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約2.8MB - 日本科学教育学会
主体的に活動し,探究心を高める生物教材の研究 Research of teaching material for biorogy that independently acts, and improves spirit of inquiry 横堀 肇之 YOKOBORI,Toshiyuki 船橋市立八木が谷中学校 Yakigaya Junior High School,Funabashi,Chiba,Japan [要約] 「生命の連続性」において行われている観察・実験の状況を調査し,課題(実施の度合い・ 実施するうえでの問題点)を把握した。観察・実験を行って学習することが少ない内容を中心に,準 備にも多くの手をかけることなく,生徒が生命活動を実感できる教材を探し,それを中心として指導 計画を作成し実施した。生徒は分裂や遺伝などの生命活動の知識を深め,探究心を高めることができ た。 [キーワード] 遺伝,DNA,生殖,発生,ファストプランツ 1.はじめに 理科を学ぶことの意義や有用性を認識させる ためには,実生活と関連した観察,実験を取り 入れることが効果的である 1)。これらの観察, 実験で,自然に対する興味・関心が喚起され, 「探究心」が高まってくる 2)。この「探究心」 の高まりこそが,理科に対する学習意欲を高め るとともに,理科を学ぶことの意義や有用性を 生徒に認識させることができると考える。 中学校理科第2分野の「生命の連続性」につ いては,「生物の多様性と進化」,「遺伝の規則 性」,「DNAの存在」などの内容が新たに加え られた。また,「人工受精」,「iPS細胞」や 「クローン技術」など最新情報に報道等で接す ることも多くなっている。将来にわたって生徒 は,「遺伝子治療」,「胎児の染色体チェック」, 「遺伝子組換え食品」等について,自らの判断 を問われる場面が,今後ますます増えるであろ う。未来を担う生徒が,生命活動の不思議さに 気づき,生物の生きたいという意志を感じ,観 察,実験を通して科学的な見方や考え方を養う ことで,主体的に判断し自らの生き方を決定し ていくことができると考える。 しかし生物単元は,①観察のスパンが長いこ と,②生物の準備や維持が難しいこと,③条件 設定の微妙な違いで成功・失敗の差が大きく現 れることから,観察,実験をあまり実施せず, 講義を中心にした授業やモデル実験で終わらせ てしまう場合が多い。そのため生徒は,生命活 動の不思議さを実感し,主体的に探究しようと する意識を持ちにくい。 そこで,より簡便な方法によって生物教材を 取り入れた授業を行うことで,生徒の主体的な 活動を活発にさせたい。このことによって生殖, 遺伝など生命の連続性に対する探究心が高まる と考え,本主題を設定した。 2.研究の目的 「生命の連続性」において,生命活動を実感 できる観察,実験を取り入れた学習プログラム を行うことにより,生徒の探究心が高まること を明らかにする。 3.研究の方法 1)実態把握と課題の分析 ①事前アンケート 実施期間 平成22年6月21日~25日 調査対象 中学校3年生 検証授業校 (61人) 県央地区1校(262人) 県南地区1校(37人) 教員 船橋市理科担当教員(80人) ②アンケートの結果と考察 県内の生徒の調査結果を見ると,「科学技術の ニュースに興味がある」,「動物飼育や植物栽培 がすき」,「テレビで理科番組を見たい」という 割合は高かった(図1)。しかし,「理科につい て調べたい,学びたい」と思う生徒は60%近く いるものの,「本で調べたり,博物館の講座に参 加したい」と思う生徒は半数以下である(図2)。 これらのことから,生徒は理科についての興味 や関心はあるが,外部からの情報を積極的に得 ようとする主体的な活動が少ないことがわかる。 理科担当教員の本単元における実験の実施状況 (図3)をみると,教科書に載っている細胞の 27 観察や体細胞分裂の観察,花粉管の伸長の観察 はほとんどの教員が実物を用いて実験を行って いる。その反面,発生や無性生殖,遺伝の規則 性は実際の生物を用いて観察,実験を行うこと が少なく,デジタルコンテンツやモデル化,講 義だけの授業を行っていることが多いことがわ かった。これは,生命の連続性の単元では観察, 実験に適した教材が少ないためであると考える。 ツは,前の単元に平行して栽培を行い,栽培し ながら親の代から孫の代までの形質を短期間で 観察することが可能である(図4,5)。 科学技術のニュースに興味がある 動物飼育や植物栽培がすき テレビで理科番組を見たい 0% 50% 100% 図1 理科に対する意識 ( 意欲・関心) 理科について調べたい学びたい 博物館等の講座に参加したい 雑誌や本で見たい インターネットで調べたい 0% そう思う やや思う 50% あまり思わない 100% 思わない ③ゾウリムシについて ゾウリムシは単細胞生物の代表として重要な 生物であり,形態や行動,繊毛運動,収縮胞, 食胞等の観察も容易にできる。従来は稲ワラの 煮出し汁やレタスジュース,カロリーメイト等 で培養されてきた。江坂・中堂らはペットボト ルのキリン「生茶」を用いて簡易に培養するこ とができることを報告している。 キリン「生茶」を水で3倍に薄め,試験管に 10mLずつ分注し,ゾウリムシを植えつぐ。3日 後には培養液が濁り,褐色を帯びる(図6)。そ の後培養液は透明になり,ゾウリムシは増減を くり返しながら全体数が増えてくる(図7)。授 業の6日~8日前に植えつぎを行うと増加のピ ークにあわせて観察を行うことができる。 図2 理科に対する意識(主体的行動) 細胞の観察 体細胞分裂 花粉管の伸長 発生 無性生殖 遺伝の規則性 0% 20% 40% 60% 80% 100% 実物を使って観察・実験を行う デジタルコンテンツ・モデル化・講義で授業を行う 図3 実物を使った授業 実物を使った授業 2)研究主題に関する先行研究および教材研 究 ①探究心の検証(科学的探究能力の視点) 小倉 4) は科学的探究能力の視点(Scientific Skills and Attitude)において,事象への 好奇心・探究心を科学技術への興味・関心・イ メージ,価値意識,学習意欲,学習習慣等の観 点からとらえることを述べている。これらの科 学的探求心の観点をもとに図1,2に示すアン ケートを作成し,事前調査を行った。 イ 生物・遺伝単元の教材における先行研究お よび教材研究 ②ファストプランツについて 前田ら 5) は米国産生物教材であるファストプ ランツが室内での栽培が簡易なことに注目し, 小学校理科での植物に関する観察実験教材とし ての有用性を検討した。その結果,①植物体が 比較的小さいこと,②生活環が1ヶ月半ほどで 成長が早く,観察,実験の結果を従来よりも早 く得ることができること,③小学校においては 3年,5年,6年の単元でマルチ生物教材とし て扱えることを報告している。ファストプラン ゾウリムシの入手方法としては,次のような 方法がある。山口大学大学院理工学研究科の藤 島研究室では教育用に,提供を希望する全国の 中学・高校向けにゾウリムシを頒布している。 また,我孫子市にある,中央学院高等学校では, 毎年4月に東葛地区小中学校を対象に水中微生 物等の生物教材を頒布している。 観察時,試料の中に分裂しているゾウリムシ 28 がいなくても,何度も試料を交換すれば,分裂 した細胞を観察できる可能性が高くなる。