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4 スズメバチと刺傷被害
都市のス ズメバチ 4 スズメバチと刺傷被害 ズメバチやキイロスズメバチでは,巣に静かに接近し (1) スズメバチはなぜ刺すか? た場合でも,数m~10m以内に近づくと働きバチによ る警戒行動が見られる. 人を攻撃したり刺したりして問題となるのは,人家や その周辺に巣を作って集団生活をするスズメバチ,アシ 巣に近づきすぎたり軽い刺激を与えると,巣内から ナガバチ,ミツバチの仲間で,ハチ全体から見ると極一 多数の働きバチが外に出てきて外皮上に止まり,威 部の種に過ぎない. 嚇のポーズをとって外皮上を歩き回る. スズメバチ上科のスズメバチ科スズメバチ亜科(3属16 もう少し接近したり強い刺激を与えると,ハチは外 種)およびアシナガバチ亜科(3属11種)と,ハナバチ上 皮上を走り回ったり周辺を飛び回るが,数分以内に 科のミツバチ科ミツバチ亜科(1属2種)およびマルハナ は興奮も収まり,順次巣内に戻る. バチ亜科(1属14種)に属するハチの一部がこれに該当 更に巣に近づくと巣から飛び立った働きバチが接 する.なかでも攻撃性の強さからスズメバチ亜科のハチ 近し,体にまとわりつくように周囲を飛び回る.その際 が特に問題となっている. には”ブンブン”という大きな羽音の他に,大顎を噛み スズメバチなどの集団生活をするハチは,外敵から巣 合わせて出す”カチカチ”という大きな威嚇音を出す. を防衛する手段として攻撃性が発達している.そのた この段階で静かに巣から離れれば攻撃を受けずに め,直接,間接を問わず巣に刺激を加えると毒針を武 すむが,さらに巣に近づいたり,急に向きを変えるな 器にして攻撃してくる. どして体を動かすと一斉に攻撃してくる. 毒針は産卵管が変化したものなので,刺すのはメス 攻撃性の強さは営巣規模とよく一致しており,規模 だけである.巣を守るという役割は働きバチと呼ばれるメ が大きな種ほど危険である.攻撃性は強い方から,オ スが受けもっている.女王バチも毒針を持っているが働 オスズメバチ >= キイロスズメバチ >= モンスズメ きバチほど攻撃的ではなく,女王バチによる単独営巣 バチ >= コガタスズメバチ >= 期には,巣をつついても女王はそのまま逃げ去ることが になっている. ヒメスズメバチの順 名古屋市におけるデータでも,刺傷被害の発生率 ほとんどである. 攻撃の方法は,ハチの体が相手にぶつかった瞬間に (それぞれの駆除件数に対する被害の発生件数の割 反射的に刺し,すぐさま針を引き抜いて相手から離れる 合)は,オオスズメバチとキイロスズメバチがいずれも2 のが一般的である.しかし,スズメバチの場合は,再度 4.2%と高い割合であるのに対して,コガタスズメバチ 体制を立て直して攻撃してくるだけでなく,毒液(興奮 7.0%,モンスズメバチ 5.2%, ヒメスズメバチ 1.3 %とさらに低い値となっている. 物質)を相手の体や衣服に向けてまき散らす.この液は 警報フェロモンの働きを持っており,速やかにその場を コガタスズメバチは比較的攻撃性が弱く,巣に振 離れないと,さらに多数のハチの攻撃を受けることになり 動を与えたり急な動きをしなければ1m~2m程度まで 危険である.体当たりした際に6本の脚で相手にしがみ 近づいても攻撃してくることはない.しかし,ひとたび つき,大顎で噛みついたまま何度も刺す.スズメバチの 刺激を加えると一斉に攻撃してくるので油断は禁物 毒針はミツバチのように人を刺しても抜けることはなく, である. ヒメスズメバチは巣を直接刺激しても刺すことはほと 毒のある限り何度でも刺すことができる. んどないが,威嚇性が強く体にまとわりつくように周囲 ① 種による攻撃性の違い を飛び回る. スズメバチの攻撃性は種により大きく異なっている ただし,同じ種であっても,コロニーの発達段階, が,いずれの種も不用意に巣を刺激しない限り,いき 巣への干渉(いたずらなどで投石を受けたり,何らか なり攻撃してくることはまれである. オオスズメバチとキイロスズメバチは比較的攻撃性 の理由で刺激を受けた巣),オオスズメバチの飛来 が強く,しばしば刺傷被害が発生する.