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医デジ化
別 刷
設計工学
公益社団法人 日 本 設 計 工 学 会 誌
2014年 第 49 巻 第 6 号
( P. 280 ~ P. 287 )
医デジ化にもとづく非侵襲超音波医療診断・治療統合システムの構築法
小泉 憲裕,月原 弘之,光石 衛
Construction Methodology for Non-Invasive Ultrasound
Theragnostic System (NIUTS) Based on Technologizing
and Digitalizing Medical Professional Skills (TDMPS)
Norihiro KOIZUMI, Hiroyuki TSUKIHARA and Mamoru MITSUISHI
公益社団法人
日本設計工学会
医療・手術と機械設計
280
解説
医デジ化にもとづく
非侵襲超音波医療診断・治療統合システムの構築法*
Construction Methodology for Non-Invasive Ultrasound Theragnostic System(NIUTS)
Based on Technologizing and Digitalizing Medical Professional Skills(TDMPS)
小泉 憲裕* 1
月原 弘之* 2
光石 衛* 1
(Norihiro KOIZUMI) (Hiroyuki TSUKIHARA) (Mamoru MITSUISHI)
Key Words : technologizing and digitalizing medical professional skills(TDMPS), non-invasive
ultrasound theragnostic system(NIUTS)
, focal lesion servo(FLS)
, high-intensity
focused ultrasound(HIFU), theragnostics, image quality
(IQ)
1. はじめに
IT およびロボット技術(IRT)を利用して人間の熟
練した技能を再構築する,言わば“技能の技術化・
デジタル化”がテクノロジーの発達とともに可能に
なりつつある.すでに製造業分野では,超高精度の
作業がロボットによって実現されている.高度な技
能を要求される医療分野においても医療診断・治療
ロボットの開発により,熟練した専門医のように人
体に対して安全・安心に動作する高精度な診断・治
療を実現することが期待されている.
本研究ではこれまで,遠隔超音波診断システム
(remote ultrasound diagnostic system: RUDS)1),2),
する生体患部をロバストかつ高精度に抽出・追従
(focal lesion servo : FLS)
・モニタリングしながら,
超音波を集束させて(強力集束超音波,high-intensity focused ultrasound : HIFU)ピンポイントに患部
へ照射することにより,がん組織や結石の治療を
皮膚切開を加えることなく非侵襲かつ低負担で行
なおうとするものである.診断(Diagnostics)と治
療( T h e r a p e u t i c s )を 統 合 し た 診 断 ・ 治 療 統 合
(Theragnostics7))システムとすることで,患部をみ
つけると同時にこれを焼灼・破砕してしまうなど,
医療の高効率・高精度化を図る.
本研究の関連研究として,ロボティクス・生産加
工・生活支援の分野において,人工技能 8),ハイパ
超音波心臓癒着評価システム 3),4),非侵襲超音波
ーヒューマン 9),デジタルマイスター 10),デジタル
医療診断・治療統合システム(non-invasive ultrasound theragnostic system: NIUTS)5),6)等を対象に
医療技能の技術化・デジタル化(医デジ化,technologizing and digitalizing medical professional skills:
TDMPS)にもとづく医療支援システムの構築法を研
ヒューマン 11),みまもり工学 12)などの概念がこれ
までに提案されており,技能の技術化・デジタル化
に関する研究の数が近年急増している.医療分野に
おいては,Knoll,Osa らが,技能の伝承を目的とし
た自動縫合の基礎的研究を行なっている 13),14).
究してきた.このうち本報では,非侵襲超音波医療
診断・治療統合システムを例としてとりあげ,医デ
ジ化にもとづく医療支援システムの構築法について
概説する.
本研究で提案する非侵襲超音波医療診断・治療統
合システムとは,呼吸・拍動等により能動的に運動
*
*1
*2
原稿受付 2014 年 2 月 28 日
非会員,東京大学大学院工学系研究科 (〒 113―8656 文京区本郷 7―3―1)
非会員,東京大学大学院医学系研究科
(〒 113―8656 文京区本郷 7―3―1)
設計工学
2. 医デジ化
著者らの提案する医デジ化とは,医療診断/治療
における技能を機能として抽出し,実装を考慮して
機能を分解・再構築(構造化)し,構造化した機能を
医療支援システムの機構・制御・画像処理アルゴリ
ズム上にひとつひとつ(機能)関数として実装しよう
とするものであり,医療支援システム構築の方法論
のひとつである(Fig.1,2).Fig.1 に医デジ化によ
る医療支援システム構築の手順を,Fig.2 に医デジ
化の概念図を示す.
