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新たな時代の装備取得を目指して
新たな時代の装備取得を目指して −真に必要な防衛生産技術基盤の確立に向けて− 平成17年6月 防衛装備取得戦略懇談会 1.はじめに ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 2.装備取得を巡る環境変化 2 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 3 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 6 4.プロジェクト・マネージメントの導入‥‥‥‥‥‥‥‥ 9 3.総合取得改革の推進 5.ロジスティックス改革 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 12 6.真に必要な防衛生産・技術基盤の確立 (1)技術戦略 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 15 (2)両用技術 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 18 (3)生産基盤 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 20 (4)官民のイコール・パートナーシップの構築 7.おわりに ‥‥‥‥ 23 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 26 (参考) 防衛装備取得戦略懇談会の開催日時と議題 防衛装備取得戦略懇談会の参加者 -1- ‥‥‥‥‥ 27 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 28 1.はじめに 我が国の安全保障を巡る環境は急速に変化しており、我が国の防衛政策もその変化 に対応するべく、昨年12月、「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱」、「中期防衛力 整備計画」の閣議決定、また、同時に武器輸出三原則等にかかる官房長官談話が示さ れた。これらの政府方針に示された政策を実現するためには、優れた装備を開発・生産 し、間断なく維持修理していくことができる強固な防衛生産・技術基盤を保持していくこと が必要である。 このため、中長期的な視点を持ち、新たな安全保障環境に的確に対応するべく、限ら れた資源を有効に活用することが求められており、防衛庁では、一昨年9月より「総合取 得改革」として、開発から生産、維持、廃棄まで視野に入れた幅広い改革を推進してきて いる。この改革を実現していくためには、供給者である民間との協力は不可欠であり、官 民双方の改革に対する相互理解が第一歩である。官民がそれぞれ抱える問題意識を 共有し、官民それぞれが改革を推進していくことが重要である。 今般、本年4月より6回にわたり防衛装備取得戦略懇談会を防衛庁において開催 し、新たな時代の装備取得について、官民双方より説明、意見交換を行うとともに、学識 経験者を交えて討議を行ってきた。この懇談会での討議を契機として、今後、官民双方の 意見交換が活発化し、官民双方にとってよりよい成果を見いだすことが期待される。 本資料は、懇談会での説明及び意見交換の概要をまとめたものであり、本懇談会各回 で用いられた討議資料とともに、今後の官民対話の指針となることを期待する。 -2- 2.装備取得を巡る環境変化 昨年12月に、「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱」を閣議決定し、今後 の防衛政策が明らかにされた。防衛計画の大綱では、 「従来の国家間における軍事的 対立のみならず、国際テロ組織などの非国家主体が重大な脅威になっており、大量 破壊兵器や弾道ミサイル拡散、国際テロ組織の活動を含む新たな脅威や平和と安全 に影響を与える多様な事態への対応が国際社会の差し迫った課題」であるとされ、 この新たな安全保障環境の下、「我が国の防衛力については、即応性、機動性、柔 軟性及び多目的性を備え、軍事技術水準の動向を踏まえた高度の技術力と情報能力 に支えられた多機能で弾力的な実効性のあるものとする」とされた。これを実現す るための基本的事項として「統合運用の強化、情報機能の強化、科学技術の発展へ の対応、人的資源の効果的な活用」するとされ、さらに留意事項として、 「真に必要 な防衛生産・技術基盤の確立に向けて、総合取得改革を推進する」旨示された。 大綱で示されたように我が国を取り巻く安全保障環境については、我が国に対す る本格的な侵略事態の生起の蓋然性は低下する一方で、新たな脅威や多様な事態へ の適切な対処していくことが重要となってきており、また、防衛装備技術や生産を 巡る環境については、民間技術の進展や装備の高度化・システム化、欧米における 取得改革の進展や防衛関係企業のグローバル化が更に進むなど大きく変化してきて いる。装備の取得においては、これらの環境変化に対し、装備の開発・生産・維持 運用のそれぞれに的確に対応していかなければならない。 しかし、防衛関係費について見れば平成16、17年度と2年連続で対前年度予 算よりマイナスとなり、また、昨年12月に閣議決定された「中期防衛力整備計画」 では、17年度からの5年間の防衛関係費の計画総額が前中期防の計画総額よりも 初めて減額となった。さらに、外国からの装備導入も増大し、海外企業からの調達 比率も高まってきている。このため、国内での防衛生産については中期的に抑制傾 向であり、特に、装備の開発・生産については減少傾向が長期化している状況にあ る。こうした中で、国内防衛産業は操業度が低下し、単価の上昇を招き、更に取得 数量が減少するというスパイラル状況にあり、また、構想・開発段階より配備終了 までの期間が長期化し、防衛ニーズの変化や技術革新を的確に反映できないおそれ が増大するといった問題も生じてきている。これらの結果として、国内の防衛生産・ -3- 技術基盤の弱体化が強く懸念され始めてきている。また、情報通信技術分野など民 間技術の進歩は著しく、装備の配備終了以前に性能が陳腐化するおそれが生じたり、 汎用電子部品の安定供給への不安が広がったり、外国からの導入部品の製造中止と いった問題も頻発したりするなど、ライフサイクルわたって長期間、優れた性能を 高い稼働率に維持していくために様々な課題に直面している。 また一方では、国の事業に対する国民の関心は高まってきており、1兆9千億円 の調達を行う防衛庁においても、従来にも増して透明性、公正性、適正性を高め、 国民に対する説明責任を的確に果たしていくことはより重要性を増してきている。 