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日本病院会雑誌 病院学 2003年12月号

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日本病院会雑誌 病院学 2003年12月号
日本病院会雑誌
目
病院学
2003年12月号
次
グラフ:第44回日本人間ドック学会…………………………………………………………
巻頭言:病院におけるボランティア活動………………………………… 真田 勝弘
7
11
<看護管理者セミナー・講演>
「医療機能評価における看護の役割」…………………………………… 土井 章弘
13
「看護部門と事務部門の連携による質の向上」……………………… 鈴木 紀之
29
<第53回日本病院学会>
シンポジウム「看護実践能力の向上をめざして」………………………………………
47
―質が高く安全な看護を提供していくために―
小島操子・山西文子・川村佐和子・西島英利・岡谷恵子/座長
内藤正子
<医事研究会>
講演「医療保険制度改革」―医事課職員に求められるもの― …… 中林
梓
71
康史
83
「平成14年人間ドック全国集計成績」…………………………………… 笹森 典雄
117
<ハウスキーピング研究会>
講演「院内感染防止のための空調対策」 ……………… 福田
昭一・油谷
<委員会報告>
<一番町だより>
平成15年度第6回定例常任理事会議事抄録 …………………………………………… 163
日本病院会雑誌2003年総目次 …………………………172
巻 頭 言
病院におけるボランティア活動
真
田
勝
弘※
阪神淡路大震災に際してのボランティアの活動は,日本人の健全な活力を示
すものとして,いまだに人々の記憶に新たである。ボランティア活動は基本的
に人間の善意の発露であり,提供する人も受ける人も大きな満足感を得ること
ができ,社会的にも有意義なことと評価されていることは言うまでもない。
病院におけるボランティア活動は,1940年代にアメリカ,イリノイ州エバン
ストン病院で M.アームストロング女史が創始し,わが国では1962年に淀川キリ
スト病院で始められた。1974年には34病院が加盟して「日本病院ボランティア
協会」が発足した。
現在では多くの病院でボランティア活動が導入され,病院機能評価において
も,その活動の状況は病院のあるべき姿の一部をなすものとして,評価の対象
となっている。しかし,病院ボランティア活動の実情は決して満足できるよう
な状況にはなっていない。未導入の病院は導入を考え,導入されている病院で
は拡大充実を考え,病院でのボランティア活動を志望する人も決して少なくな
いのであるが,それにもかかわらず,まだ十分な状況には立ち至っていない。
いくつかの問題点があるが,ここでは3点をとりあげて考えてみたい。
第一にはボランティア活動に携わる人の充足方法に関する問題である。病院
でボランティアを導入しようとする場合に,その募集方法は,ボランティアセ
ンターを利用する,病院内に掲示する,市町村の広報を利用する,新聞・ラジ
オを利用するなどが主体で,その他,口コミ,職場・学校への募集案内などの
方法をとるのであるが,大都市ではともかく,地方ではなかなか集めることが
難しい。多くの病院で導入されているといっても,8割近くの施設では40名以
下の登録数であり,しかもその大半においてずっと小規模である。女性が圧倒
的に多く,高齢者が多くなっており,継続性が高い反面に新規加入者が少ない
という悩みを持つ施設が多い。健全なボランティア活動の展開のためには,ボ
ランティアの人たちが組織的になることが必須であり,NPO の形ででも,ボラ
ンティア団体が組織され(この団体の職員は有給でよい),志望者の登録,コー
ディネーターの養成,各地の病院からの求めに応じてのボランティアの派遣と
いうような状況が実現して欲しいのである。
第二点は,ボランティア活動の作業内容の問題である。外来・入院患者の誘
導・案内,おしぼり巻き,リネンの縫製,図書の配布や朗読,ベッドサイドで
*さなだ
かつひろ
(社)日本病院会常任理事
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土浦協同病院名誉院長
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11 )
の話し相手,通訳,子供の遊び相手,学習指導,花の世話などが一般的な作業
である。これらの作業が,病院ボランティアの行なう作業として本当に相応し
いものであるかどうかはともかくとして,通常は病院側からの要請によって,
このようなことをして欲しいといわれることに従事しているのが現状であろ
う。しかしそれは決して望ましい姿ではなく,ボランティア活動は自主的であ
るべきである。ボランティアの人たちが自分たちで,あるいはボランティア団
体が独自で,病院におけるボランティア活動はどのようであるべきなのかを決
めて実行することが望ましい。ボランティアとは自分で新しい価値を発見し,
それを得るために行動する人なのである。もちろん病院の業務とは対立しては
ならないが,従属もせずにあるべきであり,そのためにはコーディネーターの
存在が不可欠となるのである。ボランティアの人たちはアイディアを出し合い,
どのような活動が行なわれて有効であったのか,また病院ボランティアとして
行なってはならないことは何なのか,広く情報を集め,国際的な視点からみて
も理にかなった有意義な活動を目指して欲しいのである。
そして第三は,第二点と関連するが,病院側のボランティアに対する姿勢の
問題である。ボランティア活動は,病院の人手不足を補う労働力ではない。医
師,看護師など専門職の資格がなくても提供できる医療サービスを担当してく
れる人として,職員に代わって労力を無料で提供してくれる存在と位置付けて
はならない。健康保険の保険点数に算入はできないが提供されることが望まし
いサービスを,無料で提供してくれる存在という考え方も誤りである。先にの
べたように,ボランティアは何を行なうかは自発的に決めるべきである。ボラ
ンティアには,それ自体に存在理由,存在価値があるのであり,病院をその表
現の場としているものと理解するべきである。病院はボランティアの必要性,
社会的意義についてよく認識して活動の場を提供し,ボランティア活動を安定
的に支援する中心人物を定めて,コーディネーターと協議し,ボランティアの
受け入れ,表彰,懇親などについてのルールを作るべきである。また,病院の
職員の中には,ボランティア活動にまったく無関心で,極端な場合には邪魔者
扱いにするケースもあるという。これもまた誤りであり,いやしくも医療に携
わろうとする人は,病院ボランティアの心意気を感じ取って感謝と敬意を払う
のは当然のことである。
病院においてのボランティア活動には,さまざまな現れ方があり,コンサー
トの開催,年中行事への参加など,個々の施設によって特徴のある活動も可能
である。心ある人々によって,これらの問題点が解消され,わが国の医療界全
般にわたって,健全なボランティア活動がさらに広がって行くことを期待した
い。
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看護管理者セミナー・講演
医療機能評価における看護の役割
岡山旭東病院院長
土
井
章
弘
平成15年8月・東京
(キーワーズ:医療機能評価,理念経営,経営指
いつも先生,先生といわれているから,知らず知
らずになかなか人の痛みが分からないようになっ
針,共育,職場は貴方の晴れ舞台)
てしまうのではないかというふうに私は思うんで
司会
先生は昭和40年に鳥取大学医学部を卒業
す。
されまして,41年岡山大学脳神経外科,高知県立
私は中小企業家同友会という全国組織に加入し
中央病院外科で研修し昭和45年から3年間アメリ
ています。同友会は中小企業の経営者が集まって
カのペンシルバニア大学,ブロードストリート病
経営体験を交換しながら勉強するところで,私も
院へ留学されております。帰国されて国立岡山病
それに入れていただいたおかげで現在何とか病院
院脳神経外科,香川県立中央病院脳神経外科,岡
経営ができているなというふうに思います。
山大学と香川大学の講師をされまして,昭和63年
私どもはどうしても病院とか診療所とかそうい
から財団法人操風会岡山旭東病院の院長先生とし
う狭い視野でしかものがなかなか見られない。し
て現在に至っておられ,そのほか先生のご活動の
たがってもっともっと異業種との交流が必要なの
内容には,岡山県病院協会会長,日本病院会理事,
ではないかと思います。私は異業者の方との交流
全国公私病院連盟副会長等々たくさんの役を引き
のなかで,自分の経営をやってきました。きょう
受けてご活躍でございます。先生の今までの医療
はそれについてお話しようと思っています。
の質と病院経営の実績を積まれてきたたくさんの
先ほどご紹介がありましたように,私は昭和40
いろいろな経過から,きょうは実際的なお話を伺
年に卒業したのですけれども,その当時「ベン・
うことができるのではないかと思っております。
ケーシー」というテレビがありました。このなか
どうぞ先生,よろしくお願いいたします。
に「ベン・ケーシー」がわかる人はどのくらいい
らっしゃいますか。ケーシー高峰はどのくらいで
1)はじめに
土井
すかね。大体これで年代がわかりますね。私はベ
ご紹介ありがとうございました。ご紹介
ン・ケーシー世代で,医学においてアメリカって
にあずかりました土井と申します。きょうはよろ
すごいなと感じていました。ケーシーという脳神
しくお願いいたします。
経外科がいて,日本人が下垂体腫瘍の手術をして
実は昨日司会の古瀬さんとミーティングしたの
もらってよくなっていくというのをみて,すばら
ですけれども,そのなかで私は先生と呼んでくれ
しい,僕もあんなになりたい,そんなことを思い
るなといっていたのに,きょうは先生が出たので
ながら私は脳神経外科の道を選んだんです。アメ
恐縮しています。医療関係者の先生というのは本
リカにも留学をしましたが,最後には私は昭和50
当は患者様だと私は思うんです。大体先生と呼ば
年から62年まで讃岐うどんのおいしい香川県へ行
れると人間というのはどうしても謙虚になれませ
きました。香川県立中央病院です。私はそこで12
んね。先生,先生と呼ばれると何か上へ上がって
年間脳神経外科を担当しました。その当時,救命
しまって,医者は卒業してからすぐ先生ですから,
救急センターができ始めたころで,センターの設
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立とかいうのにもかかわりました。当時は四国に
資格人事制度を導入し,ICU もこのとき取ってお
は脳神経外科をアクティブにやっているところと
ります。平成12年1月に ISO14001,
これは環境 ISO
は少なかったんですね。だから,たくさんの患者
ですが,これを自己宣言いたしました。今,ISO
さんを診させていただきました。そのなかでナー
取得を目指しています。それから,7月に脳卒中
スの方々に本当に助けられた。とくにそういうア
センターを開設して,平成13年5月から全館禁煙
クティブにやっているところでは看護婦さんの役
病院を実施しております。平成15年1月から病院
割が非常に大切で,そういう方たちに助けられて
を増改築しまして少しリニューアルし,働く環境
僕はやってこられたといつも感謝しております。
と患者様に対する環境をもう少しよくしていきた
だから,看護婦さんのいうことは患者様に立脚し
い。それから,来年4月に PET を導入する予定で
た提言が多いので,耳を傾けてやっていかなけれ
す。
ばいけないとその当時からずっと思ってきまし
た。きょうは病院でどんなことをやっているかを
聞いていただきたいと,思っております。
3)時代の風
それから,私は時代の風が変わってきていると
思います。確かに厚労省がああしろこうしろとい
2)岡山旭東病院の現況
いますけれども,それは時代の風がいわせている
これは私が今やっている病院なのですけれど
と思います。今,安全な医療に対する欲求という
も,小さな病院で162床。皆さん方のなかには1,000
のは非常に高まってきています。医療そのものが
床とかそういう病院もきっといらっしゃると思い
非常に高度になってきましたので,それと同時に
ますけれども,162床で職員数は250名,パートが
危険性を伴うようになってきたということもある
10名。看護基準は2対1看護を取らせていただい
と思います。
ております。そして,私どもの病院は脳神経運動
それから,先進医療への期待も大きいと思いま
器の総合的専門病院といっているのですけれど
す。どんどん医療が進歩しております。それに伴っ
も,脳神経外科・整形外科・神経内科・リハ科・
てもう少し人間性の回復といいますか,いやしの
内科・循環器科・放射線科・麻酔科・形成外科・
環境が求められています。新しい病院というのは
リウマチ科,そういうような診療科なのです。ド
本当にすばらしい環境になってきておりますが,
クターも決して多くありません。今常勤が20名で,
一番大切なのはそこに働く人がどれだけ人間らし
パートは10名近く出たり入ったりしているような
く患者様にかかわれるかということではないかと
病院で,いいドクターを探すのが私の役目と思っ
思います。そのなかで,ユーモアなど人間的なも
ています。
てなしの気持ちというのが大切だと思います。
日本医療機能評価機構は4年ほど前に取らせて
それから,消費者としての権利ということがク
いただきました。それから,認可型の ICU を8床,
ローズアップされ,新聞を見ると,医療に関する
脳卒中センター,総合リハビリテーション施設。
訴訟が毎日のように報道されています。権利とい
それから,回復期リハを今年6月に立ち上げまし
うのは非常に難しく考えますよね。例えば子供の
た。現在,平均在院日数が14.2日で,紹介率がやっ
権利条約。なぜ子供に権利を与えなければいけな
と30%以上です。
いか。私が尊敬している先生に太田尭先生という
私どもの病院はもともとは結核の療養所で,か
先生がいらっしゃいます。元東京大学の名誉教授
れこれ50年近い歴史があります。私が今いるとこ
で教育学会の会長もされた先生ですが,もう85歳
ろは昭和58年に整形外科の19床から立ち上げて,
ぐらいではないかと思いますけれども,この先生
私が高松から岡山に移って,63年から院長をさせ
のあるときの話で,権利というのは英語でライト
ていただいています。きょうお話しする経営指針
ですね。車のオーライというあれです。これを大
書というものを平成2年につくりました。平成10
和言葉でいうと「当たり前」ということです。権
年に162床に増床を行いまして,平成11年に日本医
利というのは当たり前のことで,権利というと権
療機能評価機構を受審いたしました。同年に職能
勢と利益というふうに考えがちですが,決してそ
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日本病院会雑誌
うではなく,当たり前ということだというふうに
いろいろな組織がいっぱいあって,そのなかのコ
いわれて,私はとても納得しました。だから,患
ミュニケーション,そしてまた患者様とのコミュ
者様の権利といったら何か怖いなとか堅い感じが
ニケーション,そういうことが望まれていると思
するけれども,これは患者様の当たり前の要求が
います。それから,価値観が尊重されること。個
権利ではないかというふうに思うわけです。
人のそれぞれの価値観が尊重される。これが質が
4)日本医療機能評価の新バージョン
先ほどお話のあったように,今度新しいバー
よい医療の提供だというふうに岩崎先生が書いて
いらっしゃいましたけれども,そのとおりだと思
います。
ジョンになりました日本医療機能評価機構です
看護体制の確立と組織管理。これは皆さん方が
が,とくにそのなかで患者の権利と安全,診療の
日夜苦労なさっていることではないかと思いま
質の確保,看護の適切な提供,そういうところが
す。それから,適切な看護活動の展開。ケアプロ
今度の改定の大きな目玉ではないかと思います。
セスですね。そのなかでチーム医療というのが非
今まではシステムとか構造面をいってきたと思い
常に大切だし,まさに看護というものはチーム医
ます。これからは内容を少し考えていこう,プロ
療だと思います。病院全体がチーム医療といって
セスが大切であると。皆さん方はそういうことを
いいかもしれません。看護を中心にしてほかの職
待ち望んでいたのではないかと思います。もっと
種と協力してチーム医療を行っていくということ
内容を知ってほしい,格好だけでなしに私たちは
が今回は評価されます。
こんなことをやっているというような,そういう
方向になってきたのではないかと思います。
今度の新しいバージョンではこういう責任体制
とか看護活動の計画的対応とか検査実施へのかか
今度の改定は質の充実に対する指導体制と情報
わり,与薬実施へのかかわり,周手術期へのかか
管理のあり方を評価し,それに,リーダーシップ
わり,リハビリテーションの適切な実施,行動制
が入っています。皆さん方ほとんどがそういう
限への配慮,看護の継続性の確保,逝去時の対応,
リーダーシップを発揮しなければいけないポジ
看護ケアの評価と質向上への努力。こういう看護
ションにいらっしゃると思いますが,リーダーの
課程の展開ということが示されているわけで,皆
あり方はとても大切だし,また生きがいのあるこ
さん方もこういうことに向けていろいろ改善な
とではなかろうかと思います。それから,患者様
さっているのではないかと思います。
の権利の尊重と安全確保に対する病院の対応のあ
これも先ほどいいましたように,今度の改定で
り方を評価する。これが第2・第3領域です。そ
は患者の権利と安全の確保と,看護領域ではケア
れから,診療・看護の先ほどいいましたようなプ
プロセスと医師とのチームワーク,そういうこと
ロセスのなかでチーム医療全体がちゃんとできて
が重点項目とされていると思います。
いるかということが大きな改定です。それから,
医療の質の評価ですけれども,今までの旧バー
危機管理とは別の訴訟問題に対する病院の取り組
ジョンでは構造というのが主として評価の対象に
み方を評価する。そういうふうなことが今度の主
なっていたと思いますけれども,今度の新しい
要改定の項目というふうにいわれています。
バージョンではプロセス(チーム医療)が大きく
質がよい医療というのはどういうことかという
評価されるようになりました。この次に来るのは
と,これは岩崎先生が『看護』の3月号に書いて
恐らくアウトカムだと思います。評価をして,そ
いらっしゃったのですが,技術的に優れていると
の結果がどうかという問題にやがてやってくると
いうことは当たり前で,コミュニケーションがよ
思いますが,それまでにはもうちょっと時間ある
い。コミュニケーションは本当に大きなテーマだ
ように思います。サーベイもだんだん難しくなり
と思います。コミュニケーションだけでもちゃん
ますね。最初のころは非常にやさしく,受けてく
とできたら,それだけでもすばらしいと思います。
ださいというような感じでした。今はさま変わり
それから,意思決定の共有化。なかなか病院のな
して,たくさんの病院が受けるようになりました
かでこの意思の決定の共有化というのは難しい。
し,それだけサーベイヤーの目が肥えてきて厳し
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くなってきたというのも事実でございます。だか
ている看護理念にはついていくけれども,看護部
ら,こんなものはできるだけ早く受けた方がいい,
長についていかなくていいと私は思います。それ
待てば待つほど難しくなるといえるのではないか
ぞれの病院には固有の看護理念があると思いま
と思います。
す。そして,その理念を追求していくということ
それから,今は第三者評価といっても医療を
が大切ではないかと思います。それが非営利企業
やっている診療側とか看護,病院の事務の管理を
の組織である病院の命ではないかと思います。経
した経験のある人という,3領域なのですけれど
営理念で飯が食えるかと反論があると思います
も,このなかで抜けているのが消費者(患者様)
が,どうなのでしょうか。私は本当に追求したら
であると思います。辻本さんなどが今 COML という
飯は食えると思います。それぞれの病院にそれぞ
のをやっていますね。そういう患者サイドからの
れの理念があり,それを深めていくということが
評価というのもこれからは大切になっていくので
ますます大切になっていくのではなかろうかと思
はないかという感じがしております。
います。だから,看護理念があって,その看護理
念に基づいていろいろな方針・目標・管理。いつ
5)理念経営
までにどういうことを達成していくかという計
私は理念経営といっているのですけれども,病
院の経営には,理念というのが非常に大切だと思
画,そしてそういう計画を立てていくということ
が大切ではなかろうかと思います。
います。10年前には,理念というものを持ってい
私は病院経営の基本的考え方としては,経営理
た病院はあまりなかったのではないかと思いま
念に基づく理念経営というのが病院にとっては命
す。何のために病院を経営しているのか,この理
ではなかろうかと思います。そして,そこに働く
念がやはり経営の中心にならなくてはいけないと
人がそれぞれの個性を伸ばしていける人間尊重の
思います。病院というのは非営利組織です。お金
経営がなされるべきで,職員自身が大切にされて
をもうけて,これを株式みたいに皆さんに配当す
いないのにいい看護をしろといっても,それは無
るということはありません。だから,病院では,
理でないかと思います。それから,経理の公開。
利潤を上げることが決して目的ではないと思いま
病院でどういうふうにお金が動いているのか,自
す。一般企業でも本当は利潤を上げることが目的
分たちがやっていることが一体どういう経済的な
ではないと私は思います。それぞれに理念がある
状況にあるのかということを知ることも必要だと
わけですから,企業はきちんとした理念に基づい
思います。経理の公開・情報公開が大切だと思い
て経営をやっていかなければいけない。例えば雪
ます。それから,そこにいる職員全員が参加して
印乳業とか日本ハムの事件がありましたね。あれ
いくということですね。何でもトップダウンで下
は理念をそのとおりにやっていなかった結果だと
ろしていく。病院ではそういう風士がずっとあっ
思います。雪印などというのは超優良企業です。
たと思います。でも,それでは職員の元気は出な
そこへ勤めるということは非常に誇りだったと思
いと思います。指示待ち族が多くなります。きょ
います。ところが,実際末端では理念に反したこ
う話していることは,それならおまえのところは
とをやっているわけですね。だから,理念の浸透
そんなに立派なことをやっているのかと思われる
というのは非常に大切です。
とちょっと困るのですけれども,私はこうしたい
ジョンソン・アンド・ジョンソンというアメリ
カの会社がありますね。これは消費者第一主義で
やっていますね。あそこの会社というのはすばら
しい経営をしていると思いますが,理念を本当に
と思っているというふうに聞いていただきたいと
思います。
6)経営指針とは何か
全うしていけば利潤はついてくると私は思いま
経営指針は3つで構成されています。1つは経
す。病院経営は理念を追求していかなければなら
営理念です。何のためにその病院があるのか,何
ない。院長についていくのではなく,院長のいっ
のためにこの組織はあるのか,何のためにやって
ている理念にはついていけると。看護部長のいっ
いるのかという経営理念ですね。それに基づいた
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毎年の経営の方針。もちろん基本的方針というの
でも,経営理念はあるけれども,大概はできない
はどこの病院でもあると思います。変えてもいい
でしょう。立派な経営理念ですけれども,おまえ
ものもあるけれども,変えてはならないものもあ
やっているのかと。司馬遼太郎の『坂の上の雲』
ると思います。それから,もう一つは経営計画で
みたいなものですよね。一生懸命雲に向かって歩
す。これをある病棟であるとか,看護師全体であ
いていって,山を越えたらまた向こうに雲が行っ
るとか,ドクターだったら診療部門とか,大きい
ているというような。でも,やはりそれに向かっ
病院だったらそれぞれの診療科とか,それぞれに
て歩くことが大切かなと思います。
自分たちで経営計画を立てていくことが大切かな
快適な,人間味のある,温かい医療環境を備え
と思います。できればそこに部門別予算というの
た病院。こういうところで療養したいと私も思い
をしたらいいと思います。ここの病棟はどのくら
ます。でも,快適な,人間味のある,温かい医療
いの権限を与えられて経営していくというのも大
環境を備えた病院というのはなかなか難しいです
切ではないかと思います。しかし,そこまでは私
よね。言葉遣いがいつもいい対応をしているか,
どものところではできていないのです。この経営
笑顔がいつもあるか,そして一人ひとりの患者様
指針というのが経営の羅針盤だと考えています。
の個性に合った対応ができるか。そのためにはや
経営指針は登山に例えると,どの山に登るかと
はり教養と知性と感性が要りますよね。みんなそ
いうのが経営理念,どのルートを取るかというの
ういくかというと,そうはいきませんね。今ごろ
が経営方針,いつどのような装備でどこにテント
はホテル以上のすばらしい病院がいっぱいありま
を張って,ベースキャンプをつくり,どうやって
すね。本当に行ってびっくりするような病院があ
山に上がっていくかというのが計画だと思いま
りますけれども,中心はやはり人間だと思います。
す。だから,この経営理念と方針と計画の3つを
快適な人間味のある温かい医療環境を備えた病
経営指針と申しているわけです。
院,これも『坂の上の雲』ですけれども。
病院というのはちょうどサイロのような組織と
それから,他の医療機関とともによい医療を支
いわれています。専門職集団,ドクターの集団,
える。自分のところだけで完結できない。とくに
そして看護師,放射線技師などの診療技術部門,
私どもは脳神経運動器という一つのコンセプトで
リハビリの部門とかいっぱいあって,それぞれが
やっていますので,ほかの病院に助けていただか
独立した組織で,そのコミュニケーションが非常
なければとてもできない。だから,うちではよそ
に難しい。だからこそ経営指針が大切というふう
の病院の悪口とか失敗したことをいわない。いえ
にもいえると思います。経営者と職員,そして職
ばいわれます。私も最近ちょっとつらいことが
員同士の間には暗くて深い溝があると。恐らくそ
あったのです。顔面を打ってこられた方がうちの
れぞれの病院で,暗くて深い溝があると思います。
若い先生が診て,
「大丈夫だろう」といったわけで
院長にいっても何も聞いてくれないなど,私もそ
す。次の日に来られて,ほかの先生が診てこれは
ういわれていると思いますけれども。その溝を少
おかしいといって眼科に紹介しさらに岡山大学に
しでも埋めていくのが経営指針書ではないかと,
紹介されました。大学の先生が「もう少し早く連
私は思って進めてきております。
れてくればもっとよくなったのに」といわれたん
私どもの病院の経営理念というものをちょっと
ですね。その一言で私は次の日に家まで謝りに
ご紹介いたしますと,安心して生命をゆだねられ
行って頭を下げてきました。私の仕事の大きい部
る病院というのがあります。それなら,おまえの
分はそういうトラブルの火消しです。私どもは他
ところは安心して生命をゆだねられるかといわれ
の医療機関とともによい医療を支えるために,い
たら,そうでもないんですね。転倒はあるし,骨
ろいろなところとコミュニケーションして,最終
折はあるし,針刺し事故はあるし,薬を間違える
的にはその患者様がよくなればいいわけですね。
こともたまにはあるし,手術がうまくいかないこ
たまたま縁があって私どものところに来ただけ
ともあります。大体経営理念というのはみんなで
で,その患者様にとっては別にうちに来なくても
きないことを書いてあるのです。皆さん方の病院
よそでもよかったわけですよね。だから,みんな
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で支えていくということが大切かなと思います。
らもっといいですよね。それで自分が磨けるので
それから,職員一人ひとりが幸せで,やりがい
すから。やはり自分の役を磨いて,そして職員一
のある病院。これが一番大切ではないかと思いま
人ひとりが幸せでやりがいのある病院にしてほし
す。
いと思います。この4つが私どもの病院の理念で
実は私がこの経営理念をつくるときのいきさつ
を話せば,それだけで結構しゃべらなくてはいけ
す。
人間尊重の経営をする。情報公開(経理の公開)
ないのです。まず,私ははじめの3つをつくった
をする。経営指針書をみんなでつくろうというの
んです。4つ目は職員一人ひとりに人生の花が咲
が私の願いです。
「念ずれば花ひらく」といういい
くことを念じ求めるというようなのを自分なりに
言葉があるのですけれども,この言葉を知ってい
つくったんです。この経営理念は職員が喜んでく
る人はどれくらいいらっしゃいますか…,結構い
れるかなと思ったら,全然喜んでくれませんでし
らっしゃいますね。これを知っているということ
た。別に院長にそんなもの念じてもらわなくても
はレベルがかなり高いということですね。これは
いいといわれました。そうだなと。実は理念につ
坂村真民という人がつくられた詩の題なんです。
いて職員と半日かけてディスカッションしたので
四国の人は知っていると思いますが,愛媛県には
す。経営理念というのは院長だけで決めるもので
砥部焼きで有名な砥部があります。真民先生はそ
はない,みんなで考えようということをいわれま
こに住んでおられて,今94歳ですね。非常に元気
して,すったもんだして,最後にこの職員一人ひ
な方です。100歳まで頑張るといっておられます。
とりが幸せでやりがいのある病院ということに
真民先生に聞いたら,念ずれば花ひらくというの
なったのです。最近もうちの脳外科のドクターの
は,別にお賽銭を出して念じたからって花開かな
1人が,
「職員一人ひとりが幸せで,やりがいのあ
いんですよ。念じて実践すれば花が開くというこ
る病院と書いてあるけれども,一つもやりがいの
とだというふうに教えてくださいました。念ずる
ある病院になっていない」といってくれました。
ことはだれでもできるけれども,実践しなければ
それで,私はいったんですよ。
「それは違う。これ
花は咲かないということだと思います。
は自分で獲得しなければいけない。別に病院が提
供しているわけではない。一人ひとりが自分を高
7)経営方針の立てかた
めて,そしてやりがいのある組織にしていかなけ
私どもはどういうふうにしているかというと,
ればいけないのではないか」というふうに話した
経営戦略カードというのがあります。フォーマッ
んです。
トには今の医療情勢,私どもを取り巻く環境につ
あとでも話しますけれども,私は,職場はあな
いて書いてください。それから,私どもの病院の
たの晴れ舞台というわけです。だけど,別に私が
いいところ,悪いところ,これからの医療はどう
晴れ舞台を提供しているわけではないんですね。
なっていくか,それに対してどういう戦略をとっ
舞台は提供しています。でも,舞台が悪くても,
たらいいかということを私どもは全職員250名に
そこで演じる役者がよくなければいけないですよ
書いてもらいます。それがそれぞれの看護部長と
ね。杉村春子はすばらしい役者ですね。どれだけ
か診療部長とか事務部長とかそういうところに集
苦労してやっておられるか。夜中でもあの方たち
まって,それを全部集計します。そして,それを
は勉強していたと思います。仲代達也にしてもや
12月にブレインストーミングというのをやってい
はりすばらしい。大体役者というのはすばらしい
るんですが,これは経営会議のメンバー十数名い
人が多いですよね。同じことで,皆さん方もここ
るんですけれども,そこで一日かけてそれをもと
へ来るのはみんな自分の役を磨こうと思って来ら
に話し合って,経営方針というのを立てます。新
れていると思います。別に病院のためだと思って
年度の1月に経営方針を発表します。そして,そ
来ている人はほとんどいないと思いますよね。費
の経営方針が決まると,その経営方針と理念に
用なども全部自分で出されているでしょう。それ
従ってそれぞれの部署で経営計画を立てます。医
は違いますか。もし出してもらっているのだった
局は医局,看護部は看護部,それぞれの病棟で立
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日本病院会雑誌
てます。それをすり合わせて,財政的な問題はあ
笑っておられるけれども,そのとおりですよね。
りますけれども,ほとんどが修正することはない
それから,いやしの環境の整備。今増改築してい
ようにしています。理念と方針にたがわなかった
るのですけれども,電子カルテを来年からすると
らそれでいいということで,それぞれが計画を立
いうことで,今準備をしております。それから,
ててきます。そして2月中にこの計画書を印刷を
第1回院内学会をやろうと思います。えらく遅い
し,3月末に経営指針の発表会をいたします。そ
なと思われるかもしれませんが,看護部はずっと
ういうスタイルで毎年やっております。
昔からやっているのですが,うちはほかの職種が
基本方針としては,先ほどいいました経営理念
遅れているんです。それから,日本医療機能評価
の追求,人間尊重の経営,情報公開。できるだけ
機構もまた受けなければいけませんので,そろそ
情報は流す。経理だけでなしに,今私ども院内ホー
ろ準備にとりかかります。それから,PET 事業の
ムページというのをつくっているのですけれど
立ち上げ。来年4月に PET を入れます。
も,それにあらゆる情報を流しています。残念な
それから,企画・広報がとても大切です。今ま
がらまだパソコンが十分でないので,見れないと
でとくに医療は広告してはいけないというふうに
いうふうにもいわれますが,来年春から電子カル
いわれていまして,それがしみついています。やっ
テ化しますので情報の共有がもっとできると思い
てもいいといっても,できないんですね。自己規
ます。それから,共育の実践。ともに育つという
制がかかっていますから,でも,これからはやは
ことです。そして,いやしの環境整備,地球環境
り情報をどんどん流して,それによって消費者で
への配慮。これが6つの基本方針です。
ある患者様が病院を選択できるようになればよい
2003年度の経営方針(戦略)です。1つは経営
と思います。今は企画・広報にちょっと力を入れ
理念の徹底。この経営理念の徹底というのは本当
て,担当を2人入れてやっています。それから,
は難しいんです。あなたちょっと経営理念は何か
21世紀は健康・予防ですね。そういうことをやっ
いってごらんと。こんなのは全然意味ないです。
ていこうと思って,健康ステーションを企画して
よくサーベイなどに行くと,名札の裏に書いてあ
いきたい。それから,職能資格人事制度を充実し
ります。ないよりはいいかもしれないけれども,
ていこう。私は今のところはあまりお金で差をつ
あれはだめですよね。本当は心に書いておかなけ
けるようなつもりはありません。職能資格制度を
ればいけない。別に一字一句をたどることは必要
とり入れてそろそろ5年目ぐらいになりますが,
ないので,やはりそれを自分のものとしてしゃべ
能力開発カードも入れていますが,まず面談する
れる,とくに管理職はそれを自分の言葉で翻訳で
ということに意義があると思います。残念ながら
きる翻訳者になれといっているんです。翻訳者に
ドクターはあまり厳しくやっていないんですけれ
なって,それを伝えていくというのが大切ではな
ども,今年から少し評価基準も設けてきちんとや
いかと思います。
ろうというふうに思っています。そういうことを
それから,急性期加算病院。これはおかげで急
今年の経営方針として決めたわけです。
性期加算は取れました。それから,回復期リハ病
毎年3月に,経営指針の発表会というのをやり
棟の開設。これもできました。管理職の育成。こ
まして,このときに経理の公開,新年度の予算,
れ は な か な か 難 し い の で すけ れ ど も , あと で
それから年末調整もこのときに決めます。看護部
ちょっとお話しします。それから,医師の確保。
とか事務部,診療部,それぞれの課が自分たちの
これもいい医師は大変難しいです。だれでもよけ
計画をそこの責任者が発表いたします。
ればいいのですが,そういうわけにもいかない。
これは2002年度の経営指針の発表会です。2001
これからはだれでもいいというわけにはいきませ
年度の収支の決算を話して,診療部,診療技術部,
ん。やはりコミュニケーションのできる,とくに
看護部,事務部門,訪問看護ステーション,EMS
看護師とコミュニケーションができるドクターで
環境委員会,リスクマネージメント委員会,院内
なければいけない。医師の評価というのは,そこ
感染委員会,クリニカルパス作成委員会,そうい
の看護師に聞くと大体分かりますよね。皆さん
うところが全部自分たちの発表をいたします。終
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わりに,職員表彰をいたします。表彰といっても
帰ってもらえない。ここへ来ますよ,よそに行く
別に大したものは出ないんですが,ありがとうと
よりここがいいですといわれたら,行けとはいえ
いう紙と図書券ぐらいです。それでも結構喜んで
ないですね。でも,だんだんそういう連携ができ
くれます。いろいろなのがあって,なかにはパ
て,診療所をやっている先生方といいコミュニ
フォーマンス学認定インストラクター資格という
ケーションが取れれば,そこに患者様を紹介でき
のがあります。彼女は岡山から東京まで通ったん
ます。私どものところでは今そういう連携をして
ですよね。夜行バスで2年間通って取りました。
いる病院の上位何ランクかを壁に張っておりまし
病院は一銭も出しておりません。
て,うちの病院があるとかないとか,よく患者さ
内容は別に大したことはないのですが,要する
んが見ていますよ。コミュニケーションをするこ
に前年度の検証ということです。これは医事の秘
とによって逆紹介をしていきたいと思っていま
書課なのですけれども,前年度の反省を書くわけ
す。
ですね。そして,どういうことを今年やるかとい
経理の公開というのは非常にいいと思います。
うのを書いて,責任者を必ず決めて,いつまでに
実は私ども平成4年に病院がつぶれそうになった
できるというようなことを本にする。大体今75
んです。本当に大変だったです。102床から162床
ページぐらいの厚さになっております。
に増やすときに病院を新しく建築しようと思った
中間報告会というのを11月16日にやりました。
のです。そうしたら,診療報酬改定があってうま
また,今までどれだけできたか,どれだけできて
く乗らなかったんですね。このまま突っ込むと危
いないか,積み残しがどれだけあるか,その年の
ないというふうになりました。途中でこれはだめ
終わりまでにそれをクリアしようということで,
だというので,私はやりたかったのですが,事務
こういう中間の発表会をやります。もちろん,半
長がこのまま突っ込むとつぶれますというんで
期の収支も発表いたします。
す。私は「行け,進め」でやってきましたから。
以前はこういう発表会というのに出てこなかっ
たまたま暦を見ると,人のいうことを聞けと書い
た部署がありました。医師が出てこない。文句ば
てあるのです。ああいうときにはそういうのが目
かりいって出てこないのが大体お医者さんです
につくんですね。これはやはり人のいうことを聞
ね。でも,最近はほとんど出てくるようになりま
かないといけないかな,と思って,やめたんです
した。
よ。
こういう発表会には私どもの取引銀行の担当者
そのとき,すでに経理の公開をしていたので,
が来て聞いております。そういう人たちにちょっ
職員が頑張ってくれました。給料まで下げていい
とあいさつしてくださいというと,いいことをい
ですとはいってくれませんでしたけれども,でも
うんですよ。「この病院のために頑張ってくださ
図書購入は全然しませんし,学会はまったく行か
い。私どもがちゃんと支えますから」といってく
ず。ところが,みんな考えてくれて,いろいろア
れるから,いいんですよね。そんなようなことを
イデアを出してくれて患者さんも集めてくれて,
繰り返し繰り返しやっているわけです。
これは診療収入の状況です。入院と外来プラス
看護基準も上げることができました。それで何と
です。15年度のは持って来ませんで,14年度まで
オープンにした方が信頼関係ができるというふう
しかないのですけれども,こういうことを発表し
にその当時思いました。銀行にも行ったんですよ。
ます。毎年上がったり下がったりですけれども,
経営指針書というのを持っていったのです。この
こういうふうに収益がどのくらいあるかというよ
たびは借金の金が返せませんという話をしまし
うなことも知っていただくというのも大切かな
た。それなら元金の返済を待ってあげるといって
と。外来一日平均の患者数ですけれども,毎年毎
もらいました。やはり計画をきちんとして,自分
年少しずつ外来は少なくなっています。逆紹介と
の状況をちゃんと成文化しておけば,銀行の理解
かそういうことを今一生懸命やっているんですけ
が得やすいというふうに私は思います。
か危機をクリアできました。だから,私は何でも
れども,それでもなかなか帰りなさいといっても
20
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ベルが高い。
「アドボカシーというのがあるんだけ
8)人を育てる
れども,これうちでやっていいですか」というか
それから,これは研修です。私どもの病院は結
ら,僕は大体職員が提案してきたのはほとんど
構研修は多いと思います。年に12∼13回あります。
オーケーですから,
「いいよ」といったら,アドボ
もちろんここでは技術的な研修はしません。技術
カシーを一生懸命やりました。おかげであちこち
的な研修は看護協会がやったり,専門職の研修会
に呼ばれて,厚労省からも呼ばれて,別に功労賞
へ行ったり,それはまた別ですけれども,病院と
はもらいませんでしたけれども,この間読売新聞
してやることというのをやっております。そのな
が来て全国紙に出るそうなんですけれども,もし
かで一番大切にしているのはやはり経営理念の浸
目にとまったら見てやってください。
透ということです。だから,こういう研修のとき
それから,グループ討議のやり方。これは看護
に私がしゃべるのは経営理念だけです。だから,
師さんは非常に慣れておられますけれども,グ
評価はよくありません。よそから来た講師の評点
ループ討議のやり方というのを学ぶわけです。私
は非常によろしい。私はいかにこの経営理念をう
はグループ討議が大好きなんですけれども,問題
まくしゃべって伝えるかが役目なんですけれど
はグループ討議をしていい答えが出ないと何もな
も,なかなか難しいです。
りませんね。7,8人集まってワーワーいって,
この研修も去年までは,大体私が企画しており
結局何も成果が出ないというのはいけない。その
ました。今年から職員のなかからこういう意見が
なかで声高な意見をいう人が通るようなグループ
出ました。研修というのは自分たちでするものだ,
討議はだめなんです。みんなが話し合って,その
院長に企画なんかしてもらいたくないという話が
討議のなかでだれかが突出した意見をいってみん
出ました。これはよかったですね。自分たちでや
な従うのではなくて,みんなが討議することに
るんですよ。どんな講師を選びたいとか。私は多
よってさらにレベルの高い結論が出るというのが
少広く知っているから,そういう講師だったらあ
僕は良い討議だと思います。そういう訓練を今プ
そこにいるよといってそこへ私が電話するとか,
ロに来てもらってやっていただいています。
そういうことで全部組み立ててくれて,自分たち
経営理念に基づく経営という先ほどいったこと
でできるようになりました。新人研修から始まっ
をまとめてみると,私の仕事というのは経営理念
て中堅幹部研修,リーダー研修。リーダー研修も
の浸透しかないと。あとは経営方針の策定をして,
私がしていたのを全部やめました。だから,リー
各職場の経営計画をつくって,経営指針の発表会,
ダーはリーダーたちで自分たちの研修をすると。
そして半期の見直し,前年度の検証,職能資格人
私は行って理念だけしゃべるというふうになっ
事制度に反映していくということを繰り返し繰り
て,これはとてもよかったと思います。自分たち
返しやっているところで,決して完全にできてい
がどういう病院にしたいかということもグループ
るわけではございません。
討議してやっていくと。細かいことを話すと時間
がありませんけれども,そういうようなやり方を
して研修を組み立てているところです。
9)こんな病院になりたい
こんな病院になりたいというのをちょっと話し
これは去年10月にやった研修ですけれども,
「あ
てみたいと思います。1つは理念追求型です。そ
さひ・旭東病院が生き残るために」という私が
れから,先進的な医療技術。優れた医療従事者,
ちょっと理念的な話をして,それからうちには四
医療機器の整備。病院というのは医療機器がお金
方というソーシャルワーカーがいまして,
「仕事と
がかかりますよね。ちょっとすると何千万とか何
私」という話しまして,全員で討論するという形
億円とか。それに比べて看護部から来るお金なん
式で行いました。余談ですが,彼はアメリカの病
か10万とか5万とか本当にわずかなものですよ
院にアドボカシー室というのがあるよと私に話し
ね。なかなか買ってくれないと。本当はこんなも
てくれました。皆さん方,アドボカシーというの
の「はい」といって買ってあげたらいいと思いま
を分かる人はどのくらいありますか?
す。だから,今うちは看護部長に権限を与えて,
さすがレ
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ある額は自分で買ったらいいということにしてお
私は教育というのは共育だというふうに思いま
ります。それから,いやしの環境。快適な医療環
す。これは私がつくった言葉では決してございま
境の整備。それから,先ほどいいました他の医療
せん。共育,ともに育つというのは,分かりやす
機関と地域との連携。それから,一番私が今力を
くいうと,スズメの学校よりメダカの学校。
「スズ
入れなくてはいけない問題は,人が育つ職場とい
メの学校の先生はむちを振り振りチイパッパ」と
うことではないかと思います。
いうのがありましたね。院長がこうしろああしろ,
先ほどもちょっとお話が出ましたけれども,内
看護部長がこうしろああしろ,そうすると,人は
なるチーム医療。これが病院は大切です。今一つ
育ちませんね。命令ばかり受けていると自分で考
のツールとしてクリニカルパスができました。こ
えなくなりますね。もう一つの童謡では,
「メダカ
れは多くの病院では看護婦から出発したと思いま
の学校は水の中,だれが生徒か先生か,みんな楽
す。このなかでも恐らくクリニカルパスは看護部
しく泳いでいる」,皆さんご存知ですよね。この歌
が一番力を入れておられると思います。医師を巻
を知っている人はどのくらいいらっしゃいます
き込んで他の職種,事務職,そういうところを巻
か。さすが,教養が高い。これだと思うんですよ
き込んでやらなくてはいけない。古瀬さんはイン
ね。そして,メダカは小さくてかわいいんだけれ
ストラクターをおやりになって,海外まで,四国
ども,一人ひとりが自立した賢いメダカにならな
ですけれども,行っておられるそうです。でも,
くてはいけないですね。そういう人が育てば,こ
本当にクリニカルパスというのは大切だと思いま
の理念とか到達目標というのは自分たちで考えら
す。これから包括医療になります。今年,大学病
れると思うんですね。だから,私はスズメの学校
院に包括が入りましたけれども,恐らく近々一般
よりメダカの学校にしようと。
病院にも導入されると思います。クリパス,それ
私のところは実は院長室がないんです。看護部
から診療情報管理,カルテの一元化,ICD10,そう
長も診療部長も薬局長も全部同じ部屋におりま
いうようなことも今から準備しておくことが大切
す。このぐらいの部屋です。うそです,こんな大
です。大学だったからよかったけれども,大学も
きくありません。そして,そこの部屋にはメダカ
大混乱だったそうです。私が最近サーベイに行っ
を飼っております。本物です,メード・イン・ジャ
た大学病院も,診療情報管理部というのを一元化
パンです。来られたお客さんにうちの組織はこれ
していなかったものだから大慌てですね。この4
ですというんですよ。これが私といったりしてね。
月から始まったということですけれども,そうい
そして,お互いがあてにし,あてにされる関係。
うふうに突然始まりますので,用心していただき
私たちはそこをスタッフルームといっているんで
たいというふうに思います。
すけれども,非常にいいんですよ。看護部長がす
ぐこっちにおりまして,診療部長はあっちにいる
10)ともに育つ組織風土
から,オーイといったらすぐ聞こえますよね。当
人育てに勝るものはないと。ともに育つ組織風
然ですけれども,大体昼間はいないことが多いん
土をつくろうと思えば,やはり情報公開してみん
ですが。私が前勤めていた病院というのは院長室
なが情報を共有化しないと,ともに育つという風
とか看護部長室があったんですよね。私はそれで
土にはならないと思います。そして,この全員参
も結構行きましたが,なかなか行きづらいですね。
加による経営指針書の成文化。私は経営指針書と
大体遠くに離れていますからね。
いっていますけれども,別にこれは経営指針書と
人材育成の考え方ですが,自分の病院の都合の
いう名前でなくていいと思いますが,要するに経
いい看護師をつくったり医者をつくったりするの
営というものは全員が参加しないとだめだと思う
はそれでもいいんですけれども,僕はもうちょっ
んですね。それなら,経営というのは婦長がやる
と広げて,もっと社会の人材をつくるというふう
のか。そうでもないと思いますね。やはり婦長と
にしたらいいかなと。だから,例えばどこかに研
そこにいるスタッフと一緒にやらないといけない
修に出す。帰ったらうちの病院にいてくれよと
のではないかと思います。
いって,アメリカのメーヨークリニックへ研修に
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出す。ここにいる人は恐らくそんなことはいわな
たい看護をやりたいと。それは大病院から比べた
いと思うけれども,いう人もいるんですね。私は
ら小さな病院ですよ,脳神経外科しかないんです
それは違うと思います。行って帰って,よその病
よから。そこで看護の実践をしていくわけです。
院,東京済生会の看護部長に呼ばれたというなら
病院のために彼女はやったわけではないと思いま
喜んで出してあげたらいいと思うんですけれど
す。やはり患者様のためにやったと思うんですね。
も,どうでしょうかね。私はそれが本当の人材育
患者様がトップですよね。そういう実践をなさっ
成だと思います。そう思うと非常に気が楽ですね。
たということだと。私はだから非常に尊敬してい
実は私のところにもある PT がいて,PT をアメリ
るわけです。
カに行かせたんですよ。そうしたら,勉強して帰
私は何事も人に決められると苦しくなると思い
りました。あんなところに行かされたといって,
ますね。人にああしろこうしろといわれると苦し
文句ばかりいって帰ってきたんですね。ところが,
くなる。それを自分で選べば楽になると思うんで
彼はある学校に教官として呼ばれたんですよ。や
すね。同じことでも自分で決めたことはできると
はりそれがキャリアになったんですね。ちょっと
思うんです。でも,人にいわれるとできません。
残念だったけれども,それもいいかというふうに
これはみんなそうです。だから,院長とか要する
最近思うようになりました。あまり条件つけずに
に管理職はどちらかというとみんな元気いいです
どんどん勉強させたらいいと思うんです。
ね。あれは自分が権限を持っているからですね。
共育というのは分かりやすくいうとこういうこ
権限を持つと元気になります。それはみんなそう
とだと思うんです。これは佐藤藤三郎という昭和
です。だから,できるだけそういう自分でできる
20年代の中学校の生徒が書いた答辞です。いい言
ような環境にしていくということが大切かなと,
葉です。「いつも力を合わせていこう」。当たり前
そんなふうに思います。
ですよね。でも,職場のなかでいつも力を合わせ
いやしの環境についてちょっとお話しします。
ていっているか。あの婦長のいうことは聞けない
これは日本医科大学の高柳和江さん。高柳先生を
とか,ありますよね。嫌とかね。
「かげでこそこそ
知っておられる方,手を挙げてください。やはり,
しないでいこう」。陰ではこそこそ院長の悪口をい
皆さんよくご存知だと思うのですけれども,いや
う,看護部長の悪口をいう,同僚の悪口をいう。
しの環境の理念と高柳先生は書いておられました
こそこそしない。いうときはきちんという。給料
が,患者さんの権利を守る環境,個人の尊厳を守
が安いなら給料が安いという。そのかわり,給料
る環境,生きる実感のわく環境,チーム医療を受
が安いといったら,自分も働かなくてはいけない。
けられる環境,社会参加のできる環境,これがい
働いてもっと給料をよくするためにこの病院をよ
やしの環境というふうに先生は書いておられま
くしようとかね。
す。こういう環境に本当にできれば患者様も恐ら
「働くことが一番好きになろう」。少なくとも仕
くこれだけ治るんじゃないかと思うんですね。だ
事をする間は好きでないといけませんよね。働く
から,理想の病院というのは患者様が入ってきて,
ことが好きでなかったら仕事はしない方がいいわ
そして診療を受ける前によくなったといって帰る
けですから。「何でもなぜと考えろ」。つねに疑問
のが一番いい病院ではないかと。大体病院に来る
を持つ,なぜだろうと。
「いつももっといい方法は
半分以上はそういう患者さんではないですかね。
ないか探せ」。これが僕は共育だと思います。こう
とくに私どもの病院などはそうですよ。頭が痛い
いうことができれば理想の職員ですね。なかなか
とかめまいがするとか。そうなると儲からないか
難しいですね。でも,これをやったのが札幌の麻
ら,そういうときはお賽銭箱を置いておいて,よ
布脳神経外科病院の紙屋さんではないかというふ
くなったといったらいくらか入れて帰っていただ
うに思います。あの人はすごい。今そんなことを
ければそれでいけるかなと思うんですけれども,
いわれる十数年前からやはりやっていたんです
どうでしょうか。いやしの環境というのはとても
ね。彼女は北大の脳外科に勤められて,市中の開
大切です。病院に入って余計悪くなる患者様も結
業する先生について出たんですよね。自分のやり
構いらっしゃると思いますね。
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このいやしの環境を普及していくためには職員
そのために勉強しなければいけないと思います。
の意識改革が必要であると思います。意識改革と
子供からいろいろな社会で仕事をなさっている
いうか,意識がない人もいますから,そのために
方,なかには政治家も来られます。別に決して政
は意識覚醒が必要だと思いますね。そういういや
治家が高いとはいっていませんよ。低いかもしれ
しの環境が大切だということをやはり思わないと
ないけれども,いろいろな方がいらっしゃる。そ
いけないですね。病院は非日常的な生活の場で,
れぞれの人にきちんとした話ができる。だから,
そのなかでどれだけ生活の場として快適ないやし
今受け持ちというのがありますが,本当に受け持
の環境を提供できるかが問題ですが,職員一人ひ
ちがきちんとできる人はどれだけいるのでしょう
とりが自発的にいやしの環境をよくしようと思え
か。その人の身になってちゃんと話ができる。そ
ば,いやしの環境はよくなると思います。患者様
んなことをいってはいけませんね。ここにいらっ
は本当に非日常的ですよね。注射はされるし,子
しゃる皆さんはできると思います。やはり自分を
供さんなどは押さえつけて注射されて大変です
磨いていく。そのためには本を読んだりすること
よ。病院に入ったら裸にされてあちこち見られて,
も大切ですね。人と出会うことも大切。仕事のな
いろいろなことを検査されて,これを病院でなく
かで自分が磨かれる。
てよそでやられたら犯罪ですよね。私どもは毎日
これは野間静次という人の書いたものですが,
犯罪をしているようなものですから。そういうこ
人間を磨く方法には4つあると。一つは書上練磨
とがだんだん自分たちは分からないようになるん
で本を読むというんですね。本はまだ見ない人と
ですね。
の対話だと思います。人上練磨というのは人と人
私は脳外科の医師としてたくさん血管造影とい
との出会い。皆さんここへ集まられたのはいろい
うのをやりました。首に大きな針を刺して,動く
ろなすばらしい経験をしておられる人がたくさん
なとかいって,昔はそんなことをやっていました。
いらっしゃる。今日隣の人とも仲良くなってくだ
今そんなことをやったら,大変です。病院という
さいといいましたけれども,仲良くなって帰って
のは非常に恵まれていますよね。少々悪いことを
いただいたらいいと思います。もう一つは,練磨
してもありがとうの世界ですよ。子供なんか来て
というんですね。神様というか。別に神でなくて
ギャーギャー泣いて,頭に傷があって縫ったりし
もいい。サムシング・グレートでもいい。そうい
て,お母さんが「ありがとういいなさい」と。子
うもっと大きなものに自分は見られている。そう
供は「ありがとうございました」っていいますよ。
いうことが自分を磨く4つの事柄だというふうに
こんな世界,どこにもありませんね。だから,か
おっしゃっていますけれども,やはりそういうこ
なりのギリギリまでみんな我慢しているんです。
とも私たち医療従事者にはとても大切ではないか
最後に爆発するんですよ。その爆発点が今だんだ
と思います。
ん低くなってきています。だから,職員は教養を
これは坂村真民という人に書いていただいたん
高めなければいけないと思います。人間的な魅力
ですが,
「病がまた一つの世界を開いてくれた桃咲
を高めて,そして個性を伸ばしていく組織風土。
く」というのがあるんですよね。病気というのは
人間性を涵養していくことが大切です。だから,
決して悪いことばかりではありません。病気した
看護も今看護大学がたくさんできました。一つに
ためにいろいろ学ばせていただくことがいっぱい
はそういうレベルを上げようという社会の要請だ
ありますよね。それは皆さん方つねに経験なさっ
と思います。
ていることだと思うんですけれども,例えば卑近
やはり人間性を高めるということがこのサービ
な例でいうと,ある中小企業の社長さんが「わし
スでは一番大切だと思います。ナースの仕事はそ
がいないと会社がつぶれる」というふうに思って
こだと思うんですね。身の回りの世話をするとか
いるわけです。ところが,その人が心筋梗塞になっ
いうことはあります。それも必要かもしれません
て病院に入院します。そうすると,不思議と会社
けれども,やはり一人ひとりと本当に話ができる
はちゃんと社長がいたときよりも伸びていくんで
か。それにはかなり教養や感性が要ると思います。
すよ。そのときわかるわけですよ。みんなのおか
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げだと。そういう病というのは必ずしも悪いこと
仕事をつづけるのかどうかという状況になったの
ではないし,いいこともたくさんあると思う。そ
です。
「あなたやめるのか,どうする?」といった
れをサポートしていくのが私どもの医療従事者か
ら,
「ここにいたい」というんですね。
「それなら,
なと,そんなふうに思います。
料理も庭師もつくることは一緒だから,やってみ
る?」といったら,
「やる」というんですよ。庭師
11)癒しの環境について
になって一生懸命勉強するんですね。今度の「い
このいやしの環境について思うのは,まず第一
やしの環境研究会」の発表もするといっていまし
に患者の安全を保障する医療従事者や施設,シス
た。料理もいろいろ盛り付けしたりするけれども,
テムがあるということですね。リスクマネージメ
花も盛り付けですからね。
ントや感染管理,これは絶対にベースとして必要
環境に優しい病院というのを目指しておりま
です。それがなくていやしといってもそれは卑し
す。ISO14001の取得。一応仮審査は済んだので,
いことで,そんなことではいけないですよね。病
今度この10月には本審査で,大体取れるのではな
院が医療技術とか看護技術とか服薬指導,栄養指
いかと期待しています。一番難しいのはどこだっ
導,そういうものを提供するのは当たり前です。
たと思います?
これは権利ですから当たり前ですよね。それプラ
境をよくするんだ,このクソ忙しいのにと,そう
ス,職員の心温まる対応。心温まる対応だけがあっ
はいわないけれども何となく聞こえてくるんで
てほかが全然だめだったら,どうしようもありま
す。この環境というのは電気を消したり水道の水
せん。
をたくさん使わないとかいうこともあるんです
ドクターです。難しい。何で環
そして,そのお医者さんであり看護師さんであ
が,そうではなしに,患者様に優しい環境だった
りコメディカルその他の人の笑顔とユーモア,愛
らそれは環境だというふうにコンサルからいわれ
情あふれる気配りというのが本当のサービスでは
ました。だから,私はドクターに今やっているこ
ないか。だから,百貨店などに行って物が並んで
とでいいからインフォームドコンセントをきちん
いて,それをレジに持っていってただお金払うだ
とするような書類をつくりなさいと。それで,医
けだったら,スーパーと変わりませんよね。でも,
師も納得してくれまして,やはり一生懸命やって
やはり行ったら,
「あなたの服にはこのネクタイが
くれています。
似合うんじゃないですか」とか「この靴はどうで
それから,一つの試みとして,九州の小倉記念
すか」と親身になっていってくれるのがサービス
病院をまねたんですけれども,有機肥料をつくる
だと思うんですね。
有機くんというのがありまして,病院ではたくさ
だから,医療でも本質部分はもちろん大切です
ん残食が出るので,その有機くんで有機肥料にし
が,そのプラスアルファが一番素人には評価され
て,それを外来の患者様に毎週月曜日置いておく
るのではないかと思います。難しいことは分かり
んです。1人で5つも6つも持って帰るのがいて
ませんよ。頭のなかの腫瘍をどうやって手術する
ちょっと困るんですけれども,もちろん無料で,
とかいくら詳しく話をしても,ほとんど覚えてお
そういう取り組みもやっております。
りません。分かるのはその対応とかどういうふう
それから,笑いやユーモア,心温まる対応。パッ
に説明したとか説明した態度とか,その人のため
チ・アダムスを知っている人はどれくらいいらっ
にどう思ってやっているかということの方が大切
しゃいますか。実は僕は映画を見て,パッチを呼
ではないかと思います。
んでみたいと思ったんです。こんなすばらしいお
これは私ども小さな病院ですけれども,いろい
もしろい人がいるんだったら呼ぼう,そう思って
ろな木を植えたりさせていただいております。私
いると何でも念ずれば花開くで,たまたま先ほど
どもの病院は小さいですけれども,ガーデナーを
お話した高柳先生と一緒にニュージーランドに
この春から入れました。このガーデナーがおもし
行ったときに,
「パッチという人がいるね」といっ
ろいんですよ。実はうちの調理師だったんですよ
たら,「私知っているよ」,それなら呼ぼうという
ね。上司との人間関係がうまくいかなくなって,
ことになって実現したのです。日本の2大都市,
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2003年12月
日本病院会雑誌
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東京と岡山(?)で講演会をやりました。
みを伴う改革・改善というのはできていないので
150名のボランティアの応募があったんですけ
はないか。もっともっと私どもは痛みを感じてそ
れども,70名に限定して,このボランティアがほ
れを改革していかなければいけないのではない
とんど対応し,送り迎えなど全部やりました。こ
か。医療従事者に望むことは,温かい心と誠実な
れがきっかけで,道化講座というのを企画し,
「あ
対応であるということを遠藤順子さんからメッ
かいはな道化教室」というのをやっています。道
セージとしていただいたので,3年ほど前になり
化教室を主催してくれている塚原さんというのが
ますが,ここに出させていただきました。
これまたすばらしい方なんです。長野の出身で,
長野県から来た人は知っておられるかもしれませ
んね。パックマン道化です。この人は阪神大震災
で5年間ボランティアをやった人です。
12)第三者の評価
先ほどから話になっている日本医療機能評価機
構ですけれども,これは非常に大切です。私ども
彼は阪神大震災へ行くまでは,自分は舞台に
は126番目に受けたのですけれども,そのほかにも
立って有名になりたいと思っていた。ところが震
質研サーベイというのも,看護サーベイ,リハビ
災に行って,笑いとかユーモアがどれだけ本当に
リサーベイ,感染サーベイを受けました。それか
大切か,人を元気づけるかということ知ったと。
ら,病院モニター制度というのを今やっておりま
だから,僕は有名になるのではなしに,笑いとユー
して,外部からモニターしていただく。それから,
モアを伝えるそういうメッセンジャーになりたい
ISO14001は先ほどいいました。今後の予定として
といっているんです。これも出会いは,ただ1冊
は日本医療機能評価機構再受審,COML の病院探検
の本なんです。彼が阪神大震災で仕事をした本を
隊もすてきだと思います。それから,ISO9000とい
僕がもらって,それを読んで感動して彼と長野で
うのがあって,これは品質管理ですが,これもやっ
会ったんです。そのつながりでパッチを紹介した
てみようかなと。まだ計画ははっきりしていない
んです。彼がほとんど舞台装置をしてくれました。
のですが,そういう第三者の評価というのはひと
彼は道化というのを今,私どもに教えてくれて
りよがりにならないためにも必要ではないかと思
います。それはもちろん道化でペインティングし
たり皿回ししたりいろいろなことをやりますけれ
ども,それが本当の目的ではないですね。どうい
います。
13)オンリーワンの病院
うふうに笑いとユーモアを伝えていくか,これは
それから,医療連携ですが,医療連携にはそれ
医療にとても大切です。ただ,私はこれをうちの
ぞれの施設が特色を持つことが大切だと思いま
病院でやるとうまくいかないというか,自主的に
す。皆さん方の病院もそれぞれの地域においては
出ることが必要なので,今は市民公開してだれで
オンリーワンだと思います。スマップの歌ではな
も来られるようにしております。だから,学生さ
いけれども,それぞれが違った花を咲かせないと
んも来ますし企業の経営者も来るというようなこ
連携にはならないですね。隣の病院と同じことを
とをやっております。
やっていたら,どちらかつぶれなくてはいけない
心温かい医療。これは遠藤周作氏の夫人で遠藤
順子さん,恐らくこのなかでも知っておられる方
は多いと思うんですけれども,この方からある学
ことになると思います。やはりそれぞれ特色を持
つことは大切かなと思っております。
職場はあなたの晴れ舞台。経営者は舞台づくり,
会のときにメッセージをいただきました。日本の
職員一人ひとりが役者。だから,ナースと話をす
医療従事者の意識改革が必要だと,遠藤周作はつ
るときに,あなたは女優さんだというふうにいっ
ねにそういうふうにいっていたとおっしゃってい
ているわけです。毎日役づくりしている?
ました。いろいろなことがあるけれども,基本的
いって,結構こういうことをいうとのってきます
には全然変わっていないと。患者の視点に立った
よね。あなた主役よというわけです。それで,こ
病院の運営システムが求められる。振り返ってみ
の演劇の脚本が経営指針書ですね。そして,その
ると,今もできていないと思います。医療側の痛
なかの本当の主役はだれかといったら患者様です
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日本病院会雑誌
とか
ね。患者様が主役のドラマだと思うんです。
効きます。本当なんですよ。内容は謙虚とか感謝
これは最近私が聞いた詩です。これは石川信克
とか愛,ビタミン愛がたくさん含まれています。
先生で,このなかでも恐らくご存知の方がいらっ
元気散というのもあります。これらの配合の割合
しゃると思いますが,バングラデシュの結核撲滅
があるんですけれども,これはちょっと企業秘密。
を一生懸命なさった結核研究所の所長さんです。
この特許を持っているのは広島県に上下町という
この詩は岩村昇先生という方から紹介されたそう
ところがあって,森岡まさ子さんという今93歳の
です。岩村昇先生をご存知の人,いらっしゃいま
素敵な婦人が持っております。私は発売元です。
すか…,やはりチラホラいらっしゃる。またこの
職場のなかでいろいろトラブルがあると思いま
人もすばらしい人ですね。詩を紹介させていただ
す。部下と衝突する,院長と衝突する,放射線技
きます。これは看護職,すべての人に通じると思
師さんと衝突する,いろいろあると思いますけれ
うんです。最も優れたリーダーというのはどんな
ども,でも考えたら,彼らがいなかったら困りま
リーダーかということですね。
すよね。そういうときは「こそう丸」を飲むわけ
です。あなたがいれば「こそ」と思ってこれを飲
人々の中に行き
んで,心のチャンネルを変えるんです。心のチャ
人々とともに住み
ンネルを変える,これが大切ですよ。そうすると,
人々を愛し
血圧は下がりますし心が平静になってきます,い
人々から学びなさい
い考えも浮かびます。だから,この「こそう丸」
人々が知っているものから始め
は今までの私の経験では副作用はありません。も
人々が持っているものの上に築きなさい
し副作用がありましたら,旭東病院,086-276-3231
しかし,最も優れた指導者が仕事をした時は
の薬局の方へ連絡ください。
その仕事が終わった時,
うちはこれが説明できなかったら薬局長は首で
人々はこういうでしょう
す。ただ,用心しなくちゃいけないのは,
「わしが
「我々がこれをやった」と。
おればこそ」といふうにして飲まないでください。
これだけを間違わなければ効果てきめんでござい
これが私は一番すばらしいリーダーじゃないか
ますので,ぜひ試用して下さい。もしブッシュと
と思うんですけれども,皆さん方どう思いますか。
フセインがこんなふうになる前に,
「おまえがおれ
例えばこれは院長がやったとかいうのでなしに,
ばこそ」といっていれば戦争にならなかったと思
わたしたちがやったんだと。病棟管理でも,婦長
うんです。ぜひこれは家庭でも使ってください。
がやったのでなしに,わたしたちがやったという
「いい主人がおればこそ」,恐らくここへ来られた
ようにしていくのがやはり真のリーダーじゃない
のも,お子さんを置いてきたのをお父ちゃんが面
かと思います。
倒見ていると思いますが,帰ったらありがとうと
最後に皆さん方にお薬を差し上げようと思うん
いってあげてください。
ですね。これは「こそう丸」というお薬。
「こそう
ということで,私はこれで終わらせていただき
丸」というお薬を知っている人はいらっしゃいま
たいと思います。これで前座を終わらせていただ
すか。いませんね。それなら,これをぜひ全国に
きます。
広めていただきたいと思います。この薬は万病に
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看護管理者セミナー・講演
看護部門と事務部門の連携による質の向上
筑波メディカルセンター病院事務部長
鈴
木
紀
之
平成15年8月・東京
(キーワーズ:看護事務連携,看護と経営)
ただけますか。うちの事務長だったら大丈夫だな
と…,4人か5人ぐらいしかいらっしゃらないで
ただいまご紹介賜りました,筑波メディカルセ
すね。午前中の土井先生のときはみんな威勢よく
ンター病院の事務部長を担当しております鈴木と
バーッと手を挙げていましたけれども,そのへん
申します。よろしくお願いいたします。
の看護と事務という関係性の薄さみたいなところ
冒頭,鈴木先生なんていうとんでもない敬称を
つけていただきましたけれども,土井先生もああ
がやはりこれから我々にとっては大事な課題に
なってくるかなという気がします。
いうスタイルでございますので,鈴木さんで結構
最初にお断りしておきますけれども,わりとい
でございます。1時間半になりますけれども,ちょ
ろいろな事務長がいるなかで,僕は変わっている
うどお昼の大変結構なお食事をこの品川界隈のお
方の事務長のようでございます。自分では普通だ
しゃれなレストランで皆さんされたと思います。
と思っているんですけれども,周りからはちょっ
これから3時までというのが魔の1時間半でござ
とスタイルが違いますねといわれます。
います。どうぞ皆さん気をしっかり持っておつき
今テレビを見ると,救急病院を舞台にしたドラ
合いを賜りたいと思います。基本的に私の話はそ
マとかいろいろな病院を舞台にしたドラマがいっ
んなに難しい話がでてきませんので,楽にして聞
ぱいありますね。土井先生のお話でも,我々の活
いていただいて大丈夫です。最後に少し皆さんと
躍の場,それを一つの舞台と見立てて,いい役者
意見交換ができたらと,そんなふうに考えており
さんをいっぱいそろえて病院経営・病院運営とい
ますので,よろしくお願いします。
うすてきなドラマを仕立てるというのは大切なこ
1.
