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X 線撮影を用いた RC 部材内の鉄筋腐食成長過程の

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X 線撮影を用いた RC 部材内の鉄筋腐食成長過程の
X 線撮影を用いた RC 部材内の鉄筋腐食成長過程の
可視化に関する基礎的研究
充良*1・中嶋
秋山
啓太*2・小森谷
隆*3
概要:鉄筋コンクリート(RC)部材内で生じる鉄筋腐食の進展を観察できれば,鉄筋腐食の不均一さ(腐食の空間
分布)の程度と形成過程の理解,あるいは,それと部材表面に表れる腐食ひび割れ幅・密度の関係の把握など,RC
構造物の維持管理の高度化につながる情報が得られると期待される。本研究では,RC 部材内の鉄筋腐食成長過程の
X 線撮影による観察の可能性を検討した。まず,腐食量が既知の鉄筋を埋め込んだ RC 供試体の X 線撮影を行い,腐
食量を精度良く再現するための撮影方法やディジタル画像処理方法,あるいは精度に及ぼすかぶりや水セメント比の
影響などを検討した。次いで,電食にて劣化させた RC 部材を連続的に X 線撮影することで,鉄筋腐食成長過程,鉄
筋腐食量と腐食ひび割れ幅の関係,あるいはそれらが部材曲げ耐力に及ぼす影響に関する基礎資料を得た。
キーワード:X 線,ディジタル画像処理,鉄筋腐食,塩害,鉄筋コンクリート構造物
1. はじめに
武田の研究グループは,世界に先駆け,X 線技術をコン
クリート構造物に適用し,フラクチャープロセスゾーン
塩害環境下にある既存の鉄筋コンクリート(RC)構造
の挙動解明などを精力的に行ってきた
6), 7), 8)
。また,近
物では,部材内で生じている鉄筋腐食の状態を精度良く
年は,X 線 CT を用いたコンクリート円柱供試体の撮影
把握することがその維持管理において重要である。目視
も行われており,骨材や空隙の三次元的な位置・寸法に
検査で得られた腐食ひび割れ幅から RC 部材内の鉄筋腐
関する情報の抽出も試みられている 9), 10)。X 線により撮
食量を推定し,その結果を用いて構造物の現時点の安全
影された画像を適切に処理することで,これまで可視化
性や将来的な残存寿命の評価などが行われている
1), 2), 3)
。
現状では,部材内で不均一に進展している鉄筋腐食の空
できなかったコンクリート内のひび割れや骨材の分布な
どをとらえている。
間分布の表現が困難であり,また,コンクリート表面に
この X 線技術により,RC 部材内の鉄筋腐食状態を可
表れる腐食ひび割れから推定される鉄筋腐食量にも非常
視化できれば,鉄筋腐食の成長過程を連続的に撮影する
に大きなバラツキが含まれる。このため,最も断面力が
ことが可能となり,鉄筋腐食の空間分布をモデル化する
大きな位置に最大の鉄筋腐食量が生じるとの仮定を設け
ための情報,さらには,鉄筋腐食とコンクリート表面に
たり,腐食ひび割れ幅から鉄筋腐食量を推定する際に,
表れる腐食ひび割れ幅・密度の関係等について,有用な
4), 5)
。これらの解
情報を得ることができると期待される。ただし,健全時
決には,RC 部材内で不均一に生じる鉄筋腐食の成長過
から,例えば,10%程度の断面欠損が生じたコンクリー
程や,それと部材表面に表れる腐食ひび割れ幅・密度の
ト内の鉄筋の状態を X 線により定量的に評価可能である
関係などを把握する必要がある。しかしながら,鉄筋は
のかは明らかでなく,このような研究目的の達成に X 線
コンクリート内に存在しており,鉄筋腐食の成長を連続
技術が適用できるのかをまず確認する必要がある。
過度に安全側の値を与えたりしている
して実験的に観察することは極めて困難である。
コンクリート内部で生じるひび割れ進展の解明に X 線
本研究は,上記の背景のもと,X 線によりコンクリー
ト内の鉄筋腐食の状態を撮影し,鉄筋の非腐食域の境界
技術を適用した事例がある。X 線は,可視光と比べ短い
を捉えるためのディジタル画像処理方法などを検討する。
波長をもつ電磁波であり,屈折率が 1 に近く,透過力が
具体的には,予め電食にて腐食させた,腐食量と腐食の
大きい性質を有している。この性質を利用して,大塚・
分布が既知の鉄筋をコンクリート中に埋め込み,その状
*1 早稲田大学教授 創造理工学部社会環境工学科 博士(工学) (正会員) 〒169-8555 東京都新宿区大久保 3-4-1
*2 鉄道・運輸機構 九州新幹線建設局 武雄鉄道建設 修士(工学) 〒843-0024 佐賀県武雄市武雄町富岡 11763-1
*3 鉄道・運輸機構 九州新幹線建設局 工事第二課 修士(工学) 〒812-0038 福岡県福岡市博多区祇園町 2-1
表-1
供試体
供試体 No.
形状
X 線遮蔽室
コンピュータ
(画像処理ソフト)
水セメント比
W/C
目標質量
減少率
CA0
健全 (0%)
CA1-1
1%
CA1-2
1%
CA5-1
X 線撮影情報のディジタル化
5%
50%
CA5-2
X 線管球
X線
I.I.