上述のような環境変化を踏まえ、2003年9月に防衛庁長官を委員長とする総 合取得改革委員会を設置し、これまで進めてきた「取得改革」、「調達改革」等の 成果をさらにすすめ、装備品等の開発・生産、維持運用など、装備取得にかかる全 般的な改革を進めるべく検討を進めているところである。 欧米諸国においては、冷戦後の欧州各国の国防費の大幅削減、欧州統合への動き、 急速な民生技術の進展、経済のグローバル化などを受け、さらに、9.11以降、 世界の安全保障環境は急速に変化してきている。冷戦期のような国家間の軍事対決 の蓋然性は低下する一方で、テロ、サイバー等の非対称な脅威やNBC兵器や弾道 ミサイルなどの多様な事態に直面している。このため、各国においては、こうした 新たな脅威や多様な事態に対して機敏かつ正確に対処するよう国防政策をシフトし てきている。 このような国防政策の変化に対応するため、欧米諸国では、装備の取得について、 価格効率性を徹底し、迅速かつ正確で最も効率的な意思決定を行いうるよう抜本的 な業務改革や組織改革に取り組んでいる。各国とも、大量の情報を処理して効率性 を追求した意志決定を行うことを目的とした民間ビジネス手法を取り入れ、構想か ら維持運用・廃棄までのライフサイクルを通じた機能性能、期間、費用の最適化を 達成することを目指している。装備システムのライフサイクルの全期間を通じた業 務プロセスを標準化したビジネスモデルを確立し、IPT(Integrated Project Team)といった組織横断的なチームを中心にして、部隊運用の要求する側と開発・調 達する側、製造・開発・維持支援を行うサプライヤーたる産業界とが相互に協力し 合い、情報を共有しながら最適な装備システムを支える活動が行われている。取得 -4- 関係組織についても徹底した効率化・合理化のための体制変革が行われ、また、P FIやリース契約など民間活力を活用した思い切った改革が進められている。さら に、民生部門での技術進歩が進展し、技術面での軍民の垣根は極めて低くなってき ていることから、米国においてMIL規格を廃止して民生品使用へ移行したり、軍 民双方のニーズに合致する両用技術に注目したりしている。 また、欧米諸国では、防衛産業の国境を越えた統合や連携が急速に進んできてお り、安全保障政策と整合をとった武器輸出管理政策の下、国際共同開発・生産など が活発化してきている。さらに、最近では国際的な共同運用を必要とする場面も増 えていることや経済のグローバル化や民生品の活用により製品・部品の海外への依 存も高まってきている。このため、武器支援システム(後方)分野においても、国 際的な協力・対話が活発化しており、ロジスティックスにおける国際的な標準管理 手法の確立、各国間の装備取得の面での協調関係の構築などに各国とも力が注がれ ている。 今後、我が国においても、新大綱で示された多機能で弾力的な実効性のある防衛 力を支える基盤として、真に必要な防衛生産・技術基盤の確立に向けて、総合取得 改革を推進していくことが必要である。欧米諸国も、上述のように同様の課題に直 面しており、取得政策や組織改革から産業対策まで幅広く様々な取組みを実施して きている。我が国としても、このような欧米諸国の取り組みをも参考にしつつ、官 民ともに対話と努力を継続して、新たな時代の装備取得を目指していくことが重要 である。 -5- 3.総合取得改革の推進 防衛庁では、2003年9月に防衛庁長官を委員長とする総合取得改革委員会を設置し、 新たな時代に向けた装備取得についての改革に取り組んできている。総合取得改革で は、これまでの取得改革や調達改革をさらにすすめ、調達のみならず、装備の構想、研 究開発段階から量産、維持運用、廃棄までのライフサイクルを通じ、「より良くより早くより 安く」を基本として、各段階における個別の最適化ではなく、全体を通じた最適化を目指 そうとしている。また、新たな脅威や多様な活動に迅速に対処するため、「必要なときに必 要なところに必要なだけ」を補給し、装備システムの有用性を高めていくことが求められて おり、補給業務について、諸外国や民間の先進事例等の手法を参考にしつつ、その効率 化をはかり、部隊のニーズに的確に対応していくよう努めることとしている。さらに、装備 取得においても、昨今の企業経営の合理化・効率化に対応し、急速に高度化・発展して いる会計・経営制度にも対応していくことが必要であり、装備取得制度に関する研究やそ の要員育成などを体系化していくこととしている。 これら防衛装備の開発・生産・維持の全体を通じて、装備システムを支えているのは、 国内の防衛生産・技術基盤である。その優れた基盤の存在は、我が国の抑止力の一つ をも担っており、安全保障環境が急速に変化し、民間技術の進展が著しい環境の下であ っても、将来にわたって、優れた装備システムを供給し得るための対策を総合的に推進し ていくことが必要である。このため、技術面、生産面の両面から「選択と集中」を図り、限 られた資源の中で、必要な基盤の維持育成が図れるよう、官民が十分に対話しつつ、計 画的かつ透明性を高め、「真に必要な防衛生産技術基盤の確立」を目指していくこととし ている。 さらに、我が国の厳しい財政事情を背景にし、また、国民の国税のより効果的効率的 な執行に対する関心も一段と高まっており、限られた経費でのより適切な予算配分、その 執行責任が問われてきている。防衛庁としても、毎年度1兆9千億円の調達を実施してい ることから、従来にも増して、その透明性や公正性、適正性を高め、国民への説明責任を 的確に果たしていくよう努めていくことも必要である。 このように、総合取得改革は、装備システムの取得に当たって、あらゆる業務を対象と して、組織や制度改正まで視野に入れた改革として進められてきている。この改革では、 改革の中間報告を定期的にとりまとめ、その進捗を整理して、改革の成果を適宜フォロ -6- ーアップしていくこととしており、不断の改革として、よりよい「装備取得」の実現を目指し ている。この総合取得改革の推進に当たっては、民間部門の効率性や優れた技術・生産 力を引き出して防衛部門に適用し、価格効率性の優れた装備取得を実現し、官民で フェアーな関係で知恵を出し合う環境の構築が不可欠であり、官民が対話をしつつ、それ ぞれ改革を進めていくことが必要である。 また、自由討議において、次のような意見が交わされた。 ・ 諸外国のトランスフォーメーションでは、将来を見据えた戦略を構築し、産 業・技術の変革に取り組んでいる。 「選択と集中」により集中して開発投資して いく必要がある。 ・ ライフサイクル管理によるコスト低減は必要であるし、「選択と集中」により 効果的に進めていくべきである。しかし、企業が取り組むためのインセンティブ を付与するべきである。 ・ 防衛計画大綱の下、海外での自衛隊の活動や弾道ミサイル対応などが重要視さ れている。今後はネットワーク化の時代であり、装備全体をいかにシステム化し ていくかが重要性を増してきている。このため、企業側も相応の設備投資を行う 必要があるが、企業に必要な投資を行わせるためには、官側が装備調達の方向性 を具体的に示していくことが必要である。 ・ 現場は、パフォーマンスがあがらないことを予算や法律制度の存在を問題にし がちである。実際には、法律・予算等の法制度が原因であることはほとんどない。 原因は、組織の硬直化した運用や既得権益がその障害となっている場合が多い。 総合取得改革では、このような硬直的な制度の運用の改善も行うとともに、制度 的な問題を克服していく努力を行うべきである。 ・ 様々な業務系のシステムを組み合わせ、ネットワークを構築していくことが重 要である。技術革新の進歩は早く、システムは導入した瞬間にレガシーになる。 このため、システムの導入後、絶えず成果や課題をフォローし、評価、実行に移 すことが重要である。 ・ 総合取得改革においては、時間軸と目標を明確にして実効性があがるように進 め、適時にフォローアップしていくことが必要である。また、民間の意見を採り 入れて実効力あるものにしていく必要がある。 -7- ・ 本懇談会での明確になった議論を、具体的に焦点を絞って検討を進めるべきで ある。改革を早い段階で実行に移して問題点を見いだしながら、Try and Error で推進していくべきである。改革を本気で進めるには、官民ともに負担と犠牲を 伴うものであり、双方に成果が出る結果にしていく必要がある。 ・ この改革を進めるには、官側の人的資源は不足しており、改革がなかなか進ま ないことを懸念する。積極的に部外力を活用するなどして、改革が逆戻りしない ようにするべきである。また、この改革を進めていくため、職員の教育環境を整 備し、防衛庁の取得関連職員のレベルを相当高めていくことが不可欠である。 ・ 諸外国の実例をよく調べておく必要あり、中立的な立場の機関からアイデアを もらうことは有意義である。 -8- 4.プロジェクト・マネージメントの導入 プロジェクトを遂行するに当たっては、組織横断的なチームを構成し、責任を有する多 様な利害関係者が相互のネットワークを作ることが極めて効果的であり、それはスモー ルワールド・ネットワーク理論としてその有効性が説明されている。そのネットワークを成 功させるための鍵としては、トポロジー(構造、形態)が重要であり、利害関係者の相互関 係をつなぎ合わせるリワイヤリングを行うことにより達成させることだといわれている。防 衛装備の調達の分野の例としては、英国の防衛装備庁(DPA)において、ネットワークを 構築し、組織横断的なプロジェクトチームを設け、国民の安全を達成するため、最も費用 対効果の優れた装備の取得を実施しうるよう活動を行い、成果をあげている。このような プロジェクトチームによる活動は、欧米各国で一般的に導入されており、各国の文化に対 応したトポロジーを構成し、その成功に向けた取り組みを行っている。 装備システムは、その構想段階から研究・開発、量産、維持補給、廃棄まで、極めて長 期にわたって様々な機関がその所掌に従い、部隊の任務遂行に適するよう適切に措置さ れなければならない。これまで各機関がそれぞれ所掌する事務の範囲内で最適化な結 果が出るよう措置されてきたが、上述のような環境変化を踏まえ、「より良くより早くより安 く」を達成するためには、ライフサイクルの初期段階から、各機関相互の横の連携を確保 し、装備システムに関する機能性能、期間、費用の最適化に努め、防衛庁として、節目節 目での適切な意思決定を行うようにしていくことが必要である。 防衛庁の進める総合取得改革では、構想段階における計画策定段階からの取り組み、 維持運用段階での補給プロセスまでを視野に入れて、各段階の利害関係者を連携させ、 プロジェクトに関する情報の統合管理を行い、最終的には、部隊運用に適する装備シス テムを、より価格効率性を高めて提供することを目標としている。その狙うところは、プロ ジェクトの目標である機能性能、期間、費用の3要素の最適化を図り、「より良くより早くよ り安く」必要な装備を部隊に提供することにある。このため、プロジェクト管理の手法を取 り入れ、組織横断的な活動により実現しようとしており、17年度、その手法を確立するべ く、取得にかかる各段階から4事業を選定し、そのプロセスの確立に向けた取り組みを開 始したところである。また、装備取得にかかる組織についても、プロジェクト管理をより効 果的に実施していくために、開発から調達、補給管理までの装備取得の実施に関する情 報を処理し、装備取得の進捗管理を行うべく、技術研究本部、契約本部等の組織を再編 -9- 成し、研究新組織と取得新組織を新たに設立することとしている。 プロジェクト管理においては、構想・開発段階からライフサイクルを見据え、整備性、運 用性をも考慮しつつ、期待される性能の確認や計画されたコストやスケジュールを追跡 管理し、初期段階から量産、維持運用段階まで知識、経験、コスト等の各種情報などを 蓄積・継承していくことが重要である。このプロジェクト管理により、当初計画していた機 能性能、期間、費用に関する進捗を官民ともに共有することができ、リスクを初期段階に 察知し、必要な対策を講じ、必要とする装備システムを必要な時期に適切な価格で調達 することが期待されている。プロジェクト管理を成功させるための鍵としては、①発注者側 の各利害関係者がそれぞれの関わりや任務、役割を理解すること、②標準的なプロジェ クト管理手法を確立し、プロジェクトの基本目標を追跡管理し、期間の延長や費用の超過 を未然に防いでいくこと、③当該事業の状況を客観的に評価しうる仕組みを構築すること 等があげられる。 プロジェクト管理について、各国は、その成果をフォローアップし、今もなお、ビジネスモ デルを構築して、更にこれを高度化するべく不断の見直しがなされている。各国相互間で は、二国間、多国間で業務プロセスやその管理手法など国際標準を目指して、官民相互 に協議しながら取り組んでいる。我が国におけるプロジェクト管理についても時宜を得た ものであり、まずは導入し、官民ともに、小さな成功体験を共有することから始めるべきで ある。また、その導入に当たっては、官民相互において、ともによく協議し情報を共有し、 官側、民側の双方にインセンティブが働くような措置が必要である。 また、自由討議において、次のような意見が交わされた。 ・ 民間のプロジェクト・マネージメントの導入において、各国の国民性や文化の 相違による障害はない。東南アジアや欧州でも成果を上げているのがその証拠で ある。 ・ 政府の業務は抽象的非生産的であり、民間手法のプロジェクト管理は不向きで あるが、防衛装備品の製造は、民間の開発製造業務に類似しており、民間の物品 製造でのプロジェクト・マネージメントの手法を適用できる可能性は大きい。 ・ 装備導入については、当初導入価格ではなく、ライフサイクルを考慮して決定 されるべきである。機種選定段階からデータを収集・管理し、機能・性能、期間、 費用について数値目標を定めその実現に向けて活動することが必要である。民間 - 10 - でも、同様の取り組みを行っており、効果的な結果が出てきている。 ・ 組織横断的なプロジェクト管理の導入は大変有意義である。民間企業は、既に これを実施してきており、防衛庁の行うプロジェクト管理において、民側も参画 させるべきである。米英仏の例をみても、民間がこれに参画している。プロジェ クト管理による企業負担は増大するとの懸念があるが、窓口が明確になることか ら企業の負担は軽くなる。 ・ 防衛庁の組織改編について、従来の縦割り型の組織体制を変更し、新取得組織 とすること自体に意味がある。他方で、組織改編は、慎重に議論して真に役立つ 組織体制になるよう留意するべきである。 ・ プロジェクト管理の成功の鍵は、経費の大半を占める調達以降である。そのた めには、開発のみならず、ライセンス国産品や輸入品等の開発を経ないで導入さ れる装備に対しても、調達、維持補給に関して、防衛庁の各機関の協力意識を高 めていくことが重要である。 - 11 - 5.ロジスティックス改革 今後の防衛力については、防衛計画の大綱に示されるように、「即応性、機動性、柔軟 性及び多目的性を備え、……多機能で弾力的な実行あるもの」である。総合取得改革で は、これを装備の面において、限られた資源(ヒト、モノ、カネ)の範囲で、より迅速かつ正 確な補給により、「必要なときに必要なところへ必要なだけ」を実現していくことを目標とし ている。 米国では、ロジスティックスにおける取り組みを加速化しており、民間ビジネス手法を活 用し、徹底した合理化を図っている。その構想から廃棄までのライフサイクルを通じた管 理を徹底した標準的な仕組みを設け、その各段階で、民間の活力を最大限活用した取得 方式を採用する戦略を立てて価格効率性の実現に努めている。ロジスティックスの変革 では、指標としてはかつての大量物資(Mass)ではなく、機敏性(Agile)を用い、ITによりリ アルタイムで柔軟かつ迅速な対応が可能とするよう進められている。 また、装備の維持支援に関し、国防省の求めるパフォーマンス(信頼性、即応性、有用 性等)の達成については、個々に各段階を管理するのではなく、民間の活力を活用し、民 間企業に最も効率的かつ合理的な方法に委ねる仕組み(パフォーマンス・ベースド・ロジ スティックス(PBL))を導入している。さらに、欧米諸国の間では、ロジスティックス対話が 盛んになっており、民生品を中心とした部品情報の共有や相互融通、装備システムの維 持支援の標準的な管理手法やこれらの国際標準化などが話し合われている。 我が国においても、総合取得改革において、補給機能の向上を図るため補給システム を改善するべく、米国国防省や民間で導入されているビジネスモデルによる効果検証な ど、補給改革に着手し始めたところである。 補給改革の実現にあたっては、新たな脅威や国際協力など多様な任務に有効に対応 するため、これまで以上に、迅速かつ効率的な補給システムの確立が必要不可欠であり、 様々な補給の現況についてリアルタイムで簡単なデータアクセスによって必要な情報が 一覧で見えるようにした資源配分を可能とする業務効率化のためのシステムソフト(ER P)や瞬時で大量の梱包や物資に張られた情報を読み保管や補給での効率的かつ正確 な管理が可能となる電子タグ(RFID)の活用などの民生分野の優れた成果等を積極的 に活用し、即応性、信頼性、品質、稼動率を向上するよう進めていくことが重要である。そ の際、各自衛隊の個別システムを刷新して機能向上させていくとともに、統合的な視点に - 12 - より、補給業務全体の効果の検証や電子タグ(RFID)の利活用等を実施検証していくこ とが必要である。現在の各自衛隊の補給態勢においては、補給のスピードと精度を改善 する余地は多く、その改善を進めるには、統合的な後方支援機能の導入や、追跡管理、 電子化・自動化、各幕共通部品の補給管理機能、人材の育成などに取り組むことが効果 的であると考えられる。また、ライフサイクルを通じて管理を行うためには、部品の共有化、 標準化が必要であり、また、整備の履歴管理など個品管理を徹底していくという観点から も、国際標準の動きをも踏まえながら装備にかかる部品等の標準化を促進していくことが 必要である。 欧米諸国とのロジスティックスの国際対話についても米国等との対話を開始したところ であり、民生部品や共通部品に関する情報共有や標準的な管理手法等についての対話 を通じ、我が国の補給業務の改善に資するよう努めていくこととしている。 また、装備システムについて、長期にわたり運用するためには、安定した部品供給体 制が保証されることが必要であるが、民生品のサイクルと装備品のサイクルは必ずしも 一致しない。民生品を活用する利点としては、購入費の削減による経済効果があること、 最新の技術を的確に反映可能であること、既に公開された技術で安定性があること、枯 渇部品の代替品の適用が可能であることなどの利点がある。他方で、民生品の製品サ ポート期間は短く、製造中止による部品枯渇や陳腐化にいかに対処していくかは重要な 課題である。このため、民生品の利点を生かす方策としては、短い期間で更新し保証期 間の終了に対応して長期的に安定した機能性能を発揮しつつ維持費の高騰を防ぐととも に、COTS技術の適用の際の影響をいかに管理していくかが成功の鍵となる。米国では、 汎用品に関する製造、試験、在庫などを集積した情報サイトを整備し、この問題に対応し ようとしている。民間団体では、航空機分野における汎用品活用のため情報サイトの構 築について検討を開始しており、その有効な利活用ができることが期待されている。 我が国において、補給改革を進めるに当たっても、官民ともに効率性を高める取り組 みを強化するとともに、部隊運用ニーズと供給サイドの情報を的確に連携しうるよう、官 民相互の情報共有を行ってパートナーシップとしての関係を構築していくことが重要であ り、民間活力を効果的に引き出すよう具体的な討議を進めていく必要がある。 また、自由討議において、次のような意見が交わされた。 ・ 自衛隊は、冷戦期の「保有」する時代から、統合運用、海外での国際貢献など - 13 - 「運用」する時代になり、国民の関心も高くなっており、ロジスティックスの重 要性が認識され始めている。官民は、これまでの発想にとらわれず、Win W inの関係を築けるよう率直な意見交換が必要である。 ・ ロジスティックスの範囲内でしか、部隊は活動できないものである。その意味 で、「後方」という言葉は不適切である。ロジスティックスの強弱は組織の強弱 そのものを示すものである。諸外国は、ロジスティックスに科学、数学、経営分 野の優秀な人材を投入し、最新のビジネス手法を取り入れ、国際的な討議を行っ ている。我が国も、伝統的な「後方軽視」の発想を改めなければならない。 ・ 防衛装備の修理現場における改善の障害は、 官民双方に克服すべき課題があり、 現場の抱える様々な問題を取り上げることも必要である。例えば、民間側では、 防衛分野の現場文化の問題であり、民生部門と比較すると生産効率は相当な乖離 が存在している。