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第 13 回:エネルギー (1) 在来型石油資源、天然ガス(日本へは液化して

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第 13 回:エネルギー (1) 在来型石油資源、天然ガス(日本へは液化して
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第 13 回:エネルギー
回:エネルギー
1 エネルギーの分類
エネルギーの分類
前回、「資源」についてつぶやきました。今回は、石油、石炭を含む「エネルギー」に
ついてつぶやきます。シェール・ガスやメタン・ハイドレードにも言及します。
エネルギー源は、火力、水力、原子力、その他に分類できます。その他の中に再生可能
エネルギーが含まれます。
さらに火力源は固体、液体及び気体(ガス)に分類できます。
固体:石炭
液体:石油
気体:天然ガス
その上、これらを在来型と非在来型に分類し、次のように整理されることもあります。
(1) 在来型石油資源、天然ガス(日本へは液化して運搬)
(2) 主な非在来型天然ガス(気体)
(3) 主な非在来型石油資源(液体)
日本はエネルギー源のほとんどを輸入に頼っていますが、そのエネルギー源は次の
ように分類できます。原子力も原料のウランをほとんど輸入に頼っています。国産のエ
ネルギーといえるのはわずかに 8%ほどを占める水力と石炭のほんのわずか一部だけで
す。つまり、原子力燃料のウランまで含めると日本はエネルギーの 9 割以上を輸入に頼
っていることになります。したがって、かっては CO2 削減の旗印のもと、もっとも CO2
排出が少ないといわれる原子力に注力されて来ました。
その当時に公表されていた発電種別の CO2 排出原単位比較の一例を表 1.1 に示しま
す。
表 1.1
(g/kWh)
CO2 排出原単位(日本)
Coal 火力発電所
975
(=887+88)
Oil 火力発電所
742
(=704+38)
LNG 火力発電所
608
(=478+130)
LNG-combine 火力発電所
519
(407+111)
Solar
energy
53
Wind
energy
29
Nuclear
Generation
22
Geothermal energy
15
Middle and small scale 水力発電
所
11
出展:環境省 HP より
1
2
表 1.1 をグラフ化して図 1.1 に示す。
原子力発電による CO2 発生量は、水力及び地熱に次いで小さいことがわかります。
Unit Amount of CO2
(g / kWh)
Unit Amount of CO2 Generation of Each Type
1,000
9 00
8 00
7 00
6 00
5 00
4 00
3 00
2 00
1 00
0
Generation by
Operation
PP
ll H
ma
&S
gy
le
er
dd
En
Mi
al
rm
ion
he
rat
ot
ne
Ge
Ge
ar
cle
Nu
gy
er
En
nd
y
Wi
rg
ne
rE
TPP
la
e
So
bin
m
co
GLN
P
TP
G
LN
P
l TP
Oi
P
l TP
a
Co
Generation by
Administration
Type of Power Generation
図 1.1 発電種別二酸化炭素発生量
出典:電気事業連合会「海外エネルギー事情」から
しかし、2011 年 3 月の原発事故以来原発には逆風が吹き、各電力会社は CO2 排出量
を忖度する余裕がないなりなりふり構わない石油、天然ガス、石炭などの火力発電によ
る補強が行われております。
そこでまず、福島原発事故前の世界と日本が消費しているエネルギーの燃料別推移
についてみます。図 1.2 を参照願います。
2
3
出典:電気事業連合会「海外エネルギー事情」から
図 1.2
1.2 世界のエネルギー種別消費量の推移
図 1.2 からわかるように、世界では 2009 年時点(原発事故前)で総エネルギーの 9 割近く
を化石燃料(石油 34.8%、石炭 29.4%、天然ガス 23.8%)が占めていました。
一方、同じ 2009 年の国別の人口とエネルギー消費量とを比べると特徴的な傾向がわか
ります。図 3 に国別の人口とエネルギー消費量を示します。
3
4
図 1.3
1.3 世界の人口比とエネルギー消費量率
世界の人口の 2 割を占める中国がエネルギー消費も約 2 割であるのに対し、人口比が 5%
しかないアメリカが世界のエネルギー消費の約 2 割弱を占めています。つまり人口比の 5 倍