生徒 は,最初に採取した試料に固執する傾向がある ので,試料を交換させる支援が必要である。 ④ウニについて 卵・精子の採取,人工受精や胚の飼育が他の 生物に比べて比較的容易である。種類の違うウ ニがそれぞれの産卵期を持ち,年間を通じて教 材となる。ウニの入手は下記に連絡することで, 放精・放卵間近な個体を指定した期日に宅配便 で送付してもらえる。オス・メスの区別は外見 からはできないので,授業を行う学級数と予備 を考えて注文すると良い。 同一の海水中に飼育していると,放精・放卵 をしてしまうことがあるので,別の容器に入れ ておく。一度放精・放卵してもすべて精子・卵 を出しつくしていないので,同じウニで再度実 験を行うことが可能である。 ⑤DNAの抽出について 近年,科学館の科学体験教室等で行われてい るDNAの抽出法は,食塩水と家庭用洗剤,エ タノールがあれば,小学生でも十分に実験が可 能であり,動物・植物を問わずDNA抽出が可 能であるという画期的な方法である。DNAを 分解する酵素が唾液や手にあり,抽出液に混入 すると,DNAが分解されてしまうので簡易マ スクとゴム手袋を装着して実験を行った。レバ ーをミキサーにかけてからの時間が長すぎると 自分の酵素でDNAを分解してしまうので,で きるだけ授業の直前に行う必要がある。 ⑥DNAに含まれる遺伝情報を確かめる実験 について DNAを抽出する実験は,中学校でも授業に 取り入れている例も多く見られるようになった。 しかし,抽出した糸状の物体が本当にDNAで あるかどうかがはっきりわかる良い確認方法が 無い。また,生徒は取り出した「白いモヤモヤ」 をDNAと信じて持ち帰るだけで,抽出したD NAにどんな情報が含まれているのかわからな い。食料,環境,医療,産業など日常生活や社 29 会全体にかかわる様々な分野で,DNAからわ かった遺伝情報が利用されることについて理解 を深めさせるためには,DNAから情報を得る 実験を行うことが重要である考える。 DNAの増幅を行うLAMP法は,一般的で あるPCR法に比べて短い反応時間で結果を出 すことができ,1時間の授業の中で行える方法 である。また,試料が微量でも増幅が可能であ り,十分結果として得られる。課題としては, 薬品が非常に高価であること,抽出した試料を 精製する必要があり生徒に精製させると時間が 不足してしまうため,準備に時間が必要なこと があげられる。 3)指導計画の作成 遺伝の規則性,有性生殖と発生,無性生殖, DNAの抽出と遺伝情報を確かめる実験を取り 入れた学習プログラム(図8)を考えた。赤い 文字の授業が今回選んだ生物教材の授業である。 検証授業(生物単元)の開始は9月下旬からで あったが,第1時のファストプランツP(第1 世代)の形質確認の授業は7月上旬,第2時の F1(第2世代)の播種と形質確認は9月上旬 に行った。細胞のつくりの学習と遺伝の規則性 を同時進行で学習するので,授業の導入でくり 返し確認し,内容や実験の目的が混同しないよ うにした。 DNAの抽出と遺伝情報を確かめる実験(第1 7時)は,探求心をより向上させるため専門家に よる学習として,LAMP法を開発した(株) 栄研化学の研究員を招いての授業を計画した。 4)検証授業の実施 ①ファストプランツによる遺伝の規則性 P(第1世代)からF2(第3世代)のすべて を生徒一人一鉢を用いて栽培を行った。Pの形 質は優性にアントシアニンを作る遺伝子を持つ パープル,劣性には作らないノンパープルを使 用した。栽培には昼夜を問わず電照が必要なた め,天井用蛍光灯を使った照明(図9)と,十 分に水を与えられるように,熱帯魚水槽用の循 環装置を使って給水装置(図10)を作成した。 生徒の感想から,F2に劣性の形質が再びあら われることで,F1にも劣性の遺伝子が伝わって いることを実感した生徒が多いことがわかった。 学 習 の 流 れ ね 2節 生物のふえ方 (2)親 の 特 徴 は ど の よ う に 子 に 伝 え ら れ る の か (4)遺 伝 の 規 則 性 を 調 べ よ う ①ファストプランツP(第1世代)の播種 ②ファストプランツP(第1世代)の形質確認 フ ァ ス ト プ ラ ン ツ F1( 第 2 世 代 ) の 形 質 を 予 想 ③ フ ァ ス ト プ ラ ン ツ F1( 第 2 世 代 ) の 播 種 ④ フ ァ ス ト プ ラ ン ツ F1( 第 2 世 代 ) の 形 質 確 認 フ ァ ス ト プ ラ ン ツ F2( 3 世 代 ) の 形 質 を 予 想 1節 細胞のつくりとからだの成長 (1)細 胞 は ど の よ う な つ く り に な っ て い る か ら い ○ファストプランツによる遺伝の規則性 生徒一人ひとりがP(第1世代)から F2(第3世代)まで植物を栽培を行い, その形質を観察,また形質が発現してい る数を確かめることで次の三点を実感し, 理解する。 ・親から子へと遺伝子によって形質が伝 わっていくこと。 ・遺伝子は二個で一組になっていること。 ・遺伝子の組み合わせがヘテロの場合, 優性の形質は現れるが劣性の形質は現 れないこと。 ⑤植物細胞の観察 【タマネギ・オオカナダモの細胞観察】 ⑥ 動 物 細 胞 の 観 察【 ヒ ト の ほ お の 細 胞 観 察 】 (2)ど の や っ て か ら だ は 成 長 す る の か ⑦体細胞分裂の観察 【タマネギの根の観察】 2節 生物のふえ方 (1)生 物 の ふ え 方 の 特 徴 を 調 べ よ う ○ウニの有性生殖 顕微鏡下でウニの受精を実際に観察し, 有性生殖のしくみと発生の過程を理解す る。 ⑧植物の有性生殖【花粉管の伸長の観察】 ⑨動物の有性生殖と発生 【ウニの受精と発生の観察】 ⑩無性生殖 【ゾウリムシの細胞分裂の観察】 ⑪生殖のまとめ フ ァ ス ト プ ラ ン ツ F2( 第 3 世 代 ) の 播 種 ⑫ フ ァ ス ト プ ラ ン ツ F2( 第 3 世 代 ) の 形 質 確 認 (3)有 性 生 殖 と 無 性 生 殖 の 違 い は 何 か ○ゾウリムシの細胞分裂 生徒一人ひとりがゾウリムシを培養し, 目前で分裂している様子を観察すること で無性生殖を実感し,理解する。 ○DNAの抽出 身近な生物からのDNAを抽出し,ど の生物もDNAを持っていることを確か める。 ⑬遺伝子からみた遺伝のしくみ・遺伝の規則性 ○DNAから遺伝情報を得る ・抽出したDNAから情報を得られるこ とを実験を通して確かめる。 ・DNAの情報がわかることにプラス面 とマイナス面があることを知る。 ・専門家から授業を受けることにより, 普段の授業では体験できない高度な実 験を体験しDNAについての幅広い知 識を得る。 ⑭ゾウリムシの接合観察 (5)遺 伝 子 の 正 体 は 何 か ⑮DNAを取りだそう ⑯DNAについて ⑰専門家からDNAについて学ぼう・DNAからわかること 図8 指導計画(全17時間) 行っていた。受精卵の観察において最初の卵割 を観察することができた生徒もいた(図11,12)。 「授業時間内だけでなく,ずっと観察していた い」という感想を書いた生徒も見られた。 ②ウニの発生 生徒の目前で採取した,精子と卵を受精させ て,発生の様子の観察を行った。生徒は初めて 見る受精卵に,興味津々といった様子で観察を 30 ③ゾウリムシの無性生殖 生徒一人一本,ポリプロピレン製の試験管を 用意し,観察の7日前にゾウリムシと培養液を 配布した(図13)。