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「できる」「わかる」 「かかわりたくなる!!」 体育学習

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「できる」「わかる」 「かかわりたくなる!!」 体育学習
平成24・25・26年度
研究紀要
「できる」「わかる」
「かかわりたくなる!!」
体育学習
~子ども同士のかかわりを意識した授業づくり~
大津市小学校体育連盟
研究・研修部
目次
Ⅰ.はじめに
Ⅱ.研究の概要
・・・・・1
1.研究主題
・・・・・2
2.主題設定の理由
3.目的
4.仮説と手立て
・・・・・3
5.方法
・・・・・5
6.授業実践表の見方
・・・・・6
Ⅲ.平成24年度研究
<体育授業における子ども同士の「かかわり」とは>
1.
「かかわり」のイメージを共有するために
(1)授業構成について
・・・・・8
2.実践記録
(1)夏季研修講座
・・・・10
(2)授業実践①
6年 ボール運動領域 ゴール型
・・・・11
(3)授業実践②
3年 ゲーム領域 ゴール型ゲーム
・・・・15
(4)考察
Ⅳ.平成25年度研究
・・・・19
<「できる・わかる」と「かかわり」との関係性>
1.学びを深める手段となる「かかわり」
(1)授業構成について
・・・・22
2.実践記録
(1)授業実践①
4年 器械運動領域 マット運動
(2)夏季研修講座
・・・・23
・・・・26
(3)授業実践②
6年 器械運動領域 鉄棒運動
・・・・27
(4)授業実践③
3年 器械運動領域 跳び箱運動
・・・・31
(5)考察
Ⅴ.平成26年度研究
・・・・34
<子どもの学びを深める「かかわり」を生み出す>
1.教師によって意図的に生み出される「かかわり」
(1)授業構成について
・・・・38
2.実践記録
(1)夏季研修講座
・・・・39
(2)授業実践①
6年 陸上運動領域 走り高跳び
・・・・43
(3)授業実践②
6年 ボール運動領域 ゴール型
・・・・46
(4)授業実践③
6年 ボール運動領域 ゴール型
・・・・49
3.研究部員の「かかわり」を意識した授業実践
・・・・55
Ⅵ.研究のまとめ
1.成果
・・・・72
2.課題
・・・・76
Ⅰ.はじめに
私が初任者だった頃、1年生の体育授業を参観させて頂きました。当時は、学習指導要
領改訂前だったので、基本の運動領域の「器械・器具を使っての運動遊び」の学習でし
た。学級全員が「うさぎ」になりきって、設定されたさまざまな場にチャレンジしてい
く授業展開で、中・高学年の跳び箱運動につながる場がたくさん設定されていました。
1年生の子どもたちは、
「うさぎとかめ」のストーリーに引き込まれていき、それぞれの
場を楽しみながら自然と動きを身につけていました。体を大きく投げ出してセーフティ
ーマットにとびこむ子、両足でロイター板を強く踏み切ってステージに跳び上がる子、
机と机の間を両腕でしっかりと支えて川とびをする子、たくさんならべられた丸イスを
リズムよく連続して跳ぶ子・・・目を輝かせながら運動する子どもたちの姿が印象的で
した。体育授業をほとんど見たことがない私にとって、どのような授業が「良い」授業
なのか、頭の中にイメージすらありませんでしたが、この授業を参観させて頂いて「良
い授業だな」
「こんな授業をしてみたいな」と強く思ったことを今でもよく覚えています。
みなさんは、どんな体育授業が「良い授業」だと思いますか?できない子ができるよ
うになった授業、子どもたちがたくさん運動している授業、運動の魅力に引き込まれて
楽しんでいる授業・・・その他にもたくさんあると思います。この1年生の体育授業は、
例に挙げた3つの授業にすべて当てはまっていて「学びに勢いのある授業」だと思いま
す。しかし、私は他の観点からも「良い授業」だと感じました。それは「友だち同士の
かかわり合い」です。この授業では、それぞれの場で「スーパーうさぎマン見つけ」と
いう友だちの良い動き、憧れる動きを見つける活動が仕組まれていました。スーパーう
さぎマンを見つけるグループは、友だちの動きをよく見て、どこが「スーパー」なのか
を見つけていました。そして、活動する時には、スーパーうさぎマンの真似をして自分
の動きを高めていました。また、スーパーうさぎマンに選ばれた人はビブスを着せても
らい、さらに意欲的に活動に取り組んでいました。このように、個人で運動するだけで
なく、友だち同士で「かかわり合い」ながら運動することによって、個人で運動する以
上の成果が得られているように感じました。私は、このような子どもたち同士でつくる
学習の雰囲気からも「良い授業」だと感じたのです。そして、
「このような主体的な学び
の姿が生まれる授業はどのようにすれば作れるのだろう」と体育の授業づくりを勉強し
ていくきっかけを与えてもらった授業でもありました。
大津市小学校体育連盟の研究・研修部は、運動することの楽しさ、面白さ、できるよ
うになる喜びが感じられる体育学習を目指して活動しています。平成24年度~平成2
6年度の3年間は「できる」「わかる」「かかわりたくなる!!」体育学習ということで
子ども同士のかかわりを意識した授業づくりに焦点を当てて研究を進めてきました。研
究内容や研究部員の実践、大津市学校体育研究発表大会の取り組みの詳細、成果や課題
についてはこの研究紀要に紹介させていただいております。どうぞ目を通していただき、
本研究に対してご意見、ご指導をよろしくお願いします。
大津市小学校体育連盟
-1-
研究・研修部長
福住
剛己
研究の概要
Ⅱ.研究の概要
1.研究主題
「できる」「わかる」「かかわりたくなる!!」体育学習
~子ども同士のかかわりを意識した授業づくり~
2.主題設定の理由
現在、教育現場では、いじめ、不登校、学級崩壊などさまざまな問題が起こっている。その要因の
一つとして人間関係の希薄さ、人と人との豊かなかかわりの欠如による他者理解、感情の理解の不足
が挙げられている。その要因が生まれる背景として、近年、インターネットを通じたコミュニケーシ
ョンが子どもたちに急速に普及していることが考えられる。このようなコミュニケーションの方法は
外遊びや自然体験等の機会を減少させ、子どもたちの身体感覚や他者との関係づくりに負の影響を及
ぼしていると言える。
このような現状から体全体を動かし学習する体育科の役割は大きいと考える。体育科は体を思いっ
きり動かすことで気持ちが解放され、他教科よりもかかわりが生まれやすい教科である。体育科の学
習で自分の思いを伝えたり、他者の感情や思いを受け止めたりする経験をたくさん経験し、かかわり
が豊かになれば、人間関係が上手く築けるようになり、生涯を「生きる力」を育てることができる。
また、仲間とのかかわりは体育科の学びには絶対に必要なものである。体育科は他教科と違って、
自分がどれだけできているかを自分の目で見ることができない。そこで、仲間とかかわることで自分
の動きを客観的にとらえられ、初めて自分の姿を知ることができる。そして、アドバイスや仲間の姿
を見てコツをみつけたりすることで運動が分かり、身体感覚を伝えたり、感じたりすることで運動が
できるようになる。このように、かかわりは技能の向上に密接に関係しているのではないだろうか。
さらに、かかわりは主体的な学びを生む。かかわりが豊かになればよりできる・わかるが深まる。そ
して、もっと「かかわりたい」というように学習意欲が高まり、さらに技能も向上するのではないだ
ろうか。このようなことから「かかわり」を意識した体育学習を研究していきたい。
3.目的
本研究は、子ども同士の「かかわり」を意識して授業を構成し、学習の中でどのようなかかわりが
生まれているのか、また、その「かかわり」が児童の「できる」
「わかる」にどのような影響を与えて
いるのかを検証する。そして、運動が好き、体育が好きな子どもの育成において「かかわり」がどの
ような役割を果たすべきなのかを検討する。
-2-
4.仮説と手立て
平成24年度 <体育授業における子ども同士の「かかわり」とは>
仮説1
教師のつけたい力の「学びの面」の支援を充実させれば、
「かかわり」が
生まれるだろう。
手立て
①授業づくりの基本「ABC」を意識して授業を構成する。
②授業構成段階に「めざすかかわりの姿」を描き、「学びの面の支
援」を充実させる。
③体育授業で必要な「かかわり」のイメージを共有する。
○情報の主な内容
・技能のポイント
子 ど
・現状分析(どうなっている)
・課題の指摘、進歩の評価(どこがよくて、どこが悪いのか)
・意識するポイントの助言(こうしてみたら)
・気持ち(うれしい、苦しいなどの感情)
○情報を伝える手段
子ども
<言語的な活動>
言葉、擬音語、擬態語、絵図
<身体的な活動(非言語)>
身振り、示範、補助
-3-
かかわり
・身体感覚(こんな感じ)
平成25年度 <「できる・わかる」と「かかわり」との関係性>
仮説2
学びの質が高まれば、「できる」「わかる」につながり「かかわり」が生ま
れるだろう。
手立て
①授業づくりの基本「ABC」を意識して授業を構成する。
②「かかわり」を「教師のつけたい力(B)が向上するような子どもたち
同士のやりとり」と定義し、かかわりが生まれてくる授業を構成す
る。
③授業構成段階に「めざすかかわりの姿」を描き、
「学びの面(できる・
わかるにつながる学び方)の支援」を充実させる。
④授業で生まれている「かかわり」がどの段階だったのかを下の図を
基準に見ていく。そして、
「かかわり」の段階を深めるために必要な
支援を再構成する。
教
教
教師
子
子
子
子
子
子
平成26年度 <子どもの学びを深める「かかわり」を生み出す>
仮説3
「できる」
「わかる」を積み上げ、子どもたち同士が「かかわりたくなった」
時に、教師の意図的なかかわりを生み出す支援を打てば、
「かかわり」が生
まれ、技能がさらに向上するだろう。
手立て
①授業づくりの基本「ABC」を意識して授業を構成する。
②「できる」
「わかる」を積み上げていき、かかわりたくなる時が生ま
れるような授業を構成する。
③授業構成段階に「めざすかかわりの姿」を描き、
「かかわりを生み出
す支援」を充実させる。
④授業では、
「意図したかかわりが生み出されていたか。生み出された
かかわりによって技能は向上していたか」を見ていく。そして、か
かわりを生み出す支援の有効性を検討する。
<「かかわりたくなる!!」時>
<かかわりを生み出す支援>
・課題設定(学びの向かう先がはっきりしている)が適切な時
・場と教具
・「できた」感を持つことができた時
・声かけ
・運動そのものが持つ魅力を味わえた時
・課題設定、学習カード
・自分の動きにこだわりを持った時
・グループ活動
-4-
5.方法
1 年目(平成24年度)
<体育授業における子ども同士の「かかわり」>
①夏季研修講座
平成 24 年 8 月 9 日
DVD『ホップ ステップ 体育』の模擬授業
『かかわり』を生むための支援を意識した授業提案
②大津市学校体育研究発表大会
研究授業
2本
平成 24 年 12 月 6 日
大津市立志賀小学校
角
平成 25 年 2 月 8 日
大津市立長等小学校
山本 一斗 教諭
裕
教諭
2年目(平成25年度)
<「できる・わかる」と「かかわり」との関係性>
①研究部提案授業
平成 25 年 6 月 25 日
大津市立瀬田小学校
宇野 史哲 教諭
②夏季研修講座
平成 25 年 8 月 9 日
授業づくりのポイント(ABCの考え方、単元を意識した授業づくり、教師の支援、
かかわりについて)を模擬授業を通して、体験しながら学ぶ。
③研究部提案授業
2本
平成 25 年 12 月 3 日
大津市立唐崎小学校
福住 剛己 教諭
平成 26 年 1 月 31 日
大津市立日吉台小学校
岡山 駿
教諭
3年目(平成26年度)
<子どもの学びを深める「かかわり」を生み出す>
①夏季研修講座
平成 26 年 8 月 1 日・20 日
授業づくりのポイント(ABCの考え方、単元を意識した授業づくり、教師の支援、
かかわりについて)を模擬授業を通して、体験しながら学ぶ。
②大津市学校体育研究発表大会
研究授業
3本
平成 26 年 10 月 28 日
大津市立石山小学校
森田 拓磨 教諭
平成 26 年 11 月 11 日
大津市立真野北小学校
北脇 俊宏 教諭
平成 26 年 11 月 27 日
大津市立瀬田東小学校
小堀 文雄 教諭
③研究部員の「かかわり」を意識した授業実践
-5-
6.授業実践表の見方
授業実践
学年・領域
○年 ○○○ ○○○○○
単元名
○○○○○○○
指導によせて
A:子どもがひかれるもの
B:教師のつけたい力
動きの面
・子どもから見たその運動や動
めざす「かかわり」の姿
きが持つ特有のおもしろさ。
・運 動 す る に あ た っ て 子 ど も
が魅 了 され続 けるもの。
学びの面
「かかわり」とは、教師のつけ
たい力(B)が向上するような
・授業内容で子どもが夢中(授
子どもたち同士のやりとりと
業の核)になるもの。
定義づけし、動きの面、学びの
面が「めざすかかわりの姿」に
「子 どもが身 につけてほし
い・気 がついてほしい動 きや
思 考 」を子 どもの姿 で描 く。
《動 きの面 》 と《学 びの面 》に
分 け て、 ひ と つず つぐ ら いに
絞 る。
含まれる。
C:A と B の重なりを大きくする支援
この支援とは、授業計画における支援。つまり、(A)子どもがあ
こがれたり惹きつけられたりする面を明らかにし、(B)一方教師側
から見てつけたい力も明らかにした上で、その二つの視点を近づけて
いく計画上の支援。
二つの視点を近づけていくために、どのような方法を用いるか、ま
た ど の よ う な 工 夫 を す る の か を 記 述 す る 。た と え ば 、場 づ く り の 工 夫 ・
ルールの工夫・課題づくりの工夫・学習の進め方の工夫などがあげら
れてくる。
平成24・25年度は学びの面の支援を意識して授業を構成した。
かかわりを生み出す支援 (平成26年度の研究)
単元計画を立てるにあたって、
「できる」
「わかる」が積み上がった「かかわり
たくなる時」を考え、本時(かかわりたくなる時)において、かかわりを生み出
す支援を考える。この授業で、この支援を打つことでかかわりが生まれ子どもた
ちの学びの勢いが増し、今まで以上につけたい力に向かって生き生きと活動し、
技能が向上するような支援。
-6-
単元計画
時間
(全5時間)
1
単元名
○学習活動
「 ○○○○○○○○○○○○○○ 」
2
3
4
学習
課題
単元計画では、
毎時間の
学習課題
を記述している。
学習活動「○」
教師の支援「・」
学 習
また、かかわりを生み出す支援(平成26年度の研究)をどの時間に取り
入れたのかが分かるように、丸囲みで区別して記述している。
内
容
かかわりを生み出す支援
・ボールを持たない動き
に目を向ける発問
「素早い攻撃をするため
にボールを持っていない
人はどう動いたら良いで
しょうか?」
・教師の支援
5
平成24年度研究
<体育授業における子ども同士の「かかわり」とは>
Ⅲ.平成24年度研究<体育授業における子ども同士の「かかわり」とは>
1.「かかわり」のイメージを共有するために
(1)授業構成について
平成24年度の研究では、
「かかわり」のイメージを共有することを目的とした。そのため、授業
の中で子ども同士の「かかわり」が生まれるような授業構成を考える必要がある。先にも述べたよう
「良い授業」
に「かかわり」は良い授業であれば必ず生まれてくるということが言える。では、
とはいったいどのような授業を言うのであろうか。高橋健夫氏は次のように述べている。
<すぐれた体育授業の特徴>
学びに勢いがある
~「すぐれた体育授業を観る 解説 高橋健夫」より抜粋~
①学習場面に多くの時間が配当されている。特に運動学習場面の時間量が潤沢である。
②マネジメント場面(移動、待機、用具の準備・後片付け等)やインストラクション場面(教師に
よる説明・演示・指示)の時間量や頻度が少ない。
③運動学習場面での学習従事の割合が高い。学習従事には直接運動に従事することのほかに、審
判、補助、助言などの役割行動への従事も含まれている。
④学習場面でのオフタスク行動(課題から離れた行動)が少ない。ふざけたり、サボったりしてい
る者が少ない。
⑤「大きな失敗や困難」を経験している者の割合が低い。単なる運動量ではなく、学習従事量(学
習密度)が重要。
学習の雰囲気がよい
①協同的活動、賞賛、助言、励まし、補助等の肯定的な人間関係行動の頻度が高く、審判に文句
を言う、ルールを巡るトラブル等の否定的な人間関係行動はほとんど生じない。
②学習活動に関わって、笑い、拍手、ガッツポーズ、ハイタッチ等の個人的・集団的な肯定的情
意行動が頻繁に見られる
このような「学びに勢いがあり、学習の雰囲気がよい」授業を「良い授業」とするならば、
「ねらい
を明確にした」授業構成を目指さなければいけないと言える。そこで、滋賀県では、
「A・B・C」と
いう考え方で授業を構成してきている。
A:子どもがひかれるもの
B:教師のつけたい力
C:AとBの重なりを大きくする支援
A C B
-8-
子どもたちは運動の何に魅力を感じて運動するのか
そして、教師がこの単元でどんな力をつけたいのか(ねらい)を明確にして授業を考えていく。
子どもたちは学習を楽しんでいるが、教師のつけたい力も身についている
という理想の授業を目指してAとBの重なりが大きくなる支援を考えていく。
AとBを焦点化していくことでどんな支援が効果的なのかが見えてくる。
このような考え方を体育授業の基本として研究を進めていく。
さらに24年度の研究では、めざす「かかわり」の姿を授業構成段階で具体的に描き出す。
「できる」
「わかる」ことで「かかわり」が生まれてくると考え、具体的な姿には、
「できた」「わかった」の姿
が含まれてくるであろう。また、その姿が生まれてくるように学びの面の支援を充実させていく。
「わ
かる」ことは、
「できる」につながる第1歩である。学習で「わかった」ことは、友だちに伝えたくな
る、みんなで共有したくなる、友だちに教えてもらいたくなるものである。学びの面の支援を充実さ
せ、生まれてきた子どもたちの「かかわり」の姿を共有していく。
構想図
A
B
教師のつけたい力
・学びの面(わかる)
・動きの面(できる)
子どもがひかれるもの
B
・めざす「かかわり」の姿を具体的に書く
「かかわり」は、
「できる」だけでは生まれてこない。
C
「できる」
「わかる」ことで「かかわりたくなる」
。
AとBの重なりを大きくする支援
今まで通り考えるが、
動きの面の支援だけでなく
学びの面の支援を必ず記述する。
(めざす「かかわり」の姿を意識した支援)
できた!わかった!
できない
わからない
主体的な学び
かかわり
かかわりたい
-9-
2.実践記録
(1)夏季研修講座
□1 研修テーマ 「できる」
「わかる」を深めるために「かかわりたくなる!!」体育学習
~2 学期から役立つ授業づくりのヒント~
□2 日時・場所・参加人数
平成24年 8月 9日(木)
瀬田小学校
29名
□3 内容
①「大津市における体育の授業つくりについて」
■ABC の授業つくり
②11.2 近畿小学校体育研究大会における大津市の取り組みについて
■成長を実感する体育学習 ~子どもの「こだわり」から授業をつくる~の説明
■過去 2 年間に大津市で取り組んでいただいた「陸上運動領域」の実践事例紹介と場つくりの体験(重点 C)の紹介
「ぐにゃおに」「わに~ん」
「ぶい~んマシーン」「段ボール跳び」など
③DVD『ホップ ステップ 体育』の模擬授業 ~ネット型の授業から~
■基本技能の習得からゲーム『キャッチバレー』につなげていく授業の流れ
■『かかわり』を生むための支援
④大津市の今後の研究について
■できた!わかった!「かかわりたい!!」体育授業
□4 アンケート結果(29名中20名回収)と主な感想
とても有意義だった
まぁまぁ有意義だった
どちらとも言えない
あまり有意義ではなかった。
全く有意義ではなかった
15名
5名
0名
0名
0名
■授業を考える際に、以前は子どもたちにつけさせたいことを盛りだくさんにしてしまうことがありました。ABC をそれぞ
れ考えることでポイントを絞った授業になるので今後に生かしていきたいです。
■午前中にしたいろいろな走り方は、どの学年にも活用できそうでとても参考になりました。実践する時は、子どもたち同
士のかかわりに目を向けながら取り組もうと思いました。
■実技や場の設定の仕方だけでなく、活動の意図を考えながら学ぶことができて有意義だった。カリキュラムシートをぜひ、
学校で他の先生に広めたいと思います。
■『かかわり』が大切であることは感じていますが、それを効果的に取り入れていくのは難しいので、第2・3ブロックの
授業研がとても楽しみです。
- 10 -
(2)授業実践①
平成 24 年 12 月 6 日
学年・領域
大津市立志賀小学校
角
裕
教諭
6年 ボール運動領域 ゴール型
単元名
「インテル入ってる?ナガトモサッカー!」
指導によせて
A:子どもがひかれるもの
B:教師のつけたい力
・シュートが決められた時
動きの面
めざす「かかわり」の姿
の喜び
・仲間と結果を共有する喜
び
・フリーになれる場所を見つけ、
・ゴールが狙いやすいフ
移動することができる。
リーになれる場所を見
学びの面
つけゲーム中や作戦タ
・得点をするためにチーム内で
イムで教え合う姿
話し合い、アドバイスをする
ことができる。
C:A と B の重なりを大きくする支援
<動きの面の支援>
○パス、ドリブル、シュートを意識した3つのドリルゲーム(補足資料①)
○攻守を分けたゲーム化の導入(補足資料②)
<学びの面の支援>
○兄弟チームによる客観的なアドバイス
兄弟チームを設定し、守備側でゲームに参加していない児童が攻撃をしている味方チームの「監督」「コー
チ」役になる。作戦タイムには、この「監督」
「コーチ」も一緒に参加し、アドバイスをする。
○監督、コーチのアドバイスシートの活用
<得点するために必要な動き>
上の表の中で一番チームが教えてほしいことは、フリーになれる場所に移動していた人はいたのか、だれだ
ったのか、どの場所だったのかということである。「監督」
「コーチ」は、
フリーになれていた人=パスをもらった人、シュートをした人
と考え、パスをもらった人、シュートをした人の名前と位置をアドバイスシートにメモして、後の作戦タイム
でこのアドバイスシートを使ってアドバイスする。単元が進むにつれてゴールに一番近いフリーの人とか、ゴ
ールを狙いやすいフリーの人などを見つけていけるように発問する。また、そのような人を生む作戦を考えて
いくように声をかける。
○作戦ボードの活用
事前に各チーム1枚ずつ、作戦ボードを用意しておく。マグネットを人やボールに見立てて扱い、チーム内
での作戦タイムに、より具体性を持たせたい。
- 11 -
単元計画
(全8時間)
時間
1
学習
ミニサッカーをや
課題
ってみよう!
