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を巡る消費者政策・消費 者法の概要と最新の動向

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を巡る消費者政策・消費 者法の概要と最新の動向
不動産証券化取引(特に不動産賃
貸取引)を巡る消費者政策・消費
者法の概要と最新の動向(下)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士
森 大樹
前回は不動産取引に固有の消費者法に関する諸制度や、業種横断的に適用される消費者
法に関する諸制度のうち、消費者基本法の概要、集団的消費者被害救済制度の検討状況、
消費者契約法の適用範囲や消費者団体訴訟制度について、簡単に紹介した。本稿では、消
費者契約法のうち、取消しや無効という民事上の効果を導く実体法上の規定について、裁
判例等を踏まえながら紹介する。
第 3 業種横断的に適用される消費者法に関する諸制度
4 消費者契約法
(3)不当な勧誘による取消し(消費者契約法 4 条)
不当な勧誘による取消しとは、民法上の詐欺や強迫(民法 96 条 1 項)に至らずとも、事
業者により一定の不当な勧誘行為が行われた場合には、消費者が契約の申込みや承諾の意
思表示を取り消すことができるというものである(消費者契約法 4 条)。具体的には、事業
者による不当な勧誘行為として、以下の行為類型が定められている。
・消費者を誤認させる不当な勧誘
①不実告知(消費者契約法4条1項1号)
④不退去(同条3項1号)
②断定的判断の提供(同項2号)
⑤監禁(同項2号)
③不利益事実の不告知(同条2項)
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・消費者を困惑させる不当な勧誘
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不動産賃貸借契約に関する勧誘の場面で、これらの規定が適用されることは必ずしも多
くないと思われる。数少ない賃貸不動産に関する裁判例としては、事業者が国土交通省住
宅局が定める「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に沿った内容であると説明し
ながら、清掃費用負担特約や鍵費用負担特約が同ガイドラインが定めた内容より賃借人た
る消費者に不利益な内容であったとして、不利益事実の不告知が問題となったものがある
(東京地判平成 21 年 9 月 18 日公刊物未登載)が、同判決は事実認定において消費者の主張
を排斥している。むしろ、裁判例を見る限り、訴訟にまで至るのは、眺望に関する不実告
知や不利益事実の不告知(福岡地判平成 18 年 2 月 2 日判例タイムズ 1224 号 255 頁、東京地
判平成 18 年 8 月 30 日公刊物未登載)、ローン特約に関する不実告知(東京地判平成 17 年 8
月 25 日公刊物未登載)のように不動産売買契約に関する事案が多いものと思われる。
(4)不当な契約条項の無効(消費者契約法 8 条~ 10 条)
ア 無効となる契約条項の類型
不当な契約条項が無効となる場合として、次の類型が定められている。
①事業者の免責条項(消費者契約法 8 条)
(ⅰ)事業者の債務不履行責任の全部免責条項(同条 1 項 1 号)
(ⅱ)事業者の故意・重過失による債務不履行の一部免責条項(同項 2 号)
(ⅲ)事業者の不法行為責任の全部免責条項(同項 3 号)
(ⅳ)事業者の故意・重過失による不法行為責任の一部免責条項(同項 4 号)
(ⅴ)事業者の瑕疵担保責任の全部免責条項(同項 5 号)
②損害賠償額の予定・違約金条項(同法 9 条)
(ⅰ)同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的損害を超える損害
賠償額の予定・違約金条項(同条 1 号)
(ⅱ)14.6% を超える金銭債務の遅延損害金条項(同条 2 号)
③信義則に反して一方的に消費者の利益を害する条項(同法 10 条)
イ 事業者の免責条項(消費者契約法 8 条)
事業者の免責条項に関する規制に該当して無効となり得る条項としては、たとえば、①
火災により賃借人に損害が発生した場合、賃貸人の故意・過失を問わず、賃貸人は賃借人
に対して損害賠償責任を一切負わないという条項や、②賃貸人が賃貸借契約を解除したに
もかかわらず賃借人が明け渡さない場合には、賃貸人が無断で賃借物件内に立ち入り、残
留品を処分することができ、当該立ち入り及び処分について、賃貸人は賃借人に対して損
害賠償責任を一切負わないという条項などが考えられる注 1。
ウ 損害賠償額の予定・違約金条項(消費者契約法 9 条)
(ア)明渡しの遅滞による違約金条項
同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的損害を超える損害賠償額の
