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事業創出研究成果報告書 - 九州産業技術センター
平成22年度 九州地域戦略産業イノベーション創出事業 事業創出研究成果報告書 (要約のみ掲載) 平 成 23年 3月 財 団 法 人 九 州 産 業 技 術 センター この印刷物は、競輪の補助金を受けて 製作したものです。 http://ringring-keirin.jp 目 次 1.放電プラズマ焼結法による金属と樹脂の接合方法の開発・・・・・・・・・・・1 2.微細化コンニャクグルコマンナンの食機能増強作用の検証・・・・・・・・・・2 3.高真空・高速成膜下で作製した厚膜磁石の特性向上と応用・・・・・・・・・・3 4.気泡と衝撃波・放電の相互作用を用いたバラスト水処理システムの開発・・・・4 5.非線形テクスチャ情報に基づく肥育牛の肉質評価システムの開発・・・・・・・5 6.オリーブ事業を推進する作物増収剤と抗アレルギー食用油商品の開発・・・・・6 7.高密度ナノワイヤー配列型次世代機能性アルマイト被膜の開発・・・・・・・・7 8.生体センサー技術を利用した機能性食品開発の基礎と応用・・・・・・・・・・8 9.高屈折・高透明な無機/有機ハイブリッド材料及びフィルムの創製・・・・・・・9 10.緑色レーザーダイオードの中核的基盤技術開発・・・・・・・・・・・・・・・10 11.ナノ・ナノマシンニングによるプラスチック光ファイバー用接合端子の開発・・11 放電プラズマ焼結法による金属と樹脂の接合方法の開発(要約) 九州工業大学大学院生命体工学研究科 客員准教授 中野光一 オタライト株式会社 技術部長 株式会社高田工業所 技術本部 同 石橋 完 技術企画部長 炭矢芳男 技術企画部 係長 立石健太郎 計測検査株式会社 技術部長 宮崎良忠 同 福岡県工業技術センター 同 技術部 渡邊健太郎 化学繊維研究所 化学課長 大崎徹郎 化学繊維研究所 化学課 蓮尾東海 [ 要約 ] 本研究開発では、銅とフェノール樹脂の間に傾斜層を設け、放電プラズマ焼結技術を用 いて融点や線膨張係数の大きく異なる金属と樹脂との接合を可能とする接合方法を開発す る事を目的としている。そして、銅とフェノール樹脂間の隙間を無くし、傾斜層で応力を 緩和させる事により亀裂の発生を抑制すると共に、銅の使用量を減少させて軽量化を図り ながら、より信頼性の高いモータ整流子等の製品化に資するために、円筒型傾斜材の試作 をはじめ種々の特性評価・検討を行った。 1.熱的物性の確認 銅の混合比率の増加とともに熱伝導率も一位的に増加しており、熱伝導率の材料設計が 可能となることが判明した。また、傾斜機能材料の各混合層における線膨張係数や熱伝導 率等の熱的物性の測定の再現性は比較的よく、各混合層における均一性には特に問題は無 いと考えられる。ただし、材料設計のための推定式に用いる係数の決定のためには、測定 温度域を変えてもう少し詳細な測定実験を行う必要があると考えられる 2.円筒型傾斜材の試作 半径方向に傾斜組成化した円筒型の傾斜材の試作を行い、モータ整流子等への適用可能 性を確認した。成果として以下2件の特許の共同出願を行った。 ①特願 2010-237669,「傾斜機能性複合材料及びその製造方法」 ②特願 2010-239837, 「傾斜機能性複合材料の製造方法」 3.機械的強度等の評価 今回考案した本せん断試験方法により、半径方向に傾斜組成化した傾斜機能材料の界面 における機械的強度を十分評価可能であることが判明した。また、感圧紙(プレシート) による加圧力の測定結果から、圧粉体にかかる軸方向の圧力はほぼ均一で、その圧力は 60MPa 程度であることが確認された。 4.非破壊検査による欠陥評価 放電プラズマ焼結法により製造される傾斜機能材料の内材欠陥を評価する検査手法とし ては、界面の評価に特に敏感な超音波探傷試験方法が比較的優れていると考えられる。 