...

ゲズント農場 - 中央畜産会

by user

on
Category: Documents
14

views

Report

Comments

Transcript

ゲズント農場 - 中央畜産会
ゲズント!── おいしさと安全への熱い想い
∼緻密な飼養管理と徹底した計数分析による高位生産性と安定経営の実現∼
有限会社 ゲズント農場
北海道虻田郡豊浦町
法人設立 平成10年6月
<推薦理由>
有限会社ゲズント農場。「ゲズント」はドイツ語で、「健康な、丈夫な、元気な」の
意であり、命名の由来に経営者の経営姿勢が垣間見える。
代表取締役の勝木豊氏は、息子の就農の意志をきっかけにSPF養豚での大規模法
人経営への展開を決断し、母豚500頭規模のSPF生産施設を平成11年3月に建設し
た。補助事業を活用しつつ、自らも3億円の借金を背負うという新たな事業展開であ
ったが、事業開始前に立てた10年間の生産計画、収支計画を、初年度より大幅に上回
る実績を実現している。平成13年秋には子豚舎焼失という災害に遭いながらも、黒字
決算を継続している。
このように順調な経営の展開は、勝木氏の経営観と実行力に起因する。本道の養豚
産業の将来に対する展望、大胆な経営判断、養豚新技術の積極的な採用、執拗なまで
の計数分析、消費者の支持を高める製品の生産、等々。
そのために農場事務所内には、コンピュータ室があり、3台のパソコンが並んでい
る。就業時間になると、データ入力や分析のため、パソコンに社員が向かう。徹底し
たデータ重視で、客観的で厳然とした分析に、予見予断の入る余地はない。生産現場
からの「あいまい、大ざっぱ、どんぶり勘定」の排除である。データ分析と現場の作
業や飼養管理との連携を行っている。「課題の発見」⇒「解決方策の決定」⇒「実践」
⇒「効果の判定」、この流れがしっかりと定着している。
新技術の採用は、生産形態の基本となるSPF生産技術から、自場内採精による人
工授精、性別肥育、定期的なステージ別発育調査、ウィークリー管理、と限りがない。
加えて、出荷体重管理もきめ細かく、ホクレンの定めたSPFセット枝肉重量(68∼
− 115 −
75kg)範囲に収めるため、出荷候補豚は出荷前に平均3回体重測定する。これが、月
1,000頭出荷で、極めて高い上物率とセット重量範囲率を現出しているゆえんである。
販売面では、ホクレンが展開する「道産SPFポーク」生産農場の1つとして、コ
ープさっぽろやAコープの店舗で、農場の顔が見えるブランドとして棚に並び、消費
者の支持を得ている。
これらのことから、高い生産性、品質、安定性に裏打ちされた販売収入の増嵩(ぞ
うすう)と、生産効率、労働効率を背景とした生産コストの圧縮が、日々目まぐるし
く変化する豚価に左右されることなく、極めて安定的な収支実績を実現している。
北海道は、今後、国産ポークの生産基地として、その役割はますます重くなると予
測されるが、本事例は、その北海道養豚のモデルといっても過言ではないであろう。
(北海道審査委員会委員長 岡本 全弘)
<発表事例の内容>
1 地域の概況
農場所在地の豊浦町は、北海道胆振支庁の最西で噴火湾(内浦湾)に面している。
一部山岳地帯を除き噴火湾に向かって緩やかに傾斜した丘陸地帯の多い地形である。
対馬海流(暖流)の影響を強く受け、夏は涼しく冬は温暖で気象条件に恵まれてい
る。
人口5,111人、面積233.54km 2のうち76%を森林が占める緑豊かな一次産業の町で、
農業と水産業が基幹産業である。内浦湾は「噴火湾ホタテ養殖」発祥の地でもあり、
このホタテとイチゴ、豚肉が豊浦町の三大特産品である。
農業では、栽培面積と生産量がともに道内一のイチゴをはじめ、米、畑作、野菜、
花卉、酪農、畜産が盛んで、農業粗生産額は平成14年度で18.4億円となっている。畜
産はこのうち62%を占め、地域農業の重要な地位にある。養豚は、道内でも有数の産
地として知られており、その年間売上は5億円にのぼる。しかし、近年は高齢化や担
い手不足による戸数の減少が起きており、養豚をはじめ農業全体の課題となっている。
− 116 −
2 経営管理技術や特色ある取り組み
経営実績とそれを支える経営管理技術、 左記の活動に取り組んだ動機、背景、経過
特色ある取り組み内容とその成果等
①
やその取り組みを支えた外部からの支援等
養豚専業での安定的な経営の継続を
長男の養豚後継の意思表明をきっかけ
