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Page 1 小学校国語科における 「確かに聞き取る」ことを育成するメモ指導
 小学校国語科における
「確かに聞き取る」ことを育成するメモ指導の在り方
一策2学年における実践を例に一
平成24年 3月
教育実践高度化専攻
小学校教員養成特別コース
P09082K
永井 未希
第1章 研究の目的と方法
第1節 問題の所在と目的・・・・・・… 1・・・・・・・・・・・・… 1
第2節研究の方法・・・・・・・… 1・・・・・… 一・・・・・… 4
第2章聞くことの指導の特徴とその具体
第1節 聞くことを育てる意義・一・・… 一・一・・・・・・・・・… 一5
第2節聞くことの指導の特徴とその具体
第1項 聞き方の機能別分類
(1)聞き方の機能… 一・一・・一一… 1一・… 一・… 7
(2)低学年における聞き方の特徴・・1・・・… 1・… 1・l13
(3)聞くための意識・・・・・… 1・・・… 1・・・… 115
(4)聞き方と聞くための意識からみる聞くことの構造化・・・・… 18
第3章聞くことにおけるメモ指導
第1節 低学年の教科書におけるメモを取ることを扱う単元の変遷1・・・… 23
第2節 先行実践例の分析
第1項 メモの機能とその指導
(1)メモの機能・・・・・・・・… 一一一・・・・・・・・… 24
(2)メモ指導にお1ナる先行実践例・・・・・・・・… 一・一… 28
第2項 メモ指導と聴写指導の関連
(1)聴写の機能・・… 一一・・・・… 一一・・・・・… 32
(2)聴写指導にお1ナる先行実践例・・一・・・・・・… 一… 34
第3節 先行実践例からみる聞くことの手立てとしての
聞き取りメモ指導の留意点… 一・・… 38
第4章 実習校における授業実践の分析と考察
第1節 実践の目的と概要
第1項実践の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 41
第2項 実践の概要・… 一・一・・・・… 1一・・・・… 一・41
第2節 実践の実際と考察
第1項 各回における児童のメモからみたメモの特徴
(1)全5回における実践の内容と結果及び考察・・・・・・・・・… 44
(2)実践の結果からみる児童の聞き取りメモに
おけるつまずきと実践の問題点・… 一一・一・・48
第2項 実践後のアンケートからみる実践の成果と問題点一一・・・… 49
第3項 本実践全体からみる実践の問題点と改善案・・・… 一・一・・51
第5章総括と今後の課題・・・・…
■ ■ ■ ・ ■ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ … 55
引用・参考文献一覧・・・・・・・…
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ … ■ ・ ・59
謝辞一・・・・・・・・・・・・・…
… ■ ■ ・ ・ ■ ・ ・ ・ ・ ・ … ■ ・ ■ ・60
巻末資料・・・・・・・… 一・…
・・・・・・・・・…
@ 1・・・・… 61
第1章 研究の目的と方法
第1節 問題の所在と研究の目的
本研究の目的は,「聞くこと」の指導の中でも,特に低学年への「メモをとること」の指
導に着目し,その指導法について探ることである。
現代社会はありとあらゆる情報が行き交い,その多くの情報の中から自らが必要とする
情報を選択し,さらにその情報をもとに新たな発想を生み出したり,深めたりしていくこ
とが求められている。
倉澤栄吉(1974)は,よく鍛えられた耳は,量的に拡大する一方である情報を自然にえ
りわけると述べた上で,その耳を信頼するだけでなく,さらに力を与える必要性を示して
いる。そして,質的に高度な情報をどのように選別するかについては,学校での計画的な
訓練が必要であるとも述べている。つまり,現代社会を生き抜く子どもたちに,聞く力を
育むことは,学校教育における大きな課題の一つであると考えられる。さらに倉澤は,聞
くことの指導について,「いわゆる,聞かない,聞けない,聞きとれない子をつくらないた
めにも,1年生における聞くことの重要性を再認識して,指導に当たりたいものである1。」
と特に低学年から聞くことの指導にあたる二との重要性について提言している。
聞くことの学習指導は,倉澤によると「話の内容を正確に聞き取る」ことから始まる2。
そこで「話の内容を正確に聞き取る」ための手立ての一つとして,本研究ではメモをとる
ことを取り上げる。
メモに関する記載は,平成20年版国語科学習指導要領においては第3・4学年におけ
る「話すこと・聞くこと」の内容のうち,「ア 関心のあることなどから話題を決め,必要
な事柄について調べ,要点をメモすること3」が挙げられている。
斎藤喜門(1989)の「メモ・記録は生活の基礎であり,その技術と習慣が身についてい
ない者は,学習や学校生活にずいぶんと支障を来している4」という言葉があるように,メ
モは様々な学習場面や生活場面で欠かすことのできない作業である。しかし,小学校国語
科においてメモの指導が行われるのは,第3・4学年からであり,東京書籍,光村図書,
教育出版の教科書を平成16年版まで見る限り低学年ではほぼその指導はされていない。
平成20年版国語科学習指導要領において,特に言語活動の充実が重視されるようにな
った。そこで今回,言語活動の充実が重視される前である平成10年版の学習指導要領に
もとづく平成16年版教科書と,言語活動の充実が重視された平成20年版学習指導要領に
もとづく平成22年版の教科書を比較した。その中で,教科書の内容を東京書籍『新しい
国語』,光村図書『こくご』,教育出版『ひろがることば』の3社において「話すこと・間
1倉澤栄吉『聞くことの学習指導』明治図書,1974,p.39
2同上書,p.15
3文部科学省『学習指導要領解説 国語編』東洋館出版社,2008,p.51
4斎藤喜門『「ひとり学び」を育てる』明治図書,1989,p.122
1
くこと」はどの程度扱われているのか,その中でも聞くことに重点が置かれているものは
どの程度あるのかを明らかにした。また,学習指導要領の改訂に伴う,「話すこと・聞くこ
と」の取り扱いの違いと,メモに関する記載の違いを平成16年版と平成22年版の教科書
の比較によりおこなった。
今回,研究の対象とするのは小学校第2学年であるため,低学年である小学校第1,2
学年のものを比較の中心とした。(巻末資料参照)
3社の比較より,明らかになったことは以下の3点である。
①全単元数に対して「話すこと・聞くこと」の単元は非常に少ない。
②「話すこと・聞くこと」の単元であっても「聞くこと」に特化した単元は少ない。
③平成16年版と平成20年版では「話すこと・聞くこと」の単元数に大きな変化はない。
平成20年版国語科学習指導要領において設定されている「話すこと」と「聞くこと」
は」領域とされており,そのどちらをも均等に学習することが大切であることはいうまで
もない。平成23年度より学習指導要領改訂に基づき,小学校の教科書は完全移行され,
国語科に留まらず,どの教科・領域においても言語活動の充実に重点が置かれるようにな
った。中でも,ことばを学ぶ教科の中心である国語科においては,より言語活動を充実さ
せることが必須である。
しかし,教科書の比較からも明らかになった通り,「話すこと・聞くこと」の単元数に大
きな増減はなかった。つまり,教師は「話すこと・聞くこと」の単元が教科書において設
定されていないからといって「話すこと・聞くこと」をおろそかにするのではなく,子ど
もたちにr話すこと・聞くこと」の力をつけることをr書くこと」やr読むこと」の指導
の中でも意識的に行う必要があるのである。また「話すこと・聞くこと」と一領域とされ
ているにも関わらずとりわけ「聞くこと」に特化した単元は少ない。
なぜ,これまでにも聞くことの指導は話すことの指導に比べ,あまり重視されてこなか
ったのだろうか。
この点において,森久保安美(1997)は,r聞くことの指導における最大の問題は,い
つも話すことにつけ足されたような形での指導が多いということである。」と述べている1。
これは,「話すこと」が外的動作であるのに対して,「聞くこと」は内的動作が主であり,
受動的であると思われがちなためその具体的指導が難しく,また「聞くこと」の定着が児
童にとってどの程度なされているのかといった評価についても同じことが原因であると考
えられる。このことは児童が聞くことに関する自身の成長を意識することの難しさにもつ
ながると考えられる。
倉澤栄吉(1989)は聞くことについて,話し手の言葉をあとから追うのでは,その話を
聞くことができないとし,人間が人の話を聞きとるには,予測することが必須であり,さ
1森久保安美『聞く力を育て生かす国語教室』明治図書,1997,p.85
らには,聞き手は常に話し手よりも先に早く待ち迎える余裕があると述べているi。つまり,
聞くことには,常に先を予測していく能力が必要であり,それは受動的であるというより
も,むしろ能動的な行為であるということができる。
しかし,聞くことは話すごとのように音声として現れるわけでも,書くごとのように文
字として現れるわけでもない。そこで,聞くことの指導としてメモの指導を取り入れる。
なぜならば,メモをとることは,話し手の話すことを耳にし,その話の大切な部分を自分
で文脈にそって聞き取り,それを文字に表現するといった,聞くという目に見えないこと
を視覚化できる行為であるためである。また,メモをもとに自分の考えを広げたり深めた
りするような,思考のヒントにもなり得ると考えられる。つまりメモの指導によって,児
童に,正しく大事なことをきく方や,聞いたことをもとに思考を深める力を育むことがで
きると考えるためである。
上記したように,学習指導要領においては第3・4学年からメモを取ることを学習する
ことが「ア 関心のあることなどから話題を決め,必要な事柄について調べ,要点をメモ
すること2」と挙げられている。しかし,メモを取ることは中学年になったからといって急
にできるようになるのではなく,低学年からの積み重ねの結果できるようになるのである。
低学年が中学年と同じメモはできないとはいえ,低学年なりのメモをとることは,取り入
れた情報を整理することや,児童の思考や発想を引き出し,新たな観点に気づくために必
要なことであろう。そこで,教師はメモを取ることが癖になるような学習をその目的に合
わせて積極的に取り入れ,児童にメモを取ることが「話すこと」や「聞くこと」のみなら
ず「書くこと」や「読むこと」の手立てとしても大いに役立つことを実感させていく必要
がある。
既に明らかにした通り,言語活動の充実がいわれるようになった平成20年版学習指導
要領を受けた平成23年版の国語科教科書と,言語活動の充実がいわれていない平成10年
版学習指導要領を受けた平成16年版の国語科教科書での「話すこと・聞くこと」の単元
数に大きな増減の変化はなく,また「聞くこと」に特化した単元数は非常に少なかった。
しかし,低学年の平成16年版と平成22年版の国語科教科書において,メモを取ること
を題材とした単元数を東京書籍,光村図書,教育出版の3社で比較したところ,メモを取
ることを題材とした単元数は3仕合計で平成16年版よりも平成22年版の方が第1学年で
は3単元,第2学年では5単元増加していた。詳細については,第3章第1節において述
べる。
以上の3社を検討した結果,「話すこと・聞くこと」に関する単元の増減は特にみられな
かったが,平成22年版教科書にはメモを取ることを学習する単元が増加していた。また
低学年では,「書くこと」の手立てとして取るメモと,「話すこと」と「聞くこと」の手立
1倉澤栄吉『倉澤栄吉国教育全集10話しことぱによる人間形成』角川書店,1989,p.22
2文部科学省『学習指導要領解説編 国語科』東洋館出版社,2008,p.51
3
てとして取るメモの能力を育成することが求められていることが明らかになった。
「書くこと」と「話すこと」の手立てとしてのメモは,自分の考えや伝えたいことを想
起し,整理していくものであるため,話し手や書き手のぺ一スでメモを取ることが可能で
ある。一方,「聞くこと」の手立てとしてのメモは聞いたことを想起し,整理する以前に,
話の中から必要な情報を正しく聞き取ることが必要であり,しかもその情報源は音声であ
るため,その瞬間に消えていってしまう。したがって,「聞くこと」の手立てとしてのメモ
は,聞き手が話し手のぺ一スに合わせてメモを取らなくてはならないという難しさがある
といえる。しかし,これまでにr書くこと」またはr聞くこと」に限定せずとも,低学年
でのメモ指導に関する先行研究は少ない。本研究では,特に「聞くこと」の手立てとして
の,低学年におけるメモ指導の方法やその留意点について明らかにする。
第2節研究の方法
本研究においては,小学校国語科における3領域のうちr話すこと・聞くこと」におい
て,低学年における「聞くこと」の手立てとしてのメモの有効性について論じる。そして
「聞くこと」の手立てとしてメモを行うことの指導を効果のあるものとするために,どの
ような手立てで指導を行うべきであるのかを研究の目的とする。そのための具体的な研究
の方法は以下に示す通りである。
まずr聞くこと」の機能について聞き方と聞く力の観点から整理する。そこで明らかに
なったr聞くこと」の機能に基づき先行研究を整理,考察する。(第2章)
次に,先行研究よりメモと聴写の機能を明らかにする。さらにメモ指導と聴写指導につ
いての先行研究の分析と考察を行い,メモの指導の留意点を見出す。(第3章)
最後に稿者が実習校でおこなったメモ指導について分析と考察を第2章,第3章から得
た知見をもとに行い,今後の課題について検討する。(第4章)
4
第2章聞くことの指導の特徴とその具体
第1節 聞くことを育てる意義
倉澤栄吉(1989)は,「きくことは,きわめて,たいせつな,人間のはたらきである。」
と述べた上で,それがあまりに日常的な営みであるために,私たちは重大な意義を忘れが
ちであると指摘している1。
また,大村はま(1991)は子どもたちに聞くことを育てる必要性を,学校生活全体を通
した視点から,聞くという仕事がとても多いことを述べ,聞く耳が育っていない場合には,
どの教科にもひびが入ってくると指摘している。この具体的な例として,作業的な学習活
動,新しい学習活動,実験を挙げ,どの場面でも聞く耳が育っていることがその学習活動
の大前提であるととらえていることがわかる2。この点において大村は,教師がたとえ「聞
くこと」の授業を行っていないことに気づいたとしても,授業をしていなくても,聞く力
があると勘違いし,結局,指導しないということを危惧している3。実際に私たちは成長す
る過程において,自然に聞くことを繰り返し,様々な聞く経験を重ねている。そのため,
学校において聞くことの指導を特別にしなくてもよいと思われがちである。
また,聞くことの指導がおこなわれていたとしても,「大人しく聞きなさい」,「静かにし
て聞きなさい」というような,態度的側面で我」1曼して聞くことを求めるものや,「よく聞き
なさい」という,指示に具体性のないものによっておこなわれがちである。
荻野勝(1994)は,話を静かに聞いているにこしたことはないと述べた上で,強制的な
r沈黙」は,主体的な聞き手を育てないとしている。さらに,強制的沈黙の繰り返しが受
け身で消極的な聞き手を作ってしまうとも指摘している4。
さらに,大村はまは,『rよく聞いていなさい」と言ったらよく聞くというのは,先生の
甘いどころではないか。聞いているような顔をしていても,聞いていないこともあるでし
ょうし,やっぱり,ぐっと心をとらえなければ,口でどうせよという命令ではできないよ
うに思います。』と述べている5。つまり「よく聞く」ということを,教師が児童の具体的
な姿としてどのようにとらえ,またどのように具体的に指導することができるかが聞く力
を育成するためには重要になってくる。
加えて大村は,話を「なんとなく聞いているとか,ぼやっと聞いている」というような
癖がつくと,話を一度で聞こうとする神経が発達しないと指摘している6。また,「いちば
んまずいことは,よく聞いていないということは,授業時間に終始気が散っているという
ことです。それはいちばん頭をわるくすることです。何は教えられなくとも,それだけは
1倉澤栄吉『倉澤栄吉国語教育全集2 国語教育の基礎問題』角」11書店,1989,p.292
2大村はま『大村はま国語教室2』筑摩書房,1991,p.9
3同上
4荻野勝「聞くという行為を支えるもの」『聞くことの指導』明治図書,1994,p.209
5上掲書3,pp.41−42
6上掲書3,pp.50−51
5
させてはいけない『散漫な頭でいる時間』を,授業時間に持っていることになってしまっ
て,」番残念なことです」と,よく聞けないことが何よりも子どもたちの学力に悪影響を
及ぼすことに言及している。そのようなことにさせないために必要なことが聞く力をつけ
ることであり,はっきりその目標を立て,教材を整え,指導法を考案して立ち向かってく
る,専門にそのためにくふうするということが必要であると述べ,「聞くこと」も「話すこ
と」や「読むこと」と同じような心構えで教師が指導しなくては授業にならないとも述べ
ている1。
つまり,日常生活の申でごく当たり前に行っているレベルにおける子どもたちの聞く姿
に満足するのではなく,教師は子どもたちにどのような聞くカをつけたいのかを明確にし,
その力をつけるための的確な指導をおこなっていく必要があるといえる。
では,「聞くこと」を子どもたちに育む意義は何なのであろうか。
まず倉澤は,「きくということが,はなすことなしに単独で存在することはないけれど,
きくというぽ走ら去は,はなすことと相島侯って存在する2。」と述べ,話すことも聞くこ
とも,単独で成立するのではなく,双方の活動があって始めて成立するということを明ら
かにしている。加えて従来,実生活の場面において,相手の言うことを理解しないと,そ
の場面への適切な順応ができないということから,話し方の前提として,まず聞き方であ
るといわれてきたことを述べた上で,話し方のために聞き方を育成することは,「その場面