操作台
供試体一覧
供試体
5%
CA5-3
5%
CA10-1
円柱
10%
CA10-2
供試体
10%
CA15
15%
CB0
健全 (0%)
CB1
1%
70%
CB5
5%
CB10
図-1
本研究で用いた X 線撮影装置の概要
10%
CM5
50%(モルタル)
5%
健全 (0%)
SA0
態を X 線撮影し,ディジタル画像処理方法の違いが X 線
SA1
撮影画像(以下,単に X 線画像)から予測される鉄筋腐
SA5
角柱
5%
SB0
供試体
健全 (0%)
食量の精度に及ぼす影響などを検証する。次いで,電食
にて劣化させた RC はり部材の X 線撮影を行い,鉄筋質
量減少率の不均一さの程度や形成過程を観察した。また,
的な変動と曲げ耐力の関係などに関する基礎資料を得た。
本研究は,将来的に,X 線技術を用いて鉄筋腐食の成
長過程を連続的に観察することが可能であるのかを見極
めるために実施する。そのため,電食により生じる鉄筋
1%
70%
SB1
1%
SB5
5%
表-2
鉄筋質量減少率とコンクリート表面に表れる腐食ひび割
れ幅の関係,さらには,部材内部の鉄筋質量減少率の空間
50%
モルタル・コンクリート示方配合
Gmax
(mm)
W/C
(%)
s/a
(%)
20
20
--
50
70
50
40
44
--
単位量 (kg/m3)
W
170
170
277
C
340
243
555
S
693
807
1375
G
混和剤
1140 0.18
1124 2.58
-5.55
備考:表中,上から,W/C=50%のコンクリート,70%のコンクリート,
50%のモルタルの配合を示す。
の断面減少や腐食生成物の実環境で生じるものとの違い,
あるいは,腐食ひび割れ幅に及ぼすせん断補強鉄筋の影
やそのモデル化に関する情報を得るための実験が可能で
響などは検討できていない。これらは,今後の重要な検
ある。また,医療機関などで行われるフィルム撮影とは
討課題である。また,実際のコンクリート構造物を対象
異なり,本装置では供試体のリアルタイム撮影が可能で
に X 線技術を適用し,鉄筋腐食の状態を観察したりその
ある。荷重載荷装置と組み合わせれば,載荷に伴う鉄筋
量を推定したりすることは,本論文の対象外である。
の変形の様子をリアルタイムに観察できる。このため,
本装置では,X 線照査時間などの設定を行う必要はない。
2. 本研究で用いる X 線撮影装置の概要
X 線管球から放射される X 線強度は,物質透過の前後
で式(1)の関係を有している。
本研究で使用した X 線撮影装置の概要を図-1 に示す。
図の右側にある X 線管球から X 線が照射され,供試体を
I = I 0 exp(− μd )
(1)
通過した後に,イメージインテンシファイア(以下,I.I.)
ここで,I0 と I はそれぞれ透過前と透過後の X 線強度,μ
を通してテレビジョン装置に被写体の情報が取り込まれ,
は透過する物質の透過係数,d は透過する物質の厚さを
最終的にディジタル画像としてコンピュータにそれが出
示す。透過係数とは,物質の密度に依存した係数である。
力される。装置内にある供試体設置用のテーブルは,360
X 線画像には,透過後の X 線強度の差が白黒の濃淡と
度回転できるように設計されており,多方向からの被写
して表れる。RC 部材を対象とする場合,白黒の濃淡の
体の撮影が可能である。
差は,コンクリートと鉄筋の密度の差によるものであり,
本装置の仕様は,X 線管電圧 25~150 kV,X 線管電流
これがディジタル化され,輝度値として定量化される。
0.5~3.0 mA であり,最大出力は 225 W である。X 線技
相対的に密度の小さい,透過しやすい物質(コンクリー
術をコンクリート供試体に応用した既往の研究では,通
ト)の場合,透過後の X 線強度は大きく輝度値が大きく
常,直径 100 mm,高さ 200 mm 程度の小型供試体を用い
なり,撮影画像上では白く表示される。一方,X 線が密
ているのに対し,図-1 の装置は,後述の大きさの RC
度の大きい,透過し難い物質(鉄筋)を透過した場合,
はりまでを撮影できる。鉄筋腐食の不均一さの形成過程
透過後の X 線強度は小さく輝度値が小さくなり,X 線画
200mm
100mm
100mm
エポキシ樹脂および
ビニールテープで被覆
25mm
170mm
平面図
D13 (SD345)
43.5mm
25mm
断面図
(a) 円柱供試体
D13 (SD345)
50mm
382mm
72mm
エポキシ樹脂及びビニールテープで被覆
75mm
50mm
100mm
15mm
45mm
断面図
(b) 角柱供試体
図-2
43.5mm
15mm
45mm
300mm
平面図
供試体寸法および配筋位置
X 線撮影方向
像上は黒く表示される。この輝度値の相対的な差に基づ
180 度
180 度
き,後述の手法で画像処理を施すことで,鉄筋とコンクリ
鉄筋
ートの境界が同定される。
270 度
90 度
3. X 線撮影による RC 部材内の鉄筋腐食の可視
化に関する基礎検討
3.1 供試体諸元
本章では,X 線技術により,RC 部材内の鉄筋腐食量
270 度
0度
(a) 円柱
0度
(b) 角柱
図-3
を推定するための基礎検討を行う。この目的のため,予
90 度
X 線撮影方向
め鉄筋質量減少率や腐食の分布が既知の鉄筋をコンクリ
の程度の X 線画像に及ぼす影響をみるため,ここでは,
ート供試体内に埋め込み,その撮影を行う。鉄筋は全て
水セメント比 W/C の異なる供試体(W/C = 50%, 70%)
D13 (SD345) を使用し,電食により鉄筋を腐食させてい
を用意した。また,骨材の影響を確認するため,モルタ
る。コンクリート供試体内にある鉄筋全長(エポキシ樹
ル供試体(CM5)も作製した。円柱供試体の寸法は直径
脂やビニールテープ保護区間は除く)に対する平均質量
100mm×高さ 200mm で,鉄筋は円の中心に配筋した。
減少率として,1%, 5%, 10%, および 15%の 4 段階に目標
一方,角柱供試体の寸法は,100mm×100mm×382mm で,
値を設定し,電食を行った。鉄筋腐食量以外の実験因子
鉄筋は断面中央から偏心させ,かぶりが 15mm となる位
は,i) 水セメント比,ii) 供試体形状(円柱・角柱)であ
置に配筋した。角柱供試体は,撮影方向によりコンクリ
る。作製した供試体とそれに用いたモルタル・コンクリ
ート表面から鉄筋表面までの距離が異なる。これから,
ートの示方配合をそれぞれ表-1 と表-2 に示し,各供