のエネルギー消費率であることを示しています。中国より若干少なく約 17%の人口比のインド
のエネルギーはわずか 6%のエネルギーしか消費していません。すなわち、人口比の 1/3 のエ
ネルギー消費率割合です。ちなみに、日本は、人口の占める割合が 2%であるのに対しエネル
ギー消費率割合は 4%を占めており、イギリス、フランス、カナダ、韓国と並んで人口比の 2 倍
のエネルギー消費率割合でした。人口比に見合ったエネルギー消費率割合の国はわずかに
イタリアで、ドイツは 3 倍になっていました。
このように先進国のとどまるところを知らないエネルギー多消費経済に歯止めをかけるた
めに 1997 年 12 月に京都において第 3 回気候変動枠組条約締約国会議が開催され温室効
果ガス削減目的を定めた京都議定書が策定されました。この京都議定書を契機に温室効
果ガス(CO2)削減に拍車がかかり、CO2 排出量が少なく大出力の原子力が脚光を浴
びることとなりました。
次の図 1.4 は日本の電源別発電電力量の推移ですが、震災前後の 2010 年度と 2011 年
度とを比べてみると、原子力が 29%から 11%へ急減し(2012 年度以降では原子力はさらに低
下し、現在は稼働している原子力発電所はなくなりましたが、2011 年度ではまだ稼働している
原子力発電所がありました)、その分を石油と天然ガスが補っていることがわかります。
従来、エネルギー源は化石燃料と原子力が主体でした。しかし、2011 年 3 月の福島第一
原子力発電所の事故以来、日本のエネルギー構成が大きく変わりました。世界も、原発に
対する姿勢に変化が表れています。その中で浮上したのがアメリカのシェール・ガス革命
4
5
です。日本ではメタン・ハイドレードが注目を浴びています。
一方、原発事故以来、それまで国内エネルギーの 25%を占めていた原子力発電を廃
止するか継続するか議論百出であるなか、アメリカからシェール・ガス革命の情報が舞
い込んできました。そこで、シェール・ガスやシェール・オイルあるいはメタン・ハイド
レードも含めてエネルギーの話を展開してみたいと思います。
福島原発事故
福島原発事故
出典:電気事業連合会「日本の電力消費
出典:電気事業連合会「日本の電力消費」
日本の電力消費」を著者が加工
図 1.4
1.4 日本のエネルギー種別電力消費の推移
図 1.4 では、福島原発事故後の再生可能エネルギーの増加が表れていませんが、再生
可能エネルギーに着目すると図 1.5 のようになります。
2010 年は 1.2%、2011 年は 1.4%といずれも四捨五入すると 1%となり図 1.5 に示された数値
になります。2012 年は 1.6%となり若干増加しています。
5
6
図 1.5
1.5 日本の再生可能エネルギー導入の推移
再生可能エネルギーとして、太陽光、風力利用や地熱が模索されていますが前述の
ように、まだまだ、いきなり原発の代替となるにはかなり無理があり、将来への課題と
言えます。
そこで浮上してくるのがアメリカで革命ともてはやされているシェール・ガスです。
シェール・ガスは救世主たりえるでしょうか?シェール・ガスについては、緊急報告で
説明しましたが、本稿で再確認したいと思います。
シェール・ガスは次のような化石燃料の分類の(2) の非在来型天然ガス(気体)に含
まれます。
一方、シェール・オイルは(3)の主な非在来型石油資源(液体)に含まれます。
(1) 在来型石油資源、天然ガス(日本へは液化して運搬)
(2) 主な非在来型天然ガス(気体)
(3) 主な非在来型石油資源(液体)
2 原子力
まずは、現在、課題となっている原子力エネルギーから始めます。
6
7
2.1 世界の原子力政策の傾向
1995 年から 2012 年半ばまでの世界の原子力の設備利用率の推移を 2.1 図に示します。
図 2.1 主要国の原子力の設備利用率の推移
日本の原子力発電所の稼働率(赤色)は、2010 年以降急激に低下します。一方、同
様の経過を示しているのがドイツ(青色)です。ドイツは、2006 年以後段階的に低下
していますが、これは、メルケル首相が脱原発宣言をして以来の傾向ですが、3.11 に
よって拍車がかかったようです。
一方、フランス(紫色)と韓国(緑色)は、3.11 以後も漸増の傾向を示しています
(韓国は 3.11 で一旦下がりますがその後増加)
。
アメリカは、2000 年までは上昇傾向にありましたが、2000 年以降横ばいに転じてい
ます。おそらく、シェール・ガス開発が関与していると推定できます。
2.2 脱原発・原子力発電維持・原発新設
各国の原子力発電に関する考え方は、次の 4 つのグループに分けられます。
7
8
①
原子力利用・推進国