(6)
Vol.49, No.6(2014 年 6 月)
281
り,医療専門家にとっては,自身の技能を医療支援
システム上で蓄積・改良・再利用することが可能に
なり,技能の標準化が促進され,負担が軽減する.
他方,患者にとっては,標準化された質の高い医
療を地域格差なく安全・安心に享受することができ
るようになる.ここで,タスク機能を実現するにあ
たって選択する機構・制御・画像処理アルゴリズム
の実装は互いに独立ではないことに注意されたい.
選択した機構が変われば,これに応じて,最適な制
御・画像処理アルゴリズムの実装解は変化し,必要
に応じて改変・調整がそれぞれ必要となる.
Fig.1 Processes for construction of medical support system based on TDMPS. 文献 19)
より
転載.
Fig.1 において,④,⑤のステップについては,
これまで医師が積極的に介入してこなかった.そこ
で,医工融合人材養成ユニットにより,ロボットの
シーズ技術に精通し,医療ニーズの開拓およびロボ
ット技術開発を工学研究者とスムーズに連携しなが
ら行なう医師を養成しようとする試みが進められて
おり,これにより,質の高い医療支援システムの高
効率な開発が促進されるものと期待されている.
Fig.2 において医デジ化により,システムの機構・
制御・画像処理アルゴリズム上で機能の向上を図
り,医療の質の向上を実現することが可能になる.
この結果,医療技能を機能として取込むための学
問体系化・設計指針化が促進される.このことによ
すなわち,タスク機能の具現化問題を最適な機
構・制御・画像処理アルゴリズムの実装解の組み合
わせ問題として総合的に捉え,これを導出するべき
である.このためには,後述する思考展開図の利用
により,機能の抽出・分解・再構築(構造化)を行な
うことが大変有用である.
3. 『技能』と
『技術』
『技能』と『技術』の違いについて.両者の違いは
『マニュアル(レシピ)化できるかどうか』にあり,具
体例として,スーパーのパック寿司がよく挙げられ
る.パック寿司を作るには,作業員に特段の熟練を
要さず,マニュアルと機器があればよいので『技術』
に相当する.他方,専門店の寿司は熟練した職人が,
客の嗜好やネタの状況に応じて握り方を改良・調整
するので,(現在のところ)マニュアル(レシピ)化で
きず,
『技能』
に相当する.
Fig.2 Concept of TDMPS. 文献 4)
より転載.
設計工学
(7)
Vol.49, No.6(2014 年 6 月)
282
ここで,熟練した職人は,『静的』な『マニュアル
(レシピ)』をもとに寿司を握っているのではないこ
とに着目されたい.客の嗜好やネタの状況といった
周囲の状況の変化に応じて,握り方やレシピを改
良・調整するというアルゴリズム(関数)が働いて,
その結果として寿司が生成されるのである.
しかも,そのアルゴリズム(関数)は客からのフィ
ードバック情報にもとづいて職人が改善する(動的
に変化する)アルゴリズム関数であり,職人の経験
や勘(インスピレーション)にもとづいて,日々,進
化するところにその特徴がある.このように客から
のフィードバック情報に基づいて動的に進化させる
ことが可能なアルゴリズムにこそ,マニュアル(レ
シピ)化できない熟練した職人の強みがあり,職人
の腕の見せどころといえるだろう.
医療分野においてもこれは同様であり,技能を機
能(関数)としてシステムの機構・制御・画像処理ア
ルゴリズム上に実装するにあたって,専門医の医療
診断・治療技能をロボットがただ単に模倣するだけ
では不十分である.
本研究の例では,超音波診断・治療対象としての
患部モデルを幾何学特性・音響特性・運動特性まで
含めてシステム側に実装したうえで,医療専門家の
技能を診断・治療機能として抽出,分解・再構築
(構造化)し,関数(医師の診断・治療モデル)として
システムの機構・制御・画像処理アルゴリズム上に
実装(医デジ化)
することが必須である.
Fig.3
設計工学
4. 機能の抽出・分解・再構築(構造化)
効率的な非侵襲超音波診断・治療を実現するため
には,まず,システムの要求機能を明らかにし,こ
れに基づいてシステムを構築する必要がある.そこ
で,本節では,非侵襲超音波診断・治療を機能の観
点から思考展開図を利用して構造化(抽出・分解・
再構築)
する方法を示す
(Fig.3)
.
まず,機能の抽出および分解を行なう.一般に,
要求機能は階層構造を有する.すなわち,大要求機
能はいくつかの中要求機能に分解でき,さらに,中
要求機能はいくつかの小要求機能に分解される 15).