ゾウリムシが動き回る様子を, 脇目もふらずに真剣に観察する様子があった。 分裂を観察できた生徒は,各学級2人であっ たが,視聴覚機材を用いて,観察結果の画像を 学級全体で共有できた。試料を一人一人が培養 したために,観察後,ゾウリムシを自宅に持ち 帰り,自宅の顕微鏡で分裂する様子を観察する 生徒もいた。 ⑤LAMP法によるDNA増幅とウシのオス ・メスの判別 専門家を招へいし,自分で抽出したDNAが オスメスのどちらであるかLAMP法の実験に よって確かめた。専門性のが高い,興味深い話 を聞くことができて集中して取り組めた(図17)。 DNAが入ったチューブに紫外線をあてると蛍 光を発するチューブを真剣に観察する様子が見 られた(図18)。LAMP法が日本で開発された 技術であることに多くの生徒が関心を示した。 遺伝情報がわかることのプラス面,マイナス面 について触れている感想も見られた。 生徒の感想 ・DNAはトップシークレットということがわかった。DN Aでその人がわかるということはすごいと思う。今後,や る機会があれば,自分のDNAを調べてみたいと思う。 ・DNAって本当にいろいろわかるんだって思いました。便 利だけど…うーん。 ・LAMP法、DNAの抽出の実験が一番印象に残っていま す。LAMP法が日本で開発されたことを知り、とても驚 いたことと、抽出したものが光っていて、とてもおもしろ い実験でした。 ・遺伝子の仕組みは,生き物の体で行われている。生き物の 体は不思議だ。DNAの一本の鎖があれば複製できること ができるので,そんなところもまたすごい。 新たな疑問 ・日本人全員のDNAを持っていれば(警察がわかっていれ ば),事件を簡単に解決できるのではないか。 ・授業でも言っていたけど、自分はお酒に強いかどうかを調べて みたくなった。 ・DNAにはどんな秘密が隠されているのか。それと、DN Aには生まれた月日は書かれているのか。生命の起源に関 することは書かれているのか。 ④DNAの抽出 ウシのレバーを用いて抽出を行った。レバー は1班あたり,10g使用した。 一般に販売されているレバーは見た目ではオ ス・メスの区別ができない。次時のオス・メス の判別実験のため,複数の精肉店から購入した。 全班がDNAを採取でき,達成感を持った生 徒が多かった。抽出したDNAの中に,「本当に 遺伝情報が含まれているのか」と疑問に持つ生 徒も見られた。 5)成果と課題の分析 図2に示した主体的行動に対する意識につい て,事後調査を行い,結果を授業前後で比較し た。どの項目においても肯定的な回答が増加し ている(図19)。比較対象とした県内A中学校に おいても同様に肯定的回答は増加しているが, 検証実施校の方が授業後の増加する割合が大き い。 学習に主体的に取り組めれば,より多くの疑 問が生じるのと考えられる。そこで各授業ごと のプリントにその授業中に浮かんだ新たな疑問 を記入させた。そして新たな疑問が記入されて いる割合の変化を調査した(図20)。 学習プロ グラムが進むにつれて,新たな疑問の記入率が 上昇している。自分なりの課題を持つようにな ったと考えられる。以上より今回行った学習プ ログラムによって生徒の探求心を高められたと 考えられる。 これらの新たな疑問に対しては,発問に組み 31 込み,他の生徒にも考えさせ,より関心を高め, 思考させるように授業を計画した。 一方,「博物館等の講座に参加したい」という生 徒が回答の中で一番増加している。これは専門 家の招へい授業によって,「専門的な知識をもっ と得たい」という気持ちが強くなったのではな いかと考えられる。このことは,アンケートの 「印象に残った,さらに学びたい内容は何か」 の結果の中で,「遺伝子の正体(LAMP法で遺 伝情報を確かめる)」が一番多かったことからも うかがえる(図21)。遺伝の規則性に対する印象 の度合いは,時間をかけた内容の割に多くなか った。印象の強い観察,実験の連続したこと, 長期にわたる学習のため印象が残りにくかった と考えられる。 理科について調べたい れた学習プログラムによって生徒の探求心が高 まることが確認できた。 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% 22% 21% 有性生殖 n=262 60% 80% 100% 雑誌や本で読みたい (八木が谷中学校) そう思う やや思う あまり思わない 思わない 事前 事後 n=61 0% 20% 40% 60% 80% 100% (県内A中学校) 事前 事後 n=262 0% 20% 40% 60% 80% 100% そう思う やや思う あまり思わない 思わない (八木が谷中学校) 博物館等の講座に参加したい 事前 事後 n=61 0% 20% 40% 60% 80% 100% (県内A中学校) 事前 事後 n=262 0% そう思う 20% 40% 60% 80% 100% やや思う あまり思わない 思わない インターネットで調べたい (八木が谷中学校) 事前 事後 n=61 0% そう思う 20% 40% やや思う 60% 80% 100% あまり思わない 思わない (県内A中学校) 事前 事後 n=262 0% そう思う 図19 20% やや思う 40% 60% 80% あまり思わない 理科に対する意識 7% 20% ②遺伝の規則性の学習において,短い生活環 で形質の出現がはっきり確認できるファストプ ランツは,教材として有効であることが確かめ られた。 ③専門家の招へい授業によって,生徒の探求 心が高まることが確かめられた。特に,DNA に書き込まれている遺伝情報についての学習に おいて,その専門の知識と技術が非常に有効で あった。 2)課題 ①より簡便な方法で観察,実験を展開するこ とを重視したが,扱う生物が学習課題によって 異なり,それぞれの生物に対応した準備が必要 になった。そのため,より簡便な方法をさらに 開発する必要がある。どの授業でも扱える単一 の生物,より簡便な方法を研究していきたい。 5 主な参考文献 1)赤木紀公 2007年 知的好奇心や探究心をは ぐくむ理科教材の開発 奈良県教育研究所研究 集録 2)玉野智己 2008年 高等学校生物分野におけ る探究心を高める授業の工夫 やまぐち総合教 育センター研究集録 3)小倉 康 2007年 科学への学習意欲に関す る実態調査 国立教育政策研究 4)三科圭介 2009年 ファストプランツを使っ た遺伝実験の紹介 北海道理科教育研究センタ ー研究紀要 20~21頁 5)前田紗綾香 西野秀昭 ファストプランツの 実践的マルチ生物教材化 科教研報 Vol.24 №2 127~132頁 事後 40% 11% 図21 印象に残った・さらに学びたい内容 80% 100% (県内A中学校) 事前 20% 5% 遺伝の法則 n=61 0% 21% 36% 無性生殖 (八木が谷中学校) 60% 0% 体細胞分裂の観察 事後 40% 新たな疑問の記入率 細胞のつくり その他 20% 38% 31% 30% 遺伝子の正体 0% 65% 55% 41% 図20 事前 4 80% 72% 62% 100% 思わない 授業前後の比較 研究のまとめ 1)成果 ①生命活動を実感できる観察,実験を取り入 32 実感を伴った理解を図るための学習プログラムの開発 -第3学年「風やゴムの働き」の学習を通して- Learning programs to develop a realistic understanding -Wind and rubber works小島 実 KOJIMA,Minoru 佐倉市立上志津小学校 Kamishizu ElementarySchool,sakura,Chiba,Japan [要約] 3学年の新単元「風とゴムの働き」において、諸感覚を通して捉えていけるよう教材教具 を取り入れ、実験を通して「風のはたらき」「ゴムのはたらき」の差異点、共通点について調べ、理 解を深めることができた。