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2 - 講義用WWWサーバ
2006 年度数学 IA 演習補足解説
理 I 6, 7, 8, 13, 14, 15 組
7 月 31 日 清野和彦
前書き
このプリントの目的は、第 7 回で取り上げた「平均値の定理とその応用」の続
きとしてテイラー近似・テイラーの定理・テイラー展開について説明することで
す。講義では扱われていない内容も含みますので、参考程度に気楽に読んでいた
だけたらと思います。
目次
1
テイラー近似・定理・展開についての粗筋
2
2
テイラー近似多項式
5
2.1 多項式と微分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5
2.2 結論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9
2.3 テイラー近似多項式の定義と例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10
3
近似の意味
3.1 テイラー近似の特徴付け . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3.2 証明 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3.3 応用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
4
近似の一意性と微分
18
4.1 積のテイラー近似多項式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20
4.2 合成関数のテイラー近似多項式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21
4.3 計算問題への応用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23
5
剰余項の表示:極限から誤差へ
5.1 ラグランジュ表示:ロピタルからコーシーへ
5.2 積分表示:微積分の基本定理の視点から . .
5.3 「重み付き」の積分の平均値定理 . . . . . .
5.4 剰余項のさまざまな表示 . . . . . . . . . . .
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11
11
13
17
25
26
28
31
33
2
テイラー展開
6
剰余項の表示の応用
34
6.1 e の近似 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 35
6.2 sin x の近似 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 36
6.3 他の応用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 39
7
テイラー展開
40
7.1 テイラー級数とテイラー展開の定義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 40
7.2 テイラー展開可能であることを示すには . . . . . . . . . . . . . . . 42
8
よく知られた関数のテイラー展開
8.1 多項式 . . . . . . . . . . . .
8.2 指数関数と三角関数 . . . .
8.3 対数関数 . . . . . . . . . . .
8.4 二項展開 . . . . . . . . . . .
9
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44
44
45
47
53
55
C ∞-級という性質とテイラー展開可能性
9.1 テイラー展開不可能な関数とは . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 55
9.2 テイラー級数は収束するが元に戻らない例 . . . . . . . . . . . . . . 55
9.3 テイラー級数が級数として収束しない例 . . . . . . . . . . . . . . . 57
57
10 テイラー展開の応用
10.1 オイラーの公式:テイラー展開に複素数を入れる . . . . . . . . . . 57
10.2 定数係数斉次線型常微分方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 59
1
テイラー近似・定理・展開についての粗筋
前回までの話は 1 階微分や 1 階導関数についての話でした。
「いや、ロピタルの
定理による極限の計算で何回も微分した」と思うかも知れません。そのとおりで
す。そしてそれが(このプリントにおける)
「テイラー (Taylor) 近似」というもの
の始まりです。
関数 f(x) と自然数 k に対して f (k) (x) で f(x) の k 階導関数を表します。つま
り f (1) = f , f (2) = f , f (3) = f , . . . ということです。また、f (0) = f と定義
します。微分可能な関数は連続でもあることを思い出すと、f (k+1) (x) の存在する
関数の f (k) (x) は連続となります。f (k+1) (x) が存在しない場合 f (k) (x) は必ずしも
連続ではないのですが、たとえ f (k+1) (x) が存在しない場合でも f (k) (x) が連続な
らいろいろと細かいことを気にせずに議論できるようになるメリットがあります。
そこで、次のような言葉を用意しましょう。
3
テイラー展開
C k 級関数の定義
関数 f(x) が k 階微分可能で k 階導関数 f (k) (x) が連続なとき、f(x) は C k
級関数であると言う。また、f(x) が何回でも微分可能なとき、f(x) は C ∞ 級
関数であると言う1 。
テイラー展開は C ∞ 級関数でしか意味をなさない概念ですが、テイラー近似や
テイラーの定理は途中までしか微分可能でなくても意味をなす話です。だから、関
数の高階微分可能性についての条件をどこまでゆるめられるかという微妙な問題
がついて回ることになるのですが、そこにこだわると話の流れが見難くなってし
まうので、関数はすべて C ∞ 級関数とし、C n 級関数については注意で触れるこ
とにします。
これから「テイラー近似・テイラーの定理・テイラー展開」について説明して
行きます。一般にこの話題は
関数 f(x) と、f(x) の n 階までの微係数から作ったある多項式との差
が f (n+1) (x) を使った式で書ける
という述べ方をされる「テイラーの定理」をいきなり突きつけられてはいおしま
いというのが普通なようです。しかし、この定理は多くのことを簡潔に述べてい
る定理で、その意味するところを酌み取るのは容易ではありません。
そこで、このプリントでは
(1) もとの関数と「ある多項式」との関係、
(2) もとの関数から「ある多項式」を引いた差の表示、
(3) 「ある多項式」の次数を無限大にとばすことができるかどうか、
という順で節を分けて説明して行きます。
もう少し詳しく説明しましょう。
まず、(1) について。関数 f(x) と x = a について、f (a) という値は y = f(x) の
グラフの (a, f(a)) における接線の傾きでした。接線というのは、大雑把に言うと
直線の中で点 (a, f(a)) において y = f(x) のグラフに一番似ている
もの
というものです。
(「一番似ている直線」がただ一つに決まることが f(x) が x = a
で微分可能なことに対応しているわけです。)一方、直線というのは 1 次式のグラ
「2
フです。そこで、
「直線の中で」すなわち「1 次式の中で」という制限を緩めて、
次式の中で」、「3 次式の中で」、、、「n 次式の中で」一番似ているもののことを
1
「C k 級」は「しーけーきゅー」、「C ∞ 級」は「しーいんふぃにてぃーきゅー」と読みます。
4
テイラー展開
x = a における f(x) の n 次のテイラー近似多項式
と呼ぶことにします。
(正確な定義は後の節でします。)この「似ている」という言
葉は、接線を雛形としており、接線は微分の定義とほとんど同じであることから、
x → a としたときの振る舞いが似ている
という意味で解釈されるものです。(正確には後の節で説明します。)ここまでが
(1) の内容です。
次に、(2) について。(1) で得られた n 次のテイラー近似多項式のことを pn (x)
と書くことにしましょう。pn (x) は x → a としたとに f(x) と振る舞いが「似てい
る」わけですが、では x → a とせずに a ではない x について pn (x) と f(x) はど
のような関係にあるのでしょうか。これを知るということは、f(x) と pn (x) の差
Rn+1 (x) := f(x) − pn (x)
を知るということと同じです。ところが、f(x) は与えられた一つの関数ですが、
pn (x) は n 次(以下の)多項式ですので、n+1 個の項を持つわけですから、Rn+1 (x)
は n + 2 個の項を持つ汚い関数です。だから、このままでは Rn+1 (x) について調
べることは絶望的と言ってよいでしょう。そこで、(2) で何をするかというと、
Rn+1 (x) を一つの式で表す
表示方法について考えます。具体的には f (n+1) (x) を使って表示します。この結果
は「平均値の定理の一般化」とも「微積分の基本定理の繰り返し」とも解釈でき
る内容になっており、このプリントでは両方の面から説明します。
最後に、(3) について。pn (x) には (2) で考えた「x を動かす」という面の他に「n
を増やす」という面もあります。(2) で Rn+1 (x) の表示を得たことにより、x = a
における f(x) と pn (x) の差、つまり pn (x) が f(x) を(普通の意味で)近似して
いる「近似の度合い」がある程度分かるようになりました。そこで、(3) では、
x を決めたとき、n を大きくすると pn (x) の f(x) を近似する度合いは
よくなるのか
ということ、極限の言葉を使えば、
x を決めたとき lim pn (x) = f(x) は成り立つのか
n→∞
ということについて考えます。その結果、指数関数や三角関数のようによく使う
関数はこれが成り立つという嬉しい結果と、任意の C ∞ 級関数についていつもこ
れが成り立つわけではないというちょっと面倒くさい結果が得られます。
以上がこれから後の部分の話の流れです。プリントを読み進めて何をしたいの
か分からなくなったらこの節に戻って「自分の立っている場所」を確認してみる
とよいかも知れません。
5
テイラー展開
2
テイラー近似多項式
2.1
多項式と微分
よくご存じのように、n 次多項式(で表される関数)は相異なる n + 1 個の x
での値を与えれば決まります。たとえば p(1) = 3, p(2) = 8, p(3) = −1 を満たす 2
次以下の多項式は
p(x) = 3
(x − 2)(x − 3)
(x − 3)(x − 1)
(x − 1)(x − 2)
+8
−1
(1 − 2)(1 − 3)
(2 − 3)(2 − 1)
(3 − 1)(3 − 2)
= −7x2 + 26x − 16
というものただ一つに決まってしまいます。このように、多項式は有限個の点で
の値を決めれば決まってしまうような、とっても自由さの少ない関数です。
一方、微分というものは、ある x での値だけでは計算することはできません。
どんなに狭くてもよいから幅を持った区間での振る舞いを見ないと計算すること
ができないのです。多項式は有限個の点での値でさえすべてが決まってしまうの
ですから、微分が先に決まっていれば当然決まってしまうでしょう。そこでこの
節で、注目する点 x = a を決めたときそこでの高階微分でどのように多項式が決
まるかをはっきりさせておきましょう。
I を開区間、n を自然数とする。I 上の関数 f(x) が f (n+1) = 0 (つまり値が
0 の定数関数であるということ)を満たすことと、f(x) が n 次以下の多項式
であることは同値である。
証明. まず n 次以下の多項式の n + 1 階導関数は恒等的に 0 であることを示しま
しょう。f(x) を n 次以下の多項式、
f(x) = c0 + c1 x + c2 x2 + c3 x3 + · · · + cn xn
とします2 。すると、
f (x) = c1 + 2c2 x + 3c3 x2 + · · · + ncn xn−1
f (x) = 2c2 + 6c3 x + · · · + n(n − 1)cn xn−2
f (n−1) (x) = (n − 1)!cn−1 + n!cn x
f (n) (x) = n!cn
f (n+1) (x) = 0
2
前にも注意したように、後々 n → ∞ の極限を考えるという方向に話が進んで行きますので、
それを見越して定数項の方を先に書く「昇冪の順」を使うことにします。
6
テイラー展開
となって f (n+1) (x) は恒等的に 0 となります。
逆を考えましょう。微積分の基本定理により、任意の関数 g(x) とその導関数 g の間には、
x
g(x) = g(a) +
g (t)dt
a
という関係があることを思い出して下さい3 。
(ただし a は g(x) の定義域である開
区間 I の中に一つ勝手に決めた実数、x は I に含まれる任意の実数です。)これ
を n + 1 回繰り返して使います。まず、I 内の任意の x に対して f (n+1) (x) = 0 な
のだから、f (n) (x) は
x
(n)
(n)
f (x) = f (a) +
f (n+1) (t)dt
a x
= f (n) (a) +
0dt
a
=f
(n)
(a)
となって定数関数です。(f (n) (a) と書くと関数みたいに見えるかも知れませんが、
a は一つとって決めてあるのですから、f (n) (a) は x に依らない定数です。)これ
をもう一度積分すると、
x
(n−1)
(n−1)
f
(x) = f
(a) +
f (n) (t)dt
a x
f (n) (a)dt
= f (n−1) (a) +
=f
(n−1)
(a) + f
a
(n)
(a)(x − a)
となります。さらにもう一度積分すると、
x
(n−2)
(n−2)
f
(x) = f
(a) +
f (n−1) (t)dt
a x
(n−1)
= f (n−2) (a) +
(a) + f (n) (a)(t − a) dt
f
a
= f (n−2) (a) + f (n−1) (a)(x − a) +
f (n) (a)
(x − a)2
2
となります。これを n + 1 回繰り返すと、
x
f(x) = f(a) +
f (t)dt
a
x
f (n) (a)
n−1
(t − a)
f (a) + f (a)(t − a) + · · · +
dt
= f(a) +
(n − 1)!
a
f (a)
f (n) (a)
2
(x − a) + · · · +
(x − a)n
= f(a) + f (a)(x − a) +
2
n!
3
積分については高校で学んだことをそのまま認めて使って行きます。
7
テイラー展開
が得られます。
(これは x − a についての n 次以下の多項式になっていますが、各
k
(x − a) を展開して整理し直してももちろん n 次以下の多項式であることに変わ
りありません。)これで f(x) が n 次以下の多項式であることがわかりました。 □
細かいこと. 「f (n+1) = 0 なら f (x) は n 次以下の多項式である」という方の証明に微積
分の基本定理
b
g (x)dx = g(b) − g(a)
a
を使うのがしっくりこない人は次のように考えてください。(実質的には同じ内容です。)
まず、
導関数が 0 である関数は定数関数のみ
ということを思い出して下さい。
(平均値の定理を使って証明するのでした。)g(x) を g = 0
を満たす関数とします。すると、平均値の定理
g(b) − g(a) = g (c)(b − a) となる c が存在する
において、g (c) = 0 ですので、g(b) = g(a) となります。つまり、g(x) は定数関数です。
これを使って「f (n+1) = 0 である f (x) は n 次以下の多項式」を示しましょう。
f (n) (x) は一回微分すると 0 になってしまうので、上で示したように定数関数です。
f (n) = cn
としましょう。
(もちろん、cn = f (n) (a)(a は定義域 I 内の任意の実数)ですが、見た目
が汚くなるので f (n) (a) とは書かずに cn と書いたまま進めます。)
f (n−1) (x) は微分して定数関数 cn になる関数ということになります。そのような関数
として cn x というものがあります。そこで、f (n−1) (x) と cn x の違いを調べるために、
f (n−1) (x) − cn x を微分して見ましょう。すると、
f (n−1) (x) − cn x = f (n) (x) − cn = cn − cn = 0
となって、f (n−1) (x) − cn x が定数関数であることがわかります。よって、その定数を cn−1
とすれば、
f (n−1) (x) = cn−1 + cn x
となります。
ということは、f (n−2) (x) は微分して一次関数 cn−1 + cn x になる関数です。そのような
関数として cn−1 x + c2n x2 という関数があります。f (n−2) (x) とそれの違いを調べるために
差を微分してみましょう。すると、
cn = f (n−1) (x) − (cn−1 + cn x)
f (n−2) (x) − cn−1 x + x2
2
= (cn−1 + cn x) − (cn−1 + cn x) = 0
となって、これが定数関数であることがわかります。その値を cn−2 とすれば、
f (n−2) (x) = cn−2 + cn−1 x +
cn 2
x
2
8
テイラー展開
となります。
この作業を n + 1 回繰り返せば、
f (x) = c0 + c1 x +
c2 2
cn
x + · · · + xn
2
n!
