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Ⅰ 多数当事者の債務および債権 1 多数の債務者 Ⅲ-3

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Ⅰ 多数当事者の債務および債権 1 多数の債務者 Ⅲ-3
本資料は全体会議における提案審議の参考資料として配布された執筆途上の原稿であり,未整理・不正確な部分が含まれています。
今後の大幅な加筆修正が予定されていますので,許可なく引用や転載することを禁じます。
全体会議資料(2009.1.17)
Ⅰ
多数当事者の債務および債権
1
多数の債務者
Ⅲ-3-1(分割債務、連帯債務、不可分債務)
(1)同一の債務につき、数人の債務者があるときは、次に定めるところに従い、分割債
務、不可分債務、または連帯債務を負う。
(ア)債務がその性質上可分であり、かつ連帯債務とならないとき
分割債務
(イ)債務がその性質上可分であり、かつ債務者が共同で債務を負い、もしくは債権者
と債務者との間に連帯債務とする合意のあるとき、または法律の規定があるとき
連帯債務
(ウ)債務がその性質上不可分であるとき
不可分債務
(2)不可分の利益の償還または対価の支払いについては、その債務がその性質上可分で
あるときは、債務者は共同で債務を負うものと推定する。
(3)同一の損害について複数の債務者がそれぞれ賠償する責任を負うときも、前項と同
様とする。ただし、共同不法行為の場合は、第5項を適用する。
(4)不可分債務は、債務が可分となったときは、分割債務となる。ただし、債権者と債
務者との間であらかじめ反対の合意をしていれば、連帯債務となる。
(5)不法行為については、さしあたって現行法を維持し、かつ、連帯債務となるときは
本提案による連帯債務の規定を適用する。
* 現民法427条、430条、431条、432条(改正)
【提案要旨】
現民法は、多数当事者の債権債務関係につき、債権と債務とを同時に規定するが、わか
りやすさのために別個に規定することとし、債務の種類として、分割債務・不可分債務・
連帯債務の3つの類型を規定するとともに、その発生原因を明らかにするものである。
【解説】
1.債権と債務の分離
現民法においては、多数当事者の債権債務関係につき、債権と債務とが同時に規定され
ているが、分けた方がわかりやすいであろう。
2.分割債務・連帯債務・不可分債務の3つの類型
債務については、分割債務・連帯債務・不可分債務の3つの類型を用意する 1 。もっとも、
1
ヨーロッパ契約法原則は、「分割債務」、「連帯債務」、「合同債務(communal obligation)」
の3類型を置き、合同債務を、債務者全員で履行し、債権者も全債務者に対してのみ履行
請求ができるものとしている。そして、その例として、「レコード会社が、レコードを作
成する目的で、オーケストラを形成する複数の音楽家と一つの契約に入った。この不履行
1
本資料は全体会議における提案審議の参考資料として配布された執筆途上の原稿であり,未整理・不正確な部分が含まれています。
今後の大幅な加筆修正が予定されていますので,許可なく引用や転載することを禁じます。
このことは、これ以外の多数当事者債務の類型を認めないことを意味するものではない。
たとえば、わが国の学説上、「合有債務」という概念が唱えられている。これは、債権
者は、すべての債務者に対してのみ履行を請求しうるというものである。しかし、その例
としては、一般に、組合財産を引き当てとする組合の債務のみが挙げられているのであり、
「合有債務」としての性質は、組合の法律関係を前提とした債務負担態様から生じる責任
財産の特殊性からのものと理解される。そして、債務負担の態様によっては、別の効力内
容を有する債務となることは、契約から生じる債務の性質上当然のことであり、契約によ
って別の効力を有する債務を作ることができることについては明文の規定を要しない。
なお、たとえば、複数の者が、登記移転義務を共同で負う場合がある。このとき、判例 2
は、不可分債務であるとしている。これに対しては、各債務者が独立に履行ができないと
ころ、一人の債務者に対して全部の履行を請求できるという不可分債務とするのは妥当で
なく、むしろ合有債務だと考えるべきだとの見解もある。しかし、この具体的な例におい
ても、自ら債務を履行しようとしている債務者も被告として債権者に訴訟を提起させる必
要はない。あえて合有債務という観念を措定し、別異に考える必要はないのではないかと
思われる。
ただし、これらについて、解釈論の展開をさまたげるものではない。
3.不可分債務概念の存続
提案における「連帯債務」は、現民法にいう「連帯債務」とは異なり、相対的効力事由
を中心とし、連帯債務者間に一定の関係のあるときに、個別的な例外を認めるものである。
さて、現行法は、不可分債務と連帯債務とを規定し、その違いを、前者では、後者につ
いて認められている絶対的効力事由の多くが排除されることに求めている(民430条括弧書
き参照)。そうすると、提案における連帯債務が相対的効力事由を中心とする限り、もは
や不可分債務について規定は不要であり、現行法における不可分債務と連帯債務とを統括
した新概念を考えるべきだと思われるかもしれない。
しかしながら、第1に、不可分債務は、性質上、給付が不可分であるため、それが複数
の者に相続されたときには、各相続人が不可分債務を負うことになると思われ、この点が、
判例 3 を前提とする限り、連帯債務との違いとして生じる。第2に、言葉の問題として、給付
が性質上不可分である場合については、不可分債務と称した方が理解に資する。したがっ
て、いちおうは別個の類型として考えるべきであると思われる 4 。
があったとき、レコード会社は、すべての音楽家に対して訴訟を提起しなければならない。」
と説明している。しかし、これは、日本においては、組合から生じる合有債務の例だと考
えるべきであろう。そして、合有債務について規定を置く必要のないことは、本文で述べ
たところである。
これに対して、ユニドロア国際商事契約原則は、分割債務(separate)と連帯債務(joint and
several)のみを置き、ヨーロッパ契約法原則のいう合同債務は、比較的まれにしか生じない
ので規定は置かないとしている(Working Group for the preparation of PICC(3rd), Third session,
Draft Chapter on Plurality of Obligors and/or Obligees, Article 1.1, Earlier discussions 2)。
2
最判昭和 36・12・15 民集 15 巻 11 号 2865 頁。
3
最判昭和 34・6・19 民集 13 巻 6 号 757 頁。
4
注(1)で述べたように、ヨーロッパ契約法原則やユニドロア国際商事契約原則では、不可
分債務の規定は置かれていない。ドイツ民法典 431 条、オランダ民法典 6.1.2.1 条 2 項、ロ
2
本資料は全体会議における提案審議の参考資料として配布された執筆途上の原稿であり,未整理・不正確な部分が含まれています。
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ただし、このように債務の目的の性質を基準としつつ、言葉の問題と相続における処理
を理由に不可分債務の概念を存続するときには、現民法と異なり、「当事者の意思表示に
よって不可分である場合」を認める必要はない。債務が可分であるが、各債務者が全体に
ついて履行義務を負う場合には、連帯債務となるという合意を認めれば十分だからである。
逆に、連帯債務は、債務が可分であるときに限定することで足りる。
もっとも、このようにすると、債務が不可分であるが故に、不可分債務となっていると
き、その債務が可分となったときは、現民法431条を維持する限り、必ず分割債務になって
しまう。これは当事者が、債務の可分・不可分にかかわらず、各債務者に全体の履行義務
を負わせようとする意思を有しているときに対応できないことになる。そこで、第4項ただ
し書において、不可分債務において、後発的に債務が可分になったときも、分割債務では
なく、連帯債務になる旨の特約を認めることとした。
4.不真正連帯債務の概念について
不真正連帯債務の概念は、絶対的効力事由を中心とする現行法における連帯債務の規定
の不合理さを解決するために主張されていると考えることができ(かつては、不真正連帯
債務の場合には、債務者間に負担部分が存在しない旨が説かれたが、現在では否定されて
いる)、連帯債務をもって相対的効力事由を中心とするものに模様替えするときには、も
はや不要となるものと思われる。したがって、いわゆる不真正連帯債務に該当する類型も
設けていない。
もっとも、以上のような見解に対しては、やはり、債務者間の関係が強いものと弱いも
のとで区別する必要があるのではないか、との批判もあり得よう。しかしながら、実は、
