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レビュー:産業の「空洞化」と雇用 - 独立行政法人 労働政策研究・研修

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レビュー:産業の「空洞化」と雇用 - 独立行政法人 労働政策研究・研修
特 集
レビュー:産業の「空洞化」と雇用
レビュー:産業の「空洞化」と雇用
渡辺 博顕(日本労働研究機構副主任研究員)
日本の大手電機メーカーによる中国国内での製造拠点作りが加速している。中国の安い人
件費と、13億人という巨大な消費市場でのシェア獲得が狙いとされるこの投資、日本国内
では製造業の空洞化現象と深刻な雇用危機を引き起こしていることは広く指摘されるところ
だ。本特集で著者は「空洞化は日本固有の問題ではなく他国も経験してきたところ」としてア
メリカ、イギリス、ドイツの経験をレビューし、
「コアとなる技術の確立と技術を支え伝えゆく
人材の確保・育成が重要」との処方箋を提示する。
(編集部)
1 はじめに
撤退や閉鎖が増える一方で、海外生産、なかでも中国
での生産活動が増えてきている。
A社は、1967年に誘致されてB県C町に進出してきた。
それに伴って、
「空洞化」議論が再び起こっている。
音響製品を製造し、従業員はおよそ500人、関連子会社
数年前、急激な円高に対応するために海外進出する企
を合わせると600人以上がこの企業で働いていた。従業
業が増加し、産業の空洞化が危惧された。その後、以
員の3分の1がC町に住む。A社の業績は1998年に売上高
前に比べて議論は下火になったが、決して問題がなく
4000億円であったが、
2001年にはおよそ3分の2に減少し、
なったわけではなく、くすぶり続けていた。それが最近、
400億円の赤字を計上。こうしたこともあって、親会社は
再燃する兆しが見られる。
国内の生産を海外の工場へと全面的に移管することを決
日本において「空洞化」が問題になったのは、よく知ら
めた。A社は2001年3月に期間従業員の再契約を打ち切
れているように、1980年代半ばである。当時のプラザ合
り、同8月、従業員の半数を解雇、さらに同12月に残りの
意を契機としている。その後、1990年代半ば、1ドル=80
従業員を解雇、その後、閉鎖した。解雇された従業員に
円台まで急激な円高が進行したため、価格競争力が低
対して会社都合退職金および特別加算金が支給されたほ
下した日本の製造業企業が生産コストを抑えることを目的
か、再就職相談窓口を設けて従業員を対象に関連会社
に生産拠点の海外移転、とりわけアジア地域への移転
などの再就職先の斡旋などを行ったが、再就職先が決
を加速させた。そして今回、長期的な景気の低迷とアジ
まったのは100人ほどである。
ア諸国とりわけ中国が「世界の製造工場」化していくのを
背景に、三たび「空洞化」が議論されるようになった。
この事例については昨年から今年にかけて新聞や雑
以下では、議論が活発になってきている空洞化につ
誌等にしばしば取り上げられているのでご存じの方も
いて概観していくことにする。その際、日本労働研究機
おられるかもしれない。
構の資料(2000年)注1)をベースに関連する資料を補完
かつて誘致されて地方に進出した製造業企業が閉鎖
していく。2では「空洞化」の用語法について検討し、そ
したり撤退したりするケースが急増している。こうした事
のうえで、3で海外生産等、生産活動の国際化の動向と
例は決して例外的なものではない。日本国内の工場の
その影響について確認する。4では諸外国の経験につい
46 海外労働時報 2002年 5月号 No. 324
レビュー:産業の「空洞化」と雇用
て簡単に展望する。5では製造業企業の今後について
触れることにする。
特 集
ただ、多くの論者に共通する視点をまとめると、deindustrializationとhollow-outという2点に集約されるよう
である。あえて訳せば、前者は「脱工業化」、後者は「空
2 「空洞化」論
洞化」
となる。脱工業化が意味するところは、
「ペティ・ク
ラークの法則」に従った国内製造業の衰退とその裏返し
実はこの小論の表題に「空洞化」という用語を使って
であるサービス経済化に近いかもしれない。しかし、そ
いいものか、かなりちゅうちょした。やや遠回りではある
れだけでかくも波紋を呼ぶだろうか。国内製造業の衰
が、これまで「空洞化」
という言葉がどのような意味で用
退が雇用のみならず、技術や熟練までも失わせる可能
いられてきたか考える。主な議論を整理したのが図表1
性があるからこそ、これほど問題視されるのではなかろ
である。これを見ると、
「空洞化」とは何なのか、時期、
うか。かくして、論者による様々な定義の違いを踏まえ、
論者の問題意識、専門等によって「空洞化」の定義が異
稲上は「空洞化」を「短期間のうちに国内製造業の雇用
なっている。
就業機会が激減すること」
ととらえている注2)。
図表 1 「空洞化」の定義
論者
時期
内容・定義
Bluestone and Harrison
“The Deindustrialization of America”
1982
一国のベーシックな生産能力において広範かつシステマチックな資本撤退が進む
こと。
Business Week
“The Hollow Corporation”
1986