上記のプロセスを繰返すことで,本システムにおい
ては,7 つの基底的な機能に分解された.このよう
にして分解された機能は,だれが分解してもその結
果は同様のものになるであろう.
つぎに,上記のプロセスを経て抽出・分解された
基底的な機能について実装を考慮して再構築する.
このプロセスは,実装者の腕の見せどころであり(エ
ンジニアリング・センスが試される),実装者の数だけ
実装解は存在する.ここで,基底的な機能を含めた
Fig.3 の左側の部分は,専門医(人間)をシステムとし
て捉えたときの実装解と解釈することもできる.機
能を実装するにあたってまず,専門医の医療技能の
模倣を考えてみることは非常に有効な手段であろう.
しかしながら,機能を実装するにあたっては,専
門医の医療技能をただ単に模倣するだけでは不十分
Structuring required medical task functions for NIUTS. 文献 4)
より転載.
(8)
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である.必要ならば専門医の医療技能に啓発された
全く新しいアプローチから機能を追加・実装するこ
とによって,医療の質の向上を図るべきである.洗
濯機能を実現するために,人間は洗濯板を用いるが,
機械に行なわせる場合には,かならずしも洗濯板を
用いる必要はなく,衣類の汚れが落ちればそれで良
ここで,L,R は結石の左右端で接する走査線
(ultrasound scan line),C はその中間の走査線をあ
らわす.I(ic, j)は ic 番目の走査線(ultrasound scan
line)上の j 番目の輝度値を表し,I(iL, j),I(iR, j)に
ついても同様に定義される.
6. 機能の実装
いのである(洗濯板の例は医用生体工学者の土肥健
純先生がよく引用される)
.
医療支援システムにおいてもこれは同様である.
たとえば,位置・姿勢の正確さが要求される機能に
は,人間のようなアーム型の機構ではなく,直動ガ
本研究では,下記の 5 つのコア技術を基盤として,
これを発展させることで,人が人にやさしく接する
ように人体に対して安全・安心に動作する非侵襲超
音波診断・治療統合システムを実現する.Fig.5 に
イドおよび曲率ガイドによる剛性の高い機構を用い
るべきである.また,機械による実装解においては,
周期的な運動に追従する機能と非周期的な運動を分
離して,これに対応する 2 自由度制御系を構築する
著者らの医デジ化による非侵襲超音波診断・治療統
合システムの構築研究プロジェクトのロードマップ
を示す.
(a)人体に対する安全・安心な接触/非接触動作制
ことで患部追従性能の向上を図ることができる.
御技術 1),2)
5. 機能のパラメータ化
(設計指針化)
本章では結石を対象に患部抽出機能(Fig.3 参照)
を取りあげ,機能のパラメータ化(設計指針化)につ
いて概説する.本研究における設計指針とは構造化
された要求機能にこれを実現するパラメータをまと
めたものとする.
結石は大変硬い生体組織であり,周囲の軟部組織
と比較して,高い音響インピーダンスを有する 16).
Table 1 に生体組織の音響インピーダンスを示す.
音響インピーダンスの高い組織は,超音波画像上で
高輝度を有しており,後方に陰影を生ずる(音響陰
影)ことが知られており,医師はこのことを利用し
て,結石を抽出する.
上記を踏まえて,患部抽出のためのパラメータと
して,超音波診断画像上での輝度および次式に示す
ような音響陰影に関するパラメータ(音響シャド
(b)機能に応じた高精度機構設計技術 1),6)
(c)超音波医療診断・治療技能における機能抽出・
構造化技術 1),4),5)
(d)超音波診断・治療タスクに応じたシステム動作
切替え・制御技術 17),18)
(e)リアルタイム医用超音波画像処理技術 4),5),19)
ここで,本研究を遂行するにあたって,最大の難
所となるであろう,超音波診断画像による生体中の
患部抽出・追従の問題点とこれを解決するためのア
プローチ法について示す.Fig.6 に示すように,
HIFU による生体中の気泡発生や,骨などの硬い組
織,追従対象と同様のインピーダンスを有する背景,
ロボット動作時の機構振動等により,患部抽出・追
従のための超音波画像の質
(image quality : IQ)
が劣
化する.
ウ・ファクターと呼ぶ)を導出することで,患部抽
出機能のパラメータ化を行なう(Fig.4)
.
j= jed
f shadow=
Σ
j= jst
j= jed
Σ
j= jst
(
I iC , j )
0.5
((
I iL , j )
+(
I iR , j ))
(1)
Table 1 Acoustic impedances of body tissues.
medium
blood
fat
muscle
kidney
renal calculi
設計工学
(
Z kg m2 s)
×10 6
1.62
1.38
1.7
1.62
3.18 – 6.51
Fig.4 Acoustic shadow factor to extract focal
lesion(kidney stone)
. 文献 5)
より転載.
