Comments
Description
Transcript
新規養殖業の経済性の検討(イワガキの養殖経営・流通調査)
研 究 分 野 7 水産業の経営安定研究の推進 部 名 企画指導部 (2)新規養殖業の経済性の検討(イワガキの養殖経営・流通調査) 研 究 課 題 名 予 算 区 分 県単 試験研究実施年度・研究期間 平成 13 年度~平成 17 年度 担 当 (主)宮田 勉 (副)大野宣和 協 力 ・ 分 担 関 係 <目的> 現在、イワガキ養殖技術が確立しつつあり、今後その技術の普及定着を図る必要がある。生産者及び組合(種 苗会社も含む)がイワガキ養殖に参入するか否かの意思を決定するためにはイワガキ市場資料及び経営資料 などが必要となる。具体的には、市場規模、将来性、価格、競合他産地動向、原価、他の養殖業との組合せによる 収益性などの資料である。そこで、イワガキ養殖の経営上のメリット、デメリットを明らかにし、参入業者の意 思決定及び参入後の経営方針等に資する。また、岩手の殻付きマガキブランドの成立要因について調査分析 し、イワガキのブランド構築の一助とする。 イワガキ市場は成長期を脱し、初期の成熟期に達したと考えられる。つまり、生産志向型産地対応に販売 戦略も組み込む必要があると考えられる。そこで、昨年度に引き続きブランドに関する調査研究を主対象と する。 今年度は本事業の最終年度であることから、マガキブランドの成立要因についてまとめた。なお、イワガ キ養殖の経営上のメリット・デメリット等については、岩手県水産技術センター研究報告第4号で報告して いるのでそちらを参照願いたい。 <試験研究方法> 本研究は、産地調査(漁家、漁協、行政・水試等)、中央卸売市場卸売業者、消費地仲卸業者を主対象と した聞き取り調査に拠っている。 <結果の概要・要約> 殻付きカキは、冬季において鮮度をアピールできる数少ない商品であるとともに鮮度保持が平易で、外食 等において根強い需要がある。これがベネフィット(=便益)であり、そしてベネフィットを取り巻く知覚 品質(官能的品質や商品・産地イメージなど)の最善化を図るために、岩手県産地では多大なる労働・資本・ 技術を投下してきた。さらに、特有の流通システム構築など県内漁協で互いに競争し、産地としての競争力 も高めていた。これらのことから、岩手県産殻付きカキ産地は、消費地仲卸業者・卸売業者からの信用を得 ることができ、そして、長期間に亘る取引によって強固なチャネルを築くとともにブランド・ロイヤルティ も構築できた。その結果、仲卸業者等のスイッチング・コストも高まり、産地の長期的な競争優位性も確立 していた。そのうえ、ブランド・ロイヤルティによって安定価格、むき身と比較すると高価格が実現され、 そのことが産地努力のモチベーションにつながるといった好循環を形成した。 一方、一般的な水産物マーケティング戦略は、E.J.マッカシーのマーケティング・ミックスに代表される ような市場創造型の戦略で、プロモーションが重視されてきた。そして、産地の行政・漁協等が主体となっ て、ネーミング・キャッチフレーズ・ロゴ開発、販促グッズ作成、プロモーションなどを実施し、消費者に 直接働き掛けるプル戦略が展開されてきた。しかも、主に補助事業による展開であるため、短期間に限った 事業実施が余儀なくされ、いきおいブランド・ロイヤルティ構築も困難であった。 つまり、長期に亘りマーケットリーダーであり続けた岩手県産殻付きカキ産地は、プッシュ戦略であった こと、そして消費地仲卸業者・卸売業者とのチャネル強化を図る関係性マーケティングを展開した点が優れ ていたと考えられた。 さらに、取引過程で獲得した市場ポジションも非常に重要であった。それは、関東を中心としたセグメン テーションであり、なおかつ外食等の産業財セグメンテーションである。これを成立させた条件は、①消費 地需要量と産地供給量のマッチング、②消費地ニーズ・ウォンツを満たす、産地の漁場環境、漁協・漁家の 産地対応力などであり、そのうえ、岩手県殻付きカキ産地のコア・コンピタンスともいえる重要な要素であ る。 新規に、水産物マーケティング戦略、ブランド化を構築する場合、このような産地のコア・コンピタンス と対象水産物の市場等の情報を十分に収集・分析し、なおかつ軌道に乗るまでリーダーシップを発揮し続け られる人材がいるのであれば、殻付きカキのような戦略を創造的に展開して比較的短期間にブランド化でき - 126- ると考えられる。 岩手県における殻付きカキ・マーケティング戦略やブランド化は産地と消費地仲卸業者・卸売業者とのコ ラボレーションによって実現し、そして双方の情報を密に交換してきた。このことから、産地・商品情報を 消費地仲卸業者等へ能動的にプロモーションを行う必要性がなかった。同様に、その川下の、ターゲットで ある料亭、割烹、レストラン、ホテルなどにもプロモーションを行ってこなかった。 しかし、昨今の日本経済低迷によって、消費地仲卸業者も非常に厳しい状況下にあり、これまで行ってき たプロモーションに費用や労働を割けない状況にあるし、また 1990 年中盤以降台頭してきた殻付きイワガキ が注目を集めるようになって、相対的に殻付きカキのイメージは陳腐化した。 D.A.アーカーは、ブランドを維持するには定期的なプロモーションが必要で、プロモーションを怠るとそ のブランド価値が減ずることを論じている。さらに、アーカーは、ブランド構築には多大なる時間と投資を 要す一方、ブランド維持はそれに比較すれば僅かであることも論じている。 このように厳しさを増しているカキ市場において、高値で推移している岩手県産の殻付きカキやむき身カ キ価格を維持するには、これまでの関係性マーケティング戦略に、ブランド維持を目的としたプロモーショ ン戦略を加える必要があると考えられる。 <主要成果の具体的なデータ> 特になし <問題点> 昨年度の報告で、岩手県産マガキは、10 月の高値に出荷ピークを形成しているが、春ガキ、夏ガキの生産 増大によって、それが崩れる可能性を指摘し、今年度その計量分析を予定していた。しかし、この影響が顕 著となった期間が短いため、統計的に計量的分析は困難であった。一定時期を経て計量分析を行いたいと考 えている。 <結果の発表・活用状況等> 口頭発表 1 浅海増養殖技術検討会(2002.9.2) 2 水産技術センター出前フォーラムで話題提供(2002.9.24 大船渡地区「マガキ・イワガキ養殖の経営と流 通」) 3 イワガキ養殖推進指針説明会(2002.12.18 水産技術センター大会議室「イワガキ市場の現況」) 4 イワガキ養殖推進指針説明会(2002.12.19 宮古地方振興局会議室「イワガキ市場の現況」) 5 水産技術センター出前フォーラムで話題提供 (2003.2.18 釜石地区「マガキ・イワガキ養殖の経営と流通」) 6 宮田勉「イワガキの流通と経営」(2003.4、野田村漁協「イワガキ勉強会」) 論文・報告書等 1 宮田勉「新規養殖業イワガキの経済性分析」(2004、岩手県水産技術センター研究報告(VOL.4)) 2 水産技術センター『イワガキ養殖技術開発(経済調査)』(2004、水産庁事業報告) 3 宮田勉「殻付カキのマーケティング戦略」(2005、地域漁業研究)第 46 巻第1号 - 127-