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肺クリプトコッカス症の一例
肺クリプトコッカス症の一例 医学科6年 Y.Y 指導医 K.M 症例 40歳代 男性 【主訴】咳嗽 【現病歴】 会話が困難なほどの激しい咳嗽、喀痰、咽頭痛が出現。近医 を受診し、咽頭炎の診断で抗⽣生剤の内服を開始した その後⼀一旦は症状の軽快をみたが、再び咳嗽が出現したため、 当院呼吸器内科を受診。来院時の胸部単純X線写真にて胸部異 常陰影を認め、精査加療⽬目的に同⽇日⼊入院となった 【既往歴】 ・糖尿病:⾃自⼰己判断で通院中⽌止 ・⾼高⾎血圧:現在内服加療中 【家族歴】⽗父:⾼高⾎血圧、糖尿病 ⺟母:⼦子宮体癌 【アレルギー】ネコ(ペット飼育なし)、花粉症 【嗜好歴】機会飲酒、喫煙歴なし 【内服歴】ミカルディス、カルブロック ⼊入院時⾝身体所⾒見見 ⾝身⻑⾧長 177cm、体重 97kg、体温 37.2℃ 脈拍 82bpm・不整、⾎血圧 158/ 94mmHg、SpO2 98%(room air) 眼瞼結膜貧⾎血なし、眼球結膜⻩黄染なし,、頸動脈雑⾳音聴取せず 頸部・鎖⾻骨上窩リンパ節を触知せず、⼼心⾳音・呼吸⾳音に異常なし 腹部は平坦・軟、腸蠕動⾳音の亢進減弱なし、下腿浮腫なし 項部硬直なし ⼊入院時⾎血液検査所⾒見見 【腫瘍マーカー】 【⾎血算】 【⽣生化】 HbA1c(NGSP) 7.1 % CEA 1.2 ng/ml AST 30 IU/l WBC 8100 /μl ALT 37 IU/l CRP 1.37 mg/dl CYFRA 0.9 ng/ml RBC 510 万/μl Hb 15.7 g/dl, Ht 45.7 %, Plt 28.8 万/μl LDH 165 IU/l ChE 431 U/dl T-Bil 0.5 mg/dl KL-6 342 U/ml c-ANCA (-) S-IL2R 380 U/ml γGT 70 IU/l IgG4 56.1 mg/dl BUN 12 mg/dl Cr 0.78 mg/dl, Pro GRP 42.2 pg/ml p-ANCA (-) ALP 221 U/L TP 8.4 g/dl Alb 4.3 g/dl SCC 0.5 ng/ml 【感染症】 HIV (-) β-Dグルカン 4.6 pg/ml クリプトコッカス抗原 64倍 ⼊入院時 胸部単純X線写真(AP撮影,正⾯面像,側⾯面像) ⼊入院時 胸部単純CT(肺野条件) 画像所⾒見見のまとめ *両肺に浸潤影や結節が多発 浸潤影 ①⾮非区域性に広がり、気管⽀支⾎血管側周囲や胸膜側優位に分布 ②上下葉での分布に明らかな優位性を認めない ③辺縁にはすりガラス影を伴い、内部には気管⽀支透亮像を認める 結節 ①形態はやや不整で、⼀一部で辺縁にすりガラス影を伴う ②胸膜側優位に分布 ③上下葉での分布に明らかな優位性を認めない ⼊入院後経過 当初、画像所⾒見見からは感染症(特にクリプトコッカスなどの真菌感 染)の他に、多発肺塞栓、特発性器質化肺炎、septic emboliなども 鑑別として考えられていたが、⼊入院後早期にクリプトコッカス抗原陽性 であることが判明し、会社の倉庫にハトが多くいるというハトの暴露歴も あったため、肺クリプトコッカス症と臨床的に診断した。 抗菌薬(FLCZ400mg/day)の投与開始し、その後⼊入院後に⾏行行った TBLBにて得られた検体よりクリプトコッカスの菌体が証明され、確定診断 となった。 症状に改善を認めため、退院となった クリプトコッカス症とは ・Cryptococcus属はC. neoformansとC. gattiに⼤大別され、前者が⽇日 本での感染例のほぼ100%を占める ・C. neoformansは⿃鳥類(特にハト)の糞便や糞便で汚染された⼟土壌 中など⾃自然界に広く分布する酵⺟母型真菌 TBLB検体 PAS染⾊色で染まらない特徴的な 厚い莢膜を有するクリプトコッ カス菌体が認められる(→) ⽂文献1より引⽤用 ・乾燥によって空気中に⾶飛散した胞⼦子を、経気道的に吸⼊入す ることにより感染する ・吸⼊入された胞⼦子は肺胞に達し、胸膜直下に病巣を形成する 