○オリエンテーション
単元名
2
3
シュートチャンスをつくろう!
○準備運動をする。
・体操、ストレッチ
○試しのゲームをする。
・コートを小さくした
○学習活動
「 インテル入ってる?ナガトモサッカー! 」
○ドリルゲームをする。
・三角パス
4
5
6
7
8
フリーになれる場所で
ゴールが狙えるフリーな
チームの最強作戦
最強作戦を使って
プレーしよう!
場所でプレーしよう!
を考えよう!
たくさん点をとろう!
○準備運動をする。
○準備運動をする。
○準備運動をする。
○準備運動をする。
○ドリルゲームをする。
○ドリルゲームをする。
○ドリルゲームをす
○ドリルゲームをす
・1ゴールゲームとのつながりを
○「1ゴールゲーム」のルール
る。
る。
意識して取り組ませる。
変更について知る。
○「1ゴールゲーム」 〇ミニサッカーをす
ミニサッカーをする。
「ボールをしっかりとめて、狙った
○「1ゴールゲーム」のルール変更
・ナガトモゾーンを狭くする
で有効な作戦を考え
・児童のボール操作技
ところへパスを出す」
について知る。
ことを伝える。
る。
能や、スペースの理解
・ドリブルリレー
・教師の支援
る。
・「 1 ゴ ー ル ゲ ー
学
・ナガトモゾーンというドリブル
・フリーになりやすい場所を
・過去のアドバイ
ム」で学習してき
確認する。
スシートを使っ
たことを活かせる
「ボールをコントロールしてドリブ
が使える場所を新たに加える。
れているかを見る。
ルし、しっかり止まる」
・ナガトモゾーンのメリットを確
○「1ゴールゲーム」1 回戦を
て、上手くいった
ように、ナガトモ
認する。
する。
プレーを振り返
ゾーンのルールを
○作戦を考える。
る。
付け加える。
習
がどれだけ積み上げら
・1.2(ワン ツー)シュート
内
○振り返りをする。
・ミニサッカーで上手
「ゴール前に走りこんでパスをもら
いシュートをする」
容
くいかなかったことを
○「1(ワン)ゴールゲーム」の内容につい
全体で共有し、学習課
て知る。
題を見つけさせる。
○「1ゴールゲーム」をする。
・アドバイスシートの使い方を説
・アドバイスシートを使っ
・ゴール前でフリ
・フリーになれる
明する。
て、ゴールに近いフリーにな
ーになれるように
場所を見つけて動
れる場所を確かめ合ってい
することを意識さ
いている児童を賞
せる。
賛する。
○作戦を考える。
・ルールを理解出来るように黒板に図を
・アドバイスシートを使って兄弟
るグループを賞賛する。
かいたり、実際のチームを使ったりして
チームがアドバイスしているグ
○「1ゴールゲーム」2 回戦を
○「1ゴールゲーム」 〇振り返りをする。
説明する。
ループをとりあげる。
する。
をする。
○「1ゴールゲーム」をする。
○振り返りをする。
・プレー中にアドバイスの声
・フリーになれる
・シュートチャンスはどんな時か、ど
・フリーになるとパスやシュート
を出している児童を取り上
場所を見つけて動
うしたら作れるのかを見つけさせる。
がしやすいことを全体で共有す
げて紹介する。
いている児童を賞
○振り返りをする。
る。
○振り返りをする。
賛する。
〇振り返りをする。
補足資料
<①ドリルゲーム>
【三角パス】
「ボールをしっかりとめて、狙ったところへパスを出す」
・三角形になるように立って、隣の人にパスを出す。
・パスを出したら逆方向へダッシュする。
・1分間で何本パスを回せるか他チームと回数を競う。
・1分×2本する。
→前時の回数を目安に、記録向上を求めるという手続
きを組み入れる。
【ドリブルリレー】
「ボールをコントロールしてドリブルし、しっかり止まる」
・ドリブルして手前の線でボールを止める。
・1分間に何回バトンタッチできるか競う。
ワ ン ツ ー
【1.2シュート】
「ゴール前に走りこんでパスをもらいシュートをする」
・2人で行う。
・シュートを打つ人がゴール方向に走り込む。
・相手が手で転がしたパスを受ける。
・一度ボールを止めてシュートする。
(能力上位の子
は直接打つ)
・1人2本のシュートで何本決めたか競う。
*シュート位置にコーンを置く。
- 13 -
<②「1ゴールゲーム」の説明>
<コート>
立ち入り禁止ゾーン
ナガトモゾーン
ナガトモゾーン
守備
攻撃
<ルール設定>
・ドリブル(意図的にボールを運ぶこと)禁止。
・ボール保持者から直接ボールを奪えない。
(パスカット、シュートカットのみ)
・ボール保持者から1m離れる。
・攻撃時間1回につき20秒。
ナガトモゾーン
このゾーンには攻撃陣が何人入っても良い。 ドリブルもOK。 守備陣は入ることができない
- 14 -
(3)授業実践②
平成 25 年 2 月 8 日
学年・領域
単元名
大津市立長等小学校
山本 一斗
教諭
3年 ゲーム領域 ゴール型ゲーム
「 よばれてとび出てじゃじゃじゃじゃ~ん 」
指導によせて
A:子どもがひかれるもの
B:教師のつけたい力
・得点を決められた時の喜
動きの面
・パスがもらえる場所に動くこ
び
・作戦が成功した時の喜び
とができる。
めざす「かかわり」の姿
学びの面
・ボールをつなぐための
・パスがもらえる場所に気づく
動きを教え合う姿
ことができる。
C:A と B の重なりを大きくする支援
<動きの面の支援>
○早く、正確なパスをするためのドリルゲーム(補足資料①)
パスをつなげるために技術面の練習は欠かすことができない。早く、正確なパス回しを行うができれば、得点
チャンスを多く作ることができる。そのためにも、ボールを正確に投げる動きや確実に捕球する動きを高めてい
けるドリルゲームを行い、基礎技能を高めていきたい。
○得点するための動きを身につける「ホッとゾーン」ミニゲーム(補足資料②)
得点につながるための動きを身につけるために、ハーフコートを使い、攻撃チームと守備チームに分かれてゲ
ームを行う。攻撃チームには、数的優位な状況をつくったり、パスが安全にもらえたり、出したりできる「ホッ
とゾーン」をつくり、パスをつながりやすくしていく。
○「ホッとゾーン」ありのメインゲーム(補足資料③)
攻撃時に「ホッとゾーン」を使えるというルールで、オールコートでのゲームを行う。また、動きに制限のあ
るメンバーをつけることで、攻撃時、相手コート内に入った時には数的優位な状況を作り出す。
<学びの面の支援>
○安全にパスがもらえる場所の設置
どのような場所でパスをもらうことがいいのか気づくために、マットを利用してパスが安全に
もらえる場所「ホッとゾーン」を設置する。「ホッとゾーン」内には、相手は入ってくることは
できず、パスを出す側も安心してパスを出すことができたり、パスを受ける側も安心してパスを
受けたりすることができる。なぜ「ホッとゾーン」ではパスがつながるのかということに気づか
せ、
「パスがもらえる場所」とはどんな場所なのかということを気づかせていく。また、チーム
の作戦に応じた「ホッとゾーン」の位置を考えさせ、作戦を成功させる動きを身につけられるよ
うにしていく。
- 15 -
単元計画
(全8時間)
時間
1
学習
試しのゲームを
課題
しよう!
○オリエンテーション
単元名
○学習活動
「 よばれてとび出てじゃじゃじゃじゃ~ん 」
2
3
4
パスをつなごう!
5
6
パスがもらえる場所に動こう!
7
8
試合をしよう!
○準備運動をする。
○準備運動をする。
○準備運動をする。
○ドリルゲームをする。
○ドリルゲームをする。
○ドリルゲームをする。
・パス&ランは、パスした後にすぐ動くことができているか
・活動中、各ドリルゲームで意識することにつ
・オールコートでのゲ
を意識させる。また、キャッチがおろそかになりがちなので、
いて声かけを行う。
ームをする。
まずはキャッチすることが大切だと伝える。
・児童のボール操作技
○試しのゲームをする。
・教師の支援
○「ホッとゾーン」ありのゲームを行う。
(1回目)
学
○「ホッとゾーン」の使い方について確認する。
・試合は、オールコートで3分間とする。
・パスゲームは、パスがもらえる時はどんな時かを考えさせ、
・前時の活動から「ホッとゾーン」の有効活用
・動きに制限のあるメンバーをつくり、数
能や、スペースの理解
敵と自分の位置関係に注目させる。また、マットとい安全地
の仕方について説明する。
的優位な状況を作るルールを確認する。
が学習前にどれだけ積
帯を利用し、パスがもらえる場面を作り出す動きを取り上げ
・本時のミニゲームのめあてを確認する。
・本時のメインゲームのめあてを確認する。
み上げられているかを
る。
習
見る。
○「ハーフコートミニゲーム」の内容について知る。
内
・ルールを理解出来るように黒板に図をかいたり、実際のチ
○振り返りをする。
容
・オールコートでゲー
ムをして上手くいかな
かったことを全体で共
・本時のミニゲームのめあてを確認する。
動こう
パスをたくさ
「ホッとゾーン」を使った
所を見つけよう
んもらおう
作戦を成功させよう
(1回目)
○「ホッとゾーン」ありのゲームを行う。
・試合は、ハーフコートで3分間とする。
ームを使ったりして説明する。
パスをしたら
パスがもらえる場
○作戦を考える。
・
「ホッとゾーン」を使った作戦が成功した
チームを褒める。
○作戦を考える。
てきがいないと
・「ホッとゾーン」を移動させてよいことを伝
・「ホッとゾーン」を移動させてよいこと
ころへ動こう
え、作戦を考えさせる。
を伝え、作戦を考えさせる。
有し、学習課題を見つ
・数的優位な状況を理解させ、周りに敵がいない味方が生ま
・シュートゾーン内にも1枚「ホッとゾーン」
・「ホッとゾーン」を使った作戦を取り上
けさせる。
れる事を伝える。
を入れてよいことも伝える。
げて全体に紹介する。
○「ハーフコートミニゲーム」をする。
・パスがつながった瞬間を取り上げて賞賛する。
○振り返りをする。
○「ホッとゾーン」ありのゲームを行う。
(2回目) ○「ホッとゾーン」ありのゲームを行う。
・試合前に「ホッとゾーン」の移動を行う。
○振り返りをする。
・パスがつながった場面を取り上げ、どんな時にパスがつな
・なぜその位置に「ホッとゾーン」を設置した
げるのかを理解させる
のか交流させる。
(2回目)
・作戦を成功させるために必要な動きをゲ
ーム中に声かけして教える。
〇振り返りをする。
補足資料
<①ドリルゲーム>
【パス&ラン】
「しっかりキャッチして、正確にパスする」
・向かい合わせに整列し、パスを出した後
すぐに走り、反対側へ移動する。
・向かい合う2つの列の間は、5mとする。
・1分間に何回パスを出すことができるか
数える。
☆記録向上のための工夫を考えていく
【パスゲーム】
「パスがもらえる場所へ動く」
・1分間に何回パスがつながるか数える。
・パス成功1回につき、1ポイント。
・マット上に相手は入ることはできない。
・赤、青、黄、緑のマット全てでパスを受け
られたら+10ポイント
<②「ホッとゾーン」ミニゲーム>
<ルール設定>
・ボール保持者は、移動してはいけない。
・パスだけで攻める。
・シュートはシュートゾーンに入らないと打てな
い。
・ボール保持者から直接ボールは奪えない。
(パス
カット、シュートカットのみ)
・ゴールマンは、ゴールマンゾーンでの移動可能。
・ゴールマンは得点を決めた者と交代する。
・得点は、ゴールマンがノーバウンド捕球したと
きのみとする。
・
「ホッとゾーン」内は相手が入ることはできない。
・3分間で攻守を入れ替える。
- 17 -
<③「ホッとゾーン」ありのメインゲーム>
<コート>
<ルール設定>
・
「ホッとゾーン」ミニゲームのルールを基本とする。
・動きに制限のあるメンバーをつくり数的優位な状況を作り出す。相手陣地には2人しか入れない。
<④学習カード>
- 18 -
(4)考察
1.体育授業で生まれてほしい「かかわり」の姿
平成24年度の研究では、体育授業であらわれてくる子ども同士の「かかわり」に目をむけ、本当
に必要な「かかわり」
、子どもの学びを深める「かかわり」というのはいったいどのようなものなのか
を議論、検討してきた。
実際の授業では、子ども同士の「かかわり」の姿として次のようなものが見られた。
授業実践①では、ゲームを客観的に見ることができる兄弟チームからアドバイスの声が
聞こえた。メインゲームの1ゴールゲームの時に、味方が動かなくてイライラしていた児
童がいた。その児童は一人でゴールをねらいに行っていた。結果はマークされてシュート
が入っていなかった。しかし、兄弟チームの「一人だけがシュートするんじゃなくて他の
人にもシュートさせた方がいいよ」
「1回だれかに出してシュートした方がいいよ」という
アドバイスで周りの児童にパスを出すようになった。
また、作戦タイムを有効に使っているチームもあった。
兄弟チームから「広がりすぎていてパスがとられていた」
というアドバイスをもらい、その後の作戦タイムではチ
ームがどう動いたら広がり過ぎずパスがつながるのか
を話し合い、次はこうしようという作戦が決まっていた。
監督・コーチアドバイスシートを使っているチームでは、
シートに書かれているパスを出した児童のゼッケン番
号を見て、作戦タイムの時に、「○○くんにボールが寄
っている」という話し合いが見られた。
さらに、審判という勝敗に関係のない立場であっても、
敵が近くにいないフリーになっている選手を見つけ、そ
の選手にパスをするように声をかけていた児童もいた。
授業実践②では、移動することができる「ホッとゾーン」の位置について作戦タイムで話
し合う姿が見られた。
「ホッとゾーン」は、敵が入ることができない場所なのでボールをも
らいやすくパスがつながる。子どもたちは、実際にコートの中に入り、「ここでボールをも
らって、次にわたして」と言いながらホッとゾーンを動かしていた。ゴールまでの最短距離
で縦に「ホッとゾーン」を並べる作戦を立てたことからも、「ホッとゾーン」の意味を理解
していることが分かった。逆に、
「ホッとゾーン」をおとりに使っていたグループもあった。
攻撃に有利であるため、守備はホッとゾーンを使わせないように周りを囲むように守ろうと
していた。そのため、
「ホッとゾーン」を使うと見せかけて他のあいている味方にパスする
作戦を成功させているグループもあった。この作戦は、「ホッとゾーン」の利点と、パスが
もらえる場所がどんな場所なのかという 2 点が理解されていないと生まれてこない考えであ
る。
つまり、
作戦タイムでこの 2 点がグループで話し合われ共通理解されたことが分かった。
- 19 -
このような子どもたちの姿から、体育授業でめざすべき「かかわり」を以下のように定義する。
「かかわり」の定義
「教師のつけたい力(B)が向上するような
子どもたち同士のやりとり」
このような姿が生まれる授業は、子どもたちの技能が向上し、学びが深まった「良い体育授業」と
言える。今後はこの「かかわり」が生まれる授業構成を検討していく。
2.
「かかわり」が生まれるために必要なこと
先ほど述べた授業実践での子どもたちの「かかわり」は、学級のすべての児童から生まれたもので
はない。作戦タイムに、ほとんどのチームで話し合われていたのは「こんなパスがよかった。
」
「こん
なシーンがよかった。
」
「こういうパスが多い。
」のような現状報告が多かった。このようにチームの課
題に対する改善策が児童からはなかなか出てこない状況であった。きっと、改善するコツ、方法が児
童の中になかった、貯められていなかったのではないだろうか。体育ノートや学習カード、授業中の
プレーから拾いあげていき、学級で共通理解をさせる必要がある。
このように「かかわり」は教師の支援によって生まれてくることが分かった。では、どのような支
援が必要なのだろうか。授業実践①の講師としてお話いただいた青井 洋氏はこのように述べている。
平成24年12月6日 大津市学校体育研究発表大会 伊香立小学校 青井 洋先生 講話より
児童がかかわるために必要なこと
・学習カードの適切さ
・教師の発問、問い
どうして・・・なのか、
どうしてよかったの?わるかったの?
