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獣魔師達のノクターン - タテ書き小説ネット

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獣魔師達のノクターン - タテ書き小説ネット
獣魔師達のノクターン
翡翠 蛍
!18禁要素を含みます。本作品は18歳未満の方が閲覧してはいけません!
タテ書き小説ネット[R18指定] Byナイトランタン
http://pdfnovels.net/
注意事項
このPDFファイルは﹁ノクターンノベルズ﹂﹁ムーンライトノ
ベルズ﹂﹁ミッドナイトノベルズ﹂で掲載中の小説を﹁タテ書き小
説ネット﹂のシステムが自動的にPDF化させたものです。
この小説の著作権は小説の作者にあります。そのため、作者また
は当社に無断でこのPDFファイル及び小説を、引用の範囲を超え
る形で転載、改変、再配布、販売することを一切禁止致します。小
説の紹介や個人用途での印刷および保存はご自由にどうぞ。
︻小説タイトル︼
獣魔師達のノクターン
︻Nコード︼
N1757BF
︻作者名︼
翡翠 蛍
︻あらすじ︼
ヤンデレ彼女に刺されて、彼女の罪を償うために半ばムリヤリ転
生させられた主人公。転生先は獣や魔物を使役する﹁獣魔師﹂と呼
ばれる存在が活躍する世界であった・・・。召喚獣が好きです。仲
※
を表記してあります。
魔が好きです。Rappelzが好きです。エロは初めてですが頑
張ります。18禁のお話はタイトルに
感想返しで結構なネタバレをしてしまうみたいなのでご注意下さい。
1
残りの人生は転生先で︵前書き︶
導入部を出来るだけ短くする練習をしています。
2
暗い夜道と
残りの人生は転生先で
夜道。
気をつけよう
ミカ
ヤンデレ幼馴染み。
ユ
﹁信じてたのに。初めての夜に他の女とヤるなんて。しかも何で祐
実果姉ちゃんなの!?﹂
おかしい。何だか多大なる勘違いがある。
さっきまで生まれて初めて出来た彼女︽属性:幼馴染み︾と暑い初
夜を過ごしていたはずだ。
と言うか、もうちょっとで本番、って言うところで0.02∼0.
03mmのアレが無い事に気付いてコンビニに行こうとして。
彼女はそんな鈍くさい俺を叱るでもなく優しく送り出してくれて。
コンビニ行く途中で彼女のお姉さんであるところの祐実果さんに会
って。
はじめ
﹁一ちゃんが可愛い妹とイタしちゃうんならコレ上げても良いんだ
けどな∼﹂と
リラックスしたクマがプリントされた近藤さんをちらつかされて。
いや、別に要らなかったんだけど断ると後が怖いし受け取ろうとし
まこと
たら何故か袋に入った近藤さんを口に咥えられて。
﹁口で受け取らなかったら無い事無い事、麻琴にバラす﹂とかメン
ドクサイ事言われたので受け取って。
帰ろうとしたとこで思いの外時間を食っちゃったから公園をショー
トカットしようとして、ふと一本の銀杏の前で足が止まった。
3
なんてベッタクソな名前をつけられているココは、
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
約束の木の下
決して告白してはいけない場所である。
曰く﹁中学から5年間付き合った彼女に﹃俺について来て欲しい﹄
と言ったら﹃あなたは一人で頑張って!﹄と新しい彼氏を紹介され
た﹂、曰く﹁結婚しよう!﹂﹁え!?本気だったの!?﹂、曰く﹁
妻とは別れてきた﹂﹁其所までされると引くわ∼﹂などなど。
何でも、ココで振られた女性が男を刺して首吊って死んだ、らしい。
んな馬鹿な。
じゃぁ、今俺の背中から生えている刺身包丁は何だ??
何故彼女はギャーギャー喚いてる???
◆ ◆ ◆
﹁知らない天井だ﹂
﹁災難だったね∼﹂
﹁うわ!﹂
気付けば、知らない少女が目の前にいた。
だがその見た目は更に見覚えがない。
緑柱石の如く髪にスカーレットの瞳、身長は150cmほどでスラ
リとしているが出るとこは出て引っ込むとこは引っ込んでいる。そ
れはまあまだ良い。
しかしその鎌は何だ。
身長の1.5倍以上もある鎌は・・・
4
﹁せいか∼∼い♪
死神のジルちゃんだよ♪
仲良くしようね。﹂
﹁・・・やっぱりか。﹂
短い付き合いだけど
﹁いきなりだけどさぁ。あそこで死なれるとマズいんだよね。﹂
﹁いや、そんなもん俺も死にたくねーよ。﹂
﹁まぁ死ぬのはしょうがないんだけどさぁ。﹂
いや、そこ仕方無いにしないでお願い。
﹁あーんなテンプレの心霊スポットで噂通りの死なれ方をすると本
当に心霊スポットになっちゃってさぁ。ほんとに霊障が起こってム
ダに良くないもの引きつけるわ地縛霊は湧きまくるわ良くない事だ
らけなんだよね。﹂
﹁ふむ﹂
いつの間にかペースに乗せられている俺。
﹁ま、完全に彼女の思い違いなんだけどキミはほんとに殺されてる
し彼女はほんとに首吊っちゃってるし。﹂
マジか。
﹁でね、彼女にはちゃんと他生で罪償って悪霊にならないようにし
て貰わないといけないんだけど・・・﹂
嫌な予感。。。
5
﹁キミ、手伝ってくれない??﹂
やっぱり∼∼∼∼!!
チート
﹁悪い話じゃないよ?キミは別に本来する必要のない生だし今生も
割と残ってたイノチ使えるし、色々とオマケつけてあげるし、ある
程度キミの望む世界構成にしたげるよ?﹂
むむ?
﹁例えば・・・﹂
た、たとえば・・・!?
﹁ハーレムとかどう?﹂
﹁逝きます!!逝かせて下さい!!﹂
◆ ◆ ◆
﹁じゃぁ、条件は個々に書いた4つだけで良いのね?﹂
1.獣や魔物を使役する、召喚獣とか仲魔とかそれっぽい剣と魔法
のファンタジー。
2.性的にタブーの無いハーレム属性。
3.内政系は要らない。一冒険者やってみたい。
4.彼女とは接触がないように。
﹁はい。後はテンプレでお願いします。﹂
﹁りょうか∼∼い、あ、でも4は前提条件に抵触するから却下ね。﹂
﹁え゛﹂
﹁じゃ、いってらっしゃ∼い﹂
6
﹁ちょ∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼︵T△T︶﹂
7
残りの人生は転生先で︵後書き︶
実はまだ一人もメインヒロインが決まってませんw皆さんの応援が
方向性を決めます。
8
召喚師ウェンディーヌ︵前書き︶
導入部分って匙加減が難しい・・・。簡略化すると世界観が見えな
いし、書きすぎると本章に入るまでに飽きる。
9
召喚師ウェンディーヌ
長い長い闇の渦巻きの中を通り抜けた先は・・・
水の中だった。
︵もーちょい転移先を融通利かせてくれても良いのに!!︶
ジルの︵ ̄︱ ̄︶ニヤリ顔が頭に浮かんで必死で浮かび上がる。
﹁ぶはーーーーっ!﹂
ざっぱーんと這い上がるとその先には・・・
ふわふわのボブヘア、少し下に下がるとたゆゆゆゆゆゆんと揺らめ
く巨大なる二つの山、更に下がるとボブヘアと同じピンク色の控え
めに生えそろったヘア。
﹁・・・﹂
﹁・・・﹂
双方思考停止。
あーここはやはり天国だ、ファンタジーだ。毛の色もピンクだよマ
マン、てかこれ何てし○かちゃん?などと現実逃避的思考を張り巡
らせていると、先に正気に戻った少女が呪文を唱えた。
﹁リヴィエル、﹃スプレッド﹄﹂
彼女のブレスレットがチカリと光り、龍の幻像が見えたかと思った
10
瞬間、風呂の水が巨人の如き拳の形を取り体ごと吹っ飛ばされた。
薄れゆく意識の中で思った。
︵異世界テンプレな風呂の心配は要らないらしい・・・︶
◆ ◆ ◆
﹁気がついた?﹂
﹁こっち来て早々、水にどつかれるとは思わなかったよ。キッツい
一発有難う﹂
﹁わざわざ人がお風呂に入るのを湯船に潜んで待ち構えてるヘンタ
イさんにはまだまだ緩かった気もするけど。﹂
﹁いや、違うんだ。﹂
﹁言い訳ぐらい聞くわよ?﹂
﹁アレは死神が悪い。﹂
﹁リヴィエル、﹃タイダル・ウェイb﹄﹂﹁わわわわわちょっと待
ったーーーー!!!﹂
﹁いきなり大津波級の魔法攻撃とか勘弁してよ!﹂
﹁そっちこそ嘘つくんならもうちょっとマシなの選べば??﹂
﹁はぁ・・・、真面目に話すから突拍子もない話でも信用してくれ
る?﹂
11
◆ ◆ ◆
﹁幼馴染みの彼女と良い雰囲気になったけど急に買い物思い出して
外に出て、彼女のお姉さんにからかわれてるところを勘違いされて
刺し殺された?挙げ句に罪滅ぼしのとばっちり食らって違う世界か
ら転生してきた?﹂
﹁凄いね!一回話しただけで理解してくれるなんてこの手の作品で
はレアなキャラなんだよ!僕のハーレム第1号はやっぱりキミで決
定かな??﹂
憑物
だったなんて知らなかったから。
何故だろう?彼女が米噛みを押さえて首を振っているのは?あ、ひ
ょっとしてアノ日??
﹁ごめんなさい、あなたが
大方、インプかサキュバス辺りでしょう。重くなる前に治療に行き
ましょうね。大丈夫、これでもギルド内の信用は厚い方なの。アタ
シがついて行けば話は通りやすい筈よ。あなた、根が悪い人ではな
いみたいだし冒険者としてこのまま放ってはおけないわ。﹂
払い手
なら料金も安くして貰えるし、思いっきり
ん?何か話が怪しい方向に・・・。
﹁知り合いの
パチコーンとやって貰いましょう!﹂
待て待て待て待て!!憑物って狐憑き的なアレか?しかもインプと
かサキュバスとか明らかにヘンタイ扱いじゃないか!
﹁待て!俺は正常だ!!﹂
12
﹁憑物はみんなそう言うのよ。﹂
アーティファクト
イカン!悪化した。何か無いか?何か無いか?
こういう時テンプレだと神世遺物レベルの現代アイテムで・・・
その時、現世から持ってきた2つのアイテムを思い出した。
ターボライターとソーラー電波時計。
﹁済まないがこの世界での一般的な火の点け方を教えてくれ。﹂
﹁火に特化した獣魔を扱える人以外は火打ち石か火精石を使うのが
普通・・・ってそんな事も忘れてるの?﹂
イケル!文明国の力︵?︶見せてやる!
カチリと言う音とともに青白い炎を上げたターボライターを見て彼
女が驚きの表情を見せる。
﹁何これ!?何の魔力も感じられないのに何でこんな高温の炎が詠
唱もなしに作れるの?魔力が感じられないって事は只の燃料?なの
にさっきお風呂で濡れたはずのこれがどうして簡単に燃えるの??
?﹂
思った通り。実はこれ、転移先でたちまち火元が無いと困ると言う
事で水に濡れてもOKなターボライターを持ち込んでいたのだ。あ
まり大きな物を持っていても嵩張るだけだし、水は何とかなりそう
な気がしたので手のひらサイズのこれだけ持ってきたのだが意外な
ところで役に立った。
﹁異文明から来たって事、少しは信用して貰えた??﹂
13
﹁確かにこれはそこいらにあるもんじゃないわ。でも、迷宮遺物レ
ベルなら発掘されなくもない。﹂
﹁じゃぁ、これは?﹂
俺は意気揚々と腕時計を見せた。
﹁これは・・・今度は弱いながらも光精石のエネルギーを感じるわ。
。ここに書かれている文字は数字を簡略化した物のようだけど・・・
一体何??﹂
﹁これは時計だよ。光精石って言うのは何となく想像がつくけど、
これは光のエネルギーを吸収して、光のエネルギーのみで動く永遠
に狂わない時計だ。そしてある程度の防水がついているからお風呂
で濡れても作動し続けてくれたんだ。﹂
今度こそ彼女は目を丸くした。
高々少量の光精石でここまでの魔法具は作れない。
遺物がどうとか言うレベルではない。この世界で知られている技術
体系とは成り立ちが違う事が想像出来た。
﹁まだ全部信じた訳ではないけれど・・・﹂
﹁取り敢えず着の身着のままのその格好ではどうしようもないから
近くの村まで一緒に行ってあげる。その旅中に詳しい話を聞く事に
しましょう。﹂
﹁良かった!!助かるよ。実際この世界の事とか何も分からないか
サ
一、この世界では名前が先?
ハジメ
ら俺が正気であろうと無かろうとこのままではどうしようもなかっ
タカナシ
たんだ。今更だけど俺の名前は髙梨
名字が先?﹂
モナー
﹁名前が先よ。アタシの名前はウェンディーヌ・トライザスタ、召
14
ミシィカル・ビースト
喚師よ。ついでにアタシの召喚獣も紹介するわね。リヴィエル!出
て来て!!﹂
﹁ふいぃ∼∼、やっと話に混ざれるわ。退屈すぎて滑稽で無理矢理
飛び出してやろうかと思っちゃった。﹂
ウェンディーヌの呼びかけに応じて瑠璃色の肌を持つ龍が姿を現す。
召喚された瞬間は30mにも及ぼうかという身の丈であったが、す
るすると縮んだかと思うと170cm程のスレンダー美女に変化し
た。
ハジメには詳しい事は分からないが、その体から迸るオーラのよう
な物は紛れもなく先程の龍と同じ威圧感を放っており、また瞳と髪
の毛は龍の時と同じ瑠璃色であった。
・ ・ ・ ・ ・
﹁初めまして、私はリヴィエル。人間達には水龍王、なんて呼ばれ
てるわ。さっきはちょこっと殴っちゃってごめんなさいね。基本的
に契約を結んだ相手の言う事には従わなきゃならないの。﹂
﹁ちょこっと・・・ね。まぁあれは事故だから良いとするにして、
リヴィエルさんは俺の事をヘンタイとか憑物とかそう言う扱いしな
いの?﹂
ミシィカル・ビースト
﹁リヴィエルで良いわよ。てか、そんな扱いする訳無いじゃない。
私を誰だと思ってんの。これでもこの世の構成に直接関わる召喚獣
よ。この世界にあれだけ大きな変化起こしてくれてれば嫌でも分か
るわよ。﹂
﹁え?じゃぁ、リヴィエルさん、じゃなくてリヴィエルは最初っか
ら俺の存在について大体の事が分かってたの?﹂
15
﹁そう言う事。﹂
ニヤリ、と底意地の悪い顔を見せてリヴィエルが笑う。
﹁じゃ、じゃぁ助けてくれても良かったんじゃ・・・﹂
﹁だって・・・﹂
﹁だって?﹂
﹁ウェンディーヌもハジメも超可笑しかったんだもん!﹂
16
召喚師ウェンディーヌ︵後書き︶
次話からいよいよ冒険が始まります。チート&ハーレム、頑張りま
す!
17
ブラックホーンホース︵黒一角獣︶︵前書き︶
世界設定は今回で終わらせるつもりでしたが、獣魔師そのものの説
明が終わりません。もう少しお付き合い下さい
18
ブラックホーンホース︵黒一角獣︶
出会いは風呂とともに・・・。
と言うロマンチシズムに欠ける初対面だった為に警戒心は解かれて
いないが、リヴィエルが﹁ハジメはこの世界の外の存在﹂と言う事
をキチンと説明してくれた御陰で一先ずは頭の痛い子扱いから逃れ
る事が出来た。
﹁それで俺はさっきも言った通りこの世界にポイッと投げ入れられ
たに近いから、この世界の常識が殆ど無いんだ。基本的な事を幾つ
か聞かせて貰えるかな?﹂
﹁アタシも学者って訳じゃないからそれほど詳しい訳じゃないけど、
一般的な事で良いなら良いわよ。﹂
﹁まず、暦について。一年は何日?一日は何時間?一時間は何分?
一分は何秒?そもそもこういう単位ある?﹂
﹁あるわよ。365日、24時間、60分、60秒。﹂
地球と同じらしい。重力がほぼ同じだし星の大きさとか自転周期と
かは何となく同じ気がしていたのだが。
﹁お金の単位は?﹂
﹁銅貨1枚が1ミュール、銀貨1枚が100ミュール、金貨1枚が
10000ミュール、光貨1枚が1000000ミュール。100
倍ずつ上がっていく感じね。﹂
﹁普通に一食食べるのとか、宿に泊まるのとか、4∼5人で住むぐ
らいの家の価値とかは?﹂
﹁場所にもよるけど、一食は外食すると500ミュールから100
19
0ミュール、宿は5000∼10000ミュール、家は1億∼3億
ミュールってとこかしら?﹂
家高ぇな。それ以外は大体日本と同じぐらいか?
﹁家高いね。﹂
﹁決まったところに住むのなら借家が安くて良いわよ。1年契約す
ると20万∼30万ミュールぐらいかしら?﹂
﹁光貨でも100万ミュールだと、それより上の買い物の場合はど
インヴォーカー
うするの?家の時とか大変じゃない?﹂
﹁獣魔師ならブレスレットにチャージしてあるミュールで決済する
のが一般的ね。一般人もチャージ水晶使う事が大岩。これは高額な
場合もそうだし、そうでなくても現金を大量に持ち歩かなくて良い
のは便利ね。ブレスレットチャージが使えないど田舎にでも行かな
い限り使えるから、これがあれば金貨2∼3枚持ってれば大抵何と
かなるわ。﹂
そういって彼女は鈍い光を放つブレスレットを見せた。
ヒエログリフ
左腕に巻きついているそれは一見銀色だが良く見ると虹色の輝きを
放ち、表面には神聖文字と思しき複雑な紋様が刻まれている。
イン
﹁あー、それ﹃スプレッド﹄のときにチカってしてたよね。召還の
魔法具かと思ったらそんな機能もあるんだ。﹂
ヴォーカー
﹁・・・良くあの一瞬でそこまで見てたわね。。これはアタシ達獣
魔師にとって命と同じぐらい大事な存在なのよ。他にも色んな機能
があるんだから。﹂
◆ ◆ ◆
﹁次はこの世界の地形とか国とかについて教えてくれ。大きな国と
か、どこの国とどこの国が仲が良いとか悪いとか、ぶっちゃけ戦争
してるとか。﹂
20
﹁この世界は北のアルケランス大陸と南のプロイセミア大陸に分か
れているわ。それぞれが赤道を挟んで二等辺三角形の様な形で東西
に延びて、星の裏側で繋がっている。
サイドン平野
もここね、と彼女は呟く。
北西には乾燥して冷涼で作物に乏しいけど鉱物資源が豊富な聖アル
ケミア帝国。﹂
アタシ達が今居る
﹁その東が逆に作物は豊富で鉱物が乏しいランスロット王国、
南西には4大国で最大の領土を持つけど穏やかな国民性のプロット
公国、
南東にあるライスセミア幻神国は国は小さいけど兵の練度が高く、
好戦的ね。
その他にも島や運河や大陸貿易の要所に小国があってそれぞれの勢
力も、4大国には敵わないながらまとまれば無視出来ないレベルね。
﹂
﹁で、大きな戦争はないのか?﹂
﹁無いわね。﹂
﹁へぇ?﹂
インヴォーカー
﹁勿論小競り合いはしょっちゅうだけど、国の覇権や領土を争う程
の戦争となれば必ずアタシ達獣魔師の力が必要になるけど、私たち
インヴォーカー
サモナー
はギルドに属しているけどどこの国にも属していないから。﹂
インヴォーカー
﹁さっきから言ってる獣魔師ってのは召喚師とは何が違うんだ?﹂
﹁獣魔師って言うのは読んで字の通り獣や魔物を扱う物の総称で・・
・﹂
◆ ◆ ◆
ウェンディーヌによる講義がいよいよ始まろうかと言う時だった。
21
平野に長く伸びた草が彼等の背後でガサリと揺れた。
﹁﹁!!﹂﹂
﹁WROOOOOOOOOOOONNNNNNNNNNNNN!!
!!﹂
つがい
振り返った彼等が聞いたのは体長4mにも及ぼうかという漆黒の馬
のいななき!
その額には金属光沢を放つ70cmもの長い角。
黒一角獣
﹁ブラックホーンホース!?何でこんなところに番でっ!?﹂
レクチャー
先程までのノンビリとした講義の雰囲気など一瞬で吹っ飛んでしま
った。
﹁リヴィエル!タイダル・ウェイ・・・﹂﹁待て!!!﹂
﹁︱︱︱!?何を言ってるの??﹂
﹁繁殖期に縄張りに入った俺たちが悪いんだ。今、謝ってるところ
コミュニケーション
だから手を出すな!﹂
﹁︱︱︱!あなた、交渉が出来るの??﹂
﹁静かにしてくれ、俺もこんなの初めてなんだ!気が散る!!﹂
◆ ◆ ◆
黒一角獣
ドイツモコイツモ
ナレバイイ。﹂
ミセシメニコロ
レイギシラズダ。
気付けばハジメの精神は肉体を離れ、ブラックホーンホースの精神
と直接会話をしていた。
ニンゲンハ
エサニデモ
オマエラナドクイワシナイ。タダシ
﹁サイキンノ
オレタチハ
シテヤル。ハウンドウルフノ
﹁済まなかった。俺はこの世界に来たばかりでルールがまだ分から
ない!村に戻ったらちゃんと知らせるからここは見逃してくれない
22
か?﹂
﹁・・・タシカニ
オマエハ
オンナハダメダ。﹂
コウセイブンシデハ
ミノガシテヤッテモイイ。ダガ
コノセカイノ
ナイヨウダナ。コンカイダケ
ツレノ
コミュニケーション
﹁頼む!俺は君達のような美しい存在と敵対したくない!!﹂
︵・・・何を話しているの?︶
インヴォーカー
傍で見ているウェンディーヌには一体彼がどんな交渉をしているの
テイマー
コントラクター
サモナー
かはっきりと聞こえない。同じ獣魔師なので念波で雰囲気は伝わる
のだが、彼の資質は恐らく操獣師か契約師、召喚師の彼女では詳し
い事は分からないのだ。
・・・
・・・・・・
黒一角獣
数秒、数十秒、時間の感覚が無いまま時が流れ、無限にも思える程
の後、突然ハジメがブラックホーンホースに向かって歩き出した。
﹁!!﹂
ウェンディーヌには止められなかった。
・ ・
あまりに真剣で、そして慈愛に満ちたハジメの瞳を見てしまったが
故に。
黒一角獣
ハジメが近付くと、何とブラックホーンホースが跪き、そしてハジ
黒一角獣
メは彼等の角に静かに口づけた。
血気に逸っていたブラックホーンホースの瞳が見る間に落ち着きを
取り戻していく。
﹁ウェンディーヌ﹂
振り返った彼の次の言葉は規格外などと言う範疇ではなかった。
23
﹁彼等と友達になれたよ﹂
24
ブラックホーンホース︵黒一角獣︶︵後書き︶
チートの一端を垣間見せ始めたつもり、、、なんですが。。。何で
かあんまりそうでもないですね。精進が足りません。頑張ります。
25
獣魔師としての適性︵前書き︶
序章が終わったら設定集を乗せます。
26
獣魔師としての適性
﹁あなた、ほんとに一体何者なの??﹂
村には近付いてきていたのだが、思わぬ遭遇により時間を取ってし
まった為に彼女らは今、野営をしている。
黒一角獣
テ
テントの中では早々とハジメが眠りについていて、何と夜番はブラ
黒一角獣
ックホーンホースが買って出てくれた。
イマー
コントラクター
先程のブラックホーンホースとのやり取りを見る限り、ハジメが操
獣師か契約師のいずれかの資質が有る事は間違いない。
しかし、彼女が知るどちらのやり方にも属さない。いや、どちらに
も似ている、と言うべきか。
ブレスレットの能力に頼らずそれを成し遂げてしまった事も有り得
ない。
コミュニケーション
彼女が知るブレスレットとは、魔法生物としての資質を持たない人
間という種族が、魔法金属を媒介して魔法生物たちと交渉をするア
イテム、の筈なのだ。
︵有り得ない・・・︶
今日何度目か分からない台詞を独りごちた。
◆ ◆ ◆
︵リヴィエルに聞いてみるかな・・・︶
そろそろ来る頃だと思ってたわよ
﹁リヴィエル、ちょっと話し相手になってちょうだい﹂
﹁はいは∼い、まいますたー♪
27
るんるん♪
るんるん♪﹂
﹁何よ、その
って。わざわざ口に出さなくても良い
でしょうに。・・・それといつも言ってるけどアタシ貴女のマスタ
ーになったつもりはないわよ。﹂
﹁そぉんな連れない事言いっこなしよ?まいますたー♪﹂
﹁貴女がその言い方をする時って大抵碌な事考えてないのよね・・・
﹂
﹁まぁまぁ。それで?まいますたーのお悩みごとはあの規格外の異
インヴォーカー
世界人さんの事で良いのかしら?﹂
黒一角獣
コミュニケーション
﹁そうよ。それなのよ。彼が獣魔師としていずれかの資質を持って
テイマー
コントラクター
る事はブラックホーンホースと交渉して従えた事から明らかな筈な
黒一角獣
んだけど、獣を従えるやり方が操獣師とも契約師とも違う気がする
テイマー
のよ。
コントラクター
操獣師だとしたらあまりにもブラックホーンホースは彼に比べて強
すぎるし、契約師だとしたら今の彼に契約で差し出す交換条件が想
像がつかない。しかもそもそも魔力源とも言えるブレスレットなし
友達
になる。
にCの上級に位置する魔物を従えて、あまつさえ興奮状態に有った
黒一角獣
インヴォーカー
ブラックホーンホースと
もう無茶苦茶すぎて獣魔師として自信なくしそうよ。﹂
﹁そうねぇ。。一つ可能性は想像がつくんだけど・・・
百聞は一見に如かず。貴女が彼の資質、確かめてみたら?﹂
﹁確かめるって言っても村のギルドに行って資質試験を受けようと
思ったらどう頑張ってもあと2∼3日はかかるわよ?その間に今日
みたいな事がまたあったら・・・﹂
にや∼り、とチェシャ猫の如き笑みを浮かべてリヴィエルが呟く。
﹁あるじゃない、資質を確認するとっておきの方法が。﹂
﹁︱︱︱!!﹂
28
・ ・ ・ ・ ・
﹁ダメ!ゼッタイ!!ムリムリムリムリムリムリムリムリ!!!﹂
﹁え∼、どぉしてぇ∼∼??﹂
﹁貴女分かっていってんでしょ!ア、アタシそう言う事した事無い
のよ!?﹂
﹁な∼にカマトトぶってんのよ。何も貞操明け渡せって言ってんじ
ゃないのよ?ただ心を通わせて口づけを・・・﹂
﹁わーわーわーわーわーーーーー!!﹂
イン
急いでリヴィエルの口を塞いだウェンディーヌであったが、興奮し
すぎていたらしい。
﹁どうかしたの?﹂
インヴォーカー
騒ぎを聞きつけたハジメを起こしてしまった。
◆ ◆ ◆
ヴォーカー
﹁へぇ・・・俺にはその獣魔師?の資質があるらしいと。それで獣
テイマー
コントラクター
魔師にも色々有るけど俺がどれの資質があるか調べておいた方が良
い、って事??﹂
﹁そうなの。見たところあなたは操獣師か契約師の可能性が高いん
じゃないかと思うんだけど、いずれにせよブレスレットなしで獣魔
を使役している状態というのはあまり好ましくないわ。ブレスレッ
トは獣魔との架け橋の役目をしてくれるんだけど、それ無しで使役
とかここいらみた
では手に負えないから良くて廃人、悪ければ
憑物
してると気付いた時にはハジメの魔力はすっからかん。中の上ラン
黒一角獣
払い手
クの魔物であるブラックホーンホースの
いな田舎の
あなたごと成仏ね。﹂
29
・
傍らで聞いていたウェンディーヌは、うぐ、と嗚咽を漏らした。
ウェンディーヌ
リヴィエルが話した内容に一片の嘘も無い。否、嘘は無い。
・ ・
が!ちらちらこっちを覗き見しながらチェシャスマイルをこぼす辺
り、アレをさせる気満々である。
﹁それで・・・どんな方法で調べて貰えるの?危険性とかはない?
?﹂
﹁危険性は無いわよ。ただ単に心を籠めて相手の事を思って口づけ
を交わせば良いだけなんだから。﹂
﹁・・・はい?﹂
◆ ◆ ◆
女3人集まれば姦しい、とは良く言ったものだがアレは違うな。
2人でも十分だ。
﹁そもそもそれならリヴィエルがやれば良いじゃない!貴女の方が
契約
以外で軽々しく人間とそう言う事をしないの
上位精神生命体なんだしより詳しい事が分かるでしょう?﹂
﹁嫌よ。﹂
﹁なっ!?﹂
﹁アタシ達が
は知ってるでしょう?大丈夫よ。貴女を通して必要な事は調べてあ
げるから。﹂
﹁むぐぐぐぐ﹂
冒険者としては一人前で、ソロプレイも卒なくこなせるようになっ
て来ているウェンディーヌであるが、この辺りは海千山千のリヴィ
エルに敵うべくも無い。
黒一
﹁良いのかしらぁ∼?Bランクとして漸くギルドの信頼を集め始め
角獣
たウェンディーヌ・トライザスタ様がみすみす目の前でブラックホ
30
ーンホースの
なって。﹂
憑物
﹁あががががが﹂
が出来上がるのを指咥えて見てたなんて事に
﹁良いのよ?そんな事になったら後味悪そうだし、人の良さそうな
彼をまいますたー♪の御手自ら葬り去ってサイドン平野の土に返し
てやれば良いんだから。﹂
﹁ふんがぁ∼∼∼∼∼!!!!!!!﹂
﹁あ、キレたw﹂
﹁良いわよ!分かったわよ!!やってやるわよ!!!﹂
◆ ◆ ◆
﹁ごめんね、出会いからこっち何か俺のせいで色々巻き込んじゃっ
て・・・﹂
﹁良いわよ。ソロプレイしてれば予測不能の自体に陥る事は良くあ
るって言うし。﹂
アタシこう言う性格だから意外に思われるんだけど・・・﹂
﹁それより・・・﹂
﹁?﹂
﹁ア、
﹁・・・うん?﹂
﹁初めてなの。。﹂
﹁!﹂
﹁だ・か・ら!シタ事無いの!!﹂
狭いテントの中で向かい合って改めてウェンディーヌを見た。
ピンクのふわふわのボブヘアにやや丸みを帯びた顔立ち。口調が強
気なので感じさせなかったが、良く見れば美人と言うよりも柔らか
な可愛らしさを感じさせる。
31
鮮やかなサファイヤブルーの瞳は水を扱う彼女の穏やかさと激しさ
を象徴しているかのようだった。
そして唇・・・。
ぽってりと膨らみうっすらグロスを引いた、そこだけ顔のパーツの
中で一際大人びた印象を与える。
︵これからあそこに口付けを・・・︶
ごくり、と思わず唾を飲み込んでウェンディーヌの肩を抱いたハジ
メは少しずつ自分語りを始めた。
﹁少しは話したと思うけど・・・﹂
﹁?﹂
﹁17才の誕生日、俺は元の世界で幼馴染みと初めての夜を迎える
はずだったんだ。﹂
﹁何それウザい。この状況でそう言う話する?普通。﹂
﹁うん、場違いなのは分かってる。でもウェンディーヌには全部聞
いて欲しいんだ。﹂
﹁彼女の部屋で小さなパーティをして、お酒を飲んで、静かにキス
をして。いよいよこれからって時にある物が無い事に気付いた。こ
っちではどうか分からないけど向こうの世界では17才というのは
まだ学校に通っていて親の元にいる年齢だった。
結婚も簡単には出来ないしやりたい事もあった。だから子供が出来
彼女がライバル心
に出会った。そこで色々と勘違いをさせるような
‒
るのを防ぐアイテムが必要だったんだけど緊張していた俺はそれを
持ってきていなかった。﹂
‒
そして近所に買いに行くところで彼女の姉
を燃やす人
行動を取ったんだけどまさか彼女が見てるなんて思っても居なかっ
32
たから気にも留めず彼女の待つ部屋に帰ろうとして・・・﹂
帰宅途中、思いっきり勘違いした彼女に刺された。﹂
﹁俺の初めての思い出はそんな最悪なところで止まってるんだ。﹂
気付けば自然と涙が溢れていた。
﹁死んだのが辛いんじゃない。こうして別の世界に来れたしウェン
ディーヌやリヴィエルさんに会えたこの事実はもう決して変えたく
ない。
ただ、俺は前世の最後で完全に自信を喪失している。長年連れ添っ
た幼馴染みに信用して貰えなかったという事でね・・・。
俺に悪いところが無かったとは勿論言わない。迂闊に過ぎたんだと
思う。ただ・・・。﹂
こっちの世界でもう一度自分という人生をやり直したい。﹃好きだ﹄
なんてまだ言えないけど、俺を信用してくれないか?﹂
◆ ◆ ◆
涙を流す彼と向き合い、目を閉じた。
アタシから行っても良かった、それぐらいには信用していたけど。
﹁彼を受け入れる﹂という姿勢を見せてあげたかった。
こぼれる様な掠れるような声で彼はアリガトウを言い、唇が近付き、
静かに触れた。
◆ ◆ ◆
33
ウェンディーヌが目を覚ますと・・・。
﹁・・・知らない天井ね。。﹂
﹁ウェンディーヌ??﹂
ハジメもこの妙な場所に来ている様だ。
﹁ハジメ?﹂
お互いを見つめ合い・・・。
﹁キャッ!﹂﹁わわっ!﹂
アタシ達は何故か服を着てなかった。
﹁ごめん!そっち向いてて!今軽く羽織る物出すから!﹂
﹁・・・ここは?﹂
﹁何でか知らんけど俺の部屋なんだよね。しかも元の世界の。﹂
軽く部屋着を羽織った彼がチュニカの様な部屋着らしき物︵ワイシ
ャツ︶を投げてくる。
勝手にベッドに潜っていたアタシは布団の中でもぞもぞとそれを羽
織った。
彼の物らしいそれは小柄なアタシには短いローブのような長さにな
ったが、彼がアタシを見る目が何だが嫌らしい。。まぁ不愉快じゃ
幻体化の儀式
イリュージョン
に捕らわれたようね。﹂
ないから良いにする。しかしこれでは胸が全く収まらない・・・。
﹁どうやら2人はハジメの
﹁﹁わわっ!﹂﹂
﹁リヴィエル!どうしてここに??﹂
34
﹁資質試験を行う時にウェンディーヌと接続して監視していたから
テイマー
コントラクター
ね。行き先を辿ったらここに着いたと言う訳。﹂
イリュージョン
﹁そ、それよりも幻体化??ハジメは操獣師か契約師だったんじゃ・
・・﹂
﹁何?そんな事にも気付いてなかったの?そんなにキスに夢中にな
ってた?﹂
﹁ち、違う!あぁ!!ハジメそんな悲しい顔しないで!!キスはと
っても良かったけど・・・ってそうじゃなくって!ハジメの資質は・
・・??﹂
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
﹁はぁ・・・、落ち着いて自分の記憶を辿れば分かりそうなもんだ
けど。。ハジメは4つの資質を全部持ってるわ。﹂
﹁・・・ほえ?﹂
35
獣魔師としての適性︵後書き︶
インヴォーカー
物語ではまだ3つしか出てませんが、獣魔師は実は4種類存在して
いるのです^^:
36
幻体化の儀式︵前書き︶
大凡の設定はこの辺で説明終わりです。漸くキャラクターを動かし
てやれそうです。
37
幻体化の儀式
﹁アナタ、一体何者なの??﹂
もう何度目か分からない台詞だ。
インヴォーカー
明確に
4種類に分けられる。
ミシィカル・ビースト
ミシィカル・ビースト
この世界には獣魔師と呼ばれる獣や魔物を扱う人間達が居る。
それらは
◆ ◆ ◆
サモナー
アストラル・ワールド
︵1︶召喚師
精神世界に存在する召喚獣の力を借りる。召喚獣には基本的な物理
サモナー
攻撃や魔法攻撃は通らない。唯一他の獣魔からの攻撃のみにてダメ
ミシィカル・ビースト
ミシィカル・ビースト
マテリアル・ワールド
ージを受ける。一人一体しか契約出来ない。召喚師自身よりも遙か
に強力な召喚獣と契約出来るが、召喚獣は強力すぎるが故に物質界
イリュージョン
では相応に制限された力しか発揮出来ない。それを僅かな時間フル
イリュージョン
レンジで発揮させるのが召喚術である。
イリュージョニスト
アストラル・ワールド
︵2︶幻体師
精神世界から己の想像・創造した幻体を出現させ戦わせる。幻体に
は基本的な物理攻撃や魔法攻撃は通らず、個体の能力は幻獣にも及
ぶ。唯一他の獣魔からの攻撃のみにてダメージを受ける。一人一体
イリュージョニスト
しか保有出来ない代わりに常時出現させ連れ歩く事も可能。但し、
幻体師自身とダメージを共有する。
テイマー
マテリアル・ワールド
︵3︶操獣師
ファミリア
物質界で実体化して存在している獣魔と心を通わせて操獣する事が
出来る。使役した操獣魔は通常の物理攻撃や魔法攻撃でダメージを
38
受ける。何体でも使役可能である代わりに基本的に自分より力の劣
る獣魔しか使役する事が出来ない。元々実体化している獣魔を操獣
するので、一度使役関係を結べば特別にエネルギーを与える必要は
無いが、あまりに非人道的な使役は見限られる事もある。また、ブ
レスレットに収納する事も出来ないと言うデメリットもある。
コントラクター
マテリアル・ワールド
︵4︶契約師
コンフェデレィト
物質界で実体化している獣魔と心を通わせて契約関係を結ぶ。使役
した契約獣は通常の物理攻撃や魔法攻撃でダメージを受ける。何体
でも契約可能であり自分より力で勝る獣魔を従える事も可能だが、
優秀な獣魔は押し並べて契約時の要求も高度になりがちである為、
バランス感覚が難しい。またブレスレットに収納可能でもあるが、
ブレスレット内での維持には大量の魔精石を必要とする。
◆ ◆ ◆
﹁ここまでは良い?﹂
﹁つまりどれも一長一短って訳だね。﹂
インヴォーカー
テイマー
﹁そう言う事、扱う人間が強力になればそれに従う獣魔も練度が上
がるし、獣魔師としてともに成長していける。操獣師は強力な獣魔
を従えられないから弱い、なんて事は無く要は使い手の問題なの。﹂
黒一角獣
どうでも良いが彼女のコスチュームが気になって仕方がない。
裸ワイシャツロリ巨乳・・・。
あ、赤い鼻水が。。
﹁・・・真面目に聞いてる??﹂
﹁あ、ハイ!勿論であります!!﹂
テイマー
コントラクター
﹁・・・まあ良いわ。それでハジメがブラックホーンホースを手懐
けた時だけど、恐らく﹃操獣師と契約師の能力が同時発動している﹄
39
﹂
﹁へぇ。﹂
テイマー
﹁へぇ、って・・・。兎に角最後まで説明を続けるわよ。特別な契
黒一角獣
約関係を結ばず、獣魔と心を通わせるというのは操獣師の力。しか
コントラクター
しそれを行うにはブラックホーンホースは強すぎるのよ。少なくと
も今のハジメにとっては。契約師の能力である﹃自分より上位の獣
魔との契約交渉﹄が無ければ使役する事なんて出来っこない筈なの。
アナタ、彼等とどんな約束をしたの??﹂
﹁えっと、繁殖期に近付かない、それを周囲の人間にもちゃんと教
つまりはアタシだけど
‒
を生け贄
える。生まれた仔馬は決して意識的に人の手に掛けさせない、そん
で友達になって一緒に旅がしたい。﹂
‒
﹁有り得ないぐらいに軽すぎるわね。﹂
﹁本来ならそこのメス
においていけ、ぐらいは言いかねない。﹂
うん、めっちゃ言ってました。
﹁これがどれだけ異常な事か分かる?ハジメには4つの資質が同居
イリュージョン
しかも恐ら
ブレスレットに収納し、幻体を身に纏う、そんな破天
‒
ミシィカル・ビースト
してるだけではなく、それを同時に使用出来る。つまり、上位の獣
テイマー
‒
魔を操獣師と同じようにお手軽に扱え、召喚獣を
く複数
荒な戦闘が可能なのよ??﹂
チートキタ︱︱︵゜∀゜︶︱︱!!
等と調子こいてたら、まぁそんなことしたら魔力不足でミイラにな
るだろうけど、と念を押された。
◆ ◆ ◆
40
﹁話、終わったぁ∼??﹂
幻体化の儀式
イリュージョン
終わらせて外に出た方
勝手にポテチとビールを開けてパリポリやってたリヴィエルが声を
掛けてくる。
﹁そろそろ夜も更けたし、
が良いわよ。﹂
﹁あ、そうだ。ここからってどうやって出るの?﹂
アストラル・ワールド
﹁何か知らんけど勝手に暴走して儀式が始まっちゃったからねぇ。
って願えば体あっちにある訳だし戻れる筈だけど、何だ
終わるまで出れないと思うよ。ここ精神世界だからハジメが本気で
出たい
かこっちに未練があるでしょ?﹂
お得意のチェシャスマイルで見透かしたように笑った後、﹁じゃ、
後でね∼﹂と勝手に1人帰って行く。
ポテチとビール返せ!!
と言う事は幻体を手に入れるチャンスなのだ。
イリュージョン
そう。俺はこっちに未練がある。
儀式
それをみすみす逃してなるものか!鉄は熱いうちに打て!!!
◆ ◆ ◆
イリュージョニスト
﹁幻体師って言うのは4つの中で一番最初の難易度が高いとされて
るの。﹂
理由は言われなくても良く分かる。
他の3つはやり方さえ分かれば身の丈にあった獣魔を使役すれば良
いのだから。
だが。
41
イリュージョニスト
幻体師が操る物は﹃もう一人の自分﹄。
そして﹃何を望むのか?﹄が明確である必要が有る。
答えは自分の中にしかない。
﹁ある人は大事な人を守る堅いゴーレム、ある人にとってそれは何
よりも早く駆ける馬、或いは・・・﹂
﹁すとっぷ﹂
﹁え?﹂
﹁ウェンディーヌの気持ちはとっても嬉しい。でも、先入観をつけ
たくないんだ。﹂
﹁ここが儀式の場で、ここに2人で来たって事が大事なんだと思う。
後の事は何となく分かる。だからこそリヴィエルさんも敢えて何も
言わずに帰って行ったんだと思う。﹂
﹁ウェンディーヌ﹂
﹁は、はい!﹂
﹁背中、預けて良いかな?﹂
﹁え?﹂
﹁ここは元の俺の部屋。そしてここで俺は新たな力を得て新しい世
界へ旅立つ。その力を得るまでの間何が起こるか分からない。﹂
だから。
背中を守っていて欲しい。
前代未聞の資質を持っていて、運命に翻弄されながらも前を向いて
立っている。
42
震える彼の腰に腕を回し、背中に額を押しつけた。
◆ ◆ ◆
目を瞑ると見知った自室が瞬き始めた。
光が語りかけてくる。
﹁アナタは誰?﹂﹁おぬしは誰じゃ?﹂﹁オマエハ誰ダ?﹂
様々な声が響く。でも俺には何となく分かっていた。
俺は俺。そして君達はみんな僕。
悩んで、傲慢で、優しくて、みんな俺。みんな僕。
﹁アナタにとって力とは?﹂
大切な人を悲しませない事。
﹁それはとっても傲慢だよ?﹂
・・・傲慢は駄目なのかな?
﹁悩んでいるの?﹂
いや、悩んではいない。もう一度誰かを悲しませるなら傲慢で良い。
﹁欲張りなんだね。﹂
そう。僕は欲張り。でも欲張りだから何かを求められる。
語りかける様に明滅していた世界が暗転を始めた。
︵祐実果姉さんなんかに取られたくない!︶
・・・ヤメロ。
43
︵麻琴も見てないし多少の役得ぐらい・・・︶
ヤメロ!
︵チッ、初めてとの時ぐらい大目に見て生でヤラしてくれりゃ良い
のに︶
﹁ヤメロ!!!﹂
ふわり
﹁??﹂
︵大丈夫だよ。背中は預かってるから。︶
﹁︱︱︱!!!﹂
そうか。
これは自分のトラウマ。
超えるべき壁にして欲する力。
・・・もう怖くない。
﹁頑張ったね。﹂
﹁キミに相応しい力はこれだ。使いこなすかどうかは君次第。﹂
声が、光が、集まって来る。
44
やがて光は人型を取り始める。
その背中には萌葱色の翼。気付けば瞳も髪の毛も同じ色だ。
165cm程の身長で、体に生えた同色の体毛が局部を隠している。
︵・・・ってまた女性!?︶
﹁こんにちは、マスター。私に名前を下さい。﹂
﹁キミの出来る事を教えてくれ。﹂
﹁時間と空間をある程度操る事が出来ます。﹂
﹁分かった。君の名前は・・・﹂
45
幻体化の儀式︵後書き︶
まさかのスクエア・ジョブw
46
トラウマ ※︵前書き︶
アクセス数が異常に伸びててビビります。
期待に応えられるように頑張ります。
47
トラウマ ※
﹁クロノスって男の人の名前じゃないの?﹂
﹁良いんだよ。細かい事言いっこなし!彼女も喜んでたでしょ?﹂
﹁・・・ねぇ。。﹂
﹁ん?﹂
アストラル・ワールド
﹁ハジメ、頑張ったね。アタシ背中で泣いちゃったよ。﹂
﹁背中、預けて良かったんだろ?﹂
﹁︱︱!!聞こえてたの??﹂
﹁うん、御陰で乗り越えられた。﹂
﹁えへへ。・・・ねぇねぇ。﹂
﹁ん、今度は何?﹂
イリュージョン
﹁ここでトラウマ一つ乗り越えちゃわない?﹂
ハジメの目的であった幻体獲得は済んだのに何故精神世界から出ら
ウェンディーヌ
れないのか?
彼女にもこの世界でやりたい事があったのだ。
◆ ◆ ◆
改めて見ると彼女の扇情的なコスチュームに息を呑む。
いや、着せたの俺なんだけど。
﹁この格好、絶対に普通の部屋着なんかじゃないでしょ。﹂
﹁ナヌ!!﹂
﹁・・・やっぱり。な∼んか見る目がヤラしいと思ったんだ。﹂
48
﹁俺の世界では﹃萌えコス﹄と言う由緒正しき閨での衣装の一つだ。
﹂
﹁そんなもん着せて、まさか最初っからそのつもりだった??﹂
﹁うぐぐぐぐ。そ、そんな野暮な事言う口は塞いじゃえ!﹂
﹁ん、今度こそちゃんとしてね。﹂
儀式の途中で心を通わせていたのでもう気持ちは分かっているつも
りだった。
それでも自らの腕に身を預け、心を開放している表情にはかなりく
る物があった。
﹁ウェンディーヌ、愛してるよ。﹂
﹁ありがと。アナタの背中はアタシが守るから。﹂
ちゅ
最初はついばむように。
一旦顔を離し、表情を確認する。
顔を伏せピンク色の髪に表情を隠していたが、隙間から覗く真っ赤
に熟れたリンゴのようなほっぺ。
ぷに
焼マシュマロのようなふわふわですべすべのほっぺ。
続いて髪に指を通し、掻き上げるように指で梳く。
49
﹁アゥン、それ駄目。髪の毛触られると何も出来なくなっちゃう・・
・﹂
さわさわさわさわ
﹁ア、アァ、ァ、こ、こら!調子に乗るな!!あぅ、きゃうん!﹂
力の抜けた体を抱いてベッドに移動する。
その間も髪への愛撫を忘れない。
﹁ふにゃ∼∼、いじわる∼∼∼﹂
﹁じゃぁ止める?﹂
﹁うぅぅ、止めない。。﹂
顔と髪しか攻めてなかったが俺自身未体験である。
それ程余裕がある訳ではない。
自らのシャツを脱ぎ、彼女のシャツを脱がせにかかる。
﹁初めて会った時から思ってたけど、凄く綺麗なおっぱいだね。﹂
﹁どうせ小さな体に不釣り合いなデカ乳だとか思ってんでしょ。﹂
﹁とんでもない!垂れてもいない、こうやって上を向いても形が崩
れない、それでいてふわっふわ。こんなの初めてだよ!・・・って
そもそも初めてだけど。。﹂
緊張した笑顔が少しほころんだ。
﹁アタシ、ハジメの初めてになれるんだね。﹂
50
﹁俺も、ね。﹂
ウェンディーヌを横たえると俺は思わず彼女の双丘に顔を埋める。
﹁きゃっ!﹂
90cmはあろうかというふくらみは頂きが既につんと尖っており、
期待にふるふると震えている。
期待を裏切らず舌で転がし、乳房全体を大きく揉みしだく。
﹁痛っ!もうちょっとゆっくり。。あ、そう、それぐらい、あ、あ
う、んう﹂
アチコチ反応を窺いながら責め立てていたが、脇とおっぱいを同時
くはぁ
あうあうあうあうあうあうい
いやいやそれダメ!ヤバい!ストップス
くひゅぅ
あぅあ
に攻めた時、ウェンディーヌが跳ねた。
﹁きゃふん!あ
トップ!
くぅぅ!はひゅ
やいやあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア
゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!!﹂
絶叫とともにビクンと仰け反ったかと思うとはぁはぁと息をつきな
がら、くて、と脱力した。
﹁ひょっとして・・・﹂
﹁おっぱいだけで逝っちゃったよぅ﹂
一度逝って落ち着いた彼女にズボンを脱がして貰い、そのまま69
の形で舐め合う。
お互い、初めてなので拙く、もどかしさを感じるような技術であっ
たが、そんな些細な事は気にならない。
51
﹁ちゅ
ちゅ
ぺろてろ
ちゅぶ
ぴちゃ・・・﹂
胸への集中砲火の結果か、てらてらと汁を垂らしていた膣に舌を這
ぢゅる
ぢゃぷ
ちゅ
れろれろ・・・
わせ、愛液を塗りたくったクリトリスをコリコリと撫で回す。
﹁うきゅ!うむむむ、ぺろ
﹂
・・
彼女も負けじと裏筋に舌を這わせ、玉袋を咥え、カリを吸い、俺の
反応を伺いながらアチコチ責め立ててくる。
﹁ねぇ、きもちいい?﹂
﹁うん、でもそろそろ・・・﹂
﹁うん、しよっか♪﹂
アストラル・ワールド
枕元に手を伸ばすと、あの日使うつもりで準備していたそれはやは
りそこにあった。
﹁へぇ∼こんなの使うんだ。でも精神世界な訳だしニンシンの心配
はしなくて良いんだよ?﹂
﹁あの日のトラウマ、取り除いてくれるんだろ?
俺はもう、ここに戻ってこないつもりだから。﹂
生まれて初めてコンドームをつけた。
そしてもう生涯使う事は無いだろう。
アストラル・ワールド
﹁あ、もうチョット下、ん、そこ。そうそのまま来て。あ、あう!﹂
・・・アレ?
﹁ん?ああ。精神世界だから処女膜はないみたいだね。痛みも全く
なくって何か逆に変な感じ。﹂
52
今日、出会ったばかりの女の子。
体感時間的には昨日までは全く別の女の子に恋をしてて、その子と
一生添い遂げる予定だった筈。
どこかで狂った歯車。
でも、そんなの関係ない。
この世界でやる事があり、その歯車に多分ウェンディーヌも組み込
まれている。
お気楽にハーレムなんて言っちゃったけど、俺は愛し合った女性全
員を自分の力で守り、守られ、愛し抜く。
愛おしさが加速する。。。。。。
﹁あん!あう!くはっ!はひゅぅぅっ!凄い!きもちいい!アソコ
きもちいい!燃えそう!ハジメのが熱いよぅ!!﹂
﹁アソコってなぁに?﹂
意地悪な質問をしてみる。
﹁︱︱︱!!お、お、うぅ、恥ずかしいよ。。﹂
子宮口
﹁へぇ?ちゃんと言わないんだ?﹂
するり、と、彼女のオクを小突いていたペニスを抜くフリをしてち
ょんちょんと焦らしてやる。
﹁お、おまんこ!おまんこ!おまんこがきもちいいのぅ!ハジメの
オチンチンでアタシの子宮が突かれてキモチイイのぅ!もっと、も
っと突いてぇぇぇぇ!!﹂
﹁ん、良く出来ました♪﹂
深く、浅く、時に激しく、時に緩やかに、リズムを変えながら責め
立てる。
53
空間内のヴォルテージが最高潮に達した時、彼女の嬌声がオクター
ブ上昇した。
﹁きゃう!きゅう!はう!ダメ!ダメ!ダメダメダメダメ!だめぇ
!!逝く!逝っちゃう!!ねぇ、お願い、ハジメのが、ハジメのが
欲しいよお!!﹂
﹁うん、逝くよ、俺も出すよ、ウェンディーヌのが気持ちよくって
もう我慢出来ない!!﹂
﹁﹁︱︱︱!!!!!!!﹂﹂
◆ ◆ ◆
気付けばテントの中にいた。
当然、衣類は元のままだ。
ウェンディーヌは静かに寝息を立てている。
s﹂
安らかな寝顔を見ていると思わず悪戯心が湧いてくる。
﹁お帰り、お猿さん
﹁ぶほっ!!﹂
﹁何でリヴィエルがここにいるんです!?召喚されてないでしょう
??﹂
﹁貴方達の足跡辿ってきたのよ。いや∼、やっぱ人間は猿だねぇ。
ハジメは意外とSっぽいしウェンディーヌもあんなに乱れまくっち
ゃって。可愛いったらありゃしないわ。﹂
﹁・・・今後、僕たちのプライベートってモンは。。﹂
﹁それは御座いませんわ、マイマスター。﹂
﹁ぶほほっ!!﹂
54
﹁クロノス!?﹂
﹁自我が目覚めて数分の言わば赤ん坊のような私目にあんな激しい
性教育をなさるなんて、今後マスターがどの様な要望をなされるか
不安で楽しみで今からワクテカしてしまいます。﹂
﹁楽しみなのか!?不安なのか!?せめてどっちかにしてくれ!!
イリュージョン
イリュージョニスト
ってかクロノスに何かさせるとかそんなのありなのか??﹂
﹁幻体に伽をさせる幻体師は意外と多いわよ。究極のオナニー、み
たいな感じらしいわ。﹂
﹁あーーーーー!!もう知らん!!今日は寝る!!﹂
﹁はい、お休みなさいませ。夜番はお任せ下さい。﹂
﹁お休み∼、良い夢見ろよーーーー﹂
55
トラウマ ※︵後書き︶
初めてのエロ。何か自分の体験を切り売りしてるようなこっぱずか
しい気分ですね。。感想お待ちしております。
56
獣魔師ギルド︵前書き︶
大体1話3000文字前後を目指しています。何分、技量不足です
のでかなり上下にのりしろが必要なんですが、皆さんはどれぐらい
が読み易いでしょうか?
57
オタノシミデシタネ。﹂
獣魔師ギルド
﹁キノウハ
・・・何故お前達まで知っている。。
黒一角獣
爽やかな朝日の御陰で日本にいた時には考えられないぐらいの早起
・ ・
きをしたと言うのにいきなりブラックホーンホースに出鼻をくじか
れた。
◆ ◆ ◆
・
﹁あ、ハジメ君。﹂
﹁う、ウェンディーヌさん。﹂
﹁お、おはよう・・・。﹂
ハジメ∼
﹁あ、うん、おはよう・・・。﹂
∼side
幻 体 化 解 除
︵マスター、テンプレ厨みたいな初々しい反応止めて下さい。見て
るこっちが恥ずかしいです。︶
︵うおっ!クロノスか。いつの間にか戻ってたんだな。しかし、テ
ンプレだの厨だの何かこっちに似つかわしくない事言うね。︶
ウェンディーヌ∼
かあい
うふふふふ♪
ハジメ君
・
︵私はマスターを素体としていますので基本的な記憶は共有してい
ますよ︶
∼side
・ ・
︵や∼ん、まいますたーったら可愛ぃ♪
?ウェンディーヌさん?初等学院の生徒じゃあるまいし。︶
︵呼んでないのに思考に入ってこないでよ!プライベートも何もあ
58
りゃしない!︶
︵あ、その話は既に昨日ハジメとじっくりねっとり話し合ったから。
まぁ思いが通じて良かったわね∼、苦節8時間の恋が実って、暖か
く見守った甲斐が有ったわ。︶
︵一々悪意塗り込めた激励は要らん!︶
◆ ◆ ◆
インヴォーカー
﹁さて、今日こそは近くの村まで行って獣魔師ギルドに登録するわ
インヴォーカー
よ!﹂
インヴォーカー
﹁獣魔師ギルド?確か、冒険者ギルドって言ってなかったか?﹂
インヴォーカー
﹁冒険者ギルドというのは獣魔師ギルド等を統括した上位組織ね。
ハンター
ソーディアン
獣魔師の資質を持たないけど狩りの技術に優れた人もいれば、剣で
身を立てる人もいるわ。それぞれに狩人ギルドとか剣士ギルド等が
あって、これらの統括をしてるのが冒険者ギルド。
イン
どこでも基本的には似たような事をやって貰えるから単純に冒険者
ヴォーカー
を目指すだけなら気に入ったところに所属すれば良いんだけど、獣
魔師ギルドでしかやって貰えない事が一つだけあるのよ。﹂
・ ・
﹁あ、ひょっとしてそれ?﹂
ハジメはウェンディーヌの手首を指さして問う。
インヴォーカー
﹁そう。勘が良いわね。ブレスレットの発行は獣魔師ギルドでしか
やって貰えない。本当なら登録の時に資質も一緒に計るんだけど、
ハジメの場合は既に分かってるから必要ないわね。﹂
黒一角獣
﹁じゃぁ折角早起きしたんだし、移動しながら詳しい事を聞きたい
な。ブラックホーンホースに乗せて貰えるか聞いてくるよ。﹂
﹁雌は妊娠中だから乗せられない。雄に一緒に乗って貰うので構わ
59
なければOKだって。
野生馬で馬具も何も無しだけど大丈夫?たてがみに掴まってれば落
とさないように気をつける、って言ってるけど。﹂
﹁良いけど・・・そもそも背が高すぎて上れないわよ??﹂
﹁あ、それなら大丈夫。クロノス!彼女と俺を馬上までお願い。﹂
﹁は∼い!マスターのご命令とあれば何時でも登場致しますよ。マ
スター、私もマスターをお運びしたかったです・・・。折角お空の
旅にご招待しようと思ったのに。﹂
﹁ありがとね。色々落ち着いたら思いっきり遊ぼう。﹂
◆ ◆ ◆
馬上の人となった2人は村までの道程を駆けていた。
黒一角獣
前世から持ち込んだG−SHOCKは午前8時過ぎを示している。
ブラックホーンホースは無茶苦茶早かった。
景色がすっ飛んでいくと言うのはこう言う状況だろう。
平野とは言え整地されていない土地を危うげ無い足取りで駆け抜け
ていき、しかも馬上の俺たちに全く揺れや負担がかからないように
配慮してくれている。
雌が身重なのでかなり速度を抑えている、と言っていたので全力を
出した時が一層楽しみだ。
ウェンディーヌによるとこのペースなら村まで30分程で着く見込
み。これには彼女もかなりビビっていた。
歩けばどう頑張っても日付が変わるぐらいまではかかるらしいので、
歩速を4km/hとするとデコボコ平野を時速120キロ前後でか
っ飛ばしてるぐらいの計算か?
ハランデナ
﹁うっひゃー、馬なんて初めて乗ったけどこいつは凄いな!!﹂
カルイ。﹂
ビビッテイテハコマル。コドモサエ
コレノ3バイハ
﹁コノテイドデ
ケレバ
60
ヒジョウニ
、雌が
ゼヒ
ハツ
ナヲ
イ
って言うの
トハ
ソイツニモ
を意味する言葉なんだ。桜の花にちな
オウカ
オウカ
アルジニ
ヨビヅライ
﹁なんちゅー破格!ありがとな∼!そうだ、いい加減呼び名がない
ニンゲンニハ
と困るな。自分たちには名前ってあるの?﹂
﹁アルニハアルガ
桜の花
ナントナクワカルガ・・・
ハヤト
シエキサレタトキハ
フツウダ。﹂
オンラシイ。ワレワレガ
モラウノガ
ハ
﹁ん∼、じゃぁ、雄の方が
ハヤト
はどう?﹂
﹁
ッタイ??﹂
﹁俺たちの言葉で
ウマレタラ
んで最も速い雌馬に与える賞の名前でもある。﹂
ウツクシイ。コドモガ
アタエテヤッテクレ。﹂
﹁フム
ナヲ
◆ ◆ ◆
村まで少しというところで後ろに座ったウェンディーヌが声を掛け
てきた。
たてがみを掴めば良い、と言ったのだが思いっきり腰に手を回され
ている。
いや、その、こっちの世界の下着はあっちの世界の物よりも薄手に
出来ているようで。
あのそのえっと。大変気持ち良いです、はい。
コントラクター
テイマー
﹁もうすぐ着くけど、村から少し離れたところでハヤトから降りて
歩かなきゃいけないわよ。﹂
黒一角獣
﹁へ?なんで??﹂
インヴォーカー
﹁ブラックホーンホースを使役出来るのは契約師か操獣師だけど、
ハジメにはそもそも獣魔師のブレスレットがないし、アタシが嵌め
61
一角獣
サモナー
黒
てるのは召喚師のブレスレットだもの。何でもない人間がブラック
ホーンホースになんか乗ってたら目立つどころか下手したら襲われ
てると勘違いされて攻撃されちゃうかも。﹂
インヴォーカー
サモナー
﹁それはマズいな。・・・ってか、獣魔師のブレスレットって全部
一緒じゃないの?﹂
イリュージョニスト
コントラクター
﹁違うわよ。それぞれ材質が違うの。アタシがしてる召喚師のブレ
テイマー
スレットはミスリル、幻体師はオリハルコン、契約師がヒヒイロカ
ネで操獣師はダマスカス鋼ね。﹂
何だかどこかで聞いたような物凄い金属が目白押しなんだが。
﹁問題はアナタね・・・。ブレスレット作る時に自動的に資質も計
インヴォーカー
っちゃうんだけど・・・4資質持ちなんて破格な存在が公になるの
はまだマズいわね。理想は少しずつランクを上げて、獣魔師ギルド
マスターとコネ作って後ろ盾になって貰う、ってぐらいかしら?﹂
﹁その方法に関しては私に考えがあるわ。﹂
﹁わわっ!相変わらず突然出ますね。リヴィエルさん。﹂
﹁リヴィエルで良いってば。兎も角、時間無いしチャチャっと説明
ハジ
しちゃうね?ハジメの場合、資質検査の時に﹃この資質になれーー
ー﹄って頭の中で念じれば多分OK。﹂
・・・マジで?
﹁ここからはあくまでアタシの想像の範囲なんだけど・・・
ミシィカル・ビースト
メがそもそも4資質持ちなんて破格な存在なのはハジメが﹃他次元
マテリ
の存在﹄だから。言うなればアタシ達召喚獣と同じ存在なんだけど、
アル・ワールド
私たちは他次元ながらこの世界の構成分子に組み込まれてるから物
質界では本来の力を制限される。それはこの世界の在り方を強大す
ぎる力で歪めない為の物なんだけど、ハジメはこの世界の構成分子
に組み込まれてないからフルレンジで力を揮える。﹂
62
ヲイヲイ段々チートに磨きがかかってきたぞ??
﹁ま、伊達に世界を長々と眺めてないわよ。信じてやってみなさい。
ダメなら方法は他にもあるから。﹂
◆ ◆ ◆
村の入り口から5分ほど離れたところでハヤトとオウカには待って
いて貰った。
辿り着いたのは聖アルケミア帝国の北東部、ランスロット王国の国
境に程近いアイスホルスト村であった。
国でも特に北に位置する為、冷涼で作物は育ちにくく芋らしき物が
細々と作られている。
ただ、ここは銀鉱山が近く多くの埋蔵量を誇り、時折良質のミスリ
ルが産出されるらしい。
見れば、農夫よりも鉱夫、と言った逞しげな男達が闊歩していた。
に声を掛けた。
‒
どうやら守衛ら
﹁こんにちは。良い天気ね。私達二人で村に入りたいんだけど入れ
て貰えるかしら??﹂
‒
ウェンディーヌは村の入り口に立っていた男
しい
インヴォーカー
男の右手には黒光りするブレスレットがある。あれが恐らくダマス
カス鋼なのだろう。
サモナー
﹁身分の確認を。﹂
インヴォーカー
﹁私は見ての通り召喚師、彼は田舎から獣魔師の資質を計りに出て
来たの。亡くなった彼の両親が獣魔師だったからいずれかの資質が
有ると良いんだけど。﹂
63
﹁資質が有れば冒険者に、と言う事か。﹂
﹁そう言う事。いずれにせよ彼はこれから何処かのギルドに登録だ
から今回はアタシが身元保証人と言う事で良いかしら?﹂
﹁了解した。では身分証の提示を。﹂
すらすらとまぁ良く口が回るもんだ。俺の為に考えてくれていたん
だろうか。
ウェンディーヌがブレスレットに口づけるとホログラムのように文
字が浮かび上がった。こんな機能まであるのか。
守衛も同様にホログラムを出した後、ウェンディーヌとブレスレッ
サモナー
トをカチンとぶつけ合った。乾杯みたいだ。
インヴォーカー
﹃﹃乾杯﹄﹄﹂
インヴォーカー
﹁ウェンディーヌ・トライザスタ。召喚師、Bランク。16歳女性。
間違いはないか?﹂
﹁OKよ。この村の獣魔師ギルドはどっち?﹂
あなたと獣魔の友情に
﹁ここから見える一番大きな建物がギルド庁だ。獣魔師ギルドは1
階にある。﹂
インヴォーカー
﹁ありがとう。
獣魔師同士の挨拶?何かスターウ○ーズみたいだな。
◆ ◆ ◆
テイマー
﹁さっきの人は操獣師?﹂
﹁そうよ。良く分かったわね?﹂
テイマー
﹁あの黒っぽいのがダマスカス鋼かな、と思って。﹂
ファミリア
ファミリア
﹁ご名答。こう言う小さな村で守衛をするには操獣師が適任だから
ね。﹂
テイマー
成程、操獣師は個々の操獣魔の能力は低くても一人で多くの操獣魔
を扱えるから人員の確保が難しい辺境では広い範囲を守備する際の
64
要になる訳だ。
コントラクター
テイマー
﹁ねぇ、考えてたんだけどハジメも暫くは操獣師を名乗った方が良
コントラクター
いと思うの。ハヤト達がいるから契約師かどちらかを装う必要が有
ると思うけど、契約師として獣魔をブレスレットに収納するには暫
くは魔精石の確保が問題になるわ。﹂
﹁うん、それは俺も考えてたんだ。それに仲間にした獣魔とは必要
がなければ思いっきり広いとこで遊びたいし。﹂
◆ ◆ ◆
インヴォーカー
﹁冒険者ギルドへようこそ。本日はどちらにご用ですか?﹂
﹁獣魔師ギルドへ。後ろの彼の資質を計りたいの。﹂
﹁それは大変良う御座いました。﹂
﹁??﹂
インヴォーカー
﹁本日は獣魔師ギルドマスターが村のミスリル鉱脈の視察においで
です。﹂
どうやら俺のチートっぷりはフラグ建築にも多大なる影響を与える
ようだ。
65
獣魔師ギルド︵後書き︶
どんどん書きたい事が湧いてきます。ただ、文章が長くなって書き
たいところに筆が追いつきません。
誤字・脱字の指摘からキッツいご意見まで幅広くお待ちしています。
66
ギルドマスター︵前書き︶
に、日間ランキング9位!?17日の投稿分ではまだエロシーンす
らなかったのに・・・!
めっちゃ励みになります。頑張ります。
67
ギルドマスター
サモナー
﹁ウェンディーヌ・トライザスタさんですね。この様な辺境の村に
Bランクの優秀な召喚師がいらっしゃるのは珍しいこと。これも何
かの縁でしょうか。﹂
さらさらと流れる黄金色のストレートヘア、細く吊り上がった眼差
しは美しさとともに意志の強さを感じさせる。華奢な体つき、そし
て髪から飛び出している耳は細く尖っており・・・。
︵エルフ・・・?︶
インヴォーカー
﹁こ、こちらこそ旅の途中に偶然ギルドマスターにお会い出来るな
んて!!一冒険者として、また同じ獣魔師としてもエレン・ブライ
ト様のお噂はかねがね・・・﹂
うわー、ウェンディーヌが緊張しまくってるよ。ギルドマスターっ
て言うともっとお爺ちゃんみたいな人を想像してたけど、まさかこ
んな美人だったとは。
インヴォーカー
﹁どうか楽になさって下さい。本当なら優秀な獣魔師とは一人一人
インヴォーカー
に足を運んで彼等・彼女らが見聞きした物を直に聞いて回りたいぐ
らいなのです。﹂
サイカ島の悲劇
については私の
﹁私はまだ精々がBランクの平凡な獣魔師に過ぎませんが・・・﹂
﹁謙遜なさる事はありません。
耳にも入ってきています。﹂
﹁︱︱︱!!!﹂
どうやらウェンディーヌにも何か秘密があるらしい。
68
﹁・・・申し訳ありません。その件に関してはまた何れかの機会に・
・・。本日は知り合いの資質検査に訪れたのです。﹂
﹁後ろの方ですね?こんな辺境の地にどうしてわざわざ?﹂
インヴォーカー
﹁はい、彼は私の養父の知り合いなのですが、彼の亡くなった両親
インヴォーカー
が獣魔師でしたので何らかの資質を受け継いでいないかと思いまし
て。両親を亡くし身寄りがありませんので、獣魔師の資質があれば
インヴォ
冒険者として身を立てられるかと期待して私の旅の途中でこの村に
立ち寄った次第です。﹂
ーカー
コミュニケーション
﹁成程。資質は必ずしも遺伝するものではありませんが両親が獣魔
獣魔の部屋
に参りましょう。﹂
師であったのならば獣魔との交渉を知らずに覚えているかも知れま
せん。分かりました。では
◆ ◆ ◆
﹁済みません、田舎者なので何をすれば良いか全く分からないので
すが・・・﹂
﹁大丈夫、中には監査員が居て全部説明してくれますから。﹂
ヒエログリフ
この先はお一人で、と案内されたのは4m四方程の部屋であった。
床には儀式の為と思しき神聖文字がびっしりと書き込まれており、
一部は壁や天井にまで及ぶ。
そこに居たのは・・・
キャット・ピープル
﹁・・・猫人?﹂
﹁にゃははっ!ケット・シーのニャーゴロちゃんにゃ!よろしくに
ゃ∼﹂
身長1m程の猫耳少女。
見た目は人間で言えば8歳ぐらいに見えるが獣魔の年齢なんて分か
69
らない。
﹁済まない、人に連れられるがままに来たから何をすれば良いか良
く分からないんだ。﹂
﹁ふみゃっ!?これからあんな事をしようと言うのに何も知らずに
来たにゃ!?失礼な奴にゃ!!﹂
あんな事・・・?
﹁まぁ良いにゃ。ニャーゴロちゃんは懐が広いんにゃ!﹂
胸は薄いけどな。
﹁ニンゲン!これからするのは獣魔全体との契約にゃ!ニャーゴロ
はみんなを代表してここにいるにゃ!﹂
あれ?契約ってハヤトとオウカの時に俺無意識にそんなような事し
てたような・・・
﹁頭空っぽにして。みんなと仲良くしたいにゃーと広∼い心で打ち
解けて、ニャーゴロに熱ぅいキッスをするんにゃ!精神を繋げた状
テイマー
テイマー
態でニャーゴロがニンゲンの資質をちょこっと覗いて見てあげるに
ゃ!﹂
テイマー
やっぱりか!!
◆ ◆ ◆
テイマー
テイマー
︵操獣師、操獣師、操獣師、操獣師・・・・・・︶
頭を空っぽにするどころか頭の中は操獣師でいっぱいだった。
ハジメは170後半ぐらい身長があるので、膝立ちになりニャーゴ
ロに唇を寄せていく。
70
改めて見るとニャーゴロもかなりの美少女である。
大きな猫目はオッドアイでエキゾチックな美貌を放ち、悪戯っぽい
口元に覗く八重歯がチャーミングだ。
テイマー
体つきは幼く見えるがごくごくうっすら胸元も膨らんでいる。
テイマー
︵はっ!イカンイカン、操獣師、操獣師・・・︶
気を散らさないように、しかし心を籠めてキスをした。
﹁︱︱!!﹂
舌を入れられた。
くちゅ・・・
ぴちゅる・・・
じゅる・・・・・
いやあまつさえ、コロコロと、ねっとりと、絡めてこられた。
﹁んちゅ・・・
・﹂
腕は首に回され、ざらざらとした舌触りと激しい口内愛撫に意識が
遠のく。
﹁ぷっはぁ∼∼∼∼っ﹂
たっぷり数分間は蹂躙され、幼女とすら言える外見の少女との行為
に背徳的な快感を覚えてしまった。
しかし、猫耳美少女が風呂上がりのビールを飲んだオッサンの様な
息をつく姿とかかなりシュールである。
﹁・・・ニンゲンは一体何もんにゃ???﹂
テイマー
﹁え、俺、資質有りませんでした?﹂
ニャンニャンゴロゴロ
﹁いや、確かに操獣師の資質があったにゃ。にゃのに本来ニンゲン
よりずっと上位の存在であるニャーゴロとあれだけ精気の交換して
テイマー
コミュニケーション
おいて憑物にも落ちず寧ろ美味しすぎてこっちが中毒になりそうだ
ったにゃ。あんなの操獣師の交渉で出来る範囲を越えてるにゃ。﹂
﹁ニャーにはわからんにゃ∼∼∼!!お手上げにゃ∼∼∼∼!!﹂
71
何だかメンドクサイ事になって来た。
◆ ◆ ◆
﹁へぇ、ニャーゴロに分からない資質、ですか。﹂
テ
ギルド職員から連絡を受けたエレンはやたらワクワクとした表情を
浮かべていた。
テイマー
横でウェンディーヌが青くなっている。
イマー
﹁どうなさいますか?操獣師の資質は確実にある、との事なので操
獣師として処理しても宜しいでしょうか?﹂
﹁宜しくないです。﹂
﹁・・・は??﹂
﹁彼女は﹃分からない﹄とはっきりそう言ったのでしょう?であれ
インヴォーカー
ばその分からない原因が分からないのに放置するなんてギルドマス
ターとして見過ごす事は出来ません。﹂
そう言う彼女の表情は、既にギルドマスターとしてではなく獣魔師
エレン・ブライト一個人の顔になっていた。
﹁私が直接彼の資質を調べます。﹂
◆ ◆ ◆
どうしてこうなった。
テイマー
テイマー
テイマー
﹁気持ちを楽にして頭を空っぽにして下さい。﹂
︵操獣師、操獣師、操獣師・・・︶
﹁??
何だか緊張してらっしゃいますね。﹂
72
あ
彼女が抱きついてきた。さらさらの髪の感触が肌にこすれて気持ち
いい。ああ何だか樹木のエッセンスのようなすっきりとした良い香
りがする。
むぎゅ
テイマー
テイマー
うお、こ、鼓動を感じる!!スレンダーに見えて意外と胸も・・・。
はっ!イカン!!操獣師、操獣師・・・
﹁・・・気持ち良く、、、ないですか??﹂
!!
上目遣いの潤んだ瞳。
そ、そんな困った顔でそんな事言われたら!!
ぼかぁもう!!!
ちゅ
心のバリケードが解けた一瞬。
口付けとともに彼女の魔力が飛び込んできた。
清流の湧き水で内臓を雪がれ、浄化されるような爽快感。
完全に無防備な心を透明な手で愛撫されているような。
﹁︱︱︱!!!﹂
気がつくと俺も彼女も部屋に横たわっていた。
73
彼女は静かに寝息を立てており、起こすのがはばかられた俺は彼女
の頭を膝に乗せ、時が過ぎるのを待った。
◆ ◆ ◆
﹁まさか4資質持ちだなんて・・・。自分で見ておきながら未だに
信じられません。私もかなり長い間ギルドマスターという地位にい
ますがこんな事は初めてです。﹂
ウェンディーヌと顔を見合わせた。バレてしまった物はしょうがな
い。この機会に後ろ盾になって貰おう。
﹁エレンさん、信じられないかも知れませんが聞いて頂きたい話が
あります。﹂
◆ ◆ ◆
﹁異世界から。。確かに信じられない話ですが逆にそう考えれば納
得が行くとも言えますね。
それで?あなた方の要求はギルドに秘密を守る後ろ盾になって欲し
いと言う事で良いのですか?﹂
﹁はい。4本のブレスレットをしていてそれぞれに身分証明が別と
いうのも不便ですし、それ自体目立ちすぎますし・・・俺にはこの
世界でやらなきゃいけない事があるんですが、それまで過度に目立
つのを避けたいのです﹂
﹁良いでしょう。﹂
﹁え、そんなに簡単に??﹂
﹁但し条件が一つだけ。﹂
﹁はい、それこそ条件によりますが。﹂
﹁貴方はこれから多くの獣魔と心を通わせる事でしょう。それこそ
74
カンパニー
インヴォーカー
歴史上最強にして最多の使役獣魔を使役する獣魔師になるでしょう。
﹂
﹁それは・・・まだ俺自身には何とも言えませんが。﹂
﹁見た事、聞いた事、この世界の構成に触れる事があった時、私に
それを残らず話して欲しいのです。﹂
﹁そんな事で良いんですか?﹂
﹁私は獣魔がこの世界の構成に関わっている存在だと思っています。
インヴォーカー
私は彼等と親交を深め、この世界の真理を解き明かしたい。長年そ
の一心で獣魔師として行動してきました。しかしランクアップによ
りいつの間にか役職がつき、気付けばギルドマスターなどと言う自
分では辞める事の出来ない地位を望まずして手に入れてしまいまし
た。幸いにして私には長い命が与えられていますので代わりの人が
役職に就いてくれるのをゆっくり待つ事も出来ます。しかし、ハジ
メさん達がこの先経験する事は私には見ることが出来ない物も多い
でしょう。それを教えて欲しいのです。﹂
自分の目標にひたむきに。
俺を直接調べたのも恐らく﹁真理を解き明かす為﹂。
そしてそれにより確かに一歩この世界の真理に近付いたのかも知れ
ない。
この人は・・・何て真っ直ぐなんだろう。。
﹁分かりました。俺にはやる事がありますが、その途中で出会った
不思議な出来事は残さずお話ししましょう。﹂
﹁有難う御座います。ブレスレットの件は私に考えがあります。4
本とも今すぐに作るのは無理ですが、無いと不便でしょうから今日
テイマー
黒一角獣
は1本だけお作りしましょう。どのタイプにしますか?﹂
﹁操獣師でお願いします。既にブラックホーンホースを手懐けてし
テイマー
まいましたので、彼等と行動を共に出来ないと何かと不便です。﹂
﹁成程。それでは残りは3日程お時間を下さい。操獣師のブレスレ
75
ットに関しては通常通りギルド職員に任せて大丈夫だと思いますの
でこの後受付で手続きをして行って下さい。﹂
◆ ◆ ◆
其所に在ったのは一見只の鉄の延べ板のような物だった。
が、これも良く見ると虹色に輝いている。
鉄より更に高貴な黒鋼色のダマスカス鋼。
﹁それではこちらに血液を少量垂らして下さい﹂
渡されたナイフで指先を突き、ぽとり。。。
う゛にゅり
﹁うおっ!?﹂
ヒエログリフ
延べ板の表面に神聖文字が迸ったかと思った瞬間、生きているかの
ように形を変えて右の手首に巻き付いた。
﹁登録は以上です。﹂
え、これだけ??
﹁ギルドマスターから推薦がありました。ハジメ様はCランクから
のスタートとなります。﹂
ウェンディーヌがBランクって言ってたから、これって結構高め?
ウェンディーヌ
﹁ギルドとブレスレットの説明はどうされますか?﹂
﹁え∼っと、彼女から聞きますので大丈夫です。﹂
正直、色々あったから宿を取って休みたい。
76
﹁分かりました。では登録手数料にダマスカス鋼の素地代含めまし
て300万ミュール頂きます。﹂
高っっっ!!!!
﹁あ、アタシが払っとくね。﹂
ウェンディーヌは平然とした顔でギルド職員にブレスレットをかざ
し、あっさり決済してしまった。
﹁お金の事なら心配しなくて良いから。人生3回遊んで暮らせるぐ
らいの貯えあるし。﹂
気が引けるなら貸しにしとくから頑張って稼いでね、とまで言われ
ると何も言えない。
﹁さて、宿取って色々買い物しなきゃね!その格好はこっちでは目
立ってしょうがないし。﹂
買い物も良いけどウェンディーヌの胸で眠りたい。。。
77
ギルドマスター︵後書き︶
序章はこれでおしまいです。次回、幕間劇を挟みます。
78
幕間小話1 ∼もう一人の転生者∼︵前書き︶
空気と化しつつあった本来のメインヒロインさん登場ですw
79
幕間小話1 ∼もう一人の転生者∼
時は少し遡り、現代の日本。
ミ カ
ユ
で感傷に浸ってる幼馴染みの一ち
ハジメ
﹁信じてたのに。初めての夜に他の女とヤるなんて。しかも何で祐
約束の木の下
実果姉ちゃんなの!?﹂
よりにもよって
ゃんの背に刺身包丁を突き立てた。刃渡り30cmにも及ぶそれが
確かな手応えで彼の内臓を抉っていくのが握りしめた手に伝わって
くる。
事の発端は彼の誕生日に2人きりのパーティを開いたところから始
まる。
ささやかながら暖かな空気が私達を包み、彼から告白の言葉を受け
取り、いよいよベッドイン。
お互いかなりはだけた格好になった辺りで彼が慌てだした。
曰く﹁アレを忘れてきた。﹂
何でも、家には準備してたけど緊張しすぎて忘れてきてしまったの
だとか。
彼らしいドジッぷりをほほえましく思うと同時に、本音を言えばこ
の流れなら気にせず直接シテ欲しかった。
半裸で一人待っているのも何だか恥ずかしいし、彼のあまりの慌て
っぷりが可笑しかったから後をつけてみる事にした。
そう。ほんの悪戯心だった。
そしてそれが全ての災厄の始まりだった。
80
◆ ◆ ◆
マンションを出た途端、彼は携帯で誰かと話し始めた。
﹁・・・??﹂
どこに行くの?コンビニはそっちじゃないよ??
ビルの隙間の人目につきにくい場所に歩いて行く彼。
﹁︱︱︱!!!﹂
どうして祐実果姉ちゃんがここに!?
私には無い、活気に満ちたエネルギーの固まりのような魅力。
一ちゃんが憧れの様な感情を抱いているのはとっくに知っていたけ
ど、それでも私を選んでくれたのが凄く嬉しかったのに。
薄暗くて良く見えないけど彼女が手に持っているのはファンシーな
クマが印刷されているけど紛れもなくコンドーム。
からかう様な、悪戯っ子の見せる小悪魔的な表情でそれをちらつか
せ何やら楽しげに話している。
・・・どうして一ちゃんまでそんなに楽しそうなの。
どれぐらいの時間が経ったのだろう??
カノジョニ
キスヲシタ。。
一番見たくない極めつけの瞬間が来た。
カレガ
ユミカ
ざぁざぁとざわめく雑踏に立ち竦む私だったが彼女が最後に発した
言葉は唇の動きで読めた。
81
︵また後でね♪︶
祐実果姉ちゃんが向かったのは公園の方向。
気付けば私は近くのスーパーで刺身包丁とロープを買っていた。年
末でごったがえするスーパーの中では私の様相はその他大勢の1人
に上手く紛れ込めたようだ。
マンションまでの道を頭に描き、彼の通るであろう道を走る。
ハジメ∼
・・・居た。
◆ ◆ ◆
∼side
こんな日にアレを忘れるなんて。
緊張と恥ずかしさで何をどう話してマンションを出たのか良く分か
らない。
マンションを出ると祐実果さんから着信があった。
あまりに慌てていた俺は自分の情けない現状を思わず喋ってしまっ
た。
・ ・
彼女に指示された路地裏に来ると悪戯っぽい笑みを浮かべてファン
シーな箱のソレをちらつかされた。
しかもその内の1包を口に咥えて、﹁ほぅら、取って御覧??﹂等
とからかわれた。
﹁上手に取れなかったら無い事無い事麻琴にバラす﹂とまで言われ
て仕方なく口を伸ばすと・・・。
82
歯で受け止めるつもりだったコンドームごと舌をねじ込まれた。
﹁︱︱︱!!!!﹂
﹁ふふっ♪可愛い妹をよろしく♪﹂
﹁詳しい感想聞かせて。また後でね?﹂
◆ ◆ ◆
ミ カ
ユ
﹁信じてたのに。初めての夜に他の女とヤるなんて。しかも何で祐
実果姉ちゃんなの!?﹂
彼が力を失って銀杏の根元に崩れ落ちていく。
︵・・・1人で行かせてたまるもんか。︶
石を運び、登り台を作る。
丈夫な枝を選び、輪にしたロープを掛ける。
台の石を蹴っ飛ばした後、静かに意識が遠のいた。
◆ ◆ ◆
﹁・・・あの世かな?知らない天井ね。﹂
﹁残念ながらちゃんとあの世にいけてないのよね∼。﹂
気付けば、知らない少女が目の前にいた。
緑柱石の如く髪にスカーレットの瞳。
そして身長の1.5倍以上もある鎌・・・
﹁死神?﹂
83
﹁最近の子はみんな理解が早くて助かるわぁ。
ところでここはあの世じゃないわ。残念ながら貴女は天国にも地獄
にも行き場がない。あの世に行く権利が無いのよ。﹂
﹁心霊スポットと言われる場所でそれそのまんまの惨劇を再現して、
しかもあの場所で彼と死ねた事に固執している。﹂
確かに言われた通りだ。私は永遠にあそこで一ちゃんと2人で過ご
すんだ。
﹁でも残念な事に彼はこの件に関して罪が無い。原因を作ったのは
貴女。彼はもう輪廻転生に入っていて、残るは貴女一人。このまま
だと地縛霊↓悪霊の出世街道まっしぐらよ?﹂
﹁・・・そんな。。﹂
﹁貴女にも色々言い分はあるでしょうけど、私にも仕事がある。現
世の記憶は消してもう一度別の人生を生きて償って貰うわ。貴女の
罪そのものがどう言った事情で何が起こったか、私の権限では教え
てあげる事が出来ないけど、・・・そうね、せめて彼と出会ったら
記憶が戻るようにしてあげる。﹂
彼女は一方的に捲し立てた後、憐憫と慈愛の入り交じった瞳で言葉
を綴った。
???∼
﹁願わくば今度は幸せな人生を。﹂
◆ ◆ ◆
∼side
マリンフロー
で生まれ育っ
アタシの名前はマコ・シュワルツ。5歳。プロット公国の西端に位
置する島々の集まって出来た小国、
84
た。この辺りは割と年中暖かく人も穏やか。
でも、私には一つの謎と一つの秘密がある。
一つの謎って言うのはアタシの見た目。お父さんはインディゴの髪
と目で、お母さんはもっと明るいマリンブルーなのにアタシは黒髪
黒目なんだ。
お父さん達は﹁ただの先祖返りだよ﹂って言うけど本当なのかな?
一つの秘密って言うのは、夢。アタシは毎晩、でもないけどかなり
しょっちゅう怖い夢を見る。何が怖いかは覚えてないんだけど兎に
角怖い。そして必ず夢の最後は暖かい何かが助けてくれる。
お母さんやお姉ちゃん達に話したら﹁夢ってそんなものよ﹂って言
われたけど、アタシはこれがただの夢なんかじゃない気がする。
でも、それが分かるのは多分もっと先・・・。
85
幕間小話1 ∼もう一人の転生者∼︵後書き︶
彼女の転生先をどの国にするか物凄く悩みました。本当は4大国の
何処かにするつもりだったのですが、国が絡むと面倒な事になりそ
うなのでやっぱり辺境にしました。
86
設定資料集1 ∼序章終了時点まで∼︵前書き︶
主に自分メモも兼ねて・・・
87
設定資料集1 ∼序章終了時点まで∼
︻世界設定︼
・星について
彼等が住む星に特別な名称はなく、単に︻我が星︼と呼ばれている。
地球と殆ど同じ地学的構成。暦も同じ。太陽1個。月・・・に関し
てはまだ考え中。
︻大陸と国々︼
赤道を挟んで左右に細長く伸びた二等辺三角形のような大陸が線対
称に存在する。細長く伸びた先は繋がっており、星が丸い事は証明
されている。三角形の頂点を結んだ極軸で北西、南西、南東、北東
の四箇所に大別する。地球との違いは、北極に行けば行く程寒く、
南極は逆に暑い。その極寒・猛暑の世界を乗り越えた人物はおらず、
極軸方向での構造は不明。一説には筒状の構造だとも言われている。
・アルケランス大陸
聖アルケミア帝国
赤道の北側に存在する大陸。
︵1︶
アルケランス大陸の西側に位置する。乾燥して冷涼で作物に乏しい
が鉱物資源が豊富。
︵2︶ランスロット王国
アルケランス大陸の東側に位置する。作物は豊富だが鉱物が乏しい。
・プロイセミア大陸
プロット公国
赤道の南側に存在する大陸。
︵1︶
4大国で最大の領土を持ち。穏やかな国民性で国力も豊か。
88
︵2︶
ライスセミア幻神国
国土は狭いが兵の練度が高く、好戦的。
︻通貨単位︼
・硬貨について
銅貨1枚=1ミュール
銀貨1枚=100ミュール
金貨1枚=10000ミュール︵1万ミュール︶
光貨1枚=1000000ミュール︵100万ミュール︶
※硬貨の直径、厚みは全て揃えられているが、国により模様細工は
様々。大きさが同じで、全て純度99,99%以上の金属で鋳造さ
れている。光貨は魔法金属により作られており、4大国それぞれ良
く採掘される物を適用している。
・物価
簡単な外食が500∼1000ミュール、
宿屋に一泊するのが5000∼10000ミュール
4∼5人家族の住む家一軒買うのが1億∼3億ミュール
この世界では持ち家はかなりの高級品であり、一般庶民は普通、借
家を年単位で借りる。この場合20∼30万ミュール程度。
インヴォーカー
・ブレスレットによるチャージ機能
獣魔師の身につけるブレスレットには電子マネーのようなチャージ
機能が備わっており、通常の買い物は殆どがこれで用足りる。洞窟
内での取引など詐欺の危険性がある場合も、ブレスレットに個人認
証システムが備わっており、更に双方の合意がなければ取引が成立
インヴォーカー
しない為安全である。
獣魔師以外の一般人にはチャージ水晶が普及しているが、持ち運び
がやや不便な為、貨幣経済は依然として健在である。
89
◆ ◆ ◆
インヴォーカー
︻獣魔師について︼
ブレスレットを通じて獣魔を使役する者達。獣魔とは人間と言語的
な意思疎通の出来る獣や魔物の総称であり、通常の家畜や、意思疎
ミシィカル・ビースト
ミシィカル・ビースト
通の不可能なゴブリン等のごく低級なモンスターはここに含まれな
い。
サモナー
アストラル・ワールド
︵1︶召喚師
精神世界に存在する召喚獣の力を借りる。召喚獣には基本的な物理
サモナー
攻撃や魔法攻撃は通らない。唯一他の獣魔からの攻撃の身にてダメ
ミシィカル・ビースト
ミシィカル・ビースト
マテリアル・ワールド
ージを受ける。一人一体しか契約出来ない。召喚師自身よりも遙か
に強力な召喚獣と契約出来るが、召喚獣は強力すぎるが故に物質界
では相応に制限された力しか発揮出来ない。それを僅かな時間フル
イリュージョン
イリュージョン
レンジで発揮させるのが召喚術である。ブレスレットはミスリル製
で左手首に装着される。
イリュージョニスト
アストラル・ワールド
︵2︶幻体師
精神世界から己の想像・創造した幻体を出現させ戦わせる。幻体に
は基本的な物理攻撃や魔法攻撃は通らず、個体の能力は幻獣にも及
ぶ。唯一他の獣魔からの攻撃のみにてダメージを受ける。一人一体
イリュージョニスト
しか保有出来ない代わりに常時出現させ連れ歩く事も可能。但し、
幻体師自身とダメージを共有する。ブレスレットはオリハルコン製
で左手首に装着される。
テイマー
︵3︶操獣師
ファミリア
物質世界で実体化して存在している獣魔と心を通わせて操獣する事
が出来る。使役した操獣魔は通常の物理攻撃や魔法攻撃でダメージ
を受ける。何体でも使役可能である代わりに基本的に自分より力の
劣る獣魔しか使役する事が出来ない。元々実体化している獣魔を操
90
獣するので、一度使役関係を結べば特別にエネルギーを与える必要
は無いが、あまりに非人道的な使役は見限られる事もある。また、
ブレスレットに収納する事も出来ないと言うデメリットもある。ブ
レスレットはダマスカス鋼製で右手首に装着される。
コントラクター
︵4︶契約師
コンフェデレィト
物質世界で実体化している獣魔と心を通わせて契約関係を結ぶ。使
役した契約獣は通常の物理攻撃や魔法攻撃でダメージを受ける。何
体でも契約可能であり自分より力で勝る獣魔を従える事も可能だが、
優秀な獣魔は押し並べて契約時の要求も高度になりがちである為、
バランス感覚が難しい。またブレスレットに収納可能でもあるが、
ブレスレット内での維持には大量の魔精石を必要とする。ブレスレ
ットはヒヒイロカネ製で右手首に装着される。
インヴォーカー
・各々の獣魔師間の優劣関係
サモナー
基本的にどのタイプの資質が強く、どれが弱い、と言う事もない。
イリュージョニスト
一撃の攻撃力に優れるが持続力に劣る召喚師、攻撃力も高く持続力
も高いが本体とダメージを共有する為共倒れの危険性のある幻体師、
テイマー
一体一体の能力では他に劣るが多数の獣魔を使役でき攻撃レンジに
コントラクター
優れる操獣師、自身より力が上位の獣魔との契約も可能だが契約の
代償が高度になりやすい契約師、と言った感じである。
◆ ◆ ◆
インヴォーカー
︻この世界の﹃魔法﹄について︼
インヴォーカー
この世界では獣魔師の資質は必ずしも遺伝しないが、魔法使いの資
質は遺伝する。獣魔師を軍に入れられない各国が貴重な武力・防衛
力として保持している。
◆ ◆ ◆
91
︻ギルド︼
本来は同業者の集まりであり、農夫ギルドや鉱夫ギルドも存在する
ソーディアン
ハンター
ブラックスミス
にはするが、単純に﹁ギルド﹂と言った場合、冒険者ギルドの事を
指す。
冒険者ギルドには剣士ギルドや狩人ギルド、鍛治師ギルドなど様々
インヴォーカー
な職業の物が含まれるが、その中で登録者数が少ないながら最大勢
力を誇るのが獣魔師ギルドである。
ギルドに所属すると資金の融資、宿屋や酒場、武器防具道具屋での
割引など様々な恩恵が受けられる。
一方、犯罪行為や特定の国に過度に荷担する事は禁じられている。
またギルドからの指示には基本的に絶対服従となりこれを拒む場合
お尋ね者
として賞金首扱いとなり、どこの国
は多額の違約金を支払わなければならず、繰り返すとギルド追放と
なる。
追放された場合は
にも入れない。
・ギルドランク
こなしたクエスト、またはそれに相当する業績によりE、D、C、
B、A、S、SSの順に上がっていく。
・・・
超初心者。一人旅だと死ぬか憑物に落ちる可能性が
どのギルドでも共通のランクを使用する。
E
・・・
初心者。パーティプレイならD同士で組んでも初級
高い。﹁お使いクエスト﹂でスキルを積むのが一般的。
D
C
・・・
・・・
知名度が上がってくるレベル。ソロプレイも大体可
中級者。パーティを組めば遠出も可能。
クエストを漸くこなせるレベル。一応、討伐系クエストも受諾可能。
B
上級者。ギルドからの依頼や指名依頼も増える。そ
能。
・・・
A
92
・・・
世界中で20人弱しか存在しないエリート集団。国
れまでの業績やスタイルによってギルドから二つ名が与えられる。
S
と呼ばれる者が存在すると言われるが、
世界で5人しかいない超エリート。
Extra
・・・
難級のクエストに借り出されるレベル。
SS
※この上に
ギルドマスターですら把握し切れていない。
◆ ◆ ◆
一︵ハジメ・タカシナ︶
ハジメ
︻登場人物︼
タカナシ
★髙梨
言わずと知れた主人公。名字の存在感の薄さは御愛嬌。
1月1日生まれ、17歳。178cm、72kg。黒髪黒目。
幼馴染みに刺身包丁で刺されるというテンプレを頂くもチートとハ
インヴォーカー
ーレム目指して邁進中。
黒一角獣
ツガイ
Hcup。髪は
4種類の獣魔師としての資質を全て兼ね備え、しかも同時展開出来
る。
カンパニー
ギルドランクC。
ミシィカル・ビースト
現在の使役獣魔
イリュージョン
︻召喚獣︼なし
ファミリア
︻幻体︼クロノス
︻操獣魔︼ブラックホーンホースの番
ハヤト︵♂︶
オウカ︵♀︶
コンフェデレィト
︻契約獣︼なし
サモナー
★ウェンディーヌ・トライザスタ
︻召喚師︼
6月8日生まれ、16歳。151cm、96cm
93
ピンク、瞳はサファイヤブルー。
第一異世界人にしてメインヒロイン。
リヴィエル曰く﹁苦節8時間﹂の恋を実らせて晴れてハジメと結ば
れる。
カンパニー
ギルドランクB
ミシィカル・ビースト
使役獣魔
︻召喚獣︼リヴィエル
ミシィカル・ビースト
★リヴィエル・ラ・アクアメイガス
ウェンディーヌの召喚獣。
生年月日:????
over、人型時168cm。龍体時は瑠璃色
年齢:数え始めてから5000年ぐらい。人間体の時の見た目年齢
は25歳前後。
身長:龍時30m
獣魔
達の中においてもかなり上位
の鱗、人型時は瑠璃色の髪と瞳を持つ。
この世界の構成に直接関わる
の存在、らしいがそんな彼女が何故ウェンディーヌと契約し旅をし
とまで呼ばれる存在であるが、性格は人間臭く,と言う
ているかは不明。
水龍王
よりもオヤヂ臭く、しょっちゅうハジメやウェンディーヌをからか
っては楽しんでいる。
イリュージョン
★クロノス
ハジメの幻体。
Dcup。髪・瞳・翼・体毛全て萌葱色。
1月2日生まれ、0歳︵見た目20歳前後︶。165cm、86c
m
背中には2枚の翼、全身は羽毛のような体毛で覆われ、あんなとこ
ろやこんなところは見えそうで見えない良い感じに隠されている。
時間と空間をある程度操る能力があるらしいが、細かい能力はまだ
不明。
94
黒一角獣
ツガイ
★ブラックホーンホースの番
身の丈4m、額に生えた角は70cmにも及ぶ。全身漆黒の体毛に
ファミリア
包まれており、体毛は生半可な攻撃は通さない。
ハヤト︵♂︶とオウカ︵♀︶はハジメの操獣魔として使役されてお
り、近々生まれてくる仔馬もその系列に入る予定である。
﹁身重で苦しいからゆっくり﹂走っても120km/hぐらいのス
インヴォーカー
ピードが出る。本気だとその3倍は軽いらしい。
コントラクター
★エレン・ブライト
︻契約師︼
美しきエルフの女性にして現在の獣魔師ギルドマスター。
Ccup。スレンダーに見えて意外とある
年齢102歳︵人間の見た目年齢にすると18歳前後︶
172cm、84cm
らしい。
コンフェデレィト
ギルドランクSS
︻契約獣︼シルフィード、ドライアード、イフリート、ウンディー
麻琴
マコト
ネ、他多数。
さいじょう
★西条
本来のメインヒロイン。
94cm
Gcup。
前世︵日本︶でのハジメの幼馴染みにしてかなりの暴走ヤンデレち
ゃん。
9月23日生まれ、17歳。149cm
親心として、いつか彼女にも日の目が当たる日を来させてやりたい
です。
95
設定資料集1 ∼序章終了時点まで∼︵後書き︶
書いとかなきゃ、って思って頑張ったんですが。つ、つかれた。。。
今後はもうちょっと考えます。
96
飲んで、食って、 ※︵前書き︶
インヴォーカー
久々のエロです。第2章になって何が変わったって言われると辛い
ところですが、前回までで一応、獣魔師として冒険がスタート出来
るようになった︵=ブレスレットを得た︶と言う事でしょうか?
97
飲んで、食って、 ※
﹁つ、疲れた・・・。宿に戻って少しゆっくりしよう。﹂
﹁そうね。ほんとなら買い物したりギルドの説明したり色々あるけ
ど、取り敢えずは宿を取ってお昼ご飯にしましょう。﹂
迷い無く歩いて行くウェンディーヌ。宿の場所とか分かるのかな?
﹁なぁ、宿屋の目印みたいなのとかあるのか?随分自信ありげに歩
いて行くけど。﹂
﹁ベッドのマークが出てるのが素泊まりの宿屋、ジョッキのマーク
が酒場、両方上がってるのがBAR付きの宿屋。優良店には更にギ
ルドのマークがついてるからその辺に入っとけば間違いないわよ。
ギルド公認店なら割引も利くし。﹂
成程。て事はあれかあれかあの辺なら良いって事だな。
﹁あと、宿屋を利用するのは冒険者が多いからギルドの近くに自然
とそう言うお店も集まってくるの。逆にギルドから少し外れたとこ
にあるのは値段も少し安めね。﹂
歩くのが面倒だから、って事かな。
﹁このお店で良い?今日は疲れてるかもだけどブレスレットが出来
るまではアイスホルストに居る事になるし、遠すぎず買い物もしや
すい場所が良いと思うの。﹂
勿論、こっちでの宿の善し悪しなど分からないのでお任せにする。
まぁ前世でも大したホテルに泊まった事無いけど。
◆ ◆ ◆
98
﹁﹁えらっしゃい!2名様ご案内!!本日はお泊まりで?お食事で
?﹂﹂
ざ・女将さん!
ざ・板長さん!
そんな夫婦が出迎えてくれた。
﹁取り敢えず3泊と今日の昼食をお願いしたいわ。お幾らかしら?﹂
﹁料理はセットメニューで良いのかい?﹂
﹁ええ。久々の人里での食事だから沢山よろしくね。﹂
﹁え∼っと、部屋はシングルが5800、ツインが8800,ダブ
ルが7800だけどどれにするね?﹂
そうか。俺たちの関係がただのパーティか男女の仲か分からないも
んな。普通はこう言うとこならツインかダブルだろうけど。
﹁ダブルを3泊、夕食以降の食事は後で決めるわ。お昼は幾ら?﹂
﹁お泊まりなら800ミュールだ。3泊と2人分の食事で2500
0のとこだけど、ギルド割で20000ミュールで良い。﹂
﹁2名様テーブル席へごあんな∼∼い!!ランチセット2つ、30
秒で準備しな!﹂
﹁﹁﹁﹁﹁ガッテン!よろこんで!!!!!!﹂﹂﹂﹂﹂
色々ギリギリだが良いのだろうか??
◆ ◆ ◆
﹁・・・ほんとに30秒で出て来た。。﹂
﹁何驚いてるの?兎に角乾杯しましょ!﹂
え?ウェンディーヌってイケるクチ??
99
﹁苦いのはダメだけどお酒自体は大好きよ。﹂
﹁そっか。じゃぁ俺はビール・・・じゃなくてこのピジョールって
ので。﹂
﹁アタシはメルシー・ラムを炭酸割りで!﹂
ぶっちゃけ俺は酒なら何でも飲めるので適当で良いのだ。
が、運ばれてきたそれはまさしくビールだった。
﹁何に乾杯する?﹂
﹁出会いと、これからの旅路と、2日遅れの誕生日に。﹂
﹁﹁かんぱーーーーーい!!﹂
﹁はぐはぐ!むぐ!もぐもぐむぐむぐ!んぐっんぐっんぐっ!ぷっ
は∼∼∼∼∼!!!!﹂
﹁ちょっと・・・がっつき過ぎよ??﹂
﹁こっち来てから旅用の携帯食しか分けて貰ってなかったからさぁ。
いやしかしこれは旨い!﹂
﹁このホロホロブヒーって肉、脂身が少ないのに噛むとぎゅむぎゅ
む肉汁が出て来る!使われてるスパイスも何だか分からないけどか
なりの時間擦り込まれてるみたいだし、辺境のレストランでお昼か
らこんな手の込んだ料理食べれるなんて!﹂
﹁こっちのスープはブヒーの骨で取った出汁かな?トロミがかって
て後を引くなぁ。コラーゲンたっぷりだ!﹂
﹁虹色ハーブって不思議な味だね。すっきりした香りなのに甘味が
あって肉料理が美味しく食べられるよ。﹂
﹁・・・凄い食べっぷりねぇ。それに良くそれだけこっちの料理分
100
かるわね?料理、結構好き??﹂
﹁うん!元々食べるのも作るのも大好きなんだ。後でレシピ聞きた
いぐらいだよ。﹂
最初はピジョールで流し込んでいたハジメであったが、ウェンディ
ーヌのメルシー・ラムを試してみたところこれがかなり旨かったの
で今はそれをロックでグイグイやっている。
メルシー
な
メルシー・ラムはかなりのアルコール度数を誇るが、ハーブを漬け
込んで喉越しを爽やかにしてある為、呑んだ後将に
気分になれる。
結局3セットおかわりしてしまった。
最後にお冷やを一気飲みしてお腹を撫でた。
﹁ぷひゅー、食った飲んだぁ。﹂
﹁ほんとに物凄い量食べたわね。お腹大丈夫?﹂
﹁腹八分目が健康に良いんだよ。これで丁度。﹂
アナタの十分目はお財布に良くないわ、と思わずぼやくウェンディ
ーヌ。
﹁そう言えばさっきの話だけどウェンディーヌって料理しないの?﹂
ぴしっ
︵アレ?今なんか空間に衝撃が走ったような・・・︶
﹁・・・ハジメは料理が出来ない女の子は嫌い??﹂
アレ?地雷ON??
﹁い、いや、料理なんてどうにかして食べて行ければ良いと思うよ、
うん。﹂
﹁アタシは好きか嫌いか聞いてるの。回答になってないわよ?﹂
101
﹁あ、いや・・・どちらかと言えば出来ないよりは出来る方が。。。
﹂
﹁リヴィエル、﹃ウォーターガン﹄﹂
ぷっしゃぁぁぁとウェンディーヌの指先から水が勢いよく噴き出し、
ハジメは椅子ごと吹っ飛ばされた。
◆ ◆ ◆
彼女は先に部屋に戻り考え込んでいた。
哀れハジメは全身ずぶ濡れになったので一人で宿の風呂に入ってい
る。
︵ふん!料理が出来ないぐらいなんだってのよ!!
アタシだってその気になればホロホロブヒーの香味スパイス焼ぐら
い・・・︶
﹁出来ないと思うわよ∼、まいますたー♪﹂
﹁だからいっつもいきなり出て来るなっつーの!﹂
ボロボロブヒャーの
が良いところね。﹂
﹁まいますたーがあんな高度料理に挑んだら
こうもヤヴァイっす!?焼
﹁むぐ・・・﹂
﹁まぁ、アタシがその内簡単で見栄えがして作り手の努力の伝わる
料理を1つぐらい教えたげるからそれまでは大人しくしてなさい。﹂
﹁そんなのあるの!?﹂
﹁有るわよ?男は胃袋と●袋を掴まなきゃ!ウェンディーヌの場合
残りは胃袋だけだからね。﹂
102
﹁お風呂頂いてきたよ∼、ってリヴィエル来てたの?﹂
﹁アタシは貴方達を監視するぐらいしか今はやる事無いからね。﹂
リヴィエルは、ほれほれ、さっさと謝らんかい、と言う視線を投げ
かける。
﹁ごめん、ウェンディーヌ、ここの料理があまりに美味しくってち
ょっとヒートアップしちゃってた。﹂
﹁・・・ん。﹂
﹁誰にでも苦手な事ってあると思うんだ。俺は絵が苦手でさぁ。﹂
﹁へぇ・・・?﹂
﹁人に何か説明する時、分かりにくい時は絵に描いたりするじゃな
い?俺、アレが全く駄目。﹂
﹁頭の中にある物が実際に手を動かすと何でか知らないけど全く別
物になっちゃう。﹂
﹁そう!アタシの料理もそれなのよ!!﹂
﹁絵と料理だと全然違う事だけど、自分の苦手な事を無遠慮に話さ
れるのが嫌だって言うのは分かるから・・・﹂
﹁うん﹂
﹁ごめん﹂
﹁うん﹂
元々リヴィエルの説得で大方気分は戻っていた。あまり意地を張る
のも格好悪いだけだろう。
﹁うん!ありがと。アタシも1つぐらい料理覚えていつかハジメに
作ったげる。﹂
﹁そりゃ良いや!俺もこっちの食材とか料理とか覚えたいし機会が
あれば一緒に覚えようよ。﹂
◆ ◆ ◆
103
﹁ウェンディーヌはお風呂行かないの?﹂
﹁う∼ん、行ってきても良いんだけど・・・﹂
﹁?﹂
﹁まずは部屋のシャワーで汗流そうかな。あんまり歩き回らずにノ
ンビリしたいし。﹂
そうか。部屋にもシャワーは有ったのか。
◆ ◆ ◆
﹁ちょ、ちょっと!何でついてくるのよ!?﹂
ダブルルームの小さなシャワー。そこには当然男女の仕切りなど無
く・・・
﹁さっきのお詫びに背中流させて。﹂
﹁・・・背中だけよ?午後からは買い物に行かなきゃなんだからね
??﹂
﹁了解了解。俺も村を見て回りたいし。﹂
﹁・・・絶対よ??﹂
﹁OK﹂
先っちょだけ。先っちょだけだよ。
◆ ◆ ◆
しゃわしゃわしゃわしゃわ
こっちの世界にちゃんとしたシャワーが有るとは思わなかった。
さっきの大浴場では浴槽から桶で汲んで洗ってたのだ。
104
﹁はぁ・・・冒険者稼業は嫌いじゃないけど頻繁にお風呂に入れな
いのが辛いところね。﹂
まず彼女の髪を流し、ブラシで丁寧に梳く。
ココの滴
と
ふわふわとウェーブがかかっているのでそうしないと洗った時に絡
まるのだそうだ。
﹁髪を洗うのはこれだよね?﹂
こちらの世界ではシャンプーも石鹸も区別がない。
言うプロット公国に生える樹木の樹脂から作られた物らしい。ほん
のりバニラのような香りがする。
地球の物に比べて最初はこってりと固まっているがお湯でほぐして
いるとぶくぶく泡が立ってくる。
﹁ん、はうぅ、やっぱり頭って気持ちいい。。って言うかハジメ、
洗うの上手ね?﹂
﹁そう?こんなもんじゃない?俺は髪短いから適当な方だと思うよ
?普段は誰に洗って貰ってるの?﹂
I
see.
﹁リヴィエル。﹂
Oh,
泡を洗い流し梳ると埃でくすんでいた髪の毛がキラキラしている。
本来の色はパールピンクに近いようだ。
﹁じゃ、背中流すね。でもその前に・・・﹂
﹁?﹂
﹁首、凝ってない?﹂
﹁分かる!?﹂
﹁うん、頭洗う時にちょっと触った感じ凄い凝ってた。﹂
﹁そうなのよ∼。アタシ、やっぱり胸が重たくって・・・﹂
105
嵌った。肩凝り持ちの人は﹁凝ってるね∼﹂と言われるのをみんな
待っているのだ。
ふぅ・・・
あふぅぅぅ・・・﹂
あん、そう、そこ、あぁそれ凄
これで堂々と体を揉み揉み出来る。ぐふふふふ。。
﹁はぁぁぁん・・・
い、痛たっ!もうちょっとゆっくり・・・
完全に蕩け始めた。
俺自身が肩凝り持ちなのでポイントは良く分かる。
﹁ほんと上手ね。お金取れるわよ。﹂
あ・
タオルでココの滴を泡立てて背中をこするとウェンディーヌは少し
残念な表情を見せた。
﹁背中流したらまた揉んだげるよ。﹂
﹁うん♪﹂
﹁こっちの首はどう?﹂
﹁?﹂
タオルで腕をこすりながら手首をもみもみ・・・。
﹁あん!そこももっとぉ∼﹂
﹁じゃあこっちは?﹂
次は足首。
﹁そっちも!そっちも!﹂
じゃぁ・・・
﹁ここの首は・・・?﹂
やっぱ気持ち良いっ・・・!!﹂
﹁え?あ、こら!!調子乗りすぎ!!きゃぅっ!ふぅん・・・
・
・・
乳首もお気に召したようだ。
﹁胸が大きくて凝るんならここも揉んだら良いよ﹂
106
鎖骨の下辺り、おっぱいを支えているところをもみもみもみもみ・・
・
﹁はひゅっ!ダメそれ気持ち良すぎ!﹂
俺は密かにココの滴を自らの体で泡立てていた。
体全部で感じるよ
そのまま後ろから抱きつき、ぬめりと滑らせた。
﹁あぁっ!ハジメの体がこす、れ、てぇ・・・
ぉ・・・﹂
はぁはぁと息をつく彼女と向かい合う。
今度は、ゆっくりと巨丘に胸板をこすりつける。
時々力を加減して固くしこった乳首をかすめさせ、両手は体に挟ん
たぷん
たゆたゆたゆ
でなお余る巨乳へ。
たぷん
押せば無限に形を変え、力を抜けばしっとりと押し返してくる。
蕩けるような柔らかさとしっとりとした手触りを思う存分楽しむ。
同時に両の十指は横乳から脇にかけてこしょこしょとくすぐるよう
に駆け上がらせた。
﹁︱︱︱!!きゅぅぅんっ!!!﹂
一際高い声を上げると体中に力を籠めて伸び上がり、全身で弛緩し
た。
﹁逝った?﹂
﹁そこ、弱いって言ってたでしょう??﹂
泣きそうな顔で見上げてくる。
107
そろりと陰毛を掻き分けると、泡とともにとろりとした愛液が垂れ
流れてきた。
﹁ちょ、ちょっと待って!﹂
しかし既に待てと言われて待てる段階ではない。
﹁ちゃんとベッド行こ??ほんとの初めてがこんなとこだなんてや
だよぅ。﹂
◆ ◆ ◆
俺たちは体を拭き、ローブを纏い寝室に戻った。
﹁待ちわびたわよ?﹂
﹁マスター、私ももう我慢出来ません。﹂
カンパニー
とっても聞き分けの良い使役獣魔達が寝室で待っていた。
108
飲んで、食って、 ※︵後書き︶
寸止めごめんなさい。誤字・脱字報告、暖かいのからキツいのまで
感想もお待ちしています。
109
ウェンディーヌと初体験 Part1 ※︵前書き︶
5位、4位、何!?まだまだ上がっていくだと!?と言う訳で投稿
開始から僅か3日間で日間ランキング2位、週間ランキング15位、
総合PV56,556、ユニークアクセス10,326と言う自分
でも怖くなる数字を頂いております。数字の向こうには画面越しに
楽しみにして下さってる読者様が居ると信じて頑張ります。
110
ウェンディーヌと初体験 Part1 ※
リコール
﹁﹁召喚解除﹂﹂
﹁嫌よ。﹂
﹁嫌です。﹂
﹁﹁ナヌッ!?﹂
カンパニー
前言撤回。やっぱり聞き分け悪かった。
と言うか何で俺たちの使役獣魔はこうも規格外な行動を取る??
﹁そもそも何でリヴィエルが出て来るのよ!?﹂
﹁だって・・・アタシは今ウェンディーヌとしか契約してないのよ
?殆ど精神は繋がりっぱなしみたいなもんだし。。あんなに見せつ
けられたら堪らないわ。﹂
透明な隣の部屋で同じ顔した双子がやってるみたいなもんよ、と良
サモナー
く分からない例えを言う。
﹁それに折角ハジメには召喚師の資質があるんだし、ここでアタシ
その他諸々
が強烈に不安で
と契約しとけばこの先他の召喚獣が見つかるまで戦力的にもその他
諸々でも便利でしょ?﹂
理屈は分かる。確かに良く分かるが
ある。
﹁どうして指示もしてないのに勝手な行動を取る??﹂
リヴィエルは諦めてクロノスの説得を試みた。
﹁これは元々マスターがお望みになられた事なんですよ?﹂
﹁んなっ!?そんな馬鹿な!!﹂
111
﹁私を形作られた時、心の奥深くで
女性に対するトラウマ
が強
く感じられました。それを克服し、もう二度と女性を傷付けない、
その望みが私には刻み込まれていますので。﹂
要するにクロノスは慈愛に満ちた女性で俺の女性不信と言うか刺さ
れたトラウマを無くしてくれるってか??
何だかんだで結局押し切られた。
ダブルベッドに4人。狭い・・・。
﹁何だか妙な事になったけど・・・﹂
﹁もう良いわ。但し!一番はアタシだから。ちゃんと初めてをやり
たい。﹂
勿論そのつもりだ。
﹁2人ともそれでOK?﹂
﹁まぁ、流石にそこまで無粋でもないわよ?﹂
﹁私もマスターの望みを自然と実現しますので。﹂
◆ ◆ ◆
横になると狭いので座って向かい合う。
﹁ウェンディーヌ。﹂
﹁ん?﹂
﹁愛してるよ。﹂
今更だけど敢えて口に出して伝えたい。
言わなくても伝わってる自信はあるけど言えば言う程気持ちは膨ら
む。
﹁ん♪﹂
まずはハグ。
ローブはまだ脱がず、肩に手を回す。
112
強く、優しく。言葉では伝わらない想いを込めて。
れろ・・・
あむ・・・
ぢゅぢゅちゅるる・・・!﹂
ちゅぶ・・・
濡れて燦めく髪を手で梳いてやると、ほわ、と表情が緩んだ。
﹁それヤバいって何回も言ってるでしょ?﹂
﹁でも好きでしょ?﹂
﹁・・・うん。。﹂
んぅ・・・
ローブを脱がせ合い、後ろに放り投げる。
﹁ちゅ・・・
・・・・・・﹂
ぢゅる・・・
唇をついばみ、重ね、舌を絡める。
﹁ちゅ・・・
絡まり、吸い上げ、狭い口腔内で小さな愛撫が激しく加速する。
ぷひゅぅ、とお互い息をつき、自然と愛撫は体の下部へ移行。
うなじをぢゅっと吸い上げ、舌を這わせる。
﹁んぅ・・・ちょっとキスマークつけないでよ??﹂
﹁見えるとこにはつけないよ。・・・ってかそんな事言うなんてま
だまだ余裕だね?﹂
弱点への砲火開始決定。
右手でそろそろと豊満なおっぱいを全体的に揉み上げる。
舌で左の乳首を転がし、そして左手は・・・。
おっぱい
﹁きゃふっ!あぅっ!くふぅぅっ!いや、ちょっと待って!そこヤ
バいって!あきゅぅん!こっちもぴりぴりするぅぅ!ダメ、ダメダ
メ、逝きそう!!﹂
やはり脇への愛撫は弱いようだ。声が一際高くなる。
﹁もう一回逝っちゃおっか♪﹂
﹁ま、待って!!﹂
113
???
ほんとに押し止められた。
﹁アタシにもハジメを気持ち良くさせて?﹂
◆ ◆ ◆
ウェンディーヌの嬌態を見てペニスは既に痛い程に反り返っていた。
﹁凄い・・・お腹につきそうね。﹂
あっちからもこっちからもじぃぃぃぃっと眺められる。
﹁あ、あの、ウェンディーヌ、そろそろ何かの刺激が欲しい。。﹂
﹁うん。触って良い?﹂
目で頷くと両手でそっと包み込んでくれた。
片手だと力加減が分からなくて不安なのだろう。
サオに手をやり、しゅる、しゅる、と怖々扱き出す。
何だかとってももどかしい。
﹁もうちょっと強くても・・・﹂
﹁そう?まだ加減が分からないの。痛かったら言ってね?﹂
少し締め付けが強くなり、しゅるりしゅるりと擦り上げてくる。
﹁んっく!凄い。気持ち良い!﹂
自分の右手で扱いてる時のようなただ絞り出す作業ではなく、愛情
を籠めて快感を引き出そうとする行為。
﹁えへへ。何か嬉しいね。ハジメがアタシをやたら攻め立てる気持
ちが何か分かる気がする。﹂
先走り液が溢れ出て彼女の手まで垂れ始める。
亀頭から滲むそれを舐めとる様にウェンディーヌはペニスの先に口
114
づけた。
﹁うくっ!﹂
﹁ゴメン!?痛かった?﹂
﹁いや、びっくりしたのと気持ち良すぎたのと・・・。﹂
彼女の表情がまた綻ぶ。
カリの部分まで口に含み、先端をぺろぺろと舐め回した。
﹁もっと全体を・・・﹂
舌を尖らせて、てろーと裏筋に舌を這わせ、サオにくるくると舌を
じゅるる
ぐちゅ
じゅぷじゅぷじゅぷじゅぷ
巻き付け、くちゅくちゅと唾液を口に含ませたかと思った時、一気
じゅぶ
に根本まで咥え込んだ。
じゅぶ
こちらの表情を伺いながらウェンディーヌのフェラは激しさを増す。
カリと裏筋で俺が反応したのが分かったのか、動きながらも時折そ
こに舌が巻き付いてくる。
フェラ
﹁ウェンディーヌ、ヤバい、そんなに激しくされたらっ!﹂
イッてしまう、そう言おうとしたその時、更に口腔奉仕がスピード
を上げる・・・!
どくんっ
びゅるるるっ!
げほっ!﹂
﹁︱︱︱!!!くぅっ!﹂
どくんっ
﹁︱︱︱!!!ごほっ
びゅるっ
フェラチオ
初めての口腔奉仕と久し振りの射精でコントロールが利かなかった。
びくびくと跳ね回るペニスは大量の精液を放出し、彼女は突然の事
に咽せるしか出来なかった。
115
﹁ごめん!タオルを取ってくる!!﹂
しかし
﹁んぐ、ごく・・・。うぇ、マズぅ・・・。﹂
﹁無理せず吐き出してくれて良かったのに。。﹂
﹁ハジメがアタシで気持ち良くなってくれたシルシだもん。ちゃん
と受け止めたかったの。殆ど零れ出ちゃったけど・・・。﹂
想像や映像の中では何度も体験した台詞。
しかし生身に起こる感触は。。
﹁ちょ!?ちょっと??ハジメ、痛いわよ??﹂
愛おしすぎて思いっきり抱きしめていた。
ちゅ
﹁んげっ!マズッ!﹂
﹁そりゃまだ口の中にハジメのが残ってるんだから・・・。当然で
しょ。﹂
116
ウェンディーヌと初体験 Part1 ※︵後書き︶
短くて済みません。しかもまたもや途中だし・・・︵汗︶
ここ数日は元々書いていた作品の執筆も止め、ひたすら獣魔師∼ば
かり書いていましたが、今は並行して何本か別の作品も書いていま
す。その為、当作品の更新頻度が暫く落ちると思いますが宜しくお
願いします。
117
ウェンディーヌと初体験 Part2 ※︵前書き︶
日間ランキング遂に1位・・・。PVに至ってはこれが公開されて
いる頃には10万を越えていそうです。本当に感謝の言葉もありま
せん。私に出来るお礼は、ただ続きを書く事だけですので自分の時
間の許す限り書こうと思います。
118
ちゅる・・・
ちゅル・・・﹂
ウェンディーヌと初体験 Part2 ※
﹁ちゅぶ・・・
改めてキス。︵最小レンジの﹃ウォーターガン﹄でお互いの口をゆ
すいでくれた︶
お風呂から口腔奉仕に至るまででかなり興奮していたのだろう。
彼女のそこは既にたっぷりと濡れそぼっていた。
﹁足、開いて?﹂
﹁うぅ、やだ恥ずかしい・・・。﹂
そう言いつつも自らの手で膝を抱えM字開脚の姿勢を取る。
入り口をぬるぬると全体的に愛撫し、指で開いていくと皮から顔を
覗かせた彼女のクリトリスが目に入った。
固く勃起し、ぴくぴくと震えている。
こりこりこりこり
﹁︱︱︱!!﹂
びくっ、と体を強張らせたのでキスと視線で﹁大丈夫だよ?﹂と語
りかけ、優しく愛撫を続ける。
溢れ出た愛液はとろとろしていた物がねっとりへと粘稠度を増し、
興奮が強くなっているのが分かる。
中指をそっと差し入れるとざらざらとした膣壁の先に未開の証の障
壁が感じられた。これ以上指を入れるのはまだ不可能だ。
ならば・・・
ぺろり
119
﹁きゃぁ!そんなとこダメ!!﹂
﹁どうして?ウェンディーヌはあんなにいっぱいしてくれたじゃん
?﹂
﹁アタシは良くてもハジメはダメなの!!﹂
﹁でも、気持ち良かったんだよね?ウェンディーヌ、気持ち良い時
足が跳ねるもんね。﹂
ちゅぅぅ・・・
ぢゅるる・・・
﹁︱︱!!そんなの知らない!!気持ち良かったけどダメ!!﹂
﹁却下。﹂
ぺろぺろ・・・
﹁あふ!っくぅん!いや、ほんとにダメ!おかしくなる!!初めて
なのに!こんなのヘン!!ねぇ、逝きそう。逝きそうなの。﹂
﹁俺にしながら感じてくれてたの?﹂
﹁そうっ!そうなの。ハジメのオチンチンが喜んでるの見てもうた
まらなかったの!!﹂
﹁ねぇ、お願い、もう入れて?これ以上されたらおかしくなりそう。
アタシの初めて貰って!?﹂
さっきのお返しとばかりにクリと膣の愛撫で逝かせようと思ってい
たが、こんなに可愛い事を言われたら息子がもう黙っていない。
実際は2人とも初体験なのだが、半分はそうでない。
やり方は既に分かっている。
﹁いくよ?﹂
﹁来て。今度こそは優しくね。﹂
ぬる、っと入り口は抵抗なく入り、濡れも十分なのでミチミチと推
し進める。
﹁あぐぅぅぅぅぅんっ!入って来る!膣内でハジメのを感じる!﹂
120
こつっ、と触れたそこをペニスの先端でくりくりと弄る。
﹁あ、うふぅ、やだ、怖い怖い怖い怖い!!﹂
一旦動きを止めガクガクと暴れる彼女を精一杯抱きしめる。
﹁ウェンディーヌ、獣魔契約時のキスを。﹂
﹁ほえ?﹂
ちゅ
﹁︱︱!!﹂
キスとともに俺の想いが、愛しさが彼女に流れ込む。
タイミング過たず一気に奥まで突き込んだ!
めりめりみしり!と割り広げた時、契約のキスを通して彼女の激痛
が俺にも伝わってきた。
それとともに俺の快感が彼女に流れ込む。
・・・と、ウェンディーヌの方から唇を離した。
﹁?﹂
﹁ダメ。﹂
﹁え??何が???﹂
﹁ハジメの気持ちは嬉しいけど、初めての喜びも痛みもアタシだけ
の物。ハジメにも上げられない。これは女に生まれた幸せなんだか
ら。好きな人に貰った痛みも快感も全部アタシだけの物だから。﹂
﹁ウェンディーヌ・・・﹂
﹁ありがとね。もう怖くないから動いて?ゆっくりね??﹂
にちゅ
まずはそっと1往復。
にちゅ・・・
ぬちゃ・・・
﹁・・・んっ!そう、それぐらいが良い。続けて?﹂
にちゅ・・・
121
全身への愛撫や口づけを続けながらゆっくり膣内を味わう。
膣壁をじっくりと攻めながらも緩急をつけてみる。
﹁あぁ、ハジメを感じる・・・嬉しい、ハジメのオチンチンがどん
どんおっきくなってくる!!ねぇ、気持ち良い?気持ち良いの??﹂
﹁ああ。ウェンディーヌの舌が何百枚も絡みついてるみたい。。ヤ
バいよ、もう我慢出来そうにない・・・﹂
にっちゃ
ぬちゃ
ねち
﹁良いよ。いっぱい動いて?何か奥がジンジンするの・・・。ハジ
にっちゃ
ぬちゃ
メのオチンチンでいっぱいにして欲しいの!﹂
にっちゃ
﹁行くよ?痛かったら我慢しないでね。﹂
にっちゃ
ゃ・・・
﹁あっ!あっぅ!はぁっ!あうぅ、イィ!イィ!激しい!激しいよ
!いっぱい感じる。もっと欲しい!気持ち良いよぅぅっ!﹂
﹁ウェンディーヌ!ウェンディーヌ!﹂
ナカ
﹁ハジメ!来て!出して!!ちょうだい!!いっぱいちょうだい!
!ハジメのでアタシの膣内いっぱいにしてぇ!!﹂
﹁逝くよ?もう出るよ!?﹂
﹁ちょうだい!精液ちょうだいぃっ!ハジメの熱い精液でアタシの
ヤラしいおマンコぐちょぐちょに満たしてぇぇぇぇっ!!﹂
﹁くぅぅっ﹂
﹁あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああああぁぁぁぁぁっ
っっっ!!!!!﹂
どく!どく!びゅりゅ!びゅりゅりゅりゅりゅりゅ!!!
﹁ああ、来てる、アタシのおマンコに、ヤラしいおマンコにハジメ
122
のあったかい精液が流れてくるぅ。凄い、孕ませられちゃうぅぅ﹂
2回目の射精だが1度目よりも遙かに大量の精液を中出ししてしま
った。
1度目よりも多いどころか人生でも嘗て無いほどの量だ。
精一杯愛してくれてありがと。それと・・・
﹁あわわわ、ヤバい!思わずしちゃった!ごめn・・・﹂﹁ストッ
プ!!﹂
﹁ハジメ?﹂
﹁・・・ん?﹂
﹁気持ち良かったよ♪
﹂
﹁謝られると悲しいよ。アタシは後悔してないんだから。﹂
そうか。そうだな。
﹁うん。俺も後悔してない。改めてありがとう。そんで、謝ろうと
した事がゴメン。ただ子供が出来たら一緒に旅が続けられないかも・
・・﹂
﹁・・・そっちは知らないけどこの世界の避妊薬はした後でも使え
るの。﹂
そうなのか。
﹁ひょっとして持ってる??﹂
﹁うん。特にソロプレイの女冒険者は何時どんな目に遭うか分から
ないからね。﹂
成程。
﹁因みにどんな薬?﹂
123
ぼん!っとウェンディーヌの顔が紅潮した。
﹁え、えっと・・・、このぐらいの錠剤何だけど・・・﹂
彼女が指で示したのは4cmぐらいの芋虫みたいな形だ。
錠剤にしてはかなりでかいな。
﹁それをアソコに入れると1時間ぐらいで溶けて吸収されて使用後
10日間、妊娠を防いでくれるって言う・・・﹂
アソコに入れるアフターピルみたいなもんか。
﹁ただちょっと困った副作用があって・・・﹂
ニンフォマニア
ん?何だか楽しげな予感・・・。。
テンプレ
﹁使用後3日間以内に色情魔症状が出る事があるの・・・。﹂
ベッタベタ!?
体内魔力回路の混乱が原因らしくてどうのこうの。
恐らくホルモンバランスが崩れるって事なんだろうな。
﹁絶対、では無いんだね?﹂
﹁うん・・・。3割ぐらいの確率って話。起こりやすい人もいれば
全く平気な人もいるし、前は大丈夫だったのに次は駄目とかその逆
とかも。﹂
﹁症状はどれくらいで治まるの?﹂
﹁半日ぐらい。﹂
そりゃ一人だったら大変だな。
大丈夫。今日からは俺がついてるぜ!!まぁ今まで使った事は無い
筈だけど。
﹁お話終わった?﹂
﹁マスター、私達完全に空気でしたね。﹂
124
あ、すっかり忘れてた。
125
ウェンディーヌと初体験 Part2 ※︵後書き︶
今回のHシーン、非常に難産です。一行書くのにも苦労してるはず
なのにどんどん長くなっていく。。
評価は数字上では順調な伸びを見せていますが、具体的な感想の言
葉が無いのでこれで良いのやらどうなのやらとても不安になってい
ます。
簡単でも短くても良いですので感想お待ちしています。
126
契約は楽しいようです ※︵前書き︶
Hシーンが苦手苦手と良いながらやたら長くなり収集がつかないこ
の現象に名前をつけたいぐらいです。
127
契約は楽しいようです ※
﹁可愛い可愛いまいますたー♪の大事な大事な初体験だからこっち
は我慢してましたわよ?あんなに想いが通じ合ってればそりゃもう
幸せだったでしょうとも。でも、精神的に半分ぐらい繋がってるわ
よ∼って話忘れてない??途中でウォーターガンだけ都合良く使っ
たりして。﹂
イリュージョン
﹁マスターの想いは汲み取っていたつもりです。マスターの願いを
インプリンティング
実現するのが我々幻体の存在意義ですので。不安な世界に堕とされ
て一番最初に出会った妹系巨乳美少女に刷り込みされてしまう気持
ちは重々承知致しておりますが、ここまで物の見事にスルーされま
すとあまりに切ないです。﹂
随分ご立腹の御様子。。まぁ無理もないか。
しかし!遂にやってきたハーレム展開。
滾る!漲る!
既に長時間プレイしている上に濃厚に2度出しているが精力が集中
してくるのを感じる。
﹁ア、アタシちょっと疲れちゃった。悔しいけどここは休憩させて・
・・。﹂
あ、あれ?ウェンディーヌ戦線離脱??ハーレムは???
﹁じゃぁアタシから!﹂
リヴィエルがうきうきと這いずってきた。
﹁リヴィエルさん!よくもまぁヌケヌケと!先程行われた公明正大
なる三竦み決闘戦をお忘れですか??﹂
128
イリュージョン
﹂
三竦み決闘戦って要するにじゃんけんだろ?んな大げさな・・・。
﹁勿論!お忘れですわ!!﹂
﹁んな!?﹂
真打ちは遅れてやってくる
﹁あの事を知らないのかしら?哀れな幻体さんは。﹂
残り物には福がある
﹁??﹂
﹁
﹁!!﹂
﹁天津○がドラ○に殺されそうになったり、ナッ○如きに4人も殺
られたり、リ○ーム1人に3人の戦士がズタボロになってから登場
するからこそニンジンファイターはカッコいいのよ。﹂
因みにド○ムもナ○パもリクー○も﹁コマ数が勿体ねぇ!!﹂とば
かりにその後キャロット君に瞬殺される。リヴィエルは、彼等はあ
くまで前座だと言いたい、のか?????
﹁素晴らしい。。オラワクワクシテクッゾ!﹂
クロノス、簡単すぎです。
◆ ◆ ◆
﹁リヴィエル、物凄い野暮な事聞くけど・・・﹂
﹁好意を持った理由、かしら?﹂
﹁う、うん。﹂
﹁そんなに固くならなくても良いわよ。別に怒らないから。まぁ単
ミシィカル・ビースト
純にウェンディーヌとのを見てて中てられたってのもあるけど、一
獣魔としても召喚獣としてもハジメは物凄く魅力的よ?﹂
サモ
そんなもんか?この歳まで特にモテたと言う程の記憶もないが・・・
。
ナー
テイマー
コントラクター
﹁ハジメなら何となく理解出来てるんじゃないかと思うけど、召喚
師にしろ操獣師にしろ契約師にしろ、獣魔と使役関係を結ぶ時は心
を開いて口づけをするの。獣魔にとっては必ずしも部位は唇じゃな
黒一角獣
くて、﹃最もその個体の生命力と魔力を籠めた場所﹄だけどね。ブ
129
ラックホーンホースにとっては角だったように。﹂
﹁それと今の状況と何の関係が・・・?﹂
﹁私達のようにほぼ完全な人型を取れる獣魔の場合、通常のキスで
契約はOKなの。でも、貴方とはもっと深く契約したい。心が魂レ
ベルで繋がるぐらいに。﹂
﹁どうして俺なんかとそんなに・・・。﹂
に出会った。幾ら意思疎通が出来たとは言えブラック
黒
﹁この世界に来て僅か数時間後。貴方は恐らく理解の範疇を超えた
バケモノ
一角獣
テイマー
コントラクター
ホーンホースといきなり対等に渡り合ってしかも友好関係が結べる
人なんてアタシの知る限り操獣師でも契約師でもそうそう居ない。
しかも相手が命を狙ってきている状況で素直に自らの非を認め、謝
罪し、最後にはその相手に慈愛すら贈る。獣魔としても一知的生命
体としても尊敬を覚えるわ。﹂
﹁・・・成程。でもそれだと男としての魅力ってのとは別じゃない
の?﹂
﹁人間的魅力のある男性に惹かれるのは人間も獣魔も変わりないの
よ?﹂
﹁理解して貰えたかしら?じゃぁ・・・。﹂
ぱちん
指を鳴らすと彼女の服が靄のように消えていく。
﹁脱がせたかった?でももう待ちきれないわ!アタシだけ服着てる
のも結構恥ずかしかったのよ?﹂
﹁うん。俺ももう・・・。﹂
﹁ハジメ・タカナシ、貴方との一伴侶として契約を交わす事を願い
ます。リヴィエル・ラ・アクアメイガスの名において。﹂
﹁リヴィエル・ラ・アクアメイガス、貴女とともに楽しい旅をした
130
ちゅぶ・・・
くちゅ・・・
い。俺の伴侶として契約して下さい。ハジメ・タカナシの名におい
て。﹂
ちゅ・・・
本来軽い口づけで事足りる召喚獣との契約だが、それは既に口内愛
撫のレベル。お互いの舌を絡め、吸い、唾液を交換する。
じゅるるっ!
交わしあった唾液を強く吸い上げて、ほぅっと一つ息をつく。
口による愛撫は耳や首筋に至り、ハジメの手は既に彼女の乳房を揉
み上げていた。
スレンダーで長身だが、胸は思ったよりも大きい。
︵86か87ってとこか・・・?︶
弾力に富み、ねっとりと押し返してくるのが気持ち良い。
ウェンディーヌのそれがマシュマロだとしたらリヴィエルのおっぱ
こら、一人楽しんでないでもっと気持ち
いは膨らんだパン生地のようだ。
﹁・・・んぅ。。あん♪
良くしてぇ﹂
そう言うリヴィエルはハジメの胸板に舌を這わせ、乳首をくりくり
と弄んでいる。
﹁うくっ!﹂
経験した事のない快楽が脳髄を痺れさせる。
﹁ふふっ、乳首気持ち良い?ウェンディーヌも色々頑張ってたけど
流石に人生2桁しか生きてないオコチャマに負ける訳には行かない
からね。﹂
お前は一体何桁生きてるんだ、等と言ってはならない。女性の年齢
はデリケートな問題なのだ。
131
﹁ハジメ、今回は楽にしてて良いよ。女の子を攻めるのが好きみた
何かそれ悔しい。。﹂
いだけど、今日はアタシがいっぱい気持ち良くしたげる。﹂
﹁うぅ・・・
﹁色々覚えたらまた今度いっぱい犯して?今日は攻められる快感っ
てのを教えたげる。﹂
◆ ◆ ◆
うつぶせに寝かせられた。
と思ったら彼女が上から覆い被さってきた。
︵・・・何かヌルヌルする?︶
ヌメヌメと絡みつく彼女の柔肌が上下する。
︵これってローションプレイ?でもどこからそんな物を・・・??︶
﹁えへへ、気に入った?水龍王様特製潤滑ポーションマッサージよ
ん♪﹂
﹁・・・自家製??﹂
﹁アタシを誰だと思ってるの?液体の扱いならお手のもんよ。何で
もって訳じゃないけどこれぐらい軽いわよ。﹂
﹁俺らの世界でもこれと同じ様なプレイ用のローションってアイテ
ムがあったよ。﹂
﹁そうなの?でもこれはちょっと特別よ?﹂
何が?とは問えなかった。
ぬぢゃ
にゅぢゅる
にゅりゅる
ねちょねちょ
肌の表面はひんやりして気持ち良いが、体の芯が熱を帯びる。
﹁効いてきた?﹂
べちょ
﹁・・・うん、物凄く。。﹂
べちゃ
132
ねちょねちょ・・・・・・
﹁はぁうぅ、熱い!体がっ!沸騰しそうだっっっ!!!﹂
弾力のあるおっぱいとその先でコリコリと強く刺激してくる乳首。
更にリヴィエルの手は背中や肩から、腹や胸まで這い回り、ハジメ
は自分でも知らなかった性感帯を思い知らされる。
﹁うふふふふ、声が無くなってきたわよ?こんなのはどう?﹂
体を軽く横向きに浮かせられ、アヌスに舌を這わされながらの手コ
キ。
アナルに襲い来る背徳的な快感、ぬめりを帯びて絶妙に扱き上げら
れるペニス。
辛そうね?逝きたい??﹂
しかし。逝きそうになるとするりと勢いを弱めて躱される。
﹁ふふ♪
﹁ああ。限界だ。リヴィエル、逝かせてくれ!!﹂
﹁良いわよ。覚悟してね??﹂
ぱく、と躊躇いなく奥まで咥え舌をカリに絡められる。口の中で明
らかに舌が伸びた。
と、同時に後ろに這い進んだ指がアナルに進入した。
﹁︱︱!?﹂
こりっ!!とした快感に思考が遠のいた時、堰が決壊するかの様な
止めどない流出が起こった。
どくどくどくどくびゅるるるる・・・・・・・・・・・
彼女は肛内を蹂躙しながらこくこくこくこくと果てしない量の精液
を滴すら残さず飲み込んでいく。
ああ、これが前立腺マッサージって奴か・・・と思いながら波を漂
133
う様な蠱惑的な快感に飲み込まれた。
美味しかったぁ♪﹂
◆ ◆ ◆
﹁んふ♪
﹁いや、美味しくないだろ??﹂
先程味わったばかりの風味を思い出しややげんなりする。
カンパニー
﹁何度も言うけど、アタシは一応水龍王なのよ?液体の味を多少変
えるぐらいお茶の子さいさいだし、使役獣魔にとって使役関係にあ
る人間の愛情溢れる精なんてご馳走よ、ご馳走。﹂
ウェンディーヌが聞いたら泣いて羨みそうだな。
・ ・
﹁しかし凄いわね・・・。﹂
﹁これ?﹂
リヴィエル特製ローションの効果か、息子はまだまだ攻撃意欲満載
である。
早く欲しくって堪らないわ。でも、ちょっと待って。﹂
﹁入れて良い?﹂
﹁勿論♪
??
また横にされた。
﹁アタシがしたげる。﹂
﹁今日はされる快感を教えたげるって言ったでしょ?ハジメは楽に
してて?﹂
彼女は俺のペニスを掴み、膣に飲み込んでいく。
ぐちゅっ
騎乗位って奴か。
ぐちゅぅ
前後に、左右に、更に円を描く様に。擦り、捏ね回される。
134
ナカ
アタシももう我慢出来な
﹁凄い!リヴィエルの膣内、とろとろ濡れてて、きゅうきゅう絞め
ぬちゃるっ
ぐちゅるっ
ハジメの体で感じちゃった♪
てきて気持ち良いよっ!﹂
﹁ふふ♪
ぐちゅぅっ
いからいっぱい行くわよ?﹂
ぐちゃぁっ
捏ねる動きに上下の抜き差しが加わり、ハジメはチカチカとスパー
クが見えた。
﹁アァッ!イィッ!イイわッ!!ハジメの固くて太いチンポ!!!
好き、大好き、コレ好きィィィッッッ!!!!﹂
︱︱!!何百回と逝きそうな快感の中、ハジメは思わずリヴィエル
の乳房に手を伸ばした。
何の遠慮も余裕もなくひたすら揉みしだき乳首を摘み上げる。
動きに合わせて大きく揺れていたそれはそれでもツンと上を向き、
彼女の強気な性格を表しているかの様だった。
﹁ダメェ、ダメエェッ!今日は、今日はアタシがするつもりなのに
ぃぃぃっ!!そんなのされたらおかしくなるっ!﹂
余裕が出たハジメは腰を突き上げ始めた。
﹁凄いわ!こんな感じるのなんて!初めて!もう離れられなくなる
ぅ!﹂
﹁リヴィエル!ずっと、ずっと一緒だよ!!ずっと一緒にいてね。﹂
﹁あぁ!愛してるわハジメ!こんな気持ち初めて!!﹂
﹁俺も!俺も愛してるよ!!リヴィエル大好き!!﹂
﹁駄目、逝っちゃうううううぅぅぅっっ!!﹂
135
﹁逝くよ!?全部受け止めて!!﹂
びゅるぅっ
どくどくどくどくううううぅぅ
﹁ちょうだい!!ハジメの精でアタシを染め上げてぇ!﹂
びゅくんっ!びゅる
っっ!!
まさか結局ハジメのペースでされちゃうなんて・・・
﹁ああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!
!!!!﹂
◆ ◆ ◆
﹁はぁ・・・
。﹂
﹁リヴィエルってさぁ。﹂
﹁??﹂
﹁可愛いよね。﹂
﹁んな!?!?﹂
・・・ありがと。。貴方の旅にこれから付き合える事
﹁ほらほら、そう言うとことか。﹂
﹁︱︱!!
