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博 士 論 文 熱帯湖岸生態系の 植生学的研究と持続的マネジメント
博 士 論 文 熱帯湖岸生態系の 植生学的研究と持続的マネジメント − カンボジア・トンレサップを例に − Vegetation study and sustainable management on a tropical floodplain ecosystem - A case of the Tonle Sap area, Cambodia - 国立大学法人 横浜国立大学大学院 環境情報学府 荒木 祐二 Yuji ARAKI 2007 年 6 月 論 文 要 旨 1. 研 究 の 背 景 と 目 的 カ ン ボ ジ ア の 中 央 に 位 置 す る ト ン レ サ ッ プ 湖 は ,湖 岸 に 広 大 な 湿 地 生 態 系 を 有 す る 東 南 ア ジ ア 最 大 の 淡 水 湖 で あ る 。 雨 季 の 最 高 水 位 期 ( 10月 ) に は , 湖 面 面 積 が 乾 季 の 5倍 以 上 に な り , 水 位 は 10m上 昇 す る 。 低 平 な 湖 岸 域 に 広 がる氾濫原は,立地環境の季節的変動・空間的環境の複雑性が顕著であり, 生 物 多 様 性 に 富 ん だ 地 域 と な っ て い る 。し か し ,こ の 地 域 は ,永 年 の 戦 乱 の 影 響 に よ り ,植 物 資 源 の 実 態 解 明 に か か わ る イ ン ベ ン ト リ ー( 博 物 学 的 記 載 ) 調 査 ,生 態 学 的 調 査 が ほ と ん ど 行 わ れ て い な い 。本 研 究 で は ,特 に ,湖 岸 に 幅 4kmで 広 が る 熱 帯 氾 濫 原 ・ 湿 地 生 態 系 に 研 究 対 象 の 焦 点 を 当 て て い る 。 ま た ,カ ン ボ ジ ア に 住 む 人 々 の 社 会・文 化・生 活 の 基 盤 で あ り 続 け て き て い た 湖 と 湖 岸 の 生 態 系 は ,人 口 増 加 と 社 会・経 済 構 造 の 急 速 な 変 化 の 影 響 を 受 け た 劣 化 が 著 し く ,湖 と そ の 周 辺 の 生 態 系 に 供 給 源 を 依 存 し て い る 住 民 の 生 活 基 盤 の 消 失 が 懸 念 さ れ て い る 。視 点 を 変 え れ ば ,地 域 住 民 に よ る 植 物 資 源利用状況を明らかにし,氾濫原の植物生態系との連関性を明らかにして, 資源の持続的マネジメントを国際協力により推進することが緊急の課題と なっている。 そ こ で 本 研 究 は ,ト ン レ サ ッ プ 湖 北 西 部 に 位 置 す る チ ョ ン グ・ク ネ ア ス 地 区 の 氾 濫 原 ( 13°15′N, 103°49′E付 近 ; 横 断 距 離 お よ そ 4km) を 事 例 と し て 取 り 上 げ ,氾 濫 原 本 来 が 持 つ 自 然 攪 乱 と 人 間 活 動 に よ る 人 為 的 攪 乱 が 氾 濫 原 の 植物生態系の構造と変動形態に与える影響に関する具体的事例研究を行い, 熱 帯 氾 濫 原 生 態 系 に 関 す る 知 見 の 増 大 を 図 り ,今 後 の 氾 濫 原 植 物 資 源 の 持 続 的マネジメントに役立たせることを目的とする。 2. 研 究 方 法 事 例 研 究 で は ,ま ず , ( 1)ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 の 植 生 構 造 と 構 成 種 を 把 握 す る た め に イ ン ベ ン ト リ ー 調 査 を 実 施 し て い る 。そ し て ,現 存 植 生 の 成 立 要因を探るために, ( 2)優 占 種 の 更 新 特 性 を 明 ら か に し て ,氾 濫 原 生 態 系 の 自己修復メカニズムを解明し, ( 3)地 域 住 民 に よ る 植 物 資 源 利 用 情 報 を イ ン ベントリーすることで,氾濫原の荒廃メカニズムを明らかにしている。 ( 1) に つ い て は , 熱 帯 氾 濫 原 の 植 物 相 ・ 植 生 に 関 す る 文 献 を 収 集 す る と と -i- も に , 徒 歩 と 舟 で 調 査 地 を 踏 査 後 , 67箇 所 に 方 形 区 ( 100m 2 ) を 設 置 し て , 植 物 社 会 学 的 手 法 に よ る 植 生 調 査 に よ り ,植 生 に 関 す る 定 量 的 な 情 報 を 収 集 し て い る 。そ し て ,得 ら れ た 植 生 デ ー タ を 基 に TWINSPAN法 に よ っ て 植 生 タ イ プ を 識 別 し ,さ ら に ,DCA法 に よ っ て 調 査 区 を 序 列 化 し て 各 植 生 タ イ プ の 成 立 要 因 を 分 析 し て い る 。( 2) に つ い て は , 優 占 種 Barringtonia acutangula ( サ ガ リ バ ナ 科 ) の 更 新 特 性 に 着 目 し , 57箇 所 に 方 形 区 ( 100m 2 ) を 設 置 し て 毎 木 調 査 ( 胸 高 直 径 が 5cmを 越 え る 生 木 を 対 象 と し , 胸 高 直 径 と 樹 高 を 測 定 )を 実 施 す る と と も に ,花 実 の 有 無 お よ び 株 立 ち し た 生 幹 の 本 数 を 記 録 し て い る 。ま た ,118箇 所 に 小 区 画( 1m 2 )を 設 置 し て ,B. acutangula実 生 の 個 体 数 と サ イ ズ を 計 測 す る と と も に ,全 天 空 写 真 を 撮 影 す る こ と に よ っ て ,生 育密度と光環境の関係を明らかにしている。 ( 3)に つ い て は ,地 域 住 民( 42 戸 )に 対 し ,イ ン タ ビ ュ ー 調 査 を 中 心 と す る 社 会 調 査 を 実 施 し て ,植 物 資 源 の利用形態を明らかにしている。 3. 論 文 の 構 成 本論文は,以下に示す 6 章で構成されている。 第 1章 序論 第 2章 先行研究のレビュー 第 3章 カンボジア・トンレサップ湖氾濫原の植生解析 第 4章 氾 濫 原 で 優 占 と な る B. acutangula の 生 態 特 性 第 5章 地域住民による植物資源の利用形態 第 6章 総合考察 第 1 章 で は ,熱 帯 氾 濫 原 に お け る 植 物 資 源 の 持 続 可 能 性 に 関 す る 問 題 の 所 在 を 述 べ ,研 究 の 目 的 お よ び 意 義 を 示 し て ,主 要 概 念 を 定 義 し な が ら 本 研 究 のフレームワークを絞り込んでいる。 第 2 章 で は ,昨 今 の イ ン ベ ン ト リ ー 研 究 の 実 情 を 紹 介 し な が ら ,カ ン ボ ジ ア に お け る 森 林 資 源 減 少 の 実 態 ,お よ び ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 に お け る 植 物 資源の持続的マネジメントにかかわる先行研究と既存の取り組みをレビュ ー し て い る 。そ し て ,そ れ ら の 先 行 研 究 か ら 導 か れ る 本 研 究 の 研 究 課 題 を 整 理している。 第 3 章 で は ,調 査 対 象 地 域 で あ る ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 に お い て 現 存 植 生 のインベントリーを行い,氾濫原生態系の実態を把握している。本章では, 氾 濫 原 の 現 存 植 生 は ,( 1) 最 低 水 位 期 の 湖 岸 の 外 縁 に 1∼ 2km の 幅 で 分 布 す る Disturbed woodland( 人 為 的 攪 乱 を 受 け た 林 分 ) と 調 査 地 の 内 陸 部 に 幅 2 - ii - ∼ 3km の 範 囲 で 広 が る Extensive cropland( 粗 放 的 な 経 営 が な さ れ て い る 耕 作 地 ) の 2 つ の ゾ ー ン か ら 構 成 さ れ て お り ,( 2) Disturbed woodland ゾ ー ン に 分 布 す る Closed forest,Open forest,Scrub,お よ び Extensive cropland ゾ ー ン に 分 布 す る Tall-shrub, Shrub, Fallow field, Cultivated field と い っ た 7 型 の 植 生 タ イ プ に 識 別 さ れ る こ と を 示 し て い る 。そ し て ,こ れ ら 7 つ の 植 生 タ イ プ の 相 観 や 分 布 ,種 組 成 ,植 物 種 多 様 性 は ,季 節 的 な 水 位 変 動 と い う 自 然 攪 乱 と 開 墾 や 択 伐 ,火 入 れ と い っ た 人 為 的 攪 乱 の 2 つ の 攪 乱 体 制 が 組 み 合 わ さ りながら継続して繰り返されることによって形成されていることを示唆し ている。 第 4 章 で は , 多 く の 調 査 区 で 優 占 と な る B. acutangula の 更 新 特 性 に 焦 点 を 当 て ,氾 濫 原 の 自 己 修 復 の メ カ ニ ズ ム に つ い て 以 下 の こ と を 明 ら か に し て いる。 ( 1)氾 濫 原 植 生 の 林 分 構 造 に つ い て ,本 種 は ,氾 濫 原 の 自 然 植 生 全 体 に わ た っ て 圧 倒 的 に 優 占 し お り ,と く に 人 為 的 攪 乱( 開 墾 や 伐 採 )に さ ら さ れる植生タイプにおいて本種が卓越している。 ( 2)開 花 か ら 実 生 が 定 着 す る ま で の 種 子 に よ る 更 新 過 程 に つ い て ,① 本 種 は 早 い 成 長 段 階 で 開 花 し て い る こ と ,② 氾 濫 原 奥 部 に 位 置 し ,母 樹 密 度 が 低 い 4 つ の 植 生 タ イ プ に お い て も , 日 当 た り の よ い ギ ャ ッ プ で 定 着 密 度 が 高 い こ と ,③ 全 体 に 大 形 で 浮 遊 性 の 種 子 が 水 位 の 上 昇 ・ 水 域 の 拡 大 に 同 調 し て 散 布 さ れ る こ と を 示 し て い る 。( 3) 萌 芽 更 新 に つ い て ,本 種 が 強 い 人 為 圧 が 加 わ る 環 境 下 に お い て も ,伐 採 後 の 切 り 株 や 脱 落 し た 枝 片 か ら 新 し い シ ュ ー ト を 伸 長 さ せ て ,容 易 に 再 生 す る 能 力 を 有 し ,そ の 萌 芽 能 力 に よ っ て ,他 種 と 比 較 し て 生 存 率 が 高 い 。以 上 の こ と か ら ,本 種 が 長 期 間 の 冠 水 の み な ら ず 人 為 的 攪 乱 に 対 し て 優 れ た 適 応 力 を 有 す る こ と を 裏 付 け ら れ ,冠 水・乾 燥 ス ト レ ス お よ び 自 然 攪 乱・人 為 的 攪 乱 が 大 き く 及 ぼ さ れ る ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 の 自 己 修 復 に は ,本 種 の 適 応 能 力 がきわめて有効に寄与することを示している。 第 5 章 で は ,季 節 的 な 水 位 変 動 に 応 じ た 地 域 住 民 の 植 物 資 源 利 用 形 態 を 調 査 し ,氾 濫 原 の 破 壊 メ カ ニ ズ ム に つ い て 以 下 の こ と を 明 ら か に し て い る 。 ( 1) チ ョ ン グ ・ ク ネ ア ス 地 区 で 確 認 さ れ る 住 居 形 態 は ,「 水 上 移 動 型 」 と 「 陸 上 移 動 型 」, 「 陸 上 固 定 型 」の 3 タ イ プ 。 ( 2)植 物 資 源 の 利 用 形 態 ,と く に 薪 の 利 用 形 態 は , 住 居 形 態 に 応 じ て 著 し く 異 な る 。「 水 上 移 動 型 」 は , 一 年 を 通 して舟に乗りながら氾濫原の湖岸部に生えている高木から薪を獲ている。 「 陸 上 移 動 型 」は ,低 水 位 期 に 氾 濫 原 の 内 陸 部 へ 徒 歩 で 入 り ,細 い 薪 を 採 っ て い る 。「 陸 上 固 定 型 」 は , 低 水 位 期 に は 氾 濫 原 の 内 陸 部 へ 徒 歩 か 自 転 車 に 乗 っ て 薪 を 採 り に 行 き ,高 水 位 期 に は 小 舟 を 借 り て 住 居 近 く か ら 薪 を 採 っ て い る 。( 3)3 つ の 住 居 形 態 に 共 通 し て み ら れ る 特 徴 は , ① ど の 住 居 形 態 で も - iii - 生 活 に 必 要 な 燃 料 と し て 薪 を 採 っ て い る 。② 氾 濫 原 内 の 植 物 資 源 を 薪 以 外 に 利 用 す る こ と は 少 な く ,薪 以 外 の 用 途 に 関 す る 知 識 は 乏 し い 。 ( 4)薪 炭 材 の 利 用 に は 嗜 好 性 が 認 め ら れ ,利 用 価 値 が 高 い 種 ほ ど 選 択 的 に 伐 採 さ れ て ,結 果 的 に 利 用 価 値 の 低 い 種 が 多 く 残 さ れ て い る 。以 上 の 結 果 か ら ,人 為 的 攪 乱 は ,一 義 的 に 季 節 的 水 位 変 動 に 規 定 さ れ な が ら ,日 常 生 活 が よ り 広 範 に 展 開 さ れ て い る 氾 濫 原 の 内 陸 部 ほ ど ,撹 乱 の 内 容 が 多 様 と な っ て 強 度 お よ び 頻 度 が増すことを明らかにしている。 第 6 章 で は ,前 章 ま で の 調 査 結 果 を 基 に ,熱 帯 氾 濫 原 に お け る 植 物 資 源 の 持 続 的 マ ネ ジ メ ン ト に つ い て 総 合 的 に 考 察 し て い る 。結 論 と し て ,熱 帯 氾 濫 原 に お け る 植 物 資 源 の 消 失 問 題 の 解 決 は ,定 性 的・定 量 的 な 科 学 技 術 研 究 の 成 果 に 基 づ い て 提 示 さ れ る べ き で あ り ,そ の た め に は ,資 源 保 有 国 の 研 究 者 と の 協 働 に よ る 植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ ー 研 究 が 効 果 的 で あ る こ と を 論 じ ,最 後に熱帯氾濫原における植物資源の持続的マネジメントに関する今後の展 望と課題を述べている。 4. 研 究 の 成 果 と 貢 献 本 研 究 で は ,植 物 生 態 学・民 族 植 物 学 の 視 座 か ら 氾 濫 原 生 態 系 の 植 物 群 落 の 類 型 化 を 第 3 章 で ,氾 濫 原 の 優 占 種 で あ る B. acutangula の 更 新 特 性 を 第 4 章 で ,住 居 形 態 と 植 物 資 源 利 用・立 地 特 性 と の 関 係 を 第 5 章 で 明 ら か に し て いる。 本 研 究 の 意 義 は ,熱 帯 氾 濫 原 を 対 象 と し た 持 続 可 能 な 生 態 系 マ ネ ジ メ ン ト へ の 寄 与 で あ る 。氾 濫 原 は 本 来 ,自 然 攪 乱 に よ っ て 部 分 的 に 破 壊 さ れ ,再 生 を 繰 り 返 す 生 態 系 で あ る 。そ の 持 続 可 能 な マ ネ ジ メ ン ト を 見 出 す に は ,ま ず はその土地の植物相および植生の情報を収集することが最低限必要となる。 本 研 究 で 得 ら れ る 植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ ー の 成 果 は ,熱 帯 氾 濫 原 の 植 物 種 多 様性とその維持機構にかかわる現存植生のありかたとその成因に関する基 礎 情 報 不 足 の 改 善 に 貢 献 す る 。ま た ,熱 帯 氾 濫 原 地 域 に お い て ,季 節 的 な 水 位 変 動 と 人 為 的 攪 乱 に 適 応 し た 優 占 種 の 生 態 特 性 に 関 す る 知 見 は ,い ま だ 明 らかにされていない熱帯氾濫原の生物多様性維持機構を解明する上でも重 要 な 意 味 を 持 つ 。そ し て ,氾 濫 原 に 対 す る 地 域 住 民 の 攪 乱 の 強 度 と 頻 度 の 分 析 に よ っ て ,氾 濫 原 生 態 系 の 破 壊 の メ カ ニ ズ ム を 示 す こ と は ,よ り 具 体 的 な 氾濫原生態系マネジメントを提案する際の有効な指針を提供することに貢 献する。 - iv - 5. 残 さ れ た 課 題 本 研 究 は ,ト ン レ サ ッ プ 湖 北 西 部 に 位 置 す る チ ョ ン グ・ク ネ ア ス 地 区 の 氾 濫 原 に お け る 事 例 研 究 で あ る 。熱 帯 ア ジ ア に は 泥 炭 湿 地 が 現 在 で も 多 く 残 さ れ て お り ,他 の 熱 帯 湿 地 の 生 態 系 の 生 態 学 的 調 査 研 究 を 進 め る こ と に よ っ て , 熱 帯 氾 濫 原 の 生 態 系 の 特 性 を 明 ら か に す る こ と が で き る 。ま た ,氾 濫 原 の 中 心 樹 木 で あ る B. acutangula は 地 域 の 人 々 に と っ て 主 要 な 資 源 で も あ り , 本 種を主体とした氾濫原生態系の持続的マネジメントに関する政策に本研究 の 成 果 を ど う 反 映 さ せ て い く か が ,残 さ れ た 大 き な 課 題 で あ る と 考 え て い る 。 -v- 謝 辞 本 研 究 を 遂 行 す る に あ た り ,指 導 教 員 で あ る 横 浜 国 立 大 学 大 学 院 環 境 情 報 研 究 院 の 鈴 木 邦 雄 教 授 に は ,研 究 の 着 想 か ら 取 り ま と め に 至 る ま で 終 始 適 切 な ご 指 導 を 賜 り ま し た 。謹 ん で 感 謝 申 し 上 げ ま す 。ま た ,建 設 的 な ご 助 言 と 激励の言葉をいただきました副指導教員の志田基与師教授,周佐喜和教授, 大 野 啓 一 教 授 ,持 田 幸 良 教 授 に 心 よ り お 礼 申 し 上 げ ま す 。東 北 学 院 大 学 の 平 吹喜彦教授には現地調査や論文の推敲にあたって多大なるご指導とご助力 をいただきました。 本 研 究 は , ユ ネ ス コ MAB-IHP 合 同 プ ロ グ ラ ム 「 カ ン ボ ジ ア の ト ン レ サ ッ プ生物圏保護区における生態学的ならびに水文学的調査および若手研究者 の 養 成 」( 506RAS2009: 研 究 代 表 者 : 金 沢 大 学 塚 脇 真 二 ) の 一 環 と し て 実 施 さ れ ま し た 。金 沢 大 学 の 塚 脇 真 二 准 教 授 に は プ ロ ジ ェ ク ト の 一 員 に 加 え て い た だ き ,公 私 に わ た り あ ら ゆ る 面 で ご 支 援 い た だ き ま し た 。EMSB お よ び EMSB-u32 の メ ン バ ー を は じ め と す る ト ン レ サ ッ プ 湖 調 査 に か か わ る 多 く の 研 究 者 の 皆 様 か ら は ,有 益 な 情 報 と 励 ま し の 言 葉 を 頂 戴 い た し ま し た 。現 地 調 査 に お い て は ,カ ン ボ ジ ア の ア ン コ ー ル ワ ッ ト 遺 跡 整 備 機 構 ,鉱 工 業 エ ネ ル ギ ー 省 資 源 局 ,水 利 気 象 省 水 文 河 川 局 に 好 意 的 に 便 宜 を は か っ て い た だ き , ピ ー ス イ ン ツ ア ー の Droung Powkey 氏 に は 野 外 調 査 補 助 や 通 訳 と し て 多 岐 に わ た り ご 協 力 い た だ き ま し た 。宿 泊 先 の ホ テ ル や 馴 染 み の 飲 食 店 の ス タ ッ フ に は 温 か い 癒 し を 提 供 し て い た だ き ま し た 。東 京 情 報 大 学 の 富 田 瑞 樹 博 士 には生態特性についてアドバイスをいただいたほか現地調査においてもご 助 力 い た だ き ま し た 。 タ ク シ ー ド ラ イ バ ー の So Pheng 氏 , 後 輩 の 野 村 奏 史 氏 ,最 知 智 美 氏 に は 炎 天 下 で の 現 地 調 査 に ご 協 力 い た だ き ま し た 。不 明 種 の 同 定 に 際 し て は ,京 都 大 学 の 神 崎 護 准 教 授 ,森 林 総 合 研 究 所 の 荒 木 誠 氏 ,コ ン ポ ン チ ュ ナ ン 森 林 局 の Chang Phourin 氏 , な ら び に バ ン コ ク 王 立 森 林 局 植 物 標 本 館 と バ ン コ ク 王 立 農 業 局 植 物 標 本 館 ,京 都 大 学 総 合 博 物 館 の 研 究 員 の 方 々 に お 世 話 に な り ま し た 。そ の ほ か ,本 研 究 を ま と め る に あ た っ て 同 研 究 室の皆様や他にも多くの方々からご支援を賜りました。 以上,すべての皆様に厚くお礼申し上げます。 - vi - 目 次 論文要旨 ..................................................................................................................... ⅰ 謝 辞 ..................................................................................................................... ⅵ 第1章 序 論 1.1 問題の所在..................................................................................................... 1 1.1.1 熱帯湿地の劣化 ................................................................................ 1 1.1.2 植物資源インベントリーの遅れ....................................................... 1 1.1.3 カンボジア・トンレサップ湖氾濫原の現状..................................... 4 1.2 研究の目的..................................................................................................... 6 1.3 研究の意義..................................................................................................... 6 1.4 主要概念の定義.............................................................................................. 7 1.4.1 生態系とは ....................................................................................... 7 1.4.2 熱帯生態系とは ................................................................................ 8 1.4.3 湿地とは ......................................................................................... 11 1.4.4 氾濫原とは ..................................................................................... 12 1.4.5 植物資源インベントリーとは ........................................................ 14 (1)植物資源................................................................................ 14 (2)植物資源インベントリー....................................................... 15 1.4.6 植物資源マネジメントとは ............................................................ 16 1.5 研究方法 ...................................................................................................... 18 1.5.1 学術調査団による協働 ................................................................... 18 1.5.2 文献調査 ......................................................................................... 18 1.5.3 植物生態学的調査 .......................................................................... 19 1.5.4 民俗植物学的調査 .......................................................................... 19 1.6 論文の構成................................................................................................... 19 第 2 章 先行研究のレビュー 2.1 はじめに ...................................................................................................... 22 2.2 植物資源に関する国際的アプローチの進展 ................................................. 22 2.2.1 環境問題の国際的展開 ................................................................... 22 2.2.2 保全アプローチの枠組み................................................................ 23 - vii - 2.2.3 植物資源インベントリーの必要性 ................................................. 25 2.2.4 インベントリーの効果 ................................................................... 26 2.2.5 インベントリー調査により得られたデータの公開と活用 ............. 27 2.2.6 インベントリー研究の国際的な取り組み ...................................... 28 2.2.7 植物資源インベントリーに関する参考文献................................... 33 2.3 カンボジアにおける森林資源の現状............................................................ 34 2.3.1 森林資源の減少 .............................................................................. 34 2.3.2 森林資源減少の原因....................................................................... 34 (1)商業伐採................................................................................ 35 (2)人口増加................................................................................ 35 2.3.3 森林資源減少に対する取り組み..................................................... 36 2.3.4 コミュニティ・フォレストリの実施.............................................. 37 2.3.5 カンボジアの社会事情 ................................................................... 38 2.4 トンレサップ湖に関する先行研究 ............................................................... 39 2.4.1 トンレサップ湖の概要 ................................................................... 39 2.4.2 トンレサップ湖の誕生から現在まで.............................................. 41 2.4.3 氾濫原の植物相 .............................................................................. 44 2.4.4 氾濫原の植生パターン ................................................................... 44 2.4.5 氾濫原における土地利用変遷 ........................................................ 45 2.4.6 氾濫原の減少.................................................................................. 45 2.4.7 地域住民のコミュニティ組織 ........................................................ 46 2.4.8 植物資源の持続的利用に向けた取り組み ...................................... 47 2.5 先行研究と本研究との関連 .......................................................................... 49 第 3 章 カンボジア・トンレサップ湖氾濫原の植生解析 3.1 はじめに ...................................................................................................... 51 3.2 調査地の概要 ............................................................................................... 52 3.3 調査方法 ...................................................................................................... 55 3.4 解析方法 ...................................................................................................... 56 3.4.1 多変量解析 ..................................................................................... 56 3.4.2 TWINSPAN による解析 .................................................................. 57 3.4.3 DCA による解析.............................................................................. 58 3.4.4 種多様度指数による解析................................................................ 58 3.5 結果 ............................................................................................................. 59 3.5.1 氾濫原植生の分類........................................................................... 59 - viii - (1)植生ゾーン ............................................................................ 60 (2)植物群落................................................................................ 64 3.5.2 氾濫原植生の序列化 ....................................................................... 75 3.6 考察 ............................................................................................................. 77 3.6.1 氾濫原植生の構造........................................................................... 77 3.6.2 植生タイプの分布........................................................................... 79 3.6.3 今後の研究課題 .............................................................................. 81 3.7 まとめ.......................................................................................................... 82 第 4 章 氾濫原で優占となる Barringtonia acutangula の生態特性 4.1 はじめに ...................................................................................................... 91 4.2 Barringtonia acutangulaの特徴 ...................................................................... 91 4.3 調査方法 ...................................................................................................... 97 4.3.1 毎木調査 ......................................................................................... 97 4.3.2 実生調査......................................................................................... 98 4.3.3 焼け跡地における植生調査 ............................................................ 99 4.4 結果 ........................................................................................................... 100 4.4.1 Barringtonia acutangulaの優占率................................................... 100 4.4.2 Barringtonia acutangulaの種子更新 ............................................... 103 4.4.3 Barringtonia acutangulaの萌芽更新 ............................................... 105 4.4.4 焼け跡地へのBarringtonia acutangulaの定着................................ 107 4.5 考察 ........................................................................................................... 111 4.5.1 氾濫原植生の林分構造 ................................................................. 111 4.5.2 Barringtonia acutangulaの種子による更新 .................................... 111 4.5.3 Barringtonia acutangulaの萌芽による再生 .................................... 114 4.5.4 焼け跡地における植生回復 .......................................................... 115 4.5.5 冠水に適応した樹木の形態 .......................................................... 116 4.5.6 攪乱-ストレス耐性種.................................................................... 117 4.6 まとめ........................................................................................................ 121 第 5 章 地域住民による植物資源の利用形態 5.1 はじめに .................................................................................................... 123 5.2 調査地の概況 ............................................................................................. 124 5.3 調査方法 .................................................................................................... 125 5.4 調査結果 .................................................................................................... 126 - ix - 5.4.1 地域住民の生活様式と植物資源利用形態 .................................... 126 (1)水上移動型 .......................................................................... 127 (2)陸上移動型 .......................................................................... 129 (3)陸上固定型 .......................................................................... 132 (4)住居形態に応じた植物資源利用の特徴 ............................... 134 5.4.2 外来種の侵入................................................................................ 138 (1)Mimosa pigra L. ................................................................... 138 (2)ホテイアオイ(Eichhornia crassipes Solms) ...................... 139 5.5 考察 ........................................................................................................... 141 5.5.1 氾濫原の破壊メカニズム.............................................................. 141 5.5.2 外来種の取り扱い ........................................................................ 143 5.5.3 チョング・クネアス地区の特異性 ............................................... 145 5.6 まとめ........................................................................................................ 147 第 6 章 総合考察 6.1 はじめに .................................................................................................... 150 6.2 本研究のまとめ.......................................................................................... 150 6.2.1 トンレサップ湖氾濫原の現存植生 ............................................... 150 6.2.2 氾濫原の自己修復メカニズム ...................................................... 152 6.2.3 氾濫原の破壊メカニズム.............................................................. 153 6.3 トンレサップ湖氾濫原生態系の価値.......................................................... 155 6.4 季節的な水位変動の役割............................................................................ 156 6.5 インベントリー研究の効果 ........................................................................ 158 6.6 本研究の貢献 ............................................................................................. 160 6.7 残された研究課題 ...................................................................................... 160 引用文献 ................................................................................................................... 162 APPENDIX 1 熱帯植物資源の持続的マネジメントに関する国際協力プロジェクト −カンボジアとグァテマラにおける事例− ............................................................ 177 APPENDIX 2 Flora of the floodplain in Lake Tonle sap, Cambodia ................... 211 -x- 第1章 序 論 1.1 問 題 の 所 在 1.1.1 熱 帯 湿 地 の 劣 化 地 球 上 に 生 息 す る 生 物( 約 500∼ 3,000 万 種 1 )の 半 数 以 上 は 熱 帯 に 分 布 す る と い わ れ て い る 。熱 帯 は ,生 物 と し て の 遺 伝 子 多 様 性・種 多 様 性・生 態 的 多 様 性 に 富 ん だ 地 域 と な っ て お り , 植 物 の 場 合 , 世 界 の 顕 花 植 物 ( 約 25 万 種 )の う ち 3 分 の 2( 約 17 万 種 )が 熱 帯 に 分 布 し て い る( Whitmore, 1984)。 し か し ,そ の 熱 帯 は ,開 発 や 森 林 伐 採 が 原 因 と な っ て 劣 化 が 著 し い 状 況 に あ る 。Myers et al.( 2000)は ,豊 か な 生 物 多 様 性 を 有 し な が ら も そ の 減 少 が 著 し く , 優 先 的 に 保 全 す べ き 地 域 を Hotspotと し て い る 。 こ の Hotspotは 東 南 ア ジ ア や 中 南 米 な ど の 熱 帯 に 集 中 し て い る ( Fig. 1-1)。 ま た , FAO( 2005) の 報 告 に よ れ ば , 森 林 面 積 が 年 間 0.5% 以 上 減 少 し て い る 地 域 も や は り 熱 帯 に 集 中 し て み ら れ る ( Fig. 1-2)。 一 方 で , 淡 水 湿 地 に つ い て は , 生 物 多 様 性 の 解明の遅れとその劣化が著しい地域とされている。生きている地球指数 2 の 手 法 に 基 づ い た 国 連 の ミ レ ニ ア ム 生 態 系 評 価 で は ,淡 水 の 生 態 系 に お い て 生 息 個 体 数 の 減 少 が 著 し く , 30 年 で 平 均 50% の 減 少 を 報 告 し て い る ( Millennium Ecosystem Assessment, 2005; Fig. 1-3)。 1.1.2 植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ ー の 遅 れ 熱帯とくに湿潤熱帯においては,豊かな植物資源 3 が人々の生活を支える 1 地球上に存在する全生物の種数については数多くの推定値があるが,全種名を 記 載 し た カ タ ロ グ は な い 。例 え ば ,Wilson( ed.)( 1988)は ,現 在 記 載 さ れ て い る 種 を 微 生 物 , 菌 類 , 藻 類 , 無 脊 椎 動 物 で 35 万 9,000, 植 物 25 万 , 昆 虫 75 万 , 脊 椎 動 物 4 万 1,000,計 140 万 種 と し ,数 値 の 不 完 全 性 お よ び 昆 虫 の 新 種 記 載 の 可 能 性 を 考 え れ ば そ の 総 数 は 500 万 種 を 超 え る と 予 測 し て い る 。 こ れ ら の 予 測 値 に は 何の意味もないが,分類群ごとに熱帯に生息する種を区分し大きなグループ単位 として考えると,どのグループにおいても熱帯に分布する種が多い。 2 WWF(世 界 自 然 保 護 基 金 )は ,種 数 の 変 化 で は な く ,あ る 生 態 系 に 生 存 す る 動 植 物 の個体数を継続的に測定し,その経年変化をみることにより生物多様性の推移を 判 断 す る 手 法 を と っ て い る 。こ の 指 標 を「 生 き て い る 地 球 指 数 」(Living Planet Index = LPI)と 名 づ け , 定 期 的 に 「 生 き て い る 地 球 レ ポ ー ト (Living Planet Report)」 に お いて公表している。 3 私たち人類が食糧,繊維料,薬用,燃料用,家畜などの飼料,そのほか人間生 活に利用しているあらゆる植物で,種子で増えてゆくから,使用したあとにも補 給が可能であるという点で再生産可能資源または無限資源と呼ばれる。しかし, 再生産可能資源といっても,植物が生殖によりその子孫を絶やさずに継続的に残 してゆけるように利用者の人間が配慮しない限り,植物の種は絶滅して再生産資 -1- (a) (b) (c) 出典: Conservation International ホームページ <http://www.biodiversityhotspots.org/xp/Hotspots/> Fig. 1-1. Hotspotの 位 置 (Myers et al., 2000). (a) 全 世 界 の Hotspot. (b) 東 南 ア ジ ア・オ セ ア ニ ア 地 区 の Hotspot. (c) 中 米 の Hotspot. い ず れ も Hotspotは 赤 道 に 集 中 している. 源 の 役 割 を 果 た さ な く な っ て し ま う ( 小 山 , 1984)。 -2- 出典: FRA(2005) Fig. 1-2. 2000∼2005年の間にみられた森林面積変化率. 地図上のオレンジ部分は0.5%減少/年 を示し,緑部分は.0.5%増加/年,灰色部分は0.5%以内の増減を示す. 120 個体数指標 100 陸生生物 80 海洋生物 60 淡水性生物 40 20 0 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 出典: Millennium Ecosystem Assessment (2005) Fig. 1-3. WWW の「生きている地球指数」 (1970∼2000 年). 図は 1970 年を 100 としたときの 個体数変化. 世界各地の陸生生物 555 種(熱帯 124 種,温帯 431 種) ,淡水性生物 323 種(熱 帯 54 種,温帯 269 種) ,海洋生物 267 種を調査対象としている. -3- た め の 大 き な 役 割 を 果 た し て い る 。し か し ,研 究 に よ っ て 用 途 の 判 明 し て い る 植 物 は 約 3,000 種 し か な い 。つ ま り ,熱 帯 の 劣 化 と 植 物 資 源 の 解 明 の 遅 れ を合わせると,植物資源が消失するスピードにインベントリー 4 が追いつい て い な い 現 状 に あ る 。 こ の 問 題 は , 1992 年 の 地 球 サ ミ ッ ト で 提 唱 さ れ た 生 物 多 様 性 条 約 に よ り ,発 展 途 上 国 の み な ら ず 先 進 国 と の 共 同 で 取 り 組 む べ き 全 人 類 的 な 課 題 と さ れ て い る 。植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ ー へ の 取 り 組 み に つ い て , 赤 嶺 ( 2005) は ,「 地 域 住 民 の 価 値 観 を 重 視 し た 資 源 管 理 の 模 索 − 地 域 環 境 主 義 − 」と 位 置 づ け て い る 。資 源 管 理 が 長 期 間 持 続 し て き た 地 域 社 会 で は ,伝 統 的 知 識 と 象 徴 性・宗 教 性 と が 結 び つ き ,宗 教 儀 式 や タ ブ ー ,言 い 伝 え な ど の か た ち で ,生 物 資 源 を 持 続 的 に 利 用 す る 方 法 が 制 度 的 な し く み と し て 形 成 さ れ て い る ( Folke et al., 1998)。 こ の よ う な 植 物 資 源 の 民 族 的 な 持 続 的 利 用 を 解 明 す る に あ た り , Cotton( 1996) は , 植 物 分 類 学 の 視 点 の み な ら ず生態学的知識に基づいた民族生態学 5 的視点からアプローチする重要性を 指 摘 し ,そ れ を 踏 ま え た 上 で 植 物 資 源 マ ネ ジ メ ン ト を 提 示 す る 必 要 性 を 説 い ている。 1.1.3 カ ン ボ ジ ア ・ ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 の 現 状 熱 帯 に 属 し ,カ ン ボ ジ ア の 中 央 部 に 位 置 す る ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 は ,湖 岸 に 広 大 な 湿 地 生 態 系 を 有 す る 東 南 ア ジ ア 最 大 の 淡 水 湖 で あ る ( Fig. 1-4)。 こ の 湖 は Hotspotに 指 定 さ れ る と と も に , 立 地 環 境 の 季 節 的 変 化 に と も な う 空間的環境勾配が顕著であるため,生物多様性に富んでいる地域である ( McDonald et al., 1997)。 そ の た め , 当 湖 の 氾 濫 原 に 生 育 す る 植 物 は , 極 め て 特 異 な 性 質 を 有 す る 貴 重 な 資 源 で あ る と い え る 。し か し ,こ の 地 域 で は 永 年 に わ た る 内 戦 や 周 辺 諸 国 と の 戦 乱 の 影 響 に よ り ,植 物 資 源 の 実 態 解 明 に か か わ る イ ン ベ ン ト リ ー( 博 物 学 的 記 載 )調 査 ,生 態 学 的 調 査 が ほ と ん ど 行 わ れていない。 そ の 一 方 で ,こ の 地 域 は 人 々 の 生 活・生 産 空 間 と し て ,か つ て は 人 間 活 動 と 生 物 資 源 と の 持 続 的 関 係 が 確 立 さ れ ,植 物 資 源 管 理 が 行 わ れ て い た と さ れ る が( Marschke, 2005),人 口 増 加 と 社 会・経 済 構 造 の 急 速 な 変 化 の 影 響 を 受 け た 劣 化 が 著 し く ,湖 と そ の 周 辺 の 生 態 系 に 供 給 源 を 依 存 し て い る 住 民 の 生 4 小 山 ( 1992) は ,「 イ ン ベ ン ト リ ー と は 目 的 を 持 っ た 標 本 や 情 報 の 収 集 ・ 整 理 ・ 管 理 で あ る 」 と し , 小 山 ・ 中 村 ( 2002) は ,「 個 々 の 植 物 資 源 が , ど う 分 類 さ れ , どこに分布し,どんな形質を持っているか調べることである」と定義している。 5 植物の生物季節学と適応,他生物との相互作用についての伝統的な智恵および 伝統的な植生管理の特性と環境的影響を研究の対象とした民族植物学の一分野。 -4- (a) E102° Thailand E104° Laos N14° Mekong River Siem Reap Lake Tonle Sap N12° Cambodia Vietnam 100km Siem Phnom krom Reap Riv er (b) Chong Kneas 2km Lake Tonle Sap 出典: Google画像 Fig. 1-4. (a) ト ン レ サ ッ プ 湖 の 位 置 , (b) 調 査 対 象 と し た チ ョ ン グ ・ ク ネ ア ス 地区の氾濫原. -5- 活 基 盤 の 消 失 が 懸 念 さ れ て い る 。そ う し た 状 況 に あ っ て ,地 域 住 民 に よ る 収 奪 的 な 植 物 資 源 利 用 が ,氾 濫 原 生 態 系 に ど の よ う な 影 響 を 与 え て い る か に つ いても明確にされていない。 以 上 の こ と か ら ,ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 に お い て ,生 態 系 の 自 己 回 復 と 破 壊 の メ カ ニ ズ ム に 関 す る 基 礎 情 報 を 収 集・解 析 し ,氾 濫 原 の 植 物 生 態 系 と 地 域 住 民 に よ る 植 物 資 源 利 用 状 況 と の 連 関 性 を 明 ら か に し て ,植 物 資 源 の 持 続 的なマネジメントを国際協力により推進することが緊急の課題となってい る。 1.2 研 究 の 目 的 本 研 究 は ,氾 濫 原 本 来 が 持 つ 自 然 攪 乱 と 氾 濫 原 域 の 人 間 活 動 に よ る 人 為 的 インパクトが氾濫原の植物生態系の構造と変動形態に与える影響に関する 具 体 的 事 例 研 究 を 行 い ,諸 要 因 間 の 相 互 関 連 性 を 明 ら か に す る と と も に ,熱 帯 氾 濫 原 生 態 系 に 関 す る 知 見 の 増 大 を 図 り ,今 後 の 氾 濫 原 植 物 資 源 の 持 続 的 マネジメントに役立たせることを目的としている。 事 例 研 究 で は ,カ ン ボ ジ ア の ト ン レ サ ッ プ 湖 北 西 部 に 位 置 す る 氾 濫 原 を 取 り 上 げ ,植 物 種 多 様 性 と そ の 維 持 機 構 に か か わ る 現 存 植 生 の あ り か た と そ の 成 因 に 関 す る 基 礎 情 報 不 足 の 改 善 に 貢 献 す る こ と を 目 的 と し て ,植 生 構 造 と 構成種の利用情報をインベントリーし,生態系サービス 6 と環境に加えられ る 負 荷 を 明 ら か に す る こ と に よ っ て ,熱 帯 氾 濫 原 に 分 布 す る 植 物 資 源 の 持 続 可能性について評価する。 1.3 研 究 の 意 義 本 研 究 の 意 義 は ,熱 帯 氾 濫 原 を 対 象 と し た 持 続 可 能 な 生 態 系 マ ネ ジ メ ン ト へ の 寄 与 で あ る 。氾 濫 原 は 本 来 ,自 然 攪 乱 に よ っ て 部 分 的 に 破 壊 さ れ ,再 生 6 Millennium Ecosystem Assessment( 2005) に よ れ ば , 生 態 系 サ ー ビ ス は , ① 生 態 系 が 提 供 す る 物 質 ,② 生 態 系 プ ロ セ ス を 調 節 す る こ と に よ っ て も た ら さ れ る 利 益 , ③文化的な利益,④それらのサービスを支える基礎としての生態系機能の 4 つに 分類される。これらは現時点で経済的価値として認識されているものも,認識さ れていないものも含んでいるし,経済的価値だけが人間にとっての利益ではない かもしれない。また,生態系としてのサービスではあるが,生物多様性が高いこ と が と く に 必 要 , あ る い は 重 要 で な い サ ー ビ ス も あ る ( 中 静 , 2005)。 -6- 繰 り 返 す 生 態 系 で あ る 。氾 濫 原 に 対 す る 薪 利 用 な ど の 人 間 の 行 為 は ,森 林 動 態 過 程 に お け る 人 為 的 攪 乱 と し て 位 置 づ け ら れ る 。し た が っ て ,持 続 可 能 な 生 態 系 マ ネ ジ メ ン ト と は 攪 乱 と 再 生 の バ ラ ン ス を 保 つ こ と に よ り ,氾 濫 原 の 動 態 を 適 正 に 制 御 す る こ と で あ る と い え る 。そ の た め に は ,ま ず は そ の 土 地 の 植 物 相 お よ び 植 生 の 情 報 を 収 集 す る こ と が 最 低 限 必 要 と な る 。本 研 究 で 得 ら れ る 植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ ー の 成 果 は ,マ ネ ジ メ ン ト の 方 向 性 を 示 す た め に 欠 か せ な い 基 礎 的 な 情 報 を 提 供 す る こ と に な る 。ま た ,熱 帯 氾 濫 原 地 域 に お い て ,季 節 的 な 水 位 変 動 お よ び 人 為 的 攪 乱 に 適 応 し た 優 占 種 の 生 態 特 性 に 関 す る 知 見 は ,い ま だ 明 ら か に さ れ て い な い 熱 帯 氾 濫 原 の 生 物 多 様 性 維 持 機 構 を 解 明 す る 上 で も 重 要 な 意 味 を 持 つ と 考 え る 。そ し て ,氾 濫 原 に 対 す る 地 域 住 民 の 攪 乱 の 強 度 と 頻 度 の 分 析 に よ っ て ,氾 濫 原 生 態 系 の 破 壊 の メ カ ニ ズ ム を 示 す こ と は ,よ り 具 体 的 な 氾 濫 原 生 態 系 マ ネ ジ メ ン ト を 提 案 す る 際 の 有 効な指針を提供することに貢献すると考える。 1.4 主 要 概 念 の 定 義 本論文で用いる主要概念について以下のように定義する。 1.4.1 生 態 系 と は 生 態 系 (ecosystem)と い う 用 語 は , 1935 年 に A.G. Tansleyに よ っ て , 気 候 ・土 壌 ・生 物 の 複 合 体 に 対 す る 概 念 と し て 提 案 さ れ た ( Tansley, 1935)。 こ こ で は ヒトも 生態系 の一員として組み込まれている。 『生物学辞典第 4 版』 ( 八 杉 ほ か( 編 ), 1997)に よ る と ,生 態 系 と は , 「あ る地域にすむすべての生物とその地域内の非生物的環境をひとまとめにし, 主 と し て 物 質 循 環 や エ ネ ル ギ ー 流 に 注 目 し て ,機 能 系 と し て 捉 え た も の 」 「生 産 者・消 費 者・分 解 者・非 生 物 的 環 境 が ,こ れ を 構 成 す る 四 つ の 部 分 で あ る 」 と さ れ て い る 。 ま た ,『 生 態 学 事 典 』( 巌 佐 ほ か ( 編 ) , 2003) で は 生 態 系 に つ い て 以 下 の よ う に 説 明 さ れ て い る : 「 生 態 系 は ,緑 色 植 物 か ら な る 生 産 者 系 ( producer), 昆 虫 , 魚 , 哺 乳 類 な ど の 消 費 者 系 ( conducer), 最 近 や カ ビ な ど の 分 解 者( decomposer)の 3 つ の サ ブ シ ス テ ム と そ れ ら の 生 物 が 利 用 す る 資 源 系 か ら 成 り 立 つ シ ス テ ム 」「 生 態 系 に お い て , 独 立 栄 養 の 植 物 は , 光 合成活動により太陽からの放射エネルギーを利用して有機物を生産してい る 。植 物 に よ る 有 機 物 の 生 産 を 一 次 生 産( primary production)と よ ぶ 。植 物 -7- の 生 産 し た 葉 や 果 実 な ど の 有 機 物 を 利 用 す る 生 物 を 消 費 者( consumer)と よ び ,消 費 者 が 有 機 物 を 利 用 し て 作 り 出 す 有 機 物 の 生 産 を 二 次 生 産( secondary production)と 定 義 す る 」 「 生 態 系 に お い て ,最 終 的 に 枯 死 し た 有 機 物 や 消 費 者 の 死 体 は ,分 解 者( decomposer system)に 供 給 さ れ ,そ こ で 有 機 物 は 無 機 化 さ れ る 」。 生 態 系 の 機 能 や 価 値 に 関 し て ,ミ レ ニ ア ム 生 態 系 評 価 は ,生 態 系 が 人 間 の 福 祉 と 健 全 な 生 活 基 盤 で あ る と い う 認 識 か ら 評 価 し て い る ( Millennium Ecosystem Assessment, 2005)。 基 本 的 な ア プ ロ ー チ と し て , 自 然 が 人 間 社 会 に 提 供 し て い る 生 活 基 盤 と さ ま ざ ま な サ ー ビ ス( 生 態 系 サ ー ビ ス・環 境 サ ー ビ ス ) を 次 の よ う に 分 類 し , そ れ ぞ れ に つ い て 評 価 し て い る ( Fig. 1-5)。 ① サ ポ ー ト ・ サ ー ビ ス (生 活 基 盤 と し て の 自 然 /基 本 的 な 機 能 ) ・ サ ポ ー ト 機 能 : 土 壌 の 形 成 , 光 合 成 (一 次 生 産 ), 栄 養 素 の 循 環 , 水 の 循 環 直 接 ,人 類 に 何 ら か の「 サ ー ビ ス 」を 提 供 し て い る の で は な く ,そ の サービス提供を支えるという生態系のもっとも基礎的な機能である ② 生 態 系 が 提 供 す る 各 種 サ ー ビ ス (機 能 ) ・供給サービス:食料,水,木材,繊維,木材,木質,燃料などの供給 ・調整サービス:大気浄化,気候調整,洪水制御,疾病制御,水質浄化, 植物の受粉,汚染物質の浄化など ・ 文 化 的 サ ー ビ ス : 審 美 的 ,精 神 的 ,教 育 的 ,レ ク リ エ ー シ ョ ン 価 値 な ど さ ら に ,ミ レ ニ ア ム 生 態 系 評 価 で は ,生 態 系 サ ー ビ ス を 明 確 に 4 つ の 機 能 に 分 類 し ,そ れ ぞ れ の 機 能 に 関 し て 具 体 的 な サ ー ビ ス を 特 定 し て 評 価 し て い る 。具 体 的 に は ,人 類 に「 サ ー ビ ス 」を 提 供 し て い る 領 域 を「 供 給 サ ー ビ ス 」 「 調 整 サ ー ビ ス 」「 文 化 的 サ ー ビ ス 」 の 3 つ に 分 類 し て い る ( Fig. 1-5)。 こ の 分 類 に つ い て , 中 静 ( 2005) は ,「 こ れ は 現 時 点 で 経 済 的 価 値 と し て 認 識 さ れ て い る も の も ,認 識 さ れ て い な い も の も 含 ん で い る し ,経 済 的 価 値 だ け が 人 間 に と っ て の 利 益 で は な い か も し れ な い 。ま た ,生 態 系 と し て の サ ー ビ ス で は あ る が ,生 物 多 様 性 が 高 い こ と が と く に 必 要 ,あ る い は 重 要 で な い サ ービスもある」ことを指摘している。 1.4.2 熱 帯 生 態 系 と は 熱帯生態系とは, 「 熱 帯 に 成 立 し て い る 生 態 系 」の こ と で あ る 。 『広辞苑第 5版 』( 新 村 ( 編 ) , 1998) に よ る と , 熱 帯 と は 「 赤 道 を 中 心 と し て 南 北 両 回 帰 線 に は さ ま れ た 地 帯 。気 候 上 で は こ れ よ り や や 広 く ,一 年 間 の 平 均 気 温 が 摂 氏 20度 以 上 の 地 帯 を 指 し ,椰 子 の 生 育 す る 範 囲 に ほ ぼ 一 致 す る 」と 定 義 さ -8- 生態系サービス 人間福祉の構成要素 安全(安心) ■個人の安全 ■資源利用の保障 ■災害からの保護 供給サービス ■食料 ■水 ■木材と繊維 ■燃料 ■その他 サポート機能 ■栄養の循環 ■土壌の形成 ■一次生産 ■その他 よい生活のための 基本的物資 ■適切な生活条件の整備 ■十分で栄養のある食料 ■住居 ■生活用品へのアクセス 調整サービス ■気候調節 ■洪水制御 ■疾病制御 ■水質浄化 ■その他 健康 ■活力 ■快適な気分 ■きれいな空気と水への アクセス 文化的サービス ■審美的価値 ■精神的価値 ■教育的価値 ■娯楽的価 選択と行動の自由 一人一人が大切に し、目指したいこと を達成する機会 よい人間関係 ■社会の連帯感 ■相互の尊重 ■他を助けられる能力 出典: Millennium Ecosystem Assessment (2005) Fig. 1-5. 生態系サービスと人間の福祉との関連. 矢印の太さは関係の度合いを表す. れ て い る 。 ま た , ケ ッ ペ ン の 気 候 区 分 7 ( Köppen, 1923) に よ り , 熱 帯 気 候 は 最 寒 月 の 月 平 均 気 温 が 18℃ 以 上 の 気 候 帯 で あ る と さ れ て い る( Table 1-1)。 こ の 区 分 に よ る と ,熱 帯 の 気 候 は 年 間 の 降 水 量 に よ っ て 熱 帯 雨 林 気 候 ,熱 帯 モンスーン気候,熱帯サバンナ気候に分類される。 Whitmore( 1990)は ,熱 帯 の 森 林 を 季 節 に よ っ て 乾 燥 す る 森 林 と 常 に 湿 度 の 高 い 森 林 の 二 つ に 大 き く 分 類 し た 。前 者 の う ち ,水 分 不 足 が 長 い 期 間 続 く 森 林 は 熱 帯 モ ン ス ー ン 林 と し ,ご く 短 期 間 で あ る 場 合 は 熱 帯 半 常 緑 雨 林 と し 7 ドイツの気候学者ケッペンが,それぞれの気候を分植物の生育が可能かどうか について温度と降水量から気候区分を行う方法。分類基準が明確で簡便,植生, 風土の特徴を反映している,立地条件など気候の成因と相関している,といった 特徴が挙げられる。 -9- Table 1-1. ケ ッ ペ ン の 気 候 区 分 . A(熱帯気候): 最寒月の月平均気温が18℃以上 Af(熱帯雨林気候): 月降水量が60mm以上 Am(熱帯モンスーン気候): 短い乾季があり,乾季における月降水量が60mm以下,あるいは100-R /250以上 Aw(サバンナ気候): 冬季に乾季があり,この乾季における月降水量が100-R /250以下 B(乾燥気候): ポテンシャル蒸発量が降水量を上回る * BS(ステップ気候): 乾燥/湿潤の境界 以下の降水量 BW(砂漠気候): 乾燥/湿潤の境界以上の降水量 C(温帯気候): 最寒月の月平均温度が-3℃以上18℃以下 Cw(温帯夏雨気候): 夏季の月降水量が最乾冬季月の降水量の10倍以上 Cs(温帯冬雨気候): 冬季の月降水量が最乾夏季月の降水量の10倍以上,最乾夏季月の降水量が40mm以下 Cf(温帯多雨気候): s と w の基準には一致しない D(亜寒帯気候): 最寒月の月平均気温が-3℃以下,最暖月の月平均気温が10℃以上 Dw(亜寒帯夏雨気候): Cwと同じ,あるいはそれ以下 Ds(亜寒帯冬雨気候): Csと同じ,あるいはそれ以下 Df(亜寒帯多雨気候): Cfと同じ,あるいはそれ以下 E(寒帯気候): 最暖月の月平均気温が10℃以下 ET(ツンドラ気候): 最暖月の平均気温が0℃以上,10℃以下 EF(永久凍結気候): 最暖月の平均気温が0℃以下 R = 年積算降水量(mm),T = 年平均気温,ポテンシャル蒸発量 = 十分に湿った地表面からの蒸発量 乾燥/湿潤の境界は次式で決める; 最暖月6ヶ月間の降水量が年間降水量の70%以上の地域では,R < 20T + 280 最寒月6ヶ月間の降水量が年間降水量の70%以上の地域では,R < 20T 半年間の降水量が年間降水量の70%以下の地域では,R < 20T + 140 * 出 典 : Köppen(1923)を基 に作 成 た 。後 者 に つ い て は ,排 水 状 態 の 良 い 土 地 に 成 立 す る 森 林 と ,少 な く と も 一 時 期 は 地 下 水 位 が 高 く な る 森 林 と に 分 類 し て い る 。水 は け の 良 い 土 壌 に 立 地 す る 森 林 は ,さ ら に 熱 帯 常 緑 多 雨 林 ,山 地 雨 林 ,亜 高 山 林 ,ヒ ー ス 林 に 分 類 さ れ て い る 。冠 水 し や す い 地 域 で は ,マ ン グ ロ ー ブ 林 ,泥 炭 湿 地 林 ,淡 水 湿 地 林 が 現 れ る 。マ ン グ ロ ー ブ 林 は 海 水 の 影 響 を 受 け る 沿 岸 地 域 に 広 が っ て お り ,泥 炭 湿 地 林 は 海 岸 沿 い に あ っ て 塩 水 が 入 り 込 む 。一 方 ,淡 水 湿 地 林 は 季 節的な洪水によって森が浸水するもので,その林相は多様である。 ま た ,地 球 上 の 生 物 は 原 核 生 物 界 ,原 生 生 物 界 ,菌 界 ,動 物 界 ,植 物 界 か ら な っ て い る 。全 世 界 の 既 知 の 総 種 数 は 約 175 万 種 で ,こ の う ち 哺 乳 類 は 約 6,000 種 , 鳥 類 は 約 9,000 種 , 昆 虫 は 約 95 万 種 , 維 管 束 植 物 は 約 27 万 種 と な っ て い る 。種 数 の 大 半 を 昆 虫 が 占 め て お り ,ま だ 知 ら れ て い な い 昆 虫 の 種 も相当数あると見込まれているため,未知の種を合わせた生物の総種数は 3,000 万 種 ま た は そ れ 以 上 に も 及 ぶ と 推 測 さ れ る 。 と く に , 世 界 の 陸 地 面 積 の 7 % を 占 め る に 過 ぎ な い 熱 帯 多 雨 林 に は 世 界 の 総 種 数 の 40 ∼ 90 % が 生 - 10 - 息・生 育 す る と 推 定 さ れ て お り ,熱 帯 地 域 は 世 界 の 中 で の 生 物 多 様 性 の 核 心 地 域 と い え る 。こ う し た 熱 帯 生 態 系 の 生 物 多 様 性 の 豊 か さ に つ い て は ,昔 か ら多くの植物学者が指摘している。 Whitemore( 1984)は ,「 世 界 の 顕 花 植 物 の 総 数 は 約 25 万 種 で あ る が ,そ の う ち の 3 分 の 2( 17 万 種 )が 熱 帯 に 分 布 し て い る 。こ れ ら の う ち の 半 分 は メ キ シ コ・ア メ リ カ の 国 境 の 南 に あ る 新 世 界 に ,35,000 種 は 熱 帯 ア フ リ カ に ( ほ か に マ ダ ガ ス カ ル に 8,500 種 ),そ し て 40,000 種 が ア ジ ア に あ っ て ,そ の う ち 25,000 種 が マ レ ー シ ア 気 候 区 に 分 布 す る 」 と し て い る 。 ま た , 動 物 相 に 関 し て は ,豊 か さ・多 様 性・特 異 性 が 長 い 間 論 じ ら れ て い る が ,現 在 で も 全 体 像 は 把 握 さ れ て い な い 。現 在 ,熱 帯 全 体 で は ,未 記 載 の ま ま 残 さ れ て い る 昆 虫 な ど を 含 め て 動 物 相 が 200~300 万 種 と 推 察 さ れ て い る 。熱 帯 で 多 種 類 の 動 物 が 森 林 お よ び 周 辺 域 で 生 活 を 営 む こ と が で き る の は ,と も に 生 存 ・ 生活するのに適している,すなわち昼間と夜間とで活動の時間的住み分け, 活 動 の 場 の 空 間 的 住 み 分 け ,採 食 が 食 果( 果 物 ),雑 食 ,吸 血 ,食 肉 ,食 魚 , 食虫などの違いによる食物の分け合いなどが複雑に絡み合っているからで あ る ( 鈴 木 ・ 小 島 , 2004) 。 熱 帯 で 極 端 に 種 類 数 が 多 く ,生 物 多 様 性 が 多 い 理 由 に つ い て ,山 倉( 1992) は , ( 1) 古 生 物 学 ・ 歴 史 的 生 物 地 理 学 的 視 点 か ら , 第 三 紀 ( 始 新 世 ) 頃 に ゴ ン ド ワ ナ と ロ ー ラ シ ア の 両 大 陸 が 接 近 し ,両 大 陸 起 源 の 植 物 が 混 在 す る こ と に な っ た と い う 地 球 の 歴 史 ,高 温 多 湿 な 条 件 が 年 間 を 通 じ て 確 保 さ れ て き た こ と , ( 2) 森 林 構 造 上 お よ び 土 地 的 の 異 質 性 か ら 多 く の 種 を 共 存 さ せ う る ニ ッ チ 空 間 の 存 在 , ( 3) 競 争 や 強 制 な ど の 生 物 間 の 複 雑 な 相 互 作 用 の 発 達をあげている。 1.4.3 湿 地 と は 湿 地 に つ い て ,ラ ム サ ー ル 条 約( Davies and Claridge, 1993)で は 以 下 の よ う に 定 義 し , Table1-2 の よ う に ま と め て い る : 「 天 然 の も の で あ る か 人 工 的 な も の で あ る か ,永 続 的 な も の で あ る か 一 時 的 な も の で あ る か を 問 わ ず ,更 に は 水 が 滞 っ て い る か 流 れ て い る か ,淡 水 で あ る か 汽 水 で あ る か 鹹 水 で あ る か を 問 わ ず , 沼 沢 地 ( marsh), 湿 原 ( fen), 泥 炭 地 ( peatland) 又 は 水 域 を い い , 低 潮 時 に お け る 水 深 が 6m を 超 え な い 海 域 を 含 む 」。 こ の 定 義 で は , 沿 岸 の 珊 瑚 礁 ( reef flats) や 藻 場 ( seagrass beds), 泥 干 潟 ( mudflats), マ ン グ ロ ー ブ( mangroves),河 口( estuaries),河 川( rivers),淡 水 湿 地( freshwater marshes), 湿 地 林 ( swamp forests), 湖 ( lakes), 塩 湿 地 や 塩 湖 ( saline marsh - 11 - and lake) が 含 ま れ る 。 狭 い 意 味 で の 湿 地 の 定 義 で は , 一 般 に 湿 地 を 推 移 帯 (ecotones)と み て い る 。 つ ま り , 陸 域 と 水 位 期 と が 移 り 変 わ る 場 所 で , 土 壌 が水に浸されているために特有な植生が発達している。なお,推移帯とは, 2 つ あ る い は そ れ 以 上 の 多 様 な 環 境 の 推 移 帯 と し て 定 義 さ れ て い る 。こ の 場 合は陸域と水域との推移帯をいう。 Maltby( 1991) に よ る と ,「 湿 地 帯 と は 土 壌 表 面 が し ば し ば 水 浸 し あ る い は 飽 和 状 態 に な り ,普 段 は 十 分 に そ の 状 態 が 続 き ,植 生 が 広 が る の に 飽 和 土 壌 状 態 で 生 育 に 適 し て い る 場 所 で あ る 」 と さ れ て い る 。 ま た , 崎 尾 ( 2002) は , 日 本 の 湿 地 に 成 立 す る 森 林 に つ い て ,「 山 地 な ど 上 流 域 の 渓 流 際 に 沿 っ て成立する渓畔林・渓谷林や,中流域から下流域の河川の 氾濫原 に分布す る河畔林・河辺林・川辺林が挙げられる。また,河川や渓流だけではなく, 河 川 の 後 背 湿 地 や 湿 原 に 分 布 す る 湿 地 林 ,湖 沼 周 辺 に 見 ら れ る 湖 畔 林 ,海 岸 林 な ど も 水 辺 周 辺 に 分 布 す る 森 林 植 生 も あ る 。亜 熱 帯 か ら 熱 帯 の 河 口 に 近 い 河 川 沿 い に 見 ら れ る マ ン グ ロ ー ブ 林 も 水 辺 林 に 含 ま れ る 。こ れ ら の 水 辺 周 辺 の豊富な水分環境のもとに成立,分布する森林は,総称して「水辺林」 ( riparian forest) と 呼 ば れ て い る 」 と し て い る 。 1.4.4 氾 濫 原 と は ラ ム サ ー ル 条 約 ( Davies and Claridge, 1993) で は ,「 氾 濫 原 と は , 一 以 上 の 湿 地 タ イ プ を 表 す の に 用 い ら れ る 意 味 の 広 い 用 語 で あ り , Table 1-2の R, Ss, Ts, W, Xf, Xp 等 の タ イ プ の 湿 地 を 含 む 」 と し て い る ( Table 1-3) 。 ま た , 「 氾 濫 原 湿 地 の 例 と し て は , 季 節 的 に 冠 水 す る 草 原 (水 分 を 含 ん だ 天 然 の 牧 草 地 を 含 む ), 低 木 地 , 森 林 地 帯 , 森 林 等 が あ る 」 と 述 べ て い る 。 ま た , 熱 帯 ア マ ゾ ン 域 の 氾 濫 原 生 態 系 を 研 究 し て い る Junk et al.( 1989) は ,氾 濫 原 を 次 の よ う に 定 義 し て い る : 「 氾 濫 原 と は ,降 水 や 地 下 水 が 河 川 や 湖 の 氾 濫 を 引 き 起 こ す こ と に よ っ て 周 期 的 に 冠 水 す る 領 域 の こ と で ,氾 濫 に よ っ て 生 じ る 物 理 化 学 的 な 環 境 が 形 態 学 的 ま た は 解 剖 学 的 ,生 理 学 的 ,生 物 気 候 学 的 ,お よ び 動 物 行 動 学 的 に 適 応 し た 生 物 相 を 生 み 出 し ,特 徴 的 な 生 物 群 集 構 造 を 形 成 す る 8 」。 8 原 文 よ り 抜 粋 : “Floodplains are areas that are periodically inundated by the lateral overflow of rivers or lakes and/or by rainfall or groundwater; the biota responds to the flooding by morphological, anatomical, physiological, phenological and/or ethological adaptations and characteristic community structures are formed.” - 12 - Table 1-2. ラ ム サ ー ル 条 約 に よ る 湿 地 の 分 類 . Flowing water Permanent Seasonal/intermittent Permanent Lakes and pools Seasonal/intermittent Fresh water Permanent Marshes on inorganic Permanent/ Seasonal/intermittent soils Seasonal/intermittent Marshes on peat soils Permanent Rivers, streams, creeks Deltas Springs, oases Rivers, streams, creeks > 8 ha < 8 ha > 8 ha < 8 ha Herb-dominated Shrub-dominated Tree-dominated Herb-dominated Non-forested Forested Marshes on inorganic High altitude (alpine) or peat soils tundra Permanent Lales Seasonal/intermittent Saline, brackish or alkaline water Permanent Marshes & pools Seasonal/intermittent Fresh, saline, brackish Geothermal or alkaline water Subterranean M L Y N O Tp P Ts Tp W Xf Ts U Xp Va Vt Q R Sp Ss Zg Zk(b) 出 典 : ラムサール条 約 (Davies and Claridge, 1993) Table 1-3. ラ ム サ ー ル 条 約 の 湿 地 分 類 法 で 氾 濫 原 に 含 ま れ る 湿 地 タ イ プ . 湿地タイプ 内 容 R 季節的,断続的,塩水,汽水,アルカリ性湖沼と平底 Ss 季節的,断続的塩水,汽水,アルカリ性湿原,水たまり Ts 季節的,断続的淡水沼沢地,水たまり,無機質土壌上にある沼地, ポットホール,季節的に冠水する草原,ヨシ沼沢地 W 潅木の優占する湿原,無機質土壌上の低木湿地林,淡水沼沢地林, 低木の優占する淡水沼沢地,低木カール,ハンノキ群落 Xf 淡水樹木優占湿原,無機質土壌上の淡水沼沢地,季節的に冠水する 森林,森林性沼沢地を含む Xp 森林性泥炭地,泥炭沼沢地林 出典: ラムサール条約(Davies and Claridge, 1993)より一部抜粋 - 13 - 1.4.5 植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ ー と は ( 1) 植 物 資 源 ま ず , 環 境 資 源 は ,「 そ れ ら を 育 む 環 境 が 好 ま し い 状 態 に と ど ま る 限 り 再 生 可 能 で あ る が ,誤 っ た 利 用 に よ っ て は 枯 渇 の 危 険 性 の あ る 資 源 」と 規 定 さ れ て い る( Dasgupta, 1982)。こ の 規 定 に 従 え ば ,環 境 資 源 は ,フ ロ ー と し て だ け で は な く ,ス ト ッ ク と し て も 人 々 の 厚 生 に 直 接 影 響 を 与 え る 特 性 を 有 し て い る 。環 境 資 源 の な か で も ,植 物 資 源 は ス ト ッ ク 資 源 と し て の 性 質 が 強 い 。 植 物 資 源 は ,消 滅 す る 鉱 物 資 源 な ど の ,一 度 掘 り 出 せ ば 補 給 が で き ず ,い つ か は 堀 り 尽 く し て し ま う よ う な 有 限 資 源 と 性 質 を 大 き く 異 に す る 。こ れ を 受 け て , 小 山 ( 1984) は 植 物 資 源 に つ い て 次 の よ う に 定 義 し て い る 。 ・ 私 た ち 人 類 が 食 糧 ,繊 維 料 ,薬 用 ,燃 料 用 ,家 畜 な ど の 飼 料 ,そ の ほ か 人間生活に利用しているあらゆる植物 ・種 子 で 増 え て ゆ く か ら ,使 用 し た あ と に も 補 給 が 可 能 で あ る と い う 点 で 再生産可能資源または無限資源と呼ばれる ・再 生 産 可 能 資 源 と い っ て も ,植 物 が 生 殖 に よ り そ の 子 孫 を 絶 や さ ず に 継 続 的 に 残 し て ゆ け る よ う に 利 用 者 の 人 間 が 配 慮 し な い 限 り ,植 物 の 種 は絶滅して再生産資源の役割を果たさなくなってしまう ま た ,鈴 木( 2000)お よ び 小 山・中 村( 2002)に よ れ ば , 「植物資源とは, 植物界に存在する有用植物と産業植物を合わせたものであり,植物資源 ( 3,000∼ 5,000 種 ) の う ち , 1 つ の 枠 が 伝 統 的 有 用 植 物 で , 他 の 1 つ の 枠 が 産業植物資源,そして重なり合った共通部分が第二次(原料)資源となる」 と さ れ て い る ( Fig. 1-6)。 菅 ( 2004) は ,「 有 用 植 物 ( useful plant) と は , 人 間 が 生 活 の 用 に 役 立 て る た め に 栽 培 し ,あ る い は 自 然 界 か ら 採 取 す る 植 物 で あ る 」と し ,代 表 的 な 例 と し て ,食 糧 ・ 繊 維 料 ・ 薬 用 ・ 燃 料 用 ・ 飼 料 な ど を あ げ て い る 。ま た ,有 用 植 物 と い う と ,一 般 に は 農 作 物( 栽 培 作 物 )を 連 想 す る が ,実 際 に は 植 物 産 業 に 利 用 さ れ る 原 種 を 含 む 野 生 植 物 が 広 く 存 在 す る 。一 方 で ,産 業 植 物 資 源 は 第 一 次 資 源 と 第 二 次 資 源 と に 区 分 さ れ ,第 一 次 資 源 は ,第 二 次 資 源 の 原 種 と さ れ る 野 生 種 が 主 で ,野 生 の ツ ル マ メ や 野 生 サ トウキビなどの育種材料が含まれる。そして,第二次資源はイネやダイズ, ト マ ト な ど の 栽 培 用 に 品 種 改 良 さ れ た 植 物 を い う 。 小 山 ・ 中 村 ( 2002) は , 産 業 植 物 資 源 を 定 義 す る に あ た り 次 の 2 つ の 条 件 を 設 け て い る : ( 1) 収 益 性 が あ る こ と ,( 2) 生 態 的 持 続 性 が あ る こ と 。 以 上 を 基 に ,本 論 文 で は 栽 培 種 と し て の 産 業 植 物 資 源 は 研 究 の 対 象 と せ ず , 収 益 性 を も た な い 有 用 植 物 を「 植 物 資 源 」と し て 用 い る こ と に す る 。つ ま り , - 14 - 植物界 「野生未利用植物」 植物資源 有用植物 産業資源植物 「第二次(原料)資源」 イネ,ダイズ,トマト,etc 品種改良された栽培種 「第一次(天然)資源」 野生サトウキビ,野生パラゴム,etc 主として野生種 出典: 鈴木(2000)および小山・中村(2002)をもとに加筆 Fig. 1-6. 植 物 資 源 の カ テ ゴ リ ー . 本 論 文 で は 図 中 の 灰 色 部 分 の 植 物 資 源 を 研 究 対 象 とする. 有 用 植 物 の 中 か ら 第 二 次 資 源 を 除 い た 領 域 を 研 究 対 象 と す る ( Fig. 1-6)。 ( 2) 植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ ー 植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ ー に つ い て は ,「 目 的 を 持 っ た 標 本 や 情 報 の 収 集 ・ 整 理・管 理 」 ( 小 山 , 1992), 「 個 々 の 植 物 資 源 が ,ど う 分 類 さ れ ,ど こ に 分 布 し ,ど ん な 形 質 を 持 っ て い る か 調 べ る こ と 」 ( 小 山・中 村 , 2002)と さ れ て い る こ と を 踏 ま え , 本 研 究 で は ,「 そ の 地 域 に 分 布 す る 植 物 資 源 の 種 名 と 生 態 的 特 性 ,ロ ー カ ル ユ ー ス に 関 す る 情 報 を 種 お よ び 生 態 系 レ ベ ル で 記 載 す る こ と」と定義することにする。 インベントリー 調査は,地域の生物多様性の 現 状 を 把 握 す る に あ た っ て も っ と も 基 本 的 な 作 業 と さ れ て い る( 鷲 谷 , 1996)。 本論文では,調査対象地域の植物相 9 と植生 9 10 について,植物分類学およ フ ロ ラ( flora)と も い う 。特 定 の 限 ら れ た 地 域 に 分 布 し 生 育 す る 植 物 の 種 類 を さ す ( 八 杉 ほ か (編 ), 1997)。 10 あ る 場 所 に 生 育 し て い る 植 物 の 集 団 ( 八 杉 ほ か (編 ), 1997)。 あ る い は , 自 然 環 - 15 - び 植 物 生 態 学 の 視 点 か ら ア プ ロ ー チ し ,植 物 資 源 に つ い て は 植 物 民 俗 学 の 手 法を用いたインベントリー調査を実施する。 1.4.6 植 物 資 源 マ ネ ジ メ ン ト と は 鈴 木 ( 2006) に よ る と ,「 環 境 マ ネ ジ メ ン ト は , 生 物 物 理 的 環 境 を 構 成 し て い る 要 素 を 利 用 す る こ と に よ っ て ,あ る 社 会 的 価 値 を も た ら す ゴ ー ル へ の 到 達 を 導 く 手 法 で あ る 。自 然 保 護・資 源 保 護 よ り も 包 括 的 で 積 極 的 な 意 味 を 持 ち ,人 間 の 創 造 性 ,政 治 的 あ る い は 社 会 慣 習 ,法 的 あ る い は 管 理 制 度 と い っ た 枠 組 み の な か で ,人 間 の 必 要 性 ,望 み な ど に よ っ て 発 せ ら れ た 環 境 資 源 に 対 す る 時 間 的・空 間 的 配 分 を も た ら す 意 思 決 定 過 程 で あ る 」と 定 義 さ れ て い る 。環 境 マ ネ ジ メ ン ト は ,対 象 と す る 環 境 が 存 在 し て お り ,そ の 対 象 と 構 成 要 素 を 想 定 す る 将 来( 到 達 目 標 )の 状 況 へ と 導 く こ と で あ る( 鈴 木 , 2006)。 筆 者 は こ れ を ,現 状 の 植 物 資 源 (生 物 環 境 )に マ ネ ジ メ ン ト を イ ン プ ッ ト す る こ と で ,将 来 に も 植 物 資 源 (生 物 環 境 )が 持 続 利 用 可 能 と な る ア ウ ト プ ッ ト が 導 き 出 さ れ る と 解 釈 す る ( Fig. 1-7)。 植 物 資 源 の マ ネ ジ メ ン ト は ,環 境 マ ネ ジ メ ン ト の な か で も 生 態 学 の 視 座 か ら 植 物 資 源 を 維 持・保 全・管 理 の 対 象 と す る も の で あ る 。そ し て ,植 物 資 源 環境 -将来- 環境 -現状- アウトプット インプット 環境マネジメント 持続利用可能 な生物環境 出 典 : 鈴 木 (2006)を改 変 Fig. 1-7. 環 境 マ ネ ジ メ ン ト の 役 割 . 境の総和プラスさまざまな人間活動の総合された影響を生物の側からもっとも的 確 に 示 し て い る も の ( 宮 脇 , 1991)。 - 16 - マ ネ ジ メ ン ト は ,劣 化 途 中 の 生 態 系 に 対 し て ,資 源 が 枯 渇 し て し ま う 生 態 系 に な る こ と に 歯 止 め を か け ,持 続 的 な 植 物 資 源 利 用 を め ざ し た マ ネ ジ メ ン ト 手 法 を 導 き 出 す こ と を 目 的 と し て い る ( Fig. 1-8)。 本 研 究 で は , 季 節 的 な 著 し い 水 位 変 動 を と も な い ,多 様 な エ コ ト ー ン を 有 す る 熱 帯 氾 濫 原 生 態 系 に 存 在する植物資源をマネジメントの対象とする。 人為圧 弱 天然林 劣化途中 の生態系 短期 持続利用可能 な生態系 長期 植物資源マネジメント 枯渇した 生態系 強 Fig. 1-8. 人 為 圧 の 程 度 と 生 態 系 動 態 の 関 係 , お よ び 植 物 資 源 マ ネ ジ メ ン ト の 果 たす役割. - 17 - 1.5 研 究 方 法 本 研 究 は ,筆 者 が 参 画 し て き た 海 外 学 術 調 査 団 の 植 物 資 源 研 究 を と お し て , 熱 帯 氾 濫 原 に お け る 植 物 資 源 の 情 報 を 収 集 し ,得 ら れ た デ ー タ を も と に 植 物 資 源 の 生 育 状 態 や 利 用 状 況 を 分 析 す る 。デ ー タ の 収 集 お よ び 分 析 に は 以 下 の 手 法 を 用 い る : (1)文 献 調 査 , ( 2)植 物 生 態 学 的 調 査 , ( 3)植 物 民 俗 学 的 調 査 。 1.5.1 学 術 調 査 団 に よ る 協 働 生 物 多 様 性 は ,人 類 の 生 存 を 支 え ,人 類 に 様 々 な 恵 み を も た ら す も の と し て ,世 界 全 体 で 取 り 組 む べ き 重 要 な 課 題 と さ れ て い る 。こ の た め ,1992 年 5 月 に「 生 物 多 様 性 条 約 」が 発 効 さ れ て い る 。日 本 を 含 む 180 ヶ 国 以 上 が こ の 条 約 に 加 盟 し ,世 界 の 生 物 多 様 性 を 保 全 す る た め の 具 体 的 な 取 り 組 み が 進 め ら れ て い る 。こ の 条 約 に は ,先 進 国 の 資 金 に よ り 開 発 途 上 国 の 取 組 を 支 援 す る 資 金 援 助 の 仕 組 み と ,先 進 国 の 技 術 を 開 発 途 上 国 に 提 供 す る 技 術 協 力 の 仕 組 み が あ り ,経 済 的・技 術 的 な 理 由 か ら 生 物 多 様 性 の 保 全 と 持 続 可 能 な 利 用 の た め の 取 組 が 十 分 で な い 開 発 途 上 国 に 対 す る 支 援 が 行 わ れ て い る 。