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予定・違約金条項として消費者契約法 9 条により無効となるのかが問題となる契約条項と
して、賃貸借契約の終了に基づく目的物返還義務の履行遅滞を原因とする損害賠償におけ
る違約金条項がある。この点、同条の適用を否定する裁判例としては、同条が消費者契約
の「解除に伴う」損害賠償額の予定又は違約金条項に関する規定であるため、契約終了に
伴う明渡し義務の不履行に関する違約金条項には適用されないとするものがある(東京地
判平成 20 年 12 月 24 日公刊物未登載 注 2)。
他方で、同条の適用を肯定する裁判例としては、家賃滞納により賃貸借契約が解除され
た事案において、「解除に伴う」違約金を定める条項であるかということについて特段言
及することなく、不動産賃貸借契約の終了に基づく目的物返還義務の履行遅滞が生じた場
合における事業者に生ずる「平均的な損害」(同法 9 条 1 号)について検討した上で、平均
的な損害額は、原則として、従前の賃料を基準として算定される賃料相当損害金を指すも
のと解するのが相当であるとして、家賃及び共益費の合計額の 1.5 倍の損害賠償金を支払
う旨を定めた条項は、事業者の平均的損害を超える損害賠償額の予定又は違約金条項であ
るから、家賃及び共益費相当額を超える部分について無効であると判示した裁判例がある
(大阪地判平成 21 年 3 月 31 日消費者法ニュース 85 号 173 頁)。私見ではあるが、解除等に伴
い速やかに明渡しが行われない場合には、賃貸人たる事業者は、早期の明渡しを求めるべ
く内容証明郵便を作成・送付したり、場合によっては弁護士に委任して訴訟を提起しなけ
ればならず、それらに伴う費用が発生することも少なからず存在すると思われるところ、
そうであれば、事業者に生ずべき平均的な損害が、家賃及び共益費相当額を超える場合も
あり得るのではないかと考えられる。
(イ)解約予告金条項・中途解約違約金条項
解約予告金条項(解約予告に代えて違約金を支払う旨の条項)や中途解約違約金条項に
ついて、一般の居住用建物の賃貸借契約においては、解約予告期間及び予告に代えて支払
うべき違約金額の設定は 1 か月(30 日)分とする例が多く、解約後次の入居者を獲得する
までの一般的な所要期間として相当と認められること等から、解約により賃貸人が受ける
ことがある平均的な損害は賃料・共益費の 1 か月分相当額であるとして、それを超える解
約予告金・違約金条項を無効と判断した裁判例がある(東京簡判平成 21 年 2 月 20 日裁判所
ウェブサイト、東京簡判平成 21 年 8 月 7 日裁判所ウェブサイト。ただし、同一の裁判官に
よる判決)。また、賃借人が賃貸借契約を解除する場合には、解約日の 3 か月前に解約届を
提出しなければならず、これに違反した場合には、賃料と共益費の合計額の 6 か月分を賃
貸人に保証する旨の条項について、消費者契約法 9 条ではなく、同法 10 条の趣旨により無
効と判断した裁判例もある(東京簡判平成 16 年 7 月 5 日裁判所ウェブサイト)。
他方で、賃貸借期間 1 年以内の賃借人による一方的解約は賃貸人に不測の損害を与える
こと、1 か月前の予告があったとしても新たな賃借人を見つけるには 2 か月程度要するこ
とから、賃料 1 か月分相当の中途解約違約金条項は、消費者契約法 9 条 1 項及び 10 条に違
注3
反しないと判示した裁判例もある(福岡簡判平成 18 年 3 月 27 日公刊物未登載)
。
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これらの裁判例を整合的に理解するとすれば、解約予告金条項や中途解約違約金条項が
直ちに消費者契約法 9 条 1 項や次に説明する同法 10 条に抵触するものではないが、違約金
等の額が高額であった場合、特に賃料や共益費等の 1 か月分相当額を超える場合に、当該
事業者に生じる平均的損害の額を超えるものとして無効とされる可能性があるということ
になろう。ただし、不動産の所在地や築年数、市況等によっては、次の賃借人が入居する
までの期間や賃料増額・減額の見込み等が異なるものと思われるので、1 か月分の賃料等
相当額というのは一つの目安にすぎず、結局は物件・契約ごとに個別的に判断する必要が
あるだろう。
エ 信義則に反して一方的に消費者の利益を害する条項(消費者契約法 10 条)
(ア)本稿の射程範囲
消費者契約法 10 条は、不動産賃貸借取引に関連して、更新料特約、敷引特約や定額補修
分担金特約などを無効とする根拠となり得るものであって、極めて重要な意味を持つ規定
である。しかしながら、本稿執筆時点(平成 23 年 2 月 23 日)においては、それらの条項の
有効性について判断を示した最高裁判決は公表されておらず、下級審レベルでの結論が分
