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見る/開く - 東京外国語大学学術成果コレクション
東京外国語大学 留学生日本語教育センター論集 38 : 105 ~ 114, 2012 小論文作成のプロセスにおける「記事レポート」の試み 大津 友美 【キーワード】 小論文,レポート,記事レポート,ブックレポート,新聞記事 1 はじめに 日本の大学・大学院では,しばしば授業の課題として小論文やレポートが課せら れる.そのため,日本の大学で学ぼうとする留学生にとって,日本語で小論文やレ ポートなどが書けるようになることは非常に重要である.東京外国語大学留学生日 本語教育センター(以下,JLC)の1年コースでは,日本の大学に入学予定の国費 学部進学留学生に1年間の集中予備教育を行っているが,大学入学後に必要とされ るレポートの書き方を指導する必要があるとし,文章の内容の整理や論の進め方を 含めた文章構成の指導を行いながら,学生が各自の専門や関心に応じた小レポート を書かせることを上級レベルの指導の目標としている(伊集院・横田,2010:86) . 学生は初級日本語から上級日本語までを1年間で段階的に学習し,コース終了時に, その学習の最終成果物として,小論文1を作成することになっている. 中級レベルの日本語学習においては,自分の中にあるものを主な材料として意見 文や感想文を書けば十分であったが,大学でのレポート,小論文,論文では,文献 や資料など外から得た情報を参照しながら書くことが主である.本,論文,新聞記 事といった長い文章の主旨を読みとり,必要な情報を取り出す必要があるのはもち ろんのこと,自分のテーマや問題意識に基づいて,関連する複数のテクストを探し 出し,それらの内容を比較しながら客観的に検討することも要求される.小論文を まとめるにあたっては,文献や資料などからの情報や筆者の意図をよく理解し,位 置づけたうえで,自らの主張や考察を述べる必要がある. しかし,学生の作成した小論文を読むと,文献や資料を有効に活用できていない と感じることが少なくない.文献を読んで,その内容を学生自身がどう評価したの か,どれが他人の意見で,それを踏まえて学生自身がどのような意見を持つに至っ たのかが明確に分からない場合などがある. 他人の文章から引用する際に注意しな 1 本稿で「小論文」と呼ぶものは,JLC では実際には「小レポート」と呼ばれている.しかし, 「記事レポート」と名前が似ており紛らわしいので,本稿では便宜上「小論文」と呼ぶ. - 105 - ければいけない点や,引用の表現形式については,中級レベルでの文章表現指導で 行われている.それにもかかわらずこのような問題があるということは,二通 (2006)が論じているとおり,学生が他人の文章にどう接し,どのように読んで いるのかということを考える必要があるのであろう. そこで筆者は,学生が文献を読む際に,そこから得た情報が自らの小論文テーマ とどう関わるのかを意識化させることを目的とし,小論文作成のプロセスの中に 「記事レポート」の活動を組み入れた. 「記事レポート」とは,新聞記事の内容を レジュメの形で簡単に書き表し,さらにその内容が自分の小論文テーマや主張とど う関係があるのかをまとめて口頭で報告する活動のことである.2010 年度の冬の 読解カリキュラムを再考し,上級レベルでの文章表現につながるような読解の学習 が必要だと判断し,試みた活動である2. しかし,記事レポートが小論文の内容の深化に寄与することができたかどうか, 今回の活動の進め方が適切であったかどうかについては振り返りを要する. そこで 本研究では,記事レポートのために作成した学生のレジュメ,元の文献に施された メモ,筆者のクラスで行われた口頭発表とディスカッションの録音を分析し,活動 の改善をめざして,記事レポートが小論文作成に貢献できると思われる点と,今後 改善していく必要のある点について論じる. 2 記事レポート活動の概要 記事レポートは冬学期(1 月~3 月)に小論文作成を行う「総合日本語 A」の授 業の中に組み入れ,小論文完成までに 2 回にわたって行われた.1 回目は,小論文 のテーマ探しに向けて文献を読むことに主眼を置き,2 回目は,小論文のテーマに 関わる複数の文献を読み比べ,テーマに対する理解を深めることを目的とした.学 生を対象に行った事前説明と実際の活動の進め方は以下のとおりである. 