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添削問題解答解説 総合問題 1 3月 一

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添削問題解答解説 総合問題 1 3月 一
専科 / Z-Study 解答解説編 / 古文・漢文 見本
※各コース・講座で共通問題を出題することがあります。
月
添削問題解答解説
総合問題1
問題
と さのかみ
次の文章を読み、あとの問に答えよ。
一
ぬさ
し
は
す
( 点)
さき
佐守殿の御船に、対面たまはるべきことありとて追ひ来たる」と、声あららかに言ふ。
「何事ぞ」と言へば、
「国を出でさ
ここに釣舟かとおぼしき木の葉のやうなるが散り来て、わが船に漕ぎ寄せ、苫上げて b出づる男、声を掛け、「前の土
とま
こ和泉の国」と、船長が聞こえ知らすにぞ、船の人皆生き出でて、まづ落ち居たり。うれしきこと限りなし。
夫婦は、国にて失ひしいとし子のなきをのみ言ひつつ、都に心馳さすれど、 3跡にも忘られぬことのあるぞ悲しき。「こ
は
で」と船長が言ふに、下りし所々はながめ捨てて、さる国の名覚えず、今はただ「和泉の国」とのみ唱ふるなりけり。守
ふなをさ
に 都 へ と、 朝 夕 海 の 神 に * 幣 散 ら し て * ね ぎ た い ま つ る。 船 の 中 の 人 々 こ ぞ り て * わ た の 底 を 拝 み す。
「*和泉の国ま
5
たがはずして、思ひの外に日を経るほどに、「海賊恨みありて追ひ a来」と言ふ。 2やすき心こそなけれ、ただたひらか
く。出船のほども、人々ここかしこ追ひ来て、酒、よき物ささげ来て、歌よみかはすべくする人もあり。 1船は、風のし
残り惜しみて悲しがる。民も、「昔より、かかる守のあらせたまふを聞かず」とて、父母の別れに泣く子なして、慕ひ嘆
かみ
紀貫之、土佐守にて五年の任果てて、承平それの年十二月それの日、都に参り上らせたまふ。国人の親しき限りは、名
1
40
3
ZLBJA1-Z1C1-01
舟に投げ入れたり。
はるさめ
(『春雨物語』より)
*幣=神に祈る時に奉るもので、麻・木綿・紙などを用いた。ここでは、旅の安全を祈ってまき散らしている。
5けしきよくて、
「八重の潮路をしのぎて、ここまで来たるは何事」と問はせたまへば、帯びたる剣取り捨てて、おのが
ごとくにわが船に飛び乗る。見れば、いとむさむさしき男の、腰に広刃の剣帯びて、恐ろしげなる眼つきしたり。貫之
ま へ ば、
「これは*いたづら事なり。しかれども波の上隔てては、声を風がとりて、かひなし。許させよ」とて、翼ある
追ひ来たるよ」とて、騒ぎたつ。貫之、船屋形の上に出でたまひて、「なぞ、この男、われに物言はんと言ふや」とのた
せしより追ひ来れど、 4風波の荒きに、え追はずして、今日なむ対面たまはるべし」と言ふ。「すは、さればこそ海賊の
10
15
注
ZLBJA1-Z1C1-02
(7点)
(7点)
(6点)
(5点)
(4点)
*ねぎたいまつる=祈願し申し上げる。
*わた=海。
*和泉の国=現在の大阪府の南西部。
*いたづら事=つ
まらないこと。ここでは、和歌など文学に関することを指す。
問一
傍線a ・bの動詞の(ⅰ)活用の種類(行を含む)と(ⅱ)活用形を、それぞれ記せ。
問二
傍線1の状況の説明として最適なものを次の中から選び、記号を記せ。 ア風が吹かないために、船を出発させることができないでいる。
イ順風が吹かないので、想定通りに船を進められず日数を費やしている。
ウ逆風が吹かないので、意外な思いで日を過ごしている。
エ風の流れにのって船を操作することができず、意外と苦労している。
問三
傍線2・5の意味として最適なものをそれぞれ次の中から選び、記号を記せ。
2
ア安心できないので
イ穏やかな気持ちではないが
ウ単純な気持ちでなかったが
エ平気ではいられなかったので
5
ア顔色を変えて
イ勇敢に立ち向かって
ウ体裁をうまくつくろって
エ機嫌のよい様子で
問四
傍線3とはどのようなことか。十五字以内で記せ。
問五
傍線4を口語訳せよ。
問六