を光栄に思うわ。﹂
﹁愛してるよ、リヴィエル。﹂
﹁アタシもよ、ハジメ。﹂
﹁はぁ∼、真打ちはこんなにも頑張って登場のタイミングを待って
るんですねぇ。。﹂
﹁お待たせクロノス。ありがとね。﹂
﹁良いのです。これら全て、カリ○様やカイ○ウ様や重力100倍
の修行を行う間の時間稼ぎに過ぎないのですから。﹂
良い感じに毒されている様である。ヤ○チャ辺りが聞いたら泣き出
136
しそうだ。
137
契約は楽しいようです ※︵後書き︶
済みません、ハーレムに持って行く余裕が今回は無さそうです。。
話の続きを書きたいので今回は個別Hで勘弁して下さい。
138
想像力は創造力への扉 ※︵前書き︶
言葉で、感想を頂けました!!!ランキングとかそんなのより一言
の暖かいメッセージが遙かに遙かに嬉しいです。穏やかな心を持ち
ながら激しい猛りによって目覚めそうです。
139
想像力は創造力への扉 ※
﹁マスター、これはマスターにとって良い事ずくめなんです。﹂
イリュージョンイリュージョニスト
﹁幻体は幻体師の心の実像。形や大まかな能力は最初に決まってし
イリュージョニスト
まいますが、その力は想像力により無限の可能性を秘めています。
普通の幻体師はどうしても常識の範囲を越えて私達を操る事が出来
ません。何せ、イメージそのものが膨らまないのですから。しかし
マスターはこの世界の外を知っておられます。常識を破り私の能力
イリュージョニスト
を全て引き出して下さい。﹂
何でも、普通の幻体師はその力の3割から5割程度引き出せれば一
流と呼ばれるそうな。
﹁私とのセックスで私の可能性を感じて下さい。無限の可能性を想
像するだけで引き出せるセックスの虜になって下さい。﹂
◆ ◆ ◆
﹁クロノスのそれって服じゃないよね?﹂
﹁はい。体毛を少々操作して、他人が見た時如何にも使い魔らしく
見える様にしています。﹂
彼女の萌葱色の体毛︵羽毛?︶はきわどい下着の様に最低限の場所
だけ隠している。
清楚な顔立ちとスレンダーなモデル体型に、扇情的な下着だけを着
けているかの様なルックスはアンバランスで逆に蠱惑的な魅力を醸
し出す。
﹁では、そろそろ脱がせて下さい。﹂
え?どうやって??
﹁マスター、全ては想像ですよ。マスターならこれをどうやって脱
140
がせますか??﹂
・・・そうだな。。こんなのはどうだ??
掌に魔力を集中させたイメージを作り、それで彼女の乳房に手を翳
す。
するすると虫が這い歩く様に体毛が乳首周りから立ち退きを始める。
撫でたところの体毛が消えるイメージを想像したのだがSF映画で
見た有機スーツが形を変えるかの様に自在に彼女の体毛を操れた。
﹁お上手です。今度はこちらも・・・﹂
クロノスが秘裂に手を伸ばすとくちゅり、と濡れた音を立てる。
今度は手を翳すだけでなく指を差し入れ掻き混ぜてみた。
指でなぞるに従い濡れそぼったピンクの秘裂が姿を現す様は酷くそ
そる物がある。
︵ショーツを破いてプレイしてるみたいだ・・・。︶
体毛をどかせてないところは当然そのまま毛が生えている為、何だ
かアンバランスな感じがする。
しかもその下は見た目パイパンだ。
﹁そうです。その様に﹃私は何が出来る存在なのか﹄常に想像を張
り巡らせて下さい。それは全て私の、そしてマスターのお力になり
ます。﹂
・・・エッチの最中なのにやけに冷静なのがどうも納得行かない。
ならばこんなのはどうだろう??
どくん!
﹁きゃぁっ!!??﹂
﹁マ、マスター??﹂
141
﹁随分と余裕でレクチャーしてくれてたみたいだから。でも、俺は
何も弄ってないよ?ただ興奮度を高めて心拍数を上げてみただけ。﹂
透かさず、膣内に差し込まれた指が激しく蹂躙を始める。
その時、クロノスのソコはハジメの指を舐り取る様にウネウネと蠢
いた。
うぅん・・・
ダメです!こん
更にハジメは体を重ね、もう一方の手で胸を揉みしだき、乳首を抓
り上げる。
﹁あぁぅっ!きゃっ!くふ・・・
な!初めてなのにいきなり感じすぎて!!痛いのに!!激しくされ
てるのに私の体中が喜んでいますっっ!!﹂
﹁そうだね。クロノスは﹃初めてで痛いくらい激しくされても感じ
まくっちゃう淫乱﹄だもんね。こんな清楚なお姉さんがこんなに嫌
らしいだなんて。﹂
﹁そ、そんな事言われたらぁぁっっ!もっと感じちゃう!!ダメな
のにぃぃ、こんなエッチなのダメなのにぃぃっっっ!!!﹂
﹁ダメなんだ??﹂
﹁あふぅぅっ!も、申し訳ありません、マスター。ダメじゃないで
す。ダメじゃないですぅぅ!淫乱でも、エッチでも、私はマスター
にお喜び頂ければ幸せなんです。お願いします。私にもっと幸せを
感じさせて下さい!!!!﹂
ハジメの思いが導いた通り、クロノスはどんどん淫乱な姿をさらけ
出して行く。
︵優しい隣のお姉さん系のクロノスがこれ程までに俺の思い通りに
乱れている・・・︶
興奮に脳髄が焼かれていたハジメだったが、その姿に逆に可愛らし
さを感じてしまった。
﹁クロノス﹂
﹁はい??﹂
142
イリュージョンイリュージョニスト
﹁獣魔契約のキスをしよう。﹂
イリュージョン
﹁幻体と幻体師の間では必要ありませんが・・・。﹂
イリュージョニスト
﹁クロノスがさっき言ったばかりじゃないか。幻体の力は幻体師の
想像力だ、って。互いの想いを獣魔契約で通じ合わせればもっと俺
イリュージョニスト
たちは強くなれる。﹂
俺はただの幻体師じゃない。他の3つの資質も備え持っているんだ。
ファミリア
コンフェデレィトミシィカル・ビーイ
スリ
トュージョン
そのやり方を合わせれば、クロノスはこの世にたった一体しか居な
い、操獣魔と契約獣と召喚獣と幻体の全ての特徴を兼ね備えた唯一
無二の存在になれるかも知れない。﹂
それに・・・
﹁好きな人と心からキスしたいと思うのは当然だろ??﹂
﹁マスターっ!!!﹂
激しく唇が重なり互いの舌が互いを犯し合う。
元から共有出来ていたと思っていた想いが更に流れ込んでくるのを
二人は感じた。
イリュージョン
﹁クロノス、愛してるよ。俺たちは一生一緒なんだよね。﹂
﹁私は本当に幸せ者です。他の獣魔と違い幻体はマスターとともに
死を迎える事が出来ます。即ち、決してマスターより早く死ぬ事が
ありません。﹂
﹁クロノスが居ない世界なんて考えたくない。﹂
﹁マスターが居ない世界に存在する意味はありません。﹂
今度のキスは少ししっとりと優しかった。
◆ ◆ ◆
﹁マ、マスター・・・﹂
濃密なキスの後、クロノスがもじもじし始めた。良く見れば股を擦
143
らせている。
﹁どうしたの?﹂
にま∼りと笑みを浮かべ、敢えて聞いてやる。
﹁お願いします。もう我慢が出来ません。もう、欲しくて堪りませ
ん!!﹂
﹁何が?﹂
﹁マ、マスターのオチンチンが・・・。﹂
﹁俺、もっとおねだり上手な女の子が好きだな∼﹂
﹁マスターの・・・﹂
﹁俺の?﹂
ごく、と唾を飲み一息ついて、一気にまくし立てた。
﹁マスターの、太くて、固くて、激しく反り返ったオチンチンで、
イヤラシい私のグチョグチョに濡れたマンコをぶち抜いて下さい!
いっぱい犯して、激しく突き上げて、ドロドロの精液を私の体に、
お腹いっぱいになるぐらい注ぎ込んで下さいぃぃぃっっ!!!﹂
まさかここまで!
確かに俺は﹃普段は清楚でエッチの時はいじめられるのが大好きな
ギャップを持った年上のお姉さん﹄をイメージしたが、これは想像
以上だ。
イリュージョニスト
いや、嬉しい誤算と言うべきか。これが俺の想像を実現化すると言
う幻体師としての力??
見れば彼女は既に四つん這いになり尻を向け、ぴくぴくひくつくマ
ンコを高々と掲げている。
もう確認は要らないだろう。
144
ずぶぅぅぅぅっっ!!
何の遠慮もなく思いっ切り貫いた。
﹁くうっっはぁぁぁぁっっっ!!凄いの来たぁぁぁっっ!!マスタ
ーの、マスターの極太チンポぉぉ!!もっと、もっと下さい。私の
ぱんっ
ぱんっ
ぬぢゅっ
ぬぢゃぁぁぁっ
膣内がマスターの形を忘れなくなるぐらいいっぱいシテ下さいぃぃ
!﹂
ぱんっ
﹁きゅふぅぅっっ!激しい!激しいですぅ!!﹂
﹁クロノスは﹃初めてなのに激しくされて喜ぶ淫乱﹄だもんね!﹃
さっきまで処女だったのにどうしようもなく感じちゃう﹄んだよね
?﹂
﹁嫌ぁっ!は、はい・・・!恥ずかしいです!もう、もう、逝って
も良いですか??﹂
﹁ダメ、俺が逝く時に一緒にじゃないと。﹂
﹁は、はい、あぐぅ、そ、そんな激しくされたら我慢出来ませんん
ンンンンゥゥ!﹂
突き入れた瞬間はヌメヌメと飲み込む様に、抜き取る瞬間はきゅう
きゅうと膣口で締め付ける。子宮口は亀頭に口づけをする様に吸い
付き、どの瞬間もハジメの肉棒を喜ばせようと必死である。
﹁逝くよ!一滴残らず受け止めて!﹂
﹁クダサイ!私のイヤラシいオマンコにドロドロザーメン流し込ん
で下さい!マスターの子種を欲しがって口を開いてる子宮の奥まで
145
種付けして下さいぃぃぃっっ!!!﹂
ずぐん!
一際強く突き入れる。
瞬間!彼女の膣内が激しく締め付け、子宮口が大きく口を開いた。
﹁熱い!暖かい!!凄い!マスターの赤ちゃん出来ちゃうぅぅっ!
初めてなのに!!初めてのエッチで孕まされちゃうぅぅっっ!!﹂
どびゅっ!どびゅっ!びゅくくんっ!びゅるりゅるりゅるりゅるり
ゅるりゅるりゅぅぅぅっ!
何度出しても全く衰える事を知らない射精は延々と続き、言葉通り
クロノスのソコはそれを全て飲み込んでいった。
流石に少し疲れを感じ、彼女に覆い被さり乳房を揉みしだく。
しかしするりと躱され向かい合わせになった。
マンコ
﹁御覧下さい。ちゃんと一滴たりとも残らず飲み干しましたよ?﹂
くぱぁ、と開いて見せたソコからは確かに精液は垂れてすらない。
﹁綺麗にしますね♪﹂
あむ
丁寧に吸い上げ、残り汁を飲み干し、サオから玉袋に至るまで彼女
と俺だけでなくウェンディーヌとリヴィエルの物も混じった淫液を
ぺろぺろと舐め取った。
﹁はい、綺麗になりました。御馳走様です♪﹂
146
逝った後は敏感すぎて自分でもぞわぞわとしたり痛かったりするの
に。お掃除フェラってもっと刺激的なイメージがあったがこれは力
加減が絶妙だ
﹁成程。確かに究極のオナニーと言われる由縁も分かる。。もう一
人の俺が思考を共有しながら理想通り動く、ってか。﹂
﹁私は確かにもう一人のマスターでもありますが、私は私ですよ。﹂
そうか。そうだな。
﹁いっぱい想像力を鍛えて頂けた様で私はもう嬉しいやら楽しいや
ら気持ち良いやら気持ち良いやら気持ち良いやら気持ち良いやら気
持ち良いやらでびっくりです。﹂
暴走しすぎたのは認めますので恥ずかしいから止めて。
﹁ところで種付け云々は・・・﹂
﹁マスターの理想ですよね?好きな人やイイ雌に自分の子を産んで
欲しいって思うのは雄の本能だ!!見たいな。後、ちょっとレイプ
願望あります?﹂
﹁ぐはぁっ!?﹂
マテリアル・ワールド
﹁で、でも精神体のクロノスには子供出来ないよね??﹂
﹁はい、普通は。でも・・・﹂
﹁でも!?でもって何!?﹂
﹁獣魔契約で他の獣魔の特色を与えて頂いたので物質界への干渉力
が上がってるからどうでしょうか?もし出来たらちゃんと責任取っ
て下さいね?ア・ナ・タ♪﹂
﹁ぶほーーーーーーーーーーーー!!!!!!!﹂
◆ ◆ ◆
結局この日は3人と順番にエッチをした結果、みんな疲れ果てて横
になっており、気付けば夕飯時だった。
147
アストラル・ワールド
何があっても満足げなクロノス、いつの間にやら精神世界へとんず
らこいてるリヴィエル、ぷりぷりと怒っているウェンディーヌ︵自
分が一番寝てた癖に︶。
恋人が一日に3人も出来て、順番にエッチをした。
元の世界の知り合いに話しても、こんな初体験誰も信じちゃくれな
いだろうな。
148
想像力は創造力への扉 ※︵後書き︶
な、長かった。。。おかしい。本来このシーンは8000文字程度
イリュージョナー
イリュージョニスト
で終わる予定だったのです。1.5倍の文字量とか、自分の未熟さ
を感じさせられます。
後、このタイミングで幻体化師↓幻体師に変更しました。﹁化﹂が
何となく据わりが悪かったのとイリュージョナーじゃなくてイリュ
ージョニストが英単語として正しい事に今更気付いたのです。
149
お金は大事だよー︵前書き︶
暫く説明口調になりますがお付き合い願えれば幸いです。
150
お金は大事だよー
朝日が・・・違って見えるぜ・・・!!
マジシャン
﹁おめでとう。後13年我慢すれば魔術師にまでなれたのにね。﹂
﹁思考に割り込んでくるな!いきなり出て来るな!﹂
正式に契約を交わした為、ウェンディーヌとリヴィエルの様に俺ま
で繋がってしまったらしい。
﹁・・・てか、その設定、こっちの世界にまであるの?﹂
﹁ある訳無いじゃない。ただ、溜まりに溜まった精力が歪んで爆発
した挙げ句、性魔術を極めんと開眼してしまった或る意味伝説の人
物が1500年ぐらい前にいたわね。﹂
壮絶になりたくない。
ミシィカル・ビースト
しかし、普通は召喚獣を使役する事でここまで深く精神が繋がる事
は無い筈、とウェンディーヌが言ってたが・・・?
﹁それに関してはウェンディーヌ自身の事情も深く関わっているか
らまだ私の口からは言えないわね。旅を続ける中でいつか必ず知る
事があるでしょう。﹂
﹁おはよー、朝から元気ねぇ。。﹂
むくむくと布団の固まりが動き、中からピンク色の頭だけがひょこ
っと覗いて見える。
﹁おはよ。まだ流石に早いから寝てて良いよ?食事、部屋に持って
きて貰おうか?何が良い??﹂
﹁お願い∼。軽いものと、フルーツのジュースが欲しいかな。まぁ
眠くはないんだけど。。﹂
151
??
﹁あ、あのまだちょっと何か挟まってる感じがすると言いますか、
ジンジンすると言いますか・・・。﹂
あぁ・・・
﹁おめでとう!一膜剥けて貴女も遂にこっち側のオンナねっ!﹂
﹁一々茶々入れんで良いってば!猛烈に越えたくないわ、そのライ
ン。それにわざわざ捻り利かせた卑猥な台詞をどうにかしてっ!﹂
◆ ◆ ◆
朝食セットを3つ︵何故か水龍王様の分も︶頼んでもぐもぐやりな
がら今後の計画について話し合った。
﹁まずはギルドとブレスレットについてちゃんと説明しないと始ま
らないわ。アタシもちょっと今日一日ぐらいは歩き回るのが辛いだ
ろうし・・・。実際に使いながら説明しなきゃ行けない部分もある
し、その辺は午後に回すとして、朝は説明&質問タイムって事で良
い?﹂
﹁勿論、お願いするね。﹂
﹁その前にハジメ、アナタさっさとハヤトとオウカを連れてきたげ
なさい。﹂
テイマー
リヴィエルに言われて気付いた。
そうか、ちゃんと操獣師になれたから彼等を連れてこれるのか。
﹁彼等はこの辺りでは十分に強い存在とは言え、身重のオウカを巣
から離れたまま村の外に放置なんて可哀想よ。ちゃんと操獣出来て
るんならブレスレットで念話飛ばせばこの程度の距離なら感覚共有
出来る筈よ。﹂
そっか、オウカとその子も守ってあげなきゃだったんだ!
ハゲシク
オタノシミデシタネ。︶
︵ハヤト、オウカ、聞こえる??︶
︵キノウハ
152
スッカリワスレテ
ホットイタクセニ・・・プン
︵だからそれはもう良いっつーの!!絶対分かってやってるだろ!
!︶
︵アタシノコト
プン!デスワッ!︶
スウジツデ
ウマレ
︵オウカ、お前までからかうの止めてくれ・・・。それより、体は
マモッテクレテマスノデ。アト
大丈夫?自分とお腹の子の安全は守れてる?︶
︵ハヤトガ
ソウデスヨ︶
テイマー
︵そりゃ凄い!良いタイミングで友達になれて嬉しいよ。
ファミリア
それはそうと、俺も正式に操獣師として登録出来たからハヤト達も
ツキマスノデ。︶
俺の操獣魔として村に入れるようになったんだ。村の入り口で待っ
てるから来て貰える?︶
︵リョウカイデス。15フンホドデ
︵OK。︶
﹁15分ぐらいで村の入り口まで来るって。迎えに行ってくるね。﹂
﹁ハジメ!ちょっと!!アナタ手続きのやり方分かるの!?・・・
ってもう居ないわ。。リヴィエル、ゴメンだけどハジメに教えに行
ったげて。﹂
﹁りょうか∼い。﹂
◆ ◆ ◆
アルイテイキマスノデ﹂と言っていた2頭だったが、
ドドドドドドドド・・・
﹁ユックリ
あの濛々たる土煙は何だ?
ここ一応草原で、そんじょそこらの走り方では土煙なんて上がらな
い筈だが。
︵オマタセシマシタ︶
﹁いや、全く待ってないけど。5分もかかってないじゃん。﹂
153
済みません、この子達を村に入れたいんですけど、と言おうとして
やり方を知らなかった事に気付いた。
︵マスター、ウェンディーヌさんがリヴィエルさんをこっちに回し
てくれましたので、こっそり離れたところに呼び出して下さい。彼
女が教えてくれます。︶
︵そっか、流石ウェンディーヌだな。クロノス、伝言サンキュー、
何をして頂きましょう・・・。︶
後でご褒美ね♪︶
︵ふふっ♪
リヴィエルが早足で村の中から歩いてきた。
いや、実際は近場で人目のつかない所にハジメが召喚したのだが、
彼女はさも﹁ハジメを追いかけてきました﹂と言わんばかりの風を
装っている。
﹁済みません、昨晩、この子の連れの少女の召喚術に巻き込んでし
黒一角獣
黒
まい、村外に弾き飛ばしてしまいまして。急いで追いかけたらブラ
一角獣
ックホーンホースに襲われていました。見たところ、雌のブラック
ホーンホースは孕んでいた様なので繁殖期に不用意に立ち入った私
黒一角獣
達の非を認め必死に詫びて、この子と使役契約を結んで貰いました。
昨晩は私達もブラックホーンホースも疲れていましたので彼等には
テイマー
黒一角
村の外で休んで貰い、今日、ここに来た次第です。﹂
獣
昨日村に入る時は操獣師でなかった俺がいきなりブラックホーンホ
ースを連れてきたのだから何とか言い訳を考えてくれたらしい。か
なり苦しいが・・・。
﹁昨晩?一体どうしてそんな村の中で召喚術など放つ必要が有る?
確かに何度かそう言った魔力の流れは感じたが・・・﹂
﹁それは・・・痴話喧嘩という奴ですわ。﹂
リヴィエル、後で覚えてろ。いや、話聞かずに来ちゃった非は確か
154
に俺にあるが。覚えてろ。
テイマー
﹁ではさっさと手続きして中に入れてやってくれ。俺も同じ操獣師
としてそんな扱いは心苦しい。﹂
していて失念していました。彼に説明しながらさせて頂きま
﹁昨日、手続きを教えるつもりだったのですが、先程の話の通り
色々
を強調するな!そんで、上手い事守衛さんに流し目使っち
すね?﹂
色々
マテリアル・ワールド
ゃって・・・。魔力と色気に中てられて守衛さん面食らってるじゃ
ん。
アストラル・ワールド
﹁ハジメ、ブレスレットの基本操作は全部一緒よ。それは物質界と
精神世界を繋ぐアイテム。
何かをする時はやりたい事を念じながらキス、それが基本。今回な
全て
が記されている。身
ら守衛の彼に自分の身分証明を示して、ハヤト達がアナタと使役関
係にあると表示させればいい。
ただ、注意すべきはそこにはアナタの
全て
が。だから、必要な情報を明確に想像
長、体重は言うに及ばず血液型から健康状態、特定の疾患や趣味・
性癖に至るまで将に
しながら表示させる事ね。
ファミリア
通常、身分証明と言えば名前、年齢、性別、ランク、この辺りで十
分。後、今回なら彼等がアナタの操獣魔であると言う事実。相手に
伝える時はそれを表示させた状態でブレスレット同士を接触させれ
ばOKよ。﹂
ヒエログリフ
言われた通り、黒光りする右手首のブレスレットに口を触れさせる。
ウェンディーヌの時に見た通り、神聖文字が浮かび上がる。
意識してなかったので今まで気付かなかったが、それは﹁読めない
が意味が分かった﹂。後でウェンディーヌにでも聞いてみよう。
﹁ハジメ・タカナシ、17歳男、・・・Cランク!?﹂
155
黒一角獣
﹁ブラックホーンホースと契約した事を私の召喚主がギルドマスタ
ーに伝えたところ、その様な判断となりました。﹂
の・・・。成程、それなら納得が行く。﹂
ウェンディーヌとは何処かで聞いた名だと思った
サイカ島の悲劇
﹁そうか・・・
ら
エレンさんも口にしていたウェンディーヌの関わっているであろう
黒一角獣
つがい
事件。気にはなるが今はハヤト達の事が優先だ。
ファミリア
﹃﹃乾杯﹄﹄﹂
﹁操獣魔はブラックホーンホースの番、雄のハヤトと雌のオウカ、
間違いはないか?﹂
﹁はい。﹂
﹁では手続きを。﹂
あなたと獣魔の友情に
例の乾杯の様な動作を行う。
﹁OKだ。では、
守衛さんの声に合わせ﹃乾杯﹄を唱える。
成程、この﹃乾杯﹄はただの挨拶ではなく、ごく微量ながら互いの
魔力を交換しあって親交を確かめる感じなんだな。前世での乾杯も
本来はお互いの杯を混ぜあって、毒を盛っていない事を示したらし
いし似た様なもんか。
◆ ◆ ◆
﹁お帰り∼、うっかり大魔神。﹂
部屋に戻ると布団からピンクの頭だけがもそもそ動いている。
最近、ウェンディーヌがリヴィエルに毒されてる気がする。
﹁ただいま。ついでに基本的な使い方を聞いてきたよ。やりたい事
を念じてキス、って。情報の表示と相手への報告はやった。﹂
﹁それが基本で殆どは似た様なやり方よ。じゃぁ次は買い物の仕方
を覚えましょうか。﹂
156
◆ ◆ ◆
﹁ブレスレットにチャージ出来るというのは言ったと思うけど、自
分でコインを直接チャージ出来る訳ではないの。ギルドに現金を持
って行って、そこでチャージして貰うのよ。買い物の時は店の人と
チャージしたブレスレットで直接やり取りする方法もあるし、店に
おいてある支払い用のチャージ水晶に払う方法もあるわね。
取り敢えず一回やってみましょうか。チャージを受け入れるイメー
ジでブレスレットにキスして。﹂
またキスか・・・何だか自分の手首に何回もキスするとか変な感じ
だな。
ヒエログリフ
ぶわん、とまたもやホログラムが浮かび上がった。
・・・が、今度は神聖文字ではなく、目がドルマークになっている
俺の顔だった。
﹁・・・何それ??﹂
﹁い、いや俺の方が聞きたい・・・。﹂
︵金満マスター降臨!ですね。性欲に続き金欲とは何て清廉潔白な
マスターにお仕えさせて頂けるのでしょうか・・・。︶
︵クロノス、ご褒美却下。お仕置き決定。︶
クロノスだと、ご褒美でもお仕置きでも喜んで受け入れそうなのが
玉に瑕だが。
﹁アナタの中で、お金を貰うイメージってそんなのなのね・・・。
今回は良いけど、後でもうちょっとイメージ練り直した方が良いわ
よ。
まぁ今は取り敢えず良いわ。先に進めるわよ?﹂
ウェンディーヌのホログラムは、彼女がアチコチにコインをばらま
いてる姿だった。
157
人の事言えないじゃないか!てか、何だか正月の餅捲きみたいだぞ?
﹁じゃぁ、身分証明の時みたいに触れ合わせて﹂
﹁了解。え∼っと、入金、・・・200万ミュール!?﹂
﹁ブレスレット代と併せて500万。貸しとく金額にはキリが良い
でしょ?﹂
日本で17歳コーコーセーがこれだけ借金しようと思ったら内臓売
るかミナミのトイチにお世話にならなきゃいかんのでは??
﹁何回も言うけど、お金の事は遠慮しないで。私の蓄えは十分にあ
るし、アナタの実力ならクエスト受けながらどうにでも生きていけ
ると思う。それにすぐに返して貰えると思えるから貸してるのよ。
私はアナタから離れて旅をするつもりなんてもう毛先程もないわ。
でも、旅の途中で何があるか分からない。どちらかが怪我をしてそ
の場で治療費を請求されたら?金銭だけで解決出来る様な問題で手
持ちが無くて雪隠詰め、何て事態に陥ったら?﹂
一人旅を続けているウェンディーヌだからこそ本当のお金の価値が
分かるのだろう。
それに・・・と続ける。
﹁アナタに目的があるのと同じように、私にも目的がある。それに
は物凄くお金がいる。ハジメに元手をある程度持ってて貰って、一
インヴォーカー
緒に稼いで貰いたいの。。勝手な話でごめんなさい。冒険者として、
獣魔師としての一通りの説明とか手続きが終わったら詳しい事は必
ず話すから。﹂
ウェンディーヌ・・・。
﹁ごめんなさ・・・﹂﹁ストップ。﹂
﹁??﹂
﹁会ったばかりなのにそこまで信用してくれてありがとね。話しに
くいって事は簡単に話せない事情があるって事だ。それを話す気に
158
なって、共同でお金を稼ぐ。信用してくれないと出来ない事だよね
?﹂
﹁アリガトウ・・・。﹂
159
お金は大事だよー︵後書き︶
ちょこちょことルビや言葉の表現を自分でしっくり来る物に随時修
正しています。興味がある方、頑張って探してみて下さい。
160
収納術のお勉強︵前書き︶
やっぱりこれが無いと不便でしょうって事で。
161
収納術のお勉強
インベントリ
﹁次は何を覚えれば良いのかな?﹂
﹁収納スペースね。﹂
おっ!これは何となく分かるぞ!!例のアレが実在するんだな!!
﹁異空間への保管スペース、見たいなもんかな?﹂
﹁へぇ、良く分かるわね。そっちにもあるの??﹂
﹁いや、元の世界には魔術的要素がそもそも無かったからね。ただ、
創作物の中では色々と考えられていたよ。﹂
﹁イメージに齟齬があるといけないし機能の説明しとくわね。・
︵1︶中の時間は止まり、重さもゼロになる。その為、食べ物等は
腐らない。
︵2︶生物は入れられない。当然獣魔も無理。
︵3︶形のない物︵水など︶はイメージした体積分入れられるが、
取り出す時に思い通りいかなくて周囲に飛び散らせ易いので容器に
入れての方が良い。
︵4︶収納した物同士がぶつかったり干渉したりしない様に考慮︵
要するに整理︶して入れなきゃいけない。
︵5︶収納限界を超えて入れると内部の物質の重量が一気に体に押
し寄せてぺしゃんこになるので無理しちゃダメ。
﹁質問してもOK?﹂
﹁何かしら?﹂
﹁生物はアウトって事だけど、植物とかは?種とかって生きてるよ
ね?どの辺までOK?﹂
﹁想像力次第よ。﹂
またか!
162
ンベントリ
イ
﹁例えば、瀕死の重傷者を﹃もう死んでるも同然﹄って事で一旦収
納スペースに入れて運んだ人とかもいるわ。植物だと、落ち葉とか
薪とかは﹃死んでる﹄って事でOKね。折ったばかりの枝とかは挿
木したら次の命芽吹いちゃう事もあるし微妙かしら?それを言った
ら野菜とかもそうなんだけど、﹃これは生き物じゃない。食い物だ
!!﹄って認識が当然の様にアナタの中にあればOKね。種は・・・
どうかしら?人によるんじゃない?﹂
後は試してみろ、との事だ。
﹁さて、やるわよ。向こうでも想像の世界であるんならイメージは
ばっちりかしら?﹂
ウェンディーヌが呼び出したホログラムは黒い水晶の様なもの。水
晶を覗けば様々なアイテムがふわふわ浮いて渦巻いているのが見て
取れる。
一方、俺のと言えば・・・。
﹁・・・何その半月みたいなへんな袋。??﹂
文句言う無かれ。俺たちの世界で無限に物の入るアイテムと言えば
ネコのお腹にくっついてるアレ以外に無い!
﹁こんなポケットに無限に物が入ったら面白いじゃないか!﹂
取り敢えず誤魔化しておいた。
﹁これも中の大きさは人それぞれよ。基本的には魔力量に依存する
けど、上手くイメージが掴めないと綺麗に入らないわ。﹂
ウェンディーヌのは15畳程の部屋一つぐらいらしい。広さ自体は
中の上だが、中はかなり隙間無くきっちり入れられるらしく、スペ
ースに無駄がないのでかなり入るとか。
一方、俺が想像したのは○次元ポケットだった為・・・
﹁どれぐらい入りそう?﹂
163
﹁ギルド庁がすっぽり、みたいな??﹂
﹁・・・もう一々驚かないわ。﹂
﹁ほんとは無限大を想像したんだけどなー﹂
耳無し青猫君も、ポケットがパンパンになってしまうエピソード有
ったからな。
その辺まできっちり再現しちゃったのと流石に魔力量にも限界が有
ったんだろう。
因みに俺の辞書には整理整頓なんて単語が存在しないのでこの広さ
を上手に活用するのが難しそうだ。
◆ ◆ ◆
イン
﹁次!気を取り直していくわよ!!朝の内に終わらせるんだから!
!!﹂
気がつけばかなり日も高くなってきている。
システム??
朝が軽食だったのでお腹も空いてきた。
ウェアハウス
倉庫
﹁次は共同保管庫よ。﹂
これは、要するに
ベントリ
﹁仲間内でアイテムを共有するスペースの事よ。共同で使える収納
スペース、って思って貰えれば良いわ。治療薬や食糧の共有に便利
ね。﹂
ふむ。
インベントリ
﹁広さは大体全員の収納スペースの中間ぐらいになるわね。中の整
理は入れた人が行うからアタシが入れる方が良いかしら?﹂
反論ございません。
ウェアハウス
﹁注意して欲しいのは、必ず全員揃って共同保管庫を作成する事と、
164
物を入れる時も必ず全員が揃ってなきゃいけないって事。入れてし
ウェアハウス
まえば一人で取り出せるけど、一度取り出した物はまた同じ仲間が
揃って共同保管庫を起動しないと入れられないって事ね。﹂
つまりは完全に仲間内で消耗品を共有するのがメインの使用法、っ
て事か。
ネットゲーとかのに比べて使い勝手が悪い様な・・・。
﹁まぁ、やってみましょう。やり方は自分のブレスレットにイメー
ジを籠めてから互いに﹃乾杯﹄よ。﹂
蔵
だった。中には甲
ウェンディーヌのイメージはさっきと似た様な感じ。
俺のは何故か古い日本家屋にある様な将に
冑兜やら日本刀やらがありそうだ。
﹁﹁乾杯﹂﹂
おぉ!蔵の中が暗く渦巻いて鎧兜やらが渦巻いてる!?
イメージも混ざる、のか??
﹁・・・。﹂
ジト目だけ送ってくるが既に突っ込んでさえ貰えない。
手近にあった布団やら何やらを適当に突っ込んでみる。
ウェンディーヌが一見無造作に押し込んだ布団は俺が取り出した時
にきっちり畳まれていてちょっとビビった。
お返しにライターを入れてウェンディーヌに取り出させてみる。
いきなり火が点いたライターがお約束通りピンクの髪の毛を焦がし
たのは将に計算通り!
すみませんごめんなさいもうしません。もう決して二度と致しませ
んから部屋の中でスプレッドは止めて下さい。天井突き破るかと思
いました。
◆ ◆ ◆
165
﹁まずしておかなきゃいけないブレスレットの説明はこんな所かし
ら?ギルドの説明に移りたいけど、お腹空いたわね・・・。﹂
メシ!メシメシ!!待ってました。
﹁待ちくたびれたわ∼。﹂
﹁ここのお料理は素晴らしかったですからね。﹂
マテリアル・ワールド
呼ばれてないのにまた出て来た2人︵2体?︶
常
本来彼女達は物質界の食事が要らないはずなのだが、人型を取る獣
魔はグルメが多いと言う︵リヴィエル談。当てにならん!︶
好きなだけ食べてね。﹂
﹁分かった。借りた金だけど、一回ぐらい俺がご馳走するよ。
識的な範囲内で
4人でテーブルを囲む。
﹁お!別嬪3人、しかも獣魔と食事とは羽振りが良いねぇ!!俺も
まかない飯持ってこのテーブルに混ざ・・・﹂
・・・・・
威勢良く愛想しに来てくれた板長さんはその先の言葉が続けられな
かった。
女将さんが指2本で文字通り摘み上げて調理場に放り投げたからだ。
注文しようと思ったのに・・・。
﹁今回もセットメニューかい?﹂
好き
﹁いや、今日は人数多いし取り分けますよ。みんな、好きに頼んで
良いよ。﹂
テイマー
常識の範囲内で
﹁へぇ!こいつはほんとに景気が良いねぇ!!﹂
﹁分かりました。マスターのお言葉通り、
な物を注文させて貰いますね。﹂
カンパニー
クロノス・・・。お前までそんな皮肉を。。
﹁がははははっ!!使役獣魔の尻に敷かれる操獣師たぁ可愛いじゃ
166
・ ・
ないか。幸いうちはそんなに高いモンは殆ど置いてないから遠慮無
く食っとくれ!﹂
ダイエットダック
ペールシャーク
﹁えーっと、アタシはじゃぁ軽々鴨のカルパッチョ・青葱添え。そ
れにメルシー・ラムの炭酸割り。﹂
﹁アタシは鰹とバナナのたたき売りと、顔白鮫のヒレの姿煮、城流
ブラッド・ラット
ソイ・ソー
・
し鯨の躍り食い、ドリンクはバッカス・テキーラを大ジョッキで。﹂
﹁私は吸血ネズミの丸揚げを5人前、豆クワガタの殻揚げを5人前、
飲み物はピジョールで結構です。﹂
みんな恐ろしく遠慮がない。特に獣魔2人!おまえら何人前食うつ
もりだ!
﹁俺はホロホロブヒーの生姜焼定食、・・・定食??﹂
え、米有るの!?
﹁あるわよ。﹂
リヴィエルが答える。また念話に割り込んできて・・・。
﹁但し、恐ろしく高いけどね。﹂
ほんとだ!単品だと1000円ぐらいなのに定食だと2万円ぐらい
ライス・ライス
する。
﹁米シラミってやっかいな寄生虫が居てね。こっちじゃ米は殆どこ
常識的な範囲内
とか言っときながら自
れにやられてしまうの。だから育てるのが物凄く大変。﹂
・・・悩む。みんなには
分だけ値段の桁が違う。
でも、ホロホロブヒーは旨かった。更に生姜焼は男の胃袋を掴む料
理だ。少なくとも俺の胃袋は鷲掴みだ。
︵私にもやりたい事がある。それには莫大なお金がいる・・・︶
うぬぬぬぬ!
﹁ホロホロブヒーの香味スパイス焼、単品で3つ下さい。あと、メ
167
ルシー・ラムをロックで。﹂
大人しくパンに合う料理にして人数分のパンを頼んだ。
◆ ◆ ◆
﹁あれぐらいならお金あるんだし、そんなに食べたければ定食頼め
ば良かったのに。﹂
﹁・・・そうかもな。﹂
﹁お米、好きなの?﹂
ライス・ライス
﹁俺の国の主食だ。乳離れして以来、毎日毎晩食ってる。俺の国に
は米シラミなんて厄介な虫は居なかったからな。﹂
﹁それじゃぁなおさら・・・。﹂
﹁良いんだ。こっちに来てまだそれ程経ってないし、絶対に食べら
ライス・ライス
れないって訳じゃないって分かった。むしろ無いかもって思ってた
ぐらいだしね。米シラミを退治出来る方法を考探すのも旅の目標の
一つに入れるよ。﹂
な∼んか隠してる。ウェンディーヌも短い付き合いながらそれぐら
いは何となく分かる。
でも、何となく。何となく彼が真剣なのは分かったので黙っている
事にした。
︵アタシもまだ話してない事有るしね・・・︶
﹁さて、後はギルドの説明だけね。﹂
昼食の時の態度は気にかかるが気持ちを切り替えていこう。
168
収納術のお勉強︵後書き︶
ソイ・
食事シーンがあっさりしましたが、出て来た食材はこのあとのスト
ソー
ライス・ライス
ーリーの何処かで狩り︽ハント︾させたいです。少なくとも豆クワ
ガタと米シラミは必ず出します。
169
ギルドのお勉強︵前書き︶
説明パート、今度こそ終わりです!
170
ギルドのお勉強
﹁ギルドランクは下から7段階に分かれる。E・・・超初心者。一
人旅だと死ぬか憑物に落ちる可能性が高い。﹁お使いクエスト﹂で
スキルを積むのが一般的。D・・・初心者。パーティプレイならD
同士で組んでも初級クエストを漸くこなせるレベル。一応、討伐系
クエストも受諾可能。C・・・中級者。パーティを組めば遠出も可
能。B・・・知名度が上がってくるレベル。ソロプレイも大体可能。
A・・・上級者。ギルドからの依頼や指名依頼も増える。それまで
の業績やスタイルによってギルドから二つ名が与えられる。S・・・
世界中で20人弱しか存在しないエリート集団。国難級のクエスト
インヴォーカー
に借り出されるレベル。SS・・・世界で5人しかいない超エリー
ト。因みにその内の1人がエレン・ブライト、獣魔師ギルドの現ギ
ルドマスターよ。﹂
﹁残りの4人は?﹂
﹁物凄く有名で、各地で功績を残しながら今何処にいるか分からな
い。そんな人達ね。Sの中でも限られた人か、SS同士でしか即座
の連絡は不可能だって噂。彼等は自らの意思のみで世界に及ぶ危機
を察知し、動き、解決する。﹂
なんつーか結構勝手な奴らだな。
﹁彼等は或る意味でギルドの管理を離れた存在なの。Sランクから
SSになる方法自体が存在しない。多大な功績と実力、それに人格
が人にも獣魔にも認められて初めてなれる。ランクと言うよりも既
に称号に近いわね。﹂
﹁ソロプレイがほぼ許されるのは通常Bクラス以上。Cクラス以下
ではパーティで行動するわね。まぁ、活動範囲を考えながらになる
のは当然だけど。﹂
171
﹁パーティって?﹂
クエスト
﹁ギルドメンバー同士の、依頼受諾の為のチームね。あ、そうだ。
今、組んどこうか。やり方はもう分かるわね?﹂
イメージしてブレスレットにキス、そんで乾杯、だろ?
﹁そうね、チーム名何にする?﹂
クエスト
﹁チーム名!考えてなかったなぁ。。悪目立ちしたくないけどあん
まり地味なのも嫌だし・・・。﹂
﹁じゃぁそれは後にしましょうか。チームでの依頼はギルドもチー
ム名で把握するから後々必要だけど、残りのブレスレット取りに行
くまでに決めとくって事で。﹂
﹁じゃぁ、貴女と獣魔の友情に﹃﹃乾杯﹄﹄﹂
浮かび上がるホログラムに意識を向けると、﹁チーム名: 、
チームメンバー;ウェンディーヌ・トライザスタ、チームリーダー:
ウェンディーヌ・トライザスタ﹂と登録されていた。
﹁チームリーダーは一先ずアタシにしとくね。正直、実力で言えば
圧倒的にハジメの方が上でしょうけど、ランクは今のところアタシ
インヴォーカー
の方が上だし、顔も多少は利くしね。﹂
ソーディアン
ハンター
モンク
プリースト
﹁それと別に獣魔師同士で組まなきゃいけないって決まりは無いの。
剣士とか狩人とか、格闘士と僧侶とかと組んでソロの隙を埋めてる
人もいっぱいいるわよ。ただ・・・。﹂
﹁ただ?﹂
インヴォーカー
﹁多分、アタシ達には必要ないと思う。敷いて言えば回復役が居な
ジョブ
いのがネックと言えばネックだけど、獣魔師って割とオールマイテ
ィだし、ソロでやり合えば同じランクなら他の職業にまず負けない
し。特にハジメは4資質持ちだから必要な能力の獣魔探して使役関
係結べばいい話だし。﹂
何というチート!
﹁ギルドに登録した際のメリット。物凄い額の融資が低金利で受け
172
られる。宿屋や武器・防具・アイテムショップなんかでも割引が利
ギルドへの依頼じゃなくってね
くし、ギルド公認店に後ろ暗い店やふっかけた値段設定の店はない。
−
は通常断れない。断るには多額の違約金が必要。そして、ラン
但し、ギルドからの依頼
‒
クエスト
クごとに月々決められた点数のランク上昇ポイントを稼がなきゃい
けない。﹂
インヴォーカー
﹁獣魔師ギルドには毎日多くの依頼が来るわ。それをギルド職員が
内容と報酬を確認して、ランクごとに割り振ってくれる。ソロ:C
クエスト
ランク、若しくはDランク3名以上を含むチーム、みたいにね。
依頼には報酬、ランク、期間、ランク上昇ポイントが最低限定めら
れていて、受ける時に報酬の3割を手数料として支払うの。期間内
に達成報告出来なかったら依頼失敗となって、手数料は返ってこな
い。﹂
死んだりトンズラこいた奴への対策って事か。
﹁受けたけど現場視察して力量を越えると判断した場合、ギルドに
報告すれば1割は返ってくるけど残りの2割は返ってこない。そし
てこの場合も依頼は失敗となる。連続で3回依頼失敗すれば1ラン
ク格下げ、更に2回連続で失敗すればギルド資格剥奪となってブレ
スレットは取り上げられる。この際、かなり上位のギルドメンバー
が討伐に来るから大抵逃げられないわね。﹂
犯罪の
﹁あと禁止されている事項は国家同士の争いに荷担する事と犯罪行
獣魔を人間の戦争の道具にする事
と見なされるから。こっちは更に重いわよ?資
為への荷担。これは
道具として扱う事
格剥奪の後、賞金首のお尋ね者。どの町にも入れなくなるわ。﹂
﹁質問して良い?例えば、ある国のお姫様は望まぬ政略結婚をさせ
られそうになっていました。しかし彼女には別の国に想い人が居ま
173
した。但し、この結婚が破綻した場合戦争の火種になりかねません。
俺はそのお姫様の個人的なお友達。俺は彼女を助けて良い?﹂
・ ・ ・ ・
﹁・・・何そのご都合主義的な展開。。しかも下心が透けて見える
けど・・・。まあ良いわ。そう言う場合、必ずギルドマスターへの
事前の報告が課せられる。間違っちゃいけないのはギルドへの報告
ではない、と言う点。﹂
コントラクター
コン
近くのギルドだと既にその問題に裏で関与してる場合があるから、
ってか?
エレン
フェデレィト
﹁彼女はSSランクの契約師。世界各地に存在する物凄い上位の契
約獣と契約しているわ。彼等・彼女等に調べて貰い、それが人とし
て、或いは高潔なる精神体である獣魔として義理を欠かないか判断
コンフェデレィト
すれば動く事が出来る。まぁ、飛んできた矢をとっさに庇うみたい
エレンさん
なのは正当防衛が認められる場合が多いし、契約獣達の判断は物凄
く早く出るから。﹂
成程。絶対何でもダメ、って訳じゃないんだな。しかし彼女もアレ
コレ大変だなぁ。
ファミリア
﹁次。軽犯罪への荷担した場合はいかがでしょうか?例えば・・・
つい出来心で操獣魔使ってお風呂覗き見しちゃった♪みたいなの。﹂
﹁そんな事したらギルドの判断待たずにアタシがタイダル・ウェイ
ブの藻屑にして上げるから心配しなくて良いわよ。﹂
い、いや!俺の事じゃなくってですね!?
﹁全く・・・、まぁ真面目な話、犯罪も軽重に因るわよ?依頼失敗
1回分とか2回分とか、そう言う扱いになる事もあるわね。﹂
クエスト
テストクエスト
﹁最後!ランクの上げ方!!依頼に設定されているランク上昇ポイ
ントをランクごとに必要な数集めて、検定依頼を達成すればOK。
174
クエスト
チームだと上のランクの依頼を受けられるから、この時のポイント
は1ランク上で2倍、2ランク上で3倍、以下略、となります!!
ハジメがBに上がるにはあと10ポイントのランク上昇ポイントが
必要です!私がAになるにはあと25!﹂
◆ ◆ ◆
﹁の、喉が渇いたわ・・・﹂
﹁ありがと。喋りっぱなしだったもんね。飲み物貰ってくるよ。﹂
メルシー・ラムの炭酸割りとロックを一つずつ持ってくる。
﹁気が利くわぁ。アタシの目に狂いは無かったのね・・・。﹂
おぉ!?瞳が乙女になってらっしゃる!
﹁今ならハジメさん特製濃厚白濁エキスの提供が追加可能ですが?﹂
﹁前言大撤回。リヴィエル、﹃スプレッド﹄MAXレンジでこの馬
鹿を脳みその隅までかき回してやって。﹂
﹁ごめんね?ハジメ。愛するアナタを攻め立てて興奮しちゃうアタ
シを許してね?﹂
謝るポイントそこ!?しかもわざわざ龍体で出て来て威嚇しないで
!!
ずどどどどどどどどど・・・・・・・・・・・
はじめは
いしきを
うしなった!
︵部屋を壊したら、やっぱり俺が払うんだよな・・・。︶
そして
175
ギルドのお勉強︵後書き︶
長かった・・・。我ながらもうそれ以外に言葉が無いです。
176
お買い物︵前書き︶
RPGって、雑魚狩りしてる時と同じぐらい、買い物して装備が強
くなったりアイテム揃えたりしてる時も楽しくないですか?
177
お買い物
﹁頭は冷えたかしら?﹂
そりゃもうすっきりキンキンに。
息が続かなくなるギリギリ直前で息継ぎさせて、また水中に引き戻
すのを30分とか立派な拷問吏になれるよ。
彼女曰く、﹁洗濯の刑﹂と言う名前らしい。
インベントリ
今は彼女の収納スペースから出された簡単なローブを纏っている。
﹁じゃぁ、その格好も何だし、買い物に行きましょ。武器とか防具
とかも揃えなきゃだしね。﹂
◆ ◆ ◆
﹁まずは普段着とか防具の下に着ける肌着とかからね。﹂
やって来たのはごくごく普通の服屋さんだった。
ただ、大きく違うのはサイズと言うものが存在しない。
見本がずらっと並んでいるがどれもワンサイズだ。
︵これ、サイズが合わないんだけど・・・?︶
エンチャント
﹁ああ、ハジメが居た辺りには人間族しか居なかったから違うのか
キャットピープル
な?こっちのはサイズ変更の付与魔術をかけてあるから全部フリー
サイズよ。﹂
話を合わせつつ教えてくれた。そうか、こっちには昨日見た猫人間
みたいなのから、人間よりもずっと大きい獣魔とかも居るんだろう。
エルフが居たぐらいだしな。
178
﹁一応試着しても良いの?﹂
ウェンディーヌの方を向いて話し込んでいると店員さんがこちらに
近付いて来て説明してくれた。
﹁勿論です。お客さん、こう言う店初めてですか?沢山買うんなら
カウンター横の籠に入れておいて下さいね。纏めて決済させて頂き
ます。﹂
取り敢えず半袖と長袖のTシャツを5着ずつ、パンツを5着、飽き
ない様に多少色柄を変えながら選んだ。どれもとってもすべすべ肌
触りが良い。この素材は︻絹蜘蛛の衣︼、と言うらしい。
普段着はある程度丈夫な物を選んだ。冒険者稼業は逆恨みを買って
フリータイム満喫中に襲われる事も多いらしいので、生地自体が丈
夫か何らかの防御魔術を付与してある物を選べ、と言われたのだ。
動きやすそうでそこそこお洒落なのが気に入ったんだが、残念な事
テイラー
に普通の生地で防御魔術もかかってない。しかしそこは流石は異世
界と言うべきか、1時間程待てば仕立屋ギルドに持って行って防御
魔術を付与して貰えるらしい。
﹁どれぐらいまで強化しますか?﹂
一番上まで強化しても1着5万、上下で8万らしいので当然一番丈
夫なのにして貰った。命に値段はつけられない。
ワイバーン
4着上下選んで強化を依頼し、取り敢えず1着は今すぐ着る為に丈
夫な生地の物を選んだ。何でも飛龍の鱗を粒子化して付着してある
らしく、物理防御に加え、耐熱・耐冷効果があるらしい。着た感じ
は完全に普通のパーカーとズボンなんだけど。
寝間着代わりのローブを5枚、フェイスタオルとバスタオルを30
枚ずつ購入。
旅中は洗えない事が多々あるから沢山買っておけ、と言われたのだ。
﹁半袖シャツが5000、長袖が10000、パンツが4000、
179
チュニカとボトムスが10000×8点、5万のチュニカとボトム
スが各1点、ローブが5点で3万、タオル類が1万5千、それに付
与魔術が上下4点で28万、合わせて51万4千ミュールです。ギ
ルド割が2割引適用されますが今回は初めてで沢山買って頂けまし
たので3割引とさせて頂きます。35万9800ミュールから端数
省いて35万ミュール頂きます。﹂
フィッティングルーム
何だ、ユニクラーの俺の筈なのにひょっとして代官山のお高いショ
ップにでも迷い込んだのか?
くそぅ、命の値段命の値段・・・。
インベントリ
時間ほど
半分涙目で収納スペースに詰め込み、着替え室で買ったばかりの衣
装に着替えた。
﹁4着上下ですので強化には少しお時間を頂きます。3
しましたら受け取りにいらして下さい。﹂
◆ ◆ ◆
﹁次は食糧ね。幸いハジメは料理が出来るらしいから調理器具も買
っちゃいましょう。﹂
つまり貴女は今までの旅を完全に保存食でまかなっていたと言う訳
ですね。
いや、ジェンダー云々言う気はないけど、俺はそんな味気ない旅路
は耐えかねる。
入った店は単なる一般家庭向けのグローサリーではなく冒険者用の
旅中食や器具まで扱う店だった。
乾パンや干し肉などの保存食が多いが、勿論生鮮食品もあり、更に
は狩りをした動物の解体・剥ぎ取りを行う道具も有る。
解体・剥ぎ取りの道具はウェンディーヌも持っていると言っていた
180
ツールボックス
が、念の為一揃いになってる道具箱を買っておく。
﹁何日分ぐらい買えば良いかなぁ?﹂
﹁最低10日分は買っておくべきでしょうね。長期の遠征に出かけ
るなら1ヶ月分ぐらい必要だけど・・・。通常の旅なら次の目的地
考えながら移動するし、20日分有れば良いと思うわよ?﹂
20万ミュールって!魚沼産コシヒカリでもそこまでは
パン、肉、魚、塩やスパイスに油など。米はまだ買えない。何だよ、
10kg
しないぞ!!
水は何と言っても頼れる水龍王様がいらっしゃるのでケースだけ買
った。後で詰めて貰う予定だ。
インベントリ
眼
が
後は包丁やらまな板やら鍋やらフライパンやら皿やらナイフフォー
クやら買って収納スペースに放り込んだ。
﹁火精石も買っておいてね。﹂
そうか、火種が要るんだったな。
インヴォーカー
火精石は一見ゲンコツ大の石炭の様だが、獣魔師としての
開いた為か、確かに炎の幻影が揺らめいて見える。使い方は叩き付
ければ良いだけ、との事。かんしゃく玉かよ。
ターボライターは旅に慣れるまでの一時凌ぎのつもりだったし、ア
エンチャント
レは一応記念品として取っておきたい。因みにG−SHOCKはそ
インベントリ
の内知り合った人に強化の付与魔術をかけて貰って大事に使うつも
りだ。一度こっそり収納スペースに入れて確かめたら、どういう理
屈か知らないがちゃんと止まらず進んでくれていた。恐らくソーラ
ー電池がこちらの何らかの魔力的要素に近いかなんかだろう。
ウェアハウス
共同保管庫には保存食だけ入れておく。
インベントリ
ウェンディーヌが悔しそうな顔して自分の分の保存食をこっそり彼
女の収納スペースにしまい込んでたのは見なかった事にする。いら
ん事言って、スプレッドで洗濯されるのはもうゴメンだ。
181
ツールボックス
ここでの買い物、20日分×2人分の食料、道具箱、調理器具、火
精石、締めて25万ミュールちょっと。段々感覚が麻痺してきた。
◆ ◆ ◆
﹁ポーションって要るの?﹂
﹁・・・当たり前でしょ?アナタ怪我を自分で治せるの??﹂
﹁あ、いやそうじゃなくって、リヴィエルが作れるのかな∼と思っ
て。﹂
﹁ハジメ、正直に答えなさい。どんなポーション使って貰った?﹂
あ、自爆。
・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・・・
かくかくしかじか
﹁リヴィエル、﹃スプレッ﹄﹂﹁すんませんでしたぁぁぁ!!﹂
フライング土下座。
やれば出来るモンだな。
﹁全くもぅ・・・。。真面目な話、彼女も簡単のなら作ってくれる
わよ?切り傷・打ち身に効くのとか、寝不足解消ポーションとか、
溜まった疲れが取れるエーテルとか。でも、冒険中に必要なのはも
っと重度よ?腕がすっ飛んでいったり、目が潰れたり、肝臓がびし
マテリアル・ワールド
ゃぁっ!ってなったり。そんなのをどうにかするのまでは彼女は作
れない。いえ、実力全開なら恐らくは作れるんでしょうけど物質界
では彼女の力はかなり制限されるから出来ない。﹂
何というか、傷のレベルがマジで想像以上というか想像通りという
か半端無いな。
182
﹁そっか、本来治せる程度の傷なのにそれを治す事が出来なくて、
俺たちに命の危険が迫る、或いはそのまま逝ってしまうだなんて想
い、リヴィエルにはさせられないよね。﹂
﹁・・・、ハジメはほんとに優しいよね。そう言うとこ好きよ。﹂
人通りの陰でこっそりキスをしてくれた。
﹁うおおおおぉぉぉぉ、こりゃ壮観だぁぁぁぁ!!﹂
原色バリバリの如何にも体に悪そうな、合成着色料どころかペンキ
か何かで色づけしたとしか思えない様な色とりどりの小瓶が壁中に
所狭しと並んでいる。
﹁これだけの中からどうやって目的の薬瓶を探し出すの?途中で割
・ ・
・ ・
っちゃいそうだけど。﹂
﹁これよ、これ。﹂
ウェンディーヌはブレスレットに口づけし、カウンターの脇に置い
てある水晶に接触させた。
横から覗いていると﹁極上ポーション﹂﹁上級ポーション﹂﹁満タ
ンエーテル﹂﹁上級エーテル﹂﹁気付け薬﹂﹁毒消し﹂等の文字が
並んでいる。
﹁欲しい物をイメージして触れると探し出してくれるのよ。店によ
アルケミスト
って品揃えも違うから無い場合も勿論あるしね。瓶は運ぶ途中で壊
れやすいからどうしても近場にいる調合師の腕に因るからね。辺境
でこれだけの品揃えがあるのは中々の物よ。﹂
ところで薬品名の後に﹁メルシー・ラム﹂とか﹁すっきりんご﹂と
か書いてるのは?
﹁ポーションとか飲むのなんて急な場合が多いでしょ?マズくて飲
み込めないなんて事態にならない様に、ある程度風味を選べるの。
レアな風味の場合は追加料金取られる事も有るけどね。﹂
ウェンディーヌは﹁極上ポーション:メルシー・ラム﹂×100、
183
﹁上級ポーション:メルシー・ラム﹂×200、﹁満タンエーテル:
すっきりんご﹂×100、﹁上級エーテル:すっきりんご﹂×20
0、﹁気付け薬:秘密の蜂蜜﹂×60、﹁毒消し:七味ミント﹂×
200を選んだ。
ウェアハウス
﹁ハジメも同じで良いと思うけど、量は半分にしてね。アタシが買
インベント
った分の半分を共同保管庫に入れておくから。後、風味は好きに選
んで。﹂
リ
ウェアハウス
言われるままにチョイスして、味は似た様な物にした。収納スペー
スと共同保管庫から出て来る物の味が違うと、飲んだ後で飲み間違
ったと勘違いする可能性がある。通常なら無いだろうが戦闘中にグ
ビリとやった時に不用意な隙なんて作りたくない。
ただ、小さなこだわりとして毒消しだけは虹色ハーブ風味にしてみ
た。更にこっそり言えば、気付け薬は﹁彼女の秘蜜﹂と言う風味が
あったのでそれにしてみた。何だかとっても期待出来そうだ。
さて、決済・・・
52500?意外と安いな。
うん、525000?ゼロが一個多い!?
﹁薬が一番高ぇっ!﹂
極上ポーション
飲み続けて助かる可
﹁当たり前でしょ?デカいダメージ貰って、仮に紙切れ防御だった
としても一撃死しなければ
能性もある。一方、全身鎧を纏ってようが鎧の継ぎ目からのそこそ
こ深い傷から出血多量で死ぬなんて事も有るのよ?気付け薬とか地
味な薬を馬鹿にする冒険者も多いけど、体無傷でもソロで気を失っ
たらジ・エンドよ?アタシは実質リヴィエルと2人だったから飲ま
せて貰ってたけど。。﹂
通りかかりを助けて貰えるどころかオモチャにされちゃう女の子も
居る、とか。
成程。実力だけでは生きていけない世界だな。。
184
﹁日も落ちてきたし後は装備を調えて服受け取って帰りましょ。﹂
ところで・・・
デス・スペルマ
俺は見逃さなかった。
・ ・
彼女がこっそり﹁精死薬﹂と書かれた薬ををダース単位で購入して
いたのを!
間違いなくアレだろう。
帰ったら試してみなきゃイカンな、うん。
◆ ◆ ◆
最後は武器・防具。
RPGだと一番最初に﹁武器﹂を揃えがちだが、俺が思うに一番大
事なのは﹁防具﹂、次に﹁回復薬etc﹂、最後に﹁武器﹂だ。
ゲームですら死亡には必ずペナルティがつきまとう。
経験値の減少、持ち金の減少、そして何より進んだ道程のリセット。
ましてやここは現実。
ペナルティは完全なる﹁死﹂だ。
分かっちゃいる。分かっちゃいるが。
マジ物の大剣やら槍やらレイピアやらハルバードやら魔法杖やらの
武器を見て興奮を覚えない男子が居たら現代日本ではモグリである。
これが興奮しないでいられようか!?いや、無い!!︵反語︶
185
しかし同時に・・・
﹁・・・?どうしたの??手に取ってみてみないと分からないわよ
???﹂
怖い・・・
ハジメはぶっちゃけそこまで筋力が有る方でもないし本当に殺傷目
的の能力を持った刃物の取り回しなんて全く自身がない。
手を滑らせて俺やウェンディーヌや商品を傷付けるのも避けたい。
何より、その武器を選ぶと言う事はその武器により何かを、或いは
誰かを己の意思を以て傷付ける覚悟を決めると言う事。
︵もう、全く・・・︶
ウェンディーヌにはハジメが何を迷っているか、今までの話を聞い
ていればすぐに分かってしまった。
ふわり
﹁背中は任せてって言ったよね?﹂
﹁︱︱!!﹂
﹁クロノスと出会った時に聞いたよね?獣魔はアナタに相応しい力。
使いこなすかどうかはアナタ次第、って。﹂
そうか・・・
俺は既に武器を手にしている。
彼等があまりに人間的すぎて気付かなかったけど、獣魔は普通の人
から見れば十分に暴力。
186
くそったれが!
情けない。彼等と旅するって決めたんだ。
ウェンディーヌの旅を見届けようとしてるんだ。
そして何より俺自身旅の目的がある。
﹁ウェンディーヌ、いっつもありがと。﹂
﹁良いのよ?優しさを失った力はただの暴力なんだから。﹂
エンチャント
﹁まだ少し怖いけどやってみるよ。﹂
◆ ◆ ◆
﹁・・・今度はどうしたの??﹂
もう選び始めて1時間になる。
武器にも防具にも服と同じように付与魔術がかかっているので持っ
た瞬間、重さと大きさを変え、どれでもそれなりに扱えそうな気は
する。
大きな刃物を手にする感触も少しは慣れてきた。
しかし・・・
﹁何だかしっくりこないんだ。﹂
ブラックスミス
良質のミスリルが取れると言うだけ有って、値は張るがミスリル製
の物が揃っているし、良い金属が取れる場所だからか鍛治師の腕も
良いのだろう、素人目にも何となくは伝わってくる。
しかし、それでも尚。
これじゃない︽・・・・・・︾。命を預ける相棒はこいつらじゃな
い。
ウェンディーヌに背中を預ける覚悟が出来た時の様な安心感が伝わ
ってこない。
187
﹁どうかしましたかね?﹂
店番から俺たちの様子を聞きつけたのであろう、中から店員が現れ
た。
﹁凄い!こんな辺境でドワーフ直営の武器屋があるなんて!!﹂
﹁私達は魔法金属を扱うのが本職みたいなモンですしね。それより、
うちの商品が何か??﹂
﹁あ、いえ、この人、素人なもんで武器の選び方が分からないらし
くって・・・。﹂
そうじゃない!!
喉まで出掛かった言葉が声にならない。
エンチャント
﹁ほぉ?しかしお嬢さん。そんな筈は無い。ここの武器は私達ドワ
ーフの技術で精錬し、エルフが付与魔術をかけてある。誰がどれ使
ってもそこそこイケる様にはしてあるし、逆にぴったりの物が見つ
かれば武器から語りかけられたかの様に﹃これだっ!!﹄って感触
がする筈だ。﹂
﹁そうなんだ!!何か、どれ持っても確かに使えそうな感じはする
んだけど、命預ける安心感が持てないんだ!!﹂
﹁ほぉ?そこまで言うなら・・・。申し訳ないがブレスレット操作
でアンタの体格と、筋力とか特技とか見せて貰っても良いかな?﹂
130cm程しかないドワーフから斬りつけんばかりの眼力が叩き
付けられる。
面白いオモチャを見付けた子供の様に無邪気でありながら、その実
それは獲物を狙う肉食獣の視線。
ブラックスミス
︵こいつ、中々に分かってんじゃねーか。︶
ドワーフの鍛治師、ドミナンは営業用の言葉遣いとは全く異なるフ
188
ランクな口調で考えた。
彼がここで売り出しているのは所謂大衆向けの商品。
勿論それらとて一つも手を抜いていないし、国に卸して全く恥ずか
しくないレベルだ。
しかし。
本当の武器を、体の一部としての武器を求める客にはこれでは物足
りないと感じる筈だ。
普通なら武器を長く扱って体が求める様に武器の形が決まってくる
ほほぉ・・・
これは中々・・・。﹂
物だが、どう見ても今日までナイフ一本振り回した事のないずぶの
ふむ・・・
素人の感性で到達出来る領域ではない。
﹁ほぉ・・・
モルモット
何だか楽しげな表情でホログラムとハジメの体を見比べているドワ
ーフ。
しかしハジメは何だか実験動物にでもなったかの様な気分だ。
間違いない。
こいつはやっぱりずぶの素人だ。
それがどうして感性だけが、鍛えに鍛え、技術の粋まで鍛えても誰
にも身に付かない、天性の感性だけが極上だ。
﹁あんた、名前は??﹂
さっきまでの慇懃さが既に何処かに行っている。
何も教えてくれないのにいきなりそれかよ!と言いそうになったが
ぐっとこらえる。
﹁・・・ハジメ・タカナシだ。﹂
﹁成程な、漸く合点が行った。残念ながらこの店にアンタに売るモ
ンは何一つ無い。﹂
﹁なっ!?﹂
189
見ればウェンディーヌのブレスレットも鈍く光り始めている。
あまりの扱いに爆発寸前だ。
インヴォーカー
﹁悪い悪い。ちょっと待ってくれ。今説明する。
インヴォーカー
あんたの話は獣魔師ギルドマスターから聞いている。
俺も最初﹃近々、ハジメ・タカナシという獣魔師が武器か防具を買
いにこの店を訪れるだろうが、その時には何も売るな﹄と言われた
んだ。
そんな馬鹿な話があるか、と怒鳴り返してやろうとしたらそれより
先に﹃その代わりアナタに作って貰いたい物があります﹄とにっこ
り微笑み返されてだな・・・。
詳しい事は彼女が直接話すと言われているから明日にでもギルドへ
行ってみると良い。﹂
190
剣
と魔法のファンタジーです。ここまでは魔法ばっ
お買い物︵後書き︶
この世界は
かりでしたが剣も出来るだけ力抜かずに書こうと思います。
191
眠れぬ夜のノクターン ※︵微エロ︶︵前書き︶
インヴォーカー
済みません、話を進めようとしたのですが、閑話になってしまいま
した。って言うかこれがこれまでで一番﹁獣魔師達のノクターン﹂
と言うタイトルらしい話かと^^;
192
眠れぬ夜のノクターン ※︵微エロ︶
何が何だか分からないまま悶々と夜を過ごした。
エレンさんは一体何を考えてるんだ?
冒険者として必要な装備を買いに行ったら既に圧力掛けてて買えな
くするなんて・・・。
﹁そんな人には見えなかったんだけどなぁ。﹂
﹁ふみゅぅ?ハジメ、寝れないの??﹂
﹁ゴメン、起こしちゃった??﹂
独り言のつもりだったが思ったよりも大きな声を出してしまったら
しい。
﹁ううん、アタシも何だかドミナンの言った事が気になって寝付か
れなかったから。
明日になれば分かるんだし今アレコレ考えててもしょうがない、っ
て思っちゃいるんだけどね。﹂
ごろ、と寝返り打って向き合い自然とハグ&キス。
﹁する??﹂
﹁いや、流石に明日早くギルドに行きたいからね。。それにこうや
ってるだけでも十分気持ち良いし。﹂
・・・そうだ!
﹁一つだけさせて欲しい事があるかな。﹂
﹁??﹂
193
にま∼り
デス・スペルマ
﹁精死薬、入れさせて?﹂
﹁︱︱!!何で知ってるの!?﹂
﹁薬屋でごっそり買い込んでるのがちらっと見えちゃった♪﹂
﹁うぅ・・・そう言うとこ、ほんっと抜かりないわよね。気付け薬
もちゃっかり﹁彼女の秘蜜﹂風味にしてたし・・・。﹂
ウェンディーヌこそきっちり覗いてんじゃん!
﹁アタシはハジメが変な味選んだら教えたげようかと思ってたの!
!敢えて苦いのにする人とかも居るからね。そっちの方が飲んだ気
分になる、とか言って。﹂
﹁ま、そんな事よりも。させて?させて??ねぇねぇお願い。﹂
﹁しょーもない事だけ真剣ねぇ・・・。﹂
言いつつもプチプチとボタンを外し、ローブをはだけさせていく彼
女。
何と﹁寝る時、下着はブラだけ﹂らしい。
上は着けとかないと形が崩れそうで嫌、しかし下は締め付ける感じ
がして寝れない、のだそうだ。
はーい、この性癖|︵?︶、良く覚えておいて下さ∼い。ここ、試
験に出ますよ∼︵?︶
おっぱいに顔を埋める。
﹁はあぁ、相変わらず極上だぁ。。﹂
こっそりブラも外してみた。
ブラと言ってもかっちり固定する様な形ではない。
乳首が上着に浮きでない事と、軽く支える程度の物だ。
194
むぎゅっ
﹁ウェンディーヌ、このままおっぱいで両側から顔挟み込んでみて。
﹂
むぎゅ
むぎゅっ
﹁うおおおぉぉぉぉっっ!?!?﹂
パフパフや!パフパフやで!!
﹁・・・何か赤ちゃんみたいで可愛い、って一瞬思っちゃったけど
赤ちゃんに対してかなり失礼みたいね。
邪念がビリビリ感じられるわ。。﹂
エロと言うよりも、えっちなじゃれ合い。こう言うのも悪くないな。
憎まれ口たたいてるけどウェンディーヌも満更じゃなさげだし。
︵そろそろ大丈夫かな?︶
流石に本格的な愛撫をした時に比べるべくも無いが、ソコはジワリ
と淫液を滲ませていた。
ナ
﹁んぅ!もうちょっとそぉっと・・・。ゴメン、ちょっと濡れが足
りないみたい。。﹂
ぴちゃ・・・
﹁ん。じゃぁ、これは?﹂
ぴちゃ・・・
愛撫で濡らすのではなく、ハジメの潤いを加える。
カ
秘裂に舌を這わせ、唾液を塗りたくる様に舐めた後、ゆっくりと膣
内に舌を挿し入れた。
︵これなら入るかな?︶
ハジメとてこのまま本気で雰囲気に流されるつもりはない。
195
今日はかなり疲れているし、今はこの穏やかな雰囲気を楽しみたい
気持ちの方が強い。
寸止めはお互い確かにキツいが、そこまでアクセル踏まない様なこ
の駆け引きも心地よい。
ゆっくり指を入れてみる。
潤いはやや少なめだがじわりじわりと途切れず染み出てくる。
﹁ハジメ・・・、そろそろこれを・・・。﹂
デス・スペルマ
いつの間に取り出したのか精死薬を手渡された。
紫色の錠剤だった。聞いていた通り、4cmぐらいの錠剤だ。錠剤
なんだが。
﹁・・・この形は何だ?﹂
小さい亀頭。しかも全体がイボイボになってる。
絶対、この形にする必要ない!
﹁その形が入れやすいから、って研究データがあるそうよ。﹂
捏造だ。絶対にそのデータは捏造に違いない。
オモチャ
だが、その心意気や良し!
これは・・・性具で攻める感覚も味わえる。
﹁ねぇ、そろそろ入れて??﹂
顔を真っ赤にしながら膝を立て、更に開いてくるウェンディーヌ。
悪戯心と強烈な支配欲が襲い来るが、必死で押し殺し扇情的な色の
それを挿入した。
﹁うっつ・・・、固い、けど変な感じ。正直気持ち悪いわ。。﹂
196
オモチャ
性具系のプレイは控えなきゃかな?
モノ
って感じがして好きになれないわ。。﹂
﹁ハジメのの方が固いけど優しくて温もり感じられて好き・・・。
これはほんとに
﹁そっか。ウェンディーヌだけに負担掛けるなぁ。他の方法が無い
か、旅の途中で探してみようよ。﹂
もう一度ゆっくり抱きしめ合い、口付けを交わし合っていると穏や
かな睡魔が近付いてきた。
197
眠れぬ夜のノクターン ※︵微エロ︶︵後書き︶
短くて微エロですが、パートナーとの日常ってこれぐらいほんわか
してる日があっても良いと思います。
198
超絶技巧特注ブレスレット︵前書き︶
デス・スペルマ
精死薬のアフターストーリーを書きかけてたんですが、あんまりに
もエッチシーンが留まるところを知らず暴走を始めたので一旦ネタ
封印しました。7割ぐらい書けてますのでいつか日の目を浴びさせ
てやりたいです。
199
超絶技巧特注ブレスレット
インベントリ
その日は前日までの疲れが出たせいか、こっちに来て以来、初めて
寝坊してしまった。
時計を確認・・・しようとして収納スペースの中だった事に気付き、
クロノスに聞いてみた。
︵今何時??︶
︵11時前ぐらいですね。ウェンディーヌさんとリヴィエルさんに
﹃お昼過ぎるまでに起きれば良いから寝させてあげなさい﹄って伝
言です。︶
︵そっか・・・、彼女達は?︶
︵昨日の服屋さんにマスターの衣装を取りに行かれましたよ。︶
そう言えば昨日はドミナンさんとこ行った後、あんまりにも頭に血
が上っていて受け取りに行くのを忘れていた。
正直体がまだ重い。
元々特別体力が有る方でも無かったし、色々有りすぎて少々気疲れ
しているみたいだ。
︵クロノス、済まないけど女将さんとこ行ってパンと何か軽いサラ
ダみたいなの貰ってきて。後、フレッシュジュースとキンキンに冷
えたお水を。︶
︵了解しました。︶
熱いシャワーを頭から浴びると少しすっきりした。
・・・と、ふと気付いた。
ポーション飲んでみれば良いんじゃね?
さて。
200
この場合はポーションなのか?エーテルなのか?
どっちもそれなりに高級品だ。いや、ハジメの元来の感覚で言えば
飛び切り高級品だ。
どれぐらい?と言われれば、保険の利かない抗がん剤ぐらい、と言
えば良いだろうか。
﹁・・・まぁ、悩んでてもしょうがないな。﹂
これからも旅は続く。
ローコンディションでついていくなんて足手まとい以外の何物でも
ない。
両方一緒に飲もうとしたが、良く考えればそれでは効いたとしてど
っちが効いたか分からない。
上級ポーションをごくり。
体中の疲れが取れていくのは物凄く良く分かる。
良く見ればアチコチにあった小さな擦り傷とかが見る影もなく消え
ている。
でも、気持ちはまだすっきりしない。
続けて上級エーテルをぐびり。
胃腸が跳ねる様に熱くなり、全身に血が巡り始める。
﹁こ、こいつは!?﹂
何と言うか、将に向精神薬、しかもアッパー系だ。
気疲れなんてあっと言う間に吹き飛んでしまった。
︵クロノス!クロノス!︶
︵はい!?何でしょうか??︶
︵ランチセット2つも追加で持ってきてくれ!!︶
食欲は全ての源である。
201
ちゃんと食えばこの世に怖いモン無し!!
◆ ◆ ◆
︵リヴィエル、今どこ?︶
︵あ、起きた?疲れが溜まりまくってたみたいだから心配したのよ
?こっちはもう戻るとこだけど・・・︶
︵上級ポーションと上級エーテル飲んで、飯食ったらすっかり元気
だよ。︶
︵良い選択ね。アナタの疲れの原因はブレスレット使わずに獣魔と
アレコレやり過ぎて魔力不足になってたからだからね。普通ならあ
んな無茶すれば干物か憑物になってるとこだけど、ハジメの魔力が
破格だったのが幸いしたわね。︶
成程。それならやはり上級エーテル飲んどきゃ良かったのかな?
︵まぁ、兎に角元気になったし迎えに行くよ。ギルド庁前で待ち合
わせしよう。︶
︵りょうか∼い︶
ウェンディーヌ達と合流して、受付のお姉さんに身分証明しようと
したら﹁話はギルドマスターから伺っております﹂とさっさと専用
室へ通された。
﹁お待たせしました。ドミナンから昨日連絡受けました。﹃あんな
面白い逸材にこんな辺境で会えるとは長生きはするもんだ﹄なんて
珍しくはしゃいでましたよ?﹂
﹁前置きは良いから、さっさと説明して貰えませんか?﹂
﹁済みません、まぁそう慌てず・・・。こちらがハジメさんの残り
の3本です。﹂
金より更に高貴な黄金色のオリハルコン。
202
銀より更に高貴な白銀色のミスリル。
銅より更に高貴な赤銅色のヒヒイロカネ。
ヒエログリフ
3本には今まで見た物よりも更に細かい神聖文字がびっしりと彫込
まれており、良く見れば大きさも少しずつ違う。
黙ってナイフを差し出されたので、こちらも何も言わずに全てに血
を垂らした。
う゛にゅるりりゅりりるるる
想像はしていたが3本とも生命を吹き込まれたかの如く激しくのた
うち回って俺に絡みついてくる。
腕に巻き付くかと思って両袖はまくり上げていたのだが、動きが終
わった時、何れも腕に巻き付いて居ない。
コントラクター
﹁︱︱!?何処に行った??﹂
サモナー
イリュージョニスト
﹁順番に説明しましょう。契約師のブレスレットはハジメさんの右
中指に。召喚師のブレスレットは左耳に。幻体師のブレスレットは
ハジメさんの左中指にあります。﹂
﹁!?﹂
言われた場所を確認すると右中指にヒヒイロカネの指輪、左中指に
ミスリルの指輪、左耳にオリハルコンのピアス︵見えないが・・・︶
があった。
インヴォーカー
ヒエログリフ
﹁4本もブレスレットをするとあまりにも目立ちすぎます。機能自
体はどれも獣魔師のブレスレットですが、神聖文字を弄って、あま
ただ、俺が聞きたいのはドミナンさんのとこでの一
り目立たない装飾品に形を変えて見ました。﹂
﹁凄い・・・
件なんですが。﹂
203
﹁それも続いてご説明致しましょう。まずはヒヒイロカネの指輪に、
理想の武器を念じながらキスして見て下さい。﹂
ぶわん
﹁﹁えっ!?﹂﹂
横で見ていたウェンディーヌまで驚愕の声を上げた。
突如、俺の右手にヒヒイロカネ製の﹁刀﹂が現れたのだ。
いつの間にやら左腰には鞘まである。
﹁では続いて、ミスリルの指輪に、理想の盾を念じながらキスを。
オリハルコンのピアスにはキス出来ないでしょうから、鎧を念じな
がら何れかのブレスレットで﹃乾杯﹄して下さい。﹂
ぶわんぶわん魔法金属が形を変えて、出来上がったのは豪華で煌び
やかに過ぎる初心者装備であった。
◆ ◆ ◆
﹁凄い・・・。﹂
確かにアクセサリーに見せかけたとことか変形するとことか武器の
材質とか色々凄いんだけど、何が凄いって・・・。
エンチャント
これがまさしく俺専用の武器防具だと身に着けていてひしひしと伝
わってくるところ。
アストラル・ワールド
﹁精神世界にあるハジメさんの理想像を具現化する様な付与魔術を
かけてあります。今回はイメージしやすい様にキスして貰いました
が、次からはイメージしながら撫でるぐらいで出来る様になるでし
ょう。後、形はある程度自由に変えられます。剣にするも槍にする
もハルバードにするも想像次第です。鎧も軽装にするのか重装にす
204
るのか、盾も大盾にするのか小盾にするのか籠手にするのか。色々
試してみて下さい。﹂
これってこっちのレベルで考えても物凄い技術なんじゃ・・・??
横見たらウェンディーヌが真っ青になってる。
︵こんなの支払えって言われても金額が着くレベルじゃないわ。少
なくともアタシには払えないわよ??︶
人生3回遊べるウェンディーヌの支払い能力超える!?
﹁す、すいません。。こんな立派な物を頂いてお代の方はどうすれ
ば・・・?﹂
エンチャント
﹁登録手数料300万×3本で900万、それにドミナンへの報酬
が300万、付与魔術料が800万、合わせて2000万ミュール
を無利子貸し出し、と言う事でどうでしょう??﹂
﹁済みません、幾ら何でも馬鹿にしないで貰えますか?これがそん
な安すぎる物でない事ぐらい俺にも分かります。10億や20億で
済むものでは無い筈です。﹂
2000万、ちっとも安くないけどな!!
エレン
彼女は、すぅ・・・っと眼を細めて凄く嬉しそうな表情をした。
コンフェデレィト
テストで思わぬ解き方で解答を導いた生徒を見た時の様な。
﹁貴方が、特別な存在だからです。﹂
﹁・・・詳しく聞きたいです。﹂
﹁貴方はこの世界の外から来た。それは私もその後契約獣に確認を
取っているので間違い有りません。貴方はこの先、この世界の住人
では考えも着かない方法や感性でこの世界を見聞するでしょう。私
の生きる目的はこの世界の解明です。それを自分の代わりにして貰
う為の私からの支援と受け取って頂ければ如何でしょうか。﹂
﹁・・・分かりました。そうまで言われて断るのは義理に反します
205
し、これがこの先俺の旅に役立つ事は間違いない。それに、貴女は
上手に俺を縛り付けた。﹂
﹁人聞きが悪いですねぇ。折角のプレゼント、お気に召しませんか
?﹂
﹁貴女こそ。仮にこれが1兆ミュールの価値だったとしましょう。
そんな物を何も言わずに受け取らされて、しかもこれは俺の意思で
簡単に外せない。でも、2000万で良いからゆっくり返して下さ
い。そう言われればさっき思ったよりも圧倒的に安いので必死で払
おうとする。
ところが、俺は駆け出し冒険者で実際にはすぐに払えない。これは
貴女と私の一種の契約書みたいなもんでしょ?しかも俺は契約書の
内容を先に読ませて貰えなかった。﹂
﹁・・・やはりハジメさんの感性は。。
訳も分からず帰って行って後から事の重大さに気付く程度であれば
その時に種をお教えしようかと思っていたのですが・・・。正直に
お話ししましょう。
ヒエログリフ
指輪やピアスに形を変えた事自体は大した金額ではありません。ド
エンチャント
ミナンが寝ずに鍛造と神聖文字の記述を行ってくれた、その報酬が
300万、これに嘘はありません。しかし付与魔術は値段が着けら
れるとも着けられないとも言えるのです。
アテネ、出て来て下さい。﹂
彼女の右手首のヒヒイロカネが鈍く光り、エルフの様な、しかし遙
かに強大な魔力と美貌を誇る女性が出て来た。髪には金属光沢の羽
根飾りをつけているが間違いなくアレはヒヒイロカネだ。そんなた
だのバレットみたいに使っちゃって・・・。
エイシェント・エルフ
﹁初めまして。エレンと契約してる古代エルフのアテネよ。リヴィ
エルは久し振りね。﹂
知り合いなのか!!
206
︵古い知り合い?出て来る??︶
︵嫌!絶対、嫌!アタシの純な性格をねじ曲げたのはあの性悪よ!
!︶
どんだけやねん!!
アストラル・ワールド
﹁何だか、今取り込み中で出て来れないそうです。﹂
﹁まぁ良いわよ。精神世界に寄った時、また遊びに行くから。﹂
にま∼りとこぼしたチェシャスマイルはまさしく水龍王のあの表情
そのものだった。
エンチャント
﹁アテネがこの付与魔術をかけてくれました。これをする技量を持
コンフェデレィト
ち、、すぐに頼めるエルフがちょっと思いつかなかったもので・・・
。﹂
成程。契約獣に個人的に依頼したのならどんな技術であろうが値段
がつかないのも納得出来る。
エンチャント
エイシェント・エルフ
﹁すんごい技術でしたけど・・・。大変でしたよね?ありがとうご
ざいました。﹂
﹁良いのよ?そもそも付与魔術なんてあたしたち古代エルフが考え
出した便利キットみたいなもんだし。﹂
どうやら彼女もチートらしい。
◆ ◆ ◆
さて。
﹁試験には合格でしょうか、エレン先生??﹂
﹁100点満点、ですね。色々気を悪くさせてしまって済みません。
貴方達のこの先が楽しみです。この先もいっぱいお手伝いさせて下
さい。﹂
﹁こちらも納得行きました。基本的にはエレンさんの個人的興味が
207
暴走して、それを自ら上手い事利用した訳ですね?﹂
﹁恥ずかしながら・・・。そう言わざるを得ません。。﹂
あ、そうだ。
﹁アテネさん、一つお願いして良いですか?﹂
208
超絶技巧特注ブレスレット︵後書き︶
ハジメの装備、どう考えても聖○士星矢ですよね。多分、そのまま
ゴッテゴテで眩しいぐらいになると思います。
209
クロノスを発動します︵前書き︶
空気となりつつあったクロノスさん、本当はもっと色々考えてるん
です。考えてはいるんですよ?
210
クロノスを発動します
﹁本当に渡しちゃって良かったの?向こうから持ってきた大事な物
だったんじゃないの?﹂
インベントリ
﹁良いんだ。確かに愛用品ではあるけど、時間を知るだけならクロ
ノスが教えてくれる事が分かったから。﹂
エンチャント
それに向こうから持ってきたターボライターは収納スペースでお休
み中だ。
エンチャント
アテネさんへの依頼、それはG−SHOCKへの付与魔術だった。
服屋で付与魔術について店員にそれとなく聞いたのだが、物が壊れ
ない様にするには大きく2つの方法が有る事が分かった。
︵1︶物理的、或いは魔法的衝撃に対する耐性を付与する。
︵2︶時間を固定化する。
どっちが丈夫かと言えば単純には後者の方が丈夫らしい。
﹁世界からの干渉を避ける様にしてその時点の状態で物質を固定化
する﹂と言う物なので、外的要因ではほぼ半永久的に壊れない。但
し、武器・防具にこれをすると、防具だと身動きが取れなかったり、
武器だと﹁斬る﹂という行為が世界への干渉となるのでナマクラに
なってしまったり。主に芸術品などの保存に使われる方法だとか。
一方、前者は簡単に言えば一種の障壁を張る事らしいのだが、これ
がまた魔術師の力量によってかなりピンキリらしい。だからこそ俺
の普段着に掛けた術も強化段階によって値段が変わったりするのだ
ろう。
G−SHOCK
ここで俺の腕時計、出来れば︵2︶の方法を取りたいのだがアテネ
211
さん曰く﹁そんな事したら時計自体が止まってしまう﹂らしい。ま
エンチャント
ぁそりゃそうか。何と言っても﹁時間を固定する﹂訳だしな。
そこで一旦彼女に預けて、じっくり丁寧に︵1︶の付与魔術を施し
て貰う事にしたのだ。
﹁﹃とびっきり強力ながら光はちゃんと通し、且つ光属性の攻撃で
壊れない様にする﹄等という術式を、未知の構造物に施すのは流石
にすぐには無理﹂、と言われた。
◆ ◆ ◆
・ ・ ・ ・ ・ ・
エンチャント
俺はG−SHOCKをエレンさんに預けて来た。
﹁アテネさんに付与魔術施して貰う間、エレンさんに預けておきま
す。その間、これを自由に研究・調査して下さって結構です。但し、
壊したりなくしたりしたら人生掛けて弁償して頂きます。﹂
正直、かなりキッツい条件の筈なのだが、こくこくと物凄い勢いで
頷いている。
﹁エレンさん、それは次に会う時まで預けておきます。﹂
﹁私もそれなりに忙しい身ですので、中々会う約束は出来かねます
よ?﹂
﹁大丈夫です。俺もこの世界に頑張って慣れて、・・・そうですね、
1年、いや半年以内には必ず見つけ出して見せましょう。﹂
﹁SSランカーの私と鬼ごっこですか。。随分な自信ですね。では
半年で見つけられなかったらこれは私が頂いちゃう、って言うのは
どうです?﹂
乗ってきた。正直、絶対言うと思った。彼女は見た目よりも遙かに
プライドが高い。
﹁良いでしょう。では逆に半年以内に捕まえた時は今日の2000
万をチャラにして下さい。国家間の問題などでギルドマスターとし
てのエレン・ブライトさんに連絡を取らなきゃいけない時はどうし
ますか?﹂
212
﹁そんな事で条件が釣り合うんですか?これはアナタがあちらで生
カンパニー
カンパ
きた証でもあるのでしょう?・・・まぁアナタの目は本気なので私
は構いませんけど・・・。
ニー
連絡は、私達が直接会わなくってもアナタの使役獣魔と私の使役獣
魔の誰かが念話が通じる様にしておきましょう。私の方はアナタ達
と面識のあるアテネで良いですが、アナタはどうしますか?﹂
﹁クロノスが良いですね。彼女なら必ず俺と行動を供にしています
から。﹂
受け取った瞬間、エレンさんは物凄い勢いでギルドマスターの応接
室を飛び出して私室に籠もってしまった。しかもドアには﹁取り込
エンチャント
み中!乙女の時間を邪魔をした物には天罰が下ります﹂の札。アテ
の方だな。
ネさんが溜息つきながら扉に付与魔術までかけてるし・・・。多分、
固定化
◆ ◆ ◆
﹁あんな約束までしちゃって・・・何か策でもあるの??﹂
﹁あると言えばある。無いと言えば無い。﹂
それって・・・
クエスト
﹁まさか行き当たりばったり、なんて言わないよね??﹂
﹁ざっつらいと﹂
﹁意味が分からないけど、意味は伝わるわ。。﹂
クエスト
宿に帰ってきた時には日が暮れかけていた。
﹁明日、ギルドへ行って依頼を受けたいんだ。﹂
﹁そうね。ハジメとアタシなら受けられる範囲のどんな依頼でも大
丈夫だと思うけど・・・。どんなのが良いの?﹂
﹁えっと・・・、ちょっと思うところがあって、広い範囲のモンス
ターや獣魔を相手にする様な討伐か、広範囲の検索を行う様な採取
213
黒一角獣
系が良いんだ。それとブラックホーンホースの繁殖地に・・・って、
あぁっ!忘れてた!!﹂
﹁ちょっと!?そろそろ夕飯だけど・・・﹂どうするのよ、と言お
うとした時には既に宿を飛び出していた。
﹁リヴィエル、ゴメンだけど﹂
︵嫌よ︶
﹁・・・まだ何にも言ってないんだけど。。﹂
アストラル・ワールド
︵どうせ﹃ハジメに話を聞きたいんだけど﹄とかそんなとこでしょ
?最近、タダの伝書鳩扱いだし。2人はアタシ達が精神世界から見
えてるって言ってるのにしょっちゅうイチャコラするし。ギルドに
はあの性悪がいるし。
待ってりゃ良いじゃないの。待つ時間が愛をはぐくむ、って昔のエ
ラい人は言ったもんよ?︶
アンタ、どれだけ新しい人なんだ、等と言ったら更にややこしい事
になるので黙っておいた。
﹁仕方ない・・・。待つか。。﹂
◆ ◆ ◆
︵マスター、せめて一言お話しされてから出てこないと皆さん心配
されてますよ??︶
﹁そっか!いっけねぇな。時間が遅いからギルドが閉まっちゃうん
じゃないかと思ったら飛んで出て来ちゃったよ。﹂
︵伝言、しましょうか?︶
﹁お願い出来る?﹂
︵ふふ・・・、リヴィエルさんは﹁伝書鳩扱いはゴメンだ!しょっ
ちゅうイチャコラするな!﹂ってぷんすかされてましたよ?︶
﹁そんなとこまで見てたの?・・・ってか、俺やっぱりちゃんとク
214
ロノスを使いこなせてない。こんな時だけど試したい能力があるん
だ。﹂
︵はい!!やっとマスターのお役に立てそうです♪︶
コール
まずは﹁実体化﹂
左耳のピアスからクロノスが抜け出てくる。
あまりにも嬉しそうな顔をして出て来るので思わず抱き付いてしま
った。
﹁アン♪どこにも逃げませんよ?何時でも呼んで下さい。アァっ!
マスター、流石にここでは人通りが気になります・・・﹂
イカンイカン。
﹂
小さな村とは言え、通りのど真ん中だった。
飛び出せ!チビクロ∼ズ!!
気を取り直して・・・
﹁
その瞬間、彼女の背中の翼から羽毛がふわふわ浮き上がったかと思
うと、無数の小さなクロノスが飛び出した!
飛んでけ!チビクロ∼ズ!!
﹂
﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁わ∼∼∼い!!!﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂
﹁
﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁いってきま∼∼∼す!!!﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂
﹂
空間をある程度操る
という能力を
ドップラー効果でフェイドアウトしながら四方八方に飛んでいった。
﹁流石マスターですね。私の
その様に捉えられましたか・・・。﹂
﹁うん、その綺麗な翼と羽を見た時、ここから小さいクロノスがい
っぱい生まれたらきっと可愛いだろうなぁ、って思ったんだ。そん
で、そこにいっぱいエネルギーが集まってるのも感じたから、多少
215
分散させてもOKかな?って。﹂
今回生み出したチビクロ∼ズはやや大きめ。1体の大きさは燕より
一回り大きいぐらいで、それなりの戦闘能力もある。翼の羽毛しか
使っていないし、大きめに設定したので数はやや少なめで1500
から2000と言ったところか。
ありとあらゆる場所に飛び回り、周囲の検索を行う。
その感覚を統合して、ハジメは今、五感を全て使用可能なソナーを
今日も真っ黒になっちまった。かあちゃんにまたド
全方向に打ち出しているかの如く周囲の状況を把握出来た。
︵はぁ・・・
ヤされるなぁ・・・︶
これは、鉱夫だろうか?
︵愛する貴方へ、言葉に出来ない想いを文字に綴ります・・・︶
何処かの少女が手紙を書いている様だ。
そして、物の見事に感知出来ない一角が在った。
その周囲を探索中だった一体が摘み上げられてピーピー悲鳴を上げ
ている。
空間を操作出来るとのことだったので光学迷彩を施して飛び回って
イリュージョン
たんだけど、流石に彼女は誤魔化せなかったらしい。
﹁おーい、アテネさん。それ、俺の幻体なんだけど、能力の実験中
で他意はないから解放してくれない?﹂
﹁いきなり鬼ごっこに来たのかと思ったわ。﹂
﹁そんな姑息な事しないし、そもそも通じるとも思ってないよ。﹂
﹁それならそもそも行き成り来ないでよ。叩き潰しそうになったわ。
﹂
﹁・・・足下に10体程転がってるのは何?結構痛いよ?﹂
﹁正当防衛って奴?これ以上何もしないからとっとと帰りなさい。﹂
黒一角獣
﹁了解・・・って、用事忘れるとこだった!!
ファミリア
俺、ギルドに向かう途中だったんだよ。俺がブラックホーンホース
を操獣魔にしてるのは知ってると思うけど、この時期、村の周囲で
216
繁殖を迎える彼等の縄張りに不用意に入る人間が多いらしいんだ。
彼等は気性は荒いが無益な争いは好まない。位置を教えておくから
立ち入らない様にギルドから村の人達に言っておいてくれ。﹂
﹁OK。またね∼。﹂
◆ ◆ ◆
一方、ハジメ達の泊まる部屋・・・。
一匹のチビクロちゃんが﹃ウォーターガン﹄で撃ち落とされて目を
回していた。
流石にこの程度ではウェンディーヌの目も誤魔化せない。
﹁・・・クロノス??﹂
気付け薬を一滴口元に垂らしてやりぺしぺしと叩いてみる。
﹁甘くて美味し∼い!﹂
ぷっはぁ∼と息を吹き返したそれはクロノスをデフォルメした様な
姿で何だか随分幼い感じがする。
﹁クロノス?﹂
﹁違うよ!アタシ達はチビクロ∼ズだよ!!﹂
何じゃそりゃ、と思ってると突然口調も声も変わって話し始めた。
黒一角獣
﹁ゴメン、ウェンディーヌ。行き成り飛び出しちゃって。ギルドに
ブラックホーンホースの繁殖地について報告に行かなきゃ、と思っ
てたんだけど、その途中でクロノスの能力を試して見たんだ。今か
ら戻るから。﹂
﹁ご飯、食べずに待ってるんだけど・・・。﹂
﹁ゴメン!!先に食べてくれてて良いよ??﹂
ぴきっ
217
米噛みに青筋?
あ、あれ?お気に召さなかったかな??
﹁食堂、もう閉まってるんですけど・・・??﹂
ズゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・
ヤヴァイ
インベントリ
﹁わ、分かった!今、そっちに向かってる。収納スペースの物で俺
が何か作る!!宿の中で火をおこす訳にもいかんし、着いたらチビ
クロで呼ぶから裏庭に降りてきてくれ。﹂
◆ ◆ ◆
﹁災難でしたねぇ、マスター。オンナの恨みと食い物の恨みは何と
やら、ですよ??﹂
﹁いや、相変わらず俺が暴走しちゃったのが悪いんだ。。冷静な時
は物凄く冷静になれてるつもりなんだけどなぁ・・・?﹂
﹁私はマスターのそう言うところ好きですよ?ウェンディーヌさん
も本当は分かってる筈です。昼のエレンさんとのやり取りはお見事
でした。﹂
﹁あの人は、要求がまっすぐなだけに分かりやすい。持ってる力の
大小なんてそれとは無関係だよ。﹂
﹁そうですね。
ところで、もうすぐ宿に着きますが枝などは集めなくって良いので
すか?ここ、一応村の中で落ち葉も枯れ木も殆ど有りませんが??﹂
あ
﹁チビクロ∼ズ!急いで小枝を集めてきて!!﹂
218
◆ ◆ ◆
﹁ただいま帰りましたので、裏庭に降りて来て頂けましたら幸いで
す。﹂
チビクロが三つ指ついて謝ってる。
に処すかどうかはそれからだ。
まぁここは一旦降りて行ってやろう。
洗濯の刑
ダイエット・ダック
﹁・・・軽々鴨のカルパッチョ!?﹂
﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁おかえりなさいませ、ご主人様!!!!!!
!!﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂
メイド
ハジメは土下座。その後ろでクロノスとチビクロ∼ズが90°の礼
をして、大合唱だ。
しかも何故かクロノスとチビクロ∼ズは作業服だ。
﹁・・・謝り方も段々バージョンアップするわね。﹂
・ ・
当たり前だ。洗濯の刑の餌食になるのはもうごめんなのだ。
ダイエット・ダック
﹁まぁ良いわ。それよりこれどうしたの?アタシの目にはどうやら
軽々鴨のカルパッチョに見えるんだけど、食堂からくすねてきたん
なら犯罪者としてギルドにつきだしてあげるわよ?﹂
まさか。
まさかこれを。
まさかまさかまさかこれをハジメが作ったなんて認めたくない!!
﹁お口に合いますか分かりませんが、先日喜んで召し上がっていら
っしゃいましたので精一杯調理させて頂きました。どうぞ、鮮度の
落ちない間にお召し上がり頂けます様・・・﹂
219
あむ
﹁・・・本当に盗ってきたんじゃないわよね??﹂
﹁勿論で御座います。﹂
﹁・・・悪くない味ね。。﹂
悪く無いどころかここの食堂で出された物より美味しい。
しかしそれは決して認めない。決して認めない!!
︵絶対にハジメに﹃旨い!﹄って言わせてやる!!︶
ウェンディーヌの旅に目標が一つ増えた。
220
クロノスを発動します︵後書き︶
ウェンディーヌのお料理タイム、書きたいです。書いてみたいです。
もう内容は頭の中にあるんです。ただ、冒険がそこまで進んでいっ
てくれないのです。
221
可愛い使役獣魔ともっと仲良くなりましょう! ※︵前書き︶
今日は何だか沢山文字が書けるようです。
222
可愛い使役獣魔ともっと仲良くなりましょう! ※
﹁今日はこの部屋でアタシ一人で寝るから!ハジメは別に部屋を取
って一人で寝なさい!!﹂
終始気持ちの良い食べっぷりながら御機嫌斜めを維持し続けるとい
う難業を達成したウェンディーヌ。
このまま一緒に寝ると、どーも雰囲気に押し流されてなし崩し的に
あんな事やこんな事になりいつの間にやら許した事になってしまい
そうだ。
そんな癪な話があってたまるか!
一人で?
ハジメはウェンディーヌの言葉を聞き口角が歪みそうになるのを必
死で堪えた。
こやつ、気付いておらぬな??
しかしここは雰囲気が大事だ。
クエスト
﹁そっか・・・まだ許して貰えないんだね。。明日からは何とか楽
しく一緒に依頼受けたいし、今日は大人しく一人で寝るよ。それで
勘弁して貰える??﹂
精一杯しおらしくしてみた。
﹁部屋は自分で取るのよ?明日は8時には起きてきてね。じゃ、オ
ヤスミ。﹂
223
にやり
◆ ◆ ◆
・ ・ ・ ・ ・ ・
ウェンディーヌの休む部屋から少し離れた所・・・
俺はダブルルームを取った。
さて。
コール
﹁クロノス、リヴィエル、実体化。﹂
﹁アナタ、全く反省してないでしょ?﹂
﹁マスター、アタシがウェンディーヌさんだったら刺してますよ?﹂
ぐふふ。
そんな事知ったこっちゃぁ無い。
悪事とは日の目を浴びた瞬間に悪事になる。それまでは只の秘密に
過ぎない。
﹁まぁまぁ。やっぱり2人の肌が恋しくなっちゃったというか、2
人と同時にしてみたいというか、えっと、﹂
﹁よーするに溜まってる訳ね?﹂
そんな身も蓋もない。
﹁リヴィエルさんと仲良くなるチャンスですね!﹂
クロノス、君はポイントがずれている。
クエスト
﹁ま、兎も角明日は依頼受けるんだし、早めに楽しんじゃいましょ
うか♪﹂
ぱちん、と衣装を解いたリヴィエルだったが・・・。
﹁ねぇ、リヴィエルの衣装ってどうなってるの??﹂
224
アストラル・ワールド
﹁︱︱??これは精神世界から適当な物を自分に合わせて実体化し
てるだけだけど・・・?﹂
﹁じゃぁ、割と自由に変えられる?﹂
﹁イメージがちゃんと掴めれば、ね。﹂
ちゅ・・・
﹁じゃぁ・・・こんなのイケる??﹂
くちゅ・・・
ミシィカル・ビースト
キス。精神的存在である召喚獣に最もイメージを伝えられる方法。
それで送り込んだイメージは・・・。
﹁ハジメはこんなのが好きなの?まぁ、喜んで貰えるんならやって
みるけど・・・。変なとこ有ったら言ってね。﹂
◆ ◆ ◆
﹁完璧!グレイト!!パーフェクト!!!﹂
リヴィエルが今、身に纏っているのはピンクのナース服。
どんなコスが似合うか色々と悩んだが、まずはこれだろう。
彼女は身長が高いのでお姉さん系のコスが似合うと踏んだのだ。
瑠璃色の髪や目に似合うのは対比が取れるピンク?と思ったらこれ
またグンバツに似合ってしまった。
嗚呼、ナイチンゲール様、有り難う御座います。アナタが﹁看護婦
︵今は看護師だけど︶﹂と言う概念を作って下さった御陰で、世の
恵まれない男性の性欲は大層満たされた事でしょう。
﹁ちょ、ちょ、ちょっと!痛い、痛いわよ、ハジメ。この体の時は
ちょっと体力のある人間程度のスペックしか無いんだから!!﹂
思わず抱きしめていた。しかもかなり強すぎたらしい。
﹁リヴィエルって治療も出来たんだよね?﹂
225
アストラル・ワールド
こっちで言う治療師みたいなもんかな?
﹁精神世界でのフルパワー程ではないけどね。﹂
‒
の補助を行う人達の仕事着なんだ。
﹁それはね、医者
−
勿論治療も色々してくれるんだけど、治療そのものより、患者の気
持ちの面での支えになってくれる優しい人、そんなイメージかな?﹂
リヴィエルのしてくれる事と似てるでしょ?と続ける。
﹁普通ならそんな仕事中の人としちゃう事なんて出来ないんだけど、
衣装だけ変えてそれっぽく楽しんだりするんだ。﹂
﹁OKOK、後は念話読まして貰うわ。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
どこか癒して欲しい所は御座いませんか?患者様??
あら?こんなに固くなさって・・・。さぞ痛そうですわ。。今、楽
にして差し上げますね♪﹂
ノッテキターーーーーー!!
◆ ◆ ◆
ゴメン、お待たせ、クロノス、言いかけて振り返ると・・・。
﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁おかえりなさいませ、ご主人様。﹂﹂﹂﹂﹂﹂
﹂﹂﹂﹂
既にさっきのメイド服になってた。
クロノスとチビクロ∼ズが合唱して、しかもクロノスに至っては三
226
つ指ついてお迎えしてくれた。
﹁今日はお仕事お疲れ様でした。御衣装、お預かりしますね♪﹂
分かってる!コイツはやはり俺の思考を良く分かってる!!
クロノスは俺の後ろに回り、チビクロ∼ズがボタンを外していく。
しかも全員狙ったかの様に胸元ははだけ、スカートの中はガーター
ベルトのみ。
チビクロ∼ズが脱がせたローブを後ろでクロノスが受け取り、その
まま背後から抱き付いてくる。
下着を、着けていない??
﹁あぁ、マスターの広い背中・・・、逞しいですわ。。﹂
この感触・・・
﹁お分かりですか?マスターを少しでも近くに感じたくて・・・﹂
段々演技との境界が無くなってきている??
はぁはぁと荒い息づかいは既に欲情した香りが混じっている。
﹁ではこちらへどうぞ。あ、マスターはそのまま楽になさっていて
下さい。﹂
チビクロ∼ズが体中を抱え上げてベッドに運んでくれた。し○ちー
みたいだな。。
全身がふわふわとした羽毛の感触に包まれ、体の重さが無くなった
かの様だ。
﹁マスター、このいやらしいメイドの体を良く御覧下さい。﹂
ぷちり、と胸元が開かれる。
もう我慢の限界だ。
襟元に手を掛け、一気に引き裂く様に開いた。
227
﹁あぁっ、見られてるだけなのに!体が熱くなってしまいます。ど
うかマスターのお情けを下さいませ・・・。﹂
﹁ハジメ様?そんなに息を荒くされて、しかもこんなに大きくされ
て・・・。さぞお辛いでしょう。私が秘密のお薬を飲ませて差し上
げますね♪﹂
するりと滑り込んできたリヴィエルもすっかりその気だ。
ねっとりと口づけた時、舌を絡めながら何かを押し込まれた。
﹁︱︱!?﹂
しかもそのままとろとろとした甘露の如き唾液が大量に流し込まれ
る。
カァッ!
火照る!漲る!体がはち切れそうだ。
﹁マスター、イヤラシいメイドのおマンコに早くお情けを下さいま
せ。﹂
﹁ハジメ様、アナタのお注射で淫乱ナースに種付けして下さい。﹂
二人が並んで誘ってくる。
バチィッ
視線が交差した瞬間、本当に電撃と火花が上がった。
一瞬、どちらから攻めるか悩んでいると、クロノスが、ふぅ、っと
息をついた。
﹁リヴィエルさん、ここは一つ共同戦線と行きませんか?﹂
◆ ◆ ◆
228
︵こ、これは!!︶
フェ ラ チ オ
今、俺はリヴィエルとクロノスにうつ伏せになったままサンドイッ
チされている。
俺の体の下にはリヴィエルが69の姿勢で濃密な口腔奉仕を、上で
はクロノスがローションプレイをしてくれている。
しかしどちらも普通では味わえない物。
水龍王様特製潤滑ポーション
が塗りたくら
俺の体はチビクロ∼ズに支えられリヴィエルを押し潰さない様に。
クロノスの体中には
れており、彼女の体に絡みつきふわふわの体毛がそれぞれ生きてい
るかの様に蠢く。
クロノスはその大きな翼で3人を丸ごと包み込みながら全身を激し
くくねらせ擦りたてる。
チビクロ∼ズも負けてない。
脇、玉袋、会陰、更にはアナル。
一匹ずつが意思を持ちながら全員が統合した思考をも持つ。
﹁ぐあぁっ!凄い、体中が燃える!﹂
﹁ふふっ、気持ちいですか?マスター??﹂
張りがあり、押し潰されては形を取り戻す大きな美乳。
﹁淫乱羽毛メイドのローションマッサージ、マスターに感じて頂け
ていますか?﹂
﹁違うでしょ!お姉さん看護師さんの口マンコ奉仕で感じて頂けて
るんですよね?﹂
﹁看護師さん、俺、もう我慢出来ないです!!﹂
﹁良いのよ?私の口をオマンコだと思って思いっきり突きまくって
229
!アナタのザーメン流し込んでぇ!﹂
見ればリヴィエルの秘裂からとろとろと淫液が流れ出している。
﹁ねぇ、ストッキング破いて良い??﹂
﹁良いわよ!だからお願い!!早くちょーだいぃぃっっ!﹂
びいぃぃぃっっ
彼女はストッキングの下に何も身に着けていなかった。
そこを指で割り広げ、思い切り舌を突き込んだ。
ぴちゃぴちゃ
ずるるるるぅっ
﹁あふぅぅっ!凄いの来たぁっ!!ハジメのが、ハジメのが一番イ
ィィッ!﹂
ぬ゛ちゃっ
舐め上げ、掻き回し、吸い上げる。
ぐりゅりゅっ
にぢゅるゅっ
ぢゅぶぢゅぶぢゅぶ
﹁きゅふぅぅっ、ねぇ、こっちも、口マンコにもちょーだぁいぃぃ
っ!﹂
ずちゅちゅっ
ぶぅぅっ!
リヴィエルの口をマンコに見立てて喉の奥まで無遠慮に突き立てる。
彼女の口内は膣内の様にぬめぬめ締め付け、ぐるぐると螺旋状に長
く絡みつく舌は精液を搾り取らんとポイントを探り、舐め上げてく
る。
﹁出すよ?全部受け止めて!!﹂
230
どぴゅるぅ
びゅくるっ
びゅるるるるるるゅりゅりゅっ!!
ゴクリゴクリと音を立てて飲み干していく。
﹁ごちそーさま♪エッチなお注射、されちゃいましたぁ。﹂
﹁ねぇ、今度こそこっちに・・・﹂﹁ストップです。﹂
上で絶え間なくローションマッサージを続けてくれていたクロノス
が我慢の限界を迎えた様で声を上げた。
﹁上下反転しますよ?﹂
◆ ◆ ◆
俺はされるがままにチビクロ∼ズに仰向けにされた。
今度は下からリヴィエルのローションマッサージ、そして上ではク
ロノスと69の体勢。
しかし・・・
︵これも凄い!!︶
リヴィエルはいつも通りの特製潤滑ポーションでローションプレイ。
しかし、ナース服は完全にはだけ、背中に感じるのはカリカリとし
た鱗の触感。
ローションのお陰で全く引っかかりもなく、柔らかなタワシで擦り
上げられる様な適度な刺激に、異種族とセックスをしている事を感
じさせられる。
そして更に凄いのがクロノスだ。
69だが彼女の奉仕は口ではない。
231
萌葱色の清楚な長髪が意思を持った様に俺のペニスを絡み取り、時
綺麗なお姉さんの髪にぶっかけてみたかったんですよ
にふわふわと撫で回し、時にきゅうきゅうと締め付けてくる。
﹁ふふっ♪
ね?﹂
どくん
挑発する様な表情に俺の中でドーパミンやらアドレナリンやらが放
出されるのを感じた。
﹁調子に乗ってる悪戯メイドにはお仕置きが必要かな?﹂
ぱぁんっ!
﹁痛っ!﹂
ぱぁんっ!ぱぁんっ!ぱぁんっ!ぱぁんっ!
﹁あぐっ!痛い、痛いです!申し訳ありません。お願いです、お赦
し下さいっっ。﹂
目の前でふるふると揺れる尻に掌を打ち付ける。次第にそこは紅葉
の様な手形でいっぱいになってきた。
﹁ダ∼メ。それに、止めて、って言う割にはこれはなあに??﹂
ずぶり、と激しく指を突っ込んだクロノスのソコは既にどろどろに
濡れていた。
﹁きゃぁっ!も、申し訳ありません。それは、それはぁぁぁ・・・。
﹂
﹁まさか、﹃お仕置きで感じちゃう淫乱メイド﹄なんかじゃ無いよ
ねぇ?﹂
232
﹁そ、そんな事、言えません、どうか、どうかお赦し下さい。﹂
﹁正直に言わないと止めちゃうよ?﹂
ぱぁんっ!
﹁痛ぁっ!は、はい。私は、私はお仕置きされて感じてしまう淫乱
でもご奉仕が止まったら止めるからね。
メイドです・・・。マスターの手で、どうかエッチなお仕置きいっ
ぱいシテ下さいぃぃっ!﹂
﹁はい、良く出来ました♪
﹂
ぱぁんっ!ぱぁんっ!ぱぁんっ!ぱぁんっ!
﹁あふうぅっ!痛ぃっ!・・メなのに!ダメなのに感じちゃうぅっ。
こんなのでご奉仕出来ません・・・。﹂
﹁じゃぁ止めた。﹂
ぴたり。
﹁ふえぇっ!?﹂
﹁﹃痛いぐらいのお仕置きが大好きな淫乱メイドさん﹄には辛いん
じゃないかなぁ∼♪﹂
その言葉にウネウネと彼女の髪の毛が動き出す。更に背中の翼まで
伸びてきて俺のモノを扱きだした。
﹁お、お願いです。叩いて下さい。痛くして下さい!いっぱいお仕
置きして下さいぃぃっ!﹂
さわさわしゅるしゅるるるるるる・・・・・・
ぱぁんっ!ぱぁんっ!ぱぁんっ!ぱぁんっ!
233
﹁マ、マスター、アタシもうダメです、逝っちゃいますぅぅ。﹂
﹁勝手に逝っちゃダメ、ってもう忘れちゃった?﹂
きゅぅぅぅぅぅっ!
必死で逝くのを耐える表情、更にぎゅうぎゅうと締め付けて何とか
精を搾り取ろうとする。
その想いが伝わり、ハジメのペニスに急速に前触れが訪れた。
﹁逝くよ?﹂
ただ一言の後、ぱしぃぃぃん!と一際強く平手を叩き付けた。
﹁きゅふあああああああああぁぁぁぁぁっっ!﹂
どくんっ!どくんっ!びゅくるるううっ!
翼と髪の毛が真っ白に染め上げられて行く。
浮き上がる気力が無くなったのか、ベッドの中にどて、と倒れ込ん
できた。
下で奉仕していたリヴィエルも熱気に中てられたのか力を失ってい
る。
﹁ゴメン、またまたやり過ぎた。。シャワー、浴びよっか?﹂
﹁そんな!流しちゃうなんて勿体無い!!﹂
むくり、と徐ろに起き上がったリヴィエルがクロノスの髪の毛を舐
めとり始めた。
﹁あう、ちょっと!これは私の分です。リヴィエルさんはさっきい
っぱい貰ったでしょう?あふっ!ちょ、ちょっと!翼舐めないで下
さい!!きゃふぅっ!﹂
234
にま∼り
﹁へぇ・・・、翼、弱いんだ?﹂
﹁そ、そんなの知りません!!﹂
﹁クロノス、リヴィエルに舐め取られた分は取り返しちゃいなよ。﹂
ぴこーん!と頭上に電球が走ったかの様な表情でクロノスはリヴィ
ぴちゃ・・・
エルと舌を絡め始める。
ぴちゃ・・・
猫のじゃれ合いの様な、しかし遙かに扇情的な光景に、息子が3回
戦を申し出てくる。
﹁二人とも、そのまま抱き合って?﹂
ぴちゃぴちゃと口付けを交わし、体を、翼を、愛撫し合っていた二
人。
その二人を向かい合わせに寝かせて、アソコをこちらに向けさせる。
﹁もう、十分濡れてるよね?行くよ??﹂
一言だけ告げて、秘裂と秘裂の間にペニスを滑り込ませる。
ぬちゅる
﹁﹁ああぅっ!﹂﹂
二人同時の素股。こうして見ると違いが良く分かる。
何でも飲み込まんとする貪欲なリヴィエルのマンコ。
誰よりも淫乱でありながら許可を得るまではひっそりと我慢を決め
ぬちゅる
ぬ゛ぢゃぁっ
込むクロノスのマンコ。
ぬちゅっ
235
擦り付けながら前触れ無く挿入を開始した。
クロノス、リヴィエル、クロノス、リヴィエル・・・
﹁あはぁ!入って来たぁっ!ハジメのが、ハジメのオチンチンが欲
しかったのぉぅっ!﹂
﹁マスター、もっと、もっと奥まで突いて下さい。膣だけじゃなく
て、子宮の奥までいっぱい熱いの注ぎ込んで下さい!﹂
カンパニー
美しすぎる使役獣魔2人にもう限界が近い。
﹁ねぇ、お願い!ハジメの赤ちゃん欲しいの。アタシの奥まで、子
宮の奥まで注ぎ込んで??アタシに種付けしてぇぇぇ!!﹂
どくどくどくぅっ!
イリュ
﹁マスター、私にも、私にもマスターの赤ちゃん下さい。熱い子種
で私の体を満たして下さいぃぃっ!﹂
どくんっ
﹁逝くよ?リヴィエル、俺の子供産んで!﹂
びゅくぅぅぅ
まずはリヴィエルに思い切り注ぎ込んだ。
﹁わ、私にも・・・﹂
﹁クロノス、﹃孕め﹄!﹂
ージョン
勢いを失わないペニスをそのままクロノスのマンコに突き立て、幻
体に対して力ある言葉と供に精を解き放つ。
びゅるるるるるるるるぅっ!
﹁﹁ああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁっっ!!﹂﹂
◆ ◆ ◆
236
﹁赤ちゃん、出来るかしら?﹂
﹁きっと出来ますよ!﹂
アストラル・ワールド
しまった。思いっ切りブレスレットの力を解放してた気がする。
俺の精神世界に存在した﹁この二人の子供が欲しい﹂という思い。
そっくりそのままブレスレット介して精液もろとも注ぎ込んじゃっ
た気がする。
マテリアル・ワールド
本来、二人とも精神的存在なのだが、俺との獣魔契約で物質界への
影響力がかなり増大してるから・・・。
ウェンディーヌに何て言おうか??
237
可愛い使役獣魔ともっと仲良くなりましょう! ※︵後書き︶
漸くハーレムHが書けました。何でHシーンは止めどなく長くなる
んでしょうか?
238
彼女の怒った理由︵前書き︶
4話程前から書こうとしていた話があるのですが、いざ書き始める
とそこに辿り着くまでに色々な事件が勝手に怒ります。これが、キ
ャラが勝手に踊る、と言うアレなんでしょうか?
239
彼女の怒った理由
︵マスター、マスター、起きて下さい。︶
喝っ!!
流石は人型電波時計。完璧な目覚まし機能だ。今の時間は7時30
分の筈だ。
流石に今日は1秒足りとて遅れられない。
熱いシャワーを浴びてきっかり7時55分にウェンディーヌの部屋
のドアを叩いた。
﹁ウェンディーヌ、お早う。﹂
・・・返事がない??
﹁ウェンディーヌ?起きてる??﹂
ばぁん!と扉が開いたと思ったらそこにはウェンディーヌが不動明
王様の如きオーラを纏って立っていらっしゃった。
﹁昨晩は激しくお楽しみでしたね?﹂
え?
﹁何で知ってる!?﹂
インヴォーカー
﹁音が聞こえなきゃ良いと思ったの?あれだけ派手な魔力の流れが
あればアンタみたいな馬鹿は気付かなくっても普通の獣魔師は気付
くわよ?
まさか敵襲かなんか有ったのかと思って部屋まで近付いてみれば嬌
声が漏れてくるし、リヴィエルに呼びかけても上の空で召喚に応じ
240
てくれないし。﹂
ヤヴァ・・・
﹁心配して見にいったアタシが馬鹿みたいじゃないの!!昨日のお
カンパニー
詫びはただのお飾り??アタシに背中預けるとかカッコいい事言っ
といて!!可愛い使役獣魔とよろしくやってりゃ良いじゃない!!﹂
ばぁん!と開いた時と同様に轟音を立てて扉が閉じた。
﹁・・・洗濯の刑すらなしか。。﹂
◆ ◆ ◆
︵ごめんなさい。︶
﹁暫くこっちに来ないで。ハジメの方に行っときなさい。﹂
︵ごめん、ほんとごめん、お願いだからちゃんと話を聞いて?︶
﹁リヴィエル、﹃命令よ、ハジメのとこに行ってなさい。﹄﹂
︵・・・分かったわ。︶
︵・・・やっぱりハジメもアタシを一人にするのかな。。︶
◆ ◆ ◆
おかしい。
﹁やっぱりどう考えてもおかしい!﹂
︵どうなさいました?︶
﹁クロノスはおかしいと思わないか?﹂
︵・・・??ウェンディーヌさんの事ですか?アレは完全にこちら
に非がありますし、お怒りになるのも当然かと・・・。︶
241
﹁そうじゃない。ウェンディーヌは一度部屋の様子を窺いに来た訳
だ。俺が見る限り、昨日の締め出しはどっちかって言うと照れが半
分ぐらい混じってたし、機嫌は大分戻ってたと思う。
そんな時にアソコに遭遇したら、彼女の性格なら﹃アタシも混ぜろ
∼∼!!﹄とまでいかなくっても部屋に怒鳴り込んでくるぐらいす
る筈なんだ。
どうして彼女はあそこで自室に引き下がった?俺達の行動の何がそ
こまで彼女の逆鱗に触れた?﹂
︵リヴィエルさんは何か御存知なのでは?︶
︵それについてはアタシは答えられないわ。契約内容に触れるから
ね。︶
リヴィエルに口封じをしなければ行けない程の秘密が今回の件に関
わっている・・・。
ずっと何かを話したそうに、でも話したくなさそうにしてたウェン
ディーヌ・・・。
﹁リヴィエル、貴女がウェンディーヌと獣魔契約を結んだ時期は?﹂
︵5年前ね。︶
﹁彼女が旅を始めた時期は?﹂
︵契約と同時期よ。︶
﹁分かった。契約事項ギリギリだったろうに答えてくれて有難う。﹂
﹁サイカ島に向かう。﹂
◆ ◆ ◆
﹁リヴィエル、﹃命令だ。ウェンディーヌの身を守ってくれ﹄。恐
242
トラル・ワールド
アス
らくリヴィエルも締め出し食らってるだろうから、何も無ければ精
神世界からただ見てるだけで良い。危険が及んだら四の五の言わず
5カイナイダトオ
ワカラナイガ・・・
飛び出せ。これは俺からの命令だから、彼女の命令には抵触しない
はずだ。﹂
︵了解。︶
オチツイテイルヨウダガ?︶
﹁ハヤト、オウカの様子はどうだ?﹂
︵イマノトコロ
クワシクハ
アト3カホド、ナガクテモ
ハジメテノコトナノデ
﹁どれぐらいで生まれそうか分かる?﹂
︵オレモ
ツウジョウナラ
モウガ︶
ハジメニハ
イワ
ホウコク、カンシャスル。︶
フユカイニシテイル
﹁分かった。3日間だな?3日間で帰ってくる。それまでオウカを
ツガイスラ
宜しく頼む。﹂
︵ジブンノ
ハンショクチニカンスル
レルマデモナイナ。
ソレト
﹁あれは契約事項でもあったからな。これからはうっかり入ってし
まった馬鹿は摘み出す程度にしてくれると有り難い。﹂
さて・・・
コール
サイカ島の場所、調べるか。
﹁クロノス、実体化﹂
﹁マスター、マスターのお考えが流れ込んで来ます。私にまた力を
与えて下さるんですね。﹂
みたいな感じ
これは俺の能力を完全に超え
﹁段々、クロノスが出来る事と出来ない事を感じられる様になって
これはすぐ出来そう
これなら今は出来なくてもいつか出来そう
来たんだ。
てる
で。﹂
243
﹁じゃ、行くよ?
飛び出せ!マイクロ∼ズ!!
翼からキラキラと光の粒が零れ出る。
﹂
浮き上がった羽毛が更に細かな粒子と化して、何億、何兆というマ
イクロサイズのクロノスへと変化して行く。今度こそ本当に数え切
れそうもない。そもそも魔力的視界の開けてない人間には塵か埃に
飛んでけ!マイクロ∼ズ、サイカ島の場所を調べてこい!!﹂
しか見えないだろう。
﹁
ぴかぁっ!とクロノスから放射状に光が迸る!!
一瞬の後、光はあっと言う間に止み、そこには二人が立って居るの
みだった。
﹁場所だけで宜しかったのですか?ある程度の情報まで仕入れて来
るものかとばかり・・・。﹂
﹁いや、まず今の俺にはそこまで多量の情報を処理し切れない。そ
んで、この件は俺自身が現場に足を運んで起こった事を確かめたい。
見当違いかも知れないけど、俺にはウェンディーヌは怒っていたと
言うより泣いていた様に見えた。﹂
ふわっ
﹁私にも、背中を預けて頂いて良いのですよ?﹂
こんなとこ見たらまたドヤされそうですね・・・。﹂
﹁あぁ、有難う。俺はとっくにそのつもりだけど?﹂
﹁ふふっ♪
◆ ◆ ◆
アイスホルストは小さな村だ。
だが、ギルドマスターが直接来るぐらいの鉱山資源があるのだから、
人の往来はそれなりにある筈。
244
検索
を始めた。
︵サイカ島、サイカ島、サイカ島・・・︶
ハジメは周囲の
ハジメがマイクロ∼ズに込めたイメージは、戦闘能力皆無、ごく微
量の魔力のみ纏い、感知が殆ど不可能な代わりに圧倒的広範囲に渡
っての探索が可能。
チビクロ∼ズを使って行った五感ソナーと違い、今行っているのは
特定条件に一致する情報のみを探し出すと言う方法。勿論、マイク
ロ∼ズでも五感ソナーは使えなくもないが、より広範囲の探索が可
能なマイクロ∼ズでそれを行うと今のハジメの魔力では脳に流れ込
む情報量が多すぎてオーバーヒートを起こしてしまう。
︵サイカ島の場所を知る人、それについて会話をしている人、或い
は場所の書かれた地図・・・︶
前回は半径5km程度の探索が精々だったが、今回は村全体がすっ
ぽり覆い尽くされている。
その気になれば今のハジメにも2∼3倍の範囲ぐらいは行けそうだ。
︵っくぅ!これはキッツい・・・︶
頭の中に検索ウィンドウが次々と高速で開いていく様な感覚。
無数の目があるとしても見た情報を処理するハジメの脳は一つなの
だ。
送り込まれてくる情報が半分を超えた辺りで酷い眩暈に襲われた。
﹁クロノス!情報を半分受け取れ!!﹂
了解を得る暇もなく無理矢理クロノスに流し込む。
﹁熱ぅっ!す、すみません、私もそれ程長くは・・・。﹂
﹁大丈夫だ。﹃クロノスなら出来る!﹄﹃その他の五感を一旦切れ
!!﹄﹂
それこそ人間業ではない。だが、ハジメは人間にもその様な事が起
こると言うのを聞いた事があった。
245
事故の瞬間、景色がスローモーションに見えるたり、色が失われて
白黒に見えたりすると言う奴だ。
その瞬間に必要な情報以外を脳が遮断するという。
極限状態の人間の精神で出来て、更に上位精神生命体であるクロノ
イリュージョニスト
スに出来ない筈がない。
幻体師の信頼を得て、クロノスの全身に力がみなぎる。
目を閉じ、意識を遮断して入って来る情報のみに集中する。
︵これなら・・・︶
ハジメはクロノスと情報共有を試みる。
すぐに二人の意識は混ざり合い、マルチチャンネルのコンピュータ
ーの様に高速処理を始めた。
◆ ◆ ◆
︵在ったよ∼!︶
一匹のマイクロちゃんが冒険者ギルドに辿り着いた。
其所に在った地図の中央左辺りに﹁サイカ島﹂の文字は確かにあっ
た。
しかし、太い黒字で丸付けされた文字が、赤で消されている。
︵﹃プロット公国、マリンフロー自治区、サイカ島﹄、よし、マイ
クロ、近辺の地図と座標と記憶しておいてくれ︶
︵りょうかい、ますたー︶
246
彼女の怒った理由︵後書き︶
このお話を読んでぴんと来たアナタ、その通りです。またまたスト
ーリーを引っかき回しに来る誰かさんの登場です。そして、凄く中
途半端に思えるかも知れませんがここで第2章endです。
247
サイカ島︵前書き︶
会話ばかり続くと読みづらい感じがしますね・・・。難しいです。
※昨晩、一度、アップしましたが重大なストーリー矛盾があったの
で15分程修正のため消していました。
248
サイカ島
俺達の居たアイスホルスト村は聖アルケミア帝国の北東の端っこの
方に位置する。
一方、目指すサイカ島は赤道を越えて遙か南西、距離にすれば軽く
5千kmは移動しなければならない。
陸路や水路を選んでいてはとても間に合わない。
解決にどうやっても1日以上はかかるだろうから、片道の移動に2
4時間は掛けてられない。
ジャンボジェット機どころか空路での移動方法を飛翔獣魔に頼るこ
イリュージョン
の世界でも俺を乗せてそれだけのスピードが出せる獣魔はそうそう
居ない。
居ないはずなのだが・・・。
彼女自身が破格なのか、俺の幻体であるが故に破格なのか。
地上100m程の高度を俺を抱えたクロノスが矢の如く一直線に飛
んで行く。
﹁なぁ、さっき飛んでったのってもしかしなくてもソニックブーム
?どれぐらいの速度で飛んでるの?﹂
﹁当ててみて下さい♪﹂
﹁・・・マッハ3か4ぐらい?﹂
﹁そうですね。今の所は3ぐらいに押さえています。半径500m
前後のマイクロ∼ズの五感ソナーを展開し、非常時に対処可能な余
力を残しての飛空ですと精々がこれぐらいかと。飛翔のみに専念す
ればどれぐらい行けるか、それはマスターの方が良くお分かりです
よね??﹂
﹁あぁ。今の所、半分も力を使ってる感覚がしないよ。ソニックブ
249
ームが飛ぶのを見たのは流石に生まれて初めてだった。﹂
ゲーム以外ではな。
クロノスの場合、更に﹁空間認識能力﹂の併用で目的地までの座標
を一直線に繋ぎ、タイムロスを最小限にしながら飛んでいく事が出
おかしい。
来る。この様子ならば昼過ぎには目的地に着けそうだ。
◆ ◆ ◆
・・・??
﹁おかしいですね。﹂
座標はこの辺りで合っている筈なのだ。
マイクロちゃんが見た情報を俺も飛行中に検討したが、マリンフロ
ー自治区は大小様々な島の集まった場所で、その中でもサイカ島は
比較的大きな島だったはずだ。
少なくとも、世界地図で形がはっきり視認出来る程度、つまり地球
で言えばイギリスかアイスランドか、その程度の大きさはある筈な
のだ。
それが、眼下に見えるのは精々が直径10数km程度の小島。佐渡
島程度の大きさしかない。
しかも、この周囲だけやけに島の数が少ない気がする。
﹁クロノス、こっちの世界に視覚を誤認させる様な魔術か何かって
有るかな?﹂
﹁申し訳ありません、私の知識はマスターを素にしていますのでこ
ちらの常識に関してはあまり詳しくありません・・・。マイクロ∼
ズを展開して周囲の検索を行いますか?﹂
﹁いや、確かに思ったよりも小さな島だが、飛行しながらだと今の
250
俺では全体を把握し終わるまでにかかる魔力の消耗が激しすぎる。
ここに来るまでも何本か満タンエーテルを使っちゃってるし、一先
ず飛行を解いて降りよう。検索はそれからだ。﹂
そう、クロノスと1対1の旅を行う際の問題点はここに有った。
ハジメはこちらの世界に来てまだ日が浅い。
ウェンディーヌにして﹁アタシより実力はずっと上﹂と言わしめる
情報
こそが更なる力となる事
ハジメではあったが、力というのは純粋な戦闘能力だけでは比べら
れない。常識、知識、そう言った
を元の世界の常識から彼は知っていた。
例えばこうだ。
﹁ラミアが現れた!ギガースが現れた!ゴブリン・メイジが3体現
れた。!﹂
ゲームをしていればこんな編成に遭遇する事もあるだろう。
魅了
掛けられて全体魔法で自滅、
モンスターの平均レベルはこちらのパーティと同じぐらい、さて、
どれから倒す?
﹃ラミアかぁ・・・魔法使いに
とかやだなぁ。取り敢えず敵の特技封じとこう。﹄
﹃ギガースのクリティカルヒット痛いんだよなぁ∼、魔法使いで削
ってもどうせゴブリン・メイジが回復掛けてくるから、後回しだな。
魔法使いは防御、と。﹂
﹃勇者の魔法と格闘家の全体攻撃スキルでゴブリン・メイジの群れ
をさっさと片付けちゃおう。﹄
こう言った感じで単純な戦闘だけでも情報戦は無意識に行われてい
る。
それは、相手の情報を知ってて行える事。
更に言えば﹁この辺りは魅了を使ってくる厄介な蛇が出るよ!ちゃ
んと装備は調えてお行き!﹂、こんな事を村で教えて貰えるかも知
251
れない。
どんな魔法が存在する世界なのか?
友好的な種族は?敵対する種族は?
食べて良い植物はどれだ?その獣の肉は食えるか?
例えば、この世界にはどうやら核を燃料とするエネルギーは見当た
らない。
そこに仮にファットマンでも持ち込もうものなら?
威嚇だけでも十分な効果があるだろう。しかし逆に相手方にそれを
解明された場合、破滅するのはこちらだ。
そんな可能性があるのなら原理が分かっても持ち込まない方がそれ
以降安心出来る。
そんな技術体系が、科学だろうが魔術だろうが存在するのかどうか?
ハジメの強みは﹁相手に出来ないであろう獣魔の使い方や特殊な武
器がある﹂と言う点だろう。
逆に言えば﹁相手は自分の知らない戦術を持っているかも知れない﹂
というのは多大なる危機なのだ。
︵ウェンディーヌと旅がしたいな。︶
﹁申し訳御座いません・・・。﹂
﹁あ、ごめん。そう言う意味じゃないんだ。クロノスは俺そのもの
だ。俺が望んだ形だ。俺が望んだ力を十分に与え続けてくれてる。
ウェンディーヌに聞くと言っても、ずっと教えて君をするつもりも
ない。幸い、文字は読めそうだからお勧めの本でも読んで覚えるよ。
﹂
﹁その為にも、行きましょうか。﹂
﹁うん、降りよう。念の為、マイクロ∼ズを回収して、チビクロ∼
252
ズを展開しよう。今回は30cm×100体程で。﹂
個々のチビクロ∼ズにそこそこの戦闘能力と判断力を与えるイメー
ジ。
体の周囲50m程の狭い範囲にチビクロ∼ズを展開しつつ降りて行
く。
ホバリングを解除して半分程降りた時・・・。
チビクロ∼ズの一体が予兆を見せずに反応を消した。
アストラル・ワ
﹁︱︱!?何か分からないがヤバい!クロノス!全速反転、上がれ
るだけ上へ・・・﹂
上昇しろ、と最後までは言えなかった。
島が突如目を見開き、大口開けて伸び上がってきた!
﹁︱︱!マズい、喰われるぞ!﹂、
◆ ◆ ◆
気付けばそこは誰かの部屋の中だった。
ールド
︵ジルんとこに連れて行かれた時に似てるな。ここは・・・精神世
界??︶
﹁クロノス!!聞こえるか!?﹂
︵はい、マスター。そちらもご無事のようですね。︶
﹁この辺来てから分からない事だらけだ。襲われる直前まで、いや、
襲われてる時ですら全く敵対心を感じなかった。
それなのにただ﹃確実に取り込む﹄と言う意思だけがやたら強かっ
た。
ここの持ち主は一体何処で何を考えてる??
253
おい!出て来い!!居るのは分かってる。﹂
既にブレスレットはフル装備状態。
コンバットスーツタイプの全身鎧に、左手には小盾、腰には脇差し
程度の長さの刀を帯び、何時でも抜刀に入れる姿勢だ。
︵やっぱり姉さんと俺の目に狂いは無かったねぇ。まさかこんなに
早く来るとは思わなかったし、姉さんが来れなかったのも想定外だ
ったけど。︶
﹁勝手に一人で話を進めてんじゃねぇ!!対敵する気がないんなら
さっさと出て来てくれ。こっちには余計な事に巻き込まれてる時間
は無いんだ!!﹂
やれやれ、と言う声とハジメと共に同年代の少年が姿を現した。
髪・瞳・さらに爪に至るまでピジョン・ブラッドの最上級のルビー
アストラル・ドラゴン
の如き透明感だ。
﹁初めまして、幻想竜のククリと言います。姉さんがいつも大層お
世話になってます。﹂
﹁その雰囲気・・・、それに竜って・・・、ひょっとして君はリヴ
ィエルの??﹂
﹁そ、俺はリヴィエル姉さんの弟。まぁ血の繋がりなんて無いし、
そんなもの俺達竜には何の関係も無いんだけどね。﹂
リヴィエル
﹁見た目、同年代の様だし、口調はもっと普通で良いよ。
それより、この辺りについて聞こうとしたら彼女は途端に口を閉ざ
し、来てみたら行き成りその弟に襲われた。俺の求める情報と無関
係では無いと考えて良いな?﹂
﹁将に。ビンゴ、だよ。本当なら姉さんにも来て欲しかったんだけ
どね。君とクロノスさんの力だけで解決出来るかは五分五分だけど、
どうか力を貸して欲しい。俺も全力で力を貸すし、解決出来ればウ
ェンディーヌさんの事についても俺の知る限りの事を話そう。﹂
254
﹁やっぱりウェンディーヌもこの辺りの出来事に関わってるのか。。
﹂
﹁当然だ。﹂
ククリは遠くを見つめる様に視線を泳がせて口を開いた。
﹁彼女は昔ここにあった島の住人だったんだから。﹂
◆ ◆ ◆
インヴォーカー
﹁まずは大雑把にこの辺りの事情について話そう。5年前、8歳の
インヴォーカー
若さで獣魔師の資質を思わせる才能を持った少女がサイカ島の隣に
あった小さな島に居た。
この辺りは一部を除いて獣魔師はそれ程数も揃っていなかったから
インヴォーカー
島の人間は狂喜した。
何れの資質にしろ獣魔師は通常でも100人の兵士に引けを取らな
インヴォーカー
い戦力だし、鍛えれば様々なクエストで確実に稼ぎ頭になってくれ
る。
両親や親しい人間は心配もしたが、本人の強い希望もあって獣魔師
ギルドのあるサイカ島まで資質試験にやって来た。﹂
イリュージョニスト
。
はとてもやりやすい。相手も精
相手を自分の精神世界に引き込む事
アストラル・ワールド
﹁俺が監査員を行ったんだが、彼女には確かに幻体師の資質が有っ
た。
アストラル・ドラゴン
幻体化の儀式
俺の幻想竜としての能力は
この能力を使うと
幻体化の儀式
を行ったの
神体になっているのでイメージした物を偶像化すると言う作業が通
常に比べてかなり楽なんだ。
アストラル・ワールド
ハジメさんも自分の精神世界に潜って
なら分かるだろう?﹂
確かにあの時は思うがままに自らと対話し、クロノスをイメージ出
255
来た。
ント
エンチャ
何でも、通常ならば気が散らない様に外界の邪魔の入らない付与魔
術を施した部屋に三日三晩程度籠もって、瞑想しながら行う物なん
だとか。
﹁ところがそのイメージしやすい状況が裏目に出た。﹂
イリュージョン
﹁彼女がその時に何を望んだのか、どんな力を欲したのかは分から
ないが、完成した幻体の能力は﹃彼女のイメージ通り過ぎた。﹄
イリュージョニスト
コントラクター
憑物
だ。
そして幼い精神と肉体は手にした力を抑えきれず、力は暴走を始め
た。﹂
テイマー
﹁彼女は俺が知る限り唯一の、幻体師の
通常、憑物というのは操獣師か契約師がなるものだ。自らの手に余
る相手を使役しようとして彼等の精神力に自らの精神力が浸食され
イリュージョン
て起こる、これが原理でありこの世界の法則から考えてもそれが当
ミシィカル・ビースト
然とも言える。。
召喚獣は獣魔契約の時に相手を浸食しない事を約束するし、幻体は
イリュージョン
自らの理想像だから、精神力や想像力が未熟なのに自らの精神を冒
す程の強力な幻体を手にするなどと言うのはこの世界の構造から考
えて論理矛盾している。﹂
憑 物
﹁理屈は兎も角、それは発生した。
結果、地図からサイカ島を含めた半径1000kmものエリアを次
々にクラッシュしながら3ヶ月も彼女は暴走を続けた。﹂
僅か8歳の少女が・・・。
﹁俺も姉さんも必死で止めようとした。この辺りは元々穏やかな土
地柄で力を持つ獣魔は俺と姉さんぐらいだった。姉さんはサイカ島
256
を含めたこの辺りの守護龍で、島の人達何人かと契約を交わしてい
マテリアル・ワールド
た。が、事態の収拾に当たろうとしたその人達が真っ先に被害に遭
っていた為、物質界での力が殆ど揮えず、残った人達を守るのが精
一杯だった。﹂
ミシィカル・ビースト
﹁そして、最後に残ったある夫婦が命懸けの方法に挑んだ。﹂
サモナー
﹁シンクロ召喚というその方法は召喚師同士、召喚獣、この全員が
同じぐらい強い絆で結ばれて初めて実行可能だ。そして、召喚は成
功したが、Dランクという決して強くはない夫婦にとってその方法
は負担が重すぎた。﹂
﹁命をかけて召喚された想いを受け取り、力の丈を揮った姉さんは
凄まじかった。この辺りの地形が変わったのは半分はその時の姉さ
アストラル・ワールド
んの余波だ。兎も角、一時的ながら活動を停止した少女を俺は自ら
サイカ島の悲劇
と呼ばれる災厄の一部始終だ。﹂
の精神世界に引きずり込み、封印した。﹂
﹁これが
﹁聞いて良いか?﹂
﹁ウェンディーヌは生き残りなんだな?彼女以外の生き残りは??﹂
﹁彼女以外にこの島の生き残りは居ない。と言うか、島自体が既に
存在しない。
﹁分かった。いや、分からない事だらけだが、今すべきことが一つ
分かった。﹂
﹁その少女に会わせてくれ。﹂
◆ ◆ ◆
257
先程までの空間はコンクリートの様な無機質な壁のシンプルな部屋。
・・・
今居るのは将に監獄であった。
そこに12∼13歳前後の黒髪の少女が横たわっていた。
︵そうか・・・この中でもちゃんと成長するんだな。︶
簡素なベッドに寝かされ、苦痛と悲しみに満ちた表情。
つい先日見た顔と、いつか見た顔がハジメの中で混ざり合う。
マコト
﹁・・・麻琴??﹂
258
サイカ島の悲劇
サイカ島︵後書き︶
最初、
は内容を考えていませんでした。ただ、
ウェンディーヌにトラウマがあり、旅の目的がある、それだけでし
た。しかし、麻琴に転生すべき罪がある。それを考えた時に自然と
ピースが嵌りました。こう言う経験は不思議で気持ち良いです。
259
ヤンデレ娘の暴走︵前書き︶
久し振りの戦闘シーン、楽しいですねぇ。難しいですねぇ。
260
ヤンデレ娘の暴走
マコト
﹁・・・麻琴??﹂
年齢は確かに13歳の筈だ。
見た目からもククリの話からも間違いないだろう。
マコト
サイジョウ
しかし、目の前の少女の見た目、雰囲気、間違いなく彼の知る西条
麻琴その人だ。
苦悶の表情を浮かべながら眠り続ける彼女の頬を手で拭ってやる。
イリュージョニスト
が、その後も涙は止め処なく溢れ続けてきた。
5年間もこの状況・・・。
もしも本当に彼女が麻琴であり、幻体師の資質が有ったと言うなら
ば。
彼女が実体化した力というのも何となく想像がつく。前世での出来
事が少なからず関わっているのだろう。
︵それなら・・・︶
﹁ククリ。﹂
﹁彼女を起こしてくれ。﹂
◆ ◆ ◆
ククリは耳を疑った。
261
イリュージョン
馬鹿な事を言うな、フルパワーの姉さんと俺が2人がかりで止めた
って言うのに。
例え4資質持ちだとしても今連れているのは幻体一体ではないか。
﹁せめて姉さんを呼び出して・・・﹂
﹁くどい!!﹂
﹁8歳の少女を13歳になるまで延々悪夢の中に封じ込めるなんて、
そんな非人道的な行為が許されるんなら。﹂
俺がお前を滅してでもこの少女を救う。
ミシィカル・ビースト
︵︱︱!!召喚獣の俺に全力で喧嘩売ってまで災厄の少女を救おう
ってか??︶
︵マスター。︶
︵ああ・・・。分かってるンよ、クロノス、心配してくれて有難う。
︶
一瞬前まで焼け付かんばかりの怒気を迸らせていたハジメだったが、
イリュージョン
クロノスの声に頭を冷やして真っ直ぐククリを見つめ直す。
﹁済まない。言い過ぎた。﹂
イリュージョン
﹁でも信じてくれないか?俺の予想が正しければ彼女の幻体と俺の
幻体は或る意味で対を成す物の筈なんだ。少なくとも、俺もかなり
クロノスを使いこなす事は出来ている。もし暴走したとしても再び
止める程度の力は最低限ある筈だ。﹂
﹁・・・分かった。ヤバくなったら俺を思いっ切り呼んでくれ。今
は契約されていないので何とも言えないが、最善を尽くしてみよう。
﹂
262
◆ ◆ ◆
眠り続ける彼女の両手を握り、手の甲に口付ける。
本当なら唇の方が効率は良いのだが、流石に無抵抗な少女にそれを
行うのは憚られた。
流れ込んで来た、暗く、悲しみに満ちた念。
︵どうして裏切ったの?︶
︵嘘つかないで!!︶
︵どうして姉さんを選ぶの??︶
︵ごめんなさい***ちゃん。ごめんなさいごめんなさい。︶
︵・・・いいえ、アナタは刺されて当然。。︶
︵一人で逝かせない。あの世でも縛り続けてやる!!︶
︵もうどうでも良い。全部壊れちゃえ︶
正と負の感情が入り乱れ、次々と浮かんでは帰依、消えてはまた浮
かび、少女はその波に苛まれている。
︵・・・誰?︶
︵怖い夢。永遠に続く夢。内容なんてもうどうでも良い︶
︵でもこの暖かなのは誰?︶
ああ、そうか。
アタシはきっと夢の中にいるんだ。
いつも見る夢。どれ程続くかすら分からない夢の中で、必ず暖かい
何かがアタシを救い出してくれた。
﹁朝かしら??﹂
﹁うん、そろそろ起きようか?﹂
263
暖かな何か。
﹁夢は終わりにしようよ。﹂
◆ ◆ ◆
永遠に続くと思っていた闇の中から目を開いた時、そこにはアタシ
と同じ黒髪黒目の男の人が立っていた。
何だろう。頭がもやもやする。
何か、思い出さなきゃいけない事が有る気がする。
﹁ここは・・・?アナタは・・・??﹂
﹁ここが何処か、それは重要じゃない。ここは君を守る為の場所だ
よ。﹂
ではアナタは?
