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アスファルト舗装熱を利用した地下空間の有効利用法

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アスファルト舗装熱を利用した地下空間の有効利用法
アスファルト舗装熱を利用した地下空間の有効利用法
野本健志(M1), 呉瑶(M1), 砂崎正希(M1)
1.はじめに
(1)プロジェクト概要
メタン発酵法は嫌気条件下において各種微
生物の働きにより有機物を段階的に分解し、最
終的にメタンを含むバイオガスを取り出す処
理方法です。本プロジェクトではこのメタン発
酵のうち最も一般的な中温メタン発酵法(至適
温度約 35℃付近)を舗装された地面下で行い、
メタン発酵系に必要となる加温エネルギーを
舗装熱で補う事が出来るのかを検証し、全国規
模でどの程度の電力を補えるか試算します。
(2)メタン発酵法とは
メタン発酵法は英国などで 1900 年頃から、
下水処理の汚泥の減量処理を目的として実用
化され、日本では戦後、し尿処理の技術として
普及した。このメタン発酵法は大きく分けて以
下の4つの段階に分けられる。
1 液化・加水分解過程
2 酸生成過程
3 H2・酢酸生成過程
4 メタン生成過程
これらの過程に関わる微生物群はそれぞれ異
なり、一つの槽の中で微生物群が共生系を作る
ことでメタン発酵(すべての反応過程を示す)
が進行する。
・液化・加水分解過程
多種多様な細菌によって個体有機物が液化
し、加水分解され低分子化する過程。加水分解
と後述する酸生成を同時に行う微生物が多く
いる。
・酸生成過程
酢酸・プロピオン酸・酪酸など低級脂肪酸(揮
発性脂肪酸、VFA)を生成する過程。
・H2・酢酸生成過程
酸生成過程で生成された低級脂肪酸を H2 生
成酢酸生成細菌により、酢酸へと嫌気的に酸化
分解する過程。この反応は吸エルゴン反応なの
で、本来進行不可能な反応であるが、H2 生成
酢酸生成細菌はメタン生成細菌や水素資源化
細菌らと共に共生する細胞集塊を形成してお
り、H2 をすばやく消費することでこの反応を
進めている。
・メタン生成過程
メタン生成細菌によりメタンを生成する過
程。メタン生成細菌は、酸生成過程で分解され
た H2,CO2,及び酢酸を主としてメタンに変換
する細菌である。メタン生成菌は通常の細菌と
は全く異なる進化過程を経てきた微生物群で、
古細菌という生物群に分類される。古細菌には
高度好塩細菌があり、これらの細菌は、地球上
に酸素がなく高温であった頃、誕生したと推定
されている。
また、メタン発酵によるガスの発生量は発酵
槽に投入される基質の化学組成によって決め
られる。組成の知られた基質では、Buswell と
Mueller の一般式である式(式 1-1)より理論的に
ガス発生量と組成が求められる。
図1
メタン発酵の反応イメージ
4つの反応段階は以下のようにまとめられる。
𝑎
𝑏
𝑛
𝑎
𝑏
𝐶𝑛 𝐻𝑎 𝑂𝑏 + �𝑛 − − � ∙ 𝐻2 𝑂 → � + − � ∙ 𝐶𝐻4 +
𝑛
𝑎
𝑏
4
2
� − + � ∙ 𝐶𝑂2 式(1-1)
2
8
4
2
8
4
n:炭素の原子数,a:水素の原子数,b:酸素の原子数
表1
基質1g 当りのガス発生量と組成
ガス量(ml/g)
810
粗繊維
脂肪 1120~1430
1060
油脂分
スカム 880~1000
730
たん白質
CH[%]
45~50
62~72
68
70~75
73
CO[%]
55~50
38~28
32
30~25
27
(3)舗装について
アスファルト舗装は単価が安く、交換が容易、
特性を付加しやすいなどの特徴を持ち現在、日
本において最も普及している路面舗装です。
また、アスファルト舗装は夏場、その表面が
非常に高温となることが知られており、その温
度は最高で 60℃以上にもなると言われていま