こ れ に 関 連 し て ,日 本 側 の 学 術 調 査 団 と カ ン ボ ジ ア 側 の 省 庁 の 専 門 家 と の 協 働 に よ る 「 ト ン レ サ ッ プ 湖 生 態 系 維 持 機 構 の 解 明 」 プ ロ グ ラ ム ( 2002-2005, 代 表 : 金 沢 大 学 塚 脇 真 二 )な ら び に ,ユ ネ ス コ の MAB( 人 間 と 生 物 圏 計 画 )と IHP ( 国 際 水 文 学 計 画 ) と が 共 同 企 画 を し て ,「 カ ン ボ ジ ア の ト ン レ サ ッ プ 生 物 圏保護区における生態学的ならびに水文学的調査および若手研究者の養成」 プ ロ グ ラ ム ( 2004-2005, 代 表 : 同 上 ) が 行 わ れ た 。 筆 者 は こ の プ ロ グ ラ ム の学術調査団における植物班の若手研究者として植物資源調査に参画して い る 。 筆 者 に よ る 現 地 調 査 は , 2004 年 10 月 か ら 2007 年 3 月 ま で に 前 後 10 回にわたり実施した。 1.5.2 文 献 調 査 先 行 研 究 を も と に ,発 展 途 上 国 の 植 物 資 源 を 国 際 的 に 保 全 す る よ う に な っ た 経 緯 ,植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ ー の 取 り 組 み に 関 す る 国 際 的 事 例 ,カ ン ボ ジ ア に お け る 熱 帯 植 物 資 源 の 減 少 の 原 因 ,お よ び ト ン レ サ ッ プ 湖 の 生 物 多 様 性 に か か わ る 学 術 的 研 究 を レ ビ ュ ー し て ,本 研 究 の 課 題 整 理 を 整 理 す る 。ま た , カ ン ボ ジ ア な ら び に 隣 国 に お け る カ ン ボ ジ ア の 植 物 相・植 生 に 関 す る 文 献 の 存在を把握し,収集する。 - 18 - 1.5.3 植 物 生 態 学 的 調 査 上 記 の 調 査 に よ っ て 得 ら れ た 文 献 を 基 に ,植 物 分 類 学 的 ア プ ロ ー チ に よ り 植 物 相 を 把 握 す る 。な お ,植 物 名 は ,原 則 と し て イ ン デ ッ ク ス・キ ュ ー エ ン シ ス( Index Kewensis)に 従 う 。次 に ,そ の 情 報 を 踏 ま え て ,Brawn-Blanquet ( 1964)の 評 価 に 準 じ た 植 物 社 会 学 的 手 法 に よ る 植 生 調 査 に よ り ,植 生 に 関 す る 数 量 的 な 情 報 を 収 集 し ,TWINSPAN 法( Hill, 1979b)お よ び DCA 法( Hill, 1979a) と い っ た 多 変 量 解 析 ( 詳 細 は 3-4 節 を 参 照 ) に よ っ て , 植 物 群 落 の 抽 出 と 氾 濫 原 植 生 と 環 境 傾 度( 微 地 形・土 壌 成 分・水 分 条 件 )と の 関 係 を 把 握する。 ま た , 毎 木 調 査 ( 胸 高 直 径 が 5cm を 越 え る 生 木 を 対 象 と し 胸 高 直 径 と 樹 高 を 測 定 ,花 実 の 有 無 お よ び 株 立 ち し た 生 幹 の 本 数 を 記 録 )を 実 施 し て ,氾 濫原生態系の現存量および出現種に関する生態特性について明らかにする。 と く に ,優 占 種 の 更 新 特 性 に 着 目 し て ,氾 濫 原 生 態 系 の 自 己 修 復 メ カ ニ ズ ム を明らかにする。 1.5.4 民 俗 植 物 学 的 調 査 地 域 住 民 へ の イ ン タ ビ ュ ー 調 査 を 中 心 と す る 社 会 調 査 を 行 い ,彼 ら の 生 活 に 密 着 し た 植 物 資 源 を 抽 出 す る と と も に ,地 域 住 民 に よ る 植 物 資 源 利 用 形 態 の 時 系 列 的 変 化 を 把 握 す る 。ま た ,同 じ く イ ン タ ビ ュ ー 調 査 に よ っ て ,植 物 資 源 の 利 用 実 態 を 把 握 し ,伐 採 な ど の 人 為 的 攪 乱 と 現 存 植 生 の 関 係 を 分 析 す ることにより,氾濫原植物資源の衰退メカニズムを解明する。 1.6 論 文 の 構 成 本 論 文 は , 次 の 章 か ら 構 成 さ れ て い る ( Fig. 1-9)。 ま ず , 序 論 で あ る 第 1 章 で は ,熱 帯 氾 濫 原 の 植 物 資 源 に 関 す る 問 題 の 所 在 を 述 べ ,研 究 目 的 お よ び 研 究 の 意 義 を 示 し て ,主 要 概 念 を 定 義 し な が ら 本 研 究 の フ レ ー ム ワ ー ク を 絞 り込む。 第 2 章 で は ,熱 帯 の 植 物 資 源 に 関 す る 国 際 的 ア プ ロ ー チ の 進 展 を 追 い ,昨 今 の イ ン ベ ン ト リ ー 研 究 の 実 情 を 探 る 。ま た ,カ ン ボ ジ ア に お け る 森 林 資 源 減 少 の 実 態 ,お よ び ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 に お け る 植 物 資 源 の 持 続 的 マ ネ ジ メ ン ト に か か わ る 先 行 研 究 と 既 存 の 取 り 組 み を レ ビ ュ ー す る 。そ し て ,そ れ - 19 - らの先行研究から導かれる本研究の研究課題を整理する。 第 3 章 で は ,本 論 文 の 調 査 対 象 地 域 で あ る カ ン ボ ジ ア・ト ン レ サ ッ プ 湖 の 熱 帯 氾 濫 原 に お い て 現 存 植 生 の イ ン ベ ン ト リ ー を 行 い ,自 然 攪 乱 と 人 為 的 攪 乱 が 生 じ る 氾 濫 原 生 態 系 の 実 態 を 把 握 す る 。こ こ で は ,Brawn-Blanquet の 評 価 に 準 じ た 植 物 社 会 学 的 手 法 に よ る 植 生 調 査 を 行 い ,得 ら れ た 植 生 デ ー タ を 基 に TWINSPAN 法 に よ っ て 植 生 タ イ プ を 識 別 し ,さ ら に ,DCA 法 に よ っ て 調査区を序列化して各植生タイプの成立要因を検討する。 第 4 章 で は ,ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 と い う 季 節 的 水 位 変 動 を 強 い 人 為 圧 が 加 わ る 特 異 的 な 環 境 に み ら れ る 生 態 系 の 自 己 回 復 メ カ ニ ズ ム を 解 明 す る 。こ こ で は , 氾 濫 原 で 圧 倒 的 に 優 占 す る サ ガ リ バ ナ 科 の Barringtonia acutangula の 更 新 特 性 に 注 目 し , 人 為 的 攪 乱 の 程 度 と Barringtonia acutangula の 生 育 状 況 の 関 係 に 焦 点 を 置 い て い る 。 毎 木 調 査 に よ っ て Barringtonia acutangula の 優 占 割 合 と 萌 芽 更 新 能 力 を 計 測 し ,ま た ,実 生 調 査 に よ っ て 実 生 が 定 着 す る 環 境 に つ い て 光 度 を 指 標 と し て 明 ら か に し ,さ ら に ,過 剰 な 人 為 的 攪 乱 が 加 えられた野焼き直後の焼け跡地における幼個体の侵入の様子を記述する。 第 5 章 で は ,ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 に お け る 氾 濫 原 生 態 系 の 破 壊 の メ カ ニ ズ ム を 解 明 す る 。と く に ,地 域 住 民 の 住 居 形 態 に 着 目 し ,そ の 生 活 様 式 に 応 じ た 植 物 資 源 利 用 の 実 態 を イ ン タ ビ ュ ー 調 査 に よ っ て 明 ら か に し ,季 節 的 な 水 位 変 動 と も 関 連 し た 植 物 資 源 に 及 ぼ す 人 為 的 影 響 に つ い て 考 察 す る 。ま た , 近 年 ,調 査 地 内 に 急 速 に 侵 入 し て き た 外 来 種 を 取 り 上 げ ,地 域 住 民 の 生 活 に 及ぼす影響と今後予想される氾濫原生態系の劣化について推察する。 最 後 の 第 6 章 で は ,前 章 ま で の 調 査 結 果 を 基 に ,熱 帯 氾 濫 原 に お け る 植 物 資 源 マ ネ ジ メ ン ト に つ い て 総 合 的 に 考 察 し ,持 続 的 な 植 物 資 源 マ ネ ジ メ ン ト の 方 向 性 を 探 る 。植 物 資 源 の 消 失 問 題 の 解 決 は ,定 量 的・定 性 的 な 科 学 技 術 研 究 の 成 果 に 基 づ い て 提 示 さ れ る べ き で あ る と い う 立 場 か ら ,本 研 究 に お い て 実 施 さ れ た ,資 源 保 有 国 の 研 究 者 と の 協 働 に よ る 植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ ー の 貢 献 に つ い て 考 察 し ,最 後 に 植 物 資 源 の 持 続 的 マ ネ ジ メ ン ト に 関 す る 今 後 の展望と課題を述べる。 - 20 - <2章> 【先行研究のレビュー】 ■インベントリー研究に関する既存の 国際的取り組み ■カンボジア・トンレサップ湖の特異性 <1章> 【序論】 ■問題の所在 熱帯湿地の著しい劣化 インベントリー研究の遅れ ■研究の目的・意義 研究方法: 文献調査 <3章> 【現存植生のインベントリー】 ■植生群落の分類 ■成立要因の分析 研究方法: フィールドワーク −植物社会学的アプローチ <4章> 【氾濫原の自己回復メカニズムの解明】 ■優占種Barringtonia acutangulaの更新特性と 人為的攪乱への応答 ■開花サイズ/実生の定着環境/萌芽更新 <5章> 【氾濫原の破壊メカニズムの解明】 ■季節的な水位変動と住居形態に応じた 地域住民による植物資源利用 ■外来植物の侵入状況 研究方法: フィールドワーク −植物生態学的アプローチ 研究方法: インタビュー調査 −植物民俗学的アプローチ <6章> 【総合考察】 ■研究の成果・貢献 ■植物資源の持続的マネジメント ■今後の課題 Fig. 1-9. 本 論 文 の 構 成 . - 21 - 第2章 先行研究のレビュー 2.1 は じ め に 本章では,まず熱帯の植物資源に関する国際的アプローチの進展を追い, 昨 今 の イ ン ベ ン ト リ ー 研 究 の 実 情 を 探 る 。そ し て ,カ ン ボ ジ ア に お け る 森 林 資 源 減 少 の 実 態 ,お よ び ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 に お け る 植 物 資 源 の 持 続 的 マ ネジメントにかかわる先行研究と既存の取り組みをレビューすることによ って,本研究の研究課題を整理する。 2.2 植 物 資 源 に 関 す る 国 際 的 ア プ ロ ー チ の 進 展 2.2.1 環 境 問 題 の 国 際 的 展 開 「 地 球 環 境 保 全 元 年 」 と 称 さ れ る 1989 年 に は , 地 球 温 暖 化 対 策 や フ ロ ン 削 減 対 策 ,熱 帯 雨 林 保 護 な ど に 関 す る 国 際 会 議 が 多 く 開 か れ ,相 互 理 解 と 国 際 的 取 り 決 め が 推 進 さ れ た 。と く に 環 境 汚 染 の 発 生 場 所 と 被 害 を 受 け る 場 所 が 異 な る こ と や ,経 済 産 業 優 先 の 政 策 を と る 国 に 汚 染 源 が 集 中 す る こ と ,汚 染 対 策 の 可 否 で 産 業 構 造 を 支 え る 貿 易 に ま で 影 響 を 与 え る こ と ,地 球 は 一 つ であることを前提とすればその対策規模を統一することなどの必要性が想 定 さ れ , 国 境 を 越 え た 国 際 協 力 と い う 概 念 が 誕 生 し た ( 高 島 , 2003) 。 そ の 後 , 1992 年 に 国 際 連 合 (United Nations)が 中 心 と な っ て , ブ ラ ジ ル の リ オ デ ジ ャ ネ イ ロ で「 環 境 と 開 発 に 関 す る 国 際 連 合 会 議 1 」( UNCED: United Nations Conference on Environment and Development) が 開 催 さ れ た 。 そ し て 環 境 保 全 を 行 い な が ら 経 済 成 長 を 目 指 す「 持 続 可 能 な 開 発 」を 基 本 と し た「 リ オ 宣 言 」 が 示 さ れ , そ の 行 動 計 画 と し て 「 ア ジ ェ ン ダ 21」 が 採 択 さ れ た 。 同 時 に ,温 暖 化 防 止 の た め の「 気 候 変 動 枠 組 み 条 約 」と 生 物 多 様 性 を 国 際 的 に 保 全 す る「 生 物 の 多 様 性 に 関 す る 条 約( 生 物 多 様 性 条 約 )」 ( Convention on Biological Diversity) も 署 名 さ れ た 。 後 者 の 「 生 物 多 様 性 条 約 」 は , 1993 年 12 月 29 日 に 正 式 に 発 効 さ れ , 生 態 系 や 絶 滅 危 惧 種 等 に 対 す る 一 般 の 関 心 が 高 ま る 契 機 と な っ た 。生 物 多 様 性 条 約 は ,個 別 種 や 特 定 の 生 態 系 に 限 ら ず ,時 間 的・空 間 的 な 広 が り を 想 定 し 1 こ の 会 議 は , 「 地 球 サ ミ ッ ト 」 ( the Earth Summit) と 通 称 さ れ る こ と が 多 い 。 た だ し , こ の 会 議 を 引 き 継 ぐ 形 で 10 年 後 に 開 か れ た 「 持 続 可 能 な 開 発 に 関 す る 世 界 首 脳 会 議 」も 併 せ て「 地 球 サ ミ ッ ト 」と 呼 ば れ る こ と が あ る( 後 者 は と く に「 第 2 回 地 球 サ ミ ッ ト 」 「 ヨ ハ ネ ス ブ ル グ 地 球 サ ミ ッ ト 」 「 地 球 サ ミ ッ ト 2002」 な ど と呼ばれる)。 - 22 - た ,地 球 規 模 の 包 括 的 な 初 め て の 国 際 条 約 で あ る 。ま た ,生 物 多 様 性 の 保 全 だ け で な く ,持 続 可 能 な 利 用 を 明 記 し た 条 約 で も あ る 。こ の 条 約 は ,発 展 途 上国における国際協力による植物資源インベントリーを推進するのに大き な 役 割 を 果 た し た 。生 物 多 様 性 条 約 は ,生 物 の 多 様 性 を「 生 態 系 」 「種」 「遺 伝 子 」の 3 つ の レ ベ ル で 捉 え , ( 1)生 物 多 様 性 の 保 全 , ( 2)生 物 多 様 性 の 構 成要素の持続可能な利用, ( 3)遺 伝 資 源 の 利 用 か ら 生 ず る 利 益 の 公 正 か つ 衡 平 な 配 分 を 目 的 と す る 国 際 条 例 で あ る 。 2006 年 4 月 現 在 , 日 本 を 含 む 187 か 国 お よ び EC が 加 盟 し て い る 。日 本 は 1993 年 5 月 23 日 に 批 准 し ,締 約 国 になっている。なお,アメリカはこの条約を批准していない。 条 約 加 盟 国 は ,生 物 多 様 性 の 保 全 と 持 続 可 能 な 利 用 を 目 的 と す る 国 家 戦 略 又 は 国 家 計 画 を 作 成・実 行 す る 義 務 を 負 っ て い る 。ま た ,重 要 な 地 域・種 の 特 定 と モ ニ タ リ ン グ を 行 う こ と に な っ て い る 。一 方 ,生 物 多 様 性 の 持 続 可 能 な 利 用 の た め の 措 置 と し て ,持 続 可 能 な 利 用 の 政 策 へ の 組 み 込 み や ,先 住 民 の 伝 統 的 な 薬 法 の よ う に ,利 用 に 関 す る 伝 統 的・文 化 的 慣 行 の 保 護・奨 励 に つ い て 規 定 し て い る 。さ ら に ,こ の 条 約 に は ,先 進 国 の 資 金 に よ り 開 発 途 上 国 の 取 り 組 み を 支 援 す る 資 金 援 助 の 仕 組 み と ,先 進 国 の 技 術 を 開 発 途 上 国 に 提 供 す る 技 術 協 力 の 仕 組 み が あ り ,経 済 的・技 術 的 な 理 由 か ら 生 物 多 様 性 の 保全と持続可能な利用のための取り組みが十分でない開発途上国に対する 支 援 が 行 わ れ る こ と に な っ て い る 。ま た ,生 物 多 様 性 に 関 す る 情 報 交 換 や 調 査研究を各国が協力して行うことになっている。 生 物 多 様 性 条 約 を き っ か け と し て ,国 際 的 な 生 物 多 様 性 に 関 す る 以 下 の よ う な 諸 条 約 が 制 定 さ れ る よ う に な り ,国 際 的 に よ り 具 体 的 な 取 り 組 み が な さ れるようになった。 ・ ラムサール条約: 国内外の湿地保全の取組,条約の実施促進 ・ ワシントン条約: 国内規制,違法行為の防止,摘発 ・ 世界遺産条約: アジア地域の世界遺産登録地の保全管理支援 ・ 二 国 間 渡 り 鳥 条 約 ・ 協 定 : 二 国 間 協 力 の 枠 組 の 必 要 性 の 検 討 ,ア ジ ア太平洋地域の多国間協定の策定検討 ・ ボン条約: 条約への対応の必要性について検討する ・ 食 糧 及 び 農 業 に 用 い ら れ る 植 物 遺 伝 資 源 に 関 す る 国 際 条 約 ( 仮 称 ): FAO が 検 討 し て い る 条 約 へ の 対 応 を 検 討 す る ・ そ の 他 の 関 連 条 約 : 砂 漠 化 対 処 条 約 ,国 際 熱 帯 木 材 協 定 ,ウ ィ ー ン 条約(オゾン層保護)との連携強化 - 23 - 2.2.2 保 全 ア プ ロ ー チ の 枠 組 み 生物多様性条約前文では,生物多様性の価値として,内在的価値のほか, 生 態 学 上 ,遺 伝 上 ,社 会 上 ,教 育 上 ,文 化 上 ,レ ク リ エ ー シ ョ ン 上 お よ び 芸 術 上 の 価 値 を 掲 げ て い る 。 こ れ ら の 価 値 を 有 す る 生 物 多 様 性 の 保 持 は ,( 1) 社会経済の持続的発展の基盤である生物資源提供を保証し, ( 2)生 命 維 持 に 必 要 な 生 態 系 サ ー ビ ス を 支 え る 上 で 重 要 で あ る ( UNEP, 1993)。 す な わ ち , 生物多様性の保全は, ( 1)発 展 に 必 要 な 生 物 資 源 と , ( 2)自 然 に よ り 与 え ら れ る 人 類 の 生 命 保 持 機 構 の 保 持 を 追 及 す る こ と( WRI et al., 1992)と い え る 。 こ の こ と を 踏 ま え , 高 橋 ( 2002) は , 生 物 多 様 性 保 全 の 二 つ の 側 面 の う ち , ( 1)生 物 資 源 保 全 の 観 点 か ら の も の を「 生 物 資 源 保 全 ア プ ロ ー チ 」, ( 2)生 命 保 持 機 構 保 全 の 観 点 か ら も の を「 生 命 保 持 機 構 保 全 ア プ ロ ー チ 」と し ,主 た る 保 全 対 象 や 価 値 な ど の 概 念 に つ い て Fig. 2-1 の よ う に 整 理 し て い る 。 構 成 価 (保全対象) 種 利用価値 主な効用 直接的利用 価値 生物多様性 遺贈価値 間接的利用 価値 非利用的価値 生態系 存在価値 内在的価値 生 物 資 源 医薬品 将 来 世 代 将来世代 の選択 生 存 基 盤 食料品 木材 将来世代 への継承 エコロジカル サービス 機構調節 水源涵養 水・大気浄化 精神安定 生命保持機構保全アプローチ オプション 価値 保全アプローチ 生物資源保全アプローチ 遺伝子 値 出典: 高橋(2002) Fig. 2-1. 生物多様性保全アプローチ. - 24 - ま た , 2000 年 5 月 の 第 5 回 締 約 国 会 議 で は , 生 物 多 様 性 条 約 の 運 用 指 針 と し て 「 生 態 系 ア プ ロ ー チ 」 ( Ecosystem approach) を 定 義 化 し , 承 認 さ れ た 。生 態 系 ア プ ロ ー チ と は ,生 物 多 様 性 条 約 の 運 用 指 針 と し て ,自 然 の 生 物 系 に お け る 構 造 ,過 程 ,機 能 ,相 互 作 用 を 用 い る と い う 方 法 で あ る 。こ の ア プ ロ ー チ に 体 現 さ れ て い る 諸 原 則 と し て は ,各 関 係 者 相 互 間 に お け る 整 合 的 活 動 ,バ ラ ン ス 確 保 ,分 野 横 断 的 協 力 ,協 議 ,協 力 関 係 に 加 え て ,人 間 と 自 然 の 相 互 作 用 ,ダ イ ナ ミ ッ ク で 適 応 し や す い 管 理 手 法 な ど が 挙 げ ら れ る 。生 態 系 ア プ ロ ー チ の 目 的 は ,「 生 物 多 様 性 条 約 の 3 項 目 の 目 標( 保 全 ,持 続 的 利 用 ,遺 伝 資 源 の 利 用 か ら 生 ず る 利 益 の 公 正 か つ 衡 平 な 共 有 )の バ ラ ン ス を 確保」しやすくすることにある。 2005 年 に 開 か れ た ラ ム サ ー ル 条 約 第 9 回 締 約 国 会 議 で は , 「 湿 地 の 賢 明 な 利 用 ( Wise use of wetlands) 2 」 の 定 義 と し て , 「 湿 地 の 賢 明 な 利 用 は , 持続可能な開発の範囲内において生態系アプローチを通じて達成される湿 地の生態学的特徴の維持である」としている。 2.2.3 植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ ー の 必 要 性 現 在 使 用 さ れ て い る 薬 品 の う ち , 途 上 国 人 口 の 80% , 30 億 人 以 上 の 健 康 を 担 っ て い る 伝 統 的 薬 品 は も ち ろ ん の こ と ,近 代 的 な 薬 で も 多 く は 生 物 か ら 抽 出 さ れ た 活 性 物 質 に 由 来 し て い る ( WRI et al., 1992)。 一 方 で , 全 世 界 の 高 等 な 生 物 種 は 1,000 万 種 か ら 3,000 万 種 , あ る い は そ れ 以 上 存 在 す る と 推 定 さ れ て い る が ,分 類 さ れ 命 名 さ れ て い る も の は 140 万 種 に す ぎ な い 。熱 帯 林 は , こ れ ら 地 球 上 に 存 す る 生 物 種 の 50∼ 90%を 擁 し て い る ( WRI et al., 1992)。 多 く の 野 生 生 物 は 熱 帯 林 の 消 失 な ど に と も な い , 人 類 に 認 識 さ れ る 前にこの世から姿を消している。 こ う し た 問 題 を 解 決 す る に あ た り ,生 物 多 様 性 条 約 の 前 文 で は ,「 生 物 の 多 様 性 の 著 し い 減 少 又 は 喪 失 の お そ れ が あ る 場 合 に は ,科 学 的 な 確 実 性 が 十 分 に な い こ と を も っ て ,そ の よ う な お そ れ を 回 避 し 又 は 最 小 に す る た め の 措 置 を と る こ と を 延 期 す る 理 由 と す べ き で は な い 」と し て “予 防 原 則 ”を 明 記 し て い る 。 ま た , 世 界 分 類 学 イ ニ シ ア テ ィ ブ ( G T I : Global Taxonomy 2 ラ ム サ ー ル 条 約 に お け る 湿 地 保 全 の 基 本 原 則 で あ る 。ラ ム サ ー ル 条 約 で は , 「人 類は,湿地とそこに生息する多様な生物の恵みを受けてきため,その姿を子孫に 伝えられるよう守りながら,湿地からの恩恵を受け,利用していくこと」を賢明 な 利 用 と し て い る 。賢 明 な 利 用 の 例 と し て は ,「 伝 統 的 な 狩 猟 や 漁 業 」や「 適 正 に 管理された観光利用」といった,これまでその地で代々受け継がれ続けてこられ たものが挙げられる。 - 25 - Initiative)で は ,イ ン ベ ン ト リ ー 研 究 に つ い て ,以 下 の よ う に 述 べ て い る( 志 村 ・ 松 浦 ( 編 ) , 2004) : 「( 1) 生 物 多 様 性 の 保 全 に は , 世 界 の ど こ に ど の ような生物が生息しているかを正確に把握して科学的な根拠に基づいた保 全 計 画 を 立 て る 必 要 が あ る 。し か し ,地 球 規 模 で の 正 確 な デ ー タ の 蓄 積 が 不 足 し て い る た め ,生 態 系 の 生 物 種 に 関 す る 調 査 研 究 が 迅 速 に 実 施 さ れ な け れ ばならない。 ( 2)ア ジ ア・オ セ ア ニ ア 地 域 に お け る 地 域 プ ロ ジ ェ ク ト へ の 貢 献 等 を 通 じ ,分 類 学 研 究 の 振 興 を 図 っ て い く と と も に ,分 類 学 デ ー タ ベ ー ス の 開 発 ,生 物 種 標 本 の 管 理 状 況 の 改 善 等 を 通 じ た ,分 類 学 に 関 す る 各 種 の 情 報 へ の ア ク セ ス 改 善 に 取 り 組 み ,地 球 規 模 で の 生 息 生 物 種 の 実 態 解 明 に 貢 献 し て い く 。」 2.2.4 イ ン ベ ン ト リ ー の 効 果 近 年 ,植 物 標 本 の 情 報 を デ ー タ ベ ー ス 化 し ,イ ン タ ー ネ ッ ト 上 で 公 開 す る 取 り 組 み が ,キ ュ ー 植 物 園 や ミ ズ ー リ 博 物 館 ,ス メ ソ ニ ア 植 物 園 な ど の 植 物 園 を 中 心 と し た 施 設 で 実 施 さ れ て い る 。そ こ で 示 さ れ て い る イ ン ベ ン ト リ ー の効果 3 として以下のようなものがあげられる。 ・研究の効率化 植 物 標 本 は 世 界 中 の 標 本 館 に 分 散 し て い て 参 照 す る の が 容 易 で は な く ,標 本 の 所 在 に 関 す る 情 報 を 入 手 す る こ と さ え 困 難 で あ る 。し か も 膨 大 な 数 の 標 本 を 参 照 し て 記 録 す る の は ,か な り の 労 力 と 時 間 を 必 要 と す る 。植 物 標 本 の 持つ情報をデータベース化して公開することで,標本を探し回る時間・労 力・旅 費 な ど の コ ス ト を 節 約 し ,研 究 を 効 率 的 に 進 め る こ と が で き る よ う に な る こ と が 期 待 さ れ る 。ま た ,標 本 の 情 報 を 共 有 す る こ と に よ っ て ,時 系 列 的な追跡調査や保護政策への展開などが可能になる。 ・利用形態の多様化・利用者の増加(教育・普及効果) 標 本 館 の 利 用 は 多 く の 場 合 ,専 門 の 研 究 者 に 制 限 さ れ て い る が ,イ ン タ ー ネ ッ ト 公 開 す る こ と で 様 々 な 方 面 か ら の 利 用 が 可 能 と な る 。と く に 小 中 高 校 などの教育現場でコンピュータを使った学習が積極的に導入されている現 在 ,標 本 画 像 を 含 む デ ー タ ベ ー ス は 生 物 に 対 す る 人 々 の 興 味 を 引 き つ け る 格 好 の 教 材 と な り う る 。普 段 は 一 般 に 公 開 さ れ て い な い 学 術 標 本 も ,公 的 資 金 ( 税 金 )を 使 っ て 生 産 さ れ た 以 上 ,ネ ッ ト ワ ー ク 等 を 介 し て 可 能 な 限 り 一 般 公 開 す る こ と は 納 税 者 に 対 す る 義 務 で あ る と も い え る 。利 用 形 態 の 多 様 化 ・ 3 東京都立大学牧野標本館所蔵タイプ標本データベース < http://taxa.soken.ac.jp/MakinoDB/makino/html_j/index0.html> を 参 照 し た 。 - 26 - 利 用 者 の 増 加( 教 育・普 及 効 果 )に 対 応 し て ,地 域 へ 情 報 を 還 元 す る こ と で 教 育 現 場 で の 教 材 と し て 用 い ら れ る こ と が 期 待 さ れ る 。た だ し ,悪 質 な 山 野 草 業 者 や マ ニ ア な ど に よ る 盗 掘 の 危 険 が あ る 種 に つ い て は ,採 集 地 等 の 情 報 を非公開とするなどの対策が必要となる。 ・標本の維持管理対策 標 本 館 の 業 務 は ,標 本 の 収 集・整 理・維 持 管 理 だ け で な く ,国 内 外 の 標 本 館 と の 交 換・貸 出 等 の 対 外 サ ー ビ ス な ど 多 岐 に わ た っ て い る 。所 蔵 標 本 が デ ー タ ベ ー ス 化 さ れ て い れ ば ,図 書 館 に お け る 蔵 書 管 理 の よ う に ,よ り 適 切 か つ 効 率 的 な 標 本 管 理 が 可 能 に な る こ と が 期 待 さ れ る 。ま た ,永 久 的 な 情 報 管 理が実現されることが望める。 2.2.5 イ ン ベ ン ト リ ー 調 査 に よ り 得 ら れ た デ ー タ の 公 開 と 活 用 日本の自然環境の現状と動態を把握するために実施されている自然環境 保 全 基 礎 調 査 4 ( 緑 の 国 勢 調 査 ) の 目 的 の 一 つ に ,「 調 査 成 果 を 記 録 , 保 存 , 公 開 し ,自 然 環 境 の デ ー タ バ ン ク を 整 備 す る 」と い う 考 え が あ る 。こ れ ま で に 多 く の 報 告 書 や 地 図 等 の 成 果 物 が 刊 行 ,も し く は イ ン タ ー ネ ッ ト を 通 じ て 公 表 さ れ て き た 。こ の よ う な 基 礎 調 査 の デ ー タ 公 開 に つ い て ,新・生 物 多 様 性国家戦略では「生物多様性情報クリアリングハウスメカニズム 5 」の構築 を 推 奨 し て い る 。以 下 は ,新・生 物 多 様 性 国 家 戦 略 の 第 3 部 お よ び 第 4 部 よ り一部抜粋したものである。 “自 然 環 境 デ ー タ の 公 開 に 当 た っ て は , 客 観 性 , 精 度 等 デ ー タ そ の も の が持つ特性を正確に把握しつつ活用することが効果的な保全対策の推進 上 不 可 欠 で あ る た め , デ ー タ の 取 得 方 法 , 内 容 や 仕 様 等 に 関 す る 情 報 (メ タ デ ー タ )と 合 わ せ て 公 開 す る よ う 努 め る こ と が 重 要 で す 。 こ の た め , あ ら ゆ る 主 体 が 様 々 な デ ー タ に 容 易 に ア ク セ ス し ,か つ 情 報 の 質 を 見 極 め な が ら 利 用 で き る よ う ,情 報 共 有 デ ー タ ベ ー ス の 構 築 や メ タ デ ー タ の 作 成 ・ 4 自 然 環 境 保 全 法 ( 1972) に 基 づ き , 環 境 省 ( 旧 環 境 庁 ) が 実 施 す る 日 本 の 自 然 環境全般に関する調査。主な目的は,自然環境保全施策を科学的・客観的アプロ ー チ か ら 推 進 す る た め の 基 礎 資 料 を 得 る こ と で あ る 。概 ね 5 年 ご と に 調 査 を 行 い , 自然環境の現状と時系列変化を捉えることも目指していることから「緑の国勢調 査」とも言われている。調査項目は,植生,野生動植物,地形地質,陸水域,海 域,生態系など多岐にわたっている。調査成果は,報告書や地図等の形で公表さ れ る ほ か ,生 物 多 様 性 セ ン タ ー の ホ ー ム ペ ー ジ か ら も ア ク セ ス 可 能 と な っ て い る 。 5 ク リ ア リ ン グ ハ ウ ス メ カ ニ ズ ム ( CHM: Japan Clearing-House Mechanism) と は , 日本全国の各所に分散している生物多様性に係わる多数の情報の所在を横断的に 検索・把握するための情報源情報の検索システムである。 - 27 - 公 開 を 進 め ,情 報 交 換 の 仕 組 み (ク リ ア リ ン グ ハ ウ ス メ カ ニ ズ ム )を 整 備 す る な ど , 生 物 多 様 性 に 関 す る 情 報 シ ス テ ム の 充 実 を 図 り ま す 。 ”( 中 略 ) “「 生 物 多 様 性 条 約 」 第 17 条 (情 報 の 交 換 )及 び 第 18 条 (科 学 技 術 協 力 ) で は 情 報 交 換 の 重 要 性 を 掲 げ て お り ,こ れ を 基 に 締 約 国 等 に お け る ク リ ア リ ン グ ハ ウ ス メ カ ニ ズ ム (情 報 交 換 の 仕 組 み )の 構 築 を 進 め る こ と と し て い ま す 。 ”( 中 略 ) “こ の ク リ ア リ ン グ ハ ウ ス メ カ ニ ズ ム が 備 え る べ き 機 能 は ,利 用 者 が「 ど こ に ,ど の よ う な 情 報 が ,ど の よ う な 形 で 存 在 し ,ど う す れ ば 使 え る の か 」 を 容 易 に 知 る こ と が で き る よ う に す る こ と で す 。そ の た め に ,生 物 多 様 性 に 関 し ,様 々 な 機 関 で 作 成 さ れ た デ ー タ ベ ー ス 等 の 情 報 に つ い て ,そ の「 名 称 ,所 在 ,内 容 ,品 質 ,作 成 者 ,利 用 条 件 」等 ,利 用 者 が 求 め る 情 報 に ア ク セ ス す る た め に 必 要 な 情 報 を 記 述 し た デ ー タ (メ タ デ ー タ )を ,共 通 の 様 式 で デ ー タ ベ ー ス 化 し て あ ら か じ め 登 録 し て お く こ と が 有 効 で す 。こ う し た メ タ デ ー タ を 整 備 し ,フ ォ ー カ ル ポ イ ン ト に 登 録 す る こ と に よ り ,利 用 者 は こ れ ら を 通 じ て 必 要 な 情 報 に 容 易 に ア ク セ ス 可 能 と な る こ と か ら ,デ ー タ の 相 互 利 用 が 推 進 さ れ ,不 必 要 な 重 複 投 資 が 回 避 さ れ る こ と が 期 待 さ れます。” 笹 岡( 2002)は ,こ の ク リ ア リ ン グ ハ ウ ス メ カ ニ ズ ム の 実 用 に 関 し て 以 下 のことを予察している: 「産・学・官・民などさまざまな主体が生物多様 性 に 関 す る 調 査 デ ー タ や 情 報 を 持 っ て お り ,そ れ ら を 相 互 利 用 す れ ば 良 い 。そ し て 各 論 と し て デ ー タ を や り 取 り す る 段 階 に な る と さ ま ざ ま な 技 術 的・精 神 的 障 害 も 明 ら か に な っ て く る 。そ う し た 障 害 を ク リ ア ー し つ つ ,デ ー タ 共 有 化 を 実 現 し て い く た め の 第 一 歩 と し て ,ク リ ア リ ン グ ハ ウ ス メ カ ニ ズ ム や メ タ デ ー タ が 「 共 通 の 土 俵 」 の 役 割 を 果 た し て い く こ と が 望 ま れ る 」。 2.2.6 イ ン ベ ン ト リ ー 研 究 の 国 際 的 な 取 り 組 み 地 球 環 境 保 全 と い う ,グ ロ ー バ ル な 問 題 を 解 決 す る た め に は 先 進 国 と 発 展 途 上 国 の 提 携 ( Fig. 2-2) が 不 可 欠 と な り , 地 球 サ ミ ッ ト な ど 多 く の 国 際 会 議 の フ ォ ロ ー ア ッ プ が 行 わ れ て い る 。 国 連 に お い て も 環 境 計 画 ( UNEP) が 創 設 さ れ , 経 済 協 力 開 発 機 構 ( OECD) や 世 界 貿 易 機 関 ( WTO) な ど 数 多 く の 国 際 機 関 と も 協 力 体 制 が と ら れ て い る 。ま た ,ア ジ ア に お い て は ,ア ジ ア・ 太 平 洋 環 境 会 議 ( エ コ ア ジ ア ) が 1991 年 以 降 に 開 催 さ れ , と く に 「 環 境 共 同 体 意 識 の 向 上 」, 「 淡 水( 湖 沼 )汚 染 防 止 」, 「 海 洋 汚 染 防 止 」, 「気候変動問 題 」 な ど の ほ か ,「 環 境 分 野 」 の 産 業 化 な ど が 議 論 さ れ て い る 。 以 下 に , イ - 28 - 先進国 国際取引 開発援助 経済活動 海洋汚染 化学物質の使用 化石燃料の使用 オゾン層破壊 地球温暖化 酸性雨 野生生物種 の減少 熱帯林の減少 砂漠化 開発途上国 の公害問題 森林伐採・焼畑農作 有害廃棄物 の越境移動 人口急増 貧困経済 発展 途上国 出典: 環境省(編)(1990) Fig. 2-2. 地 球 環 境 問 題 に 関 す る 先 進 国 と 発 展 途 上 国 の 相 互 作 用 . - 29 - ンベントリー研究の国際的取組み事例を記す。 ・ GTI: Global Taxonomy Initiative( 世 界 分 類 学 イ ニ シ ア テ ィ ブ ) 生 物 多 様 性 条 約 第 4 回 締 約 国 会 議 (1998 年 ブ ラ テ ィ ス ラ バ )に お い て ,生 物 種 の 正 確 な 同 定 に 基 づ く 生 態 系 の 理 解 と ,生 物 種 の 様 々 な 情 報 へ の ア ク セ ス を 世 界 中 の 研 究 者 や 政 策 決 定 者 に 保 証 す る こ と ,そ の た め に は 基 礎 と な る 分 類 学 が イ ニ シ ア テ ィ ブ を 発 揮 し な け れ ば な ら な い と し て 決 議 さ れ た 。生 物 多 様 性 の 保 全 と そ の 持 続 的 利 用 の た め ,そ の 基 礎 と な る 分 類 学 情 報 を 整 備 し よ う と す る 世 界 的 な 事 業 で あ る 。 生 物 多 様 性 の 保 全 の た め に は ,「 ど ん な 生 物 が ど れ く ら い す ん で い る の か 」を 知 る こ と が 必 要 で あ り ,そ の た め に 分 類 学 は ,こ の た め の 基 礎 で あ る ,生 物 を 命 名 し ,同 定 し ,分 類 す る 任 務 を 担 当 す るとしている。 生 物 多 様 性 条 約 第 2 回 締 約 国 会 議 ( 1995 年 ジ ャ カ ル タ ) に お い て , 生 物 種 の 正 確 な 同 定 に 基 づ く 生 態 系 の 理 解 と ,生 物 種 の 様 々 な 情 報 へ の ア ク セ ス を 世 界 中 の 研 究 者 や 政 策 決 定 者 に 保 証 す る こ と ,そ の た め に は 基 礎 と な る 分 類 学 が イ ニ シ ア テ ィ ブ を 発 揮 し な け れ ば な ら な い と 決 議 さ れ ,「 世 界 分 類 学 イ ニ シ ア テ ィ ブ 」 の 実 施 が 第 4 回 締 約 国 会 議 ( 1998 年 ブ ラ テ ィ ス ラ バ ) で 決 議 さ れ た 。日 本 で も 国 立 環 境 研 究 所 な ど の 機 関 と 分 類 学 の 専 門 家 が 中 心 に な っ て 取 り 組 ん で い る 。関 連 し て ,世 界 の 生 物 多 様 性 を 調 査 研 究 し て 生 物 デ ー タ ベ ー ス を 作 成 す る「 生 物 種 2000」 ( Species 2000)プ ロ グ ラ ム が 1994 年 に 立 ち 上 げ ら れ ,ま た ,生 物 多 様 性 情 報 を 提 供 す る た め の「 世 界 生 物 多 様 性 情 報 フ ァ シ リ テ ィ 」( GBIF: Global Biodiversity Information Facility) が 2001 年 に 日 本 を 含 む 14 ヶ 国 に よ り 設 立 さ れ て い る 。 ・ INBio: Instituto Nacional de Biodiversidad, Costarica( コ ス タ リ カ 生 物 多 様 性研究所) 国 内 の 野 生 生 物 標 本 コ レ ク シ ョ ン と ナ シ ョ ナ ル・イ ン ベ ン ト リ ー 作 り ,お よび情報提供体制の整備が目的。また,パラタクソノミスト(分類補助員) の 養 成 や 海 外 製 薬 会 社 な ど と の 契 約 協 力 に よ る 生 物 資 源 開 発( バ イ オ プ ロ ス ペクト)も手掛ける。 生物多様性 に関する研究所の世界的なモデルとして 有 名 で あ る 。 1989 年 に 設 立 さ れ た 民 間 非 営 利 団 体 で は あ る が , 大 統 領 令 に よ り ス タ ー ト し た も の で 実 質 的 に は 国 立 機 関 と 同 様 に 扱 わ れ て い る 。最 近 で は ,研 究 所 に 隣 接 し て イ ン ビ オ ・ パ ル ケ( イ ン ビ オ 公 園 )を 整 備 し ,環 境 教 育にも力を注いでいる。 - 30 - ・ CI: Conservation International( コ ン サ ベ ー シ ョ ン ・ イ ン タ ー ナ シ ョ ナ ル ) 自然生態系と人とのかかわりを重視して環境問題を解決することを目的 に 設 立 さ れ た ,民 間 非 営 利 の 国 際 組 織 (NGO)。地 球 が 長 い 年 月 を か け て 育 ん で き た 自 然 遺 産 と し て の 生 物 多 様 性 を 保 全 し ,人 間 社 会 と 自 然 が 調 和 し て 生 き る 道 を 具 体 的 に 示 す こ と を 使 命 と し て い る 。 Hotospot 6 を 主 要 な 活 動 対 象 の一つに据えて,科学的調査と生物多様性保全活動を行っている。 ・ ICBG: Inernational Cooperatove Biodiversity Groups, USA( 米 国 生 物 多 様 性 国際協力グループ) 産 学 官 の 連 携 グ ル ー プ で ,新 規 な 医 薬 探 索 ,天 然 物 資 源 の 諸 性 情 の 解 明 に よ る 生 物 多 様 性 保 全 へ の 応 用 ,途 上 国 へ の 経 済 的 援 助 ,途 上 国 で の 科 学 的 教 育,途上国への科学技術移転等の国際協力の促進を目的としている。 ・ J-IBIS: Japan Integrated Biodiversity Information System( 環 境 省 生 物 多 様 性 センター) 「 新・生 物 多 様 性 国 家 戦 略 」を 受 け て ,日 本 の 生 物 多 様 性 の 保 全 を 積 極 的 に 推 進 し ,世 界 の 生 物 多 様 性 の 保 全 に 貢 献 す る た め の 中 核 的 拠 点 と し て 設 立 さ れ た 。そ し て ,日 本 国 内 の 生 物 多 様 性 や 自 然 環 境 に 関 す る さ ま ざ ま な 情 報 を収集し,広く提供するためのシステムづくりを推進している。 ・ ANESC: Asian Nature Environmental Science Center( ア ジ ア 生 物 資 源 環 境 研 究センター) ア ジ ア 各 地 で 進 行 す る 生 物 資 源 の 枯 渇 や 環 境 破 壊 を 食 い 止 め る た め に ,生 物資源の持続的利用と環境保全の調和に関する基礎研究と応用的基盤研究 を ,国 際 的 ネ ッ ト ワ ー ク を 活 用 し な が ら ,統 合 的 に 推 進 す る こ と を 目 的 と し ている。東京大学におけるアジア生物資源環境研究の拠点であると同時に, 日本を含むアジア全体の環境保全と生物生産の調和を求める研究活動の拠 点 に な る こ と を 目 指 し て い る 。そ の た め ,ア ジ ア 各 地 の 問 題 発 生 地 域 に 出 向 いて研究活動を行うとともに,研究交流を深めている。 ・ ICSU: International Council for Science Union( 国 際 科 学 会 議 ) ICSU は , 人 類 の 利 益 の た め に , 科 学 と そ の 応 用 分 野 に お け る 国 際 的 活 動 を 推 進 す る こ と を 目 的 と し て , 1931 年 に 設 立 さ れ た 国 際 的 な 非 政 府 組 織 で 6 豊かな生物多様性を有しながらもその減少が著しく,優先的に保全すべき地域 ( Myers et al. 2000) - 31 - あ る 。 ICSU の 活 動 目 標 は 次 の と お り で あ る 。 「科学や社会において重要な主要問題の識別とそれらへの対処」 「あらゆる分野や国家の科学者間の関係の促進」 「国際的な科学の目標におけるあらゆる科学者の参加の促進」 「 科 学 界 や 政 府 ,市 民 社 会 ,民 間 部 門 の 間 の 建 設 的 な 対 話 を 促 進 す る た めの独立した権威あるアドバイスの提供」 2005 年 時 点 で ICSU に 加 盟 し て い る 団 体 は , ( 1)国 際 的 な 分 野 別 組 織 で あ る 学 術 連 合 ( 29 団 体 ),( 2) 各 国 の 科 学 ア カ デ ミ ー , 研 究 委 員 会 な ど の 学 際 団 体 ( 101 団 体 ),( 3) 学 際 提 携 機 関 ( 23 機 関 ) で あ る ( Fig. 2-3)。 国際科学会議(ICSU: International Council for Science) 学術連合 (29団体) ICSU学際団体 (101団体) 学際提携機関 (23機関) IUBS IUGG IGU IUGS etc. SCAR CODATA SCOPE SCOR SCOSTEP WDC etc. IIASA IUFRO IFS etc. 出典: ICSU(2005)に加筆 Fig. 2-3. ICSU への加盟団体と学際提携機関. - 32 - 2.2.7 植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ ー に 関 す る 参 考 文 献 インベントリーに関する文献は,国内外を問わず数多く出版されており, そのうち植物資源に関する主要なものを以下に記述する。 ・『 有 用 植 物 』( 菅 , 2004) : メ キ シ コ と 日 本 の 民 族 植 物 学 や 世 界 の 食 糧 植 物 に つ い て の 事 例 を 紹 介 し な が ら ,衣 食 住 を は じ め 薬 用 ,観 賞 用 な ど ,人 間 生 活 に 不 可 欠 な も の と し て 利 用 さ れ て き た 植 物 を め ぐ っ て ,そ の 来 歴 と 栽 培 ・ 育 種 ・ 品 種 改 良 ・ 伝 播 等 の 経 緯 を 平 易 に 語 り ,植 物 と 共 に 歩 ん だ文明の足跡を浮彫にしている。 ・『 生 物 資 源 ア ク セ ス 』( 渡 辺 ( 編 ) , 2002) : バ イ オ 産 業 に 必 要 不 可 欠 な 生 物 資 源 へ の ア ク セ ス 最 新 動 向 ,生 物 多 様 性 条 約 の 影 響 ,法 制 度 ,ゲ ノ ム 等 の 最 先 端 領 域 を 具 体 的 に 解 説 し な が ら ,今 後 日 本 が と る べ き バ イ オ 戦 略を提示している。 ・『 地 球 植 物 誌 計 画 』 (Prance, 1997): キ ュ ー 植 物 園 園 長 G.T.プ ラ ン ス 博 士 が 熱 帯 雨 林 の 多 様 性 維 持 に か け る 悲 願 を 語 り ,熱 帯 に お け る 植 物 相 調 査 の 現 状 を 記 載 し て い る 。熱 帯 雨 林 の 恵 み を だ れ も が 楽 し め る と き ,森 は 再 生 す る と 説 き ,ア マ ゾ ン 先 住 民 の 知 恵 が 熱 帯 雨 林 の 持 続 的 利 用 の 道 を ひ らくと述べながら,名もない花を救う戦略を紹介している。 ・『 民 族 植 物 学 』( Cotton, 1996) : 民 族 植 物 学 研 究 の 歴 史 的 な 流 れ か ら は じ ま っ て ,植 物 に 関 す る 基 礎 知 識 ,民 族 学 的 ・ 人 類 学 的 ・ 言 語 学 的 デ ー タ の 集 め 方・観 察 の 方 法・デ ー タ 解 析 法 ,植 物 の 種 の 同 定 の 仕 方 な ど と い っ た 基 本 的 な 知 識・技 術 か ら ,森 林 か ら も た ら さ れ る 非 木 材 産 物 の 市 場 性 の 計 り 方 ,費 用 対 効 果 の 計 算 法 と い っ た 応 用 的 知 識 ,地 球 環 境 サ ミ ッ ト や ア ジ ェ ン ダ 21 な ど の 世 界 的 な 動 き の 背 景 , 今 後 必 要 と な る 法 律 や そ の 作 成 法 ,研 究 者 が そ な え て い る べ き 倫 理 指 針 な ど に 触 れ て い る 。ま た ,そ れ ぞ れ の テ ー マ に は ,世 界 中 の 研 究 者 の 報 告 か ら 参 考 と な る 事 例 が 紹 介 さ れ て お り ,米 国 の 製 薬 会 社 に よ る 新 薬 の 開 発 の 様 子 や ,現 地 住 民 と の 協 同 研 究 の 進 め 方 ,保 全 植 物 学 の 具 体 例 と い っ た 実 践 も 紹 介 し て いる。 ・『 The Herbarium Handbook』( Diane and Leonard, 1989) : 植 物 標 本 館 に お け る 標 本 管 理 と そ の 技 術 に つ い て 図 を 交 え な が ら 詳 細 に 紹 介 し て い る 。植 物 標 本 を 採 集 し ,保 管 す る こ と の 重 要 性 を 説 き ,標 本 館 の あ り 方 を 記 載 している。 - 33 - 2.3 カ ン ボ ジ ア に お け る 森 林 資 源 の 現 状 2.3.1 森 林 資 源 の 減 少 カ ン ボ ジ ア 全 体 の 森 林 面 積 は ,2005年 で 104,447,000haと な っ て お り ,国 土 面 積 の 約 59%に 相 当 す る ( FAO, 2005)。 し か し , 大 規 模 伐 採 に よ る 森 林 面 積 の 減 少 は 著 し く ,原 生 林( primary forest)の 面 積 は ,2005年 の 時 点 で 1990年 の 58.0%が 消 失 し て い る 。 森 林 面 積 減 少 の 要 因 と し て は , 過 剰 な 商 業 伐 採 を は じ め ,人 口 圧 の 増 大 ,農 地 の 拡 大 ,ヴ ェ ト ナ ム 戦 争 や カ ン ボ ジ ア 内 戦 ,薪 炭 材 の 収 奪 ,地 域 特 有 の 慣 習 的 な 森 林 管 理 形 態 の 崩 壊 ,軍 隊 用 地 開 発 な ど が 考 え ら れ て い る( Brandon and Ramankutty, 1993; CNMC/NEDECO, 1998; 生 長 , 1998; Poffenberger, 2000)。現 時 点 で は と く に 減 少 ペ ー ス を 鈍 化 さ せ る 有 効 な 施 策 が 存 在 し な い た め ,こ の 減 少 傾 向 は ま す ま す 拍 車 が か か る も の と 考 え ら れ る 。1997年 に 世 界 銀 行 と UNDP,FAOが 作 成 し た『 Cambodia Forestry Policy Assessment』 に よ る と , 2010年 に お け る カ ン ボ ジ ア の 森 林 面 積 は Table 2-1の ように推定されている。 Table 2-1. 2010 年のカンボジアにおける森林面積の推定値. シナリオ1 シナリオ2 シナリオ3 試算条件 全ての森林が年1%の ペースで減少する 開拓禁止区域での森林 減少はなし。保全区域 では年1%の減少 開拓禁止区域での森林 減少はなし。保全区域 では年0.5%の減少 根拠 周辺国の平均的減少 速度 開拓禁止政策の実効 より強力な政策の実効 により過去20年間の高 地林の減少速度と同程 度を維持 森林総面積(ha) 減少面積(ha) 国土面積に占める割合 9,365,886 1,918,314 52% 9,974,129 1,310,017 55% 10,629,165 655,035 59% 出典: World bank et al. (1997) 2.3.2 森 林 資 源 減 少 の 原 因 カ ン ボ ジ ア に お け る 森 林 資 源 減 少 の 原 因 に つ い て , Poffenberger( 2000) の報告を基に,商業伐採と人口増加の事例を記述する。 - 34 - ( 1) 商 業 伐 採 1994 年 , マ レ ー シ ア の 主 要 な 木 材 企 業 で あ る サ ム リ ン グ 社 は , カ ン ボ ジ ア で 80 万 haに お よ ぶ 天 然 林 の 伐 採 件 を 得 た 。4 ペ ー ジ に わ た る 契 約 書 に は , 8 年 間 の 免 税 と 30 年 間 の 契 約 自 動 更 新 ,わ ず か 10 万 ド ル の 森 林 再 生 資 金 の 提 供 と い う 条 件 が 記 載 さ れ て い る 。こ の 契 約 書 に よ っ て ,サ ム シ ン グ 社 は 国 土 面 積 の 4.5%に あ た る 森 林 で の 操 業 を 手 に し た 。 カ ン ボ ジ ア の 国 会 は 議 論 を 行 う こ と な く こ の 権 利 譲 渡 を 承 諾 し た 。ま た ,ラ タ ナ キ リ 州 で は ,イ ン ド ネ シ ア の 企 業 共 同 体 で あ る マ ル コ・パ ニ ン が 150 万 haの 伐 採 事 業 権 を 獲 得 し て い る 。 こ れ は カ ン ボ ジ ア に 残 さ れ た 森 林 面 積 の 約 20%に 相 当 す る 。 ま た , 事業地域は多くの少数民族が先祖代々住み続けてきた領土を含んでいる。 1998 年 の 終 わ り ま で に カ ン ボ ジ ア 政 府 は 国 土 の 約 40% に 相 当 す る 森 林 開 発 権 を 外 国 企 業 に 提 供 し た 。 サ ム リ ン グ 社 の 伐 採 量 は ヘ ク タ ー ル あ た り 50m 3 と 推 定 さ れ て い る が ,こ れ は 持 続 的 な 収 穫 を 想 定 し た 場 合 の 5 倍 に あ た る 材 積 で あ る 。農 業 省 の 職 員 は ,事 業 者 に よ る 伐 採 活 動 の 監 視 を 試 み て い る が 追 い 返 さ れ て し ま う , と い う 報 告 を 行 っ て い る 。 ま た , あ る 報 告 書 に は ,「 伐 採 事 業 が 行 わ れ て い る 区 域 内 で ,住 民 は 燃 料 確 保 の た め に 木 を 切 る こ と を 拒 ま れ て い る 。ま た ,地 元 を 市 場 と す る 製 材 所 は 閉 鎖 さ れ た 。そ し て ,事 業 主 は 自 分 の 利 益 を 守 る た め に 外 国 人 の ガ ー ド マ ン を 連 れ て き た 」と 記 載 さ れ て いる。 ( 2) 人 口 増 加 人 口 増 加 と 先 進 国 に お け る 一 人 当 た り の 林 産 物 消 費 量 の 増 加 に よ っ て ,ア ジ ア の 森 林 に 対 す る 開 発 圧 力 は 高 ま っ て き た ( Poffenberger, 2000)。 2004 年 時 点 で の カ ン ボ ジ ア の 人 口 は 12.824 百 万 人 と 見 積 も ら れ て お り ,1998∼ 2004 年 の 人 口 増 加 率 は 1.81%で , 2010 年 に は 15 百 万 人 に 達 す る と 予 測 さ れ て い る ( NIS, 2004; Fig. 2-4)。 人 口 増 加 と 森 林 消 失 と の 間 に は 複 雑 な 関 係 が あ る 。た だ し ,自 然 資 源 の 劣 化 原 因 と し て 人 口 増 加 を 問 題 に す る 方 が ,政 策 の 失 敗 や 汚 職 ,無 秩 序 な 民 間 セクター活動などに責任の所在を求めるよりも批判しやすいという見解も あ る ( Poffenberger, 2000)。 Bromley( 1989) は 次 の よ う に 述 べ て い る 。「 無 能 で 腐 敗 し た 政 府 は ,森 林 消 失 を 人 口 増 加 の せ い に す る こ と に よ っ て ,森 林 消 失 に 対 す る 彼 ら の 姿 勢 や 対 応 に 向 け ら れ る 非 難 を『 不 特 定 多 数 の 』農 民 に 添 加 す る こ と が で き る 」。 実 際 に は , 地 域 住 民 に よ る 森 林 資 源 の 利 用 度 が 高 ま る に つ れ ,彼 ら は よ り 厳 格 で 持 続 可 能 な 資 源 管 理 を 行 う よ う に な る と い わ れ て い る ( Poffenberger and McGean, 1996)。 し か し , そ う で あ っ て も , 拡 大 - 35 - 16 Population (mil.) 14 12 10 8 6 4 2 0 1995 2000 2005 2010 Year 出 典 : NIS(2004) Fig. 2-4. 1995 年 ∼ 2010 年 に お け る カ ン ボ ジ ア の 人 口 増 加 予 測 . す る 都 市・農 村 部 の 人 口 は 長 期 的 に 見 て 森 林 資 源 へ の 開 発 圧 力 を 高 め て い く こ と に な る 。そ し て ,人 口 増 加 は 薪 な ど の 林 産 物 と 農 地 の 需 要 増 加 に 繋 が り , 森林に影響を与えることになる。 2.3.3 森 林 資 源 減 少 に 対 す る 取 り 組 み 森 林 資 源 減 少 が 加 速 す る 状 況 に あ っ て , カ ン ボ ジ ア 政 府 は 1993 年 に 新 た な 保 護 地 域 シ ス テ ム を 構 築 し ,国 土 全 体 の 19.7%の 面 積 を 保 護 対 象 地 域 と し た。このシステムには,7 つの国立公園と 9 つの野生生物保護区,3 つの保 護 景 観 地 域 , 3 つ の 多 目 的 利 用 地 域 が 含 ま れ て い る ( Ministry of Environment/UNDP, 1994)。 こ の シ ス テ ム の 導 入 に よ り , 保 護 地 域 の 面 積 拡 大 や 保 全 体 制 の 整 備 な ど ,一 定 の 改 善 が み ら れ た 。し か し ,保 護 地 域 に お け る 生 物 の 保 護 に 対 す る 取 り 組 み は ,ほ と ん ど 行 わ れ て お ら ず ,カ ン ボ ジ ア の 動植物相は依然として深刻な脅威にさらされている。 ま た ,森 林 保 全 へ の 協 力 ド ナ ー と し て は ,継 続 中 の も の も 含 め ,世 界 銀 行 , - 36 - FAO,ADB 7 ,UNDP,GTZ 8 ,MRC 9 ,DANIDA 1 0 等 が あ げ ら れ る( 逆 瀬 川 , 2005)。 こ れ ら の う ち , 最 も 包 括 的 な 支 援 を 行 っ て い る の が 世 界 銀 行 で あ る 。 2000 年 の 世 界 銀 行 の 国 別 援 助 戦 略 (CAS: Country Assistance Strategy)に よ れ ば ,違 法 伐 採 を 除 い た 森 林 セ ク タ ー は GDPの 6%を 占 め ,US$180,000,000の 外 貨 収 入 源 に な っ て い る と し ,高 い 商 業 価 値 の 材 木 ,エ コ ツ ー リ ズ ム ,木 材 産 業 を 通 じ た 成 長 ,コ ミ ュ ニ テ ィ・フ ォ レ ス ト リ 等 は 農 村 部 の 収 入 源 に な る と し て い る。そして,違法伐採はこれらの経済的な機会を妨げるものとしている。 2.3.4 コ ミ ュ ニ テ ィ ・ フ ォ レ ス ト リ の 実 施 東 南 ア ジ ア に は ,各 地 域 の 共 同 体 が 数 百 年 に も 渡 っ て 発 展 さ せ て き た 独 自 の 森 林 管 理 形 態 が 存 在 す る 。 Gilmour and Fisher( 1997) は ,「 1970 年 代 , 国 が 村 で 行 う 林 業 活 動 は 『 社 会 林 業 ( social forestry)』 と 呼 ば れ た 。 村 人 の 関 与 は ,林 地 を 造 成 す る 際 の 雇 用 に 限 ら れ て い た 」と 述 べ て い る 。当 時 ,地 域 住 民 が 森 林 資 源 を 管 理 す る 権 利 と 義 務 を 持 ち ,と い う 考 え は 政 府 が 実 施 す る プ ロ ジ ェ ク ト に は な か っ た 。 1978 年 , FAO は 社 会 林 業 を 定 義 づ け た が , そ れ は ,「 林 業 活 動 に 地 元 住 民 が 密 接 に 関 わ る あ ら ゆ る 状 況 」( FAO, 1978) と 幅 広 く 解 釈 し た も の だ っ た 。し か し ,Gilmour and Fisher( 1997)は ,森 林 資 源 に 対 す る 権 限 を 持 つ の は 誰 か ,と い う 住 民 主 体 の 森 林 管 理 に お け る 重 要 課 題 を 強 調 す る た め に , よ り 詳 細 な 定 義 づ け を 試 み た 。 そ れ は ,「 森 か ら 生 活 の 糧 を 得 た り ,森 を 農 業 の た め に 利 用 し て い る 農 村 住 民 が ,自 ら も 利 に 対 す る 権 限 を も ち ,利 用・保 全 し て い く こ と 」と い う も の で あ る 。誰 が 森 林 に 対 す る 権 限 を 持 つ の か と い う 問 題 は ,東 南 ア ジ ア の 森 林 管 理 に お い て 地 域 住 民 が 果 た す 役 割 を 議 論 す る 際 ,も っ と も 激 し い 論 争 に な る( Poffenberger, 2000)。 住 民 主 体 の 森 林 管 理 ア プ ロ ー チ は ,新 た に 巻 き 起 こ っ て い る 市 民 運 動 に 支 え られながら,東南アジア各国で次第に政治的な課題となった。 そ う し た 社 会 的 背 景 の 下 に ,地 域 住 民 と の 対 話 を 始 め て い っ た こ と で ,住 民は地域独特の事情や条件に応じて森林資源を持続的に利用するための知 恵 や ノ ウ ハ ウ を 持 つ こ と が 明 ら か に な っ た 。そ れ に よ り ,持 続 的 な 森 林 管 理 を 実 行 す る に は ,コ ミ ュ ニ テ ィ の 生 態 的 ,文 化 的 ,社 会 的 特 徴 を 熟 知 し て い る地域住民に管理を委ねることが最良の方法であると理解されるようにな 7 8 9 10 ア ジ ア 開 発 銀 行 ( ADB: Asian Development Bank) ド イ ツ 技 術 協 力 公 社( GTZ: Deutsche Gesellschaft fur Technische Zusammenarbeit) メ コ ン 河 委 員 会 ( MRC: Mekong River Commission) デ ン マ ー ク 国 際 開 発 庁 ( DANIDA: Danish International Development Agency) - 37 - っ た 。そ の 結 果 ,地 域 住 民 に 森 林 管 理 の 権 利 が 与 え ら れ ,彼 ら が 主 体 と な る コミュニティ・フォレストリ 11 が 実 施 さ れ る よ う に な っ た ( 生 長 , 1998)。 カ ン ボ ジ ア で は , 1998 年 に カ ン ボ ジ ア 政 府 が 発 表 し た 国 家 環 境 行 動 計 画 (Cambodia National Environmental Action Plan)の 中 で ,「 コ ミ ュ ニ テ ィ ・ フ ォ レ ス ト リ 」 に 関 す る 2 つ の 条 項 が 盛 り 込 ま れ て い る 。 引 用 す る と ,「 森 林 地 域 の 住 民 は ,さ ま ざ ま な 生 産 物 を 森 林 に 依 存 し て い る 。し た が っ て ,彼 ら は カ ン ボ ジ ア の 森 林 の 持 続 的 な 管 理 お い て ,十 分 な 役 割 を 持 つ 。地 元 の コ ミ ュ ニ テ ィ は ,森 林 保 護 ,植 林 ,薪 や 用 材 の コ ミ ュ ニ テ ィ 内 で の 分 配 ,一 般 の 穀 物 栽 培 と 地 元 の 建 築 用 樹 木 ,果 樹 ,薪 な ど の 生 産 を 組 み 合 わ せ た ア グ ロ フ ォ レ ス ト リ ー な ど の プ ロ グ ラ ム の 企 画 と 実 施 に 参 加 し な け れ ば な ら な い 」と 述 べ , さ ら に ,「 い く つ か の 国 の 経 験 で は , 森 林 権 利 の 確 保 は , 地 元 の コ ミ ュ ニ テ ィ に と っ て ,森 林 管 理 で 持 続 的 な 参 加 を 得 る た め に 主 要 な イ ン セ ン テ ィ ブ に な る 。カ ン ボ ジ ア 政 府 が 考 慮 す べ き 一 つ の 選 択 は ,森 林 局 と 地 元 の コ ミ ュ ニ テ ィ と の 間 で 契 約 を 結 び ,人 々 に 共 有 の 森 林 に つ い て 長 期 的 な ア ク セ ル , 利 用 権 を 保 証 す る こ と で あ る 。受 益 者 は 見 返 り と し て ,持 続 的 に そ の 森 林 を 管理する」と続いている。 2.3.5 カ ン ボ ジ ア の 社 会 事 情 カ ン ボ ジ ア で は , ポ ル ・ ポ ト 時 代 ( 1975∼ 1979 年 ) の 大 虐 殺 と 難 民 の 流 出 に 起 因 す る 人 材 不 足 が ,開 発 を 進 め る 上 で の 大 き な 障 害 と な っ て い る 。こ れは他の発展途上国と異なる特殊な事情といえる。これに関連して,生長 ( 1998)は ,カ ン ボ ジ ア の 社 会 事 情 に つ い て 以 下 の 5 つ の 特 徴 を 挙 げ て い る 。 ( 1) ポ ル ・ ポ ト 時 代 の 強 制 労 働 の 経 験 か ら , コ ミ ュ ニ テ ィ 内 の 信 頼 関 係 が失われ,共同作業や組織化に対して嫌悪感が生じることがある。 ( 2) ポ ル ・ ポ ト 時 代 と そ れ に 続 く 内 戦 で , 男 女 比 が 崩 れ , 農 村 に お い て も,女性が労働力として果たす役割が大きい。 ( 3) 政 治 的 ・ 経 済 的 に 不 安 定 な 時 代 が 長 く 続 い た た め に , 大 規 模 な 土 地 獲得や資本投資による産業育成などを狙う大企業および外国資本の 進出が遅れている。 ( 4) 人 口 が 比 較 的 少 な く , 土 地 の 開 墾 の 需 要 , 圧 力 は 緊 迫 し て い な か っ た。 11 森 林 の 管 理 を 地 域 住 民 の 参 加 に よ っ て 行 い ,そ こ で 得 ら れ る 用 益 権 な ど を 住 民 に 分 配 す る と い う 方 式 で , 1970 年 代 以 降 , 途 上 国 を 中 心 に 多 種 多 様 な 形 態 で 採 用 さ れ て き た ( 生 長 , 1998)。 - 38 - ( 5) も と も と 自 然 資 源 が 豊 富 に 存 在 し て い た た め , 農 民 は 強 固 な 共 同 体 組 織 を 構 築 し て 農 業 作 業 を 行 う 必 要 が な か っ た( Vickery, 1986; Martin, 1994)。 2.4 ト ン レ サ ッ プ 湖 に 関 す る 先 行 研 究 2.4.1 ト ン レ サ ッ プ 湖 の 概 要 本 研 究 で は , Hotspot に 指 定 さ れ て い る カ ン ボ ジ ア の 中 央 部 に 位 置 す る ト ン レ サ ッ プ 湖 の 氾 濫 原 を 事 例 と し て 取 り 上 げ て い る 。一 年 中 茶 褐 色 の 泥 水 を た た え る こ の 湖 は ,栄 華 を き わ め た ク メ ー ル 文 明 を 育 ん だ 湖 と し て 有 名 で あ る と と も に ,季 節 に よ っ て 水 域 面 積 や 水 深 が 大 き く 変 化 す る「 伸 縮 す る 湖( ラ オ , 1992)」 と し て 世 界 に ま れ な 存 在 で あ る 。 ト ン レ サ ッ プ 湖 地 域 の 気 候 は , 明 瞭 な 雨 季 ( 5∼ 10 月 ) と 乾 季 ( 11∼ 4 月 ) が 区 別 さ れ る 熱 帯 モ ン ス ー ン 気 候 で あ る( Fig. 2-5)。雨 季 に は イ ン ド 洋 か ら 高 温 多 湿 の 南 西 モ ン ス ー ン が 吹 き ,乾 季 に は 比 較 的 低 温 で 乾 燥 し た 東 北 モ ン ス ー ン が 吹 く 。こ の 影 響 に よ り , 300 32 250 30 200 28 150 26 100 24 50 22 0 20 J F M A M J J Temperature Temperature (℃) Rainfall (mm) Rainfall A S O N D Month 出典: Mekong River Commission(2005) Fig. 2-5. プノンペンにおける月平均気温と月平均降雨量. - 39 - 例 年 5∼ 9 月 頃 に な る と メ コ ン 河 の 水 位 が ト ン レ サ ッ プ 湖 の 水 位 よ り も 高 く な り ,こ の 時 期 に は メ コ ン 河 の 大 量 の 水 が ト ン レ サ ッ プ 湖 と 連 絡 す る ト ン レ サ ッ プ 川( 全 長 120km)を 逆 流 し て 湖 内 に 流 入 す る よ う に な る 。こ れ に よ り , 湖 面 面 積 は 最 低 水 位 期 ( 5 月 ) の 2,500km 2 ( 長 さ 約 160km, 幅 約 35km; 琵 琶 湖 の 湖 面 積( 674km 2 )の 約 4 倍 に 相 当 )か ら ,最 高 水 位 期( 10 月 )の 10,000 2 長 さ 約 250km,幅 約 100km)ま で 膨 れ 上 が る( Tanaka et al., 2003; ∼ 20,000km ( Fig. 2-6 )。 こ れ に 応 じ て , 水 深 は 1m 以 下 か ら お よ そ 10mに ま で 上 昇 す る ( MRCS/WUP-FIN, 2002; Fig. 2-7)。 最 高 水 位 期 の ト ン レ サ ッ プ 湖 は 世 界 第 19 位 の 水 域 面 積 を も つ 大 湖 で あ り , 熱 帯 低 地 に あ る 湖 と し て は 世 界 最 大 で ある。 さ ら に ,ト ン レ サ ッ プ 湖 は ,ク メ ー ル 王 朝 期 を 含 め 現 在 に 至 る ま で ,カ ン ボ ジ ア に 住 む 人 々 の 社 会・文 化・生 活 の あ ら ゆ る 面 に わ た っ て 重 要 な 存 在 で あ り 続 け て き て い た ( Bailleux, 2003)。 と く に 湖 そ の も の の 自 然 環 境 や 湖 が 生 み 出 す 水 産 資 源 は ,カ ン ボ ジ ア の 人 々 の 生 活 を 支 え 続 け て き て い る 。こ れ に 加 え ,ア ジ ア 有 数 の 大 河 メ コ ン と ト ン レ サ ッ プ 川 に よ っ て 連 絡 す る 同 湖 は , メコン河の天然の遊水池として同河下流域の洪水の防止に大きく貢献して いる。しかし,昨今では,湖自体やメコン河水系の大規模開発や観光振興, 人 口 増 加 に と も な う 著 し い 環 境 劣 化 が 懸 念 さ れ て い る ( McDonald et al., 1997; Mekong River Commission, 1997)。 と く に , こ の 地 域 で は 住 民 の 生 活 に 必 要 な 資 源 を 氾 濫 原 か ら 直 接 利 用 し て い る が ,そ れ が 氾 濫 原 生 態 系 の 劣 化 を 引 き 起 こ し て い る ( Keskinen, 2003)。 タ イ ラオス シェムリアプ カンボジア トンレサップ湖 メ コ ン 河 ベトナム タイ湾 0 200km 出典: 筆者作成 出典: 塚脇(2001) Fig. 2-6. トンレサップ湖の位置と乾季と雨季の水域面積変化. - 40 - 出典: LEGOS ホームページ<http://www.legos.obs-mip.fr/fr/> Fig. 2-7. トンレサップ湖における季節的な水位変化. 上 述 し た 以 外 に も ,ト ン レ サ ッ プ 湖 の 水 量 や 堆 積 物 運 搬 の プ ロ セ ス ,溶 存 酸 素 量 と い っ た 水 文 学・湖 沼 学 に 関 す る 基 礎 情 報 が 学 術 的 に 報 告 さ れ て い る ( e.g. Bonheur, 2001; Carbonnel and Guiscafre, 1963; Koponen et al., 2004; Kummu et al., 2005a; Lamberts, 2001; Penny et al., 2005; Sarkkula et al., 2003; Tsukawaki, 1997; WUP-FIN, 2003)。 例 え ば , Lamberts( 2001) は , ト ン レ サ ッ プ 湖 生 態 系 に お け る 生 産 物 の 流 れ を Fig. 2-8 の よ う に 示 し て い る 。 Lamberts( 2001)は ,ト ン レ サ ッ プ 湖 に お け る 一 次 生 産 力 は 同 様 の 熱 帯 湖 に 比 べ て 高 い と し ,そ の 理 由 を 季 節 的 な 水 位 変 動 に よ っ て 同 湖 と メ コ ン 河 水 系 と の 間 で 栄 養 素 や 微 生 物 ,魚 類 の 出 入 り が 著 し く 生 じ る か ら と し て い る 。し か し な が ら ,ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 に 生 育 す る 生 物 資 源 の 現 状 や 動 態 に 関 す る研究はほとんどなされていない。 2.4.2 ト ン レ サ ッ プ 湖 の 誕 生 か ら 現 在 ま で 塚 脇( 2000)お よ び Tsukawaki et al.,( 2003)は ,ト ン レ サ ッ プ 湖 の 歴 史 に - 41 - Mekong Tributaries erosion fish migration Silt (Food) water - habitat diversity - spatial structure - nutrients stocks Tonle Sap ecosystem productivity - food - nutrient cycling - substrate - habitat diversity - predation - food - nutrient cycling - substrate - habitat diversity Primary products Phytoplankton rainfall Fish nutrients - food - water quality - nutrient cycling Run-off Secondary products Macrophyte vegetation Tonle Sap ecosystem Final products Exploitation Mekong 出典: Lamberts (2001) Fig. 2-8. トンレサップ生態系の生産モデル. 点線はトンレサップ生態系の境界を示す. 生産物は最終的にはトンレサップ湖生態系から流出する. - 42 - ついて以下のように明らかにしている。 ま ず ,現 在 の ト ン レ サ ッ プ 湖 が あ る 位 置 に 淡 水 の 小 湖 沼 群( 古 ト ン レ サ ッ プ 湖 ) が 約 7,500年 前 に 誕 生 し た ( Fig. 2-9) 。 こ れ ら の 湖 沼 は お そ ら く 個 々 に 独 立 し て お り ,周 辺 か ら も た ら さ れ る 泥 質 堆 積 物 に よ っ て 年 に 約 1 ㎜ の 速 さ で 埋 積 さ れ て い た 。 し か し , 約 5,500年 前 に な っ て こ れ ら の 小 湖 沼 群 が メ コ ン 河 と 接 続 す る と い う 大 き な 事 件 が 起 こ っ た 。海 面 高 頂 期 の 高 い 海 面 に 押 し 戻 さ れ た メ コ ン 河 の 水 が 河 道 か ら あ ふ れ 出 し ,そ の 水 が 古 ト ン レ サ ッ プ 湖 の 存 在 し て い た 低 地 に 流 入 し た た め と 解 釈 さ れ る 。こ れ に よ っ て ト ン レ サ ッ プ 湖 の 自 然 環 境 に 大 き な 変 化 が 生 じ た 。そ れ ま で は 内 陸 に あ っ て 埋 積 が 年 々 進行する湖沼群であったものがメコン河と連絡したことでいっきに巨大な 湖 と な っ た 。そ し て 雨 季 に は 周 辺 や メ コ ン 河 か ら 多 量 の 土 砂 が 湖 に 流 入 す る も の の ,乾 季 に な る と 湖 か ら 流 出 す る 水 と と も に こ れ ら の 土 砂 は メ コ ン 河 へ 排 出 さ れ る よ う に な り ,こ の よ う な 季 節 変 動 に よ っ て 埋 積 の 進 行 が 事 実 上 停 止 し 湖 は 安 定 し て 存 在 す る よ う に な っ た ( 塚 脇 , 2004) 。 出典:Tsukawaki and Members of Tonlesap 21 Programme(2004) Fig. 2-9. トンレサップ湖の形成過程. - 43 - 2.4.3 氾 濫 原 の 植 物 相 Dy phon( 2000) は , カ ン ボ ジ ア で 利 用 さ れ て い る 178 科 1,254 種 の 高 等 植 物( 植 栽 種 を 含 む )に つ い て ,生 活 型 と 生 育 地 ,分 布 域 ,カ ン ボ ジ ア に お け る 利 用 方 法 を 記 載 し た 植 物 図 鑑 を 発 行 し て い る 。こ の 図 鑑 で は ,種 の 説 明 に 英 語 と ク メ ー ル 語 ( カ ン ボ ジ ア 語 ), フ ラ ン ス 語 の 3 言 語 を 使 用 し , そ れ ぞ れ の 言 語 で の 呼 称 も 記 録 し て い る 。 ま た , Lavit( 2004) は , 主 に 薬 用 と し て 利 用 さ れ る カ ン ボ ジ ア 国 内 の 有 用 植 物 134 科 515 種 に つ い て ,ロ ー カ ル ネ ー ム と 生 育 地 ,生 活 型 ,利 用 部 位 ,成 分 ,薬 と し て の 用 途 の 項 目 を 記 載 し て い る 。現 時 点 で カ ン ボ ジ ア の 有 用 植 物 に つ い て 出 版 さ れ て い る の は こ の 2 文献のみである。 一 方 ,氾 濫 原 内 で 確 認 さ れ た 植 物 を 記 載 し た 報 告 書 と し て ,McDonald et al. ( 1997)が 作 成 し た『 Plant communities of the Tonle Sap Floodplain』が あ り , こ の 報 告 書 に は 周 辺 の 集 落 に み ら れ る 園 芸 種 も 含 め て 69 科 171 種 が 記 録 さ れ て い る 。 ま た , CNMC/NEDECO ( 1998b ) は 『 Natural resources-based development strategy for the Tonle Sap area, Cambodia』の な か で McDonald et al. ( 1997) の 記 載 を 基 に 調 査 を 重 ね , 76 科 181 種 の 植 物 を リ ス ト ア ッ プ し て いる。 2.4.4 氾 濫 原 の 植 生 パ タ ー ン ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 の 植 生 パ タ ー ン に つ い て は ,McDonald et al.( 1997) が 報 告 を 行 っ て い る 。報 告 に よ れ ば ,ス ケ ー ル は 異 な る も の の 多 く の 人 工 的 な 水 門 や 池 が 氾 濫 原 一 帯 に 形 成 さ れ て い る た め ,低 水 位 期 に は ,耕 作 地 や ハ ス 池 , 草 地 , 荒 廃 し た 低 木 林 , Barringtonia acutangulaが 優 占 す る 高 木 林 と いった多彩な二次植生がモザイク状に繁茂していることを確認できる。 CNMC/NEDECO( 1998) は ト ン レ サ ッ プ 地 域 に お い て 200種 の 植 物 を リ ス ト ア ッ プ し て お り , McDonald et al.( 1997) は 3つ の 植 生 パ タ ー ン に ま と め て い る : (1) 部 分 的 に 成 立 す る 亜 高 木・低 木 林 ,(2) 氾 濫 原 の 縁 に 成 立 す る 樹 高 7∼ 15mの 浸 水 林 , (3) 浮 遊 植 物 や 抽 水 植 物 ( 1∼ 3m) に よ っ て 特 徴 付 け ら れ る水生草本植生。 ま た ,氾 濫 原 植 生 の フ ェ ノ ロ ジ ー に つ い て は ,季 節 的 に 著 し く 変 動 す る 水 位 変 化 の 影 響 を 受 け て 浸 水 の サ イ ク ル に 同 調 し ,樹 木 の 多 く は 落 葉 樹 で 高 水 位 期 に 水 面 下 で 葉 を 落 と す こ と ,植 物 は 冠 水 し た 状 況 下 に お い て 葉 を 落 と し て 休 眠 し ,減 水 期 に 氾 濫 原 か ら 水 が 引 く と 即 座 に 展 葉 を 開 始 す る こ と な ど が - 44 - 報 告 さ れ て い る ( McDonald et al., 1997)。 2. 4.5 氾 濫 原 に お け る 土 地 利 用 変 遷 カ ン ボ ジ ア は 平 野 が 国 土 全 体 の 約 40%を 占 め ,水 田 景 観 が 卓 越 す る と こ ろ か ら ,“メ コ ン の 賜 ”と 呼 ば れ て い る( 堀 , 1996)。事 実 ,国 土 の 20%強 に あ た る 約 4 万 平 方 キ ロ メ ー ト ル の 農 地 が 広 が り ,人 口 の 7 割 以 上 が 農 民 と い う 典 型 的 な 農 業 国 で あ る ( 川 合 , 1966)。 し か し な が ら , メ コ ン 河 の 氾 濫 を 受 け , 肥沃な土壌が分布するのはメコン本流やその支流のバサック川に沿う下流 側 の デ ル タ 性 低 地 ,ト ン レ サ ッ プ 湖 の 西 ,南 岸 に 広 が る バ ッ タ ン バ ン 湖 岸 平 野の一部に限られている。その他の低地は平野というよりはむしろ平原で, 長い間浸食作用を受けた古い地層の上を薄い河川堆積物が覆っているに過 ぎ な い 。し た が っ て ,土 地 条 件 は 悪 く ,土 地 は か な り 痩 せ て い る( 長 澤 , 2002)。 ト ン レ サ ッ プ 湖 北 岸 の シ ェ ム リ ア プ 平 野 は ,カ ン ボ ジ ア 国 内 で も っ と も 開 発 の 歴 史 が 古 く ,ア ン コ ー ル 王 朝( 9∼ 15 世 紀 )の 繁 栄 を 支 え た 土 地 で あ る 。 し か し ,土 壌 や 水 利 な ど の 自 然 条 件 は 決 し て 農 耕 に 適 し た も の で は な か っ た 。 対 象 地 域 の 地 形 分 類 を 行 っ て み る と ,ア ン コ ー ル ワ ッ ト な ど の 遺 跡 群 が 立 地 す る 平 野 中 心 部 は ,北 部 の 丘 陵 性 緩 傾 斜 産 地 か ら 流 下 し て く る 中 小 河 川 に よ っ て 形 成 さ れ た 扇 状 地 性 の 平 野 で あ る こ と が わ か る 。扇 状 地 の 全 面 に は ,ト ンレサップ湖が現在より拡大していた時代の湖底堆積物からなる湖岸平野 と 浜 堤 列 が 分 布 す る 。扇 状 地 性 の 平 野 は ,こ う し た 湖 岸 沿 い の 低 地 よ り は 幾 分 傾 斜 を 持 っ た 地 形 で あ る 。し か し な が ら ,扇 状 地 を 構 成 す る 堆 積 物 は か な り古い時代のもので,氾濫堆積物起源の肥沃な土壌はほとんどみられない ( 長 澤 , 2002)。 2.4.6 氾 濫 原 の 減 少 ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 に 残 存 す る 浸 水 林 は 伐 採 禁 止 と さ れ て い る が ,周 囲 住 民 に よ る 違 法 な 燃 料 木 の 採 集 や 農 地 の 拡 大 に よ っ て 年 々 減 少 ,消 滅 し て い る( 長 澤 , 2002)。た だ し ,浸 水 林 を 構 成 す る 樹 種 に 木 材 と し て の 商 品 価 値 は 見 出 さ れ て お ら ず ,商 業 伐 採 の 対 象 に は な っ て い な い 。浸 水 林 の 存 在 は ,魚 類 の 生 息 ,産 卵 の 場 と し て 不 可 欠 で あ る と 共 に ,洪 水 の 流 出 速 度 や 土 壌 浸 食 を 緩 和 す る 機 能 を 持 つ こ と か ら ,そ の 減 少 は 今 後 ,社 会 基 盤 を 揺 る が す よ う な 大 き な 環 境 問 題 と な る こ と が 憂 慮 さ れ る 。こ の た め に 適 切 な 土 地 利 用 管 理 計 画 の 立 案 が 急 務 で あ り ,浸 水 林 の 現 状 を 正 確 に 把 握 し ,そ の 経 年 変 化 を モ - 45 - ニタリングして適切な対策を応じることが肝要であると指摘されている ( JICA, 1997)。 そ こ で 長 澤 ( 2002) は , 1970, 80 , 90 年 代 に 撮 影 さ れ た シ ェ ム リ ア プ 地 域 の 時 系 列 Landsat 衛 星 画 像 を 用 い て , 過 去 20 数 年 間 の 浸 水 林 の 変 化 を 解 析 し て い る( Fig. 2-10)。そ の 結 果 ,浸 水 林 は 加 速 度 的 に 減 少 し て お り ,1990 年 代 に は 約 4,800ha/年 の 割 合 で 消 失 し て い る こ と を 示 し て い る 。 1973年の浸水林分布 1986年の浸水林分布 1996年の浸水林分布 出典: 長澤(2002) Fig. 2-10. 時系列衛星画像を用いたトンレサップ湖岸の浸水林分布の変遷. 黒塗り部分が 浸水林. 矢印付近がシェムリアップ州の氾濫原. 2 .4.7 地 域 住 民 の コ ミ ュ ニ テ ィ 組 織 雨 季 と 乾 季 で は 大 き さ が 5倍 ほ ど 異 な る ト ン レ サ ッ プ 湖 の 周 辺 で は , 水 上 住宅に住む地域住民が,季節的な水位変動による湖岸の移動に合わせて引越し を繰り返すというユニークな生活を送っている。引越しは村単位やコミュニ テ ィ 単 位 で 行 わ れ る わ け で は な く ,各 世 帯 が 独 自 に 行 う 。ま た ,雨 季 と 乾 季 で 決 ま っ た 場 所 に 移 住 す る わ け で は な く ,毎 年 違 う 場 所 に 移 住 す る こ と も ま れ で は な く ,せ っ か く 組 織 さ れ た コ ミ ュ ニ テ ィ を 維 持 す る こ と さ え 難 し い 場 合 が あ る 。さ ら に 忘 れ て は な ら な い こ と は ,ポ ル・ポ ト 政 権 が 行 っ た 住 民 の 組 織 化 の 記 憶 が 国 民 の 意 識 の 中 に 根 強 く 残 っ て い る 点 で あ る 。ポ ル・ポ ト 政 権は情報ネットワークの構築と思想統制のために,住民の組織化を進めた。 - 46 - 各 組 織 に は 中 央 政 府 の 人 間 が 入 り 込 ん で お り ,組 織 内 で の 住 民 同 士 の 話 題 や 人 間 関 係 と い っ た 情 報 が 集 め ら れ た 。反 政 府 的 と み な さ れ た 人 が 強 制 収 容 さ れ る 場 合 や 住 民 組 織 全 体 が 強 制 的 に 移 住 や 収 容 さ れ た 。こ の 歴 史 は 依 然 と し て カ ン ボ ジ ア 国 民 の 意 識 に 残 っ て お り ,中 央 政 府 に よ る 住 民 の 組 織 化 に 対 す る 不 安 感 や 嫌 悪 感 が 存 在 す る よ う で あ る ( 高 橋 , 2004) 。 ま た ,住 民 の 組 織 化 に と も な い 最 近 取 り 上 げ ら れ て く る よ う に な っ た 問 題 に ,ヴ ェ ト ナ ム 人 の 漁 民 増 加 が あ る 。ヴ ェ ト ナ ム 戦 争 時 に 難 民 と し て カ ン ボ ジ ア に 移 住 し て き て そ の ま ま 定 住 化 し た 人 や ,最 近 に な っ て カ ン ボ ジ ア へ 漁 業 を 行 う た め に 移 住 し て き た 人 ,付 加 価 値 の 高 い 大 型 の 天 然 淡 水 魚 を 求 め て 漁 業 を 行 っ て い る 人 な ど 様 々 で あ り ,合 法 的 に 漁 労 に 勤 し む 人 も い れ ば 非 合 法 に 就 労 し て い る 人 も い る 。小 規 模 や 中 規 模 漁 業 の 漁 場 に お い て カ ン ボ ジ ア 漁 民 と ヴ ェ ト ナ ム 漁 民 の 間 で 闘 争 が 生 じ る ケ ー ス も 少 な く な い 。文 化 や 風 習 , 言葉までもが異なるカンボジア人とヴェトナム人の間で調整を図りながら, 漁 民 の 組 織 化 を 進 め る こ と は 容 易 な こ と で は な い 。と く に ,水 上 生 活 者 の 場 合 は ,雨 季 と 乾 季 で 村 全 体 が 離 合 集 散 を 繰 り 返 す た め に ,そ こ に 生 活 し て い る 人 の 数 す ら 正 確 に 把 握 さ れ て い な い の が 実 態 で あ る ( 石 川 , 2005) 。 2 .4.8 植 物 資 源 の 持 続 的 利 用 に 向 け た 取 り 組 み トンレサップ湖氾濫原生態系の減衰に対するカンボジア王国政府の政策 的 な 取 り 組 み を み る と , 当 国 で は 1993 年 に 環 境 省 が 新 し く 設 け ら れ , 同 省 の 最 初 の 法 令 と し て 「 自 然 保 護 区 に つ い て の 王 令 ( Royal Decree on the P rotection of Natural Areas)」 が 制 定 さ れ て , ト ン レ サ ッ プ 湖 の 316,250haが 多 目 的 地 区 に 指 定 さ れ た 。 そ の 後 , 1996 年 に は 環 境 保 護 ・ 自 然 資 源 管 理 法 ( Law on Environmental Protection and Natural Resources Management) が 施 行 さ れ た 。し か し ,こ の 法 律 に 関 す る 施 行 令 な ど の 措 置 が と ら れ て お ら ず ,実 際 の 行 政 整 備 は 未 だ 十 分 で は な い 。同 年 に は ,同 省 内 に ト ン レ サ ッ プ 湖 地 域 の 環 境 保 全 の た め の Technical Coordination Unit( TCU) が 設 置 さ れ , 外 国 か らの支援で情報収集や小規模な環境保全プロジェクトが実施された。また, 農 林 水 産 省 の 森 林 ・ 野 生 生 物 局( Department of Forestry and Wildlife)は ,ア ジ ア 開 発 銀 行 ( ADB) が 支 援 す る Sustainable Forest Management Projectの 一 環としてコミュニティフォレストの設置に関するサブデクリー草案を提出 し た 。こ れ に よ り ,ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 は 慣 習 的 に も 法 的 に も 漁 業 優 先 地 域 ( fishery domain) と み な さ れ た 。 こ れ を 受 け て , 環 境 省 は 「 ト ン レ サ ッ プ 生 物 圏 保 護 区 域 Biosphere Reserveの 設 置 と 管 理 に 関 す る 王 令 」 を 制 定 し , - 47 - さらに国土管理庁所管の土地法 12 が NGOの 支 援 に よ っ て 検 討 さ れ て い る 。こ う し た 取 り 組 み に 対 し て , 笠 井 ( 2003) は ,「 公 有 の 漁 業 優 先 地 域 で あ る 氾 濫 湿 地 が 法 的 に 線 引 き さ れ ,そ れ ら を 国 が 管 理 す る の か ,あ る い は 地 域 住 民 の 共 同 管 理 管 轄 に 入 る の か ,整 理 す べ き 課 題 は 多 く ,今 後 の 進 展 に 注 目 す る 必要がある」と述べている。 し か し ,上 述 し た 政 策 の 効 果 に 期 待 し な が ら も ,と く に 共 有 地 の 資 源 を 誰 が 利 用 す る か と い う 問 題 を 直 接 解 決 す る こ と は 現 実 的 に 難 し い 。こ の 共 有 地 問 題 に 関 し て よ く 引 き 合 い に 出 さ れ る の が「 エ コ・ コ モ ン ズ 」 1 3 で あ る 。井 上( 2001)は ,非 所 有 制 度( お よ び 地 域 共 有 資 源 )を 「グ ロ ー バ ル ・コ モ ン ズ 」, 共 的 所 有 制 度( お よ び 地 域 共 有 資 源 )を「 ロ ー カ ル ・ コ モ ン ズ 」と 呼 ん で い る 。さ ら に ,ロ ー カ ル・コ モ ン ズ の 利 用 に つ い て ,集 団 内 で あ る 規 律 が 定 め ら れ ,利 用 に 当 た っ て 種 々 の 明 示 的 な あ る い は 暗 黙 の 権 利・義 務 関 係 が と も な っ て い る「 タ イ ト な ロ ー カ ル・コ モ ン ズ 」と 利 用 規 制 が 存 在 せ ず 集 団 の メ ン バ ー な ら ば 比 較 的 自 由 時 利 用 で き る「 ル ー ス な ロ ー カ ル ・ コ モ ン ズ 」 の 2 つ に 類 型 化 し て い る 。後 者 の 場 合 ,自 然 の 自 己 修 復 が 追 い つ か な い 状 態 で 無 秩 序 な 資 源 利 用 が 続 け ば ,当 然 の こ と な が ら 資 源 は 枯 渇 し て し ま う こ と に な る 。 そ こ で 求 め ら れ る の が 「 自 然 立 地 的 土 地 利 用 計 画 」 (井 出 ・ 武 内 , 1985) で あ る 。こ れ は ,自 然 環 境 や 自 然 資 源 を 可 能 な 限 り 有 効 利 用 し ,自 然 の 持 つ 多様性を活かしつつ永続的に利用できるようにコントロールする作業であ り ,土 地 利 用 計 画 の 目 的 の た め に は ,ま ず 土 地 利 用 を 時 系 列 的 に 解 析 す る こ と に よ っ て さ ま ざ ま な 地 域 環 境 の 現 象 ,問 題 点 を 抽 出 す る こ と が 大 切 と な る (井 出 ・ 武 内 , 1985)。 地 域 住 民 に よ る 氾 濫 原 生 態 系 へ の 負 荷 が い つ 頃 か ら , ど こ で ,ど の よ う な か た ち で 発 生 し て い る か を 正 確 に 把 握 す る こ と が ,計 画 の第一歩であると考える。 こ の 点 に 関 し て ,長 澤( 2002)は リ モ ー ト セ ン シ ン グ 手 法 に よ る 土 地 利 用 の 時 系 列 的 な 解 析 に よ っ て ,ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 に お け る 土 地 利 用 計 画 上 の以下の問題点を抽出している。 (1)過 去 25 年 間 に お け る 浸 水 林 の 破 壊 は 危 機 的 で あ る 。 浸 水 林 面 積 の 減 少 には様々な原因が考えられるが,燃料木の伐採や農地への転換など,地 域農民の生活と密接に関連する。この問題は,生物生息地の破壊にも直 接的に影響する。浸水林は魚類の生息,繁殖地であるばかりでなく,鳥 12 1992 年 に State of Cambodia時 代 末 期 に 土 地 法 令 が 制 定 さ れ , 1989 年 以 降 復 帰 し た 土 地 の 私 的 所 有 権 に 対 応 し た 新 た な 土 地 登 記 制 度( 農 林 水 産 省 土 地 登 記 局 担 当 ) を作ったが,未だに土地係争が絶えない。 13 ロ ー カ ル レ ベ ル に お け る 自 然 生 態 系 の 共 同 管 理 制 度 ,お よ び 人 間 を 含 む 自 然 生 態 系 ( 井 上 , 2001)。 - 48 - 類など野生生物の貴重な生息地,営巣地となっている。