Comments
Description
Transcript
油圧ポペット弁特性の測定とモデル化*
油圧ポペット弁特性の測定とモデル化* 中村 善也*1,鷲尾 誠一*2,庄司野 公也*3 Mesurement and Modeling of Poppet Valve Characteristics Yoshinari NAKAMURA,Seiichi WASHIO, Koya SYOJINO F i r s t l y , s t e a d y - s t a t e p e r fo m a n c e o f a n o i l h yd r a u l i c p o p p e t v a l ve w a s e xp e r i m e n t a l l y s t u d i e d w i t h 6 d i f f e r e n t p o p p e t - s e a t c o m b i n a t i o n s . In order to o b t a i n a s mu c h d e t a i l e d d a t a a s p o s s i b l e , t h e p o p p e t d i s p l a c e m e n t a s w e l l a s t h e p r e s s u r e d r o p a n d t h e fl o w r a t e w e r e a c c u r a t e l y m e a s u r e d . Th e r e s u l t s c o m p l e t e l y s u p p o r t e d t h e v a l i d i t y o f t h e n e w e m p i r i c a l e q u a t i o n wh i c h t h e p r e s e n t a u t h o r s h a ve p r o p o s e d fo r a c o n s t r i c t i o n wi t h a v a r i a b l e o p e n i n g a r e a ; a p r o d u c t o f t h e p r e s s u r e d r o p a n d t h e s q u a r e o f t h e o p e n i n g a r e a i s p r o p o r t i o n a l t o a q u a d r a t i c o f t h e fl o w r a t e . A d yn a m i c mo d e l f o r t h e p o p p e t v a l ve w a s a l s o fo r mu l a t e d o n t h e b a s i s o f t h e static characteristics. Frequency response tests revealed that there was undeniable d i s c r e p a n c y b e t w e e n t h e e x p e r i m e n t a l v a l u e s a n d t h e p r e d i c t i o n s b y t h e d y n a mi c model. Concerning the response between the pressure drop and the poppet d i s p l a c e m e n t , t h e d i s c r e p a n c y i n d i c a t e s c o n s i d e r a b l e d a mp i n g e xi s t s i n t h e p o p p e t m o t i o n . M o r e o ve r t h a t i n t h e p r e s s u r e d r o p - f l o w r a t e r e s p o n s e s u gg e s t s t h e unsteady characteristics of the poppet constriction cannot be predicted by the s t e a d y- s t a t e o n e s . Key Words : Oil Hydraulic, Poppet Valve, Modeling, Frequency Response, Damping って評価されてきた. 1.緒言 q =Cf S 油圧機器の開発・改良,設計では,数値シミ 2( p I − p O ) ρ (1) ュレーションによって機器特性をあらかじめ正 しかしこの評価式(1)は,流量係数 Cf を一定とす しく予測できることが理想である.そのために ると油のような高粘度流体に対して全く適合し は,機器の構成要素の特性を数式で正確に表現 ない (4).かといって,水力学で知られているよう した評価モデルが必要となる. に Cf をレイノルズ数の関数として与えると,式 これまでにも油圧機器のモデル化は少なから ず試みられており,構成要素の数式モデルも提 案されている (1)(2) .