す。今回のプロジェクトではこの舗装熱をその
地下空間へと伝え、メタン発酵に利用ことを検
討します。
写真1 舗装サンプル(左-通常、右-保水性)
た。また、地中下における温度変化の参考値と
してマンホール下において地下 30cm、1m にお
ける値も測定した。
図2 夏場の舗装面と地中下の温度変化
この結果から、アスファルト舗装面は日中の
最高温度において 55℃を越え、60℃に迫る値
を出すことが確認できた。また、地中下 30cm
付近における温度は外気温の時間変化の影響
を受けているのが分かるが、1m 付近になると
その変化はほとんど見られないことも確認で
きた。しかし、実際の地中下ではマンホール内
のような空洞ではなく、土砂が詰まっているた
め、その温度変化はこの計測結果とはいくらか
異なることが予想される。
3.メタン発酵実験
(1)実験概要
以下のような単相式メタン発酵装置を(図3、
写真3参照)考案し、実際にメタン発酵実験を
行った。
ガスパック
1L
原料投入口
写真2 舗装材料の特性について教わる様子
(2012/8/03)
2.アスファルト舗装面の温度測定
夏場におけるアスファルト舗装の路面温度
の日変化を熱電対式の測定器具により計測し
発酵槽
図3メタン発酵実験装置
写真3 メタン発酵装置
写真5
実験は温度、液肥、原料の条件を変えて行っ
た。まず、温度は至適温度である 35℃と、メ
タン発酵が微生物の働きによるものであるこ
とから微生物の活性が大きく変化すると言わ
れる 10℃刻みで 25℃、15℃の 3 種類を観測し
た。
液肥には中温メタン発酵を下水汚泥処理
に使用している横浜市南部汚泥資源化センタ
ーと家畜(牛)の糞尿処理に利用している長野
県伊那市小野寺牧場よりそれぞれ消化液を頂
き用いた。
原料には一般家庭の廃棄物組成より作成し
た標準生ごみと小野寺牧場より頂いた牛糞を
用いた。
表 2 標準生ごみ組成
%
野菜
果物
穀物
茶殻
魚介
肉
計
48
29
10
8
4
1
100
また、
実験に際して NPO 団体ふうど(小川町)
代表、桑原 衛氏より伺ったお話を大いに参考
とした。
メタン捕集袋
写真6 NPO ふうどのポスター
(写真 4~6 は 2012/11/24 に撮影)
(2)実験器具・機材
使用器具(処理系1つあたり)
・1L平底フラスコ 1 個
・1Lアルミニウムガスパック 1 個
・ゴム栓 2 個
・トアロンチューブ(内径 5mm×外径 7mm)
適長
・ビニールチューブホース(内径 14mm×外
形 17mm) 適長
使用機材
・恒温槽
・pH/ORP メーター(Orion 1212000 3-Star
pH/ORP メーター ポータブル型)
・細胞カウンター(LunaTM 自動細胞測定器)
・ガスクロマトグラフ(SHIMADZU GC-8A)
・CHN コーダー(Yanaco MT-5A)
写真4
NPO ふうどメタン発酵槽
(3)実験手順
1) 1L平底フラスコを 6 本用意した。
2) 1L平底フラスコに横浜、長野の各消
化液を 3 本ずつ 900ml加えた。
3) 原料となる標準生ごみを 13.5g秤量
し、蒸留水で 50mlに希釈し各フラス
コに加えた。この際、標準生ごみの希
釈原料の pH は約 5.8 と酸性に寄りすぎ
ているので、重曹を約 1.0g加え中性に
近づけた。(投入する原料の pH はなる
べく中性から弱アルカリ性にした方が
良い)
4) ゴム栓にガス捕集用のアルミニウム
パックと繋がったトアロンチューブと
原料投入口であるビニールチューブホ
ースを通した物を平底フラスコの口に
取りつけた。この際、原料投入口はす
ばやくゴム栓で塞ぎ、なるべく嫌気状
態を保った。
5) 横浜、長野の各処理系を 35、25、15℃
の恒温槽にそれぞれ投入し、24 時間放
置した。
6) ガスパックに溜まったガスの成分を
GC-8A で分析した。
7) 処理系を撹拌し、スカムを粉砕した。
8) 原料投入口より、液を約 50ml 採取し
