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運動への志向性を高め, 意欲的に活動できる生徒の育成 Author(s)
Title [保健体育科] 運動への志向性を高め, 意欲的に活動できる生徒の育成 Author(s) 村岡, 愛司; 渕本, あゆみ; 山本, 勇太 Citation 研究紀要, 2010: 87-94 Issue Date 2010-10-21 URL http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/2390 Rights Hokkaido University of Education 保健体育科 運動への志向性を高め,意欲的に活動できる生徒の育成 村 岡 愛 司・渕 本 あゆみ・山 本 勇 太 はじめに 保健体育科の学習指導要領で, 「生涯にわたって運動に親しむ資質や能力の育成」, 「健康の保持増進のため の実践力の育成」, 「体力の向上」の三つが,重要なねらいとして具体的に示された。本研究では,それらの 達成に迫るために,生徒が運動への志向性を高めながら,主体的に学びをひろげていけるような授業の構築 を目指している。今年度は,指導場面に応じた望ましい学習形態の在り方を視点として, 「他者とのかかわり」 を焦点化し,実践・検証・考察を行った。その結果に基づいた成果と課題を報告するものである。 Ⅰ 研究の目的 現在,食習慣の欧米化や運動機会の減尐に伴う生活習慣病の低年齢化が深刻な状況にある。また,パソコ ンや TV ゲームの普及により,遊びや活動の場が運動場から部屋へと変わり,運動をする子どもとしない子ど もの二極化が叫ばれて久しい。本校においても,大半の生徒がバスや自家用車を利用して登下校するととも に,放課後は塾や習い事に時間を費やす生徒も多く,運動をする機会が極めて尐ない。この先も運動離れが 加速し,将来の生活習慣病予備軍として危惧されるところである。 こうした状況において, 「生活習慣の中で意識的に運動に取り組むこと」は健康の保持増進のために欠くこ とはできない。したがって,学校教育で将来の基盤となる体力や運動技能の向上を図るために保健体育科の 役割は大きいと考えられる。 前述のように,平成 20 年に告示された学習指導要領において,三つの重要なねらいが示された。中でも「生 涯にわたって運動に親しむ資質や能力を育てる」1)ことがより一層強調された。保健体育科に求められる「体 力の向上」はそれ自体が目標であるが,学校生活における,限られた体育の授業のみで「体力の向上」を図 ることは難しい。我々は,生徒が体育の授業以外に,例えば,休憩時間の遊びの中で仲間とスポーツを楽し んだり,放課後や休日に運動を習慣化したり,自分の体力にあった運動を選択し,行うような生徒を育てる 必要があると考える。そのためには,生徒に運動やスポーツの楽しさを伝え,身体的側面や心理的側面から 運動の効果を実感させなければならない。運動技能を身につけていく過程において,成功体験から生まれる 「やればできるんだ」という有能感と自分のアドバイスや働きかけによって仲間が成功したり運動が上達し たときに,役に立ったと感じる自己有用感を味わわせることが目指す生徒像の足がかりと考えている。 本研究は, 「認識学習」=「わかること」 ,「運動学習」=「できること」, 「社会学習」=「かかわること」 と定義づけ研究を進めている。昨年度は,これら三つの側面から意欲を高める手立てを設定した。今年度は 「わかること」 , 「できること」をより深化させるために, 「かかわること」を両者をささえる位置づけとして 捉え,効果的な手立てを講じる。各単元において,生徒が仲間との「かかわり」を通して「伝え合う」 ,「ア ドバイスし合う」等の活動から得られるであろう有能感や自己有用感を感得することで,技能や志向性を高 め,自ら運動に対して意欲的に活動できるようにすることを目的としており, 「かかわる」学習形態としての ペア・グループ学習の効果と有効な活用場面を探るものである。 