かれており、それらの裁判例について詳細な分析・解説が多数公表されている注 4 というの
が現状である。そこで、本稿では裁判例の考え方を網羅的に一件ずつ紹介し分析するので
はなく、裁判例の基本的な考え方や傾向を紹介するとともに、他の不動産賃貸借取引に関
連するものも含めて、消費者契約法 10 条に関連する裁判例の動向を簡単に紹介することと
する。
(イ) 消費者契約法 10 条に関する裁判例の基本的な考え方・傾向
消費者契約法 10 条は、次の 2 つの要件を満たす消費者契約の条項は無効であると定めて
いる。
(a)民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定(任意規定)が適用される場合
と比べて、消費者の権利を制限し、又は義務を加重する条項であること(以下「前
段要件」という。)
(b)民法 1 条 2 項(信義則)に反して消費者の利益を一方的に害する条項であること(以
下「後段要件」という。)
これらの要件のうち前段要件については、たとえば敷金のように民法上の明文規定が存
在しないものについても対象に含まれるのかということが問題となり得るが、多くの裁判
例は、少なくとも最上級審判例又は確立した裁判例によって承認された法理であれば任意
規定に含まれる、すなわち消費者契約法 10 条の適用対象となると解している。
また、後段要件については、「信義則」という民法の一般条項に反することが要件とさ
れているところ、そもそも何をもって信義則に反するのか必ずしも一義的に明確な基準が
存在するわけではない。この点、いかなる場合に後段要件を満たすか、すなわち信義則に
反して消費者の利益を一方的に害する条項といえるか否かということについては、消費者
と事業者との間にある情報、交渉力の格差を背景にして、事業者の利益を確保し、あるいは、
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その不利益を阻止する目的で、本来は法的に保護されるべき消費者の利益を信義則に反す
る程度にまで侵害し、事業者と消費者の利益状況に合理性のない不均衡を生じさせるよう
な不当条項である必要があると解する裁判例(大阪高判平成 21 年 10 月 29 日判例時報 2064
号 65 頁、東京地判平成 22 年 2 月 22 日公刊物未登載(平成 21 年(ワ)第 23465 号建物明渡
請求事件。以下「東京地判平成 22 年 2 月 22 日建物明渡請求事件判決」という。)、東京地判
平成 22 年 2 月 22 日公刊物未登載(平成 21 年(ワ)第 36652 号敷金返還請求事件。以下「東
京地判平成 22 年 2 月 22 日敷金返還請求事件判決」という。))や、契約当事者の情報収集力
等の格差の状況及び程度、消費者が趣旨を含めて契約条項を理解できるものであったかど
うか等の契約条項の定め方、契約条項が具体的かつ明確に説明されたかどうか等の契約に
至る経緯のほか、消費者が契約条件を検討する上で事業者と実質的に対等な機会を付与さ
れ自由にこれを検討していたかどうかなど諸般の事情を総合的に検討し、あくまでも消費
者契約法の見地から、信義則に反して消費者の利益が一方的に害されているかどうかを判
断すべきと解する裁判例(大阪高判平成 21 年 8 月 27 日判例時報 2062 号 40 頁)などが存在
する。いずれの見解に立つにせよ、「単に消費者にとって不利益というだけで、事業者の
経済的利益を図った契約条項を一切無効とするものでないことは明らか」(前掲大阪高判
平成 21 年 10 月 29 日)と考えられるものの、その基準を個別的な事案にあてはめて、信義
則に反するか否かを判断することが難しいケースも少なくないであろう。
また、消費者契約において、消費者にとって不利益な契約条項が存在する場合、それが
当初から定められていた(契約書に明記され、その旨説明を受けていた)としても、事業
者に比べて経験に乏しく情報力も劣るのが通常である一般的な消費者とすれば、契約の締
結段階において、将来的に起こり得る好ましくない事態を想定してまで契約条項の当否を
検討することは容易ではなく、具体的な場面において当該契約条項が実際に適用されるま
では、当該契約条項によって自らに生じる不利益の程度を認識することが困難であること
も少なくないのであるから、消費者にとって不利益な契約条項が無効と解すべき不当条項
であるか否かは、消費者に生じ得る具体的な不利益の程度だけでなく、当該契約条項が発
動した場合に生じる事態の予測可能性を併せ考慮して判断する必要があるというべきであ
ると判示する裁判例(前掲大阪高判平成 21 年 10 月 29 日)があることからも明らかなように、
消費者契約法の具体的な適用場面においては、同法 1 条に定める目的に規定された事業者
と消費者の構造的格差を前提として判断されることが多いことに注意する必要がある。
そして、不動産賃貸借取引については、賃借人が一時金を支払うことを義務付ける条項の