1 微細化コンニャクグルコマンナンの食機能増強作用の検証 九州大学大学院 農学研究院 生命機能科学部門 准教授 特任助教 松井 利郎 田中 充 【要約】 本研究では、高吸水性・分散性を増強した微細化コンニャクグルコマンナン(以下、単 に「グルコマンナン」と略記)について、その潜在的な機能性食材としての有用性を検討 した。特に、腸管内での生理作用発現を明らかにすることを目的として、糖質の終末酵素 阻害を介した抗糖尿病作用並びに抗高血圧ペプチドの腸管吸収に対する影響について詳細 な検討を図った。 ① 糖尿病予防効果: SD 系ラットに対する糖質の単回投与試験を実施したところ、0.5%グルコマンナンの投 与によってマルトース(2 g/kg)投与による血糖値の上昇を約20%抑制することが明ら かとなった。グルコマンナン投与によるラット空腸、回腸全域でのα-グルコシダーゼ活 性の低下は認められなかったことから、グルコマンナンの血糖上昇抑制作用は終末消化 酵素阻害とは異なる作用により発現していると推察された。なお、スクロース投与によ る血糖値上昇に対しては効果が認められなかったことから、グルコマンナンの抗糖尿病 作用には糖質依存性があると考えられた。 ② 高血圧予防効果: 抗高血圧作用を有する Val-Tyr(VY)の体内吸収性に及ぼすグルコマンナンの影響を評 価するため、SD 系ラットに対する VY の単回投与試験(10 mg/kg)を実施した。その結 果、当該ペプチドとグルコマンナンとの同時投与によりペプチド吸収量が顕著に増大 (AUCVY 単独 : 5.96 pmol・h/mL-plasma, AUCVY+グルコマンナン : 17.13 pmol・h/mL-plasma)し、 投与 24 時間後においても十分に血中に存在(VY 単独 : 0.25 pmol/mL-plasma, VY+グルコ マンナン : 3.55 pmol/mL-plasma)することが明らかとなった。このことから、グルコマン ナンは機能性ペプチドの体内への吸収を持続的に高めることが判明した。 本研究成果より、グルコマンナンが小腸におけるグルコシダーゼ活性に影響を与えるこ となく糖質負荷による血糖上昇を抑制する作用があること、さらには機能性ペプチドの血 中への移行(吸収)を高め、吸収効率を上昇させることが明らかとなった。これらの知見 より、微細化したグルコマンナンは新たな食品素材として極めて機能展開性が高いと判断 された。 2 高真空・高速成膜下で作製した厚膜磁石の特性向上と応用 長崎大学工学部電気電子工学科 アルバック九州 准教授 中野正基,教授 福永博俊 長崎サービスセンター 太田顕司 (株)ミネベア 浜松工場技術本部 山下文敏 [要約] これまで我々は、高真空中で微粒子を形成・堆積可能な真空アーク蒸着法によるNd-Fe-B系厚膜 磁石の作製に着目した。これは、Nd-Fe-B系合金ターゲットであるカソードとその周囲を囲むアノ ード間においてパルス状の真空アーク放電を生じさせ、ターゲット表面から各元素を蒸発・飛散さ せることにより、基板上にNd-Fe-B系磁石膜を堆積させる手法である。昨年度の成果においては、 Nd-Fe-B系微粒子を用い、最大で約 10 µm/hの成膜速度の下、化学量論組成に対しNd-richな試料に おいて、600 kA/m以上の保磁力と0.69 T程度の残留磁化は実現してきたものの、保磁力に広く分 布を有する多段のヒステリシスループが観察され、(BH)max も56 kJ/m3程度の値にとどまっていた。 本研究では、化学量論組成ならびにNd-poorな組成の試料に着目し、パルス熱処理法ならびにNb元 素の添加を施す実験を通じて、残留磁化の増加ならびにヒステリシスループの角型性改善ひいて は(BH)max向上を図った。 1. Nb添加を施したNd-Fe-B系厚膜磁石の磁気特性向上 化学量論組成ターゲットにNbを0.5at %添加した際の等方性磁石膜の磁気特性の向上について検 討した結果、添加元素を施していないものに比べ、(BH)max値はほぼ同程度の値であったものの、 保磁力は最大で400 kA/m程度向上した。