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あいち貿易情報原稿 平成 19 年 3 月 10 日 パリ産業情報センター 駐在
あいち貿易情報原稿 平成 19 年 3 月 10 日 パリ産業情報センター 駐在員 社本 朗 一般調査報告書 フランスのある自動車産業競争力拠点の取組み フランスの基幹産業の一つはルノー、プジョー・シトロエンなどのフランスメーカーに代表 される自動車産業です。 しかし近頃では、フランスの全産業の中でもこの分野の業績はあまりよくありません。 ヨーロッパ全体の自動車市場は、2000 年以来、少しずつ縮小し続けており、最近ではヨ ーロッパにおける自動車生産能力の過剰が表面化しつつあるといわれています。 ヨーロッパ大手自動車メーカーや自動車部品メーカーのうちいくつかは、生産能力の縮 小、リストラなど必要な措置を取ることを決定しているところもあります。 このような状況のなかで、この基幹産業の復活の基点になろうと産官学の共同で取り組 んでいるのが、2005 年 7 月に始まったフランス版産業クラスター計画「競争力拠点」のうち、 自動車産業に属する拠点です。 今回はこの分野の競争力拠点のうち、ノルマンディ・モーター・バレー(ノルマンディ地方) とヴェスタポリス(イル・ド・フランス地方)の二つの競争力拠点がそれぞれの強みを活かし て協力関係を結んだ「モヴェオ(Mov eo)」の取組みについてご紹介します。 <モヴェオ(Mov eo とは> ノルマンディー地方の二つの州(バス・ノルマンディー州とオート・ノルマンディ州)から なる「ノルマンディ・モーター・バレー」は自動車のエネルギーとエンジンのテーマ研究を 核とした「競争力拠点」です。 またパリ郊外の地域であるイル・ド・フランス州のヴェスタポリスは未来の公共交通シ ステムや交通安全性のテーマ研究を核とした「競争力拠点」です。 両者はより大きい波及効果と持続性を求めて、二つの拠点の協力関係構築に合意し、 「モヴェオ(Mov eo)」を立ち上げました。モヴェオは、アメリカのデトロイト周辺地域、日 本の関東・東海地域、ドイツのアーヘン周辺地域への挑戦と位置づけられ、自動車向け 研究開発の世界拠点の一つを築いていく予定です。 バス・ノルマンディー州 オート・ノルマンディ州 イル・ド・フランス州 モヴェオに参加する主要な企業・研究所・大学は以下のとおりです。 ・企業:ルノー(Renault)、ヴァレオ(Valeo)、スネクマ(Snecma:サフラングループ) ・研究機関:CORIA(空気熱化学の業種間研究総合施設)、CERTAM(空気熱学とエン ジンのテクノロジー研究機関)、IRSEEM(搭載電気システム研究所) ・大学等:ルーアン(Rouen)大学、ル・アーブル(Le Havre)大学 この地域には 1,500 の中小製造業があり、165,000 人の人々が働いています。 ルノー、プジョー・シトロエン、ルノートラック、オートリブ、ボッシュ、ティッセンクルップ、ク ーパー・スタンダード・オートモーティブ、ボルグワーナー、フォーレシアといった自動車関 連企業が集中しており、この中でも 80,000 人の従業員がルノーとプジョー・シトロエンとい う二大フランス自動車企業(グループ)で働いています。 特にイル・ド・フランス地方では自動車産業の研究者の 58%を占める約 7,500 人が働い ています。また各企業の R&D センターでは 11,000 人の雇用者が働いています。 モヴェオの行っている事業にはこの地方の約 30,000 人のエンジニアや技術者が直接関 わっています。 加えて、ノルマンディー地方の二つの州は航空宇宙産業にも強く、9,000 人の人が航空 宇宙産業分野に従事し、エネルギー生成、素材物質の分野での研究・開発・製造が活発 です。 モヴェオはフランス版産業クラスター計画「競争力拠点」として、全額で 1 億 5 千万ユーロ (約 225 億円)、約 50 プロジェクトが国からの援助の対象として認められています。 