・課題設定
児童のめあてをはっきりさせてあげる。課題の整理
・視点
共通理解できていないと相手の動きを見ることができない
これらは
かかわりの支援
つまり
学びの面の支援
・良い動きがイメージできる、分かっている。
その良い動きを分かりやすいもの(ビデオや模範)で教える
・チームで同じ目指すものを持たせる。
勝利、出来るようになる
このようなことからも分かるように、学びの面の支援を充実させることで、子どもたちのかかわり
は必然的に生まれてくると考える。特に、毎時間の学習課題をどのように設定していくのかが大切で
ある。教師の考えだけで課題を与えたり、児童の中から出てきた課題でなかったりすると、切実感、
- 20 -
必要感が無くやらされているだけとなり、学習意欲が低下していく。教師が、学習カード、聞き取り、
見取りによってより児童に必要な課題を設定し、単元全体を見通して学習課題を整理していくことで、
自分のめあてが考えやすくなり、強い課題意識を持つことができる。課題意識を持つことができた子
どもたちは、
教師がねらっている動き、
またはその動きにつながる必要な動きを見つけることができ、
自らの中に貯めていくことができる。このような動きのイメージや、ポイント、コツが、
「かかわり」
のアドバイスの質や「かかわり」の深さを決めることになる。
以上のように、平成24年度の研究では、めざす「かかわり」の姿の具体的なイメージを共有し、
「かかわり」を生み出すために必要なことがどんなことかが見えてきた。平成25年度は、課題設定、
課題意識をキーワードに学びの面の支援に注目して研究を進めていく。
- 21 -
平成25年度研究
<「できる・わかる」と「かかわり」との関係性>
Ⅳ.平成25年度研究
<「できる・わかる」と「かかわり」との関係性>
1.学びを深める手段となる「かかわり」
(1)授業構成について
平成24年度の研究では、めざす「かかわり」の姿の具体的なイメージを共有し、「かかわり」を
生み出すために学びの面の支援を充実させていく必要があると分かった。そこで、平成25年度の研
究では、かかわりを生み出すために引き続き学びの面の支援に注目していく。
研究を始めてから「かかわり」を生み出そうと取り組んできたが、ここで改めて確認したいことは、
「かかわり」は目的ではないということである。体育授業が目指すところは、子どもたちの技能向上、
運動理解など、
「できる」
「わかる」ようになることであると考える。つまり、
「かかわり」は「できる」
「わかる」ための手段であって目的ではない。子どもたちが「できる」
「わかる」ようになると自然発
生的に「かかわり」が生まれるのではないだろうか。
そこで、25年度は「できる」
「わかる」につながる学び方を身につけさせる。
「できる」
「わかる」
につながる学び方とはいったいど
のような学び方なのか、その学び
構想図
方が身につくような支援とはどん
な支援なのかを考え、
「かかわり」
が自然発生的に生まれる授業構成
をする。また、授業で生まれてい
る「かかわり」がどの段階だった
のかを下の図を基準に見ていき、
めざす「かかわり」の姿にむけて
必要な支援を再構成しながら研究
を進めていく。
- 22 -
2.実践記録
(1)授業実践①
平成 25 年 6 月 25 日
学年・領域
単元名
大津市立瀬田小学校
宇野 史哲
教諭
4年 器械運動領域 マット運動
「ドリーム前転・ドリーム後転研究所」
指導によせて
A:子どもがひかれるもの
B:教師のつけたい力
・技が持つ魅力
動きの面
「あんなふうにやってみた
い!」
めざす「かかわり」の姿
・グループの友だちに自
・勢いをつけて真っすぐに回る
ことができる。
分の技の出来栄えを聞
学びの面
いている姿
・自分の技を知るために、友達
に聞くことができる。
C:A と B の重なりを大きくする支援
<動きの面の支援>
○美しい技のイメージを共有する。
子どもたちに前転や後転の見本となる技のビデオを見せる。その前転や後転から、ポイント
を見つけ全員で共有する。共有の仕方としては、全員でビデオを見ながらポイントを見つけて
いく、体育館の壁面に技の拡大図を用意して、ポイントを書き込んでいく、通信を出して体育
の学習以外の時間にもポイントが確認できるようにする。
○基礎技能(腕支持・遠心力で勢いを生む動作)を身につける場
準備運動において、前転では、①かえるの足うち(20回)②手押し車からの前転③ゆりか
ご、後転では、①かえるの足うち(20回)②首倒立から足をマットに着ける運動③ゆりかご
から後転をし、腕支持の力と体の使い方で勢いを生む動作を身につけさせる。
○子どもたちと見つけたポイントを習得するための場作り(補足資料①)
<学びの面の支援>
○学習の物語性「研究所」
子どもたち一人一人が研究員になったつもりで取り組ませ、技の動きや自分の動きがどうで
あるあるかに着目させたい。
○研究カルテ・研究ボード(補足資料②)
○3人組(4人組)の時間(補足資料③)
○ビフォーアフター動画
前転も後転も1時間目に何も学習していない時の技をビデオで撮り(ビフォー動画)、4時
間目の最後に学習を経た技をビデオで撮り(アフター動画)、ビフォーアフターの動画を作っ
て、子どもたちを見せ、発表の代わりとする。
- 23 -
単元計画
(全8時間)
時間
学習
課題
単元名
1
2
オリエンテーション
勢い良く転がるには
○学習活動
「 ドリーム前転・ドリーム後転研究所 」
3
4
5
足を伸ばして
ドリーム前転を
ドリーム後転に
転がるには
完成させる
向けて
6
後転で立つには
・教師の支援
7
8
着地の秘密は
ドリーム後転を
何だろう
完成させる
○準備運動をする。
○準備運動をする。
○準備運動をする。
○準備運動をする。
○準備運動をする。
○準備運動をする。
○準備運動をする。
○準備運動をする。
○学習の流れを知
○前時の学習を振り
○2つの場で練
○本時の最後にアフ
○学習の流れを知る。
○前時の学習を振り返
○前時までに学習し
○今まで見つけてき
る。
返る。
習する。
ター動画を撮ること
・ビフォー→学習→ア
る。
た後転のポイントを
たポイントを確認す
学
・ビフォー→学習
○勢い良く転がるた
・①ゴムに当た
を確認する。
フターと自分の動きを
・回転の勢いが大切
確認する。
る。
→アフターと自分
めのポイントを確認
ら ない よう に
○これまで取り組ん
変化させることを伝え
だということを思い
○新しい場で練習す
○これまで取り組ん
の動きを変化させ
する。
し て前 転ス タ
できた5つの場を使
る。
出させる。
る。
できた3つの場を使
ることを伝える。
○3つの場で練習す
ート
②踏 み
って、それぞれの課
○個人の後転のビデオ
る。
切 り板 の坂 道
題に応じた学習をす
○個人の前転のビデ
○2つの場で練習す
・③マットを3段
って、それぞれの課
(ビフォー動画)を撮る。 る。
に重ねて後転し、
題に応じた学習をす
足をフロアに着く
る。
習
内
容
オ(ビフォー動画)
・①踏み切り板で
で 足を 伸ば し
る。
○ドリーム後転のビデオ
・①踏み切り板で坂
を撮る。
坂道
て前転
○3人組で前転を見
を見る。
道を後ろ向きで転が
○3人組で後転を見
○3人組で後転を見
○ドリーム前転のビ
を遠くに
○3人組で前転
合う。
○ドリーム後転のすごい
る
合う。
合う。
デオを見る。
かごから立つ
を見合う。
○3人組で交流して
ところを交流する。
に着く
○苦手な場に挑戦す
○3人組で交流して
研究カルテを書く。
研究ボードを書く。
②着手位置
③ゆり
・軽く立っている。
○3人組で後転を見合
る。
・後転も回転する勢い
う。
○3人組で交流して
・友だちがどのよ
○苦手な場に挑戦す
研究ボードを書く。
うに変わったかを
○ドリーム前転のす
○3人組で前転を見
○苦手な場に挑
ごいところを交流す
合う。
戦する。
・友だちがどのよ
る。
○苦手な場に挑戦す
○3人組で交流
うに変わったかを
・回転の勢いでし
る。
して研究カルテ
伝える。
ゃがみ立ちでき
○3人組で交流して
を書く。
る。
研究カルテを書く。
・友だちがどの
オ(アフター動画)
○後転をして気づいたこ
・友だちがどのよ
よ うに 変わ っ
を撮る。
とを報告し合う。
○前転をして気づい
うに変わったかを
たかを伝える。 ○2つの動画を見比
たことを報告し合
伝える。
・足が伸びている。
う。
○個人の前転のビデ
べる。
②おしりを遠く
が大切。
・おなかと太ももの間
がせまい。
る。
・友だちがどのよ
○3人組で交流して研
うに変わったかを
○個人の後転のビデ
究ボードを書く。
伝える。
オ(アフター動画)
伝える。
・友だちがどのよう
を撮る。
に変わったかを伝え
○2つの動画を見比
る。
べる。
補足資料
<①子どもたちと見つけたポイントを習得するための場作り>
【前転でのポイント】
・軽く立つこと(→勢いが大事)
→[場]ゆりかごから立つ
・手を遠くへ着くこと(勢いを生むため)
→[場]初めに立つ位置をマークで指定し、マットとの距離を近いものから遠いものまでを設定しておく。
・首を曲げて転がること(勢いを殺さないため)
→[場]マットの下に踏み切り板を入れ、転がる。背中がマットに着いた時に「ドン!」という音
がならないように転がる。
・足の膝を曲げずに転がること
→[場]初めに立っている位置の少し前に、鈴の着いたゴムを設置し、ゴムに足が当たらないように前転する。ゴ
ムの高さを3段階用意し、より高いゴムに当たらないように前転することを意識することで足を伸ばして転がる。
【後転でのポイント】
・軽く立つこと(→勢いが大事)
・回転途中のおなかと太ももの間がせまい。
(腰の角度が小さい)
→腰の角度を一気に縮める(勢いを生むため)
→[場]ゆりかごから後転
・おしりを遠くに着く・初めにマットを蹴る(勢いを生むため)
→[場]初めに立つ位置をマークで指定し、マットとの距離を近いものから遠いものまでを設定しておく。
・首を曲げて転がること(勢いを殺さないため)
→[場]マットの下に踏み切り板を入れ、転がる。背中がマットに着いた時に「ドン!」という
音がならないように転がる。
・足をマットに着けて、着地すること(膝から着地しないで)
→[場]3段マットで後転し、着地だけフロアに着地する。2段マット、マットも用意してスモ
ールステップができるようにする。
<②研究カルテ・研究ボード>
研究カルテは、3人グループの友達に技を見てもらい、技のポイントができているかどうかを評価し、記入してもら
うものである。友達に聞いて、確かめることで、自分の技が見え、自分の課題がわかるようにする。単元を進める途中
で、研究カルテは研究ボードへと変わっていく。それは、研究カルテを使用したところ、子どもたちが書くことに時間
をとられ、それをもとに実際にやってみる時間が極端に少なくなると考えたためである。研究ボードは、その人の技が
どうであるかを説明するために補助するもので、カルテほど文章で書くというイメージを与えないようにした。
<③3人組(4人組)の時間>
技がどうなのか聞き、自分の技を知る時間を設け、必ず自分の課題をもって学習に取り組ませるようにする。人の技
を見て、できているのかできていないのか分からない時は、他のグループの人達に見てもらい、判断するようにさせる。
わかっていないのにOKを出すことや、簡単にOKすることは避けさせ、友達の評価に責任を持つようにさせる。
3人組についても、単元前半とグループを変える。初め、教師側から提案した3人組で学習を行っていた。その3人
組は、積極的に話ができるものを必ず一人はグループに入れておくというものだった。しかし、子どもたちの関わりは
活発に行われているように感じられなかった。そこで、子どもたちがより関わりやすい環境を作るために、子どもたち
自身で話しやすい友達とグループを作るように指示し、3人組(4人組)を作らせた。
- 25 -
(2)夏季研修講座
「できる」
「わかる」
「かかわりたくなる!!」体育学習
~2 学期から役立つ授業づくりのヒント~
1.日時・場所・参加人数
平成25年 8月 9日(金)
膳所小学校
23人
2.研修のコンセプト
授業づくりのポイント(ABCの考え方、単元を意識した授業づくり、教師の支援、かかわりについて)を模擬授業を通して、体験
しながら学ぶ。
3.内容
①近体研 カリキュラムシートの模擬授業
・近体研カリキュラムシートの見方 ・器械運動
・感覚づくりの場から開脚跳びへ
跳び箱運動 3年生
単元名 「トン・バン・トン! 開脚跳びにチャレンジ」
・踏み切り「トン」、着手「バン」
、着地「トン」という音に注目させる
②模擬授業の解説とABCの授業つくりの考え方説明
・教師の声かけ、場、単元計画、マネージメント等の解説
・ABC の授業つくり
③研究部が考えた模擬授業
・器械運動
跳び箱運動
6年生
単元名
「めざせ!! スペシャル台上前転」・台上前転、大きな台上前転から首はね跳びへ
・「くの字」「くから⌒」など、友だちどうしで評価する視点を与えた
・主運動から自分に必要な課題解決の場に戻れる単元構成
④模擬授業の解説とまとめ
・模擬授業の解説
{つけたい力の設定理由、教師の支援(声かけ・場)、単元計画、学習カード}
・まとめ {跳び箱運動で大切にしたいこと、単元計画の重要性、かかわりについて}
4.アンケート結果(23名中18名回収)と主な感想
とても有意義だった
まぁまぁ有意義だった
どちらとも言えない
あまり有意義ではなかった。
全く有意義ではなかった
18 名
0名
0名
0名
0名
・模擬授業では、それぞれの動きを体験できてよかった。かかわりについては、かかわり方についてもよくわかり、教
師がしっかりとポイントをしぼっていくことが大切だということがよくわかった。
・スモールステップで授業を進められていたこと、できなければ何度も予備運動に戻ることで、
「こうすればいいんだ」
「この動きができた」など実感することができて、嬉しかったです。自分は、台上前転が苦手なので、初めて「もっと
やりたい」と思えて感激しました。
・つけたい力を軸に授業を組み立て、一貫して進めていく大切さを感じた。一人ひとりの子どもに応じた細かなアドバ
イス(声かけ)によって、やる気もアップすることを改めて感じた。
- 26 -
(3)授業実践②
平成 25 年 12 月 3 日
学年・領域
単元名
大津市立唐崎小学校
福住 剛己
教諭
6年 器械運動領域 鉄棒運動
「大きくスイング!! めざせ360°回転」
指導によせて
A:子どもがひかれるもの
B:教師のつけたい力
・非日常的な動きから味わ
動きの面
えるスリルと爽快感
・下半身の曲げ伸ばしと上体の倒
れ込みによる大きな振動動作
めざす「かかわり」の姿
から回転することができる。
・友だちや自分が見つけ
学びの面
た課題を意識して練習
し、出来栄えを聞く姿
・より大きな振動動作を生む体の
動き方のコツを見つけ、友だち
と教え合うことができる。
C:A と B の重なりを大きくする支援
<動きの面の支援>
○鉄棒運動で必要な基礎感覚を身につけるための予備運動
○逆上がりタイム
○技の見通しが持てる課題提示(補足資料①)
○振動動作を大きくするための技能ポイントの明確化(補足資料②)
<学びの面の支援>
○単元を通して固定したグループの設定
器械運動は、非日常の動きがたくさんあり、運動中はどこに自分の体があり、どのようになっているかなどは、
自分の感覚と実際の動きではズレが生じやすい。そのため、客観的に見た評価が大変価値があり、その評価によ
って大きく技能が向上する。このようなことから、単元通して固定したグループを設定することで、友だちの動
きの変化に気付かせ、技能を向上させるアドバイスができる環境を整える。
○学習カードの工夫(補足資料③)
技の局面ごとに自分の動きの感覚(こつ)や運動のポイント、友だちからのアドバイスを色分けして書き込ませ、
動きの工夫に活用できるようにする。また、このような動きのため込みを利用して、友だちへのアドバイスの質
を向上させる。
○課題別練習の設定
単元が進むにつれて大きく振る動作から回転できる人が増えてくると考えられる。そうするとグループ内でも
学習課題に少し違いが出てくる。そこで、友だちからアドバイスしてもらった課題や自分なりの課題から練習方
法を選び、動きを高める時間を設定する。その後、再びグループ活動に戻り、再評価させるようはたらきかける。
○体の振れ具合を測る教具(スイングメーター) (補足資料④)
体の振れ具合を自分の感覚や友だちからの評価によって判断していたが、分度器のような体の振れ具合を測る
教具を用意し、具体的数値で振れ具合を評価できるようにする。このような具体的数値によって、振れ具合をさ
らに大きくしようという意欲づけになる。逆に、自分の感覚と実際の動きとのズレを感じることも考えられる。
どちらにせよ、振動動作をさらに大きくする動きの工夫にこだわりを持たせる。
- 27 -
単元計画
(全5時間)
時間
1
学習
いろいろな感覚を
課題
つかもう
単元名
○学習活動
「 大きくスイング!! めざせ360°回転 」
2
3
・教師の支援
4
5
できるようになった
より大きく体を振って回転しよう。
技を組み合わせて発
表会をしよう。
○鉄棒運動で必要な基礎感
覚を身につけるための予備
○鉄棒運動で必要な基礎感覚を身につけるための予備運動
運動に取り組む。
<腕支持感覚> ・後ろふり(連続・とびおり・ひねる) ・横移動 ・ツバメ(キープ・手放し) ・片足踏みこしおり
・跳び上がり(連続・腕を伸ばして) ・だんごむし(体の締め)
・腕支持感覚、回転感覚、
学
逆さ感覚、振動感覚の予
<回転感覚>
・前回り下り(鉄棒より後ろに下りる) ・足抜き回り(後ろ回転)
備運動のポイントを伝え
<逆さ感覚>
・ふとんほし(手放し・ツバメへ戻る) ・足抜き回り
意識させる。
○逆上がりタイム
<振動感覚>
<逆上がりスモールステップの場>
・鉄棒くぐり ・ふとんほし(振る)
<逆上がり発展技>
習
・ポイントが意識できて
1.跳び箱+踏切り板
4.補助付き
1.連続逆上がり
4.両足踏切逆上がり
いる人を紹介する。
2.くるりんベルト
5.補助なし
2.踏切り位置(鉄棒真下)
5.両足踏切連続逆上がり
3.踏切り板
○逆上がりタイムに取り組む。
3.踏切り位置(鉄棒1歩手前から徐々に後ろ)
内
・自分の課題にあった練
容
習の場を声かけする。
○かかえこみ振りの振動動作
○かかえこみ振りの振動動作を
○ 体 の振 れ 具合 を測 る教 具
○発表会練習タイム
○技の見通しを持ち、かか
を大きくするための技能ポイ
大きくするための技能ポイント
(スイングメーター)を使って
に取り組む。
えこみ振りに挑戦する。
ントを意識して取り組む。
を意識して取り組む。
動きを工夫する。
・回転技には必ずかか
・かかえこみ振りの分解
・下半身の曲げ伸ばしを意識さ
・上半身の倒し込みを意識させるた
・必要に応じて、
「自分の目標数
えこみ振り系の技を
写真を見せ、技の見通し
せるために「伸ばして」
「曲げて」
めにあごの使い方を教える。
値は何なのか」を問いかける。
入れる。
を持たせる。
という口伴奏の方法を教える。
○体の振れ具合を測る教具(スイ
・安全面での注意点を伝
・学習カードに自分が見つけた
ングメーター)を使って動きを工
・前回転か後ろ回転のどちらか
技・下り技の3つの
える。
コツや友だちからのアドバイス
夫する。
決め、練習させる。
技を組み合わせて発
○課題別練習の場に取り組む。 ○ 上 が り 技 ・ 回 転
などを書き動きの工夫に役立て
・スイングメーターの使い方を、児
○発表会練習タイムに取り組
る。
童を見本にして共通理解させる。
む。
表会をする。
補足資料
図(高橋健夫・藤井喜一・松本格之助. 体育科教育[別冊]新しい鉄棒運動の授業づくり : 大修館書店, 2009.)
<①技の見通しが持てる課題提示>
<②振動動作を大きくするための技能ポイントの明確化>
- 29 -
<③学習カードの工夫>
<④体の振れ具合を測る教具(スイングメーター)>
- 30 -
(4)授業実践③
平成 26 年 1 月 31 日
大津市立日吉台小学校
学年・領域
3年 器械運動領域 跳び箱運動
単元名
「 目指せ!ふんわり着地名人 」
岡山 駿
教諭
指導によせて
A:子どもがひかれるもの
B:教師のつけたい力
・より高い跳び箱を跳び越
動きの面
・開脚跳びで跳び越し、両足で柔
えたい。
・より美しく(着地まで)
、
らかく着地することができる。
スムーズに跳び越えた
めざす「かかわり」の姿
学びの面
い。
・出来映えを喜び合う姿
・友だちの動きを見て、目指す動
・リズムよく、気持ちよく
きとの違いに気づくことがで
跳びたい。
きる。
C:A と B の重なりを大きくする支援
<動きの面の支援>
○様々な運動感覚を養うための支援(補足資料①)
・基礎運動感覚(助走・跳び乗り・支持・切り返し・跳び降り・着地)を身につけさせる運動
・準備運動の中に、関係する動きを取り入れる。
○開脚跳びで跳び越し、両足で柔らかく着地できるための支援(補足資料②)
・安全な着地への意識化
・開脚跳びをより大きくするための支援
<学びの面の支援>
○単元を通して固定したグループの設定
器械運動は自分の動きが自分で確認しにくく、技を達成できているかがわかりにくい運動で
ある。そのため、単元を通して固定したグループを設定することで、仲間の技の変化に気づき
やすくする。またペアではなく、5人以上のグループを設定することで、より多くの目で、多
くのことを気づかせるとともに、1人の児童に対してより多くの評価ができるようにしたい。
またグループは身長が近い者同士で組み、同じ高さの跳び箱で練習できるようにする。また、
それぞれの児童に合った場をその都度準備させることで、同じグループの仲間の個々の実態に
気付き、声かけしやすい環境をつくる。
○目指す動きを示して共通理解をはかる
様々な場での「開脚跳び(ふんわり着地)」を全体の場で示すことで、子どもたちの中に、
共通理解を持たせるようにする。
図(高橋健夫・藤井喜一・松本格之助. 体育科教育[別冊]新しい跳び箱運動の授業づくり : 大修館書店, 2009.)
- 31 -
単元計画
(全7時間)
時間
学習
課題
単元名
1
2
3
オリエンテーショ
・様々な感覚に親しもう
・開脚跳びをマスター
ン
・開脚跳びにチャレンジ
しよう
・ふんわり着地しよう
・ふんわり着地しよう
○準備運動をする。
○準備運動をする。
・ふんわり着地につい
○ 基礎 感覚 を身に つ け
ての共通理解をする。
る運動をする。
○オリエンテーション
6
7
・腰を高く上げよう
・より遠くから跳び越
・レベルアップを目指
・学んだことをみんな
・ふんわり着地しよう
えよう。
そう
に見てもらおう
・ふんわり着地しよう
・ふんわり着地しよう
○準備運動をする。
○準備運動をする。
○準備運動をする。
○準備運動をする。
○ 基礎 感覚 を身 につ け
○ 基礎 感覚 を身に つ け
○ 基礎 感覚 を身 につ け
○ 基礎 感覚 を身に つ け
○ 基礎 感覚 を身 につ け
る運動をする。
る運動をする。
る運動をする。
る運動をする。
る運動をする。
○開脚跳びをする。
○ 本時 の学 習課 題を 確
○ 本時 の学 習課題 を 確
○ 本時 の学 習課 題を 確
認する。
認する。
認する。
・前時に行った場をつ
○ 本時 の学 習課 題を 確
をする。
なげてサーキット形
認する。
式で取り組ませる。
学
・手首、足首の柔軟を
習
チを取り入れる。
○ 本時 の学 習課題 を 確
・ふんわり着地を意識
認する。
・場のポイントを適宜
中心にしたストレッ
声かけする。
着地まで完ぺきな開
脚跳びをしよう!!
