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オンライン手書きデータを用いた学習者のつまずき検出

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オンライン手書きデータを用いた学習者のつまずき検出
DEIM Forum 2012 A8-4
オンライン手書きデータを用いた学習者のつまずき検出
浅井洋樹†野澤明里‡苑田翔吾‡山名早人§¶
†早稲田大学大学院基幹理工学研究科〒169-8555 東京都新宿区大久保 3-4-1
‡早稲田大学基幹理工学部〒169-8555 東京都新宿区大久保 3-4-1
§早稲田大学理工学術院〒169-8555 東京都新宿区大久保 3-4-1
¶国立情報学研究所〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋 2-1-2
E-mail: {asai, a_nozawa, s_sonoda, yamana}@yama.info.waseda.ac.jp
あらまし学習システムにおいて,個々の学習者のつまずき検出は,学習者の苦手とする分野を把握する上で重要
である.学習者の不正解や解答時間を用いた従来の手法は,数学などの解答過程を記述する問題においては,詳細
なつまずき箇所を検出することが困難である.一方,顔の表情の検出や生体信号を利用した手法では,学習者の負
担増加や検出精度についての課題が残る.そこで本研究では,解答時のオンライン手書きデータを利用することに
より,つまずき箇所を推定する手法を検討する.学習者の筆圧や筆記速度,筆記間隔といったオンライン手書きデ
ータを解析することにより,学習者のつまずきと手書きデータの関係性について明らかにする.
キーワード HCI,ユーザインタフェース,e-ラーニング,手書き
1.
はじめに
把握する手段もあるが,自己申告では必ずしも学習者
近年,電子教科書や電子黒板,電子ペンといった教
の つ ま ず い た 点 を 検 出 で き な い と の 報 告 [5]も あ る .こ
材のデジタル化を実現するデバイスが登場し,教育の
のように,集団授業や遠隔教育において,学習者のつ
電子化に関する取り組みが盛んに行われるようになっ
まずいた点の把握が困難となる問題がある.
た .文 部 科 学 省 が 2011 年 4 月 に 発 表 し た「 教 育 の 情 報
以上の問題を解決するため,教育現場の電子化を実
化 ビ ジ ョ ン 」[1]に お い て も ,2020 年 度 ま で の ビ ジ ョ ン
現するデバイスから取得した情報を利用して, 学習者
として,教育現場における学習者一人に一台の情報端
の成績情報だけでなく,つまずきに代表される学習者
末 環 境 の 実 現 や ,21 世 紀 に ふ さ わ し い 学 び の 環 境 と し
の心理状態の検出を試みる研究が行われている
てデジタルノートの利用などが挙げられ,今後ますま
[5][7][8][9][10] . こ れ ら の 学 習 者 の 心 理 状 態 を 推 定 す
す電子教科書や手書きのデジタル化など ,教育の電子
る研究において,ビデオカメラや生体信号測定装置と
化が進むものと考えられる.
い っ た 付 加 的 な デ バ イ ス を 利 用 す る 研 究 [7][8] は 装 置
教育の現場において学習者個々の心理状態や,学習
を別途用意する必要があることや,学習者の負 担が増
行動パターンを指導者が把握することは,学習者に応
加するといった問題点がある.また,操作時間や学習
じた適切な指導をする上で重要である.これまでに学
者 の 反 応 を 利 用 す る 研 究 [5][9][10] は マ ウ ス と キ ー ボ
習者の学習スタイルや学習順序,反応パターンを利用
ー ド を 用 い た e-ラ ー ニ ン グ シ ス テ ム を 前 提 と し て い る
して,学習者ごとに最適な教材の 選択や支援を行う研
ため,紙とペンを用いた手書きが主流の教育現場にお
究 が 行 わ れ て き た [2][3][4] . 特 に , 指 導 者 が 学 習 者 の
いては対応することが困難となる.
つまずいた点を把握できれば,学習者が行き詰まるこ
そこで本研究では手書き入力可能なデバイスを利
とがないよう支援を行うことが可能となる.電子化が
用して得られる,筆記時系列情報を含むオンラインな
行われていない従来の教育現場では,学習者が問題演
手書きデータを利用して,学習者のつまずきを検出す
習を行なっている際に指導者が学習者の様子を見て回
る手法を検討する.オンライン手書きデータより筆記
ることや,採点結果をもとに学習者のつまずきを 発見
者の状況推定を行う研究として,オンライン手書きデ
し,対応が行われている.
ータのみから筆記者の注意力の負担である認知的負荷
しかし,一人の指導者に対する学習者の人数が増加
を 推 定 可 能 で あ る こ と を 示 し た 近 年 の 研 究 成 果 [6] が
するにつれて,学習者全てを見てまわる負担は増加す
存在する.本研究においては学習者のつまずきについ
るため,人数が多い授業においては個々の苦手分野を
てもオンライン手書きデータから推定可能であるかど
全て把握することが困難となる .さらに通信添削や,
うかについて,検討を行う.
近 年 普 及 し 始 め て い る e-ラ ー ニ ン グ な ど の 遠 隔 教 育 に
2.
おいては,指導者が学習者の様子を把握することはよ
2.1.
り困難となる.学習者の自己申告によってつまずきを
関連研究
学習者のつまずき検出に関する研究
本節では学習者のつまずき検出に関連する研究に
ついて述べる.
まずきの検出を行った.学習者がつまずいた問題は所
黒 川 ら [7],中 村 和 晃 ら [8]は 顔 画 像 や 脈 拍 な ど の 人 間
要時間が長くなることから,ベイズ予測分布を用いた
の生体情報を取得する装置を付加し,学習者の心理状
異常値検知モデルを構築し,所要時間の異質性を検出
態 を 推 定 す る 研 究 を 行 な っ た .黒 川 ら [7]は 家 庭 用 ビ デ
することにより,学習者の所要時間が異常に長いまた
オカメラと生体信号測定装置を利用して,学習者の心
は,短い問題を検出する手法を提案した.学習者の学
理状態を以下の 4 種類の指標で推定する手法を提案し
習終了後における自己判定との一致率を比較する評価
た.
実験において,所要時間が異常に長い,異常に短い,