更に、ターゲットのNd含有量を化学量論組成より更に減 少させると、残留磁化の増加に伴い(BH)max値も向上することが明らかとなった。本研究を通じ得 られた最も優れた磁気特性は、Nd1.6Fe14B+Nb0.5 at.% ターゲットを用い作製した試料における残留 磁化0.86 T、保磁力393 kA/m、(BH)max 64 kJ/m3であった。 2. Nb添加を施したNd-Fe-B系厚膜磁石の微細構造と磁気特性に関する考察 透過電子顕微鏡(TEM)を用い観察した微細構造において、幅広い粒径分布が観察された。す なわち、Ndリッチな試料における多段的なM-Hループは、結晶粒間の非磁性Ndリッチ相による交 換結合の抑制が、粒径に依存する各結晶粒の保磁力分布を顕著に示したものと考えられる。一方、 Nd含有量が低下すると共に粒間の交換結合強まり、ループの多段化が緩和されたものと考えられ る。Nb添加による粒径の均一化効果を図ったものの、「数10 nm程度の粒径と100 nmを超える結 晶粒径を有する領域が各々局所的に存在する」様子が明らかとなった。すなわち、0.8 Tを超える 比較的高い残留磁化を達成したにもかかわらず、(BH)max が70 kJ/m3以下にとどまった原因とし て、PLD法により作製した試料に比べ、微細構造の不均一性を起因としたヒステリシスループの 低い角型性が考えられる。 3 気泡と衝撃波・放電の相互作用を用いたバラスト水処理システムの開発(要約) 九州工業大学 大学院生命体工学研究科 生体機能専攻 佐賀大学 理工学部 電気電子工学科 准教授 猪原哲 本多機工株式会社 技術本部設計課 古巻圭一 教授 玉川雅章 [要約] バラスト水の排出が海洋生態系の保全に重大な影響を及ぼすとされており, 国際的には, 2004 年2 月に「バラスト水管理条約」(条約)が採択され,条約発効を見越して世界中でバラ スト水処理装置の開発が行われている.なお,バラスト水管理条約は,およそ全ての船舶に適 用されるため,その市場規模は大きく,条約が発効した場合,2010 年1 月1 日以降建造のバラ スト水を保有する船舶では発効のその日に条約に適合していることが要求されており,その開 発が急務となっているものの,現状IMOの承認を受けているものは,設備容量(規模)が大きく, 消費電力、活性物質(多くは人体にも有害)を用いる場合は,その安全な貯槽や供給基地が必 要であることなど,技術的に解決しなければならない課題が多い. 本研究グループが提案しているキャビテーション放電システムは,リアクターにおいてキャ ビテーション気泡を発生させ、これに放電プラズマを形成させ、処理水中に含有する有機物等 の分解などを行う装置であり,本研究課題においては,バラスト水処理装置への適用を検討す ることを前提として,オゾン処理システムと同等の性能をもちかつコスト(初期コストとラン ニングコスト)が約半分となるようなキャビテーション放電システムの開発を目的とする. 具体的には,(1)通水中でのキャビテーションおよびマイクロバブルの大きさと数密度分布の 計測と,CFD(数値流体力学)の流動予測計算の併用により,放電をおこしやすく流体力学 的抵抗の少ないリアクター形状の最適設計を行うこと,(2)システムの処理効率・安定性向上要 素の抽出及び解析とOHラジカルの発生効率の高い放電発生条件の最適化を行うこと,に対し て検討を行い,また,同時に(3)キャビテーション気泡と併用してマイクロバブルを用いる新し いシステムの開発も行った. その結果以下のことがわかった. (1) キャビテーション放電システムのバラスト水への適用性,特にプランクトンの破壊試験を 調べると,キャビテーション流れに加えて,放電を加えることでプランクトンの死滅率(ま たは,生存率)が大きく変化することがわかり,処理水はそのままの状態でバラスト水の 基準であるD-2基準(50μm以上のプランクトンの基準)を満足するものであり,より小さ なプランクトンや菌に対しても試験によって確認できれば適用の可能性が高いことがわか