現民法のもとで連帯債務と不真正連帯債務との違いとして述べられているもので、後者に
おいては負担部分が存在しないという点が否定された後においては、本質的なものは少な
い。そして、現民法434条から439条に規定される連帯債務における絶対的効力事由の多く
は、現民法における連帯債務の解釈としても否定的な見解が強い。そうであるならば、と
くに債務者間の関係が強いものと弱いものとで区別し、二類型を置くまでもなく、絶対的
考慮事由を減少させた共同債務関係(すべてを相対的効力事由とするわけではないことは、
後に述べる)を一類型だけ準備すれば足りるのではないかと思われる。
シア民法典 322 条 1 項は、債務が不可分であるときは連帯債務となるとし、OHADA 草案
10/8 条は、これに従っている。
フランス現民法には、不可分債務の規定が存在するが(1217 条以下)(同様に、イタリ
ア民法典 1314 条以下、ケベック民法典 1520 条以下)、連帯債務との違いで最も重要なの
は、相続時の扱いだとされている(不可分債務が相続によっても可分とならず、各相続人
が全部について履行義務を負うことを定めるものとして、フランス民法典 1225 条、イタリ
ア民法典 1318 条、ケベック民法典 1520 条 2 項)。
逆に、フランス債務法改正草案では、「分割債務は、目的物に性質、法律または契約に
よって不可分性が課されないときには、債務の一態様ではなく、まさに債務の性質のまさ
に一部である。」(P.Catala, Avant-projet de réforme du droit des obligations et de la prescription,
p.67)との理由で、条文上は削除される方向が示されている。理論的には首肯しうるものを
含む。債務が分割される限り、そこには多数当事者の債務関係は存在しない。しかし、こ
こでは現行法との連続性からするわかりやすさを考えて、多数当事者の債務関係の一つと
して規定している。
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5.発生原因の定め方
(1)問題は発生原因である。
この点については、まず、現民法432条のように、「数人が連帯債務を負担するときは」
といった文言から始まる規定を置き、とくにその発生原因を規定しない方法もありうるよ
うに思われる。
しかしながら、実は、現民法は、発生原因を規定していないわけではない。現民法は、
数人が債務を負う場合につき、分割債務となることを原則とし、不可分債務・連帯債務を
例外として、前者は、「債権の目的がその性質上又は当事者の意思表示によって不可分で
ある」ことを発生要件とし、後者は、連帯の意思表示を発生要件としているのである。
しかるに、とりわけ、後者の連帯債務の発生については、立法論上、かねて批判が強く、
より広い範囲で連帯債務の発生を認めるべきことが説かれてきた。
そうであるならば、不可分債務・連帯債務の発生について、これまでの条文・判例・学
説において提示されてきた基準を参考に、一定の要件を定めることが妥当であると思われ
る。
(2)具体的に、まず不可分債務については、次のように考えるべきである。
現行法に関する判例において、共同賃借人の賃借物返還債務のように「給付が性質上不
可分であるとき」であるときは、不可分債務となるとされており 5 、これは当然である。ま
た、山林共有者の負う監守料の支払義務や共同賃借人の賃料債務のように、「不可分的利
益の償還や不可分的利益の対価である給付を目的とするとき」も、不可分債務とするもの
がある 6 。しかしながら、金銭債務を不可分債務とするのはいかにも不自然であるし、共同
事業から生じた債務一般が連帯債務とされることとの均衡上も、むしろ連帯債務だと考え
るべきである 7 。そこで、第2項では、「不可分の利益の償還または対価の支払いにあたって
は、その債務がその性質上可分であるときは、債務者は共同で債務を負うものと推定する。」
とし、共同で債務を負うという連帯債務の発生原因を充足するものとすることによって(第
1項第3号)、判例を変更している 8 。「その債務がその性質上可分であるときは」としたの
は、不可分であるときは当然に不可分債務になるからである。また、推定が覆される例と
しては、多数の投資家が直接かつ独立に、しかし同時に一つの不動産を購入する場合が考
えられ、この場合は分割債務となる。
なお、「意思表示による不可分」について、これを認めるまでもなく、連帯債務とする
合意を認めれば十分であることは、既に述べたところである。
以上から、不可分債務の発生原因は、「債務がその性質上不可分であるとき」となる。
(3)次に、連帯債務の発生原因については、現行法について、連帯債務の法的性質論
5
大判大正 7・3・10 民録 24 輯 445 頁。
前者は、大判昭和 7・6・8 裁判例 6 民 179 頁、後者は、大判大正 11・11・24 民集 1 巻 670
頁。
7
淡路剛久『連帯債務の研究』247 頁以下。
8
もっとも、共同賃借に関するその後のケースでは、判例は、全員が債務を負うことを認め
ながら、必ずしも不可分債務とは明示していない(大判昭和 8・7・29 新聞 3593 号 7 頁、
最判昭和 54・1・19 判時 919 号 59 頁)。したがって、判例に反するものではないともいえ
る。
6
4
本資料は全体会議における提案審議の参考資料として配布された執筆途上の原稿であり,未整理・不正確な部分が含まれています。
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と結合して、議論が盛んなところである。周知のように、債務者間の「主観的な共同関係」、
「相互保証関係」、あるいは、「共同事業的関係や共同生活関係」といった基準が説かれ
ている。
もっとも、これらの学説は、広く絶対的効力事由を定める現行法を前提に説かれている
ものであり、相対的効力事由を中心とする本提案には当てはまらないものだと思われるか
もしれない。しかしながら、現行法における諸学説は、上記のような性質論を主張すると
ともに、債務者間にそのような関係のある場合なのにもかかわらず、広く絶対的効力事由
を認めることは債権の効力を弱めすぎるとして立法論的な批判を展開しているのである。
また、債務負担行為に上記のような性質があるときには、連帯債務を負担するというの
が当事者意思や社会通念上も妥当であるとされる。
そこで、本提案では、「債務者が共同で債務を負い、もしくは、連帯の合意のあるとき」
という原因を挙げながら、連帯債務者の一人について生じた事由を、広く相対的効力事由
とすることとした。なお、「共同で債務を負う」ときも、連帯にはならない旨を債権者と
債務者とが合意すれば、分割債務になることは当然である。
さらに、いくつか付言しておく。
第一に、この点では、「共同で債務を負う」という要件が不分明であり、発生原因につ
いて、より明確な定めが必要だとする考え方もありうる。しかし、ある債務が連帯債務と
なるか否かについて、柔軟な解釈の余地を残しておくことが妥当であり、また、ここで一
定の要件を定めることの意味は、連帯債務となるか否かを議論する「場」を用意すること
だと考えられる。現民法では、既に述べたように分割債務を原則とするので、その「場」
は存在せず、他方、学説において、「主観的な共同関係」、「相互保証関係」、「共同事
業的関係や共同生活関係」といった「場」が示されていたわけである。「共同で債務を負
う」という基準は、以上の学説を変更することを企図するものではない。
「共同で債務を負う」場合には、債務負担の原因となる契約等について、複数債務者が
連名で当事者となることが多いと思われるし、また、そのようなときには、「共同で債務
を負う」と評価されることが原則となろう。しかしながら、厳密に全員が契約当事者だと
認定できない場合も共同行為で債務を負っていたときは、これに該当する。もっとも、こ
の点では、契約当事者にならない限り債務者になるということはありえないとも考えられ
るが、この点は、契約当事者論の問題である。つまり、隠れた当事者が債務者になること
があるという問題である。
第二に、組合との関係である。組合については、その債務について、組合員は分割債務
を負うとされており(現民法674条・675条)、本検討委員会もこの立場を維持することと
している。しかるに、組合における債務負担は、まさに「共同で債務を負う」場合に該当
し、本条によれば、連帯債務になると思われるかもしれないが、組合の場合には例外だと
位置づけている。
組合は、組合財産が存在しており、組合における債務負担は、団体のための責任財産が
存在する場合に、その構成員が債務者となって債務を負う場合に該当する。これに対して、
通常の場合には、そのような別個引き当てになる責任財産が存在しない。この両者では異
なる処遇がなされることに十分な理由がある。逆に、組合が存在しても、責任財産が形骸
化しており、構成員が主体として前面に出ているときには、連帯債務を負うこともありう