そのうち 7 つのプロジェクト、総額 2,700 万ユーロ(約 40 億 5 千万円)が昨年、国から補助 金の対象と認められ、1,100 万ユーロ(16 億 5 千万円)の支援を得ました。 <主な活動内容> モヴェオでは取締役会が認めた人が参加する作業グループによって活動が取りしきられ ており、その活動内容は 4 つの戦略的活動で成り立っています。 (1)エネルギーと環境 現在、都市公害の原因とされている Nox(窒素酸化物)の削減、地球温暖効果を持つガ ス(CO2(二酸化炭素)、CH4(メタンガス)など)の削減が大きな課題となっています。 自動車産業が向き合うエネルギー、地球温暖化、資源、環境、健康といったテーマ研究 について産官学の研究所・組織と協力して、ハイレベルで世界レベルの研究開発活動を 行っています。 中期的には新しい技術の開発を目指し、短期的には現在の部品やシステムの改良に取 り組み、ガソリン・ディーゼルエンジン、ハイブリッドエンジン、燃料電池に関する研究が行 われています。様々な技術開発のプロジェクトは、2010 年∼2025 年の市場導入を目処に 実施されています。 (2)交通安全 この分野に関しては、人とインフラ、自動車の相互関係を考慮した交通安全の総合的な アプローチを開発しています。 自動車に新しいセンサーを取り込み、人間工学などを利用して、乗用者にもやさしく、か つ事故を未然に避けたり、事故時のショックを和らげるなど、自動車安全走行技術の改善 などに取り組んでいます。 また、事故が起きた直後に情報通信を利用して事故の発生を知らせ、被害者やけが人 の早期治療に役立てる、といったシステムの開発も行われています。 パリ郊外のヴェルサイユ・サトリーにある設備を使い、高い情報通信技術を利用しつつ、 運転者の動向を分析することで現在利用されている安全装置機能の改善にも取り組んで います。 (3)移動性の向上とサービス 車、公共交通機関、歩行者、二輪車、身体障害者の間で、交通インフラを最も安全で効 率的に利用しあう方法について研究を進めています。 安全性が高く利用しやすい交差点、公共バスの誘導方式、公共交通機関に車椅子を乗 せる設備、効率のよい公共交通機関の支払方法の導入などのテーマ研究を進めていま す。 モヴェオが属するノルマンディー地方の二つの州とイル・ド・フランス州の地方公共団体 とも協力しながら、特に車の代替手段としての公共交通の促進についての行動を始めて います。 (4)メカトロニック いまや自動車メーカーや自動車部品メーカーにとって不可欠になったメカトロニック技 術について、パリ郊外サンキャンタン・アン・イブリンヌ大学の主導で設置されたメカトロニ ック研究拠点で主な活動が行われています。 環境問題を考慮して、メカトロニックを利用した部品や部品コストの削減を検討しつつ、 自動車の個別部品・機械の能力を高め、走行能力や安全性の向上を図る研究が行われ ています。 <おわりに> フランス政府は、全国で展開するこのような「競争力拠点」がフランス国内やフランス 国外のクラスターと連携して、その能力・技術力を高め、市場化への足場を固めて自国 産業の基幹産業復活の軸に育っていくことを期待しています。 最近は特に、フランスの自動車メーカーは、ドイツ、アメリカ、日本のメーカー相手に 苦戦を強いられています。 フランスの「競争力拠点」が、国内・国外とも連携を深めて活動を進め、フランスの産 業競争力維持の源泉となり得るかどうかは、今後の研究成果とそれをうまく市場のニー ズに対応できるかどうかにかかっていると考えられますが、その成否を窺い知るには、 もうしばらく、各拠点や拠点同士の連携の結果を注視していく必要がありそうです。 ◆イル・ド・フランス州における、モヴェオ関連企業・施設の配置状況 ◆ノルマンディー地方の二つの州における、モヴェオ関連企業・施設の配置状況 競争力拠点にリンクした主要な大学・教育センター 主要な R&D センター・テストセンター 主要な製造拠点