再び問おうとした瞬間、少女の魂の、奥底に固く封印されていた記
憶が一気に解き放たれる!!
情けなくもはにかんだ顔を見せた彼。姉さんにキスした彼。刺した
マコト
手応え、首に掛かる紐の重み、頬を伝ったナニカ・・・。
ハジメ
マコト
﹁一ちゃん・・・??﹂
﹁麻琴・・・、やっぱり麻琴なんだよな・・・?﹂
﹁どうして??﹂
﹁えっ!?﹂
﹁どうしてここまで付き纏うのぉぉっっ!!﹂
264
マコト
マコト
イリュージョン
イリュージョン
ぶわり!!っと空間が膨張したと思った途端、麻琴から幻体が飛び
出す。
﹁クロノス!!﹂
呼び出す前に彼女は既に飛び出し、麻琴の幻体との間に立ち塞がっ
ている。
﹁マスター!早く武装を!!﹂
言われるまでもない。既に指輪とピアスの力は全開で解放している。
アメジスト
﹁パンドラ!全部壊しちゃえ!!みんな、みんな大っ嫌い!!!﹂
イリュージョン
スカイブルーの髪、浅黒い肌、紫水晶の瞳。
妖しい美貌を秘めた幻体は力に溺れるのを隠しもせず高らかな金切
り声を上げた。
﹁きゃははははははははっっっ!!﹂
マコト
﹁ダメです!マスター、麻琴さんもパンドラも正気を失っています。
一旦押さえ込まない事には会話どころではありません!!﹂
話しながらもクロノスは必死に空間に障壁を張り、四方八方から襲
い来るパンドラの攻撃を防いでいる。
マコト
イリュージョン
一撃一撃は完全に防げているが、じりじりと押されていた。
・ ・ ・ ・
︵くっ!なんてスピードだ!︶
パンドラの攻撃は速すぎる。
どう見ても荒事に慣れている様に見えない少女の幻体。
俺の常識で考えてはいけないのかも知れないが、それにしてもまる
でこちらの攻撃の一瞬先に相手が動く為に、防戦一方に回らざるを
得ない。
265
くそ!どうするどうするどうするどうするっ!?
これは、俺の戦闘に対するイメージの欠落かっ!?
相手の能力が未知、クロノスの力は今の所まだ直接の戦闘に向いた
物が調整出来ていない。
戦いながらイメージを膨らませるなんて余裕はまだ無い。
単純に殴り合いをして敵う相手でも無さそうだ。
イリュージョン
なら俺が??
いや、幻体には直接の物理攻撃が通じない。
この高価な武器はお飾りか??
・・・そうだ!!
﹁クロノス、俺の刀に宿れ!!﹂
﹁え?﹂
イリュージョン
﹁空間を操る能力、それを直接武器に乗せる。空間をずらして別の
位相からの攻撃なら例え幻体とは言え真っ二つの筈だ!﹂
﹁しかし・・・それではマスターをお守り出来ません!!﹂
﹁どうせこのままならジリ貧だ。ダメなら一旦退却だ!﹂
﹁・・・分かりました。。﹂
﹁マスターの想いが、力が、私に流れ込んで来ます。また、私に力
を与えて頂けるんですね。。﹂
瞬間!
266
クロノスの姿がかき消えた。
ハジメ
標的を見失ったパンドラがそれでも本体への攻撃を仕掛けてくる。
眼前に襲い来る拳、背後にはクロノスが立ち、ハジメを抱きしめて
いる。
コンマ以下のタイミング、攻撃が当たる直前でハジメとクロノスの
姿が今度こそ本当に消えた。
﹁︱︱︱︱!!!!????﹂
サイカ島までの飛行中に考えていた事。
彼女は何故、こんなにも速く飛べるのか??
翼は確かにある。しかし、羽ばたいてすらいない。
空気抵抗もGも全く感じない。
一種の空間跳躍なのではないのか??
今、イメージ出来るのはごく僅かな距離、しかも視認出来る範囲の
み。
しかし!それで十分だ!!
パンドラの右頭上からハジメが降ってくる!
右手には奇妙な形の扇子の様な物。
﹁わがまま娘にはぁぁぁっっっ!!!!﹂
ヒヒイロカネで出来たそれを大上段に振りかぶり、
﹁おしおーきだぁぁぁーーーーっっ!!!﹂
防御もへったくれもない捨て身の一撃!!
両腕を翳して完全にガードした筈のパンドラであったがガードした
267
が込められていた事を。
腕を通じて脳髄まで揺さぶられる様な激しい超振動!
念
パンドラには分からなかっただろう。
この一撃には空間ごと振動させる
足下までがくがくと震えが伝わり、地面にへたり込む頃にはパンド
ブラックアウト
マコト
ラの目に宿っていた狂気が姿を消して行く。
意識が遠のく中で、麻琴は確かに見た。
︵・・・何でハリセン??︶
◆ ◆ ◆
マコが目を開いた時、モヤモヤと霧がかかった様に混濁していた思
考が涼風に吹かれた様に晴れ渡っていたのを感じた。
﹁気が着いたか?﹂
眼前には顔を心配で埋め尽くしてしまっている少年。
﹁アタシ、一体・・・?﹂
﹁ゆっくり話そう。あの銀杏の木から互いに起きた事を全部。今は
それより、体は無事か?気持ちは落ち着いたか?﹂
﹁え、えぇ。凄く頭がすっきりしてるわ。それに何だかとっても甘
ったるい気分。。﹂
それが﹁気付け薬:彼女の秘蜜﹂風味のせいだと知ったらややこし
い事になりそうなのでハジメは余計な事は隠して置いた。。。
憑物
を落としてしまうなんて、流石はハジメさん
︵お見事でした。彼女と知り合いだっただけでもびっくりなのに、
イリュージョン
一撃で幻体の
ですね︶
﹁ククリ!彼女はもう、憑物じゃなくなってるのか!?﹂
268
イリュージョン
︵ええ、そもそも俺の知る限りで幻体の憑物が彼女以外に存在しま
せんので、払い方自体が不明だったのですが、まさかハリセンチョ
ップ?とか言う異国の秘技で解いてしまうなんてもう顎が外れそう
です。︶
﹁あの時は何となく﹃彼女を傷付けたくない﹄﹃衝撃が次々に襲う
方法﹄って無我夢中だったんだけど・・・。うまくいって良かった。
﹂
︵それですよ。アナタが異世界から来てるからこそ、この世界に存
在しない方法をイメージ出来る。それが今回の様な解決に導けたの
です。︶
﹁戦ってる途中で気付いたんだよ。俺の頭の中には確かにこの世界
に存在しない色んな知識があるかも知れない。でも、人間ってとっ
さの時に思い出せる事が限られてるだろ??だったら、クロノスを
サーバーにして俺の知識を都度都度ダウンロードしたらどうか、っ
て。﹂
マテリアル・ワールド
そこまで話して殺風景なコンクリートの部屋に気付いた。
﹁それはそうと、そろそろ物質界に出て話さないか?外の空気が吸
いたくなってきたよ。﹂
269
ヤンデレ娘の暴走︵後書き︶
ヒヒイロカネ製のハリセンチョップ。初めて描いた
がこんなになるなんて、一体どうしてこうなった。
剣
のシーン
270
彼女の欲した力︵前書き︶
マコト
麻琴がここまで自由に動いてくれるとは思いませんでした。彼女の
出番をどうするか、書き始めた頃は幾ら考えてもちっとも思い浮か
ばなかったのですが、ほんとに嬉しい誤算です。
271
彼女の欲した力
サイジョウ
﹁なぁ、確認して良いか?西条
ないんだよな?﹂
マコト
麻琴、17歳、の転生体で間違い
﹁えぇ。そして今のアタシはマリンフローのコミカ島生まれ、マコ・
ハジメ
シュワルツ、8歳、・・・の筈なんだけどこの体はどうしてかしら
??それに、どうして一ちゃんはあの時の姿のままなの??﹂
マコト
﹁麻琴、じゃなくてこれからはマコと呼ぼうか。マコは何処まで覚
えてる?﹂
﹁えっと、幻体化の儀式で﹃真実を見渡す力﹄を望んだらパンドラ
が出て来て・・・。﹂
ずきぃん!
そこまで話した後、見る見る彼女の顔色が悪くなる。
﹁ア、アタシなんてことを・・・﹂
少しずつ思い出し始めたらしい。
﹁辛くなったら休んで良い。但し、必ず最後まで続ける事。
向こうの世界で起きた事は俺達2人以外に直接関係がないから取り
敢えず後で話す。嘘偽りなく話す。
まずはここ、サイカ島で起こった事をマコの知る事と俺達の知って
る事、擦り合せながら整理しよう。﹂
272
◆ ◆ ◆
﹁アタシはこっちで生まれた時からある夢を頻繁に見ていた。起き
ると内容を忘れている。でも夢の最後に暖かな何かが必ずアタシを
夢から助け出してくれる。
アストラル・ワ
最初、両親や兄弟は﹃ただの夢﹄として取り合わなかった。でも、
ールド
インヴォーカー
そこに居るククリさんやリヴィエルさんが話を聞いた時に、精神世
界へのアクセスという獣魔師としての資質ではないか?と話をされ
たの。﹂
アストラル・ワールド
﹁その通りだ。自分の精神世界の在り方について強くイメージ出来
る場合、精神生命体としての獣魔を扱う能力に強く関わっている場
イリュージョニスト
合が多い。取り分け、﹃夢﹄と言う自分の精神像を続けてイメージ
し続けている様な場合は幻体師である事が多く、実際彼女もそうだ
った。﹂
インヴォーカー
﹁獣魔師云々は実際正直どうでも良かったの。ただ、真実を知る切
欠になるならと思って資質検査を受けて、﹃真実を見渡す力﹄を望
んだ。そこで私は知ってしまった。﹂
自分が転生体である、と言う事をか。
﹁自分には自分の知らないもう一人の過去の自分がいて、それの罪
を着せられてここにいる、と言う事を。冗談じゃないと思った。私
−
祐実果姉さんとの一件
って
がただの彼女のお
満更でもない
−
の人生が人の借り物だったなんて。そして、前の人生での一ちゃん
が起こした事
ふざけだった事。でも、その時、一ちゃんが
イリュージョン
顔してにやついてた事。その後自分の起こした取り返しもつかない
事。全部の感情が綯い交ぜになった時、パンドラが幻体として勝手
に現れて、アタシの感情を飲み込みながら暴走を始めた。﹂
273
ここまで一ちゃんの知ってる事と違いはない?と聞いてくる。
目で頷き次を促す。
﹁もう、どうでも良かった。一度生きて、覚悟決めて死んで、もう
一回生かされて、前の人生の辛い思い出に振り回されるなんて。飛
ばされたこの世界が憎かった。両親からは遺伝する筈の無いこの髪
も目の色も全部偽りに思えた。偽りの体に偽りの人生、偽りの愛情。
そんなもの全部壊してしまえ。﹂
淡々と語り続けるマコ。
しかし、俺には彼女が話をしながら自らを傷付け続けているように
しか見えない。
正直、もう止めてやりたい。
こんな方法じゃなく、別の方法を考えてやりたい。
でも、これが彼女がここで生きる意味だ。
犯した罪を見つめ直すと言うこと。
そして、真っ直ぐ自分の人生を楽しんで欲しい。
アストラル・ワールド
﹁その先、良く覚えてない。何か、自分の精神世界に籠もってギャ
ーギャー喚いてたらいつの間にか目の前に一ちゃんがいた。﹂
マコト
﹁分かった。よく頑張ったな。俺、マコの、いや、麻琴のそう言う
とこ大好きだった。﹂
少しほっとした表情を見せた彼女だが、まだこっちの話が終わって
いない。
﹁最後まで聞くって約束だったよね?覚悟して聞いてくれ。
まず、ここいら一体の島はその時の余波でかなり数を減らしてる。
274
に墜ちた。
アストラル・ワールド
憑物
サイカ島は既に存在しないし、恐らくマコの生まれ故郷のコミカ島
も存在しない。﹂
ククリに目を向けると、黙って頷いた。
イリュージョニスト
﹁マコはその時、幻体師として恐らく世界初の
リヴィエルが全力でマコの暴走を止め、ククリが精神世界に封印し
サイカ島の悲劇
として世界中に知れ渡っている。﹂
てくれた。それから5年の歳月が既に流れている。そしてこの一連
の出来事は
﹁そこから先、ハジメの知らないこともあるだろうから俺が補足す
るよ。ここは既に独立国家としてのマリンフローではない。事件の
後、プロット公国に接収され、残された小さな島々で﹃プロット公
国、マリンフロー自治区﹄を名乗っている。そして、事件に関わっ
た人間で唯一の生き残りがいる。﹂
﹁ウェンディーヌだ。ここから先は契約内容に抵触するので話は出
来ないが、直接会って話を聞くと良い。﹂
◆ ◆ ◆
﹁ククリ、君は今、誰とも契約してないんだよね?﹂
﹁そうだが・・・?﹂
﹁それなのに、﹃契約内容に抵触する??﹄﹂
うん、何となく分かって来た。
﹁・・・相変わらず鋭いね。。ハジメには嘘がつけそうにない。﹂
﹁良いんだ、それよりも・・・﹂
﹁契約しないか?だろう??﹂
ここいら一帯の警護
更に言えば
島のフリをしてそこに居て
﹁ククリも物わかりが良くって助かるよ。前の召喚主との契約内容
は
275
くれ
、そんなとこかな?﹂
﹁その通りだ。そこまで分かってるって事は前の召喚主の想像もつ
いているんだろうな。。﹂
﹁いや、もう彼女しか有り得ないだろ?それを考えると・・・。﹂
ククリはやっぱり優しいよね。
﹁︱︱!!﹂
﹁契約解除後、フルパワーを揮えない中、ここいらの警護、大変だ
ったろう?
マコ
俺は最初、マコを5年間も放置した事に怒りを覚えてしまった。
でも、違うよな?
ククリは自分の中に彼女が居るのに何も出来ない事に苛ついていた。
アストラル・ワールド
だからこそ必死で俺を捕まえようとした。
精神世界で直接触れて、彼女の悲しみを感じ続けるのはククリにと
っても拷問に等しかっただろうに・・・。﹂
﹁まぁそれは置いといてまずはフルパワーが出せないとお話になら
ない。それと、ククリには出来れば一緒に来て欲しいんだ。俺はこ
の世界の常識に疎い。色々教えて欲しいことが沢山あるし・・・。﹂
﹁?﹂
黒一角獣
﹁こっち来て、同年代の男友達がいなくってさ。遊び相手になって
よ。﹂
﹁︱︱!!
姉さんから噂は聞いていたけど、ブラックホーンホースの時も同じ
276
事言ったらしいね。男までたらし込んでどうするつもりだ??﹂
﹁あ、いや、それにさぁ。4資質がどうとか関係ないぐらいにどう
しようもないぐらいに未熟だから。トレーニング相手にもなって欲
しいんだ。﹂
﹁面白い、スパルタで鍛えたげるよ。じゃぁ、早速だけど・・・﹂
﹁ハジメ・タカナシ、貴方に一友人として力を貸そう!契約してく
れるかな?ククリ・ル・ミラージュメイガスの名において。﹂
﹁ククリ・ル・ミラージュメイガス、君の良き友として、楽しく、
刺激的な人生を送りたい。契約しよう!ハジメ・タカナシの名にお
いて。﹂
どこにキスしたかは、秘密だ!!
◆ ◆ ◆
この後は忙しかった。
ククリと契約して、ここいら一帯の警護から出来れば任務解除して
あげたかったがすぐには難しい。
ただ、負担を軽減する為にも水中と空中両方からの警護を増やして
あげたかった。
ククリに、この近く・或いは多少遠くてもOKなので、力を持って
いて比較的人間に友好的な種族を聞き出す。
聖アルケミア帝国の西端から1500kmほど、ここから北東に2
ガルーダ
という一族がいる。
000km程行くとホホバ山脈という5000m級の山脈があり、
その頂上に住む
一対一なら龍達に到底敵わない物の、空を制する物、とまで言われ
る程の飛翔能力と非常に忠実・果敢な性格で、更に風と雷を操る能
力から﹁10体ぐらいで連隊組まれたら俺らも簡単に喧嘩しない﹂
のだとか。
277
マーマン
マーメイド
更に、この辺りはリヴィエルが水龍王として君臨していた地域なの
カンパニー
で彼女の眷属の魚人や人魚が未だに沢山住んでおり、彼等・彼女等
は個々体の能力は低いながらも族長を使役獣魔にすれば群れとして
の統率力が高い為、ゲリラ戦法的に水中では強い力を発揮する。
族長の居場所はリヴィエルに聞けば分かるのだろうが、彼女にはま
だウェンディーヌから目を離して欲しくない。
テイマー
﹁ククリ、一時的に俺は無防備になる。背中に乗っけて貰ってて悪
いけど、ちょっと宜しく。﹂
クロノス
イリュージョン
︵ねぇ、どうして貴方と契約出来てるの??それに彼は操獣師でし
ょ?彼のアレってどう見ても幻体じゃない!意味が分からないわ。。
︶
︵ま、詳しくは本人から聞いてくれ。まだ、聞いてない話も沢山あ
るんだろう??︶
﹂
﹁おーい、聞こえてるぞ∼?積もる話は後で必ず最後までするから
飛んでけ!マイクロ∼ズ!!検索モード最高範囲!!
ちょっと用事を優先させて?﹂
﹁
びかぁっ!っとクロノスが翼どころか全身から激しい光を放つ。
意識を持った霧の様に、凄まじい粒子が解き放たれると同時にハジ
メは膝から崩れ落ちた。
﹁ちょ、ちょっと!?大丈夫??﹂
﹁大丈夫だ。周囲の検索に集中する為に意識を切ったんだろう。﹂
︵族長について知ってる人、獣魔、或いは族長そのもの・・・︶
今回は検索する条件が幅広いので流れ込む情報量も前回より多い。
しかし本人が意識を切っている事とこの1日でクロノスとの連携の
278
マーメイド
機会が増えた為か、明らかに前回よりクロノスの使役力が上昇して
いる。
マーマン
海の中には何千もの魚人や人魚達が居た。特にサイカ島の周辺には
大量の武装した戦士達が集まっており、統率の取れた軍隊としての
行動を取っているのが分かる。
︵そうか・・・。彼等も・・・。︶
彼等は一つの意識を共有しているかの様な動き。
これなら誰に聞いても良さそうだ。
コミュニケーション
ハジメは一旦マイクロ∼ズを解除し、燕大程のチビクロを数十体展
開する。
マーマン
もう一度彼女等を海に潜らせて、魚人の一人に交渉を行う。
シエキスルテイドノ
チカラハ
アル
絶対に危害を与えない事をブレスレットに懸けて誓い、族長と直接
チョクセツ
交渉させて貰う様頼み込んだ。
︵オレタチヲ
ノダロウ?ナゼ、ソウシナイ??︶
﹁俺は上下関係を築きたいんじゃない。必要に迫られて命令する事
キイテクル。︶
が仮にあるとしても、まずは友好関係を築く方が先だ。﹂
︵・・・イイダロウ。プリンセスニ
プリンセス??
◆ ◆ ◆
コミュニケーション
マーマン
♪♪♪
交渉した魚人に連れられて。
小さな小島に来てみれば。
絵にも描けない美しさ、な少女が居ました。
279
♪♪♪
腰まで真っ直ぐ伸びた銀髪、トパーズ色に輝く瞳、抜ける様に白い
肌。
見た目は10歳を少し越えたぐらいの少女に見えるが、アンバラン
スなラインをギリギリ踏み越えないレベルでの豊満なバスト。
今は椅子に腰掛けており、下半身は人魚と同じ様に魚になっている
が、彼女等とは鱗の輝きからしてまるでレベルが違う。それはまる
でミスリルで出来ているかの様な目映さ。
珊瑚の冠、ピアス、指輪をしている以外は一糸纏わぬ見事な裸体だ。
︵ククリ、彼女は一体何者??︶
︵どうやらセイレーンの様だな。まさか俺もこんな上位精神生命体
がこの辺に居たとは知らなかった。︶
どれぐらい上位?と聞くと、アテネと同じぐらいとか。マジですか
??
って何!?︶
調べ
ハーモニー
、とっても綺
﹁この世界に来て僅か数日でここに辿り着くなんて、実力だけじゃ
調べ
ハーモニー
なくて奇妙な星に導かれてますね。アナタの
麗。﹂
︵ちょっと!
ハーモニー
︵セイレーンは歌を操る種族だ。この世の物理現象から人の精神構
造に至るまで、様々な事象が音楽の調べの様に聞こえる、らしい。
俺もよく知らん。︶
﹁そんなに警戒しなくっても良いですよ?別に取って喰おうとも思
いませんし。それに、私達が何をして来ていたか、海の底で見てた
でしょう??﹂
マイクロ∼ズを感知してたのかよ。そうそう簡単に分かる様な代物
じゃねーぞ。
280
ハーモニー
﹁魔力の流れがまだまだ大雑把ですし、かなり焦ってたでしょう?
あれぐらいなら聞こえますよ。真摯で綺麗な調べでした。﹂
左様ですか。
﹁それで?お話ししましょうよ。何ならそちらのブレスレットに私
も誓いましょうか?危害を加えない、と。﹂
﹁いや、勿論それは結構です。海底での活動を見せて頂きましたか
ら。﹂
﹁陰ながら守り続けて下さってたんですね。既に無きサイカ島やこ
の一帯を。﹂
にっこりと微笑むと、
﹁やっぱりお気付きでしたね。別に、誰に気付いて欲しくてやって
いた訳でも感謝されたくてやっていた訳でもありません。マコと言
う少女の悲しみ、死んでいった島の人達の想い、リヴィエルとクク
サイカ島の悲劇
リの奮闘、そしてウェンディーヌと言う少女の孤独な戦い。私自身
はリヴィエルの眷属に入っていませんでしたし、
にど
で当時の族長は亡くなってしまいましたがその後黙って見ていら
サイカ島の悲劇
れる程、私達獣魔は冷徹な存在ではありません。﹂
﹁聞かせて頂けますか?ウェンディーヌが
う関わったかを。﹂
﹁それは構わないのですが・・・。自分の目で見られては如何でし
ょうか?﹂
俺自身の目??
︵マスター、一緒に見に行きましょう。そこで何があったか、ウェ
281
ンディーヌさんが何に怒り、何故悲しんでおられるのか、確かめに
行きましょう︶
そうか。クロノスの能力、空間操作ばかり使っていたが・・・。
﹁そうだな。見に行こうか。5年前のサイカ島を。﹂
282
彼女の欲した力︵後書き︶
マコにちっとも詳しい事情が説明出来てねーじゃん!って思ったそ
この貴方。中々俺と気が合いますね。是非僕と友達になって下さい。
ところで、閑話の時のマコが5歳、と言う事から時系列どうなって
サイカ島の悲劇
という事です。
んじゃい、と思われたかも知れませんが、単純に閑話から3年後に
起こったのが
283
そして彼女は旅に出る︵前書き︶
長くなりますがキリの良いところまで書かせて貰いました。
284
そして彼女は旅に出る
イマジネーション
クロノスに想像力を流し込む。
クロノス
時を越え、世界を見渡す力を。
マコト
俺が、彼女に真に欲した力。
麻琴が何を見て何に絶望したのか。
その時の全てを見渡す力。
そして、願わくばそれを取り除く力。
しかし・・・
﹁ダメか・・・。﹂
初めて自分から時間を操ろうとしたのだが、どう頑張っても今の俺
には5年という時を越えるだけの魔力が足りない。
想像力を創造力に変えようとした時、精々が数分間の時を越えるだ
けで枯渇してしまいそうな程、ごっそりと魔力が持って行かれるの
を感じた。
﹁マスター。﹂
﹁ああ、分かってる。﹂
何もかもを一度に願うのは欲張りに過ぎる。
時を越えて周辺を検索し、生身が時を越えた事による世界の歪みの
修正、それらを並行展開しながら災厄の日に辿り着き、災厄から身
を守りながら行き当たりばったりでの行動と言うのは今の俺には到
底不可能だ。
285
一つだけ方法は思いつかなくもないが、それをするにはまだ時期尚
早に思われる。
・
﹁気を取り直していこうか。その日を見に。﹂
﹁はい。マイクロ∼ズを展開しますね?﹂
﹁行くよ?﹂
﹁準備OKです。﹂
﹁飛び出せ、マイクロ∼ズ!遙かなる時を駆け抜けこの地に残され
た記憶を辿れ!!﹂
同時に二人は意識を失いセイレーンの私室に崩れ落ちた。
﹁本当に自力で見に行ってしまうなんて・・・。何れ、実際に時を
越える日が来てしまうのかしら??﹂
意識を飛ばしたハジメを眺めながら独りごちるセイレーンであった。
◆ ◆ ◆
穏やかに晴れた日。
ウェンディーヌはいつも通り龍の姉弟と戯れていた。
ミシィカル・ビースト
先日、11歳になったばかりの彼女、最近漸く自分が女性らしくな
って来てわくわくの毎日だ。
そんな彼女の視線のベクトルは、とってもハンサムな彼女の召喚獣
に向けられている。
﹁ククリ∼∼!!﹂
右手のミスリルが光り、呼びかけに応じて件の彼がするりと抜け出
てきた。
286
︵やっぱりか・・・。ウェンディーヌは最初、ククリと契約してた
んだな。︶
﹁どうした?今日は資質試験をするからあんまり遊べないよ?﹂
﹁分かってるわよ!母さん達にリヴィエル呼んで貰って、マコちゃ
ん迎えに行こうと思って。﹂
サ
リヴィエルはサイカ島を始めとしたマリンフロー一帯の島々の守護
龍だ。
モナー
この辺りで大きな力を持った獣魔が見つからない為、この辺りの召
喚師は主に彼女と契約している。ククリも十分に大きな力を持つの
だが、水龍王としての彼女の力は海産物資源を生業とするこの辺り
の住人にとって都合が良かったのだ。
一方、ウェンディーヌはこの辺りでは珍しく、ククリと契約してい
た。
サモナー
彼女が資質試験を受けたのは1年前の事。
両親の才を受け継いでか、召喚師の資質が有ると分かった時、綺麗
アストラル・ドラゴン
だがしょっちゅう自分の事をからかってくるリヴィエルよりも、燃
える様な美貌を誇る幻想竜の彼の方が一緒にいて楽しそうだったか
らだ。資質試験と獣魔契約で彼に捧げたファーストキスは一生の思
い出だ。
隣のコミカ島のマコという少女は8歳という年齢ながら、時に妙に
大人びた様な妙に愁いを帯びた様な表情をする。ククリがしょっち
ゅう彼女の事を﹁若いのに才能がありそうだ﹂と褒めそやすのもイ
ラッとする。自分だってこんなに若くて可愛いって言うのに!!
正直、彼女にはまだ資質試験を受けて欲しくない。
287
自分より若い年齢で資質を認められるのはどうにも癪だし、それに
真面目な話、彼女は何だか自分の目から見て居てすら危うい。
インヴォーカー
ウェンディーヌには兄弟がいなかったため、マコとは年の近い友人
としてしょっちゅう遊んでいたが、僅か一年ながら獣魔師として過
アストラル・ワールド
ごしてみて、彼等獣魔の本当の凄味と言う物を感じている。
インヴォーカー
精神的にアンバランスさを感じさせる彼女には、精神世界の力を操
る獣魔師の力は不安でならない。
﹁ねぇ、ククリ、マコちゃんの資質試験、今じゃなきゃダメかな?
?﹂
﹁まぁたウェンディーヌの焼き餅焼か?姉さんと俺で監視しながら
行うから大丈夫だって。﹂
そんなんじゃないのに・・・とぶつぶつ言いながらも焼き餅を妬い
ているのは否定出来ない為、そう言われると何も言い返せない。
あーだこーだ文句言いながら浜に行くと、既に龍体となったリヴィ
エルが2人を待っていた。
︵お、リヴィエルの本気龍体モード久し振りに見たなぁ。︶
︵流石に大きいですね。この島に擬態していた時のククリさんと同
じぐらいでしょうか?︶
・ ・
︵流石に知らない人里の近くで10kmもの巨体晒す訳にはいかん
のだろうさ。それより・・・ウェンディーヌのアレ、ほんとに5年
前か??︶
︵・・・そんなに巨乳がお好きなら私もそう作って頂ければ良かっ
たんです!もし宜しければここでお好きなだけ眺めて行かれますか
?私は続きを見に行きますので。︶
︵わわっ!ゴメンってば。ここで可愛い可愛いクロノスちゃんにほ
っとかれたら、俺文字通り路頭に迷っちゃうよ︶
288
彼等は今、上空を飛び回り一帯にマイクロ∼ズを展開してこの地域
で起きた事を余すことなく記録・記憶している。
過去の時空に直接入り込む事は出来なかった為、少しずれた位相か
らただ眺めているだけだ。
︵少し時を進めよう。資質検査の直前まで︶
︵了解しました︶
◆ ◆ ◆
サモナー
﹁マコちゃん、ほんとに良いの?アタシは毎日ククリやリヴィエル
と遊んでたから自然と召喚師の資質に目覚めたみたいだけど、もう
ちょっと大きくなってからでも良いんじゃない?﹂
﹁ウェンディ姉さん、有難う。でも、アタシは知りたいんです。毎
インヴォーカー
日見る不思議な夢、辛いけど暖かな夢、私は何を見ているのか。ど
うしてあんなのを見なきゃ行けないのか、それが獣魔師の資質のせ
いだというのならそれはそれで納得出来ますから。﹂
本当にアタシより3つも年下とは到底思えない。
インヴォーカー
﹁分かった。じゃぁ、一つ約束して。それが獣魔師のせいじゃなく
インヴォーカー
ってもマコのせいじゃない。アタシが一緒に方法探したげるから無
理しないで。﹂
﹁有難う。じゃぁ、もしアタシが獣魔師になれたら、一緒にパーテ
ィ組みましょう。﹂
﹁良いわね、それ凄い良い。美少女2人旅、色んな世界を見に行こ
う。アチコチに名を残してやろうよ!!﹂
◆ ◆ ◆
289
資質検査を終えたマコが一旦ギルドにブレスレットを作りに戻って
きた。
その後、マコが目を閉じ、龍体となったククリが顎を開く。
アストラル・ワールド
ククリはマコを摘み上げるとそのまま一呑みにした。
︵飲み込む事で精神世界に引きずり込める、って事か。︶
その後暫くは何も無かった。
︵今頃は幻体化の儀式の最中だろうか・・・︶
そう思った瞬間!!
どばぁぁん!!
突如ククリの土手っ腹に穴が空き、何かが飛び出してきた。
狂った様に泣き叫ぶマコ。
狂った様に歓喜とも狂気とも思えぬ声を上げるパンドラ。
一体どちらがどちらを支配しているのか、コントロールしているの
かされているのか魔力を見ても全く分からない。
水に垂らした墨汁の如く二人の意識は混ざり合い、時に反発し合い、
インヴォーカー
その度に物凄いエネルギーが放出される。
︵これが・・・憑物に墜ちた獣魔師の力か・・・!!︶
見ている事しか出来ない自分が歯痒い。
パンドラに引き摺られる様に、或いはパンドラの力を振りかざすか
つぶさ
の様に弾け回っていたマコだが、マイクロ∼ズを通して彼女の声、
表情が具に伝わってくる。
ハジメ
︵一ちゃんなんか大っ嫌い!こんな偽物の人生壊れちゃえ!世界ご
と全部壊れちゃえ!!︶
290
悲鳴を上げる彼女は止め処ない涙を流し、パンドラもまた狂気の声
を上げながら血の涙を流していた。
呆気にとられていたハジメが正気に戻った時にはサイカ島は半分も
形を止めていなかった。
◆ ◆ ◆
インヴォーカー
インヴォーカー
そこからの3ヶ月、残された数少ない獣魔師達で必死の逃亡が行わ
れた。
大陸本土から少し離れたこの地で、地方の獣魔師ギルド支部が真っ
先に壊滅的なダメージを受けた今、彼等だけで出来る事は残された
者達の避難と、ギルドマスターへの報告以外になかった。
彼等は一人の島民を救う為に何人もで力を合わせ、そんな彼等も一
人、また一人と数を減らしていった。
そして、残された数少ない力ある者達・・・。
﹁逃げよう。エレン様ならきっと何とかして下さる。SSの方々も
動いて下さっているかも知れない。俺達に出来る事はいち早くこの
サモナー
状況を伝える事以外にないだろう??﹂
﹁アナタ、私は召喚師レティシア・トライザスタであると同時に、
ウェンディーヌ・トライザスタの母親であり、リュート・トライザ
スタの妻でもあります。そして、私達は今は無きサイカ島の最後の
サモナー
3人です。故郷をここまで蹂躙されて黙っていられるのなら私は何
の為に召喚師になったのか分かりません。﹂
しかし・・・と言おうとしたリュートの口を塞ぐ様に、ウェンディ
ーヌが口を開いた。
291
﹁お母さん。﹂
﹁私も戦う。ククリを召喚出来るのはもうアタシだけだし、ここの
5人でどうにか出来なかったらどっちにしろお仕舞いでしょ?﹂
3ヶ月、幼い少女の姿を見続けてきたハジメだが、ああやはりこの
少女こそはあのウェンディーヌに間違いない、と確信した。自らと
クロノスの力を疑う訳ではないが、真っ直ぐで暖かな魂の煌めき。
そしてまだ、傷付く事を知らない幼さ故の危うさ。
﹁ウェンディーヌにまで戦わせるのですか?アナタ??﹂
レティシアの発破に、リュートから迷いの表情が消えた。
﹁レティシア、リヴィエル。﹂
﹁一生のお願いだ。心を合わせてくれ。﹂
﹁﹁︱︱!!﹂﹂
驚きの表情の二人、しかし反応は正反対。
﹁有難う。大好きよ、リュート。﹂
﹁レティ!!!﹂
﹁アンタ、意味分かっていってんでしょうね??アレはそんじょそ
こらの使い手でしかないアンタ達でやりきれる方法じゃないのよ?﹂
そうか。これがククリの言っていた・・・。
元々激しい性格のリヴィエルだが、相当怒っているのか、己の召喚
主に対して恐ろしく遠慮がない。
﹁俺も、残念ながらレティも、そんじょそこらの使い手だからこそ、
だよ。この島で暮らしていたからそれ程外の世界を見た訳ではない
が、そんな俺でもマコの凄まじさぐらいは分かる。Sのチームか、
292
せ
或いはそれこそSSか。いずれにしろ到底こんな田舎で望める力で
どうにか出来る物ではない。﹂
﹂
﹁リヴィエル、マコを見ながら君はこう思っていなかったか?
めて全力が揮えれば
﹁︱︱!!﹂
﹁俺も長い付き合いだからね。死んでいく人達を見ていた君の表情
を見ればそれぐらいは、ね。
見ててすぐに分かった。﹃この人なら私は本当は救えたはず・・・。
サモナー
﹄﹃どうしてみんな簡単に死んでしまう!私なら守れるのに・・・。
﹄
最期まで未熟な召喚師だったが、この島を沢山守ってくれた君にせ
めてものお礼をさせてくれ。﹂
﹁・・・お父さん、何を言ってるの??﹂
ウェンディーヌが尋常ならざる雰囲気に呑まれてしまっている。
﹁ウェンディ、君はとても頭が良い。少しばかり走りすぎる性格が
難点だけど、きっとそんな君を受け止めてくれる人が何れ現れる。・
・・父さんと母さんみたいにね。
時間がないから良く聞くんだ。これから、父さんと母さんは最後の
インヴォーカー
切り札を使う。そして必ずマコを止めてみせる。そしたらククリと
リヴィエルと一緒にプロット公国のポートル港へ行って、獣魔師ギ
ルドでギルドマスター様に報告するんだ。﹂
﹁ウェンディならいつかこの方法をもっと自由に使える日が来るだ
ろう。ウェンディのその日が来る様に、その日を実現させる事、そ
れこそが父さん達の願いであり、責任だ。これからの方法を良く見
ておきなさい。﹂
◆ ◆ ◆
293
キス。
しっとりと、戦いの中にありながらそこだけ時を切り取ったかの様
な、静謐ささえ感じさせるキス。
﹁・・・歯をぶつけてきてたお隣のリュート君も随分上手になった
わね。﹂
﹁レティシア姉ちゃんのご指導ご鞭撻の程が良かったんだろうさ。﹂
彼女等は分かっている。軽口をたたけるのもこれが最期なのだ。
りぃん
りぃん
美
レティシアはリュートのブレスレットに、リュートはレティシアの
ブレスレットに口付けをする。
場違いな行動だが、流れる様な所作で行われるキスの連続は
の一文字に尽きた。
﹁リヴィエル、後は頼んだ。﹂
﹁ウェンディーヌとマコを守ってね。﹂
りぃん
﹁﹁タイダル・ウェイブ﹂﹂
りぃん
︵?︶
りぃん
︵ブレスレットが・・・共鳴し合っている??︶
それはブレスレットだけに留まらない。
更に、単純な音が響き合うだけでもない。
294
2人の周囲が、更に広い世界が、2人を中心に共鳴を始める。
地を駆けるもの、空を駆けるもの、水を走るもの、地を這うもの、
動植物から大地に至るまでが想いを奏でているかの様だ。
眼前の海中から完全な龍体を採ったリヴィエルが姿を現したかと思
った瞬間、海抜が10m程も下がった。
﹁マコ、貴女が何を思い、何をそんなに苦しんでいるのか、私には
分からない。知りたくもない。﹂
でもね。
﹁・・・返せ。﹂
﹁もう還ってこないみんなの命、託された想い。アンタ一人で何様
のつもり!?﹂
﹁本当は殺してやりたいけど、レティに頼まれちゃったからね。1
00分の99殺しぐらいで勘弁しといたげる。﹂
街灯に惹かれた蛾の様に大きすぎる力に惹かれてマコが近付いてく
る。
﹁海よ!彼女を飲み込め!!永遠の渦潮に封じ込めてしまえ!!!﹂
リヴィエル
優しい海、慈愛に満ちた海、恵みの海、普段彼女が友とする大いな
る存在。
その海で、島で、八つ当たりを続けた彼女を決して許さない。
295
その力を以てしてもマコとパンドラの力が尽き、暴走が収まるのに
更に丸1日を必要とした。
◆ ◆ ◆
話しぶりから想像はしていた。何となく、だけど。
でも、まさかと思った。
﹁母さん?父さん?﹂
きっと力を使いすぎただけだ。
でなければこんなに静かな顔をしていて良い訳がない。
気付け薬と極上ポーションと満タンエーテルを無理矢理流し込む。
﹁ウェンディーヌ﹂
ククリが声を掛けてくる。憧れの人とは言え、今は邪魔は許さない。
﹁ウェンディーヌ、君なら分かってるんだろう??﹂
呼びかけ、頬をはたき、息を吹き込む。
﹁ウェンディーヌ、彼等はもう・・・。﹂
﹁嫌っ!聞きたくない。有り得ない。﹂
﹁何で、何で、もしそうだとしても、どうして何も言わずにアタシ
を一人にしちゃうのっ!?﹂
ミシィカル・ビースト
﹁アタシも戦うって言ったのに、こんなのが最後なら一緒に行きた
かったのに!父さん達よりアタシの方がククリを、召喚獣を上手に
296
使えるのに!!﹂
ぱしぃんっ!
・ ・ ・ ・ ・
﹁思い上がらないでくれるかな?﹂
・ ・
﹁誰が、誰に、使われてるって??﹂
ミシィカル・ビースト
マテリアル・ワールド
アストラル
﹁俺達、召喚獣を人間が使うだって??思い上がりも程々にしてく
れよ?﹂
・ワールド
﹁俺達は世界の構成分子。物質界を壊さない為に敢えて普段は精神
世界に戻っている。しかし、真摯な人間、真っ直ぐな想いに導かれ
てこの世界の安定の為に力を揮っている。﹂
﹁もう一度聞こう。誰が、誰に、使われてるって?﹂
突然の彼の怒り。普段は飄々としつつも優しいお兄さんで居てくれ
た彼の突然の怒りに反応が付いて行かない。
しかし次の言葉は最も衝撃的だった。
﹁レティシアとリュート、彼等が命懸けでした事は都合の良い武器
の様に俺達を扱う事だったか??﹂
◆ ◆ ◆
沢山泣いた。
謝った。
許して貰えない。
でも謝った。謝り続けた。
297
それでも尚許して貰えない。
泣いて泣いていっぱい謝って。
ウェンディーヌもククリも倦怠感が漂い始めたその時。
海の底で何かが動いた。
﹁﹁︱︱!!﹂﹂
2人ともその魔力の流れに即座に表情が引き締まる。
アス
﹁そんな・・・フルパワーの姉さんでもまだダメだって言うのか!
?﹂
﹁ククリ、私からの最後のお願い。﹂
﹁︱︱!?﹂
トラル・ワールド
﹁マコを助けて。今ならアタシの力量でもククリの能力で彼女を精
神世界に封印する事ぐらいは出来る筈。それが貴方にする最後のお
願い。﹂
﹁ちょ、ちょっと待て!何でここでウェンディーヌと最後にならな
きゃならない!?﹂
﹁違うの。これはククリにしか出来ないお願い。﹂
﹁マコを封印して。その後、ククリとの契約は解除させて欲しい。
アタシはリヴィエルと一緒に旅に出る。マコを救う方法を見付けて
くる。リヴィエルではこの方法は出来ないの。﹂
298
サモナー
あと、これは召喚師としてではなく、ウェンディーヌ・トライザス
タとしてのお願いなんだけど・・・。
﹁アタシがいつかサイカ島を元に戻せる様になるまで島のフリしな
がらこの辺一体の守護竜として頑張って欲しいの。この、綺麗なマ
リンフローを元に戻せる日まで。﹂
299
編はこの辺りで一段落となります。ウェンディ
そして彼女は旅に出る︵後書き︶
サイカ島の悲劇
ーヌの事件なのに彼女なんも活躍してねーじゃん、って自分でも書
きながら思いましたが、まぁまだ島の復興が終わってますし、色々
イベントはあるでしょう。
11歳のウェンディーヌと、16歳のウェンディーヌ、自分の想像
の元ではちゃんと違う人間像が浮かんでるのですが、書き分けよう
とするのは壮絶に難しかったです。
300
音の姫︵前書き︶
短め済みません。キリの良い所で終わらせました。
301
音の姫
﹁お帰りなさい。﹂
﹁あぁ。﹂
災厄の後の出来事は淡々としていた。
旅に出た後、彼女は言われた通りポートルに事態を報告した。
彼女は当時Dランクだったが、災厄級の事態を収拾し、ギルドに報
告した手柄からCランクに上昇した。
原型を留めていなかったマリンフローであったが、小さいながらも
首都であるサイカ島が残っていた︵もちろん、ククリの擬態︶事な
どから完全な吸収ではなくある程度の権限を認められてプロット公
国の自治領としてギリギリ存続している。
﹁とってもよ∼く分かったよ。彼女の身に起こった事、トラウマと
している出来事、どうして俺があんなにも怒りをぶつけられたのか。
﹂
﹁それは何よりです。
マーメイド
それで?私はこの後どうしたら良いですか?﹂
マーマン
﹁貴女って、遠く離れてても魚人や人魚の統率取る事出来ますか?﹂
テイマー
ファミリア
既にこの後の俺とのやりとりを想定しているのか、随分にこにこし
ながら答える。
﹁それはまぁ、当然ながら。眷属ですので。操獣師と操獣魔の関係
に近いですかねぇ。﹂
そうか、それなら・・・。
302
コンフェデレィト
﹁﹁俺の契約獣になってくれませんか?﹂﹂
﹁ですよね?﹂
先読みされちゃった。。
◆ ◆ ◆
﹁ところで、どう言う条件で?﹂
﹁こっちからの要求は決まってるんだ。﹂
︵1︶マリンフロー一帯の海中・海上護衛を続けて貰う事。
︵2︶旅の仲間として着いて来て欲しいと言う事。
コンフェデレィト
ファミリア
﹁でも、俺、契約獣との契約が初めてだからこっちからは何を条件
黒一角獣
に提供すれば良い物やら・・・?﹂
﹁右も左も分からないままブラックホーンホースを操獣魔にしてお
いて良く言いますねぇ。確かに最近はこの辺りで暇してたので外の
世界を見に行くのにやぶさかではないのですが・・・。﹂
セイレーンはにや∼りと以前この辺りを守護していた誰かの様な笑
みを浮かべた。
﹁こちらからの条件は3つです。1つ、毎日必ず上質の水精石を提
供して下さい。一日量はこの程度です。﹂
彼女が示してきたのは、珊瑚、オパール、アクアマリン、ラピスラ
ズリなど。どれも拳大だが、確かに濃密な魔力が感じられる。
﹁これを一日3つずつ下さい﹂
大食漢だな、オイ。
﹁私が魔力を吸収した後の石はお返しします。単純に宝石として売
り払っても結構ですし、魔力を込めれば再利用出来ますので。リヴ
303
ィエルさんなら水の魔力込めるのは簡単だと思います。﹂
その後彼女にどんな代償を要求されても私は知りませんけどね∼、
とはかなり無責任な談だな。
﹁次に、旅の途中で綺麗な自然の池や湖、泉などがあった時、過度
に旅の邪魔にならない範囲で必ず水浴びさせて下さい。﹂
風呂とか、人工は駄目なの?と聞くと、貴方は毎日オナニーしてい
て、たまの楽しみがダッチワイフでも耐えられますか?とか聞いて
くる。言わんとする所は何となく分からなくもないが、可愛い顔し
て、もうちょっと例えようがないものか?
﹁では最後に・・・。﹂
にま∼り
﹁私に子を授けて下さい。﹂
﹁・・・このパターンか。﹂
﹁あ、勿論ハジメさんの、ですよ??﹂
突っ込みどころが違うわい!!
﹁私達の様な上位精神生命体ともなると、個体数が少なくってです
ねぇ。しかもみんなプライド高くってつまんないと言いますか何と
言いますか・・・。普通、私達は異種族と繁殖目的で交配しないで
すし、してもほぼ受胎しないのですが、ハジメさんなら濃ゆい子種
で10人や20人、簡単に孕ませてくれそうですし♪﹂
﹁・・・分かった。でもそれには条件を付け返させてくれ。﹂
﹁ウェンディーヌさんの件、優先で結構ですよ?そんな野暮な事し
ませんって。﹂
アストラル・ワールド
﹁だから何で知ってる!!﹂
﹁暇なんですもん。精神世界ふらついてたらリヴィエルさんが自棄
304
酒かっ喰らってたんでつつきに行きました。﹂
リヴィエル、お仕置き決定。
﹁では、契約しましょうか。ハジメ・タカナシ、貴方の庇護の元、
パートナーとして旅をし、子を授けて貰う事を条件に力を貸しまし
ょう。*+%&の名に於いて。﹂
﹁・・・ゴメン、名前が発音出来ないんだけど。﹂
﹁そうでした。忘れていました。私に名前を下さい。その名に於い
て契約して頂ければその間は真名として作動しますので。﹂
それならば・・・
﹁オトヒメ、貴女に快適な旅と、恋人として母としての幸せを与え
る事を誓います。契約して下さい。ハジメ・タカナシの名に於いて。
﹂
﹁ハジメ・タカナシ、貴方の庇護の元、パートナーとして旅をし、
ぴちゃ・・・
子を授けて貰う事を条件に力を貸しましょう。オトヒメの名に於い
て。﹂
くちゅ・・・
﹁流石に・・・凄い魔力ですね。ケット・シーを酔わせたのが良く
コンフェデレィト
分かります。取り敢えず今日の所はここにある水精石を有りっ丈持
って行きます。契約獣のブレスレットを出して下さい。﹂
右手中指を差し出すと、彼女は跪いた後、指輪に口付けた。
周囲の大量の水精石と友にオトヒメが右の指輪に吸い込まれた。
◆ ◆ ◆
305
﹁クロノス、この後すぐ飛べるか?﹂
︵勿論です。︶
﹁ホホバ山脈に向かう。﹂
306
音の姫︵後書き︶
ヒロイン追加です。そして少し展開を早めようと思います。筆が亀
でストーリーも亀では永遠に終わらないので・・・。
307
ガルーダの里︵前書き︶
気付けば11万文字越えてました。普通の小説1冊分ぐらいですね
ぇ。
﹁白夜行﹂には敵いませんが。
そこ考えると、あの長編を論理矛盾無く書き上げられるプロの作家
さんって凄いですねぇ。
308
ガルーダの里
、少し実験的なお遊びをしてみ
相も変わらずクロノスの飛翔は最高だった。
順調すぎるので、道中︵空中?︶
た。
﹁クロノス、一旦ホバリングして。﹂
﹁はい?﹂
﹁ちょっと実験。﹂
﹁はい♪﹂
半径10km程を敵意を持った存在や障害物がないか検索する。
・
!﹂
そして能力を﹁飛行﹂のみに専念させ、検索先の10kmまで全速
跳べ
力で跳んでみる。
﹁クロノス、
しゅわん!
・・・やっぱり成功してしまった。
パンドラとの戦いで行った瞬間移動。あの時は無我夢中だったし、
ごく短距離しか移動出来なかったが、﹁長距離は怖い﹂って言うよ
うな﹁長距離は無理﹂って言うような感覚がした。
と感じた事はこの2パターン。
なのでその理由を考えてみた訳である。
出来ない
︵1︶魔力が足りない。
︵2︶他の理由。
これまで、クロノスで
309
イメージが掴めない
︵1︶に関しては、これだけの長距離を連続飛行してこれるのだか
ら足りる気がした。
それならば、︵2︶。こっちの場合、多くは
事が原因だった。
﹁何処に?﹂﹁どれくらいの距離を?﹂跳ぶのか。それがイメージ
しづらかった訳である。
星一週跳んだら元の場所に戻ってきてしまうだろう。
逆に10m先の木の幹の中に埋まるように跳んだら?下手したら対
消滅だか核融合だか分からんがあまり宜しくない結果が起こりそう
だ。
それで、チビクロ∼ズで詳細に安全確認を取らせて、本体が多少無
防備になっても防御可能な場所を選び、障害物の存在しない範囲で
最大距離跳んだら、案の定、結構な長距離飛べてしまった。
エンチャント
障害物を隔てて跳べるのか?付与魔術などでガードされてる空間内
への跳躍は?
課題はあるが色々試す価値のありそうな技術だ。
◆ ◆ ◆
その後は通常通りの軽めの飛行を続けた。
初めての相手をアポ無し訪問するのに突然現れる訳にも行かない。
3∼4km手前で降りて、チビクロ∼ズにアポイントを取りに行っ
て貰う。
しかし俺はすっかり忘れていた。
ここが5000m級の高山だと言う事を。
周囲への五感ソナーを展開しつつチビクロちゃんの一人を挨拶に行
かせた所で意識が遠のいていった。
310
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
﹁気が付いたか?﹂
気付けばうす暗い洞窟の中のベッドに寝かされていた。
壁には光精石を使用したと思われるランタンが掛けられ洞窟内を照
らしている。
声を掛けてきたのは鷲頭の美丈夫、背中には同じく立派な鷲の翼。
何れも新雪のように真っ白だ。
﹁アンタが、いえ、貴方がガルーダですか?﹂
の際の責任者だと思って貰えれば良い。﹂
−
君
﹁如何にも。この里の里長を任されている。まぁと言っても私達は
−
結束を重んじる集団だ。特に強い上下関係はない。面倒事
のような、ね
そこでふと気付いた。右の指輪に居た筈の存在を感じない。
﹁︱︱!?済みません、オトヒメというセイレーンの女性を知りま
せんか!?﹂
﹁彼女か。心配しなくても良い、今は横の部屋で眠っている。﹂
﹁彼女に感謝する事だ。
比較的温暖な海域に適応したセイレーンが、人型を取って君を負ぶ
って助けを求めに来たんだ。
ここに着いた時はどっちが病人なのか分からない程憔悴していた。
彼女が居なければ意識を失った君はそのままあの世行きだったろう
さ。﹂
﹁︱︱!!済みません、お話は色々とあるのですが、まずは彼女を
311
治療させて下さい!!﹂
部屋出て左から3番目、と言いかけたガルーダだが、既に彼は姿を
消していた。
◆ ◆ ◆
﹁オトヒメ!!﹂
ベッドの上で荒い息をしていた彼女だが、突然現れたハジメに驚き
つつ、ゆっくりと体を起こした。
元々雪のように白い肌だが、今は白さを通り越して蒼白くさえある。
﹁まだ寝てて良いから!ほんとゴメン。そんで、有難う。﹂
ハジメは再びオトヒメを横たえると、極上ポーションと満タンエー
テルを口移ししてやる。
﹁ほんとに・・・。ご自分が破格すぎるからって脇が甘くなる癖、
リヴィエルさんもぼやいてましたよ?
マイナス20度と平地の2分の1の空気の薄さでクロノスさんの全
力展開みたいなハードワークしてどうなさるおつもりだったんです?
あのまま死んでたら私も共倒れだったんですよ??﹂
﹁ごめん!ほんとごめん!!﹂
マテリアル・ワールド
﹁やっぱり私、物質界への干渉力が物凄く上がってます。﹂
コンフェデレィト
﹁え、行き成り何??﹂
﹁普通、契約獣は自らの意思でブレスレットから飛び出すなんて事
出来ません。
なのに、さっき、﹃ハジメさんが死んじゃう!!﹄って思った時、
するっと抜け出ちゃいました。﹂
312
﹁それって・・・、愛の力??﹂
﹁なななな何言ってらっしゃるんですかっ!!﹂
﹁・・・3人で勘弁してあげます。﹂
﹁・・・は??﹂
﹁私達の子供です。3人で勘弁して差し上げます。﹂
﹁はははっ!そりゃ良い!オトヒメ似の可愛い娘が3人もいたら楽
しそうだ。﹂
﹁ハジメさん似の凛々しい息子3人が良いです。﹂
﹁あ∼、お楽しみの所申し訳ないが・・・。﹂
﹁落ち着いたのならそろそろ詳しい話を聞かせて貰えないかな??﹂
﹁﹁︱︱!!﹂﹂
鷲頭が赤面してた。いや、色なんて分からないんだが。
◆ ◆ ◆
アストラル・ドラゴン
﹁ほう、私達に里を出てマリンフローの空域警護を・・・。﹂
﹁私としても幻想竜のククリやセイレーンのオトヒメに貴方方の事
を聞いて、どう言った形での獣魔契約が良いか、思案して見ました。
そこで、個体と個別に使役関係を結ぶのではなく、この里のガルー
ダ全体と契約して、時々に応じてそちらの判断で人員を派遣して頂
く、と言う形を提案したいのですが。﹂
﹁ふむ、それは何故故?﹂
﹁私が個人で契約を結べば、当然強い方を選びたくなります。しか
し、恐らく500人前後のこの里から10人もの精鋭を引き抜いて
しまう訳には行かないでしょう。逆に弱い人を連れて行って怪我さ
313
れても困りますし、本人のプライドにも関わります。疲労度によっ
てローテーションを組んで貰う事も必要でしょうから。﹂
コンフェデレィト
ファミリア
﹁私は貴方より個人としての力が劣る事は認めているつもりです。
ファミリア
しかし、それでも貴方方とは契約獣ではなく操獣魔としての契約を
結びたい。私の場合、両者の境界が曖昧なのですが、操獣魔の方が
維持に必要な魔力が少なくて済みますし、遠隔地でも感覚の共有が
容易なのです。﹂
﹁ほう・・・。随分と貴方に都合の良い条件に思えますね。﹂
﹁その通りです。しかし、勿論タダで等と言う事を考えては居ませ
ん。﹂
﹁ほほぉ?﹂
マーマン
マーメイド
﹁まずは、外での訓練は確実に貴方方の練度を上げます。海上、海
中をオトヒメ率いる魚人や人魚、地上はククリ、これら多種族と合
同で共同戦線を張れば、貴方方の持つ能力を更に生かす戦法もある
かと思います。﹂
実際にハジメは幾つか考えている。まずは訓練してみるつもりでは
あるが、実戦配備も可能だと思っている。
﹁次に、交易を考えています。﹂
﹁交易は既に麓のホホバの村と行っているが。﹂
﹁知っています。貴方方の魔力源として使っている風精石や雷精石
を、使用後、宝石として麓の村に卸しているんですよね?﹂
﹁そうだが??﹂
﹁しかし、大きな物は魔力を籠め直してこの里で再利用する為、卸
す数は少なく、しかも小さな物が多い。﹂
﹁確かに。しかしそれが何か?﹂
﹁その後、風精石や雷精石がどの様に利用されているか知っていま
314
すか?﹂
﹁いや・・・。﹂
当然だ。彼等には使用済み核燃料を引き取らせて更に金貰ってる程
度の認識しかないのだから。
﹁人の手で磨き直し、成形し、ごく一部の金持ちに宝飾品として貴
方方の想像を遙かに超えるであろう高値で取引されています。﹂
﹁しかし、私達が捨てたも同然に卸した物を彼等がどう使おうが自
由だ。﹂
﹁確かにそうでしょう。しかし、彼等に取ってみれば風精石も雷精
石もこの山脈を登らねば手に入らない高級品なのです。そして・・・
。﹂
﹁今の石をもっと高値で卸す方法が有ります。﹂
﹁壁を照らしている光精石、暖を取る為の火精石、その他全て生活
に必要な幾つかの品はこの山脈では取れない。危険を冒して自ら取
りに行くか、ホホバ村との交易に頼っているのではありませんか?﹂
﹁・・・。﹂
返答は肯定として話を続ける。
﹁方法は2つです。﹂
︵1︶ドワーフの技術を利用して、宝飾品として成形した物を卸す。
または小さな物も魔力鍛造によってインゴッドに集めてしまう。
︵2︶山脈に散らばるごく小さな石を定期的に集めて、︵1︶の方
法で成型する。
これはハジメがオトヒメと契約した時に考えていた方法だ。
小さな物なら何とかなる。でも大きな物は探すのが難しいし、そこ
いらの魔力バランスの一部になっている事もあって無造作に持って
315
行く訳にも行かない。
﹁後者の場合は一旦この里で利用してからホホバの村に卸す方法も
ありますけどね。﹂
﹁ドワーフの知り合いまで居るのか??﹂
﹁はい。私の3本のブレスレットを作ってくれた人がいます。﹂
﹁小さな石まで全て拾ってしまっては山の魔力バランスが崩れてし
まう。その場合はどうする?いや、そもそもそんな物どうやって見
付ける??﹂
イリュージョン
﹁私の幻体は感知・検索に非常に優れた力を発揮します。ただ、そ
の間やや無防備になる欠点があります。ですので、私が範囲内の石
を感知してお教えしますのでその間の護衛と何処まで拾って良いか
の判断は貴方方にお任せします。﹂
﹁ここまで、如何でしょうか?﹂
﹁う、うむ、悪くはない。﹂
悪くは無いどころか良い事尽くめである。
ガルーダだけが儲かるのではない。
世界に影響が出すぎないように彼なりに考慮している。
そして、自分の欠点までこっそり披露して信頼している事を証して
くる。
﹁最後にこれを見て下さい。これが外の世界に付いて来て欲しい最
インベントリ
後にして最大の理由です。﹂
収納スペースから取り出したのはターボライター。
﹁私が異世界から来たのは貴方方なら感知出来る筈、いや既に感知
済みでしょうか?そしてこれは向こうから私が持ち込んだ数少ない
316
品の一つです。﹂
かちり。
﹁︱︱!!﹂
点いたのは勿論、単なる極小さな炎。
但しこの世界の常識で考えられない程に高温の炎が無造作に発生し
た。
インヴォーカー
﹁これよりも遙かに精密で、この世界には到底有り得ない技術で作
られたアイテムを、私は獣魔師ギルドマスターに預けてあります。
そして半年以内に彼女を見つけ出し、見つけ出せたら返して貰うと
いう賭けをしました。どうです?一緒に、彼女の追いかけっこに付
いて来て貰えませんか??﹂
﹁︱︱!!あのエレン・ブライトをこの私が、いや、私達が追いか
けるというのか!!しかも、半年だと!?﹂
﹁そうです。世界を飛び回り、今以上の力を身に着け、彼女を見つ
け出すのです。
空を制するもの
として、
私も急ぎの時の移動手段はクロノスを使って飛ぶ事になるでしょう
が、あまり人数を抱えては飛べません。
彼女が空にいる時は貴方方が必ず見つけ出す。ゾクゾクしてきませ
んか??﹂
椅子に深く腰掛けていた里長は、大きく身を乗り出してきた。
個人では貴方方に及ばない
﹁面白い!面白いじゃないか!!現役を引退して100年にもなる
この俺ですら奮い立つ!!それに、
イリュージョン
だと?サイカ島の少女を払った事を知らぬと思ってか!!﹂
﹁・・・!!ご存じでしたか。アレは、幻体を使って初めて出せる
イリュージョン イリュージョニスト
力ですので。。﹂
﹁幻体とは幻体師の力。想像力にして創造力。今、俺を説得するの
317
に使った手段がそれと何の違いがあるというのだね?﹂
﹁良いだろうとも。里を代表して獣魔契約させて頂こう。しかし、
皆に説明し、説得せねばならん。そのアイテムを借りても良いかな
??﹂
﹁はい。但し、これは使い捨てでして、中に入っている燃焼性の気
体が無くなると火が点かなくなります。別にそれは構わないのです
が、あんまりオモチャにしてると途中で点かなくなっちゃって説得
に支障が出るかと思いますのでご注意下さい。﹂
﹁あい、分かった。では、今晩はこのまま先程の部屋で休んでくれ。
明朝までに説得してこよう。﹂
318
ガルーダの里︵後書き︶
黒一角獣
ブラックホーンホースを仲間にした時から、空を掛ける連隊を仲間
にさせたいと思ってたんです。陸・海・空を制した司令官、更に本
人も一流の戦士。やはり剣と魔法の主人公はこうでなくては!!
﹁ウェンディーヌ何時出て来んの?﹂って言う疑問、中々に鋭いで
すね。ちゃんとストーリーは頭の中にあるんですけどねぇ。
319
ハッタリも実力の内︵前書き︶
本日2本目です。
書ける時はさくさく書けるんですけどねぇ。
320
ハッタリも実力の内
﹁認めない!俺は絶対に認めないぞ!!﹂
バカ
・・・来ると思った。1人や2人、こう言う若者。
◆ ◆ ◆
一夜明けて、洞窟内の広間。
会合や祭りなどに使われているのだそうだ。
昨晩俺が寝ている内に里長さんが説得してくれた。
風精石交易の話の辺りで中年齢層の働き手や会計役の心を鷲掴み。
︵いや、見た目貴方達の方が鷲なんですが︶
エレン・ブライトを追っかける!の辺りで熟練の戦闘要員の心に火
が点いた!
までは良かったのだが。
エレン・ブライトの凄さをイマイチ分かってない若者陣が猛反発し
たらしい。
ガルーダは里の在処からして閉鎖的な種族かと言えばそうでもない。
若いうちは3人∼10人程度でパーティを組み、ふらふらとそれこ
そ風に任せて見聞を広げてくる。
丁度、それを行い始めたぐらい。
自分の力には自信があるけど、まだ世界の本当の怖さを知らない若
い衆が﹁エレン・ブライトなんぼのもんじゃい!﹂と言い出したら
321
しい。
里長はそれなりに説得しようとしたらしいが、血気に逸る若者を口
で聞かせても仕方ない。
後はハジメさん宜しく。 ↑今ここ。
◆ ◆ ◆
﹁んで、君は俺の貴重な睡眠時間を削ってまで乗り込んできた訳だ。
﹂
眼前におわすは里長に比べて明らかに幼い感じのする、まだまだ少
年ガルーダ君。
羽毛は茶褐色で、こちらも白い羽毛の長に比べて若さを感じさせる。
俺はこっちに来てからあまりゆっくり休んでいない。
ポーションやらエーテルやらで誤魔化してはいるが、疲れはじわじ
わ来ている。
この後もやる事があるのにまさか日の昇る前に乗り込んでこられる
とは思わなかった。
知ってる?今、1月だよ?お日様って何時に昇るか知ってる?ねぇ
君知ってる??
﹁君じゃない!俺には?*%&!!*と言うちゃんとした名がある
!﹂
﹁・・・済まない。俺の耳には君の名前がヒアリングもスピーキン
グも出来そうにない。﹂
﹁むぐぐぐ!!と、兎に角。俺は認めん!﹂
ファミリア
やれやれ。別に嫌なら無理に操獣魔にしようなんてこれっぽっちも
思っちゃいないけど・・・。
言っても聞かなさそうだな。
322
睡眠妨害の恨みも籠めて少し痛い目を見させてやる。
﹁んで?どうしたいんだ?腕の一本でも吹っ飛ばしてやれば目が覚
めるのか?﹂
インヴォーカー
﹁はっ!?君が??か弱い人間の君が??俺の腕を吹っ飛ばす??﹂
﹁俺もこれで獣魔師だから、獣魔に痛い思いはあんまりさせたくな
いんだけどね。君も槍持って飛び込んで来たって事はやる気なんだ
ろう??﹂
の少女を単身で払って見せたんだぞ?﹂
﹁?*%&!!*、それぐらいにしといたらどうだ?ハジメさんは
サイカ島の悲劇
﹁兄さん、行きましょうよ。外でのお仕事とか面白そうじゃないで
すか。﹂
後ろで説得してくれてるのはヤンチャな彼の、出来る兄と良く分か
ってない弟かな?
イリュージョン
イリュージョニスト
﹁そんなもの!幻体が無ければどうにもならなかったじゃないか!
イリュージョン
!﹂
﹁幻体の力は幻体師の力。お前、単身で災厄の少女をどうにか出来
たと思うか?﹂
﹁あんなもん、俺でもどうにでも出来たさ!﹂
・ ・ ・ ・ ・
ぷちっ
﹁あんなもん?﹂
﹁お前にマコの何が分かる??﹂
﹁リヴィエルの、ククリの、ウェンディーヌの、オトヒメや眷属達
323
の、みんなの想いがどれ程理解出来てるんだ?レティシアさんとリ
ュートさんが何を託して死んでいったか、分かって言ってるのか?
?﹂
三兄弟も、周囲のガヤも完全に雰囲気に呑まれている。
﹁出来るだけ穏便に解決してやろうと思ったが、お前は言っちゃな
カンパニー
らない事を言った。本当に腕一本ぐらい覚悟しとけ。お前の望む通
ファミリア
り、使役獣魔無しで戦ってやる。それで俺が勝ったらお前を強制的
決闘
だ。﹂
に操獣魔にする。お前が勝てばこの里の話自体、無かった事にして
良い。﹂
﹁い、良いだろう。そこまで言うのなら正式に
﹁受けて立とう。﹂
◆ ◆ ◆
里長が高らかに声を上げる。
﹁意識を失わせる、降参させる、いずれかで勝利だ。しかし命を奪
う事は認めない!﹂
カンパニー
﹁お前が使役獣魔を使わないというのなら俺も風と雷を使わない。
それで良いな?﹂
﹁好きにすれば良い。。みんな、とっさに手を出すなよ?﹂
左耳のピアスからは了解の意思が伝わってくる。
しかし・・・
︵ちょ、ちょっと、ハジメさん、明らかに貴方個人の戦闘能力で敵
いませんよ!?どうするつもりです!?︶
オトヒメ1人わたわたしてる。
324
︵まぁ、見てなって。俺も無策で立たないさ。︶
﹁5秒以内で勝負を決める。思いっ切りかかってこい。﹂
︵ちょーーーーーっ!挑発しちゃ駄目ですってば!!︶
﹃始めぇいっ!!﹄
両者の間合いは5m程。
物凄い勢いでガルーダの少年が突っ込んでくる。
相手の人間は籠手を前に、刀を横に構えたまま身動き一つ取らない。
否、取れないのだろう。何だ、やはり口先だけか。
右手の片手槍を真っ直ぐ心臓めがけて突く。
急所を僅かに外す様に軌跡をずらし、突き抜く。
その余裕まであった。
その筈だった。
己の槍が相手に触れるかと思ったほんの直前!
物凄い勢いで籠手で穂を弾かれ、軌道を逸らされた。
とっさの事で気を取られている内に横を取られ、槍を持った腕を刀
で切り飛ばされた。
血に濡れた刀が首筋に触れる。
﹁・・・参った。﹂
325
◆ ◆ ◆
﹁マスターもお人が悪い。﹂
﹁あんな方法するんなら最初っから説明しておいて下さい!心臓に
悪い!!﹂
呆気に取られたまま治療に運ばれていった少年には念の為、極上ポ
ーションを手渡した。
ハジメは今は与えられた部屋で休んでいる。
コンコン
﹁は∼い、どちら様でしょう?﹂
﹁里長と、?*%&!!*さんのご兄弟がお話があるそうです。﹂
﹁ど∼ぞ∼。﹂
﹁済みません、頭に血が上って本当に腕切り飛ばしちゃいました。
くっつきます?﹂
﹁あれぐらいどうって事無いですよ。治療薬も頂きましたしね。
しかし、貴方も本当にお人が悪い。獣魔を使わないと言っておきな
がら堂々と獣魔を使って勝つとは。﹂
すぅ・・・っと目を細めて兄ガルーダを見返す。
﹁やっぱり、里長やお兄さんの目は誤魔化せませんね。
本人にも気付かれるんじゃないかとビクビクでしたけど、上手く挑
発に乗ってくれて良かったです。﹂
﹁私達ですら、細かくは何をしたのかまで分かりません。獣魔を使
う気配があった、ただそれだけを何となく感じ取れただけです。?
*%&!!*も冷静なら分かって良い筈なのですが、全てはハジメ
326
さんを見くびった彼の弱さですね。﹂
﹁ただのペテン師ですけどね。それより、審判役が見抜いてたのな
ら俺は失格負けじゃないんですか?﹂
﹁言ったでしょう?私達にも良く分からない、と。それに、彼にも
良い薬になったでしょう。説明して頂けますね?どんな手を使った
か。﹂
∼戦いの直前∼
︵クロノス、準備は良い?︶
︵はい、しかし、本番でいきなり行うにはあまりに危険性が高すぎ
ますが・・・︶
︵大丈夫。俺はクロノスを信じてる。クロノスも俺を信じて。︶
﹃始めぇいっ!!﹄
両者の間合いは5m程。
物凄い勢いでガルーダの少年が突っ込んでくる。
相手の人間は盾を構えたまま身動き一つ取らない。
否、取れないのだろう。何だ、やはり口先だけか。
右手の片手槍を真っ直ぐ心臓めがけて突く。
急所を僅かに外す様に軌跡をずらし、突き抜く。
実際、ハジメは突き抜かれた。
突き抜かれながらあらかじめ手にしていた極上ポーションをがぶ飲
みした。
327
意識が飛ばない様に気付け薬も飲み干す。
out∼
﹁クロノス!!3秒前へ跳べ!!﹂
∼side
﹁﹁﹁時を戻ったぁっ!?﹂﹂﹂
長、兄、弟の声が見事にハモる。
﹁3秒だけ、ですけどね。﹂
﹁し、しかしあの戦いは4∼5秒もかからなかった筈・・・、3秒
あれば戦闘自体を最初っから・・・そうか、そう言う事ですか!﹂
﹁そう言う事です。俺にはあの戦いは5秒以上時間を掛ける訳に行
かなかった。
魔力が高まればもっと長い時間戻れるかも知れません。しかし、実
際の戦闘で大ダメージを喰らい、意識が一発で飛んだりすればそれ
すら不可能ですし、そもそもそこまで意識を集中出来ません。
だからこそ、今回はかなり戦闘の条件を限定的な物に誘導したので
す。﹂
﹁5秒以内の勝負にする、腕一本すっ飛ばせば戦いは終わり。挑発
に見せてあれは全部勝負の条件をこっちで勝手に決めていたに過ぎ
ません。﹂
イリュージョン
﹁し、しかし!しかしですね!!実際に刺されなくっても、戻って
来るのなら幻体で防御しても良かったのでは・・・?﹂
﹁言ったでしょう?俺には時間をそれ程長い時間を遡る力がありま
せん。更に、時間移動はクロノスにも全力を揮わせる必要性がある
為彼女自身が戦闘中は無理です。
クロノスに防御させ、一旦彼を無力化してから刺し位置を確認して、
それから戻ったら3秒前の俺はやっぱり既にクロノスを展開してる
328
んですよ。
仮にそれより前に行けたとしても、そこまで派手に獣魔を使えば流
石に彼も気付くでしょう。
だからどうしても体で位置を覚える必要性があったんですよ。
幸い、彼はきっちり急所を外すぐらい見事な槍の使い手でしたしね。
﹂
﹁﹁﹁﹁﹁・・・。﹂﹂﹂﹂﹂
今度はクロノスとオトヒメまで惚けた顔をしてしまった。
﹁見事です。貴方が数多くの獣魔を虜にしてきた理由が良く分かり
ます。﹂
ファミリア
お兄ちゃんが最初にこっちに戻ってきた様だ。
﹁私を直接、貴方の操獣魔にして下さい。私は里を出て貴方に付い
て行きます。長、宜しいですね。﹂
﹁う、うむ。﹂
﹁お兄ちゃん!ボクもボクも!スッゴい面白そう!!﹂
﹁え∼い、もう勝手にせい!﹂
本当なら私も行きたかったのに・・・と言いたげな里長であった。
﹁私達の契約部位はこちらです。﹂
2人が跪き、額の羽毛を描き分ける。
そこには菱形に光るトパーズが埋め込まれていた。
﹁これって・・・。﹂
﹁その通りです。この辺りで取れる風精石や雷精石は私達の額の石
が落ちた物が元となります。それが周囲の風や雷の魔力を吸収しな
がら成長したり砕け散ったりして、この山の魔力バランスを形成し
ています。﹂
見れば、兄の方はイエロー、弟はブルーだ。
329
﹁私は雷を扱う方が得意ですのでイエロートパーズ、弟は主に風を
扱うのでブルートパーズです。勿論、どちらかしか扱えない、と言
う訳ではありませんが。﹂
﹁弟の件でお分かりかと思いますが、我々の名前も人間には発音し
にくいようです。名を与えて頂けますか?﹂
﹁では、お兄さんから・・・。私の手となり目となり、そして人生
トール
です。﹂
カンパニー
の先輩として力を貸して下さい。ハジメ・タカナシの名に於いて。
貴方の名前は
﹁弟君、俺より精神年齢が若そうな使役獣魔は君が初めてだ。年長
だ。﹂
の友として見守っていくと同時に、一緒に様々な経験を積もう。ハ
アネモイ
の名を与え操獣魔契約を交わして、里全体の
ファミリア
ジメ・タカナシの名に於いて。君の名は
◆ ◆ ◆
ゼビュロス
﹁ちょ、ちょっと待て!!﹂
里長に
管理を任せて帰りかけた時。
﹁お∼、無事腕は繋がったか?﹂
﹁あぁ、すっかり無事だ。薬を頂いて感謝する、・・・ってそうじ
ゃない!!﹂
﹁何だよ、朝っぱらから起こしといて、さっさと帰らせてくれ。用
があればまた来るから。﹂
ファミリア
﹁お前、俺を操獣魔にするんじゃなかったのかよ!?﹂
忘れてた。
﹁よし、分かった。額見せろ。﹂
330
其所に在ったのは何とペリドットだった。
これ程濃密な風と雷の魔力を籠めた曇りもなく巨大なペリドット、
俺の借金なんか一遍に吹っ飛んでいきそうだ。
﹁?*%&!!*は突然変異というか、先祖返りの様なのです。遙
か昔、ガルーダ一族がより上位精神生命体だった頃は皆ペリドット
を魔力源として、風と雷を自在に操ったそうです。﹂
﹁成程。君はその他の戦闘要員と共にマリンフロー空域の警護に当
ユピテ
たってくれ。その中で力押しだけじゃない戦い方を覚えるんだ。ハ
だ。﹂
ジメ・タカナシの名に於いて君と契約をしよう。君の名は
ル
跪く彼の額に口付けし、今度こそ旅立とうとしたらまた止められた。
﹁ちょ、ちょっと待て!連れて行ってくれるんじゃないのかよ??﹂
﹁ま、ちょっとしたお仕置きだよ。あの海で、人が、獣魔が、何を
思いどんな生活をしているか見てみるんだな。・・・そうだ。ユピ
テルを警護の部隊長に任命しよう。﹂
﹁﹁﹁んなっ!?﹂﹂﹂
ゼビュロス、トール、ユピテルの声がハモる。最近多いな。
﹁そ、それは彼には荷が重すぎますが!?﹂
﹁力はあるんだろ?力だけで上手く行かない事を学ぶ良いチャンス
じゃないか。それにここにはサポートする為の素晴らしい人員が沢
山いる。﹂
﹁まぁ、今から向かう先はマリンフローだ。空域警護隊の10人も
一緒に来てくれるらしいから、取り敢えず付いてくると良いさ。付
いて来れなかったらほっとくからな。クロノス、来た時の倍速で帰
還。﹂
331
マリンフローに着いた時、ガルーダ達はみんな青息吐息だった。ク
ロノスの飛行力はやっぱり桁違いだ。
332
ハッタリも実力の内︵後書き︶
ガルーダの名前はギリシャ・ローマ系で攻めてみました。
333
帰還︵前書き︶
ウェンディーヌ
さっさと愛するパートナーの元に返してあげたいのですが、ハジメ
ちゃんの放浪癖は作者にも手が着けられません。しっかしほんとに
長らくエロを書いてないですねぇ。
334
帰還
﹁そろそろ帰って来る。﹂
ハジメ
ククリが教えてくれた。
アタシにも何となく一ちゃんの魔力は感じられる。
しかし何なんだ、彼を取り巻くあの多数の強大な気配は。
﹁ガ、ガルーダ!?﹂
﹁私も居ますよ。﹂
﹁セイレーンまで!!??﹂
﹁オトヒメ、みんなにも挨拶させて。﹂
オトヒメは頷き、眷属を呼び寄せる。
呼び掛けに応じた彼女の眷属が次々ククリを囲む様に海上に顔を出
マーマン
マーメイド
し始める。
﹁魚人!人魚!何て数なの!?﹂
﹁ククリ、これだけ居れば何とか足りるよね?﹂
﹁何とかどころか、契約してなかった時の俺1人が警備してるより
も強力だよ。ただ・・・。﹂
﹁島の偽装、だろ?それも何れ取りかかろうかと思ってる。ただ、
この辺りの海域に大きく手を加えるにはどうしてもリヴィエルの力
が必要だ。それまで申し訳ないけど偽装だけは続けて欲しいんだ。﹂
﹁了解した。まぁ5年間待ったんだ。それを考えれば何て事は無い
さ。これだけの兵力があれば尚更だ。﹂
﹁じゃぁ、マコ、一旦アイスホルストへ戻ろうか。ウェンディーヌ
とリヴィエルが待ってる。何があったかはその途中で話すよ。﹂
335
◆ ◆ ◆
クロノスに抱えられながらゆっくり飛ぶ。
取り敢えず夜までに着けば良いので、エネルギーを使いすぎない程
度にノンビリだ。
トールとアネモイはそこそこキツそうだが。
﹁まずは俺がこの世界に来た時の事から話そう。﹂
﹁ただ、パンドラの能力でマコが見たのが殆ど全てだと思う。
あの日の事、質問があったら聞いてくれ。恐らくパンドラなら嘘は
通じないんだろう?﹂
﹁あの日、祐実果姉さんに会ったのは本当に偶然?﹂
マコト
﹁偶然だ。少なくとも俺にはそんなつもりは無かった。外に出た時
に﹃麻琴と宜しくやってる∼?﹄って感じで電話があり、あんまり
にも慌ててたから事情を全部説明しちゃったんだ。﹂
マコト
﹁どうして姉さんとキスしたの?﹂
﹁俺は麻琴が見てるなんて知らなかった。﹃キスで受け取らないと
無い事無い事麻琴にバラす♪﹄と楽しげに言われて仕方なくやった
つもりだった。﹂
﹁本当に下心はなかったの?﹂
﹁確かに、過去には憧れの人だった事もあったから悪い気はしなか
った。ただ、あそこまでされるとは本当に予想もしてなかった。﹂
﹁キスされてどう思った?﹂
﹁あんなの初めてだったからびっくりしたし、ちょっと気持ち良か
336
ったのも認める。でも、どうして良いか分からなかった、ってのが
正直なとこかな。﹂
今聞いた様な事はパンドラで既に視てたので質問するまでもなく分
かっている事ばかりだ。
ただ、ハジメが正直に回答するか知りたかった。
ハジメ
﹁12月31日の事は分かったわ。その後、アタシは勘違いで一ち
ゃんを・・・。﹂
﹁それは、もう良いんだ。俺も確かに迂闊に過ぎた。形に拘りすぎ
てたんだよ。最後まで出来ないなら出来ないなりに想いを伝える方
法も有った気がする。部屋を飛び出した所からがそもそもの間違い
だったんだ。
死んでまでこっちで会えたんだからそれで良いにしようよ。﹂
ハジメ
﹁そう、それなんだけど。一ちゃんはどうしてあの日のままの姿な
の?アタシは赤ん坊まで戻って転生したのに・・・。﹂
﹁死神のジルにはあったんだろ?﹂
﹁ええ。﹂
マコト
﹁彼女が言うに、俺が死んだのは完全にとばっちり。本来の生が残
ってるから転生先を選べる。但しその代わり前世で麻琴が犯した罪
を償う手伝いをしろ、って事で完全にあの瞬間から突然こっちの世
界に来たんだ。﹂
﹁私は、罪があったから人生一からやり直させられたって事かしら
?﹂
﹁そうじゃないのか?本当のところはジルに直接聞かないと既に分
からん。﹂
◆ ◆ ◆
337
﹁次は俺とウェンディーヌの事なんだけど・・・﹂
俺はウェンディーヌとの出会いから喧嘩別れした所まで話した。
﹁彼女のトラウマ的体験にマコが関わってたなんて、想定外だった
よ。﹂
ハジメ
﹁一ちゃん。﹂
﹁はい?﹂
﹁アナタ、今さらっと話したけど、17年間連れ添った恋人と別れ
た翌日に良くもまぁ女誑し込んだり出来るわね?しかもよりにもよ
ってウェンディ姉さん??前世での失敗を反省してないのかしら?﹂
ヤヴァイ
マコト
これはあれだ。
麻琴が風邪引いて一緒に映画に行けなかった時、代わりに祐実果姉
さんと行った時のあの表情だ。
﹁刺し殺したって言う、死んでも償い切れない引け目があるし、い
つ会えるか分からなかったって言うのもあるから恋人が出来てたの
は許したげる。でも、ウェンディ姉さんだけは駄目。﹂
﹁い、いや、駄目って言われても既にだな。ねぇ、可愛いマコさん
?パンドラ出すの止めない??あ、止めないのね??あ、そうです
よね、うん。﹂
﹁他には誰が居るの?﹂
﹁え、えっと、え∼∼っと。﹂
﹁パンドラ、﹃エンマ様のお仕置き﹄﹂
338
すどこーーーん
︵・・・またこのパターンか。︶
◆ ◆ ◆
﹁全く!リヴィエルさんにクロノスさん、それにオトヒメさんまで
約束してるですって!?﹂
﹁返す言葉も御座いません。﹂
まさか飛行中に殴られるとは思わなかった。
ハジメ
﹁・・・はぁ、もう良い。一ちゃんがこんな人だと分かってたらあ
んなに悩まなかったのに。
でも、ここからは私も参戦するわよ。﹂
﹁え゛﹂
﹁何か異存でも?﹂
﹁滅相も御座いません。﹂
﹁次!アナタの不可解な能力の説明!!﹂
◆ ◆ ◆
﹁4資質持ちですってぇぇっ!?﹂
﹁何で!?アタシも他の世界から来てるじゃないの!!リヴィエル
さんの理屈で行けばアタシも同じじゃなきゃおかしいじゃない!!﹂
︵それは私が説明しましょう。︶
﹁クロノス、オトヒメが実体化したいらしい。抱えられる?﹂
コール
﹁問題有りませんよ。﹂
﹁じゃぁ、実体化。﹂
﹁どうも。ハジメさんとマコさんの違いについてご説明しましょう。
339
単純に言って、前世の要素を完全に持ち込んでるハジメさん、完全
にこっちの世界の構成分子として転生して、オマケで記憶だけ貰っ
たマコさん。この違いですね。
アストラル・ワールド
マテリアル・ワールド
ハジメさんはこの世界の構成分子ではありません。我々精神生命体
に近いが故に、精神世界の力をほぼ100%物質界にて揮う事が出
来ます。それが4資質という特殊な形で現れているのでしょう。
一方マコさんは一部外的要因が混ざっているとは言え、それらも含
イリュージョン
インヴォーカー
めて生まれ変わった時に全てこちらの世界の法則で練り直されてい
ます。故に破格に強力な幻体を有する代わりにあくまで一獣魔師で
ある事には変わりありません。﹂
オトヒメは最後にQED、と格好付けた。
ハジメ
﹁むぐぐ、こっちに来てまで一ちゃんに敵わないなんて・・・。﹂
﹁ちょっと待て!成績も運動も、俺、マコに勝った事殆ど無いぞ!
?﹂
﹁じゃぁ聞くけど、何で入学式に新入生代表読んでたのよ?﹂
げっ、詰まんない事覚えてやがる。
﹁さ、流石に入試で手を抜いて落ちたらシャレにならんだろ・・・。
﹂
﹁つまり、その後のテストやら何やらはテキトーにやっておきなが
ら何をやっても学年10番前後をウロチョロ出来た訳ね?﹂
﹁・・・もうそこまで見抜かれてるんなら逆に俺の方が勝てる気が
しないよ。。﹂
イリュージョニスト
﹁貴女が幻体師になった理由が良く分かります。﹂
オトヒメが口を挟んできた。
﹁クロノスさんも物凄い力を発揮しますが、マコさんにもこの世で
340
はない前世の記憶がある。しかもそちらでも結構優秀だったらしい。
常識にとらわれず、貴女の知りうる全てをパンドラさんに注いであ
げて下さい。彼女もクロノスさんの様に無限の広がりを見せるでし
ょう。﹂
◆ ◆ ◆
﹁みなさん。﹂
クロノスが呼びかけてくる。
テイマー
﹁アイスホルストが見えてきました。私が飛んでいる所を見られる
と面倒ですので、少し離れた位置に降ります。操獣師の衛兵に気付
かれない距離ですと、移動に時間がかかりますのでハヤトさん達に
来て貰えると良いのですが・・・。﹂
﹁今はオウカの事があるから俺の都合で来て貰って万一があっては
いけない。
トールとアネモイに抱えて飛んで貰おうか・・・って、ちょっと待
った!
クロノス、ホバリングしてチビクロ∼ズ展開!!﹂
﹁どうしました??﹂
オトヒメには流石にこの距離だと視認出来ないらしい。
﹁アタシにも見えた。ケンタウロスが襲われてるわ!!﹂
マコはパンドラの眼で見渡したのか。
﹁ケンタウロスですって!?彼等を襲う程の存在がこんな村近くに
居るんですか??﹂
チビクロ∼ズを通して見えたそいつらの正体は・・・。
﹁・・・人間だ。仔を人質に取られてしまっている。﹂
341
帰還︵後書き︶
書き始めた頃から想定してたエピソードを入れようとするとどうし
てもあと少し帰還完了に時間がかかるようです。
342
ケンタウロス︵前書き︶
この作品を書き始めた時から、3つの意味できっちり書いておきた
かったエピソードです。
343
ケンタウロス
襲われていたのはケンタウロスの親子。
親は身の丈3mを優に越える。
子供は2頭。姉は既に成体に近い様だが、まだ幼さが見える。
一方、生まれたてと思しき弟は網に捕らわれており、首筋に槍を突
き立てられている。
体温を既にかなり奪われているらしく、ガクガクと震えている。
﹁な?あんたらが大人しく契約してくれればこの仔は返してやるっ
て。
俺等としてもこんな子供に用はねぇ。
初乳も飲んでねぇまま放置してたらそろそろヤバいだろ?
インヴォーカー
好い加減、腹決めたらどうだ??﹂
テイマー
﹁最低な人間だな。しかも獣魔師かよ。﹂
﹁操獣師は自分より力の劣る獣魔しか使役出来ません。
力の無い物の中にはあのような愚かな行為に及ぶ物もごく稀に居ま
す。﹂
オトヒメには感覚共有で情報を共有して作戦を練って貰っている。
インヴォーカー
﹁オトヒメ、ああいう手合いの処分はどうなる?﹂
﹁獣魔に非人道的扱いを行った獣魔師は死罪です。その他の人物も
一生表の世界で生きてはいけません。良くて奴隷か無期懲役ですね。
﹂
﹁討伐証明はギルドに報告した方が良い?﹂
インヴォーカー
﹁ブレスレットを提出すればOKです。後は私達が証言します。
獣魔師ギルドに於いて人間の証言よりも私達獣魔の証言の方が10
344
0倍重要視されます。﹂
理由は単純だ。彼等の方が人間よりも遙かに高潔だからだ。
◆ ◆ ◆
テイマー
リーダー格と思しき人物の右手にはダマスカス鋼のブレスレットが
あった。
その他、周囲で弓を構えているのが20人程、操獣師の脇には剣や
槍で武装した男達が10人。
﹁アネモイ、弓の連中は任せても大丈夫か?﹂
﹁あの程度の使い手なら問題ありません。全員が同時に襲いかかっ
ても殺さず無力化可能ですし、矢も風で防げます。﹂
﹁了解、あの連中は遠慮無く殺して良い。﹂
テイマー
﹁トール、操獣師の脇の近接攻撃系の相手は任せられる?﹂
﹁勿論です。何人か生け捕りにしますか?﹂
歌
で何とか
﹁1人、いや念の為2人生け捕りにしよう。あ、でも縄とか持って
ないな。﹂
﹁縄は有りませんがその辺りは私にお任せ下さい。
しましょう。﹂
﹁そうか、へぇ、ふむふむ、そんな方法が有るのか。じゃぁ、合図
と同時に。
クロノスは悪いけどこの辺りの哨戒しながらマコと待ってて。﹂
GO!﹂
念話をしながら勝手に話を進めていく。
◆ ◆ ◆
﹁じゃぁ、行くよ?3,2,1,
345
先陣はトール。
テイマー
ハジメを抱えて急降下をしながら雷を操獣師の脇を固めていた10
テイマー
人に浴びせかける。
操獣師の少し上空でハジメを手放し、生き残った数名を次々槍を振
り回して無力化して行く。
それに反応して弓が放たれるのを見て、アネモイが風を放ち軌道を
逸らす。
テイマー
自身も風を纏い加速しながら20名の兵を数秒で屍に変えた、
ファミリア
敵襲に反応して操獣魔に命令しようとした操獣師の脳裏に奇妙な旋
律が流れた。
壮絶なまでの恐怖、前後感覚が無くなる程の眩暈。
彼は正気を取り戻すことなく、ハジメの振るった刀で首を跳ね飛ば
された。
◆ ◆ ◆
歌
で幻覚を見せ、完全
トールはきっちり2名、昏倒で手を止めてくれていた。
精神的に無防備になった所でオトヒメの
に無力化する。
﹁おーい、クロノス、降りてきて良いよ∼。﹂
インヴォーカー
﹁あ、貴方方は一体??﹂
﹁どうも。獣魔師のハジメ・タカナシと言います。アイスホルスト
へ向かって上空を飛んでいる途中で貴方方が襲われているのを見か
けまして勝手ながら加勢させて貰いました。
それより早くあの仔の治療を。一応、ポーションを差し上げますが、
346
少し強力すぎる物しか持ち合わせていませんので幼体には合わない
かも知れません。﹂
我に返った親子が仔を取り囲む様に暖め始める。
口元に含ませる様に少しずつポーションを与え、母親が乳を飲ませ
る。
﹁マスター!危ない!!﹂
仔の無事を確認したハジメが近付いて行った瞬間!!
突如目を覚ました仔がハジメの首筋に噛み付いてきた。
スペクタクル・アイズ
鑑定眼
咄嗟の事に驚きながらも力ないその一撃を受け切って、ハリセンで
軽く昏倒させる。
﹁お、おい!大丈夫か!?﹂
ハジメが幼仔に駆け寄った時に既に彼は気を失っていた。
﹁済まない!早く治療の続きを・・・﹂
ぐらり
﹁︱︱!?﹂
噛み付かれた首筋が熱い。
全身の倦怠感と共にあっと言う間に意識が遠のいた。
﹁いけない!この仔、奥歯に何か仕込んでる!パンドラ、
。﹂
﹁神経性の麻痺毒、直接血液に注入されますと呼吸筋が麻痺して窒
息死に至りますが、人工呼吸を続け、解毒薬を打てば蘇生可能です。
﹂
347
マコは仔ケンタウロスの口を開かせ、パンドラの眼で毒の在処を突
き止める。
歯に埋め込まれており、毒のみの除去が不可能な為、奥歯1本丸ご
と引っこ抜く。
イ ン ベ ン ト リ
﹁これも証拠になるわね?﹂
賊の頭部、右腕と共に収納スペースに放り込んだ。
﹁マコさん!早く何らかの解毒薬を!!店売りの汎用性解毒剤でも
ある程度効果があるはずです。﹂
人工呼吸を続けながらオトヒメが叫ぶ。
インヴォーカー
﹁ア、アタシ・・・、獣魔師登録してすぐに暴走しちゃったから・・
イ ン ベ ン ト リ
・。﹂
収納スペースは空っぽなの、と唇を噛む。
﹁申し訳ない。ここから先は私達に任せて貰おう。﹂
﹁えっ!?﹂
﹁お忘れでしょうか?私達ケンタウロス族は薬学の知識に関しては
特別の才があります。里へ戻れば直ちに治療可能ですので、是非お
越し下さい。恩有る方々を命の危険に晒す訳には行きません。﹂
母親が何らかの薬を飲ませた。
﹁一時凌ぎですが、里まではこれで持つ筈です。
私達の背に乗って下さい。馬上で彼の処置を続けられますか?﹂
マコは人工呼吸を続けているので、途切れ途切れになりながら答え
た。
﹁アタシは大丈夫です。オトヒメさん、手伝って下さい。﹂
348
﹁言われるまでもありません。私はまだ彼に契約を一つも果たして
貰っていないのですから。﹂
﹁その仔は私達で運ぼう。可能な限りデリケートに連れて行く様に
するので、思いっ切り飛ばしてくれて結構だ。﹂
クロノスに比べればケンタウロスの速度なんて屁でもない、とは口
には出さないガルーダ兄弟である。
◆ ◆ ◆
﹁気が付かれましたか?﹂
先程のお姉さんの方が看病してくれていたらしい。
周りにはマコとオトヒメの姿もある。
﹁えっと、ここは何処?﹂
﹁アイスホルストから南へ20km程降りた所にあります、ケンタ
ウロスの隠れ里です。何処か違和感はありませんか?﹂
﹁あぁ。・・・そうだ!あの仔は!?思わず昏倒させてしまったけ
ど無事か??﹂
テイマー
﹁生まれたてとは言え、そんなに柔な種族では有りません。あの時
は操獣師によってじわじわと体力を奪われていて抵抗する体力も気
力もなかったようですが。﹂
﹁それがどうしてあんな行動に??﹂
﹁それなのですが・・・。﹂
﹁そこからは私がお話ししましょう。﹂
入って来た父親と思しきケンタウロスは、良く見れば馬の足が3対
6本、手は2対4本という合計で10肢を持つ奇怪な姿だった。
349
﹁ああ、この姿は特に気にしないで頂けますと有り難いです。何れ
はお話ししますが。
それよりも、先程の息子の事ですが、事の発端は3日前に遡ります。
﹂
インヴォーカー
﹁普段、この里は獣魔師であろうとも簡単には見付けられない様に
入り口を隠してあります。
ファミリア
しかし、あの男は何処で聞き付けたかこの里に無断で侵入し、私達
を操獣魔にしたいと持ち掛けてきました。﹂
﹁普通ならば他の獣魔に教えて不法侵入をギルド経由で裁いてやれ
ば良かったのですが、こちらにはそれを出来ない事情がありました。
﹂
﹁息子さん、またはその他の仔供達の出産を控えていて、人員が足
りなかった、そんなところですか?﹂
﹁その通りです。この里では将に今が出産シーズン、人手も足りな
ければ悠長に対処している時間もなかった。
そこで、里を代表して私が彼の力を試し、力を認めれば相手の要求
を飲む、と言う形を取ったのです。﹂
﹁はっきり言って彼の実力は雑魚も良い所でした。勝負はあっと言
う間に決着が付いたのですが、戦闘中に足を挫いたので数時間だけ
養生させて欲しい、その後は必ず大人しく出て行く、そう言ったの
で軽く湿布をしてやり落ち着けばさっさと出て行く様言いました。﹂
﹁しかし、彼の狙いは将に其所に在ったのです。﹂
ファミリア
﹁彼がどんな獣魔を操獣魔にしていたのか、今となっては分かりま
せんが、彼が帰った翌日、村中に火が放たれました。あまりにも広
350
範囲で一斉に火が放たれた為、皆、混乱の中対処したのですが、特
に大きな被害を受けたエリアがありました。﹂
﹁当ててみましょうか。分娩を行う為のエリア、では無いですか?﹂
ファミリア
﹁その通りです。私達には彼の狙いが最初は分かりませんでしたが、
ファミリア
彼は里に滞在中に操獣魔を使って村の構造を調べ上げていたのでし
ょう。﹂
﹁成程、続きは何となく分かりました。
普通、火を放ち混乱の元で弱い個体から無理矢理操獣魔にしていく
のなら炎で親子を分断せねばなりません。
しかし、そこまで火の行方を操り、はぐれた個体を探し出して使役
出来るのならかなり強力な火の獣魔を従えてなければ無理ですし、
それならそもそもそんなまどろっこしい事する必要無く、普通に実
力で貴方方を従えれば良いのです。
ファミリア
そして彼自身が実力不足だと言うのなら﹃村を今すぐ救ってやる代
わりにお前は俺の操獣魔になれ﹄なんて方法も使えません。あっさ
り捕まって終わりですからね。
で、あれば、最も無防備になる個体を一箇所に集めてしまう。これ
が一番の上策でしょう。﹂
﹁仰る通りです。気付いた時には分娩に使用出来る様な所は数カ所
しか残っていませんでした。
緊急時の治療所から遠く、薄暗く、見通しの悪い、そんな場所でし
た。﹂
﹁私達は普通、立ったままあっと言う間に産み落とします。しかし、
稀に頸が引っ掛かって抜けない事があるのでケンタウロスの男は傍
に寄り添って介助する必要が有るのです。﹂
﹁そして、私の妻がそうでした。2時間も3時間も唸り苦しんだ後、
やっとの思いで産み落としました。
351
ブラッド・ラット
将にその気の緩んだ瞬間、どこからとも無く吸血ネズミの大群が押
し寄せてきました。﹂
ファミリア
﹁彼等自身は普段なら私達にとって全く脅威になる相手ではありま
ファミリア
せん。そもそも通常なら操獣魔にすらされません。
恐らくはあの男の操獣魔の眷属なのでしょうが・・・。
兎も角私達は疲れており、敵のあまりに統率の取れた動きに翻弄さ
れていました。産後の妻も必死に応戦しましたが・・・。﹂
ケイローンの加護
と呼ばれる
﹁気付いた時には仔が居なくなっていた、そう言う事ですか。﹂
﹁はい。私のこの姿なのですが、
黒一角獣
物でケンタウロスの希少種として稀に発現します。弓と短剣の二刀
流を同時に使いこなし、地を駆ける速度はブラックホーンホースに
すらひけを取りません。
普段は隠しているのですが、彼と決闘をした時に手っ取り早く片付
ファミリア
けようとこの姿を見せたのが間違いだったのでしょう。彼は私に目
を付け、﹁仔を返して欲しくばお前を操獣魔にさせろ。﹂と言って
里の外に呼び出して来ました。﹂
﹁そこに俺達が通りかかった、と。﹂
﹁はい。本当に重ね重ねお礼のしようもありません。﹂
﹁ところで、最初の質問にも戻るけど、あの仔はどうして俺を襲っ
て来たんだ?﹂
ファミリア
父親は苦悶の表情を見せ、絞り出す様に話した。
﹁息子は既に操獣魔にされていました。あの男の命を狙う者が居た
時、口封じとして襲いかかる様に既に命令されていたようです。﹂
幼子にそんな手を使わせ、自分は高みの見物、周りには取り巻きの
様なならず者達。
352
そして、獣魔に対する敬意の欠片も見られない扱い。
こちらに来て初めて自ら命を奪ったハジメであったが、今では全く
悔いてすら居なかった。
テイマー
﹁そうか。そうでしたか。今は、あの操獣師を殺した事で使役関係
は解除されていますか?﹂
﹁今は大丈夫のようです。ところで、今度はこちらから質問なので
すが、貴方方は一体??﹂
インヴォーカー
テイマー
﹁これは失礼しました。助けて頂いておきながら自己紹介が遅れま
カンパニー
した。私の名はハジメ・タカナシ。獣魔師です。見た通り操獣師で
もあるのですが・・・後は私の使役獣魔に説明して貰った方が早い
でしょう。クロノス!ククリ!オトヒメ!トール!アネモイ!﹂
呼び掛けに応じて次々と獣魔が姿を現す。
それと同時に、指輪とピアスをブレスレットの形に戻し、両腕を翳
す。
サイカ島の悲劇
の少女、パンドラは彼女の幻体です。既に
イリュージョン
﹁見ての通り、私には4資質全てが有ります。もう一人の少女、マ
コは
憑物ではありませんので御安心下さい。﹂
つがい
顎が外れてしまった様だ。4本の腕も全て肩の力が抜け落ちぽかー
んと惚けている。
黒一角獣
﹁ああ、そうそう。アイスホルストにはブラックホーンホースの番
と、水龍王リヴィエルが待ってくれています。﹂
黒一角獣
﹁水龍王!それにブラックホーンホースですって!?﹂
それまで黙って話を聞いていた娘が突如口を開いた。
353
ファミリア
﹁父さん!私、この人の操獣魔にして貰うからっ!反論不可!行っ
て来ます!!﹂
黒一角獣
﹁な、何をそんなに過剰反応してるの?﹂
﹁私達ケンタウロス族とブラックホーンホースはライバル関係にあ
ると言いますか、特に娘は早駆けで一度同年代の雌に負けたのが相
当頭に来ているらしく・・・。﹂
成程。
﹁彼等ももうすぐ分娩に入る。それなら、どうだ?弟さんも一緒に
来ないか?ケンタウロスならもう十分走れる様になってるんだろう
?俺達も貴方達の薬学の知識と治療技術は本当に助かる。今回の事
で分かったけど、このパーティ、俺が直接ダメージを受けた場合の
回復手段が乏しすぎる。﹂
﹁娘は兎も角、息子も、ですか?﹂
﹁こう言っちゃなんだけど、彼はこの先里に居づらくなるんじゃな
いかな?
彼に責任が無いとは言え、彼は里に危険を及ぼし、更に人を襲った
獣魔だ。
大人の貴方達なら兎も角、子供同士の関係と言うのは存外遠慮が無
く時に残酷だ。
俺達と外の世界で経験を積み、俺が目指している或る目標を達成し
た時、彼はきっと胸張って帰って来れると思います。﹂
﹁ほぅ、では聞かせて頂けますか?その目標とやらを。﹂
﹁良いでしょう。これはまだ誰にも話した事がありません。みんな、
聞いてても良いけど他言無用でね。
お姉さん、弟君を呼んで来て貰えますか?その話を聞いて尚付いて
くる気があれば、その時点で名を与えましょう。﹂
354
カンパニー
ハジメの言葉を受け、使役獣魔達は次々姿を消した。
◆ ◆ ◆
アマツカゼ
です﹂
﹁しなやかな、たおやかな、その力を俺の旅に貸し与えて下さい。
ハジメ・タカナシの名に於いて。貴女の名は
トキ
﹁俺の命を奪おうとした時のあの果敢な力、今度は優しさを籠めて
です﹂
奮って下さい。ハジメ・タカナシの名に於いて。貴方の名は
ツカゼ
アマツカゼに口付ける。
トキツカゼ?何処にキスしたかは、これまた秘密だ!!
俺がトキツカゼに、マコがアマツカゼに乗る。
﹁今度こそ帰ろう。アイスホルストへ!!﹂
355
ケンタウロス︵後書き︶
インヴォーカー
犯罪を犯した獣魔師
、あと一つは伏線って事で。
前書きで書いた3つの意味とは、
行うハジメ
殺しを
因みに男獣魔達との契約キスの部位はその都度ちゃんと考えてます
よ。いっそ、全部額に宝珠が埋め込まれてる事にしてやろうかとも
思いましたが、それも面倒ですし味気ないですから。
356
謝罪の言葉︵前書き︶
漸くアイスホルストへ帰って来ました∼。
357
謝罪の言葉
ケンタウロスの足もこれまた飛び切り速かった。
アイスホルストまで20kmと言う話だったのに10分かからなか
った。
空の旅、クロノスで飛んでると風圧も気圧も全部調整されてるので
イマイチ速さを感じられない。
しかし、森を抜ける様な入り組んだ獣道を時速100km以上で駆
け抜けながら馬上でガタガタグラグラしないし、風を感じて走るの
は最高だ。
﹁昨日だか一昨日だかに生まれておきながらこのスピードか!スゲ
ェなぁ!!﹂
﹁空でのスピードではガルーダに到底敵いませんが、陸でしたら負
けませんよ。﹂
黒一角獣
確かにスピードもさることながら、ブラックホーンホースよりも優
れている点が有る。
彼等は非常にトリッキーな動きを得意とする。
この速度で駆けながら、俺達に殆どGを感じさせず、更にちょっか
いだそうとしたモンスターを弓で次々と蹴散らしながら進んで行く。
流鏑馬させたら無双を誇りそうだ。
◆ ◆ ◆
守衛の元で彼等の背から降りた。
本当は昨日旅立ったのだが、もう何だか1年分ぐらいの経験した様
な気がする。
358
﹁おや、君は・・・。﹂
ファミリア
﹁外で活動して幸い多くの操獣魔を仲間にする事が出来ました。確
認、宜しいでしょうか?﹂
トール、アネモイ、アマツカゼ、トキツカゼの入村を申請する。
インヴォーカー
数日前に獣魔師登録したばかりなのに・・・、と守衛さんが泡を吹
いていたがククリとオトヒメも居る事知ったら自信喪失させてしま
いそうなので黙っておいた。
どう考えても普通ならCランクの俺が使役出来るレベルを越えまく
っている。てか、彼にも使役出来ないだろう、きっと。
大人しく﹃乾杯﹄して村に入った。
◆ ◆ ◆
﹁ウェンディーヌ、帰って来た。話があるんだ。申し訳ないけどこ
こを開けてくれないか?﹂
意外にも静かに扉は開いた。しかし扉の前に立って居たのはウェン
ディーヌではなくリヴィエルであった。
﹁昨晩、一方的に契約解除して自傷行為に走ろうとしたから無理矢
理飛び出たの。﹂
本当にずっと見守っていてくれたのだろう。
昨日の今日の事ながらリヴィエルにも憔悴の色が濃い。
ウェンディーヌは背を向けたまま動こうともしない。
﹁サイカ島に行って来た。﹂
びくっと身を震わせて、顔だけでゆっくりこちらを向く。
コール
﹁ククリ、実体化。マコ、入ってくれ。﹂
359
﹁ウェンディ姉さん・・・﹂
﹁ウェンディーヌ、久し振り。綺麗になったな。﹂
﹁ククリ、どうしてここに?それに、マコちゃんまで・・・。﹂
ウェンディーヌが驚きの声を上げる。声には出さないがリヴィエル
もかなり困惑している様子だ。
﹁一昨日の事は許してくれなくても良い。昨日の朝からの事をまず
聞いて貰えないか?﹂
ウェンディーヌは横を向いたまま、小さく頷いた。
◆ ◆ ◆
﹁マコちゃんを、ハジメが一人で払った・・・?﹂
﹁彼女は元々かなり衰弱していた。クロノスと協力してパンドラを
カンパニー
完全に無力化したら自然と収まったよ。﹂
イリュージョン
﹁確かに憑物は使役獣魔を徹底的にダメージ与えてやれば落ちるけ
ど・・・全力で暴走する幻体にどれ程の衝撃を与えればそんな芸当
が出来るって言うの?﹂
麻琴、こっち風に言えばマコト・サイジョウ、
マコト
﹁それと聞いて欲しい。彼女も転生体だ。
サイジョウ
転生前の名前は西条
かな。
俺の幼馴染みであり、恋人であり、俺を刺してこっちに転生させた
人物だ。
彼女が暴走する切欠となったのは前世での俺の出来事が深く関わっ
ている。
俺達の世界の揉め事をこっちに持ち込んでしまって本当に申し訳な
360
い。﹂
﹁俺はサイカ島に行った。
の一部始終をこの目で視て来た。﹂
そしてクロノスの力を使い5年前に何が起こったか、
悲劇
﹁リュートさんとレティシアさんがやった事。
契約内容
サイカ島の
について、ウェンデ
その後、ウェンディーヌがククリとの契約を解除してまで旅に出た
事。それら全てを、だ。
リヴィエルもククリも口を閉ざす
ィーヌの口からお願いだから話して貰えないだろうか。﹂
横を向いていたウェンディーヌだったが再びこちらに背中を向けた。
小さく震え、嗚咽を漏らし、こちらに表情を見せない様に必死で堪
えている。
﹁アタシは・・・﹂
﹁アタシはあの頃、ククリに憧れてた。ククリの力を一番上手に、
誰よりも使えると思ってた。
ミシィカル・ビースト
それなのに戦いに参加させて貰えなくて、しかもそのまま命を落と
した両親が許せなかった。﹂
﹁ククリに﹃父さんと母さんが召喚獣に籠めた想いをそこらの武器
を奮った程度に思うな﹄って言われ、憧れの人に手を上げられて、
ショックに打ちひしがれていた時に、マコが海中で目覚めようとし
サモナー
ているのに気付いた。﹂
﹁今度こそ、召喚師としてククリの力を借りる時だと思った。そし
て、この人とは別れを告げて、島の復興の為に旅に出る事にした。﹂
正直、ククリにはもう顔向け出来なかったしね、と溜息をつく。
﹁旅の目標は二つ。マコを憑物から払う事。そして、サイカ島を復
361
興してマリンフローの独立を取り戻す事。契約条件はこれらに関す
る情報を他者に漏らさない事。﹂
ウェンディーヌ、とリヴィエルが声を掛ける。
﹁あの事は言わないの?﹂
﹁・・・。﹂
﹁良いんだ、リヴィエル。それに関してはもう何となく分かってる。
そして、どうしてウェンディーヌがアソコまで怒ったのかも。﹂
﹁想像だけど、俺の口から話しても良いか?﹂
彼女が目で頷いたのを確認して、考えを纏めて話し始める。
﹁まず初め。ウェンディーヌはリュートさんとレティシアさんが何
も言わずにウェンディーヌの元を去った事が物凄いショックだった。
これが一つ。﹂
﹁次、両親が他に手段がなかったとは言え、シンクロ召喚で命を落
とした事が更にショックだった。これが2つ。﹂
﹁旅の目的としてはマコの救助と島の復興、この二つだが、ウェン
ディーヌにはその手段を探す事自体が旅の目的だった。これが最後
の秘密、違うか??﹂
﹁・・・。﹂
両親を越えるシンクロ召喚が可能なパ
を探していた。俺にその望みを託しかけていて、リヴィ
﹁つまりウェンディーヌは
ートナー
エルとも心を通わせていた時に俺が、俺達がウェンディーヌ一人蔑
ろにして楽しんでいた。これが今回の発端なんじゃないか?﹂
ウェンディーヌは何も語らない。ただ、こちらに向き直ってじっと
瞳を見詰めていた。
362
マーメイド
マーマン
﹁マリンフローの警護はガルーダ族とセイレーン、その眷属の魚人
や人魚達に任せてきた。ククリが短時間ながらこうしてこっちに来
られるのもその為だ。﹂
﹁後はサイカ島を元通り復興する事が必要だ。その為に、ウェンデ
ィーヌと共に挑みたい方法が有る。﹂
﹁リヴィエルのシンクロ召喚を俺として欲しい。﹂
﹁︱︱!!﹂
◆ ◆ ◆
マーマン
﹁既に魚人達に頼んで、地図にあったサイカ島の大凡の原型通りに
水龍王
としての力で吸い上げたい。
海底の珊瑚や海草を組み合わせた型枠を作り始めてある。
枠内の海水をリヴィエルの
俺はその様子をイメージしてみたんだけど、何度イメージしても俺
一人の力でリヴィエルにそこまでの力を顕現させる事が出来ない。﹂
﹁お願いだ。もう一度、心を重ね合わせて欲しい。﹂
﹁・・・随分勝手な話ね。﹂
想像通りの返答。俺一人突っ走って彼女の過去を覗き見し、彼女の
旅の目的に勝手に手を出した。
喧嘩別れしたのに行き成り帰って来て、下手をすれば命を落とす方
法で仲直りしてくれ、と言ってる訳なのだから。
想像はしていた。していたが、やはり面と向かって目を逸らさずに
言われるとかなりキツい。
363
﹁ハジメ、一つだけ大きく勘違いしてる所があるわ。﹂
﹁??﹂
﹁アナタが話した内容は全部その通りよ。あの災厄で親しい人はみ
んなアタシの元を離れた。友達だと思ってた少女が隣人や家族を次
々殺し、両親は何も言わずに死ぬと分かってる戦いに挑み、初恋だ
と思っていた人には平手を張られ、契約を解除して故郷を離れる事
を余儀なくされた。
だからこそ、だから今度こそアタシを一人にしない人を、命を預け
あって戦えるパートナーを探して旅に出た。
故郷の復興はその目的の為の手段に過ぎなかった。それなのにアナ
タもリヴィエルも勝手にアタシを一人にした。﹂
そこまでは全部有ってるけど。
﹁今日、アタシまだ一度もアナタから謝罪の言葉が聞けてないんだ
けど?﹂
あ・・・。
﹁何が悪かったのか勝手に一人で想像して、勝手に一人で話進めて。
それもかなり頭に来るけど、それ以前に自分が何が悪かったか考え
たんならまず謝ればいいじゃない。アナタ、一言もアタシに謝って
無いじゃない?﹂
﹁アナタは確かに頭が回る。行動力も決断力もある。でも、自分を
過信して突っ走りすぎる。ハジメ、アナタ今回﹃これなら何とか許
して貰える﹄って驕りが何処かにあったんじゃないの?そんな人に
は背中を預けられない。﹂
364
将にぐうの音も出ない。
彼女のトラウマを知れば何か分かると思って。
ただ、じっとしてられない一心で全部突き止めて帰ってこようとし
た。
﹁あの後、アタシがどれだけ寂しかったか分かる?一言も告げずに
丸一日放っておかれた気持ちが。﹂
﹁ごめん・・・。﹂
﹁やっと謝ったわね。それで、何に対して謝ってるの?﹂
﹁一人にされるのが辛くて怒ったウェンディーヌを一人にしてしま
った事に・・・。﹂
﹁30点ね。話がそれだけならそろそろ出て行って貰える?﹂
﹁ウェン﹃ウェンディ姉さん﹄﹂
﹁寂しいのは分かります。アタシが言うのもなんですけど、駄々っ
子も好い加減にして下さい。﹂
◆ ◆ ◆
こじ
﹁これ以上話を拗らせるのが憚られて黙ってましたけど、そろそろ
子供っぽいわがままはその辺にして下さい。姉さんの怒り方はとっ
ても狡いです。﹂
﹁・・・なんですって??﹂
﹁ハジメちゃんが一生懸命だったのは姉さん既に認めてるんでしょ
う?なのに彼のミスを先回りで叩き上げていくやり方を取ると、ハ
ジメちゃんには非を認めてもそれを伝える隙がありません。謝らせ
る隙を与えずただ詰るやり方は狡いです。﹂
365
﹁アタシにはウェンディ姉さんの気持ちなんて分からない。でも、
ウェンディ姉さんにも私の気持ちが分かりますか??﹂
﹁アタシはここに来る途中でハジメちゃんがこっちの世界に来てか
らの事を聞きました。信頼していた元恋人に刺し殺されて、知らな
い世界に放り込まれた。その当日に女誑し込んでた。それを聞いた
時のアタシの気持ち、姉さんに分かりますか?しかもそれがよりに
よってウェンディ姉さんやリヴィエルさんだったなんて・・・。﹂
﹁アタシは彼に前世での負い目があります。だから何も言えません。
それでも彼の性格を姉さんの百倍良く知ってますから反論不可能な
までに叩きのめす事は出来たでしょう。でも・・・﹂
あんまり意固地になってると、本当の孤独って辛いですよ??
﹁・・・!﹂
﹁強引に転生させられて、過去生の記憶が原因で暴走して、過去の
恋人に助けて貰ったと思ったら、その人の心には既に別の人がいた。
しかもそれがウェンディ姉さんだった。それは凄く悔しかった。﹂
﹁でも、姉さんがハジメちゃんと一緒にいてくれたからこそ、アタ
シは彼に赦して貰えたんです。
だから、お願いです。2人はもう離れちゃ駄目です。﹂
﹁アタシからは以上です。後は一晩なり二晩なりゆっくり話し合っ
て下さい。今回は誰一人邪魔させません。
その代わり中で殺し合いになっても止めませんから。﹂
366
そこまで話すと、マコはさっさと出て行った。
﹁あの子・・・。
何で仲良くしてても苦手な感じがしたか分かったわ。アタシそっく
り。。﹂
アストラル・ワールド
﹁じゃ、じゃぁ俺はそろそろサイカ島に戻るよ。姉さん、折角だか
ら久し振りに精神世界でゆっくりお茶でもしないか?﹂
﹁そそそそそうね。そろそろ夜も遅いしね。久し振りにアナタのス
ペースにお邪魔しに行こうかしら。﹂
竜2体がわたわたと帰って行く。
げに恐ろしきは女なりけり。
﹁あ、そうそう。﹂
突然、マコが戻って来た。
﹁今日の所は大人しくするけど、これで2人が喧嘩別れにでもなれ
ばアタシ遠慮無く取っちゃうからそのつもりで宜しくね。﹂
ずごごごごごごご
がるるるるるるる
竜虎、相撃つ!?
げ、げに恐ろしきは女なりけり!!
367
謝罪の言葉︵後書き︶
物凄い難産な回でした。
喧嘩話の仲直りに正解も理由も本当はなくって、要は﹁許す気が残
っているか否か﹂が全てだと思います。10回浮気されても彼を信
じてる、って人から、テレビのチャンネル争いが切欠で1週間実家
に帰る女性も居ますし。それを納得行く理由をつけながら書く、っ
て言うのはほんと難しいですね。
368
言葉で駄目なら態度で示そう︵前書き︶
久し振りにほんわかしたお話を書けそうです。
369
言葉で駄目なら態度で示そう
﹁申し訳ありませんでした。﹂
﹁言葉が足りないわね。﹂
◆ ◆ ◆
﹁喧嘩中にリヴィエルとクロノスとエッチしてごめんなさい。﹂
﹁正直、途中でリヴィエルに強制的に﹃タイダル・ウェイブ﹄発動
してやろうかと思ったわ。﹂
﹁背中預けるなんて言い放っておきながら喧嘩中に浮気してごめん
なさい。﹂
﹁背中預けるって事は後ろから刺されても文句言えないのよね?﹂
﹁独りぼっちで寂しい思いさせてごめんなさい。﹂
﹁元カノとさよならした翌日にアタシを抱く様な女誑しの浮気者の
言う事なんて信憑性ゼロよね。﹂
﹁寂しい思いしてる時に一人で解決しようとして、余計に孤独にし
てしまってごめんなさい。﹂
﹁一人で何でも出来るんなら背中預ける相手なんか必要ないわよね。
﹂
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
370
ダメだぁっ!!
口喧嘩では勝てない!!
﹁なぁ、そろそろ機嫌直してく﹃嫌よ。﹄﹂
・・・左様ですか。
おかしい。
そろそろ謝らなきゃいけない事は全部謝った気がする。
マコが説得してくれたのもあって、大分機嫌は戻ってる気がする。
﹁あれだけの事しておきながら謝罪の言葉だけで許して貰おうなん
て甘いわよねぇ・・・。﹂
・・・おや??
﹁昨日から食事もまともに摂ってないし・・・。お腹空いてイライ
ラして話もしたくなくなってきたわ。﹂
!!!
これはすなわち!!!
飯で手を打とうというヒント!?
﹁胃に優しいもの、すぐに作らせて頂きます!!ちょっと、ほんと
に10分だけ待ってて。食材揃え直してくる!!﹂
﹁待って。﹂
﹁??﹂
﹁作る所、見せて。﹂
◆ ◆ ◆
371
﹁米・・・?﹂
﹁あぁ。やっぱり俺はこれが一番使い慣れてるんだ。麦でもそこそ
こ作れるけど、こっちの方がよっぽど良い。﹂
﹁それにさぁ。﹂
﹁??﹂
﹁お金はこう言う風に使わないと。美味しい、美味しくない、だけ
で決められない価値があるだろ?﹂
作ったのは所謂中華風粥だ。
本当なら和風にしようかと思ったのだが、出汁となるべき昆布やら
鰹節やらがこっちでどう言う風に手に入れれば良いか分からなかっ
た。
幸い干し貝・干しキノコが売っていたのでそれで作る事にする。
﹁戻す時間がかかり過ぎるな・・・。そうだ。クロノス!﹂
﹁料理にまで私を活用ですか??﹂
﹁これ、10倍速で時間早送りして。3分経ったら教えて。﹂
﹁了解です。﹂
日本なら水に浸して電子レンジでチン、と言う方法も有るが、クロ
インベントリ
ノスにタイム風○敷代わりをさせると言う、スキルの圧倒的無駄遣
い!
その間に収納スペースから大量の水を取り出し、米を磨ぐ。
﹁クロノス、こっちも10倍速で。同じく3分後に教えて。﹂
見る見る水を吸い膨らんで行く干し貝とキノコ。
﹁時間です。﹂
合図と共にヒヒイロカネを櫛状に刃の並んだ包丁に変形させ、あっ
と言う間に縦横のサイコロにしてしまう。
372
﹁こちらも終わりました。﹂
米も準備できたようだ。
全部纏めて入れて、緩めの水加減で火にかける。
﹁クロノス、この鍋も10倍速で・・・﹂﹁待って!﹂
﹁??﹂
﹁料理が仕上がるまでどれぐらい?﹂
﹁40分ぐらいかな?﹂
﹁それぐらい待つわよ。ゆっくり話しましょう?﹂
◆ ◆ ◆
﹁しっかしアンタ、クロノスの使い方が断然上手くなってるじゃな
い。何処まで出来る様になってるの?﹂
﹁えっと・・・。半径10kmぐらいの検索、時速2000kmぐ
らいでの飛行、10kmぐらいまでの瞬間跳躍、過去10年前後に
起こった出来事の観察・・・。﹂
﹁な、な、な・・・。﹂
﹁あ、後は3秒ぐらいなら時間を遡れる様になったよ。﹂
﹁・・・ごめんなさい、もう一度良いかしら?﹂
﹁3秒前の世界に戻れる。﹂
まぁ、どの能力も限定した条件下でのみ、だけどね。
﹁・・・・・・。﹂
﹁??????﹂
﹁ふざけんなぁぁぁぁぁぁっっっ!!﹂
イリュージョニストイリュージョン
﹁そんな幻体師も幻体も聞いた事無いわよ!そこまで強力なら他の
373
獣魔要らないじゃない!﹂
﹁いや、駄目なんだ。﹂
﹁何ですって!?﹂
﹁幾ら強力であろうが彼女が一人の獣魔である事には変わりはない。
チビクロ∼ズを使っても同時に処理出来る事は限界があるし、何と
言っても彼女は俺とダメージを共有すると言う最大の欠点がある。﹂
﹁今朝、俺は一度毒で死にかけたんだ。﹂
﹁!!﹂
﹁その時はケンタウロスに助けて貰えたけど、クロノスは残念なが
ら他で手がいっぱいだった。﹂
﹁・・・申し訳ありません。﹂
﹁クロノスが気にする事はない。俺が自分で処理出来ると驕った事
が原因だから。﹂
﹁俺にはみんなの力が必要なんだ。・・・勿論、ウェンディーヌの
力も。
今度こそ一緒に旅をして下さい。﹂
ふぅ。
漸く全部言えた気がする。
﹁・・・良い匂いして来たわね。﹂
﹁あ、あぁ。仕上げるよ。﹂
取り出したのは太極図模様の卵。
鶏の卵より2周り程大きい。
﹁フタゴワシの卵!?それ、無茶苦茶値段するでしょ!?﹂
374
﹁ん?あぁ。こっちの食材良く分からないから、店主に﹃スープに
合う貝とキノコと卵頂戴。﹄って言ったんだけど?サイズ的にも丁
度良かったし・・・。﹂
﹁ひょっとして残りの食材って、星貝とマジカルマッシュルーム?
?﹂
﹁そんな様な名前だったと思うけど?﹂
くらくらと眩暈がした。
こんなサバイバルクッキングの様な場面に使って良い食材では無い。
断じてない。
﹁そこまで思い切って買い物出来るのに、どうしてこの間は定食一
つにあれ程迷ってたの?﹂
﹁それは企業秘密です。そんな事よりも、出来たよ?﹂
粥、と言うらしい。初めて食べる料理だった。
そもそも米自体が高級食材過ぎて庶民の口に入ってこないし、料理
は伊達ではないのだろうが、それ以上にこっちの食
法もあまり確立されていない。
離乳後毎日
材を行き成りで殆ど完全に調理してしまうのが凄い。
塩加減は薄め。その分、出汁が良く効いてて胃に染みて行く。
香味に散らした虹色バジルだけは彼の好みだろうか。
﹁・・・美味しい。ありがと。﹂
﹁最後にもう一回だけ言うね。本当にごめんなさい。﹂
﹁・・・今晩一晩、一緒に居て。もし手を出して来たりしたら、分
かってるわよね?﹂
﹁・・・了解。ありがとう。﹂
375
言葉で駄目なら態度で示そう︵後書き︶
ハジメがウェンディーヌの胃袋掴んでどうするんだって話ですが。
仲直りの時に一緒に食事を取るのは基本ですよね。
376
色情魔 ※︵前書き︶
・・・
皆様お気付きか分かりませんが、まだあの日から3日経ってません
w
377
色情魔 ※
流石に無茶苦茶疲れていた。
体の疲れと共に、気疲れが激しい。
ウェンディーヌが抱えていた想い、それを知らずに自分が彼女に対
して行った仕打ち。
一応は許して貰えたが、神経が張り詰めすぎて疲れているのに全く
寝付かれない。
︵外の空気でも吸いたい・・・︶
ところが。
自分は今晩完全にウェンディーヌの抱き枕という役目の様だ。
大人しく隣で寝るつもりだったのだが、いつの間にやら抱き付かれ
て、剥がそうにも剥がせない。
腕力も去る事ながら、剥がそうとするとうなされた様に寂しげな表
情を浮かべるのでどうにもこうにも対処の仕様がない。
︵眠り薬でも買っとくんだったな・・・︶
◆ ◆ ◆
ごそり
︵??︶
夜半過ぎ、漸くウトウトし始めた頃。
いつの間にかウェンディーヌは自分に背を向け、何やらゴソゴソや
っている。
378
﹁寝付けないの?﹂
﹁ひゃぅっ!﹂
﹁︱︱!?どうした!?﹂
肩に手をかけた瞬間。
﹁きゃふぅぅぅぅっっっ!!﹂
﹁︱︱!!﹂
・ ・
﹁・・・ウェンディーヌ?﹂
﹁ハ、ハジメ・・・、アレ始まっちゃったみたい・・・。﹂
デス・スペルマ
﹁まさか・・・。﹂
﹁そうみたい。精死薬の副作用。。﹂
大丈夫か?再び手をかけた瞬間・
﹁きゃふぅぅぅぅっっっ!!﹂
また逝った??
﹁ハジメ、お願い、アタシもう我慢出来ない!!﹂
長い夜の始まりだった。
◆ ◆ ◆
ローブもブラも引き千切る様に脱ぎ捨て、あっと言う間に一糸纏わ
ぬ姿になる。
﹁ハジメ、お願い、これ頂戴?﹂
379
じゅぽ、と大きく口を開けて彼女の口腔内に飲み込まれていく俺の
ペニス。
あまりの事に萎縮気味だったがこれまでの彼女には考えられない激
しい口撃に一気にそそり立っていく。
じゅぽ
じゅる・・・
﹁アンッ、素敵、おっきくてかたぁ∼い♪﹂
じゅぽ
﹁ねぇ、ハジメも脱いで?一緒に気持ち良くなろうよ。﹂
にゅちゅっ
じゅるじゅる・・・
ウェンディーヌはどちらかと言えば控えめなセックスが好きだった
筈だ。
ニンフォマニア
それが・・・。
じゅぽっ
︵これが色情魔症状か!!︶
じゅぽっ
い 出 し て ね
激しく吸い上げ、喉まで含み、そうかと思えば裏筋を舐め上げ、カ
い っ ぱ
リに舌を絡める。
﹁うっく!﹂
き も ち いぃ
﹁ひもちひぃ?いっふぁいらしてね♪﹂
﹁︱︱!!﹂
ちょ
う だ い
い っ ぱ
い ちょ
う だぁぁ
いっ
﹁欲しいのか?俺の精液、いっぱい欲しいのか??﹂
ぐちゅぐちょ
﹁ちょーらい!いっふぁいちょーらぁぁいっ!!﹂
ぐちょぐちょ
玉を片手で転がしながら一方の手で扱き上げ、それに合わせて上下
380
に吸い上げるバキュームフェラ。
おっ
き く なっ
て き たぁっ
背中から腰にかけてむずむずとした感触が集まってくる。
﹁あはっ!おっひふなっへひらぁっ!﹂
﹁逝くぞ!受け止めろ!!﹂
ずぐん!と大きく突き上げた後、一気に引き抜く。
彼女の髪や肌へ白濁したザーメンが飛び散り、白く染め上げて行く。
パールピンクの髪との対比は卑猥ながらも美しくさえ感じる。
﹁あつぅい、べっとべとぉ。﹂
お∼いしっ♪﹂
言いながら、指に絡め取り舐め上げていく。
﹁んふふ♪
﹁!?﹂
ウェンディーヌは精子の味は嫌いだった筈、考えかけた時・・・。
﹁ね、今度はこっちにちょうだい♪﹂
既にとろとろを超して白い粘液がどろどろと溢れ出ているマンコを
両指で思い切り開いてねだって来る。
﹁ねぇ、早くぅ・・・。んふ♪入れちゃうよ??﹂
呆気に取られている俺を押し倒し、騎乗位で馬乗りになって来た。
﹁えへへ、ハジメのオチンチン、まだ元気だね。﹂
初めての体位で慣れないのかぎこちない手つきで入り口を合わせよ
うと試みる姿。
それとはあまりにアンバランスな、カイラクに蕩け切った淫卑な表
381
情。
彼女の膣口に俺の先が触れた時、こちらから思いっ切り突き上げて
やった。
﹁くひゅぅぅぅっ!しゅごい!しゅごいの来たよぉ!!ハジメのオ
チンチン、固くておっきくて、アタシのイヤラシいオマンコを気持
ずじゅっ
ずじゅるっ
ち良くしてくれてるのぉぉっ!﹂
ずぐっ
﹁あぐぅっ!ああ、アタシの赤ちゃんの入り口、コツンコツンって
!ハジメのオチンチンと中でちゅーしてるぅ!﹂
﹁ねぇ、ねぇ、ハジメのザーメン、アタシの子宮に飲ませて!!!
アナタのザーメン欲しくって切なくてキュンキュン言ってるのぉっ﹂
言われるまでもなく既にこちらも限界が近い。
彼女の膣は俺から精液を搾り取ろうとする為だけに存在するかの様
だ。
激しい動きに合わせてヌメヌメと圧迫され、ペニスに感じる刺激だ
けでも何度でも行けそうだ。
更に、普段はない性欲に狂いきったウェンディーヌの表情に、激し
い征服欲が襲いかかってくる。
どくぅっ
どくぅっ!!
﹁逝くぞ!一滴残らず飲めよ!!全部子宮に注ぎ込んでやる!!﹂
びゅくぅぅぅんっっ
﹁あきゅうううぅぅぅっっ!!!﹂
382
◆ ◆ ◆
はぁ、はぁ、と大きく息を継ぐ。
普段ならこれぐらいどうって事の無い回数だが、流石に今日は体力
的にキツい。
見れば、ウェンディーヌも冷静さを取り戻している様だ。
﹁落ち着いたか?﹂
﹁ご、ごめんなさい・・・アタシから手を出すなって言ってたのに・
・・﹂
﹁まぁ、こればっかりはな。それに、やっぱり可愛いウェンディー
ヌとただ寝るだけなんて俺も辛かったし。気持ち良かったよ。あり
がと。﹂
﹁・・・ねぇ、今何時?始まってからどれくらい時間過ぎた?﹂
﹁今、1時半ぐらいかな?し始めてから2時間ぐらい?﹂
﹁・・・おかしい。まだまだ時間残ってる筈なのにどうしてこんな
に落ち着いてるの??﹂
個体差とかじゃないのか、言おうとした瞬間だった。
ずぐん
﹁きゅふうぅぅぅっ!﹂
そっと口付けたと同時に再び彼女が逝った。
﹁お、おい、どうなってるんだ!?リヴィエル、教えてくれ!!﹂
﹁やれやれ。アタシ、まだなーんにもお話しさせて貰えてないんだ
けどなぁ。﹂
﹁そんな事より!今はこっちが先決だろ??﹂
383
デス・スペルマ
﹁精死薬、使っちゃったのねぇ。
オモチャ
・
アレはね。件の性魔術師が作ったお遊び用性具なの。捕まえた女を
・ ・ ・
次々発情させて犯しまくる。妊娠したら遊べないから避妊作用をオ
マケで付けた。
そんで、あの性悪は、女が一瞬我に返って絶望に落ちる表情を楽し
む為にある機能を付けたのよ。﹂
﹁まさか・・・。﹂
﹁そう。中出しされると、ごく僅かな時間我に返るの。勿論すぐに
元に戻るけどね。発情させる確率が3割と低すぎて結局ボツアイテ
ムになったんだけど、話を聞き付けたどっかの商人が避妊率の高さ
に目を付けて商品化したのよ。﹂
なんちゅう・・・。使用方法が今と真逆じゃないか。
コール
﹁ねぇ、ねぇお願い!ハジメ、リヴィエル、アタシを犯してぇっ!
気が狂っちゃうぅぅぅ・・・﹂
﹁ええい!俺一人じゃ無理だ!クロノス、実体化!3人で攻めるぞ
!!﹂
﹁漸くウェンディーヌさんとも仲良くなれますね♪﹂
夜は長い!!まだまだこれから!!
384
色情魔 ※︵後書き︶
エロシーン、何と第3章に来て初めてですね。
しかも短くて済みません。流石にこの4人のハーレム部分は気合い
入れて書きたいので分けさせて下さい。
385
みんな一緒に仲直り ※︵前書き︶
37話目にして初めてメインヒロイン3人とのハーレムH・・・^
^;
おかしいです。私の計画ではこれは10話辺りで書いてたはずの内
容なのです。
しかもメインヒロイン既に1人増えてるし。
386
みんな一緒に仲直り ※
﹁ねぇ、コレ、ハジメのコレちょうだぁい??﹂
言いながら既に俺のペニスをしゅこしゅこと擦り上げている。
彼女自身と俺の粘液が混ざり合い最高の潤滑剤となっている。
﹁ダメ、お預け。﹂
﹁ね、ねぇお願い。今日までの事、全部許すから。お願い、もう気
が狂いそうなの・・・。﹂
﹁ほんとに許してくれる?﹂
﹁絶対!絶対許す!!﹂
段々泣きそうになって来ている。
﹁明日の朝になって、やっぱり無し、とか無しだよ?﹂
﹁分かってるわよ!ここにいるみんなに誓っても良いから!!﹂
にま∼り
別にこう言うアンフェアな仲直りがしたい訳ではない。
単に、この状況を思いっ切り利用して今まで出来なかった事をして
みようと思っただけだ。
︵ハジメ、アンタ段々アタシに似て来たわよ。︶
︵五月蠅いよ、てか、それは確実にリヴィエルの責任でしょーが︶
﹁ウェンディーヌさん♪﹂
﹁な、何・・・??﹂
﹁そぉんなに怯えなくっても大丈夫だって。ちょっとお願いがある
だけだよ??﹂
387
﹁何!?何でもするから!!ねぇ、だから早く!﹂
﹁俺、まだ誰にもして貰った事が無いプレイがあってさぁ。特にウ
ェンディーヌに適任な行為なんだけど・・・。﹂
﹁誰にも??リヴィエルにもクロノスにもマコちゃんにも??﹂
﹁うん、まだ誰にも。てか何でマコが登場するんだ。。﹂
どうせその内やるつもりの癖に・・・などとぶつくさ言ってる。
◆ ◆ ◆
﹁こう?﹂
﹁うくっ、気持ち良い!やっぱりおっぱいはウェンディーヌの最大
の魅力だよね。﹂
﹁えへへ、嬉しい♪ハジメのオチンチン、アタシのおっぱいで隠れ
ちゃったぁ。﹂
仰向けに寝た俺の股間で試行錯誤しているウェンディーヌ。
いつかやってみたかったパイズリ。
リヴィエルもクロノスも決して小さくはないが、ウェンディーヌの
サイズは破格であり、それに何より極上のマシュマロホイップの如
き柔らかさ。
むにゅ・・・
にゅる・・・
しゅりゅる・・・・・
泡の海をペニスが泳ぎ回っているかの様な感触。
むにゅ・・・
・
左右から挟み込み、唾液をまぶしたそれを扱き上げる。
ハジメの、びくびくってしてるよ?﹂
どんなに激しく動いてもペニスがおっぱいの外に少しも顔を出さな
い。
﹁ふふっ♪
388
﹁あぁ。ウェンディーヌの中を泳いでるみたいだ・・・。﹂
彼女がにへらぁ∼と蕩けた表情を見せた後、むぎゅ!っと圧迫が強
じ
くなったかと思うとウェンディーヌは自らの巨双乳を押し下げ、亀
頭を無理矢理飛び出させた。
﹁あ∼むっ♪﹂
﹁︱︱!!﹂
パイズリフェラ!?教えてもいないのに・・・。
﹁エヘヘ、ハジメ、嬉しそう。アタシも嬉しい♪﹂
ちゃぷ・・・
じゅぼりゅる・・・
ちゅっぷ・・・
じゅる
じゅぶ・・・
﹁うくぅっ!そのまま、そのまま口でしごいてくれ!!﹂
じゅぶ・・・
ゅぼじゅぼじゅぼ・・・
最初は味わう様に舐め回していた動きが次第に搾り取ろうとするか
の様に激しさを増す。
このままでは逝かされてしまう!
﹁リヴィエル、ウェンディーヌにアレをしてやってっ!!﹂
﹁了解♪まいますたー♪﹂
﹁︱︱!?﹂
特製ポーション
塗れでぐりゅ
待ち惚けを食らっていた彼女は弾かれた様に動き出す。
一瞬で着衣を解いたリヴィエルは
ぐりゅとウェンディーヌの背後に体をなすりつける。
﹁ちょっと!?熱ぅっ!?でもひんやりして気持ち良い?はう、も
うどっちか分かんないよぉ・・・。﹂
﹁クロノス、チビクロ∼ズ全開でウェンディーヌの弱点を攻めろ!﹂
389
﹁了解しました、マスター。﹂
﹁︱︱!?!?﹂
手を休めずにもう1人にも指示を出す。
﹁ダメ!脇はダメなのぉっっ!そこはハジメにして欲しいのに・・・
﹂
﹁ウェンディーヌ、彼女は俺と一心同体でしょ?﹂
﹁ウェンディーヌさん、私達、もっと仲良くなれますよね?﹂
デス・スペルマ
普段なら拒否したかも知れない。
しかし精死薬の作用で性欲の固まりとなっている今のウェンディー
ヌには正確な判断も否定も出来なかった。
こくりと頷くと、続けて・・・と小声でねだった。
﹁クロノス、次は髪だ。全ての髪を一本ずつ梳き上げてやれ。﹂
﹁くひゅううぅぅんっ!それも、それもダメなのにぃぃ﹂
﹁クロノス、ダメなんだそうだ。止めてやって。﹂
﹁いや、ごめんなさい、ダメじゃない、ダメじゃないから続けてぇ
!﹂
﹁それならお留守になってるこっちもして?﹂
ウェンディーヌの巨双乳に埋もれたままのペニスを眼前に突き上げ
る。
じゅぼっ!
にゅるぅぅ・・・
くぢゅぐちゅ・・・
はっと我に返り、必死の表情で吸い立ててくる!!
ぐじゅっ!
性感帯
後ろからリヴィエルに攻められ、脇と髪をチビクロ∼ズに攻められ。
390
口の中には愛する人のオチンチン。
いつの間にやらクロノスがおっぱいを萌葱色の髪の毛で撫で上げて
いる。
痛いのか、苦しいのか。
ウェンディーヌの思考はどんどん麻痺していった。
いや、それは痛みすら感じる程の、苦痛にすら感じる程のカイカン。
狂った様に肉棒を吸い尽くす。
もうコレ無しで生きてる意味が感じられない。
﹁ハジメ・・・﹂
﹁うん。﹂
上目遣いで呼び掛ける。
﹁﹁愛してるよ。﹂﹂
心がシンクロした瞬間。
びゅくくぅっ!びゅくん!どくっ!びゅるるるるるりゅるりゅるゅ
ゅるゅ!!
ハジメの堰が決壊した。
咽せ帰りそうな程濃厚な一撃が口を伝って体を染め上げていく。
﹁んぐっ、んぐっ、えへへ、やっぱり美味しい♪﹂
たっぷり1分近くこくこくと喉を動かし、あーんと口を開いて飲み
干した事を魅せてくる。
あまりの可愛らしさに気付けば強く抱きしめていた。
391
﹁きゃふうううううぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!!﹂
ゴックンでは冷静になれないらしい。
﹁ハ、ハジメ、今度はこっちに飲ませて・・・。﹂
膝を立ててマンコを開き、精一杯ねだってくる。
どうせなら期待以上の事をしてやろう。
﹁ウェンディーヌ、四つん這いになって後ろ向いて?﹂
﹁・・・こう?﹂
返事の代わりに一気に貫いた。
﹁くひゅううん!しゅごぉいっ!ハジメのしゅごいの来たよおぉっ
??﹂
﹁チビクロ∼ズ、全身の性感帯を探れ。﹂
チビクロ∼ズは合図と共にフェアリーの様な光を放ちウェンディー
ヌに集っていく。
﹁ますたー、ここと、ここと、ここと、ここと、ここと、ここが特
に弱いみたいです。﹂
髪、脇、首筋、クリトリス、乳首、それに・・・アナル??
﹁リヴィエル、ウェンディーヌのアナルを攻めたげて。﹂
﹁了解、まいますたー♪﹂
ずぶり
遠慮無く中指が突き立てられた。
﹁あぁ!汚いのに!そんなとこダメなのにぃ!初めてなのに感じて
るよぉぉっ!﹂
392
﹁大丈夫、ウェンディーヌのお尻、とっても綺麗よ?﹂
言いながら舌での刺激も忘れない。
﹁チビクロ、ウェンディーヌのアナルに潜れ。﹂
もぞもぞもぞもぞ。
リヴィエルの指をガイドに腸内に侵入したチビクロを通して、俺の
脳裏に強い締め付けが伝わる。
﹁ウェンディーヌの腸が喜んでるのが伝わってくるぞ!﹂
﹁いやぁっ、恥ずかしいのに、恥ずかしいのにもうダメぇぇ・・・。
﹂
ぱぁん!ぱぁん!ぱぁん!ぱぁん!
﹁あふぅっ!しゅごぉいぃぃぃっっ!!激しい!!激しいよぉおお
っっ!逝って良い??逝っても良いっっ!?﹂
﹁良いよ、一緒に逝こう。ウェンディーヌの子宮の奥まで、薬なん
て関係なくなるぐらい濃いのを種付けしてやる!﹂
ぐじゅぅっ!ぐぢゅぅうっ!ぬぢゅっ!
﹁それ素敵!!来て?来て来て来て来て来てオネガァァァァイッッ
ッッ!!!﹂
﹁逝くよ?﹂
びゅくん!びゅくくぅっ!どぐどくどぐどぐん!びゅるるるりゅる
りゅるゅゅるゅ!!