Ⅱ 保健体育科の研究の視点 保健体育科で考える「自ら学ぶ意欲」とは 本研究は,本校第 13 次研究総論を受け,運動への教育(運動すること自体が人間にとって重要な意味や価 値があるとする考え方)を基底としている。その上で,本校保健体育科における自ら学ぶ姿を「そうか分か った!こうやればいいんだ」や「面白そう(な動き)!自分もやってみたい」, 「あれ,それはどうやるの」 という姿で運動に取り組んでいるときと捉える。すなわち,そのような姿 が見られたのであれば,運動への志向性が高まり,動機づけが高まってい 自発性大 内発的動機づけ る状態であると考えている。 統合的調整 速水(1995)による自己決定理論(図1)2)にあるように,動機づけは 同一化的調整 段階を経て自己決定の度合いを高めていくことで「学習意欲」が向上する と考えられている。本校では,生徒の動機づけが第二の段階(取り入れ的 取り入れ的調整 調整)である「みんながやるから」 ,「できないと恥ずかしいからやる」か 外 ら,第三の段階(同一化的調整)の「スポーツが人間形成に役立つから」 や「自分にとって大切なことだからやる」を経て,第四の段階(統合的調 的 調 無 図1 外 発 的 動 機 づ け 整 動 機 動機付けの自己決定理論 整)である「自分にとって大切なことがいろいろある中で,運動を重要度の高いこととしてやる」に向かう ことを目指す。 動機づけを高めるためには,生徒が有能感や自己有用感を感得し,自己効力感を味わいながら学習を進め ていくことが有効と考える。運動の習得過程において,自己効力感を味わうためには, 「技能のポイントを理 解すること(わかる) 」, 「繰り返しの練習によって技能を高めていくこと(できる)」の両者が必要であり, それらを深めるには他者とのかかわりが重要な役割を果たすということを研究の視点として設定した。 なぜならば,運動は体の向き,体重の移動,力の入れ具合,運動の方向,運動の速さ,屈伸や回転の感覚 など様々な要素から成り立つものであり,個人の技能であれば「人の動きを見る(見てもらう)」, 「アドバイ スを受ける(する)」などのかかわりが有効であり,集団での技能であれば「話し合う」 「作戦を立てる」な どの他者とかかわる必要性があるからである。 したがって,他者からのアドバイスや助言は,志向性や技能の向上に極めて効果があるものと捉えており, 今年度の研究では,「他者とのかかわり」に焦点をあてて,自ら学ぶ意欲の向上を図りたいと考えた。 Ⅲ 研究仮説 各単元の指導場面に応じた,ペア・グループ学習を効果的に取り入れ,相互のアドバイス の質が高まれば,自己効力感を味わいながら,意欲的に学習するようになるであろう。 1 「自己効力感」を味わう手立て 生徒が有能感や自己有用感を感得しながら,自己効力感を味わうことで,心理的な契機である志向性が 高まり,意欲的な活動ができると考え,以下の手立てを設定した。 (1)学習形態の工夫(研究変数)A 生徒に意欲を持たせ自発的に活動させるためには,技術の仕組みを理解させること「認識学習(わかる)」, 練習によって技術を習得させること「運動学習(できる)」が必要である。そのために,研究変数を学習形 態「社会学習(かかわる)」とし,生徒が学習課題解決に向けて互いにアドバイスし合う活動を通して,技 能の仕組みについて理解を深めさせるとともに運動の楽しさを味わわせたい。さらに, 仲間の記録を計った り学習を補助したりするなどのかかわりを通して,仲間の健闘を称えたり,お互いを尊重する気持ちを育み たいと考える。 (2)ビデオ・スポレコの活用 視覚的フィードバックは生徒が行った動きを視覚的に提示し,目標とする動きとの誤差を検出して修正す るように練習するというかたちで利用される。初めのころの動きとうまくなった動きを対比して見せたり, お互いに撮り合いをしたり,見あったりする中で,アドバイスの質が高まり,動機づけ効果の向上を期待で きると考える。