看護部からみた事務部のイメージは
きょうはそういうわけで題が「看護部門と事務
部門の連携による質の向上」というテーマで出さ
とと,改めて感じました。そういう意味では,事
務はいろいろな意味の黒子になったり,場合に
よってはプロデューサーになったり,そういった
ことをやっていかなくてはならない。
せていただいております。まずちょっと簡単に,
病院のドラマで僕は非常に不満があるのは,ド
皆さんにとっての事務というのがどういうふうな
クターは江口洋介とか織田裕二とかスマップの中
イメージなのか,それを僕も最初に知りたいと思
居君とか,なかなかおいしい役者がたくさんいま
いますが,皆さんどうですか,皆さんの所属され
すよね。師長さんや看護婦さんも観月ありささん
ている病院の事務長とか事務部長とか事務局長と
とか,婦長さんクラスも野際陽子さんですとか赤
かいらっしゃいますが,その事務の方が例えばこ
木春恵さんとか,あるかもしれないみたいな。大
ういった場で自分たちの病院の看護との連携,仕
体そこで出てくる事務長というのがうさん臭げ
事の話を多分うちの事務のあの人だったら,彼
で,何でいつも事務長というのはトーンの低い声
だったらやってくれるだろうと,そういう心当た
でしゃべるんですかね。
「いや,院長,あの件は…
りのある人いましたら,ちょっとお手を挙げてい
…コソコソ」とかいって,あまりさっそうとして
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病院で活躍している事務長をドラマでは拝見しな
みんなでウーンとうなずいてくれる。これが快感
いんですけれども,やはりこれからはそれではい
でサーベイヤーやめられないというところがあり
けないと。別に目立つ必要もないし,派手にやる
ます。
こともないんですけれども,決して平坦ではない
そういうことで,私にとっては看護の皆さんと
我々の行く道をやはり皆さんと一緒に歩いていけ
のおつき合いというのは決して遠い存在ではなく
るパートナーとして研鑚すべきだろうというふう
て,事務職員と同じように看護の方と連携する,
に思っています。
協働するというのは極めて自然な当たり前の日々
そういうことで,私は先ほど座長からご紹介い
の私の仕事なんですね。ですから,きょうはその
ただきましたが,日本医療機能評価機構の仕事を
仕事を紹介することが皆さんの少しでも一助にな
させていただいております。わりと早い時期から
ればという思いでお話をさせていただきます。
全国の病院にお邪魔をする機会をいただいていま
話の前提として簡単に病院の紹介はしておきま
す。きょうご参会の皆さんの病院でもしかしたら
す。ただ,きょうのテーマは病院の紹介ではない
私のお邪魔した病院もあるかもしれません。どう
ので,駆け足でこういう病院でこれからの僕が説
ぞ石など投げないようにして,その段の失礼はこ
明する活動を看護と一緒にやっていますという前
の席を借りて重々おわびを申し上げます。ちなみ
提として,少し聞いてください。
に,この前ちょっと自分なりに振り返ってみると,
ご案内の方もいらっしゃると思いますが,場所
全国の約50ぐらいの病院にお邪魔をしておりま
は茨城県つくば市というところにあります。お若
す。そこで非常に印象に残るのは,私どもがお邪
い方は分からないかもしれないですけれども,つ
魔したときに僕の顔を見てこの人は何をいうんだ
くば研究学園都市というところで昭和60年つくば
ろう,どういうコメントをするんだろうというの
科学博覧会というのがありまして,そのときにこ
を一番関心を持ってくるのは大体師長さんと看護
の地域の救急医療を担うということでできまし
部長さんですね。事務長さんは,どちらかという
た。つくば研究学園都市というのは人工の街です
と,院長が何をいうかなと院長の方ばかり見てい
ので,こういった真っ平らな関東平野の一角,筑
るわけですよね。院長に何か怒られないかとか。
波山のふもとの真っ平らなところに国や民間の研
やはりなかなか僕らと意見交換ができないでその
究機関,それから筑波大学といったような教育機
日が終わるということがあります。
関,そういったものを集積させている土地です。
看護師長さんや部長さんというのは真っすぐ僕
ここらへんに筑波大学の附属病院があります。そ
の方をいつも見てくれます。僕らが何か一言いう
して,大きな公園がありまして,比較的ロケーショ
と,そのことをこのサーベイヤーは何をいいたい
ンとしてはゆったりしたところでやらせていただ
のかと,事務の部門からは,何を話したいのかな
いているということであります。今メディカルセ
というのを一言も聞き逃さないようにということ
ンター病院と,こちらに人間ドックなどを中心に
を一番僕が直接感じるのが病院の看護のスタッフ
している総合健診センターというのを持ってござ
です。ですから,いつもサーベイに行くと,そう
います。
いう意味では僕もテンションが上がって,今の新
初めに皆さんと一緒にテーマを共有したいと思
バージョンでいうと一番最後にサーベイヤーの訪
います。土井先生のお話にもありましたけれども,
問調査の総括講評という時間があります。その役
ちょっと陳腐になっている言葉ですが,やはり変
をやらせていただけるところが多いのですけれど
わるということですね。変革,激動,いろいろな
も,どうしても思い入れもありますので,かくか
言葉で語られておりますけれども,事実として変
くしかじか,だからこちらの病院の看護はこんな
わると。その事実に対して情緒的に反応するので
にすばらしい,病院一丸となってさらにもっとよ
はなくて,どうやって我々がこれから病院の総意
い看護を目指してくださいというメッセージを投
として新しい指針を打ち立てていくかということ
げかけるケースがあります。看護部長さん,師長
が大事になります。そういう意味では,この変革
さんがその場に5,6人いるんですよ。すると,
というのはどういう言葉を使っても結構ですけれ
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ども,変わることに対しておじけづかないで立ち
るだけで行動に移れないですね。ですから,基本
向かっていく,正面から事実を受けとめていくと
的には平易な話をしたいと思います。それから,
いうことが大事だと思います。そして,これが大
なるべく具体的な事例でお話をする。それから,
切ですが,機会到来,チャンス到来。変わるとい
自分のやってきたことしかしゃべれません。私が
うことは必ずそこにチャンスがあります。難しけ
今やってきていること,取り組んでいること,な
れば難しいほど,その変化を乗り越えてクリアし
かなかうまくいっていなくて苦しんでいること,
ていった病院についてはすごく大きなチャンスが
そういったものを中心にこれからのお話をさせて
来るということです。その時代認識をぜひ看護の
いただきたいと思います。
皆さんも持ってください。
皆さんの日々の患者さんへの適切な熱意あるア
2.
事務部も理念と活動方針をもって
プローチ,それを通して,ただそこだけに目をや
わが筑波メディカルセンター病院には,病院の
るのではなくて,医療という全体の大きなうねり
当然理念がありますし,看護にも理念があります
というものを実感をしていただいて,この千載一
が,我々事務部門もやはり一つの目標,理念を持っ
遇の変革・変化の到来,要するに質の高いものを
て行動をしております。多分そんなにどこの病院
日本の国民の皆さんに提供することが評価をされ
でも事務部門の基本的なスタンスというのは変わ
るのだと。どんなに激動でも我々のやっている仕
らないと。ただ,それを意識している病院か,そ
事は絶対否定されない,その信念は必ず皆さん
ういうことに対して無関心であるかという違いだ
持っていらっしゃると思います。そのなかでこの
けですね。やるべきことはほとんど変わらないと
変革をうまくとらえればチャンスだということを
僕は思います。
ぜひ皆さん思ってください。そのチャンスを生か
まず,3つの健全ということがあります。この
すためには看護だけでもだめなんです。事務だけ
健全とは僕が病院に入職してから病院のスタッフ
でもだめなんです。どのくらいその病院でのトー
がよく使う言葉で,わりといい言葉だなと思って
タルの力が結集できるかということですね。タイ
聞いておりました。それから,経済用語でも財政
トルにちょっと偽りになってしまいますけれど
の健全化というのはよく日経新聞などに出ていま
も,その意味では連携では弱い。
すよね。そういう意味ではそれをせっかくですか
病診連携課なんていうのがうちの病院にもあり
ら使わせてもらう。医療の質の健全,経営が健全
ますけれども,連携というのは極めて緩やかで紳
であること,働いている人が気持ちよく納得・安
士的な言葉ですね。お互いに手を携えて仲よくや
心して働ける,そういう意味の職場環境が健全で
りましょうと。それだけではこの変革や機会到来
あると。この3つをマネージメントするのが我々
を逃してしまいますよね。やはり,パートナーと
の大きな目標です。この3つを我々がマネージメ
して一緒に働かないとだめだと。どちらかがどち
ントすることで看護の理念,病院の理念が必ず達
らかを助けるとか,どちらかがどちらかの下につ
成されると。このどれが欠けても,やはり車の両
いて何か指示を受けるとか,そうではなくて,一
輪はうまく回らない,バランスのとれない話に
緒に協働して活動していく。その関係性をどう
なってしまうということがいえると思います。こ
やってつくっていくかということが大事だと思い
れを考えています。
そのためには,事務職員には3つの柱を持てと
ます。
ここからがちょっと私の方のやり方なんですけ
いうふうに話しております。主体的に活動するこ
れども,こういったことが今講演会だとか研修会
と,プロの仕事をすること,クリエイティブな発
だとか雑誌にたくさん載っています。そこは僕が
想をすること。ちょっとこれは説明が要りますけ
あえてつまらない話をする必要はないと思うの
れども,先ほど事務部門の人がイメージできます
で,これからの話は基本的には分かりやすい,も
か,お手を挙げてくださいと申し上げましたが,
しかしたら皆さんにとっては物足りないかもしれ
残念ながらきょう300人を超えるご参会の皆さん
ないけれども,難しい言葉を使うと言葉を理解す
のなかで4,5名ぐらいの事務長さんしか皆さん
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のめがねにかなう人がいないと。なぜか。一つは
インを一生懸命考えていただいています。これに
主体性がないんですね。私はこう思う,私は看護
ついての異論反論,是認するかどうかというのは
の皆さんとこういう仕事をしたい,病院は今こう
違った場でやっていただくとして,基本的には日
いう状況だからこういう方向へ持っていきましょ
本の医療デザインというのはある程度方向性はも
うというようなことを,なかなか自分の考えとし
う決まっているという事実認識は皆さん持ってい
て皆さんときちんと一緒に連携して話のできる人
ただきたいと思います。要するに,理解すること
がいない。本当はみんなお腹のなかにはあるんで
で変に不安を持ったり混乱に陥るようなことのな
すよ。だけど,それを出していかない。やはりこ
いように,冷静にこれから時代の変化を見ていき
れからは事務部門もただ黒子に徹して仰せのまま
ましょう。
に,いわれたことをそつなくやる事務では,先ほ
もうほとんどの病院は終わっていると思います
どいった時代の流れは越えられないだろうという
けれども,病床区分の届出というのが終わってい
ことですね。
ます。まだ届出をしていない病院というのはどの
それから,事務職員というのは基本的には無資
くらいありますか,手を挙げてみてください。少
格者です。これもよくいわれますけれども,病院
ないですね。ほとんど皆さん終わっている。届出
というのは資格の世界だと。周りを見渡すとみん
をしたかしないか私は知らないという人。それは
な免状を持っている人たち,資格を持っている人
さすがにいない。でも,皆さんそういう意味では
たちがプロの仕事をしている。しょせん私たちは
さすがにきょう集まってきていただいている方
無資格者だから。そうではないんですね。やはり
は,さっき土井先生がおっしゃっていたけれども,
病院のマネージメントというのは資格の問題でな
レベルが高いですね。正直いって知らない看護師
く,プロであればやはりマネージメントをする事
さんとか師長さんは世の中にいますよ。うちはど
務としてのプロの仕事をする領域はいくらでも
うしたかな,何かやっていたみたいだけれどもね
チャンスがあります。逆に資格がないだけに,そ
というのが。
の人が一番優れるというようなことも工夫すれば
この病床区分というのはある意味では実質片道
できると。だから,我々事務スタッフは皆さんを
切符の船みたいなもので,向こうへ渡ったら最後
お手本にして,皆さんがいい看護を目指す,いい
戻ってこられないですから,これで囲い込みが厚
医療を目指す,患者さんの安全を守っていくんだ
労省の第一段階の作戦終了ですね。渡った岸でど
というその心意気に負けないぐらいの我々もプロ
う生き残るかという,ロビンソン・クルーソーみ
の知識と技術,しっかりした見識を持って皆さん
たいになってしまいますけれども,とにかくこれ
と仕事をしなければいけない。そのために我々は
は大事な一つの仕切りです。これで大きな医療の
プロでありたい,エキスパートでありたいという
マーケットの囲い込み区分が終わりました。
先ほどチラッと申しましたが,機能評価,外部
ふうに思っています。
経理のプロ,人事のプロ,施設管理のプロ,何
評価というのが非常に今取りざたをされていま
でもやれますね。人事のプロを究めたらすばらし
す。医療機能評価機構だけでなくて ISO,これも
い仕事ができる。振り返って,皆さんの病院の人
先ほどお話が出ました。要するに,外部の目を入
事課はどうでしょうか。リクルートに終始してい
れることで,今まで非常にふたをされていた病院
るとか,月々の給料計算で終わっているような事
の中というのがかなりつまびらかになってきてい
務はやはりアマチュアかもしれない,セミプロか
る。この風通しが,ある意味では強制的に窓が開
もしれないですね。
いたということは,医療というものの変革を促す
3.
変革期の機会到来を看護と事務の協働で
うえでは非常に大きなツールになっています。多
分厚労省の偉い人たちはこの機能評価という入り
先ほどの変革ということが出ましたけれども,
口からいろいろなものをこれからぶち込んできま
これはもう皆さんもご存知のキーワードですね。
す。診療報酬のなかで機能評価を受審すると点数
厚労省の優秀な皆さんが日本の将来の医療のデザ
が取れるというのが出てきましたね。感染ですと
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日本病院会雑誌
か緩和ケア病棟などの届出を受けるときの要件に
いますけれども,実際はもうゲートは開いていま
するとか,あの手法でいくらでもかませられます
す。間もなく質の高いものについては適正な価格
よ。
をつけて,消費者の理解の得られたものについて
ですから,これから皆さん外部の評価に対して
はコストをいただけると。医療機関はいわゆる保
の備え,病院というのは外部の方には閉ざしてい
険でのコストと患者さんの評価に対してのコスト
くのだという発想では乗り切れない。どんどん
を併せて経営を成り立たせる時代に必ず突入しま
ウェルカムでいらっしゃいと。サーベイヤーでも
す。それができる病院とできない病院でまた差別
何でもいいですから,どんどん私の病院を見て
化が始まるということ,これはまず間違いない一
ちょうだいと。逆にその外部の目に耐えられるよ
つの大きな流れになるかと思います。
うな病院というのは何なのかという議論を院内で
次,これはマーケットです,マーケティング。
これからしていく必要がある,そういう時代にな
超高齢社会と医療技術の進歩により医療需要が喚
ります。
起されるという事実,これを皆さん不安になりが
株式会社の病院経営参入。これもこんなことを
ちなときに必ず思い浮かべてください。経済では
いうと怒られるかもしれないですけれども,全然
マーケットがあれば必ず成立するんです。消費者
問題ないんじゃないですかと。ここに来ていらっ
がいれば必ずそこにビジネスが生まれる。そのな
しゃるような看護師さんや婦長さん,師長さん,
かで病院というのは,これから我々が生存してい
部長さんがいらっしゃる病院は株式会社が来ても
る間は九千何百より増えない。ベッドもほとんど
何ら怖くないです。病院経営というのは利益率が
増えない。マーケットは増える。どう考えても我々
1%か2%ぐらいしかない極めて利の薄い事業で
の生きる道がそこに必ず存在するということです
すから,本当に目端の利く民間企業はもうからな
ね。ただ,偏在するということはあります。一部
いから手を出しません。車をつくったりエレクト
の医療機関,一部の病院にマーケットが集中する
ロニクス,IT をやっていた方が何百億円ともうか
ということはあるかもしれない。
ります。我々の仲間の病院でどんなに規模が大き
いろいろな試算があるようですけれども,2020
くても10億,20億という利益を出しているのは極
何年には医療費が100兆円を超えるだろうとか,そ
めて少ない。そういう意味では,株式会社だって
こまでいかなくても今の倍にはなるだろうとか,
そうは出てこないですね。
今の日本の産業のなかでこんなに成長産業分野と
では,何でそこでおびえているかというと,た
いうのは聞いたことがないです。もう車をつくっ
だ鎖国政策だけで乗り切ろうとしているようなや
てもだめ,コンピュータも大体先が見えた,ほか
り方がまずい。その前に我々がやることは株式会
のサービス産業も大したことはない。そうしたら,
社がとても追いつけないような経営ノウハウを
これは立派な成長産業ですよ。その成長産業に皆
我々自身が確固たるものとして確立してしまう,
さんは身を置いていると。そうしたら,そこで活
いわゆる差別化というやつですね。素人には手を
躍できない手はないはずがないですよね。あとは
出せない領域に我々自身が進化をしてしまう。反
やはりそれに対してどういったきちんとしたコー
対を唱えている間に,ここにいるような皆さんは
ディネートができるか,アプローチができるか,
進化していってください。先に行ってしまってく
その作戦をしっかり立てていけば必ず成算は取れ
ださい。そうすれば,どんなものが来ても追い越
るというところはあると思います。
せない,追いつけないということがあります。株
では,マイナス要素はないかというと,やはり
式会社の病院経営参入恐れるに足らずです。皆さ
日本という国の地盤沈下,これもある程度一つの
んの知恵を今までの実績,経験をもってすれば圧
事実です。ですけれども,日本という国の力を冷
倒的なアドバンテージがあります。ただそれを
静に見れば,やはりかなり終戦後の今までの努力
コーディネートできないと宝の持ちぐされという
の成果としての基盤が整備されています。ですか
ことをぜひ認識しておいてください。
ら,健康とか生活というものを大切にしながら,
混合診療もいろいろとまだゴチャゴチャとして
ある程度地に足のついた形で日本という社会がこ
日本病院会雑誌2003年12月
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れから構築できていく可能性はかなりのレベルで
高い。ヨーロッパの一部で実践されているような
社会保障,社会構造,社会のあり方というのの日
本版というのがこれから明らかに出てくる。これ
からは煙突から煙をどんどん出しながら交通事故
をたくさん増発させながら社会を発展させていく
時代ではないでしょうと。やはり個というものに
返っていく。新しい日本の社会ビジョンというの
が多分広がってくる。そのなかで医療と保健と福
祉というのがキーワードになる。
今盛んに DPC 導入とか,いろいろな診療報酬制
度,評価制度,あり方論議,システムの論議がさ
資料1
れています。そういったもろもろのことは今お話
したようなこれからの日本が迎えなければならな
員が1,000人近い,これに委託業者の職員を加える
い医療・保健・福祉というものを中心とした社会
と1,000人を超えるんですが,そんな企業は研究学
構造に対してなるべくきちんとした受け皿,準備
園都市では筑波大学とかそういう国の機関以外は
をしておかないと新しい時代を迎えるには不十分
ほとんどありません。何をいいたいかというと,
だろうという偉い人たちのお考えに乗っての10
医療は地域の基幹産業なんですね。ただ医療費の
年,20年のシナリオ,もしかしたら100年の計があ
問題で,最近医療費抑制だとかという話ばかり聞
るのかもしれないですね。そのなかで出てきてい
いていますけれども,そうではない。研究学園都
ると思います。それを盲従したり後追いをする必
市において筑波メディカルセンターを初めとして
要はないけれども,我々病院スタッフが,病院を
いくつかの病院がありますけれども,医療機関従
一緒に担っているメンバーがこれからはこういう
事者だけですごい数になる。
ことで地域の医療というものを提案していくとい
その人が地元で,とくに看護師さんは非常に強
う先ほどいった主体性,人からいわれてそっちの
力な消費の主役なんですね。看護師さんが行くブ
水は甘いからそっちへ行こうというのではなく
ティックは必ず繁盛します。何々ブティックって
て,隣の芝生は青いからあれはいいなというので
このごろいいねというので行くと,
「お勤めどこで
なくて,我々はこれで行くぞという主体的な考え
すか?」というので,
「うちの家内がお世話になっ
を持って,いよいよ我々が突入していく新しい時
ています」と名乗るでしょう。すると,
「おたくの
代を迎えていきたいというふうに思います。
看護師さん,この前来ましたよ。ワンピース2着
4.
当院の地域医療支援病院としての特徴
も買ってくれました」とか,下手するとボーナス
の支給率なんかブティックのママがみんな知って
うちの病院の紹介をします(資料1)。さっきロ
いる。
「なんだ,鈴木さん,もうちょっと出してく
ケーションはお話ししました。今メディカルセン
れなきゃ,買ってくれないからだめよ」とか。だ
ターは病院としては職員数676人,これは4月1日
から,そのくらい地域の消費に貢献している。レ
現在ですけれども,今は大体700人ぐらい。先ほど
ストランもしかり。当直明けで平日に高級レスト
ご案内をした総合健診センターとか在宅を若干
ランで高いランチを食べているのは大体看護師さ
持っていますので,財団法人つくばメディカルセ
んかどこかのお金持ちの主婦です。そういう意味
ンターの職員は900名前後というところです。ベッ
では地域経済の貢献度が高いんですよ。
車などもそうですね。うちの病院はどうしても
ドは409床です。
ちょっと補足をすると,研究学園都市というの
自家用車通勤が多いですけれども,うちの駐車場
はああいう研究の街ですから,あまり従業員規模
に並んでいるのを見ると,やはり地域のディー
で大きな民間の企業というのはありません。従業
ラーさんはずいぶん潤っているだろうなと思いま
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すね。最新の車が発売と同時に駐車場に並ぶ光景
した。1回目の認定から5年がたちましたので,
も目にします。別にうちの看護師さんはそんなに
近々更新受審をします。今これで大騒ぎしていま
リッチだというわけではないですが,そのくらい
す。それから,地域医療支援病院。これは割と早
地域に貢献しているということで,ぜひ皆さんも
い時期に手を挙げて,今全国で52∼53の地域医療
機会があったら道路をっくったり橋をかけたりす
支援病院がございますが,手前どもは12番目に地
る時代から,医療というものが国民の貴重な財産
域医療支援病院としての承認をいただいてござい
を投資する一つの大きなビジネスだと,そういう
ます。茨城県下では第1号。いまだに第2号が出
ことを声を大きくしていいましょうよ。医療費の
ていませんけれども,これは我々の立場からいう
負担だ負担だという話ばかりが出ているのは理不
と演出。地域の皆さんに分かりやすい,それから
尽ですよね。
働いている我々の仲間にとっても自分たちの機能
メディカルセンターは今で大体100億弱ぐらい
というキャラクターをくっきりさせるためには,
の年間収入があります。人件費率が今51%。分か
こういった災害拠点病院のヘリポートをつくった
りやすくいうと,約50億円が法人の懐に入らない
り地域医療支援病院としての承認をもらったり,
で職員のみんなに行き渡るわけです。そのお金が
そのことというのは結構大事なことですね。
「あな
地域に完全に回っていく。だから,どこかの悪い
たの病院はどういう病院ですか」
「はい。うちは地
ゼネコンみたいにため込んで投資したりとかそう
域医療支援病院で,災害拠点の整備をやっていま
いうことができないんですね。ですから,地域経
す」というようなことが職員一人ひとりから
済を活性化させるうえでの医療ということの意
スーッと出てくることが,やはり我々のテーマを
義,可能性というのをぜひご理解いただいて,そ
共有するうえでは非常に重要になるということに
ういう世論を盛り上げていきましょう。日本の基
なります。臨床研修もいただきました。それから,
幹産業のこれからの一つの柱は医療や保健や福祉
最近は地域のリハビリテーション広域支援セン
ですということをぜひみんなと声を出していきた
ターという,これは茨城県で一生懸命今やってい
いと思います。
るんですけれども,他府県ではどうなんでしょう
外来の患者さんは500人弱。入院の患者さんは
か。基本的にはほかの府県でも始まるような話は
342で,これはもうちょっと増えています。平均在
聞いております。そういったようなことをやって
院日数が15.7日で,直近だと14日台まで突入して
います。
そのほかに,官立民営型の看護学校や,さっき
きているようです。
地域医療支援病院ですので,最初は62%,今は
いった人間ドック,在宅,そういったもろもろの
92∼93%ぐらいの紹介率です。そのザワザワザワ
機能をもってやっています。ここに書いてあるこ
というのはなかなか…,さっきの私の年のことを
とすべてが看護の力を借りないと実現できないこ
聞いたときのザワザワと似ていますね。要はこう
とです。
いうことがあるので,本来の連携協働というとこ
ろにつながってきます。
今やっていること。茨城県の災害拠点病院の指
定を受けています。病院の前に4階建てのヘリ
ポートをつくっています。これからはヘリコプ
ターで患者さんを救急搬送する時代が必ず来ると
信じてヘリポートをつくっています。今のところ
これはまったくお金になりませんけれども,この
ことがさっきいった差別化になるんです。地域に
おける圧倒的なポジションを獲得していくために
必要な投資です。
日本医療機能評価機構の評価認定もいただきま
資料2
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簡単な病院の統計です(資料2)。これは外来の
患者さんの数,初診と再診と救急で来た患者さん
する病院だとだんだん足が遠のくというところで
す。
の合計です。ずっと右肩上がりで来ていまして,
ここでいいたいのは,ただいたずらに外来患者
ここから少し微減しています。これがみそで,先
増を図る病院はこれからいろいろ難しい問題を抱
ほどいったように地域医療支援病院ですから,今
えることになるのではないかということです。こ
病院では外来の患者を逆紹介していこうというこ
れは絶対ではないです。みんな地域におけるロ
とが至上命題で,それぞれの診療科や看護の皆さ
ケーションが違いますから。メディカルセンター
んが取り組んでいます。
みたいな条件をしょい込んでいる病院は外来はこ
よくここで出る議論,外来の患者を減らして経
営は大丈夫かというのがあります。そこでやはり
れから抑えていく。そのなかで外来の中身を問う
ていく時代になりますよということです。
工夫をする,知恵を出す必要がある。メディカル
こちらは救急の外来です。キャパシティーが今
センターの外来減らしの大きな柱は,再診の患者
のところいっぱいになってきてしまいまして,本
は開業医の先生に逆紹介しなさいと。初診はどん
当は増やしたいんですけれども,なかなか総数
どん受けろと。とくに紹介患者は積極的に受け入
ベースでは増えない。でも,事務長としてはここ
れるように掘り起こしましょうと。救急の患者も
の青いところが3,000人増えているというのがう
どんどん受けましょう。救急は断るなと。やはり
れしいんですね。さっきいったように,初診をた
この3点セットで総数としての外来の患者の抑
くさん受ける,こっちが減ってこっちが増えると
制,減少に向けて進めていくと。これはスローガ
いうのは理想的な経営指標のパターンです。いわ
ン,精神論ではなくて,そのことが病院経営をこ
ゆる初めて来る患者さんはなるべくメディカルを
れから盤石にするうえで大事なことになります。
使ってくださいと。去年1万4800人いた再診は,
後でこれも資料を出しますけれども,逆紹介が
約5,000人ぐらいは何らかの形で外の先生方にも
多い病院は開業医の先生から認知されます。よく
お願いいできたのではないかと。やはりこういう
開業医の先生から聞くご不満は,病院へ患者を
実績を残しながら,初診の支持がなくなると病院
送ってもいいけれども,二度と返してくれないと。
が枯れますので,初診,新入院,これは大事にし
それが患者の今生の見納めになると。これは結構
ていきたいですね。
本当ですよね。だから,おまえのところには送ら
ないよという警戒感がやはり開業医の先生には根
強くあります。どこの病院にサーベイに行っても,
みんな病診連携,地域医療機関との連携と必ずい
いますけれども,紹介率が10%,20%でとどまっ
ているというところが多い。それはなぜかという
と,患者さんを本気で開業医の先生にお願いする
活動がまだ十分されていないということですね。
これからは開業医の先生に支持されない病院は
マーケットを失います。そこがやはり一つの大き
なキーワードになると思います。
開業医の先生だから看護師さんは関係ないか,
そうじゃないですね。開業医の先生が病院に来て,
資料3
自分が送った患者のあんばいはどうだろうと見に
そういう意味では,これは新入院(資料3)。新
来たときに,看護師さんがきちんと対応できる病
入院も409というキャパがあって,救急もやってい
院には開業医の先生はまた来てくれる。看護師さ
ますので,稼働率がやはり制約があります。そん
んが,あさっての方を向いて,だれだ,あれ,あ
なに右肩上がりというわけにはいかないんですけ
んな先生見たことないからとうさん臭そうな目を
れども,まだ若干余裕がありますので,今のとこ
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ろトントンと緩やかに階段を上がってくれている
というところです。これもやはり在院日数とかそ
ういうものの絡みで内容をこれから問うてくる時
代になるかと思います。
入院の延べ患者数も同じような傾向です。救急
の患者さんは ICU, HCU が全部で36という数の制限
がありますので,なかなか数自体はあまり増やせ
ません。これも内容を問うていかなくてはならな
いというところです。ちなみに ICU, HCU36床の運
営が円滑にいくかどうかというのは看護師さんた
ちの力量が非常に重要なファクターとなります。
後でこれも出てくると思います。
資料5
在院日数(資料4)。この平成10年というのは,
先ほどあまり紹介しませんでしたけれども,当院
だきたいというところです。
は茨城県の地域がんセンターを平成10年度からス
さて,資料5がさっきちょっと出た紹介と逆紹
タートしています。10年はあまり患者さんが入っ
介。赤い方が紹介の患者さんの数,いわゆる開業
ていなかったので影響なかったですけれども,翌
医の先生からメディカルセンターに患者さんを
年からやはりがんの患者さんは在院日数が長いの
送っていただいた数,黄色い方がメディカルセン
でグッと延びております。それからまたがんセン
ターから開業医の先生に紹介をさせていただいた
ターを含めて在院日数短縮に努力をしていただい
逆紹介と呼ばれている数です。開業医の先生にぜ
て,今15日前後というところまで来ています。こ
ひメディカルセンターを今後もご利用くださいと
の在院日数の短縮をいかに円滑に図っていくかは
いったときに,事務長がきれいごとで,
「先生,す
大事な要素になります。
ばらしい。先生と連携しましょう。仲よくやりま
しょう」と100回いうよりも,このグラフを持って
いって医師会で説明するのが一番説得力がありま
す。要は,メディカルセンターは口だけじゃなく
て,実際にメディカルセンターで受けた患者さん
を開業医の先生に返している数の方が多いじゃな
いか,それだったらいいよねと。メディカルセン
ターでの必要な治療というものが終わった段階
で,すべて地域の次の機能にバトンタッチできる
システムが病院の中で整っているのだというの
を,このグラフ1枚の紙で開業医の先生にアピー
ルができるということです。ここへ来て並んでし
まったんですけれども,これは決して逆紹介が
資料4
鈍ったのではなくて,こういったプロセスのなか
救急車の搬送は,いわゆる入院の必要のない方
で開業医の先生の紹介の増加スピードの方が勢い
も含めての搬送ですから,今のところ右肩上がり
がついてきたということで,非常に我々としては
で順調に来ております。これもやはり地域の支持
この部分は大切にこれからも守っていき育ててい
のバロメーターですね。消防隊の方,またそれを
かなければいけない病院の一つのあり方だという
呼ぶ患者さんがメディカルセンターへという支持
ことで紹介をいたしました。
が途切れることなく続くのかというのは,こう
いった面でつねに看護の皆さんも見ておいていた
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5.
マイナス改定もアップさせる共有の力
やはり厚労省も必要な医療をまさか切り捨てるよ
うなことはできないので,必要なところに必要な
資料6は,外来の単価です。メディカルセンター
点数はよくよく点数表を見るとちゃんとついてい
では基本的にはすべて右肩上がりで,毎年前年を
るんですね。だけど,昨日やっていたことを明日
上回る単価のアップになっています。ご案内のと
もやろうとすると,これが2,3%ペコンと減る
おり,平成13年度から14年度にかけてマイナス改
というだけの違い。そういう意味では,事務がちゃ
定というのがありました。マイナス改定でも対応
んとシナリオを用意して,それを実践していただ
方針を間違わなけば下がらない。それが医療マー
ける看護や診療の皆さんと共有することがどのく
ケットなんです。いいたいのは,そのことを事務
らい大切か。論より証拠じゃないかという気がし
の人が看護の人といかに共有するかということな
ます。
んです。統計というのはしょせんは後追いですか
同じく入院単価(資料7)。入院単価もさっきお
ら,皆さんが一生懸命ご努力をされてやった仕事
話したがんセンターが入ったので,いったん
の成果をこうやってグラフにするだけなんです
ちょっとへこんだんですけれども,昨年14年度は
ね。ですから,こういう構造を看護の方にきちん
5万円台を回復しています。これもマイナス改定
とお伝えして,こうすればこういう内容で単価が
をクリアして前年対比でアップという形になって
変わっていくのだと。すると,それに対してすぐ
います。今年これまでの第一四半期は5万2000円
看護の人たちは反応してくれますから,そういう
ぐらいの入院単価になっています。一番わかりや
努力をすると必ずこのシナリオが達成できます。
すくいうと,新入院の患者さんが多くて在院日数
が短縮されるとこの絵になります。多分もう皆さ
んその算数はお分かりいただいていると思います
けれども,やはり短い期間で同じ内容の診療行為
がきちんとなされれば,今の診療報酬体系ですと
単価が必ず上がるようになってくる。そのときに
一番日本の病院で今苦労されているのは稼働率が
下がってしまうというどつぼにはまる病院が必ず
でてきます。在院日数が短くなるのは立派なこと
ですけれども,稼働率が下がって総収入が減って
しまうと,やはり病院としては運営が苦しいと。
そうすると,どれだけ患者さんの支持を集められ
資料6
資料7
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るような構図に病院を持っていくかということが
ここの成果につながっていくということです。
資料8
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資料8はちょっと特異なところですけれども,
ころの初代の看護部長というのが大変にこういっ
先ほどいった看護の皆さんの活躍度の極めて高い
た面についてしっかりした見識を持っていらし
救命救急センター関連の診療単価です。2A病棟
て,
「事務はただ事務をしているだけではだめなん
というのがいわゆる ICU です。こちらは10床。2
だ。あなたたちも病院というものの実際の運営に
C病棟というのが HCU で,こちらが20床。10床の
参加をしないと,そろばんをはじいていたりコン
ほうは一日平均単価が35万1000円。10床で350万
ピュータをいじっているだけが事務じゃないで
円。もちろんたくさんの看護婦さんにそこで仕事
しょう。一緒に病院をやっていくんだ。だから,
をしていただいておりますけれども,やはりこう
鈴木さん,あなたももっと汗をかけ」という適切
いったものをしっかりやっていくことが,さっき
なアドバイスいただきまして,この当時の看護の
いったトータル400床の入院単価が5万円を超え
あり方というのをだから僕も同じテーブルでディ
るとか,急性期の大事なところはそんなに診療報
スカッションをさせていただきました。
酬でいじめられていないです。多少はありますけ
いかに看護師の皆さんが本来の看護というもの
れども。やはり日本の国民にとって必要な医療の
へ立ち返れるのか,それが病院の発展にどうつな
ところはそれなりに配慮がされている。やはりそ
がるのかという命題から導き出されたところが,
ういうところをきちんと見極めていく必要がある
もしかしたらご案内の方もいると思いますけれど
かと思います。
も,メディカルセンターには介護をもっぱらする
6.
看護から事務に招請し,経営改善に取組む
お断りしておきますが,きょうは看護との連携,
専門の部署,当時はアテンダント課という名前を
使っておりましたけれども,それを創設しましょ
うと。いわゆる看護部所属看護助手という縦の系
協働がテーマですけれども,当然これは診療技術
列ではなくて,看護部と並列して事務部アテンダ
部とか診療部,うちの場合は介護医療支援部とい
ント課というのをつくって,そこに責任を持って
う大きな組織がありますけれども,こういったと
介護の職員を配置をし,そして病棟における看
ころともきちんと対等に連携していく,協働して
護・介護,外来における看護・介護というのをき
いくというのが前提になります。ただ,お話の関
ちんと位置づけましょうということをスタートい
係上,看護と事務というところをピックアップし
たしました。その最初の役割をいただいたのが僕
て説明をいたします。
としては直接的に看護と一緒に仕事をするきっか
まず,これは私自身のここへ至るキャリアの紹
けになっております。
介になってしまうかもしれませんが,メディカル
当時,介護の職員をスタート時80名ぐらい率い
センター病院というのは平成4,5年のころ,看
て,看護部がその当時230名ぐらいいたと思いま
護師さんの不足と,看護師さんたちがいわゆる燃
す。看護部230名,アテンダントが80名ということ
え尽き症候群的様相を呈して一部を一時病棟閉鎖
で,看護と介護で対等にやろうという形で,初め
ということをやりました。これはいわゆる閉鎖を
て協働するということのだいご味というか仕事の
しないで患者さんを総数引き続き受けて質が下が
おもしろさ,病院の仕事というのはこういうふう
るよりは,やれる範囲で患者さんを受けようとい
に一緒にやっていくとこんなに成果が上がるんだ
うことで病棟を閉鎖しました。ただし,それだけ
というのを僕自身が体験できた貴重な経験になっ
の組織的な基盤というか設備投資をしております
ています。それからさまざまなそういう経験を経
ので,このときに経営的に極めて厳しい状態に
まして,ここには出ていませんけれども,先ほど
陥っています。一時は銀行も厳しい当たりをして
のアテンダント課というのは今,介護医療支援部
きました。そのときに,看護というものへの認識
という部に昇格できました。もう事務部ではなく
を改めるその一環として,事務部門が看護業務の
て,看護部と同じように介護医療支援部という部
改善に向けて役割をいただける機会になりまし
に昇格して,そのなかでは病棟の介護をする病棟
た。
介護課と,医療支援課という中央材料室ですとか
背景をいうと,メディカルセンター立ち上げの
内視鏡の世話,そういったものを擁する医療支援
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課,それから在宅サービス課,そういった課がき
す。やはり目のつけどころが違うというか,その
ちんと配置された介護医療支援部というところま
へんのスッキリした活動をしていただいて,それ
で育ってきました。今はそのなかで介護医療支援
が事務部門そのものの活性化になっています。や
部の部長も新しく得ることができました。それま
はり看護の人に負けてはダメだろう,我々もプロ
では介護医療支援部まで私が一緒に約10年近く看
になろうよというのはこのへんから出てきた私の
護部の人たちとあるべき介護の姿というのを議論
事務職員へのメッセージです。
しながら仕事をしてきて今日に至っています。
それから,今の活動は,これもよく研修会等で
その延長線上がさっき座長の方から紹介いただ
聞くと思いますけれども,これからの病院経営は
きましたけれども,介護医療支援部は終わった,
「入るを量りて,出ずるを制す」。「入るを量る」
今度は鈴木さんは明日の在宅ケアの方をカバーし
というのはさっきいった診療収入をどうやってき
ましょうということで,今在宅ケア管理部という
ちんと掘り起こしていくかということになりま
のを新たに病院のなかにつくって,これからの在
す。出る方は支出削減です。これを目指していろ
宅のあり方というのをまた看護と一緒にディス
いろなやり方があると思います。病院によっては
カッションをさせていただいていると。やはり住
医療のコンサルタントを迎えて厳しく経費削減に
民にとって,地域の医療にとって,一番ふさわし
取り組むということもありますけれども,メディ
い在宅ケアのあり方というのを事務と看護が一緒
カルセンターは人に頼む前に自分たちでやろうと
になってデザインしていこうというところが次の
いうことで,ただそれは医療が分かっているとい
ステージになっています。
うことが大事なので,今回も看護部から1人参画
そのほかには,ここにもありますとおり,事務
いただきまして,事務局付の次長補佐として今こ
部門の活性化や地域がんセンター事業の円滑な導
の経費節減担当として活躍をしていただいていま
入,それから医療機能の評価機構を受審するとい
す。
うことを目的として看護部から事務の副部長を招
評価はなかなか難しいところですけれども,平
請したり,事務部長と一緒に目的達成に向けて人
成14年度,プロの方に査定していただいたら,メ
を得ております。今まで事務の方にお見えいただ
ディカルセンターは大体2億から3億ぐらいの経
いた看護師の人が3名おります。副部長が2人。
費節減ができる可能性がありますというコメント
ですから,その人たちは一時看護部を離脱してい
をいただきました。お頼みするといくらかかるん
るんですね。完全に看護部と縁を切って事務部の
ですかというと,大体1億5000万ぐらいコンサ
方に入っていただいて,事務部副部長という肩書
ル・フィーが要ると。3から1.5を引くと,残り1.5
でさまざまなテーマについてやってもらっていま
かと。けちったわけではないんですけれども,悔
す。経費節減とかそういうことも看護部から物申
しいので自分たちでやろうということになったん
すのではなくて,看護の人材が事務に入って僕と
ですね。それで,彼女を中心に頑張ってくれて,
机を隣にして,一緒に病院の経営改善に取り組む
数字を合わせたわけではないですけれども,この
というような形での実際の具体的な人事的な交流
前報告が出てきたのは年間の経費節減成果は1億
というのもできています。
4000万。ひとに頼んで歩どまりが1億5000万より,
これは双方向というわけにはいかないのが残念
自分たちでやった1億4000万のほうが貴いですよ
ですね。僕らが看護師さんにはなれませんので,
ね。そういうふうに思います。やはり人に頼まれ
そういう意味では片道通行になってしまいます
たことはそのコンサルタントが病院から去ると元
が,その代わりといっては何ですが,さっきいっ
へ戻りますけれども,自分たちでやったことは自
たようなマネージメントという形で看護師さんが
分たちの財産になりますので,こういったことも
かかわれるマネージメントを一緒にやっていくと
事務だけでやるとポイントを外すんですよね。
いうような形で,なるべくご恩返しはしていこう
やはり病院の隅々にまで節約ということを行き
かといういうふうに思います。この歴代3名ぐら
渡らせる,それから手術室に電話して手術室の看
いお手伝いいただいた看護師さんは非常に優秀で
護師さんにモノを無駄にしてはいけないと指摘す
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る,あの迫力はやはり看護師長さんでないとでき
テーションの経営責任はすでにもう看護師さんに
ないと思います。だんだん私たちですと,語尾が
ありますよね。同じようにどんどんそれが広がっ
細ってくるんですよ。
「だめですよ,できればお願
てくる。在宅ケア事業全体もやはり看護師さんの
いできませんか」みたいな。そういう点では彼女
経営手腕というのを研ぎ澄ましていって拡大して
の活躍というのはすごいし,それよりも一番いい
いきたいというところです。
のは発想ですよね。思いもしなかったところ。看
リスクマネージメントしかり,医療機能評価は
護師さんのユニフォームのなかでばんそうこうが
今受審の準備をしていますけれども,そういうこ
眠っているとか,そういうのを一斉点検するんだ
とをやっています。
とかいって頑張るんですよ。そうすると,山になっ
て出てくるんですよ。
「事務部長,ほら,こんなに
あった」とかいってね。それを5回ぐらいやると,
7.
看護と事務で3/4の勢力,違いを認めて
看護との協働を前提として進められている毎年
出てこなくなる。だから,ああいうたゆまざる努
度の事業。人事評価制度,これも最初に看護部が
力をするというのはやはり看護師さんの大事な資
評価制度を取り入れた。2番手が事務部門です。
質だなと思って,改めて感心しました。
やはり事務と看護が動くと,病院が動くんですよ
そのほかにもいろいろなことをやっています。
ね。診療技術部がその後に続いて,介護が続いて,
これはこれから目玉になるかなと思って,今メ
大体いつも一番おしりになります診療部がやっと
ディカルセンターでも24時間の職員用の保育園と
重い腰を上げて今年何とか形になりそうというと
いうのを運営しているんですね。今は職員だけの
ころまできています。
運用なんですけれども,これをもっと拡充すると
メディカルセンターの予算編成というのは看護
ビジネスになるかなと。うちにはそれこそ優秀な
とやります。看護部に聞いて,それぞれの病棟が
看護師さんはいるし,保育士さんもいっぱいいま
今年の成果を踏まえて来年はどのくらい頑張れる
す。それから,近隣に病院がたくさんあるので,
かというのを各師長さんがもうイメージを持って
有子看護師さんというのはたくさんいらっしゃ
くれているので,事務の担当者とそこがすごく密
る。またこれからはそういうふうになるという方
な相談ができます。予算編成に皆さんがかかわる
がたくさんいらっしゃいますよね。これはマー
と,予算執行,成果の確認を皆さんとやれるとい
ケットとしては有望かなと。ぜひこれをビジネス
うすばらしい効果があるんですね。
化してやっていきたい。そのときにやはり看護師
このなかで病院の予算書というのをごらんに
さんと協働しないとこういった実のある24時間運
なっているという方はどれくらいいらっしゃいま
営する保育園というのができないということで,
すか。ちょっと手を挙げてください。今日のこの
これからこれをやっていこうと。
優秀なメンバーのなかでもややパラパラぎみです
それから,さっきいった在宅ケア。これは夢多
よね。やはりこれではだめです。うちの病棟がど
き事業です。ちょっと脱線しますけれども,2005
のくらい稼働すると平成15年度の予算が達成でき
年に東京の秋葉原という駅からつくば市に45分で
るか,16年度の予算が達成できるかと。そのこと
行ける新しい電車が走るんです。この電車が2005
のただの結果の数字ではなくて,プロセスを共有
年に走ったら医療マーケットは絶対に拡大します
するようにならないと,これからの病院経営は
ので,在宅ケアというのもこれからチャンスがあ
さっきいった変革や機会到来をゲットできないで
るかなと。在宅ケアを仕掛けていくには看護の人
すね。ですから,そういう意味ではうちはいつも
たちが乗ってくれないとうまくいかない。訪問看
看護部長は師長さんと綿密な協議を経て予算編成
護しかりデイケアしかり,その他老健をやるにし
に加わってもらっています。その勢いで診療部と
ても何をやるにしても,看護師さんのノウハウ,
も連携していく。先生,何とか患者さんを呼びま
看護師さんのマネージメント能力がないとやって
しょう,一緒にやりましょうというところがうち
いけない。これからは看護師さんも事業主であり
のスタイルになっている。それがさっきの単価と
経営者になっていく時代になります。訪問看護ス
か稼働率に表れてきます。
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日本病院会雑誌
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それから,診療報酬の勉強会というのは看護の
でも大事です。看護と予演会を何回もやったんで
スタッフは本当に熱心ですね。今とくに入院部門
すね。そうすると,お互いに理解が深まるんです
はそうなんですけれども,非常に診療報酬の内容
ね。そういう意味では非常にいいと思います。
が精緻にまた複雑になってきていますので,病棟
へ出かけていって病棟の担当入院課というのが医
我々の協働の可能性の効果と課題です。これは
僕はすごく大事なことだと思います。
事グループにあります。それが一生懸命診療報酬
まず一つ大事なのは,①多数派の力と効果。一
の解説書と首っ引きで勉強会をさせていただくの
時日本の政治のなかで数は力だという極めて直載
だけれども,すごく出席率がいいですよ。理解力
的な考え方が支配した時代がありますが,そうい
もいいし。一つだけ気になるのは,べッドサイド
う意味ではなくて,我々の力というものを客観的
であまりいわない方がいいかな。
「何々ちゃん,聞
に認識することが大事だろうと。メディカルセン
いた?
これ,点数10点になるのよ」とか「これ
ターは今看護が約320∼330人います。事務も百何
やっておくと,あと15点取れるんだ,惜しいね」
十人います。そうすると,病院の4分の3の勢力
とか,あまりそこまでいってしまうとちょっと違
が看護と事務なんです。すると,我々看護と事務
うかなみたいで,事務長としてはやや心配なんで
の持っている情報とか知識,そういった知恵をう
すけれども,でもちょっとうれしい悲鳴でもあり
まく合わせていけば病院経営が向上しないわけが
ます。やはりそういう仕事に対して皆さんは稼ぐ
ないんですね。そこが今残念なのは,看護と事務
ためにやっているわけではないけれども,やはり
はあまり行き来がない。そこのなかでブツッと切
皆さんの一つひとつのご努力がちゃんとやれば経
れる。すると,3分の1と何分の1を足すと4分
済的な評価も得られる。そこをきちんと手当てし
の3になるんだけれども,ブツッと切れると,そ
ないと,ただ見過ごされて経済的には何も報われ
れぞれが単独になってしまって力にならない,相
ないというのは,やはりきれいごとではなくて大
乗効果を生まないということで,やはり我々の
事なことだと思うんですよね。そのことに対して
持っている数的なインパクト,六百数十人いると
我々はなるべく機会をつくって,それを場合に
ころで半分以上が看護を占めているわけですか
よっては協力していただく,またアイデアをもら
ら,いろいろな影響力を看護部長一人の発言では
う。勉強会をやって話をしていると,看護師さん
なくて病院全体からいろいろな声がわき上がるよ
の方から「こういうこともやっているけれども,
うな体質に病院はもっとなっていくべきです。
これは点数にならないんですか」とかいう話が絶
数のわりには皆さんの声が小さいですよね。そ
対来ますね。それが我々にとってはダイヤモンド
う思う。でも,その数が大きくて声を出させてあ
なんですね。そのダイヤモンドをどれくらい掘り
げるための演出をやはり僕らも一緒にやらせても
起こして病院のあちこちに根づかせていくか。そ
らいたいなと。協働提案すると,現場の必要性と
れがマネージメントです。
経営的な整合性がきちんと取られているというこ
患者サービスの向上。これもつねにやはり看護
とになるんですよね。看護だけの発想だと,それ
と事務が中心になってやることが非常にありま
は何となく現場が理想論に燃えてただやりたがっ
す。
ているだけでしょうとか,事務だけでいうと,そ
活動報告会ですが,今年の日本病院会の学会で
んなのお金だけかって現場ではノーといいますよ
もそうでしたけれども,事務部門は今年はちょっ
ということが往々にしてあります。看護と事務で
と尻をひっぱたいて,事務部門で11題発表させま
しっかり練った提案というのは,4分の3を占め
した。看護が6題くらい,診療技術はちょぼちょ
る職員が納得できる提案であれば,やはり組織と
ぼで,医局はなしでしょう。やはりすごいですよ
しては取るべき大事な施策になるということだと
ね。事務と看護で頑張って。日本病院会の学会で
思います。
あれだけ出していると,結構宣伝効果があるんで
そういうわけで,これは僕の感想ですが,これ
すよ。またメディカルセンターが出てきたという
はどこにも書いてないので,間違っていたらごめ
ことで,結構名前を知っていただけるという意味
んなさい。僕が思う看護というのはいつもまじめ
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日本病院会雑誌
で真剣で,さっきいったように粘っこいんですよ
知恵をやれば必ず難局に抗していけるだろうと。
ね。くたびれないというか,打たれても出て打た
こういった特殊合金を身にまとって,我々は厚労
れても出て,やると決めたことは実行するんです
省の戦略に負けないで,我々自身が主体的に新し
ね。僕らが時々怒られるのは,
「鈴木さん,これや
い時代の医療というものを担っていけるように進
るっていったよね。何でやらないの」というと,
んでいきたいというふうに思います。
事務はわりと理屈っぽいから,
「それは予算がつい
ただ,問題もあります。こういう場ですから,
てからやりますよ」とか先のばしをすると,
「そう
逆に後で皆さんからも聞きたいんですけれども,
じゃない。やると決めたんだからやりましょう。
やはり文化が違うんですね。文化が違う,価値観
やるんだったらいつからやりますか。日にちを
が違う。議論などしても,看護と事務のいろいろ
いってください。早くやってください。担当者は
違いが確かにありますね。やはり皆さんはつねに
だれ」バババッと。そうすると,もう私も寝てい
判断を求められているのかなと。要するに,あや
られないので物事が動く。やはりそういう外から
ふやな話を極力廃しますよね。それは患者さんの
の力も含めて実践することをやっていくうえでは
お命を預っているから。事務部門というのはいか
僕は看護の人はすごいと。その反面,やはり皆さ
にあやふやな話にするかというのが変な犠牲に
んは科学者なんですよね。理系の思考を持ってい
なってしまいます。前向きに検討するとか,それ
らっしゃって,非常に理論的だし,クールな面も
については十分配慮しますとかいって,結局結論
持っていらっしゃる。これはおもしろいなという
を出さない。そうするとけんかになってしまうみ
ふうに思います。
たいなところがあって,ですからそういう意味で
それに対して事務というのは,いいか悪いかは
は,看護と話しているとどうしてすぐああいうけ
別にしてとにかく融通無碍。右向けば右,左向け
んか腰になってしまうのかなとか,看護の人から
ば左。「きょうはいいお天気ですね」「いい天気だ
すると,あなたは何のためにここに出ているのな
ね」
「でもちょっと曇りかね」
「やはり曇りですね」
んてすぐ怒られてしまうわけですね。だから,そ
「もうすぐ雨かね」「雨ですね」,わりとそういう
のへんをこれからどうやってお互いに理解してい
主体性がないところがある。ただ,やはり状況に
くか。今は全然違和感ないですけれども,昔はや
合わせてどんな形ででも対応ができるというとこ
はり看護の人たちと話していると,いろいろ文化
ろはいいと思います。それから,ある意味では無
が違うんだな,事務とはずいぶん違うなというと
資格者であるがゆえに,事務がコーディネートす
ころがありますよね。
る役を担うのはわりと皆さんが受け入れやすい。
それから,やはり利害が一致しないところはあ
そういう意味では,病院のいろいろな事業を展開
りますよね。ちょっと詳しい話は時間の関係でで
するときの調整役,そういったものをやるときに
きませんけれども,なるべくたくさんの人と優秀
進められます。
な装備でいい医療をということと,みんなに過大
あとは計算高いとか企画力が多少はあるかな
な借金を残さないでやっていこうというようなこ
と。やはり何かプレゼンテーションするというの
とで,時々やはりバッティングするところがあり
は皆さんよりも事務の方が得手なようなところが
ます。ここをお互いの理解力を高めていって,大
あります。あと,形にする,シナリオにするとい
所高所でどう一致するか。目指すところは同じだ
うところ。だから,そういったようなこの事務の
と。そこを登っていく道筋が若干違うときに,看
融通無碍で多少口八丁手八丁なところと,皆さん
護の示す道筋をきょうは取って,五合目あたりか
の体力があって粘り強くて精神力があって実行力
ら事務の道筋で行ってみようかというようなこと
があるところをガチャンと合わせると,ここに書
をやれるようにしていかなければならないという
いてある私が目指す特殊合金が生成されるんです
ふうに思います。
ね。これはすごいですよ。1+1の2よりもすご
これが結構大事なんですけれども,看護と事務
い効果があると思いますね。ですから,やはりこ
の成長スピードが同期するかということ。どうい
れからの変革を乗り越えていくためにはこういう
うことかというと,今どんどん医療制度とか看護
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の技術,考え方,そういったものが変わっていま
の持っている知恵をどん欲に皆さんどんどん盗み
す。そういうのについて皆さん一生懸命勉強して
ましょう。僕がザッと見て何十年分ぐらい法人運
いますよね。ここに300人もいて,こうやって上か
営システムは病院が確かに遅れている。さっき
ら拝見していると,寝ている方は約1名ぐらいし
いった事務長が存在感がないこと自体がそもそも
かいないんですよ。事務で研修会をやると,大体
ペケですよね。ですから,これから機会あるごと
5分の2ぐらい寝ていますからね。寝ているか下
に病院経営の資料,書物だけでなくて,一般的な
を向いているか。今こうやって見ると,ほとんど
企業経営者のノウハウというものを折りにふれて
の人がみんな僕の顔を見てくれているでしょう。
ぜひ見てみてください。そういったものをどう
ですから,やはりこのへんが事務はよほど努力を
やって病院運営に移植していくか。これ簡単です
しないと看護のスピードについていけないかなと
よ。遅れているから,5年前ぐらいの古本屋にあ
いうことはあります。皆さんが一生懸命勉強して
る本でも十分使えます。全然色あせていないです。
事務がさぼっていると,やはりパートナーとして
新鮮だな,こんなのうちでやっていない,なんて
事務部門のことを認めてくれないんですよね。で
ね。ですから,そういう意味ではそういうものを
すから,我々はこれから看護の成長スピードにい
どんどん移植していきましょう。
かに負けないように,理想的には半歩ぐらい事務
それから,やはりサービスを創造しなくてはだ
が先に行っていたほうがいろいろな意味で準備が
めですね。何がこれから必要なのか。そのために
できるので皆さんの活躍も促せるんですけれど
さっきいった混合診療だとかいろいろ差別化のこ
も,なかなかちょっと厳しいです。
とが出ていますけれども,これがいいことばかり
8.
協働のテーマは自分たちのデザインで
さて,最後のほうになってきましたけれども,
では我々の協働のテーマというのを少し提案した
ではないという気がしていますけれども,ただ
我々はやはり考えていかなくてはならないので,
いろいろな医療サービスというものを創造してい
こうということです。
それから,やはりタコつぼはだめですね。病院
いと思います。
今までの話を聞いて大体もう見当はついている
のなかに入りっきりはだめ。どんどん飛び出して,
と思いますが,皆さんデザインをしましょう。そ
地域の医療システムへの積極的な参加を果たして
れも主観性が強いと判断を過ちます。自分がやり
いく。それはやはり開業医の先生との連携,そし
たいとか思い入れの強いことにあまり引っ張られ
て福祉や保健といったものとの連携,いろいろな
ると冷静な判断を欠きますので,自分の病院の機
形があると思います。これもぜひ考えてみてくだ
能とか地域の状況,ほかの病院との関係,構成さ
さい。
れているスタッフ,経営母体というのを勘案して,
それから,さっきいった4分の3を占める我々
自分たちのデザインを描いていきましょう。デザ
看護と事務ですから,働いている人たちがやはり
インがないと必ず厚労省の方針に右往左往するこ
幸せであるべきですよね。休みが十分に取れない
とになります。世の中の九千何百の病院がみんな
とか残業が続くとか,そういうことでなくて,よ
急性期病院でみんな地域支援病院なんてやれるわ
り納得できる職場,風通しのいい職場というのを
けがない。どこがいいどこが悪いではなくて,や
4分の3の勢力が志せば,必ずそれがいい方に向
はりそれぞれの役割,持っているものをいかに,
かっていくのではないかというふうに思います。
さっきいった膨大な医療マーケットがあるわけで
最後でございます。ここは白紙にしておいてあ
すから,それに対して我々がどういうふうな提示
えていわなかったんですけれども,冒頭にも
を消費者にかけるか,そういう発想で皆さんのデ
ちょっとイメージしてもらいましたけれども,ま
ザインを考えてほしいと思います。
ず皆さんおたくの病院の事務長さんの顔を頭の中
それから,企業運営のシステム。さっきいった
に思い浮かべてください。きょう鈴木からこんな
株式会社が参入してきても何も怖くないです。大
話を聞いてきた。帰って事務長さんとお話しま
丈夫ですけれども,株式会社,いわゆる民間企業
しょう,病院の将来はどうしようかという話をで
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きるかどうか。やはりそういうパートナーとして
もうちょっとハードルを下げましょう。今年
皆さんもぜひ事務長さんと距離を縮めてやってい
入ってきた若い人,去年入ってきた若い人で,ま
ただきたいというところがあります。
だ右も左もわからないけれども,感じがいいと。
まず事務長さんの顔を思い浮かべて,今僕が皆
いいかもしれないという若手の職員を持ってい
さまに提示したような内容を,こんな話聞いてき
らっしゃる病院はどのくらいありますか。だんだ
たよという非常に和やか,かつお互いに信頼関係
ん少なくなってきますね。でも,事務職員ってあ
の取れたようなお話し合いの場が持てそうだとい
まり新入職員はいないんですよね。そういう意味
う人,手を挙げてください。 ウーン,まだちょっ
ではちょっとつらいかもしれないですけれども,
と日本の現状は暗いかもしれない。例えばそうい
さっきの成長スピ−ドと同じなんですが,この裏
うことですね。皆さんも事務を遠ざけてはだめで
返しで看護は全部当てはまりますよ。うちの看護
すし,事務のほうを覚醒させないとだめですね。
部長を思い浮かべると,すぐ大丈夫だなと思いま
今僕がずっと話していたことはそんなにとっぴ
すね。師長さんとか係長さんクラスの看護師さん
な話ではないですよ。極めて常識的,逆にいうと
を思い浮かべると,やめないでずっといてねと本
少しおとなしすぎる話ばかりですから,この話を
当に真剣に思います。今年新入職員もちょっとい
材料に,その項目についてどう?