考え、経営形態を家族内農家養豚経営 として、同じ経営を行うなら、今までの
から法人養豚専業経営へと変更(平成 蓄財を賭けようとの決断を促した。
10年)
信念を貫くために、まず、法人設立の
前年に個人経営を廃業した。
②
経営形態の変更と併せて、生産形態
着手前に入念な生産・経営シミュレー
を小規模養豚から大規模SPF養豚へ ションを行い、安定経営のための生産規
転換
模を母豚500頭、生産方式をSPF養豚
と定めた。
なお、SPF転換の手法、生産・経営
シミュレーションの作成にあたってはJ
A、ホクレン、全農が支援した。
また、SPF飼養技術、自場内採精・
人工授精技術、ウィークリー養豚技術、
PICSを活用した生産分析方法等の習
得に積極的に努めた。
③
緻密な飼養管理とPICS(全農・
PICSを導入し、客観的事実(計数)
くみあい養豚生産管理システム)の活 による生産分析を徹底した。
用による徹底した計数分析を行い、高
い生産性を実現
これによって計数分析による問題点の
抽出、課題解決方法の検討と選択、実践、
また、ホクレン、全農との定期的な 効果判定という一連の合理的な対処を、
生産技術検討会の実施で生産向上に努 生産の現場で実践できるようになった。
める
また、これらについて、ホクレン、全
農を含む養豚技術者の参加のもと定期的
(毎月)に検討会を開催している。
④
消費者へ伝わるおいしさと安全への
ホクレンは、日本SPF豚協会認定農
取り組みとして、JA、ホクレンと一 場産のSPF豚肉を、「道産SPFポー
体となった「ゲズント農場産SPFポ ク」として、差別化販売している。
ーク」の生産・販売を実現
ゲズント農場の肉豚は、全量ホクレン
へ出荷され、「道産SPFポーク」、「豊
浦産SPFポーク」として、コープさっ
− 117 −
ぽろ、Aコープ等の道内スーパーへ供給
されている。
①∼④の結果、豚価の年次変化が激し
い中で、法人設立以降、毎年良好で安定
的な経営実績をあげる。
⑤
道内の養豚後継者の育成や新規就農
希望者の就農実現のために尽力
⑥
同農場で就業中の新規就農希望者は、
現在3名である。
地域産業の中での養豚業の活性化
と、地域密着型の農業振興に尽力
近年における、同町の養豚飼養頭数、
農家戸数の減少に際して、同農場の実現
また、今般、同一規模、同一生産方 により、大幅な飼養頭数(生産基盤)の
式での第2農場の実現に着手
増加をもたらした。
さらに、周辺環境に調和した農場環
境整備にも取り組む
⑦
農業委員、北海道指導農業士として、
地域農業振興、本道養豚振興へ貢献
規模拡大やSPF転換を目指す道内の
養豚生産者からの助言の求めに、積極的
に応じている。
− 118 −
3 経営・生産の内容
1)労働力の構成
(平成16年6月現在)
− 119 −
2)収入等の状況
(平成15年6月∼平成16年5月)
− 120 −
3)土地所有と利用状況
単位:a
4)家畜の飼養状況
単位:頭
− 121 −
5)施設等の所有・利用状況
− 122 −
6)経営の実績・技術等の概要
(1)経営実績(平成15年6月∼平成16年5月)
− 123 −
(2)技術等の概要
− 124 −
4 経営・活動の推移
− 125 −
5 家畜排せつ物処理・利用方法と環境保全対策
1)家畜排せつ物の処理方法
・
各豚舎は、床面スノコ、ふん尿ピットが装備され、ピット内で固液分離され
る。
・
固液分離された固形分は、豚舎間を連結し自動たい肥発酵施設へ繋がる総合
ピットに自動搬送される。搬送された固形分は、自動たい肥発酵機によりたい
肥化される。
・
副資材は、戻したい肥利用が中心である。冬期間に一部、オガクズ(購入)
を使用している。
・
生産たい肥は、大和・山梨・桜クリーン農業研究会会員6戸へ有償で供給さ
れ、イチゴ、ハウス野菜、ビート、ジャガイモ等の生産に活用されている。な
お、使用されるまでのたい肥は、研究会のたい肥保管庫に保管される。
・
固液分離された汚水は、豚舎より汚水排水ラインを経由して、汚水処理施設
に入り、処理される。
・ 処理方式は、液肥化・浄化併用方式であり、浄化は、活性汚泥法である。
・ 施設は固形分分離機、曝気槽、固形分除去装置を装備している。
・ 液肥は、地域内畑作農家(1戸)へ供給している。
2)家畜排せつ物の利活用
(1)固形分
(2)液体分
− 126 −
3)処理・利用のフロー図
4)処理・利活用に関する評価と課題