pH と菌数及び嫌気性の確認のために酸
化還元電位を測定した。
9) 希釈原料を 50ml 投入した。この際、
測定した処理系の pH の値に合わせて
投入する重曹の量を調節した。
10) 操作5)から9)までを繰り返し、
1週間測定を続けた。
※
原料に牛糞を投入した場合、基本的
な操作は変わらないが操作 3)において
希釈原料の pH が約 6.5 となるため、重
曹の投入量が約 0.3gになる。
(4)実験結果
1)バイオガスの発生量
表3 バイオガスの発生量(平均値)
表3の結果から長野、横浜共に温度が試適温
度(35℃)に近いほどガスが多く発生すること
が確認できた。また、長野、横浜共に原料は標
準生ごみの方が多くガスが発生する事が分か
った。これは原料の構成に原因があると考えら
れる。生ごみにはガスを多く発生させる脂肪分
がある程度含まれている(表 1、2)。一方、牛
糞にはガスの発生量が少ない粗繊維が多く含
まれていると思われる。そこで、フィルターバ
ッグ法による原料の粗繊維定量を行った。その
結果を表4に記す。
表4 粗繊維定量結果
表4より、標準生ごみよりも牛糞の方が粗繊
維の割合が大きい事が分かった。この差がガス
の発生量に大きく影響したと言える。
2)バイオガスの発生成分
表5 バイオガス成分(標準生ごみ)
図4
長野(生ごみ)における温度別 CH4%
これは牛糞に由来した嫌気性菌の働きによ
るものと考えられる。牛の腸内にはメタン菌が
共生している。よって、原料牛糞中にも当然こ
れらの菌が存在していたはずである。この菌の
内、低温で活性する(種類は少ないが存在する)
が発酵槽内で分解を進めたと考えられる。
事実、牛糞を提供して下さった小野寺牧場の
メタン発酵槽は地中の発酵槽に投入する牛糞
を温水で流し込むだけで、特別槽を加温する仕
組みが無いにも関わらず、冬場もメタンガスが
発生している。これは低温でも活動できるメタ
ン菌が存在しているためだと考えられる。
表 6 バイオガス成分(牛糞)
3)発酵槽中の細胞数変化
図5 長野(牛糞)における温度別 CH4%
原料に標準生ごみを用いた結果では、メタン
の含有率はその系の温度が至適温度に近いほ
ど上がる傾向が横浜、長野の液肥共に見られた。
一方、原料に牛糞を用いた場合、長野の結果で
は低温(15℃)であってもその平均含有率が3
0%を越え、温度による差は大きく認められな
かった。また、横浜の 25℃と 35℃とでは僅差
ながら 25℃の方の含有率が高く出た。
図6
長野 15℃(生ごみ)における細胞数変化
図7
長野 35℃(生ごみ)における細胞数変化
図6を見ると温度の低い 15℃において、細
胞生存率と細胞濃度が比例している。しかし、
温度の高い 35℃においては、細胞生存率の上
昇と共に細胞濃度が減少している傾向が見れ
る。これは横浜の結果においても同じである。
原料が牛糞の際に同じような現象が起きな
かったのは、牛糞に含まれる成分のほとんどが
餌に由来した粗繊維(麦わらなど)であり、嫌
気性微生物による分解に時間がかかるため検
出されなかったと考えられる。
図 8 長野 15℃(牛糞)における細胞数変化
図 9 長野 35℃(牛糞)における細胞数変化
15℃、35℃共に、細胞生存率と細胞濃度が比
例しているのが分かった。この傾向は横浜の結
果でも同じだった
通常、メタン発酵の進行に伴い嫌気性微生物
類が増加すると細胞濃度も上昇する。事実、標
準生ごみを利用した 35℃発酵槽以外ではその
傾向がみられた。では、なぜ最も発酵が進行し
ていると思われる 35℃の発酵槽でこのような
現象が起きたのだろうか。
メタン発酵の初期段階において高分子の有
機物が加水分解により低分子化される。この段
階に関与する偏性嫌気性細菌には大きい物で
15μm ほどの物が存在し細胞カウンターで十
分に検出される。また、発酵槽に投入した標準
生ごみには原料に由来した植物細胞が含まれ
