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医用高分子材料 - 九州大学 先導物質化学研究所 高原研究室

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医用高分子材料 - 九州大学 先導物質化学研究所 高原研究室
医用高分子材料
先導物質化学研究所 高原 淳
http://takahara.ifoc.kyushu-u.ac.jp
1.
2.
3.
4.
5.
はじめに
高分子材料の特徴
医用高分子材料の目的と必要な性質
医用高分子材料の応用例
生分解性高分子
参考書
•
•
•
高原 淳、岩波現代工学の基礎 材料系VI 「高分子材料」 (2000)
前田瑞夫、岩波現代工学の基礎 材料系VIII 「バイオ材料の基礎」 (2000)
石原、畑中、山岡、大矢、バイオマテリアルサイエンス、東京化学同人(2003).
1.はじめに
低分子から高分子へ
モノマー
ポリエチレン
三大材料の中での高分子材料の位置づけ
セラミクス材料
陶器、ファインセラミクス
BC8000年 土器メソポタミア
20世紀後半から
ファインセラミクス
高分子材料/有機材料
皮革・天然繊維・紙・樹脂
1926年 シュタウジンガー
高分子説(1953ノーベル化学賞)
高分子科学・工学 20世紀の中盤から急速に
発展 →合成繊維・合成樹脂・合成ゴム
金属材料
BC1567年青銅器エジプト
産業革命の主体(鉄鋼)
さらなる ソフトマターとしての発展(ゲル、分
子組織体、液晶、膜)
生体にも似た新しい材料
−高分子を中心とする次世代の材料
光ファイバー
2. 高分子材料の特徴
セラミクス材料
原子間は共有結合・イオン結合
結晶性
非晶性(ガラス)
高分子材料
炭素・水素原子が主成分で、主として炭素
原子が骨格となり共有結合で長くつながった
分子鎖からなる
z分子鎖同士は絡み合う
z100%結晶化することは困難
NaO-CaO-
(単結晶でも非晶部分が存在)
SiO2ガラス
z分子量分布の存在
z粘弾性を示す(力学物性が温度、時間、周
波数に依存)
結晶部分
金属材料
原子の積み重なりにより比較的単純な
結晶構造を形成
金属イオンの周りを電子が飛び回る
非晶部分
1) 高分子をつくる
モノ マーA
高分子合成法の分類
重縮合
逐次重合
モノ マーB
逐次重合
重付加
ナイ ロ ン
ポリ エ ス テ ル
縮合( condensat ion)
A
ポリ ウレ タ ン
B
A B
C
付加( addit ion)
A
付加縮合
重合機構
ラ ジ カ ル重合
連鎖重合
( 付加重合)
B
A B
ポリ ス チ レ ン
ポリ メ タ ク リ ル酸メ チル
カ チ オン 重合
リ ビ ン グ重合が可能
ア ニ オン 重合
配位重合
ポリ エ チ レ ン
ポリ プ ロ ピ レ ン
ポリ マー成長末端
連鎖重合
*
*
モノ マー
2) いろいろな形の高分子
線状高分子
ブロック共重合体
星形高分子
櫛形高分子
末端基を制御した高分子
グラフト共重合体
共重合により1本の分子の中
に異なった性質のモノマーを導
入できる
3) 分子量分布
A
A
A
A
A
B
B
B
B
B
C
C
C
C
C
A
A
A
A
A
B
B
B
B
B
C
C
C
C
C
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
生体高分子
z分子量が揃っている
zモノマーの繰り返しも正確
一般の合成高分子
z分子量に分布がある
z平均の分子量で記述
リビング重合による合成高分子
z分子量分布が狭い
4) 高分子溶液の示す弾性
液体でも分子が長いので弾性を示す
ワイゼンベルグ効果
高分子液体に回転によりずり変形を与える
と、ずり応力以外に、法線応力が発生し、回
転軸に高分子の溶液が巻き付いてくる。(法
線応力効果)
→高分子液体の弾性に起因
バラス効果
高分子濃厚溶液や融液を細い孔から押
し出すと、分子鎖が完全に緩和せず、弾
性変形としてせん断エネルギーが一部蓄
えられる。
孔から出たとたんに緩和
ワイゼンベルグ効果
紡糸、フィルム形成で重要(孔の寸法と成
型体の寸法)
バラス効果
5) 高分子に特徴的な性質ー粘弾性
弾性率が温度、時間、周波数に依存
どの分子の中のどの大きさの部分が運動しているか
結晶性高分子
(ポリエチレン、PET、ナイロ
ン)
貯蔵弾性率
G=数GPa
非晶性高分子
(PS,PMMA)
力学的損
失正接、δ
は応力と
歪みの位
相差
G=数MPa
6) 高分子は固体の中でどのような構造をとっているか?