﹁逝くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!﹂
◆ ◆ ◆
393
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
もう何度目の射精だろうか。
ウェンディーヌは既にどれが元の肌の色か分からないぐらい全身に
俺の精液を浴びている。
﹁くひゅうううぅぅぅぅっっっ!!!﹂
これまでで一際大きな絶頂の後、こてり、と倒れ込んできた。
﹁ハジメ・・・﹂
﹁ん?﹂
﹁収まってきたっぽい・・・﹂
﹁さっきも同じ事言ってなかった?ってか、それ聞くのも既に何回
目?って感じだけど?﹂
﹁こ、今度こそ、今度こそほんとに大丈夫っぽい!!﹂
﹁じゃぁ、こんな事しても大丈夫?﹂
チビクロ∼ズに全身を同時に攻めさせた。
﹁気持ち良いけど、ふわふわぁ∼、ってぐらい。﹂
今回は確かに今までと違うらしい。
﹁て、事は・・・。﹂
﹁ごめん、ほんとごめんね。いっぱいしてくれて。愛してるわよ、
ハジメ。﹂
やっと寝れる。
そう思って横になった時だった。
394
﹁アタシ達に働かせるだけ働かせて2人で仲良く寝ようなんて良い
度胸ね。﹂
﹁マスター、私達、まだ今日一度もして貰ってません。﹂
﹁・・・なぁ、頼む。ほんと頼む。今日さえ勘弁して貰えれば24
時間ぶっ通しでも72時間でもトライする。だから今日だけは・・・
。﹂
﹁﹁却下。﹂﹂
言いながら既にリヴィエルはローションプレイと前立腺マッサージ
デス・スペルマ
に入っている。
﹁精死薬のほんとの語源、教えたげる。
アレは妊娠しない様に精子を殺すんじゃないの。
一度女が発情したら、傍にいる男の精子が死滅するぐらい女が性欲
狂いになる、って意味なのよ♪﹂
﹁いや、リヴィエルさん、﹃なのよ♪﹄じゃなくってですね?﹂
﹁ウェンディーヌは口に3回、髪に4回、胸に4回、中に5回の1
6回だったから、優しい水龍王様は2人で分けっこにしたげる。8
回ずつで良いわよ?﹂
コール
数えてたのかよ!ってか、実体化して手伝わした意味ねぇじゃん!
!!
夜は、まだまだ続く!!!︵???︶
395
みんな一緒に仲直り ※︵後書き︶
ウェンディーヌ
勿論、このシーンはここで終わりですw
初めてトゥルーヒロイン入れてまともに書いたハーレムエッチ、い
かがだったでしょうか?他の2人の陰が薄いのは一応ウェンディー
ヌ回への2人の乱入、と言う形だからなのですが、何ともかんとも・
・・。
この回はとっても皆さんの反応が心配な回でもあります。感想、熱
烈お待ち致しております。
396
ギルドへ報告︵前書き︶
書いてて楽なキャラはクロノスとリヴィエルですね。欲求がはっき
りしてて真っ直ぐなのは良い事です。
397
ギルドへ報告
・・・夕日が、眩しいぜ。。
引き籠もりの様な台詞を吐いた後、俺は即座に熱々のシャワーを浴
一択ね!!︶
び、ポーションとエーテルをがぶ飲みして、薬屋に直行した。
﹁精力増強剤、精力増強剤・・・﹂
半信半疑だったが、有るわ有るわ。
が、問題が発生した。
真っ赤に燃え滾る漢の魂
︵どれが効くのか分からねぇ!!︶
︵リヴィエ・・・︶︵
呼び出そうとする前に答えられた。見てたのかよ!!
︵・・・どうもそのうきうきした感じが信用ならん。︶
︵えぇ∼っ??それ、凄いわよ?一瓶で10日10晩、硬度、持続
力、回数共に抜群の性能を誇り、その間活力有る子種を作り続ける
という体への普段も考慮された一品よ?︶
︵却下。︶
︵ええぇぇぇ∼∼∼っっ??どおしてえぇ∼?︶
︵カマトトぶんなっつーの!分かっててやってるだろ!?昨日みた
いなの10日10晩とか死ねるわ!!︶
一粒30億匹
がお勧めか
︵同じ様な機能で良いが、せめて1日で効果の切れる短時間型はな
いのか?︶
︵それならその4つ下に表示されてる
しら?新婚初夜のカップルに向けて開発されてるから体が火照りす
ぎて暴走するって事も無いわよ?︶
︵どーでも良いがこのネーミングはどうにかならんのか。︶
398
︵しょうがないわよ。この手の商品は殆どが件の性魔術師が80年
間童貞の間に暖め続けたネタなんだから。︶
その年で未だに性欲を溜め込んでたのも或る意味凄いが。
︵まぁコレで良いや。後、軽い睡眠薬みたいなのない?︶
︵薬を使って襲わなくっても誰ももうハジメを拒否ったりしないわ
よ?
あ、ひょっとしてそう言うのがお好き?それなら・・・︶
︵違う!!疲れた時、疲れすぎて寝れないとか冒険する上でお話に
ならんだろ?だから、入眠が軽くなって、途中覚醒が少ないのが良
いんだけど。ただ、睡眠中にトラブルが起こった時、起きれません
でした、だと話にならんから、それ程強くないのが良い。︶
朝まで
で良いんじゃないかしら?疲れも良く取れるわよ?︶
︵成程、ハジメにしては色々考えてるのね。それならその
グッスリン
道中使用したポーションやらエーテルやらを買い足して出て来たら、
やっぱり10万ぐらいかかった。
◆ ◆ ◆
﹁ハジメちゃん、ギルドに昨日の賊とアタシの事を報告に行かなき
ゃ。﹂
すっかり忘れてた。
そう言うマコは、安心したけど納得してない、そんな表情。
大方、昨日の顛末をパンドラ通して何となく知ってるんだろう。
﹁えーっと、チーム登録にも行かなきゃいけないし、ウェンディー
ヌも一緒に行こう?﹂
399
﹁ひょっとしなくっても、マコちゃんもチームに入れるつもりよね
?﹂
﹁え、ダメ?﹂
﹁・・・確かに彼女を放っておくつもりもないし、元々友達だし、
それは確かに、確かにそれは良いんだけど。。﹂
そうか。マコが起こした事は単なる自然現象なんかじゃない。
感情をぶつけてウェンディーヌの両親を殺し故郷を目茶目茶にした。
むぎゅ
﹁・・・それズルいわよ。﹂
﹁このまま聞いて欲しい。まだガルーダの長にしか話してない事だ
けど、俺の旅の目標。そんで、多分それはウェンディーヌと一緒。﹂
﹁サイカ島を含め、マリンフローを復興する。国という形だけじゃ
マコト
なく、人も、獣魔も、自然も、全部。昔と同じか、それ以上の国を
作る。
俺のこっちでの旅の目標は最初、麻琴を探し出して彼女の贖罪の手
伝いをする事だった。でも、正直そんなのどうすれば良いか分から
マコト
なかった。そんでサイカ島に行ったら転生した麻琴に会えた。しか
も彼女はこっちでも罪を重ねていた。
こっちで最初に出会ったウェンディーヌ、俺の目的だった麻琴、全
インヴォーカー
部あの地に関係してるんだ。マコにあそこの復興を手伝わせたい。
贖罪
なん
コレはもう彼女の意見なんて関係ない。獣魔師として力を揮い傷付
けた物は同じ力で直さなきゃいけない。それが彼女の
じゃないかと思う。﹂
そんで・・・
400
﹁復興したあの場所でみんな一緒に暮らさないか?﹂
◆ ◆ ◆
マコト
﹁・・・元の世界に帰りたくはないの?﹂
﹁俺と麻琴の身内は元々殆ど同じ人達なんだ。その人達と連絡が取
れる方法は探してみたい。その為に、この世界の隅から隅まで知り
尽くして、世界の構造を知りたい。その為の旅だ。
でもその旅で貯めたお金は全部マリンフローに注ぎ込む。﹂
﹁人生3回分の金、ウェンディーヌもそれが目的なんだろう??﹂
﹁やっぱり気付いてたのね・・・。アタシがしようとしてたのは爵
位を買って自治権を少しずつ広げていく事だったんだけど・・・。﹂
﹁それはそれで良いと思う。でも、土地があっても人がいなければ
国じゃない。俺はそれも集めたいんだ。元居た人も、新たな移住希
望者も。﹂
﹁ウェンディーヌも、マコも、あそこが故郷だろう?俺はそれ程元
の世界への執着は強くない。
楽しい事も愛する人も全部こっちにある。ただ、故郷だけがこっち
にない。
みんなと、故郷を作りたい。﹂
﹁ハジm・・・﹂﹁ハジメちゃん!!﹂
むっぎゅぅぅぅ∼∼∼っっ!!
﹁ぐほっ!く、苦し・・・﹂
﹁素敵!やっぱりハジメちゃんはハジメちゃんのままなのね。
色んな女に手を出しまくってたけどアタシの好きなハジメちゃんの
ままね!!
401
良い!!素敵!!最高!!
作りましょう!なりましょう!新世界のアダムとイブに!!﹂
びきぃっ!
むぎゅぎゅぅぅぅぅ∼∼∼∼っっ!!!
﹁げふぉっ!チョーク!チョークチョーク!!﹂
﹁ダメ。アタシはハジメの最初の人。ハジメはアタシの最初の人。
アダムとイブは譲らない。﹂
おぼこ
﹁こればっかりは姉さんにも譲りませんよ?﹂
﹁鼻ったれの未通女に負けるとでも思ってるの?ハジメのは大きく
て固くて太くって、アンタみたいなチビスケには到底受け止めきれ
ないわね。﹂
びききぃぃっっ!!
﹁ハジメちゃん。﹂
﹁は、はひぃっ!?﹂
﹁今からしましょう。このピンクのふわ毛なんかに負けないわよ。
大和撫子の黒髪黒目の魅力、いっぱい感じてね??﹂
言いながら既に脱ぎ始めている。
マズい。流石にこのまま始めたら本当に死ねる。
さっき買った薬もあるけどそれ以前に体力が限界だ。
﹁ちょ、ちょっと待った!まずはゆっくりギルドに報告に行こう。
なぁ?今晩!今晩は二人っきりで部屋取ろう?誰にも邪魔されずゆ
っくり過ごそう??﹂
402
コール
半裸の彼女の背後にいつの間にやらパンドラが実体化されている。
﹁・・・嘘は吐いてないみたいね。嘘吐いたらハリセンフグ飲ます
からね。﹂
◆ ◆ ◆
﹁クロノス、アテネさんに連絡とって。﹂
サイカ島の
に関する事となると関係者集めてギルドマスターに報告しな
エレンさん
賊の話だけならギルドに直接報告で良いだろうけど、
悲劇
きゃだろう。
インヴォーカー
﹁30分程でアテネさんが来るので、獣魔師ギルドに来てくれ、だ
そうです。﹂
一体どう言う方法で世界の何処とも知れぬ場所からすぐにここに来
るんだろう?
その辺、調べないと追いかけっこどうにもならないな。
取り敢えずギルド庁に向かって歩き出した。
念の為マコにはローブを頭からすっぽりかぶってもらい、容姿を隠
して貰っている。
年齢が違う為分からないと思うが、黒髪黒目はこの世界では結構レ
アだ。
俺と一緒に歩いていると目立ってしまうだろう。
ローブ姿の彼女に寄り添いこっそり話しかけた。
﹁ありがとな。﹂
﹁えっ!?﹂
﹁昨日の夜の事。そんでさっきの事。﹂
﹁もう、やっぱり気付かれてたのね・・・。﹂
﹁何年幼馴染みやってたと思ってんの。嫌われ役になるの覚悟で仲
403
直りさせてくれたんだろ?﹂
﹁ねぇ、アタシも本当にパーティに入りたい。﹂
﹁俺は勿論、大歓迎だ。後は直接ウェンディーヌに頼んでみな。彼
女も本当は仲良くしたいんだろうさ。﹂
﹁・・・後で話してみる。﹂
◆ ◆ ◆
﹁お話は伺っております。来客室へどうぞ。﹂
そこには既にアテネさんが待っていた。
﹁ほんの数日ぶりだけど、何だか随分色々有ったみたいね?﹂
﹁はい。長い話と短い話があります。短い方から御報告しましょう。
﹂
インベントリ
マコに、賊の頭部、ブレスレットを含む右手、毒を仕込まれたトキ
ツカゼの奥歯を収納スペースから出して貰う。
ケイローンの加護
ブラッド・ラ
を持ったケンタウロスを操獣魔に
ファミリア
﹁この者率いる30名弱が生まれたばかりのケンタウロスの仔を人
質に取り、
ット
しようと脅していました。しかもその際、里に火を放ち、吸血ネズ
ミの大群を操り、里にも直接ダメージを与えています。﹂
コール
﹁成程・・・それを証明出来る獣魔は他にいる?﹂
コンフェデレィト
﹁はい。オトヒメ!実体化、トキツカゼ、アマツカゼ、賊の生き残
りを連れてこっちに来てくれ。﹂
コミュニケーション
﹁まさかこの数日で%&$#まで契約獣にしているなんて・・・。
彼女はエレンが次に交渉に行こうと考えていたのですよ?﹂
%&$#ってオトヒメの事かな?彼女の要求考えるとエレンさんに
は無理っぽい気も・・・。
﹁お久しぶりですね。今はオトヒメと名を頂いています。貴女は今
404
コントラクター
はアテネでしたっけ?﹂
インヴォーカー
﹁随分良い契約師を見付けたようね。貴女の元に辿り着く獣魔師自
体、滅多にいないでしょう?﹂
コントラクター
﹁貴女こそ昔のツンケンしたのが丸くなってますよ?﹂
インヴォーカー
﹁私以上に人遣いの荒い契約師に付く事になると思わなかったから
よ。
実際、獣魔師ギルドマスターの事務仕事の8割ぐらいアタシがやっ
てるわよ。﹂
ファミリア
そこに、ケンタウロスの姉弟が賊を連れて入って来た。
﹁ケンタウロス!そのまま操獣魔にしてしまったのね・・・。相も
変わらず破格な。。﹂
﹁お言葉ですけど、無理矢理じゃなくって同意の上でしてるつもり
ですよ?﹂
﹁あぁ、ごめんなさい。そう言う意味じゃないのよ。助けたぐらい
で簡単に仲間に出来る程、レベル低い獣魔じゃないからね。単純に
感心してるのよ。﹂
さて・・・
﹁じゃぁ、こいつらのやった事を洗いざらい証言して貰いましょう
か。﹂
﹁了解です。﹂
﹁腕輪よ、そなたの真実を示せ。﹂
﹁欲深き者達よ、そなたらの知るべき全てをこの世に吐き出せ。﹂
ヒエログリフ
アテネさんが腕輪に呪文を唱えると膨大な数の神聖文字がホログラ
ムに投影された。
またオトヒメが歌い、命令すると、賊の2人は知っている全てを話
し出した。
405
テイマー
ファミリア
﹁こりゃまた・・・結構な重犯罪者捕まえてくれたわね。グリード・
ロッド、45才、操獣師、前科12犯、操獣魔を用いた恐喝、強姦、
ファミリア
獣魔への恫喝、使役関係の強要etcetc・・・﹂
﹁今回の手口も操獣魔を使いたい放題道具扱いですね。ケンタウロ
スの里の在処を教えた同業者の名前も分かりましたので、後はそち
らでお願いします。﹂
クエスト
﹁今回のこれ、ハジメが1人で片付けたのよね?依頼外だけどソロ
なら十分にAランクのランク上昇ポイント3つ相当になるわね。後
でブレスレットに付けとく様に職員に言っとくわ。﹂
と言う事はCランクの9ポイント相当?
﹁後、グリード山賊団には全員合わせて1億ミュールの賞金首だっ
たから、それも支払われるわね。﹂
おく!!??
﹁それと、相続内容確認して。﹂
相続?
インヴォーカー
俺が困惑してると、後ろでウェンディーヌが﹁しまった﹂って表情
をしている。
﹁ごめん!説明してなかった!!基本的に、獣魔師って財産の全部
インベントリ
ウェアハウス
をブレスレットに入れられるでしょう?ミュールのチャージもそう
だし、貴重品は収納スペースか共同保管庫に入れるし。土地の権利
とかもそこに書き込まれてるし。
本人の意思が無ければ操作出来ないから殺して奪う事も基本、不可
能。
そんで、死んだ時にそれを誰に相続するか、ってのを前もって決め
られるのよ。家族だったり、友人だったり。指定してなければギル
406
ドに没収されるわ。
そんで、犯罪者の場合は強制的にギルドに没収なんだけど、半額は
捕まえた人物が相続出来るの。﹂
﹁そう言う事。金額的に半分まで、って事だから、特に欲しい物が
あれば半額越えない範囲なら指定して良いのよ?﹂
どれどれ・・・総額は・・・1003421566ミュール相当。。
えっと?
いちじゅうひゃくせんまん、と数えていって、
﹁10億ぅっ!?﹂
﹁犯罪犯してまで貯めた割には意外としょぼいわよね?﹂
違うでしょ!!アテネさん!!!
インヴォーカー
後ろ振り返るとウェンディーヌが当然、と言う顔で眺めていた。
﹁言ったでしょ?獣魔師ってメチャクチャ儲かるのよ?犯罪犯さな
くても真面目にやればBランクでそれぐらいの人はそこそこ居る。
犯罪犯して貯めたのがその程度ならそいつ、実力以上に頭が回る奴
だった、って事ね。﹂
逆に言えば実力は全然だった、って事か。
501710783ミュール。
全部お金で貰っても良い所だけど。・・・ん?
﹁アテネさん、こいつの持ち家、どの辺です?﹂
﹁ライスセミア幻神国の赤道から南へ300km程、東西は中央よ
りやや西の山岳地帯に近い辺りね。山賊とかの多い地域だから、成
程って感じだけど?﹂
2階建て、部屋は7つ、土地は広めで裏に荒れた農地がある、か・・
・。
値段は2億3千万ほど。
407
﹁これ下さい。残りは現金で。﹂
﹁OK。またまた辺鄙なとこが好きねぇ。﹂
腕だけのブレスレットに﹃乾杯﹄して、多額の報酬を受け取った。
を1人で収集付けちゃったですってぇっ!?﹂
﹁では、いよいよ本題に入ります。﹂
サイカ島の悲劇
◆ ◆ ◆
﹁
イリュージョンイリュージョニスト
﹁あ、いや、だからクロノスと一緒に・・・。﹂
﹁何遍も言わせるな!!幻体は幻体師の力なの!!
アストラル・ドラゴン
突貫娘のリヴィエルが全力で払えなかった少女よ?
その後、幻想竜が全力で封印し続けた少女よ?
アナタほんとに人間?﹂
﹁よーするに?1人で現地に飛んで、1人で憑物を払い、オトヒメ
とガルーダ達の協力を得て現地の哨戒活動を強化して、今、その少
女と一緒に帰ってきてる?﹂
﹁あ、はい・・・。﹂
ファミリア
黒一角獣
﹁ふざけんなああぁぁぁっっ!!しかもそれに2日かけてないです
って?﹂
彼女も
﹁はい。今日明日にも操獣魔のブラックホーンホースの出産があり
ますので。﹂
﹁これはエレンさんとの約束なのでお話ししますが・・・
また転生体です。
イリュージョン
前の世界では俺を刺し殺した幼馴染みであり、その記憶が解かれた
事で暴走を始めました。
今は正気に戻っており、強力な幻体を有します。俺は彼女と共に旅
408
をする予定です。
そして一つお聞きしたいのですが・・・。﹂
﹁今後の彼女の扱いについて、かしら?﹂
﹁えぇ。﹂
インヴォーカー
﹁通常、憑物から元に戻った獣魔師はギルドの監視を受けながら生
活するわ。
と言っても、基本は自由よ。ただ、生活の責任は自己責任ね。﹂
言いたい事は分かる。
つまり、偏見はある、と言いたいのだろう。
﹁彼女も監視下におかれますか?﹂
テイマー
コントラクター
﹁それが基本の対応なんだけど・・・。正直意味が無いわね。
カンパニー
普通憑物になるのは操獣師か契約師よ。
初心者が強すぎる相手を使役獣魔にしようとして精神が浸食される。
彼女の場合、その理屈に当てはまらないし、次起こるとも思えない。
﹂
﹁こういうのはどう?アナタが監視する。﹂
﹁逆に言えばチームを組むのを認める代わりに俺が保護する、と言
う事ですね。﹂
﹁そう言う事。悪い話じゃないでしょ?﹂
﹁分かりました。では後ほど職員さんにお話ししてチーム組ませて
貰います。﹂
﹁あぁ、それと、アナタもうAランクで良いわよ。﹂
﹁・・・へ?﹂
﹁Aランクで良いって言ったの。普通に考えればAランクでもソロ
409
でこんなバカやる奴いないけどね。
2つ名はみんなで楽しく協議するからもうちょっと待っててね。
あ、因みにDQNネーム付けられてもアナタに拒否権無いから。﹂
﹁まぁ・・・、受けられる仕事も増えますし良いですけど。。﹂
﹁じゃ、最初のお仕事として山賊団最後の生き残りの処刑をして貰
おうかしら。﹂
ぞくり
そばだ
全身の毛が峙つのを感じる。
ケンタウロスが襲われているのを見た時は興奮状態にあった。
相手も刃を向けていたし、互いに戦闘状態にあった。
しかし今度の相手は違う。
オトヒメの精神汚染により完全に無抵抗な相手だ。
背筋にじっとりと汗が滲むのを感じる。
ふわり
背中から俺を包む4本の腕。
﹁罪を一人で背負わなくても良いのよ?こっちでは信賞必罰、殺し
の刑も当たり前だけどハジメちゃんがそのルールに従えないのは良
く分かるわ。﹂
マコ・・・。
410
﹁貴方が振るう刃はアタシ達が一緒に背負うわよ?獣魔も、刀も、
一人で担いでると思わないで。﹂
ウェンディーヌ・・・。
インヴォーカー
俺はこの世界で生きていく。この少女達と一緒に。
強い力を与えられたこの肉体。他の獣魔師が望んでも得られない資
質。
世界の為に、自分の為に、俺はこの力を使う。
慣れない。慣れちゃいけない。人殺しなんて。
けど、慣れなきゃいけない。生きていく為に。そして背中を守って
くれている人の為に。
一度目を閉じ、すぅ・・・っと息を吸う。ゆっくり吐きながら今度
はしっかりと敵に向き直った。
﹁分かりました。じゃぁ、あまりここを汚さない様に足下に樽か布
でも引いて貰えますか。﹂
準備完了。
︵リヴィエル、行くよ?︶
︵OK、面白い事考えるのねぇ︶
﹁リヴィエル、﹃ウォータースライサー﹄!!﹂
俺の十指からごく細い﹃ウォーターガン﹄が放たれる。
それを縦横無尽に振るうと、あっと言う間に2人の山賊は賽の目に
切り刻まれた。
﹁お見事・・・。リヴィエル、アナタほんといい人と契約したわね。
﹂
﹁譲らないわよ。﹂
411
アストラル・ワールド
﹁良いわ。その件について、今夜そっち行ってゆっくり話すから。
昨日、貴方精神世界に戻らないで何やってたのかしら??﹂
﹁﹁んげっ!!﹂﹂
﹁あら?どうしてハジメまで悲鳴上げるの??﹂
にやにやしてる。この綺麗なお姉さん、にやにやしてますよ。
﹁じゃ、じゃあ急ぎますのでこの辺で。﹂
しゅたたたたたっ!ととんずらこいた。
後ろを見送り一言、﹁若いわね・・・。﹂と呟いた彼女であるが、
何だか少し眩しそうだった。
◆ ◆ ◆
﹁それではこちらが報奨金1億です。またこちらが相続物件、ライ
スセミア幻神国、傭兵都市カシュールの外れ、山岳地帯の家屋とそ
の周辺の土地の権利で御座います。5億171万783ミュールよ
り物件の価格と手数料・端数を引きました3億171万ミュールが
チャージで支払われます。﹂
﹁続きまして、この度の多大なる功績が認められ、特例の2段階昇
格を行いました。次にハジメ様がSランクになられるには100ポ
イントのランク上昇ポイントが必要となります。﹂
Sまで長いな。まぁ、ランク云々はあまり拘っていないので構わな
いけど。
﹁ハジメちゃん、折角だからチームと相続の手続きしておこうよ。﹂
﹁俺は勿論、相続は2人に分配する。3人同時に亡くなったらギル
ドへ返還で構わない。﹂
﹁アタシも。﹂
412
﹁勿論、アタシもよ。﹂
俺達は次々に互いのブレスレットに﹃乾杯﹄をして、ギルドの魔法
水晶にも情報を同様に登録しておく。
こうしておくと、偽物や同姓同名などが居た時に面倒が無いらしい。
﹁次はチーム名なんだけど・・・。あれから考えた?﹂
﹁ああ。﹂
ね。良いんじゃない。﹂
﹁俺の目標はサイカ島の復興。でも、旅も楽しみたい。だからこん
目的有る旅路
ヴォイジャー・オブ・ジョイ
なのはどう?﹂
﹁
﹁旅仲間、そして、同じ故郷を持つものとして。﹂
﹃﹃﹃乾杯﹄﹄﹄
◆ ◆ ◆
クエスト
﹁行き成り依頼受けるとは思わなかったわよ!﹂
﹁俺達、まだ全然チームとしての連携を試してないだろ?それにこ
の辺りの散策もしてみたいし・・・。
ソロでB、もしくはCランク以上を含む3∼5名のチーム、ランク
テスト クエスト
上昇ポイント2って事だったからDまで5ポイントのマコもすぐに
検定依頼受けて上がれるだろ?﹂
﹁あ、そうだ。ウェンディーヌ、借りてた分、返しとくよ。
それとマコ、今一文無しだろ?明日買い物に行くとして、取り敢え
ず必要な分渡しておくよ。﹂
413
マコのホログラムはお布施を受けるお坊さんだった。
何か意外と古めかしい趣味だな。
﹁有難う。必ず返すから・・・って1億!?﹂
﹁別に俺の持ち金から半額渡しても良いんだけど、いざって時に俺
が困っても馬鹿臭いからね。ケンタウロスの時は世話になったから
報奨金分って事で。﹂
ヤドニ
モドッテモラエルカナ
﹁・・・こう言う時、言い出したら聞かないわよね?﹂
良く分かっていらっしゃる。
ソロソロ
寛いだ表情で宿に戻っていた時だった。
︵ハジメ、スマナイガ
?︶
ハヤト!
サンケヅイタ︶
﹁いきなりでびっくりしたよ!!ひょっとして・・・?﹂
︵オウカガ
414
ギルドへ報告︵後書き︶
書き分けが難しいのは読んでて分かるかと思いますが、ウェンディ
ーヌとマコです。
想像以上にキャラがかぶってます。決して作者がこう言う女の子が
好きなだけって訳じゃありません。
415
オウカの出産︵前書き︶
黒一角獣
ブラックホーンホースを仲間にした時から想定してた回・・・。3
9話目で実現とは情けない。
416
オウカの出産
ケンタウロスで駆けつけた時には既に脚が出始めていた。
ヒトバンホド
ツヅクコトモアル。2∼3トウハ
﹁ハヤト、普通はどれぐらいで生まれる?﹂
﹁6ジカンカラ
ウマレルハズダ。﹂
2∼3頭?馬って普通、単胎だった気がするけど・・・。
﹁マコ、何頭入ってるか確認出来る?﹂
﹁ん、ちょっと待ってね・・・。2頭見えるわ。今出て来ようとし
てるのが雌、もう一頭は雄ね。﹂
ジカンハカカルガ
キホンテキニハ
アンザンナハ
﹁ハヤト、俺達は基本的に見守ってればいいのかな?﹂
﹁オレタチハ
ズダ。﹂
ケンタウロスと似た様な感じだな。
イ ン ベ ン ト リ
旅中に風呂代わりに使う予定だったタライを収納スペースから取り
出し、リヴィエルに水を張って貰う。
﹁オトヒメ﹂
﹁はい?﹂
﹁君の歌でこれを湧かして欲しい。﹂
﹁えっと・・・そんな能力有りませんけど・・・?﹂
﹁水一粒一粒が震えるくらい、高い声で、聞こえないぐらい高い声
で歌う事出来る?﹂
﹁・・・出来なくもないでしょうけどこれだけをやろうと思うと物
凄いエネルギーかかりますが?﹂
﹁そっか、それなら最終手段に取っておこう。緊急時はお願いする
かも。その代わり、終わったらこれ上げるから。﹂
417
取り出したるはソフトボール程もあろうかという一片の濁りもない
完全な球形のラピスラズリ。
リヴィエルのコレクションから頂いてきた。しかもリヴィエルに濃
厚な水の精魔力をたっぷり籠めて貰ってある。
オトヒメはだらしなくも涎を垂らしかけている。
﹁やりましょう、すぐやりましょう、今すぐやりましょう!!﹂
﹁いやいやいやいや、緊急時に備えて温存しといてくれ。﹂
スペクタクル・アイズ
2時間程経過しただろうか?
パンドラの﹃鑑定眼﹄で引っ掛かったり無酸素状態になったりして
黒
一角
獣
ないか見張って貰う。安産だというのだから出来るだけそのまんま
生ませてやりたい気持ちが半分、ブラックホーンホースが苦痛で暴
れた時に咄嗟に反応出来ない可能性がある点が半分。
黒く輝く前肢と鼻が見え始めたかと思った時、つるりと抜け出る様
に生まれ落ちた。
数十秒後には四肢を踏みしめて立ち上がると共に、額の膨らみから
一気に黒曜石の如き角が伸び上がった。
ハヤトが全身の羊水を舐めとり、体温の低下を防ぐ。
︵まず一匹・・・︶
次の一頭はすぐに四肢が見え始めた。
︵・・・四肢?︶
﹁マコ!中の状態を教えてくれ!!﹂
﹁何これ?脚が全部こっち向いて背中があっち向いてるわよ?﹂
﹁やっぱりか!このまんまだとロックしちゃってちゃんと生まれて
来ない!﹂
後ろに付き歩いていたケンタウロスが声を掛けた。
﹁申し訳ありません。ここから先は私達に任せて貰っても良いです
か?﹂
418
﹁アマツカゼ!そうか、君達は稀に難産を経験しているんだったな。
﹂
﹁はい。私自身は出産経験はありませんが、トキツカゼは酷い難産
黒
一角
獣
でしたので、少しは力になれるかと思います。﹂
﹁アマツカゼ、君はブラックホーンホースを手伝う事にやぶさかで
はないのか?﹂
ワガコト
ココマ
﹁ハジメさん達の目指す、人と獣魔の国、それの前では些細な事で
はないでしょうか?﹂
﹁ハヤト、君はどうだ?﹂
ダイジダ。﹂
イクマイ。ソレニ
トコロハアルガ・・・
100バイ
ヒキサガルワケニモ
イノチガ
イワレテ
﹁ショウジキ、ハラニスエカネル
デ
ツガイノ
テイマー
﹁貴方達には私にない地を誰よりも早く駆け抜ける脚と、立ち塞が
る物を軒並み蹴散らす立派な角がある。
私達には貴方方にない両手があり、医術の知識がある。同じ操獣師
の元、力を合わせましょう。﹂
﹁俺も直接手を貸そう。チビクロ∼ズ、産道を通り抜けられるサイ
◆
◆
ズで展開。アマツカゼの指示に従い、体位を直すのを手伝え。﹂
◆
ここから先は時間勝負だ。
捻り、押し戻し、体位を直し、オウカのタイミングに合わせる。
実際には20分程だったのだろうが、気付いた時にはアマツカゼも
俺もぐったりしていた。
ハヤトとオウカは流石と言うべきか、生まれ落ちた仔の全身を舐め
て刺激し、立ち上がるのを促す。
伸び上がった角の色は・・・
﹁黒?ダークグリーン??﹂
419
﹁あの仔、若干だけどハジメちゃんの魔力が感じられるわよ?﹂
あ・・・
﹁生まれる時、チビクロ∼ズを全部避難させる事が出来なくって、
あの仔とオウカに何体か吸収させて来ちゃったんだ。。・・・って
事は!?﹂
角
オウカのそれはネフライトと黒曜石のマーブル模様。。
クロノスのカラーである萌葱色が彼等のカラーと混ざってしまった
様だ。
カガヤキヲマシタナ、オウカ。ウツクシイ
︵新種誕生させちゃった??︶
﹁ウム、イチダント
ジツニウツクシイ。﹂
﹁あら、貴方ほどではありませんわ。﹂
・・・あれれ?
オウカさん、何だか滑舌良くなってない?
ナヲ
クダサイ。﹂
﹁ボクも母さんもマスターの魔力吸収してちょこっと進化したみた
いですね。﹂
お仔様∼っ!?
﹁マスター、ワタシタチニモ
﹁ボクにもカッコいいのを!!﹂
・・・まぁ無事に生まれて良かったとしよう。
イザナミ
です。﹂
﹁しなやかな、たおやかな、その力を俺の旅に貸し与えて下さい。
ハジメ・タカナシの名に於いて。貴女の名は
です。﹂
﹁無邪気なその力、優しさを籠めて奮って下さい。貴方の名前は
イザナギ
420
﹁マスター、納得行きません。﹂
﹁僕もです。﹂
黒
ははは、やっぱり文句言ってきたな。
一角
獣
﹁どうして名を頂ける時の台詞がブラックホーンホースと同じなん
ですか!?﹂
﹁僕のもそっくりじゃないですか!?﹂
ケンタウロス姉弟がぶーたれている。
﹁わざとだよ。﹂
﹁﹁えっ?﹂﹂
﹁君達は、納得行かないかも知れないけどとても種族として良く似
ている。持てる力は少しずつ違うけど、使い方次第で同じ目標を目
指せるはずだ。俺の、俺達の目標に是非力を貸して欲しい。そうい
イッコウニ
カマイマセンヨ?﹂
うつもりで同じ思いを籠めて名を与えた。﹂
﹁ワタシハ
﹁僕も∼、どうせケンタウロスなんかに負けないし∼﹂
ぴききっ!
﹁生むのを手伝ってやった恩も忘れてこんのガキはぁ!!﹂
﹁ガキじゃないよ∼イザナミだよ∼アマツカゼお姉ちゃん♪﹂
﹁そ、そ、そ、そこに直れ∼∼∼∼!!﹂
﹁や∼だよ∼だ。ノロマのおねーちゃーん﹂
◆ ◆ ◆
421
コドモハ
ムジャキナモノダナ・・・。ワレワレノ
ドコフクカゼカ。。。﹂
﹁ヤレヤレ
クロウモ
﹁クロノス、ギルドと村長に了解取ってきて。後、出来れば宿屋の
板長さんと女将さんにも。色々一段落したから、村の広場使って今
夜は宴にしようよ。あ、そうだ。守衛さんにも声かけてみて。﹂
ぶっちゃけ、ここに居る獣魔をフル稼働すればこの村で掏り一つ働
けないに違いない。
﹁マコ、料理の腕は衰えてない?﹂
﹁大丈夫よ?ピンクのふわ毛の腕がアタシを抜いてない限り、ハジ
メちゃんの次に料理が上手いのはアタシの筈よ?﹂
あ、やっぱりウェンディーヌの料理の腕は昔っから有名だったんだ。
﹁そんじゃまぁ、こっちの食材の勉強も兼ねて、思いっきりやりま
すか。
チビクロ∼ズ、村のみんなにも声かけてきて。寝てたら起こさない
様にね。﹂
クサシカ
メガナイナ。﹂
タベナイガ・・・﹂
﹁そうだ、獣魔が食べるもの確認してなかったな。﹂
﹁ワレワレハ
ニハ
﹁好きな野菜とか果物とかある?﹂
﹁ウム、ドコンジョウダイコン
今の時期この辺で取れる?とリヴィエルに確認すると、畑栽培もさ
れてるけど無茶苦茶高いわよ?と返ってきた。
何でも、岩をも割るその生命力を持った物のみが糖度と歯ごたえが
絶妙なんだそうだが、数百本に一本しか岩を割ってくれないのだと
か。後でチビクロ∼ズに散策に行かせよう。
﹁ケンタウロスは?﹂
﹁私達は殆どが人間と同じです。﹂
422
バッドバット
特に好みは?と聞くとこれまた人間と同じ。じゃぁ彼等は店売りで
OK。
﹁ガルーダは?﹂
ソイ・ソー
﹁私達は鶏肉と虫に目がありません。﹂
特に好みは?と聞くと豆クワガタの殻揚げ、悪役コウモリの空揚げ!
何だかクロノスと似てるな。この辺は女将さんにお願いしよう。
アストラル・ワールド
何だか精神世界からビンビン波動を感じる。
﹁はぁ・・・。一応聞いておこうか?リヴィエ・・・﹂
︵お魚!!!︶
・・・了解。
﹁オトヒ・・・﹂
︵お魚!!!!!!!!︶
・・・了解。
﹁ククリ、そっち預けてこっちこれそう?﹂
︵放っておくつもりだったのかよ!!勿論行くともさ!!︶
﹁好きな物は?﹂
︵肉!!ホロホロブヒーとトライホーンバッファローの丸焼き!!︶
◆
◆
・・・了解。てか、姉弟竜とオトヒメ、お前ら自分で取って来いよ。
◆
ホロホロブヒーはこの村でも養殖されていたが、トライホーンバッ
ファローは居なかった。
と言うか、気性が荒く、危なっかしすぎて家畜化出来ないのだとか。
仕方ないのでガルーダとケンタウロス連れて狩りに出た。
主に俺がクロノスと検索を行い、ガルーダとケンタウロスに狩って
423
貰うという方法で10頭程集めた。
血抜きや皮の剥ぎ取りは俺が行ったが、味付けや調理は板長さんに
お任せした。
天然物のど根性大根の群生地も発見出来たので、30本程引っこ抜
いてきた。
他には食べられる野草を籠に20∼30杯程チビクロ∼ズに集めさ
せ、ウサギや鹿なども狩り集める。
今日、集まりそうな人数を計算して、取りすぎない様に気をつけな
いと。
大物の調理は本業の板長さんと女将さんにお任せにして、俺はマコ
と一緒にウサギや魚を捌き、野菜や野草でサラダを作っていく。
﹁こんなもんかな?﹂
﹁ハジメちゃん、流石ねぇ。こっちでもそれで食べていけるんじゃ
ないの?﹂
﹁これはあくまで俺自身を食わせる為のスキルだよ。そっちこそ中
身は8歳児の癖にやるじゃないか。﹂
﹁初めて包丁持った時から全く苦労しなかったからね。多分、前世
の記憶、引き継いでるのね。﹂
アレコレ話してる内にどんどん人が集まってきた。
ドミナンさん、アテネさん、村長さん︵初めて見た︶、守衛さん︵
レオナルドさん、と言うらしい︶、それに・・・エレンさん??
﹁こ、今回のは追いかけっことは関係無しですからね!!﹂と強調
しながら既にホロホロブヒーの串に手が伸びている。も、萌える・・
・!!
﹁ハジメ・・・﹂
﹁ハジメちゃん・・・﹂
424
﹁まいますたー?﹂
﹁マスター・・・﹂
﹁ハジメさん・・・﹂
ぞくり
手に手に串やらサラダやら酒やら酒やら酒やらを持った女性陣が俺
を取り囲んでいる。
﹁これだけの美女に囲まれてながら他の女に目移りなんて良い度胸
ね?﹂
﹁酔いが足りないのよ酔いが。﹂
﹁飲みなさい、アタシの酒が飲めないなんて言わせないわよ?﹂
﹁マスター、最近アタシの人遣いが荒いです・・・。﹂
﹁いっぱい食べて、良い子種を授けて下さいね?﹂
ぴししっ
﹁ちょっとハジメ?﹂
﹁聞いてないわよ?﹂
﹁セイレーンを手懐けたかと思ったら色仕掛け?﹂
﹁マスター、アタシにも子種を下さい。。﹂
マズい。
﹁今晩はアタシと一対一で愛し合ってくれる約束よね?﹂
マズい。
アストラル・ワールド
﹁ク、ククリ!!精神世界に匿って・・・﹂
﹁嘘付いたらハリセンフグ飲ますって言ったわよね?﹂
425
﹁ほ、ほら!もうすぐ夜が明けそうじゃないか!?今日、今から楽
しんでも夜は短いじゃないか。明日の夜、ゆっくりってのはどうだ
??﹂
見れば、東の空が白んできている。
パンドラが俺の口に入れようとしていたハリセンフグがボンっと消
滅した。
﹁嘘は吐いてないみたいね。でも、仏の顔も三度まで、アタシの顔
◆
◆
は二度まで、って覚えとく事ね。﹂
◆
オトヒメの歌に合わせて村中が歌う。
大量の肉に魚、野菜。
中でもど根性大根は喜ばれた。
この地域の特産だが、滅多に取れない上、取れても外に売りに出さ
れる為、地元の人間は殆ど口に出来ないらしい。
乱獲しない事を条件に群生地を教えておいた。
何時終わるとも知れない歌が続き、夜は更け、気付けば静かに朝を
迎えていた。
426
オウカの出産︵後書き︶
第3章完了です。自分では結構キリ良く終われたと思っているので
すがいかがでしょう?次回は閑話を挟みます。その後、第4章、世
界を巡る度に突入です。
427
幕間小話2 ウェンディーヌのお料理教室︵前編︶︵前書き︶
書きたい書きたいと思っていたウェンディーヌのお料理教室です。
が、何故か内容がトリコですね。
428
幕間小話2 ウェンディーヌのお料理教室︵前編︶
︵マコ、料理の腕は衰えてない?︶
︵大丈夫よ?ピンクのふわ毛の腕がアタシを抜いてない限り、ハジ
メちゃんの次に料理が上手いのはアタシの筈よ?︶
聞こえてないと思って随分好き放題言ってくれるじゃないの。
アタシが料理にコンプレックスある事は前も話したし、一悶着して
おきながら未だに言うかこいつは。
︵男は胃袋と●袋を掴まなきゃ!ウェンディーヌの場合残りは胃袋
だけだからね!︶
●袋を掴んでる分、今の所アタシが有利の筈だ。
でもマコちゃんもらんらんと狙ってる上、胃袋はあっちにがっしり
掴まれてる。
むぐぐぐぐぐっっ!!
ダイエットダック
やけっぱちで軽々鴨をメルシー・ラムで流し込む。
あれ?そう言えばこれだけのご馳走が出てるのに米がない・・・?
彼の得意料理なんだし、ここまで振る舞っておきながら米が出ない
というのは何か不自然だ。
いぶかしげに思いながらグビグビやってると、クロノスがふら∼り
ふら∼りと寄ってきた。
﹁飲んでますかぁ∼?﹂
ぽやや∼んと酔っぱらっていて随分と隙が多そうに見える。
﹁珍しいわね?そっちから話しかけてくるなんて。﹂
429
﹁うふふふふふぅぅ∼∼♪何だか最近マコちゃんに随分ご執心みた
いなのでちょこっと塩を送って差し上げようかと思いまして。﹂
﹁・・・何よ?﹂
﹁マスターが米料理を作らない理由、知りたくありません??﹂
﹁!!﹂
そうか、そうだった。クロノスだけは全部知ってて当たり前なんだ
った。
何と言っても五感どころか知識も記憶も共有してるんだから。
﹁これを知ったらきっと3歩や4歩じゃなくって10歩ぐらいマコ
ちゃんにリード出来るでしょうねぇ。。﹂
﹁教えて。﹂
﹁嫌です。﹂
﹁んなっ!?じゃぁ何しに来たのよ、貴女!!﹂
﹁からかいに?うふふふ冗談ですよぉ。教えてあげますってば。私
はみ∼んなと仲良くなりたいんですよ??﹂
﹁マスターがお米を使わない理由はですねぇ・・・﹂
◆ ◆ ◆
翌朝・・・
﹁3日間ばかりお留守にします。ウェンディーヌ。なんだこりゃ?﹂
﹁マスター、これは乙女の戦い。静かに見守ってあげましょう。﹂
﹁???﹂
﹁クロノスなんか知ってるの?﹂
430
﹁乙女と乙女の秘密です♪﹂
﹁??????﹂
◆ ◆ ◆
﹁リヴィエル、ホロホロブヒーより美味しいブヒーって何!?﹂
﹁え∼、料理にも因るわよ??﹂
﹁話聞いてたでしょ!!生姜焼定食よ!!生姜焼定食作るの!!﹂
﹁生姜焼定食を作りたいのでどうか手伝って頂けませんか、頼れる
水龍王様、これぐらい言えないかしら?﹂
ふぬうぅっ・・・
﹁しょ、生姜焼定食を作るのを手伝って頂けませんか、頼れる水龍
王様・・・﹂
﹁ちょっとぐらいおっぱいデカいからって調子に乗ってごめんなさ
い、ブヒーも女も脂肪が付きすぎてないのが美味しいと思います、
これが言えたら喜んで手伝ったげる。﹂
ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ
﹁ちょ、ちょっとぐらいおっぱいデカいからって・・・ちょ、調子
に乗ってごめんなさい・・・、くぅ!!ブヒーもお、女も脂肪が付
きすぎてないのが美味しいと思います・・・ぐぬわぁ∼∼っ!﹂
﹁ま、70点ってとこかしら、じゃぁ早速昼までにブヒーの捕獲に
行くわよ?﹂
﹁へ?ブヒーって家畜化されてるんじゃ・・・﹂
﹁本当に美味しいのは何でも天然物よ。生姜焼なら尚更身が締まっ
てるのが良いしね。﹂
﹁・・・で、どちらに??﹂
﹁勿論、ハリケーンベアの繁殖地よ♪﹂
◆ ◆ ◆
431
ハリケーンベア:ソロでAランク相当の熊型モンスター、肉は高タ
ンパクで一食食べれば3日間の活動が可能とも言われている。内臓、
特に肝は種々のポーションに使われる為、全身くまなくはぎ取れば
金貨15枚相当。厄介な事に群れる事が多く、10頭程の群れで現
れた時は逃げの一手が正解。腕を振るう事で小型の竜巻を巻き起こ
し、獲物を翻弄する。
﹁・・・とまぁ、Bランクのウェンディーヌには少し荷の重い獲物
なんだけど♪﹂
﹁思いっ切り囲まれてるじゃないの!!10や20じゃ効かないわ
よ?﹂
﹁アレ、真似してみる??﹂
﹁アレって、ハジメのやったアレ??﹂
﹁そう。アレ、凄いわよ?要は物凄く細く研ぎ澄ました﹃ウォータ
ーガン﹄なんだけど、射程範囲内ならありとあらゆる物を切り裂く
わね。燃費も良いし、使いこなせばかなりの武器になるわね。﹂
リヴィエルからウェンディーヌに技のイメージが渡される。
﹁OK・・・、行くわよ。﹃ウォータースライサー﹄!!﹂
戦闘中に気を抜いたらダメでしょ?﹂
2人を取り囲んでいた30体ものハリケーンベアが次々に首を刎ね
られる。
﹁凄い・・・。﹂
﹁﹃スプレッド﹄!!
片腕のみで難を逃れていた個体が背後を取って襲いかかろうとして
いた。
リヴィエルの﹃スプレッド﹄で跳ね上げられた所へ、ウェンディー
ヌの﹃ウォータースライサー﹄で追い打ちをかける。
﹁さて、そろそろ出て来るわよ。﹂
﹁ナ、ナニコレッ!?﹂
432
どう見ても体高5mはある。さっきのハリケーンベアが3∼4mク
ラスだったのに、アレがまるで子供の様だ。
﹁スカッシュブヒー:ソロで捕獲レベルAランク、特徴ある部位は
無いけど、何処を食べても旨い、と言う最高級のブヒーよ。ただ、
捕獲方法がちょっと問題があって・・・。﹂
﹁・・・何??﹂
強烈に不安だ。ここまで一つも話して貰えなかった事とか物凄く不
安だ。
﹁急所を一撃で決めないと暴れ狂って血が回っちゃって味が最低ラ
ンクになるのよね。
或いは頭を殴って昏倒させてからゆっくり血抜きをしても良いんだ
けど、どっちにしろ中々に厳しいわよ?﹂
﹁・・・因みに急所って?﹂
﹁勿論、心の臓よ。お腹の下に潜り込んで心臓まで到達するぐらい
一刺ししなきゃなのよねぇ。
全力の﹃ウォータースライサー﹄で行けると思うわよ。ただ・・・﹂
まだ何かあるのか。
﹁その時に全力で押し潰しに来て、そのまんま狩る方と狩られる方
ぺしゃんこ豚
が入れ替わっちゃうのよね。
だから付いた名前がスカッシュブヒー。﹂
﹁・・・中々にいつもながら無断で無謀なチャレンジさせてくれる
じゃない。﹂
でもね・・・。
﹁今回だけは負けられないわよ。ハジメの胃袋掴むとか云々じゃな
くって。
彼が何で今まで黙ってたのか、その気持ちに応えなきゃチーム組ん
433
でる意味が無いわよ。﹂
とは言った物のどうしたものか。相手は何時でも鼻で跳ね飛ばして
こっちを餌にする気満々だ。
リヴィエルと組んでいるウェンディーヌの弱点がここにある。強大
な攻撃力を擁する代わりに防御の面で脆い。
﹁久し振りにアレやるか・・・。こんな格上、ソロで相手にしてな
かったからあんまり使ってなかったけど・・・。﹂
﹁リヴィエル、﹃ミラージュ・ベスト﹄﹂
辺りに霧が満ち始める。
スカッシュブヒーは思う。何と愚かな人間か、と。
確かに濃白霧ではあるが、彼等は視覚よりも嗅覚に頼る生き物。野
の獣に対して霧のまやかしとは甚だ可笑しい。
両者の距離は10m程、彼なら瞬きの間に詰められる距離だ。
一直線に人間まで駆けて、押し潰そうという時に・・・。
人間の姿がかき消えた。
﹁︱︱!?﹂
﹁リヴィエル、﹃スプレッド﹄!!﹂
駆け抜ける勢いに合わせて彼の横から水柱で吹き飛ばされる。
一瞬、体が横に転がった瞬間・・・
﹁リヴィエル、﹃ウォータースライサー﹄﹂
心臓が一直線に貫かれた。
﹁こんな賭け事みたいなバトル、長らくしてなかったわ。﹂
434
﹃ミラージュ・ベスト﹄とは単に霧で視野を塞ぐ呪文ではない。
味、匂い、色の付いた霧で五感を狂わせる技である。
液体内物質の操作が出来るリヴィエルならではの技だが、相手にあ
る程度以上の知性があると単純な誤魔化しが効かない為、成功率が
低くなる。ギャンブル性の高い技だけにあまり使いたくはない。
インベントリ
30体ものハリケーンベアは血抜きと剥ぎ取りをして、スカッシュ
生姜
正月生姜
が旬の時期よ。﹂
ね。あんまり聞かない食材だけど・・・?﹂
ブヒーはそのままの形で収納スペースに放り込んだ。
﹁次は
﹁偶然にしては出来過ぎね。今は
﹁これまた美味しいけど採取に難が有るって言うんでしょ?﹂
﹁分かってるじゃない。次は火山登山よ。﹂
◆ ◆ ◆
﹁勘弁して・・・、もう灰で前が見えないわ・・・。﹂
﹁良いのよ?アタシ一人で取ってきて、ハジメに取って置きの生姜
焼定食御馳走しちゃうから。﹂
﹁うぬぬぬ、分かった!分かったわよ。。しっかしほんと暑いわね・
・・。﹂
正月生姜:火山の中にひっそりと成長する生姜。火山のマグマに囲
まれた地に生息する為、外敵に捕食される事が無く、また火山に適
応して強烈な生命力を誇り悠々と栄養を貯える為、他の生姜とは風
味が比較にならない。・・・が、とんでもなく採取が面倒な地に自
生する為、市場に殆ど出回らない。正月を過ぎた頃に受粉をして繁
殖する為、栄養を貯えている今の時期が旬。
﹁丁寧なご説明有難う。ところでさっきから上でちょろちょろして
435
るのって・・・。﹂
ワイバーン
﹁正月生姜を狙いに来た愚か者どもを美味しく頂いちゃおう、って
ファミリア
言う飛龍御一行様じゃないかしら?﹂
﹁ハジメが居れば操獣魔にして貰うのに・・・。﹂
﹁こらこら、誰の為に登山してると思ってるのよ。﹂
ワイバーン
﹁分かってるって!!﹃ウォーターガン﹄!!﹂
密集した敵で、水属性には耐性が低い飛龍なので、ウォーターガン
で次々撞球して数を減らしてやる。
その隙に正月生姜の所まで駆け寄って、一気にもぎ取る!!
﹁あっ!!﹂
﹁へ?﹂
﹁生姜、熱うぅ∼∼∼∼∼っ!!!!﹂
ワイバーン
﹁あ∼あ、だから言わんこっちゃない。火の魔力を思いっ切り吸収
した生姜よ?|正月︽しょうが、ぁつ∼っ!
︾生姜の意味理解出来た?﹂
インベントリ
半泣きになりながら収納スペースに放り込んだ所で、飛龍が次々空
から襲い来る所が目に入った。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
﹁えぇい、面倒!!リヴィエル、﹃スプレッド﹄!!﹂
ウェンディーヌは眼前のマグマに向かってスプレッドを叩き付けた!
ばぢゅぅぅぅっっ!!
﹁リヴィエル、﹃ウォーターポール﹄﹂
起こしたのは、強大な水蒸気爆発!
自身は滝の如き水に打たれてひたすら耐える。
436
﹁・・・貴女段々戦い方が荒っぽくなってるわよ?﹂
﹁リヴィエルに似て来てるだけよ。﹂
ふん、っと鼻を鳴らして目の前の阿鼻叫喚図を眺める。
ワイバーン
インベントリ
﹁飛龍、はぎ取る??﹂
が取れないってどう言う事??﹂
ね!!﹂
米
米
﹁もう良い。収納スペースもいっぱいだし。﹂
﹁さて、いよいよ
◆ ◆ ◆
﹁・・・この時期は
ここまで来たのに・・・。もう周りも気にせずがっくしと項垂れる。
﹁大丈夫だって。収穫からまだ半年経ってないし、冷涼な地域なら
インベントリ
ウェアハウス
魔術管理でそのまま保管されてるはずだし・・・。
何より、何処かの収納スペースか共同保管庫なら収穫したまんまで
保管されてるはずよ?﹂
インベントリ
そうか。そう言えば収納スペースに食糧を保管すると言う方法が有
った。
インヴォーカー
自身は調理をしないからすっかり忘れていたが。
インヴォーカー
﹁じゃぁ、産地近くの獣魔師を当たれば・・・﹂
インヴォーカー
﹁米好きの獣魔師が新鮮なの保管してるかもね。﹂
米は確かに高級品だが、獣魔師の収入で買えないレベルでは全く無
い。
﹁で!?産地って何処??﹂
﹁割と何処でも作られてるわよ。ただ、通好みの特産地となるとラ
ンスロット王国の中央付近、ヨシノ川流域の地方になるかしら?唯
437
一、ギリギリ農業として成り立つレベルで米が作られている地域ね。
﹂
・・・遠いな。。今、居るのはランスロット王国と聖アルケミア帝
マテリアル・ワールド
国の国境から東へ500km程行った所。近くの村で早馬を借りて
も約束の3日間にどうやっても間に合わない。
﹁ねぇ・・・リヴィエルさん?﹂
﹁嫌よ。﹂
﹁・・・まだ何にも言ってないわよ?﹂
﹁海まで出て、船代わりになれって言ってんでしょ?物質界でそれ
をやるの、どんだけしんどいか知ってるでしょ?﹂
ペール・シャーク
﹁・・・城流し鯨の躍り食い、10人前。﹂
﹁顔白鮫のヒレ煮込み20人前も追加。﹂
﹁・・・せめて10人前で。﹂
﹁15人前。これより負けるんなら乗せないわよ。﹂
﹁・・・了解。それで手を打つわ。両方20人前で良いから今日の
ウェンディーヌ乗せて海を駆けるのも久し振り
夕方までに向こうの町に着く様にお願い。アタシもお腹が空いたわ。
﹂
﹁OK、ふふっ♪
ね。﹂
一旦、近くの海まで早馬で出た。
インベントリ
﹁落っこちても拾わないからしっかり捕まっとくのよ?﹂
収納スペースから龍籠と龍手綱を出し、しっかりと捕まる。
﹁ふふっ、海はやっぱり良いわね∼、久し振りにフルサイズになれ
るわ。﹂
龍体に戻り、ムクムクとサイズが膨らんでいく。
身の丈10kmを越えたかと思った辺りで彼女が吠えた。
﹁GWOOOORAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!﹂
438
彼女の方向で海面が大きく揺らいだかと思った瞬間、海全体が爆ぜ
た。
ぐん
ぐんぐん
ぎゅおおおおおおむ!!
体長は優に30kmを超える。
その彼女が全力で海を駆ける。
水飛沫を上げ、頬に風を感じ、自らの領域を蹂躙し尽くすかのよう
に。
﹁︱︱くっ!!久し振りながら流石にキッツい!!﹂
﹁手加減しないわよ∼、そう言う約束でしょ?﹂
余裕で話しながらも彼女の速度は既に100ノットを軽く超える。
衝撃を魔力で打ち消しながら進んでいるので海域にも影響を与えない
飛行エイ
途中、クラーケンだのフライング・レイなどがチョッカイ出しに来
たが眼力一発で尻尾巻いて逃げていった。
約束通り、夕飯前に着いた。
﹁ふぅ、海はやっぱり私のフィールドよね。﹂
ペール・シャーク
思いっ切り楽しんでるじゃないか。
城流し鯨と顔白鮫が酷く納得行かない気分だ。
439
幕間小話2 ウェンディーヌのお料理教室︵前編︶︵後書き︶
長くなったので分けます。
440
幕間小話2 ウェンディーヌのお料理教室︵後編︶︵前書き︶
2部に分けても私の1話平均より尚長い閑話って一体何なんでしょ
うねぇ。。
441
インヴォーカー
幕間小話2 ウェンディーヌのお料理教室︵後編︶
ファーマー
﹁まずは農夫ギルドで、米を大量買い付けしてる獣魔師の事を聞こ
う。﹂
夕飯まで少し時間があったので、宿を取った後、聞き込みに回った。
ポン酒
を納品しに来る、
そんな人、ほんとにいるのかな、と思ったが、やっぱり居る所には
居るらしい。
﹁毎年、米を大量に買い付けに来て、
通な男が居るぜ?﹂
﹁・・・ポン酒??﹂
どうやらお酒の一種らしいけど、聞いた事が無い。
を購入、
﹁アレ?お嬢ちゃん知らない?米から作った酒で、米料理には抜群
に合うぜ?調味料としても一級品だ。﹂
﹁︱︱!!﹂
ヨシノの大王
何でもポン酒は寝かせたものの方が味が良い、らしい。
インヴォーカー
﹃今ならこれだな!﹄と言う言葉を信じ、
獣魔師の名前を聞いてギルドに向かった。
﹁アルフレッド・アックランド様ですか?どう言ったご用件でしょ
う?﹂
新鮮な米を譲って貰いたい旨、職員に伝える。
ブレスレットで身分認証も済ませているので、ここで詐欺や嘘を吐
いても私に何のメリットもない事は伝わるはずだ。
﹁お教えしても良いのですが・・・、お会い出来るかどうかは・・・
﹂
﹁︱︱??どう言う事ですか??﹂
442
﹁彼は一言で言えば
テイマー
です。Cランクの操獣師でそこそこ
ファミリア
偏屈者
クエスト
に優秀なのですが、依頼は操獣魔単独で出来る最低限の物のみこな
を開発したのも彼です。﹂
し、残りの時間は只ひたすら米の研究に費やしています。この街で
ポン酒
﹁︱︱!!﹂
﹁彼は町外れの一軒家に農地を構えて生活しています。周りを獣魔
コミュニケーション
が警護しているのですぐに分かるでしょう。﹂
ミノタウロス
ムーンウルフ
﹁有難う御座います。是非、交渉してみます。﹂
オーガ
﹁大鬼に牛頭鬼、満月狼って・・・全部子供とは言え、大人になれ
ばAランク相当の獣魔ばかりじゃない。﹂
優秀というのは本当の様だ。
﹁米に関する情報と引き替えに、新鮮な米が有れば分けて欲しい、
ミノタウロス
と伝えて貰えるかしら?﹂
暫くして牛頭鬼が口を開いた。
テイマー
コミュニケーション
﹁情報を先に寄越せ。それ次第で相応量分けてやらんでもない。﹂
﹁それは操獣師として公平な交渉じゃないわね。
貴方がどれだけのお米を今所持しているかも不明、今何処にいるか
も不明、私の情報を貴方がどの程度﹃相応﹄と受け止めるかも不明。
それでは私は話し損になりかねない。
インヴォーカー
でも、これでは平行線かしら?・・・そうね。米の作り方について
貴方より先に解決する可能性のある獣魔師が居る、これでどう?﹂
﹁信じられん。話にならんな。﹂
﹁これではどう?彼は米が大量生産されていた地域から来た。
しかし今は帰る場所を失っている。そこの復興時、彼は再び米を大
量生産する予定がある。﹂
﹁・・・そんな所、聞いた事もない。。失われた土地、噂にならな
い程小さな国・・・、まさかサイカ島か!!﹂
﹁獣魔越しで話せるのはここまでよ。通して貰えるかしら?﹂
443
ミノタウロス
﹁・・・良いだろう。牛頭鬼に付いて来てくれればOKだ。﹂
﹁・・・現時点ではまだ何も分からんだと?﹂
﹁ええ。でも近い将来、彼は必ず米の製法を解明する。﹂
﹁何故言い切れる?﹂
﹁彼の故郷はマリンフロー。どう?いつかその日、手伝いに来ない
??彼は国の復興と移民希望者を募っている。﹂
嘘は吐いていない。
ハジメのこっちの世界での故郷はマリンフローだ。
誰もサイカ島だとは一言も言ってないし、日本では米が大量生産さ
れていたが、そこに戻る手段は既に失われている。
﹁ぽっと出の小娘の言う事と聞き流していたが、中々に面白い。確
かに現段階で約束は出来んが、今回米を譲ってやるぐらいはしても
良かろう。どれぐらい欲しい?﹂
﹁10kg、50万ミュールで如何かしら?﹂
﹁そんな少しで良いのか?しかも金まで払って?金額も相場より随
分高いが?﹂
﹁これは商談、最初の取引としてきっちりお金は払います。
増して取れたての状態の物を分けて貰うのですもの。今の相場より
高くなって当然でしょう?﹂
﹁ふむ・・・中々に商取引が上手いな。
では、遠慮無く持って行くが良い。これはサービスだ。﹂
﹁ポン酒!良いのですか?では、こちらからもお礼です。﹂
﹁ハリケーンベア!!しかも5体も・・・。これは素晴らしい。新
あなたと獣魔の友情に
﹃﹃乾杯﹄﹄﹂
たな米料理の可能性が広がりそうだ。﹂
﹁では、
444
・・
﹁最後にもう一つだけお願いしても良いかしら?﹂
﹁これだろう?﹂
﹁・・・優秀というのは伊達じゃないのね。話が早くて助かるわ。
◆
◆
旅の末にまた会いましょう。﹂
◆
﹁次!次は!?﹂
ソイ・ソー
﹁ソイ・ソースね!﹂
ソイ・ソー
﹁豆クワガタの発酵エキスから取れるって言うアレ?﹂
﹁そう。豆ばっかり食べてる豆クワガタの内臓に共生してる酵母を
自然発酵させて作る濃厚なエキス。﹂
﹁・・・発酵からやってる時間は流石にないけど。。﹂
﹁知らないの?アレ、米料理に物凄い合うのよ?ランスロット王国
では宮廷料理で物凄く重宝されてるんだから。ここまで来たんなら
最高のを探していきましょう。﹂
﹁取り敢えず宛もなく食料品店に来たけど・・・こっちは流石に結
構な数揃ってるわね。﹂
﹁店長、生姜焼に会うソイ・ソースを探してるんだけど?﹂
クエスト
﹁ふぅむ・・・そりゃちょいと宜しくねぇな。﹂
インヴォーカー
﹁困り事なら依頼を出して頂ければソイ・ソースを報酬に引き受け
るわよ?﹂
ビッグ・ソイ・ソー
﹁ほぅ?アンタ獣魔師か?それなら話は早い。この辺りの豆畑に大
発生してる大豆クワガタを1000ばかり狩ってきてくれ。半分程
材料に持って帰って貰えれば、後は殺してしまってくれて構わねぇ﹂
﹁せん!?﹂
﹁豆畑に行けば1000どころか2000も3000も湧いてるか
ら数は問題はねぇ。ただ、逆に増えすぎちまって手に負えねえんだ。
このままだと餌を食い尽くしてあいつら自滅しちまう。﹂
445
﹁そう言う事ね。でも、材料が揃っても生産には時間がかかるでし
ょう?﹂
﹁今は畑に手が出せなくて生産が落ちてる段階だ。まだ今なら何と
かなる。宮廷に卸さなきゃならんから瓶ごととは言わんが、報酬と
言う意味でなら生姜焼に使う分ぐらい分けてやるよ。﹂
∼∼∼
ソイ・ソー
﹁・・・アタシの記憶が確かなら、豆クワガタって3∼4cmだっ
ビッグ・ソイ・ソー
た気がするんだけど?﹂
﹁だから大豆クワガタって言ってたじゃない。﹂
﹁何こいつら・・・、豆どころか根こそぎ掘り起こしてるじゃない・
・・。﹂
そこに居たのは体長30cm程もあろうかという巨大なクワガタム
シ。
黒光りするハサミは体の半分以上を占めており、辺りの草木をバッ
ツンバッツン切り倒しては豆をほじくり出して囓っている。
﹁あ、そうそう。こいつら、基本草食だけど、もんっのすっごく気
ミシィカル・ビースト
性荒いから。それと血の味覚えると手が付けられないから気をつけ
てね♪﹂
﹁リヴィエル、アンタこうなるの知ってたでしょ?﹂
﹁あら?世界のバランスを取るのが上位精神生命体たる召喚獣の役
目ですもの??﹂
話していたこちらに気付いた数匹が襲いかかってきた!!
﹁っ!!リヴィエル、﹃ウォーターガン﹄!!﹂
﹁これ、﹃タイダル・ウェイブ﹄で纏めてやっちゃったらダメよね
?﹂
﹁﹃タイダル・ウェイブ﹄で畑にダメージ与えない様な器用な芸当
がウェンディーヌに出来るんなら良いんじゃない?﹂
446
◆
◆
﹁何この耐久レース・・・﹂
◆
インヴォーカー
﹁おぉっ!やってくれたか!!何でもアンタ、Bクラスの結構優秀
だ。
な獣魔師なんだって?アルフレッドに聞いたぜ?﹂
﹁・・・どうも。。﹂
血の味覚えると手に負えない
もう文句を言う元気も無い。
ハナ
何が
最初っから侵入者には食い尽くす覚悟で来やがるじゃないか。
最初はちまちま﹃ウォーターガン﹄で撃ち落としていたが、途中で
イライラして広範囲の﹃スプレッド﹄で渦潮に飲み込ませてやった。
ビッグ・ソイ・ソース
だ。10人前ぐらいしか
ちょびっと畑が抉れた様に見えたけどもうあんなの気にしない。
﹁ほれ!約束の
畑掃除
を依頼するって意味?
渡せないのが申し訳ないが、代わりに次からは優先取引させて貰う
よ。﹂
それって要するにまた
何はともあれ品は揃った。
◆
◆
明日に備えてお休みなさい・・・。
◆
ウェンディーヌが帰ってきた。
・・・が、宿屋の厨房を貸しきりにして何やら格闘中の様だ。
そこまで食べたい物が有ったんならこないだ言ってくれれば宴の時
に作ったのに・・・?
﹁決して覗いてはなりません。﹂
447
・・・●ルの恩返し??
中からはウェンディーヌの勇ましい声とリヴィエルと女将さんの悲
鳴が響き渡ってくる。
﹁ぐぬぬぬぬっ!どうしてこうも包丁って切りにくいの!?リヴィ
エル、﹃ウォータースライサー﹄!!﹂
﹁まな板ごと切るバカが居るか!!﹂
﹁後で弁償しておくれよ。﹂
﹁生姜、熱ぅ∼∼∼っ!!﹂
﹁はいはい、学習しない子ねぇ。﹂
﹁正月生姜取ってきたのかい!?後で分けとくれ!!﹂
﹁ちょっと!油も引かずに焼いちゃダメだってば!!﹂
﹁ちょっと、今度は入れすぎだよ!!アンタ、揚げ豚にするつもり
かい!?﹂
﹁全体をコンガリ焼こうとしただけじゃない!!一々五月蠅いわよ
!!﹂
﹁はいはい、一旦脂を拭きながら・・・﹂
﹁そうそう、そんで合わせた調味料を・・・って!!それ、水!?﹂
﹁へ??﹂
轟っ!!
扉の窓越しにも火柱が見える。
﹁リヴィエル、﹃ウォーターガン﹄!!﹂
﹁ちょ、ちょっと!脂火災に水なんかぶっかけたら!!﹂
448
どごんっ!!
一段と高い火柱が上がった様だ。
◆
◆
実は炎の属性適性あるんじゃないの?
◆
夕飯時・・・。
﹁ハ、ハジメ・・・。﹂
既に半泣きどころか4分の3ぐらい泣いてるウェンディーヌが部屋
に入ってきた。
﹁下の食堂に来て・・・?﹂
いきなり何を思い立ったのか知らないが、水をかぶり油をかぶり炎
をかぶり、まるで火事場から逃げ出してきたかの様だ。
醤油の焦げる匂い・・・?
それに豚肉の香ばしい香り・・・?
﹁まさか・・・﹂
﹁ごめん、頑張ったんだけどやっぱりこれが精一杯・・・。﹂
そこにあったのは真っ黒に焦げる寸前の豚肉。
味付けは紛れもなく醤油と生姜だが、日本で食べていたものとは香
りが全く違う。
﹁ごめん、これ、煮方が良く分からなかったの・・・。﹂
ご飯は前回俺が作った中華粥並だ。
449
﹁取り敢えず、座って?﹂
﹁ひょっとしてここ数日留守にしてたのって・・・?﹂
﹁うん、食べながら話すね。まずは食べて?あ、いや、ごめん。や
っぱり無理に食べなくても良い。。﹂
もぐ
﹁・・・美味しい。﹂
﹁自分で味見してるから分かってるわよ。お世辞とか良いから。﹂
﹁確かにこれを店で出されたら金返せ、って思うかもね。﹂
﹁・・・。﹂
︱
元の世界に居た時は米なんて毎日食べてたし、好きだけ
﹁でも、この料理は俺にとって特別なんだ。
日本
ど特別な料理じゃなかった。
でもこっちではそうじゃなかった。しかも米に合う料理もあんまり
普及してない。
毎日食べても飽きない味。毎日食べたくなる味。
それに醤油も、生姜も物凄く旨い。米に合う料理が普及してないの
にこの2つが普及する理由が無い。
これだけの為に苦労して探してきてくれたんだろ?﹂
﹁︱︱!?﹂
﹁俺等の世界の言葉で、﹃お袋の味﹄ってのがあってね。
お袋ってのは母親の事なんだけど、家で毎日食べる様な味。
プロじゃないし毎日の事だから、たまには焦げてる事も有る。たま
には塩辛すぎる事もある。
でも、気付けばまた食べたくなる味。
450
こっちの世界で食べられるとは思わなかったよ。この料理はそう言
う意味で完璧だよ。﹂
強気なウェンディーヌだが、涙腺も限界だった様だ。
食べてる俺にしがみついてえぐえぐ嗚咽を漏らしている。
﹁クロノス!﹂
﹁はい、マスター♪﹂
何の事でしょう?﹂
﹁どうせ君辺りの入れ知恵だろう?﹂
﹁ふふ♪
﹁ウェンディーヌ。﹂
﹁うん?﹂
﹁マリンフローの復興、俺はその為に倹約しようとしてたんだ。億
単位の金、或いはもっと必要なのに、ほんの数千、数万けちってど
うするんだ、って思うかも知れない。でも、ウェンディーヌがその
歳で人生3回分もお金を貯めてるのに、自分一人贅沢する気になれ
なかった。
でも、今回みたいな気持ちはほんとに嬉しい。もうちょっと肩の力
抜いて考えるよ。﹂
﹁・・・うん。ありがと。良かったら食材は残ってるからまたハジ
インベントリ
メが作ってみて?﹂
それと・・・と収納スペースから瓶を取り出す。
﹁︱︱!!﹂
これは・・・
﹁日本酒!?﹂
﹁やっぱりそっちにもあるの?私はポン酒って聞いたんだけど・・・
﹂
451
﹁米から作ったお酒だよ。俺の世界の、俺の国の特産だ。﹂
アルフレッドの作った物はどぶろくに近い。
しかし、若いハジメには寧ろこちらの方が新鮮だった。
﹁くぁぁぁ∼∼∼っっっ!!旨い!染みる!!
クエスト
これを作った人物に合わせてくれ!!今回の依頼、明日中に終わら
せるぞ!そんで現地に飛ぶ!!﹂
﹁この人、個人で一生懸命米を作ってたわよ?﹂
﹁︱︱!?﹂
﹁クロノス!!﹂
﹁はい・・・?﹂
﹁今から飛ぶぞ!!﹂
クエスト
クエスト
﹁ちょ、ちょっと待って!依頼もこなさなきゃでしょう?サイカ島
もほったらかしだし・・・。
焦らなくてもまた向こう行ったら嫌って程、依頼が待ってるわよ。。
﹂
アタシはもうクワガタの顔を見たくもない。
ああいう近接戦闘はケンタウロスとガルーダにお任せが何よりだ。
半分納得せずに、でも物凄い勢いで生姜焼とお粥を平らげ、ポン酒
を流し込むハジメを見て、胃袋がどうとかどうでも良くなるウェン
ディーヌだった。
452
幕間小話2 ウェンディーヌのお料理教室︵後編︶︵後書き︶
ライス・ライス
今後も食材探しの旅は続きます。
特に、米シラミ退治は必ず書きます。
453
ハジメ
タカナシ
ハジメ サイジョウ
一と西条
幕間小話3 episode 0︵前書き︶
マコト
ここまで細かい描写をして来なかった髙梨
マコト
麻琴の転生
した︵=麻琴が暴走して一を刺しちゃった︶日の事を書きます。
実は連載開始前、この文章は第一話より前に書いていた物です。た
だ、どうやっても文章力の問題で当時の私には綺麗に纏める事が出
来ませんでした。あれから1ヶ月書いただけで、どれ程自分が変わ
ったのか、全然分かりませんが、もう一度チャレンジしてみようと
思います。
途中、以前の文章をコピペして行きますので今とかなり文体が違い
ます。気にされる方はどうぞ読み飛ばして頂いて結構です。本編の
進行に大きな支障が出ない様に作るつもりです。
454
暗い夜道と
ヤンデレ幼馴染み。
幕間小話3 episode 0
夜道。
気をつけよう
◆
◆
一、明日で17歳になる高校2年生だ。
ハジメ
今日は、そんなヤンデレ幼馴染みと俺のお話。
◆
タカナシ
俺の名前は髙梨
ハジメ
ハジメ
生まれも育ちもここN県N市。遊び以外でこの町を出た事がない。
1月1日生まれだから一。長男で一人っ子だから一。
名前が安直すぎるのとじっちゃんの名にかけて何か解決しようとも
ハジメ
して無いのに迷惑ごとが向こうからやって来るのが玉に瑕だ。
幼馴染みには﹁一ちゃんが雪山山荘に行ったらその内きっと人が死
ぬ﹂なんて不名誉な事を言われている。
今日はその幼馴染み︵勿論女の子︶と町をぶらついた後、彼女の家
に行く事になってたんだ。
ランチ食って町ぶらついて3時のおやつ食べて。
プロポーズ
するつもりだ
その後彼女の部屋に行き、彼女と鍋でちびちびやりながら年越しと
17才の誕生日を同時に迎える予定。
だが!この日の俺は気合いが違った。
友達以上恋人未満、そんな幼馴染みに
ったんだ。
さいじょう まこと
幼馴染みの名前は西条麻琴。
455
小学校2年生の時に東京からこの町に転校してきた。
シャンプーのCMにも出れそうな黒髪ロングストレート、細目で切
れ長の瞳、ぽってりと大きな艶のある唇、そして小柄でスレンダー
Gcup︶。
ながら自己主張が年々強くなるふわふわマシュマロおっぱい︵推定
94cm
そんな彼女。家庭環境が割と複雑である。彼女は今、両親と弟の4
マコト
人家族だが、血が繋がっているのが母親だけ。弟は異父弟、父親は
義父。
彼女の実の父親は麻琴の母親ではない人と結婚していて、更に何人
かの愛人が居て、それらの間に異母姉妹が沢山いる。何人かって?
マコト
沢山、である。
とうごう ひさお
麻琴の母親は嘗ての恋人らしいが、今は縁遠くなっている。実の父
親の名は東郷久雄、俺たちが住んでいる田舎町出身ながら世間では
フィクサーとも呼ばれる実力者である。政治・経済に及ぼす影響は
国内外にまで手が届くとも・・・?
麻琴は母親の再婚後も東郷久雄と親子の絆は深く、義理の父親とは
表立っては仲良くしていたが心底から歯車が合う事は無かった様だ。
さらに俺は早くに父親を亡くしていた事もあり、偶像を求めるかの
様に自然と久雄さんに懐いていった。
彼の人物像は一言で言えば豪放磊落。女性関係も派手だし黒い噂も
ちらほら聞こえるが、誠意を持って接する相手には非常に礼儀を持
って返してくれた。
有り体に言って、麻琴は姉妹の仲でも特に気に入られていたし、息
子のいない彼は俺を息子同然に扱ってくれ、俺自身もそれを何とな
プロポーズ
の理由にはそんな辺りの事情も関係している。
く感じて、気持ちの良い男同士の付き合いをしていたつもりだ。
そして
456
◆
◆
◆
俺は民俗学と生物学の混ぜっこみたいな事、簡単に言えば﹁空想上
の生物をちゃんと生物として捉えて研究する﹂と言う概念について
勉強したかった。妖怪学?みたいな?
久雄
その為に大学に行きたいし勉強は問題なく出来たのだが、何分お金
が無い。
そんな話をポロッとオヤジさんにしたところ、﹁有能な人材が金如
きで悩む程この世の為にならん事はない!・・・が、父親として、
ぷらぷらしてるままの奴と麻琴がこんな形の付き合い続けるのはも
っと為にならん!結婚が無理ならせめて正式に婚約をしろ!!﹂と
◆
◆
言う有り難すぎる言葉を頂いたのだ。
◆
待ち合わせは12時。
︵う∼∼∼、寒っ!この辺はウィンタースポーツも楽しめるとは言
え、雪の翌日に晴れ上がると冷え込んで辛いな・・・︶
隣を歩く彼女もロングコート、手袋、マフラー、ニット帽と言う完
全防備である。
長く伸ばした髪を今日は一つ括りにして片側から垂らしている。
︵せめてマフラーがなければうなじが綺麗に見えるのに・・・手袋
まで完全防備でしちゃってるし・・・︶
うじうじもじもじと考えているといつの間にか見つめていたらしい。
目があった彼女が小首をかしげた後、にこりと微笑んで手を差し伸
べてきた。
﹁手﹂
﹁へ?﹂
457
﹁素手は寒いでしょう?﹂
﹁あ、いや、ポケットにでも突っ込んどけば・・・﹂
何言ってんだヘタレ俺!ほんとは手なんて男から繋ぐもんだよ!
﹁良いから、ほら。﹂
彼女は片方の手袋を貸してくれた。
﹁あれ?麻琴まで手袋外しちゃったら意味ないんじゃ・・・?﹂
を繰り返した後、遂に台詞が無くなっちまったな。
﹁ド○エモ∼ン、麻琴が手袋してて手を繋げないよー、って顔して
見てた癖に。﹂
◆
・・・
﹁・・・﹂
◆
何度も
◆
﹁﹁かんぱ∼い﹂﹂
久雄
今居る場所は彼女が家族と住む家ではない。
マコト
オヤジさんが所有していて、彼の娘達が暮らすマンション。
麻琴は普段ここに来ないが、部屋は一応借りさせて貰えていて、今
日はどんちゃんやる予定なのでこっちに来た、との事だ。
二人とも料理は普通に出来るが、鍋なので割と適当。
ここぞとばかりに買い込んだ豪勢な食材に物を言わせて贅沢なスー
プが出るのを暫し待つ。
紅組と白組を流しっぱなしにしながら海の幸・山の幸を堪能し、酒
をチビチビ、いやグイグイやった。
458
一日早いけど、と渡されたプレゼントは何と手袋。
何だかもう色々見越されてる感がたっぷりである。
﹁アタシが﹃ドラエモ∼○﹄って顔してる時は外してね∼♪﹂
既にかなり悪のりが過ぎて来ている。
ここいらできっちり言わねばならない。
﹁麻琴、悩んでた進路の事で話があるんだ。﹂
﹁??﹂
ハジメ
﹁俺、久雄さんの援助を受けて大学に行こうと思う。﹂
﹁はぁ∼、お父さんは一ちゃんにめろめろだねー。アタシが妬けち
ゃうよ。小母さんには了承得たの?﹂
﹁ああ。母さんもこの土地の人間だからね。久雄さんは頼れる領主
さま、って感じで信頼してるみたいだよ。﹂
﹁それで・・・えっと・・・その・・・。﹂
﹁ん?﹂
﹁結婚を前提にお付き合いして下さい!!!!!﹂
土下座。
﹁︱︱︱!!??﹂
﹁﹁・・・。﹂﹂
暫しの沈黙を破ったのは麻琴であった。
﹁何故そうなる?いや、嬉しいんだけど、凄く嬉しいんだけど、色
々すっ飛ばしてる上に何でお父さんの話の後で??
は!って言うか付き合う事は無意識にOKしてしまった!?あーー
ーーーもう意味不明!説明求む!!﹂
459
久雄
しどろもどろになりながらオヤジさんとの話を説明する。
目を白黒させながら話を聞いてた麻琴だったが、次第に要領を得た
ようであった。
﹁ちょっとすとっぷ!!﹂
﹁え?﹂
﹁敢えて聞くね?大学に行きたいからプロポーズしたの?アタシと
オンナ
付き合いたかったのが第一の理由?
大学行ったら美味しい獲物もくっついてくるなーとか思った?﹂
こいつのこう言う所が好きなのだ。
思い立ったらすぐに行動に出る。と言うより思った瞬間動いてしま
っている。
一見大人しそうに思われるが実は父親の苛烈な性格をきっちり受け
継いでいる。
﹁大学に行きたかったからプロポーズした、なんて事がある訳無い。
そんな男だったら既に久雄さんに消されてるよ。大学に行ったら麻
琴もくっついてくる!ってので一石二鳥だと思ってしまったのは事
実。
でも、一番は麻琴が大好きだから。ずっと一緒に居たいと思ったか
ら付き合って欲しい。﹂
まこと
﹁ん♪﹂
お嬢様は納得頂けたようだ。
﹁麻琴が大好きだし、久雄さんは大好きな麻琴の大事なお父さんで、
俺もとても尊敬している人だから。﹂
﹁よろしい。大変よろしい。良く出来ました。﹂
460
頑張った。
ところで・・・
﹁お嬢様、満足頂けましたところでお返事をいただけますか?﹂
﹁うん!喜んでお付き合いさせて頂きます。ダンナ様♪﹂
﹁−−−!!萌え!!!﹂
◆ ◆ ◆
時計は11時を過ぎた。
テレビを消し、ソファで寄り添い、静かに過ぎゆく時間を2人は唯
々堪能していた。
キツい酒はやらず、酎ハイやウーロン茶で喉を潤しながら。
﹁ねぇ。﹂
﹁?﹂
﹁付き合ってその日に欲しくなるような女の子は嫌い?﹂
グハッ!
﹁だ、大好きでありますお嬢様!!﹂
﹁ダンナ様、アナタのお情けをワタクシメに下さいませんか?︵上
目遣い︶﹂
ニヤニヤしとる。
グボハァッ!!
461
彼女は俺のスイッチを入れるのがとてもお上手なようだ。
もう止まらない。。。
彼女の艶やかな髪に指を絡め、髪留めを外す。
俺の肩に髪がかかり俺の頬を撫でる感触に目を細めていると、いつ
◆
◆
の間にか押し倒されていた。
◆
︵・・・無い。︶
いよいよと言う姿になった所で気付いた。
・・
アレが無い。
慌てて説明して。
話も碌すっぽ聞かずに部屋飛び出して。
その後の事は慌てていて良く覚えていない。
気付いたら背中に刺身包丁が生えていた。
マコト
マコト
真っ直ぐな麻琴。そんな彼女らしくもなく、後ろから一突きだった。
ああ、綺麗な麻琴。
もう一度ちゃんと話がしたかった。触れたかった。
一人にしたくない・・・。
・・・・・・・・・
◆
・・・・・・
◆
・・・
◆
462
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
久雄
﹁ねぇ、ハジメちゃん、向こうに戻りたいとは思わないの?﹂
﹁オヤジさんや祐実果姉さん達には会いたいかなぁ。
でも向こうの世界そのものよりはこっちの方が楽しいから、俺自身
は連絡が取れれば良いと思ってる。
今、向こうではどれぐらい時間が過ぎてるか分からないしなぁ。﹂
﹁・・・祐実果姉さんはダメ。﹂
マコト
﹁もうその件に関しては話し合ったろ?俺が本当に好きだったのは
麻琴なんだ。祐実果姉さんは単なる綺麗なお姉さん、それだけだよ。
﹂
﹁・・・今のハジメちゃんの振る舞い見てるとどーもあわよくば感
が臭うのよね。﹂
中々に鋭い。本当にパンドラは彼女に相性の良い能力だ。
マコト
﹁俺は元の家族とは連絡が取れればそんで良い。俺は、麻琴を一人
にしない為にこの世界に来たんだよ?﹂
﹁・・・ちょっと嘘吐いてるでしょ?転生後は一人で楽しむ!って
一度は決めてたのが心に書いてあるわよ。﹂
うぐっ!ジルんとこでのアレか!
﹁・・・そこまで言うんなら俺の前世の死に際もパンドラで読んで
見ろよ。﹂
﹁何でもかんでも読まないわよ。と言うか読めないの。疚しい事が
無いときは下手に読めないのよ。﹂
463
﹁そっか、そんなもんなのか。﹂
︵一人っきりの世界から救ってくれて有難う・・・。︶
464
幕間小話3 episode 0︵後書き︶
転成物で転生前の生活が詳しく書かれてる物が少ないので、自分の
作品では何とか彼等のバックグラウンドも示してやりたかったので
として冒険始め
す。と言うか、作者には最初から頭の中に﹁こいつらは何となくこ
ヴォイジャー・オブ・ジョイ
目的有る旅路
んな人物﹂というのがありました。
ハジメとマコも揃って、いよいよ
ハジメ
ようって時ですので、書いておきたいと思いました。
何れ書きたい作品として、IF物として、一&東郷娘達の姉妹ハー
レム物。
東郷久雄とそれを取り巻く女性達のハーレム物。
どっちも物凄い難産になるのが想定するだけで見えてきますがw
465
幕間小話4 マコとお買い物︵前編︶︵前書き︶
現時点での最年少ヒロインです。この先は・・・未定ですw
466
幕間小話4 マコとお買い物︵前編︶
﹁3日間ばかりお留守にします。ウェンディーヌ。﹂
ウェンディ姉さんが、書き置きを残して旅に出た。
何とな∼く考えていそうな事は想像が付く。
本人も言っていたけど、アタシとウェンディ姉さんはとっても良く
似ている。
﹁ハジメちゃん。﹂
﹁な、何だ。今回はもう疚しい事無いぞ??﹂
﹁分かってるわよ。パンドラで見ればそんなの一発なんだから。﹂
﹁そ、そうか、そうだよな。愛するマコの前で俺が嘘なんか吐こう
筈が・・・。﹂
コール
最後までは言わせなかった。
パンドラを実体化させてふわふわとハリセンフグを浮かべてみせる。
﹁今、ちょこっと嘘吐いたな、って思ったでしょ?﹂
﹁い、いや、そんな事は・・・。﹂
の
ハリセンフグはふよふよとハジメちゃんに近付いて行き、ハジメち
嘘吐いたらハリセンフグ飲ます
ゃんは勝手に口が開いてしまっている。
﹁早いとこ認めて謝らないと
刑になるわよ?﹂
パンドラのハリセンフグは、嘘を吐いているかどうか、疚しい気持
ちがないか本人の心に問う能力。
嘘も疚しさも無ければそもそも発動しないし、認めて心から謝れば
解除される。
口先で謝って後ろからブスリ、なんて輩には通用しない。
467
マコト
﹁す、すみません。ちょこっと大げさでした。誤魔化そうとしたの
も認めます。ですから許して下さい、麻琴さん。﹂
ぼむっ、とハリセンフグが消滅する。
﹁最初から素直が良いわよね。それが原因でこっちの世界に来る事
◆
◆
になってるんだもんね。﹂
◆
﹁ハジメちゃん、今日・明日何して過ごそう?﹂
明後日は帰って来るだろうから待ってるにしても、今日と明日は暇
になってしまった。
﹁今日はまず買い物だろ?だって、8歳の時の持ち物そのままだっ
てみんなに聞いたよ?﹂
﹁あ、そっか。大量に借りちゃってるし眠らしててもしょうがない
もんね。
気にせず投資してバリバリ返していかなきゃ。﹂
﹁返すのは別に良いんだ。みんなのお金、って意識の方が強いしね。
寧ろ、それを元手にいっぱい稼いで故郷の復興に使おうよ。﹂
久雄
﹁ねぇ、ハジメちゃん、向こうに戻りたいとは思わないの?﹂
﹁オヤジさんや祐実果姉さん達には会いたいかなぁ。
でも向こうの世界そのものよりはこっちの方が楽しいから、俺自身
は連絡が取れれば良いと思ってる。
今、向こうではどれぐらい時間が過ぎてるか分からないしなぁ。﹂
﹁・・・祐実果姉さんはダメ。﹂
マコト
﹁もうその件に関しては話し合ったろ?俺が本当に好きだったのは
麻琴なんだ。祐実果姉さんは単なる綺麗なお姉さん、それだけだよ。
﹂
﹁・・・今のハジメちゃんの振る舞い見てるとどーもあわよくば感
468
が臭うのよね。﹂
中々に鋭い。本当にパンドラは彼女に相性の良い能力だ。
マコト
﹁俺は元の家族とは連絡が取れればそんで良い。俺は、麻琴を一人
にしない為にこの世界に来たんだよ?﹂
﹁・・・ちょっと嘘吐いてるでしょ?転生後は一人で楽しむ!って
一度は決めてたのが心に書いてあるわよ。﹂
うぐっ!ジルんとこでのアレか!
﹁・・・そこまで言うんなら俺の前世の死に際の想いもパンドラで
読んで見ろよ。﹂
﹁何でもかんでも読まないわよ。と言うか読めないの。疚しい事が
無いときは下手に読めないのよ。﹂
﹁そっか、そんなもんなのか。﹂
﹁そんなものなの。パンドラの能力は嘘を100%見抜き、その後
◆
◆
に然るべき罰を与える。それが基本だから。﹂
◆
まずは衣類。
俺の場合、ここはそれ程ではなかったが、マコはここから既に、い
や最難関となる事が予想された。
前世でも今生でも彼女自身は慎ましやかに生活していたが、前世で
は実はかなりのお嬢様だったし、何と言っても女性である。
女性の服選び。かなりの難関である。
﹁ごめん、ハジメちゃん、次の店。﹂
・・・まだ何も買ってませんが?
469
1店目、俺が一揃い買った店を完全にスルー。
﹁ここ、村が小さい割に鉱山で栄えてるから店はちゃんとしてるみ
たいなのよね。﹂
そう言ってやっと普段着を選び始めたのは3件目の事だ。
ウェンディーヌはワンピースタイプのマジカルドレスを愛用してい
たが、マコは日本で普通に着ている様なシャツ+ジャケット+スカ
ートという組み合わせだ。
黒髪に合わせて黒と赤という色合いだが、この店ではスカートを1
着買っただけだ。
﹁ジャケットは1店目に気に入ったのがあったけど、合わせるスカ
ートが無かったのよね。﹂との事だが、中に着るシャツは・・・?
﹁次の店でシャツとか色々探すから。﹂
◆
◆
着回し5セットを買い終わったときには既に昼を過ぎていた。
◆
屋台でサンドイッチと串焼きを買って食べながら移動する。
いちいち宿の食堂に戻っていては時間が幾ら有っても足りない。
﹁次はこのまま食材店に行く?﹂
この辺りは食べ物屋が並んでいる界隈だからか、食材店は比較的近
い。
﹁そうだな。食材、装備、薬の順に行こうか。﹂
本当なら薬屋の方が近いのだが、ドミナンさんのお店は夜中は開い
ていない。
その他の消耗品を扱う店は流石に24時間営業中だ。
深夜死にかけて帰って来たら薬屋さんが閉まってました、では冒険
者はみんな廃業である。
食材店で買う物は多い。
470
調理器具、時間が無い時にでもすぐに調理せず食べれるタイプの保
ツールボックス
存食、野営をする時のちゃんとした食糧、それに火精石やはぎ取り
用の道具箱だ。
マコは俺と同じぐらいちゃんと料理が出来るし、こっちの世界の食
インベントリ
ウェ
材により精通しているという事もありかなり色々と買い込んでいた。
アハウス
彼女が決済した後、収納スペースに放り込んだのを確認して、共同
保管庫を作り直さなきゃな、と気付いた。ウェンディーヌが帰って
インベントリ
来たら3人分のを整理しよう。
ところで・・・
﹁そう言えばマコの収納スペースってどれぐらいの広さ?﹂
インベントリ
﹁無限をイメージしたんだけどね。小さな家一つぐらいが精々だっ
たわ。﹂
そんな彼女の収納スペースのホログラムはメビウスの輪。何か性格
表れてんなー。
4次元や空想の世界と言うのを知っている俺達はやっぱりデカくな
る、のかな?
◆ ◆ ◆
﹁次は装備だな。俺等は3人チームだけど、マコだけ戦闘スタイル
が決まってないだろ?﹂
ウェンディーヌは中∼遠距離からの大規模攻撃による砲台役を担う
事になる筈だ。
本人も主要武器としているのは両手持ちのマジックメイスとバック
ラーで、足を止めて打ち合い、近付いてきた敵だけを殴るつもりな
のだろう。メイスに埋め込まれているのも水精石で、基本の戦力を
リヴィエルに頼るつもりだ。
一方の俺は、刀と大盾に鎧甲冑というフル装備だが、盾は刀を振る
471
う間は籠手に変形させているし、かなり素早い変形にも慣れてきた。
そろそろ両手槍などの中距離攻撃方法も練習していこうと思ってい
る。それに俺についてくれている獣魔達はかなりバランスが取れて
いるので、どの距離からでも攻撃可能だ。ただ、遠距離攻撃の火力
はケンタウロスの弓とガルーダの風や雷で、流石にリヴィエルの火
力には及ばない。
その意味で、俺は近接∼中衛的な位置付けとなるのだろう。
そこで、マコだ。
マコの最大の売りは何と言ってもパンドラの能力だ。
サイカ島で戦った時の事を後で考えて分かったのだが、マコは全て
・・・・・
の攻撃の先読みが出来るのでは無い。
フェイントの先読みが出来るんだ。
パンドラには嘘が通用しない。つまり、見せかけの攻撃であるフェ
イントが全部先に読まれてしまう。
今の処パンドラに長距離攻撃方法が存在しない以上、パンドラは前
に出て戦うしかない。
しかしパンドラの能力は寧ろ近接系に向いていると俺は思う。
大規模攻撃をするのならフェイントも糞もなくガードごとぶち破る
様なクラスの魔術をじっくり練れば良い。
だが戦士スタイルの敵、特に手数を稼いで攻撃するようなタイプだ
った場合、相手にとってフェイントが通じないというのは非常に相
性が悪いだろう。
まぁフェイントなんて読み合ってナンボだし、読んでても反応出来
ない速度で攻撃されたらそれまでなのだが。
兎に角、パンドラの操作に集中するのか、ある程度パンドラ本体の
意思に任せつつマコも同時に戦うのか。
﹁戦闘スタイルを決めて装備を決めておかないと、武具の調整にも
時間かかるだろ?その間に薬屋に行けば良いよ。﹂
472
◆ ◆ ◆
﹁ドミナンさん、彼女の戦闘スタイルを考えたいんですが、模擬戦
用の武器をレンタルしても良いですか?﹂
の付与魔術が施された案山子が立っており、素
エンチャント
前回来た時は使わなかったが、武器屋街には共同で使用出来る簡単
再生
な修練場がある。
隅っこには
振りしたり試し切りしたりも出来るらしい。
今回は案山子ではなくアマツカゼとトールに相手を頼んだ。
コール
﹁ちょ、ちょっと!パンドラ実体化無しなんてこんなの勝負になら
ないじゃない!﹂
コール
﹁大丈夫大丈夫。本気出さなきゃ分からないだろ?それに能力を全
部使うなって言ってる訳じゃ無い。実体化せずに少しずつ能力使う
のも慣れて置いた方が良い。﹂
﹁大丈夫ですよ、マコさん。怪我をさせるほど未熟でも有りません
インベントリ
し、多少の怪我なら直してあげますから。﹂
﹁そう言う事。俺の収納スペースにはちゃんとポーションもあるか
ら好きに戦ってみなって。﹂
最初に彼女が選んだのは片手槍だった。
長い両手槍を持とうとしたのだが、重くて取り回しが利かなかった
らしい。
﹁槍ですか。では私がお相手しましょう。アマツカゼさんは下がっ
てて下さい。
ほう・・・、構えは分かるのですね。﹂
実はドミナンから初心者用のレクチャーアイテムを借りてきてある
のだ。
ずぶの素人が下手な型をつけるのは良くない、と言う思いから、彼
の作る初心者用武器は武器が体に自然な型をなじませてくれるよう
473
に出来ている。
しかし・・・
かきぃぃん!!
3合、持たなかったか・・・。
﹁トール、どう思う?﹂
﹁合ってませんね。片手槍は両手で扱う物ではありません。
膂力が有る者が敢えて軽い武器を思い切り振り回して初めてトリッ
キーな攻撃が出来るものです。
単に突いたり払ったりするのなら両手槍の方がリーチも攻撃力もあ
って良いでしょうが・・・。﹂
それは本人がさっき諦めていたようだ。
次に持ってきたのは弓矢。
インベントリ
これは撃ち合いをしてもしょうがないので案山子に向かって放ち、
アマツカゼに判定して貰う。
﹁どう思う?﹂
﹁悪くはない、と思います。矢は収納スペースに保管しておけます
し、連射も得意なようですし。ただ・・・。﹂
﹁ただ?﹂
﹁懐に入られた時にどうするんですか?﹂
そうなのだ。これはウェンディーヌにも言える事なのだが、彼女ら
の保有する獣魔は一人各一体。本人の護衛的に共闘してくれるのが
居ない。
﹁それに、遠距離からの攻撃ですと、失礼ですがガルーダ達やリヴ
ィエルさんの攻撃の方がよっぽど強力かと・・・。﹂
そう。これでは彼女が弓を持つ旨味が薄い。
しゅん、としながらマコは武器屋に戻って行った。
474
幕間小話4 マコとお買い物︵前編︶︵後書き︶
主人公が無双過ぎますが、ちゃんと他のキャラもスタイルを決めて
いかなきゃです。
475
幕間小話4 マコとお買い物︵後編︶︵前書き︶
書き終わってからいつもより長かった事に気付いたので2回に分け
ました。
数日書かなかっただけで勘が狂いますねぇ。
476
幕間小話4 マコとお買い物︵後編︶
武器屋に戻ったマコはかなり煮詰まった表情をしていた。
あれこれ考えながら持ち比べてみるがすぐに棚に戻してしまう。
﹁マコ。﹂
彼女は項垂れた表情でこちらを振り返る。
インヴォーカー
﹁ハジメちゃん、アタシが武器を持つ意味って有るの?
獣魔師って普通フリーハンドが基本じゃない?﹂
確かにそうなのだろう。折角強力な力を持つ獣魔の助けを得られる
のだから、基本的には彼らに任せておけば戦闘はスムーズに進む。
﹁戦闘を獣魔に100%任せると言うスタイルは、俺とウェンディ
ーヌには出来るけど、今のマコには出来ないんだ。﹂
敢えて何故?とは問わない。彼女なら分かるはずだし、彼女の性格
上こういう言い方をされたら黙って引き下がらないのを知っている
からだ。
﹁そっか、パンドラには遠距離攻撃とか広範囲の殲滅系の攻撃が無
いんだ・・・。﹂
︱
ケンタウロス姉弟とか−
と連携を組み、
﹁そう言う事。必然的にパンドラはマコの側で戦う事になる。俺の
場合、近接系の獣魔
他の獣魔に打って出させる事も出来るし、リヴィエルやガルーダ兄
弟の遠距離攻撃方法もある。
ウェンディーヌは遠くから殲滅系の攻撃を仕掛けられるからリヴィ
エルが体の側を離れる事がない。
リヴィエルに打って出させていてもいざとなれば﹃スプレッド﹄や
﹃タイダル・ウェイブ﹄で自分の身を守る事も可能だ。
ただ、パンドラは基本の攻撃が膂力に任せて殴る・蹴るのスタイル
だ。﹂
477
イリュージョン
イリュージョニスト
ほんとに幻体の力は幻体師の力そっくり、とは口が裂けても言えな
イリュージョン
い。
﹁幻体だから、マコが綺麗にイメージを作れればパンドラも何らか
の遠距離攻撃方法を持つ事は出来ると思う。ただ、無理にイメージ
しても100%の力は奮えない。俺は本当ならパンドラとマコが連
携して近接攻撃を繰り返すのが理想だと思う。﹂
そう言いながら俺は彼女に2種類の武器を渡した。
一つは二刀流でも扱える短刀。
もう一つは籠手と一体となった爪付きのナックル。
﹁えっと・・・これだと・・・﹂
﹁マコ、相手に懐に入られるのが怖いんだろ?﹂
槍に弓。どちらも密接して戦わない事を前提とした武器だ。
﹁ま、試してみろって。相手は超上級者だ。下手なら下手ってちゃ
んと言ってくれるよ。﹂
◆ ◆ ◆
﹁両手ナイフですか。これは私の出番ですね。﹂
アマツカゼが弓を片付け、ナイフを取り出す。
ここまで言いようにされて来てマコのプライドも限界に来ていたら
しい。
遙か格上のケンタウロスに形振り構わず打ち込んで行く。
気付けばアマツカゼは当然無傷ながら、足を動かしながら戦ってい
るし、マコも小さな傷を作りながらも5分ほど健闘していた。
最後には体力切れをしたマコが足を蹌踉めかせたところにアマツカ
ゼが足払いをかけ、大きな怪我無く終わった。
ポーションと水を渡してやると、ごくごくと気持ちよさそうに飲み
干した。
軽量級武器の手応えを感じたのか、先ほどまでの暗い表情はどこへ
478
やら。
﹁次!今度こそ一泡吹かせてやる!!﹂
ナイフを投げ捨て素早くナックルに付け替えたマコは休憩も殆ど入
れずにアマツカゼに向かっていく。
不意を突かれたアマツカゼの首筋に綺麗に右フックが入った。
﹁・・・やってくれましたね??﹂
ヤベ!目の色変わってるし!!
﹁やかましいわ!このロリ年増!!﹂
ヲイ。
figh
﹁何ですって!?そっちこそほんとの幼女じゃないの!!﹂
﹁あら、ごめんなさい、ロリ年増貧乳馬。﹂
﹁ちょ、ちょっとぐらい乳がデカいからって!!﹂
気にしてたのかよアマツカゼ。
わーわーぎゃーぎゃー
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
﹁はぁ、はぁ、ふぅ、ふぅ・・・。﹂
﹁ひぃ、ふぅ、へぇ、へぇ・・・。﹂
﹁﹁・・・。﹂﹂
気付けば最後は噛み付きだの引掻きだの、まんまCat
tだった。
﹁ふふふ・・・﹂
479
﹁あはは・・・﹂
戦い終わってNo
side?戦いの後に生まれる友情?
﹁あーあ、何かあんなに真剣に悩んでたのが馬鹿らしくなっちゃっ
た。思いっ切り体動かして気持ちよかったよ。﹂
﹁貴女本当に中身8歳の非戦闘員ですか?何か格闘術身につけてま
せん?﹂
そう。アマツカゼの言う通り。前世でのやんごとなき事情により彼
女は合気道をほんの少し囓った事があるのだ。
ただ、それも正式な物ではなく、かなり我流が入っているが・・・。
﹁もう、私はこれで決まりで良いと思います。後はマコさんの気持
ち次第ですけど・・・。﹂
﹁アタシもこれで良い。ただ、ちょっと改良したいところがあるの。
﹂
﹁細かい調整はドミナンさんに頼もう。防具も選ばなきゃだしね。﹂
◆ ◆ ◆
﹁ほう。ナックルガードとは中々に渋い武器選ぶじゃねーか。しか
し、拳一つで戦うにはお嬢ちゃん、軽量級に過ぎやせんかね?﹂
﹁それなんですけど・・両手の籠手の所にそれぞれナイフ収納1本
分ずつ取り付けられませんか?﹂
﹁ほほぅ?﹂
ぎらっと睨み上げてくる。
﹁私は腕力が無い。なので必然的に軽量級武器になりました。しか
しこれではあまりに決定力に欠けます。
だから懐潜り込んだ後、トドメはナイフで、って感じで考えてます。
﹂
480
﹁・・・お前さんの腕でナイフ振るっても決定打にはならんだろ?﹂
﹁ケンタウロスの毒を使います。﹂
﹁﹁︱︱!!﹂﹂
俺もドミナンも思わず言葉を失った。
﹁本当なら毒ナイフ二刀流で最初っから戦えればいいのですが、ま
だそれ程の技量がありません。振り回されて自分で毒喰らっちゃう
可能性が高いので・・・。﹂
﹁後、パンドラにも同じ物を持たせてあげたいのですが、どうすれ
イリュージョン
ば良いでしょう?﹂
﹁幻体の武器なんざ作れないよ。それはあんたが創造するんだ。﹂
﹁そっか、そうですよね・・・。分かりました。﹂
その後は採寸して、防具を選んだ。
近接格闘が主体で俊敏性を重視して、体の要所要所を守る軽装鎧と
なった。
籠手をつけるため自動的に盾は使わない。
結局、彼女が一番軽装になったが、手数を駆使するパンドラとの相
性を考えればこれが一番だろう。
﹁装備は明日には作っといてやるよ。あんたらとは長い付き合いに
なりそうだから大負けに負けて50万で良しとしてやる。﹂
﹁そんなに安くて良いんですか?お店の出来合いの武器でも100
万はするのに・・・。﹂
オーダークエスト
﹁雷精石や風精石の錬成で稼がして貰ってるしな。まぁいずれ欲し
い素材やら困った事があったら指定依頼を出すかもしれん。その時
の為の投資だと思っとくさ。﹂
◆ ◆ ◆
481
﹁俺達は﹃極上ポーション﹄×50、﹃上級ポーション﹄×100、
ウ
﹃満タンエーテル﹄×50、﹃上級エーテル﹄×100、﹃気付け
ェアハウス
薬﹄×30、﹃毒消し﹄×100をそれぞれ買ってる。同じだけ共
同保管庫にも入れてあるからそんな感じで足りると思う。風味は任
せるよ。﹂
マコは、ポーション:エメラルドミント、エーテル:ファイトコー
ラ、気付け薬:シビレモン、毒消し:アセロラティーとかなりすっ
きり爽やかな風味ばかり選んだ。・・・気付け薬って基本、他人に
飲ませるモンだよな??
・・
・・・あれ?
アレ買わないのかな??
﹁ハジメちゃん?﹂
﹁ハ!ハヒィ?﹂
しまった。声が裏返ってしまった。
・・・・・・
﹁持ってるわよ。﹂
﹁!!﹂
何を、とは聞けない。
い、いつの間に!?いや、どう考えても一緒に行動してからはそん
ニンフォマニア
な隙は無かったはず。。
あ、ウェンディーヌが色情魔になった夜?
﹁ハジメちゃんとこっちで再会する前、よ。﹂
﹁︱︱!!﹂
482
て、事は8歳児が!?アレを!?あのお薬を!?!?
﹁ま、この先は乙女の秘密って事で♪宿に戻りましょう?﹂
483
幕間小話4 マコとお買い物︵後編︶︵後書き︶
次回はお楽しみ会の予定で∼す。
484
幕間小話5 8年越しの初体験︵前編︶︵前書き︶
少し短いです。エロシーンの前で切りました。ごめんなさい。
485
幕間小話5 8年越しの初体験︵前編︶
宿に戻ってゆっくり夕食を摂る。
﹁よろず鍋2人前とピジョールをピッチャーで、グラスは2個ね。
それにご飯を2杯頂戴。﹂
﹁マコ、こっちではご飯は・・・。﹂
﹁知ってるわよ。アタシの方がこっち長いんだし。でも、鍋にパン
やパスタじゃ詰まらないでしょ?﹂
﹁ハジメちゃん、これ。﹂
差し出されたのは小さな包み。
﹁開けて良いかな?﹂
Happy
birthday
to
you
と書か
目で頷いたのを確認して封を解くと中から出て来たのは薄手の手袋。
それに、
れたバースデーカード。
エンチャント
﹁8年と1週間遅れの誕生日プレゼント。前世では一回も使って貰
えなかったし。
武器奮うから薄手の方が良いでしょう?付与魔術かけてあるから夏
涼しくて冬暖かいよ。
軍手代わりに使っても良いぐらい丈夫に強化してあるから。﹂
漸く彼女が言わんとしている事が伝わってきた。
あの日を、或いはあの日からの俺達の関係をやり直そうとしてるん
だな。
その為に高級品の﹁白いご飯﹂まで注文してくれた訳だ。
だったら・・・。
﹁女将さん、これ、部屋で食べても良い?﹂
486
﹁あんまり部屋を汚さないでくれれば別に構わないけど・・・。追
加注文とかどうするんだい?﹂
﹁今のうちに欲しい物は貰っておくよ。加熱に時々火精石使うかも
だけど良い?﹂
﹁部屋で火事だけは止めとくれよ。﹂
﹁了解。面倒かけたぶん、使い終わった火精石は宿に寄付するよ。﹂
俺達が使っている火精石は通常よりも質の良いルビー製。
使用後の物でも十分に宝石としての価値があるだろうし、魔力を再
充填すればさらに価値は上がる。
店へのお礼と迷惑料としたら十分だろう。
部屋に戻って、豪勢な鍋を突きながらピジョールを流し込む。
ふと外を眺めればチラチラと雪が零れている。
﹁こっちの世界でも降るんだな。﹂
﹁この辺は北半球でも緯度が高いからね。あっちの世界思い出すね。
﹂
そうか。マリンフローは温暖な海域。雪などは降らないのかも知れ
ない。
﹁ほんとにあの日にそっくりだな。﹂
﹁アタシにとっては8年前、ハジメちゃんにとっては8日前。﹂
﹁マコ、改めてあの日をやり直して良いかな?﹂
マコト
少し目を伏せ、時を噛み締めるように呟く。
ヴォイジャー・オブ・ジョイ
タカナシ
マコト
一であり、ハジメ・タカナシ
ハジメ
のマコ・シュワルツになるから。﹂
﹁一つだけお願い。今晩だけ﹃麻琴﹄でいさせて。明日の朝からは
目的有る旅路
﹁・・・良いのか?俺はずっと高梨
だ。俺があっちの世界に帰るのに拘ってないからって、麻琴まで付
ハジメ
き合う必要は無いんだぞ?﹂
麻琴の名前を取り戻せる気がするの。
マコト
﹁良いの。一ちゃんとウェンディ姉さんと一緒に旅して、向こうに
サイジョウ
戻れるようになった時、西条
487
今はこっちで犯した罪を償わなきゃ。
ウェンディ姉さんやリヴィエルやククリにとってアタシは親の仇で
あり、親友の仇な筈なのに、みんなとても良くしてくれる。その意
味が分からないほど馬鹿じゃない。﹂
マコト
ハジメ
﹁麻琴・・・﹂
﹁ねぇ、一ちゃん?初めての夜に女の方から誘っちゃうような子は
嫌い?﹂
マコト
﹁・・・今回も先に言われちゃったな。
大好きだ。愛してるよ、麻琴。﹂
◆ ◆ ◆
またもやいつの間にか押し倒されていた。
﹁・・・密かに合気道使ってるだろ?﹂
﹁野暮な事は言いっこ無しよ♪﹂
ハジメ
﹁一ちゃん、今日はありがと。
ほんとは最初っから格闘武器がアタシに合う事分かってたんでしょ
?﹂
マコト
﹁何となく、だけどな。1回は本気のパンドラとやり合ってるし。
麻琴が徒手空拳での攻防に慣れてるのは知ってたし、パンドラにも
マコト
その片鱗が見えた。
なのに麻琴本人は襲いかかってくる気配が全然無かった。
精神が狂わされてるのかとも思ったけど、俺には単純に殻に閉じこ
マコト
もって怖がってるように見えたんだ。
正直、あそこで麻琴を同時に相手にしてたら抑えられてた自信は全
くない。﹂
﹁ほんと色々有難う。ねぇ、アタシの誕生日覚えてる?﹂
488
﹁9月23日だろ?それがどうしたんだ?﹂
﹁こっちでも同じ日なの。多分、偶然じゃないよね・・・。﹂
﹁ジルの悪戯だろうな。良いじゃないか。覚えやすくって。﹂
﹁うん、そうなんだけど・・・。何だか凄く過去の自分と今の自分
の境目が曖昧になる感じなの・・・。﹂
ハジメ
﹁アタシは向こうの世界で一ちゃんを殺して、自分も死んで、家族
も何もかも自ら捨ててしまった。
こっちの世界では過去の自分に引っ張られるように暴走して、自分
の知らない間に親姉弟を殺して、友人を殺して、大事な人たちもそ
の家族も、土地すら奪ってしまった。﹂
﹁どの罪も簡単に償えるものじゃない。そもそもアタシには償い切
れないかも知れない。
向こうに戻りたいけど、どんな顔してお父さん達に会えば良いか分
からない。犯した罪が多すぎて・・・。﹂
マコト
﹁麻琴、おいで?﹂
押し倒された格好のまま腕を広げ、彼女を迎え入れる。
﹁一度に全部なんて誰にも無理だよ。今はこっちの世界で出来る事
を思いっ切りやろう?﹂
マコト
﹁麻琴が背負ってる物は一旦俺が預かっとくよ。
ハジメ
向こうに戻るかアクセスする方法が分かった時まで。﹂
﹁一ちゃん・・・。﹂
マコト
﹁麻琴、俺と結婚を前提に付き合ってくれる?﹂
﹁勿論!喜んで・・・。﹂
﹁指輪も何も無いけど・・・そうだ!!クロノス!!﹂
489
﹁はい、マスター♪
お邪魔して良かったのですか?﹂
イリュージョニスト
そう言いつつ現れた彼女の手には小さな箱が握られていた。
アストラル・ワールド
﹁俄作りだけど・・・。これは精神世界から一時的に幻体師の能力
アストラルボディ
で具現化させてるだけだから本当ならすぐに消えてしまう。だけど、
精神体になら填められるはずだ。﹂
﹁・・・分かったわ。パンドラ、出て来て?﹂
パンドラも同じように指輪の入った箱を手にしていた。
イリュージョン
イリュージョン
﹁幻体同士の婚約なんて聞いた事無いわよ?﹂
﹁幻体は想像を創造に変えるんだろ?それにこれで多分・・・。﹂
﹁うん、アタシ達の精神の繋がりも強くなるね。﹂
元の世界での婚約指輪をイメージしたプラチナ製のごくシンプルな
イリュージョン
もの。
イリュージョニスト
・・
幻体2体が指輪の交換を終えた時、2人にもお互いの魔力が流れ込
んで来た。
﹁これって・・・。﹂
﹁ああ。多分、俺達は幻体師だけどアレが出来るんだろうな。
ま、そんな事よりも。﹂
﹁﹁2人は誓いのキスを。﹂﹂
マコト
イリュージョン
クロノスとパンドラの声がハモる。
リコール
麻琴の顔が近付いてきた時、幻体2体は静かに目を反らし、何も言
わずに召喚解除していった。
490
幕間小話5 8年越しの初体験︵前編︶︵後書き︶
次回こそお楽しみです!!
491
幕間小話5 8年越しの初体験︵後編︶ ※︵前書き︶
メインヒロイン取り敢えずこれで一段落です。
早くパーティ狩りさせてやりたい。
492
幕間小話5 8年越しの初体験︵後編︶ ※
綺麗な黒髪。地球よりもありとあらゆる肌や目や髪の色の存在する
この世界だが、完全な黒髪黒目と言うのは逆に珍しい。
マコト
13歳にしては色々と早熟だが、近くで改めて見るとやはり記憶の
中の麻琴よりも遙かに幼い。
・・・
前世でも確か、この辺りの年齢で急激に大人びてきてドギマギさせ
くちゅ・・・
られた覚えがある。
ちゅ・・・
しっとりと唇を重ね、互いの唇に軽く吸い付く。
ハジメ
﹁・・・一ちゃん、流石に慣れてるわね?いいえ、慣れたわね??﹂
うぐっ!今それを言うか・・・。
﹁まぁもう良いわ。悔しいけどウェンディ姉さんもリヴィエルさん
ぴちゅる・・・
もクロノスさんもみんな大好きだし。
ちゅぅ・・・
でも、負けないわよ?﹂
くちゅ・・・
一生懸命舌を絡めてくる。
唾液を混ぜ合わせ、俺の口のこそばゆいポイントを必死で探ってく
る。
麻琴
マコト
としてエッチがしたいらしい。
︵パンドラの能力使えばもっと色んなポイント探れるだろうに・・・
︶
どうやら今日は本気で
493
タカナシ
それなら俺も今は日本人、高梨
ハジメ
一として彼女と向き合おう。
﹁可愛いスカート買ったね?こっちのデザイン、普段着は日本で着
てたのに似てるのもあって気楽だよね。﹂
言いつつ、スカートを手繰り上げて行く。
彼女は元々小柄だが、今はまだ更に小柄だ。自然とベッドの上で抱
き上げる形になった。
﹁きゃっ!?﹂
バランスを崩して俺の体の上に倒れ込んでしまった。
ぽふっ、と緩い衝撃が顔に当たる。
シャツ、下着を通しても尚隠しきれない柔らかく膨らみ始めた双乳。
そのまま顔を埋めてぽふぽふと感触を楽しむ。
﹁うきゅっ!ちょっと!?﹂
さらに服の上から手を添えゆっくり刺激する。
マコト
麻琴の力が抜けて行き俺の体の上からころんと横へ転がった。
﹁ねぇ、服の上からだけじゃなくって・・・。﹂
﹁だけじゃなくって?﹂
﹁ちょ、直接・・・。﹂
﹁ん♪﹂
スルスルとスカートの中に手を挿し入れる。
﹁ちょ、ちょおぉっ!そっちじゃないってばっ!﹂
﹁そうなの?でももう濡れてるよ?﹂
ショーツに手を沿わせると秘裂に沿ってじっとりと濡れ始めていた。
この雰囲気の中で体が反応し始めただけなのだろうが、意識させら
れた事で更に感度のレベルが上がっていく。
くちょくちょと薄い布を通して音を立てるほどに淫蜜が滲み出して
くる。
494
マコト
﹁ね、ねぇ、このままじゃ恥ずかしい・・・。﹂
麻琴はせがむように俺の上着とシャツを脱がせ始める。
俺の方もそろそろ次の段階を求めていたので彼女のジャケットとシ
ャツを脱がせた。
その下にはレースと飾りリボンのついた紅色のショーツとブラ。
﹁これって・・・。﹂
﹁あの日のと出来るだけ似たのにして見たの。﹂
あの日はじっくり見る余裕も無かったその姿。
まだ幼さを強く残しながら凶悪なまでに成長した双乳、そして要所
のみをギリギリ隠す煽情的な薄布。
手と目でたっぷりと堪能する。
が・・・。
くらり
﹁︱︱!?﹂
突如破壊的な征服欲が襲いかかって来る。
﹁・・・何をした!?﹂
チャーム
エンチャント
言葉を絞り出した時には既に彼女に飛びかかっていた。
﹁えっと・・・、魅了の付与魔術を少々・・・。﹂
少々ってレベルじゃないぞコレ。
ハジメ
﹁悪いけどここまでされたらもう止まらない。優しくは出来ないよ
?﹂
﹁うん、来て?初めての痛み、一ちゃんのでいっぱい刻みつけて!﹂
引き剥がすかのようにブラを外し、乳房に食らいつく。
大きさで言えば既にウェンディーヌにも負けないぐらいだが、まだ
495
中に芯を残した固さがある。
激しく揉みしだきながら乳首を吸い上げ、ぐしょぐしょで既に役目
を果たしていないショーツを引き下げた。
ねっとりとした淫液を捏ねくり回し、未だ包皮に包まれたままのク
リトリスを剥き出しにする。
﹁痛ぅっ!﹂
普段、隠れたままのクリトリスをいきなり剥き出しにしたのだ。刺
激が強すぎたのだろう。
しかし手を止めずにコリコリと刺激を続ける。
マコト
淫蜜を塗りつけ、強く、優しく、駆け引きをするように刺激を続け
る。
マコト
気付けば麻琴は既にぐったりと力を無くしてなされるがままだ。
﹁麻琴。﹂
呼びかけ、彼女の手を俺の肉棒に導く。
﹁すっごい・・・。お腹に付いちゃいそうだね。。﹂
ウェンディーヌと同じ事を言うんだな、と口に出したら引っぱたか
れそうなので心の中だけで呟く。
ぎこちなくも手で扱き始めた。
彼女が俺のモノに顔を近付けたのを見て、69の姿勢を取る。
殆ど毛の生えそろっていない彼女の陰部。
柔らかな毛がうっすらと顔を覗かせている程度だ。
これなら舐めやすい。
じゅぢゅぅっ!と強く吸いつき、マンコの中に一気に舌を突っ込む。
﹁くひゅぅっ!﹂
指ではクリトリスへの刺激を続け、処女膜を舌先で突いた。
496
ハジメ
﹁あふぅっ!それダメェっ!怖い、怖いよ一ちゃん!﹂
﹁優しく出来ないって言ったろ?それより俺も気持ちよくしてよ。﹂
俺の言葉に、おずおずと手を動かしてくれた。
﹁他のやり方は知らないの?﹂
はっとした様に舌を這わせ始める。
口に含み、カリを舐め、気持ちよさよりも一生懸命さが伝わってく
る動きだ。
チャーム
実を言えば魅了は既に切れている。
無遠慮にしているように見せて、実は本当に痛かったり怖かったり
マコト
する事はしていないつもりだ。
麻琴の反応を伺いながら、彼女の興奮度が上がる方法を選んでいる
に過ぎない。
マコト
﹁ゴメン、麻琴、そろそろ我慢の限界。。﹂
﹁お願い、ここだけは、最初だけはお願いだから優しくして・・・。
﹂
マコト
﹁婚約者との初夜にそんな無茶苦茶しないよ。俺もあんまり我慢出
来ないかもだけど出来る限り麻琴の思い出に残る一夜にしよう。﹂
◆ ◆ ◆
マコト
正常位でしようとしたのだが、麻琴の希望で対面座位を取る事にな
った。
ハジメ
﹁抱き合ってキスしながらじゃなきゃやだ。顔が見えないのも嫌。﹂
だそうだ。
ハジメ
﹁行くよ?﹂
﹁うん、一ちゃんのモノでアタシを一ちゃんの物にして?﹂
497
お互い初めての体位。
手探りで探り当てた時には一気に貫いてしまった。
﹁痛あああぁぁっ!!﹂
ナカ
流石に幼い体には負担が大きかったか!?
ハジメ
暫し、繋がったままじっと膣内の感触を味わう。
﹁良いよ、一ちゃんのをもっと感じたい。動いて・・・。でも、ゆ
っくりね?﹂
上下に動こうとすると体重が掛かって凄く痛がる。
臼を回すように円を描くと少しずつ表情が解れてきた。
ハジメ
﹁んうぅっくっ!あふっ!ねぇ、何か暖かい、暖かくなってきたよ
ぉっ、一ちゃん・・・。﹂
腰を捻り、舌を出し、キスをねだるその表情は長い付き合いでも一
ぴちゃ・・・
あむ・・・
ハジメ
度も見た事が無い程淫らで、そして幸せに満ちていた。
﹁むちゅ・・・
ねぇ、もっといっぱい、もっといっぱい動いて?一ちゃんの暖かい
のいっぱい感じたいの・・・。﹂
ハジメ
﹁痛くないのか?まだキツキツだぞ?﹂
﹁痛いよ?痛いけど幸せなの。一ちゃんに貰って貰えて幸せなの。
この痛みを感じるのが幸せなの。だから、ゆっくりいっぱい動いて
?﹂
男には分からない感情。
しかしそこまで想って貰えるのは男にしか分からない感情!
ぐじゅるっ!ぬぢゅっ!じゅぶぅっ!ぬぢゃるっ!
498
ハジメ
ハジメ
ハジメ
﹁あうぅぅっ!一ちゃんが暴れてるっ!一ちゃんのが暴れてるっ!
アタシのアソコで、アタシのオマンコが一ちゃんのでいっぱいにさ
れてるぅぅッ!﹂
﹁逝くよ?このまま全部受け止めて!!﹂
ハジメ
ハジメ
﹁あきゅうぅぅっ!子宮がぁっ!子宮の先っちょが一ちゃんのに当
たってる!!﹂
ナカ
子宮口が降りてきてコツコツと俺の肉棒を刺激する。
マコト
ナカ
﹁出すよ?麻琴の膣内に出すよ!?﹂
﹁頂戴!!アタシの膣内に、アタシのオマンコの中に一ちゃんの精
液ちょうだい!いっぱいにしてぇっ!!﹂
ナカ
どびゅぅぅっ!びゅるるるっ!びゅくんびゅくんどびゅるるるりゅ
るゅりゅるゅ!!!
﹁くひゅううぅぅぅぅんんんっっっ!!!﹂
◆ ◆ ◆
二人してはぁはぁと息を整えた。
抜こうとするとハグされて逃げられなかった。
﹁有難う。とっても気持ちよかったよ?﹂
﹁ありがと。アタシもとっても気持ちよかった。膣内出しって凄い
んだね。。﹂
﹁ほんとはね、あの日、ゴムが無いなら無いで生でも良いかな、っ
て思ってたんだよ?﹂
﹁え!そうなの!?﹂
﹁うん、姉さん達にアフターピルだの何だの渡されてたし・・・。﹂
499
﹁それ言うなら、俺の方もこんな日ぐらい生でさせてくれりゃー良
いのに、とか一瞬思っちゃったのも事実なんだ。﹂
麻琴さん、あの日、逃げるように出
マコト
お互いの些細なすれ違いが悲劇を生み、悲劇が悲劇を生んだ訳か。
サイジョウ
﹁最後に一度だけ謝る。西条
マコト
て行って、いや、あの場から逃げちゃってゴメン。放っておかれた
麻琴の気持ちを全く考えていなかった。﹂
﹁こっちこそ信じられなくてごめんなさい。アタシが信じ切ってれ
ばこんな事には・・・。﹂
いや俺が、いやアタシが、と水掛け論を繰り返したところでお互い
の状態に気付いた。
相好を崩してどちらからとも無く笑い合った。
﹁こんな格好で言い合っても締まらないな。﹂
﹁こんな格好で締めるんならこっちだよね?﹂
マコト
きゅぅっと麻琴が俺のモノを締め付けてくる。
ハジメ
﹁・・・究極のオヤジギャグ??﹂
・・
﹁一ちゃんの息子さんはオヤジギャグに反応なさっていますが??﹂
・・・
﹁じゃ、改めてしよっか。マコ。﹂
﹁・・・うん。ハジメちゃん。﹂
俺達は、そのまま2度目の初体験に突入した。
◆ ◆ ◆
ナカ
性欲猿と化した俺の全てを受け止めて、4度目の膣内出しをしたと
500
ころでマコが遂に力尽きた。
一晩で3つの穴を制覇するマコの貪欲さと言うか向上心︵??︶に
は驚かされるばかりだ。
﹁ごめ・・・、体力限界なり・・・。﹂
くて、と乗っかかってきた彼女はその幼さもあり強烈に可愛かった。
﹁あ、そうだ。言ってなかった事あるんだった。﹂
??
・・
﹁アタシ、アレ買ってないし。﹂
!?
﹁買うつもりも使うつもりもないし。﹂
ちょ!?おまっ!?
ニンフォマニア
﹁別に色情魔になるのが嫌なんじゃないよ?ただ、純粋にハジメち
ゃんの子供が欲しいだけ。﹂
﹁そ、そんなこと言っても!!現状で子供作ってどうするんだよ!
?﹂
﹁勿論、産むのよ?﹂
いや、そうじゃなくってですなぁ!!
﹁リヴィエルさんとクロノスさん、出来てるわよ。﹂
﹁︱︱!?﹂
﹁パンドラで診たから間違いないわ。まだ一週間だし、彼女らが何
日で生まれるのかとかまでは知らないけど。﹂
そりゃヤヴァイ・・・。確かに思い当たる節有りまくりだけど。。
﹁それにオトヒメさんも狙ってるでしょ?﹂
ぎくぅぅぅぅっっっ!!!!!
501
﹁しょ、しょ、しょ、しょんな事!﹂
﹁これもパンドラで確認済みだから。アタシに嘘や隠し事出来ない
ってこれからはよ∼く覚えとく事ね♪﹂
ハジメ・タカナシ17歳。異世界来て10日足らずで2児のパパに
なりそうです♪
502
幕間小話5 8年越しの初体験︵後編︶ ※︵後書き︶
全国数千万のHARAMASE属性の方々︵?︶、お待たせ致しま
した。
最初に孕まされたのはウェンディーヌでもマコでも無く何とあの2
人でしたw
503
戦術思考︵前書き︶
決められた条件で適当な能力を考えるのって好きです。
504
戦術思考
ウェンディーヌが帰って来て数日。
焦る旅でも無いので暫くはそれぞれゆっくりと休息を取った。
マコはアマツカゼと意気投合したらしく、しょっちゅう組み手をし
たりナイフ用の毒を作ってもらったりしている。
ウェンディーヌは旅の間にソロの時の防御面と近接戦闘、特に細か
い相手との戦い方に悩んでいるらしい。
クロノスやチビクロで模擬戦をやりながら新たな攻撃手段の開発に
取り組む。
﹁リヴィエルの力を改めて正確に教えてくれないか?﹂
﹁アタシの力は水を召喚して操ると言う方法だけど?﹂
﹁じゃぁ、例えば他の水を使う獣魔との違いは?例えばエレンさん
が契約していると言うウンディーネとか。﹂
﹁ウンディーネはこの世界の水その物ね。大きな違いはアタシが水
を召喚するのに対して、彼女の場合は自らの体の一部でもある水を
動かす、と言う点かしら?﹂
﹁て事はウンディーネは氷や水蒸気などは扱えない?﹂
﹁あくまで液体の状態の水、と言う事ね。氷や水蒸気は彼女の体を
構成する水では無いわ。﹂
﹁リヴィエルは霧は使えたんだよね?﹂
﹁あれも厳密に言えば水滴召喚してるだけだからね。ああそう言え
ば水の中身を弄るのはアタシの方が得意かもね。﹂
一度に動かせる水の量としてはウンディーネに軍配が上がる、と言
う事か。
﹁それなら・・・こんなのはどうだ??﹃ミラージュ・ファントム﹄
505
﹂
声と共にハジメの体を霧が包み込む。
﹁・・・アタシの﹃ミラージュ・ベスト﹄と何が違うの??﹂
﹁﹁﹁﹁まぁ、見てなって・・・﹂﹂﹂﹂
霧が晴れた時にはハジメは数人に増えていた。
ミシィカル・ビースト
﹁・・・成程。。﹂
流石に同じ召喚獣を扱う身としては分かったらしい。
﹁マコ!﹂
ハジメの1人が呼ぶ。
﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁俺達に適当に斬りつけて見て良いぜ??上手く当た
ったら何か好きなもの奢ってやるよ。﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂
﹁へぇ・・・偽物見抜くのが得意なアタシに分身勝負?﹂
﹁・・・やる前から分かってるんだけど。それでしょ?﹂
ずらりと並んだうちの1人に指を指す。
﹁そうだよ。﹂
﹁﹁えっ!?﹂﹂
ウェンディーヌもマコもまさか認めるとは思わなかった。
﹁良いから来いって。その代わりこっちも軽く反撃はするよ?﹂
﹁ウェンディーヌ、合図を。﹂
﹁始め!!﹂
マコが一気に距離を詰めてくる。
本体が分かっているので一直線だ。
ファントム
達からマコへと一斉に水射が浴び
﹁リヴィエル、﹃﹃﹃﹃﹃ウォーターガン﹄﹄﹄﹄﹄﹂
﹁へっ!?﹂
四方を取り囲んだ
せられる。
囮程度だと思っていたマコは水圧に負けて一瞬足を止められる。
気を取り直して進もうとするも・・・
506
﹁何これ!?進めない??﹂
放たれた﹃ウォーターガン﹄は突如性質を変え、ヌメヌメとしたト
ファントム
の一体が斬り掛かる。
リモチの様にぬかるむ。
その隙に
ファング
﹁偽物の攻撃なんてっ!!﹂
はただの水では無い。
オリハルコン製の爪で斬り掛かると、あっさり切り裂かれ、水滴を
飛び散らす。
が・・・。
ファントム
﹁熱ぅっ︱︱!?﹂
切り裂かれた
沸々と沸き立つ濃硫酸である。
気付けばハジメ本体に懐に入られていて、首に刀が当てられていた。
◆ ◆ ◆
宿に戻ってから女性陣はぶーたれていた。
﹁さっきの何!?どうしてアタシに先読みが出来なかったのよ!?﹂
﹁やった事は何となく分かるんだけど・・・、やっぱりハジメって
魔力量が桁違い・・・。
あんな戦い方してたら敵倒す前にアタシが干物になっちゃうわ。。﹂
﹁順番に説明するよ。さっきのは2人のそれぞれの弱点を説明した
かったんだ。﹂
﹁まず、マコ。パンドラの力を正確に捉えられていないんだ。﹂
﹁何ですって??﹂
﹁落ち着けって。自分の能力を正確に知るのは弱みじゃない。寧ろ
507
幻体化の儀式
強みに変えられるんだ。
マコ、パンドラを
いと願った?﹂
で創造する時、どんな力が欲し
﹁アタシの知らない真実を見抜く力。﹂
やっぱりそうか。
だろ?﹂
﹁じゃぁ、この世界の始まりについての真実を今ここで調べてみて
くれ。﹂
マコの知らない真実
﹁そんなの出来る訳無いじゃない!!﹂
﹁どうして?この世の始まりは
﹁そ、そうだけど・・・。﹂
﹁じゃぁ、これならどうだ?俺が向こうの世界で秘蔵にしていたD
VDの隠し場所。﹂
﹁アタシの部屋の棚の・・・ってこんなとこに隠してたの!?しか
もこのタイトルは何∼∼∼!?﹂
﹁読めただろ?﹂
﹁あ・・・、どうして??﹂
﹁じゃぁ、次に俺が右ストレートで殴りに行く。止めてみろよ?﹂
説明をせずにどんどん次の行動に移る。
ハジメの言葉に嘘が無いかどうか。
パンドラの能力を発動しようとした時には顔の前で右拳が寸止めさ
れていた。
﹁段々分かって来た?﹂
自
﹁少しはね・・・。まず、この世界の始まりなんてのを調べようと
したら今のアタシでは全く魔力が足りない。
それに方法のイメージも掴めてない。﹂
黙って頷き、続きを促す。
﹁ハジメちゃんの秘密を読めたのはアタシがもっとも望んでた
508
分自身の秘密
に関わっていて、能力のイメージが出来ているから。
それに良く知っている場所を検索するだけだからあまり魔力が要ら
なかった。﹂
﹁最後。フェイントとかを織り交ぜずに放たれたまっすぐな攻撃は
パンドラの力が及ばない。それに発動がまだ遅いからその隙に懐に
入られちゃう・・・。﹂
﹁そう言う事。ではさっきの戦闘を振り返ってみましょう。﹂
﹁最初っからハジメちゃんは本体を明らかにしてた。反撃する事も
創造
する時、気をつけなきゃいけない
明確にしてた。・・・そこをアタシが油断してた隙に発動の間を持
たせず懐に入った。﹂
イリュージョン
﹁流石だね。幻体の力を
点が2つ有る。
1つは今の魔力で実現可能かどうか。もう一つはイメージが明確か
どうか。﹂
これは何と
これならすぐ出
これは俺にはイメージが掴めなくて無理
﹁俺もクロノスと付き合って分かったんだけど、
来そう
。こんな感じで手応えが
能力。じゃぁ、永遠に時を止め
なくイメージ出来るけど魔力が足りない
空間と時間を操る
有ると思うんだ。﹂
﹁クロノスは
たりこの世の始めまで時を遡ったり、この星のどこへでも自在にテ
レポートしたり出来るかって言われると、そうじゃない。何時かは
出来るのかも知れないけど少なくとも今は無理。﹂
﹁そっか・・・あんなに強いクロノスさんもやっぱり限界あるんだ
ね。。﹂
﹁それと、マコはもっとパンドラと日常的に交流してあげなよ。彼
女、自分から話した事無いだろ?
俺達はロボット操ってるんじゃないんだ。心ある獣魔として彼女の
特性を捉えるともっと色んな事が想像から創造へ変わっていくよ。﹂
509
◆ ◆ ◆
﹁ウェンディーヌの弱点はガードの脆さもあるけど燃費が悪い事だ
と思うんだ。﹂
﹁で、でも、実際ハジメの方がずっと魔力が多いじゃない!﹂
﹁さっきの戦闘で俺が使ったの、精々多く見積もっても﹃スプレッ
ド﹄2発分ぐらいだよ?﹂
﹁えっ・・・??﹂
﹁ウェンディーヌもリヴィエルの力を正確に捉えられていないんだ
よ。
彼女の能力は﹃大量の水を召喚すると共にその性質を変化させる事﹄
だと思うんだ。リヴィエル、違うかな?﹂
﹁そうね。将にその通りよ。﹂
﹁ウェンディーヌは﹃大量の水を召喚する﹄と言う事には長けてる。
でも性質変化の方は﹃ミラージュベスト﹄ぐらいしか使ってないだ
ろ?﹂
ファントム
達、あいつら中身はそんなに作り
あれはあれでかなり強力だけどね、とハジメは付け加える。
﹁今回作り上げた
マコ
込んでないよ?足止め用のトリモチ﹃ウォーターガン﹄を打つ砲台
役。動きを封じた的に突っ込んでいって、敵に潰されるか自ら弾け
て濃硫酸の水風船代わりになる役、後はほんとに数だけ稼いだ動け
る案山子役が精々。﹂
﹁で、でも!あんなに沢山の水を使ったのに??﹂
﹁手数の分、一発一発の威力を落としてあるんだ。水の量も見た目
程多くないんだよ?
あれを応用すれば濃硫酸で﹃タイダル・ウェイブ﹄なんて凶悪な事
も出来るかも知れない。
流石にそこまですると魔力が物凄くいる上に後の被害が深刻になり
そうだからやりたくないけどね。﹂
510
平然と話すハジメに背筋がゾクリとした。
アタシはこれでも5年間、リヴィエルと旅をしている。
ミシィカル・ビースト
ギルドランクもBまで来ている。
そのアタシが、全く同じ召喚獣を扱う能力で既に足元にも及ばない。
﹁ハジメ、ありがと。こっから先はリヴィエルに相談しながら考え
てみるね。﹂
﹁そうだな。防御にも手数にも使える色んな方法が応用出来ると思
うよ。﹂
◆ ◆ ◆
﹁ちょっと待って、ハジメちゃん。て事は何?何の説明も無しにア
タシに沸騰濃硫酸ぶっかけようとした訳??すぐにアマツカゼが治
療してくれたから何かけられたか知らなかったけど・・・。﹂
﹁あ、いや、その、これはトレーニングだし。本気でやらないと効
果でないし・・・。﹂
﹁マコちゃん、心配しなくて良いわよ。マコちゃんが切り裂く直前
にあの中身は私がただのお湯に替えておいたから。﹂
フィアンセ
﹁つまりはハジメちゃんはウェンディ姉さんが手心加えてくれなか
ったら婚約者に向かって沸騰濃硫酸ぶっかけてた訳ですね?﹂
﹁そうなるわね。﹂
反省だけなら
﹁ゴ、ゴメ﹂﹁パンドラ、﹃鉄拳制裁︽猿でも出来る︾﹄﹂
どごーーーーん!
