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今日のトピック
• イントロダクション:
農業と生態系サービスと経済学
農業と生態系サービスをどう両立
させるか:アジアの事例と経済学
の役割
• 両立にむけた経済学的アプローチ①:
生態系サービス支払(PES)
法政大学比較経済研究所 公開講演会
• 両立にむけた経済学的アプローチ②:
環境ラベリング
田中勝也(滋賀大学環境総合研究センター・准教授)
[email protected]
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講演のエッセンス
• 現代農業は作物生産については効率的だが、他の
生態系サービスと両立できていない
• 両立させるためには、生態系に配慮した保全型農
業の普及が必要
• 普及を促進するうえで経済学が担う役割は大きい
イントロダクション:
農業と生態系サービスと経済学
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生態系サービスと社会との関係
そもそも生態系サービスとは?
• 生態系から社会に提供されるサービスの総称
• 4種類の異なるサービス
• 基盤サービス
• 人間を含む生物種が存在するための環境の形成
(生態系サービスの土台)
• 供給サービス
• 食料や木材など我々の経済活動に必要な財の供給
(生態系の直接的な価値)
• 調節サービス
• 環境の安定、気候変動や洪水などの被害を抑制
• 文化的サービス
• 豊かな生態系の存在により、文化的・精神的に豊かさを提供
出所:馬奈木編(2012)p.112
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土地利用にみる生態系サービスの評価額
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農業が生み出す生態系サービス
• 農地・放牧地あわせて陸域全体の約20%の価値を提供
供給サービス
調整サービス
文化サービス
作物
水の涵養
レクリエーション
家畜
水の浄化
エコツーリズム
繊維(綿・麻など)
土壌侵食防止
自然に対する畏敬
生化学物質・自然薬品
病害虫抑制
文化
バイオ燃料
CO2吸収・固定
倫理観
出所:ミレニアム生態系評価(2005)に加筆
出所:Costanza et al. (1997)
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しかし実態は…
スマトラ島ランプン州における農業水質汚染
• 作物生産の効率化による生態系サービスの歪み
• 慣行農法(肥料・農薬の多投入、単一栽培など)によ
る生態系サービスの劣化
出所:著者撮影(2013年8月)
出所:滋賀県琵琶湖環境科学研究センター
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(自然植生 + 慣行農法)÷2 = 保全型農業?
代表的な保全型農業
• 農業と生態系サービスの両立にむけた農法
• 生態系に配慮した範囲での作物生産
• 減農薬栽培・減肥料栽培
• 不耕起栽培
• 有機栽培
• カバークロップ
• アグロフォレストリー
出所:米国農務省HP
今日のトピック
生態系サービスにとって望ましい農法は地域の
特性によって大きく異なる
出所:Foley et al. (2005)
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アグロフォレストリーとは
アグロフォレストリーの主な形態
• 森林でおこなう農業 – 林地において樹間で栽
• 混牧林地(Silvopasture agroforestry)
培・牧畜をおこなうこと
• 保全型農業の一形態
• 森林農業、混農林業、農林複合経営とも
• 途上国の多くで伝統的な農法
• その土地に適した作物・農法によって形態は異なる
• 緑の革命以降は多くの地域で衰退
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アグロフォレストリーの主な形態
• 樹林耕作地(Silvoarable agroforetry)
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アグロフォレストリー関連商品
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アグロフォレストリーのメリット・デメリッ
ト
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経済学の役割
• メリット
• 生物多様性の保全
• 土壌流出の防止・長期的な生産性の維持
• 肥料・農薬の低減
• 病害リスクの低減
• 収入の多角化・安定化
• これって農学など自然科学系の問題では?
• いえいえ、経済学はアグロフォレストリー普及の中心
的役割を担うといっても過言ではありません
• 普及にむけた技術的課題の解決
• 作物学
• 土壌学
• 植物生理学
• etc.
• 普及にむけた経済的課題の解決
• 農業経済学
• 環境経済学
• etc.
• デメリット
• 手間がかかる(ことが多い)
• 知識の習得が必須
• 面積あたりの収量・収入は単一栽培におよばない(こ
とが多い)
農学
経済学
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アグロフォレストリーの経済学
普及にむけたアプローチ(1)
• 農家の利潤極大化における農法選択
慣行農法
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アグロフォレ
ストリー
• 規制的手法
• 慣行農法に対する規制
• 現実にはまず無理
アグロフォレストリーの義務化
• 経済的手法①:課税
• 慣行農法に対する課税
して移行を促進
• これも現実には無理
相対的にコストのかかる農法に
?
農家の私
的な便益
(利潤)
水資源の保全
農業が社会に
提供する便益
の全体
(社会的便益)
生物多様性の保全
一般世帯の
公的な便益
(生態系
サービス)
水資源
の保全
CO2固定
生物多様性
の保全
CO2固定
このギャップ
をどう埋める
か 普及の鍵
• なぜ無理なのか?