多くの製造業が物的生産をほとんど行わず、部品や製品を海外の低賃金国から輸
入し、自社のブランドネームをつけて、米国内で販売している。これは空洞化した
企業であり、販売会社にすぎない。こうした傾向が米国経済の行き過ぎの脱工業化、
サービス化をもたらす。
通商産業省
「昭和61年版通商白書」
1986
海外直接投資の増加によって、国内における生産、投資、雇用等が減少するよう
な事態を指す。特に、当該企業の国内部門における雇用機会確保が重要な問題
となる。
経済企画庁
「昭和60年度年次世界経済白書」
1986
製造業全体が競争力を喪失し、国内から重要産業が撤退して直接投資等を通じて
国内へ流出し、国内にはサービス産業のみが滞留し、成長力が弱まる状況。
若杉隆平
「産業「空洞化」は到来するのか」『経済セ
ミナー』
1987
第1段階:“deindustrialization”の現象
経済活動全体における製造業分野のウェイトを製造業の生産額や付加価値構成に
占める製造業の比率でとらえたり、あるいは製造業の雇用者数や雇用構造に占め
る製造業の比率でとらえた場合にそれらの値が縮小し、サービス産業をはじめとす
る第3次産業に資本・労働の生産資源がシフトすること。
第2段階:“hollow”の現象
製造業の生産基地を米国から海外に移転する動きがあり、その結果、米国の製造
業が文字どおり
「空洞化(hollowing)」すること。
日本開発銀行
『調査』234号
1987
海外投資による生産ラインの海外移転や国内の生産コスト上昇等により国内製造業
設備が不足し、生産能力の低下をもたらし、国際競争力が低下するため、輸入が増
加する。このため、貿易収支が赤字となり、製造業の雇用が減少してサービス化が
進む状況。
日本興業銀行
『興銀調査』101号
1987
なんらかの理由により生産拠点が海外にシフトした場合、これによって国内生産が
直接・間接のマイナスの影響を受けること。
後藤純一
『国際労働経済学』
1988
国内の製造業が海外に進出し、輸出が減少すると主に現地で生産された物が逆輸
入されるようになって国内製造業が弱体化していく
「脱工業化」
(deindustrialization)
の現象。
海外労働時報 2002年 5月号 No. 324
47
特 集
レビュー:産業の「空洞化」と雇用
伊藤元重
『国際経済入門』
1989
生産拠点の海外移転により国内の雇用が減少したり、国内の技術開発力が低下す
ること。
小島清
『海外直接投資のマクロ分析』
1989
広義の空洞化:脱工業化現象
狭義の空洞化:海外直接投資が企業、産業、国民経済等にもたらすインパクト
原正行
『海外直接投資と日本経済』
1992
広義の定義は、経済発展段階が高度化するにつれて第1次・第2次産業の比重が低
下し、第3次産業の比重が上昇する脱工業化、つまりサービス産業化することであり、
狭義は、直接投資を通じて生産部門が海外に移転し、国内の製造業部門が縮小、
弱体化すること。
通商産業省産業政策局
『21世紀の産業構造』
1994
円高の行き過ぎや内外価格差などのわが国経済の歪みが存在する場合には、製品
価格競争力の低下、コスト高等により、本来比較優位を有するはずの産業までが海
外に移転してしまうという事態が生じうるが、これは本来問題とすべき
「空洞化」で
ある。
新保生二
『第三の開国を目指す日本経済』
1994
製造業が衰退し、国際収支の不安や生産性上昇率の停滞をもたらす現象。
国土庁
21世紀地域政策研究会報告書
『「個性と多様性に富んだ地域作り』の推進
について」
1994
円高によって国内産品が競争力を失い輸入拡大、国内生産縮小、国内産業衰退、
ひいては雇用の縮小をもたらすこと。また、円高により国内企業が生産を海外に移
転させる結果、国内生産、国内投資の縮小ひいては雇用の減少をもたらすこと。
経済企画庁
「平成6年版経済白書」
1994
空洞化は3つの側面がある。第1の側面は、企業と国内市場の関係である。国内品
と輸入品との競合が激しくなり、
国内生産品が競争力を失ってしまうような場合には、
企業が国内生産を縮小したり、さらには撤退することがありうる。この場合、国内生
産が輸入に代替される。第2の側面は、企業と海外市場との関連である。輸出が
採算で合わなくなったり、現地生産のほうが有利になったりすると、企業は生産基
地を海外に移転したり、現地生産を拡大したりする。この場合、輸出のための国内
生産が海外生産に代替されることになる。第三の側面は、製造業と非製造業の関
連である。上記のように、国内生産が輸入、海外生産に代替され、製造業の国内生
産基盤が縮小すると、生産性の低い非製造業のウェイトが高くなる
(すなわち、結果
として経済サービス化が進むことになる)。この場合、製造業が非製造業に代替さ
れることになる。空洞化が経済にとって問題となるかどうかは、この3つの側面が、
国内経済(雇用、実質賃金、生産性等)
に悪影響を与えるかどうかによって決まって
くる。つまり、現象面としての空洞化が発生することと、それが日本経済に悪影響を
与えるかどうかは明確に区別する必要がある。
中村吉明・渋谷稔
『空洞化現象とは何か』
1994
一国の生産拠点が海外へ移転することによって、国内の雇用が減少したり、国内産
業の技術水準が停滞し、さらには低下する現象。
通商産業省
「平成7年通商白書」
1995
仮に経済のファンダメンタルズを反映しない行き過ぎた円高などのマクロ要因、各種