第 1 心理状態対:簡単-難しい
異 常 な し の そ れ ぞ れ に 対 し て 80%以 上 の 一 致 率 検 出 可

第 2 心理状態対:面白い-つまらない
能であることが示された.

第 3 心理状態対:理解できた-理解できない
これらの関連研究は顔画像や生体信号,学習者への

第 4 心理状態対:集中している-飽きている
問いかけを利用したものや,マウスとキーボードを利
利用した特徴量はビデオカメラから得られる顔画
用することが前提のものであり,つまずきの検出にオ
像より検出した顔の各パーツの相対座標の変化と生体
ンライン手書きデータを用いる点が本研究とは異なる.
信号測定装置から得られる脈拍数や呼吸数,皮膚温度
2.2.
である.これらの特徴量を元にテンプレートマッチン
オンライン手書きデータと心理状態に関する研
究
グ法とマハラノビス距離を用いたアルゴリズムにより,
Yu ら 0 は オ ン ラ イ ン 手 書 き デ ー タ か ら 得 ら れ る 特 徴
上 記 の 4 種 類 の 心 理 対 、つ ま り 8 種 類 の 心 理 状 態 を 71%
量 の み を 利 用 し て , 筆 記 者 の 認 知 的 負 荷 (Cognitive
の一致率で推定することに成功した.一方中村和晃ら
Load)が 推 定 可 能 で あ る こ と を 示 し た .認 知 的 負 荷 と は
[8]は ス テ レ オ カ メ ラ を 用 い て ,学 習 者 が 感 じ た 問 題 の
人間の注意力の負担の大きさのことであり,多くの注
難 易 度 (主 観 的 難 易 度 )を 推 定 す る 手 法 を 提 案 し た . ス
意 力 を 要 す る 作 業 ほ ど 認 知 的 負 荷 は 大 き く な る .Yu ら
テレオカメラから得られる学習者の表情や顔の傾き,
は被験者に指定した単語を利用して文章を作る設問を
頭部姿勢の特徴量を抽出し,サポートベクターマシン
与え,解答時のオンライン手書きデータを収集した.
(SVM)を 用 い て 学 習 者 ご と に 適 応 し た 主 観 難 易 度 の 高
指定する単語数を増減させることにより大きさの異な
/低 の 推 定 を 行 っ た .評 価 実 験 の 結 果 ,75% 程 度 の 精 度
る認知負荷を発生させて解析を行った結果, オンライ
で主観的難易度の高低の 2 値を推定可能なことが示さ
ン手書きデータから得られる特徴量において, 筆圧の
れた.
最高値と,筆記速度の最小値が認知的負荷と関連があ
ま た 藤 田 ら [9]は Learning Management System(LMS)
ることを示した.
において,所要時間や成績だけでなく,ビデオ教材の
本研究ではこれらの特徴量と共に,オンライン手書
タイムライン上で学習者に対する問いかけを挟み,そ
きデータから学習者のつまずき検出の可能性を検討す
の応答より学習者の心理状態を把握し,行き詰まり の
る.
状態を指導者にリアルタイムで通知するシステムを作
3.
学習者のつまずきに関する調査
成した.作成したシステムでは問いかけに対する応答
学習者のつまずきとオンライン手書きデータの関
速度や解答の正誤,所要時間,テストの得点の閾値を
連性について調査を行うため,学習時のオンライン手
設けて,学習者のつまずき状況を 3 段階に分けて指導
書きデータを収集するシステムを作成し,被験者に問
者に通知を行う.
題演習をシステム上で解答してもらう予備実験を行な
中 村 善 宏 ら [5]や 植 野 [10]は 学 習 者 の 学 習 時 間 に 関 す
るデータを利用してつまずきの検出を行った.中村 善
った.
3.1.
つまずきの定義
宏 ら [5] は コ ン ピ ュ ー タ 上 で 実 施 す る 学 習 支 援 で あ る