したがって,浸 水林の減少によって今後の魚類資源,生物多様性の減少などの問題が懸 念される。さらに,表流水の流出特性が変化するなど,流入河川による 湖の堆砂の進行も問題である。 (2)ミ ク ロ な 視 点 で み た 環 境 破 壊 の 直 接 的 な 原 因 は ,地 域 住 民 に よ る 略 奪 的 な自然への干渉,利用による部分が大きい。しかしながら,その背景に は貧困,教育,法律・規制などの社会構造のあり方に根本的な問題があ る。カンボジアを始め,発展途上にある国々では,国自体が貧しいゆえ に目先の開発,利権が先行し,中・長期的な環境計画が実行できない状 況にある。この分野での先進諸国による適切な援助が求められている。 ま た ,こ こ で い わ れ て い る 国 際 的 な 取 り 組 み と し て ,カ ン ボ ジ ア 政 府 は 現 在 ,国 際 ド ナ ー の 支 援 を 得 て ト ン レ サ ッ プ 湖 地 域 の 資 源 を 政 府 と 地 域 共 同 体 に よ る「 共 同 管 理 」方 式 を 導 入 し よ う と し て い る 。そ の 試 み の 一 つ は 国 際 食 糧 農 業 機 関( FAO)が 支 援 し て い る「 参 加 型 ト ン レ サ ッ プ 地 域 自 然 資 源 管 理 プ ロ ジ ェ ク ト 」( 1996∼ 2003) を 通 じ た コ ミ ュ ニ テ ィ ・ フ ォ レ ス ト リ 育 成 の 試 み で あ る 。こ の 活 動 に は ,シ ェ ム リ ア プ 州 を 対 象 に ,初 期 の 衛 星 情 報 を 含 む地域の基本情報図化作成,コミュニティ育成のための支援諸活動,研修, 開 発 教 育 な ど が 含 ま れ ,2003 年 に 終 了 し た 後 は ADB が 環 境 管 理 ロ ー ン プ ロ ジ ェ ク ト と し て 引 き 継 ぐ こ と に な っ て い る ( 笠 井 , 2003)。 2.5 先 行 研 究 と 本 研 究 と の 関 連 こ れ ら の 先 行 研 究 に よ り ,カ ン ボ ジ ア に お け る 森 林 資 源 の 減 少 と そ の 原 因 , ならびにトンレサップ湖に関する湖沼学的な事象,氾濫原の植生パターン, 土地利用の変遷および氾濫原の減少傾向が広域的な視点から明らかにされ て い る 。し か し ,本 研 究 が 目 的 と し て い る 熱 帯 氾 濫 原 の 植 物 資 源 の 持 続 可 能 性 を 分 析 す る た め に は ,氾 濫 原 に お け る 植 物 資 源 の 分 布 や 生 育 の 実 態 ,水 位 変動や人為とのかかわりを具体的にとらえる必要がある。 そ こ で 本 研 究 で は ,ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 を 事 例 対 象 と し た フ ィ ー ル ド 調 査 を 行 い ,植 物 資 源 の 生 育 実 態 に か か わ る 現 存 植 生 の イ ン ベ ン ト リ ー と 生 態 学 的 デ ー タ ,お よ び 地 域 住 民 に よ る 利 用 形 態 に 関 す る デ ー タ を 収 集 し ,そ の 解 析 結 果 か ら 植 物 資 源 と 人 間 活 動 と の か か わ り に つ い て 検 討 す る 。具 体 的 に は, ( 1)季 節 的 な 水 位 変 動 に 応 じ た 植 生 構 造 に 関 す る 生 態 学 的 研 究 を 実 施 し , ( 2) 植 物 資 源 の 利 用 に 関 す る 民 族 生 物 学 的 研 究 を 行 い ,( 3) 植 生 の 現 状 と - 49 - 植 物 資 源 の 利 用 実 態 を 定 性・定 量 化 す る こ と に よ っ て ,氾 濫 原 生 態 系 の 回 復 と 破 壊 の メ カ ニ ズ ム を 解 明 し ,熱 帯 湖 岸 生 態 系 に み ら れ る 植 物 資 源 の 持 続 可 能性について考察する。 - 50 - 第3章 カンボジア・トンレサップ湖氾濫原の 植生解析 3.1 は じ め に Hotspot に 指 定 さ れ て い る カ ン ボ ジ ア の 中 央 部 に 位 置 す る ト ン レ サ ッ プ 湖 は ,東 南 ア ジ ア 最 大 の 内 陸 淡 水 湖 で あ り ,季 節 に よ っ て 水 域 面 積 や 水 深 が 大 き く 変 化 す る「 伸 縮 す る 湖( ラ オ , 1992)」で あ る 。こ の 湖 に は メ コ ン 河 の 水 が 出 入 し , 雨 季 の 高 水 位 期 1 ( 10 月 ) の 湖 面 積 が 乾 期 の 低 水 位 期 ( 5 月 ) の 5 倍 以 上 に 膨 れ 上 が り ,水 位 変 動 幅 が 10mに も 達 す る と い う ユ ニ ー ク な 特 徴 を 有 す る ( MRCS/WUP-FIN, 2002; Tanaka et al., 2003)。 低 平 な 湖 岸 域 に は 氾 濫 原 が 広 が り ,同 国 の 経 済・文 化 を 支 え る 豊 富 な 水 産・農 林 産 資 源 や 生 物 相 の 源 泉 と さ れ る ( Mekong River Commission, 1997; CNMC/NEDECO, 1998a, b; Bailleux, 2003)。 し か し ,近 年 お よ そ 50 年 の 間 ,氾 濫 原 植 生 の 多 く は 人 間 活 動( 主 と し て , 農 地 拡 大 に 向 け た 開 墾 と 薪 を 得 る た め の 伐 採 )に よ っ て 著 し い 攪 乱 を 受 け て い る 。そ う し た 中 ,相 次 ぐ 戦 乱 が 足 か せ と な っ て ,生 物 イ ン ベ ン ト リ ー や 植 生 学 的 な 解 析 ,水 文 学 的 調 査 と い っ た ,ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 の 実 態 解 明 に 関わる自然科学的調査はきわめて立ち後れた状況にある。氾濫原生態系は, 水 質 浄 化 の 機 能 を 持 ち な が ら ,魚 介 類 の 生 育 地・繁 殖 地 と し て 高 い 生 物 生 産 性 を 有 し ,豊 か な 生 物 多 様 性 を 保 持 し て い る に も 関 わ ら ず ,ト ン レ サ ッ プ 湖 とそれを縁取る広大な氾濫原のフロラや植生に関する情報はきわめて限ら れ て い る( e.g., McDonald et al., 1997; Sokhun, 1997; CNMC/NEDECO, 1998b)。 氾 濫 原 の 植 生 に つ い て は ,McDonald et al.( 1997)が 以 下 の こ と を 報 告 し ている。湖岸に残存している浸水林 2 は,氾濫原を特徴付ける植生であり, 最 大 樹 高 が 約 15m, 最 大 胸 高 直 径 ( diamatar at breast height= DBH, 以 後 , DBHと 略 記 ) が 約 55cmに な る Barringtonia acutangula( Lecythidaceae: サ ガ リ バ ナ 科 ) が 優 占 し な が ら , Diospyros cambodianaと Coccoceras anisopodum の 高 木 が 混 交 し て い る 。一 方 で ,氾 濫 原 の 多 く は 亜 高 木 林 や 低 木 林 ,藪 ,草 地 ,水 生 草 本 群 集 ,耕 作 地 と い っ た さ ま ざ ま な 植 生 タ イ プ に よ っ て 覆 わ れ て おり,それらがモザイク状に混在している。 しかし,この報告は,トンレサップ湖畔を広く巡った結果とはいえ,氾 濫 原 植 生 を 俯 瞰 的 に 記 載 し た も の に 過 ぎ ず ,定 量 的 な デ ー タ を 用 い た 裏 づ け が な さ れ て い な い 。そ こ で 本 研 究 で は ,季 節 的 に 浸 水 す る 氾 濫 原 植 生 の 実 態 本 論 文 で は ,雨 季( 5∼ 10 月 )の 中 頃 か ら 終 わ り に か け て の 氾 濫 原 が 冠 水 す る 期 間 を「 高 水 位 期 」と し ,乾 季( 11∼ 4 月 )の 中 頃 か ら 終 わ り に か け て の 水 が 引 い て 氾濫原全体が出現する期間を「低水位期」とする。 2 本 論 文 で は , 最 低 水 位 期 の 湖 岸 沿 い に 残 存 す る Barringtonia acutangula高 木 林 を 浸 水 林 ( floodplain forest) と 定 義 す る 。 1 - 51 - を Braun-Blanquet( 1964)の 植 物 社 会 学 的 手 法 を 用 い て 把 握 し ,そ の 特 徴( 景 観 的 な 差 異 と 種 組 成 ,構 造 ,分 布 )を 冠 水 期 間 や 人 為 と 関 係 づ け て 解 析 す る ことをめざした。 3.2 調 査 地 の 概 要 カ ン ボ ジ ア の 中 央 部 に 位 置 す る ト ン レ サ ッ プ 湖 地 域 の 気 候 は ,明 瞭 な 雨 季 ( 5∼ 10月 )と 乾 季( 11∼ 4月 )が 区 別 さ れ る 熱 帯 モ ン ス ー ン 気 候 で あ る 。雨 季 に は イ ン ド 洋 か ら 高 温 多 湿 の 南 西 モ ン ス ー ン が 吹 き ,乾 季 に は 比 較 的 低 温 で 乾 燥 し た 東 北 モ ン ス ー ン が 吹 く 。こ の 影 響 に よ り ,例 年 5∼ 9月 頃 に な る と メ コ ン 河 の 水 位 が ト ン レ サ ッ プ 湖 の 水 位 よ り も 高 く な り ,こ の 時 期 に は メ コ ン 河 の 大 量 の 水 が ト ン レ サ ッ プ 湖 と 連 絡 す る 延 長 120kmの ト ン レ サ ッ プ 川 を 逆 流 し て 湖 内 に 流 入 す る よ う に な る 。こ れ に よ り ,湖 面 面 積 は 最 低 水 位 期 ( 5月 ) の 2,500km 2 ( 長 さ 約 160 km, 幅 約 35km; 琵 琶 湖 の 湖 面 積 ( 674km 2 ) 2 長 さ 約 250km, の 約 4倍 に 相 当 )か ら ,最 高 水 位 期( 10月 )の 10,000∼ 20,000km ( 幅 約 100km)ま で 膨 れ 上 が る( Tanaka et al., 2003,Fig. 3-1)。こ れ に 応 じ て , 水 深 は 1m以 下 か ら お よ そ 10mに ま で 上 昇 す る( MRCS/WUP-FIN, 2002)。こ の 貯 水 に よ る 調 整 効 果 は お よ そ 500∼ 600億 m 3 と 推 定 さ れ , 同 湖 は メ コ ン 河 の 洪 水 を 調 整 す る 上 で 重 要 な 自 然 洪 水 貯 留 の 機 能 を 果 た し て い る ( Carbonnel and Guiscafre, 1963)。最 高 水 位 期 の ト ン レ サ ッ プ 湖 は 世 界 第 19位 の 水 域 面 積 を も つ 大 湖 で あ り ,熱 帯 低 地 に あ る 湖 と し て は 世 界 最 大 で あ る 。氾 濫 原 に は サ ガ リ バ ナ 科( Lecythidaceae)の Barringtonia acutangula林 が 分 布 し ,高 水 位 期 に は 林 冠 だ け が 姿 を 見 せ る 浸 水 林 の 景 観 が 広 が る ( Photo 3-1)。 一 方 で , 低 水 位 期 に は 広 大 な 氾 濫 原 全 体 が 陸 化 ・ 湿 原 化 す る ( Photo 3-2)。 調 査 は ,ト ン レ サ ッ プ 湖 の 北 西 縁 で ,シ ェ ム リ ア プ 州 に あ る ア ン コ ー ル 遺 跡 群 か ら 20km ほ ど 南 方 に 位 置 す る チ ョ ン グ ・ ク ネ ア ス ( Chong Kneas) 地 区 の 氾 濫 原 を 対 象 に し て 行 っ た ( 13°16’ N, 103° 49’ E; 海 抜 約 1∼ 6m; Fig. 3-1)。 こ の 地 域 の 年 平 均 気 温 は 28.2℃ , 年 間 降 雨 量 は 1,425mm/年 で あ り , 降 雨 量 の 88%が 雨 季 に 集 中 す る( MRCS, 2003)。氾 濫 原 の 表 土 は 赤 褐 色 ま た は 黄 褐 色 の 柔 ら か い 砂 状 の 粘 土 か ら 成 る ロ ー ム 層 で ,そ の 層 厚 は 湖 水 が 季 節 的 に 大 量 に 出 入 り す る こ と か ら き わ め て 薄 く な っ て い る 。北 か ら 南 に か け て な だ ら か に 傾 斜 す る 氾 濫 原 の 奥 行 き は 8km に な る が , そ の う ち 後 背 部 の 幅 4km は 人 工 的 な 灌 漑 設 備 が 整 え ら れ た 水 田 が 広 が っ て い る た め ,自 然 植 生 が 残 さ れ て い る 前 面 部 分 の 幅 4km を 調 査 対 象 と し た 。 さ ら に , チ ョ ン グ ・ ク - 52 - THAILAND LAOS Mekong River (a) Siem Reap CAMBODIA Lake Tonle Sap Legend Phnom Penh VIET NAM Gulf of Thailand 0 ● Town River Water (dry season) Water (rainy season) 200km (b) 20 Siem 140 Phnom Krom Re a p Riv er CHWL Chong Kneas 0 5km Lake Tonle Sap CLWL Fig. 3-1. (a) Location of Lake Tonle Sap. (b) Location of the study area and 67 quadrats for phytosociological survey. ▲ = quadrats of extensive cropland zone, ● = quadrats of disturbed woodland zone. CHWL = coastline at the highest water-level, CLWL = coastline at the lowest water-level. - 53 - Photo 3-1. Landscape of floodplain forest in high water season (Nov. 2004). Photo 3-2. Landscape of floodplain forest in low water season (Mar. 2005). - 54 - ネ ア ス 地 区 か ら 西 に 7km ほ ど 離 れ た 湖 岸 で 小 域 で み ら れ る 人 為 圧 か ら 開 放 された浸水林も調査の対象とした。 衛 星 写 真 や 予 察 的 な 現 地 踏 査 に よ れ ば ,ス ケ ー ル は 異 な る も の の 多 く の 人 工的な堰堤や水門,池が氾濫原一帯に形成されているため,低水位期には, 耕 作 地 や ハ ス 池 , 草 地 , 荒 廃 し た 低 木 林 , Barringtonia acutangulaが 優 占 す る高木林といった多彩な植生がモザイク状に繁茂していることを確認でき る 。 ト ン レ サ ッ プ 湖 全 域 に 関 し て , CNMC/NEDECO( 1998) は お よ そ 200種 の 植 物 を リ ス ト ア ッ プ し て お り , McDonald et al.( 1997) は 以 下 の 3つ の 自 然 植 生 タ イ プ を 記 述 し て い る : (1)も っ と も 広 い 面 積 に わ た っ て 分 布 し て い る 亜 高 木・低 木 林 ,(2) 最 低 水 位 期 の 湖 岸 沿 い に 分 布 し て い る 樹 高 7∼ 15mの 浸 水 林 ,(3)浮 遊 植 物 や 抽 水 植 物( 1∼ 3m)に よ っ て 特 徴 付 け ら れ る 水 生 草 本 植 生 。ま た ,氾 濫 原 に 生 育 す る 木 本 植 物 の フ ェ ノ ロ ジ ー に つ い て は ,季 節 的 に 著 し く 変 動 す る 水 位 に 同 調 し て ,水 没 し た 部 位 は 葉 を 落 と し て 休 眠 し ,水 が引いて大気中に露出すると即座に展葉を開始することなどが報告されて い る ( McDonald et al., 1997)。 3.3 調 査 方 法 現 地 調 査 で は ,調 査 地 内 を 踏 査 し て 植 生 や 立 地 の 状 況 を 地 形 図 上 に 記 録 し た 後 , McDonald et al.( 1997) が 識 別 し た 亜 高 木 ・ 低 木 林 と 浸 水 林 の 植 生 を 対 象 と し て ,相 観 お よ び 微 地 形 に よ っ て 区 分 し た 均 質 な 植 分 内 に 方 形 区( 原 則 と し て 10m × 10m 3 ) を 67 箇 所 設 置 し ( Fig. 3-1), 植 物 社 会 学 的 手 法 に よ る 植 生 調 査( 以 後 ,植 生 調 査 と 略 記 )を 行 っ た 。植 生 調 査 は 低 水 位 期 に あ た る 2005 年 5∼ 8 月 と 2006 月 2∼ 8 月 に 実 施 し た 。 それぞれの方形区では,まず階層(高木層,亜高木層,低木層,草本層) を 区 分 し ,階 層 ご と に 検 測 稈 を 用 い て 地 上 高 を 測 定 し ,目 測 に よ り 植 被 率 を 調 べ た 上 で ,個 々 の 出 現 種 に つ い て 優 占 度 と 群 度 を ,Braun-Blanquet( 1964) に準じた次の基準に従って評価した。 優 占 度 5: 被 度( 葉 群 の 投 影 面 積 )が ,調 査 面 積 の 75%を 超 え る 。個 体 数 は 任意。 4: 被 度 が 調 査 面 積 の 51∼ 75%を 占 め る 。 個 体 数 は 任 意 。 3: 被 度 が 調 査 面 積 の 26∼ 50%を 占 め る 。 個 体 数 は 任 意 。 予 備 調 査 に よ っ て 種 数 -面 積 曲 線 を 描 き , 種 数 が 一 定 値 に 漸 近 し た 面 積 と し て 定 めた。 3 - 55 - 2: 被 度 が 調 査 面 積 の 6∼ 25%を 占 め る 。あ る い は ,被 度 が 調 査 面 積 の 5%以 下 で あ る も の の , 個 体 数 が 極 め て 多 い 。 1: 被 度 が 調 査 面 積 の 1∼ 5%を 占 め る 。 あ る い は , 被 度 が 調 査 面 積 の 1%未 満 で あ る も の の , 個 体 数 が 多 い 。 +: 被 度 が 調 査 面 積 の 1%未 満 で , 個 体 数 が 少 な い 。 群 度 5: 個 体 が 方 形 区 内 に 一 面 に 生 育 し ,そ の 葉 群 は だ い た い 連 続 し て い る。 4: 1・ 2 箇 所 が 斑 紋 状 に 欠 け た 状 態 で 生 育 。 3: 斑 紋 状 に 群 が っ て 生 育 。 2: 小 群 を な し て 生 育 。 1: 単 独 で 生 育 。 ま た , 方 形 区 の 位 置 を GPS( GPSMAP76, GARMIN Corporation) に 記 録 す る と と も に ,立 地 に 関 す る 諸 項 目( 微 地 形 ,土 壌 の 状 態 ,最 低 水 位 期 の 湖 岸 ( CLWL= coastline at the loest water-level)か ら の 距 離 )や ,方 形 区 内 に 生 育 す る も っ と も 太 い 生 立 木 の DBH( 地 上 1.3mに お け る 幹 直 径 ) と そ の 種 名 に つ い て も 調 べ た 。な お ,植 物 名 は ,原 則 と し て イ ン デ ッ ク ス・キ ュ ー エ ン シ ス ( Index Kewensis) 4 に 従 っ た 。 3.4 解 析 方 法 3.4.1 多 変 量 解 析 生 物 群 集 の 種 組 成 の 変 化 パ タ ー ン を 分 析 し ,群 集 に 影 響 を 及 ぼ す 環 境 要 因 を 明 ら か に し た り ,そ の 環 境 要 因 か ら み た 地 域 の 環 境 評 価 ,環 境 計 画 を 支 援 するために,種組成データを用いた多変量解析が利用されている(加藤, 1995)。 生物群集の種組成を調査して得られるデータは, 「 種 ×地 点 」の マ ト リ ク ス に ま と め ら れ る が ,一 般 に は 種 も 地 点 も 多 数 に な る 。群 集 生 物 学 で は ,こ の よ う な デ ー タ を 分 析 す る 方 法 が 長 い 間 研 究 さ れ て き た 。そ の 結 果 ,も っ と も 効 果 的 な 方 法 と し て 利 用 さ れ る に 至 っ た の が ,多 変 量 解 析 に よ る 分 析 で あ る 4 英国王立キュー植物園(キューガーデン)が作成する学名索引。学名の記載に 際 し て は , イ ン タ ー ネ ッ ト 上 で 学 名 の デ ー タ ベ ー ス を 提 供 し て い る , The International Plant Names Index (IPNI) < http://www.ipni.org/index.html >の ホ ー ム ペ ー ジ で , Index Kewnsisと し て 用 い ら れ て い る も の を 採 用 し た 。 - 56 - ( Kent and Ballard, 1988)。多 変 量 解 析 に よ り ,種 組 成 の 変 化 の パ タ ー ン を 抽 出 し , そ の 要 因 を 明 ら か に す る こ と が 可 能 で あ る ( Gauch, 1982)。 生 物 群 集 に と っ て の 支 配 的 な 環 境 要 因 が わ か れ ば ,地 域 環 境 の 生 態 的 側 面 を 適 切 に モ ニ タ リ ン グ し た り ( Kremen, 1992), 生 物 相 に 配 慮 し た 環 境 マ ネ ジ メ ン ト 計 画 を 策 定 す る こ と が 可 能 に な る ( 加 藤 ・ 武 内 , 1991)。 多 変 量 解 析 は ,大 き く 3 つ に 分 類 さ れ る 。類 似 の サ ン プ ル や 種 を ま と め て グ ル ー プ に す る 「 分 類 」, デ ー タ か ら 種 組 成 の 変 化 の 軸 を 見 つ け だ し , サ ン プ ル や 種 を 変 化 の 軸 の 上 に 位 置 づ け て い く( 軸 の 上 で の 座 標 あ る い は ス コ ア を与えていく) 「 序 列 化 」,お よ び ,あ ら か じ め 種 組 成 に 影 響 す る 主 要 な 環 境 条 件 を 想 定 し ,個 々 の 種 と そ の 環 境 条 件 の 間 に ど の よ う な 関 係 が あ る か を 直 接 的 な 対 比 に よ り 明 ら か に す る 「 直 接 傾 度 分 析 」 で あ る ( Gauch, 1982)。 本 研 究 で は ,植 物 群 落 の 分 類 に は TWINSPAN 法 を ,序 列 化 に は DCA 法 を そ れ ぞ れ 用 い た 。両 解 析 方 法 に つ い て は 後 述 す る 。TWINSPAN と DCA に よ る 解 析 に は , PC-ORD for windows version 4.00( McCune and Mefford, 1999) を用いた。 3.4.2 TWINSPAN に よ る 解 析 植 物 群 落 の 分 類 は TWINSPAN( Two-Way INdicator SPecies ANalysis; Hill, 1979b)を 用 い て 行 っ た 。TWINSPAN は ,交 互 平 均 法( RA; Reciprocal Averaging method)を 利 用 し て ,2 分 割 に よ っ て サ ン プ ル を 階 層 的 に 分 類 す る 手 法 で あ り( Hill, 1979b),指 標 種( indicator species)を 重 視 す る 点 と ,再 配 列 し た 群 落 組 成 表 が 得 ら れ る と い う 点 で ,Braun-Blanquet の 手 法 に 類 似 し て い る( 小 林 , 1995)。 TWINSPAN は , 植 生 の 種 組 成 を 解 析 す る た め 広 く 応 用 さ れ て い る ( Boeye et al., 1994; Zhang and Oxley, 1994; Van De Rijt et al., 1996; Franklin et al., 1999)。 そ し て , TWINSPAN に よ る 結 果 は , 基 本 的 に は 数 学 的 で は な く ,指 標 種 に 着 目 し て 生 物 学 的 に グ ル ー プ を 区 分 し た も の と 解 釈 さ れ る 。こ の 技 術 は 他 の 階 層 的 分 類 手 法 と 比 較 し て 効 果 的 で あ る( Gauch and Whittaker, 1981)。 今 回 の 解 析 で は , Braun-Blanquet scale の 優 占 度 階 級 を 中 央 値 に 換 算 し て , 種 の 量 的 情 報 を 加 味 す る 際 の pseudospecies cut level と し て 用 い た( 5: 87.5, 4: 62.5 , 3: 37.5 , 2: 15.0 , 1: 3.0 , +: 0.5 )。 TWINSPAN に お け る 仮 想 種 ( pseudospecies)の 考 え 方 は , 「 優 占 度 を 大 ま か な 量( Braun-Blanquet scale の ような)で表して,例えば,種 I の地点jとkにおける優占度がそれぞれ 3 と 2 で あ っ た と す る と ,優 占 度 1 と 2 の 個 体 は 両 地 点 に 出 現 し て い る が ,優 - 57 - 占 度 3 の 個 体 は 地 点 j に だ け 出 現 し た と み な せ る 。そ こ で 両 地 点 の 出 現 種 と し て 優 占 度 1 と 2 の 2 仮 想 種 ,地 点 j に は そ の 他 に 優 占 度 3 の 1 仮 想 種 を 記 録する」 ( 小 林 , 1995)と い う も の で あ る 。ま た ,解 析 に は 植 生 階 層( 高 木 層 , 亜 高 木 層 ,低 木 層 ,草 本 層 )を 加 味 し ,同 じ 種 で も 階 層 の 異 な る 場 合 は 別 種 (仮想種)とみなした。 3.4.3 DCA に よ る 解 析 序 列 化 に は ,DCA( Detrended Correspondence Analysis; Hill, 1979a)を 用 い た 。 DCA は も っ と も 頻 繁 に 用 い ら れ る 序 列 化 手 法 の 一 つ で あ り , 反 復 平 均 法 ( Reciprocal Averaging, RA; Hill, 1973) の 問 題 で あ る 「 蹄 鉄 効 果 ( arch effect)」 と よ ば れ る 歪 み を 除 去 し た 方 法 で あ る ( Hill, 1979a; Hill and Gauch, 1980)。 DCA は , 間 接 的 な 勾 配 分 析 方 法 で あ り ( Whittaker, 1967), 調 査 区 に 出 現 し た 種 の 優 占 度 を も と に 軸 上 に プ ロ ッ ト し て い き ,種 組 成 の 変 動 の パ タ ー ン を 効 果 的 に 抽 出 す る と い わ れ て い る ( Gauch et al., 1981; Brown et al., 1984; Kershaw and Loony, 1985; Ter Braak, 1994)。 そ の 反 面 , 複 数 の 環 境 条 件 が 同 程度の影響力を持つ場合でも比較上位の軸を基準にして歪みの除去を行う た め に 不 自 然 な 結 果 が 誘 導 さ れ て し ま う と い う 欠 点 が あ り( Oksanen, 1988), 適 切 な 結 果 が 得 ら れ る の は ,第 1 の 環 境 要 因 と 第 2 の 環 境 要 因 の 間 に 顕 著 な 影 響 力 の 差 が あ る と き に 限 ら れ る 点 が 指 摘 さ れ て い る ( Kenkel and Orloci, 1986)。DCA の 結 果 で は ,種 組 成 と と そ の 優 占 度 が 類 似 し て い る プ ロ ッ ト は 図 中 に よ り 接 近 し て 描 か れ る こ と に な る ( Monier and Wafaa, 2003)。 な お , 今 回 の 解 析 に あ た っ て は , 全 67 調 査 区 に お け る 現 地 調 査 に よ っ て 得 ら れ た 122 仮 想 種 の う ち ,3 調 査 区 未 満 に 出 現 し た 種 を 偶 出 種 と み な し て 除 外 し た 89 種 を 用 い た 。ま た ,植 生 調 査 に お い て 階 層 を 高 木 層 ,亜 高 木 層 , 低 木 層 ,草 本 層 と 区 分 し た こ と を 受 け て ,同 一 種 で あ っ て も 出 現 階 層 が 異 な る場合はそれぞれを異なるデータとみなした。 3.4.4 種 多 様 度 指 数 に よ る 解 析 種 多 様 性 と い う 語 は ,と き に 種 の 豊 か さ の み を 指 し ,と き に 種 の 豊 か と 均 等 性 を 合 わ せ た 概 念 と し て 用 い ら れ て い る 。そ の た め ,種 多 様 度 を 解 析 す る 際 に は ,い く つ か の 指 数 を 組 み 合 わ せ て 使 用 す る こ と が 奨 励 さ れ て い る( 伊 藤 ・ 宮 田 , 1977)。 そ の た め , 本 研 究 で は 以 下 に 示 す 4 つ の 指 数 を 用 い た : - 58 - 種 密 度: 調 査 区 面 積 あ た り の 出 現 種 数 ( 種 / 100m 2 ; た だ し 斜 面 積 で あ り , 投 影 面 積に補正していない)とした。 種 密 度 = S/ 100m 2 Simpson の 多 様 度 指 数 ( Simpson, 1949) : D' = 1 − ∑ pi 2 i Shannon-Weiner の 多 様 度 指 数 ( Shannon and Weaver, 1949) : H ' = −∑ pi ln pi i Pielou の 均 等 度 指 数 ( Pielou, 1975) : J '= H' H' = H 'max ln S た だ し ,p i は 種 iの 相 対 優 占 度 ,Sは 出 現 種 数 ,H’ の 単 位 に は natを 用 い た 。 本 解 析 で は , 同 種 が 階 層 を ま た い で 出 現 し た 場 合 , 種 iの 優 占 度 は 各 階 層 の 優 占 度 の 積 算 値 と し , pi は す べ て の 出 現 種 に つ い て 求 め た 優 占 度 ( Braun-Blanquet scaleの 中 央 値 )の 合 計 に 対 す る 種 iの 優 占 度 の 割 合 と し た 。 な お ,DeJong( 1975)は ,D’ に つ い て 均 等 度 を 表 現 す る と し て い る 。ま た , Pielou( 1969)は ,H’ に つ い て 群 落 か ら ラ ン ダ ム に 選 ば れ た 個 体 の 種 名 を い い 当 て る と き の 不 確 実 さ の 程 度 を 表 し , J’ に つ い て は 均 等 度 を 表 現 す る と している。 3.5 結 果 3.5.1 氾 濫 原 植 生 の 分 類 植 生 調 査 を 実 施 し た 67 調 査 区 は , TWINSPAN に よ っ て , 第 一 段 階 で 2 つ のカテゴリに区分され,最終的に第三段階で 7 つのカテゴリに分類された ( Fig. 3-2, Table 3-1)。 前 者 の 2 つ の カ テ ゴ リ は 調 査 地 の ロ ケ ー シ ョ ン に よ っ て 植 生 ゾ ー ン と し て 明 瞭 に 特 徴 付 け ら れ ,後 者 の 7 つ の カ テ ゴ リ は 種 組 成 および林分構造を反映した植生タイプとして位置づけられた。 - 59 - (n = 67) Aegilops cylindrica (H) Barringtonia acutangula (T) Ficus heterophylla (S, H) Vitex holoadenon (S, H) Grewia sinuata (S) Morinda persicaefolia (S) Diospyros cambodiana (T) Crateva roxburghii (ST, S) Closed forest (n = 10) Morinda persicaefolia (H) Barringtonia acutangula (ST) Morinda persicaefolia (H) Cardiospermum halicacabum (H) Phyllanthus reticulatus (ST) Open forest (n = 10) Scrub (n = 6) Ludwigia hyssopifolia (H) Barringtonia acutangula (S) Derris laotica (S, H) Pseudoraphis brunoniana (H) Tall-shrub (n = 26) Shrub (n = 4) Paspalum scrobiculatum (H) Fimbristylis sp. (H) Fallow field (n = 5) Cultivated field (n = 6) Fig. 3-2. TWINSPAN dendrogram of 67 quadrats identifying seven vegetation types with indicator species listed at divisions. The number of quadrats in each vegetation type is indicated in parentheses. Abbreviations following species names are layers to which indicator species belonged; T = Tree layer, ST = Short-tree layer, S = Shrub layer, H = Herb layer. ( 1) 植 生 ゾ ー ン 低水位期のトンレサップ氾濫原を対象とした景観分析および植生調査の 結 果 か ら ,氾 濫 原 植 生 は ,最 低 水 位 期 の 湖 岸 の 外 縁 に 1∼ 2km の 幅 で 分 布 す る Disturbed woodland( 人 為 に よ っ て 荒 廃 し た 疎 林 ) と 調 査 地 の 内 陸 部 に 2 ∼ 3km の 範 囲 に 広 が る Extensive cropland( 粗 放 的 な 経 営 が な さ れ て い る 耕 作 地)といった 2 つのゾーンにまとめることができた。 Disturbed woodland( n=26) を 決 定 付 け る 指 標 種 は , 高 木 の Barringtonia acutangula と 低 木 性 木 本 植 物 お よ び 亜 高 木 性 木 本 植 物 の Ficus heterophylla で あ っ た ( Fig. 3-2 )。 こ の ほ か に も Diospyros cambodiana や Coccoceras anisopodum, Crateva roxburghii な ど の 高 木 ・ 亜 高 木 性 木 本 植 物 と , Morinda persicaefolia や Grewia sinuate な ど の 低 木 性 木 本 植 物 ,Combretum trifoliatum や Vitex holoadenon と い っ た ツ ル 性 木 本 植 物 も 生 育 し て い る( Fig. 3-2,Table 3-1, Photo 3-3)。 こ の 植 生 ゾ ー ン は 3 つ の 植 生 タ イ プ ( Closed forest( 林 冠 が う っ ぺ い し た 高 木 林 ), Open forest( 高 木 が 散 生 し , や ぶ 状 の 亜 高 木 性 樹 木 が 樹 間 を 埋 め る 混 交 林 ),Scrub( や ぶ 状 の 亜 高 木 林 ))に 細 分 さ れ た( Fig. 3-2)。調 査 地 で も 最 低 水 位 期 の 湖 岸 近 く へ 進 む に つ れ て 大 形 の 樹 木 が 増 加 す る 傾 向 が 認 め ら れ , チ ョ ン グ ・ ク ネ ア ス 地 区 か ら 西 に 7km 離 れ た 湖 岸 に お い て 見 い 出 し た Closed forest は ,平 均 樹 高 が 13.8m で ,林 冠 が う っ ぺ い し た - 60 - - 61 - Vitex holoadenon Vitex holoadenon Grewia sinuata Grewia sinuata Ficus heterophylla Ficus heterophylla Barringtonia acutangula Crateva roxburghii Diospyros cambodiana Pistia stratiotes Crateva roxburghii Diospyros cambodiana Crateva roxburghii Combretum trifoliatum Coccoceras anisopodum Salvinia cucullata Diospyros cambodiana Eichhornia crassipes Ficus heterophylla Morinda persicaefolia Vitex holoadenon Cardiospermum halicacabum Morinda persicaefolia Barringtonia acutangula Combretum trifoliatum Merremia hederacea Acacia thailandica Gmelina asiatica Brownlowia paludosa Hymenocardia Derris laotica Gmelina asiatica Acacia thailandica Acacia thailandica Dalbergia entadoides Dalbergia entadoides Passiflora foetida Hiptage triacantha Croton krabas Croton krabas Garcinia sp.1 Phyllanthus reticulatus Xanthophyllum glaucum Phyllanthus sp.1 Uvaria pierrei Commelina sp. Ludwigia adscendens Uvaria pierrei Phyllanthus sp.2 Hiptage triacantha Sorghum halepense Mimosa pigra Ipomoea aquatica Dalbergia entadoides Pennisetum sp. Cyperus digitatus Hiptage triacantha Combretum trifoliatum Derris laotica Aegilops cylindrica Gmelina asiatica Croton krabas Sorghum halepense Hymenocardia wallichii Mollugo oppositifolia Parameria laevigata Phyllanthus sp.1 Merremia hederacea Brownlowia paludosa Phyllanthus reticulatus Derris laotica Panicum repens Mimosa pigra Barringtonia acutangula Barringtonia acutangula Combretum trifoliatum Pseudoraphis brunoniana Phyllanthus reticulatus Brachiaria reptans Cyperus pilosus Passiflora foetida Paspalum scrobiculatum Hedyotis diffusa Ludwigia hyssopifolia Fimbristylis sp. Melochia corchorifolia Lindernia crustacea Nymphoides indica Merremia hederacea H S S H H S T1 S T1 H T2 T2 H T1 T1 H S H T2 S T2 H H T2 T2 T2 T2 S H S S T2 H S H T2 S T2 T2 S H S H S S H H H H S S S H S H H H S H H H H H H H H H S S T2 T2 H H S H H H H H H H H H H H H H H H 1 3 1 6 2 3 1 2 1 1 1 4 2 2 2 1 - 2 3 1 1 1 2 6 2 3 1 1 2 1 1 5 2 2 3 1 - 3 1 6 2 3 3 2 2 1 5 2 2 - 4 2 5 1 2 1 1 1 6 2 2 1 - 6 1 3 2 1 1 6 3 2 - 5 2 3 2 2 3 1 1 5 3 - 2 5 3 1 1 1 2 4 1 6 2 2 1 - 3 5 2 4 1 1 2 3 1 2 5 1 2 - 1 4 1 4 1 2 1 5 2 3 2 - 5 2 4 1 2 1 3 1 4 3 3 2 1 - 3 4 4 2 1 4 1 3 2 2 1 2 1 3 4 3 3 1 2 4 2 1 2 1 1 - 2 5 2 2 2 5 1 1 2 2 1 - 3 4 3 1 2 5 1 1 2 1 1 3 3 3 2 2 2 5 1 1 2 2 1 1 3 6 3 2 1 2 5 1 1 1 1 3 1 1 1 - 3 4 2 1 2 2 5 3 2 4 2 1 1 1 1 1 1 3 4 2 2 5 1 1 3 1 2 2 1 1 1 1 1 1 3 4 1 2 6 1 3 2 2 2 2 1 2 4 2 2 6 1 2 1 1 3 1 2 3 1 1 Closed forest 57 56 55 54 53 52 51 50 49 48 AP7 AP3 AP2 AP6 AP1 AP10 AP9 AP8 AP5 AP4 Open forest 67 66 65 64 63 62 61 60 59 58 AP20 AP19 AP18 AP17 AP16 AP15 AP11 AP13 AP14 AP12 Quadrat numbers Survey numbers Layer Vegetation types 1 2 1 1 1 1 1 2 2 3 1 2 6 2 2 1 1 1 - 3 2 3 2 5 2 1 2 4 1 1 2 1 1 2 1 2 1 1 1 1 1 1 2 1 3 3 1 4 6 1 1 1 1 1 1 2 2 1 4 1 2 5 3 1 1 1 2 2 1 1 1 1 1 4 1 3 6 2 1 1 1 1 1 - 6 2 5 2 1 1 2 1 1 47 46 45 44 43 42 AP21 AP27 AP23 AP25 AP22 AP24 Scrub 1 2 2 3 2 2 1 1 1 1 1 3 1 2 2 1 1 3 1 2 2 1 1 1 1 1 1 2 1 1 3 1 1 6 1 2 1 1 3 2 2 1 1 1 2 3 1 1 2 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 4 1 1 3 1 1 1 1 1 2 1 1 1 2 4 1 1 1 3 2 2 1 2 1 2 2 1 1 1 1 1 2 2 2 2 3 4 3 1 2 1 1 1 2 1 1 1 4 1 1 2 1 1 4 1 1 1 1 2 3 1 1 3 6 2 1 1 1 3 3 1 1 1 1 1 1 1 2 4 2 2 1 1 1 2 3 5 2 1 3 1 3 1 2 1 3 2 2 1 1 2 1 1 1 1 1 2 1 2 1 1 1 1 1 2 1 1 3 1 1 1 1 1 2 4 3 2 3 5 3 3 1 1 1 1 2 2 1 1 1 3 1 1 2 2 2 1 2 1 - 1 1 2 2 6 2 3 2 1 1 1 1 2 1 1 1 1 1 1 2 1 3 1 1 1 1 3 2 2 3 2 2 2 2 2 2 2 1 1 2 1 1 1 3 2 1 1 1 4 1 1 1 2 2 1 3 1 1 1 2 2 1 1 1 1 2 1 1 1 1 1 1 1 1 5 2 1 1 1 2 1 1 2 2 6 1 1 4 2 2 1 2 1 1 1 3 1 2 1 1 1 1 2 1 1 1 1 1 3 1 2 1 1 1 2 3 2 3 5 3 1 1 1 1 2 2 1 1 1 1 3 1 2 2 1 1 1 2 1 2 1 3 4 2 2 2 2 2 2 4 1 1 1 1 1 1 2 1 2 1 2 2 2 1 - 1 3 1 2 3 4 1 1 1 1 3 1 1 1 2 1 2 1 1 1 1 3 1 1 1 1 1 1 2 3 1 1 3 3 2 2 1 1 2 1 1 1 1 4 1 1 1 2 1 1 1 1 2 2 1 1 1 1 1 2 3 1 2 2 4 2 3 1 2 1 1 1 2 2 1 1 1 1 2 2 2 2 1 1 1 3 2 1 3 1 1 1 1 1 2 3 2 1 2 1 1 2 1 1 1 1 3 2 1 1 2 1 4 2 2 2 1 2 2 3 3 2 1 2 1 1 2 1 3 1 1 3 1 1 4 1 2 1 1 1 1 2 2 1 1 1 - 1 1 1 1 1 4 1 2 1 1 4 5 1 1 1 1 1 1 1 2 2 1 2 1 2 1 1 2 2 2 4 1 1 1 5 2 2 1 1 1 1 2 2 1 4 2 - 1 2 2 1 1 1 6 2 2 1 1 3 1 1 1 - 2 2 3 1 1 1 1 6 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 2 1 2 2 1 2 2 6 1 1 1 2 1 2 - 1 5 1 1 2 3 1 1 2 2 1 1 2 3 1 2 3 2 - 1 2 2 3 2 3 2 1 1 2 2 1 5 2 3 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 3 1 1 - 41 40 39 38 37 36 35 34 33 32 31 30 29 28 27 26 25 24 23 22 21 20 19 18 17 16 A4 A37 A38 AP26 A40 A34 A29 A26 A23 A39 A36 A33 A27 A22 A19 A18 A17 A16 A5 A25 A21 A14 A7 A6 A1 A32 Tall-shrub 2 1 1 1 2 2 3 1 1 4 1 1 1 1 2 4 1 1 2 1 1 1 1 2 1 1 1 2 2 1 1 1 1 1 1 6 1 1 4 1 1 3 1 1 1 3 2 1 1 1 4 1 6 1 1 1 1 1 3 4 1 2 1 1 1 2 2 1 1 6 1 1 1 1 15 14 13 12 A20 A24 A31 A3 Shrub 1 1 1 2 1 1 1 1 3 1 1 4 1 1 1 1 2 1 1 1 2 2 5 2 1 1 1 1 1 3 1 1 1 1 3 2 1 1 1 1 1 1 4 1 5 1 2 2 4 1 1 2 2 1 1 1 4 1 6 1 1 1 1 1 1 11 10 9 8 7 A8 A9 A10 A28 A30 Fallow field 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 2 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 2 1 1 1 2 1 1 1 2 1 1 1 2 1 1 1 1 2 1 1 1 1 1 1 1 2 1 1 1 2 1 1 1 1 1 1 1 1 6 5 4 3 2 1 A15 A35 A12 A11 A13 A2 Cultivated field Table3-1. Analysis resalt by TWINSPAN. Numbers into the table are coverage: 1=coverage +, 2=coverage 1, 3=coverage 2, 4=coverage 3, 5=coverage 4, 6=coverage 5. Red line shows first division, blue line shows second division, green line shows third division by TWINSPAN. Photo 3-3. Landscape of the Disturbed woodland zone in the highest-water season (Dec. 2005). 極 相 に 近 い 林 分 で あ っ た( Photo 3-4)。Scrub は Extensive cropland か ら 浸 水 林へ移行する領域に広い推移帯を形成していた。. 一 方 , Extensive cropland の 調 査 区 ( n=41) は , 乾 燥 し た 時 期 に 出 現 す る 先 駆 性 イ ネ 科 草 本 で あ る Aegilopus cylindrical が 指 標 種 と な っ て , Disturbed woodland と 区 分 さ れ た( Fig. 3-2)。Extensive cropland は ,以 下 の 植 物 が 生 育 す る こ と に よ っ て 特 徴 付 け ら れ る : (1) Melochia corchorifolia や Ludwigia hyssopifolia,Fimbristylis sp.,Lindernia crustacea な ど の 先 駆 性 草 本 植 物 ,(2) Derris laotica や Merremia hederacea,Phyllanthus reticulatus,Gmelina asiatica, Hiptage triacantha と い っ た 遷 移 初 期 段 階 か ら 出 現 す る ツ ル 性 植 物 , (3) Mimosa pigra や Croton krabas, Hymenocardia wallichii な ど の 陽 性 の 低 木 性 木 本 植 物 お よ び 亜 高 木 性 木 本 植 物 ( Fig. 3-2, Table 3-1) 。 こ の 植 生 ゾ ー ン は 4 つ の 植 生 タ イ プ ( Tall-shrub( 亜 高 木 性 樹 木 が 散 生 す る 低 木 林 ), Shrub ( 低 木 林 ), Fallow field( 耕 作 放 棄 地 /休 耕 地 ), Cultivated field( 耕 作 地 ) ) に 細 分 さ れ( Fig. 3-2),い ず れ の 植 生 タ イ プ も Disturbed woodland に 比 べ て , CLWL か ら の 平 均 距 離 お よ び 平 均 種 密 度 が 高 い 値 を 示 し た 反 面 ,平 均 植 生 高 - 62 - は 低 か っ た 。Extensive cropland の 景 観 を み る と ,耕 作 地 や さ ま ざ ま な 遷 移 段 階 の 放 棄 地 ,細 い 用 水 路 や た め 池 ,畦 道 な ど の 農 業 用 灌 漑 施 設 が モ ザ イ ク 上 に 分 布 し て い る こ と が 見 受 け ら れ た ( Photo 3-5)。 HWL Photo 3-4. Aspect of emergent “Closed forest” fringing the shore in the lowest-water season (February 2005). Arrow indicates highest water-level (HWL) in the flood season. - 63 - Photo 3-5. Landscape of the Extensive cropland zone in the lowest-water season (May 2005). ( 2) 植 物 群 落 植物社会学的手法による植生調査の結果,氾濫原を構成する植物群落は Table 3-2 の よ う に ま と め ら れ る 。 そ れ ぞ れ の 群 落 は , TWINSPAN を 用 い た 解 析 に よ っ て 区 分 さ れ た 7 つ の 植 生 タ イ プ( Closed forest,Open forest,Scrub, Tall-shrub,Shrub,Fallow field,Cultivated field)と 対 応 し て い る( Table 3-2)。 各植物群落の特徴を以下に示す。 a. Diospyros cambodiana-Barringtonia acutangula-community 植 生 タ イ プ : Closed forest と Open forest, 植 生 高 12.3m の 高 木 林 優 占 種 : Barringtonia acutangula, Morinda persicaefolia , Diospyros cambodiana, Vitex holoadenon, Xanthophyllum glaucum 群 落 区 分 種:Crateva roxburghii,Grewia sinuata,Diospyros cambodiana 出 現 種 数 ( 平 均 ): 5∼ 12 種 / 100m 2 ( 8.0 種 / 100m 2 ) 氾 濫 源 湿 地 に 生 育 す る 森 林 植 生 は , ほ と ん ど の 林 分 で Barringtonia acutangula が 優 占 し て 生 育 し て い る 。 現 存 し て い る Barringtonia acutangula - 64 - Table 3-2. Correspondence of plant community and vegetation type. Communities Sub-communities Vegetation types Diospyros cambodiana-Barringtonia acutangula -community Typical sub-community Sub-community of Merremia hederacea Closed forest Open forest Cardiospermum halicacabum-Ficus heterophylla -community Scrub Hiptage triacantha-Morinda persicaefolia -community Sub-community of Acacia thailandica Typical sub-community Sub-community of Melochia corchorifolia Tall-shrub Shrub Fallow field Mollugo oppositifolia-Paspalum scrobiculatum -community Cultivated field を 中 心 と す る 森 林 は , 汀 側 に 幅 1kmで 帯 状 に 広 が っ て い る 。 こ の 森 林 は , Crateva roxburghiiと Grewia sinuata, Diospyros cambodianaを 群 落 区 分 種 と し て Diospyros cambodiana-Barringtonia acutangula 群 落 に ま と め ら れ る 。 Morinda persicaefolia や Vitex holoadenon , Combretum trifoliatum , Ficus heterophyllaな ど の ツ ル 性 低 木 類 の 常 在 度 も 高 い 。植 生 高 は 10.1∼ 14.8mで あ り , 出 現 種 数 は い ず れ も 5∼ 12 種 / 100m 2 と 少 な い 。 こ の 群 落 は , 特 定 の 区 分 種 を 持 た な い 典 型 亜 群 落 と Merremia hederacea を 区 分 種 と す る Merremia hederacea亜 群 落 に 下 位 区 分 さ れ る 。 a-1. Typical sub-community( Closed forest) 氾 濫 原 の 最 前 線 ( CLWL か ら の 平 均 距 離 = 0.6km) に 位 置 す る 発 達 し た 植 分 で ,最 大 DBH が 38.9∼ 63.5cm に も な る 樹 木 が 林 立 し ,平 均 植 生 高 が 13.8m の う っ ぺ い し た( 平 均 植 被 率 = 92%)林 冠 を 有 し て い る( Table 3-3,Fig. 3-3)。 そ の 分 布 は チ ョ ン グ ・ク ネ ア ス 地 区 か ら 西 に 7km の , 人 為 の 及 ん で い な い 小 域 に 限 定 さ れ て い る ( Fig. 3-4 )。 林 冠 で 優 占 と な る 種 は Barringtonia acutangula で , こ れ に Diospyros cambodiana や Coccoceras anisopodum , Xanthophyllum glaucum と い っ た 耐 水 性 に 優 れ た 高 木 性 木 本 植 物 と ツ ル 性 木 本 植 物 の Combretum trifoliatum が 混 交 し て い る( Table 3-4,Fig 3-5)。亜 高 木 層 は 貧 弱 ( 平 均 植 被 率 = 13%) で Vitex holoadenon と Crateva roxburghii が 散 在 す る 程 度 で あ る が , 低 木 層 で は Morinda persicaefolia が 繁 茂 し て い る ( 平 均 植 被 率 = 75%; Fig. 3-5)。 そ の た め 草 本 層 に は 光 が 届 か ず , Morinda - 65 - Table 3-3. Comparison of the mean distance from CLWL, mean height of vegetation, mean density of species (/100 m 2 ) and diversity indices among seven vegetation types. Vegetation types Number of quadrats Mean distance from CLWL (km) Mean height of vegetation (m) Mean density of 2 species (/100m ) Closed forest Open forest Scrub Tall-shrub Shrub Fallow field Cultivated field 10 10 6 26 4 5 6 0.6 ± 0.1 0.2 ± 0.1 0.9 ± 0.3 3.6 ± 0.7 3.4 ± 0.6 4.5 ± 0.2 4.1 ± 0.6 13.8 ± 0.9 10.8 ± 0.5 6.9 ± 0.7 6.3 ± 0.9 3.8 ± 0.7 1.1 ± 0.2 0.3 ± 0.1 8.0 ± 1.7 8.0 ± 1.1 8.8 ± 2.1 15.9 ± 4.7 13.5 ± 0.6 13.0 ± 3.4 11.2 ± 4.2 Vegetation types Simpson D' Shannon H' Pielou J' Closed forest Open forest Scrub Tall-shrub Shrub Fallow field Cultivated field 0.439 ± 0.045 0.390 ± 0.049 0.356 ± 0.079 0.428 ± 0.130 0.395 ± 0.070 0.333 ± 0.127 0.577 ± 0.079 1.354 ± 0.172 1.177 ± 0.136 1.122 ± 0.289 1.559 ± 0.425 1.340 ± 0.222 1.171 ± 0.368 2.103 ± 0.410 0.658 ± 0.054 0.583 ± 0.080 0.516 ± 0.084 0.567 ± 0.133 0.515 ± 0.083 0.456 ± 0.114 0.887 ± 0.067 - 66 - (b) 5 16 Mean height of vegetation (m) Mean distance from CLWL (km) (a) 4 3 2 1 0 12 10 8 J 6 4 2 0 (c) (d) 30 2.5 25 2 Diversity index Mean density of species (/100m2) 14 20 15 10 1.5 ▲ ■ ▼ H H 1 H H B B 0 H H 0.5 5 ▲ H ■ JH ▼ D H J D B B B B B 0 Clo. Ope. Scr. Tal. Shr. Fal. Cul. Clo. Ope. Scr. Tal. Shr. Fal. Cul. Vegetation types Fig. 3-3. Comparison of (a) the mean distance from CLWL, (b) mean height of vegetation, (c) mean density of species (/100 m 2 ) and (d) diversity indices among seven vegetation types. Vegetation types: Clo. = Closed forest, Ope. = Open forest, Scr. = Scrub, Tal. = Tall shrub, Shr. = Shrub, Fal. = Fallow field, Cul. = Cultivated field. - 67 - Cultivated field Fallow field * Shrub Tall-shrub Scrub Open forest Closed forest * * * * Chong Kneas 0 5km Lake Tonle Sap Fig. 3-4. Distribution of seven vegetation types in the Lake Tonle Sap. - 68 - Table 3-4. Synoptic table of indicator and preferential species in the seven vegetation types by TWINSPAN. Roman numbers are appearance frequency; I = 1-20%, II = 21-40%, III = 41-60%, IV = 61-80%, V = 81-100%. Symbols following appearance frequency indicate Braun-Blanquet’s dominant scale (+, 1, 2, 3, 4, 5). Growth forms; H = herbs, S = shrubs, ST = short trees, T = trees, L = lianas. 植生タイプ 調査区数 平均植生高 (m) 高木層の植生高 (m) 亜高木層の植生高 (m) 低木層の植生高 (m) 草本層の植生高 (m) 平均種数 (種/100m2) Closed forest 10 13.8 92 13 75 10 生育形 8.0 Open forest 10 10.8 67 10 62 22 8.0 Scrub Tall-shrub Shrub* 6 6.9 81 43 10 8.8 26 6.5 42 64 24 15.9 4 3.8 75 42 13.5 Ⅲ+ Ⅳ 1-3 Ⅰ2 Ⅰ1 Ⅰ1 Ⅰ - - Fallow Cultivated field field 5 6 1.1 0.3 73 2 13.0 11.2 群落区分種 Crateva roxburghii Grewia sinuata Diospyros cambodiana 亜群落区分種 Merremia hederacea 群落区分種 Cardiospermum halicacabum ST S T Ⅴ +-2 Ⅰ+ Ⅴ +-4 + L - Ⅴ+ Ⅳ+ Ⅳ +-3 4 H - Ⅰ+ Ⅴ+ Ⅰ + - L ST L L - Ⅰ+ - Ⅰ+ Ⅲ +-1 Ⅴ +-1 Ⅳ Ⅳ Ⅳ Ⅴ L L - Ⅰ2 - H H H - Oryza sativa Paspalum scrobiculatum Mollugo oppositifolia Brachiaria reptans H H H H - その他の種 Morinda persicaefolia Barringtonia acutangula Combretum trifoliatum Pseudoraphis brunoniana Vitex holoadenon Derris laotica Mimosa pigra S T L H L L S + Ⅴ +-4 - Ⅴ +-1 - 群落区分種 Hiptage triacantha Croton krabas Gmelina asiatica Phyllanthus reticulatus 亜群落区分種 Acacia thailandica Dalbergia entadoides 亜群落区分種 Ludwigia hyssopifolia Melochia corchorifolia Nymphoides indica 群落区分種 Ⅴ 1-5 Ⅴ +-5 Ⅲ +-2 Ⅲ 1-2 - - Ⅲ Ⅲ - - Ⅰ Ⅰ - - - Ⅰ Ⅳ +-2 Ⅴ +-5 Ⅱ +-1 Ⅲ +-1 Ⅴ 2-5 - Ⅴ 1-5 Ⅴ +-5 Ⅴ +-2 Ⅱ2 Ⅲ +-1 Ⅰ+ +-2 +-3 +-3 +-5 +-2 +-2 + + + - Ⅰ Ⅴ Ⅴ Ⅳ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅳ + +-2 +-5 +-3 +-3 +-5 +-3 +-2 2 4 2 4 1 1 1 +-1 + + +-2 1 + + 3 4 3 4 2 1 4 Ⅱ Ⅲ Ⅲ Ⅳ +-5 +-3 1-5 +-1 + +-3 + +-1 +-3 Ⅲ Ⅲ Ⅲ Ⅰ +-2 + Ⅴ Ⅴ Ⅳ Ⅴ Ⅰ Ⅲ Ⅰ+ - + Ⅴ +-1 Ⅳ+ Ⅲ+ + Ⅴ+ Ⅳ+ Ⅲ+ Ⅲ+ +-1 +-1 +-1 +-3 + +-5 + + Ⅲ+ Ⅴ+ Ⅰ+ Ⅱ+ Ⅱ+ Ⅲ+ *: Appearance frequency is not showed in Roman numbers since the number of quadrats is less than five. - 69 - Table 3-4. Continue. Closed forest 植生タイプ Aegilops cylindrica Lindernia crustacea Fimbristylis sp. Eichhornia crassipes Ficus heterophylla Hymenocardia wallichii Sorghum halepense Cyperus pilosus Passiflora foetida Panicum repens Pistia stratiotes Brownlowia paludosa Ipomoea aquatica Xanthophyllum glaucum Cyperus digitatus Setaria geniculata Parameria laevigata Phyllanthus sp.2 Glinus oppositifolius Aeschynomene indica Sesbania roxburghii Coccoceras anisopodum Salvinia cucullata Uvaria pierrei Ludwigia adscendens Asteraceae sp. Terminalia cambodiana Sphenoclea zeylanica Polygonum tomentosum Nymphaea nouchali Aniseia martinicensis Elaeocarpus sp. Grangea maderaspatana Marsilea crenata Garcinia sp.2 Garcinia sp.1 Alternanthera sessilis Euphorbiaceae sp. Bridelia cambodiana Commelina sp. Bridelia cambodiana H H H H S ST H H L H H ST L T H H L S H H H T H S H H T H H H L S H H S S H S L H L Ⅴ +-1 Ⅱ +-1 Ⅳ+ Ⅰ4 Ⅱ 1-3 Ⅱ+ - Open forest Ⅰ1 Ⅴ +-1 Ⅰ+ Ⅱ+ - - 70 - Scrub Tall-shrub Shrub* Ⅲ+ Ⅳ 1-2 Ⅰ+ Ⅰ1 - Ⅳ Ⅰ Ⅰ +-1 + + - Ⅱ +-1 Ⅱ + Ⅰ Ⅰ Ⅰ +-1 + + - Ⅱ Ⅱ Ⅰ +-1 + +-1 Ⅰ + Ⅰ + Ⅰ + Ⅰ +-1 Ⅰ + Ⅰ Ⅰ - + + - Ⅰ Ⅰ +-2 +-1 Ⅰ + Ⅰ + Ⅰ + Ⅰ + Ⅰ + Ⅰ + Ⅰ 1 Ⅰ + Ⅰ + Ⅰ + Ⅰ + Ⅰ + Ⅰ + Ⅰ + Ⅰ + Ⅰ + 3 2 1 3 1 2 1 1 - + + + +-2 + + + 1 Fallow Cultivated field field Ⅲ Ⅱ Ⅱ Ⅱ Ⅱ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ - + + +-3 + +-1 + + + + Ⅲ+ Ⅲ+ Ⅴ+ Ⅱ+ Ⅰ+ Ⅱ+ Ⅰ+ Ⅰ+ - 15 (a) Scrub 10 HWL 5 0 0 Fh Height (m) 15 Mp 5 Ba Vh Dc 10 15 Ba Vh Mp Pr Ba Mp Ba Mp 20 25 Bp Ct Ba Hw Ba Mp (b) Open forest 10 HWL 5 0 5 0 Mp Ba Mp 15 10 15 Fh Mp Vh Mp Ba Vh Ba Mp Cr 20 Mp Ba 25 Mp Ba Mp (c) Closed forest 10 HWL 5 0 0 5 Mp Ba Cr Ba Mp 10 Dc 15 20 Cr Mp Ba Mp Ba Mp Fh Ca 25 Ba Ct Ba Vh Mp Fig. 3-5. Cross section of three vegetation types in disturbed woodland zone. (a) Scrub, (b) Open forest, (c) Closed forest. HWL = Highest Water-Level, Ba = Barringtonia acutangula, Bp = Brownlowia paludosa, Ca = Coccoceras anisopodum, Cr = Crateva roxburghii, Ct = Combretum trifoliatum, Dc = Diospyros cambodiana, Fh = Ficus heterophylla, Hw = Hymenocardia wallichii, Mp = Morinda persicaefolia, Pr = Phyllanthus reticulatus, Vh = Vitex holoadenon. - 71 - persicaefoliaや Vitex holoadenon, Crateva roxburghiiな ど が わ ず か に 散 在 す る 程 度 で あ る( 平 均 植 被 率 = 10%)。草 本 層 が 貧 弱 で あ る こ と か ら ,種 密 度 は 低 い 値 を 示 す ( 種 密 度 = 8.0 種 / 100m 2 ; Table 3-3, Fig. 3-3)。 a-2. Sub-community of Merremia hederacea( Open forest) Merremia hederaceaを 区 分 種 と し て ,Merremia hederacea亜 群 落 に 下 位 区 分 さ れ る( Table 3-2,Table 3-4)。も っ と も 水 没 期 間 の 長 い ,汀 線 最 前 線 側( CLWL か ら の 平 均 距 離 =0.2km)に 広 が る 立 地 で ,Barringtonia acutangulaの 高 木( 調 査 区 の 最 大 DBH= 27.6∼ 46.8cm)が 優 占 す る 森 林 植 生 で あ る( Table 3-3,Fig. 3-3,Fig 3-4)。植 生 の 構 造 は ,高 木 層( 植 生 高 10.1∼ 11.7m,植 被 率 50∼ 95%) と 亜 高 木 層( 植 生 高 7.0∼ 7.7m,植 被 率 3∼ 30%)低 木 層( 植 生 高 2.2∼ 3.2m, 植 被 率 40∼ 80%), 草 本 層 ( 植 生 高 0.8∼ 1.0m, 植 被 率 5∼ 30%) の 4 層 か ら な る 。 植 生 高 は 10.1∼ 11.7m( 平 均 10.8m) で 典 型 亜 群 落 よ り も 低 く , 高 木 層 の 植 被 率 も 50∼ 95%( 平 均 67%)と 低 い 。亜 高 木 層 は 貧 弱( 平 均 植 被 率 = 10%)だ が ,低 木 層 は Barringtonia acutangula高 木 の 間 を 埋 め る よ う に 発 達 し , Morinda persicaefoliaの ほ か , Vitex holoadenonや Ficus heterophylla, Grewia sinuate,Crateva roxburghiiと い っ た Disturbed woodlandを 標 徴 す る 種 が 繁 茂 し て い る ( 平 均 植 被 率 = 62%; Fig. 3-5)。 一 方 , 草 本 層 に は 光 が 届 き に く い こ と か ら Merremia hederaceaや Pseudoraphis brunonianaな ど が わ ず か に み ら れ る 程 度 で あ る( 平 均 植 被 率 = 22%)。こ の 植 分 の 種 密 度 は 8.0 種 / 100m 2 と 低 い ( Table 3-3, Fig. 3-3)。 b. Cardiospermum halicacabum-Ficus heterophylla-community( Scrub) 植 生 タ イ プ : Scrub, 植 生 高 6.9m の 亜 高 木 林 優 占 種 : Barringtonia acutangula, Morinda persicaefolia 群 落 区 分 種 : Cardiospermum halicacabum 出 現 種 数 ( 平 均 ): 6∼ 12 種 / 100m 2 ( 8.8 種 / 100m 2 ) こ の 森 林 は ,ツ ル 性 草 本 の Cardiospermum halicacabumを 群 落 区 分 種 と し て Cardiospermum halicacabum-Ficus heterophylla群 落 に ま と め ら れ る( Table 3-2, Table 3-4)。氾 濫 原 の や や 湖 岸 側 に 分 布 し( CLWLか ら の 平 均 距 離 = 0.9km; Fig. 3-4),亜 高 木 の 林 冠 が 定 高 で( 平 均 植 生 高 = 6.9m),う っ ぺ い し て い る( 平 均 植 被 率 = 81% ) 様 相 を 呈 し て い る ( Table 3-3,Fig. 3-3,Fig. 3-5)。亜 高 木 層 で は Barringtonia acutangulaや Combretum trifoliatum, Vitex holoadenon, Phyllanthus reticulatusが 林 冠 を 形 成 し ,そ の 下 層 に は Morinda persicaefoliaや Gmelina asiatica, Derris laotica, Merremia hederaceaな ど が 高 頻 度 で 生 育 し - 72 - て い る( Table 3-4,Fig. 3-5)。こ の 群 落 は ,後 述 す る Hiptage triacantha-Morinda persicaefolia群 落 と 連 続 的 に 分 布 す る た め 種 組 成 が 類 似 し て い る 。 し か し , 林冠が閉じていることで林床に光が届かないことから草本層が貧弱となっ て 種 数 が 低 い こ と ( 平 均 種 数 = 8.8 種 / 100m 2 ; Table 3-3, Fig. 3-3), お よ び Disturbed woodlandの 指 標 種 で あ る Ficus heterophyllaと Diospyros cambodiana が 出 現 す る 点 で 異 な っ て い る ( Table 3-4)。 c. Hiptage triacantha-Morinda persicaefolia-community 植 生 タ イ プ : Tall-shrub, Shrub, Fallow field, 植 生 高 5.3m の 低 木 林 優 占 種:Barringtonia acutangula,Phyllanthus reticulatus,Pseudoraphis brunoniana, Vitex holoadenon 群 落 区 分 種 : Hiptage triacantha, Croton krabas, Gmelina asiatica, Phyllanthus reticulatus 出 現 種 数 ( 平 均 ): 6∼ 29 種 / 100m 2 ( 15.2 種 / 100m 2 ) 氾 濫 源 湿 地 の 中 央 部 か ら 内 陸 側 に か け て 分 布 し ,ツ ル 性 木 本 類 が 繁 茂 し て 藪 を 形 成 し て い る 。 亜 高 木 層 お よ び 低 木 層 で Barringtonia acutangula と Phyllanthus reticulatus , Vitex holoadenon が 優 占 し , 草 本 層 で イ ネ 科 草 本 の Pseudoraphis brunonianaが 優 占 と な っ て 生 育 し て い る 。こ の 群 落 は ,Hiptage triacanthaと Croton krabas, Gmelina asiatica, Phyllanthus reticulatusを 群 落 区 分 種 と し て Hiptage triacantha-Morinda persicaefolia 群 落 に ま と め ら れ る 。 Morinda persicaefoliaや Combretum trifoliatum, Mimosa pigraな ど の 低 木 も 高 頻 度 で 認 め ら れ る 。 植 生 高 は 0.9∼ 7.9m( 平 均 植 生 高 = 5.3m) で あ り , 出 現 種 数 は 6∼ 29 種 / 100m 2( 平 均 種 数 = 15.2 種 / 100m 2 )と 多 い 。こ の 群 落 は , Acacia thailandicaと Dalbergia entadoidesを 区 分 種 と す る Acacia thailandica亜 群 落 と 特 定 の 区 分 種 を 持 た な い 典 型 亜 群 落 ,Ludwigia hyssopifoliaと Melochia corchorifolia, Nymphoides indicaを 区 分 種 と す る Melochia corchorifolia亜 群 落 に 下 位 区 分 さ れ る ( Table 3-2)。 c-1. Sub-community of Acacia thailandica( Tall-shrub) Acacia thailandica と Dalbergia entadoides を 区 分 種 と し て , Acacia thailandica亜 群 落 に 下 位 区 分 さ れ る ( Table 3-2, Table 3-4)。 ツ ル 性 植 物 が 優 勢 で ,階 層 構 造 の は っ き り し な い 藪 状 の 様 相 を 呈 し て い る 。こ の 群 落 の 特 徴 は ,亜 高 木 層 に お い て ,散 在 す る Barringtonia acutangulaの 成 木( 各 調 査 区 の 最 大 高 = 4.5 ∼ 7.9m , 最 大 DBH = 11.9 ∼ 21.4cm ) が 突 出 し た 樹 冠 を 広 げ , Phyllanthus reticulatusや Dalbergia entadioides, Gmelina asiatica, Combretum - 73 - trifoliatum,Vitex holoadenon,Acacia thailandicaな ど 多 く の ツ ル 性 木 本 植 物 が そ れ ら に 登 攀 し て い る こ と で あ る 。 ま た , 低 木 層 と 草 本 層 に は , Morinda persicaefoliaや Derris laotica,Croton krabas,Hiptage triacantha,Mimosa pigra, Hymenocardia wallichii,Merremia hederacea,Pseudoraphis brunoniana,Aegilops cylindricaな ど が 高 頻 度 で 出 現 し ,す べ て の 群 落 の な か で も っ と も 高 い 種 密 度 ( 15.9 種 / 100m 2 ) を 示 し て い る ( Table 3-3, Fig. 3-3)。 こ の 群 落 は , 調 査 地 の 中 央 部 ( CLWLか ら の 平 均 距 離 = 3.6km) に 広 範 に 分 布 し ( Fig. 3-4), 開 墾や選択的な伐採によって荒廃している植分も見い出される。 c-2. Typical sub-community( Shrub) こ の 群 落 は , Hiptage triacantha-Morinda persicaefolia 群 落 の 典 型 亜 群 落 で あ る ( Table 3-2)。 平 均 植 生 高 は 3.8m と 低 く ( Table 3-3, Fig. 3-3), 低 木 層 に 出 現 す る Barringtonia acutangula が 優 占 と な り , そ れ に Mimosa pigra や Morinda persicaefolia,Croton krabas な ど の 低 木 性 木 本 植 物 お よ び Phyllanthus reticulatus や Combretum trifoliatum, Vitex holoadenon, Hiptage triacantha, Merremia hederacea と い っ た 多 く の ツ ル 性 木 本 植 物 が 混 交 し な が ら 繁 茂 し て い る こ と で 特 徴 づ け ら れ る ( Table 3-4)。 ま た , 草 本 層 で は ツ ル 性 イ ネ 科 草 本 の Pseudoraphis brunoniana が 優 勢 と な り , Aegilops cylindrica や Lindernia crustacea が 高 頻 度 で 確 認 で き る( Table 3-4)。こ の 群 落 は ,後 述 す る Mollugo oppositifolia-Paspalum scrobiculatum 群 落 の 分 布 範 囲 内 に 混 在 し て 配 分 し , 広 範 な パ ッ チ を 形 成 す る 領 域 も 認 め ら れ る ( Fig. 3-4)。 c-3. Sub-community of Melochia corchorifolia( Fallow field) Ludwigia hyssopifolia と Melochia corchorifolia, Nymphoides indica を 区 分 種 と し て Melochia corchorifolia 亜 群 落 に 下 位 区 分 さ れ る ( Table 3-2, Table 3-4)。 こ の 群 落 は , 耕 作 地 が 2∼ 3 年 ほ ど 放 棄 さ れ た 植 生 タ イ プ で あ る 。 こ こ で は 草 本 層 の み が 認 め ら れ , 植 生 高 は 1.1m と 低 い も の の , Pseudoraphis brunoniana や Merremia hederacea な ど の 草 本 植 物 が 繁 茂 し , な お か つ Barringtonia acutangula や Combretum trifoliatum,Phyllanthus reticulatus な ど の 木 本 植 物 の 幼 植 物 や 稚 樹 が 頻 繁 に 出 現 し ( Table 3-4), 植 被 率 は 73%ほ ど の 高 い 値 を 示 す 。 こ の 植 生 タ イ プ に 属 す る 調 査 区 の 位 置 は CLWL か ら の 平 均 距 離 が 4.5km で( Table 3-3,Fig. 3-3),調 査 地 の 内 陸 側 に ,後 述 す る Mollugo oppositifolia-Paspalum scrobiculatum 群 落 と 隣 接 し な が ら 散 在 す る よ う に 分 布 し て い る ( Fig. 3-4)。 - 74 - d. Mollugo oppositifolia-Paspalum scrobiculatum-community ( Cultivated field) 植 生 タ イ プ : Cultivated field, 植 生 高 0.3m の 耕 作 地 優 占 種 : Mollugo oppositifolia, Paspalum scrobiculatum 群 落 区 分 種 : Oryza sativa , Paspalum scrobiculatum , Mollugo oppositifolia, Brachiaria reptans 出 現 種 数 ( 平 均 ): 8∼ 17 種 / 100m 2 ( 11.2 種 / 100m 2 ) 氾 濫 源 湿 地 の 内 陸 側 に 位 置 し( Fig. 3-4),氾 濫 し た 湖 水 が 引 い た 後 の 低 水 位 期( 2∼ 8 月 )に ,主 に 水 田 と し て 粗 放 的 に 耕 作 さ れ て い る 。草 本 層 で 草 本 の Mollugo oppositifolia と Paspalum scrobiculatum が 優 占 と な っ て 地 表 を 覆 っ て い る 。 こ の 群 落 は , Oryza sativa と Paspalum scrobiculatum , Mollugo oppositifolia , Brachiaria reptans を 群 落 区 分 種 と し て Mollugo oppositifolia-Paspalum scrobiculatum 群 落 に ま と め ら れ る ( Table 3-2, Table 3-4)。 こ の 地 域 の 稲 作 は , 水 が 引 い た 2 月 に 田 植 え を し , 6 月 に 稲 刈 り を 終 え ,冠 水 前 の 7 月 に 田 お 越 し を す る と い っ た サ イ ク ル で 行 わ れ て い る 。植 生 調査を実施した水田耕作が行われていない時期(7 月下旬∼8 月上旬)の水 田 で は ,植 生 高 が 0.3m ほ ど で ,植 被 率 が 2%程 度 で あ っ た( Table 3-3,Fig. 3-3)。 代 表 的 な 構 成 種 は , Merremia hederacea や Ludwigia hyssopifolia, Fimbristylis sp. , Paspalum scrobiculatum , Melochia corchorifolia , Brachiaria reptans , Lindernia crustacea, Aegilops cylindrica な ど の 草 本 植 物 で あ る ( Table 3-4)。 ま た , Barringtonia acutangula や Mimosa pigra, Morinda persicaefolia な ど の 木本植物は,幼植物に限って生育が確認でき,わずかに冠水した立地では Nymphoides indica や Pseudoraphis brunoniana な ど の 水 生 植 物 も 出 現 す る 。種 多 様 度 指 数 ( D'= 0.577, H’= 2.103, J’= 0.887) は , 7 つ の 植 生 タ イ プ の な か で も っ と も 高 い 値 を 示 し て い る ( Table 3-3, Fig. 3-3) 。 3.5.2 氾 濫 原 植 生 の 序 列 化 植 生 調 査 を 行 っ た 67 調 査 区 は ,DCA に お い て 固 有 値 の 高 い 1 軸( 固 有 値 = 0.794) と 2 軸 ( 固 有 値 = 0.427) を 用 い た 座 標 平 面 上 で Fig. 3-6 の よ う に 序 列 化 さ れ た 。 図 中 で は TWINSPAN に よ っ て 識 別 さ れ た 7 つ の 植 生 タ イ プ を オ ー バ ー レ イ し て い る 。 ま た , 全 調 査 区 の DCA ス コ ア と 植 生 構 造 に か か わ る パ ラ メ ー タ ー と の 相 関 関 係 を , Table 3-5 に 示 し た 。 1 軸のスコアは,植生高および高木層の植被率と有意な負の相関を示し ( Table 3-5; P < 0.001, Spearman の 順 位 相 関 係 数 ), 一 方 で 種 密 度 あ る い は 亜 - 75 - Cultivated field Fallow field Shrub Tall-shrub Scrub Open forest Closed forest Axis 2 (eigenvalue = 0.427) 300 200 100 0 0 100 200 300 400 500 600 Axis 1 (eigenvalue = 0.794) Fig. 3-6. DCA-ordination of 67 quadrats. The different vegetation types classified by TWINSPAN are overlaid and encircled. Arrows show the direction where vegetation backs up. Table 3-5. Correlations between DCA scores and parameters of vegetation characteristics. T = Tree layer, ST = Short-tree layer, S = Shrub layer, H = Herb layer. CLWL = coastline at the lowest water-level. Axis1 Axis2 Height of vegetation Density of species Simpson D' Shannon H' Pielou J' -0.942 0.447 0.088 0.242 -0.126 *** Coverage of T Coverage of ST Coverage of S Coverage of H -0.728 0.390 -0.018 0.144 *** 0.803 *** Distance from CLWL * *** * ** -0.315 0.200 0.220 0.266 0.139 ** -0.873 -0.331 -0.098 0.233 *** 0.061 P <0.05, ** P <0.01, *** P <0.001; Spearman's ranking correlations. - 76 - * * 高 木 層 の 植 被 率 ,Shannon の 多 様 度 指 数 H’,CLWL か ら の 距 離 と 有 意 な 正 の 相 関 を 示 し た ( Table 3-5; P < 0.05, Spearman の 順 位 相 関 係 数 )。 2 軸 の ス コ ア は ,高 木 層 の 植 被 率 ,亜 高 木 層 の 植 被 率 ,お よ び 植 生 高 と 有 意 な 負 の 相 関 を 示 し ( Table 3-5; P < 0.05, Spearman の 順 位 相 関 係 数 ), Shannon の 多 様 度 指 数 H’と 有 意 な 正 の 相 関 を 示 し た( Table 3-5; P < 0.05, Spearman の 順 位 相 関 係 数 )。 1 軸 上 で の 7 つ の 植 生 タ イ プ の 序 列 は , お お む ね 低 ス コ ア 側 か ら Closed forest, Open forest, Scrub, Tall-shrub, Shrub, Fallow field, Cultivated field の 順 で あ っ た( Fig. 3-6)。ま た ,座 標 平 面 上 で 植 生 タ イ プ の 分 布 を み る と , 階 層 構 造 が 発 達 し ,構 成 種 が 浸 水 域 本 来 の 少 数 の 木 本 種 に 限 定 さ れ る 傾 向 を 有 す る Disturbed woodland ゾ ー ン の 3 つ の 植 生 タ イ プ で は ,占 有 領 域 は そ れ ぞ れ 極 め て 集 中 し ,な お か つ 相 互 に 近 接 し て い た 。一 方 で ,人 為 の 影 響 を 強 く 受 け て い る Extensive cropland ゾ ー ン を 構 成 す る 4 つ の 植 生 タ イ プ で は , DCA 散 布 図 上 の バ ラ ツ キ が そ れ ぞ れ 大 き か っ た 。こ の 結 果 は ,1 軸 の ス コ ア と 植 生 高 , 高 木 層 の 発 達 の 度 合 い , そ し て CLWL か ら の 距 離 と が 強 い 相 関 関 係 に あ る こ と と 整 合 的 で あ っ た ( Table 3-5)。 ま た ,地 域 住 民 へ の イ ン タ ビ ュ ー の 結 果 ,各 植 生 タ イ プ は ,人 為 的 攪 乱 が 加 わ る こ と に よ っ て ,Closed forest か ら Open forest,Scrub,Tall-shrub,Shrub, Fallow field,Cultivated field の 順 に 後 退 し て い く こ と が 示 さ れ た( Fig. 3-6)。 3.6 考 察 3.6.1 氾 濫 原 植 生 の 構 造 調査地の広大な氾濫原を覆う氾濫原植生は,冠水によるストレスと人為 的 な 攪 乱 に よ っ て 大 き な 影 響 を 受 け て い た 。 CNMC/NEDECO( 1998b) は ト ン レ サ ッ プ 地 域 に お い て お よ そ 200 種 の 維 管 束 植 物 を リ ス ト ア ッ プ し , McDonald et al.( 1997)は 氾 濫 原 植 生 が 次 の 3 つ の 主 要 な ハ ビ タ ッ ト か ら 構 成 さ れ て い る こ と を 記 載 し て い る ; (1)も っ と も 広 い 面 積 に わ た っ て 分 布 し て い る 亜 高 木 ・ 低 木 林 , (2)最 低 水 位 期 の 湖 岸 沿 い に 残 存 し , 植 生 高 が 7∼ 15m に も な る 発 達 し た 浸 水 林 , (3)浮 遊 植 物 や 抽 水 植 物 ( 草 丈 1∼ 3m) に よ って特徴づけられる水生草本植生。本研究では,氾濫原の湖心側からおよ そ 4km の 範 囲 内 ( 海 抜 =1∼ 6m) に 配 置 し た 67 箇 所 ( 10m×10m) か ら 収 集 し た 植 物 社 会 学 的 デ ー タ に 基 づ い て ,122 種 の 仮 想 種 と 7 つ の 植 生 タ イ プ を 見 出 し た 。 122 仮 想 種 の う ち , 本 研 究 で Open forest と Closed forest と し て - 77 - 区分された浸水林において指標種ならびに優勢となる種は,以下の種に限 ら れ て い た ; 高 木 性 木 本 植 物 の Barringtonia acutangula と Diospyros cambodiana,Coccoceras anisopodum,Xanthophyllum glaucum,亜 高 木 性 木 本 植 物 の Crateva roxburghii, 低 木 性 木 本 植 物 の Morinda persicaefolia と Ficus heterophylla , Grewia sinuate , ツ ル 性 木 本 植 物 の Vitex holoadenon と Combretum trifoliatum( Table 3-4) 。 一 方 で , 熱 帯 ア メ リ カ 原 産 で 鋭 い ト ゲ を 持 つ 低 木 性 木 本 植 物 で あ る Mimosa pigra が Extensive cropland ゾ ー ン の い たるところに繁茂している状況が確認されたのは特筆される。昨今,この 植物は世界中の熱帯氾濫原植生に侵入して,もっとも大きな被害をもたら し て い る 種 の 一 つ と さ れ て い る ( Tim et al., 2005) 。 