○開脚跳びに取り組む。
・3つのポイントに関
4
・教師の支援
5
・安全についての確認
○準備運動をする。
○学習活動
「 目指せ!ふんわり着地名人 」
・前時までのポイント
内
を思い出させる。
より遠くから踏み切
トーン、バーン、ト
自分の得意な開脚跳
・上手に出来ている子
ってもふんわり着地
ンでふんわり着地名
びの跳び方で名人発
の試技を見せて、ふん
名人を目指そう!!
人を目指そう!!
表会をしよう!!
わり着地について再
○ 踏切 位置 調整 板開 脚
・踏み切り、着手、着
○開脚跳びに取り組む。
度確認する。
跳びに取り組む。
地の音に目を向けさ
・「どんな場であって
せる。
も、必ずふんわり着地
容
づけるために着地の
踏切、着手、着地に
して声かけをする。
○ 本時 の学 習課題 を 確
・「どんな場であって
ポーズを確認する。
注意して開脚跳び
・体が前に投げ出せて
認する。
も、必ずふんわり着地
をしよう!!
いない児童は補助を
スポンジがあっても
ができることを目指
・班で、開脚跳びの音
り着地名人だという
○開脚跳びに取り組む。
して投げ出す感覚を
ふんわり着地名人を
す」ことを確認する。
のリズムが「トーン、
ことを確認し、自分が
・場の行い方を確認し
・両 足踏 み切り を す
味わわせたりや恐怖
目指そう!!
・仲間の動きを見て、
バーン、トン」になっ
挑戦してきた開脚跳
て、取り組ませる。
る、跳び箱の奥に着手
心を取り除いたりす
○ スポ ンジ 開脚跳 び に
声かけをする方法を
ているか聞き合う。
びの場を練習させる。
・それぞれの場でのポ
する、ふんわり着地を
る。
取り組む。
確認する。
・着地に着目した声か
イントを上手な児童
するという3点を意
・跳 び越 せる 児童 に
・着地に着目した声か
・着地に着目した声か
けをする。
を見本にして確かめ
識させる。
は、着地に目を向けさ
けをする。
けをする。
○ 基礎 感覚 を身に つ け
る運動をする。
る。
○振り返りをする。
○振り返りをする。
せる。
○振り返りをする。
○振り返りをする。
○振り返りをする。
○開脚跳びをする。
○振り返りをする。
ができる」のがふんわ
○名人発表会をする。
・着地に着目した声か
け、賞賛をする。
補足資料
<①様々な運動感覚を養うための支援>
・基礎運動感覚(助走・跳び乗り・支持・切り返し・跳び降り・着地)
を身につけさせる運動
本学級の子どもたちは、おおよその子が小さな開脚跳びを成功させることはできるが、力任せに跳
んでいたり、着地がうまくいかない(膝で勢いを吸収できなく、しっかりと両足着地できていない)児
童が多い。また、跳び越えることすらできていない子もいる。そんな中で、一連の動作を確実にこなし、
スムーズで大きな開脚跳びにつなげるために、また全員が小さな開脚跳びを成功させ、同じスタートラ
インに立てるように、低学年での運動を大切にし、中学年からの「器械運動」に取り組めるようにする。
踏み切り・跳び乗り感覚
・跳び箱跳び乗り ・またぎ乗り ・ステージ跳び乗り
腕支持感覚
・連続ウサギ跳び ・馬跳び
・丸イス跳び
着地感覚
・跳び箱跳び降り ・またぎ降り ・ステージ跳び降り
※ふんわり着地
・準備運動の中に、関係する動きを取り入れる。
手首、足首などのストレッチを中心とした、準備運動にプラスして、以下の運動を取り入れる。
・カエルの足うち
・うさぎ跳び
・ふんわり着地のポーズ練習
<②開脚跳びで跳び越し、両足で柔らかく着地できるための支援>
・安全な着地への意識化
「ふんわり着地成功=開脚跳び成功」という意識を、基礎運動感覚の習得の場面から、意識化させる
ことにより、常にふんわり着地を意識して運動に取り組ませる。
・開脚跳びをより大きくするための支援
スポンジを跳び箱の上に置き、それを倒さないように跳び越し、ふんわり着地を行う。そのことで腰
の位置を上げる。そして、踏み切り位置調整板の数を増やして(数に限度有り)開脚跳びとふんわり着
地を行うことで、第1空間を広げる。
このように、場の難易度が上がってもふんわり着地ができるかということに子どもたちをこだわらせ
る。すると、自然と開脚跳びの一連の動きが大きくなり、大きな開脚跳びへとつながっていく
※ふんわり着地が成功していると仲間に判断してもらうことにより、次のステップの場に挑戦でき
るようにする。
LV1.踏切調整板1つ・スポンジ無し LV2.踏切調整板1つ・スポンジ有り
LV3.踏切調整板2つ・スポンジ無し LV4.踏切調整板2つ・スポンジ有り
LV5.踏切調整板3つ・スポンジ無し LV6.踏切調整板3つ・スポンジ有り
- 33 -
(5)考察
1.
「できる」
「わかる」ことの必要性
平成25年度の研究では、
「できる」
「わかる」につながる学び方に目をむけ、どのような学び方が必
要なのか、またそのような学び方が身につくような支援とはどんな支援なのかを考えてきた。さらに「か
かわり」が自然発生的に生まれる授業構成を議論、検討してきた。
3つの授業実践から見えてきたことは以下の通りである。
授業実践①では、
・学びの面のつけたい力を具体的な姿で描き出すと学びの面に対する支援や声かけがし
やすい。
本単元では、学びの面のつけたい力を「自分の技を知るために、友だちに聞くこと
ができる。
」と設定した。この設定はとても具体的な学びの姿をイメージしているため、
教師はこのような姿を見つけ、賞賛することができた。また、
「友だちに聞く」という
学び方は、自分の姿をつかむためには必要な学び方である。この学び方が有効だと気
付ける仕組み作りはとても効果的だった。
・学びの面を意識するが、やはり技能面をおろそかにしてはいけない。
・「できる」
「できた」→話したくなる・・・かかわりが生まれるという流れになる。
学びの面を重視して授業を展開していったが、学びの面を身につけるためには、技
能面の習得も欠かすことができないと感じた。技能が身についたり、技能ポイントが
理解できたりすると、自分の動きに自信が持てアドバイスをしたくなる。
「できた」と
いう喜びは、自分だけでなく学級の友だちに広げていきたい、教えてあげたいという
気持ちを生み、自らかかわっていこうという姿につながっていった。
・動きの面のつけたい力を確実に身につけさせる。教師が「教える」という大切さ
動きの面のつけたい力を身につけるには、技能ポイントを確実に習得していく必要
がある。この技能ポイントは、教師が「教える」ことで効率的に身につけることがで
き、教師の声かけによって子どもたちはポイントの伝え方を自然と学ぶことができる。
指導順序や、つまずきをとらえる目も教師の指導によってより明確化させ、子ども同
士のかかわりの質も向上していった。
・目指しているものがはっきりしないと「できた」感がなく、自分の動きに自信がなく
なる。
子どもたちの中には、自分なりのコツを見つけて学習を進めている児童がいた。設
定された様々な場を主体的に取り組んでいる。しかし、教師からめざす姿がしっかり
と示されず、子どもたちは「できた」感を持てないまま活動をしている場面もあった。
これでは、自分の動きに自信が持てない。教師が、子どもの姿を見て、技能ポイント
が身についているかを瞬時に評価し、賞賛することができれば「できた」という感情
が生まれるはずである。この「できた」感が「かかわり」につながる第1歩であると
考える。
- 34 -
授業実践②では、
・課題設定の大切さ。(学級共通の課題、導入の課題の難易度、毎時間の課題設定)
運動の魅力が感じられ、誰もが「できそう」と思える技を設定したことによって、
鉄棒に対する苦手意識が低下し、意欲的に繰り返して挑戦する姿が生まれてきたと考
える。また、
「より大きく振ろう」という誰もが取り組める共通の課題を設定すること
で、同じ話題で話し合うことができる環境が整えられた。このことにより、運動の感
覚を伝え合う姿が自然と生まれ、非日常的な感覚を共感することができたと言える。
・「できそう」
「できた」から「かかわり」の深まりが生まれてくる。
・課題を解決する支援を準備して「できそう」
「できた」を絶えず感じさせる。
本単元では「かかえ込み振り」の体の振れ具合を具体的数値で評価できるスイング
メーターを支援として取り入れた。友だちの技をじっと見ながら「ここまでスイング
してたよ」と指をさして出来映えを教えていた。友だちから客観的に「できた」と評
価されることで、自信が生まれ、意欲的に活動する姿が見られた。また、友だちが技
に挑戦している時に、自分の体を一緒に動かして「こうかな?」と考えている児童も
いた。友だちの動きをよく見るようになり、自分の体の動きに対するこだわりが少し
持てているようであった。そのような姿から「できそう」という感情が生まれている
ことがわかった。
また、スイングメーターが提示されると前方、後方の両方向に目盛りがあり、両方
向を見ることができるようになった。そのため、後方への回転を意識した子は、今ま
での技能ポイントに加えて「後方への体の倒し」という難しい技能を身につけなけれ
ばいけなかった。このように、前方、後方と回転方向が変わることで技能ポイントが
変わり、今まで共通化されていた学習課題が広がりを見せた。広がることは決して悪
いことではないが、課題が広がった分、教師はその課題を解決する支援を用意してお
かなければいけない。結局、技能に対する「できた」感が子どもたちには無く、学び
の勢いは停滞していった。学びを進める、かかわりが生まれるためには、常に「でき
そう」
「できた」が感じられる環境を教師が作っていく必要がある。
授業実践③では、
・教師がポイントを教えることで、自然と子どもたちが見る視点を得ている。
・得た視点で技能ポイントを友だちに声かけしようとする。
教師の技能指導によって子どもたちは体の動きにこだわりを持つようになった。な
ぜなら、教師は技能指導でポイントに対する具体的な評価やコツを伝える言葉かけを
行う。その言葉がけから、子どもたちは目指す動きと現在の動きの差を知り、
「できた」
という満足感や自信を持つ。また、目指す動きに近づくようさらなる工夫をしたりす
る。このような過程から自分の体の動きへのこだわりが生まれてくる。
この「体の動きへのこだわり」が子どもたちの見る視点を自然と1つに絞っていく。
この焦点化によって共通の視点をもつことができ、友だちの動きに対して自分が得た
- 35 -
動きのコツを伝えたり、友だちの動きから自分の動きを高めるコツを得たりするよう
な子ども同士のかかわり合う姿が生まれた。
・学級全体で共通理解できる仕組みが、共通の視点、基準を与える。
本単元では、単元を通して「ふんわり着地」を意識して学習を進めた。
「ふんわり着
地」というのを、
「膝を曲げて勢いを吸収した両足着地」としたが、子どもたちにとっ
てどのような着地がふんわり着地なのかというめざす姿がしっかりと持ててなければ
学習は深まらない。そこで、ふんわり着地ができていたか友だちと見合う活動を取り
入れた。この見合う活動で大切なのが共通の視点である。共通の視点がなければ本当
に見て欲しい部分の動きを見過ごしたり、同じ基準の視点を持ててなければ、できて
いないのにできていると評価してしまったりする。
今回は、見合う活動の前に、学級全体で視点を確認する時間を設定した。しかも、
見本の子どもを実際に跳ばせ、
「今のどこを見れば良かった?」
「今のはふんわり着地?」
と教師が質問をしていった。そこから出てきた発言によって視点が絞られていき、共
有することができていた。このように、共通の視点、基準を持つことができると「か
かわり」が生まれ、アドバイスもより正確になる。特に、
「できている」という基準を
共通にすることは、
「かかわり」にとって効果的だった。
このような子どもたちの姿から、改めて「かかわり」が生まれるには「できる」「わかる」が必要だ
ということを感じた。
以下の図のように、単元前半では教師からの指導によって技能ポイントをため込んだり、技能が向上
していくなかでコツを見つけたりすることができる。このような学習活動が子どもに評価の視点を自然
と与えていく。学級全体で共通の評価の視点を持つことができると同じことについて話し合ったり、ア
ドバイスしたりする「かかわり」が生まれてくる。この「かかわり」の質は、単元前半のため込みの充
実が関係してくる。
「できる」
「わかる」が常に感じられる学習が展開させると、「かかわり」が技能向
上につながるものになるであろう。
ともすれば、子ども同士のかかわりを意識するあまり、子ども任せの授業展開になってしまうことが
ある。しかし、子どもたちが主体的に取り組む学習には、教師の「教える」という指導が必要となる。
教師の計画的な、意図的な指導によって子どもたちの主体的な学びを生み出していくのである。
- 36 -
2.子どもたちが「かかわりたくなる時」はいつか?
先ほど述べたように「できる」「わかる」が積み上がっていくと「かかわり」は生まれやすくなる。
それは、子どもたちが心から「かかわり」を必要とし、「かかわりたい」と思った瞬間ではないだろう
か。では、子どもたちが「かかわりたい」と思うときはどのような時と言えるだろうか。これまでの授
業実践から以下の4つの場合が考えられる。
「かかわりたくなる!!」時はいつか?
課題設定(学びの向かう先がはっきりしている)が適切な時
子どもたちは、学習を進めていく中で共通の課題を持つことができるとかかわりたくなる。そ
れは、同じ視点で物事を見たり、考えたり、動いたりするからである。また、自分に合った課題
を設定できている時も同じである。子ども自身が課題を設定する時も、教師が課題を投げかける
時も、子どもの実態とズレがなく、学ぶ先がはっきりしている時こそ共に学ぶ姿が生まれる。
「できた」感を持つことができた時
子どもたちは、
「できそう」
「できた」という時に伝えたくなる、聞きたくなる、かかわりたく
なる。それは、教師の支援、指導が子どもたちに評価の視点を自然と与えるからである。教師か
ら与えられるものの溜め込みが、かかわりの質を高め、技能向上へとつながっていく。
運動そのものが持つ魅力を味わえた時
子どもたちは、課題や場、支援によって「できた」
「できそう」と感じた時に運動の魅力を味わ
える。この魅力は子どもたちを惹きつける大きな力を持っている。運動の楽しさ、面白さ、でき
た時の喜びは、友だちと共感したくなるものであり、そこからかかわりが始まる。
自分の動きにこだわりを持った時
子どもたちは、
「もうちょっとでできそう」
「もうちょっとああなりたい」
「自分はできている?」
「自分はどうなっている?」と考えた時に友だちに「聞く」ようになり、かかわりたくなる。こ
れは、自分の動きにこだわりが生まれた瞬間でもある。教師が示した目指す姿、目指す動きに少
しでも近づけようと試行錯誤する時、友だちの存在が必要になってくる。
以上のように、平成25年度の研究では、
「できる」
「わかる」を積み上げていくことで、めざす「か
かわり」が自然と生まれてくることがわかった。また、子どもたちが「かかわりたくなる時」がどのよ
うな時なのかが見えてきた。平成26年度は、この「かかわりたくなる時」を意図的に作り、必要なタ
イミングで「かかわり」を生み出す授業構成に注目して研究を進めていく。
- 37 -
平成26年度研究
<子どもの学びを深める「かかわり」を生み出す>
Ⅴ.平成26年度研究
<子どもの学びを深める「かかわり」を生み出す>
1.教師によって意図的に生み出される「かかわり」
(1)授業構成について
平成25年度の研究では、
「できる」
「わかる」を積み上げていくことで、めざす「かかわり」が自
然と生まれてくることがわかった。そこで、平成26年度は、
「かかわりたくなる時」をどう作ってい
くのか、また「かかわり」を生み出す支援とはどのようなものがあるのかという点に注目していく。
25年度は、
「かかわり」が自然発生的に生まれるという考えのもと研究を進めていった。しかし、
全ての授業で「かかわり」が生まれたわけではなく、
「かかわり」が生まれずに授業が停滞した授業も
あった。それは、教師が子どもから自然と生まれてくることが本当に必要としている「かかわり」だ
と考え、子どもに支援することに対して消極的になっていたからだと感じた。教師が、
「かかわり」に
対して何か意図的に支援を打てば、技能向上につながる「かかわり」がどの授業でも必ず生まれるの
ではないだろうか。
このようなことから26年度は、教師の意図的な「かかわりを生み出す支援」について考える。昨
年度との違いは「意図的」であるという点である。意図的ということは、教師のねらいや考えが見え、
計画的な支援ということを指し
構想図
示す。よって、
「できる」
「わか
る」を積み上げて「かかわりた
くなる時」を作り、そのタイミ
ングで「かかわりを生み出す支
援」を打つのである。つまり、
支援のタイミングと内容を吟味
する必要がある。また、支援の
内容を「場と教具」
「声かけ」
「課
題設定、学習カード」
「グループ
活動」に分類し、そこから見え
てくる授業構成の違いなどにも
注目して研究を進めていく。
- 38 -
2.実践記録
(1)夏季研修講座
体育授業づくり研修会
~2 学期からすぐに使える体育授業の作り方~
1.日時・場所
2.参加人数
8月1日(金)
逢坂小学校
50人
3.研修のコンセプト
研究部員が1学期に実践したことの模擬授業を通して
授業づくりのポイント(ABCの考え方、単元を意識した授業づくり、教師の支援、かかわりについて)を体験して学ぶ。
4.内容
①ABCの授業つくりの考え方
②模擬授業
器械運動 マット運動 4年生
・後転に対する2つのアプローチ(B:教師のつけたい力が変わると支援が変わってくる。)
・後転の動きを3つに分けて、その動きが獲得できる場を用意するという「場づくり」を意識した授業。
・アドバイスがしやすい環境を作る「学習カード」意識した授業。
- 39 -
③模擬授業
ボール運動 ベースボール型 6年生
・子どもたちが考えて動きを高めていく、思考・判断を意識した授業。
・作戦ボードを使って話し合い、ナイスジャッジで先回
・「ここにボールが飛んだらどこでアウトにするのか」という発問。
りしてアウト
④模擬授業の解説とまとめ
・模擬授業の解説
{教師の支援(声かけ・場・マネジメント)}
・大津の研究「かかわり」について
5.アンケート結果(50名中45名回収)と主な感想
とても有意義だった
まぁまぁ有意義だった
どちらとも言えない
あまり有意義ではなかった。
全く有意義ではなかった
41名
3名
1名
0名
0名
・模擬授業ということで、児童の立場になって参加することで多くの気づきがありました。また、ABCの考え方を意
識しながら講義を聞けたので、より理解しやすかったです。
・実際に自分が1学期にやっていた授業は、ほとんどが B に偏っていて A の部分が少なかったように思いました。子
どもの「やってみたい」という気持ちを引き出すための場の工夫やルールの工夫が必要だということを学びました。
・ポイントとなる声かけをしぼることで、アドバイスがしやすくなることがとても印象に残っています。
・子ども同士の「かかわり」によって全体で技能を伸ばしていく発想がとても良いです。体育だけでなく様々な観点か
らも良いことばかり残ります。
- 40 -
「2学期からすぐに役立つ」体育の授業づくり講座
1.日時・場所
8月20日(水)
2.参加人数
47人
瀬田東小学校
3.研修のコンセプト
午前中に作った教具を生かした模擬授業を通して
授業づくりのポイント(ABCの考え方、単元を意識した授業づくり、教師の支援、かかわりに
ついて)を、体験しながら学ぶ。
4.内容
①教具と授業のつながりについて
・教具の機能について
②模擬授業
・単元名
・午前中に作った教具の紹介
・授業の中での教具の役割
ゲーム ボール投げゲーム 2年生
「ビューンと投げてチーズをゲット!」
・何度も投げたくなる教具(ペットボトルジャイロ)
・スモールステップでの投動作の習熟
・ベースボール型ゲームにつながる攻守交代ゲームの面白さ
- 41 -
③模擬授業
・単元名
器械運動 跳び箱運動 3年生
「台上でも
ダイジョウぶ♪」
・子どもたちに安心感を与える場の設定
④模擬授業
・単元名
・「お手伝いポイント」による子ども同士の補助の明確化
・「できた」が積み重なっていくようなスモールステップの単元計画
陸上運動 走り高跳び 6年生
「リズムにのって
ハイ!ジャンプ!」
・基礎的な技能習得の予備運動
・
「トーン・トーン・ト・ト・トーン」というリズムの意識化
・手拍子、口伴奏による子ども同士のかかわり
⑤模擬授業の解説とABCの授業つくりの考え方
・ABCの授業づくり(A:子どもがひかれるもの
B:教師のつけたい力
・模擬授業の解説 {教師の支援(声かけ・場・マネジメント)}
C:AとBの重なりを大きくする支援)
・大津の研究「かかわり」について
6.アンケート結果(47名中42名回収)と主な感想
とても有意義だった
まぁまぁ有意義だった
どちらとも言えない
あまり有意義ではなかった。
全く有意義ではなかった
39名
3名
0名
0名
0名
・体育の授業づくりは、教科書等がなく、非常に作りづらいものでしたので、今回の ABC というような作り方のコツ
を得られたことは非常に良かった。
・自分自身が苦手な単元だったので、今日の模擬授業を通して、子どもたちに自信をつけさせてあげられるようなアド
バイス・声かけや、安心してできるような友だち同士の関わり方(手伝い)を実際に目の前にして、こうしたらいいんだ!