った. (2) キャビテーション放電にマイクロバブルを付加することで,インディゴカルミンの脱色試 験による性能を比較した結果,マイクロカプセル付加によって23%分解(反応)速度が 上昇することがわかり,新システムとしての可能性が示された. (3) (2)の可視化による流動機構と周波数解析による気泡径の解析をした結果,これまでのキャ ビテーション放電方式ではみられなかった領域にマイクロバブルが流入し,これによって 処理能力が高くなったと考えられる. (4) インディゴカルミンの脱色試験以外の普遍的な性能を評価するため,化学プローブ法を用 いて,簡易的OHラジカルの計測を試みた.その結果,キャビテーション放電とキャビテー ション放電+MBの新システムの比較を行うことができ,これらのOHラジカル生成量の差を みると(2)の結果が説明できることがわかった. 1 4 非線形テクスチャ情報に基づく肥育牛の肉質評価システムの開発 産業技術総合研究所 主任研究員 福田修,佐賀県畜産試験場 専門研究院 長崎県農林技術開発センター 橋元大介,(株)ロジカルプロダクト 辻 コックス(株) 廣瀬 宮島恒晴, 卓則, 榮一, (有)MIZOUE PROJECT JAPAN 溝上 浩司 [要約] 畜産農家が生産する牛肉の品質を決定づける脂肪交雑値(BMS ナンバー)は出荷後に屠殺され て初めて判定される.この値を屠殺前の生体において推定することができれば,畜産農家は出荷 時期および出荷先の調整やコストコントロールが可能となる.本研究は,超音波エコー装置を用 いて,肥育中の生きた牛から BMS ナンバーを高精度で推定できる肉質評価システムを構築する ことを目的として,超音波エコー画像から得られるテクスチャ特徴量を利用した推定手法につい て検討し,画像処理から肉質推定までの一連の解析を行うための自動判別プログラムを新規開発 した.また,佐賀県および長崎県における肉牛の画像データを蓄積し,推定アルゴリズムの精度 検証を行った.さらに,超音波測定方法の統一を図り,推定精度を向上させるために,超音波測 定マニュアルを製作した. 1. 自動判定プログラムの開発 現場での肉質評価システムの実用化を視野に入れ,超音波エコー画像の取り込み,解析範囲の 選択,画像特徴量抽出,学習処理および BMS ナンバー推定処理などの一連の操作を自動的に高 速で実施するためのプログラムを新規に開発した. 2. 大規模データに対する推定アルゴリズムの精度検証 BMS ナンバー推定手法は,(1) テクスチャ特徴量の抽出処理,(2)主成分分析処理,(3) ニュー ラルネットワークを利用した BMS ナンバー推定処理の 3 段階の処理から構成されている.解析 領域は,枝肉において肉質判定を行う部位である胸最長筋(ロース芯)全体を含む 4 領域とした. 推 定 結 果 の 評 価 に は , 回 帰 式 の 汎 化 性 を 考 慮 に 入 れ , Cross validation 法 の 一 種 で あ る Leave-one-out 法を用いた.103 頭分の画像を用いて BMS ナンバーの推定を行った結果,推定 値と実測値の相関係数は r = 0.77(P < 0.01) ,平均誤差は 1.02 と高い推定精度を有していた.こ の結果から,本研究で開発したニューラルネットを利用した BMS ナンバー推定手法は,優れた 性能を有することが明らかとなった. 3. 「肉牛脂肪交雑判定のための超音波測定マニュアル」の製作 現在,機種や測定方法などは各機関間で全く統一がなされておらず,測定者の経験値が判別結 果に少なからず影響を及ぼすことが懸念されることから,超音波測定の下準備,測定方法,測定 結果の判定方法などについて詳細に解説した『肉牛脂肪交雑判定のための超音波測定マニュアル』 (CD-ROM)を製作した. 