2.1 事前説明 冬休みが始まる直前に,学生に対して(1)図書館ガイダンスと(2)記事レポ ートの書き方の説明を行った. 図書館ガイダンスは大学図書館職員に依頼し,コンピューター室にて,図書,雑 誌,新聞記事などの検索方法を中心に説明をしてもらった.特に記事レポートのた 2 活動のための計画立案,教材作成は,2002 年度冬学期の試みを参考に,2010 年度読解カリ キュラム担当者(大津友美・加藤陽子)で行った. - 106 - めには,新聞記事検索が重要であるため,学内のコンピューターからアクセスでき るオンライン・ジャーナル「朝日新聞記事データベース『聞蔵Ⅱビジュアル』」 (http://database.asahi.com/library2/)の使用法についても説明してもらった. 記事レポートの書き方の説明は,以下の情報をまとめた説明プリントを作成し, それに基づき行った. (1)記事レポートとは何か,提出物や提出日 記事レポートの例とその元になった新聞記事を参照しながら,記事レポートは記 事の内容を他人に伝えることを目的に,レジュメの形で簡単に書き表したものであ ることを説明した.また,後でクラスで,その記事レポートの内容を口頭で発表で きるように準備をしておくように伝えた3. 「総合日本語 A」の小論文テーマを冬休 みの間に選んでおく必要があったため,1 回目の記事レポートの提出日は,冬学期 の初回の授業に設定し,冬休み中に記事レポートを完成させ,記事レポートとその 元になった新聞記事のコピーを提出することとした. (2)新聞記事データベースの紹介 学内に限り利用可能な朝日新聞記事データベース「聞蔵Ⅱビジュアル」の他に, ウェブで記事検索することができる全国紙の URL を示し,紹介した. (3) 新聞記事の読み方:新聞記事に書き込むマークやメモの方法4 新聞記事を読む際には,記事内にマークしたりメモをとったりしながら読み,記 事レポートを書く際に重要な部分が視覚的に分かるようにしておくよう指示した. 以下は説明プリントからの抜粋である.また,例として配布した新聞記事にも,同 様の書き込みを付けておいた. ① キーワード(key word)を見つける キーワードは,段落の中でくりかえし出てくる言葉のことです.キーワ ードを○で囲みましょう.どれがキーワードか分からないうちはたくさん の語に○をつけてしまいがちなので,注意してください. ② キーセンテンス(key sentence)を見つける キーセンテンスは,キーワードを含んだ文で,大事なことが書いてある 文です.キーセンテンスに下線を引いてください. ③ 各段落のトピックをメモする 3 4 実際には,時間の制約などのため,口頭発表は行わず,記事レポートを教員に提出するだけのク ラスもあった. 教材作成にあたり,アカデミックスキルを扱った佐藤(2006) ,専修大学出版企画委員会(2009) , 中澤他(2006)などを参考にした. - 107 - 記事の空いているスペースに,段落ごとのトピックを書いてみてくださ い.ときどき,1つの大事な点が,2 つ以上の段落にわたって書かれている こともあります. ④ それぞれの段落の役割を考え,記事全体の構成をつかむ どの段落で述べていることが中心的なのか,それを説明しているのはど の段落か考えてみてください.まとまりのある部分を線で囲んだり,矢印 などを使ったりして,段落と段落との間の関係を示しても良いでしょう. ⑤ 以上のほかに,役に立つ記号やメモがあったら,どんどん利用してくださ い. (矢印や波線など) (4) 記事レポートの構成と内容 記事レポートには,以下の情報を必ず含めることとした. ① 記事のタイトル ② 出典(新聞名,日付,ページ番号や URL など) ③ 記事の概要(記事に書かれていた情報の整理) ④ 感想: なぜその記事を選んだか,記事を読んでどう思ったかなどを中心に書く. 1 回目の記事レポートでは,その記事を読んでみて,何についてさらに深く 調べ,小論文に書きたいと思ったか,2 回目は,選んだ記事が小論文テーマ や自分の主張とどう関係するかについても書くこととした. 2.2 活動の進め方 記事レポートの活動は,図 1 の流れで行った.1 回目も 2 回目も,文献を検索し, 読んで記事レポートにまとめるところまでは授業前の課題とした.作成した記事レ ポートを教室内でどう扱うかは,各クラスの担当者に任されたが,筆者のクラスで は,それをもとにした口頭発表とディスカッションを行った. 