さらに理科で学習したことを身の回りの自然や生活に結びつける学習プロ グラムにより実感を伴った理解へとつながった。 [キーワード] 実感を伴った理解 エネルギー 諸感覚 引く力 押す力 エネルギー きる場を設定し,さらに風やゴムを利用した道 具や生活の中での活用について考えさせる必要 がある。これらを取り込んだ学習プログラムの 有効性を検証していくため,本主題を設定した。 Ⅱ 研究目標 「風やゴムの働き」の学習において,児童が主 体的に諸感覚で捉えながら,実感を伴った理解 を図るための学習プログラムを開発し,その有 効性を明らかにする。 Ⅲ 研究の実際 1 研究仮説 (1)風やゴムの力を想起しやすくするため, 諸感覚で捉えることができるような教材や 指導方法を取り入れていけば,力の多様性 や同一性を見出し,理解が深まるであろう。 (2)学習で得た科学的な見方や考え方を身の 回りの自然や生活と関連付けて活用してい く活動を取り入れていけば,実感を伴った 理解が得られるであろう。 2 研究内容・方法 (1)「風やゴムの働き」に関する基礎的な文献 研究を行う。 (2)「風やゴムの働き」に関する児童への実態 調査を行う。 (3)「風やゴムの働き」に関する諸感覚で捉え ることのできる素材の検討と教材・教具の 開発を行う。 (4)検証授業を実施し,実感を伴った理解を 図るための学習プログラムの有効性を明ら かにする。 3 研究の具体的内容 (1)児童の実態(調査対象:佐倉市内の小学 校4校の3年児童 340 名) Ⅰ 研究主題について 小学校学習指導要領解説理科編(平成 20 年 8 月文部科学省)では,目標に「実感を伴った理 解」が位置付けられた。「実感を伴った理解」と は「具体的な体験を通して形づくられる理解」, 「主体的な問題解決を通して得られる理解」, 「実 際の自然や生活との関係への認識を含む理解」 の3つの側面が挙げられる。そこで,「実感を伴 った理解」について次のように解釈する。 児童一人一人が諸感覚で捉えながら観察・実 験を行うことが具体的な体験,主体的な問題解 決活動につながる。そこで得た科学的な見方や 考え方を身の回りの自然や生活と関連付けなが ら認識し,活用できるようになることが「実感 を伴った理解」と考える。 本研究では,風やゴムといった子どもたちの 日常の生活や遊びの中で体験できる身近なエネ ルギーを扱っていく。今まで漠然として捉えて いた風やゴムの力を,エネルギー概念の基礎と なるものとして意識させながら活動させていき たい。そして,実感を伴った理解を得るために 以下の活動を取り入れた学習プログラムを開発 し,有効性を検証する必要があると考える。 まず,風やゴムの力を児童が想起しやすいよ うに教材や教具を開発する。それにより児童は, 「風とゴムの働き」を諸感覚で捉えることがで きる。さらに力の多様性(いろいろな種類)や 同一性(「押す力」,「引く力」)を見出し,実感 を伴った理解が得られることと考える。 次に,学習で得た科学的な見方や考え方を身 の回りの自然や生活と関連付けさせる活動を取 り入れる。実際に「風やゴムの働き」を体感で 33 単元の内容に関するアンケートを実施した。 まず,図1「風」の捉え方であるが,児童が「風」 から思いつくものは,「すずしい」や「さむい」 といった「体感的に捉えたもの」である。また, 図2より,ほとんどの児童が風を使った遊びを 経験していることからも身近なものであること がう かがえる。今回学習する「風の働き」に 関係する「物を動かす」といった回答は2割に 満たない。 まだエネルギーとして捉えていな いのが実態である。 図3「ゴム」の捉え方であるが,すぐに児童 が思い浮かぶものとしては,「伸び縮みする」(6 %),「とぶ」(8%)といったゴム単体の性質 に関すること,「ものをとめる」(15 %),「道具 として」(5%)捉えている回答が多い。また, 「風」ってどんなものですか。自由に書いて下さい。 体感的に捉えたもの 202人57.5% 物を動かす 49人 強弱のあるもの 図4より,ゴムを使った遊びを(97 %)の児童 が経験している。こちらも「風」同様,児童の 生活の中に密接に関係していることが回答から うかがうこ とができる。 図2,図4より,「風」や「ゴム」は,児童の 身近に存在していることが分かる。本学習プロ グラムを通して,身の回りの自然や生活と関連 付けながら,効果的に「風」「ゴム」の働きに関 する学習を進める必要があることが分かった。 放課後やお休みの日に風を使った遊びをしたことがありますか。 74.1% 260人 たこあげ 14.0% 49.6% 7.4% 26人 かざ車 ふく 空気 5.4% 19人 無回答 紙飛行機 5.4% 19人 見えない 174人 6.6% 23人 11.1% 39人 無回答 3.4% 12人 2.3% 8人 0 50 100 150 0 200 50 100 150 200 250 図1 「風」の捉え方 図2 (N=340) 「ゴム」ってどんなものですか。自由に書いて下さい。 「風」を使った遊びの経験 (N=340) 放課後やお休みの日にゴムを使った遊びをしたことがありますか。 62.4% 伸び、縮みする 219人 15.4% 54人 ものをとめる 33人 とぶ 31人 24人 6.8% 道具として 5.1% 18人 切れる 13人 3.7% 木のしる 12人 3.4% 無回答 9人 0 図3 パチンコ ゴム飛行機 ヨーヨー ギター ゴムがえる なわとび 10人 3人 12人 うらない 無回答 100 「ゴム」の捉え方 150 200 0 250 人 図4 (N=340) (2)諸感覚で捉えることのできる素材の検討 と教材・教具の開発 34 245人 28人 8.0% 25人 7.1% 4.0% 14人 4.0% 14人 ゆびでっぽう 2.6% 50 26.2% 92人 19.1% 67人 54人 15.4% ゴムとび 8.8% 遊べる 69.8% ゴムでっぽう 9.4% いたい 300 人 人 2.8% 0.9% 3.4% 50 100 150 「ゴム」を使った遊びの経験 200 250 人 (N=340) ア ウインドカーとゴムカー 風とゴムの働きを比べながら学習を進めるた め,同一の車を用いる。プラスティック段ボー ル(4 ㎜厚 横 11 ㎝× 18 ㎝)と車輪セット ((株)大和科学教材研究所 車輪B型)で作っ た。車輪の間にハトメを入れて,円滑に回転で きるようにした。車台後部にたこ糸をつけ,指 先で風やゴムの「引く力」を感じながら,比べ ることができるようにした。(以下「感じる糸」 と表記する。)(触覚で捉える。) イ 実験に使う車台 写真2 車台後部の「感じる糸」 ウインドカーの風受けの大きさ ㎝ 進んだ距離 写真1 電動送風機 ㎝ 700 700 600 600 500 500 400 400 300 300 200 200 100 100 0 ウインドカーの風受けの大きさと 手回し送風機 進む距離の関係を電動送風機と手回 し送風機を使って調べた。