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金沢大学 熱機関研究室
金沢大学 熱機関研究室 森田 浩也(金沢大学 自然科学研究科 機能機械科学専攻 博士前期課程 1 年) 1. 熱機関研究室概要 2.2.PMMA 燃焼におけるマイクロ波の影響 私が所属する熱機関研究室は,榎本啓士助教授のご指導の プラスチック類は,燃焼させると発熱量が大きく,現在で 下,大学院前期課程 7 名,学部生 7 名が所属し,日夜研究に は,ハイブリッドロケットの燃料等での使用が試みられてい 励んでいます. ます.しかし,プラスチック類は難燃性であり,燃焼速度が この研究室では大別すると 2 つのテーマに関して,研究を 遅く.単位時間あたりで考えると,十分なエネルギを得るこ 行っています.1 つはマイクロ波加熱に関する研究.そして, とが出来ません.そこで,本研究では,プラスチック類の燃 もう 1 つは,社団法人自動車技術会が主催する,全日本学生 焼を促進させる方法として,マイクロ波の照射を提案してい フォーミュラ大会(Formula SAE, F-SAE)に出場するための, ます.本実験では,マイクロ波を用いて,プラスチック類の 小型競技車両に関する研究です.以下に各研究について紹介 燃焼を促進できるかの検証を行っています.マイクロ波は, します. 金属のようなマイクロ波を反射する物質以外は,プラスチッ クのような無極性分子のものでも加熱が可能であります. 2. マイクロ波加熱に関する研究 2.1.同軸誘電加熱装置を用いたインジェクションの開発 本実験では, 棒状の PMMA を固体燃料とした燃焼実験を行 っています.マイクロ波は,図 2 のような固体燃料となる マイクロ波加熱は,熱伝導率が小さいものでも短時間で加 PMMA を誘電体とした同軸線路を通り,PMMA 燃焼中の燃 熱ができる,エネルギの輸送ができる,加熱電力の制御が容 焼場に照射されます.マイクロ波が照射されると,図 3 のよ 易に行えるなどの特徴をもっており,従来の加熱とは異なっ うに火炎の大きさが大きくなり,燃焼質量が増えました. た加熱特性が見られる可能性があります.本研究室は,マイ クロ波を輸送する同軸ケーブルを使用し,応用することで, 同軸誘電加熱装置という加熱装置を開発しました. 現在は,この装置の応用の一つとして,インジェクション を考えています.インジェクタが燃料を噴射する前に,マイ クロ波加熱することで,燃料の気化を促進し,エンジンの燃 焼効率を良くすることができないだろうかと考えています. それを検証するために,まずはインジェクタの噴霧形状を撮 Internal conductor (Stainless spring line) Dielectric substance (PMMA) External conductor (Silver paper) 影し,マイクロ波加熱した場合としない場合での,噴霧形状 Fig.2 Coaxial line の変化を見ています. Time [s] 0 Fig.1 Spray by an injector 10 20 Fig.3 Typical flame shapes 3. 小型競技車輌に関する研究 3.1.平衡機能と運転技能の相関関係 3.3.F-SAE 参戦車輌用過給機つきエンジンの開発 最近では,自動車はハイブリット技術に代表されるように, 如何に高効率な原動機を実現するかが焦点となっています. 学生フォーミュラの大会総得点は 1000 点であり,その内動 内燃機関単独ではなく,能動的アクチュエータを付加し,こ 的競技(コース走行,直線走行など)は 675 点を占めています. れによる変化・調整によって更なるエネルギ効率の向上が今 動的競技では車両性能も関係しますが,それと同等に運転技 後の課題となると予想されます. 能も結果を大きく左右する要素となっています.カート等で 本研究では,600cc のバイク用エンジンを搭載した 4 輪の 練習量を多くこなすことである程度の運転技能を獲得するこ 小型フォーミュラカーであるF-SAE参戦用車輌に過給機を搭 とができます.しかし,レギュレーションより運転者は学生 載し,過給圧や燃料噴射量を制御することで,負荷変動に対 である必要があり,時間・資金によって練習量は制限されま して能動的に出力を変化させ,様々な利用状況において高い す.本研究では CCD カメラとコンピュータを用い,身体の平 エネルギ効率を実現できる過給機つきエンジンを開発するこ 衡機能を測定し,その結果と運転技能向上度との相関関係を とを目的としています.開発に当たり,車輌を評価するため 研究します.これにより運転技能向上の費用対効果・時間対効 の一つの手段として,全日本学生フォーミュラ大会に参戦し 果向上を図り,運転者選考の効率化を目指しています. ます.過給機を搭載する一番の目的は,定回転域でのトルク の向上とトルクのフラット化による運転しやすさ,扱いやす さの向上です.大会で最も配点の大きいエンデュランス(耐久 燃費審査)で使用されるコースは,1 周 1km,平均車速 50km/h ~60km/h,最高速度が約 110km/h,タイトコーナーの多いテ クニカルコースになっています.そこで,コーナーの立ち上 がりでの加速性能向上のため,低回転から中回転域でのトル クの向上が必要です.また,ドライバーが素人であるため, 扱いやすいトルクフラットなエンジンである必要もあります. この種目で,車輌の扱いやすさ,燃費などの評価も行います. 3.4.トラクションコントロールシステムの開発 本研究では,小型競技車両への搭載を目的とした,トラク Fig.4 The measurement of an equilibrium function ションコントロールシステムの開発を行っております. 前述のように,運転技能が成績に大きな影響を及ぼします. 