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Web2.0 の考え方を取り入れた社内情報共有ツール 導入の試み
Web2.0 の考え方を取り入れた社内情報共有ツール導入の試み Web2.0 の考え方を取り入れた社内情報共有ツール 導入の試み ~社員の知識・ノウハウの見える化を目指して~ 日本電子計算株式会社 会社概要 名称 :日本電子計算株式会社(略称 JIP) 所在地 :東京都中央区日本橋茅場町一丁目 8 番 1 号 設立 :昭和 37 年 12 月 3 日 取締役社長:内池正名 資本金 :24 億 6 千万円 従業員数 :1,206 名(平成 18 年 4 月 1 日現在) 事業内容 :IT技術のプロ集団として「対話と尊厳(Dialog & Dignity)」を基本精神に、証券・金融、官庁・自治体、科学技術、 一般企業、教育分野に対し、情報処理サービス、アウトソーシングサービス、ソフトウェア開発、インターネットサー ビス、システム構築サービスなどを提供。 執筆者 日本電子計算株式会社 サービス統括本部 技術本部 研究開発部 森 辰 信 内容梗概 日本電子計算株式会社の研究開発部では、上期の活動として、Web の使い方の新しいトレンドである Web2.0 をテーマにして調査研究活動を行った。調査研究の目的は、Web2.0 という漠然とした概念を明確にし、その 考え方を取り入れたツールを試験的に導入して、社員の暗黙知を活用するツールに使えるかを検証すること にあった。この論文は、その活動をまとめたものである。本論が将来の社内情報システムの構築や今後のビ ジネスの方向性を考える上での参考になれば幸いである。 -1- 1 はじめに 当社は、1989 年に SAS センタで業務を開始し、1994 年に社内情報系ネットワークの整備(Notes の導入) を行ってから 10 年以上の歳月が経過している。この 10 年間は、インターネットが急速に普及し、技術や トレンドが大きく変わった時代であり、当社の社内情報システムも見なおしを余儀なくされるようになっ てきている。 外に目を向けると、Web の世界で Web2.0 と呼ばれる大きな変化が起きようとしている。今まで、会社案 内やカタログの代替として、一方的な情報提供をするだけだった Web が、自らサービスを提供して問題解 決してくれる便利なツールになろうとしている。 この Web2.0 的な考え方を導入することで、当社の社内情報システムの課題が解決できないかということ が本研究の発端である。 2 Web2.0 とは何か 最初に、Web2.0 とは何かを明確にしておきたい。 2.1 Web2.0 の背景 1990 年代に Web が出てきてから、 現在に至るまでの 10 数年間は、技術や環境大きく変わった時代である。 CPU の処理能力は 2 年で 2 倍になるというムーアの法則が現実になり、ネットワークは、半年で 2 倍のスピー ドで上昇をした。その結果、2000 年に入ると、高機能 PC やブロードバンドの普及で Web が快適に使える環 境が整ってきた。 このように、Web が使いやすくなると、今までは IT とは無関係だった一般ユーザが Web を使い始めるよ うになった。ネットに参加したユーザの中の自ら情報を発信したいというニーズを取りこんでブログや SNS (Social Networking Service)などのユーザ参加型のサービスが出てきた。今では、そのような CGM (Consumer Generated Media)が政治を動かすまでに発言権を持つようになり、Web が新しいメディアとし て力を持つようになってきた。 また、インターネットが普及したことで PC が安価になり急速に普及した。形こそ違うが、仕組みは PC と遜色のない、PDA、携帯ゲーム機、iPod などの端末機も普及し、テレビやラジオという家電製品と同じよ うな、誰でもが使える日用品になった。ネット上のサービスも安価になり、ユーザがネットに参加するた めの障壁が低くなった。 一方、サービスを提供する立場に目を向けると、オープンソースを使った開発環境が普及し、開発が非 常にしやすくなった。現在、インターネットで提供される Web2.0 的と言われるサービスは、ほとんど LAMP (Linux、Apache、MySQL、PHP)と呼ばれるオープンソースのミドルウエアや開発言語で作られている。こ れらのツール自体も参加型のオープンなコミュニティで作られている。 もう一つの技術的な背景としては、XML の普及がある。