これらの多くは油圧システム を制御対象と見る立場から行われており,そこ では実際の測定に基づくことなく専ら水力学で 得られている知見を援用してモデル化を行う傾 向が顕著である.しかし著者らが指摘したよう Table.1 Dimensions of poppets and seats poppet seat l d dP mP θ φ B (mm) (mm) (mm) (deg) (g) (deg) 120 30 25.2 4.44 4.7 180 9.5 60 16.0 2.76 に(3)(4),油のような高粘度流体に対しては,そう 90 したモデルはしばしば有効性を失う. 12.6 2.02 Poppet その代表的な例として挙げられるのが開口面 積の変化する絞りであり,その特性は,静的か 8 Seat l 動的かに関わりなく,これまで常に水力学で得 られた次のようなオリフィス特性の実験式を使 * 原稿受付 2000 年 12 月 18 日. カヤバ工業㈱(〒228-0828 相模原市麻溝台 1-12-1). *2 岡山大学工学部(〒700-8530 岡山市津島中 3-1-1). *3 岸和田市役所(〒596-8510 岸和田市岸城町 7-1) dB φ θ *1 Fig.1 Shapes of poppet and seat −1− dP 油圧ポペット弁特性の測定とモデル化 (1)は左辺以外に Cf にも流量 q を陰に含むことに 価が十分に行えなかった(4)(5).今回はその点を考 なり,数学モデルとして使うのに適さない.そ 慮し,精密な特性評価を目的として設計・製作 れに対して著者らは以前,もっと使いやすい数 した単独ポペット弁を準備し,上記のようなポ 学モデルとして,可変絞りの静特性を表す次の ペットと弁座の6種類の異なる組み合わせを使 (4) 実験式を提案した . p I − pO 1 = 2 α q 2 + βν lq ρ S ( って特性の測定とモデルの検討を行う. ) (2) 3.静特性 油圧機器のモデル化におけるもう一つの問題 は,モデルが何処まで妥当かという点について 3 .1 測定装置 静特性測定のための回路構成を Fig.2 に示す. 実験による検証が不足している現状である.こ 実験では,弁座に対するポペットの位置を固定 れは実験の難しい動特性モデルにおいて一層顕 して一定流量を供給し,その時の圧力差,流量 著であり,ポペット弁を例に取れば,その可変 およびポペット変位を,それぞれ抵抗線歪みゲ 絞りの静特性と動特性はどのように違うのか, ージ式差圧計,差圧式オリフィス流量計および ポペットの運動では減衰力が働くのかといった 渦電流式変位計で測り,同様な測定を流量,ポ 本質的な問題が未解明のままである. ペット変位を変えて繰り返す. 本論文では,こうした油圧機器のモデル化にお このとき,圧力差によるスラスト力がポペット ける問題点の改善を念頭におき,油圧用可変絞 を固定する支持棒にもたらす弾性変形は,ポペ り弁の中で最もよく用いられるポペット弁を対 ット変位自身が小さいため,僅かであっても無 象に,その静,動特性および評価モデルについ 視できない.従来必ずしも十分に認識されてい て詳細に検討する. なかったことであるが,ポペット弁の静特性測 定ではこの弾性変形を誤差としないことが肝要 2.ポペット弁 今回実験に用いたポペットおよび弁座の形状と その寸法を,それぞれ Fig.1 および Table 1 に示 す.ポペットはつばをつけない無つば円錐状ポ Poppet ペットを採用し,円錐底面直径 dB は同一で頂角 の異なるものを3種類用意した.また弁座はポ ペットと接触する部位の形状が異なるもの(面 Displacement sensor 取りなしとあり)を2種類用いた. 著者らが先に特性式(2)を提案したときの測定 では,市販のリリーフ弁のパイロット部を構成 Fig.3 Idea for accurate mesurement of poppet displacement する,細管絞りと直列に一体化したポペット弁 を対象に選んだため,リリーフ弁単独の特性評 Eddy-current type displacement sensor pI - pO Orifice flow meter x p M p O Fig.2 Experimental circuit to measure steady-state characteristiscs of poppet valve −2− 油圧ポペット弁特性の測定とモデル化 効であることが示されている. であり,今回そのために採用した工夫を Fig.3 に 一方 Fig.4 の測定結果を水力学的オリフィス実 説明している. 験式(1)で評価し,一つ一つの測定値に対して求 これは,渦電流式変位計に対向させる金属円板 とポペットをつなぐ連結棒を,ポペットを固定 めた流量係数 Cf を,ポペット弁の穴を基準に取 する支持棒と分離し,前者を後者の中を通す構 力が加わって支持棒が圧縮されても,ポペット ったレイノルズ数 q Re = P πνd P と円板の連結棒には力が働かず,変位の測定に に対してプロットすれば,Fig.5 のようになる. 誤差が入ることはない. 両者の関係を竹中ら(2)の提案する次の評価式 造としたものである.