への適応としてのレディネスであり,はなしかた技術のために,ききかた技術がレディネ
スになるということではない3。」と指摘している。
換言すると,話し手がスムーズに話すために,聞き手の聞き方技術があることは必要で
はあるが,だからといって聞き手の聞き方技術が直接に,その聞き手の話し方技術のレデ
ィネスになるということではないということである。
また倉澤は,聞きとりと読みとりには深い関係があるとし,話し方技術のレディネスよ
りもむしろ,「よみとりのレディネスとして,ききとりの力が考えられるべき」であると述
べている4。このように述べる理由として,聞き取りにおいて,「正しく順を追って理解す
る力」が練られれば,読みとりにおいても「指示に従うよみ」といわれているものも伸び
ることを挙げ,話のあらすじをつかむという力は,そのまま大意の把握に通ずるものであ
るとしている5。ここでいう「正しく順を追って理解する力」は,平成20年版国語科学習
指導要領における,第1・2学年の「聞くこと」の目標とされている「大事なことを落と
さないように,聞く能力」にあたるといえる。それは,指導事項においても,話し手が知
1大村はま『大村はま国語教室2』筑摩書房,1991,pp.50−51
2倉澤栄吉『倉澤栄吉国語教室10話しことばによる人間形成』角川書店,1989,pp.297
−298
3同上書,p.295
4同上書,p.293
5同上
らせたいと思っている事柄の大事なことをおとさないようにすることにおいて,事柄の順
序を意識しながら聞き取ること1が大切であることが明記されているためである。
一方,「指示に従うよみ」は,第1・2学年の「書かれている事柄の順序や場面の様子な
どに気付いたり,想像を広げたりしながら読む能力を身に付けさせる」,第3・4学年の「目
的に応じ,内容の中心をとらえたり段落相互の関係を考えたりしながら読む能力を身に付
けさせる」,第5・6学年の「目的に応じ,内容や要旨をとらえながら読む能力を身に付け
させる」という,それぞれの目標にあたる2。
以上のことから,聞くことは話すことと併せて,国語科学習指導要領の一領域として「話
すこと・聞くこと」とされているが,教師は,聞くことが話すことのみにつながるもので
あると狭義に捉えるのではなく,読むことにもつながるという意識をもって指導すること
も忘れてはならないといえる。
第2節 聞くことの指導の特徴とその具体
第1項 聞き方の機能別分類
(1)聞き方の機能
第1節では,聞くことはあらゆる生活場面で必要であり,聞くことが身についていなけ
れば,多くの学習にも支障を来すことから,聞くことの指導は必要であるにも関わらず,
その指導は態度面ばかりに集中しており,その聞き方の特徴から聞くこと基礎的な力を育
まなくてはならない低学年ほど,態度面のみでの指導が指導の中心になっているというこ
とが明らかになった。しかし,聞くことの指導は態度面のみで行うべきではない。聞くこ
との指導も読むことや書くことと同じように様々な視点から行われるべきである。
しかし,「きく3」とは一体いかなる行為なのであろうか。「みる」という行為には,「眺
る」「見る」「現る」「診る」「調る」等があるように,「きく」という行為も分析的に捉える
とさまざまな様相があるヰ。第2節では,rきく」という行為を分析し,具体的な姿として
どのような姿があるのかを明らかにする。
倉澤栄吉(1989)は,「はなすことの多くなった世の中は,それ以上にきくことの多い世
の中である5」と述べ,そのことにも関わらず聞き方がみだれているということを指摘して
いる。聞き方の乱れの原因としては,聞き方そのものにどのようなものがあるのかがわか
1文部科学省『学習指導要領解説 国語編』日本文教出版,2008,p.31
2同上書,p.11
3「きく」は本節において,その機能の違いから,「聞く」,「聴く」,「説く」という三種類
で表す。そのため,漢字表記による限定はせず,rきく」と表記している。
4桑原正夫『視写・聴写の新しい指導』明治図書,1981,p.55
5倉澤栄吉『倉澤栄吉国語教育全集2 国語教育の基本間題』角川書店,1989,pp.52−
54
らないがために,その具体的指導も改善もできないと考えられる。では,「きく」にはどの
ような態度や行為があるのだろうか。
まず,倉澤は以下5つの聞き方とその行為の内容を挙げている1。これは,倉澤が独自に
むずかしさの胴として並べたものである。
1つ目は,「きく態度をととのえる」である。話し手の方を向く,静かにする,聞ぎょい
態度をとる外面的な準備と相手の話を真剣に聞こうとする内面的な準備との両方の態度を
ととのえることが必要であり大事な基本段階であると述べている。
2つ目は,「すなおにきく」である。話を忠実に,もれなく聞くことや相手の気持ちにな
って聞くことがこの聞き方の行為に値する。
以上2つの聞き方は倉澤がいうには,従来の日本人がよく訓練されてきた聞き方である。
しかし同時に,以下3つはあまり訓練されてこなかったためにそれらの聞き方は弱いと指
摘している。
3つ目は「まとめぎき」である。話を聞きながら再構成したり,聞いた後で大意をしっ
かりつかんだりすることや,聞きながら過去の経験や知識と対照させながら聞く行為であ
る。
4つ目はrききひたる」である。放送劇,演劇等を鑑賞する場合,自分を投げ出してそ
の中にとけ入る聞き方や,夢中になって聞き入るといった情的なきき方を指す。また,倉
澤によると,「聞きひたり」には,対事意識と対人意識の二方向がある。話の中身にひたっ
ているだけでなく,話し手の人がらに打たれたり,話し手の話ぶりに共鳴したりしている
状態を示している。さらに,「主体が話の中に没入しているのは,話に自己を奪われている
というよりも,話と一体になっているわけで,主体の精神は生き生きとはたらいている」
と述べている。
5つ目はr批判的にきく」である。聞きながら意見を構成したり,相手の意図を考えて
自分の考えと比べたりする,知的活動が主となる聞き方を指す。倉澤は特に五つ目の「批
判的にきく」が訓練されていない場合,聞き方が感情的なったり,聞いても正しい批判や
独創的な意見が持てなかったりすると指摘している。
ここで倉澤が独白に並べたむずかしさの順は,平成20年版国語科学習指導要領における
「話すこと・聞くこと」の目標において「聞くこと」の目標2と指導事項3に注目した場合,
各学年の目標とほぼ一致しているといえる。
例えば,倉澤の挙げる「すなおにきく」という聞き方における「話に忠実に,もれなく
きく」という行為は,表1に示した学習指導要領における第1・2学年の「大事なことを
1倉澤栄吉『倉澤栄吉国語教育全集2 国語教育の基本間題』角川書店,1989,pp.52−
54
2文部科学省『学習指導要領解説 国語編』日本文教出版,2008,p.11
3同上書,p.14
表1平成20年版国語科学習指導要領「話すこと・聞くこと」目標
第1学年及び第2学年
第3学年及び第4学年
第5学年及び第6学年
相手に応じ,身近なことなど
相手や目的に応じ,調べた
目的や意図に応じ,考えた
について,事柄の順序を考え
ことなどについて,筋道を立
ごとや伝えたいことなどに
ながら話す能力を考えなが
てて話す能力,話の中心に気
ついて,的確に話す能力,梱
ら話す能力,大事なことを落
を付けて聞く能力,進行に沿
手の意図をつかみながら間
とさないように,一間く能力,
って話し合う能力を身に付
く能力,計画的に話し合う能
話題に沿って話し合う能力
けさせるとともに,工夫をし
力を身に付けさせるととも
を身に付けさせるとともに,
ながら話したり聞いたりし
に,適切に話したり聞いたり
進んで話したり聞いたりし
ようとする態度を育てる。
しようとする態度を育てる。
ようとする態度を育てる。
落とさないように聞く」と似ている。また,倉澤の挙げる「批判的にきく」という聞き方
における「相手の意図を考えて自分の考えと比べたりする」という行為は,学習指導要領
における第5・6学年のギ相手の意図をつかみながら聞く」とほぼ一致する。つまり,倉
澤の5つの聞き方の提唱は現在から20年以上も前のものであるにも関わらず,未だその聞
き方が現代の聞くことの指導においても求められているということができる。
また森久保安美(1996)は,4つの聞き方とその行為の内容を挙げている1.
1つ目は,r確かに聞き取る」聞き方である。森久保によると,聞く力の基本,聞き取る
べき内容は,r大体」r順序」r要点」r中心点」等話された内容を,できるだけ客観的に正
確に聞き取るということであり,話された内容をただすべて聞き取るということではない。
2つ目はr詳しく聞き分ける」聞き方である。さらに森久保はその行為を3つの働きと
して示している。1つ目は話し手の意図や場面の様子や人の気持ちなどをとらえる働き,
2つ目は細かい点も逃さず聞きとって,深く理解する働き,3つ目は話を分析的に聞き取
って,その構成や展開をとらえたり,また事実と意見,中心と付加とを聞き分けたりする
働きであり,どれも知的な特徴をもつとしている。
3つ目は「心を寄せて聞きひたる」聞き方である。森久保は話し手に心を寄せて聞いた
り,話の内容をわが身のことと思って聞いたりするような行為がこれにあたるとしている。
4つ目は「思いを加え豊かに聞き添う)」聞き方である。森久保は,話の内容を正確に,
また詳しく聞き分けるだけでなく,入の話を聞いて,新しいものをつけ加えていくような
豊かな創造的な聞き方であるとし,聞く力の中で最も複雑な最終段階のものであるとも述
べている。加えて,この聞き方は大人だけの高度な能力を指すわけではなく,子どもには
子どもなりの(子どもだからこその)創造的な豊かな聞き方ができると考えるものであると
1森久保安美『話しごとば教育の実際一国語教室に魅力を一』明治図書,1996,pp.17−
24
9
指摘している。
さらに大村はま(1985)は子どもたちに育みたい聞くカとして以下の4点を挙げている
1。
第1に蛉静で透明な聞く力」について考える。「冷静」とは,憾情に動かされること
なく、落ち着いていて物事に動じないこと2」であり,「透明」とは「すきとおること,く
もりなく明らかなことB」を表す。つまり,大村の示す,「冷静で透明な聞く力」とは,自
分の考えや思いを加えずに耳から入る内容そのままに受け止める聞き方であると考えるこ
とができる。この力は,聞くことの基礎になる態度で,目に見えてその姿をとらえること
ができる。具体的には,おしゃべりをしない,最後まで聞く,話し手に反応して聞くこと
ができるといった状態を指す。
第2に「機敏に整理しつつ聞く力」とは,聞いた情報を自分の中に取り込む状態や,そ
のことと対称的に,聞いた情報を自分と切り離して客観的に内容をとらえる状態を繰り返
す聞き方をさす。具体的には,自分の経験や持っている情報をもとに,比較することや反
論すること,反対に,自分のもつ情報や経験とは切り離して,.話の構成を把握すること,
話が事実を反映しているのかを確認することができる状態を指す。
第3にr共に追究しつつ聞く力」とは,聞き手が聞いたことをもとに,わからないこと
や知りたい事を自分自身に問いかけたり,またその問いを仲間へ間うたりすることや,意
見を交わすことにより自分の考えをより深めていくことのできる聞き方をいう。
第4は「人間的な,あたたかな心まで聞く力」である。大村は,話し合いは聞き合いで
なければならないと述べ,その話し合いの中で何よりも先行しなくてはいけないこととし
て,rだれかがだれかをあなどっていない,また,だれかがだれかにあなどられていると思
っていないということ」を挙げている。つまり大村は,子ども同士が互いに尊重し合い,
認め合ってこそ話し合いや聞き合いが成立すると述べているのである。このことからもわ
かるように,話し手の話を一生懸命に聞こうとすることや,話し手の話す内容だけでなく,
その奥にある話し手の思いに寄り添うように聞くことが「人間的な,あたたかな心まで聞
く力」である。よってこの力は,どの聞くカよりも先行して聞き手になくてはならない聞
き方であると同時に,最終的にも重視したい聞き方である。
以上3者のとらえる聞き方を,その行為に着目し分類して表2に示した。
まず,倉澤は聞き方の1つ目に「きく態度を整える」ことを挙げていた。ここでいう「き
く態度」とはすでに述べたように,静かにすることや相手の方を見ることなど聞くことを
始める前の準備段階にあたる。この準備は外的な態度だけではなく,聞こうとする心構え
としての内的な態度としても整えられるべきである。一方,森久保は倉澤のようにあえて,
1大村はま『国語教室 おりおりの話』共文杜,1985,pp.11−12
2新村出『広辞苑』岩波書店,2005,p.2829
3同上書,p.1894
10
表2 倉澤,森久保、大村による聞き方の分析とその機能分類
段
倉澤栄吉(1988)
森久保安美(1997)
機能
大村はま(1985)
階
1
きく態度を整える
人間的な
聞くために外面・内
あたたかな心まで
面両方の態度を整え
聞くカ
2
すなおにきく
冷静で透明な
確かに聞き取る
聞く力
る
自分の考えや思いを
加えず,客観的に正
確に聞く
3
まとめぎき
詳しく聞き分ける
機敏に整理しつつ
聞く力
様子や気持ちを想像
して聞く
話の構成や展開に着
冒し,要旨をつかむ
ように聞く
4
ききひたる
心を寄せて聞きひ
話の内容と自分自身
たる
を近づけて夢中にな
共に追究しつつ
5
批判的にきく
思いを加えて豊か
聞く力
って聞く
話し手の意図も自分
の考えも踏まえて,
に聞き添う
主体的に新たな考え
を生み出すように聞
く
聞き方として聞くことを始める前の準備については触れてはいないが,それは決して態度
面を重要視していないということではなく,態度面が整っていることを前提としてその他
の聞き方を提唱しているのである。また,大村が「人間的なあたたかな心まで聞く力」と
して挙げている聞き方は,既に述べたように,話し手を尊重して聞く聞き方である。聞き
手の態度が貫に見えて悪ければ,まず話し手には話す気が起きないであろう。態度面を整
えることは,良くも悪くも多くの聞くことの指導の中心になっていることからも明らかで
あるように聞くことの指導に欠かすことはできないと考えるため,第1段階として表に挙
げた。
次に,第2段階として,倉澤の「すなおに聞く」,森久保の「確かに聞き取る」大村の「冷
静で透明な聞く力」を並べた。倉澤がこの聞き方を「話を忠実に,もれなく聞くことや相
手の気持ちになって聞くことがこの聞き方の行為に値する」と述べていることと,森久保
が「できるだけ客観的に正確に聞き取るということ」と述べていること,また大村が冷静
11
や透明という言葉を用いていることから,第2段階における聞き方はその機能として自分
の考えや思いを加えず,事実として客観的に聞くことであるべきであると捉えた。
続いて第3段階として,倉澤の「まとめぎき」と森久保の「詳しく聞き分ける」,大村の
「機敏に整理しつつ聞く力」を並べた。まとめて聞くことと,聞き分けることは違った聞
き方をしているように捉えるが,大村の「整理しつつ」という言葉をヒントにその整理の
方法として,まとめて聞くことと,聞き分けることがあると捉える。倉澤が「まとめぎき」
の具体的行為として「話を聞きながら再構成したり,聞いた後で大意をしっかりつかんだ
りすることや,聞きながら過去の経験や知識と対照させながら聞く」ことを挙げているこ
とと,森久保が「詳しく聞き分ける」聞き方の具体的行為を,話し手の意図や話される内
容の様子をとらえること,話されたことを逃さず聞き取り理解すること,構成や展開,事
実と意見とを分析的に聞き取ることと挙げていることから,この二つの聞き方には,第2
段階よりも聞き手が話を詳しく捉えようと,様子や気持ちを想像して聞くことや,話の構
成や展開に着目し,要旨をつかむように聞くことであると捉えた。
第4段階として,倉澤の「ききひたる」と森久保の「心を寄せて聞きひたる」を並べた。
両者共に「ひだる」という言葉を使って,その行為を話の内容に聞き手が寄り添って聞く
という,聞き手と話し手の心的距離を近づける機能を表している。
最後に第5段階として,倉澤の「批判的にきく」と森久保の「思いを加えて豊かに聞く」
を並べた。「批判的にきく」とは「聞きながら意見を構成したり,相手の意図を考えて自分
の考えと比べたりする,知的活動が主となる聞き方」である。また森久保の「思いを加え
て豊かに聞く」という聞き方も「話の内容を正確に,また詳しく聞き分けるだけでなく,
人の話を聞いて,新しいものをっけ加えていくような豊かな創造的なきき方」と述べてい
るため,聞き手が主体的になり,話し手の意図も自分の考えも踏まえて,主体的に新たな
考えを生み出すように聞くことであると捉えた。
また,大村の「共に追究しつつ聞く力」は第4段階と第5段階に置いた。「共に追究しつ
つ聞く力」は既に述べたように,聞き手が聞いたことをもとに,わからないことや知りた
い事を自分白身に問いかけたり,またその問いを仲間へ間うたりすることや,意見を交わ
すことにより自分の考えをより深めていくことのできる聞き方をいう。第4段階は話し手
の内容に聞き手が寄り添って聞く聞き方であり,第5段階は話し手の話と自分の意見や考
えから新たな考えを生み出すように,聞き手が主体的に聞く聞き方である。よって大村の
「共に追究しつつ聞く力」は第4段階と第5段階の両方を意味すると捉え,表のように位
置付けた。
以上のように,倉澤,森久保,大村が述べる聞き方と行為は表現している言葉こそ違っ
てはいるものの,第1段階から第5段階に至るにつれて,話し手主体の聞き方から,聞き
手が話し手と心的距離を徐々に近づけていき,最終段階にあたる第5段階では,聞き手が
話し手の話す内容を聞くのみに留まらず,そこに自分の考えを加えたり,不足している情
12
報を付け加えるようにしたりして新たな発想を生み出すような,聞き手主体の聞き方にし
ていくことが,聞く力を育てるということであると捉えていることが明らかになった。
なお本研究では,この3者の提唱する聞き方の段階のうち,倉澤や大村の用いている言
葉よりも機能面がイメージしやすいと考えるため,森久保の挙げている「確かに聞き取る」,
「詳しく聞き分ける」,「心を寄せて聞きひたる」,嘔いを加えて豊かに聞き添う」という
聞き方を表した言葉を主に取り上げる。