他方、生産効率を上げるべく現場を変えても、官給品がタイム リーに入ってこないことがあり、生産工程に遅延が発生するという問題がある。 ・ ジャスト・イン・タイム型の補給に当たっては、部隊側の消費需要を供給側の 情報、官民の情報を相互に関係付け、需要予測を高め、その精度を上げることで、 無駄を減らそうとすることが有効な方策である。その際、官民の対等な関係が重 要であり、官側が民側の効率性を活用して官側にサポートを提供することである。 民側のもつ効率性を活用し、複数年度のパフォーマンスの保証を求めるなど、新 たな契約形態を導入するなど、民側に一定の範囲内で裁量を与えて、民間の責任 と効率性、インセンティブを付与していく必要がある。 ・ 欧米国防機関は、日本の民間企業が実施していた効率的なビジネス手法を国防 部門に取り入れたものである。日本の優れた民間企業の知恵が参考になるはずで ある。 ・ 我が国は伝統的に「後方」と称しており、後方軽視を示すもの。後方分野での 改革を進めるには、後方重視の意識改革が必要である。グローバルな視点に立ち つつも、我が国固有の文化に対応した改革でなければならない。 ・ ロジスティックスの国際協力を進める場合、部品等の相互融通が想定されるが、 武器輸出三原則等の整理が必要である。 - 14 - 6.真に必要な防衛生産・技術基盤の確立 (1) 技術戦略 新防衛計画の大綱において、 「我が国の安全保障上不可欠な中核技術分野を中心に、 真に必要な防衛生産・技術基盤の確立に努める」とされている。このため、総合取 得改革では、技術分野の重点化を中心とした技術戦略を策定し、特定分野への重点 的な資源投資によるメリハリのきいた研究開発の実施、 「選択と集中」を行うことと している。 技術戦略の策定に当たっては、民生技術の進展や新技術の芽生えなどの技術環境 の変化と防衛や運用環境の変化の両面から整理・分析し、コアとなる装備について、 将来装備のシステム技術を発展させていくことが必要である。このため、官民が協 力して、技術マップやロードマップの作成、重点的な技術研究の実施、その検証・ 評価の着実な実施、将来装備システム技術の確立、技術調査による技術動向の見極 め、将来の可能性を秘めた技術の把握など体系的に進めていくことが重要である。 防衛力の一つを担っている国内の技術力の向上については、官民それぞれが不断の 努力を行っていくことが必要である。また、高い技術水準を保持し、技術優位を確 立するには様々な課題が存在している。 例えば、我が国全体の研究開発投資の総額は、欧米諸国のそれと比べ極めて低い 水準にとどまっているのみならず、その中でも防衛にかかる研究開発費の比率は他 国と比較したらさらに低い水準にある。また、防衛関係の技術分野では、産学官の 連携が十分にとれておらず、人的にも、基礎研究や応用研究の面でも分断されたま まといった問題がある。今後、技術基盤を強化していくためには、重点技術分野に は継続性・計画性を確保し、効率的・効果的な資源配分が重要である。優れた民間 技術を組織的継続的に発掘するための仕組みを構築し、軍事固有な分野や独自性を 必要とする技術分野に対して適切な配慮をしていくことが必要である。 また、昨年の12月の官房長官談話において、武器輸出三原則等についても弾道 ミサイル防衛(BMD)については例外とされ、その他については個別案件毎に判 断するとされた。今後は、我が国としても、開発・生産面やロジスティックスなど、 装備取得に関わる様々な場面において、諸外国との協力・協調の重要性がさらに増 - 15 - 大していくと考えられる。武器輸出三原則等をはじめとする武器輸出管理政策につ いては、防衛生産・技術基盤及び安全保障への影響の双方の観点から、個別の案件 について、より掘り下げた検討を深めていくことが重要である。このため、政府レ ベル・民間レベルで協議をしつつ、最先端の装備生産・技術の育成に資するよう取 り組んでいくことが技術立国としての日本の発展にも資するものと考えられる。 また、自由討議において、次のような意見が交わされた。 ・ 優れた装備の生産には、技術が中核的な役割を果たす。両用技術が議論されて いるように、技術戦略を巡る転換点にある。政府や産業においても、「安心・安 全の確保」という視点で、防衛産業の位置づけや役割を明確にしていく時代が到 来した。今後は、この分野においても、経済性や安全性との調和をはかり、官民 が様々な課題に取り組み、実効あるものにしていくことが重要である。 ・ 欧米諸国は日本の民間技術に非常に関心が高いし、東南アジアは日本の潜在的 なパワーを評価しており、国際的な視野でみていくことが必要である。 ・ 研究開発費に占める国防費の割合は、欧米が3割から6割に達するが、日本は わずか4%程度であり、技術全体を網羅することは不可能である。中長期的な技 術見積もりを策定・逐次見直しを行い、時代のニーズに的確に対応し、「選択と 集中」の下、重点を置く分野を決めていく必要がある。 ・ 防衛分野には、「選択と集中」の観点からシステム的な見方で資源配分をして いくことが必要であり、民生技術を防衛技術に転用するための客観的な方策など、 優れた技術を客観的に具体的な指標を持ち数値化して評価する仕組みが不可欠 である。 ・ 日本の防衛部門に民間部門の参入が乏しい理由としては、一般的に軍事に適用 可能というとアレルギー反応を示すことと、学会が防衛技術分野にはほとんど参 加していないこと、また、米国とは異なり、日本の防衛市場には魅力がないとい うことがあげられる。 ・ 技術戦略を調達補給で関連づけて考えていくことは、ライフサイクル管理の観 点から重要である。我が国独特の「文化」に対応した改革を進めていく必要があ る。 ・ 防衛調達の輸入比率が高まっているのは外国の技術導入が増大しているとい - 16 - うことであり、技術力の外国依存が高まっている現れである。国内産業の技術力 維持のためには、両用技術を含めた政府の取り組みを期待する。 ・ 新たな防衛環境の下では、装備の開発期間の短縮、運用期間の長期化などが求 められ、調達数量の減少や修理期間の延長、コスト削減等が求められており、武 器輸出三原則等の緩和により、国際的な水準にあるかどうか、我が国防衛産業の 技術力・生産力が実際に試されている段階にあると見ていかなければならない。 ・ 武器輸出三原則等の運用について、防衛技術・生産分野での国際協力に有効な 手段としての具体的な方策は現時点では明確ではないが、我が国の安全保障への 影響という観点から、個別具体的な案件を積み上げて、その方策の内容を確立し ていくことが重要である。 ・ 欧米諸国では、各国とも武器輸出管理政策には、それぞれ国益に応じた政策を 有している。また、防衛産業間の国際対話を進めるには政府の枠組みが前提であ るので、官民がともに積極的に推進し、取り組みが必要である。 ・ 武器輸出三原則等について、昨年12月の官房長官談話により個別案件毎に議 論することが可能となった。