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第2 問題作成部会の見解

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第2 問題作成部会の見解
第2 問題作成部会の見解
1 問題作成の方針
従来の方針を継承しつつ、近年の部会での議論や経験を踏まえて問題作成に当たった。すなわ
ち、日本における高等学校のフランス語教育の現状を考慮した上で、大学入試センター試験(以下
「センター試験」という。)の出題方式において可能な限りフランス語能力を総合的に判定できる問
題を作るということである。
さらに、問題作成部会のこれまでの作題経験と合わせ、教科科目第二委員会から寄せられた意
見、及び大学入試センターから全般にわたってなされた指示を尊重するとともに、平成 23 年度の
センター試験に対する高等学校教科担当教員からの意見、要請等についても、有益なものを取り入
れるよう議論を尽くした。その上で、センター試験として望ましいとされる平均点に近づけるよう
に、難易度の均衡と内容の平準化を心掛けた。
以上の方針に基づき、具体的には次の点に特に留意しながら作題を行った。
⑴ ほとんどの受験者が正答すると予測されるような、極端に易しい問題を排除するように心掛け
るとともに、著しく難しい問題も避けた。その上で、できるだけ基本的知識の応用によって正答
が得られるような問題を工夫することに努めた。
⑵ 文法問題は、できる限り多様な出題を心掛けた。
⑶ 長文問題については、基本的に近年の方針を踏襲し、全体的になるべく自然な表現、なじみや
すい題材を選択するよう心掛けた。テキストが余りに長く複雑になることのないように十分に吟
味し、修正を重ねた。文章の流れに沿って全体的な内容の把握ができているかを試すように配慮
した。また、他の問題でも扱えるような文法問題や、選択肢だけを見れば分かるような単純な語
彙問題を避け、全文を注意深く読み、一貫した論理の流れを理解していなければ解けないような
問題の作成を心掛けた。
また図表等を用い、日常生活に関連したフランス語の運用能力を試すための問題を作成した。
⑷ 選択肢の配列については、基本的にアルファベット順ないし 50 音順を採用した。
⑸ 使用する語彙と表現については、受験者が当然知っているべき基本語を用いるように心掛け
た。
ただし副詞については、基本語と指定されている形容詞に -ment を付けるだけの単純な派生
関係にあり、意味的な隔たりがない場合は、基本語の範囲とみなして使用している。なお長文問
題において、上述の基本語の範囲を超える語彙を用いる場合には、注を付けることとした。
⑹ フランス語の表記については、最近の傾向を踏まえ、また受験者に分かりやすくとの配慮か
ら、大文字にもアクサン記号を付けている。
2 各問題の出題意図と解答結果
第1問 発音問題
出題意図
近年の出題傾向にならい、「聞く・話す」能力の基礎となるフランス語の発音に関する基本
―520―
フランス語
的知識を問う問題を出題している。辞書において複数の発音の可能性があるものは避け、つづ
り字と単語の発音についての理解度を試すために、多様な出題を心掛けた。近年の問題や単語
の重複を避けながら複合母音字や子音字などの読み方について重要なものを出題した。リエゾ
ンに関する問題については、状況や個人によって発音が異なる可能性を念頭に置いて、原則か
ら正答を導き出せるものに限って出題した。
解答結果
例年どおり基本的語彙からの出題に努めた。受験者にとっては取り組みやすい問題であった
はずである。第1問全体の正答率は6割台半ばであり、難易度はおおむね適正と言える。
問1・問3 語末の子音の発音に関するものである。出題の語彙も基本単語であり、正答を導
くことは難しくなかったはずであるが、問3の正答率が4割台前半にとどまったのは、選択
肢の aspect、correct、instinct、respect のいずれもが英語の基本単語と重なっており、受験
者が混乱したことが一因であったと考えられる。
問2 基本的な鼻母音に関する問題であるが、正答率は6割を若干切った。鼻母音とつづり字
の関係を正確に習得することが望まれる。
問4 つづり字と発音の関係が例外的な単語を問うものであったが、正答率は8割を超えた。
問5 « p » の発音の有無を問うもので、正答率は7割を超えた。