XML は、タグを自由に定義することによって、コ ンテンツに意味付けをすることが可能になった。これにより、コンテンツの意味を Web アプリケーション が解釈できるようになり、人を介さなくても Web サーバ間の連携が可能になった。このことにより、今ま での見せるだけの Web から、Web サーバ同士が情報を理解しあいながらサービスを提供できる能動的な Web へと変わってきた。 2.2 Web2.0 の特徴 Web2.0 については、オライリーがまとめているが、次のように要約できる。始めに考えられるのが、Web 自体がサービスのプラットフォームになったということである。1980 年代に PC が出てきて、MS-DOS とい う OS がプラットフォームになり、Windows がそれを受け継いた。Web2.0 では、そのプラットフォームが Web になったと考えることができる。Amazon や Google は Web サービス API を提供し、ハードや OS に依存しな いアプリケーション開発が可能になっている。 Web がプラットフォームになると、情報が Web に蓄積され、電気、ガス、水道のような公共サービスと同 -2- Web2.0 の考え方を取り入れた社内情報共有ツール導入の試み じ使用形態が可能になる。ネットワークの充実で情報は自分の PC に置くのでなくネット上のサーバに置い た方が便利で安全と言うことになる。Web2.0 の世界では、ユーザは、個々の PC にインストールされたアプ リケーションを使うのでなく、Web からネットワーク経由でサービスを受けるという形態が主流になる。 SaaS(Software as a Service)と言われるように、ソフトウエアがサービスとして提供されるようになる。 もう一つの Web2.0 の特徴は、参加型ということである。今までは企業が用意したコンソフトウェアだけ であったが、簡単に書きこみができるコメントやトラックバックなどの仕組みを組み込んだブログや SNS が出てくると、コンテンツは、圧倒的多数のユーザが作るということになる。Web を運用する企業は良質の 筆記具を提供し、何を書くかはユーザが決めるというユーザが中心になった情報提供が主流になりつつあ る。また、Wikipedia などのように集合知をうまく使ったプロジェクトも現れている。 このようなユーザ参加型のサービスを実現するためには、誰でもカスタマイズ可能な軽量なプログラミ ングモデルである必要がある。データやシステムの連携が容易にできて、サービスの組み合わせにより新 たなサービスが生み出される。Web2.0 ではこの手法をマッシュアップと呼んでいる。そのためには、従来 の PC 上のアプリケーションと同じような使いやすいユーザーインターフェースが必要である。Web2.0 では GoogleMaps に使われている Ajax などがそれを実現している。 また、Web2.0 のサービスは特定の PC やデバイスに依存することなく、Web サービスを受け入れるインタ フェースさえ持っていればどんなものでも接続できることも大きな特徴である。Web2.0 が来るべきユビキ タス社会への序章であると言っても過言ではない。 Web への情報の蓄積が加速されるとサービスの差別化はコンテンツということになる。Amazon の膨大な 蔵書 DB、iTunes Music Store に登録された楽曲データ、Google の検索データ、地図データなどである。Web2.0 では、サービスの機能よりも、そこのコンテンツの量や質が重要になる。 Web2.0 の特徴にロングテールという新しい法則がある。元々は、ネットの世界では売れ筋商品でなくて も売上に貢献できると言うマーケティングの話であるが、社内に目を向けると、会社に影響力のある職位 者の意見だけでなく、 今までは耳を傾けられなかった一般社員の意見でも、Web2.0 的な技術を使うことで、 会社に貢献できるようになるという解釈をすることが出来る。 3 現状の社内情報システムと問題点 現状の社内情報システムは、社員の目から見ると以下の問題点が考えられる。 3.1 現状の社内情報システム 以下に、現状の社内情報システムの構成を簡略化して図示する。 インターネット 社内Web Lotus Notes 社内LAN 共有ファイル 図1 現状の社内情報システム -3- Reca 3.2 社内システムの問題点 現在のシステムは、ピラミッド構造の組織形態を維持するための機能が中心になっており、情報の上位 下達はスムーズに出来るが、問題解決・意思決定の有効手段となる情報共有、社員間の組織横断的な知識 の共有の仕組みができていない。