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腹部超音波検査
岐臨技 精度保障事業部 平成 23 年度 総括集 -1- 腹部超音波検査 大西 設問 1 40 歳 男性 主訴 : 粘血便 心窩部圧痛 現病歴 : アメーバ腸炎 生化学データ : CRP 7.05 mg/dl、WBC 7,800 /μl HIV 抗体陽性 設問 1-1、設問 1-2 の図を見て次の問いに答えなさ い。 最も考えられるのは以下のうちどれか。 1. 2. 3. 4. 5. 肝膿瘍 肝血管腫 限局性結節性過形成 肝嚢胞 肝細胞癌 設問 1-1 解 設問 1-2 答: 1. 肝膿瘍 正解率 95% 出題意図 アメーバ性肝膿瘍の症例である。肝腫瘍の臨床的 知識を評価するために出題した。 設問画像所見 肝左葉外側区域に腫瘍像を認める。肝実質エコ ーは微細均一で肝炎・肝硬変の存在は否定的。腫 瘍の境界は不整で不明瞭、内部エコーは低エコー から等エコーの不均一な混合性を示し、後方エコ ー増強を認める。腫瘍内に血流は認めない。 解 説 肝血管腫は低エコー・高エコー・混在型と多彩な 紀之 エコー像を示し、設問画像と類似の像を示すことも あるが、炎症反応は伴わない。 限局性結節性過形成は限局性の血流異常に伴う 過剰肝細胞再生を病因とする結節と言われ、肝被膜 下に発生することが多く、通常は被膜を有さず、中 心性瘢痕およびそこから放射状に延びる線維性隔 壁に相当する高エコー部が特徴的所見である。 肝嚢胞は境界明瞭平滑で内部は無エコーであり ほとんどは無症状。嚢胞内に感染や出血を起こすと 設問画像と類似の像を示すことがあるが、境界の性 状で鑑別できる。 肝細胞癌は肝細胞に似た細胞からなる上皮性悪 性腫瘍で正常肝から発生することは非常に稀であ り、結節型・塊状型では境界明瞭である。 肝膿瘍は発症からの時期によって充実性・混合 性・嚢胞性と多彩なパターンを示し、境界は不明 瞭で不整である。アメーバ性肝膿瘍はアメーバ腸 炎の約 5%に見られ、腸炎病巣から病原性アメーバ が経門脈的に肝臓に移動し孤立性の膿瘍を形成す ることが多い。肝右葉に孤立性に存在することが 多いという特徴は示すものの、他の原因菌による 肝膿瘍との超音波所見の違いはほとんど無く、腹 部超音波検査だけでの鑑別は困難である。輸入感 染症の一つだが、性行為感染症との指摘もあり、 大部分が男性例である。 設問画像のみで判断するのは難しいが、現病歴等 の臨床データから考えると解答は容易である。 設問 2 75 歳 男性 主訴 : 黄疸 掻痒感 治療歴 : ERBD(内視鏡的逆行性胆管ドレナージ法) 施行後 設問 2-1、設問 2-2 の図を見て次の問いに答えなさ い。 最も考えられるのは以下のうちどれか。 1. 陶器様胆嚢 2. 胆砂 岐臨技 精度保障事業部 平成 23 年度 総括集 ガス像が出現する気腫性胆嚢炎が挙げられるが、選 択肢にはない。 3. 胆嚢充満結石 4. 胆嚢腫瘍 5. 胆嚢内ガス 設問 2-1 解 -2- 設問 2-2 答: 5. 胆嚢内ガス 正解率 73% 出題意図 ERBD(内視鏡的逆行性胆管ドレナージ法)後の胆 道気腫症例で、胆道内ガスの胆嚢混入像である。胆 嚢疾患の知識を評価するために出題した。 設問 3 64 歳 男性 主訴 : 頻尿 既往歴 : 狭心症 高血圧症 設問 3-1、設問 3-2 の図を見て次の問いに答えなさ い。 最も考えられるのは以下のうちどれか。 1. 2. 3. 4. 5. 設問画像所見 胆嚢内に体位変換により上方に移動する音響陰影 を伴う高エコーを認める。前面の胆嚢壁の描出は良 好で軽度の壁肥厚を認める。肝内胆管内にも胆嚢内 と同様の陰影と comet sign、多重反射によるアーテ ィファクトを認める。 設問 3-1 解 解 説 陶器様胆嚢は慢性胆嚢炎の経過の 1 つで壁に一致 して石灰化が見られ、壁境界より鮮明な音響陰影を 伴う。体位変換による変化は認められない。 胆砂は微細(砂状)な胆石のことで、胆石の組成 によっては音響陰影を伴い設問画像と類似の像を示 すが、体位変換によって下方に移動する。 胆嚢充満結石は多数集合した小結石からの strong echo 集合像で結石境界は稜線状に連なり複 雑かつ不均一、胆嚢壁は腹側で観察できる。充満し ているため、体位変換による可動性は確認できない。 胆嚢腫瘍は形態的に限局型・浸潤型・混合型に分 けられ、石灰化を伴い音響陰影を認める例もあるが、 体位変換による可動性は認められない。 