電動送風 風小 には,大きな差は見られない。電動 風大 送風機も手回し送風機も風受けの高 0 3㎝ 5㎝ 10㎝ 風受けの高さ 3㎝ 機では,風受けの高さが10㎝の時 風中 5㎝ 10㎝ 風受けの高さ さが5㎝の時に違いが明確である。 特に手回し送風機では差が大きい 図5 ウ ウインドカーが進む距離と風受けの大きさの関係(左:電動送風機 (図5)。 右:手回し送風機) 手回し送風機と電子メトロノーム 手回し送風機(SUZUKI 楽器製 小中大3つの切り替えレバー付き) と電子メトロノーム(SEIKO 社製)で「風の働き」を調べる実験を行っ た。定量的実験を身につけるため,電子メトロノームのテンポに合わせ て風を送る。 (小の風:毎分 120 回転 中の風:毎分 80 回転) 。また, 様々な強さの風を意識しながら作り出すことが体感できるようにした。 なお,手回し送風機の使用により,電源が無くても実験することが可能 写真3 エ 手回し送風機 電子メトロノーム になった。(触覚と聴覚で捉える。) テストコース 車を走らせるコース(30 ㎝× 100 ㎝プラスチック製段ボールを 5枚つないだもの)を使用した(写真4)。テストコース中央部に プラスチック製三角アングルをボンドで取り付けた(写真 5)。こ れによりコースアウトすることなく風を受け,実験することができ た。また,1mごとにコースの色を変えておき,児童は簡単に距離 写真4 オ テストコース 写真5 テストコース中央部 を確認することができるように工夫した。(視覚で捉える) ランドヨット 「風とゴムのはたらきをもっと知ろう」で使用した。ブルーシート (200 ㎝× 170 ㎝),台車,大型扇風機,支柱(20 ㎜× 150 ㎝)ジョ イントにて作製した。 「帆引舟」 (写真 11)など古くから風を利用し, 役立てていることを学習後,「ランドヨット」により風の強さと風の 写真6 ランドヨット 写真7 帆引舟 「押す力」と「引く力」を体感させた。(触覚,体全体で捉える。) 35 カ 風の強さを可視化できる教具 風の強さの変化を視覚でも 捉えることができるようにリ リアン糸の揺れ具合で確認で きるようにした。リリアン糸 は比較的まっすぐに垂れ,静 電気を帯びにくい性質があ 写真8 5㎝間隔で糸をつけたボード 写真9 ワッシャーに糸をつけた風力計 る。(以下 写真8の教具を 「風が見エールボード」 写 真9の教具を「風が見エールポータブル」と表記する。)「風が見エールボード」では,送風機からの距離と風の強 さの関係を確認した。 「風が見エールポータブル」では,ウインドカーがスタート地点で受ける風の強さを確認した。 (3)教材開発にもとづく検証授業 ア 教材・教具の有効性 表2 「風とゴムの働き」 指導計画 じる糸」により,風の「引く力」を手ごたえで 捉えることができた。さらに風の強さを視覚的 に捉えるため,スタート位 置に「風が見エール ポータブル」を置いた。 これらより,風の強さ を視覚で確認しなが ら実験に取り組むことがで きた。 また,送風機からの距離と風の強さの関係を 視覚的に捉えるために「風が見エールボード」 を使って演示実験を行った。風の強さと車の進 んだ距離の関係を理解し,第3時では風受けの 「風の働き」「ゴムの働き」について比較しな がら理解を深めていけるよう同じ車と同じコー スを使いながら実験を行った。車台後部にたこ 糸をつけ,風やゴムの力を手で感じられるよう にした。テストコースを使って実験を行った。 第1時で学習の見通しをもたせた後,第2時 「風の働き」では,手回し送風機と電子メトロ ノームを使って実験を行った。テンポに合わせ て送風機のレバーを回すことで定量的な実験 を 意識して進めることができた。車台後部の「感 36 や風の「引く力」と「押す力」を感じ取ってい る様子や,身の回りの風と結びつけながら考え ていることがわかる(資料2)。 学習した内容を活用する場として,「風やゴム の働き」を使ったおもちゃづくりを行った(写 真 11)。学習したことをおもちゃという形で表 すことができた。ワークシートにおもちゃの特 徴を記入し,発表内容を整理した。そうした上 で,授業参観の場で保護者や友達に紹介した。 工夫による実験, 第4時では風の強さを調整し て車を動かす実験に取り組んだ。 第5,6時「ゴムの働き」では,風の時と同 様に「感じる糸」を引っぱり,ゴムの伸びる様 子を観察した上で,ゴムの伸びと車の進む距離 の関係を調べた。児童は風の場合との触感の違 い,ゴムの伸びる長さの違いによる「引く力」 の違いを捉えることができた(図6,図7)。 諸感覚で捉えながら,「ゴムの働き」について理 解することができた。今までの実験結果をもと に班ごとに検討し,ゴムの伸びを変えながら, 車を動かす距離を調整する実験を行った。風の 場合と比較しなら実験を進め,差異点や共通点 をまとめることができた(資料 1)。 図6 図7 資料2 「風やゴムのはたらきをもっと体で感じよう」の 学習後の児童の感想より ・ゴムの引っ張り合いをしてあっちに引っぱられるよ うな感じがして怖かったです。 ・すごく,引っぱると重かった。足が引きずられそう になった。 ・帆引き船やヨットは風の力を利用して進むし,エン ジンがいらないのでエコだと思った。それだけ風に は力があるんだな。 ・自分は重いから動かないかなと思ったけど速く動き ました。風はすごいんだなと思いました。 ・外の風は,今日の何倍も強いときもあるんだな。 ・引っぱられる感じがして,連れて行かれそうになっ た。 風のはたらきワークシート(結果の記入例) ゴムのはたらきワークシート(結果の記入例) 資料1 「ゴムのはたらき」の学習中の児童の感想より ・ゴムと風のい力は違うことがわかりました。 ・風と違って調節はかなりむずかしいな。と思いまし た。 ・送風機は手が疲れて,ゴムは頭が疲れます。調整が 難しかっ た。 ・風の方がやりやすかった。ゴムだと一回そこと決め てしまう とどうすることもできないからです。 ・風もゴムも強くしたり,強く引っぱったりするとよ く進むと ころが似ていて面白いと思いました。 実験がんばり度 目で感じた度 耳で感じた度 手や肌で 感じた度 自然との関係 イ 科学的な見方や考え方を身の回りの自然や 生活と関連付けていく活動 図8 ウ 写真10 理解度 諸感覚による捉えの分析 児童が諸感覚で捉えた様子を「実感得点」と いう形で数値化し,分析した。 「実感得点」とは, ①実験がんばり度,②目で感じた度,③耳で感 じた度,④手や肌で感じた度,⑤自然との関係 理解度の5項目の自己評価点のことである。活 動の終了時に記録し,学習のふり返りを行った (図8)。点数化し,(「よくできた」を 10 ポイ ント,「できた」を 7.5 ポイント,「あまりでき なかった」を5ポイント, 「できなかった」を 2.5 ポイント)5項目の学級平均値の変容を(図9) のようにまとめた。「手や肌で感じた度」が第4 時から上昇しているのは,「感じる糸」により風 ランドヨットの体験 写真11 児 童用 ふり返りカー ド 児童が作成したおもちゃ 第7,8時において風やゴムの働きが身の回 りの生活の場で使われている例を考えたり,紹 介したりした。そうした上で,強力な「ゴムの 働き」を体験し,「ランドヨット」(写真 10)の 乗車で「風の働き」を体験した。体全体でゴム 37 の力とゴムの力を比べられるようになったため と考えられる。