り落ちていく。
﹁そう⋮⋮﹂
静かに相槌を打ったのちにリンは、後ろに手を回すなりに、三冊
の本を厳子へと差し出した。随分と黄色化が進んで、茶色くなった
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冊子である。紙と紙とが
カサリ
びた物だと想像がついた。
﹁受け取ってください﹂
﹁これは⋮⋮?﹂
と擦れる音を立てて、かなり古
やに
手に取ったときに、僅かながら脂の臭いがした。背を紐でとめて
重み
を感じる。物じたい
いる。しかも、黄ばんでいるわりには、埃まみれではなかった。な
んだろうか、手にしたときに不思議と
は大した重さなどないのに。
﹁うふふ。やっぱりちょっとタバコ臭いかしらね。︱︱︱これは、
十文字明将の手記と研究記録です﹂
姉に続いて、ハクとムツも後ろからそれぞれ冊子を複数取り出し
て、厳子に手渡していった。その数、計十冊。今度こそ、その物理
的な重さを体感した厳子。
﹁これも、ですか﹂
﹁手記は一番下から三冊ですが、その他の研究記録になります。け
れど、これらは極一部です。それら含めた全てを、厳子さん、貴女
に託します﹂
﹁何故、ですか。︱︱︱私と貴女たちは初対面なのに、どうしてそ
こまで⋮⋮﹂
﹁それは、貴女が相応しいと思ったからです。法廷の場で、法律か
ら裁かれたそのとき、黒島嶽夫は本当の最期を迎えるわ。生い先短
いこの躰に、追い討ちをかけるように私ら姉妹が刻んだ傷によって、
彼は二度と塀の外の土を踏むことなく、その生涯を終えましょう。
︱︱︱たとえこの結末になったとしても、を私たち姉妹は黒島嶽夫
を赦せません。いいえ、初めから赦す気などありません。永久にで
す﹂
呼吸を整えていく。
﹁ですが、それでもなお、これを託します。そして、一族が崩壊し
て消えるまで、黒島家の血を受け継ぐ貴女自身に見届けてほしいの
です。お父様の記録の全てを提出した上で﹂
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﹁⋮⋮そこまでして貴女は⋮⋮﹂
一旦俯いたものの、顔を上げた厳子は口を強く結んだ。次第に溢
れてくる物を必死に抑え込み、声を繋げてゆく。
﹁私は、いいえ。私も、この一族に最期が来ることを望んでいまし
た。それが迎えにきた時は見届けようと決めていました。今もこの
気持ちは変わりません﹂
﹁そうだったのね﹂
﹁はい﹂微笑む。
﹁解りました。︱︱︱では、手元の記録を前にこう付けて示してく
ださい。﹃十文字明将の研究資料﹄です、と。あとはスムーズに進
むと思います﹂
その名前を提示する事によって、複雑に派生していた枝がひと思
いに簡略化されて融通が利いてしまうとは、この男、十文字明将の
研究がいかに大きなものだったか。
その後。
さえ
こうした一連のやり取りを終えて、厳子に託したのちに、あとの
事は冴鋭に任せるかたちをとって、リンとハクとムツの赤頭巾三姉
妹は、黒島邸を後にして長崎市へと去っていった。
故郷の来栖島を目指して。
﹃怪物赤頭巾﹄︽前編︾完結。
そして︽後編︾へと続く。
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組曲﹃組織崩壊 終曲﹄︵後書き︶
ここまでお読みしてくださった方々、ありがとうございます。
この書き物は、次の後編で完結しますので、よろしくお願い致しま
す。
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PDF小説ネット発足にあたって
http://ncode.syosetu.com/n4209bk/
怪物赤頭巾〈前編〉
2016年7月8日07時55分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
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