5 オリーブ事業を推進する作物増収剤と抗アレルギー食用油商品の開発(要約) 大分大学工学部応用化学科 教授 石川雄一、技術職員 信岡かおる、博士研究員 北岡賢 フンドーキン醤油(株)開発研究部 課長 星野聖一 ファームテック(株) 取締役 古川治彦 大分県東部振興局生産流通部 副主幹 佐藤通浩 韓国国立済州大学亜熱帯園芸産業研究所 研究教授 高碩敏 KO Suk min 1.目的 本事業では、柚子が持つ脂溶性の抗アレルギー成分をオリーブ油に抽出し、機能性ド レッシングを開発することを目的とした。さらに、フンドーキンの廃棄大豆煮汁から資 源転換した樹勢向上能を持つ増収剤を商品化することも目指し、下記の三つの取組を実 施した。 2.機能性ドレッシングの試作 乾燥ユズ果皮のオリーブ油抽出操作により、柑橘果皮の黄色成分がオリーブ油に抽出 できることを紫外可視吸収スペクトルから確認した。この柚子果皮オリーブ油を用いて、 当初、フンドーキン醤油(株)では抗アレルギー型ドレッシングの開発を行う予定であっ た。しかしながら、腐敗した蜜柑臭が残存していたため、風味の点で食用には不適であ ると複数のモニターの食味評価試験から断定した。このため、柚子果皮の水蒸気蒸留に より得られた精油(香り)のみをオリーブに抽出させた油で、フンドーキン醤油(株)が 柚子オリーブのドレッシングを試作した。第二回目の研究打ち合わせにおいて参加者で 試食していいたところ非常に良い風味に仕上がっていた。今後の抗アレルギードレッシ ング開発では、オイルではなく水層側に抗アレルギー柚子果皮物を混在させた方が良い と結論した。 3.廃棄大豆煮汁を活用した樹勢向上剤の開発 フンドーキン醤油(株)から副産される Brix 2.5% 大豆煮汁を Brix 35% に濃縮した。 濃縮大豆煮汁 680 Lを 1000 L 密閉タンクに入れ、乳酸菌を含む種菌液(ファームテック (株)商品アミノ酢糖)を 10 L添加し、2010 年 6 月 18 日に発酵を開始した。2 日ほどで 発酵開始による二酸化炭素の発泡が認められた。約二ヶ月間嫌気下で放置し Brix 22%の 酸性発酵液を得た。この液のアミノ酸含有量、生きた乳酸菌と酵母の含有量を分析した。 この結果を基に大分県の特殊肥料(大分県第 445-11 号)の認定を 2011 年 2 月 15 日に 受けた。今後は、これを野菜用の散布剤として商品化し、さらに飼料としての評価を実 施する。 4.大豆煮汁の乳酸発酵液の散布によるオリーブの生育促進評価 上記の濃縮大豆煮汁の乳酸菌発酵液を、オリーブ苗とオリーブに対して土壌灌注と葉 面散布により施した。3回の大豆煮汁発酵液の土壌灌注と葉面散布処理は、オリーブ苗 の根量を増加させ、オリーブの樹の枝当たりの葉数を増やすことを認めた。 6 高密度ナノワイヤー配列型次世代機能性アルマイト被膜の開発 長崎大学工学部材料工学科 高尾慶蔵、大貝猛 九州三井アルミニウム工業(株)中井真澄、蓮尾俊治 [要約] 陽極酸化アルミナは、孔径をナノスケールで制御することが可能であることから、様々な形状 のナノ構造体形成におけるテンプレート材料として適している。このナノポーラステンプレート を利用して、磁性体や半導体をナノサイズに加工できれば、電気的、磁気的および光学的諸特性 において、量子閉じ込め効果、単一磁区の形成など、新規な物理的現象が発現する。例えば、強 磁性金属をナノポア内に封入することでハードディスクドライブ等の高密度磁気メモリ材料へ応 用可能であり、また、半導体をナノワイヤー化することで、その表面積増大効果を利用した高効 率太陽電池等への応用が可能となる。 そこで本研究では、水溶液電解法を利用して、孔径 100 nm 以下のアルミナ製メンブレンフィル ターを逆電解剥離法で作製する。さらに、これをテンプレートとして利用し、水溶液電解法によ り、強磁性金属や化合物半導体等の機能性材料をナノワイヤー形状として作製し、その構造や物 性を調査することを目的とした。強磁性金属としては、水溶液からの電析が可能であり、大きな 結晶磁気異方性を有する Co(コバルト)に着目し、このナノワイヤー配列構造体を作製すること を目指した。