海賊と思われる「男」の行為について、次の(ⅰ)(ⅱ)に答えよ。
(ⅰ)
「男 」が貫之のもとにやって来た目的として、どのようなことが考えられるか。最適なものを次の中から選び、
記号を記せ。 (6点)
出典
あいさつ
ア
人望も厚く立派な土佐守であった貫之に敬意を表し、丁重に別れの挨拶を述べること。
イ
土佐守在任中、貫之は海賊を厳しく取り締まっていたので、その報復をすること。
ウ
歌人として名高い貫之に、歌について教えを求めたり、歌の話をしたりすること。
エ
大荒れの海上で、自分の乗っている小舟では遭難しそうなので、助けを求め保護してもらうこと。
重要表現
ほうとうろうぜき
※太字の意味が、文中で使われている意味です。
れた実在の武将、文屋秋津である、と言われている。
ふんやのあき つ
なお、この話の末尾では、この「海賊」が放蕩狼藉のため京を追わ
とにある。
(ⅱ)
(ⅰ)の目的が偽りではないことの客観的な裏づけとなる箇所を、文中から二十五字以内で抜き出して記せ
(句読点等も一字として数える)。 (5点)
よみほん
か
ℓ1果つ
①終わる・なくなる
②死ぬ
③[動詞の連用形に付いて]すっかり……する・し終
わる
ℓ2かかる(斯かる ) このような
そう じょう へん じょう
の変をとりあげ、
「天津処女」では僧 正 遍 昭 を主人公にするなど、
⇒
「長目」が語源で、注意して見るのではなく、焦点を定め
ずにぼんやりと見る意に用いる。
なが め
参考
前後 に 和 歌 や 漢 詩 に 関 す る 記 述 が あ る 際 は、「 詠
む」で〈詩歌を詠む・吟じる〉意を表す場合が多い。
なが
② 遠くを見る・見渡す
いずれも古典文学や史実から題材を採った、短編歴史小説とも言える
ものである。
問題文は、
「海賊」の冒頭部分。紀貫之が土佐守としての任期を終
え、京に帰る船旅の様子を記した『土佐日記』の世界が描かれている
一節である。
『土佐日記』に関する文学的知識が多少なりともあれば、
読解の助けになっただろう。ポイントは、設問にもあるとおり、貫之
夫婦の心境と、海賊が貫之の船を追ってきた目的を正しく読み取るこ
ℓ6ながむ(眺む ) ①長い 間 ぼ ん や り 見 て い る・ も の 思 い に ふ
ける
あま つ を と め
加筆が重ねられた。十巻から成り、たとえば「血かたびら」では薬子
くす こ
一八〇八(文化五)年に成立し、秋成が没する翌一八〇九年まで訂正
『春雨物語』は、上田秋成の最後の創作と言われている読本である。
解説
出題の都合から一部改変した箇所がある。
『春雨物語』
「海賊」
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ℓ
ながめ
参考 「眺む」の名詞形「眺め」と「長雨」との掛詞は頻
出である。
かひなし
①効き目がない・むだである
②取るに足りない
参考 「かひなくなる」は「死ぬ」の婉曲的な表現として
用いられる。
い
い
さまざまな語と結びついてサ変複合動詞を作る場合がある)。
を
はべ
・ナ行変格活用は「往(去)ぬ」
「死ぬ」の二語のみ。
・ ラ 行 変 格 活 用 は「 あ り 」
「居り」「侍り」「いまそかり(いまそ
がり)」の四語のみ(ただし、「あり」はさまざまな語と結びつ
いてラ変複合動詞を作る)。
づ・づる・づれ・でよ」と活用する。「出づる」は下に体言「男」が
b はダ行下二段活用の動詞「出づ」。ダ行下二段活用は、「で・で・
問一
a は カ 行 変 格 活 用 の 動 詞「 来 」。 カ 行 変 格 活 用 は、「 こ・ き・
続いているところからもわかるように、連体形である。なお、下二段
く
く・くる・くれ・こ(よ)
」と活用するので、送り仮名がつかない漢
け
の形がエ(e )段になれば、下一段活用
⇒
う
下二段活用。
こころ う
下一段活用は「蹴る」のみなので、それ以外はすべて下二段
活用。
ところ う
所 得)。
ふ
う
ぬ
す
思いがけなく日数が経過する〉となる。ここで言う〈意向〉とは、直
問二
傍線部を直訳すると、
〈船は、風が意向どおりにならなくて、
く、終止形は漢字一文字で示される。
・下二段活用の「得」「経」「寝」の三語は語幹と語尾の区別がな