規制・競争制限的な商慣行の存在等による中間財・消費財の内外価格差の存在と
いった市場の歪み(ミクロ要因)が経済に存在し、その結果として円高のメリットを
享受できない等の理由により本来比較優位を持つはずの企業が競争力を低下さ
せ、生産拠点の海外移転を加速させる一方、本来比較優位を持たない産業のみが
国内に残るとすれば、このような状況は、中長期的に見てもわが国経済に悪影響を
及ぼすものとして問題視するべきである。
出所:建設省建設政策研究センター「産業構造の変化に対応した地域づくりのあり方に関する研究」
(1998年)4∼5ページ、ただし、若干手を加えてある。
3 生産活動の国際化
を見ると、1985年度以降増加傾向にあったが、99年度
には前年度比0.2ポイント低下の14.5%となっている。ま
(1) 日本の海外生産・貿易の現状
た、海外進出企業ベースの海外生産比率(製造業現地
図表2によって日本の製造業の海外生産比率(製造業
法人売上高÷製造業本社企業売上高×100)の推移を見
現地法人売上高÷製造業国内法人売上高×100)の推移
ると、1990年ごろには17%前後で推移していたのがそ
48 海外労働時報 2002年 5月号 No. 324
レビュー:産業の「空洞化」と雇用
特 集
図表 2 海外生産比率の推移
(%)
40
35
30
25
20
15
10
5
0
1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000(年)
製造業全体(現地法人売上高÷国内法人売上高×100)
海外進出企業ベース
(現地法人売上高÷本社企業売上高×100)
資料出所:経済産業省「海外事業活動基本調査」
図表 3 業種別海外生産比率
(%)
35
食料品
繊維
木材・紙パルプ
化学
鉄鋼
非鉄金属
一般機械
電気機械
輸送機械
精密機械
石油石炭
その他
30
25
20
15
10
5
0
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000 (FY)
資料出所:財務省「法人企業統計」
の後大幅に上昇し、90年代末には30%超に達した。
上高÷製造業国内法人売上高×100)を見たものであ
1999年にはいったん減少したものの、2000年には再び
る。この図表を見ると、1999年時点で海外生産比率が
上昇に転じ、34%を超える見通しである。
最も高いのは輸送機械の30.6%、以下、電気機械の
図表3は業種別の海外生産比率(製造業現地法人売
21.4%、一般機械の12.4%、精密機械の12.3%、化学
海外労働時報 2002年 5月号 No. 324
49
特 集
レビュー:産業の「空洞化」と雇用
の11.5%などが続いている。さらに、2000年度見込み
ると、北米では「短期事業目的終了」、中国では「現地
では鉄鋼を除くすべての業種で海外生産比率が上昇
パートナーとの対立」、ASEANでは「為替変動」、NIEsで
すると思われる。
は「競争激化」などが特徴的である。1999年度の製造業
1999年度の海外生産比率を地域別の構成比で見る
の現地法人従業者数は258万78人(前年比16.1%増)に
と、海 外 生 産 比 率 が 最も高 い 輸 送 機 械 は 、北 米 で
達し、地域別に見ると、アジア地域が160万8484人、前
17.8%に達しているほか、アジアが5.8%、ヨーロッパが
年比18.4%増と数・伸び率とも大きい。
5.1%となっている。一般機械や鉄鋼についても北米の
次に、貿易についてみることにする。同じく経済産業
比重がアジア、ヨーロッパより高くなっている。
省「2000年海外事業活動基本調査」でみると、現地法人
一方、輸送機械に次いで海外生産比率が高い電気機
への中間財輸出額は13.4兆円であるのに対して、逆輸
械については、アジアが9.6%となっており、北米の
入額は4.9兆円で、中間財の輸出額、逆輸入額が日本の
6.8%、ヨーロッパの4.5%を大きく上回っている。同様に、
総輸出額、総輸入額に占める割合は上昇傾向にあり、
繊維や精密機械についてもアジアが多いという傾向に
生産機能の海外シフトが進んでいることが示唆される。
なっている。
近年の貿易の特徴として、中間財貿易を中心として国
海外進出の状況について経済産業省「2000年海外事
際分業体制が確立し、東アジアの相互依存度が高まっ
業活動基本調査」で見ると、海外現地法人の進出は
ているといわれる注3)。なかでも中国との貿易が急増し
1995年以降減少傾向で推移しており、99年度は296社で
ている。日本の中国からの輸入について数量ベースで
あった。一方、海外現地法人の撤退は384社で、その理
みると、1993年を100として、2000年には2.6倍に達する。
由は、全体的には「需要の見誤り」が多い。地域別に見
品目別輸入額構成では、繊維製品が30.1%、機械機器
図表 4 中国の財別輸出比率の推移
(%)
60
繊維
一般機械
50
電気機械
機械全体
40
30
20
10
0
85
86
87
88
89
90
91
備考:1)輸出比率=輸出額/生産額
2)繊 維:輸出…SITC26、65、84
生産…ISIC321、322
一般機械:輸出…SITC71∼75
生産…ISIC382
電気機械:輸出…SITC76、77
生産…ISIC383
機械全体:輸出…SITC71∼79、87、88
生産…ISIC382∼385