秋口に集団 (秋口にオオスズメバチが飛来すると,オオスズメバチ 被害の原因となるのも主にこの2種である. の集団攻撃に対する警戒心が強まる),女王バチの スズメバチの巣では,常に門番(見張り役)のハチ 有無(女王バチが死亡するとしばらくの間巣内の緊張 が巣穴から顔をのぞかせ周囲を警戒している.オオス が高まる)などによって,警戒や反撃行動が高まり, -1- 都市のス ズメバチ 素早い攻撃を加えてくることがあるので注意が必要で 注意が必要である. ある. 被害は他の種とは異なり10月が最も多く,次いで9 いずれの種も巣に物理的な刺激を加えなければ, 月となっている.これは本種の営巣場所が土中や樹 かなり近くを繰り返し通行してもハチは人間に関心を 洞であるため,秋になり山野に出かける機会が多くな 示さないばかりか,逆に反応を示さなくなることが知ら ると,遭遇する機会が増え被害も増加すると考えられ れており,営巣場所の状況次第ではハチとの共存が る. 可能である. キイロスズメバチと同じく引越の習性があるモンスズ ② 刺傷被害の発生時期とその原因 メバチも,8月に最も被害が多くなっている. 刺傷被害の大半は 8月~10月の3ヶ月間に発生 秋の行楽シーズンになると野外活動に出かける機 し,中でも9月が最も多くなっている.名古屋市のデー 会が多くなり,スズメバチによる集団刺傷被害がしば タでもこの3ヶ月間に約80が発生している.被害の発 しば発生している.発生場所は大半が山の中である 生件数はコロニーの発達状況とよく一致しており,い が,都市近郊でも同じような被害が発生する可能性 ずれの種も巣が大きくなり活動が活発となる時期ほど があるので油断は禁物である. 危険である. いずれも集団で巣の近くを通行したり動き回った結 また,8月~10月には,オオスズメバチが他種のス 果被害が発生しており,集団の中に子供が含まれて ズメバチの巣を集団で攻撃し,幼虫や蛹を餌として持 いるケースが半数以上を占めている. ち帰る.その前段階として偵察バチが飛来するように 被害の原因となったスズメバチの種は,新聞報道 なると,キイロスズメバチやモンスズメバチでは巣全体 などでは単にスズメバチと記載されることがほとんどで が神経質になり,人が巣から数m~15m以内に近づ あるが,営巣場所や被害の状況などから,大半がキイ くと攻撃してくることがある. ロスズメバチかオオスズメバチのいずれかだと考えら コガタスズメバチによる被害は9月が最も多く,次い れる.キイロスズメバチは営巣規模も大きく攻撃性も で8月,10月の順となっている.7月にもかなりの被害 強いため,野外活動の際には特に注意が必要であ が発生しており,営巣規模の小さな6月にも被害が発 る.9月以降は,営巣活動が最盛期を迎え,防衛本能 生することがあるので注意が必要である.樹木に作ら が高くなるとともに,オオスズメバチの襲撃に対して警 れた巣が原因となって発生する場合が大半で,庭木 戒態勢に入っており,付近を大勢で通行すると突然 の手入れなどで誤って巣に触れたり,枝などを揺らし 攻撃してくることがある. て巣を刺激した結果刺されるケースが多い.被害が ③ ハチ刺されと症状 発生した巣の平均の高さは1.6mと大人が手を伸ばす 刺された後の症状は個人差が大きく,またハチの と届く高さであった. 種や毒の量,刺された場所やその時の体調等によっ キイロスズメバチの被害は5月~11月と長期にわた ても反応が異なるが,一般的には激しい痛みと刺され っているが,8月が最も多く次いで9月となっている.こ た場所が赤くなったり腫れたりする.このような即時型 れは本種が初期の営巣場所が手狭になると軒下など の反応はハチ毒中のヒスタミンやセロトニンなどのアミ の開放空間に引越をする習性があり,それに伴って ン類の直接作用によるもので,普通数時間程度で消 被害が増加すると考えられる.被害が発生した巣の 失する. 平均の高さは2.9mと手を伸ばしても届かない高さで, その後,遅延型の反応として刺傷後2~3日目をピ そのため巣に触れたケースは駆除作業中などの9件 ークに1週間程度腫れが続くことがあるが,これはアレ のみであった.26件はたまたま近くを通行したか,近 ルギー反応によるものだと考えられている.