それによってポペットに (4) C f = K Re n 作動油としては VG46 マシン油を使用し,その (5) 温度は絞り直前に取り付けたサーミスタで監視 で最小自乗近似すれば,実線の結果となって測 し,測定中±0.5℃の範囲で一定となるようにオイ 定値と合う.従って流量係数をレイノルズ数の ルクーラで制御する. 関数と見なすならば,従来の水力学的オリフィ 3 .2 測定結果 三種類のポペットと二種類の弁座の6通りの組 ス実験式(1)でもポペット弁の静特性を表せるこ 合せを対象に,変位を 1mm以下の範囲で段階的 が式の両辺に含まれ,シミュレーションのため に変えて測定を行った.その結果の一例 のモデル式としては不適格である. とになるが,その場合は先に述べたように流量 ( φ =30°, θ =120°)を変位ごとの差圧と流量 式(3)右辺の損失係数 α , β は,Fig.4 の最小自 の関係として描いたものを Fig.4 に示す.丸は測 乗近似を行う中で求められるが,今回はそれと 定値,実線はすべての測定値を著者らの提案す は別に次のようなやり方でその値を求めた.即 る評価式(2)で最小自乗近似した結果,図の枠外 に記した数字はポペット変位の測定値を表す. 1.0 28.1℃ なおこの例では,実験時の油温は 28℃である. 0.8 ( Cf 今回式(2)は,ポペット変位 xP との関係も含め て下記のように与えられる. p I − pO 1 2 = 2 αq P + βνπd P q P ρ S P (x P ) ) (3) 0.4 x φ d P − P sin φ 2 2 Fig.4 においては測定値と上式による最小自乗評 価がよく合っており,著者らが新たに提案した 可変絞りの特性評価式がポペット弁について有 但し, S P ( x P ) = πx P sin pI - pO MPa 2.0 0.30 0.0 1.0 0.60 AP cP Cf dP kP l mP pi Pi qi Qi 1.00 qP 60 m3/s 40 60 Re 0.80 0.5 40 20 0.40 0.50 20 0 Fig.5 Discharge coefficient versus Reynolds number for classical orifice equation ( φ =30deg, θ =120deg) 1.5 0 Cf = 0.23 Re 0.28 0.2 28.1℃ xp = 0.05mm 0.15 0.10 0.20 0.6 80 -6 ×10 Fig.4 Experimental result - relationship between pressure drop and flow rate with displacement as a parameter ( φ =30deg, θ =120deg) I P * −3− NOMENCLATURE : area of pressurization s : Laplace operator : damping coefficient Si : opening area : discharge coefficient t : time : valve outport diameter x0 : initial spring compression : spring constant xP : poppet displacement : representative length XP : Laplace transform of xP α : nonlinear loss coefficient : poppet mass β : linear loss coefficient : pressure : Laplace transform of pi φ : poppet vertical angle ν : kinetic viscosity : flow rate : Laplace transform of qi ρ : density SUBSCRIPT : valve inlet port O : valve outlet port : poppet : nondimensional  ̄ : average 油圧ポペット弁特性の測定とモデル化 ち式(3)を変形して得られる関係 値を黒丸でプロットしたものを Fig.6 に示す.こ ( p I − p O )S ( x P ) 2 = αq P + βνπd P q P ρ 2 P の黒丸の結果を,式(6)の二次曲線で最小自乗近 (6) 似すれば実線のようになり,その時得られた損 失係数 α , β を一括して Table2 に示してある. に基づき,この式の左辺を縦軸,流量 qP を横軸 にとって測定値をプロットする.その結果を二 次曲線で最小自乗近似すれば α , β が求められ また Fig.6 の測定値を,水力学実験式(1)と式(5) から得られる次の関係 る. 