胆嚢内ガスは、ERBD(内視鏡的逆行性胆管ドレナ ージ法) 、EST(内視鏡的乳頭括約筋切開術)、ERCP(内 視鏡的逆行性胆管膵管造影) 、胆道変更術等の術後に air が胆道内に混入し胆道気腫となることがあり、 まれに胆嚢内にもガスを認めることがある。胆嚢内 にガス像が認められる場合の鑑別診断として、ウェ ルシュ菌などのガス産生菌の感染によって胆嚢内に 腎細胞癌 腎結石 陳旧性腎梗塞 腎周囲血腫 腎血管筋脂肪腫 設問 3-2 答: 3. 陳旧性腎梗塞 正解率 95% 出題意図 陳旧性腎梗塞の症例である。腎疾患の知識を評価 するために出題した。 設問画像所見 腎辺縁に陥凹を認め、同部位の腎皮質に境界明瞭 で不整、楔型の高エコー領域を認める 解 説 腎細胞癌は境界明瞭で腎皮質に比べ等~やや高エ コーの腫瘤で辺縁低エコー帯を認めることが多い。 腎より外側に突出を呈することが多く、中心部高エ コーへの圧排、分断、消失を認めることがある。 腎結石は中心部高エコーより輝度の高い strong echo で音響陰影を伴う。腎盂・腎杯に多く認められ、 腎実質にはまれである。 腎周囲血腫は治療・検査行為による合併症に多く 見られ、受傷直後は腎被膜下に嚢胞状の腫瘤として 描出、性状は経時的に変化する。 岐臨技 精度保障事業部 平成 23 年度 総括集 腎血管筋脂肪腫は血管・平滑筋・脂肪成分よりな る良性腫瘍で、基本的に腫瘤は類円形を示し、辺縁 低エコー帯は持たず、後方エコーが増強する特徴的 な所見を示す。4~5cmを超えない大きさでは高 エコーを示す場合が多いが、腫瘤の大きさがそれ以 上になると必ずしも高エコー像として描出されない 場合があり、形状は必ずしも類円形ではない。 腎梗塞は急性期で梗塞範囲が大きい場合は側腹部 痛を訴えることもあるが、Bモード像では異常を認 めない。カラードプラにて、梗塞範囲腎血流の低下 もしくは消失が確認できる。経時的に梗塞範囲の腎 実質が菲薄化し高エコーを呈するようになり、陳旧 例では腎実質に楔型で高エコーの瘢痕を形成、腎辺 縁が陥凹していることが多い。 設問は典型的な陳旧性腎梗塞像である。 設問 4 11 歳 女性 主訴 : 腹痛 嘔気 身体所見 : 右下腹部(McBurney 点より下)に圧痛 左下腹部にも圧痛 腹部全体に反跳痛 筋性防御を認める 生化学データ : CRP 12.25mg/dl、WBC 21,600/μl 設問 4-1、設問 4-2、設問 4-3、設問 4-4 の図を見て 次の問いに答えなさい。 最も考えられるのは以下のうちどれか。 1. 2. 3. 4. 5. 壊疽性虫垂炎 腸重積 大腸癌 感染性腸炎 カタル性虫垂炎 設問 4-1 設問 4-2 設問 4-3 設問 4-4 -3- 解 答: 1. 壊疽性虫垂炎 正解率 82% 出題意図 壊疽性虫垂炎の症例である。虫垂疾患の知識を評 価するために出題した。 設問画像所見 右下腹部に嚢胞性腫瘤を認める。壁は厚く、層構 造は不明瞭。内部に微細不均一な内容物と糞石と思 われる strong echo を認める。壁に血流は認めず。 周囲大網の集積と輝度上昇も伴う。右上腹部に拡張 した小腸を認める。 解 説 腸重積は腸管の一部がそれに連なる腸管内腔に嵌 入した状態で特徴的な Multiple Concentric Ring Sign(層状のリング状構造 Target Sign とも言う) を認める。 大腸癌は大腸粘膜より発生する上皮性悪性腫瘍で、 早期大腸癌を描出するのは困難。進行癌は不整に肥 厚・硬化した壁が低エコーの腫瘤像を呈し、内腔の 消化管内容やガスが高エコーに描出される pseudo kidney sign を呈する。 感染性腸炎は感染病原菌により罹患範囲・超音波 像が異なるが、腸管の浮腫性肥厚や拡張像が観察さ れる。 カタル性虫垂炎は炎症が粘膜層・粘膜下層に限局 したもので、壁の肥厚は軽度で層構造は比較的保た れている。 壊疽性虫垂炎は蜂窩織炎性虫垂炎に虫垂壁の壊死 を起こしたもので、壁の層構造は乱れ不連続となる。 蜂窩織炎性との鑑別が重要だが、蜂窩織炎性は虫垂 壁に豊富な血流が観察されるのに対し、壊疽性は血 流が消失している。 設問では虫垂周囲への炎症波及を示唆する大網の 集積像が見られ、腹膜炎によると思われる身体所見 (反跳痛、筋性防御)を認めている。右上腹部の拡 張腸管像は、腹膜炎に伴う麻痺性イレウスと考えら れる。