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「自然免疫」の能力を高める 抗病性に関わる免疫関連遺伝子群の解析

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「自然免疫」の能力を高める 抗病性に関わる免疫関連遺伝子群の解析
図2 腸内細菌叢と免疫システムとの関係
図1 ニホンウズラとニワトリの比較
免疫は、予め認識できる抗原が決まっており、獲得免
疫のような柔軟性はないが、抗原の侵入にただちに対
になっている。すなわちタンパク質の正常な立体構造
応できる。脊椎動物の免疫システムは、自然免疫によ
形成の促進と機能維持、立体構造を変化させる熱な
る素早い抗原の撃退と、獲得免疫による柔軟かつ特異
どの各種ストレスからの保護にあたる。このうちHSP
70およびHSP 90は細胞内濃度がそれぞれ全タンパク
的な抗原の排除との二段構えになっており、自然免疫
が獲得免疫の司令塔の役割を果たしている。
質の1%になる代表的なHSPである。またHSPの熱ス
家畜生産において、ワクチンによる獲得免疫の成立
トレスに伴うmRNA発現(熱ショック応答性) は、熱
は疾病の予防策として重要である。しかし、ワクチン
ショック因子(HSF)により制御されている。そこで
接種は、生産者にとって負担であり、むろん新型ウイ
本プロジェクト研究ではニホンウズラのHSF、HSP
ルスには無効である。また、獲得免疫の成立過程は、
70、HSP 90遺伝子群を同定し、さらにそれらの熱
ショック応答性やDNA塩基配列の多様性を解析した。
その結果、1)HSP 70および90遺伝子群は細菌か
個体にストレスとなる可能性がある。また、抗生物質
など抗菌剤の濫用は、耐性菌を拡散させる危険性があ
る。したがって、獲得免疫と共に自然免疫の能力を高
ら脊椎動物まで保存されているが、一方、各生物に固
有の体温と環境温度との関係に応じて独自に進化し
めることが重要である。一方、免疫システムは、腸内
細菌叢など生体を取り巻く微生物と相互作用し、この
てきたこと、2)明瞭かつ対立遺伝子間差異を示す
相互作用が抗病性と密接に関連している。ヒトで乳酸
熱ショック応答性を有するHSP 70および90が存在す
菌の有効性を謳うさまざまな食品の効用はそれを活用
ること、ならびに3)HSP 90遺伝子から転写される
したものである。
mRNAの種類が熱ショックの有無により変化するこ
と、を見いだした。今後、熱ショック応答性の対立遺
伝子間差異およびmRNAの変異が個体の耐暑性に及
ぼす影響を解明し、暑さに強い家禽の作出に貢献する
計画である。
「自然免疫」の能力を高める
抗病性に関わる免疫関連遺伝子群の解析
ニホンウズラの免疫システムを遺伝子レベルで総合
的に理解するために、自然免疫において「細菌を溶解
する抗菌ペプチド:BDEF」、「微生物由来抗原を認識
する受容体:TLR」、獲得免疫において「抗原を認識
する受容体:MHC」、「リンパ球の機能を調節する細
最近の新型インフルエンザについて、
ヒトは“免疫”
胞膜抗原群」、免疫システム全体と関連して「抗原を
をもたないため、ワクチンが開発されるまで流行が拡
排除する補体系」の各遺伝子群、ならびに「血漿中の
大する懸念が報道された。ここでいう“免疫”とは、
正確には“獲得免疫”のことである。リンパ球は一度
抗体濃度」、「腸内乳酸菌」を解析した(図2)。
その結果、1)ニホンウズラの免疫システムに関与
体内に侵入した非自己成分(抗原)を記憶し、2度目
する遺伝子群は基本的にはニワトリのそれと相同であ
以降の侵入に対して速やかに反応し、
これを排除する。
るが、2)各遺伝子の構成にはニワトリとの間、さら
ワクチンは無毒化した病原体を予めリンパ球に記憶さ
せることにより、実際の感染の際に病原体の増殖を防
にニホンウズラ同士の間で差異があり、ニホンウズラ
の遺伝子が極めて多様性に富み、特にニホンウズラの
ぐことを目的としている。獲得免疫の優れた点は、こ
のように未知の抗原にも柔軟かつ特異的に対応しうる
MHC関連遺伝子群は、ニワトリの数倍存在し、また
ニホンウズラの個体間で遺伝子数に差があること、な
点である。
獲得免疫は脊椎動物だけがもつ免疫であり、すべて
らびに3)血漿中の抗体濃度、TLRのmRNA発現量
と腸内乳酸菌の種類・数との間に密接な関係が存在す
の動物がもつ免疫、
“自然免疫”から進化した。自然
ること、を見出した。
4
新・実学ジャーナル 2009.7・8
(7ページ下段に続く)
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