(2)低学年における聞き方の特徴
倉澤(1989)は,rきくというのは,はなしことばを媒介として,種々の社会的場面に
適応していくことであるから,その適応には基礎になる社会経験の基盤がなければならな
い」と述べ,児童は話し合いに参加する際も,その中心になっている話題に関する経験が
ないと理解することができないことを指摘している。同時に,経験の広がりから聞くべき
内容が豊かになるため,関心領域を知る際にその基盤にあるのは,実際の経験であること
も述べている。しかしながら,聞くことに直接関与するのは,実際の経験の中でも「話題
に関する知識と興味」であるため,どのようなことに強い関心を示しているかが,その児
童の聞く力の基礎となると述べている1。
つまり,児童に聞くカを育む際に選ぶ題材は,児童の経験と照らし合わせて選択する必
要があるといえる。また,児童の実際の経験の中からさらに児童が興味や知識を持ってい
ることを選択することで聞く力の基礎を育むことができるのである。
さらに倉澤は,聞き手がよく聞きえない原因として,上記したような知識や経験の不足
の他に,聞き方の発達もその要因であると付け加えている。倉澤によると聞き方の発達と
は,社会的な要因,知的な要因,情緒的な要因の3つがある。そして,それぞれの要因に
ついて以下の3つを例示している2。
まず,社会的な要因の例として,「はずかしかったり,きこうとする気にならなかったり,
忍耐づよくなかったり,意図的にきこうとする気構えにならなかったりする」というよう
な,聞き手の態度面を挙げている。
次に,知的な要因の例として,「中心的なものをぬき出す力,まとめる力が足りなかった
り,自分の考えを加えて見なおす力がなかったり,自分の考えを加えて見なおす力がなか
ったり,きいたことをすぐ忘れてしまったりする」というような,聞き手の表現面や技能
面を挙げている。
最後に,情緒的な要因の例として,「おちついて,はっきりいうことができないとか,相
手に対してまちがった先入観を持ったりする」というような,聞き手の心理面を挙げてい
1倉澤栄吉『倉澤栄吉国語教育全集10話しことばによる人間形成』角川書店,1989,
P.300
2同上書,p,301
13
る。
したがって児童に聞くカを育むには,児童の経験や興味・関心を捉えることの他に,聞
き手となる児童の態度面,表現・技能面,心理面のどの力を育むべきなのかを捉えてその
指導に当たらなくてはならないのである。しかし,児童の経験や興味・関心はもちろんの
こと,児童の発達の段階によって各面の具体は違ってくる。倉澤はその具体を各学年の児
童の聞き方の特徴として述べている。
まず倉澤は,小学校!年生を「きく力に重点を置くべき時期」として挙げている1。その
理由として,児童が小学校という新しい社会に加わって新しい生活に適応していくために
は,聞く力の基本が養われなければならないとしている。
倉澤によると,1年生の聞き方には以下の3つの特徴がある。
!つ目は,態度面において「「話し手のほうをよく見ている習慣ができていないために,
だれかの話の途中でも,すぐ,先生や友達の方へ向きなおってしまう,そして何かをいお
うとする」というものである。加えて,紙芝居や童話のような直接可視化できる対象の仲
介により話し手の話に結びつくことができるとしている。
2つ目は,表現・技能面であるr絵や模型や,現物などを見ながら何かをきく場合は,
内容を理解することが速いが,それらは断片的である。また,物そのものに目を向けてい
て,耳は,さっぱりはたらかしていないことが多い」というものである。さらに,話の概
要をつかむことはできず,終わりの場面や印象的なところくらいしか記憶できないことも
挙げている。
3つ目は,心理面である「友人同士の経験発表をきくときも,想像のまなこを輝かして
いるようであって,案外,自分の体験の回想内に遊んでいることが多い」というものであ
る。さらに,一心に聞いているように見えて実は,話し手を見ているだけということもあ
ると指摘している。
また2年生について,聞き方の指導は「内容の正しいつかみかたに向けられるべき時期」
であり,児童は学校生活にも慣れ,先生のことば,学習上のことば,学校生活に必要な語
彙などを理解していると述べている。さらに,朗読や芝居のことばなどをきくことも多く
経験したので,それらへの習慣はできているとしている2。
倉澤によると,2年生の聞き方は以下の3つの特徴がある。
1つ目は,態度面において「さわがずに静かにきくとか,自分勝手におしゃべりしない
ことなどは,習慣づけられている。けれども,席を立ったり,姿勢をくずしたりする子も
まだある」というものである。
2つ目は,表現・技能面である「紙芝居や,ごっこあそびなどのときなどは,そのあら
1倉澤栄吉『倉澤栄吉国語教育全集10話しことばによる人間形成』角」l1書店,1989,
pp.301−302
2同上書,pp.302・303
14
すじを大体あやまりなくつかむことができる。物語の放送なども,場面の変化がはげしく
なけれぱ,大体まちがいなくつかむことができる。話中の人物でよい人と悪い人などをは
っきりききわけることもできるようになっている」というものである。
3つ目は,心理面である「簡単な伝言などはまちがいなくできる。給食調理場や,上級
生の教室へなどのお使いができる」というものである。
以上のように,2年生の聞き方の特徴は,1年生の聞き方と比較するとわかるように,
1年生の間に,1年生に求められる聞き方が児童に身に付いていることを踏まえて述べら
れているものである。しかし,すべての児童にそれができるとは言いきることはできない
ため,たとえ2年生であっても1年生に求められる聞き方が身についていないのであれば,
その児童に合った指導を行う必要性があると考えられる。
以上1,2年生の聞き方の特徴から,低学年では,まず態度面について聞き方の姿勢や
きまりをつくるといった聞くための準備の指導が必要である。続いて,1,2年生なりの
聞いたことの内容理解のための聞き方の指導,さらに話し手を意識して聞くための聞き方
指導をしていくべきであるということが明らかになった。特に倉澤が知的な要因として述
べる表現・技能面では,まだ経験の少ない低学年には,具体的であったりイメージしやす
くなったりする手立てを準備することや,話を聞くことに集中できる手立てによって,話
の内容が理解しやすくなるということも明らかになった。
聞き方の指導の中でも特に態度面への指導は,第1節で述べてきたように「静かに聞き
なさい」,「相手を見て聞きなさい」というように行われてきている一方で,聞き方のうち
の表現・技能面や心理面のような,聞き手の内面における聞き方への指導は少ない。特に
低学年を対象にそのような指導をしている先行実践例はとりわけ少ない。
森久保(1996)は,自身の提唱した4つの聞き方と倉澤が挙げたような低学年の聞き方
の特徴を踏まえて,低学年における4つの聞き方を具体的な姿として表3のように提案し
ている1。
(3)聞くための意識
話すことは一人でもできるが,聞くことは音や声が周りになくては成立しない。
高橋(1998)によると,人が話を聞くときには対事意識,対他意識,対自意識という3
つの意識が働く2。高橋によると,対事意識とは話の内容の興味深さに引き込まれて生まれ
るものである。また,対他意識とは話し手がどのような話をするのかという期待からくる
意識である。この意識がはたらくとき聞き手の「聞く」ことが始まるという。対他意識と
は話し手がどのような話をするのかという期待からくる意識である。
やがて,その対自意識または対他意識から対自意識へと意識の方向は変わっていく。高橋
はそのとき聞き手は,聞いた話をどう受け止め,どう考えるべきなのかをなどと考え
1森久保安美『聞く力を育て生かす国語教室』明治図書,1996,pp.18−19
2高橋俊三・声とことばの会『聴くカを鍛える授業』明治図書,1998,pp.19−22
15
表3 森久保(1996)によるr聞くカのあらまし」に稿者が機能面を書き加えたもの
聞く態度を
整える
●話し手を見なが
ら聞く
機能
第2学年
第1学年
●最後まで聞く
聞くために外面・内面面
●素直に聞く
方の態度を整える
●内容を正しく聞き
様子や気持ちを想像し
●ほかのことをし
ないで聞く
確かに
聞き取る
●内容の大体を聞
き取る
●お話のおもしろ
取る
●順序を考えながら
いところに気づ
く
聞く
●お話の大事なとこ
き
自分の考えや思いを加
えず,客観的に正確に聞
く
ろを聞き取る
聞
方
て聞く
詳しく
聞き分ける
●場面を思い浮か
●様子を想像しなが
べながら聞く
ら聞く
話の構成や展開に着目
し,要旨をっかむように
聞く
心を寄せて
聞きひたる
思いを加え
豊かに
●経験と結びつけ
●聞いて分かったこ
て聞く
●簡単な感想や意
聞き添う
と・おもしろかった
近づけて夢中になって
とを指摘する
聞く
●お話の好きなとこ
見を持っ
話の内容と自分自身を
ろを聞き取る
●知りたいことを進
んで聞く
話し手の意図も自分の
考えも踏まえて,主体的
に新たな考えを生み出
すように聞く
め,聞き手の沈黙がいっそう深まり,聞いた話に自分にとっての意味が生み出されると
述べている。
さらに高橋はこの対自意識がある状態を主体的・創造的に「聴く」ことを始めた状態で
あるという。そしてその創造性が高まっていくと,聞き手は話し手に対して,不明なとこ
ろを質問したり疑問を投げかけたりして,知りたいこと・聞いてわかりたいことを完成さ
せたいと思う,r説く」ことを始めるという。
つまり,一見同じような行為である聞くことも,聞き手の意識によって聞き方は違って
くるということである。r聞く」に比べてr聴く」は話し手と聞き手の心的距離がより近く
なり,話や話し手に興味を持つからこそ自分の経験やそれまでに持っている情報と比較し
たり,価値を見出したりして必要な情報を求めたりするようになると考えられる。また「説
く」は本来の意味として相手に質問して訊ねるということである。しかし高橋は相手に訊
16
ねるだけでなく,聞き手が自分白身にrなぜそう言えるのか」rつまりこう言いたいのか」,
「この点はどう考えるのか」などと問いかけながら,話し手が伝えようとしている内容・
意味を形作っていく聞き方であると述べている。
つまり,話し手の意図を汲み取るだけでなく,聞き手自身の経験や考え方から話し手の
話をより正確に聞こうとし同時に自分の発想にも話し手の考えを取り入れようとする行為
が高橋の「説く」であるといえよう。
さらに安居総子(2002)は,「聞く」,「聴く」,「説く」の違いを,聞き手の意識の積極
性の違いで示している1。安居によるとまず,「聞く」は「物音や人の話が耳に届くこと」
をいう。そして,rきこうとしてきくこと」がr聴く」である。つまり,受け身であった聞
き手が能動へと変わるのがr聴く」ということであり,話の内容や話している人の思いや
考えを理解する行為をいう。安居はこのことを「人と関係を持つこと,持とうとすること
によって起こる動作」と示している。そして,安居は「説く」は「聴く」よりもさらに積
極性を表した行為であり,話すことが加わるとしている。
以上のように高橋と安居の両者の述べる「聞くこと」には「聞く」,「聴く」,「説く」の
3段階があり,高橋はr聞く」からr説く」へ移り変わっていく各段階に聞き手の対事意
識,対他意識,対自意識がはたらくとしている。高橋が「聞く」は聞き手が対事意識を持
っており,すでに聞き手が物事への興味を持っている状態を示していることに対し,安居
はr物音や人の話が耳に届くこと」という表現でr聞く」はあくまでも聞き手が話や話し
手に興味を持つきっかけであるように示している。しかし,稿者はこれを高橋または安居
の考えのどちらかに限定せず,「聞く」は話の内容や話し手に興味をもつきっかけとなるこ
と,または興味を持ち始めた状態であるとする。また両者共にr聴く」はr聞く」に比べ
て主体的であり,話し手や話の内容を意識している,話し手と聞き手の心的距離が近づい
た状態を示している。さらに,「説く」は「聴く」よりもさらに話し手と聞き手の心的距離
が近く,また聞き手が自身に問いかけながら話し手に問うということを繰り返し行う状態
を示している。
高橋は,「説く」という聞き手が主体的な聞き方になればなるほど,話し手が伝えたかっ
たことは本当に自分(聞き手自身)が受け止めた通りでいいのだろうかという問いが聞き
手には必要となり,そのような自己への問いがなければ聞き取りは独りよがりのものにな
りかねないと指摘している2。
そのようなことからも,対事意識中心で聞くことのきっかけとなる「聞く」から話し手
に興味をもち理解しようとする対他意識中心の「聴く」,やがて理解をしていくために自己
や相手に問うていく対自意識中心の「説く」へとそれぞれの聞き方を育む中で,常に相手
あっての「聞くこと」であることを子どもたちに意識させ,自己中心的な聞き手にならな
1安居総子『「伝えあい学び合い」の時代へ』東洋館出版社,2002,pp.27−28
2高橋俊三・声とことばの会『聴く力を鍛える授業』明治図書,1998,p.21
17
いように指導していくべきである。
(4)聞き方と聞くための意識からみる聞くことの構造化
これまでに述べてきた,聞き方と聞くための意識のモデルを図1のように示した。
話を聞くときには,まず高橋のいう対事意識,対他意識,対白意識が必要である。何か
しらの意識がなければ,それは音や声が耳に届いているだけであり,その音や声の意味を
捉えることはできない。そこで,(3)聞くための意識で述べた「話の内容の興味深さに引
き込まれるときにできる,話の内容への構え」である対事意識または「話し手の魅力に引
かれて主体的・創造的に聞こうとする話し手への構え」である対他意識が生まれる。これ
らの意識が生まれ,まず聞く態度を整えることから聞くことを始めなければならない。表
3からもわかるように,低学年であれば,子どもたち自身も意識しやすい,話し手を見な
がら聞くことや他のことをしないで聞くというような外的な態度面と,最後まで聞くとい
うような内的な態度面を整える必要がある。なぜならば,(2)低学年の聞き方の特徴でも
述べた通り,低学年の意識は自己中心的で,誰かが話していても,どうしても自分の話を
しようとしたり,声を掛けなければ自分に話しかけられていると分かっていなかったりす
るからである。つまり,基本的な聞くこととはどのような状態を示すのかを指導する必要
があるだろう。
態度面が整い,聞くことを意識し始めると,「確かに聞き取る」聞き方をおこなうように
なる。「確かに聞き取る」聞き方は,自分の考えや思いを加えず,客観的・鑑賞的に聞くと
いう話の内容そのものを受容する機能を持つ。そして,聞き手が話し手の話すことを素直
に受け入れると,そのことに対して「この話の中心は何だろう」,「この登場人物は何を考
えているのだろう」と客観的に内容を捉えようとする「詳しく聞き分ける」聞き方を始め
るようになる。「詳しく聞き分ける」聞き方は様子や気持ちを想像して聞く,自分の考えや
思いを加えず,客観的に正確に聞くという機能を持つ。この間に聞き手の意識は対事意識
と対他意識の問を行き来すると考えられる。話される内容そのものに対する対事意識と話
し手に興味を持つ対他意識のどちらかが欠けていても,話を聞き続けることはできない。
対事意識と対他意識の間で,聞き手は正しい内容を確かに聞き取り,その集まった情報を
もとにして,さらに詳しく聞き分けようとするのである。この「聞く態度を整える」から
「詳しく聞き分ける」聞き方までの段階を稿者は情報収集の段階であると捉えた。このと
きの聞き手の思考や話し手への質問としては,rこのお話には何が出てくるのだろう。」,rど
んな出来事があるのだろう。」,「どんな場面なのだろう。」などの話を客観的に聞き,必要
な情報を集めようとするものが出てくると考えられる。
次に話の要旨や様子を十分に理解した聞き手は,その話の中に自分なりにおもしろさや
魅力的なところを見つけていく「心を寄せて聞き混る」聞き方をするようになる。この聞
き方に至るまでに,「確かに聞き取る」聞き方や「詳しく聞き分ける」聞き方によって客観
18
・・払はOOと。いうとこ.るか.昌OO一走.ど冒・コた 一
弘はOOがおもしろい。
・.払はOO一たと患・コでいた.けと,ご.命諸山O
○といらところ出ら。oたと考.えま互
〆
・払1=も似たこζが砺コーたな∴ ooについでも・ゴ・と散見て1目…LL‡赴一
ァIま。。た箏在.旭餉詰一ふ≡
ラな
’どん蛙火加率τく肋唯
一・査る1榊{えずユ1!! 卑・醐差
・どん姐す音こ帥唖一事帥哺
・・
∴
一
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一
一
一
一
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■どんな順番τ話が進竈.の一がな
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・どんな儲子の坦面出疽
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・静か1;しよう
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一対対
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他事
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識・識.
・どん臨時ち一吐の問う
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・謝.
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、
対対
他事
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㌔識誠一
目.く壷喧在塾生
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旨編血生
㌔
自弓幸正.
自己とφす。合化世
健一{一歴記
1可血1号
評ム娃円.と{葦書{
華世…一窄
どんな?.