有効性が争われることが多いが、多くの裁判例では、消費者はいかなる権利・利益の対価と
してその一時金を支払っているのか(一時金の法的性質・趣旨)を検討した上で、そのよう
な一時金の性質を踏まえて、前段要件及び後段要件を充足するか否かが判断されている。
(ウ)更新料特約
a 法的性質
更新料の法的性質については、①賃貸借契約の更新によって当初の賃貸借期間よりも長
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期の賃借権になったことに基づき、賃貸借期間の長さに相応して支払われるべき賃借権設
定の対価の追加分ないし補充分である(前掲大阪高判平成 21 年 10 月 29 日)、②期間の定め
のあった建物賃貸借契約が期間の定めのない賃貸借契約になることを防ぐという意味で賃
借人としての権利を実質的に強化することに対する対価である(東京地判平成 17 年 10 月
26 日公刊物未登載)、③主として賃料の補充(前払い)としての性質を有するものである(京
都地判平成 20 年 1 月 30 日判例時報 2015 号 94 頁)、④賃借人が中途解約した場合には、次の
賃借人が見つかるまで空室となって賃料収入が入らないことの補償(賃借人からみると違
約金)として、期間が満了した場合には賃料として扱われることになる(京都地判平成 22
年 10 月 29 日判例タイムズ 1334 号 100 頁)などと、対価性のある給付であることを認める
裁判例が幾つか存在する。
他方で、①賃貸人側が、更新拒絶権放棄の対価、賃借権強化の対価、賃料の補充、中途
解約権の対価などの性質を有することを主張しても、それらのいずれの性質も有するもの
ではなく、法律的には容易に説明することが困難である対価性の乏しい給付である(大阪
高判平成 22 年 2 月 24 日消費者法ニュース 84 号 233 頁、前掲大阪高判平成 21 年 8 月 27 日、
京都地判平成 21 年 7 月 23 日判例時報 2051 号 119 頁)とか、②極めて対価性の乏しい趣旨不
明瞭な部分の大きいものであって、一種の贈与的な性格を有する(京都地判平成 21 年 9 月
25 日平成 20 年(ワ)第 558 号事件判例時報 2066 号 81 頁、京都地判平成 21 年 9 月 25 日平成
20 年(ワ)第 947 号・第 1287 号・第 1285 号事件判例時報 2066 号 81 頁)などと、対価性を
否定する裁判例も多数あり、その見解は分かれている。対価性を否定する裁判例の中には、
更新料があるために月額賃料が低く設定されているという賃貸人側の主張について、その
ような事実を認めるに足りる的確な証拠がないとして、排斥する裁判例もある(前掲大阪
高判平成 22 年 2 月 24 日)。
b 前段要件
筆者が確認した限りでは、理由付けはそれぞれ異なるものの、前段要件を具備しないと
いう理由で、更新料特約について消費者契約法 10 条の適用を否定した裁判例は見当たらな
かった。
c 後段要件
更新料特約の有効性を認めた裁判例においては、①更新料の額が更新後の賃料の 1 か月
分、総賃料額の 4% にすぎず、有効性を認めたとしても、名目上の賃料を低く見せかけ、
情報及び交渉力に乏しい賃借人を誘引するかのような効果が生じるとは認められないこ
と(前掲東京地判平成 22 年 2 月 22 日建物明渡請求事件判決)、②更新料の支払いによって
賃貸人は解約申入拒絶権を有することになるが、その 2 年間の権利に比べて賃料 1 か月分
という更新料は過大な負担とはいえないこと(東京地判平成21年11月13日公刊物未登載)、
③契約期間 1 年で月額賃料の約 2.2 か月分の更新料は過大なものとはいえないし、その内
容は明確である上に、契約締結にあたり、仲介業者から更新料条項の存在及び金額につ
いて説明を受けているので賃借人に不測の損害・不利益をもたらすものではないこと(前
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掲京都地判平成 20 年 1 月 30 日)、④更新料は礼金よりも金額的に相当程度抑えられており、
更新料が存在しなかったとすれば月額賃料は当初から高くなっていた可能性があること
(前掲大阪高判平成 21 年 10 月 29 日)などが、後段要件に該当しない根拠として挙げられ
ている。
他方で、更新料特約を無効とした裁判例においては、①更新料の支払いがかなり大きな
経済的負担を生じさせるものであるのに、その金銭的対価に見合う合理的根拠は見出せな
いこと、むしろ一見低い月額賃料額を明示して賃借人を誘引する効果があること、情報収
集力に大きな格差があったのに、更新料特約は、客観的には情報収集力の乏しい消費者か
ら借地借家法の強行規定の存在から目を逸らせる役割を果たしており、消費者は実質的に
対等・自由に取引条件を検討できないまま契約を締結していること(前掲大阪高判平成 21