また、化合物半導体としては、水溶液からの合金電析が可能であるⅡ-Ⅵ族化合物半 導体の中でも環境汚染物質を含まず、2.26 eV のバンドギャップを有するため、次世代の光電変換 素子として期待されている ZnTe(亜鉛テルル)に着目し、このナノワイヤー配列構造体を作製す ることを目指した。 アルミニウムを陽極酸化させ、得られた酸化被膜を逆電解剥離させることにより、アルミナ製 メンブレンフィルター(孔径:74 nm、厚さ:32.5 m、孔密度:108 個/cm2)を作製できた。また、こ のテンプレートを利用して Co ナノワイヤー、Zn ナノワイヤーおよび Te ナノワイヤーを水溶液か らの電析法により作製できた。Co ナノワイヤー配列構造体は、保磁力 0.65 kOe の垂直磁化特性を 有することが判明した。 ZnTe 電析の際のカソード分極曲線を調査した結果、Te 単体の電析領域は-0.1~-1.1 V、Zn の 電析領域は-1.2~-2.0 V であることが判明した。また、パルス電解時には、1 サイクルを 0.1 s とし、Te の析出電位(-0.8 V)を 0.95~0.99 s、Zn の析出電位(-1.2 V)を 0.01~0.05 s の範囲で電解 条件を最適化できた。ZnTe 電析物は、熱処理(Ar 雰囲気中で 300℃、4 時間)することにより結 晶性の ZnTe 相へと粒成長することが判明した。また、ZnTe(1 1 1)の X 線回折パターンに及ぼすパ ルス電解時のデューティーサイクルの影響を調査した結果、デューティーサイクルを増加させる ことで、ZnTe(1 1 1)回折ピーク強度が大きくなり、結晶性が向上することが判明した。さらに、 Zn ナノワイヤー電析時の陰極電流の経時変化から Zn ナノワイヤーの成長速度は陰極電位-1.2 V の時、約 40 nm / sec、Te ナノワイヤーの成長速度は陰極電位-0.8 V の時、約 3 nm / sec であるこ とが判明した。 7 生体センサー技術を利用した機能性食品開発の基礎と応用(要約版) 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科探索病理学分野 准教授 千葉卓哉 宮崎大学産学・地域連携センター 准教授 西園祥子 【要約】 我々は、実験動物の寿命延長および老化関連疾患の発症を抑制するメカニズ ムについての解析を行ってきた。本研究では、それらの研究成果をもとに考案 した、抗老化作用をもつ物質の探索に利用可能な生体生体センサーの有効性に ついて検証を行った。 この生体センサーは分泌型レポーターアッセイシステムを基盤としている。 今回構築したレポーターコンストラクトをもちいてトランスジェニックマウス の作製を行った。その結果、外来遺伝子をもつ F0 マウスを 4 系統樹立した。し かし、外来遺伝子をもつ F1 マウスは 1 系統しか得られなかった。そのため残り 3 系統の F0 マウスの精子をもちいて体外受精を行い、クローンの異なる、また コピー数も異なると考えられる F1 マウスの作製を継続している。唯一得られた F1 マウス系統の外来遺伝子のコピー数を解析した結果、2 コピー導入されてい ることが明らかとなった。 上記のマウスに加えて、カロリー制限によって発現が上昇した別の遺伝子の 内因性プロモーター/エンハンサー配列をセンサーのスイッチとしたマウスを、 自由摂食下、および 30%カロリー制限下で飼育し、レポーター活性を解析した。 その結果、両系統の生体センサーマウスとも 2〜3 週間のカロリー制限によって 実際にレポーター活性が有意に上昇することが示唆された。 これまでの研究成果を踏まえ、抗老化生理活性をもつと示唆される候補物質 を 2 種類選択し解析を行った。化合物 A については脂肪細胞の増殖分化に関連 する leptin-NPY 系に作用することが示唆されていることから検討を行った。し かし、野生型マウスに化合物 A を自由摂食下で投与しても、血中ホルモン濃度 などの解析からはカロリー制限を模倣する効果は見られなかった。