第7,8時での「強力なゴム」 や「ランドヨット」などを体感した活動後に, 最高値を示している。授業が進むに従い,児童 は諸感覚を使うことを意識するようになった。 各数値は全体的に向上している。各教材・教具 の導入により,諸感覚で捉える学習が 定着した といえる。 エ 自然や生活と関連づける活動を取り入れた 学習プログラムの分析 「風」や「ゴム」から思いうかぶもの知っていることを書いた数 風 ゴム 0.0 1.0 2.0 3.0 検証授業前 図10 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 検証授業後 単語連想法による調査 「風」や「ゴム」の力に関する性質を書いた数 風 ゴム 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 検証授業前 図11 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 検証授業後 単語連想法による調査(力に関する記述) 「風」や「ゴム」を使った道具などを書いた数 風 ゴム 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 検証授業前 図12 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 検証授業後 単語連想法による調査(道具などに関する記述) 図9より「自然との関係理解度」が授業が進 むごとに上昇しているのがわかる。理科で学習 したことを自然や生活と関連づけて捉えている。 また,単元の学習前と後で単語連想法による調 査を行った。2倍近く連想する言葉や思いうか ぶものが増加しているのがわかる(図 10)。 書かれた内容を分析すると,風やゴムの力に 関する性質の記述も多く見られた。特にゴムの 力に関する記述は,2.5 倍近くまで増加している (図 11)。また,自分たちの身の回りの道具や ものなどに関する記述が2倍近くに増加してい 38 る(図 12)。 学習後の児童の感想からは,生活と関連づけ ている記述が多く見られた(資料3)。このこと から,風やゴムの力の性質を深く理解した上で, 身の回りの自然や生活を見つめ直している様子 をうかがうことができる。 Ⅳ 研究のまとめ(成果・課題) 研究のまとめ 1 成果 (1)開発教材や教具の活用により,「風の働 き」「ゴムの働き」を比較し,児童が諸感覚を働 かせながら実験に取り組むことができた。実感 を伴って理解することができたといえる。 (2)学習で得た科学的知識を,身の回りの自 然や生活と関連付ける活動を学習プログラムに 組み込んだことで,実感を伴った理解を得るこ とができた。 2 課題 (1)学習のまとめとしての「おもちゃづくり」 の活動においても,身の回りの自然や生活 と学習した知識を結びつけていけるよう, 活動に応じた指導内容を工夫していく必要 がある。 (2)「ゴムの働き」の学習で,ゴムの力を調 整していく活動の時間を十分に確保できれ ば,身の回りの自然や生活との関係を理解 できると考える。 【参考文献】 (1)監訳 中山迅 稲垣成哲(1995.2) 『子 どもの学びを探る』 東洋館出版 (2)編著 栗田一良(1988.4) 新訂「小学校 理科教育研究」 教育出版 (3)編著 堀 哲夫(2004) 『一枚ポートフ ォリオ評価 理科』 日本標準 (4)文部科学省(2008) 『小学校学習指導要 領解説 理科編』 (5)編著 日置光久 村山哲哉(2009.10)『実 感を伴った理解を図る理科学習』 東洋館 出版 (6)教科用図書(2011)『たのしい理科 3 年』 予定 イオンに関する科学的概念を観察,実験を通して身に付けさせる指導 Teaching the scientific concepts of ion through observations and experiments 野田 新三 NODA, Shinzo 市原市立ちはら台南中学校 Chiharadai-minami Junior High School ,Ichihara ,Chiba ,Japan [要約] イオンは原子レベルの大きさであり,肉眼で観察できない。 そこで,肉眼で観察できるイオンの性質の観察,実験結果から, 生徒が思考し,イオンに関する科学的概念を身に付ける学習プログラムを開発した。 検証授業前後における生徒の概念の変容は,生徒が描いたコンセプトマップによって分析した。 その結果,授業後における生徒の概念の拡張が明らかになり,本指導の有効性が検証された。 [キーワード] イオン,科学的概念,コンセプトマップ,電磁推進船,ローレンツ力 Ⅰ はじめに 通して身に付けさせたいと考える。そのためには,生 「イオン」という言葉は,スポーツドリンクなどの 徒が授業の中で観察,実験結果から考察し,周囲に伝 日用品にも明記されるようになり,生徒にとって身近 える表現力を高める活動を繰り返し行う必要がある。 な存在となっている。また,食塩に代表される電解質 イオンの学習は,観察,実験の結果から肉眼で見えな は血液の成分などに,イオンとして含まれ,生命活動 いものへの考察が不可欠であるため,生徒が思考力, においても重要な役割を果たしている。生徒にとって 表現力を高める上で適した単元であると考える。そし 「イオンの性質や働き」の学習は,現代を生きる上で て,生徒が観察,実験した結果をもとに,疑問点を追 必要不可欠なものであると考える。 求しながら,自分で思考し,考えを表現する活動を繰 り返させることによって,イオンに関する科学的な概 一方,学習指導要領の改訂では,学術研究や科学技 念の定着へとつなげていきたい。 術の世界的な競争が激化する中で,国際的な通用性や 以上のような理由から,本主題を設定した。 内容の系統性などを踏まえた指導内容の見直しが行 われた。その一つとして, 「化学変化とイオン」の単 元を再び中学校で学習することが挙げられる。 Ⅱ 研究目標 イオンが中学校で扱われていた頃の生徒の実態と イオンに関する科学的概念を身に付けさせる,新し しては,国立教育政策研究所による, 「平成 13 年度 い指導過程を考案するとともに,生徒がイオンの性質 小中学校教育課程実施状況調査」の報告 1)がある。そ を実感し,思考を深めることができる教具を開発する。 の中で,「イオンに関する問題は,他の問題に比べて 正解率が低い」という結果が出ている。この原因とし Ⅲ 研究の実際 ては,同調査において「電気」と「原子・分子」の問 1 研究仮説 題の正解率が低いことから,「イオン」がその2つを 生徒がイオンの性質を実感できる観察,実験の結果 合わせもつ分野であるため,理解が困難な生徒が多い をもとに,考察する活動を積み重ねれば,イオンに関 ことが挙げられる。新教育課程では,過去の経験を踏 する科学的概念が身に付くであろう。 まえ,生徒を取り巻く環境に即した,新たな教材研究 2 が求められている。 研究内容・方法 (1)イオンに関する科学的概念について先行研究を 今回の改訂により「科学的概念」については,「科 調べ,研究の方向性を探る。 学的な基本概念の一層の定着」 , 「思考力・表現力の育 (2)生徒がもつ誤概念を調査するとともに,コンセ 成」などが重視され,「生徒が主体的に観察,実験に プトマップにより事前調査を行う。 取り組む中で概念の形成を図る」ことが示された。 (3)イオン単元全体を通した指導過程を検討し,イ これらの背景の中で,生徒には自分が問題に直面し オンの存在を実感できる教具を開発する。 たとき,自ら対策を考え,解決する力を理科の学習を 39 イ 概念の変容をみる方法 (4)「考案した指導過程と教具」をもとに,検証授 Novak と Gowin(1984)は身に付けている概念を 業を実施する。 (5)コンセプトマップにより事後調査を行う。 コンセプトマップ法で調べることを提唱した。これ (6)生徒が描いたコンセプトマップを事前と事後で は図1のように,ある主題に関連する概念・事象を 比較し,成果と課題を分析する。 視覚的に表現し,概念間の相互関係を図示化する手 法である。コンセプトマップは,「ラベル」と,つ 3 研究の具体的内容 (1)先行研究について ア ながりを表す「リンク」,リンクの上にラベル同士 の関係を示す「リンクラベル」の3つで構成される。 イオンの性質を実感する観察,実験 また,異なるリンクの間に新たな別の関係が発見さ 社団法人日本化学会による「化学教育」には, 「セ れリンクすることを「クロスリンク」という。 ロハン半透膜の簡単な生徒実験」(1985)2)として, 皆川は,「導入的概念地図の諸要素と択一式テス 硝酸銀を用いて,食塩が水に溶けていることを可視 ト成績との関係」(2009)4)の中でクロスリンクや一 化する教具が提案されていた。 つのラベルからの分岐数が多いと,その概念の定着 イオンがもつ電荷の性質については,柴田,大山 が高いことを報告した。 による「イオンが受けるローレンツ力の新しい観察 方法」(2006)3)に,電解質溶液に電源をつなぐこと (2)検証単元に関する生徒の実態調査 なく溶液全体を円運動させる方法が提案されてい 検証授業を実施する千葉県内の中学校第3学年 た。また,高校物理の教科書には,硫酸銅水溶液に 生徒(271 名)を対象に,質問紙を用いて行った。 電場と磁場をかけて水溶液自体を円運動させる実 験が扱われている。 ア 素朴概念の調査 生徒は,これまでの生活の中で形成した自分なり の概念をもっている。概念を身に付けさせる上で, すでに生徒の中にある概念を確認する必要がある。 そこで電荷概念については,先行研究をもとに, 生徒がもつ電荷に関する誤概念と2学年で学習し たローレンツ力の定着について調査した。また,粒 子概念については,1学年で学習した溶解における 粒子概念の定着と,ろ過,蒸留の定着を調べた。ろ 過については,検証授業で扱う半透膜との関連事項 図1 として調査した。結果は表1の通りである。 コンセプトマップの例 表1 素朴概念の調査結果 分野 電荷 質問内容 豆電球点灯時の粒子の動き 生徒の回答 (n=271) 正解 7% +が-に変化 44% 「電気ブランコ」が動く向き ローレ ンツ力 正解 90% 食塩水に電気が通るか? 粒子 食塩水が溶けきったときの図 ろ過 溶けた砂糖水をろ過できるか? 分離 食塩水から水と食塩を分ける 発電機 7% モーター 35% 消える 10% 不正解 43% 向きを変える方法(2 つ回答) 食塩に電気が通るか? +と-が衝突 21% 正解 57% ローレンツ力の利用 伝導性 +が移動 18% 通る 13% リニア 7% 不正解 10% その他 11% 無回答 40% 通らない 87% 通る 41% 通らない 59% 下にたまる 11% 溶質の分散 64% ろ過できる 40% 蒸留 38% 40 斜線 7% 無回答 18% ろ過できない 60% ろ過 27% その他 7% 無回答 28% 電荷に関する調査については,正答者が尐なく, 「粒子の保存」に関する概念も不足している。そ のため,電流と電子については復習や確認をする 必要があると考える。 ローレンツ力及び,伝導体と絶縁体については, おおむね既習事項が定着している。また, 「食塩水」 と「食塩」では, 「食塩水」の方が電気が通りやす いという認識がすでにあることが分かる。 水溶液と粒子概念については,半数以上の生徒 が,溶解現象を粒子で考えることができているが, ろ過と分離については,食塩水を「ろ過」して食 塩と水に分けることができると考える生徒が 27% いる。ろ紙で分離できる粒子の大きさや,イオン の大きさなど「溶質の粒子」の大きさについては, 半透膜を使った実験を通して考えさせる必要があ る。 再構成を行った。 (表2) 再構成のポイントは二つある。一つは,前半で 「食塩水」をテーマとし,粒子概念と電荷概念を 交互に学習できるようにすることであり,もう一 つは,後半に電気分解をまとめて学習することで ある。 表2 指導過程の流れ 「水溶液とイオン」 (3時間扱い 時 1 2 3 4 5 6 本研究の指導過程 溶質粒子の大きさ 水溶液の伝導性 原子の中の電子の存在 イオンの導入とイオン式 導線の電流と水溶液の電 流 イオンの性質の利用 時 1 2 3 「電気分解とイオン」 (6時間扱い → 6時間扱い) 従来の指導過程 水溶液の電気伝導性 水溶液の仲間分け 電解質と非電解質 → 3時間扱い) 時 7 本研究の指導過程 塩酸の電気分解 時 4 従来の指導過程 塩酸の電気分解 8 塩化銅の電気分解 5 9 電気分解のモデル 6 塩化銅の電気分解 電解質溶液中のイオン の存在 7 8 原子構造とイオン イオン式 9 電気分解をモデルで説 明 図2 生徒が事前調査で描いたコンセプトマップ例 イ イオンの性質を実感する教具の開発 「粒子概念」 生徒に観察,実験結果から思考させ, と「電荷概念」を身に付けやすいように,生徒の 視覚に直接訴える教具を開発した。 「粒子概念」については,あなの大きさが分か っているフィルターを溶質粒子が通過するかどう かで,溶質粒子の大きさを知る教具「イオンクラ ゲ」(図3)を開発した。溶質が食塩の場合には, フィルターの通過を可視化するため,硝酸銀水溶 液との沈殿反応を利用した 2)。 イ コンセプトマップの事前調査 検証授業実施校と県内のA中学校で行った。 「電気」「粒子」「イオン」を3つのスタートラ ベルとして,生徒がコンセプトマップを描いた。 3つのスタートラベルは,付せんを使って生徒が 自由に配置を選べるようにした。 図2は,生徒が描いたコンセプトマップの例で ある。「分岐」に関しては,「原子」や「電気」か らの分岐は多く見られたが, 「イオン」からの分岐 は尐なかった。このことから,既習事項は分岐が 多くなることが確認できた。また,リンクラベル やそれに伴ったクロスリンクについては,理科に 関する言葉でつないだものは尐なかった。 (3)検証授業の指導過程と教具の開発 ア 新しい指導過程の開発 「物質の化学変化の利用」 (17 時間扱い)の単 元における「水溶液とイオン」および「電気分解 とイオン」の合計9時間扱いの指導過程を見直し, 図3 41 イオンクラゲ 「電荷概念」については, 「イオンの伝導性を確 かめる実験」や「電気泳動」などの実験は,すで に多くの実践例が報告されている。例えば電気泳 動は,イオンが電場によって移動することを指示 薬の変色によって観察する。しかしその方法では, 食塩水などの中性の水溶液はイオンの移動を観察 しにくい。そこで,食塩水でも視覚に訴える観察, 実験を行える「ローレンツ力を用いた教具」を二 つ開発した。 一つは,電解質水溶液に生じるローレンツ力に よってできる水流を観察する教具「イオンフロー ラ」 (図4)であり,もう一つは,ローレンツ力で 動く電磁推進船「イオンライダー」 (図5)である。 