1 回目の口頭発表とディスカッションは,小論文テーマを明確にすることをめざ して行われた.口頭発表では記事の内容を説明した上で,その記事を読んでみて, どんなことをテーマにしてさらに深く調べ, 小論文に書きたいと思ったかが述べら れる. その際, そのテーマは他者に理解可能なものか, 十分に絞り込まれ具体的か, 価値のある小論文になりそうかを点検する必要がある.また,今後そのテーマにつ いてさらに文献を検索し,理解を深めていくことになるが,どのような方向に向か って情報を収集するのがよいかを考えておくべきである.そこで,クラスメートの - 108 - 口頭発表を聞く際のチェックリストを作成し, (1)新聞記事の内容説明の分かり やすさ(2)テーマ設定の仕方(絞り込み,価値) (3)そのテーマについてもっと 知りたいこと(どのような文献を探すとよいか)の3つの面から互いの口頭発表を 評価し,後のディスカッションでの話し合いの焦点とした. クラスメートからのコメントを受けて,学生は 2 回目の記事レポートを作成し た.2 回目の記事レポートは,自分のテーマに関連する別の記事を読むことで,そ のテーマについて多面的に理解を深めていくことをめざすものである.そこで,教 室内での口頭発表とディスカッションの際のチェックリストには, (1)新聞記事 の内容説明の分かりやすさ(2)テーマとの関連(テーマと関連のある記事か,小 論文の中にその内容をどう生かせるか) (3)もっと調べたほうがいいことの3つ のチェックポイントを取り入れた. 以上の 2 回の記事レポートの後は, それぞれの学生が自律的に文献読みを進め, 最終的には,小論文にまとめていった. 図1 活動の進め方 - 109 - 3 データ分析 3.1 分析対象 記事レポートの活動が小論文の内容の深化に貢献できたかどうか,どのような問 題点があるかを知るために(1)31 の記事レポート5, (2)それらの記事レポート の元となった,メモやマークの書き込まれた記事, (3)筆者の担当クラスでの7 名の学生による口頭発表とディスカッションの録音 2 回分を分析した. 3.2 結果1:活動の利点 分析の結果,記事レポート活動には(1)学生がテーマを自分との関わりで捉え ることができるという点と(2)クラスメートと小論文作成プロセスを共有するこ とができるという点で小論文の内容の深化に貢献できる可能性があるということ が分かった. 3.2.1 テーマを自分との関わりで捉える 記事レポートの「感想」部分を見ると,学生は記事を読んで知識を獲得するだけ でなく,自分自身の経験を振り返り,考え,自分自身の問題意識を持つに至ったこ とが分かる.例えば,日本のエコタウンに関する記事を選び,記事レポートを書い た学生は,自国にもごみ問題と失業者の問題があるが,エコタウンのような施策が あれば, 問題の解決につながるのではないかと述べ, 自国の状況を振り返っていた. そして,小論文のテーマとしてその政策に関するさまざまな事例を調べ,同じ政策 を自国でも実施できるかを考えてみたいと述べて「感想」を締めくくっていた. 新聞記事には社会での具体的な出来事が書かれており,それらは我々自身の生活 との関わりが深いものである.そのため,記事に書かれている事象を自分の問題と 捉え,熟考するきっかけになるのではないか.そうすることによって,小論文作成 の際には文献からの情報をただ並べて文章にするだけでなく,自らの考察・主張に 枠付けられた文章作成につなげられる可能性があるのではないかと思われる.新聞 記事を読んでみることには,以上のような利点がある. 3.2.2 クラスメートとの小論文作成プロセスの共有 教室内で記事レポートの内容に基づいた口頭発表とディスカッションを行った 5 2 回にわたる活動のあと,各クラス担当者に,学生の記事レポートの中で特にうまくまとめ られているものと問題のあるものをデータとして提供してもらった. - 110 - が,ディスカッションでは,クラス全体で協働して小論文テーマの絞り込みが行わ れたり,その後の情報収集の方向性が探索されたりしていた.学生が一人で記事レ ポートを書いてそれで終わらせるだけでなく,その内容を口頭でクラスメートに伝 えることで,小論文作成のプロセスをクラスメート同士で共有することができ,そ の後のディスカッションにおいて,発表者の問題点の指摘や助言がしやすくなった のではないかと思われる. 