透過するコンクリート厚さが X 線画像に与える影響を評
試体の寸法と配筋位置を図-2 に示した。CA1-1~2,
価する。なお,鉄筋の長さは,供試体の寸法に合わせて,
CA5-1~3,および CA10-1~2 は,それぞれ供試体毎のバ
円柱供試体と角柱供試体でそれぞれ 220 mm と 390mm と
ラツキを確認するために作製したもので,同じ実験条件下
し,両端の 25mm と 45mm の区間をエポキシ樹脂とビニ
で X 線撮影している。X 線撮影時の材齢は,各供試体で
ールテープで被覆した。
異なり,90 日~120 日の範囲にある。なお,本章の実験は,
X 線による鉄筋腐食量推定の基礎検討が目的であるため,
使用したコンクリートの強度試験などは行っていない。
3.2 撮影条件
前記したように,図-1 の装置では,多方向からの被
写体の撮影が可能である。本研究では,30 度毎に供試体
X 線の透過には,式(1)で示すように,透過する物質の
を回転させ(図-3),12 方向から撮影を行い,鉄筋が腐
密度と厚さが影響する。そこで,コンクリートの密実さ
食していない健全部の鉄筋面積をそれぞれ求め,それか
(健全鉄筋, CA0)
(健全鉄筋, CA0)
(腐食鉄筋, CA15)
(腐食鉄筋, CA15)
撮影角度=0 度
撮影角度=90 度
撮影角度=0 度
撮影角度=90 度
図-4
X 線によるコンクリート中にある鉄筋の撮影例(健全鉄筋 CA0 と腐食鉄筋 CA15)
ら非腐食域の体積を算定した。なお,15 度ずつ回転させ,
x
24 方向からの撮影を行っても,それから評価される非腐
食域の鉄筋体積は,30 度毎の 12 方向から撮影した結果
と大差ないことを確認している。
X 線画像に写る被写体の大きさは,実物の大きさでは
腐食生成物
y
なく,X 線発生源や I.I.と目標とする物体(本研究では,
コンクリートに埋設された鉄筋)の距離,および X 線管
電流・電圧の大きさに依存している。そこで,X 線画像
から距離の絶対値を測定するため,次のように対応した。
まず,全ての撮影画像が等倍率となるように,供試体を
回転させる際は,その回転中心が鉄筋位置と一致するよ
(a) 鉄筋単体を撮影
うに供試体を設置した。そして,健全鉄筋(質量減少率
0%)の X 線画像における鉄筋リブ方向の幅に相当する
(b) コンクリート中の鉄筋を撮影
3500
画素数と,予めノギスにて実測した同位置の長さを対応
非腐食域の鉄筋に
相当する輝度値
させることで,画素数から長さの測定を行えるようにし
背景に相当
する輝度値
柱供試体に対しては 125 kV, 0.5 mA,角柱供試体に対し
ては 135 kV, 0.5 mA に固定して撮影を行った。
3.3
画素数
た。電流と電圧は,幾つかの組合せの検討に基づき,円
腐食生成物に
相当する輝度値
X 線画像からの鉄筋の抽出
(1)X 線画像と輝度値のヒストグラム
撮影画像の一例として,健全鉄筋を埋め込んだ CA0
(W/C=50%,円柱供試体),および目標質量減少率 15%
まで腐食させた鉄筋を埋め込んだ CA15(W/C=50%,円
柱供試体)の結果を図-4 に示す。CA0 を撮影したとき,
撮影角度が 0 度では,画面上でリブが鉄筋の左右の端に
0
0
50
100
150
200
250
輝度値
(c) 鉄筋単体を撮影した場合
3500
非腐食域の鉄筋に
相当する輝度値
位置するため鉄筋の輪郭が直線となり,一方,撮影角度
が 90 度の場合,鉄筋の節が撮影され,それが凸凹となっ
が健全鉄筋よりも欠損していることが分かる。コンクリ
画素数
て表れている。CA15 を撮影したときには,断面減少が
生じた結果として,図-4 に示されるように,リブや節
腐食生成物とコンクリート
に相当する輝度値
ート部材内に鉄筋があっても,鉄筋の輪郭は X 線画像に
よりとらえることができ,断面減少量が CA15 ほど大き
くなれば,健全鉄筋との比較から,X 線画像に基づき腐
食発生の有無を判断できる。
次に,腐食生成物を持つ鉄筋単体を撮影した画像と,
コンクリート中に埋め込んで RC 部材として撮影した画
像について,各画素の輝度値のヒストグラムを比較する。
0
0
50
100
150
200
輝度値
(d) コンクリート中の鉄筋を撮影した場合
図-5
X 線画像の輝度値のヒストグラム
250
着目画素
図-6
−α
−α
−α
−α
1 + 8α
−α
−α
−α
−α
エッジ強調フィルタのオペレータの一例
結果の一例を図-5 に示す。なお,図-5 (b)と(d)は,
CA10-1 を撮影したものである。横軸の輝度値は,白黒の
濃淡の程度を 0~255 の間で基準化したものである。鉄筋
単体を撮影した場合には,鉄筋の両端に腐食生成物が半
透明の状態で写っている(図-5 (a))。図-3 に示され
るように,鉄筋単体を様々な角度から撮影し,輝度値 50
(a) 画像処理前の X 線画像
図-7
以下の画素の面積をそれぞれの X 線画像から求め,これ
から非腐食域の鉄筋の体積,そして質量を求めると,こ
れは腐食生成物を除いた後の鉄筋単体の質量にほぼ等し
くなる。腐食の生じていない健全な(非腐食域にある)
鉄筋と腐食生成物の輝度値が明確に異なるため,容易に
非腐食域の鉄筋を同定できる。一方,RC 部材として撮
(b) 画像処理後の X 線画像
画像処理前後の X 線画像の比較
−1
−2
−3
−4
10
−4
−3
−2
−1
−2
−3
−4
−5
14
−5
−4
−3
−2
−3
−4
−5
−6
92
−6
−5
−4
−3
−2
−3
−4
−5
14
−5
−4
−3
−2
−1
−2
−3
−4
10
−4
−3
−2
−1
影した画像から輝度値のヒストグラムを求めると,コン
クリートの存在により,鉄筋は図-5 (a)よりも白く写り,
その輝度値は右にシフトする(図-5 (d))
。また,図-5
(a)と同じ角度から撮影しても,鉄筋がコンクリート内に
入ると,X 線画像で腐食生成物を視認できなくなり(図
-5 (b)),鉄筋の非腐食域と腐食生成物,および鉄筋の
非腐食域とコンクリートの境界が曖昧となる。図-5 (d)
に示されるように,輝度値のヒストグラムには,非腐食
域の鉄筋のほか,腐食生成物とコンクリートからなるも
う一つの山が見られる。腐食生成物の写り具合は,鉄筋
を劣化させるための実験条件を電食と乾湿繰返しとした
場合で異なることを別途確認しており,X 線画像から腐
食生成物のみを単独で抽出する方法の検討が今後必要で
ある。以降では,X 線画像から非腐食域の鉄筋を抽出す
る方法を検討する。具体的には,X 線画像の各画素が持