本研究は,オンライン手書きデータから学習者のつ
Computer Assisted Instruction (CAI) に お い て ,学 習 者 が
ま ず い た 箇 所 の 検 出 を 行 い ,指 導 者 や LMS に 対 し て 支
コンピュータを操作する時間間隔のデータを利用して
援の判断材料となるような情報を提供することが目的
学習者の行き詰まりを検知する手法を提案した. 学習
である.そこで,学習者が順調に解答を進めているか
者 が CAI の 学 習 支 援 機 能 を 用 い て も こ れ 以 上 学 習 を 進
どうか,さらに解答が進まない状態において は,試行
められない状態を行き詰まり状態と定義し,学習者が
錯誤を行いながら解答を続けようとしているか,また
行き詰まり状態に陥る前に操作時間間隔の移動分散が
は試行錯誤を行わず手が止まっている 状態にあるのか
大きくなることに着目して,移動分散が一定値を上回
どうかという 3 つの状態を検出することを目標とする.
った際に行き詰まりと判定を行う手法を提案した .一
以上を踏まえ,学習者の解答状態の分類として表 1 の
方 , 植 野 [10]は e ラ ー ニ ン グ シ ス テ ム に お い て , 学 習
ように定義する.表 1 の定義にある「答案の記述の進
者が問題を解答するのに要した所要時間を利用してつ
行」とは,最終的に完成した答案に記述されている部
表 1 学習者の状態定義
状態名
定義
手を動かしながら試行錯誤
つまずき状態(活性)
を 行 な っ て い る が ,答 案 の 記
述の進行が確認できない.
手が動かず考え込んでいる
つ ま ず き 状 態 ( 非 活 性 ) 状 態 で あ り ,答 案 の 記 述 の 進
行が確認できない.
上記 2 つのつまずき状態に該
当 し な い 状 態 .手 が 動 い て お
非つまずき状態
り ,か つ 答 案 の 記 述 の 進 行 が
確認できる.
図 2 オンライン手書きデータ収集の様子
分 を 記 述 し て い る か ど う か を 示 す も の で あ る .つ ま り ,

操 作 時 間 ( sec)
答案の記述の進行が確認できない 状態とは,最終的な

各時間帯におけるペンの利用状態
答案では消し去っている部分を記述している状態を指
す.
本研究では表 1 に示した 3 状態の検出を,オンライ
ン手書きデータのみを用いて行うことを目標とする.
3.2.
(筆 記 状 態 , 未 筆 記 状 態 , 消 し ゴ ム 状 態 )
また作成したオンライン手書きデータ収集システ
オンライン手書きデータ収集システム
ムのスクリーンショットを図 1 に示す.
3.3.
学習時の手書きデータ収集
3.2 節 で 述 べ た 収 集 シ ス テ ム を 用 い て , 学 習 時 の オ
予備実験として学習時のオンライン手書きデータ
ンライン手書きデータとつまずきに関する情報を収集
を収集するため,オンライン手書きデータの収集シス
する実験を実施した.被験者は著者の所属する情報工
テ ム を 作 成 し た . こ の シ ス テ ム は C#で 開 発 を 行 い ,
学を専攻とする研究室の学生 6 名である.被験者には
Windows 上 で 動 作 す る も の で あ る . 入 力 端 末 と し て ワ
早稲田大学理工系学部の入試問題の中から数学の問題
コ ム 社 の 液 晶 ペ ン タ ブ レ ッ ト Cintiq 12WX を 用 い た .
を一問与え,オンライン手書きデータ収集アプリケー
作成したオンライン手書きデータ収集システムから取
ションが起動しているペンタブレット上に,解答過程
得できる情報を以下に示す.
も含め,解答を記入するようなタスクを与えた .アプ