資料:UNIDO「ISD」、アジア経済研究所「AIDXT」より作成
資料出所:経済産業省『2001年版通商白書』
(2001年)
50 海外労働時報 2002年 5月号 No. 324
92
93
94
95
96
97(年)
レビュー:産業の「空洞化」と雇用
特 集
が26.1%、食料品が9.1%などとなっている。特に増えた
のプッシュ要因としては、
「労務費の高騰」
( 60.0%)が圧
製品は、パソコン関連が2000年に前年比69%増、AV関
倒的に多い。その裏返しに、海外のプル要因として多い
連が同29%増、繊維製品も製造小売業(SPA)の効果で
のが「労務費が安い」
という回答である。労務費は進出
20%増などとなっている
(図表4、図表5)
。
先地域によって異なる。そこで、進出先を先進国、NIEs、
中国が台頭した理由としては、中国の低コストの労働
力が豊富にあることが誘因となって投資が増加し、技術
途上国に分けてみると、それぞれ29.0%、49.7%、71.5%
の企業が「労務費の安さ」
を進出理由に挙げている。
移転も盛んに行われたこと、中国政府の輸出振興策、
それ以外の要因としては、
「現地労働力の調達が容易」
NIEs・ASEANの成長が鈍化したことなどが挙げられる。
(先進国19.8%、NIEs33.5%、途上国50.0%、以下同じ)
、
また、アジア諸国間の産業の再編が中国への企業進出
「市場が成長している」
(28.5%、45.3%、42.2%)、
「海外
を増やしたといわれている。
需要の魅力度が増した」
(32.8%、39.5%、39.8%)、
「自
中国への直接投資の特徴は、労働集約的な産業に限
社の取引先が進出した」
(30.7%、30.8%、26.0%)
などと
らず、技術集約的な半導体や情報通信機器、家電、自動
なっている。最近実施されたいくつかの調査によれば、
車といった幅広い業種からの投資が行われているとい
ここで挙げた「労務費の安さ」などの理由のほかに、進
う点に求められる。また、直接投資による外資系の加工
出先の生産技術の向上、工場の集積が進んだことなど
組立企業と地場の部品企業が産業集積地を形成してい
が挙げられている。
るといわれる。
日本の高コスト構造についてはしばしば指摘される
が、ここでは、2つのデータの比較を行ってみたい。1つ
(2) 企業が生産活動を国際化する理由
は、先進工業国間の比較である
(図表6)。この図表は、
では、企業が海外生産・海外調達を推進する理由は
何なのか。われわれが実施した調査結果によれば、国内
製造業初期設立コストについて、生産拠点設立コスト、
事業所設立コスト、会社設立登記コスト、現地職員採用
図表 5 中国の輸出品目構成の変化
軽工業品
化学工業品
金属・非鉄
金属製品
化学工業品
繊維及び
製品
原材料品
1988年
軽工業品
雑製品
機械製品
機械製品
食料品類
1998年
金属・非鉄
金属製品
輸出総額
475.2億ドル
原材料品
輸出総額
1838.1億ドル
雑製品
繊維及び
製品
食料品類
備考:SITC2桁コードを以下のように分類した。
食料品類(0∼12)、原材料品(21∼25、27∼29、66)、軽工業品(32∼43、61∼64)
化学工業品(51∼59)、金属・非鉄金属製品(67∼69)、機械製品(71∼79、87、88)
繊維および製品(26、65、84)、雑製品(81∼83、85、86、89∼97)
資料:アジア経済研究所「AIDXT」
より作成
資料出所:経済産業省『2001年版通商白書』
(2001年)
海外労働時報 2002年 5月号 No. 324
51
特 集
レビュー:産業の「空洞化」と雇用
図表 7 地域別工場のコスト・パフォーマンス比較
図表 6 製造業初期設立コストの先進国間比較
アメリカ
イギリス
ドイツ
フランス
日本
先進国
NIEs
100
80
100
60
50
生産拠点
設立コスト
0
会社設立
登記コスト
日本
一人前の技術者の給与水準
総合
150
現地職員
採用コスト
途上国
事業所
設立コスト
資料出所:JETRO「対日アクセス実態調査報告書」
(2000年)
40
20
0
品質管理水準
総合的に見た
労務コスト
労働生産性
資料出所:日本労働研究機構「産業の空洞化と労働に関する研究」
(2000年)
コスト、これらの総合について、日本を100として米英独
比較的多くの研究蓄積がある。研究対象を日本に限定
仏と比較したものである。イギリスの会社設立登記コス
し、そのなかから比較的利用可能性の高い文献から主
トが日本を上回っている以外はいずれの指標について
な結果をまとめたのが図表8である。分析対象、時期、
も日本が高く、総合では日本の製造業初期設立コストが
推計方法や仮定といった技術的な点の違いもあり、結論
諸外国に比べて倍近いことが分かる。
を導き出すことはできない。
もう1つは、われわれが実施した調査のなかで日本国
われわれが実施した調査結果を見ると、国内工場の
内の工場と海外の進出先工場のコスト・パフォーマンス
従業員が減少し、かつ海外工場の従業員数が増加して
を比較したものである
(図表7)。ここでは、労働生産性、
いるケースが集計対象の3分の1以上あった。一方、日本
品質管理水準、給与水準、労務コストについて日本国内
国内の工場と海外の工場の両方で従業員が増えている
の工場のコスト・パフォーマンスを100として、先進国、