となることがわかります。★
上の証明の後半で、f (n+1) = 0 となる関数が n 次以下の多項式であることがわ
かっただけでなく、それを x−a の多項式に整理したときの k 次の係数が f (k) (a)/k!
だということまでわかってしまいました。だから f (k) (a) の値を与えられた値 ak
になるようにするには、各係数を ak /k! とすればよいことがわかります。このこ
とは大変重要ですので、もう一度はっきりと意識するために重複をいとわず証明
しましょう。ただし、余計な複雑さを避けるために a = 0 の場合で考えます。上
の証明も、ごちゃごちゃしてわかりにくいと感じたら、I が 0 を含むことにして
a = 0 で書き直してみると、積分を繰り返すたびに一つずつ多項式の次数が上がっ
て行く様子がよりよく見えるかも知れません。
n を自然数とし、a0, a1, . . . , an を n + 1 個の実数とする。n 次以下の多項式
pn (x) で
p(k)
n (0) = ak
k = 0, 1, . . . .n
を満たすものは
pn (x) = a0 + a1x +
a2 2 a3 3
an
x + x + · · · + xn
2
3!
n!
ただ一つである。
証明. 求める多項式 pn (x) を
pn (x) = c0 + c1 x + c2 x2 + · · · + cn xn
とおきましょう。要求されている条件は
p(k)
n (0) = ak
k = 0, 1, . . . , n
でした。これを k = 0 のときから順に考えていきましょう。
p(0) = c0 + c10 + · · · + cn 0n = c0
なので、k = 0 のときの条件は
c0 = a 0
9
テイラー展開
と同値になります。また、
p (x) = c1 + 2c2 x + · · · + ncn xn−1
なので k = 1 のときの条件は
c1 = a 1
と同値になります。さらに、
p (x) = 2c2 + 6c3 x + · · · + n(n − 1)cn xn−2
なので、k = 2 のときの条件は
c2 =
a2
2
と同値になります。このように、n 以下の k に対して
p(k)
n (0) = k!ck
なので、条件は
ck =
ak
k!
と同値になります。よって、条件を満たす多項式はただ一つだけあって、それは
pn (x) = a0 + a1 x +
a2 2
an
x + · · · + xn
2
n!
です。 □
式が煩雑になるのを避けるために x = 0 での k 階微分係数が ak と一致するこ
とを要求しましたが、もちろん x = a = 0 での k 階微係数が ak と一致する多項
式も同様にただ一つだけ具体的に決まります。その場合は多項式を xk で整理せず
に (x − a)k で整理しておけば完全に上の証明と同じ計算ができ、答は
pn (x) = a0 + a1(x − a) +
a2
an
(x − a)2 + · · · + (x − a)n
2
n!
となります。上で求めた多項式 pn (x) の x を x − a に取り替えただけのもの、つ
まり pn (x) を a だけ平行移動したものになるわけです。
2.2
結論
前小節の結果をまとめると、多項式と微分との間には次のような関係があると
いうことになるでしょう。
10
テイラー展開
x = a と 0 以上の整数 n を勝手にとり、そこでの値 a0、1 階の微分係数 a1、
2 階の微分係数 a2、…、n 階の微分係数 an を任意に与えると、それを実現し
「余計な情報」を含まない関数がただ一つ存在し、それは多項式で表される。
a に限らないすべての点での n + 1 階以上の微分係数がすべて 0 になっている
ということを「『余計な情報』を含まない」という言葉で表してみたわけです。多
項式は、
「x = a における高階微分係数の列 a0 , a1, . . . , an 」という目に見えな
い「無限小的」な情報を普通の関数の形で目に見える「大域的な」情
報に置き換えるのに最適な道具
だと言ってよいでしょう。
2.3
テイラー近似多項式の定義と例
多項式とは限らない普通の関数 f(x) が与えられたとき、前節の結果から、x = a
での n 階までの微分係数がすべて f (k) (a) と一致している n 次(以下の)多項式
がただ一つだけ存在し、具体的には
pn (x) = f(a) + f (a)(x − a) +
f (a)
f (n) (a)
(x − a)2 + · · · +
(x − a)n
2
n!
(1)
という多項式であることが分かります。そこで、
テイラー近似多項式の定義
多項式(1) を、点 a を中心とした f(x) の n 次のテイラー近似多項式と呼ぶ。
と定義します4 。
例を挙げる前に、まず指数関数や三角関数の x = 0 におけるテイラー近似多項
式の係数を調べておきましょう。調べるとは言っても n 回微分して x = 0 を代入
し n! で割るだけです。これらの関数は、
(ex ) = ex ,
(sin x) = cos x,
(cos x) = − sin x,
(log(1 + x)) = (1 + x)−1
など、任意の n に対する n 階微分が簡単に計算できるので、テイラー近似多項
式の係数は憶えるまでもなく必要なときにはすぐに計算できてしまいます。
(それ
に、これから先いろいろなところでしょっちゅう出会うので、憶えようとしなくて
も憶えてしまいますから安心して下さい。)結果は次の表のようになります。
4
いろいろな呼び名があるようです。
「このプリントではテイラー近似多項式と呼ぶことにする」
というふうに理解して下さい。ただし、そんなに標準からはずれた名前ではないので、普通は誰に
でも通じると思います。
11
テイラー展開
3
0次
1次
2次
3次
4次
5次
6次
7次
...
ex
1
1
1
2
1
3!
1
4!
1
5!
1
6!
1
7!
···
sin x
0
1
0
1
3!
0
1
5!
0
cos x
1
0
−
1
2
0
1
4!
0
−
log(1 + x)
0
1
−
1
2
1
3
1
4
1
5
−
−
−
1
7!
···
1
6!
0
···
1
6
1
7
···
−
近似の意味
前節の結論である
多項式は目に見えない微分係数の情報を見えるようにする道具
という視点からすると、テイラー近似多項式 pn (x) は、x = a における f(x) の
値、および 1 階から n 階までの微係数という目に見えない「無限小的」な情報だ
けを目に見える形に具体化してくれているということになりなります。
テイラー近似多項式 pn (x) はこれ以外に f(x) とどのような関係にあるのでしょ
うか。言葉を換えていえば、テイラー近似多項式の「近似」の意味を、「x = a で
の n 階までの微分係数が f(x) のものと一致する」という言い方ではなくもっと
直接的に特徴づけることはできないのでしょうか。
できます。つまり、高階微分の値をあらわに使わずに、ある多項式が a を中心
とした f(x) の n 次のテイラー近似多項式であるための必要十分条件を書くこと
ができます。それは「テイラー近似多項式における『近似の意味』」を明らかにす
る条件であると言うことができます。つまり、
「x = a における n 階までの高階微
係数がすべて一致するというのは実はこういう意味だったのだ」と言ってよい条
件ということです。あまりにも重要なので、小節を立てることにします。
3.1
テイラー近似の特徴付け
いきなり書きます。
12
テイラー展開
テイラー近似多項式の意味
n 次以下の多項式 pn (x) が x = a における f(x) の n 次のテイラー
近似多項式である、
すなわち
(k)
pn (a) = f (k) (a) が 0 以上 n 以下のすべての k について成り立つ。
すなわち
pn (x) = f(a) + f (a)(x − a) +
f (a)
f (a)
(x − a)2+
(x − a)3
2
3!
f (n) (a)
+ ··· +
(x − a)n
n!
であることと、
f(x) − pn (x)
=0
x→a
(x − a)n
lim
(2)
が成り立つことは同値である。
つまり、最後の式(2) の成り立つことがテイラー近似多項式の特徴付けだという
わけです。標語的には、
pn (x) が x = a における f(x) の n 次のテイラー近似多項式であると
は、x → a を考えるとき、f(x) − pn (x) が (x − a)n に比べて無視でき
るほど小さい
とか、
x → a のとき f(x) − pn (x) は (x − a)n より速く 0 に収束する。
とか、
x → a において f(x) − pn (x) は n 次より高次の無限小である
などと言います5 。
証明は次の小節にまわすことにして、もう少し「近似」という言葉の意味を考
えてみましょう。
「近似」と言ってもいろいろな意味をつけることができます。ある関数 ϕ(x)
が「関数 f(x) の近似である」と言っても、「大域的な近似」という意味でなら、
5
「高次の無限小」という言葉にははっきりした定義がありますがここでは導入しないことにし
ました。
13
テイラー展開
|f (x) − ϕ(x)| の最大値が十分小さいとか、あるいは、 |f (x) − ϕ(x)|dx が小さい
とかのほうが相応しいでしょう。しかし、ここでの近似は「局所的な近似」、もう
少し詳しく言うと「x が a に近付くときの関数の振る舞いが似ている」ことを「近
似」と言っているのです。
微分の定義式
f(x) − f(a)
= f (a)
x→a
x−a
lim
において、右辺を左辺に移項して通分すると、
f(x) − f(a) − f (a)(x − a)
=0
lim
x→a
x−a
となります。ということは、接線の式として皆さんもおなじみの
pn (x) = f(a) + f (a)(x − a)
という一次(以下の)式は、
x → a のとき、f(x) と pn (x) の差が x − a に比べて無視できる
という 1 次のテイラー近似多項式だと言えるわけです。
つまり、x = a における n 次のテイラー近似多項式とは、
y = f(x) のグラフと x = a のところで n 重に接する多項式
とも言えるのです。
3.2
証明
見た目の複雑さを避けるために、a = 0 の場合で証明します。
まず、pn (x) が x = 0 を中心とした f(x) の n 次のテイラー近似多項式ならば
f(x) − pn (x)
=0
x→a
xn
lim
が成り立つことを証明しましょう。
極限を考えたい式の分子、分母とも
lim (f(x) − pn (x)) = f(0) − p(0) = 0
x→0
lim xn = 0n = 0
x→0
14
テイラー展開
となっているので、問題の極限はいわゆる「0/0 型」です。そこでロピタルの定理
が使えるかも知れません。そのために分子と分母をそれぞれ微分して x → 0 での
極限を考えてみると、
lim (f(x) − pn (x)) = lim (f (x) − p (x)) = f (0) − p (0) = 0
x→0
x→0
n lim (x ) = lim nx
x→0
n−1
x→0
=0
となってまた「0/0 型」です。そこで、これに対してロピタルの定理が使えるかど
うかを見るためにもう一度分子分母をそれぞれ微分して x → 0 での極限を考えて
みると、
lim (f (x) − p (x)) = lim (f (x) − p (x)) = f (0) − p (0) = 0
x→0
x→0
lim (nx
n−1 ) = lim n(n − 1)xn−2 = 0
x→0
x→0
となってまた「0/0 型」です。これを n 回繰り返すと、
(n)
(n)
f (n) (0) − pn (0)
f (n) (x) − pn (x)
=
=0
x→0
n!
n!
lim
という値の確定する極限にたどり着きます。結局、ロピタルの定理を n 回繰り返
し使うことで、
(n)
f (n) (0) − pn (0)
0=
n!
(n)
(n)
f (x) − pn (x)
= lim
x→0
n!
(n−1)
(n−1)
f
(x) − pn (x)
= lim
x→0
n!x
..
.
f (x) − p (x)
x→0 n(n − 1)xn−2
f (x) − p (x)
= lim
x→0
nxn−1
f(x) − pn (x)
= lim
x→0
xn
= lim
となることがわかりました。 □
細かいこと. ここでは f (x) は C ∞ -級、つまり何回でも微分できるものとして証明しまし
た。何回でも微分できるということは f (n) (x) は微分可能です。ということは f (n) (x) は
連続関数ですから lim f (n) (x) = f (n) (0) が成り立ちます。このために、
x→0
(n)
(n)
f (n) (0) − pn (0)
f (n) (x) − pn (x)
=
x→0
n!
n!
lim
15
テイラー展開
となって n 階微分のところまでロピタルの定理を使えました。しかし、実は f (x) の微分
可能性の条件を
n − 1 階微分可能で、f (n−1) (x) は x = 0 においては微分可能
というところまでゆるめることができます。pn (x) は多項式なので C ∞ -級であり、
f (n−1) (x) − f (n−1) (0)
= f (n) (0)
x→0
x
lim
(n−1)
(微分の定義式です)と、条件 f (n−1) (0) = pn
(0) とから、
(n−1)
f (n−1) (x) − pn
(x)
x→0
n!x
(n−1)
(n−1)
(x) − pn
(0)
f (n−1) (x) − f (n−1) (0) pn
1
lim
−
=
n! x→0
x
x
(n−1)
(n−1)
f (n−1) (x) − f (n−1) (0)
pn
(x) − pn
(0)
1
lim
− lim
=
x→0
n! x→0
x
x
lim
=
1 (n)
(f (0) − p(n)
n (0)) = 0
n!
とすることにより、n 回微分のところではロピタルの定理を使わずに 0 に収束することが
示せるのです。他の部分は上に書いた証明と同じです。★
次に、n 次以下の多項式 qn (x) が
f(x) − qn (x)
=0
x→0
xn
lim
を満たすなら、qn (x) は x = 0 を中心とした f(x) の n 次のテイラー近似多項式
でなければならないことを証明しましょう。
多項式 qn (x) を
qn (x) = a0 + a1x + · · · + an−1 xn−1 + an xn
とおき、pn (x) を x = 0 における n 次のテイラー近似多項式、すなわち、
pn (x) = f(0) + f (0)x +
f (n) (0)
f (0)
+ ··· +
2
n!
としましょう。既に
f(x) − pn (x)
=0
x→0
xn
lim
が示されているので、特に、n 以下の任意の k に対して
f(x) − pn (x)
f(x) − pn (x) n−k
= lim
x
k
x→0
x→0
x
xn
f(x) − pn (x) n−k
lim
=0
= lim
x
x→0
x→0
xn
lim
16
テイラー展開
が成り立ちます。
今、
f(x) − qn (x)
=0
x→0
xn
lim
と仮定しているので、f(x) − pn (x) の場合と同様に、n 以下の任意の k に対して
f(x) − qn (x)
=0
x→0
xk
lim
が成り立ちます。この式で
f(x) − qn (x) = (f(x) − pn (x)) + (pn (x) − qn (x))
と見ると、
f(x) − qn (x)
x→0
xk
(f(x) − pn (x)) + (pn (x) − qn (x))
= lim
x→0
xk
f(x) − pn (x) pn (x) − qn (x)
= lim
+
x→0
xk
xk
pn (x) − qn (x)
= lim
x→0
xk
0 = lim
つまり、
pn (x) − qn (x)
=0
x→0
xk
lim
が n 以下の任意の k に対して成り立つことがわかります。
まず、k = 0 のときにこの式を使うと、
(n)
f (0)
pn (x) − qn (x) = f(0) − a0 + (f (0) − a1 )x + · · · +
− a n xn
n!
