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MathematicaによるDGEモデル・シミュレーション
福井県立大学経済経営研究 第 30 号 2014 年 3 月 111 〔研究ノート〕 MathematicaによるDGEモデル・シミュレーション ―加藤(2007)の Matlab コードを変換して― 佐 野 一 雄 ただし,c は消費水準,l は労働時間,u は効 1 はじめに 用関数,b は主観的割引率,k は資本ストック, 加藤(2007)による動学的一般均衡モデルの r は実質金利,w は実質賃金,d は資本減耗率 設定を概観し,RBC モデルおよび New IS-LM であり,資本ストックの初期値 k0 は所与とす モ デ ル の シ ミ ュ レ ー シ ョ ン・ プ ロ グ ラ ム を る. Matlab から Mathmatica に変換したプログラム 相対的危険回避度が一定である CRRA 型効用 コードを付録とする.Matlab と Mathematica の 関数を仮定する.この効用関数の形状を図 1 に プログラムコードの相違を明らかにするため 示す. に,できるかぎり加藤(2007)のコードと対照 u ^ct , lth = させた. c t1-i -n$l t1+m 1-i (2.2) 消費を決定する家計の 1 階の最適化条件から, 異時点間の限界効用を比較するオイラー方程式 2 RBC モデル を得る. 完全情報,完全競争のもとで代表的個人を仮 定し,その最適化行動について分析するために, ct+1 -i 1 = Et b ^1+rt+1 -dhc c m t 最も基本的な RBC モデルから出発する.この また,労働供給を決定する家計の最適化条件を, RBC モデルは非現実的であり,パラメータの 消費の限界効用と労働の限界不効用を同時点で 統計的な推定や検定も現実的には無意味である 比較する次式であらわす. が,外生的なショックに対する一般均衡モデル の動学的な反応経路を分析することができるの wt = n ^1+mh l tm ct-i (2.3) (2.4) で,さまざまなタイプのマクロ均衡モデルのシ 労働市場の均衡 n=l および企業の生産関数 ミュレーション特性を調べるための理論的な基 にコブ・ダグラス型を仮定すると,所得の二面 礎となる. 等価により 最初に家計の効用最大化問題を設定する. yt = zt kta n t1-a = wt lt +rt kt が成り立つ.限界収入が限界費用に等しいとい 3 max E0 / b u ^c , l h t t t う最適化条件から t=0 (2.5) s.t. kt+1 = ^1-dh kt +wt lt +rt kt -ct (2.1) kt a-1 rt = zt a d n n t (2.6) 112 福井県立大学経済経営研究 第 30 号 2014 年 3 月 図 1:CRRA 型効用関数 kt a wt = zt ^1-ahd n n (2.7) t が成り立つ.均衡点を動かす外生的な生産性 ショックを AR(1)であらわす. zt+1 = zzt +p t+1 (2.8) ただし,01z11,pt ∼ i.i.d. N(0, v) であり,初 期値および定常状態で z0=z*=1 である.(2.3), (2.4), (2.6), (2.7), (2.8)に(2.1)の制約条件を 加えた 6 本の連立方程式が RBC モデルである. この RBC モデルは非線形の連立方程式であり, 解くのは困難である.シミュレーションでは, 線形近似によって定常的な均衡の近傍での動き を調べる. 定常状態 z* からの乖離を表現する. zt+1 = tzt +^1-th z) (2.12) (2.6)および(2.7)で n=l より rt = zt a d kt a-1 n lt (2.13) kt a n lt (2.14) wt = zt ^1-ahd を得る. 定常状態では ct=ct+1=c* が成り立つので, (2.10)から期待値オペレータを削除して,定常 均衡における実質金利を得る. r) = 1-b ^1-dh b (2.15) したがって,(2.13)より,定常均衡における資 本装備率を得る. 2.1 RBC モデルの定常均衡 1 (2.4)を簡単に wt l = nc ti m t とする.(2.3)より (2.9) 1) ct-i = Et b ^1+rt+1 -dh c t-+i1 (2.10) (2.1)および(2.5)より k) c r) m a-1 = az) l) (2.16) これを(2.14)に代入して実質賃金を得る. w) = z) ^1-ahc a r) m a-1 az) (2.17) 同様にして,(2.11)より kt+1 = ^1-dh kt +zt k l a 1-a t t -ct (2.11) を得る. (2.8) から誤差項を削除し,01t11 により a ) c) k) ) k ) = z c ) m -d ) l l l (2.9)より (2.18) 佐野:Mathematica による DGE モデル・シミュレーション -i 1 ) ) m+i l) = < w c c) m F n l (2.19) 113 る.