年 8 月 27 日)、②たとえ 1 か月でも継続して借りようとする以上、全額を支払わなければな
らないものであり、交渉する余地がほとんどないこと、2 年間という契約期間に対して月
額賃料の 2 か月分も支払うものであること、正当事由(借地借家法 29 条)の有無に関係な
く支払わなければならないこと(前掲京都地判平成 21 年 7 月 23 日)、③更新料条項は、賃
貸人と賃借人との間の情報の質及び交渉力の格差を背景に、その性質について賃借人が一
種の誤認状態に置かれた状況で、賃借人に重大な不利益を与え、一方で、賃貸人には何ら
の不利益も与えていないものであること(前掲京都地判平成 21 年 9 月 25 日平成 20 年(ワ)
第 558 号事件、前掲京都地判平成 21 年 9 月 25 日平成 20 年(ワ)第 947 号・第 1287 号・第
1285 号事件)、④対価性を認めるのが困難であり、更新料額も決して安価なものとは言い
難く、中途解約時の精算が否定されている上に、交渉の余地があったと認められる事情が
ないこと(京都地判平成 21 年 9 月 25 日平成 20 年(ワ)第 1286 号事件裁判所ウェブサイト)
などが、後段要件を充足する根拠として指摘されている。
これらの裁判例の内容から、更新料特約の有効性を判断するにあたって、更新料の額が
大きな影響を与えていることが分かる。ただし、賃料と比較してどの程度の額であれば、
過大と評価されないのか、その明確な基準は示されていない。
(エ)敷引特約
a 法的性質
敷引特約の法的性質については、賃貸事業者側の①自然損耗料、②リフォーム費用、③
空室損料、④賃貸借契約成立の謝礼、⑤当初賃貸借期間の前払賃料、⑥中途解約権の対価
という主張をいずれも排斥して、法律上の性質は明確でないと認定した裁判例(前掲京都
地判平成 21 年 7 月 23 日)や、それらのような様々な要素を有するものが渾然一体となった
ものととらえるのが相当である(神戸地判平成 17 年 7 月 14 日判例時報 1901 号 87 頁、大阪
地判平成 19 年 3 月 30 日判例タイムズ 1273 号 221 頁注 5)と判示する裁判例がある。
b 前段要件
筆者が確認した限りでは、更新料特約と同様に、理由付けは様々なものがあるが、前段
要件を具備しないという理由で、敷引特約について消費者契約法 10 条の適用を否定した裁
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判例は見当たらなかった。
c 後段要件
敷引特約の性質について、合理的な根拠をもたないと評価しながらも、敷引特約が重
要事項説明書等に明記されており、契約終了時に敷金 1 か月分が当然に差し引かれるこ
とは、消費者である賃借人において容易に理解できたと認められること、他の賃貸物
件の契約条件と比較して、敷引特約を含む契約を締結すべきか否かを十分に検討でき
たはずであること、1 年更新であるのに対して敷引額は賃料 1 か月分であって、負担額
がそれほど大きくないことを認定した上で、当該敷引特約をもって直ちに賃借人の利
益を信義則に反する程度にまで侵害したとみることはできないとして、当該敷引特約
は後段要件に該当しないと判示した裁判例がある(前掲東京地判平成 22 年 2 月 22 日敷
金返還請求事件判決)。
他方で、後段要件に該当するとして敷引特約を無効と判断した裁判例は多い。たとえば、
① 4 月から入居しようとする場合、賃借希望者が多数存在し、競争原理が強く働く結果、
賃借人が敷引特約について交渉する余地はほとんどないこと、敷引金は保証金の約 85%・
月額賃料の約 5 か月分にも相当するものであり、賃借人にとって大きな負担となることを
指摘した上で、敷引金の趣旨は不明瞭であり、敷引金を賃借人に負担させるには、その
旨が具体的かつ明確に説明され、賃借人がその内容を認識した上で合意されることが必
要であり、そうでない以上、信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものという
べきであるとして無効であると判示した裁判例(前掲京都地判平成 21 年 7 月 23 日)のほ
かにも、②敷引率が約 85%、月額賃料の約 4.2 か月分にのぼることを考慮すれば賃借人の
敷引特約に対する理解・認識について検討するまでもなく、当該特約は合理性を欠くと
いえること(京都地判平成 18 年 11 月 8 日裁判所ウェブサイト)や、③賃借人に敷引金を
負担させることに正当な理由を見いだすことはできないし、賃借人の交渉努力によって
敷引特約を排除することは困難であり、賃貸事業者が消費者である賃借人に敷引特約を
一方的に押しつけている状況にあるといっても過言でないこと(神戸地判平成 17 年 7 月
14 日判例時報 1901 号 87 頁。同旨前掲大阪地判平成 19 年 3 月 30 日)、④自然損耗について
の必要経費を賃料に算入しないで低額に抑え、敷引金に含ませることを合意したことを
