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畜産系廃棄物処理システムの構築

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畜産系廃棄物処理システムの構築
需給バランスを考慮した畜産系廃棄物処理システムの構築
環境システムコース エネルギー環境学
26637
磐田 朋子
1.背景と目的
循環型社会構築のためには廃棄物の資源利用が必須である。廃棄物の中でも家畜ふん尿
は 2004 年 11 月よりいわゆる野積みが禁止されることから、資源利用、汚水処理などの適
正処理システムの早急な確立が多くの地方自治体での課題となっている。そこで本研究で
は実際の自治体に対してコスト、エネルギー消費量だけではなく、地域におけるリサイク
ル製品の需給バランスも考慮した処理システムの提案を行うことで、実践的な廃棄物処理
システムを構築することを目的とした。
具体的には酪農の盛んな岩手県をモデル地域として取り上げた。岩手県内で発生する家
畜ふん尿は年間約 420 万トンであり、内訳は乳牛 23%、肉牛 47%、豚 13%、採卵鶏 4%、
ブロイラー13%となっている。このうち発生する糞の約 31%が現在野積みされており、本
研究での試算では年間約 964 万トンのメタンが大気中に放出されていると推定される。こ
のふん尿から生産可能なメタン量は、岩手県電力消費量の約 3.7%に相当する年間 4.32PJ
であり、肥料として利用した場合の最大供給量は、県内肥料消費量の約 76%であると推定
された。
このように、ふん尿発生量は資源として量的に十分利用可能であることから、岩手県内
で偏在性のあるふん尿発生量と2次製品の需要量に応じた最適処理プロセスをシミュレー
ションによって検討した。
2.研究の流れ
研究フローを図1に示す。本研究では
入力情報として岩手県内の 50 市町村に
おけるふん尿発生量を畜産統計から求め
た。また、作付け面積と施肥基準から各
市町村における肥料需要量を推算した。
市町村内の輸送を考慮しない条件下でコ
ストを最小化した場合と処理エネルギー
を最小化した場合の処理プロセスをシミ
ュレートし、各家畜ふん尿の各処理技術
への最適配分に影響する条件を検討した。
<目的>
データベースの作成
岩手県における家畜ふん尿最適
処理システムの検討
各家畜を、各処理技術で処理した時の
①物質フロー
②コスト
入力情報の整備
③エネルギー消費量
①各家畜のふん尿発生量
②処理による2次製品の需要量
市町村内での処理システム最適化シミュレーション
①処理技術の選定
②各家畜ふん尿の処理技術への分配
目的関数:コスト最小化
目的関数:エネルギー最小化
コスト・エネルギー消費量・CO2排出量算出
処理規模による最適処理システムの検討
図1
研究フロー
3.家畜ふん尿処理システムの最適化シミュレーション
各家畜ふん尿 i(乳用牛糞・尿、肉用牛ふん尿、豚糞・尿、採卵鶏糞、ブロイラー糞)が各
処理技術 j(メタン発酵、ハウス乾燥、堆肥化、液肥化、汚水浄化、焼却)で処理される量を
年間 x(i,j)トンとおいて、以下の式に従って汎用非線形計画プログラムを利用してコスト、
あるいは処理エネルギーを最小化するシミュレーションを行った。
7
6
TotalCost = ∑∑ x(i, j ) × {PlantCost(i, j ) + OperationCost(i, j ) − ProductSale(i, j )}
i =1 j =1
7
6
Energy = ∑∑ x(i, j ) × {EnergyConsumption(i, j ) − EnergyProduction(i, j )}
i =1 j =1
− Fertilizerproduction( N , P, K ) × IndirectEnergyConsumption( N , P, K )
ただしエネルギーについては肥料有効利用による化学肥料製造時消費エネルギー削減効果
を考慮した。また、生産した余剰電力は系統電力を代替するとした。さらに以下の式を加
えてふん尿処理量と肥料需要量(N:窒素、P:リン、K:カリウム)を制約条件とした。
6
ManureEmission(i ) ≤ ∑ x(i, j )
j =1
FertilizerDemand ( N , P, K ) ≥ x(i, j ) × FertilizerProduction( N , P, K )
4.シミュレーション用データベースの構築
入力情報として、統計情報等を用いて市町村単位でのふん尿発生量と肥料需要量を把握
した。一部の入力情報を図 2、図 3 に示す。
乳糞発
全N牧
0 - 11361
16 - 44
11362 - 28758
図2
45 - 83
28759 - 87339
84 - 126
87340 - 145919
127 - 232
145920 - 386988
233 - 480
図3
県内の乳牛糞発生分布(t/y)
図 4 に示す処理シナリオに従って、
文献(1)を元に処理プラントの設計
に必要な物質収支式を各家畜・各処
理技術ごとに作成した。
さらに、処理施設の建設・運用時の
コストを岩手県における実際のプラ
ントデータや文献(1)を元に作成し
た。メタン発酵に関しては、処理設
備のスケールメリットを考慮した。
建設コストの一部を表 1 に示す。
表1
県内の液肥需要(窒素 t/y)分布
電力
乳牛糞(含水率83%)
乳牛尿(含水率99%)
メタン発酵
液肥
肉牛糞尿
(敷料込)(含水率74%)
乾燥(太陽熱)
堆肥化
堆肥
貯留(液肥)
液肥
乾燥−焼却
灰肥
豚糞(含水率72%)
豚尿(含水率98%)
浄化(活性汚泥法)
採卵鶏糞尿(含水率70%)
ブロイラー糞尿
(敷料込)(含水率40%)
図4
放
流
各糞尿の処理シナリオ