McDonald et al.( 1997)が 示 し た 2 つ の 植 生 タ イ プ の う ち ,「 亜 高 木 ・ 低 木 植 生 ( Short tree and Shrubland) 」 は 本 研 究 に お け る Shrubと Tall-shrub, Scrubに , 「 浸 水 林 ( Gallery forest) 」 は Open forest, Closed forestに そ れ ぞ れ 相 当 す る と 推 察 さ れ る 。 し か し , 調 査 地 に お い て , Shrub と Tall-shrubは Cultivated field に 隣 接 し た 植 生 回 復 途 中 の 群 集 と し て 位 置 づ け ら れ ( Table 3-3, Fig. 3-3, Fig. 3-6) , Scrubと Open forestも ま た , 伐 採 に よ る 人 為 的 攪 乱を受け,後退した様相を呈しているとみなされた。そのため,氾濫原の 原植生を再構築するためには,冠水と旱魃の程度および人為的影響の両者 を 考 慮 し な が ら ,キ ー ス ト ー ン 植 物 5 の 更 新 特 性 を 注 意 深 く 解 明 す る 必 要 が あろう。 なお,氾濫原植生の構成種は,植物社会学的手法に基づく表操作によっ て Appendix table 1 の よ う に 整 理 で き ,こ の 表 か ら 以 下 の こ と が 読 み 取 れ る 。 (1) 氾 濫 原 で 中 心 と な る 樹 種 は , Barringtonia acutangula と Morinda persicaefolia と Combretum trifoliatum,Vitex holoadenon で あ り ,ほ と ん ど の 調 査 区 で 優 勢 と な る 。 (2)湖 岸 最 前 線 に パ ッ チ 状 に 残 存 す る 半 自 然 林 に は , Diospyros cambodiana や Coccoceras anisopodum, Xanthophyllum glaucum, Crateva roxburghii が 出 現 す る 。 (3) そ こ に 弱 い 人 為 が 加 わ っ た 森 林 に は , Ficus heterophylla と Grewia sinuate が 認 め ら れ る 。(4)さ ら に 人 為 的 攪 乱 が 強 く 加 わ る と ,Phyllanthus reticulatus や Derris laotica,Mimosa pigra,Gmelina 5 存在量に比べて膨大な作用をその種が属する生態系に及ぼして,その種がいな くなると他の多くの種の絶滅が引き起こされたり,生態系の構造や性質に大きな 影響がもたらされるような種をキーストーン種と呼ぶ(生物多様性政策研究会 ( 編 ) , 2002)。 Power et al.( 1996) は ,「 キ ー ス ト ー ン 種 と は , 生 態 系 に 対 し て 大 きな影響をもち,その影響が存在量に比べて著しく大きい種である」と定義して いる。本稿では,地域住民の生活にとって重要な役割を果たす植物資源をキース トーン植物資源として用いている。 - 78 - asiatica, Hiptage triacantha, Croton krabas, Aegilops cylindrica, Sorghum halepense が 繁 茂 す る よ う に な り , 部 分 的 に Acacia thailandica と Dalgergia endatoides が 出 現 す る 。そ し て ,(5)内 陸 側 の 耕 作 地 で は ,Ludwigia hyssopifolia と Fimbristylis sp., Lindernia crustacea, Nymphoides indica が 優 勢 と な る の 群 落 と な る ( Appendix table 1) 。 3.6.2 植 生 タ イ プ の 分 布 植 生 構 造 や 分 布 パ タ ー ン ,植 物 種 に 影 響 す る 多 様 な 要 因 を 探 る 生 態 学 的 研 究 に お い て , さ ま ざ ま な 分 類 や 序 列 化 の 手 法 が 有 効 に 用 い ら れ て い る ( e.g. Nieppola and Carleton, 1991; Økland and Eilertsen, 1993; Økland, T., 1996)。 こ う し た 解 析 う ち ,TWINSPAN に よ る 分 類 と DCA に よ る 序 列 化 は ,植 生 群 集 の 識 別 や 潜 在 的 な 環 境 傾 度 を 特 定 す る た め に 頻 繁 に 利 用 さ れ て き た ( Kent and Ballard, 1988)。本 研 究 で は ,TWINSPAN に よ っ て 7 つ の 植 生 タ イ プ を 識 別 し , DCA に よ っ て 植 生 タ イ プ の 特 性 を 種 密 度 や 種 多 様 度 指 数 , 植 被 率 , 植 生 高 ,CLWL か ら の 距 離 と い っ た パ ラ メ ー タ ー と 関 係 づ け て 解 析 し( Table 3-5, Fig. 3-6), 各 植 生 タ イ プ の 分 布 や 構 造 に 冠 水 す る 期 間 や 深 度 , お よ び 人為による攪乱の度合いが対応していることを示した。 また,攪乱は植物群落の組成や構造,分布に重要な影響を及ぼすことが 立 証 さ れ て い る ( Lake, 1990; Wallace, 1990; Death, 1996)。 ト ン レ サ ッ プ 湖 の氾濫原では,季節的な水位変動という自然攪乱と開墾や択伐,火入れと いった人為的攪乱の 2 つの攪乱体制が植生構造に影響を及ぼしている。季 節 的 水 位 変 動 に よ る 攪 乱 は ,CLWL か ら の 距 離 に 応 じ て 冠 水 と 乾 燥 の 期 間 や 程度に勾配を生み出し,氾濫原というエコトーンの内部に異質な植生タイ プの成立をもたらす。一方で人為的攪乱は,一義的に季節的水位変動に規 定 さ れ な が ら ,日 常 生 活 が よ り 広 範 に 展 開 さ れ て い る 氾 濫 原 の 内 陸 部 ほ ど , 撹乱の内容が多様となり,強度と頻度が増している(詳しくは第 5 章で述 べ る )。 現 在 の 代 償 植 生 景 観 は , こ の 両 攪 乱 が 組 み 合 わ さ り な が ら 継 続 し て 繰り返されることによって形成されている。 ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 の 植 生 を 概 念 図 に す る と Fig. 3-7 の よ う に な る 。高 水 位 期 に は 氾 濫 原 全 体 が 冠 水 し て ,そ こ に は 水 生 植 物 の 群 落 が み ら れ る が , 低水位期になると水が引いて浸水林が出現するようになる。このとき, Disturbed woodland ゾ ー ン で は ,干 出 す る 短 い 期 間( 2∼ 6 月 )に 地 域 住 民 が 薪 に 用 い る 木 材 を 採 取 す る た め に 浸 水 林 に 入 り , 冠 水 期 ( 7∼ 1 月 ) に は 船 上から湖面上に張り出した枝を伐採することよる人為的攪乱が生じている。 - 79 - 【Highigh-water season 】 Herbaceous water-plants Lake Extensive cropland 【LowLow-water season 】 Closed forest Open forest Disturbed woodland Scrub TallTall-shrub Shrub Fallow Cultivated field Field Fig. 3-7. Simplified figure of vegetation on the floodplain of Lake Tonle Sap. しかし,幸いにしてこうした人為的攪乱は過剰なものではなく,深刻な植 生 の 劣 化・荒 廃 に は 至 っ て い な い( 第 5 章 参 照 )。調 査 地 の 西 方 7km ほ ど の 遠 隔 地 に 位 置 す る Closed forest は( Fig. 3-4),Open fosret と 同 じ 立 地 を 占 め ながら,人為的攪乱から開放された潜在自然植生に近い植分である。この 高 木 林 で は Barringtonia acutangula に 加 え て Diospyros cambodiana, Coccoceras anisopodum, Xanthophyllum glaucum な ど の 巨 木 が 連 続 し た 林 冠 を 形 成 し て い る ( Fig. 3-5 )。 Open forest は 最 低 水 位 期 の 湖 岸 付 近 に 位 置 し ( CLWL か ら の 距 離 = 0.2km, Table 3-3, Fig. 3-3), 最 大 で 水 深 8m に 達 す る 湖 水 に 長 期 間 ( 7∼ 1 月 ) 覆 わ れ る た め , 人 為 的 攪 乱 の 影 響 は 限 定 さ れ る 。 Scrub は , Tall-shrub と 連 続 的 に 分 布 す る も の の , よ り 湖 心 側 に 位 置 す る た め に 陸 化 す る 期 間 ( 2∼ 6 月 ) が 短 く , 居 住 域 か ら の ア プ ロ ー チ も 困 難 と な る 立 地 に 成 立 し て い る 。こ の Disturbed woodland ゾ ー ン で は ,む し ろ 季 節 的 な 水 位 変 動 が 強 く 関 与 し , 耐 冠 水 性 樹 種 ( 高 木 性 の Diospyros cambodiana, Coccoceras anisopodum , Xanthophyllum glaucum , 亜 高 木 性 の Crateva roxburghii, 低 木 性 の Ficus heterophylla, Grewia sinuate) の 生 育 を 確 認 で き る 。Closed forest は 7 月 下 旬 か ら 2 月 上 旬 の お よ そ 6 ヶ 月 も の 間 冠 水 し て お - 80 - り,こうした環境条件も構成種が限定される一因と推察される。 も う 一 方 の Extensive cropland ゾ ー ン は CLWL か ら 遠 い 地 点 に 位 置 し て い る た め , 干 出 す る 期 間 ( 1∼ 8 月 ) が 長 く , そ の 分 人 為 的 攪 乱 の 影 響 を 大 き く 受 け て い る 。 例 え ば , も っ と も 内 陸 側 に 位 置 し て い る Cultivated field と Fallow field は ( Table 3-3, Fig. 3-3, Fig 3-4), 水 田 耕 作 の た め に 水 管 理 が 容 易 に で き る 立 地 を 占 め ( 耕 作 期 間 = 1 ∼ 7 月 ), 就 労 人 口 の 増 減 に 伴 う Cultivated field と Fallow field の 循 環 遷 移 が 認 め ら れ た 。 ま た , Shrub と Tall-shrub は こ の 2 つ の 植 生 タ イ プ の 湖 心 側 に 帯 状 に 分 布 す る ほ か , Cultivated field や Fallow field の 周 り を 取 り 囲 む よ う に に 隣 接 し て , 畦 や 水 路沿いにも成立していた。このように人為の影響を強く受けた 4 つの植生 タ イ プ は , Extensive cropland ゾ ー ン 内 で 必 ず し も 帯 状 に 分 布 し て い る の で はなく,むしろモザイク状に分布しているとみなされた。 3.6.3 今 後 の 研 究 課 題 本 研 究 で 調 査 対 象 と し た ト ン レ サ ッ プ 湖 の 氾 濫 原 地 域 は ,豊 か な 生 物 多 様 性 を 有 し な が ら も そ の 絶 滅 が 危 惧 さ れ て い る Hotspot に 指 定 さ れ て い る ( Myers et al., 2000)。し か し ,発 展 途 上 国 で あ る こ と や 永 年 の 戦 乱 の 影 響 に よ っ て ,生 物 多 様 性 の 実 態 や 維 持 機 構 の 解 明 が ほ と ん ど な さ れ て い な い 。本 研 究 は 熱 帯 植 物 資 源 の イ ン ベ ン ト リ ー と い う 点 か ら み て ,有 用 な 情 報 を 提 供 できたといえる。そして,本研究の成果は,生態系の劣化に歯止めをかけ, 持続可能な環境マネジメントの戦略を導き出す際の基礎情報としても有益 なものとなると考える。 既 述 し た よ う に ,最 近 ,氾 濫 原 の 植 物 に 関 し て い く つ か 報 告 が な さ れ て い る( e.g., McDonald et al., 1997; Fontaine, 2000; Kham, 2004)。し か し ,ト ン レ サ ッ プ 湖 に 関 し て は ,植 生 遷 移 や 冠 水 に 対 す る 生 理 的 適 応 ,開 花 や 種 子 散 布 の タ イ ミ ン グ ,ポ リ ネ ー タ と の 関 係 な ど ,学 術 的 な 知 見 は ど れ を と っ て も き わ め て 乏 し い 状 況 に あ る 。 今 後 は , 氾 濫 原 の 中 心 樹 木 で あ る Barringtonia acutangula の 生 態 特 性 に 着 目 し ,人 為 的 攪 乱 が 大 き く 及 ぶ Cultivated field や Fallow field に お い て さ え , 切 り 株 や ち ぎ れ た 枝 , 大 型 の 種 子 な ど か ら 更 新 す る 戦 略 に つ い て 調 査 を 進 め る こ と が 求 め ら れ る 。加 え て ,本 調 査 結 果 に よ っ て , ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 が も と も と は Barringtonia acutangula の 優 勢 な 植 生 に よ っ て 広 く 覆 わ れ て い た こ と を 推 察 さ せ る 。こ う し た 仮 説 を 証 明 す る た め に も ,こ の 種 の 更 新 特 性 を 明 ら か に す る こ と が 次 の 課 題 で あ る と い え る 。 氾 濫 原 の 植 物 資 源 を 持 続 的 に マ ネ ジ メ ン ト す る た め に は ,氾 濫 原 の 現 状 と そ - 81 - こに生育する植物の生態学的特性が科学的に解明されなければならない。 3.7 ま と め カ ン ボ ジ ア の 中 央 部 に 位 置 す る ト ン レ サ ッ プ 湖 は ,東 南 ア ジ ア 最 大 の 淡 水 湖 で あ る 。 こ の 湖 に は メ コ ン 河 の 水 が 遡 上 し , 最 高 水 位 期 ( 10∼ 11 月 ) の 冠 水 面 積 が 最 低 水 位 期 (4∼ 5 月 )の 5 倍 以 上 ま で 膨 れ 上 が る と い う ユ ニ ー ク な 特 徴 を 有 す る 。 低 平 な 湖 岸 域 に は 水 位 変 動 幅 が 10m に も 達 す る 氾 濫 原 が 広 が り ,ア ン コ ー ル 王 朝 時 代 か ら 地 域 の 経 済・文 化 を 支 え る 豊 富 な 水 産・林 産 資 源 や 多 様 な 生 物 相 を 育 む 源 泉 と み な さ れ て き た が ,基 礎 調 査 さ え 不 十 分 な ま ま ユ ニ ー ク な 生 態 系 の 多 く が 荒 廃 し ,住 民 の 生 活 基 盤 の 消 失 が 懸 念 さ れ る 事 態 が 生 じ て い る 。本 章 で は ,ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 の 北 縁 に 位 置 す る シ ェ ム リ ア プ 州 の 氾 濫 原 前 面 域 ( 幅 約 4km) に お い て , (1)そ の 実 態 を , 植 物 社 会 学 的 手 法 を 用 い て 明 ら か に す る こ と , (2)そ の 成 立 機 構 を , 冠 水 状 況 や 人 為と関連付けて解析すること,をめざした。 調 査 地 と し た の は ,ト ン レ サ ッ プ 湖 の 北 西 部 を 占 め る シ ェ ム リ ア プ 州 の 氾 濫 原 ( 13°15′N, 103°49′E 付 近 ; 横 断 距 離 お よ そ 4km) で , ア ン コ ー ル 遺 跡 群 か ら 20km ほ ど 南 方 に 位 置 す る 。調 査 は ,植 生 調 査 は 低 水 位 期 に あ た る 2005 年 5∼ 8 月 と 2006 月 2∼ 8 月 に 実 施 し た 。 徒 歩 や 舟 で 氾 濫 原 を 踏 査 し た 後 , 69 箇 所 に 方 形 区( 10m × 10m)を 設 置 し て ,植 生 調 査( Braun-Blanquet, 1964) を 行 っ た 。そ し て ,多 変 量 解 析 に よ り 景 観 レ ベ ル で の 植 生 タ イ プ の 抽 出 と 各 植 生 タ イ プ の 種 組 成 や 種 多 様 性 ,構 造 ,分 布 状 況 の 解 析 ,お よ び そ れ ら と 冠 水状況および人為との関連性を検討した。 そ の 結 果 ,TWINSPAN法 を 用 い た 植 生 区 分 に よ り ,最 低 水 位 期 の 湖 岸 の 外 縁 に 1∼ 2kmの 幅 で 分 布 す る Disturbed woodland( 人 為 に よ っ て 荒 廃 し た 疎 林 ) と 調 査 地 の 内 陸 部 に 幅 2∼ 3kmの 範 囲 で 広 が る Extensive cropland( 粗 放 的 な 経 営 が な さ れ て い る 耕 作 地 )の 2 つ の ゾ ー ン を 見 出 し ,さ ら に 次 の 7 型 の 植 生 タ イ プ を 識 別 し た : Closed forest,Open forest,Scrub,Tall-shrub,Shrub,Fallow field, Cultivated field。 こ れ ら の 植 生 タ イ プ は 冠 水 状 況 や 人 為 と 密 接 に 対 応 し て お り , そ れ ぞ れ 以 下 の よ う な 特 徴 が 見 出 さ れ た : (1)Diospyros cambodiana-Barringtonia acutangula 群 落 の 典 型 亜 群 落 に 対 応 す る Closed forestは , 湖 岸 最 前 線 に パ ッ チ 状 で 残 存 し て お り , 人 為 的 攪 乱 を ほ と ん ど 受 け て い な い こ と か ら も っ と も 発 達 し た 林 分 に な っ て お り ,大 型 の 樹 木( 平 均 植 生 高 = 13.8m , 最 大 DBH = 38.9 ∼ 63.5cm ) が 密 生 し , 林 冠 は Barringtonia - 82 - acutangula の ほ か に Diospyros cambodiana や Coccoceras anisopodum , Xanthophyllum glaucumと い っ た 耐 水 性 に 優 れ た 樹 種 が 混 交 し て う っ ぺ い し て い た ( 植 被 率 = 92% )。 亜 高 木 層 と 草 本 層 は 貧 弱 だ が , 低 木 層 で は Morinda persicaefoliaが 卓 越 し て み ら れ ,種 密 度 は Open forestと 同 様 に 低 い 値 を 示 し た ( 種 密 度 = 8.0 種 / 100m 2 )。(2) Diospyros cambodiana-Barringtonia acutangula 群 落 の Merremia hederacea亜 群 落 に 対 応 す る Open forestは ,最 低 水 位 期 の 湖 岸 付 近 に 分 布 し ,高 木 の Barringtonia acutangula( 平 均 植 生 高 = 10.8m,最 大 DBH = 27.6∼ 46.8cm)が 疎 開 し た 林 冠 を 形 成 し( 平 均 植 被 率 = 67%),低 木 層 に は Disturbed woodlandを 特 徴 づ け る 種 が 繁 茂 し て ,草 本 層 に は 光 が 届 き に く い こ と か ら 貧 弱 と な り , 種 密 度 は 低 い 値 を 示 し た ( 8.0 種 / 100m 2 )。 (3) Cardiospermum halicacabum-Ficus heterophylla 群 落 に 対 応 す る Scrub は , Tall-shrub よ り も 湖 側 に 分 布 し , 亜 高 木 が 密 生 し た 相 観 を 呈 し , Tall-shrub で 優 勢 な 植 物 が 多 数 認 め ら れ る も の の ,草 本 類 や ツ ル 性 植 物 が ほ と ん ど 出 現 せ ず に 種 密 度 が 低 い ( 8.8 種 / 100m 2 ) こ と や Disturbed woodlandの 指 標 種 で あ る Ficus heterophyllaと Diospyros cambodianaが 出 現 す る こ と ,に よ っ て 特 徴 付 け ら れ た 。(4)Hiptage triacantha-Morinda persicaefolia群 落 の Acacia thailandica 亜 群 落 に 対 応 す る Tall-shrub は , 調 査 地 の 中 央 部 に 広 範 に 分 布 し , 植 生 高 が 6.3mに な り ,亜 高 木 層 に Barringtonia acutangulaの 成 木 が 突 出 し た 樹 冠 を 広 げ , 多 く の ツ ル 性 木 本 植 物 が そ れ ら に 登 攀 し ,低 木 層 と 草 本 層 に も 他 種 が 高 頻 度 で 出 現 し た こ と で も っ と も 高 い 種 密 度 ( 15.9 種 / 100m 2 ) を 記 録 し た 。 (5) Hiptage triacantha-Morinda persicaefolia群 落 の 典 型 亜 群 落 に 対 応 す る Shrubは , 低 木 層 に 出 現 す る Barringtonia acutangulaが 優 占 と な り ,そ れ に 低 木 性 木 本 植 物 や 多 く の ツ ル 性 木 本 植 物 が 混 交 し て 繁 茂 し , Cultivated fieldの 分 布 範 囲 内 に 混 在 し て 広 範 な パ ッ チ を 形 成 す る 領 域 も 認 め ら れ た 。 (6) Hiptage triacantha-Morinda persicaefolia群 落 の Melochia corchorifolia亜 群 落 に 対 応 す る Fallow fieldは , 耕 作 地 が 2∼ 3 年 ほ ど 放 棄 さ れ た 植 生 タ イ プ で , 調 査 地 の 内 陸 側 で Cultivated fieldに 隣 接 し て 点 在 し , 草 本 層 の み が 認 め ら れ , 草 本 植 物 や 木 本 植 物 の 稚 樹 が 繁 茂 し , 植 被 率 は 73% ほ ど の 高 い 値 を 示 し た 。 (7)Mollugo oppositifolia-Paspalum scrobiculatum 群 落 に 対 応 す る Cultivated fieldは ,氾 濫 し た 湖 水 が 引 い た 後 の 低 水 位 期( 2∼ 8 月 )に ,主 に 水 田 と し て 粗 放 的 に 耕 作 さ れ て い る 植 分 で ,草 本 植 物 の ほ か ,木 本 植 物 の 実 生 や 水 生 植 物 の 生 育 が 確 認 さ れ , 植 被 率 は 2%と 低 い も の の 種 多 様 度 指 数 は 高 い 値 を 示 し た ( D'= 0.577, H’= 2.103, J’= 0.887) 。 ま た , Disturbed woodland ゾ ー ン で は , 短 い 干 出 期 の 間 に 地 域 住 民 が 薪 に 用 い る 木 材 を 採 取 す る こ と に 加 え ,冠 水 期 に は 船 上 か ら 湖 面 上 に 張 り 出 し た - 83 - 枝 を 伐 採 す る こ と よ る 人 為 的 攪 乱 が 生 じ て い た 。し か し ,幸 い に し て こ う し た 人 為 的 攪 乱 は 軽 微 な 状 況 に あ り ,深 刻 な 植 生 の 劣 化・荒 廃 に は 至 っ て い な い 。こ の Disturbed woodland ゾ ー ン で は ,む し ろ 季 節 的 な 水 位 変 動 が 強 く 関 与 し , 耐 冠 水 性 樹 種 の 生 育 を 確 認 で き た 。 Closed forest は 7 月 下 旬 か ら 2 月 上 旬 の お よ そ 6 ヶ 月 も の 間 冠 水 し て お り ,こ う し た 環 境 条 件 も 構 成 種 が 限 定 さ れ る 一 因 と 推 察 さ れ た 。 一 方 で , 人 為 の 影 響 を 強 く 受 け た Extensive cropland ゾ ー ン 内 で 見 出 さ れ た 4 つ の 植 生 タ イ プ は ,必 ず し も 帯 状 に 分 布 し て い る の で は な く ,土 地 利 用 形 態 に よ っ て モ ザ イ ク 状 に 分 布 し て い る と み な された。 以 上 の こ と か ら ,こ れ ら 2 つ の 植 生 ゾ ー ン お よ び 7 つ の 植 生 タ イ プ の 相 観 や 分 布 ,種 組 成 ,植 物 種 多 様 性 に は ,冠 水 期 間 や 冠 水 深 度 お よ び 人 為 的 攪 乱 の程度が強く関与している実態が判明した。トンレサップ湖の氾濫原では, 季 節 的 な 水 位 変 動 と い う 自 然 攪 乱 と 開 墾 や 択 伐 ,火 入 れ と い っ た 人 為 的 攪 乱 の 2 つの攪乱体制が植生構造に影響を及ぼしている。季節的な水位変動は, 最低水位期の湖岸線からの距離に応じて冠水と乾燥の期間に勾配を生み出 し ,ま た 人 為 的 攪 乱 の 程 度 も 規 制 し て い る 。現 在 の 代 償 植 生 景 観 は ,こ の 自 然攪乱と人為的攪乱が組み合わさりながら継続的に繰り返されることによ って形成されていることが示唆された。 - 84 - Appendix table 1. Community table of the floodplain vegetation in Lake Tonle Sap. 群落区分 Lindernia crustacea -Ludwigia hyssopifolia comm. 亜群落及び植生タイプ Cultivated field Disturbed woodland Shrub Tall-shrub 変群落及びサブタイプ 通し番号 2 3 4 6 5 Morinda persicaefolia-Barringtonia acutangula comm. Fallow field 9 11 10 12 15 35 67 25 32 28 27 26 23 22 37 36 34 33 31 30 21 20 18 24 調査番号 A11 A12 A13 A35 A15 A10 A30 A28 A3 A31 A36 A38 A17 A29 A22 A19 A18 A5 A32 A40 A39 A34 A33 A27 A26 A25 A21 A7 A16 CLWL からの距離 (km) 4.60 4.63 4.63 3.80 3.89 4.65 4.25 4.35 3.04 4.26 3.72 3.49 3.72 4.28 3.67 3.57 3.54 4.75 4.06 3.32 3.46 3.89 3.96 4.35 2.86 2.80 3.64 4.70 3.83 Lindernia crustacea-Ludwigia hyssopifolia comm. Ludwigia hyssopifolia Fimbristylis sp. Lindernia crustacea H H H 1・2 1・2 1・2 1・2 +・2 +・2 +・2 1・2 ・ +・2 +・2 + + + + + + 3・4 + ・ ・ ・ + +・2 + + +・2 +・2 + ・ ・ ・ ・ + + + + +・2 + ・ ・ ・ +・2 ・ Nymphoides indica H Morinda persicaefolia-Barringtonia acutangula comm. Barringtonia acutangula T1T2SH + Morinda persicaefolia + T2SH Combretum trifoliatum T1T2SH ・ Vitex holoadenon Mimosa pigra subcomm.. Phyllanthus reticulatus + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ T2SH ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ + + ・ + ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ + + +・2 ・ ・ ・ ・ 2・3 2・3 + +・2 + ・ 3・3 Derris laotica Mimosa pigra T2SH Gmelina asiatica Hiptage triacantha Croton krabas T2SH Aegilops cylindrica Sorghum halepense H ・ ・ ・ SH ・ ・ ・ T1T2SH ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ T2SH ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ T2SH ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ H ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ T1T2SH + H ・ SH ・ ・ Variation of Acacia thailandica Acacia thailandica Dalbergia entadoides Ficus heterophylla subcomm. Ficus heterophylla Grewia sinuata Diospyros cambodiana subcomm. Crateva roxburghii Diospyros cambodiana Coccoceras anisopodum Xanthophyllum glaucum Variation of Diospyros cambodiana Eichhornia crassipes Pistia stratiotes Element of mantle comm. Merremia hederacea Pseudoraphis brunoniana Ipomoea aquatica Brownlowia paludosa Hymenocardia wallichii Melochia corchorifolia Cardiospermum halicacabum Passiflora foetida T2SH T2SH SH T2SH T1T2S T1 T1T2SH H H H ・ + H ・ T2SH SH Brachiaria reptans Paspalum scrobiculatum Cyperus pilosus H Setaria geniculata Uvaria pierrei H H ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ 1・2 ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ H ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ S ・ ・ ・ S ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 1・2 ・ 2・3 1・2 +・2 + ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ H ・ ・ 3・4 2・3 1・1 1・2 1・2 2・3 1・2 2・2 2・3 5・5 2・2 3・3 ・ ・ 1・1 1・2 1・2 +・2 1・2 1・2 1・2 1・2 2・3 + 1・2 +・2 +・2 1・2 3・3 + + ・ + + 5・5 4・5 5・5 5・5 + ・ ・ ・ ・ 2・3 +・2 ・ + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ 1・2 +・2 + + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ + + + ・ +・2 +・2 +・2 +・2 3・3 3・4 5・5 3・3 4・5 4・4 3・3 3・3 2・2 3・3 2・3 2・3 2・3 +・2 2・3 2・3 +・2 1・2 1・2 1・2 ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ Elaeocarpus sp. Asteraceae sp. Terminalia cambodiana ・ ・ + ・ ・ ・ H ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ Polygonum tomentosum Sphenoclea zeylanica ・ ・ ・ ・ ・ ・ H ・ ・ ・ ・ ・ ・ SH ・ ・ ・ ・ ・ ・ SH ・ ・ ・ ・ ・ ・ Aniseia martinicensis Sesbania roxburghii Nymphaea nouchali ・ ・ ・ ・ ・ ・ H ・ ・ ・ ・ ・ ・ H ・ ・ ・ ・ ・ ・ + Aeschynomene indica Oryza sativa ・ ・ ・ ・ ・ ・ + H ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 H ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ H ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + H ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ SH ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ Garcinia sp.2 Grangea maderaspatana Marsilea crenata ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ H ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ H ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ Salvinia cucullata Alternanthera sessilis Euphorbiaceae sp. ・ ・ ・ ・ ・ SH ・ ・ +・2 ・ ・ Garcinia sp.1 Hedyotis diffusa ・ ・ + ・ ・ H ・ ・ ・ + ・ ・ SH ・ ・ ・ + ・ ・ H ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ SH ・ ・ ・ ・ ・ ・ H ・ ・ ・ ・ + +・2 ・ ・ ・ H ・ ・ ・ 1・1 1・2 1・2 +・2 1・2 + + +・2 ・ ・ +・2 ・ + ・ ・ ・ H ・ ・ + + + ・ ・ ・ + Ludwigia adscendens Bridelia cambodiana Parameria laevigata Phyllanthus sp. Cyperus digitatus ・ ・ ・ ・ +・2 +・2 + ・ ・ + + ・ ・ ・ H ・ ・ ・ +・2 +・2 + + + ・ 3・3 + 2・2 + ・ 1・2 2・2 2・3 3・4 + 2・3 1・1 2・3 1・1 1・2 + +・2 +・2 2・3 + +・2 + + +・2 + + 2・2 ・ T2SH ・ ・ ・ ・ + + + + + ・ Commelina sp. Mollugo oppositifolia Panicum repens ・ ・ ・ ・ + 2・3 1・1 1・1 1・1 1・1 3・3 + + +・2 4・5 + 1・1 3・4 1・1 ・ +・2 +・2 1・2 1・2 1・2 1・2 1・2 3・3 1・2 +・2 1・2 1・2 1・2 ・ 1・2 H ・ + +・2 +・2 +・2 3・4 3・4 1・2 3・3 4・5 2・3 3・3 4・5 2・2 3・3 2・3 2・3 2・2 + + 1・2 1・2 1・2 ・ 2・3 2・3 +・2 1・2 2・3 +・2 2・3 +・2 2・3 1・2 + +・2 + + +・2 ・ 1・2 + 1・2 1・2 + + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 1・1 2・2 ・ 1・2 2・2 2・3 ・ 1・1 T1T2SH SH + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ 2・3 ・ 1・1 + + ・ + ・ ・ ・ +・2 1・2 + + ・ +・2 ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ + ・ ・ + ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ + ・ +・2 ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ + + +・2 1・1 ・ ・ + + ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ + ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + + +・2 1・2 3・4 1・2 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + + ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ - 85 - ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 1・2 + ・ + ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ + 1・1 ・ + + + 1・2 1・1 +・2 ・ ・ ・ + + + + ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 + ・ ・ ・ ・ + ・ 1・1 ・ 2・2 2・2 2・3 2・2 ・ ・ ・ +・2 +・2 + ・ ・ ・ 1・1 4・5 4・5 5・5 +・2 +・2 1・2 + + 2・3 + +・2 1・2 ・ + + ・ ・ +・2 1・1 + ・ +・2 ・ 1・2 3・4 ・ + 1・2 ・ +・2 ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ 1・2 1・1 ・ + + + ・ + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 1・1 1・1 2・3 1・1 2・3 1・1 + + + ・ ・ ・ + + + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ Appendix table 1. Continue. 群落区分 Morinda persicaefolia-Barringtonia acutangula comm. 亜群落及び植生タイプ Disturbed woodland 変群落及びサブタイプ Tall-shrub Disturbed woodland Shrub Open forest Near natural woodland Scrub Closed forest Facies 通し番号 66 65 16 38 29 19 17 14 13 45 51 53 50 52 47 49 39 Facies 41 46 43 54 57 56 61 55 58 59 60 62 63 64 調査番号 A37 A4 CLWL からの距離 (km) 3.44 2.96 3.06 1.23 2.90 3.89 4.76 2.85 3.54 0.17 0.19 0.09 0.19 0.09 0.34 0.18 0.62 0.84 0.32 1.08 0.07 0.61 0.66 0.49 0.69 0.59 0.52 0.51 0.44 0.62 0.53 A1 AP26 A23 A14 A6 A24 A20 AP11 AP17 AP19 AP16 AP18 AP13 AP15 AP21 AP23 AP12 AP25 AP20 AP3 AP2 AP7 AP1 AP4 AP5 AP6 AP8 AP9 AP10 Lindernia crustacea-Ludwigia hyssopifolia comm. Ludwigia hyssopifolia Fimbristylis sp. Lindernia crustacea ・ ・ ・ Nymphoides indica ・ Morinda persicaefolia-Barringtonia acutangula Barringtonia acutangula 1・1 Morinda persicaefolia Combretum trifoliatum Vitex holoadenon Mimosa pigra subcomm.. Phyllanthus reticulatus Derris laotica Mimosa pigra Gmelina asiatica Hiptage triacantha Croton krabas Aegilops cylindrica Sorghum halepense Variation of Acacia thailandica Acacia thailandica Dalbergia entadoides Ficus heterophylla subcomm. Ficus heterophylla Grewia sinuata Diospyros cambodiana subcomm. Crateva roxburghii Diospyros cambodiana Coccoceras anisopodum Xanthophyllum glaucum Variation of Diospyros cambodiana Eichhornia crassipes Pistia stratiotes Element of mantle comm. Merremia hederacea Pseudoraphis brunoniana Ipomoea aquatica Brownlowia paludosa Hymenocardia wallichii Melochia corchorifolia Cardiospermum halicacabum Passiflora foetida Brachiaria reptans Paspalum scrobiculatum Cyperus pilosus Setaria geniculata Uvaria pierrei Commelina sp. Mollugo oppositifolia Panicum repens Ludwigia adscendens Bridelia cambodiana Parameria laevigata Phyllanthus sp. Cyperus digitatus Garcinia sp.1 Hedyotis diffusa Salvinia cucullata Alternanthera sessilis Euphorbiaceae sp. Garcinia sp.2 Grangea maderaspatana Marsilea crenata Aeschynomene indica Oryza sativa Aniseia martinicensis Sesbania roxburghii Nymphaea nouchali Polygonum tomentosum Sphenoclea zeylanica Elaeocarpus sp. Asteraceae sp. Terminalia cambodiana ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ comm. ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 4・4 3・4 5・5 2・3 1・2 5・5 3・3 4・5 4・5 3・4 4・5 4・5 4・5 4・5 5・5 5・5 5・5 4・5 3・4 5・5 5・5 5・5 5・5 4・5 3・3 3・3 4・4 4・5 4・5 +・2 1・2 +・2 1・2 1・2 1・2 1・2 1・2 +・2 2・3 +・2 ・ + +・2 2・3 +・2 1・2 3・4 1・2 3・4 ・ 4・5 4・5 3・4 5・5 3・4 4・5 5・5 4・5 5・5 4・5 + 1・2 + 1・2 1・2 ・ +・2 3・3 1・1 ・ + + + + 2・3 ・ + 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 1・1 ・ ・ 1・1 ・ + + + 1・2 3・4 3・4 3・4 2・3 4・5 3・4 5・5 2・3 ・ 3・4 ・ 3・4 2・3 2・3 2・2 ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ 2・3 1・1 ・ + 2・3 ・ 1・1 5・5 5・5 +・2 1・2 ・ +・2 +・2 1・2 1・2 + 1・2 ・ + ・ + + + ・ +・2 ・ ・ 1・2 2・3 1・2 ・ + ・ 2・3 2・2 + ・ ・ + + +・2 ・ + +・2 1・1 ・ ・ ・ ・ + ・ + ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + + ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 1・2 + + ・ +・2 + ・ ・ ・ +・2 +・2 ・ 2・3 ・ ・ + + ・ ・ 1・1 +・2 + ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ 5・5 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ + + + ・ ・ +・2 ・ ・ + + 1・1 + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ 1・2 1・2 1・2 1・2 1・2 1・2 1・2 1・2 2・3 1・2 1・2 +・2 1・1 ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ + + + + + + + + ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 2・3 2・3 2・3 1・2 +・2 1・2 ・ +・2 3・4 +・2 + 1・2 2・3 1・2 1・1 1・2 +・2 1・2 1・2 + 1・2 ・ 1・1 2・2 2・2 2・2 2・2 2・3 3・3 3・3 4・4 3・3 2・3 2・2 ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ 2・2 3・3 2・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4・4 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ + 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 + + ・ +・2 +・2 + ・ + + +・2 +・2 1・2 +・2 + + +・2 + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ +・2 ・ ・ + ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + +・2 +・2 +・2 3・3 1・2 ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 +・2 + ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ - 86 - Appendix table 2. Species composition of vegetation types on the floodplain of Lake Tonle Sap. Species name: Ba=Barringtonia acutangula, Dc=Diospyros cambodiana, Ca=Coccoceras anisopodum. Vegetation types Running number Survey number Year of investigations Day of investigations Distance from CLWL Area Height of vegetation Height of tree layer Coverage Height of short-tree layer Coverage Height of shrub layer Coverage Height of herb layer Coverage Number of species Max diameter Spesies name Closed forest M/D (km) (㎡) (cm) (cm) (%) (cm) (%) (cm) (%) (cm) (%) (cm) Open forest Scrub 1 AP7 2006 3/13 0.49 10×10 1420 1420 90 676 10 300 70 100 5 8 47.2 Dc 2 AP3 2006 3/12 0.61 10×10 1350 1350 80 817 20 300 80 80 10 10 44.5 Dc 3 AP2 2006 3/11 0.66 10×10 1310 1310 95 630 20 210 80 80 10 10 55.9 Dc 4 AP6 2006 3/13 0.51 10×10 1480 1480 95 635 5 250 90 80 5 7 63.5 Dc 5 AP1 2006 3/11 0.69 10×10 1310 1310 98 620 10 210 80 80 20 5 54.8 Ba 6 AP10 2006 3/15 0.53 10×10 1450 1450 98 892 5 300 70 80 10 6 46.9 Ba 7 AP9 2006 3/15 0.62 10×10 1480 1480 95 636 5 280 80 90 5 9 45 Ca 8 AP8 2006 3/13 0.44 10×10 1360 1360 95 712 5 300 70 100 10 9 56.1 Ba 9 AP5 2006 3/12 0.52 10×10 1430 1430 95 878 5 250 70 80 10 9 52.8 Dc 10 AP4 2006 3/12 0.59 10×10 1220 1220 80 788 40 250 60 100 10 7 38.9 Ba 11 AP20 2006 3/17 0.07 10×10 1055 1055 50 768 5 250 80 100 20 8 40.5 Ba 12 AP19 2006 3/17 0.09 10×10 1099 1099 50 750 5 280 60 100 30 7 44 Ba 13 AP18 2006 3/17 0.09 10×10 1048 1048 60 718 5 250 80 80 5 7 43.9 Ba 14 AP17 2006 3/17 0.19 10×10 1094 1094 70 700 5 220 60 80 20 7 41.6 Ba 15 AP16 2006 3/17 0.19 10×10 1097 1097 60 710 5 270 50 100 30 8 43.9 Ba 16 AP15 2006 3/17 0.18 10×10 1153 1153 60 770 10 280 80 80 20 9 46.8 Ba 17 AP11 2006 3/16 0.17 10×10 1032 1032 70 770 30 250 70 100 20 8 44.2 Ba 18 AP13 2006 3/16 0.34 10×10 1167 1167 70 742 5 300 50 100 30 10 43.8 Ba 19 AP14 2006 3/16 0.37 10×10 1078 1078 95 712 3 320 50 100 20 7 44.8 Ba 20 AP12 2006 3/16 0.32 10×10 1014 1014 80 708 30 220 40 80 20 9 27.6 Ba 21 AP21 2006 3/18 0.62 10×10 788 788 90 320 10 80 5 10 18.6 Ba 22 AP27 2006 3/18 1.38 10×10 610 610 50 280 70 100 5 12 10.6 Ba 23 AP23 2006 3/18 0.84 10×10 758 758 98 250 20 100 30 9 19.1 Ba 24 AP25 2006 3/18 1.08 10×10 689 689 80 250 50 100 5 9 17.1 Ba 25 AP22 2006 3/18 0.71 10×10 662 662 95 230 30 80 10 7 15.7 Ba 26 AP24 2006 3/18 0.99 10×10 609 609 70 350 80 80 5 6 19.1 Ba Barringtonia acutangula Korth. Diospyros cambodiana Lecomte Combretum trifoliatum Vent. Coccoceras anisopodum Gagnep. Acacia thailandica I.C.Nielsen Vitex holoadenon Dop Merremia hederacea Hallier f. Xanthophyllum glaucum Wall. T1 T1 T1 T1 T1 T1 T1 T1 5・5 2・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5・5 2・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5・5 2・2 1・1 1・1 ・ ・ ・ ・ 3・3 4・4 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5・5 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4・5 2・2 ・ 2・2 ・ ・ ・ ・ 4・5 2・3 1・1 3・3 ・ ・ ・ ・ 4・4 3・3 ・ 2・2 ・ ・ ・ ・ 3・3 3・3 1・1 ・ ・ ・ ・ 4・4 4・5 3・3 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ 3・4 2・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3・4 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4・5 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4・5 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4・5 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4・5 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4・5 ・ ・ ・ ・ ・ + ・ 4・5 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5・5 ・ ・ ・ 2・3 1・1 ・ ・ 5・5 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ Barringtonia acutangula Korth. Vitex holoadenon Dop Phyllanthus reticulatus Poir. Combretum trifoliatum Vent. Gmelina asiatica L. Dalbergia entadoides Pierre ex Gagnepain Acacia thailandica I.C.Nielsen Diospyros cambodiana Lecomte Crateva roxburghii R.Br. Merremia hederacea Hallier f. Ficus heterophylla L.f. Derris laotica Gagnep. Hiptage triacantha Pierre Croton krabas Gagnep. Brownlowia paludosa (Kosterm.) Kosterm. Uvaria pierrei Finet & Gagnep. Hymenocardia wallichii Tul. Morinda persicaefolia Buch.-Ham. Xanthophyllum glaucum Wall. T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 1・1 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・2 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ + 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ + ・ ・ ・ + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 2・3 ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3・4 ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 1・1 ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・2 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5・5 2・3 ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3・4 1・1 1・2 + ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5・5 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4・5 ・ 1・1 2・3 ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5・5 ・ + 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ + ・ 4・5 ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ Morinda persicaefolia Buch.-Ham. Barringtonia acutangula Korth. Vitex holoadenon Dop Phyllanthus reticulatus Poir. Croton krabas Gagnep. Combretum trifoliatum Vent. Merremia hederacea Hallier f. Derris laotica Gagnep. Gmelina asiatica L. Crateva roxburghii R.Br. Mimosa pigra L. Ficus heterophylla L.f. Hiptage triacantha Pierre Acacia thailandica I.C.Nielsen Dalbergia entadoides Pierre ex Gagnepain Grewia sinuata Wall. Hymenocardia wallichii Tul. Sorghum halepense Pers. Uvaria pierrei Finet & Gagnep. Brownlowia paludosa (Kosterm.) Kosterm. Phyllanthus sp. Passiflora foetida L. Diospyros cambodiana Lecomte Xanthophyllum glaucum Wall. Garcinia sp.1 Garcinia sp.2 Elaeocarpus sp. Aniseia martinicensis Choisy Terminalia cambodiana Gagnep. Bridelia cambodiana Gagnep. Sesbania roxburghii Merr. Cardiospermum halicacabum Ipomoea aquatica Forssk. S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S 3・4 + 2・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4・5 ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ 1・1 ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4・5 ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5・5 + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5・5 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4・5 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5・5 ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4・5 ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4・5 ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3・4 ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 3・4 ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ 3・4 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 3・4 ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 4・5 ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ 1・2 ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ 3・4 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + 1・1 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ 1・2 ・ ・ ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ 5・5 ・ ・ ・ + ・ ・ + ・ 1・2 ・ ・ ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 + 3・4 ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ 1・2 + ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 + 3・4 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 ・ 3・4 ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ 3・4 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 + ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4・5 +・2 2・3 + +・2 1・1 ・ 1・2 ・ ・ ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3・4 1・2 ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3・4 + ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5・5 1・2 ・ ・ ・ ・ + ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ Morinda persicaefolia Buch.-Ham. Barringtonia acutangula Korth. Merremia hederacea Hallier f. Phyllanthus reticulatus Poir. Combretum trifoliatum Vent. Derris laotica Gagnep. Pseudoraphis brunoniana (Wall. & Griff.) Pilg. Vitex holoadenon Dop Mimosa pigra L. Hiptage triacantha Pierre Aegilops cylindrica C.A.Mey. Gmelina asiatica L. Croton krabas Gagnep. Sorghum halepense Pers. Ficus heterophylla L.f. Eichhornia crassipes Solms Acacia thailandica I.C.Nielsen Fimbristylis sp. Ludwigia hyssopifolia (G.Don) Exell Melochia corchorifolia L. Ipomoea aquatica Forssk. Cardiospermum halicacabum L. Pistia stratiotes L. Hymenocardia wallichii Tul. Lindernia crustacea (L.) F.Muell. Dalbergia entadoides Pierre ex Gagnepain Brownlowia paludosa (Kosterm.) Kosterm. Nymphoides indica Kuntze Grewia sinuata Wall. Brachiaria reptans (L.) C.A.Gardner & C.E.Hubb. Paspalum scrobiculatum L. Passiflora foetida L. Cyperus pilosus Vahl Setaria geniculata Sieber ex Kunth Crateva roxburghii R.Br. Mollugo oppositifolia L. Phyllanthus sp. Parameria laevigata (A.L.Juss.) Moldenke Ludwigia adscendens (L.) H.Hara Commelina sp. Uvaria pierrei Finet & Gagnep. Panicum repens L. Hedyotis diffusa Spreng. Cyperus digitatus Roxb. Xanthophyllum glaucum Wall. Bridelia cambodiana Gagnep. Garcinia sp.1 Salvinia cucullata Roxb.; Wall. Oryza sativa L. Marsilea crenata A.Braun Grangea maderaspatana Poir. Alternanthera sessilis (L.) DC. Bridelia cambodiana Gagnep. Euphorbiaceae sp. Aeschynomene indica L. Sesbania roxburghii Merr. Asteraceae sp. Aniseia martinicensis Choisy Garcinia sp.2 Polygonum tomentosum Wall. Nymphaea nouchali Burm.f. Sphenoclea zeylanica Gaertn. H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ + ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ + +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + + ・ ・ ・ 1・2 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ + 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ +・2 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + + +・2 ・ ・ ・ ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ + 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + + ・ ・ ・ ・ + 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ +・2 ・ ・ ・ ・ 2・3 ・ + ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 +・2 +・2 ・ + ・ + 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ +・2 ・ ・ ・ ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ +・2 ・ + ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ + +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 + ・ + + ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 + ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 + + + ・ +・2 ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3・4 ・ + ・ + + ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ + +・2 ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 + + + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ + ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ - 87 - Appendix table 2. Continue. Vegetation types Running number Survey number Year of investigations Day of investigations Distance from CLWL Area Height of vegetation Height of tree layer Coverage Height of short-tree layer Coverage Height of shrub layer Coverage Height of herb layer Coverage Number of species Max diameter Spesies name Tall-shrub M/D (km) (㎡) (cm) (cm) (%) (cm) (%) (cm) (%) (cm) (%) (cm) 27 A4 2005 7/27 2.96 10×10 656 656 30 340 20 120 20 13 - 28 A37 2005 8/6 3.44 10×10 563 563 5 230 20 100 90 12 - 29 A38 2005 8/6 3.49 10×10 605 605 20 450 70 120 30 29 - 30 AP26 2006 3/18 1.23 10×10 667 667 90 220 5 70 10 14 18.5 Ba 31 A40 2005 8/6 3.32 10×10 680 680 40 460 80 100 5 14 - 32 A34 2005 8/4 3.89 10×10 788 788 90 420 20 120 40 18 - 33 A29 2005 8/3 4.28 5×20 681 681 80 460 50 130 30 20 - 34 A26 2005 8/1 2.86 10×10 789 789 70 480 70 120 30 12 - 35 A23 2005 8/1 2.90 10×10 781 781 90 445 30 120 5 14 - 36 A39 2005 8/6 3.46 10×10 590 590 10 480 95 100 10 13 - 37 A36 2005 8/4 3.72 10×10 450 450 80 120 50 24 - 38 A33 2005 8/4 3.96 10×10 770 770 30 480 90 110 5 16 - 39 A27 2005 8/3 4.35 10×10 538 538 70 450 40 120 20 16 - 40 A22 2005 7/31 3.67 10×10 616 616 20 420 80 110 10 18 - 41 A19 2005 7/31 3.57 10×10 664 664 40 430 30 130 20 21 - 42 A18 2005 7/31 3.54 10×10 615 615 30 436 60 110 20 19 - 43 A17 2005 7/30 3.72 5×20 665 665 40 500 70 100 30 19 - 44 A16 2005 7/30 3.83 10×10 596 596 20 450 60 120 40 18 - 45 A5 2005 7/28 4.75 10×10 580 580 30 450 60 130 50 17 - 46 A25 2005 8/1 2.80 10×10 686 686 30 450 95 100 5 16 - 47 A21 2005 7/31 3.64 10×10 571 571 30 360 80 100 50 10 - 48 A14 2005 7/30 3.89 10×10 475 475 95 100 5 10 - 49 A7 2005 7/28 4.70 10×10 530 530 10 300 90 100 5 15 - 50 A6 2005 7/28 4.76 10×10 335 335 100 110 5 6 - 51 A1 2005 7/27 3.06 10×10 610 610 60 450 40 150 40 13 - 52 A32 2005 8/3 4.06 10×10 645 645 10 410 90 100 20 17 - Barringtonia acutangula Korth. Diospyros cambodiana Lecomte Combretum trifoliatum Vent. Coccoceras anisopodum Gagnep. Acacia thailandica I.C.Nielsen Vitex holoadenon Dop Merremia hederacea Hallier f. Xanthophyllum glaucum Wall. T1 T1 T1 T1 T1 T1 T1 T1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ Barringtonia acutangula Korth. Vitex holoadenon Dop Phyllanthus reticulatus Poir. Combretum trifoliatum Vent. Gmelina asiatica L. Dalbergia entadoides Pierre ex Gagnepain Acacia thailandica I.C.Nielsen Diospyros cambodiana Lecomte Crateva roxburghii R.Br. Merremia hederacea Hallier f. Ficus heterophylla L.f. Derris laotica Gagnep. Hiptage triacantha Pierre Croton krabas Gagnep. Brownlowia paludosa (Kosterm.) Kosterm. Uvaria pierrei Finet & Gagnep. Hymenocardia wallichii Tul. Morinda persicaefolia Buch.-Ham. Xanthophyllum glaucum Wall. T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ 3・4 + ・ ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ 1・1 ・ 2・3 ・ ・ ・ 3・3 1・1 + 2・3 + ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ + ・ ・ 5・5 ・ 3・4 1・1 + 2・2 ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 2・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4・5 ・ 1・1 1・2 2・2 ・ + ・ ・ ・ ・ + 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4・4 1・1 1・1 2・3 ・ ・ 2・2 ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ 5・5 ・ 1・1 1・1 2・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 1・2 ・ ・ 1・2 + 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3・3 ・ ・ 1・1 ・ 2・3 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4・5 ・ ・ ・ ・ 2・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・2 1・1 ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3・3 1・1 ・ ・ ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 ・ ・ ・ 1・1 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3・3 ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 ・ + ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3・3 ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ + ・ ・ ・ ・ ・ 3・3 ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・2 ・ + ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4・4 ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・2 ・ ・ ・ ・ 1・1 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ Morinda persicaefolia Buch.-Ham. Barringtonia acutangula Korth. Vitex holoadenon Dop Phyllanthus reticulatus Poir. Croton krabas Gagnep. Combretum trifoliatum Vent. Merremia hederacea Hallier f. Derris laotica Gagnep. Gmelina asiatica L. Crateva roxburghii R.Br. Mimosa pigra L. Ficus heterophylla L.f. Hiptage triacantha Pierre Acacia thailandica I.C.Nielsen Dalbergia entadoides Pierre ex Gagnepain Grewia sinuata Wall. Hymenocardia wallichii Tul. Sorghum halepense Pers. Uvaria pierrei Finet & Gagnep. Brownlowia paludosa (Kosterm.) Kosterm. Phyllanthus sp. Passiflora foetida L. Diospyros cambodiana Lecomte Xanthophyllum glaucum Wall. Garcinia sp.1 Garcinia sp.2 Elaeocarpus sp. Aniseia martinicensis Choisy Terminalia cambodiana Gagnep. Bridelia cambodiana Gagnep. Sesbania roxburghii Merr. Cardiospermum halicacabum Ipomoea aquatica Forssk. S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S ・ 1・2 1・1 ・ ・ ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 ・ + ・ + ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 1・1 1・1 ・ + 3・3 +・2 1・2 ・ +・2 ・ +・2 ・ + ・ + + 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + + + + ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ +・2 ・ +・2 + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 3・3 1・2 + + 3・4 ・ +・2 1・1 ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 1・2 2・3 + + + ・ +・2 + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ + + ・ ・ + ・ ・ ・ ・ 1・2 2・3 ・ 1・1 1・2 +・2 + +・2 2・3 ・ + ・ +・2 1・2 +・2 ・ ・ ・ 1・1 ・ + +・2 ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 1・2 3・3 + 1・2 2・2 ・ +・2 ・ ・ + ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 2・3 ・ ・ + 1・2 + ・ ・ + + ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 3・4 2・2 1・1 ・ 2・3 ・ 1・2 1・2 ・ + ・ ・ 1・1 + ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 4・5 1・1 1・1 + 1・2 +・2 +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 2・3 5・5 1・1 +・2 1・2 + 1・2 + ・ ・ ・ + + + ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 2・3 2・2 ・ ・ 1・2 + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ +・2 1・1 1・2 3・3 1・2 + ・ 1・2 3・4 ・ + ・ + ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ + 2・3 2・2 ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ + 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 1・2 2・3 ・ ・ + +・2 1・2 2・3 ・ 3・3 ・ + + ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 2・3 2・2 1・1 1・1 1・2 ・ 1・2 2・2 + +・2 ・ + + ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 3・3 ・ ・ 1・1 +・2 1・2 ・ 1・1 ・ 1・2 ・ + ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 1・2 ・ + 2・3 ・ +・2 1・2 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 ・ + ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 1・2 + 4・5 3・4 + + 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 1・2 1・1 4・5 ・ 1・2 + + ・ ・ 1・2 ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 2・3 + 5・5 + 1・2 ・ + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 1・2 ・ 5・5 + ・ + ・ + ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 1・2 ・ 5・5 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・2 ・ 2・3 1・2 1・2 ・ +・2 ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 4・5 1・2 ・ ・ 1・2 2・3 ・ 2・2 ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ Morinda persicaefolia Buch.-Ham. Barringtonia acutangula Korth. Merremia hederacea Hallier f. Phyllanthus reticulatus Poir. Combretum trifoliatum Vent. Derris laotica Gagnep. Pseudoraphis brunoniana (Wall. & Griff.) Pilg. Vitex holoadenon Dop Mimosa pigra L. Hiptage triacantha Pierre Aegilops cylindrica C.A.Mey. Gmelina asiatica L. Croton krabas Gagnep. Sorghum halepense Pers. Ficus heterophylla L.f. Eichhornia crassipes Solms Acacia thailandica I.C.Nielsen Fimbristylis sp. Ludwigia hyssopifolia (G.Don) Exell Melochia corchorifolia L. Ipomoea aquatica Forssk. Cardiospermum halicacabum L. Pistia stratiotes L. Hymenocardia wallichii Tul. Lindernia crustacea (L.) F.Muell. Dalbergia entadoides Pierre ex Gagnepain Brownlowia paludosa (Kosterm.) Kosterm. Nymphoides indica Kuntze Grewia sinuata Wall. Brachiaria reptans (L.) C.A.Gardner & C.E.Hubb. Paspalum scrobiculatum L. Passiflora foetida L. Cyperus pilosus Vahl Setaria geniculata Sieber ex Kunth Crateva roxburghii R.Br. Mollugo oppositifolia L. Phyllanthus sp. Parameria laevigata (A.L.Juss.) Moldenke Ludwigia adscendens (L.) H.Hara Commelina sp. Uvaria pierrei Finet & Gagnep. Panicum repens L. Hedyotis diffusa Spreng. Cyperus digitatus Roxb. Xanthophyllum glaucum Wall. Bridelia cambodiana Gagnep. Garcinia sp.1 Salvinia cucullata Roxb.; Wall. Oryza sativa L. Marsilea crenata A.Braun Grangea maderaspatana Poir. Alternanthera sessilis (L.) DC. Bridelia cambodiana Gagnep. Euphorbiaceae sp. Aeschynomene indica L. Sesbania roxburghii Merr. Asteraceae sp. Aniseia martinicensis Choisy Garcinia sp.2 Polygonum tomentosum Wall. Nymphaea nouchali Burm.f. Sphenoclea zeylanica Gaertn. H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H 1・2 1・2 2・3 + + +・2 ・ + ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ + ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 + 5・5 ・ ・ +・2 ・ ・ ・ + ・ 1・2 ・ + ・ ・ ・ ・ ・ + +・2 ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 + 1・2 + + +・2 ・ + + +・2 +・2 +・2 ・ +・2 ・ ・ ・ + + ・ + + ・ + ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ + + 1・1 +・2 ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ + + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 +・2 +・2 ・ + 1・2 ・ ・ ・ + ・ 1・2 +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 + + + + +・2 ・ 1・1 + + ・ ・ + ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 +・2 + ・ + 1・2 ・ 1・2 ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 +・2 + ・ + 1・2 +・2 ・ + 1・2 + + + ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ + + ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 + ・ +・2 1・1 +・2 ・ 1・2 ・ +・2 ・ + 1・1 ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 +・2 +・2 + + + ・ ・ + +・2 +・2 + + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + 2・3 + + ・ +・2 1・2 ・ ・ + + ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 1・2 1・2 + +・2 +・2 + 1・2 + + + + + + ・ ・ ・ ・ +・2 ・ + ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ + ・ 1・2 ・ ・ + ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + + ・ +・2 +・2 + +・2 1・2 +・2 + 1・2 ・ + + + + ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ 2・3 +・2 +・2 + 1・2 ・ 1・1 1・2 ・ +・2 1・2 + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + + + ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ 1・2 ・ +・2 ・ + ・ + + 1・1 ・ +・2 ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ 1・1 ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 + + + + 1・2 + +・2 ・ +・2 ・ + ・ + ・ ・ +・2 ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ + ・ ・ ・ + ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ +・2 + +・2 + ・ 1・2 + 1・1 1・2 + +・2 + ・ +・2 ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ + ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 1・2 + + + 1・2 2・3 1・1 +・2 +・2 1・2 1・2 +・2 ・ ・ ・ + + ・ ・ ・ ・ ・ + ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 1・1 1・2 +・2 1・1 2・3 1・1 ・ + +・2 1・2 ・ + + ・ ・ + ・ ・ ・ + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 1・2 ・ +・2 ・ 3・3 ・ ・ + + + ・ 1・2 ・ ・ ・ + ・ ・ + ・ ・ ・ +・2 ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ + 1・2 ・ +・2 + + +・2 + +・2 ・ +・2 + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 1・2 ・ 1・2 + + 3・4 + +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 + ・ +・2 + 1・2 ・ ・ + ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 + +・2 1・2 ・ + 1・2 ・ + ・ + + ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 +・2 ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ + +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 +・2 ・ 1・2 1・2 1・2 2・3 ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 + ・ 2・3 ・ +・2 + + + +・2 ・ +・2 +・2 ・ ・ ・ +・2 ・ ・ + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ - 88 - Appendix table 2. Continue. Vegetation types Running number Survey number Year of investigations Day of investigations Distance from CLWL Area Height of vegetation Height of tree layer Coverage Height of short-tree layer Coverage Height of shrub layer Coverage Height of herb layer Coverage Number of species Max diameter Spesies name Shrub M/D (km) (㎡) (cm) (cm) (%) (cm) (%) (cm) (%) (cm) (%) (cm) Fallow field Cultivated field 53 A20 2005 7/31 3.54 10×10 410 410 95 100 5 14 - 54 A24 2005 8/1 2.85 10×10 430 430 80 110 40 14 - 55 A31 2005 8/3 4.26 10×10 300 300 50 110 80 13 - 56 A3 2005 7/27 3.04 10×10 330 330 70 130 95 13 - 57 A8 2005 7/28 4.59 10×10 120 120 50 15 - 58 A9 2005 7/28 4.60 10×10 100 100 80 8 - 59 A10 2005 7/28 4.65 10×10 110 110 40 12 - 60 A28 2005 8/3 4.35 10×10 90 90 98 17 - 61 A30 2005 8/3 4.25 10×10 140 140 98 13 - 62 A15 2005 7/30 3.89 10×10 50 50 1 17 - 63 A35 2005 8/4 3.80 10×10 30 30 5 16 - 64 A12 2005 7/28 4.63 10×10 15 15 1 8 - 65 A11 2005 7/28 4.60 10×10 20 20 1 8 - 66 A13 2005 7/28 4.63 10×10 40 40 1 9 - 67 A2 2005 7/27 3.06 10×10 165 165 0.5 130 1 9 - 出現 回数 Barringtonia acutangula Korth. Diospyros cambodiana Lecomte Combretum trifoliatum Vent. Coccoceras anisopodum Gagnep. Acacia thailandica I.C.Nielsen Vitex holoadenon Dop Merremia hederacea Hallier f. Xanthophyllum glaucum Wall. T1 T1 T1 T1 T1 T1 T1 T1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 20 11 4 4 1 1 1 1 Barringtonia acutangula Korth. Vitex holoadenon Dop Phyllanthus reticulatus Poir. Combretum trifoliatum Vent. Gmelina asiatica L. Dalbergia entadoides Pierre ex Gagnepain Acacia thailandica I.C.Nielsen Diospyros cambodiana Lecomte Crateva roxburghii R.Br. Merremia hederacea Hallier f. Ficus heterophylla L.f. Derris laotica Gagnep. Hiptage triacantha Pierre Croton krabas Gagnep. Brownlowia paludosa (Kosterm.) Kosterm. Uvaria pierrei Finet & Gagnep. Hymenocardia wallichii Tul. Morinda persicaefolia Buch.