5
本資料は全体会議における提案審議の参考資料として配布された執筆途上の原稿であり,未整理・不正確な部分が含まれています。
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ると解される。
6.現商法511条1項との関係
関連して、現商法511条1項について述べておく。同条は、「数人がその一人又は全員の
ために商行為となる行為によって債務を負担したときは、その債務は、各自が連帯して負
担する。」としている。そして、同条の要件の解釈として、数人の債務者が1個の行為、
すなわち共同の行為により債務を負担したことが必要であると解されている。そうすると、
同条の適用によって連帯債務となる場合は、本提案第1項第3号にいう「債務者が共同で債
務を負い」という場合に該当することになり、民法の適用によって連帯債務となる。かね
て商法511条1項と同種の規定を、債務の発生原因が債務者の1人または全員にとって商行
為となる場合という要件を削除したうえで、民事債権についても規定すべきことが立法論
的には説かれていたところであり 9 、それに従った結果となっている。
本検討委員会の商行為法WG報告書は、その8頁において、
「当事者の一部の者にとってのみある行為が商行為となる場合に,債権の効力を連帯債
務として強化することが一般的に合理的であるという取引実態はないのではないかと考え
られる。相手方当事者としては,必要があれば,連帯債務とする特約をすれば足りるので,
本条1項のような広い範囲で商行為を連帯債務とする立法は適切ではないと考えられる。
これに対して,当事者が全員商人であって,かつ一回限りの行為ではなく,共同事業と
して行為をする場合については,黙示の連帯債務とする意思表示を認めることが可能な場
合も少なくないであろうが,デフォルト・ルールとしても連帯債務とすることを規定する
ことには合理性があると考えられる。もっとも,これに対しては,民法の組合の規定にお
いて組合の事業から生ずる債務が組合員に分割債務として帰属するという原則が維持され
るものとすると,その民法の原則との関係が問題となる。この点については,組合の目的
が共同事業をすることである限りでは,民法上も組合員の債務は連帯債務とするというこ
とも考えられ,その点の検討を待つ必要がある。その際には,このような連帯債務とされ
る場合を商人のみが構成する営利目的の組合に限るのか,営利以外の事業目的の組合にも
拡大されるのかについても検討する必要がある。民法でそのような立法が難しいというこ
とであれば商法に規定を設けることになろう。」
としている。
本案の立場はこれに反対するものではないが、若干、関係を説明しておく。
まず、同報告書の説明は、商法511条1項が、連帯債務とする要件として、共同行為であ
ることを要求していないという理解に立つものだが、同報告書は、これを結論的に批判す
るものであり、共同の行為による債務負担を連帯債務の発生要件とするものであるから、
本案の立場はこれにそっていることになる。
次に、同報告書は、民法上、商法511条1項に類する規定をおくことが考えられる箇所と
して、組合の箇所をあげている。そこで、組合の規定との関係が問題となるが、本委員会
においては、組合の債務についての組合員の個人責任については、現民法674条・675条の
分割責任を維持し、その例外として、「組合の構成員が事業者であって目的が収益事業を
営むものであるとき」には、連帯債務となるとする方向が示されている。
9
石井照久=鴻常夫『商行為法』61 頁(1993 年)。
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既に述べたように、本提案は、組合は、組合財産が存在している点で、通常の場合と区
別される十分な理由があるとの立場を採っているが、しかしなお、一定の場合には、組合
の営利性等を根拠に組合員に連帯債務を負わせてよい場合があろう。このことを規定する
ことも、本条の根本的な理念に矛盾するものではない。
7.同一の損害についての賠償責任
第3項は、不可分債務または連帯債務の不履行から生じる責任を念頭に置いている。単純
に共同不法行為であるときに関しては、推定は働かず、第5項の問題となる。また、共同行
為者の一方が不法行為責任を負い、他方が債務不履行責任を負う場合には、本文が適用さ
れる 10 。
なお、第3項も推定にとどまる。
8.可分債務への変更
第4項は、現民法431条と理念は同じだが、既に述べたように、債務が不可分であるが故
に、不可分債務となっているとき、その債務が可分となったときは、現民法431条を維持す
る限り、必ず分割債務になってしまうのでは、当事者の意思に反することがある。そこで、
ただし書において、不可分債務において、後発的に債務が可分になったときも、分割債務
ではなく、連帯債務になる旨の特約を認めることとした。
9.不法行為
第5項は、不法行為に関するものである。不法行為法は本検討委員会の検討対象ではない
が、現民法719条1項が「各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う」としている限り、
連帯債務に関する規律の改正は、共同不法行為に関しても一定の影響を与える。また、現
民法715条の規定する使用者責任に関しても、同条による使用者の負担する債務と現民法70
9条による被用者自身の債務とは、いわゆる不真正連帯債務の関係に立つというのが判例 11
である。そうすると、この点にも一定の影響を及ぼさざるを得ない。
本提案においては、共同不法行為については、ここに提案する内容を有する連帯債務の
規定が適用されても差し支えないと考えているが、なお、解釈論の余地はあり、不法行為
法の全面的な再検討をしないうちに、この点を変更することを企図していない。使用者責
任に関しても同様であり、さしあたっては解釈に委ねられることになる。
なお、「現行法を維持し」という文言を用いているが、これは現行法を改正すべきでは
ないとの積極的意味を含むものではない。本検討委員会では、不法行為法は改正の検討対
象とはしていない。したがって、解釈論の可能性も含め、将来に委ねるというだけである。
Ⅲ-3-2(分割債務)
(1)分割債務者は、自己の負担部分について、独立に債務を負う。
(2)前項の負担部分は、各債務者が等しい割合であると推定する。
(3)負担部分が等しい割合でないときも、それを知らない債権者に対抗することができ
10
ヨーロッパ契約法原則 10:102 第 2 項は、「連帯債務は、複数の者が同一の損害について
責任を負う場合にも生じる。」と規定しており、そのコメントにおいては、「これらの責
任の一つが契約上のものであり、他方が契約外のものであるときでもよい。」としている。
11
大判昭和 12・6・30 民集 16 巻 1285 頁。
7
本資料は全体会議における提案審議の参考資料として配布された執筆途上の原稿であり,未整理・不正確な部分が含まれています。
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ない。
(4)前項の規定により、自己の負担部分を超える履行をした債務者は、その履行により
負担部分より少ない義務の履行の責めのみを負うこととなった債務者に求償することが
できる。
* 427条(一部改正)
【提案要旨】
分割債務について、負担部分に関する規定を置くものである。
【解説】
1.現民法は、単に平等である旨を規定するが、内部関係は自由に定められることは前
提とされており、また、債権者が悪意であるときは、対外的にも分割額は異なってくると
解されている。そこで、この点を明文化した。これが、第2項・第3項である。
2.第3項で、負担部分が小さいことを債権者に対抗できない債務者が存在することにな
ると、求償の必要な場合が生じてくる。これを規定するのが、第4項である。
Ⅲ-3-3(不可分債務)
数人が不可分債務を負担するときは、連帯債務の規定を準用する。
* 430条(実質的維持)
【提案要旨】
不可分債務について、連帯債務の規定が準用される旨を規定するものである。
【解説】
不可分債務について、連帯債務と区別して規定を置く理由は、すでに述べたように、相
続の場面において連帯債務と違った取り扱いがされることと、言葉の問題である。したが
って、実質的な規定を用意する必要はない。
なお、債務者について相続が生じた場合の規律は、いちおう本検討委員会の検討対象外
である。もっとも、相続法の検討の結果、一定の結論が示されたとき、その条文を債権法
の箇所に置くことを妨げるものではない。
Ⅲ-3-4(連帯債務の履行の請求)
(1)数人が連帯債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の一人に対し、また
は同時にもしくは順次にすべての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求するこ
とができる。