なので、
0 = lim (pn (x) − qn (x)) = pn (0) − qn (0) = f(0) − a0
x→0
となり、
a0 = f(0)
であることがわかります。これで、
(n)
f (0)
f (0)
2
pn (x) − qn (x) = (f (0) − a1 )x +
− a2 x + · · · +
− a n xn
2
n!
17
テイラー展開
となりました。その上で k = 1 の場合の極限の式を使うと、
pn (x) − qn (x)
= f (0) − a1
x→0
x
0 = lim
となるので、
a1 = f (0)
がわかります。そして、
(n)
f (0)
f (0)
f (0)
2
3
− a2 x +
− a3 x +
− an xn
pn (x) − qn (x) =
2
3!
n!
となります。その上で k = 2 の場合の極限の式を使うと、
pn (x) − qn (x)
f (0)
− a2
=
x→0
x2
2
0 = lim
となるので、
a2 =
f (0)
2
となります。この作業を n 回繰り返すことにより、0 以上 n 以下のすべての k に
対して
ak =
f (k) (0)
k!
が成り立つこと、つまり qn (x) = pn (x) であることがわかりました。pn (x) は
(k)
p(k)
(0)
n (0) = f
が 0 以上 n 以下のすべての k について成り立つように作ったのですから、これで
示されました。 □
3.3
応用
テイラー近似多項式が x → a のときの f(x) の振る舞いを近似しているというこ
とから、関数の極限を求めるときに活躍してくれるだろうと予想できるでしょう。
たとえば第 7 回演習の問題 5 の (2) で
1 ex + 1 2
lim
−
x→0 x
ex − 1 x
をロピタルの定理を使って計算してもらいました。一方、通分して分子分母を適
当な次数までテイラー近似すると、
(x − 2)ex + x + 2
(x − 2)(1 + x + x2/2 + x3 /6 + R4 (x)) + x + 2
lim
= lim
x→0
x→0
x2(ex − 1)
x2 (1 + x + R2 (x) − 1)
18
テイラー展開
となります。ただし、
x
R2 (x) = e − (1 + x),
1 2 1 3
R4 (x) = e − 1 + x + x + x
2
6
x
とおきました。つまり、ex と n 次のテイラー近似多項式の差を Rn+1 (x) とおいた
わけです。テイラー近似多項式の特徴付けから
R2 (x)
R4 (x)
=0
= lim
x→0
x→0
x
x3
lim
が成り立っています。計算を続けると、
x3/6 + x4/6 + xR4 (x)
= lim
x→0
x3 + x2R2 (x)
1/6 + x/6 + R4(x)/x2
= lim
x→0
1 + R2 (x)/x
1/6 + 0/6 + 0
=
1+0
1
=
6
と計算できます。上で説明した「テイラー近似の特徴付け」の証明の仕方から考え
て、この計算方法はロピタルの定理を繰り返し適用することと同じことです。しか
し、ex のようにテイラー近似多項式が簡単に導けたり憶えてしまっていたりする関
数が相手の場合、このほうがずっと見通しよく計算できますし、なにより、x → a
のとき分子と分母の関数の中でどのような次数の「無限小」たちが足しあわされ
ているのか一遍に見渡しながら計算できるので、確実性もあがると思います。
「第
7 回問題 5(2) の解答」の計算と比較してみてください。
4
近似の一意性と微分
「テイラー近似多項式の特徴付け」が成り立つ、つまり、n 次以下の多項式 pn (x)
が x = a における f(x) の n 次テイラー近似多項式であることと
f(x) − pn (x)
=0
x→a
(x − a)n
lim
が成り立つことは同値である、ということは、適当に持ってきた n 次以下の多項
式 qn (x) がたまたまこの条件を満たしてしまったら、この qn (x) は
qn (x) = f(a) + f (a)(x − a) +
f (a)
f (n) (a)
(x − a)2 + · · · +
(x − a)n
2
n!
でなければならないということを意味します。このことは、f(x) を直接微分せず
に f (n) (a) を計算する方法があるかも知れないということを示唆しています。
19
テイラー展開
たとえば、
1 − xn+1 = (1 − x)(1 + x + x2 + · · · + xn )
という式の両辺を 1 − x で割ると
1 − xn+1
= 1 + x + x2 + · · · + xn
1−x
となります。適当に移項すると、これは
xn+1
1
− (1 + x + x2 + · · · + xn ) =
1−x
1−x
となります。この右辺を xn で割って x → 0 の極限をとると
xn+1 /(1 − x)
x
=
lim
=0
x→0
x→0 1 − x
xn
lim
となりますので、もちろん左辺も xn で割って x → 0 とすると 0 に収束します。
つまり、
1/(1 − x) − (1 + x + x2 + · · · + xn )
=0
x→0
xn
lim
が成り立っています。ということは、
1 + x + x2 + · · · + xn
という関数は 1/(1 − x) の x = 0 における n 次のテイラー近似多項式です。この
関数は xk の係数がすべて 1 ですので、
(k) 1
= k!
1−x
x=0
であることが、1/(1 − x) を直接微分することなく示せたことになります。
この関数はあまりに簡単すぎて直接微分した方が早いくらいなので、ありがた
みが実感できないかも知れませんが、例えば「esin x cos x の x = 0 における 6 階微
分の値の計算」のようなものにこの発想が使えるとなると少しテイラー近似多項
式を見る目が変わって来るのではないでしょうか。ただし、この計算をテイラー
近似の一意性を使って解くには、関数の積や合成のテイラー近似多項式、すなわ
ち高階微係数を積や合成関数を直接微分することなく計算する一般的な方法につ
いてまず調べておく必要があります。
20
テイラー展開
4.1
積のテイラー近似多項式
積 f(x)g(x) を直接微分することなく、f(x) と g(x) のテイラー近似多項式から
f(x)g(x) のテイラー近似多項式を求めてみましょう。
pn (x), qn (x) をそれぞれ f(x), g(x) の a における n 次のテイラー近似多項式と
します。つまり、
f (k) (a)
k!
g (k) (a)
bk =
k!
pn (x) = a0 + a1 (x − a) + · · · + an (x − a)n ,
ak =
qn (x) = b0 + b1(x − a) + · · · + bn (x − a)n ,
とします。すると、pn (x) と qn (x) の積 pn (x)qn(x) を x − a の多項式として整理
した多項式の n 次以下の項を集めてできる多項式、具体的には
rn (x) = a0b0 + (a0b1 + a1 b0)(x − a) + · · · +
n
ak bn−k (x − a)n
k=0
が積 f(x)g(x) の x = a における n 次のテイラー近似多項式になっています。
証明しましょう。見やすくするために
R(x) = f(x) − pn (x),
S(x) = g(x) − qn (x)
とおきます。すると、
f(x)g(x) − rn (x) = (pn (x) + R(x))(qn (x) + S(x)) − rn (x)
= pn (x)qn(x) + pn (x)S(x) + qn (x)R(x) + R(x)S(x) − rn (x)
となります。ここで、pn (x)qn (x) − rn (x) は x − a の多項式として n + 1 次以上の
項しかありませんので、
pn (x)qn (x) − rn (x)
=0
x→a
(x − a)n
lim
が成り立ちます。また
R(x)
S(x)
= lim
=0
n
x→a (x − a)
x→a (x − a)n
lim
が成り立っているので、
qn (x)R(x)
pn (x)S(x)
R(x)S(x)
= lim
= lim
=0
n
n
x→a (x − a)
x→a (x − a)
x→a (x − a)n
lim
も成り立っています。よって、
f(x)g(x) − rn (x)
x→a
(x − a)n
pn (x)qn (x) − rn (x) + qn (x)R(x) + pn (x)S(x) + R(x)S(x)
= lim
=0
x→a
(x − a)n
lim
21
テイラー展開
となります。これは rn (x) が f(x)g(x) の x = a における n 次のテイラー近似多
項式であることを意味します。 □
rn (x) の係数を具体的に見てやれば、積の高階微分公式が手に入ります。rn (x)
の (x − a)k の係数を pn (x)qn (x) のものと比較すると、
(f g)(k) (a) f (l) (a) g k−l (a)
=
k!
l! (k − l)!
k
l=0
となっているので、両辺に k! を掛ければ、
(k)
(f g) (a) = k!
k
f (l) (a) g k−l (a)
l=0
(k − l)!
l!
k
k!
f (l) (a)g (k−l) (a)
l!(k
−
l)!
l=0
k
k
=
f (l) (a)g (k−l) (a)
l
l=0
=
となります。これが積の高階微分の公式です。もちろん k = 1 のときは普通の積
の微分公式になっています。だから、これは積の微分公式のテイラー近似の視点
からの別証明にもなっているわけです。
4.2
合成関数のテイラー近似多項式
f(a) = b とします。g(y) に y = f(x) を代入してできる合成関数 g ◦ f(x) =
g(f(x)) の x = a における n 次のテイラー近似多項式は、
g(y) の y = b における n 次のテイラー近似多項式 qn (y) に f(x) の
x = a における n 次のテイラー近似多項式 pn (x) を代入してできる多
項式 qn (pn (x)) を x − a について整理したときの n 次以下の部分
であるということもテイラー近似多項式の一意性を使って、直接微分することな
く証明できます。
証明しましょう。f(x) と g(y) のテイラー近似多項式をそれぞれ
pn (x) = a0 + a1 (x − a) + · · · + an (x − a)n
qn (y) = b0 + b1 (y − b) + · · · + bn (y − b)n
とし、式変形を見やすくするために
R(x) = f(x) − pn (x),
S(y) = g(y) − qn (y)
22
テイラー展開
とおきます。f(a) = b なので a0 = b であることに注意してください。g(y) に
y = f(x) を代入すると、
g ◦ f(x) = g(f(x))
= q(f(x) − b) + S(f(x))
= b0 + b1 (a1(x − a) + · · · + an (x − a)n + R(x)) + · · ·
+ bn (a1(x − a) + · · · + an (x − a)n + R(x))n + S(f(x))
= b0 + a1 b1(x − a) + (a2 b1 + a1 b2)(x − a)2 + · · ·
+ a1bn (x − a)n + u(x) + U(x)R(x) + S(f(x))
となります。ただし、u(x) は多項式 qn (pn (x − a) − b) を x − a について整理した
ときの n + 1 次以上の項を集めた多項式、U(x) は qn (pn (x − a) − b + R(x)) を展
開整理したときに R(x) を含む項を集め R(x) を括りだした関数です。よって、
u(x)
= 0,
x→a (x − a)n
U(x)R(x)
=0
x→a (x − a)n
lim
lim
が成り立っています。また、
S(f(x))
S(f(x)) (f(x) − b)n
=
lim
x→a (x − a)n
x→a (f(x) − b)n (x − a)n
n
S(y)
f(x) − f(0)
lim
= lim
x→a
y→b (y − b)n
x−a
lim
= 0 · f (a)n = 0
です。だから、
rn (x) =
n
k=1
a i bj
(x − a)k ,
ij=k
T (x) = u(x) + U(x)R(x) + S(f(x))
とおくと、
g ◦ f(x) = rn (x) + T (x)
lim
x→a
T (x)
=0
(x − a)n
となります。このことは rn (x) が g ◦ f(x) の x = a における n 次のテイラー近似
多項式であることを意味しています。 □
このように一般的に書くとかえって何を言いたいのかわかりにくいものです。こ
の小節が余りよくわからなくても、とりあえず次の具体的な計算をたどってみて
ください。その後この証明にもう一度戻ると、少しわかりやすくなるのではない
かと思います。
23
テイラー展開
4.3
計算問題への応用
次の問題を考えてみましょう。
f(x) = esin x cos x の x = 0 における 6 階微分の値 f (6) (0) を計算せよ。
やってみると分かりますが、f(x) を直接 6 回微分することは(できなくはあり
ませんが)かなり骨です。
「f (6) (0) を計算せよ」という問題ですが、x = 0 を中心
とした f(x) のテイラー展開を 6 次まで求めるのが得策なのです。
解答 sin x の x = 0 における 6 次のテイラー近似多項式を p6 (x) とすると、
1 3 1 5
x + x
3!
5!
y
です。sin 0 = 0 なので、e の y = 0 における 6 次のテイラー近似多項式を考えま
す。それを q6(y) とすると、
p6 (x) = x −
1
1
1
1
1
q6(y) = 1 + y + y 2 + y 3 + y 4 + y 5 + y 6
2
3!
4!
5!
6!
です。また、cos x の x = 0 における 6 次のテイラー近似多項式を r6 (x) とすると、
1
1
1
r6 (x) = 1 − x2 + x4 − x6
2
4!
6!
です。
積および合成関数のテイラー近似多項式についての上述の議論から、esin x cos x
の x = 0 における 6 次のテイラー近似多項式は
q6(p6 (x))r6 (x)
という多項式の 6 次までの項を集めたものです。
それを計算するために、まず q6(p6 (x)) の 6 次の項までを計算しましょう。
2
1 3 1 5
1 3 1 5
1
q6(p6 (x)) = 1 + x − x + x +
x− x + x
3!
5!
2
3!
5!
3
4
1
1
1 3 1 5
1 3 1 5
+
+
x− x + x
x− x + x
3!
3!
5!
4!
3!
5!
5
6
1 3 1 5
1 3 1 5
1
1
x− x + x
x− x + x
+
+
5!
3!
5!
6!
3!
5!
です。これを見るとものすごく大変そうに感じるかも知れません。しかし、必要
なのは 6 次の項までなので、7 次以上の項は計算する必要はありません。そうする
と、それほど大変な計算でもなく
1
1
1
1 6
x
1 + x + x2 − x4 − x5 −
2
8
15
240
24
テイラー展開
とわかります。これに r6(x) を掛けて 6 次の項までをとると、
1
1
1
7
1 + x − x3 − x4 − x5 + x6
2
3
40
90
となります。これが esin x cos x の x = 0 における 6 次のテイラー近似多項式になっ
ているというわけです。
よって、
f (6) (0) =
7
6! = 56
90
となります。 □
微分するより簡単とはいえ結構大変です。直接 6 回微分することにチャレンジ
していないとこの方法のありがたみはなかなか実感できないものです。
実は、 esin x = esin x cos x であることを使うと、もっと楽に計算することがで
きます。なぜなら、g(x) = esin x とすると g (x) = f(x) なので、g(x) の x = 0 に
おける 7 次のテイラー近似多項式
g(0) + g (0)x +
g (0) 2 g (0) 3
g (6) (0) 6 g (7) (0) 7
x +
x + ··· +
x +
x
2
3!