縦軸に ( p I − p O ) S P2 ( x P ) ρ ,横軸に流量 qP をと ( p I − p O ) S P2 ( x P ) 1 q P = ρ 2 K Re n って,ポペットと弁座の組み合わせごとに測定 -9 6.0 28.1℃ (pI - pO) SP2(xP) r 25.0℃ (pI - pO) SP2(xP) r (7) ×10 6.0 4.0 2.0 0 20 40 60 3 qP m /s (a) φ = 30 and θ = 180 80 -6 4.0 2.0 0 ×10 20 40 60 3 qP m /s (d) φ = 30 and θ = 120 -9 80 -6 ×10 -9 ×10 ×10 6.0 6.0 29.4℃ (pI - pO) SP2(xP) r 28.2℃ (pI - pO) SP2(xP) r 2 -9 ×10 4.0 2.0 0 20 40 60 qP m3/s 80 -6 4.0 2.0 0 ×10 40 60 80 -6 ×10 (e) φ = 60 and θ = 120 -9 -9 ×10 ×10 6.0 6.0 27.9℃ (pI - pO) SP2(xP) r 26.1℃ 4.0 2.0 0 20 qP m3/s (b) φ = 60 and θ = 180 (pI - pO) SP2(xP) r 20 40 60 qP m3/s 80 -6 4.0 2.0 0 ×10 20 40 60 qP m3/s (c) φ = 90 and θ = 180 80 -6 ×10 (f) φ = 90 and θ = 120 Fig.6 Determination of non-linear and linear loss coefficients for steady-state characteristics of poppet valve −4− 油圧ポペット弁特性の測定とモデル化 で最小自乗近似すれば点線の結果となり,その し今回はこれらの非定常成分が定常損失に比べ 時得られた K,n は Table3 に示す値となる. て十分小さいと見なし,非定常な流れにおける 3.3 オーバーライド特性 オーバーライド特性 ポペットから支持棒を取り去って代わりにバ ポペット弁の差圧−流量−開口面積の関係も静 ネ定数 kP=2.0kN/m のバネを付け,圧力制御弁と 一方非定常の場合,力の釣り合い式(8)は,ポ してのオーバーライド特性を測った.オーバー ペットの運動方程式で置き換えなければならな ライドを評価するための静特性モデルとしては, い. 特性式(3)で表されると仮定する. 式(3)に加えて次のようなポペットに働く力の釣 り合い式を考えた. k P ( x p + x 0 ) = AP ( p I − p O ) + AR p O mP d 2 xP dt 2 + cP (8) dx P + k P ( x p + x0 ) dt = AP ( p I − p O ) + AR p O (9) さらにポペットが運動する場合,ポペットに ここで AR は変位測定用連結棒の断面積である. ポ ペ ッ ト 頂 角 φ =30 ° , 弁 座 の 面 取 り 角 流入する流量 q I は,一部がポペットの移動によ θ =120°のポペット弁を用い,バネに 0.42mm の 初期圧縮量を与えて,弁下流圧力を 0.2MPa と一 定に保ちながらリリーフ流量を段階的に増加さ せていく.その時の圧力差とポペット変位の測 定結果を流量を横軸にとって示したものが Fig.7 である.黒丸が測定結果,実線が静特性モデル で予測した計算結果を表す.両者はよく合って おり,式(3)および式(8)がポペット弁の静特性モ デルとして妥当であることが分かる.また点線 は,仮に頂角の異なるポペットを用いた場合の 予測結果である.頂角が大きくなるとオーバー ライド特性が改善される傾向が見て取れる. って生じた隙間を埋めるために使われ,残りが ポペット絞りを通過する流量 q P となると考えら れるから q P = q I + AP dx P dt (10) 以上のようにポペット弁の動特性は式(3), (9), (10)で表されると考える.しかしこのモデルはあ くまでも静特性に基いた推察だけで得られたも のであり,それが実際のポペット弁の動的挙動 をどれだけ正しく表すかについては,実験によ る検証が不可欠である.従来のモデル化の研究 ではこの点が無視されていたが,今回は周波数 応答実験によって動特性モデルの妥当性を調べ 4.動特性 る. 4 .2 周波数応答実験 (1)伝達関数 (1) 伝達関数 4 .1 動特性モデル 流れが非定常な場合,絞りを通る流れの圧力 変動が微小であると考えて基礎式(3)を動作点 損失は,定常損失のほかに流れの慣性によって で線形化し,その後式(9), (10)とともにラプラス Table.2 Experimentally determined loss coefficients No Chamfering Chamfering Valve Seat 180 deg. 120 deg. β α β 30deg. 0.82 22.5 0.66 22.5 60deg. 0.62 17.2 0.42 26.8 90deg. 0.52 9.9 0.30 27.7 30deg. K n K n 0.25 0.31 0.23 0.28 60deg. 0.21 0.31 0.16 0.38 90deg. 0.32 0.25 0.19 0.36 1.2 0.8 0 Table.3 Experimentally determined parameters for dicharge coefficient No Chamfering Chamfering Valve Seat 180 deg. 120 deg. Poppet φ= 30 60 90 0.4 20 40 60 qP m3 /s 80 −6 ×10 φ= 30 60 90 0.6 xP mm α Poppet 1.6 pI - pO MPa 生じる差圧と非線形損失の遅れが加わる(6).