韓国、ロシア、日本、フランス、米国の 5 か国
②
原子力高成長国
中国、インドの 2 か国
③
原子力新規導入検討国
中東、イタリアの 2 か国
④
脱原子力傾向国
英国、ドイツの 2 か国
図 2.2 は、2009 年時点の設備容量を基準に 2035 年までに主要国が設備容量をどれだ
け増加する計画であるかを示した図です。
図 2.2 20092009-2035 の主要国の設備容量増加計画
中国及びインドは原子力発電所増設を積極的に進める国ですが、現在原子力発電所
を持っていない中東の国及びイタリアが導入の方向にあります。中東諸国は石油資源の
枯渇を見越した自ら脱石油を模索していると思われます。
8
9
3. 原子力代替エネルギーの模索
3.1 化石燃料の見直しと石炭への回帰
[石炭の持つメリット]
石油、天然ガスに比べ地域的な偏りが少なく、世界に広く賦存していること
可採年数(可採埋蔵量/年産量)が 118 年(BP 統計 2011 年版)と石油等のエ
ネルギーより長いこと
図 2.3 に、世界の石炭消費の推移を示しました。
世界の石炭消費量
図 3.1 主要国の石炭消費量の推移
図 3.1 は、世界の石炭消費の推移を示した図ですが、2010 年には、中国が世界の石
炭消費量の約半分を占め、さらに増加する傾向を示しています。二位はアメリカですが、
13%で増加の傾向はうかがえません。三位はインドで 10%前後ですがさらに増加の傾向
が見られます。
日本は、数%で減少の傾向です。しかし、本図では示されていませんが、2011 年以降
は停止している原子力発電所の補強のために逆に増加しています。
3.2 再生可能エネルギー(太陽光・風力・地熱等)
9
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再生可能エネルギーの話の前に、まず、天然ガスの需要の推移を見てみましょう。
[着実に増加する天然ガスの世界需要]
着実に増加する天然ガスの世界需要]
図 3.2 に主要国の天然ガス需要の推移を示します。
図 3.2 主要国の天然ガス需要の推移
世界の天然ガスの需要は着実に上昇していますが、過去、最大の消費国である米国
及び FSU(Former Soviet Union: CIS)の需要はほゞ横ばいで、EU 及び OECD 諸国の増
加が顕著です。日本は漸増です。
ところが、天然ガス(LNG)の価格は、価格決定方式や調達状況の差に左右されるて
います。
天然ガス価格の推移を次図 3.3 に示します。
2008 年まで各国ともに上昇していましたが 2008 年ピークを境にリーマンショック
により急落後、上昇に転じますが上昇の傾向に顕著な国別の差がみられるようになりま
した。
最も価格上昇が少ないのが米国で、2011 年時点で 5.5$/MBTU(*)に過ぎず、この時
日本は 14$/MBTU を超えています。
10
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*MBTU:million British Thermal Unit(百万英国熱量単位)
図 3.3 世界の再生可能エネルギーの推移
[再生可能エネルギー(太陽光・風力・地熱等)]
再生可能エネルギー(太陽光・風力・地熱等)]
原発、LNG の状況を把握したところで再生可能エネルギーに話を移しましょう。
まずは、世界のエネルギーの種類別の利用割合の過去(実績)と未来(予想)の図
を下図 3.4 に示します。
11
12
図 3.4 主要国のエネルギー消費の見通しと化石燃料の需要の見通し
2007 年の実績と 2015 年の見通しとの間に分布割合の大きな変化はなく、石油が 30%
強、石炭が 30%弱、天然ガスが 20%前後、原子力が 6%で再生可能エネルギーがわずかに
1%で水力の 2%と良い勝負ですが、上図は震災前の 2009 年にまとめられたデータによる
ものです。
各国の 2010 年の再生可能エネルギー導入割合(日本は 2012 年)のデータをまとめ
た図を次に示します。
12
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図 3.5 主要国の再生可能エネルギーの種類別割合
図 3.6 に日本の 2012 年までの再生可能エネルギーの推移を示します。
13
14
図 3.6 に日本の 2012 年までの再生可能エネルギーの推移
上図でわかるように 2012 年現在の再生可能エネルギーは 1.6%で震災前の 1%よりは
増加していますが、それでも、全エネルギーに占める割合は 2%以下です。
1.6%の中の割合は、バイオマス、風力、太陽光がそれぞれ 1/3 ずつを分け合い、残
りを地熱と言う様子です。
4.