以下に、現在の社内システムの問題点を列記する。 ①情報の所在がわかりにくい 現状の社内情報は、ノーツを中核にして、各部で立ち上げている社内 Web、Windows のファイル共有を 利用したファイルサーバ、バージョン管理や履歴管理サーバなどが分散されて格納されているが、ど のフォルダにどんな情報が格納されているかわからない。 ②誰が何をやっているかわからない 情報が公開されておらず、他部署でどんな提案を行っているか、どんな開発ツールを使っているかが 良くわからない。 ③社員間のコミュニケーションの場がない 日報、週報などの報告・連絡・相談という上位下達のための仕組みはあるが、社員相互で情報交換で きるようなコミュニケーションの場がない。 ④デザインが陳腐化している Web 作成者がデザインまで考えているので、古いままのデザインが使われており、見栄えがよくない。 ⑤Web サイトのコンテンツの更新が滞っている 現在の社内 Web サイトは、特定の Web 管理者がコンテンツの更新を行っているため、コンテンツの更 新が遅れて、Web 管理者の負担が大きい。 ⑥アクセス数が伸びない 今までの情報提供だけのサイトでは、積極的にアクセスしてくる人が少なく、有効に使われていると は言いがたいサイトが多い。 4 研究開発部の上期のテーマとしての活動 このような社内情報システムの問題点を解決するために、研究開発部では、以下の Web2.0 的なアプリケー ションの社内システムへの試験的な導入を行った。 ・XOOPS を使用したポータルサイト及び社内ブログ ・コラボレーションツールである Wiki ・JIP バーチャル本棚 ・社内スケジュール表 本章ではこれらのアプリケーションについての解説を行い、その効果について論じていく。 4.1 XOOPS を利用したポータルサイトの構築 4.1.1 XOOPS 概要 XOOPS とは、PHP 言語を用いた CMS(Contents Management System)である。当社でもオフィシャルホー ムページに使われている。機能概要を一言で言ってしまえば、Web サイト構築のプログラム、およびツール が含まれたパッケージソフトウェアであるが、以下の特徴があげられる。 ・インストール作業のみでリッチなポータルサイトの構築が可能 ・日々の更新作業は FTP を使わず Web ベースで行うことができる ・「モジュール」の概念により機能追加、除去が簡易に行える ・「テーマ」の概念によりサイト全体の体裁の変更が簡易に行える ・html レベルでの詳細なカスタマイズが可能 上記に挙げられた XOOPS 最大の特徴である「モジュール」 、「テーマ」については後ほど解説する。 -4- Web2.0 の考え方を取り入れた社内情報共有ツール導入の試み 4.1.2 XOOPS を使用したポータルサイト構築の実際 研究開発部では先に述べた特徴を利用し、情報発信の場、及び XOOPS そのものの調査も兼ねて「研究開 発部ポータルサイト(図2)」構築の作業を行った。 図2 研究開発部ポータルサイト (1) インストール XOOPS 公式サイト*参考文献(1)では「約 5 分でインストールでき、直ちに当サイトのようなユーザ 登録型コミュニティサイトを立ち上げることが可能です。」と謳っているが、インストール、最低限の初 期設定をした場合、30 分ほどの時間を要した。ただ逆を言えば「直ちに当サイトのようなユーザ登録型 コミュニティサイトを立ち上げることが可能です。」という文言は正しく、ユーザはインストールを完了 した時点で、ユーザ管理、掲示板、ニュースなどの基本的なポータルの機能を抑えたポータルサイトを 構築することができたわけである。 なお、インストールに必要な動作環境は表1のようになっている。 表1 XOOPS 動作環境 WWW サーバ Apache を推奨 データベース MySQL4.0.xx (将来的には PostgreSQL 等にも対応予定) PHP PHP4.1.0 以降 (2) カスタマイズ 研究開発部ポータルとして運用するため、「テーマ」 、および「モジュール」のカスタマイズを行った。 (a) テーマ 「テーマ」はサイト全体のデザイン部分を定義する html 及び CSS のファイル群である。「テーマ」 は Web 上で無償公開されている場合が多く、それらを利用すれば、より一層グラフィカルなページが 簡易に作成できる。 -5- 今回は「OCEAN-NET OFFICIAL SITE」*参考文献(2)で公開されている「day_break」テーマを採用 した。このテーマをベースとしてロゴ、及びレイアウト変更を行い、独自性を演出した。 (b) モジュール XOOPS は「モジュール」と呼ばれる単位で機能の追加、除去が容易に行える。サイト内コンテンツに ついてはほぼモジュールの追加によって構築されたものである。サイト内に構築したコンテンツにつ いては次項で論ずる。 (3) ポータル内に構築したコンテンツ 主だったポータルサイト内に配置したコンテンツ(モジュール)について解説する。 (a) お知らせ(ニュースモジュール) 各種告知お知らせを掲示する機能。管理者でログインすれば Web 上で掲示が可能なので掲示作業が 非常に簡便である。また、別モジュールの「RSSFit」を利用することにより、お知らせ掲示の RSS 配 信を行っている。 (b) コラム&レポート(XF-Sections モジュール) カテゴリを作成し、連載記事を掲載している。当然この機能も Web ベースでの更新が可能である。 (c) フォーラム(XH FORUM モジュール) 掲示板の機能を持つコンテンツである。アクセス権に関する詳細な設定も可能で、現在は登録した ユーザのみが書き込めるようになっている。 (d) Wiki 情報の受信と表示(xhld モジュール) 後述する Wiki サイトが配信している RSS 情報を読み取り、トップページにリアルタイムに Wiki の 更新情報を表示している。これによりポータル⇔複数 Wiki 間の相互連携が可能になり、XOOPS が Wiki ポータルとしても機能するということを実現している。 この仕組みを用いれば、理想的な情報共有サイト構築として図3のような、自部署だけでなく他部 署の情報もリアルタイムにキャッチできるサイトの連携が可能となる。 本 部 ご との XOOPS ポータルサイト RSS の送信 RSS ヘッドライン から閲覧 グループ、プロジェク グループ、プロジェク グループ、プロジェク トの Wiki サイト トの Wiki サイト トの Wiki サイト 図3 XOOPS,Wiki を連携させた社内情報共有の体系図 (e) ブログ(PopnupBlog モジュール) 登録ユーザであれば、Web 上で申請を行うだけでブログを書き始めることができる。トラックバック、 コメント等のブログとしての標準的機能もあり、画像やファイルのアップロードも可能である。 4.1.3 ポータルサイトの効果 (1) 管理・更新負担の分散化と軽減化の実証 従来、社内外にかかわらず Web1.0 的なページ、言い換えれば「」と呼ばれるものは、殆ど 1 名の人間 が FTP 等を用いた手順が煩わしい更新作業を行い、訪問者には「読む」行為のみをさせていた。 しかし、XOOPS でサイト構築をすることにより管理者ユーザを複数作れば、管理作業は複数人で行え、 更新作業に関しても先述した通り、Web ベースで行うことができるし、掲示板やブログなどの動的なコン テンツ、すなわちユーザ自身が情報発信できるコンテンツを配置することにより、日々の更新作業は従 -6- Web2.0 の考え方を取り入れた社内情報共有ツール導入の試み 来と比べ驚くほど軽減された。 (2) ブログによるナレッジの蓄積、共有効果 ブログ効果に関しては、コンテンツの中で最も強調したい部分である。まず 1 つ目の効果としては、 ブログ執筆により社員自らリアルタイムに業務、顧客情報が発信でき、その記事が書き溜まるにつれて 個々の社員のナレッジを自然に蓄積させていくことができる点である。また、ブログ内容は検索するこ とができるので、そのままそれがナレッジデータベースとしての役割を果たし、業務ノウハウや顧客情 報を全社で共有することができる。 また、記事にコメントを付けたり、トラックバック機能を利用したりすることにより、組織、上下関 係の垣根がまったくないコミュニケーションを図ることが可能である。筆者が執筆しているブログを例 にすると、技術情報に関する記事に対してコメントが付く場合がいくつかあり、読者の反応や、技術に 関する意見交換や交流を図れる機会があった。 2 つ目は「人を集められる」という効果である。それを裏付けるデータも数字として表れた。表2を見 ればわかる通り、ある一定期間のコンテンツ別アクセス数を見るとブログが圧倒的に閲覧されているこ とがわかる。このことからブログそのものが訪問者にとって興味を引く、人を集めるコンテンツだとい うことが実証されたと言える。 表2 ポータルサイト各コンテンツ別アクセス数 2006 年 8 月 1 日~8 月 24 日(24 日間) コンテンツ名 4.2 数 社内ブログ 457 フォーラム 69 お知らせ 49 漢字クイズ 32 コラム&レポート 29 ダウンロード 19 ログカウンタ 14 ポータル内検索 10 バイオリズム 7 IT情報総合リンク 7 グラフ Wiki サイトの構築 4.2.1 Wiki とは (1)Wiki 概要 Wiki は、複数の人で文書を編集できる Web ページを作成することが可能なツールである。