企業も4分の1あり、国内工場・海外工場ともに従業員数
NIEs、途上国がいくらかを比較した。この図表を見ると、
が不変という回答を合わせるとおよそ4割の企業が雇用
日本は先進国、NIEs、途上国を問わず、労働生産性や
の減少を回避している。
品質管理水準の面でそれほど大きな差がないが、一人
生産活動の国際化が一概に国内の雇用を削減すると
前の技術者の給与水準や総合的に見た労務コストと
はいえないという結果は、
われわれの調査だけではなく、
いった点でかなりコスト高であることが分かる注4)。
他でも確認されている。例えば、慶応大学樋口・新保
教授の研究(1999)では、
「企業活動基本調査」を用いた
(3) 生産活動の国際化が雇用に及ぼす影響
分析の結果、海外直接投資を行っている企業のほうが
これまで見てきたような、海外生産の増加、海外直接
1990年代前半に国内雇用を減少させているが、90年代
投資の増加、輸入の増加といった生産活動の国際化が
後半になると、海外進出していない企業のほうが大きく
雇用に対してどれだけの影響をもたらすのだろうか。ここ
雇用を削減させ、海外進出企業のほうが雇用の減少率
では日本の雇用に注目して議論を進めることにしたい。
が小さかったこと、現地子会社の業績・従業員数が伸
生産活動の国際化が雇用に及ぼす影響については、
52 海外労働時報 2002年 5月号 No. 324
びている企業のほうが国内雇用も増加する傾向にある
レビュー:産業の「空洞化」と雇用
特 集
図表 8 主な研究における生産活動の国際化が雇用へ及ぼす影響
研究主体
大蔵省(1984)
対象
電気機械器具の海外
生産
雇用への効果
研究主体
対象
雇用への効果
1.5−2.8万人減
伊藤正一(1989)
円高・輸出減の雇用
削減効果
10%の円高で13%の
雇用減、10%の輸出
減で13%の雇用減
13−51万人減
Brunello(1989)
為替レート変動の雇
用への効果
短期的には失業率
0.19ポイント、長期的
には0.7ポイント押し
上げ
製造業全体の海外直
接投資
56−97万人減
深尾京司(1995)
海外生産比率の雇用
削減効果
製造業企業全体では
影響小だが、電機産
業では国内雇用削
減>海外雇用創出
電機労連(1986)
電機産業の海外直接
投資
9.5万人減
対外直接投資の雇用
削減効果
輸出代替・逆輸入型
直接投資は雇用削減
経済審議会(1986)
海外直接投資
60万人減
洞口治夫(1997、98)
電機メーカーの海外
進出効果
事業所特性により雇
用への効果異なる
経済企画庁(1986)
米国の自動車現地生
産
26.6万人減
野坂博南(1998)
輸入浸透度の雇用削
減効果
輸入浸透度上昇は国
内生産減少、純輸出
増加が技術集約財産
業の雇用増へ
労働省(1987)
製造業海外直接投資
加速部分
32−33万人減
樋口美雄・玄田有史
(1999)
生産のグローバル化
の雇用喪失・雇用創
出効果
企業の海外移転は雇
用機会(特にブルー
カラー)
を縮小、同
時に新たな雇用機会
を創出
労働省(1987)
製造業海外直接投資
加速部分
23−24万人減
樋口美雄・新保一成
(1999)
海外直接投資、海外
子会社の効果
海外直接投資は国内
雇用削減、海外子会
社の好業績は国内雇
用増加
自動車総連(1988)
自動車の国内生産減
少
全産業で9−22万人
減、自動車産業で
3−7万人減
日本労働協会(1984) 製造業全体の米国・
アジアへの投資
産業構造審議会
(1986)
深尾京司・天野倫文
(1996)
注:労働省「昭和62年版労働白書」、後藤純一「国際労働経済学」
(1988年)
にその後の分析結果を追加して作成。紙幅の都合上、文献名を省略してある。詳細は日本
労働研究機構(2000)
を参照されたい。
こと、逆輸入の増加は国内雇用を削減するが、それは
ては補完的であることなどを見いだしている。
本社の雇用の増加と本社以外の雇用の減少からなって
確かに生産活動の国際化は国内雇用にマイナスの影
いることなどが指摘されている。さらに、慶応樋口教授・
響を及ぼす可能性がある。しかし、一概に国内雇用を
東京大学玄田教授(1999)
は、
「グローバル経済化の中小
削減すると言い切ることもできないというのが、過去の
企業経営に関する調査」を用いて、輸出比率や原材料等
経験である。
の輸入比率の上昇が国内雇用の増加に寄与し、これら
が低下している企業では国内雇用が減少していること、
4 海外における「空洞化」問題
海外自社工場の増加は国内雇用を有意に減らすわけで
はないこと、国内雇用と海外の雇用は、技能職につい
「空洞化」問題は日本固有の問題ではなく、他国も経
ては代替的であるが、事務職・営業職・技術職につい
験してきたことである。ここでは、アメリカ、イギリス、ド
海外労働時報 2002年 5月号 No. 324
53
特 集
レビュー:産業の「空洞化」と雇用
イツ
(旧西ドイツ)の経験と、OECDの見解について見て
喪失と新たな創出の関係である。これについては、よく
いくことにする。
知られたように、コンピューター、通信機器などの新しい
技術を伴う企業が増加したこと、情報通信産業の成長
(1)
アメリカ注5)
が目覚ましいこと、さらに、ベンチャービジネスの躍進、
アメリカでは、1970年代から80年代にかけて起きた製
サービス分野の企業の増加などが雇用を作り出したと