と投げれば,
ろいろ事情もあって90人という大量採用したんで
事務長さんは基本的には考えを持っていると思い
すけれども,みんな期待できそうなんですよね。
ます。ただ事務長さんというのはそれをいわない
そういう意味では看護はすごいんですよね。だか
んですね。大体事務長さんというのは事務室の一
ら,事務はちょっとつらいですね。
番奥の方でみけんにしわを寄せて,いつも難しい
そういう皆さんの状況がかなり厳しいのは何と
顔をしていらっしゃいますのでなかなかその人に
なく伝わってきましたけれども,どうぞそこで失
話しかけるのは気が進まないでしょうが,ぜひそ
望して諦めないで,長い目で見て事務部門を支え
ういうことをしてください。
ていっていただきたいと思います。なるべく簡単
あとは,皆さんはこれから5年後10年後が勝負
に具体的にやりましょう。目標をつくって進めて
ですから,中堅で30代,40代前半ぐらいのこれは
いければと思います。実践できる行動というのを
いいなというスタッフをちょっと脳裏に思い浮か
事務部門も明日から一緒に取り組んでいきたいと
べてください。それだったらいるという人,ちょっ
思います。事務と看護の協働が本当に歯車がかみ
とお手を挙げていただけますか…,なるほど,ま
合えば,必ず病院はよくなります。生きのいい事
だまだですね。うちの病院でもなかなかそこは伸
務長さんとアクティビティの高い看護部長を持っ
び悩みのところがあるんですけれども,ここが
ている病院でつぶれた病院というのは聞いたこと
しっかりしないと苦しいですよね。逆にいうと,
がない。ぜひ力を合わせていい病院,これからの
今手を挙げられたところは,思い浮かべたその方
日本の医療マーケットを支えられる,株式会杜の
を一生懸命応援してください。
参入なんかには負けない,働いている職員が納得
これはなぜいっているかというと,僕がそうし
していけるような病院,質の高いもの,国民に支
てもらったから。別にこういうふうになれという
持されるものを一緒につくっていければというふ
ことではないけれども,事務部門にとってはやは
うに思います。
り看護が味方になって,また時にはいい先生役に
大変雑ぱくな話で恐縮でございますが,持ち時
なって,医療というもの,看護というものを知る
間を終わりました。どうも長時間のご静聴,あり
機会をもらうというのはすごく成長の過程にとっ
がとうございます。これからもどうぞよろしくお
て大事なんですね。ですから,今思い当たる節を
願いいたします。
思い浮かべられた恵まれた病院さんは早速その中
堅の人たちと,その人たちは多分垣根は高くして
いないはずですから,そういう人たちとどんどん
連携を,また情報共有をしてください。
――――――――◇――――――――
質問
先ほど介護支援センターの方たちの例え
ば院内感染防止とかリスクマネージメント的なこ
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とも教育が必要かなと思うんですけれども,どの
が,うちの介護医療支援部はまったくそういう障
ようなプログラムでされているのでしょうか。
害はないので,看護部と基本的には同じように取
鈴木
できれば介護医療支援部の当院における
役割とかこれまでの過程をお話しできればと思っ
たんですが,ちょっと時間の関係でそこが十分で
り組む環境は十分できているし,彼らも責任もっ
てその役は担ってくれていると思います。
質問
そうしますと,責任の所在といいますか
きませんで,申し訳ありませんでした。今のご質
そういうシステムはどのようにお考えでしょう
問だけのところでお答えすると,先ほどいった介
か。
護医療支援部は基本的には看護部と同格の部署に
鈴木
看護部も介護医療支援部も部長がそれぞ
なりますので,リスクマネージメントとか感染対
れ別個にいますので,いわゆる部に対しての責任
策委員会,そのなかにあるタックスフォースとか
はちゃんと部長職が全責任を持って負いますし,
ICPG 何とかかんとか,そういうところには全部一
逆にいうと部の意見というのは病院長に,介護医
緒のメンバーとしてまず入っているというのが一
療支援部は別に看護を通さなくても直接物申せる
つです。
というような形になっていますので,責任とか権
それから,介護医療支援部のなかに医療支援課
限は両方バランスして基本的には保証されていま
という課があるんですけれども,そこが中央材料
す。そのなかでちゃんと働いている人たちを守る
室を担当していますので,そういった滅菌業務や
と。とくに介護医療支援部はスタッフは基本的に
そういうのをやる人間はさらに一歩進んで感染に
は無資格者集団ですから,やはりそれに対しての
ついてのいろいろな研修を受けたりという形を
看護部と介護医療支援部は,それぞれ対等だけれ
やっています。
どもサポートしながら保障できるような体制はか
介護医療支援部には当然病棟介護課というのも
なり気を配っているつもりです。
あるんですが,病棟介護課の人間がやはりリスク
教育システムとか業務マニュアルみたいなもの
マネージメントの看護部と同じようなプロジェク
は介護医療支援部のオリジナルで全部製本されて
トに入って,どうしたら防止できるかという研究
ありますから,いわゆる口伝えで OJT だけで仕事
をすることといろいろな調査,ですからヒヤリ
を覚えるというようなシステムにはなっていない
ハット報告も介護支援部も同じように出させてい
ので,かなり安心して勉強はできる環境はあるか
ます。看護部の人が代わりに書くのではなくて,
なと思います。
介護医療支援部の主体的な報告を上げるようにし
質問
何人ぐらいいらっしゃるんでしょうか。
て か か わ っ て い る と い う よう な 形 に な って ,
鈴木
今介護医療支援部は全部で100名ぐらい,
ちょっとリスクマネージメントの活動の中身につ
看護師さんが320名です。2対1看護なので,介護
いては,済みません,今日は資料がないので正確
医療支援部は診療報酬上は一切そういう経済的な
な答えができないですけれども,看護部と介護医
成果はありませんけれども,さっきいったように,
療支援部は一体となってリスクや感染対策につい
在院日数を短くして稼働率を確保して安全を確保
て取り組むシステムは病院のなかで確立していま
するために十分意味のある投資だというふうに事
すので,いわゆるよくあるところで看護補助とい
務部門としても評価しています。
われている人はあまり表面に浮上してきません
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2003年12月
日本病院会雑誌
第53回日本病院学会・シンポジウム
看護実践能力の向上をめざして
―質が高く安全な看護を提供していくために―
大阪府立看護大学学長
国立国際医療センター看護部長
東京都立保健科学大学教授
日本医師会常任理事
日本看護協会専務理事
(座長)高槻病院副院長
小
山
川
西
岡
内
島
西
村
島
谷
藤
操 子
文 子
佐和子
英 利
恵 子
正 子
平成15年6月・大阪市
内藤
座長の内藤でございます。どうぞよろし
すものであります。そして,そのなかには看護の
役割や裁量権の拡大,療養生活支援の専門家とし
くお願いいたします。
この学会のテーマは「『道のため,人のため』,
変わりゆく時代を映して」となっています。そし
ての自立した看護の姿勢と医師との関係など,画
期的な考え方が言及されています。
てこのシンポジウムのテーマは「質が高く安全な
したがいまして,これら報告書に示されました
看護を提供していくための看護実践能力の実践を
内容の実現化に向けまして卒後の教育の見直し
目指して」となっています。
と,みずからが研鑽すること,そしてそれらの体
この2つのテーマから考えますと,昨日来,多
くの先生のお話のなかに必ず出てまいりました
制,制度の整備などが求められています。
そしてまた基礎教育におきましても,
「技術教育
「厳しい時代」「激動の時代」「医療経済の危機」,
のあり方に関する検討会」からの報告書も出され
そして臨床の現場にいます私たちも,毎日のよう
ました。
にその危機を肌で感じているような昨今でござい
そこでこのシンポジウムにおきましては,これ
ら2つの報告書を踏まえまして,この機会をチャ
ます。
大きく変革しなければならないこのときに,私
ンスとし看護実践能力を高めていくために,今何
たち看護の専門職として,今何を求められている
をどのように取り組めばいいかを明らかにしたい
かを考えましたときに,やはり看護の原点である
と考えます。
質の高いケア,そして安全なケアができる実践能
本日は5人のシンポジストの先生方にご発言を
力であると考えます。したがいまして,看護実践
いただきます。ご発言の先生方,発言をいただき
能力を高めていくことこそ,看護の対象となる
ます前に,私のほうからそれぞれにご紹介をさせ
人々のためであり,看護学が発展していくための
ていただきたいと思います。
道であると考えます。
最初にご発言いただきますのは小島操子先生で
折りしも厚生労働省は「新たな看護のあり方検
いらっしゃいます。小島操子先生は現在大阪府立
討会」の中間報告を受け,昨年9月,国立鯖江病
看護大学の学長でいらっしゃいます。先生は,
院の注射事故以来,半世紀ぶりに静脈注射は看護
ニューヨーク大学看護学部で癌看護課程を修了さ
師の診療補助業務の範ちゅうとすると法的解釈を
れ,ミネソタ大学の大学院修士課程終了後,看護
変更いたしました。今年3月には最終報告が出ま
博士号を授与されました。
先生のご専門は看護倫理学,癌看護学です。い
した。
この報告書は今後の看護の進むべき方向性を示
まや看護におけます倫理的な配慮は必須のことと
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日本病院会雑誌
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47 )
して,看護の展開や看護研究などにおいて私たち
おける共働者との密着した活発な連携,かかわり
の話題にのぼるようになってまいりましたが,先
によって行われるものというふうに考えました。
生は,まさにこの看護倫理学の草分け的な存在と
本シンポジウムでは,テーマについて,まず看
して,研究や理論を構築されてこられました。ま
護実践能力および能力のレベルについて考え,そ
た癌看護におきましては,癌認定看護師の育成
して看護基礎教育に携わる者として,教育の側面
コースを立ち上げられた第一人者でいらっしゃい
からカリキュラムの臨地実習に焦点を当ててお話
ます。
させていただきたいと思います。
本日は104校になりました看護大学教育におき
では,看護実践能力とはということですが,こ
まして,将来看護を創造的,科学的,そして安全
の看護実践能力というのは非常に広い概念で,こ
性を踏まえた看護実践ができる能力を持った看護
こにあげてありますように,知的技能,判断技能,
職を育成するために,看護基礎教育はどうあるべ
そして精神・運動技能,人間関係技能,ケアに対
きか,先生のお考えを論じていただきたいと思い
する態度・感性の豊かさ,そして倫理的な配慮,
ます。どうぞ先生,よろしくお願いいたします。
これらすべてを含むものというふうに考えられま
す。これらのどれか1つが欠けても,真の看護実
践とはいえないのではないかと思います。
看護基礎教育の立場から・小島氏
ここで知的技能というふうにあげましたのは,
原理原則と実践能力を高める臨地実習で
知識あるいは理論というものが活用できなければ
実践が行えませんので,あえて知的技能をあげ,
(キーワーズ:看護実践能力,能力レベル,臨地
実習のコアと選択,学習者についての信念・価
この知的技能と判断技能を使いまして,臨床では
臨床判断を行っていくということです。
次に,質の高い,そして安全な看護を提供する
値,実習指導者の責務)
ためにということで,看護実践面より看護学の基
小島
ただいまご紹介いただきました小島でご
本的な要素を,ICN(国際看護協会)の規律にあり
ざいます。私は看護基礎教育の立場からお話させ
ます看護師の4つの基本的な責任からみてみます
ていただきます。このたび,このようなテーマを
と,それらは,病院・施設・家庭・地域における,
頂戴いたしまして,質が高く安全な看護を提供で
あらゆるライフステージにある人々の健康増進,
きるよう看護実践能力を高めていくために,看護
疾病の予防,健康の回復,苦痛の軽減のための知
基礎教育はどうあらねばならないかということ
識・理論と援助技術というふうに考えられます。
を,またあらためて考えさせられました。
また,平成14年3月に文部科学省の「看護学教
そこでまず看護実践能力とはどのような能力な
育のあり方検討会」からだされた報告書によりま
のか,その能力は看護基礎教育の3ないし4年間
すと,看護学の学士課程の教育内容のコアを構成
で,どこまでどのように習得できるのかを考えま
した。私の長年の臨床や教育での経験から,やは
り結論としては,看護基礎教育では看護実践能力
の基盤をしっかり固めること,つまり卒業時点で
看護職者としての資格を有する能力レベル,資格
を有する能力レベルとはまたあとでお話させてい
ただきますが,そこに到達させ,その能力は卒業
と同時に実践の場で主体的に向上させていけるも
のというふうに考えました。
そして資格レベルの能力の習得は,周到に計画,
準備された教育カリキュラムと,教授,学習の課
程,そして学生および実習指導者,そして臨地に
48
48(1798)
図1
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
する一つの重要な要素として,看護実践を支える
技術学習項目を図1のように示しています。具体
的には,下の段にあります,人間を対象として活
動する基盤である「看護ケア基盤形成の方法」の
8つの項目と,上の段にあります,実践力を育成
する基本的な技術である「看護基本技術」に関す
る13項目からなるというふうにあらわしていま
す。
先ほど述べました ICN から考えた看護学の基本
的な要素と,これら実際の技術に関連するものを
すべて合わせまして,看護実践能力を育成すると
いうことでは,非常に大切な要素というふうに考
図2
えました。
また同じ看護学教育のあり方に関する検討会の
報告書に,看護実践能力育成のための到達目標が
るであろうということです。
それでは本大学でどのようなカリキュラムで学
生たちが教育を受けているのかということで,少
あげられております。
それによりますと,1つは広い教養を基盤とし
た豊かな人間性を持つこと,2番目に最低限必要
し本学のカリキュラムをご紹介したいと思いま
す。
な知識と技術を体得し,卒業直後といえども独力
本学に平成15年度4月から総合リハビリテー
で,または適切な指導・助言のもとに看護ケアが
ション学部が開設され,看護学部と合同で行う科
実施できるということがあげられており,実践能
目等を考えました。また,平成12年に看護学部に
力の育成はここに集約できるかと思うのです。1
開設された大学院博士後期課程が完成いたしまし
と3の目標で,2の目標を豊かにしていくと思え
た。そして,この3月にわが校初の,また大阪に
るのですが,3は将来さらに専門性を深めていく
とりましても初の看護学博士を3名,送り出しま
ことのできる基盤を身につける,ということであ
した。そのようなことがあり,カリキュラム全体
ります。
の見直しを行いまして,大学全体としてのカリ
では,能力レベルについてですが,能力レベル
に関しましてはシェフラーという方が,1965年に,
キュラムの整合性をはかる工夫・努力を行いまし
た。
技術・実践の習得レベルを資格レベル,上達レベ
看護学の専門教育は,図2に示しますように
ル,精通レベルの3つであらわしております。資
人・環境支援看護学,そして療養支援,生活支援,
格レベルというのは原理原則を理解して実施がで
家族支援の各看護学が基礎教育から大学院教育に
きる,上達レベルになりますと,どのようにより
ずっと横に流れております。人・環境支援看護学
よく行うかということが分かって,よりよく行う
は,いわゆる基本的な看護学といわれるものです。
ことができる,さらに上達してきますと精通レベ
それから管理とか教育,情報も入っているのです
ルで,見事に自動的に実施できるというふうにあ
が,ここでは現在は修士論文コースのみです。そ
げてあります。
して療養支援看護学は,急性,慢性,がん,感染
そしてシェフラーは教育では資格レベルでしっ
の各看護学が含まれており,この領域では修論
かりと身につけさせることを強調してます。つま
コースと CNS(専門看護師)コースがあります。
り原理原則を理解して独力で,または適切な指
また生活支援看護学は地域,在宅,老年,精神の
導・助言のもとに実施できるという資格レベルを
各看護学が含まれており,ここでも修論と CNS の
卒業の時点までにしっかりと習得させておくなら
コースがあります。家族支援看護学のほうは母性
ば,卒業と同時に自主的に,主体的に次の上達レ
と小児看護学で,母性は修論と CNS のコースがあ
ベル,また精通レベルというふうに上がっていけ
ります。全体としてはこのように構成されており
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49 )
遅くなりまして,3年生で基本実習を,そして4
ます。
博士課程は,生活支援看護学と療養支援看護学
の2専攻になっておりまして,このどちらかを専
年生になりまして,応用実習を行うというふうに
なっております。
攻するわけですが,さらに研究を深めていく段階
それでは臨地実習の考え方がどうなっているか
では,その人たちの関心分野ということで,修士
ということですが,アーリーエクスポージャ,少
課程の人・環境,療養支援,生活支援,家族支援
人数制,そして学習の個別化をあげています。
各看護学のなかの細かい分野から専攻を深めてい
早い時期に現実にふれさせるアーリーエクス
ポージャということでは,学生が入学してきて1
くという形を取っておます。
基礎教育である学部教育のカリキュラム構造は
図3のようになっております。
カ月半の5月の半ばすぎに,まずは臨床の場に全
員出させます。そこでは主として看護師とはどう
いう人なのか,どういう場面でどんな活躍をして
いるのかということを観察するということになっ
ております。
そして9月になりますと,2度目の臨床体験と
いうことで,今度は患者さんに焦点を当てて,病
院の中で,病を持ってベッドに横たわっている人
たちはどんな生活をしているのか,どんな気持で
いるのか,等について観察したり話をしたりして
学習してきます。
先ほどちょっとお示ししましたように臨地実習
の位置づけは,講義,演習・学内実習,そして臨
地実習と,なっておりますので,アーリーエクス
図3
ポージャで現実にふれながら,また新たな気持で
教養・専門支持科目で土台をつくり,そして人・
環境支援看護学で専門の土台をかため,仕上げの
講義を受け,演習をし,3年生になりますと臨地
実習に出ていきます。
方向に向かって進んでいく,その間にそれらを受
少人数制ということでは,原則として学生5名
けて療養支援,生活支援,家族支援各看護学があ
に対して教師1名というようなやり方をしており
りまして,最後に総合研究というふうにあげてあ
ます。学習の個別化ということでは,臨地実習の
りますが,総合看護として全体をまとめるという
コアと選択という考え方をカリキュラムに反映さ
仕組みになっております。
せております。今までは実習なども,どの学生に
カリキュラムはこのようになっておりまして,
も満遍なく同じ実習を全員にいたしておりまし
教養・専門支持・専門科目を計128単位以上習得い
た。しかしだんだんと,看護学が広くなり,深く
たしますと卒業要件が満たされて,看護師と保健
なり,みんな均等にすべてをあるレベルまで学ぶ
師の国家試験受験資格が得られるということに
ということは,つまり看護実践能力を高めるとい
なっています。助産師に関しましては選択になっ
う観点からみてほとんど不可能と思われます。
てまして,4年生の段階でこれを選択できるとい
最近といいますか,平成13年ごろからコアカリ
キュラムという考え方が浮上してきましたので,
うことになっております。
では実践能力育成のための臨地実習に焦点をあ
私どもはいち早くそれを取り入れることにしまし
ててお話します。今お示ししましたようなカリ
た。そしてコアの部分がその学問にとって絶対的
キュラムの全体像ですが,そのなかで臨地実習の
で基本的なものですから,それらはすべて学ばな
位置づけは,講義,演習・学内実習,そして臨地
ければなりません。つまりライフステージのあら
実習というふうになっております。したがいまし
ゆる年齢層を対象に,地域・病院・施設・在宅で
て,臨地実習がスタートいたしますのは,かなり
の看護を基本として学びます。そして基本の学習
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が終わりますと,今度は選択にいたしまして,学
て13単位,応用実習を10単位といたしました。と
習者の興味関心のある実習,また学習者の長所を
くに学習者の興味関心で選択できる部分が8単位
生かした実習にするということにしようとしてお
あります。
ります。こうすることで学習効果があがり,実践
図4にあります人・環境支援看護学実習の1と
能力の育成に成果がでることを期待しています。
いうのが,先ほどのアーリーエクスポージャを含
これは,本学に看護の専門領域を深める大学院
めた実習であります。そして人・環境支援看護学
があることから考えられた考え方でもあるのです
実習の2というのは,基礎実習で看護過程の展開
が,実は先ほど申しましたように,すべてを満遍
ということになっています。
なく3∼4年で学んでいたのでは,資格のレベル
基本実習の療養支援看護学実習は,急性看護学
に達することはほとんど不可能ですし,卒業して
と慢性看護学の実習で5単位,必須ということで,
そこから初めて自分の領域をスタートさせていく
2.5単位で2,3週間ずつ急性と慢性の実習を行い
ということでは,非常に時間的な効率の悪さもあ
ます。
るでしょうし,また長い期間のなかで看護が面白
そして家族支援看護学実習は3単位で,小児と
くなくなっているケースもあるわけです。そうい
母性がやはり1.5単位ずつということで,約1,2
う意味では早い時期から学習者の関心をつなぎ,
週間です。
さらにやる気を起こし,しかも自信をつけていく
生活支援看護学実習は地域,在宅,老年,精神
というふうになればよいなということで,このよ
各看護学の実習が5単位ということで,これは精
うなやり方にいたしました。
神看護学と老年看護学が2単位ずつで,地域と在
アメリカの看護教育では,このようなことが早
くから,もう少し極端に行われておりますが,日
宅が1単位ということで,基本実習は全体で計13
単位ということです。
本では国家試験の関係もありますので,もしかし
応用実習になりますと,先ほどいいましたよう
たら先進的かも分かりませんが,実践能力を高め
に学習者の興味関心,それから自分の長所を生か
る臨地実習の第一歩としてまずまずのところかな
して,慢性患者さんとじっくりとりくみたいタイ
と思っております。
プの方と,動きや変化のある急性がよいという人,
ではそのような臨地実習をどのように構成して
あるいは母性がよいとか,小児がよいとか,また
いるかということですが,図4に示しましたよう
地域がいいとか,在宅がいいとか,そういうとこ
に基礎実習,それから基本実習,そして応用実習
ろで学生が選択できるという形を取りました。
というふうに3つの実習の形態で構成していま
生活支援看護学の領域のAとBというのは,A
のほうは地域看護と精神看護が一緒になっており
す。
臨地実習は26単位が指定規則上の単位でござい
まして,地域看護4分の3ぐらい,そして精神が
ます。それらを基礎実習で3単位,基本実習とし
4分の1くらい入っております。基本実習で精神
看護学が2単位しっかり押さえてありますので,
そのような形にしています。そして領域Bのほう
は在宅看護を4分の3,そして老年を4分の1ぐ
らいにしてますが,基本実習で老年看護学は2単
位,しっかり押さえてあるということで,そんな
仕組みになっております。
最後は総合ということで,まとめをするという
ことであります。
看護実践能力を高めるために基礎教育でどのよ
うな工夫が行われているかということで,本学で
のカリキュラム例をあげて説明させていただきま
図4
した。看護実践能力を高めていくために,何が大
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表1
切かというところで,1つは周到に計画されたカ
い成果を出してくるのではないか,そういう意味
リキュラムが重要だということをあげました。
で教育者として指導に忍耐と寛容が生まれてくる
一方,看護実践能力を高めるためには,カリキュ
というふうに思わされております。
ラムのみならず,先ほど申し上げました教授,学
そしてまた,2番目のどのようなことをしよう
習のプロセスが非常に重要だと思います。ただカ
とも,その時点で最善の判断を学生はあらわして
リキュラムさえよければ,そういう能力がついて
いるんだ,指導者から見れば,何でこんなことし
くるかというとそうではなくて,良いカリキュラ
かできないの?
ムあるいは周到に準備されたカリキュラムに,教
はその時点でのベストを尽くしているんだという
授と学習のプロセス,つまり,学習者と指導者と
信念を持つことができるならば,それは指導上の
が良い相互作用をもちながら教育を行っていくこ
示唆を得ることができるのだと思いながら,私は
とが学習を促進させるうえで非常に重要です。指
この信念を大切にしています。
と思えたとしましても,学習者
導にかかわる者,教師,臨床の看護師それぞれが
その4番目が私は相互作用だと思っているので
学習者に対する,あるいは指導に対する信念,仮
すが,学生が,自分は指導者に受け入れられてい
説を持っていることが大切だと思うのです。教育
るんだと思うことができさえすれば,その指導者
に携わる者,あるいは実習の指導に携わる者とし
からの指導や助言をみずから求めて受け入れるこ
ての信念,仮説,フィロソフィーを持つというこ
とができる,これも大変意義深い信念かなと思わ
とを,表1にあげさせていただきました。
されています。こういう信念を持っていたならば,
この基本はウィーンデンバックの『臨床実習指
学生と指導者としての相互作用がうまくいき,ひ
導の本質』でありまして,1970年ごろ私が教育に
いては学習効果を上げていくというふうに思わさ
入ったころに発行された本なのですが,そのとき,
れて,こういうものを持つことをお勧めしたいと
私はこの学習者についての信念,仮説にとても感
思います。
銘を受けまして,もう何十年も,これにとりつか
最後に,臨地実習指導者の責務について述べさ
せていただきます。実習指導者として,その前提
れているのです。
ここにある1番が非常に重要かと思うのです。
条件とも考えられる責務を果たしていくことが,
学習者,看護学生は潜在能力を持つ個人である。
学習者の看護実践能力を高めていくうえで不可欠
潜在能力を持っているんだというふうに信念とし
だというふうに思います。
て持てますと,学生の特殊性がよく見えてくると
責務の1つ目は,今お話ししました学習者につ
思うのです。潜在能力があるはずだから,この人
いての信念,仮説を持つということ,それから2
はもうちょっと待ってあげれば,とてもすばらし
つ目は,教師として自分自身の実践能力の向上に
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努めること,3つ目は,学生・患者・共働者と信
本構想の段階からかかわりをもたれました。
頼関係を築き,それを維持していくこと,4つ目
本日は,看護実践の臨床における看護管理者と
は,先ほどちょっとお話しました実習指導上の目
して,また看護基礎教育の臨地実習施設として,
標および習得のレベルをしっかり持つこと,5つ
患者の利益につながる看護実践能力の考え方,現
目は,学生の個別性を尊重すること,6つ目は,
任教育のあり方,人材活用など,将来を展望しつ
指導法に創意工夫を凝らすこと,7つ目は,最近
つ,追及していただきたいと思います。どうぞ,
とみに重要になってきたと思うのですけれども,
よろしくお願いいたします。
倫理観,倫理的意思決定力・調整力を高めること,
そして,それを実習指導上大いに活用していくこ
とが,患者さんのために重要なことですが,学習
者に倫理観を持たせていくうえで非常に重要と考
看護管理者の立場から・山西氏
職員教育を体系化し個人の目標管理を導入
えております。
また8つ目は,自分自身,人間性・感性の豊か
さにつねに努力するということ,そして最後に教
(キーワーズ:政策医療,臨床評価指標,臨床教
員,目標管理システム,クリニカルパス)
育へのコミットメントを高めることを挙げまし
た。コミットメントがなければ,専門職者とはい
えないとまでいわれております。訳しますと自己
山西
どうもご丁寧なご紹介ありがとうござい
ます。山西でございます。
を投入するとか,専心するということです。コミッ
では早速,臨床の立場で看護実践能力の向上を
トメントしている方には自信と誇りと情熱が見え
目指してということでお話しさせていただきま
ます。また,自信と誇りと情熱を持てばコミット
す。
できるということです。コミットメントというの
看護実践能力をどう考えるかということでござ
は私が留学中の1970年代にアメリカでよく使われ
いますが,静岡県の3施設の看護部長さんたちも,
た言葉ですが,今,日本に入ってきておりますの
このことをおっしゃっていますが,臨床側から臨
で,この言葉で最後を結ばせていただきます。
床看護実践能力をとらえるという視点は,先ほど
時間がちょっと超過して恐縮でございますが,
の小島先生と内容的には同じだと思いますけれ
私の発表を終わらせていただきます。ありがとう
ど,臨床の立場でご説明しますと,広い意味では
ございました。
人間関係の形成能力,看護サービス実践能力,狭
義の意味では看護サービス実践能力を看護実践能
内藤
小島先生,ありがとうございました。看
護基礎教育でどこまで到達すべきか,原理原則を
力といってもよいと思います。3番目にマネジメ
ント能力,それから4番目が指導・研究能力です。
理解して実施できる資格レベルまで,それは周到
看護実践国際分類ということでいっております
なカリキュラムと指導者と教育者,学習者が相互
のは,同じようなことを研究等で使われておりま
関係のなかで学生の個別性を大事にしていく,そ
すけれど,1988年の ICN の協会代表者会議で決議
して相互に投入できるコミットメント,これが大
された分類でございます。
切なんだということをお話しいただきました。
それでは次は山西文子先生にご発言をいただき
看護師同士,および看護師とそれ以外の人々の
コミュニケーションを改善する目的で看護を記述
する共通言語を確立する。
ます。
山西文子先生は,現在,国立国際医療センター
の看護部長でいらっしゃいます。先生は臨床,教
2番目としては施設内外のさまざまな場で人々
に提供される看護ケアを記述する。
育,行政,管理と,多岐にわたったご体験をなさっ
3番目としてさまざまな患者集団,あるいはさ
ていらっしゃいます。そしてとくに国立看護大学
まざまな看護の場,さまざまな地域や時代の間で
校設立準備室の課長補佐として,厚生労働省が設
看護データが比較できるようにする。
置する唯一の看護大学校の設立に向けまして,基
4番目として,看護診断に基づいて,患者ニー
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ズを把握し,そこから看護治療,看護ケアの供給
および資源配分の動向を提示し,または予測する。
なっております。
政策医療の分野を現在19分野プラス高度総合医
5番目として,さまざまな看護情報システムや
療ということで決めておりまして,それぞれの施
保健情報システムのなかのデータにリンクするこ
設で,このどれかがネットワークでやれるように
とにより,看護研究を促進する。
機能づけされております。
6番目として看護実践に関するデータを提供す
国立国際医療センターは,現在15のエイズ,そ
ることによって保健医療政策の策定に参画する。
れから18の国際医療協力,19の国際的感染症,そ
この看護実践国際分類は,看護現象,看護活動,
れに17の災害医療というところが機能づけされて
看護アウトカムの3分類体系から成っており,既
おります。最後の高度総合医療が行われている病
存の看護用語,あるいは看護分類システムとのク
院でございます。
ロスマッピングが可能であるという点で,統合の
以上のような機能をもった国立病院療養所の看
ためのフレームワークといわれているようです。
護師に必要な独自の能力といたしましては,先ほ
まず,私のおかれている国立国際医療センター
どのような医療を行っておりますので,高度先駆
は全国の国立病院療養所のなかの1施設でござい
的医療において必要な能力,それから広域災害医
ます。厚生労働省の所管のもとに,現在186施設が
療において必要な能力,国際医療協力において必
ありますが,それぞれ共通の目標,役割がござい
要な能力,国際的感染症への対応対策において必
ます。
要な能力ということでございます。
その役割は,1つとしては,診療ですが,分か
具体的な例で申しますと,特殊な環境下におい
りにくい言葉とよくいわれますが「政策医療」と
て健康生活を維持することが困難な状況にある人
いっておりまして,国立病院療養所の職員には周
間への専門的な看護展開能力および看護開発能
知されております。
力。
それから臨床研究,教育・研修,情報発信とい
それからどのような国やフィールドおよび状況
う4つの役割を果たすということになっておりま
にあっても,情報を組織化し,その情報を看護の
す。
展開に活用し,対象およびヘルスケアチーム員の
国立病院療養所が担うべき医療,つまり政策医
健康に関する査定を行う能力。
療ということはどういうことかといいますと,1
3番目としては健康問題解決に向けて,看護の
つとしては新たな社会的ニーズに対応する医療の
対象および対象にかかわるヘルスケアチーム員と
モデル的実施,国際的な感染症への対応,国際的
の相互行為を円滑に行う能力。
協力の一環としての医療,都道府県域を超えて対
応すべき広域災害に対応する医療です。
それから2番目としては,国民の健康に重大な
4番目として正常を逸脱した健康状態にあり,
特殊な生活環境におかれた人間への心理的な支援
を展開する能力。
影響のある癌,循環器病,神経・精神疾患,成育
5番目として正常を逸脱した健康状態にあり,
医療,腎疾患等の分野における高度先駆的医療。
特殊環境下で生活する人間へのケアを実践する意
3として,歴史的・社会的経緯から国立病院療
義と価値を認識し,国立医療機関の看護師として
養所が医療において中心的役割を果たすことが要
政策医療における看護を展開する使命感を有する
請されている部門の医療。
ということです。
4として克服すべき難病対策について,その対
これも一つひとつ取りあげますと,レベルがそ
策,対象疾患名をエイズ,難治性の免疫異常,感
れぞれあるわけですけれど,ここはレベルを無視
覚器障害,代謝性疾患と明確化し,これらに対す
して到達してほしい具体的な能力としてあげてお
る医療。精神疾患については他の設置主体では対
ります。
実際に私は看護部長として3年目になります
応が困難な領域への重点化した医療。
5として他の設置主体が実施する救急医療等を
が,患者様から安心で安全で選んでいただける看
補完して行う行動,第3次の医療ということに
護実践ができている施設を目指して,本日まで実
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践しております。当初はいろいろありましたけれ
患者への直接看護の提供者でもありますので,副
ども,今は少し安心して,本日のように施設を空
師長の教育もかなり徹底して行っております。
けられるようにまでなりました。つまり信頼して
それから,人事異動による組織の活性化という
だれにでもお勧めできるように,少しずつなって
ことで,人は環境により育つ,役割により育つ,
きたといふうに思っております。
上司により育つ,先輩の後姿を見て育っている部
2年間どのようにやってきたかをお話します。
臨床看護実践能力を身につけることをねらって設
分もあるわけですが,相手によって育つ,看護師
は患者から学ぶということでもあります。
立した国立看護大学校の主たる実習施設でありま
看護師は組織の一員として役割を務めるように
すので,これはそこの看護部長としての役割でも
なる,組織の活性化は異動にもよるということで,
あると自分自身は思っています。
配置替えは本人の希望を優先して行ってきまし
実践能力の向上のために,まず大事だと思って,
私がやってきたことは,まず看護管理者が非常に
た。かなり人事異動によって組織を活性化させて
おります。
大事だということです。とくに中間管理者が要で
医療の安全,質を保証するためには,医療の安
キーパーソンであるというふうに思っています。
全性の保証ということが,非常に重要なことだと
次は院内教育です。看護職員をどう育てるかが重
思っておりまして,品質管理の面からも事故防止
要であるということと,看護の基本技術が統一さ
対策を徹底して行っています。国,本省のほうか
れていないといけない。さらに看護に専念できる
ら指導がありまして,全国共通でやる部分もあり
安全な環境が必要である。それから良好な人間関
ましたけれども,私の施設においても昨年10月か
係も必要,組織的な取組みが重要であると考え,
ら専任のリスクマネージャーを看護師長のポスト
これらのポイントを常に意識し,看護管理者とし
におきまして,看護部だけではなくて,院内,縦
て実践してきております。
横に働き,施設全体の安全管理という面から活動
どのようにやってきたかをご紹介いたします
をしてもらっております。
と,看護師長の教育が第1ということで,徹底的
同時に医療安全管理室をつくりまして,そこに
に1年目,入ってからすぐ私の方針とか姿勢を示
院内感染の認定看護師も専任で配置して,感染防
しまして,そして大学校の役割,実習施設として
止の観点,あるいは医療事故の防止ということと,
の役割も明確にしております。それから看護師長
併せて機能してもらっています。
の管理業務基準というのを作成し冊子にしまし
実践能力を向上させる手立てとして,やはり医
て,副師長,看護師長には全員に持たせて,看護
療情報のシステム化ということも取組みの1つと
管理業務を徹底的に統一できるように何回も読み
してあげないといけないと思っておりまして,安
合わせ等をしたりして指導しております。
全,防止の観点からもいえることですけれども,
キャリアパスにつながるような姿勢の育成とい
業務をスリムにして,各オーダリングシステムの
うことで,看護師長等の研修を積極的に行ってお
導入,看護支援システムの導入,物品管理システ
ります。院外への研修も参加させ,臨床研究も実
ムの導入,看護管理システムの導入,勤務管理シ
施できるように環境を整え,姿勢の育成をしてお
ステムの導入ということと,事故防止のためのシ
ります。
ステムを医療センターでは行っております。PDA
国立は看護師長のもとに副看護師長が1病棟2
というハンディ端末を使って,処方された注射,
人ないし3人いる病棟がありますが,その副看護
点滴等の準備から患者様へ実施する前段階まで確
師長の教育がさらに重要だというふうに思いまし
認を,だれがいつどこで取ったかということがす
て,こちらのほうも看護実習にかかるスタッフの
べて分かるようになっています。もし患者様を間
直接指導者であるということと,看護業務の工夫
違えば実施できないようアラームが鳴るというふ
改善の実行者,組織的な各種業務改善の推進者で
うに事故防止の観点からもシステム化されており
もありますし,経営的な取組みの中心人物でもあ
ます。
ります。中間管理者として育成するということと,
もう一つ重要なことだと思っておりますが,経
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図1
営の安定なくして良質の医療はないということで
の文章化,経年別・対象別教育目標の設定,教育
す。実践能力と一番遠いところかもしれませんが,
内容の精選,教育方法の決定ということで,教育
経営の観点から日々病院経営のこともやっており
委員会のメンバーによる作成をいたしました。
医療センターでは望ましい看護師像としまして
ます。
実際に看護部が主導型で行いましたのは,昨年
は,総長がいつも「医療センターは日本の医療機
の診療報酬の改定を目指して,安定した経営のた
関のモデルになるようにやりましょう」と職員に
めの方策としてクリニカルパスの導入を図りまし
投げかけておりますので,看護にとっても看護師
た。また,救急受入れ態勢を積極的に整えて行い,
のモデルになるようにということで,輝いて生き
この結果,患者紹介率のアップ,平均在院日数は,
生きと仕事をして,信念を持って,自信を持って,
私がまいりましたときには24日ほどでしたけれ
いろいろ能力をつけましょうということでつくっ
ど,パスを導入したあと19日になり,現在は17日
ております。
をきるところまで下がっておりまして,年収も増
採用されたあと,何年目にどのような能力を身
につけたらよいか,個人でどのような目標をもっ
加しているところでございます。
最後に,一番重要なこととして職員教育の体系
て日々行っていけばよいかが分かるように,実際,
化ということです。先ほど国立病院療養所の役割
具体的に教育の体系図(図1)を作成しています。
と望まれる能力ということで申しましたが,それ
これらをすべて目標化されたもの,体系化した
を受けて,センターの使命,役割,病院の理念を
図とか,個人目標,個別の経年別の教育内容等を
具体化いたしました。看護部の歴史,理念,目標
すべてつくり冊子にして,630人ほどの全職員に
等の確認,それから望ましい看護師像の作成をし
配っております。いつもそれが手元にあって,自
まして,必要な能力の明確化,院内教育の考え方
分がどこを目指して今やっているのかが見られる
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もう一つは医療従事者だけではなくて,患者満
ような状況をつくっております。
同じ冊子に入れておりますけれど,基礎看護技
足度の調査を来週から1カ月間,入院と退院の患
術のチェックリストを作成しまして,これは毎年
者様から評価をしていただくように,ちょうど準
見直しておりましたけれども,日常生活援助技術,
備をしているところでございます。
診療の補助技術,感染予防法,医療機器の取扱い,
目標管理をすることによって,実践能力の評価
各診療病棟の特殊な技術ということで,臨床の現
等にもつなげたいというふうに考えているところ
場 で の 技 術 を 分 類 し ま し て, そ れ ぞ れ 細か い
でございます。
チェックリストを項目ごとにつくって,自分がど
今後への課題といたしましては,もっともっと
の技術が足りないのか,どの技術を経験して自信
実践能力,安心で患者様に選んでいただける病院
があるのかというところがチェックできるように
になるために専門看護師の導入とか,認定看護師
し,病棟間を異動してもチェックリストを見て,
の導入を図りたいと思っております。安全な看護
異動を受けるほうが対応できるようにということ
実践方法の開発を,研究を推進することによって
でやっております。
行いたい,優れた看護管理者の育成も図っていき
看護研究のほうもシステムを少し変更いたしま
たいと思っております。
して,病棟の持ち回りでやっておりましたのを,
患者様だけではなくて,職員も満足度が高くな
すべてやめてしまいました。研究を推進するとい
いといい仕事ができないのではないかと思ってお
うことで,資金を研究活動のために1件最高10万
りますので,職員の満足度も測定するようにした
円出して,専門家による指導を外から迎えて,積
いというふうに思っております。
極的に院外発表等も支援していくようにしており
病院そのものも,いい医療を行って,低コスト,
ます。それから研究会の活動報告書の作成,社会
高品質の病院であるように,あるいはマグネット
に向かっての PR 活動も併せて行っております。臨
ホスピタルの追求ということで,今後の課題とし
床看護研究能力の力で実践能力のレベルアップを
てあげさせていただきます。
発表は以上でございます。
図るという意図でございます。
医療の質の評価については,構造の評価とプロ
セスの評価,結果の評価といろいろいわれており
内藤
山西先生,ありがとうございました。看
ますが,私のところでは今目標管理システムとい
護職の実践能力向上には中間管理者が要であるこ
うことで,先ほども申し上げましたが,施設・病
とを中心に,臨床現場における幾つかの試みを発
院そのものの目標もありますし,看護部の目標,
言いただきました。
評価,それから各看護単位の年間の目標,評価,
看護部職員個人目標の評価ということで,実際に
それぞれが目標評価をしたものを看護部活動報告
それでは次にご発言をいただきます川村佐和子
先生をご紹介いたします。
川村佐和子先生は,現在東京都立保健科学大学
の教授でいらっしゃいます。先生は横浜保健所の
書として冊子にまとめております。
それ以外に国立病院療養所では現在,ちょうど
保健師をスタートとして東京都立府中病院の師長
臨床評価指標ということで,クリニカルインディ
をされましたときに,在宅診療に着手されてい
ケーターという評価指標を昨年から検討し作成し
らっしゃいます。そして昭和40年ごろから訪問看
たものが冊子として,各施設に4月末におりてお
護に取り組まれ,ただいまご専門でいらっしゃい
りまして,診療に関する構造の評価とか,プロセ
ます在宅看護の先駆者としては,皆様が周知され
スの評価,結果の評価を,年間あるいはある特定
ているところであります。なかでも人工呼吸器を
の期間とか件数ということで,全施設が共通のも
装着した ALS 患者を地域で支えるためのシステム
のと,それからネットで行った政策医療の分野ご
づくりなど,神経難病における治療看護体系の確
とのものと,両方が評価できるように指標に基づ
立に貢献が多大な方でいらっしゃいます。
いた共通の評価指標で評価を試みているところで
ございます。
そして,各学会や国,地方公共団体など,多く
の公的委員として活躍され,とくに今注目の「新
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57 )
たな看護のあり方検討会」の座長をお務めになり
療養上の世話と診療の補助に分類されておりま
ました。
す。2つのうちの1つ,診療の補助は,同じく保
本日は,この「新たな看護のあり方検討会」の
助看法の第37条で臨時応急の場合を除いて,この
座長として,在宅看護に焦点を当て,医師のいな
ように規定がございます。
「主治の医師または歯科
い場で,看護職者が単独判断し看護を展開してい
医師の指示があった場合のほか,診療機械を使用
くことが必要となる在宅看護の特徴から,在宅看
し,医薬品を授与して,医薬品について指示をな
護における実践能力の考え方,現状の課題,そし
す,その他医師もしくは歯科医師が行うのでなけ
て展望など掘り下げていただきたいと思います。
れば,衛生上危害を生ずる恐れのある行為をして
先生,よろしくお願いいたします。
はならない」,つまり医師の指示を必要とする行為
ということで規定がございます。
ところが療養上の世話については規定はありま
在宅看護の立場から・川村氏
せん。そこで医師の指示をめぐって,2つの解釈
利用者の QOL の向上を的確な看護判断で
が成立します。
まったく医師の指示を必要としない,この2つ
川村
ご紹介いただきました川村です。このよ
の極の間に指示を必要とする場合,しない場合が
うな盛大な学術集会で発言させていただけるとい
あるということになります。従来は,必要な場合
うことを大変うれしく思って,会長の先生および
も必要としない場合もあるという,この考え方が
司会の先生に御礼を申し上げます。
一般的でありまして,一つひとつこの行為はどち
私は長らく在宅看護を実践してまいりましたの
らに分類されるのかと,それぞれの実践現場で行
で,主として訪問看護師の立場から発言をいたし
為別に判断を求められ,看護師の業務に対する責
ます。注文をいただきましたので,本日は本年3
任が曖昧になっていたのではないかという指摘が
月にまとめました厚生労働省の「新たな看護のあ
ありました。
り方に関する検討会」の報告の内容を中心として
そこで行政から理論的に曖昧な部分を残さず,
医師の指示を必要としないという解釈が提案さ
話を進めさせていただきます。
この検討会は近年の社会状況の変化を受けまし
て,1.医療技術の進歩に伴う看護業務の見直し,
れ,討論の結果,これが支持されていきました。
しかし実際上は医学的判断を必要とする場合が
2.医師と看護師等の連携のあり方,3番目がこ
当然あります。看護師は必要に応じて医師にきち
れらを推進するための方策についてという課題で
んと意見を求めるということを,そこに書き加え
検討をいたしました。
るということになりました。つまり療養上の世話
ここでは本シンポジウムの趣旨に沿うものとし
は,行政解釈では医師の指示を必要としない,け
て,次の3点について,ご報告したいと思います。
れども,必要に応じて,看護師がきちんと医師に
まず総合的に看護師の業務について,看護師等,
意見を求めるべきであるという考え方になってお
つまり保健師,助産師,看護師,准看護師は利用
ります。
者の QOL 向上を目的に療養生活支援の専門家とし
この部分の報告書の文章です。
「療養上の世話に
て的確な看護判断を行うということを中心にまと
ついては,行政解釈では医師の指示を必要としな
めました。
いとされているが,療養上の世話を行う場合にも
本日のテーマに関連する項目は第1点は,看護
状況に応じて医学的な知識に基づく判断が必要と
業務の考え方,2つ目が看護師等による静脈注射
なる場合もある。このため,患者に対するケアの
の実施に関する行政解釈の改正,そして医師と相
向上という観点に立てば,医療の現場において療
互信頼関係のもとに密接に連携する方法の検討と
養上の世話を行う際に医師の意見を求めるべきか
いうことにさせていただきました。
どうかについて,適切に判断できる看護師等の能
まず看護業務の考え方について説明をさせてい
ただきます。看護師の業務は保助看法第5条で,
58
58(1808)
力,専門性を養っていくことが重要である」
,この
ように書かれています。
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当然,利用者の状態,行為の侵襲性,看護師の
要があります。
力量によって,どのような行為をどの程度の裁量
平成10年に研究費をいただきプロトコル,施設
をもってできるのかということが決まってきま
内基準について研究をいたしました。この研究班
す。医師の意見を求めるのかということも決まっ
には次にご発表くださいます西島先生にも参加し
てきます。この判断はそれぞれの実践現場で異
ていただきまして,先生には大変ご指導をいただ
なっております。個別に実践者間で必要を満たす
きました。
約束を行っておくことが重要になります。これが
研究成果ですが,総論として訪問看護師は提供
医師と看護師等との信頼関係に基づく連携の内容
する内容を事前に医師や利用者に開示し協議して
でもあります,その方法論としてはクリティカル
修正し,共有しておくことが大切である,そのた
パスですとかプロトコル,施設内規準などのツー
めのツールが必要だということを導きました。
ルを使っていくということもできます。
次いで,看護師等による静脈注射に関する行政
そのことから14種類の医療行為に関してプロト
コルを作成いたしました。プロトコルはこのよう
な構成で作成してあります。
解釈の改正について話を移します。
ご存じのように昭和26年に厚生省医務局長から
1.プロトコルの適用条件
静脈注射は医師,歯科医師が行うべき行為であり,
2.看護支援の目標
看護師の業務の範囲外であるという通知が出され
3.医療処置に伴う異常・トラブル,この内容
ております。これに関して討論した結果,看護師
はリスクマネジメントであり,判断すべき医学的
の教育水準の向上や医療器材の進歩,94%の病院
基準につきましては主治医から示されるものを用
の医師が看護師に指示を出し,90%の病院の看護
いるということにしてあります。
師と60%の訪問看護ステーションの訪問看護師が
4.アセスメント並びに医師への報告の基準。
これを行っているという実態との乖離をこのまま
3および4の項目は医学的判断について医師と
放置しておくことはできないという理由で,看護
協議して考え方や基準となる数値を定めておくと
師等による静脈注射の実施に関する行政解釈を改
いうふうにいたしました。
めてはいかがかという提言をいたしました。
そして平成14年9月30日に厚生労働省医政局長
から,医師または歯科医師の指示のもとに看護師
5は以上の内容をまとめて看護判断と実践を流
れ図,これを判断樹と呼びましたが,このように
して示しました。
等が行う静脈注射は保助看法第5条に規定する診
最後に利用者に提示し,意見を入れて修正し,
療の補助行為の範ちゅうとして取り扱うものとす
3者で約束文書を作成するというものです。これ
るという通知が出された次第です。
は看護判断と実践の流れ図のモデル,先ほど判断
しかし薬剤の血管注入による身体への影響が大
樹という言葉を使いましたが,それのモデルにな
きいということに間違いはありません。安全に実
ります。青い四角が医師のかかわりを示します。
施できるように教育や研修を行い,看護師等の能
この薄紫の楕円形が看護師の行為というふうに考
力に応じた看護師内の業務分担が必要なことを指
えてご覧ください。
まず医師が指示を出します。その次に看護師が
摘し協力を求めております。
第3点の,医師と相互信頼関係のもとに密接に
この患者さんの状態を観察し,医師と取り決めた
判断基準を満たしているか,満たしていないかと
連携する方法の検討に移ります。
これはチーム医療ということを前提にした考え
いうことを踏まえて,看護の判断をし,この基準
です。在宅医療を支える訪問看護では,指示を受
を満たしているという判断ができれば指示を実施
けた場合,利用者の自宅で医療行為を行うことに
して,その後医師に報告をする。このことが毎回
なります。利用者の自宅には医師も同僚の看護師
の訪問で繰り返されていくというふうにつくって
もいるわけではありません。単独で安全な看護を
あります。
提供しなくてはなりません。そこで従来の医療施
ここの「基準を満たさない」ということについ
設内での看護提供法とは異なる方法を研究する必
て,例えばインスリン注射をしている方の場合で
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すが,前夜食事も取れずに,ひどい発汗や下痢,
方に関する検討会」の報告を踏まえて,訪問看護
嘔吐があった今朝も何もたべていないという場合
を中心とする看護実践のあり方について述べさせ
ですと,医師の指示が事前にあっても,指示どお
ていただきました。
り実施してよろしいかどうかということについて
訪問看護師は利用者の生活の質の向上のために
的確な看護判断と適切な看護技術によって,療養
は,直前の判断が必要になります。
このような場合には利用者の病態が医師と取り
上の世話を実施し,医師の指示がある場合には医
決めた医学的判断基準を満たさないことはどこで
療行為を安全に実施するということが期待されて
観察されているか,現在どのような状況であるか
おります。看護師等は療養生活支援の専門家とし
といったことを考えあわせ,看護判断として,指
て,専門性,自立性を発揮して,適切な看護支援
示どおり実施しないほうがいいのではないかと判
を提供できるように研鑚しつづける責任がありま
断した場合は,医師に報告し,指示の変更がある
す。
か否かを求めるという段取りに入っていきます。
また最近では日本看護協会が認定看護師,専門
この場合,基本となる医師の指示,行為を行う
看護師等を認定し,専門分化された質の高いサー
事前の指示は標準的事前指示ということもできま
ビスができる看護師を養成しております。認定看
す。
護師等は質の高い看護を提供していく上で非常に
具体的な活用例をほかの事例で示してみます。
大きな先導役を果たしてくれると期待しておりま
主治医との協議で決めた基準に基づいて全身状
す。
態が良好であると看護師が判断できれば,準備し
てある器材でカテーテルを予定のマニュアルに
私の発表はこれで終わりにします。ありがとう
ございました。
沿って交換してよろしいという指示があったとい
たします。利用者Aさんは孫と会食に行こうと外
内藤
川村先生,ありがとうございました。
「新
出しているときに,カテーテルが抜去してしまい
たな看護のあり方に関する検討会」の内容,主要
ました。同行している看護師が観察し,医師によ
なところをご説明いただきました。
る基準と照らし合わせ,Aさんの全身状態が良好
次には西島英利先生をご紹介いたします。
であると判断できると,持参している器材を使っ
先生は福岡県北九州市にあります医療法人小倉
て,すぐカテーテルを交換しました。そこでAさ
蒲生病院の病院長でいらっしゃいますとともに,
んは会食の時間に遅れずに着くことができ,楽し
ただいま日本医師会常任理事として,厚生労働省
く孫と食事を取れるということになります。この
や民間団体のさまざまな委員会,検討会,懇談会
ような状況には訪問看護師はよく直面しておりま
の委員として重責を担っていらっしゃいます。
本日は,医療のリーダーである医師の立場,そ
す。
従来ですと,事前の指示がないということがあ
して日本医師会のお立場で医療を担うパートナー
りますので,まず看護師は医師を探し報告し,病
である看護職に看護実践能力として期待するも
院にカテーテル交換のために連れていき,交換を
の,今後の展望を含めて論じていただきたいと思
受けるという段取りになります。多分Aさんはそ
います。どうぞ,よろしくお願いいたします。
こに大変たくさんの時間を費やし,楽しみだった
孫との会食を延期せざるをえないということにな
ると思います。
このように利用者の生活上の支障を最小限に
医師の立場から・西島氏
包括的指示と看護判断,医療安全の問題
し,QOL の向上に役立つ看護を提供するという目
的を達成するために,看護師等は医師と協力して
西島
きょうは看護の問題でございますので,
質の高い看護を安全に提供する,このような努力
そういう意味での厳しいご指摘をするのかもしれ
を惜しんではならないと考えます。
ませんが,その前提としては医師も変わらなけれ
まとめです。厚生労働省の「新たな看護のあり
60
60(1810)
ばいけないということでございます。
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日本医師会が策定しました「医の倫理綱領」,以
一度指示を受ければ,そのまま続くということで
前はパターナリズムといいまして,父親が子ども
はございません。やはり患者さんの状態に応じて,
に接するように患者さんに接しなさいというのが
指示は的確に変更していかなければなりません。
医の倫理綱領だったわけでございますが,先年,
そのときに重要なのは看護判断により医師に報告
改定をいたしまして,やはり患者さんの目線に降
をし,その場で具体的な指示を変えていくという
りてきて,立って,分かりやすい言葉で説明をし
ことで,それがこれからの医師と看護の関係に
て患者さんに接するということが,新たな「医の
なっていくだろうと思います。
倫理綱領」になりました。当然これは大学教育等々
次は療養上の世話でございます。先ほど行政的
にも今後使われていくということになります。そ
には医師の指示は要らないということでございま
ういう意味で医師も当然変わらなければいけない
した。しかし質の高い療養上の世話をするという
わけでございます。
ことになりますと,それぞれの立場の専門職の意
看護もこの時代の流れのなかで,さまざまなこ
見を聞くということが,質の向上にも当然つなが
とが変わってまいりました。やはり考え方も変
るだろうというふうに思います。医師の指示を受
わっていかなければいけないと思います。そうい
けるかどうかという話もあったわけですが,医師
う観点からきょうは医療の安全ということを中心
以外にも薬剤師があり,その他さまざまな専門職
にお話をさせていただきたいと思います。
がチーム医療のなかでいるわけですから,そのと
先ほどの「看護のあり方の検討会」の報告書を
きどきに応じて,きちんと意見を聞くということ
中心にして,視点の違う立場からお話をさせてい
が患者さんの療養上の質を向上させることになる
ただきたいと思います。
であろうというふうに思います。
まず医師等との連携のあり方でございます。当
またさらに療養上の世話,患者さんが安心して
然,静脈注射ができるようになってきたというこ
療養を受けられる環境をつくるのは,やはり看護
とは,ある意味では包括的な指示というのが盛ん
の役割だと私どもは考えております。そういう観
にされるようになる。今まではすべてこういう場
点から,これにつきましてはのちほど,もう少し
面で何かトラブルが起きますと,それは医師の責
詳しくお話をさせていただきたいと思います。
任であったわけです。当然,これからも医師の責
3番目はインフォームドコンセントでありま
任であるわけでございますけれど,包括的な指示
す。看護が看護の考え方,知識,経験のなかで当
のなかで一番重要なのは看護判断でございます。
然患者さんや家族の方々に説明をし,納得してい
先ほどもそういう話がいろいろと出てきました
ただくということもインフォームドコンセントで
が,看護判断というのは,看護がまさしくこのま
ございますけれど,ここで重要なことは2点ござ
まやっていいのかどうかを判断するわけございま
います。
す。もしそこに,このままでは問題があるのでは
それはどういうことかといいますと,医師が患
ないかと判断した場合には,当然,医師と協議を
者や家族にどういう説明をし,納得をしてもらっ
していかなければならないということです。
ているのか,この情報はやはり共有しておかなけ
ですから,そういう判断をしないまま,指示が
ればいけません。つまり医師のいう説明と看護の
あったからということでやっていき,それが重大
説明に食い違いがあれば,それは患者さんや家族
な医療ミスという形になってまいりますと,当然,
の不安につながるわけであります。そういう意味
看護の責任が問われるようになってくる,そうい
では,これから先の連携,情報の共有は非常に重
うようにこれからは考えていく必要性があるだろ
要な部分であろうというふうに思います。
もう一点は,説明をしたから,ということでは
うと思います。
そうなりますと,やはり看護の質の向上という
ないだろうと思っております。説明をし,本当に
のは非常に問われてくるようになると考えており
患者さんや家族の方が理解をされたのか,これが
ます。
一番重要なポイントであろうと思います。私自身,
いわゆる包括的な指示でございますが,これは
実は北九州のほうで医療事故の担当をいたしてお
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りました。そのときによく聞いた言葉は「ちゃん
受けることができることになるだろうと思いま
と説明しました」ということです。しかし患者さ
す。看護の役割というのは非常にそういう意味で
んに聞きますと,
「そういう説明を聞いた覚えはな
は重要であると思います。
い」といわれます。それはどうしてかといいます
これから先の癌の末期の患者さんの疼痛の問題
と,患者さんが理解をしていなかったからであり
がございます。在宅で療養生活を続けるときの疼
ます。家族の方が理解をしていなかったからであ
痛管理の問題は非常に重要でございます。医師の
ります。
包括的指示のもとで疼痛患者のための薬剤を使う
そういう意味ではインフォームドコンセントと
場合もあるわけでございますが,非常に危険な薬
いうのは「説明と納得」ということがよく使われ
剤でございます。そういう意味では包括的指示が
るわけでありますが,それプラス,納得ではなく,
あるとしても,さらに具体的な指示を受ける,そ
本当に理解されたのかどうか,それを確認する必
してその具体的な指示のなかで,状態が少しでも
要性があるというふうに思います。
変わってきているというふうに看護判断した場合
そういう意味で医師と同時に,共通の情報を共
には,当然,医師と協議し,具体的な指示を変更
有したなかで,家族や患者さんにインフォームド
していくことが必要であろうと考えております。
コンセントを行うということが,安心して療養生
4番目は在宅で死を迎える患者さんへの対応で
活が受けられる環境づくりにつながっていくだろ
ございます。これもよくいわれることでございま
うというふうに思います。
すが,いざというときに医師がいないということ
2番目の望ましい看護のあり方でございます。
です。しかし,急な突然な死ということは別問題
これは先ほどからそれぞれのシンポジストの方々
といたしましても,高齢者の方が自然の流れのな
が詳しくご説明をされております。しかし一番大
かで死を迎えられるということになりますと,あ
事な部分は看護技術ではなく,先ほどの特別講演
る程度の予測のつく話でございます。医師がすぐ
のなかにもありましたけれど,
「自分が患者になっ
に来られない状況の場合にはどうしたらいいの
たとき」という,まさしくそこでございます。患
か,これを家族を交えたなかで,看護と医師が協
者さんの立場に立って,本当にこれでいいのかど
議をし,そしてそういう態勢づくりをしていくと
うか考えられる,そういう看護教育ということが
いうことは必要なことであろうと思います。
非常に重要であろうというふうに思います。
患者さんが亡くなった状況のなかで,医師が来
3番目,これは在宅医療の推進でございます。
るまで数時間もそのまま待たなければいけないと
これから先は,やはり在宅医療が進化をしていく
いうことは,これは家族の方にとっては悲しみが
であろうと考えております。また入院中心の医療
大きくなる話でもございます。やはり,そういう
から,地域中心の医療へと大きな変換を遂げよう
ことを積極的に医師と協議をし,そういう態勢づ
といたしております。介護保険もスタートし3年
くりをすることは必要であろうと思います。
目の報酬上の見直しが行われました。報酬上の見
ただ,私は先ほど医師も変わらなければいけな
直しの大きな視点は,実は質の向上でございまし
いというお話をいたしました。これはあくまでも,
た。今度は介護保険では制度の見直しが行われま
どうしても医師がすぐに駆けつけられない状況の
す。これも検討会がスタートいたしまして,私自
ときの話でございます。やはり,そういう状況に
身もその委員の1人でございますけれど,こうい
なったときには速やかに自宅に行き死を看取ると
うなかで,いかに安心して在宅のなかで医療を受
いうことは,当然医師としての義務であろうと考
けることができるかということを考えたときに,
えております。そういう意味では私どもは全国の
在宅医療の中心は看護であろうというふうに考え
会員,医師の皆様方に対して,こういう啓発活動
ています。
はきちんとしていくべきであるというふうに判断
そのなかで,一番最初に申し上げました包括的
をしているところでございます。
指示の考え方,それから看護判断の問題,こうい
そこで医療の安全を少しだけ具体的にお話をし
うことを含めて,はじめて安心して自宅で医療を
ていきたいと思います。まず安全を守ろうとする
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立場,安全が守られるべき立場,これは患者さん
策があらかじめ立ててあることが重要でありま
の立場でございますけれども,考えられないこと
す。重大事故を想定し,緊急避難,救済援助方法
でございますけれど,安全を破ろうとする立場,
が整備されていることも重要であります。そして,
これがあるわけでございます。
同時にこれらは定期的に訓練をしていくことが大
安全を守ろうとする立場,ここで問題になって
いるのが見過ごし,見落とし,先入観であります。
事であります。
東京女子医大の問題で機械が作動しなくなった
あってはならないことが,実は起きるわけであり
という状況で大変な事態が起きたわけでございま
ます。つまり見過ごし,見落としはあってはなら
すけれど,やはり常日ごろの定期的な訓練という
ないことであります。一番大きな問題は先入観で
のは重要であろうと考えております。
あります。やはり再確認ということが非常に重要
メディカル・ファシリティ・マネジメント,こ
れは医療安全のための管理手法であります。これ
であろうと考えています。
患者さんの立場から考えていきますと,普段で
きることが病気のためにできないことに気づかな
いということが,よくあります。普段の注意力が
を少し看護に応用して考えていきたいと考えま
す。
まず,
「つま先の目」であります。転倒し,足を
当然病気のために働かなくなってしまう。そして,
滑らせて,そして骨折をしたということは医療機
これはされなくてもいいのですが,どうしても患
関でよくあることであります。つまり私どもは「つ
者さんは気兼ね,遠慮,差恥心が働くということ
ま先の目」で物事を判断する必要性があるであろ
で,これが実は事故につながっていくということ
うと思います。よく水が落ちていて,その水で滑っ
もあります。
た,これはあってはならないことであります。や
こういうことを我々医療従事者はきちんと理解
をし,そして患者さんと話を十分にしていく必要
性があるだろうというふうに思います。
はり「つま先の目」で見る感覚が必要であろうと
思われます。
さらに,麻痺のある方は,実はつま先が上がら
見過ごし,見落とし,先入観,これがあっても
ないわけです。歩く場合,まずかかとから降りて
安全が守られることは非常に重要でございます。
いきます。ところが麻痺のある人はつま先が上が
そういう意味ではダブルチェックにより,発見さ
らないわけですから,滑るように足が行きます。
れ改善されるということは必要なことだと考えて
そうしますと,我々ではどうということのない段
おります。昔からいわれている言葉でございます
差が,その患者さんには大変な段差になり,それ
がダブルチェックです。医師のチェックは看護が
につまずくことになります。たった1ミリの段差
できます,医師のチェックは薬剤師ができます。
が実際は転倒して骨折につながるということもあ
しかし看護のチェックをだれがするのでしょう。
るわけであります。
「つま先の目」というのは,い
チーム医療のなかで,とくに病院の医療ですと,
ろいろなことで考えることができます。
3交替制度を取っておられるところがたくさんご
さまざま形での障害物を判断することもできま
ざいます。本当に正確な情報がきちんと伝達され
す。落とし物の発見,これも「つま先の目」であ
ているのかどうかということも,それぞれの個人
ろうというふうに思います。いろいろなものが実
個人が認識をしていく必要性があるであろうとい
は落ちているわけです。一番大きい落ち者は,埃
うふうに思います。
であります。清潔でなければならない医療環境の
気がつかないことがあっても安全が守られるこ
なかで埃がたくさんあるということは,実は「つ
と,これはまさしくデータによる客観的事実が記
ま先の目」でないと見えない話であります。と同
録されていることが重要であります。患者さんで
時に,やはり本当に真上から見てもわからないわ
あれば,声をかけ,そして反応を見ること,これ
けでありますから,まさしく腹ばってでも見る,
も重要な部分であろうというふうに思います。
そういう感覚が必要であります。
わざと行われる破壊的行為があっても,安全で
2番目は「ひざの目」であります。ひざという
あること,これは好ましくない行為を想定して対
のは,歩くときも,まずひざから出ていきます。
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そういう面ではいろいろと危険物を察知するのも
はない」,医師も「間違いはない」,ただ輸血をす
ひざであります。何かにぶつかるというのも,ま
るかどうかの判断がまだ決まっていなかったの
ずひざからぶつかります。こういう目での考え方
で,冷蔵庫の中に入れた,そのときに冷蔵庫の中
もやはり看護にとっては必要だろうと思います。
に入れた血液,それがもう1本別にあったわけで
3番目が「手の平の目」であります。手の平と
あります。そのときに名前はちゃんと書いてあっ
いうのは,ある意味では冷たい熱いというのを感
たわけですけれど,別の意味で赤のマジックで書
じるところでもあります。それから硬い柔らかい
かなければいけないというマニュアルになってい
というのを感じるところでもあります。やはりこ
た。そうしますと,赤で血液ですから見なかった。
ういう目を持つことも看護には必要だろうと思い
たまたま,そこに置いてあったので,その血液を
ます。
持って行ったら,別の人の血液だったという状況
4番目は「普通の目」
,これは冷静に物事を見る
であります。つまりつねに,そういう形で戸棚の
目であります。これはまさしくリスクマネジャー
中のほうまで見ていない,こういうことが,こう
の役割だろうと考えます。1から3につきまして
いう大きな事故につながってしまったということ
は,これはそれぞれ個人の看護婦が考えなければ
を,この番組は示唆をしておりました。
ならない目でございますけれども,4番目はこれ
はリスクマネジャーの目であろうと思います。
5番目が「頭のてっぺんの目」。これは患者さん
そういう意味で常日ごろのチェックというのは
必要であろうと考えています。
8番目が耳,鼻,舌の「3感の目」であります。
をイメージしていただいたら分かると思います
音でいつもと違うというのを感じる,鼻で匂いで
が,患者さんはつねに上を見ているわけです。上
感じる,例えばよくあるのが消毒薬と薬剤を間違
に危険物があれば,当然患者さんは不安でありま
えて投与した,これは鼻で匂いを感じれば,これ
す。そういう目も養う必要性があるだろうと思い
は簡単にチェックできる話であります。そこに
ます。
あったから,そのままやってしまったということ
6番目が「背中の目」であります。背中という
のは勘であります。昔学校の先生が,黒板に字を
ではなく,匂いという感覚も非常に大事であろう
というふうに思います。
書きながら後ろの子どもたちに向かって「こら,
舌の感覚もそうであります。食事に対して,や
騒ぐな,ざわざわするな」と,何で先生は背中に
はり検食という部分もございますが,本当にそう
目があるんだろうというふうに思った,そういう
いう意味で皆さんが検食をされているのかどう
時期があったかもしれませんが,まさしくこれは
か,こういうことも予防するという感覚では非常
勘であります。経験と勘によって,そういうこと
に大事な3感の目になるだろうというふうに思い
を察知される,これは非常に重要なところでござ
ます。
実は,これは私どもが日本医師会の医療安全推
います。
しかし,大事なことは,あくまでも勘でござい
進者養成講座のなかの医療施設管理のなかに書か
ますから,確認をすることが大事であります。勘
れている部分でございます。しかし,日々の業務
で判断をしますと,それが事故につながるのです。
に追われ,一番簡単に防止できるところを我々は
そういう意味では必ず確認をするということは重
忘れてしまっているのではないだろうかというふ
要なことだろうと思います。
うに思います。さまざまなシステム,さまざまな
7番目が「透視の目」です。見えないところに
マニュアル,それは大事でございますけれども,
さまざまな危険な部分がございます。戸棚の中に
しかし人間が人間を見る,人間が人間を看護する,
もあります。
そういう観点に立ってもう一度見直しをしていく
先日,NHK を見ておりましたら,東京女子医大
必要性があるだろうと,私自身は考えます。
の半年間の取組みがございました。そのなかで輸
もう一度申し上げます,医師も変わらなければ
血のときの血液型の検査が間違った状況が映し出
いけません。しかし,皆様方,看護もやはり考え
されておりました。看護婦さんは「決して間違い
方を変えていく必要性があるというふうに思いま
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2003年12月
日本病院会雑誌
講習会を開催しております。1972年には看護学校
す。以上でございます。
の教員養成のための1年コースを全国に先駆けて
内藤
ありとうございます。西島先生のほうか
一番最初に開設をいたしました。そのとき第1期
ら,医師も変わらなければならないけれども,看
生が41人卒業したのですが,以後26年間にわたっ
護もしっかりと変革しなければならないという
て教育を実施して,約1,300人の方が,看護教員の
メッセージをいただきました。医療安全という角
養成コースを終了していらっしゃいます。
度から,全身を使った観察の目,感じる目,そし
1987年には清瀬市に看護者の生涯学習の拠点と
て判断力が重要であるというご示唆をいただきま
して,看護研修センター(現在の看護教育・研究
した。
センター)を開所いたしました。1998年には神戸
最後にご発言をいただきます岡谷恵子先生をご
市に第2の研修拠点として神戸研修センターを開
いております。現在,この2カ所のセンターで年
紹介いたします。
先生は現在,日本看護協会の専務理事でいらっ
間75コースの教育プログラムが開講されて,全国
しゃいます。先生は,看護管理者の教育や看護実
から毎年約8,000人の看護者の方が受講してい
践,看護行政に関する看護研究を多岐にわたって
らっしゃいます。
実施されています。日本看護協会がスペシャリス
ここでは特定分野の専門的知識を深め,確実な
トコースとして1996年,救急看護と WOC をスター
援助技術を習得するためのプログラム,認定看護
トに設立され,先生はこのコース立上げに大変貢
管理者の育成プログラム,医療制度や医療技術等
献されたとうかがっております。
の変化に応じて,より最新の知識や技術を得るた
本日は,日本で最大数を占める職能団体である
めのプログラム,認定看護師の養成コースなど,
日本看護協会のお立場で,看護実践能力を向上さ
さまざまな教育プログラムを提供しておりまし
せるには,今何が課題であり,向上を阻んでいる
て,2日間のコースから約6カ月以上の長期のも
ものは何か,制度のあり方などから,日本看護協
のまで多岐にわたっております。
会の役割を通して論じていただきたいと考えま
す。どうぞよろしくお願いいたします。
現在,日本看護協会が,会員を中心にした継続
教育予算の総額は今では約9億円にのぼります。
継続教育のほかには,ある特定の看護分野で,
優れた看護実践能力を有するスペシャリストの認
看護協会の立場から・岡谷氏
定制度を運用しております。これは認定看護師制
専門・認定看護師制で高水準の看護ケアを
度,専門看護師制度というもので,8年前に創設
され,年々認定者が増え,現場で活躍をしている
岡谷
ただいまご紹介いただきました日本看護
状態でございます。
このほかに1967年には日本看護学会を発足させ
協会の岡谷でございます。
日本看護協会は今から57年前の1946年11月に日
ました。看護分野の学会はこの当時は本会の日本
本産婆・看護婦・保健婦協会という名称で設立さ
看護学会ぐらいしかなかったのですが,今では全
れました。現在の名称になったのは1951年からで
国に看護の学会だけでも200以上の学会があると
ございます。日本看護協会と名称を改めたときの
聞いております。日本看護協会は,毎年,9つの
会員数が85,000人でございました。52年後の2003