• 西澤栄一郎編『農業環境政策の経済分析』の第6章をご参
照ください(宣伝)
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保全型農業へのアプローチ(2)
• 経済的手法②:補助金
• 保全型農業に対する補助金
慣行農法からの移行
生態系サービス支払(PES)
両立にむけた経済学的アプローチ①:
生態系サービス支払(PES)
• 経済的手法③:ブランド化
• 保全型農業による作物をブランド化して、その付加価
値を高める
環境ラベリング
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生態系サービス支払(PES)とは?
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PESの仕組み(アグロフォレストリーの場合)
• 生態系サービスを提供する森林・農地を保全する
ための支払制度
• 森林・農地から提供される生態系サービスの受益者
(恵みを享受している人々)が、供給者(農家・林
家)にサービスの内容と規模に応じた対価の支払いを
おこなう経済的メカニズム
• 森林・農地保全に向けた新しい試み
• 2010年のCOP10での主要課題のひとつに
• 多くは政府主導、一部に民間独自の試みも
• ヴィッテルの事例
・支払いを通じてWin-winの状況をつくる
・仲介者としての政府・NGOなどの役割が重要
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海外でのPESの取り組み
なぜPESが必要なのか
• 高い価値を有する生息地の購入
• 政府や民間、NGO等による買い取り(コスタリカ)
• 農地が提供する生態系サービスの多くには公共財
• 種や生息地へのアクセスを確保するための支払い
• 遺伝資源探索・研究・狩猟・採取許可証、エコツーリズム
• 生物多様性保全管理行為への支払い
的な特徴
• 保全のための地役権、使用権等の貸借、売買契約
• 生物多様性、CO2固定、水源涵養、etc.
• キャップ&トレード規制下での権利移転・売買
• ミティゲーション・生物多様性クレジット、開発権
• 公共財の特徴
• 利用者を限定することが困難(非排除性)
• ある人が消費しても他人の消費できる量に影響しない
(非競合性)
市場にまかせると公共財は十分供給されない(市場の
失敗)そのため、社会的に望ましい供給量を実現するた
めの市場介入(PES)が必要
• 生物多様性保全ビジネスの支援
• エコラベリング
• コスタリカにおけるPES
• 1997~2004年にかけて2億ドルをPSAプログラムに投資し、46万haの森林等
を守り、8,000人以上の人々の生活改善に貢献
• 米国政府やEUの環境保護のための農業直接支払い
• 湿地ミティゲーション・バンキング
• 開発行為の代償としてクレジットを購入、400以上のバンクが認可され、2006年
に取引されたクレジットは35,000万ドル以上
• 絶滅危惧種クレジット
• 企業活動のオフセット、2005年の市場規模4000万ドル以上、930の取引により
44,600haの絶滅危惧種生息地の保護に貢献
• ヴィッテル社の持続可能な農家への報酬の支払い
出所:吉田(2014)
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拡大するPESの市場規模
国内のPES(農業)
市場機会
市場規模
2008年
2020年予測
2050年予測
農産品認証
(例,有機農業,保全のグレード)
400億米ドル (世界全体の
2100億米ドル
食糧・飲料市場の2.5%)
9000億米ドル
林産品認証(例,FSC, PEFC)
50 億米ドル FSC認証製品 150億米ドル
500億米ドル
生物多様性配慮型炭素 /森林オフセット
(例,CDM, VCS, REDD+)
2100万米ドル(2006年)
100億米ドル以上 100億米ドル以上
水関連の生態系サービス支払 (政府)
52億米ドル
60億米ドル
200億米ドル
流域管理のための支払 (自発的)
500万米ドル 様々なパイ
ロット事例 (例,コスタ 20億米ドル
リカ,エクアドル)
100億米ドル
他の生態系のサービス支払(政府の支援)
30億米ドル
70億米ドル
150億米ドル
義務的生物多様性オフセット
34億米ドル
(例,米国のミティゲーションバンキング)
100億米ドル
200億米ドル
自主的生物多様性オフセット
1700万米ドル
1億米ドル
4億米ドル
バイオプロスペクティング契約
3000万米ドル
1億米ドル
5億米ドル
民間の土地信託、保全の地役権
(例,北米,オーストラリア)
80億米ドル米国のみ
200億米ドル
予測困難
• 環境保全型農業直接支援対策(2014年〜)
• 化学肥料・化学農薬を50%低減し、さらに温暖化防
止・生物多様性保全などにむけた営農活動を実施する
農家を支援
出所:農林水産省(2014)
出所:TEEB for Business and Enterprise (2010), 吉田(2014)
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フィリピンにおけるPESの仮想実験:サンタ
ロザ川地域
国内のPES(森林)
• 森林環境税(2003年〜)
• 森林が提供する生態系サービスの維持・回復のために
必要な費用を住民税の一部として徴収
• 2003年に高知県でスタート、今では約半分の都道府県で実施
• 年額500〜1,000円程度の課税が一般的
• 神奈川県の場合
• 個人県民税の超過課税(水源環境保全税)
• 所得に応じて県民税率を上乗せ
• 平均負担額:約890円/年(納税者1人あたり)
• 税収規模:約39億円/年
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アンケートによるPESの仮想実験
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対象農家における受入意志額(ペソ/年)
• サンタロザ川上流域の約200農家を対象に実施
• 農家により大きな違い
• 平均値:16,671
• 最小値/最大値:763 / 63,793
• 標準偏差:14,377
• 支払水準:1,000〜90,000ペソ
• 実施期間:5, 10, 20年
出所:Tanaka et al. (2013)
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PESの政策シミュレーション
(実施に必要な費用と参加面積)
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今後の展開
• 現実的な費用負担で、相当数の農家のPES参加
が見込めることを確認
• 下流域の一般世帯も、PES支払いに応じること
を確認(Rañola and Tanaka, 2013)
• 以上の結果を対象流域の農家・一般住民・地方政
府に発表(2013年10月)
• 結果を受けて、シラン市・サンタロザ両市が
PESの実施にむけた協議を進めることで合意
今ここです
出所:Tanaka et al. (2013)
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さまざまな環境ラベル(国内のみ)
両立にむけた経済学的アプローチ②:
環境ラベリング
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(狭義における)環境ラベリングとは?