つ輝度値から非腐食域を同定して画素総数(= 面積)を
計算し,これを撮影方向毎に求めた結果から体積減少量
を得る。それに鉄筋の単位体積質量を掛けたものと,腐
食生成物を除いた鉄筋の質量減少率(実測値)を比較し,
X 線画像に基づき推定した質量減少率の精度を評価する。
輝度値から鉄筋の非腐食域の画素を同定する際は,画像
の 2 値化処理の一種であるモード法,およびエッジ検出
による方法を用いる。
2 値化処理とは,ある閾値を導入し,画像の輝度値に
基づき撮影画像を 2 つのグループに分ける作業を指す。
画像の輝度値の範囲を[a, b],2 値化閾値を T (a ≤ T≤ b)と
すると,2 値化処理は一般に式(2)のように表される。
f ( x, y ) ≥ T
f ( x, y ) < T
図-8
本研究で使用した空間フィルタのオペレータ
ここで,(x, y) は撮影画像の画素の座標 (x と y の取り方
は図-5 (b)を参照),fT(x, y) は 2 値化処理された画像の
輝度値を関数として表現したもの(輝度関数),f (x, y) は
原画像中の輝度関数を示す。
2 値化処理では,2 値化の閾値を決める方法として,p
タイル法,モード法,あるいは分散比を最大にする方法
などがある 11)。最適な方法は,輝度値のヒストグラムの
形状から選択する。RC 部材を撮影した場合には,図-5
(d)に示されるように,輝度値のヒストグラムに 2 つの山
が見られる。このようなヒストグラムを扱う場合には,
モード法を用いることが適当である
11)
。モード法とは,
山と山の間の画素数の最小値に相当する輝度値を閾値と
する方法である。この閾値より左側が鉄筋の非腐食域と
同定され,この画素数の総和からその面積を計算できる。
(3)エッジ検出による鉄筋の抽出
離散化された画素にはそれぞれに輝度値の情報が与え
られている。RC 部材内を X 線が透過すると,図-5 (d)
に示されるように,鉄筋の非腐食域と腐食生成物・コン
クリートの境界で輝度値が急変する。この輝度値が変化
する境界はエッジと呼ばれ,それを検出することをエッ
ジ検出という。ここでは,エッジ検出により画像処理を
(2)モード法による鉄筋の抽出
⎧1
f T ( x, y ) = ⎨
⎩0
着目画素
(2)
施し,鉄筋とコンクリートの境界を明確化する。
エッジ検出には,エッジを強調して画像の曖昧さを改
善するエッジ強調と呼ばれる方法
12)
がある。エッジ強調
を用いた画像処理後の輝度値 f’ (x, y) は,強調具合を調
整するパラメータ α とラプラシアンフィルタ(2 次の微
分フィルタ)∇2f (x, y)から式(3)で与えられる。
f ′(x, y ) = f (x, y ) − α∇ 2 f (x, y )
(3)
ディジタル画像では,m×n 行列のオペレータ h (x, y)
25
f ′(x, y ) =
m −1 2
∑
n −1 2
∑ h(k1 , k 2 ) f (x + k1 , y + k 2 )
(4)
k1 = − m +1 2 k 2 = − n +1 2
例えば,図-6 に示されるように,3×3 のエッジ強調
として良く用いられるオペレータを用いた場合,α = 1 を
仮定すれば,着目画素のエッジ強調後の新しい輝度値
f’(x, y) は式(5)で与えられる。
f ′(x, y ) = − f (x − 1, y − 1) − f (x, y − 1) −
f (x + 1, y − 1) − f (x − 1, y ) +
9 f (x, y ) − f (x + 1, y ) − f (x − 1, y + 1)
(5)
− f (x, y + 1) − f (x + 1, y + 1)
質量測定から得られる鉄筋質量減少率Δwe(%)
を用いて微分などの演算が行われる(式(4))。
エッジ検出により鉄筋を抽出
モード法により鉄筋を抽出
20 モード法により鉄筋を
抽出した場合の回帰式
Δwe=1.07Δwc
15 相関係数 R2=0.87
10
エッジ検出により鉄筋を
抽出した場合の回帰式
5
相関係数 R2=0.90
0
0
本研究では,図-7 (a)の X 線画像に示されるように,
理を施す。そこで,水平方向のエッジ強調を意図したオ
図-9
ペレータ h (x, y) を試行錯誤により模索し,図-8 を得た。
る。以降,この輪郭から非腐食域の鉄筋面積を算出する。
3.4
X 線画像からの鉄筋腐食量の評価
(1)算出手順
X 線画像から非腐食域の鉄筋を抽出し,撮影画像ごと
の面積から体積を近似し,その質量減少率を推定する。
質量減少率 Δw は式(6)で得られる。
Δw =
w0 − w1
× 100
w0
(6)
ここで,w0 および w1 はそれぞれ健全鉄筋および腐食鉄
筋の質量である。
X 線画像による質量減少率の算出は,まず,撮影画像
ごとに非腐食域の鉄筋の平均直径を求める。これは,非
腐食域の鉄筋の面積を画像に写っている鉄筋の高さで除
10
15
20
25
画像処理方法による推定精度の比較
25
質量測定から得られる鉄筋質量減少率Δwe(%)
に示す。画像処理後,鉄筋の非腐食域の輪郭が明確とな
5
画像処理(モード法・エッジ検出)により算出する
鉄筋質量減少率Δwc (%)
水平方向の輝度値の変化が支配的な画像に対して画像処
これを用いて図-7 (a)を画像処理した結果を図-7 (b)
Δwe=0.97Δwc
20
W/C=50%,円柱
モルタル(W/C=50%),円柱
W/C=50%,角柱
W/C=70%,円柱
W/C=70%,角柱
15
10
5
0
0
5
10
15
20
25
X 線画像から算出する鉄筋質量減少率Δwc (%)
図-10
各実験因子が鉄筋質量減少率の推定精度に及ぼす影響
した画像内の鉄筋の平均幅である。さらに,この撮影角
量減少率の比較を示す。どちらの手法も概ね良好な対応
度毎の値の平均 dave から鉄筋の断面積 S(= πdave2/4)を計
が得られている。ただし,若干ながら,エッジ検出によ
算する。そして,画像に写っている鉄筋の高さと鉄筋の
る推定の方が質量測定値に近く,また,図-7 (b)に示す
密度を断面積に乗じることで,非腐食域の鉄筋の質量 w1
ように,非腐食域の鉄筋と,腐食生成物やコンクリート
を得る。一方,これと同じ水セメント比と寸法を持つ供
との境界の曖昧さを明確にできるため,RC 部材内の鉄
試体に埋設した健全鉄筋(質量減少率 0%)から,w1 を
筋腐食の成長を観察する上で適した手法と言える。
得るのと同様の手順で求められる w0 より質量減少率を
X 線画像に基づく質量減少率と質量測定による質量減