専門領域の学会を開催しておりまして,平成14年
年3月末現在の会員数が約540,000人と大きく成
度では9学会で発表演題数が約1,150題,一般参加
長しております。
者が約16,000人という規模の学会に成長しており
本会は専門職能団体として,看護者の実践能力
ます。
の向上については会の設立当初から今日まで非常
このほかには安全でより質の高い看護ケアを提
に熱心に取り組んできております。設立の1年後
供するために看護基準やさまざまなガイドライ
には第1回の看護指導者講習会,これは週2回ず
ン,または指針といったものを作成して,その周
つ3カ月間にわたって行われましたが,そういう
知普及に努めるという活動をしております。また
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もっとも重要な指針として「看護者の倫理綱領」
会が行う認定審査を受け,合格をすれば専門看護
を今年新しく改定いたしまして,患者や家族の生
師として認定されるという仕組みです。
命や人間の尊厳の尊重,人権を擁護するといった
専門看護師の教育は日本看護協会と日本看護系
看護者の倫理的行動指針の自覚を促しているとこ
大学協議会が契約を結んでおりまして,これは役
ろでございます。
割分担なのですが,日本看護協会は専門看護分野
さらに看護者の実践能力向上のために,今検討
の特定と専門看護師個人の認定を行う,日本看護
しておりますことは卒後の臨床研修の必修化,そ
系大学協議会は専門看護師の教育課程分野の特定
れから免許の更新制といった看護政策を提案して
と,専門看護師教育課程の認定をするということ
います。国民の生命と健康と生活を守るライフサ
です。このほかに看護の学会,専門的な団体や行
ポーターとして質の高い看護ケアを提供するため
政なども制度についての議論に加わり,専門看護
に,看護者の資質の向上は不可欠です。
師の制度については日本看護協会が認定を行うと
このように日本看護協会は看護者の実践能力の
向上のためのさまざまな事業を提供していますけ
いうことで,看護界全体が合意をしてつくり上げ
た制度であるということです。
れど,そのなかで専門看護師と認定看護師制度に
今実施されている専門看護師の教育課程の分野
ついて,お話をしたいと思います。時間があまり
としては,10分野が認定されております。これが
ありませんので,簡単に説明します。
看護における専門分化の一つの考え方を示してい
専門看護師制度は水準の高い看護ケアを効率よ
く提供するということが,一番の目的でございま
るといえます。
今現在,専門看護師の認定者数というのは,ま
だ43人と少ないです。制度が始まって6年がたち
す。
ある特定の分野で卓越した実践能力を有する専
ますが,まだまだ43人しか輩出されていないとい
門看護師をつくることによって保健・医療・福祉
うことです。一番多いのはがん看護で18人,精神
の発展に貢献し,併せて看護学の向上を図るとい
看護が11人,そのほかは1桁という状態です。在
うことを目的としております。
宅医療の推進ということを,私たちは掲げている
専門看護師には5つの役割がございまして,卓
のですが,そういう意味で,地域看護で専門看護
越した看護実践が行えるということ,これは直接
師が輩出してこないということが一つの大きな課
的に患者さんをケアできるということ,それから
題になっているところでございます。
教育的な機能,ケア提供者に対する相談機能,ケー
アメリカには,アドバンスト・プラクティス・
スマネジメントといったようなコーディネーショ
ナース(上級実践看護者)というのがあります。
ンの機能,最後が臨床の場における研究の機能と
APN と略されていて,4種類のスペシャリストが
いうものでございます。
含まれます。1つはクリニカル・ナース・スペシャ
今現在,専門看護分野として,がん看護,老人
リスト(CNS),これは日本の専門看護師と同じよ
看護,地域看護,小児看護,母性看護,精神看護
うなものです。それからナースプラクティショ
の6分野が特定されておりまして,この6分野に
ナー,これは開業権を持ち,ある一定の範囲で薬
ついて認定審査が行われております。専門看護師
の処方などもできます。それから麻酔専門看護師,
の認定要件は,保健師,看護師,助産師のいずれ
アメリカでは麻酔の60%をこの麻酔専門看護師が
かの免許を有していること,実務経験が5年以上
手がけているといわれております。それから助産
あり,そのうちの3年以上は専門分野であるとい
師です。この4つの職種は大学院修士課程を修了
うことと,専門分野の3年以上の経験のうち1年
していることが要件になっています。全米で APN
は修士課程を修了してからの経験であるというこ
といわれる看護者は約16万人ぐらいということで
とです。教育は看護系大学院の修士課程修了とい
す。
うことが義務づけられておりまして,そこで所定
の単位を修得することが義務づけられています。
実務経験と教育の要件の整った人が,日本看護協
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それに比べますと,日本は,まだまだ専門看護
師が非常に少ないという状況です。
続いて認定看護師制度です。今,実践現場で働
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日本病院会雑誌
く看護者に非常に人気があって,ニーズが高く
任とか副看護師長,あるいは師長といった人たち
なってきているのが,認定看護師でございます。
もいらっしゃいます。
これは,特定の看護分野において熟練した看護
11年の経験があったり,そのなかでもとくに自
技術と知識を用いて,水準の高い看護実践ができ
分の専門とするところを7年も経験がある方々が
る看護者を認定看護師として認定しようという制
受講していらっしゃいますが,一番問題になるの
度です。認定看護師の場合には,ただ経験を積み
が,アセスメントというか臨床判断のところです。
重ねるだけでは習得できない,特別な訓練,教育
例えば,常日ごろ褥瘡を見てケアをしているわ
を受けて習得する必要のある看護ケア技術がきち
けですけれど,本当に褥瘡のきちんとした傷の程
んと存在している分野を,認定分野として設定し
度のアセスメントとか,どうすればそれが良く
ております。
なっていくのか,どういう処置の方法が有効なの
認定看護師の機能は3つありまして,熟練した
看護技術を用いて,水準の高い看護実践が行える
かというようなことについての体系立った知識と
か技術というものがないのです。
ということと,看護者に対して指導ができるとい
これはやはり1つの病院でただ経験を積み重ね
うこと,それから看護者から相談を受けて,ケア
ていくだけではなかなか習得できない,研修を受
上のいろいろな問題のコンサルテーションを行う
けて体系的に学習して初めて知識が自分のなかで
という,この3つが役割です。
身について技術が確実なものになっていくという
今現在,認定分野としては11分野を特定してお
ことだと思われます。
ですから,6カ月たちますと,本当にその人の
ります。
養成と認定のシステムは専門看護師と教育の部
実践能力というのは見違えるほどに高まっていく
分が変わります。免許を持っていることと5年以
というのは,これはすべてのコースで受講生が経
上の経験があること,そのうちの3年以上が,例
験していることです。
えば救急看護の認定看護師になりたいということ
研修中の身分ですが,2000年と2001年を比較し
であれば,救急センターや救急救命室での経験が
てみると,2000年ではまだ出張は少なくて,休職
必要になってくるということです。教育は6カ月
あるいは退職をして受講する人が15.7%いたので
以上600時間以上ということです。教育を終了しま
すが,1年たちますと退職者が9.2%と減ってき
すと,認定審査を受けて認定を受けるということ
て,出張・研修といった形が多くなってきており
になっております。
ます。2003年の実情ですと,退職はもっと少なく
今現在,認定看護師の教育は4つの教育機関で
なってきまして,医療機関が積極的に出張なり研
11の教育課程が開かれており,総定員数が全部で
修なりという形で認定看護師のコースにスタッフ
230人ということです。
を送り出すようになってきています。
教育を行っているのは日本看護協会の看護研修
費用でございますが,授業料が75万円で,これ
学校と神戸研修センター,神奈川県立看護教育大
は高いというご批判もありますけれども,ご本人
学校,そして国立看護大学校研修部の4カ所です。
が授業料を払ったり,あるいは施設が払ってくれ
研修生の状況なのですが,これは2001年のデー
るところも少しずつふえてきております。
タでちょっと古いのですが,受験倍率が大体1.3
認定看護師の年次推移ですが,今現在全部の
から3.3倍,これは日本看護協会看護研修学校の場
コースで753人でございます。これからは毎年250
合です。去年あたりですと,最高倍率が7.7倍とい
人から300人ぐらいの認定者を認定しようと考え
うコースもございます。大体平均して4倍以上に
ており,今後どんどんこの数がふえていくという
なってきております。受講生の平均年齢は大体
ことです。
33.7歳ぐらいで,臨床経験年数が11年9カ月,か
全国に散らばっておりますが,残念ながら,認
なり臨床経験のある方々が受講していらっしゃい
定看護師がまだ1人も輩出していないという県が
ます。特定分野の経験年数が7年4カ月です。職
47都道府県の中で3県ございます。山形県,佐賀
位はスタッフナースがもっとも多いのですが,主
県,鳥取県,この3県はまだ認定看護師が1人も
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そういう意味では,私たちの仲間のなかに,こ
出ていない県ということになります。
認定看護師が複数いる施設というのがございま
ういうエキスパートやスペシャリストを養成し
して,最高で1つの施設に15人の認定看護師を抱
て,そういう人たちがケアの質を向上させていく
えているという施設もありますが,どういうふう
ことに貢献していく,ジェネラリストもそういう
に活用していらっしゃるのかというのは,ちょっ
人たちと一緒に働くことによってケアの質が上が
と疑問です。2人から3人,3人から4人ぐらい
る,効率よくいいケアが提供できるというような
の施設が結構多いということでございます。
ことを目指して,この制度の推進に努力している
認定を受ける方の推移の予測ですが,2010年に
ということでございます。
なりますと,教育機関をふやしたり,定員数をふ
非常に簡単な話になりましたが,これで私の話
やしたりしていきますと,大体3,000人を超えるの
は終わらせていただきます。ご静聴ありがとうご
ではないかというふうに,私たちは予測しており
ざいました。
ます。
専門看護師と認定看護師はどこが違うのかとい
うことですが,もちろん役割や教育が全然違いま
すけれど,例えば専門看護師はがん看護というよ
内藤座長のまとめ
教育,看護判断,専門性,評価基準が重要と
うな,ある一定の領域で非常に広い範囲をカバー
しますが,認定看護師はがんであれば化学療法に
内藤
岡谷先生,ありがとうございました。看
関するエキスパートであったり,あるいはがん性
護協会のスペシャリスト認定コースに関する現状
疼痛のケアができるエキスパートであったりとい
と,スペシャリストやエキスパート養成は実践能
うような形で,ある限定された分野についての看
力向上に必須であるという点からのお話をいただ
護技術,知職に優れているという点が違います。
きました。
認定看護師や専門看護師は制度が始まって5,
6年たってまいりまして,診療報酬上もさまざま
それでは先生方,壇上のほうによろしくお願い
いたします。
な評価が行われるようになってまいりました。例
あと数分となってしまいましたが,どうぞ,こ
えば,緩和ケアのチームを組んで,そのチームの
の機会にフロアのほうからも少しご意見を伺いた
なかに,ある一定の研修を受けたスペシャリスト
いと思いますが,いかがでしょうか。
がいれば,そういうチームで診療に当たった場合
看護実践能力を高めていくために,各お立場か
に診療の加算が受けられるということになってい
らのお考えをただいま伺いました。フロアの皆さ
ます。制度上でも専門看護師や認定看護師の評価
んのほうからご質問なりご意見なり,何かござい
が行われるようになったことが,認定看護師コー
ましたら,近くのマイクでお願いをしたいと思い
スへの応募者がふえてきている大きな要因になっ
ます。いかがでしょうか。それでは,今フロアの
ております。
ほうはお考えいただくことにしまして,5人の先
認定看護師や専門看護師は,スペシャリスト,
生から確認しておきたいこと,そしてそれぞれの
あるいはエキスパートのナースとして位置づけら
シンポジストの先生方と意見を交換したいこと,
れておりますが,日本看護協会は長い間,看護職
何かございましたら,お願いいたします。
の底上げといいますか,すべての人がジェネラリ
山西先生,実践の場で系統的な教育が重要であ
ストとして一定以上の能力を持つためにさまざま
るというお話をいただきましたけれど,岡谷先生
な研修を提供してきました。全国に113万人もの
の認定コースのなかにも,そういった系統的な教
ナースが働いているわけで,そういう人たちを一
育が技術の習得には大変重要というようなお話が
斉に底上げをしていくというのはなかなか効率も
ございましたが,何かご意見ございますでしょう
悪いことです。しかし,医学も進歩しております
か。
し,非常に専門的な技術,知識が必要な分野とい
うのもふえてきております。
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山西
私は最初に国立看護大学校をつくりまし
たことをお話ししましたし,紹介もございました
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が,実際は臨床看護実践能力を身につけるような
できたならば,ぜひともそういう人たちを育成し
看護大学校の大きなねらいがありまして,教育も
て,臨床の看護の質を高めたいというふうに考え
先ほどちょっと最初のほうに紹介した国立病院療
ておりました。
養所が求める看護の実践能力ということで,それ
私は新しい大学に移動したのですが,現在の大
をカリキュラムのほうに反映させ教育計画が立て
学は平成10年から大学院がスタートして,私は初
られております。
年度からかかわっております。1回生が出ました
臨床側にその能力が向上しているスタッフが実
のが平成12年の3月です。まだこれからでして,
際に育っていないと,学生の実習に当たっても良
たった1人ですけれども癌の専門看護師が誕生し
い指導ができないということで,システム的に整
ておりまして,今潜在的に準備している者が5,
えてあります。ほかの大学等と相違点は,臨床教
6人おります。近い将来,そういう人たちが CNS
員を臨床の施設のほうにおきまして,副看護師長
になってくれるでしょうし,あとにどんどんつづ
レベルの臨床経験の長い人,かつできれば大学院,
いてくれるだろうとうれしく思っています。
修士課程が終わった人を配置し,交代制勤務をし
私は看護実践能力の向上ということでは,やは
ない看護部長室付きにしまして,臨床における学
りこういう人たちの活用というのは非常に重要だ
生の教育に専任で当たるように配置しておりま
と考えております。もちろん,その人たちが,本
す。
当にすばらしい実践能力を持っているということ
その人たちは,臨床経験があって,なおかつ患
が大前提です。そういう意味では,文部科学省で
者さんのケアの指導ができる,それ以外に病棟に
大学院の入学資格の規制緩和がございまして,そ
は実習指導者ということで2人以上を配置してい
れぞれの大学院が,そのかたに大学院受験資格あ
まして,その2人も副師長レベルで,そこの病棟
りと認めたならば,その人たちに受験資格を与え
の患者さんのケアには非常に指導的な役割ができ
るということになりました。この制度を活用する
る能力を持った者を当てております。大学校の教
ことが,CNS 育成に成果をあげると考えておりま
官,臨床教員,実習指導者と,3層構造で,より
す。
実践能力が強化して指導できるように態勢を整え
ので,さっそくとり入れまして,すでに3,4人
ております。
以上,先ほど説明できませんでしたので,追加
入ってます。その方たちは,臨床の場で実践を高
めてきた人たち,主任クラスぐらいがほとんどな
で発言させていただきます。
内藤
本学でも平成12年にそういう法律ができました
ありがとうございました。実践能力の
のですが,きちんとした実践を積み重ね,しかも
ベースは基礎教育からということで,臨地実習に
リーダーシップをとる役割をはたし,生涯学習と
おける教育体制の強化についてお話いただきまし
して,何らかの学習を行っていた方たちです。
そういう方たちが大学院で学びますと,先ほど
た。
臨床現場において特定の分野に高い実践力を持
岡谷先生がおっしゃっていましたように,実践を
ち,なおかつ,他の看護職員に影響を与えるスペ
堅実に積み重ねてきていますので,教育機関でき
シャリスト育成の認定コース,認定看護師コース,
ちんと体系的に学ぶことによって,今まで持って
専門看護師コースが日本看護協会主催で行われて
いたものがさらに体系づけられ,そして今まで見
います。
えなかったものが見えるようになってくるとい
小島先生は癌専門看護師ということで,いろい
う,すばらしい良さがあります。そういう方たち
ろこのコース立上げにもご努力いただいたと伺っ
が専門看護師として臨床に帰っていったときに,
ております。何かご意見がございましたら,お願
看護師として実践力を持っていて,しかもリー
いします。
ダーシップが取れ,また,信頼が得られ,名実と
小島
私は自分自身が癌の専門看護師の教育を
アメリカで受けたものですから,そういう意味で
は30年以上前から,日本でも大学院,修士課程が
もにすぐれた専門看護師として,全体の看護の質
を高めてくれるだろうと思っております。
当面はそういう方たちに,大いに専門看護師に
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なっていただいて,そしてまた新しい教育を受け
が汚れている」などというのが見えたりして,評
た人たちも次第に成長していって,全体的な臨床
価基準の作成ということ以外のところにも大変面
のケアの質が高まり,また実践能力の高い看護師
白い発見をいたしました。
たちが活躍できるようになればすばらしいという
ふうな気持ちで教育に力を注いでおります。
ありがとうございました。私もこれはぜひきい
んだなと最近考えております。
ありがとうございます。川村先生,お願
内藤
いいたします。
川村
のを私たちはつくり出していかなければいけない
ちょっとつけ加えさせていただきました。
ていただきたかったことでした。
内藤
やはりこうやって実践能力の評価方法というも
私は今,教育の実践現場にいるというこ
ありがとうございます。まだまだ討議を
しなければならないことがたくさんあるように思
いますが,時間となってしまいました。
とで,一言申し上げます。
教育においては,どれがいい実践なのか,どれ
本日,5人のシンポジストの方々から,4つの
が高い能力なのかということを,評価する方法が
ことが重要であるとご発言いただいたと思ってお
いまだ確立しているとはいえません。私どもの教
ります。
員の間でも,ずいぶん議論しております。なかな
1つは,私たちの実践行動のもっとも根本にな
ります倫理的な教育の重要性,それから2つ目は,
か難しいことなのです。
今年度から医学科の教育では客観的に実践能力
今,看護の業務拡大ということが出てきています
を測る,ツールを導入し全大学で行うようになっ
が,そこに向かっていくには正確な判断力と責任
ているというお話を聞きました。そこで私どもも
能力といったものを培っていく必要があるという
その看護版をつくってやってみようではないかと
こと。3つ目は特定の分野の専門性の高い認定看
いうことで,修士の学生たちに,つまり,今まで
護師,専門看護師の拡大と活用の推進,そして体
は看護師として働いてきた人たちが多いのですけ
制の整備。4つ目は何が質の高い実践なのか,能
れど,その人たちに患者役をやってもらいまして,
力なのか,明確にしていく評価基準を作成してい
先ほど西島先生,そのほかの先生方のお話があり
くことが必要であり,重要であることをご発言い
ましたように,患者の目線から学生の演習成果に
ただいたかと思います。
意見を出してもらうということをやってみまし
こうした厳しい時代であるだけに,看護の原点
をしっかりと見極めて実践能力向上のために邁進
た。
このことは学生の反響もよかったのですけれ
してまいりたいと思います。
ど,修士の学生にはもっと勉強になった,つまり
シンポジウムにご協力いただきましたことを感
患者役になって,さっきの目線のお話ですが,
「今
謝申し上げ,終わらせていただきます。どうもあ
まで気づかなかったけれど,声のかけ方,道具の
りがとうございました。
もち方はこの方がよい」
「あのカーテンはあのへん
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医事研究会・講演
医 療 保 険 制 度 改 革
―医事課職員に求められるもの―
(株)ASK 梓診療報酬研究所長
中
林
梓
平成15年5月・大宮市
(キーワーズ:医療制度改革,医療保険制度改革,
も何なのかといわれたときに,何と答えるでしょ
うか。医療制度改革というのは1つのものではな
DPC,医事課職員,診療報酬体系)
いのです。もちろん今,医療機関側においての大
はじめに
きな話題としては8月31日期限の病床区分の変更
きょうの私に与えられたテーマが「医療保険制
の届出となりますか。一般又は療養のいずれを選
度改革∼医事課職員に求められるもの∼」という
択するかというのがありますから,そちらのほう
非常に大きなテーマでございます。
に目が行きそうですけれども,マスコミが国民向
まず,冒頭にお断りさせていただきたいのが,
けに大きく報道しているのは3割負担とか老人の
これからの医事課のあり方というときに,例えば
1割負担といったことです。いずれも医療制度改
電子カルテが導入されてくると,医事課の仕事が
革の一つにあがっていますが,実は医療制度改革
なくなるではないかとか,包括(DPC など)になっ
という内容には大きく分けると3つあるのです。
ていくと,医事課職員の仕事がなくなるのではな
1つ目が医療費の患者自己負担が原則3割と
いかとか,さまざまなうわさが入ってまいります。
なったことです。被用者本人の負担が3割になり,
しかし,今,いたずらに医事課亡国論というよう
老人の負担が1割になるという健康保険法,老人
なうわさにはまどわされないでいただきたいと思
保健法の改正は医療制度改革の1つなのです。も
います。
ちろん医療法の改正による病床区分の届出も,医
なぜかと申しますと,病院組織における医事課
療制度改革の1つとなります。
というネーミングが少しおかしいかなとは思うの
私たちに一番関係のある診療報酬改定や薬価の
ですが,いわゆる医療事務という形のものは姿が
見直しも,医療制度改革の1つです。医療制度改
変わっていくかもわかりません。しかし病院のな
革とは1つのものではなくて,医療保険制度や医
かにおける医事の役割というのは,もともと患者
療法,診療報酬などいろいろな制度の改革をいい,
さんと診療側をつなぐパイプのような立場にある
すべからく厚生労働省は医療制度改革の中に入れ
のが医事課ではないのかと思います。診療側でも
ているということになります。
ないし,患者側でもない。その間をつなぐパイプ
の役割という点でみると,今後もなくならないと
私は思っています。もしなくなるとしたら,それ
は患者さんのためにも不幸ではないかと思ってお
ります。では本題に入らせていただきます。
る基本方針について
それでは,ここの医療保険制度体系および診療
報酬体系に関する基本方針についてというところ
から,お話をさせていただきます。
医療制度改革とは……
Ⅰ
医療保険制度体系および診療報酬体系に関す
Ⅱ
これは今年の3月28日に厚生労働省のほうから
今月,マスコミ等で医療制度改革等の話題が出
出された健康保険法等の一部を改正する法律の附
てきましたけれども,この医療制度改革はそもそ
則第2条第2項という,何か難しいのですけれど
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も,簡単な話をいいますと,健康保険法の改正が
省の動きだけでは読みづらくなっています。なぜ
ありましたね。老人保健における患者自己負担割
このように難しいのか。それは今の政権に変わっ
合が1割になったり,被用者保険の自己負担が3
てから,厚生労働省主催の審議会というのが少な
割になりました。これは法律ですから,健康保険
くなったのです。その代わりに,民間の有識者が
法を変えなければいけなかったのです。診療報酬
参加する経済財政諮問会議とか,総合規制改革会
のように通知とか通達でいく世界ではないので,
議などが,内閣府の直属の委員会ですね,そういっ
法律を改正しなければいけない。その法律の最後
たものが医療の審議をすることが多くなってし
に,3つの附則があり,保険者の新しい高齢者医
まった。ですから厚生労働省だけ見ていても方向
療制度の創設,診療報酬体系の見直しについて平
性が読めなくなっているのです。
成14年度中に基本方針を策定するとしました。
では,基本的な考え方ですが,1番目に,安定
それでぎりぎりの3月28日に,これからの制度
的で持続可能な医療保険制度の構築とあります
改革の方向性,基本方針というものが実は出てき
が,これはもう詳しくは説明しなくてもいいです
たわけです。それをこれからお話させていただく
ね。
のですが,実は,そのときに,本当であれば,基
2番目に,給付の平等・負担の公平とあります。
本方針と併せて発表する予定だったのが,少し遅
これがいわゆる保険者側の老人の拠出金問題と
れて公表された医療提供体制の改革に関するビ
か,国保と社保で保険者の不公平があるのではな
ジョン案となります。本当はこれは対のものです
いかといったものに対して,平等,負担の公平を
ので,3月に出るはずだったのです。ところが策
図って,医療保険制度の一元化を目指すんだとい
定に時間がかかり,1カ月遅れでビジョン案が出
う基本方針です。
3番目に良質かつ効率的な医療の確保をしま
てきたのです。
まず基本方針から見ていきます。
しょうとあります。これもいいですね。保険者,
これは私たちが病院のなかで仕事をするうえ
医療機関,地方公共団体等の関係者が連携してと
で,絶対知っておかなければいけないこととなり
いうところがみそですね。地域の医療に対する保
ます。なぜかといいますと,日本の診療報酬は国
険者と医療機関と行政が一つに集まって,話し合
が定めた統制価格となっており,自由経済におけ
うという基本方針となっています。
る物の対価,価格の決定メカニズムとは異なった
形で決められているからです。普通の商売ならあ
りえません。これ100円で売りますよといったら,
医療保険制度体系について
では1番の医療保険制度体系についてお話しま
コスト50円かかって,人件費が幾らかかって,交
す。まずいちばんの目玉は保険者の再編・統合。
通費がかかってとか,そういうコストから積み上
これは私たちの仕事に直接関係なさそうにみえま
げていったものが,本当なら価格となるはずなの
すが,結構重要です。なぜかといいますと,医療
ですが,診療報酬だけは国が決めますので,行っ
費の請求先・支払側の問題となるからです。目的
て欲しい診療には高く点数を設定し,やってもら
は被用者保険,国保それぞれについて,保険者の
いたくないところは低く設定するというような,
財政基盤の安定を図るとなっています。保険者と
コストから発生していない形で決定しています。
しての機能が発揮しやすくすることということで
そのため,その厚生労働省が医療をどうしてい
す。厚生労働省の言葉は非常に難しいので分かり
こうとしているのか,そこはやっぱり知っておく
やすくいいます。例えば,私は北海道出身ですが,
ことが医療経営をみていくうえでは必要なことに
地方の市町村国保で,住民が1,000人しかいません
なっているのです。
と,それでもそこだけで1つの国保なんです。そ
余談ですけれども,昔は改革とかいう言葉があ
こで2人ほど脳外のオペをやる患者さんが出た
まりなかったころ,医療が危機ですよなどという
ら,その国保の医療費のほとんどが使われること
話があったとき,厚生労働省のほうだけ見ていれ
になります。そのため国保はすぐ赤字になってし
ば,わりと読めていたのです。ところが今は厚労
まいます。数の理論からいっても,国保の単体と
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しても非常に難しい。ですから,今,市町村合併
なっています。
がありますよね。そのように地方の国保同士を合
次に新たな制度の保険者については,後期高齢
併させて効率化を図っていくということが考えら
者の地域を基盤とした生活実態や,安定的な保険
れています。
運営の確保,保険者の再編・統合の進展の状況等
社保なども政管健保というのは全国を一地域と
を考慮する。なお,国保及び被用者保険からの支
して管轄していますが,地域性は全然加味してお
援については,別立ての社会連携的な保険料によ
りませんので,これも都道府県で分けましょうと
り賄うとしています。何か抽象的な表現となって
しています。健保組合も同様です。このように従
います。
来の保険者単位では医療保険を維持するのが困難
このあたりが見えにくいところです。地域にお
になってきています。それを安定化した保険者と
けるというのも,これも都道府県を主体と考えて
するための基盤をまずつくろうということで,保
いるようです。都道府県を主体として考えるんだ
険者ごとの再編・統合,地域における取組みとし
けれども,例えば保険料の納付とか,事務的な作
て,都道府県を単位にしようというのが有方な案
業は,市町村単位でやるというような案が,今,
となっています。
厚生労働省のほうで出ております。
前期高齢者は,国保または被用者保険に加入す
高齢者医療制度について
ることとするが制度間の前期高齢者の偏在による
次に老人問題,高齢者医療です。これはもう説
医療費負担の不均衡を調整し,制度の安定性と公
明するまでもなく,高齢化社会により老人人口が
平性を確保するとして,その際,給付のあり方等
増加し,少子化の影響で老人人口割合も20%を超
についても検討するとなっています。何をいって
えようとしています。現在老人保健は私たち若い
いるかというと,75歳以上は独立なんだけれども,
人の保険からの拠出金で成り立っているわけです
74歳までは突き抜け方式ということなんです。例
が,もう破綻寸前といったところです。そこで別
えば,今,加入している医療保険では,そのまま
立ての保険をつくろうじゃないかということに
74歳まで持ち上がるわけです。ですから,折衷案
なっています。
というのではなくて,今までの医師会と健保側の
現在の老人保健制度というのは,制度運営の責
2つの案(独立方式と突き抜け方式)をミックス
任主体が不明確であり,それを廃止して制度運営
させたんです。それで突き抜けていって75歳にな
に責任を有する主体を明確化しようじゃないかと
ると独立化みたいな保険にしますよというのが今
いうことです。
の高齢者保険の案となっています。
個人の自立を基本とした社会連携による相互扶
もう1つ,基本的な方針として,高齢者につい
助の仕組みである社会保険方式は維持させようと
ては,現役世代との均衡を考慮した適切な保険料
いうことで,65歳以上の方を対象として,75歳以
負担を求めるとなっています。これもどのぐらい
上の方を後期高齢者,75歳未満の方を前期高齢者
の負担となるかも不明ですが,後期高齢者に,公
とします。考え方としては,後期高齢者について
費を重点化するという改正法の考え方は維持する
は加入者の保険料を徴収し,国保及び被用者保険
ようです。
からの支援並びに公費により賄う新たな制度にす
高齢者については,医療給付と介護給付が適切
るといっています。つまり独立型のような感じで
かつ効率的に提供されるようにするとともに,自
す。しかしこの国保及び被用者保険からの支援並
己負担の合算額が著しく高額になる場合に,負担
びに公費により賄うという一文が問題となってい
の軽減を図るとしています。いわゆる医療給付と
ます。公費はいいですね。この支援とは何でしょ
介護給付,医療保険と介護保険の収入ですね。こ
うか。拠出金とどこが違うのか不明です。私たち
れらの境目がなくなる,この一文だけを見る限り,
から支援をするわけなのに,ここが明確になって
将来的に医療と介護をドッキングさせるという考
いないのです。せめて何%とか,どのぐらい支援
えは残っています。この基本方針を見る限り,消
をもらうとかいう書き方をしないと非常に曖昧と
えているわけではないなと思われます。将来的に
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は,例えば1つの例としては,75歳以上は医療と
基本とするということです。あくまで基本です。
介護を併せた形の保険制度にするということも考
基本が一番小さくなる可能性もあります。
次に医療従事者の専門性やチーム医療にも配慮
えられるということです。
最後の高齢者一人当たりの医療費が現役世代と
するとしています。
均衡のとれたものにするように,国,都道府県,
3番目には,難易度,時間,技術力等を踏まえ
地域の関係者等の取組みを一層推進するととも
た評価を進めるとなっています。これは,具体的
に,サービスの効率化を進め,医療費の適正化を
にお話しますと,難易度というのは,外保連とい
図るとなっています。今一つ,ここでは出ていな
うところが,手術に対して全部難易度というのを
いのですけれども,この後,自民党を含めて,政
決めているんです。このオペは難しさがAとか,
府との話し合いで,後期高齢者の方が1割負担と
このオペは難しさが簡単だから,Cとなっていま
すると74歳,前期高齢者の方たちは2割負担とい
す。そういうものが,外科医の専門家が集まって,
う形の案で,今,考えているようです。新聞等で
技術の評価をしているのですが,今回,症例数に
も出ているからご存じかと思います。
よる報酬基準を決める際に,その外保連に一言の
相談もなく厚労省は決めたのですね。あの30例と
診療報酬体系について
か50例とかいうのがそれなので,外保連のほうも
次に,診療報酬体系の見直しとなっています。
怒ってしまって,難易度とかをやるんであれば,
ここから,私たちが一番関係するところです。背
やはり専門家の意見を聞いてくれという話で,今
景には,少子高齢化や,医療の技術の進歩,疾病
後は多分聞くようになるとは思うのです。そうい
構造の変化などの医療を取り巻く環境の変化があ
う技術の難易度も加味しようじゃないか。時間に
ります。すなわち医療に対するニーズが大きく変
ついては皆さんご存じだと思います。去年の診療
化してきているということです。それなのに診療
報酬改定で流れてしまいましたけれども,初診で
報酬の体系だけはずっと旧態依然としていたとい
30分以上かかったら,本当は加算がつくはずだっ
うことです。
たんです。ですがこの診療報酬改定は流れてしま
話が横道にそれますが,1点10円になって久し
いました。なぜ流れたかといいますと,時間さえ
くなりますが,こんなに定価の変わらない経済制
かければ,つまり,腕の悪い医師が,時間をかけ
度はありませんよね。本来であれば,例えば1点
ても加算がつくのかといわれて,引っ込めたとい
が景気とともに下がったり,上がったりするとい
う経緯があり,この間の改正では載らなかったの
うのが,分かりやすいかなと思います。1点10円
です。しかし今回はやはり時間というコストの問
が固定となって動きませんので,今の診療報酬が
題点は出てくると思います。来年の春の診療報酬
何かわけのわからない形で,政府誘導になってし
改定に恐らくこの時間という配分のものは載って
まったなという気はします。そこで,診療報酬の
くると思います。
評価にかかる基準,尺度の明確化を図り,国民に
分かりやすい体系とするとしています。
4番目に,生活習慣病等の重症化予防の観点か
ら,栄養・生活指導,重症化予防等の評価を進め
ぜひともそうなって欲しいです。でも,何年も
るとしています。今,生活習慣病指導管理料とい
前から簡素化という言葉が出てはきます。診療報
う200床未満に認められている包括の点数があり
酬点数の簡素化と,しかし簡素化という言葉の割
ます。この評価は高く,診療報酬も高い点数が設
にあの解釈本がだんだん厚くなるんです。
定されていますが,患者さんの負担も高くなるこ
基本的な方法としては,一応,ドクターフィー
とからあまり流布しておりません。しかし,厚生
(技術的な評価)とホスピタルフィー(病院のコ
労働省としては,このような診療報酬は評価して
ストとか機能を適切に反映した評価)と患者の視
いくということです。つまり,予防的なものも考
点の重視という基本的な方針が打ち出されてきま
えながらの診療報酬にしていくということです。
した。
一つ出ているのは,200床以上の病院は外来診療料
まず医療技術の適正な評価です。出来高払いを
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という包括点数項目がありますが,それ以外のク
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リニックとか,200床未満の病院における外来診療
の大病院等は専門的な診療,紹介,逆紹介機能を
も,ある程度の包括した形の,外来基本料という
評価します。
診療所や中小病院は初期診療,かかりつけ医,
構想が実は出ております。
具体的な方向としての2番目にコスト等の適切
な反映ということで,疾病の特性に応じた評価体
系と医療機関の機能に応じた評価についてふれて
います。急性期入院医療については,出来高払い
かかりつけ歯科医,薬剤師,訪問看護,在宅とい
う機能に集約したい意図が見えます。
具体的な方向の3番目に患者の視点の重視があ
がっています。
との組み合わせのもと,疾病の特性および重症度
ここが私としては,今回うれしかったところで
を反映した包括評価を厚生労働省は考えていま
す。患者の視点の重視,皆さんにとってやっぱり
す。大学病院だけとは書いていないので一般病院
情報開示の問題が避けて通れなくなってきますけ
にも DPC が入ってくる可能性は大です。急性期医
れども,これはどうしても,やっていかなければ
療は疾病の特性をみた包括にしますよというのが
ならないことではないかと思います。
基本方針で出ています。慢性期医療も,すでに療
情報提供の推進として,医療機関の施設基準や
養病床という形で包括になっておりますが,急性
機能等に関する情報,さらには診療・看護計画等
期の包括との違いは,急性期医療は疾病の特性な
の情報があがっています。クリティカルパスなど
んですが,慢性期は病態と ADL,看護必要度に応
を意図しています。患者による選択の重視もあ
じた包括としています。だから急性期と慢性期で
がっています。患者ニーズの多様化や医療技術の
は,双方ともに包括となっていますが,考え方の
高度化を踏まえ,特定療養費制度の見直しを行う
意味合いが違います。そのため急性期包括(いわ
など,患者等の選択によるサービスの拡充を図る
ゆる DPC)については,データの検証ができない
ことを意味します。特定療養費制度の見直しを行
ので,来年は全体的には導入されないと思います。
うと表現しています。
大学病院のデータの検証が終わってから,恐らく,
昨年の診療報酬改定で180日を超えたらば,医療
一般病院にも導入されてくると思います。しかし,
依存度が低ければ,患者さんの負担が増えること
3年後の診療報酬改定,これは可能性は大きいで
になりましたが,これだって,特定療養費の患者
す。とくに DPC のデータが出てきて,整合性があ
の選択なのかなと思います。混合診療は反対して
るという結果がもし出たら,3年後の診療報酬改
いるが特定療養費の見直しという形で,このあた
定には,急性期の入院医療に導入される可能性が
りのところはよく注意していかないと,私たちが
非常に大きいと予測しております。
今まで保険で請求していたものがいつの間にか患
あと回復期リハとか,救急,小児,精神,在宅,
者さんの負担という形になる可能性は大きいで
終末期,これらはやっぱり医療の特性,患者の心
す。去年の改正のときに,透析の食事は廃止にな
身の特性,生活の質の重視等を踏まえた適切な評
りました。あれは今まで食事加算として保険で認
価にするという書き方になっています。
められていたわけですが,透析を受けない方だっ
次に医療機関等の機能に応じた評価によりコス
て,食事は食べるでしょう。なのに,透析患者だ
トを適切に反映していこうという点ですが,入院
け,食事を保険でみるということはおかしいので
医療は臨床専門的な医療,地域医療支援機能など
はないかということから廃止となりました。
医療機関の機能および入院期間等に着目した評価
あと,私が今回気になったのは,新生児の介助
にするとなっています。機能のことに関しては,
補助料,これも今回廃止になっています。分娩は
もう3年ぐらい前から機能分化は進んでいます
自費扱いとなるのに,出産後の新生児の介助を医
が,ここにはっきり入院期間という4文字も入っ
療保険でみるべきものなのかということです。そ
ておりますので,平均在院日数も含めて,入院期
のような議論になっていきますから,特定療養費
間の問題というのは,ますます議論になっていく
という形式で保険で給付すべきか否かという議論
のではないかと思います。
は今後も増えてくるなと思います。
外来は,これは今までどおりです。大学病院等
具体的な方向のその他として,歯科診療報酬が
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あがっています。口腔機能の維持増進の観点から
す。また市場実勢価格を踏まえた評価ということ
という形で,歯科診療所と病院歯科における機能
は,現在も多くの差益が生じており,その是正を
の連携や,地域の中の歯科の役割を明確にしま
図るということとなります。この差益というもの
しょうということです。これは,今まで歯科,医
を厚生労働省は非常に嫌うのです。差益があるか
科と分かれていましたが,例えば,老人医療など
ら,出さなくてもいい薬を余分に出したり,やら
で,口腔内のケアを行うことによって,ADL は非
なくてもいい検査を実施するのではないかと。そ
常に向上します。これは実際にデータがあります。
のような考えがあるので,差益は医療機関のほう
また例えば,五感として見る,聞く,触れる,味
に入らない仕組みにしましょうということです。
わう,かぐ,といったものがいかに ADL に影響し
では,病院は何で経営していったらいいのですか
ているかという研究が今,進んでいます。そうな
となりますが,ここで診療報酬が多様にかかわる
るとやっぱり味覚が分かる,食べれるということ
わけです。
が,生きる活力になります。そこのところが今ま
すなわち診療報酬点数をよく読まないと算定で
で,おざなりだったのではないかということで,
きないような技術料がいっぱい増えたりとか,在
学会等で頻繁に議論されてきておりますので,歯
宅の点数が増えたりというような形で,診療報酬
科のことに関しても,これから,口腔のケアとい
の中身,収入の中身そのものが今,大きく変わっ
う意味で,注目はされるだろうと思います。その
ています。例えば,総括表上,1,000万円の収入で
ため自院では歯科がなくとも患者さんの ADL, QOL
あっても,50%が薬価で占められているレセプト
を高めようとするならば,戦略として,口腔内ケ
より手術や検査等の技術料が多くそのため薬価の
アというものに特化しそれを特色とする医療機関
占める割合が30%のレセプトでは利益率に大きな
も今後は出てくるだろうなと思います。リハビリ
違いが生じてくるのです。だから,これからは点
の一環として,口腔ケアという形のものを取り入
数を上げる,点数で収入を増やすという考え方よ
れる医療機関はすでに多くあります。
りも,収益を増やすという考え方に移行しないと
調剤報酬についても,情報提供とか,患者の服
薬管理などは今までと同じような内容です。
ならないのです。日当円が幾らという話は,よく
皆さん方も,話はすると思います。しかし,中身
薬価・医療材料価格制度等,薬価算定ルールの
を見ていただきたい。うちの整形は,薬材が30%
見直しについての検討は今も行っていますが,引
だなとか,材料料でどのぐらいなのか,技術料で
き続き実施していくとなっています。また画期的
どのぐらいなのか。もし詳しく見ていただけるな
新薬について適切な評価をすることや後発品の使
ら,診療行為別に,自院の強み,弱み,特徴をみ
用促進のための環境整備という言葉が出ておりま
ていただきたいと思います。
す。厚生労働省からこのような形で,はっきり後
5番目に改革の手順・時期が記されています。
発品の使用促進のための環境整備を行うとしてい
これが非常に嫌らしいのです。実現目標は平成20
ることです。
年度と書いてあります,あと5年ですね。方法,
次に,医薬品等に係る保険適用およびあり方に
法律改正を伴わずに,実施可能なものは逐次,法
ついての検討とあります。この一文を私は非常に
律改正を伴うものは概ね2年後を目途に順次制度
気になってます。すなわちすでに OTC 薬となった
改正に着手としています。
医薬品への保険の取扱いについての議論がされて
診療報酬体系に関する改革は次期診療報酬改定
より,逐次,実施を図る。ということは来年の春
いると危惧しています。
あと,医療材料について,内外価格差の是正を
なんです。
進める。医薬品,医療材料,検査等について,市
つまり診療報酬改定は法律改正を伴わないです
場実勢価格を踏まえた適切な評価を進めるとあり
ので,来年の改正から,この基本方針に則った形
ます。医療材料の内外価格差については問題と
で実施していくというように断言しているわけで
なっているところが多いと聞きますが,物流コス
す。
トや国内における希少性などの現われと思いま
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テキスト13ページのスライド24を見て下さい。
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分が何が残っているのか。今後,何が残っていく
のか。これはちょっと気をつけていく必要はある
と思います。
このようにすることで,ドクターフィー的要素,
医療技術というものと,ホスピタルフィー要素と
いうものを加味しながらの診療報酬体系にしてい
こうとしています。右上のほうに患者視点の重視
として,診療報酬も含めて,情報提供の推進と患
者の選択の重視と記されていますが,今後これを
診療報酬で認めていく可能性はあります。
これが診療報酬を厚生労働省がどうしようかと
Ⅲ
医事課職員に求められるもの
1.
医療保険制度改革を正しく理解しましょう
考えている図です。まず,外来は出来高払いとい
この医療保険制度改革がなぜ医事課に関係があ
うように厚生労働省はいってますから,出来高は
るのか。それは,私の自論でいえば医事課は病院
残りますね。ただし,今は200床という括りですけ
のなかで,医事法規とか診療報酬,医療保険制度
れども,大病院は,今までどおり専門的な外来診
の専門家であるべきだと思うからです。なぜかと
療,紹介・逆紹介を重視するとしています。中小
いいますと,病医院にとってはまず患者ありきと
病院・クリニックについては,プライマリーケア
いうことです。例えば,今日の新聞記事で,去年
を重視となっています。診療報酬ですから,これ
の10月に施行された老人の1割負担償還払い制度
はそのように点数をつけていくでしょう。
の問題が掲載されていました。外来で1万2000円
次,入院,見てください。入院医療は急性期も
超えれば償還される制度ですが,何と東京都で老
慢性期も機能の評価については全部包括です。包
人の4割の方が請求していないというのです。す
括払い,先ほど文章のところでも出てましたけれ
なわち6割しか請求していないということになり
ども,特定機能病院だけが,今年の4月から DPC
ます。そうすると,4割の方は高いなと思いなが
が導入されましたが,急性期医療では疾病特性等
らそのままにしているということです。お金持が
を反映した診断群分類による評価となっていま
4割いるんならいいんです。何,こんな医療費ぐ
す。DPC そのものですね。これを厚生労働省は考
らいなんぼでも払うよといって,償還払いを申請
えているのです。全部の病院が急性期という形の
しないのならいい。でも,償還払いってどんな制
ものは包括ですよとしています。回復期リハや療
度なのか知らないという方が多くいるということ
養病床は,病態,ADL,看護の必要度等に応じた評
ですと問題です。
価にするとしています。ですから,包括になると
医療機関は患者に何の説明もしていないので
思っておいたほうがいいです。出来高で何が残る
しょうか?
のかというと,ここに厚生労働省の資料は手術等
すけれども,老人だけでなく若い方も知らない方
としか入っておりませんが,そのほかに出来高に
が多いのにおどろかされます。それが,70を過ぎ
なるものは結構あるんです。心カテとか,内視鏡
たご老人に償還払いですから,償還してください
とか,そういう技術の高い検査が出来高だったり,
といったって,分からないはずです。行政によっ
リハビリテーションとか,ソフト面,例えば薬剤
ては,不親切なところもありますから,そうなっ
管理指導とか,栄養指導とか,在宅栄養指導料と
てくると,患者さんは高いと思いながら支払い,
か,そういう指導料系は,DPC の場合,包括から
受診をひかえて医療機関から足が遠のいていっ
外れています。ですから,DPC の検討を行う場合
て,しかも償還もしない。これは償還払いという
もどのぐらいの出来高を持っているかによっては
制度の情報が伝わっていないからですね。患者さ
同じ DPC でも全然違ってきます。この出来高の部
んがどのようにお支払いになるのかといったこと
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私は患者の会にも呼ばれていくので
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も何度も判りやすく説明する義務が国にあると思
て,心筋梗塞だったら DPC では,今,幾らで1日
います。厚生労働省の CM としてゴールデンタイム
評価しているのかというように分類してみて,出
に流すなど,私はそれぐらいやってもいいと思い
来高が得かどうか比較できるじゃないですか。
ます。でないと,この複雑な仕組み,私たちでさ
そういう意味で,先ほど,少し前倒しで,皆さ
え,なかなか難しいのに,ご老人はもっと理解で
ん勉強をといいましたけれども,前倒しではない
きないのです。
です。DPC で幾ら,今評価しているのか,うちの
でも,そのような複雑な制度を判りやすく患者
病院だったら,どのぐらいなのかという研究をす
さんに通訳することが,病院における医事課の役
るのです。そうすると,経営者の方に,医事課か
割なのではないでしょうか。例えば1枚ものの案
ら DPC の導入是否の提案ができるのではないで
内文にご老人の患者様へとします。1万2000円,
しょうか?
低所得者の方は8,000円ですけれども,うちの病院
方式だったらすぐいえます。うち手上げしましょ
だけじゃなく,1カ月どこの医療機関,病院,ク
うと。そのような経営情報の発信場としての医事
リニックでかかってお支払いになった金額が1万
課というものも非常に重要なのです。このところ
2000円を超えると,お金が戻ってきますと書くの
は関係ないと思わずに,一般紙でもいいですから,
です。そしてそれをご老人に渡す。払ったお金が
新聞などを読んでいただいて,今どうなっている
戻ってきますと知って,初めて,えっ,どうすれ
のか,何が出ているのかなというのは見ていただ
ばいいのということになったならば,動きがそこ
きたいなと思います。
から出ます。しかし戻ってくるかどうかの知識が
なければ,やはり医療機関だけが悪者とされてし
2.
もし,来年の春,DPC 導入が手上げ
自院の機能・役割の把握をしましょう
まいます。自己負担額が高くなっただけで病院
次に,新たな診療報酬体系を自院において効果
ばっかり儲けてと。本当は儲かっているわけでは
的に活用するためには,自分のところの機能と役
ないのだけれども誤解をするのです。患者さんに
割をまず正確に現状分析することが必要です。な
は安心して良い医療を提供することだけでなく,
ぜなら医事課では最も重要な医療データを持って
医療保険制度の正しい知識と理解をもっていただ
いるからです。レセプトコンピュータから科別
くことが必要なのです。その役割が私たち医事課
データは出ますね。診療科別のデータが出ると診
職員にあるのではないでしょうか。そのような意
療科別の日当円とか出ます。でも,ここでもう1
味で,医事法規,診療報酬,医療保険制度という
つ,自院の特徴ということになりますと,例えば,
知識はやはり熟知する必要があります。
当院は内科と整形と皮膚科を持ってますとかとい
また例えば病院内においても,医師が3割負担
うことであれば,内科と整形で,どういうように
のこととか,DPC のことなどについて気軽に聞き
診療行為が違うのか。内科の先生の癖もあるで
にくることができるような知恵袋としての機能も
しょうし,整形外科の先生の癖もあるし,もちろ
医事課で果たすということは非常に重要ではない
ん治療行為も違います。でも,初再診,指導管理
かなと思います。よく私どものところにも電話で
料,検査,画像診断,リハビリ,在宅医療,それ
の問合わせが多くあり,医局の先生からとか産婦
らをどのぐらい内科としては報酬として上げてい
人科の先生から,例えば子宮内膜症は DPC で幾ら
るのか。何%ぐらいが薬代であるとかです。そう
なんだというようにです。いや,幾らって,あれ
すると自分のところの病院の特徴がみえてきま
は1日単位での点数で,DRG のように疾病で幾ら
す。当院の内科は血液検査はそれほど多くはない
ではないですという話をします。ましてや民間の
けれども,治癒率としては非常に優秀です。整形
先生方には未知の仕組なのですから今日の午後の
外科はリハビリテーションを非常に多く実施して
DPC の資料なども持ち帰られて「先生,大学では
いる病院だと。反対に,当院と他の病院とを比較
今このような仕組なんです。」と話してみるのもい
することもできますね。
いですね。もし時間がおありになれば,自分の病
全国公私病院連盟等のデータでは,全国の病床
院の得意分野としているオペなどを抽出してみ
規模別,経営母体別,診療行為別の診療単価など
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日本病院会雑誌
が公表されています。当院が300床の病院だとする
ん。患者さんから「先生,あんなところを紹介し
と,300床の経営母体が医療法人の平均データを
てひどいところだったわ」といわれたら,紹介し
持ってくるわけです。先生方に診療報酬点数の解
た自院のほうの評判も下がるわけです。自分の中
釈をコピーして,理解していただくのは非常に大
の診療圏にどのような病院があるのか,一度院長
変ですしわかりにくいものです。他医療機関との
にお願いして,1日,外に出してもらい,保険証
比較をグラフ化して医師へ説明をするなどの工夫
を持って,その医療機関に患者としてかかってみ
が必要となってきます。そうすると,先生の科は
るといいですね。そうすると分かります。まず受
これが低いですね,と棒グラフで説明します。そ
付の対応,同じ医事課ですから,どのように対応
れだけで,
「えっ,なんでよ。我々はこんなに一生
しているのか。ほかの病院を見学とかでお願いし
懸命やっているのに」となります。その一言が引
に行くんじゃなくて,患者でかかるんです。どの
き出せたら勝ちなんです。
「いや,実は,先生のと
くらいい待たされるのか,どういう入力をしてい
ころは,この指導料が算定していないんですよ」
るのか。領収書はどういうものなのか,などが分
というように話ができるからです。自院の機能や,
かるはずです。病院のためのマーケット活動とし
どのような役割をはたしていて,どんな特徴があ
て,そのような提案はぜひやっていただきたいな
るのかということをデータで表現することが必要
と思います。
私もよく行きます。女だから行きやすいという
なのです。
あとは,地域医療におけるマーケット,これは
こともありますが,新しい病院の,ここは連携先
マーケティングなんていうと非常に専門用語で難
でいいかなとか,窓口,受付,会計を全部見なが
しいように聞こえますけれども,簡単な話,当院
ら,また診察も受け,さらには,待合室にいるお
において同じ診療圏の中に,ほかにどのような病
ばあちゃんや主婦の方に,私はこの病院初めてな
院があるのか。その病院は連携先なのか,それと
んですけれども,どんな病院なんですかと聞いて
も競合先なのか,福祉施設はどこにあるのか。ど
みるのもおもしろいですね。そのような形でマー
こに老健や特養があって,デイサービスがあるの
ケット,診療圏の中にどのような特徴をもった医
かを調べることが大切です。ほかの医療機関や福
療機関があり,当院と比較してどうなのか,とい
祉施設があるなかで,うちは今,どの立場でやっ
うこともぜひマーケット活動として行っていただ
ているのか。100m先に国立病院,500m先に県立
きたいなと思います。
病院があるようなところでやっているのか。それ
そのような活動がやはりこれから重要になって
とも300床以上の病院は30㎞以内に一件もないと
くると思います。点数の1点,5点の請求漏れを
ころでやっているのか。それによって地域におけ
見つけるとか,1時間残業して,これは10Ml か,
る自院へのニーズは変わってきます。また連絡先,
20Ml の間違えだったわと見つける業務よりは,そ
例えば500床の病院で,平均在院日数を短くしたい
のような活動が重要視されてくるだろうと思いま
のであれば,連携先はどことなるのか。診療圏内
す。
における当院の位置付けはどうなのか。地図を
買ってきて,保健所のリストでもいいんだけれど
も,自院の周辺にどんな医療機関があるのか。ク
3.
自院の診療報酬と対応するコストを把握しよ
う
最後にコストです。自院の診療に直接要するコ
リニックも含めて調べることです。
当院が平均在院日数を短くしたいのだったら,
ストだけではなくて,医療機関として維持するた
在宅に帰りたいと思っている患者さんに(在宅医
めの間接コストも含めて把握するということは難
療を500床の病院ではできないでしょうから,在宅
しいですか。出来高請求だったら,薬がどのくら
やっているクリニックと連携を考えて)在宅やっ
い処方されたかは,レセプトから出てきますので,
てくれるクリニックさんを紹介すれば,退院も可
どの程度のコストかというものは分かるのです
能となります。療養病床や回復期リハ等は,連携
が,医事課を含めた事務部門の人件費はどうで
先として質のいいところを選ばなければいけませ
しょうか。把握できても,医師や看護師とちがい,
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79(1829)79
間接部門のコストとしてしか評価されません。
仮に2,000円だとする。診療報酬で摘便というのが
しかし,直接コストではないですが,私たちの
ありこれは100点となります。極論ですがナースさ
給料もレセプトで算定した収入により賄われてい
んが摘便にどのぐらい時間がかかるんですかと。
るということになりますので,そういった病院の
10分ぐらいとすると1,000円の収入を得るのに人
重要なコストとなります。この間接コストも含め
件費というコストは333円かかることになります。
たコスト全体が DPC 等の包括医療に対しては非常
では,この摘便の値段は,コストとしてはオーケー
に重要になるのです。医薬品や人件費,施設管理
だなと。プラスが出るなと。極端なケースでした
費といったコストを管理していかないと,DPC の
がこのようなコストと収入の関連付けを常に行っ
時代になってくると経営ができなくなります。い
ていただきたいと思います。当院は,この診療報
わゆるどんぶり勘定となってしまう。だからコス
酬で見合っているのかなと。そういう訓練だけ,
トの把握というものが非常に重要になるのです。
ちょっとしておいていただきたいなと思います。
自院の選択した診療報酬体系が自院の機能やコ
つまりコストがどのぐらいかという形のものが出
ストを十分に反映しているかを正確に把握するこ
せる医事課にならないと,ただたんに収入の算定
とも大切です。一般病床と療養病床の選択で大変
だけしかできないとなると今後は大変になってき
とは思いますが,当院はどのぐらいのコストで,
ます。今後コストをみていくということが経営の
どのような患者に対して医療をやっていくのか,
主眼になっていきますので,このところは,皆さ
という感覚を持っていただきたいなと思います。
んも,ちょっと意識を変えていただければと思い
ます。
まとめ
2つめのキーワードとしては,患者さんに対し
これからのキーワードは第一にコストになると
て,そして医療機関のなかに対して,この目まぐ
思います。特に DPC が導入されてくると,今まで
るしく動くこの制度の専門家たることです。現在
ならレセプトを見ながら,例えばこの検査をやっ
の制度がどうなっているのかを患者さんにも説明
ていれば手技料や採取料が漏れているという仕事
できる,それだけの知識を養ってください。それ
は多かったですけれども,DPC 導入後はそのよう
と,診療機能として,その地域のなかで,当院は
な仕事はなくなりますね。検査は包括となります
どういう役割を担っているのか,この把握と戦略
ので,採取料漏らすとか,画像診断などで造影剤,
を把握することも大切です。当院はこの地域のな
注入手技の漏れがあるとかいう仕事はなくなるわ
かで,どんな医療を行っていくのかということを
けです。例えば,電子カルテが普及して,ボイス
理解することです。目の前に国立病院や日赤病院
カルテも導入されてくると,医師が口頭で話した
といった高度医療を行う病院がある中で,150床の
ことが自動的に点数になるという可能性もあるの
規模が急性期やろうとしたって,それは難しいで
です。そのときに医事課が何をやるのかという話
す。もちろん専門病院であれば可能ですが。その
になります。もちろん,レセプトの1点,2点と
ような地域で何が求められているのかというもの
か,解釈を読み砕いてとかという仕事,恐らく変
を構築していくことです。
わってはくると思うのです。しかし,コストは誰
また付け加えるのであれば,私個人の考えです
が計算するのですか。総務ですか,庶務課,用度
が,診療録管理業務へいくのも一つの手だと思い
課でしょうか。確かにそれぞれの部署と直接的な
ます。診療録管理は,診断群分類といったニーズ
コストは把握するでしょう。しかし,収入との対
が高くなっていきますので非常に重要な機能と
比で,コスト計算ができるのは医事課ではないか
なってきます。DPC が導入されるようになります
と思います。
と,診療報酬点数表ではなくて,DPC 分類表を見
ただ,今はノウハウがあまりない。いつもレセ
ることになります。どういう診断群分類で,医療
プトしか見てないからです。しかし,今後はレセ
のコストがどの程度かかるのかが重要な業務と
プトを見るときにも,例えば,うちの看護婦さん
なってくると思います。その意味で独立した部門
の平均給与で,時間給にしたら幾らぐらいですか。
でなくとも医事課がその機能を果たすことも可能
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日本病院会雑誌
不可能です。情報開示だというのであれば,その
ではないかと思います。
しかしながら最終的に病院にとって重要なのは
ように説明できないことはやめてほしい。皆さん
エンドユーザーである患者さんにとって一番いい
からも,ぜひそれは声を大にしていっていただき
形での医療の提供をしていくことですね。私たち
たいと思います。
医事課職員は直接医療を提供するわけではありま
再診料の逓減性はどうやら廃止になりそうで
せんが,初めにも申したとおり医療と患者さんを
す。先日(平成15年5月)の中医協で,大体ほぼ
結びつけるという役目を担っており,その意味で
決まったようです。ただ,問題があります。今,
役割的には重要なはずです。
200床未満の病院は,再診料が1回目が高いです。
さらに一点付け加えさせていただければ,医療
これを廃止にすると,フラットにしちゃうから,
事務という私たちの仕事が国家資格になるとしま
1回目は今の点数より下がります。そうなると,
す。これから先,レセプト請求には,必ず国家資
月に1回しか来院しない患者さんとか,月に2回
格者の認可がいるとします。もちろん,医療機関
しか来院しない患者さんの医療費は下がることに
の管理者である医師の責任において現在はレセプ
なります。医療機関の経営面でとらえるとこれは
トが発行されていますが,さらに医療保険制度に
要注意です。自院の外来患者の特性を抱えて,早
精通した有資格者の共同発行となればと思ってい
めに収入動向の予測を行い経営者に報告すること
ます。そうした場合,皆さん責任をとれますか?
が必要となります。
条件は患者さんに正確に医療費の説明ができるこ
きょうは少し医事課の話しが中心となってしま
と。納得してもらえること。今回は,どのような
いました。しかし,皆さん,私たち自身が声を上
医療を行ったので医療費総額はいくらとなり,自
げて,一生懸命やっていかないと,私たちの医療
己負担として○○円ご請求させていただきますと
はダメになる。とくに国民が困るぐらいの気持ち
いう説明がきちっとできないとダメというのが条
は持っていただきたいと思います。私の両親が北
件です。さらには当院の施設基準として,今回の
海道で老老介護です。もう70歳をとうに過ぎてい
請求内容は適正ですと管理者にも了解を得ること
ますが,老人で,私がこのような仕事をしている
です。
のにもかかわらず,償還払いのことはあまり知り
私はいずれなるかなと思ったんですけれども,
ませんし,制度のことも知りません。そういう方々
残念ながら難しいですね。でも,請求に関するイ
が一体,日本国中にどのぐらいいらっしゃるのか。
ンフォームド・コンセントは増えてくると思いま
2割から3割負担になったから,サラリーマンの
す。レセプト開示の問題もあります。その部分で
来院頻度が少なくなったとか,2割から3割にな
も,私たち医事課は患者さんと直接体に触れると
ることで,幾らぐらい負担が増えるのかというこ
か,診療現場にいるわけではないがお金を通じて,
とを患者さんに説明できるようになってくださ
患者さんと直接対しているという意識は持ってい
い。そして安心して,とにかく不安を抱きながら,
ただけないかなと思います。医事課も医療職だと
医療機関に行くのではなくて,具合が悪いときは,
いうのはそこなのです。医療費を通して生きてい
なぜか安心して通院できるような形を,私たち
る痛みのある患者さんと私たちはつながっている
だったら,患者さんのためにできるんじゃないか
のです。そこの部分でのインフォームド・コンセ
なというところをプライドにして,仕事をしてい
ントは,今の日本ではドクターも時間的にできま
きたいなと思っています。
せん。そこで私が声を大にしていいたいことは,
きょうは,皆さま方にお役に立てた話しができ
患者さんに説明できない診療報酬はつくらないで
たかどうか分からないのですけれども,私の話し
ほしいということです。再診料などで,月の終わ
たかったことは,これですべてでございます。ま
りに来たら幾らで,同じことやって,月の初めに
た,今後とも,皆さまとお会いできることを楽し
来たらいきなり高くなるとか,外来管理加算もそ
みにしています。長時間,お付き合いいただきま
うです。それは患者さんに説明できません。仕組
して,どうもありがとうございました。
としては説明できても,納得していただくことは
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日本病院会雑誌
81(1831)81
ハウスキーピング研究会・講演
院内感染防止のための空調対策
福
同 環境設備設計部上席主査 油
(株)久米設計設計部統括部長
田
谷
昭
康
一
史
平成15年2月・東京
福田
OECDの調査・統計(注2)によると,平均在
昭一
院日数や病床当たりの職員数など,まだまだ世
本日の研究会のスライドには出てきておりませ
んが,私どもが70周年を迎えるにあたり,医療関
係の特集をした際のその内容の前書きの部分を掲
載したものです。
界水準と大きくかけ離れた点も多く見受けら
れます。
2020年には65歳以上の高齢者は総人口の約
27%になり,世界一の高齢化国になるといわれ
21世紀の病院建築
ています。社会的ニーズの面からは,このよう
――病院建築6つの軸――
な高齢化社会への対応と三大生活習慣病(注3)
久米設計第4設計部統括部長
福田
昭一
への対応が求められています。
当社は昭和7年(1932)の創立以来,約35,000
そして,医療施設の機能面からは,戦後建て
床,約90件の病院の設計に携わってきました。
られた病院の建て替え時期と相まって,新たな
その歴史は時代とともに変化を遂げる医療政
病院の建設が急増しています。それらの病院
策,医療技術,社会的ニーズなどとともにあり,
は,診療部門各部のスペースが多少なりとも広
今後も21世紀の病院建築のあり方の追求を重
くとられるようになっており,入院環境の面で
ねることで塗りかえられるものです。
は,デザインのみならず,病棟や病室の考え方
医療政策の面から変化の歴史を見ると,昭和
も新しくなってきています。介護保険法の実施
23年に制定された医療法も,昭和60年の第1次
や第4次医療法改正での急性期・慢性期の病床
医療法改正以来,平成13年の第4次医療法改正
区分,現在,国立病院と社会保険庁の病院で実
に至るまで,さまざまな改定が図られてきまし
施されている日本版DRG/PPS(注4)の試
た。
行などにより,今後さらに病院のあり方が大き
近年の医療サービスの目標は「医療サービス
く変わっていくと思われます。また,入院医療
の質への対応/情報と選択の時代」となり,
「イ
から在宅医療へ,在院日数の短縮,病床利用率
が義務づけら
の低下,対象疾患の変化などにより,病床数の
れ,医療従事者と患者および患者の家族とのコ
削減と病棟形態の変化が予想され,病棟にもフ
ミュニケーシヨンも図られてきました。また,
レキシビリティが求められてその対応が必要
診療報酬制度の改定により療養環境加算など
となってきています。
(注1)
ンフォームドコンセント」
により,病院施設の療養環境改善にも少しずつ
「医療の質」という言葉が多く使われていま
すが,アベディス・ドナベディアン(注5)によ
影響がでています。
医療技術の面では,現在,わが国は世界でも
高水準の医療技術レベルに達していますが,
れば,
「医療の質」を構成する要素は「医療の技
術」,「医療従事者と患者および患者の家族との
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
83(1833)83
コミュニケーション」,
「快適性・安全性を含む
する医療福祉施設の設計を通して,社会のお役
療養環境」の3つが挙げられています。一方,
に立てることを願っています。
病院建築も社会のニーズに対応して,病院機能
「快適性の追求」
Amenity
の追求から患者に視点を移したデザインの追
「機能性の追求」
Function
求へと変化してきました。そのようななかで,
「変化に対応できる持続性の追求」 Flexibility
「療養環境」
・
「アメニティ」
・
「ユニバーサルデ
「安全性の追求」
Safety
(注6)
ザイン」
など,病院建築のデザインに関す
「経済性の追求」
Economy
るキーワードもクローズアップされてきてい
「環境への配慮」
Ecology
ます。病院建築のデザインにおいて,「Design
for Healing Environment(治癒環境のための
デザイン)」という言葉をよく耳にしますが,
患者の心理は,療養環境における「空間の形・
大きさ・色彩」,
「材質・肌触り」,
「音」,
「にお
い」,
「光」などの感じ方により大きく左右され
ます。たとえば,病院に入って最初に感じる,
消毒液・薬品・厨房・蓄尿などの病院独特の臭
気対策を行うことも大切です。環境は人間が備
え持っている「感性」や患者の自然治癒力の活
性化にも影饗を与えるので,病院におけるテザ
インは,とくにきめこまかな配慮が必要とされ
ます。人間の五感に訴えるものは先に挙げた
「視覚」
「触覚」
「嗅覚」
「聴覚」以外に「味覚」
「インフォームドコンセント」という言葉が
もありますが,これらのことも病院を設計する
多く使われていますが,この言葉は「医療」の
うえで忘れてはならない項目です。
世界のみならず,「建築設計」においても適用
また,高齢化に伴う身体機能の低下は,居宅
される言葉であると考えています。私たちは,
内や施設内,病院内でのさまざまな事故を引き
「インフォームドコンセント」という言葉を真
起こす要因となっています。このような状況の
摯に受け止め,「医療関係者」と「設計者」が
なか,患者の生活環境という視点からデザイン
相互に納得したうえで21世紀の病院建築に携
を考えると「療養環境」の面のみならず,「バ
わってゆく所存です。
リアフリー」の面からも考えていかなければな
注1
りません。
患者個人の権利と医師の義務という見地から
わが国でも,「医療機能評価マニュアル」や
みた法的概念.患者には医療上の自己の真実を知
「病院機能評価スタンダード」などにより,患
る権利があるので,医師には個々の患者が理解し
者満足度や患者サービスを中心とした第三者評
価が行われていますが,アクセスビリティ(注7)
納得できるように知らせる義務がある。
注2
経済協力開発機構が発表する医療に関する国
際比較データ。
の良い日本の病院において,病院は患者に選ば
注3
悪性新生物(がん)・心疾患・脳血管疾患
れる時代へと変化しているなか,病院の患者の
注4
医療費適正化に向けた診療群別支払方式。
生活環境確保は必須条件であり,積極的にこれ
注5 ミシガン大学元名誉教授。医療評価について先
らの評価を受け環境改善を推進する必要があ
ります。
駆的業績を持つ。2000年11月,81歳で没。
注6 健常者・障害者の分け隔てなく,誰もが住みや
すいまち,利用しやすい施設・道具など,アメリ
私たちは,これらの考え方を基に,次の6つの
軸を取り組み姿勢として,病院建築をはじめと
84
84(1834)
カの建築家や工業デザイナーが提唱した考え方。
注7
患者が病院を自由に選択できること。
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2003年12月
日本病院会雑誌
先ほど委員長のお話にございましたように,
「医
また,今,
「事故」という言葉がありましたけれ
療の質」ということを私たちが施設という面から
ども,本日ご出席の皆さんに直接関係あるものと
どういうふうにお手伝いできるのか,またそれを
しては,
「医療事故」ということがあろうかと思い
どう考えなければいけないのかというようなこと
ますけれども,患者さんを診察しているときに生
を,とくにこのなかで,述べさせていただいてお
じた人身事故を「医療事故」といわれているよう
ります。
ですが,とくに医療側のミスで生じた人身事故を
アベディス・ドナベディアンは「医療の質」の
「医療過誤」と呼んでいるといわれています。医
構成要素として「医療の技術」,「医療従事者と患
療事故の原因としては,医療技術の高度化,患者
者および患者の家族とのコミュニケーション」,
さんの権利意識の増大,医師の専門分化ほか,数多
「快適性・安全性を含む療養環境」の3つを挙げ
くの要因が挙げられるのではないかと思います。
ていますが,そういうことを中心に,そういう気
病院ではどういうことが起こるか,医療施設に
持ちを持って設計にあたっていこう,とくに環境
おける危機管理を考えなければいけないわけです
という面では患者さんの療養環境は患者さんの五
が,その要因として二つあるだろうと考えており
感に与える影響が非常に大きいということがいわ
ます。一つは人的要因,もう一つは施設的要因で
れておりますので,病院設計をするうえではそう
す。
いったところを忘れてはいけないと,私自身の肝
人的要因については今,申し上げましたような
に銘じて設計を進めております。前書きはこのく
医療事故という視点からの要因,施設的要因は災
らいにして,早速本題に入りたいと思います。
害時,とくに地震なども含めて倒壊,浸水,漏水,
これは資料には入っておりませんけれども,ま
停電,階段などからの転落,あるいはベットから
ずハウスキーピングということをどういう目的で
の転落も施設的要因に入るでしよう。廊下でのつ
行っているか。一つには施設管理としてのハウス
まずきなど,ちょっとした段差による転倒,そし
キーピングということがあるだろうと思います。
て感染,汚染といった施設に起因する安全性にか
これは狭義のFM,ファシリティー・マネジメン
かわる要因があるだろうと思います。また感染に
トです。
ついては単なる施設のみならず,人的要因による
もう一つは経営戦略としてのハウスキーピング
感染もありますが,本日のテーマに結びつけるた
です。クライシス・マネジメント,危機管理とい
めに,とりあえず施設的要因に感染をおいてみま
うことだろうと思いますけれども,そういう意味
した。
でのハウスキーピング,こういう二面から考える
ということで,本日のメインテーマになります
のだろうということでここに2つ挙げましたが,
けれども,「院内感染を防ぐには」ということで,
先ほどこの研究会の委員長とお話をしておりまし
空調設備における対策についてお話したいと思い
たら,もう一つ肝心なことを忘れていたと思いま
ます。こちら(スライド1)に全体の目次を示し
したので追加させていただきますと,安全性とい
う面からのハウスキーピングも忘れてはならない
だろうと考えております。
ここにはリスクマネジメントとはどういうこと
かということで,時間があったら説明する予定で
したが,省略いたします。
危機管理とは,一般的に危険,損害,事故の発
生などを最小限に抑えるということ,そして万が
一そのような状況が発生してしまった場合には,
それ以上の事態の悪化をくい止めるために最適な
人的対応,制御手続き,管理措置を整備して行う
という対策であるといわれています。
スライド1
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
85(1835)85
ておりますが,初めに1番と2番について,続け
て私のほうから,3番の病院の空調システム以降
は専門的になりますので,環境設備設計部の油谷
から説明申し上げます。
初めにハウスキーピングという観点,そして空
調が関連する院内感染という観点から,院内感染
のどういうことが起こるかということを見ていき
たいと思います。日常の設計で実施したり留意し
ていること,実施したいけれどもさまざまに要因
があってなかなか実施できない困難なこと,実際
の医療現場で起こっている院内感染に関する各種
データや資料を入手しにくいことなど,最後に今
スライド3
後そういったものをどういうふうにしていく必要
があるのかというようなことをお話していきたい
4つに分けることができるだろうと思います。そ
と思います。
1.