(9)
Vol.49, No.6(2014 年 6 月)
284
Fig.5
Fig.6
設計工学
Research project roadmap for construction of NIUTS based on TDMPS.
Problems and solutions with visual motion tracking using ultrasound images. 文献 5)
より転載.
(10)
Vol.49, No.6(2014 年 6 月)
285
この劣化が追従誤差増大の原因となり,さらなる
画像の変質および振動を引き起こし,これが,また,
追従誤差の増大を招く.一方で,この事実は,何ら
かの方法で追従精度を向上することができれば,劇
的に追従精度を向上させる可能性があることを示唆
する.
本研究プロジェクトでは,我々の研究グループが
これまでに開発・蓄積してきた機構・制御・画像処
理アルゴリズムに関する上記コア技術を基盤として
これを発展させることで,上記の課題を克服する.
具体的に,追従誤差を最小化するというアプローチ
と追従誤差の影響を低減するというアプローチの両
面から,上記の問題に取組むことで,がん・結石・
循環器疾患などの超音波診断・治療を非侵襲かつ低
負担で行なう,患者にとって安全・安心な超音波診
断・治療システムの実現を目指す.
ここでは,上記のうち,第 5 章でパラメータ化し
た結石を対象とする患部追従機能を画像処理アルゴ
リズムとして実装した例を示す(Fig.7).Fig.7(a)
は患部抽出実験に使用した豚摘出腎と人工結石,
(b)
は超音波画像上で本アルゴリズムによって認識・同
定された音響シャドウおよび結石位置である.
具体的にまず,超音波画像上で一定の輝度および
面積を有する領域を結石候補として抽出し,つぎに
(1)式で定義した音響シャドウファクターを用いて,
音響シャドウの有無を確認することで結石かどうか
の判断を行なう.
7. 医デジ化にもとづく医工融合教育活動と医
療支援システム開発のスタンス
医デジ化にもとづく医工融合の教育活動は,単に
教育面にとどまらず,研究面にも積極的にフィード
バックされ,大きな推進力をもたらし,その成果が
講義および実習を通して教育活動にフィードバック
されるという好循環をも生みだす.
その具体例として,医療ナノテクノロジー人材養
成ユニット 20)という医工融合教育プロジェクトの
履修生であり,同ユニットで工学的エッセンスを修
得した心臓外科専門医(第 2 著者)と工学系研究者
(筆頭著者)が現在まで,9 年間にわたり,週に 1 度
のペースで,精力的に共同研究・開発ミーティング
を開催していることがあげられる
(Fig.8)
.
そのなかでは,単に,医療機器の共同研究・開発
を行なうのみならず,『心臓外科専門医としての医
療ニーズ』,『医療現場における一般的な医療ニー
ズ』
,『超音波医療ロボット研究者としての専門的/
一般的な工学シーズ』を中心にお互いの医学あるい
は工学知識を相互に教えあっている.
また,『質の高い医療機器を構築するためには,
何が必要か?』
,『医療機器開発チームはどのように
構築されるべきか?』,『医学研究者と工学研究者の
医療機器開発にあたっての意識・方向性の差異』,
『医学系あるいは工学系の人間からみた,これがあ
れば医工学研究がすすむのにと思うこと』など,医
療機器開発の方法論,課題,並びに解決アプローチ
等について多岐のテーマにわたり,継続的に議論し
てきており,この蓄積が本報で取りあげる『医デジ
化にもとづく非侵襲超音波医療診断・治療システム
の構築法に関する研究』の進展においても大きな推
進力のひとつとなっている.
具体的にまず,医療機器は『誰でも使いやすいよ
Fig.7 (a)Artificial stone incorporated in extracted swine kidney,(b)Extraction result of
stone in ultrasound image. 文献 5)より転載.
設計工学
Fig.8
(11)
Collaborative fusion research and development among medical professionals and
engineers.
Vol.49, No.6(2014 年 6 月)
286
うに簡便で,より安全で,より速く,より確実』で
あるべきだという医師の立場からの指摘から,『人
体に対して安全・安心に接触あるいは非接触動作し
ながら,人間の能力を超える高速・高精度な医療診
断・治療を実現するシステム』という医療支援シス
テムの開発コンセプトを確立した.
つぎに,医療機器を構築するための方法論として,
『医療技能を機能として抽出・構造化し,医療シス
テムの機構・制御・画像処理アルゴリズム上に実
装・機能の高度化を図ることで医療の質の向上を実
現する』
という『医デジ化』
のコンセプトを確立した.