1 回目の口頭発表では,記事の内容とともに,記事を読んでみてどんなことを小 論文のテーマとしてさらに深く調べてみたいと思ったかが述べられたが,その発表 を聞くことで,クラスメートが発表者の小論文テーマ決定までのプロセスを点検す ることが可能となる. まず,小論文のテーマが漠然としている場合には,明確化を求める質問がクラス メートから出されていた. [例1]は,現代の若者を取り巻く諸問題(不況,世代 間格差など)を概観する記事を選び,それらの問題が若者に与える影響についても っと調べたいと述べた発表者への質問の例である.学生 A は,若者の範囲を日本 の若者に限るのか世界に広げるのかを尋ね, それに対して発表者は日本の若者を中 心に書き,世界の若者についても少し触れるつもりだと応答している.学生 A の 質問がきっかけとなり,発表者は大まかな論文構成の見通しを立てることとなった. また,それに続いて学生 B も,学生を取り巻く問題は数多いので,扱う問題を一 つに絞って書くことを提案し, 発表者が調査を始める前に早急に検討しておかなけ ればならない課題を示していた. [例1] 学生A: これは日本人の問題だけでなく他の国も? 発表者: (前略)他の国にも当たるものもありますが当たらないものもあ ります.日本の若者を中心にして,世界の若者のことも少し. 学生B: 若者の問題が多すぎるからもっと特別なことについて詳しく書く のがいいかな. また,発表者がなぜそのテーマを選んだのかがはっきりしない場合には,発表者 自身とテーマとの関わりを問う質問がなされていた. [例2]では,学生 A が発表 者の専門分野と日本の若者を取り巻く諸問題というテーマとの関係を尋ねている が,それに対して発表者は自分の若者という属性とテーマとの関連について述べて おり,学生 A とのやりとりが発表者にとって,調査の動機を振り返るきっかけに なったのではないかと思われる. - 111 - [例2] 学生A: 専門とどう関係がありますか. 発表者: 専門とは関係ないが,自分も若者なので関心があります. ディスカッションの中では,その後の文献収集を方向づけるやりとりも行われて いた.発表者のテーマに関連する情報を求める質問がクラスメートからなされたり, もっと知りたいと思うことが明示的に述べられたりしていたが, 選んだテーマにつ いてさらに文献を検索し,調査する上で,そのようなクラスメートからの質問やコ メントは,どのような方向に向かって情報を収集するのがよいかを考えるきっかけ になると思われる.例えば,IC 乗車券の全国共通化をテーマに選んだ発表者に対 しては,小規模な鉄道会社がそれに反対する理由は何か,IC 乗車券を全国で使え るようするための情報管理の仕組みや問題点について調べ,それを小論文に盛り込 んだらどうかという提案がされていた. 以上に述べたとおり,クラス内で記事レポートに基づいた口頭発表とディスカッ ションを行うことで学生同士で学び合うことが可能となる.しかし,そのインタラ クションを実り多いものにするためには, 口頭発表を聞く際のチェックリストが大 いに役立ったと思われる.チェックポイントに,テーマ設定の仕方(絞り込み,価 値)や記事とテーマとの関連(テーマと関連のある記事か,小論文の中にその内容 をどう生かせるか)などを含め,さらにそのテーマについてもっと知りたいと思う ことを考えながら口頭発表を聞くように学生の注意を引いたため,その後のディス カッションの焦点が絞られ,効果的な話し合いに結びついたのではないかと思われ る.特に 1 回目のディスカッションでのやりとりは,その後の調査の進め方に大 きく影響するものであるし,小論文のイントロダクション部分を書く際にも重要に なるであろう.そのため,教師は学生に話し合う目的を明示し,学生がそれをよく 理解したうえで行うことが重要なのではないだろうか. 3.3 結果2:改善が必要な点 学生の記事レポートとその元となった記事への書きこみを分析したところ, 活動 を改善するためには, (1)文献収集の難しさへの対策と(2)読解ストラテジーの 指導・練習を考案し,中級段階での読解授業に組み入れる可能性を模索する必要が あることが分かった. - 112 - 3.3.1 文献収集の難しさへの対策 2回目の記事レポートは,自分のテーマに関連する別の記事を読むことで,その テーマについて多面的に理解を深めていくことを目的としていたが,学生にとって 関連する文献を探すことが難しかったため, 複数のテクストを読み比べて検討する ことは十分になされていなかった.