アメリカで起きたシェール・ガス
アメリカで起きたシェール・ガス革命
シェール・ガス革命
アメリカで革命とまで称された「シェール・ガス革命」がエネルギー界の革命児となりうるか
見てみましょう。
アメリカは、2008 年まで国内生産、ガスパイプラインによるカナダ・メキシコからの
輸入、LNGによる輸入でエネルギーを調達していました。一方、アメリカのシェール・
ガス開発の芽は 1980 年代後半から始まっており、政府の助成も行われていました(助成対
策:1992 年に終了)。
2009 年に入って、シェール・ガスなど非在来型天然ガスの増産で世界最大の生産国に
転じました。
14
15
すなわち、世界最大の天然ガス需要国のアメリカの生産量が世界最大となり輸出国
に転じました。「シェール・ガス革命」と呼ばれる所以です。
そのきっかけは、それまでコツコツ地道に進められていたシェール・ガス開発技術
に下記の 3 つの革新的な進展があったことです。
水平掘削技術の開発
フラクチャリング技術の開発
探鉱・探査技術の向上(マイクロサイスミック探査技術の開発)
さらには、波及効果として、経済性の向上により非在来型天然ガスの増産が進みま
した。また、並行してエネルギー資源価格の高騰が後押しをする形となりました。
一方、シェール・ガスの増産によって天然ガスの需給構造および価格が劇的に変化
しました。
◦
◦
天然ガスの自給率が向上→純輸出国への転換
アメリカ国内の天然ガス取引価格が海外市況や原油に対して著しく低下
2009 年から天然ガスの国内取引価格(Henry hub price)が急落
つまり、2012 年のアメリカの国内価格は$3/MBTU、欧州の約 3 分の 1、東アジアの約
5 分の 1 となりました。
4.1
シェール・ガスとは
シェール・ガスとは
(1) シェール・ガスとは、非在来型天然ガス
シェール・ガスとは、非在来型天然ガス
- 泥岩(シルト)
シェール・ガスとは、泥岩(シル
ト)に含まれる天然ガスのことで、
泥岩の一種である頁岩(シェール)
の層から採取される天然ガスのこ
とを言います。
右の写真は、シルトと呼ばれる泥
岩で粘土質の緻密な粒子で構成さ
れる構造をしています。
図 4.1 泥岩(シルト)
15
16
- シェール(頁岩:shale)
一方、頁岩(けつがん)もシルト岩
質(泥岩)ですが、特に細孔を持
ち剥離性を示すものを頁岩と呼ん
で区別しています。頁岩には特に
多く含まれる含有物質によって、
珪質(けいしつ)頁岩、炭質頁岩、
黒色頁岩、アルミナに富む礬土(ば
んど)頁岩、石油炭化水素を含むオ
イル・シェール(油母頁岩)など
図 4.2 頁岩(シェール)
があります。
16
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(2) シェール・ガスの生い立ち
[地層の歴史]
地層の歴史]
古生代中期の地質時代、シルル紀と石炭紀の間の時代で、今から 4 億 8,000
万年前~ 3 億 6,000 万年前のデボン紀に形成された地層をデボン系
(Devonian system)といいます。
デボン紀には海域において魚類が大発展し、デボン紀は「魚類時代」とも呼ば
れています。
また、デボン系を産油・ガス層とする大きな油・ガス田が、ソ連西部、米国東
部、カナダ、ボリビアなどで発見されています。
シェール・ガスはこのデボン紀に形成されたと考えられています。
なお、日本の地質は新生代のためシェール・ガスの可能性はないと言えます。
シェール・ガス、
シェール・オイル生成
オイル生成
図 4.3 地層の歴史とシェール・ガス
地層の歴史とシェール・ガスの生い立ち
シェール・ガスの生い立ち
17
18
(3) シェール・ガス、シェール
シェール・ガス、シェール・オイル
シェール・オイルとは、
・オイルとは、
[シェール・ガスは非在来型天然ガス資源
シェール・ガスは非在来型天然ガス資源]
は非在来型天然ガス資源]
<在来型ガス>
在来型ガス>
通常の油田・ガス田以外から生産される天然ガスを在来型ガスとします。
すでに一部では商業生産が行われているもの(タイトサンド・ガス、炭層メタ
ン、バイオマス・ガス、シェール・ガス)および今後商業生産が期待されるも
の(メタンハイドレート、地球深層ガスなど)を含みます。従来から石油産業
にある技術では採掘できないものも多く、今後の技術開発に負うところが大き
いものも含みます。
<非在来型ガス>
非在来型ガス>
シェール・ガスは頁岩(シェール)層から採取され、従来のガス田ではない場
シェール・ガス