認めるに足りる証拠はない上に、賃借人が交渉により敷引特約を排除することが困難で
あって、かつ、敷引率が 85% を超えるという賃借人に大きな負担を課するものであるこ
と(京都地判平成 19 年 4 月 20 日裁判所ウェブサイト)などを根拠に、後段要件の該当性
を肯定した裁判例がある。
これらの裁判例の内容からすれば、敷引特約の有効性については、金額だけでなく、賃
借人に対して適切な説明を行うこと(情報の質及び量の格差の是正)及び消費者にとって
他の選択肢が十分に確保された状況にあったかということ(交渉力の格差の是正)、すな
わち、消費者契約法や消費者基本法の目的規定に規定されている事業者と消費者の構造的
格差が是正されているか否かが重要な要素として判断されていることが分かる。
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(オ)定額補修分担金特約
a 前段要件
定額補修分担金特約とは、賃貸借契約締結の際に、賃借人が賃貸借開始時の新装状態へ
の回復費用としてあらかじめ決まった額を負担することとし、仮に、当該回復費用が当該
分担金額よりも少なくてもその返還を求めることができず、賃貸人は故意・重過失による
損耗を除いて、明渡し時に分担金以上の負担を求めないという内容の特約をいう。賃借人
は、民法上、原則として、故意又は過失による汚損ないし損耗部分の回復費用を負担すれ
ば足りるので、定額補修分担金特約は、消費者が賃料の支払という態様の中で負担する通
常損耗部分の回復費用以外に本来負担しなくてもいい通常損耗部分の回復費用の負担を強
いるものであり、前段要件を充足すると判示した裁判例(京都地判平成 20 年 4 月 30 日判例
時報 2052 号 86 頁。同旨前掲京都地判平成 21 年 9 月 25 日平成 20 年(ワ)第 947 号・第 1287 号・
第 1285 号事件)がある。また、定額補修分担金特約は賃借人にとっても紛争回避機能を有
するという賃貸事業者側の主張について、賃借人にとっては、通常の使用の範囲内であれ
ば自己の負担に帰する原状回復費用は発生しないのであるから、定額補修分担金を支払う
ことによる利益があるのかどうか疑問であると言わざるを得ないと排斥した裁判例も存在
する(前掲大阪高判平成 22 年 2 月 24 日)。
b 後段要件
後段要件に該当することを認めた裁判例としては、①契約書等に定額補修分担金条項が
含まれていたとしても、賃貸人と賃借人には、定額補修分担金条項に関し、情報及び交渉
力の格差があり、賃借人は自分にとって不利益であることを認識しないまま、当該条項に
より一方的に不利益を受けたものといえることを根拠とするもの(前掲京都地判平成 21 年
9 月 25 日平成 20 年(ワ)第 947 号・第 1287 号・第 1285 号事件、前掲大阪高判平成 22 年 2
月 24 日)や、②賃貸借契約締結時点で、退去時の損耗の程度を予測することはできないが、
賃貸人としては、賃貸業全体としては採算がとれるように定額補修分担金の額を設定する
ことは可能であり、現にそのように設定していると考えられる一方で、賃借人は定額補修
分担金の額について賃貸人の定めるものに従うほかなく、予め不利益の生じるリスクを他
に転嫁・分散することができないこと等を根拠とするもの(京都地判平成 20 年 7 月 24 日兵
庫県弁護士会消費者問題判例検索システム注 6)がある。
(カ)通常損耗補修特約
a 前段要件
民法 601 条及び同法 616 条により準用される同法 594 条 1 項又は同法 483 条、400 条及び
616 条の準用する 594 条 1 項を合理的に解釈すると、賃借人は、通常損耗については原状回
復義務を負わず、その費用を負担する義務はないので、通常損耗及び経年変化についての
賃借人の原状回復義務を約し、賃借人がこの義務を履行しないときは賃借人の費用負担で
もって賃貸人が原状回復できるとする通常損耗補修特約は、民法の任意規定の適用による
場合に比し、賃借人の義務を加重するものであると解されている(大阪高判平成 21 年 6 月
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19 日兵庫県弁護士会消費者問題判例検索システム、東京地判平成 21 年 1 月 16 日公刊物未
登載、大阪高判平成 16 年 12 月 17 日判例時報 1894 号 19 頁)。
b 後段要件
後段要件については、通常損耗補修特約の有効性を認めた裁判例においては、賃借人は、
賃貸借契約の締結に際し、同特約の存在及び内容を十分告知され、明確に認識していたと
認められること、同特約により原状回復費用に充当される保証金額は不当に高額とはいえ
ないこと、賃借人は、不動産仲介業者やインターネット等を通じて短時間で豊富に検索す
ることができたし、契約締結の 4 週間前に重要事項説明書を受領したことからすると、賃