(2.26)および(2.27)より Qxt+1 = K-1 Qxt (2.28) を得るので,固有値 mi21 は(2.28)を収束させ, および k ) ) k = c l) m#l ) ) c = c c) m#l) l ) (2.20) (2.21) を得る.以上で RBC モデルの定常均衡が記述 された. 固有値 mj 11 は発散させることがわかる.それ ぞれの固有値に対応する固有ベクトルを分割し て表示すると f Qm11 Qm21 p=f Q A QB QC Q D p (2.29) (2.28)が収束するための必要条件は ^Q A QBh xt = 0 (2.30) 2.2 均衡近傍での挙動 であるので,(2.22)より 完全予見を仮定し,線形近似によって,均衡 近傍におけるモデルの動きを調べる.変数をベ lt kt -1 f p =-Q A QB f p ct zt クトル xt で表示する. が成り立つ場合にのみ収束する均衡解を得る. (2.31)を(2.28)の xt, xt+1 に代入して整理する lt xt = fk p ct と,均衡解の経路 (2.22) t zt モデルの均衡条件(2.9)∼(2.12) をベクトル z で表示する. J N w K O l tm - ti nc t K O K ct-i -b ^1+rt+1 -dh ct-+i1 O z =K O Kkt+1 -^1-dh kt -zt kta l t1-aO KK O ^1-th z) O z z t + t 1 t L P (2.31) f kt+1 zt+1 p = _Q D -QC Q -A 1 QBi-1 K-m21 1 1 _Q D -QC Q A Q B if kt zt p (2.32) を得る.ただし,Km21 は 1 より大きい固有値か らなる. (2.23) シミュレーションでは,定常状態からの乖離 率で評価するために,z*=1 に基準化して対数 線形近似する. ゆえに均衡近傍においては次式が成り立つ. uz uz dxt+1 ux dxt = ux t t+1 uz uz ) dxt dxt = d x n ) uxt uxt x (2.33) (2.24) ただし,uz/uxt,uz/uxt+1 はそれぞれ 4 行 4 列 のヤコビ行列であり,(2.24)を簡単に次式であ らわすことにする. 3 New IS-LM モデル 金利およびマネーサプライの予期せぬ変化の Bxt = Cxt+1 (2.25) したがって,合理的期待均衡解の存在は,次式 影響を評価するために,裁量的な金融政策につ いて二つのルールを設定する. を満たす行列 A の存在を意味する. xt = B-1 Cxt+1 = Axt+1 (2.26) -1 A = Q 3.1 金利ルール RBC モデルとは異なり,New IS-LM モデル 行列 A の固有値分解を KQ (2.27) とおき,収束条件を課して均衡解の動きを調べ はもともと線形モデルであり,ハイブリッド型 に一般化して示す 2). 114 福井県立大学経済経営研究 第 30 号 2014 年 3 月 yt = tEt yt+1 +^1-th yt-1 を得る. -v ^it Et r t+1h+e t (3.1) r t = bEt r t+1 +^1-bh r t-1 3.2 マネーサプライ・ルール +ayt +o t (3.2) マネーサプライ・ルールは,直感的にイメー it = q1 yt +q2 r t +h t (3.3) ジしやすい金利ルールとは対照的である.マ h t+1 = zh t +e t+1 (3.4) ネーサプライが消費者の効用に影響するメカニ 01z11,pt ∼ i.i.d. N(0, v) であり,(3.3) ただし, ズムを導くためには,money in the utility の仮 が金利ルールである.モデルの変数を J Et yt+1 N K O KEt r t+1O K O (3.5) xt = K yt O K O K rt O KK OO L ht P とおき,RBC モデルの(2.25)に対応して 定が不可欠である.モデルの単純化のため,効 J0 K K0 K B = K1 K K0 KK L0 0 t-1 0 a 0 0 1 0 0 0 サプライ m を変数として,便宜的に次の CRRA 型効用関数を仮定する 3). u ^ct , mth = m 1- n ct1-i + t 1-n 1-i (3.8) 家計の実質純資産を次式で定義する. at = bt +mt vzN O b-1 0 O O 0 0O O 0 0O OO 0 zP 0 Jb v -^1+vq h -vq 1 2 K K0 b -1 a K K = 1 0 C 0 0 K K0 0 0 1 KK 0 0 L0 0 用関数(2.2) から労働供給 l を削除し,マネー (3.9) ただし,bt は 1 期間満期の債券であり,初期値 b0,m0 は所与とする.貨幣を導入したことに より名目値と実質値が区別されるので,RBC モデルにおける家計の効用最大化問題(2.1)は 次のように修正される. 