白く濁る
ポリエチレン
ポリプロピレン
ナイロン
ポリエステル
透明な非晶性高分子
PMMA,PS
(a) 非晶状態ーランダムコイル
(b)折り畳み結晶→球晶
S
S
ポリエステル繊維
ナイロン繊維
S
S
S
(c ) 繊維構造
配向した結晶組織
S
(d) ゴム
加硫ゴム
シリコンゴム
ウレタンゴム
非晶性(ガラス状)高分子
CH
C H2
スチレンモノマー
(室温で液体)
CH
CH2
CH
CH2
CH
CH2
ポリスチレン
(室温で固体)
高分子鎖は固体中で絡み合っている。
結晶化しないので均一である。
非晶性(ガラス状)高分子
光の波長のオーダーで不均一性が無
いので透明性が高い
食品用トレーなどへ利用
ポリカーボネート(PC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、
ポリ塩化ビニル(PVC)もガラス状高分子
結晶性高分子固体の階層構造
ポリエチレン
の結晶格子
ラメラ結晶
単結晶に対応する
ラメラ結晶が高分
子の基本構造
ラメラのねじれ
球晶
フィルム
•低密度ポリエチレン(LDPE)(結晶化度 低)
•高密度ポリエチレン(HDPE)(結晶化度 高)
•ポリプロピレン(PP)
•ナイロン
•ポリエチレンテレフタレート(PET)
分子の骨組みを硬くすると:アラミド繊維
ポリ(p-フェニレンテレフタルアミド)Kevlar
C
C
N
O
O H
N
H n
融点560℃
高い強度と弾性率
剛直な分子構造(欠点は溶媒に溶けにくい)硫酸溶液から膜や繊維を作る
○応用 防弾チョッキ、タイヤベルトの強化材、
航空機材料用複合材料の強化材
ゴム材料
1.
2.
3.
4.
ガラス転移温度が室温以下の材料
分子がミクロブラウン運動
弾性率がMPaオーダー
大変形しても回復
架橋点
架橋系のゴム
• シリコンゴム
• 加硫ゴム
• ウレタンゴム
熱可塑性エラストマー
• セグメント化ポリウレタン
• セグメント化ポリエステル
• スチレン(PS)ーブタジエン(PBD)-ス
チレン(PS)トリブロック共重合体
ゴムと同様な性質
可塑化ポリ塩化ビニル
PBD
PS
ミクロ相分離により生じたガラ
ス状態のPS相が架橋点として
の役割を果たす
溶媒を含んだ網目状高分子→ゲル
網目状の高分子 溶媒によって網目が膨らむ(膨潤)が溶媒には溶けない
天然のゲル
合成高分子ゲル
低分子ゲル
ハイドロゲル(溶媒が水)
オルガノゲル(溶媒が有機溶媒)
ゲルの応用
食品 こんにゃく、煮こごり、ナタ・デ・ココ
日用品 芳香剤、衛生用品、オムツ、化粧品
ポリマーアロイ
2種類以上の高分子からなる材料
•ポリマーブレンド
•ブロック・グラフト共重合体
ポリスチレン(脆い)
ABS樹脂(アクリロニトリルーブタジエンース
チレン樹脂)
ポリスチレンの中にゴムをミクロンオーダー
以下で分散→衝撃強度の上昇
ABS樹脂の透過電子顕微鏡写真
(ゴム相が染色剤で黒く染まっている)
スチレン相
ゴム相
ブロック共重合体
ABブロック共重合体
A
A成分の分率
ポリマーAとポリマーBは互いに溶解しないが、共有結合でつな
がっているために大きく相分離することは出来ない
→ミクロ相分離構造
•成分の組成によって形態が変化
•それぞれの相の大きさは分子の回転半径オーダー
ポリスチレンーポリイソプレン ジブロック共重合体の透過電子顕微鏡写真
2つの高分子は互いに溶けることが出来ない。しかし大きく相分離しようとしても