これらの教具によって,「電解質溶液の電流」と, 「導線に流れる電流」との共通点を見いだすこと で,生徒は電荷の概念を拡張することができると 考えられる。 を利用するためには船の上下を逆にする必要があ った。本教具は双胴船であるため,生じた水面流 を船の中心を通すことで利用することができた。 図5イオンライダー (4)検証授業の実施・分析 千葉県内の公立中学校第3学年生徒を対象に検 証授業を行った。 ア 指導過程「溶質粒子の大きさ」について 事前調査から検証授業の最初に,粒子の大きさ が原子レベルであることを確認する必要性を感じ た。そこで「見えないものの大きさを知る」とい う方法の一つとして, 「ふるい」の目の大きさから 思考させる授業を行った。 (図6) 電極と磁石 磁石を装着 図4 食塩水中で電流を流す イオンフローラ イオンフローラの工夫点は,電極の間に装着す るネオジム磁石を絶縁・防水するために「自由樹 脂」を使ったことである。この樹脂は 60℃で柔ら かくなり,加工がしやすく安価(1グラムあたり 1円程度)であるという利点がある。この樹脂で 加工し,電極との接続を容易にしたため,生徒で もワンタッチで電極に脱着ができるようにした。 また,電源に手回し発電機を用いることで, 「電流 の向き」と「水流の向き」の関係を生徒に実感さ せることができる。 図6 イオンクラゲの授業後の生徒の感想 食塩水が通過するかどうかを調べる「ふるい」 は, 「直径 1mm のあなあき金網」 「ろ紙」 「セロフ ァン」 「ゴム膜」の4つを用意した。また,電子顕 微鏡写真を用いた資料で,あなの大きさを生徒へ 事前に知らせておいた。食塩水がセロファンを通 過し,ゴム膜を通過しないという結果から「食塩 水中の溶質の粒の大きさは,セロファンのあなの 大きさとゴム膜のあなの大きさの間である」とい う結論を,グループ内の話し合いで,ワークシー トにまとめられた生徒が多くいた。 イオンライダーの工夫点は,双胴船のスタイル にしたことである。本研究を進める上で,ローレ ンツ力によって生じる食塩水の流れが,水面付近 で速くなることに気付いた。従来の電磁推進船は 船底で食塩水の流れをつくる都合で,速い水面流 42 イ 指導過程「電気伝導性の実験」から「イオン の姿」まで とめることができた。 ローレンツ力によって生じた食塩水の流れを利 用する方法として,船に利用できることを伝え, 食塩水の流れをつくる「エンジン」を船(イオン ライダー)に搭載するとどうなるか試させた(図 8) 。また,食塩水と水道水とで船の進み具合の比 較をさせることで,食塩水と水道水の違いについ て思考させた。 図7 イオンライダーの授業後の生徒の感想 (5)事後調査および生徒の変容の把握 ア コンセプトマップの分析 「水溶液の電気伝導性を調べる実験」に関して は,おおむね従来と同様の方法で行った。ただし, 電極は「イオンフローラ」で開発したものを使用 し,豆電球の点灯によって伝導性の有無を確認し た。 「原子の中の電子の存在」は,水素原子の構造 から入り,ネオンまでの 10 個の原子について調べ 学習を行った。その中で,各原子の共通点などに 気付かせる話し合い活動を取り入れた。 「イオンの 姿」については,食塩を例にとり,Na 原子や Cl 原子の最外殻の電子をやりとりすることによって, 原子が電荷をもち,電気伝導につながることを生 徒に調べさせた。 ウ 指導過程「導線の電流と水溶液の電流」から 「イオンの性質の利用」まで 2学年では,電流だけでなく磁界についても学 習したことを思い出させ,水溶液でも電流と磁界 との間に関係があるかどうかについて予想させた。 事前調査 事後調査 図9 ある生徒のコンセプトマップの変容例 コンセプトマップについては,「スタートラベルか らの分岐の数」, 「スタートラベル以外のラベルから の分岐(以下:2次分岐)の数」, 「クロスリンクの 数」を全員分のコンセプトマップから数えて記録し た。そして,イオンの学習前(以下:事前)と学習 後(以下:事後)で数の比較を行った。このとき, 理科の学習に関係のないラベルへの分岐やクロス リンクは数に入れなかった。 イ 県内A中学校の結果と考察 従来通りの指導過程を実施した,県内A中学校 の結果(図 10)では,事後に「イオンからの分岐」 は 1.9 倍増加しているが,2次分岐は 0.92 倍と減 尐し,クロスリンクは 1.3 倍増加した。 図8 イオンライダーを使う生徒 電流と磁界によって,食塩水に流れが生じるこ とに驚いている生徒が多かった。(図7)生徒は, 水溶液に流れる電流にも,導線に流れる電流と共 通の性質があることに気付き,ワークシートにま 43 Ⅳ 研究のまとめ 1 成果 (1)目で見て分かる教具を活用した観察,実験に よって,生徒はイオンの性質を実感し,実験結果 から意欲的に考察できた。 (2)観察,実験結果を生徒が既習の事柄と関連付 けながら思考し,定着させていることが,コンセ プトマップのクロスリンクの増加によって分かっ た。 図 10 コンセプトマップの変容(県内A中学校)n=72 原子からの分岐が減尐したことについては,事 前調査で原子からの分岐に描いていたラベルが, 事後調査でイオンの分岐に移った生徒がいたこと が原因の一つと考えられる。 ウ (3)本指導過程の中で,生徒はイオンに関する科 学的概念を身に付けたことがコンセプトマップの 変容全体を通して分かった。 2 課題 (1)イオンに関する科学的概念を身に付けた生徒 は多かったが,十分身に付けられなかった生徒へ の支援の方法をさらに工夫していく必要性がある。 検証授業校の結果と考察 (2)コンセプトマップは,生徒の概念の定着を見 る方法として有効である。しかし,コンセプトマ ップを書き慣れない生徒が多いことから,学習単 元ごとに生徒にコンセプトマップを描かせること で,より正確な生徒の実態把握ができると考える。 図 11 コンセプトマップの変容(検証授業校)n=271 検証授業を行った中学校での結果 (図 11) では, 全生徒の分岐やクロスリンクの数の平均を事前・ 事後で比較したところ,すべての項目で事後に増 加していた。とくに,イオンからの分岐は 2.2 倍, クロスリンクは 2.7 倍に増加した。これは生徒の 中で既習の事柄と新しい学習内容がつながったこ とを示している。 【主な参考文献】 1) 国立教育政策研究所教育課程研究センター, 「平成 13 年度小中学校教育課程実施状況調 査の結果概要について」 ,p6 2) 奥田 彰(1985), 「セロハン半透膜の簡単な生 徒実験」,社団法人日本化学会「化学教育」, 33(1), 76-77, 1985-02-20 これらのことから,事後においては両校ともに 「イオンに関する言葉」の定着は確認できた。そ の一方で,本指導過程で学習した生徒は,授業で 学習した内容に関するクロスリンクが著しく増加 したことから,イオンに関する言葉のつながりが 整理されて定着し,概念としてより強固なものと なっていた。以上の結果から,本研究の仮説は検 証されたことが分かった。 3) 柴田 恭幸,大山 光晴(2006), 「イオンが受 けるローレンツ力の新しい観察方法」, 物理教育 第 54 巻 第1号(2006)pp.5-9 4) 皆川 順(2009), 「導入的概念地図の諸要素と 択一式テスト成績との関係」, 東 京 未 来 大 学 研 究 紀 要 2009 年 第 2 号 pp.33-39 44