所から生産されることから、非在来型天然ガス資源と呼ばれています。
浸透率が1md(ミリダルシー:石油業界で多用される岩石中での流体の流動速
度を示し、浸透率ともいわれ、数値が大きいほど流動しやすいことを示します)
より低く、そのため生産性が低く、また、一般に地層深度が深いため、掘削費
用がかさむなどに理由より、従来商業生産が進まなかったことから、タイト・
サンド・ガスと呼ばれ非在来型とされていました。
シェール・ガスを含む頁岩層 (Gas-rich shale) に水平にパイプを入れ、高水
圧で人工的に割れ目をつくり、ガスを採取します。
[シェール・ガスと従来型ガス(液化天然ガス:
シェール・ガスと従来型ガス(液化天然ガス:LNG
等)との違い]
と従来型ガス(液化天然ガス:LNG 等)との違い]
シェール・ガスと従来型ガスとの最も大きな違いは、従来型ガスが自噴するの
に反しシェール・ガスは自噴しないので汲みださなければならないと言うこと
です。
在来型との違いは、貯留層が砂岩でなく、泥岩(頁岩)である点です。
泥岩の中で、特に、固く、薄片状に剥がれやすい性質をもつシェール(頁岩)
に含まれることから、シェール・ガスと呼ばれます。
商業的生産は、米国でのみ行われており、1970 年代末、東部のアパラチア山脈
などに主として分布する古生代デボン紀の頁岩、デボニアンシェールから始ま
りました。
通常の泥岩は、石油、天然ガスの根源物質であるケロジェンを含む根源岩となり
ますが、頁岩は隙間(孔隙率)も浸透率も低いため、貯留岩とはなりません。し
かし、デボニアンシェールは、非常に厚い泥岩層であり、長い地質時代を通じて
地下深くで圧密作用を受け、微細な割れ目、フラクチャーを生じました。その結
果、ある程度貯留岩としての性状を持つようになりましたが、その孔隙率は 4%
以下、浸透率も 0.001~0.002md(ミリダルシー)と低く、シェール・ガスの生産
性はあまり高くはありません。
18
19
しかし、米国においては、タイトサンドガス他の非在来型ガスと同様、シェール・
ガスも 1980 年代から税制優遇(1 ドル/mcf)を受けることで、生産量が増大しま
した。優遇策が撤廃された 1992 年以降も生産は継続し、1985 年の 0.13 から、1995
年の 0.28、2005 年の 0.83tcf(兆立方フィート)へと増大しています。主生産地
域も、米国東部地域から、中部イリノイ、南部テキサス、西部ニューメキシコ地
域へと拡大移行していました。
天然ガス採掘及びシェール・ガス採掘の概念を図 4.4 に示します。
自
汲
噴
み
上
シェール層及び
げ
シェール・ガス
シェール・ガス、
ガス、
天然ガス
シェール・オイル
連続掘削
連続掘削
図 4.4 天然ガス採掘及びシェール・ガス採掘の概念図
従来型ガスは、背斜構造に溜まったガスだまりに到達するまでまっすぐにボーリン
グして、到達後はガスが自噴するのを待てばよい。一方、シェール・ガスは、ガス貯留
のシェール層にボーリングが到達したら、シェール層の割れ目にあるガスをくみ上げや
すいように高圧水でシェール層の割れ目を破断し(フラクチャアリング)
、組み上げ範
囲にガスがなくなるとシェール層に沿ってさらにボーリングを進める作業(水平掘削)
を繰り返して行きます。すなわち、自噴するかしないかで、採掘費用に大きな差が発生
します。
[新技術開発による新エネルギー]
新技術開発による新エネルギー]
19
20
長期契約に基づき生産地から消費地に着実に運ばれていく天然ガスは、石油に
比べると相対的に注目されることの少ないエネルギー商品でした。ところが、
そんな静かな市場に大きなインパクトを与えたのが、2000 年代後半から急激に
生産量が増加してきたシェール・ガスです。
シェール・ガスは、従来のガス田ではない頁岩(シェール)層に蓄えられた天然
ガスで、アメリカではオイルショック直後から利用が検討されてきました。し
かし、在来型のガス田のようにガス井を掘るだけで回収できるわけではないた
め、効率的な採掘方法がなく、参入した企業はほとんどが撤退してしまったほ
どです。
そんな中、唯一ミッチェルエナジーという会社だけがこつこつと開発を続け、
ついに有効なシェール・ガスの採掘方法を完成させました。これは、地中で横
向きに坑井を掘って広範囲に回収する「水平掘削」と、水圧でシェール層に人
工的なフラクチャー(割れ目)を生じさせて天然ガスを効率的に回収する「水圧
破砕(フラクチャリング)」の 2 つの技術によるもので、これにより商業的にも
シェール・ガスの採掘が可能になったのです。