(2)本法に規定するもののほか、連帯債務者の一人について生じた事由は、他の連帯債
務者に対してその効力を生じない。
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* 432条(維持)、440条(維持)
【提案要旨】
連帯債務の履行請求の仕方を規定することにより、連帯債務の性質の基本を明らかに
するものである。現民法432条と同じである。また、連帯債務者の一人について生じた事由
については、以下、なるべく網羅的に規定したが、なお漏れもありうるので、一般的に相
対的効力の原則を規定した。現民法440条と同じである。
【解説】
省略。
Ⅲ-3-5(連帯債務者に対する履行請求)
(1)連帯債務者の一人に対して履行を請求しても、他の連帯債務者に対して、その効力
を生じない。
(2)前項の規定にかかわらず、連帯債務者の間に協働関係がある場合には、連帯債務者
の一人に対する履行の請求は、他の連帯債務者に対して、その効力を生じる。
* 434条(改正)
【提案要旨】
現民法は、連帯債務者の一人について生じた事由は他の連帯債務者に対して効力が生じ
ないことを原則としながら(現民440条)、かなり広い範囲で絶対的効力事由を認めている
(現民434条~439条)。これに対しては、立法論的な批判が強い。そこで、相対的効力事
由の原則をより強化することとした。本条は、履行請求について、その旨を規定するもの
であるが、なお、一定の場合には、絶対的効力が生じることとしている。
【解説】
1.本条は、連帯債務者の一人について生じた事由について、その相対的効力の原則を
定めるものである。これは、広い範囲で絶対的効力事由を認める現民法とは異なるもので
はあるが、相対的効力を貫徹することは、債権者に一方的に有利になるわけではない。
2.その典型例が、請求の効力である。
現民法は、434条で、履行の請求を絶対的効力事由としている。たしかに、履行の請求に
絶対的効力を認めることは債権の効力を強化することとなる。しかし、債権の効力を強化
しようとする現行法下の学説においても、請求を受けなかった債務者が不知の間に遅滞に
陥り、また、時効の中断が生じることは妥当でないとの批判があるに注意をしなければな
らない。他方で、連帯債務者間で共同事業が営まれ、その事業について債務が負担された
場合のように、債務者の主観的な共同関係が強い場合については、請求を受けなかった債
務者が、他の債務者に請求があったことにつき実際には不知であったとしても、それは共
同関係のある債務者間に帰責されるべきものであると考えられる。
そこで、第1項では、請求の相対的効力を原則としながら、「連帯債務者の間に協働関係
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本資料は全体会議における提案審議の参考資料として配布された執筆途上の原稿であり,未整理・不正確な部分が含まれています。
今後の大幅な加筆修正が予定されていますので,許可なく引用や転載することを禁じます。
にある場合には、連帯債務者の一人に対する履行の請求は、他の連帯債務者に対して、そ
の効力を生じる。」とし、絶対的効力が生じることを明らかにした。
ここで、「共同で債務を負った」とせず、「協働関係」としたのは、Ⅲ-3-1(1)(ウ)と必
ずしも同一の基準で判断されないことを示すためである。すなわち、Ⅲ-3-1(1)(ウ) の関係
で、「共同で債務を負った」と判断され、連帯債務が生じる場合でも、なお、「協働関係」
が存在しないことがありうる。ここでの判断は、連帯債務者のうちのある者に対して請求
すれば、他の連帯債務者にも伝達されるような関係があるかどうかで判断される。
また、これ以外にも、特約によって、請求に絶対的効力を認めることを定めることも考
えられる。しかし、このときは、当該連帯債務者間に、請求の受領について代理権がある
と解されることになる。そして、代理権が存在すれば、代理人に対する請求が本人との関
係で効力が生じるのは当然であり、特に規定するまでもない。
3.同様の問題は不法行為についても存在する。
たとえば、タクシーの事故により怪我をした者が、運び込まれた病院で医療過誤にあっ
たとする。このとき、共同不法行為となるというのが判例 12 であるが、この事例について、
被害者が、病院に対してのみ請求をした場合を考えよう。このとき、タクシー会社は、「被
害者は、病院に対してのみ責任があると考えている」と判断し、自らに責任がないことを
明らかにする証拠を保管することを怠る可能性があり、これは、債権時効の趣旨からいっ
ても、タクシー会社についてのみ債権時効が完成することを認めるべき場合のように思わ
れる 13 。
もっとも、不法行為者間に(強い)主観的関連共同性が存在する場合には、請求の絶対
的効力を認めてもよい場合もある。
そうなると、本条第1項と同様の規律も考えられるところであるが、共同不法行為に関し
て適切な定めを置くことは、不法行為法の改正にあたって再度考えられるべきことのよう
に思われる。ただし、一人が不法行為による損害賠償債務を負い、他の者が債務不履行に
よる損害賠償債務を負うといった場合にも、両者の間は連帯債務となるが(Ⅲ-3-1(3))、
この場合については、本条第1項が適用される。
Ⅲ-3-6(一人の連帯債務者についての債権時効)
(1)連帯債務者の一人について債権時効期間の更新、進行の停止または満了の延期があ
ったときも、他の連帯債務者に対して、その効力を生じない。ただし、Ⅲ-3-5(2)が適用
される場合は、この限りでない。
(2)連帯債務者の一人のために債権時効の期間が経過したときは、その債務者は債権者
に対して履行を拒絶することができる。この場合において、債権者に対して履行した他
の連帯債務者が、当該債務者に対して求償権を行使することは妨げない。
(3)前項後段の規定にもかかわらず、その者のために債権時効の期間が経過した連帯債
12
最判平成 13・3・13 民集 55 巻 2 号 328 頁。
ここでは、共同不法行為者間に民法 434 条の適用はないとした最判昭和 57・3・4 判時 1042
号 87 頁を前提としているわけではない。
13
10
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務者が、他の連帯債務者との間に協働関係を有しない場合には、求償権の行使はできな
い。
* 439条(改正)
【提案要旨】
本条は、債権時効の完成につき相対的効力事由とする旨を規定するとともに、その際の
求償権について一定の規律を置くものである。
【解説】
1.本条は、債権時効について規定する。
本提案における連帯債務は、一人について生じる様々な事由につき、基本的に相対的効
力しか認めないものであり、また、債権時効に関連しては、Ⅲ-3-5(1)において、請求を相
対的効力事由としている。第1項では、他の債権時効期間の更新、進行の停止または満了の
延期の事由も、相対的効力しか有しないことを明らかにした。ただし、Ⅲ-3-5(2)に定める
例外はここにも適用される。
そうすると、一人の連帯債務者についてのみ債権時効の期間が経過することはまれでは
ないと思われる。このとき、本検討委員会の提案においては、債権時効に関して、それが
当然には債務の消滅をもたらさず、債権者に対する抗弁事由にとどまるとされているとい
う考え方が第Ⅰ案として提示されている。そうすると、期間の経過が相対的に生じると考
えるべきである 14 。
もっとも、債権時効について第Ⅱ案の消滅構成をとったときであっても、本提案におけ
る連帯債務の性格、すなわち相対的効力事由を中心とするものであることからすれば、期
間の経過も相対的に生じると考えるべきであろう。
2.問題は、このときの求償権のあり方である。
たとえば、ヨーロッパ契約法原則11:110は、時効の完成を相対的としながら(a号)、時
効の完成した連帯債務者に対する求償権は妨げられない(b号)、としており、次のように
説明されている。すなわち、「b号は、当該債務者の負担部分以上に弁済をした(その債務
について時効の完成していない)債務者を保護する必要性によって正当化される。そのよ
うな債務者は、債権者の不作為によって、時効が完成した債務者に対する求償権を奪われ
るべきではない。」 15 というわけである 16 。
上述のヨーロッパ契約法原則の起草理由はそれなりに説得的である。しかしながら、本
委員会の提案する債権時効制度の目的が、債務者とされる者を、自らが債務を負っていな
いことや弁済したことの証拠を保全することの負担から逃れさせようとするものにある限
14
同じく債権時効を債務の消滅事由ではなく、履行拒絶事由にとどまるとするヨーロッパ
契約法原則においても、時効は相対的効力事由とされ、「このルールは、本原則の 14 章に
おける時効の機能と平仄が合っている。」(ヨーロッパ契約法原則 10:110, comment)と説
明されている。
15
ヨーロッパ契約法原則 10:110, comment.