あな牟は
図1 聞き方と意識の関連モデル1
どう一で可か{
的に聞いていた聞き手はこのr心を寄せて聞き混る」聞き方によって,自分の経験と話し
手の話を結びつけたり,話し手の話に感動を覚えたりするような情的な聞き方を行うよう
になる。「心を寄せて聞き混る」とき,そこには対自意識が生まれる。既に述べたように,
対白意識とは,聞いている自分への構えであり,その意識によって,聞くことへの主体性
や創造性がさらに深まっていく意識である。このときは聞き手がこれまでの自己の経験を
通して話を聞く段階であるため,聞き手は「私のときはOOだったけど,このお話は違う。」,
「このお話のおもしろさは○Oなところだ。」などと思考する。
そして,最終的には「思いを加えて豊かに聞き添う」聞き方ができるようになる。この
聞き方は話し手の意図も自分の考えも踏まえて,主体的に新たな考えを生み出すように聞
く聞き方である。「確かに聞き取る」,「詳しく聞き分ける」という客観的な聞き方から,や
がて「心を寄せて聞き混る」という自分の思いや経験をもとに聞く情的な聞き方になる。
最終的にそれら3つの聞き方をふまえた上で,聞き手は話し手の話をもとにできた自分自
身の感想や意見,新たな考えを持つことができるようになる。よって,「思いを加えて豊か
に聞き添う」聞き方は,対自意識によって自分の経験と照らし合わせたり,話に感動した
りしたときに生まれた新たな疑問を解決するためや,聞き手自身の意見や話の捉え方が,
話し手の話や患いと一致しているのかどうかを確認するための聞き方であるといえる。そ
れらの解決や確認のためには,再び対事意識や対他意識を持って客観的に聞くことが必要
となってくる。したがっ一で,「心を寄せて聞き混る」聞き方や「思いを加えて豊かに聞き添
う」聞き方をするとき,聞き手の意識は対事,対他意識と対自意識の間を行き来する。こ
のとき聞き手はr私はOOだと考えるが,あなたはどうですか?」と言った質問や,r私は
O○という考えだが,なぜ話し手は○Oという考えなのだろう?」という自己主張と他者
理解を意識した思考をするようになる。
図1の聞き方と聞くための意識は,段階的に,まず対事意識や対他意識が働くことによ
って「確かに聞き取る」聞き方から始まり,対自意識を経て「思いを加えて豊かに聞き添
う」聞き方に行き着くというように構造化した。図1は,森久保らの提唱する聞き方の段
階と,高橋の提唱する聞く意識の働き方の段階をもとに稿者が作成したものであり,理想
的な聞き方の育ち方である。
しかし,いっもどの児童も図1のような順番で聞くことへの意識を持ち,「確かに聞き取
る」聞き方から「思いを加えて豊かに聞き添う」ことができるだろうか。第2章でも既に
述べたように,特に低学年の児童はその聞き方が自己中心的であるという特徴がある。よ
って聞き方と意識の順序として,まず対自意識をもち,「心を寄せて聞き混る」,自分の経
験や思いから話を聞こうとすることもあると考える。そこから,話の内容や話し手のこと
をさらに知りたいと思うことで「思いを加えて豊かに聞き添う」聞き方をするようになる。
しかし,この対自意識ばかりでは,話の内容が十分に聞き取れていないがために,情報が
不足したり,疑問点が出てきたりする。そこで,情報の不足を補ったり,疑問点を解決し
20
たりするために,対事意識や対他意識を働かせて,r確かに聞き取る」聞き方や「詳しく聞
き分ける」聞き方によって聞き手は情報収集をおこなう。以上のような聞き方と聞くため
の意識を構造化したものが以下の図2である。聞く態度はどの聞く意識が働いていようと
次かしてはならないことであるため,対白意識から対事意識,対他意識へ意識が向かうと
きも,またその逆のときも常に必要なものとして,それぞれの聞き方を覆うように図に示
した。
聞く態度を整える
心を寄せて 思いを加えて
聞き漫る 豊かに聞き添う
対事意識
対白意識
対他意識
詳しく 確かに
聞き分ける 聞き取る
聞く態度を整える
図2 聞き方と意言哉の関連モデル2
理想的な聞き方としては,図1のような,対事意識や対他意識を持つことから「確かに
聞き取る」聞き方が始まり,やがて対白意識を持つことで「思いを加えて豊かに聞き添う」
聞き方に終着していくことが挙げられる。しかし,いつも図1のような聞き方でなくては
ならないと聞き方を狭義に捉えるのではなく,図2のような聞き方を認めることも聞き方
の指導にあっていいであろう。つまり,対自意識を持つことで,自分の経験や興味がその
中心である「心を寄せて聞き混る」聞き方に始まったとしても,それがやがて対事意識や
対他意識を持って客観的な聞き方ができるように指導することが,教師の聞き方の指導の
一つの役割であってもいいと稿者は考える。
21
一見受け身であると捉えられ,話すことの指導に隠れてきた聞き方の指導は,聞き方に
はどういうものであるのかが認識され難かったことから,目に見える外的な態度面への指
導がその中心であった。
しかし以上のように,聞くための意識と聞き方を構造化したことから,聞くことは,決
して受け身ではなく,聞き手が目的に合わせて聞くための意識を働かせることで,聞き方
に変化をもたらすことができるということが明らかになった。野地潤家(1972)は,どう
いう聞解力(きちんとききとる力)を習得しているかは,聞くことの基礎技能であり,ど
う聞き分け,どう味わっているかは,聞くことの中核技能であり,どう聞き,何を生み
出しているかは,聞くことの創造として,聞くことの究極の技術と述べているがこの言
葉が,一言に聞くことと言ってもその段階によって聞き方が違ってくることをよく示して
いると同時に聞くことの指導の重要性を表している1。
教師は聞くことの指導で使うrよくききなさい」,rしっかり聞きなさい」という表現だ
けではなく,その場面や子どもたちの実態に合わせて,児童が客観的な聞き方も主体的な
聞き方もできるように聞き方の指導をおこなわなくてはならないのである。
1野地潤家「学習力・生活力・創造力としての聞くことの技能の演練」『教育科学国語教育』
NO.161,明治図書,1972,pp.9−12
22
第3章 聞くことにおけるメモ指導
第1節 低学年の教科書におけるメモを取ることを扱う単元の変遷
第2章において,聞くことを育てる意義について述べ,聞き方と聞くための意識を構造
化して見てきたが,その中でも,本研究においては第1・2学年の「話すこと・聞くこと」
の目標の一つである「大事なことを落とさないように,聞く能力」に必要な「確かに聞き
取る」聞き方を児童に育むための手立てとしてメモを取ることに着目する。
まず,国語科の学習の基本である教科書において,平成20年の学習指導要領改訂に伴
い,メモを取ることを題材としている単元数の変化と,メモを取ることがどのように取り
扱われているのかを調査した。比較対象としたのは,東京書籍,光村図書,教育出版の3
社のうち,言語活動の充実がいわれた平成20年版学習指導要領を受けた平成22年版教科
書と言語活動の充実がいわれる以前の平成10年版学習指導要領を受けた平成16年版教科
書である。
その結果,メモを取ることを題材とした単元数はどの出版社においても平成16年版よ
りも平成22年版の方が第1学年,第2学年共に増加していた。単元数の増加に関しては
表4に示した。
表4 各教科書おけるメモを取ることを題材とした単元数の変遷
平成16年版
平成22年版
第!学年
第2学年
第1学年
第2学年
東京書籍
O
O
0
1(聞)*
光村図書
O
1(聞)
1(話・聞)
2(聞)
教育出版社
O
O
2(書),1(話・聞)
1(書)2(話・聞)
〈*カッコ内は何の手立てとしてメモが扱われているのかを示したものである。(聞)は聞くことの手立
て,(話・聞)は話すことと聞くことの手立て,(書)は書くことの手立てであることを示している。〉
低学年の教科書においてメモが題材として取り扱われている目的は、聞くため,話すた
め,書くための3つの手立てとするためであった。
東京書籍の平成22年版第2学年教科書上の小単元『まよい犬をさがせ』において,聞
くための手立てとして,メモをとることを学ぶこととなっている。この単元には,「だいじ
なことをおとさず聞く」ことの要点として,「ようすをおもいうかべながら聞く」,「メモに
は,だいじなことをみじかいことばで書く」,「話を聞いて,分からなかったことは聞きか
えす」ということが記載されている1。平成16年版の教科書にも同じ単元はあったが,メ
モをとることは記載されておらず,具体的なきき方の指導としては「もののようすを思い
浮かべながら聞き,わからないことは聞きかえす」という表現になっていた。
1『新しい国語 2年上』東京書籍,2010,pp,60−63
23
光村図書の平成22年版第2学年教科書上の小単元『ともこさんはどこかな1』は,アナ
ウンスを聞いて迷子になったともこさんを絵の中から見つけるという単元である。平成16
年版でも同じ単元はあったが,メモを取ることを意識させる記載はなかった。一方平成22
年版では,「つぎのぺ一ジのえをみて,えんそくのもちものを友だちにれんらくしましょう」
という記載が増加した。さらに,聞き手に向けて「聞く人はノ』トに書きましょう」とい
うメモを取ることを意識させる記載が添えられている。
教育出版の平成22年版第1学年教科書下では大単元『のりもののことをしらせよう2』,
と小単元『メモをつかってしょうかいしよう3』において,「書くこと」の単元としてメモ
が取り扱われている。また,平成22年版第2学年教科書下では,小単元『メモをもとに
文章を書こう4』において,「書くこと」の単元としてメモが取り扱われている。第1学年,
第2学年ともに「書くこと」の単元で取り扱われるメモは,自分の考えや伝えたいことを,
短く書くということを示している。そして,その短く書いた文を,作文や紹介文のような
長い文章を書くことの手立てとして扱っている。
また,平成22年版教科書下では「話すこと・聞くこと」の単元として,扱われている
メモは2種類ある。1つ目は,第1学年の大単元『だいじなことをれんらくしよう5』で扱
われている,聞いた話を記録するための備忘録としてのメモである。2つ目は,第2学年
『もののしくみをせつめいしよう6』で扱われている,話す手立てとしてのメモである。こ
のメモは,第1学年のメモと同様に,備忘録の要素もあるが,それ以上にそのメモをもと
に長く話す手立てとしての要素が強い点で,長い文章を「書くこと」の手立てとしてのメ
モに近いといえる。
以上のように,低学年の国語科において,これまでは教科書でも取り扱われることの少
なかったメモを題材とする単元は,言語活動の充実がいわれるようになった平成20年版
学習指導要領を受けた教科書において,低学年でもその単元数が増えていた。このことか
ら,メモの指導は中学年から始めるのではなく,やはり低学年のうちからメモを取れるよ
うに指導することが後の中・高学年でのメモの指導に必要であることが明らかになった。
第2節 先行実践例の分析
第1項 メモの機能とその指導
(1)メそ≡の機能
第1節において,低学年の教科書上で指導されるメモは,話すこと,聞くこと,書くご
1『こくご 2年上』光村図書,2010,pp.40−43
2『ひろがることば 1年下』教育出版,2010,pp.20−23
3同上書,pp.12−13
4『ひろがることば 2年下』教育出版,2010,pp.12−13
5上掲書2,pp.90−93
6上掲書4,pp.84.89
24
との手立てとなるメモであることが明らかになった。しかし,話すこと,聞くこと,書く
ことのメモはその機能や行為も同じなのであろうか。以下からはメモの機能の違いをその
目的や具体的な行為によって分析していく。
メモとは倉澤(1989)によると,もともと聞いたり読んだり見たり考えたりしたこと,
および話そうとすること,書こうとすることなどの要点の備忘のために記録すること,ま
たはそのものをいう1。斎藤喜門(1989)は,メモランダムの略で,記録の一つ,覚え書,
備忘録のことであるとしている2。以上のことから,メモにはその機能の1つとして,備忘
のための記録がある。
加えて,高橋(1998)はメモをとることによって,相手の話を整理し,さらに深く聴い
ていくための手段ともなり得ると述べている。さらにメモの機能を「話の中心点や細部に
わたる事柄を聴き分けることによって,必要な情報を選んで聴き,メモに記録する。その
際のメモは,主張とそれを支える根拠との関係を考えながら聴く,話の内容の不足してい
る点を考えながら聴くための手段ともなる。そうして明らかにできた不明な点について,
疑問に思うところを,確認したり質問したりするための手段でもある。」としている3。つ
まり,話を聞くときのメモは,その話そのものの要点や細部をきき分けることのみならず,
話を関係づけたり,情報を付けたしたりする,聞き手が主体となることを助けるものにな
り得る。
またメモを行為の視点で見ると文字(記号も含む)を書くことといえる。
倉澤は,ノートはメモの持つ要点要約性を骨子として,さらに詳しく記録し,理解活動,
表現活動に役立てる記録と作業を意味するものであると述べており,メモをとることがノ
ートを書くことの基礎となることを述べている。
また茂呂雄二(1988)は書くことの過程は2つの方向で区別することができるとし,一
方をすでに自らの中で表現されたものを外へと送り出す方向であり,もう一方を,自ら書
いたものを読んで,自分に知らしめていく,外から内へと向かう方向であると述べている4。
書くことは,何かを見て書き写すだけでなく,その他の機能としては,自らの意見や想
像などを表現するものでもある。そして,その書いたことを自らが読み,新たな視点に気
づくための手がかりとなる。書くことの中でも,特にメモをとることは,日常生活の中で
最も行うことの多い言語活動のひとつであり,その実用性は高い。
青木幹勇(1986)は,書くことを大きく3つに分けている5。青木は書くことはまずr第
一の書く」である書写に始まり,「第二の書く」である作文のために「第三の書く」によっ
1倉澤栄吉『倉澤栄吉国語教育全集10話しことばによる人間形成』角」l1書店,1989,
P.167
2斎藤喜門『「ひとり学び」を育てる』明治図書,1989,p.123
3高橋俊三・声とことばの会『聴くカを鍛える授業』明治図書,1998,p.130
4茂呂雄二『なぜ人は書くのか』東京大学出版会,1988,p.131
5青木幹勇『第三の書く』国土杜,1986,p.15
25
て実力をつけていかねばならないとしている。「第三の書く」とは,話す・聞く・読むの領
域と言語事項に関わる「書くこと」を通して育てていかなければならない「書く」ことを
指している。青木は「第三の書く」にあたる具体的行為として,視写,聴写,メモ,筆答,
書き抜き,書き込み,書き足し,書き広げ,書きまとめ,図式化などを挙げている。 「第
」の書く」として挙げられている書写は,普通文字を見て書き写すものであるから,書く
ことの過程は茂呂のいう「外から内へと向かう方向」にあるといえる。また「第二の書く」
として挙げられている作文は,書き手が自らの体験や思いを文字にして表現するものであ
るから,書くことの過程は茂呂のいう「内から外へと送り出す方向」にあるといえる。で
は,「第三の書く」の中でも今回筆者が着目しているメモは茂呂のいうどの過程にあたるの
であろうか。
安居(2002)は,青木が「第三の書く」として挙げている具体的行為を,書き抜きも書
き込みもメモをすることであると捉え,「メモは書く行為の原点ともいうべきである」と述
べている。そして安居は,様々な書く行為を書き手の意識の方向によって分類し,表5に
示す3つのメモとして分析している1。
表5 安居(2002)によるメモの種類とその行為の具体
行為
メモの種類
対白的メモ
①目記,手帳,予定表,日常的な小さいメモ
②読書しているときのメモ,聴き取りメモ
③マッピング(イメージ,アイデア,関係づけ,判断,構想)
対他的メモ
伝言,メッセージ,手紙,記録,スピーチなど
対事的メモ
データづくり,取材メモ(インタビュー,ヒアリング,文献,調査な
ヌ)
また安居は,書かれたメモが後にどう活きる(活かす)かによって,「受容と理解のため
のメモ」と,「表現と発信のためのメモ」の2つに分けることができると述べている2。こ
のメモの活かし方による2つの視点によって表6で挙げたメモの種類をさらに分析する。
安居によると,メモは心覚えのための行為であるが,中でも「対自的メモ」は,メモを
取る主体のものであるとしている。安居は対自的メモをさらに3つに分類している。
まず「①日記,手帳,予定表,日常的な小さいメモ」はメモを取る本人の備忘録として
の殺害1」があるものであり,受容のためのメモである考えられる。これを茂呂の書くことの
過程の視点で見ると,「内から外へと送り出す方向」である。
1安居総子『「伝えあい学び合い」の時代へ』東洋館出版社,2002,p.68
2同上書,pp.6g−70
26
そして「②読書しているときのメモ,聴き取りメモ」は,備忘録としての役割と,受け
取った内容を理解する手立てとしての役割のどちらをも兼ね備えているものであるため,
「受容と理解のためのメモ」であると考えられる。これを茂呂の書くことの過程の視点で
見ると,受容は「外から内へと向かう方向」,理解は「内から外へと送り出す方向」である。
また「③マッピング」は②によって理解したことを用いてさらに理解を深めたり,記録
したことを関係づけたりしてそこから新たな視点を生み出したり,マッピングする本人の
頭の中の整理や文章構造図であり,理解する手立てとしての役割が強いものであると考え
られるため,理解のためのメモであると考えられる。これも茂呂の書くことの過程の視点
で見ると,「内から外へと送り出す方向」であると考えられる。この「③マッピング」は,
それ単独で行われる行為であるというよりも,①や②の対白的メモの最中に行われるもの
であることの方が多い。
次にr対他的メモ」は,安居がその具体として伝言や手紙を挙げているところからもわ
かるように,メモを取る本人が,相手が誰であるのか,どのようなときに発するものなの
かというところに意識を向けてメモを取る必要がある。つまり,受け手側の受け止め方も
意識して書くのが,対他的メモであるということができる。また,受容したことや理解し
たことを相手に伝えるためのメモであるという点で,「表現と発信のためのメモ」であると
いえる。ここでの表現と発信は書き手の頭の中のことを文字にして書くことを示すのであ
るから茂呂のいうr内から外へと送り出す方向」であるといえる。
最後に「対事的メモ」は受容することが声に限らず,文献や新聞の切り抜きのような文
字であることもある。「対事的メモ」はメモを取る本人が受容した情報の備忘録や,理解の
ためだけに取るのであれば「対自的メモ」と変わりないが,それを後に誰か相手を意識し
て取材メモやデ』タとして表現したり発信したりするのであるから,「対他的メモ」の要素
も持っている。つまり,「対事的メモ」は,「受容と理解のためのメモ」であり「表現と発
信のためのメモ」でもあるといえるため,3つのメモの種類の中では最も高度な段階にあ
るメモであると考えられる。そこで,安居のメモを取る者の意識の方向によるメモの種類
と具体的行為,またその行為の目的を表6に示した。
メモは,茂呂のいう書くことの過程においては,自らの中で表現されたものを外へと送
り出す方向と白ら書いたものを読んで,自分に知らしめていく,外から内へと向かう方向
の両方を持ち,どちらかの方向に限られる場合もあれば,両方の方向を兼ね備える場合も
ある,複雑なものであるということが明らかになった。また,安居の示す書き手の意識の
方向の分類により,茂呂のいう「中」という表現は書き手自身として捉えることができ,
r外」は他者であり,状況・場面であるということも明らかになった。
つまり,メモは誰に向けたものであるのかという意識の方向,何のためのものであるの
かという目的,そして具体的行為の3つの視点で分類することができるということがわか