う
・ワ行下二段活用は「植う」「飢う」
「据う」の三語のみ。
う
・ ア 行 下 二 段 活 用 は「 得 」 と そ の 複 合 動 詞 の み([ 例 ] 心 得・
・打消の助動詞「ず」を付けて未然形を作った際、未然形の語尾
●下二段活用の動詞 ●
活用の動詞については、次の点を覚えておこう。
で、終止形か命令形。内容を考えてみると、ここは、船中の人々が言
った言葉であると考えられるので、これらの人々が海賊に向かって、
みありて(=恨みがあって)
」にうまくつながらない。つまり、人々
は〈海賊が追ってくるぞ〉と言っているわけだ。よって命令形ではな
く終止形となる。変格活用は数が限られているので、活用も含め、必
ず覚えておくこと。
●変格活用の動詞 ●
く
・カ行・サ行・ナ行・ラ行には、変則的な活用(=変格活用)を
する動詞がある。
・カ行変格活用は「来」一語のみ(ただし、「出で来」などカ変
複合動詞を作る場合がある)。
・サ行変格活用は「す」
「おはす」の二語のみ(ただし、「す」は
or
られる。もっとも、ここでは会話文の文末で係り結びもしていないの
字一字の「来」は、未然形・連用形・終止形・命令形の四種類が考え
13
〈追って来い〉などと命令することは普通あり得ないし、直前の「恨
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うだ)
。ウは「逆風が吹かない」とあるのが間違い。エは「風の流れ
たのである(具体的には、土佐の国から京まで五十五日間を要したよ
いということである。そのために、船旅に予想外の多くの日数を要し
にならないとは、船が進むのを助けてくれる風、つまり順風が吹かな
〈早く都に着きたい、という意向〉と言える。よって風が意向どおり
後の一文にある「ただたひらかに都へ」(ℓ4・5)などの記述から、
「けれ(けり)」の意はない)
。また、「やすき(やすし)」は、
「易し」
る(「な/けれ」と単語を分けることはできないので、過去の助動詞
節は「なけれ」。「なけれ」は、ク活用の形容詞「なし」の已然形であ
という逆接の意になる(逆接強調)
。傍線部では、「こそ」の結びの文
が終止しないで後につながっていく場合は、〈〜だが、しかし……〉
る。また、「こそ〜已然形、……」というように、結びの已然形で文
「安し」=〈やすらかだ・穏やかだ・安心だ〉の意でとらえるべき。
=〈平易だ・手軽だ〉の意もあるが、ここは「やすき心」とあるので、
吹かないという点は押さえているが、そのために船がまだ出航できな
よって、傍線部全体としては〈穏やかな気持ちではないが〉といった
にのって」が順風が吹かないという状況に合わない。一方、アは風が
いでいるという解釈である。しかしそうだとしたら、この後の記述に
った後で、ここが和泉の国だと船長が知らせる記述がある。船はいつ
対して人々が祈り、船長が和泉の国まで無事に行き着いてほしいと言
海賊が〈追って来る〉というのはおかしな表現である。また海の神に
かけたところ、海賊は「これはいたづら事なり。……」と言って、貫
小さな船で漕ぎ寄せて来た海賊に向かって、貫之が〈何事か〉と呼び
どの意味が適切であるかを判断するため、文脈を見ていく。ここは、
5「けしき(気色)
」には、
〈顔色・様子・機嫌〉などの意味がある。
意味になる。正解はイ。
のまにか和泉の国に着いているのである。そこで、傍線部の解釈にお
之ら一行の船に飛び移って来たという場面である。ここで海賊は、自
を「隔てて」離れた場所では、風に遮られて思うように話すことがで
いても、すでに船は出航していると考えるのが適切。したがって正解
なお、貫之の時代の船旅は天候の良し悪しに大きく影響され、『土
きないから、というので、貫之のそばに寄ったのである。そして、こ
分の用事は「いたづら事(=文学に関すること)」であり、
「波の上」
佐日記』の中にも、港に船が停泊したままなかなか出発できず、人々
れを受けて貫之は、
「 八 重 の 潮 路 を し の ぎ て、 こ こ ま で 来 た る( = 幾
ために異なる活用形になっている場合(結びの流れ)などの例外があ