-Ham. Xanthophyllum glaucum Wall. T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 T2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 44 16 14 13 10 8 8 8 8 5 5 4 3 3 2 2 1 1 1 Morinda persicaefolia Buch.-Ham. Barringtonia acutangula Korth. Vitex holoadenon Dop Phyllanthus reticulatus Poir. Croton krabas Gagnep. Combretum trifoliatum Vent. Merremia hederacea Hallier f. Derris laotica Gagnep. Gmelina asiatica L. Crateva roxburghii R.Br. Mimosa pigra L. Ficus heterophylla L.f. Hiptage triacantha Pierre Acacia thailandica I.C.Nielsen Dalbergia entadoides Pierre ex Gagnepain Grewia sinuata Wall. Hymenocardia wallichii Tul. Sorghum halepense Pers. Uvaria pierrei Finet & Gagnep. Brownlowia paludosa (Kosterm.) Kosterm. Phyllanthus sp. Passiflora foetida L. Diospyros cambodiana Lecomte Xanthophyllum glaucum Wall. Garcinia sp.1 Garcinia sp.2 Elaeocarpus sp. Aniseia martinicensis Choisy Terminalia cambodiana Gagnep. Bridelia cambodiana Gagnep. Sesbania roxburghii Merr. Cardiospermum halicacabum Ipomoea aquatica Forssk. S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S S + 3・3 1・2 1・2 + 3・3 + ・ ・ ・ 2・3 ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5・5 + + + ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ + ・ ・ ・ ・ 1・1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 3・3 ・ 2・3 + ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ 3・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2・3 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 45 39 37 24 21 21 21 20 19 19 18 16 11 11 8 8 7 6 5 5 3 3 3 2 2 2 1 1 1 1 1 1 1 Morinda persicaefolia Buch.-Ham. Barringtonia acutangula Korth. Merremia hederacea Hallier f. Phyllanthus reticulatus Poir. Combretum trifoliatum Vent. Derris laotica Gagnep. Pseudoraphis brunoniana (Wall. & Griff.) Pilg. Vitex holoadenon Dop Mimosa pigra L. Hiptage triacantha Pierre Aegilops cylindrica C.A.Mey. Gmelina asiatica L. Croton krabas Gagnep. Sorghum halepense Pers. Ficus heterophylla L.f. Eichhornia crassipes Solms Acacia thailandica I.C.Nielsen Fimbristylis sp. Ludwigia hyssopifolia (G.Don) Exell Melochia corchorifolia L. Ipomoea aquatica Forssk. Cardiospermum halicacabum L. Pistia stratiotes L. Hymenocardia wallichii Tul. Lindernia crustacea (L.) F.Muell. Dalbergia entadoides Pierre ex Gagnepain Brownlowia paludosa (Kosterm.) Kosterm. Nymphoides indica Kuntze Grewia sinuata Wall. Brachiaria reptans (L.) C.A.Gardner & C.E.Hubb. Paspalum scrobiculatum L. Passiflora foetida L. Cyperus pilosus Vahl Setaria geniculata Sieber ex Kunth Crateva roxburghii R.Br. Mollugo oppositifolia L. Phyllanthus sp. Parameria laevigata (A.L.Juss.) Moldenke Ludwigia adscendens (L.) H.Hara Commelina sp. Uvaria pierrei Finet & Gagnep. Panicum repens L. Hedyotis diffusa Spreng. Cyperus digitatus Roxb. Xanthophyllum glaucum Wall. Bridelia cambodiana Gagnep. Garcinia sp.1 Salvinia cucullata Roxb.; Wall. Oryza sativa L. Marsilea crenata A.Braun Grangea maderaspatana Poir. Alternanthera sessilis (L.) DC. Bridelia cambodiana Gagnep. Euphorbiaceae sp. Aeschynomene indica L. Sesbania roxburghii Merr. Asteraceae sp. Aniseia martinicensis Choisy Garcinia sp.2 Polygonum tomentosum Wall. Nymphaea nouchali Burm.f. Sphenoclea zeylanica Gaertn. H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H +・2 + +・2 + +・2 ・ 1・2 ・ 1・2 + + ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 +・2 + +・2 +・2 + 3・3 + +・2 +・2 + + ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 +・2 + ・ ・ 5・5 ・ + ・ +・2 ・ + ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ + + ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 +・2 + +・2 ・ 5・5 ・ 1・2 ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ + ・ ・ +・2 ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 2・3 +・2 3・3 +・2 ・ + ・ + + + 1・2 + ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + + 4・5 1・2 ・ ・ + ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 +・2 2・3 2・3 +・2 ・ + ・ + ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ +・2 + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 3・4 1・2 + + +・2 4・5 ・ ・ + +・2 + + ・ ・ ・ ・ 3・4 1・2 ・ ・ ・ ・ +・2 +・2 ・ ・ + ・ ・ ・ ・ 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1・2 3・4 + ・ + ・ 5・5 ・ + ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ + +・2 ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + +・2 1・2 + + + + ・ + ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ + +・2 + ・ ・ ・ ・ + ・ ・ + ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + +・2 1・2 ・ ・ + ・ ・ + ・ +・2 ・ ・ + ・ ・ ・ + 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ + ・ + +・2 ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + 1・2 +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ + +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + + + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + 1・2 + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + 1・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + 1・2 + ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ +・2 + ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ +・2 +・2 ・ ・ ・ + ・ + ・ +・2 ・ ・ + ・ ・ ・ +・2 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ + ・ ・ ・ ・ ・ ・ 59 47 44 33 33 31 30 29 26 26 25 21 18 14 14 14 12 11 11 10 10 10 10 9 8 8 8 7 7 6 5 5 5 5 5 4 4 4 4 4 4 4 3 3 3 3 3 3 2 2 2 2 2 2 2 1 1 1 1 1 1 1 - 89 - Disturbed woodland zone (a) (b) (c) Extensive cropland zone (d) (e) (f) (g) Appendix photo 1. Landscape of vegetation types. (a) Closed forest, (b) Open forest, (c) Scrub, (d) Tall-shrub, (e) Shrub, (f) Fallow field, (g) Cultivated field. - 90 - 第4章 氾濫原で優占となる Barringtonia acutangula の生態特性 4.1 は じ め に 前 章 で は ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 の 植 生 を 明 ら か に し た 。そ れ に よ り ,低 水 位期のトンレサップ氾濫原を対象とした植物社会学的手法による植生調査 および多変量解析の結果から,種組成と人為圧の程度により氾濫原植生は Disturbed woodland と Extensive cropland と い う 2 つ の ゾ ー ン に ま と め る こ と が で き た 。2 つ の ゾ ー ン の 成 立 に は 季 節 的 な 水 位 変 動 と そ れ に と も な う 様 々 な人間活動による攪乱の程度が強くかかわっていることが明らかになった。 さ ら に TWINSPAN を 用 い て 種 組 成 と 相 観 に 着 目 し た 解 析 を 行 っ た 結 果 , Closed forest と Open forest,Scrub,Tall-shrub,Shrub,Fallow field,Cultivated field の 7 タ イ プ が 認 め ら れ た 。 こ の う ち 最 初 の 3 タ イ プ ( Closed forest と Open forest,Scrub)は Disturbed woodland ゾ ー ン を 構 成 し て お り ,残 る 4 タ イ プ( Tall-shrub と Shrub,Fallow field,Cultivated field)は Extensive cropland ゾ ー ン を 構 成 し て い た 。フ ィ ー ル ド 調 査 と 航 空 写 真 の 判 読 に よ れ ば ,こ れ ら 7 つ の 植 生 タ イ プ は ,ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 の 内 陸 側 か ら 湖 岸 に か け て モ ザ イ ク 状 を 呈 し な が ら も , 連 続 的 に 配 列 し て い た ( Fig. 3-4)。 そ し て , ど の 植 生 タ イ プ に も Barringtonia acutangula が 出 現 し , 多 く の 調 査 区 で 優 占 す る こ と を 示 し , 氾 濫 原 の 潜 在 自 然 植 生 に お い て も Barringtonia acutangula が 優 占 種となることを推察した。 季 節 的 に 生 じ る 著 し い 水 位 変 動 と 強 い 人 為 圧 が 加 わ る 環 境 下 に お い て ,ど の 植 生 タ イ プ で も Barringtonia acutangula が 優 勢 と な っ て い た こ と は , 氾 濫 原 の 植 生 遷 移 や 再 生 ,生 態 的 管 理 の 道 筋 を 描 き 出 す 上 で も 興 味 深 い 。ま た 生 態 学 的 に み て も , Barringtonia acutangula の よ う に 先 駆 種 的 な 性 質 を 有 し な が ら 極 相 種 に も な り え る 種( 極 相 陽 樹 )に 関 す る 研 究 は ,マ ン グ ロ ー ブ 域 の 樹 種 以 外 に 事 例 が 限 ら れ て お り ,そ の 更 新 特 性 を 解 明 す る 意 義 は 大 き い 。本 章 で は ,氾 濫 原 で 優 占 す る Barringtonia acutangula の 生 態 特 性 を 明 ら か に し , トンレサップ湖氾濫原生態系に適応する要因を検討する。 4.2 Barringtonia acutangula の 特 徴 Barringtonia 属 は , 東 ア フ リ カ や 南 ア ジ ア , マ レ ー シ ア , オ ー ス ト ラ リ ア お よ び 太 平 洋 諸 島 の 熱 帯 か ら 亜 熱 帯 地 域 に 39 種 が 分 布 す る こ と が 知 ら れ て い る 。そ し て ,河 川 や 湖 の 近 く な ど の 淡 水 湿 地 や 数 週 間 も 冠 水 す る よ う な 降 雨 量 の 多 い 立 地 に 生 育 し て い る( Payens, 1967)。こ の 属 は ま た ,夜 に な る と - 91 - 花 が 咲 き 始 め ,翌 朝 に は 花 を 落 と す 点 に お い て も 特 徴 的 で あ る 。夜 間 の 開 花 時 に は ,飛 行 す る 夜 行 性 の 動 物 や 昆 虫 が ポ リ ネ ー タ ー と な っ て い る( Payens, 1967)。 Barringtonia acutangula の 近 似 種 に , 日 本 の 西 表 島 な ど に み ら れ る サ ガ リ バ ナ( Barringtonia racemosa)が あ る 。両 種 を 比 較 し て み る と , 「 花 や 実 」の 「 形 や サ イ ズ 」は 若 干 異 な る も の の ,分 布 域 が ア ジ ア や 太 平 洋 諸 島 付 近 で あ る こ と ( Fig. 4-1) で 類 似 す る ほ か , 高 水 位 期 に 結 実 し た 大 形 の 種 子 が 水 流 に 乗 っ て 広 範 囲 に 散 布 さ れ る と い っ た 共 通 点 を 持 ち ,花 粉 の 形 状 も 類 似 し て い る( Payens, 1967)。ま た 両 種 は ,マ ン グ ロ ー ブ 域 の よ う な 沿 岸 低 地 エ コ ト ー ン に お い て 純 林 に 近 い 群 落 を 形 成 す る が ,Barringtonia racemosa は 汽 水 域 に , Barringtonia acutangula は 淡 水 域 に 生 育 す る こ と で 互 い の ニ ッ チ を 分 け 合 っ て い る 。Barringtonia racemosa に つ い て も ,生 態 特 性 の 解 明 は 未 だ な さ れていない。 ト ン レ サ ッ プ 湖 の 氾 濫 原 に お け る Barringtonia acutangula の 水 位 変 動 に 対 す る 応 答 を み る と ,浸 水 林 の 湖 心 側 縁 部 に 残 存 す る 大 形 の 成 木( 樹 高 約 14m) で は , 低 水 位 期 に は 陸 化 し た 氾 濫 原 内 で 樹 体 全 体 を 露 呈 す る も の の ( Photo 4-1(a)),高 水 位 期 に な る と 林 冠 直 下 ま で 冠 水 す る よ う に な る( Photo 4-1(b))。 こ の 高 水 位 期 の 間 , Barringtonia acutangula の 稚 樹 や 若 木 は 樹 体 が 徐 々 に 水 没 し て ( Photo 4-1(c)), 葉 は 水 中 で 腐 っ た り , 貝 類 な ど に 食 べ ら れ た り し て Fig. 4-1. Distribution of Barringtonia acutangula Korth. (Lecythidaceae) (Payens, 1967). This species distributes in tropical regions from West India to the Pacific Islands, and frequently occurs in fresh-water swamps near rivers and lakes. - 92 - (a) (c) (b) (d) (e) Photo 4-1(a)-(e). Morphological characteristic of Barringtonia acutangula. (a) Mature tree in the low-water season (Feb. 2005), (b) Mature tree in the high-water season (Nov. 2004), (c) Young seedling in the high-water season (Jul. 2005), (d) Falling leave of young seedling in the high-water season (Jul. 2005), (e) Foliation of young seedling in the low-water season (Jan. 2005). - 93 - 脱 落 す る ( Photo 4-1(d))。 そ し て , 低 水 位 期 に な り , 樹 体 が 水 面 上 に 現 れ る と 一 斉 に 展 葉 を 開 始 す る ( Photo 4-1(e))。 ち な み に , 水 深 の 変 動 幅 は 最 大 で 10m 程 度 ( Tanaka, 2003), 上 昇 ・ 下 降 速 度 は お お む ね 4∼ 8cm/日 と さ れ て い る ( Oyagi et al., 2005)。 ま た , Barringtonia acutangula の 形 態 に つ い て み る と , 樹 皮 は 灰 褐 色 で 成 木 に な る と 縦 に 浅 い 裂 け 目 が で き る ( Photo 4-1(f))。 葉 は 枝 先 に 集 ま っ て 互 生 し , 長 さ 10∼ 30cm の 倒 卵 状 長 楕 円 形 で , 縁 に は 浅 い 鋸 歯 が あ る ( Photo 4-1(g))。Barringtonia acutangula は 周 年 開 花 す る が ,花 期 の ピ ー ク は 4∼ 5 月 の 低 水 位 期 に あ り , 4 月 中 旬 か ら 長 さ 30cm ほ ど の 総 状 花 序 を 垂 れ 下 げ , そ こ に 赤 い 両 性 花 を つ け る ( Photo 4-1(h))。 花 は 8 月 の 上 旬 ま で 咲 い て い る 。 果 実 は 7 月 中 旬 頃 か ら 容 易 に 目 視 で き る サ イ ズ と な り ,4 稜 の あ る 楕 円 形 の 果 実 を 結 実 さ せ る ( Photo 4-1(i))。 薄 い 撥 水 性 の 果 皮 ( 厚 さ お よ そ 2mm) に 包 ま れ た 種 子 の サ イ ズ は ,長 径 が 32.2±3.7mm( 平 均 ±標 準 偏 差 )で ,短 径 が 11.3±1.1mm( 平 均 ±標 準 偏 差 ) と な っ て い る ( n=362; 荒 木 , 未 発 表 )。 果 実 は 7 月下旬より成熟をはじめ,同時に落下を開始して,最高水位期となる 10 月 ま で に は 落 下 を 完 了 さ せ る( Fig. 4-2)。浮 遊 性( Photo 4-1(j))の 果 実 は 水 流 に 乗 っ て 散 布 さ れ ,浮 力 を 失 っ た 種 子 は 湖 底 で 休 眠 し ,水 が 引 い て 光 が 当 た る よ う に な る と す ぐ に 発 芽 を 開 始 す る( Payens, 1967)。実 生 は 地 下 子 葉 性 で ,発 芽 後 し ば ら く は 子 葉 内 の 貯 蔵 栄 養 物 質 を 利 用 し て 生 活 し て い る と 推 察 さ れ る ( Photo 4-1(k))。 こ の よ う に , Barringtonia acutangula に つ い て は , 生 育 範 囲 や 形 態 的 な 特 長 に つ い て 記 載 が な さ れ て い る も の の ,植 物 群 落 中 で の 振 る 舞 い や 種 子・萌 芽による更新特性といった生態的な特性については研究がなされていない。 一 方 で , Barringtonia acutangula は , カ ン ボ ジ ア の 地 域 住 民 に は “Reang” と 呼 ば れ ,さ ま ざ ま な 用 途 に 利 用 さ れ て い る 。例 え ば ,幹 は 燃 料 用 の 薪 と し て 利 用 さ れ る ほ か ,臼 に 加 工 さ れ て 籾 摺 り に 使 わ れ る 。樹 皮 に は 皮 膚 の 炎 症 を 鎮 静 化 さ せ た り ,解 熱 や 下 痢 止 め と し て の 効 果 が あ る ほ か ,魚 を 気 絶 さ せ る サ ポ ニ ン を 含 み ,こ の 毒 作 用 を 利 用 し た 漁 労 が 行 わ れ て い る 。小 枝 は 仕 掛 け を 作 る た め の 材 と し て 漁 に 使 わ れ る 。根 は キ ニ ー ネ の 代 用 と し て マ ラ リ ア な ど の 病 気 に 効 く 薬 と な る 。果 肉 は 叩 い て 火 で 焙 っ た も の が 粘 着 剤 を 補 強 す る た め に 使 わ れ ,水 に 溶 か し た 液 体 を 布 に 含 ま せ て 胸 部 に 塗 る と 痛 み や 寒 気 を 和 ら げ ,腹 部 に 塗 る と 疝 痛 や ガ ス で お 腹 が 張 っ た 症 状 を 緩 和 す る 効 果 を 有 す る 。種 子 は 肝 臓 の 不 具 合 や 子 ど も の 風 邪 と 吐 き 気 に 効 き ,パ ウ ダ ー 状 に し た も の に で ん ぷ ん と バ タ ー と 混 ぜ て 飲 む と 下 痢 止 め と な る 。若 葉 や 若 枝 は 辛 味 と 一 緒 に サ ラ ダ に し て 食 す る (McDonald et al., 1997; Dy phon, 2000; Kham, - 94 - (f) (g) 10cm (h) 10cm (i) 1cm 1cm Photo 4-1(f)-(i). (f) Bark (Dec. 2004), (g) Leaves (Dec. 2004), (h) Inflorescence (Aug. 2005), (i) Mature fruits (Aug. 2005). - 95 - (j) (k) Photo 4-1(j)-(k). (j) Floating seed (Aug. 2005), (k) Seedlings (Aug. 2005). Mar. Apr. May Jun. Jul. Aug. Sep. Oct. Flowering Fruiting Dispersal Fig. 4-2. Phenological diagram of flowering, fruiting and dispersal of Barringtonia acutangula. Observations were carried out intermittently in and around the study area during 2004-2006. 2004)。 し た が っ て , Barringtonia acutangula は , カ ン ボ ジ ア に お け る 住 民 生 活の文化や習慣に不可欠なキーストーン植物資源として取り入られてきた 歴 史 が あ る 。一 方 で ,こ の 種 に よ っ て 形 成 さ れ て い る 浸 水 林 は ,氾 濫 原 生 態 系 を 維 持 す る た め に ,湖 か ら の 波 や 風 を 緩 衝 す る な ど の 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る と の 認 識 を 住 民 が 抱 い て い る 。そ し て ,低 水 位 期 に 浸 水 林 内 に 生 物 の ハ ビ タ ッ ト を 提 供 す る と と も に ,高 水 位 期 に は 魚 介 類 の 産 卵 場 と し て の 機 能 を 果 た し て い る ( Bailleux, 2003; Hirabuki et al., 2005; Ohtaka et al., 2005)。 - 96 - 4.3 調 査 方 法 4.3.1 毎 木 調 査 Barringtonia acutangula が , ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 の 植 物 群 落 の な か で ど の よ う に 優 占 と な り ,ど の 成 長 段 階 か ら 開 花・結 実 を 開 始 し ,ま た 萌 芽 更 新 を ど の 程 度 行 う か を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し て , 胸 高 直 径 ( DBH: diameter at breast height, 以 後 , DBH と 略 記 ) 5cm 以 上 の 生 木 を 対 象 と し た 毎木調査を実施した。 調 査 は 第 3 章 で 分 類 さ れ た 7 つ の 植 生 タ イ プ の う ち ,次 の 5 つ の 植 生 タ イ プ に お い て 行 わ れ た;Closed forest,Open forest,Scrub,Tall-shrub,Shrub。 こ こ で ,Fallow field と Cultivated field に は DBH が 5cm 以 上 に な る 個 体 が 出 現 し な か っ た た め 毎 木 調 査 を 行 っ て い な い 。 ま た , Closed forest と Scrub の 2 つ の タ イ プ で は 開 花 ∼ 結 実 の 時 期 ( お よ そ 4∼ 6 月 ) に 調 査 で き な か っ た た め , 花 実 の 有 無 を 記 録 で き な か っ た 。 調 査 区 ( 10m × 10m) は , 植 生 調 査 Siem Reap CHWL 140 20 Siem Phnom Krom Rea p Ri ver Tonle Sap Mekong River と 同 じ 範 囲 内 の 57 箇 所 に 設 置 し( Fig. 4-3),枠 内 に 出 現 し た DBH 5cm 以 上 Chong Kneas Lake Tonle Sap 0 5km CLWL Fig. 4-3. Location of the study area (upper-left) and 57 quadrats for surveying stand structure (▲). CHWL = coastline at the highest water-level, CLWL = coastline at the lowest water-level. - 97 - の 樹 木 に つ い て ,個 体 ご と に 検 測 桿 に よ り 自 然 高( H)を 1cm括 約 で 計 測 し , 直 径 尺 に よ り DBHを 0.1cm括 約 で 計 測 す る と と も に ,そ の 樹 種 名 と 花 や 実 の 有 無 ,株 立 ち し た 生 幹( DBH 5cm以 上 )の 本 数 を 記 録 し た 。得 ら れ た デ ー タ を も と に , 材 積 ( Tree volume ) を 次 の 算 出 式 で 求 め た : Tree volume = π(DBH/2) 2 ・H。 死 亡 個 体 に つ い て は , サ イ ズ の 測 定 は 行 わ ず , 死 亡 要 因 ( 冠 水,伐採,火入れ)のみを記録した。 また,人為によって皆伐された後の植生回復の初期段階において, Barringtonia acutangulaが ど の よ う に 更 新 し て い る か を 明 ら か に す る た め に , 第 3 章 で 分 類 さ れ た Fallow fieldに お い て 毎 木 調 査 を 実 施 し た 。調 査 区( 5m × 5m) は 3 箇 所 に 設 置 し , 枠 内 に 生 存 し て い る 木 本 種 に つ い て , 個 体 ご と に 折 尺 を 用 い て 自 然 高 を 1cm括 約 で ,ノ ギ ス を 使 用 し て 根 元 直 径 を 0.1cm括 約 で測定した。さらに,主幹の根元から発生する株萌芽 1 および稚樹萌芽 2 が 認 め ら れ た 場 合 は ,生 幹・枯 死 幹 と も に す べ て の サ イ ズ を 対 象 と し て そ の 総 数 を 数 え た 。 Barringtonia acutangulaの 実 生 に つ い て は , 調 査 対 象 個 体 が 種 子由来か萌芽由来かを区別するために,全個体の根元を掘って確認した。 Fallow fieldは , 耕 作 地 が 2∼ 3 年 ほ ど 放 棄 さ れ た 立 地 に 成 立 す る 植 生 タ イ プ で あ る た め ,木 本 種 の 実 生 の 侵 入 が 顕 著 に 認 め ら れ ,植 生 回 復 の 初 期 段 階 と み な す こ と が で き る 。 Fallow fieldの 植 生 高 は 平 均 し て 1.1m と 低 い も の の , Pseudoraphis brunoniana や Merremia hederacea な ど の 草 本 の ほ か , Barringtonia acutangulaや Combretum trifoliatum,Phyllanthus reticulatusな ど 木 本 の 実 生 や 稚 樹 が 地 表 を 覆 う た め ,植 被 率 は お お む ね 73%ほ ど の 高 い 値 を 示 し て い る( 3.5.1 参 照 )。な お ,こ の 地 域 に お け る 開 墾 や 耕 作 は 人 力 と 水 牛 に よ り 行 わ れ る こ と か ら ,地 中 の 切 り 株 す べ て が 取 り 除 か れ る こ と は 稀 で ,直 径 10cmを 超 え る 切 り 株 が 地 中 に い く つ か 残 存 す る 状 況 が 一 般 的 に 認 め ら れ る 。そ の た め ,人 為 か ら 解 放 さ れ た Fallow fieldで は ,切 り 株 か ら 発 生 し た 萌 芽がいくつも確認できる。 4.3.2 実 生 調 査 Barringtonia acutangula の 実 生 に 着 目 し , 生 育 密 度 と 光 環 境 の 関 係 を 氾 濫 1 2 萌 芽 は 発 生 位 置 に よ っ て 分 類 さ れ る 場 合 が 多 く ,主 幹 の 根 元 か ら 発 生 す る も の は 株 萌 芽( stump sproutま た は stool sprout)と 呼 ば れ( Kramer and Kozlowski, 1960), 主 幹 の 上 部 か ら 発 生 す る も の は 不 定 枝 ま た は 幹 萌 芽 ( epicormin branch) と 呼 ば れ る ( Zimmermann and Brown, 1971)。 稚 樹 の 段 階 で の 食 害 や 地 上 部 枯 死 の 跡 に 発 生 す る 萌 芽 ( seedling sprour; Merz and Boyce, 1956 )。 - 98 - 原奥部の撹乱領域で検討した。なお本調査では,実生を「種子から発芽し, 自 然 高 が 30cm 未 満 の 幼 個 体 」 と 定 義 し , 萌 芽 由 来 の 個 体 ( 切 り 株 や 枝 片 か ら再生した幼個体)は除外した。 植生調査および毎木調査と同じ調査範囲内で,すべての植生タイプ ( Closed forest と Open forest,Scrub,Tall-shrub,Shrub,Fallow field,Cultivated field)に お い て ,実 生 数 と 光 環 境 の 関 係 を 調 べ た 。野 外 で は あ ら か じ め「 植 被 下 」( FILLED: light-filled patch, 以 後 , FILLED と 略 記 ; 地 上 高 30cm よ り 上 層 が 葉 層 に よ っ て 覆 わ れ て い る ミ ク ロ サ イ ト )と「 ギ ャ ッ プ 下 」 ( GAP: gap patch,以 後 ,GAP と 略 記 ; 地 上 高 30cm よ り 上 層 に 葉 層 が ま っ た く 存 在 し な い ミ ク ロ サ イ ト ) を 区 分 し , 1m × 1m の 小 区 画 を 合 計 118 箇 所 ( FILLED で 67 箇 所 , GAP で 51 箇 所 ) 設 置 し た 。 そ れ ぞ れ の 小 区 画 で は Barringtonia acutangula 実 生 の 個 体 数 を カ ウ ン ト し ,個 体 ご と に 折 り 尺 を 用 い て 1cm 括 約 で自然高を計測した。 ま た , デ ジ タ ル カ メ ラ (Coolpix 4500, Nikon) に 魚 眼 レ ン ズ (Fish Eye Converter FC-E8, Nikon)を 取 り 付 け ,各 小 区 画 内 の 地 上 高 50cm に お け る 光 環 境 を 推 定 す る た め に 全 天 空 写 真 を 撮 影 し た 。そ し て ,撮 影 し た 全 天 空 写 真 を コ ン ピ ュ ー タ に 取 り 込 み ,Winphot software version 5.0 (Ter Steege, 1996)を 用 い て 相 対 光 量 子 束 密 度 ( RPPFD : relative photosynthetic photon flux density, 以 後 , RPPFD と 略 記 ) を 算 出 し た 。 RPPFD は 小 区 画 ご と に 算 出 し た 。 4.3.3 焼 け 跡 地 に お け る 植 生 調 査 2005 年 6 月 上 旬 に ,人 為 的 な 野 焼 き に よ っ て 地 上 部 が 焼 失 し た Tall-shrub の 林 分 跡 地 に お い て , 氾 濫 原 植 生 の 回 復 過 程 と Barringtonia acutangula の 動 態 を 明 ら か に す る た め に , 野 焼 き 直 後 の 2005 年 6 月 上 旬 ( 低 水 位 期 ) と そ の 2 ヵ 月 後 の 2005 年 7 月 下 旬 ( 水 没 直 前 期 ), そ し て 1 年 後 の 2006 年 8 月 上 旬 に 同 一 地 点 で 植 生 調 査 を 実 施 し た 。 調 査 地 は CLWL か ら 3.4km の 距 離 に 位 置 し , 野 焼 き さ れ た 面 積 は お よ そ 120m × 60m で あ る 。 野 焼 き 直 後 の 調 査 地 は , Barringtonia acutangula の 亜 高 木 ( 樹 高 約 6m) が 半 ば 立 ち 枯 れ た 状 態 で 散 在 す る も の の ,低 木・草 本 層 の 個 体 は す べ て 地 上 部 が 焼 失 し た 状 態 にあった。 調 査 は , そ れ ぞ れ の 調 査 時 期 で 焼 け 跡 地 全 面 に わ た る よ う に 50 箇 所 の 調 査 区 ( 1m × 1m) を 無 作 為 に 設 置 し て 行 っ た 。 植 生 調 査 で は , 地 上 高 と 植 被 率 を 調 べ た 上 で , 個 々 の 出 現 種 に つ い て 優 占 度 と 群 度 を Braun-Blanquet ( 1964)の 基 準 に 準 じ て 評 価 し た( 3.3 を 参 照 )。ま た ,Barringtonia acutangula - 99 - に つ い て は ,個 体 数 と 発 生 の 由 来( 萌 芽 か ,実 生 か )を 確 認 し た 。さ ら に そ れ ぞ れ の 植 生 調 査 時 に ,各 調 査 区 の 光 環 境 を 測 定 す る た め に 地 上 50cm の 高 さ で 全 天 空 写 真 を 撮 影 し , RPPFD を 算 出 し た ( 4.3.2 を 参 照 )。 4.4 結 果 4.4.1 Barringtonia acutangula の 優 占 率 毎 木 調 査 の 結 果 , Barringtonia acutangula は , 平 均 個 体 密 度 と 平 均 DBH, 平 均 樹 高 ,平 均 ベ ー サ ル エ リ ア の 項 目 に お い て 他 種 よ り も 大 き い 値 を 示 す 傾 向 に あ っ た ( Table 4-1)。 Barringtonia acutangulaの 平 均 個 体 密 度 が も っ と も 高 い 値 を 示 し た の は , 小 径 木( 平 均 DBH=9.8cm)が 密 生 す る Scrubで あ り( 19.0 個 体 /100m 2 ),ほ ぼ 同 サ イ ズ の 小 径 木 ( 平 均 DBH=9.7cm) が 出 現 す る Tall-Shrubの 1.8 倍 の 密 Table 4-1. Comparison of density, DBH, height of vegetation and basal area (DBH > 5 cm) among five vegetation types. In case of a multiple-stemmed individual, the tallest stem is represented. See chapter 3.5.1 for details of five vegetation types. 2 a Vegetation type Closed forest Open forest Scrub Tall-shrub Shrub Vegetation type Closed forest Open forest Scrub Tall-shrub Shrub Number of Mean density of individuals (/100m ) quadrats B. acutangula Others 10 10 5 25 2 7.0 ± 2.0 8.1 ± 3.2 19.0 ± 5.1 10.6 ± 6.8 15.5 ± 10.6 3.9 ± 1.0 0.9 ± 1.4 1.2 ± 1.6 1.4 ± 1.8 0.0 ± 0.0 Mean height of individuals (m) c 2 b Mean DBH of stems (/100m ) B. acutangula Others 30.2 ± 8.7 28.0 ± 11.6 9.8 ± 3.6 9.7 ± 4.1 5.7 ± 0.6 26.1 ± 16.7 11.8 ± 48.8 6.7 ± 1.5 6.9 ± 1.6 0.0 ± 0.0 2 d Mean basal area (m /ha) B. acutangula Others B. acutangula Others 12.2 ± 1.7 8.8 ± 1.9 5.9 ± 1.1 5.2 ± 1.2 4.6 ± 0.5 11.3 ± 3.2 8.9 ± 3.0 6.6 ± 1.4 5.4 ± 1.1 0.0 ± 0.0 85.4 ± 3.4 75.4 ± 3.0 27.1 ± 0.4 15.0 ± 1.2 7.5 ± 0.7 40.5 ± 2.0 5.7 ± 1.3 0.5 ± 0.1 0.8 ± 0.1 0.0 ± 0.0 a average values for every quadrat. average of all stems for every vegetation type. c average of all individuals for every vegetation type. d calculated as average of the total value for every quadrat. b - 100 - 度 と な っ た 。逆 に 大 径 木 が み ら れ る Closed forestと Open forestで は 低 い 値( 7.0 ∼ 8.1 個 体 /100m 2 ) と な っ た 。 そ れ ぞ れ の 植 生 タ イ プ に お い て Barringtonia acutangulaが 占 め る 個 体 数 の 割 合 は 64% ( Closed forest) ∼ 100% ( Shrub) に達し,いずれにおいてももっとも優勢であった。 平 均 DBH を み る と , ど の 植 生 タ イ プ で も Barringtonia acutangula が 最 大 の 値 を 示 し , と く に Open forest に お い て 他 種 よ り も 顕 著 に 大 き か っ た ( 他 種 の 平 均 DBH= 11.8cm に 対 し て 28.0cm)。ま た ,Closed forest に お い て 最 大 値 を 示 し た ( 平 均 DBH= 30.2cm)。 平 均 樹 高 に つ い て は ,Open forest と Scrub,Tall-Shrub に お い て Barringtonia acutangula よ り も 他 種( 多 く の 場 合 ,ツ ル 性 木 本 植 物 )の 方 が わ ず か に 高 く な っ た 。平 均 樹 高 の 最 大 値 は Closed forest で 記 録 さ れ( 平 均 樹 高 = 12.2 m), Open forest が 続 き ( 平 均 樹 高 = 8.8m), 残 り の 3 植 生 タ イ プ は 5m 程 度 の 近 似した樹高を示した。 平 均 ベ ー サ ル エ リ ア で 比 較 す る と , こ こ で も や は り Closed forestに 生 育 す る Barringtonia acutangulaが 突 出 し て 大 き な 値 を 示 し ( 平 均 ベ ー サ ル エ リ ア =85.4m 2 /ha),次 い で Open forestが 大 き く( 75.4m 2 /ha),他 の 植 生 タ イ プ は 7.5 ∼ 27.1m 2 /haに と ど ま っ た 。 各 植 生 タ イ プ に お い て Barringtonia acutangulaと 他 種 の 平 均 ベ ー サ ル エ リ ア を 百 分 率 で 比 較 す る と , Barringtonia acutangula は 67.8∼ 100.0%を 占 め て 圧 倒 的 に 優 占 し ( Fig. 4-4), 優 占 度 合 い Relative basal area (%) 100 B. acutangula 80 Others 60 40 20 0 Closed forest (n=10) Open forest (n=10) Scrub (n=5) Tall-shrub Shrub (n=25) (n=2) Vegetation types Fig. 4-4. Comparison of the relative basal area of Barringtonia acutangula among five vegetation types. n: number of quadrats. - 101 - は 人 為 圧 が 強 く な る ほ ど 大 き く な る 傾 向 に あ っ た 。ま た ,他 種 の 混 交 が 顕 著 に み ら れ る Closed forest ( 他 種 の 平 均 ベ ー サ ル エ リ ア = 32.2% ) で は , Diospyros cambodiana が 優 勢 で ( 平 均 ベ ー サ ル エ リ ア = 24.9%), ほ か に も Coccoceras anisopodum( 4.7%)や Xanthophyllum glaucum( 1.4%),Combretum trifoliatum( 1.0%) な ど の 大 形 の 個 体 が 認 め ら れ た ( Fig. 4-5)。 100 Scrub n=5 80 60 40 Relative basal area (%) 20 0 100 Open forest n=10 80 60 40 20 0 100 Closed forest n=10 80 60 40 20 Combretum trifoliatum Xanthophyllum glaucum Coccoceras anisopodum Diospyros cambodiana Barringtonia acutangula 0 Fig. 4-5. Frequency relative basal area of principal five species in three vegetation types. n: number of quadrats - 102 - 4.4.2 Barringtonia acutangula の 種 子 更 新 Barringtonia acutangulaの 種 子 生 産 特 性 を み る と , 開 花 ・ 結 実 を 行 う 個 体 の 割 合 は ,Open forestに お い て 大 き な 値 を 示 し( 74.0%,Fig. 4-6), Tall-shrub ( 35.8%), Shrub( 3.2%) と 内 陸 側 の 植 生 タ イ プ に 向 か っ て 急 減 し て い た 。 い ず れ も DBHが 5.0cm( 調 査 対 象 と し た 下 限 の DBH),樹 高 が 4m,幹 材 積 が 0.08m 3 と い っ た 早 い 成 長 段 階 か ら , 花 や 果 実 の 生 産 が 開 始 さ れ て い た 。 Barringtonia acutangula の 実 生 の 定 着 状 況 に 関 し て は , ま ず , そ れ ら が Extensive croplandを 構 成 す る 4 つ の 植 生 タ イ プ の い ず れ に お い て も 確 認 さ れ ( 平 均 で 3.3∼ 4.2 個 体 /m 2 ; Table 4-2), し か も 実 生 密 度 に 有 意 差 が 認 め ら れ な か っ た こ と か ら ( P=1.722, Kruskal-Wallis 検 定 ), 開 花 ・ 結 実 個 体 の 分 布 密 度 ( Fig. 4-6) に よ ら ず , 果 実 あ る い は 種 子 が 氾 濫 原 奥 部 ま で 広 く 散 布 さ れている実態が示された。 Open forest 30 n = 127 Tall-shrub n = 265 150 20 Number of individual 200 100 10 50 0 0 0 1.0 2.0 Shrub 30 n = 31 20 □ flowering/fruiting observed ■ not observed 10 0 0 1.0 2.0 Tree volume (m3) Fig. 4-6. Size-class distribution of flowering/fruiting observed tree and not observed tree of Barringtonia acutangula in three vegetation types. n: total number of individuals sampled. Tree volume = π (DBH/2) 2 ・H. - 103 - Table 4-2. Mean number of seedling (/m2) of Barringtonia acutangula, minimum and maximum values in four vegetation types: Cultivated field (n = 5), Fallow field (n = 6), Shrub (n = 10), Tall-shrub (n = 42). Results were not significantly different compared among four vegetation types (Kruskal-Wallis test, P = 0.1722). Vegetation types Cultivated field Fallow field Shrub Tall-shrub Mean number of seedling Min Max 4.2 ± 6.6 6.0 ± 4.0 3.3 ± 1.6 3.7 ± 5.5 0 0 1 1 16 12 5 35 次に,定着密度と光環境の関係をみると,植生タイプによらず実生は FILLED( 平 均 ±標 準 偏 差 = 2.1±1.9 個 体 /m 2 ) に 比 べ て GAP( 平 均 ±標 準 偏 差 = 4.5±5.7 個 体 /m 2 ) で 有 意 に 生 育 密 度 が 高 か っ た ( Fig. 4-7 (a); P<0.01, Wilcoxon の 順 位 和 検 定 )。 実 生 の 最 多 密 度 は , Tall-shrub の GAP ( RPPFD = 96.3%) で 記 録 さ れ た 34 個 体 /m 2 で あ っ た ( Table 4-2)。 な お , 両 ミ ク ロ サ イ ト に お け る RPPFD は , FILLED で 37.6±14.8% ( 平 均 ± 標 準 偏 差 ), GAP で 80.6±14.9%で あ っ た ( Fig. 4-7 (b); P<0.001, Wilcoxonの 順 位 和 検 定 )。 (b) 10 100 8 80 RPPFD (%) Seedling density (m2) (a) 6 4 2 60 40 20 0 0 FILLED GAP FILLED GAP Fig. 4-7. Comparison of (a) seedling density of Barringtonia acutangula and (b) relative potosynthetic photon flux density (RPPFD) between two types of micro sites, light-filled patch (“FILLED”; n = 67) and gap patch (“GAP”; n = 51), covering the seven vegetation types. “■” is average. Box plot represents 75th (top), 50th (middle), and 25th percentile (bottom). Top whisker indentifies the 75th-90th percentile and bottom whisker indentifies the 25th-10th percentile. Results were significantly different compared between FILLED and GAP (Wilcoxon's sign rank test, (a) P < 0.01, (b) P < 0.001). - 104 - 4.4.3 Barringtonia acutangula の 萌 芽 更 新 Barringtonia acutangula で は ,毎 木 調 査 の 対 象 と し た 680 個 体 の う ち 53.8% ( 366 個 体 ) が 株 立 ち し て い た 。 株 立 ち 個 体 の 割 合 は , Open forest で 最 小 ( 26.4%),Shrub で 最 大( 93.5%)と な り( Fig. 4-8),樹 形 の 状 況 も( Photo 4-3) 伐 採 が 萌 芽 を 誘 発 し て い る こ と を 裏 付 け た 。個 体 あ た り の 萌 芽 数 も ,氾 濫 原 奥 部 の 植 生 タ イ プ に 向 か っ て 急 増 す る 傾 向 を 示 し , Shrub で は 4 本 以 上 の 幹 を 有 す る 個 体 が 調 査 対 象 と し た 個 体 の 54.8%を 占 め , 最 大 で 24 本 の 萌 芽 が 認められた。 Fallow field( 耕 作 が 放 棄 さ れ て 2∼ 3 年 が 経 過 し た 水 田 跡 地 ) で 実 施 し た 毎 木 調 査 の 結 果 を , Table4-3 に 示 し た 。 こ の 植 生 回 復 の 初 期 段 階 に お い て , 生 育 し て い る Barringtonia acutangula は 根 株 や 枝 片 に 由 来 す る 萌 芽 が 主 体 ( 全 個 体 の 80% ) で , 他 種 と 比 較 し て 個 体 密 度 ( 6.7 個 体 /25m 2 ) は さ ほ ど 高 く な い も の の , 平 均 樹 高 ( 45.8cm) と 基 部 直 径 ( 平 均 9.7mm), 個 体 あ た り の 幹 数 ( 平 均 23.8 本 /個 体 ) で 勝 っ て い た 。 と く に そ れ ぞ れ の 最 大 値 は 他 種 を 圧 倒 し ( 最 大 基 部 直 径 =51mm , 最 大 幹 数 =81 本 / 個 体 ), Barringtonia 100 >4 multiple-stemmed 2-4 multiple-stemmed 80 individual (%) Proportion of multiple-stemmed acutangulaの 優 占 に 貢 献 し て い た 。 ま た , 死 亡 し た 萌 芽 幹 は 平 均 で 0.7 本 / single-stemmed 60 40 20 0 Closed Forest (n=70) Open Forest (n=197) Scrub Tall-shrub Shrub (n=95) (n=287) (n=31) Fig. 4-8. Proportion of multiple-stemmed individual of Barringtonia acutangula among five vegetation types. Values were significantly different among vegetation types (Fisher's exact test, P < 0.001), n: total number of individuals sampled. - 105 - (a) (b) (c) (d) (e) Photo 4-3. Sprouting regeneration in five vegetation types. (a) Closed forest, (b) Open forest, (c) Scrub, (d) Tall-shrub, (f) Shrub. - 106 - Table 4-3. Mean number of individuals, mean height, mean diameter of butt, mean number of stems and mean number of dead stems of six pioneer species in Fallow field. Species Height (cm) Mean number of individuals (/25m2) Mean Barringtonia acutangula Hymenocardia wallichii Morinda persicaefolia Phyllanthus reticulatus Gmelina asiatica Combretum trifoliatum 6.7 ± 4.7 2.7 ± 1.5 47.0 ± 20.8 17.7 ± 14.6 17.0 ± 15.1 3.3 ± 3.5 45.8 ± 27.1 68.5 ± 31.0 35.5 ± 17.3 49.6 ± 23.8 39.1 ± 19.5 42.3 ± 28.2 Species Number of stems (/individual) Mean Barringtonia acutangula Hymenocardia wallichii Morinda persicaefolia Phyllanthus reticulatus Gmelina asiatica Combretum trifoliatum 23.8 ± 21.1 29.5 ± 23.2 3.7 ± 3.8 5.9 ± 8.8 3.2 ± 5.3 7.9 ± 9.9 Diameter of butt (mm) Min Max 11 26 10 9 13 32 100 122 107 123 100 122 Min Max 9.7 ± 10.4 13.0 ± 14.7 4.2 ± 2.4 4.7 ± 2.7 5.8 ± 3.6 6.3 ± 7.7 2 3 1 1 2 2 51 36 18 15 25 28 Number of dead stems (/individual) Min Max 1 3 1 1 1 2 Mean 81 59 36 49 31 34 Mean 0.7 ± 1.5 3.4 ± 2.6 0.8 ± 1.7 1.4 ± 2.0 0.1 ± 0.5 1.3 ± 1.2 Min Max 0 0 0 0 0 0 5 8 16 9 2 3 個体と少なかった。一方で競合する他種については,ツル性木本植物の Hymenocardia wallichiiが 根 株 か ら 再 生 し , 低 密 度 ( 平 均 2.7 個 体 /25m 2 ) な が ら も 大 形 ( 平 均 樹 高 =68.5cm, 平 均 最 大 基 部 直 径 =13.0mm) と な り , 多 数 の 幹 ( 平 均 29.5 本 /個 体 ) を 萌 芽 さ せ て い た 。 ま た す べ て の 植 生 タ イ プ に 出 現 し , 低 木 層 で 優 勢 と な っ て い た 低 木 性 の Morinda persicaefoliaは , 種 子 か ら 再 生 し ,個 体 数( 平 均 47.0 個 体 /25m 2 )が 圧 倒 的 に 多 い も の の ,個 体 サ イ ズ( 平 均 樹 高 =35.5cm,平 均 最 大 基 部 直 径 =4.2mm)は 小 さ く ,個 体 あ た り の 幹 数 ( 平 均 3.7 本 /個 体 ) も 少 な か っ た 。 4.4.4 焼 け 跡 地 へ の Barringtonia acutangula の 定 着 野 焼 き 直 後 ( 2005 年 6 月 上 旬 ) の 平 均 植 生 高 は 10.4±14.1 cm( 平 均 ±標 準 偏 差 ) で あ っ た が , お よ そ 2 ヵ 月 後 の 2005 年 7 月 下 旬 で 42.4±28.3 cm( 平 均 ±標 準 偏 差 ) に な り , そ の 約 1 年 後 の 2006 年 8 月 に は 209.6±44.5 cm( 平 均 ±標 準 偏 差 )ま で 達 し て い た ( Fig. 4-9)。 ま た ,植 被 率 の 経 年 変 化 を み る と ,2005 年 6 月 は す べ て の 調 査 区( n= 50) - 107 - 400 Height of vegetation (cm) 350 300 250 200 150 100 50 0 Jun./2005 Jul./2005 Aug./2006 Date of census Fig. 4-9. Mean height of vegetation after burning. Error bars indicate the maximum value and minimum value. Number of quadrats is 50 each date of census. (one-way ANOVA, P < 0.001; all groups differ form each other; post hoc Tukey’s HSD test, P < 0.05). が 植 被 率 25%以 下 の 階 級 に 含 ま れ , 地 表 が 露 出 す る 状 態 で あ っ た が , 2005 年 7 月 に は 植 被 率 25%以 下 の 調 査 区 は 30%( 15 調 査 区 ) に 減 少 し , 植 被 率 が 50%を 越 え る 調 査 区 は 42%( 21 調 査 区 ) と な っ た 。 そ し て , 2006 年 8 月 に な る と ,植 被 率 が 50%を 越 え る 調 査 区 が 全 体 の 96%( 48 調 査 区 )を 占 め , 密 生 し た 藪 が 形 成 さ れ た ( Fig. 4-10; Photo 4-4)。 野 焼 き 後 の こ う し た 植 生 回 復 過 程 に お け る Barringtonia acutangula 幼 個 体 の 定 着 数 を み る と , 2005 年 6 月 に は 4 調 査 区 で 4 個 体 ( す べ て 萌 芽 由 来 ) が , 2006 年 8 月 に は 12 調 査 区 で 16 個 体( そ の う ち 萌 芽 由 来 は 13 個 体 ) が 認 め ら れ た に 過 ぎ ず ,樹 高 成 長 や 萌 芽 幹 の 伸 長 も 抑 制 さ れ て い た 。幼 個 体 が 生 育 す る 調 査 区 の 地 上 50cm に お け る 相 対 光 量 子 束 密 度 ( RPPFD) は , 2005 年 6 月 の 82.9±17.3%( 平 均 ±標 準 偏 差 )か ら 2006 年 8 月 に は 53.0±10.4%( 平 均 ± 標 準 偏 差 ) ま で 低 下 し , 野 焼 き か ら 1 年 2 ヶ 月 後 に は Barringtonia acutangula 幼 個 体 の 葉 層 は 被 陰 さ れ た 状 況 に あ っ た ( Fig. 4-11)。 Barringtonia acutangula の 幼 個 体 は , 出 現 総 数 ( 27 個 体 ) の う ち 89%( 16 - 108 - Proportion of quadrates (%) 100% 80% Coverage (%) 60% 76-100 51-75 26-50 40% 6-25 0-5 20% 0% Jun./2005 Jul./2005 Aug./2006 Date of census Fig. 4-10. Secular change in proportion of quadrats of vegetation coverage after burning. Number of quadrats is 50 each date of census. 100 a a b RPPFD (%) 80 60 40 20 ○ Seedling of B. acutangula observed ● not observed 0 Jun./2005 Jul./2005 Aug./2006 Date of census Fig. 4-11. Secular change in seedling of Barringtonia acutangula observed quadrate and not observed quadrate. Number of quadrats is 50 each date of census. Different letters indicate a significant difference (one-way ANOVA, P < 0.05; post hoc Tukey’s HSD test, P < 0.05). - 109 - (a) (b) (c) Photo 4-4. Vegetation recovery after burning. (a) immediate after burning (Jun. 2005), (b) two months later after burning (Jul. 2005), (c) one year and two months later after burning (Aug. 2006). - 110 - 個 体 )が 焼 失 を 免 れ た 地 下 器 官 か ら 再 生 し た 萌 芽 個 体 で あ っ た が ,種 子 由 来 の 実 生 も わ ず か に 11%( 3 個 体 )確 認 さ れ た 。ま た ,Barringtonia acutangula と 競 合 し 優 占 し て い っ た Mimosa pigra( 外 来 の 先 駆 的 低 木 種 ) と Merremia hederacea ( 自 生 の 先 駆 的 ツ ル 性 草 本 種 ) に つ い て , 調 査 期 間 中 の 優 占 度 ( Braun-Blanquet, 1964) の 変 化 を Fig. 4-12 に 示 し た 。 2005 年 6 月 上 旬 と 2005 年 7 月 下 旬 に は ,Merremia hederacea が 優 勢 と な っ て 地 表 を 覆 っ て い た が , 2006 年 8 月 に な る と Mimosa pigra が す べ て の 調 査 区 に 出 現 し , Braun-Blanquet( 1964)の 優 占 度 が 4 以 上 と な っ て 優 占 す る 調 査 区 が 74%( 37 方形区)に達した。 4.5 考 察 4.5.1 氾 濫 原 植 生 の 林 分 構 造 氾濫原を構成する 5 つの植生タイプごとに毎木調査のデータを解析した 結 果 , Barringtonia acutangula は , 平 均 個 体 密 度 で 64.2∼ 100%, ベ ー サ ル エ リ ア で 67.8∼ 100%を 占 め , 氾 濫 原 の 自 然 植 生 全 体 に わ た っ て 圧 倒 的 に 優 占 し て い る こ と が 明 ら か に な っ た 。と く に 人 為 的 攪 乱( 開 墾 や 伐 採 )に さ ら さ れ る 植 生 タ イ プ ( Tall-shrub, Shrub) に お い て Barringtonia acutangula が 卓 越 し て い る こ と が 確 認 さ れ た こ と は ,こ の 種 が 長 期 間 の 冠 水 の み な ら ず 人 為 的攪乱に対して優れた適応力を有することを裏付ける結果となった。一方, 原 生 的 な 状 態 を 保 っ て い る と み な し た Closed forest で は , Barringtonia acutangula が 優 占 す る こ と に 変 わ り は な い も の の ,Diosphyros cambodiana や Coccoceras anisopodum, Xanthophyllum glaucum, Combretum trifoliatum と い っ た 高 木 性 の 林 冠 競 合 種 が ,ベ ー サ ル エ リ ア で 32.2%と い う 比 較 的 高 い 割 合 で 混 交 し , 他 の 植 生 タ イ プ と 状 況 を 異 に し て い た ( Fig. 4-5)。 こ の 知 見 は , トンレサップ湖の氾濫原植生を代表する存在でありながら,人為による荒 廃・消 失 が 著 し い 浸 水 林 の 本 来 の 林 分 構 造 を 推 察 す る 上 で 重 要 な も の と な る 。 4.5.2 Barringtonia acutangula の 種 子 に よ る 更 新 開花から実生が定着するまでの種子による更新過程について調査した結 果 ,① Barringtonia acutangulaは お お よ そ DBHが 5.0cm( 調 査 対 象 と し た 幹 の 下 限 の 幹 直 径 ), 樹 高 が 4∼ 5m, 幹 材 積 が 0.08m 3 と い っ た 早 い 成 長 段 階 で - 111 - 25 Jun./2005 Barringtonia acutangula 20 Mimosa pigra 15 Merremia hederacea 10 5 0 25 Number of quadrats Jul./2005 20 15 10 5 0 25 Aug./2006 20 15 10 5 0 + 1 2 3 4 5 Braun-Blanquet scale Fig. 4-12. Comparisons of cover class among Barringtonia acutangula, Mimosa pigra and Merremia hederacea in each date of census. Cover class is in accordance with Braun-Blanquet scale (1964). Number of quadrats is 50 each date of census. - 112 - 開 花 し て い る こ と ( Fig. 4-6), ② 氾 濫 原 奥 部 に 位 置 し , 母 樹 密 度 が 低 い 4 つ の 植 生 タ イ プ に お い て も , 平 均 で 3.3∼ 6.0 個 体 /㎡ の 実 生 の 定 着 が 認 め ら れ ( Table 4-2),と り わ け 日 当 た り の よ い ギ ャ ッ プ で 定 着 密 度 が 高 い こ と( Fig. 4-7),③ 全 体 に 大 形 で 浮 遊 性 の 種 子 が 水 位 の 上 昇・水 域 の 拡 大 に 同 調 し て 散 布されるようすが観察できることを示した。 開 花・結 実 の 時 期 に つ い て は ,断 続 的 で は あ る が 調 査 地 に お け る 観 察 か ら , 花 期 の ピ ー ク は 4∼ 5 月 に あ り ,結 実 期 の ピ ー ク は 7∼ 8 月 で あ る と し た( 4.2 参 照 )。ま た ,開 花 か ら 結 実 ま で の 期 間 に つ い て ,Barringtonia acutangula と 同 様 に 冠 水 環 境 下 に 生 育 し ,大 形 の 果 実 を 形 成 す る マ ン グ ロ ー ブ 樹 種 と 比 較 し て み る と , 長 さ 30cm ほ ど の 胎 生 種 子 ( viviparous seeds) を 作 る フ タ バ ナ ヒ ル ギ( Rhizophora apiculata)で 4∼ 6 ヶ 月( Christensen and Wium-Andersen, 1977; Kitamura and Baba, 1997), 長 さ 15cm ほ ど の 胎 生 種 子 を 作 る シ ロ バ ナ ヒ ル ギ ( Bruguiera cylindrical) で 3∼ 4 ヶ 月 , 長 さ 2cm ほ ど の 果 実 を 作 る ヒ ル ギ ダ マ シ ( Avicennia marina ) で 3 ∼ 4 ヶ 月 ほ ど ( Wium-Andersen and Christensen, 1978 ), そ し て 長 さ 5cm ほ ど の 果 実 を つ け る ヤ マ プ シ キ ( Sonneratia alba) で 約 2.5 ヶ 月 を 要 し て い る ( 北 村 ら , 1996) こ と か ら , 3 ヶ月前後という今回の観察結果は妥当な日数であるといえる。 Barringtonia acutangula の 果 実 は 革 質 で , 薄 い 撥 水 性 の 果 皮 に 包 ま れ た 緑 色 の 核 果 と な っ て お り ,果 皮 付 き で は 水 面 に 浮 く が ,果 皮 な し で は 水 中 に 沈 む( Payens, 1967)。果 皮 は い わ ば 浮 き 袋 の 役 割 を 果 た し て い る 。浮 遊 し て い る 果 実 は ,氾 濫 原 が 増 水 す る 時 期 に 水 の 流 れ に の っ て 広 範 に 散 布 さ れ ,そ の 後 , 水 中 に 沈 む 。 そ し て , 湖 底 に 達 し た 種 子 は 休 眠 状 態 と な り , お よ そ 4∼ 5 ヶ月後に氾濫原から水が引いて光が当たるようになるとすぐに発芽を開 始 す る( Payens, 1967)。こ う し た 適 応 戦 略 は マ ン グ ロ ー ブ 域 に 生 育 す る ヒ ル ギ ダ マ シ ( Avicennia marina ) に も み ら れ ( 玉 栄 , 2000 ), 偽 胎 生 種 子 ( crypto-viviparous seeds) が 果 皮 を 破 る の に 数 分 か ら 2∼ 3 日 を 要 し , こ の 間ほとんどの種子が母樹のある入り江内の各所に漂着していることが報告 さ れ て い る ( Clarke, 1993; Clarke and Myerscough, 1991; Steinke, 1986)。 さ ら に , Barringtonia acutangulaの 実 生 が 日 当 た り の 良 い ミ ク ロ サ イ ト に 定 着 す る こ と( Fig. 4-7)も Rhizophora属 や Avicennia属 ,Ceriops属 ,Bruguiera 属 と い っ た の マ ン グ ロ ー ブ 樹 種 と 類 似 し て い る 。マ ン グ ロ ー ブ 樹 種 の 更 新 に 関 す る 多 く の 研 究 で は , 発 芽 が 明 条 件 下 で 促 進 さ れ ( Clarke and Allaway, 1993; Sousa T et al., 1999, 2003; Minchinton, 2001), そ し て 実 生 が 林 冠 下 よ り も ギ ャ ッ プ 下 で 生 き 残 り ,生 育 し て い く こ と( Smith, 1987; Tamai and Iampa, 1988; Clarke and Allaway, 1993; Ajima and Tsuda, 1999) が 明 ら か に さ れ て い - 113 - る。 本 研 究 で は Barringtonia acutangula の 花 序 数 と 結 実 数 , 稔 実 率 , 開 花 に 及 ぼ す 地 下 器 官( 貯 蔵 物 質 )の 役 割 ,種 子 の 散 布 範 囲 ,浮 遊 可 能 期 間 ,冠 水 下 に お け る 種 子 の 生 存 可 能 期 間 ,実 生 が 漂 着 す る ミ ク ロ サ イ ト の 形 状 等 に つ い て 具 体 的 な デ ー タ を 得 る に 至 ら な か っ た 。一 方 ,調 査 地 で は 2005 年 の 7∼ 8 月 に 多 量 の 種 子 を 生 産 し て い た 個 体 群 が 2006 年 に は ほ と ん ど 開 花 ・ 結 実 し な か っ た こ と か ら , Barringtonia acutangula に は 豊 作 年 と 凶 作 年 の バ イ オ リ ズ ム が あ る こ と も 予 想 さ れ た 。 こ れ ら の こ と は , Barringtonia acutangula の 種 子 に よ る 更 新 特 性 を 検 討 す る う え で 大 変 興 味 深 く ,今 後 ,解 明 さ れ る こ と を 期 待 し た い 。な お ,開 花 サ イ ズ に つ い て は ,光 条 件 の 良 好 な 立 地 に お い て , DBH が 5cm 未 満 の 個 体 で も 開 花 が 確 認 さ れ た こ と を 付 記 し て お く 。 4.5.3 Barringtonia acutangula の 萌 芽 に よ る 再 生 本 研 究 で 実 施 し た 萌 芽 に 関 す る 調 査 に よ り , Barringtonia acutangulaは 伐 採 後 の 切 り 株 や 脱 落 し た 枝 片 か ら 新 し い シ ュ ー ト を 伸 長 さ せ て ,容 易 に 再 生 す る 能 力 を 有 し て い る こ と が 明 ら か に な っ た ( Fig. 4-8)。 Komiyama et al. ( 1988) は , イ ン ド ネ シ ア の マ ン グ ロ ー ブ 林 に お い て バ イ オ マ ス を 調 査 し , 地 上 部 現 存 量 169.1∼ 436.4 t/haに 対 し て 地 下 部 の 根 系 が 38.5∼ 191.6 t/haと な り ,地 下 部 の 現 存 量 は 植 物 体 の お よ そ 20∼ 30%に 相 当 す る こ と を 報 告 し て い る 。マ ン グ ロ ー ブ 樹 種 の 地 下 器 官 に は 有 機 物 が 大 量 に 貯 蓄 さ れ て お り ,伐 採 後 に 旺 盛 な 萌 芽 の 伸 長 を 可 能 に し て い る が( Tsuda and Ajima, 1999),淡 水 域 の 冠 水 環 境 下 で 優 占 す る Barringtonia acutangulaも こ れ ら と 共 通 し た 戦 略 を とっていることがうかがえる。 ま た , 植 生 回 復 の 初 期 段 階 に あ る Fallow field で み ら れ た Barringtonia acutangula の 生 育 状 況 に つ い て み る と , 残 存 す る 切 り 株 ( 基 部 直 径 お よ そ 10∼ 15cm) の 地 際 か ら 萌 芽 を 盛 ん に 伸 長 さ せ , そ の 幹 数 は 平 均 で 23.8 本 / 個 体 , 最 大 で 81 本 /個 体 に 達 し た 。 ま た , 死 亡 し た 萌 芽 幹 は 平 均 で 0.7 本 / 個 体 と 極 め て 少 な か っ た 。萌 芽 に 関 す る 生 態 学 的 研 究 は 古 く か ら 行 わ れ て お り ,と り わ け 芽 生 え た 場 所 で 数 十 年 と き に は 数 百 年 も 生 き 延 び る 樹 木 に と っ て は , 重 要 な 自 己 維 持 シ ス テ ム と み な さ れ て き た ( Halle et al., 1978; Kramer and Kozlowski, 1979)。 酒 井 ( 1997) は 生 態 学 的 機 能 に 着 目 し て , 萌 芽 を 以 下 の 4 タ イ プ に 分 類 し て い る : (1)修 復 と 再 生 の た め の 萌 芽 3 , (2)地 上 部 の 3 野 火 や 伐 採 と い っ た 攪 乱 に よ る 損 傷 か ら の 再 生 す る た め の 萌 芽 。光 不 足 や 塩 害 な どのストレスから引き起こされることもある。 - 114 - 更新のための萌芽 4 ,(3)栄 養 繁 殖 と し て の 萌 芽 5 ,(4)不 安 定 な 立 地 で 生 育 す 6 る た め の 萌 芽 。Barringtonia acutangulaに み ら れ た 伐 採 後 に 出 現 す る 萌 芽 は , (1)修 復 と 再 生 の た め の 萌 芽 に 当 て は ま る 。 4.5.4 焼 け 跡 地 に お け る 植 生 回 復 焼け跡地における植生回復速度はきわめて早く,野焼き直後はわずかに 10.4cm で あ っ た 平 均 植 生 高 が ,1 年 2 ヶ 月 後 に は 209.6cm に 達 し( Fig. 4-9), 植 被 率 も 全 調 査 区 ( n= 50) の 72%で 75%を 越 え る 状 態 と な っ て い た ( Fig. 4-10)。 野 焼 き 後 の 植 生 回 復 に お い て も , Fallow field(耕 作 放 棄 地 )と 同 様 に , 高 い 再 生 能 力 を 有 す る Barringtonia acutangula が 早 い 段 階 か ら 優 勢 と な る こ と が 予 想 さ れ た 。 し か し 実 際 に は , Barringtonia acutangula の 幼 個 体 が 出 現 し た 調 査 区 は ,野 焼 き 直 後 で わ ず か に 8%( 4 調 査 区 ),1 年 2 ヶ 月 後 で も 24%( 12 調 査 区 )に と ど ま り ,時 間 の 経 過 と と も に ほ と ん ど の 個 体 が 他 種 の 葉 層 に 覆 わ れ て い っ た ( Fig. 4-11)。 焼 け 跡 地 の 植 生 回 復 過 程 に お け る 種 間 関 係 を み る と ,野 焼 き 直 後 の 焦 げ た 地 表 が 露 出 し た 立 地 に , ま ず は 先 駆 的 ツ ル 性 草 本 で ウ リ 科 の Merremia hederacea が 種 子 と 残 存 植 物 体 の 双 方 か ら 侵 入 し ,そ の 2 ヶ 月 後 に は 52% の 調 査 区 で 被 度 が 26%以 上 と な っ て 優 占 し て い た 。 こ の 期 間 に Barringtonia acutangula の 幼 個 体 の 定 着 が 顕 著 に み ら れ る こ と は な い 。 そ の 後 , 8∼ 12 月 の 冠 水 期 間 を 経 て 翌 年 の 8 月 に な る と ,陽 地 性 低 木 で マ メ 科 の Mimosa pigra が 一 面 に 群 生 す る よ う に な っ た ( Fig. 4-12; 被 度 が 26%以 上 と な る 調 査 区 は 94% )。こ の と き ,Barringtonia acutangula が 出 現 す る 調 査 区 は わ ず か に 増 え る も の の , 幼 個 体 の ほ と ん ど は Mimosa pigra に よ っ て 被 陰 さ れ , 散 在 す る 程 度 で あ っ た ( Fig. 4-11)。 以 上 の こ と か ら , 野 焼 き と い う 伐 採 よ り も 激 し い 人 為 的 攪 乱 を 受 け た 氾 濫 原 内 陸 部 の 立 地 で は ,Mimosa pigra の 実 生 と 萌 芽 に よ る 更 新 能 力 が 勝 り , 本 生 態 系 の キ ー ス ト ー ン 種 で あ る Barringtonia 4 損 傷 を 引 き 金 と せ ず に ,親 木 が 健 全 な ま ま 自 然 発 生 的 に 地 際 か ら 出 る 萌 芽 。地 上 部を更新することで個体の維持に役立ち,寿命を延ばすことに貢献していると考 えられている。 5 地表近くを水平に這う根から不定芽が分化して新たなシュートを形成する根萌 芽 ( root sucker)。 根 萌 芽 に よ る 栄 養 繁 殖 に よ っ て , ジ ェ ネ ッ ト ( genet) を 拡 大 し ている。 6 地表の不安定な立地で,根返りを繰り返す樹種にみられる連続的に生じる萌芽。 根返りによる株全体の枯死を免れ,地際を再び地表に固定する機能を持っている と考えられている。 - 115 - acutangula の 定 着 が 著 し く 阻 害 さ れ て い る こ と が 明 ら か に な っ た 。 Mimosa pigraは , マ メ 科 ( Mimosaceae) オ ジ ギ ソ ウ 属 の 一 種 で , 熱 帯 ア メ リ カ 原 産 の 多 年 生 植 物 で あ る 。ア フ リ カ や ア ジ ア ,オ ー ス ト ラ リ ア な ど の 熱 帯 湿 地 に 侵 入・繁 殖 し ,生 態 系 に も っ と も 悪 い 影 響 を 及 ぼ す 外 来 種 の 一 つ で あ る と み な さ れ ( Buckley et al., 2004; Tim et al., 2005), 国 際 自 然 保 護 連 合 ( IUCN)の 世 界 の 外 来 種 ワ ー ス ト 100 7 に 指 定 さ れ て い る 。こ の 種 は 樹 高 が 約 6m に な る 低 木 で ,種 子 は 15 年 に も 及 ぶ 長 い 休 眠 期 間 を 持 ち( Lonsdale et al. 1988),火 を 放 っ て も 地 下 器 官 や 種 子 が 生 き 残 っ て 再 生 す る と い う 強 い 生 命 力 を 持 っ て い る 。ま た ,植 物 体 全 体 が 鋭 い 刺 で 覆 わ れ て お り ,刺 に は 有 毒 成 分 が 含 ま れ て い る た め ,牛 や 水 牛 で も 近 づ か な い 。ト ン レ サ ッ プ 湖 の 氾 濫 原 に お け る こ の 種 の 侵 入 状 況 ,お よ び 繁 殖 を 抑 え る マ ネ ジ メ ン ト の あ り 方 に ついては,次章で述べる。 4.5.5 冠 水 に 適 応 し た 樹 木 の 形 態 ト ン レ サ ッ プ 湖 岸 の 氾 濫 原 で は , 一 年 の う ち 7∼ 1 月 の 期 間 は 土 壌 が 冠 水 し た 状 態 に な る 。こ の 高 水 位 期 の 林 冠 部 ま で 冠 水 す る 時 期 で も ,浸 水 林 を 構 成 す る 樹 種 は 枯 れ ず に 生 き 延 び て い る 。こ う し た 水 ス ト レ ス に 対 す る 適 応 戦 略 に つ い て は 興 味 深 い 。一 般 に は ,森 林 が 冠 水 す る と 根 圏 の 溶 存 酸 素 は 急 激 に 失 わ れ ,酸 化 還 元 電 位 が 低 下 し て 土 壌 は 還 元 状 態 と な る 。土 壌 の 還 元 化 は 根 系 の さ ま ざ ま な 生 理 的 プ ロ セ ス に 影 響 を 及 ぼ す 。と く に 冠 水 耐 性 を も た な い 樹 種 で は ,根 の 機 能 不 全 や 成 長 停 止 ,あ る い は 壊 死 な ど が 引 き 起 こ さ れ る ( Kozlowski, 1997, 2000)。こ の 結 果 ,根 の 水 分 吸 収 は 強 く 阻 害 さ れ ,根 圏 が 過湿状態であるにもかかわらず,樹木の地上部には水ポテンシャルの低下, 気 孔 閉 鎖 ,蒸 散 量 の 低 下 ,光 合 成 の 抑 制 な ど の 強 い 水 欠 乏 ス ト レ ス 症 状 が 現 れ る ( Gomes and Kozlowski, 1980; Pezeshki, 1993; Pezeski et al., 1996)。 こ れ に 対 し て ,冠 水 や 耐 水 に 耐 性 を も つ 湿 地 林 構 成 樹 種 は ,根 系 へ の 通 気 シ ス テ ム を さ ま ざ ま に 発 達 さ せ る こ と に よ り ,土 壌 の 還 元 化 に 対 処 す る こ と が で き る 。こ れ ら の 樹 種 は ,さ ま ざ ま な 形 態 的 あ る い は 組 織 構 造 的 な 適 応 能 を 発 揮 す る こ と に よ っ て ,土 壌 の 酸 素 欠 乏 に 起 因 す る 根 系 の 機 能 不 全 を 回 避 し て い る 。湿 地 の 環 境 に 耐 性 を も つ 樹 木 に 現 れ る 形 態 や 構 造 の 変 化 と し て は , 7 在 来 生 物 の 多 様 性 を 脅 か し ,人 間 活 動 に 被 害 を 与 え る 外 来 生 物( 動 植 物 や 昆 虫 を 含 む す べ て の 生 物 が 対 象 ) で , 国 際 自 然 保 護 連 合 ( IUCN: The World Conservation Union) に よ っ て 選 定 さ れ た 。 引 用 : The Global Invasive Species Database (GISD) <http://www.issg.org/database/welcome/> - 116 - (1)肥 大 皮 目 の 発 達( e.g. Pezeshiki and Anderson, 1997),(2)樹 皮 と 肥 厚 お よ び 通 気 組 織 の 発 達( e.g. Visser et al., 1996),(3)形 成 層 活 動 の 昴 進 と 地 際 部 の 過 剰 肥 大 ( e.g. Yamamoto, 1992), (4)不 定 根 の 形 成 ( Yamamoto et al., 1995a, 1995b), (5)膝 根 ( knee root) の 形 成 ( Yamamoto, 1992), (6)萌 芽 ( 寺 澤 ほ か , 1989; Yamamoto et al., 1995b) な ど を あ げ る こ と が で き る 。 こ れ ら の 形 態 的 な 変 化 は ,組 織 解 剖 学 的 な 構 造 改 変 を と も な っ て お り ,酸 欠 環 境 に 展 開 し て い る 地 下 部 へ の 通 気 シ ス テ ム 構 築 に 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る 。ま た ,こ れ ら の 変 化 に は さ ま ざ ま な 植 物 ホ ル モ ン が 複 合 的 に 関 与 し て い る( 山 本 , 2002)。 Barringtonia acutangula は , 上 述 し た う ち (5)膝 根 の 形 成 を 除 く 形 態 を 呈 し て い る こ と が う か が え る が (Photo 4-5), そ の 証 明 は 今 後 の 課 題 と し た い 。 