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資料保存の考え方 資料保存の考え方
平成23年度 日本古典籍講習会 国立国会図書館 収集書誌部 資料保存課 和装本保存係 資料保存の考え方 平成23年度 日本古典籍講習会 平成 23 年 1 月 20 日 1 図書館における資料保存 資料保存の考え方 2 劣化・破損要因とその対策 国立国会図書館収集書誌部 3 劣化・破損資料の手当て 資料保存課 和装本保存係 宇野 理恵子 1 2 1 図書館における資料保存 1 図書館における資料保存 図書館サービス 蔵書を基盤として提供される情報サービス 蔵書の計画的 な構築 (資料収集) 利用できる状態を保つ 蔵書の適切な 維持・管理 (資料保存) ・状態の良い資料 ・劣化・破損資料 利用者が必要とする 資料や情報を提供 予防 資料へのアクセスを保証 (図書館の使命) 資料をできるだけ長く「利用できる状態」に保つ 失われたアクセス機能を回復さ せ、劣化・破損の速度を抑制する 3 4 2 劣化・破損要因とその対策 2 劣化・破損要因とその対策 外的要因 災害対策 ●災害対策マニュアルの整備 さまざまな劣化・破損要因 外的要因 地震、水害、火災、大気汚染、 温湿度、虫・カビ、塵・埃、光 「図書館におけるリスクマネージメンント ガイドブック」(文部科学省HPより) http://www.mext.go.jp/a_menu/shoug ai/tosho/houkoku/1294193.htm 内的要因 酸性紙、製本状態(無線綴じなど)、 構成要素の劣化(TACべースフィルム) 「IFLA 災害への準備と計画: 簡略マニ ュアル」(当館HPより) http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/iflapac /pdf/briefmanual.pdf 人的要因 不適切な-取り扱い、保存手当、 排架、複写、展示 ●防災訓練 ●防災マップ、緊急連絡網 ●建物・設備の定期点検 5 配布資料 1 治療 良好な状態を維持し、将来的 な劣化・破損を予防する 1 水濡れ資料対応実習 6 平成23年度 日本古典籍講習会 国立国会図書館 収集書誌部 資料保存課 和装本保存係 2 劣化・破損要因とその対策 2 劣化・破損要因とその対策 外的要因 災害対策 外的要因 環境管理 (温湿度、塵・埃、大気汚染) ●温湿度-変化を小さく (当館は温度22℃・湿度55%前後) ●空調の整備・点検 ●定期的な清掃 データロガーの設置 7 8 2 劣化・破損要因とその対策 外的要因 環境管理-虫・カビ ●紙を加害する害虫 (シバンムシ、シミ、ゴキブリ 、カツオブシムシなど) ●カビー湿度65%以上から 発生増 ●UVカット蛍光灯の使用 UVカットフィルムの利用 LEDの使用 ●こまめな消灯、カーテンや ブラインドの活用 ●書庫搬入前殺虫処置 ●保存箱 に収納 ● IPMの導入 カビ被害資料 2 劣化・破損要因とその対策 環境管理-光 外的要因 (低酸素、二酸化炭素、低温) (Integrated Pest Management: 総合的有害生物管理) 光による退色 食害された資料と幼虫 9 10 2 劣化・破損要因とその対策 酸性紙、製本状態 内的要因 構成要素の劣化(マイクロ資料) IPM(総合的有害生物管理) 有害生物(虫やカビ)の発生を防ぐため に多角的な対策を講じ、予防管理を行 うこと。 ●脱酸性化処理(大量・少量) ●製本状態 無線綴じなど 5つのステップ ①問題点を洗い出す (過去の履歴と施設の点検) ②清掃を習慣化する ●TACベースのフィルムの劣化 (酢酸臭がする、フィルムの べとつき等) 粘着トラップ (衛生管理と有害生物侵入の防止) ③日常点検を続ける (害虫の発見と日常点検) 酸性紙 ④管理の方法を作る ・低温低湿で保存 ・TACベースからPETベースに交換 ・フィルムの巻き取りや包材交換 ・TACベースフィルムの別置 (管理体制と研修、外部との協力) ⑤害虫が発生したら (害虫等の処置方法の選択) 配布資料 1 第19回保存フォーラム(H20年) 11 2 上:PETベースフィルム 下:TACベースフィルム 12 平成23年度 日本古典籍講習会 国立国会図書館 収集書誌部 資料保存課 和装本保存係 2 劣化・破損要因とその対策 排架・複写・展示 2 劣化・破損要因とその対策 資料の取り扱い、保存手当 人的要因 人的要因 ●適切な排架 ●セロハンテープ・クリップ (和書は平置きが望ましい、むりなら 帙や保存容器に 収納) ●切り取りや書き込み・ 飲食など ●複写時の破損を防ぐ (複写の制限・禁止。