った。
27
表6 安居(2002)によるメモの種類と行為の具体,その目的の関連
対自的メモ
目的
行為
メモの種類
①目記,手帳,予定表,日常的な小さいメモ
受容
②読書しているときのメモ,聴き取りメモ
受容・理解
③マッピング(イメージ,アイデア,関係づけ,判断,構
理解
z)
対他的メモ
伝言,メッセージ,手紙,記録,スピーチなど
表現・発信
対事的メモ
データづくり,取材メモ(インタビュー,ヒアリング,文
受容・理解
」,調査など)
¥現・発信
表7 各提唱者によるメモの種類とその目的
メモの種類
提唱者
メモの目的
対自的メモ
受容(備忘,記録),理解
倉澤,斎藤,高橋,安居
対他的メモ
表現,発信
倉澤,安居
対事的メモ
受容,理解,表現,発信
安居
そこで,安居の提唱する意識の方向によるメモの種類と倉澤,斎藤,高橋,安居の提唱
するメモの目的を合わせて分類すると表7のようになった。
本研究の目的は,メモの指導によって,低学年の児童に,正しく大事なことを聞く力や
聞いたことをもとに思考を深める力を育むことであるため,メモの種類としては,その目
的が受容・理解である「対自的メモ」に着目する。
(2)メモ指導における先行実践例
平成20年版国語科学習指導要領において,メモに関する記載は,第1・2学年のr書
くこと」の言語活動例において「工 紹介したいことをメモにまとめたり,文章に書いた
りすること1」,第3・4学年の「話すこと・聞くこと」の指導事項において「ア 関心の
あることなどから話題を決め,必要な事柄について調べ,要点をメモすること2」とあり,
具体的には「メモを活用して内容を整理し,相互関係を考えることで,話したいことや聞
きたいことを明確にすることが重要である」としている。
つまり,小学校国語科においてのメモの指導は,第1・2学年ではr書くこと」におい
て備忘録としての簡単なメモをとることができるようにすること,第3・4学年では「話
すこと・聞くこと」においてメモを用いて,自分の考えを明確にできるようにしていくこ
1文部科学省『学習指導要領解説 国語編』東洋館出版社,2008,p.19
2同上書,pp.51−52
28
とが求められている。
第1章でも述べたように低学年の教科書にも話すことや,聞くことの手立てとするメモ
の指導が平成22度版教科書には取り入れられている。言語活動の充実とともに,低学年
のうちからメモをとることを学習することの重要性が認識され始めたためであると考えら
れる。しかし,低学年へのメモのこれまでの先行実践例は少ない。
そこで以下からは,まず低学年に限らず,実際にメモを用いた学習方法にはどのような
ものがあるのかを調査し,そこから考えられるメモ学習の共通点や留意点を検討する。そ
して,第2章で述べた低学年聞き方の特徴も踏まえて低学年でのメモ学習の留意点を検討
する。
まず,聞くことの手立てとするメモの実践として,森久保安美(1996)の「六年生のス
ピーチをメモを取りながら聞き取ろう」という実践に着目する。実践の対象学年は5年生
であり,児童はこの実践に入るまでにメモの便利さや箇条書きの仕方を学習している。
森久保はこの実践における目標として5つを挙げている1。そのうち1つは,「箇条書き
にしたり,数字を使ったりなど,工夫してメモを取ることができる」というメモの書き方
に関するものである。加えて「細かい点にも注意してメモをとり,話の内容を正確に聞き
取ることができる」というメモを正しくきくことの手立てとすることに関するものや,「自
分の聞き取りメモを,話し手のスピーチメモと比べ,話し手の意図に迫ることができる」,
r聞き取りメモをもとに,どんな話だったか,また自分ならどう話すかを発表することが
できる」といった自分のメモを他と比較してその正確さを確かめたり,話を再構成したり
するというききっ放しやメモを取りっぱなしにすることがないような目標を設定している。
森久保のおこなった実践の概要は,6年生の児童が経験を語るビデオを5年生に見せ,
6年生のスピーチをききながら,」次メモをとらせる。次に,スピーチの終わった直後に
2次メモをとらせるといった,2回にわたってメモを取らせるというものである。
森久保はこの実践において児童がとった2回のメモを分析し,メモのスタイルを「演繹
的なメモ」と「帰納的なメモ」の2つに大別した。「演繹的なメモ」とは,一次メモにおい
て話の概要や柱立てをメモし,二次メモにおいて,話の細かな部分を書き加えていくもの
である。「帰納的なメモ」とは,一次メモにおいて,大事だと思うことばをランダムに書い
ておき,二次メモにおいて,話の概要や柱立てを整理してまとめていくものである。この
実践において特徴的なのは,2回に渡ってメモを取らせていることである。どうしても話
をききながら取る一次メモに文字として記録できる量は限られてくる。高橋(1998)によ
ると,メモには,話を聞いてその後内容を整理するものと,聞きながらメモとるものとが
あり,聞いた内容をメモに整理することはメモをとるうえでの基本段階であるとし,聞き
1森久保安美『聞く力を育て生かす国語教室』明治図書,1996,pp.33−49
29
ながらメモをとることは,メモに熟達した段階であると述べており1,小学生が一度にすべ
ての情報を聞きながらメモをとることは,難しいと考えられる。
そこで森久保は,一次メモに不足している部分を二次メモとして想起し,「演繹的なメモ」
と「帰納的なメモ」に合わせて児童が記録することができるようにしている。「演繹的なメ
モ」と「帰納的なメモ」はそのスタイルこそ違うものの,」度にすべてをメモしようとし
て,話をきくことをより複雑にしてしまうことを防ぎ,正確に,また詳細に聞き取るため
の指導としては非常に意味のあることであろう。
安居(2002)は,スピーチを聞くための「聞き取りメモ」のねらいとして,学習者の「聴
く構えづくり」,「正確に聴き取る訓練」とその「習慣化」があるとしている。さらに,安
居はr聞き取りメモ」をそこで終わらせるのではなく,r聴き取ったことを」情報としてだ
れかに伝える」ごとや,r聴き取ったことについてのメッセージを書いて話し手に送る」こ
と,「聴き取った内容を取材メモに入れ文章に活かす」ことというような学習活動をしなけ
ればならないと述べている2。
つまり,話し手が話したことを聞き手が聞き取るというように一方通行で終わらせるの
ではなく,話し手と聞き手が相互交流をおこない,互いに思考を深められるようなr聞き
取りメモ」の学習をする必要があるということである。
さらに,メモしたことを人に伝えたり,自らの文章に活かされたりするような,メモが
多くの学習の役に立つということを児童に実感させるような活動を取り入れることもメモ
学習においては重要であるということが明らかになった。安居はこのことについて,学び
の主体にとって,「やったことが次に活きる」という体験をすることが貴いことを述べ,教
師は,メモ学習に限らず,児童自身が学んだことをまた別の学びに活かすことができるよ
うな体験をさせることの重要性を示している3。
森久保の実践においては,聞き取りメモを活かして「自分の聞き取りメモを,話し手の
スピーチメモと比べ,話し手の意図に迫ることができる」,r聞き取りメモをもとに,どん
な話だったか,また自分ならどう話すかを発表することができる」というような,メモを
次の活動につなげる工夫がされていたため,聞き手が主体的に話を聞き,話し手を意識し
ながらメモを取ることができたと考えられる。
次に飯田弘巳(1991)がおこなった,書くことの手立てとするメモの実践として「取材
メモを生かした作文指導の工夫」と題した実践に着目する4。本研究は聞くことの手立てと
してのメモに着目しているが,書くことの手立てとしてのメモは,自分が頭の中で想像し
たり考えたりしたり理解したりしたことを整理し,表現するという点で,自分が聞いた情
1高橋俊三『聴く力を鍛える授業』明治図書,1998,pp.53−56
2安居総子『「伝えあい学び合い」の時代へ』東洋館出版社,2002,pp.66−72
3同上書,p.66
4飯田弘己「取材メモを生かした作文指導の工夫」『実践国語研究』No.109,明治図書,
1991, pp.33−38
30
報を文字にして整理し表現するという,聞くことの手立てとしてのメモと共通する点もあ
ると考え着目する。
飯田は児童が書く意欲を持ち,主体的に文章を書くためには,書き手自身の主題意識を
いかに高めていくかという工夫が大切であると述べている。また,常に主題を明確に意識
することで,文章に一貫性を持たせたり,文と文のつながりを考えて記述したり,効果的
な表現の工夫などが生まれてくるとしている。
そこで飯田は,児童に目的意識を持たせながら,取材→選別→構成メモを経験させるた
めに,第4学年を対象に「ぼくたち わたしたちの町」という題材の紹介文を書くという
単元を設定し,取材メモと構成メモの2種類のメモを用いることを手立てとして,児童に
紹介文を書かせせるという実践をおこなった。飯田によると,取材メモとは,情報を集め
るための行動が項目ごとにわけられた用紙にメモをとるというものであり,本実践では,
以下4つの項目が作成されている。
①自分が実際に行って,見てきたこと
②だれかにインタビューしたり,聞いたりしたこと
③本やパンフレットなど,資料で調べたこと
④自分が経験したことや感じたこと
取材メモが集まったら,構成メモを作成する。飯日ヨによると,構成メモは取材メモをも
とに,その中から必要なことだけを選び,それを色別の短冊メモにしたもののことをいい,
児童はその短冊を並べ替えることで構成を考えていく。
飯田は構成メモの殺害.」として,2点挙げている。1点目は取材してきたものの中から,
本当に必要な内容だけ選びとる作業(選科)の手立てとなること,2点目はその選び取っ
た項目を並べ替えて,文章全体のまとまりを考える作業(構成)の手立てとなることであ
る。
飯田は以上2種類のメモを手立てとして紹介文を書かせる実践をおこない,考察で以下
のように述べている。「児童の中には,取材メモの段階から,すでに構想ができており,そ
の構想に従って,取材メモを作ってきた児童もいた。そういう児童にとって,構成メモを
書かせることが本当に必要であったかという疑問が残る。児童の実態に応じて,取材メモ
からすぐに作文へ取りかかれる場合はそれでもよいのではないかと思った。」
この実践において特徴的であるのは,取材メモと構成メモの二種類のメモを児童に取ら
せていることである。取材メモで,大まかに作成された項目にしたがってとったメモをも
とに,構成メモで情報を選別し,作文の内容や書き方を決めている。しかし,飯田の考察
にあるように,あらかじめ構成のできている児童にとっては,取材メモから構成メモとい
う流れは必要ではない。つまり,この児童に必要なメモは森久保のいう「演繹的なメモ」
の形式であったため,児童が話をきく中で構成メモによって話を構成し,そこに不足する
情報を取材メモによって補足させることの方が適切であったと考えられる。
31
以上2つの実践から,聞くことの手立てや書くことの手立てというように,その目的は
違っていても,一度にすべてメモを取らせるのではなく,聞きながら取るメモと聞いた後
に取るメモの2回でメモを完成させることによって,話をより聞きやすく,再構成しやす
くなると考えられる。またその2回のメモは,飯田の実践の考察からわかるように,児童
の発達の段階や実態にあわせて,演線的なメモを取らせるのか,帰納的なメモを取らせる
のか,また自由に選択して取らせるのかを教師が判断する必要がある。
第2項 メモ指導と聴写指導の関連
(1)聴写の機能
第1項ではメモの機能とその指導について述べてきたが,そこでは聞くことの手立てと
するメモは聞くことと書くことが一体となって成立する行為であるということが明らかに
なった。聞くことと書くことを一体化した行為として,メモの他に聴写がある。そこで,
本項では,聴写の機能を明らかにし,メモ指導との関連やその活用法について検討する。
青木幹勇(1986)は,聴写をr第三の書く」に位置付けている。青木は,書くことはr第
一の書く」である書写に始まり,「第二の書く」である作文に収束していくとしている。「第
二の書く」に向かっていく過程にあるものが「第三の書く」である。第1項でも述べた通
り,青木は「第三の書く」にメモを位置付けているが,「視写,聴写,メモ,筆答・・」の
順で位置付けていることから,青木がメモの前段階として聴写をとらえていることがわか
る1。
桑原正夫(1983)によると,聴写とは,一定のスピードにのった音声による言語表現を
受けとめ,それを文字で書きわける活動であるとし,相手が発する音声言語を文字言語に
翻訳し,文字化していく仕事であると述べている。そして,聴写には,「きく」という行為
が不可欠となるとも述べている2。
さらに,聴写をおこなう際には,音声言語を正確に聞き取る力,文字の想起力,言葉の
認知と意味づけが一体的に働かなければならないとし,さらに,それらの操作を音声表出
のスピードに合わせて行わなければならないため,筆写の敏速性も必要であると指摘して
いる3。
そこで桑原は,聴写の効用として具体的に以下の5点を挙げている4。
①文字の想起力を養い,漢字,片仮名,平仮名の使い分けを促す。
②文字・文の速写力を養う。
③話を注意深く聴く態度を培い,集中カを養う。
1青木幹勇『第三の書く』国土杜,1986,pp.11−13
2桑原正夫『視写・聴写の新しい指導』明治図書,1983,p.40
3同上
4同上書,pp.40−41
32
④音読・朗読の聴きとりにより,言葉のひびき等語感を育てる。
⑤聴写文と原文の比較検討等により,表記上の正確さを培う。
桑原の挙げる以上5点の聴写の効用より,聴写の効用の中心は「書くこと」の手立てに
あることがわかる。「③話を注意深く聴く態度を培い,集中力を養う」は「聞くこと」の手
立てとしての効用であるが,その他4つはどれもr書くこと」の手立てになる。
では,聴写の機能はこれまでにどのように位置づけられ,指導されてきたのであろうか。
聴写が明確に位置づけられたのは,昭和53年版学習指導要領からである。昭和43年版の
学習指導要領には書写に関する記載はあっても聴写に関する記載は見られない。昭和53
年版には,第1学年から第3学年にかけて「A表現」の指導事項として「正しく視写した
り聴写したりすること」と全く同一の言葉で示されている。桑原はこのことについて,「一
年から三年まで同一であること自体に,反復練習によって視写・聴写の技能を着実に積み
上げねぱならぬという意志的な構えが見える」と述べている。また,第4学年からは,「B
理解」の指導事項として,視写や聴写を取り入れることが記載されている1。以上のことか
ら,聴写には聞くことや読むことのr理解」と話すことや書くことのr表現」を関連付け
る機能があるということがわかる。
文部省から出された指導資料『理解の指導』には,r表現と理解の問題は,現象的な言語
活動でのコミュニケーションそのものよりも,ある事柄を言語に変換する過程や,その言
語をある事柄に変換する過程に注目することが大切である」と述べられていることから,
ある事柄を言語に変換する過程を見るための手立てとして昭和53年版学習指導要領から
聴写が取り入れられたと考えられる2。
つまり聴写は,耳から入る情報という目に見えない事柄を,文字という見える言語に起
こすという変換過程である。それは,評価をおこなう教師にとっても,また情報を受け取
る児童自身にとっても,耳から入った情報を聞き手(児童)がどのように受け止め,理解
したかを知る手立てになり得るといえる。
次に聴写のつまずきについて述べていく。「理解」と「表現」を関連付ける聴写において
どのようなっまずきが起き,その改善にはどのような指導が必要なのであろうか。
桑原は,聴写のつまずきについて以下の8点を挙げている3。
①言葉を聞き流してしまう。
②筆写が間に合わず,とぱして書き進む
③平仮名,片仮名,漢字の使用が適切でない
④助詞のrは」rを」rへ」が正しく使われていない
⑤長音,拗音,促音,援音などの表記が正しくない
1桑原正夫『視写・聴写の新しい指導』明治図書,1983,pp.23−25
2文部省『理解の指導』東洋館出版社,1982,p.38
3桑原正夫『視写・聴写の新しい指導』明治図書,1983,pp.57
33
⑥句点の打ち方が誤っており,読点の打ち方が適切でない
⑦「」の使用が適切でない
⑧改行すべきところが改行されていない
④助詞の「は」「を」「へ」が正しく使われていないというっまずきと⑤長音,拗音,促
音,援音などの表記が正しくない,という2点のっまずきに関して,北村季夫は,聴写は
表記の判断を促すと述べ,「は」,「を」,「へ」を含んだ文章の聴写を取り入れ,視写により
確認することで,「は・を・へ」が文章の中でどのような働きをし,どのように用いなけれ
ばならないかを身に付けていく必要性を述べている1。また,聴写→確かめ読み→視写とい
うこの方法は,助詞の使い方のみならず,促音,長音,拗音,援音の確認にも有効である
と述べ,聴写は正しく文字や文章を表記するための手立てとなることを述べている2。
①r言葉を聞き流してしまう」というつまずきは,聴写をきくことと書くことの一体と
なった行為としてみると,聞くことのっまずきである。また②「筆写が間に合わず,とば
して書き進む」から⑧r改行すべきところが改行されていない」までのつまずきは,書く
ことのつまずきである。つまり,桑原は聴写におけるつまずきの大部分が書くことのつま
ずきによっておこると捉えていることがわかる。
そこで桑原は,聴写のつまずきの改善方法として確かめ読みを提唱している。確かめ読
みによって,原文とのずれ,読み取り・聴きとりの不確実さ,あいまいさを是正させ,表
現の仕方への意識を鋭く具体的によびさますことができると述べている3。
さらに桑原は,読みと表現を強化させるという効用が,聴写後の原文との比較によって
成立するとし,聴写が単に筆写のスピード養成や筆写の慣れのためにあるのではないと述
べている。例えば,書くことにおいては,改行への意識,句読点への意識,助詞への意識
等が高まり,確実さを増していくとしている。加えて,聴写の後に,この「比較検討」が
あることで,子どもたちの緊張を誘い,聞くことへの集中につながるとしている4。
つまり,聴写の指導において大切なのは,耳から入った情報を単に書かせることだけで
はなく,その書き方を確認し,段落変えや改行も含んだ正しい表記の仕方を学び,客観的
に見ても正し聞き取りをさせることであるといえる。
(2)聴写指導における先行実践例
桑原は聴写の方法として,繰り返し法とメモ式聴写法の2点を挙げている5。
繰り返し法とは,最初,一文ごとに区切り,その一文を何回か繰り返しゆっくり読み上
1北村季夫『小学校表現力を鍛える練習学習』東京書籍,1990,p.77
2同上
3桑原正夫『視写・聴写の新しい指導』明治図書,1983,pp.56−57
4同上書,p.58
5同上書,pp.58−61
34
げてやる方法をいう。低学年など,聴写の基礎固めの段階で行うことが適切であるとして
いる。指導上の留意点としては,複雑な構文のものは避け,簡潔明瞭な文章を選ぶことや
漢語の多い文章は,その意味を聞き取ることが困難なため避けることを挙げている。
メモ式聴写法とは,聴与力がついてきた段階でおこなうもので,児童に1回だけしか読
み上げないことを伝え,自分の筆写スピードに合わせて聴写させる方法をいう。
桑原によると,メモ式聴写法は,「要旨をつかむ」腰点をとらえる」学習に有効である。
なぜならば,自分の筆写スピードに合わせて聴写をおこなうため,すべての文を聴写する
ことが難しく,要旨のみを書くことが必然的であるためである。さらに,指導上の留意点
として桑原は,文学作品の聴写には,不向きであることを挙げている。なぜならば,書き
出しから結びまで丸ごと捉えてはじめて意味があるわけで,「要点をとらえる」というよう
なものではないからである。したがって,メモ式聴写は,説明的文章において有力である