特徴は以下 の 4 つである。*参考文献(3)より抜粋 ・ネットワーク(LAN)につながっていれば誰でもページを編集、作成できる ・ページの編集・更新がブラウザだけでできる ・HTML 言語より簡単な Wiki 特有のマークアップ言語で書くことができる ・文書内にリンクを張ることが簡単なので情報データベースを作りやすい 図で動作イメージを表すと図4のようになる。 -7- ブラウザ サーバ Wiki 編集 Web サーバ Wiki 編集 ユーザ Wiki(PHP) Wiki 編集 図4 4.2.2 Wiki 動作イメージ 研究開発部内での活用 上記特徴により、Wiki はコラボレーションツールとしての有効性があるとされている。その有効性の調 査も兼ねて「研究開発部 R&D Wiki」として実際の運用を開始した。 (1) Wiki ツールの選定 導入実績、プラグインの豊富さから、ツールは「PukiWiki 1.4.6」を採用することにした。インストー ル作業そのものは、アップロードし設定ファイルの書き換えのみで済むので、およそ 30 分程度で行うこ とができた。 (2) 活用事例 「自由にページを編集できるサイト」という性質があるので、初めはとにかくテキストベースに落とせ るコンテンツを作っていき、徐々にそれらのページがカテゴライズされていく形態がとられた。具体的な 活用事例を以下に述べる。 (a) 技術情報発信・技術メモ 一連のサーバ及びサイト構築の手順や Tips を中心としたドキュメントを書き起こして、その情報を 発信、及び自部署内でのドキュメント管理としての運用を行っている。Wiki の特性上、作業完了時、 思いついたときに編集⇒書き込む⇒更新ボタンの 3 ステップでドキュメントが残せるのは大きな強み であり、一方で従来のテキストファイルなどに書きっぱなしの場合だと知識の共有が皆無で、検索も できない。Wiki を使えば Web ベースでメモの管理、検索、開示が行えるので書き込む側のドキュメン ト管理面でのメリットも非常に大きい。 (b) セミナー参加報告、打合せ議事録 社外セミナー参加や他社との打合せは当部署においては頻繁に機会があるため、こうしたイベント が発生した際は随時ページを作り、情報発信を行った。ここで強調したいのは、複数名で参加した際 などはより一層 Wiki の特性をフル活用できるということである。例えば、誰かがページを作成⇒その 内容を見た他者が修正や加筆を行うといった動作が可能になり、複数の人間で情報を補完するといっ た行為が Web 上で行うことができるのである。 (c) 共同ワーク 単発で発生する(複数人で行われる)計画の個々に対してページを作成する使い方も行った。例と してあげると、この論文自体も論文執筆のページを作り、自分自身の論文に関するメモや、同じ部署 の意見やアイデアの出し合いも行われた。 4.2.3 Wiki の社内情報ツールとしての結果と評価 結果として、社内アクセス数は 2006 年 9 月 5 日時点で 1,201 であった。全社員が閲覧しているとは言え -8- Web2.0 の考え方を取り入れた社内情報共有ツール導入の試み ない数字である。所属本部内で活用している色が強かったことが原因のようである。 実際、閲覧、編集全て含めた所属本部内からのアクセス割合は、ログから計算すると、全体の約 55%を占 めていた。 ただ、Wiki 導入の前提として、本部内、もしくは部単位での運用が前提(業務に特化した情報共有の場 合)であるので、結果として的外れなものではなかった。また、残り 45%の所属本部外の閲覧者に対しては 上記活用事例に挙げた活動について知ってもらう機会を作り出すことができたことにもなる。 以上の活用事例やアクセス結果から言っても Wiki は情報共有、開示ツールとして非常に有効であると考 える。 4.3 JIP バーチャル本棚 Web 上で書籍の登録を行い、 仮想的な本棚を実現している CGI である。書籍登録に必要な情報(タイトル、 価格、著者名等)の取得は Amazon が提供する web サービスを使用しているため、ユーザは書籍の裏表紙に 記されている ISBN コードを打ち込むだけで書籍を登録することができる。また、RSS 機能も実装しており、 更新情報配信の仕組みができて、新しいリソース(書籍)が登録されたときには随時そのタイトル情報が 発信され、RSS 機能は情報流通のスピード化に貢献している。 