また、脂質 代謝を亢進させると示唆される化合物 B をラットに投与すると、PGC-1 遺伝子 の肝臓における発現が有意に上昇した。今回開発した生体センサーは、転写調 節因子である HNF-4/PGC-1 によって活性化されることから、化合物 B は生体 センサーを活性化させる、抗老化生理活性を有している可能性が示唆された。 8 高屈折・高透明な無機/有機ハイブリッド材料及びフィルムの創製(要約) 九州工業大学大学院工学研究院 物質工学研究系 教授 吉永耕二 [要約] 本研究では、ブロックコポリマーの逆ミセルを疎水性溶媒中で形成して,その親水性コ アで TiO2, ZnO, ZrO2 のナノ粒子を合成し,それらの酸化物前駆体を含んだミセルをポリ(メ タクリル酸メチル)中へ分散して,透明性の高い高屈折性の無機酸化物/ポリマーハイブ リッド材料の作製を行なっている。 1.TiO2/PMMA ハイブリッドフィルムの作製 ポリアクリル酸とポリメタクリル酸メチルのブロック共重合体の逆ミセルを含んだトル エン溶液へ,チタニウムイソプロポキシドと塩酸から調製した TiO2 前駆体を加えると、内 部に 20 nm 程度の前駆体を取り込んだミセルが形成した。そのミセル溶液をポリメタクリ ル酸メチル(PMMA)を含んだトルエン溶液へ添加して、キャスト法によって TiO2/PMMA ハイブリッドフィルムを調製することができた。このフィルムは高い可視光透過性を示し、 またフィルムの屈折率は TiO2 の含有量の増加とともに増加し, 1.489 (0 wt%)から 1.579 (30 wt%)に上昇した。 2.ZnO/PMMA ハイブリッドフィルムの作製 ZnO 前駆体を Zn(NO3)2 とアンモニアから調製し、上記と同様の方法によって、ミセル内 部へその前駆体を取り込ませて、ZnO/PMMA フィルムを作製したが、その可視光透過性は ZnO 含有量とともに低下した。そこで、ZnO 前駆体を Zn(C2H5)2 を用いて調製し、ブロッ クコポリマーのミセル中へ取り込ませて、ZnO/PMMA フィルムの作製を行ったが、この場 合も低い可視光透過性を示した。トルエン溶液中での前駆体を取り込んだミセルサイズは 10 nm 程度であるので、今後フィルムの作製手法を検討する必要がある。 3.ZrO2/PMMA ハイブリッドフィルムの作製 ZrO2 前駆体を Zr(OC4H9)4 と塩酸、または ZrClO2・8 H2O とエタノールから調製し、そ れをトルエン中のブロックコポリマーミセルへ取り込みを行ったが、Zr(OH)4 沈殿物が分離 するか、あるいは 100 nm 程度の凝集物となった。Zr(acetylactonate)4 と塩酸から調製した 前駆体はブロックコポリマーのミセル中へ取り込まれ、10~20 nm 程度の粒子の生成が観測 された。現在、PMMA とのハイブリッド化を検討中である。 9 緑色レ-ザダイオ-ドの中核的基盤技術開発(要約) 佐賀大学大学院工学系研究科 電気電子工学専攻 教授 西尾光弘 准教授 佐賀大学シンクロトロン光応用研究センタ- 齊藤勝彦 助教 田中徹 [要約] 本研究では,簡易な構造においても市販品の緑色GaP発光ダイオ-ド(LED)を凌ぐ発 光効率を有する緑色ZnTe LEDができることを実証した先の我々の研究成果を活用して, 光の三原色の内,唯一半導体レーザ(LD)が実現されていない緑色にターゲットをおき, ZnTe系の半導体材料(ZnTe及びZn1-xMgxTe)を用いてLDの中核的基盤技術開発を行おう とするものである. 具体的には,有機金属気相成長法や分子線エピタキシャル成長法に よって,キャリア閉じ込め実現の鍵となるZn1-xMgxTeへの高濃度不純物ドーピングと高 品質化や量子井戸構造の物性評価によりキャリア閉じ込め効果などを検討することに ある. 1.