複写機の改善) ●利用者や職員への 教育・指導 ● 広報による注意喚起 不適切な排架 ●資料にやさしい展示方法 (長期展示は避ける、紫外線対策 、 展示補助具の使用、適正な温湿度、 照度(50~100ルクス以内)) 展示補助具の使用 13 3.劣化・損傷資料の手当て 2 劣化・破損要因とその対策 まとめ 劣化・破損要因 外的要因 手当ての選択と種類 劣化・破損を防ぐ対策 地震、水害、火災、大気汚染、 災害対策 環境管理 温湿度、虫・カビ、塵・埃、光 IPMの導入 保存容器 酸性紙、製本状態 脱酸性化処理 構成要素の劣化 TACからPETへ変換など 14 ①保存方針 ③利用頻度 ⑤代替資料の有無 ②傷み具合 ④資料の価値 ⑥費用 変 媒体変換 内的要因 治す 媒体変換 人的要因 不適切な(取り扱い、保存手当、 排架、複写、展示) 適切な取り扱いなど 利用者・職員教育 しまう :簡易補修、専門的な補修、再製本 :マイクロ化、デジタル化、複製本 :保存容器(箱、フォルダー、袋、帙) 買い替え・廃棄 15 16 資料保存の考え方 参考文献 まとめ 虫損直し ①『IFLA 図書館資料の予防的保存対策の原則』E.P.アドコック編 日本図 書館協会2003(当館HPより入手可) URL:http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/iflapac/pdf/careandhandling.pdf ②『資料保存の調査と計画』 日本図書館協会 2009 ③りーふれっと資料保存 日本図書館委員会資料保存委員会作成 URL http://www.jla.or.jp/portals/0/html/hozon/index.html URL: htt // jl j / t l /0/ht l/h /i d ht l ④国立国会図書館ホームページ 国立国会図書館について/資料の保存 URL: http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/data_preservation.html ⑤『防ぐ技術・治す技術』日本図書館協会 2005 ⑥東京文化財研究所『文化財の生物被害防止ガイドブック』 URL: http://www.tobunken.go.jp/~hozon/index.html ⑦『古文書修補六十年』遠藤諦之輔 汲古書院 平成8年(1996) ⑧『古典籍の装幀と造本』 吉野敏武 (株)印刷学会出版部 2006 18 ● 欠損部の補修 漉き嵌め 時間・コスト大 治療 一点ずつの手当 配布資料 1 より 予防 まとまりで対策 が大切! 17 3 資料の基本的な取り扱い方 手についた汚れを落としてから 資料を扱いましょう 配布資料 2 資料を取り出す時は、背に指をかけて 傾いている資料は立て直し、必要があれば 引っ張らないようにしましょう ブックエンドの位置も調整しましょう 片手で持ちきれない量の資料を運ぶ 資料を広げるためのスペースを 必要以上の力をかけて資料を 時は、ブックトラックを使いましょう 十分にとりましょう 開かないようにしましょう 保存容器に入っている資料は、 付せんやクリップではなく、 資料が近くにある場所での 特に慎重に扱いましょう しおりを使いましょう 飲食に注意しましょう 平成 23年度 日本古典籍講習会 国立国会図書館 収集書誌部 資料保存課 和装本保存係 四つ目綴じの綴じ方 でっ ちょうそう 和装本には、巻子本、折本、粘 葉 装 、袋綴じなど様々な装丁があります。ここでは一番接 する機会の多い袋綴じ、特にその中の四つ目綴じの綴じ方について説明します。 1.各部の名称 したと なかと 下綴じ(中綴じ)の位置の目安 てん 天 ほんと 本綴じ穴 せ 背 したと こぐち 下綴じ穴 小口 だいせん 題簽 ち 地 と 綴じ糸 2.使用材料・道具 ・こより用和紙 せき しゅう こうぞ 石 州 半紙など、 楮 100%の和紙 幅 2cm 長さ 30cm 程度 ・目打ち 製本用や手芸用 ・綴じ針 ふとん針や製本用綴じ針 ・綴じ糸 絹糸(太白)。線装本は太糸 1 本どり、漢籍は細糸 2 本どり たいはく 糸の太さは「イロハニ」とあり、今回は「ロ」を使用 ・はさみ 配布資料 3 1 3.こよりと下綴じ こよりで下綴じしてあることにより、綴じ糸が切れても本紙が散逸しない。 こよりのより方 下綴じの綴じ方 和紙のざらざらした面を上にして、よっていく (図出典『古文書修補六十年』 遠藤諦乃輔 ※ 著) こよりの活用法として、ホチキスやクリップ留めしてある文書資料等の綴じ直しがあ る。ホチキスやクリップは、錆などで資料を傷める原因となるため、ホチキスやクリ ップを取り外し、こよりで綴じ直すことにより資料を永く保存することができる。 2 4.綴じ糸の下ごしらえ 糸を針に通し、下図のように糸を針に固定して糸の端は玉止めする。