得る。この精度は,健全鉄筋と腐食鉄筋の質量測定から
少率の差の原因を考察する。X 線画像からコンクリート
得られる質量減少率との比較から評価される。なお,腐
中にある鉄筋の平均直径を求めると,鉄筋単体を撮影し
食鉄筋の質量測定の前には,コンクリートから腐食鉄筋
た場合に比べ,それを過小評価する傾向が見られた。こ
をはつり出し,60 度の 10%クエン酸 2 アンモニウム水溶
れに加え,2 次元の X 線画像からの体積推定では捉えら
液に 24 時間浸漬して腐食生成物を除いている 13)。
れない,腐食による鉄筋表面のくぼみも誤差を生む要因
(2)X 線画像に基づく質量減少率の推定精度
である。X 線画像から非腐食域の鉄筋体積を推定した場合
図-9 に,モード法とエッジ検出により X 線画像から
には,このくぼみ分が無視されるため,過大評価を与える。
推定した鉄筋の質量減少率と,実際の質量測定による質
この過小評価と過大評価の表われ方は供試体毎に異なり,
(単位:mm)
P
280
P
CL
引張鉄筋
D13-SD345
CL
17.5
供試体
140
140
せん断補強筋
D6-SD345@100
- +
140 140
80
24.5 31 24.5 竹ひご
銅板
20
1260
14
1460
ビニールテープ
保護区間
(a) 供試体概要と4点曲げ載荷状況
図-11
40 14
スポンジ
・ L-10-s-1 と L-20-s-1 は,長さ 140mm の間隔をあ
けてスポンジを設置
・ L-20-n は間隔をあけずに全区間スポンジを設置
(b) 供試体断面図
(c) 電食の様子
X 線撮影に用いる鉄筋コンクリートはりの概要と電食の様子
結果として,図-9 の誤差になったと考えられる。
次に,各実験因子が鉄筋の質量減少率の推定精度に及
ぼす影響を検討する。図-9 のエッジ検出により質量減
少率を推定した結果を実験因子毎に凡例を区別したもの
を図-10 に示す。図-10 に示されるように,水セメン
ト比(50%・70%)やコンクリートとモルタルの違いに
よる極端な精度の偏りは見られない。各供試体は,セメ
ント量や骨材の有無によりコンクリートの密度が異なる
が,この程度の差は X 線画像に有意な差をもたらさない。
次に,供試体形状に着目する。角柱供試体は,撮影方向
表-3
供試体名
L-0
撮影無
健全
L-20-n
0.0⇒0.7⇒2.9⇒9.7⇒19.7⇒25.6⇒27.3
一様
L-10-s-1
0.0⇒17.5
局所的
L-20-s-1
0.0⇒11.2⇒16.5⇒26.0⇒31.5
局所的
*1) L-0 は電食を施さない供試体であり,X 線撮影を行っていない。その他の 3 体は,
表中の数字で X 線撮影を続け,その後に曲げ載荷を行っている(例えば,L-20-n で
は,X 線撮影により純曲げ区間で 27.3%の質量減少率が生じていることを推定後,
曲げ載荷実験を行っている)。*2) 「一様」とは,図-11(c)で間隔をあけずにスポ
ンジを設置した場合であり,
「局所的」とは,長さ 140mm の間隔をあけてスポンジ
を設置した場合を指す。
表-4
によりコンクリート表面から鉄筋までの距離が異なるが,
円柱供試体の場合と比べて質量減少率の推定精度に大差
は見られない。つまり,本研究で提示した画像処理を施せ
ば,供試体中の X 線透過長さの違いは,非腐食域の鉄筋
各供試体の実験条件
X 線撮影時の中央 300mm 区間の平均
腐食方法*2)
断面減少率 (X 線画像から推定) (%)*1)
Gmax
(mm)
W/C
(%)
s/a
(%)
20
68
50
コンクリート示方配合
単位量 (kg/m3)
W
186
C
274
S
876
G
901
混和剤
2.74
を抽出する際に問題とならない。次章で用いる RC はり部
食の成長過程の観察の可能性を探る点にある。そのため,
材(断面:80 mm×140 mm)のコンクリート表面から鉄
X 線撮影区間を RC はりの純曲げ区間に限定したり,そ
筋までの距離は,何れの撮影角度でも基本的に本章で示し
の区間には,撮影を妨げる要因となり得るせん断補強鉄
た角柱供試体と大差ないため,同様の精度で X 線画像か
筋を配筋しないなど,簡単化のための条件を幾つか設け
ら鉄筋腐食量の推定は可能と思われる。ただし,本研究で
ている。さらに,実験時間の短縮のため,電食試験によ
用いた円柱・角柱供試体,あるいは RC はりよりも大型の
り鉄筋を腐食させている。実環境や乾湿繰り返し環境に
部材を用いた場合には,コンクリート部材内で生じる X
暴露される RC はりを対象とした実験は,本研究の次の
線強度の減衰が大きく,鉄筋の撮影は困難になると予想さ
ステップとして実施される。
れる。かぶりが推定精度に及ぼす影響は,今後,さらに検
討する必要がある。
4.2 供試体諸元
本研究で用いた実験供試体は,土木学会コンクリート
委員会材料劣化が生じたコンクリート構造物の構造性能
4. X 線撮影による RC はり部材内の鉄筋腐食の
成長過程の可視化に関する基礎検討
研究小委員会 14)で使用された RC はりを参考に設計した。
図-11 に供試体概要および電食の様子を示す。また,表
-3 に各供試体の実験条件を示す。4 つの供試体は,全
4.1 概説
く同じ断面諸元・寸法を有しており,電食の方法のみが
前章では,あらかじめ腐食量と腐食分布が既知の鉄筋
異なる。軸方向鉄筋は,引張側に D13 を一本のみ配筋し,
を埋め込んだ RC 供試体の X 線撮影を行い,ディジタル
曲げせん断を受ける区間にはそこでのせん断破壊を防ぐ
画像処理を施すことで,鉄筋腐食が生じていない非腐食
ためスターラップを配筋している。スターラップは,そ
域と腐食域の境界の同定,およびそれに基づく質量減少
の腐食を避けるため,図-11 に示すように,軸方向鉄筋
率の推定が可能であることを示した。本章では,電食に
と接するスターラップ下辺にビニールテープを巻き,絶
て鉄筋を腐食させる RC はり供試体の X 線撮影を行い,
縁している。供試体に使用したコンクリートの圧縮強度
鉄筋腐食の成長過程や部材軸方向の腐食の不均一さの表
は,
電食開始日で 23.9 N/mm2,曲げ載荷試験実施日で 26.3
れ方,さらにはそれとコンクリート表面のひび割れ幅や
N/mm2 である。使用したコンクリートの示方配合は表-
曲げ耐力の関係などについての基礎資料を得る。
なお,本研究の目的の第一は,X 線撮影による鉄筋腐
4 に示した。軸方向鉄筋(D13)とスターラップ(D6)
の降伏強度は,
それぞれ 379 N/mm2 と 426 N/mm2 である。