◆ ◆ ◆
511
ヴォイジャー・オブ・ジョイ
クエスト
として最初の依頼。
クエスト
翌日からいよいよ本格的にチームとして活動を始めた。
目的有る旅路
バロール銀山内
第一ミスリル鉱脈内部
俺がこっちの世界に来て初めて受ける依頼でもある。
場所:アイスホルスト村
及び周辺
ビッグマウス
内容:内部で活発化しつつあるモンスターの駆除。
大口ネズミ多数。タテガミキツネ10組程度。その他大型モンスタ
ーの可能性有り。
報酬:基本・金貨20枚。追加・掃討モンスターの内容により個別
に判断。
期間:14日間。
﹁ウェンディーヌ、詳しく説明してくれる?﹂
ビッグマウス
﹁場所に関しては書いてある通りだから良いわね?内容に明確に記
載されている大口ネズミとタテガミキツネを討伐しないとクエスト
成功にならないわ。掃討モンスターって言うのは、内部で遭遇した
クエスト
その他のモンスターね。ギルド員が前以て調査した時に調べきれな
かったモンスターで、討伐しなくても依頼失敗にはならないけど、
手に負えなかった場合報告の義務はあるわね。﹂
ビッグマウス
﹁俺、大口ネズミとかタテガミキツネとかどういう奴なのか知らな
いんだけど?﹂
インベントリ
﹁依頼に関して分からない事があったら依頼書をブレスレットでこ
すると詳細情報が出るわよ。
後、依頼書なくすと依頼失敗になるからちゃんと収納スペースに入
れといてね。﹂
クエスト
﹁じゃ、いよいよ行こうか。初めての依頼へ!﹂
512
戦術思考︵後書き︶
クエスト
第4章にして初めて普通の依頼が書けます・・・orz
513
大口ネズミ掃討戦︵前書き︶
初めてのパーティバトル。上手く書けるか心配です。
514
大口ネズミ掃討戦
バロール銀山の第一ミスリル鉱脈というのは名前の通り銀鉱脈の中
から偶然発見された一番始めのミスリル鉱脈である。
魔法金属であるミスリルやオリハルコンの成り立ちについては未だ
良く分かっていない部分が多いが、ミスリルは銀の上位互換金属で
あり、毒に反応し、電気を良く通す、など銀の特徴も同時に備えて
いる。
前日まで普通の銀鉱脈だった部分が翌日にはミスリルに変わってい
たりする事も有るため、ミスリル鉱脈は勿論、その周囲の銀鉱脈も
大切に扱わねばならない。
で、第一鉱脈内部まで来た訳なのだが・・・。
﹁・・・こりゃひでぇ。。﹂
その後により多くのミスリルの見つかる第二・第三鉱脈が見つかっ
た為、使用されなかった僅かな期間ですっかり魔物の巣窟である。
しかも見渡す限りのネズミネズミネズミ・・・。
﹁ちょっと待って。まずどれぐらい居るか調べるわ。﹂
マイクロ∼ズを発動して一先ず数と分布の確認に当たる。
﹁2000ぐらいは居るぞ?これ、全部討伐証明部位の尻尾切り取
らなきゃいけないの?﹂
﹁いいえ、こういう掃討戦タイプの討伐の場合は後で確認に来るか
ら大丈夫よ。それより穴が開いてなければ胃袋は結構な値段で引き
取って貰えるけど?﹂
﹁どれぐらい?﹂
﹁1匹銀貨20枚。﹂
﹁・・・って2000ミュール?え、て事は全部で4百万ミュール
515
インヴォーカー
だから・・・。光貨4枚!?﹂
クエスト
﹁獣魔師がメチャクチャ儲かるって意味分かった?﹂
依頼報酬なんて目じゃないじゃないか。
﹁まぁ、こいつらの胃袋を無傷で、ってのがかなり難しいからその
値段なんだけどね。﹂
インベントリ
実際は半分回収出来れば御の字らしい。
収納スペースのスペースもあるしな。
それでも2百万か・・・。
﹁あと、こいつら数が減ると物凄い勢いで繁殖始めて多少減らした
ぐらいだとあっという間に元に戻っちゃうから。﹂
モンスター
﹁この数を一匹残らずやらなきゃいけない訳ね・・・。﹂
﹁オトヒメ、あいつら歌で操れる?﹂
﹁知恵が低い種族とは言え一応相手は魔物ですしねぇ。全部は難し
いかと思います。
500操って同士討ちを狙う、それぐらいでしょうか?﹂
と、すればオトヒメが引き受けられるのは多く見積もっても500
の2倍の1000までか。
﹁アネモイ、外でチョロチョロしてる連中任せられる?逃げられる
と厄介だから、何なら風を使って洞窟内に追い込んでくれても良い。
﹂
﹁了解。ねぇ、あいつら食べちゃっても良い?﹂
﹁︱︱!!食うのかよ!!まぁ多少なら良いけど。どれぐらい食べ
たい?﹂
﹁50ぐらいかな?﹂
無茶苦茶食うな!まぁ普段は自分で狩りに行かせてるから偶には好
きな物を食べさせてやっても良いけどな。
516
良いけど、おやつ感覚で10万も食うのかよ。
﹁トール、君はもう自由に動き回って貰っても良い。ただ、雷なら
黒こげ程度で上手に胃袋残せるだろうし、出来る限り宜しく。﹂
﹁了解しました。あの、そのぉ・・・。﹂
﹁あー分かった分かった。食べて良いから。お兄さんはお幾つ食べ
たいの?﹂
﹁100で我慢します。﹂
初任給並みのおやつですか。もう好きにしてくれ。
﹁アマツカゼ、トキツカゼ、2人は俺の側で打ち漏らしの掃討と護
衛を頼む。﹂
﹁了解しました。﹂
﹁了解です。﹂
黒一角獣
ちなみにブラックホーンホース一家はデカすぎて坑道に入れない為
お留守番である。
ビッグマウス
さて、大口ネズミの情報は・・・と。
モンスター
不衛生なところを好み、腐った肉でも平気で、骨まで残さず囓る。
少数ならCクラスだが、通常大群をなす為Bクラス相当の魔物。
窮鼠の丸呑み
、か。
通常攻撃は噛み付きで、種々の雑菌が居る為、毒消し必須。
特殊攻撃は
﹁何だか要するにまんまでっかいドブネズミだな。﹂
﹁そうね。体が50cmぐらいある事を除けば殆どそこいらのドブ
ネズミと変わらないわ。
ただ、結構素早いから気をつけてね。﹂
本当ならこんな連中、俺かウェンディーヌが﹃タイダル・ウェイブ﹄
517
喰らわせれば一発なんだが、坑道でそんな事したら崩落して生き埋
めになる可能性があるし、何よりこの後鉱山が使えなくなってしま
う。
﹁俺の方の布陣はさっき言った通りだ。2人はどうする?﹂
﹁アタシはパンドラと打って出るわ。広範囲の攻撃もまだ無いしね。
﹂
﹁ハジメ、チビクロ∼ズで追い回して出来るだけ一カ所に集めて貰
えない?試したい事があるの。﹂
﹁広めのところが良い?狭いところが良い?﹂
﹁その時に残ってる連中がまとまってればそれで良いわ。出来れば
坑道に影響が出ないようにミスリルで覆われてるところが良いわね。
﹂
﹁OK、ちょうど掘り進んだ最奥部に3m程の高さで10m程延々
ミスリルで出来た空洞があるけど?﹂
﹁そこが良いわね。じゃぁ残りが500ぐらいになったらそこに集
めて。それまではアタシも普通に戦うから。﹂
﹁マコ、そう言う感じで宜しく。﹂
﹁了解。戦いつつそっちに追い詰めていけばいいのね?﹂
◆ ◆ ◆
開戦の口火を切ったのはトールだった。
自身は槍を風車のように振り回しあっという間に蹴散らしながら雷
ビッグマウス
を放ち、ダース単位で屍を量産していく。
その嘴には大口ネズミが咥えられており、次々丸呑みにして行く。
︵一体どこにそんだけ入るんだ?︶
マコの活躍も目覚ましい。
マコが一度に相手出来るのは一匹ずつだが、軽量級の敏捷性を生か
518
ビッグマウス
して両手の爪で次々と大口ネズミを吹き飛ばす。
一方のパンドラは両手に長めのナイフを手にしており、軽く奮うだ
けで次々ネズミたちの首が飛ぶ。
︵あれは多分、能力で骨の継ぎ目とか視てるんだろうな・・・︶
仕留め損なった時もナイフの毒が回ってあっという間に動けなくな
って行く。
﹁ではそろそろ私も始めましょう。﹂
オトヒメの朗々たる歌声が坑道内に響き渡る。
広い鉱山の中に反響して殆どのネズミ達の動きがおかしくなる。
コンフェデレィト
かなりの数が同士討ちを始め、そうでない者達もふらふらと足下が
覚束無い。
﹁凄いな。流石は契約獣ってとこか・・・。
この調子なら俺の護衛はアマツカゼだけで良いや。トキツカゼ、思
う存分暴れ回ってきて良いよ。﹂
声をかけると喜び勇んで飛び出していった。
彼にとってもこれは初陣だ。
生まれて数日なのに全くたいしたもんだ。
﹁ハジメさんの側にいられるのは嬉しいのですが・・・、弟を突貫
させて大丈夫だったんでしょうか?﹂
﹁こいつら、明らかにみんなよりも格下だしね。
意識共有で情報は受け取ってるから危険な目には遭わせないよ。彼
にも経験積ませてやらないと。
何ならアマツカゼも一緒に打って出る?﹂
﹁いえ・・・。流石にクロノスさんをフル展開してるハジメさんを
放置する訳には・・・。﹂
﹁そっか。それは確かに助かるよ。ある程度の自由意思を与えてい
るとは言え、50cmサイズを100も出して同時に戦闘させると
519
こっち
結構本体の守りが危ういしね。﹂
戦いの趨勢はほぼ決まりつつあった。
一体一体は全く大した事の無い強さの上に、全体が少なからず
歌
の影響下でまともに行動を取れていない為、3人とも怪我を負う
事もない。
入り口付近に陣取ったハジメの所など、ネズミが来る事自体少ない。
﹁ハジメ!この後にタテガミキツネとの戦いも控えてるし、余力残
しといてね。﹂
﹁分かってるよ。そしたらそろそろ奥の手見せて貰おうかな?﹂
﹁OK!マコ、ネズミどもを追い詰めつつ巻き添え食わないように
下がれ。﹂
﹁了解!後50程片付けたら追い詰めて下がるわ。﹂
何気なく話すマコだが、一対一で戦闘してるのに何十と言う単位で
相手に出来るマコはやはり近接戦闘では頭一つ抜け出ている。
ハジメはチビクロ∼ズを介して戦況の全体把握に主点を置いている。
彼自身がクロノスで打って出なくても十分な戦力が揃っている為、
こう言った掃討戦では全体の情報を把握する事の方が遙かに重要だ。
気付けばネズミの数も3分の1程まで減っていた。
﹁オトヒメ、もう一頑張りお願いね。あいつらを坑道向かって左奥
にあるミスリルの坑道に追い詰められる?﹂
﹁流石にこの程度で疲れたりしませんよ。・・・でも後で御褒美、
期待してますよ?﹂
﹁OKOK、今夜は初陣の祝勝会と行こうよ。﹂
﹁トキツカゼ、トール、聞いた通りだ。一匹残らず追い詰めていっ
てくれ。﹂
﹁﹁了解しました。﹂﹂
520
﹁集まってきたわね。。リヴィエル、行くわよ?﹂
﹁ウェンディーヌがアタシの能力を上手く引き出せるようになって
嬉しいわ。﹂
﹁もっと、もっと色んなの頑張らなきゃ。ま、今はこいつらね。﹂
﹁行くわよ、リヴィエル、﹃アシッド・ヴォルテックス!﹄﹂
じゅうぉおおおおおおおっ!
ビッグマウス
大口ネズミの群れが緑色の渦に巻き込まれたかと思った瞬間、高温
の油に放り込まれたかのような焼け焦げる音を立てた!
﹁うわ、えげつね・・・。﹂
ウェンディーヌが召喚したのは濃硫酸の渦。
魔物達の硬い皮膚を直接焼く事は不可能だろうが、彼らにも露出し
ている部分はある。
目、口腔粘膜など。
濃硫酸で一気に脱水されて機能を果たさなくなればトドメをさせな
くても全く驚異ではない。
﹁上手いじゃん、ウェンディーヌ、閉鎖空間内でループさせる事で
必要な水量を減らした訳だ。﹂
﹁ミスリルならこの程度で坑道がダメージ受ける事もないしね。﹂
閉鎖空間内で大技が使いづらい、水という属性の裏をかいた上手い
攻撃だ。
﹁残りは・・・20も居ないか。これならここ守ってる必要もない
な。俺達もトドメ刺しに行こう。﹂
﹁チビクロ∼ズ!トドメを刺しに行け!!﹂
521
﹁﹁﹁﹁﹁了解!ますたー﹂﹂﹂﹂﹂
◆ ◆ ◆
チビクロ∼ズを一部解除して、マイクロ∼ズを小規模展開する。
打ち漏らしたり逃したりしないよう、坑道内の探索のみ最低限させ
ておく。
﹁行け!チビクロ!!﹂
﹁﹁︱︱!!危ない!!﹂﹂
命令した瞬間、ウェンディーヌとオトヒメが叫んだ。
﹁へ?﹂
ビッグマウス
・ ・ ・ ・ ・
・・・と思った瞬間、ズタボロになりながらも何とか生き残ってい
た大口ネズミが声を上げた。
﹁お前なんか一呑みにしてやるぜ!!!﹂
冗談のように大きな口を開いたかと思うと、自分と同じ体格のチビ
クロをそのまま丸呑みにしてしまった。
﹁きゃぁっ!?﹂
﹁ぐああぁぁっ!?﹂
﹁ッ!やられた!!﹂
ビッグマウス
﹁いってぇ・・・。一体何が??﹂
﹁大口ネズミの奥の手よ!依頼書にちゃんと書いてあったでしょ?﹂
・・・あ。。
特殊攻撃:窮鼠の丸呑み
522
良く、読んでなかった・・・。
ビッグマウス
﹁大口ネズミは追い詰められると体の2倍ぐらいまでの相手を丸呑
みしに来るのよ!
しかも厄介なのは・・・。﹂
4足歩行のネズミが立ち上がり、背中に小さな翼が生えた。しかも
その肌はうっすら萌葱色に変わっている。
﹁もう、良いようにはさせませんぜ?マスター?﹂
﹁飲み込んだ相手の能力を一部吸収しちゃうのよ・・・。﹂
523
黒一角獣
大口ネズミ掃討戦︵後書き︶
ビッグマウス
大口ネズミは実はブラックホーンホースよりも先に思いついたオリ
ジナルモンスターですw
524
大口ネズミ・進化型︵前書き︶
バトルシーンは楽しいです。エロシーンも楽しいです。日常パート
も好きです。要するに全部好きなのですが、書いてて一番楽なのは
バトルシーンですね。エロシーンは難しいです。
525
大口ネズミ・進化型
﹁ほらほら、どうしました?マスター。来ないんならこっちから行
っちゃいますぜ?﹂
﹁その汚い口で俺をマスターとか呼ぶんじゃねぇ!﹂
刀を構えて一瞬で間を詰める。
﹁でええやああぁぁっ!!﹂
袈裟懸けに斬りつけるも・・・。
スパァン!!
﹁︱︱!?﹂
﹁残念、そいつは残像ですぜ?マスター??﹂
速えぇっ!そんで俺の知識を一部吸収してやがる!?クロノス吸収
したからかっ!!
追撃を掛けようとしたところを後ろから引っ張られた。
パンドラが俺の首根っこ捕まえている。
﹁頭冷やしなさいよ馬鹿!!﹂
﹁自分でミスしといて傷口広げに行ってどうするの?中途半端な攻
撃で追い詰めたら、次はアンタが飲み込まれる番よ?﹂
マコとウェンディーヌに2人がかりで止められてしまった。
あ・・・。
ビッグマウス
気付けば大口ネズミはチビクロを飲み込んだ後、確かに一回り大き
くなっている。
俺の体の半分はあるかも知れない。
526
﹁ハジメが吸収されたら悔しいけどアタシ達じゃ全く勝ち目がない。
ここはきっちり連携組んで仕留めるわよ?﹂
﹁ありがとう。マコ、ウェンディーヌ、一発引っぱたいてくれ。﹂
2人は顔を見合わせて、ニヤッと物凄く嬉しそうな顔をした。
﹁﹁この・・・﹂﹂
﹁女ったらし!!﹂﹁浮気者っ!﹂
すぱーーーん!!
﹁ぐ、ぐほ・・・、かけ声が理不尽だ・・・。﹂
◆ ◆ ◆
﹁あいつはクロノスの能力を吸収してる。さっきので分かったけど、
少なくともあいつは空間転移が使える。
時間を飛んだり読んだりする能力まではおそらく魔力不足で使えな
いだろうけど、パンドラの暴走止めた時に使った空間を振動させる
攻撃なんかは使えるかも知れない。﹂
﹁かなり厄介ね・・・。﹂
﹁空間転移に関してはパンドラで読める筈だ。こっちの予測外の所
に飛んでこそ意味のある能力だからな。
だから、トールとアネモイが空から、アマツカゼとトキツカゼが弓
で、接近せずに攻めよう。﹂
﹁遠距離攻撃を防ぎきれなくなってアイツが飛んだ先をアタシが仕
留めれば良い訳ね?﹂
﹁そうだな。トドメはおそらくマコにしか刺せない。一対一ではこ
の中で最強の筈だから。﹂
﹁アタシは・・・?﹂
﹁ウェンディーヌはマコの護衛だ。最前線で戦うマコが一番小柄だ
527
からな。﹂
﹁マスター、そろそろ攻めても良いですかい?﹂
﹁わざわざ待っててくれるとはな。嫌味な性格まで俺に似なくて良
いんだぜ?﹂
ふゅん!
ビッグマウス
大口ネズミ・進化型の姿がぶれたかと思った瞬間、一気に間合いを
詰められた。
﹁くぅっ!﹂
辛うじて大盾を実体化させ、シールドバッシュで防ぐ。
トールが俺とネズミの間に雷を落とし、一瞬ひるませたところでア
ネモイが風で吹き飛ばし間合いを取らせてくれた。
今の攻撃を難なく躱すのかよ・・・。って、ひょっとして!?
﹁マイクロ∼ズ!﹂
戦闘域内に即座にマイクロ∼ズを展開する。
﹁ちぃっ!やっぱりかよ!!﹂
﹁気付きやしたか?マスター?﹂
コイツ、小域ながらマイクロ∼ズを展開して戦闘領域での互いの動
きを把握してやがる!!
﹁まさかここまで厄介だとわね・・・。﹂
﹁これじゃぁ、ハジメちゃんは敵のマイクロ∼ズの相手で手が埋ま
っちゃうじゃないの・・・。﹂
﹁俺はマイクロ∼ズ経由で情報を伝えるのに専念する。後の戦いは
獣魔と2人に任せた。﹂
528
﹁了解、ほんとなら外の広いとこでやりたいんだけどね。。﹂
確かにウェンディーヌの本領は大規模魔法にある為、狭いところで
は実力が半減する。
﹁外に出した途端、コイツは全力で逃げ出しちゃうでしょうね。﹂
マコの言う通り。コイツは何も、俺達を倒さなくても構わない訳だ
し、細かいところに逃げ込むのは向こうの方が得意だろう。
狭いながらもマイクロ∼ズで検索が出来る為、逃げ続ける事も容易
だ。
﹁自分相手がここまで戦いにくいとはな・・・。﹂
作戦変更が必要だ。
﹁言っててもしょうがないわ。今度はこっちから攻めるわよ?リヴ
ィエル、﹃アシッド・ヴォルテックス!﹄﹂
﹁2度も同じ手は喰らいませんぜ?﹂
空間転移で飛んで避けてくる。ウェンディーヌの大技は発動のラグ
が欠点か!?
マイクロ∼ズでマコや獣魔達に転移先を伝える。
﹁アタシも読めてるわよ!切り裂け!パンドラ!!﹂
しゅわん!
﹁なっ!?﹂
連続で飛びやがった!
﹁このぉっ!﹂
それすらも読んでマコがパンドラで仕掛けるも、相手の方が一段階
速い!
529
﹁・・・くっ!読んでても反応がまだ追いつかない!!﹂
ケンタウロス姉弟やガルーダ兄弟も手を止めずに攻撃するが一歩及
ばない。。
﹁マコ、手を止めるな!!飲み込まれるぞ!!﹂
﹁分かってるわよ!﹂
10分程も攻撃を仕掛けたが、掠る事すら出来ない。
﹁そんな攻撃じゃボクは倒せませんぜ?マスター??﹂
完全にこっちを舐めきってやがる・・・。そろそろ良いだろう。
﹁それはどうかな?リヴィエル、﹃ウォータースライサー!!﹄﹂
しゅわん!
またもや空間転移で避けてくる。
しかし!
今度はネズミの肩口に水流が突き刺さった。
﹁︱︱!?﹂
﹁漸く効いてきたかな?﹂
﹁な、何をした!?﹂
﹁自分を相手にする、って事は自分の能力を知るって事だぜ?
俺の能力はクロノスだけじゃない。多くの獣魔が俺の仲間なんだ。
攻撃力の高いガルーダやケンタウロスばかりに目が行きがちだが、
本当にえげつないのは彼らじゃない。﹂
530
﹁ま、まさかセイレーン?しかし歌なんて聞こえなかったぞ!?﹂
﹁当たり前です。貴方如きには聞こえないように静かに高い声で歌
いましたから。﹂
﹁な、何故マイクロ∼ズで感知出来ない!?﹂
﹁お前、俺の魔力舐めてないか?俺の100分の1取り込んだ程度
で、能力はコピー出来ても使いこなす為の魔力が全然足りないんだ
よ。あれだけヒュンヒュン飛び回っててマイクロ∼ズまで全力展開
できるわけ無いだろ?﹂
﹁くっ、くそぉっ!お前なんか一呑みにしてやる!!﹂
一番近くに居たウェンディーヌに飛びかかるも、足下がおぼつかず、
明後日の方向に飛んで行く。
﹁お前、既にまともに歩けてすらいねぇんだよ。﹂
﹁リヴィエル、﹃アシッド・ヴォルテックス!!﹄﹂
﹁ぎぃやああぁぁぁっっ!!﹂
﹁トール、雷撃。﹂
﹁了解です。﹂
ウェンディーヌの放った﹃アシッド・ヴォルテックス﹄にトールの
雷が吸い込まれて行き・・・。
﹁純粋な水は電気を通さない。でも、バッテリー液にさえ使われる
濃硫酸なら・・・。﹂
ばぢばぢばぢっ!!
酸の渦に飲まれながら強烈な電気に焼かれ、一溜まりもなく命を落
とした。
531
◆ ◆ ◆
﹁ハジメちゃん、打って出ても強いけどチームリーダーとしての力
ビッグマウス
が凄いわね。﹂
残党と化した大口ネズミを狩りながらマコが話しかけてきた。
﹁そうね、マイクロ∼ズで敵に知られずにアタシ達と意思疎通が図
れるから、集団での狩りが凄く楽だわ。﹂
先ほどの戦闘、作戦を立てたのは当然ながら戦闘中だが、それでも
連携が非常に上手く行ったのはマイクロ∼ズの貢献度が高い。
マコとウェンディーヌが焦りながら必死の攻撃を繰り返しているフ
ビッグマウス
リをして、相手の目を眼前の戦闘に釘付けにしておく。
余力を残しながら戦闘しているつもりの大口ネズミ・進化型は、実
は空間転移能力を連発する羽目になり、攻撃に回る事も、マイクロ
∼ズをフル動員する事も叶わない。
そこへ、じっくりと時間を掛けてオトヒメの精神攻撃を与え続けれ
ば、本人も気付かないうちにまともに戦えない体になっている。
更にトドメに使った合体技も、ウェンディーヌの開発した﹃アシッ
ド・ヴォルテックス﹄を初めて見ただけでトールとの連携を思いつ
いてしまう。
戦場全体を把握する能力と個々の能力を生かす統率力が他のメンバ
ーと比べものにならない。
﹁そっち、3体行ったよ!それで最後だから。飲まれないように気
をつけてね。﹂
ビッグマウス
マコにマイクロ∼ズを通して指示が飛ぶ。
確かにマコは非常に小柄なので、大口ネズミの餌食になる可能性が
532
少なからずある。
﹁この程度の相手、油断しなきゃ特殊攻撃も喰らわないわ、よっと!
よし、コイツでラスト!!﹂
爪で頭を潰し、トドメを刺した。
﹁坑道内にはもう1匹もネズミはいないよ。・・・あれ?そう言え
ば討伐対象ってこいつらだけじゃないよね?
タテガミキツネってどこにいるんだろ?﹂
ああ、それはね。ウェンディーヌが説明しようとした時だった。
﹁親方も無茶言うよね。﹂
﹁食糧も現地調達で戦って来いなんていつの時代だよ。﹂
キラキラと輝くタテガミのキツネがペアで近付いてきた。
﹁こいつらは元々平原のモンスター。坑道内に居る事自体おかしい
のよ。﹂
533
大口ネズミ・進化型︵後書き︶
公開前に岩石モンキーのイベントは削除しました。
534
タテガミキツネ︵前書き︶
純粋な戦闘力が高くなくても、上位ランクに位置づけられているモ
ンスター達、それを舐めるとどうなるか、と言うのを書きたかった
のです。
535
タテガミキツネ
﹁喋る・・・キツネ??﹂
人型に近くない、純粋な動物タイプで人語を解するモンスターは初
めてだった。
フサフサとした毛並みが頭の先から尻尾まで続いており、一匹は金
色、もう一匹は銀色の番のようだ。
コンフェデレィト
﹁ネズミは全滅みたいだね。益々親方の機嫌が悪くなる。﹂
﹁折角摘み食いしに来たのにねぇ。﹂
コミュニケーション
ファミリア
何とも緊張感に欠ける連中だ。
それに、この調子なら交渉して操獣魔か契約獣に出来るか・・・?
﹁なぁ、君たち・・・。﹂
話しかけた瞬間だった。
﹁仕方ないからこいつら連れて行こうぜ。﹂
﹁喰うところが少ないって怒られそうだけどな!!﹂
弾けるように2頭が駆けだした!!
﹁︱︱ッ!!﹂
ガキイイィィン!!!
左右に分かれてキツネが飛びかかってくる。
536
咄嗟に大盾を構え、シールドバッシュを繰り出す!
更に刀で振り払うも、一頭は攻撃をすり抜けて詰め寄ってきた。
速い!?
どぐしゃぁっ!!
﹁ハジメ!﹂
﹁ハジメちゃん!!﹂
2本の尻尾でしたたかに打ち付けられ、軽く3mは吹っ飛ばされた。
ウェンディーヌとマコの悲鳴が遠くに聞こえる。
立ち上がろうとするも・・・。
足が、立たない・・・??
確かに吹っ飛ばされはしたが直撃は貰ってない筈・・・。
﹁マズい!タテガミで切られてるわ!アマツカゼ!!﹂
言いつつ、ウェンディーヌが口移しで何かを飲ませてくる。既に体
は全く言う事を効かない。
﹁もうやってます!全く、タテガミキツネに真正面からぶつかって
いくなんてどんな神経してるんですか!!﹂
この味は・・・毒消し??
﹁ハジメちゃん、依頼書ちゃんと読んだ??タテガミキツネがその
鋭いタテガミに毒を持ってるのなんてちゃんと書いてあったでしょ
う?﹂
ヤベ・・・、読んでなかった・・・。
537
﹁汎用毒消しで応急処置したので死にはしないでしょう。
ただ、私達が治療したとしてもこの後戦闘に復帰出来るまでは30
分以上掛かります。﹂
アマツカゼの言葉が無情に響く。
﹁ほんっとにこの大馬鹿っ!そこでケンタウロスに守られながら見
物してなさい!﹂
ははは、戦闘の事でウェンディーヌにここまで怒られるなんてこっ
ち来て以来だな。。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
◆ ◆ ◆
﹁さて、マコちゃん、あの大馬鹿に経験の差を見せてあげましょう
か。﹂
﹁ウェンディ姉さんとのペアなんて初めてですね。寧ろ盛大に殴ら
れた記憶しかないです。﹂
﹁・・・父さんと母さんの事は忘れた訳じゃないからね。でも、残
念ながら貴女の事嫌いになれないのが悔しいわ。﹂
﹁有難う。アタシも大好きです。姉さんもリヴィエルさんもみんな。
﹂
﹁無駄話はこれ位にしてアソコでニヤニヤこっち眺めてるキツネ達
に人間の怖さ、教えてやりましょうか。﹂
﹁確か、毛皮が高く売れるんでしたよね?金銀揃って金貨20枚で
538
したっけ?﹂
﹁そうね。出来れば大きな傷を付けずに殺りたいところね。﹂
﹁こいつらの注意点、分かってるわよね?﹂
﹁勿論です。タテガミの毒と、2匹同時に倒す、ですよね?﹂
﹁OK、行くわよ??リヴィエル、﹃ミラージュ・ファントム﹄﹂
ウェンディーヌを霧が包んで行く。
﹁パンドラ、﹃エンマ様のお仕置き﹄﹂
マコもパンドラの力を開放したようだ。しかし、見た目には変化が
分からない。
霧が晴れた時、ウェンディーヌは10人近くに増えていた。
これは俺と同じ能力だから分かる。4体が砲台、残り6体が動ける
トリモチだ。
︵防御は考えてないって事か・・・?︶
﹁トール、アネモイ、すまないが2人を手伝ってくれ。﹂
ケンタウロス姉弟には俺の側で治療兼護衛兼弓での攻撃を担って貰
う。
俺の言葉を受けて、2体が戦闘の口火を切った。
毒での反撃がある為、距離を取って雷と風を放つ。
﹁その程度ですか!こんなもんじゃ殺られません!!﹂
ガルーダの攻撃を容易く回避し、特攻を掛けてくる!
と、2頭はクルリと丸まるとタテガミを押っ立て、ベーゴマのよう
にくるくる回り出した。
狭い坑道内を2頭のキツネが弾け回る!
539
互いに互いを弾き飛ばし、不規則に飛び回る。
俺の動体視力では既にクロノス無しで把握しきれない。
が・・・。
﹁姉さん、左後ろ8時!﹂
﹁右上2時!﹂
﹁2体同時に真後ろからです!!﹂
マコの声が勇ましく響き渡る。
多角的で不意を突いた攻撃をしようとした瞬間、いや、一瞬前に攻
撃の方向を読み当てる。
ウェンディーヌは落ち着いて﹃スプレッド﹄でいなしつつ、パンド
ラの方へ打ち返していった。
﹁くそっ!そっちのちっこいのから先にやるぞ!!﹂
マコの能力を読んだ訳ではないだろうが、2体がウェンディーヌか
らマコに矛先を変えた瞬間・・・
﹃﹃﹃﹃ウォーターガン!!!!﹄﹄﹄﹄
砲台役の﹃ミラージュ・ファントム﹄が一斉にトリモチ﹃ウォータ
ーガン﹄を噴射した。
目に見えて2匹の動きが悪くなる。それでも尚突っ込もうとしたと
ころをパンドラが殴って這い蹲らせた。
更に追い打ちを掛けるように残りの﹃ミラージュ・ファントム﹄が
動きを封じに掛かる。
﹁いっちょ上がり、ってとこね?﹂
﹁流石姉さん、嫌らしい攻撃は一級品ですね。﹂
﹁何言ってんの。マコの考えた作戦でしょうが。﹂
540
動きを封じられてギャーギャー喚いてる2匹を前に呑気に話してい
る2人。
﹁じゃ、行くわよ?﹂
﹁OKです。姉さん、これどうぞ。﹂
ウェンディーヌはマコから毒ナイフを借り受ける。
﹁﹁せーの!!﹂﹂
ザシュウッ!
首筋を一閃され、最小限の傷で2匹は絶命した。
◆ ◆ ◆
﹁オイオイ、オルーとシルヴィアの帰りが遅いと思って見に来てみ
りゃ何じゃこりゃ?﹂
最初の2匹を倒して10数分後、先ほどより一際大きなキツネの番
が来た。
﹁ゴルディアン、みんなを呼びましょう。魔力の固まりみたいな人
間が一人居ます。他の人間も中々のもんです。﹂
ウォルルルウゥゥゥ∼∼ン!!
オオカミのような遠吠えに寄せられ、次々と番が集まってくる。
﹁ちょっと・・・10組前後じゃなかったの?﹂
﹁どう見ても50匹はいますね・・・。﹂
﹁済まない、まだ体が言う事効かない!!小範囲にマイクロ∼ズ展
541
開して2人の連携手伝うぐらいしか・・・。﹂
﹁ハジメは大人しく見物してて、・・・って言いたいとこだけどこ
れは流石に無理ね。。無理せず無理して。﹂
﹁OK。済まないがエーテルをくれないか?魔力がそろそろヤバい。
﹂
ウェンディーヌは嬉しそうに口移ししてくれた。
実際今は一人で上手く飲めないから有難い。舌絡めてくれるのは尚
有難いが・・・。
唇を放し、ぺろりと舌なめずりした後、キツネの群れに向き直る。
﹁マコ、全力で行くわよ?﹂
﹁毛皮云々言ってる場合じゃないですね。﹂
はぎ取らないのか?それなら・・・。
﹁マコ、ウェンディーヌ、聞いてくれ・・・。﹂
俺は2人にとある作戦を伝えた。
﹁相変わらずえげつないわね。﹂
﹁効率的、と言ってくれ。そうそうチャンスは無いから逃さないで
くれよ?﹂
542
タテガミキツネ︵後書き︶
ウェンディーヌとマコにも活躍の場を与えてみました。彼女らが組
んだらどんな戦闘方法になるか、考えてると楽しいです。当たり前
ですが彼女らも十分に強いのです。
543
毒
と言えば徐々に体力が減る、と言う物ですが、現実
タテガミキツネ掃討戦︵前書き︶
ゲームで
で言えば神経や筋に作用する物が殆どだと思います。それって実際
の戦闘では致死的な武器になり得ると思うのです。
544
タテガミキツネ掃討戦
﹁おやおや、美味しそうな人間はどうやら動けないみたいだぜ?﹂
﹁タテガミの毒にやられたのでしょう。
とは言え、ケンタウロスやガルーダ、それにセイレーンまで居ます
から油断せずに。﹂
﹁じゃぁ、フルで行くか。﹂
どうやら奴がこの群れのボスらしい。
奴の吠え声と同時にキツネの群れが縦横無尽に駆け回り始める!
﹁この数でアレをやる気かよ・・・。﹂
予想通り、全てのキツネがベーゴマの如く弾け飛び始めた。
を作り上げている。
ウェンディーヌは既に﹃ミラージュ・ファントム﹄で50体もの
ファントム
の数は200程にも増えていた。
20が砲台、30がトリモチだ。更にエーテルを飲み、どんどん数
ファントム
を増やしていく。
気付けば
﹁狭いとこじゃなきゃもっとイケるのに・・・。﹂
マコも本気だ。
ウェンディーヌに次々指示を飛ばしながら、本人はパンドラで殴っ
て吹き飛ばしている。
フェイント、死角からの攻撃、そう言った物をキツネが仕掛けた瞬
間、パンドラが先回りして殴り飛ばしているのだ。
︵これが﹃エンマ様のお仕置き﹄か・・・。︶
545
彼女らの奮闘を前に、見ているだけの自分が歯がゆくてならない。
﹁︱︱ッ!!ハジメちゃんの方に1匹行ったわ!!殺さないように
気をつけて!!﹂
俺もマイクロ∼ズで把握してはいる。
﹁ダメだ!まだ動けない!クロノス頼む!!﹂
﹁了解しました。マスター。﹂
真正面からキツネを受け止め、頭部に掌底突きを浴びせる。
空間ごと脳みそを揺さぶられて敢えなく気絶した。
イリュージョン
﹁助かった!クロノス有難う。﹂
﹁私はマスターの幻体ですよ?
ほんとにさっきからお一人で無茶ばっかりされて・・・。もう呼ば
れなくても出るとこでした。﹂
イリュージョン
﹁あんなの受け止めて体大丈夫?﹂
﹁私、幻体ですよ?普通の物理攻撃でダメージ受ける事は無いって
忘れてません?﹂
そうだった。能力ばっかり考えてて基本的な事忘れてた。
戦闘は益々激しさを増す。
タテガミで傷を付けられるとアウトな為、片っ端から避けるか完全
にガードしなければならない。
ウェンディーヌは﹃ミラージュ・ベスト﹄まで展開して何とか10
匹程トリモチに閉じ込めている。
マコの方はパンドラが居るので多少戦いやすそうだが、それでも倒
したのは20匹に及ばない。
︵そろそろか・・・。︶
﹁クロノス、80cmサイズのチビクロ∼ズだと50ってとこかな
546
?﹂
﹁マスターがフルコンディションならもっとイケるでしょうけど・・
・。現時点で実戦配備可能なレベルだとそれぐらいでしょうか?﹂
﹁取り敢えずは十分だ。行け!チビクロ∼ズ!!﹂
飛び出したチビクロ∼ズは既に今のクロノスにそっくりな姿をして
いる。
﹁あれなら戦力としても何とかイケるか・・・。﹂
マイクロ∼ズでマコとウェンディーヌに合図を伝えると共に、マイ
クロ∼ズは解除した。
チビクロ∼ズとの同時展開は負担が大きすぎる。
スリーマンセル
チビクロ∼ズは3体1組を組ませた。
1体1体の能力が弱い為、そうでもしないと現実的な対応が出来な
いのだ。
地道に1匹ずつ昏倒させながら少しずつキツネ達を一カ所に集め始
める。
先ほどのネズミのように攻撃しながら一方的に、と言うのは無理な
ので、挑発したり、やられたフリをしたりしながらじわじわとだ。
そして、大方集め終わった時・・・・。
﹁行け!アネモイ!!トール!!﹂
﹁﹁了解!!﹂
轟っ!
竜巻の如く渦を巻いた突風がキツネ達を一気に巻き込み、吹き飛ば
す!!
﹁今だ!マコ!!チビクロ∼ズ!!﹂
547
﹁OK!﹂
﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁了解、ますたー!!!!!!!﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂
更にそこにパンドラとチビクロ∼ズのグランドヒット!!
小規模な地割れを起こし、発生した土砂を巻き上げて竜巻は更に威
力を増す。
﹁ウェンディーヌ、オトヒメ、今だ!!﹂
﹁行くわよ、リヴィエル。﹃アシッド・ヴォルテックス﹄﹂
﹁行きますよ?﹂
竜巻に飲み込まれていく﹃アシッド・ヴォルテックス﹄
渦の中は既に凶悪なまでの破壊力だ。
更に・・・
ぴしっ!
渦を取り巻くミスリルが、魔法金属の筈のミスリルがひび割れる!
ぴしいいいいぃぃぃぃんっ!!
どこか涼やかなまでの金属音を立ててミスリルが弾け、小規模な崩
落を起こす。
割れたミスリルすらも刃に変えて、渦はどんどん加速する。
﹁トドメだ!!アネモイ、トール!!雷撃イケぇっ!!!!﹂
﹁﹁了解!!﹂﹂
魔力を全て使い切らんばかりの特大の雷!!
薄暗い坑道内を照らす凄まじい雷を吸い込み、﹃アシッド・ヴォル
548
テックス﹄は極悪なまでの凶器と化した。
◆ ◆ ◆
近くで護衛をしてくれていたケンタウロス達を除いて全員が肩で息
をしている。
人間3人はエーテルを飲み、獣魔達には魔精石を与え、暫くは魔力
の回復に努めた。
﹁上手く行ったかな?﹂
﹁まさか﹃アシッド・ヴォルテックス﹄であんな破壊力になるなん
て・・・。
雷と合わせた時もびっくりしたのに。。﹂
﹁問答無用で殺す覚悟ならあれぐらいイケるかなって思って。﹂
﹁でも、どうしてミスリルが割れたの??普通、あの程度のとばっ
ちりで割れる金属じゃないわよ?﹂
﹁アレはオトヒメにやって貰ったんだよ。或る意味、彼女が最大の
殊勲賞だ。﹂
﹁オトヒメ??﹂
どうやって、と言いたげな顔だ。
﹁物質には全て、固有振動数って言うのがあってね。
物凄く端的に言うと或る一定の高さの音をぶつけると物は揺さぶら
れて砕けちゃうんだ。
まぁそれでもミスリルみたいな魔法金属にそんな方法が通用するの
かと思ったんだけど、オトヒメに聞いたらやれるって言うから。﹂
﹁物凄い疲れましたよ。あんな高音で歌ったのは初めてです。﹂
恐らく、音=空気の振動と言う発想自体がこの世界に無いのだろう。
﹁さて、俺も動けるようになったし、あいつら確認に行こうか。﹂
549
つかつかと無造作に近寄っていく。
ごそり
キツネの死体の山が動いた。
﹁まだ生きてる奴が居たか・・・。﹂
﹁﹁︱︱!?危ない!!﹂﹂
えっ!?
皮膚は煤け、目も鼻先も手足も殆ど無事な部分はない。
一刀のもとに切り捨てるつもりだったが・・・。
ぱあぁん!!
・・
飛びかかってきたキツネが俺の前で突如自爆をしやがった!!
﹁危ない!!﹂
一瞬速く予測し、反応していたウェンディーヌが俺を突き飛ばす。
俺は無様に地面を転がる。
﹁きゃあああぁぁぁっっ!!﹂
更に、ウェンディーヌにはタテガミの針嵐が襲いかかる!!
﹁ウェンディーヌ!?くそっ!この野郎がぁっ!!﹂
振り向いた時にはキツネは既に事切れていた。
﹁ハジメちゃん、それよりもウェンディ姉さんの方を!!﹂
550
がたがたと体を震わせ、目が焦点を合っていない!
必死に毒消しを飲ませるが、飲み込む力が無く半分以上口から零れ
てしまう。
﹁どいて下さい。﹂
ケンタウロス達が頭上から静かに声を掛けた。
﹁2度も油断したハジメさんは少し頭を冷やしていて下さい。彼女
は私が助けます。﹂
◆ ◆ ◆
どれ程の時間が経っただろう。
姉弟は1時間が山だと言った。
必ず助けてみせる、とも。
穏やかな呼吸をしながらも彼女はまだ目を覚まさない。
毒の効力はケンタウロスが抗毒素血清を注入し抑えられつつあるが、
戦闘で体力が落ちていたところに喰らった攻撃で、体が付いて来て
いないのだとか。
﹁クロノス。﹂
﹁はい、マスター。﹂
﹁マイクロ∼ズになって、出来うる限りの魔力を直接彼女に吹き込
んでみてくれ。﹂
﹁了解しました。・・・と言いたいところですが、そこまですると
マスターの身が。。﹂
﹁危ないラインは自分で守るから。やってくれ。﹂
﹁・・・了解しました。﹂
551
萌葱色の霧がウェンディーヌの呼吸と共に吸い込まれて行く。
マイクロ∼ズはウェンディーヌに吸い込まれた後、純粋な魔力とし
アストラル・ワールド
て彼女に吸収されていった。
いわば、精神世界から直接治癒を施した形だ。
︵・・・ハジメ?︶
︵ウェンディーヌ、ごめん、ほんとごめん。2回も同じミスしただ
けじゃなく、ウェンディーヌをこんな目に・・・。︶
︵戦いは力だけじゃないのよ?情報の重要性は貴方が普段から教え
てくれてる事じゃない。︶
︵説教は後で聞く。幾らでも聞く。だから、お願いだから目を覚ま
してくれ。︶
﹁う・・・うぅ・・・っ・・・﹂
﹁どうやら気が付いたようですね。﹂
﹁ハジメ、ハジメは・・・?﹂
﹁・・・助けてあげた私達よりハジメさんですか。彼ならそこで魔
力切れ起こしてぶっ倒れてますよ。﹂
﹁あ、ごめんなさい。。今回は貴女達が居なかったらアタシもハジ
メも命が危なかった。彼の分まで礼を言うわ。﹂
﹁初戦でこのチームの弱点が見えましたね。力任せは得意でも、チ
ームとしてあまりにも経験が足りなさすぎます。﹂
﹁・・・そうね。﹂
﹁まぁ良いです。それも含めて貴方達を見届けるのも面白そうです
しね。
これからもいっぱい怪我して下さい。片っ端から治して差し上げま
す。﹂
﹁サンキュー・・・ってハジメ!!﹂
会話の途中だったがウェンディーヌはすっ飛んでいった。
552
満タンエーテルを飲ませると少し心地付いたのか起き上がり始めた。
﹁ウェンディーヌ、ゴメン、有難う。無事で良かった。﹂
﹁・・・ほんとに全く。。ハジメ、アナタ依頼書全く読んでないで
しょ?
タテガミキツネの特徴、かなり詳しく載ってたのよ?﹂
タテガミキツネ:Bの上ランクモンスター。常に2頭で行動し、自
分達以外のモンスターが居るところには滅多に姿を現さない。全身
を覆うタテガミには麻痺性の毒が含まれて居る為毒消し必須。1頭
だけ残すとタテガミを弾け飛ばして﹁自爆﹂する為、2頭同時に倒
す必要がある。
コミュニケーション
﹁成程・・・。交渉出来そうな口調だったから完全に油断してたよ。
毒持ちで2頭同時に倒すって条件があるからBランクなのか・・・。
﹂
﹁そう言う事。ハジメは一度毒喰らって起き上がりかけたとこだっ
たから、アソコで自爆に巻き込まれてたら命が危なかったのよ?﹂
﹁ごめん、ほんとごめん。ちょっと自分の力に溺れかけてた。今回
のは良い薬になったよ。﹂
﹁じゃぁ、最後の仕事してきて。坑道の入り口から村までの広範囲
に渡ってマイクロ∼ズであいつらを検索して頂戴。
依頼書に10前後って書いてたのを20ペア以上も倒したからもう
居ないと思うけど。﹂
﹁OK。﹂
クロノスを使っての検索にも随分慣れた。
検索だけなら半径数十kmでも俺自身の行動を殆ど制限されない。
五感ソナーともなると流石にそうはいかないが・・。
553
﹁・・・こっから東へ4kmほど行ったところにあいつらの小さな
集落がある。もう数は多くないけど、それでもあと5組いるよ。﹂
﹁まだいるの!?﹂
﹁︱︱!?待った!!何かヤバいのが居る!?﹂
マイクロ∼ズの視た映像をウェンディーヌ達に伝える。
体長3m程、粉雪の様な体毛に覆われた体、ゴリラのような顔つき、
そして、肩から生えた4本の腕は手先に掛けて赤い毛並みに包まれ、
黒一角獣
肘から先は真っ赤である。
大きさで言えばブラックホーンホース達の方が遙かに大きいが、一
体から感じる威圧感は比べものにならない。
﹁こ、これって・・・。﹂
﹁フレイム・イエティ!?﹂
2人が悲鳴を上げている。
﹁︱︱!?マズい!!視られた!!﹂
﹁何ですって!?﹂
﹁ウェンディ姉さん、こいつって確か・・・。﹂
﹁ええ。Sランク或いはAランク5人∼10人相当のチームで相手
する奴よ。﹂
﹁ゆっくり話してる余裕はないぞ!こいつ、マイクロ∼ズの検索に
気付きやがった!
そのうちここに来る。村に戻ってギルドに報告してる暇なんか無い
ぞ!?﹂
﹁・・・やるしかないわね。﹂
﹁・・・そうだ!ギルドへは俺が報告する。﹂
﹁オウカ!﹂
﹁はい、私も視てましたよ・・・。﹂
554
オウカの声にも流石に恐怖が混じる。
﹁だったら分かるな?今すぐギルドへ行って報告してくれ。君が一
番足が速くて言葉が上手だ。﹂
﹁分かりました。ハヤト達をそちらに向かわせましょうか?﹂
﹁そうだな・・・。いや、いざというときの村の守りに少しでも居
オーガー
て貰わなきゃ困る。そのまま村で布陣組んで待機しててくれ。﹂
﹁了解しました。﹂
﹁ウェンディーヌ、アイツの特徴と弱点などは?﹂
﹁柔らかく見えて耐衝撃・防刃・耐熱・耐冷に優れた毛皮、大鬼に
も匹敵すると言う強力を通り越して凶悪なまでの腕力、口からは吹
雪、4本の腕からは炎の固まりを打ち出し、知能も非常に高い。ち
なみに弱点は無いわよ。﹂
﹁・・・へ?﹂
﹁弱点なんか無いって言ってんの。弱点有ったらSランカーなんか
普通連れて来ないわよ。﹂
﹁成程。。逆に言えば全力勝負ってか?面白いじゃねぇか。﹂
﹁火と氷の対処はウェンディーヌに任せる。遠距離攻撃は単発だと
恐らく﹃タイダル・ウェイブ﹄ぐらいしか効かないと思うけど、何
発も打てるもんじゃないだろうからタイミングを間違わないように
してくれ。﹂
﹁分かったわ。﹂
﹁最初の格闘戦はマコに任せる。暫く、ひたすら耐えてくれ。﹂
﹁了解。ハジメちゃんはどうするの??﹂
﹁暫く、策を練る。﹂
555
タテガミキツネ掃討戦︵後書き︶
次回からは純粋に力勝負が書きたいですね。
556
フレイム・イエティ︵前編︶︵前書き︶
次のお話、書いてたんですけどうっかりミスで消してしまいました。
一生懸命書き直してますがどうも書いてて違和感があります。今回、
中途半端で止まってしまいますが、ご勘弁を・・・。
557
フレイム・イエティ︵前編︶
その獣は6本の手足を駆使して地を駆けていた。
そこに浮かぶ表情は﹁歓喜﹂である。
その見た目に反して高い知性を持つ彼だが、性格は見た目の通りの
乱暴者だ。
・・・強い相手と戦える。
その一点のみを頼りに彼は一直線に鉱山へと駆けていった。
◆ ◆ ◆
その間、ハジメ達はポーションやエーテル、それにケンタウロスに
よる健康チェックを受けて体制を整えていた。獣魔達にも魔精石を
大盤振る舞いである。
﹁・・・来るぞ!!﹂
・・
高台から一気にそれは飛び降りてきた。
ずしん!と地響きを立ててハジメ達の前に降り立つ。
﹁手足長いだけあって素早いな・・・。﹂
ここまで駆けてくるのに5分も掛かっていない。
﹁どうして行き成り襲いかかってこなかった?﹂
ハジメは意思疎通出来るのが当たり前であるかのように問いかけた。
558
﹁アンタ、あのちっこいのでずっとこっち見てただろ?不意打ちな
んざ効くと思っちゃいねえさ。
それに俺は殺し合いがしたいんじゃねぇからな。﹂
﹁ほぅ??﹂
ネズミ
﹁俺はアンタらみたいな強そうなのとバトルが出来りゃそれで十分
なのよ。
キツネどもをペットにして廃坑でエサ増やさせてたんだが、どうや
らアンタらに殺られちまったみたいだしな。あの数殺れるんなら相
ビッグマウス
手に取って不足はねぇ。﹂
大口ネズミとタテガミキツネはこいつの仕業か!!
﹁それにちょっと前に来た綺麗なねーちゃんと約束しちまってる。
無駄に人を殺さないってな。﹂
エイシェント・エルフ
﹁それってまさか・・・エルフの??﹂
﹁ああ、そうだ。四大精霊扱うわ、古代エルフ呼び出すわ、遣りた
い放題やりやがって。契約を迫って来やがったが胸糞悪いからお誘
い蹴っ飛ばしてやった。﹂
﹁・・・その引き替えに人を襲わない約束をした、と。﹂
﹁中々人間にしちゃ理解が早ぇじゃねぇか。﹂
﹁・・・ならどうしてここにいる?﹂
﹁最初に言ったろ?俺は強い奴と戦いたいだけなんだ。特に兄ちゃ
ん、アンタかなり面白そうじゃねぇか。﹂
コミュニケーション
こいつと戦って命の取り合いにならない自信がどこにも無いのだが・
・・。
しかし、これは交渉のチャンスか。
コントラクター
﹁気付いてるか分からないが、俺は契約師でもある。﹂
﹁知ってるよ。ぶっちゃけ、アンタがこっちの世界に墜ちてきた時
559
から気付いてるよ。﹂
・・・って、それを知ってるって事はこいつ世界の構成分子?めち
ゃめちゃ上位ランクの精神生命体じゃないのか!?
コミュニケーション
﹁良いだろう。なら、こっちが勝ったら俺は契約を申し込む。
条件は勿論交渉で譲歩も考慮するが、契約は受けて貰う。どうだ?﹂
﹁良いだろう。その代わり、そっちが負けたら火精石と氷精石をこ
れ位のを月50個ずつ寄越せ。﹂
示してきたサイズは直径30cm程。金額にしたら併せて金貨10
枚は下らない筈だ。
﹁良いだろう。こっちが負けた時、お前に勝つまで届け続けてやる
よ。﹂
﹁ほぅ?負けても再チャレンジしてくれるってか?そりゃ更に楽し
みだ。﹂
﹁ところで、一対一と俺達全員、どっちが希望だ?﹂
﹁問答無用で3人全員掛かってくるかと思ったら中々に紳士じゃね
ぇか。
ほんと言うなら一人ずつ順番に戦ってみてぇが、そちらさんの事情
もあるだろうし、纏めてで良いぜ?﹂
﹁良いだろう。気絶、戦闘不能、まいった、どれかで決着で良いな
?﹂
﹁OK。そしたら・・・﹂
ばしゅううぅっっ!!
フレイム・イエティの体から薄紅色のオーラが立ち上る。
﹁楽しい死合いにしようぜ?﹂
字が違うぞ!!
560
◆ ◆ ◆
先陣はケンタウロス姉弟の矢嵐!
しかもアネモイの風で威力を強化してある。
が・・・
かきききききん!!
避けようともしやがらねぇ??
セリフ
﹁悪いがこの程度じゃ肌まで通らねぇぜ?﹂
呑気な台詞を零しながら、一瞬姿がぶれたかと思うとあっという間
に間合いを詰められる!!
﹁︱︱!!ウェンディーヌ!!﹂
一瞬速くトールに指示を出し、両者の間に雷を放つ。
雷を軽く躱しつつ、更に次に狙うは・・・。
﹁オトヒメさん!危ない!!﹂
パンドラが横を取ってナイフで襲いかかる!
しかしそれすら難なく2本の手で受け止め、更に残りの2本の手で
炎を叩き付けた。
﹁きゃあぁぁっ!!﹂
﹁マコ!くそ、オトヒメ、ブレスレットに戻れ!!トキツカゼ、マ
コにポーションを!!
オトヒメは辛うじての隙にブレスレットに戻った。
561
コンフェデレィト
﹁・・・流石に強いな。﹂
相手は契約獣ともなり得る存在。パンドラやクロノスでさえダメー
ジを受けてしまう。
﹁マコ、ウェンディーヌ、総力戦だ。殺す気で行かないと倒せそう
もない。﹂
俺は戦闘領域にマイクロ∼ズを展開する。
無駄な範囲には広げない。いや、広げられない。五感ソナーを展開
しながらの戦闘など初めてだ。
﹁今度はこっちから行くわよ?﹂
パンドラが一気に詰め寄る。
﹁リヴィエル、﹃ウォータースライサー﹄﹂
次々と襲い掛かる攻撃。それぞれが普通の相手ならば必殺の威力を
秘めている。
﹁そうこなくっちゃな!﹂
戦闘が楽しくてたまらない。そんな表情だ。
手数を増やしたパンドラの攻撃を4本の腕でいなしつつ、同時に﹃
ウォータースライサー﹄も凌いでしまう。
防御力が半端ねぇ!!
﹁マコちゃん、5秒、いえ、3秒時間稼げる?﹂
﹁OK、姉さん。﹂
俺達の会話はマイクロ∼ズを通してごく小声で交わされる。
どう言う攻撃をするのか、細かな作戦の疎通まで可能だ。
﹁パンドラ、死ぬ気で攻撃!!﹂
562
﹁アネモイ、竜巻で足止めしろ!!﹂
ずがががが!!!!!!
ナイフが通らないのを確認して、パンドラは既にナックルで殴り合
っている。
︵いつの間にあんな武器具現化したんだ・・・?︶
捨て身の攻撃に一瞬フレイム・イエティの足が止まる。
更に上空からアネモイが竜巻を起こし、動きを封じる!!
ほんの一瞬、しかし貴重な一瞬!
﹁リヴィエル、﹃アシッドスプレッド﹄!!﹂
拳に殴られ、風に巻き取られ、強酸の拳に嬲られながらフレイム・
イエティは上空に舞い上がっていく。
﹁・・・どれぐらい効いたかしら?﹂
﹁幾らかは効いてる、筈、なんですけどね。﹂
ここにいる誰もがあれでやったとは思っていない。
﹁痛つつぅ・・・、結構効いたぜ?お前ら中々連携上手いじゃねぇ
か。﹂
﹁・・・あんまり効いてるように見えませんが?﹂
﹁丈夫が取り柄なんでな。さて、次はこっちから行くぜ?﹂
しゅわぁぁぁぁ
フレイム・イエティ
彼を包む空気がキラキラと輝き始める。
フレイム・イエティ
﹁喰らえ!﹃ダイアモンドダスト﹄!!﹂
彼の口から吐き出されたのは、キラキラと輝き、空気すら凍り付か
563
せる極低温のブレス!
︱︱!!マズい!!
﹁﹁リヴィエル、﹃﹃ウォーターポール﹄﹄!!﹂﹂
俺とウェンディーヌが殆ど同時に遮壁を作り出す。
文字通り滝の如く召喚された水が一気に凍り付いてゆく。
﹁ッ︱︱!!なんて威力だ!!﹂
フレイム・イエティ
﹁まだまだ!﹃フレイムスピア﹄!!﹂
彼は4本の掌で火の玉をお手玉し始めたかと思ったら、捏ねくり回
し、握りつぶし、槍の形に変形させた!!
﹁ヤベェッ!防ぎきれねぇ!!﹂
﹁﹁リヴィエル、﹃タイダル・ウェイブ﹄!!﹂﹂
殆ど同時に俺達は特大級の呪文を召喚した。
脊髄反射に近い反応だっただろう。
2人で別々に召喚したのは今回が初めてだが、可能だったんだな、
と後から気付く。
﹁あれを防ぐとは流石じゃねぇか。・・・だが、そんなもんか??﹂
ほんの合間にエーテルで回復を試み、息を整え向き直る。
﹁お前・・・。殺す気か??﹂
﹁あ?何言ってやがる??﹂
ぶわり、とハジメから闘気が立ち上る。
﹁さっきの攻撃、俺等が防ぎきってなかったら炎の直撃か割れた氷
の散弾、或いは水蒸気爆発、どれをとっても死んでる可能性があっ
たぜ?﹂
564
﹁アンタらなら死なないと思ってやったんだがな?俺は死合いがし
たい、って言った筈だぜ?﹂
﹁・・・そう言う事か。なら、悪いがこちらもリミッターを外させ
て貰う。﹂
ほう、これまでは本気じゃなかったとでも言うのか?
言おうとしたが言葉に発する事は出来なかった。
﹁︱︱!?﹂
どぐしゃぁぁぁっ!!
5mは有ったはずの距離が一瞬で縮められた。
﹁ばっ・・・!?﹂
馬鹿な、その言葉も封じられた。
ぶしゅうぅん!
・ ・ ・ ・
強靱な体毛と筋肉に守られた筈の腕が、ハジメの斬撃であっさり斬
り飛ばされ、更に消失した。
﹁︱︱!?!?﹂
ざしゅ、ざしゅ、と次々に腕を斬り飛ばされて行く。
最後に肩から袈裟懸けに切り下ろされそうになった時、残りの腕を
全力で筋収縮させ、刀を受け止める!
半分千切れかけた1本の手でハジメを殴り飛ばし、何とか引き離す。
﹁ぐうぅっ!﹂
﹁ハジメちゃん!﹂
﹁大丈夫。入りも浅いし自分で後ろに飛んでるから大丈夫。
ただ、流石に本気になられると刀が通じないな・・・。﹂
565
・・
﹁・・・マコ、アレやる覚悟はあるか?﹂
瞬時にハッとした表情を見せる。
僅かな逡巡、しかしその後はっきりとした顔でハジメを見据えた。
﹁・・・それだけの相手って事だよね?﹂
﹁強さは勿論だ。しかし、お互い殺さない筈の戦いでのあのやり口
が気にいらねぇ。﹂
﹁良いよ、ハジメちゃん信じる。旦那様の言う通りにしますよ♪﹂
﹁ウェンディーヌ、トール、アネモイ、アマツカゼ、トキツカゼ、
1分だけ時間を稼いでくれ。﹂
﹁何をやるつもり・・・って!ダメ!!絶対ダメ!!!﹂
マイクロ∼ズ経由で作戦が伝わったのか、ウェンディーヌは必死で
反対する。
彼女には確かに見るに堪えない方法だろう。
﹁ウェンディーヌ、俺達の成長を見て貰いたい人がいるだろう?﹂
ハッと表情を変えるも、納得はしない。
﹁ダメ!絶対ダメ!!どうしてもそれだけはダメ!!﹂
﹁必ず生きて帰る。保証する。そしてその自信もある。﹂
﹁姉さん。﹂
﹁サイカ島で姉さんもやるんですよ?貴女はハジメちゃんを信じら
れませんか?﹂
﹁それは・・・。﹂
﹁トラウマ、乗り越えましょう。そして・・・﹂
﹁私にも償いさせて下さい。﹂
566
フレイム・イエティ︵前編︶︵後書き︶
やっぱり主人公は無双撃を繰り出すのがよいですよね。
567
フレイム・イエティ︵後編︶︵前書き︶
書き直してるのですけど、やはり思い出せません・・・。
568
フレイム・イエティ︵後編︶
﹁リヴィエル、龍体で出て来て頂戴。﹂
﹁OK、・・・って言いたいとこだけど貴女ももう魔力殆ど残って
ないでしょ?﹂
﹁薬と気合いで乗り切る。あの2人にだけ格好付けさせられないわ。
﹂
グビリとエーテルを飲み干し、頬を叩いてフレイム・イエティに向
き直る。
﹁1分間、アタシが稼いでみせる。﹂
◆ ◆ ◆
﹁オイオイ、水龍王まで出てくるのかよ・・・。どーなってんだ、
このパーティは。﹂
こちらが策を練っている間、フレイム・イエティも遊んでいた訳で
はない。
これ幸いと回復に努めていた。
千切れかけた1本の腕は既に殆どくっついている。
﹁切れた腕も有ればくっつけられるんだが・・・。ありゃ一体どこ
行ったんだ?﹂
肩口の傷は筋肉を収縮させて無理矢理止血してあるが、傷を完全に
閉じると腕を繋げないので止血のみだ。
︵今のウェンディーヌで龍体のアタシを1分間維持しようと思った
ら精々7割程度の力しか出せないわよ?︶
︵良いわ。今回は足止めがアタシの仕事だから。︶
569
力押しだけじゃない戦い方、ハジメに教えて貰った戦闘の応用、色
々試したい事だらけだ。
﹁さて、お猿さん。﹂
﹁サ、サルだと!?﹂
﹁オツムの寂しい相手は幾ら知性があって知能が高くってもお猿さ
んで十分よ。﹂
﹁俺等を舐めるなよ!?これでも上位精神生命体・・・﹂
﹁リヴィエル、﹃アシッド・ヴォルテックス﹄﹂
会話を遮って特大の渦潮がフレイム・イエティを呑み込んで行く!!
﹁︱︱!?﹂
それまでは発動までのラグで十分避けられたウェンディーヌの大技。
しかしこれは避けられない。
いや、避けるスペースが見当たらない。
︵デカすぎる!!︶
為す術無く呑み込まれていった
揉まれ、撹拌され、脱出しようにも今どちらを向いているのかすら
分からない。
強烈な酸は目と肺を焼き、水流で鼓膜は破られ、肩の傷口からは強
烈に脱水を引き起こされる。
︵この嬢ちゃん、舐めてたが大間違いだ!!︶
薄れ行く意識で辛うじて炎を召喚しようとしたが、それすらも叶わ
ない。
︵こんな中で炎出したら爆発しちまう!!︶
570
1分間、僅かに1分間、その1分が永遠に感じる程の拷問とも思え
る攻撃であった。
◆ ◆ ◆
﹁マコ、本当に怖くないか?﹂
﹁ん・・・、ほんと言うとちょっと怖い、かな・・・。﹂
﹁ああ。ほんと言うと俺もちょっと怖いよ。でも、マコは俺を信じ
てくれた。俺はマコを信じてるから、マコが信じた自分に自信を持
ってみる。﹂
﹁そっか、じゃぁアタシもアタシを信じてくれたハジメちゃんを信
じる。その信頼を自信にする。﹂
真摯にお互いを見つめ合う。
戦場においてそこだけ別世界のような穏やかな表情を浮かべた2人。
ちゅ・・・
そして・・・。
ちゅ・・・
﹁ちょっと、こんな時にまで舌絡めてこないでよ。﹂
﹁ははは、戦闘で高ぶってたみたいで・・・。我慢出来なかった。﹂
﹁・・・そこは嘘でも﹃マコちゃんが可愛かったから﹄って言って
欲しかったわ。﹂
﹁始めようか。﹂
﹁ええ。﹂
ハジメはマコのオリハルコンのブレスレットに、
マコはハジメのオリハルコンのピアスに。
571
りぃん
りぃん
互いに口付けを交わし、手を繋ぐ。
りぃん
シンクロ
りぃん
世界が共鳴を始める。
りぃん
カンパニー
ハジメが、マコが、使役獣魔達が、草木が、動物が、大地が、
空が、太陽が、水が、この世の全てが彼らを中心に共鳴して行く。
﹁クロノス。﹂﹁パンドラ。﹂
﹁﹁了解、マスター。﹂﹂
﹁﹁GO!!﹂﹂
◆ ◆ ◆
きっかり1分。
十分なダメージを与えつつ時間稼ぎをしたウェンディーヌはぱたり
と膝から崩れ落ちた。
気を失わなかったのは単にリヴィエルが調節をしてくれたからに過
イリュージョン
ぎない。
幻体達が迫ってくるのを背中に感じつつ、地に伏せた。
︵︱︱!?今度は何だぁ!?︶
既に意識の遠いフレイム・イエティは台風の如き力の固まりが迫っ
てくるのを見た。
572
﹁︱︱なっ!?﹂
どががががががががががががががががががががががが!!!!!!
!!!!!!
イリュージョン
2体の幻体が自分を取り囲んだかと思った瞬間、それぞれが10体
に増えた。
四方八方を文字通り取り囲まれ、極悪なまでの速度で拳の嵐が降り
注ぐ!
防御を試みるも、全て防御行動の一瞬先に拳が体にヒットしている。
しかも、どれもこれもがヒットした瞬間に体を揺さぶるような衝撃!
﹁ぎぃぃいいいやああぁぁぁぁっっっっ!!!!!!﹂
僅か十数秒。
先程の強酸の渦潮よりも遙かに短い時間。
しかし、その短い時間が終わった時、彼は襤褸雑巾と化していた。
その場にいた誰もが戦闘の終了を実感した時・・・。
﹁オトヒメ、歌でこいつ拘束して。今なら通じるだろう?﹂
﹁え!?あ、はい、確かに今なら・・・。﹂
﹁アマツカゼ、トキツカゼ、死なない程度に毒で麻痺させといて。
肩の傷からならナイフも通るはずだから。﹂
﹁﹁りょ、了解しました。。﹂﹂
ハジメは1人冷静で、そして無情だった。
◆ ◆ ◆
そのまま放っておくと死ぬ可能性が高かった為、最低限の応急処置
573
のみケンタウロスに任せた。
ポーションだと加減が分からない為だ。回復させすぎても足りなさ
すぎても問題がある。
﹁・・・エルフのお嬢ちゃんが可愛く思えてきたぜ。水龍王を単独
であそこまで力引き出すなんて有り得ねぇ。
俺の腕があっさり斬り飛ばされた理由が分からねぇ上に腕は何処行
っちまったんだ?
それに最後の攻撃、ありゃ一体何だ!?﹂
﹁教えてやっても良いが今はまだダメだ。約束通り契約してからだ。
立ち会い前の約束をあっさり破るような奴、エレンさんは許したと
しても俺は許さない。﹂
﹁流石にもうあんたらに歯向かったりしねぇよ!命が幾つ有っても
足りねぇ。。﹂
﹁マコ?﹂
コミュニケーション
﹁今の処は嘘吐いてないみたいよ?﹂
﹁良いだろう。それなら交渉と行こうか。そっちの希望する条件を
話してみろ。﹂
﹁へ?良いのか??﹂
﹁悪事を働かないのなら無駄に拘束する気はない。不満を溜めて付
いてこられて寝首掻きに来られても面倒だしな。﹂
﹁・・・だったら最初言った火精石と氷精石を月10個ずつ。。﹂
俺から見てもこちらの表情を伺ってるのが分かる。
﹁マコ?﹂
﹁かなり遠慮しまくってるわね。﹂
﹁正直に話せって。こんなとこで遺恨を残す気はない。・・・そう
だな。普段歩いて付いてくるとして、ブレスレットの中に入る時は
どれぐらいの魔精石が必要だ?﹂
﹁俺がブレスレットに入らなきゃいかん事態なんてそうそう思いつ
574
かないが・・・。これでも環境適応性の高い方だと思ってるんだが
?﹂
﹁空は飛べないだろう?流石にお前を抱えて飛ぶのとか重たくてし
ょうがない。﹂
空まで飛べるのかよ・・・、等とボヤきながらガルーダの方を見る。
勝手に納得してるようだが少し違う。
﹁分かった。歩いて付いていく時は適当に狩りをさせてくれたら特
に何もいらねぇ。
ブレスレットに入る時は1日辺りそれぞれ2個ずつ、これでどうだ
?﹂
﹁OK、本来の能力を考えれば安すぎるぐらいだ。乱暴働かず正直
コンフェデレィト
にしてればもっとやっても良かったんだがなぁ。﹂
﹁分かった。これからは真正直な契約獣として名を轟かしていくぜ
!!﹂
﹁ハジメちゃん、こいつ今一瞬法螺吹いたわよ。﹂
すかさずマコが教えてくれた。
﹁・・・そっちのお嬢ちゃん、やっぱり嘘を見抜くのかい?﹂
﹁それだけじゃないわよ。﹃嘘吐いたらハリセンフグ飲ます﹄﹂
ふよん、と出現したハリセンフグがフレイム・イエティに向かって
近付いて行く。
﹁ま、ま、待った!もうやらねぇ!!絶対やらねぇ!!﹂
必死で言い訳するも口が勝手に開いていき、後少しで飲まされてし
まうところだ。
﹁まぁまぁ、マコ、今は何言ってようが抵抗の仕様も無いんだし放
っとこう。
それより、先に飲ませておいて、こっちに翻意を見せたり寝首掻こ
うとすると発動するような条件作動型は作れない?﹂
575
﹁・・・成程。それ面白そう。3日頂戴、作ってみせるわ。﹂
イリュージョニスト
﹁3日か・・・流石に早いな。﹂
同じ幻体師だからイメージトレーニングの難しさは分かっている。
﹁出来た時にはまずハジメちゃんで試すからそのつもりで。﹂
﹁い゛っ!?﹂
﹁ハジメちゃん、自分が普段吐いてる嘘がぜ∼んぶこっちに伝わっ
てる事とか、それをアタシが心の奥底でどれだけ寛大に我慢しよう
としてるかとか全く知らないでしょ?良い機会だから身を以て知る
が良いわ。﹂
・・・藪蛇だった。。
◆ ◆ ◆
インベントリ
インベントリ
収納スペースから腕を3本取り出す。
﹁いつの間に収納スペースに入れてたんだ??﹂
﹁みんなも疑問に思ってるだろうし、そろそろ教えてやるよ。
斬った瞬間、腕を空間転移させて収納していったんだ。
まぁどちらかというと炎が厄介だと思ったからなんだけどね。﹂
﹁空間転移!それであの瞬間一気に間合いを詰められたのか!!﹂
﹁これから仲間になると信じて話すが、俺はまだよっぽど大人しく
してる生物か、非生物、或いは自分自身しか空間転移が出来ない。
だから完全に切り離して非生物と化した腕でないと空間転移させら
れなかったんだ。﹂
そうでなければ頭や心臓を転移させればそれで勝負有りだからな。
﹁ついでに聞いて良いか?どうしてああも簡単に腕が切れた?剣の
切れ味は凄まじかったが、防げない程ではなかったと思うんだが。﹂
﹁アレはオトヒメが手伝ってくれてた。﹂
576
﹁セイレーン・・・だと??﹂
﹁刀を高周波で振動させて、分子結合を断ち切ったんだよ。・・・
って言っても分からんだろうけどな。﹂
確かに良く分からん。全く分からん。しかしこれだけは分かった。
この人間、面白い!!
﹁毒でも何でも仕込めば良い。俺はアンタに付いて行く。こんな面
白そうな人間、逃して溜まるか!!﹂
にやり
そう口角を歪めたのはハジメだったかフレイム・イエティだったか。
﹁ハジメちゃん・・・。﹂
﹁ああ、大丈夫だ。俺でも分かる。こいつは本気だ。﹂
◆ ◆ ◆
動けるところまで回復させて、切れた腕を繋がせる。
驚いた事に傷口に押しつけた途端、もこもこと組織が隆起し切れた
腕を食い尽くした!!
更にあっという間に新しい腕が生えてきた。
﹁・・・凄まじいな。﹂
﹁結構疲れるんだぜ?﹂
メドーア
﹁優しさ無き力はただの暴力、力なき優しさは無力。無力な人々に
暴力的なその力を貸し与えてやってくれ。お前の名は
だ。﹂
577
繋がった4本の腕を差し出してくる。
全ての甲に唇を寄せ、獣魔契約を交わす。
﹁楽しい旅にしよう。﹂
﹁OK、マイマスター。﹂
578
フレイム・イエティ︵後編︶︵後書き︶
何だか随分違う気がします。でもこれも味でしょうハジメとマコの
合体攻撃の理屈は次回以降で。
579
初依頼完了︵前書き︶
日常パート、会話ばっかりですねぇ・・・。難しいです。
580
初依頼完了
﹁オウカ、こっちは何とか終わった。﹂
シンクロ
﹁ええ、見てました。警戒解除を報告すれば良いんですね?﹂
﹁宜しく頼む。詳細は俺達が直接話すよ。﹂
オウカに連絡を終え、鉱山から村への帰路。
メドーアが声を掛けてきた。
イリュージョン
﹁最後のあの攻撃、あれが一番腑に落ちねぇ。幻体同士の共鳴なん
ざ聞いた事もねぇぞ。﹂
イリュージョン
流石はメドーア、サンドバッグにされながらも受けてる攻撃を正し
く理解しているとは。
そう。最後にパンドラと繰り出したのは﹁シンクロ召喚﹂の幻体バ
ージョン。
実際にやってみて驚いたが、1人でクロノスを操る時の何倍、いや
何十倍もの力が沸いてきた。
複数の時間軸に存在するクロノスとパンドラを同時に引っ張ってき
て、パンドラの先読み能力、クロノスの空間振動、その能力を享有
する事が出来たのだ。
﹁俺も何で出来るんだ、って言われたら何でか知らない。俺とマコ、
クロノスとパンドラの間にそれを為し得るだけの絆があったから、
としか言いようがない。﹂
﹁・・・何か隠してるだろ??﹂
﹁ハジメ、アタシも納得行かない。何で出来たのかって言うのも謎
だけど、2人とも事前に出来るのを知ってたみたいだった。﹂
ぎくっ!
581
﹁そ、そ、そんな事、戦闘の中で芽生えた愛情?通じ合う心?﹂
﹁・・・ハジメ、嘘吐く時右の米噛み掻く癖有るよね。﹂
﹁なっ!?そ、そんなの知らないぞ!!﹂
言いつつ慌てて右手を引っ込めるも・・・。
あ・・・。
﹁引っ掛けたな!!﹂
﹁後ろめたい事がなければ引っ掛からんでしょうが!!ほら!!正
直に吐きなさい!!﹂
◆ ◆ ◆
﹁・・・婚約ですって??﹂
あ、やべ、口調が穏やかになって来てる。
﹁ウェ、ウェンディーヌさん?あの、ほら、前世でもそのつもりだ
った訳でして、これは浮気とかそう言うのでは無くってですねぇ。﹂
﹁へぇ・・・、前世での出来事を持ち込むんだ。こっち来て8時間
で押し倒したアタシの事なんか前世からの恋人に比べればどうって
事無いって言うんだ。ふ∼ん・・・。﹂
マズい。
﹁そりゃ、前世から結ばれてた2人にはアタシは敵わないわよねぇ。
は出来れ
別にするなとは言わないけど、あっさりアタシの知らないとこでそ
洗濯の刑
んな話になってるなんて中々に愉快よねぇ。﹂
﹁ウェンディーヌさん?出来れば戦い帰りに
ばご勘弁願いたいのですが・・・。﹂
﹁へぇ・・・アタシ、そんな暴力的な女じゃなくってよ?﹂
582
何が
なくってよ?
だ。ウェンディーヌがお上品になればなるほ
ど彼女の魔力が上がっとるじゃないか。
﹁リヴィエル、﹃タイダル・ウェイb﹄﹂
﹁一々そんな事してるからリヴィエルさんとクロノスさんに先超さ
れちゃうんですよ。﹂
マコの一言に発動寸前の大海嘯が停止する。
﹁﹁︱︱!?﹂
助かった!?いや、マコ、何を言い出すつもりだ??
﹁・・・アタシが獣魔達に先超されてる??﹂
﹁えぇ。まぁアタシも先超されてるんですけどね。﹂
﹁どう言う・・・。﹂﹁彼女達、既に御懐妊ですよ??﹂
﹁・・・へ?﹂
クロノスとリヴィエル
﹁だ・か・ら。ハジメちゃんのお子ちゃまを身籠もってるって事で
す。﹂
いつの間に出て来たのかお腹に手を当てて頬を赤らめる2人。
﹁なななななななななななんですってぇぇぇぇ∼∼∼∼∼∼∼っっ
っっ!!!!﹂
◆ ◆ ◆
インヴォーカー
﹁いやぁ、大したもんだ!!獣魔相手に伽を務めさせる獣魔師は結
構見てきたが、孕ませちまった奴なんざ500年近く生きてるがお
前が初めてだ!!﹂
メドーアがばんばんと背中を叩いてくる。
583
いや、面白がられてもだな・・・。
﹁リヴィエル?﹂
﹁な、何かしら?まいますたー??﹂
﹁何時の間に?﹂
﹁・・・聞かない方が良いと思うわ。﹂
ウェンディーヌが知る限り、リヴィエルとハジメがエッチしたタイ
つぐ
ミングなんて数える程しかない。
その中で口を噤むと言えば・・・。
﹁︱︱!!アタシ達が喧嘩してたあの日!?﹂
﹁さ、さぁ??アタシの口からはこれ以上・・・。﹂
カンパ
﹁真面目な話、リヴィエルさんもクロノスさんもどれ位で生まれて
きそうなんです?﹂
オトヒメが聞いてくる。
ニー
﹁特にリヴィエルさん、貴女はウェンディーヌさんの唯一の使役獣
魔な訳です。
戦闘を避けなければいけない時期が何時来るかは知っておかないと
困ります。﹂
﹁そうね・・・。龍族は胎生の時、大体3ヶ月から100日ぐらい
かしら?
後半30日ぐらいはどうしても安静が必要になっちゃうかも・・・。
﹂
﹁私はマスターの想像を元にしてますので普通の人間と余り変わら
ないと思います。
十月十日で生まれてくるはずですが・・・。﹂
﹁分かりました。では私もその時期には産み月で苦しんでないよう
に気をつけます。﹂
584
﹁・・・オトヒメさん、貴女も今サラッと飛んでも無い事言わなか
った?﹂
﹁アレ?まだちゃんと聞いてないんですか?私とハジメさんの契約
内容・・・。﹂
ギラッ、とヒヒイロカネの刀も斯くやと言う切れ味でサファイヤブ
ルーの瞳が斬り付けてくる。
目が合った瞬間、思わず3歩後ずさってしまった。
更ににっこり微笑んで・・・。
﹁この期に及んでしょーもない嘘や誤魔化しなんてしないわよね?﹂
ウェンディーヌの指は﹃ウォーター・スライサー﹄の形に構えられ
てる。
流石に首ちょんぱは勘弁してくれ。
◆ ◆ ◆
﹁へぇ・・・子種3人分ねぇ。。マコちゃんですら生中ねぇ・・・。
﹂
激しい怒りを持ちながら穏やかな心を保っていらっしゃる。
ヤバい、そのうち髪の色が金色に変化しそうだ。
﹁ハジメ?﹂
﹁は、はひぃっ!?﹂
﹁今晩、全員くまなく万遍なく相手しなさい。嫌とは言わせないわ
よ。﹂
﹁ははははひぃっ!!﹂
585
﹁ふふっ♪ナンダカンダ言って姉さんもみんなでしたいんじゃない
ですか。﹂
﹁やっと私もハジメさんの精を頂けます。﹂
﹁ウェンディーヌとクロノスとの4P、最高だったわねぇ。﹂
﹁はい、また楽しみましょう!!﹂
﹁ちょっと!リヴィエルとクロノスはダメよ!!貴女達はちゃんと
お腹の赤ちゃん大事にしないと!!﹂
﹁え∼∼∼∼っ!!まだ大丈夫よぉ??﹂
﹁除け者なんて酷いです・・・。﹂
﹁そ、そうじゃなくって。。﹂
﹁じゃぁ何よ。﹂
﹁ハジメの赤ちゃん、早く見たいじゃない・・・。﹂
そっぽ向いてぼそりと呟いたウェンディーヌは破壊的に可愛かった。
﹁ウェンディーヌ!!﹂
取り敢えず後ろから思いっきりハグ。
﹁わわっ!?どうしたの??﹂
﹁俺、ウェンディーヌとの子供が欲しい!!﹂
﹁ちょっと待って下さい。私はちゃんとした獣魔契約で決めてるん
です!!私が先です!!﹂
﹁ウェンディ姉さんとアタシが一緒に子供生んだら育てるのも楽よ
ねぇ・・・。それにアタシ達は姉妹みたいなもんですしね。仲良く
孕みましょ?姉さん♪﹂
何だか俺ほっぽり出してみんな好き勝手言ってる。
﹁分かりました。こうしましょう。リヴィエルさんの子が先に生ま
れてくるのはしょうがないとして、他はみんなクロノスさんと一緒
586
に生めるように頑張りましょう!﹂
﹁﹁﹁﹁おおーーっ!!﹂﹂﹂﹂
色気がある話なんだかそうじゃないんだか既にもう分からん。
◆ ◆ ◆
軽い頭痛を覚えながら何とか村まで到着。
一先ずはギルドへ報告した。
ビッグマウス
﹁大口ネズミが2000程居た。後、タテガミキツネが10組程っ
インベントリ
ウェアハウス
て話だったが28組居た。﹂
収納スペースと共同保管庫に放り込んであった彼等の死体を取り出
す。
実際は後5組タテガミキツネは居たのだが、メドーアがペットにし
てネズミを運ばせていただけなので既に彼等は命令解除して平原に
帰っている為ノーカウントだ。
﹁タテガミキツネが倍以上の数居た事に関してはギルドの調査不足
ビッグマウス
と言う事で11組目からは1組あたり金貨1枚追加させて頂きます。
大口ネズミの数は調査も依頼範囲に含まれますので何頭でも報酬に
変化は御座いません。﹂
﹁後、大型のモンスターと言う事でしたが、後ろに居るフレイム・
イエティが居ました。﹂
コンフェデレィト
﹁上ランクの大型モンスターが居る可能性は依頼書の通りですが、
Bランクの依頼でSランクの契約獣が居た事は流石に予測を大きく
ファミリア
超えていました。
コントラクター
しかも討伐して操獣魔にされていますので追加報酬として光貨5枚
コンフェデレィト
を追加させて頂ます。﹂
実際は契約獣として引き連れているのだが、このパーティに契約師
587
は見た目上居ない為、そう言う判断となるのだろう。
﹁また、依頼難易度ですが、Bランクの設定に対して明らかに難易
度が高い為、Sランクのランク上昇ポイント5ポイントとさせて頂
きます。
クエスト
これによりマコ様は25ポイント獲得されて暫定Bランクとなりま
クエスト
した。Bランクの検定依頼をクリアされますとBランクとなります。
検定依頼は半年以内でしたらいつでも受けて頂けますが、それまで
は今まで通りEランク扱いですのでご了承下さい。
ウェンディーヌ様は15ポイント獲得されましたのでAランクまで
残り10ポイントです。
ハジメ様は10ポイント獲得されましたのでSランクまで残り90
ポイントです。﹂
ビッグマウス
﹁では続きまして大口ネズミとタテガミキツネの査定に移らせて頂
ビッグマウス
きます。
大口ネズミは特に損傷の激しい500匹を除き1500匹を1匹銀
貨20枚で買い取らせて頂きます。
また進化型は殆ど同じ体積ながら胃袋の容量が10倍以上に膨らん
でいますので金貨5枚、タテガミキツネは全体的に損傷が激しいで
すが、5組をそれぞれ金貨20枚、やや損傷を受けている15組を
それぞれ金貨5枚で引き取らせて頂きます。
報酬を合わせまして光貨10枚と金貨18枚、1018万ミュール
となりますが宜しいでしょうか?﹂
﹁OKです。﹂
この辺りの判断はこちらの世界に詳しいウェンディーヌとマコに任
せている。
ウェア
より旅慣れているのはウェンディーヌなのでこう言う場合は暫くウ
ェンディーヌに任せる事になるだろう。
ハウス
俺達は250万ずつそれぞれのブレスレットに入れ、残りは共同保
588
管庫に放り込んだ。
ビッグマウス
﹁そういや、大口ネズミの胃袋って何であんなに高級扱いされてる
んだ?﹂
タテガミキツネは分かる。
毒抜きさえすればあの素晴らしい毛皮は装飾品としても装備品とし
ても人気が高いだろう。
﹁アイツの胃袋はね、体積の2∼3倍の荷物が入るの。
インベントリ
重量はそれだけちゃんとかかっちゃうんだけど物凄く丈夫で普通の
荷物入れたぐらいじゃまず破れないし、収納スペース持たない他の
進化型
の胃袋は容量がアップしてる事が多い
冒険者の中ではリュックサックの素材として凄く人気なのよ?
特に今回みたいな
し、何らかの特殊能力が付加されてる事が多いから凄く人気ね。﹂
それにしても10倍の容量なんて聞いた事無いけど、とウェンディ
ーヌは付け加える。
成程。俺の空間を操る能力を付加されてるから物凄い容量だったの
かも知れない。
◆ ◆ ◆
テストクエスト
クエスト
﹁ハジメちゃん、アタシ検定依頼受けていこうと思うんだけど。﹂
﹁そうだな。これで全員Bランク以上になるし受けれる依頼の幅も
広がるだろうしな。﹂
ハジメはマコが検定に落ちるなんて全く思っても居ない。
実力ならハジメが上を行ってると言ってもマコもかなりの強さだし、
理性的な戦い方はマコに軍配が上がるだろう。
テストクエスト
﹁アタシ、今出てる検定依頼見てくるね。﹂
そう言って彼女はギルドの奥へ戻って行った。
589
テストクエスト
クエスト
検定依頼とは昇格を希望するランクの依頼をソロで受けなければな
らない。
他の誰かにくっついてこなして貰うのを防ぐ為だから当然と言えば
当然だ。
戦闘能力や野外での経験を試す為に多くは討伐系や採取系が主だと
言われているが・・・。
﹁今回、何だった?﹂
﹁それが・・・。﹂
﹁聖アルケランス帝国ウィットビー侯爵領港町オーバン迄の商隊護
衛?
えっとこのオーバンって街はどの辺に在るんだ?﹂
俺が依頼書をブレスレットに擦り付けて調べようとしてたら、先に
ウェンディーヌが教えてくれた。
﹁聖アルケランス帝国の赤道沿い、東西中央近辺に位置するかなり
大きな港町よ。
東の国境の港町コッツウォルズ、西の国境の港町ライに次いで大き
な港ね。﹂
﹁え!赤道沿いまで行くのか??それってここからどれ位の距離あ
るんだ?﹂
﹁大体3500kmぐらいある筈なの。運ぶ商品もミスリルだから
かなり大掛かりな商隊になる筈だし・・・。﹂
﹁いえ、多分そうはならないわ。﹂
不安そうなマコに対してウェンディーヌは説明を続けた。
インヴォーカー
インヴォーカー
﹁恐らく、商隊の他のメンバーも獣魔師で構成されてる筈よ。
イ
ランクはバラバラかも知れないけどね。これは恐らく獣魔師自身が
直接荷物を運ぶタイプの商隊ね。﹂
ンベントリ
﹁そうか、分かった。ある程度決められた量の商品を護衛自らが収
590
インベントリ
納スペースに入れて運ぶ訳だ。﹂
ヴォーカー
イン
﹁そう言う事。収納スペース内の荷物なら隊が襲われても、例え獣
魔師が殺されたとしても奪えないからね。まぁ人質とか取られたら
出さざるを得ないでしょうけど、それがこの検定の見所、って感じ
かしら?﹂
﹁もう一度詳細を見せて貰っても良いか?﹂
テストクエスト
マコから依頼書を受け取り、内容を記憶しておく。
クエスト
検定依頼:Bランク昇進検定依頼
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
内容:アイスホルスト村から聖アルケランス帝国ウィットビー侯爵
領港町オーバンまでの商隊の護衛及び商品の運搬。
期間:1月20日、23日、26日の何れかの日より出立。オーバ
インヴォーカー
黒一角獣
ンに到着までの凡そ7日間。
商隊:獣魔師数名を含むブラックホーンホース馬車にて移動。
※途中は全て野営にて進み、村などには立ち寄らない。
黒一角獣
﹁ブラックホーンホースが牽く馬車とは言え・・・一日500km
も進むのかよ。しかも1週間野営って。﹂
﹁普通に旅してたら1週間の野営なんて当たり前よ?クロノスで飛
び回ってるハジメの方がおかしいの。﹂
﹁そうなのか・・・。マコ、何日の便で出立する予定だ?﹂
﹁別に他にやる事もないし、20日に出ようと思うけど?﹂
﹁そっか、そしたらその間に俺等はライスセミアの家とか片付けて
おくよ。27日にオーバンで合流しよう。﹂
﹁じゃ、Bランクのアタシを楽しみにしててね!﹂
﹁OK!そしたら新居で盛大に祝おうぜ!!﹂
591
初依頼完了︵後書き︶
次回、ハジメの二つ名が決まる予定です。
592
嗚呼、麗しのMy Home︵前書き︶
異世界物は俺の中で完全に旅をしているイメージが強いので、家を
持たせてやりたかったのです。
決して作者の願望ではありません。私は1DKで十分です。いえ、
1Kでも・・・。
それとゴメンなさい。二つ名は次回に繰り越しになりました。
593
嗚呼、麗しのMy Home
黒一角獣
ライスセミア幻神国迄はクロノスで一っ飛び、と行きたかったが、
ブラックホーンホースとケンタウロスを同時に空路で運ぶ事は不可
能︵いや、多分ブレスレットに収納は出来るだろうが魔力が掛かっ
てしょうがない︶なので赤道まで陸路で出て、海はリヴィエルで、
更に陸路と移動したら何と3日もかかってしまった。
・・・アレ?この世界の常識の半分以下の様な気がする。
気のせいって事にしよう。
クエスト
時間はあるので依頼をこなしつつ移動しても良かったのだが、建物
の状態を見てみないと手入れなどにどれ位時間が掛かるか分からな
い。
﹁こりゃまた豪勢な・・・。﹂
﹁山賊団がこんな目立つ家に住んでどうするつもりだったのかしら
ね?﹂
或いは愛人でも囲っていたのか?
日本でいえば1000坪程のかなり広めの建物だった。
家自体は2階建ての少し大きめと言うぐらいだが、何より気に入っ
たのが裏の畑である。
﹁自分達の食べる分を作っても良いし、何か俺達の能力を生かして
育てられるような物を育成したりもしてみたいな。﹂
﹁ハジメ、大分遅れたけど誕生日プレゼント。﹂
インベントリ
ウェンディーヌが収納スペースからごそごそと取り出した小さな袋
594
からは・・・。
﹁これは・・・種籾!?こ、これ!!こっちだと天井知らずの価値
なんじゃないのか!?﹂
﹁ハジメは絶対何時か自分で育てるって言い出すと思ってたから・・
・。﹂
むぎゅ、と抱きしめながらお礼を言う。
﹁有難う。俺、この世界に絶対に米を普及させてやる!﹂
﹁・・・すぐ蒔く?﹂
そっぽ向いて顔を真っ赤にしてぶっきらぼうに答えたウェンディー
ヌ。
か、可愛い・・・。
﹁いや、俺が知ってる米の製法っていうのはこう言う乾いた畑じゃ
なくて水を張った沼みたいなところで育てるんだ。それの調整も必
ライス・ライス
要だし、それにこの辺りは結構暖かいとは言え、まだ冬だから田植
コール
えには時季外れだ。春までの間に米シラミについても調べて見るさ。
﹂
◆ ◆ ◆
家に入ろうと扉に近付いた時だった。
ぴしぃぃーーんっ!
﹁︱︱!!﹂
直感的に何かを感じて扉から飛び退き、クロノスを実体化する。
﹁流石に良く気付くわね。ギリギリまで黙ってようと思ったけど。﹂
﹁この家、トラップが仕掛けられてる・・・?いや、何か違う。。﹂
595
﹁一種のトラップである事に間違いは無いわよ。貴族の家、空き家、
後ろ暗いところのある連中の住処、そう言うのには大抵このタイプ
のトラップがあるわ。﹂
後は自分で解いてみろ、と言わんばかりの口調だ。
検索と簡単なトラップの解除なら出来るようにと30cm大のチビ
クロ∼ズを1000程展開する。
家の周りから侵入出来そうなポイントを探るも、残念ながら見当た
らない。
仕方ないので目の前の扉を隈無く調べ、扉には何も仕掛けられてな
い事を確認して開け放つ。
即座に家中を検索したチビクロ∼ズ。
何と家の中には20ものトラップが仕掛けられていた。しかしそれ
よりも重大なのは・・・。
﹁そう言う事か。﹂
﹁もう解いちゃったの?﹂
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
1000飛ばしたうちの100も戻ってこなければ流石に気付く。
しかも100体のチビクロ∼ズは発見したはずの罠にかかってない
のにだ。
﹁これ、家自体が罠なんだろ?恐らく、何らかの獣魔がこの家を守
護している。﹂
﹁・・・本当ににくったらしいぐらいあっさり解くわね。対処方法
は分かる?﹂
﹁この家全体調べたけど何処にも獣魔の反応がない。それにも関わ
らず壁や床に触れただけのチビクロ∼ズが次々姿を消すなんて変だ。
と言う事はこの家の何処か、いやおそらく全体に何らかの獣魔が取
り憑くような形で守護している。﹂
596
ファミリア
﹁そう言う事。これはハウススペクターって獣魔で、割とランクは
低いし何処でも操獣魔に出来るんだけど、使役すると家に取り憑い
て、契約者或いは契約者が認めたもの以外が侵入しようとした場合
にのみ反応するタイプのトラップを仕掛ける。
いえ、仕掛けると言うよりは家の物自体をトラップに変えてしまう、
って言うべきかしら。
そして、一旦入ると出口を塞いでそのまま消化してしまう。
この取り憑いてる状態をホーンテッドハウスって言うわね。﹂
大半のチビクロ∼ズは空間転移で逃げてきたが、一部し損ねたのが
食われた訳か。
コミュニケーション
﹁力尽くでやっちゃっていいの?それとも優しく説得した方が良い
?﹂
﹁普通は丁寧に交渉すべきなんだけど・・・。元の契約者がまとも
じゃない上に死んじゃってるからね。ひと思いにやっちゃって良い
わよ。﹂
﹁ま、出来るだけ殺さないようにするよ。チビクロ∼ズ!家を取り
囲め!!﹂
﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁りょーかーーーーい!!﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂
せーの!
ぺしぺしぺしぺしぺしぺしぺしぺしぺしぺしぺしぺしぺし!!!!
!!!!!!!!!!!
チビクロ∼ズの小さな拳が屋敷を打つ!
全体に万遍なくダメージが行き渡る様に振動させると、溜まらず何
かが抜け出てきた!
目をこらせばそれが黄色い半透明ののっぺらぼうの様なガスの様な
597
獣魔だと分かる。
﹁クロノス!!﹂
命令を受ける前に既に彼女は飛び出している。
﹁2割で十分だ!!﹂
こくりと頷き、アッパーカットであっさり気絶させるとずるずると
引っ張って連れてきた。
﹁トキツカゼ、この子、回復させられる?﹂
アストラルボディ
﹁えっ!僕ですか!?﹂
﹁精神体に近い存在の回復とかまだやってないだろ?
出来なければエーテルで良いと思うけど。適度に拘束して逃げられ
ない様にしてね。﹂
◆ ◆ ◆
﹁ひと思いにやっちゃって良いって言ったのに・・・。﹂
﹁だって次捕まえるのとか面倒でしょ?説得すれば俺達の家を警護
して貰える訳だから。﹂
﹁ほんとは無駄に殺すのが可愛そう、とか思ったんでしょ?全く・・
・甘いんだから。﹂
トキツカゼはと言えばアマツカゼに厳しい指導を受けながら四苦八
アストラルボディ
苦しながら治療を施している。
精神体を回復させつつ適度に拘束という匙加減が難しいらしく、一
回は反撃喰らってキレかけたところを後ろから逆にアマツカゼにど
つかれていた。
何処の世界でもお姉様という存在に年の離れた弟は勝てない様に出
来ているのだ。
コミュニケーション
﹁一応、鎮静効果のある薬剤も使っておきました。交渉するなら今
かと思います。﹂
598
﹁有難う。何事も経験だろ??﹂
珍しくげっそりとした表情を見せるトキツカゼ。戦闘だけが戦いじ
ゃないからな。
﹁こんにちは、俺はハジメ・タカナシ。前の持ち主が死んだのでブ
レスレットの相続に基づいてこの家の所有者となった。﹂
土地契約に関する証明をホログラムで表示しつつ、話しかける。
﹁・・・前の契約者を殺したのはお前か?﹂
﹁ああ、そうだ。﹂
嘘を吐いても仕方ないし、獣魔に嘘を吐く事は世界に唾を吐く事だ
と口を酸っぱく言われているので︵誰に、とは敢えて言わない︶正
直に答える。
﹁解放してくれた事に礼を言う。あんな人間と契約を交わしていた
インヴォーカー
とは恥以外の何物でもない。﹂
﹁実際、アイツが獣魔師なんかやってたのが不思議でしょうがない
よ。良く獣魔から報復を受けなかったもんだ。﹂
﹁今回受けたじゃないか。それで十分だ。
ところであっさり逃がさなかったのは私にこの家の守護をさせたい
のだろう?﹂
﹁そうなんだ。俺はこの家を留守にする事が多くなると思うので宜
しく頼む。﹂
﹁心得た。﹂
◆ ◆ ◆
﹁随分、あっさり契約出来ちゃったわね?﹂
﹁ランクが低いし見た目が亡霊みたいだからアレだけど、彼も立派
な獣魔だろう?理を以て諭せば解してくれると思ったんだ。あの山
賊に直接使役されていたのか、この家の売買契約時に誰かが守護す
599
コミュニケーション
る様命じたのか、その辺は分からなかったけど、アイツに使役され
て気持ち良い獣魔なんて居ないと思う。﹂
﹁成程ね。ハジメ、流石に色んなタイプの獣魔と交渉の機会がある
だけあるわね。
彼等の気持ちが良く分かってるじゃない。﹂
﹁まぁ、中にはメドーアみたいなのも居るしね。﹂
﹁リヴィエルやクロノスやオトヒメみたいな美人もね。﹂
ぐほっ!
◆ ◆ ◆
ウェスタ︵屋敷の守護霊︶には在る程度細かく指示を出した。
︵1︶見知らぬ魔力を持った相手が敷地内に足を踏み入れた際、こ
こは他人の所有物であり、所有者︵つまり俺︶に連絡を取る間そこ
で待つ様、来客には話をする事。
︵2︶強制的に侵入した場合、近くに俺達が居なければ屋敷の中に
入るまでは無闇に手出しせず簡単なトラップなどで警告程度の対処
とする事。
︵3︶無断で屋敷の中に入ったら遠慮無く食って良いが、俺がやっ
た様に強制的にウェスタを追い払おうとした場合、無理に戦わず相
手を記憶して俺に連絡してさっさと逃げる事。
これらの指示を出すと共に、敷地の周りを低い塀で囲い、門には呼
び鈴を付ける事とした。
屋敷の中に貴重品を放置する事は少ないだろうが、屋敷その物を乗
っ取られたり壊されたりすると痛いのでそこだけに重点を置く。
﹁おお、随分片付いてるじゃないか。﹂
﹁屋敷の整理・整頓・清掃もハウススペクターの仕事だからな。﹂
LDKに使える部分は30畳以上の広さが有りそうだ。
600
シャンデリアや照明なども十分だし、火精石や氷精石・風精石を利
用した空調も10カ所程備えられている。
個室は7つ有り、それぞれがこれまた15畳から20畳程の広さが
有る。
黒一角獣
﹁俺、ウェンディーヌ、マコが個室を使うとして・・・。
ブラックホーンホース達とケンタウロス達にはそれぞれ外に広い小
屋を建てようと思うんだけどそれで良いかな?﹂
﹁アタシは構わないわよ?マコもそれで良いでしょ。﹂
女性陣は個室、と。
﹁ちょっと。何でアタシに部屋がないのよ!﹂
アストラル・ワールド
リヴィエルとオトヒメがぶーたれてる。
﹁精神世界に帰ってれば良いだろう??﹂
﹁赤ちゃんの居る大事な身なのに・・・。﹂
げふっ!くそぅ、痛いとこ突くな。
﹁ハジメさん、私も欲しいです。私も赤ちゃん産むんですから。﹂
ぬぅ。仕方ない。
ソトノホウガ
オチツクナ。﹂
﹁分かったよ。1部屋ずつ上げるから文句言うなって。﹂
﹁オレタチハ
﹁私達も外の方が気楽ですね。人間の家は玄関が低すぎて入りづら
いです。﹂
それなら外にはまず小屋2つ、と。
﹁ガルーダ達はどうしたい?﹂
﹁私達は空にいるのが気楽、なのですが・・・。
残念ながらこの辺りは夏場が乗り切れそうにないのでアネモイと共
に1部屋使わせて頂けますか?﹂
そうか、高山の獣魔だったな。夏場が苦手なのか。
﹁了解、何なら外に涼しい小屋作っても良いけど?﹂
601
アストラル・ワールド
﹁氷精石での冷房さえ出来れば何処でも結構です。﹂
それならだだっ広い外に小屋作ればOKと。
﹁メドーアどうする?﹂
﹁俺は外に適当に寝る場所作っといてくれ。
普段は見張りがてらゴロゴロして、気が向いたら精神世界帰るし。﹂
こいつぐらい適当だと気楽なんだがなぁ。
﹁って事は、屋敷内は俺と女性陣で5部屋、外に小屋を大1、中2、
小1か。
ウェスタ、この辺りで建築頼むとなるとやっぱりドワーフ?﹂
﹁いや、この辺りはドワーフは少ない。ノーム達の方が数が多いな。
クラフト
クエスト
木を切るのならククノチ達にも話を付けに行った方が良い。
ノームはカシュールの工芸ギルドに居るだろうから依頼を出せば良
いだろう。
ククノチは森に入って呼びかければすぐに出て来てくれるだろう。
上手くすれば契約出来るかも知れんぞ。﹂
﹁サンキュー、近々行ってみるよ。﹂
◆ ◆ ◆
家具は装飾品の類を除いて勿体無いが処分する事にした。
テーブル、机、ベッドなどはどう言う使用方法をされていたのか分
インベントリ
からないので気持ち悪くて使いたくない。
調理器具一揃いは収納スペースに入っているのだが・・・。
﹁やっぱり食器とかも置いとかないと来客時とか不便だよなぁ。﹂
クラフト
﹁そうね。どうせ衣装棚とかベッドとかテーブルとか買わなきゃだ
し、工芸ギルドで良い店聞かなきゃだし、ノームに依頼出すついで
に一度傭兵都市カシュールってとこを覗きに行きましょう。﹂
602
﹁ハジメさん!ハジメさん!!この近く、綺麗な川が流れてますよ
ね!?泉もありますよね!?﹂
あー、そう言えばそうだ。井戸引いてる位だし水が綺麗なのは保証
済みだ。
﹁ゴメン、ウェンディーヌ、契約だし先に川の方、行ってくるわ。
もし遅くなったら俺達は今晩はカシュールで宿取れば良いしさ。﹂
黒一角獣
﹁了解、何なら先に移動しとこうか?アタシ、一回で良いから全力
のブラックホーンホースに一人で乗ってみたかったの。﹂
﹁イザナミ、そしたら一緒に行ってあげて良い?﹂
﹁リョウカイシマシタ。﹂
・・・アレ?これってそう言えば確か俺としか意思疎通出来てなか
ったんじゃ??
﹁ウェンディーヌ、イザナミと話せる?﹂
﹁え、ムリムリ。オウカとイザナギなら分かるけど・・・。﹂
そっか、流石に不便だな。。
﹁ハヤト、イザナミ、ちょっと体の力抜いて。﹂
マイクロ∼ズを展開させ2体の呼吸と共に大量に吸収させて行く。
イメージは自分の知識と力を分け与える感じ。
萌葱色の霧を吸い込んで行くと彼等の角が一瞬大きく伸び上がり、
各々色を変えた。
ハヤトのそれはグリーンタイガーアイの様な鈍く緑色を帯びた黒。
イザナミのそれは黒曜石とマラカイトの中間の様な、深い黒と爽や
かな緑の縞。
﹁ほう、何だか頭が良くなった様な感じがするぞ。﹂
﹁イザナギのどや顔が時々頭に来てたんです。﹂
成功の様だ。
603
﹁角の色も綺麗になったよ。同じように俺の魔力を取り込ませても
みんな変化が違うんだね。﹂
﹁角の色も人間から見たら全部同じに見えるかも知れんが、俺達に
言わせれば元々全部違う。﹂
そ、そうなのか。同種での見た目の違いとかは意外と分かるつもり
だったんだけどな。
奥が深いな・・・。
﹁まぁ取り敢えずこれでカシュールまで安心していけるだろ?﹂
﹁そうね、宜しくね、イザナミ。﹂
﹁こちらこそです。﹂
﹁・・・ねぇねぇ、僕も一緒に行って良い?﹂
トキツカゼ?意外なところから声が掛かるな。
﹁2人がOKなら俺は構わないよ?正直屋敷の警護は十分すぎるぐ
らいだし。﹂
ぶっちゃけ、どの獣魔1体でも殆ど問題無い。
・ ・ ・ ・ ・
にや∼り、とチェシャスマイルを浮かべ・・・。
﹁良いわよ?イザナミと一緒に行きましょうね?﹂
ウェンディーヌが意地の悪い台詞を吐く。
横向いて耳まで真っ赤なトキツカゼ。
︱︱!!そうなの!?
え!?こっちの世界の常識が分からんのだが、こう言うのも有りな
の?
まぁ、リヴィエルとクロノス孕ましてる俺が言うのもアレだけど・・
・。
﹁まぁ、それじゃ行きましょうか。ハジメ、こっちは何もなければ
1時間ぐらいで着くと思うし、急がないけど最悪夕飯までには来て
604
よ?﹂
﹁分かった。流石に同じ轍は踏まない様に気を付けるよ。﹂
﹁じゃぁ、気を付けてね。﹂
﹁そっちもね。﹂
605
嗚呼、麗しのMy Home︵後書き︶
このカップリングはケンタウロス出した時から考えてましたw
606
三者三様 Part1 ∼side ウェンディーヌ∼︵前書き
︶
パーティ組んで早速ですが、意図的に別行動を取らせて見ました。
離れてこそ分かるパーティの重み、って程でもないですけど、それ
ぞれがそれぞれの個性を出すには個別行動も良いかな、と思いまし
て。
607
三者三様 Part1 ∼side ウェンディーヌ∼
﹁やっぱり速いわね∼!!
黒一角獣
空路や海路ではクロノスとかリヴィエルに敵わなくっても陸上最速
は貴方達よね。﹂
﹁ハジメさんに力を頂いて以来、力が漲ってくるのを感じます。こ
れなら父にも負けません。﹂
﹁でも、ハヤトもハジメに魔力与えて貰ってたでしょ?結局差は縮
まらないんじゃないの?﹂
﹁若さと努力で私の方が伸び代があります!!﹂
カシュールまでの荒れた街道を走り抜ける中、ウェンディーヌはず
っとイザナミと話に花を咲かせていた。
俺達
﹁ちょっと、ウェンディ姉ちゃん!ケンタウロスも忘れないでよ!
!﹂
黒一角獣
﹁貴方達の特技ってただ速く駆ける事じゃないでしょう?治療技術
やハンティングの技術ではブラックホーンホースより遙かに優れて
るじゃない。﹂
﹁そうよ、それに私達より貴方達の方が森に適応してるじゃない。
私達は平原の獣魔ですもの。
私達には手が無いけど貴方達にはある。能力の方向性の違いじゃな
いかしら?﹂
流石に殆ど生まれた時期が同じにも関わらずイザナミの方が精神的
に成熟している様だ。
︵生まれた時期も殆ど同じ、彼等は成熟までの速度も恐らく同じぐ
らい・・・。
要するにこの2体は幼馴染みみたいなもんなのかな?︶
608
お隣の誰々ちゃんに親しみを覚える、そんな感覚なのだろうが、流
石のウェンディーヌも彼等が成熟するまでの期間など良く知らない。
︵リヴィエル、知ってる?︶
︵平均して3ヶ月から半年ぐらいだったと思うけど、個体差が大き
いわよ?︶
成程、今の所明らかにイザナミの方が先を行っている様だ。
﹁ねぇ、折角少数で移動してるんだし、早駆けしようよ。﹂
トキツカゼが誘いを掛けてくる。余程イザナミに負けたくないらし
い。
︵好きな女の子には負けたくない、って言うアレ?分かりやすいわ
ねぇ。︶
﹁そうね。大所帯での移動で屋敷に着くまではどうしても時間掛か
っちゃったし今日は思いっ切り走りましょうか。ウェンディーヌさ
ん、何処か目印になるところありますか?﹂
﹁この街道には一里塚が置いてある筈なんだけど・・・。整備が行
き届いてないみたいであんまり見かけないわね。﹂
﹁じゃぁ、次の一里塚まで競走と行きましょうか。カシュールまで
に一個ぐらい在るでしょう。トキツカゼ、それで良い?﹂
﹁僕は何でも良いよ∼。﹂
﹁ウェンディーヌさん、合図をお願いします。それと、しっかり捕
まってて下さいね。落っこちたら怪我じゃ済まないと思いますので。
﹂
﹁・・・いずれ貴方達用の鞍が欲しいわね。良いわ、いざとなった
GO!!﹂
らリヴィエルに受け止めて貰うから。﹂
﹁Ready・・・
609
ぐわん、と体が思いっ切り後ろに引っ張られる感触。
︵こ、これは龍籠並の鞍が欲しいわね。。︶
ぎゅんぎゅん景色を引き離しながら2頭は駆ける。
時折視線を交わし、互いに挑発し合う様に笑いながら。
リードされたかと思えば追いつき、追い抜かれたかと思えば抜き返
し。
まるで会話を楽しむかの様に、否、将に無言の会話を楽しんでいた
のだろう。
どれ程の距離を駆けたのか。
やはり荒れているとは言え整備された街道。
単純な道を走るという点で少しずつイザナミが引き離し始める。
遙か視線の彼方に塚が見え始めた時、ラストスパートを賭ける様に
トキツカゼが猛烈にダッシュをした!
︵︱︱!!マズい!!︶
ウェンディーヌは必死でイザナミのタテガミを引き、合図を送る。
速度が速すぎてまともに口が開けないのだ。
その僅かな瞬間でイザナミはウェンディーヌの意図に気付き、脚を
緩める。
勝利を確信したトキツカゼが塚を駆け抜けた時・・・。
ひゅんっ!!
彼の横腹に矢が襲いかかった。
◆ ◆ ◆
﹃ウォーターガン!!﹄
610
ウェンディーヌの声と共に矢が打ち落とされる。
辛うじて発動が間に合った。
本来これ程命中率が高い技ではなく、問答無用でぶっ飛ばす物。
馬上からよくぞ上手く当たってくれたと思う。
油断していたトキツカゼも流石に異常に気付き、既にこちらと合流
している。
﹁山賊、ですね?﹂
イザナミが確認してくる。
﹁そうみたいね。流石に治安が良くないって言うだけ在るわ。
都市にこれ程近い場所で出没するなんて・・・。﹂
インヴォーカー
後、50kmも走ればカシュールに着くのである。普通の人間相手
なら兎も角、獣魔師に依頼をすればあっという間に片付けられてし
まう距離だ。
﹁・・・マズいわね。﹂
ざっと見たところ賊の数は20前後。
ハンター
ソーディアン
大した人数ではないのだが、全員が上手く森に溶け込んでおり、1
0人程は弓を構えてこちらを狙っている。
ランサー
プリースト
︵ウェンディーヌ、あいつら恐らく元々ギルド所属の狩人とか剣士
とかよ?︶
︵・・・みたいね。マズいわ。見たところ槍術師やら僧侶っぽいの
まで居るし・・・。︶
リヴィエルと念話をしながら策を練るが、どうも旗色が良くない。
街道に出てくれば兎も角、イザナミは森での戦闘に向かない体だし、
ウェンディーヌの技も各個撃破より纏めて殲滅を得意とする。それ
に森が天然の盾となって水攻撃は相性が悪いし、何より近接戦闘で
彼等とまともにやり合うのは流石にキツい。
611
︵唯一の頼みはトキツカゼだけど・・・︶
彼もまだ単独での戦闘経験が浅く、先程の様な不注意を起こす事も
考えられる。
︵仕方ない・・・。︶
﹁出て来なさい。全員、位置は把握してるわ。アタシ達を狙っても
奪える物なんか無いのよ?﹂
いっそ、道に降りてこられる方が対処がしやすい。
そう判断して山賊に呼びかけた。
森の中でざわざわと話し声が聞こえる。
ひゅんっ!
かきぃんっ!
無言の返答がウェンディーヌに向かって放たれたが、今度はイザナ
ミが角を振るって弾き飛ばした。
﹁あくまでやろうってのね・・・?リヴィエル、﹃ウォータースラ
ハンター
イサー﹄!!﹂
狩人4∼5人が隠れていたところを狙って森ごと斬り付ける!!
ランサー
3人が倒れ、2人は軽い怪我で済んだ様だ。
ソーディアン
﹁頭張ってる奴、どうせそこの剣士か槍術師のどっちかでしょ?
死にたくなかったら出て来なさい。今ならまだ交渉の余地があるわ
よ。﹂
実際にはウェンディーヌとしてはこの場の戦闘を避けたいところだ。
612
ソーディアン
ランサー
﹁ほう・・・、そこまで分かってんのか。なら降りて行って相手し
てやるよ。﹂
降りてきたのは剣士と槍術師の両方だった。
︵2人同時・・・。ちょっとキツいわね。︶
﹁俺等はこの辺りを仕切ってるモンだ。通行料を払ってくれりゃぁ、
別に命まで奪わねぇ。
金にならない獣魔どもにも興味はねぇ。そうだな・・・。3000
万で勘弁してやる。
仲間殺されてるのに、有り金全部なんて言わない辺り俺様は寛大だ
ろう??﹂
次いでにやり、とイヤラシい笑みを浮かべ、
﹁何ならお嬢ちゃんが一晩俺等のアジトでお相手してくれても良い
ぜ?
一晩3000万なんて今時どんな高級店でも居やしねぇ。﹂
森中に卑猥な笑い声がこだまする。どうせ一晩で解放する気なんて
更々無いのだろう。
︵救いようのない連中ね・・・。︶
交渉の余地無しか・・・。
︵リヴィエル、イザナミとトキツカゼに念話出来る?行くわよ?︶
︵了解、でも分かってると思うけど中々に相性の悪い相手よ?︶
︵街道右手の連中を纏めてアタシが引き受ける。トキツカゼに親玉
2人を相手して貰って、左手は一旦イザナミに背中守って貰うわ。
最後に左を纏めてアタシが片付ける。︶
﹁貴方達2人の命と引き替えに仲間を殺さないでくれ、って命乞い
にでも来たのかと思ったわ。
残念ながら私の体もお金も貴方達の物じゃないの。﹂
自分一人で旅してた時なら或いは金で解決も考えたかも知れない。
613
だが、今はこのお金はアタシ一人の物じゃない。
ましてやアタシの体はこんな薄汚い連中の物では決してない。
︵GO!!︶
﹁リヴィエル、﹃タイダル・ウェイブ﹄!!﹂
ソーディアン
リヴエルは瞬時に龍体を取り、ウェンディーヌ達を守る様に召喚さ
れた。
彼女の呼び出した潮が、森を、人を、呑み込んで行く。
ランサー
トキツカゼは槍術師に弓を放つと同時にナイフに持ち替え、剣士に
ランサー
飛びかかった!
ランサー
槍術師も然る者、盾を構えて矢を去なそうとしたが、彼の得物は両
手槍。
小さな盾で去なし切れなかった矢が腕を掠めて行く。
その小さな傷で人間相手には十分、矢毒が瞬時に回り槍術師は一瞬
で崩れ落ちた。
ソーディアン
その時既にトキツカゼは小さなナイフ2本で剣士と切り結んでいた。
クレイモア
﹁見たところまだ子供だろうに中々やるじゃねぇか!﹂
身の程もある大剣を軽々と振り回し、舞踏を踊る様に斬り付ける!!
しかしトキツカゼは、その凄まじい剣戟を小さなナイフ2本で易々
と受け止め、躱し、反撃を繰り出す。
﹁ちっ!ちょこまかと面倒な奴だ!!﹂
所詮、相手の得物は小物。
剣圧で押し切ろうと上段に構えた瞬間、トキツカゼが彼に背を向け
て走り出した。
ソーディアン
﹁︱︱!!逃げんな、このヤローが!!﹂
剣士が彼を追いかけ、追い詰めた時・・・。
614
ぱかあぁぁんっ!!
半人半馬
ソーディアン
﹁逃げてないよーだ。僕がケンタウロスだって忘れてない?﹂
強烈な後ろ蹴りを腹に喰らい、剣士は鎧をぐちゃぐちゃにしながら
10m程も吹っ飛ばされた。
トキツカゼの活躍を横目で見ながら、エーテルで何とか息を整えた
ウェンディーヌは残りの敵に向き合う。
幾つか矢が放たれていたが全てイザナミとリヴィエルによって防が
れていた様だ。
﹁これで最後!!リヴィエル、﹃タイダル・ウェイブ﹄!!﹂
全力を振り絞った一撃!
威力よりも範囲に焦点を絞り、一人残らず殲滅する事を目的にして
いる。
召喚された潮が引いた時、森に隠れていた敵は残らず絶命していた。
◆ ◆ ◆
インベントリ
ウェンディーヌが膝を折る。
収納スペースからエーテルを取り出し、呼吸を整える。
初めてのコンビネーションにトキツカゼとイザナミが満足げに視線
を交わし合い・・・。
どすっ!!
クレイモア
イザナミの首筋に大剣が生えた。
時がコマ落としの様にコトコトと進む。
振り返った先には血だらけながらイヤラシくも満足な表情を浮かべ
615
ソーディアン
た剣士。
﹁これでもポーションぐらい持ってるんだぜ?﹂
辛うじて命を拾い、愛剣を投げつけてまで一矢報いようとしたと言
う事か。
﹁リヴィエル、﹃ウォータースライ・・・﹄﹂
う゛わり
﹁︱︱!?﹂
首を刎ねようとしたウェンディーヌであったが突如寒気を感じる程
の魔力に手を止めてしまった。
﹁グウウウウォオオオオラアアアァァァァァ!!!!!!!﹂
猛々しい、否、狂おしいまでの咆哮と共に五月雨の如く穿たれる矢
の嵐。
時が加速を始めたかの如き突進。
余りの残像に手が増えた様に見える程の瞬速の切り裂き。
ソーディアン
・・・
︵・・・手、ほんとに増えてる??︶
ぐちゃ
どぐぢゅる・・・
倒れた剣士を更に半馬の六本足が踏み付ける。
ぼご
狂気に満ちた瞳。
喜怒哀楽の内の3つを何処かに置いて来てしまった表情。
ウェンディーヌは暫し時を忘れていたが、はっと我に返りイザナミ
に向き合う。
616
﹁そこまでだ、トキツカゼ。彼はもう死んでいる。﹂
空から舞い降りてきたトールが声を掛ける。
いや、これはトールを通して・・・。
﹁ハジメ!!﹂
いつの間にかイザナミの側にアネモイも居る。
﹁ゴメン、危なくなってすぐに2人を向かわせたんだけど間に合わ
なかった。
それよりもまずイザナミの治療をしよう。
トキツカゼ、ここから先は君しか出来ない。﹂
﹁君が、イザナミを助けるんだ。﹂
◆ ◆ ◆
ケイローンの加護
だ。まさか親子で発現するとはな。﹂
﹁ハジメ、トキツカゼのあの姿・・・。﹂
﹁ああ。
極上ポーションと気付け薬を渡し、後は彼に全て任せる。
念の為、アマツカゼにも状態は実況で伝えてあるが処置は正確な様
だ。
程なくしてイザナミは息を吹き返し、ゆっくりと体を起こした。
﹁イザナミ!まだ起き上がっちゃダメだよ!!﹂
﹁いえ・・・。私の不注意でみんなに心配かけてゴメンなさい。。﹂
﹁ううん、僕が悪いんだ・・・。助かって良かった。。﹂
トキツカゼが涙を溢すと奇怪で猛々しいその姿はするすると縮み、
元に戻った。
僕が悪かった、いえアタシが、いや私です、いいえ一番実力のある
アタシなの、と全員が責任を主張する。
617
﹁今回は不測の事態も多かったが、俺が思うに一番責任があるのは
トキツカゼだと思う。
最後のあの投剣、あれはまずトキツカゼがきっちりトドメを刺して
いれば起こらなかった。
そしてその後の攻撃。アレは逆に明らかにやり過ぎだ。一撃でトド
メを刺して即座にイザナミの治療に向かわねばならなかったのにた
だ鬱憤を晴らすだけの行動を取った。
俺は君と獣魔契約する時、何て言ったか覚えてるか?﹂
流石に思い出したのか、彼は一際大きく項垂れる。
﹁優しさを以て力を奮う事・・・。﹂
﹁俺がメドーアと獣魔契約する時、何て言ったか覚えてる?﹂
﹁優しさ無き力は暴力・・・。﹂
インヴォーカー
﹁本当なら獣魔師よりも獣魔の方が上位の精神生命体な筈なんだ。
だから俺には君達を本当の意味では裁けない。﹂
﹁でも、俺の仲間を危険に晒すのはダメだよ?﹂
﹁はい・・・。﹂
﹁ま、この先はトキツカゼが最も苦手とする人に叱って貰う事にす
るから。﹂
﹁︱︱!!そ、それはどうか御勘弁を!!﹂
﹁ダ∼メ。アマツカゼにはイザナミの治療も既に見てて貰ってるか
らね。﹂
が∼ん、と聞こえてきそうな程項垂れた彼を見て、後は任せても良
いだろうと意識共有を解いた。
618
◆ ◆ ◆
結局その日はその近辺で野営となった。
インベントリ
念の為、ガルーダ兄弟がそのまま同行する事となり、彼等が山賊の
遺体を片付けてくれた。
金目の物は剥ぎ取り、親玉二人は武器と首を収納スペースに収納し
た。
﹁トキツカゼ君。﹂
まだ項垂れてるトキツカゼの所にぽこぽことイザナミが歩いて来る。
﹁まだあんまり歩いちゃダメだよ。ほんとゴメンね。﹂
かぷり
首元に軽く噛み付いてくる。
﹁・・・えっ!?﹂
黒一角獣
﹁お礼、まだちゃんと言ってなかったから。﹂
﹁ブラックホーンホースってお礼する時そうやるの?﹂
﹁そうね。お礼する時、謝る時、感謝する時・・・。﹂
﹁へぇ・・・、変わってるね。﹂
﹁あと、***な時も・・・。﹂
﹁︱︱!!﹂
かぷかぷかぷかぷ
かぷかぷかぷかぷ
﹁ねぇリヴィエル、もうさっさと進んじゃって良いかしら?﹂
﹁ま、良いじゃない。仲良き事は美しき事よ?﹂
619
三者三様 Part1 ∼side ウェンディーヌ∼︵後書き
︶
ダメだ。どうやっても3人の行動はそれぞれ1話ずつは最低要りま
すね。
ハジメの二つ名、何時になるか分からなくなってきましたw
620
三者三様 Part2 ∼side ハジメ∼︵前編︶︵前書き
︶
裏方で頑張ってくれていたけどかなり影の薄いオトヒメちゃん。
さて、どうやって個性を出しましょうか・・・。
621
三者三様 Part2 ∼side ハジメ∼︵前編︶
ハジメ達が居を構える土地は標高のそれ程高くない山岳地帯。
領土で言えばライスセミア幻神国の傭兵都市カシュールに含まれる
のであろうが、都市を少し離れたこの辺り迄は統治が行き届いてお
らず、厳密にどこどこシティ、と言える様な場所ではない。
カシュールの近く。
カシュールの南側。
そんな表現以外にこの場所を表す方法が見当たらない。
星の隅々まで測量して作成された地図もなければ、そもそも星の形
もまだ良く分かっていないのだから。
ではそんな田舎としか言いようのないこの場所が不便かと言われる
と実はそうでも無いのである。
街から300km。
普通なら東京∼大阪に相当する様な距離だが、ハジメの使役する獣
カンパ
魔の機動力を以てすれば﹁ゆっくり行っても小一時間。﹂てなとこ
だ。
ニー
明らかに大所帯で図体もデカく、喧嘩っ早いの迄混ざってる使役獣
魔を引き連れてわざわざ街暮らしをする理由が薄い。
それよりも豊富な自然と資源を活用して、のんびり羽伸ばせるとこ
の方が良い。
﹁水です!川です!!泉です!!!﹂
屋敷の側にも川は流れていたし、飲料水を含めた生活用水や農業用
水などはそこから引いているのだが、オトヒメの希望により人目憚
らず泳ぎ回れる泉まで引っ張ってこられた。
622
それに、森に囲まれた上流の方が清らかで魔力を満たすのに適して
いるのだとか。
森は冷え冷えとしていて直前まではブレスレットに籠もっていたと
言うのに泉に着いた途端、元の半人半魚の姿で泉に飛び込んだ。
﹁オトヒメ!そっちは!!・・・ってまぁ大丈夫か。﹂
泉の中に姿を消したオトヒメ。
透き通った泉の中央より波紋が広がり始める。
次第に泉全体に広がった波紋は魔力を伴い空気中にも放たれて行く。
調べ
ハーモニー
。
伸びやかな、艶やかな、繊細で清楚でありながら聞く者を魅了し虜
にする彼女の
リザードマン
オトヒメは時折水面に顔を出し、泳ぎ、跳ね、くねらせ、全身に水
を纏わせながら歌い続ける。
馬魚妖
彼女を弓やレイピアで狙っていた蜥蜴人は既に武器を捨て、泉の先
シンクロ
住人であるアハ・イシュケは傅く様にオトヒメの後を泳いでいた。
︵やっぱり心配なかったか・・・。︶
歌は終わるどころか益々勢いを増して行く。
泉全体から広がり、草木が、森が、周囲を包む大気が、共鳴を始め
る。
大地への、自然への、星への賛歌。
その合間、合間にチラチラとこちらを振り返る。
歌も何時か恋の誘いの歌詞へと変わっている。
︵さっきまで子供みたいにはしゃいでたかと思ったら・・・︶
上着を脱ぎ捨て、泉に飛び込んだ。
日本では考えられない程の透明度。
︵これなら俺でも魔力が補給出来そうにも思えるぐらいだな・・・。
623
︶
涼やかな泉の感触を楽しみながら中程へと泳ぎ着くとオトヒメの姿
が見えない。
周囲を探すと少し離れた所でニコニコとこちらを向いている。
そちらへ泳ぎ着くとまた違う場所へ。
次もまた、次もまた、と彼女の誘いは続く。
︵・・・そろそろ疲れてきたな。。︶
近くまでゆっくりと泳ぎ、そろそろ逃げるかな、と言うところでピ
アスをこっそりと変形させ、大きな鰭形のブーツにする。
︵せーのっ!︶
一気に全力で泳ぎ、逃げようとしたほんの一瞬前に彼女に抱きつい
た。
﹁きゃっ!?﹂
﹁捕まえた♪﹂
﹁もう・・・。水の中で私に追い付くとかどんだけヘンタイな人間
ですか。﹂
﹁なっ!!ヘンタイは関係ないだろ!!﹂
﹁あ、ヘンタイは否定しないんですね♪﹂
2人してころころと笑い合い、ゆっくり岸まで泳ぎ始める。
﹁やっと2人になれましたね。﹂
そろそろ辿り着こうかという時に彼女が話しかけてきた。
﹁契約、果たして貰えますね??﹂
﹁中々に露骨なお誘いだったからみんな気付いちゃってるんだろう
なぁ・・・。﹂
﹁えっ!えぇっ!?そうなんですか??﹂
624
いや、普通気付くでしょ、と思いつつ彼女の意外と可愛らしいとこ
ろを見れた嬉しさもある。
﹁アレ?ひょっとして初めて・・・とか言わないよね??﹂
﹁えぇ。ハジメさんより何桁も沢山の人数としてると思いますが・・
・。﹂
リヴィエルと言い、表現方法が桁違いで何かもう嫉妬とかも沸かな
い。
しかし、それにしては・・・。
﹁ひょっとして恋愛経験は少ない??﹂
﹁光栄に思って下さい。好きになったのはハジメさんが初めてです。
﹂
今までどうしてたんだ、と思ったが、よく考えれば彼女は精神を操
れるんだった。
駆け引きとかをした事がないのだろう。
﹁契約だからじゃないよ?﹂
﹁??﹂
﹁好きじゃなきゃこんな事しないって。﹂
戸惑いながら振り向くオトヒメ。
水上で抱きしめ、口付けを交わした。
◆ ◆ ◆
﹁︱︱!!﹂
不意打ちを受け、体の力がくにゃりと抜けた。
今までは気に入った男は歌で魅了して来ていたから、まともに︵?︶
チャーム
口説かれた︵???︶のなんて実は初めてだったりする。
魅了がかかった状態で愛を囁いてきた男達もそりゃ沢山沢山見てき
たが、それは自分がそう仕向けた訳であり、彼等の本心を聞いたか
625
どうか既に定かではない。
チャーム
実はさっきの歌にもこっそりきっちり魅了は仕込んで置いたのだが、
ちっっっっっっっっとも効かなかった。
効きづらい相手、と言うのは勿論今までにも居たが、戦闘状態でも
敵対状態でも緊張状態でも何でも無いのにじっくりしっかり歌に聞
き惚れていながら全く精神を乱されないなんて彼は本当に人間なの
だろうか?
ぬちゃるゅ・・・
ぴちゃ・・・
︵キスされてからここまで考えるのに約0.2秒︶
んちゅる・・・
﹁︱︱!!!!!﹂
我を忘れて居た間に気付けば浮くのを忘れて居た。
その間、ぽこぽこと沈んで行ってたのにハジメさんはキスを止めな
いどころか舌まで絡めてきている。
︵大丈夫だよ?︶
︵??︶
︵潜水、得意だから。︶
そう言う問題じゃないでしょう!!
あなたは本当に人間︵以下略︶
彼の抱擁を受け入れ、受け返し、ゆっくり浮上した。
◆ ◆ ◆
﹁あの状態であんなに沈んだら水圧がキツかったでしょう?﹂
﹁潜水、得意だから。﹂
626
﹁そう言う問題じゃないでしょう!
全く、あんなタイミングで念話使ってくるなんて獣魔契約の無駄遣
いです!!﹂
ぴく
﹁無駄遣い??﹂
あらら?米神に碧い血管が・・・。
﹁俺とオトヒメの絆とも言うべき獣魔契約を俺が無駄遣いしたって
言うの?﹂
あらららら??碧い血管が太く・・・。
﹁分かった。無駄な契約なんて解消しよう。そうしよう。ごめんね、
オトヒメ。﹂
あらららららら???血管がどんどん太くなっていくのに口調が穏
やかになっていく??
﹁え、えっと!!そうじゃなくって・・・。﹂
﹁何が違うの?大事な大事な、この世界の一部を構成する上位精神
生命体オトヒメ様との契約を無駄遣いしたんなら俺は世界に詫び入
れて契約解消しなきゃじゃん。﹂
﹁そ、それは確かに理屈ではそうなんですけど!そうじゃなくって、
えっと、あのその、あれは言葉の綾と言うかちょっと勢いで言って
しまったというか・・・。﹂
にた∼り
﹁じゃぁ、俺は悪くないの?﹂
﹁あ、えっと、はい・・・、ハジメさんは悪くないです。﹂
627
﹁じゃぁ、悪いのはオトヒメ?﹂
﹁うっ!えっと、あぅ・・・。﹂
﹁ごめんなさい、は?﹂
﹁え??﹂
﹁ごめんなさいと有難うがちゃんと言えるようにって俺達の国では
育てられたんだ。﹂
にた∼り
勿論口から出任せである。
にた∼り
﹁・・・ゴメンなさい。。だぁ∼∼っ!!納得行かない!!﹂
﹁ははは、オトヒメが感情表に出すのなんて初めて見たね。﹂
﹁私達は他人の精神を操る側ですからね。いつも冷静なOLお姉さ
んタイプなんです。﹂
豊満な胸をえっへんとばかりに突き出し、鱗をキラリと輝かせた所
までは中々に決まっているのだが、残念な事に何分見た目がぶっち
ぎりの幼女である。どう見てもOLには見えない。
﹁・・・て言うかいつの間にOLなんて言葉覚えた??﹂
﹁ハジメさんの思考や嗜好は色々と勉強しましたよ?例えば・・・。
﹂
﹁こんなのとか。﹂
おお!リアルOL!!ロリ巨乳OLとか萌えるな!!
﹁こんなのとか。﹂
ブルマ&体操服!!これはまともに似合うな!!
﹁こんなのとか。﹂
﹁︱︱!!﹂
﹁あれ?これは言葉を失う程感動しました?それなら今日はこのま
628
ま・・・。﹂
いやいやいや!!その黄色い帽子に水色のスモック、肩掛けカバン
は色々マズい!!主にあっちの世界の首都条例的に!!
まぁ、18歳未満どころかオトヒメは問答無用で数百か数千歳かの
筈だしな。
ビバ!!合法ロリ!!
水上でのコスプレ鑑賞会となっていたがそろそろ体が冷えてきた。
岸に戻ろうとしたら・・・。
﹁ハジメさん、水の上でして見たくないですか?﹂
﹁いや、流石にそこまで泳ぎ上手くないぞ??それにちょっと冷え
て来ちゃったけど。。﹂
﹁大丈夫です。足が着くところなら良いでしょう?それと・・・。﹂
シュルシュルシュルシュル・・・
魚型の下半身が俺の両足を絡め取り、俺は泳がずともふわりと体を
浮かせてくれる。
﹁これで暖かいでしょう?﹂
ぴちゃ・・・
オトヒメの体は肌理の細かい鱗で覆われていて、じんわりと暖かだ
った。
◆ ◆ ◆
ぴちゃ・・・
水上で水音が跳ねる。
唇を重ねながら彼女の双乳をたぷたぷともてあそぶ。
大きさはウェンディーヌやマコに及ばないが、見た目が●学校高学
年程度の見た目で有りながら彼女らに負けず劣らずのたっぷりとし
629
たバスト。
押せば手に絡みつく様なねっとりとした感触はふわふわとしたマシ
ュマロの様なウェンディーヌとも押せば押し返すリヴィエルとも違
う。
誰よりも飛び抜けて色素の薄い綿雪の様な肌の上でちょこんと顔を
出している乳首はここも薄い桜色で豊乳の中にあって酷く控えめだ。
コリコリと刺激すると目を閉じて舌を受け入れていた彼女の体が、
ぴくっと跳ねた。
一瞬、確かに目を開け、うっとりと愉悦を浮かべたがそのまま再び
閉じてしまった。
﹁気持ちよかったの?﹂
ふるふる
首を振って認めようとしない。それならば・・・。
てっぺんから・・・
摘む様に・・・。
背中に回して抱きしめていた片腕も外し、両手で乳首を攻め立てる。
周りから・・・
色々な角度からじっくり愛撫を続けていた時・・・
ぴくーんっ!
再びオトヒメが跳ねた。
︵みぃつけた♪︶
﹁これ、かな?﹂
630
﹁はくぅんっ!﹂
少し強く摘み上げた後、そろそろと焦らす様に摘まれると弱いらし
い。
嬉しいです。もっと、もっといっぱい愛して下さ
﹁もっといっぱい感じて良いよ?可愛いね、オトヒメ。﹂
﹁ぁうぅ・・・
い。もっと、いっぱい優しい言葉囁いて下さい。
こんなにじっくり愛されたの初めてです。。﹂
﹁大好きだよ。愛してる。いっぱい感じて?俺の、俺だけのオトヒ
メ。﹂
﹁はふぅっ!!!!﹂
きゅーんと俺に回された腕に力が入り、足の締め付けが強くなる。
はぁはぁと息を吐くその姿は・・・。
﹁ゴメンなさい、ハジメさん・・・。気持ちよすぎて逝っちゃいま
した・・・。﹂
えぇっ!?俺、まだそんなに強く攻めてないぞ??
﹁私、今まで歌で魅了した男しか相手にした事がなかったので・・・
。ちゃんと心から﹃好き﹄って言われたり、愛情込めて愛撫された
りしたのなんか初めてで・・・。﹂
﹁つまりは、普通の恋人同士のセックスが初めてって事!?﹂
﹁そ、そんな!!私達と恋人になってくれる様な人間なんて居ませ
んよ。大抵の人間は私の力を求めて契約を迫ってくるか、畏敬と尊
敬の対象とするか。たまに美味しそうな人間が居たら魅了するので
一生懸命愛を囁いてくれたりはしますけど・・・。﹂
なんてこった。要するに彼女は体は十分に経験済みだけど、いわば
恋愛に関して処女同然なんだ。
631
﹁凄いな。どれだけ生きてるのか知らないけど俺が初恋??﹂
﹁はい!嬉しいです。人間でも初恋の相手の子供は中々孕めないの
に。﹂
そっちかよ!!まぁ、それが彼女なりの愛し方なら良いとしよう。
632
三者三様 Part2 ∼side ハジメ∼︵前編︶︵後書き
︶
長くなったので分けます。エッチシーンは最近どうも冗長ですねぇ。
633
三者三様 Part2 ∼side ハジメ∼︵後編︶︵前書き
︶
エッチシーンをエロく書く方法を教えて下さいorz
634
三者三様 Part2 ∼side ハジメ∼︵後編︶
チャーム
全力で歌いますよ?覚悟してて下さいね?﹂
﹁オトヒメ、君の歌が聴きたいな。﹂
﹁ふふっ♪
シンクロ
世界中を共鳴させて彼女の歌が響く。
どくんっ
﹁︱︱!?﹂
歌詞と曲調が変わった。
俺を誘い、いきり立たせる。
﹁オトヒメ・・・?﹂
﹁えへへ、さっき気持ちよくしてくれたお返しです。魅了は使って
シンパシー
ないですよ。
同調でこっちの気持ちよさを伝えただけです。﹂
一気に体がボルテージを上げる。
電流を流された様に思考が加速する。
乳首を摘み、首筋に舌を這わせる。
﹁ぁふうぅっ!そこ、乳首もっとぉぉ・・・﹂
彼女も感度が上がってきたのだろう。
先程より遙かに強い刺激も余裕で受け止めさらに貪欲に求める。
﹁あ、あの、アソコも舐めて下さい。。﹂
635
﹁アソコって・・・、下半身ロックされてるこの状態じゃ無理だよ
?﹂
言いつつもねっとりとした蜜を溢す淫裂を撫でる。
﹁そこじゃなくって・・・。その・・・耳を・・・。﹂
後半はかなり小声で殆ど聞こえなかった。
耳元に口を近付け、息を吹きかけながら聞いてやる。
﹁声が小さいよ?可愛い声、聞かせて欲しいな。﹂
﹁はぅっ!そ、そんな耳元で・・・可愛いとか言っちゃダメですぅ。
耳、耳が良いんです!﹂
音使いの性感帯はお耳?
語りかけただけで指先に感じる膣の感触が一気にぬめりを増し、き
ゅんきゅん締め付けてくる。
かぷ、と唇ではさみ、耳の奥まで舌で蹂躙する。
﹁いやぁっ!うぅん、違います、嫌じゃないです。良いです。もっ
と、もっと、もっと舐めてぇっ!﹂
襞の一つ一つまで舌を這わせ、奥をほじり、耳たぶに激しく噛み付
く。
﹁可愛いオトヒメ、いっぱい感じてね?﹂
﹁かひゅぅふあぁぁぁあぁぁんんっっ!!!!﹂
一際大きな声を立て、激しく逝った。
◆ ◆ ◆
淫裂からはとくとくと暖かな液体が流れ出ている。
636
水中で見えないが、密着した下半身にはしっかりとそれを感じられ
る。
︵まさか耳であんなに逝くなんて・・・。︶
逝った時には痛い程に締め付けていた下半身も今では力を無くして
いる。
・・・と、するするとそのまま解かれてしまった。
﹁ハジメさん、次はもう一つの私の性感帯で味わわせて下さい。﹂
魚体がくねくねと動き、彼女の体をボートの様にして69の形にさ
れた。
﹁あーむ♪﹂
何の前触れもなく咥えられた。
ずじゅじゅるるる!
﹁︱︱!?﹂
そのまま呑み込まれた。ペニスどころか玉まで一気にだ。
﹁あんっ!ハジメさんのが当たってます。ハジメさん、気持ち良い
ですかぁ?﹂
喉の奥まで咥えながらも苦もなく話しかけてくるのは流石と言うべ
きか。
﹁オトヒメの口の中、暖かいよ。喉の中もアソコみたいに襞がうね
ってくる!﹂
﹁動いて良いですよ?思いっ切り、突いて突いて、今度はハジメさ
んが気持ちよくなって下さい。﹂
言いながら既に彼女は口全体で俺のモノを刺激している。
637
くちゅ、くちょ、とわざと音を立て、玉、根本、裏筋、カリ、先端
と余すところ無く愛撫を繰り返す。
いや、むしろ彼女自身が味わっているかの様だ。
俺も負けじと突き込む。
幼い顔のオトヒメの口を蹂躙する背徳感に肉棒が一層力を増す。
攻め立て合っていた時、オトヒメが囁いた。
﹁成程、ここですね?﹂
﹁︱︱!!﹂
裏筋の少し腋、幹の左右を根本から先まで一気に攻められた時、あ
っという間に余裕が無くなった。
どぐどぐどぐどぐっ!!
﹁逝く!﹂
どぐん!
一言のみ告げて、叩き込む様に欲望を吐き出す。
予感していたかの様にオトヒメが根本まで深く吸い込み、中で優し
く愛撫を続けてくれた。
俺が吐き出しきった後、痛みを感じない様にそっと全部舐めとり、
幼い表情に淫卑さを交えてにっこり微笑んだ。
◆ ◆ ◆
﹁美味しい・・・。﹂
頬に手を当ててほっこりとした笑みを浮かべる彼女はやっぱり大人
っぽくも見える。
﹁あー何か契約してるとそうらしいね?﹂
638
﹁あ、それ言うんなら私も怒りますよ?﹂
﹁??﹂
﹁契約してるから美味しいんじゃないです。ハジメさんだから、好
きな人のだから美味しいんです。﹂
ぷい、とそっぽ向いた顔はやっぱり幼くも見える。
この二面性が彼女の魅力なんだろう。
﹁ゴメン、お返しされちゃったね。じゃぁお詫びに何か一つ小さな
お願い聞いたげる。﹂
﹁もう予想通りでしょうけど・・・。そろそろちゃんと一つになり
たいです。﹂
﹁音使いの姫様、ご希望の姿勢など御座いますでしょうか。﹂
くるくる、しゅるしゅる
再び下半身が巻き付き、2人を浮かび上がらせる。
﹁こうが良いですね。﹂
変形の対面座位?これだとあんまり自由に動けないけど・・・。
﹁何を心配してるか分かりますよ。ここぐらい経験の差を見せてあ
げましょう。
その代わり・・・。﹂
その代わり?
﹁ハジメさんは耳元で﹃好き﹄って言って下さい。
マコさん程じゃないですけど、心込めてなかったら多少は心音で分
かるんですからね?﹂
639
大人びた発言の後での幼い要求。
彼女の持つ大きな力が故に生んだアンバランスな魅力。
ゆっくり抱き寄せ、耳朶を噛む。
舌を差し込み、在り来たりな言葉に想いを乗せて囁いた。
﹁大好きだよ。一つになろう。﹂
それだけでふるふると体を震わせたところを見るとやっぱり軽く逝
ってしまったらしい。
﹁行きますよ?﹂
オトヒメは今だ痙攣の続く自らの膣口にハジメのモノを沿わせたか
と思ったら、一気に奥まで呑み込んだ。
ナカ
︵くぅっ!これは今までで一番凄いかも知れない・・・。︶
オトヒメの膣内は熱くうねり、強すぎず、緩すぎず、完全にハジメ
の形にぴったりになっている。
﹁えへへ、どうです?ちょっとは自信有るんですけど。﹂
﹁凄いね。とっても気持ち良いよ。何か俺専用、って感じ。﹂
﹁そうですよ。さっきハジメさんのを覚えて形を合わせてみました。
﹂
︵そんな便利能力有るのかよ!︶
ナカ
話す間も膣内は蠕動が続き、動いても居ないのに扱かれているかの
様な強烈な快感。
が大きく蠢く。
ぐぢゅ・・・
−魚の部分−
ペぢょ・・・
更に彼女の下半身
ぬぢゅ・・・
2人の密着は解けそうで解けない。彼女の抱擁の中で抜き差しをさ
せて貰える。
640
ナカ
ハジメさんのが膣のオクを叩いてま
﹁くあっ!オトヒメの膣内熔けそうだっ!﹂
﹁あふぅっ!あぁんぅ・・・
す・・・。気持ち、良いですかぁぁ・・・?﹂
﹁な、何かされっぱなしでちょっと悔しいんだけど・・・。﹂
﹁えぇ・・・、気持ちよくないですか??﹂
﹁そんな事無いよ!サイッコウに気持ち良いんだけど・・・俺、何
もしてないし・・・。﹂
﹁ハジメさんが満足なら良いんです。私、今まで相手をほんとに気
持ちよくした事無いんです。
ハジメさん、いっぱい気持ちよくなって下さい。そんで、さっきの
お願い聞いて下さい。﹂
オトヒメの願い。それは互いに愛情を与え合うごくノーマルなエッ
チ。
・・・方法は少しアクロバティックだけど。
﹁ありがと。オトヒメの気持ち、いっぱい届いてるよ。可愛いオト
ヒメ、ずっとずっと傍に居てね。﹂
﹁もう一つの約束も・・・、最初の契約も・・・。﹂
そんな事言われたら・・・
﹁愛してるよ、オトヒメ。俺の赤ちゃん産んでね。沢山沢山可愛い
赤ちゃん産んでね。﹂
﹁きゅぅぅあぅぅんっ!やだぁ・・・
卵が降りてきちゃぅう・・・。﹂
くちゅるぅっ!ぬぢゅるぅっ!くぢょっ!ぐぢゃぁっ!ぺぢゃるゅ
っ!
﹁くぅうっ!逝くよ?気持ち良いよ、オトヒメ!!﹂
﹁来て、来て下さい!!ハジメさんの暖かい精液いっぱいください
641
ぃっ!﹂
﹁愛してるよ、オトヒメ﹂
﹁きゃうん!もうそれダメですってぇ・・・﹂
﹁孕め。﹂
力ある言葉と共に
どぐん!どぐん!!どびゅるるるるるりゅりゅるゅゅるゅぅっっっ
!!!!!
﹁くふゅぅううっっ!!!暖かいのがいっぱい来たあああぁっ!﹂
ふぅ、ふぅ
はぁ、はぁ
2人とも荒い息を吐き、抱きしめ合ったまま暫し視線を交わす。
ゆっくりと確かめ合う様にキスをして、そっと体を離して行く。
途轍もない量を放った筈なのに、彼女の淫裂からは雫すら溢れてこ
ない。
不思議そうに見ていると・・・。
﹁勿体無いので全部オクまで呑み込んでますよ?﹂と言いながら、
まだ半分固さの残るハジメのそれの残滓を舐め取りに来た。
次第にムクムクと力を増してくるが・・・。
﹁︱︱!!
トール、アネモイ!﹂
642
突如、ハジメが大声を上げた。
﹁わわっ!びっくりするじゃないですか。﹂
危うく噛んじゃうところでしたよ、と溢している。
﹁どうかしましたか?﹂
﹁うん、ウェンディーヌ達が襲われている。多分山賊だ。﹂
﹁むむっ!﹂
突如不機嫌になっていくオトヒメ。
︵アレ?どうしたんだろ??︶
﹁目の前でエッチしてる私を差し置いて別行動のウェンディーヌさ
んですか。いえ、良いんですよ。仲間ですしね。初めての人ですし
ね。大事な大事なウェンディーヌさんですもんね。いえ、良いんで
すよ?嫉妬なんてしませんってば。﹂
おもっきりしてんじゃん、とは言わない。
自慢ではないが女性の扱いに失敗して文字通り人生を棒に振った経
験があるのだから。
かぷり
それズルいですよぉ・・・。﹂
﹁愛してるよ、オトヒメ。﹂
﹁ふわぁ・・・
﹁ゴメンね、でもガルーダ達と感覚共有を始めちゃったからこの先
は彼等にも見られちゃうし、何よりこっちに集中出来ないんだ。取
り敢えず一旦屋敷に戻ろう?﹂
﹁・・・分かりました。でも!でもまだこれで1人分ですからね!