症状は1 くにいただけで被害にあっており,本種の攻撃性の 週間程度で軽快するが,腫れが引いた後もしばらく 強さがうかがわれる. 痒みが続く.時にはもっと遅く,1週間位たってから症 オオスズメバチは地中や樹洞に営巣することが多 状が現れる場合もあるので注意が必要である.その く,近くを通行した際の振動が巣に伝わり攻撃される 他,軽症の場合でも蕁麻疹や体のだるさ,息苦しさを ことがある.そのため集団被害が発生しやすいので 感じることがある. -2- 都市のス ズメバチ 中程度の症状としては,のどがつまったような感じ 示すが,時間の経過とともに低下するのが普通であ や胸苦しさ,口の渇き,腹痛,下痢,嘔吐,頭痛,めま る.大多数の人は約半年から1年位で抗体価が1/2に いなどがみられる. 低下するが,全く変わらない人もいる.また過去に刺 重症になると意識がハッキリしなくなり,さらに悪化 されたことがないにも拘わらず抗体価が高い人もある すると,痙攣を起こしたり意識が無くなる他,血圧の低 ので注意が必要である.この場合は時間が経過して 下がみられ,まれには死に至ることがある.ショック症 も抗体価はあまり低下しないことが多い.このように抗 状が現れるまでの時間が短いほど危険性が高い. 体価が低下しない人は血液中の総IgE値(アレルギー 子供がハチに刺された時の症状は,ひどい場合で 体質の目安になる)が高い傾向がある. も全身性蕁麻疹や血管性の浮腫などで,重症になる 再度刺されると抗体価は再び上昇するが,上昇の ことは少なく,ショック症状を起こすことは極めて稀とさ 程度は必ずしも同じではない. れている. スズメバチとアシナガバチの毒には共通性成分が 頭部や手(腕)を刺される事例が目立つが,これは 多く交差性が認められる.スズメバチに刺されてもア スズメバチが黒い色や,動くものを攻撃することが多 シナガバチの抗体価が上昇するケースや,この逆も いためである. あるので,アシナガバチにも刺されないように注意す ハチ刺されとその後の症状については,”刺されて る必要がある.またミツバチについてもスズメバチやア みないと分からない”というのが実状である.しかしな シナガバチと交差性が認められるケースもある. がら現在までの報告から,次のような条件に当てはま スズメバチ,アシナガバチ,ミツバチの3種のハチ毒 る人は危険性が高いと考えられる. について,血液中のIgE抗体価を検査することができ ●40歳以上の男性 る.ハチに刺される危険性の高い人や,以前刺され ●以前刺された時症状が重かった た時に症状が重かった人は,一度検査をして自分の ●抗体価が高い 抗体価を知っておくと良い.かかりつけの医師か最寄 ハチ毒の成分は大きく分けてアミン類,低分子ペ りの病院などで相談できる. プチド,酵素類の3つの区分される.刺された時の激 ⑤ アナフィラキシーショック しい痛みはヒスタミンやセロトニンなどのアミン類や, 免疫反応はウイルスや細菌,異物など(抗原)が体 ハチ毒キニンなどにより引き起こされる.その他,肥満 内に侵入した時にこれを排除する仕組みで,抗原抗 細胞に作用し,ヒスタミンを遊離させる働きをする成分 体反応とも言われる. や,血圧降下,平滑筋収縮,組織破壊などを引き起 抗原の侵入により体内に抗体が作られるため,同 こす成分が含まれていて,さまざまな症状を引き起こ じ抗原が2回目に体内に侵入した時には,1回目より す.ハチ毒にはホスホリパーゼAやヒアルウロニダー も急速で強い反応が起こる. ゼなど多数のアレルゲンが含まれており,種により異 抗体は血液中にできるタンパク質の1種で,免疫グ なっているが,分類学的に近縁関係にあるスズメバチ ロブリンとも呼ばれており,IgG,IgM,IgA,IgD,IgEの とアシナガバチでは,共通する成分も少なくない. 5種類が知られている. 毒の強さ(LD50値:複数のマウスに毒を注射して半 予防接種はIgG抗体の働きにより感染症の予防に 数の個体が死亡する毒量を体重1kg当たりに換算. 有効である.また,養蜂家など普段からハチに刺され 数値が小さいほど毒性が強い.)