RC はり断面
300
50
供試体 L-20-n
CL
単位:mm
引張鉄筋
X 線撮影
腐食ひび割れの撮影
580
0
コンクリート
1460 左端からの距離
880
しぼりの調整によりできた影
引張鉄筋
断面減少率が最大の位置
腐食ひび割れ
(a) Wxray= 2.9% (上段:スパン中央 300mm の引張鉄筋の腐食の様子,下段:はり底面に表れた腐食ひび割れ)
断面減少率が最大の位置
腐食ひび割れ
(b) Wxray= 9.7% (上段:スパン中央 300mm の引張鉄筋の腐食の様子,下段:はり底面に表れた腐食ひび割れ)
断面減少率が最大の位置
腐食ひび割れ
(c) Wxray= 19.7% (上段:スパン中央 300mm の引張鉄筋の腐食の様子,下段:はり底面に表れた腐食ひび割れ)
断面減少率が最大の位置
腐食ひび割れ
(d) Wxray= 27.3% (上段:スパン中央 300mm の引張鉄筋の腐食の様子,下段:はり底面に表れた腐食ひび割れ)
図-12
純曲げ区間内の引張鉄筋の腐食進展(X 線撮影)と腐食ひび割れ幅の成長
本研究では,鉄筋腐食の不均一さが極端に異なる供試
体をつくるため,RC はりは塩水内に直接浸水させず,
4.3 鉄筋腐食成長過程の観察
供試体 L-20-n を対象に X 線撮影した結果を図-12 に
供試体 L-10-s-1 と L-20-s-1 は,図-11 (c)に示すように,
示す。撮影区間は,電食試験後に行う 4 点曲げ載荷実験
スポンジを離散的に設置することで,腐食が極端に進行
で純曲げを受ける区間(280 mm)を含む中央 300 mm で
する領域と進行しない領域を設けている。一方,L-20-n
ある。300 mm を 50 mm 間隔毎に 6 分割して X 線撮影を
は,全ての区間にスポンジを設置した。供試体 L-0 は,
行い,各画像に対して 3 章に示したエッジ検出によるデ
電食させない供試体である。
供試体 L-20-n と L-20-s-1 は,
ィジタル画像処理を施している。図-12 (a)~(d) の各上
積算電流量が所定の値に達したら供試体を水槽から取り
段に示す X 線画像は,RC はりの右側面から X 線を照射
出して X 線撮影を行い,撮影後に再び水槽に戻している。
して撮影した。なお,ハレーションを抑えるため,鉄筋
供試体 L-10-s-1 は,載荷直前のみ X 線撮影している。
に焦点をあて,その上下にあるコンクリートができる限
15%
Wxray=9.7%
10%
Wxray=2.9%
5%
40%
35%
各位置の鉄筋断面減少率
各位置の鉄筋断面減少率
Wxray: X 線画像から推定される中央 300mm 区間の平均断面減少率
20%
Wxray=0.9%
30%
25%
20%
15%
10%
●
×
*
5%
0.7%
9.7%
25.6%
□
▲
○
2.9%
19.7%
27.3%
0%
0%
0.0
580
630
680
730
780
830
供試体左端からの距離 Rc (mm)
880
1.0
40%
2.0
ひび割れ幅(断面減少率の推定位置に対応した値)
(mm)
表-5
断面減少率と曲げ耐力(最大荷重)の関係
断面減少率*1) (%)
35%
1.5
図-15 断面減少率とひび割れ幅の関係(供試体 L-20-n)
(a) 平均断面減少率(0.9 %~9.7 %)
各位置の鉄筋断面減少率
0.5
供試体名
Wxray=27.3%
質量減少率*2) 最大荷重
(%)
(kN)
平均値
最大値
L-0
-
-
-
22.8
25%
L-20-n
27.3
37.1
29.9
17.7
20%
L-10-s-1
17.5
34.9
21.4
18.6
L-20-s-1
31.5
49.4
33.8
8.6
30%
Wxray=25.6%
15%
Wxray=19.7%
*1) 中央 300mm 区間の X 線撮影による鉄筋の断面減少率の推定値
*2) 曲げ載荷試験の終了後,供試体からはつり出した鉄筋より測定
10%
580
630
680
730
780
830
供試体左端からの距離 Rc (mm)
880
撮影区間長さ (300mm)を乗じて質量減少率にしたもの
と,はつり出した鉄筋の質量測定値との比較は後述する。
(b) 平均断面減少率(19.7 %~27.3 %)
図-13 腐食進展に伴う鉄筋腐食の不均一性の変化(L-20-n)
図-12 に示されるように,Wxray の増加とともに,電食
の影響を受け易い側(図-12 (a)~(d) の X 線画像の下
各位置の鉄筋断面減少率
スポンジ設置区間
50%
側)の鉄筋が劣化し,細くなっていく様子が観察され,
Wxray=31.5%
それに対応するように,RC はりの底面に表れる腐食ひ
び割れ幅が大きくなっている。供試体 L-20-n は,スポン
40%
Wxray=26.0%
鉄筋の腐食は不均一に進展した。X 線画像から,部材軸
Wxray=16.5%
30%
ジを RC はりの底面全体に設置し,電食を行っているが,
方向 5mm 毎に断面減少率を求めた結果を図-13 に示す。
図-13 の横軸は,図-12 に示す RC はり左端からの距
20%
離に対応している。縦軸の断面減少率は,30 度毎に回転
Wxray=11.2%
10%
580
630
680
730
780
830
供試体左端からの距離 Rc (mm)
して得られる X 線画像から,着目位置の非腐食域の鉄筋
880
面積を推定し,その健全状態からの減少率である。図-
図-14 腐食進展に伴う鉄筋腐食の不均一性の変化(L-20-s-1)
12 と図-13 より,平均断面減少率 Wxray が小さいと,RC
り写らないようにしぼりを調整した。そのため,X 線画
= 700 mm 程度)で最も腐食が進行しているのに対し,
像の上下には,黒い影が撮影されている。なお,しぼり
Wxray が大きくなると,その位置が Rc = 850 mm 程度に変
の調整は,撮影毎に行っており,影の大きさは写真毎に
化している。また,Wxray が 9.7%を超えると,断面減少
異なっている。また,図-12 (a)~(d) の各下段には,こ
率の最大値と最小値の差は Wxray の大きさに関わらず
の 300 mm 区間に対応した RC はりの底面(塩水に接す
10%~15%程度である。これから,鉄筋腐食が局所的に
る面)に表れた腐食ひび割れをディジタルカメラにて撮
進展する位置は,腐食量の大きさにより変化する可能性
影した写真も示している。図中にある平均断面減少率
がある一方で,ある大きさの腐食量が生じた後は,腐食
はりのスパン中央付近(RC はり左端からの距離 Rc が Rc