ていると考えられ,その大きさは 10~100μm
であり、これも細胞カウンターで検出される大
きさである。すなわち、メタン発酵が進んでい
る 35℃発酵槽では植物細胞の細胞壁が徐々に
分解され、細胞カウント数が減少する。それに
合わせて嫌気性菌の割合が増え、生存菌率が上
がったと考えられる。
5.評価
今回の結果からメタン発酵を発電に用いた
場合の評価を行う。
本プロジェクトで想定している舗装熱を利
用した発電は主に都市部で行う事を考えてい
る。都市部における大きな問題はやはり廃棄物
(生ごみ)の処理である。そこで原料に標準生ご
みを用いた結果のうち最もガスの発生量が多
かった長野 35℃の結果を基に試算を行う。
ガスクロマトグラフから求められた試料ガ
ス 1mL 中の平均メタン濃度は約 400ppm,であ
る。1 日当たりの発生ガス量が約 1570ml であ
るから 1 日 628000ppm 発生している事になる。
ppm を mg/m3 に換算すると以下の式(2)より
𝒑
𝐦𝐠/𝒎𝟑 = 𝒑𝒑𝒎 × 𝑴�𝟐𝟐. 𝟒 × 𝟐𝟕𝟑�(𝟐𝟕𝟑 + 𝑻) × �𝟏𝟎𝟏𝟑
式(2)
M:分子量、T 温度、P 体気圧
mg/𝑚3 = 410939𝑚𝑔/𝑚3 = 411𝑔/𝑚3
メタンの燃焼熱は 55.5kJ/g だから、1m3
当りのエネルギーは 22811kJ/m3=22.8MJ/m3 と
なる。東京ガスが関東圏で提供している都市ガ
スの燃焼エネルギーが 45MJ/m3 であるから市
販ガスの約 50%分のエネルギーを賄うことが
出来る。
また、東京ガスの統計によれば一般家庭にお
いて消費されるガス量は 32m3/月であるからこ
れをすべてメタンガスで補うとすると
32𝑚3 ×
45𝑀𝐽/𝑚3
3
�
22.8𝑀𝐽/𝑚3 = 63.2𝑚
約 63m3 分のバイオガスが必要となる。今回お
世話になった NPO ふうどが持つメタン発酵槽
20m3 から発生するガス量が最大 0.5m3/日とい
う事だったので、仮に埼玉大学の一般駐車場
(面積約 6700m2)前面に深さ 1m の発酵槽を作っ
たとすると約 170m3/日のバイオガスを発生さ
せることが出来る。
写真7 埼玉大学一般駐車場(約 6700m2)
これは一般家庭 2.7 軒分の一か月消費ガス量に
当り、一か月を 30 日として換算すると約 81
軒分の生活ガスを補うことが出来る計算とな
る。
4.まとめと課題
舗装熱を利用したメタン発酵の実現に向け
基礎的なデータの収集と知識をつけることが
出来た。しかし、まだまだデータ的には不十分
な点が多く、特に今回の測定では実験期間が短
かったと強く感じています。
嫌気性細菌であるメタン菌類の増殖速度は
一般的な好気性細菌と比較して約 1/5 ほどとな
ります。よって、今回の実験期間である一週間
ではその評価としては不十分だったと言えま
す。今後は長期的にかつ大型の発酵槽による実
験を行い、データをそろえることが出来ればと
思います。
また、実際に舗装下に発酵槽を埋蔵して運用
するためにはその構造なども問題となります。
今後はその構造についても具体的に検討し、細
かいコストなどを出し、正確に発電コストの算
出が出来ればと思います。
最後に、今回のプロジェクトを通して企業の
方々や有識者の方にお話や意見を聞くことに
より非常に密度の濃い時間を過ごすことが出
来ました。この経験は今後の研究・就職活動に
大きく影響するものと思います。
今回のプロジェクトでは
連携組織:大成ロテック株式会社 技術研究所
(埼玉県鴻巣市)
協力組織:NPO ふうど(埼玉県小川町)
の両組織に大変お世話になりました。ありがと
うございました。
写真8 横浜市南部汚泥資源化センター
発酵タンク
写真9 NPO ふうど バイオガスによる
スターリングエンジン起動実験
写真10
長野県伊那市小野寺牧場
液肥槽取り出し口
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