アグロフォレストリーの主な環境ラベル
• ISO14024のタイプⅠ環境ラベル
• 環境に配慮して作られた製品を第三者機関が認証し、
製品への認証ラベルの使用が認められる制度
• 環境認証、エコラベリング、エコマークとも
• レインフォレスト・アライアンス
• UTZ
(グッドインサイド)
• 4C
• USDAオーガニック
• バードフレンドリー
出所:エコマーク事務局HP(http://www.ecomark.jp/guidance/acquire/merit/)
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レインフォレスト・アライアンスの事例:
認証の主な原則
1. 熱帯雨林の日陰で育てる
こと
2. 野生生物を保全すること
3. 化学肥料の使用を管理し
削減すること
4. 労働者に適切な労働条件
を与え、地域社会全体が
恩恵を受けること
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レインフォレスト・アライアンスの事例:
環境要件①
• 森林伐採の規制
• 過去2年以内に森林伐採された区域を所有する農園は認
証しない
• 樹木の伐採は、所轄官庁の承認済の持続可能な管理計
画を実施し、法の求めるすべての許可を取得している
場合のみ許可
• 非適作地における農園開発の禁止
• 予定する農業生産レベルに適した土地においてのみ、
新規生産区域の設置を許可
• 生産区域を新たに確保するための天然林の伐採や、焼
き畑は禁止
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レインフォレスト・アライアンスの事例:
環境要件②
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インドネシア・スマトラ島における環境ラベ
ルの有効性
• 生態系の保全
• 保全プログラムを通じた、既存の自然生態系の特定・
保護・回復を義務化
• 農園内の管理・生産活動の結果としての生態系の破
壊・改変行為の禁止
• 環境ラベルはコーヒー農家の所得向上・生態系
サービスの向上に役立っているか?
• ランプン州タンガムス県のコーヒー農家約400軒を対
象に聞き取り調査を実施(2013年11月)
• 対象環境ラベル
• レインフォレスト・アライアンス
• アグロフォレストリーの義務化
• 開墾地の林地は、1ha当たり平均で最低でも12種の在
来種で構成されること
• 林冠は最低でも2階層で構成されること
• 開墾地の樹木の植被率は最低でも40%
• 4C
• USDAオーガニック
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対象農家における環境ラベルのシェア
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環境ラベルの有効性
• 傾向スコアマッチング法による、環境ラベル認証
農家・非認証農家との比較結果
• 所得への影響
• 認証農家と非認証農家で所得に大きな違いは見られない
• 認証による所得ギャップの解消(少なくとも損にはならない)
• ブランドの普及拡大により今後は逆転も?
• 生態系への影響
• 認証農家の面積あたり化学肥料投入量は約3割、農薬投入量は約
2割低減
• 投入ベースでの効果を確認。生態系における実際の効果は自然
科学分野との連携が必要
今ここです
出所:Tanaka and Arifin(2014)
出所:Tanaka and Arifin(2014)
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傾向スコアマッチングって何?
環境ラベルの課題
• 因果推定のための統計(ミクロ計量
• 認証コストの問題
• 経済的・技術的障壁がまだ大きい
分析)手法のひとつ
制度的な課題
• 消費者の認知はまだ限定的
• 近年では食の安全、環境意識の高まりとともに拡大
• 「統計学が最強の学問である」は、
タイトルがいかにも胡散臭いですが、
初心者でも読みやすく実践的な入門
書です
• 学術的な課題
• 普及にむけた社会・経済的条件の研究が不十分
途上国では特に限定的
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おわりに
• 今日のトピックに限らず、保全型農業の普及・生
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ご清聴ありがとうございました
• 質問・コメント、何でもどうぞご遠慮なく
態系サービスの保全について、経済学が果たす役
割は他にもたくさんあります
• 法政は農業経済学・環境経済学の人材が大変豊富大学
[email protected]
です
• 積極的に関連講義を履修したり、各先生方に話を聞きにいった
らいいと思います
• この分野の基本はミクロ経済学です
• 農業経済・環境経済の理論の大半はミクロ経済学を基礎として
います
• ミクロは社会に出てからも役立つ知識満載ですので、ぜひ履修
してください
• 統計学・計量経済学も履修しておくとベターです
Good luck!!
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