と述べている。文章を段落ごとに区切って読み上げ,終えたところでメモの時間を与える
ことを繰り返す。桑原は,「このメモ式聴写を発展的に捉えるならば,人の話を『聞き取る
カ』に転移していくことはいうまでもない」と要旨をとらえることを鍛えることが話を『聞
き取る力』につながるということを述べている。
以上の2点の方法からみると,メモを取ることと聴写の違いは,聴写は文章を繰り返し
たり,区切られたりして読まれ,さらに書く時間を与えられるという,話がききやすく書
きやすい環境を保障されていることである。聞き手中心で進められるという点では,「話す
こと」や「書くこと」の手立てとしての」メモと似ているといえる。
一方,メモ式聴写法は,聞いた文章を聞き取ったまま書くのではなく,要旨を捉えて書
くという点で「きくこと」の手立てとしてのメモに近いといえるが,文章が区切られ,ま
た書く時間が保障されているという点ではやはり聴写であるといえる。
また,北村季夫(1990)は,第1・2学年を対象とした聴写の実践として,「聞きなが
ら書く」という実践を提案している1。北村の実践のねらいは2点ある。ユ点目は,話を聞
いて,会話の部分を正しく書き分けることができるようにすること,2点景は,話を聞い
て,簡単なメモが書けるようにすることである。
実践の1つとして,北村は児童同士に「鉛筆対談」をさせ,OHPに移し,正誤両作品
を用いて「」の使い方を確かめる方法を提案している。鉛筆対談とは,隣同士で対話をさ
せ,その通りに「」を使って原稿用紙に書くというものである。これは,作文学習にっな
げるためのものである。
さらに,北村は「連絡メモ」を書かせるという実践も提案している2。この実践の方法は,
毎日の帰りの会の時に連絡メモを書かせるというものである。北村はこの実践での注意事
項として,4点挙げている。1点目は,1週間くらいは,板書を読みながら視写させるこ
1北村季夫『小学校 表現力を鍛える練習学習』東京書籍,1990,p.95
2同上書,pp.96−98
35
とである。2点目は,ノートは項目を印刷したものを準備し,書き込ませるようにするこ
とである(1ヵ月くらい。その後は各自に工夫させてもよい)。3点目は,話は簡潔に箇条
書き的にすることである。4点目は書かせっぱなしにしないで,机間巡視したり,隣同士
で比較させたり,あるいは,読んで発表させたりして確かめることである。また,書いた
項目の数などを質問してみるのもよいとしている。
この注意事項に関して,1点目の「1週間くらいは,板書を読みながら視写させること」
と,2点目の「ノートは項目を印刷したものを準備し,書き込ませるようにすること」は,
児童が短く文を書くことになれるための手立てであり,パターンとして書き方を学ぶとい
う点で必要である。その2点ができれば,その後の3点目の「話は簡潔に箇条書き的にす
ること」を学はせる際に,書き方に戸惑って書くことができないということが防がれ,要
点をきくことに集中させることができると考えられる。また4点目の「机間巡視したり,
隣同士で比較させたり,あるいは,読んで発表させたりして確かめること」は,児童がど
の程度,正しい聞き取りと書き取りができているのかを教師が確認し指導に活かすためだ
けではなく,児童自身が正しい聴写や間違いに向き合い,さらには緊張感をもって取り組
むきっかけになると考えられる。
さらに北村は,聴写は作文表記力を育てる上にも有効であると述べ,第2学年後半には,
少し長い童話を,毎日,3∼5分くらい読み聞かせて聴写させることを提案している。こ
の実践では段落,改行などが自然に身に付けられるようにすることがねらいとされる1。例
えば段落は,「意味的に続いた文の一群で,文章の中で一字下げにしてある。一宇下げは,
段落の中の材料の統一を視覚的に示す方法」である2。つまり,聴写において段落や改行が
自然と身に付げば,話の内容の転換やまとまりに気づけるようになり,長い話をきくとき
にはその要旨をより捉えやすくなると考えられる。
以上2者の実践からみられる聴写指導の留意点は以下の6点ある。
聴写指導の留意点
①話題の設定を工夫する。
②聞いたことを正しく書き取る基礎を作るために,児童の様子に合わせて文を読み上げ,
書き取る時間を保障する。
③書き込みできる用紙を作り,書き方のパターンを定着させる。
④聴写に慣れてきた際には,文を読む速度をあげ,文字を速書できるようにする。
⑤文字の正しい書き取りに留まらず,リの使い方や段落,改行の仕方を定着させ,文のま
とまりや要旨を理解する手立てとする。
⑥個人の聴写のみに終わらず,聴写を共有したり,原文と比較したり確認したりする。
1北村季夫『小学校 表現力を鍛える練習学習』東京書籍,1990,p.98
2輿水実『国語科基本用語辞典』明治図書,1978,p.154
36
以上6点の留意点より,聴写はr聞くこと」とr書くこと」を一体とさせ,また理解と
表現を関連させる行為であるが,その指導の中心はまずr書くこと」に置かれていること
がわかる。「聞くこと」で理解するための手立てとして,文字に「書くこと」によって表現
するが,その際に文字や文章の書き方にっまずきがあっては,正しく理解したことであっ
ても誤って表現してしまうということとなり,結局は正しい表現につながらなくなってし
まう。そこで,聴写の指導においては児童が聞いたことを正しく書いて表現することに重
点をおくことが重要となってくる。ここで児童に正しく書き取ることを定着させることが
できれば,聞き取りメモを行う際,r書くこと」においてのつまずきは軽減させることがで
きると考えられる。
1点目の「話題の設定を工夫する」ことは,特に低学年の児童にとって必要となってく
る。なぜなら,第2章で述べた通り,低学年児童は興味・関心の幅が狭く,また生活経験
も少ないため話題によって聞くことが難しくなるからである。加えて,知っている言葉も
少ないために音を聞いただけでは言葉としてイメージすることが難しい漢語を多く含むも
のや,あまり長い文が続く内容のものは暗くこと」の手立てとする聴写の話題には不向
きであるからである。
2点目の「聞いたことを正しく書き取る基礎を作るために,児童の様子に合わせて文を
読み上げ,書き取る時間を保障する」ことは,「書くこと」に重点を置く聴写には非常に
重要なことである。書き取る速度を上げる前にまず,正確に書くことの大切さと難しさを
児童に実感させ,集中カを高めなくてはならない。
3点目の「書き込みできる用紙を作り,書き方のパターンを定着させる」ことにより,
書き方でつまずき書き進めることができないということを防ぐ必要がある。聴写させる内
容にもよるが,目付や題名を書くような欄や,書き取る言葉や文の長さにあったマスのあ
る用紙を用意しておき,書き方のパターンを定着することが必要である。
4点目の「聴写に慣れてきた際には,文を読む速度をあげ,文字を速書できるようにす
る」ことは,聞き取りメモの際にも重要となってくる。聞き取りメモの練習の場合は児童
の書く速さに合わせておけばよいが,実際のスピーチやお話を聞く場合の聞き取りメモは
聞き手に話す速度が合わされることはない。そのため,聴写の段階で書き取る速度を上げ
おき書き取りが追い付かずに,聞き取ることができないというようなことを防がなくては
ならない。
5点目の「文字の正しい書き取りに留まらず,「」の使い方や段落,改行の仕方を定着さ
せ,文のまとまりや要旨を理解する手立てとする」ことは,「書くこと」の指導になるだけ
でなく,話のまとまりを意識して聞くことの手立てにもなる。なぜなら段落変えや改行を
する場合にはそこに意図が必要となり,その意図を考えるためには話のまとまりや変化を
捉える必要があるからである。
6点目の「個人の聴写のみに終わらず,聴写を共有したり,原文と比較したり確認した
37
りする」ことは聞くことに集中させ,また確実に聴写できるようするために必要である。
このことにより桑原(1983)のいう,原文とのずれ,読み取り・聴きとりの不確実さ,あ
いまいさを是正させ,表現の仕方への意識を鋭く具体的によびさますことができる1。
聴写の指導において以上のことに基づき指導行えば,「書くこと」でのつまずきは軽減し
「聞くこと」に集中しやすくなる。書き取りの余裕が生まれれば書き取ったことを関連付
けたり,比較したりするような思考も生み出しやすくなるであろう。つまり,第2節で述
べたさまざまな聞き方のうち,聞き取りメモを手立てとしてまず「確かに聞き取る」聞き
方ができるようにする。すると,そこから発展した「詳しく聞き分ける」聞き方や「心を
寄せて聞き混る」聞き方もできるようになると考えられる。
第3節 先行案践例からみる聞くことの手立てとしての聞き取りメモ指導の留意点
ここでは第1節で述べてきたメモと聴写の先行実践例より,聞き取りメモ指導の留意点
について整理する。
聞き取りメモは第1節で挙げたように,安居網子(2002)のいうr対自的メモ2」にあ
たる。「対自的メモ」は書き手自身のためのメモであり,「対自的メモ」の目的は書き手が
受け取った情報を受容するためや,理解することである。具体的な行為としては,①にお
ける日記のような自分の考えや思いを残しておくためのものや,②における聞き取りメモ
のような外から受け取った情報を書き手がメモすることで受容したり理解したりするよう
なものがある。例えば目記や手帳のように自分の思いや考えをメモする場合と聞き取りメ
モのように外から入ってくる情報をメモするのでは,後者の方が難しいと考えられる。な
ぜなら,聞き取りメモにおいて聞き手が受ける情報はいつも聞き手にとって興味深い内容
であり,聞き手の既存の生活経験をもとにして聞き取れる話であるとは限らないからであ
る。また,聞き取りメモの練習でもない限り,聞き取りメモをする者のメモする速度に話
の速度が合わされることもない。
表8 安居(2002)によるメモの分類
メモの種類
行為
対自的メモ ①日記,手帳,予定表,日常的な小さいメモ
②読書しているときのメモ,聞き取りメモ
目的
受容
受容・理解
③マッピング(イメージ,アイデア,関係づけ,判断,構想)理解
そこで,第2項で述べたように,聞き手のr理解」とr表現」を関連付ける機能がある
1桑原正夫『視写・聴写の新しい指導』明治図書,1983,pp.57−58
2安居総子『「伝えあい学び合い」の時代へ』東洋館出版社,2002,p,68
38
聴写を聞き取りメモの学習以前に取り入れる。聞いて理解したことを書いて表現する場合,
聴写には桑原(1983)のいう聴写の効用1や,先行実践からもわかるように「書くこと」
に重点をおいたものであるため,書いて表現する手立てになり得る。
したがって聞き取りメモの指導以前に聴写の指導を行うことによって,児童の書き取り
に関するつまずきを軽減させることができると考えられる。
聴写指導の留意点は第1節で述べたように以下の通りである。
①話題の設定を工夫する。
②聞いたことを正しく書き取る基礎を作るために,児童の様子に合わせて文を読み上げ,
書き取る時間を保障する。
③書き込みできる用紙を作り,書き方のパターンを定着させる。
④聴写に慣れてきた際には,文を読む速度をあげ,文字を速書できるようにする。
⑤文字の正しい書き取りに留まらず,「」の使い方や段落,改行の仕方を定着させ,文のま
とまりや要旨を理解する手立てとする。
⑥個人の聴写のみに終わらず,聴写を共有したり,原文と比較したり確認したりする。
以上6点に留意して聴写の指導を行い,書き取りに正確さとスピードが出てきたら,聞
き取りメモの指導に入る。
聞き取りメモにおける指導上の留意点
①何のためにメモをするのかという児童の目的意識を明確にする。
②聞きながら取るメモと聞いたあとで取るメモによって内容の受容と理解を深める。
③聞き取りメモを活かした活動を取り入れる。
まず「①何のためにメモをするのかという児童の目的意識を明確にする」ことで,児童
の聞き取りが受け身にならず,また何を聞くべきなのか,何を聞きたいのかが明らかにな
る。
次に,「②聞きながら取るメモと聞いたあとで取るメモによって内容の受容と理解を深め
る」ことが必要である。第!節で述べた通り,閉し.、たあとで取るメモがメモの基本であり,
聞きながら取るメモはメモに熟達したレベルである。よって,二つのメモを組み合わせる
ことによって内容の聞きもらしや聞き間違いを防ぐと同時に,聞きたいことを明らかにし
ようとすることで内容への理解と自身の考えへの理解が深まる。
最後に「③聞き取りメモを活かした活動を取り入れる」において,本章第2節第1項(2)
で挙げた森久保の実践のように,聞き取りメモを活かして「自分の聞き取りメモを,話し
手のスピ』チメモと比べ,話し手の意図に迫る」,「聞き取りメモをもとに,どんな話だっ
たか,また自分ならどう話すかを発表する」というような,メモを次の活動につなげる工
夫をすることにより,聞き手が主体的に話を聞き,話し手を意識しながらメモを取ること
1桑原正夫『視写・聴写の新しい指導』明治図書,1983,p.40
39
が可能となる。このことは,聞き取りメモの学習においてrメモの学習のための聞き取り
メモ」を取ることを学ばせるのではなく,「聞くこと」の学習やいずれは「話すこと」や「書
くこと」,r読むこと」へもつながる聞き取りメモであることを児童に意識させる上で忘れ
てはならないだろう。
これまで聞くことの手立てとして聞き取りメモを用いることの有用性と,聞き取りメモ
の指導以前に聴写の指導を行うことによって,聞き取りメモの際の書くことに関するつま
ずきを軽減させることができ,よってより正しい聞き取りと表記ができるということを述
べてきた。しかし,桑原(1983)が述べるように,聴写は地味で根気のいる仕事であるた
め,子どもたちの方から聴写をしたくなるようなことはない1。しかし,聴写はあくまで1
つの学習方法であり,理解や表現を確かにしていく方法である。メモを取ることも子ども
たちがその必要性を実感しなければ習慣づくことは決してないだろう。よって聴写やメモ
の学習は,子どもたちがその価値に気づくような体験を重ねさせていくことが大切であり,
そのための工夫を十分におこなわなければならない。
1桑原正夫『視写・聴写の新しい指導』明治図書,1983,p.25
40
第4章 実習校における授業実践の分析と考察
第1節 実践の目的と概要
第1項 実践の目的
本実践の目的は,低学年において基礎的な聞き方である「確かに聞き取る」ことの手立
てとする聞き取りメモの素地を育てることと,実践を通して,低学年での聞き取りメモの
指導のより効果的な指導法を考案することである。この目的を達成するために,その手立
てとして以下の3点に留意した。
指導上の留意点
①絵本の読み聞かせをすることで,児童が興味・関心が持てる話題を選択する。
②実践の始めの2回は児童の様子に合わせて文を読み上げ,書き取る時間を保障し,書く
ことのつまずきを軽減させる。
③言葉の省略や矢印を使うことを伝えることによって,正確な聞き取りができるようにし,
話を聞く際にメモが役立つことを実感させるようにする。
第2項 実践の概要
1 対象 兵庫県丹波市立W小学校第2学年児童28名(男子11名,女子17名)
2 実践期間 2011年1月中旬∼2月上旬
3 目標
・矢印や単語の省略により,聞き取ったことをメモすることができる。
・聞き取りメモをもとに,絵本の内容を思い出し,大事なことを落とさずに答えるこ
とができる。
4 学習過程
本実践の学習過程は,以下図3に示すとおりである。
5 授業の実際的展開
本実践では,児童に話を聞かせる際,聞き取りメモを用いることを「確かに聞き取る」
ことの手立てとした。メモに取らせる題材としての話は,第2学年の児童が興味を持って
聞くことができるように絵本を用いた。絵本は各段階によって意図を持ってその内容を選
択した。以下からは設定した学習過程の各段階における学習の概要を示す。
41
児童の学習活動
授業者の働きかけ
第1次『おつかいさえこちゃん』を聞いて,メモを取ってみよう(15分)
・『おっかいさえこちゃん』の読み聞かせを聞きなが
ら,必要な情報をメモする。
・メモを見ながら,設問に答える。
・児童が話の内容に興味が持てるように,ゆっ
くりと読み聞かせをおこなう。
・全員の児童が,メモに興味が持てるように児
童のメモをとるスピードを考慮しながら読
み聞かせをおこなう。
第2次『あなぐまのもちよりパーティー』を聞いて,
大切な所をメモに取ってみよう(15分)
・『あなぐまのもちよりパーティー』の読み聞かせを
聞き,必要な情報をメモする。
・メモを見ながら,設問に答える
・第1次同様,児童が話の内容に興味が持てる
ように,授業者がゆっくりと読み聞かせをお
こなう。
『あなぐまのもちよりパーティー』を聞いて,
大切な所を工夫してメモに取ってみよう(15分)
・メモのポイントを知り,それを活かしてメモを取る。
・『あなぐまのもちよりパーティー』の読み聞かせを
聞き,必要な情報をメモする。
・メモを見ながら,設問に答える
・メモのポイントとして,言葉を省略すること,
矢印を用い言葉を関係づけることを指導す
る。
・児童が言葉を省略することや矢印を使うこと
の利便性を感じられるように,第2次より速
めに読み聞かせをおこなう。
第3次『しゅくだい』を聞いて,
大切な所を工夫してメモに取ってみよう
・『しゅくだい』の読み聞かせを聞き,必要な情報を
メモする。
・メモを見ながら,設問に答える。
(15分)
・児童が言葉を省略することや矢印を使うこと
の利便性を感じられるように,第3次同様速
めに読み聞かせをおこなう。
『ぐりとぐらとすみれちゃん』を聞いて,大切な所を工夫してメモに取ってみよう(15分)
1メモのポイントを知り,それを活かしてメモを取る。
・『あなぐまのもちよりパーティー』の読み聞かせを
聞き,必要な情報をメモする。
・メモのポイントとして.言葉を省略すること,
矢印を用い言葉を関係づけることを指導す
る。
・メモを見ながら,設問に答える。
・児童が話の内容に興味が持てるように,ゆっ
・メモをもとにして,心に残った場面について書く。
くりど読み聞かせをおこなう。
図3「お話を聞いて大事なところをメモしよう」の学習過程(全1時間15分)
42
〈第1次:「聞き取りメモに出会う」段階〉
ここでは,子どもたちがメモに興味を持ちまたその利便性が実感じやすいように,メモ
する内容が単純な題材を選択した。書くことが苦手な児童にも配慮し,絵本に出てくる言
葉もわかりやすいものにした。子どもたちにとってメモを取ることがどのようになされる
のかを検討するため,あえてメモの取り方に対する指導はせずに実践を行った。
また,子どもたちが絵本に見入ってしまうとメモを取るのに支障を来すと考えたため,
絵は見せずに話だけを聞かせるようにした。
〈第2次:「聞き取りメモの取り方を学ぶ」段階〉
ここでは,第1次で子どもたちがとったメモの結果をふまえてメモの取り方を指導する。
長い言葉は短く省略して書くことや,何がどうしたという主語と述語の関係に注意してメ
モすること,関係のあることは矢印でつなぐことを指導した。絵本の内容は第1次と同様
に,メモをとる場面がわかりやすく,言葉も子どもたちにとってなじみのあるものが多い
ものにした。
〈第3次:「長いお話の聞き取りメモを取る」段階〉
ここでは,第2次で学んだメモの取り方を活かして,メモを取るように指導する。第2
次までの絵本の内容について一つの場面のみに集中してメモを取ればよかったことに対し,
第3次では第2次よりも長い話を題材としたため,より主語と述語の関係に注意してメモ
を取ることが必要となる。また,第5回の『ぐりとぐらとすみれちゃん』においては,取
ったメモをもとに自分の印象に残った場面を書く項目を作り,備忘録としてのメモの役割
に留まらず,メモが表現にもつながることを意識させることもねらいとした。
6 学習者の実態と教材の特性
児童は,毎週末に「あのね帳」を書き,学級で紹介してもらうことを楽しみにしている。
「あのね帳」では,漢字の数をカウントし,できるだけ漢字を使って書くようにしている。