各処理施設のプラント建設コスト
対象
建設コスト(1000yen/y)
計算根拠
寒冷地実績データ3ヶ所
メタン発酵
全て
154.9*投入量(t/y)(2/3)
文献(1)
ハウス乾燥
乳牛糞・豚糞
2.0582*乾燥必要面積(m2)
堆肥化
糞・乾燥物・浄化汚泥 5.538*副資材込投入量(t/y) 岩手県内実績データ8ヵ所
液肥化
乳牛尿・豚尿
0.2872*処理量(t/y)
文献(2)
全農推奨施設
汚水浄化
尿・発酵消化液
18.372*曝気槽容量(m 3)
焼却
ブロイラー糞
8.6018*処理量(t/y)
岩手県内実績データ3ヵ所
5.シミュレーションの結果と考察
コスト最小化条件下での、各市町村の総処理コストは図 5 のようになった。
3000000
肥料制約が効いていない(メタン発
酵導入)
総費用(1000yen/y)
2500000
肥料制約が効いていない
2000000
液肥制約が効いている(メタン発酵)
1500000
液肥制約が効いている
堆肥制約が効いている(メタン発酵)
1000000
堆肥制約が効いている
500000
0
0
50000
液肥化
15%
100000
150000
年間処理量(t/y)
液肥化
21%
0%
200000
液肥化
22%
0%
250000
焼却 メタン発酵
0%
15%
メタン発
酵
42%
堆肥化
85%
図5
堆肥化
37%
0%
ハウス乾
燥
24%
堆肥化
39%
水処理
0%
0%
コスト最小条件下における各市町村の総処理費用(千円/y)と規模による処理プロセスの変移
この結果から、処理規模が小さいとメタン発酵よりも堆肥化の方がコスト的に有利だが、
年間処理量 10 万トン付近ではメタン発酵の方が有利となり、導入率が上がった。しかし、
処理規模が大きくなりすぎると、メタン発酵消化液中の肥料成分量が各市町村の肥料需要
量を超えてしまうため、導入されなかった。その結果、コスト的に不利ではあるが堆肥化
により処理するしか手段はなく、総コストが急激に増える結果となることがわかった。
図 6 にエネルギー最小条件下において市町村外からふん尿を受け入れて処理することが
有利となった市町村を示す。豚糞とブロイラー糞が流通させた場合にエネルギー的に有利
Energy Min
Energy Min(PIGE)
PIGE_ME_
BROIE_ME_
0.00
0.00
0.01 - 615.71
0.01 - 2205.66
615.72 - 1100.02
2205.67 - 4461.62
1100.03 - 1603.80
4461.63 - 12694.65
12694.66 - 40476.49
図6
1603.81 - 3603.59
3603.60 - 7617.02
エネルギー最小条件下における豚糞(左図)とブロイラー糞(右図)の受入量(t/y)
(矢印の市町村は、糞を受け入れた時にエネルギー消費量が最小となることを示す。)
であるという結果となった。これは、豚糞はメタン発生量に対して肥料含有量が他の家畜
よりも少ないためメタン発酵処理で導入されやすく、ブロイラー糞は堆肥化処理の際に副
資材として無料で投入できるためであると考えられた。
エネルギー最小条件下での、各市町村の総処理コストを図 7 に示す。
3000000
金ヶ崎市
2500000
肥料制約が効いていない(メタン発酵
導入)
肥料制約が効いていない
総費用(1000yen/y)
(1 箇所処理)
2000000
液肥制約が効いている(メタン発酵)
金ヶ崎市
1500000
液肥制約が効いている
(2 箇所処理)
堆肥制約が効いている(メタン発酵)
1000000
堆肥制約が効いている
エネルギー最小条件下での総費用
500000
0
0
図7
50000
100000
150000
年間処理量(t/y)
200000
250000
エネルギー最小条件下における各市町村の総処理費用(千円/y)
液肥の導入量に制約があるためメタン発酵が導入されず、処理費用が非常に大きくなる市
町村の例として、金ヶ崎市について分散処理の効果を検討した。処理施設を2箇所建設す
る設定でシミュレートした結果、1箇所で処理するよりもコストは 75%、エネルギー消費
量は 99%も削減できた。以上から、処理量が多くかつ液肥需要量の少ない市町村における
分散処理の有効性が示唆された。
6.結論
岩手県をモデル地域として取り上げ、家畜ふん尿の処理プロセスについてコストとエネ
ルギーの面から最適化シミュレーションを行った。その結果、処理規模が大きすぎると肥
料需要量を超えてしまうため、コスト的にもエネルギー的にも不利となることが確認でき
た。また、エネルギー最小条件で検討した結果、どの市町村も液肥需要量の上限に達する
までメタン発酵処理を導入していることから、エネルギー的に有利なメタン発酵処理での
処理量は液肥の需要量に依存することがわかった。また、コスト最小条件での検討結果と
合わせて考えると、コスト最小条件下でもメタン発酵が導入される、年間約 10 万トンの
処理規模が現実的な最適解に近い可能性があると推測された。
一方、エネルギー最小条件下において市町村間でのふん尿の流出入を行うことが有利で
あるという結果から、肥料需要に余裕のある地域と供給過多の地域間のふん尿の流通を検
討していくことが有効であることが示唆された。
現在までのモデルに輸送を加え、処理範囲や輸送経路についての具体的検討を行う必要
がある。岩手県における現実的な回収範囲、処理コストと回収エネルギー量について明ら
かにすることは今後の課題である。
8.参考文献
1) 「家畜ふん尿処理・利用の手引き」1998 年 (財団法人)畜産環境整備機構
2) 「廃棄物発電導入技術調査等産業廃棄物発電調査」2001 年 3 月 NEDO
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