と自分なりに持ち帰ることができる、有意義なものだった。
・活動の中に、友だちと自然に見合いっこや支援を入れていた点がとても良いと感じた。また、教師のねらいがはっき
りかつ、子どもの興味関心がひきつけられている活動を考えているところに感心した。今後 ABC の考え方を取り入れ
て行きたいと思う。
・ABC の考え方は体育科に限らず、他教科でも言えることだと思った。重要性について考えることができ、良かった。
支援のポイントが子どもに教えたいことと子どもがひかれることの共通項ということで支援が明確化するというのは、
とても「目からウロコ」だった。しっかりと考えていきたいと思う。
- 42 -
(2)授業実践①
平成 26 年 10 月 28 日
学年・領域
単元名
大津市立石山小学校
森田 拓磨
教諭
6年 陸上運動領域 走り高跳び
「究極の親子丼を作ろう」
指導によせて
A:子どもがひかれるもの
B:教師のつけたい力
・自己の記録が更新してい
動きの面
く達成感
・リズミカルな助走を上方向へ
めざす「かかわり」の姿
・上へ跳ぶ力へ変える最
の力強い踏切に連動させる力
学びの面
後の3歩のリズムにな
・上方向へ高く跳ぶために、ど
っているかアドバイス
んなリズムにすればうまく力
し合う姿
が繋がるか考えることができ
る力
C:A と B の重なりを大きくする支援
○高跳びにつながる準備運動の工夫(補足資料①)
○テンポをつかませる8の字跳び
短い助走でテンポよく跳ぶ練習をすることで、直前で歩幅の調整をすることのない助走を意
識させる。また、自然と利き足をふり上げてとべるようにするために、感覚を体得させる。
○フォームを確かめるコーンバー跳び
低いバーをとびこすことで、フォームをしっかり確認させる。また、跳び上がるタイミング
やリズムの確認もしっかりできる。
○技能ポイントを明確にする模範映像
お手本となる映像を基として、自分なりの注意を発見できるようにしたい。どこにこだわれ
ば良いかを明確にするために、動作のポイントを絞って、段階的に習得していけるようにする。
○個別の目標設定をする。
初回自己記録…何も意識しないで、好きに跳べた記録。
目標とする記録…0.5×身長(cm)-10×50m 走のタイム(秒)+110cm
あくまで目標として設定し、そこへ向かって工夫をしたことや学び、発見を蓄積していく。
結果だけでなく、過程もフォローすることで、自己記録の更新や目標記録の達成を目指して何
度も挑戦させる。
かかわりを生み出す支援
○目標記録別のグルーピング(補足資料②)
○リズムを感じさせる手拍子や声かけ
最後の3歩のリズムを意識させるために、グループで跳んでいない子どもが、「子・丼!」
とかけ声をかけるようにする。また、細かく素早い足の動きを意識させるために、助走に合わ
せて手拍子をさせ、だんだんリズムアップする感覚を伝えるようにする。
- 43 -
単元計画
(全5時間)
時間
学習
課題
単元名
1
2
3
跳び易い方法を見付けよう
○準備運動をする。
・柔軟、ストレッチ
○本時の課題を確認する。
色々な跳び方を試して、自分の
跳び易い方法を見付けよう
○自分の記録をはかる。
○学習活動
「 究極の親子丼を作ろう 」
4
究極の親子丼を作ろう
○準備運動をする。
・教師の支援
○準備運動をする。
5
記録更新に挑戦しよう
○準備運動をする。
○準備運動をする。
○走り高跳びに必要な基礎感覚を身につけるための予備運動に取り組む。
<もも上げ>
<うち回し>
<足を真下に力強く下ろす感覚>
○確認タイム<3歩意識の場>に取り組む。
1.歩幅
2.リズム
3.力強さ
7.踏切り位置(バーに寄る)
4.細かい動き
8.恐怖心の払拭
5.体が流れない
6.バーへのアプローチ
9.バーを確実に跳び越す(自信と感覚イメージ)
学
・フォームや助走など何も意
習
識せずに、単純に跳び易いよ
○本時の課題を確認する。
○前時と本時の課題を確認する。 ○前時の確認をする。
○前時と本時の課題を確認す
うに跳ぶようにする。
色んな「親子丼」のリズムを試
“丼!”を意識しよう
→特に“丼!”について。
る。
してみよう
○各グループで親子丼のポイン
○本時の課題を確認する。
究極の親子丼のリズムを意識し
○各グループで試して跳ぶ。
トを考える。
“子・丼!”を意識しよう
て、最高記録を出そう
○踏切足を確認する。
内
・利き足と逆の足で踏み込ん
容
でみて跳び易いかどうか試
・声を出して、色んなリズム
・丼を力強く踏み込む。
(2種類の「親子丼」に触れ
してみる。
を確認しながら跳ぶ。
・足裏全体で踏み込んでいる
る。
)
かかわりを生み出す支援
○それぞれのリズムで跳ぶ。
か確認する。
○助走を5歩にし、スムーズに
(第2時)
○踏切の動作確認をする。
・上体を起こすために、視点
一連の動作を繋げて跳ぶ練習。
・グルーピング
を上げる。
○「子・丼!」のポイント
(第3・4時)
・障害走を想起する。
○足を意識したサーキット跳躍
に取り組む。
・歩幅、踏切足、上へ跳ぶ感
覚を確認する。
○本時の振り返りをする。
3歩の助走のみで跳び、3歩の助走での記録をとる。
5歩の助走のみで跳ぶ
○本時の振り返りをする。
・グル―プで発見した事と気
・手拍子と掛け声
○グループで確認しながら跳ぶ。
○本時の振り返りをする。
○本時の振り返りをする。
○本時の振り返りをする。
・記録と目標設定をし、気が
をつけたいポイントを共有
→自分の記録を記入し、目標と
付いたことを記入する。
する。
比較する。
補足資料
<①高跳びにつながる準備運動の工夫>
【もも上げ】
ふり上げる方の足を3歩目で上げながら前へ進む。そのときに、手のひらに足が当たるように高
くふり上げ、ひざと上体が曲がらないように注意する。動作をくり返すことで、自然にふり上げる
足とタイミングが身につく。
【内回し】
じく足を前にして、太ももを内側にすばやく回す。テンポよく前に進みながらこの動作を行うこ
とで、空中での姿勢を保ちながら足をスムーズに移動できるようにする。
【足を真下に強く下ろす】
ひざを曲げて、太ももを高く上げた状態からストンと足を下ろす。足の裏全体でゆかをける感覚
を感じることで、ふみ切りの最後の1歩を力強くさせる。
【つま先ダッシュ】
つま先立ちで両足を交互にテンポ良く走る。上体をしっかり起こすように注意する。スピードを
上げる上で、リズミカルな助走を意識する練習になる。
<②目標記録別のグルーピング>
初回の自己記録をはかった後に、目標記録(※)別でグルーピングをする。自己記録の更新や目
標だけでなく、友だちとの競い合いから、以下の3点の相乗効果を期待する。
①
期待値が明確になり目標設定がはっきりする
②
グループ内の友だちと競争心を持って高め合える
③
近い存在として課題やポイントの整理に大きく影響する
(※)目標記録=0.5×身長(㎝)-10×50m 走のタイム(秒)+110cm
- 45 -
(3)授業実践②
平成 26 年 11 月 11 日
学年・領域
単元名
大津市立真野北小学校
北脇 俊宏
教諭
6年 ボール運動領域 ゴール型
「 ねらって決めよう! シュートチャンス!! 」
指導によせて
A:子どもがひかれるもの
B:教師のつけたい力
・シュートを決める楽しさ。
動きの面
・仲間と作戦を考え、学び
・シュートチャンス(簡単にシュ
合う楽しさ
めざす「かかわり」の姿
・シュートチャンスを見つ
け、動きやタイミングを
アドバイスする姿
ートを打てる状況)でボールを
もらいシュートすることがで
きる。
学びの面
・チームで作戦を考え、共有する
ことができる。
C:A と B の重なりを大きくする支援
○スキルアップゲームで基本的なボール操作の習得
・三角パス
(パス、キャッチ、パス&ラン)
・ランニングパス
(走りながらのパス、走りながらのキャッチ)
・30秒間シュート (シュート)
・ランニングシュート(補足資料①)
○シュートチャンスを見つけやすくするルールの工夫(補足資料②)
・ドリブルの禁止
・オーバーナンバー(4vs2)
かかわりを生み出す支援
○学びが深まるグループ編成
仲間の動きに着目し、自分たちの見つけたポイントをグループで共有しやすいように、4
人という少ない人数でグループを編成した。また、学び合うという観点から、ボール運動の
得意な児童がばらばらになるように配慮している。
○チーム内での合言葉づくり
パスやシュートの基本的な技能を習得する段階からチーム内で合言葉を作ることを意識さ
せる。シュートの時には「1、2、シュート!」と言うようにしたり、パスした後にすぐ動
くことを練習するときには「パス、アンドラン!」などと言うような合言葉を作ることで子
どもたちがよりよい動きを意識し、関わりの中でお互いを高め合っていけると考える。
○シュートチャンスが生まれやすい「逆オフサイド」というルール追加
一番のシュートチャンスは自分とゴールの間に相手がいない状況でボールをもらえたとき
であると考える。そこで、フリースローラインを延長したラインからゴール側をオフサイド
ゾーンとする。守備側は攻撃側がオフサイドゾーンに入るまではそこに入れない。こうする
ことで、空間へのパスを使って自分とゴールの間に相手のいない一番理想的なシュートチャ
ンスを作り出すことに効果的であると考える。
- 46 -
単元計画
(全8時間)
時間
学習
課題
単元名
1
試しのゲーム
2
3
4
バウンドを使っ
パスして走る
ボールをもらって
○オリエンテーション
○ ス キル アッ プ ゲ
○スキルアップゲーム
ームを経験する。
を経験する。
5
走りながらのパス
てパスキャッチ
○学習活動
「 ねらって決めよう! シュートチャンス!! 」
ゴール下のシュート
・教師の支援
6
7
8
シュートができ
シュートチャンスを
チームで考えた動き
る動き
作り出す動き&パス
をゲームで生かす
すぐシュート
○ウォーミングアップ・スキルアップゲームをする。
・三角パス
・三角パス
・ゴール下シュート
・ランニングパス
・ランニングシュート
・三角パス
・ゴール下シュー
・人に向けてのパスではなく場所にパスすること意識して取り組むように声をかける。
(パス、キャッチ、
ト
・動きながらキャッチしてシュートできるように声をかける。
パス&ラン)
・ランニングパス
・パスをもらってすぐに次の動きに移るように声をかける。
学
・ゴール下シュート
・ランニングシ
(30秒間シュート)
ュート(移動し
○本時の課題を確認しめあてをもつ。
○本時の課題を確認
○本時の課題を確認
○本時の課題を確認
○本時の課題を確認
てキャッチシュ
○タスクゲームを行い、シュートチャンスを
しめあてをもつ。
しめあてをもつ。
しめあてをもつ。
しめあてをもつ。
ート)
生みだす動きを練習する。
○タスクゲームを行
○タスクゲームを行
○タスクゲームを行
○タスクゲームを行
・ランニングパス
習
(走りながらのパス、
内
容
走りながらのキャッ
○ タ スク ゲー ム を
・2対1(ハーフ)
い、シュートチャン
い、シュートチャン
い、シュートチャン
い、シュートチャン
チ)
する。
・ボールをもらえる位置に動いてパスをも
スを生みだす動きを
スを生みだす動きを
スを生みだす動きを
スを生みだす動きを
練習する。
練習する。
練習する。
練習する。
○試しのゲームをす
・2対1のハーフ
らおうとしていた場面を取り上げて紹介
る。
コートで試合を
する。
・4対2のオールコ
する。
ートで試合をする。
・バウンドパスを
○振り返りをする。
使っている人を
・試しのゲームで上
取り上げて紹介
手くいかなかったこ
する。
とを全体で共有し、
学習課題を見つけさ
せる。
○振り返りをする。
〇試合をする。
・3対1(ハーフ)
〇振り返りをする。
かかわりを生み出す支援
・学びが深まるグループ編成
・チーム内での合言葉作り
・
「逆オフサイド」ルール追加
・3対1(ハーフ)
・4対1(ハーフ)
・4対1(ハーフ)
・3対1(ハーフ)
・パスをした後に
・4対1(オール)
・4対1(オール)
・チームで考えた
自分が動いて再び
〇試合をする。
〇試合をする。
スペースに飛び込
パスをもらおうと
・4対2(オール)
・4対2(オール)
む作戦を、試合で
していたチームの
・ゴールに向かう
・飛び出すタイミ
生かせるように練
動きを紹介する。
ようにアドバイス
ングをアドバイス
習する。
の声かけを意識さ
するように声をか
せる。
ける。
〇試合をする。
・3対1(オール)
〇振り返りをする。
〇振り返りをする。
〇振り返りをする。
〇試合をする。
・4対2(オール)
補足資料
<①ランニングシュート>
【ランニングシュート(走りながらのキャッチ、シュート)
】
スキルアップゲームの中で特に力を入れて取り組みたいのがランニングシュートである。パス
をしてすぐに空いているスペースへ移動し、ボールを受けてシュートする。この動きはまさに本
単元でねらっている動きである。本単元では、毎時間少しずつ違う場所からランニングシュート
を行うことで、パスをしてすぐに空いているスペースへ移動しボールをもらうという動きを習慣
化していきたい。
また、単元の後半では応用編としてパスした後、どちらにディフェンスがいるのかを判断して
から空いているスペースに走りこむ動きも取り入れ、習慣化していきたい。
<②シュートチャンスを見つけやすくするルールの工夫>
【ドリブルの禁止】
シュートチャンスを作り出し、より簡単な状況でシュートを打つためには、ボールをゴール付
近まで素早く運ぶことが要求される。そのためには、ボールの受け手がスペースを意識して動け
ることが重要になる。そのため、本単元ではボールを移動させる手段はパスのみとした。このこ
とで、攻撃側のボールを持たない児童は動かざるを得ない状況になり、よりボールをもらいやす
いところへ動くことになる。そのことが、シュートチャンスを見つけ出すことにもつながると考
える。
【オーバーナンバー(4vs2)でシュートチャンスを見つけやすく】
本単元の最終的な試合では、攻撃側4人に対して守備側2人のオーバーナンバーの状況を常に
作る。そのために、守備側は相手側のフロントコートには2人しか入ることができない。残りの
2人は相手側バックコートで待機する。このことで、攻撃側は数的有利になり、よりシュートチ
ャンスが見つけやすくなると考える。また、守備のときに相手側バックコートに待機している2
人が攻撃に転じた時にはゴールに近い位置にいることにより、より多くのシュートチャンスが生
まれると考える。
- 48 -
(4)授業実践③
平成 26 年 11 月 27 日
学年・領域
単元名
大津市立瀬田東小学校
小堀
文雄
教諭
6年 ボール運動領域 ゴール型
「 ズコーン→ズコーン→ズコーントライッ!! 」
指導によせて
A:子どもがひかれるもの
B:教師のつけたい力
・ トライをきめる気持ち
動きの面
めざす「かかわり」の姿
良さ
・作戦がうまくいった時の
・スピード感ある連続攻撃をする
楽しさ
・スピード感ある連続攻
撃をする力
ために一人一人の動きを話し合
学びの面
ったり、個々の良さを見つけて
・個々の良さを見つけ、
褒めたり、アドバイスし合う姿
その良さを生かした作
戦を立てる力
C:A と B の重なりを大きくする支援
〇合言葉による動きの意識化(補足資料①)
〇ドリルゲーム スネーク(補足資料②)
〇タスクゲーム 3vs2(補足資料③)
〇スピード感ある攻撃の定義とスビード感ある攻撃するためのポイントの提示
スピード感ある攻撃とは、
「ボールを走り込んでもらう」ことと「タグを取られてから素早
くパスをする」ということである。これを共通認識するためにボードに掲示する。
スピード感ある攻撃をするためのポイントは以下の通りだと考える。
①ボール保持者が前に進む。
②ボール保持者についていく。
(ボールをもらう時は、ボール保持者の右か左に動く)
③ボールを持っていない人の「右」、
「左」などのボール保持者への声かけをする。
④作戦(ボール保持者の動き、ボールを持っていない人の動きの意思統一)を作る。
⑤ボールを持っていない人がタグを取られる位置を予測する。
⑥走りこむスペースにパスを投げる。
〇スピード感ある連続攻撃のイメージの共有化(補足資料④)
〇強みリスト(補足資料⑤)
〇作戦ヒントカードと作戦ボード(補足資料⑥)
〇メインゲームのルールの簡易化(補足資料⑦)
かかわりを生み出す支援
〇ゲームを観る視点の焦点化
兄弟チームで試合を観合う時に、観るポイントを与える。それと同時に観る人を指定す
る。そうすることで、観る視点が焦点化されて、兄弟チーム同士での自然と「かかわり」
を生み出し、技能向上につながると考える。
- 49 -
単元計画
(全8時間)
時間
単元名
1
2
学習のねらいやル
3
ールを理解し、タ
課題
グラグビーを楽し
4
5
6
スピード感ある
個々の良さを
れたら素早くパスを
連続攻撃をする
見つける
ールをもらう)
む
個々の良さを生かした
ムと特徴を知り、
作戦を考える
自分のチームに生
かす
する)
〇ドリルゲームをする。
スネーク
8
他のクラスのチー
をする(タグをとら
をする(走り込んでボ
・教師の支援
7
スピード感ある攻撃
スピード感ある攻撃
学習
○学習活動
「 ズコーン→ズコーン→ズコーントライッ!! 」
ランパス
・相手にとりやすいパスをするよう声をかける。
・スピード感を出すために走り込んでもらうよう声をかける。
○オリエンテーショ
〇メインゲームをす
〇メインゲームをす
〇メインゲームをす
〇チーム練習をす
〇チーム練習をす
〇チーム練習をす
〇チーム練習をす
ン
る。
る。
る。
る。
る。
る。
る。
学 習
内
・試合の進め方を
・前時の課題を思い
・前時のポイント
・前時のポイント
・強みリストに貯
・作戦ヒントカー
・作戦ヒントカー
・作戦ヒントカー
確認する。
出させる。
を思い出させる。
を思い出させる。
めたことをいかし
ドを提示し、チー
ドをチームごとの
ドをチームごとの
て練習させる。
ムで選んで練習さ
強みをいかしてア
強みをいかしてア
せる。
レンジさせる。
レンジさせる。
・メインゲームの
〇タスクゲームをす
〇タスクゲームをす
〇タスクゲームをす
ルールを確認す
る。
る。
る。
る。
容
〇メインゲームをす
・1 + 1 vs 1
・1 + 1 + 1 vs 1 +1
・1 + 1 + 1 vs 1 +1
・3vs2
〇メインゲームをす
かかわりを
生み出す支援
る。
〇メインゲームをす
〇メインゲームをす
〇クラス対抗タグラ
〇チーム練習をす
る。
る。
グビー大会をする。
る。
〇チーム練習をす
〇チーム練習をす
・他のチームの良
る。
る。
さを見つけ、自分
・走り込んでボー
・タグをとられた
ルをもらう動きを
ら素早くパスをす
体感させ、学級で
る動きを体感さ
・上手くいかなか
共通理解する。
せ、学級で共通理
ったことを全体
〇メインゲームをす
で共有し、学習課
る。
〇メインゲームをす
〇メインゲームをす
〇メインゲームをす
〇メインゲームをす
〇メインゲームをす
題を見つけさせ
〇振り返りをする。
る。
る。
る。
る。
る。
〇振り返りをする。
〇振り返りをする。
〇振り返りをする。
〇振り返りをする。
〇振り返りをする。
る。
・3vs3
〇振り返りをする。
る。
・ゲームを観る
視点の焦点化
3人目の動
きの大切さ
解する。
・チームの課題に
合ったタスクゲー
・作戦ボードを使
・作戦ボードを使
たちのチームに必
ムを選ばせて練習
って個々の役割を
って個々の役割を
要なことは、取り
させる。
確認させる。
確認させる。
入れるように声か
けする。
補足資料
<①合言葉による動きの意識化>
一つの合言葉は、「持ったら前!」である。この合言葉の意味は「ボールを持ったら、前に進め。」とい
う意味である。スピード感ある連続攻撃をするために、ボール保持者が、後ろに下がってはいけない。タ
グを取られるのを嫌がり、後ろに下がってしまうことがしばしばあるが、それを防ぐためにこの合言葉を
設けた。ボールを持った人がとにかく前に進むことが、スピード感ある連続攻撃の第一歩となると考える。
二つ目の合言葉は、「ついていけ!」である。この合言葉の意味は「ボールを持っている人についてく」
ということである。ボールをもらうためには、まずボール保持者の近くにいる必要がある。そのためボー
ルを持っている人についていくことで、タグをとられた際に近くにおり、なおかつ後ろから走ってきてい