造業の国際競争力低下に絡んで「産業の空洞化」が議論
いわれている。その結果、製造業分野で失われた雇用
された。その背景には、
が、こうした新規分野へと移ったともいわれている。
a 引き締め的な金融政策による金利上昇が資本の流入
1990年代に入ると、自動車、半導体、コンピューターと
とドルの高騰を招き、米国製品の価格が上昇した一
いった産業の国際競争力が回復したが、その背景には製
方、輸入製品価格が低下したため、国際市場におけ
造業分野で実施されたリストラクチャリング、リエンジニ
る競争力が低下したこと、
アリングの効果もあったといわれている。自動車産業など
b 技術革新が鈍化したこと、
では工場閉鎖やレイオフによってダウンサイジングが行わ
c 生産性上昇率が鈍化したこと、
れる一方、事業や製品の見直しを通じて競争力のある
d 大量生産システムに限界が来ていること、
分野に経営資源を集中させた。また、企業買収が盛ん
などが指摘されている。こうした結果、全産業に占める
に行われた。このほか、外資系企業の進出、外国企業
製造業就業者の比率が、1975∼98年の23年間に23.8%
との資本や技術面での提携、アジア地域からの部品調
から14.9%へとおよそ9%ポイント低下している。また、
達によって経営の効率化が図られたというのである。
失業率も上昇し続けた。
製造業雇用者が減少傾向で推移していったのに対し
(2) イギリス注8)
て、サービス産業は一貫して増加している。製造業の雇
稲上によれば、イギリスのなかでも「空洞化」の深刻
用の減少がサービス業によって吸収され、1980年代半
な影響があったのはバーミンガムであったという。1981
ばから失業率も低下し始めている。
年の産業全体の雇用者数を100とすれば、その後12年
アメリカにおける空洞化議論は雇用への影響とともに、
間のあいだに87にまで減少し、
とりわけ製造業が深刻で、
所得格差の拡大との関連で議論されることが多かった。
同じ期間に100から57へと減少している。一方、この間
低賃金の労働集約的な製品の輸入が増えたことによっ
のサービス業の雇用については微増にとどまり、製造業
て、アメリカの当該部門における賃金の低下と雇用の減
で失われた雇用を吸収できるほどではなかった。
少を招き、失業者がより賃金の低いサービス業へ雇用
業種別に見ると、自動車、機械などが深刻で、自動車
が流れていったために所得格差が拡大したというので
では47%、機械とその他の業種で30%の雇用が失われ
ある注6)。
ている。しかし、金融、旅行・レジャーなどでは雇用者
では、雇用の創出との関連についてはどうか。ここで
数が増加している。
の視点は2つ。1つは、直接投資を実施した親企業と海
この原因について、東京大学稲上教授は次のように指
外子会社の雇用の関係についてで、アメリカでは海外子
摘する。まず、雇用の喪失は国際競争力の低下によると
会社の雇用が増えなかったため、統計的に有意な関係
ころが大きい。その原因としては、労働生産性の上昇、
は見いだされていない注7)。もう1つは、国内の雇用機会
品質改善、新規投資の低迷、人的資源に対する投資の
54 海外労働時報 2002年 5月号 No. 324
レビュー:産業の「空洞化」と雇用
不足、資本効率重視の短期的経営などが考えられる。
では、どのような対策が講じられているのか。1つ
は 商工会議所、自治体、業界団体や労働組合など政
特 集
第3次産業のそれはほぼ同数増加している。とりわけ、
サービス業、公共部門、金融・保険などの分野における
増加が目覚ましい。
労 使からなる包括的経済政策共同体のようなものが
ドイツの空洞化議論について、稲上は次のように考察
形成され、取り組みの主体となっている。また、アスト
している。まず、高労働コストが国際競争力の低下と対
ン・サイエンス・パーク
(ASP)など大学等の研究機関と
外投資の増加につながり、その結果国内製造業の雇用
企業との連携、バーミンガム・ビジネス・リンク
(BBL)等
機会の減少へとつながっている。このとき、高労働コス
の企業に対するコンサルテーション、バーミンガムTEC
トの背景にはマルク高(したがってドル安)が不可分に
(Birmingham Training and Enterprise Council)等の職業
影響している。また、高労働コストへの関心の高まりの
教育訓練活動が注目されている。
背景には、ドイツ製造業の強い品質競争力とニッチ市場
アプローチに限界が来ているという見方があること。さ
(3) ドイツ注9)
らに、従来、ドイツ製造業を支えてきた品質競争力は、
1970年代末以降、マルク高と賃金の上昇によって西ド
革新競争力を損なう可能性があり、その回復には、人的
イツの製造業は国際競争力を次第に失っていく。とりわ
資源形成や「共同決定的」労使関係の改革が不可欠で
け重工業が集中する地域では深刻な失業問題を抱えて
あること。
いた。1980年代に入ると、政権交代による政策効果に
こうした点を踏まえて、ドイツでは包括的な産業立地
加え世界的な景気の回復によってドイツ国内の景気は上
政策を打ち出し、労働コスト削減、種々の外国投資や研
向いた。ドル高マルク安によって支えられてきた外需中
究開発促進策、失業者援助策、中小企業助成、インフラ
心の景気が、1980年代半ば、ドル安に転じることによっ
整備などが行われている注10)。
て内需に支えられるようになった。ただ、この間の経済