また、フラクチャーを形成する時に発生する地震波を解析してその広がりを評
価する「マイクロサイスミック」という観測技術もガスの回収率向上に大きく
貢献しています。
[シェール・オイル]
シェール・オイル]
シェール・オイルとはシェール(頁岩)層に含まれる石油の一種です。石油のもとと
なるケロジェン(石油のもとなので“油母”と呼ばれます)を主体とする油性液体がシ
ェール中に浸透して存在する場合をシェール・オイルと呼び、シェール・オイルを含む
頁岩(シェール)を油母頁岩(あるいは、石油のもとを含む岩石なので“石油根源岩”)
と呼びます。
ケロジェン(油母)は、石油のもとなので重質油よりも重たく粘性が高いために、ま
た頁岩層に存在するために、存在は認められていても生産が難しく注目されませんでし
た。2000 年に採掘技術が開発されたこと、石油系資源埋蔵量の有限性の議論が活発化
したことから、シェール・オイル埋蔵量が大きいカナダ及びアメリカで生産が開始され
たこと及び原発事故によるエネルギー・バランスが崩れだしたことからシェール・ガス
とともに脚光を浴びるようになりました。
シェール・オイル採掘の場合は、シェール・オイルがシェール(頁岩)層に含まれる
こと及び流動性が低いことからシェール・ガスと同様シェール(頁岩)層を追い横方向
にフラクチャリングを行いながら掘削長を伸ばしてゆく必要があります。
ちなみに、石油はケロジェンが地中熱で分解されて生成されるもので、熱分解の程度
により炭素数が多い重い炭化水素(重質油)や炭素数が少ない軽い炭化水素(軽質油)
に分かれ生産地域によって組成が違います。
(4) 世界のシェール・ガス
世界のシェール・ガスの分布、
シェール・ガスの分布、
20
21
図 4.5 は、JOGMEC(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)作成のシェー
ル・ガス層の分布図です。
現時点でシェール・ガスの回収可能埋蔵量が最大なのは中国(西部ウルムチ地方)
で、次いでアメリカ、そして南米中央部及び南アフリカと推定されています。
図 4.5 シェール・ガス層の分布図(2011 年 4 月時点の主な国の技術的に回収可能な資源埋蔵量)
月時点の主な国の技術的に回収可能な資源埋蔵量)
出典:EIA
出典:EIA データより JOGMEC 作成
JOGMRC が参考とした元データ(米 EIA)を見ると、ロシア、アフリカ中部、グリー
ンランド等のデボン紀地質の地域(灰色表示の部分)が未評価(データ不足で評価しな
かった)であり、これらの地域のほとんどの部分が地層歴史の古い大陸なので評価が進
むと可能性は無限にあると言えます。
21
22
図 4.6 は、シェール・ガス賦存堆積盆地に関する調査資料を EIA が評価し、賦存地
域を赤、可能性のある地域を黄色、評価できなかった地域を灰色で示しています。
出典: 米国 EIA
図 4.6 シェール・ガス賦存堆積盆地に関する賦存地域
シェール・ガス賦存堆積盆地に関する賦存地域
米国の天然ガス供給割合を次図 5.7 に示します。
図 4.7 アメリカの種類別天然ガス供給率の推移
22
23
2010 年までは実績でその後は予測となっていますが、本章冒頭で述べましたように
2008 年までカナダやメキシコからガス・パイプラインを通したり、LNG 船で天然ガスを
輸入していたのが、2009 年にシェール・ガスを含む非在来型天然ガスの増産で供給量
が急拡大しました。
以上の成行きから、アメリカでは 2005 年にはわずか数%であったエネルギー依存率
が 2010 年に 23%となり、2035 年には半分近くに拡大する予測を立てています。
(5) シェール・ガスの長所と短所
シェール・ガスの長所と短所
革命とまで期待されているシェール・ガスの長所と短所について見ましょう。
[長所]
長所]
偏在せず世界に分布
250 年以上の消費を賄える埋蔵量(未評価の広大な地域があり、可能性は膨大
である)
天然ガス・原油価格の低下に貢献
[短所]
短所]
組み上げのために常にボーリング掘削及び高圧水によるシェール層の破砕(フ
ラジュチャリング)が必要である。
LNG 化のための膨大な設備投資が必要。
長距離運搬に不利。
- LNG 運搬船、
- 長大なパイプライン
利用する側にも受入基地が必要
配給設備が必要
流通には多額の初期投資が必要
環境への影響が大きい
スポット商品が少ない
化学産業あるいは石油産業への影響大(石油ではなくメタン プラスチックな
どの化学品が取れない) 大打撃?