毎日の宿題で,漢字ドリルをしてきており,きれいな字で書くことに重点を置いている。
子どもたちは自分の書きたい文章を好きに書くことには抵抗が少ないと見られる。しかし,
指定された長文を書くことや,繰り返すことを要求されるような活動に関しては,「わから
へん」,「めんどくさい」等のつぶやきが出る。
平成20年版東京書籍『あたらしい国語』におけるr書くこと」領域の単元であるrわ
たしの見学ノート1」では,ランチルームの見学に行き,その様子をメモして,それを元に
作文を作ることをしている。ここでのメモは,話を聞いて取るかたちではなく,様子を観
察してメモするものであり,書くことの手立てとしてのメモであった。児童は,ランチル
ームにある道具や,給食を作る調理員の方の様子,普段自分たちが使っているものの何倍
1rわたしの見学ノート」『あたらしい国語』東京書籍,2008,pp.39−45
43
もあるしゃもじなど,それぞれに着目して記録していた。
また本実践を始める1週間前に行われた聞き取りテストは,メモを取ることを許可され
た状況で行われた。内容は音声として流れるハンバーグの作り方についてメモを取り正し
い1頃番を選択するというものであった。しかし,どの部分をメモしていいかわからない,
話される内容を書き取るスピードが追いつかない等の困難から的確なメモを取ることがで
きる児童は少なく,自分の記憶をもとに解答する児童が多く見られた。
以上のような児童の実態から,本実践では,児童が興味を持って話を聞くことができる
ように絵本の読み聞かせをおこなった。絵本は,話の展開がわかりやすいもの,わかりや
すい言葉で書かれているものを選択することで,メモが取りやすくなり,メモを取ること
を嫌いになることがないように配慮した。また,メモ用紙は児童に文字を書く場所がわか
りやすいように,また短く書くことがしやすいように中黒点を打ち,その下にメモをとれ
るように作成した。
7 実践の分析方法
学習成果として,第2章で述べた聞き方の機能の視点と,メモの指導の視点の2点につ
いて本実践を分析する。なお,情意的側面は,単元実施後の「アンケート」を用いて分析・
評価した。また,認知的側面は,全5回に渡る各児童の取ったメモと単元実施後の「アン
ケート」を用いて分析した。
第2節 実践の実際と考察
第1項 各回における児童のメモからみたメモの特徴
(1)全5回における実践の内容と結果及ぴ考察
第1回『おつかいさえこちゃん1』
第1回目は僧成仕出版の伊東美貴作・絵『おつかいさえこちゃん』を題材にした。この
本は,児童がメモを取る際に名詞に着目することがしやすく迷いの少ないものとして選択
した。また,カレーの材料を買いに行くという児童の生活に馴染みのある話の内容であっ
たため,児童にとって聞きやすいものであると判断した。課題と指導内容は以下の通りで
ある。
○課題 rさえこちゃんが買いに行くものは何でしたか?」
○指導内容 大事なことだけ書くこと。
1伊東美貴『おっかいさえこちゃん』借成仕出版,1996
44
○全問正解メモの特徴
・単語一つひとつを区切って書いている。
・自分で文字を囲んで特徴づけている。
・メモはしていなくても正解している。
○聞違いの特徴
・何を書いたらいいのかわからず,メモが取れていない。
・単語をすべて羅列してメモしてしまい,単語の区切りが見えにくくなっている。
・丁寧に文字を書いていて,話のスピードに書くスピードがついていけていない。
・文字の表記を間違っている。
例①カレールー→カーレル,カレール,カレーリュー
②ロールパン→ろうルパん,ろ一るパん
・メモは取っているが正しい回答を選択できていない。
○考察
第1回目では,メモの形式としての書き方を伝えないで実践をおこなった。そのため,
言葉を省略して書く児童はいなかった。しかし,全問正解をしている児童のメモの中には
わかりやすいように書き取った単語を区切っているものや,丸で囲んで見え方に工夫をし
ているものがあった。このような工夫の仕方はこれまでに指導されておらず,児童自らが
生活経験の中で身に付けたものであると考えられる。
間違いの特徴としては,聞いた内容のどの部分が大切であるかを決めることができずに
メモを取ることができていないものが多くあった。
第2回 『アナグマのもちよりパーティ」』
第2回目は評論仕出版の『アナグマのもちよりパーティー』を題材にした。この本は,
第1回に題材とした『おっかいさえこちゃん』同様に,児童が名詞に着目してメモを取り
やすいと考え選択した。メモ用紙は第1回の実践において中黒点を5つだけ打った縦に書
くスペースの多いメモ欄では,縦に羅列して書き続ける児童が多かったため,半分のスペ
ースに区切り,中黒点を倍に増やした。課題と指導内容は以下の通りである。
○課題 r何の動物たちが何を持っていきましたか?」
○指導内容 聞き逃したものを思い出すように迷うのではなく,どんどん書き進めること
1ハーウィン・オラム『アナグマのもちよりパーティー』1995,評論杜
45
○間違いの特徴
’必要な情報がメモできずに不足していて,回答できない(動物または持ち寄った物のみ書
いている)。
・後半の情報がメモできずに,曖昧な記憶で回答しているため誤答している(ぼうやと答え
るべきところをおじょうちゃんと書く)。
○考察
今回の課題は動物の名前と,持ち寄ったものの二つを聞き取る必要があったため,前回
よりも書くことが多く,それを理解していない児童が大半であった。動物の名前と持ち寄
ったものの両方をメモしている児童は28名中わずか7人にとどまった。
しかし,前回は1列の問に多くの情報を書きこもうとしていた児童が,メモ帳に中黒点
を倍に増やしたことだけで,情報を整理して書くことができるようになった。このことよ
り,低学年の児童には,自由記述のメモ帳より,ある程度枠組みのできたメモ帳が書き取
りやすいということが明らかになった。
第3回『アナグマのもちよりパーティー』
第3回は第2回と同じ本を題材とし,課題も同様に設定した。指導内容は以下のように
した。
○課題 「何の動物たちが何を持っていきましたか?」
○指導内容 ・言葉はすべて書くのではなく,自分で思い出せる程度に省略して書くこと。
・動物を書いたら,持ってきたものは動物の近くにセットで書くこと。
○全問正解メモの特徴
・省略できる単語を省略して書いている。(ふくろう→ふ,カップケーキ→かっぷ)
・矢印や,中黒点などを使い見やすく書いている。
・メモは取っていないが回答している。
○間違いの特徴
・単語の省略をしなかったためにメモが間に合っていない。
・必要な情報がメモできず不足していて,回答できない(動物または持ち寄った物のみ書い
ている)
・メモはしているが似たような単語を誤って選択している。(rおじょうちゃん」をrぼう
や」と誤って選択)
46
○考察
同じ絵本を題材とした第2回と比較して,全問正解の児童が15名と増加した。言葉
を省略して書くことで,多くの情報を整理して書くことができるようになったと考えら
れる。第2回と同じ話であったこともあるだろうが,確実に書き取ることができるよう
になっている。その一方で,省略できずに言葉を羅列している児童も見られた。
第4回『しゅくだい1』
第4回目は『しゅくだい』を題材とした。対象学年を第1学年としているため,第2学
年後半にあたる児童たちにとって話の内容はわかりやすいものであると判断した。しかし,
第3回までの課題が一つの場面のみに集中して聞き取りメモを行えばよかったものに対し
て,今回は本の内容全体の中から自分で大事だと思うことをメモする必要がある課題を設
定した。回答形式としては,単語ではなく文章で書くものを取り入れた。
○課題r登場人物や出来事に注意してメモすること」
○指導内容 誰が何をしたかを書くこと。
書けないことがあってもどんどん書き進めること。
○児童のメモの特徴
・登場人物と行動を矢印で結びつけている。
・名詞に着目してメモしている。
・おこったできごとを順番に書いている(ナンバリングはなし)。
○考察
結果は全員正解であった。似たようなものが続いてでてくることもなく,文章も」文
」文が短く単純であったことがその要因の一つであると考えられる。メモは,前回のも
のと比べると矢印を使うこと,○で囲むこと,省略することができている児童は,7人
と減少した。この要因として,話の中で何と何を結びつけて書けぱよいのかが,児童に
とって前回のものより複雑であったと思われる。「登場人物や出来事に注意してメモしま
しょう」という課題であったため,登場人物とその出来事を結びつけて書くことを筆者
は意図したが,その意図は達成できなかった。
第5回『ぐりとぐらとすみれちゃん2』
最後となる第5回目は児童にとって親しみのある『ぐりとぐら』のシリーズから題材
1いもとようこ『しゅくだい』岩崎書店,2003
2中川李枝子『ぐりとぐらとすみれちゃん』福音館書店,2003
47
を選択した。絵本に使われている言葉は難しくなく聞き取りやすいものぱかりであった。
『しゅくだい』同様に,回答形式として,単語ではなく文章で書くものを一問と,感想を
書くものを一問取り入れた。
○課題「だれがどんなことをしたかに注意してメモすること」
○指導内容 言葉はすべて書くのではなく,自分で思い出せる程度に省略して書くこと。
○児童のメモの特徴
・登場人物をメモしている。
・名詞に着目してメモしている。
・数字に着目してメモしている。
・矢印を使って登場人物と行動を関連づけている。
○考察
結果は全員正解であった。前回同様,似たような意味の言葉が出てこないため話を順序
にそってきいていれば十分に理解できる内容であったと考えられる。
メモを書く際は,矢印を使ったり,言葉を省略して書くことを再度確認してメモを取ら
せたため,「しゅくだい」のときと比較すると,矢印を使ったり言葉を省略して書くことし
て書く児童が増えた。しかし,書き取った言葉を関連づけるような構造的なメモを書く児
童はおらず,キーワードを羅列するような児童が目立った。
「女の子はどうやってかぼちゃをわりましたか?」という間いに対して,もっともシン
プルな正しい回答は「地面に落してわった」というものであったが,「地面にたたきつけて」
や,「外に出て力いっぱい持ちあげて」,「ふんぱって力を入れて」,「空に高く上げて」など,
内容を詳しくきき取って書いている回答も見られた(30%)。
「心にのこったのは,どんなところですか?」という感想を書く箇所では,「すみれかぼち
ゃという名前がおもしろかった」やrたくさんのかぼちゃの料理が出てきたところ」,r動
物たちがたくさん集まってきたところ」というように物語の内容そのものに関する感想の
他,物語全体を通しての登場人物への印象を「すみれちゃんはカもちだと思った」と記す
児童や,物語と自分を重ねて「世界に」つしかないかぼちゃをわたしも食べてみたいです」
と記す児童もいた。
(2)実践の結果からみる児童の聞1き取りメモにおけるつまずきと実践の問題点
全5回にわたって聞き取りメモの実践をおこなったが,全問正解に至らない児童のメモ
には表9のような共通点が見られた。
48
表9 児童の聞き取りメモのつまずきとその領域
領域
つまずきの内容
①何をメモしていいのかがわからず書いていない。
聞くこと
②メモしているが情報が不足しており解答に結びついていない。
聞くこと
③話のスピードに書き取りのスピードが間に合っていない。
書くこと
④言葉の正しい表記ができていない。
書くこと
⑤メモしているが,書き方が整理できずに解答に至っていない。
書くこと
表9からもわかるように,やはり聞き取りメモにおいては「聞くこと」と「書くこと」
の二つの領域においてつまずきが起きている。まず,「確かに聞き取ること」の手立てとし
ての聞き取りメモにおいて,何よりも大切なことは「何を聞き取るべきか」を理解し,聞
き取ることである。今回の実践では話の構造が単純で短いものであったため児童がメモす
る内容に迷って何も書けないということは少なかったが,話の内容が複雑で長いものにな
れば「①何をメモしていいのかがわからない」ということは児童にとって大きなつまずき
となり得る。また「②メモをしているが情報が不足しており解答に結びついていない」こ
とも,何を最低限聞き取りメモすべきかを理解していなかったがために起きたつまずきで
ある。このようなつまずきが起こった要因として,授業者が聞き取るべき大切なことをモ
デル提示しなかったことが挙げられる。低学年の児童であれば,まず聞き取るべき内容は
話の大体を聞き取ることであるが,大体を聞くためには,いっ,だれが,どこで,何をし
たということは落とさず聞きとれるように指導しなければならない。
また,r③話のスピードに書き取りのスピードが間に合っていない」というつまずきは,
低学年でこれまでに速く書くことに関して指導を受けていない児童にとっては当然のつま
ずきである。さらにr④言葉の正しい表記ができていない」というつまずきや,r⑤メモし
ているが,書き方が整理できずに解答に至っていない」というつまずきに関しては,文字
表記の指導や矢印で関係付けたり,大切な部分を囲んだりするメモの書き方の指導を十分
に行うことが必要であるということが明らかになった。③∼⑤の書くことに関するつまず
きは,授業者が聞き取りメモの指導以前に聴写の指導を取り入れ,速苦力をつけ,文字を
正しく書き取ることを行えば防ぐことができたと考えられる。
第2項 実践後のアンケート結果からみた実践の成果と問題点
全5回の実践を終えて,児童に聞き取りメモについてのアンケートを実施した。質問内
容と結果は表10の通りである。
まず,「①メモをするのは好きですか」と「②メモは,話を聞くときの役に立っていますか」
という2項目について検証する。「①メモをするのは好きですか」という質問に対して,
49
表10アンケートの質問内容と回答結果
回答結果
質間内容
①メモをするのは好き
ですか
②メモは、話を聞くと
きの役に立っていま
はい
i
「いえ
19名(68%)
9名(32%)
はい
i
「いえ
21名(75%)
7名(25%)
はやく書くこと
どこを書けはい
書いているときに
いか決めること
話が進むこと
7名(25%)
2名(7%)
19名(68%)
はい
いいえ
10名(36%)
18名(64%)
はやく書くこと
大切だと思うこ
話がよくわかるよ
とを決めること
うになったこと
12名(43%)
6名(21%)
すか
③メモはどんなことが
むずかしいですか
④お話を聞くことは得
意ですか
⑤メモの練習でどんな
ことができるよう1こ
なりましたか。
8名(29%)
該当なし
2名(7%)
「いいえ」と答えた児童9名のうち5名は「②メモは,話を聞くときの役に立っています
か」という質問に対しては「はい」と回答していた。またどちらの質問に対しても「はい」
と答えていた児童は15名に及んだ。このことより,本実践によって約7書1」の児童たちには
メモが話を聞くときに役に立つと感じさせることができたということができる。
次に「③メモはどんなことがむずかしいですか」という質問に対しては「書いていると
きに話が進むこと」と答えた児童がもっとも多く,19名であった。このことより,聞くこ
とと書くことの2つの行為を同時進行させることはやはり低学年の児童にとっては難しい
ことであったといえる。また,「①はやく書くこと」が難しいと答えた児童も7名おり,文
字を速く書くことへの指導も必要であることが明らかになった。
また「④お話を聞くことは得意ですか」という質問に対して,「はい」と答えた児童は
10名であった一方で,話を聞くことに苦手意識を感じ「いいえ」と答えた児童は18名と
6割に及んだ。話を聞くことに苦手意識を感じている18名のうち,「②メモは話を聞くと
きの役にたっていますか」という質問にrはい」と答えた児童は,11名で約6書1」であった。
このことより,聞き取りメモは何らかの形で児童にとっての聞くことの手立てになってい
ると考えられる。
さらに「⑤メモの練習でどんなことができるようになりましたか」という質問に対して
は「大切だと思うことを決めること」と答える児童もっとも多く12名であった。「大切だ
と思うことを決めること」は学習指導要領低学年の聞くことの目標である「大事なことを
落とさないように聞く」に関連させて設定した質問項目であり,本実践で聞き取りメモを
50
用いたねらいでもあったため,約4書1」の児童がこのような回答を示したことにより,聞き
取りメモは話を正確に聞くための手立てとなる可能性があるということがいえよう。また
「はやく書くこと」と答えた児童は8名に及んだ。速く文字を速く書けるようにすること
は実践のねらいとしては設定していなかったが,5回に及ぶ聞きながら書くメモの練習に
よって,速写力がついたと感じる児童がいたことからも,速く書く指導を意識的に取り入
れ,繰り返し行えば低学年の児童であっても聞きながらメモを取ることが可能になると考
えられる。
アンケート結果から明らかになった実践の成果と問題点は以下の通りである。
◎実践の成果
①聞き取りメモを用いたことにより,メモが聞くことの手立てとなることを感じさせ
ることができた点。
②繰り返し実践を行ったことにより,速写力がついた点。
③同じようなパターンの問題形式にしたことで,大切なことが何かを児童なりに決め
ることができるようになった点。
◎実践の問題点
①聞きながらメモを取る形式しか設定しなかったがために,児童は聞くことと書くご
とを同時進行しなければならず,第2学年の児童にとっては難しいものであった点。
②「大切だと思うこと」というように,「心を寄せて聞き混る」聞き方のような児童
なりに大切なことは決めることができるようにはなったが,「確かに聞き取る」聞き
方や「詳しく聞き分ける」聞き方によって客観的に聞き取る大切なことの内容として,
いつ,どこで,だれが,なにをしたということを的確に伝えていなかったがために,
児童が何を大切であると理解したかが,評価できない点。 。
第3項 本実践全体からみる実践の問題点と改善案
児童の聞き取りメモからみられたつまずきや実践後のアンケートの結果からみられる実
践の問題点を踏まえると,本実践では以下の6点の問題点が明らかになった。またその問
題点に対する改善案を第3章で挙げた聴写の指導とメモの指導の留意点の参照により提案
する。
①話題の設定
本実践では読み聞かせの内容を聞き取りメモの題材にしたため,文学的文章ばかりを
聞き取らせた。また,実践対象の児童と同等,または以下を対象とした絵本の読み聞か
せをおこなった。しかし,文学的文章ばかりでなく,説明的文章を取り入れることや,
実践対象の児童よりも対象年齢が高い文学的文章を取り入れるべきであったと考える。
なぜなら説明的文章は文学的文章と比較して,話の順序性や構成が明確であり,児童に
51
「確かに聞き取る」聞き方をより定着させることができると考えられるためである。ま
た,読み聞かせる本の対象年齢を上げることにより,話の内容が複雑になり,「確かに聞
き取る」手立てとしての聞き取りメモの必要性や利便性を感じさせることができよう。
②メモ用紙の構成
本実践では,A4サイズの用紙を4分の1に公害1」したサイズのものをメモ用紙とした。
またできるだけ自由にメモを取ることができるようにと考えて,メモ用紙は中黒点を打
つのみで構成した。しかし,第2学年の児童が各学習において使用しているノートはマ
ス目のあるものや,罫線のあるものであり,文字の大きさをそろえることやまっすぐに
書くことには慣れておらず,結果必要な情報をメモしていても,書き取ったメモが見に
くかったことから正しい情報を抜き出すことができなかった児童も見られた。よって,
メモ用紙の作成は各学年で使用しているノートを基準にするとよいであろう。また,聞
き取る話の内容に合わせる必要があるが登場人物と主な行動を書く欄や,いつ,誰が,
どうしたなどとあらかじめ書く内容や分量を指定したメモ用紙を構成することで,メモ
は短く書くことや,どのような要点を書けばよいのかを定着させることができると考え
られる。
③書くことの指導
本実践を行う上で,授業者には聴写の観点がなかったために,聞き取りメモの指導に