は,意外にも攻撃性 る機会の多い人が,何度も刺されているうちに強い症 の弱いセイヨウミツバチとヒメスズメバチが2.8mg/kgと 状が出なくなることがあるが,これもIgG抗体の働きで 強く,キイロスズメバチが3.1mg/kg,オオスズメバチが ある. 4.1mg/kgとなっているが,被害の程度は毒性の強さ 一方,この免疫反応が生体に不利に働き,さまざま だけではなく,毒の量に大きく影響されると考えられ な障害を引き起こす場合をアレルギーという.アレル る. ギー反応は,発症までの時間が短い即時型反応(Ⅰ ④ ハチ刺されと抗体価 型,Ⅱ型,Ⅲ型)と,発症まで時間がかかる遅発型反 抗体価は一般に刺された後1~2週間で高い値を 応(Ⅳ型)の4種類に分類され,それぞれ関与する細 -3- 都市のス ズメバチ 胞や物質が異なっている.アナフィラキシー症状はIg エピペンの投与対象者は,ハチ刺傷によるアナフ E抗体が関与するⅠ型アレルギーにより引き起こされ ィラキシーの既往のある人,またはアナフィラキシーを る. 発現する可能性の高い人(ハチ刺傷時に全身症状 ハチ刺傷により抗原となる物質(ハチ毒)が体内に が見られ,かつ抗体価が高い人)である.症状出現後 取り込まれると,ハチ毒に対する特異的IgE抗体が作 30分以内(遅くとも60分以内)に注射すれば,高い確 られ,体内で肥満細胞と結合する.これを感作の成 立で死亡事故を減少させる効果が期待できる. 立という. ただし,適正に使用しないと重大な事故につなが 2回目の刺傷により抗原(ハチ毒)が再度体内に取 る可能性があるので,使用に当たっては十分な注意 り込まれると,肥満細胞の表面で抗体と結合し(抗原 が必要である. 抗体反応),肥満細胞からヒスタミン,ロイトコリエンな どの化学伝達物質が体内に放出され(脱顆粒),体 (2) スズメバチに刺されないために の各臓器に作用して,くしゃみや鼻づまり,じんま疹 ① 攻撃を受けやすい動き などの様々な症状を引き起こす. スズメバチは横への動きに反応しやすいので,ハ この反応は極めて短時間(数分~30分以内)に起 チを手で払ったり,急に向きを変えるなどの動きは危 きるため,即時型反応といわれる.このうち,呼吸困 険である.もし巣を見つけた場合は静かに後ずさりし 難や血圧低下などの全身的な反応をアナフィラキシ て巣から離れる.スズメバチは外敵から巣を守るため ーと呼び,生死に関わる重篤な症状を伴うものをアナ に,巣に近づくと次のような警戒や威嚇の行動をと フィラキシーショックという. る. ハチに刺されたことによる死亡例は,ほとんどがア ・相手の周りをまとわりつくように飛び回る. ナフィラキシーショックによる血圧の低下と上気道の ・相手に狙いをつけて空中で停止(ホバリング)する. 浮腫による呼吸困難が原因である.ショック症状は顔 ・あごをかみ合わせて”かちかち”という音をたてる. を含む頭部や頸部を刺された場合に多く発現する傾 警戒のハチが近寄ってきた場合は,姿勢を低くし 向がみられ,極めて短時間で発現する.症状がでる てハチが飛び去るのを待ち,ゆっくり巣から離れる. までの時間が短い程重症になる可能性が高く危険で 特にオオスズメバチは,巣の近くで動く黒い物体に対 ある.少しでも変わった症状がみられたら速やかに医 して,非常に敏感に反応するので注意が必要であ 療機関に受診する必要がある. る. ハチ刺傷が原因で死亡する人の数は,厚生労働 ② 攻撃を受けやすい色彩と身なり 省の人口動態調査で知ることができる.最も死亡者が スズメバチはいずれの種も黒色に対して激しく攻撃 多かった1984年には,全国で73人もの人が亡くなっ する.白色や黄色,銀色に対しては反応は弱く,ほと たが,最近は毎年30人以下である. んど攻撃しない.ただし,たとえ白色であっても,いっ 男女別にみる と圧倒的に男性が多く,ここ10年間のデータをみて たん攻撃を受けたあとでは安全とは言えない. も,男4:女1の割合となっている. ”なぜ黒いものを攻撃するのか”については,人間 被害は都市部では少なく,山林やその周辺で多く をターゲットにしたものだとする説が有力である.スズ 発生しているが,こうした場所では医療機関が近くに メバチを食用にする習慣は世界各地にあるが,スズメ ないため,速やかに治療が受けられず手遅れとなる バチを食べる人種は全て髪が黒色であるという共通 ケースが多いためであろう. 点がある.