4.5.6 攪 乱 -ス ト レ ス 耐 性 種 Grime( 1977, 2001)は ,植 物 の 生 活 史 の 進 化 を 支 配 し た 重 要 な 淘 汰 圧 と し て 以 下 の 3要 素 を あ げ て い る : ( 1)「 競 争 ( competition)」 : 資 源 を め ぐ る 競 争 ,( 2)「 物 理 的 ス ト レ ス ( stress)」 : 植 物 の 光 合 成 ・ 物 質 生 産 を 抑 制 す る よ う な 物 理 的 制 限 ,( 3)「 攪 乱 ( disturbance)」 : 植 物 体 の 一 部 ま た は 全 体 を 破 壊 す る よ う な 外 力 。Grime( 2001)に よ れ ば ,「こ の 3つ の 主 要 な 淘 汰 圧( 競 争 ,ス ト レ ス ,攪 乱 )は ,相 互 に 完 全 に 独 立 と い う わ け で は な い 。ま ず ス ト レ ス と 攪 乱 と い う 2つ の 淘 汰 圧 が あ り , 双 方 の 影 響 が 小 さ い 場 面 で 競 争 と い う 淘 汰 圧 が 優 勢 に な る 。逆 に ,ス ト レ ス が 強 く ,か つ 攪 乱 頻 度 が 高 い 環 境 は 植物の生育にとって不適な環境であり,そこに適応できる戦略は存在しな い 。 」と さ れ て い る 。 そ の 理 屈 を も と に し て Grime( 1977, 2001) は , 植 物 は それぞれの淘汰圧に適応した戦略型として進化した,すなわち「競争種 ( competitor) 8 」,「 ス ト レ ス 耐 性 種( stress tolerator) 9 」お よ び「 攪 乱 依 存 種 ( rudeal) 10 」 と し て 進 化 し て き た と 考 え た 。 こ の 理 論 は , 3戦 略 型 の 頭 8 十 分 に 資 源 に 恵 ま れ 攪 乱 も な い 場 所 に お い て ,優 れ た 資 源 獲 得 能 力 を 有 し た 種 で あり,相対成長率が大きいことや生育期のはじめにすでに高い位置に大きな葉面 積 を 展 開 し ,地 下 に も 広 く 根 を 張 っ て い る こ と が 競 争 種 で あ る た め の 条 件 と な る 。 環境条件の良好な場所で優占するような植物はとくに競争種としての性格の強い 植 物 で あ る と い え る ( 鷲 谷 ・ 矢 原 , 1996)。 9 光 や 二 酸 化 炭 素 ,水 栄 養 塩 類 な ど の 資 源 ,ま た は 光 合 成 の 代 謝 反 応 に 適 し た 温 度 などの物理的環境条件が不足した,つまりストレスのかかった環境に応じて,顕 著な適応を遂げた植物のことである。ストレス耐性種には,ストレスに応じた遅 い成長や葉の長い寿命,常緑性などの特徴が認められる。乾燥ストレスの大きい 生育場所では,水節約型の光合成システムをもつ植物がみられ,光不足ストレス 下 で は , 弱 光 条 件 に 適 応 し た 植 物 が み ら れ る ( 鷲 谷 ・ 矢 原 , 1996)。 10 森林の伐採や野焼き,踏みつけなどの植物体の一部または全体に損傷を与える - 117 - (a) (b) (c) (d) Photo 4-5. Adaptation to flood stress. (a) patterned indented surface of bark (Nov. 2004), (b) a lot of sprouting (Feb. 2005), (c) swollen stem under water (Aug. 2006), (d) lenticel phellogen of cross section of stem (Aug. 2005). ような外力に適応した植物である。攪乱依存種では,栄養成長期間は短く,種子 の時間的・空間的散布能力が大きい。攪乱は予測性の低い場合が多く,土壌中や 樹上に形成されるシードバンクが個体群維持のために重要な役割を果たす。帰化 植物のほとんどが,攪乱依存種としての性格をもっているといってよい(鷲谷・ 矢 原 , 1996)。 - 118 - 文 字 を 取 っ て , C-S-Rモ デ ル と 呼 ば れ て い る 。 ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 は ,季 節 的 な 水 位 変 動 に よ っ て 長 期 間 に 及 ぶ 冠 水 ス ト レ ス と 乾 燥 ス ト レ ス 下 に お か れ ,ま た ,河 川 の 洪 水 と 同 様 に 土 砂 の 移 動 や 地 形 形 成 を 引 き 起 こ す 自 然 攪 乱 ,さ ら に は 人 為 的 攪 乱 も 加 わ っ て い る 。そ の た め ,本 氾 濫 原 は 植 物 に と っ て 強 い ス ト レ ス と 強 い 攪 乱 を 及 ぼ す 環 境 で あ る と い え る 。 こ う し た 環 境 下 で Brringtonia acutangulaが 優 占 と な る こ と は , 本 種がストレス耐性種と攪乱依存種の両性質を兼ね備えた植物であると考え る こ と が で き る 。 こ の 知 見 は , Grime( 1979, 2001) が 唱 え た ,「 植 物 に は , ス ト レ ス が 強 く ,攪 乱 頻 度 が 高 い 環 境 に 適 応 的 な 戦 略 型 は 存 在 し な い 」と い う 説 に 新 た な 事 実 を 加 え る こ と に な り , Brringtonia acutangulaは , Fig. 4-13 に示すようなストレス強度と攪乱強度がともに強い立地で進化を遂げてき た と い え る 。本 研 究 で は こ う し た 環 境 で 優 占 と な る よ う に 適 応 し た 戦 略 を と る 種 を「 攪 乱 -ス ト レ ス 耐 性 種 」 ( disturbance-stress tolerator)と 定 義 す る こ と に す る 。こ の 戦 略 型 は ,ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 が 季 節 的 に 繰 り 返 さ れ る 冠 水 ス ト レ ス と 乾 燥 ス ト レ ス ,自 然 攪 乱 な ら び に 人 為 的 攪 乱 が 顕 著 に み ら れ る 特 異 な 環 境 で あ る か ら こ そ 認 め ら れ る も の で あ ろ う 。そ し て ,こ の 戦 略 型 に は Barringtonia acutangulaの 地 下 組 織 に 依 存 し た 優 れ た 更 新 能 力 が き わ め て 有 効に寄与しているものと考える。 ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 に 生 育 す る 植 物 は ,少 な く と も こ う し た 季 節 的 な 水 位変化がもたらす作用 11 に 対 し て 耐 性 を も つ か ,そ れ を 回 避 す る 戦 略 を 備 え る 必 要 が あ る 。湖 岸 最 前 線 の 浸 水 林 に 出 現 す る 樹 種 の 多 く は こ の 戦 略 型 に 相 当 す る 。一 方 で ,逆 に 氾 濫 原 の 湖 岸 最 前 線 に 生 育 で き な い ,あ る い は 一 時 的 に は 生 育 で き て も 永 続 的 に 個 体 群 を 維 持 す る こ と の で き な い 植 物 は ,冠 水 に 対 す る 十 分 な 耐 性 を も っ て い な い た め ,氾 濫 原 で の 生 育 が 制 限 さ れ る 。内 陸 側 で 低 水 位 期 に し か 出 現 し な い 一 年 生 草 本 が こ れ に 当 て は ま る 。こ う し た 特 異 な 環 境 下 に あ る 熱 帯 氾 濫 原 に お い て ,植 物 が ど の よ う な ハ ビ タ ッ ト に ,ど の よ う な 耐 性 を も っ て 生 育 し て い る か を 検 討 す る こ と は ,氾 濫 原 環 境 の 理 解 にとどまらず,植物生態学的にも大変興味深い事象である。 11 石 川 ( 1996) は , 洪 水 や 増 水 な ど の 攪 乱 が 植 物 に 及 ぼ す 作 用 を 大 き く 以 下 の 4 つにまとめている。①流水やそれによって運搬される掃流物質による植物体の破 壊 ,② 流 水 に よ る 立 地 の 破 壊 ,③ 掃 流 物 質 あ る い は 浮 流 物 質 に よ る 植 物 体 の 埋 没 , ④ 沈 水 状 態 に よ る 光 合 成 や 呼 吸 な ど の 植 物 の 生 理 活 性 へ の 影 響 。こ れ ら 4つ の 作 用 はいずれも植物に直接影響を与えるものであり,①から③は物理的な破壊をとも なう攪乱,④は作用としてはストレスと捉えることができる。洪水や増水などの 攪乱も,現象のスケールを細かくして要因別に検討すると,植物に直接に与える 影響は撹乱的な作用と,ストレス的に働く作用に分けて考えることができる。 - 119 - 強 攪乱-ストレス 耐性種 disturbancestress tolerator 競争種 competitor ストレス 耐性種 stress tolerator 攪乱強度 攪乱 依存種 ruderal 弱 Intennsity of disturbance Barringtonia acutangula 弱 ストレス強度 強 Intensity of stress 出 典 : C-R-S モデル(Grime, 1977, 2001)に加 筆 . Fig. 4-13. Position of stress tolerator, ruderal, competitor and disturbance-stress tolerator on the intensity of stress-disturbance. - 120 - 4.6 ま と め カ ン ボ ジ ア の ト ン レ サ ッ プ 湖 岸 に は , 季 節 的 な 水 位 変 動 幅 が 10m に も 達 す る 氾 濫 原 が 広 が っ て い る 。氾 濫 原 の 植 生 に つ い て は ,前 章 に お け る 植 生 調 査 お よ び 多 変 量 解 析 に よ っ て ,7 つ の 植 生 タ イ プ( Closed forest と Open forest, Scrub, Tall-shrub, Shrub, Fallow field, Cultivated field) が 見 い 出 さ れ , す べ て の 植 生 タ イ プ に サ ガ リ バ ナ 科 の Barringtonia acutangula が 出 現 し て 多 く の 調 査 区 で 優 占 す る こ と が 示 さ れ た 。そ こ で 本 章 で は ,氾 濫 原 の 自 己 修 復 の メ カ ニ ズ ム を 明 ら か に す る た め に , 氾 濫 原 で 優 占 す る Barringtonia acutangula の 生 態 特 性 を 明 ら か に し ,ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 生 態 系 に 適 応 す る要因を検討した。 調 査 地 と し た の は ,前 章 と 同 じ ト ン レ サ ッ プ 湖 の 北 西 部 を 占 め る シ ェ ム リ ア プ 州 の 氾 濫 原 で ,ア ン コ ー ル 遺 跡 群 か ら 20km ほ ど 南 方 に 位 置 す る 。氾 濫 原 を 踏 査 後 , 林 分 構 造 と 優 占 種 Barringtonia acutangula の 生 態 的 な 特 性 を 明 ら か に す る た め に ,攪 乱 体 制 や 発 達 段 階 を 異 に す る 植 分 を 対 象 と し て 毎 木 調 査 を 行 っ た 。 調 査 は 57 箇 所 に 方 形 区 ( 10m × 10m) を 設 置 し て , DBH 5cm 以 上 の 生 木 を 対 象 と し , 自 然 高 と DBH を 計 測 す る と と も に , そ の 樹 種 名 と 花 や 実 の 有 無 ,株 立 ち し た 生 幹 の 本 数 を 記 録 し た 。ま た ,皆 伐 後 の 植 生 回 復 の 初 期 段 階 に お い て , Barringtonia acutangula が ど の よ う に 更 新 し て い る か を 明 ら か に す る た め に , Fallow field に お い て 毎 木 調 査 ( 生 存 し て い る 木 本 種 す べ て の サ イ ズ を 対 象 と し , 自 然 高 と 根 元 直 径 を 測 定 ; 3 調 査 区 ( 5m × 5m)) を 実 施 し た 。 さ ら に , Barringtonia acutangula の 実 生 に 着 目 し , 生 育 密度と光環境の関係を検討するために,氾濫原奥部の撹乱領域での小区画 ( 1m × 1m)を 植 被 下( 67 箇 所 )と ギ ャ ッ プ( 51 箇 所 )と を ペ ア で 設 置 し て , Barringtonia acutangula の 実 生 の 個 体 数 と サ イ ズ を 調 べ , 小 区 画 上 で 全 天 写 真 を 撮 影 し て RPPFD を 算 出 し た 。 加 え て , 人 為 的 な 野 焼 き に よ っ て 地 上 部 が 焼 失 し た Tall-shrub の 林 分 跡 地 ( 焼 失 面 積 約 120m × 60m) に お い て , 氾 濫 原 植 生 の 回 復 過 程 と Barringtonia acutangula の 動 態 を 明 ら か に す る た め に , 野 焼 き 直 後 の 2005 年 6 月 上 旬 と 2005 年 7 月 下 旬 , 2006 年 8 月 上 旬 に 同 一 地 点 で 植 生 調 査 ( 調 査 時 期 ご と に 50 箇 所 の 調 査 区 ( 1m × 1m)) を 実 施 し , 調 査 区 ご と に RPPFD を 算 出 し た 。こ の と き ,Barringtonia acutangula に つ い ては,個体数と発生の由来(萌芽か,実生か)を確認した。 調 査 の 結 果 ,氾 濫 原 植 生 の 林 分 構 造 に つ い て ,Barringtonia acutangula は , 平 均 個 体 密 度 で 64.2∼ 100%, ベ ー サ ル エ リ ア で 67.8∼ 100%を 占 め , 氾 濫 原 の 自 然 植 生 全 体 に わ た っ て 圧 倒 的 に 優 占 し て い る こ と が 明 ら か に な っ た 。と - 121 - く に 人 為 的 攪 乱( 開 墾 や 伐 採 )に さ ら さ れ る 植 生 タ イ プ に お い て Barringtonia acutangula が 卓 越 し て い る こ と が 確 認 さ れ た こ と は ,こ の 種 が 長 期 間 の 冠 水 のみならず人為的攪乱に対して優れた適応力を有することを裏付ける結果 となった。 また,開花から実生が定着するまでの種子による更新過程については, ① Barringtonia acutangula は お お よ そ DBH が 5.0cm , 樹 高 が 4m, 幹 材 積 が 0.08m 3 と い っ た 早 い 成 長 段 階 で 開 花 し て い る こ と , ② 氾 濫 原 奥 部 に 位 置 し , 母 樹 密 度 が 低 い 4 つ の 植 生 タ イ プ に お い て も , 平 均 で 3.3∼ 6.0 個 体 /㎡ の 実 生 の 定 着 が 認 め ら れ ,と り わ け 日 当 た り の よ い ギ ャ ッ プ で 定 着 密 度 が 高 い こ と ,③ 全 体 に 大 形 で 浮 遊 性 の 種 子 が 水 位 の 上 昇・水 域 の 拡 大 に 同 調 し て 散 布 されるようすが観察できることが示された。 萌 芽 更 新 に つ い て は , Barringtonia acutangula が 強 い 人 為 圧 が 加 わ る 環 境 下 に お い て も ,伐 採 後 の 切 り 株 や 脱 落 し た 枝 片 か ら 新 し い シ ュ ー ト を 伸 長 さ せ て ,容 易 に 再 生 す る 能 力 を 有 し て い る こ と が 明 ら か に な っ た 。そ し て そ の 萌 芽 能 力 に よ っ て ,他 種 と 比 較 し て 生 存 率 が 高 い こ と が 示 唆 さ れ た 。し か し , 野焼きという伐採よりも激しい人為的攪乱を受けた氾濫原内陸部の立地で は ,Mimosa pigra の 実 生 と 萌 芽 に よ る 更 新 能 力 が 勝 り ,本 生 態 系 の キ ー ス ト ー ン 種 で あ る Barringtonia acutangula の 定 着 が 著 し く 阻 害 さ れ て い る こ と が 明らかになった。 以 上 の 結 果 か ら Barringtonia acutangula の 環 境 適 応 戦 略 型 を 考 え る と , 季 節 的 水 位 変 動 に よ っ て 生 じ る 冠 水 お よ び 乾 燥 ス ト レ ス に 加 え ,自 然 攪 乱・人 為 的 攪 乱 も 加 わ る ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 に お い て 優 占 と な る 本 種 は ,ス ト レ ス 耐 性 種 と 攪 乱 依 存 種 の 両 性 質 を 兼 ね 備 え た 「 攪 乱 -ス ト レ ス 耐 性 種 」 ( disturbance-stress tolerator) と し て 位 置 づ け ら れ る こ と を 示 唆 し た 。 - 122 - 第5章 地域住民による植物資源の利用形態 5.1 は じ め に カ ン ボ ジ ア 全 体 の 森 林 面 積 は , 2005 年 で 104,447,000haと な っ て お り , 国 土 面 積 の 約 59%に 相 当 す る( FAO, 2005)。し か し ,大 規 模 伐 採 に よ る 森 林 面 積 の 減 少 は 著 し く , 原 生 林 ( primary forest) の 面 積 は , 2005 年 に は 1990 年 の 58.0%が 消 失 し て お り ,熱 帯 に 位 置 す る 国 で は 第 3 位 の 減 少 率 を 示 し て い る ( Fig. 5-1)。 そ の 原 因 は , 過 剰 な 商 業 伐 採 を は じ め , 人 口 圧 の 増 大 , 農 地 の 拡 大 ,ヴ ェ ト ナ ム 戦 争 や カ ン ボ ジ ア 内 戦 ,薪 炭 材 の 採 集 ,非 伝 統 的 焼 畑 な ど が 考 え ら れ て い る( CNMC/NEDECO, 1998; 生 長 , 1998; Poffenberger, 2000)。 ま た ,他 地 域 の 熱 帯 林 で は 持 続 可 能 な 伐 採 量 が 10m 3 /haで あ る の に 対 し ,カ ン ボ ジ ア で は 40∼ 50m 3 /haの 伐 採 許 可 が 出 さ れ て い る こ と も 要 因 の 一 つ と い え る 。さ ら に ,伐 採 許 可 地 域 以 外 に お い て も 不 法 な 伐 採 が 日 常 的 に 行 わ れ て いる。 こ う し た 森 林 生 態 系 の 消 失 は ,ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 で も 顕 著 に 認 め ら れ る 。 1973 年 に 約 10,000ha あ っ た 浸 水 林 は , 23 年 後 の 1996 年 に は 4 分 の 1 以 下 の 2,300ha ま で 減 少 し ,こ れ に 代 わ っ て 浸 水 林 の 内 部 で 畑 地( field crops) が 拡 大 し て い る (長 澤 , 2002)。 氾 濫 原 の 森 林 生 態 系 の 破 壊 は , 生 物 多 様 性 の Deforestation rate (%) 80 60 40 20 ia In d on es aw i M al ka an Sr iL di a C am bo N Vi et N ig e ria am 0 Country 出典: FAO(2005)を基に作成 Fig. 5-1. 熱帯発展途上国における 1990 年から 2005 年にかけて消失した原生林の減少率. - 123 - ハ ビ タ ッ ト の 破 壊 ,土 壌 浸 食 ,流 域 の 洪 水 の 増 加 な ど ,さ ま ざ ま な 環 境 問 題 と 関 連 し ,湖 岸 に 住 む 地 域 住 民 の 生 活 に 直 接 的 な 影 響 を 及 ぼ す 。こ の 事 態 に 対 し て , カ ン ボ ジ ア 政 府 は 1996 年 に 森 林 政 策 に 関 す る 委 員 会 を 設 置 し て , 氾 濫 原 の 原 木 な ら び に 木 材 輸 出 の 禁 止 令 を 発 行 し た 。し か し ,氾 濫 原 生 態 系 の 減 衰 メ カ ニ ズ ム を 的 確 に モ ニ タ リ ン グ す る 体 制・技 術 が 不 十 分 で あ る こ と から危機的な状況は依然として継続している。 そ こ で 本 章 で は ,ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 の チ ョ ン グ・ク ネ ア ス 地 区 を 事 例 対象とし,植物資源の利用に関する民族生物学的研究を行うことによって, 地 域 住 民 に よ る 植 物 資 源 の 利 用 形 態 に 関 す る デ ー タ を 収 集 し ,そ の 分 析 結 果 から氾濫原生態系の破壊メカニズムについて検討した。 5.2 調 査 地 の 概 況 ト ン レ サ ッ プ 湖 は ,ク メ ー ル 王 朝 期 を 含 め 現 在 に 至 る ま で ,カ ン ボ ジ ア に 住 む 人 々 の 社 会・文 化・生 活 の あ ら ゆ る 面 に わ た っ て 重 要 な 存 在 で あ り 続 け て き て い た ( Bailleux, 2003)。 湖 そ の も の の 自 然 環 境 や 湖 が 生 み 出 す 水 産 資 源 が カ ン ボ ジ ア の 人 々 の 生 活 を 支 え 続 け て き て い る 。こ れ に 加 え ,ア ジ ア 有 数 の 大 河 メ コ ン と ト ン レ サ ッ プ 川 に よ っ て 連 絡 す る 同 湖 は ,メ コ ン 河 の 天 然 の 遊 水 池 と し て 同 河 下 流 域 の 洪 水 の 防 止 に 大 き く 貢 献 し て い る 。し か し ,湖 と 湖 岸 の 氾 濫 原 は ,メ コ ン 河 水 系 の 大 規 模 開 発 や 観 光 振 興 ,人 口 増 加 に と も な っ て 環 境 が 著 し く 劣 化 し て し ま う こ と が 懸 念 さ れ て い る( McDonald et al., 1997; Mekong River Commission, 1997)。 調 査 は ,ト ン レ サ ッ プ 湖 の 北 縁 で ,シ ェ ム リ ア プ 州 に あ る ア ン コ ー ル 遺 跡 群 か ら 20km ほ ど 南 方 に 位 置 す る チ ョ ン グ ・ ク ネ ア ス ( Chong Kneas) 地 区 の 氾 濫 原 を 対 象 に し て 行 っ た ( 13°16’ N, 103° 49’ E; Fig. 3-1 参 照 )。 こ の 地 域 は ,ア ン コ ー ル 遺 跡 群 か ら 近 い こ と ,寺 院 を 祀 る 孤 立 丘・プ ノ ン ク ロ ム( 標 高 194m ) や 水 上 生 活 集 落 , 浸 水 林 , 広 大 な 湖 が 存 在 す る こ と に よ っ て , 多 く の 外 国 人 が 訪 れ る 観 光 地 に な っ て い る 。ま た ,こ の 地 域 に は 5,812 人 の 住 民 が 港 を 中 心 と し た 集 落 を 形 成 し て 暮 ら し て お り( ADB, 2005),電 気 や 水 道 , ガ ス な ど の 社 会 イ ン フ ラ ス ト ラ ク チ ャ ー が 整 備 さ れ て い な い た め ,日 常 生 活 に 必 要 な 薪 を 氾 濫 原 内 の 植 物 資 源 に 頼 っ て 暮 ら し て い る 。そ の た め ,氾 濫 原 の な か で も 集 落 に 近 づ く ほ ど 人 為 的 攪 乱 が 強 く 加 わ り ,生 態 系 の 劣 化 が 顕 著 に認められる。 - 124 - 5.3 調 査 方 法 は じ め に ,チ ョ ン グ・ク ネ ア ス 地 区 の 氾 濫 原 で 暮 ら す 地 域 住 民 の 生 活 様 式 を 把 握 す る た め に , 2004 年 10 月 か ら 2005 年 3 月 に か け て , フ ィ ー ル ド 調 査 と イ ン タ ビ ュ ー 調 査 を 実 施 し た 。そ の 後 ,地 域 住 民 に よ る 氾 濫 原 植 物 資 源 の 利 用 形 態 を 明 ら か に す る た め に , 2005 年 5 月 か ら 2007 年 3 月 に か け て , 地 域 住 民 ( 42 戸 ) に 対 し て イ ン タ ビ ュ ー 調 査 を 行 っ た 。 本 研 究 で は , 社 会 学 を は じ め と す る 社 会 科 学 諸 分 野 で ,社 会 事 象 を 把 握 す る 技 法 と し て 広 く 用 い ら れ て い る 自 由 面 接( イ ン タ ビ ュ ー )調 査 を 中 心 と す る 社 会 調 査 手 法 を 用 い た 。自 由 面 接 法 に よ る 調 査 は ,社 会 調 査 法 で 非 指 示 的 面 接 法 と い わ れ る 技 法 で ,調 査 者 が 調 査 対 象 と な る 住 民 に 直 接 面 接 し ,口 頭 で 質 問 を し て 回 答 を 得 る 方 法 で あ る 。質 問 項 目 は イ ン タ ビ ュ ー の 流 れ を 重 視 し ,ス ム ー ズ に 回 答 が 得 ら れ る よ う に 努 め た 。ク メ ー ル 語 か ら 日 本 語 へ の 通 訳 は ,Dourng Powkhy 氏( ピ ー ス イ ン ツ ア ー )に お 願 い し た 。イ ン タ ビ ュ ー の 主 な 項 目 は 次 の と お り で あ る : (1) 基 本 属 性 の 項 目 : 調 査 対 象 者 と そ の 家 族 に 関 す る 属 性 ( 家 族 構 成 , 年 齢 , 職 業 , 経 済 状 況 , 日 常 的 な 生 活 サ イ ク ル ), (2) 植 物 資 源 に 関わる項目:植物資源の利用形態,薪を獲得する方法(採集量と使用頻度, 薪 に 適 し た 樹 種 ), 生 活 の 妨 げ と な る 植 物 の 存 在 , (3) 土 地 利 用 形 態 と そ の 歴 史 。村 長 や 地 域 住 民 へ 行 っ た イ ン タ ビ ュ ー で は ,一 部 に 根 拠 が 薄 く ,誇 張 した表現もみられたが,本研究ではそうした回答は省いている。 ま た ,チ ョ ン グ・ク ネ ア ス 地 区 に お い て 薪 利 用 の た め に 伐 採 さ れ る 森 林 面 積 を 以 下 の よ う に 算 出 し た 。ま ず ,チ ョ ン グ・ク ネ ア ス 地 区 全 体 に お け る 年 間薪利用量を次式から求める。 チ ョ ン グ ・ ク ネ ア ス 地 区 全 体 に お け る 年 間 薪 利 用 量 ( m 3 /year) = 1 世 帯 あ た り の 1 日 の 薪 利 用 量( m 3 /day)×全 世 帯 数 ×365 日( day) この値を基に,各植生タイプに相当する森林面積を次のように算出する。 チ ョ ン グ ・ ク ネ ア ス 地 区 の 全 世 帯 が 1 年 間 に 伐 採 す る 森 林 面 積 ( ha/year) = チ ョ ン グ ・ ク ネ ア ス 地 区 全 体 に お け る 年 間 薪 利 用 量 ( m 3 /year) / 各 植 生 タ イ プ の 幹 材 積 積 算 値 ( m 3 /100m 2 ) / 100 こ の と き ,各 植 生 タ イ プ の 幹 材 積 積 算 値 は ,第 4 章 の 毎 木 調 査 の 結 果 を 基 に し て ,樹 木 の DBHと 樹 高 か ら 個 体 ご と に 幹 材 積 を 算 出 し ,100 m 2 の 調 査 区 内 に 出 現 し た 全 個 体 の 積 算 値 と し て 割 り 出 し た ( Table 5-1)。 - 125 - Table 5-1. 各 植 生 タ イ プ の 幹 材 積 積 算 値 . Fallow field と Cultivated field は DBH≧ 5cm の 個 体 が 出 現 し な い た め デ ー タ な し . 植生タイプ 3 2 幹材積積算値(m /100m ) Closed forest 28.3 ± 13.3 Open forest Scrub Tall-shrub 10.8 ± 5.7 3.3 ± 0.8 2.2 ± 2.3 Shrub 0.9 ± 1.0 5.4 調 査 結 果 5.4.1 地 域 住 民 の 生 活 様 式 と 植 物 資 源 利 用 形 態 チ ョ ン グ・ク ネ ア ス 地 区 の フ ィ ー ル ド 調 査 と 地 域 住 民 に 対 す る イ ン タ ビ ュ ー 調 査 の 結 果 , こ の 地 区 に み ら れ る 住 居 形 態 は ,「 水 上 移 動 型 」 と 「 陸 上 移 動 型 」, 「 陸 上 固 定 型 」の 3 タ イ プ に 類 型 化 で き た 。住 居 数 は ,村 長 へ の イ ン タ ビ ュ ー に よ り ,水 上 移 動 型 が 847 戸 ,陸 上 移 動 型 が 453 戸 あ り ,陸 上 固 定 型 に つ い て は 筆 者 が カ ウ ン ト し て 214 戸 を 確 認 し た ( Fig. 5-2)。 以 下 に , 地 域住民の植物資源利用の実態とそれに関連する生活様式のインタビュー調 査結果について,3 タイプの住居形態に分けて記載する。 陸上固定型, 214 水上移動型, 847 陸上移動型, 453 Fig. 5-2. チョング・クネアス地区における住居形態区分と世帯数. - 126 - ( 1) 水 上 移 動 型 水 上 で は 暑 さ を 凌 げ ,虫 も 寄 り 付 か ず 快 適 な 生 活 が 送 れ る と い う 理 由 か ら , 水 上 に 家 を 浮 か べ て 暮 ら す 住 居 形 態 で あ る 。筏 状 に 木 を 敷 き 詰 め た 上 に 家 屋 を 構 築 し て ,季 節 的 な 水 位 変 化 に よ る 湖 岸 の 移 動 に 合 わ せ て 引 越 し を 繰 り 返 している。 a. チ ョ ー イ ェ ン 氏 宅 で の イ ン タ ビ ュ ー 結 果 ( 2006 年 8 月 18 日 7:00∼ 8:00) チ ョ ー イ ェ ン 氏 ( 42 歳 ) の 家 族 構 成 は 妻 と 2 人 の 子 ど も の 4 人 で あ り , 昨 年 R56,000,000 で 購 入 し た 水 上 住 宅 で 一 年 中 漁 業 を 営 む こ と で 生 計 を た て て い る 。高 水 位 期 は 魚 の 産 卵 シ ー ズ ン で あ る こ と か ら 湖 内 で 漁 を す る こ と が 禁止されているため,この時期は川沿いで魚を捕ることに留まっているが, 1 回 の 漁 で 0.3∼ 1kg し か 捕 れ な い 。捕 っ た 魚 は R100∼ R200/ kg で 売 る こ と が で き る 。低 水 位 期 の 漁 法 は 湖 内 に さ し 網 を 張 り ,1 回 の 漁 で 5∼ 10kg 捕 れ る 。し か し ,こ の 時 期 は 波 が 強 い の で 遠 出 は せ ず ,家 の 周 り で 漁 を し て い る 。 日常生活に必要な薪は自分で採ってくる。死んでいる木を選び,1 回で 3 ∼ 4 日 使 え る 分 を 採 る 。植 物 の 種 類 を 特 に 識 別 し て 薪 を 採 っ て い る わ け で は ない。太い木があればそれを採る。氾濫原の植物の違いはよくわからない。 薪 以 外 の 植 物 利 用 は ほ と ん ど な く ,薬 も ヴ ェ ト ナ ム 人 系 の 漢 方 薬 屋 か ら 購 入 している。 水 上 生 活 で は 家 賃 や 土 地 代 を 払 う 必 要 が な い 。陸 上 の 生 活 よ り も 暑 さ を 凌 げ ,虫 が 寄 り つ か な い 。風 が 強 い と き は 家 内 に 水 が 入 る の で そ れ を 汲 み 出 す の が 大 変 だ が ,陸 上 生 活 を 考 え る と 新 し い 職 を 探 す の が 困 難 に な る の で ,現 在の生活を続けるつもりである。 b. ノ ー ヌ ォ ー 氏 宅 で の イ ン タ ビ ュ ー 結 果 ( 2006 年 8 月 18 日 8:00∼ 9:00) ノ ー ヌ ォ ー 氏 ( 49 歳 ) に は 妻 と 7 人 の 子 ど も が お り , 漁 業 に 従 事 し て い る 。主 と し て ウ ナ ギ を 捕 っ て い る が ,生 簀 を 作 り ナ マ ズ の 養 殖 も 行 っ て い る 。 ウ ナ ギ は 他 の 魚 に 比 べ て 高 く 売 れ る( R1,500∼ R3,000/ kg,漁 獲 量 に よ っ て 単 価 が 変 わ る )。高 水 位 期 に は 1 日 に 2∼ 3kg し か 採 れ な い が ,低 水 位 期 に は 5∼ 10kg 採 れ る 。 低 水 位 期 に は , 湖 内 に お い て 家 か ら 5∼ 6km 離 れ た と こ ろ で さ し 網 漁 を す る 。 チ ョ ン グ ・ク ネ ア ス 地 区 か ら 40km 東 に 位 置 す る コ ン ポ ン・ク レ ア ン 地 区 の 出 身 で ,両 親 の 時 代 か ら 水 上 生 活 を し て い る た め ,自 分 も お の ず と 水 上 移 動 型 の 生 活 を 続 け て い る 。 20 年 前 に 再 婚 し , そ れ 以 降 は チョング・クネアス地区に住んでいる。 燃 料 と し て 必 要 な 薪 は 基 本 的 に は 自 分 で 採 り に 行 っ て い る が ,不 足 し た 時 - 127 - には市場で買っている。薪採りは遠くまで船を出す必要があり,仲間と 6 隻 く ら い の 集 団 で 行 き ,1 回 に 2 週 間 分 ほ ど 採 る こ と が で き る 。薪 の 種 類 と し て , Terminalia cambodiana( 科 名 : Combretaceae, 現 地 名 : “Ta uoa”) は 煙 が 少 な く 火 が 長 持 ち す る の で も っ と も 良 く , 次 い で Hymenocardia wallichii ( Euphorbiaceae , “Com pa niang” ) が 良 い 。 Barringtonia acutangula ( Lecythidaceae,“Reang”)と Coccoceras anisopodum( Euphorbiaceae,“Choroa keng”) は 煙 が 多 く で る の で 薪 に は 不 向 き で あ る 。 そ れ で も 太 い 木 が あ れ ば 種類を選ばずに採ってくる。 そ の 他 の 植 物 資 源 の 利 用 に つ い て は ,漢 方 薬( 内 陸 の 植 物 )を 買 い に 行 く 程 度 で , 一 部 観 葉 植 物 や 香 辛 料 の 栽 培 も 小 規 模 に 行 っ て い る 。 Diospyros cambodiana( Ebenaceae,“Ptul”)や Uvaria pierrei( Annonaceae,“Dril suva”) の 実 は 食 べ る こ と も あ る が ,氾 濫 原 の 植 物 を 薪 以 外 で は あ ま り 利 用 し て い な い。 c. そ の 他 の イ ン タ ビ ュ ー 結 果 高 水 位 期 は Barringtonia acutangula( Lecythidaceae, “Reang”) の 生 木 の 幹 を 切 っ て 売 っ て い る 。低 水 位 期 に は 倒 れ て い る 木 を 薪 と し て 採 っ て い る( 漁 師 A, 2005 年 6 月 19 日 )。 薪 を 一 番 多 く 採 る こ と が で き る の は 高 水 位 期 で あ る 。 Barringtonia acutangula( Lecythidaceae, “Reang”) の 幹 を 切 っ て 2∼ 3 ヶ 月 干 し て お く , そ れ を 家 庭 で 使 用 し た り 売 っ た り し て い る ( 漁 師 B, 2005 年 6 月 19 日 )。 仕 事 が な い の で 薪 を 採 っ て 暮 ら し て い る 。薪 採 り は 低 水 位 期 の み ,約 10km 離 れ た と こ ろ ま で 船 で 行 っ て 採 っ て く る 。Diospyros cambodiana( Ebenaceae, “Ptul” ), Barringtonia acutangula ( Lecythidaceae , “Reang” ) , Combretum trifoliatum( Combretaceae, “Tros”) が 多 い 。 1m 3 あ た り R10,000 で 売 れ る 。 3 ∼ 4 月 は 5∼ 6 人 で 歩 い て 採 り に 行 く( 無 職( 薪 売 り )C,2005 年 6 月 25 日 )。 低 水 位 期 に は 5 人 が グ ル ー プ と な り ,Combretum trifoliatum( Combretaceae, “Tros”)な ど の 細 い 枝 を 採 り ,1 人 3 束 ほ ど 担 い で く る こ と を や っ て い る( 船 の 荷 物 運 び D, 2005 年 6 月 25 日 )。 ほ ぼ 3 日 に 1 回 の 割 合 で 薪 を 採 り に 行 っ て い る 。最 近 に な っ て 遠 く ま で 行 か な け れ ば な ら な く な っ て き た 。昔 は 漁 を 採 っ て い た が ,収 量 が 極 端 に 少 な く な っ て き た の で ,最 近 で は 薪 採 り を 中 心 に し て い る 。薪 は ,煮 炊 き の 燃 料 と し て 欠 か せ な い も の で あ り , 7 人 家 族 で 1 週 間 で 1m 3 使 う ( 薪 売 り ( 元 漁 師 ) E, 2005 年 6 月 25 日 )。 4 人 家 族 で 1m 3 ( R10,000) の 薪 が 1 週 間 も つ 。 毎 日 薪 を 探 し て お り , 2∼ - 128 - 3 日 に 一 度 売 り に 行 っ て い る 。5m 3 採 る の に 朝 か ら 晩 ま で 働 い て 5 日 か か る 。 高 水 位 期 に は 船 上 か ら 幹 を 切 る こ と を や っ て い る( 漁 師 F,2005 年 8 月 8 日 )。 Terminalia cambodiana( Combretaceae,“Ta uoa”)が ,火 が つ き や す く て 煙 が 少 な い と い う 理 由 で 一 番 高 く 売 れ る 薪 で あ る 。し か し ,個 体 数 は 少 な い た め に 採 集 し に く い 。Diospyros cambodiana( Ebenaceae,“Ptul”)と Hymenocardia wallichii( Euphorbiaceae, “Com pa niang”) も 比 較 的 良 い 薪 の 材 料 で あ り , 現 在 も 個 体 数 は 多 い 。 Barringtonia acutangula( Lecythidaceae, “Reang”) は ど こ に で も あ る の で 安 く 手 に 入 る が ,火 が つ き に く く 煙 が 多 い の で で き る だ け 使 わ な い よ う に し て い る ( 漁 師 F, 2005 年 8 月 8 日 )。 Mimosa pigra( Mimosaceae,“Bonla yun”)は 何 に も 使 え な い 。こ の 植 物 は , ヴ ェ ト ナ ム 戦 争 時 代 ( 1970 年 代 ) に メ コ ン 河 を 通 っ て プ ノ ン ペ ン , コ ン ポ ン ロ ン を 経 由 し て , チ ョ ン グ ・ ク ネ ア ス 地 区 に 入 っ て き た 。 こ の 4∼ 5 年 の 間 に , Mimosa pigra の 個 体 は 急 に 増 え て き た ( 船 の 荷 物 運 び G, 2005 年 6 月 25 日 )。 ( 2) 陸 上 移 動 型 湖 岸 の 船 乗 り 場 付 近 に み ら れ る 住 居 形 態 で ,季 節 的 な 水 位 変 動 に よ り 船 乗 り 場 が 約 5km も 移 動 す る の に 合 わ せ て , 住 居 そ の も の を ト ラ ッ ク や リ ヤ カ ーに乗せて引越しを繰り返している。 a. テ ィ ー チ ェ イ 氏 宅 で の イ ン タ ビ ュ ー 結 果( 2006 年 8 月 18 日 9:00∼ 10:00) テ ィ ー チ ェ イ 氏 ( 35 歳 ) の 家 は , 妻 と 3 人 の 子 ど も の 5 人 家 族 で あ る 。 手 作 り の ま ん じ ゅ う を 生 産 ・ 販 売 し て 暮 ら し て い る 。 1 日 に 80 個 の ま ん じ ゅ う を 作 り ,全 部 売 れ る と R40,000 の 収 入 に な る 。十 分 な 収 入 が 得 ら れ る た め , 現 在 の と こ ろ 生 活 に 困 る こ と は な い 。 米 は R1,500/ kg で 買 う こ と が で き ,水 は R600/ 30ℓ で 買 い ,1 日 に 60ℓ 使 う 。陸 上 移 動 型 に 住 む 理 由 は ,大 勢の人が住むところに自分も住んで,まんじゅうを売るためである。 12 月 か ら 家 の 移 動 を 開 始 し ,1 年 間 で 6 回 引 っ 越 す こ と を 繰 り 返 し て い る 。 引 越 し は ト ラ ッ ク に 家 を 積 ん で 運 び , 1 回 に R100,000 も か か る 。 水 位 が 高 く な る に つ れ て ,徐 々 に 内 陸 側 に 移 動 し て い る が ,高 水 位 期 に は 住 む ス ペ ー ス が な く な る の で ,プ ノ ン ク ロ ム と い う 丘 の 麓 に 移 動 し て 家 を 構 え る こ と を し て い る 。 こ の 場 所 は 軍 隊 の 土 地 で , 住 む た め に は 毎 年 R40,000( ま ん じ ゅ うの 1 日分の売り上げに相当)を支払わなくてはならない。 氾 濫 原 で の 薪 採 り は 禁 止 さ れ て い る 。薪 は 1m 3 を 5 日 間 で 使 っ て い る 。仕 事 が 忙 し い の で 薪 を 採 り に い く 時 間 が な く ,高 水 位 期 は 舟 で 薪 を 売 り に 来 る - 129 - 人 か ら 買 い ,低 水 位 期 も 薪 を 売 っ て い る と こ ろ に 買 い に 行 く 。低 水 位 期 に は たまに薪を採りに行くが,枯れた木を採ってくる程度である。 b. ラ イ ー ポ ウ 氏 宅 で の イ ン タ ビ ュ ー 結 果 ( 2006 年 8 月 18 日 10:00∼ 11:00) ラ イ ー ポ ウ 氏 ( 38 歳 ) は , 妻 と 6 人 の 子 ど も の 8 人 で 暮 ら し て い る 。 船 着場での荷物の上げ下ろしの労働をして生計を立てている。1 日の収入は, R5,000∼ R6,000 に な る 。1 年 間 に 6∼ 8 回 移 動 し ,1 回 の 移 動 に R50,000 か か る。1 月から引越しを開始する。プノンクロムの麓で家を構えるのに毎年 R40,000 を 軍 隊 の 事 務 所 に 支 払 う ( し か し , 居 住 許 可 証 は 発 行 さ れ な い )。 薪 は と き ど き 買 う 程 度 で あ る 。 12kg で R3,000, こ れ を 2 日 で 使 い 切 る 。 注 文 す る と 薪 屋 が 届 け て く れ る 。時 間 の あ る と き に は ,自 分 で 薪 を 採 り に 行 く 。樹 種 の 選 択 は し て お ら ず ,適 度 な 大 き さ の 木 が あ れ ば 採 っ て く る 。低 水 位期には子どもたちが薪を採りに行く。 氾 濫 原 の 植 物 資 源 に つ い て 詳 し い 人 は ,こ の 地 域 に は ほ と ん ど い な い 。ヴ ェ ト ナ ム 系 の 人 が 漢 方 薬 を 作 っ て 売 っ て い る 。そ の 薬 に は ,氾 濫 原 内 に あ る 植 物 を 使 っ た も の も 混 ざ っ て い る 。 氾 濫 原 内 に Mimosa pigra( Mimosaceae, “Bonla yun”)が 増 加 し て き て い る の は 大 き な 問 題 で あ る 。ト ゲ が あ っ て 水 辺 に 生 え る こ の 低 木 が 繁 茂 す る こ と に よ っ て ,魚 が 卵 を 産 め な く な る こ と を 心 配 し て い る 。 1992∼ 1993 年 に ヴ ェ ト ナ ム か ら 運 ば れ て き た 12mm の 銃 弾 の 箱 の 中 に 種 が 混 ざ っ て い た の が 最 初 で あ る と 聞 い て い る 。成 長 が 早 い た め 除 去 す る の が 大 変 で ,茎 を 切 っ て も す ぐ に 生 え て く る し ,火 を 入 れ て も 地 際 か ら 何 本 も 増 え て く る 。毒 が あ っ て 何 に も 使 え ず ,燃 え に く い う え に す ぐ に 燃 え尽きるので薪にもならない。 c. テ ィ エ プ レ イ 氏 宅 で の イ ン タ ビ ュ ー 結 果( 2007 年 3 月 17 日 10:40∼ 11:30) テ ィ エ プ レ イ 氏 ( 58 歳 ) は , 妻 と 7 人 の 子 ど も の 9 人 で 暮 ら し て い る 。 ス ロ ッ ク ロ ラ ン 村 出 身 で ,プ レ ッ ク ト ル 村 に 住 ん で い た が ,ポ ル ポ ト 時 代 に 家 を 燃 や さ れ た た め 引 越 し ,1994 年 か ら チ ョ ン グ・ク ネ ア ス 地 区 で 暮 ら す 。 舟 大 工 と の 兼 業 で , 1ha の 水 田 ( 湖 に 向 か っ て 左 側 ) を 耕 作 し て い る 。 舟 作 り は , 5 人 で 作 業 し て 1 隻 あ た り $100 の 収 入 に な る 。 大 き い 舟 は 15 日 か け て 作 り $300 で 売 れ る 。 ま た , 稲 作 は 一 期 作 で , 1 月 下 旬 に 種 を 撒 き , 4 月 に 収 穫 す る 。米 の 品 種 は サンピドウ と い う 名 で 他 品 種 よ り 軽 い 。昨 年 は 53 袋( 4∼ 5t)を 収 穫 し 30 袋 を 売 っ た( R420,000=$100)。食 用 と 闘 鶏 用 の ニ ワ ト リ( $20∼ 30/ 匹 )も 買 っ て い る 。こ こ で 生 活 す る に は 1 日 $5 は 必 要( 水 は R500/ 30ℓ)で ,そ の 日 暮 ら し 分 の 収 入 は 得 ら れ て い る 。お 金 が R100,000 - 130 - ∼ 200,000 ほ ど あ れ ば 内 陸 に 住 み た い と 考 え て い る 。 水 上 は 波 が あ っ た り し て 住 み に く い 。 家 の 移 動 は , 8 月 と 12 月 末 の 年 2 回 だ け 行 う 。 住 む 土 地 は 決 ま っ て い な い が ,で き る だ け 同 じ 場 所 に 住 ん で い る 。バ ッ テ リ ー 式 の 石 油 ラ ン プ を 明 か り と し て 使 用 し , 一 度 の 充 電 ( R1,500) で 4∼ 5 日 も つ 。 薪 は , 低 水 位 期 に は 主 に Tall-shrub か ら 自 分 で 採 っ て く る 。 1 時 間 に 1 束 採 れ , 一 回 で 5∼ 6 束 採 り に 行 く 。 1 束 ( 約 25kg) を 1 日 で 使 い 切 る 。 高 水 位 期 に は 舟 を 使 っ て 薪 を 取 る 。ま た ,舟 作 り で 残 っ た 木 を 薪 に す る 。薪 の 種 類は選んでいない。 食 事 は , 朝 は 魚 と 空 心 菜 ( R200/2 束 ) 入 り の す っ ぱ い ス ー プ を 食 べ , 昼 は 残 り 物 を 食 べ る 。 と き ど き 朝 8∼ 9 時 に 昼 食 を 食 べ る 。 夕 食 は , 子 ど も た ち は 16∼ 17 時 , 大 人 は 19∼ 20 時 に 自 分 で 作 っ た 魚 ス ー プ な ど を 食 べ る 。 22 歳( 高 校 3 年 )と 11 歳( 小 学 2 年 ),7 歳( 小 学 1 年 )の 子 ど も は 学 校 へ 通 っ て い る 。泳 げ る よ う に な る と 小 学 校 へ 入 学 す る 。小 学 校 に は 朝 6 時 半 に 家 を 出 て , 12 時 に は 帰 宅 す る 。 授 業 料 と し て R200/ 回 を 先 生 に 払 う 。 お 金 が な い の で 午 前 中 だ け 学 校 へ 通 わ せ て い る 。教 科 書 は 自 分 で 買 う 。文 房 具 は 日 本・韓 国 か ら 支 援 を 受 け て い る 。し か し ,先 生 が 受 け 取 る と そ れ を 売 っ て し ま う 。 高 校 は 授 業 料 が 無 料 と な る 。 R5,000/日 を 子 ど も に 渡 し , 教 科 書 (コピー)などを買う。 d. ク ム ノ ー 氏 宅 で の イ ン タ ビ ュ ー 結 果 ( 2007 年 3 月 17 日 10:45∼ 12:15) ク ム ノ ー 氏 ( 48 歳 ) は 夫 を 亡 く し た 女 性 で , 妹 家 族 ( 妹 の 夫 , 妹 , そ の 子ども 4 人)との 7 人で暮らしている。 妹 の 夫 は 舟 の 荷 物 運 び に 従 事 し , 収 入 は R10,000∼ 20,000/ 日 で あ る 。 薪は,自分たちで使う分を氾濫原から採っている。低水位期には歩いて Scrub に 入 り , 主 に Barringtonia acutangula( Lecythidaceae, “Reang”) を 採 っ て く る 。 ほ か に Gmelina asiatica( Verbenaceae, “Ang chan”), Combretum trifoliatum( Combretaceae,“Tros”)が す ぐ に 採 れ る 。薪 と し て は ,Hymenocardia wallichii( Euphorbiaceae, “Com pa niang”) が 良 く , Terminalia cambodiana ( Combretaceae, “Ta uoa”) が さ ら に 良 い が Scrub の 付 近 に は な い 。 高 水 位 期 に は ,舟 で プ ー サ ッ ト 県 ま で 採 り に 行 き ,上 枝 を 切 っ て 採 る 。こ の と き に は Coccoceras anisopodum ( Euphorbiaceae , “Choroa keng” ) や Diospyros cambodiana ( Ebenaceae , “Ptul” ) な ど が 採 れ , Terminalia cambodiana ( Combretaceae , “Ta uoa” ) は よ く 売 れ る 。 忙 し い と き は 薪 を 買 っ て い る ( R2,000/ 束 )。 チ ョ ン グ ・ク ネ ア ス 地 区 に は ヘ ル ス セ ン タ ー が 船 乗 り 場 近 く に あ り , 薬 屋 - 131 - もあるため,病気になればそこへ行く。 e. そ の 他 の イ ン タ ビ ュ ー 結 果 薪 を 採 る 頻 度 は 3 日 に 1 回 く ら い で あ る 。 Terminalia cambodiana ( Combretaceae, “Ta uoa”) や Gmelina asiatica( Verbenaceae, “Ang chan”), Barringtonia acutangula( Lecythidaceae, “Reang”) な ど を 採 っ て く る 。 身 分 が 低 い の で 小 木 し か 切 れ な い 。身 分 の 高 い 人 は 高 木 の 樹 ご と 切 っ て い る 。高 水 位 期 は 舟 に 乗 っ た ま ま で 採 っ て い る 。1 束 (30kg)を R2,000 で 民 家 に 売 る こ と が で き る ( 船 の 荷 物 運 び H, 2005 年 6 月 24 日 )。 夫 婦 と 子 ど も 2 人 の 4 人 家 族 で あ る 。薪 1 束 が 4 日 間 で な く な る 。夫 は バ イクタクシーの運転手をしており,漁は自分たちで食べる程度を捕ている ( バ イ ク タ ク シ ー 運 転 手 の 妻 I, 2005 年 6 月 24 日 )。 薪 と し て 利 用 す る 種 類 は ,Barringtonia acutangula( Lecythidaceae,“Reang”), Vitex holoadenon ( Verbenaceae , “Tien prei” ), Hymenocardia wallichii ( Euphorbiaceae,“Com pa niang”),Croton krabas( Euphorbiaceae,“Bo boi”), Brownlowia paludosa( Tiliaceae,“Ro nia”)な ど で あ る 。1 束 R2,500 で 買 い , R3,000 で 売 れ る 。ホ テ イ ア オ イ( Eichhornia crassipes( Pontederiaceae,“Kam plauk”))な ど の 豚 の エ サ を 茹 で る た め に 薪 を よ く 使 う( 雑 貨 店 経 営 J,2005 年 6 月 24 日 )。 Barringtonia acutangula ( Lecythidaceae , “Reang” ), Gmelina asiatica ( Verbenaceae,“Ang chan”),Hymenocardia wallichii( Euphorbiaceae,“Com pa niang”), Croton krabas( Euphorbiaceae, “Bo boi”) を 近 く か ら 採 っ て く る 。 1 日 に 2 束 分 く ら い 採 れ る 。 き れ い な 薪 を 束 に し て 1 束 R2,000 で 売 り , 形 の 悪 い も の は 自 分 た ち で 使 う 。氾 濫 原 内 で 歩 い て 5 分 く ら い の 場 所 に 夫 婦 で 採 り に 行 く 。船 が な い の で 高 水 位 期 に は 薪 を 取 れ な い 。高 水 位 期 に は と き ど き ま き を 買 っ て く る 。氾 濫 原 の 内 陸 部 分 に は 昔 か ら 大 木 は な か っ た と 記 憶 し て い る ( 船 の 荷 物 運 び K, 2005 年 6 月 24 日 )。 人 が い な い と 商 売( 雑 貨 屋 経 営 )が で き な い か ら ,他 の 人 た ち に 合 わ せ て 移 動 す る 。 薪 は 1 束 を R2,500 で 薪 売 り 屋 か ら 買 い , こ れ で 2 日 間 も つ 。 ご は ん を 炊 く 燃 料 と し て 薪 を 使 う ( 調 味 料 店 経 営 L, 2005 年 6 月 24 日 )。 ( 3) 陸 上 固 定 型 氾濫原のもっとも内陸側の立地に固定式の住居を構える住居形態である。 こ の タ イ プ の 住 居 の ほ と ん ど は 貸 家 で あ り ,こ こ に は 引 越 し を す る た め の 資 金がない貧困層の住民が暮らしている。 - 132 - a. ス ワ ッ ト モ ン 氏 宅 で の イ ン タ ビ ュ ー 結 果( 2006 年 8 月 18 日 11:00∼ 12:00) ス ワ ッ ト モ ン 氏( 30 歳 )は 夫 と 4 人 の 子 ど も の 6 人 家 族 で 暮 ら し て い る 。 乾 燥 さ せ た ホ テ イ ア オ イ の 茎 を 利 用 し て ハ ン モ ッ ク を 編 み ,1 日 1 個 の 割 合 で 完 成 さ せ て R3,500∼ R10,000 で 売 っ て い る 。ハ ン モ ッ ク が 編 め る の は こ の 村 で 彼 女 だ け で あ る 。 5∼ 6 年 前 か ら 編 ん で い る 。 夫 は 船 乗 り 場 で 働 い て お り ,日 当 R6,000∼ R8,000 の 収 入 を 得 て い る 。家 は 借 家 で ,月 の 家 賃 は R30,000。 陸 上 固 定 型 に 住 む 理 由 は ,引 越 し を す る お 金 が な い か ら で あ り ,こ の 生 活 様 式の住居で暮らす人たちはもっとも貧しい。 乾 燥 し た ホ テ イ ア オ イ は ,周 辺 の 家 庭 が 氾 濫 原 に 茂 っ て い る ホ テ イ ア オ イ を 採 集 し , 日 干 し し て 作 っ て い る 。 1kg あ た り R1,000 で 売 れ , 町 の 市 場 の 人が民芸品を編む材料として買いにくる。 薪 は 基 本 的 に は 買 っ て く る 。低 水 位 期 に は 自 分 で と り に 行 く こ と も あ る が , 樹種を選んでいるわけではない。 b. 集 合 住 宅 に 住 む 家 族 の イ ン タ ビ ュ ー 結 果( 2006 年 8 月 18 日 12:00∼ 13:00) 一 つ の 大 型 の 住 居 を 4 つ に 区 分 し て ,そ こ に 4 家 族 が 暮 ら し て い る 。そ れ ぞ れ ,船 乗 り 場 で 労 働 し た り 薪 を 採 っ て 売 る 仕 事 を し て い る 。自 分 の 家 を 持 ち た い が , 引 越 し す る の に お 金 が か か る の で 難 し い 。 借 家 で 家 賃 は R20,000 /月である。 薪 採 り は ,低 水 位 期 に は 氾 濫 原 に 自 転 車 で 入 り ,高 水 位 期 に は 舟 を 借 り て 採 り に 行 く 。Terminalia cambodiana( Combretaceae,“Ta uoa”)が 家 の 近 く に な い の で , た い て い は Barringtonia acutangula( Lecythidaceae, “Reang”) の 大 型 の 木 を 採 っ て く る 。 1m 3 あ た り R8,000 で 売 れ る 。 こ の 量 で 1 家 族 に つ き 1 週間はもつ。 氾 濫 原 内 に あ る 水 田 は ,プ ノ ン ク ロ ム よ り 内 陸 側 に 家 を 構 え る 住 民 が 所 有 しており,氾濫原内で暮らす陸上固定式型の住民は水田を持たない。 Mimosa pigra( Mimosaceae,“Bonla yun”)が こ の ま ま 増 え て い く と 土 地 の 肥 料 が 減 っ て し ま う こ と を 懸 念 し て い る 。切 っ て も 減 ら な い の で 困 っ て い る 。 c. そ の 他 の イ ン タ ビ ュ ー 結 果 3 人 家 族 で あ る 。1m ×3m×1.2m の 薪 で 1 ヶ 月 も た な い 。米 を 買 う た め に と き ど き 薪 を 1 束 R3,000 で 売 る 。薪 を 5∼ 6 束 売 っ て ,米 が 5∼ 6kg 買 え る( 薪 売 り M, 2005 年 6 月 24 日 )。 低 水 位 期 の 4∼ 6 月 に は 氾 濫 原 内 を 2 時 間 歩 い て Barringtonia acutangula - 133 - ( Lecythidaceae, “Reang”) や Hymenocardia wallichii( Euphorbiaceae, “Com pa niang”),Gmelina asiatica( Verbenaceae,“Ang chan”),Combretum trifoliatum ( Combretaceae, “Tros”), Diospyros cambodiana( Ebenaceae, “Ptul”) を 採 る 。 高 水 位 期 に は 片 道 6 時 間 か け て , 船 で 2∼ 3 泊 し な が ら 薪 を 採 り に 行 っ て い る 。 近 所 に も 仕 事 が な い の で 薪 を 採 る 人 が 多 い ( 薪 売 り M, 2005 年 6 月 24 日 )。 8 人 家 族 で あ る 。 直 径 30∼ 40cmで 3∼ 4m 3 の 薪 は 3 ヶ 月 く ら い 使 え る 。 高 水 位 期 に 東 へ 5kmほ ど 船 で 行 っ て 採 っ て く る 。 倒 れ て い る 木 を 採 っ て い る ( 観 光 船 貸 付 店 経 営 N, 2005 年 8 月 8 日 )。 Barringtonia acutangula( Lecythidaceae, “Reang”) の 薪 は , 料 理 以 外 に も 夜 に 虫 除 け と し て 燃 や す 。 Mimosa pigra( Mimosaceae, “Bonla yun”) が 増 え る の は 住 民 に と っ て 迷 惑 で あ る ( 船 の 荷 物 運 び O, 2005 年 5 月 19 日 )。 ( 4) 住 居 形 態 に 応 じ た 植 物 資 源 利 用 の 特 徴 チ ョ ン グ・ク ネ ア ス 地 区 に お け る 生 活 様 式 と 植 物 資 源 の 利 用 形 態 を 整 理 す る と Table 5-2 お よ び Fig. 5-3 の よ う に ま と め ら れ た 。 地 域 住 民 は , 水 上 移 動 型 ,陸 上 移 動 型 ,陸 上 固 定 型 の 3 タ イ プ の 住 居 形 態 の い ず れ か で 暮 ら し て い る 。そ れ ぞ れ 住 居 形 態 は ,生 活 レ ベ ル に 対 応 し て お り ,相 当 し た 職 業( 生 活 の 糧 )を 選 択 し て い る 。そ し て ,住 居 形 態 す な わ ち 暮 ら し の 形 態 に 応 じ て , 植 物 資 源 の 利 用 形 態 ,と く に 薪 の 利 用 形 態 が 著 し く 異 な っ て い る 。水 上 移 動 型 で は ,低 水 位 期 と 高 水 位 期 と も に 一 年 を 通 し て 船 に 乗 り な が ら 氾 濫 原 の 湖 Table 5-2 チ ョ ン グ ・ ク ネ ア ス 地 域 に み ら れ る 住 居 形 態 の 生 活 様 式 と 植 物 資 源 利 用形態. 住居形態 水上移動型 陸上移動型 陸上固定型 生活レベル 比較的裕福 比較的貧困 貧困 職業 漁師,魚の養殖,民芸品屋, レストラン経営など 雑貨屋,食品製造販売,船の 荷物運びなど 薪売り,船の荷物運び,民芸 品作りなど 住居形態の 選択理由 暑さと虫を防げる 家賃や土地代が不要 漁は収入が安定する 人が多く住む場所で商売する 船乗り場の仕事に従事する 舟を買う資金がない 引っ越すための資金がない 収入が少ないので貸家にしか 住めない 舟で遠出して湖岸の太い幹を 採る 徒歩で主に氾濫原の中央部の 細木を採る 徒歩か自転車,小舟で氾濫原 の内陸部から細木を採る 舟に乗りながら湖岸の高木の 上枝を採る 主に薪売りから買う 小舟で住居近くから細木を採 る 薪の利用 低水位期 高水位期 - 134 - (a) 最低水位期(5月) (b) 最高水位期(10月) プノンクロム プノンクロム 細木 シェム シェム リ 細木 細木 太幹 0 2km リアプ 川 194 アプ川 194 凡 例 上枝 トンレサップ湖 水 域 陸 域 水上移動型 陸上移動型 陸上固定型 薪採集地 Fig. 5-3. 最 低 水 位 期 と 最 高 水 位 期 に お け る 3 タ イ プ の 住 居 形 態 に 応 じ た 地 域 住 民の居住地と薪採集地の比較. 岸 部 に 生 え て い る 高 木 か ら 薪 を 獲 て お り , 時 に は 2∼ 3 泊 し な が ら 遠 出 を し て 大 型 の 薪 を 採 っ て い た 。そ の た め ,薪 と し て 利 用 で き る 高 木 に つ い て の 知 識 は 詳 し い 。一 方 ,陸 上 移 動 型 で は ,低 水 位 期 に は 自 分 た ち で 使 う 分 の 細 い 薪 を 氾 濫 原 の 内 陸 部 か ら 採 り ,高 水 位 期 に は 薪 売 り か ら 買 う こ と が ほ と ん ど で 採 集 に 行 く 頻 度 は 低 か っ た 。そ し て ,陸 上 固 定 型 で は ,自 分 た ち で 使 う 薪 の ほ か に ,販 売 用 と し て 薪 を 採 り に 行 く こ と が 多 く ,低 水 位 期 に は 氾 濫 原 の 内 陸 部 へ 徒 歩 か 自 転 車 に 乗 っ て 薪 を 採 り に 行 き ,高 水 位 期 に は 舟 を 借 り て 住 居 近 く か ら 薪 を 採 っ て い た 。そ の た め ,薪 と し て 利 用 で き る 低 木 に つ い て も 詳 し い 。陸 上 固 定 型 で は ,薪 以 外 に も 民 芸 品 の 材 料 と し て 売 る 目 的 で ホ テ イ アオイを大量に収穫して乾燥させていた。 3 つ の 住 居 形 態 に 共 通 し て み ら れ る 特 徴 は ,( 1)ど の 住 居 形 態 で も 生 活 に 必 要 と な る 燃 料 と し て ,氾 濫 原 か ら 薪 を と っ て い る こ と , ( 2)氾 濫 原 内 の 植 物 資 源 を 薪 以 外 に 利 用 す る こ と は 少 な く ,薪 以 外 の 用 途 に 関 す る 知 識 は 乏 し いことがあげられる。 薪 炭 材 と し て 利 用 さ れ る 植 物 に は , 高 木 か ら 亜 高 木 に な る Barringtonia acutangula( 科 名 : Lecythidaceae, 現 地 名 : “Reang”) や Diospyros cambodiana ( Ebenaceae, “Ptul”), Terminalia cambodiana ( Combretaceae , “Ta uoa”), - 135 - Xanthophyllum glaucum ( Xanthophyllaceae , “Con saing” ), Coccoceras anisopodum( Euphorbiaceae,“Choroa keng”)の ほ か ,ツ ル 性 木 本 植 物 で あ る Combretum trifoliatum( Combretaceae,“Tros”)や Gmelina asiatica( Verbenaceae, “Ang chan”),Hymenocardia wallichii( Euphorbiaceae,“Com pa niang”),Vitex holoadenon( Verbenaceae,“Tien prei”),Croton krabas( Euphorbiaceae,“Bo boi”), Brownlowia paludosa( Tiliaceae, “Ro nia”) な ど が あ る ( Table 5-3)。 こ れ ら の 種 に つ い て ,薪 と し て の 利 用 価 値 が 高 い ほ ど 個 体 数 が 少 な く な る 傾 向 が 認 められた。 ま た , 地 域 住 民 へ の イ ン タ ビ ュ ー の 結 果 か ら チ ョ ン グ ・ク ネ ア ス 地 区 に お け る 1 世 帯 あ た り の 平 均 薪 利 用 量 を 割 り 出 す と ,「 1 世 帯 ( 平 均 5.8 人 家 族 ) が 利 用 す る 薪 の 量 は ,1 日 あ た り 0.125m 3 」と な っ た 。こ れ を 基 に チ ョ ン グ ・ ク ネ ア ス 地 区 全 体 ( 1,514 世 帯 ) が 1 年 間 に 利 用 す る 薪 の 量 を 算 出 す る と 69,076m 3 /yearと な る 。こ の 値 を 植 生 タ イ プ の 森 林 面 積 に 換 算 す る と ,Closed forestの 24.4ha,Open forestの 63.7ha,Scrubの 211.3ha,Tall-shrubの 309.4ha, Shrubの 739.3haに 相 当 す る( Table 5-4)。Fig. 5-4 は こ れ ら の 森 林 面 積 を 航 空 写真上に表したものである。 Table 5-3. 薪 と し て 利 用 さ れ る 種 の 個 体 数 と 利 用 価 値 . 評 価 : +++= 多 ・ 高 , ++= 普 通 , += 少 ・ 低 . 生 活 型 : T= 高 木 , L= ツ ル 性 木 本 植 物 . 種 名 Barringtonia acutangula Combretum trifoliatum Gmelina asiatica Vitex holoadenon Coccoceras anisopodum Croton krabas Brownlowia paludosa Diospyros cambodiana Hymenocardia wallichii Xanthophyllum glaucum Terminalia cambodiana 科 名 Lecythidaceae Combretaceae Verbenaceae Verbenaceae Euphorbiaceae Euphorbiaceae Tiliaceae Ebenaceae Euphorbiaceae Xanthophyllaceae Combretaceae 現地名 Reang Tros Ang chan Tien prei Choa keng Bo boi Ro nia Ptul Con pa niang Con saing Ta uoa - 136 - 個体数 利用価値 生活型 +++ +++ +++ +++ ++ ++ ++ ++ ++ + + + ++ ++ ++ + ++ ++ +++ +++ ++ +++ T L L L T L L T L T T Table 5-4. チ ョ ン グ ・ク ネ ア ス 地 区 全 体 に お い て 薪 利 用 の た め に 1 年 間 に 伐 採 さ れる森林面積. 植生タイプ 森林面積 (ha/year) Closed forest Open forest Scrub Tall-shrub Shrub 24.4 63.7 211.3 309.4 739.3 Shrub 739.3ha Tall-shrub 309.4ha Scrub 211.3ha 24.4ha Closed forest Open forest 63.7ha Chong Kneas 2km Lake Tonle Sap 出典: Google画像 Fig. 5-4. チ ョ ン グ ・ ク ネ ア ス 地 区 の 全 世 帯 が 1 年 間 に 薪 利 用 の た め に 伐 採 す る 森 林 面 積 . 各 植 生 タ イ プ ( Closed forest, Open forest, Scrub, Tall-shrub, Shrub) に 相当する森林面積を四角で示す. - 137 - 5.4.2 外 来 種 の 侵 入 人が植物資源にもたらす影響は,植物資源の搾取だけではなく,外来種 1 の 持 ち 込 み も 深 刻 な 問 題 と し て 取 り 上 げ ら れ る 。こ こ で は ,チ ョ ン グ・ク ネ ア ス 地 区 に お い て 侵 入 が 顕 著 に 確 認 さ れ , IUCN ( 国 際 資 源 保 護 連 合 : International Union for Conservation of Nature and Natural Resources)が 選 定 し た 世 界 の 外 来 種 ワ ー ス ト 100 2 に 指 定 さ れ て い る Mimosa pigraと ホ テ イ ア オ イ ( Eichhornia crassipes) を 取 り 上 げ , そ の 特 徴 と ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 へ の侵入および地域住民の暮らしに与える影響を記述する。 ( 1) Mimosa pigra L. Mimosa pigraは , マ メ 科 ( Mimosaceae) オ ジ ギ ソ ウ 属 の 一 種 で , 熱 帯 ア メ リ カ 原 産 の 多 年 生 木 本 植 物 で あ る ( Photo 5-1)。 ア フ リ カ や ア ジ ア , オ ー ス ト ラ リ ア な ど の 熱 帯 湿 地 に 侵 入・繁 殖 し ,生 態 系 に も っ と も 悪 い 影 響 を 及 ぼ す 外 来 種 の 一 つ で あ る と み な さ れ て い る ( Hanley et al., 1995; Buckley et al., 2004; Tim et al., 2005)。 こ の 種 は 樹 高 が 約 6m に な る 低 木 で , 火 を 放 っ て も 地 下 器 官 や 種 子 が 生 き 残 っ て 再 生 す る と い う 強 い 生 命 力 を 持 っ て い る 。ま た , 植物体全体が鋭い刺で覆われており,刺には有毒成分が含まれているため, 牛 や 水 牛 で も 近 づ か な い 。花 期 は 12∼ 3 月 と さ れ る が ,水 が 得 ら れ る 限 り 一 年 を と お し て 咲 き 続 け ,種 子 は 15 年 に も 及 ぶ 長 い 休 眠 期 間 を 持 ち( Lonsdale et al., 1988), 1m 2 あ た り 12,000 個 ほ ど 大 量 に 散 布 さ れ る こ と が 報 告 さ れ て い る ( Lonsdale, 1992)。 住 民 へ の イ ン タ ビ ュ ー に よ る と , Mimosa pigra は 昔 は み ら れ な か っ た が 1980 年 代 後 半 か ら 急 激 に 増 え 始 め た と い う 。 燃 え に く い う え に 火 が つ い て 1 外 来 種 の 定 義 は い く つ か あ り ,( 1) 国 外 か ら 導 入 さ れ る 生 物 種 と 国 内 の あ る 地 域 か ら 他 の 地 域 に 導 入 さ れ る 生 物 種 ( 環 境 省 , 2003),( 2) 過 去 あ る い は 現 在 の 自 然分布域外に導入された種,亜種,それ以下の分類群であり,生存し,繁殖する こ と が で き る あ ら ゆ る 器 官 ,配 偶 子 ,卵 ,無 性 的 繁 殖 子 を 含 む( 日 本 生 態 学 会( 編 ), 2002), な ど で あ る 。 ま た , IUCNガ イ ド ラ イ ン ( 2000) で は , 在 来 の 生 物 の 多 様 性 を 脅 か す も の を 外 来 侵 入 種 ( alien invasive species), 生 態 系 へ の 影 響 が な く , そ の自然的範囲(過去または現在)と分散潜在能力外に存在する種,変種または下 等 の 分 類 群 を 外 来 種( alien species)と し て 区 別 し て い る 。本 稿 で は IUCNガ イ ド ラ インの前者の意味で外来種を扱うことにする。日本では,生物多様性に及ぼす危 機 と し て , 外 来 種 に よ る イ ン パ ク ト に 関 し て , 2004 年 に 「 特 定 外 来 生 物 に よ る 生 態 系 等 に 係 る 被 害 の 防 止 に 関 す る 法 律( 外 来 生 物 法 )」が 成 立 し ,2005 年 6 月 か ら 施行されている。 2 在来生物の多様性を脅かし,人間活動に被害を与える外来生物(動植物や昆虫 を 含 む す べ て の 生 物 が 対 象 ) で , IUCNに よ っ て 選 定 さ れ た 。 引 用 : The Global Invasive Species Database (GISD) <http://www.issg.org/database/welcome/> - 138 - (a) (b) Photo 5-1. Mimosa pigra. (a) 形態. 全身に鋭い刺をもつ(2005 年 1 月撮影). (b) 繁殖の様子. 湿 地に厚い藪を形成する(2006 年 8 月撮影). も す ぐ に 燃 え 尽 き て し ま う た め 薪 や 炭 と し て 使 え ず ,家 畜 が 食 べ な い の で 飼 料 に も な ら な い こ と か ら , 全 く 利 用 価 値 の な い 植 物 と さ れ て い る 。 Mimosa pigra は , ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 内 に お い て , た め 池 や 水 田 , 水 路 沿 い で 圧 倒 的 に 優 勢 と な っ て 厚 い 藪 を 形 成 す る た め ,農 業 や 漁 業 な ど に よ っ て 自 給 的 な生活を営むカンボジアの人々に深刻な被害を与えている。 ( 2) ホ テ イ ア オ イ ( Eichhornia crassipes Solms) ホ テ イ ア オ イ は , ミ ズ ア オ イ 科 ( Pontederiaceae) ホ テ イ ア オ イ 属 の 一 種 で , 熱 帯 ア メ リ カ 原 産 の 多 年 生 草 本 植 物 で あ る ( Photo 5-2)。 元 々 は 観 賞 用 と し て 持 ち 込 ま れ た 個 体 が 逸 脱 し て ,世 界 各 地 の 暖 地 に 広 が っ て い き ,各 地 の 湖 沼 な ど で 大 繁 殖 し て さ ま ざ ま な 問 題 を 引 き 起 こ し て い る 。ホ テ イ ア オ イ は ,葉 柄 の 中 部 が 多 胞 質 に な っ て ふ く ら み ,浮 き 袋 の 役 割 を 果 た す こ と で 水 上 を 浮 遊 す る 。植 物 体 は ,根 茎 か ら 水 中 に 垂 れ た 根 と 根 生 し て 立 ち 上 が る 葉 か ら な り ,走 出 枝 を 伸 ば し て 妹 株 を 増 や し て い く 。根 は 黒 紫 色 で 長 く ,根 毛 が よ く 発 達 す る( 角 野 , 1994)。種 子 は 水 に 沈 み ,低 温 期 に は 水 中 に 潜 伏 す る 。 28∼ 36℃ の 水 温 が 発 芽 に 適 温 と い わ れ ,2 ヶ 月 で 発 芽 し ,そ の 後 1 ヶ 月 ほ ど の 間 に 大 き く な り ,や が て 開 花 す る 。降 雨 量 が 多 く ,し か も 日 照 が 十 分 な 雨 期 が ホ テ イ ア オ イ の 最 盛 期 で あ り ,乾 期 に は 減 少 す る 。ホ テ イ ア オ イ は 単 性 生 殖( ク ロ ー ン )に よ っ て 猛 烈 な 勢 い で 繁 殖 し て い く 。ア フ リ カ で の 事 例 で - 139 - (a) (b) Photo 5-2. ホテイアオイ(Eichhornia crassipes). (a) 淡紫色の花. クローンを生産して増殖す る(2006 年 3 月撮影). (b) 繁殖の様子. 湖面上に塊となって生育する(2004 年 11 月撮影). は , 2 個 体 の ホ テ イ ア オ イ か ら 130 日 間 で 1,200 個 体 に ま で 増 殖 し た と い う 報 告 が あ る( Guadiana, 1976)。こ の よ う な 旺 盛 な 繁 殖 力 に よ っ て ,ホ テ イ ア オ イ が 水 面 一 帯 に 繁 茂 す る と ,水 中 に 太 陽 光 線 が 当 た ら な く な る た め 植 物 プ ラ ン ク ト ン の 光 合 成 が 妨 害 さ れ て 酸 素 が 供 給 さ れ な く な り ,表 層 部 の 水 が 酸 素 欠 乏 に 陥 る 。ま た ,ホ テ イ ア オ イ は 成 長 す る 端 か ら 古 い 部 分 が 枯 死 し ,そ れ が 深 部 に 沈 み ,水 底 で 分 関 し て 酸 欠 を 起 こ す 。熱 帯 で は ,水 底 付 近 で も 水 温 が 高 い こ と が 多 い の で ,枯 死 し た ホ テ イ ア オ イ に よ る 酸 素 の 消 費 量 も 多 い ( 堀 , 1996)。 ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 で は ,低 水 位 期 に は た め 池 や 小 川 の 辺 で 待 機 し て い た ホ テ イ ア オ イ が ,高 水 位 期 に な る と 水 流 の 緩 や か な 場 所 で 塊 と な っ て 一 気 に 繁 殖 を 開 始 す る 。ま た ,高 水 位 期 に メ コ ン 河 や 湖 の 各 支 流 か ら 多 く の ホ テ イ ア オ イ 個 体 が ト ン レ サ ッ プ 湖 に 供 給 さ れ ,浸 水 林 内 の 波 の 穏 や か な と こ ろ に群をなして停滞するようになる。 チ ョ ン グ・ク ネ ア ス 地 区 の 住 民 へ の イ ン タ ビ ュ ー に よ る と ,ホ テ イ ア オ イ は ,老 人 が 子 ど も の 頃 か ら 今 と 変 わ ら な い ほ ど の 量 で 氾 濫 原 内 に 繁 殖 し て い た と い う 。そ し て 現 在 で は ,ホ テ イ ア オ イ は ,花 を ス ー プ に 入 れ た り 生 で 食 し た り ,茎 を 乾 か し て ハ ン モ ッ ク や マ ッ ト に 加 工 し た り ,さ ら に ,植 物 全 体 を 耕 作 地 の 肥 料 と し た り ,切 り 刻 ん で 家 畜 の エ サ に し た り し て 地 域 住 民 の 生 活 に 取 り 入 れ ら れ て い る 。こ れ ら こ と か ら ,ホ テ イ ア オ イ は ,長 い 時 間 を か - 140 - け て 地 域 住 民 に よ っ て 利 用 価 値 を 見 出 さ れ ,今 で は 有 用 な 植 物 資 源 と し て 地 域の風習に溶け込んでしまっている。 5.5 考 察 5.5.1 氾 濫 原 の 破 壊 メ カ ニ ズ ム ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 の 北 部 に 位 置 す る チ ョ ン グ・ク ネ ア ス 地 区 は ,電 気 や 水 道 ,ガ ス と い っ た イ ン フ ラ ス ト ラ ク チ ャ ー が 発 達 し て い な い 地 域 で あ り , 住 民 は 生 活 に 必 要 な 薪 や 食 料 ,薬 な ど を 氾 濫 原 に 存 在 す る 生 物 資 源 か ら 獲 得 し て い る 。し か し ,急 激 な 人 口 増 加 に と も な う 過 剰 な 植 物 資 源 の 利 用 は ,前 節 で 述 べ た よ う に 氾 濫 原 の 植 物 資 源 の 減 少・生 態 系 の 消 失 を 招 い て い る 。チ ョ ン グ・ク ネ ア ス 地 区 に お い て 氾 濫 原 の 劣 化 の 原 因 と な る の は ,主 と し て 薪 採 集 地 と 農 地 と し て の 土 地 利 用 で あ り ,本 研 究 で 類 型 化 さ れ た 植 生 タ イ プ に 及 ぼ す 人 為 的 攪 乱 の 影 響 を 評 価 す る と Table 5-5 の よ う に 示 さ れ る 。 ま ず , Closed forest に 関 し て は ,集 落 か ら 7km ほ ど 離 れ た 場 所 に 位 置 す る た め 人 為 的 攪 乱 を も っ と も 受 け に く く ,Open forest と Scrub も 湖 岸 前 線 に 成 立 す る た め 人 為 的 攪 乱 を 受 け に く い 立 地 条 件 に あ る 。 一 方 で , Tall-shrub は , 氾 濫 原 の内陸部よりに位置するため,薪の採集地として強い攪乱を受けており, Shrub は , 一 部 が 農 地 と し て 利 用 さ れ る ほ か , 地 域 住 民 が 侵 入 し や す い 氾 濫 原 の 内 陸 部 へ 位 置 す る こ と か ら ,薪 の 採 集 地 と し て も っ と も 強 い 攪 乱 を 受 け て い る 。 Fallow field で は 道 路 工 事 な ど に 使 わ れ る 砂 を 取 る 場 所 と し て 攪 乱 を受けるほか,生育している稚樹が薪として利用されている。そして, Cultivated field は 水 田 耕 作 地 と し て 著 し い 攪 乱 を 受 け て い る 。 また,薪炭材として利用される植物の中でとくに注目すべき樹種は, Barringtonia acutangula と Terminalia cambodiana で あ る 。 前 者 は 「 火 が つ き に く い 上 に 煙 が 多 く 出 る 」な ど の 理 由 で 薪 と し て の 利 用 価 値 が 低 い と さ れ な がらも,個体数が圧倒的に多いことからもっとも高頻度で利用されている。 逆 に 後 者 は , 個 体 数 が 少 な い も の の ,「 燃 え や す く 煙 が 少 な い 」 と い う 理 由 で 利 用 価 値 の 高 い 種 と さ れ て お り ,も っ と も 高 価 な 薪 と さ れ て い る 。両 者 の 利 用 法 と イ ン タ ビ ュ ー 調 査 か ら ,薪 と し て の 利 用 価 値 が 高 い 種 が 選 択 的 に 伐 採され,結果的に利用価値の低い種が多く残されていることが示唆される ( Table 5-3)。 - 141 - Table 5-5. 植 生 タ イ プ に 及 ぼ す 人 為 的 攪 乱 の 影 響 . 評 価 : +++= 極 強 , ++= 強 , += 弱, −=極弱. 植生タイプ Closed forest Open forest Scrub Tall-shrub Shrub Fallow field Cultivated field 農地利用 低水位期 高水位期 薪採取地利用 低水位期 高水位期 − + ++ +++ ++ + ++ +++ − − − + − こ の 薪 利 用 に 関 し て ,地 域 住 民 は 生 活 に 必 要 な 最 低 限 の 量 の 薪 炭 材 を 氾 濫 原 か ら 採 取 し て い る 。 チ ョ ン グ ・ク ネ ア ス 地 区 に お い て 薪 利 用 目 的 で 伐 採 さ れ る 1 年 あ た り の 森 林 面 積 は , Closed forest の 24.4ha, Open forest の 63.7ha に 相 当 す る ( Table 5-4, Fig. 5-4)。 こ れ は , Open forest か ら 薪 を 得 る た め に は ,Closed forest の 2.5 倍 の 面 積 が 必 要 と な る こ と を 意 味 し て い る 。加 え て , Scrub の 森 林 面 積 に 換 算 す る と 211.3ha と な り , Tall-shrub で 309.4ha, Shrub で は 739.3ha に も 及 ぶ 。 仮 に Shrub の み か ら 薪 を 伐 採 す る と な る と , Closed forest の 約 30 倍 も の 広 大 な 面 積 が 皆 伐 さ れ る こ と に な る 。 こ の 採 取 量 が 氾 濫 原 生 態 系 の 自 己 回 復 能 力 を 超 え た 過 剰 な も の に な れ ば ,植 物 資 源 が 枯 渇 し まうことが危惧される。 これまでの結果を踏まえて人為的攪乱による氾濫原の破壊のメカニズム を 考 え る と 次 の よ う に な る 。地 域 住 民 は 氾 濫 原 の 植 物 資 源 を 主 に 薪 と し て 利 用 し て お り ,そ の 利 用 形 態 は 冠 水 状 態 と 住 居 形 態( 水 上 移 動 型 ,陸 上 移 動 型 , 陸 上 固 定 型 )に よ っ て 異 な っ て い る 。低 水 位 期( 1∼ 6 月 )に は ,3 タ イ プ は 離 れ て 生 活 す る た め ,薪 を 収 集 す る 場 所 は 拡 散 す る が ,高 水 位 期( 7∼ 12 月 ) に な る と ,3 タ イ プ は 内 陸 側 に 密 集 す る よ う に な る た め ,薪 を 収 集 す る 場 所 が 氾 濫 原 の 内 陸 側 に 集 中 す る 。す な わ ち ,人 為 的 攪 乱 は ,一 義 的 に 季 節 的 水 位 変 動 に 規 定 さ れ な が ら ,日 常 生 活 が よ り 広 範 に 展 開 さ れ て い る 氾 濫 原 の 内 陸 部 ほ ど ,撹 乱 の 内 容 が 多 様 と な り ,強 度 と 頻 度 が 増 し て い る 。し た が っ て , も っ と も 強 い 人 為 的 攪 乱 が 氾 濫 原 に 及 ぼ さ れ る 時 期 は ,氾 濫 原 が 冠 水 し て お ら ず 植 物 資 源 が 利 用 で き る 状 態 に あ り ,か つ 3 タ イ プ が 集 中 す る 期 間( お よ - 142 - そ 1 月 中 旬 と 7 月 下 旬 )と な る 。逆 に ,湖 岸 側 前 線 域 の 氾 濫 原 は ,低 水 位 期 の 1 月下旬から 6 月下旬に水上移動型と陸上移動型の一部の地域住民が侵入 す る 程 度 で あ る た め ,植 物 資 源 の 利 用 が 制 限 さ れ て 強 い 人 為 的 攪 乱 は 受 け に く い 立 地 条 件 に あ る 。こ の よ う に ,季 節 的 な 水 位 変 動 と 地 域 住 民 の 住 居 形 態 に 応 じ た 植 物 資 源 の 利 用 形 態 に よ っ て ,氾 濫 原 の 内 陸 側 に 強 い 人 為 圧 が 加 わ り な が ら ,氾 濫 原 の 植 物 資 源 が 減 衰 し て い く こ と が 示 唆 さ れ る 。本 論 文 の 第 3 章 で 見 出 さ れ た 氾 濫 原 の 現 存 植 生 は ,こ う し た 破 壊 の メ カ ニ ズ ム が 継 続 的 に繰り返されることによって成立したものであると考える。 5.5.2 外 来 種 の 取 り 扱 い 外 来 種 の 侵 入 は ,そ の 過 程 で 在 来 種 の 多 く が 絶 滅 す る 危 険 性 を 含 ん で お り , 元 来 の 生 態 系 を ま っ た く 異 な る も の に 変 え て し ま う こ と が 少 な く な い 。そ の ため,外来種の繁殖を抑えるための施策が世界各地で行われている。 Mimosa pigraの 駆 除 に 関 し て は , オ ー ス ト ラ リ ア 北 部 の 熱 帯 湿 地 に お い て , 藪に火を放った後に数種類の除草剤(例えば,フルロキシピル ( FLUROXYPYR), テ ブ チ ウ ロ ン ( TEBUTHIURON), メ ト ス ル フ ロ ン メ チ ル ( METSULFURON METHYL) な ど ) を 散 布 す る 方 法 が 施 行 さ れ て い る ( Miller et al., 1992; Lansdale and Miller, 1993; Buckley et al., 2004)。 ま た , 生 態 学 的 な コ ン ト ロ ー ル と し て , Mimosa pigraの 幼 個 体 に 棲 み つ く Neurostrota gunniella( Gracillariidae) と い う メ キ シ コ 原 産 の 蛾 を 利 用 し た り ( Paynter, 2003), Malacorhinus irregularis( Chrysomelidae) と い う メ キ シ コ 原 産 の 甲 虫 を 利 用 し た り し て ( Heard et al., 2005), Mimosa pigraの 成 長 と 生 産 力 に ダ メ ー ジ を 与 え る 手 法 が 試 み ら れ て い る 。し か し ,い ず れ も 試 験 的 な 段 階 に 留 ま っ て お り ,野 焼 き や 除 草 剤 が 他 種 に 及 ぼ す 影 響 ,な ら び に 外 来 植 物 を 駆 除 す る の に 外 来 昆 虫 を 利 用 し て よ い の か と い う 懸 念 も あ り ,抜 本 的 な 解決には至っていない。 ホ テ イ ア オ イ の 繁 殖 力 を 抑 え る 施 策 と し て は ,物 理 的 コ ン ト ロ ー ル や 化 学 的 コ ン ト ロ ー ル ,生 物 的 コ ン ト ロ ー ル な ど に よ る さ ま ざ ま な 試 み が な さ れ て い る ( Howard and Harley, 1998; Center et al., 1999; Rodgers et al., 2001)。 例 え ば , Saxena( 2000) は , ラ ン タ ナ ( Lantana camara) の も つ ア レ ロ パ シ ー を 利 用 し て ホ テ イ ア オ イ の 生 育 を 阻 害 で き る こ と を 実 証 し て い る 。ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 に お い て ,ホ テ イ ア オ イ は す で に 地 域 住 民 の 生 活 に 取 り 入 ら れ て お り ,外 来 種( alien invasive species)で あ り な が ら 有 用 植 物( useful plant) で あ る と 考 え る こ と も で き る 。し か し ,ホ テ イ ア オ イ は 南 米 原 産 の 外 来 種 で - 143 - あ る た め ,こ の 種 の 繁 殖 に よ っ て ,ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 の 在 来 種 が こ れ ま で に 駆 逐 さ れ て き た 可 能 性 は 否 定 で き ず ,今 後 も 予 測 で き な い ほ ど に 分 布 域 を 拡 大 し て 氾 濫 原 生 態 系 に 悪 影 響 を 及 ぼ し か ね な い 。こ の こ と か ら ,現 在 の ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 に 生 育 す る ホ テ イ ア オ イ に 対 し て は ,地 域 住 民 に と っ て 有 用 で あ る と し な が ら も ,結 局 は そ の 旺 盛 な 繁 殖 を 抑 え ,駆 除 し な け れ ば ならないという立場をとる必要があると考える。 生 態 系 に お け る 種 多 様 性 を 保 つ た め に は ,競 争 力 の 強 い 外 来 種 の 駆 除 が 必 要 な 管 理 と な る 。 そ の よ う な 管 理 に お い て , ヒ ト に つ い て は ,1 人 1 人 の 個 人 の 生 命 を か け が え の な い も の と し て 尊 重 し な け れ ば な ら な い が ,野 生 生 物 に つ い て 同 じ よ う に 守 ら れ な け れ ば な ら な い の は ,個 体 で は な く ,種 あ る い は種内の進化的な単位であるということに対する理解を広げることが重要 で あ る( 鷲 谷・矢 原 , 1996)。外 来 種 対 策 の 策 定 に あ た っ て は ,こ の よ う な 思 想的な考慮の他にも,地域の歴史や文化,利害調整の政治,経済,法整備, 道 徳 ,教 育 ,宗 教 な ど の 各 側 面 に つ い て 十 分 な 検 討 を 行 う 必 要 が あ る と さ れ て い る ( Wittenberg and Cock, 2001)。 生 物 多 様 性 条 約 に お け る 外 来 種 の 指 針 原則では,各国政府が侵略的外来種 3 の拡散と影響を最小化するための効果 的 な 戦 略 を 策 定 す る た め の 手 引 き を 15 の 原 則 と し て 定 め て い る 。 主 な 内 容 は以下のとおりである。 ・ 侵略的外来種の経路と生態系への影響が予測不可能な場合のリスク分 析については,予防的アプローチ 4 に基づいて努力すること。 ・ 侵略的外来種に対しては,①予防,②初期の発見と速やかな撲滅,③ 封じ込めと長期的な防除措置,という 3 段階のアプローチを実施する こと。 ・ 侵 略 性 の あ る 外 来 種 の 意 図 的 導 入 は ,権 限 あ る 当 局 に よ る 事 前 の 許 可 を必要とすること。 ・ 導 入 許 可 の 決 定 に 際 し て は ,環 境 影 響 評 価 を 含 む リ ス ク 分 析 を 実 施 し , 生物多様性を脅かさないと考えられる外来種についてのみ導入を許可 すること。 ・ 非意図的導入に対処するため,法律や規制措置,適切な責任を有す る 3 外来種の中でも生態系を破壊してしまうものや,農林水産業,人の生命・身体 に著しい影響を生じさせる生物。 4 環 境 と 開 発 に 関 す る リ オ デ ジ ャ ネ イ ロ 宣 言 ( 1992 年 6 月 , 地 球 サ ミ ッ ト に て 採 択 ) の 原 則 15 及 び 生 物 多 様 性 条 約 の 前 文 に 明 記 さ れ て い る も の で あ り ,「 生 物 の 多様性の著しい減少又は喪失のおそれがある場合には,科学的な確実性が十分で ないことをもって,そのようなおそれを回避し又は最小にするための措置を取る こ と を 延 期 す る 理 由 と す べ き で は な い 」( 生 物 多 様 性 条 約 前 文 ) と い う 考 え 方 。 - 144 - 組織・機関の設立と強化等の対策をとること。 概 し て 旺 盛 な 繁 殖 力 を 有 す る 外 来 種 は ,い っ た ん 生 育 可 能 な 環 境 に 侵 入 す る と 瞬 く 間 に 増 殖 し て 在 来 種 の ハ ビ タ ッ ト を 奪 っ て し ま う 。と く に ト ン レ サ ップ湖氾濫原のようなきわめて脆弱な生態系への侵入は著しいものがある と 考 え る 。外 来 種 の 分 布 が 今 ま で 以 上 に 拡 大 す る と ,氾 濫 原 が 荒 廃 し て 住 民 の 生 活 基 盤 と な る 植 物 資 源 が 消 失 し ,漁 業 や 農 業 な ど に も 深 刻 な 被 害 を も た ら す こ と が 懸 念 さ れ る 。こ う し た 問 題 を 解 決 す る た め に ,外 来 種 を 駆 除・防 除 す る 方 法 を 確 立 し ,氾 濫 原 植 物 資 源 に 関 す る 持 続 的 な マ ネ ジ メ ン ト を 早 急 に提案することが期待されている。 5.5.3 チ ョ ン グ ・ ク ネ ア ス 地 区 の 特 異 性 本 研 究 の 調 査 対 象 地 域 で あ る チ ョ ン グ・ク ネ ア ス 地 区 で は ,季 節 的 な 水 位 変動がもたらすエコトーンの脆弱性や生態系の回復力を超えた植物資源利 用 ,人 口 増 加 と い っ た 環 境 負 荷 が ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 の 内 陸 側 に 及 ん で い ることから,かつての伝統的な持続的植物資源利用が失われた状況にある。 こ れ に 対 し て ,チ ョ ン グ ・ ク ネ ア ス 地 区 か ら 東 に 15km の と こ ろ に 位 置 す る コ ン ポ ン ・ プ ル ッ ク ( Kompong Phluk) 地 区 で は , 環 境 保 全 と 資 源 マ ネ ジ メ ン ト に 関 す る 地 域 単 位 で の 取 り 組 み が 確 認 さ れ て い る 。こ の 地 区 に お け る 資 源 マ ネ ジ メ ン ト の 歴 史 を Fig. 5-5 に 示 す 。Marschke( 2005)の 報 告 に よ る と , 「 こ の 地 区 で は 1930 年 代 か ら 資 源 管 理 の 意 識 が 芽 生 え , 人 口 が 増 加 し つ つ も ,天 然 資 源 の 収 奪 や 漁 獲 量 に 制 限 を 設 け ,集 約 的 な 資 源 マ ネ ジ メ ン ト が な さ れ て い る 」 と い う 。 そ し て , 1990 年 代 後 半 に な る と FAO の 支 援 プ ロ ジ ェ ク ト に よ っ て 地 域 資 源 委 員 が 発 足 さ れ , こ れ ま で 地 域 で 口 伝 さ れ て き た “無 形 の 資 源 マ ネ ジ メ ン ト 方 法 ”が “有 形 な 規 則 ”と し て 策 定 さ れ る よ う に な っ た 。 こ の 住 民 参 加 型 の 取 り 組 み は ,コ ミ ュ ニ テ ィ ー の 規 模 が 小 さ い( 人 口 2,523 人( ADB, 2005))こ と で 実 現 で き た と さ れ て い る( Marschke, 2005)。こ れ に 対 し て ,チ ョ ン グ・ク ネ ア ス 地 区 は 規 模 が 大 き い う え に( 人 口 5,812 人( ADB, 2005)), 人 口 の 18% が ヴ ェ ト ナ ム 系 移 民 で あ る こ と か ら コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 問 題 も 重 な っ て ,地 域 が 一 体 と な っ て 資 源 管 理 を 行 う 体 勢 を 整 え に く い も の と 考 え る 。加 え て ,シ ェ ム リ ア プ 市 内 か ら ア ク セ ス の よ い 観 光 地 と し て 地 域 経 済 が 発 展 し つ つ あ る た め ,他 地 域 か ら 人 口 が 流 入 し て い る こ と も こ の 地 区 を 統 一 で き な い 大 き な 原 因 と な っ て い る だ ろ う 。そ う し た こ と か ら ,チ ョ ン グ・ク ネ ア ス 地 区 は ,本 来 の 氾 濫 原 周 縁 に あ る 農 村 と は 生 業 や 土 地 所 有 の 面 で 異 な っ て お り ,伝 統 的 な 資 源 マ ネ ジ メ ン ト を 見 出 す こ と が で き な か っ - 145 - た こ と が 示 唆 さ れ る 。し か し ,視 点 を 変 え れ ば ,今 後 の 社 会・経 済 の 発 展 に ともなってこの地域のように制限のない資源利用が増加することが予想さ れ ,こ の 意 味 で は 本 研 究 が 先 見 的 事 例 と な る 可 能 性 を 含 ん で い る も の と 考 え る。 Forest Reforestation and tree clearing cutting limitation 1930s-'40s 60s Vegetable production Early '80s Administrative reshuffling Fire destruction 1987-88 Early '90s 1994 Collective farming Mung bean farming starts Allows regeneration 1998 1999 Community mapping and planning 2000 2001 2002/03 Community Freshwater Fisheries asks assistance fishery reform management plan 出典: Marschke(2005) Fig. 5-5. コンポン・プルック(Kompong Phluk)地区における資源マメジメントの歴史的変遷. - 146 - 5.6 ま と め 近 年 ,カ ン ボ ジ ア で は 商 業 伐 採 や 農 地 拡 大 ,戦 争 の 影 響 に よ っ て 森 林 面 積 が 大 幅 に 減 少 し ,生 物 多 様 性 の 消 失 が 深 刻 な 問 題 に な っ て い る 。調 査 対 象 と し た ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 に お い て も 浸 水 林 の 減 少 は 著 し く ,そ の 原 因 は 湖 岸に住む地域住民による無秩序な植物資源の乱獲が関わっているとされて い る 。そ こ で 本 章 で は ,人 間 活 動 が 顕 著 に 行 わ れ て い る チ ョ ン グ・ク ネ ア ス 地 区 を 対 象 と し て ,季 節 的 な 水 位 変 動 に 応 じ た 地 域 住 民 の 植 物 資 源 利 用 に 関 する民族生物学的研究を行い,氾濫原植物資源の減衰メカニズムを示した。 そ の 結 果 , チ ョ ン グ ・ ク ネ ア ス 地 区 に お け る 住 居 形 態 は ,「 水 上 移 動 型 」 と「 陸 上 移 動 型 」, 「 陸 上 固 定 型 」の 3 タ イ プ に ま と め ら れ た 。そ れ ぞ れ 住 居 形 態 は ,暮 ら し の 形 態 に 応 じ て ,植 物 資 源 の 利 用 形 態 ,と く に 薪 の 利 用 形 態 が 著 し く 異 な っ て い た 。水 上 移 動 型 で は ,低 水 位 期 と 高 水 位 期 と も に 一 年 を 通して船に乗りながら氾濫原の湖岸部に生えている高木から薪を獲ており, 時 に は 2∼ 3 泊 し な が ら 遠 出 を し て 大 型 の 薪 を 採 っ て い た 。陸 上 移 動 型 で は , 低 水 位 期 に は 自 分 た ち で 使 う 分 の 細 い 薪 を 氾 濫 原 の 内 陸 部 か ら 採 り ,高 水 位 期 に は 薪 売 り か ら 買 っ て い た 。そ し て ,陸 上 固 定 型 で は ,自 分 た ち で 使 う 薪 の ほ か に ,販 売 用 と し て 薪 を 採 り に 行 く こ と が 多 く ,低 水 位 期 に は 氾 濫 原 の 内 陸 部 へ 徒 歩 か 自 転 車 に 乗 っ て 薪 を 採 り に 行 き ,高 水 位 期 に は 舟 を 借 り て 住 居 近 く か ら 薪 を 採 っ て い た 。陸 上 固 定 型 で は ,薪 以 外 に も 民 芸 品 の 材 料 と し て 売 る 目 的 で ホ テ イ ア オ イ を 大 量 に 収 穫 し て 乾 燥 さ せ て い た 。3 つ の 住 居 形 態 に 共 通 し て み ら れ る 傾 向 と し て は ,ど の 住 居 形 態 で も 生 活 に 必 要 と な る 燃 料 と し て ,氾 濫 原 か ら 薪 を と っ て い る こ と が あ げ ら れ た 。ま た ,薪 以 外 に 氾 濫 原 内 の 植 物 資 源 を 利 用 す る こ と は 少 な く ,薪 炭 以 外 の 用 途 に 関 す る 知 識 は 乏しかった。薪炭材として利用される植物は以下のとおりであった: Barringtonia acutangula( “Reang”),Diospyros cambodiana( “Ptul”),Terminalia cambodiana( “Ta uoa”), Xanthophyllum glaucum( “Con saing”), Coccoceras anisopodum( “Choroa keng”),Combretum trifoliatum( “Tros”),Gmelina asiatica ( “Ang chan”), Hymenocardia wallichii( “Com pa niang”)( Table 5-2)。 こ の な か で と く に 注 目 す べ き 樹 種 は , Barringtonia acutangula と Terminalia cambodiana で あ る 。 前 者 は 「 火 が つ き に く い 上 に 煙 が 多 く 出 る 」 な ど の 理 由 で 薪 と し て の 利 用 価 値 が 低 い と さ れ な が ら も ,個 体 数 が 圧 倒 的 に 多 い こ と か ら も っ と も 高 頻 度 で 利 用 さ れ て い る 。逆 に 後 者 は ,個 体 数 が 少 な い も の の , 「 燃 え や す く 煙 が 少 な い 」と い う 理 由 で 利 用 価 値 の 高 い 種 と さ れ て お り ,も っ と も 高 価 な 薪 と さ れ て い る 。両 者 の 利 用 法 と イ ン タ ビ ュ ー 調 査 か ら ,薪 と - 147 - し て の 利 用 価 値 が 高 い 種 が 選 択 的 に 伐 採 さ れ ,結 果 的 に 利 用 価 値 の 低 い 種 が 多 く 残 さ れ て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。 ま た , チ ョ ン グ ・ク ネ ア ス 地 区 の 全 世 帯 が 1 年 間 に 薪 利 用 目 的 で 伐 採 す る 森 林 面 積 は ,Closed forest の 24.4ha,Open forest の 63.7ha, Scrub の 211.3ha, Tall-shrub の 309.4ha, Shrub の 739.3ha に相当することが示された。 こ れ ら の こ と か ら ,人 為 的 攪 乱 に よ る 氾 濫 原 の 破 壊 の メ カ ニ ズ ム を 考 え る と 以 下 の よ う に な る 。ま ず ,地 域 住 民 は 氾 濫 原 の 植 物 資 源 を 主 に 薪 と し て 利 用 し て お り ,そ の 利 用 形 態 は 冠 水 状 態 と 住 居 形 態( 水 上 移 動 型 ,陸 上 移 動 型 , 陸 上 固 定 型 )に よ っ て 異 な っ て い る 。低 水 位 期( 1∼ 6 月 )に は ,3 タ イ プ は 離 れ て 生 活 す る た め ,薪 を 収 集 す る 場 所 は 拡 散 す る が ,高 水 位 期( 7∼ 12 月 ) に な る と ,3 タ イ プ は 内 陸 側 に 密 集 す る よ う に な る た め ,薪 を 収 集 す る 場 所 が 氾 濫 原 の 内 陸 側 に 集 中 す る 。す な わ ち ,人 為 的 攪 乱 は ,一 義 的 に 季 節 的 水 位 変 動 に 規 定 さ れ な が ら ,日 常 生 活 が よ り 広 範 に 展 開 さ れ て い る 氾 濫 原 の 内 陸部ほど,撹乱の内容が多様となり,強度と頻度が増している。こうして, 季節的な水位変動と地域住民の住居形態に応じた植物資源の利用形態によ っ て ,氾 濫 原 の 内 陸 側 に 強 い 人 為 圧 が 加 わ り な が ら ,氾 濫 原 の 植 物 資 源 が 減 衰 し て い く こ と が 示 唆 さ れ る 。本 論 文 の 第 3 章 で 見 出 さ れ た 氾 濫 原 の 現 存 植 生 は ,こ う し た 破 壊 の メ カ ニ ズ ム が 継 続 的 に 繰 り 返 さ れ る こ と に よ っ て 成 立 したものであると考える。 ま た ,人 が 植 物 資 源 に も た ら す 影 響 は 植 物 資 源 の 搾 取 だ け で は な く ,外 来 種 の 持 ち 込 み も 深 刻 な 問 題 と し て 取 り 上 げ ら れ る 。チ ョ ン グ・ク ネ ア ス 地 区 の 氾 濫 原 で は , IUCN が 選 定 し た 世 界 の 外 来 種 ワ ー ス ト 100 に 指 定 さ れ て い る Mimosa pigra と ホ テ イ ア オ イ( Eichhornia crassipes)の 侵 入 が 顕 著 に 認 め ら れ た 。 南 米 原 産 の Mimosa pigra は , 毒 の あ る 鋭 い ト ゲ を 有 す る 低 木 性 木 本 植 物 で ,湿 地 に 厚 い 藪 を 形 成 し て ,地 域 住 民 の 生 活 に 深 刻 な 被 害 を 与 え て い る 。こ の 種 を 駆 除 す る 取 り 組 み は ,オ ー ス ト ラ リ ア 北 部 で ,野 焼 き 後 に 除 草 剤 を 散 布 し た り ,外 来 昆 虫 を こ の 種 の 幼 個 体 に 植 え つ け た り す る 試 み が な さ れ て い る が ,未 だ 根 本 的 な 解 決 策 は 見 出 さ れ て い な い 。一 方 ,南 米 原 産 の 浮 遊 植 物 で あ る ホ テ イ ア オ イ は ,外 来 種 で あ り な が ら も 現 在 で は 有 用 な 植 物 資 源 と し て 地 域 文 化 に 取 り 込 ま れ て い る 。し か し ,こ の 種 の 旺 盛 な 繁 殖 力 が 在来種の生存に悪影響をもたらす可能性は否定できず,今後はこの種を駆 除・防 除 す る 立 場 を と ら な け れ ば な ら な い と 考 え る 。ホ テ イ ア オ イ の 繁 殖 力 を 抑 え る 施 策 と し て は ,物 理 的 コ ン ト ロ ー ル や 化 学 的 コ ン ト ロ ー ル ,生 物 的 コ ン ト ロ ー ル な ど に よ る さ ま ざ ま な 試 み が な さ れ て い る 。こ の よ う な 旺 盛 な 繁 殖 力 を 有 す る 外 来 種 は ,い っ た ん 生 育 可 能 な 環 境 に 侵 入 す る と 瞬 く 間 に 増 - 148 - 殖 し て 在 来 種 の ハ ビ タ ッ ト を 奪 っ て し ま う 。と く に ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 の よ う な き わ め て 脆 弱 な 生 態 系 へ の 侵 入 は 著 し い も の が あ る 。外 来 種 の 分 布 が 今 ま で 以 上 に 拡 大 す る と ,氾 濫 原 が 荒 廃 し て 住 民 の 生 活 基 盤 と な る 植 物 資 源 が 消 失 し ,漁 業 や 農 業 な ど に も 深 刻 な 被 害 を も た ら す こ と が 懸 念 さ れ る 。こ う し た 問 題 を 解 決 す る た め に ,外 来 種 を 駆 除・防 除 す る 方 法 を 確 立 し ,氾 濫 原植物資源に関する持続的なマネジメントを早急に提案することが期待さ れている。 本 研 究 の 調 査 対 象 地 域 で あ る チ ョ ン グ・ク ネ ア ス 地 区 は ,本 来 の 氾 濫 原 周 縁にある農村とは生業や土地所有の面で異なっており,かつては人々の生 活・生 産 空 間 と し て 人 間 活 動 と 生 物 資 源 と の 持 続 的 関 係 が 確 立 さ れ ,植 物 資 源 マ ネ ジ メ ン ト が 行 わ れ て い た と さ れ る が ,社 会・経 済 構 造 の 急 速 な 変 化 と と も に そ う し た 知 恵 や し く み は 失 わ れ た こ と が 示 唆 さ れ る 。今 後 ,社 会・経 済 の 発 展 に と も な っ て ,熱 帯 氾 濫 原 の 多 く で こ の 地 域 の よ う に 制 限 の な い 資 源 利 用 を 引 き 起 こ す こ と が 予 想 さ れ ,こ の 意 味 で は 本 研 究 が 先 見 的 事 例 と な る可能性を含んでいるものと考える。 - 149 - 第6章 総合考察 6.1 は じ め に 本 論 文 で は ,熱 帯 湖 岸 生 態 系 に 関 す る 基 礎 情 報 の 不 足 を 改 善 す る こ と を 目 的 と し ,今 後 の 氾 濫 原 植 物 資 源 の 持 続 的 マ ネ ジ メ ン ト に 役 立 た せ る こ と を め ざ し た 。事 例 研 究 で は ,社 会・経 済 構 造 の 急 速 な 変 化 の あ お り を 受 け て 自 然 環 境 の 劣 化 が 著 し い カ ン ボ ジ ア の ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 を 取 り 上 げ ,植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ ー 調 査 と 生 態 学 的 調 査 を 実 施 し ,熱 帯 氾 濫 原 が 本 来 持 つ 自 然 攪 乱 と 人 間 活 動 に と も な う 人 為 的 攪 乱 が ,氾 濫 原 生 態 系 の 構 造 と 変 動 形 態 に 与 え る 影 響 を 明 ら か に し て ,熱 帯 氾 濫 原 に み ら れ る 生 態 系 の 自 己 修 復 メ カ ニ ズムと破壊メカニズムを示した。 本 章 で は ,本 論 文 の 研 究 成 果 を ま と め る と と も に ,熱 帯 湖 岸 生 態 系 に お け る 植 物 資 源 の 持 続 性 に つ い て 考 察 し ,本 論 文 に お け る イ ン ベ ン ト リ ー 研 究 の 成果と本論文の貢献を述べ,最後に今後の研究課題を提示する。 6.2 本 研 究 の ま と め 6.2.1 ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 の 現 存 植 生 カ ン ボ ジ ア の 中 央 部 に 位 置 す る ト ン レ サ ッ プ 湖 の 氾 濫 原 ( 13°15′N , 103°49′E 付 近 ; 横 断 距 離 お よ そ 4km)に お い て ,67 箇 所 に 方 形 区( 10m×10m) を 設 置 し て 植 物 社 会 学 的 手 法 に よ る 植 生 調 査 を 行 っ た 。そ の 結 果 ,氾 濫 原 の 現存植生は, ( 1)最 低 水 位 期 の 湖 岸 の 外 縁 に 1∼ 2km の 幅 で 分 布 す る Disturbed woodland( 人 為 に よ っ て 荒 廃 し た 疎 林 ) と 調 査 地 の 内 陸 部 に 幅 2∼ 3km の 範 囲 で 広 が る Extensive cropland( 粗 放 的 な 経 営 が な さ れ て い る 耕 作 地 )の 2 つ の ゾ ー ン か ら 構 成 さ れ て お り ,( 2 ) 地 域 的 な 植 物 群 落 と し て , Diospyros cambodiana-Barringtonia acutangula 群 落 ( 典 型 亜 群 落 , Merremia hederacea 亜 群 落 ), Cardiospermum halicacabum-Ficus heterophylla 群 落 , Hiptage triacantha-Morinda persicaefolia 群 落( Acacia thailandica 亜 群 落 ,典 型 亜 群 落 , Melochia corchorifolia 亜 群 落 ), Mollugo oppositifolia-Paspalum scrobiculatum 群落の 4 群落(下位区分として 5 亜群落)が類型化された。各植生群落は, 林 相 に よ っ て Disturbed woodland ゾ ー ン に 分 布 す る Closed forest,Open forest, Scrub お よ び Extensive cropland ゾ ー ン に 分 布 す る Tall-shrub, Shrub, Fallow field, Cultivated field と い っ た 7 型 の 植 生 タ イ プ に 対 応 し て お り , そ れ ぞ れ の 特 徴 は Table 6-1 の よ う に ま と め ら れ た 。 Disturbed woodland ゾ ー ン で は , - 150 - - 151 - 特 徴 Sub-communities 長 高 Typical subcommunity 弱 Sub-community of Merremia hederacea Diospyros cambodiana-Barringtonia acutangula -community Communities Open forest Closed forest Scrub Cardiospermum halicacabum-Ficus heterophylla -community Disturbed woodland Vegetation types Vegetation zones Table 6-1. 各植生タイプの特徴. Shrub Fallow field Typical subcommunity 人為的攪乱の程度 冠 水 期 間 植 生 高 Sub-community of Acacia thailandica Sub-community of Melochia corchorifolia Hiptage triacantha-Morinda persicaefolia -community Tall-shrub Extensive cropland 強 短 低 Mollugo oppositifoliaPaspalum scrobiculatum community Cultivated field 短 い 干 出 期 の 間 に 地 域 住 民 が 薪 に 用 い る 木 材 を 採 取 す る こ と に 加 え ,冠 水 期 には船上から湖面上に張り出した枝を伐採することよる人為的攪乱が生じ て い た 。 こ の Disturbed woodland ゾ ー ン で は , む し ろ 季 節 的 な 水 位 変 動 が 強 く 関 与 し , 耐 冠 水 性 樹 種 の 生 育 を 確 認 で き た 。 Closed forest は 7 月 下 旬 か ら 2 月上旬のおよそ 6 ヶ月もの間冠水しており,こうした環境条件も構成種が 限定される一因と推察された。もう一方の人為的攪乱の影響を強く受けた Extensive cropland ゾ ー ン 内 で 見 出 さ れ た 4 つ の 植 生 タ イ プ は ,必 ず し も 帯 状 に 分 布 し て い る の で は な く ,土 地 利 用 形 態 に 応 じ て モ ザ イ ク 状 に 分 布 し て い るとみなされた。 こ れ ら の 植 生 タ イ プ の 相 観 や 分 布 ,種 組 成 ,植 物 種 多 様 性 に は ,冠 水 期 間 や 冠 水 深 度 お よ び 人 為 的 攪 乱 の 程 度 が 強 く 関 与 し て い る 実 態 が 判 明 し た 。ト ン レ サ ッ プ 湖 の 氾 濫 原 で は ,季 節 的 な 水 位 変 動 と い う 自 然 攪 乱 と 開 墾 や 択 伐 , 火入れといった人為的攪乱の 2 つの攪乱体制が植生構造に影響を及ぼして い る 。季 節 的 な 水 位 変 動 は ,最 低 水 位 期 の 湖 岸 線 か ら の 距 離 に 応 じ て 冠 水 と 乾 燥 の 期 間 に 勾 配 を 生 み 出 し ,ま た 人 為 的 攪 乱 の 程 度 も 規 制 し て い る 。現 在 の 代 償 植 生 景 観 は ,こ の 自 然 攪 乱 と 人 為 的 攪 乱 が 組 み 合 わ さ り な が ら 継 続 的 に繰り返されることによって形成されていることが示唆された。 6.2.2 氾 濫 原 の 自 己 修 復 メ カ ニ ズ ム 本 研 究 で は ,ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 で 見 出 さ れ た 植 生 タ イ プ の す べ て に 出 現 し , 多 く の 調 査 区 で 優 占 と な っ た サ ガ リ バ ナ 科 の Barringtonia acutangula の更新特性に焦点を当て,氾濫原の自己修復メカニズムを明らかにした。 Barringtonia acutangula の 更 新 特 性 に つ い て は 以 下 の こ と が 明 ら か に な っ た 。 ( 1)氾 濫 原 植 生 の 林 分 構 造 に つ い て ,Barringtonia acutangula は ,氾 濫 原 の 自 然 植 生 全 体 に わ た っ て 圧 倒 的 に 優 占 し て い た 。と く に 人 為 的 攪 乱( 開 墾 や 伐 採 ) に さ ら さ れ る 植 生 タ イ プ に お い て Barringtonia acutangula が 卓 越 し て い る こ と が 確 認 さ れ た こ と は ,こ の 種 が 長 期 間 の 冠 水 の み な ら ず 人 為 的 攪 乱に対して優れた適応力を有することを裏付ける結果となった。 ( 2) 開 花 か ら 実 生 が 定 着 す る ま で の 種 子 に よ る 更 新 過 程 に つ い て , ① Barringtonia acutangula は 早 い 成 長 段 階 で 開 花 し て い る こ と , ② 氾 濫 原 奥 部 に 位 置 し ,母 樹 密 度 が 低 い 4 つ の 植 生 タ イ プ に お い て も ,日 当 た り の よ い ギャップで定着密度が高いこと,③全体に大形で浮遊性の種子が水位の上 昇・水域の拡大に同調して散布されることが示された。 - 152 - ( 3)萌 芽 更 新 に つ い て ,Barringtonia acutangula が 強 い 人 為 圧 が 加 わ る 環 境 下 に お い て も ,伐 採 後 の 切 り 株 や 脱 落 し た 枝 片 か ら 新 し い シ ュ ー ト を 伸 長 さ せ て ,容 易 に 再 生 す る 能 力 を 有 し て い る こ と が 明 ら か に な っ た 。そ し て そ の 萌 芽 能 力 に よ っ て ,他 種 と 比 較 し て 生 存 率 が 高 い こ と が 示 唆 さ れ た 。し か し ,野 焼 き と い う 伐 採 よ り も 激 し い 人 為 的 攪 乱 を 受 け た 氾 濫 原 内 陸 部 の 立 地 で は ,Mimosa pigra の 実 生 と 萌 芽 に よ る 更 新 能 力 が 勝 り ,本 生 態 系 の キ ー ス ト ー ン 種 で あ る Barringtonia acutangula の 定 着 が 著 し く 阻 害 さ れ て い る こ と が明らかになった。 ( 4)Barringtonia acutangula の 環 境 適 応 戦 略 型 を 考 え る と ,季 節 的 水 位 変 動 に よ っ て 生 じ る 冠 水 お よ び 乾 燥 ス ト レ ス に 加 え ,自 然 攪 乱・人 為 的 攪 乱 も 加 わ る ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 に お い て 優 占 と な る 本 種 は ,ス ト レ ス 耐 性 種 と 攪 乱 依 存 種 の 両 性 質 を 兼 ね 備 え た「 攪 乱 -ス ト レ ス 耐 性 種 」 ( disturbance-stress tolerator) と し て 位 置 づ け ら れ る こ と を 示 唆 し た 。 以 上 の こ と を ま と め る と ,「 攪 乱 - ス ト レ ス 耐 性 種 」 で あ る Barringtonia acutangula が ,種 子 生 産 や 種 子 散 布 ,実 生 定 着 ,萌 芽 更 新 に お い て 優 れ た 能 力 を 有 し て い る こ と が 明 ら か に な っ た 。こ れ に よ り ,冠 水・乾 燥 ス ト レ ス お よ び 自 然 攪 乱・人 為 的 攪 乱 が 大 き く 及 ぶ ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 の 自 己 修 復 に は , Barringtonia acutangula の 適 応 能 力 ・ 再 生 能 力 が き わ め て 有 効 に 寄 与 し ているものと考えた。 6.2.3 氾 濫 原 の 破 壊 メ カ ニ ズ ム 本 研 究 で は ,ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 の 中 で も 人 間 活 動 が 顕 著 に 認 め ら れ る チ ョ ン グ・ク ネ ア ス 地 区 を 対 象 と し て ,季 節 的 な 水 位 変 動 に 応 じ た 地 域 住 民 の 植 物 資 源 利 用 に 関 す る 民 族 生 物 学 的 研 究 を 行 い ,氾 濫 原 の 破 壊 メ カ ニ ズ ム と 植 物 資 源 の 持 続 可 能 性 に つ い て 検 討 し た 。得 ら れ た 結 果 は 以 下 の 通 り で あ る。 ( 1)チ ョ ン グ・ク ネ ア ス 地 区 で 確 認 さ れ る 住 居 形 態 は , 「 水 上 移 動 型 」と 「 陸 上 移 動 型 」,「 陸 上 固 定 型 」 に 類 型 化 で き た 。 ( 2)そ れ ぞ れ 住 居 形 態 は ,暮 ら し の 形 態 に 応 じ て ,植 物 資 源 の 利 用 形 態 , と く に 薪 の 利 用 形 態 が 著 し く 異 な っ て い た 。「 水 上 移 動 型 」 は , 低 水 位 期 と 高水位期ともに1年を通して船に乗りながら氾濫原の湖岸部に生えている 高 木 か ら 薪 を 獲 て お り , 時 に は 遠 出 を し て 大 型 の 薪 を 採 る 。「 陸 上 移 動 型 」 は ,低 水 位 期 に は 細 い 薪 を 氾 濫 原 の 内 陸 部 か ら 採 り ,高 水 位 期 に は 薪 売 り か ら 買 う 。「 陸 上 固 定 型 」 は , 自 分 た ち で 使 う 薪 の ほ か に , 販 売 用 と し て 薪 を - 153 - 採 り に 行 く こ と が 多 く ,低 水 位 期 に は 氾 濫 原 の 内 陸 部 へ 徒 歩 か 自 転 車 に 乗 っ て薪を採りに行き,高水位期には舟を借りて住居近くから薪を採る。 ( 3) 3 つ の 住 居 形 態 に 共 通 し て み ら れ る 傾 向 と し て は , ① ど の 住 居 形 態 で も 生 活 に 必 要 と な る 燃 料 と し て 氾 濫 原 か ら 薪 を 採 っ て い る こ と ,② 薪 以 外 に 氾 濫 原 内 の 植 物 資 源 を 利 用 す る こ と は 少 な く ,薪 炭 以 外 の 用 途 に 関 す る 知 識は乏しいこと,であった。 ( 4) 薪 炭 材 と し て 利 用 さ れ る 植 物 は 数 種 類 あ げ ら れ た が , と く に 注 目 す べ き 樹 種 は , Barringtonia acutangula ( 現 地 名 “Reang” ) と Terminalia cambodiana( “Ta uoa”) で あ っ た 。 前 者 は 「 火 が つ き に く い 上 に 煙 が 多 く 出 る 」な ど の 理 由 で 薪 と し て の 利 用 価 値 が 低 い と さ れ な が ら も ,個 体 数 が 圧 倒 的 に 多 い こ と か ら 高 頻 度 で 利 用 さ れ て い る 。逆 に 後 者 は ,個 体 数 は 少 な い も の の ,「 燃 え や す く 煙 が 少 な い 」 と い う 理 由 で 利 用 価 値 の 高 い 種 と さ れ て お り ,も っ と も 高 価 な 薪 と さ れ て い る 。す な わ ち ,薪 と し て の 利 用 価 値 が 高 い 種 が 選 択 的 に 伐 採 さ れ ,結 果 的 に 利 用 価 値 の 低 い 種 が 多 く 残 さ れ て い る こ と がうかがえた。 ( 5)チ ョ ン グ ・ク ネ ア ス 地 区 に お け る 1 世 帯 あ た り の 平 均 薪 利 用 量 を 割 り 出すと, 「 1 世 帯( 平 均 5.8 人 家 族 )が 利 用 す る 薪 の 量 は ,1 日 あ た り 0.125m 3 」 と な っ た 。 こ れ を 基 に チ ョ ン グ ・ ク ネ ア ス 地 区 全 体 ( 1,514 世 帯 ) が 1 年 間 に 薪 利 用 目 的 で 伐 採 す る 森 林 面 積 は , Closed forestの 24.4ha, Open forestの 63.7ha, Scrubの 211.3ha, Tall-shrubの 309.4ha, Shrubの 739.3haに 相 当 す る ことが示された。 以 上 の 結 果 か ら ,人 為 的 攪 乱 に よ る 氾 濫 原 の 破 壊 の メ カ ニ ズ ム を 考 え る と 次 の よ う に な っ た 。地 域 住 民 は 氾 濫 原 の 植 物 資 源 を 主 に 薪 と し て 利 用 し て お り ,そ の 利 用 形 態 は 冠 水 状 態 と 住 居 形 態( 水 上 移 動 型 ,陸 上 移 動 型 ,陸 上 固 定 型 )に よ っ て 異 な っ て い る 。低 水 位 期( 1∼ 6 月 )に は ,3 タ イ プ は 離 れ て 生 活 す る た め , 薪 を 収 集 す る 場 所 は バ ラ つ く が , 高 水 位 期 ( 7∼ 12 月 ) に な る と ,3 タ イ プ は 内 陸 側 に 密 集 す る よ う に な る た め ,薪 を 収 集 す る 場 所 が 氾 濫 原 の 内 陸 側 に 集 中 す る 。す な わ ち ,人 為 的 攪 乱 は ,一 義 的 に 季 節 的 水 位 変 動 に 規 定 さ れ な が ら ,日 常 生 活 が よ り 広 範 に 展 開 さ れ て い る 氾 濫 原 の 内 陸 部 ほ ど ,撹 乱 の 内 容 が 多 様 と な り ,強 度 と 頻 度 が 増 し て い る 。し た が っ て ,も っ と も 強 い 人 為 的 攪 乱 が 氾 濫 原 に 及 ぼ さ れ る 時 期 は ,氾 濫 原 が 冠 水 し て お ら ず 植 物 資 源 が 利 用 で き る 状 態 に あ り ,か つ 3 タ イ プ が 集 中 す る 期 間( お よ そ 1 月 中 旬 と 7 月 下 旬 )と な る 。逆 に ,湖 岸 側 前 線 域 の 氾 濫 原 は ,低 水 位 期 の 1 月下旬から 6 月下旬に水上移動型と陸上移動型の一部の地域住民が侵入す る 程 度 で あ る た め ,植 物 資 源 の 利 用 が 制 限 さ れ て 強 い 人 為 的 攪 乱 は 受 け に く - 154 - い 立 地 条 件 に あ る 。こ の よ う に ,季 節 的 な 水 位 変 動 と 地 域 住 民 の 住 居 形 態 に 応 じ た 植 物 資 源 の 利 用 形 態 に よ っ て ,氾 濫 原 の 内 陸 側 に 強 い 人 為 圧 が 加 わ り な が ら ,氾 濫 原 の 植 物 資 源 が 減 衰 し て い く こ と が 示 唆 さ れ た 。氾 濫 原 の 現 存 植 生 は ,こ う し た 破 壊 の メ カ ニ ズ ム が 繰 り 返 さ れ る こ と に よ っ て 成 立 し た も のであると考えた。 6.3 ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 生 態 系 の 価 値 ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 の 価 値 は ,こ の 地 域 の 生 態 系 機 能 が 人 間 社 会 に 利 益 を も た ら す サ ー ビ ス を 評 価 す る こ と に よ っ て 明 ら か と な る 。本 研 究 の 結 果 と 既 存 の 研 究 を 基 に ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 生 態 系 の 機 能 を ま と め る と Fig. 6-1 のようになる。 ( 1) 「 支 持 サ ー ビ ス 」は ,ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 お よ び そ の 周 辺 の 生 態 系 を 形 成 す る 基 盤 と な る サ ー ビ ス で あ り ,土 壌 生 成 や 栄 養 循 環 ,一 次 生 産 と い った機能があげられる。 供給サービス 調整サービス 文化的サービス 氾濫原生態系から得られ る生産物: ●食料 ●飼料 ●燃料 ●木材・繊維 ●水資源 ●土壌資源 ●遺伝資源 氾濫原生態系プロセスの 調整から得られる恩恵: ●水位調節 ●水質・大気の浄化 ●気候調節 ●土壌肥料の供給 ●資源利用の制限 ●波の緩衝 氾濫原生態系から得られ る物質的ならびに非物質 的な恩恵: ●伝統的生活様式と知識 ●精神的・霊的 ●歴史的遺産 ●レクリエーション ●教育的効果 支持サービス 氾濫原および他生態系サービスを生み出すために必要なサービス: ■ 土壌生成 ■ 栄養循環 ■ 一次生産 出典: Millennium Ecosystem Assessment(2005)を基に加筆 Fig. 6-1. トンレサップ湖氾濫原における生態系サービス. - 155 - ( 2) 「 供 給 サ ー ビ ス 」は ,生 態 系 が 生 産 す る 物 質 で あ る 。こ れ に は 人 間 生 活 に と っ て 重 要 な 以 下 の よ う な 資 源 が 含 ま れ て い る : 魚 類 や 穀 物 ,野 草 と い っ た 食 料 や 家 畜 の 飼 料 ,薪 と し て の 燃 料 ,家 を 建 て た り 工 芸 品 を 生 産 す る た め に 使 わ れ る 木 材・繊 維 ,飲 料 用 や 洗 剤 用 ,農 漁 業 用 と し て の 水 資 源 ,道 路 建設や農業のための土壌資源,医薬品などの可能性を秘めた遺伝資源。 ( 3) 「 調 整 サ ー ビ ス 」は ,氾 濫 原 生 態 系 プ ロ セ ス の 調 整 か ら 得 ら れ る 生 態 系の持続性に関係するサービスである: トンレサップ湖氾濫原の水位調節, 人 間 生 活 に よ っ て 汚 染 さ れ た 水 質 お よ び 大 気 の 浄 化 ,気 候 の 調 整 ,土 壌 肥 料 の 供 給 ,高 水 位 期 の 水 没 が も た ら す 資 源 利 用 の 制 限 ,氾 濫 原 内 に 居 住 地 を 提 供するための浸水林のもつ波の緩衝機能。 ( 4) 「 文 化 的 サ ー ビ ス 」は ,氾 濫 原 生 態 系 か ら 得 ら れ る 物 質 的 な ら び に 非 物質的な恩恵であり,個人や集団の価値観に関係するものが含まれている: 資 源 や 土 地 の 利 用 に 関 す る 伝 統 的 生 活 様 式 と 知 識 ,宗 教 性 と 結 び つ い た 聖 域 や タ ブ ー と い っ た 精 神 的・霊 的 な 世 界 観 ,ア ン コ ー ル 王 朝 時 代 か ら 恩 恵 を 受 け て き た 歴 史 的 遺 産 ,そ の 土 地 で の 遊 び や 観 光 な ど を 含 む レ ク リ エ ー シ ョ ン , 地域独自の生態系機能がもたらす教育的効果。 以 上 の よ う に ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 の 生 態 系 サ ー ビ ス に は ,経 済 的 価 値 を もつもの以外にも生物資源として経済的には評価の難しいものが含まれる。 ま た ,現 時 点 で は 発 見 さ れ て い な い 有 用 な 資 源 が 埋 も れ て い る 可 能 性 も あ る た め ,そ の 可 能 性 を 失 わ な い よ う に 生 態 系 の 機 能 を コ ン ト ロ ー ル し て 生 物 多 様 性 を 維 持 し て い く 必 要 が あ る 。今 後 は ,こ れ ら の 生 態 系 サ ー ビ ス を 経 年 的 に 把 握 し ,サ ー ビ ス の 機 能 が ど の よ う に 変 化( 向 上 ま た は 低 下 )す る か を モ ニ タ リ ン グ し て い き ,そ の 時 代 の 生 活 様 式 に 適 し た 環 境 マ ネ ジ メ ン ト を 検 討 すること肝要であると考える。 6.4 季 節 的 な 水 位 変 動 の 役 割 ト ン レ サ ッ プ 湖 は ,最 高 水 位 期 の 水 域 面 積 が 最 低 水 位 期 の 5 倍 以 上 に も 膨 れ 上 が る 湖 で あ る 。こ の 季 節 的 な 水 位 変 動 が ,氾 濫 原 に 広 大 な エ コ ト ー ン を 生み出し,氾濫原全体に多様なハビタットを形成している。エコトーンは, 水 域 と 陸 域 の 生 態 系 が 交 錯 す る 領 域 で あ り ,土 壌 の 水 分 や 温 度 ,湿 度 ,冠 水 頻 度 が 連 続 的 に 変 化 す る 空 間 的 な 変 化 の 場 と し て の み な ら ず ,時 間 的 に も 多 様に変化する場として捉えることができる。 冠水状態にあるとき,植物は無酸素状態に応答して葉を落とし休眠する。 - 156 - こ れ は 植 物 に と っ て 一 種 の 環 境 負 荷 と 考 え る こ と が で き る 。こ の と き 自 然 領 域 内 に み ら れ る 移 行 帯 は 一 次 的 エ コ ト ー ン と み な さ れ る 。反 対 に ,人 間 活 動 に よ っ て 環 境 に 影 響 を 及 ぼ す 移 行 帯 は 二 次 的 エ コ ト ー ン と さ れ る 。二 次 的 エ コ ト ー ン で は ,季 節 変 化 に 応 じ て 出 現 す る 生 物 を ヒ ト が さ ま ざ ま な 形 で 利 用 し て い る 。例 え ば ,低 水 位 期 の は じ ま り か ら 耕 作 を 開 始 し た り ,水 位 変 動 を 利 用 し て 薪 取 り な ど の 生 業 を 行 う こ と は ,氾 濫 原 生 態 系 に 負 荷 を 及 ぼ す こ と になる。 氾 濫 原 に お い て ,地 域 住 民 は 植 物 資 源 の 獲 得 と 農 耕 の 併 用 と い っ た 一 次 的 エコトーンと二次的エコトーンをうまく組み合わせた生業複合を行ってき た 。農 耕 地 の 創 出 は ,人 間 の 営 為 に よ っ て 作 ら れ る 新 し い 環 境 ,新 し い 自 然 の 創 出 を 可 能 に す る 。し か し ,自 然 を 過 度 に 改 変 し て し ま う と ,一 次 的 エ コ ト ー ン と 二 次 的 エ コ ト ー ン の 調 和 を 壊 し ,多 様 性 を は ぐ く む エ コ ト ー ン の 特 質 を 失 う こ と に な り ,氾 濫 原 の 植 物 資 源 を 貧 弱 な も の に し て し ま う 。実 際 に , ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 で は ,長 年 に わ た る 開 墾 と 近 年 の 都 市 化 に よ っ て 植 生 や 地 形 ,土 壌 ,水 質 が 変 化 す る こ と で ,エ コ ト ー ン が 変 容 し て き て い る よ う に み え る 。す な わ ち ,二 次 的 エ コ ト ー ン を 生 み 出 す 人 為 的 攪 乱 を コ ミ ュ ニ テ ィ 内 で 制 限 で き な く な っ た 結 果 ,氾 濫 原 の と く に 内 陸 側 に お い て ,氾 濫 原 生 態系の自己修復能力を超えた植物資源利用がなされているようになってき ている。 こ れ に 対 し て ,季 節 的 な 水 位 変 動 は ,攪 乱 の 一 種 で は あ る が 環 境 に 対 し て 負 の 影 響 を 与 え ず ,む し ろ ,水 位 変 動 が 地 域 住 民 に よ る 植 物 資 源 利 用 を 制 限 し て お り ,氾 濫 原 に お け る 植 物 資 源 の 枯 渇 を 防 ぐ の に 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る こ と が 示 唆 さ れ る 。こ の こ と は ,最 低 水 位 期 の 湖 岸 線 に 近 づ く に つ れ て , 人 為 的 攪 乱 の 強 度 と 程 度 が 小 さ く な っ て い る こ と か ら も 裏 付 け ら れ る( 第 5 章 参 照 )。 季 節 的 な 水 位 変 動 は 氾 濫 原 に 生 息 す る 生 物 に と っ て 不 可 欠 な 事 象 で あ り ,そ れ に よ っ て 生 じ る 空 間 的・時 間 的 に 多 様 な 一 次 的 エ コ ト ー ン が 生 物 の 生 命 を 支 え ら れ て い る こ と に な る 。そ し て ,前 節 で 述 べ た 生 態 系 サ ー ビ スもまた,水位変動が起こるからこそもたらされるものであると考える。 ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 内 に は ,ラ ム サ ー ル 条 約 に よ っ て す で に 自 然 保 護 区 に指定されている地域やコミュニティフォレストとして住民主体で氾濫原 生 態 系 が 維 持 さ れ て い る 地 域 も あ る 。し か し ,本 研 究 の 事 例 で 示 さ れ た 人 口 増 加 や 観 光 振 興 に よ る 氾 濫 原 の 劣 化 が 懸 念 さ れ る よ う な 地 域 で は ,植 物 資 源 の 利 用 に 関 す る 政 策 は ほ と ん ど 機 能 し て い な い 。こ う し た 状 況 に あ っ て ,氾 濫 原 の 植 物 資 源 を 持 続 的 に 利 用 す る た め に は ,熱 帯 湖 岸 生 態 系 と 地 域 社 会 の 関 係 を 読 み 解 き な が ら 順 応 的 管 理 ( Adaptive management; Walters, 1986) を - 157 - 提 案 す る こ と が 求 め ら れ る 。そ の た め に は ,国 際 河 川 で あ る メ コ ン 河 の 流 域 か ら 環 境 を 保 全 し つ つ ,ト ン レ サ ッ プ 湖 に 及 ぼ す 季 節 的 な 水 位 変 動 を 永 続 さ せることが,氾濫原植物資源の枯渇を防ぐ上で不可欠な条件となる。 6.5 イ ン ベ ン ト リ ー 研 究 の 効 果 本 研 究 で は ,熱 帯 氾 濫 原 に お け る 植 物 資 源 の 持 続 的 マ ネ ジ メ ン ト に 向 け た 取り組みとして,国際協力によるインベントリー調査を試みた。本節では, 本 研 究 で 実 施 さ れ た 植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ ー 研 究 の 流 れ と そ の 成 果 を Fig. 6-2 に 示 し , そ の 成 果 に つ い て 考 察 す る 。 本 研 究 に お け る 植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ ー 研 究 で は ,ま ず ,熱 帯 氾 濫 原 の 植 物 資 源 に 関 す る 植 物 生 態 学 的・民 族 植 物 学 的 ア プ ロ ー チ に よ る イ ン ベ ン ト リ ー 調 査 を 行 っ て い る 。そ れ に よ り 得 ら れ た 植 物 標 本 や 植 物 資 源 に 関 す る 文 献 を 収 集 し ,そ れ ら の ア ナ ロ グ 情 報 を 整 理 し て い る 。同 時 に ,イ ン ベ ン ト リ ー 調 査 に よ っ て 得 ら れ た 植 生 や 種 の 生 態 的 特 性 に 関 す る 定 性 的・定 量 的 な デ ー タ に つ い て も 整 理 し て い る 。そ う し て 得 ら れ た 情 報 は ,デ ジ タ ル 情 報 と し て デ ー タ ベ ー ス 化 さ れ て 公 開 さ れ る 。ま た ,イ ン ベ ン ト リ ー 調 査 に よ っ て 得 ら れ た 植 物 標 本 や 文 献 に つ い て は ,研 究 報 告 の 証 根 拠 と し て 保 管 さ れ ,一 般 に も 公 開 さ れ る 。そ し て ,イ ン ベ ン ト リ ー 調 査 を 実 施 し た 調 査 体 制 や 調 査 項 目 , 研 究 成 果 に つ い て も 報 告 書 や イ ン タ ー ネ ッ ト を 通 し て 公 開 さ れ る 。こ れ ら の 一連の作業は,すべて現地研究者との協働によって行われている。 こうして構築された植物資源インベントリー研究に期待される成果は, ( 1) 地 域 の 植 物 資 源 の 解 明 と そ れ に 関 す る 情 報 の 効 果 的 利 用 ,( 2) 得 ら れ たデータを基にした持続可能な社会開発への展開, ( 3)発 展 途 上 国 研 究 者 の 技 術 向 上 ,な ど が あ げ ら れ る 。そ し て ,こ の 取 り 組 み が 国 境 や 専 門 の 枠 を 超 え て 波 及 的 に 浸 透 し て い く こ と に よ っ て ,熱 帯 氾 濫 原 に 分 布 す る 植 物 資 源 の 保 全 に つ な が る も の と 考 え る 。ま た ,前 節 で 述 べ た と お り ,氾 濫 原 生 態 系 は , さまざまなエコトーンと人為的影響のもとに混沌と成立した生態系として, 生 物 多 様 性 お よ び 景 観 多 様 性 に 富 ん だ 自 然 環 境 で あ る 。こ の よ う な 狭 い 地 域 内 で 種 組 成 の 差 異 が 著 し い 熱 帯 氾 濫 原 に お い て ,こ の 地 域 の 植 物 資 源 の 適 切 な 保 全 と 活 用 を め ざ す に は ,本 研 究 の イ ン ベ ン ト リ ー に よ る 詳 細 な デ ー タ の 蓄 積 と 定 性 的・定 量 的 手 法 に よ る 解 析 ,お よ び 得 ら れ た 情 報 の 効 果 的 利 用 が 大変有用であると考える。 - 158 - 国際協力による 現地研究者との協働 インベントリー調査 熱帯氾濫原植物資源に 関する植物生態学的・ 民族植物学的 アプローチによる調査 調査体制 収 集 標本・文献 定 量 デ ー タ 調査項目 インベントリー調査 によって得られた 植物標本と文献の収集 拠 ・証 物 実 公 開 植物資源インベントリー 調査の成果を公開 植物資源の解明と 情報の効果的利用 アナログ情報 情報整理 デジタル情報 インベントリー調査によって 得られた植物資源に 関する情報の整理 持続可能な 社会開発への展開 発展途上国研究者 の技術向上 熱帯氾濫原生態系の持続的マネジメントの提示 Fig. 6-2. 植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ ー 研 究 の 流 れ と そ の 成 果 . - 159 - 6.6 本 研 究 の 貢 献 ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 地 域 は Hotspot( Myers et al., 2000)に 指 定 さ れ て い る 。し か し ,発 展 途 上 国 で あ る こ と や 永 い 戦 乱 の 影 響 に よ っ て ,生 物 多 様 性 維 持 機 構 の 解 明 が 遅 れ て い る 地 域 で あ る 。本 研 究 に よ る 植 物 生 態 学 的・民 族 植 物 学 的 研 究 は ,解 明 が 遅 れ て い る 熱 帯 植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ ー に 関 し て 有 用 な 情 報 を 与 え る こ と に な る 。と く に ,社 会・経 済 構 造 の 急 速 な 変 化 の 影 響 を 受 け て 自 然 環 境 の 劣 化 が 顕 著 に み ら れ る 本 調 査 地 に お い て ,自 然 再 生 の 指 標 と な る 現 存 植 生 を 把 握 し ,氾 濫 原 生 態 系 の 自 己 修 復 メ カ ニ ズ ム と 植 物 資 源 利 用 に よ る 破 壊 メ カ ニ ズ ム を 解 明 し た 意 義 は 大 き い 。そ し て ,本 研 究 の 成 果 は ,生 態 系 の 劣 化 に 歯 止 め を か け ,よ り 具 体 的 な 氾 濫 原 生 態 系 マ ネ ジ メ ン ト の 戦 略 を 導 き 出 す 上 で ,有 効 な 指 針 を 提 供 す る こ と に 寄 与 す る も の と 考 え る 。 6.7 残 さ れ た 研 究 課 題 最 近 の 研 究 に よ っ て ,ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 の 植 物 に 関 す る い く つ か の 報 告 が あ る (e.g., McDonald et al., 1997; CNMC/NEDECO, 1998; Dy phon, 2000; Kham, 2004)。 し か し , ト ン レ サ ッ プ 湖 に 関 わ る , 植 生 遷 移 や 冠 水 に 対 す る 生 理 学 ,既 存 す る 植 物 の 開 花 や 種 子 散 布 の タ イ ミ ン グ や ,ポ リ ネ ー タ ー と の 関 係 な ど の フ ェ ノ ロ ジ ー ,外 来 種 の 駆 除・防 除 方 法 の 確 立 な ど に 関 す る 学 術 的 な 知 見 は き わ め て 乏 し い 。例 え ば ,植 生 遷 移 は ,時 間 の 経 過 と と も に 起 こ り ,構 成 種 の 相 互 作 用( biological interaction)が 種 組 成 に 変 化 を 及 ぼ す こ と に よ っ て 生 じ る 現 象 で あ る 。遷 移 の 機 構 を よ り 深 く 探 る た め に は ,ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 の 優 占 種 で あ る Barringtonia acutangula の 生 態 的 特 性 を 明 ら か に す る こ と が 必 要 と な る 。そ し て ,そ の 基 礎 情 報 を 根 拠 に し て よ り 詳 細 な 遷 移 の 予 測 が 可 能 に な る と い え る だ ろ う 。 さ ら に , Barringtonia acutangula は ど の 調 査 地 点 で も 優 占 と な り ,強 い 人 為 的 攪 乱 を 受 け て い る 耕 作 地 や 放 棄 耕 作 地 で も ,萌 芽 や ち ぎ れ た 枝 ,種 子 な ど か ら の さ ま ざ ま な 方 法 に よ っ て 更 新 し て い る こ と が 確 認 さ れ て い る 。 そ の よ う な Barringtonia acutangula の 旺 盛 な 回 復 力 を 考 慮 す る と , も と も と は Barringtonia acutangula が 優 勢 と な っ た 植 生 が 氾 濫 原 一 帯 を 覆 っ て い た こ と が 推 察 さ れ る 。こ う し た 仮 説 を 証 明 す る た め に は ,こ の 種 の 更 新 特 性 を さ ら に 詳 細 に 明 ら か に す る こ と が 次 の 課 題 で あ る 。氾 濫 原 の 現 状 と そ こ に 生 育 す る 植 物 の 生 態 学 的 特 性 は ,氾 濫 原 の 植 物 資源を持続的にマネジメントするために科学的に解明されなければならな - 160 - い 。ま た ,熱 帯 ア ジ ア に は 泥 炭 湿 地 が 現 在 で も 多 く 残 さ れ て お り ,他 の 熱 帯 湿 地 の 生 態 系 の 生 態 学 的 調 査 研 究 を 進 め る こ と に よ っ て ,熱 帯 氾 濫 原 の 生 態 系の特性を明らかにすることができる。 一 方 で ,カ ン ボ ジ ア の 森 林 利 用 に 関 す る 新 し い 法 律 1 が 2002 年 に 制 定 さ れ た が , 保 全 地 域 内 で の 違 法 伐 採 は 今 も な お 行 わ れ て い る ( Sarah, 2004)。 今 や ,カ ン ボ ジ ア の 将 来 の た め に 持 続 可 能 な マ ネ ジ メ ン ト 戦 略 の 草 案 は 急 務 で あ り ,そ の た め の 植 物 資 源 保 全 戦 略 は ,ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 の 季 節 的 な 水 位 変 動 を 考 慮 に 入 れ な が ら 現 存 す る 天 然 資 源 を も と に し て ,漁 業 や 農 業 ,そ の他の土地利用が無理なく継続的に繰り返されるようなものでなければな ら な い 。そ の た め に も ,氾 濫 原 の 中 心 樹 木 で あ り ,地 域 の 人 々 に と っ て 主 要 な 資 源 で も あ る Barringtonia acutangulaを 主 体 と し た 氾 濫 原 生 態 系 の 持 続 的 マ ネ ジ メ ン ト に 関 す る 政 策 に ,本 研 究 の 成 果 を ど う 反 映 さ せ て い く が ,残 さ れた大きな課題であると考えている。 ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 と い う ,自 然 攪 乱 お よ び 人 為 的 攪 乱 が 繰 り 返 さ れ て い る 熱 帯 湖 岸 生 態 系 に お い て ,植 物 資 源 を 持 続 的 に マ ネ ジ メ ン ト す る 取 り 組 み は ま だ 始 ま っ た ば か り で あ る 。今 後 は ,生 態 学 的 デ ー タ・民 俗 学 的 デ ー タ の さ ら な る 蓄 積 に 努 め ,生 態 系 サ ー ビ ス と 環 境 に 及 ぼ す 負 荷 の 経 年 変 化 を 連 続 的 に モ ニ タ リ ン グ し な が ら ,よ り 具 体 的 な マ ネ ジ メ ン ト 手 法 を 提 示 す る こ とが求められてくる。 1 こ の 法 律 の 目 的 は ,「 現 世 代 と 次 世 代 の た め に ,生 物 多 様 性 を 保 全 す る こ と を 含 めて社会経済と環境利益のための持続可能な森林マネジメントをめざすこと」で ある。 - 161 - 引 用 文 献 ADB(Asian Development Bank). 2005. 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Trees: Structure and function. 336 pp. Springer Verlag, Berlin, Heidelberg, New York. - 176 - APPENDIX 1 熱帯植物資源の持続的マネジメント に関する国際協力プロジェクト −カンボジアとグァテマラにおける事例− 1 はじめに 発 展 途 上 国 は ,資 金 や 人 材 が 不 足 し て い る こ と か ら 生 物 資 源 の 持 続 的 な マ ネ ジ メ ン ト に 関 し て 独 自 に 取 り 組 む こ と は 難 し く ,多 く の 場 合 ,国 際 的 な 支 援 に よ っ て 行 わ れ て い る 。発 展 途 上 国 の 生 物 資 源 に 対 す る 国 際 的 な 取 り 組 み は , 1992 年 の 地 球 サ ミ ッ ト ( UNCED) で 提 唱 さ れ た 「 生 物 多 様 性 条 約 」 を 契 機 と し て い る 。こ の 条 約 は ,当 初 は 各 分 野 の 既 存 条 約 を 包 括 す る た め の 枠 組 み 条 約 と し て 検 討 さ れ た が ,内 容 は 次 第 に 広 範 囲 と な り ,生 物 資 源 の 持 続 可能な利用のほか,生育域内保全と生育域外保全 1 ,遺伝子資源やバイオテ ク ノ ロ ジ ー を 含 む 関 連 技 術 へ の ア ク セ ス ,こ れ ら の 技 術 か ら も た ら さ れ た 利 益 の 還 元 ,遺 伝 子 改 変 生 物 の 取 り 扱 い な ど が 含 ま れ る こ と と な っ た( Glowka et al., 1994; Koester, 1997)。 生 物 多 様 性 は , 人 類 の 生 存 を 支 え , 人 類 に 様 々 な 恵 み を も た ら す も の と し て ,そ れ を 保 全 す る こ と は 世 界 全 体 で 取 り 組 む べ き 重 要 な 課 題 と さ れ て い る 。そ う し た 背 景 を 受 け て ,経 済 的・技 術 的 な 理 由 に よ っ て ,生 物 多 様 性 の 保 全 と 生 物 資 源 の 持 続 可 能 な 利 用 の た め の 取 り 組 み が遅れている発展途上国に対する国際協力が進められている。 本 章 で は ,生 物 資 源 の 持 続 可 能 性 に 関 す る 国 際 協 力 の 経 緯 を 把 握 し ,筆 者 自身が参画してきたカンボジアとグァテマラにおける国際協力プロジェク ト を 事 例 と し て 取 り 上 げ ,熱 帯 植 物 資 源 に か か わ る 国 際 協 力 の 実 態 を 報 告 し ながらその効果と課題について考察する。 2 国際協力の経緯 2.1 対 外 援 助 の は じ ま り ( 1940∼ 1950 年 代 ) 対 外 援 助 の 起 源 を 正 確 に 把 握 す る こ と は 難 し い が ,Browne( 1990)は 1940 年代の戦後にみられる 3 つの出来事が援助の始まりを示す重要な証左を明 ら か に し て い る と 述 べ て い る : ( 1) 第 二 次 世 界 大 戦 中 に 国 際 連 合 や そ の 姉 1 「 生 育 域 内 保 全( in-situ conservation)」は ,自 然 状 態 で 多 様 性 を 保 全 す る こ と で あ り , そ の た め の 保 護 区 の 設 定 管 理 な ど が 要 請 さ れ る 。「 生 育 域 外 保 全 ( ex-situ conservation)」は ,人 間 の 管 理 下 な ど で 多 様 性 を 保 全 す る こ と で ,動 物 園 な ど で の 保 全 お よ び 種 子 , 卵 精 子 や DNA遺 伝 子 レ ベ ル で の 保 存 な ど と い っ た ジ ー ン バ ン ク での保全が含まれる。なお,条約では,品種改良作物の農耕地(生育域内)での 保全およびシード(種子)バンク(生育域外)での保全なども含んでいるが,本 稿では野生植物および生態系を対象とする。 - 177 - 妹 機 関 が 誕 生 し ,こ れ が 後 の 多 国 間 援 助 の 基 盤 と な っ た 。 ( 2)米 国 と ソ 連 の 東 西 対 立 が 国 際 関 係 を 規 定 し ,二 国 間 援 助 方 式 を 生 ん だ 。 ( 3)植 民 地 が 独 立 へ の 動 き を 見 せ ,こ れ ら の 国 が 援 助 を 受 け 入 れ る 対 生 を 整 備 し は じ め た 。こ れ ら を き っ か け に し て 発 展 途 上 国 へ も 目 が 向 け ら れ る よ う に な り , 1950 年 代には米国とソ連が中心となって関係の深い国に対して二国間援助がはじ ま っ た が ,当 時 の 援 助 は 実 際 の 開 発 に 役 立 つ 支 援 は ほ と ん ど な く ,戦 略 的 か つイデオロギー的なもの,新植民地主義的な性格をもつものが多かった。 2.2 国 際 協 力 の 広 が り ( 1960∼ 1970 年 代 ) 1960 年 代 に 入 る と , 東 西 対 立 の 緊 張 が 緩 和 さ れ て 徐 々 に 平 和 共 存 の 思 想 が 広 ま る よ う に な っ た 。こ の と き ,英 国 の 外 交 官 で あ っ た サ ッ チ ャ ー・オ リ バ ー・フ ラ ン ク ス は ,東 西 対 立 に 加 え て「 南 北 問 題 」と い う 座 標 軸 の 重 要 性 を 提 唱 し ,発 展 途 上 国 に 対 す る 援 助 の 責 務 が 認 識 さ れ 始 め た 。こ れ を 受 け て , イ ギ リ ス や フ ラ ン ス ,オ ラ ン ダ な ど の 植 民 地 に 対 し 責 任 の あ っ た 国 々 が ,発 展 途 上 国 の 自 助 努 力 形 成 を 目 的 と し た 支 援 を 積 極 的 に 行 う よ う に な っ た 。60 年 代 半 ば ま で ,日 本 は 依 然 と し て 世 界 銀 行 か ら の 最 大 の 借 手 で あ っ た が ,東 ア ジ ア に 対 す る コ ン セ ッ シ ョ ナ ル な 貸 付 を 中 心 と し て ,次 第 に 大 き な 援 助 国 に な っ た 。 こ う し て 60 年 代 は 援 助 の 基 盤 づ く り の 時 代 と な っ た 。 し か し , 同 時 に 援 助 に 対 す る 疑 念 が 生 じ ,援 助 規 模 が 縮 小 し た 時 期 で も あ っ た 。こ う し た 傾 向 に 対 し , 政 治 家 と 開 発 の 専 門 家 が ピ ア ソ ン 委 員 会 を 作 り , 60 年 代 の 終 わ り に 「 援 助 の 危 機 」 に 関 す る 報 告 書 (「 ピ ア ソ ン 報 告 書 」) を 発 表 し , 援助供与国に援助の質と量の両面にわたる改善努力を払うよう勧告した。 1970 年 代 は , 援 助 の 必 要 性 だ け で は な く , そ の 結 果 に つ い て も 現 実 的 な 視 点 が 求 め ら れ る 時 代 と な っ た 。当 時 の 発 展 途 上 国 は ,そ れ ま で 締 め 付 け が 強 か っ た 国 際 貿 易 体 制 の 根 本 的 な 変 革 を 主 張 す る よ う に な り ,石 油 危 機 を き っ か け に ,天 然 資 源 に つ い て の 主 権 を 国 際 資 本 か ら 奪 い 返 し て そ れ を 武 器 に 経 済 的 自 立 を 達 成 し よ う と す る「 資 源 ナ シ ョ ナ リ ズ ム 」と 公 平 な 国 際 貿 易 を 目 的 と し た「 主 権 の 平 等 」を 獲 得 し た 。一 方 で ,先 進 国 の 間 で は ,援 助 に よ り経済が成長しても所得格差が拡大して貧困問題の悪化が進んでいる批判 を 受 け て ,こ の 問 題 の 解 決 が 重 要 な 政 策 課 題 と し て 浮 か び 上 が っ て き た 。こ の 解 決 法 と し て ,人 間 と し て 最 低 限 必 要 な 食 料 や 栄 養 ,そ し て 基 本 的 な 社 会 サ ー ビ ス( 医 療 ,保 健 ,衛 生 ,初 等 教 育 な ど )を 供 与 し よ う と す る「 ベ ー シ ッ ク ・ ニ ュ ー マ ン ・ ニ ー ズ ( BHN)」 の ア プ ロ ー チ が 新 た に 登 場 し た 。 - 178 - 2.3 グ ロ ー バ ル イ シ ュ ー へ の 取 り 組 み ( 1980 年 代 ) 1980 年 代 に 入 る と , そ れ ま で 援 助 を 受 け て き た 発 展 途 上 国 の マ ク ロ 経 済 が 急 激 に 悪 化 し た 。原 因 は ,発 展 途 上 国 に お け る 過 剰 な 規 制 と 政 府 介 入 の 存 在 に よ る 経 済 政 策 の 失 敗 で あ っ た 。こ の 危 機 に 対 し て ,世 界 銀 行 は 資 金 援 助 の 条 件 と し て 市 場 原 理 を 尊 重 す る 経 済 政 策 の 導 入 を 発 展 途 上 国 に 求 め る「 構 造調整アプローチ 2 」を実施した。これにより発展途上国政府は,緊縮的な 財 政 金 融 政 策 を 採 用 す る と と も に ,規 制 緩 和 ,自 由 化 ,民 営 化 な ど の 具 体 的 な 改 革 プ ロ グ ラ ム を 作 成 す る よ う に な っ た 。一 方 で 先 進 国 側 で は ,東 西 対 立 が 次 第 に 解 消 の 方 向 に 進 む と と も に 軍 縮 が 進 展 す る よ う に な り ,地 球 規 模 の 問 題( グ ロ ー バ ル イ シ ュ ー )に 対 す る 国 際 協 力 の 必 要 性 が 議 論 さ れ る よ う に な っ て き た 。グ ロ ー バ ル イ シ ュ ー と し て は ,地 球 環 境 問 題 や 貧 困 ,人 口 増 加 , ジ ェ ン ダ ー ,教 育 ,感 染 症 ,難 民 ,市 場 経 済 な ど が 挙 げ ら れ ,ま ず 大 き く 取 り 上 げ ら れ た の は 地 球 環 境 で あ っ た 。地 球 環 境 問 題 の 起 こ り を み る と ,1972 年 に ロ ー マ ・ ク ラ ブ が「 成 長 の 限 界 」( Meadow et al., 1972)と い う 報 告 書 の な か で ,「 資 源 を 浪 費 し 続 け る な ら ば 人 類 の 生 存 す ら 危 う く な る 」 こ と を 強 く 警 告 し て 国 際 的 関 心 を 集 め た こ と が 発 端 と さ れ て い る 。そ し て 同 年 に 国 連 の 環 境 問 題 を 担 当 す る 専 門 機 関 と し て 国 連 環 境 計 画 ( UNEP: United Nations Environment Programme) が 設 立 さ れ た 。 そ の 後 , 1983 年 に 国 連 総 会 の 決 議 に 基 づ い て 「 ブ ル ン ト ラ ン ト 委 員 会 」( 環 境 と 開 発 に 関 す る 世 界 委 員 会 ) が 設 置 さ れ た 。 1987 年 に 南 極 上 空 の オ ゾ ン ・ ホ ー ル に 代 表 さ れ る 環 境 破 壊 に 対する危機感が広がる中,ブルントラント委員会は「持続可能な開発」 ( sustainable development)の 概 念 を 提 唱 し た 。 「 持 続 可 能 な 開 発 」は , 「将来 の 世 代 が そ の ニ ー ズ を 満 た す 能 力 を 損 な う こ と の な い よ う に ,現 在 の 世 代 の ニ ー ズ を 満 た す よ う な 開 発 」 と い う 形 で 定 義 3 さ れ ( WCED, 1987), こ の 概 2 援助受入国の政策や制度にまで踏み込んだ政府の運営機能の発揮への支援であ り,発展途上国の対内・外不均衡の是正と持続的な成長過程を実現させようとす る 政 策 ( Browne, 1990)。 Please( 1984) は 構 造 調 整 ア プ ロ ー チ に は 以 下 の 3 つ の 概 念 が あ る こ と を 指 摘 し て い る :( 1) 国 内 経 済 の 総 需 要 レ ベ ル を コ ン ト ロ ー ル す る 金 融 プ ロ グ ラ ム 。( 2) 対 外 借 入 。( 3) 輸 入 を 少 な く し , 輸 出 商 品 の 生 産 に 傾 斜 した国民経済にするための構造政策。 3 「 持 続 可 能 な 開 発 」 に は 他 に も い く つ か の 定 義 が あ る 。 例 え ば ,「 持 続 可 能 な 利 用とは,生物多様性の長期的な減少をもたらさない方法および速度で生物学的多 様性の構成要素を利用し,もって,現在および将来の世代の必要および願望を満 たすように生物多様性の可能性を維持することをいう」 ( 生 物 多 様 性 条 約 第 2 条 ), 「持続可能な開発とは,人々の生活支持基盤となっている各生態系の許容能力限 度 内 で 生 活 し つ つ ,そ の 生 活 の 質 的 改 善 を 達 成 す る こ と で あ る 」 ( IUCN/UNEP/WWF, 1991)。 - 179 - 念 は 現 在 の 大 量 生 産・大 量 消 費・大 量 廃 棄 の 経 済 社 会 シ ス テ ム を 見 直 す 動 き のキーワードとなった。 2.4 国 際 協 力 に 対 す る 意 識 の 高 ま り ( 1990 年 代 ) 1990 年 代 に な る と , 発 展 途 上 国 へ の 支 援 に 関 す る 新 し い 戦 略 や ア プ ロ ー チ が 打 ち 出 さ れ た 。 中 で も , UNEP が 1994 年 に 人 間 の 選 択 肢 の 範 囲 を 拡 大 す る プ ロ セ ス と し て 提 唱 し た 「 人 間 の 安 全 保 障 」( human security) の 概 念 , 開 発 援 助 委 員 会( DAC: Development Assistance Committee)が 1996 年 に 人 間 中 心 の 開 発 行 動 計 画 と し て 採 択 し た「 新 開 発 戦 略 」,さ ら に 1999 年 に 世 界 銀 行 が 貧 困 緩 和 と 持 続 可 能 な 開 発 の た め の 枠 組 み と し て 提 案 し た「 包 括 的 開 発 フ レ ー ム ワ ー ク 」( Comprehensive Development Framework) な ど が , と く に 重 要 な 位 置 を 占 め る も の と し て 注 目 さ れ る( 下 村 ほ か , 2001)。そ し て ,発 展 途 上 国 へ の 経 済 援 助 に あ た っ て ま す ま す 重 視 さ れ て き た の は ,環 境 へ の 配 慮 で あ る 。熱 帯 雨 林 の 伐 採 ,酸 性 雨 の 防 止 ,地 球 温 暖 化 ,オ ゾ ン 層 の 破 壊 等 の 問 題 は ,地 球 環 境 全 体 に 関 わ る 問 題 で あ り ,そ れ は 人 類 の 社 会 経 済 生 活 全 体 を 悪 化 さ せ る 可 能 性 の あ る も の で あ る と の 認 識 が 強 ま り ,国 際 的 に 規 制 を 強 め る よ う に な っ た 。こ う し た 背 景 の 下 に ,1992 年 に リ オ デ ジ ャ ネ イ ロ で「 環 境 と 開 発 に 関 す る 国 際 連 合 会 議 」( United Nations Conference on Environment and Development: UNCED(「 地 球 サ ミ ッ ト 」)) が 開 か れ た 。 こ の サ ミ ッ ト の 成 果 と し て ,持 続 可 能 な 開 発 に 向 け た 地 球 規 模 で の 新 た な パ ー ト ナ ー シ ッ プ の 構 築 に 向 け た 「 環 境 と 開 発 に 関 す る リ オ デ ジ ャ ネ イ ロ 宣 言 」( リ オ 宣 言 ) と , こ の 宣 言 の 諸 原 則 を 実 施 す る た め の 行 動 計 画 で あ る 「 ア ジ ェ ン ダ 21」 お よ び「 森 林 原 則 声 明 」が 合 意 さ れ た 。ま た ,別 途 協 議 が 続 け ら れ て い た「 気 候 変 動 枠 組 条 約 」と「 生 物 多 様 性 条 約 」が 提 起 さ れ ,こ の 会 議 の 場 で 署 名 が 開 始 さ れ た 。さ ら に ,環 境 と 開 発 に 関 す る 国 際 連 合 会 議 を 受 け て ,国 際 連 合 の 経 済 社 会 理 事 会 の 下 に 「 持 続 可 能 な 開 発 委 員 会 」 (CSD)が 設 置 さ れ た 。 こ の 会 議 は ,先 進 国 と 発 展 途 上 国 が 基 準 を 同 一 に し て 話 し 合 い ,各 国 の 開 発 に 対 す る 考 え 方 を 統 一 し て「 地 球 環 境 保 全 」に 対 応 し て い く 取 り 決 め が な さ れ た ( 高 島 , 2003) 。 こ う し て , 生 物 資 源 は 人 類 共 有 の 財 産 で あ る と い う 理 念 の 下 に ,発 展 途 上 国 の 生 物 資 源 に 対 す る 国 際 的 調 査 が 行 わ れ る よ う に な っ た 。 2.5 国 際 共 同 に よ る 科 学 研 究 へ 向 け た 取 り 組 み 既 述 し た よ う な 行 政 的 な 国 際 協 力 と 並 行 し て ,全 地 球 規 模 で 生 物 圏 の 実 態 - 180 - を 把 握 し よ う と す る プ ロ ジ ェ ク ト が 進 め ら れ て き た 。そ の は じ ま り は ,人 類 の利益のために科学とその応用分野における国際的活動を推進することを 目 的 と し て , 1931 年 に 設 立 さ れ た 国 際 的 な 非 政 府 組 織 「 国 際 学 術 連 合 」 ( ICSU: International Council for Science) に あ る 。 こ の 活 動 の 目 標 は , 科 学 や 社 会 に お い て 重 要 な 主 要 問 題 の 識 別 と そ れ ら へ の 対 処 ,あ ら ゆ る 分 野 や 国 家 の 科 学 者 間 の 関 係 の 促 進 ,国 際 的 な 科 学 の 目 標 に お け る あ ら ゆ る 科 学 者 の 参 加 の 促 進 ,お よ び 科 学 界 や 政 府 ,市 民 社 会 ,民 間 部 門 の 間 の 建 設 的 な 対 話 を促進するための独立した権威あるアドバイスの提供であった。 そ の 後 ,地 球 上 に お け る 生 物 の 存 在 量 と そ の 生 産 力 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し て ,1960 年 代 に「 国 際 生 物 学 事 業 計 画 」 ( IBP: International Biosphere Programme) が 実 施 さ れ た 。 こ の 計 画 で は 全 世 界 の 研 究 者 が 協 力 し て , 生 物 圏 の 実 態( 生 物 量 や 数 ,生 産 力 な ど )を 明 ら か に し た 。こ の プ ロ ジ ェ ク ト で は 全 世 界 の 国 際 共 同 研 究 と な り ,こ の 意 味 で 人 類 の 現 代 史 に お い て 画 期 的 な も の と し て 評 価 で き る ( 井 上 ・ 和 田 , 1998)。 1970 年 代 に は 地 球 環 境 問 題 が 起 こ る こ と の 予 測 な ら び に ,人 間 活 動 に よ る 化 石 燃 料 の 消 費 や 土 地 利 用 が 急 増 し た こ と に 影 響 さ れ ,国 際 共 同 研 究 で あ る「 人 間 と 生 物 圏 計 画 」 ( MAB: Man and Biosphere Programme)が 開 始 さ れ ,人 間 活 動 の 自 然 生 態 系 へ の 影 響 評 価 に焦点が絞られるようになった。 そ し て , 1992 年 に 行 わ れ た 地 球 サ ミ ッ ト を ピ ー ク と し て , 地 球 生 物 圏 の 理解をもっと深化する必要があるとして以下の 4 つの国際共同研究がはじ ま り ,現 在 に 続 い て い る 。( 1)気 候 シ ス テ ム と 水 循 環 に 関 す る も の : 「 世 界 気 候 研 究 計 画 」( WCRP: World Climate Research Programme),( 2) 生 態 系 と 物 質 循 環 に 関 す る も の : 「 地 球 圏 − 生 物 圏 国 際 共 同 研 究 計 画 」( IGBP: International Geosphere and Biosphere Programme),( 3) 生 物 多 様 性 に 関 係 す る も の : 「 生 物 多 様 性 科 学 国 際 共 同 研 究 計 画 」( DIVERSITAS: International Programme of Biodiversity Science),( 4)人 間 活 動 に 関 す る も の : 「 地 球 環 境 変 化 の 人 間 社 会 的 側 面 国 際 研 究 計 画 」( IHDP: International Human Dimension Programme on Global Environmental Change)。こ こ で , ( 1)は 気 候 温 暖 化 , ( 2) は 炭 素 サ イ ク ル・炭 酸 ガ ス の 上 昇 , ( 3)は 土 地 利 用 と 生 物 多 様 性 の 保 全 に 焦 点 が 当 て ら れ て い る 。こ れ ら の 国 際 共 同 研 究 は 自 然 生 態 系 の エ ネ ル ギ ー シ ス テ ム , 生 態 シ ス テ ム の 理 解 か ら ,( 4) の 人 間 活 動 の 影 響 さ ら に は 食 料 , 水 , 健 康 の 確 保 を 意 図 す る 人 類 の 環 境 安 全 保 障 に ま で 広 が っ て い る( 井 上・和 田 , 1998)。 こ れ ら 以 外 に も , 現 在 で は さ ま ざ ま な 機 関 に よ っ て 地 球 生 物 圏 に 関 す る 国 際 共 同 研 究 が 行 わ れ て い る ( Table 1)。 ま た ,高 橋( 2002)は ,現 在 ,生 物 多 様 性 保 全 の た め に 実 施 さ れ て い る 国 - 181 - Table 1. 地 球 生 物 圏 に か か わ る 国 際 プ ロ ジ ェ ク ト に 参 画 し て い る 主 な 機 関 . 国際学術連合(ICSU: International Council of Scientific Unions) 世界気候研究計画(WCRP: World Climate Research Programme) 地球圏-生物圏国際協同研究計画(IGBP: International Geosphere- Biosphere Programme) 生物多様性科学国際共同研究計画(DIVERSITAS: International Programme of Biodiversity Science) 地球環境変化の人間社会的側面国際研究計画(IHDP: International Human Dimension Programme on Global Environmental Change) 環境問題に関する科学委員会(SCOPE: Scientific Committee on Problems of the Environment) 国際生物科学連合(IUBS:International Union of Biological Sciences 熱帯土壌生物学および肥沃化国際共同研究計画(TSBF: Tropical Soil Biology and Fertility Programme) 国連教育科学文化機関(UNESCO: United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization) 人間と生物圏計画(MAB: Man and the Biosphere Programme) 国際水文学計画(IHP: International Hydrological Programme) 国際自然保護連合(IUCN: IUCN - The World Conservation Union) 世界自然保全モニタリングセンター(WCMC: World Conservation Monitoring Center) 国連環境計画(UNEP: United Nations Environment Programme) 地球環境監視システム(GEMS: Global Environment Monitoring System) 国連食糧農業機関(FAO: Food and Agriculture Organization of the United Nations) 世界保健機関(WHO: World Health Organization) 国際気象機関(IMO: International Meteorological Organization) 世界資源研究所(WRI: World Resources Institute) 出 典 : 和 田 (1998)を改 変 際援助の対象について,下記の項目を取り上げている。 ( 1) 調 査 ・研 究 -生 物 多 様 性 の 現 状 把 握 , 気 候 解 明 な ど の 保 全 の 基 礎 と な る科学的な知見を得るための調査や研究であり,人間活動影響などの いわゆる環境アセスメントや温暖化影響なども含む。 ( 2) 情 報 整 備 − 生 物 多 様 性 に 関 す る 情 報 の デ ー タ ベ ー ス 開 発 や 関 係 機 関 とのネットワーク整備など。 ( 3) 教 育 − 生 物 多 様 性 保 全 の 必 要 性 な ど を 地 域 住 民 や 広 く 国 民 一 般 に 普 及するもの。一般的に,援助プログラム実施では教育や人材養成トレ ーニングは技術移転などプログラム実施の手段として付随するが,生 物多様性保全のためには,環境教育そのものが主たる目標となる。 ( 4)保 全 施 策 − 保 護 地 域 の 設 定・管 理 な ど ,計 画 政 策 か ら そ の 実 施 ま で , - 182 - 主として生育域内保全の推進を図るもの。途上国においては,計画の みのいわゆるペーパー保護区が多いが,この実効を担保するもの。 ( 5) 開 発 ・ 利 用 − 生 物 資 源 の 持 続 的 利 用 を 進 め る も の で , 対 象 は 遺 伝 子 資源から生態系まで広範囲であり,エコツーリズムなども含まれる。 環境アセスメントは不可欠である。 ( 6) 修 復 ・ 整 備 − 希 少 な 動 植 物 の 繁 殖 ・ 野 生 復 帰 や 荒 廃 し た 生 態 系 の 再 生を行うもので,動植物園などの生育域外保全も対象である。 ( 7) 地 域 生 活 の 向 上 − 保 護 地 域 周 辺 の 住 民 の 生 活 を 向 上 さ せ る こ と に よ り,保護地域内の生物資源への負荷の軽減を図るもので,社会林業や 養殖,代替品の開発なども含む。ここでも環境教育は重要な要素とな る。 3 事 例 1: カ ン ボ ジ ア に お け る 国 際 学 術 調 査 団 に よ る 協 働 筆 者 は ,2004 年 か ら 2006 年 に か け て 海 外 学 術 調 査 の 一 環 と し て 企 画 さ れ た ,「 カ ン ボ ジ ア の ト ン レ サ ッ プ 生 物 圏 保 護 区 に お け る 生 態 学 的 な ら び に 水 文学的調査および若手研究者の養成」プログラム(代表: 金沢大学 塚脇真 二 )に 植 物 調 査 担 当 と し て 参 画 し た 。こ こ で は ,内 戦 の 傷 を 引 き ず る カ ン ボ ジアが直面している植物種多様性とその維持機構に関する基礎情報不足の 改 善 に 貢 献 す る こ と を め ざ し ,カ ン ボ ジ ア 省 庁 の 研 究 者 と の 協 働 に よ り 植 物 資源インベントリーを実施した。 ■組 織 名 : 「 カ ン ボ ジ ア の ト ン レ サ ッ プ 湖 生 物 多 様 性 維 持 機 構 の 評 価 4 」( 以 下 , EMSB; 2002-2005, 代 表 : 金 沢 大 学 塚 脇 真 二 ), な ら び に 「カンボジアのトンレサップ生物圏保護区における生態学的 ならびに水文学的調査および若手研究者の養成」プログラム 5 ( 以 下 , EMSB u-32; 2004-2005, 代 表 : 同 上 ) ■相 手 国 カ ウ ン タ ー パ ー ト : ア ン コ ー ル 遺 跡 整 備 機 構 6 ( 以 下 ,APSARA)の 森 林 ・ 水 部 門 , 鉱 工 業 エ ネ ル ギ ー 省 資 源 局 7 ( 以 下 , 資 源 局 ), 4 Evaluation of Mechanisms Sustaining the Biodiversity UNESCO MAB-IHP Joint Programme Ecological and Hydrological Research and Training for Young Scientist in Tonle Sap Biosphere Reserve, Cambodia: Research and Training for Young Scientists 6 Authority for the Protection of the Site and the Management of Angkor Region 7 General Department of Mineral Resources, Ministry of Industry, Energy and Mines 5 - 183 - 水利気象省水文河川局 8 (以下,水文河川局) ■研 究 対 象 : カ ン ボ ジ ア ・ ト ン レ サ ッ プ 湖 の 生 物 多 様 性 維 持 機 構 ■参 画 期 間 : 2004 年 ∼ 2006 年 3.1 国 際 学 術 調 査 団 の 概 要 カ ン ボ ジ ア に お け る 環 境 汚 染 や 自 然 破 壊 は 深 刻 で あ り ,そ れ を 放 置 す る こ とはカンボジアの財政を支えるアンコール遺跡群の観光資源としての根幹 に か か わ る 重 大 な 事 態 と な り ,河 川 水 や 大 気 の 汚 染 は 遺 跡 区 域 内 や 同 州 に 暮 ら す 住 民 の 健 康 問 題 は も ち ろ ん の こ と ,世 界 遺 産 の 白 眉 で あ り 人 類 共 通 の 財 産 で あ る ア ン コ ー ル 遺 跡 そ の も の の 損 壊 に も つ な が り う る 。さ ら に シ ェ ム リ ア プ 川 の 汚 染 や 森 林 の 減 少 に よ る 流 出 土 砂 の 増 大 は ,ユ ネ ス コ の 生 物 保 護 区 に 指 定 さ れ る ほ ど の 生 物 多 様 性 を 誇 る ト ン レ サ ッ プ 湖 ,さ ら に は 同 湖 と 連 絡 するメコン河の生態系の破壊にも直結しかねない(塚脇, 私信)。 こ う し た 問 題 に 直 面 す る な か で ,日 本 側 の 学 術 調 査 団 と カ ン ボ ジ ア 側 の 省 庁 の 専 門 家 と の 協 働 に よ る EMSB プ ロ グ ラ ム な ら び に ,ユ ネ ス コ の MAB( 人 間 と 生 物 圏 計 画 )と IHP( 国 際 水 文 学 計 画 )と が 共 同 企 画 を し て ,EMSB-u32 プ ロ グ ラ ム が 行 わ れ た 。こ れ ら の プ ロ グ ラ ム は ,日 本 側 の 学 術 調 査 団 と カ ン ボジア側の省庁の調査者との協働によってトンレサップ湖生態系維持機構 の 解 明 に 取 り 組 ん だ も の で あ る( Fig. 1)。筆 者 は こ の プ ロ グ ラ ム の 学 術 調 査 団における植物班の若手研究者として植物資源調査に参画した。 EMSB は ,ト ン レ サ ッ プ 湖 の 一 定 範 囲 に お い て 湖 の 最 高 水 位 期 お よ び 最 低 水位期それぞれに, ( 1)流 況 な ど の 水 文 学 的 観 測 , ( 2)無 脊 椎 動 物 群 の 繁 殖 基 盤 と 考 え ら れ る 浸 水 林 域 を 中 心 と す る 植 生 調 査 , な ら び に ( 3) 底 質 ・ 湖 底 地 形 調 査 を 実 施 す る こ と で ,調 査 地 域 の 環 境 条 件 と そ の 季 節 的 な 差 異 を 明 ら か に し , こ れ と 並 行 し て ( 4) 水 界 無 脊 椎 動 物 群 の 種 構 成 を 調 べ , こ れ ら の 空 間 的 案 分 布 な ら び に 季 節 変 化 を 把 握 し ,そ し て ,湖 の 環 境 条 件 と 水 界 無 脊椎動物群との地理的ならびに季節的な関連性を相互に参照し総括するこ と で ,同 湖 の 生 物 多 様 性 の 維 持 機 構 に つ い て の 基 礎 的 評 価 を し よ う と い う 試 み で あ る ( 塚 脇 , 2004)。 そ し て , こ れ ら の 具 体 的 な 調 査 項 目 は , ( 1) 自 記 式流向流速計やCTDなどを用いての湖の物理学的・化学的データの収集, ( 2) プ ラ ン ク ト ン ネ ッ ト な ど に よ る 湖 沖 合 域 , 沿 岸 域 , お よ び 浸 水 林 域 の 浮遊性無脊椎動物の採集, ( 3)ド レ ッ ジ お よ び 採 泥 器 を 用 い て の 湖 沖 合 域 , 8 Department of Hydrology and River Works, Ministry of Water Resources and Meteorology - 184 - 日本側 日本側 EMSB & EMSB-u32 EMSB & EMSB-u32 地質班 地質班 水文班 水文班 動物班 動物班 地質・土壌調査 植物班 植物班 水界無脊椎動物群および 魚類のファウナ・生態調査 水質・水流調査 フロラ・植生調査 カンボジア側 カンボジア側 資源局 水文河川局 APSARA Fig. 1. カ ン ボ ジ ア ・ ト ン レ サ ッ プ 湖 に お け る 生 物 多 様 性 維 持 機 構 の 評 価 に か か わる国際協力学術研究プロジェクトのチーム構成. 略称は本文参照. 筆者は EMSB-u32 の 植 物 班 の 一 員 と し て 参 画 し た . 沿 岸 域 , お よ び 浸 水 林 域 の 底 生 無 脊 椎 動 物 の 採 集 , ( 4) 最 高 ・ 最 低 水 位 期 に お け る 浸 水 林 域 の 植 生 動 態 調 査 , ( 5) 表 層 ・ 柱 状 採 泥 器 に よ る 湖 底 堆 積 物 の 採 集 で あ る ( 塚 脇 , 2004) 。 本 調 査 は , APSARA と 資 源 局 , そ し て 水 文 河川局との協働により行われた。 3.2 調 査 内 容 植 物 班 の 調 査 は ,日 本 側 の 平 吹 喜 彦 教 授( 東 北 学 院 大 )と 筆 者 ,カ ン ボ ジ ア 側 の チ ャ イ ・ ラ チ ャ ナ 氏 ( APSARA 研 究 員 ), ド ゥ ン グ ・ ポ ゥ キ ィ 氏 ( ピ ー ス イ ン ツ ア ー ツ ア ー ガ イ ド )の チ ー ム 構 成 に よ っ て 実 施 さ れ た 。ラ チ ャ ナ 氏 は ,野 外 調 査 の ほ か に も 調 査 許 可 証 や 植 物 標 本 国 外 持 ち 出 し 許 可 証 の 作 成 - 185 - を 担 当 し た 。ポ ゥ キ ィ 氏 は ,土 地 勘 が あ り ,地 域 の 有 用 植 物 に 対 し て 強 い 関 心 を 示 し て い た た め ,イ ン タ ビ ュ ー 調 査 を 中 心 と し た 野 外 調 査 に 精 力 的 に 取 り組んだ。 筆 者 に よ る 現 地 調 査 は , 2004 年 10 月 か ら 2006 年 8 月 ま で に 前 後 9 回 に わたり下記のように実施した。 ・ 2004 年 10-11 月 : 高 水 位 期 の 視 察 , 文 献 調 査 , 調 査 の 下 準 備 ・ 2004 年 11-12 月 : 水 生 植 生 調 査 , 植 物 相 調 査 , 標 本 採 集 ・ 2005 年 1 月 : 浸 水 林 視 察 , 標 本 採 集 ・ 2005 年 2-3 月 : ト ン レ サ ッ プ 湖 周 囲 の 陸 路 一 周 , 植 物 相 調 査 , 標 本 採 集 ・ 2005 年 5-6 月 : 浸 水 林 植 生 調 査 , 毎 木 調 査 , 有 用 植 物 調 査 , 標 本 採 集 ・ 2005 年 7-8 月 : 浸 水 林 植 生 調 査 , 毎 木 調 査 , 実 生 調 査 , 標 本 採 集 ・ 2005 年 12 月 : 水 生 植 生 調 査 , 有 用 植 物 調 査 , 標 本 採 集 ・ 2006 年 2-3 月 : 浸 水 林 植 生 調 査 , 毎 木 調 査 , 標 本 採 集 ・ 2006 年 7-8 月 : 浸 水 林 植 生 調 査 , 有 用 植 物 調 査 , 標 本 採 集 ト ン レ サ ッ プ 湖 は 季 節 的 な 水 位 変 動 が き わ め て 著 し い こ と か ら ,一 年 を 通 し て高頻度で渡航できたことは有意義であった。 調 査 項 目 の 詳 細 に つ い て は ,本 論 文 の 第 3 章 ∼ 第 5 章 で 記 載 し て い る の で , こ こ で は 簡 略 化 し て 記 述 す る 。