借人は情報収集力や交渉力において、格段に賃貸人に劣っていたとはいえないこと等を勘
案して、後段要件を満たさないと判示している(前掲大阪高判平成 21 年 6 月 19 日)。
これに対して、後段要件を充足するものとして同特約を無効であると判示した裁判例に
おいては、①賃貸人が賃借人に対して適切な情報を提供した形跡はなく、賃借人は、通常
損耗及び経年変化についての修繕義務を負担することに関して、通常損耗及び経年変化分
を除外して賃料の額を決めることの有利・不利を判断し得る情報を欠いていたのであって、
このような状況でされた合意は、賃借人に必要な情報が与えられず、自己に不利益である
ことが認識できないままされたものというべきであること(前掲東京地判平成 21 年 1 月 16
日)や、②賃借人に二重の負担の問題が生じることや、さらには賃貸人が一方的に必要が
あると認めて賃借人に通知した場合には当然に原状回復義務が発生する態様となっている
こと、自然損耗等についての原状回復の内容をどのように想定し、費用をどのように見積
もったのか等について賃借人に適切な情報提供がなされたとはいえないこと(前掲大阪高
判平成 16 年 12 月 17 日)が根拠として挙げられている。
(キ)礼金特約
礼金については、①その法的性質を賃料の一部前払いであると認定した上で、契約書に
礼金の額及び契約締結後には返還されないことが明記されていること、賃借人は複数の物
件の中から自己の要望に合致する物件を選択する際に、賃料だけでなく礼金などの一時金
も含めた上で経済的負担を算定するのが通常であり自由な意思に基づいて選択したという
べきであること、礼金により自然損耗の修繕費用を二重取りしているといえないこと(京
都地判平成 20 年 9 月 30 日裁判所ウェブサイト)や、②賃貸借契約の契約条件として提示さ
れ、それに納得して支払ったものであること、その額も賃料の 2 か月分であって過大とま
でいえないこと(東京地判平成 21 年 12 月 10 日公刊物未登載)から、礼金特約は消費者契
約法 10 条に違反するとは認められないと判示した裁判例がある注 7。
(ク)その他の条項
清掃費用(ハウスクリーニング)負担特約については、同特約は明確に合意されている
こと、賃借人にとって、退去時に通常の清掃を免れることができる面もあること、その金
額も、賃料の半額以下であり、専門業者による清掃費用として相応な範囲のものといえる
ことなどを理由として、消費者契約法 10 条により無効となるものではないと判示した裁判
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例が存在する(前掲東京地判平成 21 年 9 月 18 日、東京地判平成 21 年 5 月 21 日公刊物未登載)。
鍵交換費用負担特約については、同特約は明確に合意されていること、賃借人が入居す
る際に、貸室の鍵を交換することは、前賃借人の鍵を利用した侵入を防止できるなど、賃
借人の防犯に資するものであること、鍵交換費用と鍵のシリンダー費用との差額は他の事
業者が鍵交換作業の技術料として取得したものであって、賃貸人が取得したものではない
こと、その金額も 1 万 2,600 円であって、鍵交換費用として相応な範囲のものであることを
理由として、消費者契約法 10 条により無効となるものではないと判示した裁判例がある(前
掲東京地判平成 21 年 9 月 18 日)。
日割清算排除条項(賃借人が賃貸借契約を解約して退去した場合には、その月の入居期
間が 1 か月に満たないときであっても、家賃は 1 か月分を支払うという条項)や、退去条
項(賃借人が解除をするときは、解除通知が賃貸人に到達した日より起算して、2 か月後
が経過した日が属する月の末日をもって、本契約は終了するという条項)については、期
間の定めのある賃貸借契約については、退去条項がなければ一方的な解約はできないのが
原則であり、期間の定めのない建物賃貸借契約の場合は解約申入れから 3 か月の経過によ
り終了するものとされていることからすると、後段要件を充足しないので、消費者契約法
10 条により無効となるものではないと判示した裁判例がある(前掲さいたま地判平成 22
年 3 月 18 日裁判所ウェブサイト)。
これらのほかにも、前述のとおり、約定明渡損害金特約や中途解約金条項などが消費者
契約法 10 条に違反して無効となると争われた裁判例が存在する(前掲東京地判平成 20 年
12 月 24 日、前掲福岡簡判平成 18 年 3 月 27 日、前掲京都地判平成 20 年 9 月 26 日)。
(ケ)まとめ
これらの裁判例を総合して勘案すると、ある契約条項が消費者契約法 10 条に抵触するか
否かは、条項の名称の如何にかかわらず、一般的には契約条項の内容のみならず諸般の事
情を総合考慮して判断がなされることが多く注 8、また、一時金の金額によって結論を左右
することがあるので、今後最高裁判決が示されたとしても、どこまで一般的な規範・基準