問6 « cc » の後に来る母音との関係から[ks]と[k]の発音の区別に関する問題で、正答
率は7割台半ばに達した。
問7 リエゾンに関する問題である。基本的な問題であったが、正答率は6割を若干切った。
「単数名詞の語末の子音字と、直後の形容詞の語頭の母音字はリエゾンしない」、といった規
則は、是非とも理解しておいてほしい。
第2問 語彙と表現の問題
出題意図
例年同じ形式で出題されており、成句表現や、動詞・形容詞等の語義の広がりを理解してい
るかを問う問題である。毎年出題される形式であり、いずれも基本語彙を中心にした問題で
あったが、第2問全体の得点率は5割台と低めであった。単語の意味を日本語の単語と機械的
に一対一で置き換えて暗記するだけの学習では、取組は難しいと思われる。日頃からフランス
語の文章をよく読むこと、辞書を例文も含めて丁寧に読むことが求められる。
解答結果
問1 正答率が約3割と、第2問全体の中で最も低い。Je vous laisse la parole. は、laisser も
parole も基本的な単語ではあるが、表現としては討論など特定のシチュエーションでのみ使
われるものであり、受験者にはそのシチュエーション自体が想像しにくいものであったかも
しれない。今後の作題の参考にしたい。
問2 tomber sur ~はよく用いられる成句であるが、正答率は6割に僅かに及ばなかった。
ごく基本的な単語である tomber の語義は理解してほしい知識の範囲内である。
問3 正答率は5割台半ばであったが、impatient de + inf. も基本的な形容詞の表現である。
問4 pour la saison は前置詞 pour の基本的な機能の一つである。pour la saison という言い方
を知らなくても、Elle est grande pour son âge. というような言い方から導けるはずであ
―521―
る。
問5 Il arrive que + subj. も基本的な成句である。正答率が約5割というのは、若干低いよ
うに思える。
問6 équipé の意味を問う問題だが、文の主語である cuisine が「台所」か「料理」か選択肢
によって異なる意味を持ったため、やや難しくなった可能性はある。正答率は約5割だっ
た。
第3問 語形変化と発音の複合問題
出題意図
フランス語の様々な語形変化に関する知識と、発音・つづり字に関する知識を有機的に融合
させた出題形式である。フランス語の語彙を習得し、それを具体的なコミュニケーションの場
面で運用していくためには、語形変化のパターンのみならず、それと同時に、そのつづり字と
発音を有機的に関連付けて理解することが必要である。本問の設問形式は、一見すると複雑に
見えるが、例題の変形パターンを理解すれば、受験者にはそれほど難しい問題ではないし、語
形変化と発音・つづり字の知識を、マーク式の筆記試験という制約の中で、同時に問うことが
できる設問形式であるとも言える。
解答結果
第3問全体の正答率は約6割であるが、問いによってばらつきも見られた。
問3 正答率が6割に届かなかった。「否定」を意味する接頭辞は、派生の基本の一つである。
より意識的な学習が望まれる。
問6 第3問の中では最も正答率が低かった。音声上の形だけでなく、つづりを正確に学習し
ていることが問われた問題であった。
第4問 文法の問題
出題意図
前置詞など特定の内容に偏ることなく、基本的な文法事項を広く問う問題作成を心掛けた。
また、他の問題と同様、問題文については、具体的な発話のコンテクストをイメージしやす
い自然なフランス語になるように配慮した。
解答結果
第4問 全体の正答率は約6割であるが、問いによって大きくばらつきが見られた。正答率が
低かったのは、問2と問8である。
問2は、定冠詞の配分用法を知っているかどうかが問われる問題であったが、正答率は約4割
にとどまった。高等学校教科担当教員からは、他の選択肢が全て前置詞であることが受験者
を惑わせたのではないかとの指摘があった。今後の作題の参考にしたい。
問8は、une fois +過去分詞 という定型表現を問う問題であったが、正答率は5割に満たな
かった。しかしながら、例え定型表現として覚えていなくても、分詞節についてのしっかり
とした知識があれば、正答を導き出すことが可能である。受験者には、この分野についての
深い理解を望みたい。
第5問 対話完成問題
出題意図
―522―
