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ストックマネジメントに基づく農業用水路補修工法 の提案
「ストックマネジメント」に基づく、農業用水路補修工法の提案 株式会社マレックス技研 高井修 はじめに 現下の厳しい社会経済状況や循環型社会への移行が喫緊の課題となる中で,総延長4万 kmにも及ぶ基幹農業用水路の機能を適正に維持していくため,機能低下の原因と程度に応 じた適期・適切な補修・補強による長寿命化工法の確立が求められている。 現在では、「ストックマネジメント」の考え方があり、ただ単純に、古くなったという 理由から施設を解体して新築(改築)を繰り返す、いわゆる「スクラップ&ビルド」とは 違う考え方となっている。これらの背景を踏まえ農業用水路の補修の一工法を提案するも のである。 気温の日変動・年変動による躯体のひび割れに対するひび割れ追従性能と水路特有の砂 などが混入した流水に対する耐摩耗性能の両者に対応できるモルタル系、その素材特性を 活用することによって、農業用水路に要求される性能、水路特有の変状、厳しい施工環境 条件に合致した合理的な農業用水路の表面被覆工法の提案を主な目的とした。 本提案のテーマは、複数微細ひび割れ型繊維補強セメント複合材料(HPFRCC)を 用いた表面被覆材を活用し、農業用水路の要求性能や農業用水路に特有の変状および機能 低下に対応でき、かつ経済性、施工性および耐久性に優れる、農業用水路の表面被覆工法 を提案するものである。本研究では、農業用水路の表面被覆材料に要求される性能を再確 認し、要求性能に応じた最適な設計を行い、農業用水路の実情に照らし合わせた性能評価 を実施した。 工法概要 工法概要は、下工法概要図の通り、既設水路表面を目粗しし、靭性モルタルTYPE-1N で表面を被覆するものである。 ※ 新技術登録済 NETIS 施工概要図 HR-110002-A 靭性モルタルTYPE-1N 施工前、後の状況は、下写真のとおりである。 施工前状況写真 施工後状況写真 複数微細ひび割れ型繊維補強セメント複合材料(HPFRCC)について HPFRCCは、セメント系材料と補強用の短繊維を用いた複合材料であり、一軸引張 応力下において疑似ひずみ硬化特性を示し、微細で高密度の複数ひび割れを形成する高靭 性材料である。HPFRCCは、一軸直接引張試験により求めた引張終局ひずみの平均値 が0.5%以上、かつ平均ひび割れ幅が0.2mm以下となる材料とする。 複数微細ひび割れ型繊維補強セメント複合材料 写真1 一軸引張試験状況 設計・施工指針(案)より 引張応力下におけるひずみ硬化 およびひずみ軟化特性の概念 農業用水路の表面被覆材料に要求される性能 ① 有害なひび割れが入らないこと → 劣化因子の侵入抑制 ② 剥離、剥落が生じないこと → 下地コンクリートの露出を防止、劣化抑制 ③ 凍害に対する抵抗性を有すること → スケーリングなどの凍害劣化抑制 ④ 水流による摩耗が生じないこと → 摩耗による劣化抑制、表面粗度の維持 材料特性 ・ ひび割れ抵抗性 有害なひび割れが生じにくい、特殊繊維混入モルタルを用いたライニング工法です。 本工法の靭性モルタルTYPE-1Nは、日本コンクリート学会及び土木学会とともに研究開発 した材料で、多量に混入した特殊短繊維の架橋効果により硬化収縮等に伴うひび割れを大 幅に抑制させるとともにひび割れ発生後にも応力の低下が無い。また、他の無機系表面被 覆材には無い、ひび割れ抵抗性能を曲げ靭性係数及び引張終局ひずみで数値規格化した超 高靭性繊維補強セメント複合材料である。 また、硬化収縮率も0.05%以下であることからも、ひび割れが生じにくい材料であ ることが伺える。 