16
同様に、ユニドロア国際商事契約原則 1.8 条、イタリア民法 1310 条 2 項やドイツにおけ
る判例法理(RG 16 November 1908, RGZ 69, 422ff.)も、求償権を認める。
11
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り、債権時効が完成した連帯債務者も、その負担から免れることができなければおかしい
ことになる。たとえば、連帯債務者の一人とされた者が、実際には債務を負っていなかっ
たとしよう。このとき、債権時効の期間が経過すれば、当該連帯債務者は、その証拠を保
全しなくてもよい地位を得られる(これは抗弁構成でも、消滅構成でも同じである)。し
かるに、別の連帯債務者が弁済した上、求償権を行使してきたとき、それに応じなければ
ならないのだとすると、債権時効の期間が経過した者は、自らが債務を負っていないこと
の証拠を保管しないことによって不利益を被りうる。これは、債権時効の制度趣旨に反す
ることになる。
3.そこで、本提案では、両者の考え方を折衷し、債権時効の期間が経過した者が、自
らが債務を負っていないことや弁済したことの証拠を保全することが期待できない場合と、
期待できる場合とに分け、後者の場合には、求償権を認めることとした。そして、その基
準として、「他の連帯債務者との間に協働関係が存在しない場合」という概念を採用した。
ここで「協働関係が存在する場合」として念頭に置かれているのは、連帯債務者間に共
同事業などが存在し、その事業のために債務負担がされる場合である。このような場合に
は、債権時効の期間が経過した連帯債務者であっても、自らと共同事業を営む他の連帯債
務者が債務を負っている限り、証拠の保全の負担を負い続けることがあっても、酷ではな
い。そもそも、そのような場合、債務負担の利益を共同で得ていると思われ、一人だけ一
切の免責を受けるのは妥当でないといえる。
したがって、ここにいう「協働関係」を有するか否かは、債権時効の完成した連帯債務
者に、上記の証拠の保全が期待できる状況にあるか否かを基準に判断されることになる。
4.もっとも、債権時効の完成が抗弁事由となるにとどまると解するときは債務自体が
消滅しているわけではないこと、および、債権時効が債権者との関係であるのに対し求償
権はもっぱら内部関係であり、内部の取り決めの問題であること、に鑑み、債権時効の期
間が経過したときであっても、なお他の債務者からの求償を受けるとすることを原則とし、
求償権の不存在を主張する者、すなわち債権時効の期間が経過した連帯債務者が、「他の
連帯債務者との間に協働関係が存在しない」ことを立証するのが妥当であると考えられる。
求償権が不存在となる場合を第2項に置いたのは、その趣旨である。
5.なお、求償権の帰趨がどうあれ、債権者の地位には影響しない。債権者Aに対して、
BおよびCが連帯債務を負っており、Cについて債権時効の期間が経過し、Cがその履行
を拒絶し、Bが全部の履行をした場合を考える。このとき、第2項の規定に従ってBから求
償を受けたC、および、第3項に従ってCに求償しえなかったBは、債権者Aに対して、C
の負担部分について求償したり、その部分について履行を拒絶したりすることはできない。
求償はあくまで内部問題なのである。債権者Aは、誰からでも全額の回収ができる地位を
自分の利益のために有しているのであり、その地位を他の連帯債務者のために確保してお
く義務はない。
Ⅲ-3-7(一人の連帯債務者に対する免除)
(1)連帯債務者の一人に対する免除は、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。
(2)現民法445条は、廃止する。
12
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* 437条(改正)、445条(廃止)
【提案要旨】
免除についての現民法の規律を変更し、相対的効力事由であることを明示するものであ
る。
【解説】
1.免除については、現行法437条が、いわゆる負担部分型絶対的効力事由としている。
しかしながら、この規定は、当事者意思の解釈としての批判が強く、むしろ債務者に一
人に対する免除は、その者に対しては訴求しない旨の意思表示であると解すべきだとされ
ている。この点はもっともであり、そこで、本提案では、相対的効力しか生じないとして
いる。
2.他の連帯債務者に対して効力を生じないわけだから、求償権に影響を及ぼさないこ
とも当然である。Ⅲ-3-6【解説】5.述べたところも同様に妥当する。
もっとも、Ⅲ-3-6(3)のような規律が必要だと思われるかもしれない。しかしながら、免
除を受けたことによりもはや証拠の保全が期待できないという場面は、実際には債務を負
っていない者が免除を受けたため、そもそも債務を負っていないことを示す証拠をもはや
保全しなくなる、というときに限られるのであり、そのような例外的場面に対処する必要
はないであろう。
3.なお、第1項の「免除」は、現民法445条の規定する「連帯の免除」を含む。債権者
は、連帯の免除をしたからといって、他の連帯債務者の中に資力を有しない者が存在する
ときは、自らが負担を被るとは考えていないのが通常であり、現民法445条の規律は、当事
者意思の解釈として批判が強い。
そこで、「連帯の免除」についても、その者には、一定額以上の請求をしないという趣
旨だと解釈すべきであり、相対的効力事由にとどまることとした。
Ⅲ-3-8(一人の連帯債務者についての更改、一人の連帯債務者との和解)
(1)連帯債務者の一人と債権者との間の更改は、他の連帯債務者に対してその効力を生
じない。ただし、更改後の債務が履行された場合は、履行した債務者は、その出捐した
額を限度として、他の連帯債務者に対して、その負担部分の割合に応じて求償すること
ができる。
(2)連帯債務者の一人との間で和解がされたときも、同様とする。
* 435条(改正)
【提案要旨】
更改についての現民法の規律を変更し、相対的効力事由であることを明示するとともに、
更改を受けた債務者が履行した場合の求償権のあり方について、特別の規律を置くもので
ある。また、現民法には存在していない和解についても、相対的効力事由とすることを明
記する。
13
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【解説】
1.現民法435条は、更改がされたときは、旧債務は、すべての連帯債務者の利益のため
に消滅するとしている。しかし、これは、当事者の意思は債権全部について更改する趣旨
であったと推測するものにすぎないとされており、更改の認定はきわめて慎重になされる
べきであり、かつ、反対の特約は認められるとするのが通説である。
これをさらに進めて、免除を相対的効力事由とする限り、更改についても、相対的効力
事由とするのが妥当である。現民法に関して、学説上も、相対的効力事由とすべきことが
説かれていた 17 。
2.たとえば、B、C、Dの3人の連帯債務者(負担割合は平等)が、債権者Aに3000万
円の連帯債務を負っていたところ、AとBとの合意により、Bの債務がBの土地(価格200
0万円)を債権者に移転するという債務に更改されたとする。このとき、Bは、もはや土地
の移転の債務のみを負い、3000万円の支払いを訴求されることがなくなるのは当然である
が、免除ですら相対的であるとき、C・Dが3000万円の支払債務を免れる理由はないと思
われる。したがって、C・Dは、3000万円の支払債務を負い、その弁済をしたときは、B
に対しても1000万円を求償していくことができる。
3.これに対して、上記の事例で、Bが、土地の引渡債務を履行したことによって債務
が消滅したときは、C・Dに対して、1000万円を求償できるのはおかしい。そこで、Bの
求償権は、更改後の債務の履行として出捐した額を限度とすることになる。これを規定す
るのが、ただし書である。
4.上記の事例でBの土地の価格が4000万円であったときは、Bは、CおよびDに対し
て1000万円しか求償できない。CおよびDの負担部分は1000万円だからである。
5.1000万円の債務について、ある連帯債務者との間で、800万円で和解が成立したとき
には、相対的効力しか認めるべきではない。200万円の免除と同様だからである 18 。
もっとも、和解においては、債務の増額もありうる。そこで、更改とともに規定するこ
ととした。
Ⅲ-3-9(一人の連帯債務者についての混同)
連帯債務者の一人と債権者との間に混同があったときは、その連帯債務者は、弁済を
したものとみなす。
* 438条(維持)
【提案要旨】
混同についての現民法の規律を維持するものである。
17
西村信雄編『注釈民法(11)』84~84 頁〔椿寿夫執筆〕(1965 年)参照。
和解については、現民法においても、440 条が適用され、相対的効力となるとされている
が、そこに債務免除となる部分が含まれていれば、その限度では、免除に関する現民法 437
条が適用されるとするのが判例(大判大正 3・10・29 民録 20 輯 834 頁)であり、学説にも
異論はない。
18
14
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【解説】
1.現民法438条は、混同を弁済と同視するが、本検討委員会の提案でも、V-7-1 19 は、混
同を債権の消滅原因として位置づけている。したがって、現民法を維持することとした。
2.もっとも、債権者Aが、B、C、Dを連帯債務者とする債権30を有し、B、C、D
の負担部分は等しいとき、AがBを単独相続し、混同が生じた場合を考えると、Aは、C、
Dを連帯債務者とする債権20を有することになるとするのが合理的だとの見解もありうる。