る場合(結びの省略)や、結びの語が次の文節にそのまま続いている
の結びは原則として已然形になるが、結びの語を含む文節が省略され
問三
2係助詞「こそ」があるので、係り結びに注意する。「こそ」
ら に 対 話 を 深 め よ う と し て い る の だ と 見 る こ と が で き る。 す る と、
って来たという海賊の言葉を聞いて、海賊に対する警戒心を解き、さ
件を問うている。つまり、ここで貫之は、「いたづら事」のためにや
って来た)」という海賊の労苦に思いを致しながら、改めて海賊に用
重にも重なる[ほど、はるばる遠い]海路をかき分けて、ここまでや
がいら立つ様子が記されている。
はイ。
「海賊恨みありて追ひ来」とあるのが不自然。港に停泊している船を
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「けしき」を〈機嫌〉の意でとらえ、傍線部は〈機嫌よく(=機嫌の
よい様子で)
〉と解釈できる。正解はエ。
詞となり、同じく接続助詞である「て」と同じ働きをして、ここでは
単純に下に続いていく用法である。改めて内容を確認すると、この傍
線部は海賊のせりふの中にあり、それは貫之を追いかけて来た海賊が
ようやく貫之の船に近づいたところで発した言葉である。したがって、
「え追はずして」は、状況を考慮して、〈追うことができなくて〉より
問六
(ⅰ)まず、海賊自身の言葉として「対面たまはるべきことあ
も〈追いつくことができなくて〉と訳す方がよい。
土佐を指す。
「忘られぬこと」の「れ」は助動詞「る」の未然形で、
)、「これはいたづら
り(=対面していただきたいことがある)
」(ℓ
)とある。つまり海賊は問三の5で見たように、和歌
に関する用件で貫之に会いたがっていることがわかる。したがって、
) と あ る こ と( ⅱ ) な ど
イ文中の「海賊恨みありて追ひ来」は人々の推測による発言に過ぎ
ず、海賊が「帯びたる剣取り捨てて」(ℓ
から考えれば、不適切と言える。アの「別れの挨拶を述べる」やエの
いるのである。このことを答えればよい。
なお、そうした貫之の心情は『土佐日記』の中にも散見でき、京の
「 助 け を 求 め 保 護 し て も ら う 」 は、 海 賊 自 身 も そ の よ う な こ と は 言 っ
ておらず、他の箇所においても関連する記述がないので、不適切。
ができない〉という状況の理由にあたるので、接続助詞「に」は順接
う意味になる。
「風波の荒き(=風と波が荒い)」は、この〈追うこと
意を表す。したがって「え追はず」で、〈追うことができない〉とい
す語(ここでは打消の助動詞「ず」の連用形)と呼応して、不可能の
問五
ポイントは、呼応の副詞「え」の用法。「え」は打消の意を表
り」とある。海賊が身につけていた剣を外して、海賊自身の舟に投げ
っていくと、末尾に「帯びたる剣取り捨てて、おのが舟に投げ入れた
( ⅱ ) で 問 わ れ て い る も の で あ る。 そ の よ う な 観 点 か ら 問 題 文 を た ど
い の か、 見 極 め る 必 要 が あ る。 そ れ が「 客 観 的 な 裏 づ け 」 で あ り、
信じるに足るものか、それとも貫之の船に近づくための口実に過ぎな
賊〟といえば、船を襲撃し、金品を奪い取る者だから、海賊の言葉は
( ⅱ )( ⅰ ) の よ う な 目 的 だ と 海 賊 が 言 っ て は い る が、 一 般 に〝 海
の用法で、原因・理由を表すと判断できる。「して」は一語で接続助
みが、日記の終末部まで書き連ねられている。
自宅に帰ると改めて子供のことが思い出され、子を亡くした親の悲し
15
子のなき」と結びつくだろう。貫之は土佐の国で愛する娘を亡くして
は〈忘れることのできないこと〉の意となる。土佐において「忘られ
事なり」(ℓ
10
最適なのはウ。
13
ぬこと」と言えば、傍線部の前に記されている「国にて失ひしいとし
ので、打消の助動詞「ず」の連体形。したがって、「忘られぬこと」
ここは可能〈……できる〉の意。「ぬ」は体言「こと」に続いている
と対応させて考えるとよい。