このアプリケーションによって、社内の書籍という物質的リソースの仮想的な管理が可能となり、それ に付随して社内の書籍の貸し借りがしやすくなったり、他人(他部署)の本棚を書籍購入の参考にしたり といった効果も現れたと考える。 4.4 スケジュール表 このアプリケーションは主に社内ホームページ内のコンテンツとして稼動しており、社員は社内外で主 に行われる行事の閲覧、登録をすることが可能となっている。これにより社内の行事に関する情報が全社 員で共有、発信できるようになった。 5 課題と展望 ここからは、社内に Web2.0 文化を流入させるという活動を通じて見えてきた課題、そしてこの Web2.0 の今後の社内の展望、ビジネスについて論じる。 5.1 課題 第一の課題点として、自らコンテンツを作ったり編集したりする文化が普及しきれていないことが挙げ られる。ポータルサイトヒット数 2,987 に対し、ユーザ登録者わずか 22 名(2006 年 8 月 15 日現在)とい う数字は、あまり自ら進んでフォーラムに参加したり、ブログ執筆をしたりしたいと考える人間が社内に 少ないと分析できる。 第二の課題点は、社内ブログについてであり、実際に執筆者数が乏しい点が課題として挙げられる。こ れは社内ブログに対する抵抗感が一因となっているようである。実際に社内ブログについて一般社員から 意見を聞く機会があったが、その中で出た意見として、「上司に見られる」、「書いても目先のメリットが見 えにくい」 、 「特典等がない」等が挙がった。 5.2 今後の展望 5.2.1 Web2.0 を考慮した社内情報システム導入の提案 (1) 社内情報システムへの適用 先に述べたように、現在の社内情報システムには、ノーツと社内 Web という同じような 2 種類の仕組 みが動いている。社内 Web に Web2.0 的な考え方を取り入れた XOOPS や Wiki を取り入れることで、ノー ツはオフィシャルな社内システムとして、社内 Web は社員間のコミュニケーションのツールとして活用 -9- することができる。(図5) 口コミ トレンド Wik 気づき 検索エンジン XOOP ブログ 更新頻度 高 Web2.0的な社内Web環境 Lotus アイデア 連絡・報告のツール 暗黙知→形式知 ニュース 機密度 社員のコミュニケーションのツール 低 高 Reca 共有ファイル ソース・ドキュメント管理のツール データバックアップ 図5 低 社内情報のマッピング 以上構築してきた XOOPS や Wiki 等の Web2.0 的なアプリケーションの導入が出来れば、以下のようなメ リットを享受できる。 (a) 顧客ニーズのタイムリーな把握が出来る 業務報告や懸案事項をブログ形式で各社員が書き溜めていくことにより、顧客ニーズや開発現場で タイムリーに起こっている事柄を全社員が共有できるようになる。 (b) ノウハウ、口コミの文書化が出来る ブログはノウハウやアイデアを気軽に書き溜めることが可能であり、それに対するコメントも容易 に付けることが出来る。これにより、報告書では表現できない微妙なニュアンスの情報の文書化が出 来る。 (c) ドキュメントの見える化が出来る 形式化された作業手順、技術ノウハウ、ドキュメントは Wiki に Web ベースで手軽に書き込むことが できる。こうして各種ドキュメントが Web 化されれば閲覧、検索が容易に行え、生産性も向上する。 書き込んだ時点で公開が出来るので見える化が促進される。それにより、ドキュメントの重複作成が 防げる。 (2) グループ企業間の情報共有 グループ会社同士のコミュニティサイトを XOOPS で構築すれば、安価でかつ機能的に十分なコミュニ ケーションの場を構築できる。関連会社間で技術、マーケット情報を交換、共有できれば、大きなシナ ジー効果を生み出すことができる。グループ企業同士のコミュニケーション手段の構築は今年度の当社 を含めた共同持ち株会社の発足により、急務な事案であると考える。 (3) オフショア開発の情報共有 海外の開発者との情報共有を行うために、より一層 Web の特性を活かすことが出来る。XOOPS、WIki を利用して行えば、開発ノウハウ、スケジュールをメンバーで公開・共有が Web ベースで可能となる。 自社サーバに構築すれば、導入、撤収も非常に容易である。サーバにデータが格納されているので情報 漏えい対策も立てやすい。 (4) 社内システムのアプリケーションへの適用 -10- Web2.0 の考え方を取り入れた社内情報共有ツール導入の試み 現在、社内アプリケーションは、作る部署と使う部署がはっきり分かれている。