新聞記事検索だけでは関連文献の数が限られて いるため,大学図書館で図書検索をすることになるが,タイトル一覧を見ただけで はどれを読めば自分が必要としている情報にたどり着けるのか分からない上に,限 られた時間の中でかなりのページ数の図書を始めから読んでいる余裕は学生には ない.その結果,信頼性の問題はあるもののインターネットから手軽に得られる情 報に頼ったり,英語文献に偏ってしまうということが見られた. このような問題は, 読解能力やテーマに関する背景知識がどのくらいあるかにも 関わるため,簡単に解決することはできないであろう.しかし,秋学期の中級段階 での読解授業の中で,本のタイトル,目次,節の小見出しなどから内容を推測する といった練習をしておくと,冬学期の小論文作成のために文献収集を実際に行う際 の準備となるかもしれない. また今回は,文献収集が意図したとおりには進まなかったため,複数のテクスト を読み比べて情報の価値やテーマとの関わりという点で検討することが十分にで きなかったが,これも中級段階での読解練習に取り入れる必要があるように思う. あるテーマについて異なる側面から書かれた複数のテクストを用意し,それらの内 容を比較しながら客観的に検討したり,知識を整理したりするような練習方法を取 り入れ,冬学期に自分が選んだテーマに関する多面的な考察ができるようにしてお くのが良いのではないだろうか. 3.3.2 読解ストラテジーの指導・練習 すでに大津(2011)で論じたが,記事レポートとその元となった記事への書き 込みを分析したところ,よい記事レポートを書いた学生の書き込みに共通して見ら れるストラテジーには(1)テクストタイプを判別する, (2)対になる部分同士の 関係を明示する, (3)キーワードや小見出しについて説明している部分を探すの 3つがあった.その一方で,記事内容の把握に失敗し,うまく記事レポートをまと めることができなかった学生の書き込みにみられる共通点は(1)文章を談話展開 上のブロックに分けて内容を把握していないということと(2)新発見・意見と既 に明らかになっていることなどとの区別ができないということであった.以上の結 - 113 - 果を踏まえて,今後は読みの助けとなるような読解ストラテジーをどう練習に取り 入れることができるかを考えていかなければならない.記事内容を把握するために は,もちろん文法・語彙の知識による下支えが重要であるが,その一方で適切な読 解ストラテジーの指導を考案すれば解決できる問題もあるのではないかと思う. 4 おわりに 以上,2010 年度冬学期の記事レポート活動の試みについて報告し,活動の利点 と今後改善していかなければならない点について論じた.上級段階で報告書や小論 文を作成できるようになるためには,テーマと関連する複数のテクストを自分で探 し出し,それらの内容を比較しながら客観的に検討するための読解技術が必要とな る.しかし,そのための読解技術の訓練が中級段階終了時までに十分になされてい るとは言えず, 上級段階で必要とされる読解技術との間にはギャップがある. 今後, 中級段階の読解授業での学習項目を見直し, 上級段階へスムーズに移行できるよう にカリキュラムを再考していく必要があるのではないかと思われる. 付記 本稿は,第 36 回日本語教育方法研究会における発表内容を加筆・修正したもの である. 引用文献 伊集院郁子・横田淳子(2010) 「 『JLC スタンダーズ』に基づいた中級段階におけ る文章表現指導の試み-意見文の指導を中心に-」 『東京外国語大学留学生日 本語教育センター論集』第 36 号, 85-100. 大津友美(2011) 「新聞記事読解のためのストラテジーの分析−より良い『記事レ ポート』をめざして−」平成 23 年度日本語教育学会第 3 回研究大会 2011 年 6 月 11 日 愛知教育大学. 佐藤 望編(2006) 『アカデミック・スキルズ』 ,慶応義塾大学出版会. 専修大学出版企画委員会編(2009) 『知のツールボックス』 ,専修大学出版局. 中澤 務・森 貴史・本村康哲編(2006) 『知のナヴィゲーター』 ,くろしお出版. 二通信子(2006) 「アカデミック・ライティングにつながるリーディングの学習」 『アカデミック・ジャパニーズの挑戦』pp.99-113 ひつじ書房. - 114 -