6!
7!
を微分すると、
g (0) 2
g (6) (0) 5 g (7) (0) 6
x + ··· +
x +
x
2
5!
6!
f (0) 2
f (5) (0) 5 f (6) (0) 6
x + ··· +
x +
x
= f(0) + f (0)x +
2
5!
6!
g (0) + g (0)x +
となって、f(x) の x = 0 における 6 次のテイラー近似多項式が得られる一方、g(x)
は ey に y = sin x を合成しただけなので、f(x) のテイラー近似多項式よりだいぶ
楽に計算できるからです。是非この方法でも計算してみてください。
また、自分でいろいろ例を考えて計算してみるとテイラー近似多項式の計算に
も慣れるし、この方法の強力さも実感できると思います。たとえば tan x のテイ
ラー近似多項式はどのようになるでしょうか。sin x のテイラー近似多項式を cos x
のテイラー近似多項式で割っても、多項式分の多項式は多項式にならないのでう
まくいきません。この場合は
tan x =
sin x
sin x
=
cos x
1 + (cos x − 1)
と見て、1/(1 + y) に y = cos x − 1 を合成してから sin x を掛けたと見ればまった
く同様に計算できます。是非、直接微分する方法と上の方法の両方で計算してみ
て下さい。
25
テイラー展開
5
剰余項の表示:極限から誤差へ
前節までで、
f(x) の x = a を中心とした n 次のテイラー近似多項式 pn (x) を
pn (x) = f(a) +
f (a)
f (n) (a)
f (a)
(x − a) +
(x − a)2 + · · · +
(x − a)n
1!
2!
n!
によって定義すると、
f(x) − pn (x)
=0
x→a
(x − a)n
lim
(3)
が成り立つ。また、f(x) との差が条件(3) を満たすような n 次以下の
多項式は pn (x) しかない。
ということと、そのことから直接分かることについて説明してきました。
極限について考えてきたので、この節ではもっと精密に
極限を取る前についてはどのようなことが分かるか
を考えて行きましょう。
注目したいのは f(x) とそのテイラー近似多項式 pn (x) との差なのですから、そ
れを表す記号と言葉を用意してしまいましょう。
剰余項の定義
関数 f(x) の x = a における n 次のテイラー近似多項式
pn (x) = f(a) +
f (a)
f (n) (a)
f (a)
(x − a) +
(x − a)2 + · · · +
(x − a)n
1!
2!
n!
ともとの関数 f(x) に対し、関数 Rn+1 (x) を
Rn+1 (x) = f(x) − pn (x)
で定義し、
f(x) の x = a における n 次の剰余項
と呼ぶ。
さて、Rn+1 (x) という記号を用意してはみたものの、その中身は f(x) から pn (x)
を引いたもの、つまり f(x) という与えられた関数から n + 1 個の単項式を引い
た、n + 2 個もの項を持つ扱いにくい関数です。一方、知りたいことは Rn+1 (x) の
x → a としたときの振る舞いではなく、x を a に近づけないときの性質です。だ
26
テイラー展開
から、この節の目標は、このままでは項の数が多すぎてどうにもならない Rn+1 (x)
を一つの式で表す公式を得ることです6 。「Rn+1 (x) を一つの式で書きたい」およ
び「Rn+1 (x) が一つの式で書けたことのありがたみ」という意識を常に持ってこ
の節を読むようにして下さい。でないとなにやってんだか分からなくなること必
定です。
5.1
ラグランジュ表示:ロピタルからコーシーへ
テイラー近似多項式が
Rn+1 (x)
=0
x→a (x − a)n
lim
という性質を持つことを証明するとき(第 3.2 小節)にロピタルの定理を繰り返し
使いました。一方、ロピタルの定理はコーシーの平均値定理で極限をとって示さ
れるものでした。だから、ロピタルの定理を使って示したことの極限を取る前の
ことを知りたければ、コーシーの平均値定理を使うべきだと言えるでしょう。ロ
ピタルでなくコーシーを使えば、Rn+1 (x)/(x − a)n → 0 ということより精密な情
報を得られるかも知れないわけです。
Rn+1 (x) を (x − a)n で割ると極限が 0 になってしまうので、分母の次数を一つ
あげて (x − a)n+1 とし、性質(3) の証明と同じようにロピタルの定理を繰り返し
使ってみましょう。すると、
Rn+1 (x)
Rn+1 (x)
=
lim
= ···
x→a (x − a)n+1
x→a (n + 1)(x − a)n
lim
(n)
(n+1)
R
Rn+1 (x)
(a)
= n+1
= lim
x→a (n + 1)!(x − a)
(n + 1)!
が得られます。ここで、すべてのステップでロピタルの定理の代わりにコーシー
の平均値定理を使うと、、
Rn+1 (c0 )
Rn+1 (c1)
Rn+1 (x)
=
=
= ···
(x − a)n+1
(n + 1)(c0 − a)n
(n + 1)n(c1 − a)n−1
(n)
(n+1)
R
(cn )
Rn+1 (cn−1 )
= n+1
=
(n + 1)!(cn−1 − a)
(n + 1)!
となります。ただし、
「c0 が x と a の間に存在」、
「c1 が c0 と a の間に存在」、. . . 、
「cn が cn−1 と a の間に存在」するという意味です。Rn+1 (x) と f(x) との違いは n
(n+1)
次以下の多項式ですので、この二つの n+1 階導関数は同じ、Rn+1 (x) = f (n+1) (x)
(n+1)
です。よって、上の一連の式の最初と最後だけを取り、Rn+1 (x) を f (n+1) (x) で
置き換えることで、
6
このことを先取りして「剰余項」と単項式のように呼んでしまっているのです。
27
テイラー展開
剰余項のラグランジュ表示
Rn+1 (x) =
f (n+1) (c)
(x − a)n+1
(n + 1)!
を満たす c が x と a の間に存在する
という結論が得られました。この表示をラグランジュの剰余項、あるいは剰余項
のラグランジュ表示と言います。
注意. 多くの教科書では、剰余項のラグランジュ表示のことをテイラーの定理と呼んでい
ます。もう少し正確に言うと、
f (x) = f (a) + f (a)(x − a)+
f (a)
f (a)
(x − a)2 +
(x − a)3
2
3!
f (n) (a)
f (n+1) (c)
(x − a)n +
(x − a)n+1
+···+
n!
(n + 1)!
の成り立つ c が a と x の間に存在する、ということをテイラーの定理と呼んでいます。
★
これは、コーシーの平均値定理を繰り返し使って得られたことからも分かるよ
うに
n + 1 階微分に関する平均値の定理
とでも言うべきものです。実際 n = 0 としてみると、
f(x) = f(a) + R1 (x),
R1(x) = f (∃c)(x − a)
となって平均値の定理そのものです。しかし、n > 0 のとき Rn+1 (x) のラグラン
ジュ表示が何のどういう意味での「平均」なのかははっきり言って分かりません。
この表示のよいところは、
式がテイラー近似多項式の項とほとんど同じなので憶えやすい
ということと、
f (n+1) (x) の値の範囲が分かれば、何の工夫もなく直接 Rn+1 (x) の値の
評価が得られるので使いやすい
という、いわば「実用性」にあるのだと思います。表示自体としては「c」に由来
する曖昧さが大きく響きすぎて余りよい評価を与えてくれません。とは言え十分
役に立つことを、n → ∞ を考えるときにお見せします。そのとき同時に、この表
示では Rn+1 (x) の値の評価が荒すぎるという実例も見ます。
28
テイラー展開
5.2
積分表示:微積分の基本定理の視点から
前小節で得たラグランジュ表示は、実用的だが意味が今ひとつ分かりにくいも
のでした。そこで、この小節では「剰余項の意味」を重視した表示を目指してみ
ましょう。
多項式と微分の関係について考えたとき(第 2.1 節)、f (n+1) (x) が恒等的に 0 な
ら f(x) は n 次以下の多項式であることを、微積分の基本定理
x
g(x) = g(a) +
g (t)dt
a
を n + 1 回繰り返すことで示しました。その心は、
f(x) は f (n+1) (x) の不定積分の不定積分の不定積分の…(n + 1 回繰
り返す)…不定積分である。
ということです。もちろん、このことは f (n+1) (x) が恒等的に 0 でない普通の関数
でも成り立つ一般的な事実です。一方、Rn+1 (x) と f(x) の間には
Rn+1 (n+1) (x) = f (n+1) (x)
という関係がありました。ということは、
Rn+1 (x) も f (n+1) (x) の不定積分の不定積分の不定積分の…(n + 1 回
繰り返す)…不定積分
だということになります。この視点から Rn+1 (x) を f (n+1) (x) の積分の形で表そ
うとすると、テイラー近似多項式の生み出されてくる様子がとてもよく見えてき
ます。
まず、f (n+1) (x) = Rn+1 (n+1) (x) を積分すると f (n) (x) と Rn+1 (n) (x) になります。
x
(n)
(n)
f (x) = f (a) +
f (n+1) (t)dt
a
最後の項が剰余項の n 回導関数 Rn+1 (n) (x) です。なぜなら、
f(x) = f(a) + f (a)(x − a) + · · · +
f (n) (a)
(x − a)n + Rn+1 (x)
n!
を n 回微分した式になっているからです。
もう一度積分すると、f (n−1) (x) と Rn+1 (n−1) (x) が得られます。
x
(n−1)
(n−1)
f
(x) = f
(a) +
f (n) (t)dt
a
x
t
(n−1)
(n)
(n+1)
(a) +
f
(s)ds dt
=f
f (a) +
a
a
x t
(n−1)
(n)
(n+1)
=f
(a) + f (a)(x − a) +
f
(s)ds dt
a
a
29
テイラー展開
(n−1)
です。最後の式の最後の項が Rn+1 (x) です。積分が二重にかかっていていやです
ね。少し知識のある人は 2 変数関数の重積分というやつを思い起こして腰が引け
てしまうかも知れませんが、そういう進んだ知識を要求するものではなく、ただ
単に、f (n+1) (x) という関数を a から x まで積分した関数をもう一度 a から x ま
で積分しているだけです。例えば、f (n+1) (x) = x なら
x t
x
1 2
1
(t − a2)dt = (x3 − 3a2 x − a3 + 3a3 )
sdsdt =
6
a
a
a 2
というものに過ぎません。
もう一度くらい書いておきましょう。
x
(n−2)
(n−2)
f
(x) = f
(a) +
f (n−1) (t)dt
a x = f (n−2) (a) +
f (n−1) (a) + f (n) (a)(s1 − a)
a
t s2
(n+1)
+
f
(s1 )ds1 ds2 dt
a
a
f (n) (a)
(x − a)2
= f (n−2) (a) + f (n−1) (a)(x − a) +
2
x t s2
(n+1)
+
f
(s1)ds1 ds2 dt
a
a
a
(n−2)
です。最後の式の最後の項が Rn+1 (x) です。三重にかかっている積分の意味は上
と同様です。
(n+1)
結局、f (n+1) (x) = 0 + Rn+1 (x) と見て、R(n+1) (x) は
(n)
Rn+1 (a) = Rn+1 (a) = Rn+1 (a) = · · · = Rn+1 (a) = 0
という条件を満たさなければならないので、「0」の方の積分からテイラー近似多
項式が生み出されて来る、という仕組みになっているわけです。しかし、不定積
分が n + 1 個も入れ子になった式を以て「剰余項が表示できた」と言われても計
算したり評価したりできないので全く役に立ちません。
(n+1)
(x) をどんどん積分する代わりに、部分積分を使っ
そこで、Rn+1
(n+1) (x) = f
て積分の中身をどんどん微分することを考えてみましょう。そのために、まず部
分積分の公式を復習しましょう。
二つの関数 g(x) と h(x) に対して、積の微分公式により
(g(t)h(t)) = g (t)h(t) + g(t)h(t)
が成り立ちます。よって、微積分の基本定理により、
b
g(b)h(b) − g(a)h(a) =
(g (t)h(t) + g(t)h (t)) dt
a
=
a
b
x
g (t)h(t)dt +
a
g(t)h(t)dt
30
テイラー展開
となります。これを適当に移項すると、
b
g(t)h (t)dt = g(b)h(b) − g(a)h(a) −
a
b
g (t)h(t)dt
a
となります。これが部分積分の公式です。これを f(x) に対して適用してみましょう。
まず、微積分の基本定理により、
b
f(x) − f(a) =
f (t)dt
(4)
a
というスタートの式が得られます。(x と書くと微分したり積分したりするときに
混乱を招きそうですが、目指すテイラー近似多項式の形が見えやすい用意するた
めに b ではなく x としました。微分したり積分したりするのは t についてであっ
て x は定数ですから気を付けてください。)右辺の積分の中身を上の部分積分の
公式が適用できるように見なすには、
g(t) = f (t),
h(t) = 1
と見ればよいでしょう。ここで、微分すると 1 になる関数 h(t) として何を取れば
よいでしょうか。微分して 1 になるのだから t + c という関数でなければなりませ
ん。よって問題は定数 c として何を選べばよいかと言うことです。よく分からな
いので h(t) = t + c のまま部分積分してしまいましょう。すると、
x
x
f(x) − f(a) =
f (t) · (t + c) dt = f (x)(x + c) − f (a)(a + c) −
f (t)(t + c)dt
a
a
となります。我々が欲しい項は f (a)(x − a) ですので、c = −x とすればピッタリ
と合います。それを代入して右辺の第 1 項を左辺に移項すると、
x
f(x) − f(a) − f (a)(x − c) =
f (t)(x − t)dt
a
となります。(−(t − x) = (x − t) としました。)この右辺が R2 (x) の表示を与え
ているわけです。
この右辺にさらに部分積分をしましょう。今度は、
g(t) = f (t),
h(t) = (x − t)
です。このような h(t) として何を取るべきかはもうだいたい予想がつくでしょう。
(x − t) の冪が欲しいのですから、
1
h(t) = − (x − t)2
2
がよいでしょう。すると、
x
x
1 1 (x − t)2
2
2
dt
f (t)(x − t)dt = − f (x)(x − x) + f (a)(x − a) +
f (t)
2
2
2
a
a
31
テイラー展開
となります。前段落の式とあわせて移項整理すれば、
f (a)
f(x) − f(a) − f (a)(x − a) −
(x − a)2 =
2
x
a
f (t)
(x − t)2dt
2
となります。つまり、これの右辺が R3 (x) の表示を与えているわけです。
この変形を繰り返すことで、
剰余項の積分表示
x (n+1)
f
(t)
(t − a)n dt
Rn+1 (x) =
n!
