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第8章

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第8章
このPDFは,CQ出版社発売の「電子回路設計のための電気/無線数学」の一部分の見本です.
内容・購入方法などにつきましては是非以下のホームページをご覧下さい.
<http://shop.cqpub.co.jp/hanbai/books/30/30241.htm>
電子回路設計のための電気/無線数学
第
8
章
「ホントに使うの?」
電磁気学の計算も現場で生きる
❖
特に高周波回路では信号が配線上だけを流れず,
空間やケースなど余計な部分に一部のエネルギーが伝わってしまいます.
電磁気現象がわかれば,目に見えない電界や磁界のようすもある程度推測でき,
見えないものも少しは見えるようになってくるでしょう.
本章では電子回路/高周波回路の設計知識として
最小限必要な電磁気の振る舞いを説明します.
❖
8-1
磁界の振る舞いから洞察力をつけてみる
電磁気学は出てくる記号が多いので,本章では大事なところは理解しやすいよう
に,それぞれメモをつけてあります.
また電界/磁界の振る舞いは,それを発生させる源が直流か交流かで,若干異
なっています.本章では直流のみ・交流のみの説明である場合はそのように断って
います.それらの違いについては第 12 章も参考にして,読み比べてみてください.
●【磁界】電流あるところ,アンペアの右ねじの法則と右手親指の法則
s アンペアの右ねじの法則
配線に電流を流すと磁界(日常感覚的に言ってみれば……「磁界は水や風の流れ
と同じ.そこに手を差し入れたときの,流れの重みの感覚が磁界の強さ」)が発生
します.
この電流の向きと磁界の向きをビジュアルに表現したものがアンペア(AndréMarie Ampère,1775-1836)の右ねじの法則です.
このようすを図 8-1 に示します.電流の流れが右ねじのねじ込まれる方向だとす
8-1 磁界の振る舞いから洞察力をつけてみる
213
導体(配線)
電流 I の流れ
磁界H の
発生方向
右ねじをねじ込む
ときの回転方向
右ねじ
右ねじをねじ込む
[図 8-1]アンペアの右ねじの法則
れば,「ねじの回転する方向に磁界が発生する」というものです※ 1.
電子回路を考えるうえでは(現実での設計現場の問題としては),この磁界の回転
する方向がどちらかという点はあまり重要とはいえませんが,電流の周りをぐるり
とひと回りするものが磁界だという点は必ず理解しておくべきでしょう.
s 右手親指の法則
アンペアの右ねじの法則を少し拡張して考えると,右手親指の法則を導くことが
できます.これは電源回路のトランスやスイッチング電源用コイル,高周波回路の
空芯コイルやチップ・コイルなど,実際の回路での磁界の考え方に応用できるもの
です.
図 8-2(a)は空芯コイルの写真とその内部を貫く磁界,そして図 8-2(b)はコイル
の 1 ループ(導体)あたりでのアンペアの右ねじの法則を表記したものです.
さらに同図のように右ねじの法則の 1 ループの磁界を,コイルの複数ループに拡
張してみると,個別の磁界が合成されることがわかります.このように合成すると
図 8-2(c)のように,①コイルに流れる電流の向きを親指以外の 4 本の指の向く方向,
②磁界の向きを親指の向く方向……と表せます.
「この方向に磁界が出るんだ」という点が現場では大切です.
●【磁界】電流と磁界の関係:アンペアの周回積分の法則
右ねじの法則で,磁界は電流の流れる導体の周りをぐるりと回るように発生しま
す.この量がどれだけあるかは,アンペアの周回積分の法則というもので表されます.
※ 1 :同じ電磁気学とはいえ,電気工学的には電界/磁界と言うが,物理学的には電場/磁場という.もとも
との英語は同一(electric field,magnetic field)だが,異なる分野でそれぞれ訳されたためにこうなっ
たようである.本書は当然「電界/磁界」を使わせていただく.