「跡」とは貫之が去ってきた土地である
問四
直前の「都に心馳さすれど(=都に心をはしらせるけれど)」
し、貫之は海賊を相手に心ゆくまで和歌の話をしている。
ちなみに、問題文に続く箇所で、海賊が貫之に和歌に関する質問を
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明らかにした行動だと言える。つまり、先の海賊の言葉に嘘がないこ
入れたのであり、それは、海賊が貫之に危害を加える気がないことを
上ない。
(たような心地がし)て、とにかく落ち着いた。うれしいことはこの
の 国 だ 」 と、 船 長 が 知 ら せ 申 し 上 げ る と、 船 の 人 々 は み な 生 き 返 っ
とま
ここで釣舟かと思われる木の葉のような小舟がやって来て、貫之の
とを、海賊自身が身をもって証明して見せたのである。したがって、
字数条件に合わせて「帯びたる剣」以下を抜き出せばよい。
船に漕ぎ寄せて、苫(で編んだ覆い)を持ち上げて出て来た男が、声
散らして捧げ、祈り申し上げる。船の中の人々は皆そろって(海神が
けれど、ただ無事に都へ(着いてほしい)と、朝夕海の神に幣をまき
人々が)
「海賊が恨みを抱いて追いかけて来る」と言う。不安である
かないので、思いがけなく日数が経過するうちに、(舟に乗っている
来て、
(貫之と)歌を詠み交わそうとする人もいる。船は、順風が吹
人々があちらこちらに追って来て、酒や(肴の)よい物を差し上げて
別れに泣く子供のような様子をして、恋しがって嘆く。船出の時も、
い)国司がいらっしゃるということを聞かない」と言って、父母との
惜 し ん で 悲 し が る。 一 般 民 衆 も、「 昔 か ら、 こ の よ う な( す ば ら し
某日に都へ参上なさる。土佐の国の人で親しい人たちはみな、名残を
紀貫之は、土佐守としての五年の任期が終わって、承平某年十二月
子で、「はるばる遠い海路を堪え忍んで、ここまで来たのは何事だ」
の剣を着けて、恐ろしそうな目つきをしている。貫之は機嫌のよい様
に飛び乗る。見ると、たいそう毛むくじゃらの男が、腰に幅の広い刃
しあれ」と言って、
(海賊は)翼があるように(ひらりと)貫之の船
ども波の上を隔てていては、風が声をじゃまして話にならない。お許
とおっしゃると、「話というのはつまらぬ(=和歌の)ことだ。けれ
お出になって、「何事だ、この男は、私に何か言いたいと言うのか」
たことよ」と言って、
(人々は)騒ぎ出す。貫之は、船の屋形の上に
にかからせていただきたい」と言う。「そら、やはり海賊が追って来
れど、風や波が荒いので、追いつくことができなくて、今日こそお目
と、「(前の土佐守殿が)土佐の国をお出になった時から追って来たけ
ことがあって追って来た」と、声も荒々しく言う。
「何事だ」と言う
をかけて、「前の土佐守殿のお船に、お目にかからせていただきたい
いらっしゃるという)海の底を拝む。「和泉の国まで(なんとかして
とお尋ねになると、(海賊は)腰につけていた剣を取って、自分の舟
全訳
無事に着いてほしい)
」と船長が言うので、(土佐へ)下った時(途中
に投げ入れた。
した土佐の国)に忘れられないことがあるのが悲しい。「ここが和泉
ことだけを繰り返し口にしては、都に心をはしらせるけれど、後(に
あと
た。国司(=貫之)夫婦は、土佐の国で亡くしたかわいい子がいない
名も思い起こさず、今はひたすら「和泉の国」とだけ唱えるのであっ
さかな
に見た思い出)の場所は見渡す暇もなく見捨てて、そのような国々の
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解答
問一
a (ⅰ)カ行変格活用
(ⅱ)終止形
問二
イ
問三
2イ
5エ
問四
愛する子供を土佐で失ったこと。 問五
風や波が荒いので、追いつくことができなくて
問六
(ⅰ)ウ
(
字)
(ⅱ)帯びたる剣取り捨てて、おのが舟に投げ入れたり( 字)
15
b(ⅰ)ダ行下二段活用
(ⅱ)連体形
ZLBJA1-Z1C1-08
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