分類・疫学 ・主要な防御機構は細胞性免疫であり、AIDSを代表とする細胞性 免疫低下患者に好発する(続発性) ・ただし、アスペルギルス等の他の真菌症と異なり、健常者にも 発症する(原発性) ・115例の検討では男⼥女女⽐比96対16で圧倒的に男性に多かったと 報告されている →発⾒見見動機の80%が検診であり、男性の⽅方が企業検診等により 胸部単純X線写真を撮影する機会が多いためと推定 症状・合併症 ・原発性は無症状が多く、健診発⾒見見例が多い ・基礎疾患を有する場合には、咳嗽・喀痰・呼吸困難などの呼吸 器症状や、発熱・全⾝身倦怠感などの感染症状を認める ・また、続発性では播種性感染を起こし、髄膜炎を合併しやすい →脳脊髄液の栄養素濃度がクリプトコッカスにとって最適であり、 肺から播種した場合、中枢神経系が標的となりやすい →肺クリプトコッカス症を疑った場合、髄液検査は必須 ⽣生化学的検査 ・⼀一般的なWBC,CRPなどの炎症マーカーは正常範囲内であり、 診断および治療の⽬目安となることは少ない ・⾎血清クリプトコッカス抗原はクリプトコッカス感染のマーカー として⾮非常に有⽤用→感度(80 100%)特異度(90%) ・⼀一⽅方で真菌感染にも関わらずクリプトコッカスは厚い莢膜を有 するため、ムコール症と同様にβ-Dグルカンは通常陰性となる 診断 ・深在性真菌症の診断・治療ガイドライン(第1版)によると ①確定診断例 喀痰や気管⽀支肺胞洗浄液、⽣生検組織からクリプトコッカス を直接分離培養するか、病理検体か細胞診で菌体を証明 ②臨床診断例 肺クリプトコッカス症に⽭矛盾しない画像所⾒見見があり、 クリプトコッカス抗原が陽性 今回の症例はTBLBの検体より Grocott染⾊色にて菌体が証明されて いるため確定診断例となる 原発性肺クリプトコッカス症の画像所⾒見見 ・単発または多発性の結節・腫瘤 ・結節・腫瘤は辺縁不整なものが多く、spicula・胸膜陥⼊入像を ⾼高頻度に伴い、原発性肺癌との鑑別が難しい症例も多い ・周囲にすりガラス状変化を有するCT halo signを認める ・⽯石灰化は稀だが、空洞は40%程度に⾒見見られる ・病変分布は、上葉優位とする報告や下葉優位とする報告があり ⼀一定しないが、個々の病変は胸膜下に存在することが多い ・また、同⼀一肺葉内の多発結節が特徴の⼀一つであり、多肺葉に広 がる場合も同⼀一肺葉内に多発する傾向がある 注意点 ・気道散布巣の頻度も⾼高いため、肺結核との鑑別が問題となるが、 典型的なtree-in-bud appearanceの頻度は低く、鑑別点となる ・原発性でも肺炎様の浸潤性変化を認めることがある点に注意 続発性肺クリプトコッカス症の画像所⾒見見 ・原発性と同様に、単発あるいは多発結節・腫瘤に加えて、 結節・腫瘤の融合影や肺炎様の浸潤影を認めることが多い ・原発性よりも空洞や胸⽔水、リンパ節腫⼤大を伴う頻度が⾼高い ・粟粒影や広範なすりガラス影を呈することもある 鑑別疾患 ①アスペルギルス症などその他の真菌感染症 ②肺⾎血症性肺塞栓症(septic emboli) ③(特発性)器質化肺炎 ④多発⾎血管炎性⾁肉芽腫症(Granulomatosis with Polyangitis: GPA) ←以前「Wegener⾁肉芽腫症」と呼ばれていた疾患 ⑤浸潤性粘液腺癌 ⑥悪性リンパ腫 結語 ・CTで多発する浸潤影や結節といった特徴的な所⾒見見を呈する 肺クリプトコッカス症の⼀一例を経験した ・基礎疾患を有する患者に通常の細菌性肺炎としては⾮非典型 的な画像所⾒見見を認めた場合には、肺クリプトコッカス症も 鑑別に挙げる必要がある 引⽤用⽂文献 1)⻄西本優⼦子ら :真菌感染症. 画像診断 Vol.30:413, 2010. 2)⼭山⼝口恵三ら:胸部画像診断-感染症を読む. 丸善株式会社. P117, 2011. 3)中島秀⾏行行ら:原発性肺クリプトコッカス症のCT所⾒見見の検討. ⽇日本放射線学会会誌 vol 55:16-21, 1995. 4)⼭山本純ら:肺癌との鑑別に苦慮した肺クリプトコッカス症の1例. ⽇日本呼吸器学会会誌 vol33:124-128, 2011.