互いに連結されているので、数十nmの大きさの相分離(ミクロ相分離構造)を形
成する。
黒い部分が染色されたイソプレン相
ポリスチレンの中にゴムが分散すると耐衝撃性が向上する。
セグメント化ポリウレタン
マルチブロック共重合体
zハードセグメントが水素結合凝集してドメインを形成
zソフトセグメントは柔軟なゴム成分
10nm
z高い耐疲労性
z優れた血液適合性
人工血管、人工心臓用ポンプ
日本の主な高分子の生産量
生産量(2001)
千トン
熱硬化性樹脂
1,288
低密度ポリエチレン
1,852
高密度ポリエチレン
1,240
ポリプロピレン
2,696
ポリスチレン
1,053
塩化ビニル樹脂
2,195
熱可塑性樹脂全体
12,149
5大汎用樹脂合計
9,035
生分解性樹脂
6
汎用エンプラ
843
特殊エンプラ
33
合成ゴム
1,466
合成繊維
1,368
特殊繊維
樹脂・材料名
価格
備考
エポキシ 330円/kg
129円/kg
131円/kg
400-500円/kg
PET 250円/kg
PLA 40%
PPS 23
SBR 641
PET 628
パラ系アラミド
化学経済、2002年7月臨時増刊号
リサイクルマーク
1989年(アメリカ SPI)
「2」から「7」までを「容リ法」
上「その他プラスチック製容器
包装」に含めて表示(2001)
ー識別表示のそばに材質表
示が望ましい。
3. 医用高分子材料の目的と必要な性質
(生きている細胞と直接接触する材料→生体材料、バイオマテリアル)
実用化されている高分子を用いた医用機器
目的
1.
2.
3.
4.
臨床検査
診断
治療
リハビリテーション
期間
1. 長期(人工臓器)
2. 短期(医療器具)
高分子材料の特徴
長所
1.
2.
3.
4.
5.
軽量
易加工性
柔軟性
安定性
種々の弾性率の材料
短所
1.
低強度
医用高分子材料の例
番号
名称
1 メガネ
コンタクトレンズ
眼内レンズ
2 人工歯・義歯
虫歯充てん材
3 人工食道
4 人工心臓
人工弁
ペースメーカー
人工肺
5 人工乳房
6 人工肝臓
7 人工腎臓
金属とセラミクスの特徴は?
金属
長所:高強度、高靱性
短所:腐食、細胞毒性
セラミクス
長所:高強度、耐腐食
短所:低靱性、難加工性
8 外シャント
9 人工血管
10 人工股関節
ボーンセメント
11 人工指関節
12 人工膝関節
人工じん帯
使用されているおもなポリマー
CR-39, MR-6, PMMA
PMMA, ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート
PMMA
PMMA
メタクリル酸誘導体ポリマー
ポリエチレン/天然ゴム
セグメント化ポリウレタン(SPU)
パイロライトカーボン
ポリウレタン
多孔質ポリプロピレン(体外循環)
(シリコーン)
活性炭, 多孔性ポリマービーズ
セルロース, 酢酸セルロース,
ポリ(エチレン-ビニルアルコール),
PMMA, ポリスルホン
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)
ポリエチレンテレフタレート(PET)
延伸PTFE
金属/超高分子量ポリエチレン
PMMA
シリコーン樹脂
金属/超高分子量ポリエチレン
ポリエステル, PTFE
医用材料に必要な性質(広義の生体適合性)
1.
2.
3.
4.
