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生活世界の視覚的編制:自叙的イメージを読む

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生活世界の視覚的編制:自叙的イメージを読む
生活世界の視覚的編制:自叙的イメージを読む
一橋大学 安川 一
これは自叙的イメージ法を用いた日常生活世界研究の報告である。自叙的イメージ法は、人々
自身の手になる視覚イメージと説明的言説とを材料にして、彼/彼女たちの日常生活世界のイメー
ジ/言説的記述をめざすヴィジュアル・メソッドである。
自 叙 的 イメ ー ジ 法 は 、 社 会 心 理 学 者 R . C . Z i l l e r 等 に よ っ て 開 発 さ れ た 自 叙 的 写 真 法
(Autophotography)を下敷きにしている。自叙的写真法は、人々が作成した写真画像(=「私
は誰か?」に対する回答として撮影された写真)を材料にして、行動環境に向けられた人々の指
向性を把捉することを目的としている。指向性は個々の自己概念に関係し、これとの関わりにお
いて選択的・個別的に組織されているという。そして指向性はそのあり方に応じて、人々の行動環
境をそれぞれにとっての「心理的ニッチ(棲処)」として立ち現われさせているという。こうし
て、自叙的写真法は、心理的ニッチの視覚データ化とその内容分析を通じて、その組織原理であ
る自己概念のあり方にアプローチしようとする手法であるという。
しかし、自叙的写真法の生成する視覚イメージは、必ずしも 自己概念 に結びつけて考察される
必要がない。ある人が撮った写真を、その人の自己概念のあり方(行動環境の組織原理たる自己
概念のあり方)を 反映 するデータとして扱おうなどとも思わない。自叙的写真法は人々の行動環
境を 内から外へ と探究することを目ざす、とする心意気には共感するものの、ただその人がとっ
た写真だというだけでそこに自己概念のあり方との関連を持ち出す根拠も必然もない。しかも、
被写体を研究者が数量的に内容分析するだけでは、 内から外へ というキャッチフレーズの血肉化
はおぼつかない。
これに対して、自叙的イメージ法は、調査対象者本人に視覚イメージ作成を担わせるという意味
では自叙的(auto-)だが、自己概念の関わりを想定してこれを明らかにしようとするものではな
い。また、視覚イメージとともに、このイメージにかかわる調査対象者自身による説明言説を考
察する。そうやって 内から外へ という発想を、人々の 主観的な 日常生活世界の表象を指向する
という形で、むしろいっそう具体化しようと企図するのが自叙的イメージ法である。この手法
は、得られた視覚イメージ/言説的記述について、グラウンディッド・セオリーの流儀に準じたや
り方でカテゴライズ/再カテゴライズと解釈を繰り返し、人々の生活世界のあり方̶̶とりわけ
それらが様々に垣間見せる相同/相違のあり方̶̶を表象しようとするものなのである。
本報告が扱う自叙的イメージは、大学生たちが「あなたが見る/あなたに見えるあなた自身を
撮影してください」という教示のもとに作成した生活世界の視覚イメージであり、また、それに
かかわる説明的記述である。報告は、イメージ・データベースに集約されたイメージ/言説をデモ
ンストレーションし、また、データベース自体を彼/彼女たちの日常生活世界の表象として示しな
がら、彼/彼女たちの棲息する世界を考察する。
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