となり得るものかは必ずしも明らかでない。不動産賃貸借取引に関与する事業者としては、
裁判例の集積を待って、適宜契約条項の見直しを検討していくことが求められよう注 9 注 10。
注 1 消費者契約における不当条項研究会「消費者契約における不当条項の実態分析」別冊 NBL92 号 37
~ 42 頁参照。
注 2 なお、この判決では、当該違約金条項は、賃借人が賃貸借契約終了と同時に建物を明け渡さない場
合に、終了の翌日から明渡しに至るまで賃料の倍額及び管理費に相当する額の使用料を支払わなけ
ればならないとするものであって、契約書に明記されていること、これが賃借人の建物の明渡(返
還)義務の適時の履行の誘引として定められたものであること、これによって賃借人が受ける不利
益は、賃料相当額の負担増だけであり、しかもそれは賃借人が上記義務を履行すれば発生しないの
であって、賃貸人が暴利を得るために定められたものでないことから、消費者契約法 10 条によっ
ても無効となるものではないとも判示されている。
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注 3 このほかにも事案や理由付けの詳細は不明だが、早期退去特約が消費者契約法 10 条に違反しない
と結論づける裁判例もある(京都地判平成 20 年 9 月 26 日公刊物未登載)。
注 4 澤野順彦「更新料特約および敷引特約の効力 -京都地判平成 21・7・23、大阪高判平成 21・8・
27 を受けて」NBL913 号 12 頁、加藤雅信「賃貸借契約における更新料特約の機能と効力 -近時
の大阪高裁の相反する裁判例の検討を兼ねて」法律時報 82 巻 8 号 50 頁、大澤彩「建物賃貸借契約
における更新料特約の規制法理(上)
・
(下) -消費者契約法 10 条における『信義則』違反の意義・
考慮要素に関する一考察」NBL931 号 19 頁、同 932 号 57 頁など。
注 5 なお、大阪地判平成 19 年 3 月 30 日については家賃を 5,000 円下げる代わりに敷引金を 5 万円上げ
たという経緯があったため、敷引金の一部は賃料を低額にすることの代償としての性質を有するこ
とが認められている。
注 6 http://www.hyogoben.or.jp/hanrei/
注 7 このほかにも、更新料条項の有効性が争われた裁判例において、「なお」と傍論であることを示し
た上で、礼金は、当初に合意された賃貸借期間の長さに相応した賃借権設定の対価ということはで
きるが、同地域、同規模の賃貸物件と比べて金額が明らかに高額であるなどの特段の事情のない限
り、更新後に永続的に継続される賃貸借期間の長さを含んだ賃借権設定の対価まで含んでいるもの
と直ちに解することはできないと判示した裁判例がある(前掲大阪高判平成 21 年 10 月 29 日)。
注 8 この点については、保険契約に関する事例ではあるが、ある契約条項が消費者契約法 10 条により
無効となるかは、個別の当事者間における事情を捨象して、抽象的に検討して判断すべきであると
する裁判例もある(東京高判平成 21 年 9 月 30 日判例タイムズ 1317 号 72 頁)。
注 9 本稿脱稿後に、3 件の更新料判決について、平成 23 年 6 月 10 日に最高裁が弁論を開くとの報道に
接した。したがって、近いうちに更新料特約の有効性に関する最高裁判決が示されることになろう。
注 10本稿脱稿後に、敷引特約の有効性に関する最高裁の判決が示された(最判平成 23 年 3 月 24 日
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110325093237.pdf)。同判決は、敷引特約の有効性につ
いて、同特約が付され、敷引金の額について契約書に明示されている場合であることを前提として、
同特約は、居住用建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等
他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものであ
る場合には、当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなどの特段の事情の
ない限り、消費者契約法 10 条により無効となると解するのが相当であると判示した上で、当該事
案における賃貸借契約の内容を検討した上で、同事案における敷引特約は消費者契約法 10 条によ
り無効となるものではないとの結論を導いている。今後は、敷引特約については、この最高裁判決
に照らして、どの程度の敷引金の額であれば高額に過ぎると評価されるのか、どのような事情が認
められれば特段の事情があると認められるのか、といった点を明らかにしていく必要がある。裁判
例の集積が待たれるところである。
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