るので、走りながらボールをもらうことが可能となる。この合言葉を子どもたちの中で自然と言いあって
お互いに高め合えるよう意識させる。
<②ドリルゲーム
スネーク>
スネークとは、先頭の人が、後ろから走ってくる人の声を聞き、その方向にパスを送り、そのボールを
後ろの人が走り込んでキャッチをするドリルである。まず、チームで1列に並び、先頭の人がボールを持
つ。そして、全員1列で走り出し、先頭から 2 番目の人が「右」か「左」と先頭の人に声をかける。先頭
は、「右」か「左」にボールをパスし、2番目の人が走り込んでそのボールをキャッチする。先頭の人は、
列の1番後ろに並び、2番目の人が先頭となって、3番目の人が2番になる。これを繰り返していく。後
ろの人は先頭の人に蛇(スネーク)のようについていき、声を出して走り込んでボールをもらうのである。
今回は、兄弟チームでスネークを行い、合計タイムを記録していく。毎時間、記録を測定することで、
意欲を高め、スビード感ある攻撃につなげたい。
<③タスクゲーム
①1 + 1 vs 1
3vs2>
ボール保持者について行って、走りこんでボールをもうらタ
スクである。
ボール保持者は、合言葉である「持ったら前!」の通り、前
に進み相手をかわしながら走る。かわせたらそのままトライ。
かわせなかったら味方の「右や左」の声を聞いてパスを送る。
ボールを持っていない人は合言葉通り、ボールを持っている
人について行き、ボール保持者がタグをとられたら「右」か「左」
と声をかけながら走ってボールをもらう。
ボールを持たない者が、合言葉「ついていけ!」を実際に行
い、ボールのもらい方を考えるためのドリルゲームである。つ
いていく者が一人だけなので、とられた瞬間の状況判断がしや
すい。
さらにこのタスクゲームで、走り込んでもらうというスピー
ド感ある攻撃ができるようにしたい。
- 51 -
②1 + 1 + 1 vs 1 + 1
①を連続させたものがこの②である。こちらでは、タグを取
られた後に素早くパスをつなぐことをねらいとする。
また、走り込んでもらうというスピード感ある攻撃を連続さ
せるタスクでもある。
攻撃3人、守備2人をたてに並べて、順番に 1 vs 1 のシチュ
エーションを起こすようにする。2回 1 vs 1 のシチュエーショ
ンを作り出すことで攻撃の連続性を味わうことができると考え
る。
③3 vs 2
これは、ボールを持っていない人が、ボール保持者のタグを取られる位置を予測して、走りこむタスク
である。ボールを持っている人が、ただただ「ついていく」だけでは、走り込んでボールをもらうという
スピード感ある攻撃は実現しにくい。そこで、このタスクでは、ボール保持者は、ボールを持っていない
味方と相談せずに、好きなところに走りこむ。ボールを持っていない人は、ボール保持者の走るコースを
見ながら、タグの取られる位置を予測して走り込めるようになってほしい。また、アウトナンバーにする
ことで、左右のどちらかはあくので、走りこむイメージを持ちやすいと考える。
- 52 -
<④スピード感ある連続攻撃のイメージの共有化>
スピード感ある連続攻撃のイメージを共有化するために、上記の(5)のように文字に表すだけでなく
て動きを見せる。具体的には、スピード感ある攻撃である走り込んでボールをもらっている様子を実演す
る。また、ゲームの中でスピード感ある連続攻撃ができている動きを撮影し動画で見せる。
<⑤強みリスト>
自分のチームの強みを知るために、個々の良さを集め、
「強みリスト」に書き出す。リストとして貯め込
むことでチームの特徴を把握することができる。
<⑥作戦ヒントカードと作戦ボード>
相手をゆさぶる動きの基本形を提示する。そうすることで、その基本形を自分たちのチームの特徴に応
じてアレンジできると考える。また、各チームに作戦ボードを持たせることで、実際に起こった動きを再
現して振り返ったり、作戦を立てる時に活用したりできると考える。
強みリスト
作戦ヒントカード
<⑦メインゲームのルールの簡易化>
体育の学習の時間のみでスピード感ある連続攻撃をするためには、公式のルールを用いることは難しい。
そこで、ルールを簡易化することで、児童がスムーズにルールを理解して、スピード感ある連続攻撃につ
なげやすいと考える。
メインゲームのルールは以下の通りである。
1.試合の人数 3vs3(兄弟チームで前半、後半を分けて試合に出て、合計得点で勝敗を競う)
公式のタグラグビーの人数(5vs5)よりも減らすことで、一人一人の役割を大きくする。3 人全員の役割
- 53 -
や動きをチームで意思統一する必然性が生まれる。
2.ノックオン(前にボールを落とすと反則)は無し。
攻撃の連続性を重視したいから。
3.タグ3で攻守交代。
(攻撃権は、状況に応じて柔軟に変更していく。
)
4.トライラインを越えてボールを置いたら1点。
5.タグが両方ついていないと得点にならない。(タグインゴール)
→5m 下がって攻撃を開始する。
(5m バック)
6.パスは、真横か後ろに投げる、
7.タグをとったら、大きな声で「タグッ!!」と叫び、手渡しでタグを返す。
8.タグをとられたら、すぐに味方にパスをする。
9.タグをとった位置まで下がってから次のタグをとりにいく。
(オフサイド)
10.ゲームを開始する時は、守備は5m下がったところからスタートする。
11.ボールを持っている人は守備に当たってはいけない。
(接触禁止)
12.タグを取られないようにタグを手で押さえたり、相手の手をふり払ったりしてはいけない。
コート設定
- 54 -
3.研究部員の「かかわり」を意識した授業実践
(1)考察項目の説明
かかわりたくなるまで(できる・わかるの積み上げ)
めざすかかわりに向けて、「できる」「わかる」を単元の中でどのように積み上げて
いき、かかわりたくなる時を作っていったのかを記述している。
子どもたちが「かかわりたい!!」と切実に思うまでには、「できた」「わかった」
という経験が必要となる。例えば、器械運動で友だちにアドバイスをする場合、アドバ
イスの内容は自分自身がそれまでに経験してきた「できた」というコツや感覚が中心と
なる。「できた」という実感が伴ったアドバイスは質が高く、アドバイスをしてもらっ
た友だちはできるようになり、さらにアドバイスを要求するであろう。また、動きのポ
イントが「わかる」とそのポイントができているのか自分の状態を聞いたり、できるよ
うになるためのアドバイスを求めたりする姿が生まれる。
このように、「できる」「わかる」と「かかわり」は密接な関係がある。
かかわりたくなる時
平成25年度の研究成果から子どもたちがかかわりたくなる時は、以下の4つである。
・課題設定(学びの向かう先がはっきりしている)が適切な時
・
「できた」感を持つことができた時
・運動そのものが持つ魅力を味わえた時
・自分の動きにこだわりを持った時
この4つのいずれかに当てはまる子どもの姿を記述している。
かかわりを生み出す支援と子どもの学びの姿
かかわりたくなる時に打った「かかわりを生み出す支援」によって子どもの学びの姿が
どう変わっていったのかを記述している。特に、「かかわりを生み出す支援」によってめ
ざすかかわりが生まれ、どのように技能向上につながっていったのかを記述している。
かかわりを生み出す支援
~〇〇〇〇〇〇〇~
について
かかわりを生み出す支援を以下の4つに分類し、それぞれの支援から見えてきた特徴や
有効性について記述している。
・場と教具
・声かけ
・課題設定、学習カード
・グループ活動
- 55 -
(2)授業実践
授業実践 ~場と教具~
学年・領域
単元名
日吉台小学校 岡山 駿
青山小学校 杉澤 大輝
第 4 学年 器械運動 跳び箱運動
「Let’s ジャンプ!ジャンプ!!ジャンプ!!!」
指導によせて
B:教師のつけたい力
A:子どもがひかれるもの
動きの面
・跳び箱を跳び越えられた喜
めざす「かかわり」の姿
・ロイター板を鋭く踏み、跳び
・ロイター板を踏み切って、
・友だちの動きを見て、
箱をより大きく跳び越すこと
体がふわっと浮き上がる
アドバイスをしたり、
心地よさ
自分の動きに生かした
学びの面
りする姿
・鋭い踏み切りをするために必
び
ができる。
要な動きのコツを見つけるこ
とができる。
C:AとBの重なりを大きくする支援
○動きのポイントをわかりやすくした跳び箱サーキット
「ケン・グーゾーン」踏み切りへつなげる片足ステップの場。
「スーパーマンゾーン」助走、踏み切り、体の投げ出しの場。
「うさぎ跳びゾーン」手の送り出しを練習する場。
「馬跳びゾーン」足→手→足のリズムをつかむ場。
「三段跳び箱ゾーン」着手の突き放しを意識する場。
「ステージ跳び上がりゾーン」踏み切りの場。
「着地ゾーン」着地の場。
○目指す動きを共有化する学習プリント
助走・踏み切り・着手・空中姿勢・着地の
5つのポイントを記す。
※1
○目指す動きを具体化するお手本・・・示範演技を見せ、ロイター板に鋭く踏み込む時とそうでは
ない時の違いから鋭く踏み込むことの大切さに気づかせる。
かかわりを生み出す支援
・Good・ファイトカード
友だちの動きを見て、良いと思ったら Good、改善点がある
と思ったらファイトを示して、アドバイスをする。
※1 高橋健夫「あたらしい体育5年」学習研究社 2005
- 56 -
単元計画
(全5時間)
単元名
○学習活動
「Let’s ジャンプ!ジャンプ!!ジャンプ!!!」
時間
1
2
3
学習
開脚跳びで
開脚跳びで
開脚跳びで
課題
着地を意識しよう
着手を意識しよう
踏み切りを意識しよう
○跳び箱サーキットに取り組む。
「ケン・グーゾーン」(踏み切り)
「スーパーマンゾーン」
(体の投げ出し)
「うさぎ跳びゾーン」(手の送り出し)
「馬跳びゾーン」
(足→手→足のリズム)
4
学
「着地ゾーン」(着地)
習
・それぞれの場での動きのポイントを抑える。
内
○開脚跳びに取り組む。
5
自分の開脚跳びを
開脚跳びを進化させよう
発表しよう
○示範演技を見る。
○跳び箱サーキットに取
・踏み切りを鋭くした時とそうで
り組む。
はない時の違いを考えさせる。
○跳び箱サーキットに取り組
む。
「三段跳び箱ゾーン」(着手)
「ステージ跳び上がりゾーン」(踏み切り)
・教師の支援
○より踏み切りを意識
した開脚跳びに取り
組む。
・鋭い踏み切りを意識させ
○より踏み切りを意識し
る。
・動きが大きくなることに
た開脚跳びに取り組む。
・鋭い踏み切りを意識させる。
・動きが大きくなることに合わ
合わせて、ピタッと着地
を決めることを意識さ
せる。
容
せて、ピタッと着地を決める
・動きのポイントを意識して取り組む。
ことを意識させる。
○発表会をする。
・自分のできる高さで開脚
(第 1 時:着地 第 2 時:着手
第 3 時:踏み切り)
跳びをする。
かかわりを生み出す支援
・Good・ファイトカードを使い、友だちの動きを見て、良
いと思ったら Good、改善点を見つけたらファイトを示す。
かかわりたくなるまで(できる・わかるの積み上げ)
たくさんの場で動きのポイントを確かめる子ども
本単元では、開脚跳びの動きのポイントを「助走、踏み切り、着手、空中姿勢、着地」の5つのポ
イントに分けた。その5つに分けたポイントを跳び箱サーキットとい
う形で一つ一つ確認しながら運動に取り組めるようにした。
1~3時間目までは、全員が開脚跳びを跳べるようにすることを中
心に学習を進めた。跳び箱サーキットで動きのポイントを抑えながら
学習を進めることで、子どもたちの見る視点を自然と「助走、踏み切
り、着手、空中姿勢、着地」に絞ることができた。
例えば、スーパーマンゾーンでの動きである。スーパーマンゾーン
は、写真1のようにソフトマットに体を投げ出して飛び込む動きを確
多くの場で一つ一つの技能ポ
イントを確認
写真 1
かめる場である。勢いのある助走から鋭い踏み込みを意識し、その力で体を前に投げ出すことを意識
させたい場である。子どもたちにとっても、普段経験できない感覚があり、とても人気のある場であ
った。ただ、1 時間目にスーパーマンゾーンに取り組んでいる児童によく見られたのが、踏み切った
後にソフトマットに手をついてから体を伏せてしまっている姿だった。手をすぐについてしまっては
せっかくの助走と踏み切りの勢いが生かされなくなってしまうため、その場で「スーパーマンのよう
に空を飛んで全身でソフトマットに飛び込むように」と声かけをした。その結果、踏み切り後の体の
投げ出しの姿勢を取ることができ、助走から踏み切りの力を生かせる跳び方につながった。
このように場の中で動きのポイントを押え、正しい動きを確認しながら行うことで、開脚跳びのポ
イントを全員で確認することができた。跳び箱サーキットを通して、
「開脚跳びができる」という経験
を積み重ねたことで、
自然と
「もっと跳べるようになりたい。」という姿が見られるようになってきた。
かかわりたくなる時
「もっと跳べるようになりたい」と思った時
(課題設定(学びの向かう先がはっきりしている)が適切な時)
かかわりを生み出す支援と子どもの学びの姿
目指す動きの共通理解を通して
4時間目に、
「開脚跳びを進化させよう」というテーマで、教師
の示範演技を見せた。目指す動きが具体化されたことで、子ども
たちの中で
「あの大きな動きになるために、
どうすればいいのか。」
という目標が共通理解された。これで、開脚跳びの見る視点を「踏
み切り」と「着手」に絞ることができた。児童は踏み切りが強く
なることで腰が高く上がり、着手での突き放しが強くなることで
空中姿勢に余裕が生まれ、今までとは違った空中感覚を味わえる
ことに気付いた。しかし、児童は、この空中姿勢が「できているの
Good・ファイトカードを使い、
か」
「できていないのか」を自分では判断しづらい。そのため、自分
アドバイスし合う子どもたち
の出来栄えを確認しようと、自分の動きと相手の動きをチェックし
写真2
合う姿が見られるようになった。
- 58 -
そこで、
「Good・ファイトカード」を提示し、良い動きには Good を見せ、改善点を見つけたらフ
ァイトを見せるようにさせた。写真2のように、子ども同士で「Good・ファイトカード」を使い「今
のは踏み切りが弱い。
」や「さっきの方が踏み切りいい音してたで。」
「今、跳び箱揺れてたし、強く押
せてるんちゃうかな。
」というように、目標の開脚跳びに近づけるためにアドバイスをし合う姿が見ら
れるようになった。
子どもたちの中で特に「踏み切り」が大切だという考えが強くなり、
「踏み切り」を生かすための「助
走」にこだわってアドバイスをする姿や、より良い「踏み切り」をするためにロイター板の位置にこ
だわる姿など、
「踏み切り」に視点を絞ってお互いにアドバイスをし合う姿がたくさん見られた。また、
「踏み切り」と「着手」に視点を絞ったことで、跳び箱サーキットでも自然と「踏み切り」と「着手」
の場に集まり、積極的に練習に取り組む姿が見られるようになった。
かかわりを生み出す支援
~場と教具~
について
動きのポイントに特化した場
子どもの技能を伸ばすための場と教具を設定するにあたって、大切にしたことは動きのポイントを
見つけ、動きのポイントに特化した練習の場を作ることであった。動きのポイントに特化した練習の
場を設けることは、
「子どもが学ぶ視点を明確にして練習できる」
、
「子ども同士のアドバイスが端的に
できる」と考えたからである。
例えば、先ほどの実践では子どもたちが三段跳び箱ゾーンで着手を練習していると、跳び箱を掻く
ようにして跳んでいた A 児に対して、B 児が「跳び箱をもっと突っつくようにしなあかんで。」と一言
アドバイスをしていた。このように、動きのポイントに特化することで、自然と「着手」の部分に目
を向けられた。このように、動きのポイントを場ごとに取り出すことで「開脚跳びをできるようにす
るためには何ができるようになればいいのか。
」を子どもたちにわかりやすく伝えられると感じた。
さらに、動きのポイントに特化した場を作って練習すると、自然と見る側に見て欲しい視点を伝え
ることができる。自分が苦手だと感じている技の場がある時、その場へ行けば、上手な子の動きを見
ることができ、良い動きからヒントを得て、自分の動きへとつなげることもできた。見る視点を絞る
ことがかかわりを生み出す基盤になると気付いた。
教具を出すタイミング
示範演技を見せた後の子どもたちは跳んだ後にすぐ「今のできていた?」と見ていた友だちに確認
をしていた。しかし「今のはよかった。
」や「今のはあかん。
」という「できた」か「できていない」
の言葉だけであり、具体的な声かけがなかった。
そこで、
「Good・ファイトカード」を渡すことによって、子どもたちは自然と Good の面を見せな
がら良かった点を伝えたり、ファイトの面を見せて改善点を伝えたりとアドバイスの中身が具体的に
なり、深いかかわり合いになった。
このように、教具を出すタイミングによって子どもたちの動きを見る視点や言葉かけの具体性が変
わることを感じた。しかし、技能ポイントが理解できていなかったり、習得できていなかったりする
時に、このような教具を出しても、何をアドバイスすれば良いかもわからず、かかわり合いが生まれ
にくい。逆に、このようなかかわり合う基盤が作れているにもかかわらず、教具を出すタイミングが
遅くなれば教具を出す効果は半減してしまう。子どもたちにとって「今、ほしい。」と思えるタイミン
グで、
効果的に教具を提示することで、
かかわりを生み出す基盤をより生かせることがあると考える。
- 59 -
授業実践 ~声かけ~
瀬田東小学校 宮塚 江理
学年・領域
第 3 学年 器械運動 跳び箱運動
単元名
「目指せ!かいきゃくとびノ介!」
指導によせて
B:教師のつけたい力
A:子どもがひかれるもの
動きの面
・かっこいい技へのあこがれ
・助走から両足で踏み切り,脚
跳び箱を跳びこせた時の
達成感
・ぴたっと着地できたときの
心地よさ
を左右に開いて着手し,跳び
めざす「かかわり」の姿
・動きのよしあしを判断し
こすことができる。
学びの面
て伝えたり、自分の動き
・自分に合った場で開脚跳びの
の感じを言葉にして全体
練習をするために、動きのポ
に広げたりする姿
イントを知り、動きながらポ
イントを確認したり探したり
することができる。
C:A と B の重なりを大きくする支援
○感覚をつかむ・なれる・ひたる場(とびノ介ランド)の設定
①スーパーマンとび(助走―両足踏切、体の前方への投げ出し)
・短い助走から両足で踏み切ってセーフティマットへ腹からおりる。
②台上からうさぎ(腕支持感覚,腕を支点にした体重移動、やわらかな着地)
かかわりを
生み出す支援
・「動きのポイン
トリスト」をもと
・腰を上げた状態から、跳び箱を手で押し、開脚姿勢で下りる。
にした教師の声
・段差をつけた跳び箱から、両足で踏み切って着手し、開脚姿勢で下りる。
かけ
③川跳びうさぎ(手の突き放し,足・手・足の運動の順次性)
・動きを見る視点
・横向きのマットをうさぎ跳びで越える。
④ステージうさぎ(助走―両足踏切からの腰上げ、腕支持感覚)
を明確にした場
・台に乗り、助走なしで両足で踏み切ってステージに足裏で乗る。
の設定と相互評
・助走から両足で踏み切って、ステージに足裏で乗る。
価活動
○繰り返し動きを試す時間の確保
自分に合った跳び箱の場で、助走・踏切から着地まで一連の流れで開脚跳びの動きを練習す
る場を設定し、チャレンジタイム1・2として 1 時間の中の「はじめ」と「おわり」に行う。
「なか」ではレベルアップタイムとしてとびノ介ランドに取り組む。単元の前半は、レベルア
ップタイムを、後半はチャレンジタイム2を長めにとり、前半で運動感覚を養い、後半では一
連の流れの中で技の動きを試す時間を増やす。
○動きを見合う活動
動きのポイントリストをもとに、チャレンジタイムで自分や友だちの動きを見る視点を明確
に伝え、お互いに見合う。まず、着地時にぴたっと 2 秒静止できているかを徹底する。次に、
縦置きの跳び箱では、跳び箱の奥の着手ラインに手をついているかどうか見合う。できていた
ら「OK!」と声をかける。
- 60 -
単元計画
時間
学習
課題
(全8時間)
単元名
○学習活動
「目指せ!かいきゃくとびノ介!」
・教師の支援
1
2
3
4
5
6
7
8
≪単元の流れ,学習
≪開脚とびに必要
≪開脚とびに挑
≪開脚とびに挑
≪開脚とびに挑
≪自分のめあてに
≪自分のめあてに