機能性(物質分離、接合、固定、補填、ポンプ、バルブなど)
生体安定性(生体に潰瘍、発熱、溶血、壊死などを引き起こさない)
生体適合性(抗血栓性、補体非活性、組織接着性など)
可滅菌性(滅菌により分解しない)
医用材料として必要な特性と機能の分類
製品構成上必要なマテリアル特性
バイオマテリアルとしての機能
強度(破断、曲げ、圧縮など)
血液適合機能(溶血など)
弾性
抗血栓機能
可撓性
生体組織適合機能
硬度
生体内分解機能
透明性
生体接着機能
耐熱性
構造支持機能
耐摩耗性
免疫機能
耐放射線性
薬理活性・生理活性機能
耐薬品性
固定・徐放機能
無毒性
ガス交換機能
非溶出性
選択透過機能
成形性
選択吸着機能
接着性
情報検知機能
経時安定性
情報伝達機能
4. 医用高分子材料の応用例
i) 人工心臓と補助人工心臓ポンプ
心臓が機能を回復あるいは心臓移植
までのつなぎ
ポンプ材料に必要な条件
1. 長期間の繰り返し変形に耐える
2. 生体内で高い安定性
3. 優れた血液適合性
弾性ポリウレタン
が上記の1-3に優れている。
拍動流ポンプ(空気駆動)
非拍動流ポンプ(遠心ポンプ)
ii) 人工血管
目的 血行再建
1.
2.
3.
ポリエステル布製(ダクロンの編み物、織物)
延伸テフロン
生体組織由来(臍帯静脈、牛頸動脈)
1,2では患者自身の血液をもちいて目詰め操作を
行った後、移植。吻合部より侵入した患者の細
胞により覆われた後、内口腔に偽内膜が形成
される。
末梢動脈、冠動脈用の4mm以下の細い口径の人
工血管の開発が課題ーポリウレタン
必要な性質
• 抗血栓性
• 生体内で安定
• 疲労強度が高い
• 生体血管との力学的マッチング
• 縫合のしやすさ
iii) 血液透析ー人工腎臓
生体腎の機能
1.
2.
3.
4.
5.
6.
水・電解質の調節
タンパク質終末代謝産物の除去
薬物の排泄
血圧の調節
赤血球数の調節
ビタミンDの活性化
慢性腎不全患者の治療
1.
2.
腎移植
血液透析
1996年 透析患者数 17万人
血液透析
1-3の機能を代行
透析
半透膜を介して溶液と溶媒を触れさ
せ、低分子の溶質を拡散により分離
したり、溶液中の高分子量物質を精
製する操作
血液透析器ー膜による有害物質と余分
の水分の除去
•
幅広い分子量の有害物質の除去
•
水透過性
•
分離時の圧に耐える力学的な特性
•
抗血栓性
大面積(数m2)で均一に薄い膜が必要
•
中空糸型
•
積層平板型
透析
一回4-5時間
週3回
膜材料
1.
2.
3.
4.
5.
再生セルロース
酢酸セルロース
PMMAステレオコンプレックス
ポリアクリロニトリル
エチレンービニルアルコール共重合体
CH2OCOCH3
H
O
H
OCOCH3 H
H
H
クリアランス
腎臓で1分間に浄化されるタンパク質代
謝産物を含む血液量
クリアランスの向上により透析時間の短
縮が可能
HD 血液透析
HF 血液濾過
HDF 血液透析濾過
O
OH
n
人工腎臓と家庭用浄水器
5 生分解性高分子
自然環境下において微生
物により分解・代謝される
高分子材料
→生分解性高分子
(biodegradable polymer)
生分解性プラスチック研究会
http://www.bpsweb.net/
高分子物質の生分解
(biodegradation)の機構
ポリエステル
セルロース
ポリグルタミン酸など
ポリ乳酸
アスパラギン酸など
微生物
環境資源分子
(糖、有機酸、
アミノ酸
炭酸ガス)
化学合成
ポリカプロラクトン
などのポリエステル
動物・植物
セルロース
キチン
ゼラチンなど
再生可能な炭素資源の利用
化学合成
化石資源
(石油、
天然ガス)
生分解性の脂肪族ポリエステルーポリ乳酸
発酵
重合
乳酸
微生物に
より分解
水と二酸化
炭素(植物
の光合成)
脂肪族ポリエステルーポリ乳酸
現在の問題点
1.価格
2.耐衝撃性
植物由来プラスチック
ポリ乳酸
ポリ乳酸は使用期間中は
安定な性質、廃棄物処理を
すると分解する
ポリ乳酸関係のHP
http://www.mitsui-chem.co.jp/info/lacea/intro.html
http://www.cargilldow.com/corporate/s_home.asp
生分解性高分子と再生医療
肝臓や膵臓などのホルモンや生理活性物質を合成・分泌する臓器
人工臓器の開発は困難
→生体内で適当な速度で分解する高分子を足場マトリクスとして細胞(臓器)
を再生させる
Fly UP