B (3)スモールステップ(研究変数以外の手立て) 研究変数以外の手立てとして,課題解決を図る場として,技能の習得段階に応じた場を設定し,生徒が有 能感を持ちながら技能を習得できるようにする。C 2 検証の計画・方法 昨年度の研究の成果から「かかわり」において,ハードル種目ではペア学習が有効であるという知見を得 た。今年度はペア学習をペア群,グループ学習をグループ群として,検証を試み,走り高跳びにおいて,ど ちらの学習形態が生徒の志向性や運動技能を高めるために有効であるかを一群法によって明らかにする。 なお,単元終了後の跳躍の記録と学習前の跳躍の記録を比較するために事前の記録会を行ったが,事前に 生徒に行ったアンケート調査の結果から,小学校時の授業では「はさみ跳び」をメインとした授業が展開さ れてきたことから跳び方は「はさみ跳び」で統一した。 (1) 運動への志向性の測定と分析 保健体育科では年間を通し,全ての単元において,単元開始前と単元終了後に好嫌度の調査を質問紙法に よって行い,カイ二乗検定で授業効果の分析を行い,志向性の高まりを探る。 (2) 技能(記録)の測定と分析 ① 技能(記録)について,プレ・ポストテストを行い,その変容について分析・考察を行う。 ② 個人の目標記録身長×0.5-50M 走記録×10+120 を設定し,その目標達成率について一群法を用いて カイ二乗検定を実施する。 (3)認知・感情・行動の傾向のアンケート 中期的な視点として,単元前と単元後に,認知・感情・行動のアンケートを実施し, 「情報収集」 「自発学習」「挑戦行動」 「深い思考」 「独立達成」の5つの視点の傾向から,学習意欲の高まりをみとる。 Ⅳ 実践 1 実践の計画 (1) 単元名 (2) 生徒 陸上競技 「走り高跳び」 2 年生男子(45 名) 女子(34 名) (3) 単元目標 リズミカルな助走から力強く踏み切ってバーを跳び越すまでの基本となる動作や効率のよい動き を,教え合い,励まし合いながら身につけようとする態度を養う。 また,現在習得している技術や目標記録などから,個々に応じた課題を持たせ,その解決に適し た活動の場を自ら選択させることで,技能や記録が伸びる喜びを味わうことができるようにする。 (4) 評価規準 かかわる(態度) わかる(知識・学び方) できる(技能) (ア)互いに協力し合い,課題解決 に向けてアドバイスし合お うとする (ア)技術の名称や原理を理解でき る (イ)技術を身につけるためのポイ ントを理解し,課題を見付け ることができる (ウ)競技のルールや審判法につい て理解できる (ア)リズミカルな助走をするこ とができる (イ)力強い踏み切りをすること ができる (ウ)跳躍の頂点をバーの真上に あわせることができる (エ)安全に着地することができ る (イ)競技が円滑に進むように積 極的に審判や運営を行おう とする (5) 単元指導計画 評価規準 時 学習事項 1 ○オリエンテーション ○記録会 ・学習の進め方や用具の安全な使い方を知る ・既習の跳び方で記録を測る 2 ○高跳びの原理の理解 ・走り高跳びの原理を理解する ABC ・目標記録の設定をする 身長×0.5-50M 走記録×10+120 ・スポレコの使い方を知る ・局面ごとの動作のポイントを知る ・リズムを重視した助走練習をする ・力強い踏み切りができるように最後の 2 歩を狭 くする練習をする ・大きなはさみ動作を身につける練習をする BC ・足から安全に着地する練習をする ・一連の動きをまとめた練習をする ・試しの記録を計測する ○スポレコの使用法 ●はさみ跳び ○助走技術の習得 ○踏み切りの習得 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 ○空中動作の習得 ○着地の習得 ○全体練習 ○計測 主な学習活動 ●背面跳び ○助走技術の習得 ○踏み切りの習得 ・局面ごとの動作のポイントを知る ABC ・直線路からカーブの助走練習をする ・ひねり動作を練習する ○空中動作の習得 ○着地の習得 ○全体練習 ○計測 ●ベリーロール ○助走技術の習得 ○踏み切りの習得 ○空中動作の練習 ○着地の習得 ○全体練習 ○計測 ○選択練習 ・後ろに倒れる感覚を身につける練習をするBC ・安全に着地する練習をする ・一連の動きをまとめた練習をする ・試しの記録を計測する ・局面ごとの動作のポイントを知る ABC ・リズムを重視した助走練習をする ・降り上げ足を高くする練習をする ・バーと体を平行にする練習をする BC ・安全に着地する練習をする ・一連の動きをまとめた練習をする ・試しの記録を計測する ・記録会で使う跳び方の練習 ○記録会1 ○記録会2 フォーム評価 ○自己評価と単元のま とめ ・計測方法を理解する ・本単元の競技ルールに従って,記録会を行う ・ビデオ撮影を行う ・フォーム評価の映像を見ながら自己評価を行う ・単元のまとめを行う かかわる わかる できる ア ア ア ア ア イ ア イ イ ウ エ イ ア イ イ ウ エ イ ア イ イ ウ エ ア ア イ イ ウ ア ア (6) 本時の流れ 主な学習活動(下位目標) 1 準備運動として正しい踏み切りに つなげるためのリズム走を行うことが 教師の働きかけ・手立て・【評価方法】 □跳躍の一歩前を速く踏み切ることを 意識して行おう。 備 考 ・形態…列 【観察】 ・15M・・・3 本 できる。 2 準備運動として大きな開脚姿勢で □抜き足を意識して行おう。 【観察】 ・形態…ペア,一人 1 分 回転しながら馬跳びをすることが ・個に応じた高さにさ できる。 せる ベリーロールの空中動作と安全な着地の仕方を身につけよう 3 空中動作と安全な着地のポイント を発表できる。 ○空中動作と安全な着地のポイントは 何でしょうか? ・4 名を指名する。 【発表】 (空中動作)①バーと体が平行になるようにする②背中側へ回りながら体を倒す ③バーを見て跳び越す (着地) ①マットに落ちるときに天井を見る ②着地は振り上げ足と手から着く 4 実際に跳躍し,ペア同士で課題を指 摘し合うことができる。 □基本隊形の前後でペアを組み,互いに 跳躍を見合い,課題を見つけよう。 手立てB 5 【観察】 技能に適した練習場でペアを作り ○課題を解決するためにはどのよう アドバイスし合いながら練習を行 なアドバイスが良いでしょうか? うことができる。 【期待する生徒間のアドバイス】 ○振り上げ足をもっと高くしてみよう ○抜き足を奥側に持ってくるようにしよう ○空中動作の時,バーを見てないから意識し てバーを見よう ○着地するときに天井を見よう 【発表】 イスが良いでしょうか? せる。 【発表】 ・技能にあった練習場 を見付けさせる。 □自分の技能に適した練習場を選び,ペ ・お互いの課題につい アを作り,アドバイスを受けながら練 て指摘しあえるよう 習しよう。 に促す。 【観察】 スポレコやビデオカメラを活用し て,技能の向上に役立てることができるように する 【場と用具の設定】 1正規のバーを用いた練習場(概ね一連の動作が身に付いている生徒) 2バーの替わりにゴム紐を用いた練習場(バーへの恐怖心がある生徒) 3ゴム紐と踏み切り板を用いた練習場(振り上げ足を高く上げられない生徒) 本時の活動を振り返り,成果と次時 □本時の活動を自己評価して次時への への課題を学習ノートに記述でき 課題を考えよう。手立てB る。 プをジャージに貼ら △例えば3―①ではどのようなアドバ 手立てC 6 ・課題別の色ガムテー 期待する行動傾向(深い思 考) 仲間へのアドバイスが 科学的・合理的なもの になっている。また, それを参考に,課題を 達成するためにどうす ればよいかを考えて活 動しようとする *深い思考を高めることで 行動傾向 3,4 の改善につなが 【ノート】 ると考える ・学習ノート Ⅴ 実践の考察・検証 (1) 走り高跳びに対する志向性(好嫌度)の変容 ペア群,グループ群ともに単元前の好嫌度調査の結果,有意差は認められず,ほぼ同一の志向性を持っ た母集団といえる。 ① ペア群・グループ群における好嫌度を 3 段階別に分類した結果 表1 事前と事後による好嫌度の変容数 表1は事前調査と事後調査の好嫌度の変容数を示したものであ る。