≪発表会をしよ
のねらいを知ろう≫
な動きをためこも
戦しよう≫
戦しよう≫
戦しよう≫
むかって、開脚とび
むかって、開脚とび
≪開脚とびに必要な
う≫
ピタ着地をしよう
跳び箱の奥に手を着
腰を高く上げよう
の練習をしよう≫
の練習をしよう≫
めあてを選んで練習
めあてに沿って、練習
しよう
場所を選ぼう
こう
動きを知ろう≫
う≫
基礎感覚づくりに取り組む。 折り返しの運動・馬跳び … 意識してできるのではなく、自然とできるような体の準備状態をつくる。
とびノ介ランドに挑戦する。
チャレンジタイム1に取り組む。 … 助走から着地まで、自分に合った跳び箱の場で開脚跳びの一連の動きを試す。
①スーパーマンとび
②台上からうさぎ
学
③川跳びうさぎ
④ステージうさぎ
レベルアップタイムに取り組む。
習
レベルアップタ
発表タイム
イム
自分に合った場
・とびノ介ランド(4 グループに分かれ、ローテーションを行う。)
自分でとびノ介
で見てほしい動
・動きのポイントを意識して練習する。
ランドの場を選
きを宣言してか
ぶ。
ら跳ぶ
…
感覚をつかむ・ひたる・なれる 動ける身体づくり
4つの場には、開脚とびができるポイン
内
トがつまっていることを知る。
跳び箱の場と行
それぞれの場での動きのポイントを知
容
き来してもよい。
り、試す。
チャレンジタイム2に取り組む。
…
助走から着地まで、自分に合った跳び箱の場で開脚跳
びの一連の動きを試す。
・見てほしいポイントを宣言し、動きのよしあしを相互評価し合う。
かかわりを生み出す支援
・
「動きのポイントリスト」をもとにした教師の声かけ
・動きを見る視点を明確にした場の設定と相互評価活動
かかわりたくなるまで(できる・わかるの積み上げ)
「動ける身体づくり」と「学び方の蓄え」
「動きのポイントリスト」をもとに、①「感覚をつかむ・なれる・ひた
る場(とびノ介ランド)
」を設定すること、②繰り返し動きを試す時間を確
保する(チャレンジタイム1・2)こと、③視点を明確にし、動きを見合
う活動をすることを大切にした。①、②は、意識してできるのではなく、
自然とできるような体の準備状態を作ってやりたいと考えたからである。
このような「動ける身体」があってこそ、教師が投げかける動きのポイン
トとつながったり、自分の動きの感覚を言語化したり、友だちが動きを言
語化したことに共感したりするような「学びの蓄え」ができると考えた。
感覚をつかむ・なれる・ひ
たる場(ステージうさぎ)
かかわりたくなる時
「動きのポイントリスト」をもとにした教師の声かけで
たくさんの「できた」が積み上がった時
(「できた」感を持つことができた時)
かかわりを生み出す支援と子どもの学びの姿
見取りを言葉かけや補助など、技能を伸ばす手立てに変える
動きのポイントを詳細に描いたことで、
「もう少し肩が前に出るだけででできそうだ」、
「両足踏切の
瞬間の視線を遠くにすることで突き放しのタイミングが変わりそうだ」と、子ども一人ひとりの動き
を瞬時に見取ることができるようになってきた。教師が指導経験を蓄えると、姿を見ただけで、その
子の学びの道筋が見えるようになるのだろうと感じた。技をより雄大なものにする段階にいる児童の
着地を見て「前のめりになっているな」という見取りから、
「手を突いた後胸を張ってごらん」と声掛
けをした。それがその児童の動きの変容につながり着地が安定してきたように、手立てを考えたり、
タイミングよく補助を行ったりすることができ、子どもの動きを変えることにつながった。
動きを評価する明確な視点を与える
●動きを見る目を養う
動きができているかどうかを判断する視点を子どもに与える際に、着地と着手の2つの局面に絞
り「着地は膝を柔らかく曲げて、ぴたりと2秒とまること」、
「両足で踏み切って、跳び箱の奥に手
をつくこと(着手ライン)
」とした。「OK!」「できてるで」「めっちゃいい感じ」などの言葉かけ
が増え、友だちに受け入れられている、認められているという実感を持ち意欲的に練習する子ども
が増えたように感じる。また、自分が感じた友だちの動きを「ここで(踏切直後)もっとぽいーん
って感じでしたら?」とか、
「もっとここ(着手ライン)バーンと!」といった動きに関するアドバ
イスも一部の子ども同士で見られた。
これは、
「できた」を評価する視点をはっきりとさせたことで、
動きを見る目が養われたこと、教師の具体的な言葉かけが子どもの中に広がっていったことが影響
していると考える。
●自然と必要な動きを繰り返したり試したりする仕組みになる
上記2つの視点は、できているかどうかが判断しやすく何度でも挑戦したくなる。また、その動
きができるようになるには、その直前の局面が大事になってくる。助走から踏み切って体を投げ出
す局面や、動きが速く判断しづらい第2局面は、レディネスの差が大きく影響し、個人により課題
が大きく異なる局面でもある。しかしその動きも、着手位置と着地の動きを意識することで自然と
修正や試す動きが繰り返され、子どもの技能の向上につながることが分かった。
- 62 -
かかわりを生み出す支援
~声かけ~
について
子どもの「できた」につながる教師の声かけを支えるのは、運動題材の理解と分析
ある運動を行う上で必要な感覚を
蓄えていない子どもたちが、自力で
「こうしたらできるぞ!」というよ
うな発見をし、自ら動きを変えて行
くことは難しい。だからこそ「補助」
「学習の場の変更」
「動きを変える・
操作を変えるひとこと」が必要であ
る。その「判断基準」
「ひとこと」を
授業の計画段階で、
用意するために、
運動題材を詳細に分析することが必
要である。それが「動きのポイント
リスト」である。これは評価規準を
もとに、子どもの感じ方、目線で表記することを大切にした。子どもの感覚に寄り添い、一瞬の動き
を捉えて言葉かけをする時にも子どもに伝わりやすくなる。形式は領域により様々になるが、図は今
回の実践で作成した開脚跳びの動きのポイントリストである。
「動きのポイントリスト」を拠り所とした声かけの効果
●褒める瞬間の増加による意欲の向上
児童の動きのちょっとした変化や良くなった瞬間を見逃さずに褒
められることが増えたと感じる。また、
「もうすぐできそうだな」と
いう動きをしている児童を視野に入れておき、初めてできる瞬間を
逃さず褒めることも増えた。それにより子どもたちがより意欲的に
活動することができたように感じる。
●具体的な声かけの増加による児童の意識と動きの変化
初めてできる瞬間を見逃さず褒める
良い動きだということをフィードバックするために短く「ナイ
ス!」
「いいよ!」と声をかけることももちろん大切だが、子どもが
「役に立った」と感じる声かけは「つまさきで跳ぶといいよ」
「パー
ンの後、顔上げて」といった矯正的な声かけであった(アンケート
より)
。動きながら意識するポイントを絞って個別に伝えることで何
度もつぶやきながらためしたり、友だちに「ちょっと、おれの顔見
突き放しのタイミングを
てて。前来て。
」とお願いしたりする様子もみられるようになった。
伝えようとする児童
そして、特に技に磨きをかけていく段階にいる児童については、動
きのどこが良いかを具体的に伝えることで「そうか、自分はそういう理由でうまいのか。」「ならも
っとここをきれいにしたいな」と自分の動きを変える意識が働くようだった。
●学習材としてはたらく教師の声かけ
教師の「動きのポイントリスト」をもとにした具体的な言葉かけは、自分の動きを変えようとす
ることや友だちと関わる際の材料に働いた。さらに、教師の言葉かけは子ども同士の間にも合言葉
のように広がりを見せた。
図 高橋健夫・藤井喜一・松本格之助. 体育科教育[別冊]新しい跳び箱運動の授業づくり : 大修館書店, 2009.
- 63 -
授業実践 ~グループ活動~
学年・領域
瀬田南小学校 永元 良典
大石小学校 山田 寿樹
6年 陸上運動 ハードル走
単元名
「リズムマスター」
指導によせて
B:教師のつけたい力
A:子どもがひかれるもの
動きの面
・ハードルを速くリズミカル
・インターバルを3歩のリズムで
に走り越える心地よさ
速くリズミカルに走ることが
・記録が向上した時の喜び
できる。
めざす「かかわり」の姿
学びの面
・友だちの動きを見て、
・ハードルを越える時のポイント
アドバイスをしたり、
を意識したり、友だちの動きを
自分の動きに生かした
見たりしながら、速くリズミカ
りする姿
ルに走るための動きを考えた
りすることができる。
C:A と B の重なりを大きくする支援
実際のハードルよりも低
○速くリズミカルな走りを体感
く、安全であるため、恐怖心
第1時に段ボールハードルを使用し、
なく跳び越すことができる。
できるだけ速くリズミカルに走り抜け
リズミカルなインターバル
る練習を行った。段ボールハードルで
を身に付けるのに有効。
体感した「自分なりの速いリズム」が
自己評価のための材料となると考えた。
↑段ボールハードル
○ワークシートで技能ポイントを共通理解
速くリズミカルな走りにつながるハードリングの技能
かかわりを生み出す支援
ポイントを明記したワークシートを使用し、自分の課題
・運動技能が異なるグループ
やアドバイスの視点を持つことに役立てた。
で活動する。
○学習のめあての明確化
・走る人、スターター、タイ
毎時間、学習のめあてを明示し、子どもたちが意欲を
ム測定、アドバイスメモに
持って学習に取り組めるようにした。
役割を分けて学習を進め
○速くリズミカルな走りの共通理解
る。
速くリズミカルな走りを共通理解するために、見本と
・アドバイスの視点は、ワー
なる児童の動きを全員で見て、動きの分析を行った。
クシートに明記する。
○速くリズミカルな走りを評価するタイム測定
「スタートから4台目のハードルを跳び越えた瞬間」までのタイムを測定することで、3歩
のリズムで速くリズミカルに走ることに意識を持たせた。
4台目のハードルを越えた瞬間
のタイムを測定する
スタート
1台目
2台目
3台目
4台目
- 64 -
単元計画
(全3時間)
時間
学習
課題
単元名
○学習活動
「リズムマスター」
・教師の支援
1
2
3
3歩のリズムをマスターしよう
インターバルを速くリズミカルに走ろう
インターバルをより速くリズミカルに走ろう
○段ボールハードルを3歩のリズムで跳びこえ
る。
○ハードル走に取り組む。
・インターバルを速くリズミカルに走れるよう練習す
○前時のアドバイスメモや自分で気づいたこと
を見返して、より速くリズミカルに走るための課
・4つのインターバル(5m、5.5m、6m、 る。
題を持つ。
(全体で交流)
6.5m)を設定する。
○ハードル走に取り組む。
○タイム測定(グループ学習)をする。
学
・段ボールハードルは4台
・走る→ストッウォッチ→アドバイス→スターターの
・インターバルをより速くリズミカルに走れるよう練
・スタートから1台目は10m
ローテーションで学習を進める。
習する。
・
「0・1・2・3」で数えさせる。
・スタートから4台目を跳び越えるところまでのタイ
○タイム測定(グループ学習)をする。
習
ムを測定する。
・走る→ストッウォッチ→アドバイス→スターターの
ることを伝え、3歩のリズムをできるだけ速く
・走り終えた友だちに必ずアドバイスを伝えた上でア
ローテーションで学習を進める。
走るように指示する。
ドバイスメモに書くように指示する。
・スタートから4台目を跳び越えるところまでのタイ
・教師は個々にアドバイスを行う。
ムを測定する。
内
・ハードルは跳ぶ競技ではなく、走る競技であ
○ハードル走に取り組む。
容
・どのインターバルがリズミカルに跳べるか見
つけさせる。
・見本となる児童の動きを全員で見て、よいと
ころを見つけさせる。
かかわりを生み出す支援
・運動技能が異なるグループで活動する。
・走る人、スターター、タイム測定、アドバイスメ
モに役割を分けて学習を進める。
・アドバイスの視点は、ワークシートに明記する。
・ワークシートを活用して、ハードルをどのよ
うに跳び越えるとよいかを考えさせる。
○よい動きをしている児童の動きを見る。
・よい動きをしている児童の動きを全員で見て、よい
・走り終えた友だちに口頭でアドバイスを伝えるよう
に指示する。
・教師は個々にアドバイスを行う。
かかわりを生み出す支援
・運動技能が異なるグループで活動する。
・走る人、スターター、タイム測定、アドバイスメ
モに役割を分けて学習を進める。
・アドバイスの視点は、ワークシートに明記する。
所を話し合う。
○最後のタイム測定をする。
かかわりたくなるまで(できる・わかるの積み上げ)
明確な課題設定
本単元では、
「ハードルのインターバルを3歩で速くリズミ
カルに走ること」を目標とした。第1時で、その目標を示し、
全員に共通理解をさせた上で学習を進めていった(図1)。
また、速くリズミカルに走れている児童の動きを全員で見
ることで、視覚的に理解を深め、よい動きのイメージを明確
図1 明確なめあてが書かれたワークシート
に持たせた。
課題を把握し、よい動きのイメージを持つことで、
「自分は
どんな動きをしているか見てほしい」
「どうしたらよい動きに
近づけるか教えてほしい」
「上手な人の動きをもっと見たい」
という思いを持つ児童が現れた。
具体的な動きのポイントを提示
児童が目標に向かって練習していく中で、どのようにすれ
ば速くリズミカルに走れるのか、コツを考えながら活動でき
る児童は少ない。そこで、速くリズミカルに走るためには、
どのような動きをすればよいかをワークシートに具体的に提
示した。
(図2)具体的な動きのポイントを理解することで、
それらを意識しながら活動する姿が見られた。また、「ハード
ルを越える時、上に跳びすぎた」
「着地でバランスを崩してし
まった」
「3歩のリズムが遅かった」など自分の動きにこだわ
りを持ち始める児童の姿も多く見られた。
図2 具体的な動きのポイントが書かれたワークシート
かかわりたくなる時
参考資料:教育技術MOOK 走・跳・投の遊び 陸上運動の指導と学習カード(小学館)
課題に向かって、自分の動きをよりよくしたいと思った時
(自分の動きにこだわりを持った時)
かかわりを生み出す支援と子どもの学びの姿
全員が責任を持てる役割分担
本単元では、かかわりを生み出す仕組みとして、グループ活動行った。グループ活動では、走る人、
スターター、タイム測定、アドバイスメモの4つの役割をローテーションすることで、子どもたち全
員が目的を持って学習に取り組むことができた。特に、自分の動きにこだわりを持ち始めた児童は、
友だちのアドバイスメモを食入いるように見ていた。客観的視点に必要性を感じているのが分かった。
見る視点の明確化
ワークシートを使っての動きの理解や、手本となる児童の動きの観察などを通して、動きを見るた
めの知識を養っていった。グループ内で友だちの動きを見る活動を行っていくうちに、
「友だちの動き
がよくなった」と実感している子どもの姿が見られた。また、自分の動きに自信がもてない児童が、
「上手な人の動きを観察させて下さい」と、他グループの上手な子の動きをじっと観察する姿も見ら
れた。これは、運動が苦手な児童でも、今の自分の動きをよりよくしたいという思いを持ち、自主的
にかかわり合い、学ぼうとする姿であったと言える。
- 66 -
かかわりを生み出す支援
~グループ活動~
について
学びを広げていくグループ活動
体育科でのグループ活動は、主に以下の5点があげられる。
A
お互いの姿を見合い、見本とする動きと比べてどうだったかを伝え合う活動(全領域)
B
作戦会議などの話し合う活動(学習のゲーム化)
C
グループで一つの物を考え、作り上げていく活動(表現の仕方など)
D タイム測定など、学習をスムーズに進めていくために役割分担をした活動(陸上運動など)
E グループで勝敗や記録の伸びを意識しながら学ぶ活動 (ドリルゲーム、タスクゲーム、メ
インゲーム)
上記A~Eのグループ活動において、必ずしておかなければならないことがある。それは、かか
わりの中で学ぶための「知識」を与えることである。知識とは、
「学習の明確なめあて」「何のため
に活動をするのか」
「何をするのか」
「どんなアドバイスをすればよいのか」
「どのような動きがよい
動きなのか」などである。知識を与え、かかわり方を明確に示すことで、児童は初めてグループ活
動に価値を見い出すと考える。
グルーピングによる学習効果の違い
グループを構成する際に、考えなければならないことは、以下の5点である。
A 技能レベル・・・同レベル(同じ技能レベルで寄せたグループ)
技能差あり(技能レベルが高い子、低い子まんべんなくいるグループ)
ランダム(技能レベルがバラバラのランダムグループ)
B 人数
C 男女比
D 人間関係
E リーダー
これらは、運動領域、活動の内容、今までの経験、児童の実態などによって変えるべきことで
ある。A~Eが的確に構成されたグループは、スムーズ且つ学びの多い学習が期待される。
また、本研究の「かかわりを生み出し、教師のつけたい力を向上させていくことを意図したグ
ルーピング」においては、A「技能レベル」B「人数」の2点が特に重要であると考えた。
A「技能レベル」
どの領域においても、技能差ありのグルーピングが学びを深めるには、有効であると考えた。
ゲームやボール運動領域など勝敗やゲーム性を持たせた学習では、グループ内で、作戦を立てた
り、練習をしたりする際に、高い技能の児童と低い技能の児童とのかかわり合いは学びを深める
ためには大変重要である。また、陸上運動や器械運動のような動きの質を高めていく学習におい
ても、苦手な子は、上手な子の動きを見て、聞いて学び、上手な子は、苦手な子に教えて自分の
動きを高めていくきっかけとすることができる。
ただし、学年や学習方法(サーキット形式・課題別練習など)によっては、同レベルやランダ
ムのグルーピングも十分に活用する機会はあるので、しっかりと区別して使い分けたい。
B「かかわる人数」
グループの人数が多くなると、かかわりの頻度が減り、かかわりを持たずに1時間の授業を終
えてしまう児童が出てきてしまう。全ての児童が学びのあるかかわりを行うためには、少人数の
方がよいと考える。また、かかわりの中で、つけたい力を向上させていこうとすると、かかわり
の中で学ぶための知識を教師が分かりやすく示し、かかわるための目的や良さを明確にもってい
ることが大切である。少人数でのかかわりでは、よりこのことが大切になってくる。いつ、だれ
が、
だれに、
どのようにかかわるのかというかかわりの学習方法を教えていくことも大切である。
- 67 -
授業実践 ~課題設定・学習カード~
坂本小学校 中川 洋輔
長野 愛
仰木の里小学校 伊吹 亮太
学年・領域
4年 器械運動 マット運動
単元名
めざせ回転マスター
指導によせて
A:子どもがひかれるもの
B:教師のつけたい力
・くるっと回転する気持ち
動きの面
よさ
・できなかった技ができた
時の達成感。
めざす「かかわり」の姿
・前方へ回転し、しゃがみ立ちになる
技の出来栄えを聞き、技
ようなスムーズな回転ができる。
の中のチェックポイン
・しゃがんだ姿勢から後方へ回転し、
トができているかどう
足からスッと立つ後転ができる。
学びの面
かアドバイスし合う姿
・技の出来栄えをアドバイスし合う。
C:A と B の重なりを大きくする支援
○場の支援 班に1枚のマット、回転しやすい坂道マ
桃ものさし→
ット、開脚しやすい幅の狭いマット、重ねたマット
桃いくつ分遠くへお尻を着
など多様な場の設定
けたかチェックするためのも
○教具(桃ものさし、もみじものさし)
の
手をどれくらい遠くへ着いたか、お尻をどれくらい
図のように複数つなげて、い
遠くに着いたか測るものさし
くつ分遠くへお尻を着けたか
(フィニッシュモデルカード)
測る
フィニッシュを決めるためのコツを示したカード
フィニッシュモデルカード↓
○学習カード 技の絵、ヒント用語集、アドバイス
したことや、アドバイスしてもらったことを書く欄
かかわりを生み出す支援
・課題を明確にし、技能向上のために学習カ
ードを工夫する。
・学習カードに友達に言ってもらったことを
書く欄、
「誰にどんな言葉をかけたか」欄を設
ける。
・学習カードに「アドバイスポイント」
「意識
学習カード→
詳しくは後述
ポイント」というヒントを載せる。
・誰もがヒントを持っている状況を作る。
(学
習カードに載せたヒント用語集、絵入りのヒ
ントカード)