3.2.F-SAE 車輌用 Engine Control Unit の開発 しかし,運転技能の習得は,資金などの問題から充分には行 本研究では,学生フォーミュラ大会に出場する小型フォー えず,毎年の大きな課題であるため,技術不足の一部を補う ミュラカーに搭載するための Engine Control Unit の開発を ことを目的とし,このテーマの開発を行っております.制御 行っています. やセンサに関する知識があまりないため,過去に企業が開発 学生フォーミュラ大会に出場するために,満たさなければ ならないレギュレーションとして,吸気制限装置の搭載が挙 したトラクションコントロールシステムに関しての調査,簡 単な試験機を製作などを行っています. げられます.本来,純正エンジンには吸気制限装置は搭載さ れていないため,私達の仕様で使用した場合,燃料噴射マッ プが適合せず,空燃比が全体的にリッチ傾向になってしまい ます.これは,吸気制限装置により,特に高回転側で十分な 吸入空気量を得られなくなってしまうためです.そこで,燃 料噴射時間の調節を行うと共に,更にエンジン出力を得るた めに,燃料噴射時期,点火時期の調節を行うことが必要とな ってきます.私達は,燃料噴射時間及び噴射時期,点火時期 の調整を行うことが出来る Engine Control Unit の開発を行 っています.また,この装置は,小型フォーミュラカーに搭 載しなければならないため,装置を出来るだけ小型にするこ とや,故障などのトラブルが出てもすぐに対応出来るように, 入手性や価格性も考慮しています. Fig.5 Traction control system testing. 3.5.競技車両における操作性の向上の研究 競技車両における操作性の向上と題しまして,クラッチ操 作の自動化装置の開発を目指しています. 題でした.シールが必要な部分の構造を見直すことや,数種 類のシール部品の検討および実試験により対策を行いました. 使用するオイルの粘度や,そのオイルを安定させるために余 競技車両が速く走るためには,車両の走行性能を上げるこ 圧を与えるガス圧の設定など,様々な要素が減衰特性に影響 と,運転者の技術の向上が重要です.しかし,この 2 つがそ を与えます.その特性を理解していくことも非常に重要な課 れぞれ高いレベルであれば,単純に速くなるわけではありま 題として開発に取り組んでいます. せん.車両が技術的に高い完成度を持っていたとしても,そ の操作が非常に難しいものであったなら,運転者は車両の性 能を発揮されられません.運転者が車両を思い通り操れてこ 3.7.自動車用衝撃吸収構造の研究 自動車における安全技術を論じる場合,事故がおこる前に, そ,優れた車両であると言えます.すなわち,車両と運転者 何らかの方法で回避すべき,という視点で議論されることが を融合させることができる,ユーザーインターフェイスがあ 多くなっています.しかしながら,いかなる予測技術を持っ ってこそ,優れた車両だとも言えます.そこで走行中に運転 てしても,完璧に衝突などの事故を回避することはできませ 者が行う操作の負担を,減らすことを考えました.その中で ん.そこで,本研究では材料・構造の相違による変形による衝 選んだのが,クラッチ操作の自動化です.クラッチ操作は車 突エネルギ吸収の効果について,実験的に検証しています. 両の発進時,停止時,変速時に操作しますが,操作時は動力 衝突エネルギを吸収するためには,構造体の変形による方法 を絶つことになるので,その断絶している時間を出来る限り がもっとも効果的であります.しかしながら,用いることが 短くすることは,タイムロスを減少させることにも繋がりま できる材料や形状は,費用対効果,体積対効果,重量対効果, す.この装置の開発により,運転者のミスの防止,ドライバ 加工性対効果,美観対効果などの視点で考えると,いずれも ーの負担軽減,タイムロスの減少を達成させます.動力は電 一長一短があります.本研究では,その流通性と汎用性から, 動モータにより,油圧ポンプを駆動して得ます.その油圧に 鉄系材料,アルミ系材料,コンポジット系材料を用い,それ より油圧シリンダーを駆動してクラッチを操作します.これ らの長所と短所から,もっとも優れている組み合わせを提案 らの装置は現行のマニュアルトランスミッションを元にクラ することを目的としています. ッチ操作だけを自動化するものなので,燃費はそのままに運 転動作を簡単にできるという利点もあります. 3.6.電子制御式ショックアブソーバの開発 本研究では電子制御式ショックアブソーバの開発を進めて います.電子制御式ショックアブソーバの開発を進めること で,減衰力の調整を簡単にすることや,走行性能の向上を目 指しています. 現在は,ショックアブソーバの減衰力制御に関する論文の 調査を行い,紹介されている制御則や,実験結果を参考に, 今後の方針の検討などを行っています.それに加え,設計お よび制御をしていく上で必要となる車輌走行データを入手す るため,各種センサの選定を行い,計測に向けて進めていま す. これまで取り組んできたことは,減衰力が発生する仕組み および特性を理解するため,作動流体をシールするための技 術を得るために,電子制御式ではないショックアブソーバの 開発を行いました.それに加え,ショックアブソーバの減衰 特性を数値化し,走行テストとショックアブソーバの調整を 効率よく行うために,試験機の開発も同時に行いました.こ の試験機では,ストロークする変位や速度に対する減衰力を 計測します.それと同時に,ある程度の時間動かし続けるこ とにより,シール部品の耐久性も確認することができます. ショックアブソーバの開発に取り組むにあたり,シール性 の確保と摩擦抵抗の低減を両立させることが非常に難しい課 Fig.6 Compression Testing Machine