筆 記 デ ー タ ( 約 1180×790 pixel)
リケーション上にはつまずき開始ボタンとつまずき終

筆 圧 ( 1024 step)
了ボタンが用意され,被験者がつまずき始めた,また

筆 記 速 度 ( pixel/sec)
はつまずきから抜けだしたと感じた際には,各種ボタ
ンを押すように指示を与えた.また,解答中における
被験者の様子の観察記録や解答後のデータを元にした
被 験 者 に 対 す る イ ン タ ビ ュ ー も あ わ せ て 行 な い , 3.1
節で述べたつまずきの定義に従って,どの状態にあっ
たかの記録を行なった.実験中の様子を図 2 に示す.
3.4.
収集データに関する考察
実験によって収集したデータをもとにオンライン
手書きデータとつまずきに関する考察を行う.まず 被
験者によるつまずきの自己申告と,表 1 での定義に従
った観測結果の比較を行う.大きなつまずきが発生し
た被験者のうちサンプルとして一人の自己申告のつま
ずき時間帯と,観測結果のつまずき時間帯を 図 3 に示
図 1 オンライン手書きデータ収集システム
図 3 観測と自己申告によるつまずき時間帯の
比較
図 4 各経過時間におけるストロークごとの筆圧と筆記速度
図 5 各 経 過 時 間 に お け る 筆 圧 最 大 値 ( 区 間 : 10 秒 )
す .中 村 ら の 研 究 [5]で 報 告 さ れ て い る の と 同 様 に ,つ
き状態(活性)やつまずき状態(非活性)にある学習
まずきの観測結果と自己申告は 必ずしも一致しない結
者は認知的負荷が大きいとの仮説を立てた.
果となった.被験者の報告では,問題に集中してつま
しかし,図 4 の状態ごとの筆圧と筆記速度を参照し
ずき開始,終了ボタンを押し忘れたというものや,押
ても,各つまずき状態における差異は確認できない.
す基準がわかりにくく,結局押せなかった ,または過
ま た ,Yu ら の 研 究 に て 認 知 負 荷 ご と に 差 異 が 大 き く 現
剰に押す結果となったといった報告があった.この結
れ る と 報 告 さ れ て い る 筆 圧 の 最 高 値 に つ い て ,10 秒 ご
果より,解答中につまずきの自己申告を行うシステム
と に 算 出 し た グ ラ フ を 図 5 に 示 す .10 秒 ご と の 最 高 筆
では,支援が必要であるかどうかの正確性に欠けるだ
圧と学習者の各状態間についても,大きな差異は確認
けでなく,学習者に余計な負担がかかるものと考えら
で き な か っ た .こ の よ う な 結 果 と な っ た 理 由 と し て は ,
れる.そこで本研究では解答終了後に記録データと観
本稿で定義したつまずきと認知的負荷の関連性が低い,
測結果を照らし合わせながら得た結果を正解として採
または本研究環境においては,筆圧の最高値と認知的
用する.
負荷の関連性は現れないなどが考えられる.よって,
次に筆圧や筆記速度とつまずきの関連性について
考察を行う.最後まで解答が進まず,途中で実験を終
了した,つまり解答の途中で行き詰まり状態に陥った
被験者 2 名のうち,1 名の各経過時間における筆圧と
筆記速度を表すグラフを一例として図 4 に示す.関連
研 究 で も 述 べ た よ う に ,Yu ら の 研 究 0 に よ れ ば ,筆 記
者の認知的負荷の変化は筆圧と筆記速度の変化と関連
性がある.そこで非つまずき状態と比較して,つまず
表 2 各つまずき状態における
学習者の手書き行動
状態名