他方で、両用技術については、汎用であっても軍事 に転用できるため安全保障上の観点からの輸出管理が必要となってくる。こう考 えてみると、日本の武器輸出管理政策も、欧米のそれと実質的に変わらなくなっ ている。個別案件を積み上げて安全保障への影響を明確にしていく必要がある。 ・ 防衛生産・技術基盤の維持強化のためには、武器輸出三原則等については、双 方向での国際的な連携や協力が重要である。 - 17 - (2) 両用技術 我が国においても、総合科学技術会議では、9.11や自然災害や感染症などの事象 を受けて、科学技術の活用により国民生活の「安全・安心」をいかに確保するかという点 が、大きくクローズアップされている。特に、その検討の過程において、国の安全確保の ために軍民両用の技術として、デュアル・ユース・テクノロジーも含め、総合的な幅広い視 点から、産学官が連携し、全体としてこれらを維持・発展させるべきであるとして、我が国 の優れた技術力をベースとした様々な研究開発の成果等により、我が国の危機管理機 能の強化を図るといった観点で議論がなされている。 従って、既に「安全」という分野に取り組んでいる防衛産業のみならず、保有している技 術が安全分野にも転用可能であることについての認識がこれまで不足している民間企業 や研究機関などの有する技術をも最大限活用し、効率的かつ効果的な産学官連携を構 築することは、我が国全体の安全に資する科学技術の水準を向上させ、総合的な安全 保障に大きく貢献し、結果的に、我が国の防衛技術の向上に資するものと期待される。ま た、これまで防衛部門でしか利用されていなかった技術を民生分野にも用途を拡大し、当 該分野における量産効果を引き出すため、防衛技術の民需部門への積極的活用を支援 する方策や企業内部において必ずしも連携がとれていない民需開発部門と防衛開発部 門との技術交流の進展が望まれる。 その際、重点技術分野への国内他機関との関係を強化していくことが課題であり、総 合科学技術会議における「安心・安全」に関わる省庁間の連携や重点化すべき分野の明 確化、国の基幹技術としての維持強化について、防衛分野としても、適切に連携をとりつ つ、相互関係を構築していくことが重要である。 また、自由討議において、次のような意見が交わされた。 ・ 両用技術とは、米国から派生した言葉であるが、日本独自の考えで構築を進め るべきであり、「安心・安全」、「国民を守る技術」、「国として保持すべき安全に 資する基幹技術」として、国民に理解しやすい表現で国家として推進する必要性、 重要性を明確にしていかなければならない。 ・ 米国では、民間技術も含め優れた内外の技術をよく評価している。しかし、我 が国は、官民ともに、防衛部門は民間部門の技術をみてこなかった。優れた民生 - 18 - 技術を防衛技術に連携させることが重要であるが、 防衛技術と民生技術をつなぐ 仕組みやルールが存在しない。両用技術という視点で、経済産業省や文部科学省 などの他省の取り組みをよく調査し、防衛庁として、民生技術をよく評価して、 使えるものを活用していく仕組みが必要である。 ・ 日本では、一般的に「防衛」ということに対する抵抗感は強いが、「安心・安 全」に資するということには抵抗感は少ない。この文化の下では、先行する民生 技術を「安心・安全」に使い、さらに軍事部門に使うということが効果的であり、 「安心・安全」が防衛に迫ってきたという構図である。 ・ 両用技術という視点から、安全保障上不可欠な装備・技術について、幅広い見 地から判断して「選択と集中」を図っていくことが重要である。 ・ 両用技術について、軍事技術と民生技術の境目が不明瞭である。現在の輸出管 理規制では、民生技術ならば輸出管理規制にはかからない。このため、安全保障 上の視点から、その流出を防止するべく輸出管理規制を行うべきとの議論がある。 輸出管理は、各国相互依存関係にある。優れた技術について、軍事のみならず両 用技術を含めて管理していかないと日本の安心・安全は保持できない。 ・ 元来、技術は中立的であるから、輸出管理をする場合は政治的な判断を要する。 その判断を曖昧な状態にしておくと、民間企業はリスクと捉え、この分野に安易 に参入しない。産学官が連携して情報を持ち合うことが重要である。 ・ 両用技術と軍事専用技術の明確化としては、両用性の度合いによって整理が可 能である。製造の段階的な整理方法や構成品単位でみた整理方法が考えられる。 段階的な整理では基礎技術に近いほど、構成品単位では素材に近いほど、それぞ れ両用性が高いといえる。 ・ 米国の優れた装備も、その構成品や部品レベルでは、日本製が多く使われてお り、両用技術の視点から、日本の民生技術の技術力、生産力を評価していくこと が重要である。 - 19 - (3) 生産基盤 防衛産業の意味は、防衛力の基礎であり、安全保障上の抑止力、バーゲニングパワ ーとしての機能を有しており、我が国の固有な特殊性をも踏まえ、装備について、調達即 応性や安定供給、保守修理といったライフサイクルを通じた供給を担当している。また、 他技術や産業への波及効果も大きく、その裾野は広く雇用への影響も大きい。民間団体 の調査によれば、防衛部門の製造設備の70%以上は防衛専用であり、技術者・技能者 の80%以上は防衛専従であって、特殊な技術や製造工程を必要とするため、各種の規 制法・事業法の制約を受けるものも多い。また、外国企業と比べ、国内企業の売り上げに 占める防需比率が低く、分野毎に多数の企業が存在し、武器輸出三原則等による市場 や海外との交流・連携の制約など、他国にない特色を有していると言われている。 昨年決定された中期防衛力整備計画では、「真に必要な防衛生産・技術基盤の確立 等総合取得改革の諸施策を推進」するとされた。防衛生産・技術基盤は、我が国の防衛 力そのものを構成しており、技術立国としての戦略産業として、長期的な基盤強化戦略を 立ててその維持育成を図っていかなければならない。 今後、「真に必要な防衛生産・技術基盤の確立」に向け、「選択と集中」により重点を置 くべき分野を選択し、選択された分野に資源を重点化して計画的な装備取得を行うととも に、民生分野の技術革新を踏まえ我が国の優れた民生分野の技術を活用していくことが 重要である。「選択と集中」すべき分野としては、将来の防衛構想に合致するよう防衛ニ ーズ、また、技術の進展を見据えて将来の戦闘様相において優越するよう技術ニーズを 受け、中核となるべき分野を明確化し、計画的な施策をしていくとともに、装備の能力発 揮に不可欠で最も基盤的で防衛装備品以外にニーズがなく一度失うと再生困難な分野 にも十分配慮していくことが必要である。 航空機産業に関しては、民生分野への高い技術波及効果があり、高付加価値で下請 けも含めた裾野の広い多層構造からなっており、防需の売り上げが6割程度を占めると いう特色を有している。平時・有事の運用を支えるための中長期的、戦略的な維持育成 方策が必要であり、生産基盤としては間断なく生産を継続すること、また、技術基盤につ いては、概ね10年に1回程度の開発事業の立ち上げが効果的である。