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「二次受傷」を考慮して - 立命館大学 研究者情報データベース

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「二次受傷」を考慮して - 立命館大学 研究者情報データベース
立命館大学研究部
2014 年 4 月 20 日
2013 年度採択 研究推進プログラム(基盤研究)研究成果報告書
採択者
(研究代表者)
研究課題
所属機関・職名:応用人間科学研究科・教授
氏名:村本 邦子
平和教育施設を使った戦後第三世代の歴史教育に関する研究~「二次受傷」を考慮して
Ⅰ.研究計画の概要
研究計画について、概要を記入してください。
研究代表者らは、日中米の研究者と共同し、2007 年から、米国で開発されたプログラム“Healing the Wounds of
History”
(HWH:
「歴史の傷を癒す」
)を東アジアの歴史的・文化的条件に合わせた形で応用した体験型平和教育
プログラムの開発に取り組んできたが、このプログラムは、それに積極的に参加しようとする若者にとっては有効
であるが、多くの若者にとってその動機付けは決して高くないこと、このプログラムを実施するファシリテーター
は臨床心理の専門的トレーニングを必要とし、広く平和教育として普及させていくには限界があるという課題が見
えてきた。他方で、昨今、歴史・平和教育が、残忍な戦争加害の事実や写真などと直面することで、子どもたちの
心に傷を与えているのではないかという指摘がなされ、平和教育への批判を生んでいる事実もある。臨床心理学的
観点から言えば、このように間接的経験がトラウマとなることを「二次受傷」と呼び、感覚麻痺や否認といった心
理的防衛メカニズムが働いて、そのテーマを避けるようになるということも想定される。そこで、HWH の手法を
応用しながら、
「二次受傷」を避け、日本の戦後第三世代が、知的レベルだけでなく、感情・心理的レベルにおいて
も重い歴史と向き合うことを支えられる安全な歴史・平和教育の方法について研究することとした。
本研究では、戦争加害・被害の歴史教育に関わる教師や平和教育施設の職員やボランティアたちが、体験的・イ
ンターアクティブな要素を取り入れた教育を提供できるような研修プログラムの可能性を探るため、①臨床心理学
的視点から歴史教育や平和教育施設における二次受傷についてのインタビュー調査を行い、現状と課題を明らかに
する ②教師や平和施設職員、ボランティアを対象とした体験型教育のトレーニングを試行し、フィードバックを
受ける ③アジアの様々な平和教育施設を訪れる日本の若者にこれらの手法を使った歴史平和教育を試行し、その
成果を検証するという計画を立てた。
Ⅱ.研究成果の概要
研究成果について、概要を記入してください。
立命館大学国際平和ミュージアムの協力を得て、①立命館附属校平和教育研究会を通じて、歴史・平和教育の現
状、とくに「二次受傷」が現場でどのように問題になっているのか/いないのかを探るため、2013 年 9~10 月、附
属校の生徒および教師たちへのアンケートを実施した ②2013 年 9 月 14 日、立命館大学国際平和ミュージアムに
て、歴史・平和教育従事者を対象とした HWH ワークショップ「こころとからだで考える歴史:歴史教育従事者を
対象とした体験型歴史平和教育ワークショップ」を試行するとともに、前後にアンケートを実施した。これらによ
って明らかになったことは、①教師たちの経験から、これまでの歴史・平和教育において「二次受傷」が想定され
る事例のあることが示唆された ②「二次受傷」が想定される事例は少数であり、生徒たちはミュージアムでの歴
史・平和教育を肯定的体験として捉えていた ③歴史・平和教育従事者たちの中には、
「二次受傷」への対処につい
て不安や悩みを抱えている者が少なからずいた ④体験的心理学の知見を接合することで歴史・平和教育を改善さ
せる可能性がある ⑤歴史・平和教育従事者たちのメンタルヘルスについても考慮する必要があるという 5 点にま
とめらる。これらの結果は、
「歴史・平和教育における『二次受傷』をどう考えるか~立命館大学国際平和ミュージ
アムにおける平和教育の現状と可能性」(村本邦子・芳賀淳子、『立命館平和教育』15 巻、59-68、2014)として
報告済みである。合わせて、2014 年 9 月 17 日、中国・南京にて、HWH の手法を用いた南京虐殺記念館の見学を
行った。これについては、インクルーシブ社会研究『日中の戦後世代を対象にした新たな東アジア型歴史・平和教
育プログラム開発』(村本邦子編著、人間科学研究所、2014)として報告した。
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