- 68 -
単元計画
(全5時間)
単元名
「 めざせ回転マスター
時間
1
2
学習課題
前転をしよう
後転をしよう
○学習活動
」
3
・教師の支援
4
開脚前転、開脚後転
○マットの準備、準備運動をする。 ○マットの準備、準備運動をする。 ○マットの準備、準備運動をする。 ○マットの準備、準備運動をする。
5
連続回転発表会
○マットの準備、準備運動をする。
・かえるの足打ち(逆さ感覚、
・かえるの足打ち、うさぎとび、
・かえるの足打ち、うさぎとび、
・かえるの足打ち、うさぎとび、
・かえるの足打ち、うさぎとび、
腕力)
、うさぎとび(腕力、抱え
ゆりかご、手押し車前転(腰角
ゆりかご、手押し車前転などマ
ゆりかご、手押し車前転などマ
ゆりかご、手押し車前転などマ
込み跳びへのつなぎ)
の大きい前転、開脚前転へのつ
ット運動につながる補助運動を
ット運動につながる補助運動を
ット運動につながる補助運動を
ゆりかご(回転の感覚、順次接
なぎ)などマット運動につなが
させる。
させる。
させる。
触、背中の丸まり)などマット
る補助運動をさせる。
○今日の課題を知る
運動につながる補助運動をさせ
学 習
る。
○ゆりかごから立つ運動をする。
○前転、後転の練習をする。
・手を遠くへ着手する前転、お
・前転で、しゃがみ立ちになる
尻を遠くへ着く後転をすること
ようなスムーズな回転ができる
を目指して練習させる。
内
ように、ゆりかごに重点的に取
り組ませる。
容
○スムーズな前転の練習をする。
・回転後、しゃがみ立ちになっ
てタッチできるようなフィニッ
シュを目指させる。
・坂道マットで回転の勢いを体
感させる。
○もみじものさし(前転用)
って、手やお尻を遠くへ着
けるように練習する。
・前転の時に手をどれくら
い遠くへ着けたか、後転の
○連続回転発表会へ向けての練習
・前転も後転も「強く手を突き
う課題を知らせる。
をする。
放す」という課題を知らせる。
○場を選んで練習をする。
後頭部からマットに着く、初め
みじ何個分」というような
アドバイスをし合う。
・ワークシートのヒントの絵を
・幅の狭いマット、重ねて高さ
使って、「フィニッシュが決ま
・幅の狭いマット、重ねて高さ
のあるマットを用意し、開脚し
る」ように子ども同士アドバイ
のあるマットを用意し、開脚し
やすい場を用意する。
スさせる。
○開脚前転の練習をする。
やすい場を用意する。
・教師も「フィニッシュが決ま
○フィニッシュモデルカー
る」ように、アドバイスしてい
ドを使って、フィニッシュ
○開脚後転の練習をする。
き、子ども同士のアドバイスの
が決まるように練習する。
・開脚前転と同じ場に加えて、
見本となる。
・開脚前転、開脚後転のフ
足を開くゆりかごに取り組ま
・今まで使った場(幅の狭いマ
ィニッシュを決めるために
せ、開脚の意識を強く持たせる。
ット、重ねたマット)を使える
大切なフィニッシュ前の動
時お尻をどれぐらい遠くへ
着けたか、
「桃何個分」「も
伝える。
・
「フィニッシュを決める」とい
桃ものさし(後転用)を使
・首を曲げる、背中を丸める、
のキックを強く、などのコツを
○今日の課題を知る
ようにしておく。
きのコツを描いたカードを
○場を選んで練習をする。
見て、アドバイスをするた
・練習の中で上手い子を褒めな
○連続回転発表会をする。
めの土台とする。
がら、子どもの中にイメージを
・拍手やコメントで友達を称え
持たせていく。
られるように促す。
かかわりたくなるまで(できる・わかるの積み上げ)
スモールステップでの運動の感覚作りと理想的な動きの共有
子どもたちは、第1時から毎時間マット運動の基本的な運動に取り組んだ。その運動とは、かえるの
足打ちやゆりかご、うさぎとび、手押し車前転などである。その運動の中で、腕支持感覚や順次接触、
背中の丸まり、腰角の大きい前転などを身につけていった。かかわるまでに、基本的な動きを繰り返し
感覚的に習得していくことが、かかわる土台となると考えた。実際にゆりかごから立つ運動をすると、
背中が丸まり順次接触ができるようになってきた。坂道マットでは、勢いを感じて回転することができ、
回転の感覚を味わった。
第1時の時点では、しゃがみ立ちになるようなスムーズな前転ができる児童ばかりではなかった。そ
こで、スムーズな前転ができている児童を紹介して、それを見ることで理想的な動きを共有させた。す
ると、理想の動きに向かってひたすら回転し、よりスムーズに回転する感覚を味わおうとする姿が見ら
れた。
かかわりたくなる時
スムーズに勢いよく回転できる面白さ、心地よさを味わった時
(運動そのものが持つ魅力を味わえた時)
かかわりを生み出す支援と子どもの学びの姿
アドバイスし合うための基準
2時 もみじものさし
第2時では、前転でも後転でもよりスムーズに回転する感覚を
味わえるように、前転の時に手をどれくらい遠くへ着けたか、後
転の時にお尻をどれぐらい遠くへ着けたかが、測れるものさしを
用意した。「ものさしで何個分遠くへ着いていたよ。」という明
確な基準を作った。また、学習カードに、動きのポイントをヒン
ト用語集にして載せることで、アドバイスのための基準を持たせ
た。もみじものさし、桃ものさしを使うことでかかわるための基
4時 フィニッシュモデルカー
準があり、子どもたちの動きが変わった。「桃3つ。」「もみ
じ4つ。」などとアドバイスし合うことができた。そのアドバ
イスによって、遠くへ手を着こうと課題を与えられていても、
なかなか意識して動きを変えられなかった児童も、意識して技
能を向上させていった。さらに子どもたちは、ものさしの数字
を目標にしながら、学習カードのヒントをきちんと活用し始め
がまんし
て、足をパ
ッと開
く。
た。第2時で、児童が学習カードに「思いっきり倒れこむ。」、
「勢
いをつけてお尻を遠くしたら上手くいった。」
、
「手を遠く着くと
立てた。」などと書いていた。その書いた内容から、学習カードが第1時より機能していることが伺え
た。
第3時からは開脚前転、開脚後転に取り組んだ。足を開いたゆりかごをしたり、幅の短いマットを重
ねて回転したりして、回転して開脚する感覚づくりをした。しかし、開脚のタイミングが早かったり、
膝が伸びていなかったりする児童もいた。これでは、せっかく味わえるようになった回転の心地良さが
味わうことができない。そこで、続いての第4時では、フィニッシュモデルカードを用意し、開脚前転、
開脚後転のフィニッシュが決まるようにフィニッシュ前の動きのコツを示すようにした。このカードで
- 70 -
フィニッシュの前の動きを意識させた。開脚前転では、「力強くマットを押す。」開脚後転では、「足が
顔の上に来たら開ける。」などフィニッシュ前の動きを意識できるようになってきた。第1~3時を経
て、この第4時ではカードを見てアドバイスし合う姿が、ずいぶん上達していた。具体的には、友達の
技を横からしっかりと見たり、着手が弱い手を指摘したり、足を開くタイミングをアドバイスしたりで
きるようになった。アドバイスが多様化し、ひとりひとりにあったアドバイスができるようになってき
ていることが学習カードの書き込みから感じられた。
かかわりを生み出す支援
~課題設定・学習カード~
について
適切な課題設定
課題を設定する際、それぞれの時間の課題は、単元全体を見て考えておかなくてはいけない。考えた
毎時間の課題を、子どもたちみんなが共通して持っていることが必要である。毎時間の課題は、学習カ
ードにも示し、授業の中でも確認していった。そして、その課題に近づくために、やればできそうな動
きから練習に取り組んでいく。実践事例の第1時では、しゃがみ立ちできるスムーズな前転を身につけ
るために、ゆりかごから立つ運動や坂道マットでの前転をした。どちらも難しい動きでなくやればスム
ーズな回転を感じやすい動きである。その後、児童の技能のレベルによって、個々の課題は変わってく
るが、共通して持っている課題でつながれるのがよい形である。マット運動の例では、第2時に後転で
スムーズな回転を目指している時、子どもたち一人ひとりの課題が違っていることが感じられた。後転
が苦手でお尻を遠くへ着くことを目指してる子がいたり、スムーズな回転ができていて勢いよく倒れこ
むことができていたり、さまざまだった。それでも、後転でスムーズな回転を目指しているとき、共通
の課題でつながっていた。後転が苦手な子に、
「後ろに倒れるの怖くないよ。
」と声をかけている姿が見
られた。
学習カードの有効性
学習カードは、運動のヒントを載せることでかかわ
るための基準となるという効果が見られた。マット運
動では、ワークシートのヒントの言葉をそのまま使っ
てアドバイスができるようにした。「右手が弱い。」
や「左わきが開いている。
」というようにアドバイス
する姿が見られた。学習カードのヒントを使ってアド
バイスし合うことができており、かかわることに効果
があった。
跳び箱の単元では、開脚とびの腰の上がり方を学習
カードに入れた絵でチェックさせた。どれくらい上が
っているかを見合った上で、
「助走で勢いをつけて。」
や「手でもっと強く押し出して」などと話をしていた。
また、バレーボールやセストボールでは、学習カー
ドに子どもたちが見つけたボールのつなぎ方やシュ
ートのこつなどを載せた。それらのこつを、チームで
の作戦にしたり、チームで決まりやすいシュートをア
ドバイスし合って練習したりしていた。
※参考資料 髙橋健夫 「新版 みんなの体育4年」 学研教育みらい
- 71 -
研究のまとめ
Ⅵ.研究のまとめ
1.成果
平成24年度から平成26年度の研究での成果は以下の3つである。
1. かかわりを意識して授業を見ると
子どもの具体的な姿で授業が語れる。
2.かかわりたくなる時を考えることで
単元を意識して授業構成することができる。
3.意図的にかかわりを生み出すことによって
子どもたちが教え合い、技能を向上させることができる。
(1)成果1
子どもの視点から授業を考える教師
本研究を進めていくにあたり、たくさんの授業実践を行ってきた。各実践では、「子ども同士のやり
とり」を見取るため、
「A さんと B さんとのやりとり」や「A グループ内でのやりとり」
「A グループと
B グループのやりとり」など、参観者がより子どもに近い距離で授業を参観するようにしてきた。
これは、26年度に行われた授業実践③の研究会での内容を抜粋したものである。
<授業実践③
6年 ボール運動領域 ゴール型>
・子ども同士が褒め合っている雰囲気がとても良かった。
「タグラグビー」の運動の特性だと
思う。
・活動量が多く動きの質が向上していた。
・
「スネーク」で「右、左」と声をかけていたが、実際にゲームになるとその声がなかったの
が残念だった。
・技能が低位な子はどこへ動けばいいか分からず、どうしてそこへ行くのという時があった。
きっと有効なスペースがわかってなかったからだと思う。
・有効なスペースに気付けるように外からの声が欲しかったがあまり声が出てなかった。さ
らに、苦手としている人は自信を持って声が出せないのではないだろうか。
・
「3人目」を見るということを教師は伝えていたが、具体的に3人目の何を見ればいいのか
- 72 -
を伝えられてなかったので、見れてなかったのではないか。
・白チームのゲームに出ていない人はコートの横を動いて声かけをしていて良かった。
・
「3人目」の必要感が子どもたちになかった。なぜなら、ディフェンスの技能が高まってい
なく、2人目でトライすることができるから。
・今後ディフェンスの技能は確実に向上してくる。そうなったときには、ボールをつながな
ければトライが取れなくなってくるので「3人目」が必要になる。このことを子どもたち
に伝えることで必要感が出てくるのではないか。
・
「3人目」を意識するようにメインゲーム後に、具体的な場面をボードで示し、考えさせた
のはとても良かった。だた、その「3人目」というのを教師がもっと強く具体的に意識し
ていれば、たとえ2人目でトライしても、3人目がサポートできる位置に走り込んでいる
児童に目がいき、その児童をほめて、学級でもとりあげることができたのではないか。そ
うすれば、3人目への意識、かかわりが活発になっていったと思う。
・低位の児童がコート外から声かけできないのは、具体的にどんな声をかければいいか分か
ってなかったからではないか。もっと具体的にこんな時にはこのような声をかければいい
と教師が教えれば出せるのでは。
・2回目のメインゲームでは、
「3人目」を意識した動きが出ていたと思う。タスクゲームで
3人目を使った攻撃をしていたので、メインゲームにつながって無意識に出来ていた。意
識してできるといい。
・
「3人目」という視点があっても、ゲームは常に動いているので見るのは難しい。
・1人目がどこのスペースを使って攻めていくかということも、今後3人目のトライを使う
ようになってくれば考えていかなければいけないことになる。
・身体接触をして動きを変えていくという直接的なかかわりではなく、声かけ、指示、身振
りという間接的なかかわりによって動きが変わる場面が見られた。それは、声かけの内容
が良かったのではなく、本時までに知識や動きの感覚を積み上げてきていたからその声か
けによって知識や動きの感覚が意識され技能が向上したと思う。
このように、研究会での発言内容には子ども同士のやりとりを見取り、そこから考えられた意見が多
いのがわかる。これは、「かかわり」を意識して授業を構成し、その検討を何度も行ってきた成果だと
言える。子ども同士のやりとりの姿から、子どもたちは今どのようなことを考えていて、どのような学
びをしようとしているのか。何がその子には足りなくて、何にこまっているのか。運動の何に面白さを
感じていて、今どんなことに興味を持っているのか。子どもに寄り添った立ち位置で教師は授業を考え
ることができるようになってきた。これは、表面にあらわれてくる技能に目を向けるばかりではなく、
その技能を支える理解の大切さに気づくことができたからである。運動を理解することで「かかわり」
の質も向上し、技能向上につながる。
「わかる」は「できる」を支え、
「かかわり」とも密接に関係して
いるのである。
ともすれば、授業は教師主体の授業になりがちである。体育科は指導性が強くあらわれる教科ではあ
るが、子どもを置き去りにした授業では、技能向上も望めない。「かかわり」を意識したことによって
子どもの視点から授業を考えられたことは、今後の体育学習を深めていく上で非常に大きな意味がある
と考える。このような、子どもを見取る目を引き続き養っていき、教師によって生み出される「子ども
が主体的に学ぶ体育学習」を目指していきたい。
- 73 -
(2)成果2
単元全体を意識して授業を考える教師
本研究では、
「かかわりたくなるまで(できる・わかるの積み上げ)」
「かかわりたくなる時」
「かかわ
りを生み出す支援」
「子どもたちによる学び」という単元を通しての学習の積み上げ、つながりが技能
を向上させるには大切だということが分かった。
これは、25年度に行われた授業実践②の鉄棒運動の単元計画である。
かかわりたくなる時
子どもたちによる学び
かかわりたくなるまで
かかわりを生み出す支援
このように、かかわりを手段として技能を高めていくためには、授業構成段階で単元全体を見通した
計画を立てなければいけない。
「かかわりたくなるには何を教え、学ばせなければいけないのか」
「いつ
かかわらせるのがいいのか。
」
「どのようにかかわらせるのか。」
「子どもたちによる主体的な学びでの教
師の役割は何か。
」など、子どもの実態と照らし合わせながら考える必要がある。
「かかわり」を目的と
せず「かかわり」による技能向上を目的と考える本研究では、「かかわり」が生まれる前後も大変重要
である。この研究によって単元全体を見通せる授業づくりができるようになったことは、教師主体、子
ども主体という対立関係ではない、教師、子どもが共に作り上げる体育学習につながっていくと考える。
- 74 -
(3)成果3
「かかわり」を使って技能向上をめざす授業
この図は3年間の研究をまとめたものである。「かかわり」は、研究当初、「教師のつけたい力(B)が
向上するような子どもたち同士のやりとり」と定義づけていたが、研究を進めていく中で、「子どもが
子どもを教える姿」と明確化することができた。
「子どもが子どもを教える」というのは、
「子どもが教
師と同じレベルか、それに近いレベルで教えることができる」ということである。つまり、教師が話し
ている言葉で子どもたちが教え合っている姿と言える。
上の図のように、子どもたちが教え合い、技能を向上させるには、子どもたちすべてが学習してきた
共通の事柄を必ず習得しておく必要がある。これがなければ、子どもが子ども教えることはできない。
また、かかわりの質も高まらない。教師がしっかりと教え、学ばせることが大切となる。
さらに、子どもたちの教え方(かかわり方)にも様々あることが分かった。子どもの動きを変えるこ
とのできる身体接触のある直接的な補助はもちろん、身体接触のない間接的なかかわり方も補助のよう
な役割を果たす。
例えば、走り高跳びの授業でこのような場面があった。子どもたちは、最後の3歩のリズムが「トー
ン・ト・トン」となると強く踏みきることができると学習を通して分かった。しかし、知識だけで、動
きはそこまで達していない。この時に、
「グループの他の子が「トーン・ト・トン」と口伴奏してあげ
よう」と教師から支援する。すると、口伴奏に合わせて、子どもたちの動きが変わってきた。さらに、
あるグループでは、口伴奏ではなく、手拍子で「トーン・ト・トン」のリズムを叩くようになった。手
拍子なので、速さや強さを変えてその子にあったリズムを考えているようだった。結果、踏み切りの強
さが変わってきて、今までよりも高いバーを越すことができていた。
最も効果的なかかわり方である直接的な補助は動きを変えることができるが、全ての運動で行うこと
ができない。そこで、身体接触のない間接的な補助が技能向上に必要となってくる。教師の意図的、計
画的な授業構成がこの間接的な補助を機能させ、教え合う子どもたちの姿を生むと考える。
- 75 -
2.課題
本研究の課題は以下の通りである。
1. 「めざすかかわりの姿」を系統立てて描き出し、
より効果的なかかわりを生み出す支援の工夫をする。
本研究では、
「めざすかかわりの姿」を描いて授業構成をしてきた。教師が、子どものめざす姿を具
体的に描いて授業を進めていくことは、具体的な支援や評価が的確にしやすく大変有効だったと言える。
しかし、
「めざすかかわりの姿」を系統立てて描き出すところまで至らなかった。
「めざすかかわりの姿」
は、子どもが子どもを教える姿であると言い換えることができる。すると、低学年と高学年で同じよう
な姿が見られるとは考え難く、
「学年」の発達段階によって姿が違ってくるはずである。例えば低学年
では、友だちの良い点を真似するや、一緒に運動の面白さを体感する姿などが考えられ、高学年では、
コツをアドバイスしたり、補助したりする姿が考えられる。これは、それぞれ特性のある「領域」につ
いても同じことが言える。器械運動のような個の運動では、個人の技能を高めるためにかかわっていく
姿があり、ボール運動のような集団の運動では、チームの技能、チーム力を高めるために、個と個がか
かわったり、グループ同士でかかわったりする姿が見られるであろう。
このように「めざすかかわりの姿」を系統立てて描き出すことができれば、より子どもの視点にたっ
た支援や授業構成が可能ではないかと考える。子どもの姿をよく見取って「できる」「わかる」を積み
上げていき、子どもが切実に「かかわりたい」と願う授業、また目の前の子どもたちにとってより効果
的なかかわりを生み出す支援で技能が向上する授業が系統性を意識することで実践できるのではない
だろうか。これからも「かかわり」を手段として技能向上をめざす授業を追求し、子どもたちが「運動
が好き」
「できるようになって楽しい」という喜びを味わえるようにしていきたい。
研究同人
高木
悟
福住
剛己
宮塚
江理
永元
良典
岡山
駿
中川
洋輔
山田
寿樹
青木
美善
吹田
吉司
中野
啓一
宇野
史哲
長野
愛
鎌田
豊
伊吹
亮太
杉澤
大輝
清村
雅乃
角
裕
山本
一斗
森田
拓磨
北脇
俊宏
小堀
文雄
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