スズメバチ食の本場であるの中国の雲南 アナフィラキシー症状を緩和するためのアドレナリ 地方では,膨大な量のスズメバチの巣が食用として ン自己注射器「エピペン」が,医師の処方により入手 市場に出回る.長い人間とのせめぎ合いの中で,”ス できるようになった.主成分はアドレナリンで,初期症 ズメバチは最強の天敵?である髪の黒い人間に対し 状の発現後,ショック症状が発現する前に注射する. て攻撃するようになった”と考えられている. アナフィラキシーの徴候や症状を感じた時に速やか 着衣,ひらひらするものなどは巣の近くでは攻撃を受 に注射すると症状を軽減させる効果がある. けやすいので注意が必要である.その他カメラや長 -4- 黒い 都市のス ズメバチ 靴など黒くて動くものも危険である.匂いもハチを刺 はいけない.たとえ飲み込んでも消化管からは吸収さ 激する.ヘアスプレーや香水などの化粧品,汗の臭 れないが,口内に傷があると傷口から体内に入るの いなどにも敏感に反応する. で危険である.毒を薄める効果(水溶性のタンパク質 ③ 巣の所在が分かっている場合の対応 が水に溶ける)と傷口を冷やし,腫れや痛みを和らげ 巣に気づいたら,不用意に近づいたりいたずらをし る効果が期待できる.インセクトポイズンリムーバーや てハチを刺激しないようにする.巣に直接触れたり, エクストラクターなどの毒液を吸い出すための器具が 棒や石などで刺激を加えることはもちろん,枝を揺ら 輸入販売されているので携行すると良い. したり,近くで作業をしてハチを刺激しないように注意 ③ 患部に虫刺されの薬を塗る する.一般におとなしいとされている種でも,巣に刺 患部に虫刺されの薬(抗ヒスタミン軟膏)を塗る.ア 激を与えると激しく攻撃してくる. ンモニアは全く効果がないので注意する.その他に ④ 巣が付近になくて,ハチが飛んでいる場合の対応 ハチ刺傷時の民間療法として,渋柿の汁を塗る,アロ 作業をする時はハチを刺激しないように,長袖で白 エの汁を塗る,タマネギの汁を塗る,ヘクソカズラの汁 っぽい服装をする.また頭部は攻撃を受けやすいの を塗る,スズメバチ酒を塗るなどが知られているが,い で帽子をかぶり,軍手などをはめて露出部分を少なく ずれも効果についてはよく分かっていない. する. ④ できるだけ速やかに医療機関を受診する オオスズメバチに限っては,餌場においても縄張り 以上の処置を施した後,できるだけ速やかに医療 意識が強く働くため,攻撃してくることがあるので,樹 機関を受診すること.ハチ刺傷による症状は,局所の 液にやってきたハチを刺激しないように注意する. 皮膚症状 → 全身性の皮膚症状(全身の蕁麻疹, ⑤ ハチが室内や車内に入ってきた時の対応 掻痒感,紅斑) → 消化器症状(胃痛,吐き気,おう 室内や車内にハチが入ってきた場合は,窓を開け 吐など) → 呼吸器症状(呼吸困難,喘鳴) → 循環 て出ていくのを待つ.ハチは明るい方へ向かう性質が 器症状(虚脱,不整脈,狭心症)などである.治療は あり,そっとしておけば自然に外へ出て行く.たたい それぞれの症状を緩和するための対症療法が中心 たり追いかけ回さない限り決して人を刺すことはない で特効薬はない. ので,あわてずに対処する. 窓ガラスなどに止まったまま外へ出ていかない時 (4) アナフィラキシー症状出現時の対応 は,団扇などに止まらせて外へ出すようにする. ①アドレナリン携帯自己注射キット(エピペン)を携 行している場合は,直ちに自己注射する. (3) 刺された時の対処法 ②その場で体を横たえ,脚を少し高くする. ハチに刺されないようにいくら注意していても,不幸 ③おう吐がある場合は顔を横に向けて窒息しないよ にして被害にあうことも少なくない.もしもハチに刺され うにする. てしまったら,落ち着いて次のように行動する. ④できるだけ速やかに最寄りの医療機関を受診す る. ① 刺された場所が巣の近くなら,速やかにその場所か ら離れる 1匹のハチに刺されると毒液(興奮物質)が空中にま き散らされるため,多数のハチの攻撃を受けることが あり危険である.スズメバチが追いかけてくる距離は 種により違うが,概ね10m~50m程度で,普通は20m ~30mも離れれば心配ない. ① 傷口を流水でよく洗い流す 傷口を流水(水道水など)でよく洗い流すし,手で 毒液を絞り出すようにする.この際,口で吸い出して -5-