しか 0.4 0.2 0 20 40 qP m3/s 60 80 −6 ×10 Fig. 7 Override characteristics −5− 油圧ポペット弁特性の測定とモデル化 変換して整理すれば,ポペット変位と差圧,お 含むから,フーリエ解析して基本波成分を取り よび差圧と流量の間の伝達関数が次のように求 出す. められる. XP AP = PI − PO m P s 2 + c P s + k P なお弁の下流には,理論的な境界条件と一致 させるために気泡含有ゴム(8)を挿入し,測定中圧 (11) 力変動を抑えて一定圧に保つ.また油の温度は, PI − PO b1 (m P s 2 + c P s + k P ) = (12) 2 QI m P s 2 + (c P + AP b1 ) s + k P + AP b2 静特性の測定と同じように,オイルクーラを手 動で調節して実験中一定に保つ. (3)実験 (3) 実験結果 実験結果 頂角が 30 度のポペットと,異なる二種類の弁 ただし弁の下流圧力 pO は一定としている.また b1,b2 は動作点で定まる定数で,次のように与え られる. 座の組み合わせで,周波数を 50∼800Hz の範囲 ρ (2αq P + βνπd P ) S P2 ( x P ) 2 ρS P′ ( x P ) b2 = 2αq P2 + βνπd P q p S P3 ( x P ) (2)実験装置と方法 (2)実験装置と方法 周波数応答実験のための回路構成を Fig.8 に示 で変えて測定した.上に述べた二種類の伝達関 す.ポペット弁上流に置いた正弦波流れ発生器 図においては黒丸が測定値を示すが,モデルに で脈動流を作りだし、ポペットを加振する.試 よる計算結果は,ポペット運動の減衰を考慮し 験ポペット弁は,絞りの直前,直後に半導体圧 ない(cP =0)と点線のようになる.しかしこれ 力センサを取り付けられるような構造であり, は明らかに測定値と合わない.そこで Fig.9 につ 両者を変動差圧測定アンプにつないで,ポペッ いて測定値と合うように減衰係数 cP を選んでや ト絞りの変動差圧 ∆( p I − p O ) を記録する .ポペ ると,図中に示す値となり,その時の予測値は ットに流入する変動流量 ∆q I は,弁上流の断面一 実線のようになった.変位と差圧の伝達関数は 様直管路で 170mm離れた二点に半導体圧力セン 主としてポペットの運動方程式で決まるから, サをつけ,両者とつないだ変動差圧測定アンプ この実験結果は振動するポペットにかなり大き b1 = ( 数について,測定波形をフーリエ解析して得ら ) れるゲインと位相を,式(11), (12)による計算値 と比較して,それぞれ Fig.9,10 に示す.なおい ずれの図でも,ゲインは動作点における流量と 変位の平均値で無次元化してある. (7) (7) で測った2点間の変動差圧から慣性差圧法 によ な減衰力が働くことを示している. り求める.ポペット変位は棒で連結した円板に バネに支えられながら油の中で振動するポペッ 一対の渦電流式変位計を対向させて測る.その トを考えたとき,それに作用する減衰力の発生 ためポペット質量 mP は,円板と連結棒を含んで 要因として想定できるものは,一つはポペット 17.9×10-3kg となった.測定波形は高調波成分を 表面に働く油の粘性せん断力であり,もう一つ Eddy-current type displacement sensor ∆ ( pI - pO ) Rotary sinusoidal flow generator DP AMP M DP AMP ∆xp M q Orifice flow meter pO Rubber with bubbles Fig.8 Experimental setup for frequency response test −6− 油圧ポペット弁特性の測定とモデル化 はスクィーズ効果であろう.ポペットに働く粘 油に浸かってポペットを支えるバネの伸縮運動 性抵抗を,ポペットと同じ表面積をもつ球体が に起因することが考えられる.いずれにせよ今 粘性流体中で振動する時に形成される境界層に 回の測定の結果,ポペット運動の減衰機構を明 (8) よる減衰力 らかにすることが今後取り組むべき研究課題と dx (13) WR = 6 ρνπR (R:球体半径) dt -3 で見積もれば, cP =9.87×10 kg/s となる.これは して浮かび上がった. 実験で得られた cP の値よりはるかに小さく,従 の間に一致が見られるが,極大値付近では両者 って表面に働く粘性せん断応力が減衰をもたら に明白なずれが見られる.