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広域バスネットワーク再構築に関わる論点整理(その2)
資料6 2014.09.26 吉 田 樹(福島大学) 広域バスネットワーク再構築に関わる論点整理(その2) 1.本ワーキングにおける議論の全体像 本ワーキングでは、これまで以下の 2 点について主に議論してきた。 ① 青森県内を運行する広域バス路線(4 事業者 109 路線=地域間幹線系統に関わらず複 数市町村に跨がる系統)の評価 【広域性・幹線性】広域の移動が主体の路線であるか(広域性) 、多くの乗客が利用 する路線であるか(幹線性)の観点から、サービスの確保・維 持に対する責任分担(リスク)について、より広域行政の責務 が大きいと相対的に判断される路線を明らかにする。 【事業性・生産性】路線の経営改善(再編、集客性向上)を実施する優先順位が相 対的に高いと判断される路線を明らかにする。 【機能性】運行されないとアクセスできる生活関連施設(二次医療圏を考慮した主 な病院、高等学校)等が制約される路線を抽出する。 ② 広域バス路線に関する「拠点」の設定 「一次拠点」「二次拠点」「三次拠点」と、ゲートウェイ(空港、新幹線駅等)を含め た「目標とするサービス水準(→下表) 」の設定 2.議論と政策とのリンケージ これまでの議論(拠点の設定と広域バス路線の評価)に基づき、今後検討されるべき青 森県における広域バス路線の面的な再構築に向けた政策指針は、a)~c)に整理することが できると考えられる。このうち、b)と c)については、本年 11 月に施行予定の地域公共交 通活性化・再生法の一部改正で創設される「地域公共交通再編事業」の活用が有効とな り得る。 広域性・幹線性評価 ① 事業性・生産性評価 機能性評価 a) 路線の維持に対する責任(リス ク)分担の明確化 b) 路線網の効率化に基づく面的な ネットワーク再構築 ② 拠点の設定 目標サービス水準 c)「おでかけ品質」の確保に基づく 面的なネットワーク再構築 3.青森県における広域バス路線の面的な再構築に向けた視点 a) 路線の維持に対する責任分担の明確化 1. 広域性・幹線性が相対的に高い路線では広域行政の責務(リスク分担)が大きくなるこ とを踏まえれば、現行の「輸送量」の基準を用いて、輸送量基準 15 人、運行回数 3 回以 上の路線を引き続き対象とすることには一定の妥当性が認められる。 2. しかしながら、現在の青森県における広域バス路線の運行費補助要件は、国の基準に準 じている。国による地域間幹線系統の協調補助要件が撤廃された現状では、輸送量基準 を満たさなくても、県の文教政策や医療政策など、交通以外の政策方針(→活性化・再 生法の一部改正に謳われる「まちづくりとの連携」)により、当該路線がないと著しく活 動が制約される場合は、「補助対象に準じる路線(系統) 」として個別に判断できるしく みが存在してもよいのではないか。 3. 一方で、現行の輸送量制度では、平均乗車密度が低下しても運行回数を確保すれば要件 を満たすしくみになっている。そのため、平均乗車密度が 5.0 人を下回った場合の補助金 カット(いわゆる密度カット)が存在しており、広域行政と基礎的行政との責任分担が 図られることが意図されてきた。しかし、輸送量が 17 人を下回る路線について、平均乗 車密度と運行回数の関連を分析した結果、極めて強い負の相関が見られたことから、十 分な効果が得られているとは言いがたい半面、沿線市町村の財政負担も大きくなってい ることも課題である。 b) 路線網の効率化に基づく面的なネットワーク再構築 4. 事業性・生産性評価が最低(C 評価)である路線については、経営改善(再編、集客性 向上)を実施する優先順位が相対的に高いと判断されることから、改善のインセンティ ブが得られるしくみを構築する必要がある。 5. 例えば、事業性・生産性評価が C 評価の路線であり、県の運行費補助の対象になってい る場合は、一定期間(補助年限)を設け、その間に集客の向上や再編に向けた取り組み を実施してもらうことも一考である(但し、C 評価の要因が、退職金の一時的な増大な ど一時的なものである場合など、費用面にある場合は考慮が必要(過度な人件費抑制は 避けなければならない)) 。一方で、集客の向上や再編に向けた取り組みについては、事 業者や沿線自治体が連携して行うことが期待されるが、県の役割としては、専門家派遣 にとらわれず、県内や周辺の自治体担当者や他の事業者の実務的・実践的なノウハウが 共有できる場づくりを行うとともに、新たな取り組みを後押しする期限を区切った財政 支援制度の創設もインセンティブになると考えられる。 > 輸送量が少なく、かつ、事業性・生産性が著しく低い場合で、県の運行費補助の対象 となっているような場合は、補助期限を設け、現行の補助スキームのまま期限を迎え るか、それとも、経営改善スキームを活用するかの「選択」を事業者と沿線自治体に 委ね、経営改善スキームを選択した方が有利になるという発想 > 経営改善スキームについては、東京都(コミュニティバスの 3 年補助)や栃木県(実 証実験補助)などがある。但し、いずれも「見直し」をし続ければ期限が継続する設 計となっているが、「見直し」のたびに新規路線の改廃が生まれるという課題も。拠 点に基づく「安定した」ネットワークづくりの視点を加えることが必要。 c) 「おでかけ品質」の確保に基づく面的なネットワーク再構築 6. 拠点に基づくネットワーク(→拠点間を結ぶ路線、拠点と各市町村を結ぶ一経路)の構 築を促すしくみが必要。先述の経営改善スキームの「調整弁」として考える必要がある。 すなわち、経営改善の名の下に、ネットワークが機能しなくなることは避けなければな らず、拠点に基づくネットワークとして位置づけられる路線については、路線の廃止や 大規模な減便を促すのではなく、集客性の向上を図る取り組みを経営改善スキームとし て優先させるべきである。 > 拠点に基づくネットワークにフィットする路線(系統)が優先的に維持される。 7. 拠点間のサービス水準確保目標を達成するために、サービスの充実を戦略的に図るべき 路線(区間)が存在する。そのため、新たな補助スキームを設計するにあたっては、国 の財政支援制度(地域内フィーダー系統補助、地域協働推進事業、地域公共交通再編事 業(新設))の活用を促進し、国の制度では「手が届かない」範囲を県の事業でフォロー できるしくみが望ましいと考えられる。 8. 他方、青森県内の乗合バス事業者は、補助路線が多いことから、企業としての内部留保 が十分ではなく、新車投入をはじめ投資にネガティブにならざるを得ない実態にあるの ではないか。したがって、運行費以外の「投資的な」財政支援の考え方についても整理 し、バス産業の再生に寄与する事業・制度のあり方を議論していく必要がある。