a
の成り立つことが分かります。これを剰余項の積分表示と言います。
この表示は曖昧さのないキッチリした表示であるところが優れていますし、f (n+1) (x)
がひどく暴れていたとしても、積分でならされておとなしくなるということもあ
り得ます。しかし、如何せん積分なので、f (n+1) (x) についての情報が得られても、
それを簡単に Rn+1 (x) の評価に結びつけられないという難点もあります。
5.3
「重み付き」の積分の平均値定理
ラグランジュ表示は平均値の定理から、積分表示は微積分の基本定理から得ら
れました。一方、前回、普通の平均値の定理を微積分の基本定理で解釈し直すと
積分の平均値定理になることを見ました。ということは、積分の平均値定理を仲
立ちにして剰余項の積分表示とラグランジュ表示はつながっていそうな気がしま
す。しかし、ただの積分の平均値定理を適用したのではラグランジュ表示は得ら
れません。そのためには「重み付き」の積分の平均値定理というものが必要にな
ります。そこで、この小節で重み付きの積分の平均値定理について説明し、次の
小節でそれを使って積分表示からラグランジュ表示を導くことにしましょう。
第 7 回解説で説明したの「積分の平均値定理」は試験の平均点など普段よく使う
「平均」の概念にピッタリ来ると言いました。ところで、皆さんの気になる「平均
点」は単なる平均ではありませんよね?例えば、この演習は半年で 1 単位ですが、講
義の方は半年で 2 単位です。だから、この演習の夏学期の成績が 100 点で講義の成
績が 70 点の場合、数学 I 関連の平均点は普通の感覚からいったら (70+ 100)/2 = 85
ですが、単位まで考えた平均は (70 · 2 + 100)/3 = 80 となります。
このように独立変数(今の場合は各科目)に重み(今の場合は単位数)を付け
て「重み 1 あたりの平均」(今の場合は 1 単位あたりの平均点)を問題にすること
がよくあります。このように独立変数に重みのついた場合でも前小節の平均値の
定理のバリエイションが成り立つことを以下で説明します。
f(x) と ϕ(x) を閉区間 [a, b] で定義された連続関数で、ϕ(x) は任意の x に対し
て ϕ(x) ≥ 0 を満たすとします。ϕ(x) が重み(単位数など)の役割を担うわけで
す。このとき、
32
テイラー展開
b
a
f(x)ϕ(x)dx
= f(c)
b
ϕ(x)dx
a
となる c が (a, b) に存在する
というのが重み付きの積分の平均値定理です。こればっかりで恐縮ですが、分母
b
b
の a ϕ(x)dx が総単位数、分子の a f(x)ϕ(x)dx が単位数まで勘定に入れた総得
点に当たるわけです。
もちろん ϕ(x) が恒等的に 1 なら(つまりすべての科目が 1 単位なら)、この定
理は前小節の「積分の平均値定理」になります。その意味でこの定理は積分区間
に ψ(x) によって「重みを付けて」積分の平均値定理を拡張したものになっている
のです。
証明しましょう。
証明. f(x) は連続関数なので、[a, b] で最大値と最小値をとります。その値をそれ
ぞれ M, m としましょう。もちろん
m ≤ f(x) ≤ M
が任意の x に対して成り立ちます。今、任意の x に対して ϕ(x) ≥ 0 と仮定して
いるので、上の不等式のすべての辺に ϕ(x) を掛けても不等号はそのままです。つ
まり、
mϕ(x) ≤ f(x)ϕ(x) ≤ Mϕ(x)
がすべての x に対して成り立ちます。これを a から b まで積分することにより、
b
b
b
m
ϕ(x)dx ≤
f(x)ϕ(x)dx ≤ M
ϕ(x)dx
a
a
a
が得られます。
もし任意の x に対して ϕ(x) = 0 なら、この不等式の右辺と左辺は 0 になりま
す。よって、c としてどのような値をとろうとも、
b
b
0=
f(x)ϕ(x)dx = f(c)
ϕ(x)dx
a
a
が成り立ちます。
b
一方 ϕ(x) > 0 となる x が存在するなら、 a ϕ(x)dx > 0 ですので、それで割る
ことができて、
b
f(x)ϕ(x)dx
≤M
m ≤ a b
ϕ(x)dx
a
33
テイラー展開
となります。今、m と M は f(x) の最小値と最大値なので、中間値の定理により、
b
a
f(x)ϕ(x)dx
= f(c)
b
ϕ(x)dx
a
となる c が (a, b) に存在します。これで示せました。 □
5.4
剰余項のさまざまな表示
前小節で得た重み付きの積分の平均値定理を使って剰余項の積分表示からラグ
ランジュ表示を導いてみましょう。また、重みの選び方を変えることで、ラグラ
ンジュ表示に似たさまざまな表示が得られることも見ておきましょう。
積分表示
x (n+1)
f
(t)
Rn+1 (x) =
(x − t)n dt
n!
a
において、まず (x − t)n を「重み」を表す関数とみましょう。つまり、前小節の
記号で
ϕ(t) = (x − t)n
とおくということです。ϕ(t) ≥ 0 という条件が付いていたので、x > a としましょ
う。x < a で n が奇数の場合は ϕ(t) = −(x − t)n とおけばよいだけなので、x > a
で考えておけば十分です。よって、以下 x > a と仮定します。
x
「重み付き」積分の平均値定理の結論は「重み」の積分 a ϕ(t)dt で割る形に
なっていますが、欲しい結論にあわせるために全体にこれを掛けて分母を払って
おきましょう。すると、
x (n+1)
f
(t)
f (n+1) (c) x
Rn+1 (x) =
ϕ(t)dt
(a < ∃c < x)
ϕ(t)dt =
n!
n!
a
a
となります。積分を実際に計算すると、
x
x
x
(x − t)n+1
(x − a)n+1
n
ϕ(t)dt =
ϕ(t)(x − t) dt = −
=
n+1
n+1
a
a
a
となります。これを代入すると
Rn+1 (x) =
f (n+1) (c)
(x − a)n+1
(n + 1)!
となって、予想通りラグランジュ表示が得られました。
34
テイラー展開
ところで、積分の平均値定理には「重み」のないものもありました。それを適
用しても積分記号がはずれるはずです。やってみると、
Rn+1 (x) =
f (n+1) (c)
(x − c)n (x − a)
n!
(a < ∃c < x or x < ∃c < a)
という表示が得られます。これをコーシー表示と言います。
(別に名前を憶えて欲
しいわけではなくて、それぞれに名前が付けられているくらい「剰余項を具体的
に表示する」ということは重要なことなのだということです。)
注意. ラグランジュ表示は (x−t)n 全部を「重み」と見なした場合、コーシー表示は (x−t)0
を「重み」と見なした場合と言えますので、その中間の (x − t)k , k = 1, 2, . . . , n − 1 を
「重み」とする表示も得られるはずです。そのようにして得られる一連の表示をシュレー
ミルヒ表示と言います。
実際に計算してみましょう。結果の式をきれいにするために、m を n + 1 以下の自然
数として、
ϕ(t) = (x − t)m−1
とおきます。すると、
x
f (n+1) (t)
(x − t)n dt
n!
a
(x − c)n−m+1 x
(n+1)
(c)
(x − t)m−1 dt
=f
n!
a
(x − a)m
f (n+1) (c)
(x − c)n−m+1
=
n!
m
Rn+1 (x) =
が得られます。
(もちろん「この式の成り立つ c が a と x の間に存在する」という意味で
す。)m = 1 ならコーシー表示、m = n + 1 ならラグランジュ表示になっています。★
6
剰余項の表示の応用
「関数の値」という視点から見た場合、多項式の特徴は
変数の値を具体的に与えると関数の値をキッチリ計算できる
というところにあります。一方、剰余項は「関数と多項式の差」です。というこ
とは、剰余項の値の評価が得られれば、テイラー近似多項式で計算したキッチリ
した値を使って元の関数の値をある程度の精度で計算できるようになるわけです。
これが剰余項の表示を得たことの「第一の御利益」です。
以下、いくつか具体例を見てみましょう。
35
テイラー展開
6.1
e の近似
ex の x = 0 におけるテイラー近似とラグランジュの剰余項を用いて、e の値を
(ただし e ≤ 3 は分かっているものと
小数点以下第 3 位まで決定してみましょう。
します。)何次まで展開すべきであるかという試行錯誤の部分はとばして、いきな
り答を書きます。
x = 0 での ex の 6 次のテイラー近似は、剰余項にラグランジュ表示を使うと
ex = 1 + x +
x2 x3
x6 ec x7
+
+ ··· +
+
2
3!
6!
7!
0 < ∃c < x or x < ∃c < 0
となります。これに x = 1 を入れて e の値を近似してみます。e ≤ 3 はわかって
いるのですから、0 < c < 1 から剰余項 Rn+1 (1) は
e0 · 17
3
e1 · 17
1
=
< Rn+1 (1) <
≤
7!
7!
7!
7!
と評価できます。つまり、
1+1+
1
1
1
1
1
1
1
3
+ + ··· + + < e < 1 + 1+ + + ··· + +
2 3!
6! 7!
2 3!
6! 7!
が成り立ちます。左辺と右辺を具体的に計算すると、この不等式は
2.718253 · · · · · · < e < 2.718652 · · ·
となります。これで e = 2.718 · · · であることが示せました。
3 2
y
n=1
log y
ex
1
O 1
ex
7
6
5
4
3
2
n=0
x
1
log e = 1
O 1
図 1: ex のテイラー近似
ちなみに、
e = lim
n→∞
1
1+
n
n
n=0
x
36
テイラー展開
でもあるので、各 n に対する (1 + 1/n)n の値を計算してみましょう。すると、
n=1
2
3
4
5
6
7
2
2.25
2.3703703703· · ·
2.44140625
2.48832
2.5216263717· · ·
2.5464996970· · ·
8
9
10
20
30
50
100
2.5657845139· · ·
2.5811747917· · ·
2.5937424601
2.6532977051· · ·
2.6743187758· · ·
2.6915880290· · ·
2.7048138294· · ·
で、小数点以下第 3 位まで決定することなど電卓での計算ではとてもできません。
テイラー近似多項式の方がずっと近似の精度がよいのです。
注意. ここで使った「e のテイラー近似多項式+ラグランジュ表示」を使うと e が無理数
であることも示せます。ついでですのでここでやっておきましょう。
e = p/q となる自然数 pn (x) と qn (x) があったとします。必要なら分子分母に同じ自然
数をかけることによって q > e としておきます。
qn (x) 次のテイラー近似式をラグランジュ表示で書いて x = 1 を代入すると、
e = 1+1+
1
1
ec
1
+ +···+ +
2 3!
q! (q + 1)!
(0 < ∃c < 1)
となります。両辺に q! をかけると
q!e = q! + q! + q(q − 1) · · ·5 · 4 · 3 + q(q − 1) · · ·5 · 4 + · · · + 1 +
ec
q+1
となりますが、ec /(q + 1) 以外はすべて整数ですので、ec /(q + 1) も整数でなければなり
ません。しかし、0 < c < 1 なので 0 < ec < e < q + 1 となり、0 < ec /(q + 1) < 1 となっ
てしまうので、それはあり得ません。★
6.2
sin x の近似
上と同じことを sin 1 に対して行うのを、問題として考えてみましょう。前小節
のまねをして解いてみて下さい。
sin 1 の値を小数点以下第 3 位まで決定せよ。
解答 sin x の 2n 次までのテイラーの公式は
sin x = x −
x3 x5
x2n−1
cos c
+
− · · · + (−1)n−1
+ (−1)n
x2n+1
3!
5!
(2n − 1)!
(2n + 1)!
となります。これに x = 1 を代入すると、
1
1
(−1)n−1
cos c
sin 1 = 1 − + − · · · +
+ (−1)n
3! 5!
(2n − 1)!
(2n + 1)!
37
テイラー展開
y
p5 = p6
p1 = p2
p9 = p10
p13 = p14
sin x
x
O
p15 = p16
p3 = p4 p7 = p8
p11 = p12
図 2: x = 0 を中心とした sin x のテイラー近似
となります。もちろん「これの成り立つ c が (0, 1) に存在する」という意味です。
(0, 1) において 0 < cos c < 1 ですので、
−0.0002 < −
1
cos c
< (−1)3
<0
7!
7!
です。一方、
1−
1
1
+ = 0.8416666 · · ·
3! 5!
なので、
0.841 < 0.8416 · · · − 0.0002 < sin 1 < 0.8416 · · · + 0 < 0.842
となって、sin 1 = 0.841 · · · とわかります。 □
注意. sin x(や cos x)とそのテイラー近似多項式との間には著しい関係があるので、そ
れを紹介しましょう。
上の計算でお分かりのように、ex では剰余項は常に正であったのと対照的に sin x の剰
余項は 0 < x < π/2 の範囲では正負が交互に現れます。実はこのことは x によらずに成
り立つのです。0 < x < π/2 の間では sin x も cos x も正なので、剰余項に (−1)n が掛
かっていることからこのことは当然なのですが、実は x が π/2 を越えても剰余項の符号
は変わらないのです。2n − 1 次のテイラー近似多項式 p2n−1 (x) と 2n 次のテイラー近似
多項式 p2n (x) とは一致し、x ≥ 0 において
n が奇数なら p2n−1 (x) = p2n (x) ≥ sin x、
n が偶数なら p2n−1 (x) = p2n (x) ≤ sin x
ということです(図 2 参照)。
これは、剰余項を使って
n が奇数なら R2n−1 (x) = R2n (x) ≤ 0、
n が偶数なら R2n−1 (x) = R2n (x) ≥ 0
38
テイラー展開
と言いかえられます。
このことは直接 R2n−1 (x) や R2n(x) を考察してもうまくいきません。実は、さらに一
つ次数の低い R2n−2 (x) を調べると証明できるのです。証明の前に、このように考えると
良いという根拠について説明しましょう。
一般に、関数 g(x) の x = a を中心とした m 次のテイラー近似多項式を qm (x)、その
剰余項を Rm(x) とすると、
g(x) = qm (x) + Rm (x) = qm−1 (x) + Rm−1(x),
g (m)(a)
(x − a)m
m!
qm (x) = qm−1 (x) +
となっているので、m 次の剰余項と m − 1 次の剰余項の間には
Rm(x) = Rm−1 (x) −
g (m)(a)
(x − a)m
m!