院内感染の感染経路(スライド3)は,大きく
のなかで空調設備にかかわると思われる感染経路
院内感染とは
(スライド4)は,空気感染,飛沫感染,接触感
染ですが,最後の接触感染がなぜ空調にかかわる
スライド21)
スライド2にありますように,院内感染とは入
スライド42)
院や通院の原因となる原疾患とは関係なく,病院
内で新たな感染症に感染したものを院内感染とい
えるだろうと考えております。患者さんが退院後
に発症した場合であっても,もし院内で感染した
ものであれば,やはり院内感染に該当するでのは
ないだろうか。
患者さんだけではなく,お見舞いの方など病院
に出入りする人,あるいは医療従事者,病院の職
員など病院で働く方々が病院内で微生物に起因す
る感染症にかかった場合も含めて,院内感染とい
うことで見ていかなればいけないだろうと考えて
おります。
86
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スライド53)
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
のかといいますと,空気感染,飛沫感染と違う意
味で,例えば空調にかかわる保守あるいは清掃を
行っているときに,とくにフィルタ,ダクト内部,
吹き出しなどに付着した細菌に接触することに
よって感染する可能性があるということを含め
て,接触感染も含めております。
スライド86)
おります(スライド7)。白で書いてありますB
型・C型の肝炎ウイルス,エイズウイルスは,直
接的に空気を介した感染は起こってきません。と
いうことで赤で書いた部分ですが,こういうさま
ざまな菌類に起因する院内感染に対応した空調設
スライド64)
備を考えていかなければいけないわけです。
今さらこういうお話をするまでのことはないと
感染経路別に見た微生物関係を挙げております
思いますけれども,飛沫と飛沫核の比較をしてお
けれども,大きくは細菌とウイルス,そして空気
ります。このなかで少し注意していただきたいの
感染の予防を必要とするもの,あるいは飛沫感染
は,飛沫核と飛沫の落下速度の違いです(スライ
予防対策を必要とするもの,それぞれこういった
ド5)。この落下速度の違いによって,飛沫核は風
菌が挙げられるだろうということで,一覧表にし
や空気の流れにある程度影響されやすく,風に飛
ております。(スライド8)
ばされる,空気に流されるということと,空中に
浮遊する時間が長いということがいえるだろうと
2.
院内感染と空調のかかわり
思います。飛沫感染を防止するためには,特殊な
どうして起こるかということですが,まず空調
空調,換気はいりません。飛沫感染による感染の
設備の機能が不適切な場合として,空調系内で微
範囲は約1メートルです。(スライド6)
生物や各種のアレルゲンの増殖および放出という
院内感染の対象となる微生物をいくつか挙げて
スライド75)
ことがあります(スライド9)。そして呼吸器官に
スライド97)
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
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悪影響を及ぼす場合,湿度の制御が重要になりま
す。
主な微生物と空調設備の関連ということで,先
す。
さらに,空気中に浮遊する微生物が他室へ流入
ほど挙げました黄色ブドウ球菌以下,緑膿菌,真
する場合,あるいは空調停止時にダクトの煙突作
菌類,結核菌,水痘・帯状庖疹ウイルス,レジオ
用によって下階の空気が上階に移動して上階が汚
ネラ菌,麻疹ウイルスを挙げておりますけれども,
染される場合があります。これについては後ほど
細かい内容になりますので,これはお読みいただ
実際の図面の中で詳しい説明をしたいと思いま
きたいと思います。
スライド106)
スライド139)
スライド116)
スライド149)
スライド128)
スライド159)
88
88(1838)
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日本病院会雑誌
スライド169)
スライド18
けれども,建築のなかで清汚の平面計画をきちん
とする,病院の各区域のゾーニングということで
す。それに基づいて空調のゾーニングをして,清
潔区域における空気圧差による気流をつくること
が,感染患者の隔離,易感染者への空気感染を防
止するために非常に重要な手段となります。後ほ
ど実際にどういうゾーニングと空気の流れをする
のかということを細かく説明したいと思います。
(スライド18)
院内感染対策の問題点として,まず私たちもそ
うですけれども,感染経路とその割合の関係,感
スライド1710)
染経路と疾病の関係,感染経路とその危篤性,死
レジオネラ菌については,施設に関係するとい
亡率の関係ということがなかなか解明されており
うことで,最近いろいろ話題にのぼっております
ませんし,私どもはこういう資料あるいはデータ
が,とくに空調に関しては,屋上にあるクーリン
を持っておりません。そういうデータをどんどん
グタワーという機械から発生するさまざまな問題
ご呈示いただきますと,それに対する設備的な対
があり,これも後ほど,そういった対策をどうす
策をどうしていくかということを解決する一つの
るかということを説明いたします。
ヒントになると思います。これからそういうデー
スライド17は抗生物質と薬剤耐性菌の関係です
が,青の部分と黒の部分が,例えばペニシリンが
発見され,ここの部分で使用開始をしたけれども,
すぐに耐性黄色ブドウ球菌が生まれてきた,逆に
こういう菌については,バンコマイシンをここで
使い始め,ずっときてMRSAが発生したのが約
30年後というように,抗生物質と耐性菌ができて
くる関係は,菌の種類によってすぐに発生するも
のと,数十年後に発生するものがあるという比較
をお示ししたものです。
院内感染にかかわる空調設備の重要性というこ
とで,まず初めに建築的なこともあると思います
スライド19
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日本病院会雑誌
89(1839)89
タをどんどん蓄積していかなければいけないと考
広間にパーティションで仕切りがあるということ
えております。
ではなく,大きな待合ホールがあったり,小さな
では何を重点的に対策すべきかということです
診察室があったりします。
けれども,空調に起因する院内感染は多いのか,
そして使用目的が異なる部屋の集合体であるこ
どこを重点的に対策すべきかということを常に考
とも特徴の一つです。病室,診察室,手術室など
えながら,今後の空調のあり方を考えていかなけ
医療に直接関わる室や,医事課のような事務室的
ればいけないだろう。これは先ほどらい,申し上
な室があります。
げておりますように,私たちだけではできない部
使用時間帯の異なる室の集合体であることも特
分がたくさんあります。皆さんのご協力のもとに,
徴の一つです。このことについては,後ほどスラ
上にある不明の部分を明解なものにしていかなけ
イドでお示ししたいと思います。
ればいけないだろうということが重要であると考
また,要求される温湿度,空気清浄度の条件が
異なる室の集合体でもあります。手術室と病室で
えております。(スライド19)
何をいったのかよく分からないような説明だっ
は要求される空気清浄度,温湿度が異なります。
たかと思いますけれども,今,申し上げた部分は
そして,もっとも重要なことは,手術室やIC
さわりで,それでは病院の空調システムをこれか
Uなど患者の生命維持に直結した部屋があるとい
らどう考えていかなければいけないのか,あるい
うことです。患者のためでなく,医療機器の性能
は今までどう考えてきたかということにつきまし
維持のために,空調が必要になることもあります。
院内感染に一番関係する部分として,通常の建
て,油谷から説明申し上げます。
物では存在しない特殊な汚染物質,例えば有害物
油谷
3.
質や細菌が発生しやすい建物であると考えていま
康史
す。
増築や改修に対する対策を,建物を建てる段階
病院建築の特徴
(1)
から考慮しておく必要があることも,病院建築の
空調計画に係わる病院建築の特徴
まず病院の空調システムについてお話を始める
前に,病院建築の特殊性について少しお話したい
特徴と考えられます。その他として,省コスト,
保守のしやすさが重要になってくると考えていま
す。
と思います。(スライド20)
皆さんには,頭のなかで事務所建築と比較しな
がらお聞いただきたいと思います。
まず,構成される諸室の大きさがまちまちであ
ることがその特徴の一つです。事務所のように大
スライド2111)
(2)
病院の空調時間帯
先ほど病院の各所で,使用時間帯が異なるとい
う話をしましたが,この図(スライド21)は「(社)
スライド20
90
90(1840)
空気調和・衛生工学会」の『空気調和・衛生工学
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日本病院会雑誌
便覧』から引用したものです。通常,24時間空調
ゆる建物で,経済性,安全性,持続性,機能性,
運転される場所として,ナースステーション,I
快適性,環境適合性を空調計画のポイントとして
CU,一般病室,特殊病室などがあります。病院
挙げています(スライド23)。病院に関しては,安
によっては,一般病室は夜間空調を止めてしまう
全性のところで,院内感染に対する配慮を挙げて
こともあるようです。随時運転される手術室,分
います。
娩室,あるいは夜間だけ使用される当直などがあ
持続性というのは,最近,サスティナブル建築
ります。
「定時」は,昼間のみの使用を意味します
という言葉をお耳にしたことがあると思いますけ
が,外来と厨房では使用時間帯に差が出てきます。
れども,建物を建てて,使いにくくなったら取り
これらが病院の空調システムを構築するうえで非
壊すというスクラップ・アンド・ビルドというこ
常に重要なファクターになってまいります。
とではなく,できるなら100年建築を目指して,必
(3)
要に応じてきちんと改修できる建物をつくってい
病院空調の役割
では,ここで病院の空調の役割とは何か改めて
くことを指しています。
振り返ってみます(スライド22)。当たり前のこと
ですが,まず要求される温湿度をしっかり確保し
ましょうということになります。そして空気清浄
度の維持も重要です。とくに病院の場合は高度な
空気清浄度が求められる部屋が多いため,その清
浄度を適切な方法で確保しなくてはなりません。
汚染物質の拡散を防止し,いかに局所的に排出す
ることも重要です。
スライド23
そして機能性,快適性も重要です。とくに快適
性については,患者さんが24時間いらっしゃる施
設であることに重点をおいて設計に取り組んでい
ます。そして,環境適合性は,周辺,都市,地球
環境に対してできるだけ負荷を与えないようにと
いうことをテーマにおいています。
スライド2212)
負荷変動とは,冷暖房,換気などに必要になる
エネルギーの変化と思ってください。時々刻々変
化する負荷に対して,無駄なく柔軟に対応し,省
エネルギーをはかることが重要です。
安全性・信頼性の維持は,先ほどお示ししたよ
うに患者の生命に直接かかわる部分があるという
ことから,こういった役割も病院空調の要件とし
て我々は考えています。
(4)
空調計画のポイント
我々は,病院建築に限ったことではなく,あら
スライド2413)
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(5)
空調設備における院内感染防止の原則
ここから,少し院内感染の話にふれていきたい
と思います。この空調設備における院内感染防止
の原則(スライド24)は,
『空気調和・衛生工学便
覧』13)から引用したものです。病原菌を持ち込ま
ない,持ち出さない,拡散させない,あるいは空
気を滞留させないということが原則です。空気の
滞留について手術室を例にあげれば,何もおかれ
ていない手術室では,天井からのフィルタでろ過
された空気が層流状に流れていますが,器材や看
護師の位置により,空気が渦を巻いて滞留し,そ
こに汚染物質が残ることが考えられます。
(6)
スライド2614)
ています。この図は一般病室の例ですが,他の部
病院空調に関する基準
これ(スライド25)は,病院空調に関する基準
ということで,恐らく多くのご出席いただいてい
る皆様はご存知かと思いますけれども,
(社)日本
医療福祉設備協会の規格に『病院空調設備の設
門についても同様に示されています。
4.
病院における空調方式
(1)
空調方式の概要
計・管理指針(HEAS−02−1998)』があります。病
ここから空調設備の専門的な話になりますが,
院の設計に関する公的な資料はあまり見受けられ
わかりやすくご説明していくつもりですから,少
ませんが,この資料は比較的よくまとまっていて,
し辛抱してお聞きください。
内容的には室内環境の条件,空調方式についての
空調システムは,細かく分けると無限にあるた
説明,省エネ,災害対策,運転保守,部門別設計
め,ここではまず,代表的な3つを説明して,皆
指針などが解説されています。
様に空調というのは病院によってどうなっている
のか,自分たちの病院との違いはどういうところ
にあるのか,というところを考えていただくため
のきっかけにしていただきたいと思います。
スライド25
もしご存じない方がいらっしゃいましたら,一
度入手されて見ていただくと,大いに参考になる
スライド27
資料だと思います。
この表(スライド26)はその一例で,各室の条
この図(スライド27)は,専門的な用語では,
件と清浄度クラス,外気をどの程度導入すればよ
単一ダクト・全外気方式といっています。これら
いかの最低基準,室内圧,室内を循環する機器の
の室全体を例えば病院の外来部門だと思ってくだ
設置の是非,室温,湿度の設定条件などが示され
さい。外来などのある部門に関して1台から数台
92
92(1842)
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日本病院会雑誌
の「大きな空調機(外気処理機)」を設置します。
外気処理機とは,外気(新鮮空気)を適切な温湿
度にして,室内に給気する空調機のことです。室
内に給気した空気は,排気ファンで排出するか,
あるいは全熱交換器を介して排気から直接熱回収
してから排出し,省エネを図る場合もあります。
この方式の特徴的なことは,次の図(スライド
28)と比較していただきたいのですが,空気を送
るダクトが太くなっています。これは室内にファ
ンコイルなどを置かずに,すべて空調機からの空
気で室温をコントロールするので,送風する空気
の量が多くなるためです。各室の温度制御は,可
スライド29
変風量装置によって行われます。この装置で各室
が必要な温度になるように空気の送風量を変えて
扇を置き,各室の温度はマルチエアコンでコント
空調する方式です。大きな利点は,室内にファン
ロールするシステムです。
コイルなどメンテナンスが必要になってくる機器
が不要となるということですが,欠点もあります。
そのほかに,天井を冷やしたり暖めたりする輻
射冷暖房システム,後ほど説明しますレヒータ(再
熱ユニット)を使ったシステムなどもありますが,
図で説明したシステムが主流を占めているのでは
ないかと考えています。
これ(スライド30)は,ご説明した3つの方式
を横軸にとり,縦軸には,規模への適用性,温湿
度の制御,室圧管理,空気の状態などの一般事項
について,比較する形でまとめたものです。
これ(スライド31)も横軸は同じですが,縦軸
にはフィルタの有無,加湿などの考え方を示しま
した。
先ほどの繰り返しになりますが,単一ダクト・
全空気方式は,室内にファンコイルなどの空調機
スライド28
器がないので,室内にフィルタはありません。ド
一方,この図(スライド28)が,今申し上げた
レンは,冷水コイルで空気が結露して発生する水
ファンコイルユニットを用いた空調方式です。同
じように部門全体を1台の外気処理機から送風し
ていますが,これはあくまでも必要な新鮮空気を
入れてやることが目的で,室内の温度を調節する
ことが主目的ではありません。室内の温度は天井
についているファンコイルでコントロールしま
す。ファンコイルは,このように天井に設置され
ることもありますが,窓際の床や病室の廊下側天
井に設置させる場合もあります。
この図(スライド29)は,比較的小規模な病院,
診療所,事務所などでよく使われている方式です。
大きな空調機を持たずに各部屋の天井に空調換気
スライド30
日本病院会雑誌2003年12月
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日本病院会雑誌
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(2)
部門別空調方式の実績
先ほど空調システムを3つほど紹介しました
が,
『建築設備士』という雑誌では数年に一度程度,
病院の設備などに関して,アンケートをもとにし
た統計結果を掲載しています。
この図(スライド33)は,実際に病院で,どう
いう空調方式が採用されているかということを簡
単にグラフにまとめたものです。
ダクト方式は,先ほどの単一ダクト・全空気方
式で,室内に空調機を設置しない方式と思われま
す。ダクト+FCU2管方式は,先ほど2番目に
スライド31
ご説明したファンコイルを使用した方式です。F
CU4管方式もあります。2管方式の場合は夏と
のことです。
この水を受けるものをドレンパンといっていま
冬で冷水と温水が切り替わり,夏は冷房,冬は暖
す。ドレンパンは細菌が繁殖するといわれていま
房しかできないというものです。4管方式の場合
す。室内に空調機器がないということは,室内に
は,年間を通じて冷水も温水も常にいる,つまり
ドレンパンがないという利点があります。
コイルが2つあるということで,隣の部屋が暖房
しかし,建設コストの増加や,外気の導入量が
しているけれども,こちらの部屋は冷房したいと
多くなるためにランニングコストが高めになる可
能性もありますので,採用にあたっては,十分な
検討が必要です。
ドレンパンについて少しお話しましたが,この
図(スライド32)は床置き型のファンコイルの例
です。内部にはフィルタやコイルなどが組込まれ
ています。このコイルに冷水が流れ,空気が接触
してそれが水滴になってドレンパンに流れる仕組
みになっています。
このドレンパンが,湿潤状態であるために,細
菌が繁殖し,院内感染の一因になっている可能性
が指摘されています。
スライド3316)
いう場合に採用される方式です。
PACはパッケージ型空調機の略ですが,先ほ
ど説明した3番目のマルチエアコンを使用した空
調方式に類するものです。マルチエアコンは,家
庭用のルームエアコンの“お化け”と思っていた
だいて結構です。図を見ていただいてお分かりの
とおり,全体的には黄色と水色が圧倒的に多く
なっています。つまり,ファンコイルによる空調
が採用されているケースが多いということです。
単一ダクト・全空気方式は,手術室一般や手術
スライド3215)
94
94(1844)
室特殊に多く採用されていることが分かります。
手術室特殊とは,バイオクリーン手術室などのこ
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日本病院会雑誌
とを指していると思われます。
5.
院内感染防止のための空調的手法
ここからは,院内感染防止のために我々はどう
いう空調的な手法を採用しているかということに
ついて,簡単に説明していきたいと思います。
先ほど,福田の方からお話したように,実際に
病院の空調システムが,院内感染にどれだけかか
わっているかということは,定量的に分かってい
ません。ただし,空調設備が原因で院内感染が拡
散可能性が高いという報告はあります。したがっ
て,やれることをきっちりやっておきましょうと
スライド35
いう姿勢で我々は取り組んでいます。
院内感染防止のための空調的手法として,我々
病院の空調ゾーニングを行う際に私たちが重要
が日常取り組んでいる主な手法を列記してみまし
視していることは,まず部門,診療科間の空気交
た。(スライド34)
流を抑えることです。用途の違うところの空気が
混ざらないようにする必要があるのではないかと
考えています。空気清浄度の差異も同じことです
が,特殊な空気清浄度を要求するところとダー
ティーなところは基本的には別系統にします。
使用時間帯の異なる部屋を同じ空調ゾーニング
すると無駄な空調を行う結果となり,ランニング
コストにかかわってきます。一方,建築的な要因
として方位,面積,機械室の配置計画ができるか
どうかということについて考えながらゾーニング
を計画していきます。
この図(スライド36)は,私が設計し現在建設
中のある病院の地下1階の平面図です。ここでの
スライド34
ゾーニングは,当直室と更衣室に対して,1台の
空調ゾーニングについては後ほど詳しく説明し
外気処理機を設けています。中央材料部は,既滅
ます。全外気方式,空気清浄度の維持,空気の流
菌ゾーンと未滅菌ゾーンを同一系統として,給気
れ・室圧の維持,そして抗菌空調にも少しふれて
みたいと思います。空気交流の防止,排気ファン
の先行運転,加湿の重要性,ドレンパンのない空
調システム,ショートサーキットの防止,冷却塔
でのレジオネラ属菌対策といったことについて,
順番に説明したいと思います。
(1)
空調ゾーニング
空調ゾーニングについては,ほとんどの方がご
存じだと思いますけれども,ここでは「外気を処
理する空調機がカバーしている系統の分け方」を
空調ゾーニングといっている,と理解してくださ
い。(スライド35)
スライド36
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と排気のエアバランスで,清から汚への空気の流
れを維持しています。
RI,放射線治療はそれぞれ別系統です。厨房
の中でも,厨房全体と厨房の事務室などは使用時
間帯が異なるなど,条件がかなり異なるので別系
統としました。薬剤部門の独立したゾーニングに
しています。サービスヤードは空調せず換気のみ
です。
解剖室および霊安室は,同一系統にしています
が,解剖時専用の空調機を設けています。
この図(スライド37)は4階の平面図ですが,
手術部門は大きく一括りにしています。バイオク
スライド38
リーン手術室だけは別系統です。ICUは別系統
です。そして検体検査,病理検査,細菌検査,P
が,部分の大部分の空気は,同じ系統内の各室に
3の検査室も単独で別の空調機を設けています。
戻ってきます。空調機にフィルタがあるため,す
べて汚染物質が入ってくることにはなりません
が,その捕集効率によっては,汚染物質が同系統
の各室内に拡散される恐れはあります。したがっ
て,病院建築では,全外気方式を主流にしていま
す。ただし,医事課などの事務室的な用途では,
再循環方式を採用する場合もあります。
(3)
空気清浄度の維持
次に空気清浄度についてお話します。
(スライド
39)
院内感染を防止するという観点では,とにかく
空気清浄度を高めてしまえばいいのではないかと
いうお話が出てきますが,我々はできるだけ病院
スライド37
(2)
さんときちんと打ち合わせをして,必要最小限の
全外気方式と再循環方式
適正な範囲にしています。
次に全外気方式と再循環方式についてお話しま
すべての清浄度を上げてしまうと,空調機器が
す。(スライド38)
全外気方式は,空調機で室内に導入した外気は,
すべて,外部に排気するということだと理解して
ください。
一方,再循環方式は,例えば法的に必要な外気
取入量分のみを取り入れ,供給した空気の大半は
再循環して,再度,各室に給気する方式です。せっ
かく冷暖房した空気は省エネのために戻してやろ
うというシステムです。事務所建築などでは広く
採用されています。
ただ,病院の場合にはこういうシステムはお勧
めしていません。例えば「室2」で汚染物質が発
生したとすると,一部排気されるものはあります
96
96(1846)
スライド39
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大きくなる,高性能フィルタが多く必要になる,
熱源機器の容量が増大するなど,とにかく建設コ
ストがアップしますし,同じような理由でランニ
ングコストもアップすることにもなります。区域
別に適切な空気清浄度をどう維持するかというこ
とについて,時間をかけて病院さんと打ち合わせ
をするようにしています。
空気清浄度を維持するためには,まずその汚染
物質を把握する必要があります。病院内で考えら
れる汚染物質とその発生源がまとめられたものが
ありましたので,表にまとめてみましたので参考
スライド4118)
としてください。(スライド40)
ダクト系での汚染要因としては,スライド41の
①∼③までの項目が考えられます。空調システム
の系内でも汚染されている部分があるといわれて
います。汚染要因としては,冷却コイル,ドレン
パン,加湿装置などの湿潤な部分でのカビや細菌
の繁殖があります。
スライド4219)
ルタを設ける構成になっているので,フィルタ以
降に汚染物質があれば,それが室内に入る恐れが
あります。
Bは,空調機の吹き出し側に最終フィルタを配
置する構成になっています。空調機の中の汚染物
スライド4017)
質は,この最終フィルタで捕集できますが,以降
空調機やダクトは完全な機密ではなく,当然隙
間があります。ダクトの場合は施工方法にもより
のダクト系内に汚染物質があると室内に入ってく
る恐れがあります。
ますが,3∼5%ぐらいあるといわれており,隙
最後にAですが,この方式は高清浄度区域とい
間から入ってくる空気とともに粉塵などが一緒に
われるところに採用している方式で,最終の吹出
入ってくる場合もあります。
口にHEPAフィルタを配置するものです。
そのほか送風機下流側ダクト内の錆,付着した
BとCでは,空調機内の汚染物質を比較すると,
粉塵,音をとるための消音材の飛散があります。
空調機内の汚染物質が室内に入りにくい点では,
ではこういった汚染要因のなかでどういった
Bの方が優れています。しかし,実際には,消音
フィルタ構成が良いかということをまとめたもの
材や最終フィルタを空調機の内部に組み込むこと
がこの図(スライド42)です。
になるので,空調機が大きく,高価になるためか
順序が逆になりますが,Cから説明したいと思
います。Cは,空調機の風が入ってくる側にフィ
Cの採用が多いと思います。
この表(スライド43)は,先ほどお話した日本
日本病院会雑誌2003年12月
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日本病院会雑誌
97(1847)97
ということです(スライド44)。この換気回数が多
いほど汚染物質が早く排気されることになりま
す。換気回数が少ない場合は,汚染物質がすみや
かに排除できないことになります。また,後ほど
説明しますが,室間差圧は空気の流れでつくるわ
けですから,換気回数が少ないと室間差圧が維持
しにくくなる場合もあります。
では,換気回数をすべて大きめにすればよいか
というと,それは,ランニングコストに影響しま
す。また,吹出口の位置を間違えると,患者や医
療従事者が,気流により不快を感じることもあり
スライド4320)
ます。
どの程度が適正化ということですが,普通,便
所では10∼15回/h 程度です。HEASでは,病室
の最小基準として,2回/h 以上の新鮮空気を導入
する 14) ことを推奨しています。弊社では3回/h
以上を目安にしています。手術室については,H
EASでは最小基準を5回/h としています。弊社
では,10回/h を目安に計画・設計しています。こ
れはいち早い汚染物質や臭気,余剰麻酔の排出の
ためです。(スライド45)
空気の清浄度の話をするときに,一般的に「ク
ラス」という言葉で表現されますが,この表(ス
ライド46)はその定義を示したものです。単純に
スライド44
いうと0.5μm の微粒子が1立方フィート当たりど
のくらいあるかということを基準としたもので,
100個/ft3以下の場合をクラス100,10,000個以下
の場合をクラス10,000と呼んでいます。
例えば手術室などで,
「クラス10,000」とする場
合,クラス10,000の行を横に見ていただくと,そ
の粒子数,微生物数,落下細菌数が示されていま
スライド45
医療福祉設備協会の規格HEASから引用したも
のです。該当室に対して必要な換気回数が示され
ています。
「換気回数」とは,空調機から入ってく
る給気量をQとし,部屋の容積をVとすると,こ
のQをVで割った,つまり1時間当たり部屋の空
気が,新鮮な空気によって何回入れ替えられたか
98
98(1848)
スライド4621)
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は,上の段に粒子の種類,下の段にあるメーカー
す。
この表(スライド47)は,1972年の少々古い資
のカタログを参照して,どの程度のフィルタを選
料ですれども,空気清浄度が手術室での感染に対
定すればいいかということを示したものです。単
してどのくらい影響があったかということを示す
純には,このように粒子の粒径によって,選ぶべ
データです。私にはこのデータで,空気清浄度が
きフィルタが決まってきます。
直接感染の原因となって判断はできませんが,換
ウイルスやバクテリア類を捕集しようとすれ
気のみで手術を行った場合は199の手術数のなか
ば,高性能のHEPAフィルタを使わなくてはい
で9%の感染が見られます。電気集塵機を使った
けませんが,花粉などであれば,中性能フィルタ
空調を行った場合,バイオクリーンルームにした
で十分捕集できます。詳しくはまた後ほど説明し
場合と段階的に見ていくと,感染率はだんだんと
ますが,フィルタの使い分けが重要で,相当コス
少なくなっている傾向はみられます。
トに影響してきます。
先生によっては,
「空気清浄度を必要以上に高め
るのではなく,抗生物質を投与できる患者にはそ
の方が感染率は低い」とおっしゃる方もあるよう
です。
恐らく皆さんの病院のなかで,フィルタにかか
わるコストやメンテナンスの手間が,非常に大き
いのではないかと思います。この図(スライド48)
スライド4923),24)
この表(スライド49)は,フィルタのランクを
改めて整理したものですが,古い資料を引用した
ため,今はもう少し数字が変わっているかもしれ
ません。フィルタの評価の方法として除去効率を
表すのに,計数法,比色法,重量法があります。
スライド4722)
先ほどお見せした表(スライド43)の右から2番
目の欄に必要と考えられる最終フィルタの効率が
示されています。例えば清浄度クラスⅡでは比色
法で90%以上となっています。つまり,比色法か
らみれば高性能フィルタで十分です。ただ,計数
法では95%ともあるので,高清浄度区域ではHE
PAフィルタを採用されるということが多いよう
です。
このグラフ(スライド50)は,フィルタの性能
とそのコストの関連をあるメーカーに問い合わせ
てまとめたものです。風量によって違いがでるか
と思いまして整理してみましたが,風量によるコ
ストの変化はあまりなかったので横軸は余計で
スライド48
す。縦軸はフィルタの風量当たりの単価です。U
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スライド50
スライド5225)
スライド51
スライド53
LPAは病院ではあまり使われていませんが,半
導体工場などで使われています。HEPAフィル
タの風量当たりの単価が約4万円に対して,中性
能,高性能フィルタは1万円程度です。これはメー
カーの見積価格です。活性炭吸着フィルタは,脱
臭用やRI検査部門でヨウ素を使用する場合の排
気系統に配置されるフィルタです。
(4)
空気の流れ・室圧の維持
ここからは空気の流れ・室圧について,お話し
たいと思います。この図(スライド51)は,空気
の流れと室圧,空気清浄度の関連を概念図として
示したものです。当然のことながら空気清浄度の
スライド5426)
高い方の室圧を高くする必要があります。汚染管
理区域といわれている部分では,空気清浄度は低
位置に給気口や排気口をつけることで維持しま
くてよく,室圧も低く維持しなければなりません。
す。
これは病院全体の話でもあり,あるいはある部
室圧は,室間を流れる空気の量と室間の隙間で
門のなかの話でもあります。空気の流れは,入っ
圧力が変わります。きちんと定量的に室圧差を維
てくる空気と出ていく排気のバランスと,適切な
持したい場合には,微圧調整ダンパ等を使用しま
100
100(1850)
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
す。これについてはまた後ほど説明します。
し,双方をバックアップしています。各部屋には
この図(スライド52)は,感染症指定病床の空
HEPAフィルタがついた空調機を置き,清浄度
調の例を概念化したもので,患者には常にきれい
を維持しています。バイオクリーンルームは単独
な空気を与えなくてはいけないため,吹出口,排
で空調していますが,モーターダンバを設置して,
気口の位置に留意する必要があります。感染した
一般の空調系統からバックアップできるように配
患者がいるので,室圧全体は隣室に対しては負圧
慮しています。
にします。図中の+は正圧,負圧は−を示してい
モーターダンバとは,電気の信号でダンパを開
ます。廊下に対して,前室(−1)から,病室(−
閉するものです。常時は閉まっています,空調機
2)と設定します。排気は,感染症の患者がいる
の故障信号や,ダクト内圧力の低下などの信号を
ので,HEPAフィルタでろ過して放出します。
受けて開閉します。中央監視盤から強制的に開閉
このように空気の流れを作ることで,汚染物質の
することもできます。
このような手法を提案して,災害時,停電時,
拡散防止を図れると考えています。
この図(スライド53)は,先ほどの図と逆のケー
スで,日和見感染しやすい患者さんが入っている
故障時にも必ず手術部門の空気の流れが一定にな
るような工夫をしています。
病室です。感染防止室といっていますが,この場
この図(スライド56)のように,各手術室ごと
合は,病室側が正圧になります。患者にはHEP
に単独で空調機を設置するシステムもあります
Aフィルタからの清浄な空気が供給されます。府
が,この場合バックアップを図ることが難しいと
中病院のICUもこういうシステムを採用してい
考えていますが,室ごとの温湿度はこのシステム
ます。
の方が厳密にできます。
この図(スライド54)は,私どもで手がけたあ
る病院の手術部での空気の流れを示すものです。
この病院の手術部は,クリーンサプライ方式を採
用しています。物品供給はサプライホールから行
われますが,ここが最も清潔なゾーンと考えて設
計されています。
手術室もほぼ同等ですが,空気はサプライホー
ルから手術室に流れます。ただし,バイオロジカ
ルクリーンルームでは逆で,ここが最も空気清浄
度が高くクラス100に設定されています。手術室か
らは,外周廊下に向かって空気が流れます。この
ような空気の流れを維持することにより,各場所
スライド55
で必要な空気清浄度を維持しています。
少し話がずれますが,先ほど安全性という話を
しました。こういう重要部門は,2台の空調機を
設置して相互バックアップさせる計画にすること
があります。
万が一,一方が故障した場合も,もう一方でバッ
クアップできるということです。100%カバーにす
るか,6割ぐらいにするかというのは諸条件に
よって変えていますが,このような手法で安全性
を高める提案をしています。
この図(スライド55)は,先ほどの手術室の空
調システムです。実際に大きな空調機を2台設置
スライド56
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
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101(1851)101
この図(スライド57)は,差圧ダンパの例です
が,
“微圧調整ダンパ”が正式名称と聞いています。
隣り合った室の間に定量的な差圧を維持したい場
合に設置します。
微圧調整ダンパは,メーカーによっては形状が
異なります。ここでは2種類紹介してありますが,
ほかにも数種類の形状のものがあります。皆さん
のお勤めの病院の手術部門にもどちらかのタイプ
が設置されているのではないでしょうか。
図(スライド57)の左側は,棒の先についてい
スライド58
滅菌というような積極的な菌を減らすという意味
ではないと理解しています。
抗菌空調は,光触媒などを利用して菌の増殖を
抑制するシステムで,ある大学病院の手術部では
大部分で採用したと聞いています。
(6)
空気交流の防止
空調が停止している時間帯に空気が動いてしま
うという報告があります。一見不思議な話ですが,
スライド5727),28)
例えば図(スライド58)のように空調対象室より
高い位置に排気ファンが配置されている場合,縦
る重りの位置を調節して,開口面積を変えること
のダクトが上下に長いために温度差がついて,空
により差圧を調整します。
気が上部に上がっていくことがあります。また,
この差圧調整ダンパでは,10∼40Pa 程度の差圧
を調整できますが,私が設置をお勧めしているの
は,空気の流れの状態が目視で確認できるという
外部の強風により,空調機側から外気が侵入して
くることもあります。
私どもではこういったことを防止するために,
ことのためです。微圧調整ダンパが開いていれば,
必ず外気の取入口と排気ファンの出口にモーター
正常に空気の流れが維持できていることが確認で
ダンパをつけて,空調機の停止と連動してこのダ
きます。これが閉じていれば,空気の流れが乱れ
ンパを閉じることで,風の行き先をなくし,空調
ていることが目視でわかります。空調のバランス
機が停止したときに空気交流が起こることを防止
はフィルタの詰まりなどさまざまな条件で変わっ
しています。これは,病院建築で特別に行われて
てきますから,差圧調整ダンパを設置することに
いることではなく,事務所建築などでも行われて
よって,常に状態を目視で確認できる点でお勧め
います。
この図(スライド59)は,
「院内感染」について
しています。
(5)
書かれている本にはよく出ていることなのでご存
抗菌空調について
テキストには,抗菌空調について書いてありま
じと思いますけれども,いわゆる「煙突効果」に
す。詳しい説明はここでは省略したいと思います
よる空気交流を示すものです。例えばこの図を病
が,今,
「抗菌」という言葉がいろいろな分野で使
棟と思っていただきたいのですが,屋上に空調機
われております。抗菌の定義も非常に曖昧だと
を設置し,各階の病棟にダクトで給気し,排気ファ
思っていますが,菌をふやなさいという意味合い
ンを屋上に設置して排気するシステムです。
で使われていることが多いということで,殺菌,
102
102(1852)
空調機も排気ファンも動いている間はなんら問
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スライド61
スライド59
題なく空気は所定のとおり流れますが,夜間,も
しも空調を停止してしまったときに,煙突効果が
起こり,下の階の空気が上の階に入ってしまう危
険性があります。実際に空調機を停止させて,煙
を焚いて試験した結果,下階の空気が,上階に侵
入してくる現象を確認したことがあります。
仮に下階で汚染源が発生すると,図(スライド
59)のような流れで上階に入っていく危険性があ
るということです。
我々は,縦のダクトの分岐部分にモーターダン
パを設置しています(スライド60)。普段は空調機
が動き出すとこれが開くので風が流れますが,停
スライド62
止すれば閉じるようになっていて,上下階の空気
交流を防止するわけです。
圧にしておく必要があります。対象室に対して,
排気ファンが離れた場所に設置されている場合に
は,空調機と排気ファンに一斉に電源が入ると,
一時的に室圧が正圧になり,汚染物質が扉の隙間
から廊下に出たり,照明の隙間から天井裏にいっ
たりして,拡散する危険性があるのではないかと
考えています。
そこで我々は必ず,排気ファンを先行させて運
転する制御を組んでいます(スライド62)。こうす
ることによって常に陰圧を維持することができま
す。細菌検査や病理検査室,RI関連部門などで,
こういう設備方式を採用しています。
スライド60
(7)
(8)
加湿の重要性
話がずいぶんとびますが,今度は加湿の話を少
排気ファンの先行運転
汚染物質の発生が著しいと思われる部屋につい
ししたいと思います。空調の重要な役割の一つに
ては,空調制御を工夫をしています(スライド61,
加湿があります。この図(スライド63)は,湿度
62)。汚染物資の発生が著しい室は,常にマイナス
とインフルエンザウイルスの生存率の関係を示す
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103(1853)103
ものです。縦軸が生存率で横軸は温度になってい
す。
ます。このデータによると,湿度20%でのインフ
気化式というのはどういう方式かというと,布
ルエンザウイルスの生存率は高いことがわかりま
や紙のようなものに水を浸し,そこに空気を通す
す。詳しい実験方法などは,紹介されていません
ことによって湿度を上げる方式です。これに関し
でしたが,インフルエンザなどに対しては,湿度
ても,不純物は放出しないと表記されていますが,
の管理が重要ではないかと考えます。
水加湿のエレメントに細菌が発生し,それが室内
この表(スライド64)に加湿方法についてまと
に拡散する恐れがあると考えます。水循環噴霧方
めてあります。大きく分けると蒸気で行うもの,
式は,水自体を細かなエアロゾル状態にして噴出
水で行うものと二つの方式があります。
してやる方式です。
蒸気加湿の場合は,当然滅菌されるために菌が
では,病院ではどういう加湿方法がよりよいか
死んだ状態になります。
「無菌」という言葉がよい
考えてみたいと思います(スライド65)。まず,エ
のか,よく分かりませんが,菌は死んだ状態にな
アワッシャは,水を循環・散布して,そこに空気
りますから,病院の場合は蒸気加湿が適切と考え
を通過させることによって湿度を上げる方式で
ています。この文献30)では,蒸気加湿の場合に不
す。この方式は,微生物の繁殖が甚だしいという
純物の放出はないと表現されていましたが,実際
ことで,採用してはいけなとHEASに記載され
はボイラーのキャリーオーバーや配管の腐食,あ
ています。
るいは製缶剤などが含まれる可能性があるので,
スライド65の高度清浄区域,清潔区域というの
不純物がないとはいえないのではないかと思いま
は手術部門や病室部門と思っていただいていいと
スライド6329)
スライド6531)
スライド6430)
スライド66
104
104(1854)
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2003年12月
日本病院会雑誌
思います。こういった場所で,水加湿を採用して
はだめだとは記載されていませんが,
「好ましくな
い」とされています。やはり,病院での加湿方式
は,望ましいということで,我々は極力この蒸気
式の加湿を採用しています。とくに製缶剤が含ま
れることを嫌う手術系統やICUなどは,間接蒸
気加湿方式を採用することがあります。ボイラで
つくった蒸気製缶剤を含まない水を加熱して,ク
リーンな蒸気で加湿する方式です。
蒸気を製造するボイラは,病院では冷暖房のほ
かオートクレーブ(蒸気滅菌器)などに使用され
るために多くの病院で設置されています。皆さん
スライド67
の病院でも大体お持ちだと思います。したがって,
加湿を蒸気で行うことは,さほど問題なく実現で
きます。しかし,オートクレーブを持たれない病
院さんでは,ボイラの水質管理や,蒸気配管の腐
食などが面倒なボイラを持たないケースがありま
す。この場合,わざわざ加湿のために蒸気ボイラ
を設置することは行われず,やむをえず水加湿を
使っていることがあります。
こういうケースの場合には,我々は最終フィル
タを空調機の最後につけるということをして,万
一,菌が発生しても,極力できるだけこのフィル
タにキャッチされるような計画をしています(ス
ライド66)。しかし,このフィルタ自体に菌が繁殖
スライド68
しやすくなるため,これについてはメンテナンス
いても,スライド67に示すような制約要因がある
でカバーしていただくことを十分にご説明して,
ため,あまり採用されていないと思われます。
したがって,病院全体で,ファンコイルなどの
採用していただいています。
(9)
室内設置の空調機を使用しないシステムを取り入
ドレンパンのない空調システム
今度はまたドレンパンの話に戻ります。ドレン
れることは,現実的には難しいのではないかと考
パンは,空調機の冷水コイルで,空気に含まれた
えています。これについてはいろいろ異論もある
水が結露し,その結露水を受けるためのものです。
かと思いますので,まだ午後の討議でご意見をい
ファンコイルを天井内に設置すれば,その内部に
ただきたいと思います。
は必ずドレンパンが設置されています。
我々は,病院全体では無理でもやるべきところ
先ほど,ドレンパンでの細菌の繁殖について少
はやろうではないかということで,ここ(スライ
しふれました。単一ダクト方式・全外気方式を採
ド68)に示す部門については,ファンコイルなど
用すれば,ドレンパンは室内にはなくて済みます。
のない全外気方式を多く採用しています。
しかし,建設・運用コスト面や建築的な制約か
この図(スライド69)は,解剖室の例です。解
ら病院全体に採用することのできないケースも多
剖室は,常時使用されているわけではありません
くあります。(スライド67)
が,24時間換気をしておかなければ臭いがこもる
ドライコイル方式は,スライド67の下に補足し
ので,霊安室と解剖室を常時換気する空調機と,
てありますが,冷水の温度を高めにして結露が出
解剖時だけ運転する空調機に分けています。解剖
ないようにする方式です。ドライコイル方式につ
時だけ運転する空調機は,解剖台の上部でHEP
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2003年12月
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105(1855)105
スライド71
スライド69
ムを採用することがあります(スライド70,上図)。
同じように外気処理機があって,各室にダクトで
給気しています。そのダクトからの送風温度を低
めに設定して,各室に設置したレヒータで温度制
御します。レヒータには,冷水ではなく,常に温
水を送水して温度制御するので,空気が結露して
水滴になることはありません。こういうシステム
は,結核,伝染病棟のほか,RI病室・細菌検査
室などでも採用をお勧めしています。
(10)
ショートサーキット
また話がとびますが,今度はショートサーキッ
スライド70
トの話をしたいと思います。外気の取入口と排気
Aフィルタから吹き出し,解剖台の脇で排気をと
口が近いと,ショートサーキット,つまりここで
ります。
汚染物質の一部が,室内に入ってしまう恐れがあ
先ほどもお話しましたが,解剖室は常時換気を
ります(スライド71)。したがって,基本的には給
しておかないと臭いがこもりますから,霊安室や
気口と排気口は10m以上離すように計画します。
標本室と同じ系統でまとめて,ホルマリンなど比
もっといいのは,給気と排気の面を変えることで
重の重い薬品を使用することにも配慮して,排気
す。
は床に近い部分からとるようにしています。
(11)
冷却塔のレジオネラ菌対策について
この図(スライド70,上図)は,レヒータを使
次は冷却塔とレジオネラ菌の話です。空調関連
用した結核病棟の空調システムの例です。下の図
で院内感染の原因となっているもののなかで,一
が一般の病室の空調方式です。外気処理機により
番話題になっているのは,冷却塔の話だと思いま
外気を取り入れて,室内にはファンコイルユニッ
す。私も実際にきちんと管理されていない冷却塔
トがあり,それぞれにドレンパンがあります。
は「レジオネラ菌の巣」といってもいいのではな
もしこの方式を結核病室で採用すると,ファン
いかと思います。
コイルで空気が循環されているので,結核菌がド
図(スライド72)のように,低層部のエネルギー
レンパンや空調機の中に繁殖する恐れがありま
センターが配置され,その屋上に冷却塔が配置さ
す。
れているケースをよく見ます。しかし,病室など
これでは具合が悪いので,レヒータ,日本語で
の窓がこの近くにある場合,風向きによっては,
再熱器といいますが,これを使用した空調システ
冷却塔から出るエアロゾルが室内に入ってしまう
106
106(1856)
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2003年12月
日本病院会雑誌
スライド72
スライド74
スライド73
スライド7532)
恐れがあります。このような配置計画は,基本的
に避けるべきです。
窓の話をしましたが,屋上に空気調和機がある
場合も同じことで,外気取入口に,冷却塔からの
エアロゾルが引き込まれる可能性のある配置は避
けるべきです。(スライド73)
次に,冷却塔のレジオネラ菌をどう抑制するか
についてふれたいと思います。その前に,なぜ冷
却塔は,レジオネラ菌が繁殖しやすいかというこ
とをまとめてみました(スライド74)。水温がレジ
オネラ菌の住みやすい温度であること,栄養源と
なる有機物が濃縮されることと,そして,保守や
スライド76
清掃が不十分であることが多いことが考えられま
ということですが,10,000を超えてくると対策を
す。
とる必要があります。100,000以上になると直ちに
冷却塔のレジオネラ菌がどの程度で,どのよう
な対応をすべきかについて,HEASから引用し
何かしなくてはいけないという指標です。管理の
参考にしていただきたいと思います。
て説明します(スライド75)。サンプル100ml 当た
では,実際にレジオネラ菌についてどういう対
りのコロニー数が100未満では,まあいいでしょう
応をすればいいかということですが,レジオネラ
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107(1857)107
菌が検出されたから,薬剤を投入すれば解決する
トサーキットの話にもつながるものです(スライ
かというと,そうではなく,実際はなかなか減ら
ド77)。冷却塔のエアロゾルの話も病院に対してだ
ないことが多いと聞いています。
けでなく,近接した建物に対しても配慮する必要
冷却塔の配管系統や熱交換器の部分にスケール
があります。
やスライム,スライムというのは微生物がかた
排気に関して一番肝心なことはフィルタでの除
まってどろどろした状態をいいますが,その中に
害処理です。これまでに説明に使用した図のなか
入ったレジオネラ菌はなかなか死にません。表面
にも排気ファンのところに,フィルタを設置した
に近い菌は死にますが,内部に巣くったものはな
ものがありましたが,除害の対象となる汚染物質
かなか死なないようです。日常でのこまめな,サ
によってフィルタを使い分けることを実施してい
ンプリング検査,保守,薬剤投入,まずこれらを
ます(スライド78)。臭気が著しいところは,活性
きちんと実施することが重要だと考えています。
炭とプレフィルタをつけます。細菌と臭気をとり
レジオネラ菌対策用の薬剤は,少しずつ入れてい
たい場合は,HEPAフィルタをプラスして,外
ても効き目はあまりなく,場合によっては集中的
部に対しての安全を確保しています。
に1,000ミリグラムぐらい一気に入れることを繰
り返す方が効果があるようです。(スライド76)
6.
外部に対する汚染拡散防止
外部に対する汚染拡散防止は,先ほどのショー
スライド79
この図(スライド79)は,排気系統でのバック
アップ対策を示すものです。排気ファンが故障す
ると,エアバランスが崩れてしまうため,排気ファ
スライド77
ンを2台設置して,相互バックアップを図ります。
手術室の空調で紹介した方法と同じような考え方
です。
7.
空調設備関連の保守・管理
ここからは,皆さんの多くが携わっている保
守・ハウスキーピングにかかわる部分のお話をし
ます。この表(スライド80)は,ある病院の空調
の作業計画を引用したものです。この図(スライ
ド80)から,フィルタの交換・清掃,機器の点検,
機器・ダクト類の清掃,風量調整,冷却塔の水質
管理といったことに,一番手間がかかっているよ
うに読みとれます。(スライド81)
スライド78
108
108(1858)
一番多いのがフィルタですが,フィルタの目詰
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スライド8334)
スライド8033)
きない,微生物が繁殖しやすくなる,ということ
になります。
この図(スライド83)は,フィルタ交換時に,
どういう測定をするかということをまとめたもの
で,HEASに示されているものです。一般病室
でもフィルタを交換したら風量・風速,浮遊粉塵,
差圧などを測り,取付状況を確認し,清掃,消毒
をしましょうということで,かなり厳しい基準に
なっています。
これ(スライド84)は,我々が日常の設計のな
かでどういう点に配慮してメンテナンスに関して
スライド81
設計をしているかということをまとめたもので
す。ファンコイルユニットなど室内機の設置をや
むをえずする場合には,ベットの直上を避け,病
室では入口側に設置し,点検や交換などのメンテ
ナンスができるだけ容易になるように計画してい
ます。排気処理フィルタにはパック付のフィルタ
ユニットを積極的に採用しています。
手術室の上部にはHEPAフィルタを搭載した
機器など,設備が集中するため,ISS(設備階)
を設ける計画を多く実施しています。ISSとは,
設備の保守のほか,配管,ダクトのメインルート
を配備するために設けた,背の高い天井裏で,人
が歩けるぐらいの高さを確保しています。
スライド82
これ(スライド85)は,空調機器,ダクト,配
まりが促進するとどうなるかということをまとめ
管,ドレンパンに関してまとめたものです。既設
ました(スライド82)。所定の風量が送風・排気で
の病院でお話を伺うと,空調機器のメンテナンス
きない,温湿度が確保できない,換気回数が確保
の空間がないために,十分な保守管理ができない
できない,汚染物質が排気できない,室間差圧・
ことも多いようです。建築スペースの有効利用と
気流方向が維持できない,清浄度を保つことがで
いうことと裏腹になりますけれども,病院では故
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109(1859)109
障や保守に対して,とくに迅速に対応する必要が
動力も大きくなるため,機械室の配置をするとき
あるため,空調機械室は適正なスペースを確保す
に,ダクトルートの短縮化にも注意しています。
また,細菌検査室などのダクトの場合,汚染物
るよう配慮しています。
案外大事なことは,ダクトのルートをできるだ
質が付着しにくいものを選定するという観点か
け短くするということではないかと思っていま
ら,塩ビコーティングダクトを採用しています。
す。長ければ長いほど清掃する範囲がふえ,搬送
冷却塔については先ほど詳しく説明したので割
愛します。風量の維持・調整については,風量調
整用のダンパを設置していないケースを多く見か
けますが,空気の流れや室圧をきちんと維持する
ためには,風量調整機構を要所要所にこまめに設
置しておかないと,その調整・維持がうまくいか
ないのが現実だと考えています。(スライド86)
これ(スライド87)は,ファンコイルの保守作
業の際に,どのような配慮が必要といわれている
かを,HEASを参考にまとめたものです。
この図(スライド88)は,クリーンルームにつ
いての留意点をまとめたものです。
スライド84
スライド85
スライド86
110
110(1860)
この図は,どちらかというと,半導体や製薬工
スライド8735)
スライド8836)
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2003年12月
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場のクリーンルームを主眼としてまとめられたも
ので,病院とは多少異なるかもしれません。
病院の場合,例えば手術室では,ホルマリン薫
蒸による消毒をハウスキーピングの一環として行
われていたと聞いています。しかし,現在では,
床の清拭を確実に行うことが重要であるといわれ
ていて,多くの病院がそういう傾向にあるとお伺
いしています。ただ,病院さんによっては,どう
してもホルマリンなどで薫蒸したいという話もあ
りますので,そういう場合には,空調の吹出口か
らホルマリンがリークしない工夫などの対応をし
ています。
8.
スライド90
東京都立府中病院での実施例
(1)
概
要
最後になりますが,事務局からご要望のありま
した都立府中病院の実例を紹介したいと思いま
す。今回,私どもが設計に携わらせていただいた
のは「東京ER・府中」です。ERとは,エマー
ジェンシールームの略です。今までは,
「三次救急
専門」という病院が多かったなかで,初期救急,
二次救急,三次救急,それらを一手に引き受けて
やろうという病院です。(スライド89)
スライド91
スライド89
本日は,増築しました救急救命センターについ
て説明します。これ(スライド90)は,基本方針
スライド92
実は,設計・監理を私自身で行っていないもの
で,十分なご説明ができないかもしれませんがご
と外観図です。
救急救命センター(スライド91,92)は,都立
容赦ください。
府中病院の敷地の一部(赤い部分)に増築されま
この図(スライド93)が1階平面図です。矢印
した。工事は1∼3期に分かれ,現在2期まで完
は,後ほど写真の説明をしますが,それらをどう
了し,3期は施工中です。
いう方向から撮影したかを示すものです。平面計
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111(1861)111
ンユニットと我々は呼んでいますが,HEPA
フィルタがついた空調機が設置されています。詳
しくは,後ほど説明します。
この写真(スライド95)は,ナースステーショ
ンの内部です。ナースステーション内部にもク
リーンファンユニットを設置し,HEPAフィル
タで20∼30回/h の循環を行うことで空気清浄度
を維持しています。
この写真(スライド96)は処置室の写真ですが,
処置室にもクリーンファンユニットを設置してい
ます。
スライド93
スライド96
スライド94
(2)
空調システム
この図(スライド97)は,各部の空気清浄度と
それを維持するための空気の流れを示すもので
す。ご担当の先生といろいろ打ち合わせをさせて
いただきながら,最も清潔なゾーンをこの黄緑の
部分,次に水色,青の部分とし,紫色の部分はダー
ティーでもよいとして,設計されています。
この図(スライド98)は,空調システムの概要
を示すシステム図です。外気処理機は,冷温水で
はなく,冷媒(直膨式)を使用した設計になって
います。加湿は蒸気で行っていますが,直膨式の
外気処理機に蒸気加湿器を組み込めなかったた
スライド95
め,蒸気加湿器を空調機の外部に別途設けていま
画は,ナースステーションを囲んでICUが配置
す。外気処理機から取り入れた新鮮空気は,クリー
させる配置になっています。多くは壁で仕切られ
ンファンユニットに送風して,HEPAフィルタ
ていないオープン形式で,一部に個室があります。
を通して給気しています。ナースステーションも
2階は仮眠室などが配置されています。
ICUも同じで,クラスで10,000に設定されてい
この写真(スライド94)は,オープン形式のI
CUを撮影したものです。天井にはクリーンファ
112
112(1862)
ます。
空気の流れは,ICUからICU廊下,ナース
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スライド97
スライド100
スライド98
スライド101
スライド99
スライド102
ステーションに向かって維持されています。定風
したクリーンファンユニットの配置を示すもので
量装置は,送風される空気を常に一定に維持する
す。空気清浄度を高めたい部分にはすべて設置さ
ための装置です。フィルタの詰まりなどダクト系
れています。
での抵抗により,送風量が減少しないように設置
ICUでは,ベッドの直上にクリーンファンユ
ニットを設置せず,少しずらした配置になってい
しています。
この図(スライド99)は,先ほど写真でお見せ
ます。これは患者さんに気流による不快感を与え
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
113(1863)113
他の物件では,機器の振動の変化などを継続的
ないために,先生と打ち合わせをさせていただい
に測定して,予防保全を行った例もあります。
て決めたと聞いています。
一部には感染症室があります(スライド100)。
感染床室は,負圧に維持されています。先ほど説
明した微圧調整ダンパを設置して(スライド100
では差圧ダンパという表現になっています),常に
9.
まとめ
同じことを何度も繰り返して恐縮ですが,
「院内
感染経路」ということを考えた場合,
陰圧になっているかどうかを目視で把握・確認で
・空調に起因する感染がどの程度あるのか。
きるようにしています。また,バックアップ対策
・どんな病名の院内感染がどのぐらいあるの
として排気ファンは2台設置しています。
排気には,外部への安全対策としてフィルタを
設置しています。病院からのご要望で,熱症CC
Uは負圧・正圧切り替え可能にしていますが,通
か。
・感染は,患者に多いのか,看護師など医療
従事者が多いのか。
・設備的な面では,ドレンパンが原因なのか,
加湿が悪かったのか,冷却塔なのか。
常は廊下に対して負圧です。
熱症の場合,正圧が一般的ですが,実際には熱
症より感染症で使用するケースが多いということ
といった院内感染の原因を,データとして収集・
分析していく必要性を改めて感じました。
で,通常は負圧にしています。このような形で,
本日,参加いただいたハウスキーピングに携
これまでご説明してきたさまざまなシステムを具
わっている方々に対しても,院内感染が起こって
現化しています。
いるケースがあるのではないか,その実態も調
この図(スライド101)は,緊急用処置室回りの
空気の流れを示すものです。緊急用の処置室は,
査・分析しておく必要があるのではないかと思い
ます。
「地下鉄サリン事件」のような非常事態があった
本日は,私どもが日常の設計業務において,院
場合を想定して設計されています。通常は,廊下
内感染に関して,とくに「空調」において留意し
に対して正圧にしています。非常事態の場合は,
ている点を中心にお話させていただきました。今
専用の排気ファンが稼動し,処置室内を負圧に維
後,院内感染の経路とその頻度の関係の調整・分
持します。
析が進めば,より効果的な院内感染防止対策をご
これ(スライド102)は,故障時・メンテナンス
提案していくことができるのではないか,また,
時の対応をまとめたものです。まず,熱源故障時
本日お話したこと以外にも,またいろいろご提案
ですが,救急救命センターの熱源は,中央熱源方
できるのではないかと考えています。
式ではなく,個別熱源方式(空冷式マルチエアコ
ン)を採用しています。マルチエアコンの室外機
最後に福田の方からごあいさつさせていただき
ます。
が故障しても,HEPAの設置された室内機だけ
は運転できるようにしています。室温の維持は困
福田
多少時間がオーバーして申し訳ございま
難ですが,空気清浄度が確保できるように設計し
せん。専門的な話が多く,難しい内容が多かった
ています。
かと思います。午後の討議にも私たちは残ってお
常時,陰圧を確保する必要のある系統に対して
りますので,専門的な部分で,これはどういうこ
は,先ほど説明したとおり,排気ファンを2台設
となのかとか,これは本当はこうではないのだろ
置し,非常用発電機からの電源供給を行っていま
うかというようなことがありましたら,どんどん
す。
質問なりご意見をいただきたいと思います。
その他,マルチエアコンに対しては,故障予知
最後のまとめにもありましたし,初めにも申し
のシステムも採用しています。しかし,あくまで
上げましたけれども,私たちも分からないことが
「24時間以内」に予想される故障のみを対象とし
たくさんあります。恐らく皆さんも分からないこ
たもので,本来はもう少し先に予知できればよい
とがたくさんあると思います。私たちはお互いが
と考えます。
持っている情報を提供し合いながら一緒に良い病
114
114(1864)
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
院をつくっていきたいという姿勢でございます。
一方的に私たちの考えているものを押しつけるも
のではなく,皆さんからご提案いただいたものを
素直に受けとるだけでもなく,やはりそこで意見
の交換があることによって初めて新しいまた異
なったものができてくるのだろうという姿勢で臨
p.104
17)(社)空気調和・衛生工学会編,空気調和衛生工学便
覧
本日はどうもありがとうございました。
1.基礎編,2001年11月,p.486
覧
第12版
6.応用編,1995年3月,p.210
19)(社)空気調和・衛生工学会編,空気調和衛生工学便
覧
んでいきたいと思います。
第13版
18)(社)空気調和・衛生工学会編,空気調和衛生工学便
第12版
6.応用編,1995年3月,p.212
20)日本病院設備協会規格,病院空調設備の設計・管理
指針
HEAS-02-1998,p.7
21)NHB 5340-2,NASA Standard for Clean Room
【引用文献・参考文献】
Work
1)日本病院設備協会(現:日本医療福祉設備協会)規
格,病院空調設備の設計・管理指針
HEAS-02-1998,p.
16
キスパートナース Vol.17 No8,2001年6月臨時増刊
号,p.67
のためのCDC最新ガイドライン,INFECTION CONTROL
別冊,メディカ出版,1996年
るす出版,p.15
HEAS-02-1998, p.16
HEAS-02-1998, p.17
HEAS-02-1998, p.16∼17
HEAS-02-1998, p.17∼18
HEAS-02-1998, p.18
02.7.13:「変わる感染症」
6.応用編,1995年3月,p.215
6.応用編,1995年3月,p.209
13)(社)空気調和・衛生工学会編,空気調和衛生工学便
覧
第12版
6.応用編,1995年3月,p.210
14)日本病院設備協会規格,病院空調設備の設計・管理
指針
第
6.応用編,1995年3月,p.222
28)右:協立エアテック(株),ダンパー総合カタログ
tests with four viruses.1961,J.Hyg.Camb.,59;p.
30)空気調和・衛生工学会編,空気調和衛生工学便覧
第
2.汎用機器・空調機器編,1995年3月,p.