3 0N O 0O O 0O O 0O OO 1P max E0 / b u ^c , m h t t t t=0 s.t. ^1+r th^mt +bt +cth = ^1+it-1h bt +mt (3.10) ラグランジュ乗数を mt とすると,1 階の最適化 条件 とおけば,New IS-LM モデルを次式で示すこ ct-i = mt (3.11) とができる. bit -n m t+1 m t = Et 1+r t+1 (3.12) Bxt = Cxt+1 (3.6) 収束条件が満たされれば,RBC モデルと同様 に,均衡解の経路 f Et yt+1 b ^1+ith m t+1 mt = Et 1+r t+1 (3.13) より,消費のオイラー方程式 p -1 -1 -1 Et r t+1 = _Q D -QC Q A QBi K m21 Et h t+1 1+it -i c t = Et b 1+r t+1 ct-+i1 (3.14) を得る.RBC モデルの場合と同様に,定常均 yt f p -1 _Q D -QC Q A QBi r t ht 衡近傍で対数線形近似すると (3.7) 1 ln ct = Et ln ct+1 - i ^it -Et r t+1h (3.15) 佐野:Mathematica による DGE モデル・シミュレーション 115 を得る 4). ムとして効率的ではない部分が含まれている. マネーサプライ・ルールを導くために必要な Matlab および Mathematica のマニュアルを参照 最後の仮定は しながら,加藤(2007)のコードと対照すれば, yt = ct (3.16) プログラムの詳細を理解することができる.い である.(3.13)から mt+1 をもとめ,(3.12)に代 ずれもオンラインで利用可能である. 入すると it -n -i -i m t = 1+i c t . it ct t (3.17) したがって,LM 曲線 ln Mt - ln pt = ln mt =- 1 ln it + i ln yt n n (3.18) が得られる.変数を対数として表記すると i 1 Mt -pt = mt =- n it + n yt (3.19) および mt = mt+1 -DMt+1 +r t+1 注釈 1)加藤(2007)のシミュレーションでは,消費関 数に含まれるδが省略されている. 2)t=b=1 で通常の New IS-LM モデルである. 3)量的緩和の効果が現実の金融政策にかかわる問 題であるだけに,この仮定の成否はきわめて 重要である.しかし,マネーサプライの増加 が消費者の効用を高めるという仮定は,cash in advance を考慮しても,現実的なイメージを結び にくい. 4)it ≒ ln(1+it),rt ≒ ln(1+rt) であり,定数項 ln b は乖離率と無関係なので削除してある. (3.20) が 金 利 ル ー ル(3.3) に 代 わ る マ ネ ー サ プ ラ 参考文献 イ・ルールである.名目貨幣供給量 Mt の差分 Blanchard, O.J.(1987), "Why Does Money Affect Output?", NBER Working Paper Series, no.2285. Calvo, G.A.(1983), "Staggerd Prices in a UtilityMaximizing Framework", Journal of Monetary Economics, vol.12, 383-398. Gali, G. and Gertner, L.(1999), "Inflation dynamics: A structural econometric analysis", Journal of Monetary Economics, vol.44, no.2, 195-222. Gali, G., Gertner, L. and Lopez-Salidod, J.D.(2005), "Robustness of the estimates of the hybrid New Keynesian Phillips curve", Journal of Monetary Economics, vol.52, no.6, 1107-1118. Lucas, R.E.(1976), "Econometric Policy Evaluation: A Critique", The Phillips Curve and Labor Markets, Carnegie-Rochester Conference Series on Public Policy, 1, 19-46. Mankiw, N.G. and Reis, R.(2002), "Sticky Information Versus Sticky Prices: A Proposal to Replace the New Keynesian Phillips Curve", The Quarterly Journal of Economics, vol.117, no.4, 1295-1328. 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