そして、このような結果は、混同した債務者の負担部分についてのみ消滅する、という規
律にすればもたらすことができる。
しかしながら、C、Dのうち、Dが無資力であるときを考えると、Dの無資力の危険を
Cのみに負わせるのは妥当でなく、上記の例でA(=B)に対して20を弁済したCは、B
に対して、5の求償ができるようにすべきだと思われる。しかるに、本提案のような立場を
採ったときも、本提案におけるⅢ-3-13(1)(現民法444条と同じ)を適用すると、Bおよび
Cの負担部分は15となり、同じことになる。
以上から、現民法を維持するのが結論として妥当であると思われる。
3.なお、判例 20 には、運行供用者責任が競合する場合につき、両債務は不真正連帯債務
であり、その一方の債務が被害者との混同によって消滅しても、現民法438条は適用されず、
他方の債務には影響を及ぼさない、とするものがある。
しかし、この事案は、自動車損害賠償責任保険との関係で、他方加害者の債務は全額存
続させた方が被害者に有利な事案だったのであり、例外として処理すべきであろう。
Ⅲ-3-10(他の連帯債務者による相殺権の援用)
現民法436条2項は、廃止する。
* 436条(削除)
【提案趣旨】
現民法436条2項は、連帯債務者の一人が有する相殺権を、他の連帯債務者が援用するこ
とを認めているが、これを廃止するものである。
【解説】
1.現民法436条2項は、連帯債務者の一人が有する相殺権を、他の連帯債務者が援用す
ることを認めている。判例 21 および一部の学説は、この「援用」の意味について、まさに他
の連帯債務者は、別の連帯債務者の相殺権を行使できるとしているが、これでは、他人の
19
「債権及び債務が同一人に帰属したときは、その債権は、混同によって消滅するものとす
る。ただし、その債権が第三者の権利の目的であるときは、その債権は消滅しないものと
する。」
20
最判昭和 48・1・30 判時 695 号 64 頁。
21
大判昭和 12・12・11 民集 16 巻 1945 頁。
15
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債権を勝手に処分することができることになるので、相殺権を有する連帯債務者の負担部
分の範囲で、他の連帯債務者は弁済を拒絶できるという抗弁権説が、学説上はむしろ有力
である。
2.たしかに、他の連帯債務者に相殺権の援用を認めることによって、法律関係を単純
化できることがある。しかしながら、債権者に対して複数の債務を負う連帯債務者は、自
らが有する債権との相殺によって、どの債務を消滅させるかの選択権を有しており、これ
を侵害することを認めるのは妥当でない。立法例にも、相殺権の援用を否定するものが多
い(ドイツ民法422条2項、フランス民法1294条3項)。また、抗弁権説を採用しても、この
選択権を事実上、害することとなる。その時点での選択を強要されることになるからであ
る。
そこで、援用権・抗弁権は否定することとしたが、その結論は、援用権・抗弁権を認め
る旨の規定が存在しなければ当然に導かれるので、単に現民法436条2項を削除することと
したわけである。
3.この点で、本検討委員会の提案Ⅲ-4-7(2)において、保証債務に関して、「主たる債
務者が債権者に対して相殺権、取消権又は解除権を有するときは、保証人は、その限度で、
債権者に対する履行を拒むことができる。」としていることとの整合性が問題になると思
われるかもしれない。
しかしながら、保証人の債務は、主たる債務に従属的であり、連帯債務の場合と同様に
考えることはできない。
4.なお、現民法436条1項は、「連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合
において、その連帯債務者が相殺を援用したときは、債権は、すべての連帯債務者の利益
のために消滅する。」としているが、相殺が債権消滅の効果をもたらすものである以上、
当然のことであり、規定の必要はない。現民法436条の意味は、むしろ第2項にあるといわ
れているのであり、第2項を削除するときは、第1項の規定の必要もなくなるのである。
Ⅲ-3-11(連帯債務者についての破産手続の開始)
現民法441条は、廃止する。
* 441条(削除)
【提案趣旨】
現民法441条は、連帯債務者の全員又はそのうち数人が破産手続開始の決定を受けたとき、
債権者は、その債権の全額について各破産財団の配当に加入することができる旨を定める
が、これを廃止するものである。
【解説】
1.現民法441条は、連帯債務者の全員又はそのうち数人が破産手続開始の決定を受けた
とき、債権者は、その債権の全額について各破産財団の配当に加入することを認めている。
しかしながら、この規定の内容を含め、「全部の履行をする義務を負うものが数人ある
16
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場合等の手続参加」については、破産法104条が、さらにくわしい規定を置いており、現民
法441条の独自の意義は存在しない。そして、この規律が、連帯債務の性質から演繹的に決
定されるかといえば、そうでもなく、破産手続を含めた倒産手続における債権者間の公平
の観点から決せられるべき事柄である。
そこで、本提案では、民法の条文としては、現民法441条を廃止し、これを破産法を含め
た倒産諸法における規律に委ねることとした。
2.ただし、このように言うことは、必ずしも現行破産法の規律が妥当であることを意
味するものではない。
Ⅲ-3-12(連帯債務者間の求償)
(1)連帯債務者の一人が債務を弁済し、その他自己の財産をもって、債務の全部又は一
部について、共同の免責を得たときは、その連帯債務者は、他の連帯債務者に対し、各自
の負担部分について求償権を有する。
(2)前項の求償権は、弁済した連帯債務者が、自己の負担部分の範囲内で弁済した場合
にも発生する。
(3)連帯債務者の一人が債権者との間で代物弁済をした場合には、債務者は、その出捐
した額を限度として、他の連帯債務者に対して、その負担部分の割合に応じて求償するこ
とができる。
(4)第1項の規定による求償は、弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避ける
ことができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。
* 442条(修正)
【提案趣旨】
連帯債務者間の求償権に関する現民法442条につき、一部、判例・通説に従った解釈を明
文化するとともに、若干の補足を施すものである。
【解説】
1.第1項・第4項は、現民法442条と同じである。
なお、この点で、連帯債務者の負担部分を平等であると推定するか否かが問題となる 22 。
たしかに、平等を推定することは、不明であるときの処理に資するが、内部的な関係であ
り、契約その他に委ねれば足りると思われる。
平等を推定するときも、たとえば、共同不法行為者の損害賠償義務を連帯債務とした場
合、平等を推定し、その推定を覆す負担を不法行為への寄与が小さな者に負わせるのは妥
当でないことには注意を要する。
22
ヨーロッパ契約法原則 10:105 条、OHADA10/11 条第 1 項、PICC 草案 1.10 条は平等を推定
する。各国法では、ドイツ民法典 426 条 1 項、スイス債務法 148 条 1 項、イタリア民法典
1298 条 2 項、ケベック民法典 1537 条 1 項、カンボディア王国民法典 922 条 5 項などが、平
等を推定する。
17
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2.第2項は、現在、解釈論上、若干争いのある点を判例 23 ・通説に従って明文化した。
逆の規律も考え得るところであるが、弁済した額について共同免責が生じている以上、求
償を認めるのが妥当であろう 24 。
3.第3項は、1000万円の連帯債務を負っているとき、800万円相当の不動産による代物
弁済がされたときを念頭に置いている。その趣旨は、Ⅲ-3-8【解説】3参照。
Ⅲ-3-13(求償の制限)
(1)連帯債務者の中に償還をする資力のない者があるときは、その償還をすることがで
きない部分は、求償者及び他の資力のある者の間で、各自の負担部分に応じて分割して
負担する。負担部分のある者がすべて無資力のときには、資力のある者が、求償者とと
もに、平等の割合で分割して負担する。
(2)前項の規定は、求償者が適宜に必要な措置をとらなかったことによって償還を得ら
れなかった部分については適用しない。
* 444条(修正)
【提案趣旨】
現民法444条と基本的に同じであるが、判例・通説に従って、一部追加し、また文言を修
正するものである。
【解説】
1.現民法444条と基本的に同じである。
もっとも、負担部分のある者が全部無資力であり、負担部分のない者が数人あって、そ
のうちの一人が弁済をしたときについては、負担部分のない、しかし無資力でない者の間
で、平等に負担するというのが判例 25・通説であり、この点は、現民法の条文からは明確で
ない。そこで、この点を第1項後段において明らかにした。
そして、この後段の規定により、負担部分のある者のうち一部が無資力のときには、負
担部分のない者に対しては、分担を求め得ないことが明らかにされている。判例 26 には、こ
れを肯定すると思われるものがあるが、負担部分がない者が負担することになるのは、あ
くまで例外だと考えるべきであり、負担部分がある連帯債務者に資力のある者がいる以上、
原則通り、負担部分がある者が負担すべきであろう。
2.ただし、現行444条ただし書が、「求償ができないことが、求償者に過失があるとき
は、他の連帯債務者に対して分担を請求することができない。」とする点につき、文言を
