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スギ人工林伐採跡地の植生回復状況 ポスター(2)
ポスター(2) 発表課題名 スギ人工林伐採跡地の植生回復状況 発表者 森林資源部 主任専門研究員 木戸口 佐織 1 研究のねらい 再造林されずに放置されている人工林伐採跡地を、天然更新によって広葉樹林へ誘導することは、 省力的な方法として有効である。しかし、スギ人工林伐採跡地の天然更新に関する研究はまだ少なく、 天然更新の実態は明らかになっていない。 天然更新過程を利用した更新方法を検討するための第一段階として、県内のスギ人工林伐採跡地に おいて植生調査および毎木調査を実施し、植生回復状況による類型化を行った。 2 研究方法 伐採 1∼11 年後のスギ人工林伐採跡地 20 箇所に調査区を 35 区設定し、植生回復状況を調査した。 伐採 1∼2 年後の跡地では、根元径 1cm 以上の広葉樹更新木の根元径と樹高の測定、下層植生の種類 および本数の調査を行った。下層植生調査は、調査区を 5m×5mのコドラートに区分し、コドラート の片隅に設置した 1m×1mのサブコドラートで行った。伐採 6∼11 年後の跡地では、高さ 1.3m以上 の広葉樹更新木の直径と樹高の測定を行った。なお、調査区の大きさは 10m×30mを基本とした。 3 結 果 【伐採 1∼2 年後の植生回復状況】伐採跡地は広葉樹林隣接タイプ・スギ人工林隣接タイプ・土壌かく 乱タイプの 3 つのタイプに分類することが出来た。植生回復は広葉樹林隣接タイプが最も良好で、土 壌かく乱タイプは著しく遅れていた。広葉樹林隣接タイプでは、伐採前に混交していた広葉樹からの 萌芽や隣接林分から侵入してきた稚樹が多数みられるのに対し、スギ人工林隣接タイプでは高木性の 更新木がほとんどみられず、草本植物やつる性樹種、先駆性の低木性広葉樹が優勢であった。 【伐採 6∼11 年後の植生回復状況】伐採後に更新した高木性・小高木性広葉樹の種数と本数、階層構 造から類型化を行った結果、伐採跡地は 4 つのタイプに分類することが出来た(表)。植生回復はア カマツ林隣接タイプ・広葉樹林隣接タイプが良好で、特にアカマツ林隣接タイプは高木の種数・本数 ともに多く、樹高も高かった。 3 割の調査区でササの生育が認められ、広葉樹の更新が阻害されていた。特に広葉樹林隣接タイプ では影響が大きく、高木性広葉樹の本数はササの無い調査区の 5 割にとどまった。 更新木の樹高は高木・小高木とも 2∼4mの階層のものが多く、成林までにはまだ時間がかかると考 えられる。最も階層が高かったのがアカマツ林隣接タイプで、最高 12mまで達していた。 植生回復が良好な調査区の更新木は株立ちのものが多く、前生樹からの萌芽更新であると考えられ る。単幹の更新木は、伐採後に種子が芽生えて定着したと考えられる。萌芽更新は初期成長が早いた め、伐採前に広葉樹が混交している林分ほど伐採後の植生回復は早く、成林の可能性は高い。混交す る広葉樹が少なく、種子供給源となるような林分から遠いスギ人工林を伐採した場合は、高木性広葉 樹の更新は期待出来ない可能性がある。 表 伐採6∼11年後のスギ人工林伐採跡地のタイプ タイプ名 アカマツ林隣接 広葉樹林隣接 スギ人工林隣接 ササ生育地 植生回復状況 高木性広葉樹の種数および本数が多い 他のタイプと比べて樹高階分布の階層が高い 株立ちの更新木の割合が高い 隣接する広葉樹林からの距離が近いほど、高木性 広葉樹の本数が多い 単幹の更新木の割合が高い 斜面の中腹や、伐採跡地の中央部で植生回復が 遅れる傾向にある(つる性樹種・低木性広葉樹優勢) ササによって更新が阻害されている 特に、広葉樹林隣接タイプでササによる影響が大きい 高木性広葉樹の ha当たり本数 高木性・小高木性広葉樹の ha当たり本数 9,356本/ha 10,345本/ha 4,364本/ha 7,157本/ha 1,930本/ha 2,948本/ha 2,036本/ha 3,297本/ha 4 成果と今後の進め方 調査結果から、伐採 10 年前後までのスギ人工林伐採跡地は、隣接林分とササの成育状況によって 分類可能であること、スギ人工林の天然更新は、混交する広葉樹からの萌芽と周辺林分からの種子の 供給によって行われることが分かった。今後、今回の調査結果と様々な条件下における更新事例を活 用することによって、天然更新過程を利用した更新方法の構築が可能であると考えられる。