Web2.0 のユーザ参加 型という考えを取り入れると、作る部署の負担を軽くして、使いやすいアプリケーションを構築できる。 (5) 設備管理システムへの適用 PC や周辺機器などの設備管理のアプリケーションはかなり面倒である。登録された情報が正しいかど うかを調べるためには、席を回って調べる必要がある。このアプリに、GoogleMaps のような仕組みを導 入することで、社内の座席表をクリックして各自が PC の型番やシリアル番号を更新していくということ が可能になる。 (6) 検索エンジンの導入 社内の情報をキーワード指定で調べられる検索エンジンの導入により、飛躍的に仕事の効率が上がる。 また、システムの重複開発や、提案書の重複作成が防げて、工数削減にも寄与する。個人情報の存在を 調べることもでき、セキュリティ対策としても活用できる。 5.2.2 Web2.0 を利用した新しいビジネスの創造 Web2.0 の考え方を使って社内情報共有のパッケージとして提供するベンダーが登場し始めている。特に 顕著なのが社内ブログベンダーの出現である。社内ブログのパッケージを販売し、順調に売り上げを伸ば している企業や、ASP サービスで社内ブログを提供する企業も現れ始めている。 円滑かつ十分な社内情報共有ができていない企業は当社だけではなく、当社のお客様でも同じような問 題が起きていると考えることができる。近年、Web2.0 という Web の使い方が出てきたからこそ、現在のレ ガシーな情報共有の仕組みの問題が顕在化してきたと考えられる。今後当社内でも Web2.0 的な情報共有文 化を定着させ、その方法やノウハウ、ツールをパッケージとして販売することが可能である。 (図6)また、 データセンターを使用した ASP サービスという形での販売も可能である。 Web2.0的新規ビジネス 既存内部情報システム + グループウエア 社内ブロ 社内 集合知 ポータル 集合知 電子メール 集合知 ユーザ参加型アプリ 図6 5.2.3 社内情報共有ビジネス 今後の活動 今後研究開発部では以下の 2 つをテーマに活動したいと考える。 (1) 他部署への展開 現在この情報共有スタイルは当部署内のみでの運用となっているが、今後はこのスタイルを所属本部 内で標準化し、全社的に展開することを考えている。そのためには、会社として、この様な Web2.0 的な ツールの重要性を認知し、業務ワークフローの一部に組み込むのが望ましい。 (2) Web2.0 のノウハウの共有化 当部署で蓄積されたノウハウや外部製品の知識等を随時提供して共有化を行いたいと考えている。そ -11- のために、関係会社を含めた研究会を組織し、Web2.0 の技術を自ら使った環境を構築し、自由な意見交 換を通してノウハウの蓄積を行っていきたい。 6 おわりに 研究開発部では社内情報システムに、Web2.0 の考え方を導入して、社内の無形資産であるノウハウや経 験、つまり暗黙知の見える化を実現して、この無形資産の蓄積を行う目的で様々な活動を行ってきた。 社内情報システムで Web2.0 的な効果を出すためには、多くの社員の集合知を集めることが必要である。 そのためには、それぞれ独自のノウハウを持っている社員の積極的な参加が必須である。研究開発部で構 築した各種サイトを積極的に利用し、新しい形の情報発信、情報の提供を行ってもらいたい。 この社内情報共有の最適化というテーマは、継続的に取り組むべき課題であり、今後も構築した共有モ デルを運用し維持発展させる必要がある。将来的には、このような情報共有のスタイルが業務フローに取 り込まれ、社員が持つ無形資産が経営の判断に活用できるようになることを願っている。 最後に、研究開発部のポータルサイトへ沢山の書き込みやアクセスをしていただいた方に紙面を持って 御礼申し上げる。 参考文献 (1) XOOPS 公式サイト http://jp.xoops.org/ (2) OCEAN-NET OFFICIAL SITE http://www.oceannet.jp/ (3) Wiki でつくるかんたんホームページ 九天社 2006 年 1 月 11 日 (4) Customizing XOOPS カスタマイジング・ズープス (5) ウェブ進化論 ちくま新書 2006 年 2 月 10 日 (6) WEB2.0 への道 インプレス 2006 年 4 月 17 日 (7) WEB2.0BOOK インプレス 2006 年 3 月 11 日 (8) 実践 Web2.0 論 アスキー 2006 年 7 月 12 日 -12- 毎日コミュニケーションズ 2005 年 5 月7日