シェール・ガスの主成分はメタンです。油成分がない(不純分程度の混入油分は
存在すると考えられます)ため私たちの周りにふんだんにある従来の石油化学製品
(薬品、化粧品、食品等の原材料)は作れません。もちろん、メタンの化学組成は
CH4 で炭素と水素の化合物なので、技術的には反応させて化学製品が作れるでしょう
が詳細な研究、複雑な工程と膨大な費用が掛かり経済的には不可能と言えるでしょ
う。
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と言うことから、特徴として「エネルギーの
エネルギーの地産地消
エネルギーの地産地消として
地産地消として有利
として有利」と言えるでしょ
有利
う。
なお、シェール・オイルは油分なのでシェール・ガスのメタンとは異なり化学工業
への利用は考えられますが、前述のように、従来型の石油や天然ガスのように自噴しな
いために、シェール層をフラクチャリングしながら汲み上げる必要があるのはシェー
ル・ガスと同じです。掘削費等のほかにガスより重たく粘性が高い液体をくみ上げるた
めの汲み上げ費用がシェール・ガス以上に余計にかかります。
したがって、当面はあまり期待が持てないと言えるでしょう。
(6) シェール・ガス採掘費と価格
シェール・ガス採掘費と価格
シェール・ガスの採掘には莫大な初期投資が必要と言われています。
それでも、実際に採掘に至れば豊富なガスが採取できるため当初は大きな利益
が期待できると思われていました。
しかし、ここ数年のシェール・ガスブームによりシェール・ガス生産量が増加
するにつれて価格低下を招き、収益が悪化、破産に至る企業も出てきたため、
シェール・ガスの経済性・採算性については疑問の声も出始めています。
掘削費:200
掘削費:200 万$/1,000m?(曲げ及び破砕は別?)(日本の場合
$/1,000m?(曲げ及び破砕は別?)(日本の場合 1 億円(陸上)
~数十億円(海上)/1,000m
~数十億円(海上)/1,000m)
/1,000m)
価格:米国内 5$/MBTU 3$/MBTU?(日本は
3$/MBTU?(日本は 14~
14~18$/2012 で購入)
5.日本の資源エネルギー戦略
5.日本の資源エネルギー戦略
日本の資源エネルギー戦略は、「シェール・ガス革命」の開発規模と速度はこれま
での常識を超えて進んでいるとして、非在来型の登場で大きく変化したエネルギーを取
り巻く外界環境を最大限に活用し、基本戦略を早急に策定して外交に反映させる。非在
来型エネルギーの開発は、日本のエネルギー安全保障の強化に千載一遇の機会を提供し
ており、在来の省庁間の壁を超越し中長期的な基本政策の策定を可能にする機能の構築
が望まれる。(資源・エネルギー戦略調査会・日本国際問題研究所)としています。
エネルギー源の 9 割以上を海外に頼る日本としては、省エネ、再生可能エネルギー
の開発など自給・自足割合の拡大を行いながら、並行して、外交戦略的にいかに安く輸
入するか工夫するいわゆる技術開発面と法規制・制度の見直し及びしぶとい外交など分
野を横断した戦略を進める必要があります。
次の 5 項目に集約できると考えられます。
中東一辺倒の化石燃料利用からの脱却、
原子力代替エネルギー、再生可能エネルギー
メタンハイドレート、
シェール・ガス利用による石油及び LNG 価格対策
上記を円滑に進めるための国際協調
電力の相互補完を可能とするシステムの開発(含む法制度)
[日本の新エネルギー資源戦略
日本の新エネルギー資源戦略]
日本の新エネルギー資源戦略
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経済産業省では、新エネルギー戦略をまとめ公開しています。その項目を下記に示
します。
1-1.省エネルギー推進(30%以上)
1-2.石油依存度低減(40%以下)
1-3.原子力推進(30~40%以上)
1-4.強い企業形成促進
1-5.技術戦略
2-1.石油・天然ガス安定供給確保
→ 権益確保目標(40%)
2-2.アジア・エネルギー協力
2-3.国際貢献等を通じた外交力強化
3.緊急時対応の強化
•
•
•
•
•
備蓄の機動的放出、製品備蓄導入
企業・業種横断的な緊急時シナリオの作成
産油・産ガス国との多面的な関係強化
エネルギー分野以外も含めた相互交流・協力の強化等
アジア諸国との関係強化
以上は、経済産業省のホームページに詳細が公開されています(下記)。
1.
2.
3.
4.
新・国家エネルギー戦略について(PDF 形式:27KB)
新・国家エネルギー戦略の骨子(PDF 形式:624KB)
新・国家エネルギー戦略(PDF 形式:1,868KB)
新・国家エネルギー戦略要約版(PDF 形式:1,485KB)
[中東一辺倒の化石燃料利用からの脱却]
中東一辺倒の化石燃料利用からの脱却]
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1.