!﹂
﹁あぁ。いっぱいいっぱい産んでね。可愛い可愛いオトヒメ。﹂
643
まだそっぽを向いている彼女にふと思いつきで言ってみる。
﹁そうだ。歌を歌ってよ。楽しい気分で家に帰ろう?出来れば俺も
覚えられる歌が良いなぁ。﹂
﹁それならハジメさんの知ってる歌を教えて下さい。﹂
言われてみればこっちに来てから歌なんて歌ってなかった。
思い出せる範囲で気楽なポップスを口ずさみながら、あっという間
に自分よりも上手に歌いこなす彼女に突っ込まれた。
﹁語尾が流れてます。歌を冒涜しないで下さい。﹂
厳しい言葉ながらうきうきと日本のポップスをマスターしていく彼
女であった。
︵超絶アイドル歌手との逢瀬、ってとこかな?︶
644
三者三様 Part2 ∼side ハジメ∼︵後編︶︵後書き
︶
チャーム
彼女の個性は、エッチの経験は物凄く豊富だけど、相手を自分の思
い通りに魅了出来るが故にノーマルなエッチと普通の恋愛経験が全
くゼロ、という感じなりました。
個性、出せてますでしょうか?感想宜しくお願い致します。
645
三者三様 Part3 ∼side マコ∼︵前編︶︵前書き︶
ほんとの一人旅中のマコさんです。
646
クエスト
三者三様 Part3 ∼side マコ∼︵前編︶
クエスト
検定依頼:Bランク昇進検定依頼
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
内容:アイスホルスト村から聖アルケランス帝国ウィットビー侯爵
領港町オーバンまでの商隊の護衛及び商品の運搬。
期間:1月20日、23日、26日の何れかの日より出立。オーバ
インヴォーカー
黒一角獣
ンに到着までの凡そ7日間。
商隊:獣魔師数名を含むブラックホーンホース馬車にて移動。
※途中は全て野営にて進み、村などには立ち寄らない。
マコは依頼書を再び確認していた。
3日後には出立しなければいけない。
マコはこれまで一人での野営経験が無いので、今回は見ず知らずの
相手とチームを組む事になるだろうし、相手に迷惑を掛けない様に
インスペクター
しなければならない。それにパーティメンバーの中にはギルドに依
頼された検定員が混じる。ミシュランの覆面調査員の様に正体を明
かさずに、だ。俺が今回の検定員だから、等と明かそうものなら、
袖の下を使う連中が出る可能性がある。
インベントリ
追加の詳細情報を確認したが、ミスリルインゴッド10kg×10
0本分の収納スペース余白を残しておく事、と書いてあった。
やはり輸送も直接担うらしい。
しかし、ミスリルインゴッド1トン分と言えばこの村で言えば半年、
いや下手をすれば1年分の発掘量に匹敵するはずだ。
金額はと言えば、加工されていない地金での価格なので相場は流動
的だろうが、それでも億の桁には確実に手が届くレベルでは無いか?
647
︵・・・試されているって事かしら?︶
有りそうな事だと思った。
上位ランクを与えると言う事は即ちギルドの
と言う事に他ならない。
高額な商品を持たせて反応を見る。
お墨付き
を与えた
金に目が眩むなど以ての外だが、身を以て守り抜かねばならないと
言う実感を持たせるには良い方法だろう。
︵さて、オーバンまでの道のりは、と、未定ですって・・・??︶
そんな話聞いた事も無い。
長距離の商隊の移動ルートが未定では護衛計画が立てようもないで
はないか。
︵あ、そっちが狙いか。。︶
何が起きても臨機応変、いやぶっちゃけてしまえば行き当たりばっ
たりで対応しろ。
インベントリ
それが今回の依頼と言う事だろう。
そして、何気に収納スペース内もかなりの容積を占有される。
必要な荷物の選別、そこから既に検定は始まっていると言う事か。
◆ ◆ ◆
その頃、ハジメ達はライスセミア幻神国へと向けて海路を突っ走っ
ていた。
﹁マコ、大丈夫かなぁ。﹂
リヴィエルの龍籠の上で独りごちる。
﹁心配ならチビクロ残してくれば良かったじゃない。いっつもアタ
シ達にしてる見たいに。﹂
﹁・・・気付いてたのかよ!!いや、流石にそれもマズいだろう?
648
クエスト
検定依頼に手を貸した、なんて思われたら寧ろ迷惑になりかねない
し。﹂
﹁分かってるんなら安心して待っててあげなさい。それがパーティ
における信頼ってもんよ。﹂
﹁頭では分かってはいるんだけどさぁ・・・。﹂
︵ハジメの事だからこっそりチビクロ∼ズか誰か残してくるかと思
クエスト
ったら・・・。意外と分かってるじゃない。︶
検定依頼は他人の手を借りたら合格判定が降りない。
これは慣例と言うより既に不文律である。
情
もし要らない手出しをしたら言ってやらなきゃ、と思っていたウェ
ンディーヌだったが心の中で安堵の息を吐いた。
同時にハジメはある事の必要性を考えていた。
︵ケータイが欲しいな・・・。︶
である。
どの時代においても最も高値で取引され、何よりも貴重な物は
報
素早く、正確な情報を制する物が世界を制する。
情報化社会を生きていたハジメにしか分からない感性である。
何時か、何らかの方法で実現しようと心に決めたハジメだった。
◆ ◆ ◆
ギルドから指定された集合時間は太陽も高くなった昼前の事だった。
これにはマコ自身疑問を感じざるを得ない。
商隊の移動は基本的には日中に行う訳なので昼からの出立など午前
中の時間の浪費以外の何物でもない。
649
テイマー
黒一角獣
インヴォーカー
ギルド職員が全員の受付を行っている。商隊の獣魔師は4人だ。
操獣師が2人、そのうちの1人がブラックホーンホースに指示を出
しているところを見るとこの商隊の御者役であり、リーダー格と言
ったところか。
もう1人はハーピーやライトニングウルフなどランクは低いが群行
イリュージョニスト
コントラクター
カンパニー
動をするタイプの獣魔を従え、陸空にバランス良く警戒線を張って
いる。
黒一角獣
他には幻体師が1人と契約師が1人居たが彼等の使役獣魔がどう言
った者か迄は流石に分からない。
︵おかしい・・・。︶
自分を含めて5人しか居ない商隊なのにブラックホーンホース2頭
立ての豪華な箱馬車の中には何の商品も積まれていない。自分達自
身が商品を運ぶのでそれは別に良いのだが、それにしては馬車が大
仰で豪華に過ぎる。
インヴォーカー
指定の時間になった時にギルド員が声を上げた。
﹁獣魔師の皆さん、今回の便は幸いバランス良く様々なタイプの方
が集まって頂けました。
これなら安心して商隊護衛を預けられます。﹂
インヴォーカー
獣魔師しか居ないこの商隊の、一体何を守れって言うんだ、そう言
おうと思った時だった。
インヴォーカー
﹁こんなに沢山の獣魔師に囲まれての旅とはオヤジも大仰だなぁ・・
・。﹂
﹁私達だけではありません。ロビンも一緒なのですから。﹂
・ ・ ・ ・
﹁︱︱!!﹂
ミスリルをなめしたマントを纏い、旅装でそれなりに略式とは言え、
650
トライデント
トライデント
煌びやかな全身スーツタイプの鎧に装飾の意味合いの方が強そうな
豪奢な三つ叉槍。
どう見ても貴族の夫婦だ。しかも胸に付いている三つ叉槍と盾を模
した家紋は・・・。
︵ウィットビー侯爵家!?︶
しかも夫人らしき女性の手には幼い赤子が抱かれている。
ここからは私が直接話すよ、とギルド職員を下がらせて彼が言葉を
引き継ぐ。
﹁説明が遅れて申し訳ない。私はセドリック・ウィットビー。現ウ
ィットビー侯爵であるところの父、ベン・ウィットビーの次男にし
てオーバンのホッブズ商会の顧問をさせて貰っている。
この村には半年以上前にミスリルの商取引に来させて貰っていたの
だが、ミスリル鉱山のトラブルで長らく取引が進まず足止めを食っ
ていた。
我々だけ急ぎオーバンに取り返そうと思った矢先、妻が身籠もり、
更に足止めを食うに居たったという訳だ。
商隊の本体は後発2隊でオーバンへと帰す事になるが、幾分幼子で
あるロビンを連れていると隊が狙われた時に弱点になりかねない。
ランサー
その為、諸兄等へ私達のみ護衛を引き受けて貰う事となった。
プリースト
これでも私自身槍術師のジョブに就いているし、妻のエマはこう見
えて僧侶だ。
自分の身ぐらいは何とか守れるつもりだが、長旅何があるか分から
ないし何よりロビンがいる。宜しく頼みたい。﹂
マコは頭が痛くなってきた。
彼は一片たりとも嘘を吐いていない。
腹芸をしているのは早々に立ち去ったふりしてこちらを伺っている
ギルド職員だ。
彼は意図的にこの情報を隠していた。
651
インヴォーカー
クエスト
インヴォーカー
そして、この場の獣魔師達で一人だけ全く動揺してない人が居る。
クエスト
︵この人が検定依頼の監視員か・・・。︶
クエスト
検定依頼には必ず監視員が正体を明かさずに同行する。
クエスト
監視員は検定依頼を単独でこなすに十分な実力を持った獣魔師であ
る。
今回ならばBランクのチーム依頼を単独でこなせる能力、つまりA
ランク以上という事になるのだろう。
ロビン君
セドリック・ウィットビー、エマ・ウィットビー夫妻が子供を連れ
て馬車に乗り込んできた。
マコ達も続いて乗り込む。ライトニングウルフ達も乗り込んでくる
ので少し狭い︵ハーピーは馬車の屋根の上で哨戒活動を行っている︶
。
テイマー
﹁行きますよ∼?﹂
御者の操獣師の声と共に滑る様に馬車は走り出した。
馬車は最高にサスペンションが効いていた。元の世界での父親が乗
エンチャント
っていた数々の高級車にも負けず劣らず、と言うところだ。
良く見れば幌にもトップクラスの付与魔術で防護壁が張られている。
流石は侯爵家御用達という所か。
クエスト
﹁皆さん、突然の依頼に応じて頂き、ほんとに有難う御座います。﹂
重苦しい空気で馬車が進む中、エマ・ウィットビー夫人が沈黙を破
った。
﹁今回の商談は本当に困難が多かったのです。アイスホルスト村へ
向かった途中でミスリル鉱山をモンスターが占拠したと聞き、ギル
ドに依頼を出して解決して頂けたのも随分後でしたし・・・。﹂
子供が出来た事には敢えて触れないのかよ、と心の中でツッコミを
入れたが、まぁあの小さな村では娯楽もないし致し方ない気もする。
652
クエスト
インヴォーカー
﹁いえ、様々な事情の方の依頼を受ける為に様々な獣魔がいるので
す。
この世界のどんな小さな事でも真摯に対処する、それが獣魔師たる
イリュージョニスト
私達が世界に課された役割ですから。﹂
幻体師の男が一生懸命フォローしている。
しているのだが・・・。
︵アタシじゃなくっても綺麗な御婦人に気に入られたいって言う下
心が見え見えよ!!︶
﹁そ、そうですね。そうだ!!どうせなら皆さんのお名前をこの機
会にちゃんと聞いておきたいですわ。﹂
個人からの攻撃を避ける為に全員に話を振った、と言うところか。
まぁ実際名前すら知らなくては連携も何もあったもんじゃないので
自己紹介し合う事となった。
イリュージョニスト
﹁私はリヒャルト・アレンス、幻体師です。ギルドランクBです。
能力に関しては・・・詳細は秘密ですが近接戦闘を得意とします。
クレイモア
イリュージョン
ウィットビー夫妻は私が最後までお守りしましょう。﹂
イリュージョン
見れば、彼は何と大剣を背に負っていた。
幻体とのコンビネーションか・・・、或いは幻体の能力と関係して
るのかも知れない。
コントラクター
コンフェデレィト
﹁俺はダリウス・ディクソン、契約師だ。D・Dって呼んでくれ。
ギルドランクはB、火と土の契約獣と契約してる。俺は逆に遠距離
戦が得意だが近くでの荒事は苦手だ。後方からの援護攻撃ならそう
そう負けねぇと思うし宜しく頼む。﹂
インヴォーカー
見た目、筋骨隆々としてる彼が﹁近くでの荒事は苦手﹂とは本当に
獣魔師の能力は見た目で分からない。
653
テイマー
﹁私はエレノア・ベクレル、操獣師です。ギルドランクはC。見て
の通りハーピーやライトニングウルフやなんかをいっぱい仲間にし
ています。単体での攻撃力はそれ程でも無いですけど、変わった能
テイマー
力の子達が多いので連携は得意ですよ。﹂
カンパニー
紅一点の操獣師、︵いやアタシも女だが︶エレノアさんだ。先程か
ら観察しているが確かに彼女の使役獣魔はとても表情豊かだ。元々
テイマー
ハーピーもライトニングウルフも感情有る獣魔だが、これ程生き生
きと使役されているのは余り見ない。
︵ハヤトやオウカ達みたい・・・︶
黒一角獣
﹁俺はアーロン・バックスだ。見ての通り操獣師で今回の御者も俺
だ。このブラックホーンホースの他に、進路上に所々先回りして何
体か配置してある。あ、ランクはCだ。﹂
御者台から適当な返答が返って来た。あんまり細かい事を気にしな
い性格なのだろう。
イリュージョニスト
彼は馬車の制御もあるし、戦闘への参加は望めないかも知れない。
︵最後はアタシか・・・。︶
イリュージョン
﹁アタシはマコ・シュワルツ。見ての通り幻体師よ。ギルドランク
はE。幻体の能力は秘密、だけど、近接戦闘系ね。﹂
クエスト
クエスト
﹁ランクE!?そんな人がどうしてこんな依頼に!?﹂
﹁あ、ゴメンなさい。暫定ランクBよ。これを依頼達成したらBに
上がるわ。﹂
リヒャルトが早速噛み付いてきた。
どうも彼はプライドが高いのが鼻について好きになれない。
︵オイ・・・、それよりもマコ・シュワルツって・・・。︶
︵何だ?名前がどうかしたのか??︶
654
D・Dがリヒャルトに耳打ちしている。
サイカ島の悲劇
の・・・。﹂
になってマリンフローを藻屑へと
﹁済みません、貴女はひょっとして
憑物
エレノアさんも気付いたか。
イリュージョン
﹁えぇ、そうよ。幻体の
変えた、貴女の思ってる通りの﹃マコ・シュワルツ﹄よ。﹂
ずざざっ!
馬車内に緊張が走る。
流石にみんな踏みとどまったが逃げ腰である事に変わりはない。
憑物
になると言う事か・・・。︶
いや、リヒャルトはちゃっかりエマさんを抱いて隅っこに逃げてい
る。
︵これが
は決して犯罪者でも危険人物でも何で
インヴォーカー
の為に存在すべき獣魔師が逆に世界にダメ
憑物
世界の安定
本来、払われた後の
も無い。
しかし、
払われた
インヴォーカー
という情報はまだ聞いていませんが?﹂
ージを与えた、その事実は途方もなく大きいのである。
﹁貴女が
﹁2週間程前の事かしら?古い知り合いの獣魔師がほっぺた引っぱ
たいて目を覚まさせてくれたわ。今は正気よ、・・・ってアタシが
言っても仕方ないでしょうけど。﹂
﹁あの時はかなり大きな被害を与えてしまった。もし、この中に知
り合いや身内がアレに巻き込まれていた人が居たら・・・。本当に
ゴメンなさい。アタシには今は謝る事しか出来ないし、それでも何
も許されはしないけれど・・・。﹂
655
・・・。
﹁私の知り合いに
﹁︱︱!!﹂
サイカ島の悲劇
で亡くなった者が居ます。﹂
意外にも口を開いたのはエマさんだった。
﹁その人は・・・。﹂
﹁エマ!!﹂
ここまで口調はぶっきらぼうだが人懐っこい雰囲気を出していたセ
ドリック・ウィットビーが大声で叱責した。
声に驚いたロビンがぐずぐず言い始め、遂にはエマさんの腕の中で
泣き声を上げてしまった。
﹁それは言うな、と言っておいた筈だけど?﹂
﹁でも!他にこんな機会は・・・。﹂
﹁良いと言っているだろう?﹂
穏やかだが有無を言わせない口調。伊達に侯爵家の次男で商隊を率
いては居ない、と言う事か。
エマさんが息を飲んだのを見て、空気が緩みかけたその時・・・。
﹁話して・・・、貰えませんか??﹂
﹁﹁﹁︱︱!!﹂﹂﹂
絞り出して漸く出せた僅かな言葉。
しかしマコにとってもこの機会を逃す訳には行かない。
﹁どうしても話したくなければ勿論、結構です。
656
アタシが知っているあの島の関係者は今、全員が私のパーティです。
何も無かったかの様に、昔っからの通りとても優しくしてくれます。
でも、これではアタシはこの先ずっとそれに甘えて過ごしてしまう。
厳しい意見があるなら、ちゃんとそれも受け止めて前に進まなきゃ
ダメだと思うんです。﹂
﹁ですから、話せる範囲で勿論構いません。お話を聞かせて貰えま
せんか??﹂
セドリックはふぅ、と小さく息を吐く。
目を覆う様に顔を擦り、前を向き直ると口を開いた。
﹁分かった。俺から直接話そう。﹂
﹁亡くなったのはセリア・ウィットビーとセシリー・ウィットビー。
﹂
﹁俺の最初の妻と子供だ。﹂
657
三者三様 Part3 ∼side マコ∼︵前編︶︵後書き︶
インヴォーカー
書き始めるといきなり重い展開になってしまいました。
である
獣魔師だけで旅したら全く苦労するポイントが無いですし、じゃぁ
災厄の少女
ベタだけど貴族を護衛させよう、って事になって。
更に彼女が他のチームで自己紹介すると必ず
ことは問題になる訳で。あれだけ大きな災害だと人口のそれ程多く
ないこの世界で5∼6人集まって災厄の関係者が一人も居ないなん
て有り得なくって。
そうするとこの先の伏線とかも考えると彼しか居なかったのです。
658
三者三様 Part3 ∼side マコ∼︵中編︶︵前書き︶
随分と更新が空いてしまい申し訳ありません。
リアルが急に忙しくなってきてしまい暇が取れませんでした。
今回もどこまで書けるか分かりませんが、少しずつでも更新を続け
ていくつもりです。
この作品は必ずラストまで書き上げたい。
一応ラストの方の展開は何となく見えては居るのですが、書けば書
くほどこちらの言う事を聞かずにキャラクターが踊り始めるので作
者自身ハジメ達の旅の行く末をちゃんと知りたいのです。
659
三者三様 Part3 ∼side マコ∼︵中編︶
サイカ島の悲劇
より更に数年前に遡る。
セドリックはゆっくりと言葉を続けた。
﹁話は9年前、
俺は丁度前年に叔父からホッブズ商会を引き継いだ頃だった。
まだまだ未熟で、私事になど手を掛けている暇もなかった。
今でこそあと幾つかで30に手が届こうかという年齢だが、経験も
無い若造には兎に角伝統ある商会の経営を維持し、ウィットビー家
の名を汚さぬよう遮二無二飛び回る以外何も出来なかったよ。﹂
﹁セリアが俺付きの秘書として雇われてきたのは俺が仕事の虫で気
力も体力も限界に近かった頃だ。
彼女の第一声は今でも忘れないよ。﹂
﹃今すぐベッドに向かって休息をお取り下さい。ご不満でしたら私
が気を失わせて差し上げます。﹄
反論しようとした途端、目の前に靄が掛かったようになり、気付い
た時にはベッドに横たえられていた。起き上がろうにも急速に睡魔
が襲ってきて、そのまま寝入ってしまった。﹂
10年近く前の事をまるで昨日の事の様に話すセドリック。
マコは殆ど悪夢を見ながら寝ていただけなのでいきなり時間が進ん
だような感覚だが、外の世界では当然ながら通常通り時は進んでい
た筈なのだ。
セリア
︵それなのに⋮︶
彼女との思い出がそれだけ深いと言う事なのだろう。
660
﹁朝日が差し込むのを感じた時は思わず跳ね起きた。その日は叔父
を交えて大きな取引先との会談を控えていて、前日はその為の書類
作りの真っ最中だったんだ。
その時、セリアが部屋に入って来た。
文句の一つも言ってやろうか、いやそんな事よりも書類が先だ。
そう思ったんだが、あっという間に浴場に放り込まれ、﹃事務手続
きはお任せ下さい。それよりも身なりをまず整えて下さい。お一人
で出来ない様でしたら私がお手伝いいたしますよ?﹄と脅してくる
始末だ。
侍女に手伝わせるのは慣れていたが、どうもセリアだとペースが狂
う。渋々ながら自室に戻り公務を進めようとしたら、セリアから書
類の束を渡された。﹂
﹁もう分かると思うが、渡された書類は俺が作り上げようとしたも
のそのものだった。
顔合わせだけのはずの会談は商談へと話が進み、俺は大口の取引を
その場で纏め上げるに至ったと言う訳だ。
彼女には後できっちり礼を言おうと呼び出したのだが﹃勤めですの
で﹄の一言で切り捨てられた。
流石にそれでは俺の沽券に関わる。
インヴォーカー
改めて自己紹介をして、ゆっくり話をしたら、彼女は何と激務を見
かねた叔父が付けてくれた獣魔師だった。俺より10も年上だった
が、その分見聞が広く、実力もそこそこ有るので秘書兼ボディーガ
ードと言った所だったのだろう。﹂
﹃私に出来る事は私がやれば良いのです。貴方を商談の場に立てる
コンディションに持っていくのは私の役目、しかし私には商談を纏
める事は出来ませんので。﹄
661
ナイトメア
バク
カンパニー
﹁睡魔や獏、サキュバスなんかを使役獣魔にしていて、俺が少しで
も無茶な徹夜でもしようものなら強制的に寝かしつけられたよ。﹂
﹁俺の周りに居なかったタイプの女性だった。元冒険者で身一つで
人生を切り開いている。
そして貴族の俺に全く物怖じしないどころか下手すれば拳が飛んで
くる。
しかも国でもトップ5に入る名門ウィットビー侯爵家のこの俺に対
して、だ。
コントラクター
聞けば、元はどこかの国の貴族で、一応は貴族として育てられた事
もあったらしいが、10歳で契約師の資質に目覚めた途端、家を捨
インヴォーカー
てて出て行ってしまったんだとか。
国に加担出来ない獣魔師の定めがあるが、あくまで俺の個人的な友
人として対応してくれるのは逆に清々しかったよ。﹂
﹁そこからの3年間は将に夢を見ている様だった。
ある時は姉、ある時は母、ある時は教師、ある時は友人。
そんな彼女を恋人にするのは骨が折れた。
肩書きを全く介さず接してくる相手を口説くのが人生で初めてだっ
たもんでね。
﹃分かりました。こんな女性に目の色変えてる様なお坊ちゃんはほ
っとけません。﹄と言うのがプロポーズの返事とは全く彼女らしか
ったよ。
俺は彼女を国に仕えさせる気は無かった。
でも正妻は彼女以外に居ないと思ったし、他に妾を娶る気も無かっ
た。
ギルドに相談に行ってアレコレ思案していたところ、彼女が思わぬ
事を言い出した。
662
カンパニー
﹃貴方と一緒にいて、貴方の身に危険が及んだ時、それがどんな相
手であれ私は手加減なく使役獣魔の力を借りてしまいます。ですの
で、彼らとの使役関係を解消して、私はブレスレットをギルドに返
還します。﹄
インヴォーカー
そして彼女は言葉通り、獣魔師のギルドを抜け、ブレスレットも返
納してしまった。
エレン
ギルドマスターに確認したが、愛国心から国に仕える為に返還する
者は偶に居るが、こんな事例は彼女も経験が無い、と言っていたな。
﹂
﹁俺は彼女を妻に娶り、優秀な秘書兼伴侶を得てホッブズ商会での
仕事は益々順調に進んだ。
そして、間もなくセシリーが生まれ・・・。﹂
セドリックはそこまで一気に話すと初めて一息吐いた。
が起きたんだ。﹂
エマさんが差し出したレモン水を口にし、ふぅ、と大きく息を継い
サイカ島の悲劇
だ。
﹁
◆ ◆ ◆
﹁知っての通りオーバンは港町だ。海上交易で栄えた街故に当時は
水龍王を信仰する者が沢山居た。船旅の安全を祈る訳だな。特にホ
ッブズ商会はその傾向が強く、子供が産まれて1歳の誕生日を迎え
たら初めての船旅を経験させ、参拝に詣でると言う風習があった。
本当なら親子3人で詣でるのが習わしなのだが、俺は子供が産まれ
るまでの間に棚上げしてた仕事の皺寄せでどうしてもオーバンを離
れられなかったんだ。﹂
663
﹁セリアに話すと軽く笑い飛ばされたよ。﹃貴方よりも私の方が旅
慣れしてますよ﹄ってな。時期をずらそうという話もあったんだが、
残念ながらその後は台風の時期だった為、セリアとセシリーの2人
で行く事に為った。﹂
﹁台風どころじゃない災厄が来るなんて当時は思いもしなかったよ・
・・。﹂
静かに進む馬車の中で、セドリックは音も無く涙を流していた。
どう頑張ってもその先の言葉が紡げないのだろう。
エマが差し出したハンカチで何度も拭っていたが、仕舞いには目元
を覆って小さく嗚咽を漏らし始めた。
ここに来てマコは自らの失敗を恥じた。
簡単に﹁話してくれ﹂と言ったが、セドリックは必死に妻と娘を失
った事を乗り越えようとしていたのだ。
彼女が自らの犯した罪で傷を負った以上に、被害にあった人達や遺
族は深い傷を負っている。
その事実を忘れて居たつもりはないが実感として感じられていなか
った。
その現実を思い出させられた。
暫くうつむいた後、ありがとう、とエマにハンカチを返し、しっか
り前に向き直るとセドリックは再び話し始めた。
﹁その後の事は特筆すべき事は何も無い。彼女らは予定通り水龍王
災厄
は起こり、彼
の元を訪れ、10日間程観光がてらマリンフローを見て回って帰っ
て来るはずだった。しかし彼女らの滞在中に
女らは巻き込まれ骨も残らなかった。それだけだ。﹂
664
それだけ、等という生易しい言葉で表して良い事では無い。
しかし、そう思い込まねば前に進めない、あれはそう言う事実なの
だろう。
インヴォーカー
﹁何度も自分を悔いたよ。俺と結婚しなければ彼女は獣魔師のまま
だった。自分の身を守れた筈なんだ。いや、そもそもあの島に、マ
リンフローに行かなければ。俺が彼女を殺した。そう思い何度も何
度も自らを悔いた。﹂
﹁あの・・・。﹂
漸くマコは口を開いた。
﹁どうして私を責めないんですか?﹂
﹁分からないか?君はあれを望んで起こしたのではないのだろう?
それにギルド内の案件はギルド内で片付ける、それがルールだ。﹂
﹁そうは言っても!!私が奥さんと娘さんを殺めた事に変わりはあ
りません。・・・憎くはないのですか??﹂
インヴォーカー
﹁勿論憎い。本心を言うなら引き裂いても足りない。しかし、君自
インヴォーカー
身やりたくてやったのではないのだろう?これでも元獣魔師が妻だ
ったのでね。普通より少しは獣魔や獣魔師については詳しいつもり
だ。
巻き込まれた方は溜まったものじゃないが、謂わばあれは人災と言
うより天災に近い。どうやって天を憎めば良い?﹂
何処か他人事の様に話すセドリック。その態度がどうしても解せな
くて、問いかけを投げようとした時・・・。
﹁何度も言う。俺は憎まない。憎んで、何かが報われる訳でも無い。
但し、君自身には起こしたと言う事実を受け止めながら生きていっ
665
て貰う。俺が責めても君には何も償えない。償い方は君が決める事
だ。﹂
そう言う事か。
やっと分かった。
詰るのも責めるのも彼には簡単だが、起きた事実に対して何の意味
も為さない。
ただ私には正面から罪を背負って生きて行け。
彼はそう言っているのだ。
﹁分かりました。とても良く分かりました。﹂
﹁貴重なお話、有難う御座いました。これが最初で最後ですが、聞
いて下さい。
本当に御免なさい。そして、一つお願いがあります。何時になるか
はまだ約束出来ませんが、もう一度マリンフローに来て下さい。そ
の時にはほんの小さな事ですが、お詫びをさせてください。﹂
﹁マリンフローに??・・・分かった。取り敢えず期待せずに待っ
ているとしよう。﹂
666
三者三様 Part3 ∼side マコ∼︵中編︶︵後書き︶
さて、今回間が空いたのはそれだけではありません。ぶっちゃけス
ランプだったのもあるのです。
どう言う風にセドリックの話を決着付けるか全く思い浮かばなくな
り、困っていました。
これで足りるかどうか分かりませんし、何より私の作品は3.11
の被害者から見てどう言う風に映るのか、いつも不安なのです。
667
三者三様 Part3 ∼side マコ∼︵後編︶︵前書き︶
漸く久し振りに筆が進みます。
668
三者三様 Part3 ∼side マコ∼︵後編︶
セドリックの話が終わり、皆何となしに口を噤んだ。
馬車は静かにオーバンへと進んで行く。
順調過ぎるぐらい順調に旅は続いた。
日も暮れた頃、予定通り街道に設けられた野営地に到着した。
簡単なトイレと飲料水のみ設置されており、テントを貼るだけのス
ペースもある。
只、トイレも飲料水も長い街道では十分に整備が行き届いていると
は限らず、最低でも沸かして飲むか各自持参の飲料水を使用するか
が一般的だ。
エンチャント
今回は馬車の中でも十分に眠れるし、事実ウィットビー親子は馬車
で休息を取った。
野営で使うテントにも付与魔術は施されているが、基本的に冒険者
向けのものであり、快適さでも安全性でも遥かにテントよりも今回
の豪華な馬車の方が優れている。
馬車の護衛は予想通りというべきかリヒャルトが買って出た。
貴族、特に麗しきご婦人の覚えを良くしたいと言う思いからだろう
が、事実一番負担の大きい任務なので誰も文句は言わない。
但し寝ずの番は必ず2人でペアを作り、その内の一人ずつローテー
ションを組んで交代していく。
万一どちらかが寝入った時に叩き起こせる様に、という冒険者たち
の間では暗黙の上で行われている方法であり、また、少ない確率な
がらパーティから裏切り者が出た時も少しは監視がしやすくなる。
669
食事は交代制で作る事になった。
が、リヒャルトは﹁俺は料理が苦手だ。﹂と堂々と言い放ち、毎晩
必ず一度は寝ずの番を受け持つ事を条件に当番から外れた。これま
での旅でも恐らくそうしてきたのだろうが、もう少し気の遣いよう
と言う物が有る気もする。
仕方ないので残りのメンバーで受け持つ事にしたのだが、意外にも
腕を揮ってくれたのはD・Dだった。
彼は本来のパーティでは食材の発掘を主に手掛けているらしく、火
の獣魔と契約しているのは﹁いつでも料理の火加減をベストに保て
るから﹂だそうだ。全く以て人は見かけに因らない。
彼が契約しているのは﹃ラーヴァ﹄と言う50∼60cm程のテン
トウムシの様な精霊で、口から火を噴き、足を踏み鳴らして地響き
や小規模な地殻変動を起こす。
﹁いつでもどこでも煮焚き窯が作れて便利だろう?﹂とはD・Dの
弁だが、何だかとても使い方が贅沢な気がするのは気のせいか。
そうこうしつつ、毎晩の野営は続き、いよいよ翌日にはオーバンに
差し掛かろうとした夜であった。
監視員
が動き始めたようだ。
︵⋮来たわね。。︶
いよいよ
今の寝ずの番はリヒャルトとマコ。
︵近接系が二人か⋮、不味いわね。。︶
街道沿いの森に感じる気配は凡そ30。
︵これ程の数を同時に操るなんて⋮。︶
﹁気付いているか?﹂
リヒャルトが声を掛けて来た。流石にBランクは伊達では無い、と
670
言うところか。
﹁えぇ。数は20と10で30、それぐらいかしら?﹂
感じる気配は2種類。それぞれ20体と10体で編成を組んでいる
ようだ。
クエスト
﹁ほぅ、暫定Bランクと言うのは伊達では無い様だな。﹂
﹁これはアタシの検定依頼ですからね。監視員が混じってるのには
気付いてたわ。アタシの能力でそれが誰かと言うところまで突き止
めては居るんだけど⋮。正直舐めてたわ。近接系2人がかぶったこ
のタイミングでこの数で攻めて来るなんて⋮。﹂
﹁誰が攻めて来てるのか分かってるのか?それなら本人を抑えに行
けば⋮。﹂
﹁残念ながら相手は馬車の中よ。﹂
﹁っ!そう言う事か⋮。流石に抜かりは無いな。。﹂
﹁他のメンツを起こしてる暇は無いわ。外と中で分担しましょう。
リヒャルトさん、流石にこの数相手にやられちゃう、なんてこと無
いわよね?﹂
﹁馬鹿にしないで貰おうか。そっちこそ大丈夫か?何なら外を一緒
に片付けてからでも良いんだぜ?﹂
﹁そんな事してたらウィットビー親子を抑えられてジ・エンドよ。
中は任せるわね?⋮っと、その前に貴方の能力を教えて貰って良い
かしら?﹂
◆
と呼んでいる。﹂
。嘘やフェイントを見抜く。殴り合
サイモン
﹁良いだろう。そっちも後で教えろよ。俺の能力は装着型の金属生
パンドラ
命体だ。俺はスーツ・ゴーレムの
﹁アタシの能力は
いならそうそう負けないわよ?﹂
﹁それでは⋮。﹂
◆
﹁えぇ。行きましょうか。﹂
◆
671
エレノア
リヒャルトが馬車の中に素知らぬ顔して入って行く。
彼女はリヒャルトを見て声を掛ける。
﹁交代にはまだ早い筈ですけど?﹂
﹁なに、美しい御婦人達とお近づきになれるのも今日が最後な物で
ね。話ぐらい構わないだろう?外は彼女に任せて来たしな。﹂
﹁⋮腹芸が下手糞ですね。ブレスレットが光ってますよ?﹂
アームド
﹁それはお互い様、と言わせて貰おう。
サイモン!!鎧化!!﹂
リヒャルトの掛け声とともにゴツゴツとしたメタルゴーレムが飛び
クレイモア
出し、瞬時に変形しリヒャルトの全身を包む。
ライトニングファング
同時にリヒャルトは大剣を抜刀し、ハーピーやライトニングウルフ
を弾き飛ばしてゆく!!
ライジングダストデビル
﹁ジョセフ、ジョネス、ジョルダン、﹃光輝なる一撃﹄、ローラ、
ロレッタ、ローナ、﹃巻き起こすは塵旋風﹄﹂
エレノアは慌てず騒がず、囁くようにハーピーとライトニングウル
フで反撃を返す。
暗い馬車の中で強烈な光を放たれてリヒャルトの視界が一瞬眩む。
そこにハーピー三体の風が吹きつけられ、御者台から馬車外へと吹
き飛ばされた。
視界を奪われた彼へと追撃を行われ、リヒャルトは対応に一瞬手間
取る。
一体一体の動きはそれ程でも無いが、一糸乱れぬ統率のとれた行動
に手が回らない。
ファミリア
テイマー
︵くっ!これがハーピーやライトニングウルフの動きだと!?精々
がCランクか下手をすればDランクの操獣魔だろうに!操獣師の能
力でここまで違う物なのかよ!!︶
672
リヒャルトが手間取る隙にハーピーに抱えられてセドリック・ウィ
ットビーが連れ去られてしまう。
エマさんとロビン君はぐっすりと寝入っている。他のメンバーもこ
の騒ぎに起きてくる気配すら無い。
ナイトメア
急いで馬車内に駆け入ると一足早く戻っていたリヒャルトが苦い顔
をしていた。
︻皆さんには睡魔でお休みいただいています。夜明けまでここを守
エレノア・ベクレル
−︼
りつつセドリックさんを取り返し、私を捕まえれば貴女の勝ちです。
−
クエスト
﹁ご丁寧にも書き置き付きだぜ?随分と舐められたもんだ。﹂
﹁仮にも監視員ですからね。。Bランクのチーム依頼を検定するん
だからA以上の実力者って事になるわ。どこかで仕掛けてくるとは
思ってたけどこうも鮮やかにやられちゃうとはね⋮。
リヒャルトさん、申し訳無いけどここの守り頼める?﹂
﹁⋮本当なら俺も撃って出たいがこればかりは仕方ない。ここを空
にしたら夫人と御子が危ないからな。﹂
﹁あの書き置きはそう言う意味でしょうね。任せて、探し物は得意
なの。﹂
﹁良いだろう。向こうも命まで取る気は当然ないだろうが⋮。気を
付けろよ。この辺りは山賊の出没地域でもある。﹂
﹁了解、そちらこそアタシが出ると同時にここは修羅場になる筈よ。
残りの2人を攫われた段階でゲームオーバーなんだから。﹂
﹁俺は前衛だからな。後衛を守りながら戦うのが本職だ。そっちこ
そ近接系なら多面攻撃には弱いんじゃないのか?﹂
﹁ま、その辺は任せて。アタシも単なる殴り役じゃないわ。﹂
ハジメとの組み手やメドーアとの戦闘を重ね、膂力に任せた攻撃以
外の方法も覚えつつある。
673
﹁最初逃げたのはあっちのほうだったわね⋮。取り敢えずまずは進
んで見るわ。こっち宜しくね。﹂
◆ ◆
言うが早いか、パンドラに抱えられて一気に駈け出した。
◆
流石に空を飛んでるだけあってエレノアの移動はかなり速い。
一方のマコは街道を気配を探りながら追う訳なのでどうしても一歩
遅れが生じる。
︵追い付いた?いえ、これは追い付かされたわね⋮。︶
野営地で感じた30ほどの気配の内、5程は馬車周りを動かなかっ
た。
残りは25、勿論これは感じ取れた範囲なので必ずしも正確では無
いが、おおよそ間違っているとは思えない。念の為、リヒャルトと
も確認をしたぐらいである。
カンパニー
︵10ほどか⋮。空から3に藪の中に7⋮。︶
彼女がハーピーとライトニングウルフ以外に使役獣魔を連れていな
い限り、空の3はハーピーで間違いないだろう。問題は藪の7だ。
これが全部ライトニングウルフだという保証はどこにもない。
気配を誤魔化してライトニングウルフの群れにハーピーを混じらせ
ている可能性も高い。
だが。
お嬢さん
︵残念ながらアタシにフェイントは効かないのよね。。︶
︵パンドラ、行くわよ?︶
︵はい、やっとお声を掛けていただけましたね、フロイライン。︶
︵やだ、くすぐったいから止めてよ、そう言うの。マコで良いわよ。
674
︶
パンドラはくすりと笑みを浮かべて視線を送ってくる。
︵願望を読んで見たのですけどね。元は本当のお嬢様の様ですし?
では行きましょうか、マコ。︶
︵行くわよ?パンドラ、﹃だるまさんがころんだ﹄︶
マコとパンドラが目を瞑り、同時に見開くとともにパンドラの手か
ら次々と投擲ナイフが10本飛び出して行く。
藪や空に居た獣魔は不意を突かれながらも難なくかわすが、ナイフ
が突如軌道を変え、避ける獣魔を追尾し始める。何とか迎撃して撃
ち落とした時には懐に入られていた。
﹁藪に3頭ハーピーね。位置は覚えたからもう騙されないわよ?﹂
更に、気配を絶って潜んでいたライトニングウルフもナイフの餌食
となっていた。
こちらは数頭が浅いながらも足に傷を負った。
ハーピーとライトニングウルフでは、俊敏さでハーピー、力強さで
はライトニングウルフに軍配が上がる。
が、一対一ならマコはどちらを相手しても負ける事はまずない。
10頭ぐらいなら囲まれようが問題なく対処出来る。
しかしBランク試験でそんな単純な戦闘力など求められていないの
だ。
ある程度の戦闘能力はあって当然、搦め手で来られた際の対処能力
などが求められる。
マコが開発した﹃だるまさんがころんだ﹄は発動時に想定していた
範囲と射程において、﹁嘘、隠し事、フェイントなど﹂を画策して
居る物に追尾タイプの投擲を行う物である。あくまで感知が主目的
であり、殺傷能力には余り重きを置いていない。そこまで期待する
と魔力がかかりすぎて射程や発動時間に影響を及ぼしかねないと見
675
たからだ。
マコの能力を遥かに超えた相手には通用しない等の弱点はあるもの
の、条件発動タイプゆえに目的の条件に嵌まった時は本領を発揮す
る。
今回は﹁気配を絶って居る者﹂﹁気配や実力を偽って居る者﹂を感
知するのが目的だ。
正体がわかり懐に入ってしまえばマコの勝ちは今回の相手なら殆ど
揺るがないし、強者が混じって居た場合の感知もあわよくば程度に
期待していたが、幸いと言うべきか、待ち伏せ組の中にはハーピー
とライトニングウルフしか居なかったようだ。
ナイフの処理にもたついていた数頭をパンドラで直接殴り、近くに
居た数頭を更に殴り、残りは放置してエレノアを追った。ここでの
エレノアの目的は明らかに時間稼ぎなので真面目に相手をしていて
◆ ◆
は思う壷なのである。
◆
﹁ごめんなさいね。ハーピー一頭ひっ捕まえて尋問させて貰ったわ。
﹂
﹁⋮無茶苦茶早く着きましたね。。まぁあの程度の物なら獣魔を虐
げた、とは言えませんしね。﹂
テイマー
昏倒させたハーピーを気付け薬で叩き起し、首根っこ捕まえたまま
質問を投げかけ続けたのだ。
この道をまっすぐ行けば貴女の操獣師の元には辿り着くか?距離は
3kmより遠いか?イエスノーで答えられる質問を投げかけ、全て
にイエスで答えさせ続けたのだ。
嘘発見器の要領だが、こちらは精度が100%だ。
﹁で、どうします?今この場に居る32体のハーピーと48頭のラ
676
ナイトメア
イトニングウルフ、それに2体の睡魔とグレイタースケルトンとベ
フィモスが1頭ずつですか?全部を相手にして倒すか貴女を直接倒
すかすればOKでしょうか?﹂
﹁︱︱!!お見事です。このまま朝まで時間を削る自信は一応あり
ますし、負ける気もしませんが⋮。﹂
にやり
マコはその言葉を待っていたとばかりに答えた。
﹁では、全員の左胸と額を確認して貰えますか?﹂
♡
、額には
Bang!
の文字。
﹁︱︱︱︱!!!こ、これは!!!!!﹂
左胸には
﹁多分痛くも痒くも無かった筈です。物はタダのペンキですので。﹂
しかしそれは﹁何時でも攻撃出来た﹂と言う意思表示に他ならない。
﹁お見事⋮、お見事です。随分手前でローザを解放してくれたと思
ったらこれをする瞬間を誰にも見られない為だったんですね。。﹂
マコの取った方法は一種のペテンに近い。
これは殺傷能力の皆無なペンキを飛ばしただけだからこそ広範囲に、
しかも隠れていた敵全てに気付かれずに事を進められただけだ。本
当にナイフや矢などを飛ばそう物なら2∼3本掠れば良い方だろう
し、そもそもそんな芸当を行おうとすれば悠に3度は魔力切れを起
こして干物になっていておかしくない。
ただ、暫定Bランクとは言え、実際はまだEランクでしかない彼女
クエスト
が監視員を見事出し抜いた。
これが検定依頼における﹁力の表現﹂に相応しいと判断されると賭
けたのだ。
677
勿論、エレノアもそんな事はとっくに見抜いている。
しかし見事に一度出し抜かれておいて、殴り合いでやり返したとて
検定としての意味合いが低い。
それに時間稼ぎの戦闘で、純粋な戦闘能力も実証済みだ。
テイマー
と表示が
検定クリア確認:エレノア・ベクレ
暫
﹁良いでしょう。検定合格とさせていただきます。身分証明を出し
ていただけますか?﹂
マコがブレスレットにホログラムを表示させる。
の表示の後ろに
エレノアもホログラムを表示させ、﹃乾杯﹄を行うと、マコの
定Bランク
ハーレム・クイーン
ル。Aランク。︻慈愛の女王︼。操獣師、27歳女性。
付いた。
ファミリア
﹁やっぱりCランクなんかじゃなかったのね。でも、Cとか下手す
ればDランクの操獣魔も混じってるのに凄い連携でした。それにみ
カンパニー
んなとっても生き生きしてて楽しそうでしたし。﹂
コミュニケーション
﹁良く勘違いされるのですが、使役獣魔は戦闘人形ではありません。
命有り感情有る生き物です。彼ら彼女らとの交渉をすれば共に高め
あえる存在なのです。﹂
︵ハジメちゃんとおんなじ事言うのね⋮。いや、違うか。ハジメち
ゃんがこっち来てすぐにそこに気付いている方が凄いのか。。︶
クエスト
﹁分かってると思いますが、検定はこれでクリアですが依頼自体を
達成しないとミスになりますので。オーバンまで後一日弱、気を抜
かずに行きましょう。この辺りは実際に山賊達の出没ポイントにも
なります。﹂
﹁了解です。では戻りましょうか。リヒャルトにこっちが一段落し
た事、伝えて貰えますか?﹂
678
◆ ◆ ◆
﹁マコ、ところでハーピー達の大軍を相手にする事になったらどう
するつもりだったんですか?﹂
﹁アタシは、貴女とアタシのコンビを信じてたわよ?﹂
﹁そうですね⋮。そうでしたね、マコ。改めてこれからも宜しくお
願いします。﹂
︵パンドラが、初めて向こうから話しかけてくれた!!!!︶
679
三者三様 Part3 ∼side マコ∼︵後編︶︵後書き︶
やっと別行動編終わりました。
感想などお待ちしております。暫くは週一回以上の更新を目指しま
す。
680
傭兵都市カシュール︵前書き︶
全員の合流はすこ∼し待って下さい。
681
傭兵都市カシュール
黒一角獣
予想外の邪魔が入り傭兵都市カシュールへ向かう途中で野営を行う
事になったウェンディーヌ一行。
・ ・
ケンタウロスの治療が流石と言うべきか、ブラックホーンホースの
回復力が凄いのか、翌日には軽く︵あくまで彼らの基準で︶走れる
ようになった。
途中、﹁血が足りません!﹂とのたまったイザナミが突如藪に顔を
突っ込んで鉄分が豊富だと言う野草をムシャムシャ頬張ったりした
が、それでも昼過ぎにはカシュールに着いた。
街の雰囲気は一言でいえば﹁活気がある。﹂
もう少し砕けた言葉で言えば﹁荒くれている。﹂
ウォリアー
の名に恥じない血の気の多い連中が闊歩している。
要するに⋮。
傭兵都市
スキンヘッドに体中古傷だらけ、ハルバードを担いだ重量戦士やら、
ブラックソーサリアン
真昼間から漆黒のローブに頭まですっぽり身を包みスカルヘッド杖
でカツカツと地面を叩いている黒魔術師など、まともな職業に就い
ワーウルフ
ワーベア
ていては食べていけなさそうな、何というか一般社会からは爪弾き
ざっと
にされそうな連中もゴロゴロいる。
ジャイアンツ
ホビッツ
それに、種族も様々だ。一目見た限りでも人狼に人熊、エルフにダ
ークエルフ、それに巨人族や小人族までもが見受けられる。しかも、
本来属性が反発しあう事の多い種族同士ですらごく普通にパーティ
を組んでいる様だ。
インヴォーカー
ハジメとは獣魔師ギルドの前で待ち合わせる事になっている。
本当なら昼食を先に取りたいところだが、山賊どもの報酬があるか
682
ソーディアン
らだ。
ランサー
インベン
剣士と槍術師を含め、実力のありそうな数名の首を持って来ている。
トリ
流石に冒険者生活が長いので慣れてはいるが、余り長々と収納スペ
ースに入れておきたい物ではない。
インヴォーカー
竜と人が握手をしているマーク、アイスホルストでは見なかったが
獣魔師ギルドのマークだ。街の規模が大きいのでそれぞれのギルド
が独立した建物になっていて、統括する冒険者ギルド庁は意外と小
さめだ。
﹁ウェンディーヌ﹂
何時の間に来ていたのか後ろから声を掛けられた。
﹁デカイ街だな。猥雑さも有るけど、それ以上に活気がある。この
街は産業さえきっちりあればこれから伸びるぞ。その引き換えに貧
富の差なんかの歪みも出てくる。多分、仕事には事欠かないはずだ。
そう思わないか?リヴィエル。﹂
傭兵
としての雇用を生み、またギルドは治
︵そうね、しょっちゅう余所にチョッカイ出して国費を削っては居
るけど、それが逆に
安部隊としても活躍して結局人が集まると言う経済状態だから。平
静時の産業が確立されればグンと伸びるでしょうね。︶
リコール
﹁面白い街だよね。俺、ここ結構好きかも。そう言えばリヴィエル、
アストラル・ワールド
どうして出てこないの?いっつもなら召喚解除しても勝手に出て来
るのに。﹂
インヴォーカー
﹁埃っぽくて乾燥してて苦手らしいわよ。精神世界の方が居心地が
良いんだって。﹂
クラフト
﹁さて、さっさとやる事やってメシにしようぜ。行く所は獣魔師ギ
ルドと、工芸ギルドだろ?﹂
◆ ◆
﹁その後は普通にお買い物ね。﹂
◆
683
インヴォーカー
﹁獣魔師ギルドへようこそ。どう言ったご用件でしょう?﹂
ブラックスーツの様な服を着たギルド員が受付をしてくれる。
﹁近くで追剥を仕掛けてきた山賊を始末しました。確認をお願いし
ます。﹂
﹁了解しました。身分証明と討伐証明部位をお願いいたします。﹂
流石に治安が悪いと言うだけある。部屋にも通されずに通路のここ
で首を出す事になるとは思わなかった。
日常茶飯事過ぎてみんな慣れっこなのだろうか。何時の間にやらテ
ーブルには板と布が敷かれていた。
リーダー格2人を含めた5人の首を並べる。
﹁ジョーキジッチ山賊団ですね。何人で襲って来て何人倒しました
か?﹂
﹁20人程で全部倒しました。﹂
﹁正確にはこの5人を含めた23人です。﹂
ハジメが言葉を継いでくれた。そっか、遺体を片付けたのってガル
ーダ兄弟だったから知ってるんだっけ。
﹁了解致しました。残党は確認されている範囲では3∼4人程度と
思われますが、何れも小物ですね。ジョーキジッチ山賊団を壊滅さ
せたと認定し、賞金合計6300万となります。﹂
ハジメと目を合わせる。苦労の割に賞金が安い、と言いたげだ。
アタシも全く以て同感だ。
﹁また遺産相続ですが、彼等のアジトを探索した後となります。場
所の検索から始めますのでこちらで行いますと1週間ほどかかりま
すが宜しいでしょうか?急がれるのでしたらご自分でされても宜し
いですが。﹂
684
﹁任せちゃって良いわよね?ハジメ。どうせ何回か買い物した物も
運ばなきゃだろうし。﹂
﹁いや、時間掛かるんなら探すだけ俺が探すよ。場所と残党を確認
してその後の検分は任せる、それでいいですか?多分半径100k
mぐらいなら3時間も有れば終わりますけど。﹂
﹁何と!!本当ですか!!とても助かります。ギルドから依頼を出
す場合、範囲が広いと言うだけでCランク程度の扱いになってしま
い手間もお金も掛かりますので⋮。﹂
﹁分かりました。こちらの予定も有りますので今晩行います。明朝
報告と言う事で宜しいでしょうか?﹂
◆ ◆
﹁勿論結構です。では明日の午前中、お待ちしております。﹂
◆
クラフト
続いてやって来たのはハンマーとノミを模したマーク。工芸ギルド
クラフト
だ。
﹁工芸ギルドへようこそ。どう言ったご用件でしょうか。﹂
こちらのギルド員は水色と白のメイド服、十代半ばぐらいのクリク
リとした髪の毛の少女だ。
ッ!
⋮っとウェンディーヌに足を踏まれた。あ、そう言えば確かにキャ
ラがちょっとかぶり気ミィッ!
⋮っと。また踏まれた。
クエスト
﹁自宅の空いた土地に小屋を幾つか建てて欲しいの。依頼を出した
いんだけどこの辺りには腕の良いノームが沢山居るって聞いたんだ
けど?﹂
﹁建築を専門にしているノームへの依頼ですね?この都市にも確か
に何人か居ります。期間はどれぐらいでお考えですか?﹂
685
﹁小屋を4戸で2週間からどんなに長くても1カ月以内。予算は相
場が正確に分からないんだけど2000万ミュール程あれば良いか
しら?﹂
﹁結構です。依頼書を作成しますので詳しい条件をお話しましょう。
﹂
⋮
⋮⋮
⋮⋮⋮
﹁了解致しました。この条件でしたら2000万ミュールで受け持
ってくれるノームが何人か現れると思います。万一1週間経って受
理されない場合は条件の相談が必要となりますので再びこちらを訪
れて下さい。﹂。
﹁あ、そうそう、私たち引っ越して来たばかりで家具類とか調理器
具とかを購入したいんだけど、ギルド公認店に良いお店無いかしら
?高くても良い物が欲しいんだけど。﹂
﹁それでしたら家具はタペット・タヴォロ、調理器具はコルテッロ・
フォルケッタが宜しいかと。どちらもギルド所属のノームが手掛け
◆ ◆
た実用性と装飾性に優れた品を扱っています。﹂
◆
﹁家具とか調理器具も買わなきゃだけど、その前にメシにしないか
?﹂
﹁同感。お腹空いちゃったわね。﹂
やって来たのは料理宿の﹃剣の止まり木亭﹄だ。
名前の通り、中には剣や槍、弓などを帯びた一目で冒険者か傭兵と
686
分かる物たちが多い。
中には少ないながらブレスレットを付けた獣魔師の姿もチラホラ見
受けられる。
給仕をしている店員は殆どが10代から20代、キッチンの中では
調理をしながらそれらを取り仕切っている30半ばの若い女将さん
の姿が見える。
水を運んで来た少女は、俺とウェンディーヌをチラリと見比べると
勝手に納得した様に一礼し、ご注文の時はお呼び下さい、と他の男
性客の方へ行ってしまった。
︵ウェンディーヌ、ここってもしかして⋮。︶
︵そうみたいね。ギルド公認店でやってるとは思わなかったけど⋮。
まぁ逆に言えば安心して遊べるって事かしら?︶
やはり流石は傭兵都市。ここは所謂売春宿でも有るのだろう。必ず
しも女を買わなくても良いが、気に入った女の子が居れば食事の時
にチップを払って接客させる。更に気に入れば追加料金を払って階
上の部屋へ。
﹁不届きな事考えたら握りつぶすからね。﹂
考えるぐらい良いじゃないか!あのウシ耳少女、モフモフしながら
ウシチチぱふぱふしたら⋮。
﹁リヴィエル、﹃アシッドヴォルテックs﹄﹂﹁ごめんごめんごめ
んなさいませ!!店ん中でそれは不味いって!!﹂
﹁いっつもながら謝るぐらいなら最初っからやらなきゃ良いと思う
の。﹂
◆ ◆
﹁分かった分かった!!素直に料理選ぼう。﹂
◆
687
﹁アタシの知ってる料理が少ないわ⋮。﹂
旅慣れしてるはずのウェンディーヌが分からないのでは俺なんて尚
更分からない。
﹁アタシ、大体が北の大陸メインに活動してたからね。こっちの事
あんまり分かんないのよ。﹂
﹁リヴィエルに聞く?﹂
﹁ダメ。彼女、物凄く食べるから。﹂
仕方ないのでウェイトレスさんを呼んだ。ウシ耳少女を呼んだ事に
深い意味はない。無いったら無い。
﹁お決まりですか?﹂
﹁いえ、この辺り初めてなので。料理がどんなのか分からないんで
す。
俺は肉でも魚でも良いのでこの辺りの鮮度の良い食材を焼き料理で。
後はパンとこの虹色ハーブティーってのを下さい。﹂
﹁それでしたらこの辺りで人気のハリケーンベアのベアテキカレー
がお勧めですね。それに臓物煮込みを付けるとお安くなりますが。﹂
﹁じゃ、俺はそれで。﹂
俺のやり方を見てウェンディーヌが真似る。
﹁アタシはさっぱりした魚料理が欲しいです。あ、でも生じゃなく
て火の通ってる方で。飲み物は甘めのフレッシュジュースを何か。﹂
﹁それでしたらこちらのサワーサワラのブイヤベースなどいかがで
しょう?ドリンクはミックスジュースがお勧めですが。中身はお楽
しみです。﹂
﹁じゃぁ、それでお願い。﹂
⋮⋮⋮
⋮⋮
688
⋮
﹁ハリケーンベア旨っ!野性味と言うか独特の臭みが逆に良い!!
このスパイス、何が入ってるか一つも想像付かねぇ!!ナンに何使
ってんだ!?米粉みたいにモッチモチだけど米はないんだもんなぁ。
﹂
﹁サワーサワラって酸っぱくて普通食べないのに!!料理の事なん
か全然分からないけど凄いわ!!ちょっと、ハジメ!これ一口食べ
て後でレシピ再現してみて。﹂
ダイエット・ダック
﹁無茶苦茶言うな!!こっちの食材自体が俺には分からんのだぞ?﹂
﹁軽々鴨はやってくれたじゃない。﹂
﹁あ∼、ジュース美味しい!フルーツ10種類って言ってたけど柑
橘系が入ってる、ってぐらいしか分からないわ。﹂
﹁虹色ハーブはこっち来て以来、大のお気に入りだけどこんな料理
方法あったんだなぁ。。世界は広いし料理は奥が深いや。﹂
食没中のようであった。
この後、それぞれ2回ずつお代わりをした。
少なくとも食文化に関してはこの地で生きて行けるようだ。
﹁く、くるしい・・・。﹂
﹁食べ過ぎるからだよ。腹八分目にしとかないと。﹂
﹁アタシの分まで食べててどうして平気なの?ハジメって滅茶苦茶
食べるわよね⋮。﹂
﹁こっち来てから、なんだけどね。どうもクロノスとかオトヒメと
か維持するのに結構魔力でカロリー使っちゃうみたい。﹂
﹁世の女性の敵だわ⋮。﹂
689
◆
◆ ◆
﹃剣の止まり木亭﹄の近くにあったのは調理器具店の﹃コルテッロ・
フォルケッタ﹄だったのでそちらから覗いてみた。と言っても、ウ
ェンディーヌには何が何やらサッパリなので鍋や包丁などはハジメ
が買い揃える。
食器類は普段使いの洗い回しが楽な物と来客用を︵来客用の食器の
デザインではウェンディーヌが盛大に口を出して来た︶。
﹁はい、これ。﹂
﹁えっ!?﹂
の付与魔術掛けてある
エンチャント
ハジメが何気なく差し出して来たのは包丁、まな板、フライパンに
再生
アタシ、料理はちょっと、その⋮。﹂
鍋のセットである。
﹁ア、
﹁大丈夫。それ全部、魔法金属製で
から。だからどんな扱いしても大丈夫。﹂
﹁ちょ!?それって下手な装備品より高いんじゃ!?﹂
﹁あ、指切り落とさないように気を付けてね。腕一本なんてバター
みたいに切れるから。﹂
﹁ちょ!ちょ!!話聞きなさいってば!!!﹂
﹁ちゃんと聞いてるよ。これなら失敗怖がらずに全力で出来るでし
ょ?﹂
﹁⋮へ??﹂
﹁おっかなびっくりで中途半端な事やるから大失敗になるんだよ。
それなら何やっても誰にも迷惑掛からないから。それに、それなら
道具を大事に出来るでしょ?道具に愛着持って使ってると何でも上
達早いよ。﹂
690
﹁分かったわ。生姜焼き定食で﹃あっ!!!!!!﹄と驚かされる
◆ ◆
日を首洗って待ってなさい。﹂
◆
所変わって家具屋のタペット・タヴォロ。
こちらではウェンディーヌが快刀乱麻の大活躍である。
﹁テーブルと椅子はこれ!カーテンはそっち!絨毯はこれとこれと
これを3つずつ貰うわ。各部屋のテーブルと書き物机も欲しいから
⋮。﹂
ハジメは最初っから投げている。自分の部屋の家具は自分で選ぶが、
他は手を出すつもりがない。
と言うか、女性が多い所帯なので家具選びにウェンディーヌと一緒
に来たのである。
﹁凄いわ、ハジメ。ここのルームライト個人で魔力注入すれば再利
ヒエログリフ
用出来るタイプよ。空調に使われてる火精石と氷精石も個人で注入
し直せるし⋮。このタイプって神聖文字の調整が難しいから凄く稀
少で普通もっと値段張るのよ。﹂
よっぽど腕の良いノームがいるのね、そう話していたところだった。
カウンターの奥からとんがり鼻で子供の背丈ほどの男性がふらりふ
らりとやってきた。
﹁褒めて貰ってありがとね∼♪﹂
﹁貴方がこちらの製品を?﹂
﹁そうだよ∼♪希望があれば注文生産もやってるから宜しくね∼。﹂
︵ハジメ、ガルーダの小屋の空調、この人に頼まない?︶
691
クエスト
小屋の製作自体は依頼を出したが、空調は別で購入する予定だった。
﹁そうだな、いや、どうせなら⋮。
すみません、カクカクシカジカなのですが小屋の空調作って貰えま
せんか?それと、定期的に家全体の家具の調整や修理に来て頂きた
いんです。3か月に1度ほどで良いと思うのですが。﹂
﹁へへぇ∼??それって専属契約ぅ∼??そんな大それたこと僕な
んかに頼んじゃって良いのかなぁ??﹂
﹁はい、まず手始めに作って頂きたい家具があります。﹂
﹁ほほぉ∼♪ それの出来次第でまた考えるって言うんだねぇ∼?
?良いよぉ∼ 何作れば良いのぉ∼∼??﹂
﹁10人が寝て尚余る、エンペラーサイズの極上ベッドです。﹂
692
傭兵都市カシュール︵後書き︶
日常回は書いていて楽しいのですが、無くても話が成立するので悩
ましい限りです。
693
二つ名︵前書き︶
次回には合流させる予定です!!
694
二つ名
﹁縦3m×横5m、スプリングは柔らかめで尚且つすぐにヘタらず
長持ちするもの。夏は涼しく、冬は暖かく維持される温度調節機能
付きセットで布団と枕も希望。以上で間違いないかねぇ∼?﹂
﹁OK。全部それで良いよ。後、なんか気付いた事あったら勝手に
やっちゃってくれて良いから。追加料金は適正に払うし。﹂
﹁了解∼♪。ところで、ギルドに出した小屋の依頼、ボクが受けち
ゃって良いかな∼?﹂
﹁え!?建築方面もやってるの?﹂
﹁僕の知り合いに腕の良いのが居るのね∼♪ 空調とかやるんなら
そっちのが楽なのねぇ∼ん♪﹂
﹁そっか、そうだな。じゃぁ準備次第材料や人員を運ぼうと思うけ
ど、何日ぐらいでここに来れば良い?﹂
﹁3日あればOKだねぇ。﹂
コミュニケーション
﹁了解、じゃぁ3日後の朝10時頃ここに来るわ。材木とか必要な
ら森に行ってククノチと交渉してくるけど?﹂
﹁切って直ぐの材木は湿気ててダメなのねぇ∼ん♪ こっちで準備
インベントリ
するけど、重いから運んで欲しいのねぇ∼ん♪﹂
﹁それなら大きな荷物は収納スペースに放り込めばすぐだからいつ
ところでククノチ達への挨拶は一応済ませて
でもOKだよ。3日後の朝で良い?﹂
﹁それで良いよ∼♪
於いてね∼♪﹂
﹁え?木を切らなくても必要なの??﹂
﹁彼女達の土地で家を建てるんなら挨拶しといた方が良いよ∼♪
土地神様みたいなもんだしね∼。﹂
695
﹁そっか。それなら明日にでも早速行ってくるよ。﹂
◆ ◆ ◆
さて、夜。
久し振りの2人っきりの夜である。
2人とも期待はしていたしアレコレ準備してきていたのだが・・・。
﹁ゴメン、ウェンディーヌ、この後は山賊の検索に全力を奮うから・
・・。﹂
﹁はいはい、分かってるわよ。半径100kmの検索をやろうとし
たら気を失っちゃうからここでハジメ本体を守ってて、って言うん
でしょ?﹂
﹁うん、上空からは念の為ガルーダ兄弟に頼んであるんだけど・・・
。﹂
﹁ガルーダが居たらアタシの出る幕なんて無さそうな気もするけど
ね。﹂
﹁それはやっぱり・・・、ウェンディーヌには背中預けてあるから。
﹂
﹁・・・全く。。言うんじゃないかと思ったわ。良いわよ。3時間
でも4時間でも張っててあげるから思いっ切り行ってきなさい。﹂
そっぽ向いて誤魔化しているがほっぺたが紅潮しているのが見える。
からかうと水の凶器が飛んでくるので要らない事は言わない。
マイクロ∼ズの展開と共に、ハジメはアッサリと気を失った。
戦闘中でも展開する位なのでかなり使い方に慣れて来ている筈なの
にこうもアッサリ身を預けられるといっそ気持ち良いぐらいだ。
︵蠅一匹近寄らせてなるもんですか。。︶
ウェンディーヌも一応感知タイプの結界は簡易的なものなら開発し
696
てみた。
タテガミキツネ戦でマコのヘルプを受けて、感知能力の高さが戦闘
で如何に役に立つかと言う事を身を以て知ったし、逆にその後の山
賊戦では感知が遅れたが為に対応に手間取る事になったからだ。
﹃ミラージュ・ベスト﹄の応用の様な物で、半径精々10m程では
あるが霧の結界を張れる様にはなった。
ただ、これでは既にお互い向き合って戦闘状態にある時にしか使え
ない。霧でウェンディーヌの場所を誤魔化して使うと言う何とも不
安定な使い方しか出来ないのである。
︵ハジメが戻って来たら相談してみようかしら?︶
◆ ◆ ◆
ネグラ
︵ジョーキジッチ山賊団、お宝の在処、塒、生き残り・・・。︶
カシュールの近くから次第に半径を広げながら円上に検索を行う。
インヴォ
ウェンディーヌ達が襲われた場所の周囲を重点的に検索していたの
ーカー
だが、やはりさほど離れていない場所にアジトは見付かった。獣魔
師が居ない為、移動手段を徒歩か馬に頼らざるを得ないのだろう。
残党も数名、これと言って腕の立ちそうな輩は見当たらない。敢え
バーサーカー
て言えば右の耳がかぎ裂きになった鋭い目をした男が1人居るぐら
ではなく扇状の
五感ソナ
いか。斧を構えたその姿と血に飢えた瞳は狂戦士の雰囲気を感じる。
検索
︵それよりもこっちの方が問題だな・・・。︶
に切り替えた。
一旦、術を解きハジメは円形の
ー
ウェンディーヌとの連絡用にチビクロを一体残しておく。
検索
と違
五感ソナーは異常に集中力を必要とする為、本体であるハジメの身
に何か起こっても対応が遅れる可能性があるからだ。
その代わり、条件に引っ掛かった物しか感知出来ない
697
い、ソナーを向けた方向に関しては実際に見て触って聞いて味わっ
てきたかの如く情報収集が可能だ。
勿論、情報過多で人間の頭では処理し切れないのでクロノスに一旦
保存する事になるのだが。
実に5時間以上にも渡って五感ソナーで感知を行った後、意識の戻
ったハジメは即座に魔力切れを起こして再び気を失った。
ウェンディーヌに気付け薬と満タンエーテルを飲ませて貰った後、
ハジメは急いで話し出した。
﹁今すぐギルドへ行くぞ!!﹂
◆ ◆ ◆
深夜を遙かに過ぎた時間帯。街は昼間とは様相を変え、昼間とは異
なる職業の人間が街を席巻している。
明らかに裏家業と分かるゴロツキ、一晩の快楽を売る客引き、そし
てそれらの餌となる客人達。
少し後ろ髪を惹かれる思いながらウェンディーヌの一瞥を喰らい大
人しくギルドへと向かった。
サモナー
ギルド員のお姉さんは流石に昼と違う人が夜番をしていた。
こちらは何と左手首にミスリルの腕輪が見える。どうやら召喚師の
様だ。
︵そうか。夜番はそれだけでも危険が付きまとうもんな。アイスホ
インヴォーカー
ルストみたいな牧歌的な村なら兎も角、こんな危なっかしい街での
夜番となれば獣魔師自らが行うのも納得出来るな。。︶
﹁ジョーキジッチ山賊団のアジト自体はすぐに見付かりました。南
門の街道を80km程進み、獣道を更に10km程進めば木に隠す
698
様に建てられたあばら屋が点々と4軒ほど有ります。
中も調べましたがゴロツキが4∼5人、それなりの量の財宝を抱え
込んでいます。
恐らく10億の桁は下らないでしょう。残党がお宝を持って逃げ出
さない内に対処が必要かと思います。﹂
﹁良くこの短時間で見つけて頂けました。頭領を討伐してもギルド
で残党と遺産を捜索している内に逃げられてしまうと言う事は非常
に多いのです。﹂
それは当然だろう、とハジメは感じた。
何故ならばこの都市の抱える問題は盗賊団一つに収まらないからだ。
﹁それよりも問題はその他の盗賊団ですね。今有る限りの賞金首の
リストを見せて下さい。﹂
﹁全部、ですか?かなりの量になりますが、宜しいでしょうか?﹂
﹁そうですね・・・、では一先ず高額な順に20人程。﹂
お待ち下さい、と一声掛けて、お姉さんは裏から似顔絵の束を持っ
てきた。
﹁ここにある全員の居場所とアジトが分かります。それに構成員の
大凡の人数と所見で感じた範囲での腕っ節も。﹂
﹁︱︱!?この一晩の間にですか!?﹂
驚く彼女に向けて、ハジメは更に言葉を続けた。
﹁正確に言えば、カシュール周辺150km程度の範囲を根城とし
ている盗賊、山賊団についてほぼ同様の情報が分かります。一部に
は同盟を組んでいるのか頭領や縄張りの境界などが曖昧な物もあり
ましたが、恐らく全部で47ないし49の盗賊団が居ると思います。
﹂
699
目的有る旅路
﹁昨日の今日でそこまで調べるなんて・・・。貴方は一体・・・?
?﹂
﹁あ、そうか。ちゃんと名乗ってませんでしたね。
チームリーダー、ハジメ・タカナシと申します。﹂
﹁貴方が・・・。成程、それで納得が行きました。カシュールはラ
イスセミア幻神国の中でも2番目に大きな街ですが、それでもAラ
ンク以上の冒険者を見かけるのは稀なのです。理由はお分かりです
か?﹂
﹁落ち着いて住むにはやや荒っぽい土地柄だから、でしょうか?﹂
﹁それも有ります。しかしもう一つ、この辺りに山賊の減らない理
由と共通しています。
そこそこ実力を付けた冒険者は傭兵として国に雇われていくのです
が、そこで上手くやっていけなかった傭兵崩れが山賊へと身を落と
すのです。﹂
何と言う事か・・・。国力増強の為の傭兵が逆に国の首を絞めると
言う構造。
﹁しかし、その山賊をまた傭兵が討伐する。その内に傭兵は山賊の
やり口を学ぶ。その傭兵が山賊へと身をやつす。延々と連鎖が断ち
切れないで居るのです。﹂
ウェンディーヌと目を合わせ、頷き合うと口を開いた。
﹁私達が彼等を何とかしてみましょうか?﹂
﹁・・・はぁ??﹂
﹁私達はこの近辺に居を構えています。不意を襲われても迎撃する
実力は備えているつもりですが、留守を狙われたりコンディション
が悪い時を突かれる可能性もありますので、これからの冒険に備え
後顧の憂いは断っておきたいのです。
700
今はもう1人のメンバーが戻って来ていません。彼女と合流次第、
始めようと思います。1か月程で片付ける予定ですので私達が49
コンディション
とは獣魔3人の妊娠に他な
の盗賊団を全て討伐した場合の報奨金を計算しておいて下さい。﹂
ちなみにここで言う
らない。特に3か月後に控えているリヴィエルの出産中は完全にウ
ェンディーヌは無防備となるし、ハジメも戦力ダウンである事は間
違いない。
ホーンテッドハウスに籠城して迎撃すればかなりの安全ではあるが、
万一の可能性は除いておかねばならないのだ。
﹁・・・貴方の言葉だけではとても信じられなかったでしょう。し
かし私はギルドマスターから伝言を授かっているのです。﹂
﹁伝言??﹂
﹁Aランク到達の褒章、二つ名のプレゼントです。﹂
﹁﹁おおっ!!﹂﹂
ハジメもウェンディーヌもすっかり忘れてた。
DQNネームも受け入れろと言うアテネの言葉が少し気に掛かる。
﹁貴方に送られる二つ名は・・・﹂
常識ぶっ壊し
バランス・ブレイカー
です。﹂
﹁﹁二つ名は・・・!?!?﹂﹂
﹁
701
﹁・・・・・・・・・・・・・・ぇっ﹂
◆ ◆ ◆
﹁きゃははははははははは!!!!!
あ∼∼∼∼っはっはっはっ!!!!!
お腹痛いお腹痛いお腹痛いよう。﹂
ケタケタと壊れたクルミ割り人形の如く奇声を発し続けるウェンデ
ィーヌ。
ギルドからの帰り道、ハジメは終始ムッツリと不機嫌にダンマリを
決め込んでいる。
ハジメも流石にあのネーミングは無い、と思ったから反論しように
も切り口が見当たらない。
インヴォーカー
﹁でも、アテネさんからの伝言は尤もだっただろう?﹃世界のバラ
ンスを保つ為の存在である獣魔師達、その中でも一際大きな力を持
憑物
に落
った貴方はまかり間違えば世界のバランスを壊すサイドに回ると言
う事を常に意識しなさい。﹄
あれってもろにマコの事を指してるだろう?俺がもし
ちたら。あれ以上の災害を起こしかねないって言う釘刺しだったと
思うんだ。﹂
ぶっ壊し
アテネさんも﹃この名称が不服なら鬼ごっこの後でゆっ
﹁思うんだっ!キリッ!とかしてても締まらないわよ。
さん♪
ぶっ壊し
さん♪﹂
バランス・ブレイカー
くり話し合いましょう?﹄って言ってくれてる訳だし、頑張りまし
ょうね、
﹁ぶっ壊しぶっ壊し言うな!ちゃんとフリガナ突きの常識ぶっ壊し
と言え!!こっちの方が厨二臭くて吹っ切れててグッドだ!!﹂
702
﹁きゃははははははははは!!!!!
バランス・ブレイカー
あ∼∼∼∼っはっはっはっ!!!!!
分かったわよ。常識ぶっ壊しさん♪﹂
﹁ぅぐ・・・。﹂
︵ウェンディーヌが二つ名持ちになる時には絶対にエレンさんと会
議に混ざって初対面の誰かと﹃乾杯﹄の度に﹃完敗﹄な気分になる
壮絶厨二病臭漂う格別な奴をプレゼントしてやる。。。︶
703
二つ名︵後書き︶
ひとえ
インヴォーカー
ネーミングセンスがかなりアレなのは単に作者の力量による物です。
しかし、ハジメが﹁世界のバランスを保つ為の存在である獣魔師達、
その中でも一際大きな力を持った貴方はまかり間違えば世界のバラ
ンスを壊すサイドに回る﹂存在であるという事は必ずこの辺りのタ
イミングで入れたかったので不遇な二つ名を背負って貰いましたw
704
合流︵前書き︶
漸く合流で∼す。
705
合流
翌日、俺とウェンディーヌは屋敷近くの泉から更に踏み入った場所
にある森に来ていた。
森の中でも比較的樹齢の高そうな木の根元に腰掛け、周囲の獣魔の
気配を探る。
コミュニケーション
木の周りは少し開けており、深い山の中にあって静謐な空気の流れ
を感じられる木漏れ日の心地好い場所だ。
インヴォーカー
﹁ククノチ、私はハジメ・タカナシ。獣魔師だ。貴女方と交渉がし
たい。﹂
さわさわさわさわ
ざわざわざわざわ
かさこそかさこそ
風もないのに木が揺さぶられ、葉擦れの音を立てる。
﹁敵意を持っていない事を獣魔契約のブレスレットにおいて誓おう。
この近くに新居を構える者として貴女方に挨拶がしたい。﹂
やがてシャワシャワと葉擦れが続いたかと思った瞬間、木漏れ日が
一層強く差し込んだ。
そして目を開けた時にはハチミツ色の髪の女性が目の前に立って居
た。
◆ ◆ ◆
706
﹁こんにちは。アタシがこの辺りのククノチの代表?みたいな者よ。
引っ越して早々、人間の方から挨拶に来るなんて珍しいわね。﹂
ククノチは150cm半ば程、ペリドットの如き黄緑色の瞳。
更にハチミツ色の艶やかなロングヘアにはツタが絡まり、色とりど
りの、花が開いては閉じ、閉じては開き、開いては散り、また開き、
と繰り返している。
﹁こんな素晴らしい森の先住人で、しかも守り神として任を務めて
いると聞いたからね。
俺の生まれ故郷では家を建てる時は土地神に祈りを捧げる習慣があ
るからその辺は特に違和感はないんだ。この先暫くは木を切ったり
はしないと思うけど、新たに必要になる事も有るかも知れない。そ
の時は宜しくね。﹂
﹁良いわよ。古くなった木は切られる事で光が届き、新たな木を芽
吹かせる。私達とて全てを拒否する訳ではないわ。ただ・・・。﹂
﹁ただ??﹂
﹁その時には新たな生命を芽吹かせる為の精力を少し分けて貰いた
いわね。﹂
﹁・・・はい??﹂
﹁分かるでしょ?私とアレしましょ♪って言ってるの。﹂
えっち♪
2人
﹁えっと・・・アレってやっぱりアレ?﹂
﹁そ♪ア・レ♪﹂
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
暫し理解不能に陥る俺とウェンディーヌ。
707
﹁だ、駄目よっ!ハジメはアタシ達の物よ!!﹂
﹁へぇ?良く言うわね?先日手前の泉で濃厚なアレをなさっていた
のはどこのどなたとどなたかしら??﹂
んげ!見てたのかよ!?
﹁あ、それと心配しなくてもアタシ両方イケる口だから。﹂
・・・はい??
﹁ピンクのふわふわの髪の毛も、マシュマロみたいな大きなおっぱ
いも美味しそう・・・。﹂
︱︱!!
ウェンディーヌが思わずひしっと我が身を抱きしめる。
﹁ふふっ♪ま、今は特に良いわ。また楽しみは取っておきましょう。
出来ればいっぱいお仲間連れてきてね♪みんなで楽しみましょ??﹂
﹁あっ!ちょっと!!ヲイ!!!﹂
しゅるん、と蔓が解ける様に瞬時に姿を眩ましてしまった。
﹁言いたい事だけ言って行っちゃったけど・・・。挨拶は済んだっ
て事で良いのかな?﹂
さわさわさわさわ
是、と答えるかの様に木々が葉擦れの音を立てた。
◆ ◆ ◆
708
﹁これはまた・・・。﹂
﹁えぇ、そうね・・・。自分で注文しておいて何だけど・・・。﹂
﹁﹁デカい・・・。。﹂﹂
ノームが作ってきたベッドはハジメの注文した物より更に大きかっ
た。
﹁10人が寝て尚余る﹂を実現しようとした結果、だそうだ。
ただ、これには大きな問題点が有る。
﹁俺の部屋に入らんぞ・・・。﹂
そう。一部屋に収まりきらないのである。
﹁ベッドは気に入って貰えたかねぇ∼ん??﹂
改装
﹁いや、気に入るも何も機能性は最高だろうけど・・・。これじゃ
ぁ部屋に収まりきらないよ。﹂
﹁気に入って貰えたんならOKねぇ∼♪家のリフォームから取り掛
かるのねぇ∼ん♪﹂
◆ ◆ ◆
結果。
7つ有った部屋は6つに改装され、壁ぶち抜いて結合されて出来た
ハジメの部屋は収納を除けば全てがベッドで占拠された。残りのス
ペースは綺麗に5等分され、それぞれにキングサイズのベッドとデ
スクが収められた。
更にハジメの部屋と女性陣の部屋からは直接内風呂へと繋がって居
る。天気の良い日に入れるよう、サービスで露天まで作ってくれた。
部屋と繋いだ新たな風呂を作ったので元の風呂は不要になってしま
った。そこで、大きな扉を付けて外から入れる様にして、獣魔用の
709
黒一角獣
風呂にした。これにはケンタウロスとブラックホーンホースが大層
喜んだ。意外と綺麗好きらしい。
﹁・・・俺の個人スペースがないぞ。。﹂
文句を言う家主の為にノーム達がサービスで丁寧な作りの小さな小
屋を作ってくれた。
ウェスタに指示をして、例え身内でもハジメの許可無く入れない様
にして貰い、自室と小屋とを空間転移で移動する事にして、誰にも
邪魔されない空間を作った。
今回、ハジメ達が重要視したのが﹁個人の時間と空間﹂である。パ
ーティでの旅では長い間プライバシー無く生活する。それが出来る
からこそのパーティなのだが、1人になる時間も必要だと考えたの
だ。故に個々人の部屋にはドアに個別の鍵が付いている。しかも魔
法金属製で、個人の魔力を流し込まねば反応しない特別製だ。勿論、
緊急時などはウェスタに命令すれば進入出来るのだが。
インテリアなど細かい部分もノーム達に手伝って貰いながら飾り付
け、マコを迎えに行くまでに庭の小屋を含めた家は完成してしまっ
た。
﹁有難う。完璧な仕事だった。報酬の2500万ミュール、カシュ
ールの店で支払わせて貰うよ。﹂
﹁ん??ここで払ってくれて良いんだよぉ??﹂
彼等商売人はブレスレットの代わりとして、チャージ水晶を持ち歩
いている。
﹁良いんだ。お店で少し買いたい物があるから。﹂
﹁そう?じゃぁついでに送ってもらっても良いかなぁ∼??﹂
﹁勿論、ぶっちぎりの高速を楽しんで貰うよ。﹂
◆ ◆ ◆
710
翌朝、8時頃に出立の準備を始めた。
ハジメはクロノスで、ウェンディーヌはトールに抱えられて飛ぶ予
定だ。。
アネモイは護衛として最後尾を飛ぶ。
﹁マコ、無事にBランクに上がったかなぁ?﹂
﹁なぁ∼に言ってるんだか。これっぽっちも心配してない癖に。﹂
﹁ははは、まぁね。俺以上の人生経験があって、俺達と同等の戦闘
能力があって、Sランク相手の戦闘経験があって、チームハントと
は言え勝利してる。心配しろって方が無理があるよ。﹂
﹁そうね。アタシもマコちゃんが落ちるとこなんてちっとも想像出
来ないわ。﹂
ウェンディーヌを抱えたトールの速度に合わせる為、クロノスの飛
行にもかなり余裕がある。
﹁ねぇ、これって帰りはどうする予定なの??﹂
そう。3人がそれぞれの獣魔に抱えられると非常時に対応が取れな
いのである。
荷物を落とさずに
戦うのは不
一応、ガルーダの風も雷もクロノスのチビクロ∼ズも両手ふさがっ
たまま放つ事は出来るが、やはり
自由がある。
﹁ちゃんと考えてあるから大丈夫だって。楽しみにしててよ。﹂
◆ ◆ ◆
オーバンの街は流石に侯爵領地と言うだけあり、非常に整備の行き
届いた美しい町並みであった。
港町で船乗りらしきムクツケキ男達も勿論居るのだが、一目で育ち
の違いが解る様な、着飾っていながら気取ったところを感じさせな
711
い御婦人達が歩いていたり、オープンテラスでランチタイムを楽し
んでいたりする。
広々と作られた公園では石畳を獣魔で引かせた馬車がカラカラと音
を立てながら進み、中央には水龍を模した彫刻に噴水が吹き上がっ
ている。
﹁あれ?あの水龍って・・・。﹂
﹁そうよ。リヴィエルよ。ここは港町だからね。水龍王に航海の安
全を祈願するの。﹂
インヴォーカー
その風習が絡んだ事件にマコが巻き込まれているとは神ならぬ2人
には知るよしもない話である。
クエスト
マコとの待ち合わせ場所はいつも通り獣魔師ギルド前である。
どうせマコの依頼の目的地もここなのだから間違いが無い。
﹁なぁ、ウェンディーヌ、今日ってもうマコの到着予定日だよな?﹂
﹁その筈だけど?﹂
﹂
﹁そんでもってもう到着予定時間は過ぎてるよな?﹂
飛んでけ!マイクロ∼ズ!!
﹁確かに予定では2時間程前の筈ね。﹂
﹁じゃぁ・・・。
﹁あほかあああぁぁぁっっ!!!﹂
◆ ◆ ◆
﹁な、何も行き成り町中で﹃ヴォルテックス﹄ぶちかまさなくって
も良いじゃないか!!﹂
﹁アンタが行き成りマイクロ∼ズ飛び出させるからでしょうが!せ
めて一言相談しなさいよ!!﹂
だもん
じゃないわよ、気色悪い!確かにそろそろ様子窺うぐ
﹁だって・・・、相談したら禁止されそうだったんだもん。﹂
﹁
らいは良いだろうけど、行き成り全力で獣魔展開する馬鹿がいます
712
か!!﹂
﹁しゅん・・・。﹂
ウェンディーヌは、ふぅ、と大きくため息を吐いた。
﹁・・・で?﹂
﹁ふえ??﹂
﹁よ・う・す!!マコちゃんの。見てきたんでしょ?どうだったの
よ。﹂
﹁あ、うん。ギルドの中に居たよ。元気そうだったけどそれ以上は
解らなかった。﹂
﹁ならきっと大丈夫よ。信じて待ってましょ。﹂
◆ ◆ ◆
∼sideマコ∼
﹁それではこちらが報酬の金貨30枚となります。ミスリルインゴ
ッドをこちらに出して下さい。﹂
ハーレム・クイーン
﹁はい、これがお預かりしたミスリルインゴッドです。10kgイ
ンゴッド×100本、お確かめ下さい。﹂
﹁・・・。
・・・・・・。
クエスト
結構です。監視員、エレノア・ベクレル、Aランク、︻慈愛の女王︼
インヴォーカー
の認定により見事検定依頼をクリアされましたので、これにより晴
れてBランク獣魔師と認定致します。Aランクまでのランク上昇ポ
イントは30ポイントとなります。﹂
︵やったあぁぁぁっっっ!!!何だかこないだまで寝てたと思った
らハジメちゃんに会って、一気に外の世界に出て、アレやコレやジ
ェットコースターみたいに出来事がすっ飛んできたと思ったらもう
713
クエスト
Bランクになっちゃった!!
しかも今回の依頼は諮らずも有意義だった・・・。自分のした事、
幾ら詫びても償えない。次の行動でやるしかない。
フロイライン
それにそれに、パンドラとも随分仲良く慣れたし!!︶
︵私はずっと話しかけようとしてましたよ?マコ?︶
︵ねぇ、今度ゆっくり遠距離攻撃考えよう?寧ろ遠距離防御の方で
も良いし。︶
︵この世界の外を知っている貴女にならきっと出来るはずです。ク
ロノスさんに負けてられませんよ?︶
︵打倒クロノス!!良いね、その目標。アタシ達なら絶対出来るよ。
︶
︵その信用が私の力です。いっぱい想像して創造して下さい。︶
◆ ◆ ◆
﹁あ、出て来たわよ!!﹂
にこやかにパンドラと話しながらマコがギルドの扉をくぐり抜ける。
﹁その様子だと・・・、おめでとうで良いのかな?﹂
﹁うん!話したい事いっぱいあるの!!ずっと焚火料理だったから
久し振りにお店の物が食べたいわ。何処かで軽いものでも食べなが
ら話しましょう。﹂
ハジメとウェンディーヌはもっと豪勢に祝うつもりだったのだが、
マコが疲れもあり軽い物が良い、と言うのでカフェでサンドイッチ
とフレッシュジュースを頼んだ。
流石に港町で目の前が海と言うだけ有り、中身のフィッシュフライ
も鮮度の違いを感じさせてくれる。
穏やかな海。
714
それを眺めるマコの瞳は何処か藍色がかった様にも見える。
今という時を離れ遠くの時を見ているかの様な眼差しで、マコは訥
々と語り始めた。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
サイカ島
の遺族だったなんて・・・。運命の悪戯なのかしら?﹂
﹁そう・・・。護衛対象がこの町の領主の息子でしかも
の悲劇
﹁いや、ウェンディーヌ、それは違うと思うよ。﹂
﹁この世界の人口がどれ位か知らないけど、星の大きさに比較して
明らかに俺達の元居た場所より人間の数は少ない。そして、地図を
塗り替えるぐらいの大規模災害であればこの辺りに住んで居た人間
を何人か当たれば必ずと言って良いぐらい遺族が居ておかしくない
筈なんだ。それぐらい大きな災害だった、それを知れたのが今回の
教訓だと思う。﹂
やっぱりハジメちゃんには敵わない。
アタシを責めるでもなく、擁護するでも無い。
有りの侭受け止めると言うそれが一番しんどい事だというのを解っ
てて、尚アタシを信じてそれをさせてくれるんだから。
◆ ◆ ◆
クエスト
﹁マコ、3ランクジャンプアップおめでとう。﹂
﹁初めての依頼でBランクなんて多分、史上最速よ?アタシだって
かなり苦労したのに・・・。﹂
715
﹁これは俺からのお祝い。﹂
﹁こっちはアタシからよ。﹂
﹁オリハルコンのピアスと、髪飾り?しかもこの宝石って・・・。﹂
﹁俺のピアスは風雷石のペリドット、髪飾りには水精石の真珠とア
クアマリンだよ。﹂
﹁俺達のうちの改装をやってくれたノームが兎に角多芸でね。工芸
品から宝飾品までやっちゃうんだ。ほんとは俺一人こっそり頼んで
たつもり立ったんだけど・・・。﹂
﹁アタシもそのつもりだったんだけどハジメも頼んでたのよね。﹂
イリュージョン
﹁本来、幻体には属性って無いけど、風雷石なら敏捷性を上げるタ
イプの技が使いやすいかと思って・・・。﹂
﹁アタシは水精石で回復を補って貰おうかと思って。リヴィエルに
頼んじゃった。前衛で怪我する事が多いかと思って・・・。﹂
﹁嬉しい、嬉しいけど・・・、これって下手な武器や鎧なんかより
よっぽど高価なんじゃ・・・。﹂
思わず顔を見合わすハジメとウェンディーヌ。
つい先日、2人は同じやりとりをやったところだ。
﹁マコ、装備は買えるけど命は買えないんだ。﹂
﹁それにこれはマコちゃんに着けられる為に生まれてきた飾りなの
よ?﹂
クエスト
﹁・・・分かった。お礼は依頼の行動で返すわね。﹂
﹁よし、じゃぁ改めて・・・。﹂
﹁旅仲間、そして、同じ故郷を持つものとして。﹂
716
﹃﹃﹃乾杯﹄﹄﹄
◆ ◆ ◆
∼﹃乾杯﹄時に二つ名が見えたようです。∼
﹁きゃははははははははは!!!!!
あ∼∼∼∼っはっはっはっ!!!!!
お腹痛いお腹痛いお腹痛いよう。﹂
マコ、何れ覚えとけ。
二つ名持ちになる時には絶対にエレンさんと会議に混ざって︵ry
717
合流︵後書き︶
次回は明日の0時更新予定です。
718
嗚呼、麗しのSweet home︵前書き︶
ごめんなさい、やっぱり一息入れます。
719
嗚呼、麗しのSweet home
ハジメ達3人は街外れの埠頭に来ていた。
出立のシーンを出来るだけ人に見られない為だ。
別に見られたからどうという程の物でもないが、誰彼構わず知られ
るよりは或る程度秘匿して置いた方が良い。能力を知られると言う
事は、悪意或る人間からすれば分析して弱点を知る事に他ならない
からだ。
﹁で?帰り道は考えがあるって言ってたけど??﹂
ウェンディーヌが急かしてくる。
﹁うん、ノーム達に頼んでこんなのを作って貰ったんだ。﹂
イ ン ベ ン ト リ
ハジメが収納スペースからスキー場のリフトの様な物を取り出して
くる。
ペケ
いや、肩ベルトと足が固定される分、ジェットコースターの座席の
方が雰囲気が近いか?
﹁竜籠?違うわね・・・。竜籠に・・・紐に・・・クロス型のベル
ト??﹂
トー
竜籠なら竜の背中に着ける形をしている筈だが、これはどうもぶら
下がる様な形だ。
ルとアネモイ
﹁竜籠のガルーダバージョンだよ。両側の紐に続いたベルトをガル
ーダ兄弟に装着して貰って、2人にぶら下がるみたいな形で飛ぶん
だ。これならクロノスが両手フリーで飛べるし、抱えられて飛ぶよ
りも座りながらの方がウェンディーヌも技を出しやすいだろ?﹂
座席部分は5人掛けにした。
これ以上乗客が増える事があるかどうか分からないし、4つ掛けで
720
は3人で座る時にバランスが悪い。
黒
一角
獣
﹁ついでにケンタウロスとブラックホーンホースの鞍も作って貰っ
たよ。柔軟性と丈夫さを追求したからダマスカス鋼がびっくりする
ぐらい沢山必要になっちゃった。﹂
﹁わぁ、暇が出来たらイザナミに鞍着けて早駆けに行きたいわ。﹂
﹁アタシもアマツカゼの背中に乗って走ってみたいな。﹂
ウェンディーヌはこの数日で随分イザナミと仲良くなったし、マコ
目的或る旅路
は武器の調整や組み手でしょっちゅうアマツカゼと一緒に居る。使
役関係にない獣魔と人が境界無く溶け込めているのがこのチームの
強みだろう。
こう言った交流は実戦時の連携に必ず生きてくる筈だ。
﹁本当は3人ぐらいならクロノス1人で飛べるんだけどね。クロノ
黒
一角
獣
スをフリーにする方が飛行先の哨戒なんかは有利だと思ったし、何
れにしろケンタウロスとブラックホーンホースの鞍はそろそろ必要
だと思ってたしね。﹂
﹁ねぇ、ハジメちゃん、取り敢えずさっさと飛んじゃおうよ。﹂
マコがうずうずした顔で急かしてくる。
ウェンディーヌも待ちきれない様子だ。
﹁OK、OK。じゃぁ頼むよ、トール、アネモイ。﹂
﹁了解しました。﹂
◆ ◆ ◆
ヒエログリフ
座席部分は安全ベルトの様な構造だが、大きく違うのはダマスカス
鋼で出来ており、表面の神聖文字に魔力を込めると体にフィットし
て繋ぎ目無く装着出来ると言う点だ。
飛ぶ間、楽だろうという理由でジェットコースターの様な座席にし
721
たが、気球の様な籠形にする事も一応可能だ。戦闘行動を取る時は
その方が良いかも知れない。
クロノスが原位置とホームの座標を確認してマイクロ∼ズを展開し、
障害物の有無を確かめる。
先導する様に彼女にしてはゆっくりと飛翔を始める。
それに続きガルーダ兄弟が羽ばたきを始めた。
ふわり、と言う浮遊感。
加速感
あっという間に数百メートルほど高度を上げたかと思ったらグング
ンと速度を上げていく。
クロノスと飛んでいた時は感じられなかった頬の風とG。
﹁凄い・・・。
凄い凄い凄い!!!
みんなが感じてた空ってこんなに爽快だったんだ!!!﹂
3人とも絶叫系アトラクションは大好き、と言う人種︵ウェンディ
ーヌはそもそも知らないはずだが︶であるので、途中の飛行はかな
り遊んで貰った。
スラローム、スパイラル、きりもみ急上昇&急降下、とんぼ返りe
tc,etc・・・。
ガルーダも今までと違い、手を滑らせて乗客を落っことしてしまう
危険性が殆ど無い為、久し振りに空を楽しんでいた様である。
傾き始めた夕陽を背に受け、遊覧飛行を楽しむ3人と3体であった。
◆ ◆ ◆
﹁ただいま∼、ってそう言えばここのハウススペクターは大丈夫な
の?﹂
722
マコは流石にこの世界の住人だけあって、家に入る前に確認してき
た。
﹁ここのハウススペクターはウェスタって言うんだ。山賊が死んだ
事で俺と契約し直したから安心して入って良いよ。マコは家族って
伝えてあるから殆どの指示は受け入れてくれる筈。自分の部屋の鍵
は個人の魔力に反応して解錠出来るようにしてあるから勝手に入れ
ないから注意してね。﹂
﹁成程、個人スペースを大事に取ってくれたのね。それにしても場
所が少し不便な事除けば個人向けの物件にしてはかなり良い方じゃ
ない?山賊にお礼言いたいぐらいね。﹂
全く同感である。ここで何が行われたか、知りたくも想像したくも
ないが、それによってこの家の素晴らしさにヒビ一つ入るものでは
無い。道具と同じで、使い手次第なのだ。
◆ ◆ ◆
クエスト
∼sideマコ∼
依頼で1週間の野営を強いられたのでマコはさっさとお風呂に浸か
りたかった。
こちらの世界でも湯船に浸かるという文化は普通にあるが、それで
も庶民の家庭に必ずある訳ではない。
大凡、風呂がある家庭は半々ぐらい。残りは普段はタオルで体を拭
くぐらいで、時々お金を払って宿屋の風呂を利用するのが一般的だ。
長い黒髪をタオルで巻き上げ、いの一番に露天風呂へと向かう。
何でもここの露天はノーム達がダウジングを行い、わざわざ泉脈を
探り当ててくれたのだとか。
山岳近くで火山活動もあるので、確かに掘れば温泉は湧くのだろう
が、殆どサービスに近い価格でそこまでやってくれた彼等には感謝
723
の言葉もない。
ちゃぷ・・・
﹁・・・ふうぅぅ。。﹂
マコの好みの、少し温めの湯加減だ。
掛け流しで何の細工もしていないのでこればっかりは偶々なのだろ
うが、実に有難い。
﹁パンドラ、一緒に入りましょうよ。﹂
﹁はい♪♪﹂
うきうきとした感情が左手のオリハルコンからひしひしと伝わって
くる。
するりと抜け出た彼女は既に一糸纏わぬ見事な姿だ。
プロポーションの良さもあり、堂々とした姿は清々しい気持ちにさ
えさせてくれる。
﹁そんなに喜んでくれるとアタシも嬉しいわ。リヴィエルとかクロ
ノスみたいに貴女ももっと自己主張していって良いのよ?・・・っ
てこれはアタシがイメージちゃんと作らなきゃなんだっけ。。﹂
more、それが私達幻体師と幻体。リヴィ
イリュージョニストイリュージョン
﹁私達は個であると同時に全でもあります。マコだけに任せません
or
よ。私も頑張ります。﹂
﹁1+1⇔3
エルさんやオトヒメさんはそんな風に言ってたわ。改めて宜しくね
?﹂
2人はごく自然に唇を重ねた。
気持ちの通じ合った獣魔契約のキス。
互いの力が通い合うのを感じる2人であった。
724
◆ ◆ ◆
∼sideハジメ&ウェンディーヌ∼
﹁ねぇ、ハジメ、お風呂入りたくない?﹂
ウェンディーヌが早速誘ってきた。
ハジメも、と言うかまだ誰もここの風呂に入っていないのだ。
﹁今日は行きも帰りも潮風浴びたしな。さっぱりしに行こうか。﹂
﹁じゃぁ、準備出来たらチビクロちゃんかリヴィエルで知らせてね。
﹂
洗濯物は風呂場の入り口の籠に入れておけば、ウェスタが勝手にや
ってくれるらしい。
個室の風呂側にランドリーボックスを置いて、そこにポイポイと入
れておいた。
その隣にはもう一つ空の籠を置いておく。
ウェンディーヌが言うには、﹁大体次の日には畳んで籠に入れてお
いてくれるわよ?﹂らしい。
ファミリア
何だかこき使ってる見たいで申し訳ない、とウェスタに言ったら﹁
私達は所謂、条件発動型の操獣魔だ。屋敷を護り、屋敷の住人の喜
ぶ顔を見る為に存在している。これは私達の喜びなのだ。﹂と切り
替えされた。
ひょっとして料理とかもする?と聞くと﹁貴方達は料理をするのが
好きな様なので邪魔はしないが、命令とあれば喜んでさせて頂こう。
﹂らしい。知らない料理を教え合うのも楽しいかも知れない。
ウェスタとの会話を思い出しながら脱衣を済ませる。
タオルを一枚準備して、チビクロでウェンディーヌに合図を送った。
725
◆ ◆ ◆
﹁ウェンディーヌと初めて会ったのもあんな感じの露天風呂だった
よね。﹂
﹁まさかそのヘンタイと旅して同じ家に住んで、こうしてまたお風
呂に一緒に入るなんてあの時のアタシに教えても絶対に信じないで
しょうね。﹂
ごく自然に手を繋いで、てくてくと露天を目指す。
﹁﹁アレ?﹂﹂
﹁﹁あら。﹂﹂
4人はほぼ同時にお互いに気付いた。
﹁何だ、マコちゃんも入ってたのね。﹂
﹁流石に1週間野宿してましたからね。﹂
﹁パンドラもこうやってゆっくりするのは初めて?改めて宜しくね。
﹂
﹁マコにもさっき同じように言われました。これからは少しずつ外
に出る様にします。﹂
﹁マコもパンドラも髪、下ろしなよ。別に湯船に髪が浮いたからっ
て誰も気にしないし、ウェスタに頼んで綺麗にしといて貰うからさ。
折角綺麗な長い髪、こんな時ぐらい下ろした方が可愛いよ?﹂
ハジメの言葉を受け、頭に巻いたタオルを解く。
マコの長い黒髪が湯船に泳ぎ、その艶やかな質感に思わずハジメは
唾を飲んだ。
マコの横では、対照的に明るいスカイブルーの長髪を解いたパンド
ラ。
2人は悪戯な視線を交わすと、髪を絡め合い肌をくねらせて見せつ
けてくる。
726
﹁ふふ♪
これ、気に入った?﹂
思わず見とれていたハジメに、マコが言葉をかける。
﹁えっ、あっと・・・、うん。。﹂
ハジメはマコの黒髪が昔から大好きだったのだが、パンドラがいつ
の間にやらすっかりこの場に溶け込んで協調性を見せているのには
驚きだ。パンドラの美しい碧髪も浅黒い肌との比較でキラキラと艶
めかしい。
﹁さっきね、ハジメがこっちの世界に来て初めてアタシと会った時
の話ししてたの。﹂
﹁へぇ?そう言えば聞いた事無かったですね。﹂
﹁そうそう、それなんだけどその時もお風呂でね・・・。﹂
マコとウェンディーヌが話し込み始めた。
﹁リヴィエル、クロノス、オトヒメ、みんな出ておいでよ。どうせ
ならみんなで入ろうよ。﹂
呼びかけに応じて3人が姿を現す。
旅続き、戦い続きのハジメ達に暫し穏やかな時間が流れて行く・・・
。
◆ ◆ ◆
リコール
十分に暖まった後、内湯の洗い場に戻った一同。
獣魔4人はそこで召喚解除しようとした。
女
達
彼女達は体を洗う必要がない、と言う事だったが、マコが即座に突
っ込んだ。
貴
﹁リヴィエル、クロノス、オトヒメ、長湯がお腹の子に触る、って
思ったでしょ?﹂
727
﹁﹁﹁ぎくり﹂﹂﹂
﹁ちょっと!いつの間にオトヒメまで!?﹂
マコは流石と言うべきか既に確認済みだったらしい。知らぬはウェ
ンディーヌばかり也。
とか・・
ウェンディーヌの文句が続こうという時に意外なところから砲撃が
飛んで来た。
﹁ハジメさん、今度は私達にも下さい。﹂
﹁ちょっ!?えぅっ!?パンドラッッ!!??﹂
何だかウェンディーヌは変な声出してるし。
﹁パンドラ、そこまで気を遣わなくっても良いのよ?﹂
マコが助け船を出すも、
﹁私は貴女の移し身です。貴女の希望を叶える存在です。
そろそろ自分一人ではこのハーレムで存在感を出せない
・。﹂
﹁わわわわわ∼∼∼∼っっ!!要らん事言っちゃダメェェェッッ∼
∼∼!!﹂
にま∼り
﹁な∼んだ。マコさんってば大人しい顔してそんなえっちな事考え
てたの?﹂
にじり、にじり、とすり寄っていく。
マコは引き攣った笑顔を浮かべながらじわじわと後ろに下がってい
たが、遂に背中が壁に付いてしまった。
728
﹁わ、分かったわよ。素直に言うからそんな苛めないでよぅ。
パンドラと仲良くなってきて、彼女はアタシでアタシは彼女で、意
識共有してるし一緒にしたら気持ち良いかなぁ,なんて思ったり、
えっと、その・・・。﹂
壮絶にいじましい表情を浮かべるマコ。笑顔を優しげな物に戻し、
彼女の背に腕を回した。
﹁マコが望む事は全部したげるから。でも、パンドラが自分の意思
で考えた事でないとダメだよ?﹂
﹁私から見てもハジメさんはとっても魅力的ですよ。理由はリヴィ
エルさんの時と同じです。貴方はチームリーダーとして十分に優秀
ですし、悪と認めれば容赦なく、そうでなければ寛大に、自らの信
じた正義を行ける人です。その資質は4資質持ちなどと言う表面的
な物など関係なく、私達獣魔から見ればこちらから契約を望みたく
なるほどに魅力的です。﹂
﹁有難う。取り敢えず湯冷めしない内にベッド行かない?折角の特
注品、みんなで楽しもうよ。﹂
729
嗚呼、麗しのSweet home︵後書き︶
次回は盗賊退治に出かけますよ∼。盛大に稼ぎますよ∼。
・・・って前回の後書きに書いたのですが、エッチシーンを挟みま
∼す。
いつも通り予定通り進まないお話で済みません・・・。
730
パンドラとしっとりえっち ※︵前書き︶
いっつもなんですが、エッチシーンが少ないので書き方を忘れそう
になります。
前回のを読み返して書き方を復習してから書いてたりしますw
731
パンドラとしっとりえっち ※
内湯では互いの体を洗いっこした。
リコール
特にパンドラは初めてなので緊張を解く様にじっくりと体中に手を
回し、3人がかりで揉んでほぐした。
コール
初めての刺激にふらふらになった彼女を一旦召喚解除し、ベッドで
再度実体化した。
◆ ◆ ◆
﹁ハジメちゃん、まずはパンドラからしてあげて?﹂
言われるまでもない。
折角ソーププレイで濡れた体を乾かしてしまうなんて野暮な事はし
ないのである。
﹁パンドラ、緊張してる?﹂
﹁ハイ・・・、マコの記憶にある初体験の痛みが体に焼き付いてい
ますので・・・。﹂
そうか。マコの時は思いっ切り一気に行っちゃったからなぁ。
﹁痛いのは嫌?﹂
﹁いえ・・・、あ、いや、やっぱり少し怖いです。﹂
話しながらも3人でパンドラを攻めるのは忘れない。
マコは右に、ウェンディーヌは左に陣取り、リヴィエルのローショ
ンで体を擦付けている。
両の美乳にも2人の手が這い回り、乳首は既に千切れそうなほど飛
び出ている。
732
ハジメの口は双乳を行き来し、勃起した乳首をころころと転がす。
そのまま体をずらし、臍から下の口まで舐め回せば、そこには俺の
唾液ではない、はっきりとした蜜がとろりと溢れ、流れ出ていた。
﹁痛みを無くしてしようか?﹂
ハジメがクロノスに施した方法である。
ハジメの理想の一つに、﹁初めてから痛みもなく感じまくるMっ子
淫乱娘﹂と言うのがあった為、クロノスは破瓜の痛みを経験してい
ない。
﹁いえ・・・、ちゃんと感じたいです。﹂
﹁じゃぁこうしましょう?痛みはちゃんと感じる。でも、その痛み
は快感ではなく喜びに変わる、こう言うのはどう?﹂
それはそのままマコの記憶じゃないか。
痛いけど、それも相手と一つになれた喜びと感じる。
マコがそれを﹁創造﹂すると言うのか。
﹁マコの想像が流れ込んで来ます・・・。力が・・・心が・・・満
たされていきます。﹂
淫裂から溢れる蜜がじゅぶり、と粘度を増す。
﹁来て、下さい。もう我慢出来ません・・・。﹂
アメジスト
スカイブルーの髪がベッドの上に複雑な線描を描く。
紫水晶の瞳は期待と緊張で潤み、ハジメの欲情を駆り立てる。
秘裂の周りには一切の毛が無く、所謂、パイパンと言う奴だ。
彼女の見た目はハジメ達と同年代で、モデル体型の抜群のプロポー
ションを誇るだけに、そのギャップには一層劣情を催させられる。
﹁行くよ?﹂
733
﹁えぇ。。﹂
ずぢゅる
オク
一瞬、処女の証の引っ掛かりを感じるも、止める事無く子宮口目指
して突き進む。
﹁痛ぅっ!!﹂
戦闘での痛みには散々耐えて来た筈の彼女が目に涙を滲ませる。
アメジスト
それを見て尚、ハジメは注挿を繰り返した。
紫水晶の瞳から溢れ出た涙がベッドに染みを作る。
﹁ハジメさん、私、ちゃんと気持ちよく出来てますか?﹂
﹁えっ??﹂
彼女の言葉にまさかと思わされる。
痛みに耐えかねて流した涙かと思えば、それだけではない様だ。
彼女の方が圧倒的に辛いであろう状況で、ハジメの心配をしてくる
とは・・・。
﹁最高だよ。今はまだ痛いだろうけど、幸せはちゃんと届いてる?﹂
﹁はい、痛いです、痛いですけど一緒になれたのが幸せです。。﹂
ナカ
オ ク
その間も膣内を味わい尽くすかの様にねっとり、じっくりと挿入を
続けると子宮からどろりとした発情粘液が流れ出してきた。
﹁ハジメさん、あの・・・。﹂
﹁どろどろのイヤラシい液流しちゃってるね。感じてるの?﹂
﹁ハイ、あの・・・。﹂
﹁もっとして良い?﹂
734
ぐちょ・・・
ハジメさん、熱いです、アソコが、熱いです・・
ずりゅるゅるゅ・・・
﹁ハイ、もうあんまり痛くないので・・・。﹂
ぬぢゅる・・・
﹁はひゅぅ・・・
・。﹂
﹁パンドラのアソコ、すっごい締め付けてくるよ。きゅぅきゅぅ締
ハジメさんのソレ、放したくないですぅ・・・。
め付けてくるよ。﹂
﹁ふわぁぅ・・・
﹂
ぐぢゅ!ぬぢゃ!ずちょる!
次第に激しさを増す交合。
パンドラはまだ微かに残る痛みに逆に幸せを覚えた。
オ ク
オ ク
︵この痛みはこの時だけ・・・。絶対に忘れない。。︶
﹁ハジメさん、私もう・・・。﹂
﹁もう逝きそうなの?﹂
﹁アソコが燃えちゃいそうです・・・。子宮が、子宮がきゅんきゅ
んします!﹂
ナカ
ナカ
﹁俺もパンドラでいっぱい感じてる・・・。﹂
﹁下さい、膣内に、膣内に下さい!!﹂
ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!
既にハジメは遠慮をする余裕すらない。
ナカ
全力のセックスで2人のボルテージを上昇させて行く。
ナカ
﹁逝くよ!?膣内に、マンコの膣内にいっぱい出しちゃうよ?﹂
735
﹁下さい!!私のオマンコに、ハジメさんの熱い精液いっぱい流し
込んで下さいぃっ!!﹂
どぐん!どぐん!!どびゅるるるりゅるりゅるるっっ!!
﹁くひゅぅうううぅんんっっ!!!﹂
ナカ
2人の繋ぎ目からごぷごぷと溢れ出す程の精液。
その濃厚なエキスを子宮までたっぷりと膣内出しされ、パンドラは
ハジメの腕の中で破瓜の喜びと女の喜びを感じながら激しく逝き、
そのまま意識を消失させた。
彼女を起こさない様にゆっくりと引き抜くと、自分でも驚く程、濃
厚で大量のザーメンが流れ出てくる。
﹁ハジメちゃん、何だか随分パンドラに優しくなかった?﹂
﹁そうよね、アタシ達の時、もっと恥ずかしい事言わされたりとか
薬で強制発情させられたりとかしたわよね。﹂
ウェンディーヌとマコが文句を言いながらパンドラのマンコに口付
ける。
溢れ出た精液をちゅうちゅうと吸い取り、残滓を舐めとると、2人
揃って半分勢いを失い始めたハジメの肉棒に口を寄せる。
パンドラの愛液と破瓜の証とハジメの精液が混じり合い、泡立った
体液を丁寧に舐め上げて行く。
﹁パンドラだけ差別したつもりは無いんだって。ただ・・・。﹂
﹁﹁ただ!?!?ただ何なのよ!!﹂﹂
うぉぅ、綺麗なぐらいにハモるな。マコには嘘が通用しないし・・・
736
。
﹁俺の方に余裕が出来たって言うのかな?これまで何人もの魅力的
な女性とエッチして、相手に合わせる余裕が出来たみたい。俺の欲
情に任せて突っ走るだけじゃないエッチが出来る様になったみたい
なんだ。﹂
﹁・・・そう言う事。﹂
ウェンディーヌは納得してくれた様だ。
パンドラ
﹁ちょっと待ちなさいよ。ハジメちゃん、それを本心から言ってる
みたいだけど、彼女だけ優しくした事に違いないじゃない。﹂
あ、気付かんかった。。
﹁夜は長いわよ?って言うか夜は寧ろこれからよね?アタシ達にも
優しさ溢れる愛情溢れるセックス、たっぷりして貰うわよ?﹂
夜は長い、って言うか、夕飯も食ってねえぞ!!
737
パンドラとしっとりえっち ※︵後書き︶
密かにファンの多いパンドラさん。
彼女も無事ハーレムの仲間入りしました。
何人かハラボテが居ますので全員揃ったハーレムエッチはかなり先
になると思いますが、何時か書きたいですね。
大好き
って程じゃないの
︵※作者はハラボテHの属性が有りません。いや、エロゲーとかで
見る分にはそこそこ好きなんですが、
で、ハラボテHは描写する技量を超えるのです・・・。ハラマセの
段階で期待して下さっていた方がいらっしゃいましたら平にご勘弁
を・・・。。︶
738
カシュールの盗賊狩り ︵1︶作戦会議 ※︵前書き︶
盗賊退治編始まりです。ちなみにこのエピソード、カシュールでジ
ョーキジッチ山賊団の討伐報告をしている途中で発生しました。私
の作品はランダムエンカウントが多くて困ります。
739
カシュールの盗賊狩り ︵1︶作戦会議 ※
その後、3日3晩やりまくった。途中、ガビガビになった体を温泉
で清めて戻って来るとぴっちりベッドメイキングが完了してたのに
一粒30億匹
を1度だけ使った。
は驚いた。ウェスタ、覗いてんのかよ。
ちなみに
1度で済んだ自分を自分で褒めてあげたいです。
◆ ◆ ◆
﹁カシュール周辺の山賊団を一網打尽にするですって?﹂
ウェスタの作ってくれた﹁サワーサワラのカルパッチョ・カシュー
ル風﹂の大皿をみんなでつつきながら作戦を練っていた。やはり常
識人代表格のマコはいの一番に否定の感情を露わにした。
﹁ハジメちゃん、この辺りにどんだけ山賊やら盗賊やらがいるか知
ってるの?﹂
﹁勿論知ってるよ。カシュールから半径150km内に居るだけで
47若しくは49。
2つ程吸収か同盟かあやふやな団が有るけど間違いない筈。
本当ならこの家のある範囲を含めて半径400km程は調べたいん
だけど、そこまで調べると丸一日ぐらいかかりそうだし、流石に俺
もウェンディーヌ1人に俺の体の護衛任せてカシュールの宿屋に1
日丸々意識飛ばしちゃう勇気はない。この後、行いたいんだけど良
いかな?﹂
﹁丸一日って・・・、夜まで帰ってこないつもりなの?﹂
740
マコは流石に心配そうだ。
初めて会った時に行き成り説明も無しに意識飛ばして過去に遡った
のは後でこっぴどく叱られた物だ。だからこうやって今回は先に話
してるんだけど・・・。
﹁あぁ、ここならみんな居るし、ウェスタに護られてるし、早々の
事で危険は起きないだろう?﹂
﹁そこまで時間掛けるって事は単なる検索じゃなくって五感ソナー
で隈無く調べる気ね?﹂
ウェンディーヌも直接言葉に出さないまでも心配そうだ。
憑物
五感ソナーは無防備になるだけでなく、獲得する情報量が多すぎて
脳での処理が追い付かない事がままあるからだ。下手したら
になりかねない、と兼ねてから忠告されている。
﹁分かった。それなら一旦昼頃に休憩挟む事にするよ。本当なら途
中で中断するとその間に先に検索した範囲に移動されると分からな
いんだけど・・・。﹂
五感
を使ってるんだから頭も使いなさいよ。﹂
﹁それは残りの領域にいる者の会話とかから推測出来る訳でしょ?
その為に
成程。その発想は無かった。
流石マコ、本人は否定するが彼女は俺より本当の意味で頭が良い。
俺は知識を集めるのが好きなだけで、上手く使いこなしているかと
言われると彼女の様なタイプに一歩後れをとるのだ。
◆ ◆ ◆
夜・・・。
﹁カシュールから半径400kmの中には62の山賊団が有る。そ
741
狩
の内8つは5:3:3の同盟関係にあり、こいつらが3強として君
を行った場合は血の制裁が待って居るようだ。﹂
臨している。お互いに縄張り意識があるらしく、縄張り外での
り
﹁62・・・。途方もない数ね。。﹂
﹁今回は俺も真正面から全部潰す気はない。それでもかなり荒事に
ジョブ
は為るだろうが、搦め手で行こうと思う。﹂
ジョブ
﹁ハジメちゃん、聞いても良いかしら?職業持ちはどれ位居たの?﹂
﹁頭領クラスは大抵が何らかの職業持ちみたいだった。個々人の実
力は殆どが俺達より下だと思うけど、厄介なのは練度が高く兵隊の
ように連携が取れている連中だ。傭兵崩れが山賊に落ちる、と言う
ギルドでの話は本当らしいな。規模が大きい上位15程はかなりの
注意が必要だろう。﹂
それと、と言葉を続ける。
インヴォーカー
﹁さっき話した3強は獣魔師が率いている。コイツらは最大限の注
意が必要だ。﹂
◆ ◆ ◆
イリュージョニスト
テイマー
︵1︶幻体師が率いる﹃クラーブ・ケイ山賊団﹄
テイマー
︵2︶操獣師が率いる﹃フリート盗賊団﹄
︵3︶操獣師が率いる﹃サクサール盗賊団﹄
﹁恐らくどれもAランク以上の賞金首と思われる。コイツらの周囲
ではマイクロ∼ズが逆探知される可能性があった為あまり近付けら
れなかった。
こいつらの情報だけはカシュールの賞金首リストで詳細を聞いて来
742
なきゃだし、後で行ってくるね。﹂
急ぎの用事ならクロノスで単独飛行する方が早いのだ。
﹁大まかな作戦はこうだ。意見や修正案があったらどんどん言って
くれ。﹂
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
◆ ◆ ◆
更に夜更け。
カシュールのギルドで山賊団達の情報を調べてきたハジメはベッド
に腰掛けてメルシー・ラムをちびちびやっていた。上級エーテルを
2瓶足し、リンゴ風味のカクテルにしている。ここ数日、五感ソナ
ーを全力で展開していた為、魔力放出が激しい。
コンコン
﹁ん?誰??﹂
﹁アタシよ、ウェンディ姉さんも居るわ。﹂
﹁ウェスタ、開けてやって。﹂
カチリ、と解錠音がして2人が入って来た。
﹁どうした?﹂
﹁緊張しちゃって寝れないのよ。﹂
﹁アタシも。﹂
﹁俺もだよ。だからこうして魔力を補給しながら寝酒をしてたとこ
743
だ。﹂
﹁エーテルなんて飲んだら体が燃えて逆に寝れないでしょう?﹂
﹁そうなんだ。うっかりしてたなぁ、って思ってたとこ。まぁいざ
となれば睡眠薬もあるしね。﹂
悪戯っぽい表情を浮かべる2人。
﹁ねぇ、寝る前にすこ∼し体を動かさない?﹂
ニヒルな笑みには悪巧みを画策するような、媚びるような視線が混
じる。
勿論、否やがある筈も無い。
ゴクリとカクテルを飲み干し、2人を抱き留め、ベッドに倒れ込ん
だ。
◆ ◆ ◆
ウェンディーヌはいつも好んで着るローブとシャツ。
くちゅり・・・
サイ
マコは黒のジャンパースカートに白いTシャツ、胸元に赤い飾りリ
ちゅぶ・・・
ボンが付いている。
ちゅ・・・
両手を2人の背に回し、順に口付ける。
元々小柄なマコだが、こうして並ぶと更に年齢分視線が低い。
倒錯的な姿に劣情が駆り立てられる。
静かに2人を横たえて、服の上から豊乳に手を添える。
ジョウマコト
今はまだ大きさでウェンディーヌに軍配が上がるが、記憶の中の西
条麻琴の乳房は更に大きかった筈だ。
勿論、全く同じ人物でないのでこの先は不明なのだが・・・。
744
触ると何処までも吸い込むようなウェンディーヌの乳房。
柔らかさに芯を残したマコの乳房。
むにゅむにゅと揉みしだくと2人の息づかいが次第に荒くなり始め
た。
シャツの隙間から手を差し込むと4つの乳房は先端の突起を既に固
く尖らせ、次の刺激を待ち望んでいる。
2人に再度キスをして、上着を脱がせ合う。
ウェンディーヌからはローブをすっぽりと剥ぎ取り、マコのジャン
パースカートは肩口からはだけさせる。
更にシャツを剥ぎ取り、ブラのホックを外す。
中途半端な格好で動きが制限され、2人は俺の為すがままだ。
ブラをずらし、まずはウェンディーヌの乳首に吸い付く。
﹁あふぅっ!ねぇ、お願い、そろそろもっといっぱいして?﹂
﹁何を何処にどうして欲しいの?ちゃんと言わなきゃでしょ?﹂
ちゅぷん・・・
﹁お・・・おっぱいを揉んで、乳首を吸って欲しいの・・・。﹂
ぢゅるっ・・・
この数日間で何度も繰り返されたやりとりだ。
ウェンディーヌはどうしても慣れないらしく、毎回恥ずかしがるが、
本気で嫌がっては居ない。
寧ろこのやりとりで興奮のボルテージを上げているようだ。
﹁もっと、もっと強く吸ってぇ・・・。もっと囓るぐらい強くうぅ
っ・・・!!﹂
745
ぢゅぢゅるるるるっっ!!
﹁きゅふぅん!!それ!それなのぉっ!!!﹂
﹁ハジメちゃん、アタシも・・・。アタシもおっぱい触って?﹂
マコは最初から素直だ。自分の欲望に素直。ブラフの通じないマコ
らしい要求だ。
カンパニー
ウェンディーヌは水色や青系、マコは赤や紫の下着を好んで着ける。
この辺りも使役獣魔と通じるところが有って面白い。
今日のウェンディーヌは水色、マコは紫だ。
2人とも抜けるように色が白いので何色の下着もよく似合う。
乳 首
マコのブラを上にずらし、左の乳首にしゃぶりついた。
それは既に痛い程に尖っており、強い愛撫を施しても痛がるどころ
か期待感にピクピクとはぜ回った。
もう一方も抓るように刺激を与えたが、痛がるそぶりは全くない。
﹁あああぁぁんっっ!!それ素敵!!もっと、もっといっぱい苛め
てぇっ!!﹂
﹁乳首だけ苛めてればいいの?﹂
﹁おっぱいも、おっぱい全部苛めて下さい・・・。﹂
裾野が分からない程の巨乳。
年齢故かまだ芯が残るが、揉み心地としてはそれもまたエッセンス
に過ぎない。
パンを捏ねるようにかき回すとその度に体が魚の如く跳ねる。
﹁良ぃっ!おっぱいが熱いよぅ、ハジメエェェっ!!﹂
746
2人から一旦手を離し、スカートの中に手を入れる。
水色のパンティは既に真っ青なぐらいぐしょぐしょに濡れていた。
紫のパンティも染みが滲んで準備はOKのようだ。
するりと足首まで脱がせるとクリトリスから淫裂にかけてくちょく
ちょと指と口で転がす。
﹁恥ずかしい・・・。もう濡れちゃってるの??﹂
マコがふるふると首をわななかせて潤んだ瞳でこちらを覗いてくる。
﹁マコのここはもう欲しい、って言ってるよ?﹂
﹁ハジメ、アタシも濡れてる??﹂
パンティ
マコとそっくりの仕草で聞いてくるウェンディーヌ。こんなところ
も本当によく似てる。
﹁あぁ、ぐしょぐしょでもうコレは洗わなきゃだね。イヤラシい汁
一杯だよ?﹂
﹁ねぇ・・・。﹂
﹁お願い、もう・・・。﹂
2人揃ってのおねだり。
﹁あぁ。じゃぁ、2人ともそのまま四つん這いになって?﹂
﹁え?着たまま??﹂
当然だ。バックでするのは着衣に限る。
﹁マコ、スカートめくって?ウェンディーヌもローブ捲るよ?﹂
2人を左右に並べる。
﹁どっちからして欲しい?﹂
﹁ア、アタシから・・・。﹂
747
﹁ハジメちゃん、イヤラシいアタシのマンコをハジメちゃんのオチ
ンチンで気持ちよくして・・・。﹂
﹁ん♪じゃぁマコからね?﹂
流石は俺の好みを良く分かってる。
おねだりが上手な方からしようと思ってたのだ。
﹁ズルい、マコちゃん・・・。パンドラで読んだでしょ??﹂
﹁その分姉さんは付き合いが長いんですから分かってないのは自分
のミスですよ。﹂
淫裂のオクまで指を入れてかき回す。
2人ともぐちょぐちょだ。コレならもう前戯は要らないか。
﹁行くよ?マコ。﹂
ずちゅうぅぅん!
既に何度も肌を合わせているが、マコの中はまだまだキツい。
ナカ
しかし何度もやって気付いた事がある。
マコの膣内、Gスポットの辺りにコリコリとした小さな突起が多数
あるのだ。
所謂カズノコテンジョウとか言う名器なのだ。
そこ、コリコリして気持ち良い!!いっぱい擦
入り口付近をカリカリと擦り上げ、感触を楽しむ。
﹁きゅふぁぁん♪
ってぇ!!﹂
元の世界なら中学1年生でしかない少女の嬌声に興奮と劣情が掻き
立てたれる。
748
ぱぁん!ぱぁん!ぱぁん!
オ ク
次第にもっと鳴かせてみたい、啼かせてみたいと言う嗜虐が顔を出
オ ク
し、子宮まで届くように突き上げる。
オ ク
﹁あうぅんっ!子宮も,子宮もキモチイイィィッッ!!﹂
服からはだけ、メロンのようにつり下がる豊乳に手を伸ばし、揉み
ナカ
しだきながら白い尻めがけて腰を突き出す。
膣内では快感に溺れた膣壁がやわやわと肉棒を締め付け、発射を促
そうとする。
﹁ねぇ、逝きそうなの。ハジメも一緒に・・・。﹂
するり
﹁・・・えっ!?﹂
絶頂の直前に抜かれたマコは悲しげに見詰めてくる。
ご い の きた
ぁぁっ
言葉では何も言わず、すぐに横で油断していたウェンディーヌのソ
コに突き立てる!!
す
﹁うひゅううぅぅん!!しゅごいのきらぁぁっ|!!
優しく苛めてぇぇぇっっ!!﹂
ハジメのオチンチン、だ∼いすきぃぃ♪もっと、もっといっぱい苛
めてね♪
ナカ
イリグチ
ぐりゅりゅ
ぐっちゃ
オク
ぐちゅる
ぐっちょ
三段締め
と言う奴だ。何処を攻めていてもぬめぬめと
一方のウェンディーヌは子宮口、膣内、膣口と三カ所が締め付けて
くる所謂
した質感が離れずまとわりついてくる。
749
ナカ
先程のマコの膣内で十分にボルテージは上がっていたのですぐに射
精感が腰の辺りにせり上がってくる。
﹁っく!!逝きそうだ。もう出すぞ!?﹂
ナカ
ナカ
﹁アタシに、アタシの膣内に頂戴!ハジメ!!﹂
どくん
どびゅるるる
どびゅるるるるる!!
﹁ハジメちゃんのザーメン、アタシの膣内に流し込んでぇっ!!﹂
どくん
ハジメは射精しながら2人のマンコを交互に突いた。
それでも尚溢れ出す程の精を受けて、2人の美少女はベッドの上で
力尽きたかのように横たわった。
◆ ◆ ◆
﹁やっぱりみんなですると気持ち良いね。アタシ、最初は独り占め
しようと思ってたけど今はマコちゃんとする方が好き。﹂
﹁アタシもです。前世の事があるし、ウェンディ姉さんって何処か
祐実果姉さんに似てるから複雑だったんですけど、今はコレが好き
です。﹂
﹁そうだね。仲良くなれて楽しいよね。﹂
﹁﹁浮気性男は黙ってなさい﹂﹂
ギロリ、と口調も視線も綺麗にハモって睨み付けられ、やっぱり相
性ばっちりじゃん、と複雑な気分になるハジメであった。
750
カシュールの盗賊狩り ︵1︶作戦会議 ※︵後書き︶
日常回にシームレスにエッチを入れてみました。
コレが本当の日常だと思います。
751
カシュールの盗賊狩り ︵2︶クラーブ・ケイ山賊団戦 前編︵
前書き︶
戦略を立てて戦闘を行わず、戦術に頼った戦闘をして来たハジメ達。
そろそろ戦略も練らせます。
752
イリュージョニスト
カシュールの盗賊狩り ︵2︶クラーブ・ケイ山賊団戦 前編
インヴォーカー
クラーブ・ケイ山賊団:頭領の幻体師、クラーブ・ケイを筆頭に5
インヴォーカー
人の獣魔師が属する。この5人はカシュールのスラムで育ち、貧困
から抜け出す手立てとして獣魔師になったが、2年前にもう一人居
たメンバーが山賊に惨殺され、復讐にその山賊団を壊滅させ乗っ取
り、今に至る。当時のランクはクラーブ・ケイがB、その他の4人
はCが2人、Dが2人。
イリュージョン
﹁クラーブ・ケイは遠距離と近距離系の攻撃を使い分ける幻体を操
インヴォ
る。最大射程距離は約20mだが、10m以内では無類の強さを誇
るらしい。﹂
﹁どう言う能力かは分からないのね?﹂
ーカー
﹁ギルドでもそこまでは関知していないらしい。残りの4人も獣魔
師という以上の情報は無かった。﹂
ウェンディーヌは悔しそうな表情を見せる。
マコと俺の地球での戦争の話を聞いて、漸く情報の重要性について
認識したところなのだ。
クエスト
﹁Bランクを含むチームか・・・。普通ならAランク以上の依頼よ
ね?﹂
﹁そうだな。一応俺達なら対応に当たれるレベル、と言うぐらいだ
ろう。﹂
当たれるも何も十分すぎるレベルの筈だ。
逆に言えばAランクチームなら対応に当たれるだろうに何故ここま
で放置されている?
753
﹁数が多すぎる、と言う事かしら・・・。﹂
マコの呟きに俺達は頷く。
山賊の数が多すぎて対応に当たり切れていないのだろう。
インヴォーカー
﹁今回の作戦はまずこうだ。獣魔師の5人は確実に殺す。残りは4
∼5人を残して殺す。大変な戦いになると思うがここがこれ以降の
成功の鍵を握るからみんな宜しく頼む。﹂
◆ ◆ ◆
傭兵都市カシュールはライスセミア幻神国の東寄り、南緯は中緯度
の乾燥した都市だ。
作物は育ちづらく、名前の通り﹁傭兵﹂の育成と派遣で財をなした
街だ。
この町からは大きく街道が6本出ている。赤道上の3つの港町へと
続くのが3本、西に1本、南に1本、南西方向に1本である。ハジ
メ達の屋敷はこの内、西の街道を走った先にある。
クラーブ・ケイ山賊団は北に走る街道の内、最も西に向かう街道の
途中に拠点を構えていた。
その街道の先には中継地点となる村があり、その先にはライスセミ
ア最大の港町カナメリアがある。
村までの内の野営を行える中継ポイント2カ所、それが彼等の狩り
場であった。
2つのポイントは150km程離れているというのに居を構えられ
るのはひとえに彼等の実力と規模を示していると言って良いだろう。
彼等は広い縄張りを荒らされず、ギルドなどからの追っ手を振り切
りつつ犯罪を繰り返していた。
754
この日までハジメは、技の威力ではなく精度と練度を磨く事に専念
鬼ごっこ
をしたのだ。
した。オトヒメ、メドーアと言ったマイクロ∼ズの検索を逆探知し
た獣魔相手に、マイクロ∼ズでの
︵1︶ハジメは空間転移は禁止。
調べ
ハーモニー
を使って良い。
︵2︶ハジメとメドーアは攻撃禁止だが、逃げ足の遅いオトヒメは
追い払う程度にマイクロ∼ズに
︵3︶鬼は常にハジメ、獣魔2人はマイクロ∼ズに気付くまでは隠
れ場所から動かない。
半径2kmと言う彼等にしてはかなり狭めのフィールドを舞台に続
ハーモニー
けた結果、3日目にはメドーアのみ捕まえられるようになった。オ
をねだられた事は言うまで
トヒメは﹁貴方の調べはまだまだ荒々しいですね♪﹂と嬉しそうだ
ご褒美
いしころ
った。その後、オトヒメには
もない。メドーア?ああ、魔精石やっといたけど何か??
オトヒメが言うには﹁まず、世界の歌を聴いて下さい。獣魔は世界
感知さ
も可能でしょうし、必要な魔力も減ります。﹂
より降誕せし存在です。世界に同調させれば貴方が目指す
れにくい獣魔
今回の戦いだけではなく、ハジメの目指す所は遙か先にある。道の
りは長いが、メドーアに見付からなかった結果から、一先ず現段階
の実戦配備は可能だろう。
◆ ◆ ◆
ガルーダに飛んで貰い、空路でクラーブ・ケイ盗賊団の拠点から3
kmほど離れた場所まで近付いた。
マイクロ∼ズを注意深く展開し、様子を窺う。
755
﹁どうやら5人は揃っているようだな。その他の雑魚も合わせると
75人。情報とほぼ同じだ。﹂
ギルドの情報では70人前後、としか書いていなかった。これ以上
は居ないと見て良いだろう。いざとなったらマコが尋問すればいい。
﹁オトヒメ、始めようか。﹂
﹁ええ。雑魚は任せて下さい。しかし流石に少し遠すぎます。50
0mぐらいまで近付けませんか?﹂
﹁500か・・・せめて1kmでどうにかならないか?﹂
﹁それですとほんとの三下しか影響下におけませんよ?﹂
﹁十分だ。騒ぎが始まってすぐに一も二もなく逃げ出すような三下
だけ抑えて貰えればかなり助かる。﹂
ハーモニー
朗々と、こちらで聞いている分には勇ましい調べが流れ始めた。
変化はすぐに現れた。
◆ ◆ ◆
∼sideクラーブ・ケイ山賊団∼
﹁おい、聞いたか?フリートんとこにエライ美人が入ったらしいぜ
?﹂
﹁へぇ?フリートも好きもんだなぁ。確かあそこんとこ、古女房が
居たんじゃねぇのか?﹂
﹁女房と槍は新しい方が良いって言うじゃねぇか。﹂
ちげぇねぇ、ちげぇねぇ、と下品に笑い合う2人。
﹁・・・それはそうと、あそこが裏切り者を募ってるって聞いたか
?﹂
﹁あ?その手の話はいっつもデマかなんかで情報持って行ってみた
ら情報だけ取られて首から下が永遠にオサラバってパターンだろ?﹂
756
﹁それが違うらしいんだよ。件のその女、見た目だけじゃなく頭も
回るらしい。そいつはなんとサクサールんとこに居た奴らしいんだ
が、内部情報と引き替えに上手く誑し込んで今じゃ組織のNo.2
だとよ。﹂
﹁ほんとかよ!?・・・まぁそれにしても俺等みたいな三下にゃ関
係ねぇ話だよな。﹂
﹁全くだぜ。何かお宝か情報でもありゃぁ別なんだろうがなぁ。﹂
◆ ◆ ◆
数日後・・・。
﹁オ、オイ、聞いたか!?今度、頭領がフリートに戦争ふっかける
って話!!﹂
﹁あぁ、確かに聞いたぜ!マジかよ・・・。ヤベェな・・・。俺達
如き、鉄砲玉にしかならねぇ。いや、間違いなく鉄砲玉にされるだ
ろうな。。﹂
﹁オイ・・・、こりゃ逆にチャンスじゃねぇのか??﹂
﹁ああ、こっちの戦力を手土産に向こうに行けば或いは・・・。﹂
﹁いや、フリートに逃げてもつぶし合いのトバッチリ食らうだけだ。
逃げるんならサクサールだ。﹂
﹁成程、その通りだな。そうと決まれば話は早い方が良い。夜に乗
じて逃げるぞ。﹂
◆ ◆ ◆
サクサール盗賊団。
インヴォーカー
こちらは第2勢力に一歩及ばない規模のNo.3のチームである。
ではフリートがNo.2かと言えばそうでも無い。
サクサールは数ではフリートに勝るが、フリートには獣魔師が2人
757
ジョブ
インヴォーカー
いるのに対し、サクサールには職業持ちが多数居るにも関わらず頭
領であるサクサール1人以外は獣魔師ではない。フリートに倍する
vs
力のフリート盗賊団。
数を擁しながらサクサールが勢力では拮抗しているのはこう言う実
情がある。
つまり、数のサクサール盗賊団
このパワーバランスによりこの2者は小競り合いを続けながらも小
康状態を保っていた。
そんな中・・・。
﹁裏切り者が出ている、だと?﹂
短
杖
﹁はい。戦力としては取るに足らない三下ですが、この2日で確か
に5名もの脱落者が出ています。﹂
グール
答えるのはとても盗賊には見えないショートスタッフを手にした藍
色の長髪、学者風の男である。
ネクロマンサー
しかしこの男も歴とした盗賊でありナイトストーカーや屍食鬼を操
る死霊魔術師でもある。
その折である。
コンコン、と頭領の私室がノックされた。
﹁失礼致します。クラーブ・ケイ山賊団より亡命を希望してきた者
をお連れしました。﹂
﹁通せ。﹂
サクサールは2人を通すと、手で守衛を追い払い、人払いを命じた。
ムッツリと頷き、静かに男は退室して行く。
2人は後ろ手に手を括られているが、気合いで立ち上がっている。
﹁このままお前達を殺しても良い。が、少し話を聞こうか。﹂
758
2人は威圧にすっかり脅え気味だ。しかし何とか意識を保って言葉
を続けた。
﹁は、はい。近々、クラーブ・ケイ山賊団がフリート盗賊団に戦争
を仕掛ける準備があります。﹂
﹁・・・何だと?﹂
﹁戦争準備をしていましたので間違い有りません。クラーブ・ケイ
の頭領はこの機にフリートとサクサールを併呑する気であります。﹂
有り得ない。
これまで力関係がはっきりしながら潰し合いが起こらなかったのは
フリートとサクサールの勢力を合わせれば何時でもクラーブ・ケイ
を潰せるからだ。
クラーブ・ケイ5:フリート3:サクサール3という絶妙な力関係
を保つのは並大抵の労力ではなかったが、安定した運営の為に尽力
を施してきたのだ。
それを知らないクラーブ・ケイでは無い筈だが・・・。
﹁お、恐れながら・・・。﹂
﹁何だ、言ってみろ。﹂
ガンガに視線をやる。
﹁こちらのサクサールにいた綺麗な女がフリートに内部情報抱えて
‒
寝返ったとの情報も・・・。﹂
サクサールは横にいた側近
ガンガは視線で是の意思を伝えてくる。
逃亡兵に美女が居た事は間違いないようだ。
﹁良いだろう。お前達の処分は追って考える。取り敢えず今夜は飯
と女を与えてやる。好きに歩き回るなよ。こちらを再び裏切ろう等
と考えない方が良い、とだけ言っておいてやる。﹂
759
◆ ◆ ◆
﹁ここまでは上手く行ってるようだな。オトヒメ、疲れない?﹂
﹁ちょっと泉が恋しいです。この後、連れて行って下さい。﹂
﹁あぁ。明日はいよいよだからな。水精石も上げるからゆっくり英
気を養ってくれ。﹂
760
カシュールの盗賊狩り ︵2︶クラーブ・ケイ山賊団戦 前編︵
後書き︶
もう展開が読めてる人が多数でしょうか?
次回は久々のドンパチ戦です。
8月25日7時35分。
vs
力のフリート
誤植指摘訂正しました。
数のサクサール
です。
ややこしくなった人はこの構図のみ覚えて以降を読んで下さい。
761
カシュールの盗賊狩り ︵3︶クラーブ・ケイ山賊団戦 後編︵
前書き︶
戦いシーンを書くのが一番好きになりつつあります。
エロをやれエロを、と自分で突っ込んでます。
762
パチ・・・
カシュールの盗賊狩り ︵3︶クラーブ・ケイ山賊団戦 後編
パチ・・・
何かが爆ぜる音がした。
カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン!!!!!!
!!!!