547
指針
12)(社)空気調和・衛生工学会編,空気調和衛生工学便
第12版
12版
31)日本病院設備協会規格・病院空調設備の設計・管理
11)(社)空気調和・衛生工学会編,空気調和衛生工学便
覧
るす出版,p.15
12版
9)日本病院設備協会規格,病院空調設備の設計・管理
第12版
感染制御学,へるす出版,1996年6月,
p.184
479∼486
8)日本病院設備協会規格,病院空調設備の設計・管理
覧
HEAS-02-1998,p.26
24)小林寛伊
29)Harper, G, J.:Airborne micro-organisms:Survival
7)日本病院設備協会規格,病院空調設備の設計・管理
10)朝日新聞
23)日本病院設備協会規格,病院空調設備の設計・管理
27)左:クリフ(株),微圧調整ダンパカタログ
6)日本病院設備協会規格,病院空調設備の設計・管理
指針
1972;9:
7−31
26)空気調和・衛生工学会編,空気調和衛生工学便覧
5)日本病院設備協会規格,病院空調設備の設計・管理
指針
Controlled
25)小林寛伊編集,根拠消毒と滅菌のガイドライン,へ
4)小林寛伊編集,根拠消毒と滅菌のガイドライン,へ
指針
Micrombially
22)Spaulding EH. Chemical disinfection and
指針
3)向野賢治訳,小林寛伊監訳,病院における隔離予防
指針
for
antisepsis in the hospital, J Hosp Res
2)空気感染:看護におけるリスクマネージメント,エ
指針
Station
Enviornment,1967
HEAS-02-1998, p.84
指針
から編修
HEAS-02-1998, p.50
33)小室,病院の保守管理事例(1),病院設備
Vol.39,
No.1(215号)1997年1月,p.54
34)日本病院設備協会規格,病院空調設備の設計・管理
指針
HEAS-02-1998, p.55
35)日本病院設備協会規格,病院空調設備の設計・管理
指針
15)(株)クボタ,クボタファンコイルユニットカタログ
HEAS-02-1998, p.22
32)日本病院設備協会規格,病院空調設備の設計・管理
HEAS-02-1998, p.55∼56
36)日本空気清浄協会編:クリーンルームハンドブック,
1989年,オーム社,p.97
16)(社)建築設備技術者協会,建築設備士,2001年12月,
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
115(1865)115
委員会報告
平成14年
人間ドック全国集計成績
日本病院会予防医学委員会・集計担当代表
笹
牧田総合病院附属健診センター院長
森
典
雄
予防医学委員会
なお,一泊人間ドック指定病院で行われている
はじめに
一日コースのドックが急増しているため,日本病
1984年に人間ドックの全国調査を始めて以来,
院会予防医学委員会では人間ドックの種類を下記
のように命名した。
今回で19回目を迎えたことになる。
一泊人間ドック(短期人間ドック)
第44回日本人間ドック学会においても,武田隆
一日人間ドック(総合健診)
男学会長のご配慮により発表の機会を与えていた
一日病院外来ドック
だいたことに,深謝を申し上げる次第である。
今回は調査対象病院および施設からの返信数が
そこで集計にあたっては,上記のほかに分類不
前年よりさらに7万人増え,総受診者数は283万人
能の人間ドックと合わせて4種類に区分して各種
となった。
ドックの質的検討を行っているのでご了承いただ
今回もすべての調査項目の集計は日本病院会事
務局が実施した。
癌統計では乳癌,前立腺癌が増加の傾向にある。
しかし,項目別統計では長年にわたり減少し続け
ている健常人がさらに低下の傾向を示している。
このような人間ドックの現状分析から,今後のあ
表1 一泊人間ドック実施病院のアンケート返信数
−地域別比較−
(2002年)
ブロック
海
指定病院数
〔A〕
(1)
一泊人間ドックアンケート返信数(表1)
指定病院数とともに返信数も増えたが,返信率
はさらに前年より0.5%増えて98.7%である。
返 信 数
表2 一日人間ドック実施施設のアンケート返信数
−地域別比較−
(2002年)
返 信 数
%
道
9
9( 1)
100.0
北
11
11( 1)
100.0
98.1
関東・甲信越
137
132(30)
96.4
97.5
東海・北陸
37
36( 9)
97.3
近
畿
49
48(18)
98.0
100.0
%
ブロック
道
9
9
100.0
北
北
39
39
100.0
東
関東・甲信越
264
259
東海・北陸
79
77
近
99
99
100.0
東
畿
アンケート調査内容と返信内容
返信率を地域別に比較すると,ほとんどの地域
り方についても触れたい。
北
きたい。
海
指定施設数
中国・四国
69
68
98.6
中国・四国
21
21( 4)
九州・沖縄
60
60
100.0
九州・沖縄
24
23( 5)
95.8
計
+5
619
+8
611
+0.5
98.7
+19
288
+12
280
−2.4
97.2
(注)① ±は前年との実数または比率の差
(注)② (
)内の数値は一日人間ドック(総合健
診)と重複した病院数
計
(注)① ±は前年との実数または比率の差
(注)② (
)内の数値は一泊人間ドックと重複し
た施設数
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
117(1867
117)
が100%に近く,地域差は認められない。
(4)
(2)
(図1)
一日人間ドックのアンケート返信数(表2)
人間ドックアンケート返信状況の年別比較
昨年より指定施設数,返信数ともに増加してい
1984年以来の指定病院および施設数の伸びと返
る。しかし返信率は前年より2.4%減って97.2%で
信率の関係について,経年変化をみた。
(以後,1985
ある。
年,1986年,1987年,1989年,1990年,1991年,
地域別では,関東・甲信越,東海・北陸,九州・
沖縄地方が前年より僅かに低くなっている。
(3)
アンケート調査内容(表3)
1993年,1994年,1995年,1997年,1998年,1999
年,2000年の13年分をカットして比較をした)
一泊人間ドック指定病院が2001年より19病院増
実施状況調査表の回答数が24施設も増えたた
えたが,返信率は98%と同率である。
め,項目別統計の返信数が前年より20施設も増え
一日人間ドック指定施設数は年々増加してお
ても,アンケート返信数に対する割合は前年とほ
り,返信率も1986年以来常に一泊人間ドックを上
ぼ同率である。
回っていたが,2001年は前年より2%減って97%
癌統計は前年より45施設も減ったため,返信率
である。
は12.7%減少して83.2%である。
(5)
表3 人間ドック別・アンケート内容(実施状況調査,
項目別成績,癌症例別統計の3調査)別回答の比較
(2002年)
り,今回は前年より約7万人増えて283万人であ
人間
ドック別
実施状 項目別
況調査 成 績
回答数 回答数
%
癌症例
別統計
回答数
調査対象受診者総数は年々増加傾向を示してお
る。
%
一
泊
指定病院
619
611
98.7
506
81.7
一
日
指定施設
288
280
97.2
249
86.5
+24
907
+20
891
98.2
−45
755
83.2
計
受診者数の動向(図2)
※±は前年との実数及び比率の差
図2
アンケート調査による受診者の動向
−年別比較−
(6)
アンケート調査による受診者の動向(表4)
人間ドック受診者数を年代別に分類して,1984
年以来の経年変化について比較をした。
1984年以来の人間ドック受診者の割合を年代別
に比較してみると,40歳代>50歳代>30歳代>60
歳代の順位に変化はみられなかった。
しかし,1999年の調査より50歳代がトップとな
り,次いで40歳代>30歳代>60歳以上の順である。
今回はとくに50歳代と60歳代の割合が増えている
傾向が見られた(図3)。
図1 日病指定・人間ドック実施病院並びに総合健診施
設のアンケート返信状況−年別比較−
118
118(1868)
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
表4
アンケート調査による受診者の動向
調
査
年
別
1984年
−年代別・年別比較−
年
39歳以下
89,045人
代
40∼49歳
別
50∼59歳
163,944人
127,122人
60歳以上
33,637人
計
413,748人
1988
187,259
350,177
274,844
85,717
897,997
1992
297,257
660,114
522,684
191,121
1,671,176
1996
425,007
892,751
743,762
311,087
2,372,607
2001
489,699
867,834
971,488
436,744
2,765,762
2002
490,522
879,880
997,582
471,7147
2,839,701
〔B〕
臓器別癌集計成績−とくに胃および大腸
癌の検討−
(1)
臓器別癌占有率の分析
人間ドックで発見した臓器別癌発見人数の総計
を100%とした各臓器別の割合について,前回から
4種類の人間ドック別に区分し,さらに男女別に
分類した総括表(表5)を示す。
(a)
一泊人間ドック,一日病院外来ドックと一
日人間ドックの比較(図4)
3群ともに胃癌が1位で,一日病院外来ドック
の発見頻度が高い。2位は結腸癌で一泊人間ドッ
クと一日人間ドックが高い。直腸癌は一泊人間
ドック,肺癌は一日病院外来ドックが高い。次い
で乳癌は,一日人間ドックが高い傾向を示してい
図3
る。また,前立腺癌は,一泊人間ドックの方が高
アンケート調査による受診者の動向
い。
−年代別・年別比較−
図4
人間ドックで発見した癌の臓器別占有率
−人間ドック別比較−(2002年)
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
119(1869
119)
表5
人間ドックで発見した臓器別癌占有率の性別・ドック別比較(2002年)
−全体の癌を100%として各臓器別の割合を表示−
ド
ッ
ク
別
性
別
①
↵
②
③
ᕈ
④
計
①
ᅚ
②
③
ᕈ
④
計
①
↵ ᅚ
②
ว
③
⸘
④
計
胃
肺
131
23
35.6 6.3
157
34
49.4 10.7
541 139
32.7 8.4
866 179
41.9 8.7
1,695 375
38.4 8.5
22
6
20.6 5.6
45
17
29.4 11.1
163
57
18.7 6.5
215
66
22.0 6.7
445 146
21.1 6.9
153
29
32.2 6.1
202
51
42.9 10.8
704 196
27.8 7.8
1,081 245
35.5 8.0
2,140 521
32.8 8.0
肝
10
2.7
6
1.9
46
2.8
46
2.2
108
2.4
3
2.8
1
0.7
11
1.3
4
0.4
19
0.9
13
2.7
7
1.5
57
2.3
50
1.6
127
1.9
結
腸
76
20.7
29
9.1
338
20.4
319
15.4
762
17.3
24
22.4
17
11.1
120
13.7
110
11.2
271
12.8
100
21.1
46
9.8
458
18.1
429
14.1
1,033
15.8
直
腸
35
9.5
23
7.2
119
7.2
169
8.2
346
7.8
7
6.5
9
5.9
32
3.7
46
4.7
94
4.5
42
8.8
32
6.8
151
6.0
215
7.1
440
6.7
食
道
12
3.3
15
4.7
62
3.7
105
5.1
194
4.4
4
3.7
1
0.7
5
0.6
8
0.8
18
0.9
16
3.4
16
3.4
67
2.7
113
3.7
212
3.3
膵
4
1.1
5
1.6
15
0.9
30
1.5
54
1.2
0
0.0
2
1.3
9
1.0
8
0.8
19
0.9
4
0.8
7
1.5
24
0.9
38
1.2
73
1.1
胆
の
う
2
0.5
0
0.0
19
1.1
15
0.7
36
0.8
0
0.0
1
0.7
5
0.6
7
0.7
13
0.6
2
0.4
1
0.2
24
0.9
22
0.7
49
0.8
腎
17
4.6
6
1.9
83
5.0
78
3.8
184
4.2
4
3.7
1
0.7
25
2.9
13
1.3
43
2.0
21
4.4
7
1.5
108
4.3
91
3.0
227
3.5
膀
胱
前
立
腺
6
42
1.6 11.4
6
24
1.9 7.5
41 198
2.5 12.0
25 168
1.2 8.1
78 432
1.8 9.8
0
0.0
1
0.7
2
0.2
5
0.5
8
0.4
6
42
1.3 8.8
7
24
1.5 5.1
43 198
1.7 7.8
30 168
1.0 5.5
86 432
1.3 6.6
甲
状
腺
3
0.8
2
0.6
12
0.7
29
1.4
46
1.0
2
1.9
3
2.0
58
6.6
57
5.8
120
5.7
5
1.1
5
1.1
70
2.8
86
2.8
166
2.5
(注1)①・・・一泊人間ドック②・・・一日病院外来ドック③一日人間ドック(総合健診)
④その他(人間ドック別の区分がされていない病院または施設)
図5
人間ドックで発見した癌の臓器別占有率
120
120(1870)
−男性の年別比較−
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
乳
房
18
16.8
28
18.3
250
28.6
273
27.9
569
26.9
18
3.8
28
5.9
250
9.9
273
9.0
569
8.7
子
宮
10
9.3
22
14.4
95
10.9
128
13.1
255
12.1
10
2.1
22
4.7
95
3.8
128
4.2
255
3.9
そ
の
他
7
1.9
11
3.5
42
2.5
39
1.9
99
2.2
7
6.5
5
3.3
41
4.7
39
4.0
92
4.4
14
2.9
16
3.4
83
3.3
78
2.6
191
2.9
合
計
368
100.0
318
100.0
1,655
100.0
2,068
100.0
4,409
100.0
107
100.0
153
100.0
873
100.0
979
100.0
2,112
100.0
475
100.0
471
100.0
2,528
100.0
3,047
100.0
6,521
100.0
43
24.3
80
19.0
162
17.4
139
13.2
260
13.8
255
12.1
43
6.4
80
4.9
162
5.1
139
3.4
260
4.3
255
3.9
26
5.3
42
3.5
66
2.9
81
2.6
79
1.9
99
2.2
5
2.8
15
3.6
25
2.7
42
4.0
37
2.0
92
4.4
31
4.6
57
3.5
91
2.8
123
3.0
116
1.9
191
2.9
⸘
22
12.4
41
9.7
153
16.4
157
14.9
463
24.6
569
26.9
22
3.3
41
2.5
153
4.8
157
3.8
463
7.6
569
8.7
ߘߩઁ
(注)
ች
2002年
ሶ
2001年
36
0.9
70
1.2
86
1.3
6
0.9
16
1.0
25
0.8
108
2.6
324
5.3
432
6.6
ᚱ
ว ⸘
1996年
4
0.4
8
0.4
8
0.4
5
1.0
7
0.6
22
1.0
37
1.2
41
1.0
46
1.0
5
2.8
24
5.7
57
6.1
70
6.7
109
5.8
120
5.7
10
1.5
31
1.9
79
2.5
107
2.5
150
2.5
166
2.5
੃
ᅚ
1992年
32
1.0
62
1.5
78
1.8
6
1.2
16
1.3
25
1.1
108
3.5
324
7.7
432
9.8
↲⁁⣼
↵
1988年
3
0.6
51
4.2
98
4.4
120
4.0
168
4.0
184
4.2
0
0
11
2.6
28
3.0
32
3.0
44
2.3
43
2.0
3
0.4
62
3.8
126
4.0
152
3.7
212
3.5
227
3.5
೨┙⣼
1985年
⢲
2002年
⣾
ᕈ
2001年
6
1.2
9
0.7
26
1.2
19
0.6
21
0.5
36
0.8
0
0
5
1.2
12
1.3
14
1.3
13
0.7
13
0.6
6
0.9
14
0.8
38
1.2
33
0.8
34
0.6
49
0.8
⣢
1996年
7
1.4
9
0.7
21
0.9
29
0.9
40
1.0
54
1.2
0
0
2
0.5
7
0.8
12
1.1
20
1.1
19
0.9
7
1.0
11
0.7
28
0.9
41
1.0
60
1.0
73
1.1
⢙ߩ߁
1992年
13
2.7
40
3.3
62
2.8
122
4.0
219
5.2
194
4.4
2
1.1
0
0
5
0.5
7
0.7
11
0.6
18
0.9
15
2.2
40
2.5
67
2.1
129
3.1
230
3.8
212
3.3
⤟
ᅚ
1988年
14
2.9
38
3.2
114
5.1
265
8.6
366
8.7
346
7.8
4
2.3
6
1.4
22
2.4
59
5.6
101
5.4
94
4.5
18
2.7
44
2.7
136
4.3
324
7.9
467
7.7
440
6.7
㘩 ㆏
1985年
22
46
4.5
9.4
56
253
4.7 21.1
103
513
4.6 22.8
106
583
3.5 18.9
87
703
2.1 16.8
108
762
2.4 17.3
4
8
2.3
4.5
4
40
1.0
9.5
13
119
1.4 12.8
7
134
0.7 12.8
15
241
0.8 12.8
19
271
0.9 12.8
26
54
3.9
8.1
60
293
3.7 18.1
116
632
3.6 19.9
113
717
2.7 17.4
102
944
1.7 15.5
127 1,033
1.9 15.8
⋥ ⣺
2002年
⚿ ⣺
ᕈ
2001年
20
4.1
64
5.3
169
7.5
231
7.5
329
7.8
375
8.5
9
5.0
22
5.2
55
5.9
68
6.5
132
7.0
146
6.9
29
4.3
86
5.3
224
7.0
299
7.2
461
7.6
521
8.0
⢄
1996年
⢖
1992年
⢗
↵
1988年
322
65.7
616
51.3
1,028
45.7
1,346
43.7
1,756
41.9
1,695
38.4
75
42.5
171
40.6
275
29.5
306
29.1
427
22.7
445
21.1
397
59.5
787
48.5
1,303
41.0
1,652
40.0
2,183
35.9
2,140
32.8
−全体の癌を100%として各臓器別の割合を表示−
人間ドックで発見した臓器別癌占有率の年別比較
表6
臓器別
性
別 年
1985年
−女性の年別比較−
人間ドックで発見した癌の臓器別占有率
図6
490
100.0
1,201
100.0
2,247
100.0
3,079
100.0
4,195
100.0
4,409
100.0
177
100.0
421
100.0
933
100.0
1,051
100.0
1,881
100.0
2,112
100.0
667
100.0
1,622
100.0
3,180
100.0
4,130
100.0
6,076
100.0
6,521
100.0
各年度の上段は実数で,下段は比率を示す
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
121(1871
121)
(b)
性別の比較
割合が1999年以後に増えたのは,乳癌と前立腺癌
男性の年別比較(図5)では,1位の胃癌は減
の増加が顕著であることが影響している。
少。2位の結腸癌は減少傾向に歯止めがかかり,
小括:人間ドックで発見した臓器別癌統計の特徴
今回は,前回と同様に前立腺癌の増加傾向が目
(a)
一泊人間ドックと一日病院外来ドック,一
日人間ドックの癌占有率を比較すると,1位の胃
立っている。
女性の年別比較(図6)では乳癌の増加が目立
癌は,一日病院外来ドックが高く,2位の結腸癌
ち,2001年より胃癌と乳癌の順位が逆転している。
は一泊と一日人間ドックの方が高く,3位の肺癌
その他の臓器では,子宮癌の減少が目立っている。
は一日病院外来ドックが高かった。
(c)
臓器別癌発見率の経年変化
(b)
臓器別癌発見頻度について,各年度ごとの発見
癌の総和を100%として,男女別および男女合計の
男女別発見頻度を比較すると,男性は胃,
結腸,前立腺,肺,直腸の順であり,前立腺の増
加が著しい。
女性は乳房,胃,結腸,子宮,肺,甲状腺の順
比率を表示した(表6)。
1984年は男女別分類を行わなかったために除外
で,前年より乳房の増加が目立っている。
し,1985年以来18年間にわたり人間ドックで発見
従って,前回より胃,大腸,肺以外の癌の占有
した男女合計の占有率について,経年的に比較を
率が増加しているが,その理由は男性の前立腺癌,
した(図7)。
女性の乳癌などが増えたためである。
臓器別に比較すると,各年度ともに胃癌が1位,
大腸癌が2位である。
1位の胃癌は,次第に減少傾向を示している。
2位の大腸癌の方は年々増加傾向を示していた
表7 人間ドックの胃癌発見率と早期胃癌占有率
−人間ドック別比較− (2002年)
ドック別 受 診 者 数 発見胃癌数 胃癌発見率 早期胃癌占有率
一泊人間ドック
211,046
148
0.07
84.5
第3位の肺癌は1992年以来横ばいであったが,
一日病院
外来ドック
297,984
199
0.07
79.4
今回は増加傾向を示している。またその他の癌の
一日人間ドック
1,503,541
695
0.05
75.0
そ の 他
646,112
1,069
0.17
78.1
2,658,683
2,111
0.08
77.6
が,1996年をピークとしてやや減少している。
総
図7
人間ドックで発見した臓器別癌占有率の経年変化
−全体の癌を100%として各臓器別の割合を表示−
122
122(1872)
図8
計
人間ドックの胃癌発見率と早期胃癌占有率
−人間ドック別比較− (2002年)
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
(2)
発見胃癌の分析
部,噴門部,全体の順位は同じである。ただし,
今回も発見頻度の最も高い胃癌について,種々
部,噴門部の発見頻度が高い傾向がみられる。総
の検討を行った。
(a)
一日人間ドックは,一泊人間ドックに比べ,前庭
発見胃癌と早期胃癌占有率の人間ドック
別比較(表7)
計では胃体部が62.8%,前庭部が25.8%で過半数
を占めている。
人間ドックの胃癌発見率は,病院を母体とした
表10
発見胃癌の占居部位
一泊人間ドックと一日病院外来ドックが一日人間
ドックより高い。図8のごとく早期胃癌が発見胃
癌に占める割合も一泊人間ドックが最も高いが,
一日コースでも75∼79%の高率を示している。
(b)
早期胃癌の年別比較(表8)
早期胃癌の割合は,1984年以来70%を超してい
るが,1992年以来増加傾向を示し,今回も77.6%
の高率である。
表8
癌症
例
年度
早期胃癌と進行胃癌の割合
早期胃癌
症例数
%
症例数
%
計
症例数
一泊人間 症例数
ドック
%
一日病院 症例数
外来ドック
%
一日人間 症例数
ドック
%
−年別比較−
進行胃癌
部位
症例
ドック別
その他
%
総合計
−人間ドック別比較−
(2002年)
M
C
A
全 体 合 計
(前庭部) (胃体部) (噴門部)
32
101
12
21.6
68.2
8.1
44
133
16
22.1
66.8
8.0
180
425
67
25.9
61.2
9.6
3
148
2.0 100.0
6
199
3.0 100.0
23
695
3.3 100.0
症例数
289
667
93
20 1,069
%
27.0
62.4
8.7
1.9 100.0
545 1,326
188
52 2,111
8.9
2.5 100.0
症例数
1984
322
70.0
138
30.0
460
100.0
1988
561
71.3
226
28.7
787
100.0
1992
992
76.1
311
23.9
1,303
100.0
(d)
1996
1,219
73.8
433
26.2
1,652
100.0
2002年の性別胃癌発見率の総計では,男性が,
2001
1,671
76.5
512
23.5
2,183
100.0
0.10%に対し女性は0.05%と2倍の開きがある。
2002
1,639
77.6
472
22.4
2,111
100.0
一泊人間ドックと一日病院外来ドックに対し一日
%
25.8
62.8
性別の比較
人間ドックを較べると,男性,女性ともに前者の
次に発見胃癌に関する各項目ごとの総合成績の
発見率が高い(表11)。
次に,年度別の胃癌発見率について性別の比較
人間ドック別比較について,2002年の調査結果を
を行った。男女ともに1984年に比し2002年は低率
示す(表9)。
調査項目については前回ととくに変化はない。
(c)
だが,1996年以降は横ばいである(表12,図9)。
(e)
発見胃癌の部位別比較(表10)
3種類の人間ドックはいずれも,胃体部,前庭
表9
発見胃癌の検討
検討項目 性
症例
年代別の比較
年代別の胃癌発見率をみると,各人間ドックと
−人間ドック別比較−(2002年)
別
30
年
40
代
50 60以
男 女
代 代 代 歳上
ドック別
一 泊 人 間 症例数 127 21
0
9
65 74
ド ッ ク %
85.8 14.2 0.0 6.1 43.9 50.0
一 日 病 院 症例数 154 45
3 33
72 91
外来ドック %
77.4 22.6 1.5 16.6 36.2 45.7
一 日 人 間 症例数 534 161 20 91 266 318
ド ッ ク %
76.8 23.2 2.9 13.1 38.3 45.8
症例数 857 212 22 157 445 445
そ の 他
80.2 19.8 2.1 14.7 41.6 41.6
%
症例数 1,672 439 45 290 848 928
総 合 計
%
79.2 20.8 2.1 13.7 40.2 44.0
手
術
内的
無 有 視切
鏡除
4 108 36
2.7 73.0 24.3
9 153 37
4.5 76.9 18.6
40 563 92
5.8 81.0 13.2
31 821 217
2.9 76.8 20.3
84 1,645 382
4.0 77.9 18.1
進行度
早 進
癌家系
有
期
125
84.5
158
79.4
521
75.0
835
78.1
1,639
77.6
行
23
15.5
41
20.6
174
25.0
234
21.9
472
22.4
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
無
65 83
43.9 56.1
83 116
41.7 58.3
274 421
39.4 60.6
389 680
36.4 63.6
811 1,300
38.4 61.6
受診回数 自覚症状
肥満度
初 複
や 普 肥
有 無
回 数
せ 通 満
54
94 30 118 21 81 46
36.5 63.5 20.3 79.7 14.2 54.7 31.1
76 123 42 157 22 133 44
38.2 61.8 21.1 78.9 11.1 66.8 22.1
194 501 182 513 91 452 152
27.9 72.1 26.2 73.8 13.1 65.0 21.9
330 739 236 833 136 705 228
30.9 69.1 22.1 77.9 12.7 65.9 21.3
654 1,457 490 1,621 270 1,371 470
31.0 69.0 23.2 76.8 12.8 64.9 22.3
123(1873
123)
表11
性別胃癌発見率
ドック別
性別
−人間ドック別比較−
(2002年)
受診者数 発見胃癌数 胃癌発見率
一 泊 人 間 男性
ド ッ ク 女性
154,063
127
0.08
56,983
21
0.04
一日病院外来 男性
ド ッ ク 女性
190,709
154
0.08
107,275
45
0.04
一 日 人 間 男性
ド ッ ク 女性
962,266
534
0.06
541,275
161
0.03
男性
413,511
857
0.21
そ
の
他
計
表12
女性
232,601
212
0.09
男性
1,720,549
1,672
0.10
女性
938,134
性別・胃癌発見率の推移
439
間ドック,一日人間ドックの順である。総計する
と30歳代の0.01%に対し,60歳代は0.21%と21倍
の格差がある(表13,図10)。
人間ドックの年代別胃癌発見頻度の総計を年度
別に比較してみると,各年度ともに年代が増える
につれて増加傾向を示している。その発見頻度は
年々減少傾向を示していたが,今回は前年とほぼ
同率である(図11)。
表13
胃癌発見率年代別・人間ドック別比較
(2002年)
ドック別
0.05
−年別比較−
性別
年度
総
↵
1984
361/305,162=0.12%
1988
616/616,911=0.10%
0
0.00
59,092
9
0.02
90,749
65
0.07
60↑
46,432
74
0.16
30↓
44,399
3
0.01
101,314
33
0.03
一 泊 人 間 40
ド ッ ク 50
計
一 日 病 院 40
外来ドック 50
14,773
ᕈ
ᅚ
ᕈ
1992
1,028/951,973=0.11%
103,996
72
0.07
1996
1,346/1,397,073=0.10%
60↑
48,275
91
0.19
2001
1,762/1,690,462=0.10%
30↓
239,063
20
0.01
2002
1,672/1,720,549=0.10%
481,604
91
0.02
1984
99/103,702=0.10%
524,735
266
0.05
1988
171/281,086=0.06%
60↑
258,139
318
0.12
1992
275/488,199=0.06%
30↓
119,812
22
0.02
1996
306/752,320=0.04%
40
206,109
157
0.08
2001
421/899,081=0.05%
50
224,987
445
0.20
2002
439/938,134=0.05%
60↑
95,204
445
0.47
30↓
418,047
45
0.01
40
848,119
290
0.03
50
944,467
848
0.09
60↑
448,050
928
0.21
一 日 人 間 40
ド ッ ク 50
そ
の
(注)発見胃癌数/受診者数=胃癌発見率
計
図9
年 代 受診者数 発見胃癌数 胃癌発見率
30↓
人間ドックの性別胃癌発見率
他
−年別比較−
もに年代の増すにつれ上昇傾向が著しい。人間
ドック別に発見頻度を比較すると30∼40歳代まで
はほとんど差がないが,50歳代60歳代では一日病
図10
年代別胃癌発見率の比較
院外来ドックの異常率が最も高く,次いで一泊人
124
124(1874)
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
−人間ドック別比較−(2002年)
(f)
受診回数との関係−年別比較−(図12)
受診回数を初回と複数回に大別して,1984年以
来の経年変化をみた。
当初は一泊人間ドックで初回受診者の胃癌発見
率が高く,一日人間ドックは反復受診者の割合が
高い傾向が認められた。
しかし,近年は両群ともに反復受診時の胃癌発
見 率 が 高 く な り , 2002 年 は 一 泊 人 間 ド ッ ク が
63.5%,一日人間ドックは72.1%に達している。
(g)
治療,家系,自覚症状との関係
発見胃癌の手術,癌家系,胃腸症状の有無を調
査してみると,一泊人間ドック,一日病院外来ドッ
図11
人間ドックの年代別胃癌発見率
−年別比較−
クと一日人間ドックはほぼ同じ傾向である。
胃癌の96%前後は手術可能であり,そのうち内
視鏡的切除のみで終わった症例は一泊人間ドック
が24.3%,一日病院外来ドックは18.6%,一日人
間ドックでは13.2%で一泊ドックのみが前年より
増えており,今後の経年変化を注目したい。
癌家系を有する者は各人間ドックともに39∼
44%前後であり,胃腸症状を有する者も20∼26%
前後で前年とほぼ同率である(図13)。
図13 発見胃癌の手術・癌家系・胃腸症状に関する検討
−人間ドック別比較−(2002年)
年度別に比較すると手術率は1988年以来96∼
99%の高率を持続している。
癌家系を有する者は,各年度ともに34∼38%前
後であり,今回は前年よりやや増えている。
胃腸症状を有する者は年々減少傾向を示した
が,2002年は23.2%と前年とほぼ同率である(図
図12
人間ドック別の発見胃癌と受診回数の関係
14)。
−年別比較−
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
125(1875
125)
図14 発見胃癌の手術・癌家系・胃腸症状に関する検討
図16
発見胃癌と肥満度の関係
−年別比較−
−年別比較−
部の順である。合計で胃体部62.8%,前庭部25.8%
(h)
肥満度との関係
と過半数を占めている。
発見胃癌と肥満度との関係をみると,一泊人間
ドック,一日病院外来ドック,一日人間ドックと
(c)
男女別比較では,男性0.10%,女性0.05%
と1996年以来横ばいであり,男女差は変わらない。
もに普通,肥満,やせの順である。なお一泊人間
年代別比較では,加齢とともに発見率の上昇傾
ドックの方が肥満者がやや多い傾向を示している
向は同じである。今回の調査では各年代ともに前
(図15)。
年と発見頻度はほぼ同率である。
(d)
受診回数別の比較では,初回受診者が年々
減少し,反復受診者の増加が目立っている。その
傾向は一日人間ドックの方がその他の人間ドック
より高い。
(e)
胃手術施行率は,今回96.0%と前年とほぼ
同率である。そのなかで,内視鏡的切除は今回の
調査でも18.1%と前年と同率である。癌家系を有
する人は38.4%とやや増加,胃腸症状を有する人
は23.2%で前年と同率である。
(f)
図15
肥満度との関係をみると,肥満型が22.3%
で,前年よりやや減っている。
発見胃癌と肥満度の関係
−人間ドック別比較−(2002年)
(3)
発見大腸癌の検討−特に胃癌との対比−
前述したように,胃癌と大腸癌の発見頻度が
肥満度の各年度別比較では,普通,肥満,やせ
年々接近しているので,1988年より大腸癌につい
の順位に変動はみられない。2002年は前年よりや
ても胃癌と同様の分析を行い,両群の比較検討を
や肥満者が減っており今後の経年変化に注目した
行っている。
(a)
い(図16)。
小括:人間ドックで発見した胃癌の特徴
(a)
胃癌発見率は,一泊人間ドックと一日病院
外来ドックが一日人間ドックより高率であった。
早期癌の占める割合は各人間ドックともに75∼
占居部位の割合は,一泊人間ドック,一日
コースの人間ドックともに胃体部,前庭部,噴門
126
126(1876)
て−人間ドック別比較−(表14)
一泊人間ドックの発見率は0.07%で,一日人間
ドックの0.04%より高い。
また早期大腸癌が発見大腸癌に占める割合は一
日病院外来人間ドックに対し,一泊と一日人間
78%の高率を示している。
(b)
大腸癌発見率と早期大腸癌占有率につい
ドックの方が高く,総計で75.7%である。
(b)
早期大腸癌の割合−年別比較−(表15)
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
表14
人間ドックの大腸癌発見率と早期癌占有率
−人間ドック別比較−(2002年)
発見大
腸癌数
ド ッ ク 別 受診者数
大腸癌 大腸早期
発見率 癌占有率
一泊人間ドック
211,046
142
0.07
76.8
一 日 病 院
外来ドック
297,984
77
0.03
67.5
一日人間ドック 1,503,541
602
0.04
76.7
そ
646,112
639
0.10
75.4
計 2,658,683
1,460
0.05
75.7
の
他
総
表15
早期大腸癌と進行大腸癌の割合−年別比較−
早期大腸癌
症例数
進行大腸癌
%
症例数
%
計
症例数
%
1988
252
74.8
85
25.2
337 100.0
1992
608
79.0
152
20.5
741 100.0
1996
778
74.7
263
25.3 1,041 100.0
2001
1,085
76.9
326
23.1 1,411 100.0
2002
1,105
75.7
355
24.3 1,460 100.0
発見大腸癌中で早期大腸癌の占める割合の総計
は,当初から74%以上の高率が持続している。
(c)
胃癌と大腸癌の比較−人間ドック別−(図
図17
17)
胃癌と大腸癌の発見率比較と早期癌占有率
−人間ドック別比較−(2002年)
2002年の胃癌と大腸癌の発見頻度および早期癌
早期癌の占める割合は,胃癌,大腸癌ともに68
の占める割合について,比較を行った。
胃癌の発見率は一泊人間ドックと一日病院外来
∼85%前後の高率を占めている。したがって総計
ドックが一日人間ドックより高い。大腸癌発見率
では,胃癌77.6%に対し,大腸癌は75.7%とほぼ
は,一泊の方が一日人間ドックより高い。総計で
同率である。
(d)
は,胃癌0.08%に対し大腸癌は0.05%であり,胃
ドック別比較−(表16)
癌に対し大腸癌は約63%に相当している。
表16
発見大腸(結腸・直腸)癌の占居部位
部
症
位
例
ドック別
R
(直腸)
発見大腸癌の占居部位について−人間
−人間ドック別比較−(2002年)
S
A
T
D
(S字状結腸) (上行結腸) (横行結腸) (下行結腸)
C
(盲腸)
合
計
一 泊 人 間
ド
ッ
ク
症例数
一 日 病 院
外来ドック
症例数
一 日 人 間
ド
ッ
ク
症例数
151
258
75
61
36
21
602
%
25.1
42.9
12.5
10.1
6.0
3.5
100.0
症例数
214
233
80
56
30
26
639
そ
総
の
合
他
計
%
%
43
42
22
19
9
7
142
30.3
29.6
15.5
13.4
6.3
4.9
100.0
32
24
5
8
6
2
77
41.6
31.2
6.5
10.4
7.8
2.6
100.0
%
33.5
36.5
12.5
8.8
4.7
4.1
100.0
症例数
440
557
182
144
81
56
1,460
%
30.1
38.2
12.5
9.9
5.5
3.8
100.0
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
127(1877
127)
表17
発見大腸(結腸・直腸)癌の検討
検討項目 性
症例
別
男
30
年代
40 50 60以
代
代
女
ドック別
一日病院外 症例数 51 26
来 ド ッ ク %
66.2 33.8
一 日 人 間 症例数 452 150
ド ッ ク %
75.1 24.9
そ
総
の
合
他
計
%
484
155
75.7 24.3
症例数 1,098
%
手術
進行度
内的 早 進
有 視切
鏡除 期 行
無
一 泊 人 間 症例数 111 31
ド ッ ク %
78.2 21.8
症例数
−人間ドック別比較−(2002年)
362
75.2 24.8
3
2.1
1
13
代 歳上
45
81
9.2 31.7 57.0
15
30
31
1.3 19.5 39.0 40.3
18
96
234
254
3.0 15.9 38.9 42.2
24
90
272
253
3.8 14.1 42.6 39.6
46
214
581
619
3.2 14.7 39.8 42.4
3
58
81
109
33
癌家系
有
48
受診回数 自覚症状
肥満度
初 複
や 普 肥
無
有 無
回 数
せ 通 満
94
54
88
31
111
2.1 40.8 57.0 76.8 23.2 33.8 66.2 38.0 62.0 21.8 78.2
1
52
24
52
25
28
49
28
49
19
58
1.3 67.5 31.2 67.5 32.5 36.4 63.6 36.4 63.6 24.7 75.3
19
268
315
462
140
228
374
195
407
129
473
3.2 44.5 52.3 76.7 23.3 37.9 62.1 32.4 67.6 21.4 78.6
10
482
546
397
914
235
512
404
948
136
503
49
25
3.9 63.6
32.5
59
363
180
9.8 60.3
29.9
28.5
355
242
3
1.6 51.2 47.3 75.4 24.6 37.9 62.1 36.8 63.2 21.3 78.7 11.6 59.9
722 1,105
157
37
26.1
182
705
302
14
383
33
327
91
9.9 64.1
315 1,145
74
886
424
2.3 48.3 49.5 75.7 24.3 37.4 62.6 35.1 64.9 21.6 78.4 10.3 60.7
150
29.0
占居部位を6項目に分けて,調査を行っている。
いずれの人間ドックもS字状結腸が最も多く,
総 計 で 38.2 % で あ る 。 次 い で 直 腸 で 総 計 で は
30.1%と両部位が過半数を占めている。その他の
部位はドック別で多少順位の変動があるが,総計
の平均では3位が上行結腸,次いで横行結腸,下
行結腸,盲腸の順である。
次に発見大腸癌の各項目別調査結果について,
一括表示した(表17)。
以下,各項目ごとに成績を述べる。
(e)
発見大腸癌の性別比較−人間ドック別−
2002年の性別大腸癌発見率を比較すると,各種
人間ドックとも,性別発見頻度はほぼ同率である。
総計では男性0.06%に対し,女性0.04%と性差が
縮小している(表18)。
表18
性別大腸癌発見率
−人間ドック別比率−
(2002年)
ド ッ ク 別 性 別 受診者数
発見大腸癌数 大腸癌発見率
一 泊 人 間 男性
ド ッ ク 女性
154,063
111
0.07
56,983
31
0.05
一日病院外来 男性
ド ッ ク 女性
190,709
51
0.03
107,275
26
0.02
一 日 人 間 男性
ド ッ ク 女性
962,266
452
0.05
541,275
150
0.03
年別比較では,調査開始の1984年より増えてい
男性
413,511
484
0.12
るが,近年は男性は横ばい,女性は増加傾向を示
している(表19)。
そ
の
他
計
128
128(1878)
女性
232,601
155
0.07
男性
1,720,549
1,098
0.06
女性
938,134
362
0.04
図18
性別にみる胃癌と大腸癌の発見率
−人間ドック比較−(2002年)
また胃癌と大腸癌の発見率について性別の比較
をすると,一日病院外来ドックは男女ともに胃癌
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
と大腸癌の比がほぼ2:1である。しかし,一泊
と一日人間ドックは男女ともに胃癌と大腸癌の較
表21
年代別・大腸癌発見率の推移
年代
年度
差が縮小している(図18)。
表19
性別・大腸癌発見率の推移
性別
年度
30代
計
↵
ᕈ
ᅚ
1984
290/616,911=0.05%
1988
467/694,738=0.07%
1992
628/951,973=0.07%
1996
847/1,397,073=0.06%
2001
1,076/1,690,462=0.06%
2002
1,098/1,720,549=0.06%
1984
47/281,086=0.02%
1988
76/416,325=0.02%
ᕈ
1992
142/488,199=0.03%
1996
194/752,320=0.03%
2001
40代
50代
335/899,081=0.04%
2002
362/938,134=0.04%
大腸癌発見率=発見大腸癌数/受診者数
(注)1.
(f)
総
−年別比較−
年代別の比較
−人間ドック別−
年代別の大腸癌発見率は,各種人間ドックとも
60代
総
−年別比較−
計
1988
17/187,259=0.01%
1992
19/297,257=0.01%
1996
22/425,007=0.01%
2001
34/418,096=0.01%
2002
46/418,047=0.01%
1988
59/350,177=0.02%
1992
161/660,114=0.02%
1996
213/892,751=0.02%
2001
202/826,236=0.02%
2002
214/848,119=0.03%
1988
156/274,844=0.06%
1992
339/522,684=0.06%
1996
430/743,762=0.06%
2001
610/931,133=0.07%
2002
581/944,467=0.06%
1988
105/85,717=0.12%
1992
251/191,121=0.13%
1996
376/311,087=0.12%
にほぼ同じ傾向で年代の増加につれて上昇してい
2001
565/414,078=0.14%
る。総計では30歳代の0.01%に対し,60歳代では
2002
619/448,050=0.14%
0.14と14倍の格差が認められた(表20)。
表20
年代別大腸癌発見率の比較
−人間ドック別比較−(2002年)
ドック別
一泊人間
ド ッ ク
一日病院
外来ドック
一日人間
ド ッ ク
そ
(注)発見大腸癌数/受診者数=大腸癌発見率
の
計
他
年 代
30↓
40
50
60↑
30↓
40
50
60↑
30↓
40
50
60↑
30↓
40
50
60↑
30↓
40
50
60↑
受診者数 発見大腸癌数 大腸癌発見率
14,773
59,092
90,749
46,432
44,399
101,314
103,996
48,275
239,063
481,604
524,735
258,139
119,812
206,109
224,987
95,204
418,047
848,119
944,467
448,050
3
13
45
81
1
15
30
31
18
96
234
254
24
90
272
253
46
214
581
619
0.02
0.02
0.05
0.17
0.00
0.01
0.03
0.06
0.01
0.02
0.04
0.10
0.01
0.04
0.12
0.27
0.01
0.03
0.06
0.14
図19
胃癌と大腸癌発見率の年代別比較(2002年)
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
129(1879
129)
年度別比較では各年代ごとの発見頻度はほぼ同
率であったが,2000年以降は60代以上でやや増加
(h)
治療,家系,自覚症状との関係
胃癌と大腸癌を比較すると,その傾向はほぼ同
じである。手術率は大腸癌が1.8%ほど高く,その
傾向を示している(表21)。
胃癌と大腸癌の比較では,30歳代,40歳代は同
なかで内視鏡的切除のみで終わった症例が半数近
率,50歳代以上は加齢とともに両群発見頻度の格
差が拡大している(図19)。
(g)
受診回数との関係−人間ドック別比較−
受診回数を初回,複数回に大別して,発見した
癌を100%としてそれぞれの割合を比較した。
発見胃癌と大腸癌はともに一日人間ドックが一
泊人間ドックと一日病院外来ドックより,反復受
診時に発見される割合が高い。しかし,総合的に
は複数回受診者の割合が胃癌で69.0%,大腸癌は
64.9%とほぼ同率である(図20)。
人間ドック別の大腸癌と受診回数の年度別比較
では,当初は一泊人間ドックでは初回受診者の割
合が高かったが,1996年以後は反復受診者の比率
が高くなっている。
一日人間ドックの方は1988年以来,反復受診者
の割合が70%前後と高く,2002年は64.9%であっ
た(図21)。
図21
人間ドック別の発見大腸癌と受診回数の関係
−年別比較−
図20
発見胃癌及び大腸癌と受診回数の関係
一人間ドック別比較−(2002年)
130
130(1880)
図22
発見胃癌及び大腸癌の手術・
癌家系・胃腸症状に関する検討(2002年)
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
くを占めている。癌家系を有する割合はともに
37%台,胃腸症状を有する割合もともに22%台で
ある(図22)。
発見大腸癌について年度別に比較してみると,
切除率は98%で横ばい。癌家系を有する人は前年
に比し1.5%増の37.4%である。また胃腸症状を有
する割合は次第に減少傾向を示していたが,2002
年は21.6%である(図23)。
(i)
肥満度との関係
胃癌と大腸癌を比較すると,普通,肥満,やせ
図23
発見大腸癌の手術・癌家系・胃腸症状に関する
検討
の順位は同じである。しかし,大腸癌の方が胃癌
よりやせ型が少なく,肥満型が多い傾向を示して
−年別比較−
いる(図24)。
図24
発見胃癌及び大腸癌と肥満度の関係(2002年)
図25
表22
消化管癌について地域差の検討
地
区
ドック別
受診者数
発見大腸癌と肥満度の関係
−人間ドック別比較−(2002年)
胃
癌
発見癌数 発見率
᧲ ᣣ ᧄ
87,736
83
0.09
72/83=86.7
一日病院外来ドック
188,633
137
0.07
一日人間ドック
687,269
484
0.07
498,637
669
0.13
の
他
計
大
腸
早期癌の占める割合 発見癌数 発見率
一泊人間ドック
そ
−年別比較−
癌
早期癌の占める割合
⷏
52
0.06
35/52=67.3
108/137=78.8
59
0.03
42/59=71.2
358/484=74.0
422
0.06
332/422=78.7
520/669=77.7
419
0.08
318/419=75.9
0.09 1,058/1,373=77.1
952
0.07
727/952=76.4
90
0.11
74/90=82.2
ᣣ ᧄ
1,462,275
1,373
一泊人間ドック
83,628
70
0.08
一日病院外来ドック
154,336
65
0.04
53/65=81.5
19
0.01
11/19=57.9
一日人間ドック
490,527
220
0.04
166/220=75.5
187
0.04
133/187=71.1
467,917
412
0.09
324/412=78.6
225
0.05
167/225=74.2
そ
の
他
計
58/70=82.9
✚
1,196,408
767
0.06
601/767=78.4
521
0.04
385/521=73.9
一泊人間ドック
171,364
153
0.09
130/153=85.0
142
0.08
109/142=76.8
一日病院外来ドック
342,969
202
0.06
161/202=79.7
78
0.02
53/78=67.9
⸘
一日人間ドック 1,177,796
そ
の
計
他
704
0.06
524/704=74.4
609
0.05
465/609=76.4
966,554
1,081
0.11
844/1,081=78.1
644
0.07
485/644=75.3
2,658,683
2,140
0.08 1,659/2,140=77.5
1,473
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
0.06 1,112/1,473=75.5
131(1881
131)
年度別に大腸癌の肥満度を比較してみると,
2002年は肥満者が前年よりやや減少して29.0%で
ある(図25)。
(j)
地域差の検討−人間ドック別比較−
胃癌と大腸癌の発見癌数が人間ドック受診者の
増加につれて年々増えているため,1990年からわ
が国を東日本(関東・甲信越以北)と西日本(東
海・北陸以南)に大別して地域差の検討を行って
いる。
今回の調査結果を総合すると,胃癌の発見率は
やや東日本が高いが,早期癌の占める割合は地域
差が認められない。大腸癌については癌発見率と,
早期癌の占める割合はともに明らかな地域差が認
められなかった(表22)。
胃癌の地域差を人間ドック別に比べると,発見
率はいずれの人間ドックでも東日本が高い傾向を
示している。早期癌の占める割合はいずれの人間
ドックでも,ほぼ同じ傾向を示している(図26)。
大腸癌についても同様の検討を行った。発見率
は一泊人間ドックは西日本が高く,一日コースの
図27 人間ドック別大腸癌の地域差について(2002年)
−癌発見率及び早期癌占有率の比較−
人間ドックは東日本の方が高かった。また早期癌
の占める割合は,一泊人間ドックは西日本が高く,
一日コースの人間ドックでは東日本の方が高かっ
た。総合的にいえることは,大腸癌検診は施設間
のバラツキが大きく,一定の傾向で地域差は認め
られない現況である(図27)。
小括:人間ドックで発見した大腸癌の特徴−と
くに胃癌との比較−
(a)
大腸癌の発見率(0.05%)は胃癌の約63%
に相当する。早期癌の占める割合(75.7%)は,
胃癌(77.6%)とほぼ同率である。
(b)
大腸癌の発見部位は,S字状結腸が
38.2%,直腸が30.1%で過半数を占めている。一
方で胃癌の方は胃体部62.8%,前庭部25.8%で大
半を占めている。
(c)
性別発見頻度の比較では,胃癌は男性:女
性=2:1に対し,大腸癌は6:4と性差が縮小
している。
(d)
年代別発見頻度の比較では,大腸癌は胃癌
と同様に加齢とともに発見頻度が高くなってい
る。30歳代と60歳代の発見率の格差は,大腸癌で
図26
人間ドック別胃癌の地域差について(2002年)
は14倍,胃癌の方は21倍で前年と格差が同じ傾向
−癌発見率及び早期癌占有率の比較−
を示している。
132
132(1882)
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
(e)
が多い。
受診回数との比較では,反復受診者は大腸
(j)
癌が64.9%を占め,胃癌の69.0%との格差が縮ん
ると,胃癌はいずれも西日本より東日本が高く,
でいる。
(f)
大腸癌は不定である。
手術施行例は大腸癌97.7%に対し,胃癌
早期癌の占める割合は,胃癌と大腸癌ともに明
96.0%である。内視鏡的切除は胃癌18.1%に対し,
らかな地域差を認めない。
大腸癌は44.5%と多い。
(g)
癌家系を有する人は,胃癌,大腸癌ともに
〔C〕
37∼38%前後である。
(h)
診者数2,839,701人について,年代別に判定区分に
よる分類を行った(表23)。
肥満度との関係では,やせ型と肥満型の割
この総括表をさらに細分化し以下の検討を行った。
合は胃癌1:2に対し,大腸癌は1:3と肥満者
表23
人間ドック項目別全国総合成績
年代別
異常なし(A+B)
項目別集計成績
項目別統計の返信をいただいた891施設の総受
胃腸症状を有する人は,大腸癌は21.6%
で,胃癌23.2%とほぼ同率である。
(i)
人間ドック別に癌発見頻度の地域差をみ
(2002年)
39歳以下
40∼49歳
50∼59歳
60歳以上
数(121,086) 人
数(124,134) 人
数( 95,791) 人
数( 34,773) 人
人
総
計
数(
375,784)
受診者数(490,522) 受診者数(879,880) 受診者数(997,582) 受診者数(471,717) 受診者数(2,839,701)
新
判
定
C
旧 判 定 症 例 BF+C
肥
D1
D2
C
D1
D2
C
D1
D2
C
D1
D2
C
D1
D
G
BF+C
D
G
BF+C
D
G
BF+C
D
G
BF+C
D
G
11,657
満
86,536
6,442
2,268 178,328
呼吸器疾患
13,211
1,029
5,204
36,367
2,749
13,604
69,351
4,829
24,711
高
圧
18,707
4,342
2,761
59,210
30,049
9,091
95,746
81,554
15,974
高コレステロール
61,502
10,994
6,977 156,400
36,329
19,242 226,040
65,754
高中性脂肪
48,345
6,685
5,648 111,656
20,406
13,879 127,333
27,237
高
血
尿
11,539
3,742 201,713
11,104
3,927
95,336
D2
4,004
1,720 561,913
33,089
60,475
4,878
17,790 179,404
13,485
61,309
55,325
64,009
9,000 228,988 179,954
36,826
30,480 104,478
31,727
15,015 548,420 144,804
15,537
51,600
14,012
6,256 338,934
68,340
71,714
41,320
酸
33,531
7,460
4,561
68,721
18,350
10,586
71,643
22,490
10,655
32,566
11,880
4,974 206,461
60,180
30,776
心電図異常
19,160
1,030
6,477
47,727
4,579
16,643
73,769
13,312
29,838
52,378
15,135
21,396 193,034
34,056
74,354
腎・尿路疾患
49,556
2,549
15,285 116,691
6,841
33,478 159,600
9,952
45,236
89,882
5,935
25,116 415,729
25,277 119,115
食道・胃疾患
21,950
2,275
15,346
61,130
7,957
41,970
84,845
12,634
59,928
47,745
7,211
30,532 215,670
十二指腸疾患
6,024
1,161
3,065
17,355
3,794
8,335
22,595
4,628
10,896
10,441
2,026
4,788
56,415
11,609
27,084
胆石・胆のうポリープ
37,174
1,074
3,383 103,667
3,233
9,301 134,852
4,350
12,978
63,462
2,638
7,608 339,155
11,295
33,270
肝機能異常
96,230
5,083
18,365 224,282
11,957
35,769 268,129
14,696
その他の消化器疾患
22,818
836
糖
尿
9,932
60,863
4,121
24,883
30,077 147,776
41,885 114,890
7,186
18,151 703,531
38,922 114,170
80,965
5,587
34,476
41,466
4,176
19,936 206,112
14,720
54,663
41,330
55,836
31,814
8,261
20,757
49,359
3,234
病
14,481
3,963
4,995
56,302
21,717
21,278 100,377
血 液 疾 患
42,008
4,371
10,014
89,003
14,014
23,311
血清梅毒反応
2,341
86
630
4,341
266
1,544
5,873
440
2,267
2,941
259
1,475
15,496
1,051
5,916
リウマチ疾患
9,247
202
2,065
22,597
853
5,544
24,806
1,538
6,275
11,495
795
3,071
68,145
3,388
16,955
科
14,321
2,268
11,108
39,040
7,414
28,069
65,422
15,553
41,150
48,549
19,410
肛門・大腸疾患
4,660
785
12,044
13,728
2,025
25,918
22,747
3,713
39,129
13,877
2,363
22,977
55,012
8,886 100,068
前立腺疾患
790
60
249
3,380
288
1,165
9,508
1,595
4,251
10,563
4,310
6,050
24,241
6,253
科
11,622
2,338
4,802
31,530
6,260
11,124
26,823
5,014
7,671
7,647
1,301
2,194
77,622
14,913
25,791
乳 房 疾 患
10,388
574
6,562
22,768
1,389
13,940
17,504
1,247
10,693
5,634
547
3,733
56,294
3,757
34,928
その他の疾患
26,193
3,418
7,323
62,017
8,588
18,014
98,066
14,879
29,899
67,776
11,337
19,848 254,052
38,222
75,084
眼
婦
合
人
計 650,795
A・・・異常なし
95,866
21,314 226,996 112,157
89,227
9,343 276,236
30,253 167,332
29,880
88,917
63,425
44,645 110,580
11,715
69,025 159,064 1,587,103 224,718 390,430 2,083,573 385,030 539,943 1,093,721 250,187 302,540 5,415,192 928,960 1,391,977
B・・・軽度異常なるも現在心配なし
D1・・・医療を要す(旧D)
C・・・軽度異常あり生活改善し経過観察を要す(旧BF+C)
D2・・・二次精査を要す(旧G)
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
133(1883
133)
表24
年
ኻ⽎ੱᢙ
㧭㧗㧮
C
D1
D2
人間ドック受診者の判定別・年代別総合成績
−年別比較−
39歳以下
40∼49歳
50∼59歳
60歳以上
計
84
89,045名
163,944名
127,122名
33,637名
413,748名
88
187,259
350,177
274,844
85,717
897,997
92
297,257
660,114
522,684
191,121
1,671,176
96
425,007
892,751
743,762
311,087
2,372,607
01
489,699
867,834
971,485
436,744
2,765,762
02
490,522
879,880
997,582
471,717
2,839,701
齢
84
33,091 37.2%
51,056 31.1%
31,520 24.8%
88
69,180
36.9
94,671
27.0
55,199
20.0
12,730
14.8
231,780
25.8
92
89,226
30.0
141,809
21.4
84,109
16.0
22,297
11.6
337,441
20.1
96
124,235
29.2
157,593
17.6
94,690
12.7
28,374
9.1
404,892
17.0
01
129,366
26.4
129,138
14.9
103,386
10.6
38,041
8.7
399,931
14.5
02
121,317
24.7
124,590
14.2
96,042
9.6
34,537
7.3
376,486
13.3
84
60,977
68.6
144,363
87.4
138,494
108.7
42,889
127.5
386,723
93.5
88
169,246
90.4
412,645
117.8
392,895
143.0
143,822
167.8
1,118,608
124.6
92
310,387
104.4
875,867
132.6
817,878
156.4
350,124
183.1
2,354,256
140.8
96
488,848
115.0
1,400,251
156.8
1,365,102
183.5
663,292
213.2
3,917,493
165.1
01
628,940
128.4
1,551,358
178.8
2,019,184
207.8
1,029,065
235.6
5,228,547
189.0
02
650,795
132.7
1,587,103
180.4
2,083,573
208.9
1,093,721
231.9
5,415,192
190.7
84
6,998
8.0
22,465
13.4
28,286
22.0
9,932
29.6
67,681
16.4
88
13,932
7.4
45,065
12.9
56,025
20.4
23,393
27.3
138,415
15.4
92
30,317
10.1
108,247
16.3
130,867
25.0
63,769
33.3
333,200
19.9
96
44,817
10.5
168,363
18.8
211,845
28.4
127,071
40.8
552,096
23.2
01
71,386
14.6
216,121
24.9
349,592
36.0
216,293
49.5
853,392
30.9
02
69,025
14.1
224,718
25.5
385,030
38.6
250,187
53.0
928,960
32.7
84
19,769
22.3
45,528
27.8
45,129
35.6
14,017
41.6
124,443
30.1
88
42,802
22.9
106,423
30.4
100,800
36.7
38,397
44.8
288,422
32.1
92
86,960
29.2
260,282
39.4
249,095
47.6
115,846
60.6
712,183
42.6
96
130,005
30.5
397,205
44.4
394,652
53.0
205,384
66.0
1,127,246
47.5
01
146,336
29.9
379,549
43.7
518,646
53.4
284,346
65.1
1,328,877
48.0
02
159,064
32.4
390,430
44.4
539,943
54.1
302,540
64.1
1,391,977
49.0
(注)A+B…軽度異常を含めた異常なしの合計
D1…医療を要す
134
134(1884)
7,531 22.4%
C…生活習慣改善し,経過観察を要す
D2…二次精査を要す
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
123,198 29.8%
(1)
人間ドックの判定別集計
(a)
全国総合成績(図28)
異常なし(A+B)の全国平均は13.3%であり,
年 代 別 に 比 較 す る と 30 歳 代 は 24.7 % , 40 歳 代
14.2%,50歳代9.6%と漸減し,60歳代は僅か7.3%
である。
一方,異常を認めた人は全平均で86.7%であり,
その内訳はC(要経過観察)が最も多く,次いで
D2(要精査),D1(要医療)の順であり,各群
ともに加齢に伴い増加傾向を示している。
図28
(2002年)
表25
39歳以下
受診
490,522
者数 (100.0%)
㧭㧗㧮
121,317
(24.7%)
C
650,795
(132.7%)
D1
69,025
(14.1%)
159,064
(32.4%)
人間ドックの判定別・年代別総合成績
−年別比較−
−対象2,839,701名−
人間ドック受診者の判定別総合成績
年齢
D2
図29
人間ドック受診断者の判定別・年代別総合成績
40∼49歳
男297,758
(100.0%)
879,880
女192,764 (100.0%)
(100.0%)
男65,562
(22.0%)
女55,755
(28.9%)
−性別・年代別比較−(2002年)
124,590
(14.2%)
50∼59歳
男552,481
(100.0%)
997,582
女327,399 (100.0%)
(100.0%)
男68,115
(12.3%)
女56,475
(17.2%)
96,042
(9.6%)
(人数)
60歳以上
計
男635,990
(100.0%)
男302,373
男1,788,602
(100.0%)
471,717 (100.0%) 2,839,701
女361,592 (100.0%) 女169,344 (100.0%) 女1,051,099
(100.0%)
(100.0%)
(100.0%)
男55,666
(8.8%)
女40,376
(11.2%)
34,537
(7.3%)
男20,504
(6.8%)
女14,033
(8.3%)
376,486
(13.3%)
男209,847
(11.7%)
女166,639
(15.9%)
男459,359
男1,115,534
男1,425,084
男734,180
男3,734,157
(154.3%) 1,587,103
(201.9%) 2,083,573
(224.1%) 1,093,721 (242.8%) 5,415,192
(208.8%)
女471,569 (208.9%)
女658,489 (231.9%) 女359,541 (190.7%) 女1,681,035
女191,436 (180.4%)
(99.3%)
(144.0%)
(182.1%)
(212.3%)
(159.9%)
男51,931
(17.4%)
女17,094
(8.9%)
男100,340
(33.7%)
女58,724
(30.5%)
224,718
(25.5%)
390,430
(44.4%)
男166,447
(30.1%)
女58,271
(17.8%)
男255,802
(46.3%)
女134,628
(41.1%)
(注)A+B…軽度異常を含めた異常なしの合計
D1…医療を要す
385,030
(38.6%)
539,943
(54.1%)
男276,117
(43.4%)
女108,913
(30.1%)
男365,560
(57.5%)
女174,383
(48.2%)
250,187
(53.0%)
男169,606
(56.1%)
女80,581
(47.6%)
928,960
(32.7%)
男202,423
302,540 (66.9%) 1,391,977
(64.1%) 女100,117 (49.0%)
(59.1%)
男664,101
(37.1%)
女264,859
(25.2%)
男924,125
(51.7%)
女467,852
(44.5%)
C…生活習慣を改善し,経過観察を要す
D2…二次精査を要す
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
135(1885
135)
(b)
年別の比較(表24)(図29)
(2)
過去19年間の判定別集計を比較するとA+B群
年代別健常者の比較
(a)
性別の比較(表25)(図30)
は近年次第に各年代ともに低率となっているが,
健常者の割合を性別で比較すると,全平均で男
2001年は過去最低である。また最も異常頻度の高
性より女性の頻度が高く,4.2%の格差がみられ
いC群は60歳代を除き各年代ともに最高値を示し
た。
ている。また,D1群とD2群も最高値を示した。
年代別に性差を比較すると,30歳代が6.9%であ
図31
図30
年代別健常者頻度
表26
年代別健常者・異常者頻度
年
齢
A+B
39歳以下
2,741名
C
30,593
40∼49歳
16.3%
3,703
181.5
15,326
22.0
C
93,441
22.2
12,921
135.2
71,206
18.7
C
393,032
25.1
36,077
138.6
31,813
12.7
C
152,787
26.3
17,460
120,975
237,536
43,062
72,182
892,044
110,271
29,449
126.3
348,147
52,614
198,091
(注)①一泊人間ドック ②一日病院外来ドック
A+B…軽度異常を含めた異常なしの合計
136
136(1886)
176.6
256.1
49,236
12,281
295,199
32.0
65,843
49.7
55,015
8.4
1,111,904
202.1
190,443
45.1
22,896
10.3
443,787
207.5
82,134
216,554
3,760
145,701
38,911
21,646
604,254
35.5
136,213
5.7
7,368
220.3
205,037
58.8
44,035
90,071
48,911
771,877
160,737
8.1
11.8
185.6
38.7
220,049
13.9
1,578,052
225.0
3,001,234
190.2
1,578,052
50.7
473,004
30.0
1,578,052
8.2
91,526
14.6
625,691
227.6
1,149,758
183.8
625,691
48.9
196,243
625,691
③一日人間ドック(総合健診) ④その他
C…生活習慣改善し経過観察を要す D1…医療を要す
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
47.8
415,848
90,071
37.9
105,238
415,848
90,071
204.9
255.3
415,848
268,598
10.6
562,017
220,110
268,598
216,554
26.6
68.0
268,598
216,554
175.8
31,880
7.0%
220,110
66,135
535,846
14.9
310.0
66,135
535,846
22.5
145,452
15,298名
220,110
66,135
535,846
182.0
4.3%
46,913
146,069
14.7
計
46,913
146,069
198,091
14.4
253,830
1,999名
46,913
146,069
198,091
120,975
D1
13.0
490,025
120,975
④
17,544
5.6%
99,113
490,025
283,583
A+B
35.7
490,025
283,583
D1
20,419
60歳以上
99,113
134,534
283,583
③
230.9
134,534
69,110
A+B
132,142
5,599名
99,113
134,534
69,110
D1
8.7%
57,230
69,110
②
50∼59歳
57,230
16,854
A+B
4,959名
57,230
16,854
D1
−人間ドック別比較−(2002年)
−人間ドック別比較−
16,854
①
年代別健常者頻度
−性別比較−(2002年)
31.4
表27
人間ドック検査項目別異常者頻度
−性別−(2002年)
対象人数
判
定
C
満
561,913
(19.8%)
患
179,404
(6.3%)
圧
228,988
(8.1%)
高コレステロール
548,420
(19.3%)
高
肪
338,934
(11.9%)
酸
206,461
(7.3%)
常
193,034
(6.8%)
腎 ・ 尿 路 疾 患
415,729
(14.6%)
食道・胃・十二指腸潰瘍
272,085
(9.6%)
胆石・胆のうポリープ
339,155
(11.9%)
肝
機
能
異
常
703,531
(24.8%)
耐
糖
能
異
常
226,996
(8.0%)
患
276,236
(9.7%)
梅 毒 ・ リ ウ マ チ
83,641
(2.9%)
肛 門 ・ 直 腸 疾 患
55,012
(1.9%)
肥
呼
吸
高
血
疾
血
中
高
心
器
性
脂
尿
電
液
図
異
疾
(注)C…生活習慣改善し経過観察を要す
男 1,788,602名
女 1,051,099名
D1
男405,456
(22.7%)
女156,457
(14.9%)
男129,436
(7.2%)
女49,968
(4.8%)
男166,195
(9.3%)
女62,793
(6.0%)
男349,566
(19.5%)
女198,854
(18.9%)
男276,545
(15.5%)
女62,389
(5.9%)
男176,351
(9.9%)
女30,110
(2.9%)
男133,743
(7.5%)
女59,291
(5.6%)
男255,146
(14.3%)
女160,583
(15.3%)
男184,855
(10.3%)
女87,230
(8.3%)
男240,148
(13.4%)
女99,007
(9.4%)
男547,179
(30.6%)
女156,352
(14.9%)
男176,811
(9.9%)
女50,185
(4.8%)
男163,040
(9.1%)
女113,196
(10.8%)
男52,975
(3.0%)
女30,666
(2.9%)
男37,119
(2.1%)
女17,893
(1.7%)
33,089
(1.2%)
13,485
(0.5%)
179,954
(6.3%)
144,804
(5.1%)
68,340
(2.4%)
60,180
(2.1%)
34,056
(1.2%)
25,277
(0.9%)
41,686
(1.5%)
11,295
(0.4%)
38,922
(1.4%)
112,157
(3.9%)
29,880
(1.1%)
4,439
(0.2%)
8,886
(0.3%)
計
男24,908
(1.4%)
女8,181
(0.8%)
男9,659
(0.5%)
女3,826
(0.4%)
男130,541
(7.3%)
女49,413
(4.7%)
男89,243
(5.0%)
女55,561
(5.3%)
男53,433
(3.0%)
女14,907
(1.4%)
男57,481
(3.2%)
女2,699
(0.3%)
男26,150
(1.5%)
女7,906
(0.8%)
男18,460
(1.0%)
女6,817
(0.6%)
男32,507
(1.8%)
女9,179
(0.9%)
男8,023
(0.4%)
女3,272
(0.3%)
男31,842
(1.8%)
女7,080
(0.7%)
男93,736
(5.2%)
女18,421
(1.8%)
男9,380
(0.5%)
女20,500
(2.0%)
男2,290
(0.1%)
女2,149
(0.2%)
男7,039
(0.4%)
女1,847
(0.2%)
595,002
(21.0%)
192,889
(6.8%)
408,942
(14.4%)
693,224
(24.4%)
407,274
(14.3%)
266,641
(9.4%)
227,090
(8.0%)
441,006
(15.5%)
313,771
(11.0%)
350,450
(12.3%)
742,453
(26.1%)
339,153
(11.9%)
306,116
(10.8%)
88,080
(3.1%)
63,898
(2.3%)
男430,364
(24.1%)
女164,638
(15.7%)
男139,095
(7.8%)
女53,794
(5.1%)
男296,736
(16.6%)
女112,206
(10.7%)
男438,809
(24.5%)
女254,415
(24.2%)
男329,978
(18.4%)
女77,296
(7.4%)
男233,832
(13.1%)
女32,809
(3.1%)
男159,893
(8.9%)
女67,197
(6.4%)
男273,606
(15.3%)
女167,400
(15.9%)
男217,362
(12.2%)
女96,409
(9.2%)
男248,171
(13.9%)
女102,279
(9.7%)
男579,021
(32.4%)
女163,432
(15.5%)
男270,547
(15.1%)
女68,606
(6.5%)
男172,420
(9.6%)
女133,696
(12.7%)
男55,265
(3.1%)
女32,815
(3.1%)
男44,158
(2.5%)
女19,740
(1.9%)
D1…医療を要す
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
137(1887
137)
り,加齢とともに性差が縮少している。
(b)
人間ドック別の比較(表26)(図31)
30歳代から60歳代まで一泊人間ドックより一日
コースの人間ドックの方が健常者頻度が高いが,
(3)
年代別異常頻度の比較
(a)
性別の比較(図32)
年代別の異常頻度について性別に比較をする
と,各年代ともに男性が女性より異常頻度が高い。
次第に格差が縮んでいる。総計では,一日コース
性差は30歳代で63.5%で,加齢とともに減少し
の人間ドックの方が一泊人間ドックより5∼7%
て60歳代では39.0%である。重複項目を合計した
ほど高い。
全平均では,男性が女性よりも61.0%も高く,前
年より格差が開いている。
(b)
人間ドック別の比較(図33)
一泊人間ドックと一日病院外来ドック,一日人
間ドックの年代別異常頻度を比較すると,各年代
ともに一泊人間ドックの方が高い。
全平均では一泊人間ドックの方が一日病院外来
ドックより79.0%,一日人間ドックより87.0%ほ
ど高い。
(4)
人間ドックの項目別集計(表27)
(図34)
人間ドックの各項目別異常頻度を高い順に挙げ
図32
年代別異常者頻度
−性別比較−(2002年)
ると,第1位は肝機能異常の26.1%であり,次い
で高コレステロール,肥満,腎・膀胱疾患,高中
性脂肪,高血圧,胆石・胆のうポリープ,耐糖能
異常の順で前年と同じである。
(5)
(a)
項目別集計の検討
性別の比較(図35)
各項目異常頻度を性別に比較すると,腎・膀胱
疾患,血液疾患は女性の方が多いが,その他の項
目はすべて男性の方が多い。とくに男女差の顕著
な項目は前年と同様に肝機能異常,肥満,高中性
脂肪,耐糖能異常,高血圧である。
図33
年代別異常者頻度
図34
人間ドック検査項目別異常者頻度(2002年)
138
138(1888)
−人間ドック別比較−(2002年)
図35
項目別異常頻度
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
−性別の比較−(2002年)
(b)
人間ドック別の比較(表28)(図36)
満,腎・膀胱疾患,高血圧,高中性脂肪の順であ
各項目別異常頻度を一泊人間ドックと一日病院
る。一日人間ドックは,肝機能異常,高コレステ
ロール,肥満,腎・膀胱疾患,高中性脂肪,高血
外来ドック,一日人間ドックで比較した。
各項目ともに,一泊人間ドックの方が一日コー
圧の順となっている。しかし一泊人間ドックでは
スの人間ドックより異常頻度が高い。一日病院外
肝機能異常に次いで,耐糖能異常,高コレステロー
来ドックでは肝機能異常,高コレステロール,肥
ル,肥満,腎・膀胱疾患,食道・胃・十二指腸潰瘍,
表28
検査項目別異常頻度
ド ッ ク別
①一泊人間ドック
対象人数
220,110
判
定
C(旧BF+C)
肥
呼
−人間ドック別の比較−
吸
器
高
疾
血
②一日病院外来ドック
415,848
D1(旧D)
計
C(旧BF+C)
D1(旧D)
計
満
54,096
24.6
2,245
1.0
25.6
85,168
20.5
5,995
1.4
21.9
患
18,705
8.5
1,702
0.8
9.3
29,381
7.1
2,204
0.5
7.6
圧
21,027
9.6
18,585
8.4
18.0
35,195
8.5
30,699
7.4
15.8
高 コ レ ス テ ロ ー ル
44,999
20.4
13,444
6.1
26.6
71,664
17.2
27,142
6.5
23.8
高
2.9
15.8
44,575
10.7
12,946
3.1
13.8
中
性
高
心
腎
脂
肪
28,436
12.9
6,291
酸
18,412
8.4
6,776
3.1
11.4
25,176
6.1
9,764
2.3
8.4
異
常
18,841
8.6
3,613
1.6
10.2
31,342
7.5
5,244
1.3
8.8
尿
電
患
38,798
17.6
3,324
1.5
19.1
63,959
15.4
4,968
1.2
16.6
食道・胃・十二指腸潰瘍
33,289
15.1
6,968
3.2
18.3
41,355
9.9
8,157
2.0
11.9
胆石・胆のうポリープ
31,368
14.3
1,193
0.5
14.8
48,577
11.7
3,953
1.0
12.6
肝
機
能
異
常
70,423
32.0
4,193
1.9
33.9
107,311
25.8
7,985
1.9
27.7
耐
糖
能
異
常
56,223
25.5
15,558
7.1
32.6
22,967
5.5
17,774
4.3
9.8
血
・
図
尿
路
液
疾
患
22,935
10.4
2,604
1.2
11.6
45,964
11.1
5,412
1.3
12.4
梅 毒 ・ リ ウ マ チ
疾
5,988
2.7
433
0.2
2.9
10,289
2.5
606
0.1
2.6
肛 門 ・ 大 腸 疾 患
13,570
6.2
2,084
0.9
7.1
5,828
1.4
1,337
0.3
1.7
ド ッ ク別
③一日人間ドック(総合健診)
対象人数
判
1,578,052
定
C(旧BF+C)
肥
呼
吸
高
器
④その他
疾
血
625,691
D1(旧D)
計
C(旧BF+C)
D1(旧D)
計
満
298,274
18.9
16,381
1.0
19.9
124,375
19.9
8,468
1.4
患
93,958
6.0
6,605
0.4
6.4
37,360