フランス語
例年の出題傾向にならった。与えられた会話の一部から、日常における自然な状況を判断
し、対話を完成させる問題である。具体的で想像しやすい場面や状況を設定しつつ、内容が多
様なものになるよう心掛けた。また、できる限り明快なフランス語による表現を採用した。さ
らに、A-B-Aの会話において、最初のA-Bだけを読んで正答が発見できるような問題で
はなく、A-B-Aの会話全体を読まなければ正答にたどり着けない問題を作るよう努力し
た。
解答結果
多様かつ受験者にもなじみやすい内容になるよう、作問に工夫をした結果、取り組みやすい
問題となり、例年どおり正答率も高かった。問1と問2で連続して passer という動詞が出題
されていた点は、今後の検討課題であるが、正答率を見ると問2の方が 10 ポイントほど低く、
les miens という所有代名詞の理解を試す出題意図を反映したものとなったと言えるだろう。
第6問 資料・会話読解問題
出題意図
平成 19 年度より導入された新形式の問題で、日常生活に関連したフランス語の運用能力を
試すことを目的として作成している。設問として扱う題材は、受験者にとって自然かつなじみ
やすいものとなるよう配慮している。図表などの資料と、適切な分量の会話文を基に論理的に
考えれば解答可能な問題として作成した。
解答結果
第6問はAとBの中問に分かれ、別々に示された図表等と会話を基に解答する。正答率は、
一つの例外(中問B、Ⅰ、問2)を除けば8割を超えている。受験者に日常よく使われる表現
を習得させることを目的とし、作問についても工夫を凝らした。Aは町の観光地図、Bはペッ
トに関する個人広告の読み取りを問うものである。Aは文化状況へ、Bは生活習慣へと受験者
の関心を誘う問題であり、バランスの取れたテーマ設定であったと考えている。また、言葉の
レベルにおいても、多様な言葉の使い方を問う問題となっている。
A 町の観光地図を参照しながら道筋を記述した案内文を読み取り、該当する選択肢を解答す
る問題である。
問1、問3は、案内文に示された位置関係を理解し、地図上で対応する対象物を判別する
問題であり、大半の受験者が正解している。
問2は地図上で確定させた2点間の距離を問う問題であり、正答率は高かった。それまで
の道筋との正しい連関を理解しているかどうか、croisement(交差点)という基本語彙が分
かっているかどうかが試されるが、そのために誤答として 3 の「500 メートル」を選んだ受
験者が若干見られた。
B ペットに関する個人広告の資料を読み解き、それに基づいて会話の内容から正答を導きだ
す問題と、資料全体の内容について正誤を判断する問題である。資料はフランスの雑誌やイ
ンターネットでよく行われている個人広告の形式を参考にしているが、インターネットの広
告の在り方を理解していなくとも解答に支障がないよう表現等を工夫している。また、受験
者の日常生活になじみのある、平易で取り組みやすいと判断されるペットの話題をイラスト
を交えて採用した。中問Ⅰの問1は、広告を見ている二人の会話の内容から最も適当な広告
―523―
を一つ選ばせる問題であり、正答率は高かった。問2は、会話中の発言内容に即して動詞の
組合せを問う問題であり、他の問いと比べると正答率は低かった。その理由として、現在分
詞(payant)と過去分詞(payé)の意味の取り違えが考えられるが、現在分詞が能動的な
意味を帯び、過去分詞が受動的な意味を帯びるのは、文法的な理解としては基本事項なので
はないだろうか。中問Ⅱは、資料全体の内容との正誤を問う問題で正答率は高かった。
第7問 長文問題
出題意図
第7問は、例年の方針に準じて、過度に抽象的な論説調の文章を避け、誰もが知っているピ
ノッキオの童話を題材として、現代の若者の状況を考えさせる評論文を選んだ。
この問題においては、事柄の因果関係や対立などを正確に読み取る力や、文章の流れを論理
的に確実にたどっていく力を問うことを主眼とした。常識だけで正答にたどり着けるような問
題や、単語や成句の知識を問うだけの問題は排除するように心掛けた。全体の文意を把握する
と同時に、論理の展開の中で、適切な語や表現を選択する能力を試すようにした。
また出題形式を十分に検討し、小問による質問箇所が受験者の内容理解を助けるように図
り、様々な観点から問題に取り組めるよう配慮した。
解答結果
高等学校教科担当教員より、総論的には好ましい評価をいただいたが、具体的な出来事に欠
