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04 良心学の展開
Overview 複合領域科目1-81「良心学」第4回 良心学の展開 • 「良心」概念の系譜 • 良心学の展開 ── グローバル時代の良心の探求 ── • • 統合知としての良心 • 実践知としての良心 良心学研究センターの取り組み 西洋における「良心」 • conscience ← conscientia(コンスキエンティア、ラテン語) = con(共に)+ scire(知る) 「良心」概念の系譜 • その元になるのは συνείδησις(シュネイデーシス、ギリシア語) = συν(共に)+ εἴδω(知る、考える) • (参考)ドイツ語 Gewissen= ge(共に)+ wissen(知る) 誰と「共に知る」のか? 日本における「良心」 • 自己の内面的な対話(内なる他者との対話) 【自律的良心】 • • conscienceの訳語として「良心」が最初に用いられたのは ブリッジマン・カルバートソン訳『新約聖書』(1863年) ストア派(キケロ、セネカら)──理性と自由に良心の根源を求める。この において。『孟子』から取られた。(『角川 新字源』) 考えは近世以降、再度強くなっていく(デカルト、カント、ニーチェら)。 • 孟子は性善説を唱えた。日本語の「良心」も、こうした儒 • 他者と「共に知る」 【他律的良心】 教思想の影響を受けている。 • 神と「共に知る」 【神律的良心】 • しかし、「良心」の思想史的広がりを視野に入れるために • 中世カトリック教会(教会の権威)、プロテスタント教会(良心の自由、信 は、「良」を一度取り除き、「共に知る」に起因する緊張 教の自由) 関係を取り戻すべきではないか。 1 「良心」の哲学的・倫理的探求 • 現代における「良心」 新島襄の影響を受けた哲学者 • (内に向かう良心、個人的良心) 大西 祝「良心起源論」、小坂国継『大西 祝選集Ⅰ (哲学 )』岩波書店、2013年(岩波文庫)。 • 自分自身を深く振り返り、「個」の強度を高める「良心」 • はじめ 良心の個人的次元と社会的次元 • 良心ある国家は存在するのか? • 良心をいかに実践するのか? 例:良心的兵役拒否 • 良心学の展開 • 共同感覚としての「良心」(外に向かう良心、社会的良心) • 国家主導の「道徳教育」と一線を画する「良心教育」 (良心の越境的・対話的次元) • 地域・世代を超えた「共に知る」ことの実践(良心の共同体) 「統合知」としての良心 • 「良心」に隣接する諸概念(道徳、倫理、意識、認知能力、共感、利他 性、対話など)を用いながら、幅広く人間の精神と行動を研究する。 • 「共に知る」ことを原義とする良心の現代的機能は、細分化した多様な 学問領域を「接着剤」のようにつなぎ合わせる「統合知」。 • 「実践知」としての良心 • 新たな価値を広げ、社会に影響を与えていくためには、コミュニケーショ ン能力やリーダーシップといった「実践知」が必要。☞ 「一国の良心」 大学および学問の歴史 • 「統合知」としての良心 ユニヴァーシティ(←universitas)の誕生(12世紀のヨーロッパ) • 上級学部:有用な学(神学・法学・医学) • 自由学芸学部(Faculty of Liberal Arts):リベラルアーツ(自由 7科:文法学・修辞学・論理学・代数学・幾何学・天文学・音楽) 【参考文献】吉見俊哉『大学とは何か』岩波書店、2011年 2 リベラルアーツの復活 • 19世紀のアメリカ • なぜ長らく失われていたリベラルアーツが復活したのか? • キリスト教世界における知の伝統と、イスラーム世界経由で再流 入した古代ギリシアの知が交差し、宗教性と世俗性が緊張を帯び た出会いをなす。 • リベラルアーツは「哲学」(文系・理系を含む)に統合されていく。 • 哲学 • 自然哲学(natural philosophy) → 自然科学 • 知識哲学(mental philosophy) → 論理学、心理学 • 道徳哲学(moral philosophy) → 倫理学、政治学、経済学 conscience は興隆する道徳哲学を背景として重視された。 グローバル時代における問い キリスト教 • 良心とは? 西洋における啓蒙的価値(例:人権)は「普遍的」か? • • 世俗社会(啓蒙的価値) 西洋的価値とイスラーム的価値の対立は調停可能か。 多様性、価値の多元化にどのように対応できるのか? • 世界は一方的に「世俗化」しているわけではない。 良心を世界に • 「実践知」としての良心 「地の塩」として生きる • 国策としての「グローバル人材」の育成に対して • 「良心」の実践者たち:富岡幸助、山室軍平、石井十次、 山室軍平 柏木義円ら • • 3 Think globally, act locally. → Think locally, act globally. 良心の実践者となるために必要なビジョンと力 柏木義円 アルベルト・シュヴァイツァー 良心に基づく行為はすべて許されるのか? • 安住する良心、自己正当化する良心の危うさ • • 「断じて鈍感にされてはならない。われわれが 〔倫理的〕 藤をいよいよ深く体験するならば、 やま われわれは真理のなかにある。疚しくない良心 他者への視線 などは、悪魔の発明である。」 共感し過ぎることの危うさ • (『文化と倫理』(著作集第七巻)322頁) 「良心の自由」(自律的良心)の重要性 道徳教育と良心教育 • 道徳の上限:日本の道徳教育は「国民道徳」を目指していた。 • • 良心学研究センターの取り組み 良心の自由と教育(愛国心):「思想及び良心の自由は、これを侵して はならない。」(憲法19条) 【参考文献】西原博史『良心の自由と子どもたち』岩波新書、2006年。 良心教育は、国民道徳を超えなければならない。 • 教育は国家主義的なものであってはならない(→ 国際主義、原田 助)。 良心学研究センター(2015年4月1日設立) 良心を世界に http://ryoshin.doshisha.ac.jp 「一国の良心とも謂うべき人々を養成せんと欲す。」(設立の旨意) 良心を覚醒させる知の連携と知の実践 「良心の全身に充満したる丈夫の起り来たらん事を」(良心碑) 4 良心学の課題 • • 「良心をめぐるグローバルな思想研究」プロジェクト • ①良心の思想史的系譜:西洋および東洋由来の良心の思想史的系譜を整理し、同 時に日本近代教育史の視点から、良心およびその隣接概念(道徳・倫理など)の 系譜を研究する • ②グローバル社会における良心:移民・難民問題に現象化しているような、西洋 社会と非西洋社会(とりわけイスラーム社会)の価値の対立をとりなすコモングッ ドを探求する。 「良心の科学的実証研究」プロジェクト:人間の良心(道徳心・利他性)を育成ま たは阻害する要因を心理学・脳科学の知見から探求し、人文社会科学との結節点を 構築する。 5