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長期ステロイド投与中に重篤な 肺病変を発症した一例
臨床病理症例検討 14 長期ステロイド投与中に重篤な 肺病変を発症した一例 札幌東徳洲会病院 臨床担当:札幌東徳洲会1年次研修医 田村岳士 」 病理担当:同・病理 長嶋和郎 (症例) 83歳女性 (主訴) 発熱、呼吸苦 出 席 者:院長・清水洋三 (現病歴) 上記主訴にて当院へ救急搬送された。老健入所中。来院1カ月ほど前 から1日に1回38度台の発熱を認めていた。ハセトシン投与をされてい たが改善なし。来院数日前から呼吸苦、痰の増加あり。来院1時間ほど 前に呼吸苦増悪し、SpO2 69%まで低下することもあった。 副委員長・田邉 康 総合診療部・鈴木裕子、名和正行 呼吸器内科・富樫誠也 循環器内科・平野智久 消化器内科・板橋健太郎、小林久倫 研修医・佐々木卓也、浅野目 晃、増田智弘 泉 健太郎、方波見謙一、大高和人 深堀 晋、松田智倫 (既往歴) COP(Cryptogenic Organizing Pneumonia)にて2年前にステロイドパル ス療法、その後ブレドニン7.5mg/日にて維持。胸部大動脈瘤、胆石症(20 年前に手術) 。 (Vital) 意識クリア、BP160/104、HR105、 BT38.6、 Sp02 93%(2Lマスク) →98%(5Lマスク) 北大医学部病理・田中伸哉、山田洋介 看護師3名、医学部3年目学生2名 (ADL) ほぼ自立(車椅子)、 ここ半年ほどで約10kgの体重減少あり。 表2 血液検査(入院時) WBC RBC Hb Ht MCV MCH MCHC Plt %LY %NE %MO %EO %BA CRP Stab Seg Lympho Mono Eosino Baso Myelocyte ATL-Lym Meta EBL PT PT(INR) PT活性値 35 2200/μl 269万/μl 8.9g/dl 26.70% 99.3fl 33.1pg 33.30% 8.6万/μl 25.80% 67.90% 4.70% 0.20% 1.40% 4.56mg/dl 13% 65% 14% 8% 0% 0% 0% 0% 0% 0% 13.9s 1.46 55.7 Vol.31 07.4 DOCTOR'S NETWORK APTT APTT-R Fib D-dimer AST ALT LDH ALP ChE γGTP AMY CPK T-Bi l D-Bi l TP Alb A/G BUN Cr 尿酸 Na K Cl Ca P T-Cho ASO 42.1s 1.4 132.3mg/dl 22.3μg/ml 29IU/dl 15IU/dl 844IU/dl 252IU/dl 114IU/l 65IU/dl 69IU/l 14IU/l 0.6mg/dl 0.2mg/dl 6.3g/dl 3.0g/dl 0.9 28.3mg/dl 1.4mg/dl 5.9mg/dl 136mEq/l 4.3mEq/l 101mEq/l 8.6mg/dl 2.8mg/dl 184mg/dl 19U/ml (所見) 頭頸部:軽度貧血あり、黄疸なし、瞳孔3mm。 胸部:右下肺野でcoarse crackles聴取。心雑音聴取せず。 腹部:soft、flat、 BS正常、 圧痛なし。 (血液ガス分析(RR42、5L) ) 表1を参照。 (血液検査(入院時) ) 表2を参照。 (細菌検査) 尿中肺炎球菌抗原:陰性 喀痰スメア:GPC認められた 喀痰培養、血液培養提出 (胸部レントゲン(入院時) ) 図1を参照 (胸部CT(入院時) ) 図3を参照 表1 血液ガス分析 (RR42、5L) WBC 2200/μl RBC 269万/μl Hb 8.9g/dl Ht 26.70% MCV 99.3fl <Problem List> <鑑別診断> 1)1カ月前からの38度台の発熱 1)細菌性肺炎 2)呼吸不全(PaO2/FiO2=73/0.4=180) 2)非定型肺炎 3)汎血球減少(血小板減少と貧血は以前より指摘) 3)COPの急性増悪 4)陳旧性陰影+気管支拡張+浸潤影+一部石灰化あり 4)COP以外の間質性肺炎の増悪 5)小粒状影 5)粟粒結核 6)プレドニン7.5mg長期内服 6)肺結核 その他:1)∼6)の合併 図 1 胸 部 レ ン ト ゲ ン ︵ 入 院 時 ︶ 図 2 胸 部 レ ン ト ゲ ン ︵ 入 院 13 日 目 ︶ <入院後経過> 細菌性肺炎と非定型肺炎、COPの急性増悪と考え、 ABPC+SBT 1.5g×4回/日、CAM 400mg/日、ブ レドニン8mg/日 →呼吸苦、炎症反応の改善認めず、入院3日目、呼吸状 態悪化、緊急気管内挿管、レスピレータ管理となった。 同日、心エコー上diffuse hypokinesis、ECG上 V5,6のnegative T、採血上H-FABP(+)、TnT(+) より緊急CAGとなった。 CAG:RCA#AV 50%, #4PD 75%, LAD#7 25%, LCX#12 75% →冠動脈疾患は否定的。