という関係があります。sin x の近似の m = 2n + 1 の場合にこの式を適用すると、
R2n+1 (x) = R2n (x) −
(−1)n 2n+1
x
(2n + 1)!
となり、R2n(x) = R2n−1 (x) にラグランジュ表示を適用して、R2n+1 (x) の正負を判定す
ることができるのです。
では実際にやってみましょう。R2n−2(x) を考察するので、n を n + 1 に取り替えて、
n が偶数なら R2n+1 (x) ≥ 0、
n が奇数なら R2n+1 (x) ≤ 0
を証明することにします。
sin x を 0 を中心として 2n 次までテイラー近似すると、開区間 (0, x) 内にある c が存
在して
−1 3
(−1)2 5
x + 0x4 +
x +···
3!
5!
(−1)n−1 2n−1
(−1)n cos c 2n+1
x
x
+ 0x2n +
+ 0x2n−2 +
(2n − 1)!
(2n + 1)!
n−1
(−1)k
(−1)n cos c 2n+1
x2k+1 +
x
=
(2k + 1)!
(2n + 1)!
sin x = 0 + 1x + 0x2 +
k=0
となります。(剰余項をラグランジュ表示しました。)よって、
(−1)n cos c 2n+1
(−1)n 2n+1
x
x
−
(2n + 1)!
(2n + 1)!
(−1)n x2n+1
(cos c − 1)
=
(2n + 1)!
R2n+1 (x) = sin x − p2n+1 (x) =
となり、cos c − 1 ≤ 0 であることから、
n が奇数のとき R2n+1(x) ≥ 0、n が偶数のとき R2n+1(x) ≤ 0
が示せました。★
39
テイラー展開
6.3
他の応用
元々、Rn (x) は x → a のときの振る舞いを問題にするために出てきたものです
が、その具体的な表示は x が a に近い必要はなく、任意の x で成り立ちます。も
ちろん x が a から離れれば離れるほどラグランジュ表示の c の居場所が曖昧に
なったり、積分表示の積分範囲が広がったりして表示自体の精度は落ちます。けれ
ども成り立つことは成り立つのです。だから、剰余項の表示をうまく使うことで
x が a から遠いときの f(x) の情報、例えば x → ∞ のときの振る舞いが分かる場
合があります。この小節ではそのような例として、任意の正実数 x と a に対して
xa
=0
x→+∞ ex
lim
を証明しましょう。この事実は
指数関数はどのような多項式よりも速く無限大に発散する
という言い方でよく使われるものです。
証明. a より大きな自然数 n を一つ決め、ex を x = 0 において n 次までテイラー
近似します。
ex = 1 + x +
x2 x3
xn
ec xn+1
+
+ ··· +
+
2
3!
n! (n + 1)!
となります。(ラグランジュ表示を使いました。)x > 0 のとき右辺のすべての項
が正ですので、
ex >
xn
n!
が成り立ちます。よって、
0<
n!
xa
xa
= n−a
<
x
n
e
x /n!
x
となります。n は a より大きく選んであるので、x → ∞ のとき xn−a → ∞ です。
よって
n!
=0
x→+∞ xn−a
lim
です。よって、はさみうちの原理により示せました。 □
剰余項の符号が分かってしまえば、近似多項式が x → ∞ で発散することを利
用して元の関数の発散を示せる場合があることの例です。同じことは「ロピタル
の定理の変種」を使っても証明できますが、上の証明の方が ex がどんな多項式よ
りも「速く」発散する理由がよく分かるような気がします。
40
テイラー展開
7
テイラー展開
以上で n を止めて剰余項 Rn+1 (x) を考察することは終わりにして、n → ∞ と
したらどうなるか考えてみましょう。これはテイラー近似多項式 pn (x) の次数を
どんどん上げて行く無限級数を考えることと同じです。
なお、テイラー展開関連の用語は使う人によってさまざまですので、ここでは
講義にあわせることはせずに私が普段使っている言葉遣いをします。講義や教科
書とあわせて読む場合には用語のズレに気を付けてください。
7.1
テイラー級数とテイラー展開の定義
½
関数 f(x) が何回でも微分できる関数、すなわち C -級関数だった場合、好き
なだけ次数の高いテイラー近似多項式を考えることができます。
「何次まででも考
えられる」という状況に対しては「n 次近似を考えておいて n → ∞ を考える」と
いうのが、「極限」を扱う手段を手に入れている我々にとってもっとも自然でしょ
う。m < n なら m 次近似多項式は n 次近似多項式の m 次までの項を集めたもの
です。そうすると、C ∞-級関数に対しては次のようなものを考えたくなります。
テイラー級数の定義
a を含む区間で定義された C ∞ -級関数 f(x) に対し、無限級数
∞
f (n) (a)
n=0
n!
(x − a)n
= f(a) + f (a)(x − a) +
f (n) (a)
f (a)
(x − a) + · · · +
(x − a)n + · · ·
2
n!
のことを、a を中心とした f(x) のテイラー級数と言う。
n
このような、(x − a) に数をかけたものを足して行く無限級数のことを冪級数
と言います。
これは、各項が関数でできているなにやら恐ろしげなものに見えるかも知れま
せん。実際、
「関数の無限和」として扱わないと微分や積分を考えることができな
いので冬学期にはそのように考えますが7 、とりあえずは、
実数 b を一つ決めるごとに無限級数
∞
f (n) (a)
n=0
n!
(b − a)n が一つ決まる
と考えておきます。
このようなセッティングは、無理数を任意の長さの有限小数で近似することと
いかにも似ているように見えます。そこで、任意の無理数 α が 0 以上 9 以下の項
7
このプリントの一番最後の節でそのような考え方の例を見てもらいます。
41
テイラー展開
からなる自然数列 a0 , a1, a2, · · · によって
α=
∞
ak × 0.1k
k=0
と極限表示できるように、任意の C ∞ -級関数 f(x) も f(a), f (a),
という実数列によって
f(x) =
∞
f (k) (a)
k=0
k!
f (a) f (a)
, 3! , · · ·
2
(x − a)k
と極限表示できるのではないかという期待を抱いてしまうかも知れません。実際、
後で示すように、数学でも数学以外でも重要な関数である指数関数や三角関数で
この期待が成立しています。しかし、これまた後で示すように、対数関数では「あ
る範囲の x について」という制限付きでしかこの期待は成り立っていません。
そもそもテイラー級数とは、数列
f(a), f(a) + f (a)(b − a), f(a) + f (a)(b − a) +
f (a)
(b − a)2 , · · ·
2
(5)
のことです。つまり、テイラー級数(とか冪級数)というのは、
実数 x を一つ決めるごとに数列が一つ決まる
というだけのものであって、その数列が収束するかどうかなどということにはと
りあえず全く触れていないことに注意してください。つまり、
f(x) から作ったテイラー級数に x = b を代入してできる数列(5) はど
の範囲の b に対して収束するか。
ということ、および、
テイラー級数が収束する b に対して、その極限は f(b) に一致するか。
ということを別に考えなければならないのです。テイラー近似のときには x → a
の極限を問題にしたのですが、テイラー展開では各 x に対する n → ∞ の極限を
考えなければならないわけです。
そこで、次の言葉を用意しましょう。
テイラー展開可能性の定義
f(x) の a を中心としたテイラー級数が a を含むある開区間で収束して極限が
f(x) に一致するとき、f(x) は x = a のまわりでテイラー展開可能であるとい
う特に、定義域内の任意の点のまわりでテイラー展開可能なとき、f(x) はテ
イラー展開可能であるという。
42
テイラー展開
x = a を中心としたテイラー級数に x = a を代入すると、
f (a)
(a − a)2 + · · · = f(a)
2
となって必ず f(a) に収束します。
(と言うか、級数の部分和がすべて f(a) なので
当たり前です。)だから、定義の中にある「a を含むある開区間で」というのは、
要するに
f(a) + f (a)(a − a) +
a に「近い」任意の b に対して
f (a)
(b − a)2 + · · ·
2
が成り立っていればよい。a から離れたところはどうなっていてもよい。
f(b) = f(a) + f (a)(b − a) +
ということです。
そして、
テイラー展開
f(x) が x = a でテイラー展開可能なとき、f(x) の x = a におけるテイラー
級数のことをテイラー展開と呼ぶ。
8
と定義します 。
7.2
テイラー展開可能であることを示すには
「関数 f(x) が x = a のまわりでテイラー展開可能である」かどうかはどうやっ
たら判定できるでしょうか。後で紹介するようにテイラー展開可能でない関数が
本当に存在するので、個別に示す以外にありません。結局、数列や級数の収束を
示す普通の問題と同様、処方箋はないのです。ただ、
「数列の収束を示す普通の問
題」に比べてテイラー展開可能であることを示す問題、つまり「テイラー級数と
いう数列(たち)の収束を示す問題」は皆さんを混乱させる要因が多いようです
ので、この節で「結局何を示せばよいのか」をはっきりさせておきましょう。
∞
無限級数 n=0 an が S に収束するとは、部分和の作る数列
a0 , a0 + a1 , a0 + a1 + a2 , . . . ,
n
ak , · · ·
k=0
が S に収束することでした。第 n 項までの部分和を Sn と書くことにしましょう。
∞
すると、無限級数 n=0 an が S に収束するとは
lim Sn = S
n→∞
8
はっきり使い分けている人はあまりいないようです。収束しないテイラー級数のこともテイ
ラー展開と呼んでしまっている人が沢山います。それどころか、テイラー近似多項式のことまでテ
イラー展開と定義する人もいます。本を読むときなどは、その本ではどう定義しているかキチンと
確認して読むようにしてください。
43
テイラー展開
が成り立つこととなります。それでは、数列 Sn が S に収束するとはどういうこ
とだったでしょうか、それは「Sn が S にいくらでも近づく」、つまり、
lim |S − Sn | = 0
n→∞
です。
単なる言い換えをやっているに過ぎないじゃないかと思われるでしょう。全く
そのとおりなのですが、この言い換えをテイラー級数に適用すると「意味のある
∞
言い換え」になっていることがわかります。上の無限級数 n=0 an として、関数
f(x) の a を中心としたテイラー級数に x = b を代入したものをとってみましょう。
問題はこの無限級数が f(b) に収束するかどうかです。記号が面倒なので、f(x) の
x = a を中心とした n 次のテイラー近似多項式を pn (x) としましょう。
pn (x) = f(a) + f (a)(x − a) +
f (a)
f (n) (a)
(x − a)2 + · · · +
(x − a)n
2
n!
です。テイラー級数に x = b を代入したものの第 n 項までの部分和は pn (b) にな
ります。前段落の Sn に当たるものが pn (b) です。よって、示したいこと、すな
わち
∞
f (n) (a)
n=0
n!
(b − a)n = f(b)
を上の言いかえに沿って言い換えると、
lim |f (b) − pn (b)| = 0
n→∞
となります。ここまでならやっぱり単なる言い換えです。それならなぜこの言い
換えをありがたがっているかというと、前節までで
f(b) − pn (b)(= Rn+1 (b)) がどんなものであるか、結構詳しく調べてある
からです。具体的には、
• 積分表示
fn (b) − pn (b) =
a
b
(b − x)n (n+1)
f
(x)dx
n!
• ラグランジュ表示 a と b の間に
fn (b) − pn (b) =
となる c がある。
f (n+1) (c)
(b − a)n+1
(n + 1)!
44
テイラー展開
• コーシー表示 a と b の間に
fn (b) − pn (b) =
f (n+1) (c)
(b − a)(b − c)n
n!
となる c がある。
などです。
重要なポイントは次の点です。上述した普通の級数の問題の場合、0 に収束する
ことを示すべき S − Sn は
S − a0 − a1 − a2 − · · · − an
という n + 2 個の数の和ですから、もちろん n → ∞ としたら足すものがじゃん
じゃん増えてしまって、そのままではどうにもなりません。にもかかわらず、例
えば等比級数の和が計算できるのは、この n を増やすと増えてしまう数の和を n
を増やしても増えない形、具体的には an = rn のとき S = 1/(1 − r) として、
S − a0 − a1 − · · · − an =
rn+1
1−r
という形に変形できるからです。テイラー級数の場合も、f(b) − pn (b) は n+ 2 個の
数の和ですからこのままではどうにもなりません。上にあげた三つの「表示」は、
この「どうにもならないやつ」をたった一つの式に直してくれるスグレモノで、こ
れによって f(b) − pn (b) が 0 に収束するかどうかを調べられる可能性がでてくる
というわけです。
以上、結論としては
f(x) が a のまわりでテイラー展開可能かどうかを調べるには、剰余
項 Rn+1 (x) = f(x) − pn (x) をうまく一つの式で表示して、a の近くで
Rn+1 (x) → 0 となっているかどうかを調べる
というのが、具体的に与えられた f(x) のテイラー展開可能性を調べる方針です。
剰余項 Rn+1 (x) をどう表示するかは f(x) に応じて選ぶしかありません。場合に
よっては上の三つの一般的な表示以外のもっと便利な表示が得られる場合もあり
得ます。(log(1 + x) でそのような例をお見せします。)
8
8.1
よく知られた関数のテイラー展開
多項式
最も簡単な例は多項式です。大変ばからしいのですが、やはり一度はキチンと
確認しておきましょう。
多項式は任意の点のまわりでテイラー展開可能である。
45
テイラー展開
証明. f(x) を n0 次多項式とします。n ≥ n0 を満たす任意の整数 n を取り、pn (x)
を x = a を中心とした n 次のテイラー近似多項式としましょう。すると、f(x) も
pn (x) も n 次以下の多項式なので Rn+1 (x) = f(x) − pn (x) も n 次以下の多項式で
す。一方、Rn+1 (x) は
Rn+1 (x)
=0
x→a (x − a)n
lim
を満たします。ところがこの性質を満たす n 次以下の多項式は 0 しかありません。
よって、任意の x に対して
lim (f(x) − pn (x)) = lim Rn+1 (x) = lim 0 = 0
n→∞
n→∞
n→∞
となり、f(x) の任意の点 a のまわりでのテイラー級数は任意の x について f(x)
に収束します。(というか n ≥ n0 では f(x) に一致するというわけです。) □
8.2
指数関数と三角関数
次に基本的な例が ex , sin x, cos x です。これらは任意の点のまわりでテイラー展
開可能であることが剰余項のラグランジュ表示を使って簡単に示せます。どこを
中心としてもよいのですが、見た目が汚くなるのを防ぐため x = 0 を中心とした
場合だけ証明します。
その前に、
任意の実数 x に対して
xn
=0
n→∞ n!
lim
が成り立つ
ということを確認しておきましょう。ラグランジュの剰余項の形を想像してもら
えば分かるように、ラグランジュの剰余項を使ってテイラー展開可能であること
を示すには、この事実がポイントとなります。
証明. |x| より大きい自然数 N を一つとると、n > N のとき
n
x |x| |x|
|x|
|x| |x|
=
···
···
n! 1 2
N
n−1 n
|x|
|x| |x|
|x| |x|
···
···
<
1 2
N
N N
n−N
N
|x|
|x|
=
N!