物見櫓から警鐘が鳴り響く。
﹁火事だぁ∼っ!!!敵襲だぁ∼∼っ!!﹂
敵の数は大凡50。
インヴォーカー
﹁何て事だ!!戦闘要員の殆どを投入して来るだと!?﹂
率いているのはクラーブ・ケイの5人の獣魔師の内の1人、ルーニ
ーに間違いない。
額から左目に走る刃傷をバンダナで隠している当たり、間違いなく
あの男だ。
戦場で何度か手合わせしたから間違える筈も無い。
﹁投降せよ。﹂
﹁・・・何だと??﹂
﹁今回は警告のみだ。食糧を焼くだけで勘弁してやるが、恭順の意
を見せなければフリート山賊団がお前達を襲うだろう。﹂
﹁・・・どう言う意味だ。﹂
763
﹁俺達は既に共同戦線を張っている。昨晩、投降した男ども、そい
つらを絞れば全て吐くだろう。﹂
﹁︱︱!!﹂
やはりアレは情報を攪乱する為の罠と言う事か・・・。
数時間後、知らぬ存ぜぬを必死で貫き通した2人の男の遺体が山に
打ち捨てられた。
◆ ◆ ◆
﹁細工は隆々、仕上げをご覧じろ、ってとこかな?﹂
ハジメは思いの外、上手く行っているので上機嫌だった。
﹁そうね。3者の猜疑心は良い感じに高まってると思うわ。﹂
立案に携わったウェンディーヌとマコも機嫌が良い。
クラーブ
﹁じゃ、行きますか。﹂
﹁えぇ。蟹さん退治に出かけましょ?﹂
ガルーダ籠で上空を旋回した3人は既に見られる事を警戒していな
い。
アジト全体を先にマイクロ∼ズで覆い尽くし、ネズミ一匹逃さない
包囲網を敷く。
﹁行くぞ?﹂
﹁﹁ええ。﹂﹂
﹁﹁﹁GO!!!!﹂﹂﹂
764
上空300mから3人同時に一気に自由落下。
時速300kmにも及ぼうという速度の中、ハジメは冷静に2人の
傍に転移し、順に抱え上げて着地した。
﹁えっと・・・、お姫様抱っこは要らないわよ?﹂
﹁なら止める?﹂
﹁止めない。﹂
戦闘開始前だというのに全く緊張感がない。
◆ ◆ ◆
﹁な、何だ!?﹂
﹁貴方達に名乗る程の名は無いわ。大人しくさっさと死になさい。﹂
混乱の渦の中縦横無尽にウェンディーヌは駆け抜ける。
ウェンディーヌの役は雑魚の殲滅だ。
イザナミの背に乗り、オトヒメを連れて格下の相手を混乱に陥れな
がら﹃スプレッド﹄や﹃ヴォルテックス﹄と言った中範囲攻撃で次
々となぎ倒して行く。
︵北の森に10人程隠れて火矢を放とうとしてる。気を付けて。︶
マイクロちゃんから念話が飛んでくる。
﹁OK、リヴィエル、﹃タイダル・ウェイブ﹄!!!﹂
4割の力で放ったそれは木々ごと敵をなぎ倒し、後には瓦解した隠
れ櫓と死屍のみが残された。
◆ ◆ ◆
﹁お、有った有った。岩の下の隠し階段なんてベタ過ぎて今時流行
らないわよ?﹂
765
マコの仕事は2つ。隠れていたり逃亡を図ろうとした相手の各個撃
破と、お宝の捜索である。
彼女はアマツカゼと共に行動している。
イ ン ベ ン ト リ
旗色が悪くなった時に財宝を持ってとんずらを図る可能性も高かっ
た為、前以て収納スペ︱スに収めてしまおうというのだ。
﹁貴方達、他より腕が立つ人間が岩を取り囲んでたら﹃ここに隠し
てます♪﹄って言ってるようなものよ?次の人生からは気を付ける
事ね。﹂
言うが早いか、振るわれたナイフは山賊どもが反応出来る速度の更
に上。
軽口叩きながら振るわれたそれはアッサリ頭と体を切り離した。
インヴォーカー
﹁ふむふむ。お宝は結構普通ね。でもまぁ、久し振りにこんなに大
量の光貨見たわ。連中、獣魔師でしょうにチャージ出来ないと不便
ねぇ。﹂
財宝の中には龍の髭や逆鱗など高性能な武具の材料も見受けられる。
︵まだ隠し部屋がある・・・?︶
巧妙に隠された部屋の壁。しかしパンドラで調べると3m四方程の
扉があるようだ。
開け方が分からないのでパンドラが殴って壊す。
はくたく
中には・・・。
︵白澤!?しかも﹁服従の首飾り﹂着けられてる!!︶
無理矢理使役関係を結ぼうとしたのだろうが、相手が上位過ぎて手
が出せなかったのだろう。
﹁服従の首飾り﹂はあらかじめ魔力を込めた相手に対しての反抗や
危害、それと自害を禁じる物だ。
﹁隷属の首輪﹂よりは効果は緩いが、それでも獣魔に対して着けて
766
良い物では無い。
血を嫌い、慈悲深い獣魔である彼は牛の姿で、頭に3つ、体に6つ
の目を持つ人面の聖獣である。
位の高さで言えばオトヒメやメドーア達と同等かそれ以上である。
はくたく
﹁白澤の君よ、我が名はアマツカゼ、ケンタウロスの末尾に名を連
ねる存在です。﹁服従の首飾り﹂より解放されしその時には夙に加
護を頂かん事を望みます。﹂
はくたく
﹁是。弟も連れてくるが良い。﹂
コントラクター
ケンタウロスにとって、彼等、白澤は治療を行う物として守り神的
存在らしい。
テイマー
﹁ゴメンなさい、私は操獣師でも契約師でもないので貴方を今すぐ
助ける事が出来ないの。私のパートナーが助けに来るまでここで貴
方を護りますので許して下さい。﹂
﹁少女よ、幼き君にその様な申し出、是非もない。私はこの通り身
動きが取れないのでどうかこちらこそ許して欲しい。﹂
それからは次々と襲い来る敵を次々屠りながら、マコとアマツカゼ
はその場をひたすら護り続けた。
◆ ◆ ◆
インヴォーカー
ハジメはガルーダとメドーアを連れて獣魔師5人を1人で相手して
いた。
ハヤトとオウカには別働隊として遊撃隊として行動して貰っている。
負傷者が出た場合、運んで貰う必要もあるからだ。
ハジメはこの日の為に大量の魔精石を準備し、全獣魔をブレスレッ
トに格納して運び込んだのだ。
767
インヴォーカー
獣魔師5人の内、3人はメドーアの﹃アイシクル・ブリザード﹄で
一瞬で凍り付けになった。
﹁アレを避けるのが2人もいるとはな・・・。流石に長年山賊やっ
てねぇな。ハジメ、コイツら本来のランクより上だと考えた方が良
いぜ?﹂
﹁分かってる。もうへまはしないさ。﹂
メドーア・ガルーダ兄弟とハジメは感覚共有で会話が出来る。
連携もそれに同じだ。
﹁お前ら・・・、一体何者だ?﹂
﹁お前がクラーブ・ケイだな?名乗る必要は無いが教えてやろう。
俺の名はハジメ・タカナシ。近くの住人だよ。﹂
はくたく
﹁・・・成程。近くの山のゴミ掃除と金儲けにやって来たという訳
か。﹂
随分と理解が早い。
﹁お前達にも事情があるだろう。だがお前達は殺し過ぎた。白澤を
服従させていた事も許される事ではない。事情はあるだろうが俺達
はお前を殺さなければならない。﹂
﹁良いだろう。俺とお前、一対一の勝負だ。負けた方は全員分の首
を相手に差し出す。互いの獣魔も差し出す、それでどうだ?﹂
イリュージョニスト
﹁分かった。俺、本来の力だけで相手をしよう。但し、その間この
インヴォーカー
勝負に手を出さないとどうやって誓う?﹂
﹁腐っても獣魔師だ。ブレスレットに誓おう。﹂
イリュージョン
イリュージョン
﹁良いだろう。冥土の土産に見せてやる。俺はこんな態だが幻体師
でもある。俺の幻体と俺、お前の幻体とお前、それで良いな?﹂
﹁OKだ。ブレスレットに掛けて。﹂
768
◆ ◆ ◆
その時には既にウェンディーヌは雑魚を片付け終わっていた。
はくたく
念の為、ハヤトとオウカは周囲を散策して見落としがないか確認し
ている。
マコは念の為、白澤の元に残った。
クラーブ・ケイがブレスレットに誓おうとも、従わない連中も居る
可能性があったからだ。
マコの元にはアマツカゼのみ残っている。
インヴォ
ハジメが一体を覆っていたマイクロ∼ズを解除したので連絡役や補
助が必要だからだ。
ーカー
Aliveの一本勝負。獣魔制限幻体のみ。始
フライトアックス
イリュージョン
ウェンディーヌと相手の唯一の生き残り、カサンドラと言う女性獣
or
魔師が見届け役となった。
﹁Dead
め!!﹂
互いの距離は凡そ5m。
コール
先に仕掛けたのはクラーブ・ケイだった。
ジャイアンツ
﹁グラヴィ、実体化、﹃飛び回れ大斧よ﹄
イリュージョン
実体化したのは巨人族の様な体躯に逆立った髪、見るからに膂力の
イ ン ベ ン ト リ
有りそうな幻体だった。
クラーブ・ケイが収納スペ︱スから次々と巨大な斧を取り出したか
と思ったらそれを軽々と投げ飛ばした。
ハジメは素早く全身武装して、剣でいなそうとしたが・・・。
︵くっ!?軽々投げていたのに何て重さだ!?︶
思わず刀が弾かれ、体勢を崩してしまう。
そこへ次の攻撃が来た。
769
コメット
ストライク
﹁グラヴィ、﹃降り注げ天の戒めよ﹄﹂
優に直径10mは有ろうかという岩石が天空より降り注いだ。
︵馬鹿なっ!?これではアイツも巻き添えじゃないか??︶
見れば、相手の姿が見当たらない。
︵くっ!避けきれないか!?クロノス!飛ぶぞ!!︶
間一髪、空間転移で20mほど上空へ移動し、岩石の上に乗った。
素早くマイクロ∼ズを展開し、相手の居場所を探ると、何と地面に
穴を掘り避難していた。
︵クロノス!あの穴の中へ・・・︶
・ ・ ・ ・
・
イリュージョン
飛ぼうとしたハジメは更に信じられない光景に会う。
クラーブ・ケ︽・︾イが岩石を持ち上げたのだ。
﹁何だと!?﹂
流石に思わず声を上げた。
締まった体格をしているとは言え、相手は人間だ。幻体が持ち上げ
たのなら兎も角・・・。
その時だった。軽く飛び降りようとしたハジメの体が天高く飛翔し
ていった。
﹁くっ!クロノス、空間を固定して捕獲してくれ!!﹂
︵そうか、そう言う事か。︶
これで種が分かった。
◆ ◆ ◆
ハジメは岩から離れた場所で再びクラーブ・ケイと対峙していた。
今度は間合いが20m弱。
770
イ ン ベ ン ト リ
﹁どうした?さっさと攻撃して来いよ。﹂
ハジメが挑発すると、今度は収納スペ︱スから投擲ナイフが次々と
飛び出してきた。
が・・・。
がきききききききん!
50を優に超えようという攻撃を全て脇差しサイズの刀と籠手で捌
いてしまった。
ナイフの軌跡は空間に満ちているマイクロ∼ズが全て教えてくれる
のだ。
違うか?﹂
﹁無駄だよ。お前の能力、いや、グラヴィの能力はもう分かった。
触れた物体の重さを0にする。
クラーブ・ケイの顔が驚愕に染まる。
﹁やはりな。膂力に任せて投擲をするタイプかと思ったが、ミスを
犯したな。俺が岩の上に乗っているのを知らずに岩の重さを0にし
てしまった。乗っていた俺の体重も0になった為に俺は軽く飛んだ
イ ン ベ ン ト リ
つもりが重力を振り切ってロケットみたいに飛び上がってしまった
んだ。﹂
﹁あの岩が収納スペ︱スに入る最大サイズなんだろ?普段なら斧と
岩のコンボで片付けられる筈が、仕留めきれなかった為に手詰まり
になった。遠距離攻撃のナイフ程度ならもう俺には通じないぜ?﹂
﹁・・・お前も近接系だろう。手詰まりは同じ筈だ。﹂
焦りの表情を見せながらもクラーブ・ケイは岩に近付いた。再び投
擲を行うつもりだろうか?
771
グラヴィが触れた岩を天高く放り投げるクラーブ・ケイ。
・・・投げた彼の姿が見えない??周りで見ていたウェンディーヌ
達の目にはそう見えた。
しかしマイクロ∼ズで把握しているハジメにははっきり見えていた。
クラーブ・ケイは岩に触れていた。グラヴィは岩と彼の重さを0に
し、彼は投げるふりをして岩と一緒に飛び上がったのだ。
上空から岩が降り注ぐ。
﹁アンタの能力はこんな感じだろ?
グラヴィが触れた物の重さが0になる。それを本体であるアンタが
イリュージョン
触れて、投げ飛ばした瞬間に重さが戻る。
幻体に自由な大きさの物を自由に投擲までさせる、なんて能力だと
魔力が足りないだろうからな。﹂
ハジメは1人呟く。
戦いの最中、それを聞いたクラーブ・ケイは驚愕と共に敗北を悟っ
た。
﹁上空でグラヴィがアンタを蹴っ飛ばしてこっちまで飛んで来たみ
たいだが・・・。アンタはまだ重さが戻っていない筈だ。ギリギリ
まで加速してから戻す方が魔力消費が少ないからな。﹂
ハジメとの距離は5m。クラーブ・ケイが自身の体重を戻そうとし
た瞬間!!
ハジメは物凄い勢いで後ろへ飛び上がった。
ハジメは武器を先が鈎になった鋼線に変えていた。両端を近くの気
に引っ掛けて、岩とクラーブ・ケイの軌跡に交わらせる。
クラーブ・ケイが着地した時、体は真っ二つになっていた。
772
岩を持ち上げられた後、ハジメ自身の体重も戻っていなかったのだ。
岩が斬られた後、崩れた岩に巻き添えを食わないように後ろへ飛ん
で避けた。
30m程上空で体重が戻ったハジメは、クロノスに抱えられゆっく
りと地に降りたった。
﹁勝者、ハジメ!!ハジメ・タカナシ!!!﹂
ウェンディーヌが宣言すると、味方は歓声を上げ、カサンドラは膝
から崩れ落ちた。
◆ ◆ ◆
﹁殺して頂戴。﹂
カサンドラは騒がずに懇願した。
しかし。
﹁もう少し生きる気は無いか?
女性だから、と言うのも確かにある。それを超えた罪を負っている
事も分かっている。
その上で敢えて問う。君達が山賊に墜ちる原因になった山賊という
存在自体をこの一体から消し去らないか?その上で俺達がギルドに
特赦を持ちかけてみよう。﹂
ハジメの提案に誰もが驚愕している。
しかし味方は分かった。
今回の作戦には彼女の存在は確かに大きな駒になり得る。
それに山賊になった経緯は情状酌量の余地がある。
773
﹁断るのなら痛みもなく一瞬で首を刎ねてやろう。
−
恐ら
セイレーンで意識混濁している内だから痛みを感じる暇もないはず
だ。
決めるのは君だ。時間は10分。俺達は確かに君の仲間
く恋人の敵だろう。じっくり考えると良い。﹂
◆ ◆ ◆
﹁何をする気か、聞かせて貰ってからでも良いかしら?﹂
﹁勿論だ。但し、聞いた後、協力せずに生きる、と言う道は無いぞ
?﹂
﹁構わないわ。﹂
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
﹁・・・成程ね。。﹂
腐敗防止にメドーアが凍り付けにしたクラーブ・ケイの首を抱いて、
少し目を伏せ・・・。
﹁良いわ。貴方達に協力しましょう。その後で死んでも遅くはない。
﹂
﹁その後は出来れば生きる道を選んで欲しいな。﹂
774
カシュールの盗賊狩り ︵3︶クラーブ・ケイ山賊団戦 後編︵
後書き︶
重さを限りなく0にする、って事で認識して下さい。
0だと本当は相対性理論に引っ掛かりますのでw
775
カシュールの盗賊狩り ︵4︶踊らされる者達︵前書き︶
戦略系を書くのは初めてです。
感想がとても楽しみです。どうか一つ宜しお願いします。
776
カシュールの盗賊狩り ︵4︶踊らされる者達
サクサール盗賊団:カシュールからの街道の内、西に向かう街道沿
いに拠点を構えている。クラーブ・ケイ山賊団と縄張りを境界で接
する部分が幾つかあり、得物の取り合いで小さないざこざを起こす
狩
事が多い。が、現在の所は暗黙の不可侵条約を守り小康状態を守っ
てきた。
テイマー
を有利に進めていた。街道に出ての狩りよりも誘い込みを得意
頭領のサクサールは操獣師であり、植物系獣魔を従え、山での
り
とするが、数に任せて囲んでの狩りもまた得意としていた。
そして・・・。
︵囲まれたわね︶
︵ああ。ここまでは予定通りだ。マコ、数は幾つか分かるか?︶
︵聞いて驚いて。150を超えてるわ。︶
︵そっか、コイツらの全数が253だからかなり投入してきたな。︶
ネク
︵ウェンディーヌ、マコ、護衛頼める?頭領が居ないか確認してく
る。︶
︵︵OK︶︶
・・・
・・・・・・
インヴォーカー
・・・・・・・・・
ロマンサー
︵OK、獣魔師らしき敵は居ない。隊を率いているのは恐らく死霊
魔術師だ。
・ ・ ・
クラーブ・ケイ山賊団を壊滅させたその日、一行はサクサール盗賊
団の縄張り内をうろちょろしつつ、本拠地を目指していた。
777
︵ハジメちゃん、あいつらおびき出す?こっちから行く?︶
︵3分の2ぐらいまで数減らせば十分だからね。自由に撃って出よ
う。︶
︵じゃぁ、アタシが左、マコちゃん右、ハジメ達は全方位でOK?︶
︵OK、行くよ?︶
﹁﹁リヴィエル、﹃タイダル・ウェイブ﹄﹂﹂
ハジメとウェンディーヌの詠唱と共に龍体のリヴィエルが姿を現し、
森を覆い尽くさんばかりの勢いで巨大な大津波をぶちかました。
﹁パンドラ、﹃だるまさんがころんだ﹄﹂
津波の一撃で半分程に数を減らした賊の元に追尾型のナイフが飛ぶ。
マイクロ∼ズを通して敵の情報は共有しているが、自分で把握出来
た方が効率がよいからだ。
ナイフの狙いは、足。
あくまで機動力を奪い情報を持ち帰らせない事が目的だ。
30人程が動きを鈍らせたところにケンタウロス、ガルーダ、メド
ーアがブレスレットより飛び出しアッサリと屍に変える。
﹁三下も良いとこね。ハジメちゃん、そろそろ決めちゃいましょう。
﹂
﹁了解、オトヒメ、あいつらを精神拘束OK?﹂
﹁勿論です。あんな脆弱な神経してる連中、虫を操るより簡単です。
﹂
速いテンポの短調が響き渡ったかと思えば、1分もしない内に連中
の顔から意識が失われ、とぼとぼとハジメ達の前に歩き出て整列し
た。
778
﹁良いか、お前達は俺達を見た事も聞いた事もない。お前達を襲っ
たのはフリート盗賊団だ。その中にはクラーブ・ケイ山賊団の残党
も混じっていた。良いな?分かったら返事をしろ。﹂
﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁了解致しました・・・。。﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂
﹂﹂
﹁これで第3段階完了かな?続きはカサンドラさん次第だけど・・・
。﹂
◆ ◆ ◆
コントラ
次の日、ハジメ達はカシュールのギルドにて報告を行っていた。
クター
﹁クラーブ・ケイ山賊団は殲滅しました。生き残りは1人、|契約
師のカサンドラのみです。彼女はこの後の作戦に協力する事を条件
に減罪を希望致します。勿論、無事に全ての作戦が完了した暁に、
と言う事ですが・・・。﹂
スーツを着たいつもの女性が対応してくれた。
﹁クラーブ・ケイ殲滅に尽きましてはまず、4人分の褒賞金が出ま
す。4人合わせて5億8000万ミュールとなります。また、持ち
帰って頂けました財宝はこの後、鑑定を行いますので3日後以降に
いらして下さい。
続きまして、相続の手続きになります。
まず、クラーブ・ケイのブレスレットはエンプティです。
魔精石が数個ある以外殆ど空っぽです。
残りの3人は魔力の濃密に込められた魔精石を詰め込めるだけ詰め
込んであるようです。
こちらも鑑定が必要ですので3日後にいらして下さい。﹂
779
﹁分かりました。相続は急ぎませんのでゆっくりで構いません。
それよりも、ギルド声明として発表して頂きたい事があります。﹂
◆ ◆ ◆
∼カシュール街角にて∼
インヴォーカー
﹁オイオイ聞いたか?クラーブ・ケイがやられたって話!!﹂
﹁聞いたぜ。あそこ、獣魔師が5人もいたんだろ?しかも頭領のク
ラーブ・ケイは元Bランクだって言うじゃねぇか。
それどころか、生き残りはたったの一人だって言うぜ?﹂
﹁マジかよ!!何人か逃げ延びられなかったのか???﹂
﹁辛うじて逃げ延びたのが副頭領だって話だからよっぽど実力差の
ある奴にやられたんだろうな。﹂
﹁それなんだけどよ。俺の聞いた話では獣魔師が︽インヴォーカー
︾が絡んでるっていうぜ?﹂
﹁−−!!て事は何か!?遂にギルドが重い腰上げたってことか?
?﹂
インヴォーカー
﹁いや、抗争の可能性もある。フリートんところサクサールんとこ
には獣魔師がいたからな。﹂
オンナ
﹁ところでそのクラーブ・ケイの副頭領だけどよ、何でもフリート
盗賊団に身を寄せてるらしいぜ?﹂
﹁何てこった、そいつって確かクラーブ・ケイの情婦って話じゃな
かったか?﹂
﹁ま、どんな時も美人は得ってこったな。﹂
﹁ウチのカカァなら追い返されてハウンドウルフの餌が良いとこだ
ろうぜ。﹂
ちげぇねぇ、ちげぇねぇ、と彼等は下品に笑い合うのであった。
780
ハジメはマイクロ∼ズで噂が広がる様子を観察していた。
ハジメの狙いは、盗賊団達の三竦みの力関係を壊す事にあった。
これ程大量の盗賊団があるのならば、もっと覇権争いが起こっても
良いはずなのだ。
しかし、トップに君臨する三者が余りにも強大でかつ睨み合いばか
り続けるもので下手にその他のグループがチョッカイを出せないの
だ。
手を出せば勝てるかも知れない。しかしその後で他の賊に漁夫の利
を持って行かれるかも知れない。
そんなところに、ハジメはまずフリートとサクサールの両者から裏
切り者を出させた。
勿論これはオトヒメが操ってそうさせただけだ。
その後、両者にクラーブ・ケイの代表を名乗る相手から戦争の警告
が来る。
この時来たルーニー等は﹃ミラージュ・ベスト﹄を応用したハジメ
とウェンディーヌの変装術だ。
背後に率いていた50人前後の山賊は半分ほどがオトヒメに操られ
た者で、残りは﹃ミラージュ・ファントム﹄だ。
声色はオトヒメに操らせれば何て事無い。
サクサール、フリート、両者共に﹁相手が同盟を結んでいるかも知
れない﹂という疑心暗鬼に陥る。
その直後にクラーブ・ケイを襲い、数で勝るフリートの兵力を削る。
この時既にカサンドラはフリートに潜り込んでおり、それと同時に
インヴォーカー
﹁サクサールに襲われた。サクサールにはクラーブ・ケイの残党の
獣魔師が居た﹂と証言させればフリートとしては必死のピンチだ。
ハジメはこの世界の情報伝達の遅さを利用し、クラーブ・ケイがあ
781
インヴォーカー
たかもサクサールか何処かの盗賊団に襲われて壊滅したかのような
情報を流したのだ。
そして、意図的にその中に獣魔師が混じっていた
もう、攻めてこられる可能性が高い。そうなったフリートに残され
た手は2つ。
乾坤一擲の覚悟で撃って出るか、或いは・・・。
◆ ◆ ◆
テイマー
﹁お前をこのフリート盗賊団に入れてくれ、だと?﹂
﹁はい、私は見ての通り操獣師です。ギルドランクはDランクに過
ぎませんが、生まれたばかりの時に偶然契約しましたケンタウロス
が2頭居ます。必ずお役に立てるかと思いますが・・・。﹂
﹁・・・何故わざわざ俺の所に来た。﹂
﹁自分の能力を今一番高く買って頂けるのがこちらだと思いました
ので。﹂
﹁ほう・・・。一端に目端が利くようじゃねぇか。面白い。だが役
立たずに飯を食わせる訳にはいかん。
カナログ!!﹂
﹁はっ!!﹂
﹁手合わせしてやれ。こいつはウチの団員の中で上位3割に入る男
だ。獣魔を使っても良いから勝って見せろ。何なら殺しても構わん。
﹂
それは即ち相手にも言える事。殺し合いの力試しという訳か・・・。
︵アマツカゼ、毒はかなり緩くしておくか、出来れば使うな。それ
と、ナイフを一本貸してくれ。あんなギンギラギンのブレスレット
装備だとすると目立ってしょうがない。︶
782
︵ご存じないのですか?魔法金属は系統の下位金属に偽装出来るの
ですよ?︶
︵えっ!そうなのか。なら、銅の剣と銀の盾にすれば良いのかな?︶
︵そう言う事ですね。︶
一目構えを見ただけで相手がかなり格下だと分かってしまった。
︵これなら獣魔使わない俺で3秒・・・。︶
︵アマツカゼ、トキツカゼ、好きに戦って良いぞ。但し、かなり手
加減しろ。それと殺すなよ。︶
既にやる気をなくしているハジメであった。
◆ ◆ ◆
﹁追い詰められたら、好戦的なら撃って出る。
逆に慎重派なら戦力増強を図るだろう。
そこに俺が申し出る。俺の加入でややこちらが弱い、程度の均衡に
見えるはずだ。
このままでは均衡が再び訪れるが、俺とカサンドラさんがそれぞれ
盗賊団の併合を申し出る。
少し優勢になって攻めたかと思えば相手も増強している。そこで再
び増強を図る。これを繰り返せば・・・。﹂
2週間後には62在った山賊団は30を切る程までに数を減らして
いた。
これまた想定通り、3強が崩れた事で自ら第3勢力を名乗る物が続
々現れた為、血で血を洗う抗争は収まるどころか激しさを増す一方
だった。
その頃、マコとウェンディーヌが何をしていたかと言えば、ひたす
783
黒
ら市民への被害を防いでいた。
一角
獣
ガルーダ、メドーア、ブラックホーンホースの協力を得て、街道の
警護とカシュールの治安維持に東奔西走していた。
何時の世も、マフィアやヤクザが抗争を起こすと民間人に被害が及
ぶ。
弾除けになってひたすら走り回るのは戦争の渦中にいて常に命の取
り合いをするのと同じぐらい危険であった。
◆ ◆ ◆
併呑した物を会わせて、
サクサール盗賊団は11
フリート盗賊団は9
第三勢力として名乗りを上げたワガルタックが7
最後まで独立を保ったトカブが2つの盗賊団を率いている。
ここで俺とカサンドラさんはそれぞれの場所で同じ提案をした。
﹁ワガルタックを先に攻めましょう。彼は好戦的でどちらにも付こ
うとしません。攻められるのを待って居て戦力を削っては﹃フリー
トに﹄﹃サクサールに﹄つけいる隙を与えるだけです。﹂
一見、筋が通っているように聞こえる。
しかし、これは俺達が口裏を合わせた結果だ。
そして・・・。
ワガルタック盗賊団の本拠地でフリート盗賊団とサクサール盗賊団
は全勢力を持っての鉢合わせを起こした。
784
カシュールの盗賊狩り ︵4︶踊らされる者達︵後書き︶
戦略系を書くのは初めてです。
感想がとても楽しみです。どうか一つ宜しお願いします。
785
カシュールの盗賊狩り ︵5︶一網打尽︵前書き︶
ドンパチを書くのは楽しいです。
786
カシュールの盗賊狩り ︵5︶一網打尽
カンカンカンカンカンカンカン!!!!!
物見櫓の金が割れんばかりに響き渡る。
ワーウルフ
﹁敵襲だあああぁぁぁっっっ!!!サクサールが攻めて来たぞおお
ぉぉぉっっっ!!!﹂
﹁来やがったか!!返り討ちにしてくれるぜ!
ワーウルフ
斥候!情報急げ!!相手はどっちだ!?﹂
ワーファイター
ワガルタックは獣戦士の一種、人狼族の青年である。
生を受けて8年、人間ならば子供の年齢だが、加齢の早い人狼では
既に壮年の戦士である。
彼らは魔力を使えない代わりに人間離れした膂力と俊敏性を誇り、
その爪と牙の威力は優にハウンドウルフにすら匹敵する。
脳味噌まで筋肉が詰まっているような仲間たちとは違い、ワガルタ
ックは頭の回転も良かった。三竦みが睨めっこしてるうちはひたす
ら雌伏の時を待ち、密かに他の盗賊団と共闘関係を結び、いざと言
う時に共だって立つ事を決めていた。
そのまま3年の時が過ぎ、いかな彼とて焦れ始めた時に突如その報
は届いた。
クラーブ・ケイ陥落⋮
インヴォーカー
三強の中で最も可能性が低いと思っていた。
力もある。知恵もある。
何よりあそこには5人もの獣魔師が居た筈なのだ。
しかもその後、裏切り合戦を繰り広げたサクサールとフリート。
787
︵誰か頭の切れる奴が裏で動いているな⋮。︶
そこまでは想像のついた彼であったが、正体まではどうしても分か
らなかった。
・ ・
斥候の情報によるとサクサールとフリート、両側に臭う奴が居るら
しいが、両者は物理的にかなりの距離離れており、連絡を取り合う
インヴォーカー
事は不可能に思える。
インヴォーカー
︵いや、そいつらは獣魔師と言う話だしな⋮。或いは可能なのか?
?︶
残念ながら彼自身はそこまで獣魔師について詳しくなかった。
自分達の勢力が2強に迫りつつあった時、彼は隊の者に伝えた。
﹁来るとしたらそろそろだ。皆、準備はしておけ。﹂
◆ ◆ ◆
﹁どっちだ!?フリートか?それともサクサールか!?﹂
ワガルタックは目の前に迫る矢や刃をすり抜け、切り結びながら叫
んだ。
﹁りょ、両方です!!両隊とも全勢力を率いて来ております!!﹂
﹁な、何だと!?﹂
勝ち目が無い。瞬時にそう判断した。これが偶然か必然か、彼に判
断する余地は無いが、ここで一瞬の判断を遅れれば団全体の命に関
わる。
﹁退散だ!!お宝も放置だ。どうせ見付かりっこねぇ!さっさと逃
げるぞ!!﹂
気持ち良い程あっさりと拠点を捨て逃げ出そうとしたワガルタック。
788
機を見るに敏であるがゆえに生き馬の目を抜くような生存競争を残
って来ていたのだ。
しかし⋮。
﹁今回は相手が悪かったわねぇ。﹂﹁リヴィエル、﹃ウォータース
ライサー﹄﹂
彼が人生の最後に聞いたのは黒髪の女と、ピンクの髪の女がそれぞ
れ発したほんの一言であった。
◆ ◆ ◆
︵ハジメちゃん、こっちはやったわよ。アタシはこれからお宝の捜
索に入るから、ウェンディ姉さんを向かわせるわね?︶
︵サンキュー、今回は俺が動けないから助かったよ。因みにお宝は
そこから北北東に800mほど進んだ洞窟の中。入って右へ右へ進
んだ先の隠し部屋だよ。壁を偽装してあるけどパンドラならすぐ見
付けられると思う。︶
︵何だ、もう見付けてたの。じゃぁ、全部回収してくるわね?︶
︵宜しく∼。︶
︵トール、アネモイ、上空から残党を一匹も逃さずやってくれ。ア
マツカゼ達だけだと茂みに入られた時に撃ち漏らしが出来る。︶
︵了解です。︶
念話で話しながらも恐ろしいスピードで盗賊を屠って行くハジメ。
勿論、今はサクサールの味方のふりをしているので表向きはフリー
ト側の盗賊だけだが、頭領を除く全員は既にオトヒメの影響下にあ
るため、彼らにしてみれば案山子を相手にしている様な物だ。
789
カサンドラと連絡を取り、総数が20人を切った頃⋮。
﹁お屋形様。﹂
ハジメはヒュン、と刀の血糊を振り払いサクサールへと向き直る。
﹁お命頂きます。﹂
最後の言葉を掛けたのはせめてもの情け。
﹁そう来ると思っていたぜ。﹂
サクサールにも流石に暗躍がばれていたらしい。
ガンガの操るスケルトンが間に割って入る。
一つ、舌打ちしたハジメだが、慌てず騒がず正中に真っ二つにする。
心臓の位置にあったコアを破壊されてスケルトンは人型を取れなく
なる。
テイマー
﹁トール、アネモイ、雑魚を頼む。カサンドラさん、フリートと殺
りあえる?﹂
﹁良いでしょう。こちらも操獣師同士。純粋な実力勝負です。﹂
﹁やはり、お前が操っていたと言うのか。﹂
フリートがカサンドラに声を掛ける。流石に唯の馬鹿ではないらし
い。
﹁いつ気付きました?﹂
﹁ここでサクサールの野郎と鉢合わせた時からだな。あんまりにも
タイミングが良すぎる。﹂
﹁へぇ⋮、残念でしたね。遅すぎました。﹂
﹁もうちょっと大人しくしてれば、その美貌だ。悪くしてやらなく
もなかったんだぜ?﹂
﹁それこそ残念です。私が愛するのは今も昔も唯一人ですので。﹂
フリートが操るのは空からガーゴイル3体、更にフリートの左右に
790
ウィンドタイガー
アースウルフ
疾風王虎と地皇狼が控えている。
不可視の
殺し屋
︵カサンドラさん、気を付けて。空にアンシーンアサシンが控えて
る。︶
︵︱︱!!助かります、完全に見落としていました。OKです。こ
ちらでも感知できました。︶
あれに気付けるとは、カサンドラさんも感知系らしい。
彼女は催眠キノコや獣取り草などの植物系獣魔を操っている。
︵恐らく、熱源感知か胞子を使ったんだな⋮。︶
このタイプの獣魔は獲物を探す為に蛇の様なピット器官を備えてい
る。
目に頼らない攻撃が出来るのは植物ならではだが、夜は極端に攻撃
力が落ちる、という弱点を持つ者も多い。
今は幸い夕暮れ時。まだ日光は十分にある。
一方のフリートは純粋なパワータイプ。この勝負、どうなる??
◆ ◆ ◆
グール
一方の俺は次々と現れる屍食鬼に四苦八苦していた。
なにせ、材料は周りに死ぬ程︵いや、死んでいるのだが⋮︶沢山転
がっているのだ。
アマツカゼ達は遊撃隊で四方を飛び回って居てまだ戻っていない。
︵そろそろ終わらせるか⋮。︶
﹁リヴィエル、行くぜ?﹂
﹁やっとね。死体ごと巻き上げてあげましょう?﹂
﹁リヴィエル、﹃アシッド・ヴォルテックス!!﹄﹂
じょうぅぅわぁぁぁぁっっっっ!!!と焦げる音を立てながら周囲
791
ネクロマンサー
グール
の死体が巻き上げられて行く。
死霊術師が屍食鬼に扱える死体は、新鮮な物に限るのだ。
損傷が激しかったり、死後腐敗が進んだ物は使えない。
逆にそう言った死体はスケルトンの材料になるのだが、それには特
定の魔法陣を書いて処理する必要があり、こう言った急場には向か
ない。
﹁ま、本人がこの渦に巻き込まれてるから関係無いけどな。﹂
﹁クロノス、マイクロ∼ズ解除。﹃|多時空より来たれ死の使い︽
ディメンショナルアタック︾﹄!!﹂
黄
金
熊
掛け声とともにサクサールに特攻を掛けたクロノス。
サクサールがゴールデンベアとプチドラゴンを盾にして防ごうとし
たが、クロノスの腕の一振りであっさり吹き飛ばされる。
今、クロノスに託した魔力は85%、これを外せばハジメも危うい
ラインだが、ハジメは確実性を選んだ。
雑魚の相手は他の獣魔とウェンディーヌの力を信じているが故に出
来る技だ。
サクサールにクロノスが肉薄した瞬間、クロノスが4体に分裂し、
まるでドッジボールでパスを上げあうかのように、しかし遥かに凶
悪な力で、10数秒、サクサールは4者間を弾き飛ばされ続けた。
﹁ぐがはああぁぁっっ!!﹂
﹁﹃解除﹄﹂
技の終わった時、1体に戻ったクロノスがサクサールの体を天高く
打ち上げる。
地面に叩きつけられたサクサールは体中のありとあらゆる場所がベ
コベコになっており、癇癪を起した子供が壊した人形のごとく無残
792
な死姿であった。
﹁き、貴様!!良くも俺達を騙したな!!﹂
フリートの副頭領が襲いくるも⋮。
﹁リヴィエル、﹃ウォータースライサー﹄﹂
一瞬で物言わぬ頭に変化した。
﹁分からないかな?全力で相手してやるってのが礼儀だと思ったん
だけど⋮。﹂
それすらも偽善。分かりながらも全力を揮ったハジメであった。
◆ ◆ ◆
ウィンドタイガー
カサンドラとフリートの戦闘は膠着状態にあった。
風上に回り催眠キノコの胞子を飛ばすも疾風王虎の風に吹き飛ばさ
アースウルフ
れ、上空から迫るガーゴイルは獣取り草に阻まれる。
地大狼が突攻し様とすると突如地面に口が開きマチボウケカズラに
引き込まれそうになり、寸でのところでガーゴイルに引き上げられ
る、と言う具合だ。
︵実力はほぼ互角⋮。俺が出て行けば一瞬で勝負は着くが⋮。︶
彼女も、いやフリートでさえ命を掛けている勝負だ。
︵逃げ出さない限り見守ろうか。︶
イ ン ベ ン ト リ
両者息が切れ始めている。
2人そろって収納スペースに手を伸ばし、フリートがエーテルの瓶
を開けようとした一瞬の隙⋮。
﹁この時を待っていました。催眠キノコよ、﹃芽吹け﹄!!﹂
フリートの周りから無数の小さな催眠キノコが芽を噴き出す!!
793
かと思えば、物凄い勢いで全てが爆発し、周囲の空中が真っ黄色に
染めつくされる程の胞子が噴出された。
﹁︱︱!!リヴィエル、俺たちの周りに﹃ヴォルテックス﹄!!﹂
渦潮を通して観察すると、カサンドラも膝をつき、今度こそエーテ
ルを口にしている。
しかし胞子による催眠で完全無防備になったフリートとは大きな違
いだ。
獣取り草が近づいて行き、ブレスレットのある右手を残してフリー
トの体を食いちぎった。
マイクロ∼ズを展開し、胞子の範囲を見極める。
カサンドラの傍ならOKの様だ。
﹁その前までの胞子はあくまで囮、彼らの周囲に胞子を充満させる
のが目的だった、ってか?
凄まじい攻撃だったけど魔力、大丈夫か??﹂
憑物
一直線
﹁よくぞあの一撃でそこまで見抜かれますね⋮。まるで実力のケタ
が違う。。
いつもこれを放つのは最後の最後です。失敗すれば
の大技ですので。やはり盗賊団の頭領、一筋縄ではいかせてくれま
せんでした。﹂
︵俺なら10秒で片付けられる、とか言わない方が良いんだろうな。
︶
﹁俺の仲間が既にお宝を回収して待っている。続けてトカブを墜と
すが着いて来れそう?﹂
﹁勿論です。ガルーダ籠で休息を取れば十分です。﹂
ガルーダ籠で、他のメンバーが余りにも疲労して居ないのを見て底
794
インヴォーカー
力の違いに愕然とするカサンドラであった。
トカブ戦は不毛の一言だった。
周囲をグルリと明らかにレベルの違う獣魔師に囲まれていて、投降
すれば命を救う、と繰り返したにも関わらず、一人残らず攻めて来
たからだ。
勝利の余韻に浸るどころか後味の悪さしか残らない、一方的な戦闘
であった。
﹃ウォーターガン﹄熱湯バージョンでたらいに湯を張り、順番に血
を洗い流した後、カシュールに報告に行った。
795
カシュールの盗賊狩り ︵5︶一網打尽︵後書き︶
いかがだったでしょうか?裏切り、画策、と言った戦略系は初めて
書いたので難しかったです。そもそも、いっぱい間違いましたしね。
ご指摘有難うございました。
ご希望の方がいらっしゃったらあれですので前以て言っておきます
と、今のところカサンドラさんにハーレム入りの予定はありません。
ルックスを描写していませんので分かるかとも思いますが⋮。今後
の展開次第で分かりませんが、彼女はあくまでクラーブ・ケイを未
だに愛しているのです。
796
指定依頼︵前書き︶
今、自宅を離れているのですがネット環境が意外と整っていたので
頑張って更新しています。
797
指定依頼
サモナー
カシュールに着いたのは既に夜遅くだった。
ギルド員のお姉さんは例の召喚師さんだった。
インヴォーカー
﹁獣魔師ギルドへようこそ。本日はどう言ったご用件でしょうか。﹂
﹁カシュールから半径400kmで活動していた62の盗賊団・山
賊団を壊滅させてきました。﹂
﹁⋮はい??﹂
﹁えっと、ですから以前言っていた盗賊団の壊滅をして来ました。﹂
﹁あれは確か半径150kmと言う話だったはず⋮。いえ、そもそ
も1カ月と言う話だったのにまだ後10日も残ってますし⋮。
⋮⋮⋮
⋮⋮
⋮
し、暫くお待ちください!!!﹂
ギルドの一室に通された俺達は30分ほど待たされた。
︵このパターンは⋮。︶
エイシェント
﹁随分活躍してるみたいじゃない。﹂
古代エルフのアテネであった。
◆ ◆ ◆
﹁⋮カシュール周囲の盗賊団62を僅か3週間で壊滅させた?﹂
798
﹁あ、一応生き残りはこちらに一人いますけど。﹂
﹁いっつも言うけどアホか!!一人生き残っていようがいまいが殆
ど変わらんでしょうが!!
しかも何?きっちりお宝まで検索して持ち帰ってるですって?﹂
﹁はい、多すぎて持って来れなかったのでうちに保管してあります。
ウェスタとメドーアが管理してるので泥棒の心配は0だと思います
が、一度どなたかに鑑定に来てもらわないと⋮。﹂
アテネはクリクリと米噛みを押さえた。
﹁⋮そんな大金の管理、アタシ以外に任せられる人いないわ。。﹂
﹁そうなんです。あんまりにも多すぎて人間に任せられなくって。
イ ン ベ ン ト リ
誰か高潔で暇してる獣魔さん居ないんですか?62個の盗賊団の頭
領の御首級だけでも結構な数なもんで何か収納スペースが血生臭い
感じがして嫌なんですよ。﹂
そりゃそうだろう。と言うか、きっちり62個持って来ている辺り
が既に常軌を逸している。
﹁分かったわ。貴方の家に行くから座標を教えなさい。﹂
﹁ガルーダで一緒に行かないんですか?﹂
﹁私なら直接飛ぶ方が早いわ。クロノスが座標知ってるでしょ?﹂
﹁ここからですと西へ305km213m22cm、南へ12km
93m3cmです。直接入るとハウススペクターに警戒されますの
で私達の到着まで門前で待って居て下さい。﹂
◆ ◆ ◆
可能な限り速く
飛んだ。
ウェンディーヌ達にはガルーダ籠で後から来て貰い、俺は一人クロ
ノスで
空間跳躍も使えるだけ使い、速度もマッハ換算で5付近は出て居た
筈だ。
799
屋敷に着くまで1分と掛からなかった筈だ。クロノスに聞けば、﹁
53秒です。﹂との事だった。
それと殆ど同時に門前の空間が歪んだかと思えばアテネさんが転移
してきた。
彼女は背後に立つ俺達に驚きの表情を見せる。
﹁貴方も時空間転移が使えるんですね⋮。﹂
﹁この短距離で私に追い付く人間が居るなんて⋮。貴方の実力は既
に⋮。﹂
﹁ウェンディーヌ達が来るまでまだ30分ほどあります。中に入っ
て待ちましょう。﹂
◆ ◆ ◆
﹁こりゃまた⋮、貯めたわね。﹂
﹁誓って言いますけど、銅貨一枚ピンハネしてませんよ。﹂
﹁概算だけど⋮、褒賞金だけで100億ミュール、7人の相続が恐
らく300億、遺産は500億は下らない筈よ。目録作るのに1週
間はかかるけど、それまでここに泊りこませて貰っても良いかしら
?﹂
﹁良いですよ、と言いたいところなんですが寝場所が無いんです。
アストラル・ワールド
部屋は全部埋まっちゃってるんで。。﹂
クエ
﹁ああ寝るところは精神世界行けば良いんだけど、出入り自由の許
可が欲しいのよ。
﹁それならOKです。﹂
スト
へよ。﹂
﹁それとその間にお願いしたいんだけど貴方にギルドからの指定依
頼が来ているわ。﹂
目標ある旅路
﹁俺に??﹂
﹁貴方と、
800
ごくり、と唾を呑む。
憑物
に堕ちたわ。﹂
我ながら戦績は残して来たつもりだが、どれほどの依頼が来ると言
うのか。
テイマー
﹁Bランクの操獣師が
﹁﹁﹁︱︱!!﹂﹂﹂
﹁Bランクですって!?﹂
﹁有り得ないわ。一度は堕ちた私が言うのもなんだけど、精神の未
熟なうちしか成り得ないわ。Bランクまで成長していながらそんな
ミスを犯すと思えない!!﹂
﹁そうね、それが普通の反応。しかし、今回は相手が悪かったとし
か言いようが無いわ。
どうかその少女を貴方達に払って欲しいの。これはランク上昇ポイ
クエスト
ント、Aの30に相当するとギルドは判断した。そして現存のAラ
ンクで貴方達が最もこの依頼にふさわしいと見たのよ。﹂
﹁﹁﹁Aの30!?﹂﹂﹂
3人の声がハモる。
﹁普通、ランク上昇ポイントは高くても10か15が精々でしょう
?その難易度ならSランクの方が⋮。﹂
﹁Sランカーだと今居る人達はその子を殺す事を前提で動くわ。他
のAもそう。それを救おうと出来るのは貴方達だけなのよ。﹂
﹁﹁﹁︱︱!!﹂﹂﹂
全員の視線がマコに集まる。
災厄の少女
を無傷で払った貴方達にしか出来ないのよ。﹂
﹁分かったかしら?誰もが殺して片付けようとして尚手を出せずに
いた
﹁分かりました。﹂
801
憑物
﹁ハジメちゃん⋮。﹂
﹁受けましょう。
に苦しむ人間をこれ以上放っておく事は
俺には出来ない。必ず救います。ところでその子が憑かれている獣
魔って一体??﹂
サエズリバチ
﹁雲雀蜂よ。﹂
◆ ◆ ◆
サエズリバチ
雲雀蜂:討伐難易度Aランク中等度相当。1匹1匹の討伐ランクは
D相当だが、群れの中の女王蜂が立てる羽音によせられて働き蜂が
集まりコロニーを形成する。この時の音が雲雀に似ているためこの
名がついた。全ての個体を同時に叩くか、女王蜂を捕獲せねば矢継
ぎ早に襲いかかって来る。1つの群れは数万から多い時で百万以上
に及ぶ。
﹁成程、確かにこれは俺達でしか出来ないな。﹂
﹁そうね、アタシがパンドラで女王蜂の場所を探すか、ハジメちゃ
んが全数把握してウェンディ姉さんと一緒に﹃タイダル・ウェイブ﹄
ぶつけるか⋮。﹂
﹁そんなとこだろうな。しかし、個々がDランクの戦闘力を持って
るのを百万って、流石にそこまで相手出来るチビクロ∼ズは展開出
来ないぞ。﹂
﹁それならやっぱりハジメはマイクロ∼ズで全数把握して、マコち
ゃんが女王蜂を捜索、アタシが群れごと殲滅、って感じかしら?﹂
﹁﹃タイダル・ウェイブ﹄は広範囲で強力だが範囲選択が難しい技
だ。狙い澄ますのなら﹃ヴォルテックス﹄などの方が良いかも知れ
ない。﹂
﹁オトヒメさん、蜂のサエズリを真似て操る事は出来ないの??﹂
802
﹁無理ですよ。聞いた事も無い波長なんて⋮。﹂
﹁雲雀なら操れる?声真似して。﹂
﹁それなら簡単です。でも人間の耳で﹃似ている﹄と言っても余り
あてになりませんしねぇ⋮。人間の耳に聞こえない波長が沢山含ま
れていたら似てても別物ですし。﹂
﹁超音波か⋮。﹂
﹁そうですね。信号に使うのならそちらの可能性が高いと思います。
遠くまで届きますし。﹂
サエズリバチ
話し込んでいる所にアテネさんが入って来た。
﹁良い作戦は立った?﹂
﹁いえ⋮、アテネさん、他に雲雀蜂を使ってる人知りませんか?﹂
クエスト
に堕ちた人の情報だけでも無い
カーミラ
憑物
﹁SSに一人居るには居るんだけど⋮。今は連絡のつかない場所で
依頼こなしてるわ。﹂
﹁そっか。それならせめて
のですか?﹂
﹁あ、ごめん、言い忘れてた。
相手は114歳の少女、種族は女吸血鬼よ。精神攻撃には滅法強く
カーミラ
って、霧や蝙蝠への変化も可能。手ごわい相手よ?﹂
ヴァンパイア
﹁女吸血鬼!何てこった⋮。﹂
彼女ら吸血鬼一族は上位精神生命体に匹敵するほどの長寿と強靭な
憑物
なんて⋮。無茶苦茶難易度高いじゃないですか⋮。
精神を持つ筈だ。
﹁それが
﹂
頭を抱えるも受けてしまった以上仕方が無い。
﹁蜂一匹の大きさは?﹂
﹁普通のスズメバチより一回り大きいくらいかしら。3∼5cm程
度だと思うわ。厄介なのは女王蜂も全く同じ容姿をしているって事
803
ね。﹂
﹁見分けが付かないのか⋮。それは厄介だな。。﹂
﹁やっぱりそれなら⋮。﹂
調べ
ハーモニー
ああでもない、こうでもないと言いながら夜更けまで議論は進んだ。
◆ ◆ ◆
夜更け。アテネさんはまだ遺産の鑑定中だ。
﹁すまないが1時間だけ付きあってくれ。﹂
ハジメはオトヒメと再び鬼ごっこをしていた。
屋敷中にマイクロ∼ズを展開しながら彼女の言う﹁世界の
を聞いてみる。
︵虫の声、風の音、そう言った世界の音に逆らわずに、同化させる
ように⋮。空間の振動に同調させるように⋮。︶
﹁良い感じでしたよ。もう少しです。﹂
﹁わわっ!!﹂
向こうから念話で話しかけられてしまった。
気付けばいつの間にか傍にオトヒメが立っている。
﹁ただ、横に居ても気付かないほど集中していては実戦では使えま
せんよ?﹂
﹁今は仲間が居るからね。背中預けて戦える仲間が。戦いに先立っ
ての検索時に敵に気付かれないのが目的だからね。﹂
﹁それなら今からもう一度、今度はアテネを探すつもりで展開して
見て下さい。横でアドバイスしてあげます。﹂
﹁︱︱!!目的ばれてた??﹂
憑物
の少女です。﹂
﹁エレン・ブライトとの鬼ごっこでしょう?そりゃ分かりますよ。
しかし今はまず
804
﹁分かった。行くよ?﹂
﹁風や虫と言った聞こえる物だけ聞くのではありません。大地、水、
音を立てない物の声も聞くのです。
⋮そうです。良い感じです。この星の声を聞いて下さい。そこに生
きる物全ての声を聞くのです。
シンクロ召喚の時を思い出して下さい。あれを世界と行う感覚です。
﹂
遠慮のない指導により、アテネさんの背後から忍び寄ってびっくり
させる事に一度だけ成功した。
◆ ◆ ◆
﹁アテネさん、彼女の名前と現在の居場所は?﹂
﹁彼女の名前はキャロル・フレッカー。彼女は今、港町カナメリア
の南30kmの辺りを街に向かってふらふらと北上しているわ。現
地の獣魔師達に何とか抑えて貰っているけど、このままだと街に入
ってしまうのは時間の問題ね。出来るだけ早く行って貰いたいんだ
けど、体の傷は大丈夫?﹂
﹁俺達は殆どかすり傷すら負っていません。体力も回復させました
インヴォーカー
し、ばっちりですよ。
それよりも他の獣魔師に俺の秘密を知られたくは無いけど⋮。贅沢
言ってられないですね。そろそろ隠しきれない気もしていましたし。
﹂
﹁そうね、少しでも早くその子を救いましょう。﹂
﹁トール、アネモイ、いっつも飛んで貰って悪いね。後で風雷石あ
げるし全速力でお願い。﹂
﹁﹁了解です。﹂﹂
805
指定依頼︵後書き︶
最初の方から考えてました。いつかは憑物払いをさせたい、と。そ
インヴォーカー
の時ハジメに相応しい獣魔をずっと考えていました。単なる力押し
で勝てない、こういうのにしようって。そして、人間以外の獣魔師
もそろそろ出していきたいと思っていました。
ご意見、ご感想、お待ちしております。
806
憑物払い︵前書き︶
何とか頑張って更新を続けます。
807
憑物払い
昼。
ヴァンパイア
日の高い時間は吸血鬼の活動が穏やかになる。
但し、日光に当たると灰になってしまう、等と言う事は無く、人間
が夜になると何となく眠くなるのと同じ程度のレベルである。
ヴァンパイア
夜型の人間が居るように昼型の吸血鬼も勿論居る。
要は個体差の範囲なのだが、昼間の方が活動が穏やかなのが一般的
な為、真昼間を狙った。
・ ・
それは遥か上空からも簡単に視認出来た。
半径20mにも及ぶ蜂玉の中で蜂達は忙しく飛び回りながら触れる
物すべてをミンチに変えて捕食している。
﹁エグイ⋮。﹂
ハ チ
﹁確かに彼等は元々肉食だけど⋮。これは完全に暴走ね。﹂
氷の獣魔が一生懸命防いでいるが、凍死した仲間は完全にその場に
打ち捨てられている。
サ
キャロルはごく無造作に、パキリ、と味方の死屍を踏み越えて街を
目指し続ける。
エ
より多くのタンパク質の塊のある方向へと。
﹁この死をも恐れない行動が特攻蜂とも軍隊蜂とも呼ばれる由縁ね。
﹂
話しながらもマコはパンドラを展開し、女王蜂を探し出した。
﹁厄介ね⋮。蜂玉の外周を縦横無尽に飛び回っている。隊全体が大
808
きな攻撃を受けると一目散に離脱して、更に多くの仲間を引き連れ
て戻って来る。あいつら、どこからあんなに仲間を補充してるのか
しら??﹂
﹁マコ、俺も調べて見た。あいつら、この辺りに30近くも小さな
巣を形成していて、あちこちから補充してるみたいだ。﹂
﹁厄介ね⋮。ここで戦ってては勝ち目が無いわ。﹂
﹁そうだな、地の利は完全に向こうにある。﹂
﹁ハジメ、そうは言っても彼女達はカナメリアに向かっているのよ
?多少攻撃受けてもダメージ顧みず突き進んでるわ。どこかにおび
き出すのは無理よ??﹂
﹁ウェンディーヌ、マコ、2人だけであいつを押さえるとしたら何
分耐えられる?﹂
﹁5分が限度じゃないかしら⋮??﹂
ウェンディーヌですら5分が限界か⋮。
﹁同感ね。一体何をする気なの?﹂
﹁ちょっと、いや、かなり無理をする。失敗したら俺が憑物になり
×2
かねない。今の俺の魔力で死なないギリギリのラインだ。﹂
◆ ◆ ◆
⋮
⋮⋮
⋮⋮⋮
ドガシャァッ!!
﹁何もいきなり殴る事無いだろう!﹂
﹁言っても聞かない馬鹿に拳で教えてあげたのよ。﹂
809
﹁ハジメ、貴方死にたいの?﹂
た ち
﹁ここで戦ってても勝ち目が無いって言ったのはマコの方じゃない
か。﹂
マコは思わず天を仰いだ。この馬鹿は本気だ。本気だから性質が悪
い。こうなったら梃子でも動かない。
﹁良いわ。一回は助けて貰った身。貴方が憑物になったらアタシが
助けたげる。﹂
﹁マコちゃん!!﹂
﹁向こうに着いたらクロノスを毒ナイフで昏倒・麻痺させた後、貴
方に無理やりエーテル飲ませる。1分間してから再起動、OK?﹂
アルケミスト
﹁OK、流石マコ、思い切りが良くて助かるよ。。﹂
◆ ◆ ◆
サエズリバチ
アルケミスト
少女は森で蜂の大群に襲われている錬金術師を見かけた。
この辺りは雲雀蜂の群棲地、戦闘能力が皆無に等しい錬金術師がい
かな事情であれ単独で立ち入って良い場所ではない。
コミュニケーション
コミュニケーション
襲っている蜂は獣魔であり、確かに物凄い大群だったが、彼を助け
るのに必死で交渉を行った。個々の能力の低さから交渉から契約に
至るまではごくスムーズだった。
しかし。
次々と襲い来る蜂の群れは留まるところを知らず、次第に消耗して
イビルアイ
ゆく少女。
魔眼で魅了するも焼け石に水。
やがて女王蜂が現れた時に彼女は悟った。
810
分不相応な相手と契約したと。
蜂と自らの意識が混ざりあい、濁り、自分が蜂に命令を下している
のか蜂から命令されているのかすら分からない。
ただ、本能のままに﹁肉﹂を求めて街へと歩き出した。
◆ ◆ ◆
﹁じゃぁ、2人は先に戻って居てくれ。鍵は開けておくように既に
ウェスタに伝えた。﹂
﹁ハジメちゃん、死なないでね。﹂
﹁ハジメ、アタシはまだ納得した訳じゃ無い。生きて帰って死ぬ程
詫びて貰うわよ?﹂
﹁2人とも有難う。2人とパーティ組んでて俺、ほんとに良かった
って思ってるよ。﹂
イン
﹁止めてよ。死にに行くみたいな言い方。ハジメが死ぬんならあん
な小娘一人放って置く方が100倍マシよ?﹂
ヴォーカー クエスト
﹁⋮そうだね。俺も逆の立場だったらそう思うかも。でも俺達は獣
コール
魔師で依頼を受けたんだ。ここは引けない。行こう!
クロノス!!﹂
ピアスからクロノスが実体化してくる。
﹁向こうに着いたら扉を開けて待っててくれ。﹂
﹁了解。﹂
2人がガルーダに牽かれて帰還するのを見ながら、ハジメは何度も
イメージを練った。
憑物
に堕ちた自分の姿だ。
イメージの中で4回に1回は魔力不足で失敗している。
その先見えるのは
強大な力を誇る獣魔達を引き連れて世界を敵に回す自分。
811
思わず身震いをしてしまう。
﹁クロノス、俺、いけるかな??﹂
﹁マスターにしては弱気ですね。確かに魔力量的には賭けに近い部
分も有りますが⋮。想像は十分に固まっていると思いますよ。後は
自信だけです。弱気だと想像力が創造力に変換されませんよ?﹂
﹁⋮分かった。。クロノスを信じてやってみよう。﹂
ふわり
柔らかな羽毛と肌の感触。
後ろから抱き締められたようだ。
﹁私にも背中預けて戦って下さいね?﹂
︵ハジメちゃん、こっちは着いたわよ?︶
︵ああ、トールと視覚共有してたから見えてるよ。じゃぁ、始めよ
うか。︶
リコール
ハジメはクロノスで一旦500m程上昇した。
﹁召喚解除﹂
﹁了解、マスター﹂
地上までの間、そのほんの少しの時間も魔力が惜しい。
故にこれまでの移動で消費した分も含め回復する時間を稼ぐ為に一
旦空へと飛んだ。
急降下しながら満タンエーテルを口にする。着地ポイントの目標は
蜂玉から2m後方。
コール
風に煽られてどうしても誤差が生じる。
﹁クロノス、実体化。﹂
一瞬で抱きとめられ、静かに降り立つ。
812
︵しめた!キャロルも女王蜂もこっち側だ!!これならイケる!!
!︶
﹁クロノス!キャロルと女王蜂を連れて﹃跳べ﹄!!﹂
しゅわん!!
◆ ◆ ◆
一方こちらはハジメの屋敷⋮。
ハジメの個室として使われていた外の小屋。
今は扉が開かれている。
それだけでは無い。
ウェンディー
扉の入り口でウェンディーヌとマコがスタンバイし、小屋を囲って
半径30m程の氷のドームが完成している。
ヌとマコ
このドームは屋敷でゴロゴロと惰眠を貪っていたメドーアが女の子
2人に引っ叩かれながら大急ぎで作った物だ。
憑物
に堕ちてて疲れと言う物を感じない向こ
﹁作るのは良いが、戦闘しながらだと中の酸素は10分が限度だぜ
?﹂
﹁長期戦になれば
うが有利よ。短期決戦が全てね。﹂
キャロル
﹁来たわ!!マコちゃん、ハジメをお願い。メドーア、行くわよ?
?﹂
﹁よっしゃ、ハジメは俺が引っ張り出して来てやる。本体は俺に任
せてお前らは女王蜂をやれ。俺の肌はあんな虫っころの口じゃぁか
すり傷一つ負わねぇよ。﹂
813
メドーアが小屋の中に突進を掛ける。
ハジメは既に意識消失直前だ。
クロノスも意識混濁を始めている。
﹁マズい!こりゃ堕ちる寸前だ!!マコ、早くクロノスを気絶させ
てハジメにエーテル飲ませろ!!﹂
﹁クロノスさん、ごめんなさい!!﹂
パンドラが毒ナイフで麻痺させ、掌底打で完全に気絶させる。
ハジメの体は魔力とともに体力もごっそり消費しており、体は冷え
切っており、自分で動く事すら出来ない。
マコは満タンエーテルと極上ポーションを口に含み、口移しで飲ま
せた。
半分以上こぼしてしまったのでもう一度だ。
﹁⋮マコ?﹂
﹁ハジメちゃん、分かる?ちゃんと私が分かる?﹂
﹁あぁ。どうやらここまでは上手く行ってるようだな。﹂
豪雨
﹁そうね⋮。マズいわ!姉さん手伝わなきゃ!!﹂
集中
﹁リヴィエル、﹃ヘヴィ・レイン﹄!!﹂
﹃ダイアモンドダスト﹄!!
キャロル自身は既に巨大な氷柱に囲まれて脱出不可能だ。
集中
豪雨
メドーアとウェンディーヌの2人は意外にもコンビネーションを見
せていた。
範囲を広くする代わりに攻撃力を犠牲にした﹃ヘヴィ・レイン﹄を
﹃ダイアモンドダスト﹄で凍りつかせる。
全く意に介さず突っ込んでくる蜂達だったが、それでも3割ほどが
氷漬けになった。
814
﹁済まない、俺はクロノスが再起動出来るまで1分ほどここを動け
ない。暫く耐えてくれるか?﹂
﹁アタシ達は5分耐えるって言ったのよ。5分耐えて見せるからハ
ジメちゃんはそれを信じてくれなきゃチームじゃないわ。﹂
﹁そうだな⋮。サンキュー。。﹂
﹁パンドラ、﹃だるまさんが⋮﹄﹂
ギュッと強く目を瞑り、見えない物を見通すイメージ。額に目が開
く伝説の魔物をイメージしたこの技。一旦視界を完全に消失すると
言う条件で、魔力の及ぶ範囲で絶対に何かを探し出す。
﹁﹃こ∼ろんだ﹄!!﹂
イメージした物はペイント弾。
しかも今回は一発だ。
真っ直ぐ女王蜂に飛んで行き、蛍光のピンクに染め上げる。
攻撃を受けるが早いか、女王蜂は一目散に逃げ出す。
この群れを捨て、新しい群れを招集し様と言うのだ。
ブンブンと氷の壁を飛び回り逃げようとする女王蜂。
パンドラの投擲やウェンディーヌのスプレッドなども発動のタイミ
ングを見計らって華麗にかわしてくる。
﹁こいつ1匹、まるで動きが違うわ!!﹂
﹁こいつがAランクと言う由縁でしょうね⋮。﹂
﹁マコ、ウェンディーヌ、世話を掛けた。もう大丈夫だ。﹂
﹁ハジメ!立ちあがって大丈夫なの??﹂
﹁5分きっかり、休ませて貰ったからな。働き蜂の牽制を頼む。そ
れとこれから俺の攻撃の余波が来るけど気をしっかり持ってくれよ。
815
病み上がりで力の調整が聞かないかも知れない。﹂
何をする気⋮と聞く暇すら無かった。
空間転移で氷のドームに詰め寄るとクロノスが氷に向かって小さな
ジャブを連打する。
﹁行け、﹃クロノス・クエイク﹄!!﹂
ビリビリビリビリイイイィィィンンンッッッ!!!!
氷を伝って、空間全体が振動する。
氷にアタックを繰り返していた女王蜂は一溜りもなく昏倒し、地面
に落ちた。
反響は地面にも伝わり、マコ、ウェンディーヌ、メドーアも膝をつ
いている。
﹁こ、これはあの時の⋮。﹂
マコは覚えている。
自分を救いだしてくれたこの衝撃を。
イリュージョン
﹁1体のジャブでこの威力かよ⋮。俺が受けたダメージはどれだけ
だって言うんだ⋮。﹂
メドーアが喰らったのはシンクロ召喚・幻体バージョンでの攻撃。
あの時は確かにこれの何倍ものダメージだったが、あれはシンクロ
召喚だった筈だ。
一人でこれだけのダメージとは、確実にこの短期間で力が進化して
いる。
︵面白れぇ。どこまで行くか見届けてやる。つまんねぇ人生だと思
ってたが、これなら長生きする価値があるな。︶
816
◆ ◆ ◆
女王蜂の衝撃を受けて、キャロル・フレッカーも気を失っていた。
気付け薬を口に含ませるように飲ませてやると、意識を取り戻し始
めた。
実年齢は114歳と言う事だが、見た目年齢は人間で言えばマコと
アメジスト
同じか少し上ぐらいに見える。
紫水晶を溶かし込んだような藍色に近い紫の髪。
キャッツアイ
﹁ン⋮、うぅ⋮。﹂
開かれた瞳は猫目石の輝きを放ち、角度によってその輝きを変える。
﹁お、目を開けたぞ!!﹂
﹁大丈夫??気持ち悪いとこない??﹂
やはりこう言う時はマコが一番少女の気持ちが分かる筈だ。何でも、
生まれ変わったように気持ちが晴れやかなのだとか。
﹁御主人様⋮。﹂
⋮⋮ぇっ!?
817
憑物払い︵後書き︶
今回の戦闘の解説︵と言う程でも有りませんが︶は次回行いま∼す。
818
吸血鬼の少女︵前書き︶
ここに来てメインヒロイン追加です。
819
吸血鬼の少女
屋敷の一角で鑑定を続けていたアテネさんが騒ぎを聞きつけてすっ
自身の辛さは良く分か
飛んで来た時には戦闘は既に終わっていた。
憑物
﹁まさか一日で払っちゃうなんて。。﹂
﹁俺達のチームにはマコが居ます。
るんです。﹂
﹁いや、そういう意味じゃなくってね⋮。街に行かないように差し
向けてたのもBランクパーティよ?貴女達2人も既にBランクの枠
を超えてるみたいね。。﹂
﹁私達はハジメちゃんがチームリーダーとして的確に指示を出して
くれるので怖がらずに全力を揮えるんです。それが他のパーティと
の違いだと思います。﹂
﹁しかしどうしてここに居るの?少女はカナメリアに向かってた筈
よ?﹂
﹁はい、しかしその周囲には多数の蜂の巣があり、あそこで戦って
も勝ち目はありませんでした。
ですので、自分のテリトリーで戦おうと思ったんです。
クロノスで少女と女王蜂を引き連れて自分の小屋に転移、ウェンデ
ィーヌとマコに先に戻って貰い、マコに俺を救出して貰う。外には
メドーアに氷の結界を張らせて敵の逃亡を防ぎ、復活次第俺が空間
振動でケリを付けました。﹂
﹁⋮。﹂
ばちこーーーん!!
820
﹁痛いですよアテネさん。﹂
﹁アンタは⋮、アンタってバカたれは⋮。﹂
憑物
に堕ちる可能性は考えなかったの!?﹂
おお。手がわなわなしてる。
﹁自分が
﹁考えましたよ。シミュレーションでは4回に1回は失敗してまし
た。﹂
憑物
になるなんて有り得ないと
﹁それなら!﹂﹁クロノスが﹃私にも背中預けて下さい。﹄って言
ったんです。﹂
﹁︱︱!!﹂
﹁そんな彼女が俺を取り込んで
思ったんです。
俺は4分の3と言う数字に賭けたんじゃありません。俺とクロノス
の絆に賭けたんです。﹂
彼女はふぅ、と一息ため息を吐き、
﹁アンタ達がランク以上に強い理由が良く分かったわ。﹂
◆ ◆ ◆
アテネさんはキャロルに向き直り語りかける。
﹁キャロル・フレッカー。こちらの言う事がわかりますか?﹂
﹁はい。我が身に起きた事、全て覚えています。﹂
﹁貴女が憑物に堕ちた経緯を話して貰えますか?﹂
⋮⋮⋮
⋮⋮
⋮
821
アルケミスト
﹁成程。その錬金術師の顔や特徴は分かりますか?悪意があろうが
無かろうが、その者にも相応の処分を下さねばなりません。﹂
と認定して
﹁えっと⋮。私は人間の顔を覚えるのが苦手でして⋮。青い短い髪
御主人様
で背は御主人様より少し低いぐらいでした。﹂
そう。何故か彼女は正気に戻って以来俺を
しまったらしい。
アルケミスト
﹁カナメリアで登録されている錬金術師のリストから当該者を探す
しかないですね⋮。﹂
アテネさんが肩を落としてる。カナメリアに登録されていなかった
らかなりの難作業だろう。
﹁あの∼、横から済みません。キャロルがその人に会った場所と日
時、分かる?﹂
﹁勿論ですわ、御主人様。﹂
﹁それなら俺が時間軸遡って検索しますよ。何れにしろ確たる証拠
が無ければ捕まえられないでしょう?﹂
﹁そうでしたね⋮。貴方はそう言う反則技みたいな事が出来るんで
したね。﹂
無茶苦茶な言い草だな、ヲイ。
クエスト
﹁⋮手伝うのやめましょうか?﹂
﹁それなら今回の依頼は未達成と言う事にしましょうか?﹂
﹁御主人様に辛く当るのなら私がお相手しますよ!!﹂
ずずい、と俺とアテネさんの間に割って入るキャロル。
﹁分かった!分かったから2人とも鉾を収めてくれ。面倒事は御免
だよ。﹂
キャロルとともにクロノスで飛ぶ。
822
鋼鉄蟷螂
憑物
に堕
彼女は元々メタルマンティスや|ジャイアント・ソイ・ソー︽巨大
ファミリア
豆クワガタ︾などを操獣魔にしていたらしいのだが、
ちた時にみんな別離してしまったらしい。
﹁また新しい仲間を探しますよ。﹂と言う彼女の顔はとても寂しげ
に見えた。
﹁この辺りです。﹂
サエズリバチ
彼女と会った場所から100km程南東に降りた場所だった。
アルケミスト
街道からも20km程離れている。
﹁こんなところで良く錬金術師の気配感知出来たね。﹂
彼女は頬を染め嬉しそうに頷く。
﹁わ、私達は人間の気配を感知するのが得意なのです。雲雀蜂の群
棲地でしたので警告に入ったのですが⋮。まさかあんな事になるな
んて。。﹂
﹁その御蔭で俺達は出会えたじゃないか。人間万事、塞翁が馬だよ。
﹂
﹁???何ですかそのサイオウガウマって。﹂
﹁悪い出来事も巡り巡って良い結果に繋がる事もある、って意味の
俺の生まれ故郷の諺さ。兎に角、始めようか。﹂
﹁ええ。でもどうやるんですか?私は何をすれば⋮?﹂
イリュージョニスト テイマー
コントラクター
3つのブレスレットの偽装を解き、両手に4本のブレスレットを装
サモナー
着してみせる。
イリュージョン
﹁俺は召喚師、幻体師、操獣師、契約師、全ての資質を持つ。そし
て彼女が俺の幻体、クロノスだ。﹂
﹁はじめまして、と言うのも変ですね。私は戦いの中で貴方にあっ
ていますもんね。﹂
﹁彼女は時空間を操る事が出来る。この能力で過去にここで起こっ
823
た事を
検索
する。﹂
キャロルは開いた口が塞がらない、と言う表情だ。
﹁ただ、ここから先、膨大な量の情報を処理する為に、俺は一旦意
識を失い無防備になる。10日前の出来事なら1時間も有れば終わ
る筈だけど、その間、ここで俺を護っていて貰えるかな?﹂
実際これはキャロルをテストする行為であった。
行き成り自分の秘密と弱点をばらす。
或る程度信頼が置けると認識しているからこその行動だが、駄目だ
った場合、彼女の口を塞がねばならない。
ハジメは彼女の身をマコと同じように自分達の所で預かるつもりだ
ったが、これをクリア出来ない場合はギルドに預ける事となるだろ
う。
﹁1時間ですね??﹂
キャロルの返答に思わず顔が綻ぶ。
﹁ああ。実際はもう少し早く行けると思う。頼んだよ?キャロル。﹂
﹁はい!御主人様!!﹂
﹁飛び出せ、マイクロ∼ズ!遙かな時を駆けてこの地に残された記
ハジメ∼
憶を辿れ!!﹂
◆ ◆ ◆
アルケミスト
∼side
錬金術師の男はすぐに見付かった。
髪は藍色に近い少しくすんだ青。確かに髪は短かった。
︵名前の分かる物⋮、或いは特徴的な何か⋮。︶
824
︵お!ラッキー、左が緑、右が青のオッドアイだ。それに左右の耳
ヒエログリフ
にターコイズのピアスが3つ⋮。
へぇ⋮、神聖文字でも無いのに特徴的な刻印のグルカナイフだな。
キャロル∼
これだけあれば分かるだろう。︶
∼side
︵こ、こんなにあっさり殆ど初対面の私の前で意識を飛ばすなんて
⋮。
カーミラ
信用されてる?試されてる?両方あるだろうけど、ここまでされた
ら答えなきゃ誇り高き女吸血鬼の名に泥を塗るわね。︶
◆ ◆ ◆
﹁只今。﹂
﹁お帰りなさいませ、御主人様。随分早かったですね。﹂
﹁あぁ。今回は検索範囲が時間、半径ともに短かったからね。それ
に、男も割と特徴掴めたし。﹂
﹁名前は分かりませんでしたか?﹂
﹁ああ。残念ながら、ね。でも、俺が似顔絵描けばギルドに問い合
わせてすぐに返答が来ると思う。﹂
アテネの元に戻って似顔絵を描こうとする、が⋮。
﹁ハジメちゃん、こっちでも絵の才能は戻って無いのね⋮。﹂
﹁これじゃ何が何だか分かんないわ。﹂
そう。自信満々だったハジメだが、絵の才能だけはびっくりするぐ
らい欠如しているのだ。
﹁クロノス、描いて。﹂
825
むっつりと黙りこんだまま紙とペンを渡すハジメであった。
﹁これは⋮、確か毒草を狩るナイフに彫る呪い見たいな刻印よね?﹂
ウェンディーヌが確認する。
﹁ええ。この手の毒草の採取は特別な許可を得ない限り禁止だった
筈ですが。﹂
マコが言葉を繋ぐ。
アルケミスト
クエスト
﹁この人相書きを見せれば人物特定は簡単でしょう。この手の毒草
の採取は錬金術師でもCランク以上で特定の依頼をクリアした人物
しか出来ません。その者の懲罰の重さも決まる筈です。﹂
﹁違法行為をして我が身だけなら兎も角キャロルちゃんまで危険に
冒し、憑物を作って世界に反逆したとなれば極刑ものでしょう。﹂
財宝鑑定の手を止めてアテネが確認しに来る。
﹁あら、これってコカトリスの眷属じゃない。﹂
﹁コカトリス??﹂
﹁そう。凝視されると石化を起こすコカトリス。それに耐性を持っ
た一族が居るのよ。﹂
﹁そ、そうなんだ。﹂
マコもウェンディーヌも初耳だったらしい。
石化
の元になるのが在るのよ。コカトリスは定期的にそれを摂取し
﹁それなら納得ね。あの辺りは薬草の宝庫だけど、その中に
薬
て体内で石化薬を作る。標本作製とかに便利だから結構人気あるの
よ?﹂
アテネの説明に、なんだ、危険人物じゃなかったのか、みんなが安
826
堵の息を吐いたその時⋮。
﹁勿論、悪用すればかなり極悪な毒だけどね。
コレクション
経口摂取すれば生きたままの彫像、塗れば塗った部分だけの石化、
悪趣味な好事家の蒐集物や性奴隷に使われているわ。﹂
⋮。
﹁は、早くそいつ捕まえましょう。﹂
﹁そ、そうだな。目的をはっきりさせなきゃな。﹂
◆ ◆ ◆
アルケミスト
その男は確かにCランクの錬金術師に登録されていた。
カナメリアの一角に工房を構え、種々の薬物を作っているが、本拠
地は山奥にある隠れ家だと言う。
男の名前はオスカー・オラーノ。38歳。歴としたコカトリスの眷
属であり、彼の工房には﹁石化薬﹂﹁抗石化薬﹂﹁石化解毒薬﹂と
言った石化に関する薬物がずらりと並んでいた。
念の為、マコが質問し、オトヒメが操り尋問したが彼に後ろ暗い事
は無かった。
﹁改めて助けて貰った礼を言おう。実は娘が毒にやられてしまって
急遽必要だったんだ。﹂
﹁貴方達の眷属は耐性があるんじゃないの?﹂
﹁両親ともにコカトリス様の眷属なら問題無い。しかし、片親の場
合は耐性が不十分になる。
私の妻は里の外の人間だ。こう言った場合、年少時から少しずつ慣
らすんだが、娘は耐性が出来るのに他の子に比べて時間がかかって
いた。十になっても耐性が出来ない彼女は焦る気持ちからか一気に
827
飲んでしまったんだ。﹂
﹁オスカー・オラーノ、貴方には
憑物
クエスト
の原因を作った罪があり
ます。今後一年間、ギルドの管理下に置いて多数の依頼を無給で行
って貰います。また、今回貴方達を救ったこのチームの必要な薬を
貴方の責任において市場価格の7割で提供しなさい。﹂
アテネさんの出した指示は金で済む物ではあったが比較的重い処分
であった。
俺達が使う薬は金額にして年間数百万ミュールに上る。
﹁生活して行ける最低限度の収入は保証します。貴方のその腕に期
待しての処分と考えなさい。﹂
﹁寛大な御処分、謹んでお受け致します。﹂
◆ ◆ ◆
﹁じゃぁ、早速で悪いんだけど﹃極上ポーション:メルシー・ラム﹄
×100、﹃上級ポーション:メルシー・ラム﹄×200、﹃満タ
ンエーテル:すっきりんご﹄×100、﹃上級エーテル:すっきり
んご﹄×200、﹃気付け薬:彼女の秘蜜﹄×100、﹃毒消し:
虹色ハーブ﹄×200、お願い出来る?﹂
アルケミスト
﹁す、凄い数だな。その数ではすぐには出来ない。だが、品質はA
ランク以上の錬金術師が作った物にも負けないと自負している。1
週間、いや5日以内には作り上げて見せるから少しだけ待っていて
くれ。﹂
﹁ハジメちゃん、そんなに使っちゃったの?確かに最初買ってから
買い足してなかったけど⋮。﹂
﹁マコちゃん、違うわ。この男の考えてる事は。ハジメ、言っちゃ
いなさいよ。﹂
828
﹁キャロルを
目標ある旅路
﹁やっぱりね⋮。﹂
に入れようと思うんだ。﹂
の少女を一人旅させる訳には行かない。うち
、女吸血鬼の少女なんて今後どこ
カーミラ
﹁これは一応、アテネさんからも打診されてたんだ。何だか知らな
憑物
いけど彼女は俺に懐いてる。
それに元Bランカーで元
憑物
のパーティにも入れない。
かと言って元
なら実力的にも十分だ。
更にマコが居るから良い相談相手にもなってくれるだろう、って。﹂
﹁成程ね、そうよね、可愛いもんね、キャロルちゃん。﹂
﹁いや、だからそうじゃなくってだなぁ!﹂
﹁じゃぁ、ハジメちゃん聞くわよ?全てイエスで答えてね。﹃嘘つ
﹁キャロルちゃんは可愛い?﹂ ﹁イエス。﹂
いたらハリセンフグ飲ます﹄﹂
︵1︶
﹁キャロルちゃんは妹みたいな存在だ。﹂ ﹁イ、イエス。
﹁キャロルちゃんには性的魅力を感じない。﹂ ﹁⋮。﹂
︵2︶
﹂
︵3︶
イエス!!!﹂
﹁どうしたの?イエスで答えてよ。﹂
﹁イ、
ふよふよふよふよ、とハリセンフグが近付いて来て、勝手に口が半
開きになってしまう。
﹁どうしたの?性的魅力を感じないんじゃないの?どうしてハリセ
ンフグが﹃嘘吐き﹄アラート発してるのかしら?﹂
﹁参りました済みませんちょっと欲情しましたもう勘弁して下さい。
﹂
829
ぼむっ、とハリセンフグは姿を消した。
テイマー
﹁ま、良いけど?結構優秀な操獣師みたいだし?友達は何人いても
良いしね。﹂
﹁そう言う訳でとってもエッチで時々頼もしい時もあるチームリー
ダー率いるパーティだけど、私達は大きな目標目指して進んでるわ。
これから宜しくね?﹂
ウェンディーヌが右手を差し出す。
おずおずとその手を取り、掠れそうな声で囁いた。
﹁よ、宜しくです⋮。﹂
830
として当初想定していたメンバーはひとまずこれ
吸血鬼の少女︵後書き︶
目標ある旅路
で揃いました。
テイマー
今後増えるかどうかはその時次第ですが、当面はこれで行く予定で
す。
手数のある操獣師がハジメ一人、と言うのがどうも書いてて不便だ
ったんです。
831
Let
s tame!!︵前書き︶
ファミリア
今から色んな操獣魔を考えていきます。
832
Let
s tame!!
﹁じゃぁ、行って来るね。﹂
﹁夕飯には帰って来てよね。今日はハジメが夕飯当番なんだから。﹂
﹁分かってるってば。﹂
﹁お待たせ!じゃ、行こうか。﹂
﹁よ、宜しくお願いします。御主人様。﹂
◆ ◆ ◆
黒
一角
獣
﹁じゃぁ、まずは俺が契約してる獣魔から紹介するね。
この小屋に普段居るのがブラックホーンホースの親子、ハヤト、オ
ウカ、イザナミ、イザナギだよ。ハヤトは俺が、イザナミはウェン
ディーヌが普段ペアを組んでるから、オウカかイザナギとペア組ん
黒
一角
獣
どくと陸の移動が楽だよ?﹂
﹁ブラックホーンホースを4頭も⋮。﹂
﹁ああ、最初は2頭だったんだけど、後でイザナミ達が生まれたん
だ。﹂
﹁では、私はオウカさんと⋮。﹂
﹁オウカ、それでも良い?﹂
﹁勿論です。女性同士、仲良くしましょうね?﹂
﹁しゃ、喋った!?!?﹂
そうか、それを話してなかった。
﹁うん、俺の魔力をちょっと注入したら、ね。﹂
目を回さんばかりに驚きながら角にキスをして獣魔契約を交わした。
833
﹁これでオウカを通して感覚共有が出来るよね。分かる?﹂
﹁はい。御主人様の見ている物もオウカさんの見ている物も見えま
す。﹂
﹁OK、じゃぁ次行こう。﹂
﹁こっちの小屋に居るのがケンタウロスの姉弟、アマツカゼとトキ
ケイローンの加護
持ちだから実戦では強力だよ。薬物治療に
ツカゼだよ。アマツカゼはマコと普段ペアを組んでる。トキツカゼ
は
関してはアマツカゼの方が今のところ一日の長があるみたいだけど
ね。トキツカゼは俺と組む事が多いからキャロルと来る相手は今の
処、居ないかなぁ。﹂
ここは紹介だけになってしまった。
キャロルは、ケ、ケンタウロス2頭⋮、ケイローンの加護⋮などと
ぶつぶつ言っている。
﹁ここの小屋で涼んでるのがガルーダの兄弟だね。兄のトールと弟
のアネモイ、それぞれ雷と風を得意とするけど2人とも一応両方使
える。﹂
﹁始めまして、人属の新しい仲間が増えるのは初めてですね。トー
ルと申します。以後、お見知りおきを。﹂
﹁弟のアネモイです。楽しく行こうね!!ねぇねぇ!僕と契約しな
い?﹂
へぇ、アネモイから⋮。珍しい事もあるもんだ。
サエズリバチ
﹁この人、風の匂いがするんだ。空飛ぶ獣魔、いっぱい連れてるで
サエズリバチ
しょう?﹂
雲雀蜂の事か?
﹁アネモイ、キャロルは確かに雲雀蜂と契約してるが⋮。くれぐれ
834
もお前達、
喰うなよ?
﹂
こいつらは虫に目が無いのである。
﹁わ、分かってるって!ねぇ、お姉ちゃんと僕専用のガルーダ籠作
ってよ!﹂
﹁分かった分かった。キャロル、それで良い??﹂
﹁も、勿論です!!ガルーダなんて本来Bランクで操獣出来る獣魔
じゃないですから⋮。﹂
◆ ◆ ◆
コンフェデレイト
﹁後は契約獣としてセイレーンのオトヒメとフレイム・イエティの
メドーアが居る。﹂
﹁フレイム・イエティ??﹂
﹁あぁ。憑物払いの時に氷のドーム張ってたろ?﹂
﹁確かにそう言えば⋮。え、でも御主人様ってAランクですよね?﹂
﹁そうだよ。でも俺が思うに、みんな自分の力をちゃんと引き出せ
てないと思うんだ。ウェンディーヌもマコも、ランクはBのままだ
テイマー
けどこの短期間に無茶苦茶強くなってるよ?﹂
テスト クエスト
﹁私も、なれるでしょうか??﹂
イリュージョニスト
﹁マコが検定依頼の時に出会った操獣師は、CランクやDランクの
獣魔を操りながら、Bランクの幻体師を圧倒して見せた。獣魔の本
当の力って言うのはランクなんかで測れないと思うんだ。﹂
﹁まずは仲間を増やす事からでしょうか?いなくなった子達が戻っ
て来てくれるかは分かりませんが、少しでも多くの子達と一緒に旅
がしたいです。﹂
◆ ◆ ◆
ハジメはのべつ幕無しに契約をしていた為、あまり考えなかったが、
835
テイマー
コントラクター
大抵の操獣師や契約師には
い。
風の匂いがする
得意とする系統
ハヤブサ
と言うのがあるらし
と言ったのもあながち間違ってはいない
キャロルが得意としたのは虫や鳥など空を飛ぶタイプの獣魔。アネ
モイが
のかも知れない。
カミソリ
﹁この近くにあるスピニング・エッジの群棲地で彼等と契約しよう
カミソリ
ハヤブサ
と思います。﹂
スピニング・エッジのランクはB、1頭の大きさは50cm程、急
テイ
旋回、急降下、急転回と言う複雑な動きに加え、研ぎ澄まされた尾
マー
羽でヒット&アウェイを繰り返す。普通は群れを為さないが、操獣
師の指示の下では見事な連携も見せる。
これを殺さずにこちらの優位を見せなければならない。
普通なら陸を行く物には難しいところだが⋮。
サエズリバチ
﹁女王プランセッス、お行きなさい。﹂
彼女の一声で雲雀蜂の女王が羽を震わせる、とともに何処からとも
ハヤブサ
なく働き蜂が集まり始める。確かに雲雀の囀りに似た羽音だ。
カミソリ
あっという間に5頭のスピニング・エッジが体中を取り囲まれ、こ
ちらに恭順の意を示した。
キャロルは尾羽に順に口づけを交わし、獣魔契約を結んだ。
﹁貴方達の名前はサントス、サウロ、セルヒオ、サリタ、ソニアで
す。どうぞ宜しく。﹂
﹁ミゴトナオチカラ、オミソレイタシマシタ。コチラコソ ヨロシ
クオネガイシマス。﹂
◆ ◆ ◆
﹁属性攻撃タイプ、ですか?﹂
836
昼飯を取りながら次の目標について話していた。
﹁ああ。今、キャロルが使役しているのは物理攻撃ばかりだろう?
俺達は今、水、火、氷、風、雷を扱えるんだけど、土属性が居ない
んだ。俺もそろそろ探しに行こうとは思っていたんだけど、キャロ
ルもやってみたらどうかと思って。﹂
﹁で、でも何をやれば⋮。﹂
﹁土蜘蛛なんてどうだ?﹂
土蜘蛛:Bランク獣魔。夜に活動が活発となる。彼らの紡ぐ糸は伸
土
を操る事にも長け、魔法金属を除けば系統金属内で
縮性に富み強靭で、網にかかれば自力では脱出困難となる。また、
名の通り
の分子変換や配列変換も得意とする。
﹁Bランクでも上位に属する獣魔ですよね⋮。しかも親子の絆が強
−
プランセッスだ
く、30匹近い全てを同時にやらなきゃならない。﹂
サエズリバチ
﹁雲雀蜂の特攻でいけると思うけど。女王蜂
ったっけ?だけこっちに残しておけばいいんだし。﹂
サエズリバチ
﹁⋮。﹂
サエズリバチ
﹁雲雀蜂、一匹も殺したくないんだろ?﹂
﹁︱︱!!﹂
﹁確かに土蜘蛛は雲雀蜂を捕食する事もある。だがそれは群れをな
していない時だ。﹂
﹁その優しさは認めよう。でも、獣魔の特徴を生かさなきゃ。殺し
たくないんなら一匹でも死なせる数を減らすよう上手に使え。一匹
一匹と良く話して見ると良い。心を通わせた獣魔は強いよ?﹂
﹁その間に俺が契約する相手を見ていると良い。﹂
837
歩きながらハジメ達が到着したのは、山岳地帯の荒れた山肌の目立
つ急斜面。
﹁出て来てくれるかな?タイタン!!﹂
◆ ◆ ◆
ファミリア
︵タイタン!?︶
コンフェデレイト
普通はそもそも操獣魔にする相手ではない。
普通は契約獣の筈だ。
﹁とばっちり喰らって死なないようにな!何なら蝙蝠になって空に
逃げとけ!!﹂
かちん
﹁いくら御主人様でも言って良い事と悪い事があります。﹂
︵絶対にここで、最後まで見届けてやる!!︶
身の丈5mはあろうかと言う大男。
らんらんと逆立つ蓬髪、それ自体、凶器の如き剛腕。
足を大きく踏み鳴らせば地響きが起こり、地割れが起こる。
それを空中に跳んで逃げるハジメ。
﹁行き成り荒っぽいじゃないか!殺さず参った、勝負はそれで良い
な?﹂
﹁小僧めが!!出来る物ならやってみるがいい!!﹂
﹁1対1の勝負、時間掛けても不利なだけだし決めちゃうよ?
クロノス、﹃|多時空より来たれ死の使い︽ディメンショナルアタ
838
ック︾﹄!!﹂
﹁来い!!﹃飛び浚え、岩石の嵐﹄!!﹂
タイタンに跳びつき攻撃を掛けようとしたクロノスに避けようもな
い程の岩石が矢襖の如く襲い来る!
﹁マズい!クロノス、2体でガード、2体で攻撃だ!!﹂
ずがががががっっ!!!
飛び交う岩の間を縫って仕掛けた攻撃は本来の威力の半分。
一方、ハジメはクロノスに守られて無傷ながら、魔力を7割がた消
費してしまっていた。
ディメンショナルアタック
﹁流石に楽に勝たせてくれないな。多時空よりの死者を防ぎきられ
るとは⋮。こんなに苦戦したのは初めてだ。。﹂
﹁大地の精霊たるこの私にここまで傷を負わせた相手もここ数百年
でお前ぐらいのものだ。
小僧、次はお前自身で来い。俺も拳で答えてやろう。﹂
にやり
互いに唇を歪め、咆哮を上げる。
﹁どおらああぁぁぁっっっ!!!!﹂
﹁うおらああああぁっっっ!!!!﹂
ウォーハンマー
ハジメの獲物は戦鎚。
そこにクロノスの攻撃を重ね合わせる。
一方のタイタンも突き出す手には既に血が多数滲んでいる。
839
防御を考えない、双方渾身の一撃!!
ばぎぃぃぃぃぃぃっっっ!!
ひびの入った銅鑼を思いっきりぶっ叩いたような轟音が鳴り響く。
タイタンは拳の先から体を振り回されるような衝撃を受け、巨体を
中に舞わされた。
一方のハジメも衝撃に5m以上吹っ飛ぶ。着地点が定まらない程の
飛距離の中、無我夢中で叫ぶ。
﹁くっ!クロノス、受け止めてくれ!!﹂
クロノスも辛うじて受け止めるもこちらも満身創痍。魔力が限界に
近い。
無意識にポーションとエーテルを飲み干し、土精石を放り投げ、意
識を失った。
両者KO。死闘とも思える程の試合は静かに幕を閉じた。
◆ ◆ ◆
﹁気がつかれましたか?﹂
目を覚ませばそこは少女の膝の上だった。
﹁タイタンは⋮?﹂
﹁先に目を覚まして帰って行きました。﹂
明らかに落ち込んだ表情を見せるハジメにキャロルは言葉を続けた。
﹁面白い勝負だった。これからもお前と一緒に居ればこんな思いが
出来るんだな、だそうです。身支度したら戻って来るそうですよ。﹂
840
コンフェデレイト
﹁何だかメドーアと言い、タイタンと言い、俺と契約する契約獣は
こんなのばっかか⋮。﹂
﹁どうして普通に契約しないんですか?貴方の実力ならタイタンと
対等な条件を引き出す方法が他に幾らでも有るでしょう?﹂
ポリポリと頬を引っ掻いて考えていたハジメだが、起き上がり正面
コンフェデレイト
を向き直ると語りだした。
﹁自分が契約獣だとして、どっちに付いて行きたい?﹂
﹁えっ!?﹂
﹁キャロルは俺達に付いて来てくれるって決めただろ?別にギルド
預かりの身になっても不自由は無かった筈だ。どうして俺達に付い
て来てくれた?﹂
﹁そ、それは⋮。﹂
優しくして貰えたし、面白そうだと思ったから⋮。
そうか。そう言う事か。キャロルは殺されても文句の言えなかった
身。それを精いっぱい護って貰えた。それに、戦いの中でも笑顔を
見せる彼に付いて行く方が楽しそうだと思ったから⋮。
﹁俺は、俺に付いて来て面白い、って思える様な自分でありたい。
俺自身楽しい旅をして、それをみんなで楽しみたい。だから、俺と
居れば面白い、って思わせて付いて来て欲しいんだ。﹂
それを言うなら⋮。
頭上から声が近付いてきた。
﹁お前は合格だよ。ハジメ・タカナシ。お前に付いて行けば面白そ
うだ。﹂
841
コンフェデレイト
﹁タイタン、今更だけど俺としては契約獣として条件を決めて貰っ
て一向に構わないんだ。何が望みか教えてくれ。﹂
﹁偶に遊びに付き合え。それが条件だ。﹂
﹁︱︱!!良いだろう。。次は俺が勝つ。﹂
﹁望むところだ。﹂
842
Let
s tame!!︵後書き︶
地属性獲得です。これでまた色々と技の考察が出来そうです。
843
精根蓄え土蜘蛛戦へ ※︵前書き︶
今回は早めにHシーンを持って来たつもりですが⋮。Hシーン少な
くて済みません。
844
精根蓄え土蜘蛛戦へ ※
﹁心配しました。﹂
﹁御免なさい。﹂
﹁本当に心配したんですよ⋮。﹂
テイマー
言葉がきついのは耐えられる。でも泣かれると弱いんです。。
◆ ◆ ◆
∼sideキャロル∼
カーミラ
私はずっと一人で旅をしてきた。
女吸血鬼と言う種族に味方が付かなかった事もあるが、操獣師であ
蟷
螂
憑物
巨大
豆
クワガタ
になった時、皆、居なくなった。
る私には沢山の味方がいたからだ。
鋼鉄
それがある日、
メタルマンティスのクロスも、ジャイアント・ソイ・ソーのシザー
マンも。
でも、再び信じられる人に会えた。
それは初めて出来た人間のパートナー。
否、そんな言葉では生温い。
私を泥沼から引き揚げてくれた御主人様。
彼はパーフェクトだった。
強さも、見た目も、優しさも、血の匂いも精の匂いも全て。
心を奪われた。
私より短い生涯を過ごすであろう彼に、私の人生を捧げる覚悟だっ
た。
しかし彼は、私に確認もせず、躊躇いもせず死闘とも思える戦いに
845
身を投じ、そして散って行った。
辛うじて無事だったが、死んでもおかしくなかった。
もう次の孤独が耐えられなくなっていた私には身を引き裂かれんば
かりの想いであった。
◆ ◆ ◆
﹁貴方が生きていると言う証を、この私の身に刻みこんで下さい。﹂
﹁そ、それって⋮。﹂
﹁本当なら貴方の生きている証として生き血を全て飲み干したいぐ
らいです。その代わりに貴方の生を、精を授けて下さい。﹂
言うが早いか、彼女は首筋に牙を立てる。
﹁︱︱!?ヲイ!!﹂
﹁安心して下さい。一口頂くだけです。﹂
どくん
心臓が跳ねた。
◆ ◆ ◆
﹁何をした⋮?﹂
﹁御想像通りです。傷口から私の唾液に混ぜて媚薬を少々⋮。﹂
それを聞いたハジメは目を閉じ、体中に力を込め⋮。
ぱきぃいん!
846
﹁︱︱!?﹂
﹁ごめんね、セイレーンが居るって言ったろ?精神攻撃には慣れて
るんだ。唾液数滴混ぜたぐらいじゃ効かないよ。﹂
穏やかな笑みを浮かべて彼の方から近付く。
﹁怖がらなくっても心配しなくってももう1人にしないから。﹂
この少女の怯えはマコのそれと同じだ。
﹁︱︱!!どうしてそれを⋮。﹂
﹁無茶しないとは言えない。俺達の旅は時にとても過酷だ。でも、
くちゅる⋮
もう決して1人にはしないから。﹂
ちゅ⋮
﹁おんなじ唾液ならこっちの方が良いだろ?﹂
﹁御主人様⋮。﹂
キャッツアイ
猫目石の輝きを放つその瞳は通常は黄色。しかし時折真紅の輝きを
魅せる。
その瞳を静かに閉じて、再び口付けを請うてくる。
要請に無言で応え、さらに舌を絡める。
華奢な体を抱き寄せると彼女の方から体を寄せて来た。
体の凹凸はウェンディーヌやマコに比べて、いや、有体に言って平
均よりもずっと少ない。
彼女の衣装は白黒のロングボーダーTシャツに濃紺のプリーツスカ
ート、紺色のニーソと言う日本の街角を歩いていても違和感の無い
コーディネートだ。
その幼い様相と相まって中学生を相手にしている様な背徳感がある。
847
控え目な胸に手を添えると下着の感触が伝わって来ない。
俺の表情に気付いた彼女が口を尖らせる。
﹁着けなくても型崩れも透けもしないんですよ。ウェンディーヌさ
ん達が羨ましいです。﹂
﹁そんな細かい事気にしなくって良いんだよ。キャロルはキャロル
なんだし。﹂
﹁そうは仰いますけど⋮。﹂
﹁好きになった人のおっぱいが一番好きなおっぱいなんだよ。
俺は、これ、好きだよ?﹂
言いつつ、服の上から乳首に舌を這わせる。
﹁ちょ、ちょっと!この後戻らなきゃなんですから。﹂
そうだった。危うく暴走するところだった。
﹁じゃぁ、脱ぐところ見せて?﹂
キャロルは小さく頷くとおずおずとシャツとスカートを脱いだ。
上を着けていないので自然、ショーツ1枚とニーソックスだけだ。
ショーツは白と水色のシンプルなストライプ地だった。
申し訳程度に飾りリボンが付いている。
草むらに彼女を横たえる。
小さな胸にあって、濃いピンク色に染まった乳首はそこだけ自己主
張しているようだ。
片方に手をやりながら、もう一方を口に含む。
﹁あうぅっっっ!!﹂
それほど刺激を与えた訳でも無いのに彼女の体が跳ねた。
﹁ごめん、痛かった?﹂
﹁い、いえ、感じすぎてびっくりしたんです。﹂
それにしても今の反応⋮。
848
﹁キャロル、ひょっとして今まで⋮。﹂
﹁は、はい。私は男の人の経験がありません。。﹂
114歳の処女。
カーミラ
いや、彼女らの年齢が良く分からないが。
﹁女吸血鬼ってどういう風に歳を取るの?﹂
﹁私達は何もしなければ人間と同じように歳を取ります。
しかし、2次性徴が来て暫くすると一旦成長を止めます。私は今年
で丁度100年、歳を取っていません。
個体差がありますが、その後数百年経ったらもう一度加齢を行いま
す。
今度は老年期にもう一度成長を止め、最終的には大体500歳ぐら
いで死を迎えます。﹂
つまり今の彼女は14歳+100歳。
中身は14歳。
でも114歳。
⋮。
ブラボー!
考えながらも手と口は止まらない。
小さい方が感度が良いと言うのは本当の様だ。
﹁あふっ!きゅぅんっ!ダメです、ダメですぅぅ⋮。何か来ます、
怖い、怖いです、御主人様ぁぁっっ!!﹂
﹁来るんじゃない、逝くんだよ?一杯逝って良いんだよ?﹂
ぢゅぢゅぢゅうううぅぅぅぅっっ!!!
849
﹁あふうううぅぅうぅううぅっっっっ!!!!!﹂
大きく吸い立てるとともに全身をエビの様に仰け反らせて盛大に逝
った。
◆ ◆ ◆
﹁す、凄かったです。あれが逝くって事なんですね。。﹂
キャロルはまだ体をひくつかせている。
しかし、俺も艶姿を見せ付けられそろそろ我慢の限界が近い。
﹁今度は俺が逝っても良いかな?﹂
ぐちゅり、と音を立てて淫裂を撫で上げる。
ショーツは既に恥ずかしい染みでぐしょぐしょに濡れており、これ
以上の準備は不要に思えた。
この単語にどうも弱いようだ。
﹁まだ怖いです。。少し触って下さい、御主人様。﹂
御主人様
挿入を焦る気持ちを抑え、ショーツを脱がせ、クリトリスと淫裂に
指を添わせる。
﹁きゃふう!それ凄い、凄いです⋮。これで入れられたらおかしく
なっちゃいます。どうか、どうか優しくして下さいね、御主人様。﹂
彼女の股を割り開かせる。
触り始めた時はぴったりと閉じていたそこはひくひくと口を開き、
男の侵入を心待ちにしているようだ。
ぬ゛ぢゃり
中途半端が一番痛いと聞いたので一気に挿入したのだが⋮。
850
﹁痛っ!!・・・??くないです。。キモチイイ!キモチイイです、
御主人様。﹂
カーミラ
どう言う事だ?
﹁私達女吸血鬼は軽度の出血や傷を自己治癒する能力があります。
それに、吸血では無く性交で精を採取する方法も有ります。なので
恐らくその機能が働いたんでしょう。
キモチイイですよ、御主人様。御主人様もいっぱい動いて気持ち良
くなって下さいね?﹂
そう聞けば遠慮する事は無い。
﹁思いっきり行くぞ?﹂
ぱぁんっ!ぱぁんっ!ぱぁんっ!ぱぁんっ!ぱぁんっ!
最初っから全開の動きで互いの快感を絞り出す。
﹁イィッ!イィです、御主人様、もっと、もっと奥まで下さい。私
に精を塗り込んで下さいぃっ!﹂
子宮口が下りてくるのが分かる。
いや、それどころか⋮。
︵子宮口が開いている?︶
ずぐん!
子宮
中
﹁あ゛あ゛あ゛あああああぁぁぁぁっっっっっっ!!!来たぁっ!
私の奥の奥まで御主人様のおっきいのが入って来たぁぁぁぁっっ!
!!﹂
子宮の中まで侵入した俺の肉棒。更に⋮。
どぴゅる!どびゅるる!どぐどぐどぐどぐ⋮⋮
851
余りの刺激に我慢しきれなかった俺の欲棒は子宮の中で本能を達成
せんと己の欲望を思う存分解放した。
◆ ◆ ◆
余韻を楽しんでいた俺達だが、暫くするとキャロルがすっくと立ち
上がった。
﹁御主人様から頂いた精が生きている内に土蜘蛛の元に連れて行っ
て下さい。﹂
土蜘蛛達が住むのは木の生い茂る山深い森。
しかも⋮。
﹁森の入り口から歩いて行かないと認めて貰えないんだよね⋮。﹂
俺達は自分達の家の近くにある森に戻って来ていた。
﹁ククノチ!﹂
俺の呼びかけに応え、かさこそと葉擦れの音とともにククノチが現
れた。
﹁今日は何の用?精はたっぷり放った後みたいだけど?﹂
﹁んなっ!?⋮ってそうじゃなくって!!土蜘蛛に会いたいんだけ
から生ずる
木
の精である彼女等は土蜘蛛とも親しい筈だ。
ど居場所を知らないか?﹂
土
﹁簡単よ。この森をず∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼っとまっすぐ、日
が暮れるまで歩けば向こうから現れるわ。﹂
日暮れまでって⋮。まだ3時過ぎだぜ?幾ら日が短い時期とは言え
⋮。
﹁仕方ないですね。行きましょう、御主人様。﹂
852
日が暮れるまで。すなわち土蜘蛛が最も活性化する時間帯まで俺達
は歩き続けた。
◆ ◆ ◆
︵気付いてる?︶
︵えぇ、私達は気配感知は優れていますので⋮。︶
︵50は居るよ?どうする?退く??︶
テイマー
︵いえ、これだけいれば寧ろ主戦力として願ったりです。行きます。
︶
カーミラ
﹁土蜘蛛達よ、私は女吸血鬼の操獣師、キャロル・フレッカー、貴
カーミラ
方達と使役関係を結びたい。﹂
﹁女吸血鬼の少女よ。我はこの子等の母、土蜘蛛の&%&&**と
申す者。人なる身には呼びにくいであろうからヤソメと呼ぶが良い。
お主は我ら全てと契約を望むとあるか?﹂
﹁如何にも!!そなたらの望む如何様なる手段を用いても我が力、
示して見せよう!﹂
周囲にカツカツと轡を鳴らす様な笑い声が響く。
﹁良かろう。我らにてヌシを取り囲み食い殺すは余りに容易。
然らば、ここは一つ余興と行こうぞ。これより我が糸にてお主を包
み上げる。
如何様なる手段を用いるも自由ならば、見事その包囲、脱出して見
せよ。﹂
﹁良いでしょう。脱出までの時間は?﹂
﹁2時間。それを超えればお主は我らが腸の中と思え。﹂
◆ ◆ ◆
853
キャロルの首から下をグルリと取り囲む土蜘蛛の糸。
彼女はミノムシの様に木から吊るされている。
﹁この砂時計が2時間じゃ。始めるが良い。﹂
砂時計が引っくり返される。
⋮
⋮⋮
⋮⋮⋮
15分、30分、1時間。
見た目、彼女は何ら動きを見せない。
彼女のしようとしている事は分かっているつもりだ。
しかし、それが間に合うかどうかは一か八かの賭けに等しい。
コミュニケーション
﹁手も足も出ぬか?今ならまだ詫びの一つで許してやらぬでもない。
如何じゃ?﹂
彼等とて獣魔。単なる魔物とは違い、理性ある交渉の出来る相手だ。
しかしキャロルはニコニコと笑みを浮かべたまま一言も喋らない。
1時間半。
﹁どうした?何か一言でも喋って見せよ。﹂
﹁プランセッス、お願いします。﹂
﹁何?﹂
チチチチチチチチ⋮⋮⋮
雲雀の囀りに似た羽音がしたかと思えば、ピンク色のペンキがまだ
付いたままのプランセッスに率いられて空間を埋め尽くすかと思う
854
サエズリバチ
程の雲雀蜂の大群が押し寄せた!!
サエズリバチ
彼女はこの90分間、身動き一つ取れない状態でひたすら雲雀蜂を
信じて仲間を集めていたのだ。
プランセッス達は押しあい圧し合いをしながらもその鋭い口で糸を
軍隊蜂
の姿であった。
一本一本丁寧に切り裂いて行く。
将に死をも恐れぬ
︵だが、予定より遅すぎる!間に合うか⋮??︶
︵御主人様、手出しは絶対に無用です。貴方に信じて貰えないなら
私に生きる意味はありません。︶
︵︱︱!!分かった。絶対生きて帰ってこいよ。︶
残り3分、繭状になっていた糸もキャロルの体が透けて見えるほど
まで切り裂かれた。
カミソリ
ハヤブサ
﹁サントス、サウロ、セルヒオ、サリタ、ソニア、お願いします。﹂
スピニング・エッジがキャロルの体を撫で切りにするように飛び回
る!
﹁行けたか!?﹂
﹁まだです!サントス、サウロ、セルヒオ、サリタ、ソニア、もう
一度!﹂
﹁残り10秒じゃ。﹂
︵ダメだ!間に合わない!!︶
ジャギイイィィン!!!
ハジメが諦めかけたその時!
繭ごとキャロルの体がズタズタに切り裂かれた。
855
鋼鉄
蟷
螂
そこに居たのは⋮。
巨大
豆
クワガタ
﹁メタルマンティスに、ジャイアント・ソイ・ソー?﹂
﹁クロス⋮、シザーマン⋮、来て⋮くれたんですね。。﹂
繭から剥がれ、倒れ込むように彼女は意識を失った。
◆ ◆ ◆
﹁見事じゃった。己の獣魔を信頼したその戦いぶり、捨て身で獣魔
に身を預ける互いの信頼、尊敬に値する。喜んで使役を結ばせて貰
おう。﹂
キャロルは内臓が見える程の重傷ながらポーションと自己治癒であ
カーミラ
っさり回復した。
女吸血鬼と言う種族特性は流石と言うべきだ。
﹁ヤソメ、誇り高き貴女方との契約、光栄に存じます。これからは
対等な立場で世界の歪みを正しましょう。キャロル・フレッカーの
名に於いて。﹂
﹁ところで、俺から提案なんだけど、土蜘蛛ってここで土属性のバ
ランス保ってるんだろ?全員出ちゃうと問題だし、何よりこんなに
沢山連れ歩けないんだ。ヤソメと親子の繋がりの特に強い30体ぐ
らいだけにして、残りはここの護りを続けて欲しい。どうだろう?﹂
﹁うむ、我もそれを考えておった。﹂
﹁それと、今日は俺達そろそろ帰らなきゃなんだ。感覚共有で場所
を教えるから、後からゆっくり付いて来てくれないか?﹂
﹁あい、分かった。﹂
856
精根蓄え土蜘蛛戦へ ※︵後書き︶
一話の中にエッチと戦闘や日常をバランスよく盛り込む練習中です。
如何でしょうか?
857
屋敷と森と草原︵前書き︶
一段落したので日常回を挟みます。
858
屋敷と森と草原
タイタン、土蜘蛛との死闘から帰還した翌日、俺とキャロルは再び
ククノチの森へきていた。
俺とキャロルは獣魔達に普段の住処に付いて順番に聞いて行った。
アストラル・ワールド
﹁タイタン、貴方はどうする?﹂
ハヤブサ
﹁俺は精神世界に帰っている方が気楽ゆえ、こちらの住処は不要だ。
﹂
カミソリ
﹁スピニング・エッジ、君達はどうする?﹂
﹁********。﹂
キャロルが通訳をする。
﹁雨風を凌げる止まり木さえあれば構わないそうです。丈夫で背丈
の15m以上ある気を3本ほど植えて頂けますか?﹂
こっちはククノチに相談だな。
﹁プランセッス、貴女達はどうする?﹂
﹁********。﹂
チチチチチチチ⋮。
﹁巣を沢山作りたいので木を沢山植えてくれ、だそうです。﹂
こちらもククノチに相談、か⋮。
﹁ヤソメ、貴女達はどうする?﹂
﹁我等は地中に穴を掘る。木の生い茂った更に深くに掘る故、崩落
などの心配は無用じゃ。土地のみ貸してたもれ。﹂
859
木を植えた後の土地を貸せば良いか。
﹁クロスとシザーマンにも聞いてくれる?﹂
ハント
﹁彼等はいつも自由に空を飛んでいます。今も近くのどこかで狩り
の真っ最中の様ですし、自由にさせてあげれば良いと思います。﹂
◆ ◆ ◆
結局、木を30本、庭に植える事となった。
﹁ククノチ!力を貸してくれ。﹂
さわさわ、と葉擦れの音が鳴り、光とともにハチミツ色の髪の少女
が現れた。
﹁最近、忙しいわね?今日は何の用?﹂
﹁獣魔達の住処となる様な木を30本程庭に植えたいんだ。手伝っ
てくれないか?﹂
﹁良いわよ。それならアタシが直接行ってあげるわ。﹂
◆ ◆ ◆
屋敷に着く前にウェスタに伝言を頼んだ。
ククノチが木を生やしてくれるらしいから挨拶に出て来て欲しい、
と。
そこにはマコ、ウェンディーヌを始めとして獣魔達がずらりと並ん
でいた。
﹁な、何だか仰々しいお出迎えね。アタシはククノチ、ククノチの
%%$#%、呼びにくいでしょうからミコトで良いわ。﹂
﹁宜しく、ミコト。﹂
皆を代表してウェンディーヌが挨拶をした。
860
﹁庭のこっち側は畑にしたいからこっち側、小屋の合間合間とかも
使いながら30本程行ける?﹂
﹁成長段階の違うのを10本ずつ、3段階に分けるわ。木の種類は
5種類ぐらいで良いかしら?﹂
﹁それで良いよ⋮。いや、やっぱり狭くなるなぁ。ちょっと待てよ
⋮。そうだ!ちょっと待ってて!﹂
一角
ハジメは、アテネさ∼ん、と声を張り上げすっ飛んで行った。
◆ ◆ ◆
黒
屋敷は南向きであり、周囲は背の低い柵で囲ってある。
獣
一方、屋敷の裏の西、つまり北西部には現在、ブラックホーンホー
ス等の獣魔用小屋が設置されていて、その東、屋敷の北東部は広い
荒れた畑がある。ここの作物はまだ無い。
屋敷の南には細い川が流れており、ここから井戸を引き上水を取水
し、川に簡易的に処理した下水を排水している。︵因みに下水処理
は汚水の水分をリヴィエルが除去し有機分を減らすとともに残りの
汚泥をメドーアが完全に焼き切る、と言う方法を取っている。焼い
た汚泥はペレット状にして畑に撒いている。︶
つまり。
畑を残せばもう殆どスペースが無いのである。
﹁お待たせ、この家の西側にこの家と同じ広さの土地を購入したよ。
そこに自然の森の様に自由に木を植え、小さな森を作り、広めの草
むらと泉を作って欲しい。泉は場所さえあれば俺達で何とかするか
ら森の方、宜しく。
あ、一応屋敷が完全に森の影にならないように気を付けてね。﹂
日除け位なら助かるけど、と伝える。
861
﹁成程ね。それなら緩く植えても500本は行けるわ。どうする?﹂
﹁念の為、これからの事も考えて半分程は土地を開けておきたいん
だ。南側、つまり屋敷のある側に300本程頼んで良い?﹂
﹁OKよ。それとこっちからも頼みたい事があるの。コノハナ!出
ておいで。﹂
ミコトの呼びかけに応えて彼女の髪飾りの蔓がするすると長く解け
て行く。
⋮と思ったら、きらきらと光の粒子をほころばせ、10歳ほどの少
女の姿を取った。
﹁私の分身であり娘でも有るコノハナよ。実際、私達木の精霊には
人間みたいな血の繋がりって無いのだけど、彼女は確かに私が造り
育てた存在。
この子を新しい森の精霊にさせてやって欲しいの。屋敷妖精のハウ
ススペクターの様に、私達ククノチは森を護り、その住人を護る。
しかしこの近辺にはこの子を育てられる新しい森が無いの。
お願いできないかしら?﹂
願ってもいない話だ。
欲を言えばミコト自身に出て来て欲しいところだが、彼女が推薦す
るぐらいだから実力は十分なのだろう。
ウェスタの管理を外れる森に於いて危険の察知だけでもして貰えれ
ば御の字だ。
﹁こちらとしては願ってもいない話だ。コノハナ、宜しくね。﹂
差し出した右手はこわごわと握られた。
指先だけ、ほんのちょこんと。
﹁では森を作りましょうか。﹂
862
◆ ◆ ◆
ククノチが髪の毛を数本抜き去る。
﹁追い風をそよ風でお願い出来るかしら?﹂
トールとアネモイがそよそよと風を起こし始める。
﹁土蜘蛛、この荒れた土壌に恵みを。﹂
土蜘蛛達が足を踏みならし始めると地面に爪で引掻いたような割れ
目が次々起こり、耕されていくのが分かる。
﹁タイタン、畑の土も混ぜてくれ。ミコト、良いよね?﹂
勿論、と彼女は答え、土地が肥えてくるのを見て満足げに頷く。
﹁そろそろ行けるかしら?﹂
彼女が髪を数本束ねて抜き、風に向けて解き放つ。
彼女が吹きかけた息吹により髪の毛は植物の種へと変化した。
それらは地面に到達すると同時に一斉に芽吹き始める。
ぽむぽむぽむ、と双葉が出たかと思えば急速に成長し始め、あっと
いう間にハジメ達の身の丈を超える。
更に木の幹からは枝が分かれ出て、枝には青々とした葉っぱと色と
りどりの花が咲く。
やがて花が散り実がなるとどこからとも無く鳥達が集まり実をつい
ばみ囁きを始める。
森の成長を早送りで見ているような感覚であった。
鳥達は実を食べた後糞を垂らしまた飛び立っていく。
20m程までの
そしてその糞に含まれた種から更に芽が吹いて・・・。
4∼5サイクルそれらを繰り返した時、高さ5m
様々な生育段階の木が敷地全体に,適度に隙間を作りながら生え揃
863
っていた。
カミソリ
ハヤブサ
スピニング・エッジ達も既に周囲を飛び回り、思い思いの場所で羽
を休めている。
﹁女王プランセッス、貴女方もお行きなさい。この森のバランスを
崩さない範囲で多くの巣をお作りなさい。
既にこの森にも多くの獣たちが住み着き始めているが、数が安定す
るまでは時間がかかるし、100万にも及ぶ彼等のコロニーを維持
するには到底この森のみでは無理だ。ミコトに頼んで近辺の森での
狩りの許可を得る。
コノハナは森を見上げると両手を掲げ、森を労るかの様に踊りを踊
り始めた。
次第に彼女を中心に葉擦れの音が響き渡り、静かだった森に生命の
ハーモニー
鼓動が大きく脈打つのが見える。
オトヒメもその調べに合わせて歌い、森は生命の輝きを迸らせた。
森の入り口から程近い場所に、森の中心に向かって土蜘蛛達が穴を
掘る。
直径3m、曲がりくねり多くの横道や小部屋を含んだその穴の内壁
は金属質の鉱物で塗り固められ、ちゃんとしたトンネルになってい
る。彼等の分子変換と配列変換の賜物だろう。
森に住む獣魔達が一段落したところで、俺はリヴィエルとオトヒメ、
それにタイタンを連れて屋敷の南を流れる川の上流に来ていた。遡
上してきた途中の道にはオトヒメと遊んだ泉がある。
俺達は川全体の水量を少し増やしたいと思ったのだ。
﹁どうやらこの岩が邪魔してる見たいね。﹂
水量は常に豊富だったので、何処かで流れを堰き止めている物があ
864
ると踏んで確認に来たのだが、やはり大きな岩がごつごつと幾つも
転がり、流れを大きく堰き止めている場所がある。
﹁取り敢えず、川を氾濫させない範囲で幾つかどけよう。最終的に
はどけられるだけどけたいけど、大雨が降った時に洪水にならない
ようにノーム達を連れてきてダムを造れればいいね。﹂
﹁そうね。その時も必ず元の水系を出来るだけ傷つけないようにし
イ ン
てね。動植物がダムの上下を行き来出来なければマズいから。﹂
﹁大丈夫。ちゃんと魚道も造るよ。﹂
ベ ン ト リ
大きな岩を2つ程タイタンにどけさせ、適当な大きさに砕いて収納
スペ︱スに放り込む。
下流では水量が多くなり、支流を作ってを森に引き込む事に成功し
た。
更に下流では森の滋養を含んだ水を合流させてあるのでこの水系に
は様々な生物が住み着いてくれるだろう。
途中、丸い流れだまりを作り天然の泉を作った。
森の獣や獣魔もこれで渇きに苦しむ事がないだろう。
◆ ◆ ◆
と言えなくもないのだが、どちらかと言えば
ここまで整備して、屋敷の南側のひたすらに荒れ果てた景色が気に
なった。
草原
に軍配が上がる。
ここは一応
言えない
渇き、痩せ、赤茶けた土にまばらに短い草が生えるのみだ。
﹁コノハナ、草原の妖精って居ないの?﹂
﹁あ、はい、ニンファドーラ達ならこの地に豊穣をもたらしてくれ
るでしょう、です。﹂
﹁何処に行けばあえるかな?﹂
865
﹁・・・まさかまたアイスホルストに戻って来る事になるとは思わ
なかった。﹂
﹁この辺りは土地が痩せていますので、彼女達がとっても頑張って
います、です。﹂
﹁そんな中、引き抜きをしても大丈夫かな?﹂
﹁彼女らも私達に似てますので、分身を生めばいいと思います、で
す。﹂
コノハナが俺の代わりに呼び掛けてくれて、手の平サイズの4枚羽
根のトンボのような少女が付いて来てくれた。
﹁私はエルス、宜しくね!﹂
その後、エルスが引き起こしたのはミコトと同じく、国民的となり
の大きな森の妖精現象。
鋼鉄
蟷
螂
巨大
豆
クワガタ
南の荒れ地は一夜にして見事な草原に変わった。
メタルマンティスもジャイアント・ソイ・ソーもとても満足げに狩
一角
獣
りをしている。やはり草原が必要な獣や獣魔も多いのだ。
黒
見れば、ブラックホーンホースの親子も這い出して来ている。
﹁オウカよ、久々に早駆けと行かぬか?﹂
﹁貴方からのデートのお誘いは何ヶ月ぶりですか?足は鈍っていな
いでしょうね??﹂
﹁ふむぅ・・・。目に物見せてくれよう!!﹂
一目散に飛び出していった2頭。
﹁アマツカゼ姉ちゃん、僕たちも行こうよ。﹂
﹁いやよ、私、汗かくの嫌いなの。﹂
あれ?イザナギがナンパしてる??
866
﹁トキツカゼ君、私達もちょっと走りに行きましょうよ。﹂
﹁イザナミ、今日は負けないよ?﹂
こっちのカップルは既に熱々であるが。
2頭自由リレー耐久レース
を始めたが、流石にこれはハ
何だかんだ言いつつ3組のカップルは草原に消えていった。
途中で
ヤト・オウカ夫妻の勝利に終わったようだ。
◆ ◆ ◆
カシュールに飛び、ノームにダムを依頼して帰って来ると、日は傾
き始めていた。
アテネさんは屋敷の裏の畑に無造作に積み上げられた金銀財宝の鑑
定の真っ最中のようだ。
﹁ふう、漸く3分の2が終わったわ。副ギルドマスター兼任のアタ
大金持ち
シをここまでこき使うとはね。貴方、この世界でもトップ30に入
るミリオネアの仲間入りよ。中々良い度胸じゃない?﹂
﹁有難う御座います。ところで偶にはアテネさんも一緒に食事にし
ませんか?﹂
鋼鉄
蟷
螂
﹁あら、それは良いわね。今日は何?﹂
﹁メタルマンティスがトライホーンバッファローを狩ってきてくれ
馬
魚
妖
泉
鱒
たので庭で丸焼きにしようと思います。それと横の森に住み着いた
アハ・イシュケがファウンテン・トラウトを貢ぎ物として持って来
てくれたからハニーオニオンと虹色ハーブ合わせて野菜多めのカル
パッチョにしようかと思ってましたけど。
後はウェスタが何時でも焼きたてパンを焼いていてくれます、とハ
ジメは続けた。
867
馬
魚
妖
﹁トライホーンバッファローもアハ・イシュケも、もう住み着いた
の!?今日の今日で??貴方、ニンファドーラやククノチにかなり
魔力渡したでしょ?﹂
﹁これぐらいの土精石を50程渡しただけだけど?﹂
ハジメが示したのは20cmほどのタイガーアイを彫って作られた
虎の彫像。
﹁そんだけ渡せば十分よ!優れた樹精集めればそれで世界樹甦らせ
るわよ・・・。﹂
﹁で、もう一度聞きますが夕飯は来ないの?﹂
﹁行くわよ。何言ってんの?それはそれ、これはこれよ。﹂
こっちとしても労をねぎらってるんだから食べたいんなら素直に来
て欲しい。
屋敷の中だけでなく周囲の環境も整え、満足げに床につくハジメ。
そのベッドにはいつものように恋人達が潜り込んで来るのであった。
868
屋敷と森と草原︵後書き︶
●っとろとっ●ーろ♪
869
遺産相続︵前書き︶
ここまでのお話、一段落です。
870
遺産相続
その日は朝早くクロノスに起こされた。
﹁ハジメさん、財宝が計算出来たそうです。﹂
このところ毎晩腕に縋り付いて寝ているキャロルを起こし、ウェン
ディーヌとマコを起こしに行き財宝の元へと向かった。
◆ ◆ ◆
﹁褒賞金は62の盗賊団に所属した194人で合計128億800
インヴォーカー
0万ミュール、
獣魔師7人の相続が402億3600万ミュール。ここは殆ど現金
ね。
遺産は1590億1800万ミュール、ここは魔精石や竜の髭や逆
クラスの道具類が合ったわね。
鱗と行った装備品の素材となる物が含まれていたわ。それと幾つか
アーティファクト
神世遺物
相続と遺産は半額がギルドの取り分だから貴方の取り分は合計で1
124億1600万ミュール相当。
あ、面倒だから100万以下は切り捨てでギルドに没収にさせて貰
ったけどOK?﹂
そのレベルなら全く問題無い。何と言っても1000億クラスの収
入だからだ。
俺は目録を眺めながら考える。
この世界の大規模な商会に迫る勢いだ。
まず魔精石。
これは持てる限り持ちたいが、何分良い物はデカい。
871
やはりこれも管理小屋が必要か・・・、と考えていた時。
﹁っ!そうだ!!魔精石で屋敷と森と草原を管理しながら保管すれ
ば良いんだ!!
まずは魔精石を下さい。火精石を15億、水精石を20億、氷精石
を15億、雷精石を10億、風精石を10億、風雷石を15億、土
精石を15億分、下さい。﹂
イ ン ベ ン ト リ
﹁そ、そんなに大量の魔精石を一体何に使うの?﹂
﹁それぞれ1億相当分はすぐに使えるように収納スペ︱スに分配し
て入れておきます。残りは家具の調整に使い、残りは今からこの屋
敷の魔力バランス調整に使います。﹂
﹁︱︱!!成程。。それをやる人間あんまり居ないのよ?普通、獣
魔が密かに世界のバランスを取るか、自分の環境整えるのに使うん
だから。﹂
﹁それならこっちでの知識、詳しいですよね?手伝って貰えると助
かります。手伝って貰えたら昨日の残りのトライホーンバッファロ
ー、お好みのようだったデミハンバーグオムライスにしてご馳走し
ますよ??﹂
﹁わぁおっ!今すぐ手伝うわ。﹂
ちなみに卵は当然のようにフタゴワシを使っている。
﹁何だか俺の知ってる配置に何となく似てますね。﹂
﹁そう?これがこっちでは東西南北のバランスを最も良く保つとさ
れているわよ?﹂
北に氷精石、北東に水精石、東に雷精石、南東に風精石、南に火精
石、西に土精石を置いた。風雷石は何処か、と言えば中央だったが、
ここに偶然にも丁度位置するのが今回の財宝の一部を保管するのに
作った小屋だったのでその中に放り込む。
ウェスタ、コノハナ、エルスには勝手にこれに触れた物には﹁個人
の所有物である警告﹂、持ち去った物にはその魔精石が全勢力を解
放して泥棒を亡き者とする術式を組んで貰っておいた。
872
◆ ◆ ◆
服従の首飾り
とか
隷属の首輪
なんていらないで
﹁相続からは特筆すべき物はないんですよね?﹂
﹁まぁね。
しょう??﹂
確かに要らな﹁隷属の首輪下さい!!﹂
﹁・・・、キャロル、落ち着こうか。﹂
服従の首飾り
とレベル
一度着けると着けられて隷従した事さえ忘れて登録された相手に隷
属してしまう首輪。
着けられている間のみ抵抗や自害を防ぐ
が違う。
ワイバーン
﹁知的生命体に着ける事が既に重犯罪、って分かって言ってる?﹂
元はトライホーンバッファローや飛龍の家畜化の過程で開発された
ものだが、﹁誰があれをそいつらに着けるか?﹂という処で議論が
止まってしまった。所謂、猫の鈴状態だな。アイテムだけが闇取引
されているというのが実情だ。
﹁勿論です。私は既に身も心も御主人様の物ですが、魂はまだ私の
物です。魂を貴方様に捧げるにはこれが必要なのです。﹂
一体全体何処でこうなったのか、キャロルはいつも俺に所有される
事を望む。
﹁君が自ら望むのであれば俺は法がどうであろうと構わない。でも、
俺は今のままのキャロルを今のまま愛する事を望む。それでも俺に
エイシェント・エルフ
隷属したいというのであれば着けてあげよう。
法の番人たる、しかも上位精神生命体たる古代エルフの目の前であ
ろうとな。﹂
﹁・・・分かりました。今回は我慢します。でも、諦めた訳じゃな
いですから。﹂
どうして俺の彼女はこうもヤンデレちゃんが多いのやら。
873
◆ ◆ ◆
﹁遺産からは20着分の普段着の素材になる竜鱗を、竜の牙2本、
ファミリア
龍の髭3本、水晶竜珠を7つ、ミスリルを1kg、オリハルコン1
kg・・・。﹂
言ってて気付いた。
カーミラ
﹁そういやキャロルは武器は使わないのか?﹂
﹁私達女吸血鬼は全身が武器みたいなものですし・・・。操獣魔と
一体になって戦う方が性に合ってますので私の武器を選んで頂くの
ならメンタルアップイヤリング等が良いですね。﹂
﹁そっか、それなら後はダマスカス鋼1kgで良いや。﹂
アーティファクト
﹁後は現金で良い?﹂
﹁あ、そうだ。神世遺物って??﹂
﹁通信器具みたいね。15個程有ったんだけど、連中、使いこなせ
てなかったみたい。風雷石と光精石を込めて使うみたいだったけど、
それが抜かれたままだったわ。﹂
﹁︱︱!!見せて!!それすぐ見せて!!!﹂
◆ ◆ ◆
こ、これは・・・。
﹁殆どカメラ付きの携帯電話じゃないか・・・。﹂
それぞれに番号が振り分けられていてそれをコールすると通話が開
始される。
伝言を吹き込んで送信すると、相手のモニタに文字となって送られ
る。
カメラや動画は風雷石の魔力の続く限り保存出来、魔力を込め直せ
874
ばまた使える。
しかもピアスとセットになっており、ポケットに入れたままでもピ
エンチャント
アスに魔力を込めれば手ぶら通話が可能だ。
しかもしかも。付与魔術により水陸両用、火山地帯などの過酷な環
境でも使えそう、との話だった。
﹁素晴らしい・・・。﹂
ここに有るのは15台だけ。
﹁これ全部下さい。残りは現金で良いです。﹂
﹁それなら残りの現金は620億3700万になるわ。﹂
エイシェント・エルフ
﹁分かりました。チャージ水晶持ってますか?﹂
﹁当たり前でしょ。アレもアタシ達古代エルフが開発した便利キッ
トみたいな者なんだから。﹂
アンタらはDr.●松か。
・
エイシェント・エルフ
﹁それと、最大の相続品があるわ。﹂
﹁我を品扱いとは酷いの、古代エルフの少女よ。﹂
はくたく
白澤はひっそりと財宝の陰から現れた。
◆ ◆ ◆
﹁助けて貰って満足な礼も言わず心苦しく思う。これ、この通り、
感謝致す。﹂
見ればケンタウロスの2人は跪いている。
﹁これ、我にとってお主等は大恩有る相手、その様に堅苦しくする
で無い。﹂
その言葉に静かに立ち上がる2人。
875
はくたく
﹁我は白澤と呼ばれる種族。助けてくれた事、重ねて礼を言う。
しかし我は何も財宝の類を持ち歩かぬ身故、これと言って謝礼も出
来ぬ。
ついてはお主等の旅に同行し、何これと助けを加えてはやれぬかと、
はくたく
こう考える次第だが如何かな?﹂
白澤と契約!!
回復を行う獣魔の中でも彼等はかなり上位に位置する。
それは傷の回復のみに限らず、体力や失われた腕、目、更には血液
インヴォーカー
まで補填する為、彼等が居れば殆どの怪我や病気に恐れる事が無く
なる。
はくたく
﹁白澤の君、私は獣魔師のハジメ・タカナシと申します。貴方の申
し出、大変有難く、可能ならば契約を結びたく思います。﹂
﹁ふむ・・・。主と結んでも悪くはない。しかし・・・。﹂
??何か俺に問題でもあるのだろうか?
﹁主には既に2人のケンタウロスがついておろう?彼等と共に成長
はくたく
し、旅を続けるが良い。我はそこなる少女と契約を結びたい。﹂
白澤の9つの瞳がキャロルを向く。
﹁え?え!ええっ!?わ、私ですか!?﹂
﹁そこに居るハジメなる男は既に十分な力を持っておる。怪我を負
う可能性も他に比べれば圧倒的に低い。しかし、偶々ハジメが居な
い時にお主等が怪我をすればどうなる?我はお主と旅がしたい。お
主は如何に考える?﹂
﹁あ、あまりに恐れ多いお言葉・・・。しかし、私が貴方の力を借
りてみんなを助けられるならこんなに嬉しい事はありません。契約、
していただけますか?﹂
﹁重畳。﹂
◆ ◆ ◆
876
カーミラ
へんじゃく
﹁女吸血鬼と言う破壊の属性を持つ私。貴方の癒しの力を貸して下
さい。貴方の名前は扁鵲です。﹂
キャロルは9つの瞳に口付けて、首筋に小さく牙を立てる。
へんじゃく
﹁血を嫌う貴方に傷を付けて申し訳ありません。これは私達の親愛
の表現なのです。﹂
親指をかりっと囓り、流れた血を扁鵲の首の傷に擦り付ける。
互いの傷は見る間に閉じ、契約は完了した。
﹁これで遺産関係の作業は終わりね。じゃぁ、また何かあったら会
いましょう。﹂
ぐにゃり、と空間が捻られたように歪んだかと思えば財宝とアテネ
を呑み込み吸い込まれるように消えていった。
・・・が。
再び空間が捻れてアテネが戻って来た・・・??
暫定Sランク
お楽しみにね。Sになったら自分以外の名前決
ネーミ
になってるのよ。検定
テスト
﹁忘れてた!!ハジメ、ウェンディーヌ、マコ、アンタ達は盗賊退
クエスト
治と憑物払いの功績で全員
二つ名
依頼準備しとくからその内ギルドに顔出して。
ングミーティング
それと、
め会議には出れるようになるから。﹂
◆ ◆ ◆
俺、ウェンディーヌ、マコ、キャロル、ガルーダ、ケンタウロス、
リヴィエル、オトヒメ。
フォーン
と呼ぶ事にした。
取り敢えず使えそうな連中に携帯電話もどきを渡す。
呼びやすいように
877
まず、はしゃいだのがマコだ。
現代っ子であったマコだけにこれはかなり嬉しい道具だろう。
意外にもガルーダはかなり早くに使い方をマスターした。
﹁風雷石が教えてくれます﹂だそうだ。
一方のケンタウロスは苦戦していたが、マコがアマツカゼに丁寧に
説明し、使えるようになって貰った。
リヴィエル、オトヒメは元々がかなり頭が良いらしく、いつの間に
やら俺の元にラブラブ絵文字突きのメールが届いている。俺、まだ
絵文字使えないんだけど・・・。
ウェンディーヌとキャロルは大苦戦である。
老眼鏡持ち出してメール打ってるお父さん世代の姿その物だ。
それでも丸一日掛けて通話とメールだけ覚えて貰った。
彼女らも、これのもたらす影響力と言う物は戦いの中に身を置いて
きただけに良く分かるのだろう。
ウェ ア ハ ウ ス
その後は120億ずつ4人で遺産を山分けし、残りは共同保管庫に
放り込んだ。これだけあれば爵位を買う事も可能か・・・?
怒濤の日々に思いをはせながら静かに目を閉じた。
878
遺産相続︵後書き︶
はくたく
白澤さんはこう言う展開の為に放置されてました。予想された方、
いらっしゃったでしょうか?
この辺りで第4章を区切りたいと思います。
物語で言えば漸く起承転結の﹁承﹂の真ん中ぐらい?亀みたいなス
ピードで済みません。
879
幕間小話6 物語の裏で起こる物語︵前書き︶
ここまでのお話、一段落です。
880
ドミナン∼
幕間小話6 物語の裏で起こる物語
∼side
﹁全く!!あいつはいっつもこうだ!!﹂
竜鱗を100枚も持ってきたかと思えば、﹁今着ている服を置いて
いくのでこれを竜鱗で強化してくれ。﹂
完成品を取りに来たかと思えば﹁竜の牙でナックルを、龍の髭で鞭
にも変化する伸縮自在のナイフを、龍の髭と水晶竜珠と水精石を使
ってロングスタッフを作ってくれ。﹂
更にまた完成品を取りに来たかと思えば、﹁マコの軽装鎧と籠手を
オリハルコンで。﹂と言ってオリハルコンを、﹁ウェンディーヌの
カ
ローブを竜鱗で強化。﹂と言って5枚の竜鱗を、﹁ウェンディーヌ
ーミラ
のバックラーと胸当てをミスリルで。﹂と言ってミスリルを、﹁女
吸血鬼のキャロルのチェインメイルと両手盾をダマスカス鋼で﹂と
言ってダマスカス鋼を置いて行きやがった。しかも黙って書き置き
だけでだ!
今度こそ文句言ってやろうと思って取りに来た時に待ち構えてたら
﹁魔法金属を直接なめしたマントって作れますか?出来なければノ
ームの処に持って行きます。﹂などと言ってオリハルコンにミスリ
ルを1kgずつ、、ダマスカス鋼を2kg置いて行きやがる。ダマ
スカス鋼は2枚作って欲しいそうだ。
クソッタレがぁっ!俺に出来ねぇのに他のドワーフにもノームにも
出来る訳ねぇだろう!!
こないだなんかウィットビー侯爵家の次男坊のマント作って褒章迄
貰ったんだぞ!!
881
・・・しかし、1kgとは冒険者らしいよく考えられた配分だ。
魔法金属延ばして作れるマントは混ぜ物無しなら1kgは絶対に必
要だ。
そして奴らが冒険者だからこれ以上重くすると動きに響く。
足止めて矢を防ぐのならもっと重くても良いだろうがな。
全くどうして頭のキレる奴だ。
金払いも良いから確かに良い客だ。
今回も当然のように報酬に1億ミュールをポンと置いて行きやがっ
た。
バラキ∼
だぁ∼∼∼っっ!あの当然のような顔がムカつくんだよ!!
◆ ◆ ◆
∼side
クラフト
オイラは陽気なノームのバラキなのねぇ∼ん。
カシュールで工芸をちょこちょこやってるのねぇ∼ん。
﹁バラキさん、ウチの川の上流にダムを造りたいんです。﹂
ダム?ダムはダメねぇ。ダムは自然を壊しちゃうねぇ。
﹁あ、出来るだけ今ある形のまま水量を増やしたいんですが、川が
氾濫すると困るので放水量を調節出来て上流下流を繋ぐ魚道も造っ
て下さい。﹂
・・・中々に分かってるんじゃない。
﹁1週間待ってねぇ∼ん♪﹂
882
オイラと仲間にかかればチョチョイのチョイね。
がちがちに固めずに、水量を調節出来る、人間には到底出来ないす
カサンドラ∼
んっごいの造っちゃったのねん!!
◆ ◆ ◆
∼side
クラーブ・ケイの残党・・・。
その楔は常に重く私にのし掛かる。
カシュールでの盗賊退治における功績を認められ、また、作戦途中
に何度も法的取引により内部情報を漏らした事により私には特赦が
認められた。
クエスト
通常ならば即座に斬首刑が科せられるはずのところを、10年間ギ
ルドの監視下に於いて指定された依頼をこなす事、この監獄外での
労役刑のみとなった。
話によれば私達を壊滅させたあの彼が嘆願してくれたとも。
﹁この任務が終わったら貴女のやる事に俺は関与しない。でも、出
来れば生きていて欲しい。﹂
まともに話が出来なかった彼の、唯一まともに話した言葉だ。
クラーブ・・・。
ふと懐かしい仲間を、そう、既に懐かしく思える彼の顔を思い浮か
べる。
彼には沢山助けられた。
スラムで育った私達はいつも何かを夢見ていた。
外の世界に旅立ち、色んな物を見て色んな獣とふれあう。
883
インヴォーカー
そう。私達は動物が大好きだった。
インヴォーカー
スラムを訪れた或る獣魔師の勧めにより資質を調べ、私達は獣魔師
になった。
、彼がそう呼んだ男の人は山賊にやられて
クラーブ
そんな彼の最大の友人だった男、ジュンク。
背中預けられる友達
死んだ。
絶望の淵で彼はその山賊団を潰して、自ら﹁クラーブ・ケイ山賊団﹂
を名乗った。
彼の心の痛みはその時は分からなかった気がする。
復讐を遂げて尚、まっとうな生き方が出来なかった私達。
私にはクラーブの復讐すら出来ない。
彼のあの瞳を見て復讐なんて出来ない。
クラーブが見れなかった世界。
生きていれば見れた世界。
クラーブがジュンクと見る筈だった世界。
そして・・・。
私がクラーブと見る筈だった世界。
もう少し、生きてみようか。
生きる理由は薄いけれど・・・。
◆ ◆ ◆
884
∼side
ドミナン&バラキ∼
﹁オイ、何処まで連れて行く気だ?﹂
﹁カシュールにある俺の家だよ。他の人に知られたくないからね。﹂
﹁だから何を知られたくないのか教えろっつーんだよ!﹂
﹁先に聞かせる訳に行かない。そして来ないというのならこの事業
には参加させられない。
やらなかったら絶対に後悔する、物凄い事業だよ?﹂
﹁だからそれが何なのか!!﹂
ドミナンは相変わらず怒りっぽい。彼の場合、放っとくに限る。
﹁何か面白そうな匂いがするねぇ♪是非やらせて欲しいのねぇ。﹂
似た種族でもこちらは反応が真逆だ。楽で良い。
アーティファクト
﹁﹁神世遺物の解析!?﹂﹂
﹁えぇ。これは俺達の世界で﹃携帯電話﹄と呼ばれている物に非常
に良く似ています。﹃電話﹄というのは声の振動を電気信号に変え
て送る物なのですが、これはそれを小型化し、携帯型にしたもので
す。電気信号なので文字も送れます。更に、簡易的ながらその場の
情景を絵のように瞬時に写し取ったり、数分間の情景をパラパラ漫
画のように写し取ったりも出来ます。
更にこれは専用のピアスから音の入力と出力を同時に行えます。
俺が居た世界では殆どの人が一人一台持っていて当たり前で、星の
裏で起こった情報でもあっという間に世界中を駆け巡るのが普通で
した。
これ、解析出来て簡易版でも量産出来れば、情報戦争が変わります。
賭けても良いです。初期投資も100億まで出しましょう。
これを解明出来て量産出来れば兆単位の金が貴方達の懐に転がり込
885
むはずです。﹂
アーティファクト
﹁そうは言うけどな・・・。簡単に解明出来たら神世遺物名乗っち
ゃいねぇんだよ。﹂
ドミナンが二の足を踏んでる。彼にしては珍しい。
﹁僕はやるよぉ∼??﹂
バラキ!!
﹁これの凄さは良く分かったよ?そこの武器とか防具とか荒っぽい
仕事しか出来ないもじゃもじゃヘアには荷が重いだろうねぇ∼∼?
?﹂
びきっ!
﹁ほおぉ・・・。喧嘩売ろうってのか?この若年寄。﹂
びききっ!!
バラキが怒ってる。そういや年齢知らないな・・・。
﹁やってやるよ。幾らでもやってやる。そこのちび若年寄より先に
解明してやる。﹂
﹁本物の年寄りより若さでやっちゃうよ?﹂
﹁分かった分かった。1台ずつ預ける。壊してしまうぐらい思いっ
切り研究してくれて良いけど、壊しただけで何も進歩がなかったら
もう頼まない。1か月後に進捗状況聞きに行くからね?﹂
◆ ◆ ◆
886
<おまけ>
4章終了時の
目標或る旅路
●ハジメ・タカナシ
※装備※
カンパニー
の装備と使役獣魔。
テイマー
◎通常時:パーカータイプの上着とジーンズタイプのズボンを愛用。
コントラクター
右手にダマスカス鋼のブレスレット︵操獣師︶、右中指にヒヒイロ
サモナー
イリュージョニスト
カネの指輪︵契約師のブレスレット︶、左中指にミスリルの指輪︵
召喚師のブレスレット︶、左耳にオリハルコンのピアス︵幻体師の
ブレスレット︶
ダマスカス鋼を直接なめしたマント。
◎戦闘時:ヒヒイロカネの武具︵通常は刀を愛用。︶、オリハルコ
カンパニー
獣
ンの鎧︵通常は全身鎧を愛用︶、ミスリルの盾︵通常は籠手を愛用。
︶
ファミリア
一角
※使役獣魔※
黒
◎操獣魔
ブラックホーンホース:ハヤト、オウカ、イザナミ、イザナギ
ケンタウロス:アマツカゼ、トキツカゼ
コンフェデレィト
ファミリア
ガルーダ:トール、アネモイ、︵ゼビュロス、ユピテル︶
◎契約獣
アストラル・ドラゴン
オトヒメ、メドーア、タイタン︵ハジメは操獣魔として契約して
イリュージョン
いるが実際はこっち︶
◎幻体
ミシィカル・ビースト
クロノス
◎召喚獣
リヴィエル︵水龍王︶、ククリ︵幻想竜︶
●ウェンディーヌ・トライザスタ
※装備※
887
◎通常時:ワンピースタイプのローブ。下着は結構攻めたデザイン
がお好き。寝る時はショーツは穿かない派。ミスリルを直接なめし
たマント。
◎戦闘時:水晶龍の揺蕩う髭︵マジックメイス。水晶竜珠を7つ魔
法配列に従って埋め込み、水精石で強化。︶。ミスリルのバックラ
カンパニー
ー。ミスリルの胸当て。
ミシィカル・ビースト
※使役獣魔※
◎召喚獣
リヴィエル︵水龍王︶
●マコ・シュワルツ
※装備※
◎通常時:ジャンパースカートにジャケットと言うコーディネート
を愛用。
オリハルコンを直接なめしたマント。
◎戦闘時:竜の牙︵ナックルガード、爪は約20cmまで長さ調節
可能。オリハルコン製の籠手と一体化している。︶、水晶龍の怒れ
る髭︵二刀流のナイフ、伸縮自在の鞭状の刃を収納しており、最長
5m程まで伸びる。︶、オリハルコンの軽装鎧、オリハルコンの籠
カンパニー
手。
イリュージョン
※使役獣魔※
◎幻体
パンドラ
●キャロル・フレッカー
※装備※
◎通常時:カットソーや襟付きシャツなどにプリーツスカート、ニ
ーソックスという女子校生スタイルを愛用。
ダマスカス鋼を直接なめしたマント。
◎戦闘時:武器は用いない。ダマスカス鋼のチェインメイル、ダマ
888
カンパニー
スカス鋼の両手盾。
ファミリア
※使役獣魔※
サエズリバチ
◎操獣魔
カミソリ
ハヤブサ
雲雀蜂:女王蜂のプランセッス以下100万の働き蜂
蟷
螂
スピニング・エッジ:サントス、サウロ、セルヒオ、サリタ、ソ
鋼鉄
ニア
巨大
豆
クワガタ
メタルマンティス:クロス
ジャイアント・ソイ・ソー:シザーマン
はくたく
へんじゃく
土蜘蛛:母親のヤソメ以下30匹の子蜘蛛。
白澤:扁鵲
エンチャント
※全員の普段着は付与魔術で強化してあり、更に竜鱗で強化してあ
るので下手な防具よりよっぽど物理・魔法・属性攻撃耐性に優れて
いる。どれぐらいかって言うとサブマシンガンを服一枚で防いでス
ス一つ付かないぐらい。
889
幕間小話6 物語の裏で起こる物語︵後書き︶
次回より第5章です。まずはSランクにランクアップさせます。そ
の後は遂にサイカ島の再建に進みます。
890
Sランクへの道︵前書き︶
テスト クエスト
Sランクの検定依頼、悩みまくりました。3話ぐらいで収めたいと
ころです。
891
Sランクへの道
テスト クエスト
クエスト
検定依頼:Sランクチーム依頼。プロット公国最西端の港町、ゴル
ダ近辺で起こっている一連の問題の原因を調べ解決せよ。報酬:光
貨500枚。期間:6か月以内。
クエスト
﹁突っ込みどころ満載な依頼だな。
物凄いおおざっぱだし、報酬が桁外れだし。それに期間が長いな。﹂
﹁貴方達にとってははした金でしょう?Sランカーでもそれだけ稼
いでる人達は少ないのよ?