成長率や失業率といったパフォーマンスは決していいと
はいえない。
(4) OECDの見解 注11)
OECD(1994)では、技術進歩、低賃金国からの輸入、
東西両ドイツの統合は、当初は5%以上の経済成長率
競争激化という3つの要因を取り上げて、加盟国の失業
を記録したものの、1993年にはマイナス成長に転じ、
率の上昇との関連を検討している。その結果、技術進
1994年には失業者が400万人以上に達した。
歩については、技術進歩が進むことは経済成長、生活
この間の産業の動きを見ると、国内粗付加価値生産
水準、雇用の3つと関連すること、そして、技術進歩と失
額の産業別構成比で、1970年代初めには50%近くあっ
業との関係について、少なくともこれまでの資料からは
た製造業の比率が80年代末には20数%まで20ポイント
そうした事実は見いだされないとしている。
低下している。業種別に見ると、自動車、化学などが競
また、低賃金国との貿易は貿易全体に占めるウェイト
争力を高める一方、鉄鋼、繊維などは売り上げが低迷
が小さく、それらの国からの競争圧力は小さいので、
している。一方、サービス業については、同じ期間に
OECD加盟国の雇用や非熟練労働力の賃金の低下には
20%ほどであったのが27%へと増加している。
つながらず、潜在的な市場として期待できるとしている。
それに伴って、就業構造も変化しており、1980年代に
また、加盟国の非熟練労働力の雇用はある程度失われ
は第2次産業の雇用が100万人以上減少したのに対して
るかもしれないが、熟練労働力が生産する財の貿易に
海外労働時報 2002年 5月号 No. 324
55
特 集
レビュー:産業の「空洞化」と雇用
よって相殺されると考えられるという。
低下につながる懸念があるというのである。
さらに、競争激化については、加盟国と低賃金国との
今後も生産活動の国際化は進むと考えられる。われ
間の競争ではなく、加盟国間の競争が中心であると見
われの調査でも実に8割の企業が海外進出や部品調達
ている。
などなんらかの形で海外とのつながりを強化すると回答
こうした検討の結果、確かに途上国などの経済のダイ
している。では、今後の空洞化との関連で製造業の動
ナミックな変化は生じているものの、先進工業国にも変
向を考えるうえで何がポイントになるであろうか。まず、
化が生じており、失業問題への解決策としてはそうした
従来から指摘されていることであるが、
「製品の高付加
変化のスピードを緩めるのではなく、変化への対応力を
価値化」が挙げられよう。われわれの調査に回答した企
強化することであると結論づけている。
業が「生産工程、物流、事務関連を縮小し、開発・設計、
その後、OECD(1997)では、低賃金国との競争激化
営業、海外営業・海外生産管理、商品企画・市場開発
が先進国における労働節約的な投資の促進をもたらし、
を強化する」としているのはその結果であろう。それに
不熟練労働力への需要を削減させること、情報通信技
伴って、採用戦略も大卒技術系、大学院修了にウェイト
術の発達によって海外生産が企業内分業の一環として
を置くとしている。企業は、
「一方での創造型労働の増加、
行われるようになり、その結果、不熟練労働力への需要
他方でのマニュアルあるいは定型的業務の削減」注12)と
を削減させること、等が指摘されている。
いう方向をいっそう鮮明に打ち出している。
この際、コアとなる技術を持っているかどうか、さら
5 日本の製造業と「空洞化」への対応
に、それを発展させることができるかどうかが将来を分
けるのではなかろうか。そのために、技術を支え、技
再び日本における「空洞化」問題に立ち返ってみよう。
能を伝えていく人材を確保・育成することがポイントに
現在、日本の製造業は実質GDPのおよそ22%、従業
なるといわれている。人材の確保・育成には時間も費
員数のおよそ21%を占める。また、輸出に占める割合は
用もかかるので、業績の悪化によって削減されがちであ
およそ84%に達する。しかし、国内の事業所数・従業員
る。しかし、いったん技能のつながりが途絶えると、再
数ともに減少傾向にあり、生産性上昇率も低下傾向にあ
建するにはばく大な経済的・時間的コストがかかる。長
る。こうしたことを踏まえ、経済産業省『2001年版通商
期的な観点から技術開発や技能の継承、人材育成に取
白書』は次のように指摘する。第1に、新規開業率の低
り組む必要があろう注13)。もちろん、こうした施策だけ
下によって、日本の製造業の規模は縮小傾向にあるとい
で日本の製造業が抱える割高なコスト、ビジネススピー
うこと。1989年には製造業の開業率は4.5%、廃業率は
ドへの対応、高齢化による生産性の低下といった問題
3.0%であったのが99年にはそれぞれ1.9%と5.3%と
に対応できるわけではない。また、このような施策に
なった。その結果、製造業の事業所数は、1999年には
「即効性」はそれほど期待できない。長期的に効果が表
69万事業所(1991年比16.8万事業所減)、従業員数は
れるからこそ、すぐにでも取り組む必要があるのではな
1145万人(同263.5万人減)になった(総務庁統計局の
かろうか。
「事業所統計調査」)。第2に、このことは熟練技術者の
もはや許された紙幅が尽きた。この小論での議論は
確保や技術の継承の懸念があること、第3に、日本のビ
印象論的な範囲にとどまっているし、利用した資料も決
