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財務総合政策研究所主任調査官 寺井順一

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財務総合政策研究所主任調査官 寺井順一
財務総合政策研究所主任調査官 寺井順一
昨今は食品の安全性に関わる事件が頻発し、
国民に不安を与えている。
ところで、輸出入食品と財務省とは、通関業
務の面で少なからぬ結びつきがある。税関では、
申告された貨物の申告書類を審査し、必要な場
合は貨物検査も行なうが、
「関税法」第70条に
規定する事前の許可・承認については、例えば
「食品衛生法」「家畜伝染病予防法」など他省
庁所管の法律についても、所定の手続がなされ
第11代横浜税関長が纏めた「 年記」
(横浜税関所蔵)
ているかを確認することとなっている。また、
財政史』に短く述べられているものの、法律制
貨物の通関手続は通関業者が代理・代行してお
定までの経緯には何ら触れられていない。そこ
り、税関は、輸出者又は輸入者(貨主)の依頼
で、こ れ を 補 う た め、
『昭 和 財 政 史 ― 昭 和
によって貨物の通関手続が適正に行なわれるこ
27∼48年度』第11巻において、税関貨物取扱人
とを確保するために、通関業を許可制とし、上
などの起源について、改めて考証の記述が起こ
記のような通関手続の内容をチェックする仕組
されている。
みとなっている。
税関貨物取扱人(当初は、
「カストム・ブロ
関税行政を担う全国の税関にとって、このよ
ーカー」と呼称)の起源については、明治4年
うな通関手続は、関税の徴収や密輸の取締りな
に大蔵省官吏の服部敢と田代四郎が横浜、神戸
どと同様に極めて重要な業務である。その制度
に出張し、邦人貿易商のための領事査証や貿易
上、手続等でチェックを受ける通関業者及び通
関係書類を作成、通関手続の指導に当たったこ
関士に関する諸々を規定した法律が「通関業
とが確認されている。さらに彼らは、7年の退
法」(昭和42年)であり、同法の制定は申告納
官とともに横浜税関の構内に「開通社」を設立、
税制度の導入(同41年)と並んで戦後において
独立して営業を開始した。同社は、10年には、
は画期的な制度改正であった。
内務省の指導の下に通関手続の代理・代行業務、
さて、
「通関業法」の前身である「税関貨物
船積みの代理業務などへと業務を拡大させる。
取扱人法」(明治34年)に関しては、
『明治大正
当時の通関手続は、各国との間に締結された
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修好通商航海条約に附属する「貿易章程」に基
大正15年には、横浜56、神戸61、大阪54、門司
づき行なわれていたが、明治23年「税関法」
24、長崎5、函館2と、免許会社数は急増する。
「税関規則」が制定され、治外法権をもつ外国
第二次大戦を挟んで税関貨物取扱人制度の消
商館以外の邦人貿易商は、これらの法律・規則
長はあったが、根拠法はそのまま存続していた。
によって規制を受けることとなった。
そして、昭和29年の関税法規の全面改正に当た
やがて明治も30年代以降になると、各国との
り、
「税関貨物取扱人法」を「関税法」のなか
条約改正、わが国の関税自主権の確立など、関
に取り込むか否か等が議論され、通関代理業と
税行政を巡る環境が大きく変化し、通関業務な
しての単独立法化も検討されたが、各種の「業
ど税関の事務は近代化・合理化を迫られること
法」
「士法」創設は行政簡素化に逆行するとの
となる。例えば、32年に新たに制定された「関
見方もあったことなどから、単独の立法化は見
税法」によって、通関手続は大幅に簡素化され
送られた。その後、高度経済成長による貿易拡
る。なお、貨物を輸出入する場合は貨主が税関
大と輸出入通関業務の増大に対処する必要が生
に申告して許可を受けるが、当時から、通関手
じ、まず、通関のスピード化と手続簡素化を目
続を貨主が行なうことは稀で、これらの業務は
的として、昭和41年の「関税法」改正によって
「海送(回漕)問屋」もしくは「貨物積 卸 業
「申告納税制度」が導入される。
者」によって代理・代行されていた。
この制度改正と併せて、
「税関貨物取扱人法」
その後は、条約改正などによって邦人貿易商
全面改正の気運も高まり、ようやく「通関業
による直輸出入貿易が盛んとなり、
「海送(回
法」という実質的な新法が誕生することとなっ
漕)問屋」などの需要も高まって行った。こう
たのである。なお、
「通関業法」の性格は、い
したなか、明治36年の全国税関長会議が開催さ
わゆる「業法」と「士法」の2体系を包含する
れ、横浜税関長が通関業を税関長の許可営業と
ものとなっており、「業法」では、貨主に代わ
することを提案している〔写真は提案文書が収
って輸出入貨物の通関業務(通関手続、関税の
められた「
年記」
〕。その背景には、新しい
納付、不服申立手続等)を専門的に行なう業者
「関税法」の施行によって通関手続が簡素化さ
について規制し、「士法」は、通関業者の営業
れた一方で、税関が慣習に従って通関業への無
所に置かれる実務専門家としての通関士につい
用の干渉を行なっていたことなどがあったとさ
ての資格付与を定めた法規となっている。
れる。結局、この会議においては十分な賛同を
因みに、昭和42年に行なわれた第1回目の通
得られず、その後の海外調査などを経て、明治
関士試験の結果は、受験者3913人に対し合格者
34年4月になって、
「海送(回漕)問屋」など
795人、合格率は20%だった。最近でも10∼30%
の業務の実態を踏まえた「税関貨物取扱人法」
という合格率のようだが、平成15年度は12%と
が制定されたのである。
狭き門だった。食品の安全性、環境問題、感染症
明治44年にはわが国の関税自主権もようやく
予防など国際物流に対する関心がこれまで以上
確立され、大正元年当時の免許取得者は、横浜
に高まっている今日、税関職員とこれら通関業
19、神戸24、大阪11という状況だった。これが、
者の責任もいよいよ重くなっていると思われる。
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