214
第 8 章 「ホントに使うの?」電磁気学の計算も現場で生きる
電流
磁界
磁界
磁界
(親指の方向)
電流
(4本の指の方向)
電流
(a)空芯コイルとその内部を貫く磁界
複数のループどおしが
H
縦に配置された図
アンペアの
右ねじの法則
H
H
I
H
I
I
断面で
見ると
H
H
H
H
H
H
H
合成すると
磁界
(注) は紙面おもてに向かって流れる電流
は紙面うらに向かって流れる電流
I
電流 I
H
I
H
磁界H
(c)右手親指の法則と呼ばれる理由 (b)アンペアの右ねじの法則を複数のループに拡張していく
[図 8-2]右手親指の法則
図 8-3(a)のように電線に電流 I が流れていると,これから半径 r だけ離れた位置
に発生する磁界の強さ H(単位は[A/m])は,
磁界の強さ 電流
………………………………………………………………………(8-1)
円周長
で表されます.これを電流 I に対して変形してみると,
8-1 磁界の振る舞いから洞察力をつけてみる
215
→
電流
I =2πrH
r
半径 r の
円周の長さ
2πr
→
H( p)
・du( p)
(内積の計算)
を閉曲線C で
1 周積分する
C
閉曲線C(円でなくても良い)
これが積分路になる
位置 p での
接線方向ベクトル
→
の微小量du
( p)
電流
位置 p での
閉曲線C の接線
I
H=
I
磁界強度方向
→
ベクトルH( p)
2πr
(a)
(b)
位置 p
[図 8-3]アンペアの周回積分の法則
…………………………………………………………………………(8-2)
この 2rr は半径 r の円の円周の長さです.つまり磁界の強さ H を円周 1 周ぶん積
分すると,その中心に流れる電流の大きさが求まるということです.
s「ちょっとアドバンス」的に
より一般的に(教科書的に)示してみると※ 2,
……………………………………………………………(8-3)
となります.ここではこの意味がわからなくてもかまいません.これは図 8-3(b)
のように,任意の閉曲線 C の円周上において,位置 p(position)における磁界強度
方向ベクトル (p)と,曲線の接線方向の単位方向ベクトル (p)の微小量との,内
積(・)を取ったものを 1 周線積分する(閉曲線の線積分; Line-integral-closedcurve),という意味です.積分記号内のマルは「1 周線積分します」ということで
す.つまり積分される閉曲線(これを積分路という)自体は円でなくても何でも良い
といえます.
結局このように表しても,簡潔に式(8-2)のように表しても同じことで,式(8-3)
では「C で囲まれた内部を流れる全体の電流量 I 」と一般化できるということだけ
です.
※ 2 :だいたいどの教科書的参考書でも(p)さえいれず,
程度(H,s は太字でベクトルを表す)で C 閉
曲線積分の説明を(わかっているものとして)している程度である.このあたりが電磁気学的数学表現
(ベクトル解析)を最初に乗り越えられなくなり,挫折するポイント/理由だろう.
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第 8 章 「ホントに使うの?」電磁気学の計算も現場で生きる
磁界
(ほとんどがコア材内部を通る)
半径 r
電流 I
回巻き
n 回巻き
(ここでは 4 回:コア中心に何回通すかで数える)
[図 8-4]トロイダル・コアとアンペアの周回積分の法則
(本来ならコアに密着して,均一に巻いていく)
s トロイダル・コアの中もそうだ
図 8-4 はトロイダル・コア※ 3 とその中を通る電線に流れる電流のようすです.ト
ロイダル・コアに用いられるコア材は磁気抵抗率が低く(透磁率 n が高い),磁界を
よく通しますので,磁界成分のほとんどがコア材の中を流れることになります.
「コア材内がほとんど」という話は,電流を例に考えると,電流は導体に流れ,
周辺の空間では流れない話と同じことです(空間の抵抗率が無限大であるため).た
だし「ほとんど」のとおり,磁界はコア材外部にも一部が漏れ出すように流れる点
が電流と異なります(空間の磁気抵抗率は無限大ではないため).
さて,図 8-4 のトロイダル・コアの穴に電線が通っていたとして,ここに流れる
電流が I であれば,コア中の磁界の強さはまさしく式(8-1)で表されます.同図の
ように半径 r のコアの穴に n 回電線を通したとすれば,コア内の磁界の強さは,
コアに通す回数 電流
…………………………………………………………………………(8-4)
磁界の強さ 円周長 と 1 回と比べて n 倍になります.
※ 3 : toroidal; ドーナツ形の,環状体の,という意味.幾何学用語(torus)から来ている.
8-1 磁界の振る舞いから洞察力をつけてみる
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