観測された手書き行動
Writing Stroke と Air Stroke
非つまずき状態
が交互に発生する
Writing Stroke, Air Stroke,
つまずき状態(活性)
Erasing Stroke が 順 に 発 生 す
る
つ ま ず き 状 態 ( 非 活 性 ) 大 半 を Air Stroke が 占 め る
図 6 各 経 過 時 間 に お け る 筆 記 モ ー ド の 割 合 ( Window Size = 10)
本研究の目標とするつまずきの検出には不適であると
4.
判断し,これらの特徴量はつまずきの検出に利用しな
4.1.
いこととした.
つまずき検出手法の検討
各時間帯におけるつまずき状態の推定
本節では予備実験の結果をもとに,つまずきを検出
一方,被験者の観察結果と収集システムによって得
する手法の検討を行う.まず,つまずき検出の流れを
た デ ー タ を 照 ら し 合 わ せ た 結 果 , 3.1 節 で 定 義 し た 各
図 7 に 示 す . 入 力 す る デ ー タ は 3.2 節 で 作 成 し た 収 集
状態時には,手書きにおいて表 2 のような手書き行動
システムから得られたオンライン手書きデータ である.
の 変 化 が 確 認 で き た .な お ,Writing Stroke は ペ ン が タ
また出力は各時間帯の学習者のつまずき状態である.
ブレットに接地している,つまり書き込みを行ってい
提案手法の流れについて説明する. まず初めに記録
る 状 態 , Air Stroke は ペ ン が タ ブ レ ッ ト に 接 地 し て い
されたオンライン手書きデータに対して,任意の時間
な い , つ ま り 書 き 込 み を 行 っ て い な い 状 態 , Erasing
で区切る.区切る区間をウィンドウと 定義し,区間の
Stroke は 消 し ゴ ム を 利 用 し て い る 状 態 の ス ト ロ ー ク を
長 さ を WindowSize と 呼 ぶ こ と に す る . 次 に 各 ウ ィ ン
指す.
ド ウ に お け る 各 筆 記 モ ー ド( Air Stroke, Writing Stroke,
予備実験において大きなつまずきが発生した被験
Erasing Stroke) が 占 め た 時 間 の 割 合 を そ れ ぞ れ 算 出 す
者 の 10 秒 ご と の 各 筆 記 モ ー ド の 割 合 を 図 6 に 示 す .こ
る.算出した筆記モードの占有率を特徴量として, 全
の筆記モードの変化パターンの検出が可能となれば,
てのウィンドウに対して学習者のつまずき状態の推定
オンライン手書きデータよりつまずきの検出が可能で
を行う.つまずき状態の推定には表 2 の結果をもとに
あると考えられる.次節以降では,表 2 における手書
構築した決定木を用いる.構築したウィンドウごとの
きの行動パターンをオンライン 手書きデータより検出
つまずき状態の判定を行う決定木を 図 8 に示す.各ウ
し,つまずきを検出する手法について検討を行う.
ィンドウの学習者のつまずき状態を判定した結果,そ
れぞれの時間帯ごとのつまずき状態を得られる.
以上がつまずき状態を推定するアルゴリズムであ
図 7 提案手法の手順
図 8 つまずき状態の判定を行う決定木
り,本手法においては,以下の 3 つのパラメータが必
たウィンドウの一つ前のウィンドウ,つまりつまずき
要となる.
状態(非活性)が発生する直前に記述していた箇所に