カイ二乗検定によって「好き」 「どちらでもない」 「嫌い」の 3 段階を事前と事後で分析した結果,99%の確率で有意差が認められ た。また,ペア群・グループ群を性差別に分けて分析した結果によ 事前 事後 好き 23 42 どちらでもない 41 29 嫌い 12 5 ると,男子では 98%の確率で有意差が認められ,ペア群に効果が見 られた。一方,女子には有意差は見られなかったものの,どちらの学習形態も生徒が「かかわり」によっ て自己有能感を感得でき,技能の伸長に効果が現れたことからペア・グループ学習共に志向性の向上に効 果があると推察できる。 ② 好嫌度別に見た生徒の変容 表2ではペア群・グループ群別に好嫌度が向上した生徒 表2 好嫌度が向上した生徒数 数を示した。「嫌い」から「好き」へと意識が変化した生 ペア グループ 徒は全体で6名おり,その理由として最も多かったのは 嫌い→どちらでもない 2 2 「技術のポイントが理解できたから」 (4名)であった。 嫌い→好き 4 2 また,「嫌い」から「どちらでもない」へと意識が変化し どちらでもない→好き 14 8 た生徒は「記録が伸びたから」 (2名)をその理由として 合計 20 12 あげている。「どちらでもない」から「好き」へと意識が 変化した生徒は全体で 22 名おり,その理由として最も多かったのは「記録が伸びたから」 (19 名)であっ た。全体で見ると 32 名,好嫌度が向上した結果となった。生徒のワークシートの記述から,志向性と技能 の習得には密接な関係にあることが明らかになった。さらに,群別に見ると,全体としてペア群の好嫌度 が向上した生徒数が多かったことから,走り高跳びにおいては,ペア学習の方が志向性において効果があ ったと推察できる。 (2) 技能(記録)の測定と分析 ① 学習前と学習後の記録の変容 跳躍記録のプレ・ポストテストを行い,学習前と学習後の記録の変容を比較した。グループ群のクラス は記録が向上した生徒が 82%,ペア群のクラスは 76%という結果を示した。どちらも 7 割を超す技能の伸 長が見られたことから,ペア・グループ学習共に技能の伸長には一定の効果が現れたと言える。 ② 目標記録の達成率の変容 目標記録達成者数全体 図2で示したのはペア群,グループ群別に見た目 16 標記録の達成者数である。ペア群が僅かではあるが 15 15 高い数値を示したが,カイ二乗検定の結果,有意差 14 は見られなかった。 13 12 また,目標記録の達成者数を男女別に比較した結 12 11 果を図3で示した。カイ二乗検定の結果,グループ 10 ペア群 グループ 群 図2 目標記録達成者 全体 群の女子においては有意差が見られた。 目標達成者数男女別 また,ペア群の男子においても有意差が見られた。 14 つまり,目標効果においては女子にはグループ学習, 12 10 男子にはペア学習が有効であるということが今回の 8 研究から明らかになった。この結果から,女子は共同 6 体的な学びの中で安心感を得ながら活動することを 4 好む傾向があり,男子は記録の向上を重視する生徒が 2 ペア群 グループ群 0 多く,ビデオ・スポレコの活用頻度も高いことから, 男子 尐人数でかかわる方が活動しやすいのではないかと推察 図3 女子 で 目標記録達成者 男女別 きる。 ③ 生徒が選択した跳び方の変容 学習後の記録会で生徒が選択した跳び方を表3に 表3 学習後の記録会で生徒が選択した跳び方 示した。ペア群とグループ群で男子の選択した はさみ跳び 跳び方の人数を比較すると,グループ群の男子 は「はさみ跳び」を選択した人数が 12 人とペア ベリーロール 背面跳び 男子 女子 男子 女子 男子 女子 群に比べ多いことがわかる。一方,ペア群の男 ペア群 4 7 12 7 6 2 子は難度の高い技を選択している生徒が多いこ グループ群 12 12 6 0 5 5 とがわかる。