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フライホイールがバスの真ん中に鎮座していた

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フライホイールがバスの真ん中に鎮座していた
矢田技術士事務所
フライホイールがバスの真ん中に鎮座していた
フライホイールが持つ回転エネルギは古くからある原始的な動力源の一つであった。こ
れが移動機械の中に組み込まれその動力源として最初に使われたのはアメリカ海軍軍人
John A.Howell が発明した自動推進可能な魚雷ではないかと言われている。彼は 1870 年に
60kg のフライホイールを蒸気タービンにより 10000~12000rpm で回転させ、これでスク
リュウを廻し、その運動エネルギを魚雷の推進力に利用し 26 ノットの速度を出すことに成
功した。このフライホイールの軸心は進行方向と一致していたので、ジャイロ効果により
優れた目標精度を持っていた。そのため 1888 年米国海軍はこれを正式魚雷として採用し
1900 年まで使われた。魚雷の大きさは長さ 3.3m、直径 0.35m、重量 225kg であった 1。
地上の移動機械への利用はスイスの Oerlikon 社の技師 Bjame Storsand が 1946 年に獲
得した特許による Gyro Bus が最初である。これの試作機は 1932 年にスイスの車両メーカ
FBW 社のトラックに搭載された。このとき造られたた鋼製フライホイールは直径 1.6m、
重量 1.5ton で、これを水素ガスで 0.7 気圧に減圧した容器の中に格納し、回転に伴う流体
抵抗を減らして 3000rpm で回転させた(9.15kWH)。フライホイールにはかご形誘導電動
機が直結され、フライホイールの加速と、減速時の発電機としての役割を持たせている 2。
車両を加速するときはこのフライホイールの減速に伴う発電電力を車両の電動機(52kW)
に供給する。つまり電氣自動車の電池の役割をフライホイールが行う構造になっている。
その速度の制御は発電機と電動機の間に並列に接続されたコンデンサの容量を変えること
で行う。ここでフライホイールの蓄勢(充電ともいえる)は停車場毎に設けられたポスト
に於いて 3 本のポールを立上げ 380vの 3 相交流を給電
する方式をとっている。当然制動時のエネルギはフライ
ホイールに蓄える事ができるが、1 回の蓄勢で 55km/h
の速度で約 5~6kmの走行が可能である。そのため 4.5
km毎に充電ポストを立てた 3。
Oerlikon 社は 1950 年にこのシステムを搭載したバス
を発表し、GyroBus と名付けた。フライホイールはこの
バスの車体の中央部に座席の一部を裂いて搭載されてい
る。このバスは 1953 年スイスの Yverdon-Grandson
間に2台導入され営業運転を始めたが、電気代が高く付
くと云うことで 1960 年に廃車された。其の外レオポル
ドビル(現コンゴ民主共和国・キンサシャ)に 12 台、
ベルギーの Ghemt-Merelbeke 間に 1956 年に 3 台導入
されたが、何れも 1959 年には廃車された。ベルギーで
の廃車理由はスイスと同じ理由であったが、レオポルド
ビルのケースは内戦が始ったことの他に、使い方が乱暴
だったために軸受の摩耗が激しかったとされている。
1) http://www.history.navy.mil/museums/keyport/html/history1.htm
2) http://www.travys.ch/Gyrobus.htm
3) http://photo.proaktiva.eu/digest/2008_gyrobus.html
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