クエスト
クエスト
これ位の金額で報いないと彼等に申し訳ないわ。
調査依頼だけならCランク、解決依頼だけならBランクね。
調査段階で面割れの可能性があって尚、解決まで完了出来てこそS
インヴォーカー
ランカーよ。
テスト
それに、獣魔師ギルドのSランカーが動いているって言う事実のみ
でも十分に犯罪の抑止力になったりするしね。﹂
﹁へぇ?って事は今回のは犯罪解決?﹂
﹁さぁ、それはどうかしら?まぁ兎に角それを調べるのが検定だか
らね。﹂
クエスト
﹁今回はキャロルは連れて行けないんだよな?﹂
俺達3人への依頼なので今回は彼女は連れて行けない筈だが、念の
為確認しておく。
﹁残念ながら彼女は今回はお留守番ね。﹂
クエスト
﹁と言う訳なんだが、キャロル、1人でこなせる範囲の依頼こなし
たりしててくれる?トレーニングしたければ余程の荒事にならない
限りアネモイを置いていくから組み手をしてみると良い。空中戦は
892
この中では2番目に得意だから色々と参考になる筈だ。﹂
トールも得意ではあるのだが、風を纏いブースターを積んだように
飛び回る彼の攻撃は若くして既に兄を超えている。
因みに1番は言うまでもなくクロノスと組んだハジメである。
﹁ウェンディ姉さん、私達何度かゴルダの街に行った事ある筈です
よね?﹂
﹁その筈よ。サイカ島からそれ程離れた場所じゃないから。でもア
タシは行ったのが幼い頃過ぎて覚えてないわ。﹂
﹁私も5年間寝てた間に記憶がやや曖昧になってたみたいで良く覚
えてないんです。確か、暖かいところでしたよね?﹂
﹁そうね。どっちかって言うと暑いとこって印象が強いかしら?﹂
﹁それなら取り敢えずゴルダの街に一度行ってみる?詳しい捜査の
前に現状を確認しないと。﹂
﹁そうね。調査系ならアタシとハジメちゃんがいれば何とかなるで
しょう。﹂
検索
しても流石に距離が離れすぎてるよなぁ
﹁出来れば異変が起こる以前の街の情報を知りたいところだけど・・
・。この辺で俺が
?﹂
にやっと口角を持ち上げてマコが自信ありげに答える。
﹁任せて。情報通なら心当たりがあるわ。﹂
◆ ◆ ◆
ハジメ達3人はオーバンの街に来ていた。
ホッブズ商会の屋敷はこの街に5つあるのだが、取り敢えず一番大
きな本邸から当たってみた。
893
﹁いらっしゃいませ、ホッブズ商会へようこそ。本日はどのような
ご用件でしょうか?﹂
﹁オーナーのセドリック・ウィットビー氏はいらっしゃいますか?﹂
インヴォーカー
﹁失礼ですがどちら様でしょうか?アポイントはお取りになられて
いますか?﹂
インヴォーカー
﹁アポイントは取っていないの。Aランク獣魔師のハジメ・タカナ
シがBランク獣魔師のマコ・シュワルツを連れて商談に来たと伝え
てくれるかしら?﹂
﹁!!少々お待ち下さい。﹂
一瞬の驚きと逡巡の表情を浮かべた後、彼女は奥に消えていった。
流石、Aランク冒険者の印籠は受付クラスでは目に入りきらないら
しい。
顔
な訳であり、ウィットビー侯爵家に名を連ねる女
受付の女性はどこそこの姫君と言っても通用しそうな程の美貌であ
った。
将に商会の
性が行儀見習いとしてやまた本格的にも働きに来る事が多いので当
然とも言える。
何故貴族に美男・美女が多いのか?それは単純な理由であり、長年
貴族が貴族故に様々な手法で美男美女と婚姻関係を結びDNAがそ
っち側に偏っているからだ。
﹁元気そうにやってるじゃないか。今日は恋人の紹介かい?﹂
齢30にまだ手が届かない筈なのに人生経験が顔に滲み出ているよ
うな渋い良い男。
ハジメがセドリックに抱いた初対面での印象だった。
﹁暫くぶりですね。エマさんとロビン君は元気ですか?﹂
﹁ロビンが元気すぎてエマは天手古舞いだよ。普通なら乳母に任せ
ておけばいい物を、彼女は頑として譲らない。そう言う頑固なとこ
894
ろも母親譲りかも知れないね。﹂
﹁母親??﹂
エマさんの母親の話題なんてした覚えがない。マコが疑問の表情を
浮かべていると、
﹁おや、言っていなかったかい?彼女の母親はセリア。俺の前の妻
の連れ子が彼女だよ?﹂
・・・。
﹁え゛え゛え゛えええぇぇぇっっ!!!!﹂
◆ ◆ ◆
﹁つまりは何ですか?義理の娘を引き取って育ててる内に情が沸い
て結婚した、そう言う事ですか!?﹂
﹁まぁそう言う事になるかな。﹂
マコの剣幕にセドリックが押され気味だ。
周りで見ている使用人達が興味津々といった表情でちらちらとこち
らを覗いている。
﹁それでやっちゃった訳なんですか!!﹂
﹁ま、まぁ身も蓋もない言い方をするとそう言う言い方になるかな。
。﹂
﹁そうか、それであの時、あんなにアタシに対して強い口調で・・・
。﹂
テスト クエスト
エマはマコが母親の敵だと知ったが故に、セドリックに口止めされ
ていたにも関わらず検定依頼で強い態度に出たのだ。
﹁それに関しては俺の口止めが甘かったと思ってる。妻に変わって
謝らせてくれ。﹂
895
﹁そんな!こちらこそ知らない事とは言え、彼女に不愉快な想いを
させましたね。。﹂
﹁﹁あの∼。。﹂﹂
気まずそうに口を開いたハジメとウェンディーヌ。
﹁そろそろ事情を説明してくれない?﹂
◆ ◆ ◆
﹁ゴメン、ハジメちゃん達、すっかり存在忘れてたわ。﹂
ヲイ。
﹁まぁ、積もる話はあるだろうけど、今日はそんな事をしにわざわ
バランス・ブレイカー
ざオーバンまで来たんじゃないんだろう?
︻常識ぶっ壊し︼のハジメ・タカナシさん?﹂
﹁︱︱!!流石に耳聡いですね。﹂
﹁この世界、情報が金になるからね。﹂
流石に良く分かっている。それならここから切り込んでいけるだろ
う。
﹁では商談に入りたいと思いますので人払いをするか部屋を移して
頂けますか?﹂
﹁良いだろう。他ならぬマコからの紹介だ。しかも超スピードでA
ランク迄駆け上がっている超新星、ハジメ・タカナシ氏との商談だ
からな。別室までお出で頂こう。
誰か、彼等に軽い物とドリンクを。何を飲まれるかな?遠慮無く頼
んでくれ。﹂
俺とウェンディーヌはメルシー・ラムの炭酸割りマコはチルドワイ
ンを頼んで部屋を変えた。
896
イ ン ベ ン ト リ
﹁先ずはこちらから売りたい物が1つ、いや2つ有ります。﹂
収納スペ︱スから取り出したフォーンを2個、机の上に並べる。
﹁これは・・・?﹂
﹁通信端末です。登録した端末同士で世界中ほぼ何処にいても会話
と、手紙の様な文字の情報のやりとりが瞬時に可能です。風雷石と
光精石があれば半永久的に使えます。﹂
﹁︱︱!!これは・・・、素晴らしい、いや、凄まじい!!これを
アーティファクト
30台も持っていれば世界の商取引を牛耳れるぞ!!﹂
﹁これは残念ながら神世遺物です。私達が私有している物を含めて
15台しか有りません。これを先ず、2台セットで2億で購入して
頂きたい。﹂
アーティファクト
俺の提示価格に露骨に眉を顰めるセドリック。
﹁神世遺物、しかも完動品の最上級クラスを1個1億ミュールだと
?舐めるのもいい加減にしろよ??どう言う種がある。﹂
食いついてきた。
﹁それはまだこれが完動品でありながら完成品ではないからです。
先程取りも直さず貴方が仰った。﹃30台有れば世界を牛耳れる﹄
と。
ヒエロ
現在は私達が持っている物を含めても15台。私達はこれを解析・
量産しようと考えています。﹂
そして・・・、とハジメは続ける。
グリフ
﹁風雷石と光精石、ココがポイントです。ここに彫られている神聖
文字の解読がまだ済んでいません。私達の知る腕利きの職人が解析
に当たっていますが今暫く時間がかかるでしょう。
彼等が言うには﹃本体の構造は何となく分かったが動力となる魔精
897
石の回路がまだまだ分からない。﹄だそうです。
アーティファクト
お分かりですか?私達はこれを世界中に広めようと思っています。
しかし、利権はこちらが握ります。神世遺物は自分達で何度でも魔
・ ・ ・
力を込められる構造ですが、複製品の魔精石は動力充填可能回数を
10回程度にして、魔精石を売りさばくのです。本体の価格はタダ
クラフト
同然でも、原価回収程度でも構いません。このアイテムの旨味は売
った後にあるのです。
私達はこれが完成したら製作方法を工芸ギルドに申請して特許を取
ります。
独占契約という形で、実際の生産・販売はホッブズ商会に行って頂
きたいと思います。但し、その都度売り上げの何%かをこちらに特
青虎目
許使用料として支払って頂く、そう言う契約にしようと思っていま
す。﹂
セドリックの瞳が忙しく動き回る。
恐らく物凄い勢いで損得勘定を計算しているのだろう。
石
その目には普段の穏やかな雰囲気はどこにも無く、瞳はホークスア
イの如き眼光を轟かせる。
﹁君が出した試算を聞こうか。﹂
﹁特許使用料は売り上げの8%。如何でしょう?﹂
﹁それでも年間8000億ミュールか・・・。﹂
﹁︱︱!!﹂
思わずハジメは息を飲んだ。ここに来るまでに紙と鉛筆を使って計
算を繰り返した試算を一瞬で答えられてしまったからだ。
﹁素晴らしいです・・・。貴方さえ良ければ商取引の良きパートナ
ーでありたいですね。﹂
﹁こちらこそ。普通の人間はこれを見て商売を思い付かないはずで
898
す。ハジメさんはそこいらの人間には無い商感覚をお持ちのようだ。
﹂
お互いの緒戦は﹃こいつは敵に回したくない。﹄と言う感想で終わ
りを告げた。
◆ ◆ ◆
さて・・・。
﹁前哨戦が長くなりましたね。ここからは本当に腹を割って話した
いのですが宜しいでしょうか?﹂
ハジメはいよいよ本題に取り掛かった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
テスト クエスト
﹁プロット公国のゴルダですか・・・。Bランクの検定依頼も十分
に難問でしたが、今回は輪を掛けて難問ですね・・・。﹂
﹁現状も御存知なのですね。教えて貰っても宜しいかしら?﹂
マコが割り込んできた。
嘘を吐いたり隠したりした時に彼女がいれば判別が可能だからだ。
﹁先ずゴルダという街について話そう。南の大陸最西端に位置する
港町だ。更に西に700kmも進めばライスセミア幻神国の東端に
位置すると言う街だが、ここには一つ特徴がある。
プロット公国自体温暖な国なんだが、ここはそれに輪を掛けている。
赤道直下にも関わらず常夏で年中四季がない。﹂
ハジメは顎に手を当てて考えた。
地球でも緯度で計算出来ない気候の都市は幾つもある。
899
﹁海流か何かの関係でしょうか?﹂
﹁良い線行ってる。ここには南極から続いていると言われている巨
大な間欠泉がアチコチに吹き出していて、更にこの火山や温泉が地
表近くを暖めているんだ。
更には、これらが大量に海に流れ込み、寒冷な海流を北へ押し上げ
ている為、赤道を周回している軌道風がねじ曲げられて北からの冷
たい風が入ってこない。そんな訳で一年中海水浴が楽しめる程の熱
帯スポットになっているんだ。﹂
﹁そんな街に一体何が起きてると言うの??﹂
﹁簡潔に言おう。恐らく君達が解決すべき問題はこれ一つだ。今あ
そこは雪が降り、町中氷に覆われている。﹂
900
Sランクへの道︵後書き︶
テスト クエスト
Sランクのテスト、やっぱり3話ぐらいじゃ終わらんかも・・・。
検定依頼のない用にはかなり悩みましたが、世界を救ってこそS、
と勝手に思い込んでこんな内容にしました。
ハワイが常冬になったのを救ったりして、それが当たり前に出来る
ぐらいの人材がこの世界のSだと思うのです。
901
戦前の夜想曲 ※︵微エロ︶︵前書き︶
クエスト
クエスト
Sランカーは国難級の依頼をこなす、と言う事でこう言う依頼にな
りました。
902
戦前の夜想曲 ※︵微エロ︶
オーバンで情報を得たハジメ達は一旦カシュールの屋敷に戻った。
今回の選抜メンバーを決める為だ。
コンフェデレィト
先ずは契約獣。
オトヒメは戦闘などでの派手な活躍は難しい。
温暖な海域に住むセイレーンは雪と氷の環境では活躍が厳しいから
だ。
但し、知識に関してはリヴィエルと並んで優れた才を発揮するので
ブレスレットに入って来て貰う事にした。
タイタンは精霊力を操作して或る程度環境適応が出来るとの事だっ
たので来て貰う。
メドーアはフレイム・イエティとしての本領発揮なので普段ゴロゴ
黒一角獣
ロしてタダ飯食ってる分、大量に働かせる予定だ。
ファミリア
続いて操獣魔。
ケンタウロスもブラックホーンホースも冷涼な環境には強いが、彼
等に聞くと﹁体が小さいうちは熱効率が悪い。﹂とのことでハヤト、
黒一角獣
オウカ、アマツカゼが付いてくる事になった。
ブラックホーンホースなどは雪馬車も引けると言うので頼もしい。
ガルーダはそもそも雪山に住んでたのだから寧ろ得意分野だろう。
屋敷の護衛兼キャロルの遊び相手にアネモイを置いていくのでトー
ルには精一杯働いて貰う事になりそうだ。
コンフェデレィト
リヴィエルは人型で動き回らなければ大丈夫らしい。
本領発揮すれば契約獣よりも位階は高い訳なので環境適応ぐらい出
来るんだろう。
903
アストラル・ワールド
ミシィカル・ビースト
マテリアル・ワールド
彼女には精神世界に一旦戻って貰い、連れ歩くと言うより呼び出す
事にした。
ウェ
いや、これが本来の召喚獣のあるべき姿なんだが、彼女が物質界に
出て来過ぎなのである。
屋敷の周りに配置した分から火精石を多めに持ち歩く。
アハウス
そればかり減らすと魔力バランスが崩れるので均等に減らして共同
保管庫に放り込んでおいた。こうすればいざという時全員が魔精石
クエスト
を使用出来る。
今回の依頼はどう考えても火の魔力バランスが崩れている事が予測
されるので、体がそれにつられてしまうと体調を崩してしまう。そ
の為予防策として魔精石は必須なのだ。
◆ ◆ ◆
出立前夜。
いつも通りハジメは露天ですいすい泳ぎながら疲れを癒していた。
ハジメには1つ心配事がある。
リヴィエルとオトヒメの妊娠の事だ。
リヴィエルは胎生を選んだが為に後3か月足らずで生まれてくる。
︵因みに卵生は龍体で交尾しないと不可能らしい。︶
オトヒメは卵生を選んだので生んだ後はノームに孵卵器を作って貰
えば置きっぱなしでも無事に孵るとの事だが、それでも卵が産まれ
クエスト
るまでは後半年足らずと言う事だ。
依頼は6か月もの期間を準備されている事から考えてそれなりに長
クエスト
期間必要なのだろう。︵オトヒメは何とか間に合うにしてもどうや
ってもリヴィエルは依頼途中で降板だろうな。。︶
リヴィエルの降板、それは即ちウェンディーヌの降板を意味する。
904
ハジメはリヴィエル以外にも沢山の戦力を抱えているが、ウェンデ
ィーヌにはリヴィエルしか居ない。
﹁ハジメ。﹂
いつの間にやら背後でピンクのウェーブヘアの少女がこちらを見下
ろしていた。
◆ ◆ ◆
﹁リヴィエルに出産までどれ位かかりそうか聞いてきたわよ?﹂
﹁そっか、俺もそろそろ直接聞いてはっきりした時期を掴んどかな
きゃと思ってたんだ。﹂
﹁予定日迄は後65日ぐらいだけど、予定日の10日前ぐらいから
は戦闘には参加出来ないだろうって。﹂
﹁残り2か月弱か・・・。﹂
暫し沈黙が辺りを包む。
正直キビシい。
それがハジメとウェンディーヌの共通の見解だった。
クエスト
半年かかる可能性があるとギルドが見越した依頼を2か月でクリア
出来るのか?
出来るかも知れない。
クエスト
自然環境の整備
らしい。
これまでもハジメ達は超スピードで課題をこなしてきた。
しかし今度の相手はどうやら
、そんな
戦闘能力には自信があったが、今回の依頼はどうにも質が違う様に
感じられる。
テスト
戦闘能力を含めてそれ以外の力も検定内容に含まれる
905
臭いがするのだ。
﹁ウェンディーヌ、ひょっとしたら今回は途中で降りなきゃかもだ
けど・・・。﹂
﹁だからって最初から無理させず置いていこう、なんて思ってない
でしょうね?﹂
やっぱり読まれてる。
﹁いや、でも激しい戦闘中にリヴィエルの体調が変化する事も考え
られるだろう?﹂
﹁ハジメ、アタシはこれでもリヴィエルと5年間一緒にペアを組ん
で旅をしてるの。彼女が苦手とする高山地帯や雪山をアタックした
事もあったわ。それでも一緒にやって来てるのよ。﹂
自分の体調と同じくらい彼女の体調は良く分かる。
それがウェンディーヌの言い分であった。
﹁分かった。但し、もしリヴィエルの変調を感じたら、幾らウェン
ディーヌが行くと言っても俺が問答無用で止めさせて貰う。それで
良いか?﹂
彼女は頷き、こてん、と首を俺の肩に乗せてきた。
﹁ねぇ、明日から暫くゆっくり出来ないわよね?﹂
◆ ◆ ◆
キスをしてハグ。
もう何度も繰り返してきた行為だが、その度激しく興奮し、同時に
心の奥底からの安心感を得られる。
性的興奮と精神的安心感、欲情と抑制、相反する感情が自らに同居
するのを感じる。
906
﹁んちゅ・・・
ちゅぶ・・・
愛してる、ハジメ。﹂
にちゅる・・・、ハジメ、大好き。
その単純な言葉が薄っぺらに感じないのは何度もその
想いが高まり言葉にしようとすればする程、その言葉は単純になっ
ていく。
愛してる
言葉に万感の想いを乗せて伝えてきたから。
戦場では背中を預け、閨でも隙だらけの姿で体を絡ませる。
2人が想いを伝えるのに言葉すら要らない。それでも敢えて言葉に
しようとすると出てくる言葉はやはりシンプルだ。
湯上がりでお互い既に身に纏う物は何も無い。
お互いのツボは既に知り尽くしている。
ハジメは右の手でクシュクシュとピンクのウェーブヘアをくしけず
り、左手で彼女の腹部から腋にかけてそろそろと指を這わせる。
﹁くひゅうぅ、あふぅぁうぅん、うくっ!ちょ、ちょっと、もうち
ょっとそうっと・・・。﹂
﹁でも、強いぐらいが好きでしょ?﹂
﹁そ、それはそうだけど・・・。あんまり強いと体が持たないよ・・
・。今夜はゆっくり楽しみたいから・・・。﹂
本当は強い刺激が好きなウェンディーヌだが、余り刺激が強いと何
度も立て続けに逝かされて体が持たないのだ。
ウェンディーヌの言い分を聞き入れて攻めるポイントを変更する。
大きな双乳をたっぷりと持ち上げるように揉み、ぷるぷると揺らし
ながらマッサージをする。
捏ねくり回しながら鎖骨側に手を回し、山の麓を揉みほぐしてやる。
﹁あぁう、そこ気持ち良い・・・。いっつも凝るのよ・・・。﹂
﹁肩もして欲しい?﹂
﹁して欲しい、けど今日はこれぐらいで良いわ。そろそろアタシも
907
攻めたげる。﹂
蕩蕩と溶けそうな表情で愛撫とマッサージに身を委ねていたウェン
ディーヌだが、むくりと体を起こすと首筋に唇を寄せてきた。
てろ∼り、と音が聞こえそうな程大胆に舌を這わせ、首筋を強く吸
い上げる。
﹁お、おい!﹂
﹁えへへ、キスマーク付けちゃった♪﹂
パーカーのフードでギリギリ隠せるかどうかと言うかなりきわどい
所である。
﹁マコやキャロルに気付かれたらどうするんだよ・・・。﹂
﹁マコちゃんはどっちにしろ気付くでしょ。キャロルちゃんもあん
だけベッタリなら気付かれると思うわよ?﹂
確信犯かよ、言いかけた時であった。
﹁気付かれたくなかったのならせめてドアの鍵ぐらい掛けたらどう
かしら、ハジメちゃん??﹂
げっ!
﹁私は御主人様がどなたとどう言う事をなさろうと決して気にした
り致しません。でも仲間外れは寂しいですよ?﹂
げげっ!
﹁明日から暫く御主人様に会えなくなるのです。﹂
﹁キャロルちゃんの言う通りよ。何2人だけで盛り上がってんのよ。
リヴィエルが産気づく前に片付けなきゃなんだから明日からは思い
っ切り飛ばしていくわよ?前日ぐらい羽目外してもバチ当たらない
わ。﹂
908
﹁御主人様、みんなで楽しみましょう?﹂
淫卑な前夜祭の始まりであった。
909
戦前の夜想曲 ※︵微エロ︶︵後書き︶
やっぱり私の作品は展開が遅いですね。次回は久し振りにハーレム
Hが書けそうです。
910
戦前の狂詩曲 ※︵前書き︶
メインヒロインお揃い記念ハーレムH大会開催です。ら、らめぇぇ
ぇ!↑意味なし
911
戦前の狂詩曲 ※
キャロルとマコ。
2人とも風呂から出て来たところなのか既に一糸纏わぬ姿で、体か
ら湯気が立ち上っている。
﹁4人でするのは初めてね?﹂
マコがベッドに上がって来た。と言ってもこの部屋は殆どのスペー
スがベッドで構成されているのだが・・・。
﹁マコさんともウェンディーヌさんとももっともっと仲良くなりた
いです。みんな御主人様が好きなのですからもっと仲良くなれるで
す。﹂
キャロルももそもそと布団を這い回って近付いてくる。
体
体型だ。胸はぺったんこ、陰毛も
ロリ巨乳
ウェンディーヌとマコは体格も体型もかなり良く似ている。小柄で
幼女
細身だが出るとこは限りなく出ている、と言う所謂
型だ。
一方のキャロルは完全に
産毛と見間違う程の物が申し訳程度に生えているに留まっている。
﹁御主人様、精神抵抗力を解いて下さい。﹂
﹁精神操作を使うのか??際限が無くなっても知らないぞ?﹂
﹁こっちは3人です。明日から暫く出来ないんですから暴走するぐ
らいで丁度です。お薬も使って頂いて結構ですよ?﹂
今のところ精力は満ち足りているのを感じるので薬は不要だ。
キャッツアイ
きらん、と猫目石の瞳に深紅の光が灯ったかと思った瞬間、体の奥
912
底から欲望がわき上がってくるのを感じた。
目の前に征服すべき雌どもが涎を垂らしながら征服されるのを待ち
望んでいる。
暴走し過ぎないようにコントロールしつつ、心の深くに潜んでいた
獣欲を少しずつ解放する。
﹁マコさん?ウェンディーヌさん?﹂
﹁はい?﹂﹁どうしたの?﹂
2人が無防備にキャロルの方をふり勝った瞬間。
イビルアイ
きぃぃぃんっ!と魔眼が発動した時の金属音が2人の脳裏に走る。
﹁みだりには操ってませんよ?お二人の中の御主人様への愛情を少
々素直に表現出来るようにして差し上げました。﹂
﹁﹁あああぁぁぁ・・・・・・﹂﹂
2人はがくがくと体を震わせる。
羞恥心や外聞、他人の視線を気にして今この場で開放出来ていなか
ったハジメへの想いが溢れかえって体を焼き尽くす。
﹁ハジメ・・・。﹂﹁ハジメちゃん・・・。﹂
﹁好き・・・。﹂﹁抱いて・・・。﹂
もじもじと足を擦り合わせ、触れもしないのに股からは蕩蕩といや
らしい蜜が溢れ出ている。
一方のハジメもそれを見て満足げに笑みを浮かべる。
﹁どっちから抱いて欲しい?﹂
﹁ア、アタシ・・・。﹂﹁ハジメちゃんのこれ頂戴??﹂
2人とも同じように口を開いたがマコは開いた口でハジメの肉棒に
舌を這わせ態度で示していた。
913
﹁マコ、おいで?﹂
ベッドの上にあぐらをかいたハジメが両手を広げる。
にちゃる・・・﹂
お互い既に前戯は必要ない。
﹁ちゅぶ・・・
口付けを交わしながら互いの背中に手を回す。
マコは自分からハジメの肉棒に膣口を擦り合わせ、キスをしたまま、
ぬぢゅる、と挿入した。
ナカ
﹁くふぅぅっ!来たぁっ!アタシの膣内いっぱいにされてるううぅ
ぅっっ!﹂
ハジメは座ったままの姿勢で激しく突き上げる。
﹁ああうぅっ!凄い!凄いよハジメェェッ!!おかしくなりそうな
のおおっ!﹂
ハジメは腕を離し、背をもたげ、ぶるんぶるんと上下に揺さぶられ
ている双乳に手をやった。
たか
ふっくらと柔らかいが、中身に少し芯を残した固さがあり、押せば
同じ力で押し返す。
ナカ
騎乗位に移動した2人の周りに残りの2人が集る。
﹁ハジメのオチンチン、マコちゃんの膣内にこんなに入ってる・・・
。マコちゃん、愛液ごぼごぼ泡立っちゃってるわよ?羨ましいわ・・
・。﹂
ぺろり
﹁きゅふううぅぅううぅぅんんんんんっっっ!!﹂
ウェンディーヌにクリトリスを舐め上げられ、突然の刺激に激しく
914
逝ってしまった。
﹁マコさん、アタシより年下なのに・・・。こんなおっきなおっぱ
い反則です。﹂
かり、と乳首を口に含み、二つの膨らみを思い切り揉みしだくキャ
ロル。
﹁あふうぅっ!ダメ、ダメダメ、今そんな事されたら・・・。﹂
逝ったばかりで敏感になっている体を弄ばれ、余りの快感に恐怖を
覚えるマコ。
しかし3人は遠慮のない愛撫を続け・・・。
﹁逝く、逝く逝く、また逝っちゃうぅぅっっ!!!﹂
下から突き上げる快感、クリトリスから感じる体の芯への快感、そ
して乳房から感じる背徳的な快感。
ぐちょる
ぐぢゅる
全てが綯い交ぜに成って何度目か分からない程の大きな絶頂を迎え
た。
ぬっちゃ
﹁きゅふうぅん!!﹂
にぢゃり
﹁マコ、俺も逝くよ?受け止めろ!!﹂
﹁来てえぇえっ!ハジメちゃんの精液で、アタシのオマンコに赤ち
びくびくん!!
どびゅりゅるるりゅるりゅるるるるう
ゃん植え付けてえぇぇぇっっっ!!!﹂
どぐん!
うぅぅっ!!!
﹁あ゛あ゛あ゛あ゛あああああうううぅぅぅうっっっ!!!!!﹂
◆ ◆ ◆
915
ハジメの上で激しく逝った後、力なく横に倒れ込んだマコ。
ウェンディーヌがそっと寝かせてやった後、キャロルと2人でマン
コに舌を這わせた。
﹁溢れて来ちゃってる・・・。勿体無い。。﹂﹁御主人様の精、美
味しいです。﹂
四つん這いになってマコの膣口を味わっていたウェンディーヌ。
しかし・・・。
ずぐん!!
﹁あぐうぅっ!?ハ、ハジメ??﹂
﹁そんなに俺の精液が欲しいんならこっちにくれてやるよ。﹂
﹁そ、そんな行き成り!!﹂
﹁あ、そうか?なら・・・。﹂
するり、と抜いたかと思うと、
﹁キャロル、おいで?﹂
﹁はい!!御主人様!!!﹂
四つん這いの体勢のまま高々と尻を掲げ、精一杯マンコを開いてみ
せる。
﹁い、いや、アタシも、アタシもして欲しいの!!﹂
﹁なら、2人、ここに四つん這いで並んで。﹂
﹁最初っから素直になれば良いんですよ。御主人様は優しいんです
から。﹂
ぐじゅうぅっ!
916
ウェンディーヌの濡れきったマンコにハジメの肉棒が勢いよく進入
していく。
﹁きゅううっっん!来たぁっ!やっと来たよお・・・。これが、こ
オク
れが欲しかったの。ハジメのオチンチンでいっぱい突いて欲しかっ
たのおっ!!!﹂
ぱぁんっ!ぱぁんっ!
オク
ナカ
﹁あ゛う゛うぅ!これ、これすごいよおおおっっ!!子宮口が、子
宮口がコツコツって当たって!!膣内がキュンキュンよろこんでる
ううぅっ!﹂
するり
﹁え?﹂
快感が昇っていく途中で中断されたウェンディーヌが、2度目のお
預けに苦悶の表情を浮かべる。
ナカ
それに構わずハジメは3人分の欲液に塗れたそれをキャロルの膣内
に突き込んだ。
ナカ
﹁くうん!御主人様の肉棒を感じます・・・。御主人様、キャロル
の膣内は気持ち良いですか??﹂
﹁ああ。キャロルのマンコは最高だよ。キャロルだけじゃない、ウ
ェンディーヌも、マコも、みんな大好きだよ。みんな仲良くしてく
れると嬉しいよ。﹂
ねちょる・・・﹂
その言葉にハッと表情を変えて、ウェンディーヌはもぞもぞとキャ
むちゅ・・・
ロルに這い寄っていく。
﹁んちゅ・・・
快感に踊るキャロルの顔に手を添え、キスを重ねる。
しかもそれは獣魔契約のそれだ。
﹁アァ・・・、キャロルちゃんの快感が届いてくる・・・。一緒に
917
気持ちよくなろう。﹂
そう言うとウェンディーヌは起伏の少ないキャロルの胸にやわやわ
と手を添えた。
﹁キャロルちゃん、暫くお留守番ゴメンね。出来るだけ早く帰って
来るから。﹂
﹁ウェンディーヌさん・・・。﹂
キャロルと口付けを交わしているウェンディーヌに再びハジメのモ
ノが挿入って来た。
既にキャロルとウェンディーヌは固く抱擁を交わし、口付けを交わ
し、互いの感情と快楽を共有している為、今度はウェンディーヌも
驚きはない。
幾度もキャロルとウェンディーヌを行き来する。
﹁きゅうぅん!あふぅん!ねぇハジメ、もうアタシ駄目かも・・・
!!何回も、何回も逝ってるの。
入れられてない時もいっぱいいっぱい逝ってるの!!このまんまじ
ゃアタシ馬鹿になっちゃいそう・・・。﹂
﹁ウェンディーヌさん、私もです。。御主人様のが気持ちよくて、
ウェンディーヌさんの気持ちよさが伝わってきて、何回も何回も逝
っちゃってますぅ・・・。﹂
ナカ
ハジメも絶え間ない嬌声を上げる2人の恋人を前にして限界が近い。
﹁ウェンディーヌ、逝くね?膣内に出すから2人ともアソコを寄せ
合って?﹂
2人は所謂サンドイッチの体勢を取る。その隙間で激しく擦り上げ
るとハジメの背中にむずむずとした快感が固まりになって登ってき
た。
ナカ
﹁逝くよ!2人とも膣内で受け止めてっ!!﹂
918
どくううぅん!どくどくどくどくどびゅりゅるるるるるっっっ!!
﹁あぐぅううっっ!!熱い、熱いよお、ハジメえええぇっっ!!﹂
ナカ
﹁ごしゅじんさまああっっ!!愛してますう・・・。﹂
ナカ
射精をしながら鶯の谷渡りで2人の膣内に精を放つ。
最後の1滴をキャロルの膣内で絞りきり、ハジメは2人の上にごろ
んと横たわった。
◆ ◆ ◆
その後、息を吹き返したマコ、手と口だけで!!と乱入したリヴィ
エル、クロノス、オトヒメと乱交を繰り返し、気付けばすっかり日
が暮れて次の日が昇っていた。
数日後、出立の準備を整えた俺の元にマコがやって来た。
﹁ハジメちゃん?﹂
﹁何?マコ。﹂
クエスト
﹁アタシとウェンディ姉さんとキャロルちゃん、全員着いたわよ?
?﹂
﹁︱︱!?﹂
﹁今朝パンドラで診たら着いてたわ。この依頼、2か月、掛けない
わよ?そんな時期にどたばた出来ないからねっ!!﹂
それを言うなら既にマズいだろ、とは口が裂けても言えないハジメ
であった。
919
戦前の狂詩曲 ※︵後書き︶
実際の妊娠成立は勿論もっと時間がかかりますし、個体差有ります
が、固い事は言いっこ無しです。
920
常夏の街に訪れた厳冬の猛威︵前書き︶
ゴルダ編、本格的スタートです。今回こそ3回ぐらいで終わらせた
いです。
921
常夏の街に訪れた厳冬の猛威
ゴルダの街へ着いたハジメ達3人が最初に行ったのは大きめの物置
小屋を購入する事であった。
1000万程度で買ったその物置は外からの見た目は何の変哲もな
い小屋である。
街の中心部から少し離れており人通りが少なく、後一歩でスラム、
と言う様な絶妙な位置を選んで購入を決めた
しかし扉を開けばバラキ謹製の空調設備が整っており、火の使用が
黒一角獣
可能な調理場と3人が横になれる大きなベッドが有る。
中ではブラックホーンホースのハヤトとオウカ、ケンタウロスのア
マツカゼ、オトヒメ、タイタンが休める場所も作ってある。フレイ
ム・イエティのメドーアは元々雪山の獣魔な為、外の雪を掘って室
を作ってそこで休ませている。トールも同様だ。無論、目立たない
ように入り口は偽装してある。ハジメは獣魔を連れ歩く際に必ずし
カネ
体力
も大量の魔精石が必要な訳ではないが、その分自身の魔力を大量に
消費する。つまり、魔精石か魔力か、どちらかを消費するので必要
の無い時は拠点となる小屋で休ませているのだ。
そしてこの小屋はウェスタに生息地を聞いて新たに仲間にしたハウ
ススペクターの﹁ティンキー﹂が管理しており、例え全員が出払っ
ていようと感覚共有で内部の情報が掴める。
街自体はこの小屋から半径20km程ですっぽり覆える程度のそれ
程広くは無い街である。
本来ならば海を中心とした観光産業と流通業で活気に満ちあふれて
いるはずなのだが・・・。
﹁こりゃ見事だな・・・。﹂
922
街の積雪量は多いところで3m、豪雪地帯にも匹敵する。
更に日が昇っている時間帯にも関わらず気温は零下5度。寒さに慣
れた地域の人間ならば兎も角、常夏の国で真冬日などと言うのはイ
ンフラも整っていない上にそもそも街の人間が慣れていない。
道は除雪などと言う習慣の無い地域な為、放置されたままであり、
黒一角
辛うじて人通りのある大きな道だけが踏み固められている状態だ。
獣
ハジメ達は街について最初の夜に主立った道をブラックホーンホー
スの牽く雪馬車で走り回り、簡易的な除雪作業とした。まだこの街
で目立つ訳にいかないが、放置するには余りに酷い状況だった為、
人通りのない夜中に行ったのだ。
動きの早い商人や気の早い人間等は粛々と街を後にしており、今残
されているのは動くに動けない人達、即ち老人など即座に動きの取
れない人や、引っ越しの資金が無かったり引っ越し先が決まらなか
ったりして物理的に脱出不可能な人達だ。このままでは経済の空洞
化も進む事も予測される。そうなれば街の行き着く先はゴーストタ
ウンかスラム街だ。
3人の普段着は強力な防寒機能も備えているので全く寒くないし、
このまま雪山にアタックする事すら可能なのだが、そのままでは余
りに周囲から浮くのでダウンジャケットを買い、周りに合わせる事
インベントリ
にした。何より、魔法金属をなめしたマントは悪目立ちし過ぎるの
で収納スペースの中だ。
そして今。
ティンキーとマコが食事を準備して、ウェンディーヌは1人でハジ
メの寝姿を見守っている。
いや、彼は単に寝ているのではない。マイクロ∼ズの五感ソナーを
923
町中全域に張り巡らせ、この街の異変について情報収集をしている
のだ。ウェンディーヌはただ見守っているだけではなく、文字通り
無防備なハジメを守っているのである。
20分程の検索から復帰したハジメが集めてきた情報は次の通りだ
った。
﹁異変の切欠は、3か月程前からこの街に吹き出る温泉が水に変わ
った事だった。やがてそれは身を切るような冷水に変わり、今では
すっかり凍り付いて温泉地は完全に氷の原野と化しているらしい。
続いて海流が変化したせいか、北の海には流氷が流れ込み、更にこ
の街は冷え込んでいく。街の南にはゴードン山脈が有るんだが、そ
の山脈のせいでこの街には大量の雪が降り、今に至るという訳だ。﹂
﹁と言う事は温泉地に何らかの処置を行ってみるのが一つの手立て
になるかしら?﹂
クエスト
ウェンディーヌの提案にハジメは頷く。
﹁そんな簡単に行く様な依頼にも思えないけど、先ずはそこから手
を付けてみないと始まらないと思う。それと、温泉に隣接した火山
アストラル・ワールド
地帯で何か火の獣魔の気配を感じた。この状況下で酷く弱っており、
恐らくもうすぐ精神世界に帰ってしまうだろう。﹂
﹁それなら温泉地とその獣魔に火精石を届けに行くというのはどう
かしら?この2つが力を取り戻せば事態は好転、いえ少なくとも悪
転はしないはずよね?﹂
﹁俺も最初はマコと同じ事を考えていたんだ。ただ、この街の問題
はそれだけじゃない。
燃料としての火精石、それに薪が不足した為、物凄い勢いで火精石
と薪が乱獲されている。
街の南西に広がっていた500km2もの森が禿げ山になっている。
自然環境を元に戻すと同時に市民の生活を支えてやらないと同じ事
へ逆戻りだ。﹂
924
﹁火精石の方は温泉地に行って2人でそこを治めている獣魔に話を
聞いてきてくれないか?
俺はこの辺りを治める樹精について自分で調べるのと共にコノハナ
に聞いてくる。
居なければまた分身を生んで貰って連れてくる必要があるだろう。
森の復元に使う土精石も足りるかどうか・・・。﹂
﹁OK。ハジメちゃん、クロノスと1人だけど、危なくなったらこ
へんじゃく
この小屋に跳んで逃げるのよ?フォーンで知らせてくれたらすぐに
治療に戻るからね?﹂
﹁了解。こっちにはアマツカゼが居るしいざとなれば屋敷に扁鵲が
居るから大丈夫だよ。﹂
コンフェデレィトミシィカル・ビースト
ミシィカル・ビースト
﹁潮の流れを変える程街を暖めていたのならおそらくその火の獣魔
コンフェデレィト
は契約獣か召喚獣よね。召喚獣ならアタシが話着けられると思うわ。
﹂
﹁契約獣だったらフォーンで知らせてくれ。出来るだけ早く帰って
来る。﹂
﹁分かったわ。それなら始めましょう。﹂
﹃乾杯﹄とともに軽い口付けを交わし合い、二手に散った。
◆ ◆ ◆
ウェンディーヌとマコは火の獣魔探しに来ていた。
﹁獣魔の気配がするのはこの辺りね・・・。﹂
ウェンディーヌはリヴィエルにここを治めていたという獣魔の情報
を聞いた。
925
何と火の精霊でも上級に位置する
炎のジン
が居たはずだそうだ。
しかし辺りを見渡す限りとてもでは無いが信じられない。
で居場所を分析したらしい。
コミュニケーション
温泉は一面氷に覆われ、活火山ですらマグマが凍り付いている。
鑑定眼
スペクタクル・アイズ
﹁この辺りみたいね。﹂
マコも
コンフェデレィト
幸いにも炎のジンは契約獣に分類される獣魔の筈。
ウェンディーヌでは使役関係は結べないが、何らかの交渉は出来る
筈だ。
﹁偉大なる炎のジンよ、私の名はウェンディーヌ・トライザスタ。
貴方のお話を伺っても宜しいかしら?﹂
ウェンディーヌの呼び掛けに応じて空間に裂け目が出来たかと思う
コンフェデ
と、身の丈200cm前後、赤黒い肌に鋭い目つき、精霊らしく足
レィト
は無く宙に浮いている。体の周りに幾つもの火の玉を浮かべた契約
・・・
獣が現れる。彼は僅かに見える凍り付いたマグマに縋り付くより現
れた。
苦悶の表情を浮かべながら強大な炎の魔力を揺らめかせ暖かな波動
を送ってくる。。
・・・
︵暖かな??︶
ウェンディーヌは怪訝な表情を浮かべる。
本来のジンであれば肌を焼かれるかと思う程の熱気と活気に充ち満
サモナー
イリュージョニスト
ちていて良いはずだ。
﹁召喚師と幻体師の少女達よ。よくぞここまで辿り着いてくれた。
この異変は我一人では手に余る。﹂
﹁貴方の魔力も随分小さく感じます。何が有ったか話して頂けます
か?﹂
926
ウェンディーヌの呼び掛けに、炎のジンは訥々と語り始めた。
◆ ◆ ◆
﹁この度の事は僅か数名の人間を中心として引き起こされた人災だ。
相手は獣魔師ではなくただの人間、但し、恐らくは知恵の回る何者
かが入れ知恵をしておるのだろう。
随分とスムーズにここまで事を運びおったわ。﹂
﹁事の始まりは、と言うか全て同時期に行われた事であるが・・・。
1つ目に、この温泉地域の火精石を﹁雇用拡大﹂の名目で数百人単
位の浮浪者を雇い上げ、めぼしい大きさの物を軒並み拾い上げよっ
た。
2つ目に、南西の森を﹁寺社神殿の改修用木材﹂の名目で軒並み伐
採しよった。
そして3つ目、最後に・・・。﹂
コントラクター
少し声を詰まらせて彼は言う。
﹁我が最愛の少女、我の元契約師を毒殺しおった。﹂
﹁﹁︱︱!!﹂
コントラクター
流石にマコもウェンディーヌも言葉が無い。
強大な炎のジンを味方に付けた契約師を真正面から倒しにかかるの
は確かに難しい事だろう。
しかし、毒殺などと言う搦め手を取られては、マコのように能力で
見抜けたりしない限り普通の人間と特に変わらない。魔法金属の食
器を使うなどの方法はあるが、低ランクのうちは必ずしもそこまで
高級な物を使用出来る訳では無いし、屋台やレストランなどで混ぜ
るなど方法を選ばなければやり方は幾らでもある。
927
但し、その先にはこの世界の調律者たる
覚悟が必要だ。
獣魔
を敵に回すという
﹁それでは・・・、この度の首謀者はもうお分かりなのですね?﹂
﹁黒幕までは分からぬ。しかし実行犯は分かっている。
コントラクター
ワン・テンシー。この街の奴隷商人だ。﹂
◆ ◆ ◆
﹁マコちゃん、どう思う?﹂
あの後、ウェンディーヌは﹁近々他の契約師を連れて来る﹂と約束
して一旦ハジメと合流する事を決めた。
﹁やり方が上手いのは確かにそうですが、手際が良すぎるのが気に
なります。火精石の収集、森の伐採。
この2つが揃えば、町は冷え込み、暖を取る為の火精石と薪が必要
でしょうから大もうけが出来るでしょう。
しかし、後の一つは別です。﹂
﹁そうよね。アタシもそこが気になってたの。獣魔師を毒殺するな
んてやり方をしたら契約していた獣魔だけならず下手をすれば世界
に喧嘩売る事になるわ。﹂
﹁マコちゃん、アタシ思ったんだけど・・・。﹂
﹁ええ。実行犯は兎も角、黒幕の狙いは炎のジンに有ったのかも知
れませんね。﹂
﹁実行犯には先物取引まがいのやり方で儲けるだけ儲けさせて、本
人の狙いは炎のジンの弱体化にあった、そんな可能性があるんじゃ
ないかしら?﹂
928
﹁同感です。森の状況も確認して先ずはハジメちゃんと合流しまし
ょう。﹂
◆ ◆ ◆
森から帰ったハジメと合流し、ウェンディーヌとマコは先程の想い
を強くした。
﹁俺の方は行ってみたらすぐに樹精が現れてくれた。
しかし、その子は前からここにいたのではなく、前の樹精は森が伐
採された時に何者かに連れて行かれたらしいんだ。何でも前の樹精
は、森が切られて再生にエネルギーを使い、更に木その物の数が減
り弱っていたところを無理矢理に近い形で契約させられたらしい。
ミシィカル・ビースト
今の子はその樹精の後を継ぐ形で他の地から移ってきたらしい。そ
の樹精は世界樹の枝から生まれた召喚獣だったからこの森の再生の
代わりに必要なだけ土精石を与えるという条件で契約してきたよ。
他の奴がチョッカイ出しに来たら何時でも呼ぶように言っておいた。
﹂
﹁やっぱり・・・。﹂
﹁ハジメちゃん、こっちの話も聞いてくれる?﹂
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
﹁・・・どうやら相手さんの目的は強力な獣魔の収集ってとこにあ
ミシィカル・ビースト
るみたいだな。﹂
﹁そうね。召喚獣を狙った複数犯、しかも既に何体か強大な獣魔を
森の木
サモナー
コミュニケーション
使役に置いている可能性が高い。樹精にしても炎のジンにしても、
魔力減を枯渇させたり召喚師と切り離して弱らせた所を交渉に入る、
929
それがこの連中のやり口みたいね。。﹂
最も経験の多いウェンディーヌの意見はこう言う時に役立つ。
契約しているリヴィエルも世界を長く見てきている為、様々なシチ
交渉
とは必ずしも獣魔の都合で折り合いが付
コミュニケーション
ュエーションで判断に説得力があるのだ。
獣魔契約における
く事ばかりでは無い。
その条件が或る程度妥当であれば獣魔も無碍に断る事は出来ない。
ケンタウロスのアマツカゼ・トキツカゼ姉弟の父親が行ったように
力比べなど何らかの方法で断る理由を作らねばならないのだ。
コミュニケーション
﹁そうは言ってもそんな簡単に獣魔が交渉に応じるかな?分からな
いなぁ・・・。﹂
﹁ハジメちゃん、ここからは実際に体動かしていきましょう。先ず
は炎のジンとの契約、それと掠われた樹精の救出よ。﹂
﹁ああ。急ごう。﹂
◆ ◆ ◆
ハジメ達がジンの元へと向かい始めた頃・・・。
﹁﹁﹁︱︱!!﹂﹂﹂
3人が同時に気配に気付いた。
﹁これ・・・。﹂
﹁間違いない。ジンの居るという方角で戦闘が起こっている!﹂
﹁マコ!ジンの居た座標を教えてくれ!!﹂
キスをしながらハジメが吠える。
突然のキスに少し戸惑いながら獣魔契約のキスでパンドラが探し当
てた座標を伝える。
930
次の瞬間、ハジメは何も言わずにクロノスと共に消えた。
跳ぶ
。ハヤト!オウカ!2人を全速力
・・・と、思ったら即座に戻って来た。
﹁済まない!先に戦場へ
で連れてきてくれ!!﹂
拠点の小屋からハヤトとオウカをブレスレットに収納して連れてき
たのだ。
﹁黒幕の顔が拝めそうね。﹂
ウェンディーヌがオウカの馬上で嗤う。
﹁2度と見れない顔にしてやりましょう。﹂
マコは更に不敵に嗤った。
931
常夏の街に訪れた厳冬の猛威︵後書き︶
ヤ、ヤヴァイ、また長くなりそうです・・・。
※9月10日15時40分追記※
ストーリーを書き換えました。
位階の格下げ、と言う裏設定はず∼っと前から考えてはいたんです
が、やっぱり読んでみると﹁どこから出て来たんじゃい﹂感が強く
って何とも納得出来なかったので。
一旦消して書き直しました。
932
宿敵︵前書き︶
84話︵前話︶のストーリーを書き換えました。
位階の格下げ、と言う裏設定はず∼っと前から考えてはいたんです
が、やっぱり読んでみると﹁どこから出て来たんじゃい﹂と言う思
いと、﹁獣魔の種類で強さに順位を付けたくない﹂感が強くって何
とも納得出来なかったので。
一旦消して書き直しました。
933
宿敵
ハジメはマコから受け取った座標の100m上空に居た。
座標そのまんま跳ぶと、障害物にぶつかったり戦闘の邪魔をする可
能性があるし、そもそも戦闘自体が移動している可能性があるから
だ。
それに、かなりの長距離を連続跳躍したので落下しながらエーテル
を補給しないと戦闘行為その物が不可能になる。
フェンリル
︵氷狼だと!?︶
コンフェデレィト
フェンリル
コール
浅黒い肌の男が連れている一見大きな犬のようにも見えるその獣魔
は間違いなく契約獣である筈の氷狼である。
落下しながら残りの距離が10m程に成った時、メドーアを実体化
して2者の合間に飛び出させた。
﹁普段ゴロゴロ寝てる分思いっ切り働いてこい!後で鱈腹、ハリケ
ーンベアと魔精石喰わせてやる!!﹂
メドーアなら氷を喰らおうが炎を喰らおうがエネルギーが増えこそ
すれ何らダメージにならない。
﹁言われるまでもねぇ。こんな面白いバトル、放っといたら後で恨
むぜ!!﹂
フェンリル
両者が打ち合っていた炎と氷をアッサリその身に吸い込み、薄紅色
のオーラを全身に纏わせてメドーアは氷狼に殴りかかる。
﹁うおりぃぃゃゃあぁぁあああっっ!!!﹂
フェンリル
不意の乱入者に反応の遅れた氷狼が土手っ腹に一撃食らい数m吹っ
934
飛ぶも、ごろりと一回転して姿勢を整える。
イリュージョニスト
次の瞬間には闖入者を敵と認め、襲いかかって来る。
サモナー
アストラル・ワールド
﹁炎のジンよ、俺は先程ここに来た召喚師と幻体師の仲間だ。貴方
は見たところ随分魔力を消耗しているようだ。一旦精神世界に戻っ
て頂いた方が良いでしょう。﹂
コール
ハジメはメドーアに戦闘を一旦任せ、炎のジンと会話をする。
﹁ここはお任せ下さい。﹂
アストラル・ワールド
クロノス、トール、アマツカゼも実体化させ、全力勝負のスタンバ
イを見せる。
後ろに立ったジンが精神世界に帰って行くのを感じながらハジメも
気合いを入れ直した。
男に向き直れば、浅黒い肌に銀髪、すらりとした長身に耳は尖って
おり、端正な顔立ちだ。
﹁何処の色男の仕業かと思えばダークエルフのお出ましかよ。﹂
﹁・・・何者か知らぬが、邪魔立てするというならば排除するのみ・
・・・・・。﹂
ダークエルフの男が矢のない弓を引いたかと思うと両の手の間から
金色の矢が生まれる。
︵魔力弓かよ!!︶
コントラクター
アーチャー
それが3本に分かれたと思った瞬間、矢がハジメに襲いかかる!!
アーチャー
︵こいつ、契約師だろう!?弓主のジョブまで持ってるのかよ!!︶
魔力で作り出した矢を飛ばせる魔力弓を使えるのは弓主のみだ。
しかし・・・。
﹁甘い!!﹂
矢自体はまだ対応の余地のある速度だった。
935
つむじかぜ
刀で3本を弾き飛ばしたと思ったら矢の後ろから飛び来るは風の小
精霊シルフの起こした旋風。
﹁くっ!?﹂
避けきれない、そう判断してミスリルの丸盾を展開し受け止める。
地面の石礫を巻き上げながら襲いかかったそれはハジメに小さいな
がらも傷を負わせる。
﹁魔力弓を陽動に使ってシルフで攻撃か・・・。ツインジョブなら
ではだな。だがこっちもまだまだ行けるぜ?﹂
スリーマンセル
1mサイズのチビクロ∼ズを51体展開する。
イリュージョン
それぞれ3人一組を組ませ、波状攻撃を仕掛けながら、隙を待つ。
彼女らの攻撃は何らヒットせず大方がいなされているが、幻体には
単純な物理ダメージが当たらない為問題は無い。
一つ目鬼
亡霊
焦れたダークエルフがブレスレットにキスをしたかと思うと驚く程
の獣魔達が飛び出てきた。
ウィル・オー・ウィスプ、サイクロプス、ガスト、それに・・・。
コンフェデレィト
﹁その樹精は・・・、お前、一体どうやって・・・??﹂
確かに男は強い。しかし、契約獣の強さと明らかに釣り合っていな
い。
ウィル・オー・ウィスプや樹精の放つオーラ、高貴さ、それに釣り
合いの取れる力を持っているようには見えない。
﹁お前を殺してその方々を解放してやるよ。﹂
その言葉を聞いた瞬間、更に驚くべき事態がハジメを襲った。
ダークエルフの解き放った全ての獣魔が、何の指示も待たずにハジ
メに襲いかかったのだ。
﹁御主人様を・・・。﹂﹁殺させなどしない・・・。﹂﹁お前は私
936
達の邪魔・・・。﹂﹁排除をするのみ・・・。﹂
﹁︱︱!!っく!?みんな、目を覚ませ!!一体何だって言うんだ。
﹂
﹁遠慮してんじゃねぇ、ハジメ!!こいつら、﹃隷属の首輪﹄を使
われてやがる!!﹂
﹁何ぃっ!?﹂
フェンリル
一方的に氷狼をタコ殴りにして引き摺り回していたメドーアが叫ぶ。
﹁残念だがこうなったら契約主その物が死なない限り呪いは解けね
ぇ!遠慮してたらお前が死ぬぞ!!﹂
すぅ・・・っとハジメは目を細めた。
﹁貴様は死んでも尚生温い・・・。﹂
この表情が変化した瞬間のハジメを我が身を以て知っているメドー
アはブルリと身震いを起こした。
ディメンシ
ョナルアタック
ハジメが本気で怒った時。その先に待っている明王の如き力を知っ
ているが故に。
・・・・・・
﹁チビクロ∼ズ、﹃多時空より来たれ死の使い﹄﹂
その瞬間、樹精達の相手をしていたチビクロ∼ズの姿がぶぅんと揺
らぎ、全ての獣魔達を雲霞の如く取り囲んだ!!
ョナルアタック
ずががががががががっっっっ!!!!
ディメンシ
︵チビクロ∼ズで﹃多時空より来たれ死の使い﹄を放つだと!?ど
んだけの魔力込めてやがるんだ!!︶
これまでは本体であるクロノスを4分割するのが精一杯だったはず
だ。
937
チビクロ∼ズを展開しながらそれを増やすなど、ハジメの魔力が桁
タガ
外れである事を考えても尚自殺行為に近い。
︵怒りで魔力の箍が外れてやがる・・・。︶
しかしそのかいあってか全ての獣魔は気を失わされていた。
︵??ハジメがいねぇ!?︶
メドーアですら一瞬見失ったハジメの攻撃。
しかし・・・。
がきいいぃぃん!!
チビクロ∼ズで作った死角に跳び、襲いかかったその一撃をダーク
エルフの男はヒヒイロカネの弓で受け止めた。
コール
ヒヒイロカネの刀とヒヒイロカネの弓。息がかかる程の距離で鍔迫
り合いをする2人。
力量はほぼ互角。
但し、体格差でダークエルフが有利。
徐々に押し始めた、将にその時!!
﹁来い!タイタン!!﹂
瞬間、2人が完全に影になる程の大男が実体化される。
﹁ゆけ!タイタン!!グランドヒット!!!!!!﹂
ハジメもろとも潰す勢いでタイタンの拳がダークエルフを撃つ!!
﹁トール!!雷撃最大限!!!﹂
辺りが真っ蒼に染まる程の雷撃が上空で待機していたトールの槍先
から降り降りる。
938
既にハジメはチビクロ∼ズを解除し、クロノスと天空を舞っている。
これ以上は無い程の徹底した一点集中型の攻撃。
拳と雷が交互に打ち付けられる。
タイタン、トール、ハジメ、全員が肩で息をしている。
しかしそれでも尚・・・。
がらり
瓦礫が動いたかと思うとダークエルフの声が聞こえる。
﹁まさかタイタンを隠しておいたとは・・・。隠し球は最後まで使
わない、か。驚かされる。﹂
今度こそ瓦礫ががらがらとどけられたかと思うと満身創痍ながらダ
ークエルフが立ち上がって出て来た。
﹁しかしそれはお互い様だ。﹂
﹁アイアンギア・・・。﹂
魔法金属生命体のその獣魔は、鉄壁の壁になる代わりに殆ど攻撃力
を有さない。
ただ、身を挺して全ての攻撃を受けきる、それのみの存在だ。
ハジメは、こちらの世界に来て初めて全力で倒しきれない相手に出
会った。
黒一角獣
﹁炎のジンの入手には失敗のようだ。どうやらそちらの援軍が来た
ようなのでこの勝負は預けておく。﹂
戦闘に集中していて気付かなかったが、ブラックホーンホースに乗
939
ったマコとウェンディーヌが到着していた。
﹁名前を・・・聞いておこう。﹂
ハジメが死闘を繰り広げた相手に見せた小さな敬意。勿論尊敬など
出来る相手ではないが。
コレクター
バランス・ブレイカー
﹁アイデン・シラキ。︻蒐集家︼のアイデンだ。﹂
﹁ハジメ・タカナシだ。︻常識ぶっ壊し︼のハジメだ。﹂
アイデンはシルフに風精石を与え空に舞うといずことも無く飛び去
った。
940
宿敵︵後書き︶
アマツカゼが活躍してない?見えないとこで傷治したりしてるんで
すよ!!ぷんすかぷん!!
941
復讐と復旧︵前書き︶
奇跡的に3回で終わりそうです。
942
復讐と復旧
﹁ゴメンなさい、間に合わなかった・・・。﹂
しきりに2人が頭を下げてくる。
しかし、あそこで2人が突っ込んでいて勝機が有ったかと言われる
とかなり怪しい。
インヴォーカー
実力的には一人一人でも伯仲しているだろう。
しかし、相手は明らかに獣魔師同士、獣魔同士の戦いになれていた。
﹁アテネさんの目的がはっきり分かったよ。今回、彼女はこの原因
がアイデンにある事を知っていた。恐らくSランク以上の共通の敵
テストクエスト
として何度も相まみえているんだろう。戦場で彼の目的を邪魔して、
アイツの戦い方を肌で知る事、それが今回の本当の検定依頼の内容
だろう。﹂
﹁・・・アタシ達、戦えなかったんだけど。﹂
﹁その為にクロノスが居るんじゃないか。あそこで見た映像はチビ
クロ∼ズで過去に戻れば何度でも見れる。何かにそれを映し出した
りする方法も考え中なんだ。恐らくフォーンの技術が応用出来ると
思う。﹂
しつこさ
だと思
﹁俺も見てるから何となくだが再現出来るぜ?アイツ、恐らくSラ
ンク以上の実力がある。﹂
﹁戦って感じた事なんだけど、アイツの強さは
う。あの時、俺はトドメをさせたと思った。でも、俺はこっちに来
て初めて倒しきれない相手に出会った。勝負には殆ど勝っていたけ
ど勝ちきれなかった。多分、この先もそんな戦いが続くだろう。何
十回戦っても負けないだろうけど、何十回戦っても決着が着かない、
943
そう言うしつこさがアイツの強さだと思う。﹂
インヴォーカー
﹁獣魔同士の戦い、獣魔師同士の戦い、それが行われるのがSラン
ク以上の世界って訳ね。ハジメちゃんみたいなのを相手にすると思
うと気が滅入るけど・・・。﹂
﹁負けてらないわね。帰ったら早速獣魔達との組み手、始めなきゃ。
﹂
﹁ああ、そうだな。でもその前にこの事件を片付けよう。
炎のジンよ!!﹂
ハジメの呼び掛けに応じてジンが姿を現す。
﹁ジンよ、黒幕を倒しきれなくて申し訳ない。貴方を救うので精一
杯だった。﹂
コンフェデレィト
ミシィカル・ビースト
﹁素晴らしい力と心であった。こちらからも契約を申し出たい。﹂
﹁それなんだけど、契約獣ではなく召喚獣として契約を結びたいの
ミシィカル・ビースト
だけど良いでしょうか?﹂
﹁召喚獣??確かに揮える力は大きくなるが・・・。﹂
コンフェデレィト
ミシィカル・ビースト
﹁貴方を契約獣として連れ歩いてしまうとこの地の火の魔力バラン
インヴォーカー
スが保てなくなる。貴方には普段は召喚獣としてこの地を治めて貰
いたい。﹂
バランス・ブレイカー
﹁成程・・・。そうは言っても普通の獣魔師では不可能な方法なの
だがな。流石は異世界から来た︻常識ぶっ壊し︼だな。﹂
﹁その二つ名はSランクになればバイバイですよ。それよりも・・・
。﹂
﹁うむ、ハジメ・タカナシよ。この地を救い、お主の旅の一助とな
る事を願い、契約を申し出る。ジン・ヴォルケーノの名に於いて。﹂
﹁ジン・ヴォルケーノ、この地の魔力バランスを整えて下さい。貴
944
方の前の契約者の敵討ちに行きましょう。ハジメ・タカナシの名に
於いて。﹂
額に開いた第三の眼。世界を見通し世界を調整する為のその眼に口
付けをし契約は完了した。
その瞬間より、ジンを取り巻いていた真っ赤な火の玉が白に近い赤
へと変化し、明らかに周囲の気温が上昇した。
雪に包まれていた温泉がじわりと融け始める。
﹁・・・ふむ。。やはりまだ全ての温泉を溶かすには至らぬか・・・
。﹂
﹁十分でしょう。この地に火精石を配置したいと思うのですが位置
を教えて頂いて宜しいでしょうか?﹂
﹁うむ、あちらにこれを10程、こちらに20程・・・。﹂
ジンの説明が続く。
﹁メドーア、お前手伝え。﹂
﹁え!?俺かよ!!さっき散々戦ったろう!?﹂
﹁普段寝てるだけなんだから手伝えって。報酬の魔精石上乗せでト
ライホーンバッファローも付けてやるから。﹂
﹁・・・分かったよ。﹂
﹁何だかんだ言いながらちゃんと働く辺り、メドーアも丸くなった
じゃない。﹂
ウェンディーヌが話しかけてくる。
﹁アイツは粗にして野だが悪ではない。力を持て余してたんだよ、
きっと。﹂
﹁ハジメちゃんとの組み手でしょっちゅう伸されてるから力が発散
出来てるってとこかしら?﹂
945
フェンリル
﹁そう言う事。アイツ、最初会った時よりもかなり強くなってるぜ
?俺が見た感じだと今日の氷狼は本来互角に近かったと思う。氷が
メドーアに効かなくて炎が弱点だった、って言う相性は有るけどア
ソコまで一方的にタコ殴り出来る相手じゃなかった筈だ。﹂
眺める3人の眼前で次々火精石を配置していくメドーアであった。
◆ ◆ ◆
﹁火精石の効果が現れるまでには凡そ1か月は掛かる。それまでの
間に町を暖められなかったらまたこの石が取られてしまうぞ?﹂
﹁大丈夫。今度はそうは成らない。って言うかさせない、って言う
べきかな。﹂
﹁そうね。行きましょう。小物の実行犯の元へ。﹂
マコの言葉に、ジンがはっとした表情を見せる。
﹁ジン、マコとウェンディーヌが奴が溜め込んでるはずの薪と火精
石を見つけ出す。マコの前では隠し事が出来ないからあっという間
に見付かる筈だ。
俺も捜し物は得意だからワン・テンシーって奴をすぐに見付けてや
る。後は文字通り、煮るなり焼くなり貴方の自由にすれば良い。灰
すら残さず一瞬で焼くか、皮からジワジワ焙り焼きにするか。全て
貴方の自由だ。貴方にはその権利がある。﹂
﹁生きている事を後悔して、死なせてくれと懇願するまで焙り続け
てくれよう。彼女が呷った毒のように臓腑から焼いてやるのも面白
い。﹂
精神構造が人よりも高尚なはずの獣魔が見せる苛烈な感情。
火の獣魔だからか、或いはそれ程の怒りなのか。
946
﹁わ、分かった。兎に角どんな奴かイメージを俺に送ってくれ。す
ぐに探し出してやる。﹂
ハジメに送られてきたイメージは一見人の良さそうな小太りの中年
男。
普通
な男だった。
髪の毛は焦げ茶の七三分け。中小企業の中間管理職と言われたらそ
んな気がしそうな
すぐにでも検索を始めようとしたハジメをウェンディーヌが止めた。
﹁一旦、拠点に戻りましょう?体力を回復させないとここでは危な
いわ。﹂
◆ ◆ ◆
ハジメ達には疑問があった。
山を伐採した薪の行き先だ。
どう考えても体積的に保管する場所が考えられない。
インベントリ
服従の首飾り
で捕まえられ
しかし、ワン・テンシーを検索したハジメは恐ろしい事実を知る事
になる。
インヴォーカー
インヴォーカー
﹁低ランクの獣魔師達が100人程
ている・・・。﹂
﹁まさか・・・。獣魔師をただの収納スペース扱い??﹂
服従の首飾り
、幾ら奴隷商と言えども簡単
ウェンディーヌの怒りももっともだ。
﹁しかしこれだけの
コレクター
に手に入らないだろう??﹂
﹁どう考えても︻蒐集家︼のアイデンが関わってるんでしょうね。﹂
マコも怒りが漏れ出ている。形は違うが、彼女も自らの自由が利か
ない状態の経験があるから尚更だ。
947
インヴォーカー
獣魔師達が拘束されてる場所はワン・テンシーの居場所からやや離
れている。
恐らくアイデンが監視していたのだろう。
インヴォーカー
﹁俺とジンでワン・テンシーを殺る。獣魔師達はこのままだと奴隷
として競売に掛けられて売られてしまう。2人で止めに行ってくれ
るか??﹂
この世界には奴隷制度はあるが、犯罪者であったり、借金の形であ
ったりと一応、合法的な物しか本来認められていない。この場合は
明らかに闇奴隷だ。
インヴォーカー
﹁100人の獣魔師が誰かの手に流れたら一国の軍隊に匹敵してし
まう。必ず止めなきゃね。﹂
ウェンディーヌが言う通り、低ランクとは言え、練度の低い兵隊な
ら1人で100人程度は余裕で相手に出来るのだ。
﹁行こう。﹂
短い確認の後、3人は散った。
◆ ◆ ◆
インヴォーカー
マコは一応座標は聞いていたが、パンドラの能力でも探し当ててい
た。
インヴォーカー
一応、何人かの獣魔師が守衛として働かされており、逃亡を防ぐ為
の相互処置は為されているようだ。
︵でもまぁ、隙だらけね・・・。︶
獣魔で攻撃を出させる間もなく15人程居た守衛役の獣魔師達はパ
ンドラの手刀とウェンディーヌの﹃ウォーターガン﹄でアッサリ気
948
絶させられた。
︵・・・アタシ達ってこんなに強くなってたの??︶
毎日毎日1人で多くの敵を相手にしながら5年間の旅を続けてきた
ウェンディーヌだからこそ分かる成長具合であった。
︵ウェンディ姉さんはハジメちゃんを散々殴り飛ばしてますからね。
︶
2人には軽口を叩きながら進む余裕すら有った。
インヴォーカー
100人の獣魔師達を眼前に、マコとウェンディーヌは結構非道い
扱いをした。
全員を昏倒させて、後ろ手に縛り上げてから首飾りを取ったのだ。
彼女らが敵か味方か証明する物が無い上に、首飾りで服従させられ
てるので余り呑気な解放をしていて反撃を食らっては困るからだ。
◆ ◆ ◆
インヴォーカー
で完全に心を壊されていた。腕も少しは立つようだ
一方のワン・テンシーの側にも何人かの獣魔師は居たが、こちらは
隷属の首輪
った。恐らく、Cランク程度の力は有ったのだろう。
ハーモニー
残念な事に開始コンマ数秒以内にクロノスクエイクで目を回してい
る上に、オトヒメの調べで拘束されている。
﹁た、たすけてくれえぇっ!!﹂
みっともなくも這い蹲り命乞いをしてくるワン。形振り構わず命だ
け助けて貰おうなどと言うつもりなのか?
助けて、助けて
って心の中で繰り返した。﹂
﹁ユメナも同じ気持ちだっただろう。毒を飲んだ彼女は何度も何度
も
﹁俺は言われた通りにやっただけなんだ!!俺じゃなくても誰かが
やってた。俺は運が悪かっただけなんだ!!!﹂
949
﹁ならば、運試しをさせてやろう。﹂
ジンはそう言うと1個の火精石を取り出した。
﹁飲め。﹂
﹁・・・は??﹂
いし
﹁この火精石を飲めと言っている。火の魔力たっぷりのこの石、飲
むと同時に少しずつ魔力を解放するように術式を組んである。体を
焼くその魔力に耐え切れば生かしてやる。﹂
つまりは体の中から身を焼かれる拷問に耐え切れば生かしてやると
言っているのだ。
﹁そ!そんな!!死ねと言っているに等しいじゃ・・・﹂﹁リヴィ
エル、﹃ウォータースライサー﹄﹂
文句を言おうとしたワンの右手が肘から先で体から離れる。
﹁お前を殺すだけなら何時でも出来ると言う事が分かっていないの
か??﹂
言いつつ、極上ポーションを投げ渡してやる。
片腕で必死に開けた後、飲み干し、切れた手を繋げて大きく息を吐
く。
﹁苦痛に耐えきり運が良ければ生かしてやる。お前達奴隷商のやり
口だろう??﹂
ワンは意を決して石を飲んだ。
飲み込む為に使ったワイングラスの水があっという間に蒸発する音
を立てる。
950
﹁ぐえぅううおおおぉぉぉ・・・・・・。。。。。。﹂
﹁帰ろうか、ハジメ。﹂
ワンにチラリと目をやり、踵を返してジンが声を掛ける。
あの魔力に耐えきれるかどうか?
リヴィエルで体内に丸一日水を召喚しつづけて持つかどうか。そん
なレベルだ。
一般人なら明日には消し炭になっているだろう。
から1人ずつ根気よく解放していく。
覗き見えた炎の精霊の瞳からは暖かな水が溢れ出ていた。
◆ ◆ ◆
服従の首飾り
インヴォーカー
1度に解放してパニックを起こされると厄介だからだ。
火精石と薪を回収して、獣魔師ギルドの名の下に市民に必要な分を
赤字が出ない範囲の廉価で渡していき、残りは再利用した。
先ず、火精石は温泉地にばらまいた。
多ければ多いだけ復興が早くなるし、多すぎた分は不要になった時
にジンに回収して貰えばよい。
次に余った薪。
ミシィカル・ビースト
これは森の跡地で焼き畑の要領で木の養分として、イワナガ︵森で
契約した召喚獣︶に与えるととても喜んだ。
森の再生に掛かる時間は早くても3か月は掛かるところだったが、
951
火
と
木
の魔力バランスが取り戻され
これならば2か月で行けるだろう、と言う事だった。
バランスを崩していた
るまでは更に時間が掛かるが、3か月後、隣町に春が来る頃にはこ
の地も暖かな春の息吹に包まれて居るであろう。
952
復讐と復旧︵後書き︶
テストクエスト
次回、総まとめします。Sランク検定依頼編、次回で終了予定です。
953
命芽吹く春︵前書き︶
少し時間が飛びます。
954
命芽吹く春
ハジメ達はその後、ゴルダの街とカシュールの屋敷を往復する生活
を送った。
事件自体は片を着けたが、崩れた魔力バランスが元に戻るまで2か
月近く掛かる為、監視を続けなければならないからだ。
雪はその後も降り続いたが、1か月ほどすると海流が元に戻ったせ
いか降り方が緩やかになり、温泉地が元の泉量を取り戻すにつれて
熱気に耐えかねて少しずつ溶けていった。
森の再建も亀の足取りながら確実に進んでいる。
イワナガがト●ロの儀式︵命名ハジメ︶を行うと雪を割ってぴょこ
んと木の芽が吹いた。
ここでは大規模な焼き畑を行ってあるので、雪自体もうっすらと残
っているだけで、養分も十分だ。
1か月が経つ頃には背丈の倍程の木に辺りは覆い尽くされ、新緑が
鮮やかであった。
◆ ◆ ◆
﹁後ちょっとで向こうは片付きそうだな。﹂
ウェスタが淹れてくれたお茶とケーキを食べながらハジメ達は団欒
していた。
﹁そうね。森も森らしくなってきたし、温泉もあっついのが噴き出
てるしね。﹂
ウェンディーヌはソファにごろりと横たわっているリヴィエルに目
をやり呟く。
﹁本当ならリヴィエルにちゃんと海流の調査に行って貰いたいとこ
955
なんだけど・・・。﹂
﹁む∼∼り∼∼∼。労働基準法に基づいて産休と育休を申し出るわ
∼。﹂
すっかり大きくなったお腹を撫でながらぐでぐでと文句を言ってく
る。
﹁一体いつの間に覚えたのよ、そんな言葉・・・。﹂
マコが嘆息を吐く。どうせエッチの時とか答えるに決まっているの
でもう一々突っ込まない。
﹁しかし御主人様、どうなさるんですか?産むまでも大変ですけど
生まれてからも大変ですよ?オトヒメさんとクロノスさんを含めて
私達5人も後8か月程で生まれてくるんですし。子守しながら冒険
なんて大丈夫なんですか?﹂
確かにそうなのだ。赤子を抱えての冒険というのは余りにもリスキ
ーな為、女性の冒険家は妊娠した段階で引退する人達も多い。
﹁それは私達に任せて貰えれば大丈夫だ。﹂
﹁﹁﹁・・・誰??﹂﹂﹂
ぴしっとしたメイド服に身を包んだ金髪碧眼のフランス人形のよう
な美貌を誇る少女がそこには立って居た。
﹁ウェスタ・・・?﹂
﹁流石に我が主は気付くのが早い。私達は家事全般をする為に生ま
れた存在。当然、子守もお手の物だ。
もう暫くしたらゴルダの小屋も引き払うのだろう?それならばケイ
ティも連れてきて貰えれば私達2人で十分に子守が出来る。﹂
﹁ウェスタって・・・﹂﹁女の子だったんだ・・・﹂﹁しかも美少
女・・・﹂
956
﹁我々には本来性別がない。概ね主と対になるように出来てはいる
が。家事全般には伽も含まれるのでな。主に頂いたウェスタと言う
名も屋敷を統べる女神の名前だろう?﹂
ファミリア
﹁げっ!気付いてたのかよ!!﹂
﹁我々が操獣魔だと忘れて居ないか?名を授けて頂いた瞬間の主の
感情は感覚共有でちゃんとこちらに届いている。﹂
﹁ハジメちゃん・・・。﹂﹁ハジメ・・・。﹂﹁御主人様・・・。﹂
﹁ご、誤解だっ!そもそも俺がそんなこっちの世界に詳しい訳無い
だろう!?﹂
弁解するもウェンディーヌは冷たく言い放つ。
﹁どうだか・・・。ククリに聞いたわよ。同年代の話し相手として
こっちの世界の事を少しでも教えて欲しいって言ってた事。﹂
げっ!あの裏切り者めが!!男と男の友情を何だと思ってる!!
﹁ククリ曰く、﹃男同士の友情より、姉さん含めた女性の怒りが怖
い﹄ですって。﹂
読まれてる。先回りして読まれておる。
﹁分かったよ。確かに勉強はしてたけど今回はほんとに知らなかっ
たんだって。﹂
もう開き直りである。
﹁マコ?﹂
マコがウェンディーヌの言葉に静かに頷く。嘘は吐いていない、と
言う合図だ。
﹁とっ、ところでっ!!みんなのお腹の中の赤ちゃん、男の子か女
の子かもう分かる??﹂
957
スペクタクル・アイズ
﹁ああ、それね。パンドラの鑑定眼使えば分かるけど・・・。﹂
﹁生まれるまでのお楽しみの方が楽しいでしょ?﹂
ウェンディーヌがお腹を擦りながら優しげな表情で微笑む。
あの表情が母性なんだろうか?男にはどうも分からない。
と、女性陣が勝手に頷き合っている。
﹁アタシ達で決めたの。みんながみんなの子供。性別は生まれるま
でのお楽しみにしようって。﹂
﹁そうなのか。それならそれで楽しみにしておくよ。﹂
アストラル・ワールド
﹁ハジメ∼∼、アタシそろそろあっちの世界に戻ろうと思うんだけ
ど・・・。。﹂
﹁アレ?そうなの??こっちで産まないの??﹂
﹁アタシ達は向こうに帰って産むのが一般的なの。こっちじゃあん
まり力揮えないからいざという時に危ないでしょう?子供が暴走し
ても止められないし。﹂
子供の暴走なんて物もあるのか。
﹁ああ、暴走って言っても一瞬よ?産声上げる瞬間、赤子とは言え
龍の咆哮が響き渡る訳だから。精神が弱い者が周りにいると色々面
倒なのよ。﹂
ここにいる面々はプランセッスの針が通らないぐらい丈夫な面の皮
な気もするが、まぁ轟き渡ったら問題だしな。
﹁分かった。それならククリに頼んでその時はそっちに行くよ。﹂
﹁了解∼。アタシも初めての経験だから良く分からないけど、長老
達の話だと後1週間ぐらいらしいわ。﹂
後一週間。静かな興奮が屋敷を包んでいた。
◆ ◆ ◆
958
3日後。ハジメ、マコ、ウェンディーヌは最後の確認にゴルダまで
来ていた。
スペクタクル・アイズ
﹁アイデンもあれからチョッカイ出してないみたいね。﹂
マコが辺りに異変がないか、鑑定眼を使って隈無く見渡していく。
正直、後1度ぐらい再チャレンジに来るかと思っていたのだが予想
外にも彼の動きは大人しい物だった。
何ら手を出してくる様子も無いので、今回は諦めたのかと思ってい
たのだが・・・。
Alive,
1000億ミュールの賞金首、
しかしギルドのデータベースで賞金首リストを調べたウェンディー
or
ヌの印象は全く違った物だった。
コレクター
﹁Dead
インヴォーカー
︻蒐集家︼のアイデン﹂
獣魔師ギルドは確かにかなりの財政規模を誇るが、1000億ミュ
隷属の首輪
で使役させられた獣魔は確認出来ている
ールと言えば1年の予算の1%近い。それだけの重犯罪者だと言う
事だ。
これまでに
だけで15種25体。
前回の戦闘で見たのなどほんの一部という事だ。
ハジメは拠点のベッドで横になっている。
ハジメもマイクロ∼ズを展開し、五感ソナーを打ち出して周囲全域
をここ1か月の様子も含めて検索しているのだ。
﹁一度だけ来た様子があるな。しかもこの屋敷の近くまで来ている。
結局ここは見付けられなかったみたいだが、やはり凄まじい執念だ
な。﹂
﹁もうすぐリヴィエルが帰っちゃう。その間アタシは完全無防備。
ここは引き払った方が良いかしら?﹂
959
﹁森も温泉も後一歩、復旧迄時間が掛かる。こっちから完全に手を
引いた事がバレるのもマズい。ここは俺が一人で殿を務めよう。み
んなはカシュールの屋敷に戻っておいてくれ。何かあればすぐにフ
ォーンで。﹂
﹁了解。気を付けてね、ハジメちゃん。﹂
3人は軽くキスを交わし合うと別行動を取った。
︵聞いていた通りだ。リヴィエルは何も気にせずにそっちでゆっく
りしててくれ。身重の君が出て来られて人質にされたりでもしたら
そっちの方が面倒だ。︶
︵有難う。そう言うドライなとこ好きよ。合理的で良いわ。︶
︵勿論、愛してるよ?︶
︵アリガト、アタシもよ。︶
◆ ◆ ◆
更に数日後・・・。
ひたすらに待機を行っていたハジメの元にウェンディーヌから連絡
があった。
﹁来たわ。奴よ!!﹂
この短期間にハジメ達の本拠地まで調べ上げたというのか。
しかし・・・。
﹁こっちも獣魔が大勢来ている。Aランクの獣魔が20体程だ。俺
とクロノスはこっちを守らないと森と温泉がマズい!!﹂
ゴルダの異変の解
﹁そんな!それじゃぁこっちはマコちゃん一人じゃない!!﹂
テストクエスト
であって、カシュールの館で起こっている事は関係ないはずだ。
﹁キャロルも戦えるだろう?今回の検定依頼は
決
﹂
960
﹁た、たしかに!!慌ててて考えられてなかったわ。・・・ってそ
れじゃぁ、ハジメが一人じゃない!!﹂
﹁その為に俺一人でここの殿を任されたんだよ。今回はアイツを倒
。﹂
せなくって良い。ただ、耐えてくれ。30分したら俺もそっちに
跳ぶ
﹁・・・ほう。Aランク20体相手に30分か。大した自信だな。﹂
獣魔を通してこちらに会話が届く。
﹁訂正させて貰おう。Aランク22体とSランク3体だ。時間は5
分で良い。﹂
一つ目鬼
亡霊
﹁・・・そこまで見抜いているのか。ならば遠慮はしない。正面か
ら総力戦だ。﹂
ウィル・オー・ウィスプ、サイクロプス、ガスト、樹精、スフィン
クス、グリフォン、キメラetc・・・。
偽りの主に仕える歪んだ喜び。彼等のねじ曲げられた精神を感じ取
り、ハジメがぽつりと零す。
!!﹂
﹁何時か必ず助けてやる。今は拳を向ける俺を許してくれ。﹂
ゆけ!マイクロ∼ズ!!﹃クロノス・クエイク﹄
・・・・・・
きっ、と正面を向き直り声を張り上げる。
﹁
﹁﹁﹁﹁︱︱!?﹂﹂﹂﹂
瞬間。
辺りに満ちていた魔力が萌葱色の霧に変化したかと思えば無音の振
動を起こした。
攻撃対象はマイクロ∼ズの検索エリア内に居た全ての獣魔。
マイクロ∼ズが起こした空間振動は或る意味その結界内に居た者全
てを餌食にする。
961
彼
攻撃を受けた獣魔達ですら困惑の瞬間すら許されない程の圧倒的な
攻撃力だった。
リコール
という余りにも強大な魔力を必要とする方
本来攻撃力を持たないマイクロ∼ズ、それらで攻撃する方法は
女ら自身を武器とする
法だった。
全体の内の7割は魔力切れで召喚解除しており、ハジメも大きく肩
で息をしている。
アストラル・ワールド
しかしその効果は絶大で、一瞬でAランクやSランクの獣魔が昏倒
させられ、精神世界へ帰って行った。
ハジメはマイクロ∼ズを解除し、エーテルを補給した後、カシュー
ルの屋敷に向かって最速で飛翔し始めた。
◆ ◆ ◆
サモナー
ウェンディーヌは早々にメドーアとアマツカゼに連れられて退避し
ていた。
﹁フレイム・イエティと召喚師の姿が見えんな・・・。別行動を取
った事から何らかの意味があるとは思ったが・・・。病いか?いや、
ここにはケンタウロスも居た筈だ。大抵の病いなど物の数に入らな
いだろう。まぁ良い。チャンスである事に変わりはない。大量の獣
魔、残らず我が物にしてくれよう。﹂
﹁獣魔は物じゃないわ。キャロルちゃん、行くわよ?﹂
﹁了解です、マコさん。﹂
彼等は今、屋敷の庭で対峙している。
ウェンディーヌは屋敷の中で、ウェスタとメドーア,それにアマツ
962
カゼが守っている。
屋敷の周りには土蜘蛛達の網が縦横無尽に張り巡らされ、一寸の踏
み入る余地も無い。
﹁キャロルちゃん、分かってると思うけどこれは防衛戦よ?1時間
耐えればハジメが来てくれる。そうなればこっちの物。OK?﹂
隷属の首輪
があります。下手な攻
﹁言われなくてもですよ。私はまだまだ御主人様達に敵うと思って
いませんから。それに敵には
撃を防がれて獣魔に着けられたら終わりですから。ここはプランセ
ッス達しか使いません、宜しいですね?﹂
﹁OK、数は何匹程集められそう?﹂
﹁今日はいっぱいですよ。この1か月に増やした100万、全投入
サエズリバチ
で行きます。﹂
サエズリバチ
100万の雲雀蜂。
雲雀蜂の群れの上限値に近い。
その数ならAランク獣魔を圧倒する実力を持つ。
﹁キャロルちゃんの仕事は唯一つ、その大群で本体を取り囲んで頂
ファミリア
戴。恐らくはアイデン本人はアイアンギアで絶対防御の態勢を取ろ
隷属の首輪
を着けられたら終わりだからね?﹂
うとする筈。本体を取り囲んだら他の操獣魔は退避させて。生半可
な戦力では
﹁分かりました。でも本当に一人で大丈夫なんですか?﹂
サエ
﹁アタシの﹃エンマ様のお仕置き﹄が有れば守りの戦闘はお手の物
ズリバチ
よ?それよりもキャロルちゃんは無理に攻めず貴女自身の守りも雲
雀蜂にさせるのよ?﹂
﹁了解です。行きましょうか。﹂
963
命芽吹く春︵後書き︶
中途半端ですが、書けたところまでアップします。
964
Sランカー三重奏︵前書き︶
不定期更新ですが、毎日沢山の方に読んで頂けて感謝です。
965
Sランカー三重奏
ウェンディーヌは冒険者として旅立って初めての焦燥感を味わって
いた。
﹁焦んじゃねぇ。お前は今、戦力じゃなくて弱点でしかねぇって事
アストラル・ワールド
を開き直れ。
あっちの世界に帰ってる水龍王もお前次第であちらさんに取られち
まう事忘れんな。しかも、お前らは既に1人の体じゃねぇんだ。﹂
思いもかけずメドーアに励まされてウェンディーヌは驚きを隠せな
い。
﹁アンタに叱咤されるとは思わなかったわ。それに、意外と優しい
とこあるんじゃない。﹂
﹁俺達は個体数が少ねぇ。その分、血の繋がりとか親子の情に篤い。
ガードクエ
自分で育てるのは冒険者稼業続けながらだと完全には無理にしても、
情だけでも絶やすんじゃねぇぜ?
スト
兎に角、先の話してもしょうがねぇ。今はお前は護衛対象。護衛依
マルタイ
クエスト
頼で対象が勝手な行動とられた時の面倒さは知ってるだろう?大人
しく護られとけ。﹂
ウェンディーヌが苦い顔をする。
偶にと言うか比較的良くあることだが、護衛対象が依頼中に勝手に
﹁私1人が犠牲になれば皆さんに迷惑掛かりません!!﹂等と自爆
死に行くと言う破目に陥るのはウェンディーヌも幾度となく経験し
ている。
もう少しこちらの実力を信用して貰いたいと文句の一つも言いたく
なる。
966
隷属の首輪
今回の布陣はハジメが実力を計算して布いた物だ。
ハジメの計算が外れた事は今まで無い。
最後の最後。自分1人になるまで信じ切ろう。
◆ ◆ ◆
サエズリバチ
﹁くっ!!雲雀蜂か⋮!!﹂
アイデンは攻めあぐねていた。
﹁これはレアな獣魔を所持していた物だ。しかも
が
通用しない獣魔を選んで来るとはな。あの男は優れた軍師でもある
サエズリバチ
と言う事か。﹂
そう、雲雀蜂には隷属の首輪が通用しない。
テイマー
働き蜂に嵌めても彼ら自身に個別の意思が無いので無意味な上に、
女王蜂は操獣師と感覚共有出来る距離であれば何処に居ても構わな
い。戦場に居る必要性が無い為、何処からでも攻撃・防御の指示が
可能なのだ。今はプランセッスしか知らない静かな場所から指示を
送っている。
更にその包囲網を抜けた先にもタイタンと土蜘蛛達が作り上げた土
壁が何層にも渡るドーム状にアイデンを囲んでいる。
サエズリバチ
ここまで来るのに何ら隙を見せた記憶の無いアイデンであるが、攻
撃を仕掛けようとした一瞬に雲雀蜂が猛攻を掛けて来て、その一瞬
後には壁が出来あがっていた。
﹁こちらの動きは予想の範囲内だったと言う事か。良かろう、こち
ホウダンセンカ
らも本気を出そう。
行け、鳳弾仙花よ。﹂
彼の掛け声とともにヒヒイロカネのブレスレットから赤・紫・ピン
ク・白と言った色鮮やかな花とともに茎には種を大量に詰め込んだ
967
サエズリバチ
コール
形の、花を身に纏った乙女タイプの樹精獣魔が3体するりと実体化
した。
サエズリバチ
かと思えば、雲雀蜂が触れていた部分から種が砲弾の如く弾け飛び、
ホウダンセンカ
雲雀蜂の体内に埋まって行く!!!
ホウダンセンカ
撃ち落とされた蜂達はそのまま鳳弾仙花の次の苗床となり、次々に
新たな鳳弾仙花が生え伸びて来る。
ホウダンセンカ
﹁いけない!プランセッス、退却の指示を!!﹂
鳳弾仙花も条件発動型の獣魔である。
自らは一切の攻撃を行わない代わりに、攻撃を受ければ種を弾け飛
ばせ、相手の肉体を苗床として仲間を増やし、防御結界を敷くので
ある。
︵ここまでで40分、御主人様ならそろそろきっと⋮。︶
戦闘が始まってからはハジメと連絡を取り合ってない。
その時である。
﹁只今飛翔中。これから空間転移でそちらに跳ぶ。Aの3地点をフ
リーにしてくれ。﹂
︵来た!!御主人様からの連絡!!!︶
キャロルのフォーンにメールが届く。
屋敷の敷地内はおよそ36地点に振り分けた座標で表されている。
ハジメの空間転移は何もないポイントへの転移で無いと行えない為
の布陣だ。
﹁マコさん!﹂
ホウダンセンカ
﹁こっちにも来たわ。向こうからもタイタン通して見てる筈なんだ
けど⋮。
よっぽど急いでるのね。Aの3は今鳳弾仙花のお花畑だから上空1
00mに来るように伝えたわよ?﹂
968
その間にも攻め手が緩んだのを感じたアイデンは土壁を壊して出て
来るところだ。
﹁中々に優秀な時間稼ぎだった。しかし少し間に合わなかったよう
だな。﹂
彼の周りには4種6体の獣魔。
グリフォン、カグヅチ、ワダツミ、シルフが3体だ。
首輪
を使ってると言っても魔力もかなりの物ね。﹂
﹁どれもAランク以上の獣魔⋮。それを6体も同時に操るなんて⋮。
幾ら
しかし。
同時にマコは勝利も確信していた。
﹁そっちこそ少し遅かったわね。ハジメちゃんの居場所は何かの方
法で知っていたみたいだけど。﹂
﹁⋮??﹂
アイデンは確認する。感知系の獣魔を用いて調べた所、物凄いスピ
ードでこちらに向かってはいるが、後20分はかかる距離の筈だ。
アタック
20分あればこの屋敷の戦力を何割かこちらに付け替える事が可能
だ。
突如。
アイデン
彼の頭上1mにハジメが現れた。
ディメンショナル
﹁行け!クロノス、﹃多時空より来たれ死の使い﹄!!﹂
現れたクロノスは3体。いつもよりもパワー不足だ。
先の戦闘に加えて、全力の移動と転移を繰り返した為、既に何割か
魔力を消費している。
ホウダンセンカ
鳳弾仙花の包囲網から静かに退却したハジメが顔を上げた時に見た
969
アタック
コンフェデレイト
物は、身を呈してアイデンを庇う彼の契約獣達の姿であった。
ディメンショナル
殺し
の
﹃多時空より来たれ死の使い﹄が止んだ時、それでもアイデンは獣
アタック
魔に肩を借りながら立ち上がって来た。
ディメンショナル
ハジメは今回、﹃多時空より来たれ死の使い﹄を初めて
覚悟で放った。
それでいながら殺し切れていない。
当然、無傷ではいない。
ハジメですら残りの魔力は1割を切りかけているし、アイデンも何
割かは被弾している。
唯一何のダメージも負っていないマコが言う。
隷
は通用しないわ。アタシに直接着けでもしない限りね。
﹁今回は引きなさい。アタシはまだ生身。それに、アタシには
属の首輪
この状況下でそれがどれ程困難かはアナタなら分かるでしょう?生
きてる限り何度でも来れば良いわ。次は殺す気でやるからね。﹂
実際身重の彼女等に取ってみれば暫くは相手にしたくない相手だ。
しかもマコは一対多で攻め手に出るのに適した能力ではない。どち
らかと言えば一対多の守りに適した能力である。
実力差があればそれでも攻めに出たであろうが、今回は手負いとは
言え同格or格上が相手だ。
故にマコは強気のブラフを混ぜながら追い払った。
アイデンはハジメ、マコ、キャロルの顔を見渡した上でシルフに風
精石を投げ渡し、いずこともなく飛び立った。
◆ ◆ ◆
﹁まさか3か月でクリアするとはね。ようこそSランクへ。Sラン
970
ク3人のチームなんて貴方達が初めてよ。﹂
アテネにブレスレットの書き換えをやって貰いながら報酬をチャー
ジする。
正直、財産に比べれば5億の報酬は微々たるものだが。
クエスト
﹁世界のバランスを保つ為に街や国単位で事を起こす事、それに世
界の敵たるアイデンの存在のアピール、それが今回の依頼の目的で
すね?﹂
﹁その通り。あの男は本当にしつこいの。SSも何度も何度も殺し
たと思ったのに気付けば新しい獣魔を従えてリベンジに来る。大丈
夫だとは思ってたけど、貴方達の獣魔も無事で良かったわ。﹂
憑物
払いを俺達にさせたんじゃないですか
﹁今回はキャロルが役に立ってくれました。アテネさん、こうなる
事を見越して彼女の
?﹂
にやっとほほ笑んだだけでアテネは何も答えない。
しかし、その表情で十分だ。
﹁や、役に立つだなんて勿体無いです、御主人様。これからもいっ
ぱいキャロルに御奉仕させて下さいませ。﹂
﹁あら?随分懐かせたじゃない?アイデンから隷属の首輪でも掠め
取った?﹂
﹁そりゃないですよ。しかも、そんな生半可な相手じゃないのは貴
女がいちばん御存じでしょーに。﹂
アストラル・ワールド
﹁全く、良いチームになったわね。改めておめでとう。何だかそろ
そろ精神世界でうんうん唸ってるドラゴンさんがいらっしゃるみた
いだから今回はこの辺にしとくわ。
DQNネーム会議はそのうちまた連絡するからね。﹂
﹁OKです。今度、子供達の顔を見に遊びに来て下さい。エレンさ
971
カルテット
ヴォイジャー・オブ・ジョイ
目的有る旅路
がSランカー三
ト
んにも鬼ごっこは別にして何時でも来るように言っておいて下さい。
﹂
リオ
何れSS四重奏として名を馳せる
重奏として世間に名を知られていく始まりの日であった。
972
Sランカー三重奏︵後書き︶
今回も短めで済みません。次回はリヴィエルの出産の予定です。
973
リヴィエルの出産︵前書き︶
間が開きました。書ける範囲で書いていきますが、暫く更新速度が
落ちそうな感じです。
974
リヴィエルの出産
﹁ククリ!!﹂
アストラル・ドラゴン
呼び掛けに応えて真紅の幻想竜が姿を現した。
﹁何だか随分どたばた苦しんでるみたいだけどリヴィエルの様子は
どう?﹂
﹁全く龍らしくも無く苦しみまくってるよ。まぁ、俺達男には生み
の苦しみが分からないからね。余計な事言ったら後でエライ目に遭
うだろうから黙っておくけど。﹂
︽聞こえてるわよ!!︾
二人の脳裏に水龍王の波動が轟く。
声だけは大きいが、いつもの威勢が無い。よっぽどしんどい思いを
しているらしい。
﹁ククリ、龍ってこんなに苦しむ物なの?﹂
とか我が儘言うもんでね。。
﹁いや、龍体で出産すればするりと抜け出る様に生まれてくる筈な
どーしても人型で産みたい
んだけど・・・。
姉さんが
﹂
︽折角ハジメとの赤ちゃん授かったのに。人型で産めるチャンスな
んて龍に生まれてもそうそうないんだから。︾と言う事らしい。
マテリアル・
そう。龍達は人型でのセックスは変態さえすれば可能だが、それと
マテリアル・ワールド
人型で子を授かるかどうかはまた別問題だ。
ワールド
物質界への影響力が龍体に比べて弱い人型では先ず受精と言う物質
界での現象にまで辿り着かないか、受精したとしても龍の強い遺伝
975
子に飲まれて受胎まで辿り着かないか、何れかである。
龍達と人型で受胎が可能なのは、エルフや吸血鬼等の魔力の強い種
族ぐらいであり、純粋な人族であるハジメの子を身籠もるというの
はかなりレアなパターンと言える。
更に人型で受胎しても人型で出産する事は稀である。
体力のある龍体で出産に望めばそれ程苦もなく分娩できるため、多
くの個体はそうやって子を成してきた。
﹁子供も大事だけどリヴィエルの体が一番なんだから、無理せず龍
達のあるがままに出産してくれて良いんだよ?﹂
人
方らしいわ。そんなアタシが人間の子を身籠もるって言う
︽アタシは昔っから長老達を困らせてたけど、龍の中でも特に
間臭い
のも何かの縁だと思うの。アタシ自身も子供もどっちも大事だから
無理はしないわよ?︾
﹁そっか、じゃぁ取り敢えずそっちに行って見ようか。ククリ、頼
める?﹂
はいよ、っとハジメの体を摘み上げると、あーん、とばかりにハジ
メの体を丸呑みにした。
◆ ◆ ◆
﹁この中に来るのも久し振りだな。﹂
考えてみれば、マコの憑物払いに来た時以来だ。
︵ククリにも随分、負担を掛けっぱなしだな。︶
﹁ククリ、リヴィエルはどっち?案内頼める?﹂
︽右手奥から3つ目の扉を姉さんの所に繋いでおいた。俺はとばっ
ちり喰らいたくないから入らないよ?︾
そんなに凄いのか。
976
︽覚悟して行きなよ?扉の向こうでは全力の龍が暴れ回ってるから
ね?︾
かちゃり、と扉を開くと中からはとても女性の出すものと思えない
様な咆哮が轟いていた。
﹁GWOOOORAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!﹂
魔力の波動と共に水流波が巻き起こると、高価な輝きを放つ調度品
が次々壊されていく。
﹁うわぁ・・・。﹂
凄いと聞いていたが、予想以上だ。
思わずブレスレットを装着してしまった。
龍体ならつるりと生まれてくるのでは無いのか。
盾と刀で水流波をいなしながらコツコツとリヴィエルの元へ歩を進
める。
﹁リヴィエル、聞こえる?﹂
腹に手を当て、思念を送る。
ぶるり、と身震いをした後、瑠璃色の鱗の龍が辛うじてと言う風に
こちらを覗いた。
﹁龍の状態でそれって事はよっぽどしんどいんだよね。俺達の子供
なのに全部任せちゃって・・・。ありがとね。﹂
リヴィエルの瞳に理性が戻って来る。
﹁来てくれたのね。あんの根性無しのククリはここんとこ声だけ掛
けるだけでちっとも姿見せないけど。﹂
龍体から人型へと変態すると、ベッドの上に横たわった。
﹁理性を飛ばしちゃってたみたいね。あのままだと産まれた子供が
危ないとこだったわ。有難う。﹂
977
﹁何かして欲しい事は無い?﹂
﹁そうね・・・。汗を拭いて欲しいかな。﹂
ハジメは部屋の隅に置かれたタオルを絞り、額と首筋を拭う。
﹁後は・・・、生まれるまで傍に居て欲しい、かな??﹂
彼女にしては珍しい少し弱気な声。
目を丸くしながらも頷くとハジメはリヴィエルの両手を握った。
﹁しんどくなったら無理せず龍体に戻る事。OK?﹂
人間の出産ならケンタウロスの知識が借りられるし、龍体なら落ち
着いていれば安全な出産が可能なのだが、ここではケンタウロスの
力も借りようがない。彼女が本来の姿で産む事を選ぶのが一番なの
だが、本人が希望している以上どうしようもない。
﹁この数ヶ月、アタシなりに人の出産について学んできたのよ?﹂
そう言えばケンタウロスと何やら話しこんでていた気もする。
アレはそう言う事だったのか。
◆ ◆ ◆
どれぐらいそうしていたのか。
気付けば目の前に赤子の頭部が覗き始めていた。
﹁入るわよ?﹂
声と共にウェンディーヌ、マコ、キャロルの3人が入って来た。
﹁嫌なら出るけど、見てても良いかしら?﹂
﹁貴女達まで・・・。有難う。これじゃぁ、さっきみたいなカッコ
悪いところ見せられないわね。﹂
978
﹁はいはい、さっきのはククリにばっちり見せて貰ったわよ?格好
付けなくて良いから安心して無理せず産む方の集中する事。﹂
ククリ、後でお仕置き、と心の中で付け加えてリヴィエルは再び我
が子と息を合わせ始めた。
◆ ◆ ◆
どれ程の時間が過ぎたのか。
実際には3∼4時間程だった筈だが、その場に居た人間には永遠に
も思える程の時間だった。
ハジメの手にはホエホエと泣く女の子が抱かれている。
﹁瑠璃色の瞳か。目はリヴィエルに似たね。﹂
﹁毛の色は黒になりそうね。産毛がどことなくそれっぽいわ。﹂
﹁間違いなく・・・。﹂﹁ええ、アタシ達の子供ね。﹂
﹁名前は考えてあるの?﹂
ウェンディーヌが問いかける。
﹁一応。アクオラって言うのはどうかな?﹂
﹁良いわね。水の魔力の籠もった名前ね。﹂
リヴィエルが応える。
﹁そうなの?俺にはそこまで分からないけど・・・。﹂
﹁綺麗な龍になってくれると良いわね。﹂
マコがアクオラの瞳を見つめて話しかける。
﹁成るわよ。私達の子ですもの。﹂
﹁ああ。俺達の子供だもんね。﹂
幸せいっぱい、全力でにやける2人であった。
979
◆ ◆ ◆
その後、半年。
つわりや産み月が近付くにつれてウェンディーヌ、マコ、キャロル、
オトヒメ、クロノスが順に戦線離脱して行くに連れて、ハジメはリ
ヴォイジャー・オブ・ジョイ
ヴィエルと2人で依頼をこなしまくっていた。
クエスト
クエスト
目的有る旅路として名を知られる様になってからギルドからの指定
依頼や国からの依頼も増えてきたのだ。
今回の様な理由ならば断る事も出来たのだが、出来る限りハジメは
そう言う方法を取らない事に決めていた。
コレクター
こちらの弱点とも言える情報を外部に晒すと、︻蒐集家︼の魔の手
が伸びないとも限らないし、それ以外にも敵を作っていないとも限
クエスト
らないからだ。
4人分の依頼を1人でこなしているので当然の様に負担は増えるの
だが、﹁これも男の甲斐性﹂とリヴィエルに一言で片付けられ、致
し方なしと言う事で全力で解決に当たっていた。
﹁ふぅ、やれやれ。相変わらずセドリックさんは人使いが荒いねぇ。
﹂
﹁その分、カネ払いも良いから文句言えないわよね。﹂
﹁2人旅始めてから随分楽しそうじゃん?﹂
﹁ふふっ、2人きりでいっぱいエッチ出来るからね。﹂
2人目が出来るのも何時の事やらと言うぐらい毎夜毎夜戦いの傷を
文字通り舐め合っている2人であった。
980
リヴィエルの出産︵後書き︶
短いですが出産編はこの辺で、と言う感じです。
981
出産ラッシュ︵前書き︶
少し日が開きました。暫く書かないと書き方を忘れてしまいます。
982
出産ラッシュ
異世界に来て2度目の冬、ハジメは2男4女6児の父になった。
◆ ◆ ◆
﹁﹁﹁﹁﹁﹁ふんぎゃぉぉ∼∼!!!﹂﹂﹂﹂﹂﹂
6人の泣き声とも成ると流石に喧しい。
さっきこっちで泣き止んだかと思えば次はあちら。
アタック
多時空より来たれ死の使い
ディメンショナル
の数が6体
まともに1人で6人の父親業をやろうとしたらそれこそ幾ら身があ
っても足りない。
﹁子供の相手してる内に
に増えてましたなんて冗談にも成らないな。﹂
人間のみでありながら分身のトレーニングをしてる気分のハジメで
ある。
ここで存在感を発揮したのがウェスタとティンキーのハウススペク
ターコンビである。︵ゴルダの街の拠点は内部を元通りにして売り
払った。︶
2人しかいないし、分身などの手段を使える訳ではないのだが、家
の中の物体は自分の手足として利用できるため、気付けば6人同時
に揺りかごを揺らして寝付かせていたり、哺乳瓶がふよふよと宙を
飛び交っていたりする。
しかも何よりも大事な事に、家事を能力の主体においている存在の
為、24時間ぶっ通しで働いても全く疲れず、寧ろ労働に喜びを覚
えると言う始末である。その為、人間の母親であれば多くが経験し
ている﹁育児ストレス﹂なるものと無縁の存在なのだ。
983
本人達に聞けば少しずつ交代で休んでいるというのだが、感覚共有
で視ているはずのハジメですらどのタイミングで休憩しているのか
条件
が満たされると
分からない。戦闘能力などは︵トラップ等を除けば︶皆無の存在で
あるが、やはりそこは獣魔。条件発動型の
人間などでは及ばない力を発揮する。
11月から12月にかけて、ウェンディーヌ、マコ、キャロル、ク
ロノス、オトヒメの5人が次々と出産した。本人達は﹁何時でも出
陣可能﹂と言っていたが、大事を取って後数ヶ月は休んで貰うつも
黒一角獣
りで居る。何より、リヴィエルが全力で出動中だし、普段連携を取
っていなかったブラックホーンホース・ガルーダ・ケンタウロス・
メドーア達を組ませるだけで殆どの事態に対処が可能なのだ。
﹁本当の出番は春が来てからで十分だよ。そこからはまた物凄く働
いて貰うし、俺一人ではどうやっても出来ない仕事が待ってるから。
﹂
ウェンディーヌはその言葉にハッと身を固くする。
他の面々も次の大仕事が何であるか、言葉に出さずとも分かってい
るのでハジメの発言で気分を引き締めた。
﹁いよいよやるのね。サイカ島の再建。﹂
ウェンディーヌは妊娠したせいか、この一年でまた少し胸が膨らん
だ様に思える。
このまま縮まない事を切に願うハジメである。
﹁最初の大仕事、姉さんとハジメちゃんとリヴィエルね。リヴィエ
ル、この3人なら大丈夫よね?﹂
﹁100%と言えるやり方でない事は確かよ。でも多分大丈夫だと
思う。
そうね・・・。例えて言うなら、死なないと言い切れる手術はない
984
けど、限りなく安全に近付けられ得る程にアタシ達の絆は太いし、
2人の魔力もそれを扱う技術も優れていると言って良いわ。過去、
これだけの条件でアレをやって術者が命を落としたパターンは無い
わね。﹂
﹁﹁﹁﹁﹁﹁ほんぎゃぇぇぇ∼∼∼!!!﹂﹂﹂﹂﹂﹂
クエスト
﹁あ、アクオラ達がぐずってるみたいね。今日はこの後依頼もない
し、久し振りに一緒に寝てあげようと思うんだけど良いかしら?﹂
﹁良いよ。ミズキとマミヤもそうする?﹂
リヴィエルとの間に産まれた子供、アクオラは半龍半人であった。
寝てる時も時々勝手に龍の姿に戻ってたりする。
龍の咆哮を勝手に上げられても困るので魔力自体はリヴィエルが術
を施してかなり抑えてあるが、リヴィエル曰く﹁龍同士の子供より
も魔力が強い気がする﹂との事だ。
金髪碧眼に千手観音の如く手を無数に生やした少女が抱っこと授乳
と説明され、成程と納得
屋敷に取り憑いている時はこ
を同時に行いながら赤ん坊達を連れてきた。人間体の時のウェスタ
だ。最初見た時はぎょっとしたが、
の1本1本で屋敷の構造物を動かすのだ
してしまった。
﹁そうね。昨日はウェスタ達にみて貰ったお陰でアタシは良く寝れ
‒
ウェンディーヌの娘はピンクのふわふわヘアーに藍色
てるし、今日は一緒に寝ようかしら?﹂
ミズキ
の瞳、昼間に絞っておいたミルクを口に含んで機嫌を直した様子だ。
ウェンディーヌはそのまま受け取り、哺乳瓶からミルクを与え続け
る。
‒
マコの息子は黒髪黒目、まだ半分ぐずぐず
﹁ア、アタシはどうしようかな・・・。﹂
マミヤ︵真実也︶
985
言っている。どうも子供達の内で一番利かん気が強いのがこの子の
様だ。マコは哺乳瓶をウェスタに返し、自らの乳を加えさせた。と
くん、とくん、と暖かな乳を飲みながら次第に穏やかな寝息を立て
始めた。子供達はこんな感じで寝ては置き、起きては吸い、吸って
は寝るの繰り返しだ。
マミヤは起きるスパンが短い為、昨日一晩付き合っていたマコは少
しお疲れの様だ。
マコはこの一年で更に胸が成長した。いや、胸だけでなく体全体が
成長した。10cm近く身長も伸びて、幼い見た目もぐっと大人び
て来た。背丈は元の世界の頃と同じぐらいまで成長したが、ここか
ら一気に花開く様に雰囲気も大人っぽく成って来る筈である。
カーミラ
キャロルはそろそろ起きてくる時間帯だ。
女吸血鬼である彼女は本来が活動時間は夜だ。
冒険中は他のメンバーに合わせて昼間に活動しているが、それは出
来るからそうしているだけであって、本来は夜の方が得意なのだ。
彼女の娘はカーラ。黒髪、黄色のキャッツアイの両親の遺伝子を仲
良く引き継いでいる。ダンピールであるので昼間の活動もよりやり
やすくなるだろう、とはキャロルの見立てである。
︵クロノス、どうする?︶
︵私もカイロスの顔を見ながら寝ます。︶
クロノスとの間に生まれた子供は純粋な人間であった。
だが、普通ではない。
魔力量が半端無いのだ。
生後数ヶ月の時点でウェンディーヌ曰く既に﹁宮廷魔術師クラス﹂
らしい。
クロノスと連携で編み上げている時空間を操る攻撃も、ひょっとし
たら或る程度までならば一人で練り上げてしまうかも知れない、と
はリヴィエルの見立てであった。
986
オトヒメの子供は何をしているのかって?
銀髪、トパーズの瞳という母の特徴をそのまま受け継いだ長男オル
コミュニケーション
フェは純粋なセイレーンであった。これは魔力の力関係云々以前に、
セイレーンの子を成す様に
と言葉の
子を成すという条件で契約した二人の交渉が影響していると考えら
れる。ハジメが文字通り、
意味を受け取り、その条件で力ある言葉を発動した為に、セイレー
アストラル・ワールド
ンが生まれたのだろう。
彼はオトヒメと一緒に精神世界に帰ってすくすくと成長をしている。
アストラル・ワールド
セイレーンは寝言で歌を口ずさんでしまう事がある為、コントロー
ル出来る様に成るまでは精神世界で成長させるのが通例らしい。
︵うっかり子守歌も歌えないから大変だよなぁ。︶
一度、オトヒメに子守を任せて外出したら見事にみんなグッスリだ
ったので、実は偶にお願いしたいと思う母親達でもあるのだが。
子供達の健やかな成長を見守りながら、季節はハジメにとって2度
目の春を迎える事になる。
◆ ◆ ◆
※おまけ※
子供達一覧です。
・長女アクオラ:4月20日生まれ。黒髪、瑠璃色の瞳。母親リヴ
ィエル。半龍半人。
・次女カイロス:11月15日生まれ。萌葱色の髪、ダークグリー
ンの瞳。母親クロノス。人間。
・三女ミズキ︵水樹︶:11月28日生まれ。ピンクの髪、藍色の
瞳。母親ウェンディーヌ。人間。
・長男オルフェ:12月1日生まれ。銀髪、トパーズの瞳。母親オ
トヒメ。セイレーン。
987
・次男マミヤ︵真実也︶:12月1日生まれ。黒髪、黒目。母親マ
コ。人間。
・四女カーラ:12月4日生まれ。黒髪、黄色のキャッツアイ。母
親キャロル。ダンピール。
988
出産ラッシュ︵後書き︶
今回も短めです。どちらかと言うと間話に近いですね。
989
鬼ごっこスタート︵前書き︶
100話近く使って漸く物語を書き始める頃に想定していた
のお話に差し掛かりました。
中盤
お前はどんだけ壮大な話を書こうっちゅーんじゃい、って話ですよ
ね。
時系列が前後しますが、前話から5か月ほど前、リヴィエルの出産
の後のお話です。
990
鬼ごっこスタート
︵クロノス、アテネさんに連絡とって。︶
︵わざわざ教えて差し上げなくてもよいでしょうに⋮。︶
︵いや、ここは正面からぶつかって全力でぶちのめしてくるよ。︶
彼
が来るわよ?﹂
︵まぁ、マスターらしいですけどね。︶
◆ ◆ ◆
﹁エレン、いよいよ
﹁後10日⋮。ここから間に合わせるつもりでしょうか?﹂
﹁さぁ?知らないわ。でも本気みたいよ??﹂
﹁ふふっ、彼に会える、それだけで楽しみですね⋮。﹂
インヴォーカー
G−SHOCK
獣魔師ギルドマスター、エレン・ブライトの手に握られていたのは
古風な果たし状。
近々、貴女にお預けしたマジックアイテムを受け取りに参ります。
ハジメ・タカナシ
◆ ◆ ◆
6月も下旬に差し掛かりハジメ達の自宅のある傭兵都市カシュール
近郊は増々暑くなってきていた。
ウェンディーヌはロッキンチェアに揺られながら目立ち始めたお腹
を愛おしげに撫でる。
﹁ごめんなさいね、本当なら手伝ってあげたいんだけど⋮。﹂
﹁いや、別にかまわないさ。これは俺とエレンさんとの個人的な戦
991
いだから。それに、今回は一人でやってみたいんだ。﹂
﹁ところでマコは何処行ったんだ?﹂
﹁知らないわ。﹃妊婦にも運動は必要よ!﹄とか息巻いてたからま
たどこかほっつき歩いてるんじゃないかしら。﹂
コール
﹁主よ、彼女なら庭でパンドラを実体化させてスパーリングしよう
としていたぞ。﹂
﹁痛い、痛いってばウェスタ!!悪かったから耳引っ張らないでよ
!!﹂
マコは屋敷全体を隈なく管理しているウェスタの監視網からこっそ
り逃れようとしてはいつもつかまってを繰り返している。
ウェンディーヌに比べても小柄なマコであるが、まだそれ程お腹が
目立ってこない。
はくたく
妊娠した時期は殆ど同じなのでこれは個人差のレベルだろう、と言
うのがケンタウロス姉弟と白澤の扁鵲の見立てであった。
﹁またかよ⋮。﹂
思わず嘆息を吐くハジメである。
﹁うっ、えっと⋮、いよいよ行くのね?﹂
ハジメに怒られそうな雰囲気を察してすかさず話題を変えるマコ。
﹁うん、今回は一人で行ってくるよ。留守番宜しく。何かあったら
フォーンで連絡してくれ。﹂
﹁了解よ。屋敷の事はアタシ達に任せて。﹂
﹁さて、行くか。クロノス。﹂
992
﹁了解です、マスター。﹂
◆ ◆ ◆
マーマン
マーメイド
この数か月、ハジメも何もしていなかった訳ではない。ガルーダの
無数にある
だ
空域警護隊や魚人、人魚達と連絡を取り合い、世界中を空と海から
隈なく調べつくした。
その結論を言うと、エレン・ブライトの居場所は
った。
各ギルド本部は言うに及ばず、廃屋、ホテル、一般家庭への協力か
インヴォーカー
ら無人島の所有まで使えるものは全部使っている。
獣魔師ギルドマスターとしての本業を考えれば世界中に拠点が在っ
た方が便利なのも勿論あるだろうがそれにしても数が多すぎた。
最初は全数把握のつもりで数えていたのだが余りの多さに馬鹿らし
くなって辞めた。
使役獣魔を通して何度か姿を見かけた事も有るのだが、どうした訳
か見つけた瞬間こっちににっこりと微笑みかけられた。
︵オトヒメが言う通り、俺はまだまだ技が粗いんだろうなぁ。︶
それでもそろそろタイムリミットの半年が来てしまう。
行けるという確信が無くても行くしかないのだ。
◆ ◆ ◆
自身もクロノスと伴に空域警護をしていたハジメのもとにガルーダ
の族長ゼビュロスから連絡が入った。
﹁エレン・ブライトの今の居所が分かったぞ。﹂
﹁何処に居る?﹂
993
﹁儂の目の前だ。﹂
﹁−−!?﹂
ゼビュロスとハジメは感覚共有をしている。
当然ゼビュロスの見えている物はハジメにも見えているわけで彼が
見えているなら見えていないとおかしい。
︵それが見えないなんて⋮。︶
︵マスター、アテネさんから連絡が入りました。﹃一度会って話が
したい﹄だそうです。︶
クロノスから念話が入る。
︵俺もゼビュロスの方から漸く見えたよ。まずはガルーダの里に行
こうか。︶
◆ ◆ ◆
﹁お久し振りですね。お元気そうで何よりです。﹂
﹁何の用⋮、って聞くまでも無いですね。﹂
まなじり
エレンは眦を下げてハジメを見つめる。
透き通った瞳にはウキウキとした少女のような喜びが映っている。
﹁はい、丁寧で古風なお手紙いただきましたのでこちらからもご挨
拶を、と思いまして。﹂
﹁・・・、いきなり仕掛けていかなかった俺が言うのも何ですけど
正面切って会いに来るとは思いませんでした。﹂
﹁アテネから聞きました。あなたの世界の鬼ごっこのルールを。﹂
﹁へぇ、どんな風に聞きました?﹂
994
﹁まずは鬼と子が集まって、10数えるんですよね?後は逃げる範
囲を決めておくとか。﹂
それか。
﹁まずは私が鬼をやりましょう。予行演習です。あまり長々やると
時間稼ぎしてるのか、って思われるのも嫌ですし、追いかける時間
は5分だけでいいでしょう。範囲はこの里を出ないこと、いかがで
す?﹂
﹁面白い、しかしそちらの手の内を見せて良いんですか?﹂
インヴォーカー
﹁私だけそっちの手の内を全部知ってるのも不公平ですしね。﹂
獣魔師の情報はギルドに登録されて居る。余りに不都合なことは一
般のギルド支部レベルなら秘匿可能だがギルドマスターである彼女
の前ではそうも行かない。
﹁では行きますよ?10,9.8,・・・、2,1、0、もう良ぃ
ーかーい??﹂
﹁わわっ!いきなりですね、まぁだだよおー!!﹂
﹁はい、ではあと10秒ですよ。・・・、もう良ぃーかーい??﹂
﹁もう良いよーー!!﹂
◆ ◆ ◆
⋮
⋮⋮
⋮⋮⋮
﹁はぁ、はぁ⋮。﹂
995
﹁ふぅ、ふぅ⋮。﹂
︵まさか、普通の鬼ごっこをする事になるとは。︶
そう、エレンが仕掛けてきたのは獣魔を使わない本当の鬼ごっこだ
った。
それで分かった事が一つだけある。
エレン自身には特に何の能力もない
ギルドマスターとしての仕事で相応に鍛えられているのではあろう
が、身体能力的にはそこいらの部活やってる女の子と大して変わり
が無い。
コール
5分間、疲れはしたが特に苦も無く逃げ切ってしまった。
﹁流石にこれでは捕まりませんねー。﹂
﹁これで捕まったら男が泣きますよ。﹂
二人は一つ汗をぬぐい、対峙する。
﹁ではここからは全力で行きますよ?﹂
エレンの切れ長の目が細められた。
﹁良いでしょう。何秒待てば良いですか?﹂
﹁古来よりのルールに則って10秒で結構です。﹂
﹁10、9、8・・・、﹂
ハジメのカウントダウンに合わせてエレンがアテネを実体化して転
移を始める。
996
﹁2、1,0、もう良ぃーかーい!?﹂
︵もう良いよーー。︶
クロノスを通してエレンの声が聞こえる。
世界を舞台にした鬼ごっこ、スタート!!
997
鬼ごっこスタート︵後書き︶
2年間、本当に長らくお待たせしてしまいました。
待って下さっている人が一人でもいるという状況を知り、自ら殆ど
諦めていた筆を執りました。
お話としては超初期に張った伏線漸く一つ回収。
書き方を思い出したりルビ登録してた単語を一々登録し直したりし
ながらの執筆ですので時間はこれからもかかると思いますが書く意
志はありますので読んでいただければ幸いです。
読了、有難う御座いました。
998
世界を股にかけた鬼ごっこ︵1︶︵前書き︶
またまたお待たせいたしました。
転職をして、仕事に慣れなくてまた更に時間が空いてしまいました。
少し仕事に慣れて、創作活動が息抜きになりそうなのでゆっくりゆ
っくりですが頑張ってみます。
999
世界を股にかけた鬼ごっこ︵1︶
ハジメは以前アテネの転移を見た時の経験から、アテネの転移では
短時間で移動出来る距離には限りが有る事が分かっていた。
﹁10秒で転移出来る範囲となると限られているはず。まずは真正
面から追いかけてみようか?﹂
ハジメはマイクロ∼ズを展開し、エレンの姿を探る。
︵西に3㎞程か⋮。やっぱりと言うべきか意外と近いな?︶
最初は魔力温存のためにハジメはクロノスでの転移や飛翔を使わず、
トールのガルーダ籠でゆっくり︵?︶近付いた。
コンフェデレィト
残り数百mまで近づき、ハジメにも視認出来る距離まで来た時に前
方の空から何かが近付いてくるのを感じた。
﹁風を纏っているな⋮。あれはシルフィードか。﹂
黄色い小さな羽根を生やした見た目は小人ほどの大きさの契約獣で
ある。
風の属性の獣魔であるが、ガルーダよりも風に特化している。
﹁トール、あれを相手する事は?﹂
﹁出来なくは無いですが⋮。ハジメさんを連れて飛翔しながらだと
少しキツイかと。﹂
﹁OK、まぁ最初だし相手の様子を見よう。取り敢えず真正面から
ぶつかてみようか。﹂
ハジメの指示に従って、軽い雷撃を放つトール。
1000
その瞬間。
シルフィードの姿が掻き消えるようにぶれたと思った瞬間、細くし
かし猛烈な強度で竜巻がハジメとトールを包み込む!
﹁うわぁああおおっ!?﹂
そのまま前後左右がない交ぜになるような感覚に襲われ、結局気付
いたときにはガルーダの里近くまで吹き飛ばされていた。
◆ ◆ ◆
﹁想像はしていたが強烈な御挨拶だったな⋮。﹂
ハジメは服についた埃をパタパタと叩きながら起き上がる。
﹁何より恐ろしいのはこちらに傷一つ無いと言う事ですよ。あれだ
けの攻撃をしておきながら敵対の意思がゼロ、しかもそれを難なく
実行しうるだけの精密な魔力操作性ですね。﹂
羽根についた埃が同じく鬱陶しいのか、トールも大きく翼をばたつ
かせている。
勝てない。
このままでは獣魔を扱った戦いにおいて規模と精密性の両面でハジ
メはエレンの足元にも及ばない。
そう思わせるだけの一撃であった。
﹁さて、感心ばかりもしていられない。どうしたもんかな?﹂
◆ ◆ ◆
エレンが次に潜んでいる場所は先程より更に少し離れた小さな森の
中にある小さな小屋であった。
1001
ハジメは近くまでトールに運んで貰い、その先はトキツカゼの背に
乗り近付いた。空ではトールが待機している。
﹁今度はもう少し強めに仕掛けてみるか。﹂
上空から今度は全力の雷撃を放つトール!
しかし。
小屋の周りの木が急ににょきっと伸びたかと思うと避雷針の役割を
して逸らされてしまう。
更ににょきにょきと伸びて来た枝がハジメ達一行を打ち払い、周囲
の蔓が雁字搦めに縛り上げた。
﹁・・・フ○コちゃんに飛び掛かったル○ン状態だな。﹂
これまたかすり傷一つ負わない状態で無力化され、蔓が解けた時に
はエレンの気配はすっかり周囲に無かった。
◆ ◆ ◆
﹁シルフィードにドライアードか。どちらも強力な獣魔で有る事に
変わりはないけどそれにしても制御が抜群すぎるな。﹂
どうしたものか、と考えを巡らせる。
今もマイクロ∼ズを展開して居場所を突き止めてはいる。
エレンもそれを逆探知して次々と場所を変えているが、幸い追跡に
ディメンショナルアタック
関してはこちらの方が速い様で見失う事は無い。
﹁ただ、このままだと勝てないな。﹂
先程の二撃、特に後の攻撃はハジメの多時空よりの死者程ではない
がそれでも雷を得意とするトールの全力の一撃である。
1002
それを難なく受け流されていては他の攻撃がどこまで通じるかも怪
しい物だ。
しかしまずはこちらの持てる戦力を全て投入して対応してみるしか
ない。
﹁メドーア、オトヒメ、君たちの出番だ。﹂
﹁おうよ!﹂
﹁待っていましたよ。﹂
◆ ◆ ◆
暫くしかけていない内に随分と遠くまで逃げられてしまったようで
次の舞台である離れ小島まではクロノスで飛翔する事になった。
小一時間の移動で追いついたハジメはまず逆探知を妨害する事から
始めた。
﹁オトヒメ、行けそう?﹂
﹁向こうの姿が見えないのは精神系の魔力操作ですので私の歌で対
処可能なはずです。﹂
オトヒメの朗々たる歌声が静かな空間に満ち満ちてゆく。
するとエレンの傍に羊頭人体の獣魔が2本足で立ち、角笛を響きな
らせているのが見えた。
相手も音を使って精神攻撃を行うタイプの獣魔である。
角笛の音でマイクロ∼ズの統制を乱していたのであろう。
﹁パーンか。相も変わらず強力な獣魔だな。しかしそれ以上に恐ろ
しいのが今の今までマイクロ∼ズの感知領域にいながら全く姿が見
えなかった事か⋮。﹂
1003
インヴォーカー
︵元々私とパーンの実力はほぼ互角、使役されている獣魔師の魔力
操作の差かやはり向こうがやや有利なようです。︶
︵魔力操作の緻密性では向こうに一日の長が有るね。︶
︵上手く行けばアテネの相手も私がまとめてしようと思っていたの
ですが・・・。この状態では転移までは防げそうにありません。︶
︵そこまでしてくれるつもりだったのか。でも無理なものは仕方な
いさ。向こうほどではないけどこっちも獣魔の手数では中々のもの
のはずだ。メドーア、仕掛けるぞ?︶
﹁了解だぜ!ダイアモンドダスト!!﹂
メドーアの一撃がパーンを狙いうつ!
パーンに直撃するかと思われた攻撃は、直前で大きな火の玉にぶつ
かった。
﹁イフリートか!負けんなメドーア、押し切れ!!﹂
ハジメの叱咤に押され、びよおぅ、と勢いを増した冷気の渦は火の
アストラル・ワールド
玉と押し合いへし合いの後、遂には火の玉を飲み込み、パーンに幾
分のダメージを与える。
ダメージを受けたパーンはそそくさと精神世界に帰還していった。
が・・・。
﹁・・・エレンさんにも逃げられたか。。﹂
◆ ◆ ◆
﹁うーむ、このままではまずいな。﹂
相手はのらりくらり期限まで逃げ切れば良いのである。
1004
勝たずとも良く、負けない戦い方をすれば良いわけで、たとえ勝負
に負けても試合に勝てばエレンはめでたくG−SHOCKをゲット
だ。
﹁仕方ない、クロノス、君の出番だ。﹂
1005
世界を股にかけた鬼ごっこ︵1︶︵後書き︶
読了、有難う御座いました。
次はお待たせしたくないなー・・・。
1006
世界を股にかけた鬼ごっこ︵2︶︵前書き︶
またまたお待たせいたしました。
転職をして、仕事に慣れなくてまた更に時間が空いてしまいました。
少し仕事に慣れて、創作活動が息抜きになりそうなのでゆっくりゆ
っくりですが頑張ってみます。
1007
世界を股にかけた鬼ごっこ︵2︶
サーチ
コール
ハジメの呼びかけに応じ、クロノスはフルサイズで実体化した。
破格の攻撃力と探索能力を持つクロノスであるが、彼女が全力で攻
イリュージョニスト サモナー
勢に出る事は諸刃の剣でもある。
カンパニー
インヴォーカー
これは幻体師や召喚師全般に言えることでもあるが、1体しかいな
い使役獣魔を遠隔で操作してしまうと獣魔師本人の守りが手薄にな
ってしまうのである。
今回、エレンはハジメに傷をつける意思が無いのが先のやり取りか
らも明確だが、守りが手薄になったところを突いて追い払うぐらい
は可能な筈だ。
イリュージョニスト サモナー
・・・というのが普通の幻体師や召喚師の弱点ではあるのだが、チ
ートであるハジメにはこれが必ずしも当てはまる訳ではない。
ハヤトに跨り、オウカ、イザナギ、イザナミ、アマツカゼに四方を
守らせ、念のため、空中からはトールが警邏飛行を行う。
そして、クロノスを含めた残りの獣魔でエレンに攻撃を仕掛ける。
﹁マスター、攻撃のさじ加減はどれぐらいにしておきましょう?﹂
﹁殺し一歩手前で良い。それぐらいでないとエレンさんは捕まえら
れないだろうし、その覚悟で行ったとして致命傷を与えてしまう危
険性も高くは無いと思う。﹂
◆ ◆ ◆
エレンは森の中で息を潜めていた。
否、ただ息を潜めているのではない。
パーンを全力展開し、アテネで次々に転移を行い、ドライアードで
1008
撃退の準備をする。
彼女は今、最高にわくわくしていた。
ギルドマスターと呼ばれるようになってから久しいが、事務仕事に
追われて︵と、本人は思っている。アテネが聞いたら激怒しそうだ
が︶、しかも彼女にとっては退屈な依頼ばかりで全力で体を動かせ
る相手にも久しく巡り会わなかったのだ。
ハジメサイドから見ると突破口が見えない状況であるが、エレンサ
イドからすると決して余裕綽々という訳でも無い。全力で世界を駆
け回り、飛び回り、必死に追い払いながら逃げ回っているのが現状
である。
︵遂にクロノスさんを出してきましたか⋮。︶
これはちょっぴりやばいかも知れない。
そう思いながら高鳴る鼓動を抑えきれず、やっぱりわくわくしてし
まうエレンであった。
◆ ◆ ◆
その瞬間は前触れもなく突然訪れた。
否、対峙している二人と獣魔達にはごく僅か、瞬間に感じ取られた
殺気であったが、それすらもごくごく刹那であった。
デ ィ メ ン シ ョ ナ ル ア タ ッ ク
﹁多次元から来たれ死の使い!﹂
﹁アテネ!|空間跳躍、座標任意で!イフリート、カウンターファ
イアー全力で!﹂
デ ィ メ ン シ ョ ナ ル ア タ ッ ク
交差する殺気と殺気!
ハジメの放った多次元から来たれ死の使いは全力一歩手前の九体。
1009
しかもトールとアネモイの雷撃のオマケつきだ。
一方のエレンも跳躍先の座標をろくすっぽ選ぶ暇もなくアテネに任
せて逃げた上、並みの使い手ならば消し炭になっているレベルのカ
ウンターファイアー。互いに手加減の余力が無い。
ハジメの喰らった炎は見かねて飛び出したメドーアが幾らか被って
くれたが、それでもクロノスともども動くことすら暫く出来なくな
った。草原に横たわるハジメとクロノスの横で、リヴィエルが憤懣
と心配の入り混じった表情で治療に当たる。
﹁お互いやり過ぎじゃない?﹂
﹁これぐらいしないとギルドマスターは捕まらないってことだよ。﹂
﹁それに⋮。﹂ハジメは煤だらけの顔でニヤリ、と口角を持ち上げ
た。
﹁それに??﹂
﹁エレン・ブライトの弱点、見えた気がする。﹂
﹁アテネ、私の弱点、見つかっちゃいましたかね?﹂二コリ、と微
笑むエレン。
﹁彼なら気付いておかしくないわね。さぁ、どうするの?﹂
デ ィ メ ン シ ョ ナ ル ア タ ッ ク
平然と話しているようだが、アテネは満身創痍である。イフリート
とともに多次元から来たれ死の使いをエレンに代わって受け止めた
からである。
﹁全力で逃げる、最初から私にはそれだけですよ?﹂
エレン自身は無傷であるが、魔力切れで暫く動けない。
互いに仕切り直しという形になったが、それも長い時間ではない。
小一時間休憩したところでガルーダ兄弟が近づいてくる気配を感じ、
エレンはむくりと起き上がり逃走を始めた。
◆ ◆ ◆
1010
︵やはり気付かれましたか⋮︶
エレンはひとりごちる。
デ ィ メ ン シ ョ ナ
先ほどからハジメの攻撃の仕方が変化しつつあることに彼女は既に
気付いていた。
ル ア タ ッ ク
小手先調べだった最初の攻撃、全力での攻撃だった多次元から来た
れ死の使い、そのどちらでもないジワジワネチネチとした攻撃に切
り替わってきたのだ。
︵持久戦に持ち込んできましたか⋮︶
軽くいなすことも出来ず、全力で切り返すと更にそのカウンターを
狙われてしまう、そんな攻撃をハジメは先ほどから繰り返している。
いわば八割の攻撃を常に続けているような。
エレンの弱点、それは獣魔が強力すぎるがゆえに燃費が悪いことで
ある。
一撃必殺、それが彼女のやり方であり、殆どそれで片が付いてきた
ため、どちらかと言えば彼女は持久戦が苦手なのである。
︵これは中々に辛いですね⋮︶
シルフィードでケンタウロス姉弟を撃退しながらドライアードでガ
ルーダの風雷をガード。しかしそんな中まだエレンには少し考えを
巡らせるだけの余裕があった。
﹁しかし、まだまだですよ?どうしますか、ハジメさん。﹂
1011
世界を股にかけた鬼ごっこ︵2︶︵後書き︶
読了、有難う御座いました。
次はお待たせしたくないなー・・・。
それと、宣伝です。
ビギニングノベル様より、書籍化決定しました。
詳細が判明次第、活動報告などから追ってご連絡します。
1012
世界を股にかけた鬼ごっこ︵3︶︵前書き︶
この戦いを構想した時から早4年。
1013
世界を股にかけた鬼ごっこ︵3︶
﹁流石はエレンさん、中々に持ちこたえるね﹂
今、ハジメは全力2歩手前という攻撃を繰り返しながらエレンの消
耗を図っていた。
破格の魔力量を誇るエルフ種族のエレンではあるが、世界の外から
やってきてこの世界のリミットをオーバーした存在であるハジメに
はやや及ばない。
そして、エレンは攻撃の仕方が重量級であり、一撃必殺ゆえの燃費
の悪さと、技の後の隙の甘さが付いて回る。
無論、エレンもSSランカーに上り詰めるぐらいであり、燃費の調
整も隙を作らないということも超一流ではあるのだが、超一流の次
元の中で更にランク付けすればこれらの点を彼女はやや苦手として
いた。
﹁まぁ、これで決着つくとも思ってなかったけど⋮﹂
これは殺し合いの勝負ではなく、あくまで鬼ごっこ。エレンは消耗
させられながらでも逃げ切れば勝ちなのである。
いなしたり躱したりしながら引き分ければ良い戦い、言うなればサ
ッカーの勝ち点1を確実に取りに行く作戦を取ることが出来るので
ある。
エレンさん
︵ハジメさん、こちらの魔精石の備蓄がそろそろ切れそうです。ポ
ーションとエーテルはあと少しありますが相手はおそらく更に大量
のアイテムを準備してると思いますが⋮︶
インヴォーカー
念話でオトヒメが伝えてくる。ハジメは膨大な資金力を有するが、
当然ながら獣魔師ギルドマスターのエレンに敵うべくもない。
︵持久戦もそろそろここまでか⋮︶
1014
◆◆ ◆
持久戦は暫く続いた。
少なくとも表向きは。
時に攻めを緩めたかと思えば時には激しさを増す。
8日間を過ぎた日からはハジメも更にギアを上げ、9割の攻撃を2
4時間続けた。
︵ハジメさん、エーテルの備蓄が⋮︶
︵ああ。これで決めよう︶
時は将に昼と夜が混じり合う黄昏時。別名、逢魔が時である。
多くの魔を連れた二人の、決着の時が近付いていた。
◆◆ ◆
ハジメはこれまで戦いながら考えていた作戦を念話で全員に伝えた。
︵マスター、その作戦には賛同できません︶
珍しくクロノスが真っ向から反対してきた。
﹁クロノス、俺を信じてくれないのか?﹂
︵勿論、信じています。しかし、どう計算しても魔力量が足りませ
インベントリ
ん︶
収納スペース内には上級エーテルが1本のみ。
G−SHOCK
︵せめて、極上エーテルであれば⋮︶
﹁言ってても仕方ない、あれを取り返すにはこれしかないんだ。信
じて付き合ってくれないか?クロノス﹂
﹁面白そうじゃねぇか。俺はやってもいいと思うぜ?﹂
好戦的なメドーアが賛同の意思を示した。
﹁私は正直、反対です。あなたの心の旋律は決心のみならず、不安
にも揺れているのが分かりますので﹂
1015
オトヒメからは反対票が入った。
﹁私達は皆、あなたに従いますよ﹂
ガルーダ兄弟+ケンタウロス姉弟は賛成。
﹁これは俺の元の世界の思い出とプライドを賭けた戦いだ。お願い
だから付いて来てくれ﹂
︵⋮分かりました。いつの世でもどうせ女は男の我儘に振り回され
る生き物なんです︶
︵マスター、帰ったらいっぱいエッチしてくれないと絶対許しませ
んから︶
オトヒメの了承を受け、クロノスも何とか説得に応じてくれた。
◆◆ ◆
変化は突然訪れた。
﹁我が友たちよ!多次元から来たりて我に従え!﹂
カンパニー
ハジメの声に伴い、クロノスの萌葱色の羽毛がふわふわと空間を覆
い尽くし、そこをくぐった使役獣魔達が各々2体に増えた。
﹁︱︱!!クロノス自身ではなくガルーダやケンタウロスまで分裂
させたというのですか!?﹂
﹁分裂させたんじゃない!別の次元から呼んだんだ!!﹂
よく見ると毛の色が皆少しずつ違う。
﹁トール達、アネモイ達、アマツカゼ達、トキツカゼ達、行け!ウ
ンディーネを抑えてろ!﹂
﹁こ、こんな!?こらえて、ウンディーネ!!﹂
﹁次は君達だ!メドーア、オトヒメ!﹂
彼らも同じように2体ずつに増える。
1016
﹁行け!メドーア達、オトヒメ達、イフリートを抑えててくれ!﹂
﹁これで丸腰だね?﹂
ハジメが確認するようにつぶやいた。
﹁︱︱なっ!?﹂
﹁今まで、ずっと1体か2体でしか相手してもらえなかったからね。
コンフェデレィト
流石におかしいと思ったんだ。エレンさん、あなたの最大の弱点は、
契約獣1体1体が強すぎることだ。一撃が強力すぎて、同時に扱え
るのが2体が限界なんだろう??﹂
ヴェイパ
アシッドヴォルテ
﹁⋮それを見抜けても2体同時に抑えられたことは無かったんです
が﹂
!!!﹂
﹁お話はこれまでだ!行くよ、リヴィエル達!
ックス
!!﹂
﹁くっ!!仕方ありません、ウンディーネ、イフリート
ーエクスプロージョン
カンパニー
ハジメの使役獣魔達と戦いを繰り広げていたウンディーネとイフリ
ートが弾けながら混ざり合い、戦闘空間が灼熱の蒸気に包まれ、大
爆発を起こした。
﹁﹁﹁﹁﹁﹁ぐああぁぁっ!!﹂﹂﹂﹂﹂﹂
エレンを中心に起こした爆発により、ハジメたちは皆、はるか彼方
に吹き飛ばされてゆく。
︵くっ!このままじゃ負ける⋮︶
﹁負けてたまるか!クロノス、3秒前に飛べ!!﹂
︵︱︱!!マスター!?今、そんなことしたら⋮!!︶
1017
どくん
◆◆ ◆
3秒前。
ヴェイパーエクスプロージョンを発動し、息絶え絶えなエレンを前
に、ハジメはチビクロ∼ズを展開し、仲間たちの捜索を始めようと
したその時。
周囲、各地でずしんという強大な破壊音が響いた。
また、ハジメもゆらゆらと視線が定まらない。
﹁⋮ハジメさん?﹂
ハジメの様子がおかしいことにエレンが気付き、近付きかけたとこ
ろをアテネが飛び出し、ハジメを突き飛ばした。
﹁あなた、何年ギルドマスターやってんのよ、いい加減気付きなさ
い!この馬鹿、憑き物に堕ちかけてるわ。﹂
﹁︱︱!!でもさっきまではそんな気配は⋮?﹂
﹁詳しくはわからないけど時空間の操作のし過ぎみたいね﹂
コンフェデレィト
エレンは別の契約獣を呼び出した。
﹁ゼクンドゥス!彼の時間を憑き物になる前まで巻き戻せる?﹂
︵無理です、私に出来る時空間の操作では届かない時間まで遡らね
ばならないようです︶
カンパニー
﹁エレン、この馬鹿が使役してた使役獣魔全部が憑き物化したらヤ
バいわよ?﹂
﹁⋮彼を殺す覚悟で行かねばならないようですね﹂
エレンの瞳に決意の色が浮かぶ。
ディストーショ⋮
﹂
﹁これは私が起こしたゲーム、後始末は私がつけないと⋮。ゼクン
ドゥス、
1018
エレンが将にハジメに攻撃を仕掛ける瞬間!
ドガドガドガドガガガガガガッガガガガガアアアァンン!!
ハジメ、エレン、更には破壊活動を行う獣魔たちを全て巻き込んで
誰そ彼
で有ったと言われる。
稲光とともに嵐が巻き起こった。
黄昏時。
その語源は
遠くの彼が誰だか見えない時間帯。
その緩やかな闇を真昼のごとく染める雷風を纏って降り立ったのは
⋮。
︵⋮誰??︶
天高く吹き飛ばされたエレンがうっすらと目を開けると、空を埋め
尽くさんばかりの鷲頭の戦士達と、その中に一際若い、額にペリド
ットを埋め込んだ獣魔の姿が目に入った。
◆◆ ◆
﹁うぅっ⋮﹂
頬を撫でる優しい感触にハジメが目を覚ました。
﹁おはようございます﹂
﹁︱︱!?﹂
思わず飛び起きた。
眼前に金髪エルフ、後頭部に太腿の感触、どうやら膝枕されていた
らしいからだ。
﹁まだあまり動かない方が良いですよ﹂
﹁あれ?俺、えっと⋮﹂
記憶が混乱を起こしてうまく思い出せない。
1019
インヴォーカー
﹁目は覚めたか大嘘つき獣魔師﹂
﹁ユピテル!!どうしてここに!?﹂
ぴきっ
﹁どうして、だと??お前は言ったよな?エレン・ブライトを捕ま
えるのはお前たちガルーダだと。それなのに、俺達を戦い前の調査
に小間使いみたいに使った挙句、肝心の戦いの際は呼び声一つかけ
なかったではないか!!﹂
︵あ、やべ⋮。すっかり忘れてた︶
﹁今の思念、念話で漏れてたぞ。言うに事欠いて﹃忘れてた﹄だと
??﹂
︵げっ!?普通、念話って意識しないと漏れないはずなんだが⋮?
?︶
﹁ハジメさん、今日はかなりお疲れですからね﹂
エレンが助け舟を出すかのように話しかけてきた。
ふんっ、と鼻息一つ噴き出すと、ばさりと翼を広げてユピテルは飛
び立った。
﹁俺との戦いの時と同じ方法を使おうとしたらしいが、その顛末が
これだ。よく覚えておけ﹂
﹁ああ、すまない﹂
﹁今度からは俺も傍についてやる。文句言わせんからな﹂
◆◆ ◆
カンパニー
その後、ハジメはエレンや使役獣魔達から事の経緯を聞いた。
1020
﹁鬼ごっこは俺の負けですね﹂
﹁いえいえ、あなたを憑き物にさせてしまったのは確実に私のミス
です。こんなことになって不謹慎ですが、とても楽しかったですよ。
精々、引き分けってとこでしょう﹂
インベントリ
エンチャント
エレンは収納スペースからG−SHOCKを取り出し、ハジメに手
渡した。
﹁これはお返しします。付与魔術もかけておきました。ただ、あな
たの勝ちではなく引き分けなのでこっちのお願いも聞いてください﹂
﹁はい、出来る事なら何でも﹂
コンフェデレィト
﹁ゼクンドゥス、彼の時を可能な限りゆっくり流してあげてくださ
い﹂
時を操る契約獣、ゼクンドゥスの効果で時が止まったかのように動
けない。
そんなハジメにゆっくりと近付くと、おもむろに背伸びをしてエレ
ンはキスをした。
﹁私もあなたの彼女にしてください﹂
1021
世界を股にかけた鬼ごっこ︵3︶︵後書き︶
どうでしょうか?お待たせしてしまった分の期待に応えられる内容
だったでしょうか?感想、お待ちしております。
1022
PDF小説ネット発足にあたって
http://novel18.syosetu.com/n1757bf/
獣魔師達のノクターン
2016年9月13日18時30分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
1023
Fly UP