Wxray は,RC はりを 3 章の検討(図-3)と同じく 30 度
の不均一さは Wxray の大きさによらずモデル化できる
(バ
毎に回転させ,12 枚の画像から非腐食域の鉄筋体積を
ラツキの程度は,Wxray の大きさに依存する変動係数では
50mm 間隔で推定し,その撮影区間(300mm)の平均値
なく,標準偏差で与えることができる)可能性が示され
と健全鉄筋の差から求めた値である。Wxray に鉄筋密度と
ている。比較のため,スポンジを離散的に設置した
L-20-s-1 について図-13 と同じく断面減少率を求めた結
平均値と質量減少率の差(精度)は,図-9 や図-10 に
果を図-14 に示す。局所的に鉄筋腐食を発生させた結果
示した結果と同程度にあることが確認できる。表-5 に
として,Wxray が 30%程度でも,スポンジを設置した領域
は,曲げ載荷試験により得られた最大荷重も示している。
には相当に大きな断面減少率が発生しているが,最大の
最終的な破壊形態は,供試体 L-0 が純曲げ区間の圧縮縁
断面減少率が生じる位置は,Wxray の大きさにより変化す
コンクリートの圧壊,L-20-n と L-20-s-1 が純曲げ区間内
ること,スポンジ設置区間に限れば,最大と最小の断面
の引張鉄筋の破断,また,L-10-s-1 は,使用した変位計
減少率の差は 10%強であるなどの類似点が見られる。今
の限界まで特にコンクリートの圧壊や引張鉄筋の破断は
後,実環境や乾湿繰り返し環境に暴露した RC はりで同
生じなかった。なお,曲げ載荷に伴うひび割れ進展と純
様の X 線撮影を行い,その比較が必要であるが,X 線撮
曲げ区間内の鉄筋腐食の分布に特に相関は見られなかっ
影とディジタル画像処理により鉄筋腐食の成長過程を連
た。供試体 L-20-n と L-10-s-1 の比較に示されるように,
続的に観察することで,腐食の不均一さを表現する空間
供試体の最大荷重は,中央 300mm 区間の鉄筋の断面減
分布モデルの構築が可能と思われる。
少率の最大値に依存していることが確認される。RC 部
次に,図-13 に示す断面減少率を求めた位置でひび割
材の曲げ耐荷性状は,鉄筋の断面減少が最小となる位置
れ幅を測定し,ひび割れ幅-断面減少率関係として整理
とその大きさに依存することを,斉藤ら 16)は数値解析に
した結果を図-15 に示す。ひび割れ幅は,ディジタル画
よる検討に基づき報告している。今後,解析的検討も行
像から求めており,市販のひび割れ幅測定機で得られた
うことで,鉄筋腐食の空間分布と耐荷力の関係などにつ
結果とのキャリブレーションから,ひび割れ幅が 0.05mm
いての知見を蓄積したい。
以上であれば十分な精度を有することを確認している。
この結果より,ひび割れ幅約 0.5mm 程度までは,断面減
5. 結論
少率と,その鉄筋位置のひび割れ幅は,良好な相関関係
にある。しかし,それを超えると,ひび割れ幅と断面減
コンクリート中にある腐食鉄筋について,X 線技術に
少率は非常に大きなばらつきを持つ。前記したように,
よりその腐食状態の可視化を行うとともに,X 線画像か
本研究では,純曲げ区間にせん断補強鉄筋を配筋してい
ら面積の減少量を推定するための画像処理方法を検討し
ない。純曲げ区間外では,せん断補強鉄筋の効果で,純
た。さらに,本手法を電食により鉄筋を腐食させた RC
曲げ区間のひび割れ幅が約 0.5mm までは,これよりもか
はりに適用し,鉄筋腐食成長過程の観察に関する基礎検
なり小さなひび割れ幅に抑えられており,純曲げ区間の
討を行った。本研究で得られた主な結論を以下に示す。
ひび割れもこの影響を受け,ひび割れが一気に拡大・貫
1) X 線技術と,ディジタル画像処理方法を工夫するこ
通しない。しかし,純曲げ区間のひび割れ幅が約 0.5mm
とで,コンクリート中にある鉄筋の非腐食域を抽出
を超える頃,純曲げ区間外のひび割れ幅が一気に大きく
することが可能である。画像処理方法として,モー
なり,それ以降,
純曲げ区間内のひび割れ幅も急増した。
ド法とエッジ検出を用いたが,コンクリート中の鉄
X 線撮影を用いずに図-15 のようなひび割れ幅-断面
筋を撮影する目的に対しては,エッジ検出の方が適
減少率関係を得るには,鉄筋をコンクリートからはつり
している。エッジ検出による場合には,本研究で用
出し,断面減少率の分布を測定するしかない。例えば,
いた空間フィルタのオペレータが有効である。
Wxray = 27.3 %まで電食させた RC はりでこの検討を行っ
2) 本研究で設定した範囲の水セメント比や供試体形
た場合,図-15 に示されるように,ひび割れ幅-断面減
状,あるいはコンクリートとモルタルの違いなどは,
少率関係は単に大きなバラツキを持つものと評価されて
X 線画像に大きな影響を及ぼさない。X 線画像から
しまう。今後,せん断補強鉄筋の有る領域の X 線撮影を
推定される質量減少率は,これらの因子によらず,
行い,せん断補強鉄筋径や間隔がその位置,あるいはそ
概ね質量測定から得られる質量減少率に近い値と
の位置から離れたコンクリート表面に表れる腐食ひび割
なることを確認した。
れ幅に与える影響などの評価が必要であるが,この種の
検討を行うことで,既存の研究
5), 15)
で報告されている,
3) 今後,電食と実環境や乾湿繰り返し環境に暴露され
る RC はりで生じる鉄筋腐食の成長過程の違いや,
腐食ひび割れ幅と鉄筋断面減少率の関係が持つ大きなバ
せん断補強鉄筋が腐食ひび割れ幅の成長に及ぼす
ラツキの原因の解明や,腐食ひび割れの情報からコンク
影響など,本研究で検討できていない内容について
リート部材内の鉄筋腐食の状態を推定する精度の向上な
の継続的な研究が必要である。しかし,本研究で実
どが期待できる。
施した基礎検討から,RC はりを X 線撮影すること
表-5 には,中央 300mm 区間の X 線画像により得ら
で,部材内の鉄筋腐食成長過程の観察,鉄筋腐食の
れる断面減少率の平均値と最大値,また,曲げ載荷試験
不均一さの形成過程と不均一さの程度のモデル化
後に RC はりから鉄筋をはつり出し,中央 300mm 区間に
に必要な情報の入手,鉄筋腐食量と腐食ひび割れ幅
あった鉄筋の質量を測定した結果を示す。断面減少率の
の関係,また,鉄筋腐食の分布と曲げ耐力の関係な
どの考察が可能であることを確認した。
8)
武田三弘,大塚浩司:X 線造影撮影によるコンクリート強度の推定,
土木学会論文集 E, Vol. 62, No. 2, pp. 376-384, 2006.5
参
1)