ジネスインフラの優位性が失われ、日本の国際競争力の
して最新、独自のものとはいえない。機会を改めて独自
56 海外労働時報 2002年 5月号 No. 324
レビュー:産業の「空洞化」と雇用
の実態調査やそれに基づく分析について報告すること
にしたい。
注1) 日本労働研究機構「産業の空洞化と労働に関する研究」資料
シリーズNo.107、2000年。
注2) 稲上毅『産業の空洞化論序説―日英独の比較』
日本労働研究
機構『産業の空洞化と労働に関する研究』資料シリーズNo.107
(2000年)所収。
注3) 以下の記述は経済産業省『2001年版通商白書』
(2001年)に
よる。
注4) ここでの比較はかなり直感的なものであるが、経済産業省
「2000年海外事業活動基本調査」
(2001年)では、現地法人の1
人当たり付加価値額による国際比較を行っている。それによ
れば、
日本国内法人の労働生産性が750万円であるのに対して、
現地法人のそれは270万円となっている。地域別に見ると、北
米617万円、ヨーロッパ415万円、アジア131万円となっており、
依然として日本国内の労働生産性のほうが高い。
注5) 以下の記述は鈴木直次『アメリカ産業社会の盛衰』岩波書店
(1995年)、平田周一「アメリカにおける階層間格差の動向」
『ア
メリカ 反映の中での社会変動―1990年代における雇用・労
働―』調査研究報告書No.139、日本労働研究機構(2001年)所
収に基づいている。
注6) Sachs J. and H. Shatz , “Trade and Jobs in U.S. Manufacturing”
Brookings Paper on Economic Activities(1994年)
は、アメリカの
製造業をスキルによって10に区分し、途上国との貿易収支が
最もレベルが高いスキル以外では赤字になっていることを指
摘する。また、Krugmann. P., “Technology, Trade, and Factor
Prices,” NBER Working Paper(1995年)は、先進国では熟練労
特 集
働者が多く、熟練集約的な財を輸出し、非熟練労働者が多い
途上国では非熟練集約的な財を輸出する結果、先進国では熟
練集約的な産業が発展し、そこでの賃金も上昇する。これに
対して非熟練労働者の賃金は低下するので、先進国では所得
格差が広がると指摘する。
注7) Slaughter M., “Multinational Corporations, Outsourcing and
American Wage Divergence” NBER Working Paper(1995年)
による。
注8) 以下の記述は稲上毅前掲書(2000年)
によっている。
注9) 以下の記述は稲上前掲書による。
注10)紙幅の都合上ここでは詳細を取り上げることはできなかった
が、フランスにおける空洞化に関する議論は、1990年代初め
以降高失業率に悩まされながらも、必ずしもマイナスに評価し
ているわけではない。それは、途上国との貿易が黒字である
ことが根拠となっていると思われる。しかし、途上国にフロー
ト制を採っていない国があること、WTOルールが遵守されて
いないことなどを指摘しており、むしろルールの公平性を主張
している。
注11)以下の記述は、OECD “OECD Job Study”(1994)およびOECD
“Employment Outlook”(1997)
に基づいている。
注12)稲上前掲書、25ページ。
注13)英国の空洞化対策でも触れた産学官共同の研究開発やその
事業化が注目されている。冒頭で紹介した地域でも企業から
独立した技術者が、地元の出身大学との産学連携で共同研
究を行い、その成果を事業化している事例がみられる。
※校正段階で深尾京司「直接投資と雇用の空洞化」『日本労働研究
雑誌』No. 501が発行になった。日本企業の海外生産活動が
雇用に与える影響を手際よく整理している。
労働政策レポート1
「欧州におけるワークシェアリングの現状
−フランス・ドイツ・オランダを中心に−」
小倉一哉(JIL研究員)著 A4判 42頁 本体500円(税別)
日本労働研究機構では、社会的関心が高く、喫緊の労働政策上のテーマについて、研究員が日頃取り組んでいる研究成果を分かりやすく
まとめた『JIL労働政策レポート』を創刊した。その初回のテーマは「ワークシェアリング」。同レポートでは取り組みが進んでいるヨーロッパ
の実態を特にフランス、ドイツ、オランダの3カ国について詳細に紹介する。
労働政策レポート2
「解雇法制−日本における議論と諸外国の法制−」
池添弘邦(JIL研究員)著 A4判 42頁 本体500円(税別)
労働政策レポート第2弾。
解雇権乱用法理を中心とした、日本の解雇をめぐる現況と議論の状況を概観するとともに、フランス、ドイツ、イギリス、アメリカにおける
解雇規制の現状を紹介する。
お求めは、お近くの書店、または直接日本労働研究機構出版課へ。
〒163-0926 新宿区西新宿2-3-1 新宿モノリス25F
TEL:03-5321-3074 FAX:03-3345-1233 E-mail:[email protected]
日本労働研究機構 出版課
海外労働時報 2002年 5月号 No. 324
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