修正した。内容を変更する趣旨ではないが、「過失」について、その内容を明確にすると
23
大判大正 6・5・3 民録 23 輯 863 頁。
この点は、明文上、明らかになっていない法典が多い。これに対して、ヨーロッパ契約
法原則 10:106 条第 1 項、ユニドロア国際商事契約原則 1.11 条、オランダ民法典 6.1.2.4
第 2 項は、その債務者の負担部分を超えた履行をしたことを求償の要件とする。
25
大判大正 3・10・3 民録 20 輯 731 頁等。
26
大判昭和 12・1・20 法学 6 巻 5 号 121 頁。
24
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今後の大幅な加筆修正が予定されていますので,許可なく引用や転載することを禁じます。
ともに、分担を求め得なくなる額が、求償者の不注意により償還を得られなかった額に限
ることを明らかにした。
なお、典型例としては、償還義務者の破産手続に配当加入しなかったときが考えられる。
「時機を失したため求償できなくなった」という説明がなされることがあるが、求償者に
は、即時に求償する義務があるわけではないので、求償しないでいるうちに資力が悪化し
たからといって、当然には「適宜に必要な措置をとらなかった」とはいえないと思われる。
Ⅲ-3-14(通知を怠った連帯債務者の求償の制限等)
(1)現民法443条1項および現民法433条は、廃止する。
(2)連帯債務者(以下、「先弁済者」という。)の一人が弁済をし、その他自己の財産
をもって共同の免責を得たことを他の連帯債務者に通知しなかったため、他の連帯債務
者(以下、「後弁済者」という。)が善意で弁済をし、その他有償の行為をもって免責
を得たときは、後弁済者は、自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったも
のとみなすことができる。ただし、先弁済者が後弁済者に対して通知をしなかったこと
が、その存在を知らなかったことその他の正当な理由に基づくときは、この限りでない。
(3)前項の規定は、後弁済者が、自己の弁済その他免責のためにした行為を先弁済者に
通知する前に、先弁済者から求償を受けたときには適用しない。ただし、後弁済者が先
弁済者に対して通知をしなかったことが、その存在を知らなかったことその他の正当な
理由に基づくときは、この限りでない。
* 443条1項(廃止)、同条2項(改正)、433条(廃止)
【提案趣旨】
現民法443条1項および現民法433条を廃止し、他方、現民法443条2項については、現行法
を維持しながら、学説に従って一定の例外を規定する。その上で、現民法443条1項を廃止
し、同条2項を維持することによって生じる問題点を解消するために、一定の規律を置くも
のである。
【解説】
1.まず、現民法443条1項は削除すべきである。
同条の規律は、弁済をしようとする債務者が、他の連帯債務者の存在を知り得ないとき
には、とりわけ不当であり、共同関係のない債務者同士の間では適用されないとする見解
が有力である。しかし、共同関係のある債務者同士であっても、その規律は合理的だとは
いえないと思われる。
同条にいう「債権者に対抗することができる事由」の典型例は、相殺の抗弁だとされて
いるが、他の連帯債務者は、一人の連帯債務者が相殺権を行使できるようにする義務を負
っているとは解し得ない。連帯債務者は、弁済期が到来すれば、即時に弁済する義務を負
っているのであり、その際、通知をする義務を課するのは妥当でない。この点で、とりわ
け委託を受けない保証人の場合には、異なった処理が必要となる(Ⅲ-4-10(3)参照)。
さらには、履行の請求を受けた連帯債務者が、他の連帯債務者が相殺権を有することを
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知ったとしても、本提案では、Ⅲ-3-10により民法436条2項を廃止することとしているので、
結局は履行せざるを得ないことになってしまうのである。
2.これに対して、一人の連帯債務者が、錯誤・詐欺・強迫等を理由とする無効主張の
権利または取消権を有していた場合はどうか。まず、そのような原因の存在は、他の連帯
債務者の債務の効力を妨げるものではない。現民法433条はその旨を明文をもって規定する
が、当然のことであり、本提案ではこれを廃止することとしている(ただし、連帯債務者
の一人について法律行為の取消原因等があることが、他の連帯債務者の法律行為につき、
錯誤があることになり得ることは別問題である。)。そして、取消権等を有する連帯債務
者が求償を受けたときは、まず、取消権を行使すべきであり、そうすれば、現民法121条の
適用により、当該連帯債務者はさかのぼって連帯債務者ではないことになるから、求償を
受けないことになる。あえて、明文で規定することではない。
3.以上より、現民法443条1項は廃止することとしたが、もちろん、連帯債務者間の関
係に基づいて、それらの者の間で特約を締結することは自由である。
4.(1)次に、現民法443条2項の規律についても、これが、弁済をした債務者が、他
の連帯債務者の存在を知り得ないときには、とりわけ不当であることは、1で述べたとこ
ろと同様である。
しかし、これを削除するのもまた妥当でなく、ただし書として、「通知をしないことが、
その存在を知らなかったことその他の正当な理由に基づくときは、この限りでない。」と
規定することにより、上記の批判に対応することとした。
なぜならば、連帯保証人の一人によって弁済がされた状況は、他の連帯債務者にとって
みれば、一定の支払をすべき相手が変更するという意味で、あたかも債権譲渡がされたの
と同様の状況にあるからである。そして、債権譲渡について、一定の権利行使要件を要求
し、債務者に債権譲渡の事実を通知するようにしている以上、ここでも、通知を要求する
のが妥当であることになる。
そこで、Ⅲ-3-13(2)の規律となる。
なお、「その他の正当な理由」とは、たとえば、先弁済者が、自らの通知以外の方法に
より、後弁済者が先弁済者の弁済等の事実を知っていると信じ、かつ、そう信じたことに
過失がなかった場合が考えられる。
(2)さらに、「通知しなかったため」という文言について一言しておく。
この「ため」という文言は、通知しないことが弁済の原因になっていることまでを要求
するものではない。言い換えれば、自己の免責行為を有効であると主張する連帯債務者は、
自己の弁済と通知のないこととの間に因果関係の存することまでを証明する必要はない。
文言上は誤解を招きかねないが、さしあたって現民法443条2項の文言に従った。
5.もっとも、このように、現民法443条1項を廃止し、同条2項を維持すると、いわば遅
い者勝ちになる可能性がある。現民法においては、現民法443条1項による事前通知義務が
定められているので、後に弁済等をする者が、事前通知を行わなかったときには、現民法4
43条2項の規定は適用されない、とする処理が可能であり、それが判例 27 ・通説となってい
る。しかし、現民法443条2項だけを存続させると、先に弁済等を行った連帯債務者が、他
27
最判昭和 57・12・17 民集 36 巻 12 号 2399 頁。
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の連帯債務者に通知をしないでいたところ、他の連帯債務者が弁済等を行えば、その者の
弁済等の行為が有効とみなされ、かつ、その者は先に弁済等をした連帯債務者に通知の必
要もないことになりそうなのである。そうすると、双方が通知をしなかったときは、後の
弁済等だけが有効になることになってしまう。
そこで、「前項の規定は、後弁済者が、自己の弁済その他免責のためにした行為を先弁
済者に通知する前に、先弁済者から求償を受けたときには適用しない。」とすることによ
り、後に弁済等を行った者が事後通知を怠ったときには、後の弁済等を有効とみなすとい
う利益を与えないこととした。
このことにより、双方が通知をしないうちに求償が行われれば、先に弁済等をした者が
優先することとなり、遅い者勝ちではなくなる。
6.第3項にも、第2項と同様のただし書が付されているが、ここで、「その存在を知ら
なかった」ということには、先弁済をした当該連帯債務者の存在についてのみであり、先
弁済の事実は含まれない。先弁済者の弁済等の事実を知らなくても、先に弁済等をした者
について、その者が連帯債務者の一人であることを知っているならば、その者に対して通
知をさせても、後弁済者に酷ではないからである。
もっとも、後の弁済等が有効とみなされるのは、あくまで例外であると考えるならば、
第3項については、あえてただし書の必要性はないのではないか、と思われるかもしれない。
しかし、第2項が適用されるのは、先弁済者が、後弁済者の存在を知っているとき等である。
そうすると、第3項ただし書が適用される場合とは、先弁済者が後弁済者の存在を知ってお
り、かつ、後弁済者が先弁済者の存在を知らないときである。このときは、通知の懈怠に
ついて、先弁済者の方がより責められるべきであって、後弁済者を保護することが妥当で
あると思われる。
21
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2
多数の債権者
Ⅲ-3-15(分割債権、連帯債権、不可分債権)
(1)同一の債権につき、数人の債権者があるときは、次に定めるところに従い、分割債
権または不可分債権を有する。
(ア)債権がその性質上可分であり、かつ、連帯債権とならないとき
分割債権
(イ)債権がその性質上可分であり、かつ、債権者と債務者との間に連帯債権とする
合意のあるとき、または法律上、Ⅲ-3-18の効力が生じるとき
(ウ)債権がその性質上不可分であるとき