②に示したとおり男子にはペア学習が有効なことから,グループ群の男子は「かかわり」の機 能性の側面から,アドバイスの質が高まらず,難度の低い跳び方を選択するという消極的な側面が見られた のではないかとも考えられる。 (3)認知・感情・行動の傾向のアンケートの分析 表4は実践前と実践後のアンケートの比較である。本研究では質問項目3,4の改善を目指して実践を行 った。網掛けになっている項目は改善が見られたものである。目指していた項目の改善は概ね図ることがで きた。しかしながら,質問項目8の独立達成は,数値が減尐した。ペアやグループ学習の形態によって,他 者からのアドバイスを受けて,意欲的・積極的な取り組みが見られた一方,仲間に頼りすぎてしまい自分の 力で課題を解決しようとする生徒が減尐したことが伺える。 表4 走り高跳びにおける行動傾向の自己評価(4段階評価のまとめ)・・・事前と事後の比較 行動傾向 質問項目 事前 事後 平均 平均 情報収集 1 走り高跳びについてさらにいろいろなことを学習したいと思う 3.1 3.2 (知的好奇心) 2 時間が経つのを忘れて,走り高跳びの授業に取り組むことがある 2.9 3.2 授業以外では走り高跳びをしたいとは思わない 2.7 2.8 4 限られた時間の中でできるだけ多く跳びたい 3.4 3.7 5 記録の向上を目指してどんどん取り組みたい 3.6 3.8 跳べそうにないと,やる気がなくなってしまう 2.9 2.9 常にどうすれば跳べるようになるかを考えて取り組んでいる 3.2 3.3 わからないことやできないことがあればすぐに質問する 3.0 2.4 自発学習 挑戦行動 3(R) 6(R) 深い思考 7 独立達成 8(R) ※(R)のAVEは1を 4 ポイント,4を 1 ポイントとして計算 まとめにかえて 本研究は,生徒が仲間との「かかわり」を通して得ることができる有能感や自己有用感を感得することで, 技能や志向性を高め,運動に対して意欲的に活動できるようになることを目的として研究を進めた。 本研究の手法を用いることによって,生徒の意欲の高まりには,一定程度の成果を得ることができた。そ の根拠は,カイ二乗検定の結果や認知・感情・行動の傾向調査の結果から判断できると考える。以下に今年 度の研究の成果と課題をまとめる。 【成果】 今回の研究から,動きを視覚化してとらえ,課題の明確化を図りながら,仲間同士でアドバイスし合う活 動を活発化することで,有能感や有用感を感得し,志向性を高めることにつながっていくということが明ら かになった。また,志向性の向上と技能の伸長において, この両者の関係は同一であって,密接な関係が あることや,性差によって,学習形態による効果の傾向が異なることがわかったことが,今年度の研究 の成果である。 【課題】 各運動領域や単元,運動技能の内容によって学習形態を固定化するのではなく適宜,生徒の状況に応じて 適切に取り入れていくこと,志向性や技能に変化が見られなかった生徒や低下した生徒への具体的な手立て が今後の課題としてあげられる。特に学習形態についてはペア・グループによって運動量に差が見られるこ とがデメリットとしてあげられることから,それを補う手立てを工夫することが必要である。 今後も各単元において,教師によるアドバイスのポイントの明確化,学習形態が機能するためのワークシ ートの工夫や改善を試みて,効果的な学習形態の在り方について研究を進めていきたいと考える。 忌憚のないご批正をお願い致します。 【引用文献】 1) 文部科学省,『中学校学習指導要領解説-保健体育編-』 ,2008.P7 2) 杉原 隆 編者『運動指導の心理学』 ,大修館書店 2008.P131 【参考文献】 ・文部科学省, 『中学校学習指導要領解説-保健体育編-』,2008. ・杉原 隆 編者『運動指導の心理学』,大修館書店 ・ヴァンデン-オウェール・Y スポーツ社会心理学研究会 ・速水 敏彦 編者 ・バッカー・F 訳 2008. ・ビドル・S デュラン・M 『体育教師のための心理学』 ,大修館書店 『自己形成の心理』 ,金子書房 1997. ザイラー・R 2006. 編者