ま ず ,季 節 的 な 水 位 変 動 を 把 握 す る た め 年 間 を 通 し て 現 地 踏 査( 主 な 調 査 地 は シ ェ ム リ ア プ 州 の チ ョ ン グ・ク ネ ア ス 地 区 ) を 行 い ,そ の 後 ,氾 濫 原 内 に お い て 高 水 位 期 と 低 水 位 期 に 植 生 調 査 を 実 施 し た 。そ の 結 果 ,高 水 位 期 に は 氾 濫 原 内 の 波 の 穏 や か な 場 所 に 水 生 植 生 が 広 が り ,低 水 位 期 に は 陸 化 し た 浸 水 林 に お い て 2 つ の 植 生 ゾ ー ン と 7 つ の 植 生 タ イプが景観レベルで類型化されること確認した。植物の同定にあたっては, 植 物 標 本 を 日 本 へ 持 ち 込 み ( 農 林 水 産 大 臣 の 許 可 を 取 得 ), ト ン レ サ ッ プ 湖 氾 濫 原 の 植 物 相 に 関 す る 既 存 の 文 献 を 基 に 行 っ た 。し か し ,こ の 地 域 の 植 物 相 に つ い て の 分 類 学 的 記 載 は 十 分 で な く ,か つ 正 確 性 に 欠 け る た め 同 定 は 困 難 を き わ め た 。そ こ で ,バ ン コ ク 王 立 森 林 局 植 物 標 本 館( BKF: Bangkok Forest Herbarium, Royal Forest Department)や バ ン コ ク 王 立 農 業 局 植 物 標 本 館( BK: Bangkok Herbarium of the Department of Agriculture), 京 都 大 学 総 合 博 物 館 内 の 植 物 標 本 館 に お い て ,実 物 の さ く 様 標 本 と 照 ら し 合 わ せ な が ら 同 定 を 試 み た。 ま た , 浸 水 林 内 で 優 占 と な る Barringtonia acutangula( サ ガ リ バ ナ 科 ) の 更新特性について生態学的調査を実施し, ( 1)人 為 圧 が 強 く か か る 植 生 タ イ プ で 株 立 ち を 呈 す る こ と ,( 2) 早 い 成 長 段 階 で 開 花 ・ 結 実 を 開 始 す る こ と , ( 3) 実 生 が 氾 濫 原 一 帯 の 明 る い ミ ク ロ サ イ ト に 定 着 す る こ と , を 確 認 し , - 186 - 季節的な水位変動と人為圧に適応した更新特性を有していることを明らか にした。 一 方 で ,地 域 住 民 に よ る 氾 濫 原 内 の 植 物 資 源 利 用 形 態 に 関 す る イ ン タ ビ ュ ー 調 査 を 実 施 し た ( 42 件 )。 そ の 結 果 , 住 民 の 生 活 様 式 を 「 水 上 移 動 型 」 と 「 陸 上 移 動 型 」, 「 陸 上 固 定 型 」の 3 タ イ プ に 区 分 す る こ と が で き ,そ れ ぞ れ の 生 活 様 式 に 応 じ た 植 物 資 源( 主 と し て 薪 )利 用 が な さ れ て い る こ と を 確 認 し た 。そ し て ,薪 と し て の 利 用 価 値 が 高 い 種 が 選 択 的 に 伐 採 さ れ ,結 果 的 に 利 用 価 値 の 低 い 種 が 多 く 残 さ れ て い る こ と を 示 し た 。 調 査 の 成 果 は , 2005 年 12 月 と 2006 年 9 月 の 国 際 シ ン ポ ジ ウ ム で 発 表 さ れ た 。 4 事 例 2: グ ァ テ マ ラ に お け る 青 年 海 外 協 力 隊 に よ る 国 際 協 力 筆 者 は , 2002 年 7 月 ∼ 2004 年 7 月 に 青 年 海 外 協 力 隊 に 参 加 し , 植 物 学 の 職 種 と し て グ ァ テ マ ラ に 派 遣 さ れ た 。こ の 節 で は そ の と き に 経 験 し た 実 例 を 記 載 し , 環 境 ODA に よ る 草 の 根 レ ベ ル で の 国 際 協 力 に つ い て 記 述 す る 。 ■組 織 名 : 青 年 海 外 協 力 隊 ( JOCV: Japan Overseas Corporation Volunteers) ■相 手 国 カ ウ ン タ ー パ ー ト : 国 立 サ ン ・ カ ル ロ ス 大 学 薬 学 部 自 然 保 護 研 修 セ ン タ ー 付 属 植 物 園 ( Jardín Botánico, Centro de Estudios Conservacionistas, Facultad de Ciencias, Quimicas y Farmacia, Universidad de San Carlos Guatemala) ■協 力 内 容 : グ ァ テ マ ラ 国 内 お よ び 中 米 各 地 か ら 収 集 さ れ た 植 物 標 本 の 管 理・保存 ■参 画 期 間 : 2002 年 ∼ 2004 年 4.1 カ ウ ン タ ー パ ー ト の 概 要 国 立 サ ン・カ ル ロ ス 大 学 薬 学 部 自 然 保 護 研 修 セ ン タ ー 付 属 植 物 園 は ,グ ァ テマラ国の首都であるグァテマラシティーのなかでもほぼ中央部に位置し て い る ( 14°36'N, 90°30’W, 標 高 約 1,500m)。 こ の 植 物 園 は 1922 年 に 設 立 さ れ ,80 年 以 上 の 古 い 歴 史 を 有 し て い る 。面 積 は 1.8ha で ,園 内 に は グ ァ テ マ ラ の 自 生 種 の ほ か ,中 南 米 ア メ リ カ や ア フ リ カ ,ア ジ ア 地 方 か ら の 導 入 種 も 多 く 植 栽 さ れ て い る 。植 物 園 は 自 然 歴 史 博 物 館 内 に あ り ,学 生 た ち や 親 子 連 れ が 訪 れ て 市 民 の 自 然 学 習 の 場 や 憩 い の 場 と な っ て い る 。こ の 研 究 機 関 で - 187 - は ,植 物 の み な ら ず 動 物 や 昆 虫 に 関 す る 研 究 も 行 わ れ て お り ,野 生 生 物 保 護 に も 取 り 組 ん で い る 。そ し て ,そ れ ぞ れ に い く つ か の フ ィ ー ル ド を 有 し て お り,定期的な調査が行われている。 こ の 植 物 園 の 一 角 に あ る 植 物 標 本 館 に は , 2004 年 時 点 で 約 10,000 点 の 維 管 束 植 物 標 本 が 収 め ら れ て い る 。植 物 採 集 の 対 象 領 域 は 主 と し て グ ァ テ マ ラ 全 土 で あ る が ,メ キ シ コ か ら パ ナ マ に か け て の 中 米 地 域 全 体 か ら 採 集 さ れ た 標 本 も 所 蔵 さ れ て い る 。収 め ら れ て い る 標 本 は ,熱 帯 か ら 高 山 帯 ま で 幅 広 い 植 生 帯 か ら 採 集 さ れ た も の で あ る た め 多 様 性 に 富 ん で い る 。標 本 棚 に は ,植 物 標 本 が 科 ご と に ア ル フ ァ ベ ッ ト 順 に 整 理 さ れ て お り ,著 名 な 分 類 学 者 が 同 定したコレクションも収められている。この標本館には標本を採集,作製, 保存するための設備は一通り揃っている。主な備品は以下の通りである。 ・採集道具一式(剪定鋏,鋸,ビニール袋,新聞紙,板,筆記用具) ・ 標 本 作 成 道 具 一 式( 台 紙 ,ボ ン ド ,糸 , 針 ,標 本 ラ ベ ル , 標 本 フ ォ ル ダ) ・標本棚 ・植物同定用専門書 ・実態顕微鏡 ・机,イス ・乾燥システム(白熱球で作られたもの) ・ デ ー タ ベ ー ス 用 の パ ソ コ ン Linux( Windows に 変 わ る 予 定 ) ・屋外ビニールハウス 筆 者 が 派 遣 さ れ た 2002 年 7 月 の 時 点 に お い て , 植 物 園 は , グ ァ テ マ ラ 国 自 体 が 資 金 不 足 な う え ,大 学 付 属 と い う 末 端 機 関 で あ る こ と か ら 施 設 を 維 持 す る た め の 十 分 な 予 算 を 確 保 で き ず に い た 。と く に 野 外 調 査 や 植 物 標 本 と そ のデータの整理に必要な人材を確保できていないことは深刻な問題であっ た 。5 名 ほ ど の 常 勤 職 員 た ち は ,得 ら れ た デ ー タ を 十 分 に 整 理 で き な い ま ま 次 の プ ロ ジ ェ ク ト を 計 画 し ,そ の 準 備 と 遂 行 に 日 々 追 わ れ て い る た め ,デ ー タ は 整 理 で き ず に 溜 ま る 一 方 と な っ て い た 。植 物 標 本 館 も 同 じ 状 態 で ,や ら なければならない標本整理の仕事が溜まっているのに人を雇う予算がない た め ,二 ,三 人 の 大 学 生 ボ ラ ン テ ィ ア に 手 伝 っ て も ら っ て い た 。そ う し た 状 況 に あ っ て ,植 物 分 類 に 関 す る 専 門 知 識 を 有 し な が ら 雑 用 も こ な せ る 人 材 と し て , 本 植 物 園 が JICA の 青 年 海 外 協 力 隊 に 協 力 を 要 請 し , 筆 者 が そ の 役 割 を 担 う こ と に な っ た ( Fig. 2)。 - 188 - 日本側 日本側 JICA JICA 専門家 シニアボランティア JOCV フロラ調査・データベース構築 グァテマラ側 グァテマラ側 グァテマラ政府・教育省 国立サン・カルロス大学薬学部 ・ ・ ・ 自然保護研修センター ・ ・ ・ データ保存センター 植物園 Fig. 2. グ ァ テ マ ラ の フ ロ ラ 調 査 お よ び 植 物 標 本 と そ の デ ー タ の 整 理 に 関 す る 国 際 協 力 プ ロ ジ ェ ク ト の 協 力 体 制 . 略 称 は 本 文 参 照 . 筆 者 は JOCV の 一 員 と し て 参 画した. - 189 - 4.2 業 務 内 容 業務内容は,長年に渡って数多く蓄積されてきた未分類の植物標本を分 類・整 理 す る こ と よ り グ ァ テ マ ラ に 自 生 す る 植 物 を 明 確 に し ,学 生 や 訪 問 者 の 研 修 に 役 立 て る こ と で あ り ,植 物 分 類 に 関 す る 幅 広 い 知 識 と 技 術 が 求 め ら れていた。それにともない,以下の 4 つの業務を実施した。 ( 1) 標 本 整 理 植 物 園 内 の 植 物 標 本 館 に て , お よ そ 10,000 点 の 植 物 標 本 を 整 理 し た 。 こ の 作 業 で は ,1 つ の 標 本 に つ き 1 枚 の 検 索 用 ラ ベ ル を 書 く こ と に な っ て お り , 筆 者 は ,そ の ラ ベ ル と 標 本 棚 に 収 め ら れ て い る 標 本 の 記 述 が 一 致 す る か を 調 べ ,そ の 記 載 が 正 確 で あ る か ど う か に つ い て 一 枚 一 枚 チ ェ ッ ク を 行 っ た 。実 際 ,ラ ベ ル は あ る が 標 本 が な い も の ,ま た は そ の 逆 の も の が 多 く あ り ,書 式 も記載者によって大きく異なっていた。 ま た ,こ こ で は ナ フ タ レ ン( 防 虫 剤 )を 使 用 し て お ら ず ,早 急 な 防 虫 対 策 が 必 要 と さ れ た 。実 際 に い く つ か の 標 本 は 害 虫 に よ る 食 害 を 受 け て お り ,害 虫 駆 除 が 急 務 と な っ た 。 日 本 の 場 合 , 体 長 1mm に 達 し な い 白 色 の コ ナ チ ャ タ テ ム シ と 体 長 3mm ほ ど の 茶 色 の 甲 虫 で あ る タ バ コ シ バ ム シ に よ る 虫 害 が 深 刻 だ が ,こ こ で も 同 様 の 害 を 被 っ て お り ,同 種 と 思 わ れ る 上 記 の 2 種 に 加 え , 体 長 3mm ほ ど の ブ ヨ に 似 た 虫 ( お そ ら く そ の 幼 虫 に よ る 食 害 ) に よ っ て,とくにマメ科やトウダイグサ科の植物標本は勘大な被害を受けていた。 そ う し た 標 本 の 処 理 に 手 間 取 り な が ら も こ の 作 業 を 一 人 で 黙 々 と 続 け ,完 了 ま で に 半 年 を 擁 し た 。し か し そ の 甲 斐 あ っ て ,無 造 作 に 詰 ま れ て い た 植 物 標 本 が 規 則 的 に 並 び 替 え ら れ ,標 本 に 巣 食 う 虫 を 駆 除 で き ,標 本 館 の 円 滑 な 利 用 が 可 能 と な っ た 。標 本 館 と い う ,植 物 の さ く 葉 標 本 を 永 続 的 に 保 管・利 用 していく場所にあって,標本整理と害虫駆除が達成された意義は大きい。 こ の 標 本 館 に は ほ か に も 作 業 上 の 問 題 点 が い く つ か あ っ た 。同 僚 の 作 業 を み る 限 り で は ,採 集 し て き た サ ン プ ル に 対 し て ,風 入 れ や し わ 伸 ば し と い っ た 作 業 を 行 わ ず ,現 場 で 採 っ た 状 態 の ま ま 乾 燥 さ せ て し ま う た め ,出 来 上 が っ た 標 本 は 決 し て 良 い 状 態 と は い え な か っ た 。ま た ,植 物 標 本 作 製 に つ い て も 全 般 的 に 仕 事 の 質 が 粗 か っ た 。例 え ば ,標 本 を 貼 る た め の テ ー プ が な い の で ,こ こ で は 糸 を 使 っ て マ ウ ン ト し て い た 。針 と 糸 で 縫 っ て い く の で 相 当 の 時 間 が か か る 上 ,こ の 際 使 用 す る 糸 に は ア ク リ ル を 使 っ て い る た め ,糸 先 が 滑 っ て 結 び 目 が つ け に く か っ た 。標 本 の 作 成 に は 大 学 生 が ボ ラ ン テ ィ ア と し て 携 わ っ て い た が ,基 本 的 な こ と が 理 解 さ れ て お ら ず ,そ れ に 対 す る 同 僚 た - 190 - ちの指導もなかった。 植 物 同 定 技 術 に 関 し て 述 べ る と ,グ ァ テ マ ラ の 植 物 相 に 広 く 通 じ て い る 分 類 学 者 も お り 基 本 的 な 知 識 は 兼 ね 備 え て い る た め ,日 本 側 か ら の 技 術 移 転 は と く に 必 要 と さ れ て い な い よ う に 思 え た 。た だ し ,扱 っ て い る 分 類 体 系 に は いささか問題が見受けられた。標本館の分類体系は,顕花植物については FIELDIANA BOTANY (FIELD MUSEUM OF NATURAL HISTORY, 1977)に 準 じ , Englar(1964)の 分 類 体 系 に 従 っ て い る が , シ ダ 植 物 に 関 し て は Englar(1964) の 他 に MESO AMERICANA( 詳 細 不 明 ) の Cronquiz に 従 っ て い る 部 分 が あ り統一されていなかった。 ( 2) デ ー タ ベ ー ス の 構 築 研 究 の 効 率 化 と 利 用 形 態 の 多 様 化・利 用 者 の 増 加 を 目 的 と し た「 既 存 す る 植物標本ラベルに書き残された情報を電子化する作業(データベースの構 築 )」 に 取 り 組 み , 標 本 館 の ニ ー ズ に 適 合 し た デ ー タ ベ ー ス プ ロ グ ラ ム を 作 成 し た( Microsoft Access を 使 用 )。標 本 館 に 所 蔵 さ れ て い る 標 本 は ,生 物 学 に と っ て も っ と も 重 要 か つ 基 本 的 な 情 報 源 で あ り ,世 界 中 の 研 究 者 に よ っ て 利 用 さ れ 続 け て い る 。し か し ,現 状 で は そ の 情 報 が 有 効 に 利 用 さ れ て い る と は い え ず ,ど こ に ど ん な 標 本 が 管 理 さ れ て い る か を 知 る こ と が 困 難 な 状 況 に あ っ た 。こ の よ う な 事 情 か ら ,近 年 ,世 界 各 地 の 標 本 館 に お い て 標 本 情 報 を デ ー タ ベ ー ス 化 し ,イ ン タ ー ネ ッ ト を 介 し て 情 報 発 信 す る 動 き が 急 速 に 広 が っ て い る 。こ う し た 植 物 資 源 イ ン ベ ン ト リ ー シ ス テ ム の 構 築 は ,発 展 途 上 国 に お け る 標 本 情 報 整 理 を 効 率 化 す る だ け に と ど ま ら ず ,生 物 多 様 性 の 保 全 や 持続的利用にかかわる提言や啓発活動を展開するための基盤情報となり得 る 。そ う し た こ と か ら ,グ ァ テ マ ラ の 標 本 館 に お い て も ,植 物 標 本 の 情 報 を コ ン ピ ュ ー タ 内 に 永 久 的 に 記 録 す る と と も に ,こ の 植 物 園 が グ ァ テ マ ラ お よ び中米における植物研究機関の情報発信基地としての役割を果たすことを 目 標 と し て デ ー タ ベ ー ス プ ロ グ ラ ム を 作 成 し た 。実 際 に 入 力 し た 項 目 は 以 下 の通りである。 ・通し番号 ・科名 ・属名・種小名 ・採集地 ・採集地の海抜 ・採集年月日 ・採集者 - 191 - ・同定者 ・備考 ま た ,植 物 分 類 学 の 研 究 や 環 境 教 育 活 動 の 分 野 で 役 に 立 て る こ と を 目 的 と し て , 植 物 園 内 で 季 節 ご と に 撮 影 し た 植 物 の 写 真 ( デ ジ タ ル 画 像 で 約 1,000 枚 ) を , 科 ご と に 分 類 し て CD に ま と め , 植 物 園 に 提 出 し た 。 ( 3) 野 外 調 査 グ ァ テ マ ラ は 熱 帯 に 位 置 し な が ら も ,内 陸 部 に 高 山 を 有 す る こ と に よ り 多 様 な 植 生 を 生 み 出 し て い る 。こ の な か で と く に 豊 か な 自 然 が 残 さ れ て い る の は ,低 海 抜 域 の 熱 帯 雨 林 で あ り 未 知 な る 植 物 が 未 だ 多 く 存 在 す る と い わ れ て い る 。筆 者 は ,以 下 の 現 地 調 査 に 同 行 し て 野 生 植 物 採 集 や 植 物 生 態 学 的 調 査 に協力した。 ・ 2002 年 11 月 . シ ェ ラ デ ラ ス ミ ー ナ ス ( 東 部 丘 陵 地 の 温 帯 マ ツ 林 ) フ ロラ・植生調査 ・ 2002 年 12 月 . ア ス ン シ オ ン ミ タ( 東 部 盆 地 の 乾 燥 低 木 林 )フ ロ ラ ・ 植生調査 ・ 2003 年 1 月 . サ ン ミ ゲ ル ( 西 部 高 原 の 温 帯 マ ツ 林 ) ・ 2003 年 3 月 . ラ チ ュ ア ( 北 部 低 地 の 熱 帯 林 ) ・ 2003 年 4 月 . チ ョ コ ン マ チ ャ カ ス ( カ リ ブ 海 沿 岸 の マ ン グ ロ ー ブ 林 ) フロラ調査 ・2003 年 4 月 . シ ェ ロ サ ン ヒ ル( カ リ ブ 海 岸 丘 陵 地 の 熱 帯 多 雨 林 )フ ロ ラ調査 標 本 館 に は , 2004 年 の 時 点 で 約 10,000 の 植 物 標 本 が 貯 蔵 さ れ て い る が , こ の 数 は ま だ ま だ 少 な い た め( 例 え ば ,日 本 の 国 立 科 学 博 物 館 に 収 め ら れ て い る 植 物 標 本 数 は 約 800,000),よ り 多 く の 標 本 採 集 が 望 ま れ て い た 。し か し , 資 金 不 足 に よ り 人 材 を 確 保 で き ず 作 業 は 捗 ら ず に い た 。そ こ で ,筆 者 が 調 査 へ 同 行 す る こ と も 求 め ら れ た が ,調 査 地 の 多 く( と く に メ キ シ コ や ベ リ ー ズ の 国 境 付 近 ) は , JICA 安 全 管 理 課 が 定 め た 立 ち 入 り 禁 止 区 域 で あ る こ と か ら,他の同僚は調査に行けても筆者だけ同行できないことが多くあった。 調 査 者 の 調 査 技 術 に つ い て 述 べ る と ,同 行 す る 調 査 者 に よ っ て 手 法 は 異 な る が ,概 し て 手 際 よ く や っ て い る と 感 じ た 。調 査 の な か に は GPS( 情 報 地 理 シ ス テ ム )や デ ジ タ ル カ メ ラ を 携 帯 し ,最 新 の 技 術 を 導 入 し た 調 査 を 行 お う と す る 姿 勢 が う か が え た 。ま た ,現 地 調 査 に は 必 ず ガ イ ド を 付 け ,道 案 内 役 とボディーガードとして雇っており,安全面にも配慮があった。 - 192 - ( 4) 日 本 の 植 物 園 と の 提 携 グ ァ テ マ ラ と 日 本 の 両 国 に お け る 植 物 分 類 学 的 研 究 の 発 展 の た め に ,両 国 の 情 報 を 交 換 し 合 う こ と を 目 的 と し て ,国 立 科 学 博 物 館 筑 波 実 験 植 物 園 の 研 究 者 た ち と 電 子 メ ー ル に て 連 絡 を 取 り 合 っ た 。そ の 話 し 合 い の 中 で ,両 国 の 植 物 標 本 の 交 換 す る こ と を 立 案 し た が ,植 物・動 物 検 疫 に ひ っ か か る と の 理 由 か ら JICA 事 務 所 に 差 し 止 め ら れ て 中 止 と な っ た 。 研 究 目 的 の 標 本 の や り 取 り は 世 界 的 に 行 わ れ て い る の だ が , JICA の 理 解 が 得 ら れ な か っ た の は 残 念なことであった。 5 考察: 熱帯域植物資源に関する国際協力の効果と問題点 カ ン ボ ジ ア と グ ァ テ マ ラ は ,地 理 的 に も 文 化 的 に も ま っ た く 異 な る 国 で あ るが,いくつかの共通点もみられる。 ・ 両 者 と も 熱 帯 に 位 置 し( 北 緯 お よ そ 14°),Hotspot に 指 定 さ れ て い る 。 ・ 面 積 , 人 口 , GDP は ほ ぼ 等 し く , 経 済 状 況 が 類 似 し て い る 。 ・ 90 年 代 に 内 戦 が 終 結 し , 植 物 資 源 に 関 す る 調 査 体 制 が 整 わ ず , イ ン ベントリー研究が著しく遅れている。 そ う し た 状 況 に あ り な が ら ,植 物 資 源 の 持 続 的 マ ネ ジ メ ン ト に 関 す る 取 り 組 み は 両 国 の 共 通 の 課 題 と し て 取 り 上 げ ら れ る 。カ ン ボ ジ ア の 事 例 は ,日 本 の 学 術 調 査 団 が カ ン ボ ジ ア 政 府 の 省 庁 に 対 す る 国 際 協 力 で あ り ,一 方 ,グ ァ テ マ ラ の 事 例 で は ,日 本 の 行 政 に よ る グ ァ テ マ ラ の 研 究 機 関 に 対 す る 協 力 で あ る と い え る ( Fig. 3)。 カ ン ボ ジ ア で は ,大 学 な ど の 研 究 機 関 に お い て ,自 然 科 学 に 対 す る 学 術 研 究 体 勢 が 整 っ て い な い 。そ の た め ,行 政 省 庁 の 研 究 者 と 協 働 で 取 り 組 む 体 制 と な っ た 。各 省 庁 の 研 究 員 は ,専 門 の 調 査 へ 意 欲 的 に 取 り 組 み ,デ ー タ 収 集 は も ち ろ ん の こ と ,調 査 の 手 配 や 地 域 住 民 と の や り と り な ど で 大 き な 役 割 を 果 た し た 。本 事 例 は ,多 彩 な 学 問 分 野 が 特 定 の フ ィ ー ル ド に 集 い ,共 通 の テ ー マ を 設 け て 調 査 を 実 施 す る 共 同 学 術 研 究 で あ る 。実 際 に ,本 事 例 で は 各 分 野 の 専 門 家 が 共 通 の 課 題 意 識 を も ち な が ら ,専 門 の 枠 を 超 え て 協 力 し 合 っ て 調 査 を 進 め る こ と が で き ,ト ン レ サ ッ プ 湖 の 生 物 多 様 性 の 維 持 機 構 を 包 括 的 に解明することにきわめて効果的であったと考える。そして,調査結果は, 2005 年 12 月 に プ ノ ン ペ ン で 開 催 さ れ た 国 際 シ ン ポ ジ ウ ム に お い て ,専 門 ご と に 発 表 さ れ た 。こ の シ ン ポ ジ ウ ム に は ,ト ン レ サ ッ プ 湖 の 研 究 に 従 事 す る 他 国 の 研 究 者 も 集 い ,ト ン レ サ ッ プ 湖 の 生 物 多 様 性 維 持 機 構 に 関 す る お 互 い - 193 - 行 政 研究機関 協力受入国 【カンボジア】 【グァテマラ】 国際協力組織 省庁・公団 (資源局,水文河川局, APSARA) 自然保護研究機関 (大学付属植物園) 【日本】 【日本】 国際開発援助機構 (JICA) 国際学術調査団 (EMSB,EMSB-u32) Fig. 3. カ ン ボ ジ ア と グ ァ テ マ ラ に お け る 植 物 資 源 に 対 す る 国 際 協 力 体 制 の 事 例. 灰色はカンボジアの事例で,白色はグァテマラの事例を表す. の 理 解 を 深 化 さ せ た こ と で 大 き な 成 果 を あ げ て い る 。ま た ,本 事 例 の 野 外 調 査 に は , と き に は 30 名 を 越 え る 調 査 者 が 参 加 し , そ の サ ポ ー ト に は , 鉱 工 業エネルギー省の大臣ならびに国務大臣をはじめ,調査地の州知事, APSARA の 総 長 ,各 地 区 の 管 理 者 か ら 非 常 に 好 意 的 な 協 力 を 煽 っ た 。こ の 点 に お い て ,本 事 例 は 学 術 の 領 域 を 超 え て ,行 政 的 に も 両 国 の 有 益 な 友 好 関 係 を 築 く こ と が で き た と い え る 。さ ら に ,本 事 例 が 日 本 側 と カ ン ボ ジ ア 側 か ら 学 識 者 と 若 手 研 究 者 を そ れ ぞ れ 募 り ,お 互 い の 協 働 に よ っ て 実 施 さ れ た こ と も 大 き な 特 徴 と い え る 。本 研 究 に よ る 人 材 資 源 の 育 成 は ,日 本 と カ ン ボ ジ ア と が 提 携 し て 研 究 す る 基 盤 が 構 築 さ れ ,長 い 目 で 捉 え る と ,熱 帯 生 態 系 に お け る 持 続 可 能 な マ ネ ジ メ ン ト の 実 現 ,ひ い て は 途 上 国 の 自 立 的 な 発 展 に 対 し て,近い将来大きな貢献をもたらすものと考える。 一 方 で , 青 年 海 外 協 力 隊 や NGO が 行 っ て い る 草 の 根 レ ベ ル の 国 際 協 力 に お い て は ,開 発 プ ロ ジ ェ ク ト 実 施 の た め に 組 織 間 構 造 が 大 き く 変 化 す る こ と は な く ,既 存 の 組 織 間 構 造 が 温 存 さ れ る 。青 年 海 外 協 力 隊 は ,通 常 は 発 展 途 上国の政府機関に単独で派遣され,その期間の一構成員として活動を行う。 し た が っ て ,青 年 海 外 協 力 隊 の 活 動 は 既 存 の 組 織 の 日 常 業 務 や 他 組 織 と の 日 常 的 関 係 の 枠 組 み の 中 で 行 わ れ て い る 。こ れ は ,援 助 受 け 入 れ 機 関 が ,短 期 - 194 - 的な人材資源のみを開発援助期間に依存している組織間関係と捉えてもよ い 。 そ し て , 一 般 的 に , 青 年 海 外 協 力 隊 員 や NGO の メ ン バ ー が 活 躍 す る の は ,発 展 途 上 国 の 中 で も さ ら に 開 発 の 遅 れ て い る 地 域 で あ る 。そ こ で は ,機 関 の 受 け 入 れ 体 制 が 未 発 達 で あ る 。ま た ,組 織 間 関 係 は 非 公 式 的 接 触( 社 会 的 影 響 力 )に よ り ,場 当 た り 的 に 当 事 者 間 で 形 成 さ れ る 。そ し て ,組 織 間 関 係 の 担 い 手 は 各 組 織 の 上 位 レ ベ ル で は な く ,下 位 レ ベ ル の 構 成 員 で あ る( 井 口 , 1997)。こ の よ う に 既 存 の 相 互 調 節 的 な 組 織 間 構 造 の な か で ,よ り 地 域 に 密 着 し た 活 動 を 行 う の が ,草 の 根 レ ベ ル で の 国 際 協 力 の 特 徴 で あ る 。そ れ は 長 所 で あ る 一 方 ,ま た 短 所 で も あ る 。ま ず ,長 所 と し て は ,地 域 に 密 着 し た 活 動 を 行 う こ と で ,住 民 の ニ ー ズ を 直 接 確 認 す る こ と が で き る た め ,地 域 組 織 レ ベ ル で の 適 正 技 術 が 開 発 さ れ る こ と が 期 待 さ れ る 。短 所 と し て は ,非 継 続 性・単 発 性 が と も な う 。例 え ば ,青 年 海 外 協 力 隊 に つ い て は ,隊 員 個 々 人 が 能 力 や 意 欲 を 持 っ て い て も ,隊 員 が 2 年 間 の 任 期 を 終 え て 帰 国 す る と ,公 認 担 任 は ま た ゼ ロ か ら 出 発 す る こ と に な る 。ま た ,隊 員 個 々 人 は 点 在 的 存 在 に す ぎ ず ,地 域 全 体・国 全 体 の 発 展 に 協 力 効 果 が 反 映 さ れ な い と い う 懸 念 も あ る ( JOCV, 1993)。 実 際 に , 筆 者 自 身 の 活 動 に お い て も , 赴 任 直 後 の 半 年 間は試行錯誤の繰り返しで,受け入れ先のニーズを探るのに時間を費やし, 派遣後 1 年経ってからようやく活動を軌道に乗せることができた。しかし, 既述したような業務はマンパワーとして暗躍することだけが求められてい る 単 発 的 な 内 容 だ っ た た め ,後 任 の 隊 員 に 引 き 継 い で も 積 み 重 ね た 成 果 を あ げ る こ と は 期 待 で き な か っ た 。そ の た め ,新 規 派 遣 と し て 配 属 さ れ た が ,後 任 を 要 請 す る こ と は し な か っ た 。こ こ に ,隊 員 個 々 人 の 能 力 で は 乗 り 越 え ら れない壁があり,草の根レベルでの国際協力活動の限界があると考える。 両 事 例 は ,国 際 援 助 を す る 側 と 受 け る 側 の 立 場 に 相 違 点 が 認 め ら れ る も の の ,「 植 物 資 源 の 持 続 的 マ ネ ジ メ ン ト 」 と い う 大 き な 目 標 の 下 に 実 施 さ れ て い る 。今 後 と も ,こ う し た 取 り 組 み 事 例 を 多 く 取 り 上 げ て 活 動 の 是 非 を 分 析 す る こ と で ,発 展 途 上 国 の 需 要 に よ り 効 果 的 な 国 際 協 力 を 施 す こ と が 可 能 と なり,最終的にはグローバルイシューの解決に資するものと考える。 - 195 - 【注】 こ こ で は ,既 述 し た グ ァ テ マ ラ に お け る 国 際 協 力 と 青 年 海 外 協 力 隊 の 活 動 体制について補足する。 a. JICA と JOCV a.1 JICA と は ? JICA ( 独 立 行 政 法 人 国 際 協 力 機 構 9 : Japan International Cooperation Agency)は , 日 本 国 政 府 の 発 展 途 上 国 に 対 す る 政 府 開 発 援 助 ( ODA( Official Development Assistance)) の 実 施 機 関 で あ る 。 ODAと は , 政 府 が 発 展 途 上 国 に行う技術協力や資金援助の総称。開 発 途 上 地 域 の 経 済 ・社 会 の 発 展 に 寄 与 し ,国 際 協 力 の 促 進 を 図 る た め ,政 府 ベ ー ス の 技 術 協 力 や 無 償 資 金 協 力 ,青 年 海 外 協 力 隊 の 派 遣 ,移 住 事 業 な ど 多 岐 に わ た る 国 際 協 力 事 業 を 一 元 的 に 実 施 す る 事 を 目 的 と し て , 1974 年 に 国 際 協 力 事業法に基づいて設立された政府特殊法人である。 そ し て , ODA の 二 国 間 贈 与 の う ち 「技 術 協 力 」と 「 無 償 資 金 協 力 」 の 実 施 を 担 当 し ( Fig. 4) , 主 に 発 展 途 上 国 の 「 人 づ く り 」 「経 済 ・ 社 会 の 基 盤 づ く り 」を 中 心 と し た 次 の よ う な 事 業 を 行 っ て い る 。 1 研修員受入(国づくりに必要な技術を日本で) 2 専門家派遣(日本の技術を途上国へ) 3 機材供与(人と物との組み合わせ) 4 プロジェクト方式技術協力(総合的な援助) 5 開発調査(開発計画の策定に協力) 6 青年海外協力隊の派遣(友好の架け橋) 7 無 償 資 金 協 力 事 業 の 調 査 ・ 実 施 促 進( 基 礎 的 生 活 分 野 の 整 備 ) 8 開発協力(民間の経済協力を支援) 9 移 住 者 ・日 系 人 支 援 ( 日 系 社 会 の 活 性 化 ) 10 災 害 緊 急 援 助 ( 迅 速 な 災 害 救 援 ) 11 フ ォ ロ ー ア ッ プ ( 協 力 の 持 続 と 発 展 の た め に ) 9 2001 年 12 月 に 閣 議 決 定 さ れ た「 特 殊 法 人 等 整 理 合 理 化 計 画 」を 受 け て ,JICAを 独 立 行 政 法 人 化 す る 「 独 立 行 政 法 人 国 際 協 力 機 構 法 案 」 が 可 決 さ れ , 2003 年 10 月 1 日 に JICAは , 独 立 行 政 法 人 国 際 協 力 機 構 ( 英 文 略 称 は 「 JICA」 の ま ま ) に 改 変された。 - 196 - 政府開発援助 二国間贈与 (ODA) その他政府 資金の流れ (OOF) 経済協力 民間資金の 輸出信用 二国間政府貸付 直接投資金融 など 国際機関への出 資・拠出など 国際機関に対する 融資など 銀行貸付 流れ (PF) 民間輸出信用 直接投資 NGOによる 贈与 開発途上国および国際機関の証券 ・債権の購入 出 典 : JICA(2000)を基 に作 成 Fig. 4. 経 済 協 力 と ODA お よ び JICA 事 業 の 位 置 づ け . JICA は 二 国 間 贈 与 に お け る国際協力を担っている. 12 人 材 育 成 ・確 保 ( 国 際 協 力 の 担 い 手 を 育 て る ) a.2 JOCV と は ? JICA 事 業 の な か で 行 わ れ る 技 術 協 力 の 一 端 を 担 う 事 業 で あ る( F i g . 5 )。 JOCV( 青 年 海 外 協 力 隊 事 業 : Japan Overseas Cooperation Volunteers) は , 独 立 行 政 法 人 国 際 協 力 機 構 法 第 13 条( 3)( 2002)の 中 で 以 下 の よ う に 定 義 されている: 「開発途上地域の住民を対象として当該開発途上地域の経済及 - 197 - JOCV 技術協力 二国間贈与 専門家派遣 経済開発など の援助 機材供与 プロジェクト 方式技術協力 無償資金協力 開発調査 食糧増産など の援助 研修員受入 国際緊急援助 出 典 : JICA(2000)を基 に作 成 Fig. 5. 二 国 間 贈 与 に お け る JOCV 事 業 の 位 置 づ け . JOCV は 二 国 間 贈 与 の な か でも技術協力の一端を担っている. び社会の発展又は復興に協力することを目的とする国民等の協力活動を促 進し,及び助長する」。 協 力 隊 員 の 活 動 の 基 本 姿 勢 は「 現 地 の 人 々 と 共 に 」と い う 言 葉 に 集 約 さ れ て い る 。つ ま り ,派 遣 さ れ た 国 の 人 々 と 共 に 生 活 し ,働 き ,彼 ら の 言 葉 を 話 し ,相 互 理 解 を 図 り な が ら ,彼 ら の 自 助 努 力 を 促 進 さ せ る 形 で 協 力 活 動 を 展 開 し て い く こ と を 信 条 と し て い る 。 JOCV は , そ う し た 技 術 や 知 識 を 活 か し て 発 展 途 上 国 の 国 づ く り ,人 づ く り に 協 力 し よ う と す る 青 年 の 活 動 を 支 援 す る こ と に よ っ て ,発 展 途 上 国 が 発 展 す る と い う 目 的 を 達 成 し よ う と し て い る 。 a.2.1 協 力 活 動 隊 員 は ,現 地 生 活 費 等 の 経 費 に つ い て は 国 の 支 援 は 受 け る が ,報 酬 の 性 格 - 198 - を も つ 対 価 は 受 け ず ,ボ ラ ン テ ィ ア と し て 活 動 に あ た る 。そ の 国 の 住 民 と 一 体になるということは,同じ物を食べ,同じ言葉で語り,その土地の文化・ 習 慣 を 尊 重 し な が ら 社 会 に 溶 け 込 み ,開 発 に 向 け て 努 力 に 力 を 添 え る こ と に な る 。帰 国 し た 隊 員 た ち は ,国 際 人 と し て 日 本 の 社 会 ,企 業 に と っ て 貴 重 な 人材となり協力隊での体験を社会に還元して地域の国際化に大いに貢献し ている。 協 力 分 野 は ,農 林 水 産 ,加 工 ,保 守 操 作 ,土 木 建 築 ,保 健 衛 生 ,教 育 文 化 , ス ポ ー ツ の 7 分 野 で ,職 種 は 約 160 種 と 多 岐 に わ た っ て い る 。ま た ,活 動 場 所が都市であるか地方であるかということや地理的条件,隊員を取り巻く 人々などの違いによっても,協力隊員個々の置かれる環境が変わってくる。 そ う し た 多 様 な 条 件 下 で ,ま さ に 協 力 隊 員 一 人 ひ と り が ,自 ら の 職 場 環 境 と 日 常 生 活 の 両 面 に わ た っ て 適 応 し ,と け 込 ん で い く 方 法 を 編 み だ し て い か な ければならない。 そ う し た 協 力 隊 の 活 動 タ イ プ は , 概 ね 次 の 4 つ に 分 け ら れ る ( 伴 , 1978)。 ( 1) 村 落 型 そ の 土 地 の 一 員 と し て 農 村 社 会 に と け 込 み ,巡 回 指 導 な ど も 行 い な が ら , デモンストレ−ションや普及活動に従事する。 ( 2) 教 室 型 学 校 や 職 業 訓 練 校 な ど に お い て ,生 徒 を 対 象 に 授 業 を し た り ,実 習 指 導 を 行 う 。場 合 に よ っ て は 同 僚 の 現 地 人 教 師 た ち に 対 し て の 指 導 法 の 伝 授 を 行う。 ( 3) 現 場 勤 務 型 官 庁 や 事 務 所 に 所 属 し な が ら ,現 場 に 出 て ,実 際 に 工 事 な ど に 携 わ る こ とによって,現地人スタッフに技術を伝授する。 ( 4) 本 庁 , 試 験 場 勤 務 型 事 務 所 や 研 究 室 な ど を 活 動 場 所 と し て ,現 地 人 ス タ ッ フ に ア ド バ イ ス を 与えたり,ともに研究活動を行う。 a.2.2 歴 史 青 年 海 外 協 力 隊 事 業 は , 昭 和 40 年 ( 1965) 4 月 に わ が 国 政 府 の 事 業 ( 外 務 省 所 管 )と し て 発 足 し た 。事 業 の 実 施 は 当 時 の 海 外 技 術 協 力 事 業 団 に 委 託 さ れ , 同 事 業 団 の 中 に 日 本 青 年 海 外 協 力 隊 事 務 局 が 設 置 さ れ た 。 昭 和 49 年( 1974)8 月 に わ が 国 政 府 が 行 う 国 際 協 力 の 実 施 機 関 と し て 国 際 協 力 事 業 団( JICA)が 発 足 し ,そ の 重 要 な 事 業 の ひ と つ と し て 受 け 継 が れ 名 称 も 青 年 - 199 - 海外協力隊となり,今日に至っている。 ラオスへの初派遣から始まった青 年 海 外 協 力 隊 事 業 は ,発 足 以 来 36 年 間 で 72 カ 国( ア ジ ア ,ア フ リ カ ,中 近 東 , 中 南 米 , 大 洋 州 , 東 欧 ) へ , の べ 21,823 名 ( 2001 年 12 月 31 日 ま で ) の隊員を派遣している 10 。 a.2.3 協 力 隊 事 業 の 特 性 協 力 隊 事 業 は ボ ラ ン テ ィ ア 性 ,公 募 性 ,国 民 的 基 盤 の 上 に 立 っ た 隊 員 活 動 の 支 援 事 業 と い う 特 性 を 持 っ て い る 。し た が っ て 一 人 一 人 の 隊 員 の 協 力 活 動 が 主 体 で あ り ,協 力 隊 事 務 局 は そ の 活 動 支 援 の 中 核 的 存 在 と し て ,隊 員 活 動 が 円 滑 に 進 む よ う に ,支 援 ,情 報 提 供 ,進 路 相 談 ,所 要 経 費 の 支 給 や ,募 集 ・ 選 考 を 行 う と 共 に ,事 務 局 外 の 各 団 体 等 の 支 援 の 輪 を 広 げ て い く 努 力 を し て い る 。こ の よ う な 事 業 運 営 を 行 う に あ た り ,国 際 協 力 事 業 団 総 裁 の 諮 問 機 関 と し て 協 力 隊 運 営 委 員 会 が 設 置 さ れ て お り ,協 力 隊 運 営 に 関 す る 重 要 事 項 が 審 議 さ れ ,協 力 隊 事 務 局 の 具 体 的 業 務 実 施 に 指 針 が 明 示 さ れ ,逐 次 実 施 に 移 されてきた。 a.2.4 派 遣 か ら 帰 国 ま で 協力隊への参加資 格 は 20∼ 39 歳 ま で の 日 本 国 籍 を 持 つ 者 で あ る 。 青 年 海 外 協 力 隊 を 発 展 途 上 国 に 派 遣 す る に あ た り ,ま ず ,日 本 政 府 と 相 手 国 政 府 と の 間 で「 青 年 海 外 協 力 隊 員 の 派 遣 に 関 す る 取 極 」が 締 結 さ れ る 。そ し て ,こ の 取 極 に 基 づ き 相 手 国 政 府 か ら ,わ が 国 の 在 外 公 館 を 通 じ て ,日 本 政 府 に 協 力 隊 員 の 公 式 要 請 が な さ れ る 。協 力 隊 員 の 募 集 は ,こ の 要 請 に 基 づ い て始まりまる。募集は,年 2 回,春と秋に行われ,筆記の一次試験と面接, 健 康 診 断 の 二 次 試 験 に 合 格 す る と , 隊 員 候 補 生 と し て 訓 練 に 入 り ま す 。 79 日間の集団合宿制である訓練を修了して初めて正式な協力隊員となりそれ ぞ れ の 国 に 派 遣 さ れ る こ と と な る 。派 遣 国 に 赴 任 し た 協 力 隊 員 た ち は ,ま ず 現 地 訓 練 を 経 た 後 ,各 々 の 配 属 先 へ 派 遣 国 政 府 機 関 の 一 員 と し て 配 属 さ れ て い く 。 隊 員 の 活 動 は , 各 国 の JICA 在 外 事 務 所 , 駐 在 員 事 務 所 , ま た は 調 整 員 事 務 所 ,そ し て 東 京 の 協 力 隊 事 務 局 に よ っ て 支 援 さ れ る 。2 年 間 の 活 動 期 間 を 終 え た 協 力 隊 員 は ,日 本 に 帰 国 し ,健 康 診 断 や 帰 国 面 接 を 含 む 必 要 な 帰 国手続きを行う。 10 2001 年 12 月 31 日 の 時 点 で ,現 役 の 協 力 隊 員 は 2,284 名 で あ り ,世 界 65 カ 国 に 派 遣 さ れ て お り , そ の 活 動 は 7 部 門 , 約 140 職 種 で あ る 。 - 200 - b. 任 国 グ ァ テ マ ラ に つ い て b.1 グ ァ テ マ ラ の 全 般 情 報 11 グァテマラ共和国 独 立 : 1821/9/15 ス ペ イ ン よ り 独 立 面 積 : 108,889km 2 ( 日 本 の 1/3) 人 口 : 1,123 万 人 ( 国 立 統 計 院 , 2002 1 2 ) 人 口 増 加 率 : 2.4% ( 世 界 銀 行 , 2004 1 3 ) 首 都 : グ ァ テ マ ラ シ テ ィ ー , 人 口 は お よ そ 120 万 人 政体:立憲共和制 元 首 : オ ス カ ル ・ ベ ル シ ェ 大 統 領 Oscar Jose Rafael Berger Perdomo 時 差 : 日 本 よ り 15 時 間 遅 れ 民 族 : 先 住 民 45% , ヨ ー ロ ッ パ 系 2% , 混 血 ( ラ デ ィ ー ノ ) 52% 言 語 : ス ペ イ ン 語 ( 公 用 語 ), マ ヤ 系 言 語 ( キ チ ェ , カ ク チ ケ ル , マ ム な ど) 宗 教 : 80%が カ ト リ ッ ク , ほ か に プ ロ テ ス タ ン ト や マ ヤ 族 伝 統 宗 教 な ど 地 形 : ユ カ タ ン 半 島 の 基 部 に 位 置 し ,カ リ ブ 海 と 太 平 洋 に 面 し て い る 。国 土の 3 分の 2 が山岳地帯で,北西から南東にシエラマドレ山脈が走 っ て い る 。山 脈 中 に は 活 火 山 や 火 山 湖 が 多 く ,地 震 の 群 発 地 で あ る 。 北部はユカタン半島の一部をなす丘陵地と低湿な平野が広がる。 気 候 : 沿 岸 部 の 低 地 は 熱 帯 性 ,高 原 地 帯 は 温 帯 性 の 穏 や か な 気 候 で ,雨 季 と 乾 季 に 分 か れ て い る 。 5∼ 10 月 が 雨 季 で あ る 。 通 貨 : ケ ツ ァ ル ( Quetzal (GTQ)), 1 米 ド ル = 7.7541 ケ ツ ァ ル ( 02 年 9 月 IMF 1 4 ) GDP: US$27.4 billion( 世 界 銀 行 , 2004) GDP 成 長 率 : 2.7% ( 世 界 銀 行 , 2004) 略 史 : 1523 年 スペインによる征服 1821 年 スペインから独立 1823 年 中米諸州連合結成 筆 者 が 赴 任 し て い た 2002 年 か ら 2004 年 時 点 の デ ー タ を 示 す 。 国 立 統 計 院 ( INE: Instituto Nacional de Estadistica) の 公 開 情 報 <http://www.ine.es/> 11 12 13 14 世 界 銀 行 ( ) の 公 開 情 報 よ り < http://www.worldbank.org/> 国 際 通 貨 基 金 ( IMF: International Monetary Fund) - 201 - 1838 年 グァテマラ共和国成立 1986 年 民政移管 b.2 グ ァ テ マ ラ の 内 情 15 b.2.1 社 会 的 特 色 グ ァ テ マ ラ は 中 米 5 ヶ 国 中 最 大 の 人 口( 約 11.9 百 万 人 )と GDP を 有 す る 多 民 族・多 文 化・多 言 語 国 家 で あ り ,多 様 な 気 候 と 肥 沃 な 土 壌 は 様 々 な 農 産 物 栽 培 を 可 能 に し て い る 。し か し ,コ ー ヒ ー ,砂 糖 ,バ ナ ナ 等 の 伝 統 産 品 に よ る モ ノ カ ル チ ャ ー 経 済 へ 強 く 依 存 し て お り ,こ れ ら 農 産 物 の 輸 出 に よ る 外 貨 収 入 は 国 際 市 場 価 格 に 大 き く 左 右 さ れ ,安 定 的 経 済 運 営 を 困 難 な も の に し て い る 。こ の よ う な 不 安 定 な 経 済 構 造 を 改 善 す る た め ,ポ ル テ ィ ー ジ ョ 前 政 権は野菜等の非伝統的農産物と繊維加工製品の輸出振興および観光振興に よる経済力の向上に努めてきた。 2001 年 の グ ァ テ マ ラ の GDP 成 長 率 は 2.4% で あ り , 国 内 経 済 の 不 振 が 続 い て い る 。国 民 生 活 は 実 質 的 に 底 上 げ さ れ ず ,ま た 雇 用 機 会 も 限 ら れ て お り 貧 困 問 題 が 深 刻 化 し て い る 。当 国 の 国 民 の 57%( 6 百 万 人 )が 貧 困 層 に 属 し , う ち 27%( 2.8 百 万 人 ) が 極 貧 で あ る と 言 わ れ て お り , と く に 地 方 農 村 地 域 に お い て 貧 困 層 が 76%,う ち 極 貧 が 40%と 顕 著 で あ る 。ま た ,所 得 の 分 配 格 差 が 著 し く 10%の 上 流 階 層 が 国 民 全 体 の 所 得 の 47%を 得 て お り ,民 族 的 に は 人口の半数以上を占めるマヤ族等の先住民の大半が小規模零細農業に従事 しており貧困から脱却できない状況にある。 ま た ,グ ァ テ マ ラ は 中 米 5 ヶ 国 の 中 で ,平 均 寿 命 が 64 歳 ,識 字 率 が 67.3%, 人 間 開 発 指 数 が 0.62 と そ れ ぞ れ も っ と も 低 い 水 準 に あ り , 世 界 174 ヶ 国 中 120 位 , ラ 米 33 ヶ 国 中 に お け る 人 間 開 発 指 数 と 比 較 し て も , 最 低 の ハ イ チ に 次 い で 低 い 。同 開 発 指 数 は 先 住 民 の 発 展 の 遅 れ を 明 確 に 示 し て お り ,彼 等 に対するベーシックヒューマンニーズ部門の整備が最大の課題とされてい る。 15 JICAグ ァ テ マ ラ 駐 在 員 事 務 所 お よ び 在 グ ァ テ マ ラ 日 本 大 使 館 の ホ ー ム ペ ー ジ よ り一部引用 < http://www.jica.go.jp/guatemala/about_guatemala.html> < http://www.gt.emb-japan.go.jp/info_japanJA3.htm> - 202 - b.2.2 経 済 状 況 ( 1) コ ー ヒ ー , 砂 糖 , バ ナ ナ 等 の 農 産 品 が 経 済 の 根 幹 と な っ て お り , 経 済 が 国 際 市 場 価 格 に 依 存 す る た め に 不 安 定 。こ う し た 経 済 構 造 を 改 善 す る べ く , 政府は野菜類や繊維加工品など非伝統品を振興している。 ( 2)98 年 の ハ リ ケ ー ン 災 害 が 引 き 金 と な り ,99 年 に 金 融 不 安 問 題 が 顕 在 化 して以来,グァテマラ経済は未だ十分に回復したとは言えない状況にある。 更 に 2001 年 9 月 11 日 の 米 国 同 時 多 発 テ ロ の 影 響 も あ り , 同 年 の GDP 成 長 率 は 2000 年 の 3.3% を 下 回 る 2.3% ま で 減 速 し た 。 ( 3)2001 年 1 月 時 点 で マ ク ロ 経 済 は 比 較 的 安 定 し て い る が ,96 年 末 の 和 平 合 意 以 降 社 会 開 発 部 門 へ の 歳 出 が 増 大 し て 財 政 収 支 が 悪 化 し て お り ,ポ ル テ ィ ー ジ ョ 政 権 は 徴 税 率 の 向 上 を 通 じ て 財 政 の 健 全 化 を 図 っ て い る 。右 目 的 で 2000 年 6 月 に は 所 得 税 引 き 上 げ , 2001 年 7 月 に は 消 費 税 引 き 上 げ を 骨 子 と する税法改正が可決したが,十分な成果を挙げることはできなかった。 ( 4) 2000 年 10 月 , 米 国 は CBI( カ リ ブ 海 域 貿 易 促 進 構 想 ) 拡 大 法 を 発 効 さ せ た 。同 法 は グ ァ テ マ ラ の 対 米 繊 維 製 品 輸 出 を 促 進 す る も の で あ り ,同 業 界 で は 1 万 5 千 人 の 新 規 雇 用 創 出 , 25% の 外 貨 獲 得 額 拡 大 を 見 込 ん で い る 。 ( 5) 2000 年 6 月 , メ キ シ コ と の 自 由 貿 易 協 定 を ホ ン ジ ュ ラ ス , エ ル ・ サ ル ヴ ァ ド ル と 共 に 締 結 。対 メ キ シ コ の 農 産 品 ,加 工 品 の 輸 出 ,及 び メ キ シ コ か ら の 直 接 投 資 の 拡 大 が 期 待 さ れ て い る 。ま た 2001 年 11 月 ,ド ミ ニ カ 共 和 国 と の 間 で 自 由 貿 易 協 定 を 締 結 , 2003 年 1 月 よ り 米 国 と 中 米 諸 国 と の 間 で 自 由 貿 易 協 定 締 結 交 渉 が 開 始 さ れ , 12 月 に 妥 結 し た ( た だ し , コ ス タ リ カ と は 2004 年 1 月 に 妥 結 ) 。 b.2.3 内 政 長 い 間 続 い て い た 内 戦 も ,1996 年 12 月 に 和 平 合 意 が な さ れ て よ う や く 落 ち 着 い た 。し か し 内 戦 の 代 償 は 大 き く ,そ の 補 償 は 未 だ に 済 ん で い な い 。例 え ば ,土 地 を 奪 わ れ た 先 住 民 た ち に よ る 農 地 要 求 や ,内 戦 時 に 政 府 が 反 政 府 を 鎮 圧 す る た め に 雇 っ た 一 般 住 民 ( 通 称 : Ex-pac) に 対 す る 給 料 未 払 い 問 題 な ど が 挙 げ ら れ る 。も ち ろ ん ,経 済 面 や 教 育 面 ,保 健 衛 生 面 で の 問 題 も 大 き く,貧富の格差が生じている。この貧困問題に対して,グァテマラ政府は, 貧 困 削 減 戦 略 を 2002 年 に 発 表 し た も の の , 総 論 の み で 具 体 的 に は ま だ 動 い て い な い 。こ の よ う に ,グ ァ テ マ ラ で は ,土 地 問 題 や 内 戦 時 の 補 償 問 題 ,汚 職 問 題 ,増 税 ,失 業 者 増 大 な ど の 要 因 に よ り ,暴 動 発 生 の 危 険 性 は き わ め て - 203 - 高 い 状 況 に あ っ た 。さ ら に ,警 察 の 数 が 絶 対 的 に 不 足 し て い る と い う 大 き な 問 題 も あ り , 2002 年 時 点 で 約 2 万 人 が 在 職 し て い る が , 最 低 で も 3 万 人 は 必 要 と さ れ て い る 。そ の た め 市 街 地 を は じ め ,国 内 全 域 の 治 安 が 劣 悪 な 状 況 に あ る 。こ う し た 背 景 に は ,当 時 の 政 情 の 不 安 定 が も っ と も 大 き な 原 因 で あ った。以下に,これまでの政権の経緯とその特徴を記載する。 ( 1)58 年 に 成 立 し た イ デ ィ ゴ ラ ス 政 権 の 親 米 的 政 策 に 不 満 を 抱 い た 軍 若 手 将 校 が 60 年 に 反 乱 を 起 こ し た 。 右 反 乱 は 鎮 圧 さ れ た が , そ の 指 導 者 グ ル ー プ が 山 中 に 潜 伏 , ゲ リ ラ の 源 泉 と な っ た 。 以 後 36 年 間 に わ た る 内 戦 が 続 い た。 ( 2)1965 年 改 正 憲 法 に よ り ,1966 年 ,大 統 領 選 挙 に よ る 民 主 的 な 政 権 交 替 。 し か し な が ら , 1970 年 以 降 は , 軍 人 大 統 領 が 継 続 。 1986 年 1 月 に セ レ ソ 大 統 領 が 就 任 し , 20 年 振 り の 民 政 移 管 を 達 成 。 ( 3) 1991 年 1 月 , セ ラ ー ノ 大 統 領 就 任 。 1993 年 6 月 , セ ラ ー ノ 大 統 領 は , 「 自 演 ク ー デ タ ー 」に 失 敗 ,失 脚 し 国 外 に 亡 命 。こ れ を 受 け て ,同 年 6 月 6 日 ,デ ・ レ オ ン 大 統 領( 前 人 権 擁 護 官 )が 就 任 し ,政 府 ・ ゲ リ ラ 間 の 和 平 交 渉 , 貧 困 対 策 , 人 権 改 善 等 を 積 極 的 に 推 進 。 1991 年 に 開 始 さ れ た 和 平 交 渉 は 一 時 中 断 さ れ た が , 1994 年 1 月 に 国 連 の 仲 介 を 得 て 再 開 さ れ , デ ・ レ オ ン 政 権 時 代 に 大 幅 な 前 進 が 見 ら れ た 。 1994 年 9 月 以 降 , 国 連 グ ァ テ マ ラ 人 権検証ミッションが全国に展開されている。 ( 4)1996 年 12 月 29 日 ,政 府・ゲ リ ラ 間 で 最 終 和 平 合 意 が 成 立 し ,36 年 に 亘って続いてきた中米最後の内戦が終了。和平プロセスが開始された。 ( 5) 1997 年 5 月 , 国 連 軍 事 監 視 団 の 監 視 の 下 , ゲ リ ラ の 武 装 解 除 完 了 。 同 年 12 月 , 軍 警 察 が 解 体 さ れ , 国 家 市 民 警 察 に 移 行 。 ( 6)1999 年 5 月 ,和 平 プ ロ セ ス 推 進 の た め の 憲 法 改 正 に 関 す る 国 民 投 票 が 行われたが,憲法改正案は否決された。 ( 7)2000 年 1 月 , ポ ル テ ィ ー ジ ョ 大 統 領 就 任 。同 政 権 は 和 平 プ ロ セ ス の 進 捗 を 国 政 の 重 要 課 題 の 一 つ に 掲 げ た が ,税 制 の 問 題 等 で 財 界 及 び 市 民 団 体 と の対立を引き起こし,停滞している。和平合意諸協定の履行は遅れており, 当 初 の 2000 年 末 ま で の 履 行 期 限 は , 2004 年 末 ま で に 延 長 さ れ た 。 ( 8) 2003 年 11 月 9 日 に 実 施 さ れ た 大 統 領 選 挙 の 結 果 , 野 党 GANA( 国 民 大 連 合 ) の オ ス カ ル ・ ベ ル シ ェ 候 補 と UNE( 国 民 希 望 党 ) の ア ル バ ロ ・ コ ロ ン 候 補 の 2 人 が 上 位 1, 2 位 を 占 め た 。 同 年 12 月 28 日 に 実 施 さ れ た 決 戦 投 票 の 結 果 ,都 市 住 民 及 び 富 裕 経 済 層 に そ の 支 持 基 盤 を 持 つ ベ ル シ ェ 候 補 が , 先 住 民 貧 困 層 や 地 方 の 農 民 等 の 支 持 を 受 け た コ ロ ン 候 補 を 54.13%対 46.78% の 差 で 破 り ,新 大 統 領 に 決 ま っ た 。な お ,退 任 し た ポ ル テ ィ ー ジ ョ 大 統 領 は , - 204 - 任 期 中 に 貧 富 の 経 済 格 差 の 是 正 を 重 要 な 課 題 と し ,先 住 民 層 の 貧 困 撲 滅 等 に プ ラ イ オ リ テ ィ ー を 置 い て き た ほ か ,和 平 協 定 の 完 全 履 行 ,汚 職 撲 滅 や 行 政 能 力 の 向 上 ,司 法 分 野 の 能 力 向 上 に 取 り 組 ん で き た 。し か し ,結 果 と し て 十 分 な 成 果 を あ げ る に は 至 ら な か っ た 。逆 に ,政 権 内 部 か ら 多 く の 汚 職 逮 捕 者 を 出 し た ほ か ,本 人 自 身 も 公 金 の 不 正 蓄 財 疑 惑( パ ナ マ 秘 密 口 座 事 件 )が か け ら れ , 2002 年 以 降 , 支 持 率 も 1 割 を 切 り , 苦 し い 政 権 運 営 だ っ た 。 b.2.4 和 平 協 定 1996 年 12 月 に 締 結 さ れ た 和 平 協 定 は 2000 年 に 履 行 期 限 を 迎 え た が ,60% が 未 履 行 で あ る こ と か ら , 引 き 続 き 2004 年 末 ま で の 履 行 期 限 延 長 が 行 わ れ た 。 ま た 和 平 協 定 の 達 成 状 況 を 監 視 し て い る 国 連 和 平 検 証 団 ( MINUGUA) も 同 年 末 ま で の 滞 在 延 長 を 決 め た 。履 行 期 限 延 長 の 際 ,取 り 組 み ス ケ ジ ュ ー ル が 新 た に 設 定 さ れ ,先 住 民 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ ー の 確 立 と 人 権 問 題 の 解 決 , 武 器 所 持 の 規 制 ,行 政 機 能 の 強 化 等 の 合 意 事 項 に 関 す る 119 の プ ロ ジ ェ ク ト が 継 続 し て 実 施 さ れ て い る 。 ま た , 先 住 民 関 連 の 動 き と し て は , 2003 年 6 月 に マ ヤ 言 語 保 護 法 が 制 定 さ れ た ほ か , 同 年 12 月 に は グ ァ テ マ ラ で 初 め て マヤ民族の専門チャンネルが政府の支援で開設された。 b.2.5 貧 困 削 減 戦 略 ペ ー パ ー ポ ル テ ィ ー ジ ョ 政 府 は 2001 年 10 月 に は グ ァ テ マ ラ 国 独 自 の「 貧 困 削 減 戦 略 ペ ー パ ー 」を 発 表 し た 。同 ペ ー パ ー で は ,地 方 の 先 住 民 居 住 地 域 を 開 発 重 点 地 域 と す る こ と ,効 率 的 で 透 明 な 公 共 事 業 を 実 施 す る こ と ,地 方 分 権 化 を 推進することおよび住民の政治および社会参加を促進することを原則とし, 公 平 な 経 済 成 長 の 達 成 ,人 的 資 源 へ の 投 資 お よ び イ ン フ ラ へ の 投 資 の 3 点 を 基 本 戦 略 と 位 置 付 け て い る 。同 戦 略 は 新 政 権 に も 引 き 継 が れ る こ と に な っ て お り , 同 政 府 は 2003 年 11 月 に 2015 年 ま で の 目 標 を 定 め た 修 正 版 を 発 表 し た。 c. グ ァ テ マ ラ に お け る JICAの 取 り 組 み 16 16 JICAグ ァ テ マ ラ 駐 在 所 HP <http://www.jica.go.jp/guatemala/index.html>よ り 一 部 抜粋 - 205 - c.1 事 務 所 設 立 グ ァ テ マ ラ 駐 在 員 事 務 所 は , 1977 年 3 月 の 技 術 協 力 協 定 締 結 , 1987 年 9 月 の 青 年 海 外 協 力 隊 派 遣 取 極 署 名 を 受 け て 1989 年 4 月 の JOCV 調 整 員 事 務 所 と し て 開 設 さ れ , そ の 後 , 1998 年 4 月 に JICA/JOCV 駐 在 員 事 務 所 と な っ た 。 そ し て 2003 年 10 月 , グ ァ テ マ ラ 政 府 か ら JICA 事 務 所 と し て 正 式 に 承 認 さ れ , JICA 事 業 の 実 施 で き る 事 務 所 ス テ ー タ ス が 確 立 し た 。 c.2 日 本 の 援 助 重 点 分 野 日 本 は ポ ル テ ィ ー ジ ョ 政 権 発 足 10 ヶ 月 後 の 2000 年 11 月 に 政 策 対 話 調 査 団 を ,さ ら に 2001 年 3 月 に は プ ロ ジ ェ ク ト 確 認 調 査 団 を 派 遣 し 協 議 の 結 果 , 教 育 ,保 健 医 療 ,農 業 ,イ ン フ ラ 整 備 ,治 安 改 善 お よ び 行 政 ・ 司 法 の 整 備 の 6 点 を 援 助 の 重 点 分 野 と す る こ と を 確 認 し た 。ま た ,包 括 的 な 重 要 な 視 点 と し て ,先 住 民 層 の 貧 困 緩 和 や 社 会 的 弱 者 支 援 の 重 要 性 に つ い て 双 方 で 確 認 し た 。現 在 こ の 方 針 を 基 に 国 別 事 業 実 施 計 画 を 策 定 ,教 育 ,保 健 医 療 ,農 業 の 3 分野を柱とした先住民貧困削減プログラムを最重点分野として協力を行 っている。 2004 年 時 点 で グ ァ テ マ ラ に お い て 活 動 し て い る 協 力 隊 員 の 数 は お よ そ 50 名 で , 96 年 の 内 戦 終 了 を 経 て , 教 育 ・ 保 健 衛 生 分 野 を 中 心 に 活 動 中 で あ る ( Fig. 6)。同 国 政 府 は ,内 戦 の 根 底 に あ っ た と 思 わ れ る 貧 困 問 題 の 解 決 に 力 を入れており,国民の半数近くを占める先住民の生活改善や地域開発など, 協 力 隊 員 に よ る 草 の 根 支 援 が 今 後 も 一 層 期 待 さ れ て い る 。ま た ,世 界 保 健 機 構( WHO)が 掲 げ る , 「 2010 年 ま で に シ ャ ー ガ ス 病 を 中 米 か ら 撲 滅 す る 」と い う 目 標 の も と ,JICA が 昨 年 4 月 か ら 第 1 期・第 2 期 ,計 4 年 間 の 計 画 で , 専 門 家 と マ ラ リ ア・風 土 病 対 策 の 協 力 隊 員 が 連 携 し て シ ャ ー ガ ス 病 対 策 へ の 取 り 組 み を 進 め て き た 。グ ァ テ マ ラ 側 の 主 体 的 な 活 動 も 引 き 出 し ,協 力 は 着 実に成果を上げ始めている。 ほ か に も 教 育 分 野 に お け る 協 力 が 盛 ん に 行 わ れ て お り ,グ ァ テ マ ラ に お け る 日 本 語 教 育 は , 首 都 の サ ン ・ カ ル ロ ス 大 学 言 語 セ ン タ ー に て , 1991 年 2 月 か ら 青 年 海 外 協 力 隊 員 に よ っ て 始 め ら れ , 2004 年 の 学 期 修 了 を も っ て 13 年 を 経 過 す る 。こ の セ ン タ ー が 国 内 唯 一 の 日 本 語 教 育 機 関 で ,教 師 数 は 本 校 2 名 ,ケ ツ ァ ル テ ナ ン ゴ 分 校 1 名 で あ る 。同 セ ン タ ー で は ,英 語 ,フ ラ ン ス 語 を は じ め ド イ ツ 語 ,イ タ リ ア 語 ,さ ら に 国 内 の イ ン デ ィ ヘ ナ の 言 語 ,ア ジ ア で は 日 本 語 , 韓 国 語 , 中 国 語 な ど , 全 19 カ 国 後 の ク ラ ス が 開 講 さ れ , 文 - 206 - 専門家 3名 シャーガス病対策 農業政策アドバイザー プロジェクト形成・評価 シニアボランティア 1名 1 1 1 算数プロジェクト 1 JOCV 38名 <農林水産部門>13名 <保健衛生部門>6名 村落開発普及員 野菜 森林経営 家畜飼育 獣医 植林 組織培養 花卉 土壌 看護士 栄養士 感染病対策 4 2 1 1 1 1 1 1 1 3 2 1 <スポーツ部門>2名 柔道 水泳 1 1 <教育文化部門>16名 小学校教師 植物学 日本語教師 環境教育 養護 文化財保護 家政 理数科教師 プログラムオフィサー 映像 3 2 2 2 2 1 1 1 1 1 Fig. 6. グ ァ テ マ ラ に お け る JICA プ ロ ジ ェ ク ト の 人 材 派 遣 状 況( 2004 年 7 月 時 点 ). 筆 者 は JOCV の 植 物 学 の 職 種 と し て 参 画 し た . 植 物 学 の も う 一 名 は 農 業 試 験場育種センターで種子データベースの構築に携わっていた. 字 通 り 国 の 言 語 セ ン タ ー と し て の 役 割 を 果 た し て い る 。ほ か の 言 語 に 関 し て も 他 国 か ら の 援 助 ,ま た は ボ ラ ン テ ィ ア で 講 師 を 派 遣 し て い る ケ ー ス が 多 々 見 ら れ る 。そ の 背 景 に は ,日 本 企 業 の 支 社 な ど が 少 な く ,在 グ ァ テ マ ラ 日 本 人 は 。約 300 人 と い う 少 な さ も あ り ,街 角 で 日 本 語 を 耳 に す る こ と は ほ と ん ど な い も の の ,若 い 人 た ち の 間 に ,漫 画 や 格 闘 技 に 興 味 を 示 す 人 が 多 く ,学 習 者 も だ ん だ ん 増 え つ つ あ る 。こ の 協 力 は ,学 校 教 育 以 外 の 段 階 で の み 日 本 語 教 育 が 行 わ れ て い る と い う 大 き な 特 徴 を 有 し ,国 立 サ ン・カ ル ロ ス 大 学 言 語 セ ン タ ー の ク ラ ス は ,大 学 生 と 社 会 人 一 般 を 対 象 と し た 混 合 ク ラ ス で ,一 般 講 座 的 な 性 格 を 持 っ て い る 。ま た ,国 立 サ ン・カ ル ロ ス 大 学 言 語 セ ン タ ー - 207 - 内 に 開 講 し て い る 17 の 各 言 語 コ ー ス の う ち の 1 つ と し て ,日 本 語 コ ー ス( 一 般 対 象 )が 設 け ら れ て い る 。実 際 に 日 系 企 業 で 働 い て い る 人 が 受 講 す る ケ ー ス は あ る が ,逆 に 日 本 語 を 使 っ て 進 路 を 決 定 し た 学 生 に は ,同 大 学 の 日 本 語 教 師 に な っ た 人 と ,日 本 人 学 校 の 事 務 員 に な っ た 人 が い る の み で あ る 。ほ か に は ,文 部 省 留 学 生 OB や 在 グ ァ テ マ ラ の 日 本 人 が ボ ラ ン テ ィ ア で 日 本 語 を 教えている。 - 208 - 引用文献 伴 正 一 . 1978. 『 ボ ラ ン テ ィ ア ・ ス ピ リ ッ ト 』 . 講 談 社 , 東 京 . Browne, S. 1990. Foreign Aid in Practice. 283pp. Pinter Publishers Ltd., London. Glowka, L., F. Burhenne-Guilmin and H. Synge. 1994. A Guide to the Convention on Biological Diversity. Environmental Policy and Law Paoer No. 30, 161pp. IUCN, Gland. 井 口 次 郎 . 1997. 持 続 可 能 な 開 発 志 向 の プ ロ ジ ェ ク ト マ ネ ジ メ ン ト − 生 態 学的視点による開発戦略−. 横浜国立大学博士論文. 井 上 民 二・和 田 英 太 郎 . 1998. 1 章 生 物 多 様 性 − そ の 意 義 と 現 状 . 井 上 民 二 ・ 和 田 英 太 郎( 編 ) 『 岩 波 講 座 地 球 環 境 学 5 生 物 多 様 性 と そ の 保 全 』. p1-24. 岩波書店, 東京. IUCN/UNEP/WWF. 1991. Caring for the Earth: A Strategy for Sustainable Living. IUCN/UNEP/WWF, Gland, Switzerland. JICA. 1974. 国 際 協 力 事 業 団 法 . JICA. 2002. 独 立 行 政 法 人 国 際 協 力 機 構 法 . JICA. JOCV(青 年 海 外 協 力 隊 事 務 局 ). 1993. 先 進 国 ODA が 直 面 す る 問 題 と 協 力 隊 の 今 後 の あ り 方 . ク ロ ス ロ ー ド , 29 (336): 36-44. Koester, v. 1997. The Biodiversity Conservation Negotiation Process and Some Comments on the Outcome. Environmental Policy and Law, 27 (3): 175-192. Meadows, D. et al. 1972. The Limit To Growth. Universe Book, New York. Please, S. 1984. The Hobbled Giant: Essays on the World Bank. Westview Press, Boulder. 下 村 恭 民 ・ 辻 一 人 ・ 稲 田 十 一 ・ 深 川 由 起 子 . 2001. 『 国 際 協 力 − そ の 新 し い 潮 流 − 』 . 342pp. 有 斐 閣 , 東 京 . 高 橋 進 . 2002. 生 物 多 様 性 保 全 と 国 際 開 発 援 助 . 環 境 研 究 2002 No. 126: 86-95. 塚 脇 真 二 . 2004. 海 外 学 術 調 査 「 カ ン ボ ジ ア の ト ン レ サ ッ プ 湖 に お け る 生 物 多 様 性 維 持 機 構 の 評 価 」 . 日 本 熱 帯 生 態 学 会 ニ ュ ー ズ レ タ ー , 56: 8-10. UNEP. 1993. Report of Panel Ⅱ : Evalution of Potential Economic Implications of Conservation of Biological Diversity and Its Sustainable Use and Evaluation of Biological and Genetic Resources. Expert Panels Established to Follow-up on the Convention on Biological Diversity, UN Doc. UNEP/Bio. Div./ Panels/ Inf. 2, UNEP, Nairobi, 27pp. 和 田 英 太 郎 . 1998. 第 8 章 生 物 多 様 性 研 究 の 将 来 . - 209 - 井上民二・和田英太郎 ( 編 )『 岩 波 講 座 地 球 環 境 学 5 生 物 多 様 性 と そ の 保 全 』 . p231-248. 岩 波 書 店, 東京. 参考資料 JICA の ホ ー ム ペ ー ジ < http://www.jica.go.jp/Index-j.html> JICA グ ァ テ マ ラ 駐 在 員 事 務 所 の ホ ー ム ペ ー ジ < http://www.jica.go.jp/guatemala/about_guatemala.html> 国 立 統 計 院 ( INE: Instituto Nacional de Estadistica) の ホ ー ム ペ ー ジ < http://www.ine.es/ > 世 界 銀 行 ( WB: The World Bank) の ホ ー ム ペ ー ジ < http://www.worldbank.org/> 在グァテマラ日本大使館のホームページ < http://www.gt.emb-japan.go.jp/info_japanJA3.htm> - 210 - APPENDIX 2 Flora of the floodplain in Lake Tonle Sap, Cambodia Flora of the floodplain in Lake Tonle Sap, Cambodia ver. ver. 2.2 【Number of family and species】 56 Family 129 Species 【Scientific name】 The spelling of scientific names and author names followed Index Kewensis in "The International Plant Names Index" <http://www.ipni.org/ipni/plantnamesearchpage.do> 【Local name】 The local name was described based on the interview with local people of Chong Kneas village. Khmer terms were referred to reports and dictionary (CNMC/NEDECO, 1998; Dy phon, 2000; Kham, 2004; McDonald et al., 1997). 【Growth forms】 The growth forms were divided into the following nine types: Graminoid, Herb, Acuatic herb, Shrub, Short tree, Tree, Herbaceous liana, Woody liana, Fern. 【科 名】 Japanese family name 【和 名】 Japanese common name 【Reference】 CNMC/NEDECO. 1998. Natural Resources-based Development Strategy for the Tonle Sap Area, Cambodia (CMB/95/003). Final Report. Vol. 2, Sectoral Studies, Environment in the Tonle Sap Area. 9+122pp. Cambodian National Mekong Committee, Phnom Penh. Dy phon, P. 2000. Dictionary of plants used in Cambodia. 915pp. Phnom Penh. Kham, L. 2004. Medical Plants of Cambodia: Habitat, Chemical Constituents and Ethnobotanical Uses. 631pp. Bendigo Scientific Press, Golden Square, Australia. McDonald, J. A., Pech, B., Phauk, V. and Leeu, B. 1997. Plant communities of the Tonle Sap Floodplain. Final Report in Contribution to the Nomination of Tonle Sap as a Biosphere Reserve for UNESCO's Man in the Biosphere Program. 30pp.+appendices, figures and maps. - 211 - - 212 - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 Adiantaceae Amaranthaceae Annonaceae Apocynaceae Araceae Arecaceae Asclepiadaceae Asteraceae Asteraceae Azollaceae Azollaceae Balsaminaceae Boraginaceae Capparidaceae Capparidaceae Capparidaceae Capparidaceae Ceratophyllaceae Combretaceae Combretaceae Commelinaceae Commelinaceae Commelinaceae Connaraceae Convolvulaceae Convolvulaceae Convolvulaceae Cucurbitaceae Cyperaceae Cyperaceae Cyperaceae Cyperaceae Cyperaceae Cyperaceae Cyperaceae Cyperaceae Cyperaceae Cyperaceae Cyperaceae Cyperaceae Cyperaceae Cyperaceae Family Ceratopteris thalictroides (L.) Brongn. Alternanthera sessilis (L.) DC. Uvaria pierrei Finet & Gagnep. Parameria laevigata (A.L.Juss.) Moldenke Pistia stratiotes L. Calamus salicifolius Becc. Oxystelma secamone Schum. Eclipta prostrata L. Grangea maderaspatana Poir. Azolla imbricata (Roxb.) Nakai Azolla japonica Franch. et Savat. Hydrocera triflora (L.) Wight & Arn. Heliotropium indicum L. Capparis micracantha DC. Cleome rutidosperma DC. Crateva magna DC. Crateva roxburghii R.Br. Ceratophyllum demersum Klein ex Cham. Combretum trifoliatum Vent. Terminalia cambodiana Gagnep. Commelina benghalensis L. Commelina sp. Cyanotis axillaris (L.) D.Don ex Sweet Connarus semidecandrus Jack Aniseia martinicensis Choisy Ipomoea aquatica Forssk. Merremia hederacea Hallier f. Trichosanthes cucumerina Miq. Cyperus cephalotes Vahl Cyperus haspan L. Cyperus imbricatus Llanos Cyperus pilosus Vahl Cyperus polystachyos Rottb. Cyperus pulcherrimus Willd. ex Kunth Cyperus sp. Fimbristylis hookeriana Boeckeler Fimbristylis miliacea Vahl Fimbristylis umbellaris var. vicaryi (C.B.Clarke) S.Karthikeyan Fimbristylis sp. Fuirena ciliaris (L.) Roxb. Scirpus grossus L.f. Scirpus juncoides Roxb. Species ? kom out chikei dril suva vor tek dos chork lupiak ? ? sumao kanyu chan cho cho sumao tiyu daom promaoi damlei kanyu chu bai dachi mo mian ton lia tongang sa rai an daet tros ta uoa sumao sulab tie sumao sulab tie sumao sulab tie chai pau aon dart tro kuort tro kuorn vor talam andak no nong prei koa koa koa koa koa koa koa koa koa koa koa koa karnyu chort koa Local name F H WL WL AH WL HL H H AH AH H H S H ST S AH WL T H H H S HL HL HL HL G G G G G G G G G G G G G G 生育形 和 名 ミズワラビ ツルノゲイトウ ボタンウキクサ タカサブロウ アカウキクサ オオアカウキクサ ナンバンルリソウ アフリカフウチョウソウ マツモ マルバツユクサ ナガバアサガオ ヨウサイ ツタノハヒルガオ コアゼガヤツリ オオガヤツリ オニガヤツリ イガガヤツリ ヒデリコ クロタマガヤツリ オオサンカクイ ホタルイ 科 名 ミズワラビ科 ヒユ科 バンレイシ科 キョウチクトウ科 サトイモ科 ヤシ科 ガガイモ科 キク科 キク科 アカウキクサ科 アカウキクサ科 ツリフネソウ科 ムラサキ科 フウチョウソウ科 フウチョウソウ科 フウチョウソウ科 フウチョウソウ科 マツモ科 シクンシ科 シクンシ科 ツユクサ科 ツユクサ科 ツユクサ科 マメモドキ科 ヒルガオ科 ヒルガオ科 ヒルガオ科 ウリ科 カヤツリグサ科 カヤツリグサ科 カヤツリグサ科 カヤツリグサ科 カヤツリグサ科 カヤツリグサ科 カヤツリグサ科 カヤツリグサ科 カヤツリグサ科 カヤツリグサ科 カヤツリグサ科 カヤツリグサ科 カヤツリグサ科 カヤツリグサ科 Table1. List of flora of the floodplain in Lake Tonle Sap, Cambodia. Growth forms; G = graminoids, H = herbs, AH = acuatic herbs, S = shrubs, ST = short trees, T = trees, HL = herbaceous lianas, WL = woody lianas, F = ferns. Leguminosae was described as "New engler system - Cronquist system". - 213 - 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 Dilleniaceae Dilleniaceae Ebenaceae Elaeocarpaceae Euphorbiaceae Euphorbiaceae Euphorbiaceae Euphorbiaceae Euphorbiaceae Euphorbiaceae Euphorbiaceae Euphorbiaceae Guttiferae Guttiferae Guttiferae Hydrocharitaceae Lecythidaceae Leguminosae-Caesalpinioideae Leguminosae-Mimosoideae Leguminosae-Mimosoideae Leguminosae-Mimosoideae Leguminosae-Mimosoideae Leguminosae-Mimosoideae Leguminosae-Papilionoideae Leguminosae-Papilionoideae Leguminosae-Papilionoideae Leguminosae-Palilionoideae Leguminosae-Papilionoideae Leguminosae-Papilionoideae Leguminosae-Papilionoideae Lemnaceae Lemnaceae Lentibulariaceae Malpighiaceae Marsileaceae Menyanthaceae Menyanthaceae Molluginaceae Moraceae Najadaceae Nelumbonaceae Nymphaeaceae Nymphaeaceae Nymphaeaceae Family Table1. Continue. Dillenia hookeri Pierre Tetracera scandens Gilg & Werderm. Diospyros cambodiana Lecomte Elaeocarpus sp. Acalypha siamensis Gagnep. Coccoceras anisopodum Gagnep. Croton krabas Gagnep. Hymenocardia wallichii Tul. Phyllanthus amarus Schumach. & Thonn. Phyllanthus reticulatus Poir. Phyllanthus taxodiifolius Beille Phyllanthus sp. Garcinia schomburgkiana Pierre Garcinia sp.1 Garcinia sp.2 Hydrilla verticillata F.Muell. Barringtonia acutangula Korth. Cassia occidentalis L. Acacia thailandica I.C.Nielsen Albizia lebbekioides Benth. Mimosa pigra L. Mimosa pudica L. Neptunia oleracea Lour. Aeschynomene aspera L. Aeschynomene indica L. Dalbergia entadoides Pierre ex Gagnepain Dalbergia sp. Derris laotica Gagnep. Indigofera tinctoria Blanco Sesbania javanica Miq. Lemna perpusilla Torr. Spirodela polyrrhiza Schleid. Utricularia aurea Lour. Hiptage triacantha Pierre Marsilea crenata C.Presl Nymphoides hastata (Dop) Kerr Nymphoides indica Kuntze Mollugo oppositifolia L. Ficus heterophylla L.f. Najas minor All. Nelumbo nucifera Gaertn. Nymphaea cyanea Roxb. & G.Don Nymphaea nouchali Burm.f. Nymphaea lotus L. Species ro geng vor dos kun ptul slot tae prei choroa keng bo boi com pa niang ei sei pusom sreach taram an daog pro pennyu tlam an dak san dan tmong kan chos sanen kro bei sa rai tek reang san daek kumaoch bai dom naub darmu ampal tek baran bonla yun prea klob kan chaet su nao am bahs su nao ach moan ku nai moan ta siouv vor preng trom su nao chok chok sa rai tek vo chu pchol phnom su kuan su kuan dam rei kam bet chun slot sa rai tek chouk rom chong pro lit rom chong Local name S WL T S S T S S H WL S S ST S S AH T H WL T S H AH S AH WL WL WL S S AH AH AH WL F AH AH H WL AH AH AH AH AH 生育形 キダチコミカンソウ シマコバンノキ クロモ ハブソウ オジギソウ ミズオジギソウ クサネム タイワンコマツナギ - ビワモドキ科 ビワモドキ科 カキノキ科 ホルトノキ科 トウダイグサ科 トウダイグサ科 トウダイグサ科 トウダイグサ科 トウダイグサ科 トウダイグサ科 トウダイグサ科 トウダイグサ科 オトギリソウ科 オトギリソウ科 オトギリソウ科 クロモ科 サガリバナ科 マメ科-ジャケツイバラ科 マメ科-ネムノキ科 マメ科-ネムノキ科 マメ科-ネムノキ科 マメ科-ネムノキ科 マメ科-ネムノキ科 マメ科-マメ科 マメ科-マメ科 マメ科-マメ科 マメ科-マメ科 マメ科-マメ科 マメ科-マメ科 マメ科-マメ科 アオウキクサ ウキクサ タヌキモ科 キントラノオ科 デンジソウ科 ミツガシワ科 ミツガシワ科 ザクロソウ科 クワ科 イバラモ科 ハス科 スイレン科 スイレン科 スイレン科 ノタヌキモ ナンゴクデンジソウ ガガブタ トリゲモ ハス - 和 名 科 名 - 214 - 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 Onagraceae Onagraceae Pandanaceae Passifloraceae Poaceae Poaceae Poaceae Poaceae Poaceae Poaceae Poaceae Poaceae Poaceae Poaceae Poaceae Poaceae Poaceae Poaceae Poaceae Poaceae Poaceae Poaceae Poaceae Poaceae Polygalaceae Polygonaceae Pontederiaceae Pontederiaceae Pontederiaceae Rhamnaceae Rubiaceae Rubiaceae Salviniaceae Sapindaceae Scrophulariaceae Scrophulariaceae Sphenocleaceae Sterculiaceae Tiliaceae Tiliaceae Trapaceae Verbenaceae Verbenaceae Family Table1. Continue. Ludwigia adscendens (L.) H.Hara Ludwigia hyssopifolia (G.Don) Exell Pandanus humilis Lour. Passiflora foetida L. Aegilops cylindrica C.A.Mey. Brachiaria reptans (L.) C.A.Gardner & C.E.Hubb. Digitaria ciliaris (Retz.) Koeler Echinochloa crus-galli (L.) P.Beauv. Eragrostis malayana Stapf Hygroryza aristata Nees Hymenachne acutigluma (Steud.) Gilliland Leersia hexandra Sw. Leptochloa chinensis Nees Oryza rufipogon Griff. J.Presl & C.Presl Oryza sativa L. Panicum capillare L. Panicum repens L. Paspalum scrobiculatum L. Phragmites karka (Retz.) Trin. ex Steud. Pseudoraphis brunoniana (Wall. & Griff.) Pilg. Saccharum spontaneum L. Setaria geniculata Sieber ex Kunth Sorghum halepense Pers. Vetiveria zizanioides Stapf Xanthophyllum glaucum Wall. Polygonum tomentosum Wall. Eichhornia crassipes Solms Monochoria hastata Solms Monochoria vaginalis C.Presl Ziziphus jujuba Lam. Hedyotis diffusa Spreng. Morinda persicaefolia Buch.-Ham. Salvinia cucullata Roxb. Cardiospermum halicacabum L. Lindernia ciliata (Colsm.) Pennell Lindernia crustacea (L.) F.Muell. Sphenoclea zeylanica Gaertn. Melochia corchorifolia L. Brownlowia paludosa (Kosterm.) Kosterm. Grewia sinuata Wall. Trapa natans var. pumila Nakano ex Verdc. Gmelina asiatica L. Vitex holoadenon Dop Species kom ping puei da mrai rum chek srok saw maw preii ? ? sumao chen chien smao kon tuy dom rei ? ? ? sro gae sro gae sro gae srauv prang sro gae sro gae sro gae bo bos lu pea tek am pauv traeng sumao kan toy com pro tvang sro gae con saing kon triang hai kam plauk tro kiet chrach put trea sumao krech nyo sbat chouk ang karm ko kaom pro mat dai sumao cheng ko sumao pteav ? ro nia su naich tek kro chap ang chan tien prei Local name AH H S HL G G G G G G G G G G G G G G G G G G G G T AH AH AH AH T H S AH HL H H H H WL S AH WL WL 生育形 和 名 ケミズキンバイ タゴボウモドキ ヤギムギ ヒメキビ メヒシバ イヌビエ ハイグロリザ タイワンアシカキ アゼガヤ イネ ハナクサキビ ハイキビ スズメノコビエ セイタカヨシ ワセオバナ セイバンモロコシ ベチベルソウ ホテイアオイ コナギ ナツメ フタバムグラ ナンゴクサンショウモ フウセンカズラ ウリクサ ナガボノウルシ ノジアオイ コオニビシ - 科 名 アカバナ科 アカバナ科 タコノキ科 トケイソウ科 イネ科 イネ科 イネ科 イネ科 イネ科 イネ科 イネ科 イネ科 イネ科 イネ科 イネ科 イネ科 イネ科 イネ科 イネ科 イネ科 イネ科 イネ科 イネ科 イネ科 ヒメハギ科 タデ科 ミズアオイ科 ミズアオイ科 ミズアオイ科 クロウメモドキ科 アカネ科 アカネ科 サンショウモ科 ムクロジ科 ゴマノハグサ科 ゴマノハグサ科 ナガボノウルシ科 アオギリ科 シナノキ科 シナノキ科 ヒシ科 クマツヅラ科 クマツヅラ科