(1)北海道審査委員会の評価
・
自動たい肥発酵機によるたい肥化処理は、うまく行われており、生産たい肥
の品質にも問題はない。
また、たい肥利用生産組合の結成を行うなど、耕種農家間との耕畜連携もう
まく取れている。
・
汚水処理は、液肥化・浄化併用方式の汚水処理棟があり、問題はない。ただ
し、本道における液肥の圃場への散布は、降雪の関係で、春季(一部、秋季)
に限られており、液肥利用比率が乏しい(10%)。
・
非利用汚水は、全て河川放流基準まで浄化されているものの、当地の一級河
川への放流が容認されておらず、農場内貯留地において自然蒸散させている。
現時点では、行政上の問題は無く、処理として妥当と考えている。
(2)課 題
特になし
5)畜舎周辺の環境美化に関する取り組み
養豚は、今もって、汚い臭いというイメージが払拭しきれていないが、当農場
は、SPF農場として、防疫体制の徹底と施設環境の整備に、特に重きを置いて
いる。
− 127 −
具体的には、次のとおり。
①
農場周辺は、林野に満ちた山間地帯であり、この周辺景観に配慮した環境整
備を進めている。
②
施設用地に接する道路沿いに植樹をしている。また、将来的には、農場沿道
を桜並木とする計画もある。
③
施設用地の準規制区の環境整備と植樹にも取り組んでいる。特に、豚で生計
を立てていることへの感謝の印として、獣魂碑の建立とその周辺の美化に心が
けている。
6 後継者確保・人材育成等と経営の継続性に関する取り組み
新規就農希望者3名を社員として雇用し、養豚の高位生産技術、大規模養豚経営の
方法等を実際的に教育訓練しており、将来の就農(新規就農希望者で法人を設立し、
養豚経営を実現させる方向)を支援している。
7 地域農業や地域社会との協調・融和についての活動内容
・
豊浦町では、毎年「いちご・豚肉祭り」を開催している。農場で健康に肥育さ
れた豚肉、農場の良質なたい肥で育った甘くておいしいイチゴが好評を博してい
る。
・
地域の耕種農家とともに、大和・山梨・桜クリーン農業研究会を結成し、生産
たい肥や液肥の有効活用を積極的に実践している。
・
勝木豊氏は豊浦町農業委員と北海道指導農業士を、副社長の伸氏(豊氏の長男)
は北海道農業士を務めている。
8 今後の目指す方向性と課題
<経営者自身の考える事項>
大規模SPF養豚生産法人を営む経営者として、自らが考える経営方針と今後の目
指す方向性は、次のとおりである。
①
現在当農場に就業している職員が、独立(新たな養豚経営)を実現することに
よって、ゲズントグループとしての経営の拡大を図って行きたい。(農場間で、
お互いに競争し、切磋琢磨することによって、さらに生産性を高め、経営内容の
充実を期したい)。
②
大規模SPF養豚への変更には、初期に多額の建設資金が必要である。ゲズン
ト農場では、補助金を借り受けて実現することができた。補助金は決していただ
きものではなく、国民からの借りものであると考えており、その責任を果たすた
め、毎年毎年、健全経営で利益を計上し、税金として、借りている補助金を返し
ていく考えである。
③
当地ではいずれの作目による経営も決して楽なものではない。実際のところ、
離農や廃業も目立っている。今後ともこれまで以上にしっかりとした展望を持っ
− 128 −
て果敢に挑戦し、おいしく、安全な豚肉を生産し供給することで、地域の中で、
SPF養豚とゲズント農場が、なくてはならない産業と組織であると認められる
存在としたい。
④
環境美化では、たい肥・液肥の土地への還元を主体としつつも、ふん尿処理施
設を良好な環境で維持し、農場全体としての環境整備をさらに取り進めていきた
い。また、農地流動化の観点から周辺の荒廃農地を取得し、景観作物の栽培を手
がけていきたい。
⑤
「リスクを楽しむ経営」を心がけたい。経営にはさまざまなリスクが伴うが、
考えられるリスクを先取りしながら、これを楽しみとして前向きに考え、行動し
ていきたい。
《北海道審査委員会の評価》
①
耕種経営からあえて取り巻く環境が厳しく、経営の難しい養豚経営を選択して、
現在の生産体系を作り上げた手腕は高く評価できる。
②
食料生産に対して確固たる責任感を抱いているリーダー的存在であり、今後の
担い手を引率していく力もあるものと思われる。
③
企業経営と地域の共生を基本とする経営哲学の持ち主であり、道内外の畜産経
営の見本となる事例である。
− 129 −
Fly UP