N
46
テイラー展開
となります。
|x|
< 1 なので、
N
n
n−N
x |x|N
|x|
lim ≤
=0
lim
n→∞ n!
N! n→∞ N
となります。これで示せました。 □
ex の x = 0 におけるテイラー級数は任意の x について ex に収束する。
証明. x = 0 を中心として ex をテイラー近似し剰余項をラグランジュ表示すると、
1
1
ehx
ex = 1 + x + x2 + · · · + xn +
xn+1
2
n!
(n + 1)!
となる 1 より小さい正実数 h が存在します。0 < ehx < e|x| なので、
|x|
ehx
n+1
n+1 n→∞
< e
−−−→ 0
x
(n + 1)!
(n + 1)! |x|
となります。これで、0 のまわりでの ex のテイラー級数は任意の x について ex
に収束することが示せました。 □
注意. ea+x = ea ex なので、ex の x = a におけるテイラー級数、すなわち ea+x の x = 0
におけるテイラー級数は x = 0 におけるテイラー級数のすべての項を ea 倍しただけのも
のです。これで、ex の任意の点 a を中心としたテイラー級数が任意の x に対して ex に
収束することが証明されてしまっています。★
sin x の x = 0 におけるテイラー級数は任意の x について sin x に収束する。
証明. x = 0 を中心として sin x をテイラー近似し剰余項をラグランジュ表示す
ると、
sin x = x −
(−1)m x2m+1 (−1)m+1 x2m+2 sin hx
x3 x5
+
− ··· +
+
3!
5!
(2m + 1)!
(2m + 2)!
となる 1 より小さい正実数 h が存在します。
|R2m+2 (x)| =
|x|2m+2
|x|2m+2 | sin hx|
≤
−→ 0 (m → ∞)
(2m + 2)!
(2m + 2)
であり、
R2m+3 (x) = R2m+2 (x)
なので、これで
lim Rn (x) = 0
n→∞
が任意の x について成り立つことが示せました。 □
47
テイラー展開
sin x の x = 0 におけるテイラー級数は任意の x について sin x に収束する。
証明. sin x の場合とほとんど同じです。やってみてください。 □
8.3
対数関数
さて、次に ex の逆関数である log x について考えましょう。x = 0 は定義域の
外なので、x = 1 を中心とした級数を考えることにします。ただし、見た目を簡単
にするために x = 0 を中心とした級数で考えたいので、平行移動して log(1 + x)
にしておきます。なお、1 以外の正実数 a を中心とした場合については、
x
+ log a
log(a + x) = log 1 +
a
とすることにより 1 を中心とした場合に帰着できるので扱いません。詳しくは考
えてみて下さい。
結果は次のようになります。
log(1+x) の x = 0 におけるテイラー級数は、−1 < x ≤ 1 の範囲では log(1+x)
に収束し、それ以外では収束さえしない。
証明. x の範囲ごとに証明して行きましょう。
−1 < x ≤ 1 のとき
テイラー級数がもとの関数に収束することを示すには、n 次の剰余項が n → ∞
のときに 0 に収束することを示せばよいのであって、テイラー級数の形は必要あ
りません。面倒なので、ここではいきなり剰余項を扱うことにします。
ラグランジュ表示を使うと −1 < x < 0 での収束を示すことができません。(試
してみてください。)そこで剰余項の他の表示を使ってみましょう。
積分表示を使う
f(x) = log(1 + x) とすると
f (n+1) (x) = (−1)n
n!
(1 + x)n+1
なので、log(1 + x) の x = 0 における n 次のテイラー近似の剰余項の積分表示は
x
(x − t)n
n
(−1)
dt
n+1
0 (1 + t)
48
テイラー展開
となります。
0 ≤ x ≤ 1 のとき、0 ≤ t ≤ x において 1 + t ≥ 1 なので、
0≤
となります。よって、
(−1)n
x
0
(x − t)n
≤ (x − t)n
(1 + t)n+1
x
xn+1
(x − t)n n
dt
(x
−
t)
dt
=
≤
(1 + t)n+1 n+1
0
となります。今 0 ≤ x ≤ 1 なのですから
xn+1
=0
n→∞ n + 1
lim
です。これで 0 ≤ x ≤ 1 では log(1 + x) に収束することが示せました。
−1 < x < 0 のときは、x ≤ t ≤ 0 なる t に対し 1 + x ≤ 1 + t が成り立つので、
n
|x − t|n
|x|n 1 − xt
≤
(1 + t)n
1+x 1+t
となります。今、
−1 ≤ −
t
<t<0
x
なのですから、
1 − xt 1+t<1
です。よって、
n
(−1)
x
0
0
(x − t)n |x − t|n
dt
≤
dt
n+1
(1 + t)n+1 x (1 + t)
n
0
|x|n 1 − xt ≤
dt
x 1+x 1+t
|x|
|x|n
<
1dt
1+x 0
|x|n
<
1+x
となります。今 −1 < x < 0 なので
|x|n
=0
n→∞ 1 + x
lim
です。これで −1 < x < 0 でも log(1 + x) に収束することが示せました。 □
49
テイラー展開
コーシー表示を使う
f(x) = log(1 + x) とすると
f (n+1) (x) = (−1)n
n!
(1 + x)n+1
なので、log(1 + x) の x = 0 における n 次のテイラー近似の剰余項のコーシー表
示は
f (n+1) (θx)
(1 − θ)n xn+1
(x − θx)n x = (−1)n
n!
(1 + θx)n
(0 < θ < 1)
となります。今 −1 < x で 0 < θ < 1 なので、
0 < 1 − θ < 1 + θx
であり、
0<
1−θ
<1
1 + θx
となります。しかも |x| ≤ 1 です。よって、
n
n n+1 (1
−
θ)
x
n→∞
(−1)n
= 1−θ
|x|n+1 −−−→ 0
n
(1 + θx)
1+θ
となります。これで示せました。 □
注意. これが「ラグランジュ表示よりコーシー表示の方が精度のよい場合の例」です。★
x
log(1 + x) =
0
1
dt を使う
1+t
(1 + x)(1 − x + x2 + · · · + (−1)n−1 xn−1 ) = 1 + (−1)n−1 xn
ですので、
1
xn
= 1 − x + x2 − · · · + (−1)n−1 xn−1 + (−1)n−1
1+x
1+x
となります。これを 1 から x まで積分して
x2 x3
xn
+
− · · · + (−1)n−1 + (−1)n
log(1 + x) = x −
2
3
n
x
0
tn
dt
1+t
50
テイラー展開
が得られます。。この多項式部分が log(1 + x) の x = 0 を中心とした n 次のテイ
ラー近似多項式と一致しているので、n 次の剰余項を
x n
t
n
(−1)
dt
0 1+t
と表示できることがわかりました。
0 ≤ x ≤ 1 のとき、
x
x n
t
xn+1 n→∞
n
≤
(−1)n
dt
t
dt
=
−−−→ 0
1+x
0 1+t
0
となるので示せました。
−1 < x < 0 のとき、
|x| n
x n
|x|
|x|n+1
t
s
1
n→∞
n
n
(−1)
=
s
ds
=
−−−→ 0
dt
ds
≤
1−s
1+x 0
(n + 1)(1 + x)
0 1+t
0
となり、やはり示せました。 □
|x| > 1 のとき
一般に、無限級数
∞
k=0
ak が収束するなら、
lim |an | = 0
(6)
n→∞
でなければならないことを思い出しましょう。実際、
Sn =
n
ak ,
S=
k=0
∞
ak
k=0
とするとき、
n→∞
an = Sn − Sn−1 −−−→ S − S = 0
であり、0 に収束する数列は絶対値をとっても 0 に収束します。
log(1 + x) の x = 0 におけるテイラー級数は
∞
k=1
x2 x3 x4 x5
=x−
+
−
+
− ···
k
2
3
4
5
k−1 x
(−1)
k
でした。この級数は |x| > 1 では条件(6) に反することを示しましょう。|x| > 1 を
満たす x を一つ固定します。
n+1
=1
n→∞
n
lim
51
テイラー展開
ですので、ある自然数 N で、N より大きな任意の自然数 n に対して
n+1
< |x|
n
となる N が存在します。よって N より大きな任意の自然数 n に対して
n
n
n+1 n
n
x n + 1 n
x x
x
x n
n
= x
= |x|
>
=
n + 1 n n + 1 n n + 1 n n n + 1 n n
となって、N より大きいところでは xn という数列は単調増加であり、0 に収束
することはあり得ません。
これで log(1 + x) の x = 0 におけるテイラー級数が |x| > 1 で収束しないこと
が示せました。
x = −1 のとき
log(1 + x) の x = 0 におけるテイラー級数
x−
x2 x3
xn
+
− · · · + (−1)n−1 + · · ·
2
3
n
に x = −1 を代入して得られる無限級数
1+
1 1
1
+ + ··· + + ···
2 3
n
を調和級数といいます。limn→∞ 1/n = 0 なので、|x| > 1 のときのように級数の
発散を示すことはできません。そこで、他の工夫が必要になります。
積分と比較する
f(x) = 1/x の積分と比較しましょう。
n+1
1
1
>
dx
n
x
n
です(図 3)。よって、
1
1 1
1+ + + ··· + >
2 3
n
となって示せました。 □
n+1
1
1
n→∞
dx = log(n + 1) −−−→ +∞
x
52
テイラー展開
1
n
y=
n
n+1
1
x
x
図 3: 面積比べ
発散することがわかっている級数と比較する
積分を微分の逆演算として定義している以上、定積分がグラフの囲む部分の面
積になっていることを使ってしまったら証明とは言えない、と思う人もいるでしょ
う。冬学期に積分を面積の一般化として定義し直すと上の証明はキッチリ正当化さ
れますが、たしかに現時点ではその批判は当たっていると思います。そこで、もっ
と初等的な証明も紹介しましょう。
第 2n + 1 項目から第 2n+1 項目をすべて 1/2n+1 に変えた無限級数を考えます。
具体的には、
1+
1 1
1
1
1 1 1 1
+ + + + ··· + + + ··· +
+
+ ···
2 3 4 5
8 9
16 17
1+
1
1
1
1
1 1 1 1
+ + + + ··· + +
+ ··· +
+
+ ···
2 4 4 8
8 16
16 32
を
と作り替えます。すると、各項はもとの調和級数の対応する項以下であり、第 2n +1
項目から第 2n+1 項目までの和はすべて 1/2 です。よって、
1 1 1 1 1 1
+ + + + + + ···
2 3 4 5 6 7
1 1 1 1 1 1
≥ 1+ + + + + + + ···
2 4 4 8 8 8
1 1 1 1 1
= 1+ + + + + ···
2 2 2 2 2
= +∞
1+
となって示せました。 □
53
テイラー展開
8.4
二項展開
もう一つ重要な例を紹介しておきます。二項定理の一般化に当たる (1 + x)α の
テイラー展開です。α = −1 のときのテイラー近似が |x| < 1 のとき 1/(1 + x) に
収束することは、等比級数の収束として高校で勉強したとおりです。
(上でも使い
ました。)これが任意の実数 α に対して成り立つことを示しましょう。
まず、f(x) = (1 + x)α の x = 0 を中心としたテイラー近似多項式を求めま
しょう。
f (x) = α(1 + x)α−1
f (x) = α(α − 1)(1 + x)α−2
..
.
f (n) (x) = α(α − 1) · · · (α − n + 1)(1 + x)α−n
..
.
ですので、
α
n
=
α(α − 1) · · · (α − n + 1)
n!
と定義して、
pn (x) =
n α
k=0
n
xn
です。証明したいことは、
lim pn (x) = (1 + x)α
n→∞
|x| < 1
です。α 自然数のときは
α
n
= α Cn
で、これは n > α で 0 ですので、テイラー級数はただの多項式になるので収束し、
普通の二項定理になります。もちろん |x| < 1 もいりません。任意の x で O.K.
です。
証明. 剰余項のコーシー表示を使いましょう。
f (n+1) (hx)
x(x − hx)n
n!