WindowSize (sec): ウ ィ ン ド ウ ( 区 画 ) の サ イ
ついても着色を行う.着色する色 は赤色とした.また
ズ
それぞれの着色はつまずきの重度,つまりつまずいて

A-Rate (%): AirStroke 占 有 割 合 の 閾 値
いる時間の長さに応じて,色の濃さが変化するように

E-Rate (%): ErasingStroke 占 有 割 合 の 閾 値
着色を行なった.
予 備 実 験 の 結 果 を も と に , WindowSize を 20 秒 ,
A-Rate を 98,E-Rate を 3 と そ れ ぞ れ 暫 定 的 に 設 定 し た .
4.2.
つまずき箇所の可視化
以上の手法によって可視化を行なった出力結果の
一例を図 9 に示す.
提案つまずき検出手法の評価
5.
4.1 節 で 提 案 し た 手 法 に よ っ て 検 出 し た 時 間 帯 ご と
本節では 4 節で提案したつまずき検出手法に対して
のつまずき状態の情報のままでは ,指導者にとってど
評価を行い,パラメータの値の設定に関する検討や,
この解答箇所でつまずいたかを把握するのは困難であ
有効性に関する考察を行う.
る.そこでこのつまずき時間帯情報を元に,つまずき
5.1.
評価用解答データの収集
が発生した箇所の可視化を元の筆記データ上に行う.
まず初めに,評価を行うための解答データの収集を
まず,つまずき状態(活性)の可視化について説明
行 っ た . デ ー タ の 収 集 環 境 は 3.3 節 で 利 用 し た 環 境 を
する.つまずき状態(活性)と判定されたウィンドウ
用 い た .た だ し オ ン ラ イ ン 手 書 き デ ー タ の 収 集 に 加 え ,
の 時 間 帯 で 発 生 し た Writing Stroke と Erasing Stroke の
解答終了後においても容易に書き込み プロセスを再現
通過座標集合を,オンライン手書きデータより取得す
することが可能となるよう,書き込み時の画面キャプ
る .取 得 し た 各 通 過 座 標 に 対 し て .周 辺 25 ピ ク セ ル を
チャ動画も併せて記録を行なった.解答データを記入
緑色に着色する.次につまずき状態(非活性)の可視
した被験者は情報工学を専攻とする理系大学院生5名
化について説明する.つまずき状態(活性)の可視化
(男性4名,女性1名)である.被験者に対して大学
と同様に,つまずき状態(非活性)と判定されたウィ
入試レベルの数学の問題を最大2問与え,解答するタ
ン ド ウ の 時 間 帯 で 発 生 し た Writing Stroke と Erasing
スクを与えた.本データ収集では最大解答時間を20
Stroke の 通 過 座 標 集 合 を 取 得 す る . た だ し つ ま ず き 状
分に設定し,つまずきの自己申告ボタンによる記録は
態 ( 非 活 性 ) と 判 定 さ れ る ウ ィ ン ド ウ に は Writing
行わないものとした.実験中はオンライン手書きデー
Stroke と Erasing Stroke が ほ と ん ど 含 ま れ な い た め ,つ
タと画面キャプチャの記録の他に,被験者のつまずき
まずいた箇所を適切に着色できない可能性がある.そ
の様子を観察することにより記録し,実験後の被験者
こで,つまずき状態(非活性)については,判定され
インタビューと画面キャプチャの記録を併せてつまず
き箇所,時間帯の決定を表 1 の定義に従って行った.
さらに被験者は解答中に手が止ま り,行き詰まった場
合は口頭で申告を行い,インターネット上で解答方法
を調べることを許可し,この行き詰まりの申告または
最終的に解けない状態に陥った場合は非活性つまずき
状態として記録を行った.
5.2.
つまずき検出性能の評価
5.1 節 で 収 集 し た 解 答 デ ー タ に 対 し て , 提 案 手 法 に
よって検出したつまずきと比較を行うことによって評
価を実施する.提案手法におけるパラメータ
WindowSize の 値 を 10~ 50 に 変 化 さ せ た 際 の , つ ま ず
き 検 出 精 度 と 再 現 率 を 算 出 し た .グ ラ フ を 図 10 に 示 す .
今回のような比較的解答時間の長い問題は,ウィンド
ウサイズが大きい方が,全体的に検出性能が向上する
傾向にあることがわかった.個々の検出精度・再現率
においてはつまずき(活性)の精度やつまずき(非活
性)の再現率は,適切にウィンドウサイズを設定する
図 9 検出したつまずき箇所の可視化結果例
赤色:つまずき状態(非活性)
緑色:つまずき状態(活性)
こ と に よ り , 80% を 超 え る 精 度 ・ 再 現 率 で 検 出 可 能 で
あることが示された.
また,つまずき状態(活性)の再現率やつまずき状
図 10 各 ウ ィ ン ド ウ サ イ ズ に お け る つ ま ず き
検出精度と再現率
態 ( 非 活 性 )の 精 度 が 最 大 で も 20~ 30%と 値 が 低 く な
っ た 要 因 と し て は , A-Rate や E-Rate と い っ た
WindowSize 以 外 の パ ラ メ ー タ 設 定 に よ る も の と 考 え
られる.これらのパラメータを調整し,精度と再現率
のバランスについて実システムに有効なパラメータ設
定について検討する必要があると考えられる .
6.
まとめ
本研究ではオンライン手書きデータを用いて,学習
者のつまずきを検出する手法について検討を行った.
手書きデータとつまずきの関連性の調査により, 数学
の問題演習時において時系列上のペンの利用状態(筆
記中・未筆記・消しゴム利用)と学習者のつまずきに
関連性があることを示し,検出する手法を提案するこ
とにより,オンライン手書きデータよりつまずきを検
出可能であることを示した.今後の課題としては,他
の科目など様々な教育場面における本研究の有用性に
関して調査することが挙げられる.また 集団教育を想
定したリアルタイムなつまずき検出手法の検討や, 顔
画像データとの併用によるより詳細な学習者の心理状
態の検出についても今後研究を進めていきたい .
参
考
文
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