連帯債権
不可分債権
(2) 不可分債権は、債権が可分となったときは、分割債権となる。ただし、債権者と
債務者との間であらかじめ反対の合意をしていれば、連帯債権となる。
* 427条(維持)、428条(改正)、431条(基本的に維持)
【提案趣旨】
分割債権と不可分債権とを現民法に従って規定するとともに、学説・裁判例に見られる
連帯債権について規定する。
【解説】
1.現民法では、分割債権と不可分債権とが規定されている。もっとも、債権の発生原
因の性質によって、これらとは別の中身をもった債権が生じうることは当然である。
2.これに対して、学説上は、総有債権、合有債権、連帯債権、準共有債権が説かれ、
このような概念を導入すべきか否かが問題となる。
まず、総有債権は、その例として、権利能力なき社団の債権が挙げられる。これは、社
団法理の問題として、「権利能力なき社団」という単数の債権者に帰属する債権であると
考えれば足りると思われる。
次に、合有債権としては、組合の債権、信託財産たる債権(信託法79条)が挙げられる。
これも、発生原因の性質上、そのような債権として発生すると考えれば足りる。
以上に対して、連帯債権は、いくつかの裁判例において見られる 28 。また、解釈論上も、
現民法における債権の二重譲受人の債務者に対する権利について、連帯債権とする学説が
見られる。このような裁判例・学説に基礎を与えるためには、いちおうは連帯債権の概念
についても規定しておいた方がよいと思われる。
以上から、現民法にも定めのある分割債権と不可分債権のほかに、連帯債権について規
28
多くは、同一損害に対する複数人の損害賠償債権である。たとえば、横浜地判平成 13・5・
31 判時 1777 号 93 頁、東京地判平成 14・9・26 判時 1806 号 147 頁、東京地判平成 16・7・
2 判時 1890 号 127 頁、神戸地判平成 18・3・28 交通民集 39 巻 2 号 396 頁、神戸地判平成
18・5・16 交通民集 39 巻 3 号 665 頁。そのほかに、現民法 613 条 1 項の関連で、賃貸人の
転借人に対する賃料請求権と転貸人の転借人に対する賃料請求権との関係につき、東京地
判平成 14 年 12 月 27 日判時 1822 号 68 頁。ほかにもいくつかの例がある。また、当事者の
合意によるものが、東京地判平成 16・11・24TKC28100059、東京地判平成 20・9・30TKC28142143
に例が見られる。
22
本資料は全体会議における提案審議の参考資料として配布された執筆途上の原稿であり,未整理・不正確な部分が含まれています。
今後の大幅な加筆修正が予定されていますので,許可なく引用や転載することを禁じます。
定することとした。これによって、多数当事者の債務関係とのパラレルな関係も生じるこ
ととなる。
3.連帯債権と不可分債権とは、とくに効果が異なるわけではない。連帯債務と不可分
債務の区別について述べたように、後者は債権が不可分であるとき、それを連帯債権と呼
称するのは不自然である、ということである。
そこで、債権が性質上不可分であるときは、不可分債権とし、連帯債権は可分であると
きにのみ成立するものとした。もっとも、これは当事者の合意によるもののほかは、実体
的な関係の解釈によってもたらされる。そこで、いささかトートロジカルではあるが、「法
律上、Ⅲ-3-18の効力が生じるとき」を連帯債権の発生原因の一つとした。
なお、連帯債務との関係で言えば、「共同で債権を取得したとき」などといった発生原
因を認めるべきだとも思われるかもしれない。しかしながら、債権の場合には、利益取得
が債権者なのであり、また、誰がいくら請求できるかは債務者の立場にも大きく影響する
ことから、合意のある場合にとどめることが妥当だと思われる。
また、現民法上は合意による不可分債権が認められているが、これは、債権が性質上可
分であるときは、連帯債権の合意となる。
3.第2項は、現行431条と理念は同じだが、既に述べたように、債権が不可分であるが
故に、不可分債権となっているとき、その債権が可分となったときは、現民法431条を維持
する限り、必ず分割債権になってしまうのでは、当事者の意思に反することがある。そこ
で、ただし書において、不可分債権において、後発的に債権が可分になったときも、分割
債権ではなく、連帯債権になる旨の特約を認めることとした。
Ⅲ-3-16(分割債権の効力)
(1)分割債権者は、自己の権利部分について、独立に債権を有する。
(2)前項の権利部分は、各債権者が等しい割合であると推定する。
(3)権利部分が等しい割合でないときも、それを知らない債務者に対抗することができ
ない。
(4)前項の規定により、自己の権利部分を超える履行を受けた債権者は、その履行によ
り権利部分より小さい債権しか有しなくなった債権者に償還の義務を負う。
* 427条(修正)
【提案趣旨】
現民法427条を基本的に維持するが、各債権者の権利割合について、確立された学説に従
い、一定の規律を置き、あわせて、それによって必要となる規定の整備をおこなった。
【解説】
1.第1項は、現民法427条を変更する趣旨ではない。これに対して、第2項に関連して、
現民法427条は、単に各債権者が平等の割合で権利を有する旨を規定している。しかし、内
部関係は自由に定められることは前提とされており、また、債務者が悪意であるときは、
対外的にも分割額は異なってくると解され、この点に異論はない。そこで、その旨を明文
23
本資料は全体会議における提案審議の参考資料として配布された執筆途上の原稿であり,未整理・不正確な部分が含まれています。
今後の大幅な加筆修正が予定されていますので,許可なく引用や転載することを禁じます。
化することとした。
2.第3項の規律は、債権の準占有者に対する弁済としても処理が可能だが、債権者から
の請求のないままに、債務者から弁済した場合においても適用される。第4項は当然の規定
であろう。
3.なお、理論的には、債権が分割される限り、そこには多数当事者の債権債務関係は
存在しないことになる 29 。しかし、現行民法との連続性も考え、ここに規定することとした。
Ⅲ-3-17(不可分債権)
数人が不可分債権を有するとき、連帯債権の規定を準用する。
* 新設
【提案要旨】
不可分債権について、連帯債権の規定が準用される旨を規定するものである。
【解説】
不可分債権について、連帯債権と区別して規定を置く理由は、債権が性質上不可分であ
るときに、あえてそれを連帯債権と呼称するのは不自然であることに理由がある。具体的
な規律は、連帯債権と同様でよい。
Ⅲ-3-18(連帯債権の履行の請求)
数人の連帯債権者があるときは、各債権者はすべての債権者のために履行を請求し、債
務者はすべての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる。
* 428条(実質的維持)
【提案要旨】
不可分債権に関する現民法428条を、連帯債権に関するものとして維持するものである。
【解説】
とくに解説の必要はない。
Ⅲ-3-19(連帯債権者の1人について生じた事由等の効力)
(1)連帯債権者の一人が次の行為をした場合においても、他の連帯債権者は、債務者に
対して全部の履行を請求できる。
(ア)債務の免除
(イ)更改
29
注(4)参照。
24
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今後の大幅な加筆修正が予定されていますので,許可なく引用や転載することを禁じます。
(ウ)債務者からの代物弁済の受領
(エ)和解
(2)連帯債権者の一人と債務者との間に混同があったときは、前項と同様とする。
(3)第1項及び第2項に規定する場合において、債務者が、債務の履行をしたときには、
履行を受けた債権者は、第1項又は第2項に規定する事由により権利を失った連帯債権者
がその権利を失わなければ分与される利益の価額を債務者に償還しなければならない。
* 429条(実質的維持)
【提案要旨】
不可分債権に関する現民法429条を、連帯債権に関するものとして原則として維持しなが
ら、代物弁済、和解、混同について、明確化を図るものである。
【解説】
1.現民法429条と本質的な違いはないが、代物弁済についても、更改+履行と同様に解
されるため、同様の規定とした。また、和解も、一部免除や代物弁済と同様に考えられる。
混同については、現民法429条2項が適用されるとするのが判例 30 ・通説だが、第2項に明
文として規定した。
2.若干問題なのが、相殺である。
相殺については、現民法では、429条2項の原則により、相対的効力しか生じない、つま
り、不可分債権者の一人が債務者との間で相殺を行っても、他の不可分債権者は債務の全
部の履行を請求できると解されている。しかし、債務者からの相殺を考えると、これは、
債権者の一人に対して履行をしたことに他ならず、債務の消滅をもたらすことになる。に
もかかわらず、相殺の意思表示を先に行ったのが不可分債権者の一人である場合にだけ、
相対的効力とするのは不当であろう。
そこで、本提案では、不可分債権者の一人からの相殺も債務全部を消滅させるという前
提をとる。しかし、これを、不可分債権者の一人に対して履行がされたことに他ならない
と考えるならば、特別の規定は不要であり、明文は設けていない。
3.第3項は、現民法429条後段であるが、通説に従って、償還すべき者が履行を受け
た債権者であること、および、給付された物が金銭以外の場合でも、償還すべきなのは、
現物(持ち分)ではなく、その価額であることを、明確にした。
30
最判昭和 36・3・2 民集 15 巻 3 号 337 頁参照。
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