α
=
(n + 1)(1 + hx)α−n−1 xn+1 (1 − h)n
n+1
Rn+1 (x) =
54
テイラー展開
となる 1 より小さい正実数 h が存在します。これを
Rn+1 (x) = α
n α−k
k=1
k
(1 + hx)
α−1
1−h
1 + hx
n
xn+1
と変形します9 。今、|x| < 1 で考えているので
1−h 1 + hx < 1
です。また、0 < h < 1 なので
α > 1 ⇒ (1 + hx)α−1 < (1 + |x|)α−1,
α < 1 ⇒ (1 + hx)α−1 < (1 − |x|)α−1
となっています。そこで、
g(x) = (1 + |x|)α−1 + (1 − |x|)α−1
とおけば、常に
(1 + hx)α−1 < g(x)
が成り立ちます。よって、
n |α|
1
+
|Rn+1 (x)| < |αx|g(x)
x
k
k=1
となります。x に応じて
|α|
1+
x < 1
m
となる m をひとつ取ると、
m−1
1 + |α|
|Rn+1 (x)| < |αx|g(x)
k
k=1
n−m+1
|α|
x · 1 +
x
m
となるので、
lim Rn+1 (x) = 0
n→∞
が証明できました。 □
9
n
k=1 ck
= c1 · c2 · · · cn のことで、いわば
n
k=1
のかけ算版です。
55
テイラー展開
注意. 今収束を証明した (1 + x)α の x = 0 を中心としたテイラー級数
∞ α
n
n=0
xn
のことを二項級数と言います。ニュートンが微積分学を開発したときの具体的な発想の源
がこの二項級数だったそうで、別名ニュートン級数とも言うそうです。★
このほか、有理関数10 、tan x、逆三角関数など、
「式 1 本」で書けるような関数
はすべて任意の点のまわりのテイラー級数が元の関数の値に収束します。証明は、
級数の一般論などと絡めて冬学期に紹介することになるでしょう。
C ∞ -級という性質とテイラー展開可能性
9
9.1
テイラー展開不可能な関数とは
ここまではテイラー展開可能、すなわち、f(x) から作ったテイラー級数がもと
の f(x) に収束する、いわば「幸せ」な例ばかり見てもらいました。しかし、実際
にはテイラー展開不可能な C ∞ -級関数も存在します。
「テイラー展開不可能」という言葉は二つの意味に分かれます。一つは
テイラー級数は収束するが収束先がもとの関数の値でない
という比較的大人しいもの。もう一つは
そもそもテイラー級数が級数として収束しない
という病的なものです。
この節では、このような関数の例をそれぞれ紹介します(ただし、後者の例は
証明抜きです)。
9.2
テイラー級数は収束するが元に戻らない例
ϕ(x) を
ϕ(x) =
1
e− x2
0
x = 0
x=0
とすると、ϕ(x) は C ∞ -級であり、0 を中心とした ϕ(x) のテイラー級数は任意
の x で収束するが、その極限は x = 0 のときは ϕ(x) に一致しない。
10
多項式分の多項式のことです。
56
テイラー展開
証明. 時間がなくなってしまったので証明のアウトラインだけ述べ、数学的帰納法
を使ってキチンとした証明にすることは皆さんにお任せすることにします。
x = 0 のところでは初等関数の合成関数に過ぎないので、C ∞ -級ですから、ϕ(x)
が C ∞ -級であることを示すには、x = 0 で何回でも微分できることを示せばよい
ことになります。
1
lim e− x2 = 0
x→0
ですので、ϕ(x) は x = 0 で連続です。
1
e− x2 − 0
lim
=0
x→0
x
ですので11 、ϕ(x) は x = 0 で微分可能で微係数は 0 です。
lim
x→0
2 − x12
e
x3
−0
x
=0
ですので ϕ(x) は x = 0 で二階微分可能でその値は 0 です。
以下、任意の n に対して
1
e− x2
lim n = 0
x→0 x
であることから、同様にして ϕ(x) は x = 0 で何回でも微分できて x = 0 での値
は全て 0 であることが分かります。これで ϕ(x) が C ∞-級関数であることが示せ
ました。
上の計算で、任意の n に対して ϕ(n) (0) = 0 であることがわかりましたので、
ϕ(x) の x = 0 におけるテイラー級数は
0 + 0x + 0x2 + · · · = 0
です。つまり、任意の x に対して、テイラー級数の任意の部分和は常に 0 です。
よってこのテイラー級数は任意の x に対して収束し、その極限は 0 です。
ところが、x = 0 のとき ϕ(x) > 0 ですので、この級数は x = 0 でしか ϕ(x) と
一致しません。 □
11
分かりにくければ、y =
1
x
とおいてみて下さい。
57
テイラー展開
9.3
テイラー級数が級数として収束しない例
g(x) を
g(x) =

∞
2
1

− t2
2

2x
e
e
dt


1
x = 0




x=0
x
0
とすると、g(x) は C ∞ -級であるが、0 を中心とした g(x) のテイラー級数は 0
でない任意の x に対して収束しない。
これの証明は現在までに皆さんが学んでいることをかなり逸脱してしまうので
省略します。この例は特別なものではなく、このような関数はたくさんあること
が知られているということだけ注意しておきます。
10
テイラー展開の応用
テイラー級数は冪級数です。冪級数とは掛け算と足し算だけでできている無限
級数ですので、実数でなくても掛け算と足し算と極限が意味を持つものなら何で
も入れることができます。このようにしてテイラー展開可能な関数の定義域を実
数以外に拡張することができます。その例として ex の x に複素数を入れて見ま
しょう。
10.1
オイラーの公式:テイラー展開に複素数を入れる
問題の形で書くので、是非考えてみてください。
(1) ex の 0 におけるテイラー展開は x に複素数を代入しても収束することを
示せ。
(2) x が複素数のとき、(1) で存在することを証明した極限を ex と書くことに
する。θ を実数、i を虚数単位とするとき、eiθ を sin θ と cos θ で表せ。
解答
(1) z を複素数とし、
Sn =
n
zk
k=0
k!
,
Tn =
n
|z|k
k=0
k!
58
テイラー展開
とおきます。n > m とすると、複素数の三角不等式
|z1 + z2| ≤ |z1| + |z2|
を使って、
n
n
z k |z|k
|Sn − Sm | = = |Tn − Tm |
≤
k! k=m+1 k!
k=m+1
となります。|z| は実数ですので、数列 Tn は e|z| に収束し、特にコーシー列です。
つまり、
任意の正実数 ε に対して自然数 N が存在して、n, m > N ならば
|Tn − Tm | < ε となる
が成り立ちます。|Sn − Sm | ≤ |Tn − Tm | なのですから、複素数列 Sn もコーシー
列です。これで示せました。 □
注意. 複素数列においても「コーシー列ならば収束する」が成り立つことに不安を感じる
人のために、その部分も証明しておきましょう。
まず、「複素数列が収束する」ということの定義は、実部のなす実数列と虚部のなす実
数列がどちらも収束することだったことを思い出してください12 。
Sn の実部と虚部を sn 、tn とすると、
|Sn − Sm | = (sn − sm )2 + (tn − tm )2
ですので、
|sn − sm | ≤ |Sn − Sm |,
|tn − tm | ≤ |Sn − Sm |
となって、二つの実数列 sn 、tn ともコーシー列です。よって、実数の連続性よりどちら
も収束します。その極限をそれぞれ s、t とすると、Sn は s + it に収束します。★
(2) (1) の解答と注意で使った記号を流用します。
z = iθ を Sn に代入して i2 = −1 を使うと、
eiθ = 1 + iθ −
θ3 θ4
θ5
θ2
−i +
+ i ± ···
2
3!
4!
5!
となります。部分和の実部と虚部はそれぞれ
s2m = s2m+1 =
m
(−1)k θ2k
k=0
(2k)!
,
t2m+1 = t2m+2 =
m
(−1)k θ2k+1
k=0
(2k + 1)!
です。よって、
s = lim sn = cos θ,
n→∞
12
t = lim tn = sin θ
n→∞
もしかすると講義で定義されていないかも知れません。その場合は、ここでこのように定義し
たものと考えてください。
59
テイラー展開
です。従って
eiθ = cos θ + i sin θ
となります。(これをオイラーの公式と言います。) □
このように ei を定義しても「e を i 回掛ける」ということの意味は全く分かり
ません。このような部分を捉えて「数学は都合がよければよいと考える学問」と
思ってしまうことがあります。しかし、よく考えてみると、e3 を「e を 3 回掛け
ること」という解釈は、
e3 = 1 + 3 +
32 33 34
+
+
+ ···
2
3!
4!
という事実を知ってしまった今となってはあまりにも「子供っぽく」感じられな
いでしょうか?むしろ、テイラー展開という視点を得たことによって、「e を 3 回
掛けること」という幼稚な姿しか現していなかった指数関数の本質を少しは捉え
られたかも知れないと感じないでしょうか?そうでなければ、テイラー展開を利
用して複素数にまで定義域を拡張した指数関数が、量子力学などで中心的な役割
を果たせるはずはないと思うのです。
10.2
定数係数斉次線型常微分方程式
量子力学は無理なので、古典力学の「減衰振動」の問題をテイラー展開を使っ
て解く問題を出しておきます。
問題 任意の実数 x に対して
f (x) + 2f (x) + 2f(x) = 0
を満たす関数 f(x) で f(0) = 1, f (0) = −1 であるものを次の手順で一つ見つけよ。
(1) f(x) は C ∞ -級で x = 0 を中心としたテイラー展開は f(x) に収束するものと
仮定して
ak
a2
a3
f(x) = a0 + a1x + x2 + x3 + · · · + =
xk
2
3!
k!
k=0
∞
(7)
とおき、さらに、項別微分が可能である、つまり
∞
∞
ak
a k k k
x
f (x) =
=
x
k!
k!
k=0
k=0
が成り立つと仮定して問題の方程式に代入することで数列 ak についての三項間漸
化式を求めよ。
60
テイラー展開
(2) (1) で求めた漸化式を解き ak の一般項を求めよ。
(3) (2) で求めた ak をもとの式(7) に代入し、f(x) を指数関数と三角関数で表
せ。ただし、複素変数の指数関数(前小節で定義したもの)についても指数法則
ex+y = exey が成り立つことは認めてよい。
(4) (3) で求めた関数が問題の方程式の解になっていることを確認せよ。
この問題のような
1 変数の未知関数とその(高階)導関数たちを定数倍して足したら 0
という形の等式を定数係数斉次線型常微分方程式というのですが、とりあえず名
前はどうでもよいので、誘導に従って問題を解いてみて、テイラー展開によって
微分の問題が数列の問題に化けてしまう感じを味わってみてください。
解答
(1) 項別微分可能と仮定すると、
f(x) =
∞
ak
k=0
k!
xk = a 0 + a 1 x +
a2 2 a3 3
x + x + ···
2
3!
(8)
を微分することで、
f (x) =
∞
k=1
ak
a3
a4
xk−1 = a1 + a2 x + x2 + x3 + · · ·
(k − 1)!
2
3!
(9)
が得られ、これをもう一度微分することで、
f (x) =
∞
k=2
a4
a5
ak
xk−2 = a2 + a3 x + x2 + x3 + · · ·
(k − 2)!
2
3!
が得られます。これを条件式
f (x) + 2f (x) + 2f(x) = 0
に代入すると、
∞
k=2
ak
ak
ak
xk−2 + 2
xk−1 + 2
xk = 0
(k − 2)!
(k − 1)!
k!
∞
∞
k=1
k=0
となります。これを xk について整理するために、左辺の第 1 項では k − 2 を k
と、第 2 項では k − 1 を k と改めて置き直すと、左辺は
∞
ak+2
k=0
k!
xk + 2
∞
ak+1
k=0
k!
xk + 2
∞
ak
k=0
k!
xk =
∞
ak+2 + 2ak+1 + 2ak
k=0
k!
xk
61
テイラー展開
となります。これが任意の x について 0 になるというのが条件なので、
ak+2 + 2ak+1 + 2ak = 0
が任意の k について成り立てば十分です13 。
一方、もう一つの条件 f(0) = 1, f (0) = −1 を満たすために、(8) と(9) に x = 0
を代入すると、
f(0) = a0 ,
f (0) = a1
となります。よって、問題の条件式から得られる三項間漸化式は、
ak+2 + 2ak+1 + 2ak = 0,
a0 = 1,
a1 = −1
です。 □
(2) これは高校で習った三項間漸化式の解き方を適用すればよいだけです。
2 次方程式
t2 + 2t + 2 = 0
の二つの解は −1 ± i です。面倒なので、
α = −1 + i,
β = −1 − i
とおきましょう。解と係数の関係より、
−(α + β) = αβ = 2
です。よって、問題の漸化式は α と β を使って
ak+2 = (α + β)ak+1 − αβak
と書くことができます。これの両辺から αak+1 を引くことにより
ak+2 − αak+1 = β(ak+1 − αak )
が、βak+1 を引くことにより
ak+2 − βak+1 = α(ak+1 − βak )
が得られます。上の式は ak+2 − αak+1 が初項 a1 − αa0 、公比 β の等比数列である
ことを、下の式は ak+2 − βak+1 が初項 a1 − βa0、公比 α の等比数列であること
を示していますので、
ak+2 − αak+1 = β k+1 (a1 − αa0 ),
13
ak+2 − βak+1 = αk+1 (a1 − βa0)
実は必要十分条件なのですが、そのことについては解説で説明します。
62
テイラー展開
となります。左の式から右の式を引いて両辺を β − α で割ると、
ak+1 =
β k+1 (a1 − αa0 ) − αk+1 (a1 − βa0)
β−α
となります。これに a0 = 1, a1 = −1, α = −1 + i, β = −1 − i を代入して k を k − 1
に置き換えると、
(−1 − i)k (−1 + 1 − i) − (−1 + i)k (−1 + 1 + i)
−2i
k
k
(−1 − i) + (−1 + i)
=
2
ak =
となります。これが求める一般項です。 □
(3) (2) で求めた ak を f(x) のテイラー展開に代入すると、
f(x) =
∞
(−1−i)k +(−1+i)k
2
k=0
∞
1
=
2
k=0
k!
xk
1
1 1
((−1 − i)x)k +
((−1 + i)x)k
k!
2
k!
∞
k=0
となります。この式の右辺の二つの項は前小節で考えた e の複素数乗になってい
るので、
1
1
f(x) = e(−1−i)x + e(−1+i)x
2
2
となります。さらに、e の複素数乗においても指数法則が成り立つとし、オイラー
の公式を使うと、
1
1
f(x) = e−x e−ix + e−x eix
2
2
1 −x
1
= e (cos(−x) + i sin(−x)) + e−x (cos x + i sin x)
2
2
= e−x cos x
となります。 □
(4) (3) で求めた f(x) が問題の条件を満たすことを直接計算することで確かめま
しょう。
f(x) = e−x cos x
f (x) = −e−x cos x − e−x sin x = −e−x (cos x + sin x)
f (x) = e−x (cos x + sin x) − e−x (− sin x + cos x) = −2e−x sin x
63
テイラー展開
なので、
f (x) + 2f (x) + 2f(x) = 2e−x sin x − 2e−x (cos x + sin x) + 2e−x cos x = 0
および、
f(0) = e0 cos 0 = 1,
f (0) = −e0(cos 0 + sin 0) = −1
となって、問題の条件をすべて満たします。 □
掛け算と足し算と極限がある対象として、実数と複素数の他に正方行列が考え
られます。実はこの問題は e の肩に行列を乗せることを考えるともっと階数の高
い微分方程式まで統一的に解法(の理屈)が得られます。また、途中ででてきた
数列と元の微分方程式との関係もスッキリします。しかし、そこまで行くとこの
プリントの範囲を逸脱しすぎですので、ここでやめておきます。
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