航空機に関する 基盤の維持をしていくためには、計画的な生産と開発を行うことが必要である。また、諸 外国との技術交流を行い、民生分野や技術を積極的活用していくことが重要である。 - 20 - 艦艇の建造基盤は、これまで世界屈指の我が国の商船建造基盤に依存してきたとこ ろであるが、商船受注に係る熾烈な国際競争等の結果として、設備投資の減少、自主開 発の縮減、研究者数の減少といった現象が見られ、それが艦艇建造基盤にも影響を及 ぼしつつある。他方、米英等では、既に商船建造基盤は衰退しているため、艦艇建造基 盤は防衛専用技術として維持育成されており、国家の投資により先進的な試みも行われ ている。我が国の艦船建造基盤については、上記のような商船建造基盤の状況に加え、 船体及び武器等の各種搭載装備品を一つのシステムとして統合する技術での立ち後れ 等の問題があり、今後、先進的な艦艇を建造していくためには、人材や設備面で商船建 造基盤を引き続き適切に活用しつつ、艦艇独自の研究開発の取り組みを強化することに ついても検討が必要である。例えば、艦艇においても、システム統合のための開発段階 を設け、官民の連携や他産業との連携を行うことも重要な意義があるものと考えられる。 このように、防衛生産・技術基盤については、従来のように、我が国の特色・特殊性の みを強調するのではなく、グローバルな視点に立って、「真に必要な」基盤として、我が国 の技術・生産力を体現するものとして、世界的にも優れた民生部門の技術・生産力として その維持育成に努め、国内産業が技術力・生産性を高めていき、国際的な水準に到達し 維持し得るようにすることは、官民双方にとって共通の利益になると考えられる。民間の 活力を効果的に引き出していくことが重要であり、そのため、中長期的な生産・研究開発 の方針を明示していくことは有用であると考えられる。 また、自由討議において、次のような意見が交わされた。 ・ 防衛庁は昭和45年に国産化方針を定めているが、近年、装備調達では外国の 製品・構成品の導入が増大しており、真に必要な防衛生産・技術基盤の確保に懸 念が生じてきている。 ・ 民間の効率的な発想を活用し、「官から民へ」、「民に任せるべきは民に」とい う業務委託を進め、民側の効率性を最大に引き出すべきである。国の関与は重要 事項の決定にとどめるべきであり、民生品の活用や官給品の見直しを行い民側の 裁量を増やし、民側が効率性を発揮できるよう委ねていく方が合理的であること も多いはずである。日本でも、航空機整備では既に導入している部分もある。諸 外国は、英仏のようにPFI、リース契約など経済性、効率性を重視した民間へ の業務委託を行ったり、ドイツのように軍事部門そのものを民業化したりしてい - 21 - る例もある。これらを参考にし、オペレーションとパフォーマンスの調和を図っ ていくことが必要である。 ・ 防衛産業には、本格的な武力侵攻向けの装備を生産し、しかも防衛専従であっ て、民生部門への転換は不可能な分野がある。こうした分野の生産基盤の保持に は、技術力だけでは足りず、量産を前提として考える必要がある。官側は、撤退 や業界再編、あるいは基盤強化のための設備投資など、民側の状況や努力を十分 に認識した上で、生産・研究開発の中長期的な計画を明示していくことが必要で ある。 ・ 生産基盤に関しては、将来、どのような技術が重要となるか考慮しつつ、 「よ り良いもの」を生産することを最も重視していかなければならない。 ・ 生産基盤の維持からは「量の確保」が重要である。生産量の確保のためには、 海外市場を考慮すべきで、大型輸送機や救難飛行艇のような攻撃的でない装備に ついては、武器輸出三原則等を弾力的に運用し、また、必要となる型式承認取得 に当たっては、航空局などの国内規制官庁と防衛庁とが連携していくことが不可 欠である。海外で売れる条件がそろえば、価格の低減にもつながる。 ・ 防衛生産・技術基盤の維持は、これまで専らコマーシャルベースで行われてき た。今後、我が国の産業構造の利点を生かしつつ、欧米との格差を縮小してくこ とが重要である、 ・ 民側は、業種によって利害関係が異なるので、この利害関係を一致させて議論 を進めるべきである。 ・ 防衛産業の健全な存在、発展には、生産数量の確保、研究開発の推進が不可欠 である。民側の事情も考慮した施策が必要であり、規制緩和やインセンティブの 付与などを進めていくべきである。また、グローバルスタンダードを考えるあま り、国内の技術・生産基盤に空洞化が生じることを懸念する。 ・ 日本の艦艇建造基盤は、これまで商船建造基盤に依存しているが、商船は中韓 との激しい競争で疲弊してきている。欧米のように商船基盤は喪失して艦艇建造 基盤しかないと、艦艇基盤を維持するため開発投資が行われるようになり、斬新 な発想の艦艇建造が可能になるという面もある。今後、先進的な艦艇を建造する ことが必要であれば、艦艇建造にも、基盤保持育成の方策として、商船建造基盤 に依存するのみではなく、防衛庁が開発投資を行うべきである。 - 22 - (4) 官民のイコール・パートナーシップ 真に必要な防衛生産・技術基盤とは、「より良いものをより早くより安く」を実現する基 盤である。これは、優越した装備システムを開発しうる優れた技術力を有し、価格効率性 の優れた高品質・低価格での提供が可能である高い生産効率性であり、ライフサイクル 全体を通じて長期的な維持運用サポートが可能で不具合等への迅速な対処ができるよう 安定した製品保証が可能な基盤を指すものといえる。このような基盤の維持育成のため には、官民は、イコール・パートナーとしての関係を構築していくことが、官民相互の情報 共有を行い、リスク負担の不公平感の解消、参入機会の均等化による競争の活性化を 図っていかなければならない。 このためには、企業の経営努力や公正な競争が促進されるような取得・調達方式の在 り方について、ライフサイクル全体で企業の自主性・活力を生かせる仕組みを構築し、官 民ともに最大限の効率化を図っていくことが必要である。例えば、調達手続きの簡素化・ 合理化、インセンティブ契約制度や企業の契約方式に則した契約方式の導入等、実効あ る調達制度を整備していくことが必要である。また、人、金、ものといった限られた資源を 有効に活用していくということでは、装備の取得において民間手法の導入や民間活力の 活用は国際的な潮流になっている。その組織体制や業務管理プロセスを改善していくこ と、民間資金を有効に活用し、リース等の契約方式を導入するなど、民間活力の導入や 防衛部門以外の民間の成果を活用していくことが効果的である。 民間企業の側から見ると、その経営環境は変化しており、株主への説明責任、キャッ シュフロー経営が重視されてきており、防衛分野も例外とはされない。防衛生産・技術基 盤の維持育成の方策を検討するにあたって、民間企業の活力を効果的に引き出すため には、安全保障環境の変化のみならず、このような企業経営環境の変化を勘案していく ことが必要である。 