このように糸を針 に固定すると、綴じている間に糸が針から抜けることがなく、作業しやすい。 糸先1cm、5mm の 2 箇所に針を刺し 玉止めする方の糸を引っ張り、糸を針に固定させる。 長い方の糸端は玉 止めする。 5.四つ目綴じの綴じ方 針は裏の地から2番目の穴近くに刺す。裏から2~3ページめくったところの穴と背の 間を針で2ページほどすくい、針先は綴じ穴に出す。 うら表紙 天 地 2,3ページめくる うら表紙 綴じ穴 綴じはじめの場所 背 断面図:針の軌跡(太い矢印) 注意点 針を綴じ穴に通す時、すでに通してある綴じ糸に針を刺してしまわないこと。 3 綴じ順 糸が緩まないように 左親指で押さえる。 以下同様。 4 3 新しい本は、最後におもて表紙に折り筋を2本つける。 (綴じ直しの場合は既に折り筋がついているので、この作業は不要。) 定規 ①綴じ糸から 2mm 内側に定規をあ て、へらで 1 本筋をつける。 ②そこからさらに 1mm 間隔をあけ て 2 本目の筋をつける。 ③表紙を開き軽く折りクセをつけて 完成。 折り筋 5 平成 23年度 日本古典籍講習会 国立国会図書館 収集書誌部 資料保存課 和装本保存係 簡易帙作製手順 (三康図書館方式) 完成形 帙を開いたところ 帙を展開したところ これは、(財)三康文化研究所付属三康図書館(東京都港区)が考案し、使用している保 存容器です。費用をかけず簡単に作ることができ、さまざまな劣化要因から資料を守るこ とができます。三康図書館のご快諾をいただきご紹介いたします。 材料 上質紙(中性紙が望ましい)、紐(綿テープ) 不織布テープ(和紙、ボンド) 道具 定規、ハサミ、へら ☆作業の重要ポイント☆ それぞれの折れ線をしっかりつけるときれいに仕上がります。 ①紙の大きさを決める(傷みの激しい資料は直接紙に置かず、サイズを測って作業する。) タテ目 資 料 資料の天地の 2.5 倍くらい 資料の小口の 3 倍+3cm くらい ※ 配布資料 厚さのある資料なら、たて横とももう少し大きめにする。 4 1 ②資料を置く位置をきめ、折れ線をつける 資 料 資 料 紙の天地の中央におくための折れ線をつける。まず資料を紙の天にあわせて余りの紙を 2 等分し、次に資料を紙の地に合わせて同じく余りを 2 等分する。へらを使うときれいに折 れる。 定規 定規 資 料 資 料 資料を紙の右端にあわせる。定規を資料の左端に置いてしっかり押さえ、資料をはずし て竹べらで筋をつけ、紙の下から折り上げて折れ線をつける。その折れ線に資料をあわせ、 同様にもう 1 本の折れ線をつける。これで 4 本の折れ線ができる。 ③紙に切れ込みを入れる 資料を置く角にむかって、図のようにハサミか カッターで斜めに切れ込みを 4 箇所入れる。 この辺の 3 分の 1 あたりまで切れ込みをいれる。 ④切った部分を折る 切った部分をすべて内側に折る。しっかり折ると出来上がりがきれいになる。 谷折り線 2 ⑤資料の厚み部分を折る(この工程は薄手の紙の場合、省略可) 資料の厚さを定規ではかり、その数字に 1mm 足す。 中央四角の辺から「厚さ+1mm」を 4 箇所谷折りする。 折る部分に鉛筆で印をつけてもよい。へらで筋をつけ、紙 の下から折り上げるとしっかりきれいに折れる。 「厚さ+1mm」にすると出来上がりがきつくならない。 線に沿って谷折り ⑥表紙部分の端を折る 帙の十字のうち一番長い部分が自分の右手側にくるように置く。この部分が資料を包ん だときに表紙となる。資料を帙の中心に置き、図の番号の通り「下→上→左→右」の順で 包む。そうすると表紙が資料よりはみ出るので、資料の大きさより 1cm 内側に入るように 端を折る。 2 お も て 資 料 3 4 資料より1cm内側に折る 1 ⑦紐をつけて完成 紐の長さは 20cm 程度。 お まず表紙の天地の中心に紐をつけ、その位置にあわ も せて裏側にも同様に貼る。紐を縦結びにして完成。 て 3 簡易帙の作り方について * 今回は資料を紙に直接当てて作業しましたが、傷んでいる資料や貴重な資料は、何度も 資料に触らずに、最初にサイズをはかってそのサイズを元に作業した方が良いでしょう。 * はじめに資料に触れる部分(地から天へ折り返す部分)を、資料全面を覆う長さにして、 三角の折り返しも資料に当たらないよう外側へ折り返します。こうすると資料に当たる 面がフラットになり、より安心です。 * 簡単に済ませる場合は、紐は貼らずに巻きつけて結ぶだけでも良いでしょう。または表 紙の折り返しを余分に取り、裏まで包んで紐は使わない方法でも良いです。 簡易帙の使い方について * 傷んだ資料は、薄様紙に包んでから、簡易帙に入れるようにすると良いでしょう。 * 背や表紙にはタイトルや注意事項を書き込むことができます。 * 紐を縦結びにすると、書架に並べたときに結んだ部分が隣の資料にぶつかりません。 4