おいて,第3章第2項で挙げたようなメモ指導の準備としての聴写指導の重要性を踏ま
えることができなかった。このことにより,聞き取りメモのつまずきのうち「書くこと」
のつまずきとして,速写できなかったり正しく表記することができなかったりするとい
うことがおこった。よって,メモの指導の事前に,児童がどの程度の速さでどの程度正
確に文字を書くことができるのかを意識的に見ておき,その実態に合わせて聴写指導を
取り入れていくことが望ましいといえる。
④メモを取る回数とタイミング
本実践では,第2学年の児童を対象としていたにも関わらず,聞きながらメモを取る
ことを1回のみ実施したために,アンケート結果からも明らかになったように,児童の
多くがメモを取ることの難しさとして,「書いている間に話が進むこと」を挙げていた。
第3章で述べたように,聞きながら取るメモはメモに熟達したレベルである。従って,
メモの取り方を学ぶ学習ではもちろんのこと,実際にスピーチやインタビューを聞く際
のメモでも,聞いた後で取るメモと聞きながら取るメモを併用することによって,話の
内容をより正確に受け取り,そこから話の要旨を押さえることや様子を想像しながら聞
くことができるようになる。つまり,r確かに聞く」聞き方だけでなくr詳しく聞き分け
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る」聞き方も可能になると考えられる。
⑤メモの確認とモデルの提示
本実践は対象児に聞き取りメモの実践を行ったあと,授業者がそのメモを回収し,各
児童のメモの変化やつまずきを分析し,次時に全体的な良い点やつまずきに対するアド
バイスを述べるのみに終わっていた。このことから,児童は具体的に自分のメモのどこ
が良い点であったのか,またどのようなメモなら良かったのかを理解しにくかったと思
われる。よって第3章で挙げたように,実践後のメモは児童に返却し,児童が取った良
いメモ(本実践であれば,短い言葉で書いていることや矢印などを使って見やすい工夫
をしていること)をモデシレとして挙げることで,次時の成長へとつながるであろう。こ
れは,聞き取りメモに限らず,スピーチのためのメモであれば,スピーチした者のメモ
とその聞き手のメモを比較させて構成の理由を考えさせることや,また聴写の段階でも
原文と聴写したものを比較させることで,桑原(1983)のいうように,聞き取りの不確
実さやあいまいさを是正させ,表現の仕方への意識を鋭く具体的にさせることができる1。
表現の仕方への意識を持たせることは対自的メモである聞き取りメモだけでなく,安居
(2002)のいう対他的メモである手紙や記録,スピーチといった他者を意識して書くこ
とへの素地として子どもたちに十分育成しなければならない2。
⑥メモを使った活動
国語科の授業のうち始めの15分で本実践を実施し,聞き取りメモの学習は聞き取り
メモを活かした学習には至らなかった。児童の中には「メモを取らなくても,解答でき
るからメモは必要ない。」と発言する児童も見られた。このことは,聞き取りメモを活か
す実践が不十分であったがために児童に「メモの時間のためのメモだ。」という意識を持
たせてしまったことが原因の1つである。よって,第3章でも挙げたように,メモを取
るだけの学習で終わることなく,児童がメモを取ることによって役に立つことや,後の
学習につなげることができるような学習を設定する必要がある。
例えば,第3章第2項でも取り上げたが,北村の挙げる「連絡メモ3」は日々の連絡帳
を書く際に取り入れることができる。メモしなければ,児童自身が困ることは明らかで
ある。また聞き取ったメモに同じ意見ならO,違うなら×,疑問を持ったら?など簡単
な記号を加え,その後そのメモをもとに意見交流するという活動も授業の中に取り入れ
ることが可能である。このように,メモの学習をあらゆる学習場面に意識的に取り入れ
ていくことによって,子どもたちが自主的にメモを取ることへとっながっていくと考え
1桑原正夫『視写・聴写の新しい指導』明治図書,1983,p.57−58
2安居総子『「伝えあい学び合い」の時代へ』東洋館出版社,2002,p.68
3北村季夫『小学校 表現力を鍛える練習学習』東京書籍,1990,pp.96−98
53
られる。
以上のように,「確かに聞き取る」ことの手立てとする聞き取りメモの素地を子どもた
ちに育成する場合,メモを取ることにどのような目的を持たせるのか,そのためにはど
のような話を聞き取らせるのか,聞き取る話に適当なメモの形式は何かを意図して指導
する必要性があることが明らかになった。加えてメモの機能を,聞いて理解することと
書いて表現することとして捉え,メモの指導の前に正しく書くことができなければ正し
く聞き取ることはできないことから聴写がその重要な役割を果たすことも明らかになっ
た。さらに,正しく書き,正しく聞き取らせるためには取ったメモを教師と児童の双方
による確認が重要な意味をもつ。様々な形式のメモをあらゆる学習場面に取り入れてい
くことは,児童が受け身でなく,主体的な聞き手となることを助ける一つの手段となり
得る。
54
第5章総括と今後の課題
本研究では,小学校国語科「話すこと・聞くこと」領域の中でも,特に「聞くこと」に
着目した。「話すこと・聞くこと」と一領域に設定されているにも関わらず,その指導は「話
すこと」の指導に付けたされたように扱われていることも多い。これは,先行研究からも
明らかになったように,指導しなくてもある程度聞くことができていると捉えていたり,
聞くことがどのようなことなのかを教師が十分に理解していなかったりするがために起こ
ることであると考えられる。しかし,だからといって「聞くこと」の指導を態度面のみ行
い曖昧にしてしまっては,本当に子どもたちに「聞くこと」のカをつけることはできない。
そこで,本研究では「聞くこと」の中でも森久保安美(1997)の提唱する「確かに聞き
取る1」ことの手立てとして聞き取りメモの指導にとりわけ着目した。そして,子どもたち
に内容を正しく暇くこと」のカを効果的につけるための指導を構成するために,「聞くこ
と」とはどのような行為であるのか,メモにはどのような機能があるのかを分析し,そこ
から明らかになった聞き取りメモの指導上の留意点をもとに,稿者の実践の考察を行った。
まず「聞くこと」はどのような行為であるのか明らかにするために,倉澤栄吉(1988),
森久保安美(1997),大村はま(1985)の3者の提唱する聞き方から主にr聞くこと」に
は5つの聞き方があることが明らかになった。!点目は「聞く態度を整える」という,外
的にも内的にも聞くために態度を整えることである。2点目は「確かに聞き取る」という
様子や気持ちを想像して聞く聞き方で自分の考えや思いを加えず,客観的に正確に聞く意
識からその行為は成り立つ。3点目は「詳しく聞き分ける」という聞き方で話の構成や展
開に着目し,要旨をつかむように聞くことがこれに当たる。4点目は「心を寄せて聞き混
る」という話の内容と自分自身を近づけて夢中になって聞く聞き方である。「確かに聞き取
る」やr詳しく聞き分ける」聞き方が客観的に話を聞く聞き方であったことに比べ,r心を
寄せて聞き混る」聞き方は,聞き手が自分の経.験と結びつけて聞いたり,自分なりにおも
しろいところを感じながら聞いたりする,情的な聞き方である。5点目は「思いを加えて
豊かに聞く」聞き方である。この聞き方は,話し手の意図も自分の考えも踏まえて,主体
的に新たな考えを生み出すように聞く聞き方であり,聞き方の中で最も高度な聞き方であ
る。この5つの聞き方は,各学年の児童に合わせて,その学年の児童なりのそれぞれの聞
き方を青くまなければならない。そして,これら5つの聞き方ができるためには,聞き手
の対事意識,対他意識,対白意識が必要であることも明らかになった。「聞くこと」は聞き
方という行為の部分と聞く意識という意識の方向の2側面から捉えることで,その指導の
仕方と,そこ求める児童の姿は具体的になる。
次に,メモとはどのような行為であるのか,またその指導上の留意点は何なのかを先行
研究や先行実践をもとに探った。するとメモは,対自的メモ,対他的メモ,対事的メモの
1森久保安美『話しごとば教育の実際一国語教室に魅力を一』明治図書,1996,pp.17−
24
55
3つに大きく分類できることが明らかになった1。それぞれのメモの目的は違い,対自的メ
モは情報の受容や理解のため,対他的メモは情報の表現,発信のため,対事的メモは受容,
理解,表現,発信のためである。その中でも,本論文で扱う聞き取りメモは対白的メモに
属する。また,聞き取りメモを行為の面で見ると,「聞くこと」と「書くこと」がその行為
である。このことから,メモ以外の「聞くこと」と「書くこと」を関連させる行為として,
聴写に着目した。聴写もメモと同じように,その行為は聞いたことを書くことにあるが,
先行実践例から,その指導の重点は「書くこと」の指導に置くべきであることが明らかに
なった。聴写によって文字の表記を正しくしたり,速写力をつけたりすることによって「書
くこと」におけるメモの学習でのつまずきは軽減させることができると考えられる。
以上のように,聞き取りメモと聴写の先行実践を分析したことによって明らかになった
指導上の留意点は以下の通りである。
聴写指導の留意点
①話題の設定を工夫する。
②聞いたことを正しく書き取る基礎を作るために,児童の様子に合わせて文を読み上げ,
書き取る時間を保障する。
③書き込みできる用紙を作り,書き方のパターンを定着させる。
④聴写に慣れてきた際には,文を読む速度をあげ,文字を速書できるようにする。
⑤文字の正しい書き取りに留まらず,「」の使い方や段落,改行の仕方を定着させ,文のま
とまりや要旨を理解する手立てとする。
聞き取りメモにおける指導上の留意点
①何のためにメモをするのかという児童の目的意識を明確にする。
②聞きながら取るメモと聞いたあとで取るメモによって内容の受容と理解を深める。
③聞き取りメモを活かした活動を取り入れる。
以上が,先行実践の分析から明らかになった指導上の留意点である。これらの観点をも
とに稿者の行った実践での児童の聞き取りメモとアンケートを分析し,実践の成果3点と
問題点6点を考察し,問題点に対する改善案を提案した。
本研究において稿者の行った「確かに聞き取る」手立てとしての聞き取りメモの実践に
はその際,聴写を聞き取りメモの指導に取り入れるという観点がなかったがために,聴写
指導の留意点として挙げた③∼⑤の留意点を取り入れることができなかった。
その結果,本実践の「書くこと」の問題点としては,メモ用紙の構成と書くことの指導
1安居総子『r伝えあい学び合い」の時代へ』東洋館出版社,2003,p.68
56
についての指導,メモの確認とモデルの提示が不十分であったことの3点が挙げられる。
メモ用紙を各学年のノートの様式と似たものにしたり,書く範囲を指定したものにしたり
するなどの工夫があれば,児童が言葉をただ羅列することや,書き取っているにも関わら
ず,解答に結びつかないというっまずきは防ぐことができると考えられる。また,書くこ
との指導として聴写の繰り返しにより文字を正確に書くことや,速く書くことを意識的に
練習させていれば,書き取りが間に合わずに,話の内容を聞き逃すといったつまずきも軽
減することができたであろう。さらに,メモの確認とモデルの提示として,児童の取った
メモの中でよかったものを取り上げてモデルとして提示することで,どのようなメモが聞
き取りメモとしていいものなのかという評価を明らかにしておくことで,児童の聞き取り
メモの取り方が短時間の指導の中でも十分によい変化を見せたと考えられる。
さらに「聞くこと」の問題点としては,話題の設定とメモを取る回数とタイミングの2
点が挙げられる。読み聞かせを行うことで,児童に興味・関心を持たせることをねらいと
したが,聞き取りメモの実践としては,文学的文章だけではなく,説明的文章なども用い
ることで,第2学年のr聞くこと」の目標であるr大事なことを落とさないように1」聞く
という観点において,大事なこととは何なのかを児童が理解しやすかったと考える。また,
メモを取る回数を1回しか設定しなかったことと,聞きながら書くメモであったがために,一
低学年の児童にとっては非常に難しい取り組みとなってしまった。あらゆる生活場面にお
いて,いつも話が2回繰り返されるわけでは決してないが,聞いた後で取るメモと聞きな
がら取るメモの2種類を児童が学ぶことで,今後その目的に合わせてより正確にメモを取
るための工夫ができるであろう。
最後に児童の目的意識の問題点として,メモを使った活動がなかったことが挙げられる。
このことにより,「メモなんてなくても大丈夫。」と発言する児童が数名見られた。何のた
めのメモであるのかを児童に説くことも必要ではあろうが,そのことにも増して,メモを
使えば便利である,わかることが増えるというような実感を持たせる活動を取り入れるこ
とにより,児童はメモを様々な場面で使おうとすると考えられる。
以上,本実践の問題点としては6点を挙げた。しかし,その一方でアンケ]トから明ら
かになったように,「メモは話を聞くときの役に立つ」と実践したクラスの約7割の児童に
実感させることができたことと,メモの学習によって「大事なことを決めること」ができ
るようになったと感じている児童が約4割に及んだ。このことは聞き取りメモの実践が今
後の指導によっては,「確かに聞き取る」手立てになり得ることを示唆しているのではなか
ろうか。
今回,低学年における「聞くこと」の指導の中でも,「確かに聞き取る」ことの手立てと
しての聞き取りメモの指導方法ついて研究を進めてきた。本研究を通して,暇くこと」の
1文部科学省『学習指導要領解説 国語編』東洋館出版,2008,p.11
57
指導をどのようにおこなっていけばよいのか,また聞き取りメモの指導を効果的に行うた
めにはどのようなことに留意する必要があるのかということの一部を学ぶことができた。
しかし,これはごく一部に過ぎず,低学年での「聞くこと」の指導についてより深め,ま
た中学年や高学年での「聞くこと」の指導やメモの指導についても今後研究を進めていく
ことが課題である。
大村はまの言葉に「聞き手になっているとき,よく聞かないで,どこか違わないかな,
などと思って聞いているなどということは,なんていやな聞き方だろうと思います。そん
なことを忘れて,友たちのお話を心から聞くことがいいこことでしょう1」というものがあ
る。もちろん,これまでに述べてきたように,聞き方にも様々ある。しかし,どのような
聞き方にもまさって,心からその人のことを受け止めようとするそういった姿勢を忘れて
はならないことを,自分自身が意識し続けそして,これから出逢う子どもたちにも伝えて
いきたい。
1大村はま『大村はま国語教室2』筑摩書房,1991,p.27
58
引用1参考文献(姓の50音順)
青木幹勇『第三の書く』国土杜,1986
飯田弘己「取材メモを生かした作文指導の工夫」『実践国語教育』No.109,明治図書,1991
大村はま『国語教室 おりおりの話』共文杜,1985
大村はま『大村はま国語教室2』筑摩書房,1991
北村季夫『小学校 表現力を鍛える練習学習』東京書籍,1990
桑原正夫『視写・聴写の新しい指導』明治図書,1983
倉澤栄吉『倉澤栄吉国語教育全集10話しことばによる人間形成』角川書店,1989
倉澤栄吉『倉澤栄吉国語教育全集2国語教育の基本間題』角」l1書店,1989
倉澤栄吉『聞くことの学習指導』明治図書,1974
輿水実『国語科基本用語辞典』明治図書,1987
斎藤喜門『「ひとり学び」を育てる』明治図書,1989
新村出『広辞苑』岩波書店,2005
高橋俊三『聴くカを鍛える授業』明治図書,1998
野地潤家「学習力・生活力・創造力としての聞くことの技能の演練」『教育科学国語教育
No.161,明治図書,1972
森久保安美『聞くカを育て生かす国語教室』明治図書,1996
森久保安美『話しごとば教育の実際一国語教室に魅力を一』明治図書,1996
茂呂雄二『人はなぜ書くのか』東京大学出版会,1988
文部科学省『学習指導要領解説 国語編』東洋館出版,2008
文部省『理解の指導』東洋館出版社,1983
安居総子『「伝え合い学び合い」の時代へ』東洋館出版社,2002
59
謝辞
本研究成果報告書は,丹波市立和田小学校で行った実践をもとに作成している。約3カ
月間に及ぶ長期の実習の中で,和田小学校の先生方からは,児童を受け止める姿勢や,学
び続けることの大切さなど多くのことを学ばせていただいた。特に,実践の場を提供して
くださり,いつも前向きにご指導をいただいた村田恵理子先生には,子どもたちと向き合
いどんなことがあっても逃げ出さないことの大切さを教えていただいた。心からお礼を申
し上げたい。
また,教職大学院研究・連携推進センターの一井教夫先生と福西和夫先生には,実習校
との連携にご尽力いただいたことと共に,数々の励ましのお言葉に支えていただいたこと
をお礼申し上げたい。
さらに,修学指導教員である吉川芳則教授からは,実践の試案の段階からこの研究報告
書の作成に至るまで多くのご指導をいただいた。自分の思いや考えのみで研究を進めるこ
との危うさをご指摘していただき,同時に実践や理論に基づいて研究を進めることが重要
であることを教えてくださった。吉川教授のご指導のおかげで,古い実践であるからとい
って気に留めることのなかった,これまでのあらゆる実践のすばらしさと,当時の実践家
たちの教育に対する情熱に多くの刺激を受けることができた。
これからも,この3年間の学びと経験を活かして,多くの人とつながりながら,常に前
向きかつ謙虚に学ぶ存在であり続けたい。
2012年3月
永井 未希
60
巻末資料集
資料1 低学年国語科教科書の平成16年版と平成20年版の比較(第1章)
表1 東京書籍『新しい国語』(低学年)における「話すこと・聞くこと」の取り扱い
教科書上
学年
出版年
平成16年版
教科書下
平成22年版
大単元
小単元
大単元
小単元
第1
10
17※
11
18
w年
O
i4−2)
O
i3−1)
第2
8
7
40
15
w年
i2−O)
i1−1)
i3−1)
平成16年版
大単元
7
平成22年版
小単元
大単元
小単元
50
40
12
i1−0)
6
i3−1)
50
i1−0)
7
7
i1−1)
i1−0)
表2 光村図書『こくご』(低学年)における「話すこと・聞くこと」の取り扱い
教科書上
教科書下
平成16年版
平成22年版
単元
単元
大単元
小単元
第1
23
29
9
6
w年
i2−1)
i9−2)
i1−0)
i1−1)
出版年
第2
6(1−0)
w年
平成16年版
平成22年版
大単元
10
6
6
8
6
6
i1−1)
i1−1)
i1−1)
i1−O)
i1−0)
小単元
9
i1−0)
i1−0)
70
11
i2−0)
表3 教育出版『ひろがることば』(低学年)における「話すこと一聞くこと」の取り扱い
教科書上
教科書下
平成16年版
平成22年版
単元
単元
大単元
小単元
第1
15
20
6
5
w年
i1−0)
i3−O)
i1−0)
i1−0)
出版年
第2
5
w年
i1−1)
20
7
i1−1)
7o
平成16年版
50
3
i1−0)
平成22年版
大単元
小単元
11
10
i1−1)
O
10
80
i1−1)
※表の全角数字は合計単元数,カッコ内前の数字は「話すこと・聞くこと」の単元数,後の数字は「聞くこ
と」に重点の置かれている単元数
資料2
全5回の実践聞き取りメモ(第4章)
第1回目の聞き取りメモ
第3回目の聞き取りメモ
第2回目の聞き取りメモ
第4回目の聞き取りメモ
第5回目の聞き取りメモ
左側のメモは第1回目の左側のメモを取った児童と同じである。二の児童なりに,大
切なことをメモに聞き取って書けるようになっている。
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