供試体 引張強度 引張終局ひずみ 2 曲げ荷重 (kN) 30 靭性モルタル ポリマーセメントモルタル コンクリート 20 (繊維 :0.5vol%) 10 0 0 0.5 1 変位 (mm) 終局ひずみ試験結果 1.5 (N/mm ) (%) No.1 4.1 1.65 No.2 4.0 0.72 No.3 4.8 0.94 No.4 3.9 0.59 No.5 4.4 3.13 No.6 4.3 1.27 No.7 3.8 0.89 No.8 4.6 2.89 No.9 4.3 0.98 平均 4.2 1.45 終局ひずみ試験結果一覧 硬化収縮率(%) 供試体 表面被覆材の種類 No 7日 14日 21日 28日 1 -0.001 -0.014 -0.029 -0.039 靭性モルタル 2 -0.001 -0.014 -0.028 -0.039 TYPE-1N 3 0.000 -0.012 -0.026 -0.036 -0.001 -0.013 -0.028 -0.038 平均 硬化収縮試験結果一覧 ・ 付着性能 表面処理工法として、ウォータージェット工法を採用することで、既設コンクリート表 面の脆弱層を選択的かつ完全に除去するため、長期付着性を維持します。靭性モルタルは、 この条件下において、プライマーを一切使用しなくても十分な付着性能を有しており、長 寿命化が図れます。 湿潤状況でも十分な付着強度が得られるとともにプライマーの有無に関係なく付着強 度の確保が可能である。また、1年間水路の中に浸漬させた後においても1.5N/mm2以上 の付着強度が確認され、付着耐久性も優れていることが証明されている。 供試体 付着強度 No (N/mm 2 ) 1 1.9 靭性モルタル 2 2.1 TYPE-1N 3 2.0 平均 2.0 表面被覆材の種類 硬化収縮試験結果一覧 ・ 摩耗性試験 特殊ポリマーセメントモルタルの使用により、耐摩耗性が他の材料に比べ 1.5~5 倍程度 優れています。また、ライフサイクルコストの縮減が可能です。 特殊ポリマーセメントモルタルの使用により内部組織を緻密化させ摩耗性能を向上し ている。その結果、摩耗性能が農工研公表の開発材料より数倍程度優れている。 試験者 農工研 建築研究振興協会 製品名 摩耗量1000回転 (g) PCM1 11.0 PCM2 15.0 靭性モルタル TYPE-1N 耐摩耗性試験結果一覧 2.6 ・ 凍結融解試験 多量繊維混入の架橋効果により凍結融解に伴う損傷や劣化が抑制されるため、凍結融解 抵抗性に優れています。また、この材料は、劣化因子が浸透しにくく、極めて高い耐久性 を有している。 JISによる凍結融解試験結果、凍結融解による内部や表面の損傷がほとんど無いこと が相対動弾性係数や質量減少率により証明されており、透水性等も非常に優れているこ とが試験により証明されている。 評価項目 結果 相対動弾性係数 98% 質量減少率 0.49%減少 供試体表面やスケーリングやポップアウト等 無 凍結融解試験結果一覧 供試体 透水量 平均透水量 (g) (g) No.1 0 No.2 0 No.3 0 0 透水量試験結果一覧 材料のまとめ 材料においては、北海道の用水路の補修に適した材料であることが伺える。 不燃性無機系の無公害な材料を使用しているため環境にやさしく、高い耐久性をもった 水路補修工法であり、農業用水路の劣化因子に対し、劣化を抑制することが可能な材料で あると考えられる。 施工について ・ 下地処理 ・ 表面被覆 施工前状況 練り混ぜ ウォーター 吹き付け ジェット 目粗し 濁水処理 粗仕上げ 仕上げ 養生材塗布 (DF ガード) 完成 まとめ 従来、モルタル系表面被覆材においては、ひび割れや剥離が生じやすいなどが問題視さ れていたが、繊維の架橋効果によるひび割れ分散性により、劣化因子の侵入を防止するこ とで、剥離等の劣化の進行が抑制されると考えられる。 また、北海道のような寒冷地における凍結融解抵抗性、用水路の水流摩耗抵抗性を有し た材料であることから、農業用水路の補修工法として有効であると考えられる。 現在、北海道での長大区間の施工実績はないのが実態であるが、試験施工箇所において は、現段階でひび割れ、剥離などが生じた例はなく、長寿命化可能な補修工法であること が伺える。