6.0
2,974
0.5
21.2
6.4
圧
123,072
7.8
95,575
6.1
13.9
49,694
7.9
35,095
5.6
13.6
高 コ レ ス テ ロ ー ル
318,010
20.2
73,038
4.6
24.8
113,747
18.2
31,180
5.0
23.2
高
194,205
12.3
33,883
2.1
14.5
71,718
11.5
15,220
2.4
13.9
中
高
心
腎
性
脂
肪
酸
120,284
7.6
30,273
1.9
9.5
42,589
6.8
13,367
2.1
8.9
異
常
104,683
6.6
17,979
1.1
7.8
38,168
6.1
7,220
1.2
7.3
16.0
尿
電
患
219,150
13.9
10,453
0.7
14.5
93,822
15.0
6,532
1.0
食道・胃・十二指腸潰瘍
134,008
8.5
16,393
1.0
9.5
63,433
10.1
10,168
1.6
11.8
胆石・胆のうポリープ
193,761
12.3
4,390
0.3
12.6
65,449
10.5
1,759
0.3
10.7
肝
機
能
異
常
366,281
23.2
17,834
1.1
24.3
159,516
25.5
8,910
1.4
26.9
耐
糖
能
異
常
100,313
6.4
55,025
3.5
9.8
47,493
7.6
23,800
3.8
11.4
11.5
血
・ 尿
図
液
路
疾
患
143,506
9.1
13,696
0.9
10.0
63,831
10.2
8,168
1.3
梅 毒 ・ リ ウ マ チ
疾
48,258
3.1
2,575
0.2
3.2
19,106
3.1
825
0.1
3.2
肛 門 ・ 大 腸 疾 患
22,554
1.4
3,142
0.2
1.6
13,060
2.1
2,323
0.4
2.5
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
139(1889
139)
表29
年
6項目異常頻度
齢
−年代別・年別比較−
ኻ⽎ੱᢙ
39歳以下
40∼49歳
50∼59歳
60歳以上
計(全平均)
84
89,045名
163,944名
127,122名
33,637名
413,748名
88
187,259
350,177
274,844
85,717
897,997
92
297,257
660,114
522,684
191,121
1,671,176
96
425,007
892,751
743,762
311,087
2,372,607
01
489,699
867,834
971,485
436,744
2,765,762
02
490,522
879,880
997,582
471,717
2,839,701
11,802 13.3%
27,083 16.5%
23,848 18.8%
88
23,442
12.4
51,936
14.8
48,061
17.4
16,008
18.6
139,447
15.4
92
40,835
13.6
94,859
14.3
85,985
16.3
32,908
17.1
254,587
15.2
96
68,248
15.9
154,610
17.3
136,038
18.2
61,250
19.6
420,146
17.6
01
89,370
18.2
180,905
20.8
200,543
20.6
91,505
21.0
562,323
20.3
02
92,978
19.0
189,867
21.6
212,817
21.3
99,340
21.1
595,002
21.0
84
7,060
7.9
19,727
12.0
20,616
16.2
5,598
16.6
53,001
12.8
88
13,698
7.2
43,769
12.4
48,809
17.6
16,965
19.7
123,241
13.6
92
16,287
5.4
70,922
10.7
83,864
15.9
34,870
18.1
205,943
12.2
96
20,068
4.6
95,314
10.6
120,416
16.0
60,427
19.4
296,225
12.4
01
17,929
3.7
75,042
8.6
146,205
15.0
79,563
18.2
318,739
11.5
02
18,444
3.8
78,019
8.9
155,040
15.5
87,650
18.6
339,153
11.9
84
4,175
4.7
14,472
8.8
19,600
15.4
7,139
21.2
45,386
11.0
88
8,296
4.3
30,674
8.7
41,254
15.0
15,760
18.3
95,984
10.6
92
11,971
3.9
53,356
8.0
72,869
13.9
35,374
18.5
173,570
10.3
96
19,205
4.4
82,985
9.2
117,841
15.7
69,573
22.3
289,604
12.1
01
23,559
4.8
86,353
10.0
167,250
17.2
109,016
25.0
386,178
14.0
02
23,049
4.7
89,259
10.1
177,300
17.8
119,334
25.3
408,942
14.4
88
9,525
5.0
26,632
7.5
28,365
10.3
6,596
10.7
73,768
8.1
92
21,769
7.2
70,059
10.5
75,793
14.4
28,069
14.6
195,690
11.6
96
44,820
10.4
137,195
15.3
151,884
20.3
65,591
20.9
399,490
16.8
01
75,409
15.4
195,888
22.6
288,451
29.7
129,633
29.7
689,381
24.9
02
72,496
14.8
192,729
21.9
291,794
29.3
136,205
28.9
693,224
24.4
88
16,829
8.9
41,421
11.8
35,822
12.9
9,881
11.4
103,953
11.5
92
29,606
9.9
81,217
12.3
66,815
12.7
22,255
11.6
199,893
11.9
96
48,070
11.2
131,294
14.6
113,907
15.2
45,198
14.4
338,469
14.2
01
57,487
11.7
138,265
15.9
162,508
16.7
66,165
15.1
424,425
15.3
02
55,030
11.2
132,062
15.0
154,570
15.5
65,612
13.9
407,274
14.3
⢈
84
7,560 22.5%
70,293 17.0%
ḩ
⠴♧⢻⇣Ᏹ
㜞 ⴊ ࿶
㜞ࠦ࡟ࠬ࠹ࡠ䏚࡞
84
84
㜞ਛᕈ⢽⢌
⢄ᯏ⢻⇣Ᏹ
84
7,581
8.5
16,306
9.9
12,812
10.1
2,971
8.8
39,670
9.6
88
23,635
12.5
53,193
15.1
45,571
16.4
13,075
15.2
135,474
15.0
92
51,966
17.4
138,088
20.8
117,676
22.5
39,079
20.3
346,809
20.6
96
78,918
18.4
214,706
24.0
196,092
26.3
77,747
24.9
567,463
23.8
01
99,601
20.3
235,728
27.2
280,376
28.9
118,977
27.2
734,682
26.6
02
101,313
20.7
236,239
26.8
282,825
28.4
122,076
25.9
742,453
26.1
(注) '84年の「高コレステロール」と「高中性脂肪」は,分けないで高脂肪として統計をとったため,空欄とした。
140
140(1890)
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
図37
6項目異常頻度
−年別比較−
図38
6項目異常頻度
−年代別比較−(2002年)
高血圧,高中性脂肪の順となり,とくに耐糖能異
常の格差が著しい。
(c)
年別比較(表29)(図37)
各年度ともに異常頻度が高く,しかも生活習慣
病の危険因子と考えられる主要6項目について,
19年間の成績を比較した。なお,1984年は高コレ
ステロールと高中性脂肪を合わせて高脂血として
統計をとったため,省略している。
総合的には,1990年以後1位を占めている肝機
能異常と2位の高コレステロールはともに,今回
初めて微減である。肥満,耐糖能異常,高血圧は
僅かに増加,中性脂肪はやや減少している。
(6)
6項目異常頻度の検討
生活習慣病の危険因子として重要な主要6項目
について,種々の検討を行った。
図36
検査項目別異常頻度
−人間ドック別の比較−
(2002年)
(a)
年代別の総合比較(図38)
肝機能異常および高中性脂肪は,40∼50歳代を
ピークとして下降している。肥満は40歳以上で横
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
141(1891
141)
肥満の男性は40歳代をピークとして以後下降傾
ばいである。高血圧,耐糖能異常は加齢とともに
向を示す。女性は加齢とともに急上昇し,60歳代
異常頻度が高くなる傾向がみられた。
(b)
性別の比較(表30)(図39)
では男性とほぼ同率に達している。
高コレステロールも男性に較べ,女性の異常頻
前年度と比べると,6項目ともにほとんど同じ
度は年齢の増すにつれ急上昇している。50歳代で
パターンを示している。
表30
6項目異常頻度
年
対
象
−年代別・性別比較−
齢
人
数
男性
39歳以下
40∼49歳
50∼59歳
60歳以上
計
297,758名
552,481名
635,990名
302,373名
1,788,602名
192,764
327,399
361,592
169,344
1,051,099
女性
肥
満
耐 糖 能 異 常
高
血
圧
高コレステロール
高 中 性 脂 肪
肝 機 能 異 常
男性
71,447 24.0% 141,685 25.6% 150,871 23.7%
66,361 21.9% 430,364 24.1%
女性
21,531
32,979
11.2
48,182
14.7
61,946
17.1
11.7 124,573
19.6
8.4
男性
15,260
5.1
64,731
女性
3,184
1.7
13,288
男性
18,174
6.1
69,090
女性
4,875
2.5
20,169
男性
55,713
女性
16,783
男性
48,247
女性
6,783
男性
85,260
女性
16,053
図39 年代別の6項目異常頻度
18.7 138,187
4.1
30,467
12.5 128,817
6.2
48,483
19.5 164,638
15.7
65,983
21.8 270,547
15.1
21,667
12.8
68,606
6.5
20.3
80,655
26.7 296,736
16.6
13.4
38,679
22.8 112,206
10.7
25.0 170,018
26.7
74,891
24.8 438,809
24.5
54,542
16.7 121,776
33.7
61,314
36.2 254,415
24.2
16.2 114,459
20.7 120,886
19.0
46,386
15.3 329,978
18.4
8.7
3.5
8.3
33,684
9.3
19,226
11.4
77,296
7.4
35.2 213,540
5.4
33.6
85,959
28.4 579,021
32.4
12.8
19.2
36,117
21.3 163,432
15.5
17,603
28.6 194,262
41,977
−性別比較−(2002年)
69,285
図40
年代別の6項目異常頻度−人間ドック別比較−
(2002年)
142
142(1892)
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
表31
6項目異常頻度
年
−年代別・人間ドック別比較−
齢
39歳以下
40∼49歳
50∼59歳
60歳以上
16,854
57,230
99,113
46,913
②
69,110
134,534
146,069
66,135
415,848
③
283,583
490,025
535,846
268,598
1,578,052
④
120,975
198,091
216,554
90,071
625,691
①
対
象
人
肥
数
満
耐 糖 能 異 常
高
血
圧
高コレステロール
高 中 性 脂 肪
肝 機 能 異 常
(注)
計
220,110
①
4,002
23.7
14,955
26.1
25,541
25.8
11,843
25.2
56,341
25.6
②
14,276
20.7
30,068
22.3
32,753
22.4
14,066
21.3
91,163
21.9
③
51,832
18.3 101,852
20.8 107,562
20.1
53,409
19.9 314,655
19.9
④
22,868
18.9
42,992
21.7
21.7
20,022
22.2 132,843
21.2
①
2,955
17.5
15,169
26.5
34,237
34.5
19,420
41.4
71,781
32.6
②
2,175
3.1
9,550
7.1
18,928
13.0
10,088
15.3
40,741
9.8
③
8,921
3.1
35,854
7.3
69,090
12.9
41,473
15.4 155,338
9.8
④
4,393
3.6
17,446
8.8
32,785
15.1
16,669
18.5
71,293
11.4
①
992
5.9
7,024
12.3
18,867
19.0
12,729
27.1
39,612
18.0
②
3,506
5.1
15,330
11.4
28,749
19.7
18,309
27.7
65,894
15.8
③
13,015
4.6
47,148
9.6
92,139
17.2
66,345
24.7 218,647
13.9
④
5,536
4.6
19,757
10.0
37,545
17.3
21,951
24.4
84,789
13.6
①
2,779
16.5
13,440
23.5
28,208
28.5
14,016
29.9
58,443
26.6
②
10,525
15.2
29,369
21.8
41,031
28.1
17,881
27.0
98,806
23.8
46,961
③
42,512
15.0 108,160
22.1 160,897
30.0
79,479
29.6 391,048
24.8
④
16,680
13.8
41,760
21.1
61,658
28.5
24,829
27.6 144,927
23.2
①
2,260
13.4
9,500
16.6
16,040
16.2
6,927
14.8
34,727
15.8
②
7,958
11.5
19,752
14.7
21,605
14.8
8,206
12.4
57,521
13.8
③
31,586
11.1
73,837
15.1
84,783
15.8
37,882
14.1 228,088
14.5
④
13,226
10.9
28,973
14.6
32,142
14.8
12,597
14.0
86,938
13.9
①
4,937
29.3
19,715
34.4
34,365
34.7
15,599
33.3
74,616
33.9
②
15,775
22.8
38,119
28.3
43,722
29.9
17,680
26.7 115,296
27.7
③
56,326
19.9 123,950
25.3 140,950
26.3
62,889
23.4 384,115
24.3
④
24,275
20.1
27.5
29.5
25,908
28.8 168,426
26.9
①一泊人間ドック
54,455
②一日病院外来ドック
性差は逆転し,60歳代では男性と女性の割合が
63,788
③一日人間ドック(総合健診)
が目立っている。
(d)
1:2となっている。
④その他
年別比較(図41)
その他の項目では,いずれも男性が女性より異
6項目異常頻度の年代別パターンは各年度とも
常頻度が高い。なお,高中性脂肪と肝機能異常の
に類似型を示しており,高中性脂肪と肝機能異常
みは女性が加齢とともに上昇しているにかかわら
のみが,50歳代をピークとして下降傾向を示して
ず,男性は40歳代をピークとして下降している。
いる。
(c)
人間ドック別の比較(表31)(図40)
6項目異常頻度パターンは,各人間ドックとも
なお,異常頻度は年々増加傾向を示していたが,
今回は前年と比べ各年代ともほぼ横ばいである。
(7)
に同じ傾向を示している。
そして,各年代ともに一泊人間ドックが一日
コースの人間ドックより異常頻度が高くなってい
る。とくに肥満,耐糖能異常,肝機能異常で格差
健常者頻度の地域差(表32)(図42)
全国を7ブロックに分けて,人間ドックの健常
者頻度の比較を行った。
全国平均13.3%を上回る地域は,関東・甲信越,
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
143(1893
143)
表32
健常者頻度の地域差
ブロック別 年別
性別
男
84
88
全国平均 92
96
01
02
84
88
92
北海道
96
01
02
84
88
92
東 北
96
01
02
84
88
関 東
92
・
96
甲信越
01
02
84
88
東 海
92
・
96
北 陸
01
02
84
88
92
近 畿
96
01
02
84
88
中 国
92
・
96
四 国
01
02
84
88
九 州
92
・
96
沖 縄
01
02
(注) '84年は,
表33
−性別・年別比較−
女
150,394/
203,547/
238,764/
239,842/
209,847/
名
616,911
1,097,366
1,536,607
1,771,191
1,788,602
%
24.3
18.5
15.5
13.5
11.7
4,235/
4,268/
8,391/
5,334/
4,193/
13,715
15,237
44,178
44,094
45,365
5,186/
8,755/
7,386/
12,090/
10,108/
計
81,386/
133,894/
166,128/
160,089/
166,639/
名
281,086
573,810
836,000
994,571
1,051,099
%
28.9
23.3
19.8
16.1
15.9
30.8
28.0
18.9
12.1
9.2
1,410/
2,021/
5,476/
3,773/
3,505/
3,405
5,654
18,937
24,272
27,024
41.4
35.7
28.9
15.5
13.0
30,921
53,720
60,138
82,774
86,015
16.7
16.2
12.2
14.6
11.8
3,325/
8,409/
6,268/
11,072/
7,425/
14,281
34,038
33,035
49,671
50,918
23.2
24.7
18.9
22.3
14.6
72,914/
80,141/
97,740/
131,878/
109,997/
286,878
497,917
682,13
848,783
826,548
25.4
16.0
14.3
15.5
13.3
39,913/
54,170/
66,394/
76,728/
86,202/
138,266
270,115
385,93
476,492
504,477
28.8
20.0
17.2
16.1
17.1
22,830/
44,652/
40,041/
30,695/
29,668/
81,49
210,474
215,229
265,941
284,875
28.0
21.2
18.6
11.5
10.4
11,544/
26,636/
24,876/
18,385/
20,749/
33,795
102,984
101,511
124,900
135,271
34.1
25.8
24.5
14.7
15.3
21,509/
32,022/
41,687/
22,638/
21,655/
93,351
142,709
251,887
233,977
247,433
23.0
22.4
16.5
9.7
8.8
12,709/
21,114/
29,702/
18,499/
18,276/
42,464
72,591
137,848
137,776
145,108
29.9
29.0
21.5
13.4
12.6
14,687/
19,114/
26,962/
24,385/
22,646/
60,798
111,499
163,680
164,555
167,683
24.1
17.1
16.4
14.8
13.5
7,310/
13,836/
21,582/
18,475/
19,156/
26,107
57,434
94,968
95,307
101,970
28.0
24.0
22.7
19.4
18.8
9,033/
49,756 18.0
14,595/
65,810 22.1
16,557/
119,361 13.8
12,822/
131,067
9.8
11,580/
130,683
8.9
男女別統計は実施せず。
5,175/
7,708/
11,830/
13,157/
11,326/
22,774
30,994
63,764
86,153
86,331
22.7
24.8
18.5
15.3
13.1
健常者頻度の地域差
123,198/
231,780/
337,441/
404,892/
399,931/
376,486/
3,361/
5,645/
6,289/
13,867/
9,107/
7,698/
3,175/
8,511/
17,164/
13,654/
23,162/
17,533/
29,720/
112,827/
134,311/
164,134/
208,606/
196,199/
38,644/
34,374/
71,288/
64,917/
49,080/
50,417/
32,834/
34,218/
53,136/
71,389/
41,137/
39,931/
6,864/
21,997/
32,950/
48,544/
42,860/
41,802/
8,590/
14,208/
22,303/
28,387/
25,979/
22,906/
名
413,748
897,997
1,671,176
2,372,607
2,765,762
2,839,701
7,181
17,120
20,891
63,115
68,366
72,389
17,862
45,202
87,758
93,173
132,445
136,933
161,685
425,144
768,032
1,068,071
1,325,275
1,331,025
102,550
115,287
313,458
316,740
390,841
420,146
71,984
135,815
215,300
389,735
371,753
392,541
24,822
86,899
168,933
258,48
259,862
269,653
27,664
72,530
96,804
183,125
217,220
217,014
%
29.8
25.8
20.1
17.0
14.5
13.3
46.8
32.9
30.1
21.9
13.3
10.6
17.8
18.8
19.5
14.6
17.5
12.8
18.4
26.5
17.4
15.3
15.7
14.7
37.7
29.8
22.7
20.4
12.6
12.0
45.6
25.1
24.6
18.3
11.1
10.2
27.7
25.3
19.5
18.7
16.5
15.5
31.1
19.5
23.0
15.5
12.0
10.6
─人間ドック別比較─
ドック別
②一日病院
外来ドック
①一泊人間ドック
ブロック別
③一日人間ドック
(総合健診)
④その他
全 国 平 均 15,325 / 220,110 7.0% 48,722 / 415,848 11.7% 219,479 / 1,578,052 13.9% 92,960 / 625,691 14.9%
北
道
104 /
1,525
418 /
4,775
6,106 /
61,498
9.9 1,070 /
4,591
北
914 /
13,090
7.0 2,460 /
24,420
10.1 10,275 /
67,624
15.2 3,884 /
31,799
12.2
関東・甲信越 8,732 /
95,754
9.1 17,455 / 170,853
10.2 126,844 /
785,320
16.2 43,168 / 279,098
15.5
東海・北陸
19.1
東
海
6.8
8.8
23.3
857 /
22,504
3.8 11,523 /
98,579
11.7 21,209 /
210,830
10.1 16,828 /
88,233
畿 2,042 /
37,693
5.4 3,049 /
40,468
7.5 28,634 /
236,880
12.1 6,206 /
77,500
8.0
中 国 ・ 四 国 1,300 /
21,304
6.1 9,187 /
44,719
20.5 14,760 /
106,568
13.9 16,555 /
97,062
17.1
九 州 ・ 沖 縄 1,376 /
28,240
4.9 4,630 /
32,034
14.5 11,651 /
109,332
10.7 5,249 /
47,408
11.1
近
144
144(1894)
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
中国・四国地方のみである。逆に健常者頻度が全
国平均以下の地域は,東北,東海・北陸,北海道,
九州・沖縄,近畿地方である。
(8)
(a)
健常者頻度の地域差に関する検討
年別比較(図43)
過去18年間の健常者頻度の全国平均値を比較す
ると,1984年は29.8%であったが年々減少傾向を
示し,2002年は13.3%である。
1984年に健常者頻度の高かった北海道,東海・
北陸,近畿地方は年々低下傾向を示している。健
図41年代別の6項目異常頻度
図42
−年別比較−
健常者頻度の地域差(2002年)
図43
健常者頻度の地域差
−年度別比較−
図44
健常者頻度の地域差
−性別比較−(2002年)
図45
健常者頻度の地域差
−人間ドックの比較−
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
145(1895
145)
者頻度の検討
常者頻度の少なかった東北,関東・甲信越地方は
前述のように,全国平均で性別で4.2%,人間
減少傾向が少なく,地域差が縮小している。
(b)
性別の比較(図44)
ドック別で5∼7%の差がみられるが,各ブロッ
ク別の受診者数が地域差に及ぼす影響を検討し
すべての地域で男性より女性の健常者頻度が高
た。
く,全国平均で4.2%の差がある。男女ともに全国
表34は各ブロック別の性別受診者数を比較した
平均を上回っている地域は,関東・甲信越と中国・
ものである。いずれの地域でも,男性が63%前後
四国地方のみである。
(c)
人間ドック別の比較(表33)(図45)
で女性を上回り,前年と同様の傾向で性差が地域
差に及ぼす影響は少ないと考えられた。
全国平均では,一日病院外来ドック11.7%,一
表35は,各ブロックごとに人間ドック別受診者
日人間ドック13.9%に対し,一泊人間ドックは
数の割合をみたものである。
7.0%で約5∼7%の差がある。
とくに北海道を除いては,一泊人間ドック,一
1997年に初めて人間ドックを3種類に分類して
日病院外来ドックと一日人間ドックの格差が顕著
調査を行ったが,5年目になったためにその他(分
である。東北,関東・甲信越,近畿地方では一日
類不能)が総計で22.0%と前年より著しく減少し
人間ドックの健常者頻度が最も高い。東海・北陸,
ている。その他を除いた約78%について地域ごと
中国・四国,九州・沖縄地方のみは一日病院外来
に人間ドックの種類と受診者数を比較すると,い
ドックの健常者頻度が最も高く,一定の傾向が認
ずれの地域でも一日人間ドック受診者が多い。一
められない。
泊人間ドックの比率は,九州・沖縄地方を除いて
(d)
表34
性別・人間ドック別の受診者数および健常
は10%以下で人間ドックの種類が健康度の地域差
性別受診者数の地域別比較(2002年)
性
別
男
受診者数
地域別
北
海
性
受診者数
女
%
性
受診者数
総
%
計
受診者数
%
道
45,365
62.7
27,024
37.3
72,389
100.0
北
86,015
62.8
50,918
37.2
136,933
100.0
関 東 ・ 甲 信 越
826,548
62.1
504,477
37.9
1,331,025
100.0
東
陸
284,875
67.8
135,271
32.2
420,146
100.0
畿
247,433
63.0
145,108
37.0
392,541
100.0
東
海
・
北
近
中
国
・
四
国
167,683
62.2
101,970
37.8
269,653
100.0
九
州
・
沖
縄
130,683
60.2
86,331
39.8
217,014
100.0
計
1,788,602
63.0
1,051,099
37.0
2,839,701
100.0
総
表35
人間ドック別・受診者数の地域別比較(2002年)
ドック別 ①一泊人間ドック
受診者数
地域別
北
海
東
受診者
%
道
1,525
2.1
②一日病院外来ドック ③一日人間ドック
受診者
4,775
%
6.6
受診者
%
61,498 85.0
④そ
の
受診者
他
%
4,591
6.3
総
受診者
計
%
72,389 100.0
北
13,090
9.6
24,420 17.8
67,624 49.4
31,799
23.2
136,933 100.0
関東・甲信越
95,754
7.2
170,853 12.8
785,320 59.0
279,098
21.0
1,331,025 100.0
東 海 ・ 北 陸
22,504
5.4
98,579 23.5
210,830 50.2
88,233
21.0
420,146 100.0
近
畿
37,693
9.6
40,468 10.3
236,880 60.3
77,500
19.7
392,541 100.0
中 国 ・ 四 国
21,304
7.9
44,719 16.6
106,568 39.5
97,062
36.0
269,653 100.0
九 州 ・ 沖 縄
総
146
146(1896)
計
28,240 13.0
220,110
7.8
32,034 14.8
109,332 50.4
47,408
21.8
217,014 100.0
415,848 14.6
1,578,052 55.6
625,691
22.0
2,839,701 100.0
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
にはほとんど影響がないと考えられた。
図46は性別,人間ドック別健常者頻度の地域差
について,比較したものである。
性別比較では,いずれの地域でも女性に健常者
が多くて男女の格差は数%開いている。
人間ドック別の健常者頻度をブロック別に比較
すると,一泊人間ドックはいずれの地域でも最低
である。特に東海・北陸,中国・四国,九州・沖
縄地方では一泊人間ドックと一日人間ドックの格
差が顕著である。
(e)
年代別の比較(表36)(図47)
健常者頻度の地域差を年代別に比較すると,39
歳以下では地域差が顕著で,北海道,近畿,九州・
沖縄地方が全国平均以下である。しかし,年代が
上に行くに従い,地域差は減少傾向を示している。
以上,健常者頻度についてあらゆる角度から検
討を行ったが,ブロック別比較で常に健常者頻度
が高かった北海道,東海・北陸,近畿地方が2年
より全国平均を下回っており,今後の経年変化を
注目したい。
(9)
6項目異常頻度の地域差(表37)(図48)
人間ドックにおける6項目異常頻度を,各項目
図46 健常者頻度の地域差−性別・人間ドック別の比較−
の全国平均を100として円グラフを作成し,地域別
(2002年)
の増減率を比較した。
表36
健常者頻度の地域差
年代別
地域別
全
健常者率
国
A+B
受診者数
北
東
海
道
北
関東・甲信越
東海・北陸
近
畿
中国・四国
九州・沖縄
─年代別比較─
39歳以下
121,317名
40∼49歳
24.7%
490,522
A+B
2,742
受診者数
17,571
A+B
5,918
受診者数
19,652
A+B
56,411
受診者数
224,297
A+B
19,664
受診者数
76,799
A+B
14,245
受診者数
64,969
A+B
13,675
受診者数
47,316
A+B
8,662
受診者数
39,918
124,590名
50∼59歳
14.2%
879,880
15.6
2,655
6,344
11.2
63,881
14.6
15,781
15.6
13,521
12.1
14,593
11.5
7,815
66,842
54,790
11,500
9,144
16.4
10,306
11.6
4,776
72,339
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
6.4
1,343
21,117
7.7
3,472
5.3
3,021
9.3
3,228
5.5
1,653
37,915
17,533
12.8
196,199
14.7
50,417
12.0
420,146
4.4
39,931
10.2
392,541
8.4
38,550
6.6
10.6
1,331,025
69,217
10.9
7,698
136,933
62,978
6.5
13.3%
72,389
226,675
94,601
11.7
703
376,486名
2,839,701
25,438
140,509
89,186
21.7
8.1
150,141
117,846
28.9
3,928
7.3%
10,944
471,479
130,228
21.9
7.9
48,368
408,574
25.6
1,598
34,537名
計
471,717
20,145
43,475
25.2
9.6%
997,582
23,729
30.1
96,042名
60歳以上
41,802
15.5
269,653
4.4
22,906
10.6
217,014
147(1897
147)
表37
6項目異常頻度の地域差
―年別比較―
項目別
肥
年別
満
耐糖能異常
高血圧
地域別
全国平均
北海道
東
北
関
東
・
甲信越
東
海
・
東
北
近
畿
中
国
・
四
国
九
州
・
沖
縄
84
88
92
96
01
02
84
88
92
96
01
02
84
88
92
96
01
02
84
88
92
96
01
02
84
88
92
96
01
02
84
88
92
96
01
02
84
88
92
96
01
02
84
88
92
96
01
02
17.0%
15.4
15.2
17.6
20.3
21.0
2.1
18.9
15.7
13.9
21.6
20.5
27.1
21.8
14.9
21.5
22.6
22.2
25.3
17.4
17.9
20.0
21.0
21.6
8.6
12.2
12.5
16.7
18.9
20.6
11.4
12.2
12.0
14.7
17.6
19.1
11.6
10.4
11.6
14.4
21.1
21.8
16.4
16.5
14.6
15.2
21.1
19.4
12.8%
13.6
12.3
12.4
11.5
11.9
4.0
14.9
12.4
10.3
7.4
10.0
23.1
19.5
13.7
16.4
13.1
12.1
15.7
13.5
13.2
12.4
10.7
10.7
7.4
12.2
7.9
9.5
9.9
10.9
10.4
13.5
12.1
12.3
13.4
14.7
16.2
15.4
14.9
13.8
12.5
13.6
14.5
12.2
12.3
13.7
15.4
15.4
11.0%
10.6
10.3
12.1
14.0
14.4
6.4
10.1
8.1
13.8
8.1
10.4
14.7
13.3
9.7
14.7
16.3
15.9
11.8
10.6
10.7
11.7
12.9
13.3
9.9
10.4
8.5
12.0
14.1
15.9
8.7
9.9
11.0
12.9
15.3
15.2
9.9
10.6
11.3
11.5
14.6
15.1
15.9
10.8
10.5
11.8
17.6
16.1
高コレス
テロール
高中性脂肪
8.1%
11.7
16.8
24.9
24.4
10.5%
11.9
14.2
15.3
14.3
6.0
8.8
12.6
21.1
21.8
10.6
9.3
10.2
19.3
15.9
11.8
13.7
17.6
23.1
22.5
13.4
10.7
14.1
13.1
14.6
8.3
12.4
17.4
23.0
23.3
12.6
12.8
15.1
14.7
14.1
6.8
9.4
15.7
29.7
24.9
8.4
10.3
13.6
17.4
16.1
7.8
10.7
16.2
28.0
27.5
11.0
11.0
13.2
15.9
13.5
8.6
13.4
15.8
22.9
22.9
11.6
13.0
14.5
14.4
15.1
7.8
10.3
18.3
27.8
28.7
9.5
10.5
12.6
15.8
12.7
肝機能異常
9.6%
15.0
20.7
23.8
26.6
26.1
2.3
9.8
17.4
17.6
24.4
22.9
14.5
12.1
15.9
24.5
29.4
26.3
11.1
14.9
23.6
25.4
25.2
24.7
4.7
13.9
14.7
20.8
25.3
25.2
10.8
15.3
19.9
22.3
26.4
26.1
10.6
16.7
23.2
24.7
29.2
31.9
12.6
17.3
18.7
24.0
33.2
30.7
6項目
合 計
74.2%
82.1
96.9
112.7
112.2
70.3
71.7
78.4
101.9
101.5
91.9
78.6
108.8
117.6
113.6
77.3
90.6
102.0
107.4
107.7
63.9
63.3
88.3
115.2
113.6
69.7
76.7
91.6
116.7
116.0
73.3
87.4
94.7
114.8
120.3
74.1
76.9
95.6
130.8
123.0
(注) '84年の「高コレステロール」と「高中性脂肪」は,分けないで高脂肪として統計をとったため,空欄とした。
148
148(1898)
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
図47
健常者頻度の地域差
−年代別比較−
図49
6項目異常頻度の地域差
−年別比較−
は肥満のみが全国平均を上回っている。
異常頻度の合計値が全国平均を上回っている地
域は,九州・沖縄,中国・四国,近畿,東海・北
陸,東北地方の順である。
(10)
(a)
6項目異常頻度の地域差に関する検討
年別比較(図49)
当初は,東北,九州地方にピークを示す二峰性
パターンが,6項目に共通していた。ところが,
高コレステロール,肝機能異常は,西高・東低の
パターンを示しているが,次第に地域差がなく
なっている。
なお,2002年は各地域ともに前年と異常率がほ
ぼ同じ傾向を示している。
(b)
図48
性別の比較(表38)(図50)
高コレステロールは,前回までの調査と同様に
6項目異常頻度の地域差(2002年)
性差が明らかではない。その他の5項目は,いず
今回は,6項目異常頻度がすべて全国平均以下
れの地域でも男性が女性より異常頻度が高い。
の地域はない。異常頻度の合計が全国平均112.2
(c)
を下回る地域は,北海道,関東・甲信越地方のみ
耐糖能異常と肝機能異常は,各地域ともに一泊
人間ドック別の比較(表39)(図51)
である。北海道は高中性脂肪,関東・甲信越地方
人間ドックの方が一日コースの人間ドックより異常
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
149(1899
149)
表38
6項目異常頻度の地域差―性別比較―(2002年)
項目別
性別
地域別
全
北
国
平
海
東
均
道
北
関東・甲信越
東 海 ・ 北 陸
近
畿
中 国 ・ 四 国
九 州 ・ 沖 縄
図50
肥
満
耐糖能異常
(%)
(%)
高 血 圧
高コレステ 高中性脂肪 肝機能異常 6項目異常
(%) ロール(%)
(%)
(%) 率の合計
男
24.1
15.1
16.6
24.5
18.4
32.4
131.1
女
15.7
6.5
10.7
24.2
7.4
15.5
80.0
男
21.0
10.7
11.1
21.1
16.9
26.9
107.8
女
19.7
8.8
9.3
23.0
14.1
16.1
90.9
男
24.4
15.5
16.7
22.7
17.9
32.1
129.4
女
18.5
6.2
14.5
22.3
9.0
16.4
86.9
男
25.3
13.7
15.7
23.6
18.4
30.9
127.7
女
15.4
5.6
9.5
22.8
6.9
14.7
74.9
男
22.8
13.4
17.6
25.3
19.0
29.6
127.8
女
15.9
5.5
12.4
24.0
9.9
16.1
83.7
男
22.1
18.6
17.7
26.7
17.9
33.0
136.0
女
13.9
8.2
10.8
28.8
6.0
14.2
81.9
男
24.7
17.4
17.6
22.7
20.0
40.5
142.8
女
17.0
7.3
10.9
23.3
7.0
17.7
83.1
男
22.4
19.4
18.4
29.4
17.3
38.5
145.4
女
15.0
9.3
12.6
27.8
5.7
18.8
89.1
6項目異常頻度の地域差
−性別比較−
図51
6項目異常頻度の地域差−人間ドック別比較−
(2002年)
150
150(1900)
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
頻度が高い。肥満は東海・北陸地方を除いて,や
その他の地域では明らかな差が認められない。
(d)
地域格差は年代が増すごとに目立ち,60歳以上
では西高・東低である。
はり一泊人間ドックの方が高い。
年代別の比較(表40)(図52)
(11)
都道府県別・健康度マップ
1986年以来,ブロック別からさらに都道府県別
年代別に6項目異常頻度の総計を地域別に比較
に細分化して,6項目異常者数(表41)からさら
すると,各年代ともに全国平均を下回っている地
に6項目異常頻度を算出して地域差の検討を行っ
域は,関東・甲信越地方のみである。
ている(表42)。
表39
6項目異常頻度の地域差─人間ドック別比較─
項目別
ドック別
肥
満
耐糖能異常
高コレステ
ロール
高中性脂肪
肝機能異常
18.0%
26.6%
15.8%
33.9%
高血圧
地域別
全国平均
北
海
東
道
北
関東・甲信越
東海・北陸
近
畿
中国・四国
九州・沖縄
(注)
①
25.6%
32.6%
②
21.9
9.8
15.8
23.8
13.8
27.7
③
19.9
9.8
13.9
24.8
14.5
24.3
④
21.2
11.4
13.6
23.2
13.9
26.9
①
42.5
27.1
14.2
24.1
22.4
38.8
②
30.0
8.6
14.5
23.0
16.1
36.3
③
19.8
9.5
9.8
21.6
15.6
21.6
④
13.0
12.6
13.8
22.5
17.2
20.0
①
32.6
31.9
19.0
21.1
17.2
29.2
②
23.4
13.4
23.8
31.6
10.8
25.7
③
20.1
10.1
13.0
22.6
17.0
23.8
④
21.5
7.1
14.7
16.0
11.3
30.8
①
26.8
30.3
17.0
25.3
16.1
34.0
②
23.9
10.5
15.3
24.8
15.9
29.7
③
19.8
8.0
12.3
22.9
12.8
21.6
④
23.5
11.4
13.9
22.9
15.7
27.2
①
19.2
25.8
20.2
24.9
11.7
32.9
②
19.4
8.1
16.0
20.7
12.2
20.9
③
22.5
11.6
17.3
26.2
20.9
28.0
④
17.8
8.5
11.6
26.3
10.2
21.5
①
25.5
38.8
19.1
31.1
14.1
32.1
②
22.2
9.4
15.6
23.2
12.0
30.2
③
18.0
11.5
15.0
28.0
14.3
25.5
④
17.4
15.7
13.4
26.5
11.6
22.9
①
30.7
32.2
18.1
26.8
20.2
41.3
②
20.7
9.6
16.4
21.8
14.3
29.7
③
23.6
13.5
16.1
24.8
15.7
32.0
④
18.4
11.4
12.7
20.4
13.6
30.7
①
18.8
38.6
18.0
28.7
16.0
33.0
②
18.0
9.7
12.2
25.4
11.8
32.3
③
16.7
12.3
16.8
31.9
10.5
28.8
④
27.1
12.6
16.1
23.9
16.1
32.5
①一泊人間ドック
②一日病院外来ドック
③一日人間ドック(総合健診)
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
④その他
151(1901
151)
表40
6項目異常頻度総計の地域差
年代別
6項目異常率
地域別
39歳以下
363,310名
6項目異常者数
14,206
受診者数
17,571
6項目異常者数
15,604
受診者数
19,652
関東・ 6項目異常者数
甲信越 受診者数
163,978
東海・ 6項目異常者数
北陸 受診者数
56,152
6項目異常者数
48,309
受診者数
64,969
中国・ 6項目異常者数
四 国 受診者数
35,913
九州・ 6項目異常者数
沖 縄 受診者数
29,148
近
40∼49歳
74.1%
490,522
北海道
東
─年代別比較─
北
畿
918,175名
50∼59歳
104.4%
879,880
80.8
23,374
46,609
98.5
73.1
407,761
107.2
99.8
73.1
138,972
74.4
125,032
106.7
75.9
99,428
106.1
111.5
73.0
76,999
61,194
32,176
126.5
570,772
121.1
290,650
115.2
73,477
89.7
129.4
87,743
155,583
126.5
131.7
97,108
128.2
1,433,161
140.0
56,441
139.3
144.5
72,339
56,282
477,180
113.6
420,146
140.3
455,443
116.0
392,541
146.4
38,550
104,512
107.7
1,331,025
69,217
132,481
113.6
136,933
62,978
184,994
101.5
72,389
226,675
194,313
112.2%
2,839,701
25,438
94,601
66,842
133.6%
3,186,048名
10,944
140,509
89,186
39,918
9,817
129.5
150,141
117,846
47,316
26,080
471,479
130,228
計
471,717
48,368
408,574
76,799
127.7%
630,217名
20,145
43,475
224,297
60歳以上
997,582
23,729
79.4
1,274,346名
324,263
120.3
269,653
148.4
37,915
266,941
123.0
217,014
健康度マップは,例年のように6項目異常頻度
を5段階に分類して比較を行った。
(a)
6項目異常総合の比較(図53)
6項目異常頻度の合計を5段階に分類し,黒色
は110以上と最も悪く,横線は全国平均103前後,
白色は49以下で最も健康度の良い県である。今回
も49以下はなく,69以下は1県(山形)のみであ
る。
北から順に見てみると,北海道は全国平均以下,
東北地方では岩手,福島の健康度が悪い。
関東・甲信越地方の総合点が全国平均を下回っ
ているのは,全国平均以上が栃木,群馬,長野,
新潟の4県しかないためである。
東海・北陸地方の総合点は,ブロック別では全
国平均より上回っている。その理由は,富山,石
川,静岡の3県が高いためである。
近畿地方も総合点で全国平均を上回り,全国平
均以下は,兵庫のみである。
図52
6項目異常頻度総計の地域差
−年代別比較−
中国・四国地方では,全国平均以下が鳥取,愛
媛の2県のみで,ブロック別の総合点は全国平均
受診者数が年々増加して利用者は全国に広がっ
を上回っている。
たが,なお受診者数10,000以下と極端に少ない県
九州・沖縄地方では,全国平均以下は大分県の
が12県(岩手,山形,富山,奈良,和歌山,鳥取,
みで,総合点でも全国平均を大幅に上回っている。
島根,徳島,佐賀,長崎,宮崎,鹿児島)もある
(b)
ため,都道府県別に細分化するとバラツキが目
各項目ごとの異常頻度の5段階評価はすべて同
立っている。
152
152(1902)
肥満者の比較(図54)
じ基準を用い,比較できるようにした。20%以上
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
表41
6項目異常者数
―ブロック別・県別比較―(2002年)
項目別
受 診 者 数
県
全
北
東
別
国 2,839,701名
道
72,389
北
136,933
青
森
10,064
岩
手 *
23,151
宮
城
43,724
秋
田
24,875
山
形 *
4,919
福
島
30,200
関東・甲信越 1,331,025
茨
城
108,629
栃
木
34,594
群
馬
39,404
埼
玉
79,739
千
葉
158,303
東
京
561,046
神 奈川
219,917
山
梨
31,361
長
野
31,501
新
潟
66,531
東海・北陸
420,146
富
山 *
13,445
石
川
18,571
福
井
23,863
静
岡
109,674
愛
知
173,598
岐
阜
38,392
三
重
42,603
近
畿
392,541
滋
賀
12,141
京
都
64,599
大
阪
267,321
兵
庫
39,826
奈
良 *
2,295
和 歌 山 *
6,359
中国・四国
269,653
鳥
取 *
7,241
島
根 *
4,099
岡
山
79,508
広
島
79,476
山
口
21,784
徳
島 *
18,595
香
川
14,584
愛
媛
16,328
高
知
28,038
九州・沖縄
217,014
福
岡
108,041
佐
賀 *
119
長
崎 *
1,955
熊
本
30,306
大
分
54,246
宮
崎 *
5,488
鹿 児 島 *
1,435
沖
縄
15,424
海
肥
満
595,002名
14,847
30,429
2,176
6,634
7,623
6,020
717
7,259
287,352
27,575
7,064
10,561
19,578
31,571
125,317
33,665
5,523
9,137
17,361
86,528
1,274
6,630
2,079
25,980
32,451
7,428
10,686
74,845
3,132
12,648
49,749
7,336
893
1,087
58,794
2,388
1,314
20,266
15,177
3,887
3,762
3,956
2,126
5,918
42,207
21,834
31
473
5,845
5,825
1,541
300
6,358
耐糖能異常
339,153名
7,246
16,538
958
3,755
4,703
2,329
441
4,352
141,911
9,692
4,613
9,892
8,355
13,307
60,784
17,487
2,989
7,201
7,591
45,717
2,282
2,811
2,518
14,173
16,544
3,208
4,181
57,783
1,437
12,011
37,538
5,826
291
680
36,555
219
667
8,466
9,463
3,059
2,330
3,291
3,620
5,440
33,403
12,967
19
286
9,896
6,885
353
321
2,676
高
血
圧
408,942名
7,562
21,777
1,611
3,143
5,703
4,758
909
5,653
177,528
13,479
5,232
7,949
10,047
13,956
77,503
24,828
6,139
5,964
12,431
66,910
3,525
2,582
5,578
19,141
24,730
5,503
5,851
59,499
1,797
9,823
39,860
6,370
329
1,320
40,690
882
968
11,394
11,302
2,932
2,406
2,886
2,284
5,636
34,976
12,320
18
462
5,996
11,712
996
168
3,304
高コレステ
ロ ー ル 血 高中性脂肪血 肝機能異常
693,224名
15,794
30,875
1,570
4,498
9,971
6,239
385
8,212
310,102
22,381
8,290
11,497
20,700
28,771
135,131
47,507
7,231
6,845
21,749
104,468
5,075
6,146
4,182
29,055
39,953
9,666
10,391
107,862
2,403
16,147
77,193
9,753
369
1,997
61,737
1,620
1,167
18,348
18,555
6,238
5,514
3,458
1,170
5,667
62,386
28,245
31
447
9,197
18,284
2,518
372
3,292
407,274名
11,479
19,983
968
4,016
6,788
2,099
460
5,652
187,099
14,863
6,609
8,444
14,058
19,058
80,673
24,181
4,153
5,651
9,409
67,562
2,986
3,168
1,349
18,426
31,186
4,455
5,992
53,099
1,796
7,774
38,155
3,751
552
1,071
40,599
1,150
1,021
11,343
12,332
3,738
3,479
2,385
1,095
4,056
27,453
15,043
16
364
6,968
924
711
243
3,184
742,453名
16,549
35,981
3,181
4,735
12,667
6,640
503
8,255
329,169
26,949
8,047
14,694
20,342
36,612
142,861
45,843
4,445
9,267
20,109
105,995
5,187
4,442
6,460
34,190
38,307
8,875
8,534
102,355
3,424
17,486
66,679
11,150
1,934
1,682
85,888
1,609
2,054
26,084
27,592
6,505
4,246
3,384
5,971
8,443
66,516
37,402
32
748
9,448
11,217
1,656
470
5,543
(注)受診者10,000人以下は*。
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
153(1903
153)
表42
6項目異常頻度 ―ブロック別・県別比較―(2002年)
項目別
高コレステ
肥
満 耐糖能異常 高 血 圧
高中性脂肪血 肝機能異常 6項目合計
県別
ロール血
全
国
21.0%
11.9 %
14.4 %
24.4%
14.3 %
26.1 %
112.2%
北
海
道
20.5
10.0
10.4
21.8
15.9
22.9
101.5
東
北
22.2
12.1
15.9
22.5
14.6
26.3
113.6
青
森
21.6
9.5
16.0
15.6
9.6
31.6
104.0
岩
手 *
28.7
16.2
13.6
19.4
17.3
20.5
115.7
宮
城
17.4
10.8
13.0
22.8
15.5
29.0
108.5
秋
田
24.2
9.4
19.1
25.1
8.4
26.7
112.9
山
形 *
14.6
9.0
18.5
7.8
9.4
10.2
69.4
福
島
24.0
14.4
18.7
27.2
18.7
27.3
130.4
関東・甲信越
21.6
10.7
13.3
23.3
14.1
24.7
107.7
茨
城
25.4
8.9
12.4
20.6
13.7
24.8
105.8
栃
木
20.4
13.3
15.1
24.0
19.1
23.3
115.2
群
馬
26.8
25.1
20.2
29.2
21.4
37.3
160.0
埼
玉
24.6
10.5
12.6
26.0
17.6
25.5
116.7
千
葉
19.9
8.4
8.8
18.2
12.0
23.1
90.5
東
京
22.3
10.8
13.8
24.1
14.4
25.5
110.9
神 奈 川
15.3
8.0
11.3
21.6
11.0
20.8
88.0
山
梨
17.6
9.5
19.6
23.1
13.2
14.2
97.2
長
野
29.0
22.9
18.9
21.7
17.9
29.4
139.9
新
潟
26.1
11.4
18.7
32.7
14.1
30.2
133.2
東 海 ・ 北 陸
20.6
10.9
15.9
24.9
16.1
25.2
113.6
富
山 *
9.5
17.0
26.2
37.7
22.2
38.6
151.2
石
川
35.7
15.1
13.9
33.1
17.1
23.9
138.8
福
井
8.7
10.6
23.4
17.5
5.7
27.1
92.9
静
岡
23.7
12.9
17.5
26.5
16.8
31.2
128.5
愛
知
18.7
9.5
14.2
23.0
18.0
22.1
105.5
岐
阜
19.3
8.4
14.3
25.2
11.6
23.1
101.9
三
重
25.1
9.8
13.7
24.4
14.1
20.0
107.1
近
畿
19.1
14.7
15.2
27.5
13.5
26.1
116.0
滋
賀
25.8
11.8
14.8
19.8
14.8
28.2
115.2
京
都
19.6
18.6
15.2
25.0
12.0
27.1
117.5
大
阪
18.6
14.0
14.9
28.9
14.3
24.9
115.7
兵
庫
18.4
14.6
16.0
24.5
9.4
28.0
110.9
奈
良 *
38.9
12.7
14.3
16.1
24.1
84.3
190.3
和 歌 山 *
17.1
10.7
20.8
31.4
16.8
26.5
123.2
中 国 ・ 四 国
21.8
13.6
15.1
22.9
15.1
31.9
120.3
鳥
取 *
33.0
3.0
12.2
22.4
15.9
22.2
108.7
島
根 *
32.1
16.3
23.6
28.5
24.9
50.1
175.4
岡
山
25.5
10.6
14.3
23.1
14.3
32.8
120.6
広
島
19.1
11.9
14.2
23.3
15.5
34.7
118.8
山
口
17.8
14.0
13.5
28.6
17.2
29.9
121.0
徳
島 *
20.2
12.5
12.9
29.7
18.7
22.8
116.9
香
川
27.1
22.6
19.8
23.7
16.4
23.2
132.7
愛
媛
13.0
22.2
14.0
7.2
6.7
36.6
99.6
高
知
21.1
19.4
20.1
20.2
14.5
30.1
125.4
九 州 ・ 沖 縄
19.4
15.4
16.1
28.7
12.7
30.7
123.0
福
岡
20.2
12.0
11.4
26.1
13.9
34.6
118.3
佐
賀 *
26.1
16.0
15.1
26.1
13.4
26.9
123.5
長
崎 *
24.2
14.6
23.6
22.9
18.6
38.3
142.2
熊
本
19.3
32.7
19.8
30.3
23.0
31.2
156.2
大
分
10.7
12.7
21.6
33.7
1.7
20.7
101.1
宮
崎 *
28.1
6.4
18.1
45.9
13.0
30.2
141.7
鹿 児 島 *
20.9
22.4
11.7
25.9
16.9
32.8
130.6
沖
縄
41.2
17.3
21.4
21.3
20.6
35.9
157.9
(注)受診者10,000人以下は*。
154
154(1904)
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
が最も悪く,4.9%以下が最も良い地域として,そ
く,全国平均以下は,宮城,山形の2県しかない。
関東・甲信越地方も全国平均以下は栃木,千葉,
の間を3区分した。
北海道の肥満者割合は,ほぼ全国平均並みであ
神奈川,山梨のみで,その他は全国平均を上回っ
ている。
る。
東北地方のブロック別総合点は全国平均より高
東海・北陸地方は全国平均以下であり,石川,
静岡,三重の3県のみが全国平均を上回っている。
近畿地方は全国平均以下であるが,滋賀,奈良
の2県が平均を上回っている。
中国・四国地方は全国平均並みであるが,鳥取,
島根,岡山,香川の4県で異常頻度が高い。
九州・沖縄地方は全国平均以下であるが,とく
に長崎,宮崎,沖縄の3県が肥満者の割合が多い。
(c)
耐糖能異常の比較(図55)
北海道は全国平均以下で最も低い。東北地方は
全国平均並みであるが岩手,福島の2県で異常頻
図53
2002年・全国都道府県別健康度マップ
−6項目異常合計の比較−(全国平均112.2%)
度が高い。
関東・甲信越地方の総合点は全国平均以下であ
るが,群馬,長野は異常頻度が高く,逆に,茨城,
千葉,神奈川,山梨は少なく,バラツキが目立っ
ている。
東海・北陸地方も総合では全国平均以下であり,
高いのは,富山,石川の2県のみである。
近畿地方は全国平均を上回り,とくに京都,大
阪,兵庫の異常頻度が高い。
中国・四国地方も全国平均を上回り,鳥取,岡
山を除いては異常者が多い。
九州・沖縄地方は全国平均を上回り,とくに佐
賀,熊本,鹿児島,沖縄の4県で異常頻度が高い。
図54
2002年・全国都道府県別健康度マップ
(d)
−肥満度比較−(全国平均21.0%)
北海道は全国平均以下で最も低い。東北地方は
高血圧の比較(図56)
全国平均以上であるが,岩手,秋田の2県は下回っ
ている。
関東・甲信越地方は全国平均以下であり,とく
に平均を下回っているのは,千葉県である。
東海・北陸地方は全国平均を上回り,とくに富
山,福井の2県が高値を示している。
近畿地方は全国平均を上回り,とくに和歌山県
が高値を示している。
中国・四国地方は全国平均を上回り,とくに鳥
取,香川,高知の3県で異常頻度が高い。
九州・沖縄地方は全国平均を上回り,とくに長
図55
2002年・全国都道府県別健康度マップ
−耐糖能異常者の比較−(全国平均11.9%)
崎,熊本,大分,宮崎,沖縄の異常頻度が高い。
(e)
高コレステロールの比較(図57)
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
155(1905
155)
北海道は,全国平均以下である。東北地方も全
国平均以下であるが,秋田,福島が高く,青森,
岩手,山形が低くてバラツキが見られる。
関東・甲信越地方は全国平均よりやや低いが,
とくに群馬,埼玉,新潟の異常高値が目立っている。
東海・北陸地方は全国平均並みであるが,とく
に富山,石川,静岡,岐阜が高い。
近畿地方も全国平均を上回り,滋賀,奈良県の
みが平均以下である。
中国・四国地方は全国平均以下であるが,とく
に島根,山口,徳島が高い。
九州・沖縄地方は全国平均を上回り,とくに熊
本,大分,宮崎が高い。
(f)
高中性脂肪の比較(図58)
北海道は全国平均を上回っている。東北地方は
全国平均並みであるが,とくに,岩手,宮城,福
島のみが高い。
関東・甲信越は全国平均並みであるが,栃木,
群馬,埼玉,長野が高い。
東海・北陸地方は全国平均を上回り,福井,岐
図56
2002年・全国都道府県別健康度マップ
−高血圧の比較−(全国平均14.4%)
阜の2県のみが低い。
近畿地方は全国平均以下であるが,とくに兵庫
のみが低い。
中国・四国地方は全国平均を上回っているが,
島根,徳島,香川が高く,愛媛が低くてバラツキ
が大きい。
九州・沖縄地方は全国平均以下であるが,熊本,
鹿児島,沖縄が高い。
(g)
肝機能異常の比較(図59)
肝機能異常の全国平均は26.1%で,6項目中で
最も高率である。
北海道は全国平均より低い。東北地方は全国平
均並みであるが,とくに青森,宮城,秋田,福島
図57
2002年・全国都道府県別健康度マップ
−高コレステロールの比較−(全国平均24.4%)
の4県のみ異常に高いのが目立っている。
関東・甲信越地方は全国平均以下であるが,山
梨を除きすべての県が20%以上の高率である。
図58
2002年・全国都道府県別健康度マップ
−高中性脂肪の比較−(全国平均14.3%)
156
156(1906)
図59
2002年・全国都道府県別健康度マップ
−肝機能異常の比較−
(全国平均26.1%)
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
東海・北陸地方は全国平均以下であるが,富山,
北海道は6項目合計で前年に比べて変化を認め
静岡が高く,三重が低くてバラツキが目立ってい
ない。東北地方では総合的には変化がないが,岩
る。
手,宮城が改善,福島は悪化している。
近畿地方は全国平均並みであるが,奈良が異常
い。ただし,県別の総合では千葉のみが改善して
高値を示している。
中国・四国地方は全国平均を上回っているが,
とくに島根,広島,愛媛,高知は異常高値である。
九州・沖縄地方は全国平均を大幅に上回ってお
り,とくに福岡,長崎,熊本,宮崎,鹿児島,沖
いる。
東海・北陸地方は,6項目総合では前年と変わ
らないが,岐阜が改善し,福井,三重が悪化して
いる。
近畿地方は,総合的には前年と変化がない。た
縄は異常高値を示している。
(h)
関東・甲信越地方は総合的には変化がみられな
都道府県別・6項目異常総合順位
対象受診者が大幅に増えているにもかかわら
ず,なお受診者数10,000以下の県が12カ所もあり,
だし,県別では滋賀,兵庫が改善し,和歌山が悪
化している。
中国・四国地方は総合的には悪化している。し
かし,県別では岡山,山口,香川が悪化して,広
その異常頻度は参考値にすぎない。
そこで,受診者10,000人以上の都道府県を対象
として健康度の良いベスト5を挙げると,神奈川,
島,徳島が改善している。
九州・沖縄地方は総合的に前年と変わっていな
千葉,福井,山梨,愛媛の順である。前年と比較
い。県別では鹿児島が悪化し,福岡,大分は改善
すると,神奈川が2位から1位,福井が3位のま
している。
まで,その他は全く入れかわっている。
また,健康度の悪いワースト5は,群馬,沖縄,
熊本,石川,福島の順である。前年と比べると,
群馬が4→1位,沖縄が1→2位,熊本2→3位,
小括:項目別統計のまとめ
(a)
人間ドックの健常者は13.3%と,前回より
1.2ポイント減少している。
(b)
異常頻度を年代別にみると,D1群(要治
石川は3→4位になり,その他は入れかわってい
療)は各年代ともに前年より悪化,D2群(要精
る。
査),C群(要経過観察)も増加傾向を示している。
総合的には,ベスト5は関東・甲信越と西日本
(c)
生活習慣病の危険因子として重要な6項
である。また,ワースト5は過去東日本に多かっ
目について異常頻度の高い順に挙げると,肝機能
たが,今回は地域差が明らかではない。
異常,高コレステロール,肥満,高中性脂肪,高
(i)
都道府県別の6項目異常頻度一前年度と
の対比(表43)
血圧,耐糖能異常である。
年別に比較すると,増加し続けた肝機能異常,
前項の6項目異常総合順位でも,前年に比べて
バラツキが見られたが,さらに各項目別の前年比
について検討を行った。
高コレステロール,高中性脂肪は前年より僅かに
減少している。
(d)
異常頻度を5段階に分類して点数化し,点数が
多いほど異常率が高いことを表している。
肝機能異常および高中性脂肪,耐糖能異常
は,例年どおり男性は女性の2倍強である。年代
別に比較すると女性は加齢とともに異常頻度が高
また,前年との点数が変化しなかった場合は表
くなるが,男性は肥満,肝機能異常,高中性脂肪
示せず,変動幅の増減を4段階に分類(表43下段
が40歳代をピークとして減少,高コレステロール
を参照)して比較をした。
は50歳代をピークとして減少傾向を示し,生活習
ブロック別に6項目異常頻度合計点を比較する
と,中国・四国が1ポイント増えたほかは変動が
慣の影響が示唆された。
(e)
前回から人間ドック別に6項目の異常頻
みられなかった。さらに都道府県別に前年との異
度を調査した。一日病院外来ドック,
一日人間ドッ
常頻度を比較すると,5県が改善,11県が悪化,
クはほぼ同じ傾向を示し,それに対し一泊人間
31県が不変で,前年より改善が2県増え,悪化は
ドックは各項目とも異常頻度が高かった。とくに
横ばいであった。
耐糖能異常に著しい格差が認められたが,糖尿病検
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
157(1907
157)
表43
6項目異常頻度−ブロック別・県別比較−(2002年)
肥
全
北
東
海
国
道
北
青
森
岩
手 *
宮
城
秋
田
山
形 *
福
島
関東・甲信越
茨
城
栃
木
群
馬
埼
玉
千
葉
東
京
神 奈 川
山
梨
長
野
新
潟
東 海 ・ 北 陸
富
山 *
石
川
福
井
静
岡
愛
知
岐
阜
三
重
近
畿
滋
賀
京
都
大
阪
兵
庫
奈
良 *
和 歌 山 *
中 国 ・ 四 国
鳥
取 *
島
根 *
岡
山
広
島
山
口
徳
島 *
香
川
愛
媛
高
知
九 州 ・ 沖 縄
福
岡
佐
賀 *
長
崎 *
熊
本
大
分
宮
崎 *
鹿 児 島 *
沖
縄
(注1)異常頻度の点数表示
158
158(1908)
満
耐糖能異常
5
5
5
5△
5△
4▽
5
3
5
5
5
5
5
5
4▽
5△
4
4
5
5
5△
2▽
5
2▽
5
4
4▽
5△
4
5
4
4
4▽
5
4
5
5
5
5△
4▽
4
5
5
3▽
5△
4▽
5
5
5
4
3▽
5
5▲
5
3
3△
3
2
4▽
3▽
2
2
3
3
2
3
5
3△
2
3
2
2▼
5
3△
3△
4
4
3△
3
2
2▽
2
3
3
4
3
3▽
3
3
3
1
4
3△
3
3
3▼
5△
5△
4
4
3
4▽
3▽
5
3
2△
5
4△
20%以上
15.0∼19.9%
10.0∼14.9%
5.0∼9.9%
4.9%以下
〔項目別〕
高
血
圧
3
3△
4
4△
3
3▽
4
4△
4
3
3
4△
5△
3
2▽
3
3△
4
4
4
4△
5
3▽
5△
4
3
3▽
3
4
3
4△
3▽
4
3▽
5△
4△
3
5
3
3
3
3▽
4▽
3
5△
4
3
4△
5
4▽
5
4
3
5
5 120以上
4 90∼119.9
3 60∼89.9
2 30∼59.9
1 29.9以下
〔6項目合計〕
高コレステ
ロ ー ル 血
5
5
5
4△
4▽
5
5
2
5
5
5
5
5
5
4▽
5
5
5△
5
5
5
5
5
4
5
5
5
5
5
4▽
5
5
5
4
5
5
5△
5
5△
5
5
5△
5
2▼
5
5
5
5△
5
5
5
5
5△
5
高中性脂肪血
(注2)前年との増減
3▽
4
3
2
4▽
4
2
2
4△
3
3
4
5△
4△
3▽
3
3
3
4
3
4
5
4
2
4
4▽
3▽
3
3▽
3▽
3
3▽
2▼
5
4
4△
4△
5
3
4
4
4▽
4△
2▼
3
3▽
3
3
4
5
1▼
3▼
4▽
5△
肝機能異常
6項目合計
5
5
5
5
5
5
5
3△
5
5
5
5
5
5
5
5
5
3▼
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5△
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5△
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
4
4
4
4
4▽
4▽
4
3
5△
4
4
4
5
4
4▽
4
3
4
5
5
4
5
5
4△
5
4
4▽
4△
4
4▽
4
4
4▽
5
5△
5△
4
5
5△
4▽
5△
4▽
5△
4
5
5
4▽
5
5
5
4▽
5
5△
5
著しく増加(+2↑) ▲
やや増加(+1)
△
やや減少(−1)
▽
著しく減少(−2↓) ▼
(注3)受診者10,000人以下は*。
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
査方法の違いが影響しているものと考えられた。
(f)
健常者頻度のブロック別比較では,全国平
均を上回る地域は,中国・四国,関東・甲信越地
従来の病院,施設別集計から健診スタイル別集計
に変更したところ,図60のような関係が明らかに
なった。
方のみである。また,前年に比して,すべての地
域で健常者頻度が低下している。
(g)
生活習慣病の危険因子として重要な6項
目異常頻度について7ブロックの比較を行うと,
6項目すべてが全国平均を下回る地域は認められ
なかった。6項目合計の前年比をみると,中国・
四国地方を除いては減少傾向が認められた。
(h)
6項目異常頻度を都道府県別に細分化し,
5段階評価による健康度マップを作成して比較し
た。
6項目異常頻度合計点を前年と比較すると,10
県が改善,8県が悪化した。前回の調査に比べて,
改善が7県増え,悪化は3県減っている。
図60
各種人間ドック分類と受診目的
まず病院においては,一泊人間ドックとともに
なお,異常頻度第1位の肝機能異常について健
一日病院外来ドックがほとんど行われている。そ
康度マップをみると,肝機能異常率20%以上の県
して一部の病院では独立した総合健診施設を併設
が前年の44から45と増加傾向を示し,改善のきざ
して一日人間ドックを実施している。
一方,クリニックの方では一日人間ドックが主
しが明らかではない。
体であるが,一部の施設ではホテルを利用した一
おわりに
泊人間ドックを行っている。またクリニックで一
健康意識の向上に伴い,社会情勢が不況にもか
かわらず人間ドック受診者は年々増加している。
般外来と混合した一日クリニック外来ドックを
行っていることも判明した。
それに伴い実施病院,施設数も増えているが,調
病院・施設別と人間ドック別を組み合わせると
査対象受診者が前年より7万人増えて283万人に
6種類,その他の人間ドックを加えると8種類と
達し,その内容も充実してきたことは喜ばしいこ
複雑になるので,人間ドック・スタイル別統計に
とである。
集約したことをご了解いただきたい。
最近10年間の各種人間ドックの受診状況をみる
さて,各種人間ドック集計結果は,どのように
と,2002年は,最多の一日人間ドック(総合健診)
評価されたであろうか。癌統計で発見した各年ご
は前年より約8万人増加して1,691,515人である。
との全体の癌を100%として各臓器別割合を比較
一日病院外来ドックは約3万人減って1,250,753
すると,胃癌,大腸癌(結腸・直腸)
,肺癌の順位
人 , 一 泊 人 間 ド ッ ク も 前 年よ り や や 減 少し て
は各人間ドックともに同じ傾向である。頻度の高
317,592人,合計では3,259,986人と前年より約3,
い胃癌,大腸癌に的を絞って比較すると,いずれ
4万人増えている。
の人間ドックでも胃癌,大腸癌ともに発見率の差
したがってこの3種類の人間ドックが,その他
が少なくなり,また早期癌占有率は80%前後の高
(3∼7日ドック)の人間ドックに比して主流を
率であり,人間ドックの優秀性を立証することが
占めているのが現状である。
できた。
そこで一泊人間ドック,一日病院外来ドック,
項目別統計では,各年代別の健常者頻度はいず
一日人間ドックとその他の人間ドックに4区分し
れも一泊人間ドックが低く全平均で7.0%。それに
て調査を行っている。
対して一日病院外来ドック,一日人間ドックは
(1)
13%前後と高く,一泊人間ドックとの間に明らか
各種人間ドックの総合評価
平成9年分の人間ドック集計用調査用紙より,
な格差がみられた。
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
159(1909
159)
その理由は,ライフスタイル関連の6項目異常
の占有率は反復受診者の増加により減少傾向を示
(肥満,高血圧,高コレステロール,高中性脂肪,
しているとはいえ,大腸癌が相対的に増えて全発
肝機能異常,耐糖能異常)について検討すると,
見癌の約60%弱を消化管癌が占めている。
いずれの項目でも一泊人間ドックの異常率が高
そこで,21世紀の人間ドックにおける消化管癌
検診は,オプション検査を加えた個別化検査メ
かった。
そのなかでもとくに耐糖能異常の割合が一泊人
間ドックと一日コースの人間ドックでは,異常率
ニューに次第に変化してゆくであろう(図61)。
まず発見頻度の最も高い胃癌検診については,
事前に問診によりハイリスク・グループを選別(家
の格差が顕著であった。
健診成績乖離の要因は①受診年齢層(一泊が最
族歴,既往歴,自覚症状)し,大腸癌の便潜血反
も高い),②検査方法(一泊のみにブドウ糖負荷試
応と同様にペプシノゲン検査を初回受診者に行っ
験あり),③地域差(一日は都市部に多い)等が考
て陽性者に対して積極的に内視鏡検査を実施する
えられる。
システムの確立を目指さなければならない。その
以上を総合すると,人間ドック形態の違いによ
る健診成績の差は,制度の優劣よりも受診者の年
結果,胃癌発見率のさらなる向上が期待されるの
はいうまでもないことである。
齢やライフスタイルの違いが大きいようである。
次に,大腸癌検診についても便潜血反応ととも
そこで,一日コースの人間ドック(一日病院外
に問診を参考にした個別化検診を実施する必要が
来ドック・一日人間ドック)は,40歳代前後を中
心とした受診者が健康チェックを目的としたスク
ある。
人間ドックで発見した胃癌と大腸癌の比率は次
第に縮小していたが,反復常診者の増加に伴い近
リーニング型といえよう。
それに対して一泊人間ドックは,生活習慣病の
年大腸癌発見率は横ばいである。
既往があったり,自覚症状があるために受診する
個々に癌統計資料を調査すると,大腸癌検診の
中・高年の精密検査型の特色があり,それぞれの
熱心な施設では,以前から胃癌より大腸癌の発見
使い分けが必要と考えられた。
頻度が高い事実が知られている。
(2)
癌発見率の向上を目ざして
それにもかかわらず,いまだ胃癌と大腸癌の発
厚生労働省の調査によれば疾病構造の変化に伴
い,部位別悪性腫瘍死亡率は激変している。男性
見比率が逆転しない理由は,胃癌より大腸癌の発
見頻度の施設間差が大きいためである。
では胃癌の減少により肺癌死亡者が1位となり,
発見大腸癌占居部位調査によると,今回もS字
肝,大腸癌も増加している。女性では,胃癌,子
状結腸38.3%,直腸30.1%であり,全例にロマノ
宮癌の減少と,大腸,肝,肺,乳癌が増加傾向を
スコープを行えば全体の70%以上の大腸癌を拾い
示している。
上げることが可能である。
人間ドックにおいても近年,全発見癌中の胃癌
しかし,現状は大腸内視鏡専門医の充足が絶対
的に不足しており,全例にロマノスコープの実施
は一部の施設を除いて不可能と考えられる。
そこで,大腸癌発見の施設間差をなくするため
には,まず現在実施している便潜血反応陽性者に
対する精検率の向上を目的とした大腸癌検診シス
テムの確立が重要で,さらに大腸検診の有用性に
関する受診者への啓蒙活動に努めなければならな
い。
また,問診により年齢50歳以上,癌家系(+),
便通異常(特に男性)などのハイリスクグループ
図61
癌検診の個別化(二次予防)
に対しては,できるだけ精密検査をすすめるよう
なシステムの構築が必要である。
160
160(1910)
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2003年12月
日本病院会雑誌
21世紀には胃癌と大腸癌発見頻度の逆転を目ざ
交通機関の発達により運動不足となり,肥満が増
して,現行の人間ドックの弱点である大腸癌検診
えたことも影響している。
の充実を提言する次第である。
2)
専門学会による病態識別値の採用…近年,
第3位の肺癌は,近年発見率が横ばいである。
相次いで日本動脈硬化学会,日本高血圧学会,日
発見率向上のためには,ハイリスク・グループに
本糖尿病学会,日本肥満学会,日本痛風・核酸代
対し喀痰細胞診とともにマルチスライス CT の実
謝学会などが,検査値のガイドラインを発表。そ
施が有用ではある。脳ドックと同様にオプション
の基準値は国際学会との共通化を目指したため
検査として肺ドックの普及が必要である。しかし,
に,従来のわが国独自の基準値より厳しくなって
肺癌対策は禁煙指導などの一次予防に主眼を置く
いる。
ことが重要課題であるのはいうまでもない。
3)
反復受診者の増加による加齢の影響…人間
性別に臓器別癌発見頻度を比べると,男性では
ドックの普及により,全国調査によると全受診者
前立腺癌,女性では乳癌の発見率が上昇傾向を示
中の反復受診者の割合が70∼80%に達している。
している。
その結果,人間ドック受診者の平均年齢が,40歳
人間ドックの基本検査に現在含まれていない前
代から50歳代へ移行している。
立腺癌発見を目的とした PSA 検査,触診による乳
4) 社会環境の悪化…バブル社会の崩壊により,
房検査にエコー,マンモグラフィー検査を導入す
大企業や銀行の倒産が発生し,サラリーマンのリ
ることに関しては今後の検討課題である。現状で
ストラや出向,単身赴任が増えている。その余波
はオプション検査として乳癌検診は40歳以上,前
は中小企業にも及び,経済はデフレ化の傾向をた
立腺癌検診は50歳以上の受診者には積極的にすす
どっている。このような社会環境の変化は,有形・
めるべきであろう。
無形に心のバランスを失い,ストレスが生活習慣
(3)
悪化の引き金となっている。
人間ドックは,健康づくりの場
1984年に人間ドックの全国集計を始めて驚いた
ことは,狭い日本で健康度の地域差が大きいこと
健康度アップ戦略
20世紀の人間ドックを総括すると,二次予防と
であった。
その後18年間の経年変化をみると,地域差が次
しての癌検診は成果を挙げることができた。しか
第に縮小している。その理由は,かつて健康度の
し,生活習慣病発症に関連した検査の異常頻度は
良いといわれていた地域が次第に悪化の傾向をた
年々悪化している。
どり,地域特性が失われてしまったためである。
その理由は前記の通りに種々考えられるが,な
その結果働き盛りの日本人の健康度は年々悪化
んといっても最大のポイントは,人間ドック受診
し,健常者が人間ドック受診者全体に占める割合
者自身による生活習慣の改革がほとんど失敗に終
が,1984年の29.8%から2002年は13.3%と16.5ポ
わったことである。そこで,21世紀型の人間ドッ
イントも減ってしまったのである。しかし,ライ
クは,早期発見・早期治療の二次予防から,生活
フスタイル関連の6項目(肥満,耐糖能異常,高
習慣改善のための一次予防中心へと変化しなけれ
コレステロール,高中性脂肪,高血圧,肝機能異
ばならない。
常)を経年的に比較すると,とくに肝機能異常と
そのためには,検査のための時間と同じくらい
高コレステロールが年々増加していることが,健
の割合で健康教育や生活指導を充実させる必要が
康度悪化の最大要因であった。この原因としては,
ある。そこでとくに重要な人間ドック担当医によ
次の4項目が考えられる。
る健康度アップ戦略(図62)を紹介する。
1)
生活習慣の欧米化…外食産業やコンビニエ
ンスストアの普及により,手づくりの家庭料理を
人間ドック受診者の診察の際には,たんなる打
診・聴診・触診のほかに問診が重要である。
作る頻度が減少。結果として和食中心から,洋食
問診表の従来の形式は,臨床で使用している疾
や中華料理など嗜好が多様化し,食物中の脂肪摂
患別の問診項目が過半数が占めていたが,検査で
取量が25%を超えたためである。また,自動車や
分かる質問は省略。そして,限られた時間内の問
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2003年12月
日本病院会雑誌
161(1911
161)
図62
21世紀型人間ドック・健康度アップ戦略
診なので,生活習慣とストレス・チェックに重点
状況を確認することが重要であるのはいうまでも
を置く問診項目に変更することが望ましい。
ないことである。
ストレス・テストは,性格,行動パターン,社
会的適応状況などを確認する。そして検査成績の
なかから,とくに生活習慣関連項目に的をしぼり,
21世紀の医療改革は,治療から予防へ視点を変
えることが提唱され始めている。
そして,厚生労働省は「健康日本21」の理念と
して,
問診内容と総合して健康評価を行う。
今 ま で は , 受 診 後 の 総 合評 価 は 説 明 と同 意
1.