極大値付近の計算値 す主要因であるとは考えにくい. の形はポペット絞りの特性式で決まることを考 一方の差圧と流量の伝達関数のFig.10を見ると, 極小値付近では測定値と減衰力を考えた計算値 もう一つの減衰要因として挙げたスクィーズ えると,このずれはポペット可変絞りで静特性 効果は,ポペットと弁座の相対運動,もしくは ( と動特性の違いを無視した結果と考えられる. * q P = 4.6 ×10-5 m3/s XP x P = 0.45 ×10-3 m P I - PO PI - PO * q = 4.6 × 10-5 m3/s P QI xP = 0.45 × 10-3 m ) ( 20 10 0 10 0 -10 -10 -20 -20 0 phase deg gain dB : exp. : cP = 0.0 : 6.3 200 400 0 : exp. : cP = 0.0 : 6.3 0 600 Hz 800 phase deg. gain dB 20 -90 -180 ) 0 q P = 5.1 ×10 m /s x P = 0.43 ×10-3 m 3 ( PI - PO * q P = 5.1 × 10-5 m3/s QI xP = 0.43 × 10-3 m ) 10 0 dB 20 : exp. : cP = 0.0 : 7.6 10 0 -10 -10 -20 -20 400 -90 -180 (a)with chamfering Fig. 9 Frequency responses between poppet displacement and pressure drop (φ φ = 30) : exp. : cP = 0.0 : 7.6 0 600 Hz 800 deg. 200 180 phase gain dB 600 Hz 800 (a)without chamfering -5 20 0 0 400 90 gain ( XP * PI - PO 200 180 (a)without chamfering phase deg ) 90 200 400 600 Hz 800 0 (a)with chamfering Fig. 10 frequency responses between pressure drop and flow rate (φ φ = 30) −7− 油圧ポペット弁特性の測定とモデル化 著者らがこれまでに得た知見によれば,絞り 弁一般に精度よく適合し,数学モデルとして使 の静特性と動特性の違いは,後者の圧力損失に いやすい. は加速,減速される流れの慣性がもたらす慣性 (2)ポペット可変絞りの動特性を,その静特 差圧と,非定常な非線形損失に現れる遅れ(渦 性式を使って表すこれまでのやり方は,精確な (6) 慣性 )が加わる点である. 動特性モデルを与えることが出来ない. 固定絞りの場合,慣性差圧は流量の時間微分 (3)振動するポペットには,無視できない減 に比例する(6).可変絞りについても同様な評価が 衰力が働く.その大きさは,ポペット表面に働 可能であるとすると,ポペット絞りの動特性は, く粘性せん断応力で評価される値よりもはるか 式(3)に流量の時間微分項を加えただけの次式 p I − pO 1 1 dq P 2 = 2 αq P + βνπd P q P + ρ L dt S P (xP ) に大きい. ( ) 文 献 (14) で評価される.等価長さLに適当な値 (=0.2×10-6) (1) 市川他,「ポペット弁の流量係数」, 機論 31- 222(昭 40)317. を与えて伝達関数を計算してみると,Fig.10の一 (2) 竹中他,「円すい弁の流量係数」, 機論 33-249(昭 点鎖線の結果を得る.しかしこれも実験値をう 42)810. (3) 鷲尾・他 2 名,「三方ボール弁を用いた PWM 油 圧 制 御 系 の 作 動 特 性 」 , 機 論 (B) , 61585(1995)1736. (4) Washio, S. et al, “Static characteristics of a piston-type pilot relief valve”, Proc. IMechE, 213-C(1999)231. (5) Nakamura,Y. et al, “Modeling of Dynamic Behaviors of a Poppet Valve”, Proc. JHPS International Synposium (1999) まく表すことができない.この結果は,固定絞 りに倣った式(14)のような単純な仮定では可変絞 りの慣性差圧を表すことが出来ないことを示し ており,ポペット弁絞りの動特性を評価するに は,ポペット変位の影響も含めて一層の検討が 必要である. 315. (6) Washio, S. et al, “Study of Unsteady Orifice Flow 5.結言 以下の点を明らかにした. Characteristics in Hydraulic Oil Line”, ASME J. Fluids Eng., 118-4, (1996)743. (7) 鷲尾・他 3 名,「独立微小気泡含有ゴム材による 油圧脈動吸収」,日本油空圧学会論文集,30-2 (1999)48. (1)著者らの提案した,従来の水力学実験式 (8) 流体力学Ⅰ,東京図書㈱,ランダウ=リフシッツ著,竹内均訳 本論文では,油圧ポペット弁の特性評価モデ ルの有効性を,詳細な測定に基づいて検討し, に代わる可変絞りの静特性評価式は,ポペット −8−