肺の状態悪化と判断。ステロ イドの少量維持からパルス療法へ。喀痰培養から Psedomonas aeruginosa、血液培養negative ABPC+SBT、CAMからPIPC、GMへ変更。 循環器内科にてCAGの結果を再検討。 #7 90%, #12 99%とIHDの可能性あり。 →入院12日目、循環器内科転科となった。 転科後、血液ガスの悪化認め、肺の再評価。 <胸部レントゲン(入院13日目)> 図2を参照。 <胸部CT(入院13日目)> 図4を参照。 真菌感染症、結核の感染の可能性も。 カンジテック陽性、β-D-グルカン 5.8pg/ml(∼ 11.0pg/ml) ガフキー4号、結核PCR陽性。 →結核治療のため、入院16日目、再度内科へ転科。 RFP、EB、INH開始するも、入院17日目、状態悪化死亡。 DOCTOR'S NETWORK Vol.31 07.4 36 臨床病理症例検討 14 図4 胸部CT(入院13日目) 図3 胸部CT(入院時) <臨床診断> 1)肺炎 2)肺結核 3)心筋梗塞 ※入院15日目の喀痰培養から Pseudomonas aeruginosa(PIPC:32 S、 GM:4 S)、MRSA <病理所見> 図A 硬度を増した肺下葉 図B 顆粒状の黄白色病変と小さな空洞性病変 37 Vol.31 07.4 DOCTOR'S NETWORK 両側の肺は下葉を中心に実質臓器様に硬度を増し、 左肺は700g, 右肺は800gとなっている(図A)。 割面では左右とも含気がなく全体が実質性で、さら にその中に顆粒状の黄白色病変が混在している。場 所によっては小さな空洞性病変も見られた(図B)。 組織学的に実質性の部位にはcaseous necrosisが 主体の炎症性病変で、granulomaを欠いており caseous pneumonia(乾酪性肺炎)と呼ばれる 所 見 で あ っ た ( 図 C )。 空 洞 性 病 変 で は 周 囲 に Langhans giant cellも見られるgranulomaが見 られた。顆粒状病変部はGram陰性桿菌による細菌 性肺炎を合併していた。 Ziehl-Neelsen染色で空洞性病変では無数の抗酸菌 を認めた(図D)。 caseous pneumoniaの部位で は少数の菌を認めた。 粟粒結核病巣は肝臓(図E)の他、脾臓、腎臓、骨 髄でも見られた。 <考察> <肺結核> ○症状/緩やかな進行性の慢性の咳、食思不振、体重 減少、長期間の発熱、寝汗など。 ○血液所見/CRP・赤沈の亢進、比較的WBCの低値。 ○画像所見/空洞性病変を伴う結節状陰影、石灰化、 瘢痕など。 ○好発部位/肺尖S1、S2、下葉S6。 図C caseous necrosis が主体の炎症性病変 <免疫不全患者の結核> ○免疫不全患者では結核感染の危険性高い。 ○AIDS、糖尿病、免疫抑制剤(ステロイド、インフ リキシマブなど) 、慢性腎不全、臓器移植患者など。 ○結核に対する防御機構は細胞性免疫が主。 →AIDSが最も危険(健常者の170倍) Prednisolone 10mg/日以上の投与で結核発病の リスクが増加した。 図D Ziehl-Neelsen染色で 空洞性病変 症状: 体重減少、発熱は免疫不全患者に多い。咳嗽、喀痰は 免疫不全患者に少ない。 画像:非特異的 好発部位(S1,2,6)以外にあるもの(特に下葉)、多 発円形結節型、びまん性粟粒型、微細な末梢索状影、 非空洞病変。 図E 肝臓の粟粒結核病巣 <結語> ○ステロイド長期投与で肺結核を発症した1例を経験 した。 ○免疫不全患者の肺結核では非定型の症状、画像所見 を呈することが多い。 ○免疫不全患者に肺炎様の陰影を認めた場合、結核を 鑑別する必要がある。 参考文献 ・呼吸と循環Vol.50 No.11 2002 Oct コンプロマイズド・ホストでの結核 永井英明 ・総合臨床Vol.52 No.6 2003 Jun AIDS合併肺結核 高嶋哲也 ・日本胸部臨床Vol.63 No.12 2004 Dec 肺結核症の種々の非定型胸部X線写真所見の頻度について 下出久雄 <病理診断> 肺結核症(乾酪性肺炎)と粟粒結核症および細菌性肺 炎の合併 肺の合併重積する炎症: 両肺に多数の結核結節を伴う乾酪性肺炎(caseous pneumonia)、および粟粒結核症の撒布が重積/右肺 (800g) 、左肺(700g)。 Ziehl-Neelsen染色にて無数のbacilliを証明。 左右肺の広範な細菌性肺炎(Gram negative)の合併、 間質性肺炎(BOOP)の治療後の状態。 左肺上葉に石灰化した結核病巣(再燃の所見なし) 。 粟粒結核症: Miliary tuberculosisの全身撒布: Liver. spleen, kidney, adrenal gland, and bone marrow. その他の病変: 心肥大(555g)小さな陳旧性心筋梗塞巣が散在。 肝臓うっ血(1180g)。脾臓(160g)。腹水、黄色 透明 650ml。 DOCTOR'S NETWORK Vol.31 07.4 38