高濃度不純物ドーピング(キャリア密度の成長条件,温度特性から)の検証 有機金属気相成長法において Zn1-xMgxTe エピタキシャル膜の Mg 組成を制御するため の成長条件が確立できた. また,有機金属気相成長法において P をドーピングすること により p 型 Zn1-xMgxTe エピタキシャル膜が得られ,アニ-ル処理により 1018cm-3 を越え る高キャリア密度の p 型 Zn1-xMgxTe エピタキシャル膜が達成できると共に p 型 Zn1-xMgxTe へのアニ-ル処理効果が掌握できた. 2.高品質化(表面粗さ,発光特性から)の検証と新たな成長装置の構築 有機金属気相成長法により,p 型 Zn1-xMgxTe エピタキシャル膜の発光特性が大幅に改 善され,更に自由励起子に関係した発光が認められた.また,p 型 Zn1-xMgxTe エピタキ シャル膜の表面粗さを従来より 1 桁以上下げることができ,発光特性と合わせて,エピ タキシャル膜の品質が大幅に改善された. 更に,新たなガス供給ラインを付加しただけ でなく気密性,制御性の高い成長装置が構築でき,今後,ダブルヘテロ接合の展開に有 用であると期待された. 3.ダブルヘテロ接合の評価-活性層を薄くした量子井戸構造を例にして― ダブルへテロ構造の活性層を極端に薄くし,ZnTe/ZnMgTe 量子井戸構造を作製し,評 価したところ,各量子井戸層からの発光エネルギーは井戸層の歪を考慮して求めた計算 値と良く一致し,更に,適度な Mg 組成,井戸幅の多重量子井戸構造において,室温発 光が得られることを実証した. 10 ナノマシニングによるプラスチック光ファイバー用接合端子の開発 九州大学先導物質化学研究所 教授 横山士吉 [要約] 光通信ネットワークの発展と共に光デバイスの高性能化が進み、これと共に使用される 材料や素子構造の多様化も進んでいる。多様な材質と構造を高精度かつ容易に作製する技 術の開発は重要であり、例えば光ファイバーやデバイス等の光コネクションは、2次元、 3次元の加工技術の高精度化を進めることが必要とされている。新たなデバイス部材とし ては、ガラスやシリコンなどの無機・半導体材の他にプラスチック材料の応用も注目され ていおり、光フォトリソグラフィーによるデバイス加工と共により汎用性の高い高精度加 工技術の開発が要求されている。 本研究では、光学デバイス製造を目指したポリマー材料の高精度加工を無機・半導体材 料の光デバイス作製精度まで高めること、また、これらの従来プロセス応用と同等レベル の高精度さを持ち、かつ全く新たな加工法として機械掘削加工法であるナノマシニングに よるデバイス製造技術の開拓を目指して調査研究を行うことを目的とした。 1. シングルモード光導波路の作製 シングルモード光導波路は、光通信デバイスの最も基本的な光学構造の一つであり、幅 3~6μメートル程度の設計された導波路構造を高い光学精度で 2 次元加工を行う必要が ある。本年度は、SiO2、および PMMA のリッジ型光導波路のクラッド作製を行った。フ ォトリソグラフィーによるマスクパターンの転写の後、リアクティブドライエッチングに より Si 光導波路を設計構造に近い精度でリッジ光導波路の作製を行った。 2.ポリマー材料の光導波路作製 透明光学材料である PMMA のドライエッチングはより低ダメージのプロセスが必要で あり、O2、Ar ガス下でエッチングを行い、リッジ光導波路を作製した。穏和な条件でエッ チングが必要な反面、エッチング制御は詳細の検討が必要であり、エッチング端面の垂直 性とエッチング表面の平坦さの確保が課題である。本研究で得られた PMMA リッジ光導波 路の垂直角 xxx°は、十分に光学機能を発揮することが可能である。 3.シリコン光導波路の作製 SOI を用いた光導波路作製を行い、加工の規格化を行った。電子線露光装置を用いたパタ ーン転写とドライエッチングによるチャネル導波路の作製精度は高く、また、サブミクロ ンスケールの光導波路作製の規格化についても知見を得た。 4.ナノマシニングによる掘削加工の検討 シリコンウエハーやガラスなどの無機基板を用いた掘削加工実験を開始し、高精度化、 実用化、産業化に向けた議論を進めた。 11