このため、先端技術基盤の向上など防衛事業そのものが魅力的でなければならず、防 衛庁は、中長期的な整備や調達の計画や見積もりを明らかにし、企業の研究開発等へ の投資意欲が増大するような取り組みや優れた技術者や熟練工の確保のための方策を 確立することは重要である。民間団体では、装備を構成している要素技術の体系を整理 するべく調査を開始している。 - 23 - また、自由討議において、次のような意見が交わされた。 ・ 防衛計画の大綱に示された方針に即して、企業も変革していくことが必要であ り、官民がWin Winであるように進めることが重要である。防衛分野には、 依然として、官優位の感覚が強く、官民のイコールな関係の構築はなかなか難し いが、その構築は極めて重要であるので、官民双方が意識改革をしていくことが 必要である。 ・ 官民のイコール・パートナーシップの構築は不可欠であるが、制度的な改善が 必要である。例えば、契約制度に柔軟性が乏しく、企業のインセンティブが機能 しない仕組みであり、複数年度契約や集中取得、リース契約など、民間の効率性 を引き出せるような新制度が必要である。現行のインセンティブ契約は厳密すぎ るし、超過利益返納監査付契約の存在は官民の不公平感が強いなど、個別具体的 な研究を実施し、その改善を図るべきである。企業の努力に応じたインセンティ ブへの配慮が必要である。 ・ イコール・パートナーシップの構築を目指して、既存の CALS ネットワークを 活かすなど、官民相互の情報共有をすることが重要である。その際、公益事業を 活用するなどして、官側の立場で業務を委託し、官側の負担を軽減していくこと を考慮すべきである。 ・ 現行の原価計算方式は、生産効率を上げるインセンティブが生じなく問題であ り、このような非効率な生産を継続することは企業にとって長期的には有益では ない。防衛庁では、会計帳簿の処理に偏った原価計算方式を改め、標準的な原価 計算方式を導入するとともに、企業の生産性と効率性を高める制度の導入を検討 中であり、そのためには官民の情報共有が不可欠である。 ・ 開発装備は、量産見積単価が達成されず、調達コストが高くつくとの批判があ るが、問題は、開発時の見積もりと量産時の実績を比較分析する制度がないこと である。開発から維持運用までの見積もりを科学的に実施していないし、データ の蓄積もない。開発担当者も、企業担当者も、運用の現場から遊離しており、運 用の現場を理解させることも必要である。 ・ 官民双方とも、これまで開発、取得、維持・運用の各段階の横の連携が十分と れていなかったが、国産開発でも運用の現場、開発の現場、民間との連携など、 横の連携を強化していく必要がある。 - 24 - ・ 日本には、官優位の慣習が根強くあって、民側から官側にが知恵を出せないと いう体質・雰囲気がある。イコール・パートナーといっても、民側にとっては、 官側が唯一の納入先であり、その満足するものを生産することが任務であり、そ の言葉は美しいがなかなか難しい。 ・ 真に必要な防衛・技術基盤の確立に向け、長期的なロードマップを示し、その 規模を見極め、安定的な経営に資するための方法を議論していく必要である。 - 25 - 7.おわりに これまでみてきたように、欧米諸国は、技術優位の確立、国内の産業基盤を強化する べく国防組織・業務の両面にわたる変革を実施しており、官が主導しつつ民間の先進手 法を国防に適用している。我が国としても、装備の開発、生産、調達、補給能力の向上等 が安全保障を支える重要な要素として的確に評価しうる論理体系の研究・構築が求めら れている。総合取得改革は、多岐にわたる改革を進めることとしており、この改革を着実 に進めるためには、まず、最初の成果を確実に出して前進拡大することが重要である。 このため、官民の情報交換を密接に行い、相互の信頼関係を構築することが不可欠で あり、我が国の文化的な慣習も十分に踏まえて現実的な解決方法を思考することが重要 である。官民ともに、組織の縦割りをなくして評価する仕組みを確立し、各階層に応じた 教育を実行し、組織全体に改革を浸透させることが重要である。 新たな防衛計画大綱の下、自衛隊に対する様々な任務・役割が付与されていくことに なると思われる。技術立国の日本として、その技術力・生産力を活かし、優れた装備を開 発・生産・維持しうる国内産業基盤を保持していくことは、防衛力の一翼を担うという意味 において我が国の安全保障を支えているということである。真に必要な防衛生産・技術基 盤の確立に向けて、官民双方がとも努力していかなければならない課題である。 今般の懇談会においては、幅広い観点から有識者も交えながら率直な意見交換を行 うことができた。防衛庁の総合取得改革は、多角的な視点でその具体的な成果を上げよ うとしている。その改革を実効あるものにするためには、官民がそれぞれの立場でその効 率性を高め、また、引き出すような対策を講じていくことが必要である。今般の懇談会は、 まさに、これから官民のイコール・パートナーシップの構築のための第一歩であり、これを 契機に、官民間の対話が促進され、Win Winの関係を構築する一助になることを期待 する。 - 26 - 防衛装備取得戦略懇談会の開催日程と議題 第1回 4月7日(木)1300∼1500 「総合取得改革の推進について」 第2回 4月21日(木)1530∼1730 「ライフサイクル管理について」 講師:西口敏宏一橋大学教授 第3回 5月13日(金)1300∼1500 「ロジスティックス改革について」 第4回 5月27日(金)1300∼1500 「防衛生産技術基盤について① (技術戦略)」 講師:村山裕三同志社大学教授 第5回 6月 9日(木)1300∼1500 「防衛生産技術基盤について② (国内基盤、国際協力)」 第6回 6月23日(木)1300∼1500 「今後の装備取得について」 - 27 - 懇談会参加者 <民間側> (社)日本経済団体連合会防 三菱重工業(株)常務取締役 衛生産委員会 同 (社)日本防衛装備工業会 戸田 信雄氏 常務理事 永松 惠一氏 (株)日本製鋼所 植木 昌範氏 武井 三雄氏 理事長 木下 博生氏 川崎重工業(株) 航空宇宙カ 元山 近思氏 細谷 孝利氏 田中 重文氏 南部 伸孝氏 航空宇宙事業本部長 常務取締役特機本部長 同 (株)日立製作所 CEOデ ィフェンスシステム事業部長 同 (社)日本航空宇宙工業会 ンパニープレジデント 同 (社)日本造船工業会 専務理事 (株)アイ・エイチ・アイ マ リンユナイテッド 取締役 同 艦艇本部長 専務理事 (財)防衛調達基盤整備協会 第2事業部長 島 (財)防衛技術協会 青山 謹也氏 上田 愛彦氏 防衛参事官 大井 篤 防衛参事官 佐々木 達郎 装備企画課長 筒井 和人 艦船武器課長 辻 秀夫 航空機通信電子課長 渡辺 秀明 開発計画課長 井上 究 会長 (財)ディフェンス・リサー 専務理事 健治氏 チ・センター <防衛庁側> 防衛庁 - 28 - - 29 -