けるステレオタイプの主張に偏りがちだったという指摘もあった。読みやすさを追求した結
果、そのような面があったことも否定できない。今後、更にテーマを多様化し、読む楽しさの
ある出題を心掛けたい。
第7問 全体の得点率はほぼ例年並みであり、特に難解ではなかったと言えよう。問2の正答
率が飛び抜けて低いという指摘があったが、試験結果の分析を見る限り、識別力は高く、前
後の文脈を正確に読み取れれば正答できる出題であり、長文問題の小問の一つとして妥当な
問題であったのではないかと思われる。加えて、tout +ジェロンディフの用法を理解してい
れば、最も多かった誤答の abandonnant は避けられたであろう。
問5については、 3 force を選ぶ可能性があるのではないかと指摘されたが、この問題も識
別力は高く、また、指示形容詞 cette とともに前文脈を指すことを考えれば、manquer de
courage が faiblesse と類義であることは容易に読み取れると思われる。
第8問 整序作文問題
出題意図
例年の出題形式、傾向にならった。日常的で平易な日本語を、基本的な語彙・表現を用いた
フランス語に言い換える能力を判定できるよう留意した。整序作文の形式なので、与えられた
語句を使って、フランス語として自然な文を組み立てる力を問うことを眼目にしている。問題
文の日本語が自然で分かりやすいものになるよう努力するとともに、解答のフランス語とかけ
離れたものにならないよう配慮した。
解答結果
語法や成句表現の知識を、ストレートに問う問題が多かったため、全体に正答率が高かっ
た。問3と問5が正答率8割を超え、問1も8割に近かった。問2と問4が5割台前半であっ
―524―
フランス語
たが、いずれも目的語人称代名詞に関わる問題で、代名詞の位置を間違えると正答にならない
点が正答率を引き下げたと思われる。目的語人称代名詞は重要な文法事項なのでしっかり学習
していただきたい。なお、問3で間違った解答を作成したとしても、正答を導ける可能性が
あった点については、今後作題時に点検を徹底し、避けるように心掛けたい。
3 ま と め
以上、高等学校教科担当教員及び関係各方面から寄せられた意見、平成 24 年度の「フランス語」
の出題意図、問題形式と内容に触れながら、解答結果を分析検討し、問題作成部会としての見解、
そして今後の検討課題について述べてきたが、まとめとして次の点を強調したい。
全体の難易度に関しては、今年度も全体として平均点はほぼ予想の範囲内であり、また、問題に
よってはかなり良い結果となった。様々な成績群に対して識別性を示す問題がバランス良く出題さ
れており、全体として幅広い受験者層にも的確に対応できる問題であったと思われる。今後とも、
フランス語教育の状況や受験者の学力の実態を柔軟に踏まえながら、バランスの取れた問題作成を
行いたい。
平成 19 年度に導入した第6問は、高等学校学習指導要領(外国語)の趣旨に即し、フランス語
による日常の実践的なコミュニケーション能力を測定するために取り入れた新形式の問題であった
が、今年もこれまでと同様に内容及び難易度ともに好評であり、我々としては満足している。マン
ネリ化を避け、センター試験の水準にふさわしい多面的かつ総合的な基礎学力を問うため、許容さ
れる範囲内での問題形式の折に触れた改訂は、今後とも継続して導入していきたい。
高等学校の教育範囲を逸脱しない適切な出題内容を心掛け、極度に難易度の高い出題、出題傾向
の偏りを避けるという配慮の功があって、今年度も満点者を1名得ることができた。
平均点については、昨年と比べて約 10 点低く、131. 68 点となり、「英語」を除く外国語の中では
一番低いものであるが、一昨年も 134. 81 点であり、今年度もおおむねセンター試験の目標とする
正答率を維持することができた。センター試験の目的に即し、基礎的な学力をしっかりと身に付け
た受験者が報われるような得点分布をもつ試験を、今後も出題していきたい。
試験問題作成に当たっては、各方面から貴重な助言と御指導をいただき、特に、本年度も高等学
校教科担当教員の方々からは、今後に向けての有益な意見、助言を受けた。心から感謝したい。寄
せられた貴重な意見、助言を、今後の問題作成に生かしていくつもりである。
―525―
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