その際,『ロボットの機能が人間にとって代わる
という開発コンセプトでは現場の医師に受け入れら
れづらい』という指摘を受け,『医師の技能向上の仕
組みを確保しつつ,医デジ化を通して医師の技能向
上を支援し,新たな診断・治療の可能性を開拓する』
という医療支援システム開発のスタンスを確立した
(Fig.9)
.
具体的にたとえば,『腎臓がん』の治療は,患部の
呼吸性移動のため,これまで,超音波治療の対象外
だったが,『呼吸を中心とする患部の運動を補償す
る機能』を新規に実装することにより,専門医が超
音波治療の対象として考えるようになり,これによ
り,超音波医療診断・治療システムの研究が加速・
進展した.
医工融合研究を推進するうえで医師側に期待され
る心構えとしては,『ただちに実用化されないから
医療支援システムの研究開発に着手しない』とか,
『現在の研究開発水準に限界を感じて現状に留まろ
う』というのではなく,『3 ∼ 5 年後あるいはさらに
将来の技術水準をも見据えて,今,研究開発をスタ
ートしよう』とする,『積極的かつ粘り強く取組もう
とする強い信念・姿勢』
であろう.
8. おわりに
本報では,著者らが開発している非侵襲超音波医
療診断・治療統合システムを例として取りあげ,著
者らが提案する医デジ化に基づく医療支援システム
の構築法について概説した.
これまで製造業分野においてロボットに求められ
てきた役割は,『定型的な作業を人間では不可能な
精度および速度でこなすこと』であった.他方,医
療分野において今後期待されるロボットは『これま
では人間にしかできないと思われてきた複雑で非定
型な文脈や状況に対して適切な判断および動作を高
速・高精度かつ安全・安心に実行するとともに,医
師の技能向上の仕組みを確保することで医療の質の
向上を図り,新たな診断・治療の可能性を開拓する』
ことであろう.
謝辞
本稿をまとめるにあたっては,松本洋一郎先生,
高木 周先生,佐久間一郎先生,杉田直彦先生,原
田香奈子先生,東 隆先生,佐々木 明先生,野宮
明先生,李 東俊氏,長 隆之氏,田中真一氏,森瀬
博史氏,村田大二郎氏,笠岡第一病院の橋詰博行先
生,名越整形外科医院の名越 充先生,ニイガタ株
式会社の渡辺 学氏,浅野敏行氏,橋本敏和氏,
OST 株式会社の池田芳則氏,柳 光江氏,日立アロ
カメディカル株式会社の大坂卓司氏,篠村隆一氏,
射谷和徳氏のご協力を賜りました.ここに謝意を表
します.
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光石 衛
2004 年 東京大学大学院工学系研
究科産業機械工学専攻博士課程修
了.博士(工学),2004 年 4 月より半
年間,日本学術振興会特別研究員
(受入機関:独立行政法人産業技術
総合研究所),2004 年 10 月より東京
大学大学院工学系研究科科学技術振
興特任助教,2007 年 11 月より同講
師.非侵襲超音波診断・治療統合シ
ステム,遠隔超音波診断システムの
構築法に関する研究,超音波心臓癒
着評価システム,医療診断・治療技
能の技術化・デジタル化(医デジ化)
に関する研究等に従事.
2006 年 東京大学大学院医学系研
究 科 外 科 学 専 攻 修 了( 医 学 博 士 ),
2006 年 東京大学医学部附属病院
心臓外科特任助教,日本心臓血管外
科手術データベースの構築,および
サイトビジット法の確立,低侵襲心
臓手術および診断・治療デバイスの
開発,再生能を有する癒着防止コラ
ーゲン心膜シートの開発,リアルタ
イム三次元超音波装置を用いた心臓
手術の開発,超音波診断装置を用い
た術後心機能評価法等に関する研究
に従事.
1979 年 東京大学理学部物理学科
卒業.1986 年 同大学大学院工学
系研究科機械工学専攻博士課程修
了,工学博士.同年東京大学工学部
産業機械工学科講師.この間,1987
年 10 月より 1 年間,ドイツ連邦共和
国シュトットガルト IPA(Institut
fuer Produktionstechnik und utomatisierung)客員研究員.1989 年 東京
大学工学部産業機械工学科助教授.
1999 年より同教授.知能化生産シ
ステム,ネットワーク型遠隔生産シ
ステム,高速工作機械の熱変形能動
補償,実体験による技術の伝承シス
テム,微細加工システム,遠隔手
術・診断システム,バイオ・メカニ
ックスに関する研究等に従事.
Vol.49, No.6(2014 年 6 月)
Fly UP