まとめ
[シェール革命の日本への影響]
シェール革命の日本への影響]
すでに始まっているアメリカのシェール・ガス
すでに始まっているアメリカのシェール・ガス革命の影響
シェール・ガス革命の影響
◦ アメリカの輸入契約がキャンセルされたカタールからの LNG を日本が獲
得でき輸入の拡大につながった。
LNG 調達先の多様化
◦ 大阪ガスと中部電力がフリーポート LNG プロジェクトに参画、両社は総
需要の 20%程度を同プロジェクトからの輸入でまかなう方針と発表
20%程度を同プロジェクトからの輸入でまかなう方針と発表
◦ 東京電力がシェール・ガス
東京電力がシェール・ガス由来の
シェール・ガス由来の LNG 輸入拡大計画を公表
調達価格がどの程度下がるかは未知数
◦ LNG 調達コストが大幅に下がる可能性は小さい
◦ 輸入コストの試算
天然ガスの国内の取引価格
関連設備の固定費(タンク・液化設備等の減価償却費、メンテナ
ンス費用、金利など)$2
ンス費用、金利など)$2~
$2~3/MBTU
エネルギーコスト:天然ガス価格の 10 数%程度
LNG タンカーのフレート:西海岸から調達した場合で$2
タンカーのフレート:西海岸から調達した場合で$2~
$2~3 程度
/MBTU
輸出等に関わる事業者のマージン
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日本企業が海外の開発プロジェクトに参画して権益を確保していくなど、攻め
の姿勢が必要
環境への費用をどのように扱うか(LCA
環境への費用をどのように扱うか(LCA)が問題点(より費用拡大の可能性)
LCA)が問題点(より費用拡大の可能性)
◦ 大気汚染(メタンガス)
◦ 水質汚濁(化学薬品:増粘・潤滑剤、界面活性剤、防食剤、殺菌剤、pH
水質汚濁(化学薬品:増粘・潤滑剤、界面活性剤、防食剤、殺菌剤、pH
調整剤)
シェール革命の恩恵にあずかる産業
シェール・ガス開発
シェール・ガス開発
開発技術サービス
パイプライン運営
LNG プロジェクト
関連設備・機器・システム・資機材メーカー
仲介事業
シェール革命の影響を受ける
シェール革命の影響を受ける産業
影響を受ける産業
石油精製業
化学プラント
化学品製造業(農薬・薬品、化粧品、食糧原料・保存用品、合成樹脂
[PET、
[PET、PP 等]製造業等)
梱包・包装製品・断熱材
梱包・包装製品・断熱材製造業
・断熱材製造業
衣料品製造業
その他石油製品関連産業
つまり、シェール・ガス
つまり、シェール・ガス革命はアメリカ国内に限って
シェール・ガス革命はアメリカ国内に限ってエネルギーについて
革命はアメリカ国内に限ってエネルギーについて言えるこ
エネルギーについて言えるこ
とで、しかも短期間の現象に終わると考えられます(いずれは沈静化すると考えられま
す)。
[エネルギーについて]
エネルギーについて]
日本として期待できることは、シェール・ガス
日本として期待できることは、シェール・ガス開発の影響で従来の石油、天然ガス
シェール・ガス開発の影響で従来の石油、天然ガス
の輸入価格が下がることでしょう。
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なお、冒頭で述べましたように、日本のエネルギーの構成は、原発が停止し再開が
困難なために、化石燃料のウエイトが 80%にまで上昇しています。
80%にまで上昇しています。
一方、期待されている新エネルギーは 2012 年度でようやく 2%、地熱を含めても
2%、地熱を含めても 4%
に満ちません。これからのますますの研究開発が期待されるところです。
一方の期待の星であるメタン・ハイドレードですが、主成分がシェール・ガス
一方の期待の星であるメタン・ハイドレードですが、主成分がシェール・ガスと同
シェール・ガスと同
じメタンであること。しかも、その含有割合は 20%そこそこ(残りは水です)でしかも
20%そこそこ(残りは水です)でしかも
数千 m の海底から効率よく採掘回収する技術、
の海底から効率よく採掘回収する技術、効率よくガス化する技術の開発が必要で
効率よくガス化する技術の開発が必要で
す。まだまだ、解決しなければならない課題がたくさん横たわっています。
したがって、現在、我々にできることはやはり省エネです。
がんばりましょう。!
がんばりましょう。!
-急速に進歩する科学が私たちの幸せにどの程度寄与しているでしょうか?-
急速に進歩する科学が私たちの幸せにどの程度寄与しているでしょうか?-
次いで、第 14 回では、私たちの命に係わる「水資源」についてつぶやきます。そして、第 15 回では、
生命の存続にかかわる「⾷料」について主として⾷料と水との関係、バイオマスなどについてつぶやきた
いと思っています。そして、第 16 回で「資源ナショナリズム」に触れたいと思います。
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