壮年期死亡の減少
(informed consent)のみで終わっていたが,今
2.
健康寿命の延長
後は双方向の同意(interactive consent)が必要
で,受診者の質問を積極的に受け入れる姿勢で対
を挙げている。
さらに本年5月より「健康増進法」が発足し,
行政の立場から積極的な対策が進められることと
応することが求められている。
そして最後に受診者自身の意志に基づいた選択
なった。
(informed choice)が行われることにより,悪い
これからの「人間ドック医学」は,上記の理念
生活習慣に対する行動変容の実行がより成果を挙
を実証することが主題であり,その方針に基づい
げることができるのである。もちろん,受診者の
た「人間ドック医療」の実践を普及することが大
フォロー・アップを充実し,繰り返し行動変容の
切である。
162
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日本病院会雑誌
■一番町だより
平成15年度
日
時
第6回定例常任理事会
〒733-0851
議事抄録
℡082-274-1600
2.
平成15年9月27日(土)
都道府県
所
東京都立荏原病院
(506床:一般456,精神30,感染症20)
午後1時∼4時40分
場
会員名
日本病院会会議室
加賀谷寿孝(院長)
〒145-0065
出席者
会
広島市西区田方2-16-45
東京都大田区東雪谷4-5-10
℡03-5734-8000
長
副 会 長
B.正会員の退会5件
中山耕作
大道
1.
學,奈良昌治,武田隆男,
個
常任理事
人
会員名
山本修三
中西昌美,西村昭男,林
金沢外科胃腸科病院(49床)
金沢利定(院長)
大阪市旭区大宮1-20-19
雅人,
(9.1付で診療所に移行)
真田勝弘,川城丈夫,近藤達也,
斎藤寿一,秋山
洋,池澤康郎,
天川孝則,土屋
章,福田浩三,
中後
事
星
代議員会議長
人
安井病院(44床)
安井孝(院長)
名古屋市昭和区滝子町27-19
3.
順
医療法人
竹内整形外科病院(50床)
和夫
会員名
加藤正弘
愛知県半田市浜田町3-10-5
竹内宏幸(院長)
(8.1付で診療所に移行)
同副議長
赤沼克也
顧
問
登内
真,依田忠雄
参
与
松田
朗,高久史麿,鴨下重彦,
4.
行天良雄,牧野永城,岡崎
医療法人
会員名
辻村外科病院(80床)
辻村明(院長)
愛知県刈谷市井ヶ谷町桜島20-1
通,
5.
内田卿子,三宅浩之
委 員 長
個
会員名
勝,川合弘毅,元原利武,
瀬戸山元一,福井
監
2.
医療法人
会員名
里村洋一,大井利夫
土屋病院(99床)
土屋繁一(院長)
福島県郡山市七ツ池町26-19
定刻となり,中山会長から開会の挨拶がなされ
C.賛助会員の退会1件
B会員
イムス原宿クリニック
委任状2通,計24名の出席で本会議が成立してい
1.
代表者
初鹿野浩(所長)
ることが報告され,議事録署名人に川城,土屋両
東京都渋谷区神宮前1-3-12
た後,会議定足数として定数24名に対し出席22名,
常任理事を選出した。司会の大道副会長は,本日
の会議は少し早めに4時40分に閉会して,その後
以上について大道副会長から,正会員の入会が
10分程度政治連盟の会議,5時10分から通信教育
2件と退会5件,賛助会員の退会1件について諮
の認定式を予定していると述べ,議事に入った。
られ承認された。計,正会員数は2,741病院(公的
967,私的1,774,総病床数72万800床),賛助会員
〔承認事項〕
数は519会員となった。
1.
2.
会員の入退会について
(1)
A.正会員の入会2件
1.
医療法人
平田克己(院長)
医療安全推進週間の後援(依頼元:厚労省医
政局長)
広島パークヒル病院
(100床:一般18,療養82)
会員名
厚生労働省及び各団体からの依頼について
(2)
第5回フォーラム・医療の改善活動の後援
(医療の TQM 推進協議会)
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163)
■一番町だより
(3)
平成15年度臨床検査普及月間の協賛(日本衛
(4)
保健・医療・福祉 Web EXPO 2004の後援(医
設の価格リストを健保連や日病が公表することは
できなくなった。
療情報システム開発センター)
(5)
あった。健診医学会のほうは大分厳しい指導を受
けたようだが,以後,上限価格を公示するとか施
生検査所協会)
今後のことについては,一応いま立ち上げよう
平成15年秋季全国火災予防運動に対する協
としている人間ドックの優良施設を機能評価して
力(消防庁長官)
(6)
医業経営の非営利性等に関する検討会委員
(7)
バリアフリー2004の後援(大阪府社会福祉協
談してくれというアドバイスを受けた。一応,人
間ドック学会には比較的好意的な判断だったと思
議会)
(8)
公表することは大変結構である。ただ,事前に公
取違反とならないよう事務局担当者を寄こして相
の委嘱(厚労省医政局長)
診療報酬請求事務研修会の講師派遣(日本医
うが,これからはみんなで相談して価格を決める
療保険事務協会)
とか,あそこは安いからどうとか,そういうこと
以上について大道副会長から説明がなされ,後
は一切できなくなった。客観的に,その病院がそ
援及び協賛依頼の各事項について承認された。(6)
れぞれ自由競争で価格を設定することが望ましい
は大道副会長への委嘱依頼で,(8)の山本副会長を
ということだが,その施設がどういう施設かとい
派遣推薦する件とともに承認された。
うことを客観的にわかるような基準をつくってく
3.
総合健診(一日人間ドック)施設の指定につ
いて
クの機能評価を実施するので理解いただきたいと
説明がなされた。
A.総合健診(一日人間ドック)施設の指定4件
1.
れという希望もあり,来年にはいよいよ人間ドッ
天神クリニック
4.
10/23∼24神戸開催の「救急医療防災セミナー」
(福岡市中央区天神2-12-1,施設長・朝長正道)
2.
について土屋常任理事から説明があり,災害から
JA 東京健康管理センター
(立川市柴崎町3-6-10,同・伊藤均)
3.
鹿児島県厚生連健康管理センター
(鹿児島市与次郎1-13-1,同・窪薗修)
4.
その他
8年目の総括ということで地元の兵庫県の先生方
も力を入れて準備しているが,現在参加者は100
名ほどであり,なお多く集めたい。先生方の地元
の消防署で救急救命士などにも声をかけてもら
セントラルパーククリニック
(高松市番町1-10-16,同・岡伊津穂)
い,病院関係者も参加してもらいたいと要請した。
奈良副会長から,以上の施設4件の指定につい
て,日本総合健診医学会の推薦をもとに諮られ,
承認された。
続けて奈良副会長は,施設認定について少し状
〔報告事項〕
1.
各委員会,研究研修会の開催報告について
況が変わってきたとして,先日事務局と公正取引
(1)
委員会に行って申し渡しを受けてきたが,日本人
試験の合格点を40点から60点に引き上げ,平成
間ドック学会と総合健診医学会が行っている,健
16年度から実施することとした。レポート,卒論
保組合に優良施設を推薦して上限値を決めること
の評価は現行どおり。教科書の作成,科目の見直
は公正な取引を阻害するものであるという解釈を
し,講師選任について今後検討していくこととし
された。当方からは,良心的な健診を行い暴利を
た。スクーリングを6日から5日に短縮したが,
むさぼらないために上限値を決めてあるのだと釈
今後も継続する。
明したが,条件を満たさないとかダンピングとい
うことで排除することは許されないという指導が
164
164(1914)
(2)
病院経営管理者養成課程小委員会(8/20)
予防医学・学術図書編集合同委員会,人間
ドック実施病院実査委員会(奈良副会長,
日本病院会雑誌2003年12月
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日本病院会雑誌
■一番町だより
来年度の活動計画については例年のとおり立
8/27,8/29)
京都での日本人間ドック学会の期間中に関連の
て,役員改選による新執行部のもとであらためて
委員会を開いた。人間ドック認定指定医制度がス
検討してもらうこととした。また,研究会の案内
タートしてから5年目を迎え,施設と合わせトー
が複数でまとめて出されて,なかなか担当者のと
タルで評価する目的で人間ドック機能評価の基準
ころに届かないのではないかという意見も出,こ
案をまとめ,これについて説明した。
れも検討事項とした。
機能評価は将来的には第三者機関で行うべきで
(5)
病院の法人形態を検討する小委員会
(川合常任理事,9/8)
あるが,立ち上げるには時間も費用もかかるとい
うこともあり,現在の人間ドック指定の619病院か
厚労省医政局の土生企画官が引き続き出席し,
ら実施することとしたい。大変いい評価表ができ
北大法学部の倉田教授からは法律的なアドバイス
たが,今度はサーベイヤーを養成するための研修
をもらいながら委員会を開いている。株式会社参
会を4日間,今年度に1回と来年1回,それぞれ
入の問題から発足した委員会であるが,その前に
1泊2日で行う。現在,人間ドックの実査委員が
議論する問題があるとして,「医療施設開設者法」
74名おり,これに30名ほどプラスして100名位でス
という法律を検討してきた。
タートしたい。年間200∼300件の審査が限度と考
今回は倉田教授から,現在の医療関係法制をも
えており,軌道に乗ったら総合健診医学会に合流
う一度整理しようということで,医療行為そのも
してもらい,あるいは全日病にも加わっていただ
のを規制する医師法と医療行為を含む医療供給事
き,軌道に乗ったあかつきには第三者機構を立ち
業を規制する医療法があり,3つ目に医療市場を
上げる。それまでは,この人間ドック学会の事務
公的にコントロールするための規制法というの
局で動かそうということになった。
は,あるようでないようではっきりしない。そこ
(3)
で,医療施設開設者法が必要ではないかと考えて
インターネット委員会
(大井委員長,8/27∼29,9/11∼12)
きた。しかし,関係のない人たちまで法律で規制
8月の日本人間ドック学会及び9月の日本診療
するのは至難の業であり,政治家が興味をもつは
録管理学会学術大会における動画撮影に合わせて
ずもない。むしろ,医療法の中から医療法人に関
連日集まり,委員会を開催した。画像配信サービ
する規定を引き出すとか,社会福祉法人と医療法
スの録画撮りを行ったが,7月の日本病院学会に
人の差が狭まっているのでそれと合わせた法人法
ついては収録済であり,10月の常任理事会で少し
を考えてはどうかなどと意見が出ており,継続検
時間をもらって配信デモを行い,よければ今年度
討中である。
(6)
中に配信を開始したい。
中小病院委員会(福田常任理事,9/18)
このほか,日病インターネット大学の構想を
今回は新潟県支部から品田,薄田両先生に出席
近々動かそうと考えており,既に載せている日病
してもらい開催した。各県に支部をつくろうと情
雑誌の検索システムをキーワードから容易にでき
報交換会を開いているが,昨年支部をつくった新
るようなシステムを構築しようと準備中である。
潟で行う情報交換会の内容と来年の日本病院学会
(4)
教育委員会(林常任理事,9/2)
の中小病院シンポジウムについて協議した。学会
昨年度の研究会,セミナー活動について問題点
のシンポジストには大阪の牧先生と横浜の地元か
を抽出し,今後どう運営するか論議した。地方開
ら1名,新潟支部から1名とし,ほかの委員も全
催は日病をアピールするチャンスなのでもっと参
員登壇して活発に議論することとしたい。
加者を集める必要がある,費用の割に参加者が少
情報交換会は11/14,新潟へ我々委員が出向き,
なく開催場所やテーマを検討する必要がある,日
地元の病院協会と合同で行う。「経営改善研究会」
病に批判的な講師が入っており事前にチェックす
―輝ける病院への方策―と題し,特別講演は「高
る必要がある,などという意見が出た。
齢者医療制度について」として厚労省保険局老人
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
165(1915
165)
■一番町だより
医療企画室の吉田室長から,また,シンポジウム
「輝ける病院への方策」などを計画している。
混合診療検討小委員会の答申書「保険診療と保
険外診療との併用(いわゆる混合診療)
」が合同委
広報委員会(真田常任理事,9/19)
員会の両委員長に提出された。当初は,いわゆる
来年の委員会の活動計画と予算案について検討
混合診療の解禁の是非という論点から検討した
した。日病ニュース発行については例年どおりで,
が,諸般の状況で基本的な問題を我々医療側から
対マスコミ広報として何回かの記者会見を計画
発するべきではないかという論点に方向転換し,
し,ニュース3年分の合本を盛り込んだ。対マス
まとめたものである。昨日報告を受けたが,この
コミ広報の取組みについては,前回の役員会に提
扱いは会長・副会長会議に諮ることとして中山会
案した具体的方策を広報委員に説明した。記者会
長に答申した。その他,インフォメーションセン
見のテーマをあらかじめ委員会の報告書や提言,
ター委員会と臨床研修問題検討小委員会の委員委
要望などから会長・副会長会議で絞り込んでもら
嘱を了承した。
(7)
い,常任理事会または理事会で決定して日程を調
以上の報告に対して中山会長は,混合診療検討
整し,クラブに出向いて行うというかたちである。
小委員会の答申,報告書については文章もすべて
ニュース紙上での委員会の紹介コーナー「ハ
玄人肌で,徹底してきれいにまとめられており,
ロー委員会」は,これまで委員会から寄稿しても
常任理事の皆さんにはお目通し願いたいが,内部
らったが,今度はインタビュー形式で進めること
には日病雑誌などに載せるのはいいとしても外部
とした。医療制度・社会保険老人保健合同委員会
には更にもう少し詰めたかたちで発表するように
をはじめ順次インタビューしていきたいので,取
求めた。
材への協力をお願いしたい。正月の新春座談会は,
福井常任理事からは「けんぽれん病院情報セン
「高齢社会における病院医療のあり方」のテーマ
ター」について,合同委員会では趣旨はいいが運
で行うこととし,中山会長はじめ候補者を選定し
営面で問題があるのではないかと指摘された点を
た。次期シリーズ特集は混合診療,病院の再編・
補足し,一方的にならないように,情報の提供と
統廃合問題,情報開示などの候補が挙がったが,
か管理が双方向の立場で保護がなされているの
今の情勢からいって混合診療を取り上げたらどう
か,この点は十分検討してほしいという意見が出
かと考えており,これから執筆依頼をしていきた
ていた旨を追加した。
これについて奈良副会長は,2年ほど前に「保
い。
(8)
医療制度・社会保険老人保健合同委員会
険者機能の強化につながる情報提供のあり方委員
(西村常任理事,9/26)
会」が健保連の中に設けられ,そこに病院代表と
健保連の鈴木参与,宗像医療部次長を招き,
「け
して2,3人の方と出席したが,委員会の名前に
んぽれん病院情報センター」について説明をきい
対する抵抗感とか健保連主導で行うことについて
た。患者さんが入院や手術,あるいは専門的医療,
いろいろ厳しく申し上げた経緯がある。今回,サ
セカンドオピニオンを必要とするとき,そのニー
イトが立ち上がることになったが,費用はどうも
ズに応じた病院情報を提供したいという趣旨で,
厚労省からの補助金が1億位,健保連で1億位持
現在2200病院ほどから回答を得られてデータベー
ち出し,それにランニングコストがかかるという
ス化しており,10/20ころに仮オープンを予定。本
ことのようである。今のところは無料で,院長の
格オープンには5000病院以上の掲載が必要と考え
方針とか診療部長のコメントなどは書き込み自由
ている旨説明を受け,意見交換した。厚労省の病
とのことである。
院会計準則改正案に対する意見提出は,四病協総
患者主体の病院索引となっており,例えば手術
合部会で諮った結果各団体で対応することとな
件数とか成功率,死亡率,それからヒヤリ・ハッ
り,日病は石井委員を中心に意見をまとめること
トの数,そういうものも出すべきだという意見が
とした。
出たが,そういう数字はかなり怪しいということ
166
166(1916)
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
■一番町だより
を申し上げて否定した。いずれにしても,おそら
で空席となっている代表に日病から出ている私が
く3億か4億円かかったプログラムだと思うが,
選出された。規約は昭和43年にできたという古い
今のうちは無料とのことで,病院がこれに乗るの
もので現実との乖離が多く,全面的な改正をした。
はかまわないと思う。そこで,日病のインターネッ
これから継続的に取り組む課題として技術評価委
ト委員会から複数の人をこれに参加させるよう求
員会を設け,技術評価をどう診療報酬改定に反映
めた訳であると補足説明した。
していくかということと,包括医療の DPC 委員会
この件で更に2、3の理事から発言があり,行天
を立ち上げた。平成16年の診療報酬改定に対して
参与からは,どうも健保連のやっていることに勝
は各学会からの要望をまとめ,重複などを整理し
手なことはさせないということで,人を送り込ん
て9/30には厚労省等に提出する運びである。
で監視するというニュアンスの話になっている
が,現実には全部自由競争になっている。この間,
(10)
学術委員会(星監事,9/26)
日病雑誌10月号を本日配布し,11・12月号の企
新聞社などと一緒に,どうやって病院を選んでい
画編集を行い,少し日病雑誌の刷新について討議
るかというのを約3,000例とったら,驚くほどイン
した。前回報告したように,雑誌そのものが古く
ターネットによるチェックが進んでいた。若い人
内容も少し陳腐化しているので,この際いろいろ
はもうほとんどといっていいくらいこれを使って
改めようと申し上げて了承いただいた。討議した
病院を探している。そういうときに,どういう点
中では,まず雑誌の版を今のままB5でいいかA
で信頼しているかというと,残念ながら日本病院
4にするか,だいぶあちこちで変わってきている
会という組織体の知名度よりも健保連のほうが知
ので,これを議題にした。ただ,途中から変更す
名度が高いからそこに行く。これからはもう,激
るとファイリングに不便なので1月から実施する
烈なたたかいが始まっていると思う。
べきかという問題もあり,しばらく検討したい。
特に,今のマッチングの話にしても若いドク
中身については,学会の講演などが全文テープ
ターたちの検索の早さ,ポイントのつかみ方,彼
を起こして載っており,一見すると今の視覚時代
らはもちろんある程度の知識があるから,手術成
に合わない。ただもう字が並んでいるだけで,興
功率いくらとかいっても,先輩に聞いたらロクな
味あるものの部分以外は読まれないのではないか
医者じゃないといって,こういうのが一つあった
ということで3分の1か半分ぐらいにしてもら
だけで全部きる。猛烈な自分なりの選択をやって
い,その代わり今インターネットに載せているの
いる。書き込みはもう自由で,これからどんどん
でそれを利用できないかと考えた。ただその場合,
書き込んでいくと言っているし,健保連のなどは
別刷を重視される方がおり,依頼原稿の謝金の代
見る間に膨らんでくるだろうと思う。日病がやる
わりに別刷をもって代えていることもあるので,
なら健保連以上の膨大な金をかけて,これに載せ
これも少し検討したい。
てやるから日病の会員になれというくらいの姿勢
空いたスペースに新しい企画を入れ,依頼原稿
でやるような,それくらいの競争時代に入ってい
や趣味的なものを入れていく。そうなると,レイ
ると思う。それから,書き込みの問題は内部告発
アウトその他いろいろなことがあって,もういっ
が,それもドクターの告発が一番多いということ
そプロに委託したほうがいいという意見も出てい
だけはご存知いただきたい。警察に言うよりサイ
る。結論が出たらまたここに諮って実施したいと
トで言ったほうがよっぽど早いということであ
思うが,そういう討議を重ねて,できれば来年の
る。
4月からは刷新したいと思っている。
以上のような意見が述べられ,この項を終えた。
(9)
内科系学会社会保険連合(内保連)第94
(11)
研究会・セミナー報告
①図書研究会(9/12∼13横浜,75名,診療手帳
「 私 の カ ル テ 」, 図 書 館 サ ー ビ ス と 著 作 権 ,
回例会(齊藤常任理事,9/9)
内保連の第94回例会が行われ,五島代表の死去
Informationist とは―アメリカヘルスサイエン
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
167(1917
167)
■一番町だより
ているが,なお議論が沸騰してまとまりにくいと
ス図書館事情,実務講座他)
2.
ころがある。しかし,四病協として出した以上は
四病協諸会議の開催報告について
(1)
その線にそって主張していきたいと思っている。
その他,日医で西島先生を次の参議院選挙の候補
医療保険・診療報酬委員会
(西村常任理事,9/5)
に立てるということで,事務所開きに四病協を代
中医協の動向として佐々全日病会長と猪口委員
表して日精協の仙波会長が挨拶に行くこととなっ
長から専門委員会と総会報告がなされた。四病協
の次期診療報酬改定要望の重点項目は,①入院医
た。
(3)
臨床研修指導医養成検討委員会
療の質の向上を図るための入院基本料の見直し,
(西村常任理事,9/24)
②手術に係る施設基準の廃止,③連携型病棟機能
日病の臨床研修問題検討小委員会で指導医の養
の評価,④外来診療報酬の一物一価,⑤精神保健
成を協議してきたが四病協で実施することとな
指定医診察料の新設,⑥リハビリテーション処方
り,新たに委員会を組織した第1回の会合であっ
料の新設,⑦特定入院料算定患者などが他医療機
た。
関を受診した場合の取扱いの変更,という7項目に
指導医養成のための講習会は,厚労省の後援を
集約した。総合部会に諮り厚労省,日医に提出し
得て12月と来年2月の2回行う計画で,日程,講
たい。不合理・矛盾点の扱いについては診療報酬
師をほぼ固めた。臨床研修責任者・指導者養成の
改定と切り離して,厚労省医療課に疑義解釈の書
3日間コースと臨床研修統括者・協力者養成の半
面回答を求めることとした。日病の介護報酬改定
日コースを設定し,募集定員は各50名。修了認定
の影響度に関する調査結果について,川合委員か
の証書を四病協の会長及び厚労省医政局長の連名
ら概要を報告した。
で出す予定で,平成16年度は4回開催を計画した
(2)
総合部会(大道副会長,9/18)
い。第1日目はトップマネジメントについての研
病院会計準則改正の厚労省案に対する意見提出
修,第2,3日はレクチャーと小グループによる
は各団体で対応し,特別医療法人制度の要件緩和
ワークショップとし,募集人員が少ないので当面
についての意見募集も各団体に任せることとなっ
は臨床研修指定病院へ案内し,各団体のホーム
た。特別医療法人,特定医療法人制度については,
ページに掲載する。
医業経営の在り方検討会の最終報告で円滑な移行
(4)
医業経営・税制委員会
を促進させるという答申が出ており,そのための
(池澤常任理事,9/3)
一つの方策として出資額限度法人という類型をつ
平成16年度税制改正の各方面への要望の経過報
くろうと,先ほどの承認事項に出ていた検討会が
告が大塚委員長から行われ,今後の対応について
設置されたものである。
協議した。税制の問題については,消費税や事業
特定医療法人は税制の特別措置法のもとにあ
税,出資額限度法人,特定・特別医療法人などの
り,特別医療法人は医療法で規定されているが,
問題を抱え,財務省あるいは厚労省と意見交換を
現実には特別医療法人は29しかなく,特定医療法
図る必要があるとして,次回委員会には厚労省医
人は356ということで非常に少ない。例えば,特定
政局の担当者を招き消費税問題を討議することと
医療法人の場合は,差額ベッドの割合が以前は
した。
20%以下とか30%,平均料金も4,000円とか5,000
(5)
四病協事業の事務分担について
円という制限があり,特定になろうと思ってもこ
(山口事務局長)
れ一つとってもなれなかった。特別医療法人にも
四病協の共同事業として医療安全管理者の養
非常に制限があるので,出資額限度法人方式とい
成,感染管理者の養成,臨床研修指導医の養成,
う一つの類型をつくろうかという趣旨である。四
診療情報管理士の認定という4つが決まり,その
病協では既に出資額限度法人制度化の要望を出し
事務処理について事務局で詰めるよう総合部会及
168
168(1918)
日本病院会雑誌2003年12月
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日本病院会雑誌
■一番町だより
び8人委員会の指示を受けて協議した。そのうち,
に考えていきたいという答えがあった。ただし,
医療安全管理者養成の演習は全日病で担当し,残
中医協に出すとなると,厚労省の資料として2∼
りの部分は日病で引き受けることとなった。会計
3年はその調査にかかるかもしれないので打合せ
処理は各団体の本会計と切り離し,任意団体の四
ていきたいということであった。一つの問題とし
病協として行うこととなった。
て,ドクターが「この機械を使いたい,自分はこ
3.
医療分野における規制改革に関する検討会
(9/4)の開催報告について
れでやりたい」という好みの問題や,このほうが
うまく行くのではないかというような問題があ
り,そういうのをどこまで診療報酬上認めるかと
奈良副会長が出席し,前回派遣業の問題が決着
いう問題があるのではないかという意見も出た。
して,その後混合診療,株式会社参入について意
結局,この調査結果については内容のバラツキ
見を求めたいという予定であったが,完全に消滅
が多く,例えば,靭帯断裂形成手術の191,000円に
した。今回は,
「医療の規制のあり方に関するこれ
対して,保険請求できない医療材料が3,680円
までの指摘の整理」「現行の主な規制の概要」「こ
(1.9%)から164,381円(86.1%)という,63病
れまでの主な取組みと当面予定されている対応」
院の回答でこれだけのバラツキがある。手袋もガ
という資料を渡されて説明を受け,ほとんどディ
ウンも着ないで手術しているのかというような資
スカッションもなく終わった。混合診療問題は総
料があり,一体どういう経費の管理をしているの
合規制改革会議から出てきた委員がいなくなり,
かというのもある。そういうところを弾き出し,
中医協マターという話が漏れてきた旨の報告。
基準をつくってデータを出した。手術基準の100
4.
公正取引委員会事情聴取(9/9)結果報告及び
回答書提出について
分の70の縛りがあるところは更に割合が高くな
る。それから,保険請求できるのにできないもの
として含まれているものがあった。例えば,套管
奈良副会長から,承認事項のところで少し説明
針カテーテルの細径穿刺針型の5,790円,これは24
したように総合健診医学会の料金介入が発端で公
時間以上体内に留置した場合は算定できるとなっ
取委が出てきて,人間ドックも事情聴取を受けた。
ているが,これを挙げている。このようなケース
今後は料金を決めて横並びでやるのはやめる,施
で算定していないと思われるのが3分の1くらい
設の料金表をつくって健保連が冊子を配ることも
挙げてきており,確認されたほうがいいと思うな
いけない,自由競争ということである。人間ドッ
どと報告。
クの機能評価についてはよろしいということで,
評価をきちんと行い,これは信頼できる施設であ
6.
るということを公示して,先ほどの話にも出てい
武田副会長・学会長から,京都で8/28,29の2
た健保連のインターネットに載せたらどうかとい
日間開催して一般演題が295題,特別講演等を合わ
う話になっている旨の報告。
5.
第 44 回 日 本 人 間 ド ッ ク 学 会 の 開 催 報 告
(8/28・29)について
厚労省との医療材料調査の打合せ(9/16)に
ついて
せ312題が発表された。天候に恵まれ,参加者は延
べ6,059名と大勢来ていただき感謝している。市民
参加の公開講演には1,275人来て,日ごろ聞けない
池澤常任理事から,9/16厚労省で保険局医療課
の西山課長以下5名と会合し,日病は医療経済・
税制委員会の関口,石井委員との3名で出席,デー
タ検討にあたったメンバーも同席した。
「保険請求
話をいただいたと反響があった旨の報告。
7.
日本人間ドック学会理事会・評議員会の開催
報告(8/27・28)について
できない医療材料の調査結果」については,こう
奈良副会長から,諸般の状況が厳しくなってき
いう資料は初めてであり中医協で検討して前向き
ているので人間ドックの機能評価を早く立ち上げ
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日本病院会雑誌
169(1919
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ようと619の指定病院から実施する旨を説明。今ま
名で延べ384名となる。現在の病院経営の状況が非
での認定更新の代わりに機能評価を行い,暫時機
常に変わってきたことと一層の質の向上を考え
能評価に切り替えていこうという話になってい
て,テキストの改訂に向けて作業中であるなどの
る。また,学会が急速に膨張したので,適正な理
報告。
事と評議員が必要ということで現在は理事36名,
評議員164名となった。来年の学会は名古屋で,JR
東海病院の高木先生が準備しており,再来年は秋
田日赤の宮下先生に引き受けてもらった旨の報
織委員会」報告(9/12)について
大井委員長から,Web EXPO 2004というのは医療
情報システム開発センターが厚労省と経済産業省
告。
8.
11.第1回「保健・医療・福祉 Web EXPO 2004組
第29回日本診療録管理学会学術大会の開催報
告(9/11・12)について
の協賛を得て行う事業で,既に今年6∼7月に独
自で「電子カルテ Web EXPO 2003」をインターネッ
ト上に流し,大変多くの270万件というヒット数が
瀬戸山常任理事・大会長から,9/11,12と高知
あった。これに力を得て明年2004年の2∼5月に
で開催して1,139名と多くの方に参加いただいた。
広げて開催したいということである。日病に対し
この学会は演題が少なく参加者が多いという学会
ては,後援名義やホームページにリンクを張るこ
であったが,今回は一般演題が88題と例年以上に
と,機関紙での広報について依頼があり,ホスピ
集まりポスターセッションの22題を設定した。非
タルショウと関連した企画の検討要請もあった旨
常に活発な論議が行われ御礼を申し上げたい。来
の報告。
年は第30回記念として開かれるが,里村委員長・
大会長は9/15,16,17日と3日間,千葉の幕張メッ
(1)
セ国際会議場で開催すると発表。
9.
12.その他
日本診療録管理学会理事会・評議員会の開催
報告(9/10)について
厚労省医政局長から日病会長あて,「医師
配置標準の端数の取扱いの見直し」及び「診療情
報の提供等に関する指針の策定」について,都道
府県知事に通知したので周知徹底してほしい旨の
西村常任理事から,平成14年度厚労省委託の診
療情報提供環境整備事業として210頁の報告書が
文書を紹介。
(2)
厚労大臣から日病会長あてに9/4付,定款
完成し,学会の30周年記念事業については三宅日
一部変更の認可通知があった旨を中山会長が報
病参与が委員長として計画する。WHO センター長
告。5月総会で承認された件を申請していたもの
会議への ICD‐10に関する意見提出に協力した
で,定款10条の役員のうち現行「副会長4名」を
が,今後も継続要請を受けている。平成14年度の
「6名以内」と改正した。もう一つ,副会長の増
事業報告と決算,15年度事業計画等は承認され,
員と同時に承認された件で,定款施行細則の一部
学会施行細則の一部改正で,理事長は原則日病理
変更として会長,顧問,参与の任期を規定し,同
事から選任し,理事・監事の半数は日病役員から
細則5条の2に「会長の再任については特別の事
選任するとした。平成17年度の学術大会は日病の
情がある場合を除き2期を限度とする」,同2に「顧
林常任理事が担当し秋田で行うこととなったなど
問及び参与の再任については原則として2期を限
と報告。
度とする」を追加した。したがって1期3年,最
10.第24回病院経営管理者養成課程通信教育の認
定式(9/27)について
に白紙に返して,そこからまた新たにお願いする
というかたちになるので理解願いたい,と説明し
山本副会長から,本日の会議終了後病院経営管
理者養成課程の認定式を行い,今回の認定者は39
170
170(1920)
大6年で会長の任期は終わり,顧問・参与も同時
た。
(3)
外科系学会社会保険委員会連合(外保連)
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
■一番町だより
から9/19付で,日本病院学会にあて外保連への加
れた秋山常任理事は,表題は医療・社会保障と背
盟決定通知があった旨を中山会長が報告。この件
反する市場原理となっているが,その市場原理に
は山本副会長に総まとめしてもらい,各種委員会
誤謬があって崩壊し終焉を迎えている。そこが言
の4つの委員派遣についてはあらためて相談する
いたかったことであるとして,グローバリゼー
旨の報告。
ションとか発展が引き起こした問題,医療が破綻
厚労省の院内感染対策有識者会議の報告
したのでなく市場経済が破綻したという状況,情
書について武田副会長が説明,平成14年7月から
報の非対称性は市場経済のすべての局面に見られ
8回会議を行い報告書がまとまった。MRSA とか
るという問題を指摘し,更に,経済学の利己心が
VRE あるいはセラチアの感染などがあり,院内感
医療にも共通して結局分配論が一番の問題であ
染対策のあり方を協議していたが,途中で SARS
り,経済の需要刺激は医療では予防などに見られ
が起こって,急性のアウトブレイクにどう対処す
る需要抑制の世界である。経済があって医療があ
るかなどと検討していった。日病が4年前に実施
るという考えのまちがい,資本主義的偏向は医療
した院内感染に関するアンケートも参考にし,今
の中にも安全管理に対する考え方などに見られ
後の取組みとして医療機関においては院内感染対
る,などと市場競争を否定し,医療には市場的競
策マニュアルの整備と定期的見直し,職員研修の
争のない世界をつくりたいと書いた。競争原理,
充実や特定の医療機関への専任担当者配置などが
戦略的経営という言葉が横行しているが本当にこ
提起された。感染管理専門家の養成として四病協
れでいいのかということを指摘した,などと説明
の ICS 養成・認定事業も記載され,関心を持って
した。
(4)
各理事からは,いわゆる聖職とされる分野と情
後援したいと反響があった旨の報告。
事務局職員の異動として9/1付で,日本病
報の非対称性の問題,市場経済,資本主義の終焉
院共済会に出向していた吉川肇を復帰させて学術
と社会主義の問題,医療の財源としての消費税,
部に配置し,通信教育の病院経営管理者養成課程
株式会社参入と医療従事者の意識との乖離などに
を担当させると山口事務局長から報告。
ついて意見が述べられ,秋山常任理事は,資本主
(5)
義でも社会主義でもない,新しいものを模索して
〔協議事項〕
1.
いると補足した。また,奈良副会長も『繰り返し
医療制度,医療保険制度,医療費について
てはならない歴史―医療と経済』という小論文を
執筆しており,どうも本当に金まみれの世の中に
中山会長から,財務省と厚労省へ向けて発した
なって,そのうちに破綻を来たしてドカンという
9/5付四病協の声明について,「平成16年度の概算
ことになるのではないかという不安を書いた,な
要求に向けて財政的な観点から医療保障はじめ社
どと説明があってこの項を終えた。
会保障給付費を圧縮しようという政府の方針は,
この後中山会長から,第55回保健文化賞を受賞
医療の質の低下を招き,国民の生命,健康への不
された行天参与を紹介し祝意を述べ,未定だった
安を増大させるだけでなく,患者のさらなる医療
平成17年の日本病院学会は名古屋で,福田常任理
費負担を招くことにつながる」などと経緯を説明
事の学会長のもと開かれると発表した。同常任理
した。手術料の施設基準廃止や入院基本料の増額
事は愛知万博期間中の7月18∼19日の開催となる
などを求める要望書についても9/18,四病協とし
旨を述べて,支援を要請した。
て保険局に提出していることを追加した。
次に,日本医事新報への掲載論文『医療・社会
以上で議事を終え,大道副会長が閉会の辞を述
べて常任理事会を終了した。
保障と背反する市場原理』について解説を求めら
日本病院会雑誌2003年12月
2003年12月
日本病院会雑誌
(日本病院会事務局広報部)
171(1921
171)
………………………………………………… 6( 43)
日本病院会雑誌
2003年総目次
事例報告「一般病床と療養病床の選択」
嘉夫・木野
昌也
7( 15)
病院の IT 化は進むのか …………里村
…………………水野
洋一
7( 65)
部門別原価計算と連動した無在庫管理技法
…………………………………吉澤
(数字は月,(
)はページ)
素行
7(102)
―物流原価の費用情報データ抽出方法について―
国立大学法人化を見据えた大学(死火山・休
1.
病院経営
火山)病院の戦士たちは今…佐藤
博
8( 13)
立
9( 17)
章弘
12( 13)
医療の質(効果),医療効率と費用
シンポジウム「病院経営と看護管理者の
―医療経済学の視点から―…二木
役割」………………………………………… 1( 46)
シンポジウム「患者満足と職員満足」………… 1( 63)
医療機能評価における看護の役割
…………………………………土井
シンポジウム『緊急報告フォーラム「激震
“診療報酬改定の影響”」』………………… 1( 91)
―平成14年度診療報酬改定の影響度調査分析―
営上の視点からの考察………阿部
2.
病院診療
都立府中病院をめぐる救急事情
法的脳死判定および臓器移植に関する病院経
眞澄
―救命救急センター開設10年を機に―
1(139)
…………………………………佐々木
シンポジウム「資金調達」……………………… 2( 17)
勝
3(109)
病院職員研修としての臨床病理検討会の意義
指揮者論としての医療と音楽の質
…………………………………西村
昭男
について………………………高橋
2( 51)
シンポジウム「国民の悩み・病院の悩み」…… 2( 65)
秀史
3(114)
保険教室「医師のための保険診療手引き(第
16版)」―平成15年3月現在―
シンポジウム「中小病院の歩むべき道
…………………総合病院国保旭中央病院
―輝く病院づくりのために―」…………… 2( 94)
4( 89)
院内経費削減「放射線科における夜間電気代
2(125)
3.
博信
3( 33)
身体抑制適応と運用の標準化による自己抜去
令子
3( 67)
接遇に対するクレームの検討
失敗学のすすめ……………………畑村洋太郎
4( 35)
―特に医師に関して―………佐藤正人他
病院医療機能評価と薬剤部………土屋
文人
4( 63)
回復期リハビリテーション病棟における活動
介護報酬改定………………………小山
秀夫
5( 33)
性の向上……………………………………… 2(128)
介護報酬改正内容について………椎葉
茂樹
5( 43)
―ソファーベッド導入の試み―
今後の施設運営について…………小山
秀夫
5( 75)
低減」…………………………小澤昌則他
病院機能特化と経営………………須古
の防止………………………垣内いづみ他
請求漏れ防止のための正しい点数解釈
…………………………………栗林
2(120)
温信他
2(134)
―標準略語規定の作成―…足名美由紀他
3( 95)
医用略語の標準化
―今後の病院経営を探る機能評価―
…………………………………濃沼
信夫
5( 87)
特定機能病院の定額制 ―DPC―…梅里
良正
5( 97)
医療機能評価の新たな展開………大道
久
4( 17)
…………………………………河口
豊
6(105)
東海集中豪雨災害を経験して……柴田
恒洋
6(111)
………………………………根本とよ子他
6(115)
地震発生時における対応に関する調査
代議員会・総会における会長あいさつ
耕作
5(143)
パネルディスカッション「医療の質の改善と
医療経営」…………………………………… 6( 15)
―質の改善は経営に影響を及ぼすか―
シンポジウム「病院機能分化と生き残り戦略」
172
172(1922)
1(131)
院内・敷地内全面禁煙の取り組みと問題点
…………………………………秦
医療制度改革と病院経営
…………………………………中山
病院管理
院内掲示物は患者の視点で書こう
シンポジウム「ボトムアップ」………………… 7( 39)
日本病院会雑誌 2003年12月
日本病院会雑誌
2003年12月
―逆転の発想のマネジメント―
…………………………………太田偉子他
褥瘡と栄養士の関わり……………安齋
眞一
7.
こどもの心といのちを見つめて
―チャイルド・ライフ・スペシャリストの活動―
…………………………………藤井あけみ
3( 99)
8( 21)
9( 33)
医療人としての接遇………………武石
哲子
9( 37)
教育の原点…………………………鈴木
三郎
9( 49)
看
護
看護部門と事務部門の連携による質の向上
…………………………………鈴木
紀之
12( 29)
シンポジウム「看護実践能力の向上をめざして」
…………………………………………………12( 47)
安城更生病院の電子カルテへの取組み
―質が高く安全な看護を提供していくために―
…………………………………横井
武
9( 91)
8.
クリニカルパスを含む病院横断組織による患
者安全対策……………………深谷
卓
10( 96)
医薬品関連ヒヤリハット事例と対策
事例報告「栄養部門の危機管理を考える」
…………………………………松崎
薬剤管理
…………………………………土屋
政三
10(107)
9.
文人
10( 62)
栄養・調理
シンポジウム「次世代の食事サービスを考える」
4.
病院事務(情報・人事・文書・図書)
………………………………………………… 6( 81)
長期経営計画と情報収集…………東瀬多美夫
7( 74)
院内銀山お抱え医師門屋養安の長生き術
情報活用支援のための基礎講座
―秋田の食文化にふれて―…茶谷
十六
9( 75)
康史
12( 83)
―図書館員のためのインターネット―
7( 95)
10.
簡単検索…………………奥出
麻里
8( 25)
院内感染防止のための空調対策
図書室業務マニュアル作成………塚越
貴子
9( 99)
…………………………………長谷川豊祐
Pubmed
病院設備・建設
…………………福田
昭一・油谷
日本医学図書館協会認定資格制度への取組み
…………………………………吉江
吉夫
9(110)
11.
予防医学
委員会報告・平成14年人間ドック全国集計成績
5.
医療経済・制度
…………………………………笹森
典雄
12(117)
シンポジウム「医師の臨床研修への対応」…… 1( 16)
医療提供体制の将来像……………中村
秀一
3( 14)
12.
医療安全を進める国の施策………宮本
敦史
3( 51)
東京都における院内感染予防対策について
…………………………………井元
浩平
4( 75)
注射・輸液器具の安全対策設計…小堂
学
10( 79)
介護保険による居宅サービスと要介護度の関
係………………………………江頭
有朋
3(105)
高齢者医療制度の今後の課題……吉田
学
5( 18)
13.
厚生労働省の新臨床研修制度案の問題点及び
課題……………………………堺
感染対策
医療安全対策
常雄
5( 13)
医療事故防止について……………田代
成元
9( 61)
医療制度改革について……………阿曽沼慎司
10( 17)
医療安全推進に向けた国の施策…宮本
敦史
10( 36)
…………………………………平山眞理子
10( 49)
医療保険制度改革
事故防止対策の現状と看護協会の支援
―医事課職員に求められるもの―
…………………………………中林
梓
12( 71)
14.
6.
医療連携
3( 91)
―ソーシャルワーカー情報提供書の導入を通して―
地域医療連携における情報提供システム
会
〈第53回日本病院学会〉
急性期病院におけるスムーズな転院紹介業務
への試み………………………福地一浩他
学
素粒子と宇宙………………………小柴
昌俊
11( 13)
あなたのあすを誰が看る…………行天
良雄
11( 25)
適塾(緒方洪庵)と大阪…………梅溪
昇
11( 37)
シンポジウム「中小病院の歩むべき道」
日本病院会雑誌 2003年12月
日本病院会雑誌
2003年12月
173(1923
173)
―輝く病院づくりのために―………………11( 53)
第53回日本病院学会一般演題分類区分・プロ
グラム…………………………………………11( 87)
ニューヘイブンの思い出…………山本
弘
4(125)
大型動物の破傷風…………………海老沢
功
8(117)
功
11( 81)
ダヴィデ王の像と西郷隆盛の銅像
…………………………………海老沢
15.
巻頭言
2003年
年頭所感…………………中山
耕作
1( 11)
18.
銷夏随筆
臨床研修の必修化を前に…………齊藤
寿一
2( 15)
言うは易く…………………………阿曽
佳郎
8( 29)
平成14年度の病院経営を顧みて…角田
幸信
3( 11)
病院のアニメティー………………荒井
泰道
8( 30)
花の愉しみ…………………………天川
孝則
8( 31)
…………………………………小堀㣁一郎
4( 15)
医療は単なるサービス業か………有我由紀夫
8( 33)
5( 15)
Early birds catch the worms …安藤
高朗
8( 34)
私的教養学―the liberal arts…安藤
文英
8( 35)
思想の退行…………………………飯田
龍一
8( 37)
ハンカチノキ………………………飯塚
哲司
8( 39)
大いなる幻影とちっちゃな船……池澤
康郎
8( 40)
定年記念……………………………井澤
豊春
8( 44)
医療事故における警察への届出義務
日本の病院は消費税で倒産する…福田
浩三
「道のため,人のため」変わりゆく時代を映して
OSAKA,次のステージへ………大道
學
6( 11)
原点から考えなおす改革
―いま求められる義と勇―…西村
昭男
7( 11)
第44回日本人間ドック学会開催にあたって
隆男
8( 11)
アイバンク活動に想う……………石岡
国春
8( 45)
医療IT化の推進……………………瀬戸山元一
…………………………………武田
9( 15)
患者さんの人生を読む……………石島
武一
8( 47)
「医療の現場」を守る為に………福井
順
10( 15)
いろいろな名前……………………石田
尚志
8( 48)
Quality と Quantity………………近藤
達也
11( 11)
バクーをたずねて…………………石橋
晃
8( 49)
病院におけるボランティア活動…真田
勝弘
12( 11)
ユーモア……………………………石原
通臣
8( 50)
スペーシング………………………井村
總一
8( 51)
16.
グラフ
晴れ時々沈没………………………大倉
久直
8( 52)
富士市立中央病院と富士(日病役員)………… 1(
7)
朝礼での話は難しい………………大滝
秀穂
8( 53)
東京都江東高齢者医療センター………………… 2(
7)
閉ざされた極東の島(日本)と有事関連法案
第28回日本診療録管理学会……………………… 3(
7)
…………………………………織本
正慶
8( 55)
金沢社会保険病院………………………………… 4(
7)
Begleitungと新研修制度…………加藤
誠
8( 56)
厚生連安城更生病院……………………………… 5(
7)
ピラミッドと小田原提灯…………清川
尚
8( 57)
永寿総合病院……………………………………… 6(
7)
運……………………………………近藤
達也
8( 59)
名古屋共立病院…………………………………… 7(
7)
年貢の納めどき……………………財津
晃
8( 60)
国立成育医療センター…………………………… 8(
7)
忘れられない患者君………………崎原
宏
8( 61)
鈴岡県立静岡病院………………………………… 9(
7)
ひげを蓄える理由…………………真田
勝弘
8( 63)
聖隷横浜病院………………………………………10(
7)
老犬と迷い犬の話…………………品田
章二
8( 65)
第53回日本病院学会………………………………11(
7)
危機管理意識………………………白濱
龍興
8( 66)
第44回日本人間ドック学会………………………12(
7)
島嶼医療体験記……………………鈴木
謙三
8( 67)
交通事故から想う…………………末永
裕之
8( 69)
浩
8( 70)
健
8( 71)
17.
随想・紀行
なにも起こらないことに注目しよう
竹本吉夫日本病院会顧問を偲んで…中山耕作
1( 13)
第2回近代医学のルーツを探る会
―江戸の旅の印象記―………星
生死のくぎり………………………関
和夫他
竹本先生とのお別れ会……………長崎
彬
2(139)
3(119)
趣味の歴史談義⑭「大江戸環状線」考
……………………………………松峯敬夫
174
174(1924)
…………………………………全田
3(120)
動物介在教育(AAE アニマル・アシステッド・
エデュケーション)…………高野
正博
8( 73)
木造建築文化の日本………………高橋
正彦
8( 74)
京の夏………………………………武田
隆男
8( 75)
日本病院会雑誌 2003年12月
日本病院会雑誌
2003年12月
地域医療にも国際保健という視点を
…………………………………鹿内
清三
1(137)
…………………………………高橋
淑郎
2(151)
医療制度改革と競争原理…………藤井
良治
4(135)
…………………………………武見
敬三
8( 76)
グレゴリー・ペックが逝った……田代
亜彦
8( 77)
迎暑雑感……………………………角田
興一
8( 78)
ライフスタイル再考………………土谷晋一郎
8( 79)
病院建築の現状と将来……………長澤
泰
5(121)
社会保障が日本の危機を救う……坪井
栄孝
8( 81)
臨床研修必修化と今後の病院……大道
久
6(118)
診察室からの問いかけ……………坪山
明寛
8( 83)
「医療のグローバリズム」,正しい視点で情報
病院長の困惑………………………寺野
彰
8( 84)
発信を!………………………木村
満
日仏病院交流の一昔………………遠山
正道
8( 85)
電子カルテの定義…………………山内
一信
8(121)
御下賜金授与………………………遠山
美知
8( 87)
気が付けば…………………………松尾
茂
11(149)
理念経営で生き残れるか…………土井
章弘
8( 89)
混合診療の是非に思う……………栃原
敏彦
8( 90)
20.
独立行政法人化を目前にして……冨永
格
8( 91)
平成14年度第7回定例常任理事会議事抄録
テロと医療廃棄物…………………中山
耕作
8( 92)
和歌山県立医大整形外科入局歌…中村
了生
8( 93)
視野狭窄に陥らないために
新しい病院経営手法開発をめざして
昭男
平成14年度第8回定例常任理事会・第3回
定例理事会合同会議議事抄録(11月16日)… 2(153)
8( 95)
平成14年度第9回定例常任理事会議事抄録
さらに進む後期高齢者社会での医療ニーズ
(12月14日)………………………………… 3(133)
…………………………………林
〓史
8( 97)
祝婚…………………………………林
直諒
8( 98)
幻のまたぎ犬………………………藤村
重文
8( 99)
学会を考える
平成14年度第10回定例常任理事会議事抄録
(1月25日)………………………………… 4(137)
平成14年度第11回定例常任理事会・第4回
―病院の管理・運営の立場から―
…………………………………藤井
暁
8(101)
夏と言えば…………………………星
北斗
8(102)
当院のガン看護CNS ………………細木
秀美
8(103)
定例理事会合同会議議事抄録(2月22日)… 5(123)
平成14年度第12回定例常任理事会議事抄録
(3月29日)………………………………… 6(120)
平成14年度代議員会・総会議事抄録
医療情報システムと個人情報保護
…………………………………細田
(3月29日)………………………………… 6(129)
瑳一
8(104)
平成15年度第1回定例常任理事会・第1回
今こそ国民皆保険の堅守のために厚労省と医
定例理事会合同会議議事抄録(4月26日)… 7(114)
療従事者の共闘を!…………前田
太郎
8(105)
会話…………………………………松田
朗
8(106)
医用略語の氾濫……………………牧野
永城
8(107)
平成15年度第2回定例常任理事会議事抄録
(5月24日)………………………………… 8(123)
平成15年度代議員会・総会議事抄録
民間の中小病院は SARS で死ぬところだった
(5月24日)………………………………… 8(130)
―厚労省の危機管理意識を問う―
…………………………………松本
平成15年度第3回定例常任理事会・第2回
文六
8(109)
ドコ!?……宮崎
忠昭
8(111)
トイレあれこれ……………………宮本
二郎
8(112)
ココハ
イッタイ
民間病院に来て思ったこと………毛利
昌史
8(113)
「EBM」に想う ……………………山本
修三
8(114)
靴下とスリッパ……………………行山
康
8(115)
医師と停年…………………………横井
正博
8(116)
19.
通教月報巻頭言
心因反応被害と機器生体機能損傷
一番町だより
(10月26日)………………………………… 1(145)
―時には,広い
遠くも見よう―………………西村
7(112)
定例理事会合同会議議事抄録(6月11日)… 9(117)
平成15年度第4回定例常任理事会議事抄録
(7月26日)…………………………………10(116)
平成15年度第5回定例常任理事会議事抄録
(8月27日)…………………………………11(150)
平成15年度第6回定例常任理事会議事抄録
(9月27日)…………………………………12(163)
21.
掲示板
医療法等の一部を改正する法律附則第2条に
日本病院会雑誌 2003年12月
日本病院会雑誌
2003年12月
175(1925
175)
基づく届出について(医政発第1128001号
いて(保医発第0701002号,平成15年7月
の2,平成14年11月28日)………………… 1(155)
1日)………………………………………… 9(125)
腎臓移植及び角膜・強膜移植の推進に関する
医療法施行規則及び医療法施行規則等の一部
協力依頼について(健発第0319001号,
を改正する省令の一部を改正する省令の
平成15年3月19日)………………………… 5(133)
施行等について(医師配置標準の端数の
健康保険法等の一部を改正する法律附則第2
取扱いの見直し等について)(平成15年9
条第2項の規定に基づく基本方針につい
月5日,医政発第0905010号)………………10(125)
て(平成15年3月28日,閣議決定)……… 5(139)
医用内視鏡の鉗子栓の自主点検等について
DEHPを含有しない輸液セット,カテーテル等
(薬食審査発第0828012号,薬食安発第
の医療用具について(医薬安発第0317001
0828003号,平成15年8月28日)……………10(144)
号,平成15年3月17日)……………………… 6(135)
「広告が可能な医師及び歯科医師の専門性に
重症急性呼吸器症候群(SARS)に関する WHO
関する資格名等について」の一部改正に
勧告に基づく対応について(医薬血発第
ついて(医政総発第0825001号の2,平成
0520005号,平成15年5月20日)…………… 7(125)
15年8月25日)………………………………10(145)
これからの医業経営の在り方に関する検討会
独立行政法人福祉医療機構の設立に伴う貸付
(最終報告書)―国民に信頼される,医
利率について(事務連絡,平成15年9月
療提供体制の担い手として効率的で透明
26日)…………………………………………11(157)
な医業経営の確立に向けて―(平成15年
3月26日
平成15年度最低賃金周知広報の実施について
厚生労働省医政局)…………… 7(127)
(協力依頼)(基発第0917008号,平成15年
平成15年度の医療法第25条第1項の規定に基
9月17日)……………………………………11(160)
づく立入検査の実施について(医薬発第
0624016号,医政発第0624008号,平成15年
22.
6月24日)…………………………………… 8(137)
平成15年度事業計画・予算決まる……………… 5(143)
健康診断時及び予防接種の費用について
その他
平成14年度事業報告・決算承認される………… 7(144)
(事務連絡,平成15年7月30日)………… 9(124)
日本病院会雑誌2003年総目次……………………12(172)
特定承認保険医療機関の取扱い等の改正につ
176
176(1926)
日本病院会雑誌 2003年12月
日本病院会雑誌
2003年12月
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