考 文 献
Darmawan, M. S., and Stewart, M. G.:Spatial time-dependent reliability
analysis of corroding pretentioned prestressed concrete bridge girders,
Structural Safety, Vol. 29, pp. 16-31, Jan. 2007
2)
3)
4)
No.1,pp.1643-1648,2003.
10) 若木伸也,高橋良和,澤田純男:X 線撮影を用いたコンクリート円
柱供試体の内部構成情報の抽出,土木学会地震工学論文集,Vol. 30,
concrete beams with corroded reinforcement, Journal of Structural
Engineering, Vol. 135, No. 8, pp. 896-905, Aug. 2009
11) 谷口慶治:画像処理工学-基礎編-,共立出版,2005.
土木学会コンクリート委員会:材料劣化が生じたコンクリート構造
12) 貴家仁志:ディジタル画像処理-画像信号処理入門-,昭晃堂,2008.
物の構造性能,コンクリート技術シリーズ 71,2006.
13) 日本コンクリート工学協会:JCI-SC1 コンクリート中の鋼材の腐食
Akiyama, M., Frangopol, D. M., and Yoshida, I. : Time-dependent
評価方法,コンクリート構造物の腐食・防食に関する試験方法なら
びに基準(案),pp. 91-94,2004.
14) 土木学会コンクリート委員会:続・材料劣化が生じたコンクリート
構造物の構造性能,コンクリート技術シリーズ 85,2009.
Vol. 32, No.11, pp.3768-3779, Nov. 2010
Vidal T., Castel A., and François R.:Analyzing crack width to predict
15) Qi Lukuan,関博:鉄筋腐食によるコンクリートのひび割れ発生状
corrosion in reinforced concrete, Cement and Concrete Research, Vol. 34,
況及びひび割れ幅に関する研究,土木学会論文集,No.669/V-50,
pp.161-171,2001.2
pp. 165-174, Jan. 2004
7)
リート供試体の非破壊検査,コンクリート工学年次論文集,Vol.25,
pp. 399-405, 2009.10
using hazard associated with airborne chlorides, Engineering Structures,
6)
天明敏行,堤知明,村上祐治,尾原祐三:X 線 CT 法によるコンク
Val, D. V., and Chernin, L.:Serviceability reliability of reinforced
reliability analysis of existing RC structures in a marine environment
5)
9)
Otsuka, K., and Date H.:Fracture process zone in concrete tension
16) 斉藤成彦,高橋良輔,檜貝勇:鉄筋の腐食分布が RC はり部材の曲
specimen, Engineering Fracture Mechanics, Vol. 65, pp. 111-131, Jan.
げ耐荷性状に及ぼす影響,土木学会論文集 E, Vol. 64, No.4, pp.
2000
601-611, 2008.11
武田三弘,大塚浩司:X 線造影撮影によるコンクリート構造物内部
のひび割れ検出技術の開発に関する研究,土木学会論文集, No. 725/
(原稿受理年月日:2011 年 2 月 7 日)
V-58, pp. 143-156, 2003.2
Visualization of Corrosion Process in RC Member Using X-Ray
By Mitsuyoshi Akiyama, Keita Nakajima and Takashi Komoriya
Concrete Research and Technology, Vol. 22, No. 3, Sep. 2011
Synopsis: It is important to estimate the amount of corrosion products in existing RC structures subjected to chloride attack.
However, the corrosion process of rebar has not been investigated because of difficulties with observing it. Recently, X-ray
technology has been applied to the visualization of concrete cracking to investigate the behavior of fracture process zone in
concrete. In this study, digital picture processing method to estimate the amount of corrosion products in RC members is
provided for X-ray photography. Then, based on the observation of deteriorated RC member using X-ray photography, corrosion
process of rebar is visualized, and the effects of the amount of corrosion products on the corrosion cracking width and flexural
strength of RC beam are examined.
Keywords: X-Ray, Digital picture processing, Steel Corrosion, Chloride attack, Reinforced concrete structure
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